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女性の顔の肝斑、なぜ起きる?

 ブラジル・FMB-UnespのHandel A.C.氏らは、ケースコントロール研究により、女性の顔の肝斑発生のリスク因子を調べた。その結果、色素沈着耐久力、先祖、慢性的な日光曝露、性ホルモン薬、向精神薬、不安気質が、それぞれ独立して関連していることを明らかにした。肝斑は成人女性によくみられる慢性局所的な後天性の黒皮症で、人生の質に重大な影響をもたらす。認知されているトリガー要因はあるが、その病理は明らかになっていなかった。British Journal of Dermatology誌オンライン版2014年4月19日号の掲載報告。 検討は、年齢で対応させた顔に肝斑がある成人女性とない成人女性を対比させて検討した。個人的特性データ、曝露変数で分類し、ホルモン刺激やIDATE-T質問票(state-trait anxiety inventory)と関連付けを行い、条件付き多重ロジスティック回帰法にて分析した。 主な結果は以下のとおり。・207例の患者と207例の対照を評価した。平均年齢は38.7歳であった。・症例群と対照群は、フォトタイプに関して差があることが判明した。すなわち祖先が米国インディアン(OR:2.59)、海岸に居住あるいは地方に居住(同:1.06)、職業的な日光に曝露される時間(同:1.59)、余暇で日光に曝露される時間(同:1.04)、抗うつ薬/抗不安薬を服用(同:4.96)、月経不順(同:3.83)、妊娠歴(同:3.59)、経口避妊薬服用年数(同:1.23)、不安症スコア(同:1.08)。・肝斑の家族歴は、患者群では61%があると報告した一方、対照群では13%であった(OR:10.4)。

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10年ぶりの改訂 「ステロイド性骨粗鬆症の管理と治療ガイドライン」のポイントは?

 2014年4月17日(木)、東京都千代田区で、日本骨代謝学会により10年ぶりの改訂となる「ステロイド性骨粗鬆症の管理と治療ガイドライン」に関するプレスセミナーが開催された。 はじめに、日本骨代謝学会の理事長である田中 良哉氏(産業医科大学医学部第1内科学講座)が、2004年度版の課題として、骨密度測定とレントゲンが必要であったため、その遵守率が20%程度にとどまっていたことを挙げた。そのうえで、今回の改訂について、骨密度測定やレントゲンを行わない場合でも、ある程度の骨折リスクを評価できるようになった点が大きな特徴である、とした。『ステロイド性骨粗鬆症について、なぜ管理が必要か』 次に、近畿大学医学部奈良病院 整形外科・リウマチ科の宗圓 聰氏が講演した。冒頭で、宗圓氏により、ステロイド性骨粗鬆症は続発性骨粗鬆症のなかでも頻度が高く、骨折リスクがきわめて高い疾患であるとことが述べられた。 骨は常に「吸収」と「形成」が繰り返されている。閉経後骨粗鬆症においては、骨吸収と骨形成が同時に促進する高代謝回転という状態にあるが、ステロイド性骨粗鬆症では、骨を形成する速さよりも骨が吸収される速さが上回っている状態であるため、原発性骨粗鬆症よりも悪影響が大きいという。 ステロイド性骨粗鬆症は、(1)若年、(2)骨密度が高い、(3)既存の骨折がない、(4)男性のようなケースであっても骨折リスクが高まる点に注意が必要である。 ステロイドによる骨折リスクはその投与量に依存的に増加する。プレドニゾロン換算で1日7.5mg以上投与すると、椎体骨折率は5倍を超えるとされているが、1日投与量が2.5mg未満であっても、椎体骨折のリスクは1.55倍になるという1)。このことから、ステロイド投与量に安全域はなく、ステロイドを投与する際には低用量でも骨粗鬆化を念頭に置く必要があるとした。 さらに、ステロイド性骨粗鬆症では、その進行の速さも特徴である。実際、ステロイドの投与初期から骨折リスクが上がり、投与後3~6ヵ月でピークに達すると報告されている2)。投与中止により骨密度は回復するが、骨折リスクは数年間、回復しないことも指摘されている。このようなことから、ステロイドの投与と同時に骨粗鬆症の治療に介入する必要があるといえる。 骨折、とくに大腿骨近位部骨折や椎体骨折は死亡率が高いため、ステロイド投与例においては骨折を起こさないよう、確実に骨折を予防できる手を打つことが何より重要である、と述べた。『2014年版ガイドライン改訂のポイント』 次いで、東海大学医学部 内科学系リウマチ内科学の鈴木 康夫氏により、本ガイドラインの変遷や改訂に至った背景、改訂ポイントなどが公表された。 今回の改訂は、海外ではなく、あくまでわが国のステロイド性骨粗鬆症のコホート解析により独自の骨折危険因子を抽出し、その結果をもとに薬物療法開始の基準判定に初めてスコア法を導入している点が特徴だという。さらに、このスコア法は、種々の基礎疾患、低用量から高用量のステロイド治療、1次予防と2次予防のいずれの場合でも対応できる点がポイントである。 とくに、「既存骨折あり」、「年齢65歳以上」、「ステロイド投与量7.5mg/日以上」、「腰椎骨密度70%未満」である場合、これらは単一でも高い危険因子であるため、どれか1つでも満たされる場合を治療開始の目安とする。低骨密度以外の因子がある場合は、骨密度測定値がなくても治療開始の判断ができる。さらに、複数の危険因子のスコアの合計で評価することにより、単一因子では評価できない複合的なリスクも評価できるようになっている。 薬物療法の推奨は、国内で骨粗鬆症治療薬として承認されている薬剤の中から、骨密度減少と骨折抑制の効果があり、かつ1次予防と2次予防の両方において有効性が確認されている薬剤が優先されている。具体的には、アレンドロネートおよびリセドロネートが推奨度Aで第1選択薬として推奨されており、これらが使用できないときの代替薬として、イバンドロネート、アルファカルシドール、カルシトリオール、遺伝子組み換えテリパラチドが推奨度Bで推奨されている。 セミナーの最後に、田中氏は「ステロイド骨粗鬆症は医師が自らの手で処方したステロイドで骨粗鬆症が起こる可能性がある。だからこそ、処方した医師がしっかりと管理と治療をする必要がある」と述べ、「さまざまな診療科の、より多くの医師にこのガイドラインを活用してほしい」と締めくくった。 なお、本ガイドラインの和文概略版は近日、日本骨代謝学会のホームページで公開される予定である。1) Van Staa TP, et al. J Bone Miner Res. 2000; 15: 993-1000. 2) Cohen D, et al. J Steroid Biochem Mol Biol. 2004; 88: 337-349.

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パーキンソン病患者の骨の状態は?―系統的レビューとメタ解析結果より―

 パーキンソン病患者は健常者と比較して、骨粗鬆症および骨量減少ともにリスクが高く、とくに男性よりも女性でリスクが高いことが、英・West Middlesex病院のKelli M Torsney氏らによって明らかとなった。著者らはまた、パーキンソン病の患者では骨密度(BMD)も低く、骨折リスクが高まっていると示している。Journal of neurology, neurosurgery, and psychiatry誌オンライン版2014年3月11日号掲載の報告。 パーキンソン病と骨粗鬆症は、共に加齢に伴う慢性疾患である。両疾患の関連を示したある研究結果では、骨折リスクが増加していた。この系統的レビューとメタ解析の目的は、パーキンソン病と骨粗鬆症、BMDおよび骨折リスクの関連を評価することである。 文献検索は、複数のインデックス作成データベースおよび関連する検索用語を使用して2012年9月4日に行われた。文献の妥当性をスクリーニングし、選択基準を満たし十分な水準であった研究からデータを抽出した。データは、標準的なメタ解析法を用いて統合した。 主な結果は以下のとおり:・23報の研究を対象に最終分析を行った。パーキンソン病患者は健常者に比べ、骨粗鬆症のリスクが高かった(オッズ比[OR]:2.61、95%信頼区間[CI]:1.69~4.03)。・男性患者は女性患者よりも骨粗鬆症や骨減少症のリスクが低かった(OR:0.45、95%CI:0.29~0.68)。 ・パーキンソン病患者は健常対照と比較して、股関節、腰椎および大腿骨頸部のBMDレベルが低かった。大腿骨頸部 差の平均値:-0.08、95%CI:-0.13~-0.02腰椎    差の平均値:-0.09、95%CI:-0.15~-0.03股関節   差の平均値:-0.05、95%CI:-0.07~-0.03・パーキンソン病患者は、骨折のリスクも高かった(OR:2.28、95%CI:1.83~2.83)。

