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“適切な水分補給”、その意義は?

 適切な水分補給をしている人は、慢性疾患発症リスクが低く、長生きであったことを米国国立衛生研究所(NIH)心肺血液研究所のNatalia I. Dmitrieva氏らが明らかにした。eBioMedicine誌2023年1月2日掲載の報告。 マウスでは、水分補給を制限することで、生存期間の短縮や退行性変化の促進がみられることが報告されている1)。そこで、著者らの研究グループは、適切な水分補給が老化を遅らせるという仮説を立て、45~66歳の成人を対象にその仮説を検証した。 本研究は、血清ナトリウム値135~146mmol/Lで、血清ナトリウム値に影響を及ぼす高血糖(血漿グルコース値140mg/dL超)や高脂血症、肥満(BMI 35kg/m2超)がない米国在住の45~66歳の成人1万1,255人を対象とし、25年間追跡した。水分不足は、血清ナトリウム値を上昇させる要因となることが知られていることから、水分補給の指標として血清ナトリウム値を用いた。また、加齢の相対的な速度の推定には、年齢と相関のあるバイオマーカーから算出した生物学的年齢を用いた。評価項目は、血清ナトリウム値と慢性疾患発症、早期死亡、生物学的年齢の関連などとした。 主な結果は以下のとおり。・血清ナトリウム値142mmol/L超は、慢性疾患の発症リスクが39%上昇した(ハザード比[HR]:1.39、95%信頼区間[CI]:1.18~1.63)。・血清ナトリウム値144mmol/L超は、早期死亡のリスクが21%上昇した(HR:1.21、95%CI:1.02~1.45)。・血清ナトリウム値142mmol/L超は、生物学的年齢が実年齢を上回るオッズが50%高く(オッズ比:1.50、95%CI:1.14~1.96)、生物学的年齢が実年齢を上回る人は、慢性疾患発症(HR:1.70、95%CI:1.50~1.93)および早期死亡(HR:1.59、95%CI:1.39~1.83)のリスクが上昇した。 著者らは、「中年では血清ナトリウム値が142mmol/Lを超えると老化(生物学的年齢高値)、慢性疾患発症、早期死亡のリスクが上昇することが明らかになった」とした一方、「水分補給の不足と老化の関係を証明するためには、介入試験が必要である」とも述べている。

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脂質異常症高脂血症)とは?

脂質異常症高脂血症)とは?血液中の脂質の値が基準値から外れた状態を、脂質異常症といいます。脂質の異常には、LDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)、HDLコレステロール(いわゆる善玉コレステロール)、トリグリセライド(中性脂肪)の血中濃度の異常があります。これらはいずれも、動脈硬化の促進と関連します1)。脂質異常症の診断基準2)LDLコレステロールHDLコレステロール140mg/dL以上高LDLコレステロール血症120~139mg/dL境界域高LDLコレステロール血症40mg/dL未満低HDLコレステロール血症悪玉が多いタイプ善玉が少ないタイプ150mg/dL以上トリグリセライド (空腹時採血)(中性脂肪)175mg/dL以上高トリグリセライド血症中性脂肪が多いタイプ(随時採血)non HDLコレステロール170mg/dL以上高non HDLコレステロール血症(総コレステロール-HDLコレステロール)150~169mg/dL境界域高non HDLコレステロール血症1)厚生労働省 e-ヘルスネット善玉以外が多いタイプ脂質異常症(https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/metabolic/m-05-004.html)2)日本動脈硬化学会編. 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版. p22 表2-1より一部改変Copyright © 2022 CareNet,Inc. All rights reserved.

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アルコール摂取と白内障リスクとの関連が明らかに―日本人約3万人の症例対照研究

