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1.

JN.1対応コロナワクチン、発症・入院予防の有効性は?(VERSUS)/長崎大

 2024年度秋冬シーズンの新型コロナワクチン定期接種では、JN.1系統に対応した1価ワクチンが採用された。長崎大学熱帯医学研究所の前田 遥氏らの研究チームは、2024年10月1日~2025年3月31日の期間におけるJN.1系統対応ワクチンの有効性について、国内多施設共同研究(VERSUS study)の第12報となる結果を、2025年6月11日に報告した1)。本結果により、JN.1系統対応ワクチンの接種により、発症予防、入院予防において追加的な予防効果が得られる可能性が示された。 VERSUS studyは、2021年7月1日より新型コロナワクチンの有効性評価を継続的に実施しており、2024年10月1日からはインフルエンザワクチンの有効性評価も開始している。今回の報告のうち、発症予防の有効性評価では、2024年10月1日~2025年3月31日に国内14施設を新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が疑われる症状で受診し、新型コロナウイルス検査を受けた18歳以上の患者を対象とした。また、入院予防の有効性評価では、同期間に国内11施設で、呼吸器感染症が疑われる症状または肺炎像を認めて入院した60歳以上の患者を対象とした。受診時に新型コロナワクチン接種歴およびインフルエンザワクチン接種歴が不明な場合は除外された。新型コロナウイルス検査陽性者を症例群、陰性者を対照群とする検査陰性デザイン(test-negative design)を用いた症例対照研究で、COVID-19の発症および入院に対するJN.1系統対応ワクチンの追加的予防効果を、JN.1系統対応ワクチンを接種していない場合と比較して評価した。JN.1系統対応ワクチンは、mRNAワクチン(ファイザー、モデルナ、第一三共)、組換えタンパクワクチン(武田薬品工業)、レプリコンワクチン(Meiji Seika ファルマ)の5種類が使用された。 主な結果は以下のとおり。【発症予防の有効性】・18歳以上の4,680例(検査陽性者990例、陰性者3,690例)が対象となった。年齢中央値51歳(四分位範囲[IQR]:34~72)、65歳以上が32.7%、男性48.1%、基礎疾患を有する人33.7%。・JN.1系統対応ワクチン接種なしと比較した、JN.1系統対応ワクチン(接種後7日以上経過)の発症予防有効性は54.6%(95%信頼区間[CI]:29.9~70.6)であった。・接種後の日数別有効性は、接種後7~60日では55.5%(95%CI:20.7~75.0)、接種後61日以上では53.5%(95%CI:12.8~75.2)。・年齢別では、18~64歳のJN.1系統対応ワクチン(接種後7日以上経過)の有効性は60.0%(95%CI:11.6~81.9)、65歳以上では52.5%(95%CI:15.9~73.2)。・新型コロナワクチン未接種と比較した場合の有効性は51.5%(95%CI:19.6~70.8)であった。【入院予防の有効性】・60歳以上の883例(検査陽性者171例、陰性者712例)が対象となった。年齢中央値83歳(IQR:76~89)、男性59.0%、基礎疾患を有する人98.3%、高齢者施設入所者29.9%。・JN.1系統対応ワクチン接種なしと比較した、JN.1系統対応ワクチン(接種後7日以上経過)の入院予防有効性は63.2%(95%CI:14.5~84.1)であった。・重症度別のワクチンの有効性は、入院時呼吸不全を伴う患者に限定した場合では68.3%(95%CI:1.1~89.8)、CURB-65スコア中等症以上の患者に限定した場合では53.9%(95%CI:-9.7~80.6)、入院時肺炎がある患者に限定した場合では67.4%(95%CI:7.4~88.5)。・新型コロナワクチン未接種と比較した場合の有効性は72.9%(95%CI:22.8~90.5)であった。 本研究により、既存のワクチン接種歴の有無にかかわらず、JN.1系統対応ワクチンの追加接種が発症および入院予防に対して追加的な有効性をもたらす可能性が示唆された。本報告は2025年5月30日時点での暫定結果であり速報値であるが、公衆衛生学的に意義があると判断され公開された。今後も研究を継続し経時的な評価を行うなかで、公衆衛生学的な意義を鑑みつつ結果について共有される予定。

2.

ドナー心の冷却保存時間の延長に新たな可能性

 ドナーから摘出された心臓を移送中のダメージから守ることにつながる新たな発見によって、今後、移植に使用できる心臓(以下、ドナー心)の数が増えるかもしれない。米メイヨー・クリニックの心臓血管外科医であるPaul Tang氏らが、冷却保存している間にドナー心が損傷を受ける生物学的なプロセスを特定したとする研究結果を、「Nature Cardiovascular Research」に5月19日発表した。 さらに喜ばしいことに、Tang氏らはすでに心疾患の治療に使用されているある薬が、ドナー心の損傷の予防にも活用できることを突き止めた。Canrenoneと呼ばれるこの薬を使用して保存されたドナー心では、同薬を使用しなかったドナー心と比べてポンプ機能が約3倍に強化されたことが示されたという。 Tang氏は、「私は心臓血管外科医として、手術室でドナー心の保存時間の1時間の延長が移植後のドナー心の回復にどれほど影響するかを目の当たりにしてきた。今回の発見によって、心臓の保存中にその機能を維持し、移植のアウトカムを向上させ、患者の命を救う移植へのアクセスを改善するための新たなツールを手に入れることができるかもしれない」とメイヨークリニックのニュースリリースの中で述べている。 Tang氏らは研究の背景情報の中で、ドナー心のうち最終的に移植に使われる心臓は半数に満たないと説明している。その主な理由の一つは、ドナーから摘出した心臓を移植可能な状態に保てる時間が比較的短いことにある。これは、冷却保存の時間が長過ぎるとドナー心の機能が低下する恐れがあるためだ。そのような心機能低下の結果として生じる合併症の一つが、移植された心臓が効率的に血液を送り出せない状態に陥る原発性移植片機能不全(primary graft dysfunction)で、移植患者の最大20%に生じる。 このようなドナー心の損傷がなぜ起こるのかを明らかにするために、Tang氏らは、冷却保存プロセスに対する分子レベルの反応を個々の細胞レベルで調査した。その結果、心筋細胞内にあるミネラルコルチコイド受容体(MR)と呼ばれるタンパク質がドナー心の損傷に関与している可能性が示された。具体的には、冷却保存中にはMRの産生が大幅に増加し、それらが細胞核内で集まって液滴状の構造物を形成する。タンパク質が細胞の他の部分から凝集するこのようなプロセスは、相分離と呼ばれる。研究グループは、この相分離によってMRが自己活性化され、その結果、心筋細胞へのストレスと損傷を大幅に増大させることを突き止めたのだ。 次に、このプロセスを防げるかどうかを調べるため、Tang氏らはMRの働きを阻害する薬剤であるcanrenoneをドナー心に投与した。その結果、移植された心臓のポンプ機能が大幅に向上したほか、血流の改善や細胞傷害を示す兆候の大きな減少が見られたという。 この結果を踏まえ、canrenoneはドナー心を安全に保存できる期間を延長させるのに役立つ可能性があるとTang氏らは結論付けている。なお、Tang氏らによると、これと似たようなタンパク質の凝集は、腎臓や肺、肝臓などの他のドナー臓器でも冷却保存中に起こるという。そのため、同様の戦略が他の臓器の保存時間を延ばすのにも役立つ可能性が期待されている。

3.

