サイト内検索|page:143

検索結果 合計:11816件 表示位置:2841 - 2860

2841.

花粉症患者はコロナによる嗅覚・味覚障害が悪化しやすい

 花粉症患者では、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染時の嗅覚・味覚障害のリスクが高く、その回復も遅いことが、中国・西安交通大学のJingguo Chen氏らの調査によって明らかになった。Laryngoscope investigative otolaryngology誌2023年2月号掲載の報告。花粉症患者は味覚・嗅覚障害がコロナで悪化した割合が高かった 急な嗅覚障害や味覚障害の発現は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予測因子と考えられている。しかし、慢性副鼻腔炎や喘息、季節性アレルギー、アレルギー性鼻炎などを有する患者では、新型コロナウイルスに感染する前にすでに併存疾患の影響によって嗅覚障害や味覚障害が生じている可能性があり、それらによる評価が効果的ではないことがある。そのため、研究グループは、呼吸器疾患のあるCOVID-19患者の嗅覚・味覚と併存疾患の関連を調査することにした。 研究は、「化学感覚研究のための国際コンソーシアム(Global Consortium for Chemosensory Research:GCCR)」のアンケートデータを用いて行われた。対象者は、新型コロナウイルス感染前と感染後の嗅覚・味覚の程度と、感染前6ヵ月の併存疾患の状態を自己評価した。併存疾患(高血圧、季節性アレルギー/花粉症、肺疾患、副鼻腔炎、糖尿病、神経疾患)によって層別化し、線線形混合モデルを用いて評価した。 最終解析には、呼吸器疾患のある2万6,468例(女性1万8,429例[69.87%]、20~60歳が90%)が組み込まれた。 花粉症などによる併存疾患の有無とコロナ感染後の嗅覚・味覚障害の程度を評価した主な結果は以下のとおり。・最終解析に組み込まれた2万6,468例のうち、花粉症などの併存疾患があるのは1万6,016例、併存疾患がないのは1万452例であった。・年齢、性別、地域を調整した多変量回帰分析の結果、高血圧、肺疾患、副鼻腔疾患、神経疾患の併存疾患がある新型コロナウイルス感染症患者では、嗅覚・味覚障害が悪化した割合が高かった(いずれもp<0.05)が、それらの回復に明らかな差はみられなかった。・季節性アレルギー/花粉症を有する新型コロナウイルス感染症患者では、味覚・嗅覚障害が悪化した割合が高く、回復も遅かった(いずれもp<0.001)。・糖尿病では、味覚・嗅覚障害の悪化にも回復にも明らかな関連はみられなかった。

2842.

新型コロナワクチン、米国政府の投資額はいくら?/BMJ

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のmRNAワクチンの開発、製造、購入に関連した米国政府の投資額を調べた結果、少なくとも319億ドルに上ることを、米国・ブリガム&ウィメンズ病院のHussain S. Lalani氏らが明らかにした。このうち、COVID-19パンデミック前の30年間(1985~2019年)にわたり基礎的研究に投じmRNAワクチンの重要な開発に直接寄与した投資額は、3億3,700万ドルだったという。また、2022年3月までのパンデミック中に投じた金額は少なくとも316億ドルで、臨床試験(6%)、ワクチン開発(2%)、ワクチン購入(92%)に充てられていた。著者は「これらの公的投資は何百万人もの命を救うことにつながり、また将来のパンデミックへの備えとCOVID-19をしのぐ疾患を治療する可能性ももたらし、mRNAワクチン技術の開発に見合ったものであった」と述べ、「社会全体の健康を最大化するために、政策立案者は、公的資金による医療技術への公平かつグローバルなアクセスを確保しなければならない」とまとめている。BMJ誌2023年3月1日号掲載の報告。NIHデータやRePORTERなどでワクチン開発への研究助成金などを算出 研究グループは1985年1月~2022年3月にかけて、米国国立衛生研究所(NIH)の資金提供に関するデータや研究成果を収載したReport Portfolio Online Reporting Tool Expenditures and Results(RePORTER)などを基に、米国政府がmRNA COVID-19ワクチンの開発に投じた公的資金を算出した。 政府の助成金を、mRNA COVID-19ワクチン開発の4つの重要なイノベーション(脂質ナノ粒子、mRNA合成または改良、融合前スパイクタンパク質構造、mRNAワクチンバイオテクノロジー)への主任研究者、プロジェクトのタイトルおよびアブストラクトをベースとした直接的または間接的な関与、あるいは関与が認められないもので評価した。 同ワクチン開発研究に対する直接的な公的投資額について、パンデミック前の1985~2019年と、パンデミック後の2020年1月~2022年3月で分類し評価した。COVID-19パンデミック後、ワクチン購入に292億ドル投資 NIHによるmRNA COVID-19ワクチンの開発に直接関連した研究助成金は、34件だった。これらの助成金と、その他の米国政府助成金・契約金の合計は、319億ドルだった。そのうち、COVID-19パンデミック前の投資額は3億3,700万ドルだった。 パンデミック前、NIHはmRNAワクチン技術の基礎的研究や橋渡し(translational)科学研究に対し1億1,600万ドル(35%)を投資。米国生物医学先端研究開発局(Biomedical Advanced Research and Development Authority:BARDA)は1億4,800万ドル(44%)、米国国防総省は7,200万ドル(21%)を、それぞれワクチン開発に投資した。 パンデミック後には、米国公的資金はワクチン購入に292億ドル(92%)を、臨床試験支援に22億ドル(7%)を、製造に加え基礎的研究および橋渡し科学研究に1億800万ドル(1%未満)を費やしていた。

2843.

スタチン不耐患者、bempedoic acidがCVリスクに有効か/NEJM

 スタチンの服用が困難なスタチン不耐(statin-intolerant)患者において、ATPクエン酸リアーゼ阻害薬ベンペド酸(bempedoic acid)はプラセボと比較し、LDLコレステロール値を低下し、主要有害心血管イベント(心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、冠動脈血行再建)のリスクを低下することが示された。一方でベンペド酸投与により、脳卒中、心血管死、全死因死亡のそれぞれのリスクは低減せず、また痛風や胆石症発生リスクはやや増大した。米国・クリーブランドクリニックのSteven E. Nissen氏らによる二重盲検無作為化プラセボ対照試験の結果で、NEJM誌オンライン版2023年3月4日号で発表された。ベンペド酸は、LDL値を低下し筋肉関連の有害事象の発生リスクは低いが、心血管アウトカムへの影響は明らかになっていなかった。“スタチン不耐”でCVD、または高リスクの患者を対象に試験 研究グループは、容認できない副作用のためにスタチン服用ができない、または困難な患者(スタチン不耐患者)で、心血管疾患が認められるか、または同リスクの高い患者1万3,970例を対象に試験を行った。 被験者を無作為に2群に分け、一方(6,992例)にはベンペド酸180mgを、もう一方(6,978例)にはプラセボを、それぞれ経口投与した。 主要エンドポイントは、心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、冠動脈血行再建の4つのうちのいずれかの発生と定義した主要有害心血管イベントだった。心筋梗塞、冠動脈血行再建の発生率、ベンペド酸で各2割程度減少 追跡期間中央値は40.6ヵ月。ベースラインのLDLコレステロール値は、両群共に139.0mg/dLであり、6ヵ月後の低下幅は、ベンペド酸群がプラセボ群より29.2mg/dL大きく、減少率の群間差は21.1ポイントだった。 主要エンドポイントの発生率は、ベンペド酸群(11.7%)がプラセボ群(13.3%)より有意に低かった(ハザード比[HR]:0.87、95%信頼区間[CI]:0.79~0.96、p=0.004)。 心血管死、非致死的脳卒中、非致死的心筋梗塞の複合発生率は、8.2% vs.9.5%(HR:0.85、95%CI:0.76~0.96、p=0.006)、また心筋梗塞(致死的・非致死的)の発生率は3.7% vs.4.8%(0.77、0.66~0.91、p=0.002)、冠動脈血行再建の発生率は6.2% vs.7.6%(0.81、0.72~0.92、p=0.001)で、ベンペド酸群がプラセボ群より有意に低かった。 一方でベンペド酸は、脳卒中(致死的・非致死的)、心血管死、全死因死亡への有意な影響はみられなかった。さらに、痛風(ベンペド酸群3.1% vs.プラセボ群2.1%)、胆石症(2.2% vs.1.2%)の発生率はベンペド酸群で高く、同様に血清クレアチニン値、尿酸値、肝酵素値もベンペド酸群でわずかだが上昇が認められた。

2844.

