サイト内検索|page:121

検索結果 合計:11808件 表示位置:2401 - 2420

2401.

ビタミンD、p53免疫反応性の消化管がんの再発/死亡を抑制

 最近発表された無作為化試験のメタ解析では、ビタミンD3補充ががん死亡率に有益な影響を与えることが明らかになっている1)。今回、東京慈恵会医科大学の菅野 万規氏らの研究で、p53免疫反応性を有する消化管がん患者において、ビタミンD補充が再発/死亡リスクを低下させることが明らかになった。JAMA Network Open誌2023年8月22日号に掲載。 本研究は、ビタミンD補充の効果をプラセボと比較した無作為化二重盲検試験であるAMATERASU試験のp53免疫反応性を有する患者における事後解析。AMATERASU試験は、単施設(国際医療福祉大学病院)において2010年1月~2018年2月に消化管がんを発症した患者を対象に、ビタミンD3カプセル(2,000IU/日)もしくはプラセボを投与し、中央値で3.5年(四分位範囲:2.5~5.3年)追跡した試験である。今回は、試験参加者417例のうち残存血清検体が得られた患者を対象とし、2022年10月20日~11月24日に解析した。主要評価項目は5年後の再発/死亡で、p53免疫反応性は、血清中の抗p53抗体陽性とがん細胞の99%以上におけるがん抑制タンパク質p53の核内蓄積と定義した。 主な結果は以下のとおり。・消化管がん392例(平均年齢66歳、男性66.3%)のうち、食道がん37例(9.4%)、胃がん170例(43.4%)、小腸がん2例(0.5%)、大腸がん183例(46.7%)であった。・血清抗p53抗体は142例(36.2%)で検出され、p53免疫組織化学的悪性度は血清抗p53抗体レベルと正の関連を示した(係数:0.19、p<0.001)。・p53免疫反応性の80例の5年無再発生存率(RFS)は、ビタミンD群(80.9%)がプラセボ群(30.6%)より有意に高かった(ハザード比[HR]:0.27、95%信頼区間[CI]:0.11~0.61、p=0.002)。・一方、非p53免疫反応性の272例の5年RFSは、ビタミンD群(22.2%)はプラセボ群(21.1%)と有意な差がなく(HR:1.09、95%CI:0.65~1.84)、p53免疫反応性におけるビタミンDの効果とは有意に異なっていた(交互作用のp=0.005)。

2402.

頻繁な入浴で長期的な抑うつリスク低減

 湯に浸かる入浴(浴槽入浴)の頻度と長期的な抑うつ発症との関連を調査した6年にわたるコホート研究の結果、冬に浴槽入浴を頻繁に行う高齢者では新たな抑うつの発症が有意に少ないことを、東京都市大学の早坂 信哉氏らの研究グループが明らかにした。日本温泉気候物理医学会雑誌2023年オンライン版7月24日号掲載の報告。 これまでの研究において、頻繁な浴槽入浴が高い自己評価と関連していることや、介護保険が必要になる可能性が低いことなどが報告されているが、生活習慣としての浴槽入浴が健康にどのような影響を及ぼすかについてはまだ十分に解明されていない。 そこで、研究グループは、日本老年学的評価研究(Japan Gerontological Evaluation Study:JAGES)の2010年および2016年調査の対象となった65歳以上の1万1,882人のうち、夏の入浴頻度の記録がある6,452人と冬の入浴頻度の記録がある6,465人をそれぞれ解析した。すべての解析対象者は要介護認定を受けておらず、老年期うつ病評価尺度スコアが4点以下でうつ病ではなかった。 浴槽入浴が0~6回/週のグループと、7回以上/週のグループの6年後のGDSによる抑うつの発症割合を求めた。浴槽入浴と抑うつの関連をロジスティック回帰分析によって年齢、性別、治療中の病気の有無、飲酒の有無、喫煙の有無、婚姻状況、教育年数、所得を調整して多変量解析を行い、オッズ比(OR)を求めた。 主な結果は以下のとおり。・夏の浴槽入浴が0~6回/週のグループの抑うつ新規発症率は12.9%、7回以上/週のグループは11.2%であった(p=0.192)。・冬の浴槽入浴が0~6回/週のグループの抑うつ新規発症率は13.9%、7回以上/週のグループは10.6%で有意差が認められた(p=0.007)。・共変量で調整した多変量解析において、夏の浴槽入浴が0~6回/週のグループを基準とした場合、7回以上/週のグループの抑うつ新規発症のORは0.84(95%信頼区間[CI]:0.64~1.10)で、浴槽入浴の頻度が高いほど抑うつの新規発症が少ない傾向にあった(p=0.213)。・冬の浴槽入浴では、7回以上/週のグループの抑うつ新規発症のORは0.76(95%CI:0.59~0.98)で、統計学的に有意に少なかった(p=0.033)。 これらの結果より、研究グループは「習慣的な浴槽入浴の温熱作用を介した自律神経のバランス調整などによる抑うつ予防作用による結果の可能性があり、健康維持のため高齢者へ浴槽入浴が勧められることが示唆された」とまとめた。

2403.

レビー小体型認知症のパーキンソニズムに対するゾニサミド補助療法

 レビー小体型認知症(DLB)患者のパーキンソニズムに対してレボドパで効果不十分な場合、レボドパの増量とゾニサミド併用の効果および安全性の違いについては、よくわかっていない。大阪大学の池田 学氏らは、レボドパ300mg/日以下で治療されたパーキンソニズムを伴うDLB患者を対象に、ゾニサミド25mg/日併用療法とレボドパ100mg/日増量療法の比較を行った。Journal of Alzheimer's Disease誌オンライン版2023年7月20日号の報告。 本DUEL研究は、多施設共同ランダム化非盲検並行群間非劣性試験として実施された。観察期間中、レボドパ300mg/日以下で4週間投与を行った。その後患者は、ゾニサミド25mg/日併用群またはレボドパ100mg/日増量群にランダムに割り付けられた。主要評価項目は、16週目および24週目のMDS-UPDRS Part III総スコアの平均変化とした。 主な結果は以下のとおり。・16週目および24週目のMDS-UPDRS Part III総スコアの調整平均変化は以下のとおりであった。【ゾニサミド併用群】16週目:-6.3、24週目:-4.4【レボドパ増量群】16週目:-0.8、24週目:2.0・24週目の調整平均差は、-6.4(95%信頼区間:-13.5~0.7)であり、信頼区間の上限値は、非劣性マージン(3.0)よりも低かった。・MDS-UPDRS Part II、Eating Questionnaire、EuroQol-5 dimension-5 level (EQ-5D-5L)、Zarit介護負担尺度、その他の副次的評価項目の総スコアは、両群間で差は認められなかった。・有害事象の発生率は、両群間で差は認められなかった。 その結果を踏まえて著者らは、「レボドパで効果不十分な場合、ゾニサミド25mg/日を併用することで、DLB患者の運動症状に中程度の効果が期待できる。しかし、本研究では、レボドパ増量が想定されているほどの効果が得られなかったため、ゾニサミド25mg/日併用がレボドパ100mg/日と同程度の効果があるかは、検証できなかった」としている。

2404.

ネオアジュバント/サンドイッチ療法レビュー【忙しい医師のための肺がんササッと解説】第16回

第16回 ネオアジュバント/サンドイッチ療法レビュー参考John V Heymach JV,et al. Design and Rationale for a Phase III, Double-Blind, Placebo-Controlled Study of Neoadjuvant Durvalumab + Chemotherapy Followed by Adjuvant Durvalumab for the Treatment of Patients With Resectable Stages II and III non-small-cell Lung Cancer: The AEGEAN Trial. Clin Lung Cancer.2022;233:e247-e251. 術前デュルバルマブ・NAC併用+術後デュルバルマブによるNSCLCのEFS延長(AEGEAN)/AACR2023Wakelee H, et.al.Perioperative Pembrolizumab for Early-Stage Non-Small-Cell Lung Cancer. N Engl J Med.2023;389:491-503.NSCLC周術期のペムブロリズマブ、EFS改善が明らかに(KEYNOTE-671)/ASCO2023Patrick M Forde PM,et.al. Neoadjuvant Nivolumab plus Chemotherapy in Resectable Lung Cancer. N Engl J Med.2022;386:1973-1985.NSCLCの術前補助療法、ニボルマブ追加でEFS延長(CheckMate-816)/NEJM周術期非小細胞肺がんに対する化学療法+toripalimabのEFS中間解析(Neotorch)/ASCO2023

2405.