ASCO2025 レポート 消化器がん

レポーター紹介2025年5月30日~6月3日に、米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)が米国・シカゴで開催され、後の実臨床を変えうる注目演題が複数報告された。高知大学の佐竹 悠良氏が消化器がん領域における重要演題をピックアップし、結果を解説する。胃がんMATTERHORN試験:周術期FLOTにおけるデュルバルマブ追加の意義(LBA5)切除可能II~IVA期の胃がん・食道胃接合部腺がんを対象に、欧米における標準治療である周術期FLOT(フルオロウラシル、ロイコボリン、オキサリプラチン、ドセタキセル)療法に対する抗PD-L1抗体であるデュルバルマブ追加(D-FLOT療法)の有用性を検証したMATTERHORN試験。D-FLOT療法により病理学的完全奏効の改善がすでにESMO2023で報告され(19%vs.7%、オッズ比:3.08、p<0.00001)、主要評価項目である無イベント生存期間(EFS)における統計学的優越性もプレスリリースされていたが、今回学会にて正式に報告され、同時にNEJM誌でpublishされた。患者は術前・術後に2サイクルずつFLOT療法+プラセボもしくはD-FLOT療法を受け、その後プラセボもしくはデュルバルマブを10サイクル(術後補助化学療法として1年間)受けた。主要評価項目のEFS中央値はD-FLOT群未到達vs.プラセボ群32.8ヵ月であり、統計学的優越性を示した(ハザード比[HR]:0.71、95%信頼区間[CI]:0.58~0.86、p<0.001)。24ヵ月EFS率はD-FLOT群67%vs.プラセボ群59%であった(観察期間中央値:D-FLOT群31.6ヵ月vs.プラセボ群31.4ヵ月)。副次評価項目である全生存期間(OS)においても改善傾向(HR:0.78、95%CI:0.62~0.97、p=0.025)がみられたが、現時点では統計学的有意差には至っていない(観察期間中央値:D-FLOT群34.6ヵ月vs.プラセボ群34.6ヵ月)。免疫介在性有害事象はGrade3/4をD-FLOT群7%vs.プラセボ群4%に認めた。胃がん周術期治療における免疫チェックポイント阻害薬(ICI)は、KEYNOTE-585試験およびATTRACTION-5試験において有意な結果を示すことができなかったが、本試験において主要評価項目であるEFSでの有意な改善を認め、今後の標準治療となることが見込まれる。一方、本邦では周術期FLOT療法の経験は十分とは言えず、大型3/4型胃がんに対する術前FLOT療法およびDOS(ドセタキセル+オキサリプラチン+S-1)療法を検討する第II相試験であるJCOG2204が進行中であり、結果が期待される。DESTINY-Gastric04試験:HER2陽性胃がんの2次治療におけるT-DXdの有効性を確立(LBA4002)HER2陽性(IHC3+またはIHC2+/ISH+)の進行・再発胃がんまたは食道胃接合部腺がんに対し、抗HER2抗体薬物複合体(ADC)であるトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd、6.4mg/kgを3週ごと)が、現在の標準2次治療であるラムシルマブ+パクリタキセル併用(RAM+PTX)療法と比較してOSを有意に延長することが国立がん研究センター東病院の設楽 紘平氏から報告され、こちらも同時にNEJM誌でpublishされた。本試験は前治療のトラスツズマブ不応後の生検によるHER2陽性例が対象であり、1,088例に腫瘍組織検体スクリーニングが実施され、450例(41%)は組織スクリーニングで脱落し、最終的に494例が1:1に割り付けされた。前治療としてICIの投与歴がある患者は両群ともに15%程度であり、後治療として抗HER2治療を受けた割合はT-DXd群3.2%vs.RAM+PTX療法群25.8%であった。主要評価項目のOS中央値は、T-DXd群14.7ヵ月vs.RAM+PTX療法群11.4ヵ月であり、統計学的優越性を示した(HR:0.70、p=0.0044)。副次評価項目の無増悪生存期間(PFS)および奏効率(ORR)においてもT-DXd群で有意に改善を示した(PFS中央値:6.7ヵ月vs.5.6ヵ月、HR:0.74、p=0.0074、ORR:44.3%vs.9.1%、p=0.0006)。Grade3以上の薬剤関連有害事象の割合も両群で同等であった(T-DXd群50.0%vs.RAM+PTX療法群54.1%)。ただし、間質性肺疾患はT-DXd群で13.9%(Grade3は1例のみ、0.4%)と、重篤例は多くないものの注意が必要である。今後、HER2陽性かつCPS陽性の進行・再発胃がんに対しては、KEYNOTE-811試験の結果から初回治療よりペムブロリズマブ併用が見込まれるが、本試験のサブグループ解析においては前治療ICI投与の有無にかかわらず、一貫してT-DXdによる生存改善傾向を認めており、HER2陽性胃がんにおける2次治療としてT-DXdが今後の標準治療の位置付けとされた。一方、本結果は試験組み入れ時のHER2再確認(再生検)により結果が導かれているが、40%前後は前治療不応時にHER2 lossが生じている可能性が示唆された。大腸がんATOMIC試験:StageIII dMMR大腸がん術後補助療法におけるアテゾリズマブ追加の意義(LBA1)StageIIIのdMMR結腸がんに対する術後補助療法として、mFOLFOX6化学療法にPD-L1阻害薬であるアテゾリズマブを追加することで、無病生存期間(DFS)を有意に延長することが国際第III相試験ATOMIC試験により示された。試験治療群は術後補助化学療法としてmFOLFOX6+アテゾリズマブ併用療法を6ヵ月受けた後にアテゾリズマブ単剤を6ヵ月(計12ヵ月)投与され、対照群はmFOLFOX6療法を6ヵ月投与された。主要評価項目である3年DFS率はアテゾリズマブ併用群86.4%vs.対照群76.6%(HR:0.50、95%CI:0.34~0.72、p<0.0001)であり、統計学的有意差を認めた。Grade3/4の治療関連有害事象(TRAE)は併用群72.3%vs.対照群59.2%とアテゾリズマブ併用群でやや多く、免疫関連有害事象として高血糖や甲状腺機能低下、大腸炎に伴う下痢や皮膚炎を認めたが、重篤なものは少なかった。本試験により、StageIIIのdMMR結腸がんにおいて術後免疫療法導入が長期予後を改善することが明らかとなり、補助療法の新たな標準となる可能性を示した。現在、本邦を含め切除可能なStage IIIまたはT4N0のdMMR/MSI‑High陽性結腸がん患者に対する周術期dostarlimabの有効性を検証する第III相試験であるAZUR-2試験が進行中である。同薬剤はすでに直腸がん領域で良好な有効性が確認されており、新しい治療ストラテジー確立が期待される。BREAKWATER試験:BRAF V600E変異陽性大腸がんに対する1次治療としてのEC+mFOLFOX6併用療法(#3500)進行・未治療のBRAF V600E変異陽性大腸がん患者を対象に、BRAF阻害薬エンコラフェニブ(E)+抗EGFR抗体セツキシマブ(C)に化学療法(mFOLFOX6)を加えた3剤併用療法(EC+mFOLFOX6)の標準治療(FOLFOX/FOLFOXIRI/CAPOX±BEV)に対するORRおよびOS(初回中間解析)における良好な結果は、一足先にASCO-GI 2025で発表されていたが、今回主要評価項目の1つであるPFSの結果が報告され、PFS、ORR、OSにおける改善が明らかとなり、同時にNEJM誌でpublishされた。主要評価項目であるPFS中央値はEC+mFOLFOX6群12.8ヵ月vs.標準治療群7.1ヵ月であり、統計学的優越性を示した(HR:0.53、95%CI:0.407~0.677、p<0.0001)。OS中央値(2回目の中間解析)はEC+mFOLFOX6群30.3ヵ月vs.標準治療群15.1ヵ月(HR:0.49、p<0.0001)だった。もう1つの主要評価項目であるORRの追加報告もあり、EC+mFOLFOX6群65.7%vs.EC群45.6%vs.標準治療群37.4%と良好であった。TRAE(Grade3/4)はEC+mFOLFOX6群76.3%vs.EC群15.7%vs.標準治療群58.5%であり、関節痛(29%)、皮疹(29%)に注意が必要である。本試験により、BRAF V600E変異大腸がんの1次治療として、EC+mFOLFOX6が新たな標準と位置付けられた。また、EC療法はmFOLFOX6療法などの抗がん剤治療が適応とならないフレイル症例に対する治療選択肢となる可能性が示唆された。AGITG DYNAMIC-III試験:術後ctDNA陽性は高リスク再発マーカー(#3503)術後StageIII結腸がん患者を対象に、circulating tumor DNA(ctDNA)の有無による再発リスクを評価した第II/III相試験であるDYNAMIC-III試験において、ctDNA陽性が強力な再発予測因子であることが示された。StageIII結腸がん患者を対象に術後4週時点でctDNAを評価し、ctDNA結果に基づいたマネジメント群(ctDNA-informed群、ctDNA陰性例ではde-escalation、ctDNA陽性はescalation[より強力な術後補助療法]を実施)と標準マネジメント群(主治医選択によるマネジメント、ctDNA結果は盲検)に無作為化して割り付けされた。全体で1,002例が登録され、それぞれctDNA-informed群502例vs.標準マネジメント群500例に割り付けられ、ctDNA陽性は各群129例(27%)vs.130例(27%)であった。ctDNA陽性例のうち、ctDNA-informed escalation群では3ヵ月以上のFOLFOXIRI実施が50%、6ヵ月のオキサリプラチンダブレット(FOLFOX/CAPOX)が44%に実施され、一方の標準マネジメント群では3ヵ月FOLFOX/CAPOXが45%、6ヵ月FOLFOX/CAPOXが41%に術後補助療法として実施された。3年無再発生存期間はctDNA-informed escalation群48%vs.標準マネジメント群52%であり、ctDNA結果に基づいた術後補助化学療法強化による再発抑制改善は認めなかった(HR:1.11、p=0.57)。後解析としてFOLFOXIRIとFOLFOX/CAPOXの無再発生存比較がなされたが、差を認めず(HR:1.09、p=0.662)、ctDNAクリアランス割合も同等であった(60%vs.62%)。術後補助化学療法終了時点におけるctDNAクリアランスの有無(HR:11.1)および術後ctDNA測定時のctDNA量が再発と相関することが示唆された(p<0.001)。既報と同様に、術後ctDNA検査のバイオマーカーとしての有用性および術後ctDNA量と再発リスクとの相関やctDNA陽性例に対する術後補助化学療法によるctDNAクリアランスの重要性が報告された。一方で、 ctDNA陽性例に対してはオキサリプラチン併用レジメンからFOLFOXIRIへの治療強化では不十分である可能性も示唆され、今後さらなる治療開発の必要性が示唆された。本邦における臨床実装が待たれる。NCCTG N0147後方解析:ctDNAによるMRD評価が術後再発リスクを鋭敏に予測(#3504)術後StageIII結腸がんに対する術後補助FOLFOX±セツキシマブを検証した第III相試験であるNCCTG N0147試験におけるctDNAの後解析により、ctDNA評価は再発リスクを高精度に層別化できることが明らかとなった。術後補助療法開始前10週以内に血漿ctDNAをGuardant Reveal/Guardant360で測定(中央値42日)。 ctDNAは20.4%で検出可能であり、より進行例(T/Nステージ)やBRAF変異例、閉塞例や穿孔例などの術後再発高リスク例において検出されることが示唆された。ctDNA陽性例は陰性例に比し、DFS、OSともに大きく劣っていた(DFS-HR:3.74、p<0.0001、OS-HR:3.17、p<0.001)。一般的に術後予後良好とされているdMMR症例においても、ctDNA陽性例はpMMR例と比較してもDFSおよびOSが不良であった(DFS-HR:1.54、p=0.0114、OS-HR:1.77、p=0.0026)。術後病理評価による再発リスクとctDNA検出の有無による層別化ならびにctDNA検出量とDFSの相関性も示唆された。既報と同様に、術後ctDNA MRD評価の有用性が再確認され、早期の再発予測や治療強度決定に活用できる可能性を示した。TRIPLETE試験:初回治療でのmFOLFOXIRI+パニツムマブがOSを有意に延長(#3512)切除不能なRAS/BRAF野生型転移を有する大腸がん(mCRC)初回治療において、mFOLFOX+パニツムマブに対しmFOLFOXIRI+パニツムマブは、主要評価項目のORRおよびPFSは改善を認めないことがすでに報告されていた。一方、本邦で実施されたJACCRO CC-13(DEEPER試験)においては、RAS/BRAF野生型かつ左側原発例においてmFOLFOXIRI+セツキシマブ療法のmFOLFOXIRI+BEVに対する治療成績改善が示唆されていた。今回TRIPLETE試験におけるOSが報告され、mFOLFOXIRI+パニツムマブによる有意な生存期間延長が報告された(観察期間中央値:60.2ヵ月)。OS中央値はmFOLFOXIRI+パニツムマブ群41.1ヵ月vs.mFOLFOX6+パニツムマブ群33.3ヵ月であり、有意に改善を認めた(HR:0.79、95%CI:0.63~0.99、p=0.049)。一方で、アップデートされたORRやPFS、奏効期間(DoR)、早期腫瘍縮小(ETS)およびR0切除割合は群間差を認めなかった。PPS(病勢進行後生存)はmFOLFOXIRI群で有意に延長(HR:0.73、p=0.012)しており、OS延長の主因と考えられた。トリプレット+抗EGFR抗体はDEEPER試験と同様にTRIPLETE試験でも、標準治療に対する良好な生存延長効果が示唆され、RAS/BRAF野生型mCRCの治療戦略においてトリプレット療法を選択肢の1つとして再評価する根拠と考えられる。ただし、PFSやORRに差がなかったことから、有効性の本質はPPSの改善に依存している可能性があり、治療強度と毒性のバランスに配慮した個別化治療が求められる。胆道がんGAIN試験:胆道がんに対する周術期GC療法の有効性が示唆(#4008)切除可能局所進行胆道がんに対して、本邦ではASCOT試験により切除後のS-1補助化学療法が標準治療とされているが、今回ドイツより術前・術後にゲムシタビン+シスプラチン(GC)を用いた周術期治療が、標準治療(手術+術後補助療法)と比較してOSおよびEFS、R0切除率を大きく改善する可能性が報告された。ドイツの21施設による第III相試験であり、登録数不足により68例の登録時点で早期終了となった。NEO群(周術期GC群)は術前GC 3サイクル後に切除がなされ、その後3サイクルの術後補助GC療法がプロトコール治療として規定されており、標準治療群は切除後に術後補助化学療法24週(主治医選択)が規定されていた。早期中止のためNEO群(32例)、標準治療群(30例)での報告。NEO群の術前GC療法平均投与コース数は2.8サイクルだが、術後補助療法の平均投与コース数は1.4サイクルであった。一方の標準治療群における術後補助療法はカペシタビン20%、ゲムシタビン3.3%、GC療法3.3%であった。OS中央値はNEO群(周術期GC群)27.8ヵ月vs.標準治療群14.6ヵ月と周術期GC療法による良好な結果が示唆された(HR:0.463、95%CI:0.222~0.964、p=0.0395)。 EFS(HR:0.351、p=0.0047)や R0切除率(NEO群83.3%vs.標準治療群40.0%)も大きな差を認めた。本試験は登録数の制限から統計的限界があるものの、術前GC療法が切除率や生存期間の向上に寄与しうる可能性を示した点で意義深く、今後の大規模前向き試験の展開が強く期待される。一方で現在、本邦では進行・再発胆道がんに対してGC+S-1(GCS)療法とGC+ICI併用療法の治療効果を検討するKHBO2201-YOTSUBA試験が進行中であり、周術期治療への応用が期待される。膵がんPANOVA-3試験:切除不能局所進行膵がんにおける腫瘍治療電場(TTFields)の有効性と安全性(LBA4005)切除不能局所進行膵腺がん(LA-PAC)に対する新たな治療戦略として、腫瘍治療電場(Tumor Treating Fields:TTFields)の有効性が注目を集めた。PANOVA-3試験は、TTFieldsをGEM+nab-PTX(GnP)に追加することで、標準治療単独(GnP)と比較し全生存期間(OS)を有意に延長することを示した初の第III相試験である。本試験は本邦を含む20ヵ国198施設、571例を対象に1対1に割り付けて実施。主要評価項目であるOS中央値はTTFields群16.2ヵ月vs.GnP群14.2ヵ月であり、優越性を示した(HR:0.82、95%CI:0.68~0.99、p=0.039)。副次評価項目では、無痛生存期間(HR:0.74)、遠隔転移PFS(HR:0.74)、QOLにおいてもTTFields群が有意に良好な結果を示した。安全性に関しては、TTFields群で局所の皮膚関連有害事象が多くみられたが、主にGrade1/2で管理可能であり、有害事象でTTFieldsが中止となったのは8.4%であった。TTFieldsは非侵襲的かつ局所的な電場療法であり、がん細胞の分裂阻害効果や抗腫瘍免疫増強効果が報告されている。膠芽腫や悪性胸膜中皮腫・非小細胞肺がんに続く膵がんへの応用が今回初めて本格的に示され、遠隔転移制御効果も示唆された。今後の膵がん治療における集学的治療の一環として、TTFieldsの位置付けが期待される。

