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せん妄ガイドライン2022年版第2版の主な改訂点を解説

 日本サイコオンコロジー学会 / 日本がんサポーティブケア学会編『がん医療におけるこころのケアガイドラインシリーズ 1 がん患者におけるせん妄ガイドライン 2022年版』(金原出版)を刊行した。2019年の初版に続く改訂2版となる。改訂作業にあたった京都大学医学部附属病院緩和ケアセンター/緩和医療科 精神科医の谷向 仁氏に、主な変更点やポイントを聞いた。 がん患者さんは精神的な問題を抱えることが多いのですが、その対応は医療者個人の診療経験などによってばらつきが認められています。この経験による判断はもちろん大切なのですが、一方でさまざまなバイアスによる影響も懸念されます。 『がん医療におけるこころのケアガイドラインシリーズ』は、がん患者さんの精神的問題に対する対応法の基本となる部分の均てん化を図ることを目的として、多くの医療分野で近年使用されている「Minds診療ガイドライン作成マニュアル」に基づきまとめられています。 2019年の『せん妄ガイドライン』初版にはじまり、今夏刊行の『患者-医療者間のコミュニケーションガイドライン』『遺族ケアガイドライン』、そして現在シリーズ4冊目となる不安と抑うつをテーマとした『がん患者の気持ちのつらさ(仮)』を作成中です。せん妄ガイドラインはオピオイドほかがん特有のトピックを主に解説 せん妄とは、身体的異常や使用薬剤が直接的原因となって引き起こされる意識障害です。あらゆる疾患で起こり得るものですが、がん患者ではその頻度が高く、特に終末期がん患者では80~90%に認められると報告されています。また、骨転移に伴う高カルシウム血症や脳転移、症状緩和の目的で使用されるオピオイドやステロイドなど、がん患者に特有ともいえる背景を有します。さらには、がん患者のみならず家族も含めてのケアが重要となります。 せん妄ガイドラインではこのようながん特有のせん妄に関するトピックに対して、がん患者でのこれまでの質の高い研究報告を中心にシステマティックレビューを行い、検討したものをまとめています。せん妄ガイドライン改訂版ではせん妄予防視点の臨床疑問を追加 せん妄ガイドライン2019年版を発刊以後、その内容について多くの紹介の機会を頂きました。その際、さまざまなコメントと共に、今後の改定に際しての要望も頂いておりました。今回のせん妄ガイドライン改訂版では、それらの貴重なご意見を可能な限り採用して補強するように努めました。せん妄ガイドライン第2版の主な改訂点は主に以下の通りです。1)総論5「終末期せん妄のケアとゴール」の章を新設2)総論6「病院の組織としてせん妄にどう取り組むか」の章を新設3)III章の臨床疑問に「1.予防のための非薬物療法」「2.予防のための抗精神病薬」「6.症状軽減のためのトラゾドン」の3つを追加4)IV章「臨床の手引き」を新設 せん妄は発症後の対応が中心であった一昔前と異なり、近年では「せん妄を発症させない」予防が非常に重要と考えられるようになってきています。2020年度診療報酬改定で新設された「せん妄ハイリスクケア加算」はまさにせん妄予防を評価するという流れを反映したものです。せん妄予防では医師、看護師、薬剤師など多職種によるチーム医療、そして、組織としての取り組みが非常に重要となります。 また、ガイドラインの結果を臨床にどのように活かすことができるかという具体的な手引きの要望も多く聞かれたことから、まず薬物療法についての解説を加えました。さらに、可逆性のせん妄対応とは大きく異なり、不可逆性の転帰が多い終末期せん妄に対する解説を充実させました。せん妄ガイドラインをがん診療に携わるすべての医療者に がん患者さんのせん妄に初めに遭遇するのは、せん妄診療を行う精神科医や心療内科医ではなく、がん治療に携わる医療者です。また、予防、早期発見と対応(原因検索とその対応)が大切であり、これらをチームで展開することが求められます。がん治療に携わる医師はもちろんのこと、看護師、薬剤師の方々などがん医療に携わるすべての医療者に手に取っていただき、せん妄ガイドラインを日々の診療に役立てていただきたいと思っています。書籍紹介『がん患者におけるせん妄ガイドライン 2022年版』

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第123回 マジか…コーヒー店で遭遇したコロナ様症状有する“抗原検査で陰性”の人

先日、私はあるコーヒーチェーンの店舗にノートパソコンを持ち込んで仕事をしていた。電源のある席は窓際に位置する横一列のカウンター席。隣の席との間がアクリル板ならぬ、卵パック程度の薄さのプラスチックシートで区切られていた。私の隣には女性が座っていたが、その彼女がマスクを外した状態で時折軽い咳をする。私は気にしないふりをして実は気にしていた。「気にしないふり」を敢えてしていたのは、人によっては呼吸器感染症ではなくとも咳が出てしまう人もいるからだ。昨年、私がお世話になっている編集者が咳喘息と診断され、外出先でマスク越しに咳をしても周囲から白眼視されるのがつらいという話を聞いていた。そして私もごくまれにどうしても咳が出てしまうこともある。咳一つであまり神経質にはなりたくない。やせ我慢と言われようとも人にはそれぞれ事情があるのだからと、こうしたシーンでは努めて平静を装っている。仕事を始めて1時間半ぐらい経った時も隣にはその女性がいた。しかも数分おきに咳をしている。その彼女が突然スマートフォンを片手に話し始めた。「ああ、○○(人の名前)!うん、夕べさ38℃を超える熱が出てさ、すぐあの抗原検査キットっていうの? で検査したけど陰性だった。今朝はまだ37℃台だったけどお昼には37℃切ったんで、たぶん何でもない。もう平気。今日の夜は行けるよ」これを聞いた瞬間、私は凍り付いた。この状況下を考えれば、抗原検査とはまさに新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)で使う抗原定性検査(以下、抗原検査)に他ならない。もやはここで書くのは釈迦に説法だが、抗原検査の感度は発売当初よりも改善されたとはいえ、PCR検査よりは劣る。しかも、現時点でインターネット上では国による性能確認が行われていない研究用のものが購入できる。念のため記述しておくと、発売当初は陽性判定をそのまま確定診断として用いることができたが、陰性の場合はPCR検査による確定診断が必要だった。その後、発症2~9日以内の有症状者では、抗原検査キットとPCR検査の結果の一致率が高いことが確認されたため、該当する人で鼻咽頭拭い液による抗原検査の陰性でも確定診断が行えるようになっている。私が遭遇したこの女性がもし新型コロナだったと仮定したら検査をしたのは発症当日。この段階の陰性という結果は信頼性が担保されているとは言えない。この女性には悪いが私はすぐさま荷物を持って席を立ち、そこからかなり離れた電源のない席に慌てて移動した。この後、3日間、私は仕事場とするアパートにほぼこもりきりになり、自宅に戻った際もマスクを着用したまま過ごすことになった。この日から既に2週間弱が過ぎているが、私も家族もとくに異常はない。現在の第7波の感染拡大と発熱外来のひっ迫を受け、国はインターネットで医療用の認可を受けた抗原検査の販売を解禁する方針を明らかにしている。販売に当たっては薬剤師がメールなどで正しい使用法や陽性時の対応を説明することにはなっている。しかし、こうしたものはかなり薬剤師が徹底して説明したとしても、消費者は自分に都合の良い情報しか記憶に残さないものだ。そしてこの抗原検査も唾液ではなく鼻咽頭ぬぐい液の場合、消費者が自分で正確に検体を採取することができるかはかなり疑問である。少なくとも自分はできる自信があまりない。また、有症状者ならばまだしも、そうした人と濃厚接触者あるいはその疑いのある無症状者が抗原検査で陰性と判定された場合、人との接触を一時的に控え目にするなどの対策を取るだろうか? むしろ前述の女性のように安易に「セーフ」判定と思い込むのではないだろうか?「発熱外来の逼迫を避けるため」という目的で解禁される医療用抗原検査キットが逆に感染拡大傾向に拍車をかけてしまうのではないかと老婆心ながら危惧している。また、私はこのほかにも危惧していることがある。この第7波の影響で医療用の解熱鎮痛薬アセトアミノフェンが供給不安定な状態にあることは医療従事者ならご存じのはず。そして約2週間前にはこの余波でアセトアミノフェンの代替にもなる医療用のロキソニン、呼吸器症状の緩和に使うカルボシステインやトラネキサム酸も出荷調整中となった。さて、万が一の時に備えて、あるいは何らかの症状を感じてインターネットで抗原検査キットを購入する人は併せて解熱鎮痛薬も購入するだろうか? 私には彼らの多くは抗原検査キットのみを購入し、万が一陽性となった時に慌てふためくだけの姿が思い浮かぶ。販売時に説明を行った薬剤師が適切に相談に応じ、OTC医薬品のアセトアミノフェンやそのほかの解熱鎮痛薬の購入を勧める、あるいは直接配達するなどの対応が取れれば良いかもしれないが、平時から多忙な薬局に単価の安いOTC医薬品の配達などをお願いするというのは酷である。結局のところ、有症状者・無症状者を含め陽性となった人は医療機関に向かうだけではないだろうか? その結果、発熱外来などは逼迫し、アセトアミノフェンなどもさらに供給不安に陥ってしまうかもしれない。アセトアミノフェンと言えば、一般人も昨今の感染拡大や新型コロナワクチン接種後の発熱の緩和のために使用するようになり医療用の製品名「カロナール」として知っている人も増えてきた。しかし、こうした一般人はアセトアミノフェンを発熱患者だけでなく、がん性疼痛や高齢者では珍しくない変形性膝関節症や腰痛などの整形外科領域の症状でも使うメジャーな薬であるとはほとんど知らないだろう。先日、都内のある保険薬局の薬剤師と話していて、「すでに供給不安は現実になっていて、オピオイドと併用している患者では医師と相談しながら恐る恐るアセトアミノフェンを減量している」と聞かされ、私もその深刻度を改めて思い知った。この薬剤師によると、もし錠剤の供給が今以上に不足すれば、最悪は原末で提供しなければならなくなるという。がん性疼痛で使われるアセトアミノフェンの1日量は最大4,000mg。原末でこれだけの量を服用することになったら患者はどんなにつらいことだろうと思う。正直なところ、今回の国が決めた医療用抗原検査のインターネット販売解禁は、単に目先の患者の流れを変えるためだけに場当たりで行っているようにしか思われない。その司令塔、過去の本連載(第120回)で私が「延焼を続ける山火事の消火を部下の消防士に適当に指示して、自らは外出先で火遊びをする消防署長」と評した岸田 文雄首相は8月21日に新型コロナを発症し、現在はリモートで業務に当たっている。ちなみに首相とその周辺は1週間に2回ほど抗原検査を行い、頻繁に行っていた夜の会食時には出席者に事前に抗原検査の陰性確認を求めていたという。やらないよりはましだが、今風に言えば「もにょる」*対応である。*「もにょもにょする」というほかに形容しがたい感覚、感情、感触などを表現する言い回し。こそばゆい感じ、違和感やわだかまりを覚える感じ、すっきりしない印象、などを形容する場合に用いられることが多く、その意味では「むずむず」「もやもや」のニュアンスに近い。口ごもる様子をもにょると表現する例もある(実用日本語表現辞典より)その岸田首相を筆頭とする国へより緻密な対応を求めるのは「木に縁りて魚を求む」なのか?