過去10年間、日米間の抗がん剤ドラッグラグはどのくらいか

 抗がん剤の日米間のドラッグラグに関する既存の研究や統計では、ドラッグラグは減少したとするものもあるが、一方で日本では未承認の薬剤が多く残されている。北里大学の立花 慶史氏らは、未承認薬がドラッグラグに与える影響を定量化することを目的とした研究を行い、結果をInternational Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2023年8月10日号に報告した。 本研究では、2011~22年の間に米国で承認された抗がん剤136品目の情報が収集された。米国での承認日から日本での承認日までの日数として定義される承認ラグをすべての選択された薬剤について算出し、中央値をKaplan-Meier法で算出した。なお、日本で承認されていない医薬品の承認ラグについては、打ち切りデータとして扱った。承認ラグと関連する可能性のある因子を、Cox回帰分析を用いて検討した。 主な結果は以下のとおり。・前半期(2011~16年)と後半期(2017~22年)の承認ラグの中央値は、それぞれ961日(2.6年)と1,547日(4.2年)であった(log-rank検定のp=0.0687)。・国際的なピボタル試験への日本の参加は承認ラグ短縮と関連し、世界的な売上高トップ20にランクインしていない非日系企業の新薬承認申請は承認ラグ延長と関連した。 著者らは結論として日米間の抗がん剤のドラッグラグはこの10年間減少していないとし、米国での承認に関わるピボタル試験における日本の参加割合は増加しており、今後さらに増加が見込まれることに言及。今後は、中小の非日系企業による国際的な臨床開発計画への参加を促す制度が必要なのではないかとしている。

2406.

治療前の統合失調症患者におけるメタボリックシンドローム有病率

 メタボリックシンドローム(MetS)は、性別により臨床パターンの異なるさまざまな病理学的状態を伴う臨床症候群である。統合失調症患者では、MetS有病率が有意に高いことが知られている。中国・Wuhan Mental Health CenterのKuan Zeng氏らは、初回治療および未治療の統合失調症患者におけるMetS有病率とそれに関連する要因、重症度に影響を及ぼす要因についての性差を調査した。その結果、統合失調症患者のMetS有病率とその要因には、男女間で違いが認められた。女性のほうがMetS有病率は高く、影響を及ぼす要因もより広範であることを報告した。Annals of General Psychiatry誌2023年6月28日号の報告。 対象は、初回治療および未治療の統合失調症患者668例。社会人口統計学的情報および一般的な臨床情報を収集し、代謝パラメータおよび生化学的指標を測定・評価した。精神症状の重症度評価には、陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)を用いた。 主な結果は以下のとおり。・統合失調症患者のMetS有病率は、男性で6.56%(244例中16例)、女性で13.44%(424例中57例)であり、男性よりも女性において有意に高かった。・MetsSのリスク因子は、男性では腹囲、空腹時血糖、拡張期血圧、トリグリセライド、女性では、収縮期血圧、トリグリセライド、総コレステロール、LDLコレステロール、血小板数であった。・女性では、年齢、LDLコレステロール、PANSSスコア、血清クレアチニン値がMetSスコア上昇のリスク因子であり、発症年齢、ヘモグロビン値が防御因子であることが発見された。

2407.

第174回 レカネマブ承認へ、医療者を待ち受ける5つの関門

ついにアルツハイマー病(AD)に対する抗アミロイドβ(Aβ)抗体薬が、日本の臨床現場に登場することが確定的となった。厚生労働省の薬事・食品衛生審議会医薬品第一部会は8月21日、エーザイと米国・バイオジェンが共同開発したlecanemabの承認を了承した。これにより年内には保険適用となる見込みだ。思えば2012年の米国のファイザーとジョンソン&ジョンソンによる抗Aβ抗体の静脈注射製剤bapineuzumabの開発中止に始まり、死屍累々だったAβ標的の新薬開発は、ようやく一つの成果を得た形だ。一方で、ADの治療現場では患者・家族の期待値と現実とのギャップが原因で、今後は患者・家族とのコミュニケーションで疲弊させられる可能性も増してくる。大雑把に言えば、疲弊させられる“関門”は5つある。まず、ADは認知症の6~7割を占める原因疾患だが、そのほかに脳血管性認知症、レビー小体型認知症があるが、一般人はこれらの個別の疾患よりもざっくりとした「認知症」というキーワードで認識している人のほうが多数派だろう。それゆえにlecanemabが実際に登場した段階では、ADかどうかにかかわらず「私も」「うちの家族も」という誤解した期待の声に医療従事者は振り回されることになる。ここが第1の関門である。さらに、lecanemabはご存じのように軽度ADと軽度認知障害(MCI)を総称した早期ADのみが適応だ。ここで中等度AD以上の患者・家族は落胆するはずだ。第2の関門である。そして第2関門まで通過した早期ADの患者・家族を待ち受けている第3の関門、それが検査方法である。今回の医薬品第一部会ではlecanemabの承認了承に合わせ、Aβを可視化する陽電子放出断層撮影(PET)用の放射性診断薬であるフルテメタモル(18F、商品名:ビザミル)、フロルベタピル(18F、同:アミヴィッド)の効能追加も了承され、検査面で地ならしも行われた。現在、Aβの蓄積を確認するためには、このアミロイドPETか脳脊髄液検査(CSF検査)という手段になる。しかし、前者は放射性物質の半減期が極めて短いため、地域によっては身近な医療機関では物理的に受けられないことが起こり得る。加えて十分なアミロイドPETの読影訓練を受けた医療従事者がいる医療機関も限られる。さらに保険適用になっても患者は数万円の自己負担が必要になる見込みである。一方で脳脊髄液検査は侵襲性の高い腰痛穿刺が必要になり、現在の保険適用されている体液バイオマーカーは脳脊髄液リン酸化タウ値のみ。ADの診断により適した脳脊髄液アミロイドβ42は保険適用となっていない。昨今では島津製作所が開発している簡易血液検査が注目されてもいるが、おそらくこれが承認されても、第一段階のスクリーニングのみの使用になり、最終的な確認のためにアミロイドPETという流れになる可能性は十分ある。いずれにせよこの第3の関門で、経済的、物理的な理由で検査を躊躇する、あるいは受けられない一部の患者・家族の苦悩と医療従事者は向き合わねばならない。さらにこれら3つの関門を通過して晴れて投与対象になったとしても、第4の関門として、年間数百万円の薬剤費という現実に多くの患者が直面する。たとえ高額療養費制度を使ったとしても、かなりの経済的な負担になることは確実で、その金額に尻込みをする患者・家族が少なからず発生することになるだろう。そして最後の関門は、投与を始めたものの効果を“実感”できない患者・家族から不満が出る可能性である。第III相試験「Clarity AD」で示されたlecanemabの有効性とは、臨床的認知症尺度(CDR:Clinical Dementia Rating)の合計点数(CDR-SB、18点満点)から見ると、プラセボに比べ、進行が27%抑制されていたというもの。一般人からすれば、数字だけを聞くと、劇的な効果と思う人もいるだろうが、この効果は患者・家族はおろか医療従事者ですら見た目で実感できるものではない。そもそも一般人の多くが「薬=病気を治すもの」と考えている中では、投与前に入念な説明をしても、この薬でADによる物忘れが以前よりも少なくなるのではないかなどの誤解交じりの期待を抱く人は残るはずだ。もしかしたら、医療従事者が患者・家族とのコミュニケーションで最も疲弊させられるのはこの点かもしれない。そして何より、実はこれらとは別の非常に大きな問題が浮上してくる可能性がある。それはlecanemabの投与対象のうちMCIは本人や周囲も気付かないことも多いため、後々に「もう少し早くlecanemabを使えていれば…」という事態が生じることだ。lecanemabというイノベーションは、これ以外にも予想もしなかった新たな課題を生むかもしれない。今回の承認にやや興奮しながらも、それと同じくらい不安も感じている。

2408.