4.

統合失調症の認知機能低下に影響を及ぼす向精神薬

 認知機能低下は、統合失調症でみられる中心的な病態の1つであるが、確立された薬理学的治療法は、いまだ存在しない。統合失調症治療では、主に抗精神病薬が用いられるが、統合失調症患者の認知機能に及ぼす影響については、実臨床における日常的な研究は行われていなかった。米国・The Stanley Research Program at Sheppard PrattのFaith Dickerson氏らは、統合失調症患者を対象としたリアルワールドコホート研究における、向精神薬と認知機能との関連を評価した。Schizophrenia Bulletin誌オンライン版2025年5月8日号の報告。 対象は、地域社会ベースのケアを受けている統合失調症患者869例。認知機能は、神経心理検査アーバンズ(RBANS)を用いて評価した。機械学習ツールであるLASSO回帰を用いて、関連する人口統計学的、臨床的、環境的共変量で調整した後、RBANS総スコアおよびインデックススコアと各向精神薬の服薬状況との独立した関連性を検証した。薬剤の投与量および併用の影響も、併せて検証した。 主な結果は以下のとおり。・クロザピン、クエチアピン、benztropine、経口ハロペリドールの4剤は、これらの薬剤を服薬していない患者と比較し、それぞれ独立して認知機能スコアの有意な低下との関連が認められた。・これら4剤のうちクエチアピンを除く3剤は、認知機能総スコアとの有意な用量相関関係を示した。・これらの薬剤の併用投与を行った患者では、認知機能がさらに低下したことも確認された。・とくに、クロザピン投与患者では、記憶力の低下との最も強い関連が認められた。 著者らは「臨床医は、特定された薬剤の投与量を最小限に抑え、併用を制限することを検討する必要がある。統合失調症患者に認知機能や生活の質(QOL)を改善するためにも、新たな介入の開発が求められる」とまとめている。

5.

