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抗うつ薬は体重を増やすか?(解説:岡村毅氏)

 精神科の外来では、対話から患者さんの症状を探る。うつ病の診察で最も有効なのは「眠れてますか」「食べられてますか」であろう。頑張ったらよく眠れるとか、頑張ったら食欲が湧いてくるものではないので、かなり客観的に患者さんの状態を把握できる。 意外かもしれないが、「どういったストレスがありますか」は、最重要ではない。意味がないとは言わないが、患者さんの理解や世界観に沿った長い物語が展開することが多く、まず知りたいことではない。 さて、治療が進むと、患者さんたちは、よく眠り、よく食べるようになる。それは良いのだが、女性の患者さんからは「体重が増えて困ってます」と言われることがしばしばある。女性は体重をモニターしている人が多いからと思われる。そうなると、「抗うつ薬で体重は増えるのだろうか?」「どの抗うつ薬で増えるのだろうか?」と考えるのは自然だ。 星の数ほどある抗うつ薬のどれを使うのがよいのか、という課題に対して、今や古典ともなった2009年のLancet誌の「MANGAスタディ」では、ネットワークメタ解析を用いて「効果」と「許容性」のバランスがよいのはセルトラリンとエスシタロプラムだと喝破した。同じようなネットワークメタ解析の手法で、抗うつ薬の身体への影響を調べたものが本研究である。 結果を見ると、確かに抗うつ薬の間で身体への影響には差があることがわかる。とはいえ、個人的には体重と心拍数以外は臨床的に意味のあるものはないと感じた。 心拍数は、面白いくらいに薬理学の教科書どおりの結果だ。つまり三環系抗うつ薬では軒並み上がる。ノルアドレナリン再取り込み阻害、抗コリン、α1遮断といった効果によるものだろう。とはいえ、三環系抗うつ薬はもはや臨床では絶滅危惧種になっており、あまり影響はなさそうだ。 問題は体重である。最も体重増加が多そうなのはマプロチリン(四環系抗うつ薬、こちらも希少種になっている)であり、2kg以上の体重増加が48%に、2kg以上の体重減少は16%にみられる。現役でよく使われる抗うつ薬では、セルトラリンは増加が31%、減少41%、エスシタロプラムは増加が38%、減少40%である。マスで見たら、体重増加はなさそうだ。 ただ気を付けねばならないのは、疫学研究と個別の患者さん個人の体験は、まったく次元が異なるということだ。「エビデンス上はあまり増えませんよ」と言うだけでは大失敗するだろう。患者さんが自分の身体健康あるいは見られ方を真剣に考えて、体重が増えていることを心配している場合は、しっかり対応しないと内服を自己中断したり、通院を自己中断してしまうリスクがある。その場合、もちろん再発してしまうリスクがある。 私の場合は、適宜血液検査などをするのが前提ではあるが、・体重増加は精神科薬物治療ではとても重要な課題。あなたの心配はまったく正しい! ただね、非定型抗精神病薬とかが最も気を付けないといけない薬で、このお薬はそれほどではないのでもう少し様子を見てみよう(エビデンス重視の説明)・今はうつ病の症状としての食思不振が改善していると考えたい。クスリが合っているのだ、ともいえる。だから安心して! しっかり回復したら抗うつ薬は中止するので今はまずはうつ病のほうに取り掛かろう(治療目標を明確にする説明)・食欲が増した。ここまで良くなったということ。運動を始めても(あるいは運動強度を上げても)よい時期ですよ(運動推奨)・今のお薬は大丈夫だけど、あなたがとても心配していることは放置できないから、変更しようか(不安が大きい場合)といった対応を、患者さんによって使い分けている(あるいは組み合わせる)。 うつ病が良くなると、食べ物がおいしくなって食べ始める人もいれば、ひきこもり生活から外に出るようになって痩せる人もいる。運動をすれば、カロリー消費は増えるが、当然ご飯はおいしくなるので体重が増える人もいる。難しいものだ。一般的には人の体重なんて知ったことではないが、こちらは抗うつ薬を投与しているので、関わる必要はあろう。個人の生活や認知パターンまで配慮するのが精神科医療であり、楽しいと言うと大変語弊があるが、人の多様性をいつも感じられるので飽きないものである。

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第287回 新鮮味はないが現実味を帯びてきた!?自維連立の社会保障政策

INDEX自維連立合意による社会保障政策の中身最も現実味を帯びている施策自維連立合意による社会保障政策の中身公明党の連立離脱と日本維新の会(以下、維新)との新たな連立により先月ようやくスタートした高市 早苗政権。その行方次第では医療・介護業界は大きな影響を受ける。とくに今回新たに連立入りした維新は、現役世代の社会保険料負担軽減を錦の御旗に、従来の医療業界の慣習からすれば“ありえない”政策を数多く掲げているからだ。長くなるが、今回の自維連立合意の社会保障政策関連を改めて全文引用する。● OTC類似薬を含む薬剤自己負担の見直し、金融所得の反映などの応能負担の徹底等、令和7年通常国会で締結したいわゆる「医療法に関する三党合意書」及び「骨太方針に関する三党合意書」に記載されている医療制度改革の具体的な制度設計を令和7年度中に実現しつつ、社会保障全体の改革を推進することで、現役世代の保険料率の上昇を止め、引き下げていくことを目指す。● 社会保障関係費の急激な増加に対する危機感と、現役世代を中心とした過度な負担上昇に対する問題意識を共有し、この現状を打破するための抜本的な改革を目指して、令和7年通常国会より実施されている社会保障改革に関する合意を引き継ぎ、社会保障改革に関する両党の協議体を定期開催するものとする。● 令和7年度中に、以下を含む社会保障改革項目に関する具体的な骨子について合意し、令和8年度中に具体的な制度設計を行い、順次実行する。(1)保険財政健全化策推進(インフレでの医療給付費の在り方と、現役世代の保険料負担抑制との整合性を図るための制度的対応)(2)医療介護分野における保険者の権限及び機能の強化並びに都道府県の役割強化(i:保険者の再編統合、ii:医療介護保険システムの全国統合プラットフォームの構築、iii:介護保険サービスに係る基盤整備の責任主体を都道府県とする等)(3)病院機能の強化、創薬機能の強化、患者の声の反映及びデータに基づく制度設計を実現するための中央社会保険医療協議会の改革(4)医療費窓口負担に関する年齢によらない真に公平な応能負担の実現(5)年齢に関わらず働き続けることが可能な社会を実現するための「高齢者」の定義見直し(6)人口減少下でも地方の医療介護サービスが持続的に提供されるための制度設計(7)国民皆保険制度の中核を守るための公的保険の在り方及び民間保険の活用に関する検討(8)大学病院機能の強化(教育、研究及び臨床を行う医療従事者として適切な給与体系の構築等)(9)高度機能医療を担う病院の経営安定化と従事者の処遇改善(診療報酬体系の抜本的見直し)(10)配偶者の社会保険加入率上昇及び生涯非婚率上昇等をも踏まえた第三号被保険者制度等の見直し(11)医療の費用対効果分析に係る指標の確立(12)医療機関の収益構造の増強及び経営の安定化を図るための医療機関の営利事業の在り方の見直し(13)医療機関における高度医療機器及び設備の更新等に係る現在の消費税負担の在り方の見直し● 昨今の物価高騰に伴う病院及び介護施設の厳しい経営状況に鑑み、病院及び介護施設の経営状況を好転させるための施策を実行する。ざっと見ればわかる通り、1番目と2番目の●で語られていることはほぼ理念的なものである。そして3番目の●については、引用通り13項目の記載事項がある。これを独断と偏見で評価してみよう。最も現実味を帯びている施策まず、俯瞰的に見ると、どれも今年度末に骨子をまとめるのは難しいものばかりだ。診療報酬改定の議論中に(3)を行うのが難しいことは明らかであり、(5)の高齢者定義の見直し、(7)の医療での民間保険活用や(2)(10)(11)(12)(13)は法制度の根本的な見直しが必要な項目であり、いずれにせよ今年度残り5ヵ月で議論できるものではない。(1)(6)(8)は、強いて言うならば理念的な方向性を示すくらいは可能だろう。その意味では法制度のマイナーチェンジで対応可能なのは(4)と(9)くらいだろうか?最後の●は(9)に通じるものがあり、高市氏は総裁選公約や首相就任会見と所信表明演説で医療機関と介護施設の支援は繰り返し表明しているので、これは何らかの形で手当てするだろうと思われる。ただ、これについて以前の本連載でも触れたように財務省が無条件で認めるはずはない。では、どのような“条件”となるのか? 実は高市氏の所信表明演説の以下の発言にヒントが隠されていると個人的には推察している。「新たな地域医療構想に向けた病床の適正化を進めます」つまりは病院については、病床削減あるいは病床転換などを条件に補助金を支給する可能性が考えられる。実は自民党として病床適正化について、初めて言及したのは高市氏ではない。これも以前、参院選直前の各党マニフェストの変化について本連載で触れた時(第270回、第271回)に紹介したが、石破政権期に新たに自民党の政策としてひっそり盛り込まれたものだ。しかも、これは維新が参院選マニフェストで掲げた「人口減少等により不要となる約11万床の病床を不可逆的な措置を講じつつ次の地域医療構想までに削減」と方向性は同じだ。さすがに一気に11万床の削減を進めるとは思えないが、いつどのくらいの規模で進めるかが焦点と言えるだろう。一方、(4)の応能負担は、従来からの維新の核心の主張とも言えるが、高市氏が内閣発足とともに新たに厚労相に就任した上野 賢一郎氏に渡した指示書では「全ての世代で能力に応じて負担し支え合い、必要な社会保障サービスが必要な方に適切に提供される『全世代型社会保障』を構築する」となっている。一見すると、応能負担推進ともとられかねないが、「全世代型社会保障」の概念では以前から言われていることであり、新鮮味があるわけではない。もっともこの自維政権成立に水を得た魚のごとく対応しているのが財務省である。11月5日に開かれた財政制度等審議会財政制度分科会では、現在原則2割である70~74歳の高齢者の医療費の自己負担割合を、現役世代と同じ3割にすることを提案してきた。この辺は今年10月から後期高齢者の中でも一定以上所得がある人について、介護保険の1割負担を2割負担に変更した経緯を見れば、法制度改正の議論に1~2年、法制度改正から完全実現に2~3年はかかるテーマである。このようにしてみると、高市政権下で社会保障制度改革がどこまで進むのかは、まだなかなか見通せないと感じている。

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病院の電力が尽きると何が起きる?【実例に基づく、明日はわが身の災害医療】第9回

病院の電力が尽きると何が起きる?日本は、世界でも有数の「災害大国」です。地震、台風、豪雨……。毎年どこかで自然災害が発生し、そのたびに医療機関は大きな試練にさらされています。では、もし災害によって病院の電力が途絶えてしまったら、一体どうなるでしょうか?病院に電気がなければ、ほとんど何もできない病院は「電気があって当たり前」の場所です。停電と聞いて、多くの人がまず思い浮かべるのは、人工呼吸器や透析装置といった医療機器でしょう。もちろんそれらが止まれば、命の危機に直結します。しかし、問題はそれだけにとどまりません。実際の病院全体の電力消費を見てみると、空調が34.7%、照明が32.6%を占めるのに対し、医療機器は6.6%にすぎません1)。空調が止まれば、真夏には熱中症、真冬には低体温症の患者さんが増えます。手術室やICUの温度・湿度管理もできなくなり、感染リスクが高まります。照明が消えれば、夜間の救急対応や処置がきわめて困難になります。さらに、電力供給が止まると、水や下水処理にも影響が及びます。電子カルテや検査システムも使えなくなり、診療は著しく制限されてしまいます。命に直結するのは、医療機器だけではありません。2018年7月豪雨で被災した岡山県のまび記念病院は、電源設備が浸水エリアの1階にあったことが被害を拡大させた一因とされました。そのため、新病院では電源を高所に移す設計がなされています。この事例は、「電源の確保」がいかに病院機能の継続に直結するかを示す教訓といえるでしょう。非常用電源はどれくらい持つのか?「非常用の発電機があるから安心」と思うかもしれません。ですが、現実はそう甘くありません。災害拠点病院では、業務継続計画(BCP)の策定が義務付けられており2)、一定の備蓄を整えています。ところが私たちの調査では3)、中核病院や一般病院では備蓄の水準に大きな差があり、燃料備蓄が1日未満という病院も少なくありません。厚生労働省のガイドラインでは「通常時の6割程度の電力をまかなえる自家発電機と、最低3日分の燃料備蓄」が目安とされています4)。しかし、2018年の北海道胆振東部地震では、災害拠点病院でさえ燃料不足に直面し、十分に機能を維持できなかった例が報告されています5)。平時からの備えをどうするか?では、どう備えればよいのでしょうか。答えは「平時からの準備」に尽きます。自院の非常用電源がどれくらい持つのかを確認しておく燃料の補給ルートをあらかじめ自治体や業者と相談しておく電力や燃料の残量を定期的にチェックする地域の病院同士で助け合える仕組みを平時に作っておく余談ですが、院内にある赤と緑のコンセントの意味を正しく理解することも大切です。赤いコンセントは非常用電源、緑のコンセントはUPS(無停電電源装置)に接続されており、停電時でも使用できる系統です(図)。人工呼吸器など生命維持に直結する機器は、必ずこれらのコンセントに接続する必要があります。さらに、非常時の電力には限りがあるため、供給可能な時間や容量を把握しておくこと、不必要な機器を接続しないことなど、平時からの準備と停電時の訓練が欠かせません。図. 電源の種類と特徴「必ず来る災害」に備えるために災害は「いつか来るかもしれないもの」ではなく、「必ず来るもの」です。そのとき、病院が機能を失うのか、最低限の医療を続けられるのかは、平時の備えにかかっています。医療従事者一人ひとりが「自分の病院の電源や燃料がどれくらい持つのか」を把握し、行動を起こすこと。そして、一つの病院だけでなく地域全体で電源や医療機器の稼働状況を「見える化」し、情報を共有すること。自治体や地域と協力して「助け合える仕組み」を作ること。その積み重ねこそが「防ぎえた死」を減らし、未来の患者さんの命を守る力になります。 1) 夏季の省エネ・節電メニュー. 経済産業省 資源エネルギー庁. 2) 病院の業務継続計画(BCP)の策定状況について.厚生労働省 第14回救急・災害医療提供体制等の在り方に関する検討会. 令和元年5月23日. 3) 平山隆浩、他. 病院機能に応じた災害時医療機器供給体制の最適化戦略 ―岡山県内病院の実態調査に基づく段階的 BCP 体制の提案―.医療機器学. 2025;95:392-400. 4) 災害拠点病院の燃料の確保について. 厚生労働省 第14回救急・災害医療提供体制等の在り方に関する検討会. 令和元年5月23日. 5) Youichi Y, et al. Field Study in Hokkaido Prefecture after the 2018 Hokkaido Eastern Iburi Earthquake. Sch J App Med Sci. 2018;6:3961-3963.

