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第157回 新教授の下、体制立て直し再スタート切った三重大麻酔科。小野薬品は奨学寄附金中止、寄附講座への拠出も終了へ

汚職事件で壊滅的なダメージを被った三重大病院麻酔科こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。先週の4月14日金曜夜は、千葉ロッテマリーンズの佐々木 朗希投手と、オリックス・バファローズの山本 由伸投手の投げ合いを観戦するため、千葉のZOZOマリンスタジアムに行ってきました。同球場は、昨年のちょうど今頃、“野球感染”リスクの取材で訪れて以来です(参考:第105回 進まないリフィル処方に首相も「使用促進」を明言、日医や現場の“抵抗”の行方は?)。試合は、両投手合わせて20奪三振(うち佐々木投手11)という素晴らしい投手戦で、佐々木投手が7回1安打無失点の好投で今季2勝目をあげました。MLBに行ってしまうまでにどこまで成長するのか。これからがますます楽しみです。ちなみにコロナでさまざまな制限が行われていた応援ですが、マリンスタジアムではジェット風船以外、ほとんどが解禁されていました。それにしても同球場の2階席最上段は風が強く、春山並みに寒くて風邪をひきそうでした。さて、今回はランジオロール塩酸塩(商品名:オノアクト)の積極的な使用や医療機器の納入に便宜を図る見返りに現金を受け取ったなどとして、元臨床麻酔部教授や准教授、講師などが次々逮捕され、壊滅的なダメージを被った三重大病院の麻酔科の現在について書いてみたいと思います。同病院の麻酔科には、昨年4月に新任教授が着任、体制も抜本的に見直され、今年4月からは麻酔科の専門医を育成する研修プログラムもスタートしています。懲役2年6ヵ月、執行猶予4年の判決を不服として元教授は控訴この事件については、事件発覚直後の2020年9月からこの連載でも度々取り上げて来ました。元教授の裁判の判決が下った今年1月には、「第145回 三重大臨床麻酔部汚職事件、元教授に懲役2年6ヵ月、執行猶予4年の有罪判決、賄賂は『オノアクト使用の見返りだった』」で、元教授に対する判決の内容を詳説しました。判決では、元教授に懲役2年6ヵ月、執行猶予4年の判決が言い渡されました。裁判で最大の争点となったのは小野薬品工業からの寄附金200万円が賄賂に当たるかどうでした。判決は、被告が小野薬品の薬剤「オノアクト」の使用を増やす見返りを約束した上で寄附を求めたと認め、賄賂に当たると結論付けました。なお、元教授はこの判決を不服として、2月1日付で名古屋高等裁判所に控訴しています。三重大病院の年間手術数は約5,000件程度まで激減さて、一連の事件で三重大病院の麻酔科は大きなダメージを受けました。日経メディカル Onlineは4月6日付で「事件で手術や地域医療に多大な影響、再スタートの三重大麻酔科の今後 三重大麻酔科学講座教授、賀来隆治氏に聞く」と題するインタビュー記事を掲載しています。岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科 麻酔蘇生学講師だった賀来氏が、教授選を勝ち抜き三重大学大学院 医学系研究科臨床医学系講座 麻酔科学教授となったのがちょうど1年前の2022年4月でした。インタビュー記事では、事件が三重大病院に及ぼした影響や、麻酔科の新体制について語っていて、とても興味深いです。同記事によれば、事件の影響などで、手術の麻酔を担当する臨床麻酔部だけでもピーク時には18人いた麻酔医は3人まで減ったとのことです。一方、麻酔科医が担当するもう一つの部門であった麻酔集中治療科も、賀来教授着任直前には2人まで減っていました。そうした影響もあって、三重大病院の手術数は激減、事件前は年間7,000件以上、8,000件に迫るほどだった手術件数は、新型コロナウイルス感染症の影響も加わり、2020年、2021年度は約5,000件程度にまで激減していたそうです。麻酔集中治療科と臨床麻酔部の2つの部署を統合賀来教授の着任した昨年4月から、麻酔科の体制変更が行われました。それまであった麻酔集中治療科(ペインクリニック外来、集中治療部の管理などを担当)と臨床麻酔部(手術の麻酔を担当)の2つの部署を統合、名称も麻酔科として運営していくことになりました。それまで、2つの部署は完全に分かれており、どちらかの麻酔科医がもう1つの部署の業務を手伝うこともなかったそうです。このように非常にいびつな形で麻酔科が運営されていた遠因は、20年近く前の麻酔科医大量退職にあったと考えられます。三重大病院では、2000年代初めに当時の麻酔科学教室教授から離反する形で麻酔科医の大量退職が起こっています。大学病院の手術にも影響が及んだため、2006年に麻酔科学教室とは独立した組織として麻酔管理と臨床実習に業務を特化した臨床麻酔部が新設され、2009年には大学医学部の講座(臨床麻酔学講座)も設けられました。その講座を率いていた元教授が今回の一連の事件を引き起こしました。2つの部署統合によって、2006年以前の元の体制(多くの大学病院と同様の体制)に戻ったことになります。麻酔科医の専門医研修プログラムも2023年度から再開麻酔科医については、賀来教授含め、岡山大から3人の麻酔科医が着任、8人体制となりました。専門研修指導医の数も満たしたため、事件を機に2020年10月から停止していた麻酔科医の専門医研修プログラムも2023年度から再開しました。今年度は、三重大関連施設で初期臨床研修を修了した医師1人が、プログラムに参加したとのことです。インタビュー記事で賀来教授は、「6人まで対応できると考えていましたが、今回は残念ながら1人でした。やはりかなりインパクトの強い事件が起こった医局なので、教授が替わったからといって、そのイメージはすぐにはマイナスからプラスには変わりません。(中略)私が医学部の学生と関わったとしても、それが専門医研修プログラムへの参加につながってくるのは何年か後になります。ですから、長い目で取り組んで行こうと考えています」と語っています。結果として岡山大のジッツとなったわけですが、麻酔科医も揃い、専門医研修プログラムも再開できたことは、地域医療にとっては喜ばしいことです。“黒歴史”が繰り返されないことを願うばかりです。小野薬品、寄附講座への拠出を全て終了へところで、事件のもう一方の“主役”とも言える小野薬品工業は、今回の事件で問題となった寄附講座について、2023年度に拠出予定の2件をもってすべて終了することを4月14日に同社サイト上で明らかにしました。公表された「コンプライアンス体制強化のための取り組み」と題する文書によれば、「2020年度に起こした不祥事以降、再発防止に向け取り組んできた」として、コンプライアンス体制をより強化するとともに、社員教育を充実させ、奨学寄附金の取り扱いの見直しを行うとしています。具体的には、「奨学寄附金(一般講座への寄附)の拠出に関しては、まず2021年度の寄附は中止とし、さらに、2022年度以降も引き続き行わないことを社内決定」したとしています。その上で、「アカデミアへの貢献の必要性や研究振興の社会的意義を鑑みながら、独立性、公平性を担保し得る新たな貢献方法を引き続き検討してきた結果、財団(小野薬品がん・免疫・神経研究財団)を設立し、2023年度より研究助成事業を行うことを決定」したとのことです。また、寄附講座への寄附については「2020年10月以降新たな寄附依頼に対して全てお断りし、それ以前に拠出を約束していた先、および複数年契約のもとに拠出を約束していた先のみへの対応としました。なお、これら寄附に関しても、2023年度中に全ての対応を終了します(2021年度の実施:21件、2022年度の実施:8件、2023年度実施予定:2件)」としています。実際、この事件をきっかけとして、製薬企業の奨学寄附金や寄附講座への寄附を廃止する動きは加速しているようです。これらは基本的に使い道を定めず無償提供されるため、大学や研究室にとっては使い勝手が良い研究費でした。奨学寄附金の廃止傾向が強まれば、研究力が弱い大学の資金調達がこれまで以上に難しくなるでしょう。もともと国からの研究費が少ない地方大学の教授たちの中には、三重大の事件を「とんでもないことをしてくれた」と苦々しく思っている人も少なくないはずです。大学間、医局間の研究力の差が、今後ますます広がっていくことが懸念されます。

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第30回 市販薬にご用心!?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)患者さんの内服薬は処方薬以外も確認しよう!2)注意が必要な市販薬を知ろう!【症例】23歳女性。特記既往はなく、手術歴もない。仕事中に頭痛、嘔気を自覚した。しばらく様子をみていたが症状が改善せず、嘔吐も認めたため、仕事を早退し、外来を受診した。●来院時のバイタルサイン意識清明血圧108/61mmHg脈拍102回/分(整)呼吸18回/分SpO299%(RA)体温36.1℃中毒の入り口中毒患者さんはどのように来院するでしょうか。薬を過量に内服したことを自己申告ないし発見され来院する場合も多いですが、その他、意識障害、嘔気・嘔吐、頭痛、動悸、ふらつきなどを主訴に来院します。また、重篤な場合にはショック、痙攣、心停止状態で搬送されてくることもあります。今回は、どこでも来院しうる一見軽症そうにみえる中毒患者さんに関して取り上げます。市販薬の現状コロナ禍となり、自宅に解熱鎮痛薬や総合感冒薬を常備している方も多くなりました。発熱や咽頭痛を主訴に来院した患者さんに対して、アセトアミノフェンなどを処方するとともに、今後に備えて患者さん、ご家族へ市販薬を常備するようにオススメした方も少なくないと思います。適切に使用すれば基本的には問題ありませんが、内服量や方法を誤ってしまうと、いくら市販薬といえども危険なことはいくらでもあります。薬局やコンビニ、さらにはインターネット上で総合感冒薬などの市販薬はいくらでも入手可能です。規制がかかっている薬剤もありますが、実際のところ抜け穴はいくらでもあり、購入しようと思えば購入できてしまっているのが現状でしょう。注意が必要な市販薬処方薬ではベンゾジアゼピン系などの薬に注意が必要ですが、市販薬ではどのような薬剤が問題となっているのでしょうか。表11)が代表的な薬剤であり、みなさんもよくみかけると思います。実際に、救急外来で診療していると、これらの薬剤を過量に内服し、来院する方を多く経験するとともに、常備し乱用している方も少なくありません。これらの薬剤がなぜ問題なのか、代表的な2剤を中心に簡単に説明しておきましょう。表1 注意が必要な市販薬1)商品名:エスエスブロン錠(表2)成分は主に4つです。上から、オピオイド、エフェドリン、抗ヒスタミン薬、カフェインです。ジヒドロコデインは半合成オピオイドです。オピオイド受容体に結合し、中枢神経抑制作用や呼吸抑制作用を発揮し、高揚感や多幸感をもたらします。メチルエフェドリンは、エフェドリンの作用を抑えたものですが、アンフェタミン類に属し、中枢神経興奮作用や交感神経興奮作用を発揮します。これらの成分が含まれる薬剤を適正量以上に、また不用意に内服すると、他の成分と相互作用を及ぼし頭痛や嘔気・嘔吐、興奮などの症状、さらには意識障害やショック、痙攣、呼吸抑制などの重篤な病態を引き起こします。表2 エスエスブロン錠2)商品名:パブロンゴールドA(表3)エスエスブロン錠と共通している成分が多いことに気付くと思います。大きな違いとしてパブロン系の薬にはアセトアミノフェンが含有されているという点です。この点は非常に重要であり、アセトアミノフェンは多量に内服すると肝毒性があり、場合によっては肝不全に陥るリスクがあります(アセトアミノフェン中毒に関しては、以前の連載「第24回 風邪薬1箱飲んだら、さぁ大変」を参照してください。表3 パブロンゴールドAエスエスブロン錠は規制がかかっているため、本来は薬局などで購入する際は1瓶までです。これは販売元のホームページにも明記されています。また、値段も決して安くはないため、同成分が含まれ、比較的安価なパブロン系の薬剤を購入する流れがあります。パブロン系は規制がかかっていないため、多量に購入可能なのです(中国向けの転売目的で多量に購入されたニュースが今年に入ってから流れていましたよね)。市販薬を乱用している方は10代、20代も多く、最近の状況を知るためにはSNSも有用です。twitterで「ブロン」、「金パブ(パブロンゴールド)」、「メジコン」などで検索すると多くの投稿が閲覧できます。「市販薬中毒なんてそんなに多くないでしょ!?」、そう感じている先生はちょっとのぞいてみてください。本症ではどうだったか冒頭の症例はそもそも市販薬の中毒を疑わなければ診断は難しいかもしれません。実際に、初めは本人も薬を内服したことを話してくれませんでした。しかし、改めて確認すると職場のストレスなどを理由に市販薬を過量に飲んでしまったことを打ち明けてくれました。セルフメディケーションは大切です。しかし、一般用医薬品(OTC医薬品)を不適切に利用している方も少なくありません。「くすりもりすく」、これは処方薬だけでなく市販薬も含め常に意識し対応することが重要です。1)松本俊彦、他. 2020年全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患実態調査.2022.

