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英語で「~する気分です」は?【1分★医療英語】第50回

第50回 英語で「~する気分です」は?Do you want to walk in the hallway?(廊下を歩いてみますか?)No, I don’t feel up to it today.(いいえ、今日はそんな気分ではありません)《例文1》医師I think you can go home today if you feel up to it.(もし良ければ、今日退院でも良いと思います)患者Sure I do! (はい、そうします!)《例文2》医師What is bothering you?(何が気になりますか?)患者Breathing feels heavy. I do not feel up to going out today.(息苦しい感じがします。今日は外に出たくないです)《解説》“feel up to it”は「~をやれそうに思う」といった意味の表現で、一般的には否定形やifを伴う条件文の中で使われます。“want to”(~したい)に似ていますが、「~をする気分だ」という、より感情に寄り添った希望を表す表現です。臨床の場面では、医学的にはどちらでもよい選択肢を提示する時や、何かを提案する時に“if you feel up to it”(~したければ)と付けることで患者さん側に決めてもらうことができます。強制力が弱いので、さまざまな場面で使いやすい表現です。友人同士の会話でも、何かを控えめに誘うときなどにも使えますので、ぜひ使ってみてください。講師紹介

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第130回 手放しに喜べない?新たな認知症治療薬の良好な臨床成績

長らく続くコロナ禍で医療系学会の取材はこの間ご無沙汰していたが、先日久しぶりに学会に参加した。たまたま開催地が実家から近いこともあり、両親と昼食をとる機会に恵まれた。以下、今回はかなり私事を交えることになるが、お付き合いいただきたい。私の場合、地元で開催された学会の取材に赴く際でも実家に宿泊することはほとんどない。あくまで仕事で来ているという線引きが必要だというのが表向きの理由だが、実のところはある種、鬱陶しいからという事情もある。すでに私が50代になっているとはいえ、80代半ばの両親にとっては子供なので、実家でパソコンを開いて仕事をしていても何かと話しかけられるし、食事の時間になると「○○があるから食え」だの、とくに食べたいものでもないのに勧められるのは正直言うならば厄介なことこの上ない。それでも両親を食事に誘ったのは、近年急速に弱ってきている父親が賑やかなところが好きな人だからだ。実家は地元の繁華街から離れた田園地帯にある。父親本人は常に外出したくて仕方ないのだが、すでに足腰も弱り、その牛歩に毎回付き添うのは母親がくたびれるため、週末ぐらいしか外出できない。加えて父親は軽度認知障害(MCI)の診断を受けている。それでも元が几帳面な性格だったことも手伝ってか、現時点でも買い物では小銭から計算して使いたがるので、まだましなほうかもしれない。とはいえ、緩やかに症状は進行しており、先日は銀行に出かけた際にATM前から母親に「使い方がわからなくなった」と連絡があったという。昼時、待ち合わせ場所の寿司屋近くの路上にいると、人混みの向こうから両親がゆっくりと歩いてきた。視界に入ってきた両親はなかなか近づいてこない。父親のゆっくりとした歩みに母親が合わせざるを得ないからである。それでも数年前から介護保険を使って理学療法士のお世話になってからはかなり改善している。一時は「カタツムリか?」と思うほどの歩みだったのだから。私は路上に立ったまま両親が近くに来るのを待った。ようやく顔が良く見える距離になって私を見つけた父親は、「破顔一笑」とも言える表情を見せた。私も微笑んで見せたが、内心はこの上なく複雑だった。幼少期の記憶の中の父親は口下手で喜怒哀楽に乏しく、私に笑顔を向けてきた記憶がほとんどない。常にむすっとしていて、時に激しく叱られることが私の記憶のデフォルトである。母親がよく話題に出すのは、私が2歳ぐらいの時の父親と私のやり取りだ。父親が私を大声で呼びつけた際に登場した私は頭に座布団を乗せていたという。叱られて叩かれると勘違いしたらしい。やや長くなってしまったが、なぜこうつらつらと書いてしまったかというと、今話題のエーザイ・バイオジェン共同開発のアルツハイマー病(AD)治療薬候補lecanemab(以下、レカネマブ)について、こうしたMCI患者を持つ家族と医療ジャーナリストという職業の狭間で揺れ動く自分がいるからだ。ご存じのようにADに関しては、脳内に蓄積するタンパク質「アミロイドβ(Aβ)」が神経細胞を死滅させるというAβ仮説に基づき、過去20年近く新薬開発が進められてきた。Aβ仮説は、Aβ前駆タンパク質から酵素のβセクレターゼ(BACE)の働きで、Aβの一量体(モノマー)が作り出され、そこからモノマーが重合した重合体(オリゴマー)、高分子オリゴマーである可溶性プロトフィブリル、そこから形成されたアミロイド線維である不溶性フィブリルへと進行し、最終的にアミロイド線維から形成されるアミロイドプラークが神経細胞を死滅させADに至るというのが大まかな理論だ。これまでのAβ仮説に基づく新薬開発では、BACE阻害薬と脳内の神経細胞に沈着したAβを排除する抗Aβ抗体が2つの大きな流れだったが、ほとんどが事実上失敗している。唯一飛び抜けていたとも言えるのが、同じエーザイとバイオジェンが共同開発していた抗Aβ抗体のアデュカヌマブ。Aβの生成過程の中でもフィブリルに結合する抗体で第II相試験での成績が良好だったことから期待されたが、2019年3月に独立データモニタリング委員会が主要評価項目を達成できる見通しがないと勧告した結果、進行中の2件の第III相試験が中止された。しかし、勧告後に入手できた症例データを加えて再解析した結果、うち1件では、高用量群でプラセボ群との比較で、臨床的認知症重症度判定尺度(CDR-SB:Clinical Dementia Rating Sum of Boxes)の有意な低下が認められた。このためバイオジェンは一転して米食品医薬品局(FDA)に承認を申請。FDA諮問委員会の評決では、ほぼ否定的な評価を下されていたものの、社会的要請の高さなどを理由に新たな無作為化比較試験の追加実施とそのデータ提出を求める条件付き承認となった。もっともこの承認には専門家の中でも批判が多く、米国ではメディケア・メディケイド サービスセンター(CMS)がアデュカヌマブの保険償還対象を特定の臨床試験参加者のみに限定。さらにヨーロッパと日本では現状の臨床試験結果では効果が十分確認されていないとして承認見送りとなった。まさにジェットコースターのようなアップダウンを繰り返して、ほぼ振出しに戻ったのがAD治療薬開発の現状である。もちろんレカネマブの開発が続いていたことは承知していた。しかし、前述のような開発を巡るドタバタを知っている身としては、必死に開発を行っていた人たちには申し訳ないが、期待はせずに横目で見ていたというのが実状である。そんな最中、エーザイがレカネマブの第III相試験「Clarity AD」の主要評価項目で有意差を認め、記者発表するとのニュースリリースを9月28日早朝に発表した。今回はあの抗寄生虫薬イベルメクチンの時と違って、すでに結果がポジティブだったことはわかっている。要はどの程度のポジティブだったかがカギだ。当日、オンラインで記者会見に参加した私はディスプレイに釘付けになった。ちなみにClarity AD の登録症例は1,795例。脳内Aβ病理が確認され、スクリーニングおよびベースラインの認知症ミニメンタルステート検査(MMSE)が 22~30点、論理的記憶検査(WMS-IV LM II:Wechsler Memory Scale-IV logical memory II)の点数が年齢調整済み平均値を少なくとも1標準偏差を下回り、エピソード記憶障害が客観的に示されることが認められるADによるMCIと軽度ADが対象だ。これを2群に分け、レカネマブ10mg/kgの点滴静注を2週に1回とプラセボ点滴静注を2週に1回行い、主要評価項目は、ベースラインから投与18ヵ月時点でのCDR-SBの変化を比較したものだ。アデュカヌマブとレカネマブの最大の違いは、レカネマブはフィブリル形成直前の可溶性プロトフィブリルが標的となっていることに加え、アデュカヌマブでは漸増投与が必要だったのに対し、レカネマブは初回から有効用量の投与が可能なことである。公表された結果ではプラセボ比でのCDR-SB変化量で見た悪化抑制率は27%、詳細は発表されなかったが副次評価項目すべてでプラセボに対して統計学的有意差が認められたという。また、抗Aβ抗体では付き物の副作用がアミロイド関連画像異常(ARIA)だが、その発現率はARIAのうち脳浮腫をさすARIA-Eが12.5%(症候性2.8%)、脳微小出血をさすARIA-Hが17.0%(同0.7%)。アデュカヌマブが高用量群でプラセボ比でのCDR-SB変化量で見た悪化抑制率は23%(低用量群では14%)で、ARIA発現率がレカネマブの約3倍であることを考えれば、確かに成績は良いと言える。しかも、あくまでエーザイ側の説明に依拠するが、プラセボと比較したCDR-SB変化量の差は治験開始6ヵ月後に発現しているというのだ。私が驚いたのはむしろこの効果発現の早さだ。さてエーザイではこの結果をもって日米欧で2022年度中のフル申請、2023年度中のフル承認を目指すという。「フル」というのはアデュカヌマブの時のような条件付き承認ではないということである。ちなみに米国では、すでにClarity AD以外の試験結果で迅速承認制度の指定を受け、その結果は来年1月上旬までに明らかになる予定だが、この試験結果を追加提出することで、アデュカヌマブのような「失敗」はしないという意味である。CMSはアデュカヌマブの保険償還制限に当たって、同薬のような“条件付きの迅速承認の場合”とこちらも条件を付けている。では、このまま承認に至った際の課題は…やはり投与対象と薬価の問題である。米国でアデュカヌマブが承認された際の年間薬剤費は約600万円となった。前述のCMSの付けた条件が制限となったため、現実にはほとんど売上と言えるほどの数字にはなっていない。抗体医薬品である以上、どんなに頑張ってもレカネマブの年間薬剤費が100万円以下というのは世界のどの国でも考えにくい。たとえば仮に年間100万円としても、現在日本には推定約700万人の認知症患者がいる。日本国内でこのうちの1%強に当たる10万人が処方を受けたとすると、年間薬剤費は1,000億円となる。世界最速とも言える少子高齢化が進み、社会保障費の増大に危機感が募るばかりの昨今の状況を考えれば、簡単に容認できる話ではない。これまでの経緯を考えれば、承認されたあかつきに厚生労働省は最適使用推進ガイドラインなどでかなり投与対象を絞り込んでくるだろう。それに仮に成功しても、その先が相当厄介である。まず、投与開始後にどのような状態を有効・無効と判定するのか。かつて話題になった免疫チェックポイント阻害薬のニボルマブ(商品名:オプジーボ)の場合ならば、画像診断での腫瘍縮小効果という指標もあった。では、レカネマブでは1回数十万円もするアミロイドPETでAβ量を定量化するのか? それともある程度ばらつきもあるMMSEで判定するのか?有効基準が決まったとして、投与はいつまで続けるのか? そもそもADは高齢者の病気である。期待余命は長くはなく、悪化抑制効果が最大限得られたとしても患者本人の社会的・経済的生産性の向上が見込めるかと言えば、そこには「?」がつく。とはいえ、MCIの父親を持つ自分にとってみれば、たとえ3割弱の遅延抑制効果とはいえ、老老介護となっている母親の肉体的・精神的負担を考えれば、使える物なら使ってみたいという気持ちもある。約束した寿司屋でうまそうに漬け丼をほおばる父親を見ながら、そんなことばかりを考えていた。寿司屋を出て両親と一緒に牛歩で駅に向かった。とくに何時の新幹線に乗るかは決めていなかった。アーケード街を歩きながら、途中でベンチが見えると父親はそこに腰を掛けて休むと言い出した。母親は私に気を遣って、「私たちはゆっくり行くから、あなたは先に帰りなさい」と促した。私は父親に「またね?」と言ってその場を後にした。父親はまた破顔一笑。そのまま後ろを振り返らずにまっすぐ駅へと向かった。医療経済性、社会保障費の増大、患者家族としての思いがぐるぐる頭を巡りながら、今日この時点でも結論は出ていない。たぶんこの先も容易に結論は出ないだろう。正直、メディアの側にいるというだけで私たちは他人から忌み嫌われることは少なくない。とはいえ、それでも自分で自分の仕事を嫌だと思ったことは、こと私自身に関しては数えられるほど少ない。ただ、この日ばかりは「何も知ならきゃ良かった。本当に因果な商売だな」と自分の仕事が嫌になった数少ない日として、生涯忘れられない日になりそうである。

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せん妄は緩和ケアでよく遭遇する徴候なのです【非専門医のための緩和ケアTips】第37回

第37回 せん妄は緩和ケアでよく遭遇する徴候なのです「せん妄」って緩和ケアに限らず、どの分野でも遭遇しますよね。でも、緩和ケアではとくにせん妄の対応って大切なのです。今回は緩和ケアで必ず対応が必要になる、せん妄のお話です。今日の質問看取りにも対応する在宅医療を行っています。先日、終末期の患者さんが興奮した様子となり、家族が驚いてしまいました。「在宅療養の継続は難しい」と判断して緊急入院となりました。もともと家族は「自宅で最後まで過ごさせてあげたい」と言っており、「本当に入院してよかったのか」と感じます。こういった場合、どのように対応しますか?在宅緩和ケアでは、しばしばこういった難しい状況に直面します。ご質問からの推測になりますが、終末期せん妄の状態だったのでは、と感じます。入院や在宅で緩和ケアを実践していると、よく遭遇する徴候です。皆さんは終末期患者さんがどの程度、せん妄を発症するかご存じでしょうか? データにもよるのですが、「がん患者が亡くなる数日前には88%に発症する」と言われています。これ、すごく高頻度ですよね。なので、日単位の予後のがん患者さんに意識の変容が生じた場合は、せん妄である可能性が非常に高いのです。せん妄に対しては重要な点がたくさんあるのですが、その一つが「気付く」ことです。今回のように興奮が強いタイプのせん妄は気付きやすいのですが、活気がないように見えるタイプのせん妄については、気付きにくいことが知られています。せん妄に対しての介入は、まずは「原因となっている身体疾患の中で改善できるものがないか」を考えます。たとえば、高カルシウム血症のような電解質異常がせん妄を助長しているのであれば、補正を検討します。ただ、予後日単位の状況だと、現実的になかなか改善が難しいことが多いですね。薬物療法としては、ハロペリドール(商品名:セレネース)などの抗精神病薬を用います。それでも興奮が強い時には、より鎮静作用の強い薬剤を用いることもあります。さらに、せん妄は家族のつらさも助長します。「大切な家族が、人が変わったようになってしまった…」というのは、せん妄患者の家族からよく聞かれる嘆きです。死別が近いことによる悲嘆の中にある家族にとって、さらにつらさを増す状況であることは想像するに難くありません。そうした意味では、せん妄は在宅療養の継続が難しくなる徴候の一つです。興奮の強いせん妄の場合、私自身も薬物療法をしながら、入院の相談をすることがよくあります。近年、せん妄に対しては書籍やガイドラインが増えました。それだけ医療現場では切実な問題なのでしょう。どれもお薦めなのですが、日本サイコオンコロジー学会の「がん患者におけるせん妄ガイドライン2022年版」(金原出版)が2022年6月に改訂されていますので、まずはこれから読んでみてはいかがでしょうか?今回のTips今回のTipsせん妄への対応は、緩和ケアの分野でも重要なスキルです。