SJS/TENの28%が抗菌薬に関連、その内訳は?

 抗菌薬に関連したスティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)および中毒性表皮壊死症(TEN)は、全世界における重大なリスクであることを、カナダ・トロント大学のErika Yue Lee氏らがシステマティックレビューおよびメタ解析で明らかにした。抗菌薬関連SJS/TENは、死亡率が最大50%とされ、薬物過敏反応のなかで最も重篤な皮膚障害として知られるが、今回の検討において、全世界で報告されているSJS/TENの4分の1以上が、抗菌薬関連によるものであった。また、依然としてスルホンアミド系抗菌薬によるものが主であることも示され、著者らは「抗菌薬の適正使用の重要性とスルホンアミド系抗菌薬は特定の適応症のみに使用し治療期間も限定すべきであることがあらためて示唆された」とし、検討結果は抗菌薬スチュワードシップ(適正使用)、臨床医の教育と認識、および抗菌薬の選択と使用期間のリスク・ベネフィット評価を重視することを強調するものであったと述べている。JAMA Dermatology誌オンライン版2023年2月15日号掲載の報告。 研究グループは、全世界の抗菌薬に関連したSJS/TENの発生率を調べるため、システマティックレビューを行った。著者によれば、初の検討という。 MEDLINEとEmbaseのデータベースを提供開始~2022年2月22日時点まで検索し、SJS/TENリスクを記述した実験的研究と観察研究を抽出。SJS/TENの発症原因が十分に記述されており、SJS/TENに関連した抗菌薬を特定していた試験を適格とし抽出した。 2人の研究者が、各々試験選択とデータ抽出を行い、バイアスリスクを評価。メタ解析は、患者レベルの関連が記述されていた試験についてはランダム効果モデルを用いて行い、異質性を調べるためサブグループ解析を行った。バイアスリスクは、Joanna Briggs Instituteチェックリストを用いて、エビデンスの確実性はGRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)アプローチを用いて評価した。 抗菌薬関連SJS/TENの発生率(プール割合)を95%信頼区間(CI)とともに算出した。 主な結果は以下のとおり。・システマティックレビューで64試験が抽出された。メタ解析は患者レベルの関連が記述された38試験・2,917例(単剤抗菌薬関連SJS/TEN発生率が記述)が対象となった。・抗菌薬関連SJS/TENのプール割合は、28%(95%信頼区間[CI]:24~33)であった(エビデンスの確実性は中程度)。・抗菌薬関連SJS/TENにおいて、スルホンアミド系抗菌薬の関連が最も多く、32%(95%CI:22~44)を占めていた。次いで、ペニシリン系(22%、95%CI:17~28)、セファロスポリン系(11%、6~17)、フルオロキノロン系(4%、1~7)、マクロライド系(2%、1~5)の順であった。・メタ解析において、統計学的に有意な異質性が認められた。それらは大陸別のサブグループ解析で部分的に説明がついた。Joanna Briggs Instituteチェックリストを用いてバイアスリスクを評価したところ、全体的なリスクは低かった。

2845.

英語で「検査を早めたいのですが」は?【1分★医療英語】第71回

第71回 英語で「検査を早めたいのですが」は?I would like to expedite her CT scan.(彼女のCT検査を早めたいのですが)Okay. I will call her right now.(わかりました。今から彼女を呼びます)《例文1》I will expedite your MRI brain so that you can go home today.(今日中に退院できるように、あなたの頭部MRI検査を早めます)《例文2》Could you expedite his echo?(彼の心エコーを早めてもらえますか?)《解説》“expedite”は馴染みのない英単語かもしれませんが、「促進する」「時間のかかるものを早める」という意味で、「エクスパダイト」と発音します。医療現場では、CTやMRI、エコーなど、待ち時間が長い画像検査を早めたい状況でよく使われる単語で、“expedite”+検査名で「~の検査を早めたい」という意味になります。同義語としては“speed up”などがあります。講師紹介

2846.

第154回 両親とも雄の健康なマウスが誕生/精子を増やす仕事

親がどちらも雄のマウスができた雄マウスの細胞から作成した卵細胞を使って両親とも雄のマウスを誕生させ、先立つ研究とは一線を画して生殖可能な成獣に成長させることができました1,2)。生殖研究の世界で名を馳せ、2021年から大阪大学に籍を置く3)林 克彦教授らの研究成果です。英国のロンドンでの学会「Third International Summit on Human Genome Editing」で先週8日に発表されました。まだ論文にはなっていませんが、Nature誌に投稿済みとBBCニュースは伝えています4)。両親とも雄のマウスを作ったのは実は林教授らが初めてではありません。4年半ほど前の2018年10月に中国の研究チームが両親とも雌または雄のマウスの誕生をすでに報告しています5)。両親とも雌のマウスは幸いにも生殖可能な成獣に成長できたのに対して、両親とも雄のマウスは長くは生きられず残念ながら生後数日で死んでしまいました。林教授らが作った両親とも雄のマウスはそうではなく、仔を授かれる成獣へと正常に成長することができたことが中国のチームの成果とは一線を画します。雄のマウスの細胞もヒトと同様にたいていX染色体とY染色体を1つずつ有します。林教授らはまず雄マウスの細胞一揃いを幹細胞様の細胞に作り変え、いくつかがY染色体を失うまで培養しました。Y染色体はしばしばおのずと失われることが知られています。そうしてY染色体を失った細胞から次はX染色体を2つ持つ細胞を作ります。そのためにはリバーシン(reversine)という化合物が使われました。細胞分裂の際の染色体配分にちょっかいを出すリバーシンの働きによってX染色体を2つ備えた細胞(XX細胞)を見つけ出し、続いてそれらXX細胞が卵細胞へと作り変えられました。そうしてできた卵細胞が雄の精子と受精してできた胚が雌マウスの子宮に移植され、待望の仔マウス誕生を研究者は目にすることができました。ただし成功率は低く、630もの胚を移植して誕生したマウスはわずか7匹のみでした。とはいえ7匹はどうやら正常で、生殖可能な成体に発育しました。今後の課題の1つとして両親とも雄のマウスを注意深く調べ、普通に生まれたマウスと比較して違いがあるかどうかを検討する必要があると林教授は言っています。さらなる研究の積み重ねで安全性や効率などの課題が解消してヒトでも通用するようになればX染色体を全部または部分的に欠くターナー症候群の女性の不妊やその他の性染色体関連の不妊の治療に林教授らの染色体介入技術は役立ちそうです。ターナー症候群は林教授の今回の成果のきっかけを成すものであり、それら女性の不妊治療手段の研究がそもそもの始まりでした2)。林教授らの技術は不妊治療の枠を超えた用途もありそうです。たとえば男性同士のカップルがその2人の血を引く子を代理母の助けを借りて授かれるようになるかもしれません。もっというと、1人の男性が自身の血のみを引く子をいわば“自家受精”によって授かることを遠い未来には可能にするかもしれません。とはいえそのような利用法は技術うんぬんの枠を超えたものであり、倫理や意義について手広い話し合いが必要でしょう。技術面だけに限って言うと両親とも男性の子を産むことは理論上可能でしょうが2)、人間社会に果たしてその技術が馴染むかどうかはわからない1)と林教授は言っています。精子を増やす仕事もろもろの課題が解決していつの日か男性同士のカップルが子を授かれるようになったとして、卵細胞になる細胞を提供する側と精子を提供する側を決めるのは悩ましいかもしれません。しかしいずれにせよ精子を十分に備えているに越したことはないでしょう。本連載第139回でも紹介したように世界の男性の精子数は心配なことにどうやら減っていますが、先月2月前半に発表された報告で精子数が多いことに関連する仕事の特徴が見つかっています。それは重いものを繰り返し持ち上げたり動かしたりすることです。不妊治療を求めるカップルを募って実施されているEnvironment and Reproductive Health (EARTH)試験の男性被験者の解析によって判明しました。EARTH試験は日頃接する化学物質や生活習慣の生殖への影響を調べることを目的としており、1,500人を超える男女の検体やデータが集められています。今回発表されたのはEARTH試験の男性被験者377人の解析結果であり、仕事で重いものをしばしば持ち上げたり動かしたりしている男性は仕事で体をあまり動かさない男性に比べて精子濃度が46%高く、射精中の全精子数が44%多いことが示されました6,7)。仕事でより体を動かしていると答えた男性は男性ホルモンであるテストステロン濃度が高く、意外にも、女性ホルモンであるエストロゲン濃度も高いという結果が得られています。そのエストロゲン濃度の上昇は豊富なテストステロンがエストロゲンに変換されたことによるのではないかと研究者は想定しています。それら2つのホルモンを正常範囲に保つためにテストステロンがエストロゲンに変わる仕組みがあることが知られています。不妊は増え続ける一方で、その原因は多岐にわたりますが、およそ40%は男性側の要因にあるようです。精子数と精液の質は男性が原因の不妊が増えていることに大いに寄与しているようです。EARTH試験の男性936人を調べた先立つ解析では精子濃度と精子数が2000年から2017年にそれぞれ37%と42%低下していました8)。EARTH試験に参加しているのは不妊治療を求める男性であり、今回の解析で示されたような体を動かすことと生殖指標の関連が一般男性にも当てはまるかどうかを調べる必要があります。また、体を動かすことと生殖を関連付ける生理的な仕組みがさらなる試験で明らかになることが期待されます。参考1)The mice with two dads: scientists create eggs from male cells / Nature2)Mice have been born from eggs derived from male cells / NewScientist3)大阪大学NEWS & TOPICS4)Breakthrough as eggs made from male mice cells / BBC5)Li ZK, et al. Cell stem cell. 2018;23:665-676.6)Minguez-Alarcon L, et al. Human reproduction. 2023 Feb 11. [Epub ahead of print]7)Study shows higher sperm counts in men who lift heavy objects / Harvard University8)Minguez-Alarcon L, et al. Environ Int. 2018;121:1297-1303.