治療法が大きく変化、アミロイドーシス診療ガイドライン8年ぶりに改訂

 『アミロイドーシス診療ガイドライン2025』が2024年12月に発刊された。2017年版から8年ぶりの改訂となるが、この間にアミロイドーシスの各病型の病態解明が進み、診断基準をはじめ、トランスサイレチン型(ATTR)アミロイドーシスに対する核酸医薬、ALアミロイドーシスに対する抗CD38抗体薬、アルツハイマー病(AD)による軽度認知障害および軽度の認知症に対する抗アミロイドβ抗体薬の発売など、治療法も大きな変化を遂げている。そこで今回、本ガイドライン作成委員長であり、アミロイドーシスに関する調査研究班1)を率いる関島 良樹氏(信州大学医学部 脳神経内科、リウマチ・膠原病内科 教授)にアミロイドーシスの現状や診断方法、本書の改訂点などについて話を聞いた。次々と上市された薬剤、最新の診断フローチャートが疾患に光を灯す アミロイドーシスとは、アミロイドの沈着により臓器障害を引き起こす疾患群であり、その原因となる前駆蛋白質についてはヒトでは42種類が同定されている。また、前駆蛋白質の産生部位とアミロイドの沈着部位との関係により、全身性と限局性に分類される。このほかにも病型によって有病率や診断方法、患者・家族へのアドバイスなどが異なることから、本書を「第I章 アミロイドーシスの診断の基礎知識」「第II章 病型別アミロイドーシス最新診療ガイドラインとCQ」の2本柱で章立て、各々が必要なページにたどり着けるような構成になっている。第I章では各冒頭に要約を示しながらアミロイドーシスの基礎知識を解説。第II章では代表的なアミロイドーシスをピックアップし、各病型(診療科別)のClinical Question、それぞれの患者数・有病率、どんな症例で疑うべきか、診断や治療について言及している。 本書の大きな改訂点の1つとして、関島氏は「2017年版は学会承認を得たものではなかったが、今回は5学会(日本アミロイドーシス学会、日本神経学会、日本循環器学会、日本腎臓学会、日本血液学会)の承認を得て作成した」と説明。これまでは各学会で個別のガイドラインを作成していたが、アミロイドーシスはアミロイドがさまざまな臓器に沈着し、特異的な所見に乏しい症例も少なくない。「全診療科の先生方に、本症を疑って鑑別診断にあたることが求められるため、全臓器横断的なガイドラインを目指した」ともコメントした。本書のp.17~18には、研究班で作成した最新版の診断基準を反映したアミロイドーシス診断のためのフローチャートが示されているので、患者のどこか(心臓、腎臓、消化管、手根管、関節・靭帯、眼、皮膚、各臓器の腫瘤性病変など)にアミロイドーシスの疑いを持ったら、このフローチャートをぜひ思い出してほしい。 また、診断や治療におけるこの8年の発展は目まぐるしく、各疾患の治療項目も充実した。治療において最も大きな変貌を遂げたのはATTRアミロイドーシスである。ATTRアミロイドーシスは遺伝性(ATTRv)と野生型(ATTRwt)に分類され、主な障害は末梢神経障害(ATTR-PN)と心筋症(ATTR-CM)である。たとえば、タファミジス(商品名:ビンダケル/ビンマック)は、ATTRvアミロイドーシスによる末梢神経障害(ATTRv-PN)の進行抑制に加え、2019年にATTR型心アミロイドーシス(ATTR-CM、野生型および変異型)に適応が拡大。核酸医薬(SiRNA)であるパチシラン(同:オンパットロ)やブトリシラン(同:アムヴトラ)はATTRv-PN(トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー)治療薬として承認されている。さらに、ADによる軽度認知障害および軽度の認知症の進行抑制に対する抗アミロイドβ抗体薬(レカネマブ[同:レケンビ]、ドナネマブ[同:ケサンラ])も2023年以降に相次いで承認された。患者を“見て診る”、全医師が特徴をつかみ潜在患者発掘へ しかし、これらの治療薬をうまく使いこなしていくには、診断に至るまでの問診や身体診察が鍵となる。アミロイドーシス自体はさまざまな臓器や血管に沈着することから、すべての診療科に関わる病気であり、とくにADや近年注目を浴びているATTRwtアミロイドーシスは日本国内に数百万人が潜在患者として存在することから、「アミロイドーシスはコモンディジーズである」と話す。「10年前の全国調査1)では、ATTRwtアミロイドーシスの患者数は50人程度だったのが、今は約3,000人に上る。疾患別にみると、心不全患者の中には5万人以上の潜在患者がいると言われ、手根管症候群300万人のうち100万人以上がATTRwtが原因ではないかとわれわれは推測している。ATTRwtは50歳以上の男性、60歳以上の女性で多いため、整形外科領域では該当患者の手根管症候群の手術の際にアミロイド沈着の有無を検査することが浸透し始めている」と説明した。 このような状況を踏まえ、同氏は専門性に応じた理解が必要であるとし、「一般内科医の皆さまには、心不全、脊柱管狭窄症、手根管症候群といったよくある疾患にアミロイドーシスが潜んでいること、息切れや動悸などの心不全症状を生じる前から手足のしびれや痛み、物がつまみにくいなどの運動障害が先行していることがある点に注意してほしい。そして、認知症の約7割がAD2)であることを踏まえ、抗アミロイドβ抗体薬の適応となる軽度認知機能障害(MCI)から軽度の認知症の時期に脳神経内科などの専門科への紹介をしていただくことが重要」とコメントした。 一方、専門医に向けては診療科ごとに以下のような特徴を示した。――――――――――――――――――〇循環器:心アミロイドーシス(ATTRv、ATTRwt、AL)のうち、ATTRwtはとくに頻度が高く男性に多い。〇血液内科:ALアミロイドーシスでは、眼の周囲の出血によるラクーンアイサインがみられる。〇腎臓内科:蛋白尿の原因疾患としてALアミロイドーシスを鑑別に挙げる。長期透析患者で、手根管症候群,ばね指、破壊性脊椎関節症などの骨関節症状を呈する場合、Aβ2Mアミロイドーシスを考慮する。〇神経内科:成人発症の多発ニューロパチーの鑑別にアミロイドーシス(ATTRvおよびAL)を挙げる。高齢者の手根管症候群の主要な原因疾患としてアミロイドーシス(とくにATTRw)を考慮する。〇膠原病:関節リウマチなどで慢性炎症が持続する患者において、下痢や蛋白尿が認められた場合、血清アミロイドA(SAA)を前駆蛋白とするAAアミロイドーシスを鑑別に挙げる。―――――――――――――――――― このほかの特徴的な臨床所見として、「巨舌、上腕二頭筋の断裂(ポパイサイン)などがある。ポパイサインは、腱・靭帯アミロイドーシスによって上腕二頭筋の腱断裂が起こり、これにより上腕二頭筋が短縮して力こぶのように見える。ATTRwtアミロイドーシスで高頻度に見られるので注意してもらいたい」と説明した。 最後に同氏は「現在、アミロイドーシスは治療薬開発も世界的に盛んで、国内では今夏にSiRNA製剤ブトリシランにATTR-CMの適応追加が予定されているなど、目が話せない領域だ。ゲノム編集薬を用いた治療においてもアミロイドーシスが先駆けとなっていることから、3年後に予定している次回改訂ではこれらの知見を盛り込みたい」と締めくくった。

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精神疾患を併存している肥満者は減量治療抵抗性/日本糖尿病学会

 日本糖尿病学会の第68回年次学術集会(会長:金藤 秀明氏[川崎医科大学 糖尿病・代謝・内分泌内科学 教授])が、5月29~31日の日程で、ホテルグランヴィア岡山をメイン会場に開催された。 今回の学術集会は「臨床と研究の架け橋 ~translational research~」をテーマに、41のシンポジウム、173の口演、ポスターセッション、特別企画シンポジウム「糖尿病とともに生活する人々の声をきく」などが開催された。 肥満や肥満症の患者では、うつ病、不眠などの精神疾患を併存しているケースが多い。こうした併存症は診療の際にアドヒアランスなどに影響するなど、臨床現場では治療の上で課題となっている。また、精神疾患が体重の増加などにも影響することが指摘されている。 そこで本稿では「口演153 境界型糖尿病6」から「精神疾患合併が肥満患者の体重変化および糖代謝に与える影響」(演者:石川 実里氏[国立病院機構京都医療センター臨床研究センター内分泌代謝高血圧研究部])をお届けする。精神疾患併存の肥満症患者にはチームで診療にあたる 石川 実里氏、浅原 哲子氏らの研究グループは、自院の「肥満・メタボリック外来」に来院した患者で、精神疾患を併存している肥満症患者の体重変化とインスリン抵抗性に与える影響を検討した。 心血管疾患のハイリスク群である肥満症患者では、精神疾患を併存していることが多く、精神疾患の併存は、その心理ストレスや精神疾患治療薬の影響から、減量治療を困難にし、同時にストレスによるコルチゾール分泌増加は、内臓脂肪蓄積やインスリン抵抗性増悪に寄与している可能性がある。 そこで、2004~19年に京都医療センター肥満・メタボリック外来を初診で受診した174例(減量入院実施などで14例除外)を対象に、6ヵ月後、12ヵ月後の体重・糖代謝関連指標の変化と精神疾患合併の関連を検討した。 対象の中で精神疾患を併存している患者は30例、併存していない患者は144例だった。また、合併する精神疾患の種類としては、「うつ病」「不眠症」「統合失調症」「双極性障害」の順に多くみられた。患者の39%が男性、61%が女性だった。平均BMIは33.8であった。糖尿病合併例は28.2%と約3割に見受けられた。 主な結果として、精神疾患合併群の体重減少率は12ヵ月時点で非合併群より有意に低かった。さらに、体重減少とHbA1cの改善に相関がみられ、非糖尿病合併群でも同様の結果がみられた。糖尿病非合併の肥満患者において、精神疾患非合併群のみ、6ヵ月後、12ヵ月後ともに、初診時よりHbA1cは有意に減少していたが、群間差はみられなかった。 考察として、肥満症の患者では脳内炎症が惹起され、セロトニン産生が抑制されることから、うつ状態が進み、また同時に肥満が進行する可能性が示唆されている。さらに、心理ストレスは、食欲を制御する視床下部や報酬系を介して摂食量を増加させる可能性がある。 石川氏は研究結果から、「精神疾患を併存した肥満患者は、減量治療抵抗性であることが多く、精神科などとの連携を含めたチーム医療が減量成功と患者のQOL向上に寄与すると考えられる」と述べ、口演を終えた。

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AIは中間期乳がんの検出に有用?

 人工知能(AI)は、訓練を受けた放射線科医でも見逃してしまうような乳がんを検出できる可能性のあることが、新たな研究で示された。研究グループは、マンモグラフィー検査にAIを組み込むことで、年1回の定期検診の合間に発生する中間期がん(interval breast cancer;IBC)の発生率を下げられる可能性があるとしている。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)デビッド・ゲフィン医学部放射線学分野のTiffany Yu氏らによるこの研究結果は、「Journal of the National Cancer Institute」に4月18日掲載された。 Yu氏はUCLAのニュースリリースで、「がんの早期発見は、患者にとって大きな違いを生む。がんを早期に見つけることができれば、より積極的な治療を必要としなくなり、より良好な転帰を得る可能性も高まる」と話す。 この研究では、2010年から2019年にかけて行われた18万4,935件のマンモグラフィー検査データを分析して、検査で陰性と判定されてから12カ月以内にIBCと診断された148症例を特定。これらの症例について、AIが「異常」として認識できるかを検証した。 3人以上の放射線科医がIBC症例を、1)陰性判定の画像にがんが描出されていたにもかかわらず見逃されたか誤って解釈された「見逃し」、2)熟練の放射線科医なら検知可能だった可能性のある微細な兆候があった「対応可能な最小の兆候あり」、3)肉眼では確認できない微細な兆候があった「対応不可な最小の兆候あり」、4)前回の画像には異常が認められず、今回の画像で初めて異常が確認された「真のIBC」、5)マンモグラフィー画像では異常が認められないが、超音波やMRIなどの他の検査で発見された「オカルトがん」、6)がんはすでに存在していた可能性があるが、不適切なポジショニングなどの技術的要因により描出されなかった「技術的なエラー」、に分類した。深層学習を用いたAIは、各画像に1〜10のリスクスコアを付与した(8点以上を「異常あり」と定義)。その上で、放射線科医による分類とAIによるスコア、マーキング、患者とがんの特徴との関連を評価した。 放射線科医による分類では、148症例のうち26%(38例)が「対応可能な最小の兆候あり」、24%(36例)が「オカルトがん」、22%(33例)が「対応不可の最小の兆候あり」、17%(25例)が「見逃し」、6%(9例)が「真のIBC」、5%(7例)が「技術的エラー」と判定された。 AIは、乳房インプラントやファイル変換の問題から対象外とされた17件を除く131件のデータを解析した。その結果、AIは「見逃し」の90%(19/21例)、「対応可能な最小の兆候あり」の89%(32/36例)、「対応不可の最小の兆候あり」の72%(23/32例)、「オカルトがん」の69%(20/29例)、「真のIBC」の50%(4/8例)、「技術的エラー」の40%(2/5例)を「異常あり」としてフラグを立てた。この結果から、AIは、スクリーニング時に画像上である程度兆候の現れていたIBCに対する検出率は高い一方で、画像上に兆候の現れていなかったIBCの検出率は相対的に低いことが示唆された。 こうした結果を受けて、論文の上席著者であるUCLAデビッド・ゲフィン医学部放射線科分野のHannah Milch氏は、「大変興味深い結果が得られた一方で、AIの不正確さや、リアルワールドの環境でさらに調査する必要がある問題も数多く見出された。例えば、マンモグラフィー画像では確認できないにもかかわらず、AIはスクリーニング時の画像からオカルトがんの69%を特定した。しかし、AIが疑わしいとマークした画像上の特定領域を精査すると、実際に本物のがんをマークしていたのはわずか22%に過ぎず、AIの精度はそれほど高くないことが判明した」とUCLAのニュースリリースで述べている。 研究グループは、乳がんのスクリーニング検査においてAIを最も効果的に活用する方法を見つけるには、さらに大規模な研究が必要だと指摘している。Yu氏は、「AIは完璧ではないため単独で使用すべきではないが、将来性はある」との見方を示し、「特に、早期発見が最も難しい種類のがんにおいて、AIは放射線科医の貴重な第二の目として役立つ可能性がある」と述べている。

