サイト内検索|page:104

検索結果 合計:11806件 表示位置:2061 - 2080

2061.

再発・進行子宮頸がん、アテゾリズマブ+ベバシズマブ+化学療法がOS・PFS改善(BEATcc)/Lancet

 転移、治療抵抗性、再発のいずれかを有する子宮頸がんにおいて、ベバシズマブ+プラチナ製剤を含む化学療法へのアテゾリズマブの上乗せは、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)ともに有意に延長することが、スペイン・バルデブロン腫瘍学研究所のAna Oaknin氏らが行った研究者主導の第III相無作為化非盲検試験「BEATcc試験」の結果で示された。転移のあるまたは再発の子宮頸がんに対しては、GOG240試験でベバシズマブ+化学療法が標準的な1次治療として確立されており、今回のBEATcc試験(ENGOT-Cx10/GEICO 68-C/JGOG1084/GOG-3030)ではこれに加えて免疫チェックポイント阻害薬の上乗せを評価した。結果を踏まえて著者は、アテゾリズマブの追加について「1次治療の新たな選択肢と見なすべきである」としている。Lancet誌オンライン版2023年12月1日号掲載の報告。日本、欧州、米国の医療機関92ヵ所で試験 BEATcc試験は、日本、欧州、米国の医療機関92ヵ所で行われた。対象は測定可能な病変を有し、転移(StageIVB)、治療抵抗性、再発のいずれかを認める子宮頸がんで、未治療、手術・放射線療法が非適応の18歳以上の患者であった。 被験者は1対1の割合で無作為に2群に分けられ、標準療法(シスプラチン50mg/m2またはカルボプラチンAUC5、パクリタキセル175mg/m2、ベバシズマブ15mg/kg、いずれも3週ごとに投与)、または標準療法にアテゾリズマブ1,200mg(3週ごとに投与)を上乗せするアテゾリズマブ併用療法を受けた。病勢進行、許容できない毒性、患者の離脱もしくは死亡まで治療を継続した。併用化学放射線療法歴の有無、組織学的分類(扁平上皮がん、腺扁平上皮がんを含む腺がん)、プラチナ製剤(シスプラチン、カルボプラチン)で層別化した。 主要評価項目は2つで、RECISTに基づく治験責任医師評価のPFSと、ITT集団におけるOSとした。PFS中央値、標準療法群10.4ヵ月、アテゾリズマブ併用群13.7ヵ月 2018年10月8日~2021年8月20日に、適格性の評価を受けた519例中410例が試験に登録された(アテゾリズマブ併用群206例、標準療法群204例)。ベースラインでの両群の特性は類似しており、年齢中央値はアテゾリズマブ併用群51.0歳(四分位範囲[IQR]:43.0~60.0)、標準療法群52.5歳(43.5~61.0)、ECOG PS0は67%と63%であった。また、410例のうち263例(64%)が手術の有無にかかわらず化学療法既往で、90例(22%)が試験登録時にStageIVBであった。日本人の参加は、アテゾリズマブ併用群30例(15%)、標準療法群26例(13%)。 主要解析のデータカットオフ時点(2023年7月17日)で、全集団の追跡期間中央値は32.9ヵ月(95%信頼区間[CI]:31.2~34.6)。同時点のPFS中央値は、アテゾリズマブ併用群13.7ヵ月(95%CI:12.3~16.6)、標準療法群10.4ヵ月(9.7~11.7)だった(ハザード比[HR]:0.62、95%CI:0.49~0.78、p<0.0001)。 また、中間解析(データカットオフ時点)でのOS中央値は、アテゾリズマブ併用群32.1ヵ月(95%CI:25.3~36.8)、標準療法群22.8ヵ月(20.3~28.0)だった(HR:0.68、95%CI:0.52~0.88、p=0.0046)。 Grade3以上の有害事象の発現は、アテゾリズマブ併用群79%、標準療法群75%。アテゾリズマブ併用群で発現増大が認められた有害事象は、Grade1~2の下痢、関節痛、発熱、発疹だった。

2062.