2847.

進行悪性黒色腫、術前・術後のペムブロリズマブは有効か/NEJM

 切除可能なIII/IV期の悪性黒色腫患者の治療では、ペムブロリズマブの投与を術前と術後の双方で受けた患者は、術後補助療法のみを受けた患者と比較して、無イベント生存期間が有意に長く、新たな毒性作用は検出されなかった。米国・テキサス大学MD AndersonがんセンターのSapna P. Patel氏らが実施した第II相無作為化試験「S1801試験」で示された。NEJM誌2023年3月2日号掲載の報告。米国の第II相無作為化臨床試験 S1801試験は、米国の90施設で実施され、2019年2月~2022年5月の期間に患者の登録が行われた(米国国立がん研究所[NCI]とMerck Sharp and Dohmeの助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、臨床的に検出可能で測定可能なIIIB~IVC期の悪性黒色腫を有し、外科的切除が適用と考えられる患者であった。 被験者は、術前補助療法としてペムブロリズマブを3回投与したのち手術を行い、術後補助療法としてペムブロリズマブを15回投与する群(術前・術後補助療法群)、または手術を行い、術後にペムブロリズマブ(3週ごとに200mgを静脈内投与、合計18回)を約1年間、あるいは疾患の再発か、許容できない毒性が発現するまで投与する群(術後補助療法単独群)に無作為に割り付けられた。 主要評価項目は、intention-to-treat集団における無イベント生存であった。イベントは、手術が不可能な増悪または毒性の発現、すべての肉眼的病変の切除が不可能な場合、術後84日以内に術後補助療法の開始が不可能な増悪・手術合併症・治療による毒性作用、悪性黒色腫の術後の再発、全死因死亡と定義された。2年無イベント生存率:72% vs.49% 313例が登録され、術前・術後補助療法群に154例(年齢中央値64歳[範囲:19~90]、女性40%)、術後補助療法単独群に159例(62歳[22~88]、30%)が割り付けられた。追跡期間中央値は両群とも14.7ヵ月であった。 合計105件のイベントが発生し、このうち術前・術後補助療法群が38件、術後補助療法単独群は67件であった。無イベント生存期間は、術前・術後補助療法群が術後補助療法単独群よりも長かった(log-rank検定のp=0.004)。 ランドマーク解析では、2年時の無イベント生存率は、術前・術後補助療法群が72%(95%信頼区間[CI]:64~80)、術後補助療法単独群は49%(41~59)であった。 ベースラインの患者特性に基づくサブグループのすべてで、術前・術後補助療法群の有益性が認められたが、いくつかサブグループは症例数が少ないため確定的ではなかった。 術前・術後補助療法群のうち、142例が術前補助療法終了後に画像による奏効の評価を受け、9例(6%)で完全奏効が、58例(41%)で部分奏効が得られた。 補助療法中のGrade3以上の有害事象の発現率は両群で同程度で、術前・術後補助療法群が12%、術後補助療法単独群は14%であった。両群とも、ペムブロリズマブによる新たな毒性作用は認められず、死亡例はなかった。術前補助療法後に手術を受け、有害事象のデータが得られた127例のうち、9例(7%)で手術関連のGrade3/4の有害事象が発現した。 著者は、「本試験の結果は、手術との関連において、免疫チェックポイント阻害薬の投与のタイミングが、患者の転帰に大きな影響を及ぼす可能性があることを示すものである」としている。

2848.

認知症になってから何年生きられるのか?【外来で役立つ!認知症Topics】第3回

認知症臨床の場において、「あるある質問」として代表的なものには、筆者の場合、3つある。まずアルツハイマー病と認知症が同じか否かというもの。次に遺伝性の有無と、では自分は?という質問。そして今回のテーマ、「認知症になってから何年生きられるか?」という質問である。長年この問題に関して、正解とまでは言わずとも、エビデンスがしっかりした答えを知りたいと思ってきた。またこの質問の意図はそう単純ではない。長生きを望む人もあれば、逆に…という場合もありうる。今さらではあるが、2021年にLancet Healthy Longevity誌1)で優れたメタアナリシスが報告されていることを知り、丁寧に読んだ。その概要を臨床の場を鑑みながら解説する。メタアナリシスでの認知症平均余命まずメタアナリシスの素材となったのは、78の研究である。ここでは6.3万人余りの認知症があった人、15.2万人余りの認知症がなかった人のコントロールデータが扱われた。なお原因疾患はアルツハイマー病、血管性認知症、レビー小体型認知症と前頭側頭葉変性症である。アウトカムとして、まずあらゆる原因による「死亡率:mortality rate」、すなわち一定期間における死亡者数を総人口で割った値が用いられた。次に、認知症の診断もしくは発症から亡くなるまでの年数も用いられた。まず認知症全体としての死亡率は、認知症のない者に比べて5.9倍も高い。また全体では、発症の平均年齢が68.1±7.0歳、診断された年齢は72.7±5.9歳、初発から死亡までが7.3±2.3年。さらに診断から死亡までが4.8±2.0年となされている。全体の3分の2を占めるアルツハイマー病では、初発から死亡まで7.6±2.1年、診断から死亡までが5.8±2.0年になっている。つまりアルツハイマー病の診断がついた患者さんやその家族から「余命は何年か?」の質問を受けたなら、4~8年程度と答えることになる。もっとも本論文の対象は、われわれが対応する患者さんの年齢より、少し若いかなという印象がある。最も生命予後が良い/悪い認知症性疾患は?さて注目すべきは、4つの認知症性疾患の中でアルツハイマー病の生命予後が一番良いという結果である。逆にレビー小体型認知症(パーキンソン病に伴う認知症を含む)では、認知症のなかったコントロールに比べて、死亡率は17.88倍も高く、4つの認知症性疾患の中で最悪である。アルツハイマー病に比べても余命は1.12年も短い。その理由として以下に述べられている。1つには幻覚や妄想などの精神症状を伴うことである。それにより危険行為や衝動性に結び付きやすいことをよく経験する。また従来のデータでも示されてきたように、認知症性疾患のなかで、認知機能の低下率が大きく、合併疾患の割合が高く、QOLも悪いとされる。こうしたものが高い死亡率に結び付いているのではと考察している。確かにと納得できる。次に血管性認知症は、アルツハイマー病に比べて、死亡率が1.26倍高く、余命は1.33年短い。恐らくは心血管系の問題が大きく寄与していると考えられている。さらに前頭側頭葉変性症も生命予後は良くない。その理由として、運動障害に注目した面白い報告がある。近年よく知られるようになったが、前頭側頭型認知症では、パーキンソニズム、錐体外路徴候などによる運動障害を示す例が少なくない。さらにジストニアや失行も見られる。筆者はこれらによる転倒・転落を経験してきた。一方で、ある程度以上進むと、いわゆる早食いや詰め込み食いも見られることがある。こうしたことによる窒息や誤嚥性肺炎が死亡率を高めていると考察されている。自分の臨床経験では、このような突然死の多くは、盗んだり隠れたりして食べていたのである。治療のためにも早期受診が不可欠以上について、論文の著者らは注目していないが、いくつか感想がある。まず初発から診断までに、4年余りかかっているという結果である。疾患修復薬が前駆期・早期なら有用かと期待されるようになった今日、これでは治療の好機を逃してしまう。早期受診の重要性を再度認識する。次に自分が対応するアルツハイマー病の患者さんに限っても、何年経ってもほとんど変わらない人もいるが、1年以内に急速に悪化してしまう人もいる。こうしたケースはrapidly progressive Alzheimer diseaseと呼ばれることもあり、認知機能のみならず生命予後も不良である。そして現場では、主治医である筆者がその責任を厳しく問われることもある。けれども遺伝子、併存疾患、または症候学等からみて、この急速悪化群の関連因子はまだ定まっていない。こうしたsubtypeの予想も臨床的には不可欠な観点だろう。終わりに。アルツハイマー病以外の認知症性疾患に対しては、今のところこれという薬物治療法はない。それだけにこれらの疾患のある人に対する治療の場では、上に示した余命を短縮させてしまう因子に注意を払い、少しでもQOLが高く健やかな生活を実現する努力がこれまで以上に望まれる。参考1)Liang CS, et al. Mortality rates in Alzheimer's disease and non-Alzheimer's dementias: a systematic review and meta-analysis. Lancet Healthy Longev. 2021;2:e479-e488.