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男女の身長差、遺伝子で説明できる?

 男性は通常、女性よりも平均で13cmほど背が高いが、その理由についてはこれまで明らかにされていなかった。しかし新たな研究で、「SHOX(short stature homeobox)」と呼ばれる遺伝子により、この現象を部分的に説明できる可能性のあることが示された。米ガイジンガー医科健康科学大学の遺伝学研究者であるMatthew Oetjens氏らによるこの研究の詳細は、「Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS)」に5月19日掲載された。 男女の身長差を説明する仮説の一つは、身長に関わるSHOX遺伝子に関するものだ。SHOX遺伝子は、X染色体とY染色体の間で配列が相同な領域である偽常染色体領域1(PAR1)に位置する。これまで、哺乳類の雌の細胞では2本のX染色体のうちの1本が不活性化され(不活性化X〔Xi〕染色体)、多くの遺伝子の機能が損なわれるが、PAR1に位置する遺伝子はその影響を免れると考えられてきた。ところが近年の研究で、Xi染色体のPAR1に位置するSHOX遺伝子やその他の遺伝子は、実際には発現が抑制されていることが示された。一方、男性はX染色体とY染色体を1本ずつ持っており、双方の染色体のSHOX遺伝子が活性化されている。このため、男性の方がSHOX遺伝子の発現量が高く、これが身長の伸びを促進している可能性があると考えられる。 この仮説を検証するためにOetjens氏らは、米国と英国の3つの大規模バイオバンクから収集した92万8,605人のデータの解析を行った。研究グループが着目したのは、X染色体やY染色体が1本多い、あるいは1本少ない(例:45,X、47,XXY、47,XYY、47,XXX)まれな染色体構造を持つ小規模集団だった。これらの集団を対象に、SHOX遺伝子の発現量が身長にどのような影響を及ぼしているのか調べた。 その結果、Y染色体が1本増えると、Xi染色体が1本増える場合に比べて身長が平均3.1cm高くなることが明らかになった。また、このY染色体の遺伝子発現効果だけで、男女の平均身長差の22.6%を説明できることが示された。 なお、残りの身長差は他の遺伝子や男性ホルモンの影響によるものである可能性が高いとOetjens氏は付け加えている。 米マウント・サイナイ病院の遺伝学の専門家であるEric Schadt氏は、この研究結果について、「これは、まだ謎が多く残る問題を解明するためにバイオバンクを活用した素晴らしい例だ。たとえ影響がわずかであっても、身長差の約20%を説明していることは重要だ」と話している。

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陰茎が3本あった男性【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第284回

陰茎が3本あった男性三重陰茎症(トリファリア、トリプルペニス)は、3つの明確な陰茎体が存在する、きわめてまれな先天異常です。実は文献上、今回の症例を含めると、これまでにわずか2例しか報告がありません1)。Buchanan J, et al. Triphallia: the first cadaveric description of internal penile triplication: a case report. J Med Case Rep. 2024;18:490.この論文は、献体解剖中に偶然発見された78歳男性の三重陰茎症例について、その解剖学的特徴と臨床的意義について解説しています。症例は78歳の白人男性の献体です。外見上は正常な外性器でしたが、解剖の結果、主要陰茎の背側深部に2つの過剰陰茎が配列しているという解剖学的アノマリーが発見されました。各陰茎体はそれぞれ独自の陰茎海綿体と亀頭を有していました。主要陰茎と第二の陰茎は単一の尿道を共有しており、この尿道は特徴的な蛇行経路を示し、第二陰茎を貫通した後に主要陰茎へと合流していました。合流するんだ…。最も小さな第三の過剰陰茎には尿道様構造は認められませんでした。陰茎の大きさは以下の通りでした:主要陰茎:長さ77mm、幅24mm第二陰茎:長さ38mm、幅13mm第三陰茎:長さ37mm、幅12mm重要な点として、この献体には腎臓、尿管、膀胱、消化管、陰嚢など他の臓器の解剖学的異常は一切認められなかった点です。正常な男性生殖器の発生は、胚発生第4週から始まります。総排泄腔膜周囲の間葉細胞増殖により性器結節が形成され、Y染色体上のSRY遺伝子発現によるテストステロン産生が男性外性器の発達を誘導します。テストステロンは5α-リダクターゼによってジヒドロテストステロンに変換され、これが性器結節と尿生殖洞のアンドロゲン受容体に作用して陰茎の発達を促進します。本症例では、性器結節の三重化があった可能性が考えられます。尿道はもともと第二陰茎で発生したものの、その後発達パターンが変化し、蛇行経路をとって主要陰茎まで伸長したと推測されます。第三陰茎は、三重化した性器結節の遺残と考えられ、尿道形成は不完全なまま終了したと思われます。本症例の特筆すべき点は、患者が78歳まで無症状で過ごし、この解剖学的アノマリーが生前にまったく発見されなかったことです。これは過剰陰茎が陰嚢内に隠れていたためです。ゆえに、実は多陰茎症の実際の有病率は現在理解されているよりも高い可能性があります。これを読んでいる男性読者の中にもおられるかもしれません。生前に尿道カテーテル挿入が必要であった場合、このような症例では手技が困難であった可能性があります。また、過剰な勃起により性交疼痛を経験していた可能性があるかもしれません。1)Jabali SS, Mohammed AA. Triphallia (triple penis), the first reported case in human. Int J Surg Case Rep. 2020;77:198-200.

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第267回 ワクチン懐疑派が集結、どうなる?米国のワクチン政策

やはり、トランプ氏より危険だった嫌な予感が的中してしまった。3回前の本連載で米国・トランプ政権の保健福祉省長官のロバート・F・ケネディ・ジュニア氏(以下、ケネディ氏)について言及したが、「ついにやっちまった」という感じだ。前述の連載公開10日後の6月9日、ケネディ氏は米国・保健福祉省と米国疾病予防管理センター(CDC)に対してワクチン政策の助言・提案を行う外部専門家機関・ACIP(予防接種の実施に関する諮問委員会)の委員全員を解任すると発表したからだ。アメリカでは政権交代が起こると官公庁の幹部まで完全に入れ替わる(日本と違い、非プロパーが突如、官公庁幹部に投入される)のが常だが、1964年に創設されたACIP委員が任期途中(任期4年)で解任された事例は調べる限りない模様である。一斉に解任された委員に代わって、ケネディ氏は新委員8人を任命した。このメンツが何とも香ばしい。ある意味、粒ぞろいの人選まず、ほぼ各方面から懸念を表明されているのが、国立ワクチン情報センター(National Vaccine Information Center:NVIC)ディレクターで看護師のヴィッキー・ペブスワース氏と医師で生化学者のロバート・W・マーロン氏の2人である。ペブスワース氏については、所属が「国立」となっているので公的機関のような印象を受けるが、完全な民間団体で従来からワクチン接種が自閉症児を増やすという、化石のような誤情報を声高に主張している。同センターによると、ペブスワース氏自身がワクチン接種で健康被害を受けた息子の母親であるという。マーロン氏は1980年代後半にmRNAの研究を行っていたとされ、今回の新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)に対するmRNAワクチンの発明者だと自称している。その後は大学で教鞭をとったり、ベンチャー系製薬企業の幹部に就任したりしている。mRNAワクチンの発明者を自称しながら、今回のファイザーやモデルナのワクチンには否定的で、「最新のデータによると、新型コロナワクチン接種者は未接種者に比べて感染、発症、さらには死亡する可能性が高くなることが示されている。そしてこうしたデータによると、このワクチンはあなただけでなく、あなたのお子さんの心臓、脳、生殖組織、肺に損傷を与える可能性があります」などと主張している人物である。どこにそんなデータがあるのか見せてもらいたいが。これ以外でも、mRNAワクチンは若年者で死亡を含む深刻な害悪があると主張するマサチューセッツ工科大学教授のレツェフ・レヴィ氏、コロナ禍中の2020年10月に全米経済研究所が若年者などは行動制限せずに集団免疫獲得を目指すべきと政策提言した「グレートバリントン宣言」の起草者に名を連ねた生物統計学者のマーティン・クルドルフ氏とダートマス大学ガイゼル医学部小児科教授のコーディ・マイスナー氏も含まれている。意味不明な選出もこれだけワクチンを含む新型コロナ対策における亜流・異端のような人物たちが過半数を占め、驚くべき状況である。ACIPはケネディ氏の“趣味”仲間の井戸端会議になり果ててしまったと言ってよいだろう。残るのは元米国立衛生研究所(NIH)の所員で精神科医のジョセフ・R・ヒッベルン氏、元救急医のジェームズ・パガーノ氏、慢性疾患患者向けの治療薬投与システムを開発するベンチャー企業の最高医療責任者(CMO)で産婦人科医のマイケル・A・ロス氏だが、ケネディ氏の志向と合致する前述の5氏と比べれば、この3氏はなぜ選出されたのかも意味不明である。ただ、もともと感染症学や予防医学や公衆衛生学などの専門家に加え、消費者代表を加えてバランスを取っていた以前のACIPとはまったく異なる組織になったことだけは確かである。これから考えれば、昨今国会でキャスティングボードを握り始めた某野党の参議院選比例代表候補者にワクチン懐疑派の候補者が1人含まれているなどという日本の状況は、まだましなのかもしれない(もちろん私自身はそれを許容するつもりはないが)。