医師が医師に薦める、今年買ってよかったモノ【CareNet.com会員アンケート結果発表】

歴史的な物価上昇が続いた2023年。こんなときだからこそ、良い商品にお金を使っていきたいものではないでしょうか。CareNet.comの会員医師1,000人に、「今年買ってよかったモノ」をお聞きしました。先生方のおススメコメントとともにご紹介します。1.掃除機、洗濯機、トースターなど家電のおススメは?【家電部門】2.パソコンやスマホ、イヤホンなど周辺機器のおススメは?【PC&ガジェット部門】3.電気自動車?ハイブリット車?それとも…?【自動車部門】4.寝具、キッチン用品など、さまざまなおススメ商品【その他】5.番外編:サブスクや宅配サービスのおススメ1.掃除機、洗濯機、トースターなど家電のおススメは?【家電部門】[掃除機]ルンバ「j9+はゴミの収集も自動(消化器外科、30代)」「勝手に掃除してくれてゴミも収集してくれて、時短になる(内科、60代)」「すごく性能が良く、いつもベッドの下まできれいになっている(消化器外科、30代)」ダイソン「あまり汚れてないと思ったところでもかなり埃が吸えている(内科、30代)」「モップがけもできて大変良い(消化器内科、60代)」「吸引力が違う(精神科、30代)」シャーク「ハンディクリーナー:ごみ捨てが簡単で細かいところまで掃除が行いやすい(整形外科、40代)」「スティック型掃除機:コードレスで置場所もとらない(その他、50代)」その他メーカー「シャープ コードレス掃除機(最上位機種):ダイソンを使っていたが、シャープは音も静かで軽くて、吸引力も変わらなかった(心臓血管外科、50代)」「パナソニック ルーロ:スマホから操作できる(消化器内科、30代)」「エコバックス DEEBOT T20 OMNI:毎日帰るときれいな床が保たれていて最高(神経内科、30代)」[ドラム式洗濯乾燥機/乾燥機]「パナソニック:仕上がりがフワフワと口コミで見て購入したが本当だった。乾燥機つき洗濯機は乾燥がしっかりできるかが問題だが、満足できるレベル(内科、40代)」「東芝:圧倒的に生活が楽になった(臨床研修医、20代)」「アクア:コスパが良い(内科、40代)」「リンナイ 乾太くん:ガス式乾燥機は時短!(整形外科、40代)」[空気清浄機]「Airdog mini portable:車内の換気がすばらしかった(その他、50代)」「シャープ 加湿空気清浄機プラズマクラスター:今年ぜんそくにかかったが空気清浄機で改善した気がする(脳神経外科、30代)」[調理家電]トースター「アラジン:表面がカリッとしてめちゃくちゃ美味しく温まる(耳鼻咽喉科、40代)/立ち上がりが早い(呼吸器内科、60代)」「バルミューダ:パンがおいしく焼ける(血液内科、30代)」オーブンレンジ「バルミューダ:日々楽しい(心臓血管外科、50代)」「パナソニックビストロ:賢すぎる(臨床研修医、20代)」その他「Toffy ホットサンドメーカー:簡単においしいホットサンドが作れる(内科、60代)」「ソーダストリーム:家で気軽に炭酸が飲める(内科、20代)」「デロンギ コーヒーメーカー:おいしい(放射線科、30代)/エスプレッソメーカー:自宅で手軽にカフェラテが飲め、買ってよかった(小児科、30代)」「シャープ ヘルシオホットクック:発酵食品から煮物、煮込み料理まで料理の幅が広がる(皮膚科、40代)」「パナソニック ホームベーカリーSDMDX4:自宅でおいしいパンが焼ける(産婦人科、30代)」[その他]「ソニー 有機ELテレビ(BRAVIA):画像がきれい(泌尿器科、50代)」「パナソニック15V型ハイビジョンポータブル液晶テレビ(プライベート・ビエラ):家じゅう持ち歩けて便利(呼吸器内科、50代)」「ブラウン 電動歯ブラシOral-B:強力に汚れを落としてくれる(内科、40代)」「フィリップス 電動歯ブラシ:時短になる(小児科、30代)」「パナソニック ヘアドライヤーナノケアEH-NA0J:コンパクトなのに速乾・大風量で、熱くなり過ぎず、潤いを保った毛質をkeepできるすぐれもの(脳神経外科、50代)」2.パソコンやスマホ、イヤホンなど周辺機器のおススメは?【PC&ガジェット部門】[パソコン]「MacBook Air:見た目がおしゃれで使い心地が良い(内科、50代)」「MacBook Pro:早い(消化器外科、40代)/おしゃれで高機能(精神科、40代)」「Mac mini:小型で性能が良く、価格も適切(血液内科、70代以上)」「マイクロソフト Surface Go 3:軽くて持ち運びしやすい。スライド作りにもweb講演聞くのにもネット見るのにも、wifi環境があれば使えてとても便利(リハビリテーション科、50代)」「パナソニック Let's note:壊れにくく優秀(小児科、60代)」「NEC LavieA23:Web会議に使用しやすいデスクトップを購入。オールインワン型で非常にコンパクトであり、かなりハイスペック(腎臓内科、40代)」「dynabook:毎日使用するものは高くても最新のものを買うと満足度がとても高い(外科、30代)」[スマートフォン]「iPhone15:写真がきれい(糖尿病・代謝・内分泌内科、30代)/快適(消化器内科、50代)」「iPhone15pro:カメラ、操作性が格段に向上(脳神経外科、60代)/散々な評判に反して、熱くならないし、電池持ちもよいし、ProMotionテクノロジーも想像以上に良い(放射線科、40代)/写真が誰でも超きれいにとれる(内科、60代)」「iPhone15ProMAX:カメラの5倍ズームで写真を撮る楽しみが倍増する(麻酔科、30代)」「iPhone SE3:コスパがよい(消化器内科、40代)」「Xperia:7年ぶりに機種変更したが、スピードも使い勝手も断然良い(精神科、50代」[タブレット]「iPad mini 6:携帯性と性能が良い(消化器内科、60代)」「iPad Pro:使い勝手がよく、作業がはかどる。モチベーションも上がる(小児科、30代)」「Amazon Fire:セールで買ったから安かったし、使い勝手も良い(整形外科、40代)」「Androidのタブレット:ほとんどの作業はこれですんでしまうので、最近Windowsはいらないかなと思うようになった(外科、50代)」[イヤホン・ヘッドホン]「AirPods Pro(第2世代):低音の出がすごい(眼科、70代以上)」「OpenComm骨伝導イヤホン:骨伝導なので耳が痛くならず、周囲の環境にも注意を払える(放射線科、30代)」「オーディオテクニカ 骨伝導イヤホンATHCC500BT:待合室のような静かな環境で聴くのに最適(その他、50代)」「Anker Bluetooth5.0ワイヤレスヘッドホンSoundcoreLifeQ20+:性能が良かった(神経内科、50代)」[その他]「Apple Watch:体を動かすこと、睡眠を取ることを意識するようになった(眼科、50代)/スマホからの離脱ができる(腎臓内科、20代)/生活が便利になった(内科、20代)」「Google Chromecast:テレビでのプレゼンに便利(精神科、40代)」「Amazon Alexa:声だけでライトの点灯消灯、テレビ・エアコン・扇風機のオンオフ、カーテンの開け閉めまでらくちんになった。リモコンがほとんど不要になりサイドテーブルが広く使えるようになった(放射線科、60代)」「GERCEO モバイルバッテリー(GERCEOHP8):複数の充電方法に対応しており、日常でも災害発生時でも役立つ(麻酔科、40代)」「エレコム パッド型iPhone充電器:iPhoneにわざわざケーブルを刺す必要がなく非常に重宝(整形外科、30代)」「EXARM ZETA モニターライト:買ってから目が疲れにくくなった(小児科、40代)」「ロジクールマウス:一度使うとやめられない(放射線科、40代)」「おもいでばこ:写真や動画の保管、整理に非常に便利。ふるさと納税の商品にある(膠原病・リウマチ科、30代)」「RayCue DisplayPortHDMI変換アダプタ:PCからモニタへ接続するDsubケーブルがごつくて邪魔でネジ止めが面倒。PCのモニタ出力からHDMIに変換して通常のHDMIケーブルで自在に接続できる(整形外科、70代以上)」3.電気自動車?ハイブリット車?それとも…?【自動車部門】[トヨタ]「シエンタ:多人数で乗ることができて燃費が良い(消化器外科、60代)」「ヤリス クロス:比較的安価で安全装備が充実(糖尿病・代謝・内分泌内科、60代)」「ノア:子連れには最適なファミリーカー(麻酔科、30代)」「プリウスの新車:安全装備が充実(消化器外科、60代)」[日産]「アリア:加速や走行性、静寂性が素晴らしい(内科、60代)」「サクラ:通勤の足に最高です(神経内科、50代)」「セレナ:運転が楽(糖尿病・代謝・内分泌内科、30代)」[他メーカー]「スバル レガシィアウトバック:いい車です(整形外科、50代)/とてもいい車です(内科、50代)」「スバル XV:オートクルーズ機能がとても良い。運転の負担が軽減された(臨床研修医、40代)」「マツダ CX8:6~7人乗りのSUV。国産車SUVの中で唯一まともに座れる3列目。インテリアの質感は国産SUVの中でも有数の出来。希少なディーゼルエンジンがある(循環器内科、40代)」「ホンダ フィット:エコカーでしっかりしていて満足(産婦人科、50代)」「メルセデス・ベンツ 新型Cセダン:ISGで電動化された(内科、60代)」「BMW X3:燃費良く静粛(小児科、60代)」「TESLA ModelX:多少値は張るものの優れた性能と唯一性がある(形成外科、30代)」「フォルクスワーゲン Golf GTI:加速の良さ、日常の走行の安定(脳神経外科、50代)」「ポルシェ 911:楽しい(糖尿病・代謝・内分泌内科、50代)」「ロータス エミーラ:ロータス最後の純ガソリンスポーツカー(脳神経外科、50代)」4.寝具、キッチン用品など、さまざまなおススメ商品【その他】[寝具など]「エマ・スリープ マットレス:睡眠の質が格段に上がった(糖尿病・代謝・内分泌内科、20代)」「コアラマットレス:寝心地がよい(内科、40代)」「トゥルースリーパー プレミアベッドマットレス:A社ポイントで入手したが、畳でも布団より快適(内科、60代)」「DryCool 高密凸凹ウレタンマットレス:反発性強いマットで、睡眠の質が上がった(糖尿病・代謝・内分泌内科、30代)」「西川 マットレス:大谷翔平も選んだ寝心地の良さ(循環器内科、40代)」「西川 オーダー枕:肩こりが解消され、毎晩眠ることが楽しみになった(精神科、30代)」「シルクの枕カバー:当直中も枕カバーを付け替えるだけで良い睡眠になる(内科、20代)」「リライブシャツ:途中で目が覚めることなく眠れる(皮膚科、30代)」[その他]「レンジメート:干物もギョーザもステーキも嘘みたいにうまくできる。片付けも楽。忙しい先生方にはうってつけと思う(整形外科、50代)」「ルピシア 茶こしマグモンポット:日々忙しい中でもおいしい紅茶を手軽に味わえる時間が今の癒し。食洗機も使える(精神科、20代)」「タイガー 真空断熱炭酸ボトル(MKB-T048):炭酸、食洗器対応ながらシンプルな構造で、炭酸以外の普段使いにも良い(整形外科、50代)」「松徳硝子 うすはりタンブラー:飲み物が美味しく飲める(皮膚科、20代)」「SHINfilter ステンレスコーヒーフィルター:コーヒーの味の変化に驚かされる(小児科、40代)」「ロールシュライファー 包丁研ぎ:自炊する必要に迫られた時の相棒(ナイフ)の手入れに最適!(総合診療科、60代)」「パナソニック LEDネックライト:薄暗いところでの書類の記載等、細かい作業の際手元だけを照らしてくれるため、周囲に影響が少なく非常に便利(総合診療科、50代)」「SUWADA クラシックつめ切り:ニッパー式だが、切れ味が全然違う(精神科、50代)」「リファ ファインバブル:よく落ちる(内科、50代)」5.番外編:サブスクや宅配サービスのおススメ「Kindle Unlimited:好きな漫画がかなり読める、当直の暇つぶしになる(耳鼻咽喉科、40代)」「nosh 冷凍宅配おかず:冷凍食品だが、バランスがいい(臨床研修医、20代)/手軽においしいご飯が食べられる(臨床研修医、20代)」「ワタミの宅食 あっとごはん:子育てを機にはじめたが、とても便利で楽!(眼科、30代)」アンケート概要アンケート名『2023年を総まとめ!今年の漢字と他の医師にも薦めたい今年の購入品をお聞かせください』実施日   2023年11月8日~15日調査方法  インターネット対象    CareNet.com医師会員有効回答数 1,029件

2063.

統合失調症患者の入院期間・回数に対する抗精神病薬治療順守の影響

 統合失調症治療における長期的アウトアカムの最適化には、効果的な薬理学的介入が必要とされる。また、服薬アドヒアランスは、統合失調症患者のウェルビーイングにどのような影響を及ぼすかを示す重要な指標の1つである。この服薬アドヒアランスが統合失調症患者の臨床アウトカムに影響することは知られているが、入院期間や再入院の頻度といった因子とどのように関連しているかを調査した研究は十分ではない。インドネシア・パジャジャラン大学のMelisa Intan Barliana氏らは、統合失調症患者の入院期間と入院回数に対する服薬アドヒアランスの影響を調査するため、横断的レトロスペクティブ研究を実施した。その結果、治療アドヒアランスと治療計画は統合失調症患者の性別と有意に関連し、男性患者と女性患者の間に統計学的な有意差があることが示された。Patient Preference and Adherence誌2023年11月1日号の報告。 対象は、インドネシア・West Java Psychiatric Hospitalの統合失調症患者157例。人口統計、併存疾患、罹病期間、抗精神病薬のアドヒアランス、入院期間、入院回数などのデータを患者の医療記録より収集した。すべてのデータの分析には、カイ二乗検定を用いた(有意水準:p<0.05)。 主な結果は以下のとおり。・対象となったすべての統合失調症入院患者のうち、アドヒアランス不良であった患者の割合は88%であった。・治療中断/中止を伴うアドヒアランス不良の患者では、30日以上の入院期間の割合が最も高かった(40.7%)。一方、アドヒアランスが良好で定期的な治療を行っていた患者では、入院回数が5回未満の患者の割合が最も高かった(94.4%)。・統計学的結果では、治療アドヒアランス(p=0.043)および治療計画(p=0.014)と性別との間に有意な関連が認められた。・統合失調症の男性患者と女性患者の違いには、統計学的に有意な差が認められた(p=0.000)。・他の変数が臨床的関連性を示す可能性があるものの、それらの統計学的有意性は認められなかった。

2064.