2849.

動脈硬化は睡眠が不規則な人ほど発症する可能性が高かった

 睡眠不足や不規則な睡眠というのは心血管疾患や2型糖尿病などの発症に関連しているが、アテローム性動脈硬化との関連性についてはあまり知られていない。そこで、米国・ヴァンダービルト大学のKelsie M. Full氏らは睡眠時間や就寝タイミングとアテローム性動脈硬化との関連性を調査し、45歳以上の場合に睡眠不足や不規則な睡眠であるとアテローム性動脈硬化の発症リスクを高めることを示唆した。Journal of the American Heart Association誌2023年2月21日号掲載の報告。動脈硬化と睡眠時間や睡眠の規則性との関連性を横断的に調査 本研究はコミュニティベースの多民族研究(MESA:Multi-Ethnic Study of Atherosclerosis)で、睡眠時間や睡眠の規則性について、アクティグラフィ※(活動量測定検査)を7日間手首に装着した記録を評価し、無症候性のアテローム性動脈硬化との関連性を横断的に調査した。※腕時計型の加速度センサーで、腕や足首に装着することで活動/休止リズムサイクルを記録するもの。睡眠/覚醒アルゴリズムを記録できる。 本研究では、2010~13年に記録された2,032例(平均年齢±標準偏差[SD]:68.6±9.2歳[範囲:45~84歳]、女性:53.6%)のデータを用いた。評価項目に用いたマーカーは、冠動脈カルシウム、頸動脈プラークの有無、頸動脈内膜-中膜の厚さ、および足首-上腕指数であった。睡眠の規則性は睡眠時間と就寝タイミングで、個々の7日分のSDを定量化した。解析には相対リスク回帰モデルを使用し、有病率と95%信頼区間[CI]を計算した。なお、解析モデルは人口統計、心血管疾患の危険因子、閉塞性睡眠時無呼吸症候群、睡眠時間、中途覚醒など、睡眠特性に合わせ客観的に評価・調整した。 動脈硬化と睡眠時間や睡眠の規則性との関連性を横断的に調査した主な結果は以下のとおり。・全体として、7日間を通してさまざまな睡眠を取った(たとえば、ある夜は睡眠時間が短く、ある夜は睡眠時間が長かった)参加者は、毎晩ほぼ同じ睡眠時間だった参加者よりも、アテローム性動脈硬化を発症する可能性が高かった。・参加者の約38%では睡眠時間が90分以上変化し、18%では120分以上も変化していた。・睡眠が不規則な人の特徴は、白人以外の人種では「現喫煙者の可能性が高い」「平均年収が低い」「勤務がシフト制もしくは無職の可能性が高い」「BMIが高い」傾向であった。・調整後、より規則的な睡眠時間(SD≦60分)の参加者と比較したところ、睡眠時間の不規則性が大きい(SD>120分)参加者は、冠動脈カルシウム負荷が高く(SD>300、有病率:1.33、95%[CI]:1.03~1.71) 、足首上腕指数が異常値であった(SD<0.9、有病率:1.75、95%[CI]:1.03~2.95)。・より規則的な就寝タイミングの参加者(SD≦30分)と比較したところ、就寝時間が不規則な参加者(SD>90分)は、冠動脈のカルシウム負荷が高い可能性が強かった (有病率:1.39、95%[CI]:1.07~1.82)。・関連性は、心血管疾患の危険因子、平均睡眠時間、閉塞性睡眠時無呼吸、中途覚醒を調整後も持続した。・睡眠の不規則性、とくに睡眠時間の長さのばらつきは、アテローム性動脈硬化のいくつかの無症候性マーカーと関連していた。

2850.

慢性期統合失調症患者の認知機能に対する抗精神病薬、抗コリン薬の影響

 精神疾患の治療には、さまざまな向精神薬が用いられるが、その多くは抗コリン作用を有しており、認知機能を低下させる可能性がある。フランス・Lebanese American UniversityのChadia Haddad氏らは、抗コリン作動性負荷と抗精神病薬の用量に焦点を当て、神経心理学的障害や症状の治療に用いられる薬剤と統合失調症患者の認知機能との関連を評価した。その結果、慢性期統合失調症患者の認知機能は、薬物療法や抗コリン作動性負荷の影響を受ける可能性があることを報告した。BMC Psychiatry誌2023年1月24日号の報告。 2019年7月~2020年3月、Psychiatric Hospital of the Cross-Lebanonで統合失調症と診断された120例の入院患者を対象に、横断的研究を実施した。抗コリン作動性負荷の算出にはAnticholinergic Drug Scale(ADS)を用いた。クロルプロマジン等価換算量はアンドレアセン法を用いて算出し、抗精神病薬の相対用量を評価した。客観的な認知機能の評価には、統合失調症認知機能簡易評価尺度(BACS)を用いた。 主な結果は以下のとおり。・クロルプロマジン等価換算量の低下と有意に関連していた因子は次のとおりであった。 ●BACS総スコアが高い(r=-0.33、p<0.001) ●言語性記憶スコアが高い(r=-0.26、p=0.004) ●ワーキングメモリスコアが高い(r=-0.20、p=0.03) ●運動機能スコアが高い(r=-0.36、p<0.001) ●注意と情報処理速度スコアが高い(r=-0.27、p=0.003)・認知機能の低下と有意に関連していた因子は次のとおりであった。 ●ADSが高い(標準化β[Sβ]=-0.22、p=0.028) ●クロルプロマジン等価換算量が高い(Sβ=-0.30、p=0.001) ●気分安定薬の使用(Sβ=-0.24、p=0.004)・慢性期統合失調症患者の認知機能に対し、薬物療法および抗コリン作動性負荷が影響を及ぼしている可能性が示唆された。・統合失調症患者の認知機能におけるコリン作動性神経伝達および一般的な神経化学的メカニズムを解明するためには、さらなる研究が求められる。

2851.

