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帯状疱疹ワクチンで認知症リスク20%低下/Nature

 帯状疱疹ワクチンは、痛みを伴う発疹の予防だけでなく、認知症の発症から高齢者を守る効果もあるようだ。新たな研究で、英国のウェールズで帯状疱疹ワクチンが利用可能になった際にワクチンを接種した高齢者は、接種しなかった高齢者に比べて認知症の発症リスクが20%低いことが示された。米スタンフォード大学医学部のPascal Geldsetzer氏らによるこの研究の詳細は、「Nature」に4月2日掲載された。 帯状疱疹は、水痘(水ぼうそう)の原因ウイルスでもある水痘・帯状疱疹ウイルスにより引き起こされる。このウイルスは、子どもの頃に水痘に罹患した人の神経細胞内に潜伏し、加齢や病気により免疫力が弱まると再び活性化する。帯状疱疹ワクチンは、高齢者の水痘・帯状疱疹ウイルスに対する免疫反応を高め、潜伏中のウイルスが体表に現れて帯状疱疹を引き起こすのを防ぐ働きがある。しかし、最近の研究では、特定のウイルス感染が認知症リスクを高める可能性が示唆されていることから、Geldsetzer氏らは、帯状疱疹ワクチンにも脳を保護する効果があるのではないかと考えた。 このことを検討するためにGeldsetzer氏らは、2013年9月1日に高齢者に対する帯状疱疹ワクチンの接種が開始されたウェールズに目を向けた。当時はワクチン(Zostavax)の供給量が限られていたため、このときの接種対象者は1933年9月2日以降に生まれた79歳の人に限定され、接種可能な期間も1年間に限られていた。開始時点で80歳以上だった人は、生涯にわたって接種対象外とされた。しかし、この規制が、ワクチンの影響を検証するランダム化比較試験の条件を自ずと生み出したと研究グループは指摘する。Geldsetzer氏らは、帯状疱疹ワクチン接種開始の直後に80歳に達した接種対象者(接種群)とワクチン接種直前に80歳に達した接種対象外の高齢者(1933年9月2日より前に生まれた人、対照群)を7年間追跡し、認知症の発症について比較した。 その結果、接種群では対照群に比べて、追跡期間中に新たに認知症の診断を受ける確率が3.5パーセントポイント低いことが示された。これは、接種群では対照群と比較して、認知症の相対的なリスクが20%低下したことに相当する。この効果は、教育レベルや糖尿病、心臓病、がんなどの慢性疾患など、認知症リスクに影響を与え得る因子を考慮した解析でも変わらず認められた。ワクチン接種のこのような保護効果は、男性よりも女性で顕著だった。さらに、イングランドとウェールズの合算人口を対象にした別のデータを使った検討でも同様の結果が確認された。 Geldsetzer氏は、「本研究で確認された兆候は非常に強力かつ明確な上に、持続的でもあった」と話す。ただし、なぜ帯状疱疹ワクチンが認知症を予防するのかは明らかになっていない。研究グループは、ワクチンが免疫システム全体を強化するか、あるいは特に水痘・帯状疱疹ウイルスが脳の健康に及ぼす未知の影響を防ぐことで、脳を保護する可能性があると推測している。 さらに、研究グループは、現時点では米国でのみ入手可能な最新のワクチンであるShingrixが、今回の研究で検討されたZostavaxと同様の認知症予防効果をもたらすのかどうかも不明だと話す。Zostavaxは弱毒化された水痘・帯状疱疹ウイルスを用いた生ワクチンであるのに対し、Shingrixはウイルスの特定のタンパク質のみを利用した遺伝子組み換え不活化ワクチンである。研究グループによると、Shingrixは水痘・帯状疱疹ウイルスに対してZostavaxより効果的だが、認知症リスクへの影響はZostavaxと異なる可能性があるという。 Geldsetzer氏は、本研究で得られた知見がきっかけとなって、Shingrixの認知症予防効果を検討する研究が実施されるようになることに期待を示している。同氏は、「少なくとも、今持っている資源の一部を使って帯状疱疹ワクチンと認知症との関連に関して研究を進めることで、治療と予防の面で画期的な進歩につながる可能性がある」と話している。

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日本と海外の診療ガイドライン比較を効率化するプロンプト【誰でも使えるChatGPT】第3回

皆さん、こんにちは。近畿大学皮膚科の大塚です。前回は、ChatGPTを「病態把握と鑑別診断」のブレーンストーミング・パートナーとして活用するプロンプトをご紹介しました。患者さんの症状から考えられる疾患をリストアップさせ、見落としを防ぐ一助とする使い方でしたが、診断プロセスを検討する際のお役に立てたでしょうか。さて、シリーズ第3回となる今回は、診断後の「治療方針決定」に関わる場面での活用法です。とくに「日本と海外の診療ガイドラインの違い」を、効率的に把握するためのプロンプトをご紹介します。ご存じのとおり、多くの疾患には国内外で作成された診療ガイドラインが存在します。日本のガイドラインは、国内の保険制度や医療実態、日本人におけるエビデンスに基づいて最適化されていますが、一方で、海外のガイドライン、とくに欧米のものは、新薬の承認状況や治療アルゴリズムの考え方に違いが見られることがあります。最新の国際的な治療動向を把握し、自らの診療の参考にしたり、患者さんへの説明に役立てたりするためには、これらのガイドラインを比較検討することが非常に有益です。しかし、複数の言語で書かれた長大なガイドラインを読み込み、比較点を抽出するのは、多忙な日常診療の中ではなかなか骨の折れる作業ですよね。そこで役立つのが、今回のプロンプトです。関連サイトChatGPT(疾患名)における日本と海外(例:米国、欧州など)の診療ガイドラインを比較し、とくに治療法の推奨に関する主な相違点を解説してください。ここで(疾患名)には、比較したい具体的な疾患名、たとえば「アトピー性皮膚炎」や「尋常性乾癬」などを入力します。必要であれば、比較対象にしたい海外の地域(米国皮膚科学会[AAD]、欧州皮膚科学性病学会[EADV]など)を指定すると、より的確な情報が得られやすくなります。アトピー性皮膚炎における日本皮膚科学会の診療ガイドラインと、欧州皮膚科フォーラム(European Dermatology Forum)のガイドライン(またはAADガイドライン)を比較し、とくに中等症~重症例に対する全身療法の推奨(生物学的製剤やJAK阻害薬の位置付けなど)に関する主な相違点を簡潔に解説してください。ChatGPTからの回答例以下に、日本皮膚科学会(JDA)診療ガイドライン(2021年改訂)と、欧州皮膚科フォーラム(EDF 2022)および米国皮膚科学会(AAD 2023)の中等症~重症アトピー性皮膚炎に対する全身療法の位置付けを比較し、主な相違点を簡潔にまとめます。◆比較の焦点:中等症〜重症アトピー性皮膚炎の全身療法(生物学的製剤・JAK阻害薬)画像を拡大する◆解説・まとめ日本(JDA)は依然としてシクロスポリンを中心にした従来の免疫抑制薬を重視しつつ、デュピルマブやJAK阻害薬は新たな選択肢として位置付ける慎重な姿勢が見られます。欧州(EDF)はdupilumabを最も標準的な治療と認識しており、JAK阻害薬は代替的選択肢にとどまります。米国(AAD)はdupilumabとJAK阻害薬の両方を初回治療の選択肢としており、より柔軟な治療戦略を示しています。ご要望があれば、それぞれのガイドラインの具体的な記述や推奨グレードもご紹介いたします。その際は、お知らせください。このように、ChatGPTに尋ねることで、膨大なガイドラインの中から比較すべきポイントや主な違いを短時間でリストアップさせることが可能です。これにより、「どこに注目して原文を読み込むべきか」という当たりをつけることができます。ただし、今回も重要な注意点があります。1.情報の鮮度と正確性ChatGPTが参照しているガイドラインのバージョンが最新であるとは限りません。必ず、回答で示されたガイドライン名や発行年を確認し、必要であれば最新版の原文を参照してください。2.最終判断は医師自身でAIが示す比較・解説はあくまで「要約」や「たたき台」です。治療方針の最終決定は、必ず一次情報であるガイドライン本文や関連論文を確認し、個々の患者さんの状況に合わせて医師自身が行う必要があります。3.解釈のニュアンスガイドラインの推奨度(強く推奨、条件付き推奨など)の微妙なニュアンスは、AIの要約だけではつかみきれない場合があります。重要な判断に関わる場合は、原文での確認が不可欠です。このプロンプトは、国際的な標準治療や最新の考え方を効率的にキャッチアップし、日々の診療に深みを持たせるための「情報収集アシスタント」として活用できるでしょう。次回は、患者さんへの説明資料作成をサポートするプロンプトなど、また別の角度からの活用法をご紹介できればと考えています。どうぞお楽しみに。