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リンパ脈管筋腫症〔LAM : lymphangioleiomyomatosis〕

1 疾患概要■ 概念・定義リンパ脈管筋腫症(lymphangioleiomyomatosis: LAM)は、ほぼ女性に限って発症する性差の著しい疾患である。主として妊娠可能年齢の女性に発症するまれな疾患で、腫瘍抑制遺伝子(TSC遺伝子)の異常により腫瘍化した平滑筋様細胞(LAM細胞)が肺や体軸中心リンパ系(骨盤腔、後腹膜腔および縦隔にわたる)で増殖し、慢性に進行する腫瘍性疾患である。肺では、多発性の嚢胞形成を認める。自然気胸を反復することが多く、女性自然気胸の重要な基礎疾患である。肺病変が進行すると拡散障害と閉塞性換気障害が出現し、労作性の息切れ、血痰、咳嗽などを認める。肺病変の進行の速さは症例ごとに多様であり、比較的急速に進行して呼吸不全に至る症例もあれば、年余にわたり肺機能が保たれる症例もある。肺外では、体軸リンパ流路に沿ってリンパ脈管筋腫(lymphangioleiomyoma)を認めることがある。リンパ脈管筋腫はCT画像では、嚢腫様あるいはリンパ節腫大様に描出され、LAM細胞の増殖により拡張したリンパ管あるいはリンパ節と考えられている。腎臓には、血管筋脂肪腫(angiomyolipoma: AML)を合併する場合もある。常染色体優性遺伝性疾患である結節性硬化症(TSC)を背景として発症する例(TSC-LAM)、TSCとは関連なく発症する例(孤発性LAM)の2つのタイプがある。■ 病名や疾患概念の変遷本疾患は1940年前後から記載され始め、Frack ら(1968年)により初めてpulmonary lymphangiomyomatosis という言葉が用いられ、Corrin ら(1975年)により 28 例の臨床病理学的特徴がまとめられた。Pulmonary lymphangioleiomyomatosis という言葉は、Carrington ら(1977年)が、本疾患の生理学的、病理学的、画像の各所見の関連性を詳細に検討した際に使用された。現在では、主にlymphangioleiomyomatosisが用いられている。日本においては、山中、斎木(1970年)が 2 例の剖検例と 1 例の開胸肺生検例を検討し、びまん性過誤腫性肺脈管筋腫症として報告したのが最初である。一方、症例の集積に伴い、LAMは肺のみに限局した疾患ではなく全身性疾患として認識されるようになり、「肺」を病名から除いて「リンパ脈管筋腫症(lymphangioleiomyomatosis)」という病名で呼ばれるようになった。すなわち、肺外病変としての後腹膜腔や骨盤腔のリンパ脈管筋腫が主体で、肺病変が軽微である症例の存在も認識されるようになったためである。■ 疫学まれな疾患であるため、有病率や罹患率などの正確な疫学データは得られていない。疫学調査の結果から、日本でのLAMの有病率は100万人当たり約1.9~4.5人と推測されている。米国などからの報告でも人口100万人当たり2~5人と推測されている。■ 病因腫瘍抑制遺伝子である TSC 遺伝子の変異が LAM 細胞に検出される。LAMは、Knudson の 2-hit 説が当てはまる腫瘍抑制遺伝子症候群のひとつである。TSC 遺伝子には TSC1 遺伝子と TSC2 遺伝子の2種類があり、TSCはどちらか一方の遺伝子の胚細胞遺伝子変異による遺伝性疾患である。TSC-LAM 症例はTSC1あるいはTSC2遺伝子のどちらの異常でも発生しうるが、sporadic LAM 症例ではTSC2遺伝子異常により発生する。TSC 遺伝子異常により形質転換した LAM 細胞は、病理形態学的にはがんといえる程の悪性度は示さないが、転移してリンパ節や肺にびまん性、不連続性の病変を形成する。 LAM病変に認められる豊富なリンパ管や乳び液中に検出されるLAM細胞クラスターは、LAMの病態進展におけるリンパ行性転移の重要性を示唆する所見である。片肺移植後のドナー肺に LAM が再発した症例では、レシピエントに残存する体内病変からドナー肺に LAM 細胞が転移して、再発したことを示唆する遺伝学的解析結果が報告されている。最近の研究では、必ずしもすべてのLAM細胞がTSC遺伝子変異を有するわけではなく、変異遺伝子のallelic frequencyは約20%前後と報告されている。TSC1、TSC2遺伝子は、それぞれハマルチン(約130kDa)、ツベリン(約180kDa)というタンパク質をコードし、両者は細胞質内で複合体を形成して機能する。ハマルチン/ツベリン複合体は、細胞内シグナル伝達に関与するさまざまなタンパク質からリン酸化を受けることにより、mTORの活性化を制御している。LAMでは、ハマルチン/ツベリン複合体が機能を失い、恒常的にmTORが活性化された状態となるため、LAM細胞の増殖を来す。そのため、mTOR阻害薬のシロリムス(国内未承認)は、LAM細胞増殖を抑制し病状の進行抑制に寄与すると考えられる。■ 症状以下のカッコ内の数値は、呼吸不全に関する調査研究班による平成18年度の全国調査集計において報告された、LAM診断時の頻度である。1)胸郭内病変に由来する症状労作性の息切れ(48%)や自然気胸(51%)で発症する例が最も多い。そのほかに、血痰(8%)、咳嗽(27%)、喀痰(15%)などがある。肺内でのLAM細胞の増殖により生じる肺実質破壊(嚢胞性変化)、気道炎症、などによると考えられる。労作性の息切れは、病態の進行とともに頻度が高くなる。進行例では、血痰、咳嗽・喀痰などの頻度も増加する。気胸は、診断後の経過中を含め患者の約7割に合併するとされる。LAMは、女性気胸の重要な原因疾患である。2)胸郭外病変に由来する症状腹痛・腹部違和感、腹部膨満感、背部痛、血尿など胸郭外病変に由来する症状(16%)がある。腎AML(41%)、後腹膜腔や骨盤腔のリンパ脈管筋腫(26%)、腹水、などによると考えられる。3)リンパ系機能障害による症状乳び胸水(8%)、乳び腹水(8%)、乳び喀痰、乳び尿、膣や腸管からの乳び漏などがある。約3%の症例では、診断時あるいは経過中に下肢のリンパ浮腫を認める。4)無症状人間ドックなどの健診を契機に、偶然発見される場合もある。自覚症状はないが、腹部超音波検査や婦人科健診において腎腫瘍、後腹膜腫瘤、腹水などを指摘され、これを契機としてLAMと診断される例がある。■ 経過と予後LAMは、慢性にゆっくりと進行する腫瘍性疾患であるが、進行の早さには個人差が大きく、その予後は多様である(図1)。わが国での全国調査によると、初発症状や所見の出現時からの予測生存率は、5年後が91%、10年後が76%、15年後が68%であった。予後は診断の契機となった初発症状・所見によって異なり、息切れを契機に診断された症例は、気胸を契機に診断された症例より診断時の呼吸機能が有意に悪く、また、予後が不良であった。画像を拡大する図1では、Aは重症例、Bは中等症例、Cは軽症例、Dは最軽症例と呼ぶ。Aは息切れ発症のLAMを想起すればよい。AにGnRH療法を行っても、A’では肺機能や生存期間の改善に寄与していない。A’’では、肺機能の低下スピードはやや軽減し、そのため生存期間は伸びている。C、Dは気胸発症例、あるいは偶然の機会に胸部CTで多発性肺嚢胞を指摘されたような症例を想起すればよい。これらの症例では、特別な治療を考える必要はないであろう。Bは中間の症例である。B’は、GnRH療法により肺機能の低下速度が緩徐となり、生命予後は延長することが明らかである。この図から読み取れる点は、治療的介入が肺機能の低下速度を緩徐にできるならば、ゆっくりと進行する慢性疾患では比較的長期間の生命予後の延長をもたらすことができる点である。後述するように、シロリムスによる分子標的療法は、肺機能の低下速度を軽減するのではなく、安定化ないしは治療前よりやや改善することが示されており、LAMの自然史を大きく変える治療として期待されるゆえんである。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)診断にあたっては、特徴的な臨床像と胸部CT所見からLAMを疑い、図2のような手順に沿って診断する。画像を拡大する■ 画像診断診断には高分解能CT(HRCT)が推奨され、境界明瞭な数 mm~1 cm大の薄壁を有する嚢胞が、両肺野にびまん性に、比較的均等に散在しているのが特徴である(図3A)。通常の撮影条件では、肺気腫と鑑別が難しい場合がある(図3B)。診断にあたっては、HRCTで特徴的な所見を確認し、かつ慢性閉塞性肺疾患(COPD)やBirt-Hogg-Dubè(BHD)症候群など他の嚢胞性肺疾患を除外することが重要である。また、腎血管筋脂肪腫、後腹膜腔や骨盤腔のリンパ節腫脹、TSCに合致する骨硬化病変、腹水などの有無について、腹部~骨盤部のCT検査やMRI検査で確認することも診断にあたって有用である(図3C、3D)。可能であれば、経気管支肺生検あるいは胸腔鏡下肺生検により病理診断を得ることが推奨される。画像を拡大する■ 病理診断LAMの病理組織学的特徴は、LAM細胞の増殖とリンパ管新生である(図4)。