腎結石再発予防にヒドロクロロチアジドは有効か?/NEJM

 再発リスクの高い腎結石患者において、ヒドロクロロチアジド(1日1回12.5mg、25mg、50mgいずれかの用量)の投与を受けた患者とプラセボの投与を受けた患者との間で、再発率に実質的な違いはみられないことが、スイス・ベルン大学のNasser A. Dhayat氏らの検討で示された。腎結石は、腎臓に影響する最もよくみられる疾患で再発のリスクが高いという特徴がある。腎結石再発にはサイアザイド系利尿薬が広く使用されているが、プラセボと比較した有効性に関するデータは限られており、用量反応データも限定的であった。NEJM誌2023年3月2日号掲載の報告。プラセボ対照無作為化試験で、ヒドロクロロチアジドの用量反応効果を評価 研究グループは、腎結石再発予防に関するヒドロクロロチアジドの用量範囲の評価を目的に、二重盲検無作為化プラセボ対照試験「NOSTONE試験」を行った。再発性カルシウム含有腎結石患者を、ヒドロクロロチアジドを12.5mg、25mgまたは50mgのいずれかの用量で1日1回投与する群とプラセボを1日1回投与する群に無作為に割り付け追跡調査した。 試験の主要目的は、主要エンドポイント(腎結石の症状を有する再発または放射線学的再発)への用量反応効果を調べることであった。放射線学的再発は、画像診断で新たな結石を認めた場合またはベースラインの画像診断で観察された結石の増大と定義した。安全性も評価された。最大用量50mg群でも対プラセボ率比0.92 患者416例が無作為化を受け、中央値2.9年間追跡された。 主要エンドポイントの発生は、プラセボ群60/102例(59%)、ヒドロクロロチアジド12.5mg群62/105例(59%)で、対プラセボ率比は1.33(95%信頼区間[CI]:0.92~1.93)、同25mg群61/108例(56%)、率比1.24(95%CI:0.86~1.79)、同50mg群49/101例(49%)、率比0.92(0.63~1.36)であった。 ヒドロクロロチアジドの用量と、主要エンドポイントのイベント発生との間に関連は認められなかった(p=0.66)。 プラセボの投与を受けた患者よりもヒドロクロロチアジドの投与を受けた患者で、低カリウム血症、痛風、新規発症の糖尿病、皮膚アレルギー、ベースライン値の150%を超える血漿クレアチニン値の報告がより多かった。

2852.

2022年11月以降の中国・北京における新型コロナウイルス流行株の特徴(解説:寺田教彦氏)

 本研究は2022年1月から12月までに収集された新型コロナウイルスサンプルについて、次世代シーケンサーを用いた遺伝子解析結果を報告している。本研究結果からは、2022年11月14日以降の中国・北京における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行時の主流はBA.5.2とBF.7で、新規亜種は検出されなかったことが報告された(「北京では22年11月以降、新たな変異株は認められず/Lancet」、原著論文Pan Y, et al. Lancet. 2023;401:664-672.)。 本研究の研究期間である2022年11月以降に中国では新型コロナウイルス感染者が増加していたが、同年12月7日以降のゼロコロナ政策終了により拍車がかかり、新型コロナウイルス感染者は急増していたと考えられている。そのため、感染者が激増した中国から「懸念される変異株」が出現し、各国へ流入する恐れがあり、日本や欧米では中国からの渡航者に対し水際対策を強化していた。 本研究の結果のとおり、2022年12月における中国・北京でのCOVID-19流行では新規の変異株出現はなかったと考えられ、現在は各国の水際対策は緩和されている。これは本研究のような中国からの報告に加えて、中国から各国への渡航者で検出された新型コロナウイルスの株の解析からも矛盾がないことが確認されていることがあるだろう。たとえば、2022年12月後期の本邦への渡航者検疫で確認されたCOVID-19患者のうち、中国からの渡航者で検出された株もBF.7やBA.5.2がほとんどであった(厚生労働省.「新型コロナウイルス感染症(変異株)の患者等の発生について(検疫)」2023年(令和5年)1月5日.https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_30137.html, (参照2023-03-03).)。 今回検出されたBA.5.2系統とBF.7系統はともに、BA.5系統を起源としており、BA.5系統は2022年2月に南アフリカ共和国で検出されて以降、世界的に検出数が増加し、本邦でも同年6月以降はBA.2系統からBA.5系統への置き換わりが進んでいた。7月以降の第7波はBA.5系統のBA.5.2が流行の主体となっており、第8波も初期の流行の主体はBA.5系統だったが10月以降はBQ.1系統やBA.2.75系統の占める割合が上昇傾向となっていた(国立感染症研究所「感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異株について(第25報)」. https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2551-cepr/11794-sars-cov-2-25.html, (参照2023-02-27).)。 同時期の世界に目を向けると、BA.2系統やBA.5系統を起源とする亜系統も検出されていたが、BQ.1系統、XBB系統など特徴的なスパイクタンパク質の変異が起こり、ワクチン接種や感染免疫による中和抗体から逃避しやすくなる亜系統、感染力がさらに高まったと予測される亜系統も報告されるようになり、とくに北米ではXBB.1.5系統のように既存の流行株に比して感染者数増加の優位性がみられる亜系統が報告されていた(Uriu K, et al. Lancet Infect Dis. 2023;23:280-281.)。 ところで、2022年12月ごろ、特定の流行株が世界的に優勢とはなっていなかったとはいえ、感染者が増加していた株はBQ.1系統やBA.2.75系統などが考えられ、同時期にBF.7系統やBA.5.2系統が流行していた国は多くはなさそうである(World Health Organization. “Weekly epidemiological update on COVID-19 - 15 February 2023”. https://www.who.int/publications/m/item/weekly-epidemiological-update-on-covid-19---15-february-2023, (参照2023-02-27).)中国において、これらの株が流行した理由について考えると、1つは、中国のゼロコロナ政策により、中国国外で流行していたBQ.1系統などの株が国内へ流入することを防いでいたことがあるだろう。本文中でも、中国国内感染と海外からの輸入株に違いがあることは指摘されており、輸入株ではBQ.1系統、BA.5.2系統そしてXBB.1系統の順番で検出されたことを報告している。中国のゼロコロナ政策により、他国からより感染力の高いBQ.1系統やXBB.1系統が流入していなかったことが、BF.7系統やBA.5.2系統が主流株になった一因ではないだろうか。 もうひとつは、各国で接種したワクチンの差異もあるかもしれない。本邦や欧米ではmRNAワクチンの接種が行われたが、これらのワクチンは、1価、2価にかかわらずBA5.2系統やBF.7系統に対しては中和抗体が増加することが知られており、XBB.1.系統などよりもBA.5.2系統やBF.7系統では感染予防効果や重症化予防効果が期待できると考えられる(Miller J, et al. N Engl J Med. 2023;388:662-664.)。中国で接種されたワクチンのBA.5.2系統やBF.7系統に対する効果が公表されている資料からは調査できなかったが、場合によっては接種したワクチンの差異が流行株の選択の一因になったのかもしれない。 さて、2022年12月までの中国の新型コロナウイルス流行においては、新規の流行株の出現はなかったと考えられるが、中国は多数の人口を抱えている国家である。本研究では、2022年12月のCOVID-19流行時にBQ.1系統やXBB系統などの感染免疫による中和抗体からの逃避や感染者数増加の優位性が示唆された亜系統の検出が乏しいことを考えると、これらの株の流入によっては、COVID-19の流行を再度起こす可能性が懸念される。 翻って本邦の流行を考えると、2023年3月時点では第8波が落ち着きつつあるが、本邦でもXBB.1.5株などの流行がなかった。今後は、これらの株が第9波を引き起こす懸念があり、引き続き、COVID-19に対する持続可能な感染対策を模索する必要があるだろう。

2853.