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第288回 「会社の寿命は30年」、では病院の“寿命”は?(前編) 一時代を築いた室蘭・日鋼記念病院が徳洲会傘下に、統合協議が長引けば市立室蘭総合病院の存続にも影響

病院の“寿命”を感じる出来事が今年になってから続くこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。野球シーズンが終わってしまいました。NPBの日本シリーズ、MLBのワールドシリーズの両方をテレビ観戦して、監督の采配と覚悟の大切さを再認識しました。阪神タイガースの藤川 球児監督は、なぜ第2戦で才木 浩人投手を先発させず、故障明けのジョン・デュプランティエ投手を先発させたのでしょうか?NHK解説者時代、理論的かつ繊細な解説をしていた藤川監督らしからぬ奇襲作戦?(才木を甲子園登板まで温存しようとした?)に思えました。シリーズ後、この先発起用を巡って「コーチ陣と衝突」があったとの報道もありました。ロサンゼルス・ドジャースのデーブ・ロバーツ監督は、とくに中継ぎ投手の起用について、シーズン中からさまざまな批判が沸き起こっていましたが、後がないワールドシリーズに限っては山本 由伸投手はじめ先発投手陣の起用法が奏功し、見事ワールドチャンピオンに輝きました。驚いたのは野手の起用です。まったく打てていないキケ・ヘルナンデス選手やミゲル・ロハス選手(第7戦では同点ホームランを打ちましたが)、アンディ・パヘス選手などを重用、どうしてだろうと思ったら、重要かつ難しい守備の場面で彼らがファインプレーを連発したのです。「打つ」ためではなく「守る」ための起用だったわけです。その采配に毀誉褒貶あるロバーツ監督ですが、名監督なのか迷監督なのか、正直わからなくなったシリーズでした。さて今回は、「会社の寿命は30年」(経済誌「日経ビジネス」が1980年代に提唱したキャッチフレーズ)ならぬ、病院の“寿命”を感じる出来事が続いたので、いくつかのケースを紹介したいと思います。まずは、かつてはその経営が全国に知れ渡り、一時代を築いた北海道室蘭市の日鋼記念病院です。日鋼記念病院や天使病院を運営する社会医療法人母恋が徳洲会傘下に日鋼記念病院や札幌市東区の天使病院を運営する社会医療法人母恋(室蘭市)は10月31日、一般社団法人徳洲会(東京都千代田区)の傘下に入ったと発表しました。同日付で有賀 正理事長が退任し、後任に医療法人徳洲会(大阪市)副理事長の大橋 壮樹氏が1日付で就任しました。母恋の理事長との兼務になるとのことです。なお、一般社団法人徳洲会は全国で85ある徳洲会系病院の本部機能を担う組織です。日鋼記念病院は348床を有する室蘭市の基幹病院の一つです。元々は日本製鋼所の企業立病院でしたが、カリスマ的経営者、故・西村 昭男氏がさまざまな経営改革を敢行し、1980年には医療法人社団日鋼記念病院として独立、3次救急まで対応する北海道内トップクラスの医療機関に成長しました。その後、医療法人社団カレス アライアンス、社会医療法人母恋と経営母体の名称を変えながら、北海道胆振地方の医療を支えてきました。人口7万人に3病院1,200床はさすがに多過ぎるしかし、かつて鉄鋼業で栄えた室蘭市の人口は1980年には15万人を数えましたが、2025年9月現在はその半分以下、7万3,500人にまで減っています。市内には日鋼記念病院、市立室蘭総合病院(517床)、社会医療法人・製鉄記念室蘭病院(347床)の3つの基幹病院がありますが、人口7万人に1,200床はさすがに多過ぎます。どこも患者減や医師不足に苦しんでいました。そんな中、3病院の将来を話し合う協議会が2018年に発足、再編に向けての検討が行われてきました。10月18日付けの北海道新聞の報道などによれば、昨年11月には「高度急性期・急性期医療」を製鉄記念室蘭病院に集約し、「軽度な急性期医療や回復期、慢性期」を日鋼記念病院と市立室蘭総合病院で分担する方向性が示されました。その後、今年4月に病院の事業再生で実績のある官民ファンド「地域経済活性化支援機構(REVIC)」が、日鋼記念病院と市立室蘭総合病院が対等に合併し、日鋼病院の建物に新病院「蘭西医療センター」(仮称)を開設する案を提示しました。しかし、公立病院と民間病院の統合ということで調整は難航、運営体制などを巡って意見の隔たりは大きく、協議は進展しませんでした。そんな中、10月はじめに母恋が徳洲会に支援要請をしたことが表面化、10月21日には母恋が徳洲会グループの傘下に入ることを正式表明し、10月末日の理事長交代に至ったのです。「医療資源をダウンサイズすることには基本的に反対」と徳洲会理事長母恋が徳洲会グループ入り表明した21日、母恋の有賀 正理事長(当時)、一般社団法人徳洲会の東上 震一理事長による記者会見が行われました。10月28日付の室蘭民報電子版の記事によれば、有賀理事長は徳洲会の傘下に入ることになった経緯について、「日鋼記念病院の経営は、大学派遣の医師減少や室蘭市の急激な人口減少などにより、コロナ禍直前から収支バランスが難しい兆しが始まっていた。コロナ禍で患者数は激減し、診療に関わる収入は激減。コロナ明けは法人も膨大な赤字経営という危機的状況に陥った。職員給与額の削減、診療報酬の流動化、金融機関からの借入金の一時猶予などに加えて断腸の思いで希望退職を募った。今後の経営方針を検討する中で、徳洲会から経営支援の提案があった。法人や法人職員のためだけではなく、胆振地域の医療体制の維持、室蘭市民にとって一番望ましい選択と判断した」と話し、統合問題については、「新しい理事長が中心となって、室蘭市、市立病院と従来の話し合いが継続されると認識している」と話したとのことです。一方、徳洲会の東上理事長は、「(徳洲会との)統合ではなく、徳洲会グループの中で一緒にやっていくということ。日鋼記念は歴史ある病院。大阪でもこの病院の存在を把握しているぐらい。天使病院は周産期に特化しており、非常に魅力的。グループにないものもある。医療の幅を広げる意味でも、母恋グループと一緒になることで経営的なメリットがある」と述べるとともに、統合問題については、「地域の人口減少などで個々が持っている医療資源をダウンサイズすることには基本的に反対。市立病院と日鋼記念の統合については、医療の需要に対する判断なら、市立病院の何割かを引き受けることもあっていいと思う。市立病院の先生や職員と一緒にやれるチャンスもあると個人的に思う。日鋼記念は慢性期もやりつつ、もう少し急性期の部分でも力を貸すことができれば、地域医療にとって絶対マイナスではない」と述べ、協議会が提案していた病床削減や慢性期へのシフトに対して抵抗感を示しています。日鋼記念病院の徳洲会傘下入りで市立室蘭総合病院はどうなる?有賀理事長は記者会見の席で、日鋼記念病院と市立室蘭総合病院の統合協議の中で、地域経済活性化支援機構が提示した統合案について「(母恋から)ガバナンスが取り上げられ、人員削減も行われると読み取った。従えなかった」と述べたとのことです。公立病院と民間病院の統合事例は全国でまだそれほど多くはありません。これまでの先進事例では、公立の経営悪化がより深刻な場合が多いことから、統合後は建物は公立、運営は民間というケースが少なくありません。今回の統合案の場合は、「対等合併」と表向きは言われていたものの、どうやら市主導で話が進み、そうした動きに対し、母恋側が強い不信感を抱いていたようです。その不信感が徳洲会の傘下入りにつながったわけですが、それは一方で、市立室蘭総合病院の存続にも大きな影響を及ぼすことになりそうです。(この項続く)

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第267回 “VUCA”の時代、医局とどう向き合うか? キャリアの途中で迷う若手医師たちへ

若手医師のキャリア観の変化先日、リクルートメディカルキャリアによる「医師のキャリア観に関する実態調査」が公表されました。これによると、医師免許取得当初の理想像は「専門医として技術を高めたい」(48.0%)が最多、キャリアで重視しているのは全体では「収入の高さ」(29.6%)が最多でした。その一方で、20~40代では「家庭やプライベートとの両立」も高い割合を占め、生活と仕事の両立志向が強いことが明らかになっています。また、30代では結婚や育児といったライフステージの変化を契機にキャリアを見直す割合が突出しており、若手世代では早い段階からキャリアに対する迷いが生じていることも示されています。大学医局離れと新しいキャリア志向こうした背景の中、キャリア形成に伴い転勤や大学院進学、専門医資格の取得といったイベントを経て一人前になる過程で、プライベートにも大きな変化が訪れます。以前であれば、初期臨床研修の間に、先輩の勧めなどで大学医局へ入局、その後は医局の指示するタイミングで大学院への進学や学位審査、併せて専門医の取得といった流れも自然でした。しかし、近年は、最初から大学医局に入らないという選択をする医師が増えています。令和7年度の医師研修制度マッチング結果によると、2000年代に7割が大学病院で研修していたのに対し、現在では約65%が市中病院での研修を希望するようになりました。大学病院での研修を希望する医学生の割合は、低下の一途をたどり、そのためか「医局人事」に縛られないキャリアを求める傾向が強まっています。実際に筆者の身近にも大学医局未入局のまま後期臨床研修を修了して、学会に所属しながら一般病院で働いている医師がいますが、大学医局には現在も所属していません。専門医制度と自由診療への流れ新臨床研修制度の導入から21年、若手医師の中には市中病院から大学医局に入局しても、転勤先について交渉する機会がないまま希望しない病院への異動をきっかけに退局するなど、大学医局人事によってコントロールされるのを望まない医師が増えたのは当然だと思います。さらにコロナ禍の後に繰り返し報道される医療機関の経営悪化や、専門医機構による専門医研修義務化などが加わり、専門医制度に疑問に感じる医師も少なくありません。とくに最近は初期臨床研修後に専門医を取得せず、美容系に代表される自由診療に参入する医師が年間200人以上とされ、「直美」現象として知られるようになりました。形成外科や皮膚科の専門医としてのトレーニングを積む前に美容医療業界に進むケースも多く、美容医療に従事する医師たちがSNSで繰り返し情報発信をするのも「バラ色のキャリア」として映っているのかもしれません。美容医療ブームの裏側:自由診療のリスクしかし、実際の自由診療は競争が激しく、歩合制による給与体系であるなどプレッシャーも強い世界です。SNSで集客し、医師以外のスタッフが「カウンセリング」と称して施術内容を決定するなど、不適切な事例も報告されています。こうした問題を受け、厚生労働省は「美容医療の適切な実施に関する検討会」を設け取りまとめ案をもとに、先日「美容医療に関する取扱いについて」を各都道府県などに通知しました。内容については本稿の「第252回 「『直美』現象はいつまで続くか? 美容医療の現状と医師キャリアの未来」にも書いたように、通知ではカルテ記載や医療安全管理体制の整備、患者保護の徹底など、当然のことが明記されています。こうした医師として当たり前のことを学ばないうちに自由診療の世界に飛び込むと、医療事故や訴訟などでキャリアを失うリスクもあります。VUCA時代に生きる若手医師へさて、表題に挙げた“VUCA”とは、「Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)」の頭文字を取った言葉で、将来予測が困難な時代を意味します。筆者が初期研修を受けた平成一桁の時代は、まだインターネットが発展途上であり、情報は紙媒体が中心でのんびりしたものでした。今はSNSの発達で医師向けの情報が洪水のように溢れ、若手医師もその影響を大きく受けています。医師としての労働環境は他職種と大きく異なり、大学医局に所属すれば研究とアルバイト生活の両立で経済的にも厳しい。そんな現実に直面して、キャリアに迷うのは当然のことかもしれません。大学医局という「居場所」の再評価筆者自身、大学院を卒業して循環器専門医として急性期病院に戻った後、せっかく大学院で学んだ経験をもとに新薬開発に関与したいと考え、いったん臨床を離れて大手製薬企業で約10年間、臨床開発の仕事に携わりました。その間も専門医資格の更新を続け、大学医局との交流が途絶えなかったのは、当時の医局長が筆者の考えを理解して、「退局」ではなく「医局人事から離れる」形にしてくれたおかげです。結果として、再び臨床に戻るときにも医局長や教授に連絡をとり、再就職もスムーズでした。もちろん大学医局については「閉鎖的」とか「古い」システムであり問題もまったくないわけではないのですが、相談できる上司や同僚の存在は大きな支えになります。今は女性医師も増え、以前よりも風通しが良くなり、相談できる環境も整いつつあります。キャリア形成に必要な「相談先」-失敗事例から学ぶ診療科によっては医局員の一斉退局などをきっかけに医局崩壊が話題になることもありますが、医師が自由診療に転じても、そこでの関係はライバル同士です。保険診療のように互いに支え合う関係は築きにくいのが現実です。今からちょうど20年前に筆者も将来に迷いを抱き、大学医局人事から離れて製薬企業に勤務し合計10年にわたりましたが、他業界での経験を経て、再び病院で勤務医として働く今、日々患者さんと向き合えることに喜びを感じています。振り返れば、当時の筆者のわがままを受け止め、相談に乗ってくれた上司や大学医局の先輩方に心から感謝しています。今迷いの中にいる医師の皆さまに問いますが、臨床研修を終えて社会に飛び出す前に、上司や先輩、研修同期に相談してみましたか? SNSで見かけた「高待遇」など美味しい話に飛びついていませんか?よく言われているように「うまい話には裏がある」のです。ここに事例を紹介します。ある若手医師が後期臨床研修の途中で、病院も大学医局も辞めて、在宅医療を行うために退職したいと申し出ました。次の転勤先の人事も決まりかける時期の出来事で、上司や医局長も含め大騒ぎになりました。それでも決心が固かったのか大学医局を退局、後期研修の病院も退職しました。その医師は5年目にして次の月からある自由診療のクリニックで院長になっていました。大手チェーンのクリニックなので順調にいくのかと思っていましたが、集客がうまくいかなかったのか、院長就任後わずか1年でそのクリニックは閉院となってしまいました。東京や大阪にも分院があるクリニックでしたが、その医師は結局、保険診療に戻りました。専門医ではないので、今も肩書きを何も持たない状態で当初と別の診療科で勤務医をされています。今後、地方の高齢者人口の増加とさらなる少子化により急性期病院を中心に病院同士の再編も進み、確実に医療を取り巻く環境は変化します。医師として長く続けるためのキャリアについては、外部のキャリアカウンセラーという名の転職サービスに相談する前に、まず先輩医師や指導医、大学医局に相談することをおすすめします。

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ロボット支援気管支鏡が肺の奥深くの腫瘍に到達

 最先端のロボット支援気管支鏡が肺の奥深くにある極めて小さな腫瘍にまで到達できることが、チューリッヒ大学病院(スイス)のCarolin Steinack氏らによる臨床試験で示された。Steinack氏らによると、このロボット支援気管支鏡は、特殊なCTスキャナーにより、肺の中の到達が難しい位置に隠れた腫瘍を見つけることができるという。この研究結果は、欧州呼吸器学会議(ERS 2025、9月27日~10月1日、オランダ・アムステルダム)で発表された。 Steinack氏は、「この技術によって、専門医は肺のほぼ全領域にアクセスできるようになった。これは、より多くの患者に生検を実施できること、より高い治療効果が期待できる早期の段階でがんを診断できるようになることを意味している」とERSのニュースリリースの中で述べている。 ERSの呼吸器インターベンション専門家グループ代表で、Golnik大学クリニック(スロベニア)内視鏡部長のAles Rozman氏も、肺がんを治療可能な早期の段階で発見して治療するのにこの技術が役立つ可能性があるとの見方を示している。同氏は、「がんは通常、早期に診断されれば生存率の大幅な向上を望める。しかし、こうした極めて小さな腫瘍は診断が難しい。今回の研究は、ロボット支援技術が肺の奥深くにある小さな腫瘍の多くを診断する助けになることを示している」と付け加えている。 Steinack氏らは今回の臨床試験で、肺の周縁部に異常増殖がある78人の患者に気管支鏡検査を実施した。異常増殖の数は合計で127個だった。肺の周縁部は接続する気道がない場合が多く、通常は容易に到達できない領域である。腫瘍は直径が中央値11mmで、18個(14.2%)は気管支サインが陽性(病変に向かって走行する気管支が明確に認められる)で、35個(27.6%)は均一なすりガラス陰影に分類された。患者の半数(39人)はX線画像を用いた従来型の気管支鏡検査を受け、残る半数(39人)はCTスキャンを用いたロボット支援気管支鏡検査を受けた。 その結果、診断に至った対象者の割合は、ロボット支援気管支鏡群で84.6%(33人)であったのに対し、従来の気管支鏡では23.1%(9人)にとどまった。通常の気管支鏡の方法で生検が成功しなかった人に対してロボット支援気管支鏡を用いると、92.9%(26/28人)で腫瘍への到達と生検に必要な組織の採取に成功した。最終的に68人(53.5%)が肺がんと診断され、そのうち50人は最も早期の治療可能な段階のがんであった。Steinack氏は、「臨床的に従来の気管支鏡が選択肢とはならない患者において、この技術は正確な診断を可能にする」と述べている。 ただし、この技術は安価ではない。この新しいシステムの導入には110万ドル(1ドル150円換算で1億6500万円以上かかり、検査1回当たりの費用は約2,350ドル(同35万2,500円)になるとSteinack氏らは説明している。チューリッヒ大学病院の呼吸器内科医で主任研究者のThomas Gaisl氏は、「こうした腫瘍がある患者を多く診ている医療機関では、この技術により得られるメリットは投資に見合うものだと考えている。ただし、このロボットシステムは従来の気管支鏡が使えない、小さくて到達が難しい病変に限定して使用すべきだ」とニュースリリースの中で述べている。 一方、Rozman氏は、「この装置を導入し、使用するために必要となる莫大な追加コストを正当化するためには、この種のゴールドスタンダードの研究を実施することが極めて重要だ」と指摘している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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蕁麻疹に外用薬は非推奨、再確認したい治療の3ステップ

