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重症だからこそ…重要度増す非専門機関の役割【東大心不全】

急増する心不全。なかでもいまだ課題が残る重症心不全治療の現状と今後の展開について東京大学循環器内科/重症心不全治療開発講座 波多野 将氏に聞いた。重症心不全治療の現状について教えてください。国内での重症心不全は主に拡張型心筋症を基礎疾患としたケースが多いのが特徴です。これらの患者さんは、内科的治療では完全にコントロールしきれず、最終的には心臓移植が必要となります。国内の心臓移植の最新待機患者数(2018年4月末現在)は674人となっています。最近は新規待機登録患者は毎年150人以上増加していますが、ドナーの数が追い付かず、結果として待機患者数そのものが右肩上がりで増加しています。とはいえ、ドナーも年々増加しています。約20年前の臓器移植法制定当時は提供者本人の生前の書面意思表示と遺族の同意を必須としていたため、心臓移植件数は最大でも年間10件超でした。しかし、2010年の臓器移植法改正で本人の生前の意思が不明確な場合は遺族の同意のみでドナーとなれるようになり、過去2年の心臓移植は年間50件超となりました。限界があるとおっしゃった内科治療の現状について教えてください。日本での重症心不全の内科的治療に関しては、専門施設であっても世界的レベルからはやや距離があると個人的には考えています。欧米での重症心不全の内科的治療は、確固たるエビデンスに基づき、早期に患者の忍容性がある限り高用量のβ遮断薬を投与することが標準治療ですが、日本ではこの考え方が十分に浸透していません。この原因はいくつかあります。1つは欧米人に比べて日本人は小柄であるため、薬物治療全体として高用量投与に慎重な傾向があります。2つ目には重症心不全でのβ遮断薬の投与の仕方次第では、導入初期に逆に悪化させることもあり、そのような経験のある医師は高用量投与に消極的になりがちになります。3つ目として日本でのβ遮断薬の承認用量が欧米の半量以下という点も見逃せないと思います。当院の重症心不全例の基礎疾患で最も多い拡張型心筋症に関して言えば、心不全の病期で最重症のステージDの患者さんの7割は即座に移植待機登録をし、移植までの期間は補助人工心臓を使用します。残る3割は補助人工心臓を用いずに移植待機登録をする場合と移植待機登録しない場合に分けられ、その中でβ遮断薬に反応性がある患者さんでは内科的治療を行います。実際、諦めずに内科的治療を行うことでコントロール可能なケースも存在します。一方、移植待機患者の増加などもあって、近年では植込型補助人工心臓の永久使用に関する是非も検討にあげられているようです。そもそも現在の心臓移植の年齢基準や適応基準などで移植対象外の患者さんもいるため、現在臨床試験も行われています。欧米での重症心不全の内科的治療は、確固たるエビデンスに基づき、早期に患者の忍容性がある限り高用量のβ遮断薬を投与することが標準治療ですが、日本ではこの考え方が十分に浸透していません。当院の事例を説明すると、心臓移植を前提とした植込型補助人工心臓の使用例だけでも現時点で60例超で、その対応だけでも相当なマンパワーを要します。これに加え、将来的に永久使用の患者さんが加わると、新たなマンパワー確保という課題が浮上します。また、マンパワーの視点とは別に、永久使用では医療経済的な観点からも賛否両論があります。ただ、海外ですでに永久使用が認められている現実を考えれば、これを日本でどのように導入していくかという現実的な議論と対策が必要だと思います。やはりドナー不足も含めた心臓移植の現状改善が課題のようですが、その点について改善策があれば教えてください。心臓移植では循環器専門医の中でさえ、現実的治療選択肢と認識されていないことが少なくありません。そのため心臓移植が適応となる潜在患者さんは、現状の移植待機患者さんの数倍は存在すると見込んでいます。心臓移植は適応基準や除外基準がありますが、すでに立派な保険診療で重症心不全患者さんは等しくこの治療を受ける権利があります。まずは、多くの医師にそのことを知っていただきたいと思っています。この認識が広まることは一方で、移植待機患者数の増加をもたらし、ひいてはドナー不足をより深刻化させるのではないかとの懸念もあります。しかし、医師の間で心臓移植が現実的治療選択肢との認識を浸透させることは、実はドナー不足の解消にも貢献すると考えています。というのも、心臓移植の適応となるかもしれない重症心不全患者さんを初めてご紹介いただいた医療機関、ドナーを初めて紹介いただいた医療機関共に一度そのような経験をすると、以後立て続けに患者さんやドナーをご紹介いただけることが多いのです。心臓移植ではドナーからの提供の際、脳死判定が必須で提供医療機関は脳死判定委員会設置などの事前体制の整備が必要です。このため、院内体制が未整備の場合、臨床的脳死例が発生しても脳死判定という次のステップに進めません。ただ、逆に一旦判定の仕組みが整備されれば、その後も継続的に運用ができます。その意味でもやはり心臓移植が重症心不全の治療の1つであり、そのためにはドナーが必要になるという認識が広まることが心臓移植の現状改善のカギになると考えています。最も、そうした認識は、ここ4~5年でかなり浸透してきていると個人的には感じています。実際、心臓移植実施件数も昨年、一昨年とほぼ同じペースです。将来的には心臓移植が年間100件を超える日もそう遠いことではないだろうと考えています。東京大学では今年1月から「高度心不全治療センター」がオープンしましたが、その詳細について教えてください。当院では心臓移植開始後、心臓外科と循環器内科の医師とそれぞれの病棟看護師、移植コーディネーター、薬剤師、理学療法士などによる専任のハートチームができ、これまでさまざまなカンファランスを行うなど、良好な関係は築いてきました。新たに発足したセンターでは、循環器内科20床、心臓外科14床という病床区分はあるものの、このチームが1ヵ所に集約され、理想に近い形になったと考えています。従来は循環器内科で管理している植込型補助人工心臓患者さんのジェネレーター交換が循環器内科の病棟看護師では対応できないため、心臓外科病棟に患者さんを移動させて対応するということなどもありました。また、重症心不全では心臓移植後も免疫抑制薬の服用という新たな治療が始まり、事実上一生治療が続きます。そうした状況を考えれば、センターで一貫した治療を提供できることは患者さんの安心感にはつながると思います。重症心不全治療に当たって専門医以外の先生方にお伝えしたいメッセージがあれば教えてください。重症心不全では、心臓移植実施施設は全国で11施設、成人の植込型補助人工心臓実施施設は2018年5月現在で48施設と限定されています。また、各施設のキャパシティーには限界があり、患者さんの治療や日常管理は1施設で完結できません。実際、当院のような心臓移植施設では、待機患者さんの植込型補助人工心臓の管理などでは他の医療機関と協力していますし、新たな心臓移植施設の立ち上げ時の支援をすることもあります。現在、国内では植込型補助人工心臓患者さんの2年生存率、心臓移植患者さんの10年生存率共に90%を超え、移植手術時の周術期死亡率は5%未満と良好な臨床成績を実現していますが、これを維持・向上させるためには適切な時期での介入を強化することにつきます。重症心不全ではある程度を超えてしまうと、元の状態に戻すことは難しくなるというのが実状なのです。その意味では専門医、非専門医共に植込型補助人工心臓、心臓移植という治療の現状をご理解いただき、各地域内での連携を進めていただきたいと思います。講師紹介

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コントロール不良DMの血糖管理、 SMSによる介入で改善/BMJ

 テキストメッセージ(SMS:short message service)を活用した糖尿病自己管理サポートプログラムは、コントロール不良の成人糖尿病患者の血糖コントロールをわずかだが改善したことが、ニュージーランド・オークランド大学のRosie Dobson氏らによる無作為化試験の結果、示された。高コストで長期にわたる、コントロール不良の糖尿病関連の合併症が増大していることに対し、有効な糖尿病自己管理サポートが求められている。SMSは、自己管理サポートにおいて理想的なツールであるが、これまで糖尿病の自己管理サポートに対する有効性は不明であった。BMJ誌2018年5月17日号掲載の報告。通常ケアに加えてSMS送信介入、9ヵ月時点の血糖コントロールを評価 研究グループは、コントロール不良の成人糖尿病患者において、論理的かつ個別に調整されたテキストメッセージをベースとした、糖尿病自己管理サポート介入(SMS4BG)の有効性を調べるため、ニュージーランドの1次・2次医療サービスにおいて、2群平行群間比較の無作為化試験を9ヵ月間にわたり行った。 被験者は、16歳以上のコントロール不良(HbA1cが65mmol/molまたは8%以上)の1型もしくは2型糖尿病患者366例。2015年6月~2016年11月に、介入群(183例)または対照群(183例)に無作為に割り付けられ追跡を受けた。介入群は、通常ケアに加えて個別に調整されたテキストメッセージのパッケージ送信を9ヵ月間受けた。テキストメッセージで提供されたのは、糖尿病自己管理や生活スタイルに関する情報、サポート、動機付けおよびリマインダーであった。メッセージは、特別に設計された自動コンテンツ管理システムにより送信された。対照群は通常ケアのみを受けた。 主要評価項目は、血糖コントロール(HbA1c)のベースラインから9ヵ月時点での変化であった。副次評価項目は、3ヵ月、6ヵ月時点のHbA1cの変化、および9ヵ月時点の効果の自覚、糖尿病セルフケア行動、糖尿病に対する苦しみ、糖尿病に関する認識と信条、健康関連QOL、糖尿病管理に関する社会的サポートの認知などであった。 ベースラインアウトカム、健康状態カテゴリ、糖尿病タイプ、民族性で補正後の回帰モデルを用いて検討した。通常ケアのみ群と比べてHbA1cは統計的に有意に低下 HbA1cは9ヵ月時点で、介入群(平均-8.85mmol/mol[SD 14.84])が対照群(-3.96mmol/mol[17.02])よりも有意に低下したことが認められた(補正後平均差:-4.23[95%信頼区間[CI]:-7.30~-1.15]、p=0.007)。 21の副次アウトカムについて、9ヵ月時点で介入群の改善が統計的に有意に良好であったのは4つのみで、足のケア(補正後平均差:0.85[95%CI:0.40~1.29]、p<0.001)、全体的な糖尿病サポート(0.26、0.03~0.50、p=0.03)、EQ-5D評価による視覚アナログスケール(4.38、0.44~8.33、p=0.03)、糖尿病の症状の自覚(-0.54、-1.04~-0.03、p=0.04)であった。 SMS4BGに対する満足度は高く、169例中161例(95%)が役に立つと報告しており、164例(97%)が他の糖尿病患者にも勧めたいと思うと報告していた。 結果を踏まえて著者は、「臨床的意味は不明であるが、このような患者集団において、SMS4BGおよび他のテキストメッセージをベースとしたサポートの利用について、さらなる研究を支持する結果であった」とまとめている。

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第4回 育児をする医師は負け組?【宮本研のメディア×ドクターの視座】

