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1月9日 風邪の日【今日は何の日?】

【1月9日 風邪の日】〔由来〕寛政7(1795)年の旧暦の今日、第4代横綱で63連勝の記録を持つ谷風 梶之助が風邪で亡くなったことに由来して制定。インフルエンザや風邪が流行する季節でもあることから、医療機関や教育機関で風邪などへの予防啓発で周知されている。関連コンテンツ手洗いの具体的な効果【患者説明用スライド】熱があるときの症状チェック【患者説明用スライド】鎮咳薬・去痰薬不足、医師が知っておきたい“患者対応Q&A”【バズった金曜日】英語で「ゼーゼーする」は?【1分★医療英語】

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手洗いの具体的な効果

手洗いは自分が病気になったり、ほかの人に病気を広げるのを防ぐ簡単で効果的な方法です!こまめな手洗いで手を清潔に保ちましょう石けんを使った手洗い、どんな効果が報告されている?・下痢になる人の数を23~40%削減・免疫力が低下している人が下痢になる可能性を58%削減・風邪などの呼吸器系の病気を16~21%削減・お腹(胃腸)の病気による子どもたちの学校の欠席を29~57%削減・下痢になる幼児の3人に1人、肺炎などの呼吸器感染症にかかる幼児の5人に1人を病気から守ります手や指に付着しているウイルスの数は、石けんやハンドソープで10秒もみ洗いし、流水で15秒すすぐと1万分の1に減らせます出典:米国疾病予防管理センター(CDC)「Show Me the Science – Why Wash Your Hands?」森功次ほか.感染症学雑誌.2006;80:496-500.Copyright © 2023 CareNet,Inc. All rights reserved.

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第73回 大正製薬が過去最大のMBO!

大正製薬がマネジメントバイアウト(MBO)Unsplashより使用大正製薬ホールディングス(HD)が、11月24日、経営陣による自社株買収(マネジメントバイアウト:MBO)を実施し、株式を非上場化すると発表しました。売上高3,000億円以上の企業でMBOであり(表)、業界で大きな話題となっています。画像を拡大する表. 売上高の高い製薬会社(筆者作成)大正製薬はもともと上場企業で、株式を公開しています。なので、極端な話、モノ言う株主が大量のお金で株式を買い占めると、経営陣の意向とは異なり、買収されてしまうリスクを孕んでいます。じゃあ最初から上場しなければいいじゃんというほど、企業経営というのは甘くなく、やはり上場して資金を集めることが必要な業種は多いです。経営母体が大きくなり、財務基盤も安定してきたことから、機動性を重視して上場を取りやめる場合、経営陣が株式を完全に買い集めて上場廃止にすることがあります。これをMBOと言います。MBOのメリットは、経営陣の意向が迅速に反映されやすいということと、敵対的な買収のリスクがなくなるということです。ネット通販へ大正製薬HDは、傘下に収める製薬会社が栄養ドリンクの「リポビタンD」や風邪薬「パブロン」などのOTCを生産しています。こうした大衆薬がやや低迷気味であり、また小売業全体としてネット通販へ軸足を移しつつあることから、大衆薬も同様で、大正製薬HDは今後海外展開も見据えて買収を進めていくようです。買収総額は7,000億円を超えるとされており、私の知る限り、日本企業のMBOでは最高額になるのではないかと予想しています。

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毎年9%死亡者が増加する人獣共通感染症の行方/ギンコ・バイオワークス

 古くはスペイン風邪、近年では新型コロナウイルス感染症のように、歴史的にみると世界的に流行する人獣共通感染症の人への感染頻度が、今後も増加することが予想されている。そして、これらは現代の感染症のほとんどの原因となっている。人獣共通感染症の人への感染の歴史的傾向を明らかにすることは、将来予想される感染症の頻度や重症度に関する洞察に資するが、過去の疫学データは断片的であり分析が困難である。そこで、米国・カルフォルニア州のバイオベンチャー企業ギンコ・バイオワークス社のAmanda Meadows氏らの研究グループは、広範な疫学データベースを活用し、人獣共通感染症による動物から人に感染する重大な事象(波及事象)の特定のサブセットについて、アウトブレイクの年間発生頻度と重症度の傾向を分析した。その結果、波及事象の発生数は毎年約5%、死亡数は毎年約9%増加する可能性を報告した。BMJ Global Health誌2023年11月8日号に掲載。現状のままでは毎年約9%で人獣共通感染症の死亡者数が増加 研究では、エボラウイルス、マールブルグウイルス、SARSコロナウイルス、ニパウイルス、マチュポウイルスによる75件の波及事象を検討(SARS-CoV-2パンデミックは除外)。 主な結果は以下のとおり。・波及事象の発生数は、毎年4.98%(95%信頼区間[CI]:3.22~6.76)増加している。・死亡数は、毎年8.7%(95%CI:4.06~13.62)増加している。 この結果を踏まえ、Meadows氏らは「この増加傾向は、世界的な努力によって発生を予防し、食い止める能力を向上させることで変えることができる。その努力は、世界の健康に対する感染症の大きな、増大しつつあるリスクに対処するために必要である」と述べている。

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第169回 診療所自由開業の見直しを提案、医師偏在問題への対策で/財務省

