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統合失調症とうつ病の治療ガイドライン普及に対するEGUIDEプロジェクトの効果

 国立精神・神経医療研究センターの長谷川 尚美氏らは、「精神科医療の普及と教育に対するガイドラインの効果に関する研究(EGUIDEプロジェクト)」を活用することによる、精神疾患の診療ガイドラインに関する教育のリアルワールドにおける効果を検証するため、本研究を実施した。Psychiatry and Clinical Neurosciences誌オンライン版2023年9月8日号の報告。 EGUIDEプロジェクトは、「統合失調症薬物治療ガイドライン」と「うつ病治療ガイドライン」を日本国内で実践するための全国的なプロスペクティブ研究である。2016~19年、精神科病棟を有する176施設に所属する精神科医782人がプロジェクトに参加し、診療ガイドラインに関する講義を受講した。プロジェクト参加病院の統合失調症患者7,405例およびうつ病患者3,794例を対象に、ガイドラインが推奨する治療の実施割合を、プロジェクト参加者と非参加者から治療を受けている患者間で比較した。プロジェクト参加病院より毎年4~9月に退院する患者の臨床データおよび処方データも分析した。 主な結果は以下のとおり。・統合失調症に対する3つの質的指標(他の向精神薬の使用とは無関係の抗精神病薬単剤療法、他の向精神薬を使用しない抗精神病薬単剤療法、抗不安薬や睡眠薬の使用なし)の割合は、プロジェクト参加者のほうが非参加者よりも高かった。・うつ病治療ガイドラインでも同様な結果が得られた。・ガイドラインの推奨治療の普及におけるEGUIDEプロジェクトの有用性が確認された。 著者らは結果を踏まえて「精神疾患の診療ガイドラインに関する教育を実施することで、精神科医の治療に関連した行動を改善可能であることが示唆された。メンタルヘルス治療のギャップを解消するためには、EGUIDEプロジェクトのような教育ベースの戦略が重要であろう」としている。

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膿疱性乾癬のフレア予防、高用量のスペソリマブが有効/Lancet

 膿疱性乾癬(汎発型)(GPP)の急性症状(フレア)の予防において、プラセボと比較して抗インターロイキン36受容体(IL-36R)モノクローナル抗体スペソリマブの高用量投与は、GPPの急性症状の発現を改善し、安全性プロファイルも良好であることが、名古屋市立大学の森田 明理氏らが実施した「Effisayil 2試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2023年9月19日号で報告された。20ヵ国の無作為化プラセボ対照第IIb相試験 Effisayil 2試験は、日本を含む20ヵ国60施設で実施された無作為化プラセボ対照第IIb相試験であり、2020年6月~2022年11月に患者のスクリーニングを行った(Boehringer Ingelheimの助成を受けた)。 対象は、年齢12~75歳、European Rare and Severe Psoriasis Expert Network基準でGPPの既往歴が証明され、過去に少なくとも2回のGPPの急性症状の発生を認め、スクリーニング時と無作為割り付け時に「医師による膿疱性乾癬(汎発型)の全般的評価(GPPGA)」のスコアが0または1点の患者であった。 これらの患者を、プラセボ、低用量スペソリマブ(負荷用量300mgを投与後に12週ごとに150mgを投与)、中用量スペソリマブ(負荷用量600mgを投与後に12週ごとに300mgを投与)、高用量スペソリマブ(負荷用量600mgを投与後に4週ごとに300mgを投与)を48週間皮下投与する群に、1対1対1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、48週の投与期間における初回GPP急性症状の発生までの期間とし、用量反応曲線がnon-flatであることとした。 123例を登録し、スペソリマブ群に92例(低用量群31例、中用量群31群、高用量群30例)、プラセボ群に31例を割り付けた。123例中79例(64%)がアジア人、44例(36%)が白人で、76例(62%)が女性であり、平均年齢は40.4(SD 15.8)歳であった。ベースラインの4群の平均GPPGAスコアは同程度(範囲:3.03~3.92点)だった。高用量群で有意差を確認 急性症状は、48週目までに35例で発生した(低用量群7例[23%]、中用量群9例[29%]、高用量群3例[10%]、プラセボ群16例[52%])。 主要エンドポイントの発生は、プラセボ群に比べ高用量群で有意に優れた(ハザード比[HR]:0.16、95%信頼区間[CI]:0.05~0.54、p=0.0005)。一方、プラセボ群と比較した低用量群のHRは0.35(95%CI:0.14~0.86、名目上のp=0.0057[正式の検定は行っていない])、中用量群のHRは0.47(0.21~1.06、p=0.027[事前に規定された有意水準0.019を満たさない])であり、いずれも統計学的に有意な差は確認されなかった。 主要エンドポイントに関して、プラセボ群との比較において、スペソリマブ群でnon-flatな用量反応関係を認め、各モデルで統計学的に有意な差を示した(線形モデル:p=0.0022、emax1モデル:p=0.0024、emax2モデル:p=0.0023、指数モデル:p=0.0034)。 乾癬症状尺度(PSS)および皮膚疾患特異的QOL尺度(DLQI)の悪化リスクは、48週間でプラセボ群よりもスペソリマブ群で改善したが、いずれの用量群でも有意な差は確認されなかった。 有害事象の頻度はスペソリマブ群(90%)とプラセボ群(87%)で同程度であり、スペソリマブ群では用量依存性のパターンはみられなかった。重度(Grade3/4)の有害事象(19% vs.23%)や試験薬関連の有害事象(40% vs.33%)の頻度も同程度だった。感染症の発生にも差はなかった(33% vs.33%)。また、死亡および試験薬の投与中止の原因となった過敏反応の報告はなかった。 著者は、「GPPの慢性化の特性を考慮すると、急性反応の予防治療は臨床アプローチの重要な転換点となり、最終的に患者における合併症の発生や生活の質の改善つながる可能性がある」と指摘している。

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他の母親が実施する心理療法が産後うつ病の症状を軽減

 カナダのオンタリオ州ブラント郡に住むLee-Anne Mosselman-Clarkeさんは、産後のメンタルヘルス危機との闘いがどのようなものかを、身をもって知っている。なぜなら、Mosselman-Clarkeさん自身が、2人の子どもの出産後にそれを経験したからだ。「私には11歳と9歳の子どもがいるが、上の子のときには自分が不安を感じていることに気が付いていなかった。2人目を妊娠したときに初めて、助産師から『産後うつ病を再発するリスクがあるので誰かに相談してほしい』と言われた」と振り返る。 ソーシャルワーカーとしての経歴を持つMosselman-Clarkeさんは、現在は産後ドゥーラ(産前・産後ケアの専門家)として妊娠・出産を経験する女性をサポートしている。彼女は、産後うつ病と闘う人に対してピア(仲間)が実施する認知行動療法(CBT)の効果を検討するために、マクマスター大学(カナダ)精神医学分野のRyan Van Lieshout氏らが新たな研究を実施することを知るやすぐに応募し、ピアファシリテーターとしての参加を認められた。それ以来、このセッションに彼女は情熱を注いでいる。 Van Lieshout氏らの研究では、ピアによるCBTを受けた産後うつ病患者はCBTを受けていない患者に比べて、寛解を経験する可能性が11倍高いことが示されるなど、いくつかの重要な知見が得られた。Mosselman-Clarkeさんは、「ピアが実施するCBTプログラムは、人から判断されていると感じたり、あるいは罪悪感、恥ずかしさを感じたりすることなく、自分と同じように苦しんでいる人と話すことができる素晴らしい方法だ。自分は1人ではないと感じ、孤立感を和らげる機会を与えてくれる」と語っている。Van Lieshout氏らの研究の詳細は、「Acta Psychiatrica Scandinavica」に8月31日掲載された。 米国の非営利団体マーチ・オブ・ダイムスによると、産後うつ病とは、出産後の母親に悲しみ、不安、倦怠感などの感情が持続し、自身や赤ちゃんの世話が困難になる状態のことをいう。産後うつ病を放置すると、母子双方に感情的な問題を引き起こすリスクが高まるなど、深刻な結果をもたらす可能性があるとVan Lieshout氏らは指摘している。 Van Lieshout氏らの研究は、オンタリオ州在住の18歳以上の産後うつ病患者183人を対象に、産後うつ病から回復した母親(ピア)がオンラインで実施するCBTの効果を検討したもの。対象者は、ピアによるオンラインでの9週間のCBT+通常のケアを受ける介入群(92人)と、通常のケア+9週間後に同じ介入を受ける待機群(91人)にランダムに割り付けられた。介入は、プログラムの実施前に3日間のトレーニングを受け、専門家による9週間の介入を見学したピアファシリテーターが2人1組で行った。対象者の産後うつ病は、エジンバラ産後うつ病質問票(EPDS)により、試験登録時(T1)とランダム化から9週間後(T2)に評価した。介入群では介入の3カ月後(T3)にも評価を行った。 その結果、介入群ではT1からT2にかけてEPDSスコアが5.99点低下し、T3においてもそのスコアが維持されていたことが明らかになった。また、T2で介入群が大うつ病性障害(MDD)の基準を満たさないオッズは待機群の11倍であることも示された(オッズ比11.55、95%信頼区間3.53〜37.77)。T1でMDDの基準を満たした対象者の割合は、介入群で64%、待機群で66%であった。T2では、介入群で6%にまで減少したのに対して待機群では43%にとどまっていた。 Van Lieshout氏は、「この研究には重要な点がいくつかあるが、その一つは、出産を経験する母親の最大で5人に1人が産後うつ病を経験するにもかかわらず、必要な治療を受けているのは10人に1人に満たない点だ」と話す。そして、今回の研究で示したこの介入方法が、産後うつ病の母親が必要な治療を受けるための手段となる可能性があるとの見方を示している。 一方、米マウント・サイナイの精神科医であるThalia Robakis氏は、「心理療法は、一般的なうつ病や産後うつ病に対する重要かつ確立された介入方法だ。新米の母親が心理療法を受けるのは容易なことではない。なぜなら、セラピストとは高度に訓練を受けた専門家であり、その数が限られているため、見つけるのが困難だからだ。また、新米の母親は乳児の世話で手一杯で、心理療法に参加する時間が取れないこともある」と述べ、「この研究は、このようなアクセシビリティの問題に取り組んでいる点が非常に斬新だ」と評価している。

