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大手術後の炎症を阻害すると...(解説:後藤信哉氏)

 コルヒチンは歴史の長い抗炎症薬である。LoDoCo(Low Dose Colchicine)試験にて冠動脈疾患の二次予防効果が証明されて、循環器内科領域に注目されることになった。多くの循環器疾患に炎症が関与する。各種のがん治療などの非心臓疾患の手術時の心房細動の発症予防効果の有無が本研究にて検証された。非心臓性手術後の心房細動と心筋梗塞の発症例では炎症マーカーの高値が報告されている。そこで、本研究では強力な抗炎症薬であるコルヒチンに、非心臓の大手術時の心房細動および心筋障害発症予防効果の有無がランダム化比較試験により検証された。 非心臓の大手術症例へのコルヒチンの使用は、一見とっぴに見える。しかし、術中・術後の心房細動、心筋障害が炎症により引き起こされているのであれば、抗炎症薬を用いたランダム化比較試験実施には意味がある。3,209例を対象としたランダム化比較試験の結果は信頼できる。コルヒチンの抗炎症効果が発現されていることは、コルヒチン群の感染と敗血症の増加により確認されている。コルヒチンの副作用である消化管障害もコルヒチン群で増えている。 臨床試験の実施については英国・オックスフォード大学、米国・ハーバード大学、デューク大学が長けているが、カナダ・マクマスター大学も引けを取らない。ランダム化比較試験による臨床的仮説の検証研究では、日本はとても追い付けない。個別最適化医療の理論化と実践では是非、先行したいものだ。

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ノーベル生理学・医学賞、mRNAワクチン開発のカリコ氏とワイスマン氏が受賞

 2023年のノーベル生理学・医学賞は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンの開発を可能にしたヌクレオシド塩基修飾の発見に対して、カタリン・カリコ(Katalin Kariko)氏とドリュー・ワイスマン(Drew Weissman)氏に授与することを、スウェーデン・カロリンスカ研究所のノーベル委員会が10月2日に発表した。カリコ氏とワイスマン氏の画期的な発見は、mRNAがヒトの免疫系にどのように相互作用するかという理解を根本的に変え、人類に対して最大の脅威の1つとなったCOVID-19パンデミックにおいて、前例のないワクチン開発に貢献した。授賞式は12月10日にストックホルム市庁舎にて開催される。 ノーベル委員会はプレスリリースにて、カリコ氏とワイスマン氏の業績を紹介している1)。以下に抜粋して紹介する。「mRNAワクチン」という有望なアイデア ヒトの細胞では、DNAにコードされた遺伝情報がmRNAに伝達され、これがタンパク質生産の鋳型として使われる。1980年代、細胞培養なしにmRNAを生産する効率的な方法が導入された。この決定的な一歩は、いくつかの分野における分子生物学的応用の発展を加速させた。mRNA技術をワクチンや治療に利用するアイデアも浮上したが、その前に障害が待ち構えていた。in vitroで転写されたmRNAは不安定で、送達が困難であると考えられていたため、mRNAを脂質ナノ粒子によってカプセル化する必要があった。さらに、in vitroで産生されたmRNAは炎症反応を引き起こした。そのため、臨床目的のmRNA技術開発に対する熱意は、当初は限られたものであった。 ハンガリー出身の生化学者であるカリコ氏は、このような障害にも挫けずに、mRNAを治療に利用する方法の開発に力を注いだ。同氏が米国・ペンシルベニア大学の助教授だった1990年代初頭、自身のプロジェクトの意義について研究資金提供者を説得するのが困難であったにもかかわらず、mRNAを治療薬として実用化するというビジョンに忠実であり続けた。ペンシルベニア大学の同僚であった免疫学者のワイスマン氏は、免疫監視とワクチン誘発免疫応答の活性化において重要な機能を持つ樹状細胞に興味を持っていた。新しいアイデアに刺激され共同研究が始まり、異なるタイプのRNAが免疫系とどのように相互作用するかに焦点を当てた。ブレークスルー カリコ氏とワイスマン氏は、樹状細胞がin vitroで転写されたmRNAを異物として認識し、活性化と炎症シグナル分子の放出につながることに気付いた。哺乳類細胞からのmRNAは同じ反応を起こさないため、in vitroで転写されたmRNAはなぜ異物として認識されるのか疑問に感じ、何らかの重要な特性が、異なるタイプのmRNAを区別しているに違いないと考えた。 RNAにはA、U、G、Cの4つの塩基があり、DNAのA、T、G、Cに対応している。カリコ氏とワイスマン氏は、哺乳類細胞のmRNAの塩基は頻繁に化学修飾されるが、in vitroで転写されたmRNAの塩基は化学修飾されないことを認めており、in vitroで転写されたRNAの塩基が変化していないことが、好ましくない炎症反応の説明になるのではないかと考えた。これを調べるため、研究チームは塩基に独自の化学修飾を施したさまざまな変異型mRNAを作製し、樹状細胞に投与した。結果は驚くべきもので、mRNAに塩基修飾を加えると、炎症反応はほとんど消失した。これは、細胞がどのようにしてさまざまな形のmRNAを認識し、それに反応するかという理解にパラダイム変化をもたらすものであった。カリコ氏とワイスマン氏は自らの発見がmRNAを治療に利用するうえで重大な意味を持つことを理解し、この画期的な結果は2005年に発表された2)。これはCOVID-19が流行する15年前であった。 カリコ氏とワイスマン氏が2008年3)と2010年4)に発表したさらなる研究で、塩基を修飾して作成したmRNAを送達すると、修飾していないmRNAに比べてタンパク質産生が著しく増加することを示した。この効果は、タンパク質産生を制御する酵素の活性化が抑制されたことによるものであった。カリコ氏とワイスマン氏は、塩基修飾が炎症反応を抑制し、タンパク質産生を増加させるという発見を通して、mRNAの臨床応用に至る重要な障害を取り除いた。mRNAワクチンの可能性 mRNA技術への関心が高まり始め、2010年にはいくつかの企業が開発に取り組んでいた。ジカウイルスや、SARS-CoV-2と関連が深いMERS-CoVに対するワクチンの開発が進められていた。COVID-19パンデミック発生後、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質をコードする2つの塩基修飾mRNAワクチンが記録的なスピードで開発された。約95%の予防効果が報告され、両ワクチンとも2020年12月に承認された。 mRNAワクチンの驚くべき柔軟性と開発スピードは、この新たなプラットフォームをほかの感染症に対するワクチンにも利用する道をひらくものだ。将来的には、この技術は治療用タンパク質の送達や、ある種のがんの治療にも使用されるかもしれない。 SARS-CoV-2に対して、mRNAワクチンとは異なる方法論に基づくワクチンも急速に導入され、合わせて130億回以上のCOVID-19ワクチンが世界中で接種された。このワクチンによって何百万人もの命が救われ、さらに多くの人々の重症化を防ぐことができた。今年のノーベル賞受賞者たちは、mRNAにおける塩基修飾の重要性という根本的な発見を通じて、現代の最大の健康危機における変革的発展に大きく貢献した。 カタリン・カリコ氏は、1955年ハンガリーのソルノク生まれ。1982年にセゲド大学で博士号を取得後、1985年までセゲドにあるハンガリー科学アカデミーで博士研究員として勤務。その後渡米し、テンプル大学(フィラデルフィア)とUniformed Services University of the Health Sciences(USUHS)(ベセスダ)で博士研究員として勤務。1989年にペンシルベニア大学の助教授に任命され、2013年まで在籍。その後、BioNTech社副社長、後に上級副社長に就任。2021年よりセゲド大学教授、ペンシルベニア大学ペレルマン医学部非常勤教授。 ドリュー・ワイスマン氏は1959年米国マサチューセッツ州レキシントン生まれ。1987年にボストン大学で医学博士号を取得。ハーバード大学医学部のベス・イスラエル・ディーコネス医療センターで臨床研修を受け、米国国立衛生研究所(NIH)で博士研究員として研究。1997年、ペンシルベニア大学ペレルマン医学部に研究グループを設立。The Roberts Family Professor(ワクチン研究)、ペンシルベニア大学RNAイノベーション研究所所長。

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蘇生後呼吸管理でのPaCO2のターゲットはどこに置くか?(解説:香坂俊氏)

 「心肺蘇生の現場はドラマに溢れている…」などと思われがちだが、実は1から10までかなりプロトコールがはっきりと決められており、現代医療であまりそこに情緒が介在する余地はない。カギは低酸素性脳損傷(hypoxic brain injury)をいかに防ぐかというところであり、その思想にのっとりABCのうちのCが優先され、ACLSの手順も細かく決められ、低体温療法など蘇生後のケアも規定される。 しかし、蘇生後の「呼吸管理」についてはどうだろうか?この領域はいまだに解明されていない側面が多い。たとえば、蘇生後のPaCO2の目標値についてもはっきりとした規定はなされておらず、現時点でのガイドラインで推奨されているのは70~100mmHgあるいは酸素飽和度94~98%を目指す、というかなり広いターゲットが設定されている。 今回のTAME試験では、PaCO2の目標値の設定に関してランダム化が行われた。院外の蘇生後の患者1,700例を対象に、軽度のHypercapniaをターゲットとする群(50~55 mmHg)と正常PaCO2(35~45mmHg)にランダム化が行われ、6ヵ月後の神経学的転帰が比較されたが、軽度Hypercapnia群と正常PaCO2群で、ほとんど差は認められなかった(P値は0.76)。この試験の結果からどういった意味を見出すか? 先に述べたとおり、心肺蘇生後の患者管理においては、すでに高度に洗練されたプロトコールが存在し、ガイドラインも提供されている。今回のTAME試験の結果は、これらに大幅な変更をもたらすものではない。しかし、蘇生後管理はあまりミスが許容されない分野であり、呼吸管理で無理にHypercapniaの方向に持っていく必要がない、ということが示されたことは、かなり現場の助けとなるのではないだろうか(注意を向けなくてはならないことが1つ減れば、別のことに注意を向けられるようになる)。ただ、このTAME試験は、並行して低体温療法のランダム化も実施されており、もしかすると、そこに隠れた交互作用があったかもしれず、また、かなり自由度の高い試験プロトコールであったため、かなり現場判断が介在する余地があった(頭蓋内圧のモニターも全例で実施されていなかった)。この辺りは、試験の解釈に注意を要する点となるだろう。

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英語で「付き添い人」は?【1分★医療英語】第99回

第99回 英語で「付き添い人」は?I require a chaperon for the physical examination. Could you please accompany me to the examination room?(身体検査の際に付き添い人が必要です。診察室に同席してもらえませんか?)Sure!(もちろんです!)《例文1》医師We will obtain consent for the surgery, and will have a chaperon present. Is that okay?(手術の同意を取るので付き添い人に同席してもらいます。よろしいですか?)患者OK.(わかりました)《解説》今回は英単語の紹介です。“chaperon”(シャペロン)は、英語で「付き添い人」という意味を持つ単語です。医療現場において、患者と医師の間で行われる診察や手続きの際に第三者として同席する役割を指します。これによって医療行為の透明性を保ち、誤解や不適切な行為を防ぐ目的があります。とくに“chaperon”を必要とする場面としては、医師が異性の患者の身体診察をする場合や、手術や延命処置などの重要な意思決定の際に自分や相手を守るための証人として第三者の目を必要とする場合があります。日本の医療現場でも、身体診察の際に看護師などに同席をお願いすることがありますよね。多くの病院では“chaperon”という特定の職業があるわけではなく、単に「付き添い人」という意味合いなので、私もよく看護師やほかの医療スタッフに“Could you stay here as a chaperon?”(chaperonとして同席してくれませんか?)と依頼しています。講師紹介

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「デルマクイック爪白癬」は技術や検査時間も不問で誤診も防ぐ