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第264回 線維筋痛症女性の痛みが健康な腸内細菌の投与で緩和、生活の質も向上

線維筋痛症女性の痛みが健康な腸内細菌の投与で緩和、生活の質も向上腸内細菌入れ替えの線維筋痛症治療の効果が、イスラエルでの少人数の臨床試験で示されました1)。どこかを傷めていたり害していたりするわけでもないのに、体のほうぼうが痛くなる掴みどころのない慢性痛疾患である線維筋痛症の少なくともいくらかは、健康なヒトからの腸内細菌のお裾分けで改善するようです。線維筋痛症は多ければ25人に1人の割合で認められ、主に女性が被ります。線維筋痛症の根本原因や仕組みは不明瞭で、的を絞った効果的な治療手段はありません。線維筋痛症で生じる神経症状は痛みに限らず、疲労、睡眠障害、認知障害をもたらします。それに過敏性腸症候群(IBS)などの胃腸障害を生じることも多いです。腸内微生物が慢性痛のいくつかに携わりうることが示されるようになっており、IBSなどの腸疾患と関連する内臓痛への関与を示す結果がいくつも報告されています。線維筋痛症の痛みやその他の不調にも腸内微生物の異常が寄与しているのかもしれません。実際、線維筋痛症の女性の腸内微生物叢が健康なヒトと違っていることが最近の試験で示されています。そこでイスラエル工科大学(通称テクニオン)の痛み研究者Amir Minerbi氏らは、健康なヒトの腸内細菌を投与することで線維筋痛症の痛みや疲労が緩和しうるのではないかと考えました。まずMinerbi氏らは、線維筋痛症の女性とそうではない健康な女性の腸内微生物を無菌マウスに移植して様子をみました。すると、線維筋痛症の女性の腸内微生物を受け取ったマウスは、健康な女性の腸内微生物を受け取ったマウスに比べて機械刺激、熱刺激、冷刺激に対してより痛がり、自発痛の増加も示しました。続く実験で腸内細菌の入れ替えの効果が裏付けられました。最初に線維筋痛症の女性の微生物をマウスに投与して痛み過敏を完全に発現させます。その後に抗菌薬を投与して腸内微生物を一掃した後に健康な女性の微生物を移植したところ、細菌の組成が変化して痛み症状が緩和しました。一方、抗菌薬投与なしで健康な女性の微生物を投与した場合の細菌組成の変化は乏しく、痛みの緩和は認められませんでした。線維筋痛と関連する細菌を健康なヒトからの細菌と入れ替えることは、痛み過敏を解消する働きがあることをそれら結果は裏付けています。その裏付けを頼りに、細菌の入れ替えがヒトでも同様の効果があるかどうかが線維筋痛症の女性を募った試験で調べられました。試験には通常の治療のかいがなく、とても痛く、ひどく疲れていて症状が重くのしかかる重度の線維筋痛症の女性14例が参加しました。それら14例はまず抗菌薬と腸管洗浄で先住の腸内微生物を除去し、続いて健康な女性3人から集めた糞中微生物入りカプセルを2週間ごとに5回経口服用しました。最後の投与から1週間後の評価で14例のうち12例の痛みが有意に緩和していました。不安、うつ、睡眠、身体的な生活の質(physical quality-of-life)の改善も認められ、症状の負担がおおむね減少しました。投与後の患者の便検体を調べたところ、健康な女性の細菌と一致する特徴が示唆されました。健康な女性の微生物投与の前と後では糞中や血中のアミノ酸、脂質、短鎖脂肪酸の濃度に違いがありました。また、コルチゾンやプロゲスチンなどのホルモンのいくつかの血漿濃度が有意に低下する一方で、アンドロステロンなどのホルモンのいくつかの糞中濃度の上昇が認められました。「14例ばかりの試験結果を鵜呑みにすることはできないが、さらなる検討に値する有望な結果ではある」とMinerbi氏は言っています2)。 参考 1) Cai W, et al. Neuron. 2025 Apr 24. [Epub ahead of print] 2) Baffling chronic pain eases after doses of gut microbes / Nature

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健康長寿を目指すなら、この食事がベスト

 高齢になっても健康を維持するためには、中年期にどのような食生活を送れば良いのだろうか。10万5,000人を超える男女を最長で30年間にわたって追跡し、8つのパターンの食事法について調べた研究からは、代替健康食指数(Alternative Healthy Eating Index;AHEI)が明確に優れていることが示された。コペンハーゲン大学(デンマーク)公衆衛生学准教授で、米ハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院の栄養学客員准教授でもあるMarta Guasch-Ferre氏らによるこの研究の詳細は、「Nature Medicine」に3月24日掲載された。 AHEIは2002年に、米国農務省(USDA)による米国の食事ガイドラインの遵守度の指標である健康食指数(Healthy Eating Index;HEI)の代替指標として、ハーバード大学の研究者らにより作成された。ハーバード大学によると、HEIとAHEIは似ているが、AHEIの方が慢性疾患のリスクを軽減することにより重点を置いた指標になっているという。AHEIの高い食事とは、果物や野菜、全粒穀物、ナッツ類、豆類、健康的な脂肪を豊富に摂取し、赤肉や加工肉、加糖飲料、塩分、精製穀物の摂取は控えた食事である。 今回の研究では、医療従事者を対象にした2つの長期研究(Nurses’ Health Study、Health Professionals Follow-Up Study)参加者(10万5,015人)が定期的に記入している、食事に関する質問票のデータを分析し、8種類の食事パターンへの遵守度が点数化された。8種類の食事パターンとは、1)AHEI、2)代替地中海食指数(Alternative Mediterranean Index;aMED)、3)DASH食(高血圧予防食)、4)MIND食(地中海食とDASH食を組み合わせた神経変性を遅らせるための食事)、5)健康的な植物性食品ベースの食事指数(Healthful Plant-Based Diet Index;hPDI)、6)プラネタリーヘルスダイエット指数(Planetary Health Diet Index;PHDI)、7)経験的炎症性食事パターン(Empirically Dietary Inflammatory Pattern;EDIP)、8)高インスリン血症のための経験的食事指標(Empirical Dietary Index for Hyperinsulinemia;EDIH)である。 論文の共著者であるハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院のFrank Hu氏は、本研究について、「これまでの研究では、特定の疾患や寿命の観点から食事パターンの調査が行われてきた。これに対し、今回の研究では、『自立した生活や良好な生活の質(QOL)を保つ能力に食事がどのような影響を与えるのか』という疑問について、多面的な観点から検討した」と説明している。 30年間の追跡期間中、全参加者の9,771人(9.3%)が健康的に年を重ねていた。解析からは、全ての食事パターンにおいて、遵守度の高かった人は低かった人に比べて、70歳まで健康的に年を重ねているオッズが有意に高いことが明らかになった。その中でも、特に関連が強かったのはAHEIで、オッズ比は1.86(95%信頼区間1.71〜2.01)と算出された。年齢を75歳まで引き上げた場合でも、AHEI遵守度の高い人は低い人に比べて健康的に年を重ねているオッズが有意に高かった(オッズ比2.24、2.01〜2.50)。 Guasch-Ferre氏は、「この研究結果は、植物性食品が豊富で健康的な動物性食品も適度に取り入れた食事パターンが、全般的なヘルシーエイジング(健康的な加齢)を促す可能性があることを示している。また、今後の食事ガイドラインのあり方を検討する上でも、この研究結果が役立つ可能性がある」との見解をハーバード大学のニュースリリースで示している。 一方、論文の筆頭著者でモントリオール大学(カナダ)栄養学分野のAnne-Julie Tessier氏は、「今回の研究結果は、全ての人に適した食事療法は存在しないことを示している。健康的な食事は、個人のニーズや嗜好に合わせることができる」と同大学のニュースリリースの中で述べている。