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化学物質を扱う労働者のがんリスクの実態

 国内で化学物質を取り扱う職業に就いている労働者は、がんに罹患するリスクが有意に高く、勤務歴が長いほどそのリスクが上昇する可能性を示すデータが報告された。東海大学医学部衛生学公衆衛生学の深井航太氏らの研究によるもので、詳細は「Occupational & Environmental Medicine」に6月9日掲載された。 がんリスクを高める因子として加齢や遺伝素因のほかに、喫煙や飲酒、運動不足といった生活習慣が知られており、がん予防のため一般的には後者のライフスタイル改善の重要性が強調されることが多い。一方、複数の先進国から、全てのがんの2~5%程度は職業に関連するリスク因子が関与して発生しているという研究結果が報告されている。それに対してわが国では、労災認定される職業がんは年間1,000件ほどにとどまり、約100万人とされる1年当たりの全国のがん罹患数に比べて極めて少ない。さらに、労災認定されるがんはアスベスト曝露による肺がんや中皮腫が大半を占めていて、多くの職業がんが見逃されている可能性がある。深井氏らはそのような職業がんの潜在的リスク因子として、化学物質への曝露の影響に着目し、以下の検討を行った。 この研究は、国内最大級の入院患者レジストリである、労働者健康安全機構の労災病院グループ34施設の「入院患者病職歴調査(ICOD-R)」のデータを用いた多施設症例対照研究として実施された。2005~2020年度に同グループ病院に入院した20歳以上の男性がん患者から、化学物質を取り扱うために特殊健康診断が義務付けられている職業に従事している労働者12万278人を「症例群」として設定。一方、がん以外の入院患者の中から、がんの既往がなく、年齢カテゴリー(5歳ごと)、入院した年、医療機関が症例群に一致する、特殊健康診断の対象でない職業に従事している労働者21万7,605人を「対照群」とした。なお、女性は特殊健康診断を受けていたサンプル数が少数であったため、解析から除外している。 症例群と対照群を比較すると、前者の方が喫煙者・前喫煙者および習慣的飲酒者の割合が高かった。前記のデータセット作成時にマッチングさせた因子(年齢、入院年度、入院医療機関)と、喫煙、飲酒、および職歴(就業年数が最長の職種)を交絡因子として調整したロジスティック回帰分析の結果、化学物質の取り扱い期間(職業的曝露年数)が1年以上の労働者は、以下に記すように、化学物質の取り扱いがない労働者に比べ、全がんと複数の部位のがんの罹患率が有意に高いことが明らかになった。全がんはオッズ比(OR)1.05(95%信頼区間1.01~1.10)、肺がんはOR1.87(同1.66~2.11)、食道がんOR1.63(1.21~2.21)、膵臓がんOR1.80(1.35~2.41)、膀胱がんOR1.38(1.16~1.65)。胃がん、大腸がん、肝臓がん、胆道がんの罹患率には有意差がなかった。 次に、職業的曝露年数の三分位で3群に分類してがんリスクを検討。その結果、全がん、肺がん、食道がん、膵臓がん、膀胱がんについては、曝露年数が長いほど罹患リスクが高いという有意な相関が認められた(全て傾向性P<0.01)。曝露年数を、1~10年、11~20年、21年以上の3群で層別化した検討の結果も同様だった。 続いて、喫煙習慣の有無と職業的曝露年数(曝露なし、20年以下、21年以上)とで全体を6群に分類。喫煙歴と職業的曝露がともにない群を基準としてがん罹患リスクを検討した。すると、喫煙歴がなければ曝露年数が21年以上の場合に肺がんのオッズ比上昇が認められたが、曝露年数20年以下では非有意であり、かつ、肺がん以外のがんは曝露年数にかかわらず、有意なオッズ比上昇は見られなかった。それに対して喫煙者では、曝露年数にかかわらず、全がん、肺がん、食道がん、胃がん、膵臓がん、膀胱がん罹患のオッズ比が有意に高かった。 以上の結果を基に著者らは、「化学物質の取り扱いに従事する期間が長いほど、がんリスクが高い可能性が示され、特に喫煙習慣が重なった場合にはよりハイリスクとなると考えられる」と結論付けている。ただし、入院患者対象の症例対照研究であるためサンプリングバイアスが存在すること、残余交絡の存在を否定できないことなどの限界点を挙げた上で、「労働安全衛生法施行令の一部改正により、2023年4月より新たな化学物質規制の制度がスタートしている。今後、他のコホート研究などでの追試や、化学物質への職業的曝露を抑制するアプローチが、がん予防につながるのかの検証が求められる」と付言している。

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HER3-DXd、EGFR-TKIおよび化療耐性のEGFR陽性NSCLCに良好な抗腫瘍活性(HERTHENA-Lung01)/WCLC2023

 抗HER3抗体薬物複合体patritumab deruxtecan(HER3-DXd)のEGFR-TKI、プラチナ化学療法耐性のEGFR変異陽性非小細胞肺がん(NSCLC)に対する有効性が発表された。 EGFR‐TKIはEGFR変異のある進行期NSCLCの標準治療であるが、最終的に耐性が発現する。EGFR‐TKI耐性後はプラチナベースの化学療法が用いられるが、その効果は限定的である。 HER3を標的とした抗体薬物複合体(ADC)であるHER3-DXdは、第I相結果でEGFR‐TKIに対する多様な耐性機構を持つEGFR変異陽性NSCLCにおいて、管理可能な安全性と抗腫瘍活性が示されている。 世界肺癌学会(WCLC2023)では、EGFR‐TKI療法およびプラチナ化学療法後のEGFR変異陽性NSCLC患者に対する、HER3-DXdの第II相HERTHENA-Lung01試験の結果を、米国・メモリアルスローンケタリングがんセンターのHelena A. Yu氏が発表した。対象:既治療の進行期EGFR変異陽性NSCLC患者(無症状の脳転移患者も含む)介入:HER3-DXd固定用量(5.6mg/kg)3週ごと(226例)、HER3-DXd用量漸増3週ごと(51例)評価項目:[主要評価項目]盲検下独立中央判定(BICR)による確定奏効率(confirmed ORR)[副次評価項目]BICRによる奏効期間(DOR)今回の発表は、固定用量群の有効性と安全性である。 主な結果は以下のとおり。・有効性追跡期間中央値は18.9ヵ月、安全性解析対象集団の治療期間中央値は5.5ヵ月であった。・ベースラインで、脳転移例32%、肝転移例33%が含まれた。・前治療歴(ライン数)は2ラインが26%、2ライン超が73%であった。・confirmed ORRは、全症例で29.8%、第3世代EGFR-TKI耐性例で29.2%、病勢コントロール率(DCR)はそれぞれ73.8%と72.7%であった。・DOR中央値は、全症例、第3世代EGFR-TKI耐性例ともに6.4ヵ月であった。・PFS中央値は、全症例、第3世代EGFR-TKI耐性例ともに5.5ヵ月であった。・OS中央値は、全症例、第3世代EGFR-TKI耐性例ともに11.9ヵ月であった。・頭蓋内confirmed ORRは33.3%、DCRは76.7%であった。・治療下で発現した有害事象(TEAE)の発現は全Gradeで99.6%(治療中断7.1%、減量21.3%)、Grade3以上は64.9%であった。頻度の高いTEAEは悪心(66%)、血小板減少(44%)、食欲不振(42%)などであった。・治療関連ILDの発現は5.3%であった。 Yu氏らは、HER3-DXdはEGFR‐TKIおよびプラチナベース化学療法で進行したEGFR変異NSCLC患者にとって有望な治療法であると結論付けた。