画像を拡大するLAM細胞はやや未熟で肥大した紡錘形の平滑筋細胞様の形態を示し、免疫染色ではα-smooth muscle actinやHMB45陽性である。女性ホルモンレセプター(エストロゲンレセプターやプロゲステロンレセプター)を発現する。LAM細胞は、集簇して結節性に増殖し、肺では嚢胞壁、胸膜、細気管支・血管周囲、体軸リンパ流路などで不連続性に増殖している。ヘモジデリンを貪食したマクロファージが高頻度に認められ、LAMの肺実質では不顕性に肺胞出血を繰り返していると想像される。乳び胸水や腹水合併例では胸腹水中のLAM細胞クラスター(図5)を証明することで診断可能である。画像を拡大する■ 肺機能検査肺機能検査では、拡散能障害と閉塞性換気障害を認め、経年的に低下する。換気障害よりも拡散障害を早期から認める点が特徴である。MILES試験の偽薬群では、FEV1は-144 ± 24 mL/年の低下率であった。一方、閉経前と閉経後の症例では、平均-204 vs.-36 mL/年(p<0.003)と有意に閉経後症例の低下率が低かった。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)LAMに対する根治的治療法、すなわちLAM細胞を完全に排除し、破壊された肺を元に戻す治療法はない。MILES試験によりLAMの分子標的薬として確立されたmTOR阻害薬のシロリムスは、肺機能を安定化、乳び胸水・腹水・リンパ浮腫などのLAMに合併するリンパ系機能障害の病態の改善、合併する腎血管筋脂肪腫の縮小などの効果が報告されている。そして、その作用はLAM細胞に対して、殺細胞的ではなく静細胞的であると考えられている。すなわち、シロリムス内服を中止すると効果は消失し、元の病態が再来する。したがって、長期に内服することが必要であるが、免疫抑制薬でもあるシロリムスをLAM患者が長期内服した際の安全性についてのエビデンスはない。このような背景から、現時点では、LAMという疾患の自然史(図1)に照らして目の前の患者の状態を評価し、治療介入の利益と損益を熟考して治療方針を立てるべきである。以下に、LAMとその合併病態に対する治療を概説する。■ LAMに対する薬物療法1)シロリムス(国内未承認)肺機能が進行性に低下する場合(目安としてはFEV1<70 %pred)や内科的に管理困難な乳び胸水や腹水の合併例では、シロリムスの投与を考慮する。治験では血中トラフ値5 ~ 15 ng/mLを維持するように投与量が調節され、おおよそ2ないし3 mg/日(分1、朝食後)が必要となった。しかし、シロリムス1 mg/日の低用量(血中トラフ値<5 ng/mL)でも、十分な治療効果が得られたとの報告がある。シロリムスはCYP3A4で代謝されるため、肝障害やCYP3A4活性に影響を与える薬剤との相互作用に注意する。2)GnRH療法(偽閉経療法)女性ホルモンはLAM細胞の増殖に関与するため、gonadotropin-releasing hormone(GnRH)誘導体を投与して偽閉経状態にすることが、従来は経験的に行われてきた。リュープロレリン(商品名: リュープリン)1.88 mg 皮下注/4週ごと(保険適用外)、ゴセレリン(同: ゾラデックス)1.8 mg 皮下注/4週ごと(保険適用外)、ブセレリン(同: スプレキュア)1.8 mg皮下注/4週ごと(保険適用外)などの皮下注薬剤は月1回の投与で利便性が高く、かつ、女性ホルモンを確実に低下させ偽閉経状態をもたらすことができ、点鼻製剤より有用である。シロリムスが何らかの理由により投与できない場合、あるいは乳び漏の管理に難渋するなどの場合にはGnRH療法を考慮する。投与に際しては、更年期症状や骨粗鬆症が生じうるため、これらの治療関連病態を念頭におく必要がある。■ LAMの病態あるいは併存疾患の治療1)気管支拡張療法閉塞性換気障害があり労作性に息切れを認める症例では、COPDと同様に、抗コリン薬チオトロピウム(同: スピリーバ レスピマット)あるいはβ2刺激薬インダカテロール(同: オンブレス)などの長時間作用性気管支拡張薬の吸入を処方する(保険適用外)。2)気胸気胸を繰り返すことが多いため、気胸病態に対する治療とともに再発防止策を積極的に検討する。酸化セルロースメッシュ(同: サージセル)とフィブリン糊による胸腔鏡下全肺胸膜被覆術(カバリング術)は癒着を起こさず、再発防止が可能である。技術的に実施困難な施設では、気胸手術時の胸膜焼灼・剥離術、内科的癒着術[自己血、OK432(同: ピシバニール)ほか]などが行われる。3)乳び漏(乳び胸水や腹水など)に代表されるリンパ系機能障害乳び胸水、乳び腹水、乳び心嚢液、乳び喀痰、乳び尿、膣や腸管からの乳び漏、後腹膜腔や骨盤腔のリンパ脈管筋腫、下肢のリンパ浮腫、肺内のリンパ浮腫像などはLAMにみられる特徴的なリンパ系の機能障害である。LAM細胞の増殖に伴うリンパ管の閉塞・破綻が原因と考えられているが、LAM細胞増殖に伴うリンパ管新生がその背景要因である。脂肪制限食は、腸管からの脂肪吸収に伴うリンパ液の産生を減少させ、結果として乳び漏出を減少させる。下半身の活動量が増加するとリンパ流も増加するため、活動量を制限して安静にすることはリンパ漏を減少させる。リンパ浮腫は後腹膜腔や骨盤腔のリンパ脈管筋腫を合併する症例にみられ、複合的理学療法(弾性ストッキング、リンパマッサージなど)が治療として有用である。これらの食事指導、生活指導、理学療法では乳び漏やリンパ浮腫の管理が困難な場合には、シロリムス投与を考慮する。何らかの理由でシロリムスを投与できない場合には、GnRH療法、胸膜癒着術(乳び胸水例に対して)、Denver® shunt(乳び腹水例に対して)などを適宜、考慮する。乳び漏を穿刺・排液し続けることは、栄養障害、リンパ球喪失に伴う二次性免疫不全状態を招来するので慎むべきである。4)腎血管筋脂肪腫AMLからの出血リスクを予測する因子は、腫瘤径よりもAMLに合併する動脈瘤の大きさのほうが感度・特異度ともに優れている。動脈瘤径≧5 mmでは出血のリスクが高まるため動脈瘤に対する塞栓術を考慮する。腫瘍径≧4 cmもひとつの目安であるが、4 cm以上であっても動脈瘤の目立たない例もあり、このような症例では腫瘍径≧4 cmであっても経過観察可能である。一般に、巨大なAMLを有していても腎機能は良好に保たれるため、安易な腎臓摘出術は慎むべきである。5)慢性呼吸不全在宅酸素療法、COPDに準じた呼吸リハビリテーションを行う。常時酸素吸入が必要な呼吸不全例、あるいはFEV1<30 %predでは肺移植を検討する。6)妊娠・出産妊娠・出産に伴う生理的負荷に耐えうる心肺機能を有することが前提となるが、妊娠・出産は必ずしも禁忌ではない。しかし、妊娠中の症状の増悪や病態の進行、気胸や乳び胸水を合併する可能性などのリスクを説明し、患者ごとの対応が必要である。妊娠・出産に際しては、気流制限が重症であるほどリスクが高い。4 今後の展望シロリムスは、二重盲検比較試験によりLAMに対して有効性が確認された薬剤であり、今後のLAMの自然史を大きく変える治療法として期待される。一方、長期投与による安全性は未確認であり、治療中は効果と有害事象のバランスを慎重に観察する必要がある。シロリムスは、LAM細胞に対して殺細胞的ではないため、シロリムスに他の薬剤を併用し、治療効果を高める基礎研究や臨床研究が考案されている。5 主たる診療科主たる診療科は呼吸器内科となる。また、連携すべき診療科は次のとおりである。産婦人科(妊娠・出産、合併あるいは併存する女性生殖器疾患)放射線科あるいは泌尿器科(腎血管筋脂肪腫の塞栓術)脳神経内科・皮膚科(結節性硬化症に関連したLAM)※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター LAM(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)呼吸不全に関する調査研究班(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)気胸・肺のう胞スタディグループ(医療従事者向けのまとまった情報)The LAM foundation(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった英文情報)患者会情報J-LAMの会(リンパ脈管筋腫症患者と支援者の会)※おもに若年女性に発症するため、仕事、結婚、妊娠・出産、育児などの諸問題に対して、患者のみならず家族を含めた心のケアやきめ細かな対応が望まれる。LAM患者と支援者によるJ-LAMの会は、医療者との連携、疾患についての情報提供や患者同士の交流促進の場として利用されている。1)Hayashida M, et al. Respirology. 2007; 12: 523-530.2)林田美江ほか. 日呼吸会誌. 2008; 46: 428-431.3)Johnson SR, et al. Eur Respir J. 2010; 35: 14-26.4)林田美江ほか. 日呼吸会誌. 2011; 49: 67-74.5)McCormack FX, et al. N Engl J Med. 2011; 364: 1595-1606.