 アルコールの摂取習慣と白内障リスクとの間に、有意な用量反応関係があることが、日本人約3万人のデータを用いた症例対照研究の結果として示された。飲酒をやめた人は白内障リスクが低下する可能性があることも明らかになった。東海大学医学部基盤診療学系衛生学公衆衛生学の深井航太氏、東京慈恵会医科大学眼科学の寺内稜氏らの研究によるもので、詳細は「Scientific Reports」に11月22日掲載された。 白内障は眼のレンズである水晶体が混濁して視機能が低下する病気で、多くは加齢現象として生じる。詳細な検査を行えば高齢者の大半に認められるほど有病率の高い病気のため、仮に修正可能なリスク因子があるとすれば、公衆衛生対策の大きな効果が期待できる。これまでに、飲酒も白内障のリスク因子の一つである可能性が検討されてきているが、結果に一貫性が見られない。また、それらの研究は主に海外で行われており、超高齢社会の日本は白内障治療を受ける患者数が多いにもかかわらず、そのような視点での研究がほとんど行われていない。深井氏らの研究はこうした背景の下で行われた。 この研究には、国内最大級の入院患者レジストリである、34カ所の労災病院グループによる「入院患者病職歴調査(ICOD-R)」のデータが用いられた。2005~2019年度に同グループ病院へ加齢性白内障の手術治療のために入院した40~69歳の患者を「症例群」、性別、年齢(±5歳以内)、入院年などが一致する白内障以外の疾患での入院患者を「対照群」として抽出。各群1万4,861人からなる症例対照研究として実施した。なお、加齢性白内障は高齢であるほどハイリスクとなるため、飲酒量との関連を検討するという目的から、年齢上限を69歳とした。 飲酒量については、飲酒の頻度(飲酒習慣なし、以前は飲酒習慣があったが現在はなし、週1~3回、週4~7回)、1日当たりの飲酒量〔飲まない、1日2ドリンク以下、2超~4ドリンク以下、4ドリンク超(1ドリンクはエタノール換算10g相当)〕を把握。さらに、両者の積により飲酒の生涯累積摂取量〔摂取なし、40以下、40超~60以下、60超~90以下、90超(単位はdrink-years)〕を算出した。また、飲酒以外の共変量として、喫煙習慣、生活習慣病(高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満)の有無、屋外作業の有無、職業上の放射性被曝リスクの有無などを把握した。 症例群と対照群を比較すると、前者は飲酒習慣のある人や、高血圧・糖尿病患者や屋外作業をしている人の割合が有意に高かった。喫煙習慣や教育歴、職業上の放射性被曝リスク、脂質異常症、肥満の割合などは有意差がなかった。 前述の共変量を全て調整したロジスティック回帰分析の結果、飲酒頻度、1日当たりの飲酒量、生涯累積摂取量のいずれについても、高値であるほど白内障手術を受ける人の割合が高いという有意な傾向性が認められた(全てP<0.01)。例えば、過去に飲酒習慣のない人を基準として飲酒頻度が週4~7回の群のオッズ比(OR)は1.30(95%信頼区間1.21~1.40)であり、また飲酒頻度が週に1~3日〔OR1.10(同1.03~1.17)〕や、1日当たりの飲酒量が2ドリンク以下〔OR1.13(1.06~1.20)〕であっても、有意なオッズ比の上昇が認められた。 それに対して、以前は飲酒習慣があったものの現在は飲んでいない群はOR1.00(0.91~1.09)で、関連は非有意だった。なお、性別に解析した結果は、男性・女性ともに全体解析の結果と同様であり、全て有意な傾向性が認められた。生涯累積摂取量については、男性では90超〔OR1.26(1.14~1.39)〕で有意なオッズ比上昇が見られたのに対して、女性では40超~60以下〔OR1.31(1.14~1.51)〕でもオッズ比上昇が認められた。 感度分析として、既知の白内障リスク因子である糖尿病患者を除外した解析では、以前は飲酒習慣があったものの現在は飲んでいない群でオッズ比低下が認められ、特に女性でその傾向が強かった〔男性はOR0.93(0.81~1.06)、女性はOR0.86(0.74~1.00)〕。 著者らは、本研究では白内障リスクを入院での手術症例のみで判断しており、日帰り手術が含まれていないためリスクを過小評価している可能性があることなどを、限界点として挙げている。その上で、「日本人ではエタノール換算20g/日程度の低用量の飲酒であっても白内障リスクが上昇する可能性が示された。また、飲酒量と白内障リスクとの間に用量反応関係が認められた。白内障患者に対しては、飲酒量を抑えるという生活習慣の改善が推奨される」と結論付けている。 なお、飲酒が白内障の進行を促すメカニズムについては、「アルコール代謝は酸化ストレスと関連があり、その過程で発生する活性酸素種が水晶体タンパク質の変性を引き起こすといった経路が考えられる」と考察している。

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夜7時以降に温泉に入る人には高血圧患者が少ない―別府市民1万人の調査

 温泉入浴の習慣がある人には高血圧が少ないことが明らかになった。国内最大規模の温泉郷を有する別府市市民を対象とする、九州大学別府病院内科の山崎聡氏らの研究によるものであり、結果の詳細は「Scientific Reports」に11月14日掲載された。入浴時間帯別に解析すると、夜7時以降に温泉に入る習慣のある人で、高血圧該当者率の有意な低下が観察されたという。 高血圧は日本の国民病とも言われるほど多い病気で、50歳以上の男性と60歳以上の女性の6割以上が高血圧に該当すると報告されている。一方、温泉入浴については古くからさまざまな健康上のメリットが報告されてきている。そこで山崎氏らは、2011年に別府で実施された、温泉入浴や疾患既往歴に関するアンケート調査の結果を用いて、温泉入浴と高血圧との関連を検討した。 このアンケートは、別府市民から無作為に抽出した2万人に対して回答協力を依頼。本研究ではそのうち65歳以上の高齢者1万428人の回答を解析対象とした。そのうち、高血圧の既往があると回答した人は4,001人(38.3%)だった。なお、調査時点で別府市に居住していた高齢者数は3万4,465人。 単変量解析の結果、85歳以上は有意に高血圧の該当者率が高く〔65~69歳を基準とするオッズ比(OR)1.460(95%信頼区間1.230~1.740)〕、女性は有意に低かった〔OR0.923(同0.852~0.999)〕。併存疾患との関連については、痛風(OR1.860)、脂質異常症OR1.650)、脳卒中(OR1.620)、不整脈(OR1.610)、腎疾患(OR1.520)、糖尿病(OR1.460)の既往のある人では高血圧該当者率が有意に高かった。反対に、慢性肝炎(OR0.656)の既往者は該当者率が有意に低かった。がんやうつ病、虚血性心疾患、喘息、膠原病との関連は非有意だった。 温泉入浴の習慣との関連では、入浴時間が10~30分未満の群で高血圧該当者率が有意に低く〔10分未満を基準として10~19分はOR0.832、20~29分はOR0.765〕、30分以上では非有意だった。また入浴の時間帯については、13~19時に入浴する群では該当者率が有意に高く〔9時前に入る群を基準としてOR1.220〕、反対に19時以降に入浴する群では有意に低く(OR0.840)、9~13時に入る群は非有意だった。温泉の泉質については、高血圧該当者率と有意な関連のある泉質は特定されなかった。 続いて、単変量解析で有意だった因子を説明変数とする多変量解析を施行。その結果、高血圧該当者率に独立して関連する因子として、85歳以上〔65~69歳を基準としてOR1.410(95%信頼区間1.170~1.680)〕に加え、単変量解析で有意だった疾患既往歴は全て有意性が保たれていた。入浴習慣関連では、19時以降に入浴する群で有意に低いオッズ比が観察され〔OR0.850(同0.768~0.940)〕、入浴時間の長さや入浴頻度、温泉入浴歴などは非有意だった。 本研究について著者らは、疾患既往歴が自己申告によること、高血圧の治療の詳細が不明なこと、横断研究であり因果関係は不明であることなどの限界点を挙げている。その上で、「夜7時以降の温泉入浴は、高齢者の高血圧該当者率の低さと有意に関連している。高血圧治療における夜間の温泉入浴の有用性を検証する無作為化比較試験が期待される」と述べている。