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下肢PADへのテルミサルタン、6分間歩行距離の改善なし/JAMA

 下肢末梢動脈疾患(PAD)の患者において、テルミサルタンはプラセボと比較してフォローアップ6ヵ月時点の6分間歩行距離を改善しなかった。トレッドミル上の最大歩行距離やSF-36身体機能スコアなども改善はみられなかった。米国・ノースウェスタン大学のMary M. McDermott氏らが、114例の患者を対象に行った2×2要因デザインによるプラセボ対象無作為化二重盲検試験の結果で、著者は、「今回示された結果は、PAD患者の6分間歩行距離改善についてテルミサルタンを支持しないものであった」と述べている。PAD患者は下肢の血流が減少し下肢骨格機能が障害されて、歩行能力が低下する。ARBのテルミサルタンは、これら一連の症状を改善する特性を有していた。JAMA誌2022年10月4日号掲載の報告。6ヵ月後の6分間歩行距離を評価 研究グループは米国2ヵ所の医療機関で114例のPAD患者を対象に試験を行った。登録は2015年12月28日~2021年11月9日に行われ、最終フォローアップは2022年5月6日だった。 被験者を無作為に4群に分け、2×2要因デザイン法を用いて、(1)テルミサルタン+管理下での運動(30例)、(2)テルミサルタン+週1回1時間の教育セッション(がん検診や高血圧症など)(29例)、(3)プラセボ+管理下での運動(28例)、(4)プラセボ+教育セッション(27例)をそれぞれ6ヵ月間実施しアウトカムを比較した。 なお本試験は当初、サンプルサイズは240例と計画されたが登録が進まず、主要比較は、テルミサルタンが投与された2群とプラセボが投与された2群に変更され、目標サンプルサイズは112例に変更された。 主要アウトカムは、6ヵ月後の6分間歩行距離の変化で、臨床的に意味のある最小差は8~20mとした。副次アウトカムは、トレッドミル上の最大歩行距離、歩行障害質問表(Walking Impairment Questionnaire)のスコア(距離、速度、階段昇段について)、SF-36身体機能スコアだった。結果は、実施医療機関やベースライン6分間歩行距離、管理下での運動または教育セッションの実施、性別、ベースライン心不全歴で補正し評価した。半年後の6分間歩行距離の変化、テルミサルタン群1.32m、プラセボ群12.5m改善 無作為化された114例の平均年齢は67.3歳、女性は46例(40.4%)、黒人が81例(71.1%)で、6ヵ月のフォローアップを完了したのは105例(92%)だった。 6ヵ月後の6分間歩行距離の変化の平均値は、テルミサルタン群が1.32mの改善(341.6m→343.0m)、プラセボ群は12.5mの改善(352.3m→364.8m)で、補正後群間差は-16.8m(95%信頼区間[CI]:-35.9~2.2、p=0.08)で、テルミサルタンによる有意な改善は認められなかった。副次アウトカムの5項目についても、いずれも両群で有意差はなかった。 最も頻度の高かった重篤な有害イベントは、PADによる入院(下肢の血行再建術、切断または壊疽などによる)で、テルミサルタン群3例(5.1%)、プラセボ群2例(3.6%)で報告された。

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英語で「吸入」は?【1分★医療英語】第49回

第49回 英語で「吸入」は?How often do I take this inhaler?(この吸入器はどれくらいの頻度で使うのですか?)Inhale 2 puffs once a day.(1日に1回、2吸入してください)《例文1》One bottle of inhaler contains 200 puffs.(吸入器1ボトルで200回分の吸入ができます)《例文2》Repeat these steps for each puff.(一度吸入するたびに、これらの方法を繰り返してください)《解説》「吸入する」という動詞は“inhale”を使い、「吸入器」は動詞を活用した“inhaler”です。そして名詞の「吸入」を表現したいときには“puff”を使います。“puff”は、「ひと吹きする」「吹き出す」「噴射する」といった動詞としても使われ、“take a puff of a cigarette”は「タバコを吹かす(一服する)」という意味になります。また、“puff”には「プッと膨らむ」という意味もあり、お菓子のシュークリームは“cream puff”です。吸入器の使い方は、患者さんがわかるまで丁寧に“step by step”で実演しながら説明します。米国ではHealth literacy があまり高くない患者さんも多いので、理解度を確認することが大切です。吸入器の説明の際によく使われる“breathe”と“breath”の発音の違いも練習しておくとよいでしょう。“Breathe out all the way.”(息を吐き出します)“As you start to slowly breathe in, press down the inhaler one time.”(息をゆっくり吸い込みながら、吸入器を一度押します)“Hold your breath as you slowly count to 10.”(息を止め、ゆっくり10数えます)といった感じです。講師紹介

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第129回 国のコロナ治療薬支援は適正価格?現況を列挙してみると…

前回、興和が実施していた新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)に対する抗寄生虫薬のイベルメクチンの第III相臨床試験で有効性を示せなかったことについて触れた。その際に、私は厚生労働省が開発支援として同社に約61億円を拠出したことについては、日本にとってやむなしという見解を示している。ところで国の新型コロナ治療薬の開発支援にはどの程度のお金がこれまで使われたのか? 実はこれを正確に計算することはなかなか困難である。というのも、まず財布(支出元)が厚生労働省、国立感染症研究所、日本医療研究開発機構(AMED)、内閣府、経済産業省、文部科学省など多岐にわたるからだ。また、この中には正規の当初予算の中の予備費などを活用したものや補正予算で対応したものなどさまざま。支出先も製薬企業だけでなく、大学その他の研究機関なども少なくない。こうした中で最も分かりやすい厚生労働省の「新型コロナウイルス感染症治療薬の実用化のための支援事業」で製薬企業に直接支出されたものは以下のようになる(金額は百万円単位を四捨五入)。エンシトレルビル(商品名:ゾコーバ):82億2,000万円[?]イベルメクチン(商品名:ストロメクトール):61億6,000万円[試験未達]ファビピラビル(商品名:アビガン):14億8,000万円[試験終了、申請意向は不明]カモスタット(商品名:フオイパン):6億円[コロナ対象の開発中止]AT-527:4億6000万円[国内開発終了]カシリビマブ/イムデビマブ(商品名:ロナプリーブ):3億2,000万円チキサゲビマブ/シルガビマブ(商品名:エバシェルド):2億8,000万円ソトロビマブ(商品名:ゼビュディ):2億6,000万円オチリマブ:1億9,000万円[開発中止]総額では約179億円になる。ちなみに各種報道によると、大学などへも含めた治療薬開発支援の総額は1,000億円超に上るという。現在までにこれらの中で上市に至ったものへの支援総額は8億6,000万円、支出総額の5%程度に過ぎない。開発が進行中で最多金額が支出されたエンシトレルビルは先日、第III相臨床試験でポジティブな結果が報告されたため、このままで行けば上市される可能性が高い。この分を含めると支援総額の半分はなんとか上市にこぎつけることになる。さて、この予算投入に対する評価は個人によってかなり変わるかもしれない。私はまずまずの結果と見ている。ただ、敢えて本音を言えば「ふーん、これが先進国である日本の有様?」とも考えてしまう。率直に言えば、支援額は「0が2つ足りない」とさえ思う。ご存じのように今や1つの新規成分を治療薬として上市するまでには、期間にして20年、費用にして200億円を要すると言われる。その中で抗ウイルス薬はかなり開発が難航する領域である。世界で初めて製品化された抗ウイルス薬といえば、ヘルペスウイルスに対するアシクロビルである。現在のグラクソ・スミスクラインの前身であるバローズ・ウエルカム社の研究所で1974年に開発され、開発者であるジョージ・H・ヒッチングスとガートルード・B・エリオンはその功績が評価され1988年にノーベル生理学・医学賞を受賞している。念のため言うと、世界で初めて合成に成功した抗ウイルス薬はリバビリンだが、当初の開発目的であったインフルエンザ治療薬としての上市は成功せず、C型慢性肝炎治療薬として世に出るには1990年代まで待たなければならなかった。このように抗ウイルス薬は数ある疾患治療薬の中で、まだ半世紀にも満たない歴史しかなく、合成には数多くのペプチド結合などが必要となるため、開発は容易ではない。ヒト免疫不全ウイルスの登場とその戦いにより抗ウイルス薬の開発に弾みはついたものの、現在ある何らかの抗ウイルス薬のうち国産(国内開発)はインフルエンザに対するバロキサビル(商品名:ゾフルーザ)とラニナミビル(商品名:イナビル)、ファビピラビル(商品名:アビガン)ぐらいである。また、今回の新型コロナでは感染症に抗体医薬品を用いるという新たな戦略が登場したが、抗体医薬品開発能力がある国内の製薬企業は限られている。さらにこの間、新型コロナに対する抗ウイルス薬や抗体医薬品の上市に成功した外資系製薬企業のほとんどが日本円換算で年間の研究開発費が1兆円超。かつ上市に成功した治療薬のほとんどは完全な自社創製ではなく導入品である。悪く言えば、札びらで横っ面をひっぱたきながら時間を買ったとも言えるが、もはやこれは製薬業界ではごく当たり前の開発プロセスの一つになっている。いずれにせよ、新型コロナ治療薬開発競争での日本のディスアドバンテージは大きく、実際、現在までに登場した国産治療薬はない。第8波を迎える前に、そろそろこの辺の総括に入っても良いのではないかと思っている。もっとも今後のパンデミックを見越してやらなければならないことは国と企業ではかなり違う。国がやるべきは、公的研究機関での創薬そのものと言うよりは創薬の基盤技術への大規模・持続的な投資である。もっとも創薬技術が長足の進歩で高度化している以上、すべての基盤技術を国内の公的研究機関で獲得することは困難である。私自身は以前の本連載でも触れたとおり、新薬開発の極端な国粋主義には批判的な立場である。その意味では海外の研究機関との人事交流も含めた提携も欠かせない。これらをいかに「年度主義」から脱して持続的に行えるかがカギである。そして公的研究機関もそれぞれの組織や個人によって特徴がある。その各機関の研究情報の集約と岸田首相が創設を打ち出した日本版CDCとの間のネットワーク化も整備しなければならない。一方、民間企業、すなわち製薬企業側に求められることの一つは日本を軸としたアジア圏での臨床試験実施体制の確立である。メガファーマと呼ばれる国際製薬大手の新型コロナ関連治療薬の臨床試験の多くは、被験者を集めやすいアメリカを中心にその地続きである近傍の北米のカナダや南米を中心に行われることが多い。製薬業界にとって巨大市場であるアメリカに対しては国内の製薬企業もある程度は進出しているが、ここで臨床試験実施競争に勝てる環境はない。その意味ではやはり距離的にも近いアジア圏内にネットワークを確立するほうが早道である。これは抗ウイルス薬の開発に限らないことである。そしてもちろん今回、新型コロナ関連治療薬の上市に成功した外資系の製薬企業各社のように社外のシーズを迅速に目利きすることは重要だが、何より先立つものは金である。有望なシーズを見つけてもそれを獲得する資金がなければ事は動かない。では、どうするのか? 言い古されたことになるが、規模の拡大、すなわち国内外を含めた業界再編が必要になる。ここは最も大きなハードルである。「何を理念的なことばかり言っているんだ」と各方面に叱責されるかもしれないが、次なる新興感染症、あるいは現在の新型コロナの新たな変異株の登場による状況の悪化を想定すれば、いずれも今から少しずつでも始めなければ「後の祭り」になりかねないのである。

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第129回 大地震から丸山ワクチンまで、幅広いテーマを深く掘り下げた中井 久夫氏の作品