若年性認知症と紛らわしい、初老期のADHD【外来で役立つ!認知症Topics】第8回

認知症専門クリニックの当院を訪れる患者さんの平均年齢は75歳、偏差は10歳くらいかと思う。だから40~65歳の患者さんが来られると、「若年性認知症か?」とまずは疑う。実際にはそれもあるが、複雑部分発作のようなてんかん性疾患や、睡眠時無呼吸症候群だと診断される人も少なくない。ところがここ数年、認知機能についても脳画像などの生物学的な診断指標についても問題なく、最終的に正常と診断する例が増えてきた印象がある。そこでこうした患者さんには、何か共通する背景があるのではないかと思うようになった。理系の学校卒、技術職で働いてきた人で、いわゆる理屈屋さんの傾向があるか?とまず思い当たった。そこで「そもそもどうして来院されたのですか?」と改めて尋ねると、「実は自分でも悪いとは思っていない。上司(あるいは女房)が認知症かどうか専門医に調べてもらうように言ったから」という回答が多いことがわかった。たまたまこの頃、「60歳以上の注意欠如・多動症ADHD(Attention Deficit Hyperactivity Disorder)にご注意を」という主旨の英文記事1)を読んだ。「60歳以上のADHD」という言葉に、「ほーっ」と感心した。実は20年ほど前に「大人になったADHD」という言葉を知ったとき、まず驚いたものだ。というのは、子供の頃の同級生や知友を思い浮かべても、ADHDは児童期には目立っても成長とともに改善し、多くの場合、成人になると治るものとずっと私は思っていたからである。ADHDは大人になってから表面化することもその専門家である岩波 明氏によると、「ADHDは、成人の3〜4%が持っているといわれており、診断を受ける大人が増えている。とくに症状が軽い場合、また周囲の環境によっては見過ごされることもある。しかし大人になると、就職や結婚などによって行動の範囲や人間関係が複雑になるため、それに対処しきれなくなったときに問題が表面化し、症状に気付くことがある」と述べられている。そして注意に関わる特徴として、「注意を持続するのが難しい」、「ケアレスミスが多い」、「片付けが苦手・忘れ物が多い」などを指摘されている2)。それを思い出した上で、60歳以上のADHDの特徴を丁寧に読み返してみた。(1)スイスチーズ記憶:覚えているものもあるが、スコンと抜けるものもある、いわゆる斑ぼけ。(2)気を逸らされるとやりかけの仕事を忘れてしまう。(3)物を定位置に戻さない。(4)くり返し、真っ白になる。(5)家計などの金銭収支を合わせられない。(6)周りに配慮せずしゃべり過ぎる。(7)他者を遮る。(8)他者と安定した関係が保てない。とあった。こうした目で認知症疑いの受診者を見直してみると、先ほどは最終的に知的正常とした中にも、ADHDと考え直すケースが少なくないと考えた。だから最近では、テストが正常であっても、ADHDでは?と思い直して、そのチェックのためにAQ(自閉症スペクトラム指数)3)を施行している。上記の症状のうち、とくに(1)~(5)は認知機能がらみである。一方で(6)~(8)は、従来からのいわゆる「キャラ」関連であろう。そもそもどうして初老期以降になってADHDが顕在化するのか? 答えはわからないのだが、やはり加齢化による機能低下は重要だろう。認知症は、以前は「痴呆症」と呼ばれたように、知性や知識の病である。ところで精神現象を包括する語に「知情意」がある。「情」とは心、「意」とは意欲である。ADHD の素因がある人は、年齢を重ねた時に、ミニメンタルステート検査(MMSE)、改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDSR)などで定量化しやすい知のみならず、情意についても、ほころびを生じやすいのではなかろうか。(6)~(8)は、本来の傾向が、この情意のほころびによって強められた現れなのかもしれない。こうしたことで、当事者の周囲が見て取る「知情意」の変化が認知症の初期症状と捉えられ、認知症専門外来という話になるのかもしれない。初老期のADHD治療さて治療においては、まず自分にはどんな問題があるかを、初老期になった当事者に自覚してもらう必要がある。上記報告1)はこれを簡潔に述べている。(1)先送りにしがちだ。(2)苛つきやすい自分をコントロールする必要がある。(3)制限時間を意識した段取りと進行が求められる。(4)落ち着かなさ、雑念が頭の中を駆け巡る、しゃべり過ぎ。などは過活動の残骸と考えよう。またADHDに適応がある薬物には、メチルフェニデート(商品名:コンサータ)、アトモキセチン(ストラテラ)、グアンファシン(インチュニブ)、リスデキサンフェタミン(ビバンセ)の4剤がある。いずれも副作用など危険性も高く、その処方にはADHDに精通した医師の関わりが求められているだけに、医師なら誰でもとはいかないだろう。終わりに、初老期以降のADHDと思しき人の病識、あるいは自覚について。それがある人と、まったくといっていいほどない人にきれいに二分されるという印象がある。筆者がADHD疑いと思っても本人が否定する場合は、本人と近しい人にもAQをやってもらう。それと本人の回答が明らかに乖離することが、こうしたケースの特徴のようだ。参考1)Nadeau K. A Critical Need Ignored: Inadequate Diagnosis and Treatment of ADHD After Age 60. ADDITUDE. 2022 July 14.2)NHK健康チャンネル 大人の「注意欠如・多動症(ADHD)」とは?特徴や治療を解説!(2023年7月21日)3)若林明雄ほか. 自閉症スペクトラム指数(AQ)日本語版の標準化. 心理学研究. 2004;75:78-84.

2409.

日本人の双極性障害および統合失調症に関連するミトコンドリアの遺伝的変異

 双極性障害や統合失調症は、複雑な精神疾患であり、環境的要因と遺伝的要因(母性遺伝を含む)の両方が影響している可能性がある。これまで、いくつかの研究において、ミトコンドリア染色体の遺伝子変異と双極性障害および統合失調症との関連が調査されているが、研究結果は同一ではなく、参加者は欧州の患者に限定されていた。岐阜大学のRyobu Tachi氏らは、日本人集団におけるミトコンドリア染色体のゲノムワイドな遺伝的変異と双極性障害、統合失調症、精神疾患との関連を調査した。International Journal of Bipolar Disorders誌2023年7月21日号の報告。 患者および遺伝子変異の品質管理を行ったうえで、日本人420例を対象にミトコンドリア遺伝子変異(マイナーアレル頻度[MAF]>0.01、変異例:45例)と双極性障害、統合失調症、精神疾患との関連を調査した。対象の内訳は、双極性障害(BD群)51例、統合失調症(SZ群)172例、健康対照者(HC群)197例。 主な結果は以下のとおり。・ミトコンドリアの遺伝的変異のうち、多重比較で補正した後、双極性障害では3つ(rs200478835、rs200044200、rs28359178 のNADHデヒドロゲナーゼ上または近位)、精神疾患では1つ(rs200478835)の遺伝子変異との有意な関連が認められた(PGC=0.045-4.9×10-3)。・とくに、ミスセンス変異体であるrs200044200のマイナーGアレル遺伝子を有する人は、BD群(MAF=0.059)のみでみられ、HC群(MAF=0)ではみられなかった(オッズ比:∞)。・3例の患者は、精神医学的疾患の家族歴を有していた。 著者らは「NADHデヒドロゲナーゼ関連遺伝子のミトコンドリア遺伝的変異が、エネルギー産生のメカニズムを介して日本人の双極性障害や精神疾患発症に関与している可能性が示唆された」とまとめている。

2410.