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BMIと心血管疾患による院内死亡率との関連―日本人150万人のデータ解析

 心筋梗塞や心不全、脳卒中などの6種類の心血管疾患(CVD)による院内死亡率とBMIとの関連を、日本人150万人以上の医療データを用いて検討した結果が報告された。低体重は全種類のCVD、肥満は4種類のCVDによる院内死亡リスクの高さと、有意な関連が見られたという。神戸大学大学院科学技術イノベーション研究科先端医学分野の山下智也氏らの研究によるもので、詳細は「Scientific Reports」に11月7日掲載された。 肥満が心血管代謝疾患などのリスク因子であることは広く知られており、肥満是正のための公衆衛生対策が長年続けられている。その一方、高齢者では肥満が死亡リスクに対して保護的に働くことを示すデータもあり、この現象は「肥満パラドックス」と呼ばれている。ただし、肥満の健康への影響は人種/民族により大きく異なると考えられることから、わが国でのエビデンスが必要とされる。そこで山下氏らは、日本循環器学会の患者レジストリ「循環器疾患診療実態調査(JROAD)」を用いて、日本人のBMIと急性心血管疾患による院内死亡率との関連を検討した。 JROADには、循環器専門医研修施設に認定されている全国1,086の病院から、2012~2019年度に合計502万464人の入院患者のデータが記録されていた。このうち、院内死亡率を算出するという目的のため、再入院の記録のある患者を除外。また、既往歴を含む患者情報が正確に記録されていない可能性があるため、入院期間が1日以下の患者も除外。その他、20歳未満の患者や、疾患別の症例数が10件以下の施設からの報告などを除外した。最終的な解析対象患者数は、急性心不全27万7,489人、急性心筋梗塞30万7,295人、急性大動脈解離9万6,114人、虚血性脳卒中58万8,382人、脳内出血20万1,243人、くも膜下出血6万2,420人だった。 低体重や肥満の判定は、世界保健機関(WHO)によるアジア人の基準に基づき、18.5未満を低体重、18.5~23未満を普通体重、23~25未満を過体重、25~30未満をI度肥満、30以上をII度肥満と分類した。なお、6種類のCVDの全てで、年齢とBMIの逆相関が認められた。また、全てのCVDで経年的に平均BMIが増加していたが、平均BMI値が22~24の範囲を超えることはなかった。 院内死亡率との関連の解析に際しては、年齢と性別を調整する「モデル1」、および、モデル1の調整因子に高血圧、糖尿病、脂質異常症、慢性腎臓病、慢性呼吸器疾患、心房細動などを加えた「モデル2」の2パターンで検討した。普通体重を基準とする解析の結果、低体重はモデル1・2のいずれでも、6種類全てのCVDによる院内死亡リスクが有意に高いという関連が認められた。一方、過体重やI度肥満ではCVDの種類によっては、普通体重よりも低リスクのケースも見られた。モデル2の解析結果は以下の通り。 急性心不全は、低体重(OR1.41)で有意に高リスク、過体重(OR0.93)とI度肥満(OR0.91)では有意に低リスク、II度肥満は有意な関連がなかった。 急性心筋梗塞は、低体重(OR1.27)で有意に高リスク、過体重は有意な関連がなく、I度肥満(OR1.17)やII度肥満(OR1.65)は有意に高リスクだった。 急性大動脈解離は、低体重(OR1.23)、過体重(OR1.10)、I度肥満(OR1.34)、II度肥満(OR1.83)であり、普通体重に比べて全BMIカテゴリーが有意に高リスクだった。 虚血性脳卒中は、低体重(OR1.45)で有意に高リスク、過体重(OR0.86)とI度肥満(OR0.88)は有意に低リスクであり、II度肥満は有意な関連がなかった。 脳内出血は、低体重(OR1.18)で有意に高リスク、過体重(OR0.93)は有意に低リスク、I度肥満(OR1.05)やII度肥満(OR1.26)は有意に高リスクだった。 くも膜下出血は、低体重(OR1.17)で高リスク、過体重は有意な関連がなく、I度肥満(OR1.27)やII度肥満(OR1.44)は有意に高リスクだった。 著者らは、「全国規模の観察研究により、CVD患者の院内死亡率とBMIとの関連が明らかになり、低体重は全ての種類のCVD院内死亡リスクの高さと関連があって、肥満は心不全と虚血性脳卒中以外のCVD院内死亡リスクの高さと関連があった。この知見は、BMIに焦点を当てた公衆衛生対策の政策立案に寄与し得るのではないか」と総括している。