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注目高まる、緩和目的の放射線治療と神経ブロック【非専門医のための緩和ケアTips】第34回

第34回 注目高まる、緩和目的の放射線治療と神経ブロックがん疼痛に対し、医師がまず試みるのはオピオイドなどの薬物療法でしょう。一方、薬物療法だけではなかなか緩和できない痛みがあることも事実です。そのような時に強い味方になるのが「放射線治療」と「神経ブロック」です。あまりなじみのない方も多いかもしれませんが、最近注目されている分野です。今日の質問オピオイドで鎮痛を試みても、がん疼痛がなかなか緩和しない患者さん。本人はつらそうですし、私たちも無力感が募ります。こういった難治性のがん疼痛はどのように対応したらよいのでしょうか?緩和ケアを実践する立場として切実な問題ですよね。こうした薬物療法で緩和できないがん疼痛は、「難治性がん疼痛」としてアプローチする必要があります。そこで重要になるのが薬物以外の介入です。その代表が、「放射線治療」と「神経ブロック」です。放射線治療はがん治療において広く使われていますが、がん疼痛を緩和する目的でも活用できます。とくに骨転移の痛みに対して非常に重要です。放射線治療の難点を挙げれば、「専門とする医師が少ない」ことと「放射線治療の装置が必要となるためにがん拠点病院のような大規模の病院でしか提供できない」ことです。さらに、放射線治療は通院で行うことが多いため、「通院の負担をある程度許容できる患者さんである」ことも条件です。ただし、症状緩和を目的とした放射線治療は照射回数を少なくするなど負担軽減の工夫も可能です。直接、放射線治療医に相談してみるとよいでしょう。続いて紹介するのが、神経ブロックです。最も有名なのが、膵臓がんにおける難治性がん疼痛に対して行うものです。CTで事前にターゲットになる神経叢を評価し、透視下で実施するケースが多いでしょう。痛みを伝える神経に直接アプローチするため、高い鎮痛効果を期待できます。神経ブロックも放射線同様に、術者が少ないことが課題です。麻酔科の先生が対応していることが多いのですが、専門に取り組んでいる方はなかなかいないのが現状です。このように放射線治療も神経ブロックも提供体制に課題を抱えており、自分の診療地域の状況を把握しておく必要があります。提供体制の課題の背景には、さまざまな要素が複雑に絡み合っています。医師育成や地域の配分、キャリア選択など、いろいろな論点があるのですが、まずはこういった難治性がん疼痛に対する知識を身に付けることが重要です。その上で、自分が診療しているエリアにおいては、どの医療機関がどういった連携や提供体制を整備しているのか、情報収集しましょう。これらの難治性がん疼痛に対する治療は、今後、整備が進むことが予想されます。とくにがん拠点病院においては、地域連携も含めたしっかりした提供体制の構築が求められることになりそうです。先日開催された日本緩和医療学会の学術集会においても、難治性がん疼痛に対する放射線治療および神経ブロックの提供体制を向上させる議論が活発に行われました。今後の動きに注目していただければと思います。今回のTips今回のTips放射線治療と神経ブロックもがん疼痛には大切な治療法。自分の地域の提供体制を確認してみよう。

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実は変わってますよ! WHOの「がん疼痛ガイドライン」【非専門医のための緩和ケアTips】第33回

第33回 実は変わってますよ! WHOの「がん疼痛ガイドライン」今日は緩和ケアにおけるメジャートピックである、がん疼痛に対する鎮痛アプローチのお話です。皆さんはWHOの「がん疼痛ガイドライン」って、聞いたことがある方が多いのではないでしょうか?この中の「WHOラダー」は、実際の臨床に活用している方も多いと思います。実は最近このアプローチが大きく変わってきているので、一緒に学んでいきましょう。今日の質問がん疼痛における基本指針といえば、WHOラダーですよね。私も長年、ラダーに従って実践してきたのですが、最近、変更があったと聞きました。どういった点が変更されたんでしょうか?ご質問者のおっしゃる通り、WHOのがん疼痛治療が変更になりました。そして私たち、長年緩和ケアに関わってきた医療者にとって非常になじみ深かった、「WHOラダーの推奨」が削除されることになりました。え! と思われた方も多いかもしれませんので、その背景をお話ししていきましょう。1990年代から2000年代に緩和ケアを学んだ方は「がん疼痛といえばWHOラダー!」と教わったと思います。「がん疼痛を見たら、まずはNSAIDsを使用し、弱オピオイドを導入、その後は強オピオイドを用いる」というアプローチです。この「ステップを踏んでいく」のが、ラダー(梯子)の名称たるゆえんです。ただ、最初から強い痛みを訴えるがん患者さんに対し、ラダー通りに「手順を踏む」よりも、最初から強いオピオイドを使用したほうがよいのでは? というのは長く議論されていた点でした。そして、2019年にがん疼痛のWHOガイドラインが改定され、従来の「がん疼痛の5原則」から「ラダーに基づいて」の項目が削除され、4原則となりました。この変更はわれわれにとってどういった意味を持つのでしょうか? ここからは私見になりますが、「今まで以上に、個別の患者さんごとに、最適ながん疼痛への対応が求められる」のだと感じます。「ラダーに従えば、次は弱オピオイドなので、とりあえずそれで処方しよう」といった実践ではなく、痛みの程度や経過の予測を踏まえて、適切な介入が求められているのだと思います。緩和ケアに関わるほとんどの方が耳にしてきた「WHOのガイドライン」もこうして時代に合わせて改定されます。目の前の患者さんにベストの治療を提供するためにわれわれもアップデートしていく必要性を感じます。今回のTips今回のTipsWHOのがん疼痛への鎮痛アプローチが変更されています。これまで以上に個別の患者さんごとに、最適ながん疼痛への対応が求められるでしょう。

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オピオイド使用者へのブプレノルフィン、導入促進に有効なのは?/BMJ

 ブプレノルフィンはオピオイド使用障害(opioid use disorder)の最も効果的な治療法の1つであり、救急診療部で安全に治療を開始できることが知られているが、その臨床導入は遅れているという。米国・イェール大学医学大学院のEdward R. Melnick氏らは、EMBED(EMergency department initiated BuprenorphinE for opioid use Disorder)と呼ばれるオピオイド使用者が主体となる臨床意思決定支援のための介入法の、救急診療部でのブプレノルフィン導入における有効性について検討し、このツールは通常治療と比較して、救急診療部におけるブプレノルフィン治療の導入の患者レベルでの割合を増加させないことを確認した。研究の詳細は、BMJ誌2022年6月27日号に掲載された。米国の救急診療部のクラスター無作為化対照比較試験 本研究は、救急診療部でのブプレノルフィン治療の導入におけるEMBEDの有効性の評価を目的に、米国の北東部、南東部、西部地域の5州の5つの保健システムに参加している18のクラスター(21の救急診療部)で行われた実践的なクラスター無作為化対照比較試験であり、2019年11月~2021年5月の期間に実施された(米国国立衛生研究所[NIH]の助成を受けた)。 クラスターは、EMBEDによる介入を行う群または通常治療を行う群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 オピオイド使用者主体の医師向けの臨床意思決定支援システムであるEMBEDは、電子健康記録(EHR)の診療過程と円滑に統合されており、医師によるオピオイド使用障害の診断、離脱症状の重症度の評価、患者の治療への動機付けを支援することで、救急診療部でのブプレノルフィン治療の開始を促す。また、このシステムでは、受診後の文書作成や受注、処方、紹介が自動化されており、これによりEHRを完成することができる。 主要アウトカムは、オピオイド使用障害者における救急診療部でのブプレノルフィン治療の導入(投与または処方)の割合とされた。医師レベルでの治療開始は増加 141万3,693件(介入群77万5,873件、通常治療群63万7,820件)の救急診療部受診について解析が行われた。 オピオイド使用障害は5,047例(年齢中央値36.0歳[29.0~47.0]、女性1,730例[34.3%])で認められ、救急診療部の医師599人(年齢層中央値35~44歳[206人、39.3%]、女性173人[33.0%])が治療を行った。このうち、介入群が2,787例(医師340人)、通常治療群は2,260例(医師259人)であった。 ブプレノルフィン治療は、患者レベルでは、介入群が347例(12.5%)、通常治療群は271例(12.0%)で導入されたが、両群間に有意な差は認められなかった(一般化推定方程式での補正後オッズ比[OR]:1.22、95%信頼区間[CI]:0.61~2.43、p=0.58)。 一方、少なくとも1回のブプレノルフィン治療を導入した医師は、介入群が151人(44.4%)と、通常治療群の88人(34.0%)に比べ有意に多かった(補正後OR:1.83、95%CI:1.16~2.89、p=0.01)。 著者は、「依存症の治療における他の課題に対処するとともに、オピオイド使用障害者の救急診療部におけるブプレノルフィン治療の導入の割合を高めるためには、EMBEDに加え、他の介入を使用する必要がある」としている。

