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コルヒチン、心臓以外の胸部手術で心房細動を予防せず/Lancet

 主要な非心臓胸部手術を受けた患者において、コルヒチンは臨床的に重大な周術期心房細動(AF)および非心臓術後の心筋障害(MINS)の発生を有意に低下しないばかりか、ほとんどは良性だが非感染症性下痢のリスクを増大することが示された。カナダ・Population Health Research InstituteのDavid Conen氏らが、コルヒチンの周術期AF予防について検証した国際無作為化試験「COP-AF試験」の結果を報告した。炎症性バイオマーカー高値は、周術期AFおよびMINSリスク増大と関連することが知られている。これらの合併症の発生を抗炎症薬のコルヒチンが抑制する可能性が示唆されていた。Lancet誌オンライン版2023年8月25日号掲載の報告。11ヵ国45施設で無作為化プラセボ対照試験 COP-AF試験は、11ヵ国(オーストリア、ベルギー、カナダ、中国、コロンビア、イタリア、マレーシア、パキスタン、スペイン、スイス、米国)の45施設で行われた研究者主導の無作為化プラセボ対照試験。低用量コルヒチンが主要な非心臓胸部手術後の周術期AFおよびMINSの発生予防に有効であるかを評価した。 主要な非心臓胸部手術を受ける55歳以上の患者(全身麻酔で施術し術後少なくとも1泊の入院が予想される)を、無作為に1対1の割合で、経口コルヒチン0.5mgを1日2回またはマッチングプラセボを投与する群に割り付け、術後4時間以内に投与を開始し10日間継続した。 無作為化はコンピュータ・ウェブベースシステムを用いて行い、施設による層別化を行った。医療ケア提供者、患者、データ収集担当者、評価者は治療割り付けをマスクされた。 主要アウトカムは2つで、フォローアップ14日間の臨床的に重大な周術期AFおよびMINSの発生であった。主な安全性アウトカムは敗血症または感染症の複合、および非感染性下痢とした。すべての解析で、intention-to-treat解析を原則とした。周術期AFとMINSの発生は有意差なし、一方で非感染性下痢が3.64倍 2018年2月14日~2023年6月27日に、3,209例(平均年齢68歳[SD 7]、男性1,656例[51.6%])が登録された。 臨床的に重大な周術期AFの発生は、コルヒチン群103/1,608例(6.4%)、プラセボ群120/1,601例(7.5%)であった(ハザード比[HR]:0.85[95%信頼区間[CI]:0.65~1.10]、絶対リスク減少[ARR]:1.1%[95%CI:-0.7~2.8]、p=0.22)。 MINSの発生は、コルヒチン群295/1,608例(18.3%)、プラセボ群325/1,601例(20.3%)であった(HR:0.89[95%CI:0.76~1.05]、ARR:2.0%[95%CI:-0.8~4.7]、p=0.16)。 また、敗血症または感染症の複合の発生は、コルヒチン群103/1,608例(6.4%)、プラセボ群83/1,601例(5.2%)であった(HR:1.24[95%CI:0.93~1.66])が、非感染性下痢は、コルヒチン群(134/1,608件[8.3%])がプラセボ群(38/1,601件[2.4%])よりも多く認められた(HR:3.64[95%CI:2.54~5.22])。

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脳梗塞、血管内治療可能な施設で血栓溶解療法は必要か/Lancet

 大血管前方循環脳卒中に対する血管内治療での静脈内血栓溶解療法の意義を検討したオランダ・アムステルダム大学のCharles B. Majoie氏らは、血管内治療センターに直接入院した患者において、血管内治療単独が血管内治療+静脈内血栓溶解療法に対し非劣性であることを立証できなかったと報告した。血管内治療前の静脈内血栓溶解療法が推奨されているが、その意義は血管内治療が可能な施設に直接入院した患者では疑問視されていた。既存の6つの無作為化試験では、2試験で血管内治療単独の非劣性が示されているが、4試験では統計学的確証は得られておらず、研究グループは今回、この6試験の参加者データを用いてメタ解析を行った。Lancet誌オンライン版2023年8月25日号掲載の報告。6つの無作為化試験の患者データをメタ解析 研究グループは、血管内治療単独(単独群)の血管内治療+静脈内血栓溶解療法(併用群)に対する非劣性を評価するImproving Reperfusion Strategies in Acute Ischaemic Stroke(IRIS)コラボレーションを立ち上げ、システマティック・レビューとメタ解析を行った。 「stroke」「endovascular treatment」「intravenous thrombolysis」および同義語の単語を用いて、データベース開始~2023年3月9日に公表された論文について、PubMed、MEDLINEを検索。言語を問わず、関連トピックの無作為化試験を包含した。特定した試験の著者らに、IRISコラボレーションのメタ解析に参加することの同意を得たうえで、個別参加者のデータを各試験の主任研究者から提供してもらい、研究グループによって一元的に解析・評価した。 主要アウトカムは、90日時点の修正Rankin Scale(mRS)スコア。単独群の非劣性マージンは、補正後共通オッズ比(acOR)の95%信頼区間(CI)下限値0.82とし、順序回帰法にてアウトカム改善(機能的独立性の絶対差5%に相当)への移行について評価した。すべての解析は、混合効果モデルを用いて行った。90日時点のmRSスコア中央値は同等 検索により1,081試験を特定し、解析に適格であった6試験(被験者計2,313例、単独群1,153例、併用群1,160例)を包含した。6試験のリスクバイアスは低~中程度であった。また、試験間のばらつきは小さく、主に血栓溶解薬の選択と用量および死刑執行国に関連したものであった。 90日時点のmRSスコア中央値は、単独群3(四分位範囲[IQR]:1~5)、併用群2(1~4)であった(acOR:0.89、95%CI:0.76~1.04)。あらゆる頭蓋内出血の発現頻度は、併用群よりも単独群で低かった(0.82、0.68~0.99)。症候性の頭蓋内出血の発生率および死亡率については、大きな違いはみられなかった。 これらの結果を踏まえて著者は、「さらなる研究では、費用対効果の解析のほか、患者の特性や薬剤の不足あるいは供給の遅れといった、血管内治療前の静脈内血栓溶解療法の潜在的な利点を相殺すると予想される個別の要因に焦点が当てられるだろう」と述べている。

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女性での長寿の鍵は60歳以降の体重の維持?

 女性では、60歳以降に体重を一定に保つことで、90歳、95歳、あるいは100歳という長寿を望める可能性の高まることが、米カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)Herbert Wertheim School of Public Health and Human Longevity ScienceのAladdin Shadyab氏らによる研究で明らかにされた。体重が安定している年配女性は、体重が5%以上減少した女性よりも1.2倍から2倍の確率で90〜100歳という長寿を得ていることが示されたという。この研究の詳細は、「Journals of Gerontology Series A: Biological Sciences and Medical Sciences」に8月29日掲載された。 この研究では、Women’s Health Initiativeのデータを用いて、女性での60歳以降の体重変動と、90・95・100歳までの生存との関連が検討された。対象者は、1932年2月19日以前に生まれ、試験登録時(ベースライン)とその3年後、および10年後に測定した体重データがそろう61〜81歳の5万4,783人で、2022年2月19日まで追跡された。対象者は体重の増減に基づき、体重減少群(ベースラインから5%以上の減少)、体重増加群(ベースラインから5%以上の増加)、体重維持群(ベースラインからの体重の増減が5%未満)の3群に分類された。体重減少については、それが意図的なものであるかどうかが、ベースラインから3年後の調査時に確認されていた。この3年後の調査から1年以内に死亡した346人を除外した5万4,437人が最終的な解析対象とされた。 解析の結果、ベースラインから3年後では、体重減少群では体重維持群に比べて、90歳まで生きる可能性が33%(オッズ比0.67、95%信頼区間0.64〜0.71)、95歳まで生きる可能性が35%(同0.65、0.60〜0.71)、100歳まで生きる可能性が38%(同0.62、0.49〜0.78)、有意に低いことが明らかになった。同様に、ベースラインから10年後では、体重減少群では体重維持群に比べて、90歳まで生きる可能性が40%(同0.60、0.52〜0.69)、95歳まで生きる可能性が49%(0.51、0.41〜0.63)、有意に低かった。これらのオッズ比に基づくと、体重維持群が90〜100歳まで生きる可能性は体重減少群の1.2〜2倍であると計算された。 体重減少と長寿との関連は、体重減少が意図的でなかった場合に、より顕著であった。例えば、ベースラインから3年後では、体重減少群のうち、減量が意図的であった人では90歳まで生きる可能性が体重維持群よりも17%低かったのに対し、減量が意図的でなかった人では51%も低いことが示された。 一方、体重の増加に関しては、3年後の時点では、90歳、95歳、100歳までの生存に関して、体重増加群と体重維持群との間に有意な差は認められなかった。また、10年後の時点でも、90歳、95歳までの生存に関して、両群間で有意な差は認められなかった。 Shadyab氏は、「米国では、加齢に伴いBMIが25〜35の過体重や肥満に該当するようになる女性が非常に多い。しかし、この研究結果は、年配の女性が長寿を望むのであれば、体重の維持を目標とするべきことを裏付けるものだ」と話す。同氏はさらに、「年配の女性での意図しない体重減少は、健康に問題が生じていることを知らせるサインであり、寿命短縮の予測因子と見なせる可能性がある」と同大学のニュースリリースで語っている。 研究グループは、「この結果から判断すると、年配の女性に対して一般的に推奨されている減量は、長寿には役立たない可能性がある。ただし、健康や生活の質を改善するために適度な減量が推奨されている場合には、その医学的助言に耳を傾けるべきだ」と述べている。 なお、本研究は、米国立衛生研究所(NIH)、米国立心肺血液研究所(NHLBI)、米国保健社会福祉省から一部資金提供を受けて実施された。