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性への関心が薄れると死亡率は高くなる/国内前向き研究

 性的関心が薄れることは、健康や寿命に関係するのであろうか。山形大学の櫻田 香氏らの研究グループは、性的関心の欠如と全死因死亡率との関連性について、山形県における前向き観察研究を行った。この研究は、山形県内の40歳以上の被験者2万969人を対象に行ったもので、性的関心を持たなかった男性では、全死亡率およびがん死亡率が有意に上昇した。PLoS One誌2022年12月14日号の報告。 山形県内の年次健康診断に参加した40歳以上の被験者2万969人(男性8,558人、女性1万2,411人)を対象。性的興味は自己報告式の質問紙で評価した。性的関心と全死亡、心血管疾患死亡、がん死亡の増加との関連をCox比例ハザードモデルにより検討。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中(中央値:7.1年)、503人が死亡した(心血管疾患死亡:67人、がん死亡:162人)。・カプランマイヤー解析の結果、性的関心がない男性では、全死亡率(p<0.0001)およびがん死亡率(p<0.05)が有意に上昇した。・年齢、高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、飲酒状況、BMI、教育、配偶者の有無、笑いの頻度、心理的苦痛を調整したCox比例ハザードモデル解析では、性的関心がない男性では、性的関心がある男性より全死亡のリスクが有意に高かった(ハザード比:1.69、95%信頼区間:1.17~2.44)。

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トリグリセライドの新基準と適切なコントロール法/日本動脈硬化学会

 今年7月に発刊された『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版』。今回の改訂点の1つとして「随時(非空腹時)のトリグリセライド(TG)の基準値」が設定された。これらの基準をもとに動脈硬化性疾患のリスクとしての高TG血症を確認するが、トリグリセライド値の低下だけではイベントを減らせないため、高トリグリセライド血症の原因となる生活習慣を改善させ適切な治療介入により動脈硬化を抑制するという観点から複合的に行う必要がある。今回、日本動脈硬化学会プレスセミナーにおいて、増田 大作氏(りんくう総合医療センター循環器内科部長)が「高トリグリセライド血症とその治療」と題し、日本人疫学に基づいたトリグリセライドの適切なコントロール法について解説した。動脈硬化抑制のためには、脂質異常値だけをコントロールするのは不十分 「動脈硬化」は虚血性心疾患や脳血管障害などの血管疾患の引き金になる。だからこそ、生活習慣病の改善を行う際には動脈硬化の予防も視野に入れておかねばならならない。本ガイドライン(GL)では脂質異常症の診断基準値の異常をきっかけに「動脈硬化が増えるリスク状態」であることをほかの項目も含めて“包括的リスク評価”を行い動脈硬化がどの程度起こるかを知ることが重要とされる。それに有用なツールとして、増田氏はまず、『動脈硬化性疾患発症予測・脂質管理目標設定アプリ』を紹介。「これまではLDLコレステロール(LDL-C)など単独の検査値のみで患者への注意喚起を行うことが多く、漠然とした指導に留まっていた。だが、本アプリを用いると、予測される10年間の動脈硬化性疾患発症リスクが“同年齢、同性で最もリスクが低い人と比べて〇倍高くなる”ことが示されるため、説得力も増す」と説明した。また、「単に“〇〇値”が高い、ではなくアプリへ入力する際に患者個人が持っているリスク(冠動脈疾患、糖尿病などの既往があるか)を医師・患者とも見直すことができ、治療介入レベルや管理目標などの目指すゴールが明確になる」とも話した。トリグリセライドの基準値に随時採血の基準も採用 今回のガイドライン改訂でトリグリセライドの基準値に随時採血(175mg/dL以上)の基準も採用された。これは、「トリグリセライドは食事によって20~30mg/dL上昇する。食後においてこれを超えてトリグリセライドが高いことが心血管疾患のリスクになっていることが本邦の疫学研究1)でも明らかになっている。コレステロール値が正常であっても、随時トリグリセライド値が166mg/dL以上の参加者は84mg/dL未満の者と比較すると、その相対リスクは冠動脈疾患が2.86倍、心筋梗塞は3.14倍、狭心症は2.67倍、突然死は3.37倍に上昇することが報告された。海外のガイドラインでの基準値も踏まえてこれが改訂GLにおける非空腹時トリグリセライドの基準値が設けられた」と日本人に適した改訂であることを説明。また、今の日本人の現状として「肥満に伴い耐糖能異常・糖尿病を罹患し、トリグリセライドが上昇傾向になる。単にコレステロールの管理だけではなく複合的に対応していくことが求められている」と述べ、「糖尿病患者ではLDL-C上昇だけでなくトリグリセライドの上昇もリスクが上昇する(1mmol/L上昇で1.54倍)。糖尿病患者における脂質異常症を放置することは非常に危険」とも強調した。高トリグリセライドは安易に下げれば良い訳ではない そこで、同氏は本GLにも掲載されている動脈硬化性疾患の予防のための投薬として、LDL-Cの管理目標値を目指したコントロール後のトリグリセライド(non-HDL-C)の適切なコントロールを以下のように挙げた。●高リスク(二次予防や糖尿病患者)+高トリグリセライドの人:スタチンでLDL-Cが適切にコントロールされた場合にイコサペント酸エチルの併用●高トリグリセライド+低HDL-Cの人:スタチン投与有無に関わらずトリグリセライド低下療法(イコサペント酸エチル・フィブラート系/選択的PPARα)●高トリグリセライド+低HDL-Cの人:スタチンにさらにフィブラート系/選択的PPARαでのトリグリセライド低下療法 なお、以前は横紋筋融解症を助長させる可能性からスタチンとフィブラート系の併用は禁忌とされていたが、多くのエビデンスの蓄積の結果平成30年より解除されている。また、選択的PPARαモジュレータにおける腎障害の禁忌も同様に本年8月に解除されているので、処方選択肢が広くなっている。 最後に同氏は「高トリグリセライドの人はさまざまな因子が絡んでいるので、安易に下げれば良い訳ではない。漫然処方するのではなく、血糖や血圧などの管理状態を見て、適切な治療薬を用いてコントロールして欲しい」と改めて強調した。