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Stop at one! 骨折連鎖を止める骨粗鬆症治療の最前線

 2月6日(木)、「骨で人生は変わる!忍び寄る“骨粗鬆症”の恐怖とその治療最前線」と題し、日本イーライリリー株式会社主催のプレスセミナーが開催された。 はじめに、同社の臨床開発医師 シニアメディカルアドバイザーの宗和 秀明氏が、骨粗鬆症治療薬テリパラチド(商品名:フォルテオ)の製造販売後調査の中間報告について説明した。 レポートの概要は、骨折の危険性が高い骨粗鬆症患者1,671例(うち女性1,552例)について、1~24ヵ月時における安全性、有効性を評価したものである。対象患者の平均年齢は75.3歳、骨折歴が1,046例(62.6%)にあり、テリパラチド処方前の治療(上位3つ)はアレンドロネート(27.6%)、アルファカルシドール(17.2%)、リセドロネート(14.5%)というものであった。主な副作用(上位3つ)は悪心(0.78%)、めまい(0.48%)、頭痛(0.48%)の順で、12ヵ月後の治療継続率は71.9%であった。 効果として、すべての骨代謝マーカーがベースラインより有意に上昇したものの、骨吸収マーカーは骨形成マーカーほどの上昇はなく、骨密度の変化では、腰椎に有意な増加が認められる結果となった。また、投与12ヵ月後の椎体骨折の発生率は1.21%、非椎体骨折発生率は3.18%であり、背部痛では減少傾向を認めたと報告した。 続いて「骨で人生は変わる!忍び寄る“骨粗鬆症”の恐怖とその治療最前線」と題して、梅原 慶太氏(浜松南病院整形外科・リハビリテーション科 副部長)による、骨粗鬆症の概要(疫学、病態、症状)と治療薬についてのレクチャーが行われた。 骨粗鬆症は、周知のように患者のQOLを著しく阻害する疾患であり、とくに高齢女性の脊椎の圧迫骨折は、自覚症状なく突然起こり、これが連鎖骨折を引き起こすことで、予後を悪化させる怖い病気である。 わが国では、骨粗鬆症患者は1,300万人と推定され、うち治療を受けている患者は200万人程度といわれる。多くの患者が治療を受けず、骨折してはじめて骨粗鬆症に気づき治療を開始するのが現状である。そのため日本骨粗鬆症学会は「骨折連鎖を断つ!」、国際骨粗鬆症財団は「Stop at One!」を合言葉に、骨粗鬆症の啓発に努めている。 骨粗鬆症は、患者の身長が3~4cm低下した、問診で「戸棚の上が遠くなった」などの患者の気づきなどからおおよその診断がつく。また、60代に起こる手首の骨折は、骨粗鬆症のサインであり、このような患者にはとくに注意が必要であることが述べられた。 現在、骨粗鬆症の治療薬は、大きく骨吸収抑制薬と骨形成促進薬とに分けられる。前者は、破骨細胞を抑えることで骨強度・骨質の低下を防ぐもので、ビスホスホネート薬に代表され、内服・注射と種類も多彩である。後者は、骨芽細胞により骨形成を促進させることで骨強度・骨質の増加を促すもので、現在は注射薬のみである。 そして、今回は、骨形成促進薬のテリパラチドの使用と効果について詳しく報告が行われた。テリパラチドは、毎日自己注射を行うものと、週1回医療機関で注射を行うものがあるが、ここでは自己注射製剤フォルテオ®の効果が紹介され、骨密度の増加、微細構造の改善、骨石灰化分布の適正化などの効果や、腰椎骨密度で13.4%の増加、椎体骨折リスクで84%の低下が報告された。また、実際に24ヵ月使用した患者らの感想も動画で披露され、骨折連鎖が止まった症例などが報告された。 最後に梅原氏は、骨粗鬆症は「患者さんの骨を折るだけでなく、精神的にも疲弊させ心を折る疾患であること」、「高齢者であれば骨折による介護の負担も発生すること」を述べたうえで、「そうならないために、早期に骨粗鬆症予防と治療を行うことで健康寿命を延ばすことが、健康長寿社会の今、大事なことである」と結び、レクチャーを終えた。