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緊急虫垂切除の穿孔・合併症リスク、8h vs.24h/Lancet

 虫垂炎の標準治療は虫垂切除術とされ、院内での待機時間が長くなるほど穿孔や合併症のリスクが高まると考えられている。フィンランド・ヘルシンキ大学のKaroliina Jalava氏らは「PERFECT試験」において、急性単純性虫垂炎が疑われる患者では、8時間以内の虫垂切除術と比較して24時間以内の虫垂切除術は、虫垂穿孔のリスクが高くなく、術後の合併症の発生率も増加しないことを示した。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2023年9月14日号に掲載された。フィンランドとノルウェーの非劣性試験 PERFECT試験は、フィンランドの2つの病院とノルウェーの1つの病院で実施された非盲検無作為化対照比較非劣性試験であり、2020年5月~2022年12月に参加者の適格性の評価を行った(Finnish Medical Foundationなどの助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、急性虫垂炎と診断され、緊急虫垂切除術が予定されている患者であった。複雑性虫垂炎を除外するために、症状が3日以上持続している患者では画像診断が推奨された。 被験者を、8時間以内または24時間以内に虫垂切除術を施行する群に無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、手術中に診断された穿孔性虫垂炎(米国外傷外科学会[AAST]のグレード3~5)とし、intention to treat解析を行った。非劣性マージンは5%であった。 1,803例を解析に含めた。8時間以内群に907例(年齢中央値35歳[四分位範囲[IQR]:28~46]、男性57%)、24時間以内群に896例(35歳[28~47]、53%)を割り付けた。手術部位感染の頻度も同程度 無作為化から手術開始までの時間中央値は、8時間以内群が6時間(IQR:3~10)、24時間以内群が14時間(8~20)(群間差8時間)で、入院期間も8時間以内群で8時間短かった。24時間以内群の24%が8時間以内に手術を受けた。待機時間中に、8時間以内群の51%、24時間以内群の48%が抗菌薬の投与を受けた。 穿孔性虫垂炎は、8時間以内群の8%(77/907例)、24時間以内群の9%(81/896例)で発生し(絶対群間リスク差:0.6%、95%信頼区間[CI]:-2.1~3.2、p=0.68、リスク比:1.065、95%CI :0.790~1.435)、24時間以内群の8時間以内群に対する非劣性が示された。 30日以内の合併症の発生率(8時間以内群7%[66/907例]vs.24時間以内群6%[56/896例]、群間差:-1.0%、95%CI:-3.3~1.3、p=0.39)には有意な差はなく、手術部位感染(3%[24例]vs.2%[22例]、-0.2%、-1.6~1.3、p=0.80)の頻度も両群で同程度だった。手術部位感染による経皮的ドレナージまたは再手術は、それぞれ1%(6例)、1%(8例)で要した。追跡期間中に死亡例はなかった。 著者は、「これらの知見により、虫垂切除術のスケジューリングが容易になる可能性がある。また、たとえば、虫垂切除術を夜間から日中に延期することで、他の緊急手術のための医療資源の確保につながるだろう」としている。

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放射線療法を受けたがん患者、精神疾患があると生存率が有意に低下

 がん患者に対する放射線療法の実施方法が患者の精神疾患(PD)の有無に影響されることはないが、PDがある患者の全生存率は、PDがない患者に比べて有意に低いとする研究結果が、「Clinical and Translational Radiation Oncology」5月号に掲載された。 ユトレヒト大学医療センター(オランダ)のMax Peters氏らは、matched-pair解析により、PDのあるがん患者とない患者での放射線療法のレジメンと全生存率の違いについて検討した。対象者は、電子患者データベース(EPD)より2015年から2019年の間に一カ所の三次医療機関で放射線療法を受けた患者の中から選出した、PDのあるがん患者88人(PD群)と、がんの種類とステージ、WHO-PS(World Health Organization Performance Status)またはKPS(Karnofsky Performance Status)で評価したパフォーマンスステータス、年齢、性別、放射線療法の前後に受けたがん治療を一致させたPDのない患者88人(対照群)。PD群には、統合失調症スペクトラム障害患者が44人、双極性障害患者が34人、境界性パーソナリティ障害患者が10人含まれていた。対象者の平均年齢(標準偏差)はPD群が61.0(10.6)歳、対照群が63.6(11.3)歳で、がん種は乳がん(27人、30.7%)、肺がん(16人、18.2%)、消化器がん(14人、15.9%)、頭頸部がん(10人、11.4%)、婦人科がん(6人、6.8%)、泌尿器がん(5人、5.7%)、脳腫瘍(4人、4.5%)、その他のがん(6人、6.8%)であった。 主要評価項目を、分割照射の回数と、1回2Gyの照射として換算した場合の生物学的等価線量(EQD2)とし、Wilcoxonの符号順位検定により両群間での放射線療法のレジメンの類似性を評価した。副次評価項目はKaplan-Meier曲線により推定した全生存率とし、Cox比例ハザードモデルを用いて死亡のハザード比(HR)を計算した。 放射線療法を終えてからの追跡期間中央値は、PD群で32.3〔四分位範囲(IQR)9.2〜53.8〕カ月、対照群で41.3(同12.7〜65.1)カ月であった。放射線分割の回数中央値はPD群で16(同3〜23)回、対照群で16(同3〜25)回であり、両群で有意な差は認められなかった(P=0.47)。EQD2についても両群間で有意差は認められず、晩期毒性に対するEQD2はともに48(同35〜63)Gy(P=0.18)、腫瘍のコントロール/急性毒性に対するEQD2はともに45(同24〜60)Gy(P=0.77)であった。 全生存率については、PD群、対照群の順に、1年生存率が68%〔95%信頼区間(CI)59〜79%〕、77%(同69〜87%)、3年生存率が47%(同37〜58%)、61%(同52〜72%)、5年生存率が37%(27〜50%)、56%(46〜67%)であり、有意な差があった(P=0.03)。Coxモデルによる単変量解析での対照群と比べたPD群の死亡のHRは1.57(95%CI 1.05〜2.35、P=0.03)であった。死因については、大部分が原疾患の進行によるもので、両群間に明確な差は認められなかった。 著者らは、「PDを有するがん患者は全生存率が有意に低かった。このような脆弱性を抱える患者に対して放射線治療を行う場合には、特に注意が必要であり、また、がんの治療を行っている間に改善できる要因がないかを探るため、さらなる研究が必要であろう」と述べている。

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9月29日 世界心臓デー【今日は何の日?】

【9月29日 世界心臓デー】〔由来〕全世界で毎年1,750万人が心臓血管病を原因に亡くなっていることに鑑み、世界心臓連合が2000年より「世界ハートの日」を9月最終日曜日と定め、地球規模の心臓血管病予防キャンペーンを展開。その後、2011年から9月29日を「世界ハートの日」と制定し、この日を中心にフォーラムやイベントを各地で開催している。関連コンテンツ心不全の分類とそれぞれの治療法Update【心不全診療Up to Date】知っておきたい循環器科で使うSGLT2阻害薬【診療よろず相談TV】心不全の入院後30日死亡率、国の経済レベルで3~5倍/JAMA冠動脈疾患の一次予防に関する診療ガイドライン、11年ぶりに改訂/日本循環器学会死亡・CVリスクを低下させる食事法は?40試験のメタ解析/BMJ