<先週の動き>1.診療所自由開業の見直しを提案、医師偏在問題への対策で/財務省2.診療所の経常利益率上昇、財務省と医師会の間で賃上げ論争/財務省3.医療・介護施設の経営危機、過去最低の利益率、特養は6割超が赤字/WAM4.先発薬の自己負担上乗せ、後発薬への移行を促進/厚労省5.20歳未満の市販薬乱用対策として購入制限を提案/厚労省6.介護人材確保のカギは賃上げ、報酬改定で新たな取り組み/厚労省1.診療所自由開業の見直しを提案、医師偏在問題への対策で/財務省財務省は、11月1日に開催した財政制度等審議会の財政制度分科会で、医師の偏在対策を進めるため診療所の自由開業・自由標榜の見直しを提案した。特定の地域や診療科での医師の集中が続く中、フランスのように地域・診療科ごとの専門医の定員制を導入するべきとの意見が示された。同省は、大都市に医師や診療所が集中する傾向を示すデータを公表するとともに、医療資源を均等に分散させるため、診療報酬の地域による単価差を導入する提案も行った。このほか同省は、大学病院などからの医療機関に対する医師派遣の充実や外来医療計画における都道府県知事の権限強化、医学部の定員適正化なども求めた。参考1)財政制度分科会 社会保障 資料(財務省)2)診療所の自由開業・標榜の見直し提案、財務省 偏在解消策のメニューとして(CB news)2.診療所の経常利益率上昇、財務省と医師会の間で賃上げ論争/財務省財務省は11月1日に財務相の諮問機関である財政制度等審議会の分科会において社会保障制度について話し合った。この中で、来年度の診療報酬改定で、診療所の初・再診料を中心に診療報酬を引下げて、マイナス改定とすることを提言した。同省の調査によれば、新型コロナウイルスの影響で診療所の経営状況が改善し、2022年度の医療法人の経常利益率が平均8.8%となったためである。財務省側は、収益の改善を原資に賃上げが可能であるとしているが、日本医師会は新型コロナの特例的な影響はあくまで一過性のものであり、これを除くと新型コロナ流行後3年間の利益率は3.3%程度となり、流行前よりも悪化している可能性がある上、特例の見直しにより、来年度以降はコスト増と合わせて経営環境はさらに悪化するとし、財務省の主張はミスリードだとし、診療報酬の引き上げを求めて強く反発している。一方、岸田 文雄首相は医療・介護・福祉分野における物価高騰対策と賃上げを重要な課題だとして、総合経済対策でも必要な対応を検討する意向を示しており、診療報酬の改定については、年末までさらに議論が続く見込み。参考1)財政制度分科会 社会保障 資料(財務省)2)令和6年度診療報酬改定について(日本医師会)3)“利益率高い医療機関は利益取り崩し賃上げ”財政制度等審議会(NHK)4)診療所の利益急改善、財務省「賃上げ可能」 医師会反発(日経新聞)5)日医会長、診療報酬の大幅な引き上げ主張-「ミスリード」「恣意的」財務省に反論(CB News)6)岸田首相 医療、介護、福祉分野の「物価高対策、賃上げは重要な課題」総合経済対策で必要な対応検討へ(ミクスオンライン)3.医療・介護施設の経営危機、過去最低の利益率、特養は6割超が赤字/WAM医療および介護施設の経営困難が深刻化していることが、最近の複数の報道により浮き彫りとなった。福祉医療機構(WAM)の調査によれば、2022年度の一般病院の医業利益率はマイナス1.2%に低下し、療養型病院も1.9%と過去最低水準を記録している。これは、医業利益率が医療活動による収益状況を示す指標であるため、医療機関の経営が厳しくなっていることを物語っている。とくに、新型コロナウイルス対応病院の経常利益率は、補助金を除いてマイナス2.9%となり、赤字となっている病院の割合は61.3%に上昇している。一方、全国老人福祉施設協議会(老施協)の調査によると、特別養護老人ホームの昨年度の赤字施設の割合は62%に達し、2002年度の調査開始以来、初めて6割を超えた。物価高騰が原因で、電気代や紙おむつ、食材のコストの上昇が経営を圧迫している。国や自治体の補助金を収入に加えても、赤字施設の割合は51%となっている。施設の運営は介護報酬の範囲内で行われるため、物価高騰などでの経費増に対応するのが難しく、結果として職員のボーナスが削減されるなどの対応が取られている。老施協は政府に対し、介護報酬の大幅な見直しを求めている。このような背景から、医療・介護施設の経営状況の改善が喫緊の課題となっており、施設の撤退やサービスの低下が地域の医療・介護体制に影響を及ぼす恐れがある。参考1)2022年度 病院の経営状況(速報値)について(福祉機構)2)2022年度 特別養護老人ホームの経営状況(速報値)について(同)3)一般病院と療養病院の医業利益率が最低水準に 昨年度、福祉医療機構調べ(CB News)4)特養ホームの62%が赤字、紙おむつ・食材などの価格上昇が経営圧迫…ボーナス切り下げも(読売新聞)4.先発薬の自己負担上乗せ、後発薬への移行を促進/厚労省厚生労働省は、後発薬の普及をさらに促進するために新たな方針を提案した。これによると、先発薬の患者の自己負担を引き上げることで、患者の後発薬への移行を促進し、医療費の増大を抑制することを目的としている。具体的には、先発薬の自己負担部分に後発薬との価格差の一部を上乗せすることを提案しており、これにより患者の自己負担は数円~数百円ほど増加する可能性がある。さらに、後発薬の安定供給を確保するための対策も進められている。厚労省の「後発医薬品の安定供給等の実現に向けた産業構造のあり方に関する検討会」では、後発薬の供給体制を可視化することを提案し、供給能力と実績を持つ製薬企業が評価される仕組みの構築を求めており、供給不安を緩和するために、製薬企業の供給体制や緊急対応能力、原材料の供給源などの情報公開を求めていく提案されている。これにより、患者や医療機関が信頼性の高い製薬企業を選択することが可能となり、全体としての医薬品供給の安定が期待されるとしている。参考1)先発薬の患者負担上乗せ 厚労省案 後発薬への移行促す(日経新聞)2)後発薬「企業の供給力、評価を」 厚労省検討会(同)3)後発医薬品の安定供給等の実現に向けた産業構造のあり方に関する検討会 中間取りまとめ(厚労省)5.20歳未満の市販薬乱用対策として購入制限を提案/厚労省厚生労働省は、10月30日に開いた薬事・食品衛生審議会薬事分科会の部会において、若者の間での過剰摂取(オーバードーズ)を防ぐ対策として、20歳未満に対する「乱用の恐れのある医薬品」の大量購入を制限する新たな方針を示した。これによると、麻薬や覚醒剤に似た成分を含む一部の市販薬、たとえば大正製薬の「パブロン」や「浅田飴」など、OTCとして手軽に購入できる風邪薬などに適用することになる。具体的には20歳未満には1箱のみの販売とし、ネットでの購入は原則ビデオ通話が必須とされる見込み。ビデオ通話は購入者の状況や表情を確認するためとしており、薬の購入状況の一元管理にマイナンバーの利用も検討されている。国立精神・神経医療研究センターの調査によると、高校生の1.6%が過去1年間に市販薬の乱用経験があると推定され、背景にはSNSの広がりや孤独感があるとされている。参考1)要指導医薬品のリスク評価について(厚労省)2)市販薬の2・3類を統合へ 薬の説明は「努力義務」に 厚労省検討会(朝日新聞)3)市販風邪薬の販売規制案 20歳未満、多量購入不可に(日経新聞)4)一部医薬品の大量販売、20歳未満に禁止案 オーバードーズ対策(毎日新聞)6.介護人材確保のカギは賃上げ、報酬改定で新たな取り組み/厚労省わが国の介護業界は深刻な人手不足に直面していることが明らかになった。厚生労働省の分析によると2022年に介護業界から離職した人が、新たに働き始めた人を上回り、就労者が前年より1.6%減していた。今後も介護を必要とする高齢者の増加は見込まれており、処遇の改善による介護士の確保が急務となっている。一方、介護サービスの供給が需要に追いつかない現状が続いている中、介護職の離職率も高まっている。厚労省によると、介護職員の平均賃金は時給1,138円と、他の業種と比べて低い水準であり、新たな人材の獲得や現場の職員の維持が困難となっている。このため、厚労省は介護職員の賃金を引き上げる方針を示している。2023年度の介護報酬改定では、介護職員の平均時給を1,400円以上にすることを目指している。この賃上げは、業界の人手不足解消とサービス品質の向上を目的としている。また、地域によっては、賃金のアップだけでなく、研修やキャリアアップの機会を提供することで、介護職員の定着を促進する取り組みも進められている。一方、介護事業者からは、報酬改定による経営の厳しさを指摘する声も上がっている。報酬の引き上げは、介護サービスの品質向上に寄与する一方で、事業者の経営負担も増大するため、バランスの取れた対応が求められる。参考1)介護職員の賃上げ「月6000円が妥当」 武見敬三厚労相(日経新聞)2)介護就労者が初の減少、低賃金で流出 厚生労働省分析(同)3)コメディカルの給与が全産業平均を下回ることが明らかに(日経ヘルスケア)