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軽度・短期間のAKIでも腎機能が長期的に悪化

 急性腎障害(AKI)後の長期的な腎機能悪化リスクを調査したシステマティックレビューおよびメタ解析の結果、AKIが軽度で持続期間が短い患者であっても慢性腎臓病(CKD)の発症および進行リスクは有意に高く、糖尿病や高血圧の既往、急性透析の必要があった場合などではさらにリスクが増大していたことを、オランダ・ユトレヒト大学医療センターのDenise M. J. Veltkamp氏らが明らかにした。Nephrology Dialysis Transplantation誌オンライン版2025年5月27日号掲載の報告。 AKIは、CKDや腎不全、主要腎有害事象(死亡、透析依存など)と関連するが、どのような患者においてリスクが増大するかは依然として不明である。そこで研究グループは、AKIのステージや持続期間、患者特性などが腎予後に与える影響を明らかにするためにシステマティックレビューおよびメタ解析を実施した。 PubMedおよびEmbaseを用いて、AKI患者と非AKI患者を少なくとも1つの重要なアウトカムで比較検討し、最低1年間の追跡調査を行った研究を系統的に検索した。ハザード比(HR)とオッズ比(OR)はランダム効果モデルを用いて統合し、患者背景の異質性はサブグループ分析およびメタ回帰分析を用いて検証した。 主な結果は以下のとおり。・70件の研究の183万8,668例(うちAKI患者は16万5,715例)を解析対象とした。すべての研究の質は中~高であった。・AKI患者では、非AKI患者よりも、CKD発症および進行リスク、腎不全リスク、主要腎有害事象リスクが高かった。 -CKD発症 AKI群25.8%vs.非AKI群8.7%、HR:2.36(95%信頼区間[CI]:1.77~2.94) -CKD進行 AKI群43.1%vs.非AKI群35.6%、HR:1.83(95%CI:1.26~2.40) -腎不全 AKI群2.9%vs.非AKI群0.5%、HR:2.64(95%CI:2.03~3.25) -主要腎有害事象 AKI群59.0%vs.非AKI群32.7%、OR:2.77(95%CI:2.01~3.53)・3日未満の短期間のAKIでもCKD発症リスクが高かった(OR:2.37[95%CI:1.68~3.07])。・ステージ1の軽度のAKIでもCKD発症リスクが高かった(HR:1.49[95%CI:1.44~1.55])。・糖尿病や高血圧、冠動脈疾患の既往、心血管手術を受けた患者、急性透析を必要とした患者では、CKD発症または進行リスクが高かった。 研究グループは「これらの結果は、AKI後の腎機能低下を速やかに認識し、腎保護のための介入を開始するための個別化されたフォローアップ戦略を開発する必要性を強調している」とまとめた。

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高リスク皮膚扁平上皮がんの術後補助療法、セミプリマブがDFS延長/NEJM

 術後放射線療法後の高リスク皮膚扁平上皮がん(cSCC)患者において、セミプリマブによる術後補助療法はプラセボと比較して無病生存期間(DFS)を有意に延長した。オーストラリア・Peter MacCallum Cancer CentreのDanny Rischin氏らC-POST Trial Investigatorsが、16ヵ国107施設で実施した第III相無作為化プラセボ対照試験「C-POST試験」の、二重盲検期の解析結果を報告した。高リスクのcSCC患者は、根治的局所療法後に再発するリスクが高いが、全身療法による術後補助療法の有用性は臨床試験で十分に確立されていなかった。NEJM誌オンライン版2025年5月31日号掲載の報告。対プラセボでDFSを比較 研究グループは、18歳以上の外科的切除および術後放射線療法を完了した限局性または局所性のcSCC患者のうち、高リスクの結節性または非結節性病変を有する患者を、セミプリマブ群またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 高リスクの結節性病変は最大径20mm以上で節外浸潤を伴うまたは節外浸潤の有無にかかわらず3つ以上、高リスクの非結節性病変はin-transit転移、指定された神経の神経周囲浸潤、骨浸潤を伴うT4原発腫瘍、または局所再発で少なくとも1つの予後不良因子を有する(N2b以上、腫瘍径4.0cm超のT3以上病変、腫瘍径2cm以上で低分化がんの組織学的特徴を有する)、と定義された。 セミプリマブまたはプラセボは、当初350mgを3週ごとに12週間静脈内投与した後、700mgを6週ごとに変更され、36週間(計48週間)投与された。いずれも、最長48週間、または再発、許容できない毒性の発現、同意撤回まで投与した。 主要評価項目はDFS、副次評価項目は無局所再発生存期間、無遠隔再発期間、全生存期間、および安全性などであった。セミプリマブ群で再発または死亡リスクが68%低下、24ヵ月DFS率は87% 2019年6月~2024年8月に526例がスクリーニングされ、415例がセミプリマブ群(209例)とプラセボ群(206例)に無作為化された。 追跡期間中央値24ヵ月において、セミプリマブ群はプラセボ群と比較しDFSが有意に改善した。主要評価項目のイベントはそれぞれ24例、65例に発現し、再発または死亡のハザード比(HR)は0.32(95%信頼区間[CI]:0.20~0.51、p<0.001)、24ヵ月DFS率はそれぞれ87.1%(95%CI:80.3~91.6)、64.1%(95%CI:55.9~71.1)であった。 セミプリマブ群ではプラセボ群と比較して、局所再発(イベント数はそれぞれ9例vs.40例、HR:0.20[95%CI:0.09~0.40])および遠隔再発(10例vs.26例、0.35[0.17~0.72])のリスクも低下した。 Grade3以上の有害事象は、セミプリマブ群で23.9%、プラセボ群で14.2%に発現し、投与中止に至った有害事象はそれぞれ9.8%および1.5%であった。

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重症患者の経腸栄養、タンパク質を増量しても予後は改善せず/JAMA

 集中治療室(ICU)入室中の重症患者にタンパク質含有量の高い経腸栄養剤(100g/L)を用いても、通常(63g/L)と比較して90日時点の生存期間などは改善されなかった。オーストラリア・アデレード大学のMatthew J. Summers氏らが、同国およびニュージーランドの8施設のICUにて実施したクラスター無作為化非盲検クロスオーバー試験の結果を報告した。ガイドラインでは、重症患者におけるタンパク質含有量の高い経腸栄養が推奨されているが、患者のアウトカムに及ぼす影響は不明であった。JAMA誌オンライン版2025年6月11日号掲載の報告。タンパク質含有量100g/L vs.63g/Lを比較 研究グループは、経腸栄養におけるタンパク質強化が、生存日数と入院回避期間の延長に結び付くかを検証する目的で、4施設が2022年5月23日より、4施設が2023年8月23日よりそれぞれ12ヵ月間患者を募集し、2023年11月21日に最終追跡調査を行った。 対象患者は16歳以上で、ICUに入室し経腸栄養剤を処方された患者、または入院中にICUに入室し初めて経腸栄養剤を処方された患者とした。 各ICUは、12ヵ月間にわたり3ヵ月ごとに、タンパク質含有量の高い経腸栄養剤(タンパク質100g/L)(タンパク質強化群)→通常の経腸栄養剤(タンパク質63g/L)(通常群)を交互に、またはその逆の順で交互に治療を提供するよう、無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、90日時点の対象病院への非入院生存期間、副次アウトカムは90日時点の生存者における対象病院への非入院日数、90日時点での生存率、侵襲的人工呼吸を受けた患者における侵襲的人工呼吸期間、ICU入室期間および入院期間(生存退院までの期間)、気管切開・挿管および新規腎代替療法の実施率、ならびに退院先であった。主要評価項目に差はなし 計3,397例が登録された。年齢中央値は61歳(四分位範囲[IQR]:48~71)、男性が2,157例(64%)であった。 90日時点の対象病院への非入院生存期間中央値(IQR)は、タンパク質強化群で62日(0~77)、通常群で64日(0~77)であり、補正後の群間差の中央値は-1.97日(95%信頼区間[CI]:-7.24~3.30)であった(p=0.46)。 90日時点で、タンパク質強化群では1,681例中1,221例(72.6%)が生存し、通常群では1,716例中1,269例(74.0%)が生存していた(リスク比:0.99、95%CI:0.95~1.03)。 副次アウトカムに関する群間差は、生存者における非入院日数中央値の差が0.01日(95%CI:-1.94~1.96)、平均侵襲的人工呼吸期間の差が6.8時間(95%CI:-3.0~16.5)であった。また、ICU生存退室までの期間のハザード比は0.93(95%CI:0.88~1.00)、生存退院までの期間については0.96(0.90~1.02)、気管切開術のリスク比は1.15(0.66~2.01)、新規腎代替療法のリスク比は0.97(95%CI:0.81~1.16)であり、退院先は両群で類似していた。

