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DNRを救急車で運んだの?【救急外来・当直で魅せる問題解決コンピテンシー】第5回

DNRを救急車で運んだの?PointDNRは治療中止ではない。終末期医療の最終目標は、QOLの最大化。平易な言葉で理知的に共感的に話をしよう。適切な対症療法を知ろう。症例91歳男性。肺がんの多発転移がある終末期の方で、カルテには急変時DNRの方針と記載されている。ところが深夜、突如呼吸困難を訴えたため、慌てて家族が救急要請した。来院時、苦悶様の表情をみせるもののSpO2は97%(room air)だった。研修医が家族に説明するが、眠気のせいか、ついつい余計な言葉が出てしまう。「DNRってことは、何も治療を望まないんでしょ? こんな時間に救急車なんて呼んで、もし本物の呼吸不全だったら何を期待してたんですか? 大病院に来た以上、人工呼吸器につながれても文句はいえませんよ。かといって今回みたいな不定愁訴で来られるのもねぇ。なんにもやることがないんだから!」と、ここまでまくしたてたところで上級医につまみ出されてしまった。去り際に垣間見た奥さんの、その怒りやら哀しみやら悔しさやらがない交ぜになった表情ときたらもう…。おさえておきたい基本のアプローチDo Not Resuscitation(DNR)は治療中止ではない! DNRは意外と限定的な指示で、「心肺停止時に蘇生をするな」というものだ。ということはむしろ、心肺停止しない限りは昇圧薬から人工呼吸器、血液浄化法に至るまで、あらゆる医療を制限してはならないのだ。もしわれわれが自然に想像する終末期医療を表現したいなら、DNRではなくAllow Natural Death(AND)の語を用いるべきだろう。ANDとは、患者本人の意思を尊重しながら、医療チーム・患者・家族間の充分な話し合いを通じて、人生の最終段階における治療方針を具体的に計画することだ。それは単なる医療指示ではなく、患者のQuality of Life(QOL)を最大化するための人生設計なのである。落ちてはいけない・落ちたくないPitfalls「延命しますか? しませんか?」と最後通牒を患者・家族につきつけるのはダメ医療を提供する側だからこそ陥りやすい失敗ともいえるが、「延命治療を希望しますか? 希望しませんか?」などと、患者・家族に初っ端から治療の選択肢を突きつけてはならない。家族にしてみれば、まるで愛する身内に自分自身がとどめを刺すかどうかを決めるように強いられた心地にもなろう。患者は意識がないからといって、家族に選択を迫るなんて、恐ろしいことをしてはいないか? 「俺が親父の死を決めたら、遠くに住む姉貴が黙っているはずがない。俺が親父を殺すなんて、そんな責任追えないよぉ〜」と心中穏やかならぬ、明後日の方向を向いた葛藤を強いることになってしまうのだ。結果、余計な葛藤や恐怖心を抱かせ、得てして客観的にも不適切なケアを選択してしまいがちになる。家族が親の生死を決めるんじゃない。患者本人の希望を代弁するだけなのだ。徹頭徹尾忘れてはならないこと、それはANDの最終目標は患者のQOLの最大化だということだ。それさえ肝に銘じておけば、身体的な側面ばかりでなく、患者さんの心理的、社会的、精神的側面をも視野に入れた全人的ケアに思い至る。そして、治療選択よりも先にたずねるべきは、患者本人がどのような価値観で日々を過ごし、どのような死生観を抱いていたのかだということも自ずと明らかになろう。ANDを実践するからには、QOLを高めなければならないのだ。Point最終目標はQOLの最大化。ここから焦点をブレさせない「患者さんは現在、ショック状態にあり、昇圧剤および人工呼吸器を導入しなければ、予後は極めて厳しいといわざるを得ません」いきなりこんな説明をされても、家族は目を白黒させるばかりに違いない。情報提供の際は専門用語を避けて、できるだけ平易な言葉遣いで話すべきだ。また、人生の終末を目前に控えた患者・家族は、とにかく混乱している。恐怖、罪悪感、焦り、逃避反応などが入り組んだ複雑な心情に深く共感する姿勢も、人として大切なことだ。だが、同情するあまりにいつまでも話が進まないようでは口惜しい。実は、患者家族の満足度を高める方法としてエビデンスが示されているのは、意外にも理知的なアプローチなのだ。プロブレムを浮き彫りにするためにも、言葉は明確に、1つ1つの問題を解きほぐすように話し合おう。逆に、心情を慮り過ぎて言葉を濁したり、楽観的で誤った展望を抱かせたり、まして具体的な議論を避ける態度をとったりすると、かえって信頼を損なうことさえある。表現にも一工夫が必要だ。すがるような思いで病院にたどり着いた患者・家族に開口一番、「もはや手の施しようがありません」と言おうものなら地獄へ叩き落された心地さえしようというもの。何も根治を望んで来たわけではないのだから、「苦痛を和らげる方法なら、できることはまだありますよ」と、包括的ケアの余地があることを伝えられれば、どれだけ救いとなることだろう。以上のことを心がけて、初めて患者・家族との対話が始まるのだ。こちらにだって病状や治療方針など説明すべきことは山ほどあるのだが、終末期医療の目的がQOLの向上である以上、患者の信念や思いにしっかりと耳を傾けよう。もし、その過程で患者の嗜好を聞き出せたのならしめたもの。しかしそれも、「うわー、その考え方にはついていけないわ」などと邪推や偏見で拒絶してしまえば、それまでだ。患者の需要に応えられたときにQOLは高まる。むしろ理解と信頼関係を深める絶好の機会と捉えて、可能な限り患者本人の願いを実現するべく、家族との協力態勢を構築していこう。気持ちの整理がつくにつれ、受け入れがたい状況でも差し引きどうにか受容できるようになることもある。そうして徐々に歩み寄りつつ共通認識の形成を試みていこう。その積み重ねが、愛する人との静かな別れの時間を醸成し、ひいては別離から立ち直る助けともなるのだ。Point平易かつ明確な言葉で語り掛け、患者・家族の願いを見極めよう「DNRでしょ? ERでできることってないでしょ?」より穏やかな死の過程を実現させるためにも、是非とも対症療法の基本はおさえておこう。訴えに対してやみくもに薬剤投与と追加・増量を繰り返しているようでは、病因と戦っているのか副作用と戦っているのかわからなくなってしまうので、厳に慎みたい。その苦痛は身体的なものなのか、はたまた恐怖や不安など心理的な要因によるものなのか、包括的な視点できちんと原因を見極めるべきだ。対症療法は原則として非薬物的ケアから考慮する。もし薬剤を使用するなら、病因に対して適正に使用すること。また、患者さんの状態に合わせて、舌下錠やOD錠、座薬、貼付剤など適切な剤型を選択しよう。続くワンポイントレッスンと表で、使用頻度の高い薬剤などについてまとめてみた。ただし、終末期の薬物療法は概してエビデンスに乏しいため、あくまでも参考としていただけるとありがたい。表 終末期医療でよく使用する薬剤PointERでできることはたくさんある。適切な対症療法を学ぼうワンポイントレッスン呼吸困難呼吸困難は終末期の70%が経験するといわれている。自分では訴えられない患者も多いので、呼吸数や呼吸様式、聴診所見、SpO2などの客観的指標で評価したい。呼吸困難は不安などの心理的ストレスが誘因となることも多いため、まずは姿勢を変化させたり、軽い運動をしたり、扇風機で風を当てたりといった環境整備を試すとよいだろう。薬剤では、オピオイドに空気不足感を抑制する効果がある。経口モルヒネ30mg/日未満相当ならば安全に使用できる。もし不安に付随する症状であれば、ベンゾジアゼピンが著効する場合もある。口腔内分泌物口腔内の分泌物貯留による雑音は、終末期患者の23〜92%にみられる。実は患者本人にはほとんど害がないのだが、そのおぞましい不協和音は死のガラガラ(death rattle)とも呼ばれ、とくに家族の心理的苦痛となることが多い。まずは家族に対し、終末期に現れる自然な経過であることを前もって説明しておくことが重要だ。どうしても雑音を取り除く必要がある場合は、アトロピンの舌下滴下が分泌物抑制に著効することがある。ただし、すでに形成した分泌物には何の影響もないため、口腔内吸引および口腔内ケアも並行して実践しよう。せん妄せん妄も終末期患者の13〜88%に起こる頻発症状だ。ただし、30〜50%は感染症や排尿困難、疼痛などによる二次的なものである。まずは原因の検索とその除去に努めたい。薬剤投与が必要な場合は、ハロペリドールやリスペリドンなどの抗精神病薬を少量から使用するとよいだろう。睡眠障害睡眠障害はさまざまな要因が影響するため、慎重な評価と治療が不可欠である。まずは昼寝の制限や日中の運動、カフェインなどの刺激物を除去するといった環境の整備から取り掛かるべきだろう。また、睡眠に悪影響を及ぼす疼痛や呼吸困難などのコントロールも重要である。薬物は健忘、傾眠、リバウンドなどの副作用があるため、急性期に限定して使用する。一般的には非ベンゾジアゼピン系のエスゾピクロンやラメルテオンなどが推奨される。疼痛疼痛は終末期患者の50%が経験するといわれている。必ずしも身体的なものだけではなく、心理的、社会的、精神的苦痛の表出であることも多いため、常に包括的評価を心掛けるべきだ。このうち、身体的疼痛のみが薬物療法の適応であることに注意しよう。まずは潜在的な原因の検索から始め、その除去に努めよう。終末期の疼痛における環境整備やリハビリ、マッサージ、カウンセリングなどの効果は薬物療法に引けを取らないため、まずはこのような支持的療法から試みるとよいだろう。薬物療法の際は、軽度ならば非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やアセトアミノフェン、そうでなければオピオイドの使用を検討する。ちなみに、かの有名なWHOの三段階除痛ラダーは2018年の時点でガイドラインから削除されているから注意。現在では、患者ごとに詳細な評価を行ったうえで、痛みの強さに適した薬剤を選択することとなっている。たしかに、あの除痛ラダーだと、解釈次第ではNSAIDsと弱オピオイドに加えて強オピオイドといったようなポリファーマシーを招きかねない。末梢神経痛に対しては、プレガバリンやガバペンチン、デュロキセチンなどが候補にあがるだろう。勉強するための推奨文献日本集中治療医学会倫理委員会. 日集中医誌. 2017;24:210-215.Schlairet MC, Cohen RW. HEC Forum. 2013;25:161-171.Anderson RJ, et al. Palliat Med. 2019;33:926-941.Dy SM, et al. Med Clin North Am. 2017;101:1181-1196.Albert RH. Am Fam Physician. 2017;95:356-361.執筆