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1日の心拍数を歩数で割った値がCVリスクの評価に有用

 健康増進のためにスマートウォッチを使って毎日の歩数を測定している人は少なくない。しかし、新たな研究によると、スマートウォッチは歩数だけでなく、健康にとって重要な別の指標も測定しており、それら両者のデータを用いることで、より高い精度で健康効果を予測できる可能性があるという。米ノースウェスタン大学ファインバーグ医学部のZhanlin Chen氏らの研究の結果であり、米国心臓病学会(ACC.25、3月29~31日、シカゴ)で報告された。 一般的に、健康のために1日1万歩歩くことが推奨されている。しかし実際には、研究によって、最適とされる歩数は異なる値が報告されている。一方、Chen氏らの研究結果は、単に歩数を測定するのではなく、1日の心拍数を歩数で割ると、心臓の健康状態をより高精度に評価できるというものだ。同氏は同大学発のリリースの中で、「われわれが開発した方法は、運動そのものではなく、運動に対して心臓がどのように反応するかという点に着目したものだ。身体活動が1日を通して変動する中で、ストレスが加わった時に心臓がそれに適応する能力を把握しようとする、より核心的な課題に迫る意義の高い方法である。われわれの研究は、スマートウォッチというウェアラブルデバイスでそれを捉える初の試みだ」と話している。 この研究では、米国立衛生研究所(NIH)が支援して行われている全国規模の前向き研究の参加者のうち、スマートウォッチ(Fitbit社)の記録と電子カルテ情報がそろっている約7,000人の米国成人のデータが解析に使われた。用いられたデータは合計で、580万人日、歩数にすると510億歩に及んだ。 1日の心拍数を歩数で割った値(daily heart rate per step;DHRPS)が高い人(上位4分の1)は、DHRPSが低い人に比べて、高血圧リスクが1.6倍、2型糖尿病リスクが2倍、アテローム性動脈硬化症による冠疾患のリスクが1.4倍、心不全リスクが1.7倍であることが明らかになった。また、DHRPSは歩数のみや心拍数のみよりも、心血管疾患リスクとの強い関連が認められた。ただし、脳卒中や心臓発作のリスクとの間には、有意な関連が見られなかった。 この結果に基づき研究者らは、「歩数で除した心拍数を用いることで、心臓のより詳しい検査が必要な人を抽出したり、運動療法により高い効果を期待できる人を特定したりすることが可能ではないか」と話している。またChen氏は、「この指標は誰もが容易に計算でき、スマートウォッチにアプリをダウンロードして値を求めることもできる」と、DHRPSの利点を付け加えている。 さらに研究者らは現在、1日単位ではなく、分単位で心拍数/歩数の値をモニタリングして、それが疾患の予後と関連があるか否かを確認する研究を計画している。「ウェアラブルデバイスの利用者は急速に拡大しており、1日中装着されることが多いため、短時間で変動する心臓の健康に関する情報を分単位で得ることが可能だ」とChen氏は述べている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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ゾルピデムとBZDの使用が認知症リスク増加と関連〜メタ解析

 ガンマアミノ酪酸(GABA)系は、認知機能や記憶プロセスに関連していることが知られている。そして、GABAA受容体およびその他の関連経路の活動は、βアミロイドペプチド(Aβ)の蓄積に影響を及ぼす。そのため、GABAA受容体に影響を及ぼす薬剤の使用とアルツハイマー病および認知症の発症リスクとの関連を調査する研究が進められてきた。イラン・Shahid Beheshti University of Medical SciencesのKimia Vakili氏らは、ベンゾジアゼピン(BZD)、ゾルピデム、トリアゾラム、麻酔薬に焦点を当て、GABAA受容体に影響を及ぼす薬剤とアルツハイマー病および認知症リスクとの関連を明らかにするため、文献レビューおよびメタ解析を実施した。Molecular Neurobiology誌オンライン版2025年3月20日号の報告。 2024年5月までに公表されたアルツハイマー病、認知症、GABAA受容体作動薬に関するすべての英語文献をメタ解析に含めた。対象文献は、PubMed、Scopusデータベースより検索した。抽出されたデータの分析には、Stata 14.2を用いた。異質性の評価には、Q統計およびI2指数を用いた。出版バイアスの検出には、Egger検定とファンネルプロットを用いた。 主な内容は以下のとおり。・19文献(ケースコントロール研究10件、コホート研究9件)、295万3,980例をメタ解析に含めた。・GABA受容体作動薬の使用と認知症(リスク比[RR]:1.15、95%信頼区間[CI]:1.02〜1.29、I2=87.6%)およびアルツハイマー病(RR:1.21、95%CI:1.04〜1.40、I2=97.6%)の発症との間に、統計学的に有意な関係が認められた。・薬物ベースのサブグループでは、ゾルピデム使用とアルツハイマー病および認知症発症率の増加との関連が認められた(RR:1.28、95%CI:1.08〜1.52、I2=24.3%)。これは、BZD使用と同様であった(RR:1.11、95%CI:1.04〜1.18、I2=87.2%)。・メタ回帰分析では、フォローアップ期間の範囲は研究全体で5〜11年であり、異質性と有意に関連していることが示唆された(p=0.036)。 著者らは「ゾルピデムおよびBZDの使用は、認知症およびアルツハイマー病のリスク増加と関連していることが示唆された」としている。

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サブタイプ別転移乳がん患者の脳転移発生率、HER2低発現の影響は

 約1万8千例を含む大規模な転移乳がん患者コホートを対象に、サブタイプおよび治療ライン別の脳転移の有病率と累積発生率、またHER2低発現が脳転移発生率に及ぼす影響を評価した結果、すべてのサブタイプで治療ラインが進むごとに発生率が上昇し、HER2低発現は従来のサブタイプ分類における発生率に影響を及ぼさないことが示唆された。米国・ダナ・ファーバーがん研究所のSarah L Sammons氏らによるJournal of the National Cancer Institute誌オンライン版2025年3月31日号への報告。 本研究では、電子カルテに基づく全国規模の匿名化データベースが用いられた。主要評価項目は脳転移の初回診断とし、HER2低発現を含む転移乳がんのサブタイプおよび治療ライン別に、脳転移の有病率および発生率を推定した。全身治療開始時に脳転移を有さなかった患者における脳転移リスクは、累積発症率関数を用いて推定した。すべてのp値は両側検定に基づき、p≦0.05を統計学的有意とした。 主な結果は以下のとおり。・1万8,075例の転移乳がん患者のうち、1,102例(6.1%)は初回治療開始時点ですでに1つ以上の脳転移を有していた。・残る1万6,973例における脳転移の累積発生率(60ヵ月時点)は、ホルモン受容体陽性(HR+)/HER2陰性で10%、HR+/HER2陽性で23%、HR陰性/HER2陽性で34%、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)で22%であった。・HR+/HER2陰性およびTNBCサブタイプにおけるHER2低発現の、脳転移発生率への影響はみられなかった。・すべての乳がんサブタイプにおいて、治療ラインが進むごとに脳転移の有病率は上昇していた。

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遺伝性アルツハイマーへのgantenerumab、発症リスク低下に有効か