 かゆみを伴う赤みを帯びた膨らみ(膨疹)が一時的に現れて、しばらくすると跡形もなく消える蕁麻疹は、診察時には消えていることも多く、医師は症状を直接みて対応することが難しい。そのため、医師と患者の間には認識ギャップが生まれやすく、適切な診断・治療が選択されない要因となっている。サノフィは9月25日、慢性特発性蕁麻疹についてメディアセミナーを開催し、福永 淳氏(大阪医科薬科大学皮膚科学/アレルギーセンター)がその診療課題と治療進展について講演した。 なお、蕁麻疹の診療ガイドラインは現在改訂作業が進められており、次改訂版では病型分類における慢性(あるいは急性)蕁麻疹について、原因が特定できないという意味を表す“特発性”という言葉を加え、“慢性(急性)特発性蕁麻疹”に名称変更が予定されている。蕁麻疹の第1選択は経口の抗ヒスタミン薬、外用薬は非推奨 慢性特発性蕁麻疹は「原因が特定されず、症状(かゆみを伴う赤みを帯びた膨らみが現れて消える状態)が6週間以上続く蕁麻疹」と定義され、蕁麻疹患者全体の約6割を占める1)。幅広い世代でみられ40代に患者数のピークがあり1)、女性が約6割と報告されている2)。医療情報データベースを用いた最新の研究では、慢性特発性蕁麻疹の推定有病割合は1.6%、推定患者数は約200万人、1年間の新規発症者数は約100万人と推計されている3)。 蕁麻疹診療ガイドライン4)で推奨されている治療ステップは以下のとおりで、内服の抗ヒスタミン薬が治療の基本だが、臨床現場では蕁麻疹に対してステロイド外用薬が使われている事例も多くみられる。福永氏は「蕁麻疹に対するステロイド外用薬はガイドラインでは推奨されておらず、エビデンスもない」と指摘した。[治療の3ステップ]Step 1 抗ヒスタミン薬Step 2 状態に応じてH2拮抗薬*1、抗ロイコトリエン薬*1を追加Step 3 分子標的薬、免疫抑制薬*1、経口ステロイド薬*2を追加または変更*1:蕁麻疹、*2:慢性例に対しては保険適用外だが、炎症やかゆみを抑えることを目的に、慢性特発性蕁麻疹の治療にも使われることがある分子標的薬の登場で、Step 3の治療選択肢も広がる 一方で、Step 1の標準用量の第2世代抗ヒスタミン薬による治療では、コントロール不十分な患者が60%以上いると推定されている5,6)。Step 2の治療薬はエビデンスレベルとしては低く、国際的なガイドラインでは推奨度が低い。エビデンスレベルとしてはStep 3に位置付けられている分子標的薬のほうが高く、今後の日本のガイドラインでの位置付けについては検討されていくと福永氏は説明した。 原因が特定されない疾患ではあるが、薬剤の開発により病態の解明が進んでいる。福永氏は、「かゆみの原因となるヒスタミンを抑えるという出口戦略としての治療に頼る状況から、アレルギー反応を引き起こす物質をターゲットとした分子標的薬が使えるようになったことは大きい」とした。約4割が10年以上症状継続と回答、医師と患者の間に生じている認識ギャップ 症状コントロールが不十分(蕁麻疹コントロールテスト[UCT]スコア12点未満)な慢性特発性蕁麻疹患者277人を対象に、サノフィが実施した「慢性特発性じんましんの治療実態調査(2025年)」によると、39.0%が最初に症状が出てから現在までの期間が「10年以上」と回答し、うち27.8%は現在も「ほぼ毎日症状が出続けている」と回答した。福永氏は、「蕁麻疹は誰にでも起こりうるありふれた病気として、時間が経てば治ると思っている患者さんは多い。しかしなかには慢性化して、長期間症状に悩まされる患者さんもいる」とし、診療のなかでその可能性についても説明できるとよいが、現状なかなかできていないケースも多いのではないかと指摘した。 また、慢性特発性蕁麻疹をどのような疾患だと思うかという問いに対しては、「治療で完治を目指せる病気」との回答は5.1%にとどまり、コントロール不十分な慢性特発性蕁麻疹患者の多くが完治を目指せるとは思っていないことが明らかになった。福永氏は、「治療をしてもすぐには完治しないが、症状が出ていないときも治療を継続することが重要」とした。 原因を知りたいから検査をしてほしいという患者側のニーズと、蕁麻疹との関連が疑われる病歴や身体的所見がある場合に検査が推奨される医療者側にもギャップが生じることがある。福永氏は、「必ず原因がわかる病気ではなく、原因究明よりも治療が重要ということを説明する必要がある」と話し、丁寧な対話に加え、患部の写真撮影をお願いする、UCTスコアを活用するといった、ギャップを埋めるため・見えないものを見える化するための診療上の工夫の重要性を強調して講演を締めくくった。■参考文献1)Saito R, et al. J Dermatol. 2022;49:1255-1262.2)Fukunaga A, et al. J Clin Med. 2024;13:2967.3)Fukunaga A, et al. J Dermatol. 2025 Sep 8. [Epub ahead of print]4)秀 道広ほか. 蕁麻疹診療ガイドライン 2018. 日皮会誌. 128:2503-2624;2018.5)Guillen-Aguinaga S, et al. Br J Dermatol. 2016;175:1153-1165.6)Min TK, et al. Allergy Asthma Immunol Res. 2019;11:470-481.

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第286回 連立に向けた与野党の最低パフォーマンスのあげく、高市早苗総理大臣の誕生へ 連立参加で維新の社会保障政策案はどこまで実現できる?

「野球史上最高のパフォーマンス」と日本政治史上最低レベルのパフォーマンスこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。ロサンゼルス・ドジャースが本拠地でミルウォーキー・ブルワーズを破りワールドシリーズ進出を決めたナショナル・リーグ優勝決定シリーズ第4戦、すごかったですね。大谷 翔平選手は投打の二刀流で先発出場、投げては6回0/3を2安打無失点、10奪三振の快投。打っては先頭弾、場外弾を含む3本塁打を放ちました。漫画や映画でもありえないような異次元の大活躍に、米国CBSスポーツ電子版は「野球史上最高のパフォーマンス(the greatest single-game performance in baseball history)」と称賛しました。さて、日本政治の歴史の中でも与野党含め多くの党が最低レベルのパフォーマンスを見せ、心底うんざりした連立協議、政界再編劇ですが、10月20日、自民党と日本維新の会が連立政権合意書を取り交わし、高市 早苗総理大臣が誕生することになりました(10月20日現在)。公明党が自民党との連立政権離脱を表明してから10日あまり、この間、「大義」「大義」と叫びながら、結局、国民は二の次で自分たちの選挙のことしか考えていない国会議員の言動を見て、維新の吉村 洋文代表が自民党に突きつけた「国会議員定数の1割削減」はぜひとも実現してもらいたいと思った国民は少なくないでしょう。「比例区だけ削減」という案には問題もありそうですが、ひょっとしたらこれで、日本維新の会の党勢は一気に強まるかもしれません。維新、連立政権合意書で「3党合意」を確実に履⾏することを自民党に求める10月20日に交わされた自民党との連立政権合意書には、社会保障政策について、「25年通常国会で締結したいわゆる『医療法に関する3党合意書』および『骨太方針に関する3党合意書』に記載されている医療制度改革の具体的な制度設計を25年度中に実現しつつ、社会保障全体の改革を推進することで、現役世代の保険料率の上昇を止め、引き下げていくことを目指す」と書かれています。そして、2025年度中に具体的な骨子について合意し、2026年度中に具体的な制度設計を行い順次実行するという項目が13項目列挙されています。13項目は、保険者の権限・機能の強化、都道府県の役割強化、病院機能の強化、大学病院機能の強化、高度機能医療を担う病院の経営安定化など、まあ誰もが考えそうな政策がほとんどですが、中には保険財政健全化策推進(インフレ下での医療給付費の在り方と、現役世代の保険料負担抑制との整合性を図るための制度的対応)、患者の声の反映およびデータに基づく制度設計を実現するための中央社会保険医療協議会の改革、医療費窓口負担に関する年齢によらない真に公平な応能負担の実現など、いわゆる「現役世代」を重視したエッジの効いた政策も並んでいます。維新はかねてより、現役世代の社会保険料の負担を軽減するための社会保障改⾰として、「⼀般病床・療養病床・精神病床の余剰な約11万床の削減」「OTC類似薬への保険給付の⾒直し」「地域フォーミュラリの全国展開」などの政策を掲げてきました。今年6⽉13⽇に公表された「⾻太⽅針2025」の策定に当たっては、6⽉6⽇に⾃⺠・公明・維新による「3党合意」が行われ、現在、3党で協議が進んでいることになっています(「270回 『骨太の方針2025 』の注目ポイント(後編) 『 OTC類似薬の保険給付のあり方の見直し』に強い反対の声上がるも、『セルフメディケーション=危険』と医療者が決めつけること自体パターナリズムでは?」参照」。連立政権合意書にある「骨太方針に関する3党合意書」がそれに当たります。その具体的な内容を今一度おさらいしておきましょう。●自民党、公明党、日本維新の会の3党が6月11日に合意した社会保障改革案1.OTC類似薬の保険給付のあり方の見直し2.新たな地域医療構想に向けた病床削減3.医療DXを通じた効率的で質の高い医療の実現4.地域フォーミュラリの全国展開5.現役世代に負担が偏りがちな構造の見直しによる応能負担の徹底6.生活習慣病の重症化予防とデータヘルスの推進※以上6項目のうち、「OTC類似薬」「病床削減」「電子カルテ(医療DX)」の3項目には検討の期限と数値目標が明記された。「現役世代」を重視する維新に対し、高齢者の支持率が比較的高く日本医師会という強力な支持団体も有する自民党との間で、この3党合意の社会保障制度改革がどこまで進むかは依然未知数です。しかし、連立政権が誕生したことでその圧力は相当強まるに違いありません。10月17日付のメディファクスは、「維新は社会保障について、これまでの3党協議(自民、維新、公明党)に 続く形で、自民と『第2ステージ』の協議に入りたい構えだ。 協議後の会見で、維新の藤田 文武共同代表は『第2ステージの本丸は構造改革』と説明。 構造改革は『既得権の抵抗が非常に大きい』と述べ、真正面から取り組むべきだとした」と書いています。「既得権の抵抗」とは日本医師会などのことだと思われます。日医にとっては、今まで考えられなかったような厳しい政権が誕生することになるわけです。維新が大臣を出さず「閣外協力」とする理由ところで、高市総裁はこれまでの協議で、維新に「閣内協力」を求め、複数の閣僚ポストを用意する意向を示したそうですが、維新側の結論としては、閣僚を出さない「閣外協力」になりました。入閣すると内閣の政策失敗や不祥事に対して閣僚として責任を負うことになるため、連帯責任やイメージ悪化などのリスクを避けたい狙いがあるためとみられます。そもそも閣議決定には大臣の全員一致が必要です。仮に維新の大臣が誕生すれば、維新の基本政策に合致しない政策でも「賛成」しないと罷免されてしまいます。自民党の政策に対して是々非々の対応を行うために閣外協力という形にして、「支持はするが一体化はしない」という立ち位置を確保するのでしょう。その意味では、大臣ポストが欲しかった公明党とは異なる連立の仕方ということになります。OTC類似薬の公的医療保険の適用見直しについての議論スタートそんな連立協議に向けての調整があちこちで行われていた10月16日、厚生労働省は社会保障審議会医療保険部会を開催、3党協議で一番目の項目に挙がったOTC類似薬の公的医療保険の適用見直しについての議論を本格的にスタートさせました。エムスリーなどの報道によれば、この日の議論では健康保険組合連合会からの委員が「やはり保険給付のあり方を見直すべき。(中略)子どもや慢性疾患、低所得者の方については配慮し、広い範囲を対象として追加の自己負担を求める方法や、保険適用の対象から除外する方法などについて具体的な検討を」と発言した一方で、日本医師会からの委員は「保険適用を外すのは時期尚早で反対」として、患者がOTC類似薬を自己判断で服用する危険性、患者や家族の経済的負担の増大、へき地で薬局がない場合に薬が入手できないなどの問題点を挙げたとのことです。「第277回  いよいよ本格化するOTC類似薬の保険外し議論、日本医師会の主張と現場医師の意向に微妙なズレ?(前編)」でも書いた、いつもの日本医師会のロジックですが、相変わらずの頑なさを感じます。OTC類似薬の公的医療保険の適用見直しについては、さらに医療保険部会で議論を継続していくとのことですが、どんな決着を見せるのでしょうか。連立政権合意書に記載された他の社会保障政策も含めて、高市政権での今後の議論の行方が気になるところです。

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「チーム医療」の落とし穴【こんなときどうする?高齢者診療】第14回