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風邪にも長期間続く後遺症がある?

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の急性期以後もさまざまな症状が持続している状態を指す「long COVID」という言葉は、今やすっかり認識されている。しかし、このような長引く健康への影響を引き起こす呼吸器系ウイルスは、新型コロナウイルスだけではないようだ。英ロンドン大学クイーン・メアリー校のGiulia Vivaldi氏らの研究で、風邪やインフルエンザなどのCOVID-19以外の急性呼吸器感染症(acute respiratory infection;ARI)でも、急性期後にさまざまな症状が4週間以上も続く、いわゆる「long cold」が生じ得ることが明らかになった。詳細は、「eClinicalMedicine」に10月6日掲載された。 この研究では、英国の成人でのARIに関する集団ベースの前向き研究(COVIDENCE UK)のデータを用いて、COVID-19への罹患歴がある人、COVID-19以外のARIへの罹患歴がある人、ARIへの罹患歴がない人(対照)を対象に、長期にわたり持続する症状の比較を行い、COVID-19とそれ以外のARIそれぞれで一定数見られる症状の特定を試みた。COVID-19以外のARIは、肺炎、インフルエンザ、気管支炎、扁桃炎、咽頭炎、中耳炎、風邪、新型コロナウイルス以外のウイルスを原因とする上・下気道感染症、新型コロナウイルス検査で陰性だった人の自己報告による症状から判断されたARIとされた。 対象は、2021年の1月21日から2月15日の間に実施された追跡調査に回答した、新型コロナワクチン未接種者1万171人(平均年齢62.8歳、女性68.8%)。このうち、1,311人(12.9%、COVID-19群)は4週間以上前にCOVID-19に罹患した経験を、472人(4.6%、ARI群)はCOVID-19以外のARIに罹患した経験を持っていた。COVID-19の症状は、咳、睡眠障害、記憶障害、集中力の低下、筋肉や関節の痛み、味覚障害/嗅覚障害、下痢、腹痛、声の異常、脱毛、心拍数の異常な増加、軽度の頭痛やめまい、異常な発汗、息切れ(呼吸困難)、不安や抑うつ、倦怠感の16種類とし、これらの症状の有病率や重症度(評価尺度で評価可能な呼吸困難、不安や抑うつ、倦怠感のみ)を評価した。また健康関連の生活の質(HRQoL)についての評価も行った。 その結果、COVID-19群では対照群に比べて、全ての症状の有病率や重症度が高く、HRQoLが低かったが、ARI群でも、筋肉や関節の痛み、味覚障害/嗅覚障害、脱毛を除くその他の症状の有病率や重症度が対照群よりも高く、HRQoLが低いことが明らかになった。研究グループは、「この結果は、認識されてはいないものの、COVID-19以外のARIでも『long cold』とでもいうべき後遺症が生じていることを示唆するものだ」との見方を示している。COVID-19群とARI群を比べると、前者では特に、味覚障害/嗅覚障害と軽度の頭痛やめまいが生じる傾向が強く、オッズ比は同順で19.74(95%信頼区間10.53〜37.00)、1.74(同1.18〜2.56)であった。 論文の上席著者である、ロンドン大学クイーン・メアリー校のAdrian Martineau氏は、「この結果は、新型コロナウイルス検査の結果が陰性だったにもかかわらず、呼吸器感染症への罹患後に症状が長引いて苦しんでいる人々の経験と一致するのではないかと思う」と話す。同氏は、COVID-19以外の呼吸器感染症への罹患後に症状が持続する病態についての認識や、その病態を言い表す共通の用語さえないことを指摘し、「long COVIDに関する研究を続ける必要はあるが、それとともに、他のARIが及ぼす持続的な影響について調査・検討することも重要だ。それにより、一部の人で症状が長引く理由を探ることが可能となり、最終的にはそうした患者に対する最適な治療やケアの特定に役立つ」と述べている。

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金の話をする人間は卑しいのか?猫と暮らすQALYを考える【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第65回