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OTC薬の乱用と精神症状発症リスクとの関係

 市販(OTC)薬の入手しやすさは、現代の医療システムにおいて重要な役割を果たしており、個人が軽度の健康課題を自身で管理できるようになっている。しかし、覚醒剤、下剤、鎮痛薬、麻薬の含有製剤など、一部のOTC薬には、誤用や乱用につながりやすい薬理学的特性がある。不適切な用量、期間、適応症に伴う誤用、精神活性作用やその他の違法な目的のための非治療的な使用に伴う乱用は、依存症や中毒につながるリスクがある。イタリア・G. D'Annunzio UniversityのAlessio Mosca氏らは、既存のエビデンスを統合し、抗ヒスタミン薬、鎮咳薬、充血除去薬の誤用と精神症状の発症との関係を包括的に検討した。Current Neuropharmacology誌オンライン版2025年2月18日号の報告。 PubMed、Scopus、Web of Scienceのデータベースを用いて関連研究を特定し、システマティックレビューを実施した。検索ワードには、ジフェンヒドラミン、プロメタジン、クロルフェニラミン、ジメンヒドリナート、デキストロメトルファン、プソイドエフェドリン、コデインベースの鎮咳薬、乱用、誤用、渇望、依存症を用いた。レビューおよび動物実験の研究は除外した。PRISMAガイドラインに従い、データを収集した。 主な結果は以下のとおり。・2,677件中46件の関連研究を分析した。・抗ヒスタミン薬、デキストロメトルファン、その他のOTC薬を乱用すると、妄想、幻覚、思考障害などの精神症状を引き起こす可能性が示唆された。・とくにデキストロメトルファンは、精神疾患の慢性傾向と関連していた。・他の薬剤は、一般的に急性の薬剤誘発性精神症状を引き起こした。 著者らは「OTC薬の乱用は、公衆衛生に幅広い影響を及ぼす。OTC薬の乱用およびそれが重大な精神疾患を引き起こす可能性に対処するために、意識向上や具体的な介入の必要性が示唆された」と結論付けている。

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骨転移のある患者に対する緩和ケア【非専門医のための緩和ケアTips】第97回

骨転移のある患者に対する緩和ケア骨転移は進行がん患者ではよく経験する合併症です。痛みの原因となりますし、骨折をすると日常生活動作(ADL)が大きく低下します。緩和ケアを実践するうえで、こうした症状に適切に対応することは、とても重要です。今回の質問在宅診療で骨転移を伴うがん患者さんを担当しています。痛みがあり医療用麻薬を処方しているのですが、どの程度の動作まで許容されるでしょうか? 転倒して骨折をするのでは、と心配になってしまいます。骨転移を有するがん患者への緩和ケアの際、最も気になるのは「がん疼痛」と「骨折」ですよね。さらに、時折「高カルシウム血症」や「脊髄圧迫」といった救急性の高い病態を来すこともあります。骨転移の痛みに対するアプローチで基本となるのは「WHO方式がん疼痛治療法」1)です。ただ、骨転移の痛みの際はNSAIDsが比較的有効とされるので、腎機能などをみて許容できる際はオピオイドとNSAIDsを併用します。また、骨転移による痛みは動作など刺激による痛みや、骨の脆弱性による病的骨折が問題になります。ここが今回のご質問にも関連するところです。病的骨折とは通常では骨折をしない程度の荷重や刺激で骨折することを指し、骨転移はその一因です。皆さんも、ちょっとした転倒で骨折し、寝たきりになってしまった患者さんの経験があるかもしれません。かといって、動かずじっとしていれば、廃用が進んで寝たきりになってしまいます。ここで骨転移がある患者さんにお勧めしたいのが、「リハビリ」と「コルセットなどの福祉用具」の活用です。「転ばないよう注意しましょう」といっても、患者さんはどのように注意すればよいかわかりません。私自身、明らかな段差やサイズの合わないスリッパなどには注意を促しますが、動作の指導などは荷が重いと感じます。こうした場合は理学療法士などの専門職と連携して指導に当たります。私の勤務先やがん拠点病院などでは、骨転移患者の治療方針決定のための多職種カンファレンスが開催されています。このように骨転移はADLに大きく影響する病態のため、患者本人や家族に理解を促す必要があります。骨転移の注意点を説明し、ADLへの影響や不安について対話をすることが大切です。気掛かりがあれば、医師がすべてに対応する必要はないことを念頭に置き、看護師やケアマネジャーなど各職種に相談しましょう。最後に、骨転移のあるがん患者さんが不幸にして骨折してしまった場合、手術をすべきかどうかについて考えてみましょう。これはなかなか難しい問題で、ケースバイケースという答えにならざるを得ません。手術に耐えられるだけの体力があるかどうか、本人や家族の意向も関わってきます。骨折の部位や残された予後によっては手術はせずにベッド上で固定する、といった対応になることもあります。私の経験では、利き腕の上腕骨の骨転移部がポッキリ折れてしまった患者さんがいました。予後が3ヵ月以上見込めそうだったこともあり、本人と話し合い、整形外科医にコンサルトして手術をしました。結果的に手術をしたことで、食事を含めたADLが自身でできるまでに回復し、本人もとても喜んでいました。こうした個別判断が大切な分野であり、経験豊富な整形外科医を交えて治療方針を話し合いましょう。今回は骨転移のあるがん患者に対する緩和ケアについて考えました。多職種アプローチが大切なので、連携の在り方もぜひ考えてみてください。今回のTips今回のTips 骨転移に対する緩和ケア、多職種でアプローチしましょう。1)WHO方式がん疼痛治療法/日本緩和医療学会

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在宅患者がやってきた【救急外来・当直で魅せる問題解決コンピテンシー】第4回