 最先端のアルツハイマー病治療薬が、実際にその進行を防ぐ可能性のあることが、小規模な研究で示された。脳内でアミロイドβ(Aβ)が過剰に産生される遺伝的変異を持ち、将来、アルツハイマー病を発症することがほぼ確実とされる試験参加者に、脳からAβを除去する抗Aβ IgG1モノクローナル抗体のガンテネルマブ(gantenerumab)を投与したところ、投与期間が最も長かった参加者ではアルツハイマー病の発症リスクが50%低下したことが示されたという。米ワシントン大学医学部のRandall Bateman氏らによるこの研究結果は、「The Lancet Neurology」4月号に掲載された。 ガンテネルマブは元々、同じく抗Aβ抗体薬のソラネズマブ(solanezumab)とともに、2012年に開始された臨床試験(The Knight Family DIAN-TU-001、以下、DIAN-TU)において、優性遺伝性アルツハイマー病(DIAD)の発症予防や進行遅延に対する効果が検討されていた。対象は、DIAD発症予測年齢の15年前から10年後の間にある、無症状または認知機能の軽微な低下が認められるDIAD変異キャリアだった。 2020年の試験終了時点では、ガンテネルマブの認知機能低下に対する抑制効果については十分なエビデンスが得られなかったものの、Aβレベルの低下が確認されたことから、DIAN-TU試験参加者を対象に、オープンラベル継続投与試験(OLE試験)が実施されることになった。しかし2022年11月、ロシュ/ジェネンテック社は、ガンテネルマブに関する別の臨床試験において期待されていた結果が得られなかったことを理由に同薬の開発中止を決定した。これを受け、当初3年間の予定で開始されたOLE試験も、予定より早い2023年半ばに打ち切られた。OLE試験では、試験参加者は平均2.6年にわたる治療を受けた。 本研究結果は、このOLE試験の解析結果である。OLE試験には、2020年6月3日から2021年4月22日の間に18施設から73人が登録され、全員がガンテネルマブによる治療を受けた。試験の途中で13人が有害事象や疾患の進行により離脱し、47人(64%)が試験終了に伴い治療を中止した。最終的に、3年間の治療を完了したのは13人だった。 中間解析からは、ガンテネルマブによる治療期間が最も長かった22人では、認知症の重症度を評価する臨床認知症評価尺度の合計点(CDR-SB)の低下リスクが約50%低下する可能性のあることが示唆された(ハザード比0.53、95%信頼区間0.27〜1.03)。この結果は、アルツハイマー病の症状が現れる前にガンテネルマブにより脳からAβを除去することで、発症を遅らせられる可能性があることを意味する。しかし、DIAN-TUまたはOLE試験のどちらかでのみガンテネルマブによる治療を受けた53人では、認知機能低下に対するガンテネルマブの抑制効果は確認されなかった(同0.79、0.47〜1.32)。 Bateman氏は、「これはアルツハイマー病の遺伝リスクがある人の発症を予防できる可能性を示す最初の臨床的エビデンスとなり得る、大いに期待を持てる結果だ。近い将来、何百万人もの人々のアルツハイマー病の発症を遅らせることが可能になるかもしれない」と話している。また、米アルツハイマー病協会の最高科学責任者であるMaria Carrillo氏も、「これらの興味深い予備的研究の結果は、Aβレベルを下げることがアルツハイマー病の予防に果たす潜在的な役割を非常に明確に示唆している」とワシントン大学のニュースリリースの中で述べている。 ただし、抗Aβ抗体薬は高価であり、副作用のリスクも伴う。この小規模試験での脳浮腫の発生率は30%と、最初の臨床試験での発生率(19%)と比べて1.3倍に増加していた。

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第8回 「スマホ習慣」が脳を救う?意外な研究結果

スマートフォンやパソコン、インターネットといった技術の普及に伴い、「生涯を通じたテクノロジーの利用が脳の機能を低下させるのではないか?」という「デジタル認知症仮説」と呼ばれる仮説が提唱されてきました。テクノロジーに依存することで、頭を使わなくなり、認知症リスクが高まるのではないかということが懸念されてきたのです。テクノロジー利用が認知症リスク低下と関連しかし、そんな懸念を覆すかもしれない研究結果が最近になり報告され、CNNなどのニュースでも報じられました1)。テキサス州2大学の研究チームがメタ分析という手法を用いて、テクノロジー利用と認知症リスクの関連について解析を行なった結果がNature Human Behavior誌に発表されたのです2)。この研究の中で、これまでに行われた研究57件(合計41万1,430人)のデータをレビューしたところ、スマホやパソコンなどのテクノロジー利用者は非利用者に比べ、認知障害(軽度認知障害や認知症の診断、認知機能テストにおける低スコア)のリスクが平均42%低いことと関連することが明らかになったのです。なお、対象とされた研究には、平均6年間観察した追跡研究20件が含まれ、参加者の平均年齢は68歳でした。また、教育水準や収入、さまざまなライフスタイルなどを調整してもこの関連は認められており、これらの違いによる結果ではないことが確認されています。すべての「スマホ利用」に当てはまるわけではないただし、この研究にも当然限界はあります。その1つは、この研究で、テクノロジーをどのような形で利用していたかの詳細が加味されていないことです。このため、研究結果がなんでもかんでもテクノロジー利用と認知機能との関連を保証するものではないといえます。当然、この結果は「無目的にスマホの画面をスクロールし続けること」を推奨するものではまったくありません。他の研究結果とも統合して考えると、テクノロジー利用がもし脳にプラスに働くとすれば、それは情報検索や文章作成、コミュニケーションなどの「能動的な活動」が認知予備力(cognitive reserve)を高める可能性が指摘できます。この「認知予備力」とは、脳が持つ情報処理や問題解決能力の「蓄え」のようなものです。知的な活動を通じて、この予備力を高めておくと、年を重ねてその「蓄え」を費やさなければならなくなっても脳の機能を維持しやすくなります。逆に、この予備力が十分にない場合には、蓄えがないため衰えのみが進んでしまい、将来的に認知症のリスクが高まる可能性があるということです。また、この研究の中ではソーシャルメディア単独の影響も見ていますが、その影響は研究間で一貫しませんでした。このため、一括りにスマホを使うといっても、ソーシャルメディアではうまくいかないのかもしれません。また、対象世代は「使い方を学ぶ努力」を必要とした世代であり、生まれた時からデジタル環境に囲まれた若年世代への研究結果の適用ができるかどうかはまた別問題です。目的を持った「適度な」デジタル活用を実用面に落とし込むと、高齢者自身がデバイス操作を学ぶ過程そのものが脳への刺激となる可能性もあります。仮に、すでに軽度認知障害がある人でも、トレーニングを通じて技術利用は十分可能であるといわれています。もしかすると、認知症予防や治療に役立つツールにもなりうるのかもしれません。いずれにせよ、「目的を持った適度なテクノロジー利用」が、おそらく最も有益なのでしょう。一方で、画面を見続けることで生じる目や首の疲労を感じるほど「過度に」使用する場合にはその有益性は失われ、むしろ損失のほうが大きくなることも懸念されます。結論として、適切なサポートのもとで高齢者がデジタルテクノロジーを日常生活に取り入れることは、認知機能低下に保護的に働く可能性があります。少なくとも、「デジタル認知症仮説」は、過度な利用がなければあまり心配する必要はないのかもしれません。しかし、どのようなものをどのような形で取り入れると真に効果が出るのかについては、今後も研究を続けていく必要があります。また、過度の利用による弊害についても、同時に評価を行っていく必要があるでしょう。 1) Rogers K. Technology use may be associated with a lower risk for dementia, study finds. CNN. April 14, 2025. 2) Benge JF, Scullin MK. A meta-analysis of technology use and cognitive aging. Nat Hum Behav. 2025 Apr 14. [Epub ahead of print]

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アリピプラゾールによるドパミン受容体シグナル伝達調整が抗うつ効果に及ぼす影響

 即効性抗うつ薬であるケタミンは、解離作用を含む好ましくない精神異常作用を有する。現在、抗うつ効果を維持しながら、これらの副作用を抑制する効果的な戦略は存在しない。京都大学のDaiki Nakatsuka氏らは、マウスとヒトにおけるケタミンの精神異常作用と抗うつ作用に対するドパミンD2/D3受容体拮抗薬とパーシャルアゴニストの影響を調査した。Translational Psychiatry誌2025年3月8日号の報告。 主な内容は以下のとおり。・パーシャルアゴニストであるアリピプラゾールにより、精神異常作用を減弱し、強制水泳試験においてケタミンの抗うつ作用の維持、増強が認められた。・一方、拮抗薬であるracloprideは、マウスにおいていずれの作用も抑制した。・Brain-wide Fos mappingおよびそのネットワーク解析では、腹側被蓋野がアリピプラゾールおよびracloprideの作用を区分するうえで重要な領域であることが示唆された。・慢性ストレスモデルでは、腹側被蓋野へのraclopride局所注入により、ケタミンの抗うつ作用が抑制され、ドパミン作動性ニューロンの活性が認められた。これは、腹側被蓋野の活性化がケタミンの抗うつ作用を抑制することを示唆している。・より拮抗薬に近い(Emaxが低い)パーシャルアゴニストであるブレクスピプラゾールやracloprideの全身投与は、ケタミンと併用した場合に、モデルマウスの腹側被蓋野のドパミン作動性ニューロンを活性化し、ケタミンの抗うつ作用を抑制したが、アリピプラゾールでは、抗うつ作用の抑制が認められなかった。・これらの結果と一致し、うつ病患者9例を対象とした単群二重盲検臨床試験において、アリピプラゾール12mg併用により、ケタミンの抗うつ作用を維持したうえで、解離症状を抑制することが報告された。 著者らは「これらの知見を総合すると、アリピプラゾールによるドパミン受容体シグナル伝達の微調整により、ケタミンの抗うつ作用を維持しながら、ケタミン誘発解離症状を選択的に抑制することが示唆された。これは、治療抵抗性うつ病に対するアリピプラゾールとケタミンの併用療法が有用である可能性を示している」とまとめている。

