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新世代MRAのfinerenone、DKDの心血管リスク減/NEJM

 2型糖尿病を合併する幅広い重症度の慢性腎臓病(CKD)患者の治療において、非ステロイド型選択的ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬finerenoneはプラセボと比較して、心血管死や非致死的心筋梗塞などで構成される心血管アウトカムを改善し、有害事象の頻度は同程度であることが、米国・ミシガン大学医学大学院のBertram Pitt氏らが実施した「FIGARO-DKD試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2021年8月28日号で報告された。標準的な治療への上乗せ効果を評価 本研究は、48ヵ国の施設が参加した二重盲検プラセボ対照無作為化イベント主導型第III相試験であり、2015年9月~2018年10月の期間に参加者のスクリーニングが行われた(Bayerの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、2型糖尿病を伴うCKDで、添付文書に記載された最大用量のレニン-アンジオテンシン系(RAS)阻害薬(ACE阻害薬、ARB)による治療で受容できない副作用の発現がみられない患者であった。スクリーニング時に、持続性のアルブミン尿の中等度上昇(尿中アルブミン[mg]/クレアチニン[g]比:30~<300)がみられ、推算糸球体濾過量(eGFR)が25~90mL/分/1.73m2(ステージ2~4のCKD)の患者、または持続性のアルブミン尿の高度上昇(尿中アルブミン/クレアチニン比:300~5,000)がみられ、eGFRが≧60mL/分/1.73m2(ステージ1/2のCKD)の患者が解析に含まれた。 被験者は、finerenone(10mgまたは20mg、1日1回、経口)またはプラセボを投与する群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、心不全による入院の複合とされ、生存時間解析を用いて評価が行われた。副次アウトカムは、腎不全、eGFRのベースラインから4週以降における40%以上の持続的な低下、腎臓が原因の死亡の複合であった。主要アウトカム:12.4% vs.14.2% 7,352例が登録され、finerenone群に3,686例、プラセボ群に3,666例が割り付けられた。全体の平均年齢(±SD)は64.1±9.8歳で、69.4%が男性であった。 ベースライン時に、全体の70.5%がスタチン、47.6%が利尿薬の投与を受けていた。また、97.9%が血糖降下薬の投与を受けており、このうち54.3%がインスリン製剤、8.4%がSGLT2阻害薬、7.5%がGLP-1受容体作動薬の投与を受けていた。試験期間中に、15.8%がSGLT2阻害薬、11.3%がGLP-1受容体作動薬の投与を新たに開始した。 追跡期間中央値3.4年の時点で、主要アウトカムのイベントは、finerenone群が12.4%(458/3,686例)、プラセボ群は14.2%(519/3,666例)で認められ、finerenone群で有意に良好であった(ハザード比[HR]:0.87、95%信頼区間[CI]:0.76~0.98、p=0.03)。 この主要アウトカムのfinerenone群での利益は、主に心不全による入院(3.2% vs.4.4%、HR:0.71、95%CI:0.56~0.90)がfinerenone群で低かったためであり、心血管死(5.3% vs.5.8%、0.90、0.74~1.09)、非致死的心筋梗塞(2.8 vs.2.8%、0.99、0.76~1.31)、非致死的脳卒中(2.9% vs.3.0%、0.97、0.74~1.26)に差はみられなかった。 副次アウトカムは、finerenone群が9.5%(350例)、プラセボ群は10.8%(395例)で認められた(HR:0.87、95%CI:0.76~1.01)。 担当医の報告による全般的な有害事象の頻度は両群で同程度であり、重篤な有害事象はfinerenone群が31.4%、プラセボ群は33.2%で発現した。高カリウム血症は、finerenone群で頻度が高かった(10.8%、5.3%)が、高カリウム血症による死亡例はなく、高カリウム血症による恒久的な投与中止例(1.2%、0.4%)や入院例(0.6%、0.1%)は、finerenone群で多いものの頻度は低かった。 著者は、「患者の60%以上がベースライン時にeGFR≧60mL/分/1.73m2のアルブミン尿を伴うCKD患者であったことから、尿中アルブミン/クレアチニン比によるスクリーニングで早期にCKDを診断し、この心血管リスクが高く認知度が低い患者集団の転帰を改善するための治療を開始する必要性が浮き彫りとなった」としている。

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新治療が心臓にやさしいとは限らない~Onco-Cardiologyの一路平安~【見落とさない!がんの心毒性】第6回

新しい抗がん剤が続々と臨床に登場しています。厚生労働大臣によって承認された新医薬品のうち、抗悪性腫瘍用薬の数はこの3年で36もありました1)。効能追加は85もあり、新しい治療薬が増え、それらの適応も拡大しています。しかし、そのほとんどの薬剤は循環器疾患に注意して使う必要があり、そのうえで拠り所になるのが添付文書です。医薬品医療機器総合機構(PMDA)のホームページの医療用医薬品情報検索画面2)から誰でもダウンロードできます。警告、禁忌、使用上の注意…と読み進めます。さらに、作用機序や警告、禁忌の理由を詳しく知りたいときは、インタビューフォーム(IF)を開きます。循環器医ががん診療に参加する際には、患者背景や治療薬のことをサッと頭に入れる必要がありますが、そんな時に便利です。前置きが長くなりましたが、今回は時間のない皆さまのために、添付文書の『警告』『禁忌』『重要な基本的注意』に循環器疾患を含んでいる抗がん剤をピックアップしてみました。『警告』に書かれていること(表1)の薬剤では重篤例や死亡例が報告されていることから、投与前に既往や危険因子の有無を確認のうえ、投与の可否を慎重に判断することを警告しています。infusion reaction、静脈血栓症、心不全、心筋梗塞や脳梗塞などの動脈血栓症、QT延長、高血圧性クリーゼなどが記載されています。副作用に備え観察し、副作用が起きたら適切な処置をし、重篤な場合は投与を中止するように警告しています。(表1)画像を拡大するこうした副作用でがん治療が中止になれば予後に影響するので、予防に努めます。『警告』で最も多かったのはinfusion reactionですが、主にモノクローナル抗体薬の投与中や投与後24時間以内に発症します。時に心筋梗塞様の心電図や血行動態を呈することもあり、循環器医へ鑑別診断を求めることもあります。これらの中には用法上、予防策が講じられているものもあり、推奨投与速度を遵守し、抗ヒスタミン薬やアセトアミノフェン、副腎皮質ステロイドをあらかじめ投与して予防します。過敏症とは似て非なる病態であり、発症しても『禁忌』にはならず、適切な処置により症状が治まったら、点滴速度を遅くするなどして再開します。学会によってはガイドラインで副作用の予防を推奨してるところもあります。日本血液学会の場合、サリドマイド、ポマリドミド、レナリドミドを含む免疫調節薬(iMiDs:immunomodulatory drugs)による治療では、深部静脈血栓症の予防のために低用量アスピリンの内服を推奨しています3)。欧州臨床腫瘍学会(ESMO)では、アントラサイクリンやトラスツズマブを含む治療では、心不全の進行予防に心保護薬(ACE阻害薬、ARB、および/またはβ遮断薬)を推奨しています。スニチニブ、ベバシズマブ、ラムシルマブなどの抗VEGF薬を含む治療では、血圧の管理を推奨しています4)。『禁忌』に書かれていること『禁忌』には、「本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者」が必ず記されています。禁忌に「心機能異常又はその既往歴のある患者」が記されているのは、アントラサイクリン系の抗がん剤です。QT延長や、血栓症が禁忌になるものもあります。(表2)画像を拡大するここで少し注意したいのは、それぞれの副作用の定義です。たとえば「心機能異常」とは何か?ということです。しばしば、がん医療の現場では、左室駆出率(LVEF)や脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)値だけが、一人歩きをはじめ、患者の実態とかけ離れた判断が行われることがあります。循環器医ががん患者の心機能を検討する場合、LVEFやBNPだけではなく、症状や心電図・心エコー所見や運動耐容能などを多角的に捉えています5)。心機能は単独で評価できる指標はないので、LVEFやBNP値だけで判断せず、心機能を厳密かつ多面的に測定して総合的に評価することをお勧めします。添付文書によく記載されている「心機能異常」。漠然としていますが、これの意味するところを「心不全入院や死亡のリスクが高い状態」と、私は理解しています。そこで、「心機能異常」診断の乱発を減らし、患者ががん治療から不必要に疎外されないよう努めます。その一方で、心保護薬でがん治療による心不全のリスクを最小限に抑えるチャンスを逃さないようにもします。上述の定義のことは「血栓症」にも当てはまります。血栓症では下腿静脈の小血栓と肺動脈本管の血栓を一様には扱いません。また、下肢エコーで見つかる米粒ほどの小血栓をもって血栓症とは診断しません。そこそこの大きさの血栓がDOACなどで制御されていれば、血栓症と言えるのかもしれませんが、それでも抗がん剤を継続することもあります。QT延長は次項で触れます。『重要な基本的注意』に書かれていることー意外に多いQT延長『重要な基本的注意』で多かったのは、心機能低下・心不全でした。アントラサイクリン系薬剤、チロシンキナーゼ阻害薬、抗HER2薬など25の抗がん剤で記載がありました。これらの対応策については既に本連載企画の第1~4回で取り上げられていますので割愛します。(表3)その1画像を拡大する(表3)その2画像を拡大する意外に多かったのは、QT延長です。21種類もありました。QT間隔(QTc)は男性で450ms、女性で460ms以上をQT延長と診断します。添付文書では「投与開始前及び投与中は定期的に心電図検査及び電解質検査 (カリウム、マグネシウム、カルシウム等)を行い、 患者の状態を十分に観察する」などと明記され、血清の電解質の補正が求められます。とくに分子標的薬で治療中の患者の心電図でたびたび遭遇します。それでも重度の延長(QTc>500ms)は稀ですし、torsade de pointes(TdP)や心臓突然死はもっと稀です。高頻度にQT延長が認められる薬剤でも、新薬を待ち望むがん患者は多いため、臨床試験で有効性が確認されれば、QT延長による心臓突然死の回避策が講じられた上で承認されています。測定法はQTcF(Fridericia法)だったりQTcB(Bazett法)だったり、薬剤によって異なりますが、FMS様チロシンキナーゼ3-遺伝子内縦列重複(FLT3-ITD)変異陽性の急性骨髄性白血病治療薬のキザルチニブのように、QTcFで480msを超えると減量、500msを超えると中止、450ms以下に正常化すると再開など、QT時間次第で用量・用法が変わる薬剤があるので、測定する側の責任も重大です。詳細は添付文書で確認してみてください。抗がん剤による心臓突然死のリスクを予測するスコアは残念ながら存在しません。添付文書に指示は無くても、循環器医はQTが延長した心電図ではT波の面構えも見ます。QT dispersion(12誘導心電図での最大QT間隔と最小QT間隔の差)は心室筋の再分極時間の不均一性を、T peak-end時間(T波頂点から終末点までの時間)は、その誘導が反映する心室筋の貫壁性(心内膜から心外膜)の再分極時間のバラツキ(TDR:transmural dispersion of repolarization)を反映しています。電気的不均一性がTdP/心室細動の発生源になるので注意しています。詳細については、本編の参考文献6)~8)をぜひ読んでみてください。3つ目に多かったのはinfusion reactionで、該当する抗がん剤は17もありました。抗体薬の中には用法及び用量の項でinfusion reaction対策を明記しているものの、『重要な基本注的意』に記載がないものがあるので、実際にはもっと多くの抗がん剤でinfusion reactionに注意喚起がなされているのではないでしょうか。血圧上昇/高血圧もかなりありますが、適正使用ガイドの中に対処法が示されているので、各薬剤のものを参考にしてみてください。そのほかの心臓病についても同様です。なお、適正使用ガイドとは、医薬品リスク管理計画(RPM:Risk Management Plan)に基づいて専門医の監修のもとに製薬会社が作成している資料のことです。抗がん剤だけではない、注目の新薬にもある循環器疾患についての『禁忌』今年1月、経口グレリン様作用薬アナモレリン(商品名:エドルミズ)が初の「がん悪液質」治療薬としてわが国で承認されました。がん悪液質は「通常の栄養サポートでは完全に回復することができず、進行性の機能障害に至る、骨格筋量の持続的な減少(脂肪量減少の有無を問わない)を特徴とする多因子性の症候群」と定義されています。その本質はタンパク質の異常な異化亢進であり、“病的なるい痩”が、がん患者のQOLやがん薬物療法への忍容性を低下させ、予後を悪化させます。アナモレリンは内服によりグレリン様作用を発揮し、がん悪液質患者の食欲を亢進させ、消耗に対抗します。切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん、胃がん、膵がん、大腸がんのがん悪液質患者のうち、いくつかの基準をクリアすると使用できるので、対象となる患者が多いのが特徴です。一方、添付文書やインタビューフォームを見ると、『禁忌』には以下のように心不全・虚血・不整脈に関する注意事項が明記されています。「アナモレリンはナトリウムチャネル阻害作用を有しており、うっ血性心不全、心筋梗塞、狭心症又は高度の刺激伝導系障害(完全房室ブロック等)のある患者では、重篤な副作用を起こすおそれがあることから、これらの患者を禁忌に設定した」9)。また、『重要な基本的注意』には、「心電図異常(顕著なPR間隔又はQRS幅の延長、QT間隔の延長等)があらわれることがあるので注意すること」とあります。ピルシカイニド投与時のように心電図に注意が必要です。実際、当院では「アナモレリン投与中」と書かれた心電図の依頼が最近増えています。薬だけではない!?注目の新治療にもある循環器疾患につながる『警告』免疫の知識が今日ほど国民に浸透した時代はありません。私たちの体は、病原体やがん細胞など、本来、体の中にあるべきでないものを見つけると、攻撃して排除する免疫によって守られていることを日常から学んでいます。昨今のパンデミックにおいては、遺伝子工学の技術を用いてワクチンを作り、免疫力で災禍に対抗しています。がん医療でも遺伝子工学の技術を用いて創薬された抗体薬を使って、目覚ましい効果を挙げる一方で、アナフィラキシーやinfusion reaction、サイトカイン放出症候群(CRS:cytokine release syndrome)などの副作用への対応に迫られています。免疫チェックポイント阻害薬の適応拡大に伴い、自己免疫性心筋炎など重篤な副作用も報告されており、循環器医も対応に駆り出されることが増えてきました(第5回参照)。チサゲンレクルユーセル(商品名:キムリア)は、採取した患者さんのT細胞を遺伝子操作によって、がん細胞を攻撃する腫瘍特異的T細胞(CAR-T細胞)に改変して再投与する「ヒト体細胞加工製品」です。PMDAホームページからの検索では、医療用「医薬品」とは別に設けてある再生医療等「製品」のバナーから入ると見つかります。「再発又は難治性のCD19陽性のB細胞性急性リンパ芽球性白血病」と「再発又は難治性のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫」の一部に効果があります。ノバルティスファーマ株式会社のホームページで分かりやすく説明されています10)。この添付文書で警告しているのはCRSです。高頻度に現れ、頻脈、心房細動、心不全が発症することがあります。緊急時に備えて管理アルゴリズムがあらかじめ決められており、トシリズマブ(ヒト化抗ヒトIL-6レセプターモノクローナル抗体、商品名:アクテムラ)を用意しておきます。AlviらはCAR-T細胞治療を受けた137例において、81名(59%)にCRSを認め、そのうち54例(39%)がグレード2以上で、56例(41%)にトシリズマブが投与されたと報告しています11)(図)。(図)画像を拡大するトロポニンの上昇は、測定患者53例中29例(54%)で発生し、LVEFの低下は29例中8例(28%)で発生しました。いずれもグレード2以上の患者でのみ発生しました。17例(12%)に心血管イベントが発生し、すべてがグレード2以上の患者で発生しました。その内訳は、心血管死が6例、非代償性心不全が6例、および不整脈が5例でした。CRSの発症から、トシリズマブ投与までの時間が短いほど、心血管イベントの発生率が低く抑えられました。これらの結果は、炎症が心血管イベントのトリガーになることを改めて世に知らしめました。おわりに本来であれば添付文書の『重大な副作用』なども参考にする必要がありますが、紙面の都合で割愛しました。腫瘍循環器診療ハンドブックにコンパクトにまとめてありますので、そちらをご覧ください12)13)。さまざまな新薬が登場しているがん医療の現場ですが、心電図は最も手軽に行える検査であるため、腫瘍科と循環器科の出会いの場になっています。QT延長等の心電図異常に遭遇した時、循環器医はさまざまな医療情報から適切な判断を試みます。しかし、新薬の使用経験は浅く、根拠となるのは臨床試験の数百人のデータだけです。そこへ来て私は自分の薄っぺらな知識と経験で患者さんを守れるのか不安になります。患者さんの一路平安を祈る時、腫瘍科医と循環器医の思いは一つになります。1)独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)新医薬品の承認品目一覧2)PMDA医療用医薬品 添付文書等情報検索3)日本血液学会編.造血器腫瘍診療ガイドライン2018年版. 金原出版.2018.p.366.4)Curigliano G, et al. Ann Oncol. 2020;31:171-190. 5)日本循環器学会編. 急性・慢性心不全診療ガイドライン2017年改訂版(班長:筒井裕之).6)Porta-Sanchez A, et al. J Am Heart Assoc. 2017;6:e007724.7)日本循環器学会編. 遺伝性不整脈の診療に関するガイドライン2017 年改訂版(班長:青沼和隆)8)呼吸と循環. 医学書院. 2016;64.(庄司 正昭. がん診療における不整脈-心房細動、QT時間延長を中心に)9)医薬品インタビューフォーム:エドルミズ®錠50mg(2021年4月 第2版)10)ノバルティスファーマ:CAR-T細胞療法11)Alvi RM, et al. J Am Coll Cardiol. 2019;74:3099-3108. 12)腫瘍循環器診療ハンドブック. メジカルビュー社. 2020.p.207-210.(森本 竜太. がん治療薬による心血管合併症一覧)13)腫瘍循環器診療ハンドブック.メジカルビュー社. 2020.p.18-20.(岩佐 健史. 心機能障害/心不全 その他[アルキル化薬、微小管阻害薬、代謝拮抗薬など])講師紹介