在宅患者がやってきたPoint在宅患者は、外来に通院できない事情がある。外来患者よりもより医療を必要としている人達だ!在宅患者・家族は、最期まで在宅生活を送れないさまざまな事情も抱えている。患者・家族をはじめ在宅チームは、急変時に病院バックベッドの存在があるから、在宅で頑張れる!在宅医療の普及で、患者・家族、医療者もWin-Winに!症例88歳女性。肝内胆管がん、多発肝転移、リンパ節転移、骨転移あり。消化器科主治医からは「いつでも調子が悪くなったら病院に戻ってきていいよ」と言われたうえで、A病院からB診療所に紹介され、訪問診療が開始された。高齢の夫と長男の妻の3人暮らし。キーパーソンの長男は海外に単身赴任中。嫁に行った長女はよく顔を見にきてくれる。疼痛コントロールも良好であった。訪問診療開始1ヵ月後、長男の妻より「今朝から左手の力が入らない、移動も困難になっている」とB診療所に電話あり。トルーソー症候群(悪性腫瘍の凝固能亢進による脳梗塞)の可能性ありと判断された。在宅医は「今回脳梗塞が疑われるが、原病に伴うものであるため、在宅での継続加療も可能」と長男の妻に話したが、長男の妻の強い希望で、A病院に救急紹介された。A病院では頭部CT、頭部MRIが施行され、左右多発脳梗塞(トルーソー症候群)と診断された。長男の妻は仕事と介護で疲れもピークに達しており、「入院させてほしい」と強い希望があった。救急では入院主治医決定に難航した。原疾患の消化器内科か、脳梗塞の神経内科か。“大人の事情”の協議の末、今回は神経内科で入院加療となった。「最期まで在宅でと決まってなかったの? どうして救急に送ってくるんでしょうね」と救急当番の研修医はボソッと心なくつぶやいてしまった。「『これって在宅医が悪いの?』、『患者・家族が悪いの?』って、そんな視点をもつ医者はロクな医者にならないぞ」と指導医に叱られた。「『病気をみずして人をみろ』が実践できたら、入院主治医決定に迷うことはないんだけどね」と、悲しそうに指導医はつぶやいた。おさえておきたい基本のアプローチどんな患者さん達が在宅医療を受けているのだろうか?在宅患者の85%以上は要介護状態にあり、要介護1~5の患者がそれぞれ10~20%ずつ存在する。在宅患者の基礎疾患は多様であり、とくに循環器疾患・認知症・脳血管疾患を抱える患者の割合が大きい(図1)1)。治癒が期待できない患者(末期悪性腫瘍や人工呼吸器を使用している患者、遺伝性疾患や神経筋難病など)は約15%を占める。図1 疾患別の患者割合在宅医療を受けている患者達は、表1のような状況で、ぎりぎりで在宅生活を送っている実情を理解しておこう。病院に紹介されて疾患だけ治して、家にポイッと帰すだけでは、よい医療の質は保たれないのだ。「病気をみずして、人をみよ」とまさしく体現しているのだ。表1 在宅医療利用患者の生活背景事情独居老々介護在宅介護困難で、施設(グループホーム、老人ホームなど)に入所中家族は働いており、昼間の介護者不在で、ほぼ毎日デイサービス利用している上記などの理由で特養などの施設へ入所したいが、空き待ちの間、在宅医療を受けている一方、患者は在宅療養を受けたくてもなかなかそれができないのが現状なんだ。図2のように、在宅療養移行や継続の阻害要因と、在宅医療推進にあたっての課題が、厚生労働省からもあげられている2)。24時間の在宅医療提供体制や、在宅医療・介護サービス供給量の拡充だけでなく、在宅療養者のバックベッドの確保・整備や、介護する家族支援は欠かせないことが、理解できるだろう。疾病をもつ患者の生活も支えていくことは、医療全体の医療費負担の軽減にもつながるんだ。図2 在宅療養移行・継続阻害要因と在宅医療推進の課題画像を拡大するそんな状況でようやく在宅療養が受けられたが、在宅療養が継続できなくなって病院に紹介されてくるときに、「あ~、ダメだ。病院にお世話にならないといけなくなってしまったぁぁぁ」という患者・家族の思いや在宅医の忸怩たる思いを慮って、病院の受け入れ側医師は優しく温かく良医としての矜持をもって受け入れてほしい。在宅医療を選択することは、在宅で必ずしも死を選択しているわけではなく、まだ準備ができていない患者・家族もいる、在宅で死を迎えたいと思っていても気が変わる場合もある、そんな多様性を病院の受け入れ医師は知っておかないといけない。落ちてはいけない・落ちたくないPitfallsまず、在宅患者は、外来に通えないという前提があることを理解しよう!訪問診療の対象にある患者は、外来通院できない患者に絞られることをまず前提として理解いただきたい。外来診療に通えない人とは、疾患の重症度が高く、多疾患併存状態も多く、通えない事情として身体的要因だけでなく社会的要因も考慮しなければならないだろう。実際に、高齢者を対象として在宅医療の有無の観点から入院患者の特徴と救急車搬送により入院となる割合の違いを明らかにすることを目的とした研究がある3)。在宅医療がある症例はない症例と比較して認知症やがんなど併存症を伴う割合や低栄養および低ADL患者である割合が高く、在院日数の長期化がみられ、介護施設へ転院となる割合が高かった。また、がんをはじめ多くの主傷病において救急車搬入により入院となる割合が高かった。この研究結果を踏まえて、外来患者よりも在宅患者のほうが救急車搬入による入院が多い実態を肝に銘じていただき、患者にも家族にも優しい対応をお願いしたい。米国では、高齢者を対象に在宅医療サービスを開始したところ、登録前の1年間と登録後で同じ患者で比較して、ERの訪問が約30%、入院が10%減少したという報告もある4)。やはり在宅医療は患者・家族、医療者にとって、Win-Winな制度と考えられるだろう。Pointなぜ在宅医療を受けているのか? という理由をまず考えてみよう!急激なADLの低下出現…在宅生活本当に続けられる!?冒頭の症例の患者は末期がんの状態であり、ADLの低下は予想されていた。しかし脳梗塞による急激なADL低下に、主介護者である長男の妻より、在宅加療継続は難しいとのお話があり、入院加療となった。長男の妻は仕事で日中介護できず、在宅生活も1ヵ月近くなっており介護疲れもあった。入院後にもカンファレンスを行い、元々入っていた訪問看護以外に訪問介護導入も可能とお話したが、実母を看取った経験も踏まえて、在宅加療を継続する自信がないとのことだった。本人の気持ちも確認したが、このまま入院でよいとのお話であった(長男の妻によると、ご本人は周囲の状況を察してあまりわがままは言えない性格とのことだった)。キーパーソンの息子も帰国したが、入院加療を続けてほしいとのお話であり、転院調整中にA病院でお亡くなりになった。在宅医療は病気だけをみていたのでは始まらない。生活背景や心理的背景も考慮して、家族も支えていかないといけない。無理矢理在宅を継続することで、長男の妻が精神的にも肉体的にも追い詰められて、本当に体を壊してもいけないのだ。また海外駐在の息子さんがいるというのも、権利意識やインフォームド・コンセントにも気を遣い、診療方針決定に大きく影響を受け、そういうことまで配慮してこそ在宅医療はうまくいくのだ。高齢者は、疾病でも外傷でも容易にADLが低下する。疾病の重症度だけで帰宅可能と判断しても、実際は帰宅後の介護負担が増加して、より危険にさらされる状況になってしまうことは珍しくない。尿路感染だけ診断して安易に帰宅させた老々介護の高齢女性が、自宅で転倒し大腿骨近位部骨折を併発して、救急車で舞い戻ってきたという事例もある。ときには患者家族と救急担当医の間で患者の押し付け合いのような現象が生じる。しかし、無理に帰宅させて病状が悪化するのでは、判断が甘いといわざるを得ない。帰宅後に病態の見落としが判明する場合もある。在宅医療を受けている患者の入院・帰宅の判断の際には、帰宅後の介護負担を十分に考慮し、メディカルソーシャルワーカーなどを通じて、ケアマネジャーや在宅主治医などと連携して、帰宅後の介護や医療提供を考慮するように心がけたい5)。Point継続しておうちで過ごせそうでしょうか? ケアマネ・在宅主治医にも相談してみましょう在宅患者・家族みんなが、最期まで在宅と考えているわけではない前述の患者も、最期まで在宅と決めて、訪問診療を開始したわけではない。退院の際に病院主治医から「困ったときは入院も考慮します」と話があり、その言葉が、患者・家族・在宅チームの安心につながっていた。在宅医療を含む自宅療養を受ける際にその患者や家族が抱える問題意識として、症状急変時の対応に不安があること、症状急変時すぐに入院できるか不安があることが、図2に示されている。他のケースでも、最期は病院でと病院主治医と約束し、在宅医療開始になった患者がいる。1人は肺がん末期で、呼吸苦や疼痛はオピオイド増量でコントロールしていたが、急激に呼吸状態が悪化し、訪問看護が呼ばれ、訪問看護からの連絡で往診のうえ、家族の希望も踏まえて紹介元の病院に紹介したが、24時間以内に亡くなった。もう1人は、肝細胞がん末期、胸水腹水貯留で、腹水除去などを在宅で行っていたが、深夜呼吸苦が増悪し、在宅酸素導入したが、家族が病院紹介を希望され、この方も24時間以内に亡くなった。結構ぎりぎり最期(死ぬ直前)まで患者も家族も在宅で頑張っているんだ。「だったら最期くらい家で看取ればいいのに」なんて冷たい言い方をしてはいけない。最後の最後につらそうにしている患者を家族が在宅で看ていられなくなってしまう気持ちもわかってあげよう。家族は医療者ではなく素人であり、死に対する免疫はないのだから。オンタリオの研究では、家で看取ると思っていても、最後は不安になって16%の人は救急車を呼ぶという6)。ぎりぎりまで在宅で患者に寄り添った家族にやさしい言葉をかけられる医療者こそ、心の通った医療者なんだ。Point病院主治医に、困ったらおいでと言われていたのですね。よくここまでおうちで頑張りましたね在宅看取りのはずなのに、どうして救急搬送してしまうのか?在宅看取りを希望していても、心配で在宅主治医や訪問看護師を呼ぶ前に119番通報してしまう家族もいるものと理解しよう。気が変わるのは仕方のないこと。むしろ絶対に気が変わったらダメなんて言ったら、在宅医療は推進できない。蘇生処置を行わない意思表示(DNAR:Do Not Attempt Resuscitation)のある終末期がん患者の臨死時に救急車要請となる理由を救急救命士への半構造的面接により検討した研究論文7)では、(1)DNARに関する社会的整備が未確立(臨死時救急車以外病院搬送手段がないなど)(2)救急車の役割に対する認識不足(蘇生処置をせずに救急搬送が可能という認識の住民や医師がいるなど)(3)看取りのための医療支援が不十分(4)介護施設での看取り体制が不十分(5)救急隊に頼れば何とかなるという認識(何かあったときは119番という住民感情があるなど)(6)在宅死を避けたい家族の思い(家族が在宅死に対する地域社会の反応を気にするなど)(7)家族の動揺(DNARの意思が揺らぐ家族など)といった7つの理由が明らかになったとしている。Pointとっさに、救急車を呼んでしまったのですね。最期にこんなにバタバタするとは想像しなかったですよね。状態が悪いのを見ているのはつらいので、無理もないですよワンポイントレッスン在宅側からの取り組み─在宅看取りの文化の醸成に向けて─在宅医療を受けていても、救急車を呼び、今まで関係のなかった病院に搬送されると、死亡判定後、警察が来て検死が始まる。警察が事情を聴きに家まで来てしまうのだ。「まさか警察が来て事情聴取を受けるなんてぇ…」と、思いがけない最期に憤りや後悔をあらわにする家族もいる。家族に後悔が残らないようにするための在宅側からの取り組みを紹介する。在宅医療を地域住民に啓発しよう2014年厚生労働省より全国1,741市町村別に在宅死の割合が発表されたが、全国平均12.8%に対し、筆者のクリニックがある永平寺町は6.7%であり、福井県下でも最下位だった。永平寺町内には福井大学医学部附属病院がそびえたち、町民の生活風景のなかに大学病院があることで、何かあれば大学病院に行けばよいとの住民感情もあっただろう。大学病院なのに町立病院のような親近感をもたれているといえばそのとおりなんだけど…。そんな状況を受け、2019年8月1日に永平寺町立在宅訪問診療所(24時間体制の在宅支援診療所)が設立された。開設の約1年前から町の福祉保健課、地域包括支援センターとともに永平寺町民に向けて、在宅医療についての説明会を約2年間にわたって計70回行い、在宅医療が何なのかの啓発活動に専念した。最期がイメージしやすいパンフレットを作成がんの末期で病院から紹介いただく患者でも、最期に向けてどのような経過を辿っていくのかイメージできず、強い不安を感じている患者・家族がほとんどだ。そこで当院ではパンフレットを作成し、タイミングをみて、パンフレットを用いながら、今後の変化について、説明している(図3)。図3 最期をイメージするためのパンフレット緩和ケア普及のための地域プロジェクトがフリーで提供している「これからの過ごし方」というパンフレットも大変参考になる8)。ほかにも、疼痛などの評価ツールなども掲載されているので、ぜひ参考にされたい(緩和ケア普及のための地域プロジェクト)。救急車を呼んでしまうと、その先には!?最期のときに焦って救急車を呼んでしまうと、救命のために心臓マッサージや気管挿管が行われ、病院で最期を迎えた場合は、警察による検死も行われることもあるとパンフレットや口頭でお伝えしている。119番をコールする前に、訪問看護か在宅医にコールを! ということで、24時間連絡可能な連絡先が記載された用紙をお渡しし、家の目立つところに掲示してもらっている。最期に呼ぶのはあわてない、あわてない…最期が近いと予測されている場合、また真夜中などにおうちで息を引き取った場合、あわてずに翌朝、当方に連絡してもらえればよいこともお伝えしている。息を引き取る瞬間にご家族や医療者がもし立ち会えなかったとしても、在宅主治医が死後24時間以内に往診し診察すれば、死亡診断書が書けるのだ。家族も夜はなるべく休んでいただくよう説明している。参考1)厚生労働省. 在宅患者の状況等に関するデータ.2)厚生労働省. 在宅医療の動向.3)たら澤邦男 ほか. 日本医療マネジメント学会雑誌. 2020;21:70-78.4)De Jonge E, Taler G. Caring. 2002;21:26-29.5)太田凡. 日本老年医学会雑誌. 2011;48:317-321.6)Kearney A, et al. Healthc Q. 2010;13:93-100.7)鈴木幸恵. 日本プライマリ・ケア連合学会誌. 2015;38:121-126.8)緩和ケア普及のための地域プロジェクト(厚生労働科学研究 がん対策のための戦略研究). これからの過ごし方について.執筆

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手術中の強オピオイド鎮痛薬の使用は手術後の疼痛と関連

 手術中に強オピオイド鎮痛薬のレミフェンタニルとスフェンタニルを使用することは、手術後の望ましくない「疼痛経験」と独立して関連することが示された。「疼痛経験」とは、単なる痛みの強度だけでなく、感情的・精神的・認知的な側面を含めた包括的な概念である。ニース・パスツール病院大学病院センター(フランス)のAxel Maurice-Szamburski氏らによるこの研究は、「Regional Anesthesia & Pain Medicine」に2月25日掲載された。 Maurice-Szamburski氏は、「オピオイド鎮痛薬は手術後の疼痛軽減に役立つことがあるが、手術中の使用、特に、強オピオイド鎮痛薬のレミフェンタニルやスフェンタニルの使用は、逆に疼痛を増大させる可能性がある」と述べている。 この研究では、フランスの5カ所の総合教育病院で、全身麻酔下で選択的手術を受けた18〜70歳の成人患者971人(年齢中央値49.6歳、65歳以下88%、男性48%)のデータの二次解析が行われた。対象者の手術前の不安は、アムステルダム術前不安・情報尺度(APAIS)により、また、疼痛、睡眠の質、ウェルビーイングは、手術の前後に視覚アナログ尺度(VAS)を用いて測定されていた。主要評価項目は、手術後1日目にEvaluation du Vecu de l'Anesthesie Generale(EVAN-G)質問票で測定した患者の疼痛経験とし、EVAN-G疼痛次元の25パーセンタイル未満の場合を「不良な疼痛経験」と定義した。手術の種類としては、整形外科または脊椎(37%)、耳鼻咽喉(29%)、消化器(15%)が多かった。 271人(27.9%)が手術後の不良な疼痛経験を報告していた。多変量解析では、手術中のレミフェンタニルとスフェンタニルの使用が、手術後の不良な疼痛経験の独立した予測因子であることが示された。これらの薬剤の使用により不良な疼痛経験が生じるオッズ比は26.96(95%信頼区間2.17〜334.23、P=0.01)と推定された。この結果について研究グループは、「これは、『オピオイド誘発性痛覚過敏』と呼ばれる既知の現象と一致している。高用量のオピオイドにさらされた患者では、痛みの刺激に対する感受性が高まる可能性がある」との見方を示している。 また、米国麻酔科学会(ASA)による全身状態分類であるASA-PS(ASA physical status)分類でクラスIIIに分類される重篤な全身疾患を有すること(オッズ比5.09、95%信頼区間1.19〜21.81、P=0.028)、手術後の抗不安薬の使用(同8.20、2.67〜25.20、P<0.001)、手術後の健忘(同1.58、1.22〜2.06、P=0.001)も、不良な疼痛経験のリスクを高める要因であることが示された。一方、手術前に鎮痛薬を使わないこと(同0.49、0.25〜0.95、P=0.035)と整形外科の手術(同0.29、0.12〜0.69、P=0.005)は不良な疼痛経験のリスクを低下させる要因であった。 研究グループは、「痛みは強さ以外の側面が見落とされがちだが、手術後の急性疼痛が慢性疼痛へ移行するリスクを予測する上ではそれらが非常に重要だ。したがって、不良な疼痛経験の要因を理解することにより、痛みの強度の管理だけにとどまらない、周術期ケアの新たな選択的ターゲットが明らかになる可能性がある」と述べている。

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非がん性慢性疼痛へのオピオイド、副作用対策と適切な使用のポイント~ガイドライン改訂