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脂質管理目標値(2)【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q47

脂質管理目標値(2)Q47Q45で取り上げたように、「一次予防」においては、既往やスコアリングによりリスクの層別化を行い、管理目標値を設定する。糖尿病があると高リスクとなるが、「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」2022年版から、糖尿病に合併症があると高リスク群でもさらに目標値が変わる。合併症としてあげられる病態、病歴と目標値は?

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ネガティブな結果を超ポジティブに考える PROMINENT試験【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第55回

第55回 ネガティブな結果を超ポジティブに考える PROMINENT試験冠動脈疾患の危険因子の代表である脂質への介入で、最も目覚ましい成果を挙げている薬剤がスタチンです。多くの疫学研究から、中性脂肪(トリグリセライド:TG)は独立した心血管イベントのリスク因子とされます。しかしながら、スタチン治療下でも高TG血症を呈する症例にしばしば遭遇します。このような例での冠動脈疾患の残余リスク低減に、TG低下作用を持つフィブラート系薬であるペマフィブラートの効果を検証するための臨床研究が実施されました。PROMINENT試験と呼ばれ、十分量のスタチン治療下で、中性脂肪が高く、かつHDLコレステロールが低い2型糖尿病患者を対象に、この薬剤の心血管イベントの抑制作用を確認するデザインでした。2022年11月に米国シカゴで開催された米国心臓協会(AHA)学術集会で結果が発表され、その詳細は臨床系の医学雑誌の最高峰であるNEJM誌に掲載されました(N Engl J Med. 2022;387:1923-1934)。この研究には日本人医師の多くが関心をもっていました。その理由は、本研究は日本人の患者を含む24ヵ国876施設から10,497例が登録されたグローバル試験であるだけでなく、本研究の鍵となるペマフィブラートが日本企業で創製され、その企業の研究開発組織からの資金提供により実施されたからです。つまり日本発の薬剤が世界に勝負を挑んだ大一番であったのです。残念!結果は期待どおりではありませんでした。ペマフィブラート群とプラセボ群のイベント発生率曲線は、観察期間中ほぼ一貫して重なっていました。事前設定されたサブグループ解析も、両群に有意差はありませんでした。つまり、心血管イベントの発生率の抑制作用は証明されなかったのです。PROMINENT試験の結果は、「negative results(否定的な結果)」でした。科学や学問の世界、とくに医療界では否定的な結果が公表されない傾向にあることが問題になっています。膨大なコストを要する臨床試験の実施には、利益を追求する企業として期待する結果があったと推察します。否定的な結果となったPROMINENT試験の結果を、公開することに同意した当該企業の高い倫理観と見識に敬意を表します。また、その否定的な結果を掲載するからこそNEJM誌は一流誌と言われるのだと納得します。否定的な結果が公表されにくい理由を考えてみましょう。単純にいえば、派手で注目を浴びるストーリーが欲しいという人間の根幹的な欲望があります。論文を掲載する側にも有効性を示すポジティブな論文を好むというバイアスがあります。ポジティブな論文のほうが被引用回数を稼ぐことも期待され、インパクトファクター上昇にも寄与します。否定的な研究結果はポジティブな結果よりも公表される可能性が低く、公表された論文を集めるとポジティブな結果に偏りやすいことを出版バイアスと言います。否定的な結果が公表されにくく、ポジティブな研究結果が多くなることによって、メタ解析による分析の結果が肯定的なほうへ偏るといった影響が出ます。メタ解析の結果は、EBMにおいて最も質の高い根拠とされ、診療ガイドラインの策定にも大きな影響を与えます。そのメタ解析の結果に誤認があれば、大勢の健康に影響を与えることに繋がります。PROMINENT試験の否定的な結果についても十分な考察が必要です。研究のベースライン時で95.7%がスタチンを投与されています。さらに、ACE阻害薬やARBの高率な使用や、GLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬なども影響を与えていることでしょう。心血管イベント抑制作用がすでに確認された複数の薬剤が使用可能な現状で、中性脂肪への介入の上乗せ効果を獲得する余地があるのかどうかも議論すべきでしょう。観察研究と介入研究の違いもあります。観察研究では、中性脂肪の高い人にイベントが多く、中性脂肪の低い人にイベントが少ないことは事実かもしれません。しかし、高い中性脂肪を薬剤介入で低下させることにより、イベントを抑制することが可能かどうかは別の問題なのかもしれません。人は、人生においても辛くネガティブな経験に遭遇しながらも、それに対処しながら生きているものです。企業の運営や経営も人生になぞらえることができます。これが法人という言葉の由縁です。人も企業も、ネガティブな経験に苦しむだけでなく、それを乗り越え肯定的な意味に昇華させていくことが必要です。科学や医学の発展を望むならば、否定的な結果が論文として公表され、さらにそれが活かされるシステムが必要です。否定的な試験には、より良い新たな臨床試験を立案するためなど重要な存在意義があるからです。今回、PROMINENT試験の結果は残念ながら否定的な結果でした。しかし、その臨床研究に取り組む姿勢や志には共感するものがあります。エールを送りたい気持ちです。製薬企業の利益の実現のためだけではなく、人類がより健康になることを目指して活動していることが伝わってきます。今後も解決すべき健康上の課題は多く残されています。今も心筋梗塞で命を落とす患者さんが存在する残念な事実が、その証左です。さあ、ポジティブに前に進みましょう!