第4回 育児をする医師は負け組?ある日の当直中、急性心筋梗塞と判明した外来患者を前に、私は循環器内科のオンコール医師へ急いで電話をかけました。受話器の向こうでは、幼い子供の大きな泣き声が聞こえます。独身の私には事態の深刻さがピンときませんでした。「ああ、分かった、AMIね・・・。今さ、子供を風呂に入れているけど、すぐに行く。○○先生に連絡して、カテの準備を病棟スタッフに頼んで」数十分後、風呂上がりで紅潮した顔の先輩医師が到着すると、長めの髪も乾ききらないまま、心臓カテーテル室へと走って行きました。あれから10年以上が経ち、毎晩、幼い子供たちをお風呂に入れながら、この瞬間にオンコールで呼び出されることが、切実な問題として分かるようになりました。もし妻が不在であったり対応できない時間帯であれば、誰かの助け無しには、夜遅くに子供たちを置いて、病院へ駆けつけることは不可能です。親が慌てて出かける事情が理解できない彼らは大泣きし、相当に厳しい状況となるでしょう。勤務医生活をふり返ると、腎臓内科医が1人体制だった民間病院での7年間は、24時間オンコール体制が毎日続きました。大学や基幹病院よりも呼び出しが少ないとはいえ、朝5時に病棟急変の連絡が入る、深夜1時に緊急透析の判断を問われるといった立場は、精神的に苦しい環境でした。そこに育児が加われば、やっと夜泣きがおさまった子供をオンコールの着信で起こされてしまう。不意の電話は、幼児にとっては恐怖でもあります。「何を軟弱なことを言ってる! それが医者だろう!」という意見もあるかと思いますが、私の父方は100年以上の医師家系で、とくに父が外科医の多忙な日々を送り、オンコールや当直が続き、早々に家庭が崩壊した事実をお伝えしておきます。家族を犠牲にして働くことが、本当に医師の美徳なのか。父親が週末さえもいない中で、母親が「患者さんのために、パパは病院へ行ったんだよ」と言う意味は、高校生になっても理解できませんでした。しかし父と同じく医師になってみると、院内に長時間いる先生が素晴らしい、というデファクト・スタンダード的な見方が、まだあちこちにありました。長時間労働をいとわず、急変時は昼夜を問わずに駆けつけ、床やソファで仮眠を取れば超人的なパフォーマンスを発揮する医師。たびたび身体を壊しつつ、そのような望まれる医師像に挑んできて、「長続きしようがない」というのが私なりの結論です。肉体の老化は年々進み、我が身を満足にメンテナンスできない環境では、医師なりの思考回路も鈍っていく。猛烈なプレッシャーは心身の余裕も破壊します。そして、育児という連続的で多大な負荷は、自宅内での実労働として重くのしかかります。幼い子供は機嫌も体調もグズりも、常に変わり続ける。親の思うとおりにはならないし、真夜中に抱っこしてもずっと泣かれ続ければ、大人の我慢も限界にきてしまう。他人からは見えない修羅場を毎日抱えながら、ハードな医師業も年々レベルアップしろというのは、結構な無茶ぶりでしょう。育児をしている医師、とくに女性は、フルタイム勤務を続けにくい。これは他のビジネスでも同様ですが、最近は多様な支援や代替策を探すことが可能となりつつあります。人員の手当や勤務環境の調整など、医師業よりはかなり柔軟に対応できているのではないでしょうか。育児中の女性社員に優秀なパフォーマンスを発揮してもらうための経営施策は、ハードワーク男性を主戦力としてきた医師業界と比べて、明らかに進歩しているように感じます。けれども、働き方改革における先送りのように、公的な任務を背負う医師業界では、個人の状況は後回しにして、社会的な貢献度合いが優先されやすい。メディア業界で白衣を着用せずに働いてみると、世間一般の理解も医療界としての内部対策も、ともに“不足しっぱなし”であると痛感します。女性に対する「こんなときに妊娠なんて」という言葉は、医師業界でも蔓延するハラスメント行為ですが、きっと今日もどこかで実際に起こっているはず。新卒医師の3分の1以上が女性である時代にもかかわらず、毎日の育児に対する支援や理解、さらに先達たちの発言は不十分です。「忙しくて育児なんて全然しなかったけど、子供たちは奥さんが頑張って育ててくれた」という丸投げ談は、この発想を若い医師へ当てはめること自体、現代のハラスメントになりかねません。ましてや、育児をしている医師はキャリアの負け組だ、というひそかな認識も、医師の働き方が改善しない重大な要因ではないでしょうか。育児はもうひとつの無償労働である。だが、将来の日本を支える人材を懸命に育てる重要な責務でもある。―「オートマチックな育児などない」という声をもっと大きく取り上げ、医師業界に横たわる育児軽視を短期に好転させていくことが、今こそ重要です。

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伏在静脈グラフト病変、DES vs.BMS/Lancet

 新規伏在静脈グラフト(SVG)病変にステントを留置した患者を12ヵ月間追跡した結果、薬剤溶出ステント(DES)とベアメタルステント(BMS)で、アウトカムに有意差はないことが確認された。米国・テキサス大学サウスウエスタン医療センターのEmmanouil S. Brilakis氏らが、新規SVG病変に対するDESとBMSを比較検証した無作為化二重盲検試験「DIVA試験」の結果を報告した。これまで、新規SVG病変に対するステント留置術において、BMSとDESの有効性を比較した研究はほとんどなかった。著者は、「今回の結果は、価格が低いBMSが、安全性や有効性を損なうことなくSVG病変に使用可能であることを示唆しており、米国のようなDESの価格が高い国では経済的に重要な意味がある」とまとめている。Lancet誌オンライン版2018年5月11日号掲載の報告。ステント留置が必要な新規SVG病変を有する患者を退役軍人施設で登録 研究グループは、25ヵ所の米国退役軍人施設において、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を必要とする1ヵ所以上の新規SVG病変(50~99%狭窄、SVG直径2.25~4.5mm)を有する18歳以上の患者を登録し、DES群またはBMS群に1対1の割合で無作為に割り付けた。無作為化は、糖尿病の有無およびPCIを必要とする標的SVG病変の数(1ヵ所または2ヵ所以上)により各参加施設内で層別化して行われた。患者、委託医師、コーディネーター、アウトカム評価者は、割り付けに関して盲検化された。 主要評価項目は、標的血管不全(TVF)(心臓死、標的血管の心筋梗塞、標的血管血行再建術[TVR]の複合エンドポイントと定義)の12ヵ月の発生率で、intention-to-treat解析で検討した。標的血管不全の発生率、DES群17% vs.BMS群19%で有意差なし 2012年1月1日~2015年12月31日に、599例が無作為化され、同意取得が不適切であった2例を除く597例が解析対象となった。患者の平均年齢は68.6歳(SD 7.6)、595例(>99%)が男性であった。ベースラインの患者背景は、両群でほぼ類似していた。 12ヵ月後のTVF発生率は、DES群17%(51/292例)、BMS群19%(58/305例)であった(補正ハザード比:0.92、95%信頼区間[CI]:0.63~1.34、p=0.70)。主要評価項目の構成要素、重篤な有害事象、ステント血栓症の発生についても、両群間で有意差は確認されなかった。目標症例数762例に達する前に、試験への患者登録は中止された。 著者は研究の限界として、退役軍人施設の患者を対象とした試験であるため、ほとんどが男性であること、目標症例数に達する前に試験中止となったことなどを挙げている。

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第3回 いじりの構図【宮本研のメディア×ドクターの視座】

第3回 いじりの構図『上司の「いじり」が許せない』―この書籍名を電車内で目にしたとき、古い記憶が強引に呼び出されるような、嫌な感覚がありました。表紙には『時として「いじり」は「いじめ」よりも残酷なハラスメントになる』とあり、上司からいじられた社員がストレスで嘔吐する様子が、鳥獣戯画のようなイラストで描かれています。私がアラフォーになっても嫌な感覚を拭えないのは、これまでの勤務経験で上級医から実際に「いじられ」、当時は許容しきれないまま我慢していたからです。指導の一環や、患者さんを守るためなど、当事者の言い分はたくさんあるのでしょうが。さらに難しいのは、私自身を含めて、誰かを「いじった」かもしれない可能性です。冗談のつもり、まさかそんな悪い意味で言ったわけじゃない、といった認識で、今日も「いじっている」医師が各地に実在するかもしれません。同書にはSNS経由のインタビューを含めて、会社組織での酷いエピソードが巻頭から並んでいます。読みながら強い吐き気を覚えるほど、信じがたい話の連続です。対面取材だけでないと批判が起こりそうな箇所もありますが、最近の高級官僚や政治家、財界人の不祥事でもわかるように、「おじさんが女性にハラスメントを及ぼす」パターンが多い様相が読み取れます。そして、おじさんの男性管理職・経営者が圧倒的に多い日本においては、年下に対しての「いじり」を誘発しやすい要素があります。医療組織にも、同様の素地が長年存在しているのです。ここで、病院での具体的な場面を想定して考えてみたいと思います。例えば、A医師という患者さんには優しいけれど、部下や看護師などに厳しく応対する人物がいたとします。研究を含めて大学病院で豊富な経歴を積んでおり、医局派遣先病院でもそれなりの発言力を持っている、といった場合です。あるとき、A医師がBさんという病棟看護師に対して飲み会の席で、軽いノリで「恋人はいる?」「結婚はしないの?」と発言しました。普段から指示受けに対して厳しく指導されているBさんは、その場で黙りこむしかありません。A先生はひどく酔っていますから、何も言い返せないと思い、その宴席の間中、恋愛や結婚に関する「いじり」を含めて自由奔放な発言に対応していました。キレたらペアンを投げるくらいの怖い先生であることは、皆が知っているのです。しかし今後も続くかもしれないと不安を感じたB看護師は、病棟のC看護師長へ、この「いじり」の様子を涙ながらに説明したのです。責任感が強いC看護師長は、翌朝にD看護部長へ経緯を報告。副院長を兼務しているD看護部長は、A医師について他部署の看護師からも「いじられた」報告が出ていることを問題視。E院長に対して、所属する大学医局への報告と、Bさんを含めた被害職員への謝罪を要求します。それを聞いたE院長は「寄付を続けてやっと派遣してもらった専門医なので、教授や医局長と揉めると困ります」と、内輪で解決できないかをD看護部長へ相談。こうして、院内では案件が巨大化しながら経営陣が対立し、事務側でもA医師の「いじり」被害者が続々と申し出て・・・・。(あくまでも架空の話です)この例での大きな問題点は、これらの人物の典型的な行動だけでなく、A医師からE院長までの性別や年齢が、なんとなく予想できてしまう点です。皆さんの中で、A医師=中年女性、B看護師=アラサー男性とイメージした方は少ないのではないでしょうか。男女比の偏りが大きい医療専門職では、A医師=中年男性、B看護師=アラサー女性といったイメージが定着し、かつ実際にそのようなケースが多いわけです。こうした役職や職種に対する固定イメージ自体が、部署間の複雑な関係性を生み出したり、禍根を残す院内マネジメントを起こす要素にもなりえます。個人責任だけでなく、社内風土を含む環境要素によって誘発される「いじり」も、同書は鋭く指摘しています。医療現場で働く医師にとっても、一読の価値があると思います。また、とくに他意や悪意はないが伝統的に続けている、独自の「いじり」文化が院内にあるといった場合、誰かを「いじる」ことで組織を安定化させていないかを見直すべきでしょう。多忙な労働環境において、解決が後回しになったまま業績や収益性を優先していると、架空例のような事態が起こりやすいものです。男女比からは、女性医師が被害に遭いやすいはずです。「いじり」が発生しやすい医師の職場環境についても、長時間労働と同じく、議論の俎上に載せるべきではないか、と私は思っています。過去に私は上司や指導医から「いじられた」経験があり、それらの悔しい思いを後輩達へ残さないように振る舞っているにもかかわらず、他医師の「いじり」が結果的に「いじめ」へ繋がり、若手医師が退職していく様子も目撃し、無念であったろう、と思わざるを得ません。メディアとして外からみてみると、医療業界には社会の課題が凝縮して含まれる、と痛感します。「いじり」はその1つですが、非常に深刻な課題なのではないでしょうか。 1)中野円佳著.上司の「いじり」が許せない.講談社 現代新書;2018.