 慢性疼痛はQOLを大きく左右する重要な問題であり、オピオイド鎮痛薬はその改善に重要な役割を果たす。一方、不適切な使用により乱用や依存、副作用が生じる可能性があるため、適切な使用が求められている。そこで、2024年5月に改訂された『非がん性慢性疼痛に対するオピオイド鎮痛薬処方ガイドライン改訂第3版』1)の作成ワーキンググループ長を務める井関 雅子氏(順天堂大学医学部 麻酔科学・ペインクリニック講座 教授)に、本ガイドラインのポイントを中心として、オピオイド鎮痛薬の副作用対策と適切な使用法について話を聞いた。新規薬剤が追加、特殊な状況での処方や副作用対策などが充実 2017年に改訂された前版の発刊以降に、非がん性慢性疼痛に対して新たに使用可能となった薬剤・剤形が複数登場したことなどから、時代に即したガイドラインの作成を目的として『非がん性慢性疼痛に対するオピオイド鎮痛薬処方ガイドライン改訂第3版』が作成された。井関氏は、今回の改訂のポイントとして以下を挙げた。1.新しい薬剤・剤形の追加 前版の発刊以降に慢性疼痛に使用可能となった薬剤として、トラマドール速放部付徐放錠(商品名:ツートラム)、オキシコドン徐放錠※(商品名:オキシコンチンTR錠)が追加され、オピオイド誘発性便秘症に対して使用可能となった薬剤として、ナルデメジン(商品名:スインプロイク)が追加された。 ※:非がん性慢性疼痛に適応を有するのはTR錠のみ2.特殊な状況でのオピオイド鎮痛薬処方の章の追加 妊娠中の患者、高齢患者、腎機能障害患者、肝機能障害患者、睡眠時無呼吸症候群患者、労働災害患者、AYA世代患者へのオピオイド鎮痛薬処方に関するクリニカルクエスチョン(CQ)を新設した(CQ9-1~9-7)。3.構成の変更 オピオイド鎮痛薬は慢性疼痛の管理に幅広く使われることから、オピオイド鎮痛薬への理解を深めてから使用してほしいという願いをこめ、第1章に「オピオイドとは」、第2章に「オピオイド鎮痛薬各論」を配置し、内容を充実させた。なお、オピオイド鎮痛薬の強さは「弱オピオイド(トラマドール、ブプレノルフィン、ペンタゾシン、コデイン)」「強オピオイド(モルヒネ、オキシコドン、フェンタニル)」に分類し(CQ1-4、p32表6)、使い方や考え方の違い、副作用についてまとめた。4.オピオイド誘発性便秘症への末梢性μオピオイド受容体拮抗薬の追加 オピオイド誘発性便秘症に対し、末梢性μオピオイド受容体拮抗薬のナルデメジンが使用可能となったことから、CQを追加した(CQ5-5)。便秘の管理が重要、ナルデメジンの使用を強く推奨 オピオイド鎮痛薬による治療中には、悪心・嘔吐、便秘、眠気などの副作用が高頻度に出現する。ただし、井関氏は「悪心・嘔吐はオピオイド鎮痛薬の使用開始・増量から2週間以内に発現することが多いため、制吐薬などを使用することで管理可能である」と述べる。本ガイドラインでも、耐性が形成されるため1~2週間で改善することが多いこと、オピオイド鎮痛薬による治療開始時や増量時には制吐薬を予防的に投与することを検討してよいことが記載されている。 一方で、「便秘についてはオピオイド鎮痛薬による治療期間を通してみられるため、管理が重要である」と井関氏は話す。オピオイド誘発性便秘症については、新たに末梢性μオピオイド受容体拮抗薬のナルデメジンが使用可能となっている。そこで、本ガイドラインではCQが設定され、一般緩下薬で改善しないオピオイド誘発性便秘症に対して、ナルデメジンの使用を強く推奨している(CQ5-5)。ナルデメジンを使用するタイミングについて、井関氏は高齢者ではオピオイド鎮痛薬の使用前から、酸化マグネシウムなどの一般緩下薬を使用している場合も多いことに触れ、「まずは酸化マグネシウムなどの一般緩下薬を少量使用し、効果が不十分であれば、増量するよりもナルデメジンの併用を検討するのがよいのではないか」と考えを述べた。突然増強する痛みにオピオイド鎮痛薬は非推奨 非がん性慢性疼痛を有する患者において、突然増強する痛み(がん性疼痛でみられる突出痛とは管理が異なることから区別される)が生じることも少なくない。この突然増強する痛みに対して、本ガイドラインでは「安易にオピオイド鎮痛薬を使用すべきではない。オピオイド鎮痛薬による治療中にレスキューとしてオピオイド鎮痛薬を使用することは、使用総量の増加や乱用につながる可能性が高く、推奨されない」としている。これについて、井関氏は「オピオイド鎮痛薬に限らず、突然増強する痛みに対して即時(数分以内など)に効果がみられる薬剤は存在しないため、痛みの期間と薬効のタイムラグが発生してしまう。なかなか薬で太刀打ちできるものではないため、患部を温める、さすってみるなど、非薬物療法を考慮してほしい」と述べた。また、井関氏は「突然増強する痛みに対して、慢性疼痛に適応のない短時間作用性のオピオイド鎮痛薬をすることは、治療効果が出ないだけでなく、依存や副作用が生じるため避けなければいけない」と指摘した。 井関氏は、オピオイド鎮痛薬の適切な使用に向けて、がん患者のがん性疼痛と非がん性慢性疼痛をしっかり区別することが重要であると話す。がん患者の場合、がん性疼痛以外にも術後の痛み、化学療法後の痛み、放射線治療後の痛みなどさまざまな非がん性慢性疼痛が存在するが、これらを区別せずに強オピオイド鎮痛薬が使用されることが散見されるという。これについて、井関氏は「非がん性慢性疼痛に適応のない強オピオイドの速放性製剤を用いると、血中濃度の変動も大きく、依存になりやすいため非常に危険である」と指摘した。また、がん患者に限らず、たとえば帯状疱疹による痛みに対して「痛いと言われるたびにどんどん増量してしまうのも不適切使用である」とも語った。井関氏は、適切な使用のために「オピオイド鎮痛薬の特性と慢性疼痛という病態をしっかり理解したうえで、オピオイド鎮痛薬を使ってほしい」と述べた。適切な使用のために心がけるべき4つのポイント 最後に、オピオイド鎮痛薬の適切な使用に向けて心がけるべきポイントを聞いたところ、井関氏は以下の4点を挙げた。1.長期投与・高用量を避ける 投与期間は6ヵ月までとし、強オピオイドの場合は標準的にはモルヒネ換算で60mgまで、最大でも90mgまでとする。疼痛が改善して減薬する場合には、短いスパンで観察することなどにより退薬症状を出さないようにする。2.不適切使用を避ける たとえば、がん患者の非がん性疼痛に対してオピオイド鎮痛薬を使用する場合は、これまでがんに直接起因する痛みへの処方の経験があったとしても、非がん性慢性疼痛に処方するための正規のステップを踏んで、企業のeラーニングを受講して慢性疼痛の知識を持ち、処方資格を得るべきである。がん患者であっても、非がん性慢性疼痛に適応のない速放性製剤を非がん性慢性疼痛に用いることは、依存を招くため許容されない。3.若年患者への処方は慎重に判断する 若年患者では依存症のリスクが高いため、できるだけオピオイド鎮痛薬以外の治療法を検討する。4.QOLを低下させない 眠気が強いようであれば減量する、便秘の対策をしっかりと行うなど、QOLを下げない工夫をする。

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第1回 FDAが承認した革新的「非オピオイド鎮痛薬」の衝撃、疼痛管理に新たな選択肢

米国食品医薬品局(FDA)は先日、バイオ医薬品企業バーテックス・ファーマシューティカルズが開発した新しい非オピオイド鎮痛薬suzetrigine(商品名:Journavx)を承認しました1,2)。これは中等度から重度の急性疼痛を対象とした経口剤で、約20年ぶりに承認された新しい作用機序を持つ鎮痛薬です。オピオイド乱用の背景承認の背景には、米国で深刻化するオピオイド系鎮痛薬乱用の問題があります。オピオイド系鎮痛薬は本来、強い痛みを効果的に抑える薬剤として処方されてきましたが、その強力な鎮痛作用ゆえに依存や乱用が社会問題化し、過去20年余りで約50万人が過剰摂取によって死亡したと報告されています3)。このため、たとえば著者の私が仕事をするニューヨーク州では、オピオイドの処方はすべて厳格に監視されており、処方制限が本当に必要な患者さんの入手を難しくするなど、近年はむしろ過度とも言えるほどの規制強化が行われています。しかし、その代替として違法薬物に手を染める人も少なくありません。その解決策になると安易には言えませんが、このような状況も相まって、非オピオイド系の新たな鎮痛薬の選択肢を求める声が医療従事者や保険当局の間でありました。suzetrigine(Journavx)の特徴と今後の課題発売元の2024年1月30日付のリリースによると、今回承認されたsuzetrigineは、痛みを伝える神経のナトリウムチャネルを選択的に阻害する新しいメカニズムを持った鎮痛薬で、依存症リスクや中毒性を大幅に低減できる点が期待されています。先に行われた第III相試験では、外反母趾などの術後の疼痛をプラセボと比較して有意に改善することが示されています。12時間ごとに服用する経口剤で、副作用として、かゆみ、筋痙攣、CPK上昇、皮疹などが報告されています2)。発売元によると、米国内での卸売価格は1錠当たり15.50ドル(約2,400円)と設定されました4)。新薬として画期的ではあるものの、既存のジェネリック医薬品や低価格のオピオイド鎮痛薬と比較するとコスト面に不安が残るため、保険会社、医療機関がどの程度この新薬を採用するかが今後の課題となります。一方、賞賛の声が聞かれているのも事実です。非オピオイド系鎮痛薬の選択肢が増えることで、依存症リスクを避けつつ適切な痛みのコントロールを図れるようになる可能性があります。今後は実臨床での効果と安全性がより詳しく検証され、薬価や保険適用の状況次第では、オピオイドクライシスの克服に向けても大きな一歩となることが期待されます。また、日本においても、新たな鎮痛薬の選択肢として期待されるものになるでしょう。このように今回のFDA承認は、痛みの治療における選択肢を広げ、オピオイド乱用が深刻化する米国で新たな光となるかもしれません。今後は医療経済面の検討、慢性疼痛への効果の有無や長期使用時の安全性データの蓄積を踏まえながら、どのように実際の患者ケアに組み込まれていくのかが大きな注目点となるでしょう。参考文献・参考サイト1)Smith G. New Pain Drug Gets FDA Nod as Safer Alternative to Addictive Opioids. Bloomberg. 2025 Jan 31.日本語版:米FDA、オピオイドに代わる鎮痛剤を承認-依存症リスク抑制2)FDA Approves Novel Non-Opioid Treatment for Moderate to Severe Acute Pain. 2025 Jan 30.3)CDC. Drug overdose deaths - Health, United States. 2024 Aug 2.4)Harrison C. Vertex’s opioid-free drug for acute pain wins FDA approval. Nat Biotechnol. 2025 Feb 17.