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フルチカゾン、コロナ軽~中等度の症状回復に効果なし/NEJM

 軽症~中等症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)外来患者をフルチカゾンフランカルボン酸エステル吸入薬で14日間治療しても、プラセボと比較して回復までの期間は短縮しないことが、無作為化二重盲検プラセボ対照プラットフォーム試験「ACTIV-6試験」の結果で示された。米国・ミネソタ大学のDavid R. Boulware氏らが報告した。軽症~中等症のCOVID-19外来患者において、症状消失までの期間短縮あるいは入院または死亡回避への吸入グルココルチコイドの有効性は不明であった。NEJM誌2023年9月21日号掲載の報告。持続的回復までの期間をフルチカゾンフランカルボン酸エステルvs.プラセボで評価 ACTIV(Accelerating COVID-19 Therapeutic Interventions and Vaccines)-6試験は、軽症~中等症のCOVID-19外来患者における既存治療転用を評価するようデザインされた分散型臨床試験で、2021年6月11日に参加者の募集を開始し現在も継続中である。 研究グループは、2021年8月6日~2022年2月9日に米国の91施設において、登録前10日以内に新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染が確認され、7日以内にCOVID-19の症状を2つ以上認めた30歳以上の外来患者を登録し、フルチカゾンフランカルボン酸エステル群(1日1回200μg 14日間吸入)またはプラセボ群に無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、持続的回復までの期間とし、3日連続で症状がない場合の3日目と定義された。副次アウトカムは、28日目までの入院または死亡、28日目までの入院・救急外来(urgent care)受診・救急診療部(emergency department)受診・死亡の複合などであった。持続的回復までの期間に有意差なし 登録患者1,407例がフルチカゾンフランカルボン酸エステル群(715例)とプラセボ群(692例)に無作為化され、それぞれ656例および621例が解析対象集団となった。平均(±SD)年齢は47±12歳、39%が50歳以上で、女性63%、ワクチン2回以上接種65%、症状発現から試験薬投与までの期間の中央値は5日(四分位範囲[IQR]:4~7)であった。 持続的回復までの期間に、フルチカゾンフランカルボン酸エステル群とプラセボ群の有意差は認められなかった(ハザード比[HR]:1.01、95%信用区間[CrI]:0.91~1.12、有効性[HRが>1と定義]の事後確率0.56)。 入院・救急外来受診・救急診療部受診・死亡の複合イベントは、フルチカゾンフランカルボン酸エステル群で24例(3.7%)、プラセボ群で13例(2.1%)に認められた(HR:1.9、95%CrI:0.8~3.5)。各群で3例入院したが、死亡例はなかった。 有害事象の発現率は、フルチカゾンフランカルボン酸エステル群2.0%(13/640例)、プラセボ群2.5%(16/605例)であり、両群とも低率であった。

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神経軸索スフェロイド形成を伴う遺伝性びまん性白質脳症〔HDLS:hereditary diffuse leukoencephalopathy with spheroid〕

1 疾患概要■ 概念・定義神経軸索スフェロイド形成を伴う遺伝性びまん性白質脳症(HDLS:hereditary diffuse leukoencephalopathy with spheroid)は、大脳白質を病変の主座とする神経変性疾患である。ALSP(adult-onset leukoencephalopathy with spheroid and pigmented glia)やCSF1R関連脳症(CSF1R-related leukoencephalopathy)と呼ばれることもある。本稿では、HDLS/ALSPと表記する。常染色体顕性(優性)遺伝形式をとるが、約半数は家族歴を欠く孤発である。脳生検もしくは剖検による神経病理学的検査により、HDLSは従来診断されていたが、2012年にHDLS/ALSPの原因遺伝子が同定されて以降は、遺伝学的検査により確定診断が可能になっている。■ 疫学HDLS/ALSPは世界各地から報告されているが、日本人を含めたアジア人からの報告が多い。HDLS/ALSPの正確な有病率は不明である。特定疾患受給者証の保持者は、2015年13人、2016年25人、2017年35人、2018年43人、2019年54人、2020年65人と年々増加傾向にある。HDLS/ALSPの有病率が増加している可能性は否定できないが、診断基準の策定など疾患についての認知度が高まり、確定診断に至る症例が増えたことが、患者数増加の要因だと思われる。しかしながら、確定診断にまで至らないHDLS/ALSP患者が依然として少なからず存在すると推察される。■ 病因HDLS/ALSPは colony stimulating factor-1 receptor(CSF1R)の遺伝子変異を原因とする。既報のCSF1R遺伝子変異の多くは、チロシンキナーゼ領域に位置している。ミスセンス変異、スプライスサイト変異、微小欠失、ナンセンス変異、フレームシフト変異、部分欠失など、さまざまなCSF1R遺伝子変異が報告されている。ナンセンス変異、フレームシフト変異例では、片側アレルのCSF1Rが発現しないハプロ不全が病態となる。中枢神経においてCSF1Rはミクログリアに強く発現しており、HDLS/ALSPの病態にミクログリアの機能不全が関与していることが想定されている。そのためHDLS/ALSPは一次性ミクログリア病と呼ばれる。■ 症状発症年齢は平均45歳(18~78歳に分布)であり、40~50歳台の発症が多い。発症前の社会生活は支障がないことが多い。初発症状は認知機能障害が最も多いが、うつ、性格変化や歩行障害、失語と思われる言語障害で発症するなど多彩である(図1)。主症状である認知機能障害は、前頭葉機能を反映した意思発動性の低下、注意障害、無関心、遂行機能障害などの性格変化や行動異常を特徴とする。動作緩慢や姿勢反射障害を主体とするパーキンソン症状、錐体路徴候などの運動徴候も頻度が高い。けいれん発作は約半数の症例で認める。図1 HDLS/ALSPで認められる初発症状画像を拡大する■ 予後進行性の経過をとり、発症後の進行は比較的速い。発症後5年以内に臥床状態となることが多い。発症から死亡までの年数は平均6年(2~29年に分布)、死亡時年齢は平均52 歳(36~84歳に分布)である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)脳MRI検査により大脳白質病変を認めることが、診断の契機となることが多い。頭部MRI所見は、初期には散在性の大脳白質病変を呈することがあるが、病勢の進行に伴い対称性、融合性、びまん性となる。白質病変は前頭葉・頭頂葉優位で、脳室周囲の深部白質に目立つ(図2A、B)。病初期から脳梁の菲薄化と信号異常を認めることが多く、矢状断面・FLAIRの撮像が有用である(図2C)。ただし、脳梁の変化はHDLS/ALSP以外の大脳白質変性症でも認めることがある。内包などの投射線維に信号異常を呈することもある。拡散強調画像で白質病変の一部に、持続する高信号病変を呈する例がある(図2D)。ガドリニウム造影効果は認めない。CT撮像により、側脳室前角近傍や頭頂葉皮質下白質に石灰化病変を認めることがある(図2E)。この所見は“stepping stone appearance”と呼ばれ(図2F)、HDLS/ALSPに特異性が高い。石灰化は微小なものが多いため、1mm厚など薄いスライスCT撮像が推奨される。HDLS/ALSPの診断基準としてKonno基準が国内外で広く用いられている。Konno基準に基づき、厚生労働省「成人発症白質脳症の実際と有効な医療施策に関する研究班」において策定された診断基準が難病情報ホームページに掲載されている(表)。図2 HDLS/ALSPの特徴的な画像所見画像を拡大する両側性の大脳白質病変を認める(A、B:FLAIR画像)。脳梁は菲薄化している(C:FLAIR画像)。拡散強調画像で高信号領域を認める(D)。CTでは微小石灰化を認める(E、F)。表 HDLS/ALSPの診断基準主要項目1.60歳以下の発症(大脳白質病変もしくは2の臨床症状)2.下記のうち2つ以上の臨床症候a.進行性認知機能障害または性格変化・行動異常b.錐体路徴候c.パーキンソン症状d.けいれん発作3.常染色体顕性(優性)遺伝形式4.頭部MRIあるいはCTで以下の所見を認めるa.両側性の大脳白質病変b.脳梁の菲薄化5.血管性認知症、多発性硬化症、白質ジストロフィー(ADL、MNDなど)など他疾患を除外できる支持項目1.臨床徴候やfrontal assessment battery(FAB)検査などで前頭葉機能障害を示唆する所見を認める2.進行が速く、発症後5年以内に臥床状態になることが多い3.頭部CTで大脳白質に点状の石灰化病変を認める除外項目1.10歳未満の発症2.高度な末梢神経障害3.2回以上のstroke-like episode(脳血管障害様エピソード)。ただし、けいれん発作は除く。診断カテゴリーDefinite主要項目2、3、4aを満たし、CSF1R変異またはASLPに特徴的な神経病理学的所見を認めるProbable主要項目5項目をすべてを満たすが、CSF1R変異の検索および神経病理学的検索が行われていないPossible主要項目2a、3および4aを満たすが、CSF1R変異の検索および神経病理学的検索が行われていない鑑別診断としては、アルツハイマー病、前頭側頭型認知症、多発性硬化症、皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体顕性(優性)脳動脈症(cerebral autosomal dominant arteriopathy with subcortical infarct and leukoencephalopathy:CADASIL)など多彩な疾患が挙げられる。HDLS/ALSPと診断された症例で、病初期に多発性硬化症が疑われ、ステロイド治療を受けた例が複数報告されている。HDLS/ALSPはステロイド治療に効果を示さないため、大脳白質病変と運動症状を呈する若年女性を診察した場合には、HDLS/ALSPを鑑別する必要がある。HDLS/ALSPのための診断フローチャートを図3に示した。臨床的な鑑別診断は必ずしも容易ではなく、遺伝学的検査により確定診断を行う。2022年4月にCSF1R遺伝学的検査が保険収載され、かずさ遺伝子検査室に検査委託が可能である。図3 HDLS/ALSP診断のフローチャート画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)系統的な治療法は確立していない。HDLS/ALSPの経過中に出現する症状に応じた対症療法が行われる。痙性に対しては抗痙縮薬、パーキンソニズムに対して抗パーキンソン薬の使用を考慮する。症候性てんかんには抗てんかん薬を単剤で開始し、発作が抑制されなければ、作用機序が異なる抗てんかん薬を併用する。4 今後の展望HDLS/ALSPに対する造血幹細胞移植(hematopoietic stem cell transplantation:HSCT)が海外で行われている。現在までに15例のHDLS/ALSP患者がHSCTを受けている。HSCTを受けた約4割の症例で臨床的効果を認めている。ドナー由来の細胞がHDLS/ALSP患者脳に到達し、衰弱したミクログリアの機能を補完している可能性が考えられる。ミクログリア機能を回復される治験としてアゴニスト効果を有する抗TREM2抗体薬を用いた治験が海外で行われている。5 主たる診療科脳神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 神経軸索スフェロイド形成を伴う遺伝性びまん性白質脳症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)かずさ遺伝子検査室(本症の遺伝学的検査を受託している)患者会情報Sister’s Hope Foundation(米国のHDLS/ALSPの患者会の英語ホームページ)(米国の患者とその家族および支援者の会/ホームページは英語)1)Konno T, et al. Neurology. 2018;91:1092-1104. 2)下畑享良 編著. 脳神経内科診断ハンドブック. 中外医学社;2021.3)池内 健ほか. 日本薬理学雑誌. 2021;156:225-229.4)池内 健ほか. 実験医学. 2019;37:118-122.5)池内 健. CLINICAL NEUROSCIENCE. 2017;35:1354-1355.公開履歴初回2023年9月28日