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食事の質は片頭痛にも影響

 イラン・Isfahan University of Medical SciencesのArghavan Balali氏らは、食事の質と片頭痛との関連性について、評価を行った。その結果、食事の質の改善は、片頭痛の頻度、重症度、関連する問題などの片頭痛アウトカムの改善と関連している可能性が示唆された。Nutritional Neuroscience誌オンライン版2023年8月5日号の報告。 20~50歳の片頭痛患者262例を対象に、横断的研究を実施した。食事の質の評価には、Healthy Eating Index 2015(HEI-2015)およびAlternative Healthy Eating Index 2010(AHEI-2010)を用いた。食事の摂取量の評価には、168項目の食事摂取頻度調査票(FFQ)を用いた。片頭痛のアウトカムには、臨床因子(重症度、期間、頻度、片頭痛に関連する問題)および血中一酸化窒素(NO)を含めた。食事の質と片頭痛アウトカムとの関連性は、線形回帰を用いて評価し、βおよび95%信頼区間(CI)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・HEI-2015では、関連する交絡因子で調整した後、HEIスコアが最も高い群(第3三分位)と最も低い群(第1三分位)との間において、片頭痛頻度の逆相関が認められた(β:-4.75、95%CI:-6.73~-2.76)。・AHEI-2010では、調整済みモデルにおいて、片頭痛頻度(β:-3.67、95%CI:-5.65~-1.69)および片頭痛に関連する問題(β:-2.74、95%CI:-4.79~-0.68)と逆相関が認められた。・AHEI-2010では、第2三分位と第1三分位との間において、片頭痛重症度の逆相関が認められた(β:-0.56、95%CI:-1.08~-0.05)。・食事の質とNOレベルとの関連は認められなかった(p>0.14)。・本メカニズムの解明には、今後の研究が求められる。

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心筋梗塞後の痛みで死亡リスクが上昇か

 心筋梗塞後の痛みは、胸痛に限らず、長期生存の予測因子となるようだ。新たな研究によると、心筋梗塞から1年後に痛みがある人では、その後の死亡リスクが上昇する可能性のあることが示唆された。ダーラナ大学(スウェーデン)保健福祉学分野のLinda Vixner氏らによるこの研究の詳細は、米国心臓協会(AHA)が発行する「Journal of the American Heart Association」に8月16日掲載された。 Vixner氏は、「痛みは重大な機能喪失を引き起こし、身体障害をもたらす可能性がある。これらの問題は、いずれも世界的な公衆衛生問題につながっている。しかし、心筋梗塞後に生じる痛みが死亡リスクに与える影響について、これまで大規模な研究で検討されたことはない」と述べる。 この研究でVixner氏らは、スウェーデンの心疾患のデータベース(SWEDEHEART)から、2004年から2013年の間に心筋梗塞を起こした75歳未満の患者1万8,376人(平均年齢62.0歳、男性75%)のデータを分析した。患者は、退院から12カ月後の時点の追跡調査において、痛みも含めた健康に関する質問票に回答していた。痛みについては、「痛みや不快感はない」「中等度の痛みや不快感がある」「非常に強い痛みや不快感がある」の3つの選択肢が用意されていた。この追跡調査から最長8.5年間(中央値3.4年間)のあらゆる原因による死亡(全死亡)に関するデータを集めて、心筋梗塞から1年後の痛みの重症度と全死亡との関連について検討した。 対象者の4割以上が、退院から12カ月後の追跡調査時に中等度または非常に強い痛みのあることを報告していた(中等度の痛み:7,025人、非常に強い痛み:834人)。年齢や性別、胸痛、BMIなどの関連因子を調整して解析した結果、中等度の痛みがあった患者では、その後、最長8.5年間における全死亡リスクが、痛みのない患者よりも35%高いことが明らかになった(ハザード比1.35、95%信頼区間1.18〜1.55)。また、非常に強い痛みのある患者での同リスクは、痛みのなかった患者の2倍以上だった(同2.06、1.63〜2.60)。心筋梗塞後の痛みについては、退院から2カ月後にも調査が行われたが、この際に痛みを経験していた患者の65%は12カ月後の追跡調査時にも痛みを訴えており、痛みが慢性的なものであることが示唆された。 Vixner氏は、「心筋梗塞後には、将来の死亡の重要なリスク因子として痛みの有無を評価し、認識することが重要だ。また、激しい痛みは、リハビリテーションや定期的な運動などの心臓を保護する重要な活動への参加を妨げる可能性がある」と指摘。「痛みのある患者においては、喫煙、高血圧、高コレステロール値など、他のリスク因子を減らすことが特に重要だ」と話している。さらに研究グループは、「医師は、治療を勧めたり予後を判断したりする際に、患者が中等度または非常に強い痛みを経験しているかどうかを考慮すべきだ」と述べている。ただし、この研究はスウェーデンに住んでいる人だけを対象としているため、他の国に住んでいる人には当てはまらない可能性がある。 なお、AHAによると、米国では40秒に1件の割合で心筋梗塞が生じているという。