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うつ病や不安症の患者は慢性疾患リスクが高い

 これまでの先行研究において、抑うつや不安が慢性疾患発症と関連することが報告されていた。米国・ウェストバージニア大学のRituparna Bhattacharya氏らは、うつ病や不安症が、関節炎、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、糖尿病、心疾患、高血圧および骨粗鬆症などの慢性疾患に及ぼす影響を検討した。その結果、うつ病、不安症患者は、これらの症状がない人に比べて、慢性疾患のリスクが高いことが明らかになった。今回の結果を踏まえて、著者は「うつ病や不安症の存在は、人口動態および生活習慣リスク調整後も慢性疾患の独立したリスクであることが判明した」と述べている。BMC Psychiatry誌オンライン版2014年1月16日号の掲載報告。 研究グループは、うつ病や不安症に関連する慢性疾患の過剰リスクについて後ろ向き横断研究を行った。2007~2009年のMedical Expenditure Panel Surveyに登録された22~64歳の成人患者を対象とした。被験者を、うつ病または不安症に関する自己報告に基づき、1)うつ病単独、2)不安症単独、3)うつ病と不安症を併発、4)うつ病も不安症もなし、の4群に分類し、関節炎、喘息、COPD、糖尿病、心疾患、高血圧および骨粗鬆症の有無を従属変数として、うつ病や不安症に関連する慢性疾患の過剰リスクを算出した。検討に際してComplementary log-log 回帰モデルを用い、人口動態(性別、年齢、人種/民族)および生活習慣(肥満、身体活動欠如、喫煙)リスク因子で補正した多変量フレームワークを用いた。多重比較にはBonferroniの補正を行い、p≦0.007を統計学的有意差ありとした。 主な結果は以下のとおり。・全症例のうち、うつ病単独は7%、不安症単独は5.2%、うつ病と不安症の併発は2.5%であった。・うつ病も不安症もない人と比べて、うつ病と不安症を併発している患者、うつ病単独の患者、不安症単独の患者のいずれにおいても、すべての慢性疾患のリスクが高いことが多変量解析により示された。・うつ病と不安症を併発している患者の調整済みリスク比(ARR)は、骨粗鬆症に対する2.47(95%CI:1.47~4.15、p=0.0007)から、糖尿病に対する1.64(同:1.33~2.04、p<0.0001)にわたった。・また、うつ病単独の患者も、骨粗鬆症を除くすべての慢性疾患と有意な相関を示した。・不安症単独の患者では、関節炎、COPD、心疾患および高血圧のリスクが高かった。関連医療ニュース 食生活の改善は本当にうつ病予防につながるか 少し歩くだけでもうつ病は予防できる ヨガはうつ病補助治療の選択肢になりうるか

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低ゴナドトロピン性男子性腺機能低下症〔MHH : male hypogonadotropic hypogonadism〕

1 疾患概要■ 概念・定義低ゴナドトロピン性男子性腺機能低下症(male hypogonadotropic hypogonadism:MHH)は、視床下部ないしは下垂体の障害によりFSH(Follicle Stimulating Hormone:卵胞刺激ホルモン)およびLH(Lutenizing Hormone:黄体化ホルモン)の分泌低下を来す、まれな疾患である。■ 疫学発症頻度は、10万人に1人と報告されている。■ 病因間脳-下垂体-精巣系は、図1に示すように血中テストステロン濃度によるネガティブフィードバックによって調節されているが、最近は国立成育医療研究センター研究所分子内分泌研究部の緒方 勤氏(現 浜松医科大学 小児科 教授)を中心とした研究から、間脳(median basal hypothalamus:視床下部の正中隆起)と下垂体の間の調節機構に関わる因子が、動物実験とMHHの家系調査や遺伝子検索によって次第に明らかになってきている(図2)。画像を拡大する画像を拡大する下垂体からのLH分泌が低下した病態として、KISS-1 neuronからのKisspeptine分泌障害、KisspeptineとそのリガンドであるGPR54の結合障害、Gn-RH neuronから軸索を通ってのGnRH分泌の分泌障害(TAC3/TACR3遺伝子が関与)、下垂体でのGnRHR(GnRH受容体)の異常によるものなどの存在が明らかにされ、ジェネティック・エピジェネティック解析の進展につれて、病因別(遺伝子異常別)に病態の整理が進むものと期待されている(図3)。画像を拡大する■ 症状MHH患者では、精巣機能低下により、第二次性徴発来の欠如や骨粗鬆症や男子不妊症を呈する。また、MHHの亜型と考えられているadult-onset MHHでは、脱毛や勃起障害やうつ症状などのLate-Onset Hypogonadism syndrome(LOH症候群: 加齢男性性腺機能低下症候群)の症状を呈することもある。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)小児期に汎下垂体機能低下症として発症した場合には、すでに下垂体ホルモンの補充療法がなされており思春期初来・第二次性徴の誘導から精子形成の誘導を行うことになる。また、事故による下垂体外傷や下垂体腫瘍治療としての下垂体摘除後(外科治療・放射線治療)であれば、治療歴から診断は容易である。LHならびにFSHのみが低下したMHHは、精巣機能低下に起因するものが全面に出てくる。臨床症状としては、第二次性徴の遅れが最も頻度が高い。adult-onset MHHの場合は、性欲低下、勃起障害、意欲の低下、健康感の喪失、うつ症状などのLOH症候群と似た症状や、体毛の脱落を訴える場合もある。身体所見は、血中テストステロンの低下の程度によって影響され、以下のような所見を呈することが多い。(1)外性器発育不全:マイクロペニス、陰嚢発育不全、精巣容積の低下(2)体毛や体脂肪分布:まばらな脇毛や女性形の陰毛分布、体脂肪分布の女性化、小児体型(3)骨粗鬆症:頻回の骨折、骨塩量減少(4)汎下垂体低下症に合併した小児例では、低身長臨床検査所見では、(1)血中テストステロン(T)値の低下、LH単独ないしはFSHと共に低下、貧血。(2)24時間血中LH値測定でLHの律動分泌の低下(adult-onset MHHの診断に有効)(3)hCG負荷試験で正常反応、Gn-RH負荷試験で正常~過剰反応3 治療 (治験中・研究中のものも含む)治療法はテストステロン補充療法とゴナドトロピン療法に大別される。前者は第二次性徴の発現・性欲亢進・骨粗鬆症予防には有用であるが、外因性テストステロンにより精子形成が抑制されるため、挙児希望のあるMHH患者は適応がない。挙児希望のMHH患者においては、精子形成を誘発するためにゴナドトロピン療法が行われる。視床下部性MHHの場合はGnRH投与が有効であるが、GnRH分泌のパルスパターンを再現するために携帯注入ポンプを使用しなければならないため、患者にとって治療のコンプライアンスが悪く実用的でない。このため、わが国におけるMHH患者治療の第一選択は、LHの代用としてhCGと遺伝子組換え型ヒトFSH製剤(r-hFSH製剤:ホリトロピン アルファ)が用いられている。MHHは特定疾患に分類され、申請すれば治療費は全額公費負担となる。さらに、治療コンプライアンスの向上のために在宅自己注射が認められている。適応薬は次の2薬に限られていることに注意が必要である。(1)hCG製剤(商品名:ゴナトロピン5000)(2)r-hFSH製剤(同:ゴナールエフ皮下注ペン)さらに、保険上注意が必要なのは、ゴナトロピン®に関してはHMMの在宅自己注射にのみ皮下注射が認められている点である(MHH以外は、医療機関での筋注のみの適用)。これまでは、経験的に以下のような治療法が行われてきた。まず、ゴナトロピン®3,000~5,000単位を2~3回/週先行投与して血中T値が正常化するのを確認する。同時に精液検査を行い、精子形成誘導の成否を判定する。血中T値が正常化しても精液検査所見が正常化しない場合には、ゴナールエフ®皮下注ペン75~150単位を2~3回/週追加使用するプロトコールが行われてきた。しかし、現在MHH研究会を中心に治療の全国集計が行われており、hCG製剤とr-hFSH製剤の同時投与開始のほうが精子形成誘導に至る時間が短いことが明らかにされつつある。詳細な調査結果の公表後に、標準治療法が変更になる可能性がある。挙児希望の場合には、精子形成が誘導され児を得た後は、テストステロン補充療法に移る。テストステロンエナント(同:エナルモンデポー)125~250mgを2~4週ごとに筋注する。この療法はhCG + r-hFSH療法に比べて治療回数が少なくて済むため、患者の利便性は高い。しかし、テストステロン補充療法は筋注であり、在宅自己注射は認められていない。このため、患者は医療機関を定期的に受診する必要がある。精子形成は急速に抑制され、6ヵ月で無精子となる。エナルモンデポー®を筋注した場合、血中T値は急速に上昇するため、全身のほてりや、にきびの発生、骨痛などの症状が現れることがある。また、血中T値の低下につれて、筋力低下、抑うつ気分などの症状が現れる。これらの症状に応じて、テストステロン補充の間隔を調節する必要がある。すぐに挙児を希望しない場合でも、hCG + r-hFSH療法により精子形成が確認されれば、これを将来のバックアップとして凍結保存することを推奨している。この後に前述のようにテストステロン補充を行い、挙児を希望したときにhCG + r-hFSH療法に変更している。筆者らの経験では、以前にhCG + r-hFSH療法で精子形成の誘導が確認されたMHH症例では、テストステロン補充療法でいったん無精子症になっても、全例で精子形成の再誘導が確認されている。汎下垂体機能低下症の小児例に対しては、成長(身長の伸び)と第二次性徴の誘導のバランスが必要であり、これまでのところ、定まった治療方法は存在しないのが現状である。これに関しても、現在MHH研究会が全国集計を行い、治療法の標準化を図ろうとしている。最終報告まで、数年かかる見込みである。4 今後の展望分子遺伝学の進歩に伴って、MHHの病因の解明が進んでいる(図3)。しかしながら治療法に関しては、原因に根ざしたものは不可能であり、前述の方法しかない。5 主たる診療科汎下垂体機能低下症によるMHHは、小児科で治療が開始され、成人になってからは内分泌内科および泌尿器科(主に精子誘導)が連携して治療を行うことになる。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報hCG製剤の添付文書(あすか製薬のホームページ)(医療従事者向けの情報)MHHに関する情報ページ(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)