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難治性慢性咳嗽に対するゲーファピキサント、9試験をメタ解析/JAMA

 選択的P2X3受容体拮抗薬ゲーファピキサント45mgの1日2回経口投与は、プラセボと比較し咳嗽頻度、咳嗽重症度および咳嗽特異的QOLを改善するもののその効果は小さい可能性が高く、一方で有害事象、とくに味覚に関連する有害事象のリスクが高いことが、カナダ・マクマスター大学のElena Kum氏らによるシステマティック・レビューおよびメタ解析の結果、明らかとなった。ゲーファピキサントは、難治性または原因不明の慢性咳嗽に対する初の治療薬として開発され、日本およびスイスでは承認されているが、米国、欧州、カナダなどでは規制当局の審査中である。JAMA誌2023年9月11日号掲載の報告。ゲーファピキサントの無作為化比較試験9件をメタ解析 研究グループは、2014年11月~2023年7月のMEDLINE、Embase、Cochrane Central Register of Controlled TrialsおよびWeb of Scienceを検索し、8週間以上持続する難治性または原因不明の慢性咳嗽患者において、ゲーファピキサントとプラセボ、またはゲーファピキサント2用量以上(用量間比較、プラセボありまたはなし)を比較した並行群間またはクロスオーバーの無作為化比較試験(RCT)を対象として解析した。 2人の研究者が独立してデータを抽出し、各結果について頻度論的ランダム効果用量反応メタ解析またはペアワイズメタ解析を行った。GRADE(Grading of Recommendations, Assessment, Development, and Evaluation)を用いて、患者が効果を重要と感じるか(臨床的最小重要差[MID]より大きい)または小さいと感じるか(MIDより小さい)のエビデンスの確実性を評価した。 主要アウトカムは、VitaloJAK咳モニターを用いて測定された24時間、覚醒時および睡眠時の咳嗽頻度(MID:-20%)、咳嗽の重症度(視覚的アナログスケール[VAS]、範囲:0~100mm、高値ほど重症、MID:-30mm)、咳嗽特異的QOL(レスター咳質問票[LCQ]、スコア範囲:3~21、スコアが高いほどQOLは良好、MID:+1.3点)、治療関連有害事象、投与中止に至った有害事象、および味覚関連有害事象であった。 9件(合計2,980例)のRCTが主要解析に組み込まれた。プラセボとの比較で咳嗽頻度は17.6%減少、味覚関連有害事象が32%増加 ゲーファピキサント45mgの1日2回投与はプラセボと比較し、覚醒時の咳嗽頻度(17.6%減少、95%信頼区間[CI]:10.6~24.0%減少、エビデンスの確実性:中)、咳嗽の重症度(平均群間差:-6.2mm、95%CI:-4.1~-8.4、エビデンスの確実性:高)、および咳嗽特異的QOL(平均群間差:1.0点、95%CI:0.7~1.4、エビデンスの確実性:中)に対してわずかな効果を示した。 一方、ゲーファピキサント45mgの1日2回投与はプラセボと比較し、治療関連有害事象(32[95%CI:13~64]/100人当たり増加、エビデンスの確実性:中)および味覚関連有害事象(32[95%CI:22~46人]/100人当たり増加、エビデンスの確実性:高)に関して、重大な増加を引き起こすと思われた。 ゲーファピキサント15mgの1日2回投与は、味覚関連有害事象に及ぼす影響が小さいことが示唆された(6[95%CI:5~8人]/100人当たり増加、エビデンスの確実性:高)。