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特許切れの悪夢(製薬企業にとって)と新薬開発(解説:後藤信哉氏)

 製薬企業にとって自社製品の特許切れは大きな痛手である。直近ではARB、クロピドグレルなどの特許切れが業界に大きなインパクトを惹起した。日本ではあまり実感しないが、米国では特許切れと同時に価格が10分の1以下のジェネリック品に置き換わる。新薬開発メーカーは特許期間内に手厚く守られると同時に、特許切れショックを覚悟する必要がある。 2019年、世界で最も売れた薬(AnswersNews)を見ると、アピキサバンが2位(134億ドル!)、リバーロキサバンが第4位(103億ドル)となっている。すなわち、両者ともに1兆円を超える売り上げが毎年ある。特許が切れれば売り上げは急速にゼロになる。現在の仕組みでは、利潤をゆっくり上げることはできない。投資の損失を短期間に回収し、同時に特許切れに備えた革新的新薬開発が必須である。DOACはいずれも、第III相試験の結果を「エビデンス」として特許期間内の販売戦略に利用してきた。Xa阻害薬を超える有効性、安全性を持つ新薬を開発しないと特許切れに耐えられないが、特許期間内にはXa阻害薬の欠点が論じられると売り上げが落ちる。抗血栓薬の開発メーカーは現在の膨大な利潤を保持しつつ、現在のXa阻害薬の欠点を明らかにして、その欠点を乗り越える新薬を速やかに開発しなければならないとの困難な状態に置かれている。 本論文は新規の第XI因子阻害薬abelacimabの臨床開発第II相試験である。一般に、第II相試験は安全性の確認を目的として施行されることが多い。しかし、いずれXa阻害薬の市場の争奪を目指す第XI因子阻害薬は血液凝固内因系で、XI因子欠損症でも出血は少ない。本研究は、412例と少数例ではあるが、イベントリスクの高い静脈造影による静脈血栓再発を有効性のエンドポイントとして有効性に重点を置いていることが、一般的な第II相試験とは異なる。本研究はAnthos Therapeuticsが施行した。この第II相試験の結果を基に、どのような疾病を対象として、どのような第III相試験を計画して、abelacimabの特許期間内にどれだけの利潤を上げることができるか? 世界中の賢いヒトたちが戦略的に計画を練っていると想定される。 1990年代、日本経済が世界を席巻した時には日本流の長期安定雇用が良いとされた。製薬業界のように特許により短期利益確保がルールとなると、当たりを出した企業に人材が流動できるほうが有利である。日本経済の長期低迷には、米英による競争ルールの変更の寄与も大きいと思う。製薬業界は農耕民族よりも狩猟民族に有利な産業に見える。

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ASCO2021 レポート 消化器がん(肝胆膵がん)