イベルメクチン臨床試験「主要な評価項目で統計学的有意差は認められず」こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。久しぶりに好天となった週末は、少々足を伸ばして、新潟県と長野県の県境に位置する苗場山に行って来ました。土曜に赤湯温泉まで入り、翌日、赤倉山経由で苗場山に登り、和田小屋に下山する長めのコース。苗場山頂上部の池塘が点在する草紅葉の絶景を堪能できたのはよかったのですが、行動時間は11時間近くになってしまい、和田小屋下の駐車場に着く頃には真っ暗になっていました。今の時期、山の日没はとても早いです。皆さんも気をつけてください。ところで、一部医師から熱狂的な支持を受けていた抗寄生虫薬イベルメクチンについて、第III相臨床試験を行っていた興和が9月26日記者会見を開き、「主要な評価項目で統計的な有意差が認められなかった」とする結果を発表しました。この試験は2021年11月~2022年8月、日本とタイの軽症の新型コロナウイルス感染症患者1,030人を対象に、国際共同、多施設共同、プラセボ対照、無作為化、二重盲検、並行群間比較試験で行われました。結果、より早く症状が治まることの有効性を見出すことができなかった、とのことです。なお、死亡例はないことなどから「安全性は確認された」としています。さらに9月30日には、イベルメクチンの開発者、大村 智博士が所属していた北里大学も2020年8月〜2021年10月まで実施した新型コロナウイルス感染症患者に対するイベルメクチンの多施設共同、プラセボ対象、無作為化二重盲検、医師主導治験の結果を公表、「プラセボ投与群との間に統計学的有意差を認めなかった」としています。イベルメクチンについては、新型コロナの感染拡大が始まったころから、一部の熱狂的な医師が「よく効く」「治った」とテレビ等、さまざまなメディアで喧伝、そうした流れに乗り、東京都医師会の尾崎 治夫会長も、「予防にも治療にも効果が出ているのだから、積極的に使うべき」と主張していました。そもそも、イベルメクチンについては、WHOも米国NIHも臨床試験に限定して使用するよう勧告してきました。2021年3月にはJAMA誌に、今年3月にはNEJM誌に、イベルメクチンが新型コロナウイルス感染症に効果がないことを結論付けた論文も発表されています。今回、興和と北里大学から改めて二重盲検で有効性が認められなかった、と発表されたことは、イベルメクチン信奉者に対する最後通牒になったと思われます。しかし、彼らから「科学的に嘘を言っていました」といった反省の声は聞こえてきません。何らかの弁明や反論をぜひ聞いてみたいところなのですが……。統合失調症の研究者としてだけでなく詩の翻訳やエッセイなどでも有名な中井氏さて、秋も深まって来ましたので、今回は“読書特集”として、ある著者の本を数冊紹介します。少々時間が経ってしまいましたが、今年8月に1人の高名な医師が亡くなりました。新聞でもその逝去は取り上げられ、全国紙の中には追悼記事を掲載するところもありました。その医師とは、『患者よ、がんと闘うな』の近藤 誠氏、ではなく、精神科医の中井 久夫氏です。神戸大学医学部精神神経科主任教授などを歴任した中井氏は、精神科の領域では統合失調症やPTSDの研究者として知られています。また、ラテン語や現代ギリシャ語、オランダ語も堪能で、詩の翻訳やエッセイなど文筆家としても有名でした。amazonで中井氏の著作を検索すると、膨大な数の著作があることに驚かされます。難解な著作も多い中、精神科に限らず、臨床医ならばぜひ読んでおきたい作品も少なくありません。災害医療に携わる医療人の必読書、『災害がほんとうに襲った時 阪神淡路大震災50日間の記録』精神科領域から少々外れたところでは、中井氏が1995年に起きた阪神・淡路大震災の時の記録を綴った『災害がほんとうに襲った時 阪神淡路大震災50日間の記録』(みすず書房、2011年)は災害医療に携わるすべての医療人の必読の書だと言えます。本書は、もともとは中井氏が神戸大学の精神神経科主任教授として経験した阪神淡路大震災の50日をまとめた『1995年1月・神戸より』(みすず書房、1995年)が原本です。東日本大震災直後の2011年4月、同書を読みたいという人が増えたことから、再編集して急遽刊行されました。『災害がほんとうに襲った時』には「東日本巨大災害のテレビをみつつ」と題した章が加えられており、16年前の大震災を経験した精神科医だからこそ書ける、さまざまな視点やアドバイスが盛り込まれています。東日本大震災ではその直後から、被災者の心のケアが重視されましたが、そうした動きには、阪神淡路大震災での中井氏らの活動やそこで得られた教訓が克明に記された本書の存在が大きく影響していたに違いありません。本書には、「孤独なうちに自分しかいないと判断してリーダーシップを発揮した人たちがいた。(中略)。いずれも早く世を去った」という一文があります。そして、PTSD含め、大災害での医療活動が現場の医療者に与えるダメージについても、中井氏自身の心身の状態の変化も含め、詳しく書かれています。その内容は、コロナ禍で疲弊した医療者に対するケアを考える上でも役立ちそうです。気軽に読める『臨床瑣談』、『臨床瑣談 続』中井氏の著作の中で気楽に読めるエッセイとしては、『臨床瑣談』(みすず書房、2008年)、『臨床瑣談 続』(みすず書房、2009年)がとくにお薦めです。月刊誌『みすず』に2007年から不定期連載してきたエッセイをまとめたもので、「『臨床瑣談』とは、臨床経験で味わったちょっとした物語」といった意味だそうです。目次の主な内容は、「院内感染に対する患者自衛策私案」「昏睡からのサルベージ作業」「がんを持つ友人知人への私的助言」(以上『臨床瑣談』)、「血液型性格学を問われて性格というものを考える」「煙草との別れ、酒との別れ」「インフルエンザ雑感」(以上『臨床瑣談 続』)と雑多で、中井氏の専門である精神科以外のテーマが多く、基本的に医師向けに書かれたものではありません。しかし、内容は十分に専門的で、臨床医が普通に読んでも参考になるトリビアが散りばめられています。丸山ワクチンを自ら試した中井氏この中でとくに面白く読めるのは、『臨床瑣談』に収められている「SSM 通称丸山ワクチンについての私見」です。当時、この回が『みすず』に掲載されると、全国紙の書評欄で取り上げられ、出版社への問い合わせが殺到、それが『臨床瑣談』の出版につながったのだそうです。「(丸山)先生を直接知る人が世を去りつつ今、少しくわしく、先生のことを記しておくのがよいだろう。私は丸山先生に直接お会いしてお話をうかがった最後の世代になりつつある。書き残しておく責任のようなものもある」として書かれたこのエッセイには、日本医科大の丸山 千里博士との面会の様子から、中井氏自身の使用経験、はては丸山ワクチンを使いたいという友人を日本医大に紹介する話まで、数々の興味深いエピソードが赤裸々に語られるとともに、丸山ワクチンに対する中井氏の私見が展開されています。「私は精神科医でありガン学会とはまあ無縁である」という中井氏は、総じて丸山ワクチンに好意的な立場を取りながら、その作用機序について、かつてウイルスの研究者だった頃の知見を生かして、論理的に考察していく経緯は読み応えがあります。イベルメクチンの信奉者たちも、「効くんだ」「承認しろ」とただただ騒ぐだけではなく、中井氏のように論理的な考察とともに、自分が「なぜ使うか」を冷静に訴えるべきだったと思いますが、どうでしょうか。ちなみに丸山ワクチンは今でも有償治験薬という特別な扱いが続いており、日本医科大学付属病院ワクチン療法研究施設を受診すれば、治療を受けることができます。余談ですが、日本経済新聞の今年7月の「私の履歴書」は、ソニー・ミュージックエンタテインメント元社長の丸山 茂雄氏でした。丸山博士の長男である茂雄氏も同連載の中で、がんに罹患した後、主治医に内緒で丸山ワクチンを投与したと書いていました。さまざまな治療法も組み合わせ、最終的にがんは消えたとのことですが、「もちろんいまも丸山ワクチンを打ち続けている」と締めくくっています。60年前に日本の医療を痛烈批判した『日本の医者』さて、中井氏の著作の中には、約半世紀の時を経て復刊されたものもあります。『日本の医者』(日本評論社、2010年)です。原本は、中井氏が東大伝染病研究所(現在の東大医科研)の研究員として働いている時に、ペンネームを使って共著で書いた『日本の医者』(三一書房、1963年)です。医学部講座制や全国の病院の系列化などを批判的に論じた内容で、3年後に今度は『病気と人間』(三一書房、1966年)という本を再び共著で出版、「医局制はそのうち崩壊する」との過激な予言が当時は話題になったそうです。2010年に復刊された『日本の医者』には、若き中井氏の原点ということで、三一書房から出版された『日本の医者』『病気と人間』に加え、「抵抗的医師とは何か」(岡山大学医学部自治会刊)という文章も収められています。60年前の日本の医学部、医師、医療機関の実態とその問題点を指摘した本書は、読んでみると半世紀以上たった今でもそんなに古びていないと感じます。技術はともかく、「日本の医者」の本質がほとんど進歩していないためかもしれません。事実、医局制度(教授の権限)はしぶとく生き残り続けています。今でも医局や大学教授に縛られ続ける、若い医者たちに読んでもらいたい1冊です。

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4種類の血糖降下薬、メトホルミン併用時のHbA1c値への効果に差は?/NEJM

 2型糖尿病患者では、糖化ヘモグロビン(HbA1c)の目標値を維持するために、メトホルミンに加えいくつかの種類の血糖降下薬が投与されるが、その相対的有効性は明らかにされていない。米国・マサチューセッツ総合病院のDavid M. Nathan氏らGRADE Study Research Groupは、「GRADE研究」において、4種類の血糖降下薬の効果を比較し、これらの薬剤はいずれもメトホルミンとの併用でHbA1c値を低下させたが、その目標値の達成と維持においては、グラルギンとリラグルチドが他の2剤よりもわずかながら有意に有効性が高いことを確認した。研究の成果は、NEJM誌2022年9月22日号で報告された。米国の無作為化並行群間比較試験 GRADE研究は、2型糖尿病患者の治療における4種類の血糖降下薬の相対的有効性の評価を目的とする無作為化並行群間比較試験であり、2013年7月~2017年8月の期間に、米国の36施設で参加者の登録が行われた(米国国立糖尿病・消化器・腎疾病研究所[NIDDK]などの助成を受けた)。 対象は、2型糖尿病の診断時の年齢が30歳以上(アメリカインディアンとアラスカ先住民は20歳以上)、糖尿病の罹病期間が10年以内で、500mg/日以上のメトホルミンによる治療を受けており、過去6ヵ月間に他の血糖降下薬を使用しておらず、HbA1c値が6.8~8.5%の患者であった。 被験者は、インスリン グラルギンU-100(以下、グラルギン)、スルホニル尿素薬グリメピリド、GLP-1受容体作動薬リラグルチド、DPP-4阻害薬シタグリプチンを投与する群に無作為に割り付けられた。全例がメトホルミンの投与を継続した。 代謝に関する主要アウトカムは、HbA1c値≧7.0%とされ、年4回の測定が行われた。代謝に関する副次アウトカムは、HbA1c値>7.5%であった。体重減少はリラグルチドで最も大きい 5,047例が登録され、グラルギン群に1,263例、グリメピリド群に1,254例、リラグルチド群に1,262例、シタグリプチン群に1,268例が割り付けられた。ベースラインの全体の平均(±SD)年齢は57.2±10.0歳、41.5%が60歳以上で、10ヵ所の退役軍人省医療センターの参加を反映して63.6%が男性であり、白人が65.7%、黒人が19.8%、ヒスパニック/ラテン系が18.6%含まれた。 それぞれの平均値は、糖尿病の罹病期間4.2±2.7年、メトホルミンの1日投与量1,994±205mg、BMI 34.3±6.8、HbA1c値7.5±0.5%であった。平均追跡期間は5.0年であり、85.8%が4年以上の追跡を受けた。 HbA1c値≧7.0%の累積発生割合には、4つの治療群で有意な差が認められた(全体的な群間差の検定のp<0.001)。すなわち、100人年当たりグラルギン群が26.5、リラグルチド群は26.1とほぼ同様であり、これらはグリメピリド群の30.4、シタグリプチン群の38.1に比べて低かった。これは、HbA1c値<7.0%の期間が、シタグリプチンに比べグラルギンとリラグルチドで約半年間長くなることを意味する。 また、HbA1c値>7.5%の発生割合に関しては、群間差に主要アウトカムと同様の傾向がみられ、100人年当たりグラルギン群が10.7、リラグルチド群は13.0であり、グリメピリド群の14.8、シタグリプチン群の17.5よりも低かった。 事前に規定された性別、年齢、人種/民族別のサブグループでは、主要アウトカムに関して4つの治療群で実質的な差はみられなかった。一方、ベースラインのHbA1c値が高かった(7.8~8.5%)患者では、HbA1c値<7.0%の維持または達成において、シタグリプチン群は他の3剤と比較して効果が低かった。 重症低血糖はまれだったが、グリメピリド群(2.2%)は、グラルギン群(1.3%、p=0.02)、リラグルチド群(1.0%、p≦0.001)、シタグリプチン群(0.7%、p≦0.001)に比べ有意に高頻度であった。消化器系の副作用の頻度は、リラグルチド群(43.7%)が他の治療群(グラルギン群35.7%、グリメピリド群33.7%、シタグリプチン群34.3%)に比べて高かった。また、4年間の平均体重減少はリラグルチド群(3.5kg減)とシタグリプチン群(2.0kg減)が、グラルギン群(0.61kg減)とグリメピリド群(0.73kg減)よりも大きかった。 著者は、「本試験で得られた重要な示唆は、たとえすべての治療が無料で提供される臨床試験であっても、HbA1cの目標値の維持は困難なことである。このデータは、2型糖尿病患者における長期的な血糖コントロールの、より効果的な介入の必要性を強調するものである」と指摘し、「これらの知見は、メトホルミンへの追加の薬剤を選択する際に、医療者と患者の共有意思決定の基礎となるだろう」としている。

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第128回 厚労省有識者検討会で珍事、会の名称変更と第1回やり直しの背景に「薬価差益」