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シリコンによる補強が椎体圧迫骨折の二次骨折リスクを軽減

 骨粗鬆症性椎体圧迫骨折に対し、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)というアクリル樹脂を用いた椎骨補強による治療が広く行われているが、合併症として処置部に隣接する椎骨の二次骨折が知られている。この二次骨折は、椎骨と比較してPMMAの剛性が高いことによると考えられることから、骨に近い生体力学的特性を有しているシリコンがPMMAの代替として期待されている。ドイツ・ミュンスター大学病院のTobias L. Schulte氏らは、初めてシリコンとPMMAを用いた椎体補強時の剛性を比較し、シリコンにより二次骨折のリスクが軽減される可能性があることを示唆した。シリコンによる椎骨補強は骨粗鬆症性椎体圧迫骨折に対する治療の選択肢となりうるとまとめている。European Spine Journal誌2013年12月号(オンライン版2013年7月24日号)の掲載報告。 研究グループは、本検討でPMMAあるいはシリコンで補強した椎骨の生体力学的な違い、とくに剛性を調べることを目的とした。 検討には、骨粗鬆症であるが圧迫骨折がないことを確認した40体のヒトの脊椎(T10-L5)を用い、標準的な方法で楔状骨折を作成し、4群に分けてPMMAまたはシリコンを各々2つの充填率(16%および35%)で椎体に注入した。 次いで、無処置椎体、充填椎体および周期的負荷を与えた充填椎体について、低負荷時(100~500 N)の剛性を測定した。また、充填椎体に破断強度の20~65パーセントの高負荷(5,000サイクル=0.5Hz)を与えた場合の剛性を測定した。 主な結果は以下のとおり。・低負荷時剛性は、無処置椎体に比べ周期的負荷処置後にPMMA充填椎体で増加(充填率35%群で115%、16%群で110%)、シリコン充填椎体で低下した(それぞれ87%および82%)。・高負荷時剛性は、無処置椎体に比べPMMA充填率35%群で361%、16%群で304%、シリコン充填率35%群で243%、16%群で222%であった。~進化するnon cancer pain治療を考える~ 「慢性疼痛診療プラクティス」・腰痛診療の変化を考える~腰痛診療ガイドライン発行一年を経て~・知っておいて損はない運動器慢性痛の知識・身体の痛みは心の痛みで増幅される。知っておいて損はない痛みの知識

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新規抗スクレロスチン抗体、閉経後の骨密度を増大/NEJM

 閉経後に骨密度(BMD)が低下した女性に対する抗スクレロスチン抗体romosozumab投与は、腰椎BMDを12ヵ月で5~11%改善することが示された。米国・オレゴン骨粗鬆症センターのMichael R. McClung氏らが、romosozumabの有効性について検討した第2相臨床試験の結果、報告した。NEJM誌オンライン版2014年1月1日号で発表した。主要エンドポイントは腰椎BMDの変化 McClung氏らは、閉経後の55~85歳女性でBMDの低下が認められる419例を対象に、 12ヵ月間にわたるromosozumabの有効性と安全性を評価する第2相多施設共同国際無作為化プラセボ対照並行群(8群)試験を行った。被験者は、腰椎、全股関節あるいは大腿骨頚部のTスコアが-2.0以下、あるいは3部位いずれも-3.5以上だった。 研究グループは被験者を無作為に8群に分けて、70mg、140mg、210mgのromosozumab皮下投与を毎月、140mg、210mgを3ヵ月ごと、プラセボ、アレンドロン酸経口投与(70mg/週)、テリパラチド皮下投与(20μg/日)をそれぞれ投与した。 主要エンドポイントは、12ヵ月後の腰椎BMDのベースライン時からの変化だった。副次エンドポイントは、その他の部位である全股関節、大腿骨頚部のBMDの変化、骨代謝マーカーの値などだった。romosozumab投与群すべてで腰椎BMDが有意に改善 結果、romosozumab投与群では、すべての投与量群で腰椎BMDの有意な改善が認められた。210mg毎月投与群のベースライン時からの変化率は11.3%、140mg毎月投与群では9.1%、70mg毎月投与群では5.4%であり、3ヵ月ごとの210mg投与群は5.5%、同140mg投与群では5.4%だった。 一方、アレンドロン酸群の同BMDの変化は4.1%、テリパラチド群7.1%、プラセボ群-0.1%だった。 また、romosozumab投与は、全股関節と大腿骨頚部の骨密度を大幅に増加し、骨形成マーカーの一時的増加と、骨吸収マーカーの持続的減少に関与していた。 romosozumab投与群で軽度の注射部位反応が認められたほかは、各群の有害イベントは同等だった。 著者は、「romosozumabは骨密度が低下した閉経後女性において、骨密度と骨形成の増大、および骨吸収減少と関連することが認められた」と結論している。

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ビタミンDの補充はターゲットを絞って行うべきか(コメンテーター:細井 孝之 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(150)より-

ビタミンDは「骨の健康」においてなくてはならないビタミンであるが、近年、筋肉・筋力や認知機能との関連も示唆されており、超高齢社会における注目度は上がっている。一方、ビタミンDの充足率は高くなく、日本人の少なくとも半数以上はビタミンD不足であることが推測されている。 ビタミンDの充足状況は血清中の25水酸化ビタミンD濃度を指標にして評価されるが、この測定は保険適用を受けていない。また、ビタミンD補充の効果も血清25水酸化ビタミンD濃度をもって評価することが可能であるが、さらに臨床的な効果を評価するためには骨密度、骨折発生率、筋肉量、転倒回数、生命予後などが指標になる。 本論文はこのうちの骨密度に関する効果をメタ解析の手法で検討したものである。その結果、一般住民におけるビタミンD補充の骨密度に対する効果は大腿骨近位部についてのみ認められた。とくにこの効果は、ベースラインの血清25水酸化ビタミンD濃度が低い場合に明らかであったことが示された。これらのことから、ビタミンDの補充は一般住民にあまねく補充することには疑問が呈された。 見方を変えれば、ビタミンDの補充が必要な集団を特定したうえで補充することの意義をあらためて確認すべきであると提言した、重要な論文である。