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自己注射可能な週1回投与のMTX皮下注「メトジェクト皮下注シリンジ」【下平博士のDIノート】第115回

自己注射可能な週1回投与のMTX皮下注「メトジェクト皮下注シリンジ」今回は、抗リウマチ薬「メトトレキサート(MTX)皮下注(商品名:メトジェクト皮下注7.5mgシリンジ0.15mL/同10mgシリンジ0.20mL/同12.5mgシリンジ0.25mL/同15mgシリンジ0.30mL)、製造販売元:日本メダック」を紹介します。本剤は、国内初の自己注射可能なMTX皮下注製剤であり、関節リウマチ患者の服薬アドヒアランスの向上に加え、誤投与・過剰投与リスクの軽減が期待されています。<効能・効果>本剤は、関節リウマチの適応で、2022年9月26日に製造販売承認を取得し、同年11月16日より発売されています。<用法・用量>通常、成人にはMTXとして7.5mgを週に1回皮下注射します。患者の状態や忍容性などに応じて適宜増量できますが、15mgを超えることはできません。4週を目安に患者の状態を十分に確認し、増量は2.5mgずつ行います。<安全性>国内第III相臨床試験(MC-MTX.17/RA試験)において、83.8%(93/111例)に臨床検査値異常を含む有害事象が認められました。5%以上に認められたものは、悪心16.2%、口内炎14.4%、関節リウマチ11.7%、上咽頭炎10.8%、ALT増加9.9%、肝機能異常9.9%、白血球数減少8.1%、上腹部痛5.4%、高血圧5.4%などでした。なお、重大な副作用として、ショック/アナフィラキシー(頻度不明)、骨髄抑制(5%以上)、感染症(0.1~5%未満)、結核、劇症肝炎/肝不全、急性腎障害/尿細管壊死/重症ネフロパチー、間質性肺炎/肺線維症/胸水、中毒性表皮壊死融解症(Toxic Epidermal Necrolysis:TEN)/皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、出血性腸炎/壊死性腸炎、膵炎、骨粗鬆症、脳症(白質脳症を含む)、進行性多巣性白質脳症(PML)(いずれも頻度不明)が設定されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、異常な状態となっている免疫反応や炎症反応を抑えることで、関節リウマチによる関節の腫れや痛みを改善します。2.通常、週に1回、特定の曜日に皮下注射してください。3.注射部位は大腿部・腹部・上腕部の毎回異なる部位を選び、短期間に同一部位へ繰り返して投与しないでください。4.この薬を投与している間は、生ワクチン(麻疹、風疹、おたふく風邪、水痘・帯状疱疹、BCGなど)の接種ができません。接種の必要がある場合は医師に相談してください。5.発熱、倦怠感が現れた場合や、口内炎、激しい腹痛、嘔吐、下痢などの症状が現れた場合は直ちに医師に連絡してください。6.(妊娠可能年齢の女性やパートナーが妊娠する可能性のある男性に対して)この薬を投与中および投与終了後一定の期間は、適切な方法で避妊を行ってください。7.(授乳中の女性に対して)薬剤が乳汁中へ移行する可能性があるため、本剤の投与中は授乳しないでください。<Shimo's eyes> 関節リウマチ(RA)治療の基本は、疾患活動性を低く抑え、早期の臨床的寛解を達成・維持することです。MTXはRAの病態形成に関与する種々の細胞に対して、複数の分子作用機序を介して免疫および炎症性反応を抑制し、抗RA作用を発揮すると考えられています。日本リウマチ学会、米国リウマチ学会(ACR)、欧州リウマチ学会(EULAR)のガイドラインではMTXが第1選択薬として推奨されています。わが国においては、RAに対するMTXはこれまで経口薬のみが発売されていましたが、本剤は週1回の皮下投与のプレフィルドシリンジです。医師の管理・指導のもと、自己注射も可能です。2022年9月時点で、本剤は欧州を中心に世界49の国または地域で承認されており、2019年には欧州医薬品庁はMTXの誤投与の危険性を回避するため、RAなどの治療に対して週1回投与のMTX皮下注製剤を推奨しています。MTX経口薬から切り替えの際の投与初期量は、1週間当たりの投与量を対比させた添付文書の表などを参考に決定されます。安全性プロファイルは、注射部位反応を除いてMTX経口薬と同様と考えられています。主な副作用は白血球数減少、肝機能障害、悪心、口内炎などであり、重大な副作用である骨髄抑制、感染症、結核、劇症肝炎、肝不全、急性腎障害、尿細管壊死、重症ネフロパチー、間質性肺炎、肺線維症、出血性腸炎などに注意する必要があります。2020年10月の「医療安全情報No.167」では、MTXの過剰投与による骨髄抑制の事故が後を絶たないことを注意喚起しています。本剤の普及によって医療現場での投与過誤、あるいは患者さんの服用過誤が減少することを期待します。

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第149回 コロナ感染に特有の罹患後症状は7つのみ

2020年に新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)の世界的流行が始まって以降、その通常の感染期間後にもかかわらず長く続く症状を訴える患者が増えています。それらCOVID-19罹患後症状(コロナ罹患後症状)のうち疲労、脳のもやもや(brain fog)、息切れは広く検討されていますが、他は調べが足りません。感染症発症後の長患いはCOVID-19に限るものではありません。インフルエンザなどの他の呼吸器ウイルスも長期の影響を及ぼしうることが示されています。COVID-19ではあって他の一般的な呼吸器ウイルス感染では認められないCOVID-19に特有の罹患後症状を同定することはCOVID-19の健康への長期影響の理解に不可欠です。そこで米国・ミズーリ大学の研究チームはソフトウェア会社Oracleが提供するCerner Real-World Dataを使ってCOVID-19に特有の罹患後症状の同定を試みました。米国の122の医療団体の薬局、診療、臨床検査値、入院、請求情報から集めた5万例超(5万2,461例)のCerner Real-World Data収載情報が検討され、47の症状が以下の3群に分けて比較されました。COVID-19と診断され、他の一般的な呼吸器ウイルスには感染していない患者(COVID-19患者)COVID-19以外の一般的な呼吸器ウイルス(風邪、インフルエンザ、ウイルス性肺炎)に感染した患者(呼吸器ウイルス感染者)COVID-19にも一般的な呼吸器ウイルスにも感染していない患者(非感染者)SARS-CoV-2感染から30日以降1年後までの47の症状の生じやすさを比較したところ、呼吸器ウイルス感染者と非感染者に比べてCOVID-19患者により生じやすい罹患後症状は思いの外少なく、動悸・脱毛・疲労・胸痛・息切れ・関節痛・肥満の7つのみでした1,2)。無嗅覚(嗅覚障害)などの神経病態がSARS-CoV-2感染から回復した後も長く続きうると先立つ研究で示唆されていますが、今回の研究では一般的な呼吸器ウイルス感染に比べて有意に多くはありませんでした。無嗅覚は非感染者と比べるとCOVID-19患者に確かにより多く生じていましたが、COVID-19以外の呼吸器ウイルス感染者にもまた非感染者に比べて有意に多く発生していました。つまり無嗅覚はCOVID-19を含む呼吸器ウイルス感染症全般で生じやすくなるのかもしれません。一方、先立つ研究でCOVID-19罹患後症状として示唆されている末梢神経障害や耳鳴りは呼吸器ウイルス感染者と非感染者のどちらとの比較でも多くはありませんでした。全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ(RA)、1型糖尿病(T1D)などの免疫病態もSARS-CoV-2感染で生じやすくなると先立つ研究で示唆されていますが、今回の研究では神経症状と同様にCOVID-19に限って有意に多い症状はありませんでした。ただし、1型糖尿病との関連は注意が必要です。COVID-19患者の1型糖尿病は呼吸器ウイルス感染者と比べると有意に多く発生していたものの、非感染者との比較では有意差がありませんでした。呼吸器ウイルス感染者の1型糖尿病はCOVID-19患者とは逆に非感染者に比べて有意に少なく済んでいました。心血管や骨格筋の病態でも1型糖尿病のような関連がいくつか認められており、COVID-19患者の頻拍・貧血・心不全・高血圧症・高脂血症・筋力低下は呼吸器ウイルス感染者と比べるとより有意に多く、非感染者との比較ではそうではありませんでした。今回の研究でCOVID-19に特有の罹患後症状とされた脱毛はSARS-CoV-2感染から100日後くらいに最も生じやすく、250日を過ぎて元の状態に回復するようです。疲労や関節痛は今回の試験期間である感染後1年以内には元の状態に落ち着くようです。COVID-19患者により多く認められた肥満はダラダラ続くCOVID-19流行が原因の運動不足に端を発するのかもしれません。ただし今回の研究ではそうだとは断言できず、さらなる研究が必要です。参考1)Baskett WI, et al. Open Forum Infect Dis. 1011;10: ofac683.2)Study unexpectedly finds only 7 health symptoms directly related to ‘long COVID’ / Eurekalert

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第145回 これが患者のリアル、ワクチンマニアもコロナ感染!?村上氏のヒヤヒヤ実記(後編)