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悪性腸腰筋症候群について【非専門医のための緩和ケアTips】第95回

悪性腸腰筋症候群について私にとって「難治性がん疼痛」といったら、まず想起するのが「悪性腸腰筋症候群」です。聞いたことがない方も多いかもしれませんが、決して珍しいものではないので、この機会に一緒に学んでいきましょう。今回の質問以前に担当していた患者さん。腸腰筋に転移があり、股関節をまったく伸展できない状態でした。オピオイドを増量しても眠るばかりで、痛みが軽減した様子はありません。あまり聞いたことのない転移ですが、どういった対応ができますか?質問にあるような「股関節を伸展できない痛み」というのが、この腸腰筋症候群の特徴的症状です。腸腰筋とは小腰筋、大腰筋、腸骨筋からなる筋肉の総称で、股関節の運動に関わります。有名なのは虫垂炎の腸腰筋兆候ですね。これは虫垂の炎症が腸腰筋に及ぶと、股関節を伸展させたときに伸ばされる腸腰筋に痛みが生じる徴候です。これと同じ原理で、腸腰筋に悪性腫瘍が浸潤することで痛みが生じ、これを悪性腸腰筋症候群と呼びます。この悪性腸腰筋症候群は難治性がん疼痛となることが知られています。これは腸腰筋自体に悪性腫瘍が浸潤することで生じる侵害受容性疼痛だけでなく、神経障害性疼痛を併発することが関連します。神経障害性疼痛はオピオイドの効果が発揮しにくいタイプの痛みでしたね。私は子宮頸がんが腸腰筋に転移した若年女性の患者を担当し、その痛みのコントロールに非常に難渋した経験があります。彼女は股関節を伸展させることができず、股関節を屈曲させたままベッドの上で痛みにうなされていました。オピオイドはもちろん、さまざまな鎮痛補助薬を用いたのですが、まったく痛みの軽減ができませんでした。幸いこの方は放射線治療が効果を発揮し、独歩可能な状態で退院することができました。私はこのケースで症例報告を書きました。悪性腸腰筋症候群はCTなどで腸腰筋への転移が認められ、症状が矛盾しなければ診断自体は難しくありません。まずは非オピオイド鎮痛薬とオピオイドを用いながら、鎮痛補助薬を追加します。痛みの原因として腸腰筋の攣縮が関与しているとされ、ジアゼパムやバクロフェンなどの筋弛緩作用のある薬剤が有効だったという報告もあります。ただ、私が今、過去に経験した腸腰筋症候群に対応するとしたら、確実に神経ブロックを勧めるでしょう。その当時、私の施設では神経ブロックの体制がなかったので薬物療法と放射線治療のみを実施しました。非常に痛みが強い中での放射線治療だったため、鎮静を要しました。放射線治療室は鎮静をしながら行うことを想定しておらず、安全の観点からあまり望ましくありません。幸い放射線治療が有効でしたが、体制が整っていれば、薬物療法で鎮痛を試みながら麻酔科に神経ブロックを依頼し、痛みを和らげたあと、安全に放射線治療が実施できるよう試みることでしょう。いずれにせよ、悪性腸腰筋症候群に対するアプローチに確立されたものはありません。緩和ケアの専門家であれば一度は経験したことのある徴候ですので、地域の専門家に相談しながら対応することをお勧めします。今回のTips今回のTips悪性腸腰筋症候群は、まれに遭遇する難治性がん疼痛を来す症候群。専門家に相談しながら対応を。

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肥満患者における鎮静下消化器内視鏡検査中の低酸素症発生に対する高流量式鼻カニュラ酸素化の有用性(解説:上村直実氏)

 消化器内視鏡検査は苦痛を伴う検査であると思われていたが、最近は多くの施設で苦痛を軽減するため、検査時に鎮静薬や鎮痛薬を用いた鎮静法により大変楽に検査を受けられるようになっている。しかし、内視鏡時の鎮静に対する考え方や方法は国によって大きく異なっている。米国では、内視鏡検査時の鎮静はほぼ必須であり、上下部消化管内視鏡検査受検者のほぼすべてが完璧な鎮静効果を希望するため、通常、ベンゾジアゼピン系薬品とオピオイドの組み合わせを使用して実施される。具体的には、ベンゾジアゼピン系催眠鎮静薬のミダゾラムとオピオイド鎮痛薬のフェンタニルの組み合わせが、最も広く利用されている。保険診療システムが異なるわが国でも、日本消化器内視鏡学会のガイドラインにおいて「経口的内視鏡の受容性や満足度を改善し、検査・治療成績向上に寄与する」ことから検査時の鎮静が推奨されると明記されており、多くの施設においてミダゾラムの使用が一般的になっている。 一方、内視鏡検査時の鎮静に関して最もよくみられる有害事象は、呼吸抑制、気道閉塞、胸壁コンプライアンスの低下に伴う低酸素血症である。とくに肥満者に多くみられる合併症であり、時に重篤になる場合もあるため注意が必要である。今回、中国・上海の大学病院3施設でBMIが28以上の肥満者を対象として鎮静を伴う検査時の低酸素血症を予防する手段として、加湿・加温された高濃度の酸素を最大60L/minという高流量で供給する高流量式鼻カニュラ(HFNC)を介した酸素投与の有用性を検証する目的で、通常の鼻カニュラを対照として施行された多施設ランダム化比較試験の結果が、2025年2月のBMJ誌において報告された。 本試験で使用された鎮静法は、麻酔科医師の指導の下にsufentanilと静脈麻酔薬のプロポフォールが用いられているが、日本では「消化器内視鏡診療におけるプロポフォールの不適切使用について ―注意喚起―」が日本消化器内視鏡学会から提起されているように、本剤は麻酔科医師の監視の下に使用することが義務付けられている点に注意が必要である。非常に強い鎮静効果を有する鎮静法における肥満者の低酸素血症予防が重要であると思われるが、本試験の結果では通常の鼻カニュラに比べて低酸素血症を引き起こす頻度が20%から2%に劇的に減少し、HFNCの有用性が明らかにされたものであり、将来的にはわが国にも導入されることが期待される。 最後に、消化器内視鏡検査を受ける患者さんにとって検査時の鎮静は賛否両論あるようで、「楽に検査を受けられる」「苦しい検査は受けたくない」とする鎮静賛成派と「検査の最中に意識がなくなるのは嫌」「内視鏡の画像を見たいので」という否定派に分かれている。内視鏡医にも肯定派と否定派がいて、最近では肯定派の医師が多くなっているが、鎮静に用いる薬剤の有用性とリスクに熟知することが重要であることは言うまでもない。

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米国、オピオイド使用障害への救急医によるブプレノルフィン処方増加/JAMA

 米国では、オピオイド使用障害(OUD)とOUD関連死亡率が依然として高く、その抑止対策の1つとして、有効性が確認されているオピオイド受容体の部分作動薬であるブプレノルフィンの投与を救急診療科にも拡大しようという取り組みが全国的に進められている。米国・カリフォルニア大学のAnnette M. Dekker氏らはこの取り組みの現況を調査し、2017~22年にカリフォルニア州の救急医によるOUDに対するブプレノルフィン処方が大幅に増加しており、患者の約9人に1人は1年以内に継続処方を開始していることを示した。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2025年2月19日号に掲載された。カリフォルニア州の後ろ向きコホート研究 研究グループは、米国・カリフォルニア州における、OUDに対する救急医(emergency physician)によるブプレノルフィン処方状況の経時的変化を明らかにする目的で、後ろ向きコホート研究を行った(Korein Foundationなどの助成を受けた)。 California Controlled Substance Utilization Review and Evaluation System(CURES)データベースを用いて、2017年1月1日~2022年12月31日にブプレノルフィンの初回の処方を受けたカリフォルニア州の郵便番号を持つ年齢18~79歳のすべて患者のデータを抽出し、その同州の処方医のうち救急医を同定した。救急医による処方、2%から16%に増加 2017~22年に、カリフォルニア州では2万1,099人の臨床医から、34万5,024人のOUD患者が378万765件のブプレノルフィンの処方を受け、処方件数は2017年の50万499件から2022年には73万1,881件に増加した。ブプレノルフィン初回処方時の患者の平均年齢は37(SD 12)歳で、8,187人(67%)が男性であった。 ブプレノルフィン処方医のうち救急医は、2017年の2%(78人)から2022年には16%(1,789人)に増加しており、有意差を認めた(p<0.001)。また、すべてのブプレノルフィン初回処方のうち救急医による処方は、2017年の0.1%(53件)から2022年には5%(4,493件)へと有意に増加した(p=0.001)。この間の救急医によるブプレノルフィン処方件数は1万5,908件で、このうち初回処方は1万823件、非初回処方は5,085件であった。OUD患者の約3人に1人は40日以内に2回目の処方 2017~22年に、3,916人のOUD患者が、救急医によるブプレノルフィンの初回処方から40日以内に2回目の処方を受け、継続率(continuation ratio)は2.8(1万823人/3,916人、約3人に1人)であった。また、救急医によるブプレノルフィン初回処方から40日以内に、180日以上の継続処方を開始した患者の継続率は18.3(1万823人/593人)、1年以内に同様の継続処方を開始した患者の継続率は9.1(5,989人/655人[2017~21年のデータ]、約9人に1人)であった。 著者は、「これらの結果は、依存症の治療システムにおける救急診療科の役割を強く訴えるものであり、救急診療科を確実に利用できるようにし、維持期の外来治療に円滑に移行できるよう、さらなる努力が求められる」としている。

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せん妄時にハロペリドール5mg投与は適切か?【こんなときどうする?高齢者診療】第10回

