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レポーター紹介2023 ASCO Annual Meeting2023年の米国臨床腫瘍学会(ASCO 2023)は6月2日から6日にかけてシカゴを舞台に開催されました。今年の泌尿器がん領域のScientific Programは、前立腺がん領域においてmCRPCの1次治療としての新規ARシグナル阻害薬とPARP阻害薬の併用に関する試験結果が多く発表されていたのが印象的でした。そのほか、尿路上皮がん領域では周術期化学療法としてのdd-MVAC、FGFR変異陽性例におけるerdafitinib、膀胱全摘における拡大リンパ節郭清の意義に関する重要なデータが発表されました。腎がんでも免疫チェックポイント阻害薬(ICI)のリチャレンジに焦点を当てた、他に類を見ない試験の結果が発表され注目を集めました。そのうちのいくつかを紹介いたします。CAPTURE試験(Abstract # 5003)mCRPC患者の最大30%でDNA損傷修復(DDR)遺伝子の病的変異が観察されます。BRCA2の変異はmCRPCを含むさまざまな前立腺がんの段階において一貫して不良な生存転帰と関連しているだけでなく、PARP阻害薬の効果予測因子となることも知られています。一方で、ほかの生殖細胞系列DDR変異の予後因子としての意義は未解明の部分も多く残されています。本試験は、mCRPCの1次治療としてドセタキセル、カバジタキセル、酢酸アビラテロン/プレドニゾン、またはエンザルタミドの投与を受けた患者の前向き観察研究PROCUREに登録されているmCRPC患者を対象として行われました。ATM、BRCA1/2、BRIP1、CDK12、CHECK2、FANCA、HDAC2、PALB2、RAD51B、およびRAD54Lを含むDDR遺伝子の生殖細胞系列変異および体細胞変異(腫瘍FFPE検体を使用)を解析し、画像上無増悪生存期間(rPFS)、2次治療を含めた無増悪生存期間(PFS2)、および全生存期間(OS)との関連が検証されました。遺伝子変異は、変異遺伝子のカテゴリー(BRCA1/2>HRR non-BRCA>non-HRR)、生殖細胞系列・体細胞変異の別(Germline>Somatic>None)、片アレル・両アレルの別(Bi-allelic>Mono-allelic>None)に基づき階層的に分類されました。解析の結果、BRCA1/2変異患者はHRR non-BRCA変異患者およびnon-HRR変異患者と比較して、2次治療を受けた割合が高いということがわかりました(92%、79%、79%)。にもかかわらず、BRCA1/2変異患者はHRR non-BRCA変異患者およびnon-HRR変異患者と比較してrPFS、PFS2、OSが不良でした。BRCA1/2変異患者に限定した探索的サブグループ解析では、BRCA1/2変異のタイプ(生殖細胞系列変異か体細胞変異か、片アレルか両アレルか)と腫瘍学的転帰(rPFS、PFS2、およびOS)の間に有意な関連は見られませんでした。1次治療として新規ARシグナル阻害薬またはタキサンのいずれかを投与されたmCRPC患者では、ほかのDDR遺伝子と比較してBRCA1/2変異がrPFS、PFS2、OSの短縮と関連していました。BRCA1/2変異陽性患者の不良な転帰は、変異のタイプにかかわらず観察され、また治療への曝露が低いことが原因ではないことが示唆されました。これらの結果は進行前立腺がんの治療において、とくにBRCA1/2の生殖細胞系列および体細胞変異をスクリーニングすることの重要性を示しています。TALAPRO-2試験(Abstract # 5004)TALAPRO-2試験(NCT03395197)は、mCRPC患者の1次治療としてtalazoparib+エンザルタミドとプラセボ+エンザルタミドの併用を評価した第III相ランダム化二重盲検プラセボ対照試験で、患者はtalazoparib 0.5mgを1日1回(標準の1.0mgから減量)+エンザルタミド160mgを1日1回投与する群と、プラセボ+エンザルタミドを投与する群に1:1で無作為に割り付けられました。TALAPRO-2は、PROpelと同様に「オールカマー」のバイオマーカー未選択コホート(HRR遺伝子の変異ステータスにかかわらず組み入れ)を対象とした試験として注目を集めました。バイオマーカー未選択コホート(コホート1、805例)の主解析の結果はすでに報告されており(Agarwal N, et al. Lancet. 