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保険薬局は非営利法人にすべきか?【赤羽根弁護士の「薬剤師的に気になった法律問題」】第1回 

最近、保険薬局が国民の保険料や税金を株主に還元することは問題であり、保険薬局は非営利法人に限定すべきとの主張を聞くことがあります。皆さん知ってのとおり、現在、薬局の多くは株式会社です。この指摘は、株式会社が保険薬局を運営していることに対してのものと考えてよいでしょう。よく、株式会社は誰のものかという議論がありますが、法的な「所有と経営の分離」という考えをもとにすれば、株式会社は株主のものと考えるのが一般的でしょう。だからと言って、株主が株式会社を全面的に自由にできるのではなく、取締役の選任ができたり、利益の分配が受けられたりするという意味です。だからこそ、株式会社は誰のものかという議論になるわけですが。株式会社と薬局法人の併存ならアリ?さて、今回は保険薬局が株主に、国民の保険料や税金を還元することについて指摘がありましたが、これは利益の配当が問題にされています。また、会社を清算した場合、残余財産分配の問題もあるかもしれません。ご存じのとおり、病院などを開設する医療法人は非営利とされ、配当は禁止されています。そのため、薬局も同様に非営利法人とすべきとの主張は以前からありました。取締役への報酬支払いであれば、働くことへの対価と見ることができますが、株主への配当に関して、保険料などが使われるのは適切ではないということなのかもしれません。これまでも、非営利で薬局を行う法人を薬局法人などと呼び話題になったことがありました。保険調剤だけに限るのであればそのような考えもわかりやすいですが、一般的な薬局では保険調剤と別に一般用医薬品の販売なども行っていますし、株式会社であるため、その他の事業を行っている場合も多くあります。薬局は、以前から小売りの一面があり、昨今言われる「健康サポート薬局」などの考えが進んでいけば、保険調剤だけでは完結しないでしょう。そう考えると、保険薬局を原則非営利として、医療事業などだけを行う医療法人のように、業務を限定するのは難しいかもしれません。そういう意味では、現在の保険薬局が保険調剤のみを行っているように見られているからこその指摘とも言えそうです。また、実際に、すでにこれだけ多くの株式会社が経営している保険薬局を、すべて非営利にするのはなかなか難しいように思いますし、思い切った規制をすると法的にも問題がありそうので、実現するのは容易ではありません。そのため、すぐに薬局法人などの議論が具体的に開始するとは思えませんが、既存の株式会社は据え置きと認めた上で、今後、法人の一形態として薬局法人なるものが認められる可能性はあるかもしれません。調剤報酬改定では、大手チェーン全体の収益を下げるような動きもあるようですが、営利がだめと言うなら、中小も大手も本来は関係がなく、全保険薬局の問題とも思えます。今後、どれだけ大きな議論になるかはわかりませんが、動きに注目しておいてもよいかもしれません。

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第2回 医業は書く仕事【宮本研のメディア×ドクターの視座】

第2回 医業は書く仕事医師は、相手に何かを伝える職業です。医学知識を駆使して言葉を発し、必要な文章を書き、身体表現を含めて周囲へ伝えながら、臨床や研究に従事しています。とくに臨床医の場合、診療中は患者や家族へ伝える作業がひたすら続きます。病状を聞き取り、治療経過を思考回路に載せながら伝え直す。日々の猛烈な作業量のうち、相手に医療を理解してもらうために伝達のウェイトが高くなります。ともに働く看護師や薬剤師などに対しても、適切な判断や行うべき処置を伝え続けなければいけません。口数が少ない医師でも、責任をもって指示した事実がないと、周囲のスタッフが動き出せない事態が多くあるのではないでしょうか。人に何かを伝えようとした時、聞き手や読み手が何をもって理解するかを、十分に想定しておく必要があります。とくに口頭では、同じ用語やシチュエーションだとしても、伝えるニュアンスや状況が異なれば、違う意味に解釈される可能性が高くなります。けれども、カルテや検査伝票に文字として記す行為は、相手への伝わりやすさを文字によって証明でき、治療経過を通じて、誰からもわかりやすい要素です。書く努力を地道に続けていけば、個性を活かしながら自分の揺るぎないスキルとして磨き上げることができます。私は研修医のとき、受け持ち患者の紙カルテを、A4用紙で毎日1ページほど手書きしていました。細かい文字であらゆる事を順番に書きこみ、SOAPがどんどん膨らんでいきました。今日の事実をちゃんと書き残したいという想いが強かったのです。ところが、私のカルテを読んだ指導医は一言、「これは書き過ぎ・・・」と素っ気ない。入院サマリーでは字数を大きく削るわけですから、日々の経過をただ書きとめているだけでは、病状の重要点がわからないというわけです。「カルテは日記みたいに書くな」というシンプルな指摘は、時間が経ってみると納得できる重要な教訓でした。その後も主治医や当直医として、数え切れないカルテを書きました。余計なことを書かず、でも大切なことは書き漏らさない。記載が簡潔で、治療方針もまとまっている上司のカルテを空き時間に読んでは、そのエッセンスをこっそり学んできました。伝えるという意味で、手書きの場合は、とにかく誰からも判読できる字で書くことも重要です。「読めないカルテは、書いていないのと同じ」という指摘は、1学年上の研修医から教えてもらいました。臨床現場にいると、忙しさを理由に手を抜きたくなりがちですが、きちんとした文字で書くことは判断の正しさを証明する理由にもなります。「あの先生の指示書、字が汚くて読めない」という場合、解読するスタッフや部下のモチベーションも下がります。カルテの翻訳担当者が必要という場合、何も書いていないのと同じです。もちろん喋る場合でも色々な注意が必要ですが、口頭で聞いた内容は部分的な記憶になりがちで、雰囲気や意図は残りにくい。口頭では脳内で要点だけが記憶に収納され、完全には再現されません。若手時代のカルテを読み直すと、自分自身の変化を実感するだけでなく、当時の喋り方や職場の雰囲気も思い出すでしょう。医師は医業を行うために相手へ情報を伝えていく中で、「過去の自分自身に対しても何かを伝えようとしている」と、私は考えています。こうしてケアネットに加わり、メディア側の仕事をしていると、医師として独自に培った知見が役立つ場合が多い。臨床医としての雑多な経験が、ビジネスでもおおいに役立っています。苦労してきた過去の自分にも、先輩として言い聞かせているような感覚があるのです。昔の自分が書き残した文章が残っているのであれば、再読してみることをお勧めします。気が付かなかった“何か”を、今の自分であれば理解することができるはずです。迷いや不安を乗り越えた経験を思い出し、現在までのキャリアに至った道を再認識できることでしょう。若手医師であれば、これからの仕事において、書き残すことの重要性をとくに意識しましょう。電子カルテが普及してコピペが容易な労働環境になりましたが、本質的に伝える仕事であるのを軽視しないようにしてほしいと思います。コピペを多用して自らの意見で書き残さないことを繰り返していると、後になって院内での個人的評判に影響することも考えられます。短い時間内で一気に情報をアウトプットできるのは、厳しい鍛錬を経た医師の素晴らしい特性です。そして自然と身に付くより、努力して獲得するほうが後日の成長に繋がるはず。こうしてメディアの世界から医業を振り返ると、書くことを含めた医師の総合スキルは、ビジネスの世界と比較しても高度です。皆で見直すことで、自分の確かな足跡を納得できる良いきっかけになるのではないでしょうか。今日のカルテ、どのように記載しましたか?

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循環器内科 米国臨床留学記 第28回

第28回 米国でのトレーニング後の進路米国で臨床留学をした人たちにとって悩ましいのはその後の進路です。ほとんどの日本人医師は米国臨床留学をJ1 clinical visa(臨床用のJ1 clinical visa)で行っています。J visaはいわゆるトレーニング用のビザでレジデンシーやフェローの間、延長することができ、基本7年間まで延長して使用することができます。私の専門の循環器・不整脈は内科の中でも最もトレーニングが長く、3年の内科、3年の循環器に加えて2年の不整脈(EP)で合計8年となりますが、ECFMG(Educational Commission for Foreign Medical Graduates:外国医学部卒業生のための教育委員会)という団体に申請をすれば8年目まで延長が可能となりました。レジデンシーやフェローシップトレーニングを終えた日本人の選択肢は日本への帰国かattending doctor(指導医)として米国に残るかの二択となります。2 years rule外国人医師がJ visaでトレーニングを終えた後は基本的に2年間の本国への帰国が義務付けられています。これを終えない限り、グリーンカード(永住権)の申請もできません。これはJ visaの保持者は米国にトレーニング目的で来ているため、米国で学んだことを出身国へ還元する必要があるという解釈に基づいています。多くのインド人やパキスタン人は、端から移住目的で来ており、自国へ帰るつもりなどはありませんので、最初から帰国する必要がないH visaというものを使うか、J waiver(後述)を用いて米国に残っています。本国に2年帰った後、再渡米することも可能ですが、物理的に本国へ帰れない医師もたくさんいます。シリアやイラク出身の友人たちは治安が問題で帰国が困難です。また、米国で結婚してしまい、宗教、治安上の理由などで配偶者を自国に連れて帰ることができないこともあります。治安には問題のない日本人ですが、一度米国を出ると就職活動が難しく、再度ビザの取得が必要となり、就職で大変不利となります。ですから、日本人でもトレーニング後、そのまま米国に残る医師が結構います。その場合、J waiverを行う必要があります。J waiverとはwaiverとは権利を放棄するという意味ですが、この場合2年間の帰国義務を免除してもらうという意味になります。その代わりにunderserved area と言われる米国でも医師が少ない地域やVA(退役軍人病院)などで働くことが義務付けられます。Conrad 30 Waiver Programという法律があり、各州のState Medical Board(医療を管轄する公的部門、厚労省に値する)にwaiverが必要な外国人30人ずつをスポンサーする権利が与えられています。医師が足りない地域で主に必要なのは、プライマリケアやホスピタリスト、小児科医などですので、30のポジションは優先的にこれらの分野の医師に割り当てられます。たとえば、人気の高いカリフォルニアやニューヨークでは循環器などの専門医にConrad 30の余りが回ってくる可能性は非常に低いため、専門性の高い分野の医師がカリフォルニアでwaiverを行うことはほぼ不可能です。J waiverで3年過ごした後はグリーンカードの申請が可能となります。waiver以外の手段O visaというものを用いて、一時的にwaiverを免れることは可能です。O visaは、大学などの機関では、科学、芸術、教育、ビジネス、またはスポーツの分野で「卓越した能力を有する者」に発給されるビザで、医師の場合は、論文などを発表していることが必要となります。実際のところは、研究や論文の実績がそれほどなくても、その分野で有名な 医師からの推薦状などがあれば残れるようです。O visaは1年ごとに何度も更新できますが、waiverを免れることはできないので、グリーンカードの取得前には結局O visaからJ waiverに戻る必要があります。トレーニング後の日本人医師日本以外の諸外国から来ている医師のほとんどはアメリカに残ります。その大きな理由が収入だと思われます。正確なデータがないので詳細はわかりませんが、日本人医師の1/3から1/2ほどはトレーニング後、すぐに帰国していると思われます。元々、日本の教育に還元しようという思いで来ている先生方は、指導医とならずに研修終了後にすぐに帰っているようです。一方で、研究のやりやすさ、生活と仕事のバランスの良さ、そして給料の高さ(どの分野でも米国の医師の給料は日本の医師より高いと思われます)などが理由で米国に残る先生もたくさんいます。また、米国でのトレーニングの経験が必ずしも日本で評価されないという点も帰国をためらう理由として挙げられます。医局に所属せずに留学している先生がほとんどであり、その場合、新たに医局に入るか、市中病院に戻るしかありません。臨床留学経験者を好んで採用する病院は少数であり、留学経験を評価してくれる受け入れ先を見つけるのは容易ではありません。とは言っても、米国臨床留学後、日本より高い割合で自分の国に戻るという国はないと思います。これは、医療の面に限らず、日本が素晴らしい国であることの証明だと思います。日本に帰るたびに、公私を問わず、日本の優れたサービスに感銘を受けます。私も8年米国に住みましたが、生活全般における米国のいい加減なシステムや医療費の高さなど不満は尽きません。高過ぎる医療費が主な原因ですが、アメリカで臨床を行っている医師ですら、アメリカでは病院に行きたくないと異口同音に言います。また、家庭の事情(家族が帰国を希望、子供を日本で育てたいなど)も大きいと思われます。文化の違いですからやむを得ませんが、ガムを噛みながらラウンドをするレジデントなどを見るたびに、米国で自分の子供を育て続けることに不安を覚えます。家族の希望、収入面、日本での就職先など、さまざまなことを考慮しなければならず、 トレーニング修了後、いつ帰国するかというのはどの家庭にとっても非常に難しい問題です。

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患者安全「東京宣言」【Dr. 中島の 新・徒然草】(217)