CareNeTVスクール「Dr.樋口の老年医学オンラインサロン」で2025年1月に扱ったテーマ「せん妄と認知症のBPSD:5つのMを使って症状と原因に対応する」から、高齢者診療に役立つトピックをお届けします。高齢者診療において、認知症、せん妄、抑うつの3つは頻繁にみられる精神・認知にまつわる症状です。これらはオーバーラップし、併発することも多く、正確に3つを見分けることは非常に難しいのが現実です。しかし、安易に「せん妄」とラベリングをして身体拘束、薬剤対応をするのではなく、原因を考える視点が不可欠です。今回は、ケースを通じて、適切な評価と対応について一緒に考えていきましょう。85歳女性 呼吸困難を生じ自宅で転倒。救急を受診し、心不全急性増悪と診断される。尿閉はないが、「尿量把握」のため導尿カテーテル挿入、フロセミド投与による利尿処置を行い、入院治療・観察開始。既往症高血圧、心不全、2型糖尿病、CKDIII、軽度認知機能障害、TIA(3年前)入院1日目21:30心臓モニター、酸素飽和度モニター、末梢点滴、導尿カテーテルなどを開始された状態で病棟に到着。転倒防止のためにベッドアラームも開始された。22:30「不安を訴えた」ため頓服オーダーされていたロラゼパム服用。また痒み症状緩和のためジフェンヒドラミンを経口投与された。3:00不安と痒み症状は軽快せず、体動が続き、ベッドアラーム音により興奮症状が悪化。ベッドから起きてモニターを外し、病院を出ようと試みる過活動性せん妄と判断され、ハロペリドール5mg静注。投与後、就寝し興奮・行動症状は軽快。看護師の報告には「薬剤投与による良好な効果」と記載されていた。入院2日目8:00起床せず、朝食摂取なし。10:30ベッド上におり、ほぼ目を覚まさない。薬剤で興奮がおさまったのは、本当に「良好な効果」だったのか?ベッドサイドで対応した看護師からすると、“興奮症状が出て、指示に従わず自己離床し、病院から出ようとした患者が、薬剤投与後に落ち着いて就寝した。その後、アラームが鳴らず、転倒やモニター外しなどの行動も見られなかった”という状況は、薬剤投与による「良好な効果」に見えてしまうかもしれません。しかし、この状況の正しい解釈は何だったのでしょうか。この状況の適切な解釈のひとつは「過活動性せん妄が過鎮静され、眠ってしまった」ということです。過鎮静を「治療効果」と誤認してしまうと食事摂取量の減少、身体活動量の低下、廃用症候群の進行、転倒、誤嚥リスクの上昇、そして抗精神病薬による死亡率の上昇といった負の影響を招きます1)。薬剤による身体拘束(薬剤拘束)は避けるべき。それでも薬を使うならば-ハロペリドール、クエチアピンやオランザピンのような抗精神病薬は半減期が長いものが多く、高齢者では10時間以上効果が持続する場合もあります。これらの背景を考慮して安全に使用するには、効果が期待できる最少量から始める慎重さが必要です。もちろんどの程度の用量で効果を期待できるかは、患者の身体的な状況や行動精神症状により異なりますので、少量から始め、薬剤それぞれの最高血中濃度到達時間を目安に症状を再評価、薬剤による効果を確認します。※例:静注・筋注のハロペリドールの最高血中濃度到達時間は10~20分症状が治まらなければ再度同量、または必要に応じて増量し再評価。これを繰り返して患者ごとの「効果が確認できる最少量=適量」を見つける手順を踏むのが賢明です。しかし、薬の投与方法を変更することは対処方法のひとつではあるものの、薬剤による鎮静や精神行動症状への対応も「身体拘束のひとつ」であるという認識を持っておくことが重要です。アメリカの長期療養施設や回復期病院では薬剤的か機械的(拘束帯、抑制ミトンなどの使用)かを問わず、身体拘束の実施は行政から厳しく監視されており、実施率の高い病院や施設にはさまざまなペナルティや罰則が課されるとともに、その情報も一般公開されています。日本の身体拘束の実施率は世界と比較して高く、国内でも問題視されはじめていることは近年の診療報酬改定からも明らかです。身体拘束を極力行わないという時代の流れからも、せん妄対策は予防が最も優先されるべきである2)という自覚を持ち、非薬物対応を優先して考え続けることがすべての医療者に求められています。5つのMを使ってせん妄のリスクを見つけ、予防するでは、どのようにせん妄を予防したらよいのでしょうか?ここでも5つのMが役立ちます。5つのMを使って事前にリスク要因を見つけ、環境調整によってせん妄を予防することを考えてみましょう。Matters Most    安心できる環境の欠如Medication     ベンゾジアゼピン系薬、抗コリン薬、不適切な麻薬鎮痛薬使用、中枢神経に影響を及ぼす薬剤Mind       認知症、抑うつ、不安、意思疎通の不具合Morbidity    身体行動の制限、低栄養・脱水、身体の痛み、感覚器官の不具合、照明、部屋の明るさや騒音などの環境Multi complexity急な環境の変化、社会的孤立、家族の訪問などいかがでしょうか?こうしたアセスメントから、環境の変化や痛みが身体・精神・認知に過剰なストレスを与えているかもしれない、腹痛や便秘などがあってもそれを自覚できないかもしれない、あるいは自覚があっても訴え出ることができないのではないかという仮説を立てることができ、身体症状の解消を図るなどの予防的介入を考えられるようになります。せん妄はコモンに起きていて、しかも見逃されている急性期病棟では3人に1人が発症しているといわれるほど、せん妄の頻度は高いものです3)。問題行動が目立つ過活動性せん妄は発見される一方で、その3倍以上の患者が一見症状が顕著でない低活動性せん妄を生じているという報告もあります4)。低活動性のせん妄は見過ごされやすいことに加え、せん妄が生じた後の死亡率が上昇することはあまり周知されていません5)。これらの事実と向かい合い、せん妄を予防し、非薬物療法を最大限に活用し、薬物療法を最小限にすることが、患者の予後とQOLに結び付いているかお判りいただけると思います。これを機に、せん妄の予防にぜひ一緒に取り組んでいきましょう! せん妄のより詳しい対応策はオンラインサロンでオンラインサロンメンバー限定の講義では、問診や日々の観察でせん妄に気付くためのコツ、せん妄に対応するときに使えるHELPプログラムを解説しています。また、酒井郁子氏(千葉大学大学院看護学研究院附属病院専門職連携教育研究センター長)を迎えた対談動画で、看護からみた身体拘束についての学びもご覧いただけます。参考1)Dae H Kim, et al. J Am Geriatr Soc. 2017: Jun;65:1229-1237.2)Chiba Y, et al. J Clin Nurs. 2012 May:21: 1314-1326.3)Inoue SK, et al. N Engl J Med.2006:354:1157-1165.4)Curyto KJ. Am J Geriatr Psychiatry. 2001:9:141-147.5)樋口雅也ほか.あめいろぐ高齢者診療. 112. 2020. 丸善出版

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第252回 依存や鎮静などを回避しうる新しい鎮痛薬を米国が承認

ここ20年以上なかった新しい作用機序の非オピオイド鎮痛薬を米国FDAが先週金曜日に承認しました1,2)。承認されたのは昨春2月に本連載でも取り上げた米国のバイオテクノロジー企業であるVertex Pharmaceuticals社の経口錠剤です。製品名をJournavxといい、その成分suzetrigineは依存や鎮静などの有害事象と背中合わせのオピオイド受容体ではなく、痛み信号伝達に携わる末梢感覚神経のNaチャネルを標的とします。suzetrigineは数ある電位開口型Naチャネルの1つであるNaV1.8に限って阻害します。Naチャネルは扉のような役割を担い、神経細胞を伝う電気信号に応じて開閉します。その働きによるNaイオンの通過をとっかかりとする一連の神経反応によって脳へと痛み信号が伝わっていきます3)。suzetrigineの開発はNaV1.8の活性を高める変異一揃いの発見4)に端を発します。NaV1.8を開きっぱなしにするそれらの変異を有する人は、無傷にもかかわらずひどい神経痛を被っていました。ゆえに、NaV1.8を阻害することで痛みを減らせるだろうと想定され、NaV1.8を強力に阻害するsuzetrigineがいくつかの試みから頭ひとつ抜けて今回の承認に漕ぎ着けました。suzetrigineは昨年1月に初出の2つの第III相試験の結果5)を拠り所にして承認されました。その1つでは軟部組織の痛みを代表する腹部美容手術(腹部の過剰脂肪を除去する腹壁形成術)後の痛み、もう1つでは骨痛として代表的な外反母趾手術後の痛みへの同剤の効果が調べられ、2試験ともsuzetrigineの鎮痛効果がプラセボを上回りました。ただし、オピオイド含有薬(ヒドロコドンとアセトアミノフェンの組み合わせ)との鎮痛効果の比較でsuzetrigineは勝てませんでした。suzetrigineの安全性はより良好で、有害事象の発現率はプラセボ群より少なくて済みました5)。中等度~重度の急な疼痛の治療に使うことが許可されたsuzetrigineの1錠の値段は15.5ドルです。初回の用量は100mgで、その後1日に1錠を2回服用6)する患者の1日当たりの値段は31ドルとなります。慢性痛への効果はどうやら覚束ない次にsuzetrigineが目指すのはオピオイドに代わるより安全な鎮痛薬がより切実に待望される、いわば本丸の慢性痛治療の適応獲得であり、糖尿病性末梢神経障害患者を対象にした同剤の第III相試験が昨年の後半にすでに始まっています7)。一見順調そうだったその前途は、昨年の暮れに発表された第II相試験結果を受けて今や傍目には覚束なくなったように見えます。同試験には坐骨神経痛(LSR)患者が参加し、suzetrigine投与群102例の疼痛数値評価尺度(NPRS)の低下はプラセボ群100例と差がつきませんでした8)。Vertex社によると、プラセボ効果は試験を担った54施設ごとにまちまちでした。プラセボ効果がより低かったおよそ40%の施設のsuzetrigine投与患者47例の12週時点のNPRS低下は2点弱で、全体集団と遜色がありませんでした。ゆえにそれら40%の施設でのsuzetrigineの効果は、プラセボ群36例の1点弱のNPRS低下に比べて良好でした9)。Vertex社にどうやら迷いはなく、LSR相手のsuzetrigineの第III相試験を米国FDAなどの規制当局との相談(discussions with regulators)の後に始めます。第III相試験はより整ったプラセボ効果になるように設計すると同社は言っています8)。参考1)Vertex Announces FDA Approval of JOURNAVX (suzetrigine), a First-in-Class Treatment for Adults With Moderate-to-Severe Acute Pain / BusinessWire2)FDA Approves Novel Non-Opioid Treatment for Moderate to Severe Acute Pain / PRNewswire 3)Dolgin E. Nature. 2025 Jan 31. [Epub ahead of print]4)Faber CG, et al. Proc Natl Acad Sci USA. 2012;109:19444-9.5)Vertex Announces Positive Results From the VX-548 Phase 3 Program for the Treatment of Moderate-to-Severe Acute Pain / BusinessWire6)Journavx prescribing information7)Vertex Announces Positive Results From the VX-548 Phase 3 Program for the Treatment of Moderate-to-Severe Acute Pain / BusinessWire 8)Vertex Announces Results From Phase 2 Study of Suzetrigine for the Treatment of Painful Lumbosacral Radiculopathy / BusinessWire 9)SUZETRIGINE (VX-548) PHASE 2 RESULTS IN PAINFUL LUMBOSACRAL RADICULOPATHY / Vertex

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髄膜播種の症状は難しい【非専門医のための緩和ケアTips】第93回

髄膜播種の症状は難しい緩和ケアではたまに出合う難しい症状があるのですが、そのうちの1つが「髄膜播種」に関連した症状です。脳や脊髄の周りを流れている「脳脊髄液(CSF)」にがん細胞が入り込み、それが髄膜全体に広がってしまうことで起こります。病態の解決は難しいのですが、その難しさを理解し、少しでも患者さんにできることを考えてみましょう。今回の質問訪問診療で診ていたがん患者が頭痛を訴えたため、薬物療法を試してみたものの効果がなく、嘔気も出てきて基幹病院に入院となりました。その後、原疾患の髄膜播種だったとの報告をもらったのですが、疑うことができなかったと反省しています。どうすれば気付けたのでしょうか?がん患者を担当していると、まれに経験するのが髄膜播種です。今回の質問のように診断が難しく、気付かれないケースも多いと感じます。前提として原疾患の進行があり、予後が限られた状態で生じることが多いため、さらに診断を難しくします。ましてや在宅診療であれば、適切なタイミングでの診断はなかなか難しいのが現実でしょう。髄膜播種の症状としては、頭痛と嘔気が代表的です。ただ、ここに神経症状が加わるため、症状が多彩になります。意識障害、認知機能の低下はまだわかりやすいのですが、視覚・聴覚障害という局所的な神経症状があることがさらに診断を難しくします。私自身、担当するがん患者さんが難聴を訴え、調べていくと髄膜播種を併発していた、という経験を何度かしています。ほかにも下肢の感覚異常や尿閉なども髄膜播種の一症状であることがあります。典型症状だけに捉われていると、見逃しやすい病態なのです。髄膜播種の診断には、髄液検査やMRIを用います。ただし、これらは血液検査のように手軽にできるものではないため、検査前確率が高いことが求められます。進行がん患者で新規の神経症状があった際には、まずは髄膜播種を疑うことから始めましょう。髄膜播種の症状緩和はなかなか難しいのですが、一般的なオピオイドなどの疼痛緩和に加え、ステロイドの投与を考慮します。頭痛は頭蓋内圧亢進が症状を悪化させると考えられており、ステロイドによりこれらの改善が見込まれるためです。加えて、化学療法や放射線治療は原疾患への治療効果だけでなく、症状緩和の観点からも有効とされています。ただし、これは予想される予後などを含め、がん治療医の判断によることになるでしょう。私は進行した患者さんを担当することが多く、髄膜播種併発例に侵襲的な治療が適応となることは少ない印象です。最後に、こういった中枢神経に影響が及ぶ状況になると、痙攣が生じる可能性に留意する必要があります。入院していれば、抗けいれん薬をすぐに投与できるでしょうが、在宅であれば備えが必要です。在宅での痙攣の対応については次回にまとめますが、まずはベンゾジアゼピンの注射薬や坐薬を常備することを覚えておきましょう。以上、診断だけでなく、対応も難しい髄膜播種についてお話ししました。多彩で難治の症状に悩まされることも多いですが、丁寧にアセスメントをしながら対応してみてください。今回のTips今回のTips多彩な症状を特徴とする髄膜播種、まずは「疑う」ことが大切。