費用対効果分析の意義世界的なインフレの波が日本にも押し寄せています。日本で物価が上がっていることを実感する機会が増えてきました。しかし、世界の先進国と比べると上昇率はまだ緩やかなのかもしれません。私は2023年8月末にオランダ・アムステルダムで開催された欧州心臓病学会(ESC2023)に参加しました。会場のキオスクで昼食を購入して驚きました。おいしくもないハンバーガーが、14.5ユーロでした。1ユーロが158円でしたので、日本円に換算すると2,291円となります。日本では500円ほど、絶対に1,000円を超えることはない質感でした。円安と日本の国力の低下を痛感しました。出費には、それに見合う対価が求められます。費用対効果、いわゆるコスパです。費用対効果分析は医療の現場でも意義を増し、この分野に特化した学問領域が進化しています。治療に掛かる費用は、安ければ良いというわけではありません。安価でも効かない薬や質の悪い医療では、「安物買いの銭失い」となります。一方で、効果が高くとも、法外に高額な治療では手が届かず、公的医療の枠組みを超えてしまいます。費用に見合う効果のバランスが取れていることが鍵となります。あらゆる疾患に共通する治療効果指標「QALY」医療における費用対効果を分析する場合に、効果をどのように測定するかが問題です。風邪を引いた場合には解熱することが求められ、がんの治療ならば再発せずに長生きすることが求められ、変形性膝関節症では痛みなく日常生活が可能となることが効果として求められます。風邪・がん・変形性膝関節症と、疾患ごとにバラバラの効果指標で費用対効果を算出すると、その解釈も疾患ごとにバラバラとなります。あらゆる疾患に共通する効果指標としてQALYが考案され国際的に活用されています。これは、Quality-Adjusted Life Yearの略語で、「クオリー」と呼ばれ日本語では「質調整生存年」と訳されます。瀕死の病の状態から、医療により同じ1年間を長生きすることができたとしても、思うままにできる元気な1年間と、寝たきりで身動きがとれない1年間では、多くの人は前者のほうが望ましいと考えます。生存期間で見ればどちらも1年ですが、前者は後者よりも質の高い状態なので、治療により得られる1年間の価値も大きくなります。このように、生存している期間に加えて質も同時に反映する評価指標がQALYです。QALYの値は、1(完全な健康)から0(死亡)までの値を取ります。完全な健康状態で過ごした1年間は1QALYであり、人がその年の価値の100%を得ることができたと解釈します。完全な健康状態ではない状態で生きた1年間は、価値の量が低下します。たとえば、効用が0.5の状態で1年間生きた場合、0.5QALYが得られます。この人は、その年に得られる最高の価値の量の50%しか得ていないという意味です。言い換えれば、0.5の健康状態で1年間を生きる価値の量は、完全な健康状態で半年間を生きることと同程度の価値の量があることを意味します。QALYは1QALY、2QALYと数えることができ、0.8の状態で10年間生存すれば0.8×10=8QALYとなります。ICER:1QALY延ばすために要するコスト従来からある標準的な治療と効果が高いと期待される新規治療と比べた場合に、QALYを1単位獲得するのにいくらコストが掛かるかを表す指標をICER(Incremental Cost-Effectiveness Ratio)と呼びます。要は、1QALYを延ばすために要するコストで、この値が医療行為を社会に導入する是非の基準となります。たとえば、新たな治療により比較対照と比べて500万円余分に掛かるけれども、2年間の延命が期待できれば、ICERは500万円/2年=250万円/年となります。これは、追加的に1年間生きるのにあと250万円のコストが掛かるということになります。イギリスでは、1QALY当たりに認めるコストの目安として2万~3万ポンドと設定しています。日本円に換算すると、1QALYを得るのに必要なコストは500万円程度までは容認されるという考えです。ICERが500万円/QALYを超える医薬品は、薬価の引き下げが検討されるなど医療政策に活用されています。今、議論に向き合わなければならないこのように医療の経済的な側面について考えることは、「金の話なんて、卑しいからするな」と感じる方もいるかもしれません。「人の命は地球よりも重い」という言葉がありますが、本当にそうでしょうか。医療費はだれかが負担しなければならないことは間違いありません。今を生きる私たちが費用を負担していないのであれば、いつか誰かがツケを支払わねばなりません。おそらく子や孫の世代です。一般の社会でも、支払い能力を考えずにただ金を使いまくる人間は愚か者と考えられています。国がなんとかしてくれると思考を放棄するのは「ドラ息子」の所業です。あえて目を背けたい事柄だからこそ、歯を食いしばって向き合う必要があります。今を生きる世代の人間は、次の世代や次の次の世代を巻き込むことは避けるべきであり、そのための議論を放棄してはならないと考えます。この困難な話題について原稿を書いていると、わが家の「ドラ息子」ともいえる愛猫の「レオ」が遊んでくれとやってきました。ゴロゴロいってスリスリしてきます。猫と暮らすことの費用対効果を考えてみます。猫の飼育コストには、食事、猫用品(トイレ、ベッド、おもちゃなど)、健康ケア(ワクチン、予防医療、獣医さんへの診療費)などが含まれます。遊んだり、トイレの世話をしたり、愛情を注いだりするために時間とエネルギーを費やすことも経費です。効果については、猫は癒しや楽しみを提供してくれます。彼らの愛らしい行動や一緒に過ごす時間は、ストレス軽減や幸福感向上に寄与します。猫と遊ぶことは、同居する人間にとってもアクティビティの機会になります。猫を飼うことは責任感を養う機会でもあります。猫と暮らす1年は2QALY、いや5QALY以上の価値があります。今回も結局は猫自慢の話になってしまいました。

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第182回 鎮咳薬・去痰薬不足、医師が知っておきたい“患者対応Q&A”