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がんに関する質問へのAIの回答は信頼できるのか

 人工知能(AI)は、特にがん治療に関しては、必ずしも正確な健康情報を提供するわけではない可能性が、2件の研究で示唆された。これらの研究は、がん治療に関するさまざまな質問に対してAIチャットボットが提供する回答の質を検討したもので、両研究とも「JAMA Oncology」に8月24日掲載された。 1件目の研究は、米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院および米ハーバード大学ダナファーバーがん研究所のDanielle Bitterman氏らが実施したもので、2022年11月に発表されたChatGPTに焦点を当てたもの。研究グループは、ゼロショットプロンプティング(あらかじめ情報を伝えずに直接質問を提示すること)のテンプレートを4種類作成し、これを用いて、がん(乳がん、前立腺がん、肺がん)の診断に関する26種類の記述(がん種、がんの進展度などの情報を伴う場合と伴わない場合あり)に対して、計104個の質問を作成した。ChatGPTは2021年9月までの情報に基づくものであるため、ChatGPTの出した回答は、2021年の全米総合がんセンターネットワーク(NCCN)ガイドラインと照合して、「治療法はいくつ提示されたか」などの5つの基準で評価し、4人のがん専門医のうちの3人の評価が一致した場合を、ガイドラインとChatGPTによる評価が一致したと見なした。 その結果、104個の質問に対するスコア(520点満点)のうちの61.9%(322点)で、3人のがん専門医の評価が一致していたが、残りは一致していないことが示された。Bitterman氏は、「いくつかの推奨内容は、明らかに間違っていた。例えば、不治の病であるにもかかわらず、根治的治療を勧めているようなケースが認められた」と述べている。また、標準治療の中には放射線療法や化学療法も含まれるのに、ChatGPTは手術だけを勧めているなど、より微妙な回答例も確認された。Bitterman氏は、「正しい情報の中に誤った情報が混じっている確率が高いため、特に専門家でも誤りを見つけるのは非常に難しかった」と述べている。 2件目の研究は、米ニューヨーク州立ダウンステートヘルスサイエンス大学のAbdo Kabarriti氏らが実施したもので、ChatGPT、Perplexity、Chatsonic、Bing(Microsoft Bing)の精度について評価が行われた。これらのAIチャットボットに、皮膚がん、肺がん、乳がん、前立腺がん、大腸がんに関して最も頻繁に検索エンジンにかけられている質問を尋ねた。回答内容は、検証された評価ツールであるDISCERNを用い、消費者向けの健康情報の質を1(低い)〜5(高い)で評価した。また、Patient Education Materials Assessment Tool(PEMAT)を使用して、情報の理解可能性と実行可能性(0〜100%、高いほど理解のしやすさと実施できる可能性が高い)の評価を行った。 その結果、4つのチャットボットが生成した100個の回答の質は「良い」と評価され〔DISCERNスコア中央値5(範囲2〜5)点〕、誤情報は含まれていないことが確認された。理解可能性は66.7%と中程度であったが、実行可能性は20.0%と低かった。また、どの回答も、「患者は、医師に相談することなく、提供されたデータに基づいて医療上の決定を下すべきではない」という包括的な警告を伴っていた。 Kabarriti氏は、「われわれが最も心配していた誤情報がほぼ含まれていなかった点は心強い。しかし、AIチャットボットが提供した情報は、正確ではあったが、一般の人が読んで理解できる内容ではなかった」と話している。同氏は、AIチャットボットは大学生の読解レベルの情報を提供するのに対して、平均的な消費者の読解レベルは小学6年生程度だと説明する。 Kabarriti氏はさらに、AIチャットボットが多くのがん患者をいら立たせ得る別の要因は、がんの症状に対して何をすべきかを教えてくれない点だと指摘する。「AIはただ、『医師に相談するように』と言うだけだ。おそらく責任問題があるのだろうが、AIが医師に代わって患者と対話する役目を担うことはできないという点は重要だ」と話す。 この研究論文の付随論評を執筆した米カリフォルニア大学ヘルスシステムのAtul Butte氏は、両研究が提起した懸念にもかかわらず、AIが患者や医療界全体にとって「大きなプラスになる」と見ている。同氏は、「AIチャットボットが提供する情報は、時間の経過とともに、より正確で利用しやすいものになることは間違いない」との見方を示し、今後、AIチャットボットは、医療情報やケアの提供において、これまで以上に重要な役割を果たすようになり、多くの患者にとって、その恩恵は目に見えるものになると予測している。

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平熱は人によってさまざま

 人間の「平熱」は37.0℃だと長らく考えられてきた。しかし、新たな研究で、体温には個人差があり、誰にでも当てはまるような平均体温というものは実際には存在しないことが明らかになった。人間の体温は、年齢、性別、身長や体重によって異なり、また1日の中でも時間帯によって変動することも示されたという。米スタンフォード大学医学部教授のJulie Parsonnet氏らによるこの研究の詳細は、「JAMA Internal Medicine」に9月5日掲載された。 同大学の研究グループが実施した過去の研究によると、米国人の平均体温は19世紀以来10年ごとに37.0℃から0.05℉ずつ(摂氏に換算すると0.0278℃)低下しているという。これは、健康状態や生活環境の改善により体内での炎症が抑制されるようになったことに起因すると考えられている。 現在の「人間の平熱は37.0℃」という概念は、1860年代に発表されたドイツの研究に由来する。しかしその当時でも、研究者らは、男性や高齢者の体温が女性や若年成人よりも低いことや、午後の方が体温が高いことを指摘していた。 今回の研究では、2008年4月28日から2017年6月4日の間にスタンフォードヘルスケア内の内科と家庭医療科を受診した成人外来患者の61万8,306件の診察データの分析が行われた。いずれの診察でも口腔温の測定が行われていた。研究グループは、LIMIT(Laboratory Information Mining for Individualized Thresholds)フィルタリングアルゴリズムを用いて、極端に高いまたは低い体温と関わる診断や投薬を特定して除外し、体温に関連しないデータのみを解析に用いた。また、各患者の主な診断、投薬内容、年齢、性別、身長、体重、診察の時間帯、診察が行われた月の情報を入手し、年齢、性別、身長、体重、診察の時間帯により体温がどの程度変わるのかを調べた。 LIMITフィルタリングアルゴリズムにより、35.92%の診察データが除外された。除外された診断として最も多かったのは高体温に関連する感染症(76.81%)であり、また、低体温に関連する診断として2型糖尿病が15.71%を占めていた。これにより、12万6,705人の患者(平均年齢52.7歳、女性57.35%)に関する39万6,195件の診察データが解析対象とされた。 その結果、平均体温は、アルゴリズムにかける前のデータでは36.71℃であったのが、不適切と見なされたデータの除外後には36.64℃に低下していた。体温は、男女ともに、年齢が高いほど、また身長が高いほど低くなり、体重が多いほど高くなり、また、男性は女性より平均体温が低い傾向が認められた。診察の時間帯による影響も確認され、体温は午後4時ごろに最も高くなっていた。さらに、このような体温の個人差の最大25.52%は、年齢、性別、身長、体重、診察の時間帯によるものであることも示された。このことは、本研究で検討されていない他の要因、例えば、衣服、身体活動、月経周期、測定誤差、天候、熱い飲み物や冷たい飲み物の摂取などが影響している可能性のあることを意味している。 Parsonnet氏は、このような体温に影響を与える患者ごとの要因を考慮することで、体温がより正確で有用なバイタルサインになる可能性があると話す。同氏は、今後の研究で、発熱の個人的な定義や、常に高めあるいは低めの体温が寿命に影響するかどうかを調べることも視野に入れているとし、「体温のデータは世界中に山とあるため、体温について更なる知見を得るチャンスはいくらでもある」と話している。

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統合失調症患者における10年間の心血管疾患リスク

 心血管疾患(CVD)は、統合失調症患者の最も頻度の高い死亡原因の1つである。トルコ・Kahta State HospitalのYasar Kapici氏らは、統合失調症患者における10年間のCVDリスクと臨床症状との関連を調査した。その結果、統合失調症患者の罹病期間、BMI、陰性症状の重症度はCVDのリスク因子である可能性が示唆された。Noro Psikiyatri Arsivi誌2023年1月13日号の報告。 対象は、統合失調症と診断された患者208例。統合失調症の症状および重症度の評価には、陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)を用いた。10年後のCVDリスクの算出には、QRISK3モデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・統合失調症患者の10年間のCVDリスクは、7.4%であった。・患者の平均健康心臓年齢(QAGE)は、53.1歳であった。・統合失調症患者の10年間のCVDリスクと正の相関が認められた因子は、罹病期間(r=0.57)、BMI(r=0.37)、陰性症状の重症度(r=0.49)であった。・罹病期間、BMI、陰性症状の重症度は、統合失調症患者の10年間のCVDリスクの予測因子であった。 ●罹病期間:t=4.349、p<0.001 ●BMI:t=2.108、p=0.037 ●陰性症状の重症度:t=2.836、p=0.006