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見直されるガバペンチンの転倒リスク、安全性に新知見

 ガバペンチンは、オピオイド系鎮痛薬の代替薬として慢性疼痛や神経痛の緩和に広く用いられているが、高齢者に投与した場合、転倒リスクを高めるという報告もある。このような背景から高齢者へのガバペンチンの処方には慎重になるべき、という意見もある。しかし、米ミシガン大学医学部内科のAlexander Chaitoff氏らの最新の研究で、この鎮痛薬が当初考えられていたよりも高齢者にとって安全である可能性が示唆された。 研究を主導したChaitoff氏は、「ガバペンチンは、軽度の転倒による医療機関への受診回数を減少させる傾向を示したが、重症度のより高い転倒関連事象(股関節骨折や入院など)リスクとの関連は確認されなかった」と述べている。同氏らの研究結果は、「Annals of Internal Medicine」に1月7日掲載された。 ガバペンチンの処方件数は2020年には5000万件近くに達したが、この薬が高齢者の転倒リスクを高める可能性を指摘した複数の研究の影響で、2022年には処方件数が20%減少した。しかし、研究グループは、適応となる疼痛疾患自体も転倒リスクを高めることから、ガバペンチンによる転倒リスクが誇張されている可能性があると考えた。このような背景から、研究グループは、ガバペンチンと、転倒リスクを高めるとの報告がない神経痛治療薬デュロキセチンの転倒リスクを比較検討することとした。 この研究では、2014年1月から2021年12月の間に糖尿病、帯状疱疹、線維筋痛症に関連する神経痛のためにガバペンチンまたはデュロキセチンを処方された65歳以上の高齢者5万7,086人(ガバペンチン5万2,152人、デュロキセチン4,934人)のデータを収集・分析した。主要評価項目は、薬剤の投与開始後6カ月以内の、あらゆる転倒による受診リスクとした。副次評価項目は重度の転倒関連イベント(転倒による股関節骨折、救急外来受診、または入院と定義)の発生リスクとした。 その結果、ガバペンチンを処方された患者では、デュロキセチンを処方された患者に比べて、あらゆる転倒のリスクが全体で48%(ハザード比0.52、95%信頼区間0.43~0.64)低いことが判明した。しかし、重度の転倒関連イベントの発生リスクに関しては、両群に違いは認められなかった。 研究グループは、「高齢者において、ガバペンチンが転倒リスクを高めないとは断言できない。しかし、ガバペンチンの投与開始から6カ月間における転倒リスクは、他の代替薬と比較して高いわけではなく、むしろ安全性の面ではより適している可能性がある」と結論付けた。 また、研究グループは、今回の研究の限界点として、対象者にフレイルの高齢者が少なかったため、転倒件数が過小評価された可能性があることを挙げている。

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口内炎がつらいです【非専門医のための緩和ケアTips】第92回

口内炎がつらいですがん診療の進展に伴い、診療所の先生が基幹病院に通院中の患者さんを診察する機会が増えてきたのでは、と思います。抗がん剤治療の副作用対策は大きく進歩しましたが、まだつらい症状を訴える患者さんが多い副作用の1つが「口内炎」です。今回の質問私の外来患者が抗がん剤治療のために基幹病院に通院しています。私の外来で診察する際に、口内炎に対する対応を相談されたのですが、あまり経験がなく良いアドバイスができませんでした…。口内炎に苦しむ患者さんの様子を見ると、こっちもつらくなりますよね。口内炎は抗がん剤治療や分子標的薬の副作用として頻繁に発症します。一般的な化学療法では発症率は10%程度ですが、頭頸部がんの化学放射線療法では、さらに高頻度で見られます。ご質問にある患者さんが「すでに口内炎を発症しているのか」は不明ですが、まずは「予防」について考えてみましょう。口内炎の予防には口腔ケアが非常に重要です。口腔内の衛生を保ち、湿潤環境を維持するため、定期的に水分を口に含むことを指導しましょう。また、義歯の調整が必要な場合やその他の専門的な歯科治療が必要な場合は、歯科受診を推奨します。これらの予防策は患者さんの協力が重要ですので、がん治療の開始前から取り組むようアドバイスすると良いでしょう。口内炎ができてしまった場合には、口内炎の発症のタイミングや治療内容から、「がん治療関連の口内炎」か「その他の原因によるものか」を判断します。口内炎で問題になる症状の多くは口腔内の痛みです。多くの方は物理的刺激による口内炎を経験しているでしょう。あの痛みがさらに広範にあることを想像すると、そのつらさが想像できるかと思います。口内炎に対する薬剤は、症状や患者さんの状態に応じて選択します。内服が困難な場合には、口腔用軟膏や口腔用液が有用です。痛みが強い場合には、がん疼痛治療に準じて薬剤を調整します。NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)が効果を示すケースもあるため、腎機能障害や他の副作用に注意しつつ投与を検討することも1つの選択肢です。また、がん疼痛治療に用いられるオピオイドについても触れておきます。オピオイドは、口内炎の痛み緩和に一定の効果がありますが、通常、モルヒネ換算で60mg/日を超える投与が必要となることは少ない印象です。もしオピオイドの効果が乏しい場合には、カンジダなど感染症の合併として発症しているケースや、心理的要因(例:不安)が関与している可能性を考慮する必要があります。今回のTips今回のTipsがん治療に関連した口内炎、「予防」と「治療」の両方が大切です。

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海外旅行と医療用麻薬【非専門医のための緩和ケアTips】第88回

海外旅行と医療用麻薬がん疼痛の症状緩和に医療用麻薬が処方されている場面をよく見かけるようになりました。今回は、医療用麻薬が一般的になってきたからこそ出合う状況に関する話題です。今回の質問外来通院中の患者さんで、医療用麻薬を処方している方がいます。幸い、症状緩和ができており、今度、海外旅行に行くそうです。患者さんから、「インターネットで『医療用麻薬は海外に持っていけない』と書いてあったのですが、どうすればよいでしょうか?」と質問がありました。どのようにアドバイスすべきでしょうか?海外旅行時の医療用麻薬の話題ですね。緩和ケア領域でときどき話題になるトピックです。結論からいうと、医療用麻薬を海外に持ち出すことは可能ですが、事前申請が必要になります。「事前」とは、出国日の2週間前までを指すため、早めに対応する必要があります。申請に必要な書類は以下のとおりです。1)医師の診断書…1通(以下の情報を記載)住所、氏名医療用麻薬が必要な理由処方された麻薬の品名・規格、それらの1日量2)麻薬携帯輸出許可証/輸入許可証 各1通申請用紙、記載例は、厚生労働省・地方厚生局・麻薬取締部のサイトからダウンロード可能。3)携帯する医療用麻薬の品名が確認できる資料お薬手帳で対応可能4)返信用封筒(宛先を明記)輸入/輸出許可証(日本語・英語を各1通)の送付用長3用以上の封筒(A4サイズが同封できる封筒)切手を貼付(送料は自己負担)これらの書類を準備し、患者さん自身が申請します。日本在住の方であれば住所地を管轄する厚生労働省・地方厚生局・麻薬取締部が窓口となります。海外在住の方は、入国予定の空港などを管轄する同局に申請します。「麻薬取締部」と聞くと、テレビ番組などで紹介される、空港で人や犬が荷物チェックをしている光景が思い浮かぶのではないでしょうか。医療とはまったく関係ない気がしますが、こうした接点があったのですね。交付された許可証は出国/入国時に税関で提示する必要があるので、そのことも患者さんに伝えておきましょう。このように、海外に医療用麻薬を持ち出す場合には、事前申請が必要となり、外来で急に「来週から海外に行きます」と相談されても、対応が難しくなります。時間がない場合は、医療用麻薬以外のNSAIDsなどで鎮痛できるかを試してみる必要があります。うまくいけばよいのですが、海外で症状が悪化する可能性があるなど、医師としても不安が残ります。まずは普段から患者さんに「海外に行く際は事前に教えてください」と伝え、コミュニケーションを取っておくことが重要です。麻薬取締部のサイトには「時間的余裕がない場合は、直接電話で相談するように」と書かれており、急ぎの相談をする手段はあるようですが、余裕を持った対応が基本です。今回のTips今回のTips医療用麻薬を海外へ持ち出す際は、2週間前までに申請が必要。

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リネゾリド処方の際の5つの副作用【1分間で学べる感染症】第14回

画像を拡大するTake home messageリネゾリドを使用する際には、血小板減少症を中心として重要な5つのポイントを覚えておこう。抗MRSA薬の1つにリネゾリドがあります。頻度は少ないものの、重要な場面で使うことがある薬剤です。今回は、リネゾリドに関する5つの重要事項を学んでいきましょう。1)消化器系症状リネゾリドの副作用には、使用早期から現れる可能性があるものとして腹痛、嘔気、嘔吐などの消化器症状が挙げられます。最も頻度が高い副作用の1つですが、症例によっては対症療法のみで自然に改善する場合もあります。2)骨髄抑制次に押さえておくべき副作用は骨髄抑制です。とくに血小板減少症に対する注意が必要です。骨髄抑制の副作用は約2週間以上の使用で発現するとされ、短期間の使用は問題ないことが多いのですが、使用期間が2週間を超える疾患には使用しにくくなります。一般的には、使用中止後1~3週間で回復するとされています。3)セロトニン症候群リネゾリドを開始する際には、相互作用のチェックも重要です。リスクの程度差はあるものの、SSRI、SNRI、MAO阻害薬との併用はセロトニン症候群を引き起こす可能性があります。最近の報告によると、セロトニン症候群を引き起こす可能性のある薬剤のうち、SSRIの中でもエスシタロプラムやオピオイドのメサドンなどはとくに関与が強いと報告されています。発症は服用から数時間~数日以内に現れることが多く、中止すれば24時間以内に改善するといわれています。しかし、まれに横紋筋融解症や腎不全などを来すこともあるため、注意が必要です。開始する際には、薬剤師と連携を取りながら、慎重に併用薬を確認する必要があります。4)乳酸アシドーシスまれながら、乳酸アシドーシスの副作用も報告されています。これは2003年に初めて報告されましたが、発症までの期間は1~16週間と幅があります。致死率は25%にも上るとされており注意が必要です。リネゾリド使用中に乳酸アシドーシスを来した場合には、ほかの原因検索と共にリネゾリドの副作用を考慮することが重要です。5)末梢神経障害・視神経障害末梢神経障害・視神経障害は、ノカルジアや非結核性抗酸菌症、多剤耐性結核などに対する特殊な状況で、長期の投与が必要な際の副作用として報告されています。末梢神経障害は「手袋と靴下型」(手袋や靴下が覆うように手足の先端部分から徐々に症状が進行していく)で発症まで5~11ヵ月、視神経障害は視力低下や色覚異常を来すことが多いとされています。リネゾリドは長期で使用することは少ないため頻度は高くありませんが、頭の片隅に入れておきましょう。以上、有名な血小板減少症以外にも、リネゾリドのこれらの重要な副作用・相互作用に関して念頭に置き、使用する際には患者さんに、その有益性とリスクに関して十分に説明するようにしましょう。1)Apodaca AA, et al. N Engl J Med. 2003;348:86-87.2)Legout L, et al. Clin Infect Dis. 2004;38:767-768.3)Crass RL, et al. Antimicrob Agents Chemother. 2019;63:e00605-e00619.4)Gatti M, et al. Eur J Clin Pharmacol. 2021;77:233-239.5)Mao Y, et al. Medicine (Baltimore). 2018;97;e12114.6)Narita M, et al. Pharmacotherapy. 2007;27:1189-1197.