医薬品に関する有職者検討会が突如廃止こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末も、前半は台風が首都圏を直撃、屋外の遊びが難しい天候となりました。することもないので、再び映画館に「トップガン」を観に出かけました。「トップガン マーヴェリック」については、「第112回 規制改革推進会議答申で気になったこと(前編)タスクシフトへの踏み込みが甘かった背景」でも少し書きましたが、今回は、36年前の1986年に公開された「トップガン」第1作と、今年公開の「トップガン マーヴェリック」の連続上映です。大ヒットの「マーヴェリック」に気を良くしたパラマウント・ピクチャーズが、9月中旬から全国の主要映画館で上映しています。2作続けて観ると、最新作がいかに第1作をリスペクトして作られ、さまざまな伏線を見事に回収しているかがわかります。トム・クルーズの絶妙の老け具合や、前作では主役機だったF-14トムキャットの描かれ方。さらには、かつてマーヴェリックのライバルだった、ヴァル・キルマー演ずるアイスマンとのやり取りの意味などは、連続上映だからこそより深く伝わってくると言えるでしょう。ただ、続けて観ると上映時間は4時間を超えます(2本の間に休憩あり)ので、鑑賞前にビールはあまり飲まないほうがいいかもしれません。さて、今回は厚生労働省が開いた有識者検討会での珍事について書いてみたいと思います。8月31日に第1回が開かれたばかりの「医薬品の迅速かつ安定的な供給のための流通・薬価制度に関する有職者検討会」が突如廃止に追い込まれ、9月22日には「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」と名称が改められ、構成員も増員して再度仕切り直しの第1回が開催されたのです。会の名称自体は大して変わっていないのに、一体何が起こったのでしょう。この珍事の背景には、薬価差の議論のあり方を巡って、厚労省と日本医師会との間で激しいやりとりがあったようです。利害関係者を入れずに学識経験者のみで構成8月31日に開かれた第1回の「医薬品の迅速かつ安定的な供給のための流通・薬価制度に関する有識者検討会」では、冒頭、厚労省が国内市場の動向、国内未承認薬の状況、新薬創出等加算の状況、薬価改定の概要、後発医薬品の使用促進施策、後発品企業の不祥事やそれに伴う供給不足、流通改善に向けた課題などについて説明し、その後8人の構成員がそれぞれの問題意識を発表しました。この有識者検討会は利害関係者を入れずに大学教授など学識経験者のみで構成したのがポイントで、利害から離れた自由な議論の中から薬価制度の今後の方向性を導きたい、というのが厚労省の狙いでもありました。日医が「『診療側抜き』での薬価差論議に反発」と報道しかし、この動きに敏感に反応したのが日本医師会でした。そのあたりの裏事情を9月21日付のRISFAXは、「業界期待の有識者検討会、たった1回で廃止 厚労省『診療側抜き』での薬価差論議に反発、“あるべき論”の理想崩れる」というタイトルで詳報しています。同記事は、有識者検討会は「初会合終了後にはさっそく、日本医師会周辺から厚生労働省に対して強烈な“横やり”が入り、病院経営に不可欠な薬価差のあり方にも踏み込んだ議論を『診療側抜きで進めようとしているのはけしからん』との圧力がかか」って、「異例の『廃止』に追い込まれた」と報じています。有識者検討会は9月8日に第2回が開催予定でしたが、開催案内が一向に公表されず、20日になってようやく、「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」と名称を変えて、22日に改めて初会合が開かれることが公表されました。RISFAXは、「8月の内閣改造で、日医の組織内候補である羽生田 俊参院議員が副大臣に就くといった状況もあり、独立した議論を行うという厚労省の理想が崩れてしまった」と書いています。“外野”では製薬団体も市場実勢価格に基づく薬価改定方式の見直しを主張実はこの有識者会議と並行する形で、“外野”ではこんな議論も行われていました。ミクスOnlineなどの報道によれば、日本製薬工業協会の岡田 安史会長(エーザイ代表執行役COO)は8月30日の記者会見で、「医療機関や薬局にとっては薬価差から得られる収益が経営の極めて重要な要素となっている現状だ。一方で、その薬価差に関する“透明性・妥当性には課題がある”」との問題意識を示したうえで、「薬価差は国民負担となっている」とし、「現行の市場実勢価格に基づく薬価改定方式の抜本的見直しを検討する時期にまさしく来ている」と強調、8月31日から開かれる「医薬品の迅速かつ安定的な供給のための流通・薬価制度に関する有識者検討会」での議論への期待を語っていました。また、日本製薬団体連合会の眞鍋 淳会長(第一三共代表取締役社長兼CEO)も有識者検討会が開かれた後の9月1日、日刊薬業の取材に対し、市場実勢価に基づく薬価改定方式の抜本的見直しについて、「製薬企業や卸、薬局・医療機関がそれぞれ適切なマージンを取った上で余った薬価差を国民に還元する」という具体案を示しています(9月2日付日刊薬業)。このような、製薬企業側から薬価制度見直しに向けた発言が活発化している背景には、市場実勢価格に基づく薬価引き下げが長年行われてきたことで、薬価が限界近くまで下がりきってしまい、製薬企業の経営や新薬開発などにも影響が及んでいることや、日本市場の魅力低下や、ドラッグラグの発生をも招いていることが挙げられます。薬価差を手放したくない医療機関ただ一方で、公定価格である薬価と、医療機関が薬を実際に購入する価格の差である薬価差は、医療機関にとっても経営的に手放したくない部分であるのは確かです。こうした“外野”からの発言に対し、就任後はあまり表に出てこなかった日医の松本 吉郎会長が動きました。9月7日の定例会見で、「薬価差は、あくまで市場が決めるということが基本的な考えだ」と語るとともに、現行の市場実勢価格に基づく薬価改定方式について、「ある程度の薬価差益はやむを得ないものと考える。これを急に変えることは、かえって混乱を起こす」と見直しに慎重な姿勢を表明したのです。4人の構成員を追加して再スタートといった流れの後、9月22日に初会合が開かれた第1回「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」では、INCJ(旧:産業革新機構)役員や医療コンサルタント会社社長など、4人が構成員に加わりました。また、開催要項の中の検討事項には、それまでの「医療用医薬品の流通・薬価に関する現状の課題」「現状の課題を踏まえた医療用医薬品の目指すべき流通や薬価制度の在り方」に加えて、「産業構造の検証」も入ることになりました。この日は、最初の第1回にあったような厚労省からの状況説明はなく、日本製薬団体連合会、日本製薬工業協会、米国研究製薬工業協会等からのヒアリングが行われました。「薬価差」が議論の焦点となり、日刊薬業などの報道によれば、日本製薬団体連合会の眞鍋会長は薬価差について「医療機関や薬局の経営原資の一部となっており、薬価が引き下げられても同程度の薬価差は再び発生する」として、「現行の市場実勢価格に基づく薬価改定方式の継続は新薬アクセスや医薬品の安定供給に影響を及ぼす」と主張、薬価改定方式のあり方を検討する際は「薬価差について関係者が共通の認識を持つ必要がある」と述べたとのことです。そして、共通認識の論点として「薬価差を是とするか非とするか」「医療機関や薬局の経営原資の一部になっているということでよいか」などを挙げたとのことです。全体、内容的には第1回というより、第2回の体裁と言えそうです1)。検討会の名称を変え、メンバーを追加し、「産業構造の検証」を検討事項に追加した以外に、厚労省が日本医師会と裏でどういった“手打ち”を行ったのかは不明です。薬価差益をひたすら追い求める経営姿勢は改められるべきこの20年ほどで医薬分業が急速に進みました。医療機関にとって薬価差益はあまり関係ない(むしろ薬局の問題だ)と見る向きもありますが、2021年社会医療診療行為別統計の概況によれば、院外処方を採用している病院は病院81.1%、診療所は77.6%で、以前2割近くの病院・診療所が院内処方のままで、薬価差の収入をあてにした経営を行っています。しかし、製薬協の岡田会長も述べたように、最終的に「薬価差は国民負担となっている」のです。後発品使用が推進される中でも、薬価差が大きい先発品を使い続ける医療機関、同じく薬価差目当てでバイオシミラーではなく、先行バイオ医薬品だけを使い続ける医療機関など、国の医療費増大は他人事として、経営のため薬価差益をひたすら追い求める姿勢はやはり改められるべきでしょう。新しい有識者検討会では、医療機関への影響が最低限となるような制度改革の提言に落ち着きそうな予感もしますが、せめて、薬価差が医療機関や薬局を必要以上に潤す構造にはメスを入れてほしいと思います。参考1)医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会/厚生労働省

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英語で「慎重に観察します」は?【1分★医療英語】第47回

第47回 英語で「慎重に観察します」は?His hemoglobin is trending down. Could you monitor his blood pressure?(ヘモグロビンが低下傾向です。血圧を見ておいてもらえますか?)Sure, I will keep a close eye on his vital signs.(わかりました。バイタルサインを慎重に観察しておきますね)《例文1》We must keep a careful eye on that patient.(あの患者さんは慎重に観察しないといけないですね)《例文2》You’ve put on a lot of weight. You need to keep an eye on what you eat.(体重がかなり増えていますね。食べているものに気を配るようにしましょう)《解説》今回ご紹介する“keep an eye on”は「〜を注意して見ておく」「〜から目を離さないようにする」といった意味合いのある表現で、医療機関でもよく用いられる表現の一つです。たとえば、バイタルサインや病状の不安定な患者さんがいるときには、医療チーム内で「慎重に観察しましょう」というコミュニケーションが取られるでしょうが、そんな時にピッタリの表現です。“monitor”や“watch”などの単語にも置き換えは可能ですが、より「注意深く」というニュアンスが含まれるので、好まれて用いられます。さらに、その注意深さを重ねて強調したい時には、“eye”の前に“close”(慎重な)を付けて“keep a close eye”としたり、“careful”(注意深い)を付けて“keep a careful eye”としたりします。こうすることで、さらに念入りに観察しなければならない、というニュアンスが出ます。これらの場合、冠詞の“an”が“a”に変わることにも注意してください。講師紹介

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第127回 未報道コメントに真意が!?WHOテドロス事務局長が発した「終わりが視野に…」

9月14日から15日にかけて、ちょっと驚くニュースが全世界に向けて発信された。世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム事務局長が新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)との戦いについて「終わりが視野に入ってきた」と発言したというのだ。個人的な雑感を言えば、終わりが見えなくもないが、「もう一段先かな」と思っていただけに、この一報にはやや驚いた。ちなみに「もう一段先」とは、現在流行しているオミクロン株BA.5の次に流行をもたらすウイルス株が、このままオミクロン株の亜系統になるのか、それとは別の新たな変異株になるのか、そしてそれらの感染力や重症化率を見極められればということである。とりわけ現在のオミクロン株は約10ヵ月と、武漢株を除けば最も長く流行の主流を維持し続けている変異株。次なる流行の主流がこの亜系統となれば、私としてもテドロス事務局長とほぼ似た認識になるだろう。もっとも今回の新型コロナは世間の希望的観測を何度も裏切ってきているので油断はできないというのも本音。その意味でテドロス事務局長よりも“慎重派”の私はまだ「終わりが視野に入ってきた」とは言えないのである。とはいえ比較として適切ではないかもしれないが、通称“スペインかぜ”と呼ばれる1918~19年のインフルエンザ大流行以降のインフルエンザvs.人類の戦いと比べれば、新型コロナの事実上の制圧はこれより大幅に短縮されるのではないかと希望的観測は抱いている。ところでテドロス事務局長はより正確に何と言ったのか? WHOが発表しているブリーフィングの全文を読むと、実は報じられたようなシンプルなものではないことが分かる。実は「終わりが視野に入ってきた」と報じられたフレーズには、「私たちはまだそこに至っていないが(We are not there yet)」という枕詞がついていた。また、現在の新型コロナと人類との戦いをマラソンに例え「マラソンランナーはゴールラインが見えるまで立ち止まらない」として、「今は走るのを止めるには最悪の時期である(But now is the worst time to stop running)」と言い切っている。そのうえで各国が取り組まなければならないことを6つ提言している。(1)医療従事者や高齢者などを含むリスクにさらされやすい人では100%、人口全体では70%のワクチン接種率実現に向けた注力(2)新型コロナの陽性判定検査や遺伝子検査の体制維持し、それらをインフルエンザを含むその他呼吸器感染症のサーベイランス・検査体制へと統合(3)患者に対する正しいケアシステムの確立とそれをプライマリ・ケア体制への統合(4)感染者急増に備えた計画立案と必要な物資、機器、医療従事者の確保(5)医療施設での医療従事者と非コロナ感染者を保護するための感染予防・制御措置の維持(6)新型コロナ関連政策の変更時の明確なコミュニケーションいずれの提言も至極まっとうなものと言える。敢えてこの時期にこの発言をしたのは、約3年におよぶコロナ禍で各国では政府や一般大衆に「疲れ」が見え始めているからだろうと邪推する。さて、この6つの提言を日本に当てはめるとどうなるだろう。個人的な雑感だが、(4)(5)はほぼ実現できているのではないだろうか。(2)についてはまあ達成できていると言えるだろうが、昨今の全数把握の中止方針が今後どのような影響をもたらすかは、未知数だ。(1)についても日本はそこそこに良い線を行っている。9月16日現在の国内総人口に占める3回接種完了率は65.1%。基礎免疫の2回接種完了だけでみれば80.4%で、先進7ヵ国首脳会議(G7)参加国の中ではトップである。もっとも課題はある。すでに2回接種完了率は20代以降では80%超となっているが、5~11歳の小児では2回接種完了者はわずか18.6%に留まっている。比較的、自覚する副反応が多いワクチンであることもあって、親自身が接種しても子供への接種には躊躇してしまうというケースが少なくない。この点ではまだ行政や医療従事者からの情報提供がリーチできていない部分もあるだろう。また、2回目接種完了率と3回目接種完了率には10%以上の開きがある。まさに今週、オミクロン株BA.1対応ワクチンの接種が開始されたが、頻回なワクチン接種にうんざりしている層もいるため、どこまで接種率が上昇するかは、これまた不透明である。(3)も「プライマリ・ケア体制への統合」となると、まだ一般内科の医療機関ならどこでも受診できるという状況には至っていない。(6)については、日本の最大の問題とも言える。過去に何度も指摘しているが、岸田 文雄首相の新型コロナ関連のリスク対応、リスク・コミュニケーション能力はあまりにも欠陥だらけである。オミクロン株BA.1対応ワクチンの承認と接種の前倒しも、アメリカのFDAが最新のオミクロン株BA.5の緊急使用許可の後という間の悪さである。現状の厚生労働省の新型コロナワクチンQ&Aもまだオミクロン株対応ワクチンについての情報は薄く、政治だけが先走っている感は否めない。このように考えると、テドロス事務局長が言うごく正論過ぎる6つの提言を満たすのは実は容易ではないことがわかる。これは実際のところ日本だけの問題ではないはずだ。そして世界的な状況を俯瞰した場合、やはり大きなカギを握る(1)のワクチン接種は地域格差がある。「Our World in Data」によると、全世界の2回接種完了率は62.45%と、テドロス事務局長が掲げる70%(そもそも何を根拠に70%としているのかはわからないが)に近づいている。しかし、地域別で見るとEUが73.31%、アジアが72.07%、北米が64.55%、オセアニアが62.29%に対して、まさにテドロス事務局長の出身地域(本人はエチオピア出身)であるアフリカは22.56%である。今のオミクロン株がアフリカ南部で最初に確認されたことを考えれば、先進国で何回もワクチン接種を推進してもここから蟻の一穴のごとく崩される懸念は消えない。結局、考えれば考えるほど不透明感は増すばかり。逆に「終わりが視野に入る」とはとても思えなくなるという皮肉な様相だと感じている。

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第127回 アマゾン処方薬ネット販売と零売薬局、デジタルとアナログ、その落差と共通点(後編)