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高TG血症合併2型糖尿病患者を対象としたRCT研究(ペマフィブラート投与群 vs.対照群)の結果からTGレベルが十分に低下しても心血管イベントの抑制効果に差はみられなかった!―(解説:島田俊夫氏)

 脂質異常症が動脈硬化に悪影響を与えていることは以前から想定されているが、裏付けるエビデンスが乏しい。一方で高LDLコレステロール血症が動脈硬化を促進することは周知の事実となっている。また、コレステロールは細胞膜形成に不可欠な成分であり、ステロイドホルモンや胆汁酸の原料でもある。生命維持に必要不可欠な物質であることを忘れてはならないが、過剰なコレステロール血症の存在は動脈硬化、冠動脈疾患のリスクを増加させることは遍く認識されている。 これまでの多数のスタチンを使った大規模研究でLDLコレステロール値を下げることで、動脈硬化、冠動脈疾患のリスクが下げられることは証明済みである。 しかしながら、糖尿病、メタボ症候群などで高TG血症を随伴することも周知の事実であり、これらの随伴脂質異常症(TG-リッチリポ蛋白、小型高密度リポ蛋白などの増加)の是正が冠動脈疾患や脳血管障害リスク低下に寄与するか否かは定かではない。 今回、タイミングよくNEJM誌2022年11月24日号に掲載された米国・ブリガム&ウィメンズ病院のAruna D. Pradhan氏らが発表した「PROMINENT」試験1):「2型糖尿病患者を対象としたRCT研究で高レムナント血症、高TG血症(200~499mg/dL)、低HDLコレステロール血症(40mg/dL以下)があり、高LDLコレステロール血症がスタチン投与等により比較的良好(100mg/dL以下)にコントロールされている対象を2群にランダム割り付けを行い、コントロール群とペマフィブラート(pemafibrate[PF])投与群に群分けし、心血管イベントがPF群で有意に低下するかを主要評価項目とした多施設共同二重盲検ランダム比較試験」の結果が掲載された。「PROMINENT」試験では治療効果を数年間(中央値3.4年)追跡し、primary outcomeを評価した。 つまり、高TG血症絡みの病態をPFで治療することで心血管発作が抑制できるか否かをprimary outcomeとして評価した研究であり、多くの方が関心を示すと考え、紹介する。 これまでの状況証拠としては高TG血症絡みの病態は糖尿病、メタボ症候群などでよくみられる脂質異常症であり、動脈硬化や血栓症をベースに血管疾患の発生に深く関与していると想定されているが、釈然としない。 本試験でのPFの心血管イベント抑制効果はハザード比[HR]:1.03(p=0.67)でPF投与群とプラセボ群(対照群)間に差はなかった。率直に言えば、目的としたイベント抑制効果はなかった。若干の懸念としては、これまでの論争がこれで完全に氷解したと考えるには臨床家としては多少の違和感を禁じ得ない。また、腎臓有害事象の発生率(HR:1.12[p=0.004])、静脈血栓症の発生率(HR:2.05[p<0.001])はPF群で有意に多かった。一方で、非アルコール性脂肪肝の発生率についてはPF群で有意に低かった(HR:0.78[p=0.02])。しかしながら、これらは副次的な情報と捉えるべきである。 PF群に認められたLDLコレステロール値上昇がTGやレムナント低下などのメリットを相殺した可能性も否定はできないが、つじつま合わせの印象は免れない。 いずれにしても“主テーマであった心血管イベントの抑制効果の差は、PFの上乗せにより得られなかった”というのが本論文の結論である。(2022年12月20日 記事を修正いたしました)

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脂質管理目標値設定(2)【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q45

脂質管理目標値設定(2)Q45脂質異常症の管理目標値を設定するうえで、リスクの層別化をすることは従来どおりである。冠動脈疾患、脳梗塞、糖尿病、慢性腎臓病、末梢動脈疾患など血管系の既往がない患者は、スコアリングをしてリスクの層別化を図る。「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」2022年版から新しく採用された、そのスコアの名前は?