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がんの緩和ケア、放射線・神経ブロック治療普及のセミナー開催

 働くがん患者を企業と一緒に支援する厚生労働省の取り組み「がん対策推進 企業アクション」は、6月28日、「がん治療における緩和ケア」をテーマとしたメディア向けセミナーを開催した。これは、6月9日に厚生労働省が医療者への啓蒙と一般患者への説明用として、がんにおける緩和ケアを説明する資料1)を作成し、都道府県衛生主管部(局)、がん診療連携拠点病院等の病院長、日本医師会を通じて広報をはじめたことを受けたもの。資料は、心理的・精神的ケアを含めて診断時から緩和ケアが受けられること、痛みへの対応としてオピオイド等の使用だけでなく放射線治療や神経ブロック等の活用を促すこと、が主な内容となっている。 セミナーの冒頭では、がん対策推進 企業アクション議長の中川 恵一氏(東京大学 総合放射線腫瘍学講座 特任教授)が「日本国内では年間100万人ががんに罹患し、38万人が命を落としている。その3分の1は働く世代であり、この年代にも緩和ケアは重要なテーマ。日本はこの分野において遅れが目立つ」と述べた。「これまで、日本では治すことが最優先され、癒すという観点が後手になりがちだった。緩和ケアも進行がんの終末期患者を中心に行われてきたが、2006年に制定されたがん対策基本法に基づき、あらゆる種類・進行状態のがん患者に提供するよう医療者への働きかけを進めており、今回の資料作成もその一環だ」と説明した。加えて、「がんの疼痛緩和の基本はオピオイド等の処方だが、それが効かない場合には放射線治療や神経ブロックが有効であり、その周知や実施を進めることが患者のQOLの維持・改善のために必要だ」とした。 その後、沖縄徳洲会病院の服部 政治氏(疼痛治療科統括 部長)が「がん疼痛治療の現状」と題した講演を行った。服部氏が積極的に行っている疼痛緩和目的の神経ブロックは、全国の実施回数が年間300回と非常に少ない水準に留まっている。服部氏は「がんの疼痛には鎮痛薬の内服や皮下注、手術・放射線治療、そして神経ブロック療法・脊髄鎮痛法がある。治療初期は鎮痛薬、それが効かなくなったら放射線、最後に神経ブロックと直線的に各手法が提供されているのが現状」と説明した。そして、「疼痛緩和のためモルヒネを大量投与されているケースにおいて神経ブロックを行うことで痛みを軽減させ、モルヒネの投与量を10分の1程度まで減らせることが複数のデータで示されている。神経ブロックを施術したことで終末期患者が在宅診療に切り替えられた例もあるが、オピオイドの投与量は一気には減らせないため、大量投与になる前の初期から、複数の緩和ケアの手法を組み合わせて提供することが有効だ」と説明した。そして、現状の課題として「20年ほど前まで一般的だった神経ブロック・脊髄鎮痛法が行われなくなった結果、施術できる医師、研修できる施設が減っている。鎮痛薬に偏った日本における緩和ケアの課題感を共有し、人材育成を進めることが重要だ」と強調した。

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術後オピオイド、退院後の疼痛への有効性は?/Lancet

 手術後の退院時におけるオピオイドの処方は、オピオイドを使用しない鎮痛レジメンと比較して、退院後の疼痛の強度を軽減しない可能性が高く、嘔吐などの有害事象の有意な増加をもたらすことが、カナダ・マギル大学のJulio F. Fiore Jr氏らの調査で示された。研究の詳細はLancet誌2022年6月18日号に掲載された。退院後の疼痛強度、有害事象をメタ解析で評価 研究グループは、退院時のオピオイド処方が自己申告による疼痛の強度や有害事象にどの程度の影響を及ぼすかを評価する目的で、無作為化臨床試験の系統的レビューとメタ解析を行った(カナダ保健研究機構[CIHR]の助成を受けた)。 1990年1月1日~2021年7月8日の期間にデータベース(MEDLINE、Embase、the Cochrane Library、Scopus、AMED、Biosis、CINAHL)に登録された文献が検索された。 対象は、Physiological and Operative Severity Score for the Enumeration of Mortality and Morbidity(POSSUM)の定義(小手術、中手術、大手術、複雑な大手術)に基づく手術手技を受けた後に退院した年齢15歳以上の患者において、オピオイドを用いた鎮痛とこれを使用しない鎮痛を比較した複数回投与の無作為化対照比較試験とされた。 主要アウトカムは、退院後1日目における自己申告による疼痛強度(0~10cmの視覚アナログ尺度[VAS]で標準化)と、30日以内の嘔吐とされた。変量効果によるメタ解析が行われ、エビデンスの確実性が評価された。不満足度、再受診などには影響がない 47件の試験(合計6,607例、女性59%、平均年齢の範囲21~63歳)が解析の対象となり、36件が退院後1日目の疼痛強度の評価を、12件が手術後の嘔吐のリスクの評価を行っていた。25件(53%)は北米、11件(23%)は欧州の試験であり、30件(64%)は待機的な小手術(63%が歯科)、17件(36%)は中手術(47%が整形外科、29%が一般外科)の試験であった。企業による資金提供を受けた試験が10件(21%)含まれた。フォローアップ期間中央値は7日(IQR:4.25~10.0)だった。 オピオイドの処方は非オピオイド鎮痛薬に比べて、退院後1日目の疼痛を軽減しなかった(加重平均差:0.01cm、95%信頼区間[CI]:-0.26~0.27、エビデンスの確実性:中程度)。この95%CI値は、最小重要差(MID:患者が重要と認識する最小のスコアの変化で、VASの10cmのうち1cmの変化に相当)の閾値の範囲内であり、オピオイドが手術後の疼痛緩和に及ぼす効果が臨床的に意義のある可能性はほとんどないと示唆された。1日目以外の手術後の経過日においても、オピオイドによる疼痛緩和効果は認められなかった。 また、オピオイドの処方は、嘔吐のリスクを増大させた(発生率:10.9% vs.1.3%、相対リスク:4.50、95%CI:1.93~10.51、エビデンスの確実性:高い)。さらに、オピオイド処方により、有害事象全体のリスクが有意に増加(相対リスク:1.78、95%CI:1.20~2.66、エビデンスの確実性:低い)するとともに、吐き気(2.37、1.59~3.55、高い)、便秘(1.63、1.04~2.57、高い)、めまい(2.22、1.20~4.08、高い)、眠気(1.57、1.02~2.42、中程度)のリスクも増加した。 一方、オピオイドの処方は、そのほかのアウトカム(疼痛管理の不満足度、患者転帰[有害事象または治療無効による試験中止]、医療の再利用[再受診]、そう痒、頭痛、錯乱、下痢など)には影響しなかった。 著者は、「これらのエビデンスは、待機的な小手術(歯科、手の処置など)や中手術(低侵襲の整形外科手術、一般外科手術など)を中心とする試験に依拠しており、このような外科的処置ではオピオイドを使用しない鎮痛薬の処方を考慮してよいことが示唆される。また、大手術(肺、腸、肝臓の切除など)または複雑な大手術(胸腹部手術、多臓器切除など)を受け、退院時にオピオイドを含まない鎮痛薬が処方された患者について検討した試験はなく、データの多くがバイアスのリスクが高い試験から得られたものであった。これらの限界を考慮すると、この分野の研究の質を向上させ、領域を広げることがきわめて重要である」としている。