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高齢糖尿病患者へのインスリン イコデク使用Recommendation公開/糖尿病学会

 日本糖尿病学会(理事長:植木 浩二郎氏[国立国際医療研究センター研究所 糖尿病研究センター長])は、4月18日に「高齢者における週1回持効型溶解インスリン製剤使用についてのRecommendation」(高齢者糖尿病の治療向上のための日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会作成)を公開した。 週1回持効型インスリン製剤インスリン イコデク(商品名:アウィクリ注)は、注射回数を減少させ、持続的なインスリン作用をもたらすことから、ADLや認知機能の低下により自己注射が困難な高齢患者に血糖管理が可能になると期待される。 その一方で、週1回投与という特徴から、投与調節の柔軟性には制限があり、一部の患者では低血糖が重篤化する懸念がある。 学会では使用に際し、高齢者における使用に際してはカテゴリー分類を行った上で「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標」に基づき目標値を設定すること、さらに高齢者では低血糖の症状が乏しく重症低血糖を来しやすいことから『高齢者糖尿病治療ガイド』『インスリン イコデク投与ガイド』などを参考に、下記の5つの事項に留意するように示している。【高齢糖尿病患者への使用でのRecommendation】(1)適切な治療目標を設定する ADLや認知機能が低下した高齢者においては、高血糖緊急症や低血糖を避けることが優先的な目標となる。低血糖になった場合、遷延することが予想されるため、HbA1c値の治療目標は厳格すぎないよう柔軟に設定する。(2)適切なタイミングで血糖モニタリングを実施する 安全性の確保のため何らかの血糖測定が必要である。家族や介護者への教育を徹底し、低血糖時の対応や投与スケジュールの管理を習得してもらう。投与量が安定するまでの期間や、シックデイなど血糖の変動が予想される場合には持続血糖測定(CGM)や遠隔血糖モニタリングも検討する。投与後2~4日目の食前血糖値が最も下がりやすいことから、この日の血糖測定は用量調整の参考になる。(3)訪問看護や介護環境では慎重に計画する 週1回~数回の訪問看護などに依存する患者では、血糖変動を把握する機会が限られるため、慎重な投与計画が必要である。訪問看護師や介護者との連携を強化し、緊急時の対応手段を準備する。(4)感染症、術前の血糖管理など 適宜(超)速効型インスリンを併用する。連日投与のBasalインスリンに変更する場合、最後にイコデクを打ってから1~2週間の間で、朝食前血糖が180mg/dLを超えた時点でイコデクの1/7量を開始する。(5)低血糖予防の注意事項と対応 低血糖時の対応方法に習熟してもらう(必要に応じグルカゴン投与も含む)。予定外の運動をした後は低血糖に注意する。低血糖症状が1度おさまっても再発や遷延の可能性がある。食事量や質にむらがある高齢者では慎重に適応を検討する。持効型インスリンからの切り替え投与時のみ1.5倍に増量することが推奨されているが、この場合は2回目以降も増量を続けないよう注意する。高齢者においては1.5倍の初回投与を必ずしも行わない、という選択肢も考慮される。

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PPI投与量とC. difficile感染症リスクの関係~用量反応メタ解析

 プロトンポンプ阻害薬(PPI)使用者は非使用者と比べClostridioides difficile感染症(CDI)リスクが上昇することが報告されているが、これまでのメタ解析では、用量反応的な関係についての検討は行われていない。スウェーデン・カロリンスカ研究所のMatilda Finke氏らによる用量反応メタ解析の結果、PPI投与量とCDIリスクとの関連は、正の相関を示すことが明らかになった。Journal of Infection誌オンライン版4月14日号掲載の報告。 本研究では、PubMed、Embase、Web of Science、およびCochrane Libraryを用いて、PPIとCDIに関する縦断研究を検索した。収集されたデータは、1日当たりのPPI投与量(DDD:defined daily doses)およびPPI治療期間に基づく2つの2段階ランダム効果用量反応メタ解析にそれぞれ組み入れられた。PPI非使用者と比較した補正相対リスク(RR)と95%信頼区間(CI)が推定された。 主な結果は以下のとおり。・全体で15件の観察コホート研究および症例対照研究が対象となり、投与量(DDD)に基づくメタ解析に7件(n=48万3,821)、治療期間に基づくメタ解析に7件(n=51万6,441)が組み入れられた。・バイアスリスクは中程度と評価された。・プールされた用量反応推定値は線形傾向を示し、DDD10mg増加当たりのRRは1.05(95%CI:0.89~1.23)、PPIによる治療1日増加当たりのRRは1.02(95%CI:1.00~1.05)であった。・両解析において残存異質性が認められたが(I2=91.4%/DDD、I2=99.4%/治療期間)、その要因の特定には限界があった。 著者らは、リスク上昇に関与する基礎的なメカニズムやCDIリスクが増加するPPI投与量の閾値については明らかになっていないとし、PPIとCDIの用量反応関係に関する、より多くのデータを基にした研究が必要としている。

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早期発症双極症の認知機能、躁病エピソード期と寛解期の比較

 トルコ・Konya Eregli State HospitalのCelal Yesilkaya氏らは、早期発症型の双極症の躁病エピソード患者と寛解期患者における認知機能の程度を調査し、比較検討を行った。European Archives of Psychiatry and Clinical Neuroscience誌オンライン版2025年3月3日号の報告。 対象は、双極症の躁病エピソード患者55例、寛解期患者40例と健康対照者30例。さらに、躁病エピソード患者のうち、31例(56.4%)は寛解期と評価された。包括的な認知バッテリーを用いて、言語および視覚学習/記憶、注意力、抑制、問題解決、作業記憶、処理速度、言語流暢スキルを評価した。全体的な認知能力を推定するため、グローバル認知因子を算出した。心の論理(Theory of mind:ToM)の評価には、Reading the Mind in the EyesおよびFaux-Pasテストを用いた。 主な結果は以下のとおり。・双極症患者と健康対照者は、性別および教育によりマッチさせた。・寛解期患者の平均年齢は、他群よりも有意に高かった。・躁病エピソード患者では、抗精神病薬の投与量が最も多かった。・躁病エピソード患者は、寛解期患者と比較し、処理速度(Cohen's d:0.51〜0.78)、注意力(d:0.57)、抑制(d:0.56〜0.63)、全般的認知機能(d:0.54)の中程度の低下が認められた。・寛解期患者は、健康対照者と比較し、言語記憶(d:1.03〜1.32)、作業記憶(d:0.88〜1.13)、ToM(d:0.60〜0.87)、処理速度(d:1.21〜1.27)、問題解決(d:0.56〜0.67)、注意力(d:0.58)、抑制(d:0.89〜1.00)、視覚記憶(d:1.28〜1.37)のパフォーマンスが低かった。 著者らは「躁病エピソード患者は、社会的認知、処理速度、抑制、注意力の障害がより顕著であった。今後の研究では、神経認知障害の治療を目的とした薬物療法および心理療法の介入に焦点を当てる必要がある」と結論付けている。

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高齢の大動脈弁狭窄症、TAVI後のダパグリフロジン併用で予後を改善/NEJM