レポーター紹介今年のASCOもCOVID-19の影響でVirtual meetingとなり、2年連続Web開催となった。2021年6月4日から始まったが、いつものようなワクワク感がない。今年は、肝胆膵領域でそこまで面白い演題がなかったこともあるのだが、海外の先生と接する機会もなく質問もできないので、演題を生で聞かなきゃという気持ちに焦りもなく、あとでon demandで見ようという感じになる。また、ASCO期間中に集中して行われていたmeetingも数少なくなり、ASCOが終わって1ヵ月たってもだらだらと行われている感じである。そして、気が付いたらESMO-GI(WCGC)まで終わっているという状況であり、ASCOだという華やかさがなく、寂しさを感じた。やはり顔を見ながら、お互いの意見を突き付けてdiscussionする機会が欲しい。いろんな先生と交流の機会があることで、やる気も高まってくるものである。しかも、昨年、ASCO memberは参加費が不要だったので、今年も不要になることを信じて事前登録もしていなかったため、ASCO当日、慌てて全額を支払い、Virtual meetingに参加することとなった。当日参加は1,395ドルもかかり、非常に痛い出費である。「くっそー、COVIDの野郎め」と八つ当たりしながら、ChicagoでDeep-Dish Pizzaを食べている自分をイメージして、いつものDomino’s Pizzaを食べつつ、今年のASCOを振り返りたいと思う。肝臓がんさて、本題です。まずは肝臓がんから解説します。今年の肝胆膵領域はあまり面白い演題がなかったなというのが本音である。肝細胞がん領域では、Oral presentationに2演題が選ばれていたが、Poster discussionでは1演題も採択されていなかった。また、今年発表されるであろうと期待されていたデュルバルマブ+tremelimumabの第III相試験(HIMALAYA)やペムブロリズマブ+レンバチニブの第III相試験(LEAP-002)、tislelizumabの第III相試験(RATIONALE-301)などの大規模試験の結果を期待していたのだが、報告されなかった。そして、今年も中国からFOLFOX肝動注化学療法の第III相試験が2演題であり、中国1国のみでいくつもの第III相試験を発表しており、どんなに肝細胞がんの患者さんがいるのだろうかと感じずにはいられなかった。進行肝細胞がんに対するオキサリプラチン+フルオロウラシル併用肝動注療法とソラフェニブ療法の比較:ランダム化第III相試験(The FOHAIC-1 study)著者:Ning Lyu, et al.、Oral presentation本試験は、肝内腫瘍量が多い進行肝細胞がん症例に対する1次薬物療法として、FOLFOX肝動注療法の有効性を、ソラフェニブをコントロールとして検証するランダム化第III相試験(FOHAIC-1試験)である。主な適格基準はBarcelona Clinic Liver Cancer(BCLC)Stage BまたはC、Child-Pugh分類A~B7、Eastern Cooperative Oncology Group(ECOG)-Performance Status(PS)0~2などで、肝動注群とソラフェニブ群に1:1で割り付けられた。FOLFOX肝動注療法は、オキサリプラチン130mg/m2、ロイコボリン(LV)200mg/m2、5-フルオロウラシル(5-FU)400mg/m2および5-FU 2,400mg/m2 46時間持続投与を3週間ごとに行い、ソラフェニブ群はソラフェニブ1回400mgを1日2回内服した。ソラフェニブ群の全生存期間(OS)の中央値を8.0ヵ月、肝動注群を14ヵ月、検出力90%、両側α=0.05として、36ヵ月間の登録期間、最大60ヵ月の追跡期間として、247例の登録が必要となり、260例の登録を目標症例数として設定された。登録患者は肝動注群(130例)とソラフェニブ群(132例)に割り付けられた。患者背景は両群において有意な差は認めなかった。本試験の治療成績を表に示す。主要評価項目であるOSは、ソラフェニブ群と比べて肝動注群で有意に良好であった。薬物療法によるダウンステージングは、肝動注群で16例(12.3%)、ソラフェニブ群で1例(0.8%)に認めた。また、腫瘍の肝占拠割合が50%以上または門脈本幹に腫瘍栓を有する高リスク群のOSも肝動注群で有意に良好であった。RECISTv1.1による客観的奏効割合(ORR)は肝動注群で有意に良好だった(p<0.001)。薬剤に関連したGrade3以上の有害事象はむしろソラフェニブ群で有意に多く、主な有害事象は、肝動注群のオキサリプラチン投与に伴う腹痛(40.6%)であったが、投与による有害事象で肝動注療法を中止した患者はいなかった。画像を拡大するこのように、肝内病変が進行した肝細胞がん患者を対象として、FOLFOX肝動注療法はソラフェニブと比較した第III相試験において、有意に良好なOSとORRが示された。かなり予後の厳しい肝腫瘍量が50%以上の症例や門脈本幹に腫瘍栓を有する症例でも有効であり、ダウンステージできた症例、局所療法にコンバージョンできた症例も高率に認められ、有害事象も低頻度であり、今後が期待される結果であった。しかし、本試験は中国単施設の結果で、B型肝炎の患者が90%前後を占める対象で行われた試験であり、解釈には注意が必要であることや、現在の標準治療であるアテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法と比較してどうなのかなど疑問点も残っており、この試験の結果に基づきFOLFOX肝動注療法が標準治療と位置付けられるまでには至っていない。術前補助療法としてのFOLFOX肝動注療法は、ミラノ基準外の切除可能BCLC Stage A/Bの肝細胞がん患者の予後を改善させた:多施設共同ランダム化第III相試験の中間解析著者:Li S, et al.、Oral presentationミラノ基準外のBCLC Stage A/Bの切除可能肝細胞がんに対して、術前補助療法FOLFOX肝動注療法を行った患者と肝動注療法は行わずに切除した患者の有効性と安全性を、多施設共同ランダム化第III相試験にて検討した。ミラノ基準外の切除可能BCLC Stage A/Bの肝細胞がん患者に対して、術前補助療法としてFOLFOX肝動注療法を施行した群と、術前補助療法を行わずに直接手術を行う群に1:1でランダムに割り付けられた。術前肝動注群は2サイクルのFOLFOX肝動注療法を施行し、忍容性があれば抗腫瘍効果を確認し、完全奏効/部分奏効が得られていれば切除、安定であれば追加の2サイクルの肝動注療法を行い、増悪の場合には次治療へ移行した。主要評価項目は全生存期間(OS)、副次評価項目は無増悪生存期間(PFS)、無再発生存期間(RFS)と安全性とした。切除可能肝細胞がん患者208例が登録され、術前化療群99例、切除先行群100例が解析対象となった。患者背景において、両群間に差は認めなかった。本試験の治療成績を表に示す。術前化療群では、ORR 63.6%、病勢制御割合(DCR)96.0%で、88例(88.9%)で肝切除が施行された。術前化療群は、脈管浸潤の割合が11.4%であり、切除先行群(39.0%)と比べて低値であった。OSとPFSは術前化療群で有意に良好であったが、RFSは両群間に有意差はなかった。FOLFOX肝動注療法群の有害事象は、Grade1を59.6%、Grade2を26.3%に認めたが、Grade3以上の重篤な有害事象は認めなかった。なお、OSとPFSのサブグループ解析では、50歳以下の若い患者や腫瘍が単発である患者、AFPが400ng/mL以上と高い患者、HBV-DNAが低い患者においてより良好な結果が示された。画像を拡大する著者らは、FOLFOXによる肝動注療法は、肝細胞がんに対して効果的で安全であること、ミラノ基準外の切除可能BCLC A/Bの肝細胞がん患者に対して生存期間の延長効果が見込まれることを結論付けた。本試験の結果、肝細胞がんの術前補助療法として、FOLFOX肝動注療法の有用性が示された。この演題のDiscussantは、39%の症例が多発例であり、通常、切除しないような症例が多数含まれていることや中国の5施設の結果であり、B型肝炎の患者が中心である点については注意して解釈すべきであり、日常診療に取り入れる前に世界規模または欧米での検証が必要であろうとコメントしていた。このように、中国からFOLFOX肝動注療法に関連する2演題が発表された。ともに、中国1ヵ国での第III相試験であり、全世界で受け入れられるには、さらなる試験が必要である。しかし、これだけの試験を中国だけで、症例集積できることが驚きである。しかも、この試験のほかにも、昨年、sintilimab+ベバシズマブ-バイオシミラーの第III相試験(ORIENT-32)、donafenibの第III相試験、apatinibの第III相試験など、進行がんでも中国1ヵ国で行った試験の結果が報告されており、計り知れないほど患者さんがいて、臨床試験に参加してくれる環境ができていることを考慮すると、今後の肝細胞がんの薬物療法の開発において、中国の存在が重要になってくることが改めて予想された。また、この数年、アジアを中心に肝細胞がんに対する肝動注療法の有用性を示唆する結果が報告されてきており、肝細胞がんの薬物療法において、肝動注療法が再度、見直される日が来る可能性も十分にあることが示された。余談であるが、Q&Aセッションで、抗がん剤の投与方法についてDiscussionがあった。通常、米国では肝動注を行う場合に抗がん剤が100mL程度注入できるポンプを皮下に埋め込んで投与を行うことが多い(ポンプは結構な大きさで、皮下に埋められる米国人患者もすごいのではあるが…)。中国ではポンプの合併症はどうかという質問があり、演者らはポンプを使用していないことを説明し、腫瘍の多いところにカテーテルを挿入して投与しているとのことであった。柔軟に対応が可能で、より効率よく抗がん剤が投与できることを解説していたが、では、カテーテルを留置せず、どうやって2日間のFOLFOXを投与しているのか、私には謎であった。質問できる知り合いの先生が中国にはいなかったため答えはわからないのであるが、おそらく3週に1回、血管造影を行い、カテーテルを挿入した後は2日間、動かずに安静にして投与しているのかなと勝手に想像しているところである。胆道がん胆道がんでは、ナノリポソーマルイリノテカン(Nal-IRI)+5-フルオロウラシル(5-FU)+ロイコボリン(LV)と5-FU/LVを比較したランダム化第II相試験がOral presentationで1演題、取り上げられていた。非常に期待できる2次治療のレジメンが報告されたが、遺伝子異常に基づく分子標的治療薬の開発に移行していた胆道がんが、また細胞障害性抗がん剤の開発に戻るのかなと、少し不安も隠せなかった。ゲムシタビン+シスプラチン併用療法後の転移性胆道がん患者に対するリポソーム型イリノテカンとフルオロウラシル、ロイコボリンの併用療法:多施設ランダム化比較第IIb相試験(NIFTY試験)著者:Yoo C, et al.、Oral presentation切除不能・転移性胆道がんに対してゲムシタビン+シスプラチン療法(GC)後に進行した症例の2次治療の標準治療は確立していない。ABC-06試験によって、2次治療としてFOLFOX療法を行うことで、積極的な症状コントロールのみを行った患者と比べて、OSが延長したことが示されたが、まだその治療成績は十分とは言い難い。ゲムシタビン耐性の膵がんに対するナノリポソーマルイリノテカン(Nal-IRI)+5-FU/ロイコボリン(LV)療法は、NAPOLI-1試験の結果、プラセボと比較してPFSとOSの延長が示された。胆道がんでも本レジメンによる治療が有効である可能性がある。1次治療でGC療法を行った転移性胆道がん患者を対象として、2次治療としてNal-IRI+5-FU/LVと5FU/LVを比較した多施設共同非盲検ランダム化比較第IIb相試験(NIFTY試験)が行われた。対象は、1次治療でGC療法を行って病勢の進行が確認された胆道がん患者174例であった。患者は、Nal-IRI(70mg/m2、90分)+5-FU(2400mg/m2、46時間)/LV(400mg/m2、30分)を2週に1回投与する群と、5-FU(2400mg/m2、46時間)/LV(400mg/m2、30分)を2週に1回投与する群に、1:1でランダムに割り付けられた。主要評価項目は盲検下の独立中央判定委員会によるPFSとして、副次評価項目は担当医師によるPFS、OS、ORR、安全性などであった。症例数設定は、Nal-IRI+5-FU/LV群のPFS中央値を3.3ヵ月、5-FU/LV群の中央値を2ヵ月、検出力80%、両側α=5%、ハザード比0.6で有意差が検出できるように設定し、総数174例が必要と判断された。患者背景において、両群に差は認めなかった。本試験の治療成績を表に示す。主要評価項目である独立中央判定委員会によるPFSはNal-IRI+5-FU/LV群で有意に良好であった。副次評価項目である担当医師によるPFSやOSもNal-IRI+5-FU/LV群で有意に良好であった。独立中央判定委員会によるORRは両群で有意差を認めなかったが、担当医師判定では統計学的な有意差を認めた。安全性について、好中球減少症と疲労は、5-FU/LV群と比較してNal-IRI+5-FU/LV群に多く認められたが、膵がんに対して行われたNAPOLI-1試験の結果と同様の結果であった。画像を拡大するNal-IRI+5FU/LV療法は、1次治療でGC療法を行った転移性胆道がん患者に対してPFS、OS、ORRを有意に改善させた。Nal-IRI+5-FU/LV療法の有害事象は十分に管理可能で、膵がんに対するNAPOLI-1試験で示された安全性と同様の結果であった。今回の検討は韓国のみで行われた臨床試験であり、全世界に一般化できる結果ではないが、この試験の統計学的事項は十分な検出力があり、PFSやORRも中央判定で行われており、抗腫瘍効果も十分に評価できる。この試験の結果から、Nal-IRI+5-FU/LV療法はGC療法で増悪した進行胆道がん患者に対する標準治療の1つとして考慮されるべきであると著者らは結論していた。確かに、本試験の結果はNal-IRI+5-FU/LV療法は、GC療法の2次治療としてABC-06試験で優越性が示されたFOLFOXレジメンよりも良好なPFS、OS、ORRが示されており、かなり期待できるレジメンである。また、ランダム化第II相試験ではあるが、第III相試験と遜色のない試験デザインで行われている。演者であるYoo先生は知り合いなので、直接、試験デザインについて聞いてみたところ、症例数設定は第III相試験としても十分であるが、主要評価項目としてPFSを選択したので、第IIb相試験としたとコメントがあった。なるほど、第IIb相試験というあまり聞き慣れない相にしているのはそういうことであったか、と。そして、Yoo先生は、第III相試験と宣言して行えばよかったなと後悔されていた。しかし、仮に本試験が第III相試験であったとしても、韓国1ヵ国の試験であり、アジアの結果を米国のFDAや欧州のEMEAが受け入れるかどうかは微妙である。また、本試験でOSでも有意差があるといっても、PFSが主要評価項目であるランダム化第II相試験であり、OSを主解析として行った試験ではないため、この試験結果をもって標準治療とするには時期尚早と考える。今後、Nal-IRI+5-FU/LVとFOLFOXのどちらが良いのかを明らかにする検討も必要であり、IDH1変異に対するIDH阻害剤、FGFR変異に対するFGFR阻害剤など、actionableな遺伝子変異を有する患者において、どちらを先行して治療すべきかなども明らかにする必要があると思われる。膵がん膵がんでは、Oral presentationに1演題も取り上げられていなかったが、Poster discussionでは6演題、取り上げられていた。膵がんにおいては薬物療法も停滞期で、なかなか次の良い薬剤が登場してこない状況である。今回のASCO2021で何らかの目を見張る結果が報告されることを期待したが、まだ突破口が見えていない現状であった。その中でも、やはり日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)からの発表などいくつか知っておいてほしい結果があるので、取り上げて解説する。局所進行膵がんに対するmodified FOLFIRINOXとゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法の無作為化比較第II相試験(JCOG1407)著者:Ozaka M, et al.、Poster discussionFOLFIRINOX療法とゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法(GEM+nab-PTX療法)は、それぞれProdige4-ACCORD11試験およびMPACT試験においてゲムシタビン単剤と比較して優越性を示したレジメンである。どちらも遠隔転移膵がんのみを対象とした試験であり、局所進行膵がんに対する評価はこれまで十分に行われていない。今回、局所進行膵がん患者を対象として、FOLFIRINOX療法の5-FUの静注とイリノテカンの投与量を150mg/m2に減量し、有害事象を軽減させたmodified FOLFIRINOX(mFOLFIRINOX)療法とGEM+nab-PTX療法の有効性と安全性を検討し、より有望な治療法を選択することを目的としてランダム化第II相試験(JCOG1407)が行われた。本試験の対象は、全身化学療法歴のない局所進行膵がん患者であり、mFOLFIRINOX療法群とGEM+nab-PTX療法群に1:1でランダムに割り付けられた。主要評価項目はOS(1年生存割合)、副次的評価項目はPFS、無遠隔転移生存期間、ORR、CA19-9奏効割合、有害事象発生割合などであった。症例数設定は、2つの試験治療群のうち、1年生存割合が良好な群を53%、不良な群を63%と仮定し、良好な試験治療を正しく選択できる確率が85%以上となるように算出した。また、2つの試験治療群のうち、良好な群の期待1年生存割合を70%と仮定し、閾値1年生存割合を53%、片側有意水準α=5%、検出力80%とし、必要症例数は120例と算出された。mFOLFIRINOX療法群に62例、GEM+nab-PTX療法群に64例で、計126例が登録された。患者背景では、両群に大きな偏りは見られなかった。JCOG1407試験の結果を表に示す。1年生存割合はGEM+nab-PTX療法群で良好だったが、2年生存割合はmFOLFIRINOX療法群で良好であり、ハザード比は1.162(95%CI:0.737~1.831)であった。PFSと無遠隔転移生存期間は有意差を認めなかったが、mFOLFIRINOX療法群で良好な傾向であった。ORRは有意差を認めなかったが、GEM+nab-PTX療法群で良好であった。CA19-9奏効割合はGEM+nab-PTX療法群で有意に良好であった。有害事象において、Grade3~4の好中球減少/白血球減少はGEM+nab-PTX療法群で高率、全Gradeの悪心/嘔吐や下痢はmFOLFIRINOX療法群で高率に認められたが、治療関連死は見られなかった。画像を拡大する本試験は、局所進行膵がんに対する2つのレジメンを比較した最初のランダム化試験であった。GEM+nab-PTX療法群の1年生存割合はmFOLFIRINOX療法群より良好であったが、mFOLFIRINOX療法群は2年生存割合が高く、その他の項目では良かったり悪かったりとなっており、どちらが良好とは言い難い結果であった。局所進行膵がんに対しては、『膵癌診療ガイドライン2019年版』でも転移性膵がんのエビデンスに基づき、mFOLFIRINOXとGem+nab-PTXが提案されているが、しっかりしたランダム化比較試験は行われていない。今回はJCOG肝胆膵グループで行われたmFOLFIRINOXとGem+nab-PTXを比較するランダム化第II相試験の結果は、主要評価項目である1年生存割合では、Gem+nab-PTXが良好であったが、全体の生存曲線や2年生存割合ではmFOLFIRINOXが優勢であった。下痢、悪心、嘔吐などの消化器毒性はmFOLFIRINOX群で高頻度に認められたが、骨髄抑制や神経障害はGem+nab-PTX群で高頻度に認められており、優劣はつけ難い結果であった。今後、長期間の追跡調査を行い、どちらを選択すべきかを明らかにしていくことが必要である。NRG1融合遺伝子陽性の膵がんや他の固形がんに対するzenocutuzumabの有効性と安全性著者:Schram AM, et al.、Oral presentation膵がんに対するNRG1融合遺伝子に対するzenocutuzumabのpreliminaryな結果が報告されていた。zenocutuzumab(MCLA-128)はADCC活性を持つHER2、HER3を阻害する二重特異性抗体で、HER3にNRG1 fusionのEGF-likeドメインの結合を阻害することで、HER2/HER3の二量体形成を阻害し、下流のPI3K/AKT/mTORシグナルによる腫瘍増殖を阻害する抗体製剤である。NRG1融合遺伝子を有する患者に有効性が期待され、開発が進んでいる。膵がんパートに登録された12例のうち5例(42%)に奏効が得られており、11例中11例全例でCA19-9の50%以上の低下が認められ、7例(64%)においては正常値まで低下したことが報告された。有害事象はGrade1~2であり、重篤な消化器や皮膚、心毒性は認めなかったことが報告され、期待されている薬剤である。膵がんにおけるNRG1融合遺伝子の頻度は1%未満といわれており、非常にまれではあるが、60歳以下の若年者やKRAS wildの患者に多く認められることを手掛かりとして、聖マリアンナ医大と国立がん研究センター東病院を中心に、NRG1のスクリーニングが行われている。術前化学放射線療法が膵がん患者の生存期間を改善させる:多施設共同第III相試験(PREOPANC)の長期治療成績著者:Van Eijck C, et al.、Poster discussion切除可能膵がんまたは切除可能境界膵がんに対して、ゲムシタビンによる術前化学放射線療法は、切除先行と比べて、R0切除割合や無病生存期間を改善させた。生存期間においては良好な傾向は示されていたが、有意な差を認めていなかった。今回、この試験を長期フォローアップすることで、生存期間への効果が検討された。結果を表に示す。R0切除割合やN0切除割合、Intention to treatによるOS、切除できた患者のOS、補助療法を受けた患者のOSにおいて、化学放射線療法群で有意に良好な結果が示された。切除可能膵がんまたは切除可能境界膵がんに対する術前治療の有効性が示されたことにより、日本ではすでに術前治療が標準治療であるが、海外でも術前治療へよりシフトすることが推測された。画像を拡大するまとめ今年のASCO2021では、肝細胞がんでは初回薬物療法として肝動注化学療法、胆道がんでは2次治療としてNal-IRI+5-FU/LV、膵がんでは局所進行膵がんの1次治療としてmFOLFIRINOX/Gem+nab-PTX、切除可能/切除可能境界膵がんに対する術前化学放射線療法など、少し昔の時代に戻ったかのように、主要演題には細胞障害性抗がん剤による治療が席巻していた。しかし、肝胆膵がんでは分子標的治療や免疫チェックポイント阻害薬を中心に治療開発が進んでおり、今後、新たなエビデンスはこれらの治療から生まれてくると思われる。今年のASCOでは世の中を大きく変えるような結果は出てこなかったが、世界的にも注目される重要な学会であり、Web開催であろうと、みんなが参加する学会である。ぜひ来年は、COVID-19が落ち着いて、現地でみんなと一緒にFace to Faceで談笑しながら、肝胆膵のOncologyについて語り合いたいものである。1)Ning Lyu, Ming Zhao. Hepatic arterial infusion chemotherapy of oxaliplatin plus fluorouracil versus sorafenib in advanced hepatocellular carcinoma: A biomolecular exploratory, randomized, phase 3 trial (The FOHAIC-1 study). J Clin Oncol 39, 2021 (suppl 15; abstr 4007)2)Shaohua Li, Chong Zhong, Qiang Li, et al. Neoadjuvant transarterial infusion chemotherapy with FOLFOX could improve outcomes of resectable BCLC stage A/B hepatocellular carcinoma patients beyond Milan criteria: An interim analysis of a multi-center, phase 3, randomized, controlled clinical trial. J Clin Oncol 39, 2021 (suppl 15; abstr 4008)3)Changhoon Yoo, Kyu-Pyo Kim, Ilhwan Kim, et al. Liposomal irinotecan (nal-IRI) in combination with fluorouracil (5-FU) and leucovorin (LV) for patients with metastatic biliary tract cancer (BTC) after progression on gemcitabine plus cisplatin (GemCis): Multicenter comparative randomized phase 2b study (NIFTY). J Clin Oncol 39, 2021 (suppl 15; abstr 4006)4)Masato Ozaka, Makoto Ueno, Hiroshi Ishii, et al. Randomized phase II study of modified FOLFIRINOX versus gemcitabine plus nab-paclitaxel combination therapy for locally advanced pancreatic cancer (JCOG1407). J Clin Oncol 39, 2021 (suppl 15; abstr 4017)5)Alison M. Schram, Eileen Mary O'Reilly, Grainne M. O'Kane, et al. Efficacy and safety of zenocutuzumab in advanced pancreas cancer and other solid tumors harboring NRG1 fusions. J Clin Oncol 39, 2021 (suppl 15; abstr 3003)6)Casper H.J. Van Eijck, Eva Versteijne, Mustafa Suker, et al. Preoperative chemoradiotherapy to improve overall survival in pancreatic cancer: Long-term results of the multicenter randomized phase III PREOPANC trial. J Clin Oncol 39, 2021 (suppl 15; abstr 4016)