脳卒中の病院間搬送、推奨時間内に収まらず/JAMA

 急性脳卒中の病院間搬送において、最初の病院の救急部門(ED)到着から転院搬送開始までの時間(door-in-door-out time:DIDO時間)の中央値は174分であり、現在のガイドラインで推奨されている時間(120分以内)よりも長いことを、米国・ミシガン大学のBrian Stamm氏らが、米国心臓協会(AHA)のAmerican Heart Association Get With The Guidelines-Stroke(GWTG-Stroke)レジストリを用いた後ろ向きコホート研究の結果、明らかにした。一刻を争う急性脳卒中の治療は、すべての病院で実施できるわけではなく、しばしば病院間搬送を必要とする。今回の結果について著者は、「DIDO時間の延長に関連する格差や修正可能な医療システム要因は、医療の質の改善に向けた取り組みの目標として適している」と述べている。JAMA誌2023年8月15日号掲載の報告。病院間搬送を要した急性脳卒中患者約10万9,000例について解析 研究グループは、GWTG-Strokeレジストリにおいて2019年1月~2021年12月に、急性虚血性脳卒中または出血性脳卒中を発症し、登録関連病院のEDから他の急性期病院へ転院搬送され、かつ転院先で入院していない患者を特定し、解析した。 主要アウトカムはDIDO時間(転院搬送開始時刻-ED到着時刻)の連続変数およびカテゴリー変数(≦120分、>120分)とし、一般化推定方程式(GEE)回帰モデルを用いて、全体およびサブグループ(出血性脳卒中、血管内治療が適応となる急性虚血性脳卒中、血管内治療以外の理由で転院搬送された急性虚血性脳卒中)における、DIDO時間と関連する患者特性および病院特性を同定した。 解析対象は、1,925施設から転院搬送された10万8,913例(平均[±SD]年齢66.7±15.2歳、非ヒスパニック系白人71.7%、男性50.6%)で、このうち6万7,235例が急性虚血性脳卒中、4万1,678例が出血性脳卒中であった。DIDO時間中央値は174分、ガイドライン推奨の120分を超える 全体におけるDIDO時間の中央値は174分(四分位範囲[IQR]:116~276分)、DIDO時間が≦120分の患者は2万9,714例(27.3%)であった。 DIDO時間中央値の延長と有意な関連がみられた因子は、80歳以上(vs.18~59歳:14.9分、95%信頼区間[CI]:12.3~17.5)、女性(vs.男性:5.2分、3.6~6.9)、非ヒスパニック系黒人(vs.非ヒスパニック系白人:8.2分、5.7~10.8)、ヒスパニック系(vs.非ヒスパニック系白人:5.4分、1.8~9.0)であった。 一方、DIDO時間中央値の短縮と有意な関連がみられた因子は、救急医療サービスの事前通知(-20.1分、95%CI:-22.1~18.1)、米国国立衛生研究所脳卒中スケール(NIHSS)スコアが12以上(vs.0~1:-66.7分、-68.7~-64.7)、血管内治療適応の急性虚血性脳卒中(vs.出血性脳卒中:-16.8分、-21.0~-12.7)であった。 血管内治療適応の急性虚血性脳卒中患者において、女性、黒人、ヒスパニック系は、DIDO時間の有意な延長と関連があったが、救急医療サービスの事前通知、静脈内血栓溶解、NIHSSスコア高値は、DIDO時間の有意な短縮と関連していた。

2411.

リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップーP(対象)設定の要点と実際 その2【「実践的」臨床研究入門】第35回

P(対象)をより具体的で明確なものにする今回は前回に引き続き、P(対象)を設定する際の要点について解説します。Pを設定する際、PがResearch Question(RQ)で設定したO(アウトカム)のat risk集団(Oを発生する可能性のある集団)であることも、押さえるべきポイントです。前述のとおり(連載第34回参照)、プライマリのOは末期腎不全(透析導入)と設定しました。したがって、すでに末期腎不全に至り、透析導入(もしくは腎臓移植)された患者さんはat risk 集団にならず、除外されることになります。できればPは設定したOを起こしやすい集団とするのもコツのひとつです。なぜなら、Oを発症しやすい集団を対象とした方が研究の「効率が良い」からです。ここで言う「効率が良い」の意味は、より少ないサンプル数や短い観察期間で興味のあるOの発生数を確保することができる、ということです。その結果、研究の実施可能性や統計的な検出力が高まります。筆者が米国留学以来関わっている、DOPPS(Dialysis Outcomes and Practice Patterns Study)という血液透析患者さんを対象とした国際的な臨床疫学研究があります。血液透析患者さんは健常人と較べて、死亡や心血管イベント発症などハードエンドポイント(連載第3回参照)を起こすリスクがかなり高い集団です。ハイリスクな血液透析患者集団の中でも、その予後には国際間で大きな差があることが知られています。日本の血液透析患者さんの予後は、米国の患者さんのそれより圧倒的に良好なことが、DOPPSなどの研究成果から示されています。米国留学中にご指導頂いていたミシガン大学の腎臓内科と臨床疫学の名誉教授であるFK Port先生が、"US data are bad for patients but good for statistical analysis."と日本から来た筆者に自虐的に? おっしゃっていたことを覚えています。また、「研究対象集団」のデータ取得の場である「セッティング」についてキチンと明記することも重要です(連載第34回参照)。われわれのRQの「標的母集団」は慢性腎臓病(CKD)集団全体です。しかし、本研究で実際に診療データにアクセスできるのは自施設の外来に通院中の患者のみであったとすると、「セッテイング」は単施設外来ということになります。単施設の「セッテイング」で行われた臨床研究では、その施設の特性やそこに通院する患者背景などの偏り(選択バイアス)が結果に影響を及ぼす可能性があります(連載第34回参照)。ちなみに、このような「選択バイアス」の影響を出来るだけ減らすために、DOPPSでは「2段階無作為抽出法」というサンプリング手法がとられています。第1段階として、研究施設を所在地や経営母体(公立・私立など)、施設規模(患者数)を考慮して無作為に抽出。第2段階で、施設規模に合わせて研究対象患者を施設毎に無作為抽出。このようなサンプリング手法を用いることにより、「研究対象集団」の代表性を担保しているのです。さて、ここで、われわれのRQのPをあらためて以下のように整理してみました。P(対象):慢性腎臓病(CKD)患者組み入れ基準診療ガイドライン1)で定義されるCKD患者除外基準  ネフローゼ症候群、透析導入(または腎移植)された患者S(セッティング):単施設外来このように組み入れ基準、除外基準、セッテイングも含めて、Pをより具体的で明確なものにします。そうすることにより、研究結果の解釈が容易となり、またその研究結果を他の状況に適用する際の判断もしやすくなるのです。1)日本腎臓学会編集. エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023. 東京医学社;2023.

2412.

第59回 新型コロナ「エリス」がすでに来ている

「エリス」襲来Pixabayより使用米国疾病予防管理センター(CDC)の報告によると、8月5日までの1週間のコロナ入院患者数が14%増となり、4月下旬以来の多さとなっており1)、再び流行が始まるのではと懸念されています。現在懸念されているのが、EG.5です。BA.1が従来のオミクロン株で、その後BA.2株が2022年5月に流行しました。BJ.1株とBM1.1.1株が組み合わさったのがXBB株で、いろいろなXBB株が存在します。XBB.1.9.1株から派生したEG.5株、EG.5.1株が、われわれの次の敵になります。「もういいよー、覚えられないし」と思っている医療従事者も多いでしょう。大丈夫です、私も覚えられません。EG.5は通称「エリス」と呼ばれています。これは例のごとくギリシャ神話の女神にちなんだ名前で、SNS上で命名されたものです。これまでもケンタウルス、ケルベロスなどさまざまなあだ名が付けられてきた変異ウイルスですが、中二病っぽい感じもあって、小恥ずかしくてなかなか堂々と言えませんでした。「エリス」については中二病感が薄いためか、比較的世界的にも受け入れられている印象です。日本では「エリス」で報道されるのかどうか、気になるところです。第9波の流行の主流であったXBB系統から、いずれ「エリス」へ置き換わりが進むと予想されていましたが、想定よりも早いようです。東京都ではすでに「エリス」が主流株になっており、これまでの主流株であったXBB.1.16株を逆転しています2)。「エリス」は、現在のXBB系統よりも伝播性が高いです。そうじゃないと、主流株にならないので。世界保健機関(WHO)は8月9日、「エリス」を「注目すべき変異株(VOI)」に指定しています。医療従事者はワクチンアップデートを医療従事者の間でもワクチンに対する信頼性が低下しているような印象です。ケアネットをご覧になっている皆さんは、エビデンスを咀嚼できていると思いますので、mRNAワクチンの重要性については理解されているでしょう。もしオミクロン株対応2価ワクチンを接種されていない方は、アップデートを推奨します。2価ワクチンあるいはXBB対応ワクチン(9月接種開始予定)のいずれも、「エリス」以前のXBB系統を含めたオミクロン株全体の重症化を予防する効果があると思われます。秋開始接種で使用するモデルナ社のXBB対応ワクチンは、予備的な臨床試験において、「エリス」に対しても良い免疫反応が得られたとプレスリリースを出しています。参考文献・参考サイト1)CDC:COVID-NET A Weekly Summary of U.S. COVID-19 Hospitalization Data2)東京都健康安全研究センター:定点医療機関当たりの報告数 東京都感染症週報 第30週(7月30日~8月6日)より

2413.