第193回 米国のゲノム編集治療の幕開け~鎌状赤血球症の遺伝子編集治療を英国に次いで米国も承認

米国のゲノム編集治療の幕開け~鎌状赤血球症の遺伝子編集治療を英国に次いで米国も承認2008年の胎児ヘモグロビン(HbF)抑制遺伝子BCL11A同定の報告1)から15年の月日が過ぎ、そのBCL11A狙いの遺伝子(ゲノム)編集による鎌状赤血球症(SCD)治療Casgevy(exagamglogene autotemcel[exa-cel])を英国に次いで米国もこの週末8日に承認しました2,3)。米国ではおよそ10万例がSCDを患います。同国のアフリカ系アメリカ人(African Americans)に最も多く生じますが、より少ないながらヒスパニック系にも認められます。SCDは体の隅々に酸素を運ぶ赤血球のタンパク質ヘモグロビンを作る遺伝子の変異を根本原因とします。その変異のせいでいびつな「鎌状」に変形した赤血球が血流を滞らせ、体内の組織への酸素運搬を妨げます。鎌状赤血球で血管がいよいよ詰まると、体の自由を奪う激痛の血管閉塞発作(vaso-occlusive crisis:VOC)が発生します。VOCを何度も繰り返すことは致命的な体の障害や若くしての死をもたらします。米国のバイオテクノロジー企業Vertex Pharmaceuticals社がCRISPR Therapeutics社と組んで開発したCasgevyは、VOCを繰り返す12歳以上のSCD患者を対象に今回米国で承認されました。CasgevyはFDAが初めて承認したCRISPR遺伝子編集技術込み治療となりました。Casgevyは患者それぞれから採取した造血幹細胞(HSC)をゲノム編集技術CRISPR/Cas9を利用してHbFが作られるようにBCL11A封印加工したものであり、加工が済んだら急速静注によってそれぞれの患者に1回きり投与されます。HbFは胎児の体内で酸素を運ぶヘモグロビンの一種であり、SCD患者のHbFを増やすことは赤血球の鎌状化を防ぎます。CasgevyはそのHbF増加をもたらし、赤血球がより作られて機能するようにし、VOCをSCD患者が被らずに済むようになることを目指します。Casgevyが投与された31例の長期追跡でVOCの抑制効果が裏付けられています。31例は先立つ2年間に1年あたり4回近く重度のVOCを被っていましたが、Casgevy投与後2年間は2例を除く29例(93.5%)が少なくとも1年間を通してVOCなしで過ごすことができました4)。VOCを繰り返す患者の米国での生涯の医療費は400~600万ドルと推定されています。そのような経済的負担などを考慮して定価220万ドル5)のCasgevyの価値は判断されるでしょう。Casgevyの投与には幹細胞移植の専門的経験が必要です。ゆえにVertex社はCasgevyを投与できる治療拠点を米国全域に設けるべく経験豊富な病院に掛け合っています。すでに以下の病院は受け入れ可能となっています。マサチューセッツ州ボストンのBoston Medical CenterワシントンDCのChildren’s National Hospitalカリフォルニア州ロサンゼルスのCity of Hope Children’s Cancer Centerテキサス州ダラスのMedical City Children’s Hospitalテキサス州サンアントニオのMethodist Children’s Hospitalオハイオ州コロンバスのNationwide Children’s Hospitalテネシー州ナッシュビルのThe Children’s Hospital at TriStar Centennialオハイオ州コロンバスのThe Ohio State University Comprehensive Cancer Center - James Cancer Hospital and Solove Research Instituteイリノイ州シカゴのUniversity of Chicago/Comer Children’s Hospital今回のFDA承認によりVertex社は提携会社にしてCasgevyの生みの親であるCRISPR社に達成報奨金2億ドルを払います。主導権はVertex社にあり、同社がCasgevyの開発、製造、販売を行います。FDAはCasgevyに加えて別のSCD遺伝子治療Lyfgenia(lovotibeglogene autotemcel、lovo-cel)も時を同じくして承認しました2,6)。Lyfgeniaは鎌状化赤血球を生じ難くするヘモグロビン(HbAT87Q)が作られるようにする遺伝子入りのHSCを患者ごとに体外で作って体内に戻すことを治療の中身とし、Casgevyの用途と同様に血管閉塞発作の経験がある12歳以上のSCD患者への使用が承認されました。日本でSCDは少なくとも今のところ縁遠い病気だと思いますが、日本でも馴染みのある病気の遺伝子編集治療の臨床開発も進んでいます。たとえばVerve Therapeutics社は家族性高コレステロール血症の遺伝子編集治療を開発しており、LDLコレステロール低下作用を裏付ける第I相試験結果を先月発表しています7)。VERVE-101という名称のその遺伝子編集治療はCasgevyやLyfgeniaと違って体外に細胞を取り出す必要がなく、目当ての遺伝子編集を体内でやってのけます。VERVE-101もCRISPR社との提携の下で開発されています。参考1)Sankaran VG, et al. Science. 2008;322:1839-1842.2)FDA Approves First Gene Therapies to Treat Patients with Sickle Cell Disease / PRNewswire3)Vertex and CRISPR Therapeutics Announce US FDA Approval of CASGEVY (exagamglogene autotemcel) for the Treatment of Sickle Cell Disease / BUSINESS WIRE4)Casgevy添付文書5)US FDA approves two gene therapies for sickle cell disease / Reuters6)bluebird bio Announces FDA Approval of LYFGENIATM (lovotibeglogene autotemcel) for Patients Ages 12 and Older with Sickle Cell Disease and a History of Vaso-Occlusive Events / BusinessWire7)Verve Therapeutics Announces Interim Data for VERVE-101 Demonstrating First Human Proof-of-Concept for In Vivo Base Editing with Dose-Dependent Reductions in LDL-C and Blood PCSK9 Protein in Patients with Heterozygous Familial Hypercholesterolemia / GLOBE NEWSWIRE

2065.

抗うつ薬治療抵抗性うつ病に対するブレクスピプラゾール補助療法~国内第II/III相ランダム化比較試験

 抗うつ薬への治療反応が不十分であることは、効果的なうつ病治療の妨げとなる。関西医科大学の加藤 正樹氏らは、抗うつ薬治療で効果不十分な日本人うつ病患者を対象に、ブレクスピプラゾール補助療法の投与量、有効性、安全性を評価するため、国内第II/III相ランダム化比較試験であるBLESS試験を実施した。Psychiatry and Clinical Neurosciences誌オンライン版2023年11月7日号の報告。 BLESS試験は、8週間の単盲検期間では抗うつ薬治療で効果不十分であった日本人治療抵抗性うつ病患者を対象としたプラセボ対照ランダム化多施設共同並行群間第II/III相試験である。SSRI/SNRI治療で効果不十分なうつ病患者を対象に、6週間のブレクスピプラゾール1mg、2mgまたはプラセボの補助療法を行う群にランダムに割り付けられた。治療抵抗性うつ病患者の定義は、1~3の抗うつ薬治療では、ハミルトンうつ病評価尺度(HAMD-17)合計スコア14以上と効果不十分であった患者とした。主要エンドポイントは、Montgomery Asbergうつ病評価尺度(MADRS)合計スコアのベースラインからの変化とした。副次的エンドポイントは、MADRSによる治療反応、寛解率、臨床全般印象度の改善度(CGI-I)スコアとした。安全性は、とくに抗精神病薬の有害事象に関して包括的に評価した。 主な結果は以下のとおり。・スクリーニング対象患者1,194例中740例をランダム化した。・ベースライン時およびベースライン後のMADRS合計スコアは、1以上であった。・対象患者の内訳は、ブレクスピプラゾール1mg群248例、ブレクスピプラゾール2mg群245例、プラセボ群243例であった。・MMRM分析では、6週目のMADRS合計スコアのベースラインからのLSM(SE)変化は、ブレクスピプラゾール1mg群で-8.5±0.47(調整済み対プラセボ群変化量の差:-1.7、95%信頼区間[CI]:-3.0~-0.4、p=0.0089)、ブレクスピプラゾール2mg群で-8.2±0.47(同:-1.4、95%CI:-2.7~-0.1、p=0.0312)、プラセボ群で-6.7±0.47であった。・副次的有効性の結果は、主要エンドポイントを裏付けていた。・ブレクスピプラゾール補助療法の忍容性は、良好であった。 著者らは「抗うつ薬治療で効果不十分な日本人治療抵抗性うつ病患者に対するブレクスピプラゾール補助療法は、1mg/日および2mg/日のいずれも有用であり、忍容性も良好であり、ブレクスピプラゾール補助療法における開始用量は、1mg/日が適切であることが示唆された」としている。

2066.

治療歴のあるHER2+転移乳がん、アベルマブ追加でPFS改善(AVIATOR/TBCRC045)/SABCS2023

 治療歴のあるHER2+転移乳がんに対して、標準治療である化学療法+トラスツズマブに、抗PD-L1抗体であるアベルマブを追加することで無増悪生存期間(PFS)が有意に改善することが示された。一方、化学療法+トラスツズマブ+アベルマブに、4-1BBアゴニストであるutomilumabを追加してもPFSの改善はみられなかった。米国・Dana-Farber Cancer InstituteのAdrienne G. Waks氏がサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2023)で発表した。 本試験は、HER2+転移乳がんに対して、化学療法+トラスツズマブにアベルマブおよびutomilumabを併用した場合の有効性と安全性を検討した無作為化第II相試験である。・対象:トラスツズマブ/ペルツズマブ/T-DM1の治療歴がある進行HER2+乳がん(ビノレルビン/免疫チェックポイント阻害薬の治療歴がある患者は除外)100例・試験方法:ビノレルビン+トラスツズマブ(NH)群、ビノレルビン+トラスツズマブ+アベルマブ(NHA)群、ビノレルビン+トラスツズマブ+アベルマブ+utomilumab(NHAU)群に1:2:2で無作為に割り付け・評価項目:[主要評価項目]PFS[副次評価項目]全奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、安全性/忍容性※当初、NHA群とNH群、NHAU群とNHA群で比較予定だったが、2021年utomilumabの開発が中止され、中間無益性解析でNHAU群のNHA群に対するPFSのハザード比(HR)が1.14(p=0.32)であったことからNHAU群を終了した。 主な結果は以下のとおり。・NHA群(45例)は NH群(18例)に比べて PFS を有意に改善し(HR:0.56、90%信頼区間[CI]:0.31~0.91、片側log rank検定p=0.025)、中央値はNH群2.0ヵ月、NHA群3.8ヵ月だった。・ORRは、NH群11.1%に対してNHA群20.0%、DOR中央値は、NH群が評価不能、NHA群が15.8ヵ月だった。・患者全体において、治療前の腫瘍浸潤リンパ球(TIL)が10%以上の患者では10%未満の患者よりPFSが良好な傾向を示した(HR:0.55、90%CI:0.29~1.04)。一方、PD-L1 CPSが1以上と1未満でPFSに差はみられなかった(HR:0.77、90%CI:0.43~1.36)。・Grade3/4の試験治療下における有害事象(TEAE)は、NH群61.1%、NHA群62.2%とほぼ同等だった。NHA群でGrade3の免疫関連有害事象が2例発現した(副腎機能不全、AST上昇)。予期しないTEAEは認められなかった。 Waks氏は「治療歴のあるHER2+転移乳がんに対する免疫チェックポイント阻害のさらなる研究が必要」と述べた。

2067.