二百十七の段 患者安全「東京宣言」先日、4月13日、14日と東京で行われた第3回閣僚級世界患者安全サミットに出席してきました。とはいえ、自分が何かしゃべったわけではなく、女房が発表するので、その応援兼カバン持ちとしての参加です。このサミットは患者安全を推進しようという世界中の国が一堂に会して議論を行うもので、第1回と第2回はそれぞれ言いだしっぺのイギリスとドイツで行われ、第3回となる今年は東京が開催地となりました。参加したのは40ヵ国以上からの閣僚や医療安全の専門家と、10いくつかの国際機関、国際組織の代表です。初日の4月13日は専門家の会合で、高齢者医療やICT(information and communication technology)など、いくつかのテーマに沿って各国からの発表と討議が行われました。キーワードとしては、UHCとLMICがしきりに使われていました。UHCというのは Universal Health Coverage、つまり皆保険のことです。日本は1961年にこれを達成しており、われわれは当然のことと感じていますが、世界のほとんどの国が皆保険にはほど遠いのが現状です。もう1つのLMICというのは Low and Middle Income Countries の略で、低中所得国家の意味です。国民皆保険の実現には、そもそも国自体の経済的余裕が必要ですが、低中所得国家だからといって達成の努力を怠ってはならないのは当然です。討論は5つのセッションに分かれて行われましたが、結論としては、(1)国民皆保険を達成しようとする最初の段階から患者安全をシステムに組み込むべし(2)プライマリ・ケアから高度先進医療に至るまで、いかなる場においても患者安全を目指すべし(3)患者自身も患者安全達成に参加すべし(4)ICTを患者安全の実現に活用すべしといった所です。興味深く感じたのは、先進国であるか否か、資本主義か共産主義かにかかわらず、そしておそらくは宗教の違いにも関係なく、患者安全というのは世界中の国がなかなか達成できない巨大な問題だということです。医療従事者の汗と涙はどこでも同じだな、と思わされました。2日目の4月14日は会場のセッティングが一変し、前方のテーブルの上に各国の国旗が飾られて華やかな雰囲気でした。各国代表の後ろ側に国際機関の代表の席が用意され、われわれ観客はそのまた後ろでした。会場の前方では各国の閣僚や高官などが親しげに談笑しており、「この人たちが世の中を動かしているのか!」と圧倒される思いでした。まずは専門家たちからの各国閣僚への報告です。ところが、ここで大きく時間がとられてしまい、その後の進行に影響してしまったのです。「厳密に3分以内にお願いします」と司会が念を押したにもかかわらず、後に続く各国閣僚からの挨拶やメッセージの出来はさまざまでした。7分以上もしゃべっている人もいれば、きれいに3分で終えて「これこそ医療安全の原点です!」と司会を感激させた人もいました。大臣や高官とはいえ、スピーチの上手い下手はそれぞれです。必ずしも英語の能力だけの問題ではなく、言いたいことが明瞭か、観客に分かりやすくシンプルに話しているか、などで大きく差がついていました。「さすが!」と思わされたのは写真撮影です。50人ほどの要人たちがビシッと笑顔で整列し、数分間微動だにしませんでした。にもかかわらず観客たちが前に詰めかけてそれぞれに素人写真を撮ろうとするものだから大混乱。マイクが「前の人は場所をあけて下さい。公式写真が撮れません!」と繰り返してアナウンスしていたのは笑いました。という私もスマホで撮影していた1人です。どうもすみません。途中休憩を挟んで、後半は国際機関や国際組織の代表からのメッセージで、今度は1人2分に制限されてしまいました。こちらは普段から医療の分野に携わっているだけあってしゃべりが上手い! なかにはものすごくシャープな英語で1分59秒にまとめた人もいて、しかも日本人だったので仰天しました。世の中には名人達人がいるものです。最後に加藤勝信厚生労働大臣が2日間の討論をまとめた「東京宣言」のドラフトを発表しました。中身は先に述べた(1)~(4)に相当するものでしたが、それに加えて「9月17日を『世界患者安全の日』としたい」ということと、「現場の医療従事者の労働環境の改善も宣言の中に盛り込みたい」といった意味のことを述べられ、会場全体が感動に包まれつつ閉幕を迎えました。私にとっては「〇〇宣言というのはこうやって作られるのか」と、これまで知らなかった世界をカイマ見ることのできた2日間でした。読者の皆さまも、これからこの「東京宣言」を目にする機会があるかと思いますが、「へえ、このような事があったのか!」と感じていただければ幸いです。最後に1句安全は みんなの願い いつの日も

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第1回 医師たちの転職事情【宮本研のメディア×ドクターの視座】

第1回 医師たちの転職事情「転職エージェントって、どんな感じ?」私自身も利用してみて、初めてその実態を知りました。あくまでも過去の経験談ですが、普段の診療では出会う機会もなかったですし、エージェントたちの詳しい素性は今でもよく分からないままです。「そんな赤の他人に、貴重な医師人生を預けて大丈夫なの?」というのが、一般的な感覚ではないでしょうか。これまで、私は10社前後の医師転職エージェントと面会しました。実際の転職に至ったのは、1社のみです。そして転職後に、もっと実態を知っておくべきであった・・・、という少しの後悔も抱きました。Aという医療機関からBという医療機関へ転職する際、転職者の希望とBの雇用条件を調整するのが、エージェントの仕事。入職後までのフォローを含めて、年収の一定割合を紹介料として受け取るのが普通です。高年収の医師を成約させれば、結構な金額の紹介料になると言われています。エージェントはあくまでも、次のBという医療機関への道案内役です。勤務中の医療機関Aとの退職交渉は、転職者自身が行う必要があります。 被雇用者なのですから当然とも言えますが、医師の場合は気軽に「辞めます」と決断できない事情が多いものです。「専門医が院内に自分しかいない」「辞めた後の交代医が見つからないかも」「患者さんやスタッフには何と説明しよう」等々…。考え出したら、それこそキリがありません。つまり、転職というのは勤務医にとって、(1)現勤務先Aとの退職交渉(2)医局派遣の場合は、医局との交渉(退局を含む)(3)初めて出会う、転職エージェントとの事前相談(4)複数依頼の場合は、エージェントたちの能力や条件の見極め(5)転職先候補B〜B’との、エージェントを介した事前交渉(6)家族を含むプライベート要因の整理、合意形成(7)転職先Bとの面談交渉(8)エージェントを介した、最終的なB雇用条件の合意(9)現勤務先Aへの退職届(10)転職先Bへの入職関係書類の提出と、ざっくり言っても、これくらいの手間がかかります。場合によっては、現勤務先Aと決裂して「もう辞める!」となってから、転職活動を開始することもあるでしょう。幸い、医師求人は常勤だけで1万人以上あると言われますから、選り好みしなければ、どこかには転職可能です。では、このような転職活動は、医師に幸せをもたらすのでしょうか? AからBに移籍したら、目指した通りの年収や待遇を得て、充実した医師キャリアを送れるのでしょうか?大学関連以外に、民間医療機関を3ヵ所経験してみて、「転職が最終ゴールではない」というのが私なりの結論です。そもそも、入職前に転職先Bが提示してきた雇用条件こそ、当該年において転職先Bの経営上で有利な内容だと、ほとんどの医師は知りません。もっと簡単に言えば、転職先は経営上に損が出ないような条件を、転職希望の医師に提示します。私も想像しきれていなかったのですが、「人買い」に近い発想が、医師転職の世界にはまだまだ存在します。年収条件に幅がある場合、「先生の専門性や能力によって高い年収を提示できます」という釈明をしていますが、この幅は何か? これは、転職先の医療機関側が譲歩する余地というよりも、「どれだけもっと安く、ちゃんと働く医師を採用できるか」という意味です。経営上の都合ですから、翌年以降の年俸交渉で急に態度が厳しくなることも十分にありえます。エージェントも初対面、転職先Bに行っても初対面の経営者たち。転職前に社交辞令が織り交ぜられるのは当然であって、いろいろな事実を新しい勤務先Bの中で、後から知ることになります。何かが一方的に悪いとか、騙されたとかいう訳ではなく、転職市場にはメリットもデメリットも混在しているということです。しかし医療現場で忙しいと、こうした実際の転職事情を学ぶチャンスがなく、先輩や後輩の成功談を耳にして、「上手くいくはずバイアス」がかかっていたりします。 最終責任は転職を決意した自分自身にあるのですが、意外とこの単純な事実関係を、認識できていない場合も多いのではないでしょうか。当連載では、臨床とビジネスの世界を並走しているチーフ・メディカル・オフィサーの視点から、色々なお話をしていきます。医師であれば、こっそり知っておいても損はないと思います。

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汗だく対応、再び【Dr. 中島の 新・徒然草】(216)

二百十六の段 汗だく対応、再び前回は中国人相手に筆談で頑張った話でした。今回は英語をしゃべる人たち相手の苦労話。とにかく外国人が続きます。看護師「発熱の外国人ですけど通訳も一緒なんで大丈夫ですよね」中島「今日は研修医も一緒やし、ちょうどええがな(えらいことになってもた! )」ということで、日本人の通訳を含む女性4人組が診察室にやってきました。通訳「あの、私は専門用語とか全然分からないですから(泣)」中島「とにかく力を合わせて頑張りましょう」通訳「よ、よろしくお願いします」患者さんは50歳代の黒人女性です。日本を旅行している途中に熱が出たとか。中島「私はドクター・ナカジーマです」患者「ハ~イ」中島「こちらは研修医で、私はそのメンターです」一同「おおーっ」私は研修医が一緒の時は必ず患者さんに紹介するようにしています。でも、メンターってのは「師匠」とかそんな意味なので、言い過ぎだったかも。中島「おっとメンターじゃなくてトレーナーです」一同「おおーっ」中島「・・・(ほんまに通じているのかな? )」患者さんの友人らしき白人女性が説明を始めます。友人「熱が出たから薬を飲んだのよ」中島「ほう、何という名前の薬ですか? 」友人「ただの over-the-counter よ。タイレノールみたいな」中島「なるほど」後で聞いたところによると、この人はナースだそうです。患者「ちょっと待って。この薬よ、お見せするわ」そう言いながら彼女がバッグから探り出したのは薬ではなくチョコバーでした。中島「何だこれは! 」患者「ああーっ! 間違えた」中島「こんなモンが出てくるとは、さてはアメリカ人だな」患者「ギャハハ、当たりっ! 」中島「アメリカのどこ? 」患者「テキサスよ」友人「私はカリフォルニア」こんな賑やかな人たちは英語圏の中でもアメリカ人しかあり得ません。中島「まあアメリカ人にとってはチョコバーこそ薬だな」一同「アハハ、そりゃそうだ! 」いろいろ病歴を尋ねると、どうやら尿路感染のようでした。CVA叩打痛もあるので甘く見るわけにはいきません。中島「ともかく、培養検体をとってから」通訳「culture? 何ですか、それ」彼女は慌ててスマホで調べ始めます。中島「抗菌薬を使います」友人 「何使うの? 」中島「ペニシリンかな」友人 「合格よ! 」何とか落第せずに済んだみたいです。患者「何でペニシリン? 」中島「尿路感染の原因で多いのは大腸菌と腸球菌だからね。両方に効かせようとするとペニシリンが無難なわけ」患者「大腸菌? 腸球菌? 」さすがに医学用語は分からないみたいなので、紙に書いてあげました。中島「入院してもらうのが1番いいのだけど」一同 「ダメダメ、これから東京に行くし、その後は帰国するから」中島「あらら」患者 「ねっ、一緒に写真撮っていい? 」中島「いいけど」患者 「先生も入ってよ」研修医「私もですか」患者 「そうそう」病院に来るというのも観光の一環なのでしょうか。通訳「皆さん、仏教徒なんです」中島「そうだったんですか! 」彼女は日本を本拠地とする宗教団体の名前をあげました。年齢も人種もバラバラな人達だけど、宗教が結びつけていたというわけです。そう言われれば、あまりスレていない気もします。そんなこんなで、外来で抗菌薬を点滴してから経口薬を処方しました。中島「普通は処方箋を出して調剤薬局に行ってもらうのですけど、大変そうだから院内で薬を受け取れるようにしときましょうか? 」通訳「ぜひお願いします! 」患者「アメリカも日本みたいに洗練されたシステムだったらいいのになあ。職員は皆さん親切だし」苦労はしたものの何とか日本に好印象を持ってもらうことに成功しました。でも、外国人相手だとすべての医療行為に説明を求められるし、言葉の壁はあるし、汗だくです。いつの間にか研修医を放置してしまっていました。ここはなんとか指導らしいことをしなくてはなりません。中島「英語がうまくなる方法を伝授しようか? 」研修医「ぜひ教えてください」中島「まず、外国人相手に苦労する」研修医「は? 」中島「こんなことではだめだ! と思って必死に努力する」研修医「なるほど」中島「2ヵ月もしたらモチベーションが落ちる」研修医「はい」中島「再び外国人相手に恥をかいてモチベーションをあげる」研修医「はあ」中島「要するに2ヵ月ごとに恥をかくのが大切なんや」できもせんのに何を偉そうに、と自分でもあきれてしまいます。ま、指導なんてものは自分のことを棚に上げるところから始まるものなんでしょうね。ということで最後に1句恥かけば 英語上達 待ったなし