本文→画像→設問→||大きな壁||→選択肢の順を厳守する【国試のトリセツ】第4回

本文→画像→設問→||大きな壁||→選択肢の順を厳守するQuestion〈110A21〉65 歳の女性。健忘を主訴に家族に連れられて来院した。3 カ月前から家に引きこもりがちになり、倦怠感と不安とを訴えて外出しようとしなくなった。2 週前からぼんやりして物忘れが目立つようになり、動作も緩慢になった。昨夜、誰もいないのに誰かを激しく叱っているところを家族が目撃した。意識レベルはJCSI-1。活動性の低下を認める。身長154 cm、体重67 kg。体温35.4 ℃。脈拍52/ 分、整。血圧94/48mmHg。呼吸数12/ 分。顔面と両側の下腿とに浮腫を認める。心音と呼吸音とに異常を認めない。改訂長谷川式簡易知能評価スケールは18 点(30 点満点)、Mini-MentalState Examination(MMSE)は20 点(30 点満点)である。四肢の近位部に徒手筋力テストで4 の筋力低下を認め、大腿四頭筋を叩打すると筋腹の膨隆が生じる。腱反射は打腱後の筋弛緩遅延を認め、Babinski 徴候は陰性である。原因として最も考えられるのはどれか。今回は選択肢の影響力について考えていきたいと思います。ご覧の通り、冒頭では選択肢をあえて隠して問うてみました。課題〈110A21〉の選択肢を示します。その前に現時点で考えられる診断名をあらかじめ記してください(可能なら、診断の根拠も述べるとbetter です)。記載日    /    /    先に選択肢を見てから、それを解答の根拠にした場合、問題の難易度が大幅に下がります。もちろん本番で困った場面で用いるテクニックとしてなら場合によっては許容されるとは思うのですが、普段の演習の際に選択肢に頼ってしまうと、負荷がどうしても下がってしまうのです。負荷が下がると学習効率も下がるのでトレーニングとしては相応しくない取り組み方なのかもしれません。さて、本文を見ていきましょう。症例提示の前半では「認知症」を否が応でも想起せざるを得ません。次に考えるべきは、その鑑別です。Alzheimer 型認知症、Lewy小体型認知症、前頭側頭型認知症、血管性認知症が代表的な鑑別疾患として挙がるでしょう。さらには、それぞれの特徴やキーワードを説明できるという段階を経て、最終的にはこれらの疾患を区別しながら鑑別診断を行えるようになるはずです。また、症候性の認知症も鑑別に挙がります。つまり、基礎疾患が他に存在していないか? ということを考えることになります。このような流れを汲んだうえで、気になる選択肢をオープンにします。Question〈110A21〉65 歳の女性。健忘を主訴に家族に連れられて来院した。3 カ月前から家に引きこもりがちになり、倦怠感と不安とを訴えて外出しようとしなくなった。2 週前からぼんやりして物忘れが目立つようになり、動作も緩慢になった。昨夜、誰もいないのに誰かを激しく叱っているところを家族が目撃した。意識レベルはJCSI-1。活動性の低下を認める。身長154 cm、体重67 kg。体温35.4 ℃。脈拍52/ 分、整。血圧94/48mmHg。呼吸数12/ 分。顔面と両側の下腿とに浮腫を認める。心音と呼吸音とに異常を認めない。改訂長谷川式簡易知能評価スケールは18 点(30 点満点)、Mini-MentalState Examination(MMSE)は20 点(30 点満点)である。四肢の近位部に徒手筋力テストで4 の筋力低下を認め、大腿四頭筋を叩打すると筋腹の膨隆が生じる。腱反射は打腱後の筋弛緩遅延を認め、Babinski 徴候は陰性である。原因として最も考えられるのはどれか。(a)甲状腺機能低下症(b)前頭側頭型認知症(c)ビタミンB12 欠乏症(d)進行性多巣性白質脳症(e)筋強直性ジストロフィー

2414.

高血圧への第1選択としての利尿薬vs.他の降圧薬~コクランレビュー

 高血圧患者における死亡率、心血管イベントの発生率、有害事象による中止率などについて、第1選択薬としてのサイアザイド系利尿薬と他のクラスの降圧薬を比較したシステマティックレビューの結果を、カナダ・ブリティッシュコロンビア大学のMarcia Reinhart氏らがThe Cochrane Database of Systematic Reviews誌2023年7月13日号に報告した。 2021年3月までのCochrane Hypertension Specialized Register、CENTRAL、MEDLINE、Embase、および臨床試験登録が検索された。対象は1年以上の無作為化比較試験で、第1選択薬としての利尿薬と他の降圧薬の比較、および死亡率とその他のアウトカム(重篤な有害事象、総心血管系イベント、脳卒中、冠動脈性心疾患[CHD]、うっ血性心不全、有害作用による中止)が明確に定義されているものとした。 主な結果は以下のとおり。・9万例超が対象の、26の比較群を含む20件の無作為化試験が解析された。・今回の結果は、2型糖尿病を含む複数の合併症を有する50〜75歳の男女高血圧患者における第1選択薬に関するものである。・第1選択薬としてのサイアザイド系およびサイアザイド系類似利尿薬が、β遮断薬(6試験)、Ca拮抗薬(8試験)、ACE阻害薬(5試験)、およびα遮断薬(3試験)と比較された。・他の比較対照には、アンジオテンシンII受容体遮断薬(ARB)、アリスキレン(直接的レニン阻害薬)、およびクロニジン(中枢作用薬)が含まれていたが、データが不十分だった。・重篤な有害事象の総数に関するデータを報告した研究は3件のみで、利尿薬とCa拮抗薬を比較した研究が2件、直接的レニン阻害薬と比較した研究が1件だった。β遮断薬と比較したサイアザイド系利尿薬:・全死亡率(リスク比[RR]:0.96[95%信頼区間:0.84~1.10]、5試験/1万8,241例/確実性:中程度)。・総心血管イベント(5.4% vs.4.8%、RR:0.88[0.78~1.00]、絶対リスク減少[ARR]:0.6%、4試験/1万8,135例/確実性:中程度)。・脳卒中(RR:0.85[0.66~1.09]、4試験/1万8,135例/確実性:低)、CHD(RR:0.91[0.78~1.07]、4試験/1万8,135例/確実性:低)、心不全(RR:0.69[0.40~1.19]、1試験/6,569 例/確実性:低)。・有害作用による中止(10.1% vs.7.9%、RR:0.78[0.71~0.85]、ARR:2.2%、5試験/1万8,501例/確実性:中程度)。Ca拮抗薬と比較したサイアザイド系利尿薬:・全死亡率(RR:1.02[0.96~1.08]、7試験/3万5,417例/確実性:中程度)。・重篤な有害事象(RR:1.09[0.97~1.24]、2試験/7,204例/確実性:低)。・総心血管イベント(14.3% vs.13.3%、RR:0.93[0.89~0.98]、ARR:1.0%、6試験/3万5,217例/確実性:中程度)。・脳卒中(RR:1.06[0.95~1.18]、6試験/3万5,217例/確実性:中程度)、CHD(RR:1.00[0.93~1.08]、6試験/3万5,217例/確実性:中程度)、心不全(4.4% vs.3.2%、RR:0.74[0.66~0.82]、ARR:1.2%、6試験/3万5,217例/確実性:中程度)。・有害作用による中止(7.6% vs.6.2%、RR:0.81[0.75~0.88]、ARR:1.4%、7試験/3万3,908例/確実性:低)。ACE阻害薬と比較したサイアザイド系利尿薬:・全死亡率(RR:1.00[0.95~1.07]、3試験/3万961例/確実性:中程度)。・総心血管イベント(RR:0.97[0.92~1.02]、3試験/3万900例/確実性:低)。・脳卒中(4.7% vs.4.1%、RR:0.89[0.80~0.99]、ARR:0.6%、3試験/3万900例/確実性:中程度)、CHD(RR:1.03[0.96~1.12]、3試験/3万900例/確実性:中程度)、心不全(RR:0.94[0.84~1.04]、2試験/3万392例/確実性:中程度)。・有害作用による中止(3.9% vs.2.9%、RR:0.73[0.64~0.84]、ARR:1.0%、3試験/2万5,254例/確実性:中程度)。α遮断薬と比較したサイアザイド系利尿薬:・全死亡率(RR:0.98[0.88~1.09]、1試験/2万4,316例/確実性:中程度)。・総心血管イベント(12.1% vs.9.0%、RR:0.74[0.69~0.80]、ARR:3.1%、2試験/2万4,396例/確実性:中程度)。・脳卒中(2.7% vs.2.3%、RR:0.86[0.73~1.01]、ARR:0.4%、2試験/2万4,396例/確実性:中程度)、CHD(RR:0.98[0.86~1.11]、2試験/2万4,396例/確実性:低)、心不全(5.4% vs.2.8%、RR:0.51[0.45~0.58]、ARR:2.6%、1試験/2万4,316例/確実性:中程度)。・有害作用による中止(1.3% vs.0.9%、RR:0.70[0.54~0.89]、ARR:0.4%、3試験/2万4,772例/確実性:低)。 著者らは、本結果を以下のようにまとめている。・利尿薬と他のクラスの降圧薬の間で、おそらく死亡率に差はない。・利尿薬はβ遮断薬と比較して、心血管イベントをおそらく減少させる。・利尿薬はCa拮抗薬と比較して、心血管イベントと心不全をおそらく減少させる。・利尿薬はACE阻害薬と比較して、脳卒中をおそらくわずかに減少させる。・利尿薬はα遮断薬と比較して、心血管イベント、脳卒中、心不全をおそらく減少させる。・利尿薬はβ遮断薬、Ca拮抗薬、ACE阻害薬、α遮断薬と比較して、有害作用による中止がおそらく少ない。