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スタチン、抗凝固薬服用の心房細動患者の出血リスクを低減

 経口抗凝固薬を服用している非弁膜症性心房細動患者において、スタチン服用で大出血、全死亡、虚血性イベントのリスクが有意に低下したことが、多施設後ろ向きレジストリ研究で示唆された。兵庫医科大学の内田 和孝氏らがAmerican Journal of Cardiovascular Drugs誌オンライン版2022年11月16日号で報告した。 本研究は、心臓機械弁もしくは肺/深部静脈血栓症の既往歴のある患者を除外した経口抗凝固薬を服用している非弁膜症性心房細動患者を対象とした。2013年2月26日に7,826例を登録し、2017年2月25日まで追跡した。主要評価項目は大出血、副次評価項目は全死亡、虚血性イベント、出血性脳卒中、虚血性脳卒中で、スタチン投与群と非投与群で比較した。 主な結果は以下のとおり。・スタチン投与群(2,599例、33%)は非投与群に比べ、発作性心房細動(37% vs.33%、p=0.0003)、高血圧(84% vs.76%、p<0.0001)、糖尿病(41% vs.27%、p<0.0001)、脂質異常症(91% vs.30%、p<0.0001)を有している患者が多かった。・大出血の累積発生率は、スタチン投与群6.9%、非投与群8.1%であった(p=0.06)。・スタチン投与群の非投与群に対する各評価項目の調整ハザード比(95%信頼区間)は、大出血が0.77(0.63~0.94)、全死亡が0.58(0.47~0.71)、虚血性イベントが0.77(0.59~0.999)、出血性脳卒中が0.85(0.48~1.50)、虚血性脳卒中が0.79(0.60~1.05)だった。

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若年肥満症に対するGLP-1受容体作動薬セマグルチドの効果(解説:小川大輔氏)

 わが国では肥満症の治療としてGLP-1受容体作動薬の使用はまだ認められていないが、欧米では一般によく用いられている。これまでにリラグルチドやセマグルチドなどのGLP-1受容体作動薬の有用性が多数報告されているが、主に成人を対象とした試験であった。今回、若年者(12~18歳)の肥満症を対象とした試験の結果が報告された1)。 この試験は201例の12歳から18歳未満の肥満症を対象に、セマグルチド2.4mgまたはプラセボを投与する群に2対1の割合で無作為に割り付け、週1回皮下投与を行い68週間後のBMIの変化率を評価した。また全例が食事や運動など生活様式への介入を受けた。その結果、試験開始から68週目までのBMIの平均変化量は、プラセボ群(67例)では+0.6%であったのに対し、セマグルチド群(134例)では-16.1%と有意差を認めた(p<0.001)。また5%以上の体重減少の達成割合も、プラセボ群は18%であったが、セマグルチド群は73%と有意に達成割合が高かった(p<0.001)。 肥満症は成人だけでなく小児や青少年でも増加している。高血糖や脂質異常症などの代謝疾患や肝機能障害、さらに睡眠時無呼吸症候群などを併発することが多いため早期からの対策が必要である。生活様式への介入をまず行うが、一般的に効果は弱い。欧州では薬物療法としてリラグルチドが、米国ではリラグルチドに加えて、orlistat、トピラマートが12歳以上の肥満症の治療薬として承認されている。 今回の試験で、肥満のある若年者に対し、週1回セマグルチド2.4mgの皮下投与がBMIや体重を有意に減少し、さらに糖化ヘモグロビン、脂質、肝機能などの代謝パラメーターも改善することが明らかになった。一方、有害事象として消化器症状(悪心、嘔吐、下痢など)はセマグルチド群のほうが多く認められたが、試験の完遂率は90%と高く、おおむね許容できる範囲と推測される。成人だけでなく若年者の肥満症の薬物治療として、セマグルチドの有用性が示されたことは意義深いと思われる。

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脂質管理目標値設定(1)【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q44

脂質管理目標値設定(1)Q44脂質異常症の管理目標値を設定するうえで、リスクの層別化をすることは従来どおりであるが、「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」2022年版以降、『二次予防』として厳密に管理すべき基礎疾患として示されたのは?