 昨年6月にイムノクロマト法を用いた白癬菌抗原キット「デルマクイック爪白癬」が発売されたことを契機に、以前に比べ、内科医でも爪白癬の診断に対応できるようになったのをご存じだろうか。今回、常深 祐一郎氏(埼玉医科大学医学部皮膚科 教授)が『本邦初の白癬菌抗原検査キットによる爪水虫診断と正しい治療法~爪水虫診療は新たなステージへ~』と題し、今年4月に発表された爪白癬の治療実態調査の結果、新たな抗原キットなどについて説明した(佐藤製薬・マルホ共催メディアセミナー)。爪白癬は外用薬で治せる、という誤解 日本人の10人に1人は爪白癬に罹患しており、その多くが高齢者である。高齢者では足の爪白癬が転倒リスク1)やロコモティブシンドローム、フレイルの原因になるほか、糖尿病などの合併症を有する患者においては白癬病変から細菌感染症を発症し、蜂窩織炎や時には壊死性筋膜炎を発症するなど命を脅かす存在になる場合もあるため、完全治癒=臨床的治癒(爪甲混濁部の消失)+真菌学的治癒(直接鏡検における皮膚糸状菌が陰性)を目指す必要がある。 爪白癬の治療は診断さえついてしまえば、外用薬を処方して継続を促せば…と思われることが多いのだが、その安易な判断が「治療の長期化につながり、結局治癒に至らない」と常深氏は指摘した。外用薬は白癬菌が爪の表面に存在する表在性白色爪真菌症(SWO)には効果が高いが、その他の病型では経口抗真菌薬が優れているという。また、「遠位側縁爪甲下爪真菌症(DLSO)の軽症であれば外用薬でも治せると考えられているが、治癒まで時間を要し、その間に次に述べるように脱落が多くなってしまうことから、軽症の間に経口薬で治癒させることが望ましい。もちろんDLSOの中等症以上では経口薬が必要であるし、近位爪甲下爪真菌症(PSO)、全異栄養性爪真菌症(TDO)では経口薬による治療が推奨される」と、病態ごとの剤型の使い分けが重要であることに触れた。「デルマクイック爪白癬」で視診による誤診予防も そうはいっても、とくに高齢者への経口薬処方は、ポリファーマシーの観点や肝機能への影響から敬遠される傾向にある。これに対し、同氏は治療継続率のデータを引用2)し、「経口薬のほうが外用薬より治療継続率が高く、脱落しにくいことが明らかになっている。外用薬の場合は投与開始から1ヵ月時点ですでに4割強が脱落してしまう。一方で、経口薬は投与開始3ヵ月時点でも6割の人が継続している。爪白癬治療に年齢は関係ない」と説明した。 上述のように、治癒率や患者の治療継続率からも爪白癬への経口薬処方が有効であることは明確だが、診断に自信がないと、外用薬で様子を見てしまうということが多そうだ。また、皮膚科専門医は顕微鏡を用いたKOH直接鏡検法で診断することができるが、他科の医師においては視診で判断していることが多いのが実情である。この点について、「皮膚科医であっても視診のみで診断を行うと30%程度は誤った判断をするため3)、やはり検査は必要。爪甲鉤弯症などが爪白癬と誤診されることもある4)」と述べたうえで、「経口薬は外用薬と比較して検査で確定診断がつかないと処方しづらく、“本当に薬を処方していいのか”という不安が処方医に生じる」と医療者側の問題点を挙げた。<爪白癬と誤診されやすい疾患>・掌蹠膿疱症の爪病変・緑色爪(green nail)・黄色爪症候群(yellow nail syndrome)・爪甲鉤弯症・厚硬爪甲 昨年に上市された白癬菌抗原キット「デルマクイック爪白癬」の検査法『イムノクロマト法』は迅速および簡便で感度が高く、皮膚科専門医が行うKOH直接鏡検法や真菌培養法に比べ、技術や検査時間も不問であることから視診による誤診も防ぐことが可能である。同氏は「鏡検できる医師がいない場合、顕微鏡がない施設や往診先での検査に適しており、また、鏡検での見落としを防ぐために検査を併用するのも有用」と述べ、皮膚科専門医ならびに一般内科医に向けて、「精度の高い検査を患者に提供して確定診断が得られた後に適切な薬剤を処方する、という正しい診断フローに沿った治療にもつながる」とコメントした。 最後に同氏はクリニカル・イナーシャ(clinical inertia)5)という言葉に触れ、「これは直訳すると“臨床的な惰性or慣性”。患者が治療目標に達していないにも関わらず治療が適切に強化されていない状態を意味する」と定義を説明し、「患者側がクリニカル・イナーシャに陥る要因は、治療効果の正しい知識不足や経口薬による副作用への懸念、飲み合わせへの懸念などが漠然とある。一方、医師側の要因には完治が必要であるとの認識不足、治癒への熱意や責任感不足などがあり、両者のクリニカル・イナーシャが相乗的に負の方向に働き、外用薬が漫然と使用されてしまう。しかし、爪白癬の治療意義、新たな検査法や経口薬の有用性を理解していけば解決できる」と締めくくった。

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第178回 コロナワクチン廃棄の件、政府が国民に伝えていないこと

報道する側にとって、データとは時に取り扱いが難しいものである。とくに、ある種の公表データの事実関係だけを淡々と伝えるのが良いのか、それとも解釈まで含めて伝えるほうが良いのかはケースバイケースであるが、まさにそう思う報道を目にしたばかりだ。それは今月20日から新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)のオミクロン株XBB.1.5対応ワクチン接種の開始に伴い、廃棄される既存の新型コロナワクチンに関する読売新聞の報道である。数字だけを中心に事実関係だけを淡々と書くのは、それはそれで記事の手法としてはある種極めて真っ当なのだが、ことこの件に関してはもう少し解釈も伝えたほうが良いのではないかと考えている。とりわけ、この記事が引用掲載されたYahoo!ニュースのコメント欄やSNSで、かなりとんちんかんな指摘が散見されるのを目の当たりにし、よりその思いが強くなる。しかも、そうしたとんちんかんなコメントの中に、識者と言われる人たちも含まれているのを見ると、やや頭が痛い。少なくとも、見出しと記事本文で共に指摘を受けている「ワクチン1回当たりの購入単価の非公表」というのは、契約上の問題があるとはいえ、税金を投入し、大勢の国民に接種している以上、国としての説明責任を果たしているとは言えず、ただ廃棄見込み数量を示すのはやや誤解を招くのではないかと思う。まず、ファイザー製の武漢株対応1価ワクチンの廃棄数が約880万回という結果については、かなり上出来だったのではないかと思う。武漢株対応ワクチンについては、長らく打つ手がなかったパンデミックの抑え込みの目的がありながら、需要が読み切れず、全国民に2回接種しても余りある量を用意しなければならなかったという事情があるからだ。約880万回分は、大雑把に2回接種分ならば約440万人分、3回接種分ならば約293万人分であり、総人口の占める割合で言えばそれぞれ3.7%、2.4%である。もちろんこの数字には、これまでに有効期限を迎えて廃棄済みのものは含まれていないが、それを含めても10%前後ではないだろうか? 国単位で見れば、これ自体は過剰な廃棄とは言えないと個人的には考えている。一方、オミクロン株対応の2価ワクチンについて言えば、国が供給を受けたのはファイザー製が約1億2,510万回分、モデルナ製が約7,000万回分。こちらは1回接種であり、日本の総人口をやや超える回数となる。しかし、当時は重症化リスクのある人に対して武漢株対応1価ワクチンを応急的に3回目接種で使用したりなど、やや混乱状態にあり、これに加え1、2回目の接種率が思いのほか高かったこと、オミクロン株となってから急速に感染者が増加したことなどを考慮すれば、事前に接種率を読み切るのはやはり困難だったろう。その意味では日本の総人口を上回る供給量を確保しなければならなかったと考えるのが自然である。このうち廃棄見込みはファイザー製が約2,650万回分、モデルナ製が約5,150万回分と公表されている。前述の報道にもあるように供給量に対する廃棄量の割合は、ファイザー製が2割強、モデルナ製に至っては7割強となる。全般的に見れば、オミクロン株対応ワクチンの廃棄量が増えた原因は、度重なる追加接種やオミクロン株出現後のワクチンの感染・発症予防効果の低下で、新型コロナワクチンそのものへの飽きとも言うべき状況が生まれ、接種率が低下したことが大きな要因だろう。もっともファイザー製については、政府や厚生労働省にとっては想定内だったかもしれないが、モデルナ製については確かに廃棄割合が多過ぎる。この点はいくつかの理由が考えられる。モデルナ製ワクチンの廃棄割合が高い理由一つは副反応の問題である。1~2回目接種時からファイザー製よりモデルナ製のほうが副反応出現率は高いと報告され、とりわけ稀とは言え、若年者での心筋炎の副反応はモデルナ製のほうが明らかに頻度は高かった。このため一般人の間では1価ワクチンの段階からファイザー製に比べ、忌避されがちだった。加えて日本でのオミクロン株対応ワクチンの承認はやや“特殊”な経過を辿っている。日本では2022年9月12日に両社のオミクロン株BA.1対応ワクチンを承認したが、すでに当時は世界的に流行株の主流がBA.4/5に移行していた時期。米国食品医薬品局(FDA)は6月末時点で両社にBA.4/5対応ワクチンの製造を求める声明を発表しており、8月中には両社ともこの対応ワクチンの申請を行っていた。結局、アメリカに倣う形で両社とも2022年9月以降に、日本でもBA.4/5対応2価ワクチンの申請を行ったが、とりあえずBA.1対応2価ワクチンでの公費接種が9月20日に開始され、後に承認されたBA.4/5対応2価ワクチンに現場が切り替えていった。このためオミクロン株BA.1対応ワクチンについては廃棄予定ワクチンに一定程度含まれていたのではないかと思われる。また、アメリカではファイザーとモデルナは1日違いで承認申請を行ったが、日本ではモデルナがファイザーに半月遅れで申請を行っているため、これがさらにモデルナ製の廃棄割合の増加に拍車をかけたとみられる。その意味では、日本でのワクチン購入政策に批判的吟味を加えるならば、廃棄量そのものの多寡ではなく、なぜBA.4/5への切り替えが遅れたのか、アメリカでほぼ同時に申請していながら、日本ではなぜモデルナが半月遅れたか、そこに医薬品医療機器総合機構(PMDA)との齟齬がなかったかどうかを検証すべきだ。今回、オミクロン株XBB.1.5 対応1価ワクチンについて、厚労省はファイザー製2,000万回分、モデルナ製500万回分の追加購入で合意に至っており、すでに量的には慎重になっている。今後、この数字がどのくらいに収まっていくのか、これも注目点と言えるだろう。

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交通事故診療で困ることとその対応(2)