高齢者診療の実践に直結するヒントを、CareNeTVスクール「Dr.樋口の老年医学オンラインサロンアーカイブズ」からお届けします。今回は“チーム医療”に潜む誤解と、その乗り越え方を考えます。2025年1月と2月の対談で、千葉大学大学院看護学研究院・専門職連携教育研究センター長の酒井郁子教授をゲストにお迎えしました。大学院・大学で専門職連携の教育を行い、病院ではその実装に尽力する酒井さんとの対話を通して見えてきた“連携の落とし穴”と、現場で実践できるヒントをご紹介します。チーム内で「話がかみ合わない」の正体は?カンファレンスで「なんだか話がかみ合わない」と感じたことはありませんか? 立場や職種によって見えている風景が違う―そんな“違和感”の正体に迫ります。「チーム医療」の場面を思い浮かべるとき、ある人は医師が指示し多職種がサポートする姿を想像するかもしれません。またある人は、ある場面では医師が指揮をとり、別の場面では看護師が采配を振るうといった、その場に適した権限委譲が行われることをチーム医療だと思うかもしれません。実は、「チーム医療」という言葉に“チームがかみ合わない理由”のヒントがあります。「チーム医療」は日本独特の言い方で、これが混乱のもとになっています。からまった認識をほぐすために、まず多職種連携と専門職連携の違いを確認しましょう。多職種連携(multidisciplinary collaboration)各専門職が独立した役割で並列的に協働。複数の職業の併存があり、それぞれの職種の平等な権利と固有性の維持が目的。専門職連携(interprofessional collaboration)専門領域を越えて役割や情報を柔軟に共有し、相互補完的に協働。複数の職業の相互作用、交流、対話が焦点で、関係性の構築および相互変容が目的。どちらも患者中心の医療が目的ですが「多職種連携」と「専門職連携」は背景にある哲学や制度的基盤が大きく異なります。「多職種連携」と「専門職連携」をスポーツに例えると多職種連携と専門職連携の違いを理解しようとすると、「多職種連携」はポジションがある程度特化されたアメリカンフットボールや野球。「専門職連携」は状況に応じて役割が変わるサッカーやバスケットボールに例えるとわかりやすいかもしれません。「多職種連携」はもともとアメリカで生まれた考え方。独立した専門性のプロフェッショナルが集合して、高度な医療を提供するものです。それぞれがその専門性を極め、職種や領域で明確に役割分担を行って医療が成立するという考え方です。一方「専門職連携」は、アメリカ型の医療提供体制へのアンチテーゼとしてイギリスで生まれました。国民皆保険のイギリスでは、すべての人に高度な医療を提供することではなく、専門性をオーバーラップさせて平均的な医療をすべての人に提供することが、その根底にある目標です。そして、日本で使われてきた「チーム医療」というタームは、そもそも、multidisciplinary collaborationがアメリカから日本に入ってきたときに、日本文化的に改造されたものです。医師がほかのすべての健康関連専門職に対して上位に立って指示を出すという意味が強く打ち出されており、医師とコメデイカルという言い方もこの流れの一部として生まれたものです。このような意味を深く考慮せず、チーム医療という用語を使い続けた結果、チーム医療といいながら専門職連携になっていたり、もともとのmultidisciplinary collaboration のように医師が上位にくることがない連携のありようであったり、といろいろな連携が意図せずに「含まれてしまった」ため、ミスリードが生じやすくなっています。あなたの職場の“連携スタイル”はどちらでしょうか?教育を受けた時代によってチーム医療に対する考えが異なると知ることも、現場でよくあるチームが機能しない状況がなぜ起きるのかを理解するきっかけになるかもしれません。日本では、平成初期までアメリカ型の多職種連携で教育が行われていました。そのため、複数の慢性疾患を同時に有する多疾患併存の高齢者が増え、臓器別の専門医が集まって治療をしても患者の健康問題を解決できないという壁にぶつかります。その解決策として2010年ごろからイギリス型専門職連携の考え方が導入されて今に至ります。例えば1985年頃を境に教育のアプローチが大きく変わっており、現在40代以上の医療者は「医師中心の医療」、30代以下は「協働を前提とした医療」を学んできた可能性があります。職種を問わず、1980年代後半生まれの方たちが専門職連携教育を受けた最初の世代ですから、このあたりを境目に認識の違いがあるという前提を持っていると、チーム間で話がかみ合わないことに納得がいくのではないでしょうか。大切なのは「どちらが優れているか」ではなく、「いまこの現場で、どちらがふさわしいか」です。急性期病院では明確な役割分担が求められる多職種連携が、地域包括ケアでは柔軟な連携が必要な専門職連携が適しています。このように、医療の場面や対象によって最適なスタイルが異なるのです。どちらの形が適した領域にいるとしても、世代間で認識にズレがあることに自覚的でいるのは、医師にとって大変重要なポイントです。認識にズレがある中でも、チーム内の信頼関係を育てるコツ現在の卒前教育ではどの職種のコアカリキュラムにも専門職連携が導入されており、タスク変化に応じてリーダーシップを委譲し、それが患者のベネフィットになるという体験をするようにデザインされています。このような教育体験のない世代が権限委譲を行うことは、個人競技しか経験のない選手に突然チームスポーツをするよう求めるようなものです。とはいえ、現場でよりよい連携を試みることは必要。そこで、いまからでも身に付けられるマインドセットと職種間コミュニケーションのコツを紹介します。「これは私の仕事じゃないけど、いま必要だから動こう」そんな柔軟さが、信頼あるチームを育てます。自分の仕事を自分で調整して協働するマインドセットを育てることが重要です。具体的には、(1)自分の専門性の境界を明確にする、(2)他職種の専門性を理解する、(3)患者利益を最優先にした柔軟な役割調整を行う、という3つのステップから始めてみましょう。こうしたチーム内の信頼関係を育てていくために必要になるのが、職種間コミュニケーションです。これは、特定の職種に頼らずすべての職種で学び育てるべきものです。そしてすでに卒業している皆さんも学び成長させることができるスキルです。例えば、緊急時には簡潔で要点を絞った情報を、多職種カンファレンスでは背景情報も含めた詳細を、患者・家族には専門用語を避けたわかりやすい言葉で伝えるなど、活用できるスキルは多くあります。さまざまな医療職種連携の成功は、それぞれ個人の認識の違いを理解し、それぞれの強みを活かした協働体制を構築することにあります。まずは自分のチームがどちらのスタイルを基本としているかを観察し、メンバー間の対話から始めることをお勧めします。連携のズレ”を乗り越えた先にこそ、高齢者にとって「よりよいケア」が生まれてくるでしょう。 ※今回のトピックは、2024年度2月度に配信した、千葉大学大学院 看護学研究院 酒井郁子氏との対談の内容をまとめたものです。CareNeTVスクール「Dr.樋口の老年医学オンラインサロンアーカイブズ」でより詳しい解説やディスカッションをご覧ください。

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第285回 訪問看護と有料老人ホームに規制強化の動き、現場からは「こんなもので本当にホスピス型住宅における過剰なサービス提供にブレーキをかけられるのか」との厳しい声も

ホスピス型住宅の「実態ない診療報酬請求」事件に関連して厚生労働省などで規制の動きこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は、百名山ハンターをしている山仲間に付き合って、紀伊半島の大峰山(八経ヶ岳)と大台ケ原(日出ヶ岳)を登ってきました。東京から京都経由で橿原神宮に入り、レンタカーでぐるりと回って3日間で2峰を落とす(しかも雨の中)という強行軍です。というわけで高市 早苗・自民党新総裁の故郷、奈良県の山間の細い国道、県道を250キロ近く走って実感したのですが、奈良を含め紀伊半島はとても山深くかつ神秘的ですね。中でも大峰山(熊野古道の一部も走っています)は修験道の山としても知られており、山上ヶ岳は今でも宗教的理由から女人禁制が守られており、女人結界門から先は女性の入山が認められていません。日本ではもうほとんどないと言われる女人規制の山が存在する県から、日本初の女性総理が誕生するかもしれないとは……。昨今の政治状況を鑑みるになかなかに意味深なことであるなあと思いながら奈良を後にしました。さて今回は、「第280回 ターミナルケア・ビジネスの危うさ露呈、『医心館』で発覚した『実態ない診療報酬請求』、調査結果の解釈はシロなのかグレーなのか?(前編)」、「第281回 同(後編)」で書いた、アンビスホールディングス(東京都中央区、代表取締役CEO柴原 慶一)の子会社のアンビス(東京都中央区)が運営する末期がん患者や難病患者向けのホスピス型住宅「医心館」で発覚した「実態ない診療報酬請求」事件に関連して、厚生労働省などで興味深い動きがありましたので、それについて書いてみたいと思います。報告書は“グレー”と言っているのに“我々はシロだった”と強引に解釈アンビスホールディングスが8月8日に公表した特別調査委員会の報告書は、「本件通知(厚労省通知)に定める訪問看護時間に比して明らかに短時間であると認められる事例や、複数名訪問の同行者を欠いたと認められる事例が存した。また、勤怠記録と訪問看護記録の齟齬並びに確定時期の異常値に照らせば、訪問実態に疑義を呈さざるを得ない事例も存した」として、記録の不備、営利優先の発想の存在、法令遵守の意識の低さ、業務遂行を確保する組織体制の不十分さなど、さまざまな問題点を指摘、「批判を受けるに値する」としつつも「多額の診療報酬を受けるために架空の事実をねつ造したような悪質な不正請求の事案とまでは認められない」としました。この報告書を受けてアンビスホールディングスは「訪問看護における医療行為が実態のあるものと特別調査委員会により判断されたものと認識」「看護実態について根拠資料の記載が不十分であると認定されたケースは、記録の登録ミス及び記載不足などによる形式的なエラーがその大部分を占めるものと認識」などと、意図的な不正請求はなかった点を強調するコメントを出しました。報告書は”グレー”と言っているのに”我々はシロだった”と強引に解釈しているようで違和感を覚えたのですが、厚労省もやはり同様の違和感を抱いたようです。2026年改定では、主治医が指示書に必要性を明記している場合に限り頻繁な提供を認める方針厚労省は10月1日、中央社会保険医療協議会(中医協)の総会で、有料老人ホームなどで訪問看護を過剰に提供する事業者への規制を強化する方針を明らかにしました。ホスピス型有料老人ホームの入居者らを対象に、一部の事業者による不正な診療報酬請求の横行が疑われることを踏まえたものです。「不正」とは具体的には、必要ないのに「1日3回」の頻繁な訪問や、複数人での訪問、報酬加算が得られる早朝・夜間や深夜の実施などです。2026年度の診療報酬改定で、主治医が指示書に必要性を明記している場合に限り、頻繁な提供を認めることになりそうです。報酬自体も引き下げられるかもしれません。ホームと資本・提携関係のある介護サービス事業所や居宅介護支援事業所の利用を契約条件とすることなどを禁止に続く10月3日、厚労省は「有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会」を開催し、これまでの議論の課題と論点を整理した取りまとめの素案を提示しました。同検討会は住宅型有料老人ホームなどでの過剰な介護サービスの提供、いわゆる「囲い込み」や、高齢者住まいの入居者紹介事業者への高額な紹介手数料の問題などを議論してきました。素案では、入居契約とケアマネジメント契約が独立していること、契約締結やケアプラン作成の順番といったプロセスにかかる手順書やガイドラインをまとめておき入居希望者に対して明示すること、契約締結が手順書やガイドライン通りに行われているかどうかなどを行政が事後チェックできる仕組みを作ることなどが挙げられています。また入居契約において、ホームと資本・提携関係のある介護サービス事業所や居宅介護支援事業所の利用を契約条件とすることや、そうした外付けサービスを利用する場合に家賃優遇といった条件付けを行うことや、かかりつけ医やケアマネジャーの変更を利用者に強要することを禁止する措置を設ける方針も挙げられました。さらに、中重度の要介護者や医療ケアを要する要介護者などを⼊居対象とする有料⽼⼈ホームについては、現⾏の届け出制から登録制に切り替える案も提示されました。アンビスが運営しているホスピス型住宅は、施設のカテゴリーとしては「住宅型有料老人ホーム」に位置付けられます。住宅型とは、施設内のスタッフではなく、外部(といっても、併設の訪問看護ステーション、訪問介護事業所を使うケースが大半ですが)スタッフによって看護・介護を提供します。この素案が仮にそのまま制度化されるとなると、ホームと資本・提携関係のある介護サービス事業所や居宅介護支援事業所の利用を強制できなくなるわけで、現実にそんなことが可能かどうかは別として、経営的には少なからぬダメージとなるでしょう。医療法人理事長と訪問看護会社の社長がホスピス型住宅の適正化を要望このように、悪質な有料老人ホームへの締め付けは一見強まっているように見えますが、まだまだ「甘い」と指摘する人もいます。10月3日付のメディファクスは、ホスピス型住宅で不正・過剰請求や居者の不利益が生じていることに関連して、医療法人社団悠翔会の佐々木 淳理事長と、訪問看護の会社Graceの西村 直之代表取締役が厚労省を訪問、鰐淵 洋子厚労副大臣らに要望書を提出、適正化を訴えたと報じています。同記事によれば、「要望書では、ホスピス型住宅を運営する企業で、不正請求が明らかになった事例を指摘。不正が発覚した企業への監査が必要だとした。さらに、他の企業でも不正・過剰請求が起きているのではないか、と懸念を示している」としています。対応した鰐淵副大臣も問題意識を示したとのことです。悠翔会の佐々木氏は首都圏を中心に多数の在宅医療のクリニックを経営するとともに、内閣府の規制改革推進会議専門委員(健康・医療・介護)も務める論客です。その佐々木氏は自身のXにこの厚労省訪問についてポスト、中医協が検討する「主治医が指示書に必要性を明記している場合に限り、頻繁な提供を認める」案では甘く「このままだと例によって本丸は無傷、まじめな事業所のとばっちりで終わるパターンだと思います」と書いています。さらに佐々木氏は「こんなもので本当にホスピス型住宅における過剰なサービス提供にブレーキをかけられると思っているのでしょうか。すでに私たちは一部のホスピス型住宅運営者から『1日3回の訪問看護が必要と指示書に記載せよ』と具体的なリクエストを受けています。もちろん週に数回の訪問で十分な安定した患者にそんな指示を書けるわけがありません。しかし、この要求を拒絶すれば、主治医としての関わりが終わるだけ。結局、言われるがままに指示書を書いてくれる医者を囲い込み、ますますブラックボックス化するのでしょう」と中医協案への懸念を示しています。「ホスピス型住宅を新しい施設類型に定義し直し、特定施設と同様、包括報酬にすればいい」そして佐々木氏は「事実上の施設看護を在宅・訪問看護として取り扱うことの弊害」を指摘、「ホスピス型住宅を新しい施設類型に定義し直し、特定施設と同様、包括報酬にすればいいのではないでしょうか。無駄な看護を押し売りする必要はなくなるし、無駄な社会保障費の支出も大幅に圧縮できるはずです」と大胆な改革案を提案しています。まったくの正論と言えるでしょう。住宅型とは名ばかりで、併設するステーションから自前のスタッフに頻回に訪問させているのでは、介護付き有料老人ホーム、すなわち特定施設と何ら変わりはありません。介護付き有料老人ホームとは異なる特定施設の新類型をつくり、報酬もマルメて(包括化して)しまえば、そうそうアコギなことはできなくなるのではないでしょうか。しかしながら、残念なことに来年は介護報酬改定がありません。再来年の改定に向けて、有料老人ホームの類型や特定施設の制度の抜本的見直しが進むことを期待したいと思います。

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複数種類のがんを調べる血液検査、有用性を判断するには時期尚早

 血液サンプルを用いて複数種類のがんの有無を検査する多がん検出(multicancer early detection;MCD)検査(以下、MCD検査)は、目に見えない腫瘍を発見できる可能性があるため、大きな注目を集めている。しかし、MCD検査によるスクリーニングのベネフィットを評価した、完了した対照試験は存在せず、この検査法の有効性を判断するには時期尚早であるとする研究結果が発表された。米RTI-ノースカロライナ大学Evidence-based Practice Centerの最高医療責任者代理であるLeila Kahwati氏らによるこの研究結果は、「Annals of Internal Medicine」に9月16日掲載された。 MCD検査は、未検出の腫瘍から血液中に放出されたDNAやタンパク質、その他の生化学物質を検出することで、がんの有無を判定する。MCD検査のいくつかは、医師の診断書があれば製造元からオンラインで注文できる。ただし、いずれも米食品医薬品局(FDA)の承認を受けていない。 研究グループは、がんによる死亡の最大70%は、スクリーニング検査が存在しない悪性腫瘍によって引き起こされていることを考慮すると、このような検査が注目を集めるのは不思議ではないと話す。本研究の付随論評を執筆した、米フォックス・チェイスがんセンターの医学部長であるDavid Weinberg氏によると、検査費用は通常、保険ではカバーされず、約950ドル(1ドル148円換算で約14万円)かかるという。 Kahwati氏らは今回、無症状の人を対象にMCD検査の有効性を調べた20件の対照研究(対象者の総計10万9,177人)を基に、MCD検査の有益性、正確性、有害性について評価した。これらの研究では、19種類のMCD検査の正確性について報告されていた。20件のうち7件の研究(バイアスリスク:高5件、不明2件)は、無症状者を1年間追跡して将来のがん発症に対する予測精度を評価していた。残りの研究は、臨床的に確定したがん患者と健康な対照者を比較する症例対照研究でMCD検査の診断精度を評価したもので、いずれもバイアスリスクは高かった。 解析の結果、検査の正確性はがんの種類や参加者、研究デザインにより大きく異なり、感度は0.095〜0.998、特異度は0.657〜1.0、総合的な診断精度の指標であるROC曲線下面積(AUC)は0.52〜1.0の幅があった。有害性について報告していた研究は1件のみであり、その情報も限定的であった。 Kahwati氏らは、「このシステマティックレビューでは、MCD検査によるスクリーニングががんの検出、死亡率、生活の質(QOL)に与える影響を検討した、完了した対照研究は確認されなかった。研究の限界と不明確または矛盾した結果が主な原因で、MCD検査の正確性と有害性に関するエビデンスは不十分であることが分かった」と述べている。 さらにKahwati氏らは、「最も重大な限界点は、MCD検査の直接的なベネフィットを評価する、完了した対照研究がないことだ」と指摘している。これは、検査によるベネフィットが、偽陽性の結果によりもたらされる潜在的な有害性を上回るかどうかが明らかではないことを意味する。例えば、健康な人に偽陽性の結果が出た場合、がんではないとの確認が取れるまで、誤った検査結果によって引き起こされた恐怖や不安に耐えながら、より侵襲的な検査を受ける必要が生じる。同氏らは、「MCD検査によりがんの種類を正確に特定できる可能性はあるが、正確性のエビデンスだけでは、この検査が現在推奨されているスクリーニング検査よりも大きなメリットがあることを示したことにはならない」と記している。 研究グループとWeinberg氏は、MCD検査が広く推奨される前にその有用性を確認するさらなる研究が必要だとの見解を示している。またWeinberg氏は、「疾患による死亡率は着実に減少しているにもかかわらず、がんは依然として、米国成人の死因として2番目に多い。MCD検査のがん予防効果には期待を持てるが、真の臨床的有用性を示すデータは不十分であり、その有用性と潜在的な有害性のバランスをどのように評価すべきかが課題となっている。迅速な対応を求める市場からの圧力はあるが、最善の判断を下すにはそのようなデータが必要であり、それが得られるまでは研究環境以外での試験を正当化することは困難だ」と述べている。