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不動産は資産の王様【医師のためのお金の話】第6回

不動産は資産の王様こんにちは、自由気ままな整形外科医です。前回までは、忙しい医師であっても実践できる株式投資方法についてお話ししました。「投資=株式などの金融資産投資」と思っている方が多いと思います。しかし、経済的に自由な状況に到達するためには、避けて通れないものがあります。そう、それは「不動産」です。不動産は資産の王様昔から不動産は、資産の「王様」として君臨しています。世界的に有名な不動産投資家であるドルフ・デ・ルース氏の著書に、『世界の不動産投資王が明かす お金持ちになれる「超」不動産投資のすすめ』( 東洋経済新報社)があります。ドルフ・デ・ルース氏はこの書籍の中で、「日本を含めた世界中の富裕層で、不動産と関わりのない人はほとんどいない」と述べています。彼自身が独学で富裕層研究を行った結果、次のような結論に達しました。何らかの方法で富裕層に到達した後、資産の保全のために不動産を活用している不動産経営(投資)を行い、財を築いて富裕層に到達したこのことに関しては、洋の東西や時代を問わず普遍の事実のようです。まさに、不動産は資産の「王様」なのです。不動産投資のメリット不動産を所有することで得られる賃料収入は安定的です。毎月決まった賃料が入ってくるので、継続的に収入を得ることができます。このように、一度顧客が付くと継続的に収入を確保できる形態を、「ストック型ビジネス」といいます。その代表例として、電力・ガス事業、鉄道事業、通信事業、医療事業が挙げられます。そして、不動産賃貸業も典型的なストック型ビジネスです。一方、その都度の取引で収入を得ている形態を、「フロー型ビジネス」といいます。フロー型ビジネスのフロー(flow)は流れという意味です。フロー型ビジネスの代表例としては、居酒屋やレストランなどの飲食店、コンビニエンスストアなどの小売店が挙げられます。フロー型ビジネスは各顧客との取引が一度きりであるため、顧客から継続的な収益を得ることができません。収入が安定しにくいのがフロー型ビジネスの特徴です。ビジネスモデルとしての安定度は、ストック型ビジネス>フロー型ビジネスとなります。不動産投資のメリットはたくさんありますが、一度賃借人を確保してしまえば、何もしなくても毎月のように賃料収入があることが最大のメリットです。また、不動産は時価で売却することも可能です。そういう意味では、不動産はお金が実物資産に変化したものと考えることも可能です。さらに、不動産を売却しなくても、不動産を担保にして銀行から融資を受けることもできます。まるで不動産は銀行のATMのようですね。このような理由から、不動産は資産形成を行ううえで必要不可欠な存在といえます。不動産投資の注意点一般的に不動産は高額な商品です。株式や仮想通貨のように、数万円ほどのお小遣いを使って投資する、といった芸当はできません。このため、「投資」といえども物件の目利き能力や不動産の運営能力を習得する必要があります。医師の場合は高属性を利用できるため、その気になればいきなり1億円を超えるような収益1棟マンションを購入できることもあります。しかし、ほぼ満額に近い金額を銀行融資で賄う場合には、うまく運営しないと破綻してしまう危険性が高まります。このため、事前に不動産投資手法を勉強することが必須といえるでしょう。

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意外にも中高齢層にフィット、糖尿病診療でのスマホアプリ活用

 糖尿病患者の“自己管理ノート”としてのスマホアプリの活用は、医療者・患者双方にとってどのようなメリットがあるのか。2018年3月3日、「第52回 糖尿病学の進歩」において「リアルワールドデータによる糖尿病治療の最前線~PHR(パーソナルヘルスレコード)や検査データを活用した新しい診療の実際と展望~」と題したランチョンセミナーが開催された(共催:株式会社ウェルビー/株式会社エスアールエル)。セミナーでは木村 那智氏(医療法人純正会ソレイユ千種クリニック 院長)が登壇。アプリ「Welbyマイカルテ」を主に2型糖尿病患者の診療に取り入れ約3年が経過した中での、使用感やメリットについて紹介した。スタンプ機能で、負担感なく密にコミュニケーション 「Welbyマイカルテ」は、生活習慣病患者を対象とした、血糖値や血圧などの自己管理を支援するスマートフォン向けアプリ。データは手入力のほか、カメラを使った撮影や、血圧計、血糖測定器、体組成計など主要メーカーの機器からの自動取得が可能だ。これらのデータは患者、患者家族、医療者の間で共有でき、コメント機能やスタンプによるコミュニケーションが可能となっている。 2015年の提供開始以来、約22万人が登録しており、木村氏は「患者さんは無料でダウンロード・利用開始でき、使い方も薄いパンフレットで理解できる簡単なもの」と語る。木村氏のクリニックでは、患者が記録した内容を見た医師や看護師がコメントを返すほか、「がんばったね!」という意味でスタンプを送信することも多いという。「LINEのスタンプ機能と同じで、医療者側は一つひとつコメントを入力しなくても簡単に声掛けができ、患者さんにとってはちゃんと見守ってもらえているという安心感につながる」と話した。 同アプリは医療機関との連携を行わず、患者個人として利用することもできるが、ウェルビー社が行った調査によると、医療機関と連携している場合、3ヵ月後の継続率が約5倍となったという。木村氏は「もちろん、“監視されているようでいや”という人もいるので、全員にフィットするわけではない。しかし、患者さんのモチベーションが治療に大きな影響を及ぼす糖尿病診療において、モチベーション維持や行動変容を促す有効なツールの1つであることは間違いない」と語り、食事内容を毎回撮影するなどアプリの使用に“ハマり”、生活習慣が改善されて結果的に体重減少、血糖値低下につながった40代男性の症例を紹介した。継続率が高いのは中高齢層 スマホアプリというと、どうしても若い人向けという印象を持たれがちだが、木村氏は「逆に若い人のほうが続かない傾向がある。“これを機にスマホに変えた”という中高齢層は、孫や子供たちとの会話のきっかけにもなり、嬉々として使ってもらえることが多い」と話す。実際に同社が行った調査では、年齢が上がるほど継続率が高まり、50代以上のユーザーの利用率が高かった。聴取時間は圧倒的に短縮、思いがけない問題点がみつかることも もう1つ、アプリを診療へ取り入れることへの懸念としてよく聞かれるのは、「使い方を教える手間や時間が掛かるし、病院側のメリットがないのでは」というものだが、木村氏は「あらかじめ生活習慣や食事内容がわかるため、聴取時間は短縮し、栄養指導や診察が効率化する」と話す。また、本人はよかれと思ってやっていることが、実は間違った知識だったということも多く、「診察室での聴取だけでは見えてこない改善点がみつかる場合もある」と話した。 同社は今回、株式会社エスアールエルが提供する医師向け検査結果参照システム「PLANET NEXT」と同アプリの連携をスタートさせ、医師は検査結果とPHRを参照できるようになった。また今後、患者もスマートフォンのアプリで検査結果を参照できるようになることから、木村氏は「患者さんがほかの病院や薬局で自分の検査値と自己管理データを見せられるようになると、より効率的な治療が可能になり、患者さん自身の行動変容にもつながるだろう」と述べ、期待感を示した。「通常、次は数週間、数ヵ月後の診察予約となるところを、こういったツールの活用で頻繁に状況をモニタリングできる。対面診療にオンラインツールを加えることは難しいことではなく、いまや普通の道具を、普通に活用することに過ぎない。正確な情報と適切なフォローアップで患者さんはどんどん進化していくので、積極的に活用していってほしい」とまとめた。■参考株式会社ウェルビー「Welbyマイカルテ」

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志水太郎の診断戦略エッセンス

第1回 なぜ今、診断戦略か? 第2回 2つの思考プロセス 第3回 診断力をどう鍛えるか? 第4回 診断の型のイノベーション 第5回 病歴の技法 第6回 注意すべきいくつかの戦術的要所 第7回 難症例に打ち勝つ戦術 すべての医師が診断の力を伸ばすために、診断に至るまでの医師の思考プロセスを見える化できないか?総合診療医 志水太郎氏は医師が無意識下で行っている診断の思考過程を言語化することで、それを「型」として、意識的に使えるもの、訓練できるものにしました。この番組では質の高い診断を効率的に行うためのアイデアや、診断エラーを減らす方策、病歴の技法、そして診断力を鍛えるための訓練方法を紹介します。志水氏のこの診断学イノベーションに触れることで、明日からの診断の精度が確実に向上することをお約束します!第1回 なぜ今、診断戦略か? 若手Dr.の支持を集める診断学の「ニューバイブル」を映像化!「診断」というものを独自のアプローチで捉え直した書として注目された「診断戦略」(医学書院)。医師が無意識的に行っていた診断に至るプロセスを言語化することで、意識的に、効率的にその精度を向上させることができる、まさに診断学イノベーション!本番組では著者である志水太郎先生がその本質と、診断力をアップする具体的な方法について解説します!第2回 2つの思考プロセス 診断戦略の世界へようこそ。医師が操る直観的思考と分析的思考。この思考パターンの見える化こそが、診断の精度をアップするための第1歩。診断プロセスを意識することで、自身の診断能力を鍛えることができるんです。今回は実際の症例のなかで、ひらめきである直観的思考と分析的思考による推論に挑戦。診断戦略の凄みを体験してください!第3回 診断力をどう鍛えるか? 診断力は、直観的思考の洗練に加え、活用できる分析的思考の種類がどれだけあるかがカギ。分析的思考のための具体的なツールであるアルゴリズム、ベイズの定理、スコアリングシステム、フレームワーク。このなかで自分なりの手堅い戦略の型を持っておくことが鑑別診断を進める際の高い機動力に繋がります。番組内では志水先生が日常的に使うフレームワーク“MEDICINE”を紹介!第4回 診断の型のイノベーション 知れば使いたくなる新しい診断戦略を伝授します。鑑別診断という答えをどう追い詰めて明らかにするか。診断力をアップする鍵は、これまでとはまったく異なるアプローチかもしれません。今回は、直観と分析の合わせ技「Pivot&Cluster」や、疾患群の網を重ねていく「Mesh Layers」など、今日からの診断の質が変わる、具体的な方法をご紹介します!第5回 病歴の技法 検査値、画像、身体所見―医師は様々な情報から診断を導き出す。その中でもとくに重要な意味を持つのは病歴聴取。志水太郎先生が日々の問診で大切にしているのは”4つのC”と"BEOアプローチ”。診断戦略の前提となる質の高い病歴の技法を伝授します。第6回 注意すべきいくつかの戦術的要所 日常臨床では診断のプロセスの原則では対応できない場面に出くわすことが多々あります。疾患が患者の別の病態の下に隠れている、薬剤など別の要因が本来のバイタルサインを見えにくくしてしまっているといった場合です。今回はそうした医師の診断を誤らせる“霧”や“オッカムヒッカムの破れ”について解説します。知ることで盾になり、使えれば武器になる!志水太郎の診断戦略をお見逃しなく!第7回 難症例に打ち勝つ戦術 一筋縄ではいかない困難な症例には戦術が必須!例えば、患者の痛がる箇所をあえて解剖学的構造の外側から考えるというのも、鑑別の幅を広げる戦術の1つ。また、突発性や反復性という発症様式から病態的カテゴリーを一気に絞りこむというのも、1つの戦術です。あらゆる方向からのアプローチ法を事前に用意しておくということが重要です。すべての医療者へ届けたい志水先生のラストメッセージをお見逃しなく!