急性中毒疑いの昏睡患者、非侵襲的気道管理は有効か/JAMA

 急性中毒が疑われる昏睡状態の患者では、気管挿管を行わない保存的な治療は通常治療と比較して、院内死亡、集中治療室(ICU)入室期間、入院期間の複合エンドポイントに関してより大きな臨床的有益性をもたらし、挿管に伴う有害事象や肺炎も少ないことが、フランス・ソルボンヌ大学のYonathan Freund氏らが実施した「NICO試験」で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2023年11月29日号に掲載された。フランス21施設の非盲検無作為化臨床試験 NICO試験は、フランスの20の救急診療部と1つのICUが参加した非盲検無作為化臨床試験であり、2021年5月~2023年4月に患者の無作為化を行った(フランス保健省の助成を受けた)。 急性中毒が疑われ、グラスゴー昏睡尺度(GCS)のスコアが9点未満の昏睡状態にある患者225例(平均年齢33歳、女性38%)を登録し、気管挿管を行わない保存的な気道管理を受ける群(介入群)に116例、通常治療を受ける群(対照群)に109例を無作為に割り付けた。 介入群では、緊急挿管基準を満たす場合を除き挿管を行わず、対照群では、挿管の可否の決定は治療を行う救急医の裁量とした。 主要エンドポイントは、院内死亡、ICU入室期間、入院期間の複合とし、副次エンドポイントは、挿管に起因する有害事象、48時間以内の肺炎の発症などであった。主要エンドポイントは介入群で優れる ベースラインの全体のGCSスコア中央値は6点(四分位範囲[IQR]:3~7)で、主な毒素はアルコール(67%)であった。挿管を受けた患者は、介入群が19例(16.4%)、対照群は63例(57.8%)だった。 両群とも入院中に死亡した患者はいなかった。ICU入室期間中央値は、対照群の24.0時間(IQR:0~57.0)と比較して、介入群は0時間(0~18.5)と短かった(率比[RR]:0.39、95%信頼区間[CI]:0.24~0.66)。また、入院期間中央値は、対照群が37.0時間であったのに対し、介入群は21.5時間だった(RR:0.74、95%CI:0.53~1.03)。 これらのデータに基づき、主要エンドポイントに関する臨床的有益性は、介入群で有意に優れることが示された(勝利比[win ratio]:1.85、95%CI:1.33~2.58)。不必要な挿管を回避できる可能性 介入群では、機械換気を受けた患者の割合が低く(18.1% vs.59.6%、絶対群間リスク差:-42.5%、95%CI:-54.1~-30.9)、挿管による有害事象の発生率も低かった(6.0 % vs.14.7%、絶対群間リスク差:-8.6%、95%CI:-16.6~-0.7)。 また、挿管後の肺炎も、介入群で発生頻度が低かった(6.9% vs.14.7%、絶対群間リスク差:-7.8%、95%CI:-15.9~0.3)。 著者は、「これらの知見は、実臨床において重要な意味を持つ。保存的治療を用いれば、急性中毒で昏睡状態にある患者において不必要な挿管を回避し、有害事象のリスク低下につながる可能性がある」とし、「この試験は盲検化されていなかったため、ホーソン効果(Hawthorne effect)により、医師の行動と挿管の決定に影響を及ぼした可能性がある」と指摘している。

2068.

パクスロビド投与後のCOVID-19再発リスクは高い?

 抗ウイルス薬のパクスロビド(一般名ニルマトレルビル・リトナビル、日本での商品名パキロビッドパック)は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化予防に有効ではあるが、その反面、再発リスクを著しく高める可能性のあることが、新たな研究で明らかにされた。パクスロビドを投与されたおよそ5人に1人で、そのようなウイルス学的なリバウンドが認められたという。米マサチューセッツ総合病院の感染症専門医であるMark Siedner氏らによるこの研究の詳細は、「Annals of Internal Medicine」に11月14日掲載された。 この研究では、新型コロナウイルス検査で陽性の判定を受けたCOVID-19患者127人を対象として、ウイルス学的リバウンドの発生率を、パクスロビドによる治療を受けた患者(72人、投与群)と受けていない患者(55人、非投与群)との間で比較した。新型コロナウイルスのウイルス学的リバウンドは、1)新型コロナウイルス検査で陰性の判定後に陽性の判定が出た場合、2)ウイルス量が前回の測定値から1.0 log10 copies/mL(1mL当たりのウイルスのコピー数が10個)以上増加し、4.0 log10 copies/mL(1mL当たりのウイルスのコピー数が10の4乗個)未満であったウイルス量が、検査で2回連続して4.0 log10 copies/mL以上になった場合、と定義された。 投与群には、非投与群に比べて平均年齢と新型コロナワクチン接種率が高く、免疫抑制状態にある人が多いという特徴が認められた。新型コロナウイルスのウイルス学的リバウンドは、投与群の20.8%、非投与群の1.8%で確認された(絶対差19.0%、95%信頼区間9.0〜29.0%、P=0.001)。多変量解析では、投与群のみウイルス学的リバウンドと有意に関連することが示された(調整オッズ比10.02、95%信頼区間1.13〜88.74、P=0.038)。また、ウイルス学的リバウンドの発生率は、パクスロビドによる治療開始時期が診断と同日(0日)の場合で29.3%、診断から1日後で16.7%、2日以上後で0%と、開始時期が早いほど高いことも判明した。さらに、リバウンドしなかった患者でのウイルス排出期間(中央値)は3日であったのに対し、リバウンドが生じた患者での排出期間は14日と長かった。 Siedner氏は、「われわれの研究から、パクスロビドを投与された人の20%以上でウイルス学的リバウンドという現象が認められ、この現象が予想よりもはるかに頻繁に生じていることが明らかになった。また、リバウンドが生じた人ではウイルスの排出期間も長かった。このことは、これらの人が、COVID-19から回復後もウイルスを伝播させる可能性のあることを示唆している」と述べている。 なお、これまでの臨床試験では、パクスロビドを投与された患者の中でウイルス学的リバウンドが生じたのは1〜2%であったことが報告されている。研究グループは、この数字の違いは、過去の臨床試験が2つの時点でしか患者を評価していないことに起因する可能性があるとの見方を示す。これに対して今回の研究では、新型コロナウイルス感染から治療を経てウイルス学的リバウンドが生じるまで、患者が注意深く観察された。論文の共著者である、米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院のJonathan Li氏は、「われわれは、週に3回、時には数カ月にわたって患者をフォローアップし、自宅でのサンプル採取を行った。ウイルスRNAレベルとウイルス培養データの両方があることで、パクスロビドを使用した患者の経験をより包括的、かつ詳細にとらえることができた」と述べている。 ウイルス学的リバウンドのリスクがどの程度のものであれ、研究グループは、パクスロビドの有用性を支持している。Li氏は、「私にとって、パクスロビドがCOVID-19重症化リスクの高い患者に対する救命薬であることに変わりはない」と話す。同氏は、「この研究は重要な情報を提供するものではあるが、パクスロビドが入院や死亡の予防に優れた効果を発揮するという事実を変えるものではない。むしろ、パクスロビドを投与された患者に関する貴重な洞察を提供する結果であり、同薬の投与後の患者の転帰を予測するのに役立つ」と話している。

2069.

第68回 ROC解析で算出したカットオフ値【統計のそこが知りたい!】

第68回 ROC解析で算出したカットオフ値カットオフ値(Cutoff value)とは、定量データを区切るために用いる基準の値のことです。医療分野に絞って言えば、ある検査の陽性、陰性を分ける値のことで「病態識別値」とも呼ばれます。検査結果によって、特定の疾患に罹患した患者と罹患していない患者を分ける境界値のことです。前回第67回では、2×2分割表のクラメール連関係数で算出するカットオフ値について紹介しましたが、今回はROC解析で算出するカットオフ値について解説します。■ROC解析ROC解析について解説します。ROC曲線は第2次世界大戦中にレーダーの性能評価をするために開発されました。現在では、工業、医療などさまざまな分野で利用されています。ROCは“Receiver operating characteristic”の略です。ROC解析は、カットオフ値を連続的に変化(例題では表1 BMI30~21)させたときの、感度と100%から特異度を引いた値(1-特異度)を用います。縦軸(y軸)を感度とし、横軸(x軸)を1-特異度とするグラフ上に、感度および1-特異度をプロットして、グラフを作成します。こうして描かれた曲線が「ROC曲線」です。本事例におけるROC曲線のグラフを示します(表1、図1)。表1 感度、1-特異度図1 感度と1-特異度のROC曲線ROC曲線を用いて、最適なカットオフ値の求め方を示しますが、それには2つの方法があります。【方法(1)】グラフの左上隅の起点座標(0%、100%)から点までの距離が最小の検査結果が最適なカットオフ値です。例題では、横軸7.1%、縦軸83.3%の点まで距離が18.1%で最小です。そのBMIは26です。よって最適なカットオフ値は26です(表2、図2)。表2 起点から点までの距離(横:x、縦:y)図2 感度と1-特異度のROC曲線【方法(2)】点座標(0%、0%)と点座標(100%、100%)を結ぶ直線を引きます。点から直線までの距離を求めます。距離が最大の検査結果が最適なカットオフ値です。例題では、横軸7.1%、縦軸83.3%の点から直線まで距離が53.9%で最大です。そのBMIは26です。よって最適なカットオフ値は26です(表3、図3)。表3 点から斜線までの距離(横:x、縦:y)図3 感度と1-特異度のROC曲線用いる方法によっては、求めた最適なカットオフ値が異なることがあります。どれを選ぶかは分析者の判断に委ねられます。■検査の有用性を調べる方法について検査は、どれくらい有用性があるのかを調べる方法を説明するために、2つのケースを示します。【ケース1】表4のBMI26以上の10人は全員が陽性、BMI26未満の10人は全員が陰性です。検査陽性者(BMI検査で陽性と判定された患者)は全員疾患(疾病有無で陽性の患者)があり、検査陰性者は全員疾患がないと判定できる検査です。クラメール連関数の最大は1.000で当然ながらカットオフ値は26となります。表4 ケース1の検査結果画像を拡大するケース1のROC曲線を描きました(図4)。曲線で囲まれる面積は1(100%)となります。陽性と陰性を完璧に分ける理想的な検査の面積は100%となります。図4 ケース1のROC曲線【ケース2】表5のように疾患の有無で陰性10人のBMI検査は21~30です。陽性10人のBMI検査も21~30で、どのカットオフ値も陽性と陰性を判別することができていません。表5 ケース2の検査結果画像を拡大する図5にROC曲線を描いてみました。曲線で囲まれる面積は0.5(50%)となります。陽性と陰性をまったく判別できない検査における面積は、このように50%となります。図5 ケース2のROC曲線■AUCAUC(Area Under the Curve)とは、ROC曲線の下側の面積のことです。AUCはある検査が、どれくらい有用性があるのかを調べる指標です。先述の例からわかるように、陽性と陰性をまったく判別できない検査のときにAUCが0.50(50%)になり、陽性と陰性をきちんと判別できる検査のときにAUCは1(100%)になります。表1のAUCを図6に示します。AUCは92.3%で100%に近く有用性のある検査といえます。図6 表1のROC曲線この検査が母集団についても有用性があるかは1群母比率検定で調べることができます。帰無仮説:AUCは0.5(50%)である。対立仮説:AUCは0.5(50%)より大きい(片側検定)。p値はExcel関数で求めることができます。=1-NORMSDIST(検定統計量)→0.0001「p値<0.05より、BMI検査は有用な検査である」といえる結果となります。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ統計のそこが知りたい!第50回 クラメール連関係数とは?第51回 期待度数がわかれば簡単! クラメール連関係数の計算法特別編 カットオフ値とROC解析