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マンモグラフィの画像からAIモデルが心血管リスクを評価

 定期的なマンモグラフィ検査は、乳がんの早期発見に有効であるだけでなく、女性の心臓病リスクを正確に予測するのにも役立つ可能性があるようだ。マンモグラフィの画像から心血管疾患(CVD)リスクを予測する人工知能(AI)モデルの予測性能は、米国心臓協会(AHA)や他の専門家グループが開発したCVDイベントリスク予測方程式(Predicting Risk of Cardiovascular Disease Events;PREVENT)の予測性能と同等であることが、新たな研究で示された。ジョージ国際保健研究所(オーストラリア)で心血管プログラムのグローバルディレクターを務めているClare Arnott氏らによるこの研究結果は、「Heart」に9月16日掲載された。 Arnott氏は、「多くの女性は、心血管リスクが高まる人生の段階ですでにマンモグラフィ検査を受けている。心血管リスクのスクリーニングとマンモグラフィを用いた乳がん検診を統合することで、乳がんとCVDという二つの主要な疾患と死亡の原因を特定し、予防できる可能性が高まる」と述べている。 研究グループによると、CVDは世界中の女性の死因として最も多く、CVDによる死亡は全死亡数の約3分の1に当たる年間約900万人を占めるという。マンモグラフィの画像に映し出される乳房動脈石灰化や乳腺濃度は、心血管リスクと関連することが知られている。このことを踏まえてArnott氏らは、日常的に撮影されるマンモグラフィ画像から心血管リスクを予測する深層学習モデルを開発した。このAIモデルは、女性のマンモグラフィ画像と年齢のみを用いて心血管リスクを評価するもので、医師が血圧やコレステロール値、血糖値などの情報を追加で入力する必要はない。  本研究では、オーストラリアのビクトリア州に住む4万9,196人の女性の定期的なマンモグラフィ検査の画像を用いて、このAIモデルの予測性能を従来のリスク予測モデル(ニュージーランドのPREDICTツール、AHAのPREVENT方程式など)と比較した。 中央値8.8年間の追跡期間中に、3,392人の女性に心筋梗塞や脳卒中、心不全、冠動脈疾患などの心血管イベントが発生していた。解析の結果、マンモグラフィ画像と年齢のみを用いたAIモデルの予測性能(C統計量0.72)は、PREDICTやPREVENT方程式による予想性能とほぼ同程度であることが明らかになった。C統計量が0.72とは、予測モデルが72%の確率でリスクが高い人と低い人を正しく識別できることを意味する。 Arnott氏は、「われわれの開発したAIモデルは、マンモグラフィ画像のさまざまな特徴と年齢だけを組み合わせた初めてのモデルだ。このアプローチの主な利点は、追加の病歴聴取や医療記録データを必要としないため、実装に必要なリソースが少なくて済むにもかかわらず、非常に正確であることだ」と述べている。 研究グループによると、このAIモデルは特に、すでに効果的な乳がん検診プログラムを実施している国の女性にベネフィットをもたらす可能性があるという。論文の筆頭著者であるジョージ国際保健研究所のJennifer Barraclough氏は、「本研究では、この革新的な新しいスクリーニングツールの可能性を明らかにした。今後は、さらに多様な集団でこのモデルを検証し、臨床への導入にあたり障壁となり得るものを理解していきたい」と同研究所のニュースリリースの中で述べている。

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第282回 次期総裁選目前!候補5人の公約を徹底比較

INDEX小泉 進次郎氏 神奈川11区・6期小林 鷹之氏 千葉2区・5期高市 早苗氏 奈良2区・10期林 芳正氏 山口3区・2期(参院・山口選挙区5期)茂木 敏充氏 栃木5区・11期7月の参院選で連立する公明党と合わせても過半数を維持できなかった自民党。1955年の結党以来、衆参両院とも自民党が属する側が過半数を割ったのは初のことであり、以来、首相である石破 茂氏の退陣を求める、いわゆる石破おろしの動きが浮上し、党内が荒れていた。しかし、9月7日に石破氏が自民党総裁辞任を発表したことで、自民党は一気に総裁選モードに移行した。9月22日に告示された総裁選には昨年も出馬した5人が再度顔をそろえた。50音順で小泉 進次郎氏(44)、小林 鷹之氏(50)、高市 早苗氏(64)、林 芳正氏(64)、茂木 敏充氏(69)。派閥解消の影響もあってか石破氏とこの5人を含む合計9人が出馬した昨年の総裁選では、全候補の社会保障、医療・介護政策を前編と後編に分けて紹介した。ということで、今回は再挑戦した5人の社会保障、医療・介護政策を前回マニフェストとの比較も含め、独断と偏見の評価も交えながらお伝えしたい。小泉 進次郎氏 神奈川11区・6期言わずと知れた、自民党内で一時「変人」と呼ばれた元首相・小泉 純一郎氏の次男である。閣僚経験は環境相、内閣府特命担当相(原子力防災担当、気候変動担当)、農林水産相で、一見すると厚生労働行政には縁もゆかりもないように見えるが、実は2018年に自民党厚生労働部会長を経験している。前回の総裁選は党刷新を前面に出したためなのか、今の日本では最重要課題と言っても過言ではない少子高齢化に伴う社会保障制度関連の政策は、マニフェスト上皆無というぶったまげたことをやってのけた御仁である。今回は「立て直す。国民の声とともに」というキャッチフレーズの下、大項目として7つの政策を打ち出した。そのうち3番目で以下のような社会保障関連、医療・介護政策に言及している。3. 社会保障・教育子供から子育て世代、お年寄りまで、すべての世代が安心できる、全世代型社会保障制度を実現する。そのために、与野党協議を真摯に進める医療・介護・保育・福祉・教育など公的分野で働く方々の物価上昇を上回る処遇改善の実現率直に言ってどちらも目新しさはない。処遇改善は自民党内外を問わずに多くの政治家や政党が掲げる政策でもある。前者の全世代型社会保障制度も現状路線の維持だが、こと小泉氏にとっては別の意味も持つと言える。というのも、現在の全世代型社会保障制度という概念の下、定着しつつある改革の方向性として「年齢ではなく経済力に応じた負担」を自民党として打ち出したのが、まさに小泉氏が党厚生労働部会長時代であり、なおかつ彼自身がこの方向性の主導者と言われているからである。なお、大項目「5.防災・治安対策」では、昨今の保守層を中心に話題となりがちな外国人問題について言及しているが、小泉氏自身のホームページではより具体的に「医療保険制度などの制度の不適切利用の是正」を掲げている。ここからは党内でも比較的リベラルと受け止められている小泉氏が支持のウイングを広げようとしている様子がうかがえる。小林 鷹之氏 千葉2区・5期前回の総裁選で彗星のごとく登場した小林氏。大蔵省(現・財務省)に入省し、在米日本大使館赴任時代の民主党政権下で日米関係が崩壊していく様子を目の当たりにした危機感から政治家を志したという。こうした経緯もあってか、今回の5人の中では高市 早苗氏と並んで保守色の強い政治家である。総裁選のキャッチフレーズは「挑戦で拓く 新しい日本」。この下で5つの主要政策項目を掲げている。社会保障関連、医療・介護政策は以下のようなものだ(数字は小林氏の政策マニフェストで記載された順番。◇は中項目)。1. 力強く成長するニッポン◇現役世代の社会保険料負担軽減医療DXの推進、重複の解消・予防インセンティブの導入、保険適用範囲の見直しなどについて、「社会保障国民会議」を設置し、国民皆保険・社会保障制度の持続など国民の安心を守りながら包括的改革◇デフレから成長経済への移行期対策医療・看護・介護等公定価格分野での人材確保・処遇改善2. 自らの手で守り抜くニッポン◇医療安全保障ドラッグラグ・ロス問題の解消原薬およびサプライチェーンの外国依存からの脱却ワクチン・診断薬・治療薬などの感染症危機対応医薬品の開発・確保の強化3.結束するニッポン◇少子化対策・こども政策出産体制確保と負担軽減の両立「ニッポン」を連発するところが保守色の強い小林氏らしさとも言える。政策の中にある「社会保障国民会議」については、前回の総裁選では「社会保障未来会議(仮称)」としていた。「現役世代の社会保険料負担軽減」は前回の総裁選とほぼ同じ政策である。前回はより給付削減を打ち出していた。また、予防インセンティブは、参院選での参政党の政策を彷彿とさせる。具体策までは踏み込んでいないが、東大から財務省というリアルな政策の場を渡り歩いてきた小林氏が、このインセンティブ政策の細部設計でさすがに参政党レベルはあり得ないだろうとは思うが、どのような構想を持っているかは個人的に興味があるところだ。「デフレから成長経済への移行期対策」は今回新たに登場したが、小泉氏のところで触れたように目新しさはない。2では新たに「医療安全保障」というワードを繰り出してきた。正直、その意味するところがわかるようなわからないような…。また、ここに書かれた各項目は、やはり保守政治家らしいと言えるが、以前から私自身は繰り返し言っているように、創薬、医薬品サプライチェーンのボーダレス化が進んでいる中では空疎にしか見えない。言っちゃ悪いが、保守層受けの良い政策を無機質に並べたようにも映る。ちなみに前回はゲノム創薬の強化を打ち出していたが、今回はその項目は消えている。また、同じく前回は「医師・診療科の偏在是正」や「医療法人改革」を掲げていたが、これも今回のマニフェストからは消えた。高市 早苗氏 奈良2区・10期前回総裁選の1回目投票で1位となりながら、決選投票で石破氏に敗れた高市氏。無所属で国会議員となり、そこから自由党(党首・柿澤 弘治氏)→自由改革連合(代表・海部 俊樹氏)→新進党(党首・海部 俊樹氏)→自民党と渡り歩き、自民党内で5度の閣僚経験、党三役の政調会長を務めたバルカン政治家である。今回のマニフェストキャッチフレーズは「日本列島を、強く豊かに。」である。マニフェストの大項目は5つだが、その大部分を1番目が占めている。社会保障、医療・介護領域の政策もすべてここに含まれている。中身は以下の通りだ。1.大胆な『危機管理投資』と『成長投資』で、『暮らしの安全・安心』の確保と『強い経済』を実現。◇経済安全保障の強化と関連産業の育成経済安全保障に不可欠な成長分野(AI、半導体、ペロブスカイト・全固体電池、デジタル、量子、核融合、マテリアル、合成生物学・バイオ、航空・宇宙、造船、創薬、先端医療、送配電網、港湾ロジスティクスなど)に、分野毎の官民連携フレームワークにより積極投資を行ない、大胆な投資促進税制を適用◇健康医療安全保障の構築地域医療・福祉の持続・安定に向け、コスト高に応じた診療・介護報酬の見直しや人材育成支援「攻めの予防医療」(がん検診陽性者の精密検査・国民皆歯科健診の促進等)を徹底することで、医療費の適正化と健康寿命の延伸を共に実現ワクチンや医薬品については、原材料・生産ノウハウ・人材を国内で完結できる体制を構築再生・細胞医療、遺伝子治療分野、革新的がん医療、認知症治療等に係る研究開発と社会実装を促進長年の取組で実現した「女性の健康」ナショナルセンター機能の構築を推進この政策をざっと眺めると、小林氏とかなり相似性が高いことがわかるだろう。とくに「健康医療安全保障」という造語などが代表的だ。むしろ文言上の政策は高市氏のほうが充実していると言えるかもしれない。「コスト高に応じた診療・介護報酬の見直し」などは、ウクライナ戦争に端を発した物価高により経営難にあえぐ医療機関・介護施設の経営者にとっては首が振りきれるほど頷く政策だろう。一方で小林氏のところでも指摘した予防医療の推進とワクチン・医薬品の国産化については、個人的には「ふーん」という感じである。予防医療自体は悪いことではないが、そのコスト・パフォーマンスの悪さは医療現場に身を置く人なら誰しもが気付いていることだろうし、ワクチン・医薬品の国産化については前回の小林氏の政策のところで述べたとおりだ。一言で言うならば、「現場を知らないのだろう」という印象である。ここで高市氏と小林氏の政策についてまとめて言及すると、私個人は社会保障とは国家の存立基盤の1つであり、経済成長の有無とは関係なく持続性を持つものでなければならないと考えている。その前提に立つと、この分野の政策ほぼすべてが経済成長を視野に入れて立案されていることには、かなり違和感がある。林 芳正氏 山口3区・2期(参院・山口選挙区5期)石破内閣では内閣官房長官を務めたが、5人の候補者の中では地味めである。もっとも参院議員として4度も入閣をしたのは戦後、林氏ただ1人である。また、総裁選出馬は今回が3度目で、1回目は参院議員時代の2012年。自民党総裁選で推薦人制度導入以降に参院議員が名乗りを上げたのも林氏が初。失礼を覚悟で言えば、見た目以上に“武勇伝”がある人物なのである。今回の総裁選では「経験と実績で未来を切り拓く」をキャッチフレーズに掲げた。前回は「人にやさしい政治。」で、いずれもやはり地味である。また、余談を言うと、今回の総裁選で使っている本人の写真は右手でガッツポーズしたスタイルである。率直に言うと、このポーズは地方選挙での新人候補のポスターでこそよく見かけるパターンだが、ベテラン政治家ではあまり見かけないアピールパターンである。さてマニフェストは「林よしまさが掲げる政策 林プラン」と題したもので、大項目は6項目。その1番目と3番目に関連政策の記述がある。以下のような内容である。1.経済対策・成長戦略・教育改革創薬力の強化3.社会保障・福祉医療・介護・福祉人材の大幅な処遇改善生涯を通じた歯科検診(国民皆歯科健診)に向けた具体的取組医師・看護師確保対策経済政策としての創薬力強化は、実は岸田政権時の「創薬エコシステムサミット」開催以来の政策であり、林氏がかつて岸田派だったことを考えれば、むしろ自然な流れと言える。次なる社会保障・福祉の項目内は、ざっと見ればごくごくありきたりなモノばかりである。ちなみに国民皆歯科健診は高市氏も掲げているが、実は従来から自公政権下での骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)に記載されており、石破政権期の国政選挙の政策集にも組み込まれている。一方で、医師・看護師確保対策の具体的な記述はないが、前回の総裁選では「医師の偏在是正」「大学病院の派遣機能強化」も掲げていた。今回はこの2つの記述はないが、おそらく医師・看護師確保対策という文言に含まれているのだろう。そして直接の社会保障、医療・介護政策ではないが、私個人は大項目5番目「党・政治・行政改革」に記載された「現行の1府12省庁体制の検証、省庁再々編に向けた議論」が目に留まった。省庁再々編を議論する場合、似て非なる業務を行う旧厚生省と旧労働省を無理やり一つにした、半ばユニットバスのような厚生労働省が真っ先に的になることは必然。林氏だけでなく、そのことを視野に入れている勢力は自民党に一定程度いるのだろうと改めて認識させられた。茂木 敏充氏 栃木5区・11期もともとは旧日本新党出身という“外様”ながら、経済産業相、外相という重要閣僚、幹事長という自民党4役の要を経験し、さらには旧田中派・経世会に源流を持つ自派閥(旧茂木派)まで有していた茂木氏。今回の総裁選では真っ先に出馬に名乗りをあげた。マニフェストのキャッチフレーズは「結果を出す」。この下で実行プランと称する6つの大項目を掲げている。その最後に社会保障関連について以下のように言及している。●国家、国民を守り抜く◇社会保障、外交そして憲法改正で安心安全な国づくり負担能力に応じた誰もが安心・納得の社会保障制度の確立基本的に小泉氏と同じ全世代型社会保障制度を支持しているスタンスである。前回総裁選では、デジタル活用による負担と給付の透明化や在職老齢年金制度の見直しまで訴えていた。おそらくこの辺は本質的に変更してはいないのだろうが、高齢層から反発が予想される内容だけに文言上今回はかなりマイルドにしたのかもしれない。さてここまで5人の政策を評価したが、どうやら総裁選そのものの情勢は小泉氏vs.高市氏の2強対決に林氏が3番手に絡み票を伸ばしている状況らしい。とくに小泉陣営では、週刊文春が報じた「やらせ応援メッセージ書き込み依頼事件」もあり、それによる失票が林氏に回っている構図のようだ。いずれにせよ来週にはもう自民党総裁、いわば総理大臣最有力候補が決定している。結果はいかに?