―2023年1月3日(火)午前6時前に目が覚める。就寝中かなり寝汗をかいたことは寝間着代わりにしているTシャツの首元がじっとりと湿っていることでわかった。昨日と比べ、頭はすっきりしている。検温すると、37.2℃。だいぶ下がった。タイミングよく娘から「おにぎりとみそ汁」という朝食オーダーが届いたので、いつものようにマスクを両面テープで顔面に密着させた状態で、一番近いコンビニに買い出しに行く。ここは有人レジと無人レジが離れていて、人と距離が取れることが利点だ。部屋に電子レンジもあるのでみそ汁の温めも店員に頼まなくて済む。朝食を置き配して、シャワーを浴びる。出発約束時刻は8:45。まず私がホテルの出口から数メートル先まで行き、それから娘にLINEで部屋を出るように連絡し、その後は距離を取ってついてくるよう指示した。ホテルの出口に現れた娘はジャンプしながらこちらに手を振っている。思えば壁一つ隔てた場所にいながら、約3日間、顔を合わせていなかった。私も手を振り返すが、この3日間の療養で相当体力を奪われたのか、転倒しそうなほど体がふらついた。とりあえず前を向いてスタスタと歩き出す。後ろからはかすかに娘のものらしい足音が聞こえる。途中、小さな公園を通過した時、「うわー、カラス」と叫びながら娘が私のほぼ真後ろに距離を詰めてきた。娘は幼児期からカラスが大嫌いだ。距離が近過ぎる。私は微量でも娘の方向に飛沫が向かうことを避けるため、振り返らずに「おとうに近寄り過ぎない」とやや大きめの声で言い渡した。足音がやや遠ざかった。そこから2分ほど歩いたところで歩道が大幅に広くなる。すると、娘が私の真横にかなり距離を取って並んだ。マスク越しにニコニコしている。その手があったか。まもなく地下道の入り口。私はそのまま娘のほうを向かずに地下道入り口を指さして、「わかるね?」というと、「うん」という声とともに娘が私の前方に走り出て地下道の入り口を目指し始めた。その場に立ち止まっていると、娘は入り口で立ち止まって振り返った。私が手を振ると、それに応え、娘は地下道の中に消えていった。私は方向転換してホテルに戻って検温。36.7℃。少し休憩してから、件のクリニックに向かった。到着したのは開院5分前。中の電気がついており、ガラス越しに看護師らしい女性職員がマスクに加え、フェイスシールドで防護している姿が見えた。まだ、受診者は誰も来ていない模様。ガラス越しに目が合ったその女性が入り口まで出てきて「村上さんですか?」と尋ねてきた。はいと答えると、そのまま室内に案内され、手指消毒の指示。「来る前に検温はしました?」と尋ねられたので、朝6時と直前の体温を告げると、そのまま「こちらへ」と誘導される。診察室の表記のあるドアの前を通り過ぎ、女性がその先の小さめのドアを開けた。物品置き場のような間取りだ。中にはパソコン(PC)を置いた机を前にマスクとフェイスシールドを着用したB医師が着席していた。「どうですか、お加減は?」と尋ねられた。私はまだ微熱状態ではあるものの、今朝はかなり改善している感じがすること、咽頭痛はそれほど感じなくなったが、その代わり痰が絡むようになったと伝えた。B医師が「まず口の中を診ますね」と言いながら開口を指示してきた。複数回、顔の角度を変えながら咽頭の様子を見ている。それが終わると、パルスオキシメーターを私の指に挟んだ。数値は99%。B医師が「ちなみにコロナワクチンは何回接種していますか?」と尋ねてきた。そういえば、昨日のやり取りではその話はしていなかった。オミクロン株対応ワクチンも含め、4回接種が完了している旨、最後の接種が12月27日、これまでの接種ワクチンの種類(私はファイザー→ファイザー→モデルナ→モデルナ2価[BA.4/5対応])、4回目接種直前にスパイクタンパク抗体価検査を実施したことを伝えると、B医師が「うわっ、抗体価がかなり高いですね」と目を見開いてこっちを凝視した。加えてインフルエンザ(以下、インフル)ワクチンも接種済みと伝えた。「抗原検査が4回連続陰性だったことや、コロナのスパイクタンパク抗体価の高さ、インフルワクチン接種済みといったことを考えると、ただの風邪の可能性も十分にあります。ただ、最近うちを受診した発熱患者で、いわゆるただの風邪は1割程度とかなり少ないです。また現状の感染状況や症状を伺う限り、コロナの可能性は十分あり得ます。娘さんの受験も心配でしょうから、コロナとインフルの検査はしてみましょう」鼻出しマスク状態で、綿棒2本でそれぞれ鼻の奥をゴリゴリ。2本目が終了したところでくしゃみが出そうになり、慌てて鼻までマスクを覆い、下を向いてマスクを手で押さえながらくしゃみ。B医師にお詫びをしながらふと机の上に目をやると、消毒用アルコールのボトルが目に入ったので、使わせてくださいとお願いすると、「どうぞ」と私のそばに置いてくれた。私がノズル近くに左手を差し出し、右ひじでポンプを押すと、「ああ、そういうの気を付けているんですね」と笑われる。誰が触るかわからない手押し式の場合、私は常にポンプを肘押ししている。B医師が「インフルは迅速キットなのでもうじき結果がわかります。コロナのPCRは明日の遅くとも夕方には判明すると思います」と告げられた。実は明日はホテルのチェックアウト予定日。チェックアウト時間は午前11時だ。もし、コロナと判明した場合、発症日が12月30日なので療養解除は1月6日。私はなんとかホテルに事情を説明して、あと2泊はしなければならない。可能ならば明日午前11時までに結果を知りたいが、新年早々に診察をしてくれたB医師に無理は言えない。とりあえずPCR検査結果を待つこと、インフルの検査結果はこのまままっすぐホテルに戻ってから電話で尋ねることにしてクリニックを後にした。ホテルに戻るや否やB医師から電話があり、インフルは陰性だったことを告げられる。「発症からかなり経っての検査で陰性なのでインフルの可能性はほぼないと思います」とのこと。さらに早ければ明日午前にはPCR検査の結果もわかるだろうとの話だった。そのまま机に座ってPCに向かい仕事。娘には出発前にPayPayを1,000円分送り、昼は予備校近くのコンビニで何か買うように指示していた。まずは娘と私の洗濯に着手。その間は仕事。この日はほとんど苦痛なく仕事が進められる。ただ、今日は机を使っているので、昨日のような室内を即席乾燥室として使うことはできない。幸い今日の洗濯物は厚手のものはないので、貧乏性は引っ込めて館内のコインランドリーの乾燥機を1時間使うことにした。遅くとも明日には仕上げなければならない原稿があるので、時々水分を摂りながら一気に進めた。気が付くと午後3時を過ぎていた。そこで買い置きのインスタントラーメンをすすって、再び仕事に勤しんだ。午後6時過ぎに原稿のめどがつく。一気にどっと脱力感に襲われる。まだ、本調子ではない。娘は自習室が閉まる夜9時までは予備校にいるはず。そこからの時間計算で午後9時10分前後に朝に見送った地下道付近で待ち合わせる旨をLINEでメッセージしてから、タイマーをかけて横になった。目を覚ましたのは9時5分過ぎ。慌ててホテルを出て小走りで待ち合わせ場所に向かうが息が上がる。ということで小走りは止めてゆっくり歩いた。待ち合わせ場所にはすでに娘が到着していた。通常こういう時は「遅い」とブツクサ言われるのだが、今日は何も言われなかった。朝と同じく私が先行したが、ピンクのネオンが輝く時間になっていたので、朝よりは距離は詰めることにした。途中のコンビニの前で私は立ち止まり、無言で店内を指さした。娘が近づいてくるのに合わせて私は入り口から遠ざかり、娘も心得たように店内に消えていった。今日は肉系の弁当を買ってくるだろうか?まもなく娘が買い物袋入りの弁当をぶら下げて戻ってきた。それを確認してホテルに向かって歩き始めた。ホテルの入り口が見えてきたので、私は小走りにそこを通り過ぎて距離を置き、入り口を指さして「先に」とだけ告げた。娘が入っていったのを確認してから5分後に、私も部屋に戻った。LINEでメッセージすると、やはり買ってきたのは肉系弁当。体調不良でもこういうところは勘が働く。娘にはインフルは陰性だったこと、明日にはPCR検査の結果がわかることを告げた。娘からは荷物をどうするかとの問い。そうそれが問題なのだ。娘は勉強道具と宿泊に必要な諸々の物品を持ってきている。チェックイン時は宿泊用の物品が入ったスポーツバッグを私が運んで先に手続きを済ませていた。小柄な娘が一人で持つのはかなり大変な量と大きさである。さてどうしようかと悩んでいると、娘からはスポーツバッグの中身はすぐには必要ないので、数日後でも家に届けばいいという。もし私が陽性だった場合はここに6日まで泊まり、後日に荷物を渡すことが決定する。もっとも留まることが決定した場合、このホテルに空きがあるか、それをホテルが許容してくれるかは未解決だ。まあ、その時に考えるしかないと腹をくくった。宿泊予約サイトで見ると、明日以降は3部屋ほど空きがある。それが埋まらないことを願いつつ就寝。―2023年1月4日(水)朝5時半過ぎに目が覚める。検温すると36.5℃。体調も良いと感じる。念のため部屋の片づけを始めると、娘から朝食のオーダー。今日は調理パンと洋風スープ。はいはい。いつものようにコンビニへ。この時間はほとんど人が歩いていない。周りへの影響を考えると非常に気が楽である。娘の部屋の前に行くと、すでにスポーツバッグが置いてあった。朝食の置き配をし、代わりにスポーツバッグを持って自分の部屋に入り、そのまま片づけを続ける。7時半にそれを終え、今度はこの日提出予定の原稿の再チェック。8時過ぎにそれも終えると、ちょうど娘からのLINE。娘「今日も送ってくれる?」私「もう道は分かるでしょ」娘「わかるけど」私「けど?」娘「カラス」ああ、またそこか。合格した大学を蹴ってまで浪人を選ぶ度胸がありながら、カラスの何が怖いと言いたくなるが、ぐっとこらえる。昨日のように送っていくことにした。昨日と同じく予定時刻に距離を置いてホテルの前で待ち合わせてまた地下道へ。今日の娘は過度に近づいては来ない。地下道入り口で別れ、私は部屋に戻って用意していた原稿を送信。その後はこの間、十分とは言えなかった各種ニュースのチェックに。午前10時を過ぎたあたりで、B医師から電話に着信。B医師「おはようございます。検査結果出ました。陰性でした」安堵のあまり言葉が逆に出なくなる。B医師が続けた。B医師「まあ、結果としては今どき珍しいただの風邪ということですね。アハハ。ただの風邪にはワクチンありませんから」私  「とはいえ、偽陰性の可能性がないわけではないですよね」と問うとB医師「理論上はそうですが、それを言い出したらきりがないですよ。いずれにせよまだ本調子ではないですよね。お大事になさってください」と告げられ電話が終わった。私は机上に残っていたPCの電源を切ってチェックアウトした。ホテルを出たところで娘にコロナ陰性だったことをLINEで報告した。自分の荷物を背負い、娘のスポーツバッグを肩に掛け、駅の改札に到着。しかし、ここで余計な考えが頭に浮かぶ。もし偽陰性だったら、と。数分考え、自分の事務所まで、距離にして約3.5kmを歩くことにした。しかし、病み上がりの体にはこれがかなりハード。途中休み休みで結局、1時間10分かかった。事務所で体重計に乗ってみる。58.5kg。宿泊当日朝の計測から-2.5kg。58kg台を目にするのは何年ぶりだろう。結局、1時間ほど休んで自宅に娘の荷物を運びこみ、私は念には念を入れ、週末の日曜日夕刻まで事務所で“籠城”することにした。この間、水とペヤングソース焼きそばのみの生活。日曜日の夕刻には体重は60kgまで戻っていた。こうして年末からのコロナ疑惑はようやく終了した。

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健康の大疑問

健康常識をアップデートせよNY在住・新進気鋭の専門医が、最新の知見を駆使し、健康情報の真偽を問う。白髪の原因はストレス?腸内細菌が認知機能を高める?痛風にプリン体制限は有効?高血圧の薬は一生飲み続けてOK?ウォーキングは1日何歩までがベスト?次世代エイジングケアNMNサプリの正体とは?若者の大腸がんが急増している本当の理由とは?乳酸菌は風邪予防になる?断食で長生きが可能となる?グルコサミンは変形性膝関節症の痛みを改善する?ビタミンDで骨は強くなる?音楽が健康に及ぼす影響とは? ……etc.画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    健康の大疑問定価1,100円(税込)判型新書判頁数188頁発行2023年1月著者山田 悠史

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第144回 これが患者のリアル、ワクチンマニアもコロナ感染!?村上氏のヒヤヒヤ実記(中編)

―2023年1月2日(月)深夜に38℃超の熱を記録して以来、時折、体のほてりで目が覚める。そのたびに体温を測ろうと思うが、気力が湧いてこない。朝6時過ぎ、娘が求めるパンとスープを買いに出るが、かなりフラフラである。嫌な予感がしたので、この時、娘が昼に食べたがるだろうと予想したパスタも購入して戻り、パンとスープは置き配にし、パスタを自室の冷蔵庫にしまうと、そのままベッドに倒れこんだ。目が覚めたのは午前11時過ぎ。気力を振り絞って検温した結果に驚く。38.9℃。ここ最近見たこともない数字だ。私の発熱の最高記録は20代前半の頃の39.8℃。この時はバックパッカーとして旅行中にエジプトのカイロでかなり重い肺炎にかかり、日本大使館のご助力で、人生初しかも2週間の入院をカイロで経験している。ちなみに当時のことで、鮮明に記憶しているのは、ベッドサイドに置かれた紙袋入りの自分の胸部X線写真。右肺の下から3分の1程度、左肺の4分の1程度が真っ白。様子を見に来た日本大使館の医務官がそれを見て「ありゃりゃ」と言いながら病状を説明してくれた。退院後、成田空港からまっすぐ実家に向かい、父親のかかりつけ医にそれを見せたところ、「えっ、この状態なのに2週間で退院したの? 僕ならあと1週間は入院させるなあ。オリンピックだ。オリンピック」と言われた。私がきょとんとしていると「まあ4年に1回くらいしか見ない、結構重い肺炎だよ」と告げられた。あの時も辛かったが、当時はまだ20代前半。それから30年経った今、38.9℃があの時よりも辛く感じる。しかし、発汗やだるさは少ないと思いながら、食事も水分も十分に取っていなかったことに気付く。部屋の冷蔵庫を開けると、そこには大みそかに娘と一緒に食べようと買い込んだ2人分のミニおせち。消費期限は今晩まで。結局、自分1人で食べることにした。部屋に備え付けの電子レンジでレトルトのご飯を温め、冷蔵庫の中で冷え冷えとなったおせち料理をつまむ。途中で2個ずつある各料理を丁寧に1個ずつ食べていたことに気付いたが、そんな必要はなかった。固めのごぼうの煮物を噛みながら「何やっているんだろう」とふと思った。幸い味覚障害はないが、うまいともまずいとも思えない。最後に500mLのペットボトルのお茶を一気飲み。喉に引っ掛けたわけでもないのに、その直後から咳も出始めた。咳をするたびに咽頭が強烈に痛む。朝食後は廊下に置かれた娘の衣服をピックアップして1階のコインランドリーで洗濯する時間である。しんどすぎるが、行くしかない。再びマスクの上下に両面テープを張り、部屋を出て娘の部屋のドアノブに下げられた洗濯物と自分の洗濯物を持って1階に降りた。幸いほかの人は誰もいない。加えて部屋の外では運よく咳も出ない。洗濯機に洗剤と洗濯物を放り込んで部屋に戻り、洗濯が終わる約40分後にスマホのタイマーをかけ、靴だけを脱ぎ、再びベッドに横になる。うとうとしているとタイマーがなり始めた。また、階下に降り、今度は30分100円の乾燥機に洗濯物を入れ替え、また部屋へ。すると、娘から「お昼はパスタが食べたい」と。ビンゴだ。部屋の電子レンジで温め、すぐに袋に入れて娘の部屋のドアノブにかける。この時、猛烈に咳が出た。慌てて部屋に戻り、LINEで「いまパスタを置き配したけど、おとう(娘は私をこう呼ぶ)がいま廊下で咳をしてしまったので10分ほど待ってから取ること」とメッセージを送った。廊下は狭く、お世辞にも換気がよいとは言えないからだ。部屋に戻ってから再度検温をする。38.6℃。念のため4回目となる抗原検査をやってみる。左右の鼻腔の奥を綿棒でこすると、くしゃみが出た。検体を流し込んでもコントロールのほうしか線は浮き上がらない。本当に新型コロナではないのか? とするとインフルエンザ?それともただの風邪?悩みに悩んで正月早々ではあるが、SNSのメッセージ機能を使って知り合いのA医師にコンタクトを取った。すぐに既読がつき、「どうしたの?」と返信。こちらの状況をメッセージに打ち込むが、発熱で頭がぼーっとしているのでその作業自体が苦痛である。音声電話機能で話せないかと提案すると、即OKの返事が来た。私から連絡してこちらの状況を伝えた。すると、「うーん、抗原検査が4日間連続陰性とはいえ、症状や今の感染流行の状況を考えればやっぱり疑いはあるよね。自分の患者が同じような状況なら念のため検査するね」との反応。私は基本的に表面的には重症化リスク因子が少ないし、安易な受診で外来ひっ迫させるのは心苦しいと告げた。ちなみにこの時点で保有していた解熱鎮痛薬は服用していない。当たり前の生体反応である発熱を無理に薬で抑え込みたくはない。まだ、もう少しは頑張れる。そんなこともこの医師には伝えた。しかし、「村上さんは50代だし、娘さんの受験も考えると、大事をとって受診して白黒はっきりさせたほうが安心じゃないですか? 幸い村上さんが今いる辺りで開業している友人がいるから連絡してあげるよ」と言われる。三が日も明けてないのにそれは気が引けると言ったが、「いや、気軽に連絡取れる仲だから。ちょっと待ってて。とりあえずお大事にね」と言って電話が切れた。電話が切れた直後、洗濯物を乾燥機から取り込まなければならないことに気づく。急いで階下に降り、乾燥機の中に手を入れるとまだ生乾き。ため息が出る。市中のコインランドリーならば30分かからずに乾くのにと思う。初日にここの乾燥機で洗濯物を完全に乾燥できるまで2時間、合計400円もかかった。娘の衣服は2組しかないが、今日のはかなり乾きにくい厚手のもの。ホテルから徒歩10分弱のところにコインランドリーがあることは知っているが、そこまで歩いて行ける状態ではなさそうだし、乾燥中はコインランドリー内で待機せねばならず、そこで他人に感染させるなどはあってはならない。かといって400円も使いたくない。とりあえず生乾きの洗濯物を持って部屋に戻ると、SNSの電話機能で着信があったことに気づく。先ほどの医師が連絡を取ると言っていた友人のB医師だった。まず、メッセージ機能で受信できなかったことを詫び、折り返しても良いかと尋ねた。すぐに既読がつき、「ええ大丈夫です」との返信。さっそく電話をして自己紹介をすると、「A先生から話は聞いています。場所も近いようですし、明日からうちは診療する予定なので受診されます?」との申し出。こちらが遠慮気味に可能か尋ねると、「新年一発目なので朝に来ていただければ、たぶん即診察できると思いますよ」とのことで、翌朝9時半の受診が決定した。2人の医師の迅速な対応に感謝しかない。とりあえず自分の体のほうはどうにか方向性は見えてきた。そうすると、気になるのが生乾きの洗濯物だ。宿泊先の部屋の間取りはユニットバスを囲むようにL字型の構造。Lの長辺にベッドと部屋の出入り口があり、短辺側にユニットバスの入り口、机、さらに壁上部にエアコンがあった。そうだ!と思い付き、自分のバッグを開け、何かの時に役に立つと思って持ち歩いていた大型の半透明ビニール袋を2つを取り出した。これと両面テープを使って短辺部分を閉鎖空間とする。そこに娘の洗濯物をハンガーでつるし、エアコンの風量を最大にして即席乾燥室を作った。これは乾燥の効率もあるが、何よりベッド付近で私が横になっている際に頻繁に咳をしていることで浮遊しているであろうエアロゾルが娘の衣服に付着することを恐れたからだ。もっとも咳は止まっているわけではないので、換気のために部屋の窓を全開にして、ベッドにもぐりこんだ。外からの冷気は、布団にくるまることでなんとか我慢できる範囲に収まった。相変わらず体は火照った感じだ。原稿執筆は難しいが文字を読めるので、そのままスマートフォンでニュースをチェックする。1時間ほどして、咳をしないように我慢しながら閉鎖空間内に入り、ユニットバスでの手洗いと手拭き後、洗濯物に触った。乾いている。それを持参していた未使用のスーパーの買い物袋に入れて封をし、廊下に出て娘の部屋のドアノブにかけた。部屋に戻り、LINEで娘に洗濯物を戻した旨を伝えたメッセージが既読になったことを確認すると、そのまま眠りに落ちてしまった。再び目を覚ましたのは午後7時過ぎに娘からのLINEメッセージの着信があった時だ。夕飯のリクエストである。「海鮮丼」とある。え? コンビニにあったっけ? 寿司ならあった記憶があるが、すぐに思い浮かばない。とりあえずネットで検索してみる。どうやら近所にあるコンビニチェーンにはそれに近い物がありそうだ。ホテルから最短距離にあるコンビニチェーンなので行ってみたが、海鮮丼はなく、寿司のみ。店外に出て娘にLINEで「海鮮丼はないので、寿司でもいい?」とメッセージする。屋外の人気のないところに移動して返信を待つが反応はない。発熱による火照りのせいか徐々に視界がぐらぐらしてくる。10分過ぎても返信はない。LINEの音声通話で呼び出すが、反応なし。18分経過してようやく返信があり、寿司で落ち着いた。寿司を買って帰るも足元はフラフラ。部屋のあるフロアに付くと寿司の一部が容器内で横倒しになっていた。置き配をしてから部屋に戻り、検温すると38.6℃。食欲はなかったが、レトルトパックのカレーとご飯を用意して、作業のようにもくもくと口に放り込んでから、ベッドにもぐりこんだ。9時半過ぎにじんわりと汗ばんでいることに気づいて目を覚ますと、数分前に娘からLINEメッセージが着信していたことに気付く。曰く「明日、この近くの自習室に行きたい」。娘が在籍している予備校の校舎と今いるホテルは電車での移動が必要だが、最寄り駅近くにも別校舎があり、在籍校舎が異なっても自習室は使える。そしてこのメッセージは「送ってくれ」という意味も含んでいるのは父親としてはすぐわかった。しかし、10分強は歩かねばならず、最短距離を採用すると空間的に密な地下道を通過しなければならない。ただ、地下道の入り口までは開放的な屋外で、正月三が日ならば、通常よりも人通りは少ないだろう。娘は地下道入り口から先の道はわかる。自習室が開くのは午前9時だが、席を確保するには、9時ちょうどには到着しなければならない。私が予約した診察は9時半だが、クリニックはホテルからは徒歩5分ほど。ということで娘には地下道入り口までの条件で送っていくことを承諾した。そして原稿を書かねばと思い、椅子に座ってパソコン(PC)に向かったが、やはり30分が限界。結局、またベッドに横になるしかなかった。(次回に続く)