 重症の大動脈弁狭窄症で経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)を受け、心不全イベントのリスクが高い高齢患者において、標準治療単独と比較してSGLT2阻害薬ダパグリフロジンを併用すると、全死因死亡または心不全悪化の発生率が有意に改善することが、スペイン・Centro Nacional de Investigaciones Cardiovasculares Carlos IIIのSergio Raposeiras-Roubin氏らDapaTAVI Investigatorsが実施した「DapaTAVI試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2025年4月10日号に掲載された。スペインの無作為化対照比較試験 DapaTAVI試験は、TAVIを受けた大動脈弁狭窄症の高齢患者におけるダパグリフロジン併用の有効性と安全性の評価を目的とする医師主導型の無作為化対照比較試験であり、2021年1月~2023年12月にスペインの39施設で参加者の無作為化を行った(Instituto de Salud Carlos IIIなどの助成を受けた)。 重症大動脈弁狭窄症でTAVIを受け、心不全の既往歴に加え腎不全(推算糸球体濾過量[eGFR]25~75mL/分/1.73m2)、糖尿病、左室駆出率(LVEF)<40%のうち少なくとも1つを有する患者1,222例(平均[±SD]年齢82.4±5.6歳[72%が80歳以上、7%以上が90歳以上]、女性49.4%)を対象とした。これらの患者をTAVI施行後に、標準治療に加えダパグリフロジン(10mg、1日1回)の経口投与を受ける群(605例)、または標準治療のみを受ける群(618例)に無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、追跡期間1年の時点における全死因死亡または心不全の悪化(心不全による入院または心不全で緊急受診し利尿薬静脈内投与を受けたことと定義)の複合とした。主要アウトカムを有意に改善 全体の43.9%が糖尿病、17.0%がLVEF<40%、88.6%がeGFR 25~75mL/分/1.73m2で、平均eGFRは56.2±16.4mL/分/1.73m2であった。追跡期間中にダパグリフロジン群の103例(17.0%)が投与中止となり、標準治療単独群の43例(7.0%)が心不全以外の理由でダパグリフロジンの投与を開始した。標準治療単独群の1例が追跡不能となり主解析から除外された。 主要アウトカムのイベントは、標準治療単独群で124例(20.1%)に発生したのに対し、ダパグリフロジン群では91例(15.0%)と有意に減少した(ハザード比[HR]:0.72[95%信頼区間[CI]:0.55~0.95]、p=0.02)。 全死因死亡はダパグリフロジン群47例(7.8%)、標準治療単独群55例(8.9%)(HR:0.87[95%CI:0.59~1.28])、心不全悪化はそれぞれ57例(9.4%)および89例(14.4%)(サブHR:0.63[95%CI:0.45~0.88])で発生した。性器感染症、低血圧症の頻度が高い 非外傷性四肢切断(ダパグリフロジン群0.8%vs.標準治療単独群0.6%、p=0.72)、重症低血糖症(0.7%vs.1.3%、p=0.26)、がん(5.0%vs.3.6%、p=0.23)の発生率は両群で同程度であった。両群とも糖尿病性ケトアシドーシスの報告はなかった。 一方、性器感染症(1.8%vs.0.5%、p=0.03)および低血圧症(6.6%vs.3.6%、p=0.01)はダパグリフロジン群で高頻度だった。ダパグリフロジン群の37例(6.1%)が、有害事象により投与中止となった。 著者は、「これらの結果は、高齢患者においてSGLT2阻害薬は安全で、臨床的有益性をもたらすことを裏付けるものと考えられ、高齢患者へのSGLT2阻害薬の処方が少ない現状を考慮すると重要な知見といえるだろう」としている。

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テレビを消すと糖尿病になりやすい人の心血管リスクが低下する

 2型糖尿病になりやすい遺伝的背景を持つ人は、心臓発作や脳卒中、末梢動脈疾患などのアテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)のリスクも高い。しかし、そのリスクは、テレビのリモコンを手に取って「オフ」のスイッチを押すと下げられるかもしれない。香港大学(中国)のMengyao Wang氏らの研究によると、テレビ視聴を1日1時間以下に抑えると、2型糖尿病の遺伝的背景に関連するASCVDリスクの上昇が相殺される可能性があるという。この研究の詳細は、「Journal of the American Heart Association(JAHA)」に3月12日掲載された。 Wang氏らの研究は、英国の一般住民対象大規模疫学研究「UKバイオバンク」参加者のうち、遺伝子情報のデータがある成人34万6,916人(平均年齢56±8.0歳、女性55.4%)を対象に行われた。2型糖尿病に関連する138の遺伝子情報を用いて多遺伝子リスクスコア(PRS)を算出し、低位(PRSの下位20%)、中位(低位・高位以外)、高位(PRSの上位20%)の3群に分類。また、テレビ視聴時間は自己申告に基づき、1日1時間以下の群(20.7%)と2時間以上の群(79.3%)の2群を設定した。 中央値13.8年間追跡したところ、2万1,265件のASCVDイベントが記録されていた。ASCVDリスクに影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、BMI、喫煙・飲酒・運動習慣、睡眠時間、就業状況、肉・魚・果物・野菜などの摂取量、経済状況ほか)を調整後、テレビ視聴時間が1日2時間以上の群はPRSにかかわらず、1日1時間以下の群よりもASCVDリスクが12%高かった(ハザード比1.12〔95%信頼区間1.07~1.16〕)。またPRSが中位および高位の群でも、テレビ視聴時間が1日1時間以下である限り、ASCVDリスクの上昇は認められなかった。 その一方で、PRSが低位であっても2時間以上テレビを視聴している群は、向こう10年間のASCVDリスクが2.46%であり、この数値は、PRSが高位ながらテレビ視聴時間が1時間以下の群のASCVDリスクである2.13%よりもやや高かった。 論文の筆頭著者であるWang氏は、「われわれの研究結果は、テレビ視聴時間を減らすことが、2型糖尿病の遺伝的背景に関連するASCVDを予防するための、重要な行動目標となる可能性を示唆している」と総括。また、「疾患を予防し健康を増進するために、特に2型糖尿病の遺伝的リスクが高い人々に対しては、テレビを見る時間を減らして健康的な習慣を身に付けることを奨励すべきだ」と付け加えている。論文の上席著者である同大学のYoungwon Kim氏も、「2型糖尿病および長時間の座位行動は、ASCVDの主要なリスク因子である。そして、座位行動の多くをテレビ視聴が占めており、それが2型糖尿病とASCVDのリスク上昇につながっている」と解説している。 米国心臓協会(AHA)の身体活動委員会の委員長である、米バージニア大学シャーロッツビル校のDamon Swift氏は、「この研究は、テレビの視聴を減らすことが、2型糖尿病のリスクが高い人にも低い人にも有益であることを示唆している」と論評。また「健康増進におけるライフスタイル選択の重要性を示している」と語っている。なお、同氏は本研究には関与していない。

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輸液バッグからマイクロプラスチックが血流に流入か

 医師や健康分野の専門家の間で、人体の奥深くにまで侵入するマイクロプラスチックに対する関心が高まりつつある。こうした中、医療行為でさえもこの微小なプラスチックへの曝露を増やす要因となり得ることが、新たな研究で示された。プラスチック製の輸液バッグから投与される液剤の中にもマイクロプラスチックが含まれていることが明らかになったという。復旦大学(中国)環境科学・工学部教授のLiwu Zhang氏らによるこの研究は、「Environment & Health」に2月14日掲載された。Zhang氏らは、「われわれの研究から、マイクロプラスチックが血流に入り込むという、人間に最も直接的に影響するプラスチック汚染の一面が浮き彫りになった」と述べている。 Forbes誌の最近の記事によると、マイクロプラスチックは、認知症や脳の健康問題、心疾患、脳卒中、生殖機能の問題、乳幼児の疾患など、さまざまな健康問題と関連していることが複数の研究で示されているという。2025年2月初旬に「Nature」に発表された研究によると、人間の脳から検出されるマイクロプラスチックの量は、2016年と比べて2024年には約50%増加したという。さらに、研究グループによると、マイクロプラスチックは人間の血中からも検出されている。血中を流れるマイクロプラスチックは、肺、肝臓、腎臓、脾臓などの臓器に蓄積されやすいという。 研究グループは今回、2つの異なるメーカーの点滴用生理食塩水入りの輸液バッグを購入し、その中身を静脈内輸液速度と同じ40~60滴/分でガラス容器に滴下した。次に、収集した液体を、0.2μmのポリカーボネートろ紙を用いた真空ろ過装置でろ過し、ろ紙上に残った物質をイオン水に浸して超音波処理した後に乾燥。最終的にSEM-EDS(走査型電子顕微鏡とエネルギー分散型X線分光分析)とラマン分光分析法を用いて、マイクロプラスチックの分析を行った。 その結果、どちらのメーカーの生理食塩水にも、ポリプロピレン製の輸液バッグと同じポリプロピレン粒子が相当数(約7,500個/L)含まれていることが明らかになった。この結果は、点滴を通して何千個ものマイクロプラスチックが人間の血流に混入する可能性があることを示唆していると研究グループは言う。研究グループはこの結果に基づき、複数の輸液バッグが必要になる脱水症状の治療では血流に入り込むマイクロプラスチックの数が約2万5,000個、腹部手術の場合には約5万2,500個に達する可能性があると試算している。 Zhang氏らは、輸液バッグを紫外線や熱から遠ざけることで、マイクロプラスチックが液剤に混入しにくくなる可能性があるとの見方を示している。また、病院や診療所では、患者が点滴を受けている間にマイクロプラスチックを除去するろ過システムの導入を検討しても良いかもしれないとしている。 研究グループは、「今後の研究では、より直接的な毒性学的研究に重点を置いて、マイクロプラスチックの潜在的な毒性とそれに関連する健康リスクを総合的に評価するべきだ」との見解を示し、「今回の研究結果は、マイクロプラスチックが人間の健康にもたらす潜在的な危険性の軽減に向けた適切な政策や対策を立案するための科学的根拠となるだろう」と述べている。