前々回の本連載で取り上げた鎮咳薬・去痰薬の不足について、厚生労働省が対策に乗り出したことで、メディア各社も盛んに報じている。それに伴い私のところにもメディア各社、さらには友人・知人からまでこの問題について問い合わせが増えている。しかし、中には疲れるような質問も。そこで今回は彼らからの問い合わせに対する私の回答を公開する。「本当にこんなこと言っているの?」という部分もあるかもしれないが、多少の文言の違いはあってもほぼ同様のことを言っている。調剤薬局では、咳止め薬や去痰薬など、とくにかぜ薬が不足していると伝えられています。「患者が増えているから」以外に不足する要因はあるものでしょうか?まず大前提として、現在、これまで咳止め薬や去痰薬を製造していた製薬企業の一部で、こうした薬の供給が停止しています。原因は供給を停止した複数の製薬企業の工場で製造不正が発覚し、その改善対策に追われているからです。にもかかわらず、現在はこうした薬が必要になる患者が増えています。主な原因はインフルエンザの季節外れの流行が続いていたからです。一方でコロナ禍の影響もあると思われます。新型コロナの登場以降、皆さんは風邪のような症状があったら、「まさかコロナ? いやインフルエンザ? それともただの風邪?」と不安になりませんか? その結果、近くの医療機関に行ったりしてませんか? この結果、今まで以上に風邪様症状の患者さんの受診が増えています。そして、コロナ、インフル、風邪のいずれかだとしても「今の症状を治す薬が欲しい」と思ったり、医師に言ったりしますよね? もちろん医療機関の医師も患者の症状を少しでも良くしたいと思い、咳止め薬や去痰薬を処方します。その結果、元々足りない薬の需要がさらに増加するという悪循環に入ってしまいました。現在不足している薬、今後不足しそうな薬のなかで、欠品や出荷調整による患者への影響が最も深刻な薬は何でしょうか?どれが最も深刻かは一言では言えません。ですが、皆さんが抗生物質と呼ぶ抗菌薬や高血圧症、コレステロールが高くなる脂質異常症、糖尿病など比較的ありふれた病気の治療薬の一部も現在供給停止となっています。今後はどのような薬の供給が深刻になるかは、とても予想ができません。これを予想するのは星占い以上にあてになりません。とくにジェネリック医薬品(GE)で数千品目もの供給不安定が起き、それが長期化していると聞きます。なぜでしょうか?現在、日本は世界でほぼ最速と言えるほど少子高齢化が進行しています。高齢になれば必然的に身体機能が衰え、公的な医療や介護が必要になります。その結果、社会保障費が増大し、国の財政を圧迫しつつあります。国はその解決策として、新薬の特許失効後に登場する同一成分で安価なGEの使用促進策を次々と打ち出しました。その結果、現在ではGEのある医薬品成分では、流通量の8割がGEに置き換わりました。しかし、このGEを製造する複数の企業で、2020年末以降、相次いで製造にかかわる不正が発覚しました。これらの企業では業務停止などの行政処分を受けた会社も複数存在します。行政処分を受けた会社は現在改善に向けてさまざまな取り組みを行っています。概してこうした取り組み改善があっても、工場が正常化するには2~3年はかかります。そのため供給不安が続いています。一部の工場が停止しているならば、ほかのGE企業などで増産に取り組めば解決するのではないですか?まず新薬を中心とする製薬企業が抱えている品目は、多くとも数十品目です。ただし、工場では1つの製造ラインで特定の1品目を年中製造していることがほとんどです。これに対し、GE企業は1社で数百品目、日本トップクラスのGE企業は800~900品目を全国にある5~6ヵ所の工場で製造しています。結局、GE企業では1つの製造ラインで何十品目も製造しています。あるGE企業の工場では1つの製造ラインを1週間に6回も切り替えて異なる薬を製造しています。この6回の切り替えで、製造する薬が季節によって異なることもあります。ざっくりした表現をすると、GE企業の製造体制はもともとが自転車操業のようなもので、余力が少ないのです。しかも、直近で行政処分などを受けていないGE企業の工場は、少ない余力分もフル稼働させている状態です。この状況で増産しろと言うのは、過重業務で平均睡眠時間3時間の人にさらに睡眠時間を削って働けというようなものです。現代ではこれを「パワハラ」と言います。GE企業が工場を新設し、製造ラインも1ライン1品目にすることは無理ですか?理論的には可能かもしれませんが、現実には不可能です。まず、日本のGE企業はトップクラスですら、毎年の純利益は100億円超です。ところが最新鋭の工場建設には200~300億円はかかります。そうそう簡単に工場建設はできません。しかも、工場建設はそれだけで数年、完成後フル稼働に至るまでには最大5年はかかると言われています。また、800~900品目をすべて1ライン1品目で製造するのはナンセンスです。GE企業各社がその体制にするならば、日本の国土の何%かがGE企業の工場で占められることにもなりかねません。