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犬は新型コロナウイルスのにおいをかぎ分けられる

 犬は、医療機関でのRT-PCR検査や自宅で行う抗原検査などの現代のテクノロジーよりも迅速で的確、かつ安価に新型コロナウイルス感染を検出し得ることが、過去2年ほどの間に犬による新型コロナウイルス検出に関して相次いで報告された研究論文のレビューで明らかにされた。米カリフォルニア大学サンタバーバラ校地理学名誉教授のTommy Dickey氏と米BioScent社のHeather Junqueira氏によるこの研究の詳細は、「Journal of Osteopathic Medicine」に7月17日掲載された。 Dickey氏らは、2019年12月から2023年4月の間に発表された、新型コロナウイルスのにおいをかぎ分ける訓練を受けた犬に関する29本の査読済み論文を体系的に収集して、その有用性や安全性、実用性に関する評価を行った。対象論文では、32カ国の400人以上の科学者が、147頭の犬の嗅覚による新型コロナウイルスの検出能力を、3万1,000点以上のにおいのサンプルや直接人間のにおいをかがせることで検討していた。なお、Dickey氏らは、2021年8月にも同じテーマでレビューを実施したが、その際の対象論文はわずか4本であったという。 全ての結果を統合して解析すると、犬の嗅覚を用いた新型コロナウイルス検査の感度は92.3%の論文で80%を超えており、32.0%の論文では特異度が97%を超えていた。また、84.0%の研究で特異度は90%以上だった。さらに、犬は、呼気、唾液、気管支分泌物、尿、マスク、衣類などから新型コロナウイルスを検出できること、訓練を積んだ犬であれば、症状が出る前の患者や無症状の患者の検出も可能であること、訓練を受けた経験のない新型コロナウイルスの新規変異株感染者や後遺症患者の検出も可能であること、新型コロナウイルス感染者と別の新しい呼吸器系ウイルス感染者とを区別する能力があることも示されていた。 犬がにおいで新型コロナウイルスを検出できるのは、嗅覚が高度に進化し、物理的にも神経的にも最適化されているからだとDickey氏らは説明する。におい分子をとらえる役割を果たしているのは嗅覚受容体であるが、その数は、人間で500万〜600万個であるのに対して犬では数億個に達するという。また、犬では、脳の3分の1が受け取ったにおい情報の分析に費やされているのに対し、人間では脳のわずか5%程度が費やされているに過ぎない。Dickey氏は、「犬は、10.5個分のオリンピックサイズのプールで1滴のにおい物質を検出することができる。この検出力は、科学的な機器よりも3桁ほど優れている」と話す。 Dickey氏は、「犬の嗅覚を利用した検査の方が、RT-PCR検査や迅速抗原検査などよりはるかに効率的だ。実際に、本研究で対象とされたある論文の著者は、『今や、新型コロナウイルス検査のゴールドスタンダードは犬であり、RT-PCR検査ではない』とコメントしているほどだ」と話す。 さらにDickey氏は、「犬の嗅覚による検査はとにかく速い。直接においをかいでから数秒のうちに感染の有無を教えてくれる」と付け加えている。検査の迅速性は、特にパンデミックの初期には重要であったことが想像される。結果を迅速に得ることができれば、その情報も迅速に共有され、疾患の蔓延を遅らせる上で有効になるからだ。 Dickey氏らによると、犬の嗅覚を利用したこのような検査に理想的な犬種は、ビーグル、バセット・ハウンド、クーンハウンドなどだという。しかし、今回のレビューからは、他の犬種でも、また、ミックス犬か純血種かや、雄犬か雌犬かに関わりなく、さらにはたとえ子犬でも、数週間の訓練により新型コロナウイルスのにおいをかぎ分けることは可能であることが示されたという。 Dickey氏とJunqueira氏は、「われわれの論文で紹介された、犬による新型コロナウイルス検出に関する研究は、国際的に見ても質が高く情報量も豊富であった。このことは、医療現場で医療用探知犬が、ついに主要な医療用用途に利用できるようになったことを示している」と結論付けている。

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糖分を多く含む食品は腎臓結石をできやすくする可能性

 糖分の多い食品を避けるべき理由は多々あるが、腎臓結石のリスクを避けることも、そうすべき理由の一つかもしれない。3万人近い米国成人を対象とした研究から、添加糖の摂取量の多寡で腎臓結石のリスクに39%の差が生じる可能性が明らかになった。川北医学院付属病院(中国)のShan Yin氏らの研究によるもので、詳細は「Frontiers in Nutrition」に8月4日掲載された。 食品への砂糖の添加はさまざまな健康リスクと関連しているが、腎臓結石との関連はこれまでのところ明らかにされていない。Yin氏らは、2007~2018年の米国国民健康栄養調査(NHANES)のデータを解析してこの点を検討した。 解析対象は合計2万8,303人の成人で、加重平均年齢は48.03歳、男性が47.74%。添加糖からの摂取エネルギー量は平均272.10kcal、腎臓結石の既往者率は10.13%だった。交絡因子を調整後、添加糖からの摂取エネルギーの割合が低い第1四分位群(下位4分の1)と比較して、第4四分位群(上位4分の1)の腎臓結石のオッズ比は1.39(95%信頼区間1.17~1.65)と有意に高かった。また、総摂取エネルギー量に占める添加糖からのエネルギー量の割合が5%未満の群に比較して、25%以上の群の腎臓結石のオッズ比は1.88(同1.52~2.32)だった。 本研究には関与していない米マウントサイナイ・ヘルスシステムのJohnathan Khusid氏は、「腎臓結石の再発予防には、尿中の結石形成に関与する物質に焦点を当てた、より精緻な食事療法が最善ではあるが、添加糖の制限も確かに健康全般に良いことだ。糖分の過剰摂取が関連している肥満や2型糖尿病なども腎臓結石のリスクを高める可能性がある」と解説している。 米国腎臓財団によると、約10%の人が生涯で一度は腎臓結石に罹患し、小さな結石の多くは尿中に排出されるが、結石が大きい場合は尿閉や耐え難い痛みを引き起こすとのことだ。またKhusid氏によると、結石の多くにカルシウムが含まれているものの、食事中のカルシウム量は結石形成にほとんど関係がないという。とは言え、腎臓結石の予防に食習慣の改善は重要であり、尿量を増やすために水分を多く摂取すること、尿中に排泄されるカルシウムを減らすためにナトリウムの摂取を控えること、結石をできやすくする動物性タンパク質を摂り過ぎないことが推奨される。 Yin氏らの研究は横断研究であるため因果関係を証明するものではないが、米ニューヨーク大学(NYU)ランゴン・ヘルスのDavid Goldfarb氏は、「腎臓結石ができやすい人が添加糖の摂取を控えるべき理由は複数ある」と話す。その理由の一つは、「糖が尿中のカルシウムを増加させるという報告が古くから存在している」ためだという。また、Khusid氏と同じくGoldfarb氏も、糖を多く含む食事は体重増加につながり、肥満、高血圧、糖尿病などを引き起こして、間接的に腎臓結石リスクを押し上げる可能性があることを指摘している。「一般的に、腎臓の健康に良い食生活は、腎臓結石のリスクを押し下げるように働く」と同氏は述べている。 ただ、Khusid氏は、「腎臓結石の既往があり、再発予防の必要がある場合は、よりカスタマイズされた食生活の方が適切かもしれない」と語る。カスタマイズされた食生活のためには、24時間蓄尿により尿に含まれている物質を詳細に分析し、その結果に基づく食事指導を受けることが考慮されるとのことだ。しかしながら、どのような場合にも、水分補給の励行は役立ち、特に夏季の脱水症リスクが高い状況では、この点がより強調されるという。

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英文要約、書き換えに活用する【医療者のためのAI活用術】第5回

(1)英文要約に使えるプロンプト論文の執筆や学会の抄録作成などをしている際に、指定された文字数を超過していまい、文字数を削らなければならない、という経験をしたことはないでしょうか。そのような場合、ChatGPTに作成した文章を「○○字以内で要約してください」と指示すると、その条件で要約してくれるため重宝します。また、論文を一通り執筆した際にAbstractを作成する場合や、学会発表でスライド内の文字数を削りたい場合などに、文章を要約する機能が有効になります。プロンプトの例は以下のとおりです。#役割あなたはプロの英文編集者です#命令書入力文の要約を行ってください#制約条件出力は英語で行ってください○○ words以内で要約してくださいアカデミックな単語を使用しつつ、わかりやすい表現にしてください#入力文(ここに要約したい文章を入力)図1のような長い文章を100 words以内に要約するように依頼すると、図2のように指定された文字数で出力が返ってきます。出力した結果は入力した文章を元に作成しているため、大きな間違いは起こりにくいと思いますが、本来の意図と異なる内容になる可能性があるため、内容は必ずダブルチェックし、採用するかどうか取捨選択を行いましょう。あまりに見慣れない英語が多く、不自然に感じるという場合には、制約条件のところに「英語が母国語ではない人にとってもわかりやすい表現を使用してください」などというような条件を追加すると文調を調整することができます。なお、入力する言語や出力する言語はそれぞれ英語や日本語に指定することができます。(図1)要約前の文章画像を拡大する(図2)要約後の文章画像を拡大する(2)英文書き換えに使えるプロンプト英語で論文を書いている際に、「本文中の内容をAbstractにも繰り返して記載したい」というような場合、同じ表現を使用すると単調になってしまうことがあります。また、既存の論文の内容を参考にして文章を書きたい場合、引用元の表現を自分の論文に使用すると、剽窃になってしまう恐れがあります。こういった場合、元の文章を同じような意味でほかの言葉に置き換える「パラフレーズ」というテクニックが重要になります。英語が母国語ではない日本人にとっては苦痛な作業ですが、文章生成が得意なChatGPTを有効活用することで、労力を減らすことができます。以下は、パラフレーズに使えるプロンプトの例です。#役割あなたはプロの英文編集者です#命令書入力文のパラフレーズを行ってください#制約条件出力は英語で行ってください同じ意味を保ちつつ、なるべく文章の構造を変えるようにしてくださいアカデミックな単語を使用しつつ、わかりやすい表現にしてください#入力文(ここに書き換えたい文章を入力)書き換えを行った例を図3に示しています。こちらについても、作成後の文章の確認が必要で、とくに専門用語や固有名詞が置き換わってしまう可能性があるため注意しましょう。また、当然ですがこの作業を行えば必ず剽窃を避けることができるというものではなく、最終責任は著者自身にあることを自覚しておく必要があります。ChatGPTを書き換えに使う際のデメリットは、出力された文章がいまひとつだった場合に、ほかの単語や表現の候補を探すのに手間がかかるという点です。英文書き換えについては「QuillBot」のような、ほかのAIツールもあるため、頻繁に活用する方はChatGPT以外のツールを利用することをおすすめします。(図3)英文書き換えの例画像を拡大する