SLEへのバリシチニブ、第III相SLE-BRAVE-I試験の結果/Lancet

 オーストラリア・モナシュ大学のEric F. Morand氏らは、活動性全身性エリテマトーデス(SLE)患者を対象としたバリシチニブの無作為化二重盲検プラセボ対照第III相試験「SLE-BRAVE-I試験」の結果、主要エンドポイントは達成されたものの、主要な副次エンドポイントは達成されなかったことを報告した。ヤヌスキナーゼ(JAK)1/JAK2の選択的阻害薬であるバリシチニブは、関節リウマチ、アトピー性皮膚炎および円形脱毛症の治療薬として承認されている。SLE患者を対象にした24週間の第II相試験では、バリシチニブ4mgはプラセボと比較して、SLEの疾患活動性を有意に改善することが示されていた。Lancet誌オンライン版2023年2月24日号掲載の報告。SLE患者760例をバリシチニブ4mg群、2mg群、プラセボ群に無作為化 SLE-BRAVE-I試験は、アジア、欧州、北米、中米、南米の18ヵ国182施設で実施された。 研究グループは、スクリーニングの24週間以上前にSLEと診断され、標準治療を行うも疾患活動性が認められる18歳以上の患者を、バリシチニブ4mg群、バリシチニブ2mg群またはプラセボ群に1対1対1の割合で無作為に割り付け、標準治療との併用で52週間1日1回投与した。グルココルチコイドの漸減が推奨されたが、プロトコールで必須ではなかった。 主要エンドポイントは、52週時のSLE Responder Index-4(SRI-4)レスポンダーの割合で、ベースラインの疾患活動性、コルチコステロイド量、地域および治療群をモデルに組み込んだロジスティック回帰分析により、バリシチニブ4mg群とプラセボ群を比較した。 有効性解析対象集団は修正intention-to-treat(ITT)集団(無作為化され少なくとも1回治験薬の投与を受けたすべての患者)、安全性解析対象集団は無作為化され少なくとも1回治験薬を投与され、ベースライン後の最初の診察時に追跡調査不能の理由で試験を中止しなかったすべての患者とした。 760例が無作為に割り付けられ、修正ITT集団はバリシチニブ4mg群252例、バリシチニブ2mg群255例、プラセボ群253例であった。52週時のSRI-4レスポンダー率はバリシチニブ4mg群57%、プラセボ群46% 52週時のSRI-4レスポンダー率は、バリシチニブ4mg群57%(142/252例)、プラセボ群46%(116/253例)であり、オッズ比(OR)1.57(95%信頼区間[CI]:1.09~2.27)、群間差10.8(95%CI:2.0~19.6)で有意差が認められた(p=0.016)。バリシチニブ2mg群は50%(126/255例)で、プラセボ群との有意差はなかった(OR:1.14[95%CI:0.79~1.65]、群間差:3.9[95%CI:-4.9~12.6]、p=0.47)。 初回の重度SLE flareが発現するまでの時間やグルココルチコイド漸減など主要副次エンドポイントに関しては、バリシチニブ群のいずれにおいてもプラセボ群と比較して有意差は認められなかった。 重篤な有害事象は、バリシチニブ4mg群で26例(10%)、バリシチニブ2mg群で24例(9%)、プラセボ群で18例(7%)に発現した。SLE患者におけるバリシチニブの安全性プロファイルは、既知の安全性プロファイルと一致していた。

2854.

軽症から中等症のCOVID-19外来患者において、フルボキサミンはプラセボと比較して症状改善までの期間を短縮せず(解説:寺田教彦氏)

 本研究では、軽症から中等症のCOVID-19外来患者で、フルボキサミンが症状改善までの期間を短縮するか評価が行われたが、プラセボと比較して症状改善までの期間を短縮しなかったことが示された1)。 フルボキサミンは、うつ病や強迫性障害などの精神疾患に使用される選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)であり、比較的安価な薬剤である。COVID-19流行初期において、このフルボキサミンは、サイトカインの産生を制御するσ-1受容体のアゴニストとして機能することから、臨床転帰の改善効果を期待して臨床試験が行われた。初期の臨床試験では有効性を示した報告2)もあり、ブラジルで行われたプラセボ対照無作為化適応プラットフォーム試験(TOGETHER試験)でも有効性が示されていた3)。そして、これらの研究に基づいたsystematic review4)やCochrane COVID-19 Study Register5)では、フルボキサミンは28日の全死因死亡率をわずかに低下させる可能性や、軽症COVID-19の外来および入院患者の死亡リスクを低下させる可能性があると評されていた。 しかし、フルボキサミンの有効性を否定する報告6)や、新型コロナウイルスワクチンの開発に伴いワクチン接種の有無で治療薬の有効性が変化する可能性も考えられ、現時点でフルボキサミンの有効性がない可能性も考えられた。そのため、新型コロナウイルスワクチンの接種率が7割程度あり、流行株がデルタ株からオミクロン株の時期の米国において、フルボキサミンの有効性が再度検証され、結果は前述の通りであった1)。 これまでの経緯や今回の研究結果を踏まえ、私は、日本ではフルボキサミンを臨床的に使用する必要性はないと考える。 過去の研究と今回の研究を比較すると、初期に有効性を示した臨床研究2)では、試験の参加者が少なかったことや、経過観察期間が短かったために正確な結論が得られなかった可能性が懸念される。また、ブラジルで実施されたTOGETHER試験は重症の定義に「6時間以上の救急医療を要する患者」を含めており、フルボキサミンが真に重症化予防効果があったかの疑問が残る。 今回、検証された理由の1つである、新型コロナの流行株や国民の新型コロナウイルスワクチン接種率の観点からも、本邦では今回の研究参加者の背景が近いと考えられる。フルボキサミンの有用性を示せなかった理由に、薬剤の投与量が指摘されることもあるが7)、現在はCOVID-19の病態の解明も進み、ワクチンの効果や新型コロナウイルスの変異により、かつてよりも死亡率や重症化率はかなり低下している状況である。そのうえ、重症化リスクのある患者に対する有効な抗ウイルス薬も開発され、使用方法も確立している。これだけCOVID-19治療法が確立した現在の日本においては、いくら安価であるとはいえ、COVID-19に対する効果が不確定なフルボキサミンを使用するメリットはないだろう。 さて、欧米や本邦では、COVID-19の治療ガイドライン8)や薬剤使用方法の手引き9)が整備されており、われわれ医療従事者はこれらのエビデンスに容易にアクセスできるようになった。しかし、インターネットのホームページをみると、本原稿執筆時でも、フルボキサミンが有効だったことを報告した当初の論文のみを載せてフルボキサミンの販売をしている通販サイトが散見される。COVID-19診療を振り返ってみると、イベルメクチンなどのようにCOVID-19への治療が期待されたがために、本来投与が必要な患者さんの手に薬剤が回らないことが懸念された薬剤もあった。新興感染症の病態や有効な治療薬が不明確なときには、有効と考えられる薬剤の投与を通して、エビデンスを生み出す必要があるが、病態や治療方法が確立すれば、適切な治療を行うように努めるべきであろう。 また、治療の有効性が否定された薬剤はその結果を受け止め、本来医学的に必要とされる患者さんに同薬剤が行き渡るようにするべきであろう。医薬品が一般人でも入手しやすくなった現代では、非医療従事者にも適切な情報が届くように、インターネットを含めてFact-Checkを行ってゆく必要があると考える。【引用文献】1)フルボキサミン、軽~中等症コロナの症状回復期間を短縮せず/JAMA2)Lenze EJ, et al. JAMA. 2020;324:2292-2300.3)Reis G, et al. Lancet Glob Health. 2022;10:e42-e51.4)Lee TC, et al. JAMA Netw Open. 2022;5:e226269.5)Nyirenda JL, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2022;9:CD015391.6)Bramante CT, et al. N Engl J Med. 2022;387:599-610.7)Boulware DR, et al. Lancet Glob Health. 2022;10:e329.8)Coronavirus Disease 2019 (COVID-19)Treatment Guidelines9)COVID-19 に対する薬物治療の考え方 第 15.1 版(2023年2月14日)

2855.