その結果、最悪は地価高騰など国民生活に悪影響が及ぶかもしれません。薬局間、あるいは医薬品卸の間で、“薬の争奪戦”が起きているとの噂を聞きましたこのような状況になってから製薬企業から卸企業、卸企業から薬局・医療機関の各取引では、過去数ヵ月の取引実績に応じて納入量が決まるようになっています。また、製薬企業はすべての医薬品卸と取引しているわけではなく、慣行的に取引卸を絞り込んでいます。このため卸同士ではあまり激しい争奪戦はないと見て良いでしょう。一方、医薬品卸から購入する薬局同士では、それなりに争奪戦があると言えます。ただ、それは一般で考えるような血で血を争うようなものではありません。今お話ししたように、納入量は直近の取引実績が基準になるからです。このため過去約3年の薬不足を経験した薬局側では、医薬品卸に薬を発注する際にいつもよりやや早めに、やや多めの量を発注しがちになっています。そしてこの医薬品卸と薬局との取引では、大手薬局チェーンのほうが中小薬局よりも有利です。皆さんも、もしモノを売っている立場ならば毎回大量に買ってくれるお客さんを優遇しますよね? これと当たり前の原理が働いています。ただし、大手薬局チェーンでは薬があふれかえり、中小薬局では棚が空っぽというイメージを抱くなら、それは違います。現在は全国的に不足している状況です。製薬企業、医薬品卸の現場の方々が、今、最も苦労していることとは何でしょうか?四方八方から「何とかしてくれ」と言われることです。GE企業の人については、前述したとおりで工場のフル稼働が続いています。ある種大変なのは医薬品卸の皆さんです。彼らは自分の会社で薬を製造しているわけではないので、「ない袖は振れぬ」です。ある日の業務が、医療機関や薬局に発注を受けた薬を納入できないことを伝える「未納案内書」のFAX送信だけで終わったということもあるようです。医薬品卸の若い社員の中には、この状況に疲れて退職する人も増えていると聞きます。薬局のほうがより大変とも耳にしますその通りです。たぶんこの問題の初期から最前線に立たされ、患者や医療機関から「何とかしてほしい」と言われ続けてきたのが薬局の薬剤師です。この問題が始まった当初は医師や患者も“なぜいつもの薬がないのか”が理解できず、薬局の薬剤師が説明しても「?」という感じの反応をされたという愚痴をたくさん聞かされました。昨今はこの咳止め薬や去痰薬の問題が報じられているので、理解は進んでいるようです。しかし、それでもまだこの問題に対する温度差はあるようです。たとえば、ある薬剤師は医師から来た処方箋に記載されたある薬の在庫がないため、電話をして同じ効き目の別の薬に代えてもらったそうなのですが、その翌日から1ヵ月もの間、同じ医師から6回もこの薬が記載された処方箋が発行され、その度に電話をしなければならなかったそうです。また、別の薬剤師も同様に処方箋に記載された薬の在庫がないため、処方元の医師に変更をお願いしたところ、「そんなことこっちには関係ない!」と怒鳴られ、電話を切られたそうです。今冬のインフル流行期、薬不足の問題は好転しているでしょうか?より深刻化しているでしょうか?不足する薬が安定的に供給されるようになるのはいつ頃でしょうか?まず、1番目の質問に回答すると、「わかりませんが、より深刻化している可能性は大いにあります」。2番目の質問には「わかりません」としかお答えのしようがありません。これ以外で何かポジティブな回答を明言する人がいたら、ぜひそのご尊顔を拝したいものです。今現在の咳止め薬や去痰薬不足に対して一般人ができる防御策はありますか?何よりも皆さんがなるべく病気にならないよう体調管理に努め、インフルエンザや新型コロナのワクチンはできるだけ接種しておくことが望ましいです。とくに風邪様症状の場合は今まで以上に受診すべきか否かを真剣に考えるべきです。私の周囲の医師は、より具体的に「20~30代で基礎疾患もない人は風邪様症状でも受診は控え、自宅で静養することが望ましいでしょう。そのためには、自宅に新型コロナの抗原検査キットと解熱薬を予め購入して備蓄しておくこと」と言っています。ちなみに新型コロナの抗原検査キットは、感染直後では本当は感染していても陰性となることがしばしばあります。最低でも3回分用意して、3日連続で検査しましょう。ちなみに私事で言うと5日分を常に備蓄し、出張時も持ち歩いています。この結果が陽性・陰性のいずれでも1週間程度、外出は控えてください。この間は友達とお茶をしに行く、飲み会に行くなどもってのほかです。もちろん基礎疾患がある人や高齢者、自宅で静養して4日ほど経過しても症状が改善しない人は受診をお勧めします。ただ、その場合は発熱患者などを診察してくれるかどうか、行こうとしている医療機関に事前に電話で確認しましょう。「確かに自分は若いし、基礎疾患もないけど、咳止め薬や去痰薬は病院でもらうほうが安いし」という人。そう言うあなたは今の薬不足の原因を作っている1人です。このような感じだが、皆さんならどうお答えしますか?