2415.

統合失調症に対する長時間作用型注射剤抗精神病薬の実際の有効性

 フランス・エクス=マルセイユ大学のLaurent Boyer氏らは、統合失調症に対する長時間作用型注射剤(LAI)抗精神病薬の実臨床における有効性を評価するため、ミラーイメージ研究を実施した。その結果、LAI抗精神病薬は、経口抗精神病薬よりも投与頻度が少ないため、コンプライアンス向上や再発リスク軽減が期待できるため、コンプライアンス不良患者では女性や35歳以上の患者であってもLAI抗精神病薬治療が推奨されることを報告した。また、アリピプラゾールLAIは、コンプライアンス良好患者にとって有用な薬剤である可能性があり、さらなる調査が求められるとしている。Molecular Psychiatry誌オンライン版2023年7月21日号の報告。 2015年1月~2016年12月にLAI抗精神病薬を開始した統合失調症患者を、フランス国民健康データシステム(SNDS)に登録した。LAI抗精神病薬開始1年前(経口抗精神病薬治療中)と開始1年後、精神科医療リソース利用指標について評価し、標準化平均差(SMD>0.1で臨床的有意とみなす)を算出した。LAI抗精神病薬の有効性は、全体および年齢、性別、経口抗精神病薬に対するコンプライアンス(年間80%以上の抗精神病薬服用を良好と定義)で層別化し、分析した。 主な結果は以下のとおり。・対象は、1万2,373例。・LAI抗精神病薬の使用は、男性(58.1%)、若年(18~34歳:42.0%)、コンプライアンス不良(63.7%)患者でより多かった。・LAI抗精神病薬治療により、コンプライアンス不良患者の精神科入院の回数(SMD:-0.19)、期間(SMD:-0.26)、精神科救急受診(SMD:-0.12)の減少効果が確認されたが、コンプライアンス良好患者では、その効果は認められなかった。・第1世代LAI、パリペリドンLAI、アリピプラゾールLAIによる治療により、精神科入院(各々、SMD=-0.20、-0.24、-0.21)および精神科救急受診(各々、SMD=-0.15、-0.13、-0.15)を減少させました。・年齢、性別による有意な差は認められなかった。・コンプライアンス良好患者では、アリピプラゾールLAIのみが、精神科入院数の減少に寄与していた(SMD=-0.13)。・リスペリドンLAI(SMD=0.15)、パリペリドンLAI(SMD=0.18)では、入院期間の延長が認められた。

2416.

英語で「再確認しましょう」は?【1分★医療英語】第94回

第94回 英語で「再確認しましょう」は?Is this dose correct?(この用量で大丈夫でしたか?)Let’s double-check.(再確認してみましょう)《例文1》医師Have you sent this medication to their pharmacy?(この薬を患者さんの薬局に処方してありますか?)看護師Yes, but let me double-check.(はい、でも再確認しますね)《解説》“double-check(double check)”の表現を学びましょう。これは医学以外でも幅広く使われる英語表現なので、すでに知っている方も多いと思います。日本語でも「ダブルチェック」という言葉はそのまま使われますよね。ただ、日本の医療現場で「ダブルチェック」と言ったとき、「2人が同時にチェックする」という意味で使われることが多いかと思います。英語の場合はちょっとニュアンスが異なります。ケンブリッジ辞典では、“To make certain that something is correct or safe, usually by examining it again.”(もう一度調べることによって、何かが正しいのか問題がないのかを確認すること)と記載がありますが、「正しいかどうかを、チェックすることで確かめる」といったような意味になります。“double-check”を聞かない日はないくらい、医療現場で頻用されている表現です。意味としてはほぼ同じなのですが、さらに“extra”な表現として“double-check”の上の“triple-check”なんて言うこともあります。講師紹介

2417.