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分岐部病変のPCI、OCTガイドvs.血管造影ガイド/NEJM

 複雑な冠動脈分岐部病変を有する患者では、光干渉断層撮影(OCT)ガイド下経皮的冠動脈インターベンション(PCI)は血管造影ガイド下PCIと比較して、2年時点の主要有害心血管イベント(MACE)の発生率が低いことを、デンマーク・オーフス大学病院のNiels R. Holm氏らが、欧州の38施設で実施された多施設共同無作為化非盲検試験「European Trial on Optical Coherence Tomography Optimized Bifurcation Event Reduction(OCTOBER)試験」の結果、報告した。OCTガイド下PCIは、血管造影ガイド下PCIと比較してより良好な臨床アウトカムに関連することが知られているが、冠動脈分岐部を含む病変に対するPCIにおいても同様の結果が得られるかどうかは不明であった。NEJM誌オンライン版2023年8月27日号掲載の報告。主要エンドポイントは、2年時の主要有害心血管イベント(MACE) 研究グループは、18歳以上で、安定狭心症、不安定狭心症または非ST上昇型心筋梗塞を有し、PCIの臨床適応があり、冠動脈造影で複雑な分岐部病変(主幹:対照血管径2.75mm以上で狭窄率50%以上、側枝:対照血管径2.5mm以上、側枝入口部から5mm以内の狭窄が50%以上)が特定された患者を、OCTガイド下PCI群または血管造影ガイド下PCI群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、追跡期間中央値2年時点のMACE(心臓死、標的病変の心筋梗塞、または虚血による標的病変の血行再建術の複合)とした。MACE発生率は、OCTガイド下PCIで10.1%、血管造影ガイド下PCIで14.1% 2017年7月~2022年3月に計1,201例(平均±SD年齢66.3±10.2歳、女性21.1%)が登録され、OCTガイド下PCI群に600例、血管造影ガイド下PCI群に601例が割り付けられた。227例(OCTガイド下PCI群111例18.5%、血管造影ガイド下PCI群116例19.3%)が左冠動脈主幹部に病変を有し、231例が他の標的病変も治療された多枝病変であった。 主要エンドポイントの2年時点のMACEイベントは、OCTガイド下PCI群で59例(10.1%)、血管造影ガイド下PCI群で83例(14.1%)が確認され、ハザード比(HR)は0.70(95%信頼区間[CI]:0.50~0.98、p=0.035)であった。 手技関連合併症は、OCTガイド下PCI群41例(6.8%)、血管造影ガイド下PCI群34例(5.7%)に発現した。

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ブルーライトカット眼鏡に目の保護効果は期待できない?

 パソコンなどのスクリーンを見る時間が長い人は、しばしば、目を保護するためにブルーライトカット機能がある眼鏡を購入する。しかし、新たなレビュー研究で、ブルーライトカット眼鏡は、少なくとも短期的には眼精疲労、目の健康、睡眠の質にほとんど影響を及ぼさないことが示された。メルボルン大学(オーストラリア)ダウニー研究室のLaura Downie氏らによるこの研究の詳細は、「Cochrane Database of Systematic Reviews」に8月18日掲載された。 この研究では、ブルーライトカット眼鏡の効果をブルーライトカット機能がない眼鏡との比較で検討した17件のランダム化比較試験(RCT)の結果のレビューが行われた。これらのRCTは、世界6カ国で実施されたもので、その規模は、対象者が5人から156人まで、研究期間は1日未満から5週間までと、さまざまであった。 その結果、ブルーライトカット眼鏡の使用により、レンズにブルーライトカット機能がない眼鏡を使用した場合と比べて、眼精疲労のスコア(追跡期間は1週間未満)や視神経炎の評価に用いられる中心フリッカー(CFF)値(追跡期間は1日未満)に有意な差は認められなかった。また、最良矯正視力(BCVA)に対しては、ブルーライトカット眼鏡はほとんどあるいは全く効果がない可能性が示唆され、日中の覚醒や睡眠の質に対する効果は不明だった。さらに、コントラスト感度、色の識別能力、不快グレア、黄斑の健康、血清メラトニンレベル、視覚的満足度については対象研究において評価されていなかったため、効果は不明であった。一方、ブルーライトカット眼鏡の使用に伴う副作用については、気分の落ち込み、頭痛、眼鏡をかけた際の不快感などが報告されていたが、いずれも軽度で頻度が低く、一時的なものだった。 Downie氏は、「コンピューターの使用に伴う眼精疲労を軽減するためにブルーライトカット眼鏡を使用しても、使用しなかった場合に比べて、短期的には利点がない可能性のあることが分かった。また、ブルーライトカット眼鏡が見え方の質や睡眠関連の転帰に影響を及ぼすかどうかも不明であり、長期的に網膜の健康に影響を及ぼし得るのかどうかについても結論は出なかった」と述べる。その上で同氏は、「ブルーライトカット眼鏡の購入を検討する際には、これらの知見を考慮すべきだ」と付け加えている。 Downie氏はまた、「過去数年間、眼科診療におけるブルーライトカット眼鏡のメリットについて、多くの議論が行われてきた。本研究では、コクランの提示する方法論の基準に従ってシステマティックレビューを実施し、調査結果の頑健性を確認した。それでも、得られた知見の確実性は、本研究で利用することができたエビデンスの質との関連で解釈する必要がある。また、対象研究の追跡期間の短さは、長期的なアウトカムの検討に影響を及ぼした」と述べ、結果を慎重に解釈すべきことを指摘している。 研究論文の筆頭著者である、同大学のSumeer Singh氏は、「ブルーライトカット眼鏡が視力のパフォーマンスや睡眠の質、目の健康に及ぼす潜在的影響を明確に判断するためには、もっと多様な集団をより長い期間追跡した、質の高い大規模臨床試験が必要だ」と述べている。