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アイザックス症候群〔Isaacs syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義アイザックス症候群は、1961年にIsaacsが、後天性に全身の筋硬直と筋電図で持続する運動単位電位の自発放電を特徴とする2例を報告したのが最初である1)。その病態機序は末梢神経の過剰興奮であり、その病態は自己抗体による自己免疫性疾患である。症状が筋疾患であるミオトニア症候群に似ているが、病変部位が末梢神経であるため、後天性ニューロミオトニア(acquired neuromyotonia)とも呼ばれている2)。■ 疫学詳細な疫学の報告はない。海外では発症年齢の多くが40歳半ば、男女比は2:1で男性に多く、診断までに3~4年を要している2)。わが国での1次調査では、全国に100例前後の患者がいると思われる。■ 病因病態である末梢神経の過剰興奮を引き起こす病因は、末梢神経の電位依存性Kチャネル(VGKC)および、VGKCに関連する蛋白に対する自己抗体であることが明らかになっている1,3)。VGKCは、末梢神経の脱分極後に再分極を起こし、膜の興奮性を安定させるイオンチャネルであり、その障害で興奮性が増加して症状を引き起こす。末梢神経には血液神経関門があり、通常血中の自己抗体は軸索のVGKCにはアクセスできないが、末梢神経の神経根および最末梢の神経終末では血液神経関門が脆弱であり、このような部位が標的となっていると考えられる4,5)。以上のように、概念的にはランバート・イートン症候群などのように免疫介在性チャネロパチーの1つといえる。■ 症状臨床的には全身の末梢運動神経の過剰興奮により、広汎に有痛性筋けいれん・筋硬直と筋のぴくつき(fasciculation)や筋の波打つような不随意運動(myokymia)などを主徴とし、全例で認められる。また、ニューロミオトニア(繰り返す把握運動後の弛緩障害[grip myotonia]はあるが、叩打ミオトニア[percussion myotonia]がない)は、本症に比較的特異な症状で約1/3に認められる2,4)。筋けいれん、筋硬直は睡眠時も起こり、運動負荷、寒冷、虚血で増強する。持続性の筋けいれんは筋肥大を来すことがある。そのほか、発汗過多、下痢、皮膚色調の変化、原因不明の高体温などの自律神経症状を30~50%の症例で伴う4)。約半数の症例で異常感覚や複合性局所疼痛症候群(complex regional pain syndrome)に類似の疼痛などの感覚障害を伴うことがまれではなく、当初は筋けいれんに伴うものと考えられていたが、筋けいれんの発症前に感覚異常で発症する症例の報告もあり、現在は感覚異常とくに疼痛も重要な症状の1つと考えられている6)。そのほか、Hartら2)によると約1/4の症例で何らかの中枢神経症状を有している。末梢運動神経の症状である筋けいれん・筋硬直やニューロミオトニアと記銘力障害、不眠、睡眠障害、幻覚などの大脳辺縁系症状や多彩な自律神経症状を伴うMorvan症候群が知られていたが、この疾患でアイザックス症候群と共通の抗VGKC抗体がその原因であることが明らかになっている3)。■ 分類臨床的にニューロミオトニアを呈する疾患には、先天性と後天性があり、さらに後天性の原因にもさまざまなものがある7)。この中で自己抗体が関与する後天性かつ免疫介在性のニューロミオトニアには、全身性にみられるアイザックス症候群のほかに、主に下肢に限局するcramp-fasciculation syndrome、中枢神経症状を伴うMorvan症候群などがある。■ 予後自然寛解はまれであり、多くは症状が緩徐に進行し、全身の筋硬直、歩行困難などでADLが障害される。注意すべきは、本症は傍腫瘍性症候群の一面も持っており、胸腺腫や肺がんの合併が報告されている8)。しかし、これらの腫瘍の外科的切除による症状の改善は一定ではない。通常は後療法として、免疫療法や対症療法が必要な場合がある。一方、このような悪性腫瘍の合併が明らかではない場合も、4年後にがん病変が発見された症例の報告もあり、十分な経過観察が必要である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)診断は上記の特徴的な症状と、以下の検査所見でなされる。末梢神経の過剰興奮性の有無を診断するには、神経生理学的検査が必要である。針筋電図でmyokymic dischargesが特徴的であり、安静時や弱収縮時に同じ運動単位電位の反復発火(doublet、multiplet)としてみられる。発火頻度が高くなるとneuromyotonic dischargesがみられることもある1,4,7)。体幹などの深部筋では筋電図によるこれらの異常放電を捉えることは困難であるが、そのような場合には超音波検査で筋の不随意運動を観察して診断する。特異度の高い検査は血清中の抗VGKC関連抗体であり、臨床症状と本抗体が陽性であれば診断はほぼ確定する。当初VGKC自体に対する抗体そのものがアイザックス症候群の病因と考えられていたが、その陽性率は50%以下であった。その後の研究でVGKCはいくつかの分子と複合体を形成し、抗体が認識しているのはVGKC以外の分子が主であることが明らかとなった2)。これらの分子の中で最も頻度の高いものは、contactin-associated protein2(Caspr2)とleucine-rich glioma-inactivated protein1(Lgi1)である2,9)。Lgi1の発現は末梢では少ないので、アイザックス症候群ではCaspr2に対する抗体が主となる。しかし、これらの自己抗体の陽性率も必ずしも高くない。なお、抗VGKC抗体は低力価の場合は臨床症状との関連でその意味を考える必要がある。また、抗VGKC抗体は鹿児島大学神経病講座で測定しているが、Caspr2に対する抗体は、わが国ではルーチンに測定しているところはなく、診断には臨床症状と筋電図を用いることが多い。そのほかに自己免疫疾患としての側面から、重症筋無力症、胸腺腫、橋本病などさまざまな自己免疫疾患を合併する。とくに重症筋無力症との合併が多い。抗VGKC抗体以外の自己抗体として抗アセチルコリン受容体抗体(抗AChR抗体)、抗核抗体、抗GAD抗体の陽性率が高い。また、自己免疫疾患であるからには免疫療法で症状の改善をみることも重要であり、これらの点を考慮して次表のような診断基準が出されている。表 アイザックス症候群の診断基準A.主要症状・所見1.ニューロミオトニア(末梢神経由来のミオトニア現象で、臨床的には把握ミオトニアはあるが、叩打ミオトニアを認めないもの)、睡眠時も持続する四肢・躯幹の持続性筋けいれんまたは筋硬直(必須)2.myokymic discharges、neuromyotonic dischargesなど筋電図で末梢神経の過剰興奮を示す所見3.抗VGKC複合体抗体が陽性(72pM以上)4.ステロイド療法やそのほかの免疫療法、血漿交換などで症状の軽減が認められるB.支持症状・所見1.発汗過多2.四肢の痛み・異常感覚3.胸腺腫の存在4.皮膚色調の変化5.そのほかの自己抗体の存在(抗アセチルコリン受容体抗体、抗核抗体、抗甲状腺抗体)C.鑑別診断以下の疾患を鑑別するスティッフパーソン症候群や筋原性のミオトニア症候群、糖原病V型(McArdle病)などを筋電図で除外する<診断のカテゴリー>Definite:Aのうちすべてを満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外したものProbable:Aのうち1に加えて、そのほか2項目以上を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外したものPossible:Aのうち1を満たし、Bのうち1項目以上<診断のポイント>自己免疫的機序で、末梢神経の過剰興奮による運動単位電位(MUP)の自動反復発火が起こり、持続性筋収縮に起因する筋けいれんや筋硬直が起こる。末梢神経起源なので叩打ミオトニアは生じないが、把握ミオトニア様にみえる手指の開排制限は起こりうる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)アイザックス症候群の治療の主体は、日常生活にさほど影響がないほどの軽症であれば、末梢神経の過剰興奮性を抑制する薬剤(カルバマゼピン[商品名:テグレトール]、フェニトイン[同:アレビアチン、ヒダントール]、ラモトリギン[同:ラミクタール]、バルプロ酸ナトリウム[同:デパケン]、ガバペンチン[同:ガバペン]など)による対症療法が原則である。この中でAhmedら7)はカルバマゼピンを第1選択としている。症状が強くなるに従い、1種類の薬剤でのコントロールが困難なことが多く、血中濃度や副作用に注意しつつ、数種類の抗てんかん薬を用いることが多い。さらに症状が重篤であり、これらの対症療法が無効な症例、激しい有痛性筋けいれんなどにより日常生活に重大な支障が起こる症例では、血漿浄化療法、免疫グロブリン療法、プレドニゾロン(同:プレドニゾロン、プレドニン)などの免疫療法が試みられる。とくに抗体強陽性例では、免疫吸着療法を含む血漿浄化療法が有効であるとの報告が多く、治療で臨床症状の改善とともに筋電図上の異常放電の減少や抗VGKC抗体の抗体価の低下がみられる7)。経験的には血漿浄化療法の効果は重症筋無力症ほど急速にはみられず、1~2週間程経って徐々に効果がみられることが多く、十分な経過観察が必要である。免疫グロブリン大量療法には有効・無効の両者の報告がある。また、プレドニゾロン単独での効果は明らかではないが、メチルプレドニゾロン(同:メドロール)によるパルス療法が有効な場合もある。しかし、いずれの免疫療法を行った場合も、抗てんかん薬などの併用が必要である。4 今後の展望まずは、簡便で高感度な抗VGKC抗体およびその関連分子(Caspr2)に対する抗体の測定法の確立である。また、VGKC、Caspr2以外のVGKC関連蛋白などの抗原検索も必要である。治療としては、より簡便で副作用の少ない免疫療法の開発が必要であるが、症例数が少ないために有効な治療法の評価ができにくいことが問題である。5 主たる診療科神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)「難病の患者に対する医療等に関する法律」(難病法)が2015年1月1日に施行された。これにより指定難病が一気に拡大され、アイザックス症候群も同年7月に指定された。現在では、重症例は医療費補助の対象となっている。診療、研究に関する情報難病情報センター アイザックス症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)鹿児島大学神経病講座 抗VGKC複合体抗体の測定(医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報りんごの会(アイザックス症候群患者とその家族の会)1)Arimura K, et al. Muscle Nerve.2002;11:S55-58.2)Hart IK, et al. Brain.2002;125:1887-1895.3)Irani SR, et al. Brain.2010;133:2734-2748.4)Arimura K, et al. Brain Nerve.2010;62:401-410.5)Arimura K, et al. Clin Neurophysiol.2005;116:1835-1839.6)Klein CJ, et al. JAMA Neurol.2013;70:229-234.7)Ahmed A, et al. Muscle Nerve.2015;52:5-12.8)Tan KM, et al. Neurology.2008;70:1883-1890.9)Watanabe O. Brain Nerve.2013;65:401-411.公開履歴初回2018年02月27日

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循環器内科 米国臨床留学記 第27回

第27回 米国における専門医 Boardの問題点日本で新しい専門医制度が始まり、物議を醸しています。私は米国で内科のレジデンシーと循環器のフェローシップ、不整脈(電気生理学:EP)のフェローシップを修了し、今年は不整脈の専門医試験を受けます。すでに内科、循環器の専門医を持っていますので、3つ目の専門医を持つことになりますが、3つすべてを維持していくのは大変です。しかし米国では、専門医を持たなければその科の専門医として働くことはほとんど不可能です。今回は、米国における専門医の持つ意味や、それにまつわる問題点に触れてみたいと思います。専門医がなければ、就職活動もできないフェローやレジデンシーは、最終年になると就職活動が始まります。内科のレジデンシー修了後に指導医(attending doctor)になる場合は、多くの場合hospitalistとなります。cardiologyやcritical care(集中治療)のフェローを修了した後であれば、cardiology やcritical careの指導医としてのポジションを探します。医師の募集広告には、よく「A hospital is seeking a BC/BE cardiology physician」 など書かれています。レジデンシーやフェローシップ、それらを修了後、専門医試験に合格するまでは、board eligible(BE)などと呼ばれますが、これはboardを受ける資格があるという意味です。フェローシップ終了後、数ヵ月以内に各科の専門医試験があり、それに合格することが前提で病院に雇われます。仮に1回目で落ちてもすぐにクビにはなりませんが、「就職後2年以内」などのルールが採用時に決められているため、その期限内に合格する必要があります。boardに合格すると、晴れてboard certified(BC)となります。医師の名前をインターネットで検索すると、すぐにどの専門医資格を持っているかがわかります。紹介患者以外でも、多くの患者がインターネットの情報を基に医師を選ぶので、専門医資格の有無は重要です。また、医療訴訟が起きた際に、専門医資格がないとかなり不利になってしまうようです。専門医資格の維持私の専門領域である不整脈(EP)の場合、専門医になるためには、まず内科の専門医になる必要があります。その上で循環器の専門医を取得し、最後にEPの専門医を取得します。一度専門医試験に合格すると、10年間は専門医資格が維持されます。その10年の間に医学知識、患者の調査や患者の安全に関するモジュールを行い、筆記試験(MOC試験:Maintenance of Certification)を受ける必要があります。また、内科、循環器、不整脈のすべての専門医資格を維持するとなると、10年間に3つの試験を受けなければなりません。こういった内科系の専門医資格に関しては、アメリカ内科学会(American Board of Internal Medicine: ABIM)が試験や資格維持に関するルールを決めていました。ところが、10年ごとの高額な専門医試験や、そのために重箱の隅をつつくような知識を学ぶことは不必要であり、高額な試験を課すことはABIMによる制度の悪用ではないか(お金を集めるために試験を義務付けている、MOC試験も1,000ドル以上かかる)といった批判の声が上がり、多くのサブスペシャルティがABIMの定めた専門医更新のルールに反対する意向を示しました。多くの医師が、更新直前まで試験勉強や点数集めをしないこともわかっており(この辺りは日本も米国も同じですね)、逆に言うと期限ギリギリまで知識のupdateをしないということになります。こうした点を踏まえ、10年目に慌てて知識を詰め込むよりも、継続した学習が評価されるように専門医維持の方法も変更されました。先述のように、サブスペシャルティの反対もあり、自分の専門領域の資格のみを維持することも認められました。例えば不整脈の場合、内科もしくは循環器の専門医を維持しなくても、不整脈の専門医だけを維持することができます。実際、分業が進む米国で、レジデンシー卒業後10年目に再び内科(とくに他科)の勉強をすることは非常に大変です。このように、米国における専門医維持の方法はここ数年で大きく変わり、今後も変更が予想されます。専門医を維持するために勉強するのは、医師として当たり前のことなので、定期的に知識をupdateするために試験を行うのは個人的には賛成です。しかしながら、普段の臨床からあまりにも逸脱した内容を学ぶことや高額な試験費用には疑問を感じます。とはいえ、試験費用はABIMにとって大きな収入源であり、その上、各専門医団体との利権も絡み合っており、すべての人が納得する制度を作るのは難しいのかもしれません。