2070.

統合失調症患者に対する心血管リスク最適化プログラム

 心血管疾患は、統合失調症患者の早期死亡の主な原因の1つである。関連する修正可能なリスク因子には、不健全なライフスタイル、薬剤性副作用、身体的併存疾患などが含まれる。スペイン・ビック大学のNuria Riera-Molist氏らは、統合失調症患者の心血管リスク(CVR)低下のための6ヵ月間にわたる多因子CVR介入の有効性を評価する目的で本研究を実施した。その結果、患者中心の多因子CVR介入は統合失調症患者の6ヵ月後のCVRを改善し、それは主に脂質プロファイルの改善によりもたらされていたという。Journal of Psychiatric Practice誌2023年11月1日号の報告。 地域の精神保健センターにおいて、2群間並行ランダム化臨床試験を実施した。1つ以上のCVR因子(高血圧、糖尿病、高コレステロール血症、喫煙)のマネジメントが不十分な統合失調症患者46例を、介入群または対照群にランダムに割り付けた。介入群では、健康的なライフスタイルの促進、CVR因子の薬理学的管理、向精神薬の最適化、動機付けフォローアップなどの患者中心のアプローチ(心血管リスク最適化プログラム[Programa d'optimitzacio del RISc CArdiovascular:PRISCA])を行った。主要アウトカムは、両群のベースライン時と比較した6ヵ月後のCVRの変化とし、Framingham-REGICOR関数を用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・対象患者は、介入群23例、対照群23例にランダムに割り付けられた。・ベースライン時に最も高頻度で認められたCVR因子は、高コレステロール血症(84.8%)であり、次いで喫煙(39.1%)であった。・介入群では、6ヵ月後のREGICORスコアの有意な低下が認められたが(相対リスクの低減率:20.9%)、対照群では有意な変化が認められなかった。 【介入群】REGICORスコア:-0.96%、95%信頼区間(CI):-1.60~-0.32、p=0.011 【対象群】REGICORスコア:0.21%、95%CI:-0.47~0.89、p=0.706・介入群では、LDLコレステロールの有意な低下も確認された(-27.14mg/dL、95%CI:-46.28~-8.00、p=0.008)。

2071.

HER2+転移乳がんへのtucatinib+T-DM1がPFS改善、脳転移例にも有望(HER2CLIMB-02)/SABCS2023

 既治療のHER2陽性局所進行/転移乳がん患者に対する経口チロシンキナーゼ阻害薬tucatinibとトラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)の併用が、T-DM1単独療法と比較して無増悪生存期間(PFS)を有意に改善した。米国・フレッド・ハッチンソンがん研究センターのSara A. Hurvitz氏が第III相HER2CLIMB-02試験の結果を、サンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2023、12月5~9日)で報告した。・対象:トラスツズマブとタキサンによる治療後に進行したHER2陽性局所進行/転移乳がん患者(ECOG PS≦1)。既治療で安定状態、あるいは即時の局所治療を必要としない活動性または未治療の脳転移を有する患者も対象とされた。・試験群:tucatinib(1日2回300mg、経口投与)+T-DM1(3週間間隔で3.6mg/kg、静脈内投与) 228例・対照群:プラセボ+T-DM1 235例・評価項目:[主要評価項目]RECIST v1.1を用いた治験担当医師評価に基づくPFS[主要副次評価項目]全生存期間(OS)、脳転移を有する患者におけるPFSおよびOS、RECIST v1.1に基づく確定奏効率(cORR) 主な結果は以下のとおり。・ベースラインにおける年齢中央値はtucatinib群55(26~83)歳vs.プラセボ群53(27~82)歳、ホルモン受容体陽性は60.1% vs.59.6%、脳転移を有する患者は43.4% vs.44.7%(活動性の脳転移:21.9% vs.24.3%)であった。進行がんに対する前治療歴は1ラインの患者が64.0% vs.63.8%、ペルツズマブ治療歴のある患者が88.6% vs.91.1%を占めた。・追跡期間中央値24.4ヵ月(データカットオフ:2023年6月29日)におけるPFS中央値は、tucatinib群9.5ヵ月(95%信頼区間[CI]:7.4~10.9)vs.プラセボ群7.4ヵ月(95%CI:5.6~8.1)となりtucatinib群で有意に改善した(HR:0.76、95%CI:0.61~0.95、p=0.0163)。・脳転移を有する患者におけるPFS中央値は、tucatinib群7.8ヵ月(95%CI:6.7~10.0)vs.プラセボ群5.7ヵ月(95%CI:4.6~7.5)であった(HR:0.64、95%CI:0.46~0.89)。・cORRはtucatinib群42.0%(完全奏効[CR]:4.3%)vs.プラセボ群36.1%(CR:4.2%)であった。・両群で約8割の患者が1ライン以上の後治療を受けており、約5割がT-DXd、約4割が化学療法を受けていた。・OSの暫定結果は、必要なイベント数253件中134件(53%)が起きた段階のデータで、事前に規定された有意水準を満たさなかった。・Grade3以上の治療下での有害事象(TEAE)は、tucatinib群68.8%、プラセボ群41.2%で発現した。tucatinib群で多くみられたのはALT上昇、AST上昇(ともに16.5%)、疲労(6.1%)、下痢(4.8%)などであった。 Hurvitz氏は、「トラスツズマブとカペシタビンにtucatinibを追加することの有効性を示したHER2CLIMB試験に続いて、今回の結果はtucatinibをベースとしたレジメンが既治療のHER2陽性局所進行/転移乳がん患者において病勢進行を遅らせることを示した」としている。

2072.

座って過ごすことは眠っているよりも心臓の健康に悪い

 心臓の健康にとって、座って過ごすことほど悪いことはないことが、新たな研究で確認された。研究論文の筆頭著者である、英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)スポーツ・運動・健康研究所のJoanna Blodgett氏は、「われわれの研究から得られた大きな収穫は、活動量を少し増やすだけでも心臓の健康に良い影響を与えることができるということと、その強度も重要だということだ」と述べている。Blodgett氏らの研究では、心臓の健康に最も効果的なのは、たとえ数分でも、座って過ごす時間をランニングや早歩きなどの心拍数と呼吸数を上げるような中等度から高強度の運動(moderate to vigorous physical activity;MVPA)に置き換えることであり、立っていることや眠っていることでさえ、座っているよりは良いことが示されたという。この研究結果は、「European Heart Journal」に11月10日掲載された。 心血管疾患は世界の死因の第1位を占める疾患だ。研究グループによると、2021年には3人に1人が心血管疾患により死亡し、1997年以来、世界中で心血管疾患の罹患者数は倍増しているという。 この研究では、Prospective Physical Activity, Sitting, and Sleep(ProPASS)コンソーシアムから6件の研究(5カ国の対象者の総計1万5,253人、平均年齢53.7±9.7歳)のデータを抽出し、5種類の身体活動と6種類の肥満度および心血管代謝の指標との関連を調べた。5種類の身体活動とは、睡眠、座位行動、立位行動、低強度の運動(light intensity physical activity;LIPA)、MVPAで、6種類の指標とは、BMI、ウエスト周囲径、HDLコレステロール(HDL-C)、総コレステロール(TC)とHDL-Cの比(TC/HDL-C比)、トリグリセライド(中性脂肪)、HbA1cであった。対象者は、太ももに装着するウェアラブルデバイスで1日の活動量を測定していた。 対象者は平均して、睡眠に7.7時間、座位行動に10.4時間、立位行動に3.3時間、LIPAに1.5時間、MVPAに1.3時間を費やしていた。解析からは、座位行動と比べた場合に心臓の健康に最も良い影響をもたらすのはMVPAであり、次いで、LIVP、立位行動、睡眠の順であることが明らかになった。また、1日の中に占める座位行動、立位行動、LIPA、睡眠の時間の一部をMVPAに置き換えるだけで、検討した指標の全てが改善することも示された。例えば、BMIが26.5の54歳女性の場合、30分の座位時間をMVPAに置き換えることで、BMIが0.64、ウエスト周囲径が2.5cm、HbA1cが1.33mmol/mol減少した(それぞれ、2.4%、2.7%、3.6%の減少)。心血管代謝を改善させるためにMVPA以外の身体活動をMVPAに置き換えるのに必要な最小の時間には、3.8分(LIPAをMVPAに置き換えることでHbA1cが改善)から12.7分(座位をMVPAに置き換えることで中性脂肪が改善)の幅があった。 本研究に資金を提供した英国心臓財団のアソシエイトメディカルディレクターであるJames Leiper氏は、「運動が心血管の健康に実質的な効果をもたらすことはすでに知られている。今回の研究結果は、毎日のルーチンを少し調整するだけで心筋梗塞や脳卒中の発症リスクを低下させられることを示したもので、励みになる」とコメントしている。 Leiper氏は、「毎日を活動的に過ごすのは、容易なことではない。どのようなものであれ心拍数が上がるような活動を長く楽しみながら続けるには、何らかの変化を加えることが重要となる。電話をかけながら歩く、時計のアラームをセットして1時間おきに立ち上がってスタージャンプをするなどの『運動スナック』を取り入れることは、1日の活動の中に身体活動を取り入れるための良い方法だろう」と述べている。

2073.