ケアネットをご覧の皆さま、こんにちは。整形外科医の濱口 裕之です。前回の「交通事故診療で困ることとその対応」はいかがでしたでしょうか?やっぱり交通事故診療は面倒くさいとか言わないでくださいね。それでは、今回も交通事故診療の疑問にお答えしましょう!自分の患者さんが、どのような基準で後遺障害に認定されるのかわかりません。後遺障害診断書をしっかり記載したのに非該当になって、患者さんに愚痴られたことがあります自賠責保険の後遺障害認定基準はブラックボックスであり、詳細は公開されていません。このため、自分の患者さんが後遺障害に認定されるか否かを正確に予測するのはほぼ不可能です。これまで、私たちのグループは、全国から寄せられる数千例に及ぶ事案に取り組んできました。それらの事案を分析した結果、自賠責保険は以下の認定基準にしたがって後遺障害の審査を行っていると推察されます。事故の規模症状の一貫性通院頻度適切な専門科の受診の程度身体所見と画像所見の一致の程度症状固定までの期間患者さんが受傷した部位ごとに細かい認定基準があるため、私たちのように年間約1,000例もの症例に取り組んでいても、正確に後遺障害等級を予測できるわけではありません。このため、自分の患者さんの後遺障害等級を予測するのは困難だと割り切りましょう。事故と症状の因果関係が疑わしい患者さんをときどき見かけます。単なる外傷性頸部症候群(頸椎捻挫)なのに、めまい、耳鳴、目のかすみなどの訴えは理解できません交通事故での外傷性頸部症候群(頸椎捻挫)といえば、首の痛みを想像する人が多いと思います。確かに、外傷性頸部症候群の症状として最も多いのは、後頸部から腕にかけての痛みやしびれです。しかし、外傷性頸部症候群では、めまい、耳鳴、目のかすみ、目の疲れなど自律神経失調症の症状を併発する症例があります。外傷の影響で交感神経が刺激されて前庭迷路の血流が減少します。これによって、めまいや耳鳴が起きるといわれています。外傷性頸部症候群に自律神経失調症が合併した状態を、バレリュー症候群と呼びます。バレリュー症候群は、整形外科医の間でさえ一般的な傷病とは言い難いです。しかし、交通事故診療では比較的よく見かける傷病です。患者さんがめまい、耳鳴、目のかすみ、目の疲れなどを訴えると、精神疾患や詐病を連想しがちです。しかし、外傷性頸部症候群では、一定の確率で自律神経失調症を併発します。バレリュー症候群である可能性を念頭に置いて診療しましょう。症状固定の時に、治療終了となることに対して患者さんが納得しなくて困っています。症状固定とは、治療してもそれ以上改善しない状態を指します。具体的には、消炎鎮痛剤の服用やリハビリテーションにより一過性に軽快するものの、すぐ元に戻ってしまう状態です。症状が一進一退になれば、症状固定の時期と思って良いでしょう。症状固定は医学的な概念ではなく、損害保険会社や裁判で慣習的に使われている用語です。そのため、患者さんだけでなく医師が症状固定の意味を正確に理解していなくても不思議ではありません。自賠責保険は、すべての交通事故被害者が完治するとは考えていません。治療効果がなくなった時点で治療を終了し、後遺症に対しては後遺障害を認定して救済します。限りある保険料収入を最大限有効活用することで、公的な利益を追求しています。そのため、治療しても根本的に改善する可能性がなくなったにもかかわらず、延々と治療を続けることには問題があります。患者さんの立場では、交通事故に巻き込まれて後遺症を負ったので、完全に治るまで補償して欲しいと思いがちです。症状固定に納得しない患者さんには、自賠責保険の公的な存在意義を説明するしかないと思います。なお、症状固定しても自賠責保険での治療が終了するだけです。健康保険で症状緩和の治療を続けられることは申し伝えましょう。診断書へ絶対に記載してはいけない事項は何でしょうか?自賠責保険は、醜状などの一部を除いて、すべて書類審査です。したがって、医師が作成した診断書は、患者さんの後遺障害認定に極めて大きな影響を及ぼします。そのため、診断書は自賠責保険のルールに則って記載する必要があります。そうは言っても、特別に勉強する必要はなく、普通の感覚で診断書を作成すればよいでしょう。ただし後遺障害診断書の左下にある「障害内容の増悪・緩解の見通し」については、慎重に記載する必要があります。この欄に、症状は改善する見込みがあるなどと記載すると、患者さんは確実に後遺障害非該当になります。そもそも、症状固定の定義は「治療してもそれ以上改善しない状態」です。症状が改善する見込みがあるのなら、まだ症状固定ではありません。症状固定は医学用語ではないので、多くの医師が症状固定の定義を知らないのは当然といえるでしょう。だからといって、患者さんに不利益になることをあえて記載する理由はありません。主治医として、この点だけは知っておいて損はないと思います。自覚症状だけで他覚所見が乏しい場合の対応はどうすればよいのでしょうか?交通事故診療で最も多い外傷性頸部症候群では、他覚所見に乏しい症例が多いです。身体所見や画像所見と比較して症状の訴えの強い患者さんを診ると、どうしても詐病が頭をよぎります。しかし、私たちの数千例に及ぶ経験では、交通事故診療で明らかに詐病と思われる症例は、さほど多くないのが実情です。たしかに、外傷性頸部症候群では自覚症状だけで他覚所見が乏しい症例は多いですが、彼らが全員ウソをついているわけではありません。単に現在の医療水準では、画像検査などで痛みなどの症状の原因を捉えきれていないだけだと考えるべきでしょう。私たち医師ができることは、客観的に診療することだけです。詐病が強く疑われるケースを除けば、粛々と治療を続けることが望まれます。

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第179回 驚きの新閣僚人事、武見厚労相は日医には大きな誤算?“ケンカ太郎”の息子が日医とケンカをする日

日医の族議員が2人も入閣こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。日本のプロ野球は、セ・リーグで阪神タイガースの18年振りの優勝が決まりました。岡田 彰布監督が開幕前から「アレ」と言い続け半ば流行語になった「アレ」ですが、優勝後は「コレ」と言うのでしょうか。クライマックスシリーズ、そして、日本シリーズが楽しみです。それにしても、前任の矢野 燿大監督から岡田監督に代わっただけで翌年優勝とは。MLBで、オークランド・アスレチックスからボルチモア・オリオールズにチームが変わっただけで突然制球が良くなった元阪神の藤浪 晋太郎投手も謎ですが、阪神も相変わらず謎が多い球団ですね。さて今回は9月13日に発足した、第2次岸田第2次改造内閣について書いてみたいと思います。驚きだったのは、日本医師会の政治団体、日本医師連盟の支援を受けてきた武見 敬三参議院議員と、自見 英子参議院議員が、それぞれ厚生労働大臣と地方創生担当大臣(沖縄及び北方対策、他も担当)に起用されたことです。とくに1950年代から80年代まで長く日医会長を務め、政権や厚生省(当時)と渡り合った武見 太郎氏の三男である武見 敬三氏が厚生労働大臣に抜擢されたことは驚きを超え、一部からは呆れ声すら上がっています。武見 敬三氏は1995年の参議院議員選挙比例区で日本医師連盟推薦候補として初当選、その後東京選挙区に移りました。現在、武見氏の後援会会長は東京都医師会会長の尾崎 治夫氏です。武見氏が今でも日医系のいわゆる“族議員”であることは間違いありません。たとえば、ネットニュースを配信するアゴラは、9月13日、「医師会そのものが厚生労働大臣に?:武見敬三氏の起用で広がる波紋」と題するニュースを掲載、X(旧ツイッター)の投稿などで、「医師会そのものが大臣になったようなものだという痛烈な批判がみられます」「岸田政権は『利権に配慮し過ぎる』傾向があるという指摘も」「もはや現政権は一線を超えたとも言えます」などと書いています。岸田総理大臣のしたたかな日本医師会対策か?しかし、本当にそうなのでしょうか?単純に見れば、団体の族議員を関連の大臣として入閣させれば、その団体のやりたいように政策を進められると考えがちですが、私はむしろ逆ではないかと思います。むしろ、今回の武見氏入閣は、岸田 文雄総理大臣のしたたかな日本医師会対策に見えて思えてなりません。日医幹部たちは、表向き武見大臣誕生を喜びながら、内心「やられた!」と思っているかもしれません。閣僚経験なし、71歳の武見氏に任せる理由厚生労働大臣は今や要職です。一般会計歳出の実に3分の1が社会保障費で、最も国の予算を使うのが厚労省です。さらに、マイナ保険証に代表される医療DXの推進、2024年に予定される診療報酬・介護報酬同時改定、そして医師の働き方改革など、大きな課題が山積しています。そんな重要な役所である厚労省を、議員経験が長く医療や社会保障に詳しいと言われてきたものの、大臣経験がない、71歳という高齢の武見氏に任せる理由は何でしょう。もちろん、長年の厚労行政への関与に対する論功行賞的な意味合いもあるでしょう。また、これから推し進めようとする医療DXには日医をはじめとする医療関係団体の協力が不可欠、という理由も大きいでしょう。ただ、それよりも大きなポイントと考えられるのは、来年の診療報酬・介護報酬同時改定、すなわち医師に入る“カネ”の問題です。同時改定に向けて政府と日医の間で激しい攻防の予感次期改定を巡っては、物価高や賃上げの影響もあり、医療関係団体は報酬の引き上げを求めています。しかし、政府は少子化対策の財源に医療の歳出抑制を当て込んでおり、例年以上に難しい調整が予想されます。6月16日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2023」(骨太方針2023)は、少子化対策・こども政策のメニューが拡充された一方で、財源確保策をどうするかについて岸田首相は年末(診療報酬の改定率決定もこの頃)に先送りしました。今年の骨太には、「歳出改革等によって得られる公費の節減等の効果及び社会保険負担軽減の効果を活用することによって、国民に実質的な追加負担を求めることなく、『こども・子育て支援加速化プラン』を推進する」と書かれています。この文言を真に受けるなら、社会保険負担軽減、すなわち診療報酬・介護報酬の圧縮によって財源確保を行うことになります。もちろん、次期改定で物価高や人件費増は反映されるでしょうが、それ以外のプラスはほとんど考慮されないかもしれません。政府と日医の間で激しい攻防が予想されます。岸田首相の財務省寄りのスタンスは今でも変わっていないこの連載では、政府と日医の力関係について度々書いてきましたが、岸田首相の財務省寄りのスタンスは今でも変わっていないと考えられます(「第80回 『首相≒財務省』 vs.『厚労省≒日本医師会』の対立構造下で進む岸田政権の医療政策」参照)。その一つの表れが首相秘書官人事です。2023年7月、岸田首相の秘書官の一人に財務省主計局主計官の一松 旬氏が就任しました。一松氏は奈良県副知事や主計局調査課長などを歴任、前任の宇波 弘貴氏同様、社会保障分野に長く関わってきました。2018年、奈良県がぶち上げた地域別診療報酬構想(全国一律1点10円を都道府県ごとに設定できるようにする)を考えた人物とも言われています。仮に1点8円になれば、その県の診療報酬の総額は単純計算で20%減ります。当時、単純かつ効率的な医療費削減策ということで医療関係者の注目を集めました。この時は日医の猛反対もあり、地域別診療報酬の議論は広がりませんでした。しかし、そんな医療費削減に関して“急進派”の財務官僚を秘書官として登用する岸田氏が、日医の利益のために族議員を大臣にするとは考えられません。族議員として日医の意向を政府に伝える役回りだった武見氏を、厚労大臣という診療報酬の元締め役に就けることで、逆に日医の説得役、なだめすかし役として機能してもらうというのが岸田首相の本音のように見えますが、穿ち過ぎでしょうか。就任会見で「医療関係団体の代弁者ではない」と武見大臣日医の松本 吉郎会長は9月13日、改造内閣が発足したことを受けてコメントを発表、武見氏の入閣について「日本医師会と致しましては、誠に喜ばしい限りです。(中略)。エビデンスに基づく冷静沈着な分析と、その一方でラガーマンとして培われた熱血漢としての側面を持ち合わせる稀有の存在と尊敬しています。これまでの様々なご経験をもとに厚生労働行政においてその手腕を遺憾なく発揮されることと期待しております」とエールを送っています。一方、9月14日、厚労大臣として初の記者会見に臨んだ武見氏は、「新型コロナウイルス感染症への対応など、感染症対策の強化、更に安心安全なマイナ保険証を含む医療DX、医療介護福祉の向上に確実に取り組む。また、持続的な賃上げの実現に向けて、リスキリングによる能力向上支援、そして多様な人材が活躍できる環境整備に取り組みたい」と抱負を述べました。さらに、過去の選挙において日本医師連盟など医療関係団体の推薦を受けたことについて質問されると、「医療関係団体の代弁者ではない。国民の立場に立ってどのような政策を実現するべきかを考えるのが従来から私の一貫した立場だ」と語りました。ゴリゴリの政治家、というよりはどちらかというと学者肌の政治家武見氏は、政府と日医の間の調整役を担わされることになるでしょう。国や財務省の意向を大臣の立場で日医幹部に伝えるというのは、族議員としては相当タフな仕事と言えそうです。大臣就任後の記念撮影で武見氏の顔に笑顔がなかったのは、そのせいかもしれません。ところで武見氏は、元日医会長、太郎氏の三男ですが、医師ではありません。慶應義塾大学大学院で政治学を学んだ後、大学教員となり、テレビのニュースキャスターなどでも活躍、その後、参議院議員となっています。グローバルヘルスの分野では、国際的なネットワークを持っており、2011年に医学雑誌Lancetが日本特集号「国民皆保険達成から50年」を発刊した際は、日本国際交流センター・シニアフェローの立場で同号の国内実行委員会委員長を務めています。また、2019年には、世界保健機関(WHO)のユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)親善大使に就任しています。そういった取り組みからも、武見氏はゴリゴリの政治家というよりは、どちらかというと学者肌の政治家と言えそうです。13期25年間も日本医師会長を務めた父親、太郎氏は、政府や厚生省の官僚に対する強い対決姿勢から“ケンカ太郎”とも呼ばれましたが、息子の敬三氏は父親の敵方とも言える厚労大臣になってしまいました。おそらく次の総選挙までの“つなぎ”の大臣だとは思われますが、はたして、武見大臣が日医と“ケンカ”をする日は来るのでしょうか。「医療関係団体の代弁者ではない」と言い切った武見氏の活躍に期待したいと思います。