コロナ終息とエリザベス女王国葬こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。WHOのテドロス事務局長は9月14日の記者会見で、新型コロナウイルスの世界全体の死者数が、先週、2020年3月以来の低い水準になったと指摘、「世界的な感染拡大を終わらせるのにこれほど有利な状況になったことはない。まだ到達していないが、終わりが視野に入ってきた」と述べたそうです。同日、厚生労働省の新型コロナウイルス対策を助言する専門家組織「アドバイザリーボード」も、全国的に新規感染者数の減少が続いている、との分析を公表しました。世界的に流行が終息に向かっていることは、米国MLBの中継や、英国エリザベス女王の国葬の様子を見ても実感することができます。国葬もそうでしたし、女王の国葬に先立つウエストミンスター宮殿での公開安置の行列でも、マスクをしている人はほとんどいませんでした(デビット・ベッカム氏も!)。その点、日本人は真面目というか、融通が効かないというか、街中の屋外では、皆、まだマスクをしています。こうした、お上の言うことに真面目に従い、世間体(周囲)を気にする他人任せな点が、日本でセルフメディケーションがなかなか進まない一因なのかもしれません。アマゾンの処方薬ネット販売の背景さて前回は、米アマゾン・ドット・コム(以下、アマゾン)が日本で処方薬のネット販売に乗り出すことになった、というニュースについて書きました(「第126回 アマゾン処方薬ネット販売と零売薬局、デジタルとアナログ、その落差と共通点(前編)」参照)。アマゾンの処方薬ネット販売進出の背景にあるのは、オンライン診療、オンライン服薬指導の普及・定着と、来年から始まる予定の電子処方箋の運用です。電子処方箋が運用されれば、処方箋のやりとりだけでなく、処方薬の流通についても徹底した効率化が求められるようになります。近い将来やってくるであろう調剤・配送集中化の時代を見据え、アマゾンとしてはまずは同社の服薬指導のシステムを普及させることで、地域の薬局をネットワーク化しておきたいというのが、その大きな狙いとみられます。こうした動きに対し、日本保険薬局協会の首藤 正一会長(アインホールディングス代表取締役専務)は記者会見で、「リアル店舗やかかりつけ薬剤師の存在感を高めることで、アマゾンに対抗する」といった趣旨のコメントをしたそうです。その記事を読んで、私は首をかしげてしまいました。世の中で「かかりつけ薬剤師」は「かかりつけ医師」よりももっと曖昧な存在です。そんなものに力を入れることで、果たして巨大アマゾンに対抗できるのでしょうか。そんなことを考えていたら、アマゾン報道の1週間ほど前に利用した都内の零売(れいばい)薬局のことを思い出しました。大都市圏で増える零売薬局零売薬局はコロナ禍で医療機関の受診控えが起こったことなどを背景に、東京都内をはじめ、大都市圏で急増しています。「処方箋なしで病院の薬が買える」などのキャッチフレーズで、新宿、渋谷、池袋など、特に若者が多く集まる街で増えている印象です。その動きは地方にも及んでいます。東海テレビ(愛知県)は7月29日の放送で、名古屋で初めての零売薬局、「セルフケア薬局」が繁華街である地下鉄名城線栄駅・南改札すぐのところにオープンした、と報じています。「セルフケア薬局」は、東京に本拠を構える零売薬局チェーンで、東京、神奈川のほか、大阪、京都などでも店舗を展開しています。厚労省が零売を公式に認めたのは2005年そもそも零売とは、医療用医薬品を、処方箋なしに容器から取り出して顧客の必要量だけ販売することをいいます。「零」は「ゼロ」を意味する漢字ですが、「少ない」「わずか」と言う意味もあります。つまり零売とは「少数や少量に小分けして売ること」という意味なのです。厚生労働省が処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売、すなわち零売を公式に認めたのは、2005年とそんなに昔のことではありません。それ以前は法令上での明確な規定がなく、一部薬局では医療用医薬品の販売が行われていました。厚労省が零売を容認するきっかけとなったのが2005年4月の薬事法改正です。医薬品分類を現在の分類に刷新するとともに「処方箋医薬品以外」の医療用医薬品の薬局での販売を条件付きで認める通知を発出しました。同年3月30日の厚生労働省から発出された「処方せん医薬品等の取扱いについて」(薬食発第0330016号厚生労働省医薬食品局長通知)は、「処方せん医薬品以外の医療用医薬品」は、「処方せんに基づく薬剤の交付を原則」とするものであるが、「一般用医薬品」の販売による対応を考慮したにもかかわらず、「やむを得ず販売せざるを得ない場合などにおいては、必要な受診勧奨を行った上で」、薬剤師が患者に対面販売できるとしました。なお、零売に当たっては、1)必要最小限の数量に限定、2)調剤室での保管と分割、3)販売記録の作成、4)薬歴管理の実施、5)薬剤師による対面販売――の順守も求められることになりました(本通知の内容は現在、2014年3月18日付薬食発0318第4号厚生労働省医薬食品局長通知「薬局医薬品の取扱いについて」に引き継がれています)。医療用医薬品約1万5,000 種類のうち半数は処方箋なしでの零売可能2005年4月施行の改正薬事法は、処方箋医薬品の零売を防ごうとしたのも目的の一つでした。それまでの「要指示医薬品」と、全ての注射剤、麻薬、向精神薬など、医療用医薬の約半分以上が新たに「処方箋医薬品」に分類されたわけですが、逆に使用経験が豊富だったり副作用リスクが少なかったりなど、比較的安全性が高い残りの医薬品が「処方箋医薬品以外の医薬品」に分類され、零売可能となったわけです。現在、日本で使われる医療用医薬品は約1万5,000種類あり、このうち半分の約7,500 種類は処方箋なしでの零売が認められています。鎮痛剤、抗アレルギー薬、胃腸薬、便秘薬、ステロイド塗布剤、水虫薬など、コモンディジーズの薬剤が中心で、抗生剤や注射剤はありません。また、比較的新しい、薬効が強めの薬剤も含まれません(H2ブロッカーはあるがPPIはない等)。ついでだからとリンデロンVG軟膏5mgも買ってしまうさて、9月初旬に私が利用したのは、都内のとある零売薬局です。いつも通っている整形外科の診療所でいつもの鎮痛剤と湿布薬を処方してもらうつもりだったのですが、外来で2時間近く待つ時間的余裕がなく、仕方なしに山手線の某駅近くにある零売薬局を利用することにしたのです。店内に入ると女性の薬剤師がカウンターに座るよう促しました。こちらの症状や、欲しい薬剤をヒアリングし、パソコンの画面を見せながら推奨する薬剤を勧めるという流れです。私は整形外科で処方してくれている鎮痛剤のエトドラク錠200mgと、ジクロフェナクテープ30mgを希望しました。しかし、「いずれも処方箋医薬品以外の医薬品ですが、当店では扱っていません」とのことで、同種のロキソプロフェンNa錠60mgとロコアテープを勧められ、それらを購入することにしました。また、雑談(!)の中で、二日酔いの薬やビタミン剤、虫刺されの薬などの話も出たので、ついでだからとリンデロンVG軟膏5mgも買ってしまいました。リンデロンVGは、山登りや沢登りでの虫刺されにてきめんに効く薬ですが、ステロイドの含有量が多いこともあって普通の薬局・薬店では買えません。「前は調剤薬局にいたが、今の仕事のほうが面白い」と、なんだかんだで薬剤師と20分近く会話をして、約4,000円の買い物をしてしまいました。薬局を出てから、今までかかってきた整形外科でも、その門前にある調剤薬局でも、鎮痛剤や湿布薬についてここまで詳しく説明を聞いたことがなかったことに気付きました。エトドラク錠と、ジクロフェナクテープがなかったのは、単にこの薬局が仕入れる薬剤リストに入っていないためか、あるいは薬効や副作用などから自主的に販売していなためかはわかりませんが、少なくとも代替薬を勧める薬剤師の説明は理には適っていました。症状を自分で聞いて、薬を選択するアドバイスをし、客の人となりを見て他の薬剤も勧めるには、それなりの知識とコミュニケーション力が要るでしょう。私を担当した薬剤師は最後に、「前は調剤薬局で働いていたが、今の仕事のほうが面白い」と話していました。零売薬局の不適切事例に厚労相が注意喚起の通知というのが私の零売薬局体験なのですが、調べてみるとコロナ禍で急増した零売薬局の中には、不適切事例も相次いでいるようです。厚労省は2022年8月5日、処方箋医薬品以外の医療用医薬品の薬局での販売の不適切な販売事例について、都道府県などに再周知を促す通知「処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売方法等の再周知について」(薬生発0805第23号厚生労働省医薬・生活衛生局長通知)を発出、不適切な事例について指導を徹底するよう求めています1)。前述したように2005年の通知、それを引き継いだ2014年の通知で、零売は「一般用医薬品の販売等による対応を考慮したにもかかわらず、やむを得ず販売等を行わざるを得ない場合」に例外的な販売が認められていますが、そうした“考慮”をすることなく販売されている事例を、「不適切」として注意喚起したわけです。私自身のケースも考えてみればそうでした。今回の通知ではまた、「同様の効能・効果を有する一般用医薬品等がある場合は、まずはそれらを販売すること」、「在庫がない場合は他店舗の紹介などによる対応を優先すること」され、さらに販売に当たっての遵守事項として「反復継続的に医薬品を漫然と販売等することは、医薬品を不必要に使用する恐れがあり不適切」とも改めて明示されました。さらに、広告やホームページなどで次のような表現を用いて処方箋医薬品以外の医療用医薬品の購入を消費者等に促すことは不適切ともされました。「処方箋がなくても買える」「病院や診療所に行かなくても買える」 「忙しくて時間がないため病院に行けない人へ」 「時間の節約になる」 「医療用医薬品をいつでも購入できる」 「病院にかかるより値段が安くて済む」…。コモンディジーズならば医療機関の受診をはしょれるこの通知は増える零売薬局への強烈な牽制と考えられます。実は厚労省は同様の指摘を2021年に一般社団法人日本零売薬局協会に対して行っており、同協会は12月、「厚生労働省からのご指摘について」という文書を会員に対して配布、広告表現等について注意するよう促しています2)。私自身は、ここまで零売に足かせをはめる必要はないと思います。医療保険が使えず、現状極めてアナログなシステムと言えますが、少なくともコモンディジーズならば医療機関の受診をはしょれます。患者は勝手知ったる薬を手早く入手できますし、国の医療費削減にも寄与します。一方、薬剤師も医師の処方にただ従って調剤するのではなく、自らの判断で薬剤を選ばなければならないので、説明も責任をもって行うようになるかもしれません。プリントされた薬剤情報提供書を機械的に渡すだけの調剤薬局の薬剤師とは異なる職能も求められ、仕事としての面白味も増しそうです。日本の薬局や処方箋調剤が抱える“欠点”DXの最先端であるアマゾンとアナログの極みとも言える零売薬局。日本の薬局や処方箋調剤が抱える“欠点”に対するアンチテーゼという意味でも共通点があります。その“欠点”とは服薬指導です。処方薬の場合、現状、すべてのケースで服薬指導を行わないと、処方薬を患者に渡すことはできません。もし、患者の希望によって、あるいは一部の薬剤においてそのプロセスをはしょることができれば、電子処方箋の運用はもっとスムーズなものになるはずです。患者はオンライン診療を受けるだけで(オンライン服薬指導を受けなくても)、薬剤が手元に届くことになるからです。一方、リアルでアナログな薬局である零売薬局ですが、そこで行われている服薬指導のほうが薬剤師は熱心だし、責任をもってやっている、というのも皮肉な話です。OTC販売では構築できなかった新しい「患者-薬剤師関係」が生まれる可能性もあります。何より、零売は医療機関を受診しない(保険診療ではない)ことで、医療費の削減につながります。国が言う、セルフメディケーション推進の流れにも合っているわけで、風邪や下痢などのコモンディジーズや患者自身も十分に理解している疾患に限っては、零売は「規制」よりも「推進」があるべき形だと考えられます。10月にも岸田 文雄首相を本部長とする「医療DX推進本部」がいよいよ発足します。現状の仕組みをすべてシステムの中に落とし込もうとするのではなく、服薬指導や医療機関受診といった現在のプロセスの中のはしょれる部分を大胆にはしょった上で、新たにシステムを組み直すほうが真のDXになると思いますが、皆さんいかがでしょう。ドラゴンクエストの世界のような、エリザベス女王の国葬をテレビ中継で観ながら、そんなことを考えていた雨の週末でした。参考1)処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売方法等の再周知について/厚生労働省2)厚生労働省からのご指摘について/一般社団法人日本零売薬局協会

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英語で「問題ありません」は?【1分★医療英語】第46回

第46回 英語で「問題ありません」は?How was the test result?(検査の結果はどうでしたか?)Your diabetes is under control.(あなたの糖尿病は問題ありません)《例文1》Don’t worry. Everything is under control.(心配ありません、すべて順調です)《例文2》His drinking problem is not under control.(彼の飲酒癖は手に負えない状態です)《解説》“under control”の直訳は「支配下にある、コントロール下に置かれている」となりますが、「適切に管理されている」ということから派生して、日常会話では「うまくいっている、問題ない」という意味で使われます。医療現場では、糖尿病や脂質異常症などの慢性疾患が順調に管理されていることを“under control”と表すことができます。また、“get”を使うことで“I would like to get you diabetes under control.”(あなたの糖尿病をコントロールしたいのです)といった表現もできます。“under”は「下に」を表す前置詞ですが、“under construction”(建設中)、“under repair”(修理中)といったように、「~している最中である」という意味合いでも使われることも覚えておきましょう。講師紹介

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JAK阻害薬とSteroid併用の重要性(解説:山口佳寿博氏/田中希宇人氏)