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精神的苦痛の大きい白斑患者の特徴

 米国・Incyte CorporationのKristen Bibeau氏らが17ヵ国の白斑患者を対象に、白斑とQOL、メンタルヘルスとの関連性を調べる定性的研究を行った。その結果、世界的に白斑患者は、感情的幸福感(emotional well-being)、日常生活、心理社会的健康に大きな影響を受けていることが示された。その負荷は体表面積(BSA)5%超の病変を有する患者、肌の色が濃い患者、顔や手に病変がある患者で最も大きかった。また、本研究から、患者が振る舞いを変えたこと、明らかな不満を表出していたこと、うつ病と一致する症状を有していたことが示唆され、著者らは、これらが過小診断されている可能性があるとしている。JAMA Dermatology誌オンライン版2023年8月30日号掲載の報告。 2021年5月6日~6月21日の期間において、17ヵ国のオンラインパネルから白斑患者を募集した住民ベースの定性的研究「Vitiligo and Life Impact Among International Communities(VALIANT)試験」が実施された。 白斑の診断を受けた18歳以上の成人5,859例のうち、3,919例(66.9%)が調査を完了し、3,541例(60.4%)が解析に組み入れられた。対象患者は、Vitiligo Impact Patient scale(VIPs)を用いて、QOLやメンタルヘルスなどの感情的幸福感について質問を受けた。また、Patient Health Questionnaire-9(PHQ-9)を用いてうつ症状が評価された。なお、本試験で用いられたVIPsスコアの範囲は0~60で、スコアが高いほど心理社会的負担が大きいことを示した。 主な結果は以下のとおり。・解析対象患者3,541例の年齢中央値は38歳(範囲:18~95)、男性は1,933例(54.6%)、BSA 5%超の病変を有する患者は1,602例(45.2%)、FitzpatrickスキンタイプIV~VI(肌の色が濃い)は1,445例(40.8%)であった。・VIPsスコアの合計点(平均値±標準偏差[SD])は、全体では27.3±15.6点であり、インドの患者が40.2±14.1点と最も高スコアであった(すなわち最も負荷が大きかった)。・VIPsスコアに基づくQOL負荷は、BSA 5%超の病変を有する患者(平均32.6点[SD 14.2])、肌の色が濃い患者(31.2点[15.6])、病変が顔にある患者(30.0点[14.9])または手にある患者(29.2点[15.2])で大きかった。・白斑が日々の生活に大きな影響を及ぼしていると報告したのは、少なくとも全体の40%を占めた(衣服の選択に影響がある:55.2%[1,956/3,541例]など)。・白斑をメイクや衣服でよく隠すと報告した割合は59.4%であった。・精神科疾患の診断を受けていた割合は58.7%であった(不安症[28.8%]、うつ病[24.5%]など)。・PHQ-9に基づく中等度~重度のうつ症状は、55.0%に認められた。インドの患者(89.4%[271/303例])、BSA 5%超の病変を有する患者(72.0%[1,154/1,602例])、肌の色が濃い患者(68.3%[987/1,445例])、顔や手に病変がある患者(59.3%[1,607/2,712例])で高率に認められた。

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コントロール不良高血圧、アルドステロン合成阻害薬lorundrostatが有望/JAMA

 コントロール不良の高血圧患者の治療において、経口アルドステロン合成酵素阻害薬lorundrostatはプラセボと比較して、優れた降圧効果をもたらす可能性があることが、米国・クリーブランド・クリニック財団のLuke J. Laffin氏らが実施した「Target-HTN試験」で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2023年9月10日号で報告された。米国の無作為化プラセボ対照用量設定試験 Target-HTN試験は、米国の43施設で実施された無作為化プラセボ対照用量設定試験であり、2021年7月~2022年6月に参加者の無作為化を行った(Mineralys Therapeuticsの助成を受けた)。 年齢18歳以上、自動診察室血圧(AOBP)測定による収縮期血圧が130mmHg以上で、2剤以上の降圧薬を最大耐用量で少なくとも4週間使用している患者を対象とした。血漿レニン値が抑制され(血漿レニン活性[PRA]≦1.0ng/mL/時)、かつ血清アルドステロン値が上昇(≧1.0ng/dL)している患者をコホート1として、PRA>1.0ng/mL/時の患者をコホート2として登録した。 コホート1は、プラセボまたは5つの用量のlorundrostat(12.5mg、50mg、100mgを1日1回、12.5mg、25mgを1日2回)、コホート2は、プラセボまたはlorundrostat(100mg、1日1回)を経口投与する群に、それぞれ無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、収縮期AOBPのベースラインから8週目までの変化量とした。 コホート1に163例、コホート2に37例を割り付けた。全体の平均年齢は65.7(SD 10.2)歳、女性が60%であり、48%がBMI値30超、40%が2型糖尿病、42%が3剤以上の降圧薬の投与を受けていた。ベースラインの平均血圧は、コホート1が収縮期血圧142.2(SD 12.5)mmHg、拡張期血圧81.5(9.7)mmHgで、コホート2はそれぞれ139.1(8.7)mmHg、79.1(9.7)mmHgだった。50mg群と100mg(1日1回)で有意な降圧効果 コホート1における治療開始から8週の時点での収縮期血圧の変化量は、lorundrostatの1日1回投与では100mg群が-14.1mmHg、同50mg群が-13.2mmHg、同12.5mg群が-6.9mmHgで、プラセボ群は-4.1mmHgであり、同1日2回投与では25mg群が-10.1mmHg、12.5mg群は-13.8mmHgであった。 収縮期血圧のプラセボ群とlorundrostat群の最小二乗平均群間差は、50mg群(1日1回投与)が-9.6mmHg(90%信頼区間[CI]:-15.8~-3.4、p=0.01)、100mg(1日1回投与)が-7.8mmHg(-14.1~-1.5、p=0.04)と有意な差を認めた。 コホート2では、lorundrostat100mg(1日1回投与)で収縮期血圧が11.4(SD 2.5)mmHg低下し、コホート1の同一用量の群と同程度の降圧作用がみられた。 lorundrostat群の6例(3.6%)で血清カリウム値が6.0mmol/L以上に上昇したが、減量または投与中止によって正常化した。コルチゾール分泌不全は発生しなかった。 著者は、「lorundrostatによるアルドステロン合成酵素の阻害は、基礎治療となる降圧療法を問わず、コントロール不良な高血圧患者に降圧効果をもたらす可能性が示された。これらの結果は、コントロール不良の高血圧患者の治療法としての本薬のさらなる検討を支持するものである」としている。

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脂肪が効率よく燃焼される運動強度は個人差が大きい

 減量や疾患予防などの目的で脂肪を効率的に燃焼させる運動をしようとするなら、個別化されたアプローチに基づいて運動強度を設定する必要があるかもしれない。運動強度と脂肪燃焼との関係は個人差が大きいために、心拍数などから推計した“脂肪燃焼ゾーン”は、あまりあてにならない可能性があるという。米マウントサイナイ・アイカーン医科大学のHannah Kittrell氏らの研究によるもので、詳細は「Nutrition, Metabolism and Cardiovascular Diseases」に7月14日掲載された。 脂肪組織以外への脂肪蓄積(異所性脂肪)は2型糖尿病の発症に関係している。代謝を正常に戻すためには異所性脂肪を減らす必要があり、それには運動が有効であって、特に脂肪の酸化速度が最大化する(maximal rate of lipid oxidation;MLO)強度での運動が最適と考えられる。Kittrell氏も、「減量を試みる人の多くがMLOに興味を持つようだ」と述べ、「大半の市販のエクササイズマシンには、年齢と性別、心拍数からMLOを推計してそれを“脂肪燃焼ゾーン”として表示するオプション設定がある」と解説する。ただし同氏によると、そのような“脂肪燃焼ゾーン”は精度検証が行われておらず、「多くの人が、その人のMLOとは異なる強度でエクササイズを行っている可能性がある」とのことだ。 Kittrell氏らの研究は、26人(女性11人)を対象として、運動強度を徐々に高めていきながら酸素摂取量と二酸化炭素排出量を測定するという運動負荷試験によって、正確なMLOを計測。その結果と、心拍数などから推計されるMLOとの比較を行った。解析の結果、両者はあまり一致しておらず、心拍数については平均23拍/分の乖離が認められた。 Kittrell氏は、「近年、MLOに該当する運動強度を『FATmax』と呼び、それを心拍数などから推計することがあるが、われわれの研究は、そのような推計に基づく心拍数は、MLOを引き出すための運動処方の目安としては不適切であることを示している。MLOは個人差が大きいため、正確な評価には個々に運動負荷試験を行い、脂肪の酸化速度を測定することが望ましい」と話している。 また、論文の上席著者であり同大学教授および米チャールズ・ブロンフマン個別化医療研究所所長であるGirish Nadkarni氏は、「本研究を契機に、今よりも多くの人々およびトレーナーが運動負荷試験を用いて、脂肪燃焼に最適な個別化された運動処方が行われるようになることを期待している。また、この研究は、データ駆動型アプローチ(データ収集とその分析に基づく意思決定)が、正確な運動処方に果たす役割を強調するものでもある」と述べている。 なお、研究グループでは現在、このような手法で個別化した運動処方が減量や異所性脂肪減少という点でより優れた効果を発揮し得るか、および、肥満や2型糖尿病、心臓病などに関連する検査指標に対して、従来の手法による運動介入よりも有意な改善をもたらすかを調べる研究を予定している。