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英語で「治療に当たる」は?【1分★医療英語】第98回

第98回 英語で「治療に当たる」は?This acute respiratory failure is likely due to heart failure exacerbation. Should we call cardiology?(この急性呼吸不全は心不全増悪による可能性が高いと思います。循環器内科にコンサルトすべきでしょうか?)Cardiology has already been on board.(循環器内科もすでに[この患者の]治療に当たっていますよ)《例文1》Both GI and general surgery are on board.(消化器内科と一般外科が共に[この患者の]治療に当たっています)《例文2》Is palliative care team on board?(緩和ケアチームは治療に当たって[コンサルト済み]ですか?)《解説》ここで出てくる“on board”の“board”は、もともとは「board=船などの床板」に由来しています。乗船時や飛行機の搭乗の際に、“Welcome on board.”という言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。すなわち、“on board”は「(船や飛行機などの)乗り物に乗り込む」という意味合いで、“Welcome on board.”と言えば、「ご搭乗ありがとうございます」という意味になります。そこから転じて、「研修医のローテーターや医学生が、病院やチームに新しく加入してきた」というようなシーンで、“Welcome on board.”(新しいチームにようこそ)という意味で使うことができるフレーズです。この“on board”は一般的な表現ですが、今回の例のように、医療者同士でのコミュニケーションでもよく使われます。“XX is on board.”という言い回しで、「XX科がフォローしています」「コンサルト済みです」といった意味になるのです。イメージとしては、「患者さんという船」に、「主治医チーム」のほかに「コンサルタントとして他科(たとえば循環器内科)」も乗船してきた、という感じです。そんなイメージを持って“Cardiology is on board.”と聞くと、「循環器内科も患者の診療に参加している」という意味合いがつかめるのではないでしょうか。もちろん、もっと直接的に“We consulted cardiology.”、“Cardiology is following this case.”などと言うこともできますが、英語はイディオム(習慣的な言い回し)が好まれる言語なので、このような表現も医療現場ではよく使われています。講師紹介

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第177回 コロナ前に逆戻りする人ほど、医療崩壊を見くびる傾向?

新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の感染者報告が増加し続けている。ご存じのように新型コロナの感染拡大状況に関しては、感染症法上の分類が5類に移行してからは、定点報告に切り替わっている。その最初が2023年第19週(5月8〜14日)だが、この時の全国での定点当たりの感染者数は2.63人。その後、この数字はほぼ一貫して右肩上がりの増加を続け、最新の第35週(8月28日~9月3日)には20.50と約10倍にまで達している。しかし、東京都心の様子を見ている限りは、「どこ吹く風?」くらいの雰囲気だ。そうした中で、第35週の定点当たりの報告数が32.54人となり、都道府県別では全国第2位(1位は岩手県の35.24人)の宮城県医師会の会見を報じたテレビニュース映像がインターネット上で流れている。会見した宮城県医師会会長の佐藤 和宏氏の「医療現場は非常にひっ迫。助けられる命も助けられない」「これが医療崩壊。私はこの言葉が好きではないが、実際起こってみるとこれが医療崩壊なんだと思います。今はすでに『第9波』の中にいる」「やはりコロナはまだ終わっていないと思う。今更そんなこと言うなと、楽しくやりたい気持ちも私も十分わかるけど、身を守って、高齢者などの命を守るためには、まずマスクをしてほしい」という発言は、かなりの切迫感がこもっている。この発言、たまたま私は同じ宮城県出身であるため痛いほどわかる側面がある。宮城県と言えば、県庁所在地は杜の都で有名な仙台市で、事実上の東北地方の首都のような扱いでもある。その意味では医療的にも恵まれている部分もある。しかしながら、それは仙台市レベルで見ればであって、宮城県全体で俯瞰すると、やや状況が変わってくる。とくに病床数の多い総合病院の偏在はここでも大きな課題である。実際、私の実家のある町は、市区町村でいう町だが、人口は3万人を超える。にもかかわらず、町内には有床診療所しかない。確かに電車に乗って30分程度で仙台市内に辿り着けるし、車で10分程度も走れば隣接する自治体の総合病院にも行ける。「何も問題はないじゃないか?」と言われるかもしれないが、それは電車や自動車での移動に問題がないことが前提だ。このような医療提供体制で、新型コロナの定点報告数が30人を超えたらどのようになるかは容易に想像がつく。これは実際のデータからも窺い知ることができる。令和3(2021)年医療施設(動態)調査・病院報告によると、宮城県全体での人口10万人当たりの病床数は病院で1075.9床、一般診療所で61.6床。実は東北6県の中では最低値だ(もちろん多ければいいものではないことは百も承知である)。ちなみに人口約227万人の宮城県にいる日本感染症学会専門医は36人。これを、新型コロナの定点報告数が一時期30人を超えた沖縄県で見てみると、人口10万人当たりの病床数は病院で1267.4床、一般診療所で55.9床。人口約147万人に対する前述の感染症専門医数は26人。これに加え、宮城県の面積が沖縄県の3倍という事情を加味すれば、実のところ宮城県のほうが医療提供体制、感染症診療体制ともに脆弱と言っても過言ではない。さてこの報道に関する反応はざっくり言えば真っ二つである。医療従事者やある程度医療に知見のある人の多くは、この報道を淡々と引用し、注意喚起を促す方向が多いが、医療とはほぼ無縁の一般人では「また補助金目当てか?」「過去のインフルエンザ(以下、インフル)の流行時でこんなに騒いだか?」的な反応が散見される。「インフルで医療崩壊しなかったのにコロナで医療崩壊するのはおかしい」理論は時に医療従事者の一部も使う。確かにインフルの場合、厚生労働省・感染症サーベランス事業により発出される流行発生警報の基準は定点報告数30人が基準で、過去の警報発出時期に各地の医師会から医療崩壊を訴えることはほとんど聞かなかった。しかし、過去から繰り返しこの連載でも触れているように、新型コロナとインフルは大きく異なる。そもそも感染力が異なり、市中より明らかに警戒度・感染防止対策が進んでいるはずの医療機関内でも院内感染が容易に起こるという現実がある。当然ながら、受け入れる医療機関は相当警戒度を高めなければならず、スペック上の病床数や人員数は十分に機能しなくなる。しかも一般人側は、新型コロナに対し未だインフルほどの馴染みはないため、新型コロナ以前はインフルの疑いがあっても受診しなかった人の一部が、今は風邪様症状で受診する傾向がある。こうなれば当然、前述の医療崩壊が現実となる。よく「医療崩壊は日本の医療制度の欠陥が原因」という言説も耳にする。これは一理ありかもしれない。だが、その制度上の欠陥とは、大雨時に常にダムが無調整で放流を続けているかのような医療のフリーアクセスに行きつく。こうした主張をする人は、このフリーアクセスを制限したら、本当に日常の医療提供体制に満足するのだろうか? 私個人は甚だ疑問である。医療知識のない一般人の主張ならば、時と場合によって戯言と流しても良いが、医療従事者の一部がそういう主張をすると、いい加減にしてほしいと思うのは私だけではないだろう。新型コロナの5類移行以後を「ポストコロナ」時代と定義するなら、その時代に入り、いつまでこうした不毛な論争を続けなければならないのだろう。

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英文要約、書き換えに活用する【医療者のためのAI活用術】第5回

(1)英文要約に使えるプロンプト論文の執筆や学会の抄録作成などをしている際に、指定された文字数を超過していまい、文字数を削らなければならない、という経験をしたことはないでしょうか。そのような場合、ChatGPTに作成した文章を「○○字以内で要約してください」と指示すると、その条件で要約してくれるため重宝します。また、論文を一通り執筆した際にAbstractを作成する場合や、学会発表でスライド内の文字数を削りたい場合などに、文章を要約する機能が有効になります。プロンプトの例は以下のとおりです。#役割あなたはプロの英文編集者です#命令書入力文の要約を行ってください#制約条件出力は英語で行ってください○○ words以内で要約してくださいアカデミックな単語を使用しつつ、わかりやすい表現にしてください#入力文(ここに要約したい文章を入力)図1のような長い文章を100 words以内に要約するように依頼すると、図2のように指定された文字数で出力が返ってきます。出力した結果は入力した文章を元に作成しているため、大きな間違いは起こりにくいと思いますが、本来の意図と異なる内容になる可能性があるため、内容は必ずダブルチェックし、採用するかどうか取捨選択を行いましょう。あまりに見慣れない英語が多く、不自然に感じるという場合には、制約条件のところに「英語が母国語ではない人にとってもわかりやすい表現を使用してください」などというような条件を追加すると文調を調整することができます。なお、入力する言語や出力する言語はそれぞれ英語や日本語に指定することができます。(図1)要約前の文章画像を拡大する(図2)要約後の文章画像を拡大する(2)英文書き換えに使えるプロンプト英語で論文を書いている際に、「本文中の内容をAbstractにも繰り返して記載したい」というような場合、同じ表現を使用すると単調になってしまうことがあります。また、既存の論文の内容を参考にして文章を書きたい場合、引用元の表現を自分の論文に使用すると、剽窃になってしまう恐れがあります。こういった場合、元の文章を同じような意味でほかの言葉に置き換える「パラフレーズ」というテクニックが重要になります。英語が母国語ではない日本人にとっては苦痛な作業ですが、文章生成が得意なChatGPTを有効活用することで、労力を減らすことができます。以下は、パラフレーズに使えるプロンプトの例です。#役割あなたはプロの英文編集者です#命令書入力文のパラフレーズを行ってください#制約条件出力は英語で行ってください同じ意味を保ちつつ、なるべく文章の構造を変えるようにしてくださいアカデミックな単語を使用しつつ、わかりやすい表現にしてください#入力文(ここに書き換えたい文章を入力)書き換えを行った例を図3に示しています。こちらについても、作成後の文章の確認が必要で、とくに専門用語や固有名詞が置き換わってしまう可能性があるため注意しましょう。また、当然ですがこの作業を行えば必ず剽窃を避けることができるというものではなく、最終責任は著者自身にあることを自覚しておく必要があります。ChatGPTを書き換えに使う際のデメリットは、出力された文章がいまひとつだった場合に、ほかの単語や表現の候補を探すのに手間がかかるという点です。英文書き換えについては「QuillBot」のような、ほかのAIツールもあるため、頻繁に活用する方はChatGPT以外のツールを利用することをおすすめします。(図3)英文書き換えの例画像を拡大する