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虫垂炎に対する抗菌薬治療の長期転帰は良好

 虫垂炎(盲腸)患者の多くでは、虫垂切除術を実施する代わりに抗菌薬を投与しても、長期にわたって良好な経過をたどることが、スウェーデンで長期(19〜26年間)にわたり患者の転帰を追跡した研究で示された。英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)グレート・オーモンド・ストリート小児保健研究所のSimon Eaton氏らによるこの研究結果は、「JAMA Surgery」に8月9日掲載された。 虫垂炎は、右下腹部の大腸の部分(盲腸)から出る管状の臓器である虫垂に細菌が感染して炎症を起こした状態である。20世紀以前は、多くの患者が虫垂炎で死亡していたが、外科手術の進歩により、現在では低侵襲の「非常に安全」な鍵穴手術(腹腔鏡手術)が標準的な治療法とされている。「とはいえ、これは虫垂炎に対して抗菌薬が使用されるようになる前の話だ。虫垂を含む腸内に生息する細菌についての理解が深まった現在では、虫垂を残すことに長期的な利点がある可能性も考えられる」とEaton氏は説明する。 虫垂炎に抗菌薬を用いる治療法は1990年代に初めて登場した。しかし、抗菌薬治療後の患者の転帰に関する追跡調査のスパンは5年以内と短かった。そこでEaton氏らは、292人(男性279人)の虫垂炎患者を対象に、虫垂切除術による治療と抗菌薬による治療を比較した2件のランダム化比較試験参加者のデータを用いた長期追跡調査により、患者の転帰を明らかにしようと試みた。1件目の研究では1992年から1994年の間に40人を、2件目の研究では1996年から1999年の間に252人を、虫垂切除術を受ける群と抗菌薬による治療を受ける群にランダムに割り付けていた。この中から追跡データのそろっていた259人(虫垂切除術群122人、抗菌薬群137人)を対象に解析を行った。対象者は2018年12月31日まで追跡された。 その結果、抗菌薬群では15%(21人)で入院中に抗菌薬による治療が奏効しなかったため虫垂切除術を受け、25%(34人)は抗菌薬による治療後に急性虫垂炎を発症したため虫垂切除術を受けたが、残りの60%(82人)は追跡終了時点まで虫垂切除術を受けることがなかった。また、全体で5人に炎症性腸疾患(IBD)が生じたが、虫垂切除術群に比べて抗菌薬群でリスクが上昇することはなかった。その一方で、退院後に腹痛が生じて外科外来で治療を受けた患者の割合は、抗菌薬群では9.5%(13人)であったのに対し、虫垂切除術群では0.01%(1人)にとどまっていた。 これらの結果を受けてEaton氏は、「この結果は、どちらの治療法が優れているかということではない」と強調。その上で、「しかし、現在では、虫垂炎患者に対して、手術をしないで治療すれば、半数以上は治療後も手術を受けずに済む可能性があると言えるようになった」と話している。 Eaton氏はさらに、「われわれは今や、虫垂炎に対しては2つの治療選択肢があると考えている。この情報を提示された患者の中には、虫垂炎のひどい痛みが再発する可能性を恐れて手術を選択する人がいる一方で、メスに対する恐怖から手術を受けずに済むことを喜ぶ人もいるだろう。結局のところ、もし虫垂炎の外科的治療が安全になる前に抗菌薬が発見されていたのなら、手術をしない治療が虫垂炎の標準治療になっていた可能性がある」と語っている。

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意識不明の脳損傷患者、EEGとMRIで「隠れた意識」が明らかに?

 意識不明のように見える急性脳損傷患者の中には、言葉による指示に反応して脳の活動が検知できる一方で、実際に行動を起こす兆候は認められない状態の患者が存在する。この状態は、「認知と運動の解離(cognitive motor dissociation;CMD)」と呼ばれ、機能的な回復との関連が示唆されているが、その詳細は明らかになっていない。こうした中、米コロンビア大学神経学教授のJan Claassen氏らによる研究で、MRI検査と脳波検査(EEG)のデータ解析により、CMD患者と非CMD患者での脳の構造や機能の違いが明らかにされた。米国立衛生研究所(NIH)とダナ財団から助成金を受けて実施されたこの研究は、「Brain」に8月14日掲載された。 CMDは、頭部外傷、脳出血、心停止により脳に損傷を受けた患者の約15〜25%に生じる。過去の研究でClaassen氏らは、EEGで検出可能な微弱な脳波が、無反応の脳損傷患者の「隠れた意識」と最終的な回復を強く予測することを明らかにしていた。しかし、脳の中で具体的にどの経路が障害を受けてCMDに至るのかについては明らかになっていない。 この点を明らかにするために、Claassen氏らは、脳損傷により意識不明に陥った患者107人を対象に、CMDについて検討した。まず、「手を開いたり結んだりし続けてください」などの指示を患者に出し、その指示に対する患者の脳の活動(脳波)を測定した。このようなEEGにより、21人の患者がCMD状態にあることを突き止めた。次に、MRI検査により全患者の脳の構造的な変化を分析し、CMD患者と非CMD患者(86人)の病変パターンの特定を試みた。 その結果、非CMD患者では、脳幹の覚醒に関わる経路、特に中脳に損傷が認められたのに対し、CMD患者では、この経路が損傷を受けていないことが明らかになった。また、非CMD患者の中には、言葉の理解に関与する左視床と呼ばれる部位に損傷のある患者が見つかり、これが言葉の理解を困難にしていることが示唆された。こうした結果から、CMD患者は、口頭の指示を聞いてその内容を理解することはできても、指示通りに体を動かすことはできない可能性がうかがわれた。 研究論文の共著者である同大学のQi Shen氏は、「われわれが開発したバイクラスタリング解析と呼ばれる手法を用いて、CMD患者に共通して認められる、非CMD患者とは対照的な脳損傷のパターンを特定することができた」と述べている。研究グループは、「この研究で得られた結果は、隠れた意識のある脳損傷患者を医師がより迅速に特定し、どの患者がリハビリテーションによって回復する可能性が高いのかをより的確に予測するのに役立つだろう」との見方を同大学のリリースで示している。 ただし、このアプローチを実臨床で用いるには、さらなる研究が必要である。それでもClaassen氏は、「われわれの研究は、広く利用可能なMRIにより脳の構造を調べることで、隠れた意識の検出が可能であることを示している。このことは、CMDの検出を臨床現場での使用に一歩近付ける」と述べている。同氏はさらに、「EEGを用いて隠れた意識を検出するためのリソースや訓練されたスタッフが、クリティカルケアユニットであればどこにでも備わっているというわけではない。そのため、より一般的に使われているMRIが、さらなるスクリーニングや診断が必要な患者を特定するための有用な手段となる可能性がある」と付け加えている。

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若者の摂食障害や境界性パーソナリティ障害の特徴やリスク因子

 境界性パーソナリティ障害(BPD)と摂食障害は、併発リスクが高いが、両疾患に共通する症状の経過と関連するリスクについては、よくわかっていない。英国・ウォーリック大学のKirsty S. Lee氏らは、若者の地域サンプルにおける症状のジョイントトラジェクトリー、時間的優先順位、リスク因子、人口寄与割合(PAF)について、発達精神病理学的および心理社会学的観点より調査を行った。その結果、若者の摂食障害と境界性パーソナリティ障害の一時性、リスク、スクリーニング、治療に関連するいくつかの新規かつ臨床的に関連性のある所見が特定された。Development and Psychopathology誌オンライン版2023年8月17日号の報告。摂食障害レベルが高いと境界性パーソナリティ障害の特徴が高レベル 14~18歳の若者における境界性パーソナリティ障害の特徴および摂食行動の乱れについて5年間にわたり調査を行った。小児期(10~13歳)に社会人口学的リスク、対人関係リスク、臨床リスクの評価を行った。person-centered approachを用いて、潜在クラス成長分析、ジョイントトラジェクトリーモデル、PAFを調査した。 境界性パーソナリティ障害の特徴および摂食行動の乱れについて調査を行った主な結果は以下のとおり。・摂食障害と境界性パーソナリティ障害の特徴をそれぞれ低、中、高の3段階で評価し、それらを掛け合わせた9つのジョイントトラジェクトリーを作成した。・摂食障害レベルが高い場合、そうでない場合と比較し、境界性パーソナリティ障害の特徴が高レベルであった。・女性およびLGBTQ+の若者は、症状が重症化する可能性が最も高かった。・いじめ行為および臨床的多動性は、境界性パーソナリティ障害の特徴に対する特有のリスクであった。・いじめ被害は、摂食障害および境界性パーソナリティ障害の特徴に対し、最大のPAFを示した。

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中等症~重症アトピー性皮膚炎、トラロキヌマブは高齢者にも有用