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子宮内膜症、レルゴリクス併用療法が有効か/Lancet

 経口ゴナドトロピン放出ホルモン受容体拮抗薬レルゴリクス+エストラジオール+酢酸ノルエチステロン併用療法は、子宮内膜症関連疼痛を有意に改善し、忍容性も良好であることが、米国・カリフォルニア大学のLinda C. Giudice氏らが実施した2つの多施設共同無作為化二重盲検第III相試験「SPIRIT 1試験」と「SPIRIT 2試験」の結果、示された。著者は、「この経口療法は、オピオイドの使用や外科的治療の必要性を減らし、子宮内膜症の長期薬物療法に対するアンメットニーズを解決する可能性がある」とまとめている。子宮内膜症は女性の骨盤痛でよくみられる原因であり、現状では最適な治療選択肢がない。Lancet誌2022年6月18日号掲載の報告。レルゴリクス併用療法vs.プラセボvs.遅延レルゴリクス併用療法を比較検討 SPIRIT 1試験およびSPIRIT 2試験は、アフリカ、オーストララシア、欧州、北米、南米の計219施設で、組織学的確定診断の有無にかかわらず外科的または視診により診断された子宮内膜症、または組織学的確定診断のみの子宮内膜症を有する18~50歳の女性を対象に実施された。被験者の適格基準は、35日間の導入期間に月経困難症の数値的評価スケール(NRS)スコア4点以上が2日以上、非月経性骨盤痛のNRS平均スコアが2.5以上、または平均スコア1.25以上(スコア5以上を含む)が4日以上の中等度~重度の子宮内膜症関連疼痛を有する患者とした。 研究グループは被験者を、プラセボ群、レルゴリクス併用療法群(レルゴリクス40mg、エストラジオール1mg、酢酸ノルエチステロン0.5mg)、遅延レルゴリクス併用療法群(レルゴリクス40mg単剤を12週間後にレルゴリクス併用療法を12週間)の3群に1対1対1の割合で無作為に割り付け、1日1回24週間経口投与した。二重盲検無作為化治療期間およびフォローアップ期間中、全患者、研究者およびスポンサーのスタッフ/代表者は、治療の割付をマスキングされた。 主要評価項目は、治療終了時(24週時)における月経困難症および非月経性骨盤痛それぞれの、NRSスコアと鎮痛剤使用に基づく奏効患者の割合(奏効率)であった。 SPRIT 1試験では、2017年12月7日~2019年12月4日の期間に638例が登録され、レルゴリクス併用療法群212例(33%)、プラセボ群213例(33%)、遅延レルゴリクス併用療法群213例(33%)に無作為化された。SPRIT 2試験では2017年11月1日~2019年10月4日の期間に623例が登録され、レルゴリクス併用療法群208例(33%)、プラセボ群208例(33%)、遅延レルゴリクス併用療法群207例(33%)に無作為化された。SPIRIT 1試験で98例(15%)、SPIRIT 2試験で115例(18%)が早期に試験を中止した。レルゴリクス併用療法で月経困難症および非月経性骨盤痛が有意に改善 月経困難症に対する奏効率は、SPIRIT 1試験でレルゴリクス併用療法群75%(158/212例)、プラセボ群27%(57/212例)(群間差:47.6%、95%信頼区間[CI]:39.3~56.0、p<0.0001)、SPIRIT 2試験でそれぞれ75%(155/206例)および30%(62/204例)(44.9%、36.2~53.5、p<0.0001)であった。 非月経性骨盤痛に対する奏効率は、SPIRIT 1試験でレルゴリクス併用療法群58%(124/212例)、プラセボ群40%(84/212例)(群間差:18.9%、95%CI:9.5~28.2、p<0.0001)、SPIRIT 2試験でそれぞれ66%(136/206例)、43%(87/204例)(23.4%、13.9~32.8、p<0.0001)であった。 最も頻度の高い有害事象は頭痛、鼻咽頭炎、ホットフラッシュであった。自殺企図は両試験で9例(プラセボ導入期2例、プラセボ群2例、レルゴリクス併用療法群2例、遅延レルゴリクス併用療法群3例)が報告されたが、死亡の報告はなかった。 腰椎骨密度の最小二乗平均変化率(レルゴリクス併用療法群vs.プラセボ群)は、SPIRIT 1試験で-0.70% vs.0.21%、SPIRIT 2試験で-0.78% vs.0.02%であった。また、遅延レルゴリクス併用療法群では、SPIRIT 1試験で-2.0%、SPIRIT 2試験で-1.9%であった。 プラセボ群と比較してレルゴリクス併用療法の2群で、オピオイド使用の減少が認められた。

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事例002 リフィル処方箋に係る処方箋料の留意事項(メリット・デメリット)【斬らレセプト シーズン3】

解説2022年度改定から導入された「リフィル処方箋」とは、「医師の処方に基づいた調剤薬局の薬剤師による服薬管理の下で、最大3回まで反復使用して長期にわたる処方が可能な処方箋」のことです。この処方箋で患者にとっては、通院回数が減るというメリットがあります。実質的には長期処方ですが、1回の使用当たり29日分以内であれば、院外処方箋料の長期減算の対象外となります。患者にとって通院回数が減るということは、対面による患者の医学管理も定期的に行えなくなるデメリットが生じます。患者には、おかしいなと感じたら躊躇せずに当院を受診されるように伝えておくことが肝要です。60日分を超える長期処方の受診が多い医療機関にはメリットがありますが、毎月受診を奨励されている医療機関が導入されると診察料と指導管理料の減収にもつながります。毎月の受診をしていただくためには、医学的な管理と服薬状況の確認の必要性を患者に適切に伝え、毎月の受診が必要であることを理解していただけるように、さらなる工夫が必要となるでしょう。リフィル処方箋の最大の特徴と言えるのは、「調剤薬局の薬剤師による服薬管理」です。調剤薬局の薬剤師は、2回目以降の調剤時に患者の状態を確認して、医師の診察が必要と判断したら、患者に受診を促さなければなりません。医療機関では調剤薬局薬剤師の判断に誠実に対応しなければなりません。また、リフィル処方箋では投与できる薬剤が制限されています。療養担当規則で投薬量の限度が定められている医薬品(麻薬、向精神薬や抗不安薬など)と湿布薬です。これらの薬剤をリフィル処方箋に含めていると病院の診療報酬からの相殺が考えられます。処方箋は2枚発行する必要があります。さらに、リフィル対応薬剤であっても、投薬期間が異なる複数の薬剤を処方された場合には、期間に応じた枚数のリフィル処方箋に分ける必要があることを申し添えます。

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高齢患者の「薬が飲めなくなった」という状況に使えるのは?【非専門医のための緩和ケアTips】第30回

第30回 高齢患者の「薬が飲めなくなった」という状況に使えるのは?緩和ケアを実践していると、よく遭遇するのが「薬が飲めなくなった」という状況です。こんなとき、皆さんはどうしていますか? 症状緩和に必要な薬剤の投与を継続するための強い味方、皮下投与に関するお話です。今日の質問終末期、多くの患者さんは内服が難しくなります。がん疼痛などでオピオイドを使用していると、静脈投与に切り替えようと思っても末梢ルートが取れないことも多いです。貼付剤もあるのは知っていますが、レスキューが必要な場合、どのように対応すればよいのでしょうか?今回いただいた質問のような状況は、非常に多く経験します。終末期であれば内服ができなくなるのは当然のことです。また、がん患者や高齢者では、抗がん剤の影響や皮膚の脆弱性によって末梢ルートの確保が難しいこともよくあります。何度もルート確保に失敗すると、苦痛緩和のために行う処置が苦痛の原因になってしまう……。避けたい事態です。では、そんな時にどのようにすればよいのでしょうか? 緩和ケア領域では、しばしば皮下投与が行われます。今回の状況であれば、モルヒネやオキシコドンの注射薬がありますので、それらの持続皮下投与が使えます。皮下投与は静脈ルートの確保が必要ないので、手技的には非常に簡便です。認知症高齢者やせん妄患者が自己抜去してしまった際も、出血が少ないので安全です。また、投与可能な薬剤もオピオイドだけでなく、ハロペリドールや腸閉塞に対して使用するオクトレオチド、セフトリアキソンといった一部の抗菌薬も皮下投与が可能です。皮下投与には注意が必要な面もあります。一つは、静脈投与に比べて効果発現までに時間がかかる、という点です。非常に強い症状に対して急速な鎮静が必要、といった場合には向きません。また、皮下投与が可能な薬剤の多くは適応外使用となります。「経験上、安全かつ有効な投与が可能と見なされる」という位置づけで、この点は理解しておく必要があります。このあたりは皮下投与に限らず、緩和ケア領域で使用する薬剤では常に出てくる懸念です。オピオイドを皮下投与で行う場合は、少量ずつ持続投与します。そのために皮下投与用のデバイスが必要となり、多くの施設の緩和ケア病棟で利用されています。在宅医療の場合には、持続皮下投与のためのシリンジポンプが必要です。皮下投与が使えると、緩和ケアの対応の幅がぐっと広がります。デバイスが必要にはなりますが、ぜひ活用してください。今回のTips今回のTips内服が難しくなった患者さんには、皮下投与が有効です。

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添付文書改訂:カナグルに2型糖尿病CKD追加/ツートラムにがん疼痛追加/コミナティ、スパイクバックスに4回目接種追加/エムガルティで在宅自己注射が可能に/不妊治療の保険適用に伴う追記【下平博士のDIノート】第100回