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HFpEF/HFmrEFの今:2025年JCS/JHFS心不全診療ガイドラインに基づく新潮流【心不全診療Up to Date 2】第4回

HFpEF/HFmrEF診療の新たな潮流『2025年改訂版心不全診療ガイドライン』(日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン)は、左室駆出率の保たれた心不全(HFpEF)および軽度低下した心不全(HFmrEF)の診療における歴史的な転換点を示すものであった。長らく有効な治療法が乏しかったこの領域は、SGLT2阻害薬(エンパグリフロジン[商品名:ジャディアンス]またはダパグリフロジン[同:フォシーガ])や非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(nsMRA)、GLP-1受容体作動薬(セマグルチド[同:ウゴービ皮下注]、チルゼパチド[同:マンジャロ])*といった医薬品の新たなエビデンスに基づき、生命予後やQOLを改善しうる治療戦略が確立されつつある新時代へと突入した。本稿では、最新心不全診療ガイドラインの要点も含め、HFpEF/HFmrEF診療の新たな潮流を概説する。*セマグルチドは肥満症のLVEF≧45%の心不全患者へ、チルゼパチドは肥満症のLVEF≧50%の心不全患者に投与を考慮する定義と病態の再整理ガイドラインでは、Universal Definition and Classification of Heart Failure**に準拠し、左室駆出率(LVEF)に基づく分類が踏襲された。HFpEFはLVEFが50%以上、HFmrEFは41~49%と定義される。とくにHFpEFは、高齢化を背景に本邦の心不全患者の半数以上を占める主要な表現型となっており、高齢、高血圧、心房細動、糖尿病、肥満など多彩な併存症を背景とする全身性の症候群として捉えるべき病態である1)。HFpEFがこのように心臓に限局しない全身的症候群であることが、心臓の血行動態のみを標的とした過去の治療薬が有効性を示せなかった一因と考えられる。そして近年、SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬といった、代謝など全身へ多面的に作用する薬剤が成功を収めたことは、この病態の理解を裏付けるものである。**日米欧の心不全学会が合同で2021年に策定した心不全の世界共通の定義と分類一方、HFmrEFはLVEF40%以下の心不全(HFrEF)とHFpEFの中間的な特徴を持つが、過去のエビデンスからは原則HFrEFと同様の治療が推奨されている。ただ、HFmrEFはLVEFが変動する一過程(transitional state)をみている可能性もあり、LVEFの経時的変化を注意深く追跡すべき「動的な観察ゾーン」と捉える臨床的視点も重要となる。診断の要点:見逃しを防ぐための多角的アプローチ心不全診断プロセスは、症状や身体所見から心不全を疑い、まずナトリウム利尿ペプチド(BNP≧35pg/mLまたはNT-proBNP≧125pg/mL)を測定することから始まる。次に心エコー検査が中心的な役割を担う。LVEFの評価に加え、左室肥大や左房拡大といった構造的異常、そしてE/e'、左房容積係数(LAVI)、三尖弁逆流最大速度(TRV)といった左室充満圧上昇を示唆する指標の評価が重要となる。安静時の所見が不明瞭な労作時呼吸困難例に対しては、運動負荷心エコー図検査や運動負荷右心カテーテル検査(invasive CPET)による「隠れた異常」の顕在化が推奨される(図1)2)。(図1)HFpEF早期診断アルゴリズム画像を拡大するさらに、心アミロイドーシスや肥大型心筋症など、特異的な治療法が存在する原因疾患の鑑別を常に念頭に置くことが、今回のガイドラインでも強調されている(図2)。(図2)HFpEFが疑われる患者を診断する手順画像を拡大する治療戦略のパラダイムシフト本ガイドラインが提示する最大の変革は、HFpEFに対する薬物治療戦略である(図3)。(図3)HFpEF/HFmrEFの薬物治療アルゴリズム画像を拡大するHFrEFにおける「4つの柱(Four Pillars)」に比肩する新たな治療パラダイムとして、「SGLT2阻害薬を基盤とし、個々の表現型に応じた治療薬を追加する」という考え方が確立された。EMPEROR-Preserved試験およびDELIVER試験の結果に基づき、SGLT2阻害薬は糖尿病の有無にかかわらず、LVEF>40%のすべての症候性心不全患者に対し、心不全入院および心血管死のリスクを低減する目的でクラスI推奨となった3,4)。これは、HFpEF/HFmrEF治療における不動の地位を確立したことを意味する。これに加えて、今回のガイドライン改訂で注目すべきもう一つの点は、nsMRAであるフィネレノン(商品名:ケレンディア)がクラスIIaで推奨されたことである。この推奨の根拠となったFINEARTS-HF試験では、LVEFが40%以上の症候性心不全患者を対象に、フィネレノンがプラセボと比較して心血管死および心不全増悪イベント(心不全入院および緊急受診)の複合主要評価項目を有意に減少させることが示された5)。一方で、従来のステロイド性MRAであるスピロノラクトンについては、TOPCAT試験において主要評価項目(心血管死、心停止からの蘇生、心不全入院の複合)は達成されなかったものの、その中で最もイベント数が多かった心不全による入院を有意に減少させた6)。さらに、この試験では大きな地域差が指摘されており、ロシアとジョージアからの登録例を除いたアメリカ大陸のデータのみを用いた事後解析では、主要評価項目も有意に減少させていたことが示された7)。これらの結果を受け、現在、HFpEFに対するスピロノラクトンの有効性を再検証するための複数の無作為化比較試験(SPIRRIT-HFpEF試験など)が進行中であり、その結果が待たれる。その上で、個々の患者の表現型(フェノタイプ)に応じた治療薬の追加が推奨される。うっ血を伴う症例に対しては、適切な利尿薬、利水薬(漢方薬)の投与を行う(図3)8)。また、STEP-HFpEF試験、SUMMIT試験の結果に基づき、肥満(BMI≧30kg/m2)を合併するHFpEF患者には、症状、身体機能、QOLの改善および体重減少を目的としてGLP-1受容体作動薬がクラスIIaで推奨された9,10)。これは、従来の生命予後中心の評価軸に加え、患者報告アウトカム(PRO)の改善が重要な治療目標として認識されたことを示す画期的な推奨である。さらに、PARAGON-HF試験のサブグループ解析から、LVEFが正常範囲の下限未満(LVEFが55~60%未満)のHFpEF患者やHFmrEF患者に対しては、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI、サクビトリルバルサルタンナトリウム[同:エンレスト])が心不全入院を減少させる可能性が示唆され11,12)、クラスIIbで考慮される。併存症管理と今後の展望HFpEFの全身性症候群という概念は、併存症管理の重要性を一層際立たせる。本ガイドラインでは、併存症の治療が心不全治療そのものであるという視点が明確に示された。SGLT2阻害薬(糖尿病、CKD)、GLP-1受容体作動薬(糖尿病、肥満)、フィネレノン(糖尿病、CKD)など、心不全と併存症に多面的に作用する薬剤を優先的に選択することが、現代のHFpEF/HFmrEF診療における合理的かつ効果的なアプローチである。今後の展望として、ガイドラインはLVEFという単一の指標を超え、遺伝子情報やバイオマーカーに基づく、より詳細なフェノタイピング・エンドタイピングによる個別化医療の方向性を示唆している13)。炎症優位型、線維化優位型、代謝異常優位型といった病態の根源に迫る治療法の開発が期待される。 1) Yaku H, et al. Circ J. 2018;82:2811-2819. 2) Yaku H, et al. JACC Cardiovasc Imaging. 2025 Jul 17. [Epub ahead of print] 3) Anker SD, et al. N Engl J Med. 2021;385:1451-1461. 4) Solomon SD, et al. N Engl J Med. 2022;387:1089-1098. 5) Solomon SD, et al. N Engl J Med. 2024;391:1475-1485. 6) Pitt B, et al. N Engl J Med. 2014;370:1383-1392. 7) Pfeffer MA, et al. Circulation. 2015;131:34-42. 8) Yaku H, et al. J Cardiol. 2022;80:306-312. 9) Kosiborod MN, et al. N Engl J Med. 2023;389:1069-1084. 10) Packer M, et al. N Engl J Med. 2025;392:427-437. 11) Solomon SD, et al. N Engl J Med. 2019;381:1609-1620. 12) Solomon SD, et al. Circulation. 2020;141:352-361. 13) Hamo CE, et al. Nat Rev Dis Primers. 2024;10:55.

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第29回 アルツハイマー病最前線、自己診断テストと血液検査で「精度90%」

アルツハイマー病の新しい治療薬が実用化され始め、これまで以上に「早期発見」の重要性が高まっています。しかし、多くの人が最初に相談する「かかりつけ医」で、その早期発見をしたり、正確に診断を導いたりというのは難しいのが現状でした。この課題に対し、スウェーデンの研究チームが開発した画期的な手法がNature Medicine誌で発表され、大きな注目を集めています1)。患者さん自身がタブレットで操作する約11分のデジタル認知機能テストと、血液検査を組み合わせることで、かかりつけ医でのアルツハイマー病診断の精度を劇的に向上させる可能性が示されたのです。これは、専門医でなくとも、身近なクリニックで早期診断への道が大きく開かれることを意味します。かかりつけ医を超える、デジタルテスト「BioCog」の衝撃研究の中核となるのが、研究チームが開発した「BioCog」という自己管理型のデジタル認知機能テストです。患者さんはタブレットを使い、単語の記憶や情報処理の速さなどを測るテストを、医療スタッフの付き添いなしで約11分間行います。この研究では、まずBioCogが「認知機能の低下」をどれだけ正確に見つけ出せるかが検証されました。スウェーデンの19のプライマリケア(かかりつけ医)施設で、物忘れなどの症状を訴える403人の高齢者を対象に調査した結果は驚くべきものでした。BioCogの精度:85%かかりつけ医による診断精度:73%BioCogは、問診や従来の簡単な筆記テスト(MMSEやMoCAなど)を含む、かかりつけ医の総合的な診断精度を大幅に上回ったのです。これは、デジタルテストが医師による評価のばらつきをなくし、回答の正誤だけでなく「回答にかかった時間」といった微細なデータまで客観的に捉えられるためだと考えられます。多くの患者さんが「テストの指示はわかりやすかった」と回答しており、高齢者でも使いやすいように設計されている点も大きな強みです。最強の組み合わせ、デジタルテスト+血液検査で精度90%を達成この研究の真骨頂は、BioCogを血液検査と組み合わせた二段階の診断法を提案している点にあります。ステップ1まず、物忘れを心配する患者さんが「BioCog」を実施する。ステップ2BioCogで認知機能低下が示唆された場合のみ、アルツハイマー病の原因物質を検出する精密な血液検査(血漿p-tau217など)を行う。この二段階方式で「認知機能が低下したアルツハイマー病患者」を診断した結果、その精度は90%に達しました。これは、現在の標準的なかかりつけ医の診断(精度70%)や、血液検査のみを単独で行った場合(精度80%)と比較して、著しく高い数値です。なぜ血液検査だけでは不十分なのでしょうか。それは、最新の血液検査は非常に高感度な一方で、「認知機能は正常だが、脳にはアルツハイマー病の原因物質が溜まり始めている」という人も陽性と判定してしまうからです。これにより、不必要な不安を与えたり、治療対象ではない人にまで陽性の結果を出してしまったりする「偽陽性」のリスクがありました。しかし、最初にBioCogで「本当に認知機能が低下しているか」を客観的に評価することで、その後の血液検査の対象者を絞り込むことができます。これにより、偽陽性を減らし、診断全体の信頼性を飛躍的に高めることができたのです。研究の限界と今後の課題この画期的な研究にも、いくつかの限界点と今後の課題が残されています。まず、このテストはスウェーデンの人々を対象に開発・検証されたものです。日本語を含む他の言語や、異なる文化・人種の集団でも同じように高い精度が出るか、さらなる検証が必要です。また、今回の研究は「ある時点での診断」に焦点を当てたものであり、病気の進行を長期的に追跡・監視するツールとして使えるかはまだわかっていません。そして最後に、このデジタルツールが実際の診療現場でどのように医師の判断を助け、医療全体の効率をどう変えるかといった、実用化に向けた研究が今後必要となります。研究チームも、BioCogは医師の臨床判断を「置き換える」ものではなく、あくまで「補完し、支える」ツールであると強調しています。これらの課題はあるものの、この研究が示した方向性は、アルツハイマー病の早期診断における大きな一歩だと思います。現状は時間のかかる診断プロセスですが、将来的には、かかりつけ医で誰もが手軽に精度の高い認知機能チェックを受け、必要であれば血液検査に進む、という未来が訪れるのかもしれません。 参考文献・参考サイト 1) Tideman P, et al. Primary care detection of Alzheimer’s disease using a self-administered digital cognitive test and blood biomarkers. Nat Med. 2025 Sep 15. [Epub ahead of print]

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診療所の経営環境の悪化が顕著に進行/日医

 日本医師会(会長:松本 吉郎氏[松本皮膚科形成外科医院 理事長・院長])は、9月17日に定例記者会見を開催した。会見では2025年6~7月にかけ会員に行われた「診療所の緊急経営調査の結果」について、常任理事の城守 国斗氏(医療法人三幸会 理事長)が、調査結果の概要を報告した。医療法人の4割が赤字【調査概要】目的:令和5(2023)年度と6(2024)年度の2年分の診療所の経営実態を早急に把握し、今後の議論に備える調査対象:日医A1会員の診療所管理者(院長)7万1,986施設調査時期:令和7(2025)年6月2日~7月14日調査手法:Web調査と郵送調査の併用調査内容:令和5・6年度の2年度分の収支、課題など回収数:1万3,535施設(回収率18.8%)のうち収支部分が有効な回答は1万1,103施設(うち医療法人6,761、個人立4,180)【主な結果】1)利益率の推移(1)医療法人・医業利益率は6.7%から3.2%へ悪化・経常利益率は8.2%から4.2%へ悪化・令和6年度の医業利益は45%が赤字、経常利益は39%が赤字(2)個人立・医業利益率は30.8%から26.4%へ悪化・経常利益率は31.1%から26.0%へ悪化※個人立事業所は、医療法人の事業所と収支構造が違うために、利益の意味が異なるので注意2)医業収益と医業費用の推移(1)医療法人・医業収益は2.3%減少し、医業費用は1.4%増加した・コロナ補助金、診療報酬上の特例措置の廃止が減収に大きく影響していた(2)個人立・医業収益は3.7%減少し、医業費用は2.4%増加した3)令和6年度の医業費用の項目別増減率(1)医療法人・全体で1.4%の増加のうち、医薬品・材料費が3.1%、給与費が1.7%、減価償却費が0.6%の増加(2)個人立・全体で2.4%の増加のうち、医薬品・材料費が5.2%、給与費が2.4%、委託費など0.8%の増加4)収益・費用増減率の分布(医療法人/個人立)・約7割の施設で医業収益が対前年比で減少し、約6割の施設で医業費用が増加・医療法人で医業収益が減少していたのは65.5%、個人立で71.2%※個人立事業所は、医療法人の事業所と収支構造が違うために、利益の意味が異なる5)診療科別の利益率(1)医療法人では、ほぼすべての診療科で医業利益率、経常利益率が悪化した。とくに、発熱外来など感染症対応を実施してきた内科、小児科、耳鼻咽喉科では、令和6年度のコロナ関連補助金・診療報酬上の特例措置廃止や診療報酬改定の影響が大きく、小児科では呼吸器感染症の変動も影響した。(2)個人立はすべての診療科で医業利益率、経常利益率が大幅に低下した。6)決算期別の利益率・医療法人の決算月は法人によって異なるが、令和7年1月~3月の間に令和6年度の決算を迎えた診療所では、医業利益率が2.8%、経常利益率が3.2%だった。・決算期が直近に近付くほど利益率が低下していた。令和6年度の4~6月決算以降、前回改定の影響も受けて、経営環境の悪化が顕著に進んでいた。7)地域別の利益率・診療所の地域に関わらず経営悪化がみられた。医業利益率、経常利益率は、大都市から町村まで、いずれの地域においても低下していた。8)経営問題・「物価高騰・人件費上昇」、「患者単価の減少」、「患者減少・受診率低下」を課題に挙げる診療所が半数以上を占めた。「施設設備の老朽化」が41.3%、「近い将来、廃業」が13.8%を占め、これらはどの地域でも課題とされていた。 以上の調査結果から以下の5点が考察されると結んでいる。(1)診療所の直近の経営状況は、医療法人、個人立ともに減収減益で、前年度から大幅に悪化した。医療法人の約4割が赤字となり、個人立では経常利益が約2割減少した。(2)物価高騰・人件費上昇に加え、コロナ補助金・診療報酬上の特例措置を含めた影響の結果であり、診療所の診療科や地域に関わらず、経営が悪化した。(3)直近の決算期ほど利益率が低く、経営環境の悪化が顕著に進んでいる。(4)診療所の経営者は厳しい経営に直面しており、この状況が続けば、多くの診療所が地域から撤退・消滅し、病院とともに担っている地域の患者さんへの医療提供を継続できなくなる可能性が高い。(5)地域の患者さんへの医療を安定的に提供し続けるため、次期診療報酬改定での大幅な手当と、早期の補助金ならびに期中改定による緊急かつ強力な支援が不可欠である。