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ブラック教授選を戦い抜き、ホワイト医局をつくる

2021年に近畿大学医学部教授に着任した大塚 篤司氏。現職を含め計3回挑んだ教授選をテーマにしたコラムをWebで連載し、今年7月には”小説“として書籍『白い巨塔が真っ黒だった件』(幻冬舎)にまとめた。「Web連載のスタート時は医局改革について書くつもりだったのが、教授選について書いた回の反響があまりにも大きくて…。自分としてもきちんと振り返っておこうと本にまとめました」。執筆を終えての思いと、これからの展望について聞いた。理不尽さの前に立ち尽くす、日本の中堅層に読んでほしい――新著では、実力よりも政治力が問われる教授選の実態を、余すところなく描いています。波紋を呼びそうな内容の本書をまとめた原動力は?Web連載が始まると、「こんなところまで書いていいんですか?」と周囲からの反響が大きく、みんなそんなに教授選のことを知りたいのか、と感じました。反響の大きさから、書籍にまとめる話が進んだのですが、スキャンダラスな暴露本にはしたくなくて…。基本的に、連載もそれをベースにまとめた本書も“フィクション”です。主人公である僕の心情はリアルなものですが、ほかの登場人物や設定は架空のものです。物語としてまとめ直すことで、自分の書きたいことを縛りなく、書き切ることができました。僕はこれまで何冊も本を書きましたが、フィクションは初めて。編集の方に「小説の書き方」を手取り足取り教えてもらいました。おかげさまで、すらすら読めるエンタメ小説に仕上がったと思います。――教授選に2回破れ、精神的に追い詰められていく様子が描かれています。そこを乗り越え、3回目に挑まれた理由は?僕が医師になったのは2003年ですが、そのときは医師の働き方の多様性がありませんでした。医局に入るか、民間病院で部長になるか、開業するか、といったくらいの選択肢しかない。僕は研究をしたかったし、チームで仕事をしたかったので医局に入りましたが、入局したら「そのまま教授を目指す」のが既定路線であり、それをなぞってきた感はあります。そして、医局の中でいい経験もつらい経験もする中で、自分の理想とする医局をつくりたい、と思うようになりました。とはいえ、この20年間で医師のキャリアも多様化しました。僕はSNSの医療発信に力を入れており、それを契機に医療者以外の方とのつながりが増え、世界が広がりました。大学以外の場所でもチームで面白い仕事ができることを実感したのです。2回目の教授選の敗戦は精神的にこたえましたが、そのときにはそうした外とのつながりがあったので、「大学にいることにこだわらなくてもいいかな」と考えられました。そんなとき、今のポジションの話が来たのです。情報発信やマーケティングに熱心な大学だと聞いていたので自分と合うのでは、という気持ちがあったのと、「これでダメならもういいや」と割り切って挑むことができました。――本書を一番読んでほしい人は?Web連載は医療者向けのサイトで書いていたので、今回本にすることで一般の方にも届くといいなと思っています。以前の僕のように、硬直した組織の中で閉塞感を抱え、もっと本当はよくできるのに…と、モヤモヤした思いを抱えながら働いている、そんな中堅層の方でしょうか。僕も何度も組織に絶望し、夢を諦めそうになりました。でも、そのときに周囲や家族の助けがあって、いま一歩のところで踏みとどまってきました。不透明な意思決定などの理不尽な目に遭い、希望を失っている人が日本中にいます。そうした状況にいる人に「もう少し頑張れば、光が見える。一緒に頑張ろう」という励ましのメッセージを込めました。2年でここまで進めた医局改革――教授に着任されて2年、医局改革はどのように進めているのでしょうか?わかりやすいところでは、「教授の総回診」を廃止しました。小説『白い巨塔』で一般にも知られるようになった、医局のシンボル的な行事です。以前は教授の診察テクニックを若手が盗む、といった意味があったのだと思いますが、時代は変わり、若手が学べる場は増えました。若手の学びの場としては効率が悪く、患者さんからも「ぞろぞろ来られて、感じが悪い」というマイナスの声が上がるようになりました。もうそういう非効率的なことはやめよう、と決めたのです。病棟全体を把握する必要はあるので、週1回、僕と看護師長と病棟医長の3人で回診し、若手は相談があればそこに来てもらい、なければ自分の仕事をする、というスタイルにしました。――2024年からスタートする「医師の働き方改革」への対応は?皮膚科の特徴として、女性医師の比率がきわめて高いことがあります。僕の教室でも入局者の7~8割が女性で、彼女たちが希望を持ってキャリアを築ける環境づくりが必須です。子供のお迎えに間に合うよう、それまで就業時間後に始めていたカンファレンスを就業時間内に終わるよう改めたり、カンファレンスや勉強会を育児休業中の先生も見られるようにWeb配信して現場復帰をスムーズにしたり、といった工夫をしました。加えて、有給休暇をきちんと取れるように徹底しています。本書でも書いていますが、僕自身、過労とストレスで一度倒れたことがあります。また、スイスへの留学時は夏休みと冬休みをそれぞれ2週間ずつ取れる環境でした。それまで働き詰めだったので「そんなに休んだら成果が出ないだろう」と思っていたのですがそんなことはなく、しっかり休んだほうが、生産性が上がることを実感しました。そうした背景から、教授就任のタイミングで2週間連続して取得できる有給休暇を設定し、まずは自分から取るようにしています。女性の多い医局として、働き方改革の新たなモデルを率先してつくっていかなければと思っています。――医局は医師派遣など人事的な役割も大きいですが、個人の希望やキャリアとのバランスは?医局と人事は切っても切り離せない関係です。医師個人のキャリアや生活の満足度を上げつつ、地域の医療を守らなければなりません。近大は私立なので、国立大学とは地域医療において求められる役割が少し違いますが、それでも近県含め、医療が手薄な地域の方の健康を守る責任があります。本人が望まない人事は基本的にしませんが、まずは医局員とよく話すようにしています。たとえば、親の診療所を継ぐ予定のある人なら「地域の医療も知っておいたほうがいいかもしれないよ」とアドバイスするなど、視野を広げてキャリアを選べるように話し合っています。若手とたくさん話し、彼ら・彼女らの興味を知って、機会があれば外に連れ出したり、人を紹介したりしています。僕自身、大学から出て、外の世界の方とつながって、世界がぐっと広がった実感があります。希望を持ってキラキラした目で入局してきた若手が、狭い病院に閉じ込められ、疲弊してしまうのは避けたい。医師の仕事は忙しく、とくに若手の間は業務に忙殺されがちですが、無駄をなくし、時間を捻出し、外の世界とつなげて閉塞感を感じさせないようにする。そこはマネジメントの力量だと思います。――最近では医局に属さない若手医師も増えていますが、医局の魅力とは?批判的に語られることが多い医局ですが、その持つ力や価値は今でも大きいと思います。若手であれば、ロールモデルがたくさんいるのが良い所でしょう。「こんなキャリアがあるんだ」と参考にできる先輩がたくさんいます。そして、医師は個人でも働けますが、インパクトの大きな研究や、社会を動かす大きいプロジェクトはやはり組織でないとできません。ノーベル経済学賞を受賞した心理学・行動経済学者のダニエル・カーネマン博士が提唱している「ピーク・エンドの法則」というものを意識しています。これは「人間がいろいろな記憶を振り返ったときに、ピーク時とエンド時の記憶が印象を決める」という理論です。たとえば、ディズニーランドへ行ったとき、チケットが高かったとか行列に長時間並んだ、などのマイナスの経験をしても、アトラクションに乗ったときの楽しさと帰り際のパレードの素晴らしさ、つまりは「ピーク」と「エンド」の記憶が素晴らしいから、みんながまた行こうとするわけです。この理論を知ったとき、とても腑に落ちる感じがしました。医局がワクワクする「ピーク」を感じられる場となり、いつか離れる「エンド」には良い記憶として残ってほしいと思います。「チーム」としての実績を作りたい――今後の目標は?今後は「近畿大学皮膚科がやった仕事」を増やしたい。今はどうしても僕が前に出て、広告塔のようになっている面がありますが、研究でも臨床でも「ああ、近畿大学皮膚科っていい仕事をしてるよね」と認知されることを1つずつ作っていきたい。大学ですからもちろん研究業績ならいいですし、産学連携・ベンチャーなどもありうるでしょう。チームとしての実績を作り、認知されることが目標です。個人的な長期目標は、「老害」にならないこと(笑)。僕もこれまでやってきたことに対する自負があるので、年齢を重ねたとき、若手から批判されたら反発する気持ちは出ると思います。でも、だからといって「オレはすごい、まだまだやれる。批判するヤツは潰す」とやってしまったら、若い力が育たない。社会全体でそれをやって萎縮しているのが、今の日本でしょう。でも、権力を持つと人は簡単に変わってしまう。老害にならないためには、外とつながり続け、価値観をアップデートしていかねばなりません。幸い、周囲にいくつになっても最前線で活躍している方や若手を育てている方など、尊敬できる先輩方がいるので、そうした方たちの背中を見ながら、自分なりの働き方、生き方を追求したい。今回の執筆が大変ながらも楽しかったので、小説もまた書きたいですね。書籍タイトルの入ったオリジナルのネクタイは、高校生の娘さんのデザインによるもの。書籍情報『白い巨塔が真っ黒だった件』『白い巨塔が真っ黒だった件』著者大塚 篤司定価1,650円(税込)発行幻冬舎(2023年7月)(ケアネット 杉崎 真名)

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英語で「薬を中止する」は?【1分★医療英語】第97回

第97回 英語で「薬を中止する」は?He had a tarry stool this morning.(彼は今朝、タール便がありました)Okay, let’s hold aspirin.(わかりました、アスピリンは中止しましょう)《例文1》Steroid was held yesterday.(ステロイドは、昨日中止しました)《例文2》We are going to discontinue antibiotics tomorrow.(明日、抗菌薬を中止する予定です)《解説》「薬を開始する・中止する」というのは、患者さんや医療者同士のコミュニケーションで頻繁に行われるやりとりです。“hold”は「持っておく」という意味の動詞ですが、「やめておく」「控えておく」という意味もあり、hold+薬で、「薬を中止する・休止する」という意味になります。ちなみに、動詞の“hold”にはほかの使い方もあり、“Hold on please.”(ちょっと待ってください)、“Hold your breath.”(息を止めてください)といった表現も覚えておくと便利です。また、「中止する」を表すほかの動詞としては、“stop”や“discontinue”などがあります。“discontinue”という動詞は、“continue”(継続する)に否定を表す“dis”が接頭語に付いているので、継続の反対、つまりは「中止する」という意味を覚えやすいでしょう。講師紹介

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日本発祥の疾患「Hikikomori」が国際的に認知【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第241回

日本発祥の疾患「Hikikomori」が国際的に認知Unsplashより使用2022年に米国精神医学会が発行した『DSM-5-TR』に「Hikikomori」が掲載されました。日本語の「ひきこもり」が国際的に認知されつつあるということを意味しています1)。私は一介の呼吸器内科医なので、これを知らず、結構衝撃的でした。さて、九州大学病院における「ひきこもり」に関する研究を紹介したいと思います。Kyuragi S, et al.High-sensitivity C-reactive protein and bilirubin as possible biomarkers for hikikomori in depression: A case-control study.Psychiatry Clin Neurosci. 2023 Aug;77(8):458-460.九州大学における気分障害ひきこもり外来、および関連精神科医療機関を通じて行われたパイロット研究です。被験者は、現在大うつ病エピソードを有する患者121例で、ひきこもり群である「6ヵ月以上」「ほとんど自宅で過ごす」患者45例、非ひきこもり群である「週に4日以上外出する」患者76例で構成されています。血中バイオマーカーとして、過去に精神症状と関連が示されている血清FDP、フィブリノゲン、HDL-コレステロール、LDL-コレステロール、ビリルビン、尿酸、高感度CRPを測定しました。結果、高感度CRP値はひきこもり群で有意に高く、ビリルビン値は有意に低いことが示されました。ただし、高感度CRPの平均(±標準偏差)は、非ひきこもり群2.4±0.5μg/mL、ひきこもり群2.6±0.6μg/mLと、一見それほどの差はないように思われます(統計学的には有意差あり、p<0.05)。とはいえ、高感度CRPは、複数の研究グループによって、自殺企図のバイオマーカーである可能性が示唆されています2,3)。とくに直近で自殺企図を持っている人においてCRPが高くなるとされており、厳密な機序は不明ですが、何らかの炎症性機序が作用している可能性が考えられています。1)American Psychiatric Association. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders: DSM-5-TR. American Psychiatric Association Publishing, Washington, DC, 2022.2)Courtet P, et al. Increased CRP levels may be a trait marker of suicidal attempt. Eur Neuropsychopharmacol. 2015 Oct;25(10):1824-1831.3)Loas G, et al. Relationships between anhedonia, alexithymia, impulsivity, suicidal ideation, recent suicide attempt, C-reactive protein and serum lipid levels among 122 inpatients with mood or anxious disorders. Psychiatry Res. 2016 Dec 30;246:296-302.