第177回 血小板因子が脳を若返らせる

血小板因子が脳を若返らせる3チーム3様の視点で取り組んだ脳の若返り因子探索がどれも1つの成分に行き着き、それらの成果が3チームの示し合わせのうえで先週16日にNature誌とその姉妹誌2つに同時に報告されました1)。若い動物と老いた動物の血液循環をつなぐと老いた動物が若返ることが知られています。2014年に発表された実験では、血液から細胞を省いた部分である血漿にその効果があることが示されました。その実験では若いマウスの血漿が老いたマウスに注射されました。すると老化に伴う認知機能障害が改善し、学習や記憶が向上しました2)。その報告の筆頭著者だった米国・カリフォルニア大学のSaul Villeda氏が指揮役になってからのさらなる研究で血小板から放たれる血小板第4因子(PF4)が老化マウスの認知機能を改善することが突き止められ、Nature誌にその成果が発表されました3)。まずVilleda氏らは若いマウスの血漿の血小板分画を老化マウスに投与すると脳の老化の特徴である神経炎症指標が落ち着くことを見出しました。続いて血小板分画のどの成分がそれらの有益効果を担うかという検討に移り、若いマウスの血漿にはPF4が豊富なことを発見します。ヒトでも同様で、老人より若い人の血漿検体にはPF4がより豊富でした。運動は老化に伴う認知機能低下を食い止める働きがあり、脳の海馬(の歯状回)の神経新生が運動で増えることへのPF4の寄与が先立つ研究で示唆されています。また、ヒトやサルのPF4が老化に応じて減ることが確認されています。ということはPF4に若返りの作用があるのかもしれません。どうやらその予想は正しく、Villeda氏らのチームが老いたマウスにPF4を注射したところ若い血漿を投与したときと同様の効果が認められました。PF4が投与された老化マウスでは海馬の神経炎症が和らぎ、シナプス可塑性に携わる指標の発現が高まり、記憶や学習の検査成績が良くなりました。神経新生が運動で増えることにどうやらPF4が寄与することを示した上述の成果を2019年に報告したTara Walker氏らの新たな研究でもPF4の抗老化作用がマウス実験で示され、Villeda氏らのNature誌報告と同時にNature Communications誌にその成果が発表されました4)。Walker氏らの新たな研究の結果、運動で血小板が活性化することで老化マウスの海馬の細胞増殖が向上し、血小板由来の成分であるPF4の全身循環の増加が海馬の神経新生促進を介して認知機能を若返らせることが示されています。同時に発表されたもう1つの報告では、寿命を延ばすことが知られるホルモンの働きに必要な因子の探索でPF4が発掘されました。クロトー(klotho)と呼ばれるそのホルモンは長寿をもたらすことに加えて脳機能も改善します。しかし末梢に投与したクロトーは血液脳関門(BBB)を通過できず、脳に到達しません。そこで、クロトーと脳機能改善の関係を仲立ちする成分が探索され、意外にもPF4がその作用を担うことが突き止められました。Nature Aging誌に掲載されたその研究の結果、クロトーはPF4を含む血小板因子を増やし、末梢に投与したPF4は脳に到達可能であり、マウスの老いも若きもPF4投与で認知機能が上向きました5)。ところで、PF4を欠くマウスでもクロトーは認知機能向上効果を有しました。ということはクロトーと認知機能向上の関連を橋渡しするPF4以外の未知の因子がどうやら存在するようです。血小板因子の手入れで老化による脳の衰えを回復できるかもしれないとVilleda氏らの報告には記されています3)。また、アルツハイマー病などの高齢者の認知症の治療にも血小板因子が役立ちそうです。参考1)Blood factor can turn back time in the aging brain / Eurekalert2)Villeda SA, et al. Nat Med. 2014;20:659-663.3)Schroer AB, et al. Nature. 2023 Aug 16. [Epub ahead of print]4)Leiter O, et al. Nat Commun. 2023;14:4375.5)Park C, et al. Nat Aging. 2023 Aug 16. [Epub ahead of print]

2418.

医療者のメンタルヘルス、1日20分の在宅運動で改善

 COVID-19のパンデミック中、医療従事者のメンタルヘルスは著しく低下したことが報告されている。医療従事者を対象に、アプリを使った在宅運動プログラムの介入を行い、メンタルヘルスが改善するかどうかを見た試験の結果が、JAMA Psychiatry誌オンライン版2023年8月9日号に掲載された。 ブリティッシュ・コロンビア大学(カナダ)のVincent Gosselin Boucher氏らの研究チームは2022年4月6日~7月4日に同エリアの医療機関において参加者を募集した。参加者は指定のアプリを使い、自重インターバルトレーニング、ヨガ、バー運動など、在宅で行う20分/日、週4回の運動を、12週間継続するように求められた。運動に対するアドヒアランスはアプリ利用時間から測定した。 主要アウトカムは、抑うつ症状の群間差であり、10項目のCenter for Epidemiological Studies Depression Scale(CESD)を用いて測定された。副次的アウトカムは、燃え尽き症候群(シニシズム、疲労感、職業的効力のサブセットで測定)、欠勤率であった。2週間ごとにFeingold効果量(ES)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・登録された288例は平均年齢41.0(SD:10.8)歳、246例(85.4%)が女性で、運動群(n=142)と運動を行わない対照群(n=146)に割り付けられた。・抑うつ症状に対する運動効果は、4週目までは有意ではあったが非常に小さかった(ES:-0.19、95%信頼区間[CI]:-0.37~0.00)が、試験終了時の12週目には有意な小~中程度の治療効果(-0.41、95%CI:-0.69~-0.13)が示された。・燃え尽き症候群の2つのサブセットであるシニシズム(12週目ES:-0.33、95%CI:-0.53~-0.13)と疲労感(-0.39、95%CI:-0.64~-0.14)、欠勤率(r=0.15、95%CI:0.03~0.26)については、有意かつ一貫した効果が示された。・週80分の運動のアドヒアランスは、2週目の78例(54.9%)から12週目には33例(23.2%)まで減少した。 研究者らは「運動は医療従事者の抑うつ症状を軽減したが、試験終了まで継続できた人は少なかった。医療従事者のメンタルヘルス改善を維持するために、運動プログラム継続を最適化することは重要な課題である」としている。

2419.

HIVはコンドーム無しのセックスでもうつりません―How low viral load is low enough for HIV zero transmission(解説:岡慎一氏)

 HIVはセックスでうつるので、コンドームで予防しましょう。これは、わが国で40年間言われ続けている予防法である。「HIVが感染したのは、コンドームの使い方が悪かったからだ」と、使い方まで事細かに指導されてきた。しかし、感染は減らなかった。曝露前予防(PrEP)の有効性が確認されると、「PrEPでコンドームの使用が減るので、ほかの性感染症が増える」と、PrEPを批判する人まで出てくる始末である。コンドームを使うなとは言わないが、口からでもうつる梅毒はコンドームでは防げない。ほかの性感染症もしかり。 この10年、HIV感染予防に有効なのは、コンドームではなく「治療でウイルス量を下げることだ」ということが、多くの臨床研究から明らかになってきた。口火を切ったのは、Myron Cohenらが行ったHPTN 052試験で、片方が感染していない(discordant couple)約1,800組の夫婦間での感染を、治療群と感染予防教育群(治療待機群)で検討した研究であった。10年間の予定であったが、3年目の中間解析で感染予防教育群惨敗の結論が出た。“Treatment as Prevention (T as P)”という言葉が生まれた。次に決定的だったのは、Alison Rodgerらが行った、782組のゲイのdiscordant coupleでのコホート研究である。ウイルスを半年以上検出限界以下に抑えていたカップル間では、最も感染リスクが高いといわれているコンドーム無しの肛門性交を7万6,088回行っても感染はゼロであった。この結果から、“undetectable equals untransmittable (U=U)”という言葉が生まれた。この結果は、治療でウイルスを抑えれば、パートナーにHIVを感染させることはないことを証明し、感染者を大いに勇気づけた。U=Uは、HIV感染症の差別・偏見をなくすキャンペーンの中心的な合言葉となった。 とはいえ、問題は感染者数が圧倒的に多いが、感度の良いウイルス量測定ができない、治療薬も先進国ほど進んでいない途上国である。検出限界以下なら問題なし。200コピー/mL以下でも感染しないことは、多くの先進国の研究で明らかである。それでは、「1,000コピー/mL以下ではどうか」を、systematic reviewで検討したのがこの論文である。その結果、条件に該当する約7,700組のdiscordant coupleで感染したのは2例であった。途上国でも、ろ紙血を使ったウイルス量測定で1,000コピー/mLなら何とか測れる。とにかく、1,000コピー/mL以下にウイルス量を下げ、維持できれば、新規HIV感染を防ぐことができるということが証明された。How low is low enoughの答えは、1,000コピー/mLである。

2420.