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第145回 三重大臨床麻酔部汚職事件、元教授に懲役2年6ヵ月、執行猶予4年の有罪判決、賄賂は「オノアクト使用の見返りだった」

岸田首相G7広島サミットを意識?今春にもコロナは5類にこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この連載もまもなく3年を迎え150回近くとなりますが、その半分以上は新型コロウイルス感染症に対する国の対応について書いてきたのではないかと思います。そのコロナ対応も、いよいよ大きな転換期を迎えます。岸田 文雄首相が1月20日、新型コロナウイルス感染症の感染症法上の分類を、今春から5類に変更する方針を示し、23日から専門家らによる感染症部会で本格的な議論が開始されたためです。昨年11月、感染症法等を改正し、都道府県は地域医療支援病院や特定機能病院などとあらかじめ協定を結び、病床確保や発熱外来といった医療の提供を義務付けることになったばかりですが、5類にすればそうした義務付けから外れることになります。これまでコロナを診てこなかった医療機関も、通常の風邪と同じように診療、入院させるようになると期待されていますが、本当にそうなるでしょうか。コロナ禍の中での多くの医療機関の消極的な対応を見てきた経験から言うと、はなはだ疑問です。あわせて気になったのは、1月19日に日本医師会の松本 吉郎会長が岸田総理と面会し、政府が新型コロナの感染症法上の見直しを行った場合でも、公費負担などを継続するよう要望したことです。報道等によれば松本会長は「患者さんに負担が掛からないように、それから医療機関の感染対応にもできる限り支援を継続していただきたいということをお話しした」と語ったそうです。5類に移行すれば医療費などの公費負担の法的根拠がなくなるのは当然です。なのに「公費負担は続けろ」とは、意味がわかりません。普通の風邪ならば、医療機関を受診したい人や重症化リスクが高い高齢者などは受診し、そうでない人は自力で治す(もともとほとんどの風邪は医療機関を受診しなくても治ります)というのが筋です。公費負担を続けるということは、受診不要と思われる軽症患者まで掘り起こすことになりそうです。医療機関の経営にはプラスでしょうが、結局、無駄な医療費の増加を招くだけではないでしょうか。松本会長の要請に岸田首相は「しっかりと検討したい」と応じたそうです。5月開催予定のG7広島サミットで海外首脳を迎える前に、5類にして屋内のマスク着用も不要にしておきたい、という少々自分勝手な考えもあるのではないでしょうか。未だ、マスク着用がルール化されている先進国は日本くらいだからです(エリザベス女王の国葬の時、日本の天皇陛下のマスク着用が話題となりました)。複数の関係者たちの公判のうち大トリとも言える元教授に判決さて今回は、この連載でも何度(今回で7回目)も取り上げてきた三重大病院臨床麻酔部の汚職事件を取り上げます(「第133回 三重大病院臨床麻酔部事件、元教授に懲役4年の求刑、大学は新教授で再スタート」ほか)。薬剤の積極的な使用や医療機器の納入に便宜を図る見返りに現金を受け取ったなどとして、第三者供賄と詐欺の罪に問われた、三重大学医学部附属病院の臨床麻酔部元教授(56歳)の判決公判が1月19日に津地方裁判所であり、柴田 誠裁判長は懲役2年6ヵ月・執行猶予4年と、元教授が代表理事を務める一般社団法人に追徴金200万円(求刑懲役4年、追徴金200万円)とする有罪判決を言い渡しました。ちょうど新型コロナウイルス感染症が猛威をふるい始めた2020年9月に発覚したこの事件、複数の関係者たちの公判のうち大トリとも言える元教授の判決が出たことで、被告全員の公判が一通り終了したことになります。一連の事件では7人の有罪が既に確定この事件で被告人である元教授は、小野薬品工業が製造・販売する薬剤「ランジオロール塩酸塩(商品名:オノアクト)」を積極的に使う見返りに大学の口座に寄付金200万円を振り込ませたほか、日本光電からも200万円を提供させたとして、第三者供賄罪に問われていました。また、小野薬品のオノアクトを投与したように装い診療報酬を詐取(約80万円)したとする詐欺罪でも起訴されていました。元教授の公判は、他の被告の公判がすべて終わった2022年4月から始まりました。ちなみに、一連の事件では、診療報酬詐取事件で共犯とされた同部の元准教授、医療機器納入を巡る汚職事件で共犯とされた元講師、そして小野薬品の社員2人、日本光電の元社員3人の計7人の有罪が既に確定しています。公電磁的記録不正作出、公電磁的記録供用と詐欺の罪に問われた元准教授には懲役2年6ヵ月・執行猶予4年、第三者供賄罪に問われた元講師には懲役1年・執行猶予3年の判決が下されています。一方、贈賄罪に問われた小野薬品の社員2人には懲役8ヵ月・執行猶予3年、同じく贈賄罪に問われた日本光電の元社員1人には懲役1年・執行猶予3年、元社員2人には懲役10ヵ月・執行猶予3年の判決が下されています。最大の争点はオノアクト採用への元教授の関わり2022年4月から始まり、計14回、6ヵ月にも及ぶ審理を経て、10月に結審した今回の公判、最大の争点はオノアクト採用への元教授の関わりでした。小野薬品を巡る第三者供賄罪について元教授は、「オノアクトの効能に着目して積極的に使用していく方針を採用した」などと主張していました。また、詐欺罪についても無罪を主張し、寄付金の対価性(いわゆる見返り)が認定されるかどうかが争点となっていました。一方で元教授は、日本光電に200万円を振り込ませたとする第三者供賄罪は認めていました。報道等によれば、元教授は公判で「職務権限を利用して対価をもらったことは恥ずかしい」と語るとともに、お金の使い道を「麻酔科医を集めるため。ほとんどを飲食代に充てた」と説明したとのことです。元教授が臨床麻酔部教授に就任して以降オノアクトの処方量急増各紙報道等によれば、同日の判決で津地裁はオノアクトの積極使用と寄付の関連を認め、対価性があったとしています。具体的には、元教授が臨床麻酔部教授に就任して以降オノアクトの処方量が急増したこと、小野薬品の当時のMRの証言から元教授が「寄付金が必要だ頼むよ」「最初に世話になったところは忘れないよ」などと供述したこと、MRが作成した週報に「講演会活動を通じ三重大で『OA(オノアクト)をもっと出すための相談』が行えた。そのもっとを今後具体化していく段階に今後していこう」と記載していたことなどを指摘、「200万円の寄附とオノアクトの処方が密接に関連付けられていた」として寄付金の対価性があったと判断しました。「職務の公正さや社会の信頼を害した程度は大きい」以上を踏まえ、柴田裁判長は判決理由で「寄附金を獲得するためになりふり構わず処方量の増大に突き進んだことは異常というほかなく、職務の公正さや社会の信頼を害した程度は大きいと言わざるを得ない」と指摘。さらに、「使用されずに廃棄される医薬品が大量に生じる歪みを発生させ、診療報酬の搾取につながった」と非難したとのことです。ただ、量刑については「職務の公正さや社会の信頼を害した程度は大きいと言わざるをえないが、前科のない被告人をただちに刑務所に収容するのは重きに過ぎる」などとして懲役2年6ヵ月・執行猶予4年の有罪判決としたとのことです。判決に対し、元教授の弁護士は「判決は不当で、控訴するかどうかは被告人と相談したい」と述べたとのことです。一方、三重大学病院の池田 智明病院長は「有罪判決が下されたことを真摯に受け止めます。今後も信頼回復に向け、全力を尽くします」とのコメントを出しています。新たなスタートを切った三重大麻酔科さて、元教授の逮捕によって、三重大病院の麻酔科は混乱に陥り、地域医療にも多大な影響を及ぼしました。さらに製薬会社が大学などに提供している奨学寄付金の是非についても議論が沸き起こり、奨学寄付金を廃止する動きも広まっているようです。その意味で、元教授は法律では罪に問われない部分でも、さまざまな“罪”を犯していたと言えるでしょう。三重大の麻酔科については、2022年4月には新教授が就任、手術での麻酔を行う「臨床麻酔部」を廃止し、痛みを取り除く治療などを行う「麻酔科」に統合するという組織改編も行われました。また、麻酔の専門医を育成する研修プログラムも2023年度からスタートするとのことです。元教授が控訴すれば、裁判は続くことになりますが、少なくとも三重大病院麻酔科の再スタートは喜ばしいことです。幾多の“黒歴史”から決別し、地域の麻酔科医療を牽引する存在になることを願います。

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COPDガイドライン改訂―未診断者の早期発見と適切な管理を目指して