カナグル:2型糖尿病患者のCKD追加<対象薬剤>カナグリフロジン水和物(商品名:カナグル錠100mg、製造販売元:田辺三菱製薬)<承認年月>2022年6月<改訂項目>[追加]効能・効果2型糖尿病を合併する慢性腎臓病。ただし、末期腎不全または透析施行中の患者を除く<Shimo's eyes>SGLT2阻害薬については近年、心血管予後・腎予後の改善効果を示した大規模臨床研究が次々と発表されています。本剤は2型糖尿病患者の慢性腎臓病(CKD)に対する適応追加で、用法・用量は既承認の「2型糖尿病」と同じとなっています。2022年6月現在、類薬で「CKD」に適応があるのはダパグリフロジン(同:フォシーガ)、「心不全」に適応があるのはダパグリフロジンおよびエンパグリフロジン(同:ジャディアンス)となっています。ツートラム:がん疼痛が追加<対象薬剤>トラマドール塩酸塩徐放錠(商品名:ツートラム錠50mg/100mg/150mg、製造販売元:日本臓器製薬)<承認年月>2022年5月<改訂項目>[追加]効能・効果疼痛を伴う各種がん<Shimo's eyes>本剤は、速やかに有効成分が放出される速放部と、徐々に有効成分が放出される徐放部の2層錠にすることで、安定した血中濃度推移が得られるように設計された国内初の1日2回投与のトラマドール製剤です。今回の改訂で、がん患者の疼痛管理に本剤が使えるようになりました。本剤を定時服用していても疼痛が増強した場合や突出痛が発現した場合は、即放性のトラマドール製剤(商品名:トラマールOD錠など)をレスキュー薬として使用します。なお、レスキュー投与の1回投与量は、定時投与に用いている1日量の8~4分の1とし、総投与量は1日400mgを超えない範囲で調節します。鎮痛効果が不十分などを理由に本剤から強オピオイドへの変更を考慮する場合、オピオイドスイッチの換算比として本剤の5分の1量の経口モルヒネを初回投与量の目安として、投与量を計算することが望ましいとされています。なお、ほかのトラマドール製剤(商品名:トラマール注、トラマールOD錠、ワントラム錠)は、すでにがん疼痛に対する適応を持っています。参考日本臓器製薬 ツートラム錠 添付文書改訂のお知らせコミナティ、スパイクバックス:4回目接種が追加<対象薬剤>コロナウイルス修飾ウリジンRNAワクチン(SARS-CoV-2)(商品名:コミナティ筋注、製造販売元:ファイザー/商品名:スパイクバックス筋注、製造販売元:武田薬品工業)<承認年月>2022年4月<改訂項目>[追記]接種時期4回目接種については、ベネフィットとリスクを考慮したうえで、高齢者等において、本剤3回目の接種から少なくとも5ヵ月経過した後に接種を判断することができる。<Shimo's eyes>オミクロン株流行期において、ワクチン4回目接種による「感染予防」効果は短期間とはいえ、「重症化予防」効果は比較的保たれると報告されています。それを踏まえ、4回目の追加接種の対象は、60歳以上の者、18歳以上60歳未満で基礎疾患を有する者など、重症化リスクが高い方に限定されました。また、3回目以降の追加免疫の間隔はこれまで「少なくとも6ヵ月」となっていましたが、今回の改訂で「少なくとも5ヵ月」と短縮されました。追加免疫の投与量については、コミナティ筋注は初回免疫(1、2回目接種)と同じく1回0.3mL、スパイクバックス筋注の場合は、初回免疫は1回0.5mLですが、追加免疫では半量の1回0.25mLとなっています。参考ファイザー 新型コロナウイルスワクチン 医療従事者専用サイト武田薬品COVID-19ワクチン関連特設サイト<mRNAワクチン-モデルナ>エムガルティ:在宅自己注射が可能に<対象薬剤>ガルカネズマブ(遺伝子組み換え)注射液(商品名:エムガルティ皮下注120mgオートインジェクター/シリンジ、製造販売元:日本イーライリリー)<承認年月>2022年5月<改訂項目>[追記]重要な基本的注意、副作用自己投与に関する注意<Shimo's eyes>薬価収載から1年が経過し、本剤の在宅自己注射が可能となりました。承認された経緯としては、日本頭痛学会および日本神経学会から要望書が出されていました。自己注射が可能になることで、毎月の通院が難しかったケースでも抗体医薬を用いた片頭痛予防療法を実施しやすくなることが期待されます。本剤の投与開始に当たっては、医療施設において必ず医師または医師の直接の監督の下で投与を行い、自己投与の適用についてはその妥当性を慎重に検討します。自己注射に切り替える場合は十分な教育訓練を実施した後、本剤投与によるリスクと対処法について患者が理解し、患者自らの手で確実に投与できることを確認したうえでの実施となります。参考日本イーライリリー 医療関係者向け情報サイト エムガルティフェマーラほか:不妊治療で使用される場合の保険適用<対象薬剤>レトロゾール錠(商品名:フェマーラ錠2.5mg、製造販売元:ノバルティス ファーマ)<承認年月>2022年2月<改訂項目>[追加]効能・効果生殖補助医療における調節卵巣刺激[追加]用法・用量通常、成人にはレトロゾールとして1日1回2.5mgを月経周期3日目から5日間経口投与する。十分な効果が得られない場合は、次周期以降の1回投与量を5mgに増量できる。<Shimo's eyes>2022年4月から、不妊治療の経済的負担を軽減するために生殖医療ガイドライン等を踏まえて、人工授精等の「一般不妊治療」、体外受精・顕微授精等の「生殖補助医療」について、保険適用されることになりました。アロマターゼ阻害薬である本剤は、従前の適応は閉経後乳がんでしたが、不妊治療に用いる場合、閉経前女性のエストロゲン生合成を阻害する結果、卵胞刺激ホルモン(FSH)分泌が誘導され、卵巣内にアンドロゲンが蓄積し、卵巣が刺激されて卵胞発育が促進されます。ほかにも、プロゲステロン製剤(商品名:ルティナス腟錠等)は「生殖補助医療における黄体補充」、エストラジオール製剤(同:ジュリナ錠等)は「生殖補助医療における調節卵巣刺激の開始時期の調整」「凍結融解胚移植におけるホルモン補充周期」、さらに卵胞ホルモン・黄体ホルモン配合製剤(同:ヤーズフレックス配合錠、ルナベル配合錠等)は「生殖補助医療における調節卵巣刺激の開始時期の調整」の適応がそれぞれ追加されています。バイアグラほか:男性不妊治療に保険適用<対象薬剤>シルデナフィルクエン酸塩錠(商品名:バイアグラ錠25mg/50mg、同ODフィルム25mg/50mg、製造販売元:ヴィアトリス製薬)タダラフィル錠(商品名:シアリス錠5mg/10mg/20mg、製造販売元:日本新薬)<承認年月>2022年4月<改訂項目>[追加]効能・効果勃起不全(満足な性行為を行うに十分な勃起とその維持ができない患者)[追加]保険給付上の注意本製剤が「勃起不全による男性不妊」の治療目的で処方された場合にのみ、保険給付の対象とする。<Shimo's eyes>こちらも少子化社会対策として、従前の勃起不全(ED)の適応は変わりませんが、保険適用となりました。本製剤について、保険適用の対象となるのは、勃起不全による男性不妊の治療を目的として一般不妊治療におけるタイミング法で用いる場合です。参考資料 不妊治療に必要な医薬品への対応(厚労省)

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第102回 サル痘にも有効な「天然痘ワクチン」、国内備蓄の活用を検討

<先週の動き>1.サル痘にも有効な「天然痘ワクチン」、国内備蓄の活用を検討2.来年度から「マイナ保険証」義務化、健康保険証は原則廃止/厚労省3.後期高齢者の所得確認にもマイナ活用、プラットフォーム創設4.サイバー攻撃対策強化、職員向けセキュリティ研修が義務に/厚労省5.検査キット販売や看護師・薬剤師のタスクシェアなど、規制緩和を検討へ6.大麻取締法の改正について議論開始、医療ニーズへ対応/厚労省1.サル痘にも有効な「天然痘ワクチン」、国内備蓄の活用を検討欧米を中心に感染報告が相次いでいる感染症「サル痘」について、有効とされる天然痘ワクチンに注目が集まっており、すでに各国が確保に動き出している。後藤 茂之厚生労働相は27日の閣議後の記者会見で、わが国では以前からテロ対策を目的に天然痘ワクチンの生産・備蓄が行われており、政府がワクチンの活用方法について検討を進めていると述べた。世界保健機関(WHO)や国立感染症研究所などによると、サル痘は主にアフリカで流行する感染症で、発疹や発熱などの症状が出る。天然痘ワクチンには、サル痘の発症予防効果が約85%あるとされ、英国では感染が疑われる人への接種が進められている。現時点で国内での感染例はなく、後藤氏は「人から人への感染はまれとされている。国内外の発生動向を監視しつつ、必要な対応を講じる」と話した。(参考)サル痘とは?(ケアネット 患者説明用スライド)天然痘ワクチン「国内で備蓄」 サル痘にも有効―後藤厚労相(時事通信)サル痘に有効とされる天然痘ワクチン 日本も備蓄、活用方法を検討(毎日新聞)2.来年度から「マイナ保険証」義務化、健康保険証は原則廃止/厚労省厚生労働省は25日の社会保障審議会にて、健康保険証を原則廃止とし、2023年度からすべての医療機関・調剤薬局でマイナンバーカードと健康保険証を一体化した「マイナ保険証」の導入を義務付けることを決定した。政府によれば、オンライン資格確認に必要な顔認証付きカードリーダーの申し込みは約6割(約13万)の施設が済ませているが、運用を開始している施設は19%であり、マイナンバーカードによる資格確認の迅速な導入が求められている。2022年度上半期には導入の加速化が図られるよう集中的な取り組みを行い、未対応の施設は遅くとも9月頃までに顔認証付きカードリーダーの申し込みが必要とし、働きかけを行っていく。(参考)保険証「原則廃止」へ マイナンバーカードに一本化 政府検討(朝日新聞)マイナ保険証、病院に義務化 患者負担軽減も視野 厚労省検討(日経新聞)資料 オンライン資格確認等システムについて(厚労省)3.後期高齢者の所得確認にもマイナ活用、プラットフォーム創設政府が本年6月に取りまとめる経済財政運営方針「骨太の方針」に、75歳以上の後期高齢者の保険料の見直しについて、株式や配当などの金融所得も含めて勘案するため、マイナンバーカードを活用することが盛り込まれる。これによって、後期高齢者の医療費を支える現役世代の負担を軽減できる可能性がある。今後、金融資産がある高齢者の負担は増える見込みだ。このほか、「全国医療情報プラットフォーム」の創設を行い、電子カルテの診療情報やワクチン接種歴などを医療機関や自治体が共有し、患者が最適な治療を受けられるような情報基盤を作ることが決定した。災害時など、かかりつけ外の医療機関でも患者情報を確認し必要な治療の継続が可能になるほか、救急搬送された意識障害患者等の手術や薬剤情報等を確認することで、より適切で迅速な検査、診断、治療等の実施が可能となる。なお医療機関・薬局への情報共有は、個別に同意を得る仕組みを構築した後に運用を開始するとされ、2023年5月が目途。(参考)75歳以上保険料決定に「マイナンバー」活用も ”骨太の方針”原案判明(FNNプライムオンライン)医療情報、デジタル化で共有 プラットフォーム創設 骨太方針に明記(産経新聞)全国の医療機関で診療情報(レセプト・電子カルテ)を共有する仕組み、社保審・医療保険部会でも細部了承(Gem Med)4.サイバー攻撃対策強化、職員向けセキュリティ研修が義務に/厚労省近年、病院への大規模なサイバー攻撃がわが国でも増加していることを踏まえ、厚労省は27日に医療機関でのサイバーセキュリティ対策の方針を明らかにした。平時の医療機関での情報共有基盤として、医療版のISAC(Information Sharing and Analysis Center)を立ち上げてサイバーセキュリティのリスクマネジメントを強化支援する仕組みを確立するほか、脆弱性が指摘されている機器のアップデートや、医療従事者へのセキュリティ対策研修の充実を図る。診療録管理体制加算を算定する400床以上の医療機関には、年1回程度以上の職員向け情報セキュリティ研修の実施が求められる。(参考)医療機関へのサイバー攻撃対策、「ISAC」設立へ 200床未満の施設に「お助け隊」活用促進(CB news)病院に相次ぐサイバー攻撃 遅れる医療の防衛、日経調査 大規模3病院に侵入 3分の2でパスワード漏れも(日経新聞)医療分野のサイバーセキュリティ対策について(厚労省)5.検査キット販売や看護師・薬剤師のタスクシェアなど、規制緩和を検討へ岸田内閣の諮問機関である規制改革推進会議は、27日、政府に答申を提出した。5つの重点分野のうち、医療・介護・感染症対策として、オンライン診療の拡充により、自宅で受診・健康管理から薬剤・医薬品受け取りまでを可能とする方策や、薬剤師による調剤業務の一部外部委託を可能とする検討のほか、薬局での抗原定性検査キット販売の完全解禁などを求めている。また今後、介護需要増加に伴い人手不足が見込まれる介護施設での人員配置基準の緩和や、薬剤師による看護業務のタスクシェアのほか、機械学習を行うプログラム医療機器(SaMD)のアップデート時の審査の省略・簡略化についても検討を求めている。(参考)オンライン診療拡充、抗原キット薬局販売…規制改革推進会議が答申取りまとめ(読売新聞)国承認コロナ検査キット ネットでなぜ買えない? 政府見直し議論へ(朝日新聞)医療改革、スピード不可欠 規制改革会議が答申 看護、薬剤師が分担/介護人員を変更(日経新聞)6.大麻取締法の改正について議論開始、医療ニーズへ対応/厚労省厚労省は、大麻の規制について検討する委員会を25日新たに立ち上げた。2021年6月に出された「大麻等の薬物対策のあり方検討会」の取りまとめを踏まえ、大麻取締法、麻薬及び向精神薬取締法改正に向けて、議論を開始する。米国やG7諸国で承認されている大麻から製造された難治性のてんかん治療薬の事例等を参考に、医療ニーズへの対応や適切な利用を推進するとともに、大麻事犯の検挙人員が7年連続で増加していることを鑑みて大麻使用罪を創設するなど、不適切な大麻利用・乱用に対しても対応していく。(参考)大麻の「使用罪」導入の方向で議論 厚労省の新たな小委員会がスタート(BuzzFeed)第1回 厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会大麻規制検討小委員会 資料