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VEGFR-TKIの心毒性、注意すべきは治療開始○ヵ月【見落とさない!がんの心毒性】第4回

第4回はチロシンキナーゼ阻害薬(TKI:Tyrosine Kinase Inhibitor)の心毒性メカニズムと管理法に、草場と森山が解説します。はじめに血管は、酸素や栄養素の供給、炎症部位への細胞輸送など、ヒトのからだにとって必要不可欠な組織です。血管形成は胎生期より始まり、出生後には創傷治癒や月経などの生理的機能、がんや糖尿病などの疾病と深くかかわっています。VEGFR-TKIとは?血管内皮細胞増殖因子VEGF(Vascular Endothelial Growth Factor)のファミリーにはVEGF-A、VEGF-B、VEGF-C、VEGF-D、VEGF-E、 胎盤増殖因子(PIGF)-1、PIGF-2があり、これらは細胞表面に発現するVEGF受容体(VEGFR)-1、VEGFR-2、VEGFR-3、 NRP(neuropilin)1、NRP2のチロシンキナーゼ型受容体と結合して、下流のシグナル伝達経路を活性化することにより、血管内皮細胞の増殖・分化・遊走や血管透過性の調整など血管新生において中心的な働きをします(図1)。(図1)VEGFRシグナルとVEGFR-TKI画像を拡大する多くのがんにおいて、VEGFRを介したシグナル伝達経路の活性化は、がんの増殖や進展に促進的に働きます。VEGFRなどのチロシンキナーゼ型受容体のリン酸化を阻害するTKIは「血管新生阻害薬」の一つとして、様々ながんの治療に用いられています。VEGFR-TKIの種類VEGFR-TKI は、主な標的分子であるVEGFR以外にも複数の分子の機能を阻害します。以下に各薬剤の主な標的分子、本邦での適応疾患を(表1)に示します。(表1) VEGFR-TKI の主な標的分子と適応疾患主な心毒性とリスク因子VEGFは、血管拡張作用を有する一酸化窒素とプロスタサイクリンを増加させ、血管収縮作用を有するエンドセリン-1産生を抑制するため、VEGFの機能が阻害されると血圧が上昇すると考えられています1)。そのため、VEGFR-TKIでは高血圧の頻度が高く(15~40%)、治療開始後2ヵ月以内に発症・増悪する場合が多いのが特徴です。また、微小血管の毛細血管床の密度低下や腎臓におけるメサンギウム細胞・内皮細胞障害なども高血圧発症に関与するとされています1)。リスク因子として、高血圧症の既往、NSAIDsやエリスロポエチン製剤との併用が報告されており2)、時に高血圧緊急症に至る場合があるため、適切な治療が必要です。また、心筋障害・心不全(~5%)、血栓塞栓症(0.6~11.5%)、QT延長(0.6~13.4%)などの心血管毒性も見られます3)。がん患者を対象とした研究のメタ解析でもVEGFR-TKIは、心不全、血栓塞栓症のリスク因子と報告されているのです4)5)。そのほか、倦怠感(35~50%)、下痢(30~70%)、手足症候群などの皮膚毒性(15~70%)、肝機能障害(5~50%)の頻度が高いです。管理法予防・治療の基本は、がん治療の効果を維持しながら、毒性のリスクを減らすことを目指します。VEGFR-TKIのみを対象とした心血管毒性の管理法の研究は少なく、特異的な管理法は未確立のため、通常の心血管リスク管理が重要です。高血圧診療の目標は、早期診断と血圧管理であり、リスク因子(高血圧の既往と現在の血圧など)の評価と既存の高血圧の治療は、VEGFR-TKI投与前に開始しましょう。投与開始後は、重篤な合併症を避けるために血圧上昇の早期発見と治療が重要で、通常の高血圧治療と同様に、ACE阻害薬、ARB、ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬が推奨されています6)。VEGFR-TKIはCYP3A4により代謝されるため、CYP3A4阻害作用を有する降圧剤(非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬)との併用は避ける必要があります。心機能の低下した心不全患者では、ACE阻害薬、ARB、β遮断薬を第一選択とします6)また、VEGFR-TKIは下痢の頻度が高く、利尿剤による脱水を助長する危険性もあります。利尿剤には電解質異常、二次性QT延長のリスクがあるため慎重に用います。重症高血圧があらわれた場合は、循環器専門医と連携して、頻繁なモニタリングと治療効果の評価を行うとともに、VEGFR-TKIの休薬・減量・再開について検討しましょう。心不全診療では、心不全症状発現前の心機能低下を早期発見する為に定期的な心エコー評価を行います。がん治療関連心筋障害を合併した場合は循環器専門医と相談しレニン・アンギオテンシン系阻害薬、β遮断薬などを開始します6)。血栓塞栓症診療では、下肢の浮腫やD-dimer上昇などの血栓症を疑う所見が見られた際に下肢静脈エコーで深部静脈血栓症の評価を行い、臨床的に肺塞栓症を疑う場合は胸部造影CTを行います。静脈血栓塞栓症の診断に至った際は、症例ごとに出血・血栓症のリスクを評価して抗凝固療法の適応を判断します。腎機能正常例では、ワルファリンよりも出血リスクが低い直接経口抗凝固薬(DOAC)が推奨されます6)。心不全や血栓塞栓症の症例において、がん治療を休止・中止すべきかどうかはがん治療医と循環器専門医が連携して判断する必要があります。おわりに近年、悪性腫瘍の領域において、精力的な薬剤開発と良好な抗腫瘍効果から、VEGFR-TKIはがん治療に広く用いられるようになってきました。それに伴い、心血管毒性の管理の重要性が増しており、がん治療医と循環器専門医との緊密な連携がより重要になっているのです。1)Li W, et al. J Am Coll Cardiol. 2015;66:1160-1178. 2)Robinson ES ,et al . Semin Nephrol. 2010;30:591-601.3)日本腫瘍循環器学会編集委員会編. 腫瘍循環器診療ハンドブック. メジカルビュー社;2020.4)Ghatalia P, et al. Crit Rev Oncol Hematol. 2015;94:228 -237.5)Abdel-Qadir H, et al. Cancer Treat Rev. 2017;53:120-127.6)Zamorano JL, et al. Eur Heart J. 2016;37:2768-2801.講師紹介