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第280回 コロナ治療薬の今、有効性・後遺症への効果・家庭内感染予防(前編)

INDEXニルマトレルビル/リトナビルモルヌピラビルニルマトレルビルか? モルヌピラビルか?感染症法上の5類移行後、これまでの新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の動向について、その1(第277回)では感染者数、入院者数、死亡者数の観点からまとめ、その2(第278回)では流行ウイルス株とこれに対抗するワクチンの変遷(有効性ではなく規格などの変遷)、その3(第279回)ではワクチンの有効性について比較的大規模に検証された研究を取り上げた。今回は治療薬について、ニルマトレルビル/リトナビル(商品名:パキロビッド)とモルヌピラビル(同:ラゲブリオ)について紹介する。もっとも、漠然と論文のPubMed検索をするのではなく、日本での5類移行後にNature誌、Science誌、Lancet誌、NEJM誌、BMJ誌、JAMA誌とその系列学術誌に掲載され、比較対照群の設定がある研究をベースにした。ニルマトレルビル/リトナビル2024年4月のNEJM誌に掲載されたのが、国際共同無作為化二重盲検プラセボ対照第II/III相試験「EPIC-SR試験」1)。新型コロナの症状出現から5日以内の18歳以上の成人で、ワクチン接種済みで重症化リスク因子がある「高リスク群」とワクチン未接種または1年以上接種なしでリスク因子がない「標準リスク群」を対象にニルマトレルビル+リトナビルの有効性・安全性をプラセボ対照で比較している。ちなみにこの研究の筆頭著者はファイザーの研究者である。主要評価項目は症状軽快までの期間(28日目まで)、副次評価項目は発症から28日以内の入院・死亡の割合、医療機関受診頻度、ウイルス量のリバウンド、症状再発など。まず両群を合わせたニルマトレルビル/リトナビル群(658例)とプラセボ群(638例)との間で主要評価項目、副次評価項目のいずれも有意差はなし。高リスク群、標準リスク群の層別で介入(ニルマトレルビル/リトナビル投与)の有無による主要評価項目、副次評価項目の評価でもいずれも有意差は認めていない。唯一、高リスク群で有意差はないものの、入院・死亡率がニルマトレルビル/リトナビル群で低い傾向があるくらいだ。実はEPIC-SR試験は、各国でニルマトレルビル/リトナビルの承認根拠となった18歳以上で重症化のリスクが高い外来での新型コロナ軽症・中等症患者を対象にした臨床試験「EPIC-HR試験」の拡大版ともいえる。その意味では、より幅広い患者集団で有効性を示そうとして図らずも“失敗”に終わったとも言える。有効性が示せたEPIC-HR試験と有効性が示せなかったEPIC-SR試験の結果の違いの背景の1つとしては、前者が 2021年7~12月、後者が2021年8月~2022年7月という試験実施時期が考えられる。つまり流行主流株が前者は重症化リスクが高いデルタ株、後者はデルタ株より重症化リスクの低いオミクロン株という違いである。このオミクロン株が流行主流株になってからの研究の1つが、2023年4月にBMJ誌に掲載された米国・VA Saint Louis Health Care Systemのグループによる米国退役軍人省の全国ヘルスケアデータベースを用いた後ろ向き観察研究2)である。最終的な解析対象は2022年1~11月に新型コロナの重症化リスク因子が1つ以上あり、重度腎機能障害や肝疾患の罹患者、新型コロナ陽性が判明した時点で何らかの薬物治療や新型コロナの対症療法が行われていた人を除く新型コロナ感染者25万6,288例。これをニルマトレルビル群(3万1,524例)と対症療法群(22万4,764例)に分け、主要評価項目を新型コロナ陽性確認から30日以内の入院・死亡率として検討している。その結果では、ワクチンの接種状況別に検討した主要評価項目の相対リスクは、未接種群が 0.60(95%信頼区間[CI]:0.50~0.71)、1~2回接種群が0.65(95%CI:0.57~0.74)、ブースター接種群が0.64(95%CI:0.58~0.71)で、いずれもニルマトレルビル/リトナビル群で有意なリスク減少が認められた。また、感染歴別での相対リスクも初回感染群が0.61(95%CI:0.57~0.65)、再感染群が0.74(95%CI:0.63~0.87)でこちらもニルマトレルビル/リトナビル群でリスク減少は有意だった。また、サブグループ解析では、ウイルス株別でも相対リスクを検討しており、BA.1/BA.2優勢期が0.64(95%CI:0.60~0.72)、BA.5優勢期が0.64(95%CI:0.58~0.70)で、この結果でもニルマトレルビル/リトナビル群が有意なリスク減少を示した。一見するとNEJM誌とBMJ誌の結果は相反するとも言えるが、後者のほうは対象が高齢かつ重症化リスク因子があるという点が結果の違いに反映されていると考えることができる。一方、新型コロナを標的とする抗ウイルス薬では、後遺症への効果や家庭内感染予防効果なども検討されていることが少なくない。後遺症への効果についてはLancet Infectious Disease誌に2025年8月掲載されたイェール大学のグループによるプラセボ対照二重盲検比較研究3)、JAMA Internal Medicine誌に2024年6月に掲載されたスタンフォード大学のグループによって行われたプラセボ対照二重盲検比較研究4)の2つがある。研究実施時期と症例数は前者が2023年4月~2024年2月で症例数が100例(ニルマトレルビル/リトナビル群49例、プラセボ/リトナビル群51例)、後者が2022年11月~2023年9月で症例数が155例(ニルマトレルビル/リトナビル群102例、プラセボ/リトナビル群53例)。両研究ともにニルマトレルビルの投与期間は15日間である。前者は18歳以上で新型コロナ感染歴があり、感染後4週間以内に後遺症と見られる症状が確認され、12週間以上持続している患者が対象。主要評価項目はニルマトレルビル/リトナビルあるいはプラセボ/リトナビル投与開始後28日目の米国立衛生研究所開発の身体的健康に関する患者報告アウトカム(PROMIS-29)のベースラインからの変化だったが、両群間に有意差はなかった。後者は18歳以上、体重40kg超で腎機能が保たれ、新型コロナ感染後、疲労感、ブレインフォグ、体の痛み、心血管症状、息切れ、胃腸症状の6症状のうち2つ以上を中等度または重度で呈し、90日以上持続している人が対象となった。主要評価項目は試験開始10週後のこれら6症状のリッカート尺度による評価だったが、こちらも両群間で有意差は認められなかった。家庭内感染予防についてはNEJM誌に2024年7月に掲載されたファイザーの研究者によるプラセボを対照としたニルマトレルビルの5日間投与と10日間投与の第II/III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験5)がある。対象は2021年9月~2022年4月に新型コロナの確定診断を受けた患者の家庭内接触者で、無症状かつ新型コロナ迅速抗原検査陰性の18歳以上の成人。症例数はニルマトレルビル/リトナビル5日群が921例、10日群が917例、プラセボ群(5日間または10日間投与)が898例。主要評価項目は14日以内の症候性新型コロナ感染の発症率で、結果は5日群が2.6%、10日群が2.4%、プラセボ群が3.9%であり、プラセボ群を基準としたリスク減少率は5日群が29.8%(95%CI:-16.7~57.8、p=0.17)、10日群が35.5%(95%CI:-11.5~62.7、p=0.12)でいずれも有意差なし。副次評価項目の無症候性新型コロナ感染の発生率でも同様に有意差はなかった。もっとも、この研究では参加者の約91%がすでに抗体陽性だったことが結果に影響している可能性がある。モルヌピラビルこの薬剤については、最新の研究報告でいうとLancet誌に掲載されたイギリスでのPANORAMIC試験6)の長期追跡結果となる。同試験は非盲検プラットフォームアダプティブ無作為化対照試験で、2021年12月~2022年4月までの期間、すなわちオミクロン株が登場以降、新型コロナに罹患して5日以内の50歳以上あるいは18歳以上で基礎疾患がある人を対象に対症療法に加えモルヌピラビル800mgを1日2回、5日間服用した群(1万2,821例)と対症療法群(1万2,962例)で有効性を比較したものだ。ちなみに対象者のワクチン接種率は99.1%と、まさにリアルワールドデータである。主要評価項目は28日以内の入院・死亡率だが、これは両群間で有意差なし。さらに副次評価項目として罹患から3ヵ月、6ヵ月時点での「自覚的健康状態(0~10点スケール)」「重症症状の有無(中等度以上)」「持続症状(後遺症)」「医療・福祉サービス利用」「就労・学業の欠席」「家庭内の新規感染発生率」「医薬品使用(OTC含む)」「EQ-5D-5L(健康関連QOL)」を調査したが、このうち3ヵ月時点と6ヵ月時点でモルヌピラビル群が有意差をもって上回っていたのはEQ-5D-5Lだけで、あとは3ヵ月時点で就労・学業の欠席と家庭内の新規感染発生率が有意に低いという結果だった。ただ、家庭内新規感染発生率は6ヵ月時点では逆転していることや、そもそもこの評価指標が6ヵ月時点で必要かという問題もある。また、後遺症では有意差はないのにEQ-5D-5Lと就労・学業の欠席率で有意差が出るのも矛盾した結果である。もっと踏み込めば、この副次評価項目での有意差自体がby chanceだったと言えなくもない。一方、前述のBMJ誌に掲載されたニルマトレルビルに関する米国退役軍人省ヘルスケアデータベースを用いた後ろ向き観察研究を行った米国・VA Saint Louis Health Care Systemのグループは同様の研究7)をモルヌピラビルに関しても行っており、同じくBMJ誌に掲載されている。研究が行われたのはオミクロン株が主流の2022年1~9月で、対象者は60歳以上、BMI 30以上、慢性肺疾患、がん、心血管疾患、慢性腎疾患、糖尿病のいずれかを有する高リスク患者。主要評価項目は30日以内の入院・死亡率である。それによるとモルヌピラビル群7,818例、対症療法群7万8,180例での比較では、主要評価項目はモルヌピラビル群が2.7%、対症療法群が3.8%、相対リスクが0.72(95%CI:0.64~0.79)。モルヌピラビル群で有意な入院・死亡率の減少が認められたという結果だった。ちなみにモルヌピラビル投与による有意な入院・死亡低下効果は、ワクチン接種状況別、変異株別(BA.1/BA.2優勢期およびBA.5優勢期)、感染歴別などのサブグループ解析でも一貫していたという。ニルマトレルビルか? モルヌピラビルか?新型コロナでは早期に上市されたこの2つの経口薬について、「いったいどちらがより有効性が高いのか?」という命題が多くの臨床医にあるだろう。承認当時の臨床試験結果だけを見れば、ニルマトレルビルに軍配が上がるが、果たしてどうだろう。実は極めて限定的なのだが、これに答える臨床研究がある。Lancet Infectious Disease誌に2024年1月に掲載されたオックスフォード大学のグループが実施したタイ・バンコクの熱帯医学病院を受診した発症4日未満、酸素飽和度96%以上の18~50歳の軽症例でのニルマトレルビル/リトナビル、モルヌピラビル、対症療法の3群比較試験8)である。実施時期は2022年6月以降でニルマトレルビル/リトナビル群が58例、モルヌピラビル群が65例、対症療法群が84例。主要評価項目はウイルス消失速度(治療開始0~7日)で、この結果ではニルマトレルビル/リトナビル群は対症療法群に比べ、ウイルス消失速度が有意に加速し、モルヌピラビル群はニルマトレルビル/リトナビル群との非劣性比較でモルヌピラビル群が劣性と判定された(非劣性マージンは10%)。さて、今回はまたもやニルマトレルビル/リトナビルとモルヌピラビルで文字数をだいぶ尽くしたため、次回レムデシビル(同:ベクルリー)、エンシトレルビル(同:ゾコーバ)でようやく最後になる。 1) Hammond J, et al. N Engl J Med. 2024;390:1186-1195. 2) Xie Y, et al. BMJ. 2023;381:e073312. 3) Mitsuaki S, et al. Lancet Infect Dis. 2025;25:936-946. 4) Geng LN, et al. JAMA Intern Med. 2024;184:1024-1034. 5) Hammond J, et al. N Engl J Med. 2024;391:224-234. 6) Butler CC, et al. Lancet. 2023;401:281-293. 7) Xie Y, et al. BMJ. 2023;381:e072705. 8) Schilling WHK, et al. 2024;24:36-45.

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医療費適正効果額は1千億円以上、あらためて確認したいバイオシミラーの有効性・安全性

 日本国内で承認されているバイオシミラーは19成分となり、医療費適正化の観点から活用が期待されるが、患者調査における認知度は依然として低く、医療者においても品質に対する理解が十分に定着していない。2025年8月29日、日本バイオシミラー協議会主催のメディアセミナーが開催され、原 文堅氏(愛知県がんセンター乳腺科部)、桜井 なおみ氏(一般社団法人CSRプロジェクト)が、専門医・患者それぞれの立場からみたバイオシミラーの役割について講演した。医師がバイオシミラー使用をためらう理由で最も多いのは「同等性/同質性への懸念」 化学合成医薬品の後発品であるジェネリック医薬品で有効成分の「同一性」の証明が求められるのに対し、分子構造が複雑なバイオ医薬品の後続品であるバイオシミラーでは同一性を示すことが困難なために、「同等性/同質性」を示すことが求められる。 原氏は「同一性」が証明されたジェネリック医薬品が比較的受け入れられやすいのに対し、バイオシミラーでは「同等性/同質性」という言葉がわかりにくく、意味が浸透していないことが普及の障害になっていると指摘。実際に日本乳癌学会が会員医師を対象に実施したバイオシミラーに関する意識調査において、使用をためらう理由として最も多かったのは「先発品との製剤の同等性/同質性に懸念があるため(53.7%)」で、「臨床試験で評価していない有効性に対する懸念があるため(46.3%)」との回答が続いた。 「同等性/同質性」とは、「先行バイオ医薬品に対して、バイオシミラーの品質特性がまったく同一であるということを意味するのではなく、品質特性において類似性が高く、かつ、品質特性に何らかの差異があったとしても、最終製品の安全性や有効性に有害な影響を及ぼさないと科学的に判断できること」と定義されている1)。先行バイオ医薬品にも品質の「ばらつき」はある バイオ医薬品は、化学合成医薬品より複雑で巨大な分子を持ち、動物細胞を用いて生産されるために、同じ医薬品でも製品ごとにばらつきが生じる可能性がある。そのため先行バイオ医薬品においても、そのばらつきが有効性や安全性に影響を与えない範囲内に収まるように、ICH(日米欧医薬品規制調和国際会議)のガイドライン(ICH-Q5E)により厳格に管理されている。同じガイドラインがバイオシミラーの同等性/同質性評価にも適用されており、「先発品も後発品も品質特性について一定のばらつき・ブレ幅の中で管理されている」と原氏は解説した。 がん治療においてバイオ医薬品である抗体医薬品はもはや欠かせない存在であり、今後も承認の増加が見込まれ、医療費増加の一因となることは間違いない。バイオシミラーの薬価は先行バイオ医薬品の70%とされており、バイオシミラー全体の2024年度の医療費適正効果額は1,103億円に上る。原氏は、「日本の医療保険制度を持続可能なものとするために、バイオシミラーの普及・啓発はますます重要」として講演を締めくくった。高額療養費制度の見直し議論とバイオシミラー 続いて登壇した桜井氏は、持続可能な社会保障制度におけるバイオシミラーの位置付けについて講演した。大きな議論となった高額療養費制度見直し案は「負担能力に応じた負担」を患者側に求めるものであり、一部の層(70歳未満で年収約1,650万円以上および年収約650~770万円)では現行と比較して70%以上も負担限度額が大きくなるものであった。さらに、これらの案を適用した場合、WHOが定義する破滅的医療支出(catastrophic health expenditure:自己負担額が医療費支払い能力の40%以上の状態)に全体で17.0%、年収550万円未満の世帯では36.4%が該当するという推計データを紹介した。 全国がん患者団体連合会として「高額療養費制度における負担上限額引き上げの検討に関する要望書」2)を提出した背景に、ここに手を入れる前に他にやるべきことはないのかを提起する意図があったと説明。社会保障制度を持続可能なものとしていくためには、OTC類似薬やバイオシミラーの活用も含め、さまざまな視点から国民的な議論が必要とした。 バイオシミラーに関しては、今後何も対策を講じない場合には「バイオシミラーのラグ・ロス」が起こる可能性に懸念を示し、「学会がガイドラインなどでバイオシミラーをもっと明確に位置付けていくこと」「バイオシミラーを製造する企業に対するインセンティブの仕組みなどについて議論していくこと」が必要ではないかと提起した。 なお、日本バイオシミラー協議会のホームページでは、「バイオシミラーの市販後の臨床研究に関する論文情報」や、患者説明用の動画などが公開されている。