2023 Jun 2. [Epub ahead of print])、talazoparib+エンザルタミド併用群のrPFSは、プラセボ+エンザルタミド群と比較して有意に良好でした(中央値:未到達vs.22ヵ月、HR:0.63、95%CI:0.51~0.78、p<0.001)。今回は、コホート1におけるHRR遺伝子変異陽性患者(169例)に、新たにリクルートしたHRR遺伝子変異陽性患者(230例)を加えたコホート2(399例)のデータが公表されました。コホート2もコホート1と同様、talazoparib+エンザルタミド群とプラセボ+エンザルタミド群とに1:1で無作為に割り付けられました。変異HRR遺伝子の内訳は、BRCA2(34%)が最多で、ATM(20~24%)、CDK12(18~20%)がこれに続きました。観察期間中央値16.8~17.5ヵ月の時点で、talazoparib+エンザルタミドの併用はrPFSの有意な改善と関連しており、rPFS中央値は介入群では未達だったのに対し、プラセボ+エンザルタミド群では13.8ヵ月でした(HR:0.45、95%CI:0.33~0.81、p<0.0001)。変異HRR遺伝子に基づくサブグループ解析では、rPFSの有意な延長は BRCA(とくにBRCA2)変異患者に限定されており、PALB2、CDK12、ATM、およびそのほかのHRR遺伝子変異患者ではrPFSの有意な改善は見られないことが本試験でも示されました。PROpel試験のPROデータ(Abstract # 5012)PROpel試験(NCT03732820)はmCRPCに対する1次治療としての、アビラテロン+オラパリブとアビラテロン+プラセボを比較した第III相ランダム化二重盲検プラセボ対照試験で、患者はHRR遺伝子の変異ステータスに関係なく登録され、アビラテロン(1,000mgを1日1回、プレドニゾン/プレドニゾロンを併用)に加えて、オラパリブ(300mgを1日2回)またはプラセボのいずれかを投与する群に無作為(1:1)に割り付けられました。主要評価項目であるrPFSに関しては、オラパリブ+アビラテロン群がプラセボ+アビラテロン群と比べて有意に良好でした(中央値:24.8ヵ月vs.16.6ヵ月、HR:0.66、95%CI:0.54~0.81、p<0.001)。rPFSの延長はHRR遺伝子の変異ステータスに関係なく観察されましたが、効果の大きさはHRR変異陽性患者(HR:0.50、95%CI:0.34~0.73)では、HRR変異陰性患者(HR:0.76、95%CI:0.60~0.97)と比べて高いことが示されました。OSに関しては現在のところ有意差を認めていません。初回の報告ではFACT-Pで評価された健康関連QOL(HRQOL)に有意差はありませんでしたが、今回最終解析時点におけるHRQOLデータが報告されました。本報告でもFACT-Pで評価されたHRQOLに有意差は認められませんでした。また、BPI-SFで評価された疼痛スコアの平均、悪化までの期間も両群間に有意差を認めませんでした。さらに、初回の骨関連有害事象までの期間や麻薬系鎮痛薬使用までの期間にも有意差を認めませんでした。結論として、アビラテロン単独と比較して、アビラテロン+オラパリブの併用はHRQ OL転帰の悪化とは関連していないことが示唆されました。TALAPRO-2試験のPROデータ(Abstract # 5013)上述のTALAPRO-2試験(NCT03395197)のコホート2の腫瘍学的アウトカムの報告に続いて、Patient Reported Outcome(PRO)の結果も発表されました。PROはEORTC QLQ-C30とその前立腺がんモジュールQLQ-PR25を用いて、ベースラインからrPFSに到達するまで4週間ごと(54週以降は8週ごと)に評価されました(BPI-SFおよびEQ-5D-5Lも使用されたようですが、今回は報告されませんでした)。個々のドメインスコアのベースラインからの平均変化および臨床的に意味のある(10ポイント以上) 悪化までの時間(TTD)が解析されました。その結果、EORTC QLQ-C30における全般的なQOLを示すGHS/QOLスコアのTTDはプラセボ+エンザルタミド群と比較して、talazoparib+エンザルタミド群で有意に長くなりました(HR:0.78、95%CI:0.62~0.99、p=0.038)。ベースラインからのGHS/QOLスコアの推定平均変化も同様にtalazoparib+エンザルタミド群で有意に良好でしたが、その差は臨床的に意味のあるものではありませんでした。さらに、両群間で身体面、役割面、感情面、認知面、社会面の各機能スケールに有意な差は観察されませんでした。