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心臓発作から回復後にしてはいけないこと

 心臓発作から回復した後に、座位行動の時間が長いほど発作再発や死亡リスクが高く、座位行動を運動または睡眠に置き換えることでそのリスクが抑制される可能性のあることが明らかになった。米コロンビア大学医療センターのKeith Diaz氏らの研究によるもので、詳細は「Circulation: Cardiovascular Quality and Outcomes」に5月19日掲載された。 この研究は、2016~2020年に急性冠症候群(心筋梗塞や不安定狭心症)の症状のために同センター救急外来で治療を受けた成人患者を対象に実施された。退院後30日間にわたり、手首装着型の加速度計を用いて、座位行動や身体活動、および睡眠の時間を測定。また退院1年後に、電話調査や医療記録、死亡記録によって転帰が確認された。解析対象者数は609人(平均年齢62歳〔範囲21~96〕、男性52%)で、1日の座位時間は平均13.6±1.8時間だった。 1年間の追跡で8.2%の患者に何らかのイベント(急性冠症候群の再発または新たな心血管疾患の発症および死亡)の発生が確認された。対象者全体を座位行動時間の三分位に基づき3群に分け、第1三分位群(座位行動時間が短い下位3分の1)を基準にイベント発生リスクを比較すると、第3三分位群(座位行動時間が長い上位3分の1)の人は約2.6倍リスクが高かった。詳しくは、第2三分位群がハザード比(HR)0.95(95%信頼区間0.37~2.40)、第3三分位群がHR2.58(同1.11~6.03)であって、座位行動時間が長いほどハイリスクとなる傾向が示された(傾向性P値=0.011)。 統計学的手法を駆使した検討により、30分間の座位行動をやめて中~高強度の身体活動をしたとすると、イベントリスクが61%低下することが分かった(HR0.39〔0.16~0.96〕)。また、軽度の身体活動に置き換えた場合にも、リスクが51%低下(HR0.49〔0.32~0.75〕)すると計算された。さらに、睡眠に置き換えた場合にも、14%のリスク低下(HR0.86〔0.78~0.95〕)が予測された。 Diaz氏はこの研究の背景として、「現在の治療ガイドラインは、心臓発作後の患者に対して、運動を奨励することに重点を置いている。それに対してわれわれは、座位時間の長さそのものが、心血管リスクを押し上げる可能性があるのではないかと考えた」と語っている。そして得られた結果を基に、「心臓発作を経験した後になにもマラソンを始めることはなく、座る時間を減らし体を動かしたり睡眠を少し増やしたりするだけで大きな違いが生まれるようだ」と総括。「この結果を基に、医療専門家が、より柔軟で個別化されたアプローチを採用するように変化していくのではないか」と付け加えている。 同氏はまた、座位行動を睡眠に置き換えることでもリスクが低下する可能性が示されたことについて、「この結果には驚いた。睡眠は心身の回復に欠かせず、心臓発作のような深刻な健康問題の後には特に重要となるのではないか」と推察している。

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多くの高齢者が白内障手術に恐怖心を抱いている

 白内障の手術は最も安全性の高い手術の一つであり、成功率は95%に達する。それにもかかわらず、多くの高齢者は失明を恐れて手術を受けていないことが、米シンシナティ大学医学部のLisa Kelly氏らによる研究で明らかにされた。この研究の詳細は、「The Journal of Clinical Ophthalmology」に3月28日掲載された。 白内障は、目のレンズの役割を担う水晶体が白く濁り、視界がぼやけたり暗くなったりする病態を指す。原因は、主に加齢に伴い水晶体を構成するタンパク質が酸化して白く濁ることにある。米クリーブランド・クリニックによると、90代の約半数では、どこかの時点で濁った水晶体を透明な人工水晶体に置換する手術を受ける必要があるという。手術に要する時間は非常に短い上に、痛みはほとんどない。米国では毎年300万件以上の白内障手術が行われている。 今回の研究でKelly氏らは、シンシナティ大学医療センターのHoxworth眼科クリニックで募集した50歳以上の白内障患者42人(平均年齢66.2歳、男性17人)を対象に、白内障手術および失明に対する恐怖心と健康リテラシーとの関係を評価した。全ての対象者が、白内障の病理や治療に関する理解や態度を評価する質問票に回答した。また、Rapid Estimate of Adult Literacy in Medicine-Short Form(REALM-SF〔成人の医療リテラシー簡易評価法〕)による健康リテラシーの評価も受けた。 その結果、REALM-SFのスコアと白内障手術に対する恐怖心は関連しておらず、健康リテラシーが白内障手術に対する恐怖心に影響しないことが示唆された。実際、約36%の患者が白内障手術に対する恐怖心を報告し、そのうちの53%は「失明に対する不安」を恐怖心の理由として挙げていた。解析からは、白内障手術に対する恐怖心と「手術により視力が改善する可能性がある」との考えの間に、統計学的に有意な関連が見られ、手術効果に対する患者の考えが手術に対する恐怖心に影響することが示唆された。一方、失明に対する恐怖心と「手術によって視力が改善する可能性がある」との考えとの間に有意な関連は見られなかった。研究グループは、「つまり、失明に対する恐怖心は知識不足に基づくものではなく、より本能的な何かに基づくということだ」との考えを示している。 論文の筆頭著者であるシンシナティ大学医学部のSamantha Hu氏は、「患者に大量の情報を提供しても、必ずしも不安が軽減されるわけではない」と同大学のニュースリリースの中で話す。Kelly氏は、「この研究結果はむしろ、オープンなコミュニケーションによる医師と患者の良好な関係の重要性を指摘している。患者教育は確かに重要だが、それだけでは不十分なこともある。患者が恐怖心を克服できるよう、人間関係と信頼関係を築くことも同様に重要だ。これは医師にとって重要な教訓だ」と述べている。 さらにKelly氏は、「この研究は、患者が恐怖心を抱えていることを改めて認識させてくれる。われわれの役割は、健康管理のパートナーとして患者と協力しながら医療に取り組むことだ」と述べている。

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第16回 認知症介護者は将来の認知症リスクが高い? 米国の研究が示す、介護者の見過ごされがちな健康問題

急速な高齢化が進む日本で、認知症は多くの人にとって身近な課題でしょう。家族が認知症と診断され、介護に奮闘している方も少なくないと思います。そんな中、その献身的な介護が、実は介護者自身の将来の健康、とくに「脳の老化」のリスクを高めている可能性があるとしたら…。米国から出された報告は、まさにこの事実を指摘し、警鐘を鳴らしています1)。介護者が抱える、見過ごされがちな認知症リスク要因米国・アルツハイマー協会のPublic Health Center of Excellence on Dementia Risk Reductionおよびミネソタ大学のPublic Health Center of Excellence on Dementia Caregivingという機関が、2025年6月12日に発表した報告書によれば、認知症患者を介護する人の5人中3人近く(59%)が、自分自身の認知症発症の可能性を高めるリスク要因を少なくとも1つ抱えていることが明らかになりました。さらに、4人に1人(24%)は2つ以上のリスク要因を抱えている、ともされています。この報告書は、2021~22年に米国の47州で収集されたデータを分析したものです。その結果、認知症患者の介護者は一般の人と比べて、脳の老化に関連する5つのリスク要因を持つ割合が高いことがわかりました 。具体的な数値は以下の通り。喫煙(30%高い)高血圧(27%高い)睡眠不足(21%高い)糖尿病(12%高い)肥満(8%高い)一方、唯一「身体活動を欠く」という点については、介護者の方が一般の人より9%低いという結果でした。これは、介護そのものに伴う身体的な負担や活動が影響している可能性が高いと見られています。こうした結果は、認知症患者の介護者が家族や友人のケアに追われるあまり、自分自身の健康を見過ごしがちになってしまう傾向を表しているのかもしれません。とくに深刻な「若い世代の介護者」の健康リスクこの報告書がとくに強い懸念を示しているのが、若い世代の介護者です。若い介護者は、同世代の他の人と比べて、複数の認知症リスク要因を持つ可能性が40%も高いことがわかりました。さらに詳細に各要因を見ると、その差は驚くべきものでした。若い介護者は同世代の非介護者と比較して、喫煙する可能性が86%高い高血圧である可能性が46%高い一晩の睡眠時間が6時間未満であると報告する可能性が29%高いという結果でした。これは、仕事や子育てといったやるべきことに加えての介護負担が、心身にきわめて深刻な影響を及ぼしていることを示唆しています。介護者を社会全体で支えるために今回ご紹介した報告書は、単にリスクを指摘するだけでなく、今後の対策の方向性も示唆しています。介護者の中でどの認知症のリスク要因が多いかを知ることで、資源や介入策の優先順位付けをし、調整することができるからです。また、今回の報告書は、介護者の負担が精神的なストレスにとどまらず、身体的リスク、ひいては介護者自身の将来の認知症リスクにまでつながることを示唆した点で重要です。これはもはや、個人や家庭内の問題ではなく、社会全体で取り組むべき公衆衛生上の課題といえるでしょう。介護は誰にとっても他人事ではありません。介護者が孤立せず、自分自身の健康にも目を向けることができるよう、周囲の理解とサポート、そして行政による的を絞った支援策の充実が急がれます。今回のニュースは、介護者への負担がさまざまな形で自身の健康リスクにまでつながっていることを改めて私たちに教えてくれています。参考文献・参考サイト1)Public Health Center of Excellence on Dementia Risk Reduction. Risk Factors for Cognitive Decline Among Dementia Caregivers 2021-2022 Data from 47 U.S. States. 2025 Jun 12.