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第176回 大阪府薬剤師会が狭間氏の薬局改革に賛同?その一部始終を公開

以前の本連載で触れた調剤業務の一部外部委託の実証事業に関して9月6日、大きく進展した。同日の定例会見で大阪府知事の吉村 洋文氏が、大阪府と大阪市、「薬局DX推進コンソーシアム」(代表:狭間 研至氏)と共同で国家戦略特区制度に基づく調剤業務の一部外部委託事業の提案を行ったと表明。同日、ほぼ同時並行で定例会見を行っていた大阪府薬剤師会もその場で同コンソーシアムにオブザーバーとして参加することを表明した。これで“役者”は揃ったことになる。改めて、今回の調剤業務の一部外部委託というものが何かについて解説しておきたい。まず、薬局では患者が処方箋を持参すると、それに基づき薬剤師による調剤、鑑査を経て、患者に服薬指導を行う。これが在宅業務になると、「患者宅への薬の配送」という業務も加わる。昨今では薬機法改正により、薬剤師は服薬後のフォローアップも義務化された。この辺りは近年、厚生労働省(以下、厚労省)が薬剤師業務に関して何かにつけて使う「モノからヒトへ」「対物業務から対人業務」へという流れを受けた政策である。もっともこれは言葉で言うのは簡単だが、現実はなかなか難儀だ。毎日、大量の処方箋を応需する保険薬局の現場では、どうしても処方薬の取り揃えなどモノに関わる必須の業務に忙殺される時間は多い。たとえば調剤室を完全機械化すれば、モノに関わる時間を減らすことができる。実際、そうした取り組みを行っている薬局は一部にはある。しかし、その投資金額は膨大になるため、中小薬局にとっては「絵に描いた餅」だ。そこで出てきた構想が調剤業務の一部外部業務委託である。要は処方箋を受け付ける薬局とその調剤業務を委託する薬局が別に存在し、薬は処方箋を受け付けた薬局経由か、調剤業務を委託された薬局経由で患者に届けられる仕組み。処方箋を受け付ける薬局では調剤業務の負荷が軽減されるため、その分だけ患者への服薬指導や多職種との連携などの対人業務に時間を割くことができるというスキームである。このように説明すると、「処方箋を持ってきた患者は薬もないまま窓口で服薬指導を受けるだけなのか?」「調剤業務を委託された先からの配送時間分だけ、患者が窓口で待たされるだけではないか?」との指摘もあるだろう。だが、そもそもこの構想は、主に昨今増加している薬剤師による在宅服薬指導を念頭に置いたものだ。この場合、前述のような指摘はほぼ問題なくなる。また、調剤報酬は処方箋を受け付けた薬局が受け取る形になり、調剤業務を委託される薬局は委託元からの業務委託料が収入となる。もちろんこのスキームは現行法ではNGである。当初この構想は、前述のコンソーシアム代表を務める狭間氏が経営するファルメディコの運営薬局内での分業のような形で、狭間氏が内閣府の国家戦略特区制度を利用した事業として提案された。ちなみに冒頭から「一部」とただし書きをつけているが、この提案では調剤業務のうち高齢者向けなどを中心に行われる複数の内服薬の一包化のみを対象としている。一包化は服用者側にとっては簡便な分だけ、薬局側がその作業に一定の時間を取られるからだ。特区への提案事業は、内閣府から所管省庁に検討要請が行われるが、これに対して厚労省は実施が同一の三次医療圏内であることに加え、委託先、委託元への監視指導が必要になることから特区措置の創設段階から事業参加薬局が所在する地方公共団体、つまり都道府県や市区町村の参加が前提と回答した。狭間氏自身は薬局・薬剤師業界では著名人だが、大阪府、兵庫県で複数の薬局を経営し、自身が代表取締役を務めるファルメディコは、はっきり言えば自治体からは無名に近い。そのファルメディコがこの条件をクリアするのは、当初はかなり困難と思われた。より端的に言えば、この特区事業に対して厚労省はゼロ回答、そうした意図があるかどうかは別にして「罷り成らぬ」と宣言したに等しい。本来ならばここで万事休すなのだが、狭間氏側は国内調剤チェーンのトップ3社など合計21社を正会員とした前述のコンソーシアムを形成。そこに大阪府、大阪市が乗っかる形で、瞬く間にこのハードルをクリアしてしまった。地方公共団体の参加という最も困難なハードルをクリアできたのは、たぶん大阪府、大阪市の「特殊事情」があったと思われる。それはこうした規制緩和的なものに最も頑強に抵抗するのは、多くの場合、政府与党の中核にいる自由民主党とその支持団体の関係者である。ところが大阪府、大阪市はご存じのように規制緩和を主要政策に掲げる政党である日本維新の会の牙城。大阪府政、大阪市政の与党が自民党ならば、おそらくこうした特区申請の要請があった場合には内々に大阪府薬剤師会に打診が行き、そこで「ノー」と言われれば終わりだ。あるいはこうした要請が行われた段階で、府庁、市役所の役人が忖度して事前にふるい落としてしまうことさえある。結局、大阪府、大阪市、コンソーシアムが組んでしまったことで、地元の大阪府薬剤師会(以下、府薬)は、事実上包囲網を敷かれた形となった。ちなみに府薬は、この提案が表面化してから、表向きに見える限りでは反対の急先鋒だった。しかし、当の狭間氏のほうは自身が率いる日本在宅薬学会の会見で「府薬の席は用意している」とラブコールを送り続けていた。そして結局、今回、府薬は参加することになったのだが、その会見での説明は何とも隔靴掻痒なものだった。6日、府薬の会館で行われた定例会見に赴いたが、私は定例会見での定例参加メンバーではないこともあり、府薬会長で元日本薬剤師会副会長だった乾 英夫氏自身が「なんか見かけない人いるね」と言いながら近づいてきて名刺交換することになり、挙句の果てに会見冒頭で並居る府薬役員や他社の記者の前で自己紹介をさせられる羽目になった。さてその会見、配布された資料には「保険調剤業務の一部外部委託について(国家戦略特区関係)」との記載があったが、会見では乾氏が「これは最後に私が説明します」と意味深な言い方をし、後回しにされた。会見開始から約40分、ついに乾氏がこの話題を切り出した。その内容は「(特区提案事業について)今でも非常に違和感がある」「解決し難い課題を改善するのが特区制度。調剤業務に大きな課題があるとの認識はない」「本当に患者さんにメリットになるかが一番疑問」と、従来の府薬あるいは日本薬剤師会のスタンスを並べ始めた。ところが、この後には「暫定版ガイドラインが公表され、今後は厚労省も実証事業を行う」「ただし、コンソーシアムが厚労省の実証事業よりも先行的に実施することになる」「特区事業は厚労省も管理すると思われ、患者さんの安全・安心を守る立場から関与したい」といきなり急旋回で“舵”を切った。まるで厳冬の札幌に向かっていた航空機が、いつの間にか赤道を超え、真夏の南半球の空港に着陸したかのような展開だ。府薬側の説明によると、コンソーシアムには安全性検討委員会、有効性検討委員会、経済性検討委員会の3委員会があるが、この各委員長と狭間氏との定期的なミーティングが開催されており、そこに出席してこの事業に関する意見を表明するという参加形態だ。簡単に言ってしまえば、オブザーバー参加ということだ。参加人数は最低1名だが、それ以上の場合もありうる。会長である乾氏自身の参加や正式会員参加の可能性は否定した。参加開始時期も現時点では未定という具合だ。しかしながら府薬としては調剤の一部外部業務委託に反対という姿勢は堅持するという何ともわかりにくいもの。会見に出席した役員からは、「コンソーシアムは賛同者の集まりで、中から聞こえるのは良いことが中心。批判的に検討できるか否かは中に入らないとわからない。まったく情報が入ってこない状況で見ていても、府薬としては『わからない』としかコメントできない」との説明もあった。今回の玉虫色の決定については、府薬理事会での承認も経ているが、その内部も割れていると伝わっている。実際、周辺取材をすると、断固反対という役員もいれば、この提案が表面化した直後からコンソーシアム関係者に内々の賛同を伝えた役員、外では反対と唱えながらコンソーシアム関係者には「実は賛成」と伝えた役員もいるなど、完全に同床異夢の状態である。乾氏自身は「反対だが、単に現状を確保したい『抵抗勢力』と捉えられるのも良くない」との認識を示すとともに、ほかの都道府県薬剤師会や府薬内から出てくるであろう「手のひら返し」批判については、「そこは丁寧に説明して理解していただくしかない」と語った。今回の展開は個人的にはある意味、日露戦争の終盤で日本の勝利を決定づけた日本海海戦で日本海軍が取った、敢えて敵の砲撃が近づく距離で方向転換して進路を塞いだ「敵前大回頭」も彷彿とさせる。もっとも、今回の件に関して、府薬とコンソーシアム側がこれを契機にドンパチを繰り広げる可能性はほぼないだろう。とはいえ、今回の府薬の舵取りが吉と出るか凶と出るかはまだわからない。願わくは互いにうまく伴走してほしいと個人的には思っている。

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第175回 これでいいの?著名人の犠牲のもとに認知が広がる希少疾病