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第180回 今度は去痰薬が品薄!GE企業の不正連鎖が医療逼迫に追い打ちか

2020年に福井県のジェネリック医薬品(GE)企業・小林化工の製造不正に端を発したGE不足から間もなく3年が経過しようとしているが、まったく収束の兆しはないようだ。先日、複数の薬局薬剤師と顔を合わせたが、今も在庫の確保に苦労していると皆が口を揃えた。そこに追い打ちをかけているのが、一足早いインフルエンザの流行。クリニックを経営する知り合いの内科医は「コロナ禍の影響もあるのか、以前にも増して風邪様症状を訴える患者が受診するようになった。結局、『コロナなのか? インフルなのか? それともただの風邪か?』と疑心暗鬼になっているのだろう」と語る。その結果、薬局では対症療法に使われる去痰薬などが極端な品薄になっているとも聞く。代表的な去痰薬といえばカルボシステイン(商品名:ムコダインなど)、アンブロキソール(商品名:ムコソルバンなど)、ブロムヘキシン(商品名:ビソルボンなど)だが、実際に調べてみると、供給状況はかなり苦しい状況だ。カルボシステインは、汎用の250mg錠、500mg錠をGE企業7社が供給しているが、このうち通常出荷状態は250mg錠の1社のみで、残る各社はすべて限定出荷。500mg錠では供給停止が1社あり、残る各社はすべて限定出荷である。アンブロキソールは汎用の15mg錠をGE企業15社が供給しており、5社が通常出荷、1社が供給停止、残る各社は限定出荷。ブロムヘキシンは4mg錠をGE企業3社が供給し、2社が通常出荷で1社が供給停止だ。アンブロキソールとブロムヘキシンは、カルボシステインに比べればマシにも見えるが、あくまで見かけである。まず、両薬とも供給停止の1社は、つい数年前まで国内トップのGE企業だった日医工である。ご存じのように日医工は、製造不正による薬機法違反で行政処分を受けたGE企業の1社でもあり、それによる出荷量減少と米国事業の不振で経営が悪化。私的整理の1種である事業再生ADR(裁判外紛争解決手続)が成立し、目下経営再建中である。厚生労働省のNDBオープンデータで公開されているコロナ禍前の2019年の国内外来処方量から概算すると、アンブロキソール15mg錠は流通量の約80%、ブロムヘキシン4mg錠は60%強がGE。これらのGE処方量のうち日医工はそれぞれ16%強、30%強を占めていた。「その程度なら…」と思う人もいるかもしれないが、GE企業の場合、中小企業が多く、全国津々浦々まで十分に自社品を流通させることが不可能な企業もある。このため全国流通網を持つシェアトップクラスの日医工の供給停止は見た目の数字以上に影響が大きい。とはいえ、日医工も経営再建に入ったのだから、そろそろ医薬品供給不足も底を打って回復の兆しが見えてくるのではないかと誰もが期待したいところだが、ここに来てむしろ“底割れ”の恐れさえ見え始めている。まず、日医工を主要取引先とする医薬品原薬製造企業であるアクティブファーマ(本社:東京都千代田区)が、薬機法違反に該当する製造手順書と異なる原薬製造を行っていた疑いがあり、富山県が同社の富山八尾工場に立ち入り調査を行っていたことが報じられた。もしこれが薬機法違反と認定されて行政処分となれば、同社の製造原薬が供給不安定になり、経営再建中である日医工の製造計画にも暗い影を落とすことになる。次いでGE企業中堅の共和薬品工業(本社:大阪市)が事業再生ADRを利用する見込みであることが報じられている件だ。同社は日医工と同じく製造不正が発覚し、2022年3月に行政処分を受け、これを契機に経営が悪化していた。同社は精神神経系薬に強く、この領域では上場GE企業の沢井製薬、東和薬品、日医工(今年3月上場廃止)と肩を並べると言っても良い。もし事業再生ADRが成立すれば、経営再建のために不採算品目や収益性の低い品目の整理、人員削減などが行われる可能性が高まることから、精神神経系薬のGE供給に少なからぬ影響を与えることになる。そして何よりも大きな問題となり得るのが、現時点で国内トップGE企業の沢井製薬でも薬機法違反に当たる製造不正の疑いが浮上していることだ。同社は今年7月、胃炎・消化性潰瘍治療薬のテプレノンについて「使用期限内の品質保証は難しいと判断」し、全品回収を行った。この件に関連して各種報道では、同社九州工場でのテプレノンの安定性試験のうちの溶出試験において、薬剤成分とカプセルが反応して薬剤溶出が不適だったことが約10年前に発覚。そこで九州工場では、安定性試験の溶出試験時だけ、承認書に定められていない新しいカプセルに詰め替えて試験を行い、クリアしていた疑いがあるという。一部報道ではこうした事実を九州工場の工場長も認識していたという。これが事実ならばかなり悪質と言わざるを得ない。通常ならば業務停止命令などの行政処分が下されることになる。これら3件の由々しき事態は、おそらく年末までに白黒がはっきりするだろう。このうち1つが黒になっただけでもGE供給の不安定要素になり得る。それが3つもとなると、どういうことになるのか… 。あまり考えたくないシナリオが展開されることになるかもしれない。