また、個々の症状スケールにも臨床的に意味のある差異は認められませんでした。プラセボ+エンザルタミドと比較して、talazoparib+エンザルタミドの併用は、全体的な健康状態とQOLの改善に関連している可能性がありますが、その差は臨床的に意味のあるものではないことが示されました。ここ数年で、mCRPCにおける1st-line治療としての新規ARシグナル阻害薬とPARP阻害薬の併用に関する試験に関する報告が相次いでいます。今回紹介したPROpel(アビラテロン+オラパリブ)、TALAPRO-2(talazoparib+エンザルタミド)のほかに、MAGNITUDE試験(ニラパリブ+アビラテロン)の中間解析結果も公表されています(Chi KN, et al. J Clin Oncol. 2023;41:3339-3351.、Chi KN, et al. Ann Oncol. 2023 Jun 1. [Epub ahead of print])。これらの新規ARシグナル阻害薬とPARP阻害薬の併用療法が、mCRPCにおいてHRR遺伝子の変異ステータスにかかわらずベネフィットをもたらすのかどうかが最大の焦点と言えますが、現在のところ共通して言えるのは、(1)いずれの併用療法においても効果の大きさは、BRCA2-associated mCRPC>all HRR-deficient mCRPC>unselected mCRPC>non-HRR-altered mCRPCの順に大きいこと。(2)現在のところベネフィットが示されているのはrPFSまでで、OSではベネフィットが示されていないこと。(3)新規ARシグナル阻害薬とPARP阻害薬の併用は新規ARシグナル阻害薬単剤と比べて、QOL悪化までの期間を延長すること。(4)新規ARシグナル阻害薬+PARP阻害薬と新規ARシグナル阻害薬+プラセボの各群間のQOLスコアに、有意差あるいは臨床的に意味のある差は報告されていないこと。などです。(1)からは、併用療法をHRR遺伝子の変異ステータスにかかわらず(つまり「オールカマー」に)適応した場合、その効果はその集団に占めるHRR遺伝子(とくにBRCA2)変異陽性症例の占める割合によって影響を受けることを意味します。このことはHRR遺伝子(あるいはBRCA2)変異の頻度が低いといわれている日本人集団への適応を考える際に重要です。(2)と併せて、本治療が本邦で承認される場合、どのような条件が付くことになるのか注視したいと思います。(3)はrPFSの延長と無関係ではないと思われますが、OSのベネフィットが示されない状況で、rPFS延長の意義を高めるデータではあります。少なくとも(4)からは、mCRPC患者が同様のHRQOLを維持しながら、新規ARシグナル阻害薬とPARP阻害薬の併用療法を継続可能であることを示していると言えるでしょう。GETUG/AFU V05 VESPER試験(Abstract # LBA4507)GETUG/AFU V05 VESPER試験(NCT01812369)は筋層浸潤性膀胱がん(MIBC)に対する周術期化学療法として、dd-MVACとGCを比較する試験で、すでにdd-MVACがGCと比較して3年のPFSを改善することが報告されています。2013年2月から2018年2月まで、フランスの28施設で500例が無作為に割り付けられ、3週間ごとに4サイクルのGC、または2週間ごとに6サイクルのdd-MVACのいずれかを手術前(術前補助療法群)または手術後(補助療法群)に受けました。今回は5年のOSを含む最終解析の結果が報告されました。OSはdd-MVAC群で改善され(64% vs.56%、HR:0.77、95%CI:0.58~1.03、p=0.078)、疾患特異的生存期間(DSS)も改善しました(72% vs.59%、HR:0.63、95%CI:0.46~0.86、p=0.004)。とくにネオアジュバント群においてdd-MVACはGCよりも有意に優れていました(OS:66% vs.57%、HR:0.71、95% CI:0.52~0.97、p=0.032、DSS:75% vs.60%、HR:0.56、95%CI:0.39~0.80、p=0.001)。MIBCの周術期化学療法において、dd-MVACはGCに比べてOS、DSSを有意に改善することが示されました。今後、本邦でも標準治療となっていくかどうか動向が注目されます。THOR試験(Abstract # LBA4619)FGFR変異は転移性尿路上皮がん患者の約20%で観察され、ドライバー変異として機能していると考えられています。