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骨粗鬆症でない一般住民へのビタミンD補充/Lancet

 骨粗鬆症でない一般住民へのビタミンD補充はベネフィットが少ないことが、ニュージーランド・オークランド大学のIan R Reid氏らのシステマティックレビューとメタ解析の結果、示された。著者は「ビタミンD欠乏症に対する特異的なリスク因子のない一般住民は、骨粗鬆症予防目的でビタミンDを常用する必要がないことが示された」と結論している。Lancet誌オンライン版2013年10月10日号掲載の報告より。一般住民に対するビタミンD補充が骨密度に及ぼす影響をメタ解析 レビューは、Web of Science、Embase、Cochrane Databaseをソースに、2012年7月8日までに公表された、ビタミンD(D3またはD2、ビタミンD代謝物は除く)の骨密度への影響について評価した無作為化試験を対象とした。試験は、異なるビタミンD含有量を比較している試験、被験者が骨粗鬆症などの代謝性骨疾患を有していない成人(平均年齢20歳超)を含む試験のみを対象とした。 主要エンドポイントは、ベースライン時からの骨密度の変化(%)。ベネフィットが示されたのは大腿骨頸部のみ 3,930試験が検索でヒットし、そのうち23試験(平均試験期間23.5ヵ月、被験者4,082例、女性92%、平均年齢59歳)が適格基準を満たし解析に組み込まれた。19試験は、主に白人集団を対象とした試験だった。 8試験・1,791例の被験者の、ベースライン時の平均血清25-ヒドロキシビタミンD値は50nmol/L未満だった。また、10試験・2,294例の被験者は、ビタミンDの1日投与量が800 IU未満だった。 各試験の骨密度の測定は、5部位(腰椎、大腿骨頸部、股関節、転子、全身、前腕)のいずれか1部位で行われていた。統計的有意差の検証試験は70種類にわたっていた。 結果、骨密度に有意なベネフィットがあることが示されていたのは6試験(うち複数部位でのベネフィットが示されていたのは1試験のみ)で、有意な有害性(全身、p≦0.05)が2試験で示され、残りの試験は有意性が示されていなかった。 部位別の解析では、大腿骨頸部でわずかなベネフィットが示された(13試験、加重平均差:0.8%、95%信頼区間[CI]:0.2~1.4、試験間の異質性:I2=67%、p<0.00027)。ただし著者は、本結果にはプラスのバイアスがかかっているとしている。同様のバイアスは股関節部位の解析においてもみられたが、同部位を含め、その他の部位ではベネフィットがあることは示されなかった。 また、良好なアウトカムを示していた5試験のうち3試験は、被験者のベースライン時の25-ヒドロキシビタミンD値が低値だった(26、29、36nmol/L)。

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わが国のHIVの現状 ~抗HIV療法関連の骨粗鬆症、腎機能障害、代謝性疾患が問題に~

約30年前は死に至る病と言われていたHIV感染症。現在は、定期的な受診と適切な服薬継続により長期にわたり日常生活を続けることが可能になり、慢性疾患と考えられるようになりつつある。しかしながら、日本では感染者が増加傾向にあり、新たに抗HIV療法に関連した代謝性疾患などが問題となっている。このたび、途上国のエイズ対策を支援する『世界エイズ・結核・マラリア対策基金』の支持を決定する技術審査委員の1人である、しらかば診療所 院長の井戸田 一朗氏が、ヤンセンファーマHIV/AIDSメディアセミナー(2013年10月29日開催)でHIVの現状や課題を紹介した。性感染症にかかるとHIVにかかりやすい井戸田氏のクリニックは、セクシャル・マイノリティ(同性愛者、バイセクシャル、トランスジェンダーなど)を主な対象として2007年に東京都新宿区に開院した。現在、同クリニックには約400人のHIV陽性者が定期的に通院しているという。井戸田氏が性感染症にかかった男性にHIV検査を勧めて検査した結果(自分で希望した人は除外)、淋菌感染症患者では20%、梅毒患者では13%、尖圭コンジローマ患者では26%がHIV陽性であった。井戸田氏は、「性感染症、とくに淋菌感染症、梅毒、尖圭コンジローマにかかった人は、HIV感染症も検査することが大切」と強調した。男性間の性的接触による感染が増加わが国の性感染症の報告数は全体的に減少傾向にあるが、新規HIV感染者とAIDS患者数は年々増加している。その内訳をみると、異性間性的接触による感染はほとんど変化がないのに比べて、男性間性的接触による感染の増加は著しく、2011年では全体の64%を占めていた。人口当たりのHIV陽性累積数は、都道府県別では、東京、大阪、茨城、長野、山梨の順で多く、HIV感染者とAIDS患者の6割が関東に集中している。男性間性的接触をする男性(MSM:men who have sex with men)の割合については、2005年度国勢調査における対象地域(関東、東海、近畿、九州)の男性では、性交渉の相手が同性のみ、もしくは両性である割合が2.0%(95%CI:1.32~2.66%)と報告されている。井戸田氏は、MSMにおけるHIVや性感染症の流行の背景として、解剖学的差異、性交渉の様式、ハッテン場・インターネットでの出会い、薬物(アルコール含む)、心理的要因を挙げた。HIV陽性者の予後と今後の課題HIV陽性者の予後は、抗HIV療法の登場により、20歳時の平均余命が36.1歳(1996~1999年)から49.4歳(2003~2005年)に延長した。また、抗HIV療法の登場により、カポジ肉腫や非ホジキンリンパ腫などのエイズ関連悪性腫瘍が減少する一方で、非エイズ関連悪性腫瘍(肛門がん、ホジキンリンパ腫、肝がん、皮膚がん、肺がん、頭頸部がん)が増加してきている。HIV陽性者においては脳心血管イベントの発生率が上昇する。禁煙によりそのリスクを下げることができるが、井戸田氏によると、同院を訪れるHIV陽性MSMでは喫煙者が多く52%に喫煙歴があったという。また、最近、抗HIV療法に関連した骨粗鬆症、腎機能障害、代謝性疾患(脂質異常症、糖尿病)が問題となっている。井戸田氏は、HIVに直接関係のないこれらの疾患について、「それぞれの分野の先生に診てもらえるとHIV陽性者や拠点病院にとって大きな支えになる」と各領域の医師からの協力を期待した。(ケアネット 金沢 浩子)

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患者の声を聴き、適切な治療選択を ~動き続けるための、膝の痛みの解消法の実際~

2013年9月24日(火)、ヤンセンファーマ株式会社主催の疼痛メディアセミナーが開催された。このセミナーで石島 旨章氏は、変形性膝関節症について講演。変形性膝関節症のわが国での実態や、解明されつつある病態、治療法について述べた。変形性膝関節症の痛みの要因膝関節の軟骨が摩耗し、関節に炎症や変形が生じる変形性膝関節症は、わが国では患者が約2,500万人、そのうち痛みを伴う患者は約800万人と推定されている。膝の痛みにより活動が制限され、移動能力が低下しロコモティブシンドロームにつながり、ひいては生命予後にも影響しかねない疾患である。変形性膝関節症の痛みは侵害受容性疼痛であるが、疼痛をもたらす要因として「炎症反応」と、軟骨の減少とともに関節が変形し、荷重を支える部位が狭くなり痛みを誘発する「生体力学的異常」がある。これに対し、診断に一般的に用いられる単純レントゲン検査は軟骨の厚みを間接的にみているにすぎず、症状と病態の連関が不十分で、レントゲンで診断できる段階では、軟骨だけでなく軟骨下骨や半月板などの組織にも障害が及んでいる。今後、患者の治療満足度の向上を図るためには、病態の解明を進め診断能力と進行予知能力を向上していく必要がある。進む病態研究現在は、とくに初期の変形性膝関節症をみていくために、バイオマーカーおよびMRIを用いて関節内の代謝異常と構造変化を詳細に評価し、疼痛との関連を評価する試みが進められている。この中で、近年の研究の進展とともに、疼痛に対する炎症の寄与はかなり初期の段階に限られており、変形性膝関節症が進行した状態では炎症の寄与は決して増加しないこと、また、初期の段階でも今まで認識できなかった構造異常に伴う生体力学的異常が起きていることが少しずつ解明されてきている。治療は非薬物療法と薬物療法変形性膝関節症の治療としては、現在は疾患修飾型治療が存在せず、既存の保存療法の選択肢の拡充とエビデンスを確立していくことが現在の課題である。保存療法では、運動療法を中心とした非薬物療法と薬物療法の併用がガイドライン*で推奨されており、薬物療法ではNSAIDsが推奨度Aとされ、広く用いられている。しかし、NSAIDsでは疼痛を改善できない患者も多数存在している。このようなNSAIDsが効かない疼痛に対し、海外ではオピオイドが有効であるとのエビデンスが、システマティクレビューにより報告されつつある(わが国ではオピオイドは本疾患への臨床経験がなく、ガイドラインに未掲載)。これについて前述の形態学的な話でいえば、構造変化に伴う生体力学的異常が進行している状態では、NSAIDsでの疼痛治療は困難と考えられ、このような場合にオピオイドの使用を考慮する余地がある。骨粗鬆症では治療により骨折を予防できる可能性が出てきた。変形性膝関節症ではその段階まで達していないが、病態の理解を丁寧に進めていくことで疾患の進行抑制につながるものと考えている。*変形性膝関節症の管理に関するOARSI(Osteoarthritis Research Society International)勧告:OARSIによるエビデンスに基づくエキスパートコンセンサスガイドライン(日本整形外科学会変形性膝関節症診療ガイドライン策定委員会による適合化終了版) (ケアネット 萩原 充)