 65歳以上の中等症~重症アトピー性皮膚炎患者において、トラロキヌマブの忍容性および有効性は良好であることが示された。米国・ブリガム&ウィメンズ病院のJoseph F. Merola氏らが、第III相無作為化プラセボ対照試験「ECZTRA試験(1、2、3)」の事後解析により明らかにした。アトピー性皮膚炎を有する高齢者には、併存疾患やポリファーマシー、感染症(帯状疱疹など)のリスクが高いなど、特有の治療課題が存在するが、臨床試験のデータは限られていた。JAMA Dermatology誌オンライン版2023年8月23日号掲載の報告。 研究グループは、中等症~重症アトピー性皮膚炎に対するトラロキヌマブとプラセボを比較したECZTRA試験の事後解析を行い、65歳以上の患者における安全性と有効性を評価した。ECZTRA試験は、米国、カナダ、欧州、アジアで実施された。ECZTRA 1および2試験ではトラロキヌマブ単剤、ECZTRA 3試験ではトラロキヌマブ+ステロイド外用剤(必要に応じて)が投与された。 事後解析は2022年に行われ、ECZTRA 1、2、3試験の最長16週間の治療データをプールして安全性を評価。統計解析は、主要エンドポイントの事前規定に従い行った。有効性はECZTRA 1および2試験データの併合解析、ECZTRA 3試験データの解析とし、それぞれ16週時点で評価した。 主な結果は以下のとおり。・事後解析の対象はECZTRA 1、2、3試験においてトラロキヌマブによる治療を受けた高齢患者75例(女性42例[56%])、プラセボによる治療を受けた高齢患者29例であった。・有害事象(AE)を報告した患者の割合は、トラロキヌマブ群58.7%(44例)、プラセボ群58.6%(17例)で同等であった。・重篤なAEは、トラロキヌマブ群3例(4.0%)、プラセボ群3例(10.3%)に認められ、投与中止に至ったAEは、それぞれ4例(5.3%)、2例(6.9%)に認められた。・ECZTRA 1および2試験において、Eczema Area and Severity Index(EASI)の75%以上低下(EASI 75)達成率は、トラロキヌマブ群33.9%、プラセボ群4.8%であり、トラロキヌマブ群が有意に高率であった(p<0.001)。ECZTRA 3試験においては統計学的有意差が示されなかったが、同様の傾向が認められた。・今回の解析集団における安全性と有効性は、若年患者コホートと同様であった。 著者は本結果について、「今回の解析結果は、サンプルサイズが小さいという限界が存在し、高齢者への一般化はできない可能性がある」としつつ、「トラロキヌマブは65歳以上の中等症~重症アトピー性皮膚炎患者において、安全かつ有効であることが示唆された」とまとめた。

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コロナ後遺症2年追跡、入院例は依然死亡リスク高い

 コロナ罹患後症状(コロナ後遺症、long COVID)に関するエビデンスは、これまでそのほとんどが感染後1年内のものだった。感染流行から時間が経過し、2年間の追跡データが発表された。米国・VAセントルイス・ヘルスケアシステムのBenjamin Bowe氏らによる本研究は、Nature Medicine誌オンライン版2023年8月21日号に掲載された。 研究者らは米国退役軍人データベースから13万8,818例の感染群と598万5,227例の非感染の対照群からなるコホートを2年間追跡し、死亡と事前に規定した80の急性期後遺症のリスクを推定した。感染群は、急性期における入院の有無でさらに分析した。 主な結果は以下のとおり。・感染群は平均年齢60.91歳(SD:15.96)、13万8,818例のうち非入院が11万8,238例、入院が2万580例であった。対照群は平均年齢62.82歳(SD:16.84)であった。・感染群の死亡リスクは、非入院例では感染後6ヵ月を超えると有意な増加はなかったが、入院例では2年間を通じて有意に増加したままであった。・80の後遺症のうち、非入院例は2年後に69%が対照群との有意差がなくなったのに対し、入院例は35%にとどまった。・2年間の累積で、急性期後遺症による障害調整生存年(DALY:疾患により失われる健康寿命)は、非入院例は1,000人当たり80.4(95%信頼区間[CI]:71.6~89.6)、入院例は642.8(95%CI:596.9~689.3)であった。損失の多くは感染後1年目に発生したが、2年目の発生も一定数あった(非入院例25.3%、入院例21.3%)。 著者らは、「後遺症リスクの多くは感染後2年で減少したが、入院例ではその減少が顕著ではなかった。急性期後遺症による健康喪失の累積負担は大きく、感染者の長期的ケアに注意を払う必要がある」としている。

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セマグルチドが肥満HFpEF患者の症状軽減、減量効果も/NEJM

 左室駆出率(LVEF)が保たれた心不全(HFpEF)を呈する肥満の患者において、GLP-1受容体作動薬セマグルチドはプラセボと比較して、症状と身体的制限を軽減するとともに、運動機能を改善し、減量効果をもたらすことが、米国・ミズーリ大学カンザスシティ校のMikhail N. Kosiborod氏らが実施した「STEP-HFpEF試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2023年8月25日号で発表された。13ヵ国の無作為化プラセボ対照比較試験 STEP-HFpEF試験は、日本を含む13ヵ国96施設が参加した二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験であり、2021年3月~2022年3月の期間に患者の登録を行った(Novo Nordiskの助成を受けた)。 年齢18歳以上、LVEF 45%以上でBMI30以上の心不全患者を、セマグルチド(2.4mg、週1回)またはプラセボを52週間にわたり皮下投与する群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、23項目の質問から成るカンザスシティ心筋症質問票の臨床要約スコア(KCCQ-CSS、スコア範囲:0~100点、点数が高いほど症状と身体的制限が軽度)と体重のベースラインから52週までの変化であった。 529例を登録し、セマグルチド群に263例、プラセボ群に266例を割り付けた。全体のベースラインの年齢中央値は69歳、女性が56.1%、白人が95.8%であり、体重中央値は105.1kg、BMI中央値は37.0(66.0%が35以上)、KCCQ-CSS中央値は58.9点、LVEF中央値は57.0%であった。KCCQ-CSSの改善度は8点近く高い、重篤な有害事象も少ない KCCQ-CSSのベースラインから52週までの平均変化量は、プラセボ群が8.7点であったのに対し、セマグルチド群は16.6点と有意に優れた(推定群間差:7.8点、95%信頼区間[CI]:4.8~10.9、p<0.001)。また、体重の平均変化率は、プラセボ群の-2.6%と比較して、セマグルチド群は-13.3%と減量効果が有意に良好だった(推定群間差:-10.7ポイント、95%CI:-11.9~-9.4、p<0.001)。 6分間歩行距離の変化量は、プラセボ群の1.2mに比べ、セマグルチド群は21.5mであり、有意に延長した(推定群間差:20.3m、95%CI:8.6~32.1、p<0.001)。 階層法を用いた複合エンドポイント(全死因死亡、心不全イベント、KCCQ-CSSのベースラインからの変化量がそれぞれ15点、10点、5点以上、6分間歩行距離のベースラインからの変化量が30m以上)のwin比(win ratio)の解析では、プラセボ群に比べセマグルチド群でwin(勝利)の数が多かった(win比:1.72、95%CI:1.37~2.15、p<0.001)。 また、C反応性蛋白(CRP)値の平均変化率は、プラセボ群の-7.3%に比べ、セマグルチド群は-43.5%と有意に改善した(推定比:0.61、95%CI:0.51~0.72、p<0.001)。 重篤な有害事象は、セマグルチド群が35例(13.3%)、プラセボ群は71例(26.7%)で発現した(p<0.001)。各群6例ずつが、重篤な有害事象により投与を中止した。全有害事象による投与中止は、セマグルチド群が35例、プラセボ群は14例だった。 著者は、「KCCQ-CSS、体重減少、6分間歩行距離の改善度が、いずれも大きいことは注目に値する。これらの結果を先行研究の成果と統合すると、セマグルチドは肥満者のHFpEFの管理において、価値のある治療アプローチとなる可能性がある」としている。

2357.