 COPDは、日本全体で約500万人を超える患者がいると見積もられており、多くの非専門医が診療している疾患である。そこで、疾患概念や病態、診断、治療について非専門医にもわかりやすく解説する「COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第6版」が2022年6月24日に刊行された。本ガイドラインは、2018年版からの4年ぶりの改訂で、大きな変更点としてMindsに準拠した形で安定期COPD治療に関する15のクリニカルクエスチョン(CQ)を設定したことが挙げられる。本ガイドライン作成委員会の委員長を務めた柴田 陽光氏(福島県立医科大学呼吸器内科学講座 教授)に改訂点や日常診療におけるCOPD診断・治療のポイントについて、話を聞いた。未診断のCOPD患者を発見するために COPD患者は、なかなか症状を訴えないことが多いという。柴田氏は、「高齢の方は『歳だから、あるいはタバコを吸っているから仕方がない』と考えていたり、無意識のうちに身体活動レベルを落としていて、息切れを感じなくなっていたりすることもある」と話す。そのような背景から、未診断のままの患者が存在し、診断がつく時点ではかなり進行していることも多い。そこで第6版では、「風邪が治りにくい」「風邪の症状が強い」などの増悪期の症状や、気道感染時の症状で医療機関を受診したときが診断の契機となることなどを強調した。 COPDの確定診断には呼吸機能検査が必要であるが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響や設備の問題で実施が難しい場合も多い。その場合は「長期の喫煙歴と息切れがあり、咳や痰などの慢性的な症状が併存し、他疾患を否定できればCOPDの可能性がかなり高い。病診連携などを活用して画像診断を実施し、肺気腫を発見してほしい」と述べた。また、呼吸機能検査が難しい場合の診断について、日本呼吸器学会では「COVID-19流行期日常診療における慢性閉塞性肺疾患(COPD)の作業診断と管理手順」を公表しており、本ガイドラインにも掲載されているので参照されたい。管理目標と安定期の治療 第6版では、COPDの管理目標に「疾患進行の抑制および健康寿命の延長」が追加された。その背景として、「疾患進行抑制の最大の要素である禁煙の重要性を強調したい」、「何らかの症状を抱えていたり、生活に不自由を感じていたりする患者の多いCOPDでは、健康寿命に影響を及ぼすフレイルに陥らないようにして、健康寿命を延ばすことの重要性を強調したい」という意図があると、柴田氏は述べた。 安定期の治療について、第6版では「安定期COPD管理のアルゴリズム」が喘息病態の合併例と非合併例に分けて記載された。柴田氏は「COPD患者の約4分の1が喘息を合併し、喘息合併例では吸入ステロイド薬(ICS)が治療の基本となるため、治療の入り口を分けた」と解説する。具体的には、日頃からの息切れと慢性的な咳・痰がある場合、喘息非合併例では「長時間作用性抗コリン薬(LAMA)あるいは長時間作用性β2刺激薬(LABA)」、喘息合併例では「ICS+LABAあるいはICS+LAMA」から治療を開始し、症状の悪化あるいは増悪がみられる場合、喘息非合併例では「LAMA+LABA(テオフィリン・喀痰調整薬の追加)」、喘息合併例では「ICS+LABA+LAMA(テオフィリン・喀痰調整薬の追加)」にステップアップする。 喘息非合併例では、頻回の増悪かつ末梢好酸球数増多がみられる患者には「LAMA+LABA+ICS」の使用を考慮する。なお、喘息非合併の安定期COPD治療は、LAMAまたはLABAの単剤で始めなければならないというわけではなく、「CAT(COPDアセスメントテスト)が20点以上やmMRC(modified British Medical Research Council)グレード2以上といった症状の強い患者は、LAMA+LABAで治療を開始しても問題ない。詳細はCQ5を参照してほしい」と述べた。 安定期の治療について、第6版では15個のCQが設定された。その中で「強く推奨する」となったのは、「LAMAによる治療(CQ2)」「禁煙(CQ10)」「肺炎球菌ワクチン(CQ11)」「呼吸リハビリテーション(CQ12)」の4つである。とくに「呼吸リハビリテーション」について、柴田氏は「エビデンスレベルが高く、強く推奨するという結果になったことは、まだまだ普及が進んでいない呼吸リハビリテーションを普及させるという観点から、非常に意義のあることだと考えている」と話した。 COVID-19流行期における注意点として、「COPD患者は新型コロナウイルスに感染すると重症化しやすいため、感染対策が重要となるが、身体活動性を落とさないよう定期的な運動は続けてほしい。薬物療法については、ICSを使用していてもCOVID-19の重症化リスクは上昇しないため、現在の治療を継続することが重要」とした。診断・治療共に積極的な病診連携の活用を 第6版では、病診連携の項でプライマリケア医と呼吸器専門医の役割を詳細に解説している。柴田氏は、非専門医に期待する役割について「COPD治療の基本である禁煙の徹底、併存症の管理、インフルエンザや新型コロナのワクチンに加えて肺炎球菌ワクチン接種を行ってほしい」と述べた。加えて、「COPD患者の肺がんの年間発生率は2%ともいわれるため、願わくは年1回など定期的な低線量CTを実施してほしい」とも述べた。一方、呼吸器専門医については、「呼吸機能検査を実施して診断の入口となることや、治療をしていても増悪を繰り返すような管理の難しい患者の治療、呼吸リハビリテーションの実施といった役割を期待する」と話し、病診連携を活用して呼吸器専門医に紹介してほしいと強調した。 また、COPDの薬物治療は吸入療法が中心となるため、適切な吸入指導が欠かせない。しかし、吸入薬の取り扱いや指導に不慣れな医師もいるだろう。そこで活用してほしいのが、病薬連携だという。柴田氏は「薬剤服用歴管理指導料吸入薬指導加算が算定できるため、吸入薬の取り扱いに慣れている薬局の薬剤師に、吸入指導を依頼することも可能だ。デバイスについては、患者によって向き・不向きがあり、処方変更が必要になることもあるため、病薬連携が重要となる」と述べた。COPD患者の発見と積極的な介入を 柴田氏は、非専門医の先生方へ「皆さんの思っている以上にCOPD患者は多い。70歳以上の高齢男性では4人に1人が何らかの気流閉塞があることが知られており、高血圧や循環器疾患の3人に1人はCOPDというデータもある。高齢で糖尿病を有し喫煙歴のある患者にもCOPDが多い。このような患者をどんどん発見して、治療介入してほしい。その際、本ガイドラインを活用してほしい」とメッセージを送った。COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第6版定価:4,950円(税込)判型:A4変型判頁数:312頁発行:2022年6月編集:日本呼吸器学会COPDガイドライン第6版作成委員会発行:メディカルレビュー社

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第143回 これが患者のリアル、ワクチンマニアもコロナ感染!?村上氏のヒヤヒヤ実記(前編)

先日、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)ワクチンの4回目接種の体験について書いたが、その直後、ヒヤッとする出来事が起きた。接種を受けたのは年の瀬も迫った12月27日。周囲では新型コロナ感染者が急増し、Facebookなどでつながっている友人・知人の投稿では、「感染しました」報告が相次いでいた。それから3日後、私は軽い咽頭痛を自覚した。もっともこうした経験は、コロナ禍3年目になってから2度ほどあった。私の場合、年齢は壮年期だが、幸いにして今のところ新型コロナにかかった場合に重症化リスク因子となる基礎疾患はない。このため感染した場合でも原則自宅療養を選択しようと考えている。それに備えて自分の仕事場のアパートには複数回分の抗原検査キット、解熱鎮痛薬、パルスオキシメータや非常時用のインスタント系、レトルト系の食品の備蓄はある。余談だが、私はまるか食品の「ペヤングソース焼きそば」の大ファンで、消費税増税の時などに買い込んだペヤングが常に事務所では数十個ストックがあるので、とりあえずペヤングとお湯だけでも10日ほどは飢えをしのげる。ところが咽頭痛を感じたときは、山手線のとあるターミナル駅近くのビジネスホテルに娘とともに宿泊中だった。さらに個人的な事情を話すと、私には現在医学部受験生以外では希少価値ともいわれる大学受験浪人生の娘がいる。誰に似たのか昨年現役で合格した大学があったにもかかわらず、第一志望があきらめきれず、合格した大学の入学を辞退して浪人生の道を選んだ(実は私も現役時に同じことをしている)。義父が要介護のため、妻が実家に帰省して年末年始は私と娘しかいなくなること、娘が自宅では勉強に身が入らず、さすがの予備校も大みそかと元日は自習室も閉鎖されてしまうなどの事情があり、私と娘は30日から三が日明けまでホテルに泊まりこみ合宿と相成った。隣同士の部屋で私は仕事、娘は勉強にそれぞれ勤しむという計画だった。もっとも私は娘のパシリとして食事の購入や洗濯などを引き受けるつもりでもあった。ちなみに宿泊したホテルはチェーン展開しており、チェックインはほぼ自動化され、日中は受付すら無人、部屋の清掃は1週間を超える連泊者以外なしといういかにも今風なホテルである。さて咽頭痛を自覚したときは、すぐに危機感を感じたわけではない。それでも念のために実は5回分がセットになった抗原検査キット、解熱鎮痛薬、体温計、パルスオキシメータは持参していた。さらに娘より一足先にチェックインしてパックのご飯、それにかけるレトルト、カップ麺を買い込んでいた。これはいざという時の備えというよりは、娘には望む食事を多少高くても購入して、私のほうは節約に努めるという単なる貧乏根性である。―2022年12月30日(金)30日は喉のイガイガは軽く痰が絡んだような感じ。それほどは気にしなかった。大みそかの朝は調理パンと洋風のスープが食べたいとの娘の要望に応じ、朝6時過ぎにホテルを出て周囲のコンビニを回り、ようやく洋風スープと調理パンを見つけて渡し、昼はこれまた娘の希望に応じて近くのカフェでパスタを食べさせた。もっとも大学入試共通テストを約2週間後に控えていることもあり、娘と食事中でもなるべくマスクを着用していた。―2022年12月31日(土)その日の夕方近く、今年最後のオンライン取材を終え、少しでも正月らしい気分を娘に味あわせてあげたいと考え、デパ地下に赴き、2人で食べられそうな比較的小さめのおせち料理を購入し、ホテルに戻った。ところが夜7時過ぎくらいから咽頭痛はひどくなるばかり。まさかとの思いがよぎった。実はすでに前日に抗原検査キットで陰性は確認していた。もっともある程度ウイルス量が上がらないと抗原検査が偽陰性になってしまうのは周知のこと。そのために私は連日自宅や事務所などで検査ができるよう5回分のパックを備蓄し、気になったときは3日連続で検査し、すべて陰性だった場合は注意をしながらその後1週間程度を過ごしていた。再度、検査キットを使う。検体を流し込み、浸透していく様子を見ながらコントロール手前で色がうっすらでも変わるか凝視する。再び陰性である。体温は36.8℃。とはいえ、くどいようだが隣室には2週間後に共通テストを控えた娘がいる。すぐにLINEで隣室にいる娘に私に風邪様症状があり、現在のところ抗原検査は陰性だが油断はできず、とりあえず飲食物は置き配にする旨を伝えた。とはいえ困った。自分の食事は備蓄のおかげでどうにかなるが、娘の分はそうはいかない。だが、新型コロナ感染の疑いがある自分の外出は控えねばならない。そうすると娘の食事を手配する人間がいなくなる。「本人に買わせればいいじゃないか」と言われてしまいそうだが、宿泊先のホテルは娘が嫌うピンクのネオンが時おり目に入る歓楽街の一角にあり、そのため引っ込み思案な娘は一人で出歩こうとしない。ただ、ホテルから一番近い徒歩1分ほどのところにあるコンビニは店内が広く、セルフレジがあり、そのセルフレジも有人レジからかなり離れた位置にある。また、娘が食べたがるものの多くはコンビニで調達できる。ということで、できるだけ人の少ない時間帯に最大限の感染対策をしながら、このコンビニを利用することに決める。だが、その直後、ネットサーフィンをしていて、はたとあることに気づく。このコロナ禍でモバイルオーダーかつモバイル決済で飲食デリバリーのサービス提供が進んでいる。ネット上を調べると、大手ハンバーガーチェーンを含め、ホテルの近隣でこうしたサービスを提供している店舗は少なくない。これならばどうにか対応できそうだ。そうこうしているうちに、この日はいつの間にか寝入ってしまった。―2023年1月1日(日) 元旦翌朝、娘からのLINE着信の音で目が覚めた。体がほてっているのが自分でもわかる。熱を測ると37.1℃。元日のおめでたさもなく、朝方、おにぎりとインスタントではないみそ汁をコンビニで購入して娘に届けた。届ける際はドアノブにかける。これまた幸いなことに、このホテルでは各フロアに足踏み式の消毒薬が設置されているので、ドアノブに食事などの袋をかける際は念のため手指消毒をしてから。もちろんこれまでの研究で、新型コロナの接触感染はごくまれというのも知ってはいるが、やはり娘のことを考えると気にしてしまうため、そのようになってしまう。元日の熱は37℃台の前半と後半を行ったり来たり。一応、仕事のために椅子に座ってパソコンをさわるものの、症状のせいか30分程度が限界で、その後はベッドに横になる。そして毎日、娘の衣服の洗濯がある。実はそれを見越して館内にコインランドリーもあるホテルを選んでいた。1回にあるコインランドリーは常に人気がないので助かった。もっともこのコインランドリーの乾燥機は簡易なものなのでちょっとした洗濯物の乾燥でも1時間以上はかかった。その間は部屋でおとなしく待ち、時間を計って廊下に出て、目の前で開いたエレベーターに人が乗っていないことを確認してから乗降していた。この日は一日、体がだるめ。夕方、娘が某ハンバーガーチェーンのハンバーガーが食べたいと言い出す。これはモバイルオーダーやデリバリーサービスがあったので利用することにした。決済もモバイル決済が可能だったが、ホテル1階で私が受け取らなければならない。幸い1階エレベーター脇に消毒薬を設置した比較的広めのテーブルがあったので、そこに置いてもらうことにする。配達完了の電話連絡があり、私はマスクをつけ、1階に降りてピックアップして、隣室のドアノブにかけ、娘にLINEをする。ちなみにたまたま私のカバンには両面テープがあったため、部屋からの外出時はマスクの上下両端に両面テープを張り、顔にピッタリ密着させていた。気にし過ぎと思われるかもしれないが、自分の飛沫で他人に感染をさせたくないからである。もっともこれをするとマスク内が異様に暑くなる。この日は夜9時には就寝したが、深夜2時過ぎ、体のほてりがひどく目が覚める。体温計の数字は38.1℃。来たかという感じだった。(次回に続く)