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英語で「付き添い人」は?【1分★医療英語】第99回

第99回 英語で「付き添い人」は?I require a chaperon for the physical examination. Could you please accompany me to the examination room?(身体検査の際に付き添い人が必要です。診察室に同席してもらえませんか?)Sure!(もちろんです!)《例文1》医師We will obtain consent for the surgery, and will have a chaperon present. Is that okay?(手術の同意を取るので付き添い人に同席してもらいます。よろしいですか?)患者OK.(わかりました)《解説》今回は英単語の紹介です。“chaperon”(シャペロン)は、英語で「付き添い人」という意味を持つ単語です。医療現場において、患者と医師の間で行われる診察や手続きの際に第三者として同席する役割を指します。これによって医療行為の透明性を保ち、誤解や不適切な行為を防ぐ目的があります。とくに“chaperon”を必要とする場面としては、医師が異性の患者の身体診察をする場合や、手術や延命処置などの重要な意思決定の際に自分や相手を守るための証人として第三者の目を必要とする場合があります。日本の医療現場でも、身体診察の際に看護師などに同席をお願いすることがありますよね。多くの病院では“chaperon”という特定の職業があるわけではなく、単に「付き添い人」という意味合いなので、私もよく看護師やほかの医療スタッフに“Could you stay here as a chaperon?”(chaperonとして同席してくれませんか?)と依頼しています。講師紹介

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リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐O(アウトカム)設定の要点と実際 その1【「実践的」臨床研究入門】第36回

今回はO(アウトカム)を設定する際の要点を解説します。これまでブラッシュアップしてきたわれわれのResearch Question(RQ)のOは下記のとおりです(連載第34回参照)。O:1)末期腎不全(透析導入)、2)糸球体濾過量(GFR)低下速度O(アウトカム)は測定可能で臨床的に意義があるかまず、ここで設定したOが測定可能で臨床的に意義があるものなのか、再考してみましょう。末期腎不全(透析導入)は明確なイベントであり、カルテ調査でその発症日も容易に確認できます。GFRは血清クレアチニン値(Cr)と年齢、および性別で算出される腎機能評価の指標で、日本人の集団でも確立された計算式が論文で公開されています1)。GFR低下速度は、複数回のCrの経時的評価が行われていれば計算できますので、客観的な測定が可能です。末期腎不全(透析導入)は患者さんにとって、生活が大きく変わるハードエンドポイントであり、臨床的にも大きな意義があるOと考えられます。一方、GFR低下速度はサロゲートエンドポイントです(連載第3回参照)。しかし、GFR低下速度の持続的な加速は、慢性腎臓病(CKD)患者さんの末期腎不全発症を含めたハードエンドポイントの予測因子であることが多くの臨床研究の結果から示されています。したがって、これも臨床的に重要なアウトカムと言えるでしょう。さて、われわれのRQの曝露要因(E)は、低たんぱく食 0.5g/kg標準体重/日の遵守という厳格な食事療法です。すでに設定した腎予後に関するOの臨床的重要性は前述したとおりですが、厳格な食事療法に伴う負担など、負の側面も気になりませんか。たとえば、厳格な低たんぱく食事療法によるQOL悪化の懸念は、診療ガイドラインなどでも指摘されていますが、明らかなエビデンスはこれまでに認められていないとされています。今回、われわれが実施を予定しているのは、カルテ調査をベースにした、いわゆる「後ろ向き」の観察研究です(連載第1回、第6回参照)。QOL尺度(連載第3回参照)の経時的な測定は、日常診療では一般的に行われていないと思いますし、われわれのカルテ調査データでも収集はできませんでした。このように、通常の臨床現場で測定されないOについては「後ろ向き」ではなく「前向き」研究でなければ検討できない、ということです。ちなみに、前回紹介したDOPPS(Dialysis Outcomes and Practice Patterns Study)は、血液透析患者さんを対象とした「前向き」観察研究です。DOPPSでは多大なコストをかけて、経時的な健康関連QOL尺度(連載第3回参照)の測定と収集も行っています。また、前回説明したとおり、研究の効率や実施可能性の観点から、できればP(対象)はOを起こしやすい集団である方が望ましいです。つまり、発生頻度が多いOを設定した方が研究の効率が良いということです。そこで、今回の「後ろ向き」観察研究の解析で使用するデータをざっと確認してみたとしましょう。保存期CKD患者さん600例余り、最長5年間の観察期間のカルテ調査データを収集・調べてみたところ、全体の約30%の症例でプライマリのOである末期腎不全(透析導入)の発生が確認できました。実施可能性の高い解析データが収集できたものとホッとした次第です。1)Matsuo S, et al. Am J Kidney Dis. 2009;53;6:982-992.

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第182回 コロナ入院患者の6割が数ヵ月後のMRI検査で複数臓器に異常あり

コロナ入院患者の6割が数ヵ月後のMRI検査で複数臓器に異常あり新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で入院した患者の3例に2例近い61%が退院から約半年ほど(中央値5ヵ月)の時点で複数臓器の異常を呈していました1,2)。英国のCOVID-19入院患者259例が参加したこれまでで最も詳しく調べたCOVID-19罹患後症状(long COVID)MRI画像診断試験の結果です。一般から募った感染していない対照群52例で複数臓器のMRI異常所見を呈していたのは3例に1例ほど(27%)のみでした。COVID-19入院患者の肺のMRI所見異常の割合は飛び抜けて高く、対照群に比べて約14倍も多く認められました。また、脳や腎臓の異常もCOVID-19入院患者により認められ、対照群に比べてそれぞれ約3倍と2倍多く生じていました。先立つ試験で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は心臓を損傷すると示唆されていますが、今回の試験で心臓異常が認められたCOVID-19入院患者と対照群の割合はどちらも5例に1例ほど(それぞれ21%と24%)で似たりよったりでした。肝臓の異常の割合も心臓と同様に大差ありませんでした。COVID-19後の心臓の炎症やそのほかの不調で病院に来る患者は確かにいます。心臓はCOVID-19で損傷こそすれ比較的早く回復するので今回の試験では心臓のMRI異常所見の検出が対照群とほぼ同じだったのかもしれません。あるいは、COVID-19と心臓の不調の関連はそもそもそれほど密接ではないのかもしれません。または、長引く心臓の不調を訴えるCOVID-19患者はMRIでは把握できないこともある不整脈などの病気やほかの臓器の不調を患っている可能性もあります。MRI所見は臓器の調子の目安になるとはいえ感染後の患者の症状をすっかり把握できるわけではありません。今回の試験で肝臓のMRI異常所見と胃腸や腹部の症状の関連は認められませんでした。腎臓や脳のMRI所見も同様で、患者の訴える症状と関連しませんでした。一方、肺のMRI異常所見は別で、咳や胸の苦しさと関連しました。また、心身がすこぶるすぐれない患者には複数臓器のMRI異常所見がより多く認められました。今回の試験のMRI検査で認められた臓器異常がCOVID-19に確かに起因していると判断することはできません。というのもCOVID-19前と後のMRI所見の比較なしでは感染前からすでに存在していた異常を識別することは不可能だからです。そのような結果解釈の注意点はさておき、COVID-19感染後の不調には専門分野の垣根を超えた包括的な手当てが必要なことを今回の結果は示しています。COVID-19で複数の臓器が支障を来す恐れがあるとの注意を持って治療に臨む必要があると米国・スタンフォード大学医学所属の著者Linda Geng氏は言っています3)。Geng氏らは試験のデータ集めを続けており、さらに240ほどのMRIスキャン結果が追加される予定です。COVID-19またはほかの病気のせいでさらなる入院治療が必要になる患者をMRI所見から予想できるかどうかも今後調べられます。もし予想できるなら、COVID-19が重症だった患者をMRI画像診断することで治療が改善し、さらには回復を早めることすら可能になるかもしれません。参考1)The C-MORE/PHOSP-COVID Collaborative Group. Lancet Respir Med. 2023 Sep 22. [Epub ahead of print]2)Longer-term organ abnormalities confirmed in some post-hospitalised COVID patients / University of Oxford3)Months after hospitalization for COVID-19, MRIs reveal multiorgan damage / Science

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