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オピオイドの換算表を見たことありますか?【非専門医のための緩和ケアTips】第28回

第28回 オピオイドの換算表を見たことありますか?投与経路を変更する際は、投与量の調整が必要になります。今回はオピオイドを調整する際の「山場」となる、この投与量変更について解説しましょう。今日の質問モルヒネを内服していたがん患者さんが、腸閉塞を起こして内服ができなくなってしまいました。オピオイドって急に投与中止するのは良くないですよね? そうなると投与経路を変更した方がいいと思うのですが、こうした場合、どう対応すればよいのでしょうか?緩和ケアを実践していくうえでは、腸閉塞や呼吸困難の増悪、看取りが近くなり意識の悪化がみられる…といったさまざまな理由で、オピオイドが内服できなることがあります。こうした場合には投与経路を変更する必要があります。今回の質問の状況では、モルヒネの内服が難しいとのことなので、投与経路だけの変更であれば、モルヒネの注射薬に変更する対応となります。注射薬は病院では持続静脈注射で投与することが多く、緩和ケア病棟や在宅では持続皮下投与が好まれます。注射薬に変更する際の投与量は注意が必要です。内服量をそのまま注射で投与すると、過剰投与になってしまいます。そこで必要になるのが換算表です。換算表とは、オピオイドの種類や投与経路を変更した際に、同じだけの効果を期待できる投与量を換算した表です。日本緩和医療学会が公開している「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版」では、たとえばモルヒネの場合、「静脈内投与・皮下投与であれば10~15mg、経口投与であれば30mg、直腸内投与であれば20mg」といったように薬剤ごとの換算表が示されています。「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版」/換算表は59頁換算表はインターネット上でも多く公開されているので、使いやすいものを探してみましょう。換算比はある程度幅があるため、換算表によって多少の違いがあります。さらに患者さんの体格や肝腎機能によっても適切な投与量は異なるので、換算表はあくまでも目安であることにも留意してください。今回の患者さんで、モルヒネを経口から静脈内投与もしくは皮下投与に変更する場合は、投与量をおよそ半分に減らす必要があります。このあたり、何度も対応していれば自然と慣れますが、慣れていない方は、きちんと換算表で確認することや薬剤師と相談することをお勧めします。以前、研修医に「この患者さん、経口投与ができなくなったとしたら、何を、どのくらいの量、どの投与経路に変更する?」と聞いたら、ずいぶん多い投与量の回答が返ってきました。確認すると、一桁間違って計算したせいで10倍の投与量になっていたのです。10倍量を投与するのはさすがに危険です。慣れていないとこうしたことが起こるので、慎重に対応しましょう。今回のTips今回のTipsオピオイドスイッチングの際は、換算表を使って丁寧に計算しましょう。

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オピオイドの投与量、どのくらいまで増やしてよい?【非専門医のための緩和ケアTips】第27回

第27回 オピオイドの投与量、どのくらいまで増やしてよい?基本原則を押さえれば、そんなに難しくないオピオイドの調整。といっても、やはり難しく感じる時はあります。どの分野も「その難しさを知って、やっと一人前」という側面はありますからね。今回はオピオイドの投与量についての質問をいただきました。今日の質問大学病院から紹介された頭頸部がんの患者さん、訪問診療で在宅緩和ケアを担当しています。難治性がん疼痛のようで、経口モルヒネ換算で1日に300mgもオピオイドを使っています。こんなに高用量のオピオイドが必要な患者さんを担当したことがないのですが、オピオイドはどのくらいの量まで使うものなのでしょうか。緩和ケアが診療の中心となった10年以上前、私も同じように感じたことがありました。経口モルヒネ換算で300mg/日というと、確かに多く感じますよね。それでも患者さんが痛みを訴える場合、どのくらいの量まで増やしてよいのでしょうか?緩和ケアを学び始めた頃に、驚いたことの1つが、「オピオイドには最大投与量がない」ということでした。通常の鎮痛剤であれば「NSAIDsなら1日3錠まで」といった具合に、1日の最大投与量があり、それ以上増やしても鎮痛効果は期待できません。このことを天井効果と呼びます。一方、オピオイドは「副作用で増量が難しい」といった状況でない限り、鎮痛効果が確認できる間は投与量を増量します。増量幅は患者さんごとに異なり、最大量はありません。これがオピオイドと非オピオイドの大きな違いです。びっくりしませんか? 当時、痛み止めといえばNSAIDsしか知らなかった私にとっては衝撃でした。では、患者さんが「痛い」と言う限り、とりあえずオピオイドを増量すればよいのでしょうか? 当然、そんな訳はありません。通常、多くの患者に鎮痛効果が期待できる量のオピオイドを使っても、痛みが残存する場合、それなりの理由があるはずです。本当にオピオイドが不十分という場合もあるでしょうが、気を付けなければならないのは「そのほかの原因」が潜んでいる場合です。例を挙げると、腸管閉塞などでオピオイドが吸収できていない急な痛み(突出痛)に対するレスキューがうまく調整できていない神経の痛みなど、オピオイドの効果が乏しいタイプの痛みであるこういった状況でオピオイドをどんどん増やすのは、ちょっとまずいのはわかりますよね。投与量の限界はないと言いながら、ある程度の量で効果がない時にはその原因をきちんと考える必要があります。では、どの程度の投与量から、この「見直し」作業が必要になるでしょうか? 目安となるのは緩和ケアの研修会で示されていたもので、ここでは「経口モルヒネ換算で120mg/日を超えたら、評価を見直すことや、専門家と相談すること」を勧めています。対応に困ったらがん拠点病院の緩和ケア担当部門に問い合わせしてみましょう。今回のTips今回のTipsオピオイドに最大投与量はないため、適切に増量しよう。増量しても鎮痛効果が不十分な時には原因を考え、評価を見直そう。

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新機序の難治性慢性咳嗽治療薬「リフヌア錠45mg」【下平博士のDIノート】第96回