化学眼外傷【いざというとき役立つ!救急処置おさらい帳】第9回

今回は化学眼外傷についてです。洗顔料や洗剤、化粧品などの化学物質が目に入ったという経験は誰でも一度はあると思います。私も皿洗い中に洗剤が目に入って痛い思いをしたことがあります。私の場合は目を洗えば症状が消失しましたが、化学物質の種類や経過によっては失明の恐れがあることが知られているため、ちょっとした受傷でも恐怖を覚える患者さんは少なくありません。救急外来に化学眼外傷の患者さんが来るのはたいてい夜です。日中であれば眼科を受診するため、眼科以外の開業医の先生が診察する機会はまれかもしれません。しかし、万が一来院したときのために初療を知っておくことは重要です。今回は、化学眼外傷患者が受診した際にどのような対応が必要かを解説します。<症例>30歳、男性主訴目に殺虫剤が入った受診2時間ほど前、家に虫が入ったため殺虫剤を使用した。目を離したすきに子供が殺虫剤を使用し、それが患者の顔面にかかった。その後、目がひりひりするため電話で問い合わせをしてから受診。既往歴、アレルギー歴、内服薬、バイタル:特記事項なし両目に結膜充血ありこれは、私が近くに眼科がないとある南方の島の病院で働いていたときの症例です。眼科を受診するためには、船+車で3~4時間程度かかります。「眼科に電話で相談する」が最も適切な回答だとは思いますが今回はそれはナシにして…。眼表面の異物に対して非専門医ができる治療は「洗浄」です。とにかく洗います。上記の症例では電話で問い合わせがあったため、私は「まず10分間水道水で洗ってから来て」と伝えました。化学眼外傷の初療で重要なことは「なるべく早く洗浄して、化学物質を洗い流す」です1)。診療ストラテジー(1)視力評価視力は眼のバイタルサインと呼ばれるほど重要ですので、視力を必ず確認しましょう。視力検査のランドルト環があればよいのですが、なければ「いつもと見え方が違いますか?」と質問し、視力障害がないかを判断しましょう。(2)化学物質の評価次に、何が目に入ったか聞いてpHを調べてみましょう。目に入った成分のpHを調べる最も優れた方法はインターネットで検索することです。多くの患者は眼に入ったものが何かわかっていますので、「商品名、SDS※」もしくは「商品名、pH」と検索すれば大抵の商品のpHはわかります。※SDS:Safety Data Sheet(安全データシート)目に入ったものがわからない、もしくは商品名を調べてもわからない場合は、pH試験紙で眼表面のpHを調べて、正常範囲を逸脱しているかどうかを確認します。人間の眼のpHは大体6.5~7.0、高くて8.0で日内変動があります2,3)。これより大きく外れた場合は緊急性が高いです。眼表面のpHの測定をするには、尿試験紙のpHの部位を当ててもよいですし、pH測定用の試験紙でも構いません。pH試験紙のpHごとの色アルカリだとどす黒くなり、酸性だと明るい赤になります。試しに家にあったハイター(pH12)を試験紙に付けてみたところこんな色でした。ハイターをpH試験紙につけてみたちなみにこの患者さんの目に入った殺虫剤を検索したところ「pH 該当しない」となっていました。そのため眼表面のpHを測定したところ、pH7.0と正常範囲内でした(後日、「該当しないとはどういう意味?」と経済産業省に問い合わせたところ、「本当は掲載しなければならないそうで対応します」と返事をいただきました)。(3)pHで組織障害を推測成分が強酸(pH<4)もしくは強アルカリ(pH>10)の場合は可及的速やかに眼球の洗浄が必要となります。とくに強アルカリの場合、「水酸化イオンと陽イオンに解離し、細胞膜の脂肪酸を鹸化しながら、眼球の上皮、間質、内皮を破壊する」という事象が生じます。わかりにくいのですが、端的に言うと「傷が深い」です。この患者さんは眼表面のpHが正常範囲内なので組織障害は低いと考えました。(4)鎮痛、洗浄治療は洗浄です。とにかく洗うことが重要です。しかし、結膜や角膜に障害が強い場合は、痛みで目が開けられなかったり、水をかけられなかったりすることがあります。その場合は、オキシブプロカイン点眼薬を投与して除痛します。除痛ができたら洗浄を開始します。多くの文献では最低2Lの水道水もしくは生理食塩水での洗浄を推奨しています4,5)。瞼の裏などに洗い残しがあることがあるため、必ず上眼瞼、下眼瞼を順番に反転させて眼球を動かしながら奥まで洗浄しましょう。強酸や強アルカリの成分の場合、化学物質が洗い流されていることを確認することが重要です。洗浄後に再度pH試験紙を使用し、正常pHである6.5~8.0になっていることを確認できれば洗い流せたと判断します。強アルカリはなかなか落ちませんので注意が必要です。ハイターを触ったことがある方は、あのネトネトした感じが洗っても洗っても落ちないという経験があると思います。私は実際にアルカリ眼症の洗浄をしたことがありますが、10Lの生理食塩水で洗ってもまだpH試験紙がどす黒い色をしていました。結局眼科に相談し、さらに10Lを追加して洗いましたが、やはりどす黒く、再度眼科と相談して引き継ぎました。なお、本症例の疼痛は違和感程度であったため、鎮痛薬は使用せず2Lの水道水で洗浄して終了としました。(5)洗浄後洗浄後の対応ですが、私は強酸や強アルカリ成分による外傷、視力障害がある場合は必ず緊急で眼科に相談するようにしています。pHが逸脱していなくても、オキシブプロカイン点眼を使わなければいけないほど疼痛が強い場合は眼表面に強い障害を起こしている可能性が高いので、抗菌薬入りの点眼薬と内服の鎮痛薬を処方して後日眼科に相談しています。オキシブプロカイン点眼薬でなく、内服の鎮痛薬を処方する理由は、オキシブプロカイン点眼薬の連続使用により創傷治癒遅延が生じる可能性があるという報告があるためです。しかし、創傷治癒遅延が起こったと記載しているのは症例報告のみで、近年の複数のメタアナリシスでは有害事象の増加は認めなかったという報告もあり、今後のプラクティスは変化するかもしれません6)。オキシブプロカイン点眼薬の効果はとても良好なので、点眼して痛みがなくなったら「治った」と思い、その後眼科に行かずに悪化したという事例を聞いたことがあるので、もしオキシブプロカイン点眼薬を処方するときは必ず眼科に受診するように念押ししましょう。軽い疼痛や無症状であれば、2Lの水道水で洗浄して帰宅、何かしらの症状が生じるようなら眼科を受診するように指示します。本症例は洗浄後に症状が消失したのでとくに処方はなく、目の見えにくさや目の強い痛みが出た場合は眼科を受診するよう指示しました。化学眼外傷は非専門医にはとっつきにくいですが、なるべく早く洗浄することが重要です。万が一対処が求められたときの参考になれば幸いです。●成分がわからずpH試験紙もない場合眼に入ったものが何かわからず、pH試験紙もない場合はどうしましょう? 何があってもまずは洗浄です。先述したとおり2Lの水道水または生理食塩水で洗浄し、その後は症状に合わせて方針を決めます。軽い痛みで物もしっかり見えていれば洗浄で終了。強い痛みもしくは視力障害があれば、角膜に障害があると考えて眼科に紹介します。●オキシブプロカイン点眼薬がない場合鎮痛用の点眼薬がない施設もあるかもしれません。代替薬として比較的多くの病院にあるのがリドカイン製剤(スプレー、ゼリー、局所注射用)だと思いますが、眼球に滴下し使用することは推奨されていません。これは完全に私の見解ですが、疼痛が強いということは眼表面に強い障害が起きており、洗浄が必要な状態です。リドカイン製剤しかない場合であっても、リスク・ベネフィットを考えてその場にあるリドカインを使用して洗浄しても許容されるのではないかと考えます。●眼洗浄の裏技大量の生理食塩水などで洗い続けるのは大変ですし、洗浄のためにずっとそばにいなければなりません。そのため、ある程度洗浄したところで私は点滴の先を切り取って眼瞼の内側に当てて自然滴下で洗浄します。点滴を用いた目の洗浄1)Gelston CD. Am Fam Physician. 2013;88:515-519.2)佐々木 克哉. 日本眼科學会雜誌. 1995;99:676-682.3)Abelson MB, et al. Archives of Ophthalmology. 1981;99:301.4)Rodrigues Z. Emergency Nurse. 2009;17:26-29.5)Solim MAN, et al. Ther Adv Ophthalmol. 2021;13:25158414211030429.6)St.Louis WUSoMi. Topical Anesthetics for Corneal Abrasions.

2074.