バブルガム・ブラザーズのブラザー・コーン氏が男性乳がんに罹患したことが、一部報道で伝えられている。一般人では「男性で乳がん?」と驚いた人は少なくないようだ。私自身は希少がんとして男性乳がんの存在は知っていたものの、ネットニュースでコーン氏の画像の上に「乳がん」という文字を見た瞬間は、サムネイル画像か見出しの付け間違いかと思った。今回の報道はコーン氏本人がInstagramなどのSNSにこのことを投稿したのがきっかけで、本人自身は「この度、私Bro.KORN(ブラザー・コーン)は左胸にシコリができ、病院で検査を受けたところ乳がんと診断されました。乳がんは男性では本当に珍しいらしく、自分でも寝耳に水でした」と記述している。各種の報道ではこのコーン氏の投稿を引用しながら、▽男性乳がんの生涯罹患頻度は1,000人に1人▽発症者が多いのは60~70代▽治療方針は基本的に女性の乳がんと同様▽女性より発見が遅れがちなので胸部のセルフチェックをなどの情報を記載している。正直、私自身は著名人が究極のプライバシーである自らの疾患を公表することについてはどちらかと言えば反対の立場だ。かなりざっくばらんな言い方をすれば、何らかの疾患を有することを半ば世間話のように話しがちな高齢者などと違って、世間的には自分のかかった疾患のことなど口にしたくない人のほうが大多数だろう。そういう話は後に下世話な興味を生むことが少なくないし、話を聞かされた周囲の人の中には悪気がなく、患者本人に無神経な物言いをしてしまう人もいる。また、時には罹患の事実自体が周囲に知れたことで仕事などに影響してしまう場合もある。もっとも著名人の場合は、不特定多数の目に触れる機会も多く、こっそり療養するわけにもいかないため、ある種やむを得ず公表に踏み切っているのだろうとも思う。ただ、個人的に著名人の疾患名公表に反対の姿勢を持ちながらも、その“効用”も否定はできず、今回のような報道に接すると常にジレンマを感じてしまっている。とくに今回のコーン氏のような希少疾患の場合はジレンマが強い。希少疾患の場合、まさにその名の通り患者数は少ない。そうなると一般向け報道ではそもそも扱いにくい。報道の役割には当然ながら「少数派の声を幅広いチャネルを持つメディア企業が届ける」という大義名分はあるものの、報道側も「マス」を相手にしている以上、より「マス」が求める情報を届けがちになる。その宿命ゆえになかなか希少疾患の情報は届けにくい。報道の世界にはある種のテーマで取材しようとすると、必ず内部的には「いまなぜ論」が提起される。なぜ、そのテーマを今やらねばならないのかという素朴な論理である。これ自体を間違いというつもりはない。これを否定すれば、メディアだけでなく広範な業界は業務を成り立たせることが困難になる。しかし、今回のような希少疾患にいまなぜ論を掛け算してしまうと、もはや報道では希少疾患を扱う機会が皆無になる。その意味では希少疾患・難病に罹患した著名人のカミングアウトは言葉を選ばずに言えば、“絶好の機会”となる。この個人の考えと報道の現実とのギャップの大きさが前述したジレンマである。たぶん医療の報道にそれなりに関わってきた人間は、ほぼ同様にこのことを経験してきたはずだ。一部の医療従事者からは、こうした著名人の罹患公表を機にある種の疾患について「死の商人」的な批判を受けることもあるが、とりわけ希少疾患では報道の側もその批判は覚悟の上で向き合わねばならない現実があるのだ。私の知人にある希少疾患の患者がいる。本人は長年ブログに病と生きる自分の様子を書き綴っている。その知人に私は聞いたことがある。あんなに赤裸々に自分のことを書くのは、つらくないのかと。これに対し、本人からはこんな趣旨の答えが返ってきた。「正直、自分たちはインターネット隆盛の時代になっても自分の病気に関する情報収集は苦労の連続。家庭の医学的な本をめくっても自分の病気に関する情報は皆無か、あっても1~2行。公的機関のホームページには総論は載っているけど、ほぼ専門家向けのような内容で、自分がそうした病気に罹ったとわかった直後の知識がない状態で読むのにはほとんど不適と言っても良い。そしてメディアの情報を検索しても、こうした公的機関の情報を噛み砕いたような記事は少ない。ある程度治療を続けて主治医とコミュニケーションが取れるようになると、多少は病気のことや治療の知識はついてくる。ただ、自分の病気の専門医が少ないなか、主治医に聞きたくとも機嫌を損ねる可能性がある内容ならば、非常に聞きにくい。結局、同じ病気で苦しむ人とつながる、メディアが自分たちのことを伝えてくれるというところに行き着くには、こうして“人柱”になるしかないんですよ」メディアに対する婉曲的な批判以上に、“人柱”という言葉が今も脳裏に焼き付いている。著名人の疾患名公表とメディアの在り方について、私は今も明快な答えを出せないまま月日を重ねている。

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第176回 虫垂がんを宣告されたある医師の決断(後編) 田舎の親の病医院を継ぎたくない勤務医にも参考になる「中小病院が生き残るための20箇条」

大谷選手右肘靭帯損傷とレカネマブ製造販売承認了承のインパクトこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この1週間はさまざまな分野で大きなニュースが目白押しでした。個人的には、ロサンゼルス・エンジェルスの大谷 翔平選手の右肘靭帯損傷のニュースにがっくりきました。この秋にも、大谷選手の投球を観にアナハイムに行こうと思っていたのですが…。報道では、大谷選手は2度目となる肘の再建手術(トミー・ジョン手術)に踏み切る可能性もあるとのことです。ただ、当の本人は8月25日(現地時間)からのニューヨーク・メッツ戦にDHとして出場し、第1戦、第2戦では打撃も好調でした。今回の故障、本人が一番ショックを受けていると思われますが、さすがというか、なんというか…。まあ、打者として出場できるだけでもラッキーと言えるかもしれません。右投げ左打ちの効用でしょうか。しかし、これでシーズン終了後のFAも混迷の度合いが深まりました。9月に入ってからは、ホームラン王(三冠)争いと、MLBでの大谷争奪戦をウオッチしたいと思います。医療では、8月21日、厚生労働省の薬事・食品衛生審議会第一部会が、エーザイが主導し、米バイオジェン社と共同開発した「レケンビ点滴静注」(一般名:レカネマブ)の製造販売承認を了承したことが最大のニュースと言えるでしょう。近く承認され、薬価も確定し、10月か11月には日本の医療現場で使われるようになる見込みです。レカネマブについては、本連載でも度々書いてきました(「第169回 深刻なドラッグ・ラグ問題が起こるかも?アルツハイマー病治療薬・レカネマブ、米国正式承認のインパクト」参照)ので、今回は詳しくは書きません。ただ、薬事・食品衛生審議会第一部会終了後の記者説明会で、医薬品審査管理課の担当者が「アルツハイマー病に対する『夢の新薬』と思われるかもしれないが、レケンビはあくまで認知機能の悪化を27%遅らせる薬剤であり、アルツハイマー病を完全に治す薬ではない」と何度も強調していたのが印象的でした。8月27日付の日本経済新聞朝刊の科学面に、「アミロイド仮説は勝ったか」という、とてもわかり易い解説記事が掲載されています。この記事では、「米国の神経生物学者であるカール・へラップ氏はアミロイド仮説を批判した近著『アルツハイマー病研究、失敗の構造』の中で、レカネマブの『27%減』について『生物学的にほとんど実質のない差である』と指摘している」と書き、「薬効27%減」について「実際の治療にあたる医師や患者、その家族からすると、どこまで期待に応えるものかどうかは評価が難しい」と冷静に記しています。薬価が決まり、臨床での使用がスタートしてから、いろいろなトラブルが起こりそうな予感がします。中小病院や診療所の経営者だけでなく、親の病医院を継ぐかどうかに悩む若手医師にもさて、前回に引き続き、がん宣告を受けた熊本の病院経営者、東 謙二氏の著書、『続“虎”の病院経営日記 コバンザメ医療経営を超えて』(日経メディカル開発)の内容を紹介します。前回は、東氏ががん宣告後に下した経営者としての決断について書きましたが、今回は本書に掲載されている「中小病院が生き残るための20箇条」について書きます。東氏は2017年に出版された前著『“虎”の病院経営日記 コバンザメ医療経営のススメ』の中で、「中小病院が生き残るための15箇条」をまとめていますが、今年出た新著ではその内容をバージョンアップし、5箇条を新たに追加し、全部で20箇条としています。改めてじっくり読んでみますと、中小病院や診療所の経営者に参考になるだけでなく、病医院の経営者の子供で勤務医を続けている医師が、親の病医院を継ぐかどうかを考える際のヒントにもなりそうです。以下、東氏の了解を得て、20箇条の一部分を抜粋で紹介します。1. 病院の「周り」をよく見る「私が病院を経営する上で心がけていることの一つが、病院の『周り』をよく見るということだ。『周り』とは簡単に言えば、病院の立地や、周辺の医療機関と言い換えてもいいだろう。(中略)。『周り』をよく見るとは、このように、時間をかけて地域の他の医療機関との関係性を構築することでもある。だからこそ新規開業や、新しい診療科の開設など、大事な決断をする場合は他人任せにせずに、まず周辺の医療機関の医師たちと飲んで話し合ってみる。これが肝である」。2. 敵対より連携「東病院に戻ってからは、内視鏡手術を積極的に取り入れることはしなかった。一つの理由は、内視鏡手術は導入する機器がかなり高額だからだ。その上、内視鏡分野の機器は今後もどんどん進歩していく。進歩に合わせてその都度、新しいものに買い替えていたのでは、民間病院では到底ペイしない。(中略)そこで内視鏡手術の適応患者は近くの基幹病院に紹介することにした。(中略)。患者を紹介する縁で、済生会熊本病院や熊本中央病院との病病連携は深まっていった」。3. コバンザメ医療経営のススメ「東病院は、ある時期から基幹病院との患者争奪戦から足を洗い、基幹病院に寄り添う“コバンザメ”経営で、なんとかしのいできた。ただ、コバンザメになることで、基幹病院にもそれなりのメリット(軽症患者受け入れ、在院日数短縮に貢献など)を提供できていると自負している」。4. 中小病院の生きる道「大きな病院は、大きな戦艦と同様、施策の変更の振れ幅が大きい場合、すぐには進路変更できない。これに対し、中小病院は組織が小さい分、幹部職員で意思統一を図りやすく、病院の進路を一気に変えることも可能だ。中小病院経営の面白さはそういった点にもある」。5. 病院経営はいいかげんに「残念ながら医師は“商人”ではない。むしろ商人にはなるべきではない。医師は医師らしく下手な経営をやっていけばいいと思っている。自分の能力の範囲でできることをできるだけすればいい。ただ、守るべきことがある。前にも書いたが『「全ての責任は理事長である自分が持つ』ということである」。6. 2代目は本当にだめか「初代の多くが持ち合わせているパイオニア的な性格は、逆に2代目には向かないと言われる。既に立ち上がった事業を安定的に成長させるには、“進取の気性”が逆に邪魔になることがあるからだ。父親が時間をかけて作った事業の枠組みを、あえてぶち壊そうとしてもがく2代目は少なくないが、そうした人はパイオニア的な性格である場合が多いようだ」。7. ブランドと持分「ブランドは病院経営の観点から見ると、また違った側面が見えてくる。医療法人で言えば、地域医療に貢献し、経営が順調であれば、ブランド力は向上、患者も増えて高収益となる。この高収益が、医療法人にとっては悩みの種になることがある。医療法人は剰余金配当ができないため、高収益であればあるほど純資産価額が多額となるからだ」。8. 同族経営と事業承継について考える「私が考える事業承継を成功させるポイントを整理してみた。1.早期から承継に向けた準備を行う。2.病院事業を継続・発展させるという強い意志のある後継者を選ぶ。3.事業承継が決まったら、その方針を親族や従業員にも周知する。一度決めた方針はよほどのことがない限り変更しない。4.現経営者と後継者との間に信頼関係があること。いったん、継承したら現経営者は経営の一線からは退く覚悟で(返り咲きは紛争の元)」。9. 理事長はつらいよ「組織では、往々にして身内が反旗を翻す。そこで身内には“甘く”するようにしている。『身内には厳しく』というのが常道だが、私は逆を行く。(中略)逆に身内でない人間には『身内』のように接するようにしている」。10. 右腕について「もしも神経質で細かなことが気になる人間だったら、とても2つの職務をこなせないだろう。そしてもう一つの理由は、いい加減な私を支えてくれる(中略)2人の“右腕”のおかげである。診療に関しては副院長にほとんどを任せ、事務・経理に関しては事務局長に全面的に任せている」。11. 医師をどう集める、どう働いてもらう「医師を集めることも大変だが、集めた医師に継続して働いてもらうことの方がずっと難しい。中小病院は、大病院のように医療機器・設備は不十分だし、診療だけに専念できる環境も整っていない。たとえ給与面で厚遇しても、医師の不満は溜まりがちだ」。12. 職員の採用と教育、私の考え方「面接では、その人の人間性や優秀さではなく、適応能力だけを見ることにした。適応能力とは、置かれた環境や状況の変化に、自らの考え方や行動を切り替えて、どれだけ適応することができるかの能力だ。適応能力がある人間は、逆境に強く、様々な変化にも対応できる。言い換えれば柔軟性がある」。13. 医師仲間との付き合い「公的な団体への参加の傍ら、私が院長に就任して3年後の平成18年(2006年)から、熊本の同世代の病院長の集まりを始めた。こんな地方の病院の理事長・院長になると、将来にわたってずっとなんらかの関わりが続くだろうから、若いうちから知り合って、顔をつないでおこうという気軽な気持ちで始めた」。14. 酒の飲み方 医師以外のネットワークの作り方「こうした行きつけの店は、私にとって今では息抜きの場所だ。同時に、病院の評判や大げさに言えば世の中の動き(景気や流行)を知る上でも得難い場所となっている。それを知ることで、病院経営がうまくいくわけでもないが、世の中を知るために、気の置けない医療業界以外の仲間も開業医には必要だと思う今日この頃である」。15. 子どもを医者にするのは是か非か「まずは本人の意志だろう。子どもが医師になりたくない、というならば私は決して勧めない。医師は社会的責任が強い。いやいやながら責任を負わされることほど苦痛なことはない。次に親として医師になることを勧めるならば、その適性を見極めなければならない」。16. 持分放棄の決断の前に「私は父から理事長を受け継いだ時点で出資持分の相続税を支払わなければならなかった。書類上、東謙一から東謙二という漢字に一本加えるだけで数億円の税金を払うことになった。『持分あり』医療法人は理事長が変わるたびに多額の相続税がかかる。この制度があるために医療法人は『3代で潰れる』と言われるのは、あながち嘘ではない」。17. 子どもに病院を継がせるということ「私も親となり子どもも医者となった。そして、子どもに継承してほしいと望んではいる。しかし決めるのは子ども自身であり、強制することではない。そのため、継承したくない場合は他人に譲渡しやすいよう、『持分なし』の医療法人形態に変えた。そして私の代で理事長と院長の役割を明確に区分し、理事長となり病院の経営だけに関わる道と、医療・介護事業の運営に専念できる院長の道も用意。子どもにある程度の選択ができる環境を整えた」。18. 理事長の仕事と院長の仕事「理事長の仕事と院長の仕事を兼任した方がいいか、分担した方がいいのかは、それぞれの病院の事情次第である。ただ、冒頭でも述べたように、病院経営は複雑化しており、経営と診療をどちらも十分にこなすのは難しい時代である。組織が大きければ大きいほど、経営と診療の分離は不可欠だと思う」。19. 公的な役職について「熊本には『肥後の引き倒し』という言葉がある。『出る杭は打たれる』とほぼ同義で、誰かが成功したり頭角を現わしたりするとみんなでその人の足を引っ張るという意味だ。私自身は引き倒されてもいいと思っている。役職というものは地位ではなく使うものだ。その役職を使って何かを完成に導けるならば、その地位なんて必要ない。誰かが私の後を引き継いで、最終的によりいい形になればいい」。20. 医師は世間知らず、開業で騙されないために「例えば開業準備を進める勤務医の場合、働きながら商売相手に負けないほどの診療所経営の知識やノウハウを身に付ける時間はない。そこがプロ集団が付け入る隙となる。だからこそ急いではいけない。少なくとも契約までにはじっくりと時間をかけること。商売相手以外に信用できる相談相手を見つけること。それが重要だ。(中略)。では相談相手として有名銀行の銀行員なら大丈夫か、有名な医療経営コンサルティング会社のコンサルタントなら大丈夫か。バカ言っちゃいけない。そう信じている能天気な医師は開業は諦めた方がいいだろう」。手術から4年、転移や再発もなく元気に病院経営と病院団体の活動を継続中以上、同書から一部分を抜粋してみました。20箇条をじっくり読んでみたい方は、Amazonなどでのご購入をお勧めします。ところで、当の東氏ですが、2019年に回盲部切除術を受けてから丸4年が経ちましたが、現在、転移や再発もなく、元気に病院経営と病院団体の活動を続けているとのことです。コロナ禍もあって、しばらくは“夜の街の活動”も自粛が続いていたようですが、そちらもコロナ禍前の状況に戻りつつあるそうです。今度、機会があれば、手術後に大虎が子虎になったかどうか、確認しに行ってみたいと思います。