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新薬が出ない世界で(1)(解説:岡村毅氏)-808

 現在アルツハイマー型認知症に使用される対症療法薬(アミロイドという疾患の本質には作用しないが臨床症状は改善する薬剤)であるコリンエステラーゼ阻害薬に対して、新薬idalopirdineを追加投与したものの、残念ながら効果はなかった。 20世紀末に文句なしのブロックバスターであったアリセプトが市場に出てから、21世紀も20年の節目が近づきつつあるが、いまだに新しいブロックバスターは出ない(2011年にメマリーというささやかな福音はあったが)。 最高の頭脳を持った神経病理・薬理学者が挑み続けているにもかかわらず、結果が出ないという事実を正面から見据えなければならない。 では、われわれ医療者は呆然と立ち尽くすしかないのだろうか? そんなことはないのである。東京都健康長寿医療センター研究所の粟田 主一研究部長によると、地域在住高齢者の悉皆調査(n=7,614)においては、専門家による認知機能検査、さらに専門医等による臨床診断を経て認知症と判断された方の3割しか、認知症の診断を受けていなかったという(日本公衆衛生学会総会 2017年)。診断すればすべてが解決というものではないが、正しい診断は正しい支援に至る必要条件ともいえる。地域には、新薬どころか、診断されることなく不安にさいなまれている高齢者や、周囲から変な人とされている若年者がいるはずである。地道にこういう方々のために汗をかくことも、われわれの使命ではないだろうか? 最後に、余計な一言。 本研究はSTARSHINE、STARBEAM、STARBRIGHT(いずれも「星の輝き」の意味を持つ)という3つの研究からなるが、なんともかっこいい名前だ、一体どうやって略されたのだろう? ジャーナル四天王をみても、COURAGE試験(勇気)やCALM試験(落ち着き)といったセンスの良いスタディ名が紹介されている。英語圏の「文学」ともいえ、米国東海岸ヒップホップの雄であるWu-Tang ClanにはC.R.E.A.M.というヒット曲があるが“Cash, Rules, Everything, Around, Me”の略である。英語を母語としないわれわれには、なかなか同じ土俵では戦えまい。 ちなみに私の同僚である東京都健康長寿医療センター研究所の宇良 千秋氏は、認知症を持つ人が稲作をすることで健康を回復するというRICE研究(Rice-farming Care for the Elderly people with dementia)をされている。スタディ名文学に明るい人(桑島 巖理事長?)がいたら、ぜひいろいろとご教示願いたいところである。

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もっとねころんで読める呼吸のすべて ナース・研修医のためのやさしい呼吸器診療とケア2

医療界が息をのんだ衝撃のベストセラー、あうんの呼吸で続編刊行!「SpO2をモニタリングする意味って何?」「冬に呼吸器疾患が多い理由は?」。これらの質問に、皆さんは自信と根拠をもって即答できるでしょうか? 本書では、そんな新人指導に使えるキソ知識から、「喘息と咳喘息の違い」といった非専門医でも悩むことがあるポイントまで、毎日膨大な海外文献を読みこんでいるDr.倉原流エッセンスがてんこ盛り!前作で好評だったマンガもさらにパワーアップした形で収録。ねころぶぐらいリラックスして読んでいるうちに、現場で役に立つ知識がすっと身についている……そんな1冊です。おまけとして、臨床で役に立たない(かもしれない)けど、ついつい誰かに話したくなる「くしゃみの時速は何kmか」「寝るときにブラジャーをつけると呼吸器によくないか否か」といった、トリビア的なコラムも満載!!画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。    もっとねころんで読める呼吸のすべてナース・研修医のためのやさしい呼吸器診療とケア2定価2,000円 + 税判型A5判頁数152頁発行2016年7月著者倉原 優(国立病院機構近畿中央胸部疾患センター 内科)Amazonでご購入の場合はこちら

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再生不良性貧血〔AA : aplastic anemia〕