THOR試験(NCT03390504)は、プラチナ含有化学療法および抗PD-(L)1治療後に進行した、FGFR3/2変異を有する局所進行性または転移性尿路上皮がん患者を対象とし、erdafitinibと化学療法を比較するランダム化第III相試験でした。266例の患者が無作為化され、そのうち136例がerdafitinib、130例が化学療法を受けました。今回は、追跡期間の中央値15.9ヵ月時点での主要評価項目のOSのデータが発表されました。erdafitinibは化学療法と比較してOSを有意に延長し、死亡リスクを減少させました(12.1ヵ月vs.7.8ヵ月、HR:0.64、95%CI:0.47~0.88)。さらに、erdafitinibと化学療法によるOSのベネフィットは、サブグループ全体で一貫して観察されました。さらに、客観的奏効率(ORR)はerdafitinibのほうが有意に良好でした(45.6% vs.11.5%、相対リスク:3.94、95%CI:2.37~6.57、p<0.001)。安全性に関しても新たな懸念は見いだされませんでした。erdafitinibはプラチナ含有化学療法および抗PD-(L)1治療後に進行した、FGFR3/2 変異を有する局所進行性または転移性尿路上皮がん患者における標準治療になりうると考えられます。SWOG S1011試験(Abstract # 4508)MIBCに対する膀胱全摘除術(RC)におけるリンパ節郭清の範囲に関する前向き試験であるSWOG S1011(NCT01224665)の結果が報告されました。詳細は別項に譲りますが、主要評価項目であるDFS、副次評価項目であるOSともに両群間に有意差を認めませんでした。この結果は数年前に報告された同様の試験であるLEA AUO AB 25/02試験(NCT01215071、Gschwend JE, et al. Eur Urol. 2019;75:604-611.)と同様でしたが、サンプルサイズ、観察期間などの不足から検出力が不足しているとの指摘(Lerner SP, et al. Eur Urol. 2019;75:612-614.)もあり、今後より大規模なデータベース研究や長期フォローアップの結果が待たれます。いずれにせよ、RCにおける拡大郭清がDFS、OSに与える影響はそれほど大きくはないということが示唆されました。CONTACT-03試験(Abstract # LBA4500)CONTACT-03試験(NCT04338269)は、ICI治療中または治療後に進行した、切除不能または転移性の淡明細胞型または非淡明細胞型RCC患者を対象とし、アテゾリズマブ(1,200mg IV q3w)とカボザンチニブ(60mg 経口 qd)の併用またはカボザンチニブ単独の治療に1:1に無作為に割り付けました。RECIST 1.1に基づくPFSおよびOSが主要評価項目でした。552例が無作為化され、263例がアテゾリズマブ+カボザンチニブ群に、259例がカボザンチニブ単独群に割り付けられました。観察期間の中央値15.2ヵ月の時点で、アテゾリズマブ+カボザンチニブ群にOS、PFSに関するベネフィットは認められませんでした。Grade3/4の有害事象は、アテゾリズマブ+カボザンチニブ群の68%(177/262)およびカボザンチニブ単独群の62%(158/256)で報告されました。Grade5のAEは6%と4%で発生しました。治療中止につながる有害事象は、アテゾリズマブ+カボザンチニブ群で16%、カボザンチニブ単独群では4%で発生しました。本試験は、ICI治療中あるいは治療後に進行した腎がん患者に対してカボザンチニブにアテゾリズマブを追加しても臨床転帰は改善されず、毒性が増加するという残念な結果に終わりましたが、ICIのリチャレンジを検証する初のランダム化第III相試験として注目度も高く、論文はLancet誌に掲載されています(Pal SK, et al. Lancet. 2023;402:185-195.)。おわりに本年のASCO Annual Meetingでは、泌尿器腫瘍各領域で今後の治療の在り方に重要な示唆を与える報告が多数見られました。前立腺がん領域では、mCRPCの1次治療としての新規ARシグナル阻害薬とPARP阻害薬の併用に関する試験以外にも、mCRPCの1次治療としての新規ARシグナル阻害薬と放射線治療および化学療法の併用に関するPEACE-1試験の放射線治療のベネフィットに関するデータも公表されました。総じて、ここ10年で開発されてきた治療法の併用による治療強度の増強に関する研究が多かったように思います。これらの治療は、対象患者、治療レジメンともに、さらなる最適化が必要と考えられます。今後の動向にも注目していきたいと思います。