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TYK2を選択的に阻害する乾癬治療薬「ソーティクツ錠6mg」【下平博士のDIノート】第113回

TYK2を選択的に阻害する乾癬治療薬「ソーティクツ錠6mg」今回は、チロシンキナーゼ2(TYK2)阻害薬「デュークラバシチニブ錠(商品名:ソーティクツ錠6mg、製造販売元:ブリストル・マイヤーズ スクイブ)」を紹介します。本剤は、TYK2を選択的に阻害する世界初の経口薬で、既存治療で効果が不十分であった患者や、副作用などにより治療継続が困難であった患者の新たな選択肢として期待されています。<効能・効果>本剤は、既存治療で効果不十分な尋常性乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症の適応で、2022年9月26日に製造販売承認を取得し、同年11月16日に発売されました。光線療法を含む既存の全身療法(生物学的製剤を除く)などで十分な効果が得られず皮疹が体表面積の10%以上に及ぶ場合や、難治性の皮疹や膿疱を有する場合に使用します。<用法・用量>通常、成人にはデュークラバシチニブとして1回6mgを1日1回経口投与します。なお、本剤使用前には結核・B型肝炎のスクリーニングを行い、24週以内に本剤による治療反応が得られない場合は、治療計画の継続を慎重に判断します。<安全性>国際共同第III相臨床試験(IM011-046試験)において、本剤投与群の22.0%(117/531例)に臨床検査値異常を含む副作用が発現しました。主なものは、下痢2.6%(14例)、上咽頭炎2.4%(13例)、上気道感染2.3%(12例)、頭痛1.9%(10例)などでした。なお、重大な副作用として、重篤な感染症(0.2%)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、乾癬の原因となる酵素の働きを抑えることで、皮膚の炎症などの症状を改善します。2.免疫を抑える作用があるため、発熱、寒気、体がだるい、咳が続くなどの一般的な感染症症状のほか、帯状疱疹や単純ヘルペスなどの症状に注意し、気になる症状が現れた場合は速やかにご相談ください。3.本剤を使用している間は、生ワクチン(BCG、麻疹・風疹混合/単独、水痘、おたふく風邪など)の接種ができないので、接種の必要がある場合は医師にご相談ください。4.感染症を防ぐため、日頃からうがいや手洗いを行い、規則正しい生活を心掛けてください。また、衣服は肌がこすれにくくゆったりとしたものを選び、高温や長時間の入浴はできるだけ避けましょう。<Shimo's eyes>本剤は、TYK2阻害作用を有する世界初の経口乾癬治療薬です。TYK2はヤヌスキナーゼ(JAK)ファミリーの分子ですが、本剤のようなTYK2だけを選択的に阻害する薬剤は比較的安全に使用できるのではでないかと期待されています。乾癬の治療としては、副腎皮質ステロイドやビタミンD3誘導体による外用療法、光線療法、シクロスポリンやエトレチナート(商品名:チガソン)などによる内服療法が行われています。近年では、多くの生物学的製剤が開発され、既存治療で効果不十分な場合や難治性の場合、痛みが激しくQOLが低下している場合などで広く使用されるようになりました。現在、乾癬に適応を持つ生物学的製剤は下表のとおりです。また、同じ経口薬としてPDE4阻害薬のアプレミラスト(同:オテズラ)が「局所療法で効果不十分な尋常性乾癬、関節症性乾癬」の適応で承認されています。臨床試験において、本剤投与群ではアプレミラストを上回る有効性を示しており、この点が評価されて薬価算定では40%の加算(有用性加算I)が付きました。安全性では、結核の既往歴を有する患者では結核を活動化させる可能性があるため注意が必要です。また、感染症の発症、帯状疱疹やB型肝炎ウイルスの再活性化の懸念もあるため、症状の発現が認められた場合にはすぐに受診するよう患者さんに説明しましょう。TYK2阻害薬は自己免疫疾患に対する新規作用機序の薬剤であり、今後の期待として潰瘍性大腸炎や全身性エリテマトーデスなどの幅広い疾患に適応が広がる可能性があり、注目されています。

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高齢者施設での新型コロナ被害を最小限にするために/COVID-19対策アドバイザリーボード

 第112回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードが、12月28日に開催された。その中で「高齢者・障がい者施設における被害を最小限にするために」が、舘田 一博氏(東邦大学医学部教授)らのグループより発表された。 このレポートでは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に感染すると死亡などのリスクの高い、高齢者・障害者を念頭に大人数が集まるケア施設内などでのクラスター感染を防ぐための対応や具体的な取り組み法として、健康チェック、ワクチン、早期診断と対応、早期治療、予防投与が可能な薬剤、リスク時の対応、保健所や医療機関との連携などが示されている。医療機関外での感染者対応が課題 はじめに「第8波のリスクと高齢者・障がい者施設を守ることの重要性」と題し、これまでわが国では、高齢者・障害者施設において多数のクラスターを経験、多くの命が失われたこと、現在は第8波の入り口であり、年末年始の諸行事により急激な感染者数の増加が生じるリスクが高まることを指摘する。そして、死亡者数が1日270人(2022年12月15日時点)と増加中であり、その多くが高齢者や基礎疾患を有する人で、とくに集団感染が生じやすい高齢者・障害者施設、慢性期医療機関がリスクの中心であり、その被害をいかに減らすかが重要となる。また、今冬はインフルエンザとの同時流行が懸念され、こうした施設内においても、COVID-19とインフルエンザが同時期に流行し両方の感染者が増大したことを想定した備えが必要になると注意を喚起しているほか、ワクチンなどの普及により軽症例や無症候例もあり、すべてが医療機関への入院ではなく感染者の状態に応じて施設内対応が求められる事例が増加しており、感染者や濃厚接触者への感染対策や治療を施設などでも行っていくことが求められるようになっている。高齢者や障害者の命を守ることができる施設対策へ 高齢者・障害者施設で求められる第8波対策は以下の通り。1)健康チェック入所者・職員の毎日の健康チェックが重要。発熱・咳・咽頭痛(違和感)・全身倦怠感などがみられた場合には感染の可能性を考えて迅速に対応。都道府県が実施している職員対象のPCR検査や抗原定性検査キットによる定期的検査を積極的に活用し、感染の早期発見に努めること。2)ワクチン接種オミクロン対応2価ワクチンが利用でき、それ以外の新型コロナワクチンの最終接種から3ヵ月を経過した時点からは次のワクチン接種が受けられる。施設利用者に対しては集団的接種などによる接種機会の確保を図るとともに、職員にも早めの接種を推奨する。また、インフルエンザワクチンとの同時接種も可能。3)早期診断・早期対応「風邪かな?」と思ったら、コロナやインフルエンザの可能性を考えて検査を実施することが必要。典型例を除き(インフルエンザ流行時の急激な発熱・筋肉痛など)、臨床症状だけで両者を鑑別することは困難。現在では、コロナだけでなく、インフルエンザも同時に診断できる簡易抗原検査キットが利用可能なので、施設ごとに協力医療機関などと連携の上で、検査キットを備えておくことが勧められる。4)コロナと診断された場合の早期治療これまでにコロナに対する治療薬として抗ウイルス経口薬(3種類)と注射薬(1種類)、中和抗体薬(3種類)に加えて、免疫抑制剤(3種類)が承認されている。高齢者や重症化リスクのある人には早期の治療開始が重要。しかし、高齢者・障害者施設においては、医師が常駐していないこともあり、施設特性や得られる医療支援に応じて、無理のない範囲で使用可能な治療薬の検討を行い、感染発生を想定した準備を行うことも重要。5)予防投与が可能な薬剤施設内で感染者が発生し、クラスターのリスクが高まっている場合、あるいは免疫抑制状態が強く重症化リスクが高い入所者において、曝露後に使用できる薬剤としてカシリビマブ/イムデビマブ(商品名:ロナプリーブ)が承認されている。オミクロン株の流行の中で中和活性の低下が報告されているが、中和活性に加えて感染細胞を排除する作用(エフェクター機能)があることも報告されており、他の薬剤が使用できない場合の投与が承認されている。施設内でのクラスター発生時、感染者周囲の曝露者に対して予防投与を早期に行うことにより発症および重症化を抑制できる可能性がある。施設の特性や得られる医療支援を考慮し、無理のない範囲で、予防投与の進め方に関して担当医師と相談しておくことも重要。6)クラスターのリスクが高まっている場面での感染対策の実際施設内で感染者が発生した場合に、施設内で隔離および治療を行わなければいけない場合も増加している。これまでの経験をもとに感染対策を実施し、他の入所者に感染を広げない対策が必要になる。施設内では人材・感染対策資材も限られており、ゼロリスクを求める対策は困難だが、施設で実施することが可能なリスクを減らす対策を組み合わせて対応することが必要になる。〔高齢者・障害者施設におけるエアロゾル感染対策の考え方〕(1)屋内における密集を避ける(2)換気扇を常時稼働させる(3)人数が増えたら窓を開ける(4)扇風機を外に向かって回す(5)パーティションは必要時に設置する(6)空気清浄機を活用する7)保健所・医療機関との連携の重要性クラスターの発生前から保健所や医療機関との連携が取れるように、日常から備えておくことが重要。とくに医師が常駐していない施設では、感染疑いの入所者・職員が出た場合の検査や治療の実施に関して事前に保健所や医療機関と相談をしておく必要がある。感染者が明らかとなった場合には、保健所・医療機関に速やかに連絡し、必要な治療を開始することが重症化抑制、クラスター対策として効果的。第8波を前に保健所・連携医療機関と対応の実際に関してお互いに確認しておくことをお勧めする。〔高齢者・障害者施設における感染対策のポイント〕・最終ワクチン接種後、3ヵ月を経過したら次の接種が可能(コロナとインフルエンザワクチンの同時接種も可能)・早期発見「かぜ」かな?と思ったら検査を実施(適宜、コロナ・インフルエンザ同時抗原検査を利用)・リスクを減らす対策を可能な限り組み合わせて対応・人との接触時(近距離・直接)はマスク着用と効果的な換気が基本(吸引などの場合はN95マスクを使用)・医療機関・保健所との連携の確認(早めの診断と治療、感染の拡大予防が可能になるよう前もって相談)

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1月9日 風邪の日【今日は何の日?】

【1月9日 風邪の日】〔由来〕寛政7(1795)年の旧暦の今日、第4代横綱で63連勝の記録を持つ谷風 梶之助が風邪で亡くなったことに由来して制定。インフルエンザや風邪が流行する季節でもあることから、医療機関や教育機関で風邪などへの予防啓発で周知されている。関連コンテンツ「迷わない発熱の診方」【診療よろず相談TV】咳嗽も侮れない!主訴の傾聴だけでは救命に至らない一例【Dr.山中の攻める!問診3step】第10回鼻が詰まったときの症状チェック咳・痰が続くときの症状チェック喉が痛いときの症状チェック

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第23回 病院の黙食はいつまで?

緩和された学校の「黙食」コロナ禍の「黙食」って誰が考えたのかな?と思ってGoogleで調べてみました。Wikipediaによると「会食が感染拡大の要因であると槍玉に上げられた飲食店が、苦肉の策として『黙食(もくしょく)』を提唱したことが始まりとされる」と書かれてあり、福岡県の飲食店の店主が考案したらしい、とのことでした。文部科学省は11月29日、学校の給食時に適切な感染対策を講じている場合は「黙食」を求めない方針へ推奨を変更しました。「新型コロナはただの風邪だから、マスク撤廃してウェイウェイ食事しようぜー!」というわけではなく、ゆっくりと日常に戻していきましょうというメッセージと理解しています。しかし、一部の学校では当面「黙食」を継続する方向とのことで、世論はまたもや二分される状態となっています。教育現場にいる知り合いからも「教室内で子供と子供の間隔を2メートル取るというのは不可能なので、結局は黙食継続ということではないか、というのが現場の感覚」というコメントもいただきました。このあたりの現場とのすり合わせ、文科省も頑張ってほしいと思います。濃厚接触者の扱いの是非も含めて、総合的に間引いていかないと現場が混乱しますよね。ゴリゴリにマニュアルを遵守しなければならないような堅苦しさなんて、いっそのこと撤廃するほうが、たぶんやりやすいのでしょうが。日本はもともと「黙食」だった恵方巻きは黙って食べるのはともかくとして、現代の食事というのは会話をしながら…というのが当たり前になっていたように思います。しかし、昔から食事のときは無駄口を叩かないというのがマナーだったという側面もあります。食事中に会話するのは、ちゃぶ台が登場した大正時代が始まりだそうです。伝統的な食卓ではまだ「家」の原理が働いていたので、士族家庭では家父長的色彩が強く、言葉遣いや礼儀作法の教育を食事中に受けたとされています1)。家長中心の食事は非常に厳しいもので、会話などもってのほかだったそうです。なぜ食事中の会話が下品だとしつけられたのかはよくわかりません。昭和時代にテレビが登場し、このあたりから食事中の会話が増えていったようです。しつけや「家」の大切さを教える場ではなくなっていったということですね。一部の私立校などでは、コロナ禍以前から給食中は基本的に黙食で、音楽を流しているところもあります。これは食事中に大声で会話することが、行儀が悪いと考えているからかもしれません。医療現場の食事はどうなる?同じテーブルにいたり、マスクなしで会話したりすると感染しやすくなるというエビデンスはあるのですが、食事中にお話をしながら食べることと、黙食をすることで、感染リスクに差があったかどうかを調べた研究はありません。医学論文大好きマンの私が検索したかぎりの話なので、もしそういう比較試験があったら申し訳ないですが。われわれの医療現場では、黙食が当たり前になっています。もう新型コロナに慣れてしまって、本当にみんな黙食をしているのかどうかグレーな部分はありますが、少なくとも医療従事者は黙食を続けることには、ある程度コンセンサスがあるようです。新型コロナの法的な位置付けがもしダウングレードされても、われわれの「黙食」の文化はしばらく続くかもしれませんね。デリケートな問題なので言及しにくいと思いますが、このあたりは学会なども提言を出してもらえるとありがたいですね。にしても、医療機関ではしばらく「黙食」が続くとなると、忘年会などの飲み会はもう許されないのかもしれない…、とちょっと悲観的な未来を見据えています。参考文献・参考サイト1)岡田みゆき. 食事中の会話の教育的意義一父子の会話の歴史的変遷一. 日本家庭科教育学会誌. 1998;41(3):9-16.