米FDAが多発性硬化症治療薬のバイオシミラーを初承認

 米食品医薬品局(FDA)は8月24日、再発型の多発性硬化症(MS)に対する点滴静注薬であるタイサブリ(一般名ナタリズマブ)の初のバイオシミラー(バイオ後続品)であるTyruko(一般名natalizumab-sztn)を承認したことを発表した。バイオシミラーとは、FDAがすでに承認済みの生物学的製剤と類似性が極めて高く、臨床的効果に大きな差のない生物学的製剤のことを指す。 Tyrukoの使用は、1)臨床的に孤立した症候群(初めて単一のMS症状が出現した状態)、2)再発寛解型MS(症状が現れる再発と症状が治る寛解を交互に繰り返す)、3)二次性進行型MS(再発寛解型MSを経て、徐々に再発がなくても症状が進行していく状態)の3つのタイプのMSに対して承認された。なお、Tyrukoはタイサブリと同様に、従来のクローン病治療薬やTNF(腫瘍壊死因子)-α阻害薬が奏効しない、あるいは忍容性のない中等度から重度の活動性のクローン病患者において、臨床的な応答と寛解の誘導を目的に使用することも可能である。 FDA医薬品評価研究センター(CDER)のPaul R. Lee氏は、「バイオシミラーは新たな治療選択肢を提供するものであり、Tyrukoの承認は再発型MS患者における治療アクセスを増やす可能性がある。今回の承認は、MS患者が自分の症状をコントロールする上で有意義なものとなるだろう」と述べている。 Tyrukoの承認は、同薬剤とタイサブリとの間に、安全性、純度、力価(すなわち、安全性と有効性)において意味のある差がないことを示すエビデンスに基づいている。Tyrukoやタイサブリを含めたナタリズマブ製剤の添付文書の枠組み警告には、脳のウイルス感染症である進行性多巣性白質脳症(PML)のリスク増加に関して記載されている。FDAは、ナタリズマブ製剤を処方する際には、PML発症のリスク因子である、抗JCウイルス(JCV)抗体の有無、治療期間の長期化、免疫抑制剤の使用歴などを考慮すべきであると指摘している。 このようなPML発症リスクの存在から、ナタリズマブ製品は、特定の制限付き薬物流通プログラムの下で、リスク評価および緩和戦略(REMS)に従って提供される。REMSは、ナタリズマブ製剤を処方する医療専門家とその調剤を担う薬局に対して特定の認定資格を求め、また患者もREMSに登録される必要がある。REMSの要件の一部を挙げると、処方者は初回注入の3カ月後と6カ月後、その後は6カ月ごとに、また治療を中止する場合は中止直後とその6カ月後に、患者を評価する必要がある。 添付文書には、ヘルペス感染、血小板減少、免疫抑制、アナフィラキシーなどの重篤なアレルギー反応、肝毒性などのリスクに関する警告が追加されている。副作用として最も頻繁に生じるのは、関節痛、尿路感染症、下気道感染症、胃腸炎、膣炎、うつ病、四肢痛、腹部不快感、下痢、発疹である。 Tyrukoの承認はSandoz社に対して付与された。

2358.

2型糖尿病治療薬としてのGIP/GLP-1/グルカゴン受容体作動薬retatrutide(解説:住谷哲氏)

 筆者はこれまで、血糖降下薬多剤併用でも血糖管理目標が達成できない患者を少なからず経験したが、その多くは食欲がコントロールできない肥満合併患者であった。しかしGLP-1受容体作動薬の登場で、食欲抑制を介して体重を減少させることが可能となり、2型糖尿病治療は大きく前進した。最新のADA/EASDの血糖降下薬使用アルゴリズムにおいて、GLP-1受容体作動薬はSGLT2阻害薬と同様に臓器保護薬として位置付けられている1)。しかし、GLP-1受容体作動薬はcardiovascular disease dominoのより上流に位置する肥満を制御することが可能な薬剤であり、この点がSGLT2阻害薬とは異なっている。 本試験は、GIP/GLP-1/グルカゴン受容体作動薬retatrutideの血糖降下薬としての有効性を検証した第II相臨床試験であるが、肥満症治療薬としての有効性を検証した試験の結果がほぼ同時に報告されている2)。そこでは約1年(48週)投与後の体重減少率が24%と、驚くべき効果が示されている。これはセマグルチド、チルゼパチドの体重減少作用を凌駕している。GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチド(商品名:マンジャロ)が登場するまでは、最強のGLP-1受容体作動薬はセマグルチド(同:オゼンピック)であった。しかしretatrutideが投与可能となれば、チルゼパチドは最強のGLP-1受容体作動薬の座をretatrutideに明け渡すことになるだろう。 開発企業のEli Lillyは、すでにretatrutideの臨床開発プログラムであるTRIUMPH programを開始しており、対象には肥満を合併した2型糖尿病だけではなく、睡眠時無呼吸症候群、変形性膝関節症の患者も含まれている。つまり、肥満を基礎とする広範な疾患に対する治療薬としての位置付けを目指しているようだ。 わが国で肥満症治療薬として認可されているGLP-1受容体作動薬はセマグルチド(同:ウゴービ)だけであるが、近い将来にチルゼパチドもretatrutideも認可されるだろう。わが国でも増加し続けている肥満症患者のすべてに、これらの薬剤を投与することが医療経済的に正当化されるか否かは議論が必要だろう。英国のNICEのガイダンスのように3)、対象患者、投薬期間を明確にして無制限な使用に歯止めをかけることも必要かもしれない。

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カテコラミン誘発多形性心室頻拍〔CPVT:Catecholaminergic Polymorphic Ventricular Tachycardia〕