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キャリアに合わせてお金も育てる! 医師のための時短資産形成術【医師のためのお金の話】第96回

医師としてのキャリアは、勤務医、開業医、フリーランスと多様であり、その選択は人生設計や資産形成に大きな影響を与えます。勤務医は比較的安定した収入があるものの、異動によって収入やライフスタイルが変化する可能性があります。開業医は高収入の可能性がある一方で、開業資金や経営リスクと常に向き合う必要があります。フリーランス医師は複数の職場で働くことで収入を得られますが、安定性や社会保障面に不安を感じる人も少なくありません。このように、医師のキャリア選択は資産形成と密接に関係しており、将来を見据えた戦略的なマネープランが必要不可欠です。たとえば、自動積立投資を活用すれば、毎月決まった金額を投資信託や株式に自動的に投資でき、運用の手間を大幅に軽減できます。さらに、NISAやiDeCoなどの税制優遇制度は、少額から始められるうえに長期的な資産形成に非常に有効です。ロボアドバイザーを使えば、専門知識がなくてもAIが自動で資産配分を行ってくれるため、分散投資を手軽に実践できます。資産形成において最も重要なのは「続けること」であり、仕組み化と習慣化が成功の鍵を握ります。忙しい医師にとっても、資産形成は実現不可能なものではありません。キャリアと資産形成を両立させたいと考える皆さんと考えてみましょう。医師のキャリアパスと資産形成の関係医師のキャリアにはさまざまな選択肢がありますが、大きく分けると勤務医、開業医、フリーランス医師という3つのパターンでしょう。勤務医は安定した給与収入が見込めますが、勤務先の異動や昇進によって収入やライフスタイルが大きく変わる可能性があります。たとえば、大学病院から市中病院への異動や、院内でのポジションの変化など、キャリアの節目ごとに経済状況が変動することも少なくありません。将来的に開業を目指す場合には、開業資金や運転資金の準備が必要となり、資産形成の計画性がより求められます。一方、開業医は自院の経営状況によって収入が大きく左右されます。経営が順調であれば高収入を得られますが、初期投資や運転資金の確保、さらには事業リスクへの備えが欠かせません。経済的な浮き沈みが激しい分、資産を守るためのリスク管理も重要になります。フリーランス医師の場合は、複数の医療機関で働くことで高い収入を得ることができますが、収入の安定性や社会保障面での不安も付きまといます。自分自身で将来の備えをしっかりと行う必要があり、資産形成の意識がより強く求められます。このように、医師のキャリアの選択は、資産形成の方法やリスク許容度に大きな影響を与えます。自分がどのキャリアパスを歩むのか、将来的にどのような働き方を目指すのかを見据えた上で、適切な資産形成の戦略を立てることが大切なのです。忙しい医師のための「時短」資産運用術一方、資産形成の必要性は理解しているけれど、忙しくて手が回らないと感じている医師は多いのではないでしょうか。そんな方にお勧めしたいのが、効率的に資産形成を進めるための「時短」資産運用術です。最も手軽に始められるのが自動積立投資です。証券会社や銀行が提供する自動積立サービスを利用すれば、毎月決まった金額を投資信託や株式に自動的に投資でき、最初に設定してしまえばあとはほとんど手間がかかりません。また、NISAのつみたて投資枠やiDeCo(個人型確定拠出年金)など、少額から始められ、かつ税制優遇も受けられる制度を活用するのも有効です。忙しい医師にとって、「ほったらかし」で資産を増やす仕組みと言えるでしょう。ちなみに、私の「時短」資産運用術はBuy & Holdです。2009年以来、株式を売却したことがありませんが、すでに運用資産は10億円近くになっています。下落時に買い出動するだけなので、忙しくても最小限の手間で効率的に運用できるのが大きな魅力です。一方、不動産投資はどうでしょうか。不動産投資の敷居が高いのは事実です。私の経験では、学位を取得するのと同じぐらいハードルが高かったです。しかし、不動産投資が軌道に乗ると、自動運転も可能になります。自験例では、鉄板エリアの1棟マンションに始まり、旧帝国大学附属病院前のコンビニ、ミシュラン掲載店、多数の戸建物件のおかげで、数千万円の手残りキャッシュフローを得ています。実労働は年間たった数時間。まさに究極の「時短」資産運用ではないでしょうか。忙しくても続けられる資産管理のコツもちろん一足飛びに、寝ているだけで年間数千万円が入ってくる状態にはなりません。資産形成は「続けること」に意味があります。忙しい医師でも無理なく資産管理を続けるためには、仕組み化と習慣化がポイントです。たとえば、年に一度、確定申告のタイミングで資産状況をチェックする習慣を持つと、無理なく定期的な見直しができます。また、給与天引きや自動積立による「先取り貯蓄」を徹底することで、使いすぎを防ぎ、自然と資産が増えていきます。情報収集も通勤時間や隙間時間を活用すれば、無理なく最新の資産運用情報を得ることができます。さらに、医師同士の資産形成コミュニティや勉強会で情報交換を行うことで、モチベーションを維持しやすくなります。医師のキャリアと資産形成は、両立が難しいようでいて、工夫次第で十分実現可能です。忙しいからこそ「仕組み化」と「習慣化」を意識して、将来の安心と自己実現のために、今日から一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。

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第27回 なぜ経済界トップは辞任したのか?新浪氏報道から考える、日本と世界「大麻をめぐる断絶」

経済同友会代表幹事という日本経済の中枢を担う一人、サントリーホールディングスの新浪 剛史氏が会長職を辞任したというニュースは、多くの人に衝撃を与えました1)。警察の捜査を受けたと報じられる一方、本人は記者会見で「法を犯しておらず潔白だ」と強く主張しています。ではなぜ、潔白を訴えながらも、日本を代表する企業のトップは辞任という道を選ばざるを得なかったのでしょうか。この一件は、単なる個人のスキャンダルでは片付けられません。日本の厳格な法律と、大麻に対する世界の常識との間に生じた「巨大なズレ」を浮き彫りにしているかもしれません。また、私たち日本人が「大麻」という言葉に抱く漠然としたイメージと、科学的な実像がいかにかけ離れているかをも示唆しているようにも感じます。本記事では、この騒動の深層を探るとともに、科学の光を当て、医療、社会、法律の各側面から、この複雑な問題の核心に迫ります。事件の深層 ― 「知らなかった」では済まされない世界の現実今回の騒動の発端は、新浪氏が今年4月にアメリカで購入したサプリメントにあります。氏が訪れたニューヨーク州では2021年に嗜好用大麻が合法化され、今や街の至る所で大麻製品を販売する店を目にします。アルコールやタバコのように、大麻成分を含むクッキーやオイル、チョコレートやサプリメントなどが合法的に、そしてごく普通に流通しています。新浪氏は「時差ボケが多い」ため、健康管理の相談をしていた知人から強く勧められ、現地では合法であるという認識のもと、このサプリメントを購入したと説明しています。ここで重要になるのが、大麻に含まれる2つの主要な成分、「THC」と「CBD」の違いです。THC(テトラヒドロカンナビノール)いわゆる「ハイ」になる精神活性作用を持つ主要成分です。日本では麻薬及び向精神薬取締法で厳しく規制されており、これを含む製品の所持や使用は違法となります。THCには多幸感をもたらす作用がある一方、不安や恐怖感、短期的な記憶障害や幻覚作用などを引き起こすこともあります。CBD(カンナビジオール)THCのような精神作用はなく、リラックス効果や抗炎症作用、不安や緊張感を和らげる作用などが注目されています。ただし、臨床的に確立されたエビデンスはなく、愛好家にはエビデンスを過大解釈されている側面は否めません。「時差ボケ」を改善するというエビデンスも確立していません。日本では、大麻草の成熟した茎や種子から抽出され、THCを含まないCBD製品は合法的に販売・使用が可能です。新浪氏自身は「CBDサプリメントを購入した」という認識だったと述べていますが、問題はここに潜んでいます。アメリカで合法的に販売されているCBD製品の中には、日本の法律では違法となるTHCが含まれているケースが少なくありません。厚生労働省も、海外製のCBD製品に規制対象のTHCが混入している例があるとして注意を呼びかけています2)。まさにこの「合法」と「違法」の境界線こそが、今回の問題の核心です。潔白を訴えても辞任、なぜ? 日本社会の厳しい目記者会見での新浪氏の説明や報道によると、警察が氏の自宅を家宅捜索したものの違法な製品は見つからず、尿検査でも薬物成分は検出されなかったとされています。また、福岡で逮捕された知人の弟から自身にサプリメントが送られようとしていた事実も知らなかったと主張しています。法的には有罪が確定したわけでもなく、本人は潔白を強く訴えている。にもかかわらず、なぜ辞任に至ったのでしょうか。その理由は、サントリーホールディングス側の判断にありました。会社側は「国内での合法性に疑いを持たれるようなサプリメントを購入したことは不注意であり、役職に堪えない」と判断し、新浪氏も会社の判断に従った、と説明されています。これは、法的な有罪・無罪とは別の次元にある、日本社会や企業における「コンプライアンス」と「社会的信用」の厳しさを物語っているのかもしれません。とくにサントリーは人々の生活に密着した商品を扱う大企業です。そのトップが、たとえ海外で合法であったとしても、日本で違法と見なされかねない製品に関わったという「疑惑」が生じたこと自体が、企業のブランドイメージを著しく損なうリスクとなります。結果的に違法でなかったとしても、「違法薬物の疑いで警察の捜査を受けた」という事実だけで、社会的・経済的な制裁が下されてしまう。これが、日本社会の現実です。科学は「大麻」をどう見ているのか?この一件を機に、私たちは「大麻」そのものについて、科学的な視点からも冷静に見つめ直す必要があるでしょう。世界中で医療大麻が注目される理由は、THCやCBDといった「カンナビノイド」が、私たちの体内にもともと存在する「エンドカンナビノイド・システム(ECS)」に作用するためです3)。ECSは、痛み、食欲、免疫、感情、記憶など、体の恒常性を維持する重要な役割を担っています。この作用を利用し、既存の薬では効果が不十分なさまざまな疾患への応用が進んでいます4)。がん治療の副作用緩和抗がん剤による悪心や嘔吐、食欲不振を和らげる効果。アメリカではTHCを主成分とする医薬品(ドロナビノールなど)がFDAに承認されています。難治性てんかんとくに小児の難治性てんかんにCBDが効果を示し、多くの国で医薬品として承認されています。その他多発性硬化症の痙縮、神経性の痛み、PTSD(心的外傷後ストレス障害)など、幅広い疾患への有効性が研究・報告されています。このように、科学の視点で見れば、大麻はさまざまな病気の患者を救う可能性を秘めた「薬」としての側面を持っています。「酒・タバコより安全」は本当か? リスクの科学的比較「大麻は酒やタバコより安全」という言説を耳にすることもあります。リスクという側面から、これは本当なのでしょうか。単純な比較はできませんが、科学的なデータはいくつかの客観的な視点を提供してくれます。依存性生涯使用者のうち依存症に至る割合は、タバコ(ニコチン)が約68%、アルコールが約23%に対し、大麻は約9%と報告されており、比較的低いとされます5)。しかし、ゼロではなく、使用頻度や期間が長くなるほど「大麻使用障害」のリスクは高まります。致死量アルコールのように急性中毒で直接死亡するリスクは、大麻には報告されていません6)。長期的な健康への影響精神への影響大麻の長期使用、とくに若年層からの使用は、統合失調症などの精神疾患のリスクを高める可能性が複数の研究で示されています。とくに高THC濃度の製品を頻繁に使用する場合、そのリスクは増大すると考えられています7)。また、うつ病や双極性障害との関連も指摘されていますが、研究結果は一貫していません。身体への影響煙を吸う方法は、タバコと同様に咳や痰などの呼吸器症状と関連します。心血管系への影響(心筋梗塞や脳卒中など)も議論されていますが、結論は出ていません8)。一方で、運転能力への影響は明確で、使用後の数時間は自動車事故のリスクが有意に高まることが示されています6)。国際的な専門家の中には、依存性や社会への害を総合的に評価すると、アルコールやタバコの有害性は、大麻よりも大きいと結論付けている人もいます。しかし、これは大麻が「安全」だという意味ではなく、それぞれ異なる種類のリスクを持っていると理解するべきでしょう。世界の潮流と日本のこれからかつて大麻は、より危険な薬物への「入り口」になるという「ゲートウェイ・ドラッグ理論」が主流でした。しかし近年の研究では、もともと薬物全般に手を出しやすい遺伝的・環境的な素因がある人が複数の薬物を使用する傾向がある、という「共通脆弱性モデル」のほうが有力だと考えられています9)。アメリカでは多くの州で合法化が進みましたが、社会的なコンセンサスは得られていません。賛成派は莫大な税収や犯罪組織の弱体化を主張する一方、反対派は若者の使用増加や公衆衛生への悪影響を懸念しています。合法化による長期的な影響はまだ評価の途上にあり、世界もまた「答え」を探している最中です。ただし、新浪氏の問題は、決して他人事ではないと思います。今後、海外で生活したり、旅行したりする日本人が、意図せず同様の事態に陥る可能性は誰にでもあります。また、この一件は、私たちに大きな問いを投げかけています。世界が大きく変わる中で、日本は「違法だからダメ」という思考停止に陥ってはいないでしょうか。もちろん、法律を遵守することは大前提。しかし同時に、大麻が持つ医療的な可能性、アルコールやタバコと比較した際のリスクの性質、そして世界の潮流といった科学的・社会的な事実から目を背けるべきではありません。今回の騒動をきっかけに、私たち一人ひとりが固定観念を一度リセットし、科学に基づいた冷静な知識を持つこと。そして社会全体で、この複雑な問題について、感情論ではなく建設的な議論を始めていくこと。それこそが、日本が世界の「ズレ」から取り残されないために、今まさに求められていることなのかもしれません。 1) NHK. サントリーHD 新浪会長が辞任 サプリメント購入めぐる捜査受け. 2025年9月2日 2) 厚生労働省 地方厚生局 麻薬取締部. CBDオイル等のCBD関連製品の輸入について. 3) Testai FD, et al. Use of Marijuana: Effect on Brain Health: A Scientific Statement From the American Heart Association. Stroke. 2022;53:e176-e187. 4) Page RL 2nd, et al. Medical Marijuana, Recreational Cannabis, and Cardiovascular Health: A Scientific Statement From the American Heart Association. Circulation. 2020;142:e131-e152. 5) Lopez-Quintero C, et al. Probability and predictors of transition from first use to dependence on nicotine, alcohol, cannabis, and cocaine: results of the National Epidemiologic Survey on Alcohol and Related Conditions (NESARC). Drug Alcohol Depend. 2011;115:120-130. 6) Gorelick DA. Cannabis-Related Disorders and Toxic Effects. N Engl J Med. 2023;389:2267-2275. 7) Hines LA, et al. Association of High-Potency Cannabis Use With Mental Health and Substance Use in Adolescence. JAMA Psychiatry. 2020;77:1044-1051. 8) Rezkalla SH, et al. A Review of Cardiovascular Effects of Marijuana Use. J Cardiopulm Rehabil Prev. 2025;45:2-7. 9) Vanyukov MM, et al. Common liability to addiction and “gateway hypothesis”: theoretical, empirical and evolutionary perspective. Drug Alcohol Depend. 2012;123 Suppl 1:S3-17.

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