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肝硬変患者において肝硬変自体はCAD発症リスクの増加に寄与しない

 冠動脈疾患(CAD)は肝硬変患者に頻発するが、肝硬変自体はCAD発症リスクの上昇と有意に関連しない可能性を示唆する研究結果が、「Journal of Clinical and Translational Hepatology」に2024年11月21日掲載された。 CADは、慢性冠症候群(CCS)と急性冠症候群(ACS)に大別され、ACSには、不安定狭心症、非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)、およびST上昇型心筋梗塞(STEMI)などが含まれる。肝硬変患者でのCADの罹患率や有病率に関しては研究間でばらつきがあり、肝硬変とCADの関連は依然として不確かである。 中国医科大学附属病院のChunru Gu氏らは、これらの点を明らかにするために、システマティックレビューとメタアナリシスを実施した。まず、PubMed、EMBASE、およびコクランライブラリーで2023年5月17日までに発表された関連論文を検索し、基準を満たした51件の論文を抽出した。ランダム効果モデルを用いて、これらの研究で報告されている肝硬変患者のCAD罹患率と有病率、およびCADの関連因子を統合して罹患率と有病率を推定した。また、適宜、オッズ比(OR)やリスク比(RR)、平均差(MD)を95%信頼区間(CI)とともに算出し、肝硬変患者と非肝硬変患者の間でCAD発症リスクを比較した。 51件の研究のうち、12件は肝硬変患者におけるCAD罹患率、39件はCAD有病率について報告していた。肝硬変患者におけるCAD、ACS、および心筋梗塞(MI)の統合罹患率は、それぞれ2.28%(95%CI 1.55〜3.01、12件の研究)、2.02%(同1.91〜2.14%、2件の研究)、1.80%(同1.18〜2.75、7件の研究)と推定された。CAD(7件の研究)、ACS(1件の研究)、MI(5件の研究)の罹患率を肝硬変患者と非肝硬変患者の間で比較した研究では、いずれにおいても両者の間に有意な差は認められなかった。 肝硬変患者におけるCAD、ACS、およびMIの統合有病率は、それぞれ18.87%(95%CI 13.95〜23.79、39件の研究)、12.54%(11.89〜13.20%、1件の研究)、6.12%(3.51〜9.36%、9件の研究)と推定された。CAD(15件の研究)とMI(5件の研究)の有病率を肝硬変患者と非肝硬変患者の間で比較した研究では、両者の間に有意な差は認められなかったが、ACS(1件の研究)の有病率に関しては、肝硬変患者の有病率が非肝硬変患者よりも有意に高いことが示されていた(12.54%対10.39%、P<0.01)。 肝硬変患者におけるCAD発症と有意に関連する因子としては、2件の研究のメタアナリシスから、糖尿病(RR 1.52、95%CI 1.30〜1.78、P<0.01)および高血圧(同2.14、1.13〜4.04、P=0.02)が特定された。一方、CAD有病率と有意に関連する因子としては、高齢(MD 5.68、95%CI 2.46〜8.90、P<0.01)、男性の性別(OR 2.35、95%CI 1.26〜4.36、P=0.01)、糖尿病(同2.67、1.70〜4.18、P<0.01)、高血圧(同2.39、1.23〜4.61、P=0.01)、高脂血症(同4.12、2.09〜8.13、P<0.01)、喫煙歴(同1.56、1.03〜2.38、P=0.04)、CADの家族歴(同2.18、1.22〜3.92、P=0.01)、非アルコール性脂肪肝炎(NASH、同1.59、1.09〜2.33、P=0.02)、C型肝炎ウイルス(HCV、同1.35、1.19〜1.54、P<0.01)が特定された。つまり、肝硬変患者においては、肝硬変ではなく、古典的に知られている心血管リスク因子、NASH、およびCHCVがCADリスクの上昇と関連があった。 著者らは、「肝硬変の高リスク集団におけるCADのスクリーニングと予防方法を明らかにするには、大規模な前向き研究が必要だ」と述べている。 なお、1人の著者が、「Journal of Clinical and Translational Hepatology」の編集委員であることを明らかにしている。

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肝障害患者へのオピオイド【非専門医のための緩和ケアTips】第99回

肝障害患者へのオピオイドモルヒネは腎不全患者に投与する時は注意が必要というのは有名ですが、肝障害患者に対してはどのような注意が必要なのでしょうか? さまざまな基礎疾患の患者に対応する必要のある緩和ケア領域、肝障害について考えてみたいと思います。今回の質問在宅診療でアルコール性肝硬変のある大腸がん患者を診ているのですが、オピオイドを使用する場合、どのような注意点があるでしょうか? 肝障害があると薬剤の代謝も悪くなると思うので、心配です。今回も臨床的な質問をいただきました。実はこの肝障害患者へのオピオイドの使用は、あまりエビデンスが確立されていない分野です。医薬品インタビューフォームなどの情報を見ると、フェンタニルは「比較的用量調整不要とされるが、慎重に使用」と記載されており、それ以外のオピオイドは「投与量の調節が必要、もしくは使用を推奨しない」という記載となっています。肝障害患者に使用が推奨されていないのは、メサドン、コデイン、トラマドールです。とくにメサドンは「重度の肝疾患患者において、半減期が大幅に延びた」という報告があり、私も基本的には使用しません。一方、モルヒネやオキシコドンなどほかのオピオイドは減量したうえで慎重に投与することを検討します1)。ただし、先述のように確立されたエビデンスはなく、ほかの文献では「フェンタニルも投与量調整が必要」や「メサドンも投与量を調整すれば使用可能」とする報告もあり、迷うところです。臨床的には安全な範囲を見積もりながら慎重に投与し、効果と副作用を評価することになります。こういった機会でないとなかなか勉強することのない、薬剤の代謝について復習してみましょう。肝機能障害がある際に代謝が低下する理由はいくつかあるのですが、代謝酵素(CYP3A4など)の活性が半分程度まで低下することが大きく影響します。私も専門家ではないのでざっくりとした説明になりますが、CYPは種類があり、薬剤ごとに関与するCYPが異なります。このため、薬剤ごとに代謝の影響を確認する必要があるのです。「障害されている肝細胞が多いほど代謝機能が低下する」というのはイメージしやすいでしょう。今回の質問のように肝臓全体に影響があるアルコール性肝硬変の場合は肝細胞が広範に萎縮し、代謝機能が大きく低下するケースが多いでしょう。一方、肝細胞がんでは比較的肝細胞数が維持されることが多いとされます。こうした意味でも病態ごとに考える必要があるのです。今回は緩和ケアの専門家でもクリアカットにコメントしにくい、肝障害患者へのオピオイドについて考えてみました。まずは「重度肝障害患者に対しては、メサドン、コデイン、トラマドールは避ける」という点を押さえましょう。今回のTips今回のTips肝障害患者へのオピオイド投与。避ける薬剤を確認し、使用できる薬剤も慎重に投与量を考えよう。1)Pharmacokinetics in Patients with Impaired Hepatic Function: Study Design, Data Analysis, and Impact on Dosing and Labeling/FDA

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第263回 パーキンソン病の幹細胞治療の2試験の結果がひとまず有望