英語プレゼン、veryとyesばかり使っていない?【学会発表で伝わる!英語スライド&プレゼン術】第11回

英語プレゼン、veryとyesばかり使っていない?やや表面的な話になるかもしれませんが、一つ上のプレゼンテーションを目指すためには、バラエティ豊かな“副詞”を身に付けることが重要です。副詞をうまく使うことで、英語表現をより豊かなものにすることができるからです。英語は「繰り返しを好まない言語」ですから、繰り返し同じ副詞を何度も使うということを避ける必要があり、そのために、副詞にも意味別にいくつかのバリエーションを持っておくことが大切です。いくつか例を見てみましょう。“very”の反復を避けるための副詞典型的な日本人のプレゼンテーションでは、形容詞を強調するために、“very”が多用されるシーンをよく見ます。しかし、それではやや稚拙に聞こえてしまいます。この“very”を使いたくなるシーンで代わりに使える副詞は、実は無数にあります。たとえば、The proportion of A is very high.(Aの割合はとても高い)と言いたい場合に、“very”の代わりに“extremely”のような副詞を用い、The proportion of A is extremely high.と言うだけでも、より小慣れた英語に聞こえるでしょうし、割合の高さを効果的に強調することもできます。この“extremely”は、学会のようなフォーマルな場面でも用いることのできる副詞ですし、“substantially”などと置き換えても問題ないでしょう。それに引き続く形容詞などとの相性もあるので、語感にある程度慣れる必要がありますが、ほかにも…、very important → critically/crucially importantvery different → completely/entirely/totally differentなどと置き換えることができます。こうして効果的に副詞を使うことで、それぞれ重要性が高いこと、大きな相違があることを強調することができます。また、“very”よりもフォーマルな印象を与えることができるので学会発表に適しています。場合によっては、読み原稿に副詞をまったく入れていなかったものの、当日の緊張から、表現を強調したくなり、ついうっかり“very”を付けてしまった、という経験がある方もいるかもしれません。そんなときにも、あらかじめバラエティ豊かな副詞を習熟しておくことで、自然とよりスマートな英語を話すことができるでしょう。一方で、接続詞同様、使い過ぎると「主観的な話が多い」という印象を与えるリスクもありますので注意しましょう。“Yes”の反復を避けるための副詞副詞は、質疑応答における“Yes”の代わりとしても使用することができます。“definitely”、“absolutely”、“certainly”などの副詞がそれに当たります。たとえば学会での質疑応答で、“Could you show us Figure 1 again?”と聞かれたとき、典型的な日本人ならば反射で、“Yes”または“OK”と答えてしまうかもしれません。もちろん“Yes”を使うのも構いませんが、すべての質問に“Yes”というのはあまり好まれないものです。ここで“Certainly”などと答えると、小慣れた英語になると思います。文章全体を修飾する副詞さらに、副詞は文章全体を修飾する形でも用いることができます。「接続詞」のところでもいくつかご紹介しましたが、たとえば“Additionally”は副詞ですが、文頭に置くことで、「さらに」という接続詞として用いることができます。あるいは、文頭で“Unfortunately”と言えば、次にうまくいかなかった話をすることを暗示させ、聴衆に事前の心の準備をさせる効果を持ちます。これとは対照的に、“Interestingly”や“Surprisingly”と言って文章を始めれば、この後、興味深い知見ないし驚くような知見の説明があることを予見させ、聴衆の心をつかむことができるでしょう。このように、副詞を適材適所で用いることで、聴衆の関心を惹くためのツールとしても使うことができるのです。講師紹介

2856.

第35回 新型コロナの入院時スクリーニング検査のやめどきは?

「5類」化によって間引くべきところを考えているご存じのとおり5月8日から「5類感染症」にスイッチするわけですが、どう引き算をしていけばよいのか迷われている医療機関は多いのではないでしょうか。当院でも侃々諤々と議論が交わされています。コロナ禍におけるその象徴が「入院時スクリーニング検査」です。そもそもPCR検査やそれに準ずる検査は、スクリーニングに用いる意義はそこまで大きくないというのが定説でしたし、コロナ禍当初、私もそう理解していました。基本的には確定診断にこそ用いるべき技術であろう、と。当たり前になった入院時スクリーニングしかし、急速な検査キャパシティの拡大により、どこの病院でもスクリーニング検査を行うことが当たり前になりました。これにより入院時スクリーニングが可能になりました。検査入院で入院してきた人が陽性になり、入院できなくなった事例、また陰性だったのに院内で発症した事例が、あるのも事実。2つ研究を紹介しましょう。1つ目は、2020年12月3日~2021年3月20日に東京都内の急性期病院に入院し、鼻咽頭スワブを用いたSARS-CoV-2の抗原定量検査(ルミパルス)と、症状・ウイルス曝露を評価するアンケート調査です1)。5,000例を超える患者のうち、抗原定量が陽性になったのは、わずか53例(1.02%)でした。判定保留は19例です。抗原定量陽性だった53例のうち、37例は典型的な症状などがあり、COVID-19と診断がついています。検査しておいてよかったね、という症例です。ただこの研究は、無症状の人にやみくもに採取した研究ではありません。抗原定量陽性であったものの入院時にCOVID-19と診断されなかった16例と、判定保留の19例については、全員隔離した後、3日以内にPCR検査を実施しました。このうち、PCR陽性は8例でした。残り27例はPCR陰性で、COVID-19ではありませんでした。他方、抗原定量陰性だった大多数のうちCOVID-19だったのはわずか2人でした(2人ともPCR陽性)。しかしこの2人についても、問診時点でCOVID-19が疑わしかったので、しっかりと隔離できていました。つまり、しっかり問診・診療しておれば、スクリーニング検査があってもなくても院内に広めるリスクはそれほど高くないのでは…ということも言えます。2つ目の研究は、実際に入院時スクリーニングを行っている患者のその後の感染を追跡した観察研究です。症例数は約1,100例です2)。この研究では、上記と違って当然COVID-19の事前確率がかなり低いわけです。PCR陽性で感染性があると判断されたのは、10例のみという結果でした。PCR陽性はちょいちょい引っかかるのですが、蓋を開けてみるとほとんどは感染性がない事例でした。となると、COVID-19の事前確率が高い場合はともかくとして、無症状の入院患者にスクリーニング検査を行う費用対効果はそこまで高くない印象を持っています。基本的に入院時に陰性を確認しても、その翌日や翌々日などにCOVID-19を発症することがありうるため、「その瞬間の陰性をみること」にどのくらいの価値を見出せるかどうか、でしょうか。参考文献・参考サイト1)Morishima M, et al. Universal admission screening for COVID-19 using quantitative antigen testing and questionnaire screening to prevent nosocomial spread. PLoS One. 2022;17:e0277426.2)山室亮介, 他. 新型コロナウイルスの入院時スクリーニングにおける抗原定性検査およびRT-PCR検査が院内感染に与える影響. 感染症学雑誌. 2023;97:1-5.

2857.

アルツハイマー病治療薬lecanemab、FDAフル承認への優先審査に指定/エーザイ・バイオジェン

 エーザイとバイオジェン・インクは3月6日付のプレスリリースにて、同社のアルツハイマー病治療薬lecanemab(米国での商品名:LEQEMBI)について、迅速承認かららフル承認への変更に向けた生物製剤承認一部変更申請(supplemental Biologics License Application:sBLA)が米国食品医薬品局(FDA)に受理されたことを発表した。本申請は優先審査に指定され、審査終了目標日であるPDUFA(Prescription Drugs User Fee Act)アクションデートは2023年7月6日に設定された。 本剤は、米国において、2023年1月6日にアルツハイマー病の治療薬として迅速承認され、同日にフル承認に向けたsBLAがFDAに提出されていた。ヒト化IgG1モノクローナル抗体のlecanemabによる治療は、アミロイドβ病理が確認されたアルツハイマー病による、軽度認知障害または軽度認知症患者を対象としている。今回のsBLAは、大規模グローバル臨床第III相検証試験であるClarity AD試験のデータに基づく。

2858.

ドイツ医師免許試験対策のコツ【空手家心臓外科医のドイツ見聞録】第23回

前回の記事で書かせていただいたのですが、ドイツで医師免許を取得するためには専門用語試験“Fachsprachpruefung”に合格する必要があります。ぶっちゃけネイティブ並みのドイツ語が話せるのであれば問題ないのですが、現実問題はそうはいきません。実際、私が試験に合格した時点では、まだまだ十分なドイツ語コミュニケーションが取れている状態ではありませんでした。しかし、そこはやはり試験ですので、ある程度の対策を練ることはできます。前回お話しした通り、Fachsprachpruefungは原則的に「患者問診→カルテ記載→上級医へのプレゼン」の順番に進みます(州によって順番が違うこともあります)。患者問診の攻略法初めの患者問診とカルテ記載はとにかく時間勝負になります。患者問診の対策として、私はどんな疾患が来ても大丈夫なくらいしっかりした定形文を作成しました。とにかく時間が足りませんし、模擬患者に好き勝手に喋らせると、聴き取れないドイツ語を話し始める可能性があるので、基本的に“closed question”でまくし立てるように質問攻めにできるような定型文に仕上がっています。“Ja(はい)/Nein(いいえ)”、もしくは「3日前」や「刺すような」などの単語だけで答えさせるように工夫を凝らした自慢の作品です(内科の先生に聞かれたら怒られそうですが)。試験の際、模擬患者は不安や怒りなどの感情をぶつけて来たり、やたらと病名を知りたがったりすることがあります。しかしこういった「難しいシチュエーション」もある程度パターン化されていて、「あなたの不安はもっともです。それを解決するために、引き続き私の質問に答えてくれますか?」や「この問診の内容を上級医に報告し、検査を行った後に再度病名について話をします」など、切り返しもすべて用意しておきました。ここまでやり込むことで、どんな意地悪な模擬患者が相手でも、大体20分ジャストくらいで問診を終えることができるようになりました。カルテ記載の攻略法続くカルテ記載は形式が州ごとに差が大きいのが特徴です。こちらも手がつるくらい全速力で書いても20分ギリギリの分量となります(これはどこの州でも同じみたいです)。とにかく焦りながら書くことになりますので、多少の誤字・文法ミスは目をつむってくれます。しかし、大事なのは記載の際には「『接続法1式』という、かなり特殊な文法を用いて書かなくてはならない」ということです。これはドイツ語で、「伝聞」した内容を伝えるときに用いられる文法形態です(日本語で言うところの「患者がこう言っていた」という言い回しのことです)。これは結構マニアックな文法で、実際にドイツに住んでいても、ニュースや新聞くらいでしか耳にすることも、目にすることもないような表現形態です。ドイツ語の文法の教科書でもしっかりしたものでないと、勉強することはできません。とはいっても、一度理解してしまえば割と簡単です。プレゼンの攻略法最後に「上級医へのプレゼン」が最大の難関となります。プレゼンの最中に、上級医はどんどん質問を挟んできます。「鑑別疾患は何だ」、「必要な検査は?」などから、「話しているときの患者の様子はどうだった? 苦しそうだったか? お腹を押さえたりしていなかったか?」「それは緊急事態じゃないか! こんなところでプレゼンしている場合じゃない。まず何から始めないといけないの?」などなど、非常にバリエーションに富んだ質疑がなされます。あくまでドイツ語の試験であるため、本来は「わからないことはわからない」と答えてディスカッションすれば問題ないのですが…。正直そちらの方が難しいと言えます。取り上げられる疾患はある程度絞られていますので、疾患をドイツ語である程度説明できるように準備しておくことが重要になります。画像上部のKHKはいわゆる「冠動脈疾患」です。私は、こんな感じで疾患のポイントをまとめた資料を暗記して、上級医の質問に備えました。ドイツ医師免許対策はなかなか情報が集まらず、受験時は苦労するかも知れません。Approbation受験をされる際の参考になれば幸いです。