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葛根湯+小柴胡湯加桔梗石膏でコロナ増悪抑制の可能性/東北大学ほか

 軽症および中等症Iの新型コロナウイルス感染症患者に対し、葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏を追加投与することで、発熱症状が早期に緩和し、呼吸不全への増悪リスクが低かったことが、東北大学大学院医学系研究科漢方・統合医療学共同研究講座の高山 真氏らの研究グループによる多施設共同ランダム化比較試験で明らかになった。Frontiers in pharmacology誌2022年11月9日掲載の報告。葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏を併用したコロナ患者は増悪リスクが低かった 調査は、2021年2月22日~2022年2月16日にかけて国内7施設で行われた。20歳以上の軽症および中等症Iの新型コロナウイルス感染症患者161例を、解熱薬や鎮咳薬による通常治療を行うグループ(対照群、80例)と、通常治療に加えて葛根湯エキス顆粒2.5gと小柴胡湯加桔梗石膏エキス顆粒2.5gを1日3回14日間併用するグループ(漢方薬群、81例)にランダムに割り付け、その効果を比較検討した。主要評価項目は1つ以上の風邪様症状の緩和までの日数で、副次的評価項目は各症状が緩和するまでの日数および呼吸不全への増悪であった。 コロナ治療に葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏を併用する効果を比較検討した主な結果は以下のとおり。・解析対象となったコロナ患者は、葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏を併用する漢方薬群70例(男性45例[64.3%]、年齢中央値35歳)、対照群73例(男性47例[64.4%]、年齢中央値37歳)であった。・1つ以上の風邪様症状緩和までの日数は、漢方薬群と対照群で有意差はみられなかった(p=0.43)。・共変量調整後の累積発熱率では、漢方薬群のほうが対照群より有意に回復が早かった(ハザード比[HR]:1.76、95%信頼区間[CI]:1.03~3.01、p=0.0385)。・中等症Iのコロナ患者における呼吸不全への増悪リスクは、漢方薬群のほうが対照群よりも低かった(リスク差:−0.13、95%CI:−0.27~0.01、p=0.0752)。・両群で薬物投与に関連する有害事象に有意な差はみられなかった。

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第136回 ゾコーバがついに緊急承認、本承認までに残された命題とは

こちらでも何度も取り上げていた塩野義製薬の新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)治療薬のエンシトレルビル(商品名:ゾコーバ)がついに11月22日、緊急承認された。今回審議が行われた第5回薬事分科会・第13回医薬品第二部会合同会議も公開で行われたが、緊急承認に対して否定的意見が多数派だった前回に比べれば、かなり大人しいものになった。今回の再審議に当たって新たに塩野義製薬から提出されたデータは同薬の第II/III相試験の第III相パートの速報値だが、その内容については過去の本連載で触れたので割愛したい。審議内で一つ明らかになったのは第III相パートの主要評価項目、有効性の検証対象の用量、有効性の主要な解析対象集団が試験中に変更されていたことだ。もともと、エンシトレルビルでの主要評価項目は新型コロナ関連12症状の改善だったが、前回の合同会議で示された第IIb相パートの結果やオミクロン株の特性に合わせて、最終的な主要評価項目はオミクロン株に特徴的な5症状に変更されたという。これについて医薬品医療機器総合機構(PMDA)側は、新型コロナは流行株の変化で患者の臨床像なども変化することから、主要評価項目の適切さを試験開始前に設定するのは相当の困難これら変更が試験の盲検キーオープン前だったとの見解で許容している。少なくとも第IIb相のサブ解析結果の教訓を生かした形だ。そして、今回の審議でまず“噛みついた”のは前回審議で参考人の利益相反(COI)状況などを激しく責め立てた山梨大学学長の島田 眞路氏だった(参考:第118回)。その要点は以下の2点だ。緊急承認の条件には「代替手段がない」とあるが、すでに経口薬は2種類ある日本人集団だけ(治験は日本、韓国、ベトナムで実施)での解析では症状改善までの期間短縮はわずか6時間程度でとても有効とは言い切れないこれに対して事務方からの回答は以下のようなものだ。国産で安定供給ができ、適応が重症化リスクを問わないので代替手段がないに該当する日本人部分集団で群間差が小さい傾向が認められたことについて、評価・考察を行うための情報には限りがあり、今後改めて評価する必要がある島田氏の日本人集団に関する指摘に関しては、そもそも臨床試験自体が3ヵ国全体の参加者で無作為化されていることを考えれば、日本人集団のみのサブ解析結果は参考値程度に過ぎず、申し訳ないが揚げ足取りの感は否めない。もっとも島田氏がこの事務局説明に対して「(重症化)リスクのない人に使えるから良いんじゃないかって、リスクのない人はちょっと風邪症状があるなら、風邪薬でも飲んどきゃ良いんですよ」と反論したことは大筋で間違いではない。ただし、過去の新型コロナ患者の中には、表向きは基礎疾患がないにもかかわらず死亡した例があることも考えると、さすがに私個人はここまでは断言しにくい。一方、参加した委員から比較的質問・指摘が集中したのがウイルス量低下の意義に関するものだ。議決権はない国立病院機構名古屋医療センターの横幕 能行氏は「(今回の資料では)感染あるいは発症から72時間以内に投与しないと、機序も含めた解釈ではウイルス活性を絶ち切る、もしくはそれに近い効果を得ることはできない。そして72時間以降の投与ではウイルス量の低下もしくは感染性の低下については基本的にはまったく効果がないと読める。感染伝播の阻止、早期の職場復帰などを考えると、ウイルス量もしくは感染性の低下に関する効果のこの点を十分に認識していただいた上で市中に出す必要があるかと思う」と指摘した。これに関して事務方からは「ウイルス量低下の部分は、確かに数値の低下が認められているものの、これがどの程度の臨床的意義を持つかについてはなかなか評価が難しい」というすっきりしない反応だった。現段階でのデータではPMDAも何とも言えないのも実情だろう。最終的には島田氏以外の賛成多数により緊急承認が認められたが、臨床現場での意義はやはり依然として微妙だ。過去にも繰り返し書いているが、エンシトレルビルは、ニルマトレルビル/リトナビル(商品名:パキロビッド)と同じCYP3A阻害作用を有する3CLプロテアーゼ阻害薬であるため、併用禁忌薬は36種類とかなり多い。中には降圧薬、高脂血症治療薬、抗凝固薬といった中高年に処方割合の多い薬剤も多く、この年齢層で投与対象は少ないとみられる。そもそもこの層はモルヌピラビルやニルマトレルビル/リトナビルとも競合するため、これまでの使用実績が多いこれら薬剤のほうが選択肢として優先されるはずだ。となると若年者だが、催奇形性の問題から妊孕性のある女性では使いにくいことはこれまでも繰り返し述べてきたとおりだ。今回の緊急承認を受けて日本感染症学会が公表した「COVID-19に対する薬物治療の考え方第 15版」では、妊孕性のある女性へのエンシトレルビルの投与に当たっては▽問診で直前の月経終了日以降に性交渉を行っていないことを確認する▽投与開始前に妊娠検査を行い、陰性であることを確認することが望ましい、と注意喚起がされている。しかし、現実の臨床現場でこれが可能だろうか? 女性医師が女性患者に尋ねる場合でも、かなり高いハードルと言える。となると、ごく一部の若年男性が対象となるが、これまで国も都道府県も重症化リスクのない若年者へはむしろ受診を控えるよう呼びかけている。もしこうした若年男性がエンシトレルビルの処方を受けたいあまり発熱外来に殺到するならば、感染拡大期には逆に医療逼迫を加速させてしまい本末転倒である。では前述のような見かけ上では重症化リスクがないにもかかわらず突然死亡に至ってしまうような危険性がある症例を選び出して処方できるかと言えば、そうした危険性のある症例自体が現時点ではまだ十分に医学的プロファイリングができていない。そもそも、エンシトレルビルの第III相パートの結果で明らかになったのはオミクロン株特有の臨床症状の改善であって、重症化予防は今のところ未知数だ。となると、後は重症化リスクのない軽症・中等症の中で臨床症状が重めな「軽症の中の重症」のようなやや頭の中がこんがらがりそうな症例を選ばなければならない。強いて言うならば、たとえば酸素飽和度の基準で軽症と中等症を行ったり来たりするような不安定な症例だろうか? ただ、今までもこうした症例で抗ウイルス薬なしで対処できた例も少なくないだろう。そして国の一括買い上げのため価格は不明だが、抗ウイルス薬が安価なはずはなく、多くの臨床医が投与基準でかなり悩むことになるだろう。ならば専門医ほどいっそ端から使わないという選択肢、非専門医は悩んだ末にかなり幅広く処方するという二極分化が起こりうる可能性もある。この薬がこうも悩ましい状況を生み出してしまうのは、前回の合同会議の審議でも話題の中心だった「臨床症状改善効果の微妙さ」という点にかなり起因する。今回の第III相パートの結果では、オミクロン株に特徴的な5症状総合での改善ではプラセボ対照でようやく有意差は認められたものの、有意水準をどうにかクリアしたレベル(p=0.04)だ。ちなみに、もともとの主要評価項目だった12症状総合では今回も有意差は認められなかった。さらに言うと、緊急承認後に塩野義製薬が開催した記者会見後のぶら下がり質疑の中で同社の執行役員・医薬開発本部長の上原 健城氏は、今回の試験では解熱鎮痛薬の服用は除外基準に入っておらず、第III相パートでは両群とも被験者の2~3割はエンシトレルビルと解熱鎮痛薬の併用だったことを明らかにしている。もちろんリアルワールドを考えれば、解熱鎮痛薬を服用していない患者のみを集めるのは難しいだろう。「(解熱鎮痛薬服用が症状判定の)ノイズになってしまってはいけないので、服用直後数時間はデータを取らないようにした」(上原氏)とのこと。ただし、解熱鎮痛薬の抗炎症効果を考えれば、今回の主要評価項目に含まれていたオミクロン株に特徴的な症状のうち、「喉の痛み」の改善などには影響を及ぼす可能性はある。そうなるとエンシトレルビルの「真水」の薬効は、ますます微妙だと言わざるを得ない。もちろん今回の第III相パートはそもそも9割以上の被験者がワクチン接種済みで、さらに2~3割が解熱鎮痛薬の服用があった中でも有意差を認めたのだから、それらがない前提ならばもっと効果を発揮できた可能性もあるのでは? という推定も成り立つが、そう事は簡単な話ではない。緊急承認という枠組みで今後の追加データ次第では1年後に本承認となるか否かという大きな命題が残っていることもあるが、「統計学的有意差を認めたから、少なくとも現時点での緊急承認はこれで一件落着」と素直には言い難いと私個人は思っている。

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第21回 第8波で「風邪薬」が軒並み出荷調整へ

沖縄第7波と対照的第8波は北海道からスタートです。第7波で沖縄が壊滅的な医療逼迫に陥ったことが記憶に新しいと思います。夏の沖縄に観光に行って、そのまま新型コロナのホテル療養になるという災難な人もいました。第7波に大きな痛手を負った地域ほど今回流行がゆるやかな印象です。これまでの波の集団免疫が影響しているのかもしれません。また、北海道は一足早く紅葉シーズンと秋の味覚シーズンが到来しました。全国旅行支援の後押しもあって旅行客も多かったと聞いています。これが新規陽性者数の増加につながった可能性はあります。北海道第8波では、いとも簡単に1日の新規陽性者数1万人を超えてきました(図)。過去最多です。急峻なピークを描いて、そのまま収束してくれるとありがたいのですが、第6波のように二峰性の波になる可能性もあります。第6波は変異ウイルスによって波が2つに分離されたのですが、今回はBA.5が8割以上を占めているものの、BA.2.75、BF.7、BQ.1.1がじわじわと増えつつあります1)。かなり細分化されて報告されているため、個々の変異ウイルスが波を形成するには至らないかもしれませんが、すんなりと第8波が終わってくれるのかは神のみぞ知るです。インフルエンザとの同時流行があると、かなりやっかいなことになります。画像を拡大する図. 北海道の新型コロナ新規陽性者数(筆者作成)先日、北海道のクリニックの医師と電話でお話をしたのですが、風邪症状を治める薬剤に出荷調整がかかっており、厳しいという意見がありました。トラネキサム酸やトローチなどが出荷調整新型コロナやインフルエンザには抗ウイルス薬を使用しますが、症状の緩和のためには症状を治める薬剤を使用することが多いです。呼吸器内科医なので、血痰・喀血の患者さんにトラネキサム酸を使用することがあるのですが、ここ最近トラネキサム酸が処方しにくく、少し困っています。咽頭痛に対するトラネキサム酸自体もそこまでエビデンスがあるわけではないのですが、プライマリ・ケアでは結構頻用されることが多いです。今月から、デカリニウム(商品名:SPトローチ)の処方が厳しくなってきました。これもそんなにエビデンスがあるわけではないので、積極的に処方することは多くないのですが、こちらの製剤は抗がん剤などで口内炎や咽頭痛がしんどい患者さんが強く希望することもあります。処方してから初めて出荷調整がかかっていることを知ることもありますが、まあとにかく、風邪症状を治める薬剤が処方できない場面はよく経験されます。いやあ、この状況で第8波とインフルエンザシーズンを迎えるのはしんどいかもしれませんね。新型コロナの咽頭痛に対するデキサメタゾンに関しては、エビデンスは何とも言えませんが、個人的には強烈な咽頭痛でしんどそうな患者さんには、デキサメタゾンの単回投与を検討してもよいかなとも考えています。ただし、48時間以内の症状軽減でようやく有意差が付いたという、弱いエビデンスではありますが。参考文献・参考サイト1)(第107回)東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料(令和4年11月17日)