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英語で「詳細を教えてください」は?【1分★医療英語】第95回

第95回 英語で「詳細を教えてください」は?I don’t feel like eating recently.(最近、食欲がないんです)Could you elaborate on that?(もう少し詳しく教えてもらえますか?)《例文1》Could you explain further?(もっと説明してもらえますか?)《例文2》Could you tell me more about it?(それについてもう少し話してもらえますか?)《解説》問診において患者さんからオープンクエスチョンで情報収集することは非常に大切ですが、なかなか具体的な説明が伴わないこともよくあります。「もっと情報が欲しい」というときは、“Could you tell me more about it?”(それについて、もう少し話してもらえますか?)または“Could you explain further?”(もっと説明してもらえますか?)といった表現があります。そして、「もっと詳細を教えてほしい」と言いたい場合には、“Could you elaborate on that?”(それについて、もう少し詳しく教えてもらえますか?)、“Could you tell me in detail?”(詳細について話してもらえますか?)、“Could you break it down for me?”(詳しく教えてもらえますか?)などと表現することができます。“break it down”は「かみ砕いて話す」という意味になりますので、さらに内容を詳しく教えてほしいと言いたいときに使いやすい表現です。また、周辺の状況や背景について説明をしてほしい場合には、“Could you please give me a bit more background?”(もう少し状況について教えてもらえますか?)という言い方もできます。講師紹介

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第175回 進行虫垂がんを宣告されたある医師の決断(前編) 医師になった子への医業継承を念頭にまず取り組んだこと

医師ががんになったらどんな行動を取るのか?こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この年齢になると、友人たちが次々とがんに罹っていきます。2年ほど前は、大学の山のクラブの先輩2人に相次いで食道がんが見つかりました。昨年は、ライブ友だちの女性が乳がんに、先月には演劇友だちの女性に子宮体がんが見つかり、先週にはやはり大学のクラブの別の先輩に大腸がんが見つかりました。仕事柄か、がんが見つかると私に連絡が来て、「何かアドバイスを」と言われます。医療機関の選び方や治療法などについて、わかる範囲でアドバイスをするのですが、「セカンドオピニオンとは」の説明から始めなければならない場合もあり、なかなか大変です。ところで、一般人ではなく、がんに詳しいはずの医師ががんになったらどんな行動を取るのでしょう。冷静にがん宣告を受けるのでしょうか、それとも…。『続“虎”の病院経営日記 コバンザメ医療経営を超えて』に学ぶ今年3月、ある医師が進行がんになった経緯を綴った、興味深い医療経営書が出版されました。『続“虎”の病院経営日記 コバンザメ医療経営を超えて』(東 謙二著、日経メディカル開発)です。がん宣告を受けた医師の立ち振る舞いとして、参考になる部分もあるので、今回はこの本を紹介します。熊本で63床の病院を経営する東(あずま)謙二氏は、九州では名の知れた病院経営者です。2008年から2023年まで15年間、日経メディカルオンラインでコラム「“虎”の病院経営日記」を連載。また、熊本では若手の病院・診療所経営者の悩みごとや愚痴を聞いたりもするリーダー的存在です。ちなみに“虎”とは、お酒好きであることから付いたあだ名のようです。私も幾度か酒席に同席したことがありますが、まあ、子虎というより大虎の印象です。その東氏に進行した虫垂がんが見つかったのは2019年、51歳の時でした。虫垂炎を発症、摘出手術後に行った病理検査で、漿膜浸潤をきたした低分化腺がんと診断されたのです。虫垂がんはそもそもが珍しい病気で、大腸がん全体の1%にも満たないとされています。虫垂炎との区別が難しく、早期発見が極めて困難なため、虫垂炎として手術をして初めてがんが見つかるケースが少なくないそうです。そう言えば、昨年だか有名芸能人が似たような経緯で入院していましたが、ひょっとすると…。それはさておき、虫垂がんはご存知のように、普通の大腸がんよりもたちの悪い、予後不良のがんです。本書にはその闘病の経緯とともに、自分の死後も病院を存続させるために行った、さまざまな経営改革についても詳しく書かれています。がん宣告で迫られた病院の経営改革東氏がまず取り組んだのが、医療法人の持分放棄でした。それまでは持分ありの医療法人でしたが、がん宣告を機に、それまで持分を有していた親族の説得に取り掛かり、2021年に持分なしへの移行を実現しています。持分放棄をしたことについて東氏は同書で、「医療法人の永続性という観点に立つと、この持分が大きな足かせになるからです」と書いています。「持分のある医療法人においては、社員から出資持分の払い戻し請求が行われると、医療法人が多額のお金を用意する必要が出てきます。(中略)。ただ、当院の場合は、払い戻し請求のリスクよりも、次の世代に引き継いだときに、巨額の相続税、贈与税が発生するリスクを避けたかったという意味合いが大きい」(同書)とのことです。同族経営を行う医療法人では、今でも持分ありのところが多いと思いますが、評価額が莫大になってしまった場合、持分は時として経営の根幹を揺るがすトラブルの種ともなります。東氏はそのリスクをなくし、将来的に医師になった子への“承継”をスムーズに進めるため、持分放棄を行ったわけです。「様々な改革を行う上で、進行がんになったことはプラスに働いた」東氏はその他に、院長職を辞して理事長専任になるなど、組織の改変にも取り組みました。病院団体の支部長など、対外的な業務が増えてきたことに加え、「がんの手術後、余命もわからないし、もう手術前とは同じように働けないと考え」(同書)たからだそうです。なお、医療法人の持分なしへの移行や、理事長と院長の役割分担については、10年以上前からその必要性は認識していたそうです。東氏は「がんになり、次の世代への継承をすぐにでも考えなければならなくなったとき(中略)、これはもう本腰を入れないといけないぞと考えた」と書き、持分を持つ親族たちへの説得に取り掛かりました。親族には「俺はもういつポッと死んでもおかしくない。そうしたらまた大変な相続税がいるんだよ」と半ば脅し気味に説得したとのことです。東氏は、「様々な改革を行う上で、進行がんになったことはプラスに働いた」と本書を締めくくっています。サブタイトル、「コバンザメ医療経営を超えて」の意味なお、本書のサブタイトルが「コバンザメ医療経営を超えて」となっているのは、2017年に出版された前著『“虎”の病院経営日記 コバンザメ医療経営のススメ』へのアンチテーゼとなっているためのようです。東氏が経営する東病院は68床という小規模ながら、熊本大学病院や済生会熊本病院、熊本中央病院など数多くの基幹病院に囲まれており、医療連携が現在ほど重要視されていない2000年代初めから、それらの後方病院としての役割やサブアキュート機能を強化した経営を行ってきました。大病院との連携に重点を置き、“コバンザメ”に徹するという意味で、「コバンザメ医療経営」と言われてきました。しかし、本書で東氏は、「もはや、どんな規模の病院も連携なしにやっていけません。われわれのような中小の民間病院は基幹病院からの受け入れなしには経営できないし、基幹病院も患者を早く退院させ、中小病院に受け入れてもらわないと成り立ちません。(中略)。“コバンザメ経営”という言葉はもう死語ではないでしょうか」と書き、これからは後方病院が患者に相応しい前方(基幹病院)を選ぶ時代が来る、と主張しています。サブタイトルの「コバンザメ医療経営を超えて」にはその決意が込められているわけです。本書は、中小病院のこれからの役割、立ち位置を考える上でも参考になるでしょう。ところで、本書には「中小病院が生き残るための20箇条」という章が設けられています。次回は、中小病院だけではなく、診療所の開業医にも役立ちそうな20箇条について紹介したいと思います。(この項続く)

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英語で「再確認しましょう」は?【1分★医療英語】第94回

第94回 英語で「再確認しましょう」は?Is this dose correct?(この用量で大丈夫でしたか?)Let’s double-check.(再確認してみましょう)《例文1》医師Have you sent this medication to their pharmacy?(この薬を患者さんの薬局に処方してありますか?)看護師Yes, but let me double-check.(はい、でも再確認しますね)《解説》“double-check(double check)”の表現を学びましょう。これは医学以外でも幅広く使われる英語表現なので、すでに知っている方も多いと思います。日本語でも「ダブルチェック」という言葉はそのまま使われますよね。ただ、日本の医療現場で「ダブルチェック」と言ったとき、「2人が同時にチェックする」という意味で使われることが多いかと思います。英語の場合はちょっとニュアンスが異なります。ケンブリッジ辞典では、“To make certain that something is correct or safe, usually by examining it again.”(もう一度調べることによって、何かが正しいのか問題がないのかを確認すること)と記載がありますが、「正しいかどうかを、チェックすることで確かめる」といったような意味になります。“double-check”を聞かない日はないくらい、医療現場で頻用されている表現です。意味としてはほぼ同じなのですが、さらに“extra”な表現として“double-check”の上の“triple-check”なんて言うこともあります。講師紹介

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