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オピオイド使用障害、治療中止リスクが低い薬剤は?/JAMA

 オピオイド使用障害(OUD)に対するオピオイド作動薬治療(OAT)のレジメンに関する国際的なガイドラインでは、競合する治療選択肢の有効性の比較に関するエビデンスが限られているため、依然として意見が分かれているという。カナダ・サイモンフレーザー大学のBohdan Nosyk氏らは、メサドンと比較してブプレノルフィン/ナロキソンは、治療中止のリスクが高く、死亡率は両群で同程度であることを示した。研究の詳細は、JAMA誌オンライン版2024年10月17日号で報告された。ブリティッシュコロンビア州の後ろ向きコホート研究 研究グループは、OUDの治療におけるブプレノルフィン/ナロキソンとメサドンの有用性を比較評価する目的で、住民ベースの後ろ向きコホート研究を行った(米国国立薬物乱用研究所[NIDA]などの助成を受けた)。 カナダ・ブリティッシュコロンビア州の9つの健康管理データベースを用いて患者のデータを収集した。年齢18歳以上、オピオイド依存と診断され、2010年1月1日~2020年3月17日にブプレノルフィン/ナロキソンまたはメサドンの新規処方を受けた全患者を対象とした。治療開始時に収監中、妊娠中、がん緩和療法中の患者は除外した。 主要アウトカムは、24ヵ月以内の治療中止(投薬中断日数が、ブプレノルフィン/ナロキソンは6日以上、メサドンは5日以上継続した場合と定義)および全死因死亡とした。initiator解析で24ヵ月治療中止率が高かった 研究期間中にOATの初回投与を受けた新規処方者3万891例(ブプレノルフィン/ナロキソン群39%、男性66%、年齢中央値33歳)をinitiator解析(ベースラインの交絡因子を調整するために傾向スコアと操作変数を用いた)の対象とし、このうち1週目の投与量が最適でなかった患者を除いた2万5,614例をper-protocol解析(ガイドライン推奨用量でのアウトカムを比較するために打ち切り法を用いた)の対象とした。 新規処方者のinitiator解析では、メサドン群に比べ、ブプレノルフィン/ナロキソン群で24ヵ月時の治療中止率が高かった(88.8% vs.81.5%、補正後ハザード比[HR]:1.58[95%信頼区間[CI]:1.53~1.63]、補正後リスク差:10%[95%CI:9~10])。また、per-protocol解析において至適用量で評価した治療中止率の推定値の変化は限定的なものであった(42.1% vs.30.7%、1.67[1.58~1.76]、22%[16~28])。死亡リスクは両群とも低い 投与期間中の24ヵ月時の死亡率に関するper-protocol解析では、新規処方者(ブプレノルフィン/ナロキソン群0.08%[10件]vs.メサドン群0.13%[20件]、補正後HR:0.57[95%CI:0.24~1.35])、および新規・既存処方者(prevalent new user)(0.08%[20件]vs.0.09%[45件]、0.97[0.54~1.73])のいずれにおいても両群とも値が低く、曖昧な結果が示された。 これらの結果は、フェンタニル導入後やさまざまな患者サブグループを通じて、また感度分析でも一貫していた。 著者は、「北米などの地域では、より強力な合成オピオイドの使用が増加し続けていることから、治療中止のリスクを軽減するために、OUD患者の治療のあらゆる側面に関する診療ガイドラインはその再考が求められる」としている。

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まるで暗号解読!米国のカルテの略語や言い回し【臨床留学通信 from Boston】第5回

まるで暗号解読!米国のカルテの略語や言い回しMGHに来て3ヵ月。業務にそろそろ慣れてきましたが、だんだん疲れも出てくるころです。朝5時に起きて、6時半から診察、終わるのはだいたい6時。7~8時になることもあります。そして平日に1度、週末は月に1度のオンコールがあり、それが夜中に呼ばれると、翌日の業務がかなり辛くなります。さて今日のテーマは、気分転換ということで、カルテの略語や難しい言い回し。アメリカでは略語だらけで、何が何だかわからなかったのが6年前でした。円安も少しはマシになり、コロナも落ち着いて、学生や将来渡米を考えている初期、後期研修医の方などが、いわゆるオブザーバーシップのプログラムに参加すると、必ずぶち当たる問題だと思います。日本とは違う略語もたくさんあります。いくつか列挙してみましょう。pt:patient患者。AMA:against medical adviceこちらではよくあることですが、患者さんが医師の言うことを聞かずに帰ってしまうというもの。帰りたい人には説得してみて、だめならサインをしてもらいます。最初はそもそもAMAがわからないし、説明されてもそんなことあるんだと思いました。ちなみに、患者さんが勝手にいなくなることもあり、その際は「That pt eloped」と言います。BRBPR:bright red blood per rectum下血の時に使いますが、略語だと何だかわかりませんよね。BIBA: brought in by ambulance救急搬送。CAT scanCTのことをCAT scanと言うことが多いです。Computed tomographyがCTなのに、なぜCATなのか、猫なのか?と思った記憶があります。c/b:complicated by合併症。2/2:due to、secondary to〜による。「pt underwent PCI c/b cardiac tamponade 2/2 wire perforation」(患者はPCIを受け、ワイヤーの穿孔による心タンポナーデを合併)と書いたりします。DC:dischargedDCはdischarged(退院)です。defibrillator(除細動器)をDCと言うことはないです。VFに対しては「cardiac arrest with x6 shock」といいます。ちなみに、discontinue(中止)もDCと言うのでややこしいです。Fx:fracture骨折。GOC:goals of careケアの目標、とくに緩和ケアなどが介入しDNRなどを決める時の家族会議をいいます。gttsラテン語のgutta=dropとなるため、「heparin drip」などを「heparin gtt」と言います。HCP:health care proxy何か重要な決定を本人の代わりにする人のことを指します。文書によって、本人が選定しサインすることが求められます。KVO:keep venous line open静脈ラインを開けておくという意味です。看護師サイドでよく使われますNGTD:no growth to date「bld cx NGTD」とかいうと、血液培養が今のところ陰性、となります。NKDA:no known drug allergy既知の薬物アレルギーなし。Pass awayお亡くなりになる。Pass out気を失う。夜勤をしていて、日勤者への申し送りに、「he passed out」と言おうとして「he passed away」と間違って言ってしまい、ものすごく驚かれたことがあります。PERRLA:pupils equal round reactive to light and accommodation瞳孔は左右対称で、円形、光に反応し、調節反応が正常である。PSU:polysubsutance useコカインなど麻薬の薬物乱用のことを指します。日本では麻薬を使用している人を見つけたら警察に通報ですが、アメリカでは必要ありません。ちなみに、渡米してから「警察に通報する必要はないの?」と同僚に聞いたら笑われました。SOB:shortness of breath呼吸困難。s/p:status post「CAD s/p PCI」などと、PCIをすでに患者が受けていることを言います。Utox:urine toxicology尿中薬物検査。これをするとどんな薬の乱用者かわかります。医療従事者も新しい仕事に就く前にスクリーニングとして検査することが多いです。こうした略語を使って、たとえば以下のようにサマリーします。77 yo F with PMH of HTN, HLD, DM, PSU, CAD s/p PCI c/b cardiac tamponade 2/2 wire perforation, HFrEF (EF 30%) s/p ICD, BIBA for SOB, found to have ADHF, now s/p IV diuresis, pending GOC with HCP and DC planning.(77歳の女性。既往歴に高血圧、脂質異常症、糖尿病、薬物乱用歴、冠動脈疾患があり、PCIの際にワイヤーの穿孔による心タンポナーデを合併した。HFrEF[左心駆出率30%]で植込み型除細動器を挿入済み。呼吸困難で救急搬送され、急性増悪型心不全と診断された。静注利尿薬の投与後、現在ケアの目標と退院計画についてヘルスケアプロキシーとの相談待ち)Column本連載ボストン編のアイコンになっている州議会の写真です。夜間はライトアップされて、きれいな建物ですね。ボストン観光をする暇があまりないのですが、そろそろしていきたいと思います。画像を拡大する

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高齢患者の痛みに抗うつ薬は有効か

 医師は、高齢者の身体の痛みを和らげるために抗うつ薬を処方することがあるが、新たなシステマティックレビューとメタアナリシスにより、この治療法を支持する十分なエビデンスはほとんどないことが明らかになった。シドニー大学(オーストラリア)公衆衛生学部および筋骨格健康研究所のChristina Abdel Shaheed氏らによるこの研究結果は、「British Journal of Clinical Pharmacology」に9月12日掲載された。 多くの国において、高齢者に対する抗うつ薬の最も一般的な適応は痛みである。今回の研究でAbdel Shaheed氏らは、65歳以上の高齢者を対象に、痛みの治療薬としての抗うつ薬の有効性と安全性について他の代替治療と比較したランダム化比較試験のエビデンスの評価を行った。 13種類の論文データベースを用いて、2024年2月1日までに発表された関連文献を検索したところ、適格条件を満たしたRCTはわずか15件(対象者の総計1,369人)であることが判明した。最もよく用いられていた抗うつ薬はデュロキセチンとアミトリプチリンで、それぞれ6件のRCTで検討されていた。治療効果は、変形性膝関節症による痛みに対して検討したRCT(6件)が最も多く、これらのRCTからは、短期間(0~2週間)の抗うつ薬による治療では統計学的に有意な痛みの軽減効果を得られないことが示されていた。ただし、デュロキセチンを中期的(6週間以上12カ月未満)に服用することで、非常にわずかながらも有意な痛みの軽減効果が認められた。一方、約半数(15件中7件)の研究で、転倒やめまい、傷害などの有害事象による試験参加者の離脱率は、抗うつ薬治療群の方が対照群よりも高いことが報告されていた。 こうした結果を受けてAbdel Shaheed氏は、「これらの抗うつ薬は、効果に関する十分なエビデンスがないにもかかわらず、患者の痛みを和らげるために処方され続けている」と強調する。 研究グループによると、標準的な国際ガイドラインは、概して慢性疼痛に対する抗うつ薬の使用を支持しているものの、そのガイドラインが根拠としているデータは高齢患者を対象としたものではないという。論文の筆頭著者であるシドニー大学公衆衛生学部のSujita Narayan氏は、「このようなガイドラインがあるために、医師が誤った判断をしている可能性がある」と指摘する。同氏は、「もし、私が時間に追われている臨床医だとするなら、ガイドラインを参照する場合には、慢性疼痛の管理に関する重要なポイントだけを拾い読みするだろう。そのポイントの中に、抗うつ薬の使用を勧める内容も含まれているということだ」と説明する。 Narayan氏はまた、抗うつ薬の服用を中止する傾向についても、「抗うつ薬の離脱症状は、オピオイドの離脱症状と同じくらいひどいことがある」と指摘する。同氏は、「抗うつ薬の服用をやめようと考えている人は、やめる前に主治医に相談し、必要に応じて減薬計画を立てることを勧める」と述べている。 Narayan氏は、「変形性膝関節症の痛みを軽減するためにデュロキセチンを使用している、または使用を検討している臨床医や高齢患者に対するメッセージは明確だ。薬を一定期間服用すれば効果が現れる可能性はあるが、その効果は小さい可能性があり、リスクとの比較検討が必要だということだ」と話している。

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