再生不良性貧血のダイジェスト版はこちら1 疾患概要■ 概念・定義再生不良性貧血は、末梢血でのすべての血球の減少(汎血球減少)と骨髄の細胞密度の低下(低形成)を特徴とする症候群である。同じ徴候を示す疾患群から、概念のより明確なほかの疾患を除外することによって診断することができる。病気の本態は「骨髄毒性を示す薬剤の影響がないにもかかわらず、造血幹細胞が持続的に減少した状態」である。再生不良性貧血という病名は、鉄欠乏性貧血や悪性貧血などのように、不足している栄養素を補充すれば改善する貧血とは異なり、血液細胞が再生しにくいという意味で付けられたが、治療方法が進歩した現在では、再生不良性貧血の骨髄は必ずしも「再生不良」とはいえないので、この病名は現実に即さなくなってきている。■ 疫学臨床調査個人票による調査では、2004~2012年の9年間の罹患数は約9,500(年間約1,000人)、罹患率は8.2(/100万人年)と推計された。罹患率の性比(女/男)は1.16であり、男女とも10~20歳代と70~80歳代でピークが認められ、高齢のピークの方が大きかった1)。これは欧米諸国の約3倍の発生率である。■ 病因成因によってFanconi貧血、dyskeratosis congenitaなどの先天性と後天性に分けられる。後天性の再生不良性貧血には原因不明の一次性と、クロラムフェニコールをはじめとするさまざまな薬剤や放射線被曝・ベンゼンなど化学物質による二次性がある。一次性(特発性)再生不良性貧血は、何らかのウイルスや環境因子が引き金になって起こると考えられているが詳細は不明である。わが国では特発性が大部分(90%)を占める。また、そのほかに特殊型として肝炎後再生不良性貧血は、A型、B型、C型などの既知のウイルス以外の原因による急性肝炎発症後1~3ヵ月で発症する。若年の男性に比較的多く重症化しやすいが、免疫抑制療法に対する反応性は特発性再生不良性貧血と変わらない。再生不良性貧血-発作性夜間ヘモグロビン尿症(paroxysmal nocturnal hemoglobinuria:PNH)症候群は、臨床的には再生不良性貧血でありながら、末梢血中にglycosylphosphadidylinositol(GPI)アンカー膜蛋白の欠失した血球が増加しており、溶血を伴う状態を指す。そのなかには、発症時から再生不良性貧血‐PNH症候群状態のもの(骨髄不全型のPNH)と、再生不良性貧血と診断されたのち長期間を経てPNHに移行するもの(二次性PNH)の2種類がある。再生不良性貧血の重症度は、血球減少の程度によって表1のように5段階に分けられている1)。画像を拡大する特発性再生不良性貧血の約70%は抗ヒト胸腺細胞ウサギ免疫グロブリン(anti-thymocyte globulin:ATG、商品名:サイモグロブリン)やシクロスポリン(CsA〔同:ネオーラル〕)などの免疫抑制療法によって改善することから、免疫学的機序による造血幹細胞の破壊・抑制が多くの例で関与していると考えられている。しかし、免疫反応の標的となる自己抗原は同定されていない。再生不良性貧血の約60%に、GPIアンカー膜蛋白の欠失したPNH形質の血球(PNH型血球)が検出されることや、第6染色体短腕の片親性二倍体により細胞傷害性T細胞からの攻撃を免れて造血を支持するようになった造血幹細胞由来の血球が約25%の例で検出されること2,3)などが、免疫病態の関与を裏付けている。一方、Fanconi貧血のように、特定の遺伝子異常によって発症する先天性再生不良性貧血が存在することや、特発性再生不良性貧血と診断されていた例のなかにテロメラーゼ関連の遺伝子異常を持つ例があることなどから、一部の例では造血幹細胞自身に異常があると考えられている。ただし、これらの遺伝子異常が検出される頻度は非常に低い。免疫抑制療法が効かない再生不良性貧血例のなかには、骨髄が脂肪髄であったために再生不良性貧血として治療されたが、その後短期間で異常細胞が顕在化し、診断が造血器悪性腫瘍に変更される例も含まれている。さらに、免疫抑制療法が効かないからといって、必ずしも免疫病態が関与していないという訳ではない。そのなかには、(1)免疫異常による発病から治療までの時間が経ち過ぎているために効果が出にくい、(2)免疫抑制療法の強さが不十分である、(3)免疫学的攻撃による造血幹細胞の枯渇が激しいために造血が回復しえない、などの理由で免疫抑制療法に反応しない例もある。このため、発病して間もない再生不良性貧血のほとんどは、造血幹細胞に対する何らかの免疫学的攻撃によって起こっていると考えたほうがよい。■ 症状息切れ・動悸・めまいなどの貧血症状と、皮下出血斑・歯肉出血・鼻出血などの出血傾向がみられる。好中球減少の強い例では発熱がみられる。軽症・中等症例や、貧血の進行が遅い重症例では無症状のこともある。他覚症状として顔面蒼白、貧血様の眼瞼結膜、皮下出血、歯肉出血などがみられる。■ 予後かつては重症例の50%が半年以内に死亡するとされていた。最近では血小板輸血、抗菌薬、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)などの支持療法が進歩し、免疫抑制療法や骨髄移植が発症後早期に行われるようになったため、約7割の患者が輸血不要となるまで改善し、9割が長期生存するようになっている。一部の重症例や、発症後長期間を経過した例は免疫抑制療法によっても改善せず、定期的な赤血球輸血・血小板輸血を必要とする。赤血球輸血が40単位を超えると糖尿病・心不全・肝障害などの鉄過剰症による症状が現れる。最近では、デフェラシロクス(商品名:エクジェイド)による鉄キレート療法が行われるようになったため、輸血依存例の予後の改善が期待されている。一方、免疫抑制療法により改善した長期生存例の約5%が骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome:MDS)、5~10%がPNHに移行する。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 末梢血所見通常は赤血球、白血球、血小板のすべてが減少する。重症度の低い例では貧血と血小板減少だけしか認めないこともある。急性型では正球性正色素性、慢性型では通常大球性を示し、すべての例で網赤血球の増加を伴わない。重症例では好中球だけではなくリンパ球も減少する。■ 血液生化学検査血液生化学検査では血清鉄、鉄飽和率、血中エリスロポエチン値、トロンボポエチン値などの増加がみられる。とくにトロンボポエチンの増加は、前白血病状態との鑑別に重要である。トロンボポエチンが300pg/mL未満であれば再生不良性貧血は否定的である4)。■ 骨髄穿刺・生検所見再生不良性貧血と診断するためには両者を行うことが必須である。骨髄生検では細胞成分の占める割合が全体の30%以下に減少している。なかでも巨核球・幼若顆粒球・赤芽球の著しい減少が特徴的である。骨髄細胞が残存している場合には多くの例で赤芽球に異形成が認められる。好中球にも異形成を認めることがあるが、その割合が全好中球の10%を超えることはない。巨核球は減少しているため、異形成の有無は評価できないことが多い。ステージ4までの再生不良性貧血では、穿刺する場所によって骨髄が正形成または過形成を示すことがあるが、そのような場合でも巨核球は通常減少している。染色体は原則として正常であるが、病的意義の明らかでない染色体異常を少数認めることがある。■ 病理腸骨からの骨髄生検では細胞成分の占める割合が全体の30%以下に減少し、重症例では完全に脂肪髄化する(図1)。ただし、ステージ 1~3の患者では、細胞成分の多い部分が残存していることが多い。画像を拡大する■ 骨髄MRI骨髄穿刺・生検で評価できる骨髄は一部に限られるため、骨髄細胞密度を評価するためには胸腰椎を脂肪抑制画像で評価することが望ましい。重症再生不良性貧血例の胸腰椎をMRIで検索するとSTIR法では均一な低信号となり、T1強調画像では高信号を示す。ステージ3より重症度の低い例の胸腰椎画像は、残存する造血巣のため不均一なパターンを示す。■ フローサイトメトリーによるCD55・CD59陰性血球の検出Decay accelerating factor(DAF、CD55)、homologous restriction factor(HRF、CD59)などのGPIアンカー膜蛋白の欠失した血球の有無を、感度の高いフローサイトメトリーを用いて検索すると、明らかな溶血を伴わない再生不良性貧血患者の約半数に少数のCD55・CD59陰性血球が検出される。このようなPNH形質の血球陽性例は陰性例に比べて免疫抑制療法が効きやすく、また予後もよいことが知られている5)。■ 診断基準・鑑別診断わが国で使用されている診断基準を表2に示す1)。画像を拡大する再生不良性貧血との鑑別がとくに問題となるのは、MDS(2008年分類)のなかでも芽球の割合が少ないrefractory cytopenia with unilineage dysplasia(RCUD)、refractory cytopenia with multilineage dysplasia(RCMD)、idiopathic cytopenia of undetermined significance(ICUS)、骨髄不全の程度が強いPNH、欧米型の有毛細胞白血病などである。RCUD、RCMDまたはICUSが疑われる症例において、巨核球増加を伴わない血小板減少や血漿トロンボポエチンの上昇がみられる場合には、再生不良性貧血と同様の免疫病態による骨髄不全を考えたほうがよい。PNH形質血球の増加がみられる骨髄不全のうち、網赤血球の増加(>10万/μL)、正常上限の1.5倍を超えるLDH値の上昇、間接ビリルビンの上昇、ヘモグロビン尿などの溶血所見がみられる場合には、骨髄不全型PNHと診断する。骨髄生検上細網線維の増加や、血清可溶性インターロイキン2レセプター値の著増などがみられる場合は、有毛細胞白血病を疑う。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ ステージ1、2に対する治療輸血を必要としないこの重症度で、血球減少の進行がみられない場合には、血球減少が自然に回復する可能性があるため、無治療で経過をみることが勧められてきた。しかし、再生不良性貧血では診断から治療までの期間が長くなるほど免疫抑制療法の奏効率が低くなるため、診断後はできるだけ早期にCsAを投与して効果の有無をみたほうがよい。とくに血小板減少が先行する例は、免疫抑制療法に反応して改善することが多いので、血小板減少が軽度であっても、少量のCsAを短期間投与し反応性をみることが望ましい。図2は筆者の私案を示している。画像を拡大する■ 重症例(ステージ3以上など)に対する治療この重症度の患者に対する治療方針(筆者私案)を図3に示す。画像を拡大する患者が40歳以下でHLAの一致する同胞ドナーが得られる場合には、同種骨髄移植が第一選択の治療方法である。とくに20歳未満の患者では治療関連死亡の確率が低く、長期生存率も90%前後が期待できるため、最初から骨髄移植を行うことが勧められる。40歳以上の高齢患者に対してはATG・CsAか、ATG・CsA・エルトロンボパグ(ELT〔商品名:レボレード〕)併用療法を行う。サイモグロブリンの市販後調査によると、ステージ4・5例およびステージ2・3例におけるATG+CsAの有効率はそれぞれ44%(219/502)、64%(171/268)とされている。ELTは、ATG+CsAと同時またはATG+CsAの2週間後から併用することにより、ウマATG+CsAの有効率が90%まで向上することが、アメリカ国立衛生研究所(NIH)の臨床研究により示された6)。日本でも2017年8月より保険適用が認められ、初回のATG+CsA療法後に併用することが可能になっている。これにより、日本で唯一使用できるサイモグロブリンの有効率が高まる可能性がある。ただし、NIHの臨床試験では、2年間で約12%の症例に、第7染色体異常を中心とする新たな染色体異常が出現していることから、ELT併用によって異常造血幹細胞の増殖が誘発される可能性は否定できない。このため、若年患者に対する初回治療にELTを併用するかどうかは、患者の重症度、罹病期間、免疫病態マーカーの有無などを考慮して判断することが勧められる。とくに、治療前に骨髄FISH検査で第7染色体欠失細胞がないかどうかを確認する必要がある。保険で認められているサイモグロブリンの投与量は2.5~3.75mg/kgと幅が広く、至適投与量についてはよく分かっていない。サイモグロブリンは、リンフォグロブリンに比べて免疫抑制作用が強いため、サイトメガロウイルスやEBウイルスの再活性化のリスクが高いとされている。このため、治療後2~3週以降はできる限り頻回にEBウイルスコピー数をモニタリングする必要がある。重症例のうち初診時から好中球がほとんどなく、G-CSF投与後も好中球がまったく増えない劇症型の場合には、緊急的な臍帯血移植やHLA部分一致血縁ドナーからの移植適応がある。■ 難治例に対する治療免疫抑制療法が無効であった場合、初回治療としてELTが使用されなかった例に対しては約40%にELTの効果が期待できる7)。メテノロンやダナゾール(保険適用外)も重症度の低い一部の例には有効である。これらの薬物療法にすべて抵抗性であった場合には、非血縁ドナーからの骨髄移植の適応がある。支持療法としては、貧血症状の強さに応じて、ヘモグロビンで7g/dL以上を目安に1回あたり400mLの赤血球濃厚液‐LRを輸血する。輸血によって血清フェリチン値が1,000ng/mL以上となった場合には経口鉄キレート剤のデフェラシロクスを投与し、輸血後鉄過剰症による臓器障害を防ぐ。血小板数が1万/μL以下となっても、明らかな出血傾向がなければ予防的血小板輸血は通常行わないが、感染症を併発している場合や出血傾向が強いときには、血小板数が2万/μL以上となるように輸血を行う。4 今後の展望再生不良性貧血の発症の引き金となる自己抗原が同定されれば、その抗原に対する抗体や抗原特異的なT細胞を検出することによって、造血幹細胞に対する免疫的な攻撃によって起こった骨髄不全、すなわち再生不良性貧血であることが積極的に診断できるようになる。自己抗原やそれに対する特異的なT細胞が同定されれば、現在用いられているATGやCsAのような非特異的な免疫抑制剤ではなく、より選択的な治療法が開発される可能性がある。また、近年使用できるようになったELTは、治療抵抗性の再生不良性貧血に対しても約40%に奏効する画期的な薬剤であるが、どのような症例に奏効し、またどのような症例に染色体異常が誘発されるのか(ELTを使用すべきではないのか)は不明である。これらを明らかにするために前向きの臨床試験と定期的なゲノム解析が必要である。5 主たる診療科血液内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)特発性造血障害に関する調査研究班(資料)(再生不良性貧血診療の参照ガイドがダウンロードできる)公的助成情報難病情報センター 再生不良性貧血(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報再生つばさの会(再生不良性貧血の患者と家族の会の情報)1)再生不良性貧血の診断基準と診療の参照ガイド改訂版作成のためのワーキンググループ. 再生不良性貧血診療の参照ガイド 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業特発性造血障害に関する調査研究班:特発性造血障害疾患の診療の参照ガイド(平成22年度改訂版); 2011. p3-32.2)Katagiri T, et al. Blood. 2011; 118: 6601-6609.3)Maruyama H, et al. Exp Hematol. 2016; 44: 931-939 e933.4)Seiki Y, et al. Haematologica. 2013; 98: 901-907.5)Sugimori C, et al. Blood. 2006; 107: 1308-1314.6)Townsley DM, et al. N Engl J Med. 2017; 376: 1540-1550.7)Olnes MJ, et al. N Engl J Med. 2012; 367: 11-19.公開履歴初回2013年09月26日更新2018年01月23日

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経済的インセンティブで、医療の質は改善しない/BMJ

 OECD加盟国では医療の質改善に経済的インセンティブを用いており、低・中所得国でその傾向が増大している。ただ、先頭を走っているのは米国と英国であり、他国は両国の施策をモニタリングし導入を決定している状況にある。米国ではここ10年で、病院医療の質改善にインセンティブを与えることは一般的になっているが、先行研究で「P4P(Pay for Performance)プログラムは、臨床的プロセスへの影響は限定的で、患者アウトカム改善や医療費削減に影響を及ぼさない」ことが示されている。米国・ハーバード大学公衆衛生大学院のIgna Bonfrer氏らは、これまで行われていなかった、米国における時期の異なる2つのプログラム(HQID[2003~09年]、HVBP[2011年~])参加病院の、インセンティブの影響について比較する検討を行った。その結果、HQIDから参加し10年以上インセンティブを受けている病院が、HVBPからの参加病院と比べて、医療の質が優れているというエビデンスは認められなかったという。BMJ誌2018年1月3日号掲載の報告。P4P初期採択病院と後期採択病院の臨床的プロセススコアと30日死亡率を比較  HQID(Premier Hospital Quality Incentive Demonstration)は、2003~09年にメディケア・メディケイドサービスセンターによって実行された任意参加のプログラムで、それをモデルに開発され、Affordable Care Act(ACA、通称オバマケア)でナショナルプログラムとして採択されたのがHVBP(Hospital Value- Based Purchasing)である。 研究グループは、HQIDに任意参加した病院(初期採択病院)と、HVBPの施策導入によってインセンティブを受けるようになった病院(後期採択病院、規模・地域などで適合)について、臨床的プロセススコアと30日死亡率を比較する観察研究を行った。30日死亡率については、3つの疾患(急性心筋梗塞・うっ血性心不全・肺炎:標的疾患)とそれ以外の疾患(非標的疾患)について評価した。 対象は、1,189病院(初期採択病院214、適合後期採択病院975)で、2003~13年のHospital Compare(米国政府下で消費者のために開設されている病院比較サイト)のデータを用いた。解析に含まれた患者は65歳以上の137万1,364例。全例がメディケア被保険者であった。インセンティブがあってもなくても10年経ったら同レベルに ベースライン(2004年)時の臨床的プロセススコア(平均値)は、初期採択病院91.5点、後期採択病院89.9点で、初期採択病院のほうがわずかだが高かった(スコア差:-1.59、95%信頼区間[CI]:-1.98~-1.20)。しかし、初期採択病院のHQID期間中の改善は小さく(年間変化:2.44点 vs.2.65点、スコア差:-0.21、95%信頼区間[CI]:-0.31~-0.11)、それでもHVBP導入前は後期採択病院よりもわずかだが高いスコアを維持していたが(スコア差:-0.55、95%CI:-1.01~-0.10)、ベースラインから10年後(2014年)のHVBP導入後では、両群とも同レベルの上限値(98.5点 vs.98.2点)に達しており、差は認められなくなっていた。 30日死亡率についても、ベースライン時の標的疾患の同値は12.2% vs.12.5%で、HQID期間中は両群ともに同様に低下し、HVBP期間中の同値は9.4% vs.9.7%で差はみられなかった(HVBP導入前 vs.導入後の傾向の%差:0.05%、95%CI:-0.03~0.13、p=0.25)。非標的疾患の30日死亡率についても同様に差は認められなかった(同%差:-0.02%、95%CI:-0.07~0.03)、p=0.48)。 結果を踏まえて著者は、「P4Pプログラムと、米国の不明瞭な医療政策アジェンダに世界中の関心が高まっている中で、政策立案者は意味のある効果を得ようと時間を費やすのならば、プログラムはインセンティブを増大するが、医業を変える手段としては不十分なこと、患者にとって最も重要な測定値(死亡率、患者の経験、機能状態)を絞り込むことを、考えるべきである」と提言している。

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