1 疾患概要カテコラミン誘発多形性心室頻拍(Catecholaminergic Polymorphic Ventricular Tachycardia:CPVT)は比較的まれな疾患で、その頻度は10,000人に1人程度と言われているが正確な数は不明である1-3)。通常10歳前後で運動や興奮時、カテコラミン投与などにより心室頻拍(VT)や心室細動(VF)を発症し、若年者の失神発作や突然死の原因として重要である4)。無治療では10年生存率が60%程度と推定され2)、きわめて予後不良な疾患である。CPVT患者の安静時心電図は明らかな異常所見はなく、心臓超音波検査、CT、MRIなども正常であり、無症状のCPVT患者を通常の臨床検査から診断することは非常に難しい。一方、器質的心疾患を認めず安静時心電図では異常所見のない40歳未満で、運動もしくはカテコラミン投与により他に原因が考えられない2方向性VT(図1)、多形性VT・期外収縮(PVC)が誘発される場合には、CPVTと比較的容易に診断可能である。また、CPVT患者の60~70%に遺伝子異常がみつかり、CPVTは遺伝学的検査によっても診断可能である。図1 CPVTに特徴的な2方向性心室頻拍(矢印)と心室細動の発生2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 臨床診断CPVT患者の初発症状は失神発作であり、運動あるいは感情ストレスが誘因となる1、2)。学童期の運動やストレス時の意識消失発作の場合、CPVTを疑う必要がある。最初の失神は主に7~12歳ごろで少なくとも20歳までに発生することが多い5)。初発が心停止の場合もあり、乳幼児突然死症候群や特発性心室細動の原因がCPVTであることもある。トレッドミルなどの運動負荷心電図は、CPVTを診断するうえで最も有力な検査法である(図2)3)。運動により多形性VT、2方向性VT(1拍ごとにQRSの極性が180度変わり、VT波形間の連結期がほぼ一定の頻拍)が出現し、きわめて速いVT/VFが誘発されると失神や突然死を惹起する2)。図2 CPVT1患者のトレッドミル運動負荷検査画像を拡大するA:治療前、B:β遮断薬とフレカイニド治療後、C:検査中の心拍数の変化、D:検査中のPVC数の変化。CPVTの特徴として運動負荷のピーク(心拍数>120bpm)で多形性PVCや二方向性PVC(VT)が出現する。VPB: ventricular premature beat.(島本恵子ほか. 循環器病研究の進歩. 2022;Vol.XLIII No.1:67-75.)一方、未発症(無症状)CPVTに対する臨床診断は容易ではない。2方向性VTはCPVTに特徴的で特異度は高いが、その出現率は必ずしも高くなく感度は50%程度とも言われる。さらに軽症例ではPVCの単発あるいは2段脈しか認められないことがある3)。アドレナリン(エピネフリン)負荷試験は、運動負荷試験を実施できない症例の診断のために有用と考えられるが、やはり特徴的な2方向性PVCやVTが誘発されれば診断的な特異度は高いものの、感度(誘発率)は運動負荷よりさらに低い(28%)。ホルター心電図も日常生活や学校生活上での不整脈検出に有用であるが、実際の不整脈検出率は運動負荷検査よりも低い。なお、心臓電気生理学的検査(EPS)は、CPVTの診断的価値は低く、心臓突然死のリスク評価としてEPSによるVT/VF誘発は禁忌である。鑑別診断としては、失神発作の原因である「てんかん」、パニック発作なども臨床的に鑑別が必要である。とくに「てんかん」と診断されていたが、実際には失神の原因はCPVTによる不整脈が原因であった例は多い。また、同じ遺伝性不整脈の中で先天性QT延長症候群(とくにLQT1型)、Andersen-Tawil症候群(ATS)などは、運動中の失神発作や多形性PVC、2方向性VT/PVCなどCPVTと共通点が多く遺伝子検査による鑑別が重要である。■ 遺伝学的検査CPVTの60~70%に原因遺伝子が同定され、そのほとんどが心筋リアノジン受容体(RyR)の遺伝子RYR2であり常染色体顕性遺伝形式である(表)6)。患者の病歴、家族歴、心電図所見などから臨床的にCPVTと診断あるいは疑われた患者に対して、診断確定のため遺伝学的検査が推奨(クラスI)される(ただし保険適用外)。また、家族に対しては、当該患者(発端者)においてみつかった遺伝子異常の有無を検査することが推奨される。しかし、RYR2遺伝子はエクソンが105個の巨大な遺伝子であり、健常者にも多くのバリアントが報告されている。そのほとんどはCPVTとは無関係または関係性が不明なVUS(Variant of unknown significance)である。したがってRYR2にVUSのバリアントがみつかった場合、表現型あるいは家族整合性が不明瞭な場合には安易にCPVTと診断すべきではない。RYR2の他にはCASQ2を始めCALM1、TECRL、TRDNなど複数の遺伝子が報告されているが、いずれもきわめてまれで、通常CPVTの遺伝子検査としてはRYR2(CPVT1)とCASQ2(CPVT2)が推奨される。なお、若年者の運動・ストレス時の失神発作の場合、LQT1やATSとの鑑別も重要である。臨床的にLQTSと診断または疑われたが遺伝子検査ではLQT関連遺伝子には疾患原因遺伝子を同定できない場合は、RYR2遺伝子も検査を考慮する。以上からCPVTは運動誘発性の失神発作や2方向性VTなど典型的な臨床像を呈する場合は比較的容易に診断可能であるが、逆にそうでない患者・家族などの場合には積極的に疑って負荷心電図検査などを行わないと診断は容易とは言えない。さらに遺伝学的検査も診断確定や鑑別診断に非常に有用である。表 CPVTとその類縁疾患の遺伝子画像を拡大する(日本循環器学会・日本不整脈心電学会合同ガイドライン. 2022年改訂版不整脈の診断とリスク評価に関するガイドライン. 2022;62.)3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 生活指導CPVTと診断された場合、原則として運動(とくに競技スポーツ)は禁止すべきである。また、日常生活でも、可能な範囲で精神的・肉体的ストレスは避けることが望ましい。ただし、CPVTは運動のピーク時(心拍数≧110bpm)で心室不整脈が出現する場合が多く(図2)、逆に言えば薬物治療により心拍数が110~120まで増加しない程度にコントロールされていれば、通常の日常生活程度で不整脈による失神発作や突然死を来す可能性は低い。■ 薬物治療CPVTと診断された場合、薬物治療としてはβ遮断薬(クラスI適応)、フレカイニド(クラスIIa)の2つが有用である。一般的にはβ遮断薬が第1選択とされ、β遮断薬の中でもナドロール(商品名:ナディック)が推奨される。β遮断薬内服下でも不整脈抑制の効果不十分な場合にフレカイニド(同:タンボコール)を追加投与する。しかし、実際には多くの患者で両方の薬が必要となり、また、β遮断薬は徐脈や血圧低下、倦怠感など副作用のため十分な量を内服できない例も多く、フレカイニドの役割が重要となっている。■ 植込み型除細動器(ICD)ICDは不整脈疾患における心臓突然死を予防するもっとも優れた機器であるが、ICDによる電気的除細動によって交感神経がさらに緊張状態となり、CPVTを惹起しVFストーム化が懸念され、CPVT患者におけるICDの予後改善の効果は疑問視されている。では、薬物治療のみで絶対に安全か? との不安も完全には解消されない。現実的にはVF蘇生後患者では突然死の2次予防目的としてICD植込みが絶対適応(クラスI)とされる。問題は薬物治療下で失神発作を繰り返す場合であるが、最近発表された国際研究の結果からも、薬剤抵抗性のCPVTに対するICD植込みに肯定的な結果7)と否定的な結果8)が報告され結論は出ていない。若年者の場合、突然死予防効果とICD長期留置が及ぼすさまざまなデメリット(感染、リード断線、静脈閉塞、精神的問題など)を検討し、総合的に判断すべきと考える。4 今後の展望CPVTの家系内でRYR2遺伝子変異をもつ同胞(兄弟姉妹)の心イベント発生率は高く、両親、同胞への遺伝学的検査は患者本人のみならず、家族の心臓突然死を防ぐ早期診断、予防的治療介入に非常に有用である。遺伝学的検査の保険診療化が期待される。薬物治療として近年フレカイニドの有効性が報告されたが、β遮断薬とどちらを第1選択とすべきかについては結論が出ていない。また、今後はCPVTに対する新たな薬剤の開発が期待されている。非薬物治療としては、わが国ではあまり実施されていないが、星状神経節ブロックも有効である。今後は薬剤抵抗性患者でICD作動を回避したい患者への効果が期待される。5 主たる診療科循環器内科(できれば遺伝性不整脈専門外来)小児循環器科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報小児慢性特定疾病情報センター カテコラミン誘発多形性心室頻拍(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)国立循環器病研究センター カテコラミン誘発多形性心室頻拍(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Leenhardt A, et al. Circulation. 1995;91:1512-1519.2)Sumitomo N, et al. Heart. 2003;89:66-70.3)Lieve KV, et al. Circ J. 2016;80:1285-1291.4)Roston TM, et al. Circ Arrhythm Electrophysiol. 2015;8:633-6425)Shimamoto K, et al. Heart. 2022;108:840-847.6)Priori SG, et al. Circulation. 2001;103:196-200.7)Mazzanti A, et al. JAMA Cardiol. 2022;7:504-512.8)van der Werf C, et al. Eur Heart J. 2019;40:2953-2961.公開履歴初回2023年9月12日

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英語で「薬を中止する」は?【1分★医療英語】第97回

第97回 英語で「薬を中止する」は?He had a tarry stool this morning.(彼は今朝、タール便がありました)Okay, let’s hold aspirin.(わかりました、アスピリンは中止しましょう)《例文1》Steroid was held yesterday.(ステロイドは、昨日中止しました)《例文2》We are going to discontinue antibiotics tomorrow.(明日、抗菌薬を中止する予定です)《解説》「薬を開始する・中止する」というのは、患者さんや医療者同士のコミュニケーションで頻繁に行われるやりとりです。“hold”は「持っておく」という意味の動詞ですが、「やめておく」「控えておく」という意味もあり、hold+薬で、「薬を中止する・休止する」という意味になります。ちなみに、動詞の“hold”にはほかの使い方もあり、“Hold on please.”(ちょっと待ってください)、“Hold your breath.”(息を止めてください)といった表現も覚えておくと便利です。また、「中止する」を表すほかの動詞としては、“stop”や“discontinue”などがあります。“discontinue”という動詞は、“continue”(継続する)に否定を表す“dis”が接頭語に付いているので、継続の反対、つまりは「中止する」という意味を覚えやすいでしょう。講師紹介

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