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HER2低発現乳がんの臨床的特徴/Lancet Oncol

 抗HER2抗体薬物複合体の開発により、HER2低発現の患者を含む乳がん患者に新たな治療オプションがもたらされている。この新たなサブタイプの臨床的・分子生物学的特徴は、HER2陰性乳がん患者とどのように異なるのか。ドイツ・University Hospital of Giessen and MarburgのCarsten Denkert氏らが、術前化学療法への反応や予後を含む、HER2低発現症例の特徴をHER2陰性乳がん症例と比較し、Lancet Oncology誌オンライン版2021年7月9日号に報告した。HER2低発現乳がんはHER2陰性乳がんより生存期間が長い 研究者らは、2012年7月30日~2019年3月20日に実施された4つの前向き試験(GeparSepto、GeparOcto、GeparX、Gain-2 neoadjuvant)において、併用術前補助化学療法で治療されたHER2非増幅型の原発性乳がん患者2,310例のコホートを対象に、プール解析を実施。HER2検査は、すべての試験で参加者の無作為割り付け前に前向きに行われた。HER2低発現の状態の評価は米国臨床腫瘍学会/米国病理学会のガイドラインに基づき、IHC1+またはIHC2+/ in-situ陰性と定義され、HER2陰性はIHC0と定義された。 無病生存率および全生存率のデータは、1,694例(GeparXを除く3試験から)で利用可能であり、追跡期間中央値は46.6ヵ月であった(IQR:35、0~52、3)。2変量および多変量ロジスティック回帰モデルとコックス比例ハザードモデルは、エンドポイントの病理学的完全奏効(pCR)、無病生存率、および全生存率の分析のために事前定義された統計分析計画に基づいて実行された。 HER2低発現乳がん患者の状態を評価した主な結果は以下のとおり。・2,310の腫瘍のうち計1,098(47.5%)がHER2低発現であり、1,212(52.5%)がHER2陰性であった。・HER2低発現腫瘍を有する患者1,098例中703例(64.0%)がホルモン受容体陽性であったのに対し、HER2陰性腫瘍を有する患者では1,212例中445例(36.7%)であった(p<0.0001)。・HER2低発現腫瘍のpCR率は、HER2陰性腫瘍よりも有意に低かった(1,098例中321例[29.2%] vs.1,212例中473例[39.0%]、p=0.0002)。・また、ホルモン受容体陽性サブグループのpCR率は、HER2低発現腫瘍ではHER2陰性腫瘍と比較して有意に低かった(703例中123例 [17.5%] vs.445例中1053例 [23.6%]、p = 0.024)、しかしホルモン受容体陰性サブグループではこの差はみられなかった(395例中198例 [50.1%] vs.767例中368例 [48.0%]、p=0.21)。・HER2低発現腫瘍を有する患者は、HER2陰性腫瘍を有する患者よりも有意に長い生存期間を示した(3年無病生存率:83.4%[95%CI:80.5~85.9] vs.76.1% [72.9~79.0]、層別ログランク検定p=0.0084/3年全生存率:91.6%[84.9~93.4] vs.85.8%[83.0~88.1]、層別ログランク検定p=0.0016)。・ホルモン受容体陰性腫瘍の患者でも生存率に差がみられた(3年無病生存率:84.5%[79.5~88.3] vs.74.4%[70.2~78.0]、層別ログランク検定p=0.0076/3年全生存率:90.2%[86.0~93.2] vs.84.3%[80.7~87.3]、層別ログランク検定p=0.016)、ただしホルモン受容体陽性腫瘍の患者ではみられなかった(3年無病生存率:82.8%[79.1~85.9] vs.79.3%[73.9~83.7]、層別ログランク検定p=0.39/3年全生存率:92.3%[89.6~94.4] vs.88.4%[83.8~91.8]、層別ログランク検定p=0.13)。 研究者らは、これらの結果はHER2低発現腫瘍がHER2陰性腫瘍とは異なり、標準化されたIHC評価によって乳がんの新しいサブグループとして識別できることを示すとまとめている。また、HER2低発現腫瘍には特定の生物学的特徴があり、治療と予後への反応に違いがみられ、治療抵抗性のホルモン受容体陰性腫瘍でとくにその傾向がみられるとしている。

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マントル細胞リンパ腫1次治療、ベネトクラクス+レナリドミド+リツキシマブが有望/ASCO2021

 未治療のマントル細胞リンパ腫(MCL)患者に対し、レナリドミド+リツキシマブ(R2療法)とベネトクラクスの併用は、用量制限毒性(DLT)を認めず忍容性は良好で、高リスク患者の治療に有望であることが示された。米国・ミシガン大学 Rogel Cancer CenterのTycel Jovelle Phillips氏が、第Ib相試験の中間解析結果を米国臨床腫瘍学会年次総会(2021 ASCO Annual Meeting)で発表した。・対象:未治療MCL成人患者(ECOG PS 0~2)28例・介入:[導入期](1サイクルを28日間として、12サイクル)ベネトクラクス(1サイクル目は50mgから200mgに漸増、2サイクル目以降は400m/日)+レナリドミド(1サイクル目は10mgから20mgに禅僧、2~12サイクルは20mg/日をDay 1~21に投与)+リツキシマブ(1サイクル目375mg/m2/日Day 1、8、15、22、その後は偶数サイクルのDay 1投与)。[維持期](3年間)ベネトクラクス(400mg/日を最低12ヵ月間)+レナリドミド(10mg/日または導入期最終投与量の半量を24ヵ月)+リツキシマブ(375mg/m2/を日8週間ごと36ヵ月投与)※導入期に完全奏効(CR)、MRD陰性を認めた患者、非病勢進行(PD)患者、移植不適格/拒否患者は維持期へ移行。・評価項目:[主要評価項目]1サイクル目のDay 8から42日間におけるDLT[副次評価項目]CR(CR/不完全奏効[CRu])、奏効率(ORR)(CR/CRu+部分奏効[PR]) 主な結果は以下のとおり。・30例が登録され、28例が治療を受けた。28例中、23例(82%)が治療継続中(導入期5例、維持期18例)、3例(11%)はPDで中止、2例(7%)は他の医学的問題のために中止となった。・28例の患者背景は、男性18例(64%)、女性10例(36%)、年齢中央値65歳、全例Ann Arbor StageIIIまたはIVで、MCL国際予後指数(MIPI)スコアは中間リスク群が10例(6%)、高リスク群が18例(88%)であった。また、芽球性サブタイプ4例、多形性サブタイプ2例、Ki-67陽性細胞割合≧30%が19例、p53欠失2例、p53変異5例であった。・治療期間は中央値308日、投与サイクル数中央値は11サイクルで、投与量が減量されたのは10例(ベネトクラクス8例、レナリドミド5例、両方3例)であった。・有効性については、3ヵ月時(28例)のCRが67%、ORRは96%、6ヵ月時(27例)はそれぞれ78%、97%、9ヵ月時(16例)はCR94%、12ヵ月時(12例)はCR100%であった。・MRD陰性率は、3ヵ月時(27例)63%、6ヵ月時(25例)77%、9ヵ月時(16例)94%、12ヵ月時(12例)92%であった。・無増悪生存率(2021年4月30日時点)は、3ヵ月時96.4%、12ヵ月時85.5%であった。・DLT評価期間中にDLTは認められず、全例が1日400mgまで増量可能であった。・治療との関連が疑われるGrade3以上の有害事象は、主に好中球減少症、血小板減少症などであった。・MRD陰性例で再発した患者はおらず、PDで中止となった3例はp53変異を有していた。 Phillips氏は、「未治療MCL患者において、ベネトクラクス+リツキシマブ+レナリドミド併用療法は安全で、高いORRとMRD陰性率が得られることが示された。初期データではあるが、本併用療法はMIPIスコア高リスク、芽球性および多形性サブタイプなど高リスクの特徴を有する患者に有効と考えられ、今後、臨床試験を拡大する予定である」と結んだ。

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降圧薬のイベント防止効果は1次および2次予防や心血管疾患既往の有無で異なるか?(解説:江口和男氏)-1405

 血圧は下げれば下げるほど将来の脳心血管発症リスクが減少する。わが国およびその他の国際的な高血圧ガイドラインでは、降圧薬による降圧治療の適応は、生活習慣修正により十分な降圧効果が得られない場合や、血圧レベルが高くない場合でもリスク表により高リスクと判断される場合である。一般的に降圧薬開始の基準となるのは、外来血圧140/90mmHg以上、家庭血圧135/85mmHg以上の場合であり、それ以下の血圧の場合、降圧薬治療開始の適応とはならない。高血圧のリスク表(JSH2019ガイドライン表3-2)については、糖尿病や尿蛋白の有無、心血管疾患の既往のありなしで血圧目標が異なり、日常診療で応用するにはやや複雑である。たとえば、心血管疾患既往があれば、高値血圧(130~139/80~89mmHg)の範囲であっても、リスク第三層「高リスク」に分類される。しかし、心血管疾患既往の有無やベースラインの血圧レベルで、どの程度イベント抑制効果が異なるかということについて結論が出ていなかった。 本メタ解析では48のRCTに登録された34万4,716例という膨大な数の対象者を個別解析した。ランダム化前の血圧は、心血管疾患既往者(15万7,728例)では146/84mmHg、心血管疾患既往なし(18万6,988例)では157/89mmHgであった。ベースラインのSBP<130mmHgの者は、心血管疾患既往者では3万1,239例(19.8%)、心血管疾患既往なしでは1万4,928例(8.0%)であった。中央値4.15年の観察期間で12.3%が少なくとも1回の心血管イベントを発症し、心血管疾患既往なしでは、MACEの発症率は対照群で31.9/1,000人・年、治療群で25.9人・年であった。心血管疾患既往者においては、MACEの発症率は対照群で39.7/1,000人・年、治療群で36.0人・年であった。SBP 5mmHg低下当たりのMACE発症のハザード比は、心血管疾患既往なしで0.91(95%CI:0.89~0.94)、心血管疾患既往者で0.89(95%CI:0.86~0.92)と、ともに有意であった。層別解析では心血管疾患既往の有無やベースライン血圧カテゴリー別で明らかな差は認められなかった。 本メタ解析ではSBP 5mmHg当たりの低下はMACEを約10%減少させたが、それは心血管疾患既往の有無や正常もしくは正常高値の血圧値であっても同様であった。では、本メタ解析の対象者のリスク層別化はいかがであろうか? 一般に高リスクとされる集団からイベントが発症しやすいが、実臨床では必ずしも高リスクに分類された人のみから心血管イベントが発症するとは限らず、低リスクと考えられていた人からもイベントが発症することがある。したがって、リスクの高い人だけを治療するのではなく、低リスクであっても降圧治療により下げておくメリットがある。本メタ解析の結果はTROPHY試験(Julius S, et al. N Engl J Med. 2006;354:1685-97.)―すなわち、正常高値血圧の血圧レベルでも、2年間のARB治療によって66.3%が高血圧への進展を免れうる―に通ずるところがあり、興味深い。 本メタ解析の著者らの主張としては、降圧薬治療により一定の降圧効果が得られれば、MACEの1次および2次予防効果が得られ、それは現在降圧薬治療の適応とはならない低い血圧値であっても有効であるというものである。JSH2019によれば、「正常高値血圧および高値血圧レベル、かつ低・中等リスクであれば3ヵ月間の生活習慣の是正/非薬物療法を行い、高値血圧レベルでは高リスク者であってもおおむね1ヵ月は生活習慣の是正を行い、改善が見られなければさらなる非薬物療法の強化に加え、降圧薬療法の開始を検討する」とされている。しかし、そこまで待ってよいのであろうか? 低リスクだと本当に何も起こさないのであろうか? 本メタ解析の結果を考慮すると、血圧レベルに関係なく、心血管疾患既往の有無にかかわらず、まず降圧薬による治療を開始し、同時に生活習慣の修正を試みながら可能であれば徐々に薬を減量、中止していくというアプローチのほうがいいのではないだろうか?(実際にそのようにしている臨床医も多いと思われる)