 今回取り上げた論文は、英国のRECOVERY試験の一環としてJanus kinase(JAK)阻害薬であるバリシチニブ(商品名:オルミエント)のコロナ感染症における死亡を中心とした重症化阻止効果を検証した多施設ランダム化非盲検対照試験(Multicenter, randomized, controlled, open-label, platform trial)の結果を報告している。本論評では、非盲検化試験(Open label)の利点・欠点を考慮しながら、重症コロナ感染症治療におけるJAK阻害薬とSteroid併用の意義について考察する。非盲検化試験の意義―利点と欠点 ランダム化非盲検対照試験では、試験の標的薬物の内容を被験者ならびに検者(医療側)が認知している状態でランダム化される。従来の臨床治験では非盲検法はバイアスの原因となり質的に問題があるものとして高い評価を受けてこなかった。しかしながら、コロナ感染症が発生したこの数年間では、その時点で効果を見込める基礎治療を標準治療として導入しながら標的の薬物/治療を加えた群(治験群)と加えなかった群(対照群)にランダムに振り分け、標的薬物/治療の有効性を判定する非盲検化試験が施行されるようになった。 非盲検化試験では:(1)基礎的標準治療を導入しながら経過を観察するため安全な形で治験遂行が可能、(2)二重盲検化試験に比べ最終結果が出るまでの時間が短縮、(3)同一症例を別の薬物/治療に関する治験に簡単に組み入れ可能であり複数個の臨床治験をほぼ同時並行的に施行可能、(4)症例の選択が比較的容易で各臨床試験にエントリーされる人数が多くなるという利点を有する。しかしながら、非盲検化試験では:(1)被験者側、医療側の両者に発生するバイアスを完全には取り除けない、(2)標準治療に治験標的の薬物/治療と相互作用を有するものが含まれる可能性があり、標的の薬物/治療の純粋な効果を把握できない場合があることを念頭に置く必要がある。 RECOVERY試験では非盲検化試験の利点を生かし、現在までに10個の治験結果が報告されている。それらの中には、低用量Steroid(デキサメタゾン)、IL-6受容体拮抗薬、回復期血漿、本論評で取り上げたJAK阻害薬などに関する報告が含まれ、コロナ感染症に対する多角的治療法について重要な知見を提供してきた。しかしながら、これらの報告では非盲検化試験に必須の欠点を有することを念頭に置きながら結果を解釈する必要がある。RECOVRY試験の結果からみたJAK阻害薬の効果 JAK阻害薬に関する臨床治験にあってRECOVRY試験は過去最大規模のものであり(8,156例)、入院治療が必要であった中等症以上のコロナ感染症患者におけるJAK阻害薬(バリシチニブ、4mg/日、10日間経口投与)の効果を、28日以内の死亡率をPrimary outcomeとして検証したものである。 本治験にあって注意すべき点は:(1)治験はオミクロン株感染者を対象としたものではない(2021年2月2日~12月29日に施行)、(2)標準治療としてSteroidがJAK群の96%、対照群の95%に、IL-6受容体拮抗薬が両群で31%、抗ウイルス薬レムデシビルがJAK群の21%、対照群の20%に投与されていた事実である。Steroidがほぼ全例に投与されているので、本治験の結果は厳密には、Steroid同時投与下でのJAK阻害薬の効果を検証したものと考えなければならない。全症例解析では、28日間の死亡率がJAK群で13%低下、非機械呼吸管理症例の機械呼吸管理への移行率も11%低下した。しかしながら、少数例の解析ではあるが、Steroid非投与者(約400例)のみの解析ではJAK群と対照群で死亡率に有意差を認めなかった。レムデシビル、IL-6受容体拮抗薬の同時投与の死亡率への影響は解析されていない。Steroidが89%の対象に同時投与された状況下で他のJAK阻害薬であるトファシチニブの効果を観察したSTOP-COVID Trialでも同様の結果が報告されている(Guimaraes PO, et al. N Engl J Med. 2021;385:406-415.)。 一方、Steroidの同時投与を禁止しレムデシビル投与下でJAK阻害薬の効果を検証したACTT-2試験では、対照群に比べレムデシビルとJAK阻害薬の同時投与群で回復までの時間が有意に短縮されたものの死亡率には有意差を認めなかった(Kalil AC, et al. N Engl J Med. 2021;384:795-807.)。レムデシビル投与下でデキサメタゾンとJAK阻害薬の効果を比較したACTT-4試験では機械呼吸管理なしの生存率に両薬物群間で有意差を認めなかった(Wolfe CR, et al. Lancet Respir Med. 2022;10:888-899.)。 以上より、JAK阻害薬の死亡を含む重症化阻止効果はSteroidの同時投与下で発現するものと考えなければならない。米国、本邦におけるJAK阻害薬の使用はACTT-2試験の結果を基に回復までの時間を短縮するレムデシビルの同時投与下において承認されている。この投与指針はコロナ感染後の回復までの時間を短縮するという観点からは正しい。しかしながら、重症化したコロナ感染者の死亡を抑制するという、さらに重要な観点からは問題がある。現在までの治験結果を総括すると、JAK阻害薬に関してはレムデシビル(抗ウイルス薬)との併用以上にデキサメタゾン(免疫抑制薬)との併用がコロナ重症例に対する治療法としてより重要な位置を占めるものと考えるべきであろう。JAK阻害薬に対するSteroid併用の分子生物学的意義 ウイルス感染をトリガーとするCytokine storm(過剰免疫反応)の発生は肺を中心とする全身臓器/組織の過剰炎症を惹起し、コロナ感染患者の生命予後を悪化させる。多様な炎症性Cytokine産生の分子生物学的機序は複雑であるが、最も重要な機序は免疫細胞、非免疫細胞における炎症性転写因子NF-κBとSTAT3(Signal transducers and activators of transcription)の持続的活性化である。JAK阻害薬は4つのtransmembrane protein kinase(JAK1、JAK2、JAK3、TYK2)の抑制を介して転写因子STAT3を抑制する。その結果として、数多くのCytokine産生が抑制される。同時に、STAT3の抑制はそれと相互作用(Cross talk)を有するNF-κBの活性を抑制し、Cytokineの産生はさらに抑制される。その意味で、NF-κBに対する抑制能力が高いSteroidの同時投与はJAK阻害薬のCytokine産生抑制効果をさらに増強することになる。 JAK阻害薬と同様に、Steroid併用の重要性が議論された免疫抑制薬にIL-6受容体拮抗薬(トシリズマブ、商品名:アクテムラ)がある。IL-6受容体拮抗薬はJAK阻害薬と異なる作用点を介してSTAT3、NF-κB経路を抑制する(山口. CLEAR!ジャーナル四天王-1383)。すなわち、JAK阻害薬、IL-6受容体拮抗薬は作用点が異なるものの本質的機序は同じで最終的にSTAT3とNF-κB経路の抑制を介して抗炎症作用を発現する。それにもかかわらず、現時点の投与基準では、IL-6受容体拮抗薬がSteroidの同時投与下で承認されているのに対し、JAK阻害薬はレムデシビルとの同時投与下で承認されておりSteroid併用の重要性が強調されていない。両薬物の治験結果が出そろいつつある現在、JAK阻害薬の投与基準もSteroidの併用を強調したものに変更していくべきではないだろうか?

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第126回 アマゾン処方薬ネット販売と零売薬局、デジタルとアナログ、その落差と共通点(前編)

アマゾン・ドット・コム、日本で処方薬のネット販売へこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。今年の夏は天候もぱっとせず、大した山に行っていないなあ、と思っていたところ、知人から「富士山に連れて行ってくれないか」との依頼がありました。ということで、9月10日土曜の夏山閉山日(17時登山道閉鎖)に最短ルートである富士宮口五合目から頂上をピストンして来ました。前日金曜に三島に入って夜に鰻を食べ、翌日に日帰り弾丸登山、帰京というスケジュールです。富士山は、今年最後の夏山登山可能日ということで、初心者からベテラン風な人まで、結構な人出でした。天気はそこそこでしたが、標高2,400メートルの登山口から、一気に1,400メートル近く登る行程はそれなりにハードです。3,500メートル近辺からは高山病症状からか座り込む人が続出。我々の下山時には朝のバスで一緒だったパーティが8合目辺りをまだ登っていたりして、今日中に下山できるのだろうか(7合目より上の小屋はすでに休業中)と心配になってしまいました。今夏も、富士山では遭難者が相次いだそうです。身動きが取れなくなった初心者が救助を呼ぶケースも多かったとか。皆さんも夏の富士山に登るときは、高山病と寒さ(頂上は外界より20℃近く低いです)に気をつけてください。さて、今回は日本経済新聞が9月6日付朝刊1面でスクープした、米アマゾン・ドット・コム(以下、アマゾン)が日本で処方薬のネット販売に乗り出すことになった、というニュースについて書いてみたいと思います。その1週間ほど前、事情があって最近都内で増えてきた零売(れいばい)薬局(医療用医薬品を処方箋なしで購入できる薬局)で、湿布薬など何種類かの薬を購入しました。DXの最先端アマゾンとアナログの極みとも言える零売薬局……。そこには大きな違いがありますが、日本の薬局が抱える“欠点”に対するアンチテーゼ、という意味では共通点もあると感じました。中小薬局と組み服薬指導の新たなプラットフォームを9月6日付の日本経済新聞は、アマゾンが日本で処方薬のネット販売への参入を検討していることが複数の関係者への取材からわかった、と報じました。なお、アマゾンジャパンは日本経済新聞の取材に対し「コメントは差し控える」と回答したとのことです。報道によれば、アマゾンは中小薬局と組んで、患者がオンラインで服薬指導を受ける新たなプラットフォームをつくるのだそうです。サービスの開始時期は日本で「電子処方箋」システムの運用が始まる2023年を予定。当面はアマゾン自体が薬局を運営して直接販売する形ではなく、薬剤の在庫は持たないとのことです。アマゾンは今後、国内の中小の薬局を中心に参画を呼びかけ、システムの構築を目指すそうです。電子処方箋の控えとマイナ保険証を使い患者が薬局を選んで処方薬を申し込みアマゾンは、「患者が医療機関を受診後、薬局に立ち寄らずに薬の受け取りまでネットで完結するシステムをつくる」とのことですが、その具体的な流れについて日経新聞は以下のように解説しています。「患者はオンライン診療や医療機関での対面診療を受けた後、電子処方箋を発行してもらい、アマゾンのサイト上で薬局に申し込む。薬局は電子処方箋をもとに薬を調剤し、オンラインで服薬指導する。その後、アマゾンの配送網を使って薬局から薬を集荷し、患者宅や宅配ロッカーに届ける仕組みを検討している」。「電子処方箋を発行してもらい、アマゾンのサイト上で薬局に申し込む」という点が少々わかりづらいです。電子処方箋そのものはネット上にあるためです。運用開始が来年の2023年1月とされている電子処方箋ですが、モデル事業は今年10月末からやっと始まる状況で、その詳細はまだ確定していません。記事内容からアマゾンの仕組みを想像するに、患者には電子処方箋発行と同時に「引き換え番号」が印刷された「処方内容(控え)」が手渡される予定なので、患者や家族はそこに印刷されたQRコードなどの情報とマイナ保険証を用いてアマゾンの専用サイト上から利用する提携薬局を選び、調剤と服薬指導を申し込む、という流れではないかと考えられます。背景にはオンライン診療、オンライン服薬指導の普及・定着と電子処方箋の運用開始オンライン診療、オンライン服薬指導は、新型コロナウイルス禍の特例措置で初診や初回指導でも利用可能となり、今年4月からは特例ではなく恒久化されました。オンライン診療については、初診対面の原則が大幅に緩和され、新患を含む初診からのオンライン診療が可能となっています。オンライン診療、オンライン服薬指導の普及・定着により、処方薬の受け取り方も多様化しています。これまで、薬局で受け取ることが前提とされていましたが、配送により家で受け取ることができるようになったり、コンビニでの受け取りが可能になったりと利便性が向上しています。たとえば、イオンは同社の食品などの宅配網を使い、処方薬を注文当日に自宅に届ける即日配送を千葉市内の店舗で始めています。 2022年中に東京や大阪などの店舗でも始め、2024年度には31都府県の約270店に対象を広げる予定とのことです。こうした動きの背景には、オンライン診療、オンライン服薬指導の普及・定着に加え、電子処方箋の運用開始決定があります。電子処方箋が運用されれば、処方箋のやりとりだけでなく、処方薬の流通にも効率化が求められるようになるに違いないからです。オンライン診療を受診したことのある知人は、「オンライン診療自体は手軽で簡単だけど、現物の紙の処方箋がすぐに届かず、薬がすぐに入手できないのが不便だった」と話していました(「第101回 私が見聞きした“アカン”医療機関 オンライン診療、新しいタイプの“粗診粗療”が増える予感」参照)。電子処方箋が運用されれば、そうした点は多少は解消されることになります。しかし、薬を渡す時の「服薬指導」をどうするかがもう一つの問題点として浮上します。「服薬指導なんて、現状薬剤情報提供書を渡すだけで実質何もしていないのだから、本当に必要な時以外は“なし”にしてもいいのに」と至極真っ当な意見を述べる人もいます。しかし、そこをクリアしておかないと“次”に進めません。アマゾンが当面は薬剤の在庫は持たず、提携薬局の服薬指導に注力するのは、その後の処方薬の流通革命を見据え、地域の薬局をネットワーク化しておきたいためだと考えられます。米国ではオンライン薬局「Amazon Pharmacy」を立ち上げ、処方薬の販売に本格参入日本経済新聞の記事でも、「国内の大手薬局は独自アプリなどでオンライン服薬指導に取り組んでいる。オンラインで診療や服薬指導できるシステムをメドレーなどが開発し、医療機関や薬局への導入実績がある。アマゾンと同様のサービスは日本企業も提供可能だが、多くの利用者を抱えるアマゾンとの競争を迫られる」と、オンライン服薬指導に焦点を当てた形となっていますが、アマゾンの狙いは将来的な調剤と配送の集中化にあるのは確かでしょう。日本経済新聞は9月7日にも「『アマゾン薬局』成否は配送」と続報を掲載しています。その記事では、「ヘルスケア分野でアマゾンの存在感が高まっている」として、米国の状況について「2018年にオンライン薬局大手の米ピルパックを7億5,300万ドルで買収。20年11月にはこの事業をもとに、オンライン薬局『Amazon Pharmacy』を立ち上げて処方薬の販売に本格参入した。ウェブサイトやアプリで処方薬を購入でき、有料のプライム会員は注文から2~3日程度で配達を受けられる」と書いています。報道では、「当面はアマゾン自体が薬局を運営して直接販売する形ではなく、薬剤の在庫は持たないと」とのことですが、近い将来、アマゾンが運営する薬局において集中調剤、集中配送が行われるようになる可能性は否定できません。アマゾンの真の狙いは集中調剤、集中配送かそれを予感させる動きもあります。7月11日に厚生労働省が公表した「薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループ」の「とりまとめ〜薬剤師が地域で活躍するためのアクションプラン〜」には、調剤業務の外部委託の方向性が書かれています1)。「とりまとめ」では、外部委託に関してまずは一包化業務に限定し、他法人の薬局(当面の間は同一の三次医療圏内)にも認める方針が示されました。現在、外部委託は法律で認められていないため薬剤師法の改正が行われることになります。その後、安全性、地域医療への影響、外部委託の提供体制や提供実績、地域の薬局の意見等の確認を行い、その結果を踏まえ、必要に応じて遵守事項や委託元と委託先の距離について見直しが行われる予定です。「薬局薬剤師の対人業務の推進のために、対物業務の効率化を図る」ことを目的に議論を重ねてきた同ワーキンググループが、当面は「一包化」だけとは言え、調剤業務の外部委託を認める方向性を出した意味は大きいと言えます。そこから見えてくるのは、アマゾンが各都道府県につくった「アマゾン薬局」において処方薬が集中的に調剤され、当日中もしくは翌日までに配送も完了する、というとても“便利な”未来です。書店に行かなくても翌日に読みたい本が届くのと同じことが、処方薬でも起きるかもしれないのです。9月7日付の日本経済新聞は「プライム会員には配達料を無料にするなどユーザーにメリットを提供できれば、消費者を囲い込める可能性がある」と書いています。アマゾンに対抗、「かかりつけ薬剤師機能を高めていく」と日本保険薬局協会会長この報道に、関係団体も少なからぬ衝撃を受けたようです。ミクスOnlineなどの報道によれば、日本保険薬局協会の首藤 正一会長(アインホールディングス 代表取締役専務)は9月8日の記者会見で、「アマゾンがやろうとしていることに関して、我々にできないことは基本的にはないと思っている」と語るとともに、「我々がどれだけリアル店舗を患者にとってなくてはならないものだという認識を与えるようなものに仕上げていくか。かかりつけ薬剤師機能を含めて、機能をどれだけ高めていけるかにかかっている」とコメントしたそうです。このコメントを読んで、首をかしげてしまいました。世の中で「かかりつけ薬剤師」は「かかりつけ医師」よりさらに曖昧で遠い存在と言えるでしょう。私自身、これまでにリアルな調剤薬局のありがたみを感じたことはほとんどありませんし、「かかりつけ薬剤師」を持ったこともありません。「かかりつけ薬剤師がいる」という知人も周囲にいません。そんな曖昧なものに力を入れることで、果たして巨大アマゾンに対抗できるのでしょうか。そんなことを考えていたら、1週間ほど前に利用した都内の零売薬局のことを思い出しました。私がこれまで利用してきた調剤薬局(門前が多い)より、そこの零売薬局の薬剤師の方がよほど「かかりつけ」らしかったからです。(この項続く)参考1)「薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループ」の「とりまとめ」/厚生労働省