パーキンソン病の幹細胞治療の2試験の結果がひとまず有望幹細胞から作った神経細胞によるパーキンソン病治療の2試験の待望の結果が、時を同じくして先週16日にNature誌に報告されました1-4)。それら試験の被験者はおよそ安全に経過観察の2年間を過ごすことができ、移植された神経細胞はパーキンソン病で失われるドーパミン生成/放出神経細胞(DA神経)に成り代わって十分長く存続してドーパミンを作りうると示唆されました。2つのチームがめいめい実施したそれらの試験はともに小規模で、主な目的は安全性の検討です。被験者数は2試験合わせて19例ばかりで、震えがはっきりと減った被験者もいますが、プラセボ群がないことなどもあって効果の判定には不十分で、より大規模な試験での検討が今後必要です5,6)。両試験で神経を作るのに使われた幹細胞はおよそ無限に増え続けることができ、心身を形成するあらゆる細胞に分化しうる特別な能力を有します。2試験で移植された神経細胞の起源は幹細胞ですが、その出所が異なります。一方では受精後の胚から得られるヒト胚性幹細胞(hES細胞)、もう一方では成人の体細胞から人工的に生み出される人工多能性幹細胞(iPS細胞)から神経細胞が作られました。パーキンソン病はDA神経が失われることによる進行性の神経病態で、振戦、こわばり、動作緩慢を引き起こします。残念ながら根治療法はなく、2050年までに世界のパーキンソン病患者数はおよそ2,500万例に達すると予想されています7)。失われたDA神経をそれに代わる細胞の移植で補充してパーキンソン病治療を目指す取り組みの先駆けの報告は1980年代にさかのぼります8)。試されたのはDA神経が豊富とされる胎児の中脳腹側の細胞のパーキンソン病患者への移植です。胎児由来細胞が移植された脳領域では幸いにしてドーパミンの量が回復し、運動機能の改善が長続きしました。それらの結果はパーキンソン病の細胞移植の治療効果を裏付けるものですが、胎児脳組織はそう簡単に手に入るものではありませんし、手に入ったとしてその質はまちまちかもしれません。それに倫理的な懸念もあります。そういう課題の解決手段の1つとして幹細胞からDA神経を大量に作る試みが始まり、しばらくすると世界の多くのチームがヒト幹細胞からDA神経を生み出せるようになりました。研究はさらに進んでパーキンソン病を模す動物への移植実験で症状や動作の改善効果が示されるようになり、2020年にはパーキンソン病患者の初のiPS細胞治療例が報告されるに至ります9)。その1例の患者には自身の皮膚細胞由来のiPS細胞を分化させて作った前駆DA神経が2017~18年に脳の左側と右側に2回に分けて移植されました10)。移植細胞の存続がPET写真で確認され、移植後18ヵ月と24ヵ月時点での患者の症状は安定か改善していました。実用に堪える細胞を作る技術は原料がiPS細胞とhES細胞の場合のどちらでもその後改善し、今や複数例を集めての臨床試験が実施されるようになっています。今回発表された2試験の1つはわが国の京都大学医学部附属病院で実施された第I/II相試験で、iPS細胞から作った前駆DA神経がパーキンソン病患者7例の脳の両側の被殻に移植されました。移植細胞が拒絶されないように免疫抑制薬が15ヵ月間投与されました。2年間(24ヵ月)の経過観察で幸いにも重篤な有害事象は生じておらず、効果検討対象の6例のうち4例は薬の効果がない状態での運動症状検査値(MDS-UPDRSパートIIIによるOFFスコア)の改善を示しました。もう1つはBayerの子会社のBlueRock Therapeutics社が米国とカナダで実施した第I相exPDite試験で、パーキンソン病患者12例が参加し、京都大学の試験とは違ってhES細胞由来の前駆DA神経が脳に移植されました。移植場所は被殻で、京都大学での試験と同じです。やはり免疫抑制薬が投与されました。投与期間は1年間です。exPDite試験の18ヵ月間の安全性経過は日本での試験と同様におよそ問題はなく、移植細胞と関連する有害事象は生じていません。MDS-UPDRSパートIIIによるOFFスコアは高用量群でより下がっており、18ヵ月時点ではもとに比べて平均23点低くて済んでいました。脳の写真を調べたところドーパミン生成の上昇が認められ、免疫抑制薬の使用停止後も含む18ヵ月間の観察期間のあいだ、少なくともいくらかの移植細胞は存続したようです5)。京都大学での試験でも同様にドーパミン生成の増加を示す結果が得られています。昨年2024年9月にBlueRock社はexPDite試験のさらに長い24ヵ月(2年間)の経過を速報しています11)。安全性は引き続き良好で、移植細胞と関連する有害事象はありませんでした。MDS-UPDRSパートIIIによるOFFスコアの低下もおよそ維持されており、高用量投与群は24週時点を22点低下で迎えています。BlueRock社の前駆DA神経はbemdaneprocelと名付けられて開発されており、exPDite試験での良好な結果を頼りに早くも本年前半、すなわちこの6月末までに第III相試験が始まる見込みです12)。 参考 1) Tabar V, et al. Nature. 2025 Apr 16. [Epub ahead of print] 2) Sawamoto N, et al. Nature. 2025 Apr 16. [Epub ahead of print] 3) 「iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞を用いたパーキンソン病治療に関する医師主導治験」において安全性と有効性が示唆 / 京都大学医学部附属病院 4) Potential Treatment for Parkinson’s Using Investigational Cell Therapy Shows Early Promise / Memorial Sloan Kettering Cancer Center 5) ‘Big leap’ for Parkinson’s treatment: symptoms improve in stem-cell trials / Nature 6) Clinical trials test the safety of stem-cell therapy for Parkinson’s disease / Nature 7) Su D, et al. BMJ. 2025;388:e080952. 8) Lindvall O, et al. Arch Neurol. 1989;46:615-631. 9) Schweitzer JS, et al. N Engl J Med. 2020;382:1926-1932. 10) Novel Treatment Using Patient's Own Cells Opens New Possibilities to Treat Parkinson's Disease / PRNewswire 11) BlueRock Therapeutics’ Investigational Cell Therapy Bemdaneprocel for Parkinson’s Disease Shows Positive Data at 24-Months / BUSINESS WIRE. 12) BlueRock Therapeutics announces publication in Nature of 18-month data from Phase 1 clinical trial for bemdaneprocel, an investigational cell therapy for Parkinson’s disease / GlobeNewswire

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未治療CLLへのアカラブルチニブ+オビヌツズマブ、6年PFSの結果(ELEVATE-TN)/Blood

 未治療の慢性リンパ性白血病(CLL)に対するアカラブルチニブ単独またはアカラブルチニブとオビヌツズマブ併用の有用性を評価した第III相ELEVATE-TN試験において、追跡期間中央値74.5ヵ月での成績を米国・Willamette Valley Cancer InstituteのJeff P. Sharman氏らが報告した。アカラブルチニブ+オビヌツズマブ群の有効性と安全性は維持され、無増悪生存期間(PFS)は、高リスク患者を含めてchlorambucil+オビヌツズマブ群より延長していた。Blood誌オンライン版2025年4月8日号に掲載。 本試験は、未治療CLLを対象に、アカラブルチニブ単独およびアカラブルチニブ+オビヌツズマブをchlorambucil+オビヌツズマブと比較した無作為化多施設共同非盲検第III相試験である。主要評価項目は、独立判定委員会(IRC)評価によるアカラブルチニブ+オビヌツズマブ群のPFS(vs.chlorambucil+オビヌツズマブ群)、重要な副次評価項目は、IRC評価によるアカラブルチニブ単独群のPFS(vs.chlorambucil+オビヌツズマブ群)で、他の副次評価項目は、全奏効率、次治療までの期間、全生存期間(OS)などであった。 主な結果は以下のとおり。・535例がアカラブルチニブ+オビヌツズマブ群(179例)、アカラブルチニブ単独群(179例)、chlorambucil+オビヌツズマブ群(177例)に無作為化された。・PFS中央値は、アカラブルチニブ+オビヌツズマブ群およびアカラブルチニブ単独で未達、chlorambucil+オビヌツズマブ群では27.8ヵ月であった(いずれもp<0.0001)。推定72ヵ月全PFS率は順に78.0%、61.5%、17.2%であった。・アカラブルチニブ+オビヌツズマブ群はアカラブルチニブ単独群よりPFSを改善した(ハザード比[HR]:0.58、p=0.0229)。IGHV変異なし、17p欠失/TP53変異、Complex karyotypeを有する患者では、アカラブルチニブ単独群、アカラブルチニブ+オビヌツズマブ群はchlorambucil+オビヌツズマブ群より有意にPFSが改善した(アカラブルチニブを含む両群でそれぞれp<0.0001、p≦0.0009、p<0.0001)。・OS中央値は3群とも未達であり、アカラブルチニブ+オビヌツズマブ群はchlorambucil+オビヌツズマブ群より有意にOSが延長した(HR:0.62、p=0.0349)。推定72ヵ月OS率は、アカラブルチニブ+オビヌツズマブ群83.9%、アカラブルチニブ単独群75.5%、chlorambucil+オビヌツズマブ群74.7%であった。・4年経過以降に発現した有害事象はほとんどがGrade1~2で、有害事象、重篤な有害事象、注目すべき事象の発現割合は、アカラブルチニブを含む群で同程度であり、アカラブルチニブおよびオビヌツズマブの既知の安全性プロファイルと一致していた。

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