新機序の難治性慢性咳嗽治療薬「リフヌア錠45mg」今回は、選択的P2X3受容体拮抗薬「ゲーファピキサントクエン酸塩錠(商品名:リフヌア錠45mg、製造販売元:MSD)」を紹介します。本剤は、P2X3受容体を標的とした非麻薬性の咳嗽治療薬で、難治性の慢性咳嗽への効果が期待されています。<効能・効果>本剤は、難治性の慢性咳嗽の適応で、2022年1月20日に承認されました。なお、効能または効果に関連する注意として「最新のガイドライン等を参考に、慢性咳嗽の原因となる病歴、職業、環境要因、臨床検査結果等を含めた包括的な診断に基づく十分な治療を行っても咳嗽が継続する場合に使用を考慮すること」、重要な基本的注意として「本剤による咳嗽の治療は原因療法ではなく対症療法であることから、漫然と投与しないこと」が記載されています。<用法・用量>通常、成人にはゲーファピキサントとして1回45mgを1日2回経口投与します。なお、重度腎機能障害(eGFR 30mL/min/1.73m2未満)で透析を必要としない患者には、本剤45mgを1日1回投与すること。<安全性>難治性の慢性咳嗽患者を対象とした国際共同第III相試験および海外第III相試験の併合データにおいて認められた主な副作用は、味覚不全(40.4%)、味覚消失、味覚減退、味覚障害、悪心、口内乾燥などでした。味覚に関連する副作用の大多数は軽度または中等度であったものの、投与を中止している症例も認められたことから、医薬品リスク管理計画書(RMP)において「味覚異常」が重要な特定されたリスクとされています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、気道の神経の伝達を遮断して感覚神経の活性化や咳嗽反射を鎮めることで、慢性の咳を緩和します。2.苦味、金属味、塩味などを感じて食事がおいしく感じられなくなることがあります。不快感が強く、食事が取れないなど日常生活に支障を来す場合はご相談ください。 <Shimo's eyes>咳嗽は、医療機関を受診する患者さんの主訴として最も頻度が高い症候で、持続期間が3週間未満の場合は「急性咳嗽」、3週間以上8週間未満は「遷延性咳嗽」、8週間以上は「慢性咳嗽」と分類されています。これまで使用されてきた咳嗽治療薬としては、コデイン類のような麻薬性鎮咳薬や、デキストロメトルファンのような非麻薬性の中枢性鎮咳薬などがありますが、慢性咳嗽患者の中には治療抵抗性を示す例や、原因がわからず改善が不十分な例があります。本剤は世界で初めて承認された選択的P2X3受容体拮抗薬であり、非麻薬性かつ末梢に作用する経口の慢性咳嗽治療薬です。咳嗽が1年以上継続している治療抵抗性または原因不明の慢性咳嗽患者を対象としたプラセボ対照国際共同第III相試験(027試験)および海外第III相試験(030試験)において、52週投与の結果、本剤45mg投与群はプラセボ群と比較して、4週時から24時間の咳嗽頻度の有意な減少がみられ、12週時もしくは24週時まで持続しました。副作用については、上記試験の併合データにおいて、味覚不全、味覚消失、味覚減退、味覚障害等の味覚関連の副作用が63.1%に発現しました。多数は投与開始後9日以内に発現し、軽度または中等度でしたが、味覚関連の有害事象により服用中止に至った症例も13.9%ありました。なお、味覚関連の副作用は曝露量依存的に増加する傾向が認められており、その多くは本剤の投与中または投与中止後に改善するとされています。相互作用については設定されていませんが、本剤の有効成分であるゲーファピキサントはスルホンアミド基を有するため、スルホンアミド系薬剤に過敏症の既往歴のある患者では交叉過敏症が現れる可能性があり、注意が必要です。本剤は腎排泄型であり、腎機能の低下が疑われる患者さんに投与する場合は定期的に腎機能検査値を確認しましょう。参考1)PMDA 添付文書 リフヌア錠45mg

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第106回 非オピオイド鎮痛薬の臨床試験で有望な効果あり

効果は間違いないものの呼吸抑制等の副作用や依存が厄介なオピオイドの代わりとなりうる経口薬が第II相試験2つで有望な急性痛治療効果を示し、承認申請前の大詰めの第III相試験に進むことが決まりました1,2)。第II相試験の1つは外反母趾手術、もう1つは腹部脂肪切除(腹壁形成)手術の患者を募って実施され、米国マサチューセッツ州ボストン拠点バイオテックVertex Pharmaceuticals社の経口薬VX-548高用量の術後痛治療効果がどちらの試験でもプラセボを有意に上回りました。効果は上々で副作用は大したことなく、オピオイドの代わりを見つける試みにはそれら試験の成功で大いに前進したとUniversity College Londonの神経生物学専門家John Wood氏は言っています2)。痛みに携わる神経細胞表面にあり、それら神経細胞に電気信号を放たせるナトリウム(Na)チャネルの研究を背景にVX-548は誕生しました。VX-548はそれらNaチャネルの1つNav1.8を選択的に阻害します。Nav1.8は全身の神経から脊髄への痛み信号の受け渡しに不可欠で、その働き過ぎは痛みをより発生させます。たとえばNav1.8を過活動にする遺伝子変異がある人は傷を負わずとも痛みを被りうることが10年ほど前の研究で判明しています3)。しかしNav1.8や他のNaチャネルNav1.7に限った阻害の鎮痛の実現は困難でした。困難の1つはそれらの構造が心臓、筋肉、脳の機能を担う他のNaチャネルとよく似ていることに端を発します。安全を期すにはそれら臓器の働きに不可欠なNaチャネルにちょっかいを出さすことなく目当てのNaチャネルのみを相手する化合物を仕立てる必要があります。Nav1.8だけを阻害する化合物の実現の困難さはVertex社のこれまでの開発の道のりからも見て取れます。Vertex社にとってVX-548は4度目の正直のようなもので、先立つ3つのNaV1.8阻害薬が臨床開発の道半ばで倒れています。その1つVX-150は3つの第II相試験で好成績を収めたにもかかわらず第III相試験に進んでいません。必要な用量が多すぎて実用には不向きというのがその開発頓挫の一因です。Vertex社はもっと働きが良い化合物を求め、とうとう今回の第II相試験2つの成功に漕ぎ着けました。その1つには外反母趾手術患者274人が参加し、VX-548、プラセボ、オピオイド(ヒドロコドン)含有薬のいずれかの投与群に割り振られ、VX-548高用量投与群の48時間の痛さがプラセボ群に比べて有意に少なく済みました。腹壁形成手術患者303人が参加したもう1つの第II相試験でもVX-548高用量は同様にプラセボに勝りました。VX-548高用量群の痛み減少はヒドロコドン含有薬群も見た目上回りましたが、今回の試験は取るに足る比較ができるほど大規模ではありませんでした2)。VX-548の低用量と中用量の効果は残念ながらプラセボを上回りませんでした。外反母趾手術患者が参加した第II相試験ではVX-548の用量が多いほど有効という傾向はなく、気がかりなことにVX-548中用量の効果はVX-548低用量もプラセボも一見下回っていました1,4)。ともあれVertex社は高用量の効果が認められたことで良しとし、重篤な有害事象は幸いにして生じず中~高用量群の患者の脱落がプラセボやヒドロコドン投与群より少なくて済んだVX-548の急な痛みの治療効果を調べる第III相試験を間もなく今年後半に始めるつもりです。糖尿病性神経障害の痛みや炎症による痛みなどの複雑な事態を含む慢性痛へのVX-548の効果は未知数です。しかし幸先が良いことに神経障害の幾つかや炎症性の痛みでVX-548の標的Nav1.8が重責を担うことがすでに分かっています2)。参考1)Vertex Announces Statistically Significant and Clinically Meaningful Results From Two Phase 2 Proof-of-Concept Studies of VX-548 for the Treatment of Acute Pain / BUSINESS WIRE2)Non-opioid pain pill shows promise in clinical trials / Science3)Gain-of-function Nav1.8 mutations in painful neuropathy. Proc Natl Acad Sci U S A. 2012 Nov 204)Vertex claims success with its fourth shot at acute pain / Evaluate

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経口困難になったがん末期患者のモルヒネを持続皮下注へ切り替え【うまくいく!処方提案プラクティス】第46回