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065)久しぶりの患者さんが来て思うこと【Dr.デルぽんの診察室観察日記】

第65回 久しぶりの患者さんが来て思うことゆるい皮膚科勤務医デルぽんです☆普段、外来をやっていると、1年ぶり2年ぶりという患者さんも、たまにお見かけします。「どこか他へ通っていましたか?」と聞くと、そういったわけでもなく。受診そのものが、お久しぶりである様子。だいたい足爪の水虫など、本人にとってはあまり自覚症状のない(困っていない)もののことが多いのですが…。患者さんにとってみれば、薬が欲しくて来る、薬をもらっていれば大丈夫(=治る)ということになるのかもしれません。ただ、こちら(医療側)からしてみれば、経過を診せに来てもらうことも治療の一部。こと皮膚科に関しては、塗ってもらってなんぼ、塗らせてなんぼの世界なので、「いかに外用の動機付けをするかが腕の見せ所!」のようなところがあります。そういった意味でも定期通院を促すのは大事なことだな、と日々感じております。お久しぶりで威勢のいい(?)患者さんが来て、あらためて思ったことなどでした~。治す気は(ほんとに)あるのかもしれないけれど、通う気はさらさらなさそうでした…!それでは、また〜!

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第125回 学会提言がTwitterで大炎上、医療崩壊にすり替えた国産コロナ薬への便宜では?

土曜日の朝、何気なくTwitterを開いたらトレンドキーワードに「感染症学会」の文字。何かと思って検索して元情報を辿ったところ、行き着いたのが日本感染症学会と日本化学療法学会が合同で加藤 勝信厚生労働大臣に提出した「新型コロナウイルス感染症における喫緊の課題と解決策に関する提言」だった。提言は4つだが、そのすべてをひっくるめてざっくりまとめると、「現在の第7波に対応するには早期診断・早期治療体制の確立がカギを握る。そのためには重症化リスクの有無に関係なく使える抗ウイルス薬が必要であり、その可能性がある国産抗ウイルス薬の一刻も早い承認あるいは既存の抗ウイルス薬の適応拡大が必要」というものだ。どうやら発表された9月2日に厚生労働省内にある記者クラブで記者会見をしたらしいが、フリーランスの私は当然それを知る由もない。この点がフリーランスのディスアドバンテージである。国産抗ウイルス薬とは、塩野義製薬が緊急承認制度を使って申請した3CLプロテアーゼ阻害薬のエンシトレルビル(商品名:ゾコーバ)のことだ。同薬の緊急承認審議の中身についてはすでに本連載で触れた通り。連載では文字数の関係上、ある程度議論をリードした発言を抜粋はしているが、本格議論の前に医薬品医療機器総合機構(PMDA)側から緊急承認に否定的な審査報告書の内容が説明されている。その意味で、連載に取り上げた議論内容は少なくとも感情論ではなく科学的検討を受けてのもので、結果として継続審議となった。両学会の提言はそうした科学的議論を棚上げしろと言っているに等しい。もっとも両学会の提言は一定のロジックは付けている。それについて私なりの見方を今回は記しておきたいと思う。まず、4つの提言のうち1番目を要約すると「入院患者の減少や重症化の予防につながる早期診断・早期治療の体制確立を」ということだが、これについてはまったく異論はない。提言の2番目(新規抗ウイルス薬の必要性)は一見すると確かにその通りとも言える。念のため全文を引用したい。「現在使用可能な内服薬は適応に制限があり、60歳未満の方のほとんどは診断されても解熱薬などの対症療法薬の処方しか受けられません。辛い症状、後遺症に苦しんでいる方が多くいらっしゃいます。また、自宅療養中に同居家族に高率に感染が広がることが医療逼迫の大きな原因になっています。こうした状況を打開するためにも、ハイリスク患者以外の軽症者にも投与できる抗ウイルス薬の臨床現場への導入が必要です」私はこの段階でやや引っかかってしまう。確かに現時点で高齢者や明らかな重症化リスクのある人以外は解熱鎮痛薬を軸とする対症療法しか手段がない。しかも、現在の新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の重症度判定は、酸素飽和度の数値で決められているため、この数字が異常値でない限りは40℃近い発熱で患者がのたうち回っていても重症度上は軽症となり、解熱鎮痛薬処方で自然軽快まで持ちこたえるしかない。それを見つめる医療従事者は隔靴掻痒の感はあり、何とかしてあげたいという思いに駆られるだろう。それそのものは理解できる。しかし、私たちはこの「思い」が裏目に出たケースを経験している。いわゆる風邪に対する抗菌薬乱用による耐性菌の増加、眠れないと訴える高齢者へのペンゾジアゼピン系抗不安薬の乱用による依存症。いずれも根本は医療従事者の“患者の苦痛を何とかしたい”という「思い」(あるいは「善意」)がもたらした負の遺産である。結果として、提言の2番目は言外に「何ともできないのは辛いから、まずは効果はほどほどでも何とかできるようにさせてくれ」と主張しているように私は思えてしまう。ちなみに各提言では、「説明と要望」と称してより詳細な主張が付記されているが、2番目の提言で該当部分を読むと、その主張は科学的にはやや怪しくなる。該当部分を抜粋する。「感染者に対する早い段階での抗ウイルス薬の投与は、重症化を未然に防ぎ、感染者の速やかな回復を助けるだけではなく、二次感染を減らす意味でも大切です」これは一般の人が読めば、「そうそう。そうだよね」となるかもしれない。しかし、私が科学的に怪しいと指摘したのは太字にした部分である。その理由は2つある。第1の理由は、まず今回の新型コロナは感染者の発症直前から二次感染を引き起こす。発症者が抗ウイルス薬を服用しても二次感染防止は原理的に不可能と言わざるを得ない。服用薬に一定の抗ウイルス効果が認められるならば、感染者・発症者が排出するウイルス量は減ると考えられるので、理論上は二次感染を減らせるかもしれないが、それが服用薬の持つリスクとそのもののコストに見合った減少効果となるかは、はなはだ疑問である。第2の理由は、提言が緊急承認を求めているエンシトレルビルの作用機序に帰する。エンシトレルビルは新型コロナウイルスの3CLプロテアーゼを阻害し、すでに細胞に侵入したウイルスの増殖を抑制することを意図した薬剤である。ヒトの体内に侵入したウイルスが細胞に入り込む、すなわち感染・発症成立を阻止するものではない。たとえばオミクロン株ではほぼ無効として、現在はほぼ使用されなくなった通称・抗体カクテル療法のカシリビマブ/イムデビマブ(商品名:ロナプリーブ)は、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質と結合し、細胞そのものへの侵入を阻止する。もちろんこれとて完全な感染予防効果ではなく、厳密に言えば発症予防効果ではあるが、原理的には3CLプロテアーゼ阻害薬よりは二次感染発生の減少に資すると言える。現にオミクロン株登場前とはいえ、カシリビマブ/イムデビマブは、臨床試験で家庭内・同居者内での発症予防効果が認められ、適応も拡大されている。これに対してエンシトレルビルと同じ3CLプロテアーゼ阻害薬で、国内でも承認されているニルマトレルビル/リトナビル(商品名:パキロビッドパック)では、家庭内感染リスク低下を評価するべく行った第II/III相試験「EPIC-PEP」でプラセボ群と比較して有意差は認められていない。これらから「二次感染を減らす意味でも大切です」という提言内容には大いに疑問である。そして提言の3番目(抗ウイルス効果の意義)では次のように記述している。「新しい抗ウイルス薬の臨床試験において、抗ウイルス効果は主要評価項目の一つです。新型コロナウイルスの変異株の出現に伴い、臨床所見が大きく変化している今、抗ウイルス効果を重視する必要があります」今回の話題の焦点でもあるエンシトレルビルの緊急承認審議に提出された同薬の第II/III相試験の軽症/中等症患者を対象とした第IIb相パートの結果では、主要評価項目の鼻咽頭ぬぐい検体を用いて採取したウイルス力価のベースラインからの変化量と12症状合計スコア(治験薬投与開始から120時間までの単位時間当たり)の変化量は、前者で有意差が認められたものの、後者では有意差が認められなかった。この結果が緊急承認の保留(継続審議)に繋がっている。提言の言いたいことは、ウイルス力価の減少、つまり抗ウイルス効果が認められたと考えられるのだから、むしろそれを重視すべきではないかということなのだろう。実際、3番目の提言の説明と要望の項目では、デルタ株が主流だった第5波の際の感染者の重症化(人工呼吸器管理を必要とする人)率が0.5%超だったのに対し、オミクロン株が主流の第6波以後では0.1%未満であるため、重症化阻止効果を臨床試験で示すことは容易ではないと指摘している。それは指摘の通りだが、エンシトレルビルの第IIb相パートはそもそも重症化予防効果を検討したものではない。あくまで臨床症状改善状況を検討したものである。しかも、この説明と要望の部分では「ウイルス量が早く減少することは、臨床症状の改善を早めます」とまるで自家撞着とも言える記述がある。ところがそのウイルス量の減少が臨床症状の改善を早めるという結果が出なかったのがエンシトレルビルの第IIb相パートの結果である。両学会は何を主張したいのだろう。一方で今回のエンシトレルビルの件では、時に「抗ウイルス薬に抗炎症効果(臨床症状改善)まで求めるのは酷ではないか」との指摘がある。しかし、ウイルス感染症では、感染の結果として炎症反応が起こるのは自明のこと。ウイルスの増殖が抑制できるならば、当然炎症反応にはブレーキがかからねばならない。それを臨床試験結果として示せない薬を服用することは誰の得なのだろうか?前述のように作用機序からも二次感染リスクの減少効果が心もとない以上、この薬を臨床現場に投入する意味は、極端な話、それを販売する製薬企業の売上高増加と解熱鎮痛薬よりは根本治療に近い薬を処方することで医師の心理的負荷が軽減されることだけではないか、と言うのは言い過ぎだろうか?さらにそもそも論を言ってしまえば、現在エンシトレルビルで示されている抗ウイルス効果も現時点では「可能性がある」レベルに留まっている。というのも前述の第IIb相パートは検査陽性で発症が確認されてから5日以内にエンシトレルビルの投与を開始している。この投与基準そのものは妥当である。そのうえで、対プラセボでウイルス力価とRNA量の減少がともに有意差が認められたのは投与開始4日目、つまり発症から最大で9日目のもの。そもそも新型コロナでは自然経過でも体内のウイルス量は発症から5日程度でピークを迎え、その時点を境に減少するのが一般的である。この点を考慮すると、第IIb相パートの試験で示された抗ウイルス効果に関する有意差が本当にエンシトレルビルの効果のみで説明できるかは精査の余地を残している。ちなみに緊急承認に関する公開審議では委員の1人から、この点を念頭にエンシトレルビル投与を受けた被験者の投与開始時点別の結果などが分かるかどうかの指摘があったが、事務局サイドは不明だと回答している。さらに指摘するならば同試験は低用量群と高用量群の2つの群が設定されているが、試験結果を見る限りでは高用量群での抗ウイルス効果が低用量群を明らかに上回っているとは言い切れず、用量依存的効果も微妙なところである。総合すれば、エンシトレルビルの抗ウイルス効果と言われるものも、現時点では暫定的なものと言わざるを得ないのだ。また、3番目の提言の説明と要望の項目では「オミクロン株に感染した際の症状としては呼吸器症状(鼻閉・咽頭痛・咳)、発熱、全身倦怠感が主体でこれ以外の症状は少なくなっています」とさらりと触れている。これは主要評価項目の12症状合計スコアで有意差が認められなかった点について、塩野義製薬がサブ解析でこうした呼吸器症状のみに限定した場合にプラセボに対してエンシトレルビルでは有意差が認められたと主張したことを、やんわりアシストしているように受け取れる。これとて緊急承認の際の公開審議に参加した委員の1人である島田 眞路氏(山梨大学学長)から「呼吸器症状だけ後からピックアップして有意差が少しあったという。要するにエンドポイントを後からいじるのはご法度ですよ。はっきり言って」とかなり厳しく指摘された点である。そしてこうしたサブ解析で有意差が出た項目を主要評価項目にして臨床研究を行った結果、最終的に有意差は認められなかったケースは実際にあることだ。いずれにせよ私個人の意見に過ぎないが、今回の提言は科学的に見てかなり破綻していると言わざるを得ない。そしてなにより今回の提言の当事者である日本感染症学会理事長の四柳 宏氏(東京大学医科学研究所附属病院長・先端医療研究センター感染症分野教授)は、エンシトレルビルの治験調整医師であり、明確に塩野義製薬と利益相反がある。記者会見ではこの点について四柳氏自身が「あくまでも学会の立場で提言をまとめた」と発言したと伝わっているが、世間はそう単純には受け止めないものだ。それでも提言のロジックが堅牢ならばまだしも、それには程遠い。まあ、そんなこんなで土曜日は何度かこの件についてTwitterで放言したが、それを見た知人からわざわざ電話で「あの感染症学会の喧々諤々、分かりやすく説明してくれ」と電話がかかってきた。「時間かかるから夜にでも」と話したら、これから町内会の清掃があって、その後深夜まで出かけるとのこと。私はとっさに次のように答えておいた。「あれは例えて言うと…町内会員らで清掃中の道路に町内会長が○○○したようなもの」これを聞いた知人は「うーん、分かるような、分からないような。また電話するわ」と言って会話は終了した。その後、彼からは再度問い合わせはない。ちなみに○○○は品がないので敢えて伏字にさせてもらっている。ご興味がある方はTwitterで検索して見てください。お勧めはしません(笑)。