2859.

エリスリトールが血栓、主要心血管イベントの発生リスクと関連

 人工甘味料は砂糖の代用として広く使用されているが、人工甘味料の摂取が2型糖尿病や心血管疾患と関連するという報告もある。米国・クリーブランドクリニック・ラーナー研究所のMarco Witkowski氏らは、アンターゲットメタボロミクス研究において、糖アルコールに分類される甘味料エリスリトール(多くの果物や野菜に少量含まれる)が3年間の主要心血管イベント(MACE:死亡、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中)の発生と関連していることを発見し、その後の米国および欧州の2つのコホートを用いた研究でも、その関連は再現された。また、エリスリトールはin vitroにおいて血小板反応性を亢進し、in vivoにおいて血栓形成を促進することを明らかにした。健康成人にエリスリトールを摂取させたところ、血小板反応性の亢進および血栓形成の促進についての閾値を大きく超える血漿中エリスリトール濃度の上昇が引き起こされた。Nature Medicine誌オンライン版2023年2月27日号の報告。エリスリトールへの曝露で血栓形成リスクが高まる可能性のある期間が持続 米国において、心臓カテーテル検査を受けた患者1,157例を対象として、アンターゲットメタボロミクスにより3年間のMACE発生と関連のある物質を検討し、エリスリトールが同定された。その結果を受けて、米国において同様に2,149例(上記の1,157例とは重複しない)を対象に、血清中エリスリトール濃度で四分位に分類し、3年間のMACE発生との関係を検討した。また、欧州において慢性冠症候群の疑いで待機的冠動脈造影検査を受けた833例を対象に、血清中エリスリトール濃度で四分位に分類し、3年間のMACE発生との関係を検討した。さらに、米国の18歳以上の健康成人8人を対象に、エリスリトール30g(市販の人工甘味料入り飲料1缶、ケトアイス1パイントなどに相当)入りの飲料を摂取させ、血漿中のエリスリトール濃度を7日間測定した。 エリスリトールの血小板への作用を検討するため、健康成人の多血小板血漿(PRP)を用いて血小板凝集反応とエリスリトール濃度の関係を検討した。また、血小板を分離し、エリスリトールの血小板機能への影響も検討した。エリスリトールの血栓形成への影響は、ヒト全血における血小板の接着、頸動脈損傷モデルマウスにおける血栓形成率および血流停止までの時間により評価した。 エリスリトールと主要心血管イベントや血栓形成との関連を研究した主な結果は以下のとおり。・アンターゲットメタボロミクス研究において、血清中エリスリトール濃度第4四分位群は第1四分位群と比べて有意にMACE発生リスクが高く(調整ハザード比[aHR]:2.95、95%信頼区間[CI]:1.70~5.12、p<0.001)、MACE関連候補分子の中で非常に上位に位置していた。・米国および欧州のコホート研究においても、血清中エリスリトール濃度第4四分位群は第1四分位群と比べて有意にMACE発生リスクが高く、aHR(95%CI)はそれぞれ1.80(1.18~2.77)、2.21(1.20~4.07)であった(それぞれp=0.007、p=0.010)。・エリスリトール濃度とMACE発生リスクの関連は、米国および欧州のコホート研究において男女問わず観察され、年齢(70歳以上/未満)、高血圧の有無、eGFR(60mL/min/1.73m2以上/未満)などのサブグループ解析においても同様であった。・ADPまたはTRAP6存在下で、エリスリトールは用量依存的にPRPにおける血小板凝集反応を増加させ、トロンビン(0.02U/mL)曝露後の血小板の細胞内Ca2+濃度を増加させた。また、ADP(2μM)存在下の血小板において、エリスリトールは用量依存的にP-セレクチンの発現およびGP IIb/IIIaの活性化を増加させた(いずれもin vitro)。・ヒト全血においてエリスリトールは血小板の接着を増加させ(in vitro)、頸動脈損傷モデルマウスにおいて血栓形成率を上昇、血流停止までの時間を短縮させた(in vivo)。・健康成人にエリスリトールを摂取させた研究では、摂取後数時間は血漿中濃度がベースライン(中央値3.84μM)より千倍以上高い状態(30分後の中央値5.85mM)が続き、血小板反応性の亢進および血栓形成の促進についての閾値を大きく超えていた。すべての被験者において、ベースラインからの増加は2日以上継続した。 本論文の著者らは、「エリスリトールおよび人工甘味料の長期的な安全性を評価する試験が必要であることが示唆された。エリスリトールへの曝露後、血栓形成のリスクが高まる可能性のある期間が持続することが示され、これは心血管疾患の発症リスクの高い患者(糖尿病、肥満、CVDの既往、腎機能障害を有する患者)における懸念事項である」とまとめた。

2860.

うつ病に対するSSRIの治療反応

 うつ病に対する選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の臨床反応の発現には、数週間を要することも少なくない。また、そのメカニズムは十分に把握されているとはいえない。オランダ・ユトレヒト大学のLynn Boschloo氏らは、うつ病の臨床症状に対するSSRIの直接的および間接的な効果について、プラセボ対照の状態と比較し評価を行った。その結果、SSRIは主に感情症状の改善を介して、間接的に認知症状やいくつかの覚醒/身体症状を改善することが明らかとなった。著者らは、本結果はSSRIの作用機序の解明や、臨床でのSSRIに対するレスポンダーおよび非レスポンダーの早期特定に役立つ可能性があると述べている。Translational Psychiatry誌2023年1月21日号の報告。 米国食品医薬品局(FDA)に登録されたSSRIの有効性に関する28件の試験に参加したうつ病成人患者8,262例のデータを分析した。うつ病の臨床症状は、治療後1、2、3、4、6週目に、ハミルトンうつ病評価尺度17項目(HDRS-17)を用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・Network estimation techniqueでは、SSRIは抑うつ気分および精神的不安といった2つの感情症状に対し、迅速かつ強力な直接的効果を示していた。なお、他の症状への直接的効果は弱い、または認められなかった。・4つの認知症状(罪責感、自殺念慮、仕事/活動での興味の喪失、集中困難を含む遅滞)のすべてに対しては実質的な間接的効果が認められており、SSRIによる大幅な改善が示されたが、主に抑うつ気分の大幅な改善が報告された患者においてであった。・精神的不安への直接的な影響を介して、身体的不安および焦燥といった2つの覚醒/身体症状に小さな間接的効果が認められた。・睡眠障害やその他の覚醒/身体症状に対する直接的および間接的な効果は弱い、または認められなかった。

検索結果 合計:11816件 表示位置:2841 - 2860