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スクリーニング普及前後の2型糖尿病における心血管リスクの予測:リスクモデル作成(derivation study)と検証(validation study)による評価(解説:栗山哲氏)-1404

本論文は何が新しいか? 2型糖尿病の心血管リスクを、予知因子を用いてリスクモデルを作成(derivation study)し、さらにその検証(validation study)を行うことで評価した。ニュージーランド(NZ)からの本研究は、国のデータベースにリンクして大規模であること、データの適切性、対象者の95%がプライマリケアに参加していること、新・旧コホートの2者の検証を比較して後者での過大評価を明らかにしたこと、などの点で世界に先駆けた研究である。本研究のような最新の2型糖尿病スクリーニング普及は、低リスク患者のリスク評価にとっても重要である。リスクモデル作成研究(derivation study)と検証研究(validation study) 実地医家にはあまり聞き慣れない研究手法かもしれない。糖尿病や虚血性心疾患などにおいてリスク予測のためCox回帰モデルからリスク計算をし、それを検証する2段階の統計手法。症状や徴候、あるいは診断的検査を組み合わせてこれらを点数化し、イベント発症の可能性に応じ患者を層別化して予測する。作業プロセスは、モデル作成(derivation)と、モデル検証(validation)の2つから成る。モデル作成のコホートを検証に用いた場合、内的妥当性が高いことは自明である。したがって、作成されたモデルは他のコホート患者群に当てはめて外的妥当性が正しいか否かを客観的に検証する必要がある。心血管疾患リスクの推定は、複数の因子(例:治療法の変遷、危険因子にはリスクが高いもの[肥満]と低いもの[喫煙]があることなど)によって過大評価あるいは過小評価される可能性がある。結果の概要1)リスクモデルの作成(derivation study):2004~16年に行ったPREDICT試験を母体にしたPREDICT-1°糖尿病サブコホート試験(PREDICT-1°)において用いられたリスクの予測モデル因子は、年齢・性・人種・血圧・HbA1c・脂質・心血管疾患家族歴・心房細動の有無・ACR・eGFR・BMI・降圧薬や血糖降下薬使用、などである。これら糖尿病および腎機能関連の18の予測変数を有するCox回帰モデルから、5年心血管疾患リスクを推定した。2)リスクモデルの検証(validation study):2004~16年にかけて施行されたPREDICT-1°におけるリスク方程式を、2000~06年に行われたNZ糖尿病コホート研究(NZDCS)におけるリスク方程式にて外的妥当性を検証した。PREDICT-1°は追跡期間中央値5.2年(IQR:3.3~7.4)で、登録した46,625例の中で4,114件の新規心血管疾患イベントが発生した。心血管疾患リスクの中央値は、女性で4.0%(IQR:2.3~6.8)、男性で7.1%(4.5~11.2)であった。これに対して外的検証で用いたNZDCSにおいては心血管疾患リスクが女性では3倍以上(リスク中央値14.2%、IQR:9.7~20.0)、男性では2倍以上(17.1%、4.5~20.0)と過大評価されていることが示された。このことから、最近行われたPREDICT-1°は、過去に行われたNZDCSよりも優れたリスク識別性を有することが検証された。また、この新しいPREDICT-1°のリスク方程式によってリスク評価を行わない場合、糖尿病の低リスク患者を(新たに開発された)血糖降下薬などで過剰診療する可能性なども示唆された。糖尿病の心血管リスクスクリーニングの世界事情 先進国においては、強化糖尿病のスクリーニングを受ける成人が増加している。このため、これらの先進国では糖尿病患者の疾病リスク予測は、より早期と考えられる患者群(低年齢・軽度の高血圧や脂質異常症)に移行しており、より多くの患者が症候性になるより早期に糖尿病と診断されるようになってきた。ちなみにNZでは、スクリーニング検査の推奨項目として空腹時血糖値を非空腹時HbA1cに置き換えることにより、対象者の糖尿病スクリーニング受診率を向上させる新たな国家戦略を立ち上げ、2001年に15%、2012年に50%、2016年には対象者の90%で糖尿病スクリーニング受診という目標を達成してきた。一方、アフリカ、東南アジア、西太平洋ではスクリーニングによる診断よりは臨床診断が主体となるため、心血管疾患リスクスコアを過大評価している可能性がある。本論文から学ぶこと 最新のPREDICT-1°においては、HbA1cによるスクリーニングが普及し、心血管疾患のリスクが低い無症状の糖尿病患者が多数確認された。これにより2型糖尿病において早期発見・早期治療が可能になる。また、心血管疾患リスク評価式は、時代の変遷に応じて現代の集団に更新する必要がある。私見であるが、糖尿病への早期介入推奨の潮流は、たとえばKDIGO 2020年の糖尿病腎症治療ガイドラインなどにすでに反映されている。このガイドラインでは、腎保護戦略のACE阻害薬、ARB、SGLT2阻害薬などの薬剤介入と平行して、自己血糖モニタリングや自己管理教育プログラムの重要性にも多くの紙面を割き言及している(Navaneethan SD, et al. Ann Intern Med. 2021;174:385-394. )。 翻って、本邦での糖尿病スクリーニングによる心血管リスク予測の課題として、国家レベルでの医療データベースの充実化、健診環境のさらなる改善、そして本研究におけるPREDICT-1°に準じた新たな解析法の導入などが考えられよう。

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ペムブロリズマブの腎細胞がん術後アジュバントが予後を改善(KEYNOTE-564)/ASCO2021

 淡明細胞型腎細胞がん(RCC)に対する腎摘除手術後の術後療法としてのペムブロリズマブの単剤治療が、生存の延長に寄与するという発表が、米国臨床腫瘍学会年次総会(2021 ASCO Annual Meeting)において、米国・Dana-Farber Cancer InstituteのToni K. Choueiri氏より発表された。 本試験(KEYNOTE-564)は、国際共同の無作為化二重盲検比較の第III相試験であり、今回が初めての中間解析結果報告である。・対象:腎摘除術を12週間以内に受け、再発リスク分類で中程度以上と判定された淡明細胞型RCC・試験群:ペムブロリズマブ200mg/日 3週間ごと最長1年間投与(Pembro群)・対照群:プラセボ 3週間ごと最長1年間投与(Pla群)・評価項目:[主要評価項目]主治医判定による無病生存期間(DFS)[副次評価項目]全生存期間(OS)、安全性 主な結果は以下のとおり。・2017年6月~2019年9月に、994例(Pembro群:496例/Pla群:498例)が登録された。・リスクカテゴリー中等度~高度の症例(N0/M0/核異形度4のpT2またはpT3)が、約86%を占め、PD-L1発現は、CPSスコア1以上が74%~77%、1未満が23~25%であった。・観察期間中央値が24.1ヵ月時点(データカットオフ2020年12月)でのDFS中央値は両群ともに未到達で、Pembro群のPla群に対するハザード比(HR)は0.68、95%信頼区間(CI)は0.53~0.87、p=0.0010と有意にPembro群で良好であった。・1年DFS率は、Pembro群85.7%、Pla群76.2%、2年DFS率は、Pembro群77.3%、Pla群68.1%で、両群のカプランマイヤー曲線は早期から離れる傾向を示していた。各サブグループでのDFS解析では、全体と齟齬のある因子は無かった。・OS中央値も両群未到達で、HRは0.54(95%CI:0.30~0.96)、p=0.0164であったが事前設定のp値の有意水準は超えていなかった。1年OS率は、Pembro群98.6%、Pla群98.0%、2年OS率はおのおの96.6%と93.5%であり、今後の追跡が期待される結果であった。・安全性については既報と同様、全身倦怠感、甲状腺機能異常、皮膚障害などがPembro群で多く報告された。治療関連有害事象による投薬中止はPembro群で17.6%(中止中央値7サイクル)であったが、両群とも治療関連死はなかった。免疫関連有害事象でステロイド剤の投薬が必要となったのはPembro群で7.4%であった。 発表者は、「KEYNOTE-564は、RCCの術後療法として、臨床的に意味のあるDFSの延長を示した初めての試験であり、今後の新しい標準療法としての可能性を示した」と結んだ。

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抗HER3-ADC薬、治療抵抗性EGFR変異NSCLCに有望/ASCO2021

 前治療としてのTKIやプラチナ製剤に抵抗性となったEGFR変異陽性非小細胞肺がん(NSCLC)に対する、HER3を標的とした抗体薬物複合体(ADC)であるPatritumab-Deruxtecan(HER3-ADC)は、新規治療薬として有望であるとの発表が、米国臨床腫瘍学会年次総会(2021 ASCO Annual Meeting)において、米国・Dana-Farber Cancer InstituteのPasi A. Janne氏よりなされた。  HER3-ADCのNSCLCでの推奨用量は第I相試験で5.6mg/kgとされた。今回は第I相試験用量拡大パートの報告である。 ・対象:オシメルチニブを含むEGFR-TKIとプラチナ製剤の治療を受け抵抗性となったEGFR変異陽性NSCLC81例・介入:HER3-ADC 5.6mg/kg投与57例と3.2~6.4mg/kg投与24例(脳転移の有無は問わず)・評価項目:[有効性評価項目]全奏効率(ORR)、病勢コントロール率(DCR)、無増悪生存期間(PFS)、奏効期間、奏効とHER3発現の関連など[安全性評価項目]全有害事象(TAE)、治療関連有害事象 有効性解析は57例を、安全性評価は81例を対象とした。  主な結果は以下のとおり。 ・患者背景は、年齢中央値65歳、脳転移あり47%、前治療の中央値は4ライン(オシメルチニブの投与は86%、プラチナ製剤投与は91%、免疫チェックポイント阻害剤既治療は40%)であった。・観察期間中央値10.2ヵ月(データカットオフ:2020年9月)時点でのORRは39%(CR1例)で、DCRは72%であった。・PFS中央値は8.2ヵ月で、奏効期間中央値は6.9ヵ月であった。・脳転移あり症例のORRは32%、PFS中央値8.2ヵ月、脳転移なし症例のORRは41%、PFSは8.3ヵ月と、脳転移の有無とは関連がみられなかった。・抗腫瘍効果は、EGFR変異や他遺伝子の変異を問わず認められた。・HER3発現とORRの間には相関は認められなかった。・Grade3以上の全有害事象は、血小板減少、好中球減少、倦怠感、貧血などで、治療関連死は無かった。治療関連の間質性肺疾患は全症例のうち5%に発現したが、Grade4/5はなかった。  発表者は「本剤は、臨床的に意味のある有効性を示しており、忍容性も確認された。他のNCSLCの治験も進行中である」と結んだ。