第160回 医療機関の倒産が急増、とくに診療所に深刻な影響

<先週の動き>1.医療機関の倒産が急増、とくに診療所に深刻な影響2.来年の診療報酬改定に向け、高齢者の救急搬送問題などの議論開始/厚労省3.厳しい経営環境の中、大学病院で求められる働き方改革/文科省4.神戸の医師自殺、労災認定。遺族と病院、労働時間を巡り対立/兵庫5.電子カルテ情報の全国共有化へ、令和7年に法案提出を計画/政府6.YouTube、新型コロナワクチンについて誤った医療情報のコンテンツを削除へ1.医療機関の倒産が急増、とくに診療所に深刻な影響新型コロナウイルス感染症禍以降、医療機関の倒産が増加の一途を辿っていることが今回明らかになった。とくに診療所は競争が激化しており、今年前半は過去10年間で最速のペースでの倒産があり、今年は10年間で最多の倒産件数となる見込みである。帝国データバンクの調査によれば、診療所の経営者の平均年齢は68歳前後で、1代限りで廃業を考える経営者も増えており、地域によっては社会問題へと発展する可能性もある。コロナ禍で、政府の各種の支援策や返済のリスケジュールなどにより、倒産は一時的に減少したものの、2022年には早くも増加の傾向に転じている。とくに2023年は、医療法人社団心和会の倒産が注目され、その負債総額は132億円と過去3番目の大きさとなった。一方、医療用医薬品の販売会社の支店長は、「医療の多角化についていけない診療所が増えている」と指摘。また、「ゼロゼロ融資の返済が始まる中、患者が来ない医療機関には注意が必要」との声も上がっており、債権管理が今後の重要な焦点となる。これらの動向を受け、医療機関、とくに診療所の経営環境は今後も厳しさを増していくことが予想されている。参考1)2022年度の「診療所」倒産、過去最多の22件「コロナ関連」は減少、後継者難や不正発覚が増加(東京商工リサーチ)2)医療機関の倒産が再び増加 診療所、高齢化で厳しさ増す(日経産業新聞)2.来年の診療報酬改定に向け、高齢者の救急搬送問題などの議論開始/厚労省厚生労働省は、8月10日に中央社会保険審議会の「入院・外来医療等の調査・評価分科会」を開催、急性期入院医療について具体的な検討を開始した。この中で、一般病棟用の重症度、医療・看護必要度について、2022年度の診療報酬改定で「心電図モニタ管理」が削除されたため、多くの病院での看護必要度の低下に対して、「注射薬剤3種類」を増加させることで影響は相殺していた。厚労省はこのような病院側の対応について、看護必要度の適正化を求めている。また、高齢者の誤嚥性肺炎や尿路感染症の患者は、医療資源投入量が高くないにも関わらず、救急搬送後の入院後5日間は、看護必要度のA項目2点が追加されるため、入院単価の高い急性期一般1の病床へ高齢者の救急搬送を促進している可能性を指摘されるなど、今後、さらに議論を重ね、看護必要度について改善案についての検討が進むとみられる。参考1)令和5年度 第5回 入院・外来医療等の調査・評価分科会(厚労省)2)看護必要度が「高齢の誤嚥性肺炎等患者の急性期一般1への救急搬送」を促している可能性-入院・外来医療分科会(Gem Med)3)看護必要度また見直しへ、24年度に入院の機能分化促進(CB news)3.厳しい経営環境の中、大学病院で求められる働き方改革/文科省文部科学省は、8月16日に「今後の医学教育の在り方に関する検討会」を開催し、大学病院に対して、大学病院の運営や教育・研究・診療、財務などの面での改革プランの策定を促進するための「議論の整理」を提案した。背景には、大学病院が増収減益という厳しい経営状況に加え、医師の働き方改革を進めつつ、教育・研究機能の維持が必要とされており厳しい環境にあるため。この「議論の整理」には、大学病院の役割や機能、基本的な考え方、運営の方針などが含まれており、大学病院の指導教官らの教育・研究の時間が減少し、臨床に割かれる時間が増大している現状を反映している。これに対して、国は大学病院の改革を支援する方針を示しており、とくに経営状況の改善や教育・研究機能の強化を求めている。座長の永井 良三氏は、現行の大学設置基準が現代のニーズに合わせて更新されるべきであり、大学病院の臨床機能の強化と、そのための国の支援が必要だと指摘した。参考1)大学病院の9割「研究成果が減少」と危惧…「医師の働き方改革」で残業規制へ(読売新聞)2)研究時間確保へ、文科省が「大学病院改革」 働き方改革に向け(Medifax)3)大学病院改革、「診療規模」「運営」の再検討を 文科省検討(同)4.神戸の医師自殺、労災認定。遺族と病院、労働時間を巡り対立/兵庫神戸市東灘区の甲南医療センターに勤務していた26歳の男性医師が2022年6月に自殺した事件について、西宮労働基準監督署は、長時間労働によるうつ病が自殺の主な原因であると判断し、「労災」と認定した。医師の遺族は8月18日に記者会見を開き、この認定を明らかにした。遺族によると、この医師は亡くなる直前まで100日間連続で勤務しており、月の残業時間は200時間を超えていた。遺族は「病院側は具体的な再発防止策を取っておらず、人の命を軽視している」と病院の対応を批判しており、遺族は昨年12月に病院の運営法人を労働基準法違反の疑いで西宮労基署に刑事告訴している。今後は、損害賠償を求める訴訟を起こすことも検討している。病院側は、労働時間に関する主張を否定し、過重労働の認識はないとの立場を示している。遺族と病院側では、実際の労働時間に関して見解が異なっており、病院側が記者会見で述べた「知識や技能を習得する自己研鑽の時間が含まれており、すべてが労働時間ではない」とする主張に対して、批判が集まっている。参考1)神戸 勤務医自殺で労災認定 遺族会見“病院は労務管理せず”(NHK)2)神戸の26歳専攻医自殺、労災認定 残業月207時間(毎日新聞)3)甲南医療センター過労自殺 遺族が会見「医師を守れない病院に患者を守れるのか」(神戸新聞)5.電子カルテ情報の全国共有化へ、令和7年に法案提出を計画/政府政府は、全国の医療機関や薬局で電子カルテの情報を共有する仕組みを進める方針を強化しているが、今後の計画が明らかになってきた。6月に開催された「医療DX推進本部」において示された医療DXの推進に関する工程表に基づいて、岸田総理大臣は医療分野のデジタル化の取り組みを進行するよう関係閣僚に指示しており、マイナンバーカードと健康保険証の一体化を加速し、来年秋には現行の保険証を廃止、これを基盤として、電子カルテ情報の全国共有化を目指す方針が決定されている。政府は、令和7年の通常国会に関連する法案を提出する方針を固めており、「マイナ保険証」を通じて、患者の過去の診療記録を全国の病院や診療所で閲覧可能にし、データに基づく適切な医療提供を促進する狙いがある。電子カルテ共有のためのネットワークの構築は、厚生労働省所管の「社会保険診療報酬支払基金」が主導して進める方針となっており、今後もさらに国民に対してマイナンバーカードの普及を働きかけ、より効率的・効果的な医療サービスの提供を行っていくことを目指していく。参考1)医療DXの推進に関する工程表(内閣官房)2)電子カルテ活用へ、政府が令和7年に法案提出方針 マイナ保険証通じ全国共有(産経新聞)3)医療分野デジタル化 “電子カルテの共有 来年度中に”首相指示(NHK)6.YouTube、新型コロナワクチンについて誤った医療情報のコンテンツを削除へ/GoogleGoogleの動画配信サービスYouTubeが、誤った医療情報を含むコンテンツに対する新しい方針を発表した。これにより、「予防」、「治療」、「事実の否定」の3カテゴリーに分けてガイドラインが整理される。とくに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の存在を否定したり、確実な予防・治療法があるとの不正確な情報を含むコンテンツは許可されず、即時に削除される。また、がん治療に関する非科学的な主張、たとえば「ニンニクやビタミンCががんを治療する」といったコンテンツも削除対象となる。さらにYouTubeは、信頼性のある医療情報提供のため、メイヨー・クリニックとの協力を発表。高品質な医療情報を提供する映像コンテンツの共有が進められる。YouTubeは、医療誤報ポリシーの透明性を高め、コンテンツ制作者と視聴者の理解を深めることを目指しているとコメントしている。参考1)YouTube、「新型コロナは存在しない」など誤った医療情報を含むコンテンツを削除へ(ケータイ Watch)2)YouTubeが「有害あるいは効果がないと証明されたがん治療法」を宣伝するコンテンツを削除すると発表(GIGAZINE)

検索結果 合計:11808件 表示位置:2401 - 2420