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運動器疾患における疼痛に関する患者調査 ~痛みのために患者が困っていることとその解決法~

宗圓 聰 ( そうえん さとし ) 氏近畿大学医学部奈良病院  整形外科・リウマチ科 教授2013年9月24日(火)、ヤンセンファーマ株式会社主催の疼痛メディアセミナーが開催され、宗圓 聰氏は本年発表された、運動器疾患患者(椎間板ヘルニア、関節リウマチ、変形性膝関節症、骨粗鬆症、脊柱管狭窄症)の疼痛に関する治療実態や治療の満足度に関する調査1)(調査概要:文末参照)について報告した。痛みのために現在困っていること通院治療中の患者でも、痛みのために日常生活で支障を感じている患者は多く、とくに椎間板ヘルニア、変形性膝関節症、脊柱管狭窄症では70%以上の人が痛みのために日常生活に何らかの支障(階段を上るのに苦労するなど)を感じていた。治療による痛みの改善度合い・効果への満足度どの疾患でも治療により痛みは改善されているが、中程度の痛みが残っていた。痛みの治療効果に対する満足度は疾患により異なり、関節リウマチが最も高く(75%)、脊柱管狭窄症患者の満足度が最も低かった(55%)。関節リウマチでは、近年の治療薬の進歩とともに治療効果への満足度が向上していることがうかがえる。病院以外での治療実施割合治療効果に満足していない患者は、病院・クリニックでの治療以外にコルセット・サポーターなどの装具やサプリメントを中心に、何らかの治療をしている割合が高く、これらによる除痛効果を期待していることが示唆された。経口鎮痛薬:服用している薬剤、服用割合、服用期間経口鎮痛薬を服用している割合は、椎間板ヘルニアで約70%、関節リウマチ、変形性膝関節症、脊柱管狭窄症で50%強、骨粗鬆症で30%弱であった。服用している経口鎮痛薬は、NSAIDsが約90%を占め、経口薬服用患者のうち70%以上はすでに1年以上にわたって経口薬を服用していた。これらの調査結果から、宗圓氏は特筆すべき点として、経口鎮痛薬として約90%がNSAIDsを服用し、その多くの患者が1年以上続けている状況を指摘。「NSAIDsには副作用としてさまざまな臓器障害があり、とくに高齢者では1年以上続けると腎障害が強く懸念される。3ヵ月継続して効果が思わしくない場合は、オピオイドなど別の薬剤を検討すべきだ」と述べ、NSAIDsの長期使用は慎重に行うべきであると訴えた。*「運動器疾患における疼痛に関する患者実態調査」調査概要・目的:5大疾患の患者の治療実態や治療の満足度の把握・対象:5大疾患の診断を受け通院治療中の40歳以上の患者[椎間板ヘルニア165例、関節リウマチ179例、変形性膝関節症195例、骨粗鬆症186例、脊柱管狭窄症172例(併発している場合は主疾患を優先)]・方法:楽天リサーチ患者パネルを用いたWeb調査・調査地域:全国・期間:2012年11月27日~12月3日・実施:ヤンセンファーマ株式会社(ケアネット 萩原 充)出典1)宗圓 聰. Progress in Medicine. 2013; 33: 1215-1220.※ 所属・施設等は、制作当時のものです。

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ロコモティブシンドローム ― 「ロコモ度テスト」で若いうちから対策を ―

2013年9月12日、都内にて日本整形外科学会プレスセミナーが開催され、大江 隆史氏が「ロコモティブシンドロームの2025年問題~幅広い年齢層へのロコモ対策の必要性~」と題し、講演を行った。日本整形外科学会では2007年より、「運動器の障害によって移動能力の低下をきたし、要介護になっていたり、要介護になる危険の高い状態」を「ロコモティブシンドローム」(和名:運動器症候群、略称:ロコモ)として提唱。この背景には、わが国では運動器疾患(変形性腰椎症、変形性膝関節症、骨粗鬆症)を複数合併している患者が非常に多く、運動器の障害は要支援・要介護の要因の第1位を占めていることがある。一方で、超高齢社会のわが国では、団塊世代が全員75歳以上となるころに医療費などの社会保障費の高騰が予想される「2025年問題」が懸念されている。すでに総人口の約3分の1がロコモもしくはロコモ予備群であると報告されているいま、2025年問題の観点からも、ロコモ対策は喫緊の課題である。ロコモの特徴と現状大江氏は、ロコモの概念について、「移動能力に着目し、移動能力低下の過程・状態を総合的に捉えたもの」と紹介し、高齢者のロコモでは「加齢に伴い疾患・機能障害が複合・連鎖する悪循環に陥りやすくなり、移動能力の低下を引き起こすことが特徴的な問題である」と述べた。また、骨量・筋力の変化の調査では、運動器の性質・機能の衰えは高齢になる前から始まることが報告されているものの、成人以降は運動器に関する検査(客観的評価)をほとんどの人は受けていないのが現状であり、これを変えないと将来のロコモ予防につながらないことを強調した。「ロコモ度テスト」で若いうちからロコモ対策を続いて大江氏は、日本整形外科学会が開発した「ロコモ度テスト」について言及。日本整形外科学会は従来からロコモのチェックリストを作成していたが、従来のものは、「中高齢者向き」、「数値化が困難」、「主観的である」などの課題があったため、2013年にこれらの課題を解決すべく、新判定基準の「ロコモ度テスト」を開発した。新しい「ロコモ度テスト」は、「立ち上がりテスト」(脚力を調べる)、「2ステップテスト」(歩幅を調べる)、「ロコモ25」(身体の状態・生活状況を調べる)の3つから成り、若いうちから取り組むことができる。このテスト結果が年代相応の値に達しない場合、その状況が続くと「将来ロコモになる可能性が高い」ことを示し、定期的に数値化することでトレーニングによる変化も確認できるようになる。大江氏は、「立ち上がりテスト」「2ステップテスト」の方法を自ら実演して示し、将来、要支援・要介護状態にならないよう、ロコモ度テストを活用し自分のために自分でロコモ対策を行うことの必要性を訴えた。健康日本21(第二次)では、ロコモに関する目標として「ロコモを認知している国民の割合の向上」と「足腰に痛みのある高齢者の割合の減少」を掲げている。また、日本整形外科学会では、ロコモの予防啓発を目的とした「ロコモ チャレンジ!推進協議会」を2010年8月より立ち上げ、さまざまな啓発活動を実施している。大江氏は、「運動器に起因する要介護者数の減少に向け、ロコモ対策先進国として日本が世界をリードしていく」と決意を述べ、講演を締めくくった。(ケアネット 萩原 充)

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