ACS疑い例の高感度心筋トロポニン測定、5年時の心筋梗塞/死亡を抑制/BMJ

 急性冠症候群(ACS)が疑われる患者において、高感度心筋トロポニン検査の導入は、高感度検査によって再分類された患者の5年後の心筋梗塞または死亡のリスク低下と関連しており、転帰の改善は非虚血性心筋損傷患者で最も大きく、心筋梗塞の同定を超えた幅広い有益性が示唆された。英国・エディンバラ大学のKuan Ken Lee氏らが、ステップウェッジ・クラスター無作為化比較試験「High-Sensitivity Troponin in the Evaluation of patients with suspected Acute Coronary Syndrome trial:High-STEACS試験」の長期追跡解析の結果を報告した。心筋トロポニンの高感度検査の導入によって従来の検査より多くの心筋損傷および心筋梗塞の患者が同定されているが、これにより転帰が改善されたかどうかはわかっていなかった。BMJ誌2023年11月27日号掲載の報告。高感度検査の導入前後で5年時の心筋梗塞/全死亡リスクを評価 研究グループは、2013年6月~2016年3月に英国・スコットランドの2次および3次医療センター10施設において、救急診療部を受診したACS疑いの連続症例4万8,282例を登録し、心筋トロポニンI値を標準検査および高感度検査の両方で測定した。 本試験では、施設を、男女別の99パーセンタイル診断閾値(女性:>16ng/L、男性:>34ng/L)を用いた高感度検査の早期導入群(5施設)と後期導入群(5施設)に無作為に割り付け、最初の少なくとも6ヵ月間は両群とも高感度検査の結果は盲検化し標準検査に基づき治療を行った。その後、早期導入群では高感度検査に基づき治療を行い、後期導入群ではさらに6ヵ月間は標準検査に基づき治療を行った後に高感度検査に基づき治療を行った。両群とも高感度検査を導入後は標準検査の結果は盲検化した。 主要アウトカムは、5年時の心筋梗塞または全死亡で、Cox比例ハザード回帰モデルを用い、全患者および高感度検査で再分類された患者において高感度検査導入前後の転帰を比較した。高感度検査で再分類された患者では5年時の心筋梗塞/全死亡が減少 4万8,282例中1万360例は標準検査または高感度検査で心筋トロポニンI濃度が99パーセンタイルを超え、このうち標準検査で同定されず高感度検査で同定された1,771例(17.1%)が再分類された。 高感度検査による治療の導入前vs.導入後の主要アウトカムの5年イベント発生率は、全患者においてそれぞれ29.4%(5,588/1万8,978例)vs.25.9%(7,591/2万9,304例)(補正後ハザード比[HR]:0.97、95%信頼区間[CI]:0.93~1.01)、高感度検査で再分類された患者においてそれぞれ63.0%(456/720例)vs.53.9%(567/1,051例)であった(補正後HR:0.82、95%CI:0.72~0.94)。 高感度検査導入後、非虚血性心筋損傷患者ではその後の心筋梗塞または死亡の減少が観察されたが(補正後HR:0.83、95%CI:0.75~0.91)、1型心筋梗塞患者(0.92、0.83~1.01)および2型心筋梗塞患者(0.98、0.84~1.14)では観察されなかった。

2075.

早期TN乳がん術後化療にアテゾ追加、iDFSを改善せず中止(ALEXANDRA/IMpassion030)/SABCS2023

 StageII/IIIのトリプルネガティブ乳がん(TNBC)患者の術後補助療法として、標準的なアントラサイクリンおよびタキサンベースの化学療法にアテゾリズマブを追加した第III相ALEXANDRA/ IMpassion030試験の中間解析の結果、アテゾリズマブを上乗せしても無浸潤疾患生存期間(iDFS)を改善せず、Grade3以上の治療関連有害事象(TRAE)は増加したことを、ベルギー・Institut Jules BordetのMichail Ignatiadis氏がサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2023)で発表した。・対象:中央病理学検査で手術可能と判断されて手術を受けたStageII/IIIの早期TNBC患者 2,199例・試験群:対照群の化学療法に加え、アテゾリズマブ840mgを2週ごと、10サイクル→アテゾリズマブ1,200mgを3週間ごと、計1年間(アテゾリズマブ群:1,101例)・対照群:パクリタキセル80mg/m2を週1回、12サイクル→アントラサイクリン(エピルビシン90mg/m2またはドキソルビシン60mg/m2)+シクロホスファミド600mg/m2を2週間ごと、4サイクル(化学療法群:1,098例)・評価項目:[主要評価項目]ITT集団におけるiDFS[副次評価項目]PD-L1陽性およびリンパ節陽性のサブグループにおけるiDFS、全生存期間(OS)、安全性など・層別化因子:手術の種類(乳房温存術/乳房切除術)、リンパ節転移(0/1~3/≧4)、PD-L1発現(IC 0/≧1%) 予定症例数は2,300例であったが、2022年11月14日に独立データ監視委員会(IDMC)の勧告に基づき、試験は一時中止された。2023年2月、IDMCが有効性と無益性の早期中間解析を行うため、計画されていたiDFSイベントの解析対象数が下方修正された。無益性の境界のハザード比(HR)は1に設定された。2023年3月15日のIDMC勧告で主要評価項目が無益性の境界を越えたため、試験は中止となった。今回発表されたデータは2023年2月17日のデータカットオフ日に基づくもの。 主な結果は以下のとおり。・2018年8月~2022年11月に2,199例が登録され、両群に1:1に無作為に割り付けられた。アテゾリズマブ群および化学療法群の年齢中央値は53歳/53歳、StageIIは84.9%/85.6%、リンパ節転移陽性は47.6%/47.8%、PD-L1陽性は71.3%/71.2%、乳房切除術施行は52.4%/52.4%で、両群でバランスがとれていた。・追跡期間中央値25ヵ月(範囲:0~53)の時点で、239/2,199例(10.9%)のiDFSイベントが観察された。アテゾリズマブ群では127/1,101例(11.5%)、化学療法群では112/1,098例(10.2%)に発生し、HRは1.12(95%信頼区間[CI]:0.87~1.45、p=0.37)で、事前に規定された無益性の境界を越えた。・PD-L1陽性のサブグループ(1,567例)では、iDFSイベントはアテゾリズマブ群77/785例(9.8%)、化学療法群73/782例(9.3%)に発生し、HRは1.03(95%CI:0.75~1.42)であった。・OSイベントが発生したのは、アテゾリズマブ群61例(5.5%)、化学療法群49例(4.5%)で、HRは1.20(95%CI:0.82~1.75)であった。・Grade3以上のTRAEは、アテゾリズマブ群587例(53.7%)、化学療法群472例(43.5%)に発現し、死亡は2例(0.2%)および1例(<0.1%)であった。何らかの薬剤の中止に至ったのは185例(16.9%)および60例(5.5%)であった。安全性プロファイルとは既知のものと一致していた。 これらの結果より、Ignatiadis氏は「ITT集団におけるiDFSのHRは、事前に規定された無益性の境界を越えるとともに有害事象も増え、早期TNBC患者に対する術後補助化学療法へのアテゾリズマブ追加は支持されないものとなった。試験データは2023年11月17日のカットオフまで更新され、結果を公表する予定である」とまとめた。

2076.

デバイスによる無症候の心房細動にもDOACは有効?(解説:後藤信哉氏)

 症候性の心房細動にて脳卒中リスクの高い症例では、PT-INR 2-3を標的としたワルファリン治療よりもDOACの1つであるアピキサバンが安全、かつ有効であることがARISTOTLE試験により証明された。ICDなどを入れ込まれた症例では無症候の心房細動も検出できる。無症候のdevice detected AFに対する標準治療は確立されていない。本研究は無症候のdevice detected AFを対象として、アピキサバンの脳卒中・全身塞栓症予防効果をアスピリンと比較した無作為二重盲検ランダム化比較試験の結果である。 対象例のCHA2DS2-VAScスコアは3.9±1.1と高い。観察期間は3.5±1.8年と長い。アピキサバン群の脳卒中・全身塞栓症発症率は、アスピリン群にて年率1.24%、アピキサバン群にて0.78%であった。対象症例の脳卒中・全身塞栓症の発症リスクは決して高くはないが、本研究は4,012例を対象とした無作為化二重盲検比較試験としてエビデンスレベルは高い。 アピキサバン群では年率1.71%に重篤な出血合併症が起こり、アスピリン群の0.94%よりも高かった。本研究は科学的な仮説検証研究としての価値は大きいが、年率1%程度の脳卒中・全身塞栓症と重篤な出血合併症発症リスクの選択になるので臨床的価値は大きくない。 同様のdevice detected AFを対象としたエドキサバンとプラセボのランダム化比較試験NOAH-AFNET 6では、DOACエドキサバンの効果は中立とされている(Kirchhof P, et al. N Engl J Med. 2023;389:1167-1179.)。イベントリスク年率1%前後にて抗血栓効果と出血合併症のバランスをとるのは、きわめて難しい。NOAH-AFNET 6 and ARTESiAの2つの試験のメタ解析もCirculationに出版されている(McIntyre WF, et al. Circulation. 2023 Nov 12.[Epub ahead of print])。device detected AFに対する抗凝固療法は、必ずしも大きくない血栓リスクを減少させるが、血栓イベントリスク減少効果と同程度に重篤な出血イベントリスクを増加させる薬剤の使用の有無の判定という難しい臨床判断である。

2077.

コロナ罹患後症状におけるワクチン有効性、3回接種で73%/BMJ

 感染前の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン接種と、罹患後症状(Post-COVID-19 Condition:PCC)の診断を受けるリスクの低下には強い関連性があることが、スウェーデン・ヨーテボリ大学のLisa Lundberg-Morris氏らが、スウェーデン住民約59万例を対象に行った住民ベースコホート試験「Swedish Covid-19 Investigation for Future Insights-a Population Epidemiology Approach using Register Linkage:SCIFI-PEARLプロジェクト」の結果で示された。著者は「試験の結果は、PCCの集団的負荷を軽減するために、ワクチン接種の重要性を強調するものである」と述べている。BMJ誌2023年11月22日号掲載の報告。ワクチンのPCC有効性、年齢、性別、合併症など補正して推定 COVID-19ワクチンの初回接種(2回)+ブースター接種の計3回の接種によるPCCへの有効性を調べる試験は、2020年12月~2022年2月にスウェーデンで最も大きな2地域(ストックホルム地域[県]、ヴェストラ イェータランド地域[県])で登録された18歳以上のCOVID-19患者58万9,722例を対象に行われた。 被験者について、初回感染から死亡、国外への移住、ワクチン接種、再感染、PCCの診断(ICD-10診断コードU09.9)のいずれかのイベントが発生するまで、またはコホート試験終了(2022年11月末)まで追跡した。感染前にCOVID-19ワクチン接種を1回以上受けた人は、ワクチン接種済みとみなした。 主要アウトカムは、PCCの臨床診断。PCCに対するワクチンの有効性は、年齢、性別、併存疾患(糖尿病、心血管疾患、呼吸器疾患、精神疾患)、2019年の医療サービス利用回数、社会経済的要因、感染時の優勢ウイルス変異で調整したCox回帰分析で推定した。ワクチン3回以上接種者のPCC有効性は73% COVID-19を発症して追跡期間中にPCCと診断されたのは、ワクチン接種者29万9,692例のうち1,201例(0.4%)だったのに対し、ワクチン未接種者29万30例では4,118例(1.4%)だった。 感染前のCOVID-19ワクチン1回以上接種者は、未接種者に比べ、PCC発症リスクが低かった(補正後ハザード比:0.42、95%信頼区間:0.38~0.46)。PCC発症予防に関するCOVID-19ワクチン有効性は58%だった。 感染前のワクチン接種者のうち、1回接種者は2万1,111例、2回接種者は20万5,650例、3回以上接種者は7万2,931例だった。PCCに対するワクチン有効性は、1回接種者21%、2回接種者59%、3回以上接種者73%だった。

2078.