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知っておきたい新しいオピオイド(1)タペンタドール【非専門医のための緩和ケアTips】第35回

第35回 知っておきたい新しいオピオイド(1)タペンタドール私が緩和ケアの仕事を始めた頃と比べ、臨床で活用できるオピオイドが増えています。今回は、国内承認が比較的最近で、使ったことのある方がまだ少ないと思われる「タペンタドール」についてお話しします。今日の質問「オピオイドといえばモルヒネ」という時代からすると、さまざまなオピオイドの選択肢が増えたことは良いのですが、使い分けがよくわかりません。先日、がん拠点病院から紹介されてきた患者さんは、タペンタドールというオピオイドを内服していました。どういった特徴のある薬剤なのでしょうか?タペンタドール(商品名:タペンタ)は、2014年に保険承認されました。緩和ケアを専門とする医療者には広く知られるようになった一方で、プライマリ・ケア領域では、まだ使用経験のない先生も多いでしょう。タペンタドールは「強オピオイド」に位置付けられる薬剤です。日本では徐放製剤のみが発売されており、適応は各種がんにおける中等度から高度の疼痛です。タペンタドールは薬理学的にはユニークな特徴があります。腎機能障害があっても使用ができ、便秘が少ないとされています。このあたりはモルヒネと比較して、好んで使用される特徴でしょう。オピオイドはμオピオイド受容体を介した鎮痛効果が中心ですが、タペンタドールはSNRI様作用も有しています。SNRIと聞いて抗うつ薬を思い浮かべた方も多いのではないでしょうか。緩和ケア領域では抗うつ薬を神経障害性疼痛に対する鎮痛補助薬として用います。タペンタドールはこの鎮痛補助役としての作用も有する、ユニークなオピオイドなのです。より薬理学的なポイントとしては、「CYP2D6」という酵素活性に影響を受けない代謝経路になっていることが挙げられます。これは他薬剤との併用の際に大切です。併用薬剤によっては代謝酵素に影響を及ぼし、作用が減弱したり逆に予想よりも強く出たり、といった相互作用が生じるのです。さらなる特徴は、オピオイドの濫用防止の加工がしてあることです。粉砕できないように加工されており、水に溶かすとネバネバのゼリー状になります。よって、経管投与ができません。注射薬もないので、内服が難しくなりそうな患者の場合は、早めに別のオピオイドに変更するマネジメントが必要になります。私がタペンタドールが最も適すると感じるのは、頭頸部がんの難治性がん疼痛の患者、抗真菌薬のような相互作用に注意が必要な薬剤をよく使う血液腫瘍の患者さんなどです。もちろん、こうした患者さんは内服が難しい状況にもなりやすいのでその見極めも必要です。そうした意味では、少し“上級者向け”のオピオイドといえるかもしれません。今回のTips今回のTipsタペンタドールはユニークな特性を持つ、少し“上級者向け”のオピオイド。

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英語で「それでお願いします」は?【1分★医療英語】第44回

第44回 英語で「それでお願いします」は?How about coming to see me again next week?(次に来るのは来週でいいですか?)Yes, that sounds good to me.(はい、それでお願いします)《例文1》医師I think everything looks good. Is it okay if we proceed to the surgery?(すべてが良い感じですね。手術に進んでもよいですか?)患者That sounds good to me. Please proceed.(はい、それでお願いします)《例文2》医師You can go home tomorrow. How does that sound?(明日自宅退院できますよ。いかがですか?)患者That sounds good to me!(それでお願いします!)《解説》これはもう「頻出中の頻出」といえる表現です。私自身も最低1日1回は使っています。“that”で直前の会話の内容を受けたうえで、“sounds good to me”で「私にとって、(その内容が)よく聞こえる」、つまりは「それでお願いします」という意味になります。日本の英語教育の中にはあまり出てこない表現ですが、医療現場に限らず日常でも非常によく使われる便利な言い回しです。場面、文脈、内容にほとんど制限されることなく使えるので、ぜひ皆さんも身に付けて会話に花を咲かせましょう。講師紹介

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第124回 医療DXの要「マイナ保険証」定着に向けて日医を取り込む国・厚労省の狙いとは(前編)未対応は最悪保険医取り消しも

普及進まぬマイナンバーカード保険証こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。夏の甲子園が終わり、脱力していたらロサンゼルス・エンジェルスの身売り話が飛び込んで来ました。来季以降の大谷 翔平選手の去就に注目が集まる中、MLBでは喜ばしい話題もありました。シアトル・マリナーズ球団会長付特別補佐兼インストラクターのイチロー氏が27日(日本時間28日)、球団殿堂入り(MLBの野球殿堂ではなく球団独自の殿堂です)のセレモニーで15分を超える英語のスピーチを行い、超満員のスタンドを沸かせました。決して流暢とは言えない英語ながら、ユーモア溢れるそのスピーチは、英語での学会発表が苦手な皆さんにも参考になるのではないでしょうか1)。さて、世の中、相変わらずDX(デジタル・トランスフォーメーション)流行りです。ということで今回は、8月24日に開催された、医療機関向けの「オンライン資格確認等システムに関するWEB説明会」について書いてみたいと思います。「オンライン資格確認等システム」とは、マイナンバーカードを保険証として使う「マイナ保険証」のことで、これからの日本の医療DXの要とも言われています。ただ、その普及の割合はまだまだ低く、岸田 文雄首相も進捗の遅さにイラついているとも言われています。厚生労働省と三師会による合同説明会厚生労働省と三師会(日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会)が合同で開催した「オンライン資格確認等システムに関するWEB説明会」は、8月24日夜、18時30分からYouTube上で開催されました。約1万6,000人が参加し、医療関係者の関心の高さがうかがえました2)3)。冒頭、厚生労働省の伊原 和人保険局長が挨拶し、オンライン資格確認は「今後のデータヘルスの甚盤になる仕組み」と語り、「原則義務化されることを踏まえ、速やかに顔認証付きカードリーダーが届けられるよう従来の受注生産を事前生産にすることにしており、導入の準備を進めていただきたい」と要請。続いて日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会の3師会の担当役員も挨拶し、揃って「早く導入しましょう。大変役立ちます」と訴えかけました。説明会の後半には、顔認認証付きカードリーダーのメーカーのプレゼンまで盛り込んだそのプログラムからは、遅々として進まぬマイナ保険証の普及・定着に対する、厚労省(と医療DX推進本部の長となる岸田首相)の焦りが伝わってくるようでもありました。中医協答申でオンライン資格確認導入の原則義務化が決定この説明会は、8月10日に開かれた中央社会保険医療協議会において、オンライン資格確認(いわゆるマイナンバーカードの保険証利用)導入の原則義務化が決定したことを受けて、急遽開催が決まったものです。6月7日に閣議決定されていた「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太方針2022)で、オンライン資格確認を2023年4月から原則義務化し、現行の保険証の原則廃止の方向性は示されていました。8月10日、中医協が後藤 茂之厚生労働大臣(当時)に答申し、それが正式決定となったのです。保険医療機関運営の“法律”である「保険医療機関及び保険医療養担当規則」にその旨が定められることになったことで、マイナ保険証導入に向けての強制力は一段と強まったと言えるでしょう。「原則義務化」で例外もあるにはあるのですが、その例外は院長が高齢などの理由から紙レセプトでの請求が認められているごくわずかの保険医療機関・薬局に限られ、全体の4%ほどに過ぎません。ほとんどの医療機関はあと7ヵ月の間に「マイナ保険証」に対応しなければならないのです。ちなみに、既に運用開始した医療機関等は2022年8月14日時点で26.8%だそうです。なお、8月10日の中医協ではマイナ保険証対応に向け、医療機関、薬局向けの補助の拡充や、マイナ保険証を使う患者の自己負担の方が高いという現状の問題点を解決するための、10月1日からの診療報酬上の加算の取り扱いの見直しも決定しています。「全国医療情報プラットフォーム」の創設につなげるオンライン資格確認等システム、いわゆるマイナ保険証は、日本の医療DXの基盤になるものと位置づけられています。「骨太方針2022」では、マイナ保険証のシステムを、当初のレセプト・特定健診等情報の共有に加えて、予防接種、電子処方箋情報、電子カルテ等の医療情報についても共有・交換できるようにし、「全国医療情報プラットフォーム」の創設につなげるとしています。なお、今回の説明会の資料では、オンライン資格確認のメリットとして、次の2点が強調されていました。1)医療機関・薬局の窓口で、患者の方の直近の資格情報等(加入している医療保険や自己負担限度額等)が確認できるようになり、期限切れの保険証による受診で発生する過誤請求や手入力による手間等による事務コストが削減。2)マイナンバーカードを用いた本人確認を行うことにより、医療機関や薬局において特定健診等の情報や薬剤情報を閲覧できるようになり、より良い医療を受けられる環境に(マイナポータルでの閲覧も可能)。導入しなければ「保険医療機関等の指定の取り消し事由になりうる」24日の説明会そのものは制度概要の説明から、体制整備に向けての医療機関に対する補助金の仕組みの解説など、事務的に進みましたが、「導入義務対象機関が来年4月導入に間に合わない場合にどうなるか」という質問に対して、厚生労働省保険局医療介護連携政策課の水谷 忠由課長が「保険医療機関等の指定の取り消し事由になりうる。療担規則が順守されないと地方厚生局で丁寧な指導を受けることになり、個別事案ごとに適宜判断される」との回答には、関係者は驚いたのではないでしょうか。救済措置の検討も予定されているようですが、救済措置は「関係者それぞれがしっかり対応を進めることを大前提に、それでもやむを得ない場合について検討する」(水谷課長)とのことです。救済措置の状況を待つことなく医療機関は「オンライン資格確認等システム導入に向けた顔認証付きカードリーダーの申し込み、システムベンダーとの契約を一刻も早く進めて欲しい」と水谷課長は強調していました。受療行動や、医療機関で提供された治療や投薬の情報が丸裸にさて、マイナ保険証の原則義務化で一体何が起るでしょうか。説明会では医療機関側の業務の効率化が盛んに強調されていましたが、国が最も期待するのは、先に示したメリットのうち2)であることは明らかでしょう。「全国医療情報プラットフォーム」が整備されれば、レセプト情報、さらに電子カルテ情報まで情報共有が行われることになります。この日の説明会でも、閲覧可能な情報が現行の薬剤情報、特定健診情報に加えて、9月からは透析、医療機関名の情報が、2023年5月からは手術情報が追加されると報告されています。患者の受療行動や、医療機関で提供された治療や投薬の情報が丸裸にされるということは、それらのデータを基に、究極的に効率化された(ムダを省いた)医療提供の仕組みがデザインされ、それが現場に要求されることを意味します。どこまでの情報が開示されるようになるかわかりませんが、重複受診、重複投与、ムダな薬剤投与、的外れの治療などが、他医にもばれてしまうわけで、「日本医師会をはじめ、医療関係団体がよくこぞって協力するな」というのが私の正直な感想です。「自院の治療は他の医師に見られたくない」というのが、多くの医師の本音でもあるからです。「首相≒財務省」vs.「厚労省≒日本医師会」の対立構造に変化?岸田首相は7月の参院選勝利を受け、8月10日に内閣改造を行いました。新内閣では加藤 勝信氏が3度目となる厚生労働大臣に就きました。親日医と見られる加藤厚労相が再び登用されただけでなく、厚労副大臣には日医推薦の羽生田 俊参議院議員が選ばれています。今年6月、中川 俊男前会長から松本 吉郎新会長に替わってからの政府の日本医師会への寄り添い振りは、やや気持ちが悪いくらいです。7月の参議院選挙直後、本連載の「第117回 医師法違反は手術だけではない!工学技士に手術をさせた病院が研修すべき『もう一つのこと』」で、「これから財務省主導の医療政策が、医療提供体制改革の“本丸”(病院の再編や、かかりつけ医の制度化など)に、どこまで切り込んでいくかが注目されます」と書きましたが、マイナ保険証と医療DXが政策の前面に出てきたことで、「第80回 『首相≒財務省』vs.『厚労省≒日本医師会』の対立構造下で進む岸田政権の医療政策」などで度々書いてきた、この対立構造に少なからぬ変化が出てきたように見えます。(この稿続く)。参考1)イチロー氏のフルスピーチ2)厚生労働省・3師会 医療機関向けライブ配信/厚生労働省 保険局3)厚生労働省・3師会 医療機関向けライブ配信 当日資料/厚生労働省 保険局

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