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高齢化率世界一の日本のコロナ禍超過死亡率が低いのは?/東京慈恵医大

 新型コロナウイルス感染症流行前の60歳平均余命が、コロナ禍超過死亡率と強く相関していたことを、東京慈恵会医科大学分子疫学研究部の浦島 充佳氏らが明らかにした。JAMA Network Open誌2022年10月19日掲載の報告。 新型コロナウイルス感染症は高齢者において死亡リスクがとくに高いため、世界一の高齢者大国である日本ではコロナの流行によって死亡率が高くなることが予想されていたが、実際には死亡率の増加が最も少ない国の1つである。本研究は、なぜ日本が超過死亡率を最も低く抑えることができたかを明らかにするため、コロナ流行以前(2016年など)における健康、幸福度、人口、経済などの50項目の指標と、コロナ流行中(2020年1月~2021年12月)の死亡率の変動との相関を調査した。 研究グループは、超過死亡率の判明している160ヵ国を人口の60歳以上が占める割合で4グループに分け、高齢者率が最も高い40ヵ国について、コロナ流行前の各国公表データとの関係を調査した。 主な結果は以下のとおり。・高齢者率が最も高いグループには欧米諸国、旧ソビエト連邦、東欧諸国、日本、韓国などの40ヵ国が含まれていた。総じて超過死亡率は高かったが、グループ内での開きがあり、超過死亡率がマイナスであった国は、ニュージーランド、オーストラリア、日本、ノルウェーの順であった。ロシアを含む旧ソビエト連邦や東欧諸国の超過死亡率は200を超えるなど桁違いに高かった。・50項目の指標で最も相関の強かった因子は「60歳の平均余命」で、相関係数は-0.91であった。・2番目は「2021年末までのワクチン2回接種率」で、相関係数は-0.82であった。・3番目は「国民1人当たりのGDP」で、相関係数は-0.78であった。国民1人当たりのGDPが大きい国では超過死亡率が低く、この傾向はスペイン風邪のときにも認められた。・上位3因子について多変量解析を行った結果、「60歳の平均余命」だけが有意で、他の「2021年末までのワクチン2回接種率」と「国民1人当たりのGDP」の有意性は失われた。よって、後者2因子は「60歳の平均余命」と超過死亡率との関係に対して交絡因子になっていると考えられる。・「30~70歳の心筋梗塞などの心血管疾患、脳卒中、がん、糖尿病、慢性呼吸器疾患で死亡する人口あたりの割合」は相関係数が0.90と極めて強い相関を示した。・「5歳未満の乳幼児死亡率」との強い相関は示されなかった。 同氏らは、「本調査の結果は、高齢時の長い平均余命が、質の高い医療システムとパンデミックを含む医療脅威からの回復力に関連していることを示唆している」とまとめた。

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コロナ陽性になること「怖い」が7割/アイスタット

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が広まり、3年が経とうとしている。この間、COVID-19陽性者も身近にいたりとすでに珍しいことではなくなった。そこでCOVID-19感染者の特徴およびワクチン接種回数との因果関係、また、COVID-19に関連する疑問解明を目的として、株式会社アイスタットは、全国で最も感染者数が多い東京都を対象にコロナウイルス陽性に関する調査を行った。 アンケート調査は、セルフ型アンケートツール“Freeasy”を運営するアイブリッジ株式会社の東京都在住の有職者の会員20~59歳の300人が対象。調査概要形式:WEBアンケート方式期日:2022年10月18日対象:セルフ型アンケートツール“Freeasy”の登録者300人(20~59歳/東京都/有職者)アンケートの概要・コロナ感染者は、「20・30代」「女性」「ワクチン接種回数が0~2回」で最も多い。・感染経路は、「わからない」「家族・知人・友人・恋人の濃厚接触者」が同率1位。・感染者の重症度レベルは、「軽症」が50.8%で最多、次に「自覚症状なし」の22.2%。・陽性で困ったことは、「身体的負担の増加」「行動制限の増加」が41.3%で同率1位。・コロナウイルス陽性になることについて、現在も7割近くが「怖い」と思っている。・コロナウイルスワクチン接種が「3回以上」の人は、約6割にとどまる。・ワクチン接種4回・5回目以降を「必ず接種する」は31%、「接種しない」は25.3%。・PCR検査・抗体検査を受けたことがある人は5割近く。・37.5℃以上の熱を出し、保健所や病医院に連絡をせず完治させた人は1割。・今シーズン(2022年)、インフルエンザ予防接種を受ける人は2割。東京の若い世代ほどワクチンを接種していない 質問1で「PCR検査・抗体検査の結果で『陽性』になった経験」(単回答)を聞いたところ、「あり」が21%、「なし」が79%で、コロナウイルスに感染した人は2割を占めた。また、「あり」を回答した人の属性をみると、「20・30代」「女性」「既婚」「コロナワクチン接種回数が0~2回」で最も多かった。 質問2で(コロナ陽性と回答した63名を対象)「感染経路」(複数回答)を聞いたところ、「感染経路はわからない」と「家族・知人・友人・恋人の濃厚接触者」がともに28.6%、「職場の濃厚接触者」と「身近に陽性者がいた」が14.3%の順で多かった。 質問3で(コロナ陽性と回答した63名を対象)「重症度レベル」(単回答)を聞いたところ、「軽症」が50.8%、「自覚症状なし」が22.2%、「中等症」が11.1%の順で多かった。また、コロナワクチンの接種回数別では、「自覚症状なし」を回答した人は、接種が「3回以上」の人ほど多く、「重篤」と回答した人は「0~2回」の人が多かった。 質問4で(コロナ陽性と回答した63名を対象)「陽性で困ったこと」(複数回答)を聞いたところ、「身体的負担の増加」と「行動制限の増加」がともに41.3%、「精神的負担の増加」が23.8%、経済的負担の増加が22.2%と多かった。「陽性者」では、経済的な面よりも行動制限されることが大きな負担になることが判明した。 質問5で「今後、コロナウイルス陽性になることについてどう思うか」(単回答)を聞いたところ、「怖い」が69%、「怖くない」が31%で、「怖い」と思っている人が7割近くいた。ちなみに「怖い」の推移を過去の本調査で比較してみると、第1波のときは7割から9割近くまで上昇したが、徐々に減少し、現在の7割弱まで下がった。また、「怖い」と回答した人の属性をみると「50代」「女性」「コロナ感染(陽性)経験なし」「ワクチン接種3回以上」で最も多かった。 質問6で「現在のコロナウイルスワクチン接種回数」(単回答)を聞いたところ、「3回」が47.7%、「受けたことがない」が21.7%、「4回」が15.7%と多かった。3回の接種を基準に接種率を分類してみると、「3回以上」は63.3%、「0~2回」は36.7%で、「3回以上」は半数を超えてはいるものの約6割にとどまった。また、年代別では、ワクチンを「受けたことがない」「1回」「2回」と回答した人は「20・30代」で最も多く、若い世代の接種が十分に進んでいない状況が浮き彫りとなった。 質問7で「今後、コロナウイルスワクチン接種4、5回目と誰でも接種可能となった場合、接種するか」(単回答)を聞いたところ、「感染者数や周囲の状況により接種する」が43.7%、「感染者数に関わらず、必ず接種する」が31.0%、「接種はしない」が25.3%の順で多かった。属性別にみると、「感染者数に関わらず、必ず接種する」を回答した人は、「50代」「女性」「既婚」「コロナ感染(陽性)経験なし」「ワクチン接種3回以上」で最も多く、一方で「接種はしない」を回答した人は、「20・30代」「女性」「未婚」「コロナ感染(陽性)経験あり」「ワクチン接種0~2回」で最も多かった。 質問8で「PCR検査・抗体検査などを受けたことがある場合、その理由」(複数回答)を聞いたところ、「発熱したため」が15.7%、「濃厚接触者だったため」が10.7%、「体調が悪かったので」が8.3%と続き、「一度も受けたことがない」が最多で51.7%だった。 質問9「コロナ禍で3年近く経つ中で、この期間37.5℃以上の熱を出し、保健所や病医院に連絡せず(診療を受けず)市販薬や安静で完治させたことはあるか」(単回答)を聞いたところ、「3年間、発熱はない」が57.7%、「まったくない」が28.0%、「ある」が14.3%の順で多かった。 質問10で「現在、自宅に常備している市販薬」(複数回答)を聞いたところ、「バファリン、EVE(イブ)、ノーシンAc」が35.3%、「風邪薬」が33.0%、「ロキソニン」が31.7%の順で多かった。一時期、ドラッグストアなどの店頭から姿を消した「アセトアミノフェン系の解熱剤」は14.7%で第6位だった。 質問11で「今シーズン、インフルエンザの予防接種を受ける予定があるか」(単回答)を聞いたところ、「受けない」が56.7%、「受ける」が23.3%、「悩み中」が20.0%だった。「受ける」を回答した人の属性をみると、「50代」「男性」「既婚」「ワクチン接種3回以上」が最も多かった。その一方で、「受けない」を回答した人の属性は、「40代」「男性」「未婚」「ワクチン接種0~2回」で最も多かった。

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第136回 ウイルス2種が融合して免疫をかいくぐる

異なる呼吸器ウイルス2種が融合し、免疫をより回避する新たな素質を備えうることが示されました1,2)。2つ以上のウイルスの共感染は呼吸器ウイルス感染の10~30%に認められ、とくに子供ではよくあることですが、それがどういう結末をもたらすのかは定かではありません。共感染したところで経過にどうやら変わりはないという試験結果がある一方で肺炎が増えたという報告もあります。共感染者の細胞内での2つ以上のウイルスの相互作用もよく分かっていませんが、細胞内での直接的な相互作用でウイルスの病原性が変わるかもしれません。たとえば別のウイルスの表面タンパク質を取り込んでそのウイルスもどき(pseudotyping)になるとかウイルスゲノムの再編が起きる可能性があります。ゲノムの再編は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)やパンデミックインフルエンザウイルスのような世界的に流行しうる新たなウイルス株の原因となりうる現象です。世界で500万人を超える人が毎年インフルエンザAウイルス(IAV)感染で入院しています。呼吸器合胞体ウイルス(RSV)は5歳までの小児の急な下気道感染症の主因となっています。新たな研究で英国グラスゴー大学の研究者等は一緒に出回ることが多くて重要度が高いそれら2つの呼吸器ウイルスをヒトの肺起源の細胞内に同居させて何が起きるかを調べました。生きた細胞の撮影や顕微鏡で観察したところIAVとRSVの双方からの成分を併せ持つ融合ウイルス粒子(HVP)が確認され、HVPは他の細胞に感染を広げることができました。HVPに抗IAV抗体は歯が立たないらしく、その感染細胞に抗IAV抗体を与えても感染の他の細胞への広がりを防ぐことはできませんでした。HVPはRSVからの糖タンパク質を流用して抗IAV抗体を逃れることができるのです。一方、抗RSV抗体は依然としてHVPと勝負できるらしく、HVPの細胞から細胞への広がりを防ぎました。著者によるとIAVがRSVからの授かりものを使って免疫を回避できるようになるのとは対照的にRSVはIAV糖タンパク質に細胞侵入を手伝わせることはできないようです。“IAVはRSVとの融合によりより重症の感染を招く恐れがある”と今回の研究には携わっていない英国リーズ大学のウイルス学者Stephen Griffin氏は同国のニュースTheGuardianに話しています3,4)。RSVは季節性インフルエンザに比べてより奥の肺に下って行こうとします。よってインフルエンザがRSVと同様に肺へと深入りするとより重症化するおそれがいっそう高まるかもしれません。体外での研究で今回認められたようなウイルス融合の人体での発生はまだ観察されておらず、ウイルス融合が人の健康に影響するのかどうかを今後の研究で調べる必要があります。IAVとRSVが手を取り合うのとは真反対に一方がもう一方を抑えつける関係もどうやら存在します。たとえば、風邪ウイルスとして知られるライノウイルスとSARS-CoV-2が細胞内でそういう排他的関係にあるらしいことが昨年3月の報告で示されています5,6)。その報告によるとライノウイルスはSARS-CoV-2複製を防ぐインターフェロン(IFN)反応を誘発し、ライノウイルスがいる呼吸上皮細胞でSARS-CoV-2は増えることができません。巷にあまねく広まるライノウイルスとSARS-CoV-2の相互作用は計算によると世間全般に及ぶ影響があり、ライノウイルス感染が増えるほどSARS-CoV-2感染は減るらしいと推定されています5)。参考1)Haney J, et al. Nat Microbiol. 2022;7:1879-1890.2)NEW RESEARCH SHEDS LIGHT ON HIDDEN WORLD OF VIRAL COINFECTIONS / University of Glasgow3)Immune system-evading hybrid virus observed for first time / TheGuardian4)Flu/RSV Coinfection Produces Hybrid Virus that Evades Immune Defenses / TheScientist5)Dee K, et al. J Infect Dis. 2021;224:31-38.6)Coronavirus: How the common cold can boot out Covid / BBC

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