脳死ドナーへのレボチロキシン投与、心臓移植後の生着率や安全性は?/NEJM

 血行動態が不安定な潜在的心ドナーにおいて、脳死判定後のレボチロキシン投与はプラセボ投与と比較して、心臓移植の有意な増加には結び付かなかった。米国・セントルイス・ワシントン大学のRajat Dhar氏らが、852例の脳死心ドナーを対象に行ったプラセボ対照無作為化非盲検試験の結果で示された。血行動態不安定と心機能障害は、脳死臓器提供者からの心臓移植を妨げる主な要因となっている。先行研究で、ホルモン補充療法を受けたドナーから、より多くの臓器移植が可能であることを示唆する観察データが示され、ドナーのケアではレボチロキシンの静脈内投与が広く行われている。NEJM誌2023年11月30日号掲載の報告。米国15ヵ所の臓器調達機関を通じて無作為化試験 研究グループは米国15ヵ所の臓器調達機関を通じ、血行動態が不安定な心臓提供の可能性のあるドナーを対象に試験を行った。神経学的基準に基づく死亡宣告後24時間以内に、対象者をレボチロキシンを投与(30μg/時、12時間以上)する群、プラセボ(生理食塩水)を投与する群に1対1の割合で無作為に割り付け、非盲検下で静脈内投与した。 主要アウトカムはドナー心移植。事前に規定したレシピエントの主要安全性アウトカムは、移植後30日時点の移植心生着とした。 副次アウトカムは、昇圧薬治療からの離脱、ドナーの駆出率、ドナー1例当たりの移植臓器数などだった。心移植率は両群ともに53~55%、移植心生着率も96~97%と同等 脳死ドナー852例が無作為化され、このうち838例(両群ともに419例)が主要解析に包含された。 心移植は、レボチロキシン群230例(54.9%)、プラセボ群223例(53.2%)で行われた(補正後リスク比:1.01、95%信頼区間[CI]:0.97~1.07、p=0.57)。 移植後30日時点の移植心生着は、レボチロキシン群の移植心臓224個(97.4%)、プラセボ群の移植心臓213個(95.5%)で認められた(群間差:1.9ポイント、95%CI:-2.3~6.0、非劣性のマージン6ポイントについてp<0.001)。 昇圧薬治療からの離脱や心エコーによるドナーの駆出率、ドナー1例当たりの移植臓器数について明らかな群間差はなかった。一方で、レボチロキシン群では、重症高血圧と頻拍の症例がプラセボ群より多く認められた。

2079.

非インスリン療法患者のisCGMによるHbA1c改善には治療満足度が関与

 インスリン療法を行っていない2型糖尿病患者が間歇スキャン式持続血糖測定(isCGM)を使用すると、早ければ使用開始の翌週から血糖管理が有意に改善すること、HbA1c改善幅は治療継続に関する満足度の高さと相関することなどが明らかになった。名古屋大学大学院医学系研究科内分泌・糖尿病学の尾上剛史氏、有馬寛氏らによる論文が、「Primary Care Diabetes」に10月9日掲載された。 現在、保険診療でisCGMを使用できるのはインスリン療法を行っている患者のみだが、有馬氏らはインスリン療法を行っていない2型糖尿病患者でもisCGM使用によって血糖コントロールが改善することを、多施設共同無作為化比較試験の結果として既に報告している。今回の論文は、そのデータを詳細に事後解析した結果の報告。 この研究では、インスリン療法を行っていない20~70歳未満でHbA1c7.5~8.5%未満の2型糖尿病患者100人を登録し無作為に2群に分け、1群をisCGM群、他の1群を血糖自己測定(SMBG)群とした。過去にisCGMまたはSMBGを行ったことのある患者や腎機能障害のある患者などは除外されている。12週間の介入でisCGM群はSMBG群に比較しHbA1cが有意に大きく低下し、介入終了から12週後にも有意な改善効果が持続していた。今回の検討では、isCGM群(48人)のみを解析対象として、血糖管理改善の推移や関連因子を解析した。 まず血糖関連指標の推移を見るとisCGM開始後の翌週には、平均血糖値が有意に低下、血糖値が70~180mg/dL以内にあった時間が有意に増加、180mg/dLを超えていた時間が有意に減少していた。またGMI(glucose management indicator)やMAGE(mean amplitude of glycemic excursions)といったCGMを用いた血糖管理の評価指標も、それぞれ開始翌週、2週後に有意に改善していた。また、これらの有意な改善は、介入期間を通じて維持されていた。 次にisCGMの使用状況に着目すると、isCGM装着時間が占める割合は第1週が中央値97.1%(四分位範囲87.1~99.1)と最も長く、最終週は同86.1%(31.8~96.9)と、介入期間中に徐々に減少していた。同様に、血糖値や血糖トレンドの確認(スキャン)回数は、第1週が9.2回/日(5.7~12.7)と最も多く、最終の12週目は6.4回/日(3.0~10.0)と徐々に減少していた。isCGMの装着時間が長いほど、12週間の介入期間中のHbA1c低下幅が大きいという、有意な相関も認められた(r=-0.39、P=0.009)。ただし、介入終了から12週後まで(計24週間)のHbA1cの低下幅との関連は非有意だった(r=−0.13、P=0.395)。また、スキャン回数は、12週後および24週後、いずれのHbA1c低下幅との関連も非有意だった。 続いて、年齢や性別、罹病期間、BMI、介入時点のHbA1c、処方されている経口血糖降下薬(OHA)の数、および糖尿病治療満足度質問表(Diabetes Treatment Satisfaction Questionnaire;DTSQ)の回答と、HbA1c低下幅との関連を検討した。 その結果、介入終了時点(12週後)までのHbA1c低下幅は、介入時のHbA1cと逆相関し〔HbA1cが高い患者ほどより大きく改善(r=-0.290、P=0.048)〕、DTSQの8番目の項目(現在の治療を継続することへの満足度)のスコアと正相関していた(r=0.390、P=0.009)。一方、介入終了から12週後(介入開始から24週後)までのHbA1c低下幅は、DTSQの8番目の項目のスコア(r=0.373、P=0.012)、および、5番目の項目(治療法の融通性に関する評価)のスコア(r=0.364、P=0.014)と正相関していた。年齢や性別、罹病期間、BMI、OHAの数、DTSQの他の項目(自分自身の糖尿病の理解度に関する満足度など)は、HbA1c低下幅と有意な関連がなかった。 以上より著者らは、「非インスリン療法の2型糖尿病患者がisCGMを使用することにより、血糖コントロールが迅速かつ持続的に改善し、その改善の程度はisCGMの使用を含む治療の継続に対する満足度の高さと関連していた」と総括している。

2080.

皮膚疾患へのJAK阻害薬、心血管リスクを増加させず

 無作為化比較試験35件の皮膚疾患患者2万例超を対象としたメタ解析において、JAK阻害薬の使用はプラセボ/実薬対照と比較して、主要心血管イベント(MACE)および全死亡、静脈血栓塞栓症(VTE)のリスク増加と関連しなかった。米国・New York University Grossman School of MedicineのJenne P. Ingrassia氏らが報告した。JAK阻害薬は、アトピー性皮膚炎、円形脱毛症などの皮膚疾患に対する有効な治療選択肢であるが、米国食品医薬品局(FDA)が経口・外用JAK阻害薬について、MACE、VTE、重篤な感染症、悪性新生物、死亡のリスク増加に関する枠囲み警告(boxed warning)を付している。しかし、この枠囲み警告は関節リウマチ患者を対象とした「Oral Rheumatoid Arthritis Trial(ORAL)Surveillance試験」の結果に基づくもので、皮膚疾患患者で同様の関連が観察されるかは明らかになっていなかった。JAMA Dermatology誌オンライン版2023年11月1日号掲載の報告。 研究グループは、皮膚疾患患者におけるJAK阻害薬とMACE、全死亡、VTEの関連を評価するシステマティック・レビューおよびメタ解析を実施した。 データベース開始日~2023年4月1日の期間にPubMed、ClinicalTrials.govに登録された研究を検索し、皮膚疾患に対してJAK阻害薬を用いた第III相無作為化比較試験を抽出した。JAK阻害薬はFDA承認または承認申請中、あるいはEUや日本で承認されている薬剤とした。対照群の設定されていない試験、ケースレポート、観察研究、レビューに関する論文は除外した。 システマティック・レビューおよびメタ解析は、PRISMAガイドラインに則って実施した。有害事象はランダム効果モデルとDerSimonian-Laird法を用いてオッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)を算出して評価した。2人の独立した著者によりデータの抽出と質的評価が行われた。 主要アウトカムは、MACEおよび全死亡の複合、VTEであった。 主な結果は以下のとおり。・システマティック・レビューおよびメタ解析は、無作為化比較試験35件とその参加者2万651例を対象とした。・対象患者の平均年齢(標準偏差[SD])は38.5(10.1)歳、男性は54%であった。・平均追跡期間(SD)は、4.9(2.68)ヵ月であった。・MACEおよび全死亡の複合(OR:0.83、95%CI:0.44~1.57)、VTE(同:0.52、0.26~1.04)について、JAK阻害薬とプラセボ/実薬対照に有意差は認められなかった。

検索結果 合計:11806件 表示位置:2061 - 2080