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HR-/HER2+乳がん術前治療、トラスツズマブ+ペルツズマブ±PTXの予後(ADAPT)/ASCO2021

 ホルモン受容体陰性HER2陽性(HR-/HER2+)の乳がん患者に対する、トラスツズマブ+ペルツズマブ±パクリタキセルによる術前療法の予後に関する有望な結果が、米国臨床腫瘍学会年次総会(2021 ASCO Annual Meeting)において、ドイツ・West German Study Group(WSG)のNadia Harbeck氏から報告された。 このADAPT試験はWSGにより実施されたオープンラベルの第II相無作為化比較試験である。この試験のpCR率の結果は2017年に公表されており、今回はその生存に関する報告である。また、本試験と同じデザインでのHR-/HER2+集団に対するpCR率の良好な結果は2020年のESMOで公表されている。・対象:遠隔転移のないHR-/HER2+乳がん134例(5:2の割合で2群に割り付け)・試験群A:トラスツズマブ(初回8mg/kg、その後3週ごとに6mg/kg)+ペルツズマブ(初回840mg、その後3週ごとに420mg)(TP群:92例)・試験群B:トラスツズマブ+ペルツズマブ+パクリタキセル(80mg/m2を1回/週)(TPPtx群:42例)・評価項目:[主要評価項目]pCR率(乳房内の浸潤がんとリンパ節転移がない例[ypT0/is ypN0]におけるpCR率と、非浸潤がんも含めて完全に残存腫瘍のない例[ypT0 ypN0]におけるpCR率)[副次評価項目]無浸潤疾患生存期間(iDFS)、遠隔無再発生存期間(DDFS)、全生存期間(OS)、安全性、バイオマーカー検索など 3週間目にKi67値がベースライン比30%以上低下、もしくは浸潤がん細胞数が500個以下への減少が認められた症例などを早期奏効例とした。 主な結果は以下のとおり。・患者背景は、50歳未満が33~41%(年齢中央値:52~54歳)、N0が54~62%、核異形度3が88.0%、HER2-IHC3+が86~91%、ベースラインのKi67値は50%であった。・既報のpCR率は、ypT0/is ypN0でTP群34.4%、TPPtx群90.5%であった。また、ypT0 ypN0ではTP群24.4%、TPPtx群78.6%であった。・iDFS率は、5年時点でTP群87%、TPPtx群98%、ハザード比[HR] 0.32(95%信頼区間[CI]:0.07~1.47)、p=0.144であった。・OS率は、5年時点でTP群94%、TPPtx群98%(死亡は1名のみ)、HR 0.41(95%CI:0.05~3.55)、p=0.422であった。・pCRが得られた症例(69例)と得られなかった症例(63例)でiDFSを比較した場合、pCR例は5年時iDFS率が98%、non-pCR例では82%、HRは0.14(95%CI:0.03~0.64)、p=0.011であった。・TP群において、pCRが得られなかったIHC1+/2+およびFISH陽性例や、Basalタイプ、または早期奏効を得られなかった症例を、non-sensitive症例(31例)として、その他の症例とiDFSを比較した場合、5年時のiDFS率はnon-sensitive79%、その他93%、HRは1.99、p=0.255であった。 演者のHarbeck氏は「化学療法の有無によらず、両群とも優れたpCR率と生存率を示した。また、抗体2剤のみによる術前治療は早期奏効が得られた場合に有望であり、今後はさらにIHC3+症例やBasalタイプ以外、RNAなどで選別した症例でも検討する必要がある」と述べた。

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3剤配合剤抵抗性の高血圧、腎デナベーションが有効/Lancet

 利尿薬を含む3剤配合降圧薬に抵抗性を示す高血圧患者に対し、超音波腎デナベーションは、2ヵ月後の収縮期血圧低下に有効であることが示された。偽治療に比べ、収縮期血圧値は中央値5.8mmHg低下したという。フランス・パリ大学のMichel Azizi氏らが、米国・欧州50ヵ所以上の医療機関を通じて行った無作為化単盲検偽治療対照試験の結果を報告した。血管内腎デナベーションは、軽症~中等症高血圧患者の降圧に有効だが、真性の抵抗性高血圧患者の有効性は示されていなかった。結果を踏まえて著者は、「降圧効果と腎デナベーションの安全性が長期的に維持されるのならば、抵抗性高血圧患者にとって腎デナベーションは降圧薬に追加しうる治療法となる可能性がある」と述べている。Lancet誌オンライン版2021年5月16日号掲載の報告。2ヵ月後の日中自由行動下収縮期血圧値をITT解析で比較 研究グループは、米国28ヵ所、欧州25ヵ所の3次医療機関を通じて、利尿薬を含む3種以上の降圧薬を服用しながら、診察室血圧が140/90mmHg以上の18~75歳を対象に試験を行った。被験者は、試験開始後4週間は、Ca拮抗薬・ARB・サイアザイド系利尿薬の配合剤(投与量一定)の1日1回服用に切り替えた。 その後、日中自由行動下血圧が135/85mmHg以上の被験者を施設で層別化し1対1の割合で無作為に2群に分け、一方には超音波腎デナベーションを、もう一方には偽治療を行った。患者とアウトカム評価者は割り付けをマスクされ、規定した血圧値を超えた場合には、追加の降圧薬投与を可能とした。 主要エンドポイントは、ITT解析で評価した2ヵ月後の日中自由行動下収縮期血圧値の変化だった。安全性もITT解析にて評価した。腎デナベーション群、2ヵ月後収縮期血圧値は8.0mmHg低下 2016年3月11日~2020年3月13日に、989例が試験に登録され、そのうち136例が無作為化を受けた。腎デナベーション群69例、偽治療群67例だった。 尿検査で確認した2ヵ月時点の配合剤の服用アドヒアランスは、腎デナベーション群82%(42/51例)、偽治療群82%(47/57例)と同等だった(p=0.99)。 2ヵ月後の日中自由行動下収縮期血圧値の変化は中央値で、腎デナベーション群-8.0mmHg(四分位範囲[IQR]:-16.4~0.0)、偽治療群-3.0mmHg(-10.3~1.8)と腎デナベーション群で有意な降圧が認められた(群間差中央値:-4.5mmHg[95%信頼区間[CI]:-8.5~-0.3]、補正後p=0.022)。完全なデータが得られた被験者における群間差中央値は-5.8mmHg(-9.7~-1.6、補正後p=0.0051)だった。 なお、安全性アウトカムについては、両群で差はみられなかった。

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亜鉛欠乏はCKD進行のリスク因子か

 亜鉛(Zn)は生体内に欠かせない必須微量元素で、血清濃度が低下することで成長や認知機能、代謝などさまざまな活動に障害をもたらす。実際、慢性腎臓病(CKD)患者では血清Zn濃度が低くなる傾向があることから、今回、川崎医科大学の徳山 敦之氏らが亜鉛欠乏症とCKD進行の関係性について調査を行った。その結果、亜鉛欠乏はCKD進行の危険因子であることが明らかになった。さらに、Zn濃度が低い患者において、観察期間中に亜鉛製剤を服用した患者のほうが主要評価項目のリスクが低かったとも結論付けた。PLoS One誌2021年5月11日号に掲載。 研究者らは2014年1月1日~2017年12月31日までの期間、当院の腎臓内科を受診した4,066例からZn濃度測定が行われていた577例を抽出。そのうち基準を満たす312例を亜鉛欠乏症診療ガイドラインに基づき、低Zn群(<60μg/dL、n=160)と高Zn群(≥60μg/dL、n=152)の2群に割り付けた。観察期間は1年、主要評価項目を末期腎疾患(ESKD)または死亡と定義した。 主な結果は以下のとおり。・全体の平均Zn濃度は59.6μg/dL、eGFR中央値は20.3mL/min/1.73m2だった。・ベースライン時点で亜鉛製剤を服用していたのは全体で8例だった。・ベースライン時点のバイアス(年齢、性別、BMI、糖尿病や心血管疾患の有無、eGFR、CPR、血清アルブミン、ARB・ACE阻害薬の使用など)を傾向スコアマッチングで調整し、Cox比例ハザードモデルで解析した。・高Zn群と比較して、低Zn群ではネフローゼ症候群患者は多かったが、糖尿病、慢性肝疾患、腸疾患の患者数に差は見られなかった。・主要評価項目のESKDと死亡発生率は全体で100例(32.1%)発生し、低Zn群のほうが高Zn群より高かった(43.1%.vs 20.4%、p<0.001)。・血清アルブミン濃度が低い患者では、主要評価項目のリスクは、高Zn群よりも低Zn群で3.31倍高かった。一方、血清アルブミン濃度が高い患者では、低Zn群と高Zn群の間で主要評価項目に差はみられなかった(p=0.52)。・競合するリスク分析によると、低Zn濃度がESKDに関連するものの、死亡には関連していないことを示した。さらに、傾向スコアマッチングでは、低Zn群は主要な結果でリスクが高いことが示された[調整済みハザード比:1.81(95%信頼区間:1.02、3.24)]。・血清のZn濃度とアルブミン濃度の間には交互作用がみられた(交互作用のp = 0.026)。

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RA系阻害薬は、COVID-19入院患者に継続してよい?

 COVID-19入院患者において、レニン-アンジオテンシン(RA)系阻害薬の継続有無による転帰の差はないことが、米国・ペンシルベニア大学のJordana B. Cohen氏によって明らかにされた。RA系阻害薬は、COVID-19入院患者でも安全に継続できるという。The Lancet. Respiratory Medicine誌2021年3月号の報告。 RA系阻害薬(ACE阻害薬またはARB)の服用は、COVID-19の重症度に影響を与える可能性が示唆されている。世界7ヵ国20の大規模な委託病院において、前向き無作為化非盲検試験REPLACE COVID試験(ClinicalTrials.gov:NCT04338009)を実施し、RA系阻害薬の継続と中止がCOVID-19入院患者の転帰に影響を与えるかどうか、検証した。 2020年3月31日~8月20日の期間、COVID-19で入院し、入院以前にRA系阻害薬を服用していた18歳以上の152例を登録し、RA系阻害薬による治療の継続群または中止群のいずれかにランダムに割り付けた(継続群75例、中止群77例)。主要評価項目は、4項目(死亡までの期間、人工呼吸器の持続時間、腎代替療法または昇圧剤療法の時間、および入院中の多臓器不全)のランク付けによる総合ランクスコア。intention-to-treat集団にて、1次分析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・試験対象は、平均年齢62歳(SD12)、女性45%、平均BMI 33kg/m2(SD8)で、52%は糖尿病患者だった。・RA系阻害薬中止群と比較して、継続群は総合ランクスコアに影響を与えなかった(継続群:ランクスコア中央値73[IQR:40~110]、中止群:81[38~117]、β係数8[95%CI:-13~29])。・中止群の77例中14例(18%)に対して、継続群の75例中16例(21%)が集中治療室での治療または侵襲的人工呼吸を必要とした。・中止群の77例中10例(13%)に対して、継続群の75例中11例(15%)が死亡した。・中止群の28例(36%)と継続群の29例(39%)に、少なくとも1件の有害事象(各治療群間における有害事象のカイ二乗検定 p=0.77)があった。・フォローアップ中、2群間の血圧値、血清カリウム値、血清クレアチニン値に差は認められなかった。

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米国でダパグリフロジンがCKDの適応承認/アストラゼネカ

 SGLT2阻害薬の活躍の場が拡大している。AstraZeneca(本社:英国ケンブリッジ)のSGLT2阻害剤ダパグリフロジン(商品名:フォシーガ)が、進行リスクのある成人の慢性腎臓病(CKD)における適応承認を米国で取得した。適応症は、慢性腎臓病におけるeGFRの持続的低下、末期腎不全への進行、心血管死、および心不全入院のリスク低減。 ダパグリフロジンは、経口で1日1回投与の、ファーストインクラスの選択的SGLT2 阻害剤であり、心臓、腎臓、膵臓における基本的な関連性の解明に伴い、心臓・腎臓に及ぼす影響から、予防、そして臓器保護へと研究は進化している。 CKDは、腎機能の低下を伴う重篤な進行性の疾患で、世界で約8.4憶人の患者がいると推定されている。そして、その多くはまだ診断されていない状態である。CKDを発症する最も一般的な原因疾患は、糖尿病、高血圧、糸球体腎炎で、CKDは高い有病率や、心不全や若年死をもたらす心血管イベントリスクの増加に関与している。最終的に末期腎不全(ESKD)に進行すると血液透析や腎移植を必要とする状態となる。 アメリカ食品医薬品局(FDA)による今回の承認は、DAPA-CKD試験(第III相)の良好な結果に基づいており、また、本年の初めにFDAより付与された優先審査指定に続くもの。 DAPA-CKD試験は、2型糖尿病合併の有無に関わらず、CKDステージの2~4、かつ、アルブミン尿の増加が確認された4,304例を対象に、ダパグリフロジン10mg投与による有効性と安全性をプラセボと比較検討した、国際多施設共同無作為化二重盲検比較試験。 第III相DAPA-CKD試験においてダパグリフロジンは、CKDステージ2~4、かつ、尿中アルブミン排泄の増加を認める患者を対象に、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)もしくはアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)による標準治療への併用で、腎機能の悪化、末期腎不全への進行、心血管死または腎不全による死亡のいずれかの発生による複合評価項目を、プラセボと比較し39%低下させた(p