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「肥満」との違いは?肥満症診療ガイドライン改訂

 11月24日に日本肥満学会(理事長:横手 幸太郎氏[千葉大学医学部附属病院長])は、『肥満症診療ガイドライン2022』についてプレスセミナーを開催した。 セミナーでは、肥満症の現況や治療に関する解説と今回刊行されたガイドラインの概要が説明された。また、本ガイドラインは12月2・3日に那覇市で開催される第43回日本肥満学会(会長:益崎 裕章氏[琉球大学大学院 医学研究科 内分泌代謝・血液・膠原病内科学講座 教授])で発刊される。肥満症とはBMI25以上で何らかの健康障害がある人 はじめに理事長の横手 幸太郎氏が「わが国における肥満症の現況と肥満症診療ガイドライン2022の位置づけ」をテーマに講演を行った。 肥満とは、「脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した状態」をいい、わが国ではBMI25以上が肥満とされている。その数は、年を経て全世界で増えており、とくにアメリカやアフリカで増加している。 肥満になると糖尿病、高血圧、脂質異常症などの健康障害のほか、膝・腰・足首などへの運動器障害、睡眠時無呼吸症候群などが生じるリスクが高くなる。 そこで、BMIが25以上あり、一定の健康障害(糖尿病、高血圧、脂質異常症、痛風など11項目)がある人を「肥満症」として、医学的に治療が必要な対象者としている(BMI35以上は高度肥満症)。 肥満症の治療は、食事療法、運動療法、行動療法、薬物療法、外科療法と5つの考え方があり、他職種連携によるチーム医療がなされる必要がある。実際、一番身近な保健指導の介入により6ヵ月後のHbA1cは-0.2%減少、中性脂肪は-81.5%減少など改善効果が報告されている1)。 肥満に関して最近のトピックスとしては、若い女性にはBMI18.5未満の「やせ過ぎ」の女性がむしろ増えていることやそのやせ過ぎが将来的に骨粗鬆症や不妊のリスクとなること、高齢者の肥満ではフレイルなどとの関連も考慮し、無理な減量よりも筋肉量維持や増強に心がけることなども指摘されている。 横手氏は終わりに本ガイドラインの目的について「体重を減らすことにメリットがある。『やせるべき人』を選び出す、そして、適切に治療と予防を行うことである」と述べ講演を終えた。小児や高齢者の肥満にも言及 続いて、同学会のガイドライン作成委員会委員長の小川 渉氏(神戸大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌内科 教授)が「肥満症診療ガイドライン2022の改訂のポイント」をテーマに、今回の改訂内容や今後の展望などを解説した。 本ガイドラインは、2006年、2016年と発刊され、今回の2022年版では、主に「肥満症治療の目標と学会が目指すもの」「高度肥満症」「小児の肥満」「高齢者の肥満」「肥満症の治療薬」「コラム」について改訂が行われた。 「肥満症治療の目標と学会が目指すもの」と「高度肥満症」では、肥満症治療指針について「肥満症」と「高度肥満症」とで目標、治療などの治療方針が異なることが記載された。とくに肥満の外科治療の減量・代謝改善手術では保険適用の内容などが改訂された。薬物治療についてはGLP-1受容体作動薬の治験に関して言及され、セマグルチドの68週後の体重変化率についてプラセボ-2.1%に対し、セマグルチド-13.2%と有意な体重減少があったこと、また、本試験が学会の定める肥満症の診断基準に基づいて作成されたプロトコ-ルで実施された試験であることなどが記載されている2)。 「高齢者の肥満」では、日本老年医学会のガイドラインの内容 と統一性を考慮して改訂され、 高齢者肥満症の減量目標をフレイル予防と健康障害発症予防の両者も考慮し「BMI22~25」の範囲とすることが記載され、過剰な減量には留意が必要とされている。 「小児の肥満」では、将来の成長を考慮しBMIではなく、肥満度で判定し、身体面だけでなく、肥満に伴う「いじめ」など生活面への配慮も記載されている。 「肥満症の治療薬」では、「肥満の治療」ではなく、「肥満症の治療」という基本概念のもと、記載の整備と概念を明確化したほか、改訂では製薬企業の開発担当者とも意見交換を行い、評価基準と適応基準は必ず同一ではないことが記載されている。 その他、今回の改訂では「肥満へのスティグマ」についても触れられ、肥満の原因が個人への帰責事由という偏見からくる社会的スティグマと肥満を自分自身の責任とする個人的スティグマへの配慮が述べられている。 最後に小川氏は「肥満症の課題は、認知度がまだ低く、社会的な浸透もメタボリックシンドローム(72.5%)や肥満(81.8%)と比較しても、肥満症(58.3%)は低い。このガイドラインが、診療に役立つだけでなく社会の啓発に寄与することを期待する」と抱負を述べ、レクチャーを終えた。

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ゾコーバ緊急承認を反映、コロナ薬物治療の考え方第15版/日本感染症学会

 日本感染症学会は11月22日、「COVID-19に対する薬物治療の考え方 第15版」を発刊した。今回のCOVID-19に対する薬物治療の考え方の改訂ではエンシトレルビル(商品名:ゾコーバ錠)の緊急承認を受け、薬物治療における注意点などが追加された。 日本感染症学会のCOVID-19に対する薬物治療の考え方におけるゾコーバ投与時の主な注意点は以下のとおり。・COVID-19の5つの症状(鼻水または鼻づまり、喉の痛み、咳の呼吸器症状、熱っぽさまたは発熱、倦怠感[疲労感])への効果が検討された臨床試験における成績等を踏まえ、高熱・強い咳症状・強い咽頭痛などの臨床症状がある者に処方を検討する・重症化リスク因子のない軽症例では薬物治療は慎重に判断すべきということに留意して使用する・重症化リスク因子のある軽症例に対して、重症化抑制効果を裏付けるデータは得られていない・SARS-CoV-2による感染症の症状が発現してから遅くとも72時間以内に初回投与する・(相互作用の観点から)服用中のすべての薬剤を確認する(添付文書には併用できない薬剤として、降圧薬や脂質異常症治療薬、抗凝固薬など36種類の薬剤を記載)・妊婦又は妊娠する可能性のある女性には投与しない・注意を要する主な副作用は、HDL減少、TG増加、頭痛、下痢、悪心など このほか、抗ウイルス薬等の対象と開始のタイミングの項には、「重症化リスク因子のない軽症例の多くは自然に改善することを念頭に、対症療法で経過を見ることができることから、エンシトレルビル等、重症化リスク因子のない軽症~中等症の患者に投与可能な症状を軽減する効果のある抗ウイルス薬については、症状を考慮した上で投与を判断すべきである」と、COVID-19に対する薬物治療の考え方には記載されている。

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