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NSCLCへの周術期ニボルマブ追加、OS中間解析(CheckMate 77T)/ASCO2025

 切除可能非小細胞肺がん(NSCLC)におけるニボルマブを用いる周術期サンドイッチ療法(術前:ニボルマブ+化学療法、術後:ニボルマブ)は、国際共同第III相無作為化比較試験「CheckMate 77T試験」において、術前補助療法として化学療法を用いる治療と比べて無イベント生存期間(EFS)を改善したことが報告されている1)。米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)において、Mariano Provencio氏(スペイン・Hospital Universitario Puerta de Hierro)が、本試験のEFSのアップデート解析および全生存期間(OS)の第1回中間解析の結果を報告した。試験デザイン:国際共同無作為化二重盲検第III相試験対象:切除可能なStageIIA(>4cm)~IIIB(N2)のNSCLC患者(AJCC第8版)試験群(ニボルマブ群):ニボルマブ(360mg、3週ごと)+プラチナ製剤を含む化学療法(3週ごと)を4サイクル→手術→ニボルマブ(480mg、4週ごと)を最長1年 229例対照群(プラセボ群):プラセボ+プラチナ製剤を含む化学療法(3週ごと)を4サイクル→手術→プラセボを最長1年 232例評価項目:[主要評価項目]盲検下独立中央判定(BICR)に基づくEFS[副次評価項目]BICRに基づく病理学的完全奏効(pCR)、OS、安全性など 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中央値41.0ヵ月時点(データベースロック日:2024年12月16日)におけるEFS中央値は、ニボルマブ群46.6ヵ月、プラセボ群16.9ヵ月であった(ハザード比[HR]:0.61、95%信頼区間[CI]:0.46~0.80)。30ヵ月EFS率は、それぞれ61%、43%であった。・循環腫瘍DNA(ctDNA)クリアランスは、ニボルマブ群66%(50/76例)、プラセボ群38%(24/64例)に認められ、そのうちpCRが達成された患者の割合は、それぞれ50%(25/50例)、12%(3/24例)であった。・治療群にかかわらず、ctDNAクリアランスとpCRの両方を達成した患者集団は、EFSが良好であった。・KRAS、KEAP1、STK11遺伝子のいずれかに変異がみられた集団におけるEFSは、ニボルマブ群28.9ヵ月、プラセボ群10.5ヵ月であった(HR:0.63、95%CI:0.32~1.23)。KRAS、KEAP1、STK11遺伝子のいずれにも変異がみられない集団では、それぞれ未到達、17.0ヵ月であった(同:0.65、0.39~1.10)。以上から、いずれの集団でもニボルマブ群が良好な傾向にあった。・OS中央値は、ニボルマブ群とプラセボ群はいずれも未到達であったが、ニボルマブ群が良好な傾向にあった(HR:0.85、95%CI:0.58~1.25)。30ヵ月OS率は、それぞれ78%、72%であった。・肺がん特異的生存期間中央値もニボルマブ群とプラセボ群はいずれも未到達であったが、ニボルマブ群が良好な傾向にあった(HR:0.60、95%CI:0.40~0.89)。30ヵ月肺がん特異的生存率は、それぞれ87%、75%であった。 本結果について、Provencio氏は「切除可能NSCLCにおいて、ニボルマブを用いる周術期治療は有用な治療選択肢の1つであることが支持された」とまとめた。

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世代を超えた自閉スペクトラム症と認知症との関係

 自閉スペクトラム症(ASD)患者は、認知機能低下や認知症のリスクが高いことを示唆するエビデンスが報告されている。この関連性が、ASDと認知症の家族的因子によるものかは不明である。スウェーデン・カロリンスカ研究所のZheng Chang氏らは、ASD患者の親族における認知症リスクを調査した。Molecular Psychiatry誌オンライン版2025年5月14日号の報告。 スウェーデンのレジスターにリンクさせた家族研究を実施した。1980〜2013年にスウェーデンで生まれた個人を特定し、2020年までフォローアップを行い、ASDの臨床診断を受けた人を特定した。このASD患者と両親、祖父母、叔父/叔母をリンクさせた。ASD患者の親族における認知症リスクの推定には、Cox比例ハザードモデルを用いた。認知症には、すべての原因による認知症、アルツハイマー病、その他の認知症を含めた。親族の性別およびASD患者の知的障害の有無で層別化し、解析を行った。 主な内容は以下のとおり。・ASD患者の親族は、認知症リスクが高かった。・認知症リスクは、両親で最も高く、祖父母、叔父/叔母では低かった。【両親】ハザード比(HR):1.36、95%信頼区間(CI):1.25〜1.49【祖父母】HR:1.08、95%CI:1.06〜1.10【叔父・叔母】HR:1.15、95%CI:0.96〜1.38・ASD患者と母親の認知症リスクには、父親よりも強い相関が示唆された。【母親】HR:1.51、95%CI:1.29〜1.77【父親】HR:1.30、95%CI:1.16〜1.45・ASD患者の親族において、知的障害の有無による差はわずかであった。 著者らは「ADSとさまざまな認知症は、家族内で共存しており、遺伝的関連の可能性を示唆する結果となった。今後の研究において、ASD患者の認知症リスクを明らかにすることが求められる」としている。

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血中循環腫瘍DNA検査は大腸がんスクリーニングに有用か/JAMA

 平均的リスクの大腸がんスクリーニング集団において、血液ベースの検査(血中循環腫瘍DNA[ctDNA]検査)は大腸がん検出の精度は許容範囲であることが実証されたが、前がん病変の検出にはなお課題が残ることが、米国・NYU Grossman School of MedicineのAasma Shaukat氏らPREEMPT CRC Investigatorsによる検討で示された。大腸がん検診は広く推奨されているが十分に活用されていない。研究グループは、血液ベースの検査は内視鏡検査や糞便ベースの検査に比べて受診率を高める可能性はあるものの、検診対象の集団において臨床的に実証される必要があるとして本検討を行った。結果を踏まえて著者は、「引き続き感度の改善に取り組む必要がある」とまとめている。JAMA誌オンライン版2025年6月2日号掲載の報告。大腸内視鏡検査を参照対照法として、大腸がんに対する感度などを評価 研究グループは、大腸がんの平均的リスク集団において、開発中のctDNA検査の臨床パフォーマンスを、参照対照法として組織病理学的な大腸内視鏡検査を用いて評価する前向き多施設共同横断観察研究を行った。 対象は、大腸がんリスクが平均的で、標準的な大腸がんスクリーニングを受ける意思がある無症状の45~85歳。参加者には、採血後に大腸内視鏡検査を受けることが求められた。 試験は、米国49州とアラブ首長国連邦の計201施設で行われ、参加者は2020年5月~2022年4月に登録された。血液検体は試験地での採血およびモバイル採血にて収集された。 参加者、スタッフ、病理医は血液検査結果が盲検化され、臨床検査も大腸内視鏡検査の所見を盲検化して実施された。 事前に規定された主要エンドポイントは4つで、ctDNA検査の大腸がんに対する感度、進行大腸腫瘍(大腸がんまたは進行前がん病変)に対する特異度、進行大腸腫瘍の陰性的中率、進行大腸腫瘍の陽性的中率であった。副次エンドポイントは、進行前がん病変に対する感度であった。大腸がんの感度79.2%、進行大腸腫瘍の特異度91.5%だが、進行前がん病変の感度は12.5% 臨床検証コホートには結果が評価された2万7,010例が包含された。年齢中央値は57.0歳、55.8%が女性であった。73.0%が白人で、アジア系は8.8%。 ctDNA検査の大腸がんに対する感度は79.2%(57/72例、95%信頼区間[CI]:68.4~86.9)、進行大腸腫瘍に対する特異度は91.5%(2万2,306/2万4,371例、95%CI:91.2~91.9)であった。進行大腸腫瘍の陰性的中率は90.8%(2万2,306/2万4,567例、95%CI:90.7~90.9)、進行大腸腫瘍の陽性的中率は15.5%(378/2,443例、95%CI:14.2~16.8)で、すべての主要エンドポイントが、事前に規定した受容基準を満たした。 進行前がん病変に対する感度は12.5%(321/2,567例、95%CI:11.3~13.8)で、事前に規定した受容基準を満たさなかった。

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2型DMとCKD併存、フィネレノン+エンパグリフロジンがUACRを大幅改善/NEJM

 2型糖尿病を合併する慢性腎臓病(CKD)患者の初期治療について、非ステロイド性MR拮抗薬フィネレノン+SGLT2阻害薬エンパグリフロジンの併用療法は、それぞれの単独療法と比べて尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)の大幅な低下に結び付いたことを、米国・Richard L. Roudebush VA Medical CenterのRajiv Agarwal氏らCONFIDENCE Investigatorsが報告した。同患者における併用療法を支持するエビデンスは限定的であった。NEJM誌オンライン版2025年6月5日号掲載の報告。併用療法と各単独療法のUACR変化量を無作為化試験で比較 研究グループは、CKD(eGFR:30~90mL/分/1.73m2)、アルブミン尿(UACR:100~5,000mg/gCr)、2型糖尿病(レニン・アンジオテンシン系阻害薬服用)を有する患者を、(1)フィネレノン10mg/日または20mg/日(+エンパグリフロジンのマッチングプラセボ)、(2)エンパグリフロジン10mg/日(+フィネレノンのマッチングプラセボ)、(3)フィネレノン+エンパグリフロジンを投与する群に1対1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、対数変換した平均UACR値のベースラインから180日目までの相対変化量であった。安全性も評価した。180日時点で併用群のUACRは単独群より29~32%低下 ベースラインで、UACRは3群で同程度であった。UACRのデータが入手できた被験者(フィネレノン単独群258例、エンパグリフロジン単独群261例、併用群265例)におけるUACR中央値は579mg/gCr(四分位範囲:292~1,092)であった。 180日時点で、併用群のUACRは、フィネレノン単独群よりも29%有意に大きく低下し(ベースラインからの変化量の差の最小二乗平均比:0.71、95%信頼区間:0.61~0.82、p<0.001)、エンパグリフロジン単独群よりも32%有意に大きく低下した(0.68、0.59~0.79、p<0.001)。 単独群または併用群のいずれも、予期せぬ有害事象は認められなかった。 試験薬の投与中止に至った有害事象の発現頻度は、3群とも5%未満だった。症候性低血圧の発現は併用群の3例で報告され、急性腎障害の発現は合計8例(併用群5例、フィネレノン単独群3例)であった。高カリウム血症の発現は併用群25例(9.3%)、フィネレノン単独群30例(11.4%)で、相対的に併用群が約15~20%低かった。この所見は、重度の高カリウム血症のリスクがSGLT2阻害薬により抑制されることが示されている先行研究の所見と一致していた。

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