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糖尿病の発症年齢が若いほど認知症になりやすい?/JAMA

 2型糖尿病の発症年齢が下がるほど、その後の認知症リスクは高くなることが示された。フランス・パリ大学のClaudio Barbiellini Amidei氏らが、英国の前向きコホート研究Whitehall II参加者を対象とした追跡期間中央値31.7年のデータを分析して明らかにした。2型糖尿病については若年発症者が増加する傾向がみられる。これまで2型糖尿病の若年での発症と血管合併症との関連は知られていたが、認知症との関連は不明であった。JAMA誌2021年4月27日号掲載の報告。糖尿病と認知症リスクの関連を30年以上追跡 研究グループは、糖尿病の発症年齢が下がるほど認知症発症との関連が強くなるかを住民ベースの試験で調べた。 Whitehall II(英国の公務員を対象に主に郵送調査を用いた大規模前向きコホート)に1985~88年に最初に登録された1万95例(男性67.3%、1985~88年に35~55歳)について、1991~93年、1997~99年、2002~04年、2007~09年、2012~13年および2015~16年に行われた臨床検査データを集め分析した。最終フォローアップは2019年3月31日であった。 2型糖尿病は、臨床検査による空腹時血糖値が126mg/dL以上と定義し、医師が2型糖尿病と診断し糖尿病治療薬が投与されたか、または1985~2019年の病院の記録に糖尿病とある場合とした。 主要評価項目は、電子健康記録で確認された認知症の発症とした。糖尿病の若年発症は認知症発症と有意に関連 被験者1万95例に関する追跡期間中央値31.7年の記録において、1,710例の糖尿病と639例の認知症が確認された。 70歳で非糖尿病であった被験者の認知症発症率は、1,000人年当たり8.9だった。70歳で直近5年以内に糖尿病を発症した被験者の認知症発症率は、1,000人年当たり10.0、6~10年前の糖尿病発症者については同13.0、10年以上前発症者の場合は18.3だった。 多変数調整解析において、70歳で非糖尿病被験者と比較して、10年以上前に糖尿病を発症した被験者の認知症発症に関するハザード比(HR)は2.12(95%信頼区間[CI]:1.50~3.00)、6~10年前発症者は同1.49(0.95~2.32)、5年以内発症者は同1.11(0.70~1.76)だった。線形傾向検定において、2型糖尿病の発症年齢と認知症には段階的な関連性があることが示された(p<0.001)。 また、社会人口学的要因、健康行動、および健康関連測定値を調整した解析において、70歳被験者では、2型糖尿病の発症年齢が5歳ずつ低下するごとの認知症発症のHRは1.24(95%CI、1.06~1.46)であり、有意な関連が示された。

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RAAS系阻害薬と認知症リスク~メタ解析

 イタリア・東ピエモンテ大学のLorenza Scotti氏らは、すべてのRAAS系阻害薬(ARB、ACE阻害薬)と認知症発症(任意の認知症、アルツハイマー病、血管性認知症)との関連を調査するため、メタ解析を実施した。Pharmacological Research誌2021年4月号の報告。 MEDLINEをシステマティックに検索し、2020年9月30日までに公表された観察研究の特定を行い、RAAS系阻害薬と認知症リスクとの関連を評価した。ARB、ACE阻害薬と他の降圧薬(対照群)による認知症発症リスクを調査または関連性の推定値と相対的な変動性を測定した研究を抽出した。研究数および研究間の不均一性に応じて、DerSimonian and Laird法またはHartung Knapp Sidik Jonkman法に従い、ランダム効果プール相対リスク(pRR)および95%信頼区間(CI)を算出した。同一研究からの関連推定値の相関を考慮し、線形混合メタ回帰モデルを用いて検討した。 主な結果は以下のとおり。・15研究をメタ解析に含めた。・ACE阻害薬ではなくARBの使用により、認知症(pRR:0.78、95%CIMM:0.70~0.87)およびアルツハイマー病(pRR:0.73、95%CIMM:0.60~0.90)リスクの有意な低下が認められた。・ARBは、ACE阻害薬と比較し、認知症リスクの14%低減が認められた(pRR:0.86、95%CIDL:0.79~0.94)。 著者らは「ACE阻害薬ではなくARB使用による認知症リスク低下が示唆された。認知症予防効果に対するARBとACE阻害薬の違いは、独立した受容体経路に対する拮抗作用のプロファイルまたはアミロイド代謝に対する異なる影響による可能性がある」としている。

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全粒穀物、豆類そして野菜をしっかり食べよう!―低GI食と心血管疾患(解説:住谷哲氏)-1379

 今から20年ほど前に「低インスリンダイエット」なるものが世間で流行した。筆者も糖尿病の食事療法との関係で何冊か本を読んだ記憶がある。「低インスリンダイエット」は米国で流行したダイエット本「Sugar Busters!」(邦訳:「シュガーバスター」1999年、講談社)がわが国でアレンジされたもののようであるが、そこで初めてグリセミック指数(glycemic index:GI)について知った。GIの概念を提唱したのはカナダ・トロント大学のJenkinsであるが、本論文の筆頭著者を見て少々驚いた。JenkinsがGIに関する最初の論文を報告したのが今から40年前の1981年であるから、はじめは別人かと思ったが、David J.A. Jenkins, Torontoとあるので間違いなく本人である。40年以上にわたって1つのテーマに専心して研究を続けられるところが、やはり欧米の学問の層の厚さである。 GIは、簡単に言えば、「炭水化物を含有する食品摂取後の血中グルコース値の上昇のしやすさ」の指標である。基準食品としてはJenkinsの最初の論文では白パン(white bread)50gが用いられたが、最近ではグルコース50gが用いられることが多い。すなわちGI=試験食品50g摂取後2時間における血糖値上昇曲線下面積/グルコース50g摂取後2時間における血糖値上昇曲線下面積×100となる。いろいろな食品のGI値が知りたい場合にはシドニー大学のサイト「Sydney University Glycemic Index Research Service」が有用である。GI値は食品の調理法や同時に摂取する他の食品の影響を受けるので、細かいGI値を覚える必要はない。一般的に食物繊維の多い食品、精製していない食品、たとえば豆類や全粒穀物は低GI食品であり、逆に白米、うどんやパンなどの精製された穀物や砂糖入り飲料水などは高GI食品に分類される。 これまでに、全粒穀物や食物繊維を多く含む低GI食品を摂取することが糖尿病の発症予防および治療に有用であることが報告されている1)。一方で、低GI食品が心血管疾患の予防に有用か否かはコンセンサスが得られていない。さらにGIと疾患との関連を研究した報告はほとんどが先進欧米諸国からの報告であり、開発途上国からはほとんどない。そこで著者らはGIと心血管疾患との関連を、多くの開発途上国を含んだ国際前向きコホート試験「Prospective Urban Rural Epidemiology(PURE)」において検討した。 炭水化物食品はGI値により7群に分類され、各群のGI値はそれぞれ豆類(legumes)42、豆類を除いたでんぷん質食品(nonlegume starchy foods)93、非でんぷん野菜(non-starchy vegetables)54、果物(fruits)69、果実飲料(fruit juice)68、乳製品(dairy)38、砂糖入り飲料(sugar-sweetened beverages)87、とした。結果は、高GI値群において複合心血管イベント(HR:1.25、95%CI:1.15~1.37)、心血管死(HR:1.25、95%CI:1.05~1.49)が有意に増加していた。一方で、炭水化物の量を反映するglycemic load GL(炭水化物量g×GI/100)と複合心血管イベント(HR:1.07、95%CI:0.98~1.18)、心血管死(HR:1.16、95%CI:0.95~1.42)との間には有意な関連を認めなかった。 本論文の結果によれば、心血管疾患予防を目的とする場合には低炭水化物食(low-carbohydrate diet)ではなく低GI食を推奨するのが良さそうである。しかし低GI食に含まれる食品の多くは、心血管疾患予防に有効とされる地中海食(Mediterranean diet)と重複するものが多い。低GI食による食後高血糖の抑制が心血管イベント減少につながった、と即断するには注意が必要だろう。全粒穀物、豆類、非でんぷん野菜などの低GI食品を日常の食事に積極的に取り入れたバランスの良い食事が最も健康的である、とのきわめて常識的な結果といえよう。

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StageIII大腸がん、FOLFOXへのセレコキシブ追加は?/JAMA

 StageIIIの大腸がん患者において、標準的な術後化学療法FOLFOXに、3年間のCOX-2阻害薬セレコキシブを追加してもプラセボとの比較において、無病生存(DFS)期間の改善について有意差は示されなかった。米国・Dana-Farber/Partners CancerCareのJeffrey A. Meyerhardt氏らが2,526例の患者を対象に行った無作為化試験「CALGB/SWOG 80702試験」の結果を報告した。これまでにアスピリンやCOX-2阻害薬は、大腸ポリープ・がんのリスク低下と関連していることが観察研究や無作為化試験で示されているが、転移のない大腸がんの治療におけるセレコキシブの効果は明らかになっていなかった。JAMA誌2021年4月6日号掲載の報告。FOLFOX 3ヵ月または6ヵ月に、セレコキシブvs.プラセボ追加 CALGB/SWOG(Cancer and Leukemia Group B(Alliance)/Southwest Oncology Group)80702は、米国およびカナダの654の地域・大学医療センターを通じ2×2要因デザイン法を用いて行われた第III相試験で、StageIII大腸がん患者の術後化学療法FOLFOX(フルオロウラシル、ロイコボリン、オキサリプラチン)へのセレコキシブ追加がDFSを改善するかどうかを検討した。 2010年6月~2015年11月に計2,526例のStageIII大腸がん患者が登録され、2020年8月10日までフォローアップを受けた。 被験者は、術後化学療法としてFOLFOX(2週ごと)を3ヵ月または6ヵ月に加えて、セレコキシブ(400mgを1日1回経口、1,263例)またはプラセボ(1,261例)の投与を受けるよう無作為に割り付けられた。 主要評価項目はDFSで、無作為化から再発または全死因死亡で評価した。副次評価項目は、全生存(OS)、有害事象、心血管特異的イベントなどであった。3年DFS率、5年OS率に有意差なし、 無作為化を受けた2,526例は、平均年齢61.0(SD 11)歳、女性1,134例(44.9%)で、2,524例が主要解析に包含された。アドヒアランス(セレコキシブまたはプラセボを2.75年超投与、もしくは再発、死亡、容認できない有害事象の発現まで治療を継続と定義)は、セレコキシブ追加群70.8%、プラセボ群69.9%であった。 追跡期間中央値6年間で再発または死亡は、セレコキシブ追加群337例、プラセボ群363例であった。3年DFS率は、セレコキシブ追加群76.3%、プラセボ群73.4%で有意差は認められなかった(ハザード比[HR]:0.89、95%信頼区間[CI]:0.76~1.03、p=0.12)。また、DFSへのセレコキシブの治療効果は、FOLFOXの割り付け投与期間にかかわらず同等であった(相互作用のp=0.61)。 5年OS率は、セレコキシブ追加群84.3%、プラセボ群81.6%であった(死亡に関するHR:0.86、95%CI:0.72~1.04、p=0.13)。 FOLFOX投与期間中の高血圧症(あらゆる重症度)の発症率は、セレコキシブ追加群14.6%、プラセボ群10.9%であり(p=0.01)、FOLFOX投与後にクレアチニン値がグレード2以上上昇したのは、セレコキシブ追加群1.7%、プラセボ群0.5%であった(p=0.01)。

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