 今回は、がん末期患者の服薬負担を考慮して、モルヒネの内服薬から持続皮下注へ切り替えた症例を紹介します。一度は疼痛および服薬負担が解消され、患者さんに安心していただくことができましたが…。患者情報70歳、男性(施設入居)基礎疾患咽頭がん(骨転移、肺内転移)、糖尿病、脊柱管狭窄症、末梢動脈硬化症服薬管理施設管理処方内容1.モルヒネ硫酸塩水和物徐放カプセル30mg 2カプセル 朝夕食後2.ベタメタゾン錠0.5mg 1錠 朝食後3.ランソプラゾール口腔内崩壊錠30mg 1錠 朝食後4.ジアゼパム錠2mg 3錠 毎食後5.酸化マグネシウム錠330mg 3錠 毎食後6.ナルデメジントシル酸塩錠0.2mg 1錠 夕食後7.エスゾピクロン錠1mg 1錠 就寝前8.モルヒネ塩酸塩水和物内服液10mg/5mL 疼痛時 1回1包本症例のポイントこの患者さんは、咽頭がんの進行に伴う突発的な疼痛と呼吸苦がありました。レスキュー薬としてモルヒネ塩酸塩水和物内服液を5〜6回/日服用していて、痛みはNRS(Numerical Rating Scale)6〜7から3程度まで改善していました。しかし、咽頭の閉塞による通過障害があり、内服薬を服用するのが心身共に苦しいという状態が続いていました。訪問診療の前日にこれらの訴えを本人からヒアリングし、現況の痛みも服薬の苦痛も緩和したい、そして施設で最期を迎えたいという希望を確認しました。訪問看護師やケアマネジャーと注射薬への切り替えも手ではないかと話し合い、現行のオピオイド内服薬から持続皮下注へのスイッチをどのように提案するかを検討しました。オピオイドの換算<現行>ベース薬モルヒネ硫酸塩水和物徐放カプセル 60mg/日レスキュー薬モルヒネ塩酸塩水和物内服液 50〜60mg/日1日オピオイド総量目安110〜120mg/日単純な等価換算では、モルヒネ注50〜60mg/日相当となりますが、この等価換算はあくまで目安です。切り替え後のコントロール目標や副作用の懸念、24時間サイクルでの投与設計の都合で約50mg/日を提案することとしました。<切り替え提案内容:モルヒネ塩酸塩注射液48mg/日>モルヒネ塩酸塩注射液200mg/5mL 2管 10mLモルヒネ塩酸塩注射液50mg/5mL 2管 10mL生理食塩液 28mL総量48mL 0.2mL/時間、LOT15分、レスキュー0.2mL/回、10日間相当*1日量4.8mL→モルヒネ約10mg/mL<切り替えタイミング>モルヒネ硫酸塩水和物徐放カプセル 夕方服用時刻から切り替え処方提案と経過翌日の訪問診療に同行し、患者は通過障害から内服が困難な状況にあり、心身共に苦痛があることを医師に共有しました。そこで、内服薬から持続皮下注への切り替えについて意向を確認しました。医師も介護士や訪問看護師の報告から切り替えを検討していたようですが、具体的に何をどの程度投与するのがよいか頭を悩ませていたところだったそうです。上記の処方提案を文書で提示したところ、選択薬剤、用量も含めて提案の内容で始めることになりました。また、内服薬に関してはすべて中止し、持続皮下注のモルヒネのみの管理とする指示もありました。すぐに訪問看護師とPCAポンプの手配と接続時間を確認し、当日の夕方から切り替えたところ、レスキューボタンの使用回数は平均4〜5回/日で、患者さんも内服時の苦痛がなくなり安心している様子でした。しかし、切り替えから1週間経過するとせん妄が強くなりました。PCAポンプの接続チューブを自己抜去するなどの危険行動があったため中止となり、外用薬での治療コントロールに切り替えることになりましたが、切り替えの翌日にお亡くなりになりました。一度は疼痛コントロールができ、服薬の負担も解消することができましたが、せん妄について十分な管理ができず、反省点の残る事例でした。日本緩和医療学会ガイドライン統括委員会編. がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン.金原出版株式会社;2020.

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オピオイドによる便秘に新たな薬が登場【非専門医のための緩和ケアTips】第24回

第24回 オピオイドによる便秘に新たな薬が登場オピオイドを服用している患者さんで頻発し、かつ対策が必要な副作用の代表例が便秘です。そんなオピオイドが原因の便秘に対し、新たな薬が登場しています。今日の質問がん疼痛がありオピオイドを処方している患者さんの中で、便秘に悩んでいる方がいます。マグネシウム製剤や大腸刺激性下剤などを処方してみるのですが、頑固な便秘に良い対策はありますか?オピオイドを使用している際の便秘は、オピオイド誘発性便秘症(OIC:opioid-induced constipation)と呼ばれます。オピオイドは、脊髄のμオピオイド受容体に作用することで痛みの伝達をブロックし、鎮痛効果を発揮します。このμオピオイド受容体は中枢神経だけでなく、末梢にも分布しています。消化管に分布する末梢μオピオイド受容体にオピオイドが作用することで、腸管蠕動が抑制され、便秘になってしまうのです。OICはオピオイドを服用している限り、改善することはありません。基本的には「オピオイド服用中はOICが生じる」と考えて対処する必要があります。従来、薬物療法としては、一般的な便秘薬であるマグネシウム製剤や大腸刺激性下剤が用いられてきました。それで症状が緩和されればよいのですが、それでも持続する頑固な便秘もあります。そんな悩みに対して2017年に登場した薬が、今回ご紹介するナルデメジン(商品名:スインプロイク)です。ナルデメジンは先ほど出てきた末梢のμオピオイド受容体と結合することで、オピオイドと拮抗し薬理効果を発揮します。緩下剤などの対症療法と比較して、OICの原因に直接的なアプローチをする薬剤であることがわかるかと思います。ここでふと、「あれ、μオピオイド受容体に結合することでオピオイドに拮抗するなら、鎮痛作用も発揮できなくなるのでは?」と感じた方がいるかもしれません。そこは心配無用で、ナルデメジンは中枢神経のμオピオイド受容体には作用しないため、鎮痛効果は保たれます。ナルデメジンは1日1回0.2mgを内服します。内服回数が少ないことも良い点ですね。腎機能が落ちていても服用できるので、マグネシウム製剤などが使用できない方には良い選択肢です。他の便秘薬同様、処方の際は消化管閉塞がないことの確認が必要です。OICに対する比較的新しい薬剤であるナルデメジンを紹介しました。もちろん、便秘解消には薬だけでなく、食事内容や水分摂取といった生活指導も併せて大切です。今回のTips今回のTipsナルデメジンはオピオイドの副作用による便秘に対する新しい薬。排泄ケアと併せて処方を検討しよう。

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英語で「違法薬物」は?【1分★医療英語】第19回

第19回 英語で「違法薬物」は?Do you use any recreational drugs?(娯楽目的の薬物を使っていますか?)I’ve never use them.(一度も使ったことがありません)《例文1》Do you take any medications or drugs for recreational purposes?(医薬品や薬物を娯楽目的で使用していますか?)《例文2》This patient has a history of recreational drug-induced seizure.(この患者は薬物使用によるてんかんの病歴があります)《解説》米国での臨床においては、すべての患者さんに、違法かどうかにかかわらず娯楽目的で医薬品や薬物を使用しているかを確認しています。その際、薬物の種類が限定的にならないよう、“For example, medications that have not been prescribed to you, or any street drugs.”(たとえば、処方されていない薬やストリート・ドラッグなどのことです)と付け加えます。私が住むカリフォルニア州では、娯楽用途のマリフアナ使用は認められているため、マリフアナについては処方薬や違法薬物とは別に「タバコを吸いますか?」という質問の流れで「マリフアナを吸ったり食べたりしますか?」と聞くようになりました。一方で、オピオイド中毒も深刻な問題となっており、「痛み止め等の薬を服用していますか?」という点も念入りに確認します。おまけの知識として、薬は“medication”や“drug”ですが、今回の会話例のように“drug”は使い方次第では、「違法・娯楽薬物」を連想させることがあります。日本語の場合も「薬」と「ドラッグ」では、ニュアンスが少し違いますよね。「~の薬を飲んでいる」という表現は、前置詞の“on”を使って、“I’m on antihypertensive medication.”(高血圧の薬を飲んでいます)となりますが、“What drug are you on?”(何の薬を飲んでいるのですか?)という表現にすると、“on”と“drug”の組み合わせによって、「何の(違法・娯楽)薬物を使っているの?」というニュアンスにも聞こえるので、私は仕事においては“drug”より“medication”を多く使います。ただ、医療現場では“drug”もよく使われており、多くの場合、問題は生じていません。講師紹介

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新型コロナウイルス感染症のメンタルヘルス関連の後遺症(解説:岡村毅氏)

 新型コロナウイルス感染症の後遺症としてメンタルヘルス関連の症状は多い。この論文によると精神疾患の診断を受ける可能性は約1.5倍に、精神疾患に対する処方を受ける可能性は約1.9倍に増える。 さらに、新型コロナウイルス感染症で入院した人に限ると、精神疾患の診断を受ける可能性は約3.4倍に、精神疾患に対する処方を受ける可能性は約5.0倍に増えるとのことだ。 認知機能低下も約1.8倍に増えている点も注目したい。 本研究では、新型コロナウイルスに感染した米国の退役軍人15万人強(平均年齢63歳、男性が90%)でコホートをつくり、これを新型コロナウイルスに感染していない同時代の退役軍人の対照群と比較している。さらに、この時代に生きる人は世界的パンデミックを体験しているが、われわれ皆がそうであるように人生観・世界観に大いに影響を受けている。そこでその影響を除くべく、新型コロナウイルス出現前の時代でも対照群をつくっている。さらにさらに、インフルエンザでの入院とも比較するという、用意周到なデザインである。 ちなみにインフルエンザでの入院に比べても精神疾患は明らかに多い。 なお、オピオイドについても処方は約1.7倍、依存は約1.3倍に増えている。オピオイドは先日のバイデン大統領の一般教書演説でも国家の4つの統一課題に挙げられていた。4つの課題とはオピオイド、メンタルヘルス、退役軍人支援、がんであるが、がん以外はこの論文にすべて含まれている! 現代米国を代表する論文であるかもしれない。オピオイド中毒死は「絶望死」といわれ現代米国社会の闇を体現しているようであり1)、わが国においても今後重要な課題になるかもしれない。 本研究の対象は、あくまで退役軍人であるため、男性が多く、比較的高齢である点は、押さえておくべきだろう。 また、ウイルス感染後に精神症状というと、何かとてつもない危機が人類に迫っているかのように報道されるかもしれない。しかし、そもそもウイルス感染後はギランバレー症候群や慢性疲労症候群などが起こるものである。医療関係者にとっては周知の事実だ。冷静に対応することも重要だ。 厚労省は「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き」の別冊として「罹患後症状のマネジメント」というものを出しており大変わかりやすいので一読をお勧めする2)。 新型コロナウイルス感染症は、おそらくすべての人に、この自分が死ぬ可能性を想起させたという点で、東日本大震災と同様に日本人の死生観に大きな影響を与えたことであろう。後遺症が、血栓症や炎症反応の影響が大きいのか、心理社会的影響が大きいのか、それは歴史が明らかにするだろう。

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