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鼻詰まりにフェニレフリン含有市販薬、効果なし?

 米食品医薬品局(FDA)の独立諮問委員会である非処方箋薬諮問委員会は9月11〜12日に開いた会合で、鼻詰まり解消の有効成分として何十年にもわたり市販の経口風邪薬に配合されてきたフェニレフリンにその効果はないと結論付けた。同委員会のこの裁定を受け、FDAは、フェニレフリンを含有する経口充血除去薬の店頭からの撤去に向けて動く可能性がある。 同委員会の患者代表であるJennifer Schwartzott氏は、「この経口薬は、もっと前に市場から撤去されるべきだったと思う。患者が必要とするのは、安全で効果的な治療薬だが、フェニレフリンがそれを満たしているとは思えない」と語ったとAP通信は報じている。 フェニレフリンは1970年代から市販の風邪薬に配合されており、剤形には、内服用液剤、錠剤、点鼻薬がある(ただし、今回の審議対象に点鼻薬は含まれていない)。フェニレフリン含有薬剤は、メタンフェタミン乱用者の急増に対する措置として行われた2005年の法改正により、非常に効果的な充血除去薬であるプソイド(擬似)エフェドリンの販売が制限されたことを受け、注目を集めるようになった。FDAによると、フェニレフリン含有風邪薬の2022年の販売数は2億4200万個以上であったのに対し、プソイドエフェドリン含有風邪薬の販売数は約5100万個であったという。米バージニア州シャーロッツビルの内科医であるWilliam Fox氏は、「2000年代にプソイドエフェドリンの販売が制限されるようになって以降、フェニレフリンは最も入手しやすく、広範に使用される充血除去薬の一つとなった。フェニレフリンは、プソイドエフェドリンを薬剤師から入手するときのような煩雑な手続きを必要とせず、薬局で簡単に買える」と語る。 しかし、近年の臨床試験や実験室での研究、エビデンスレビューの結果を受け、FDAはフェニレフリンの有効性に疑問を持つようになっていた。例えば、直近の臨床試験では、現在のフェニレフリンの推奨投与量では、アレルギー患者には効果がないことが示されている。こうした状況を受け、FDAはフェニレフリン承認の根拠とされた臨床試験の再評価を行った。その結果、当初の研究のデザインと実施方法に、方法論的、統計学的に重大な問題のあることが判明した。 FDAは、フェニレフリンが有効に働かないのは、体内にうまく吸収されないため、その効果が限定的なことにあると見ている。高用量であれば効果が現れる可能性はあるが、その場合には著しい血圧上昇を招くリスクがある。そのためFDAは、鼻詰まり解消を目的とした高用量での使用を検討する余地はなさそうだとしている。 消費者ヘルスケア製品協会(CHPA)は、FDAのこうした見解に異を唱えている。CHPAの規制・科学問題担当副会長のMarcia Howard氏は、「フェニレフリンの有効性を示す複数の臨床試験のデータと数十年にわたる市場経験を考慮し、われわれは、同薬剤の明確なベネフィットと公衆衛生における重要な役割を認識するようFDAの諮問委員会に対し強く求める」と委員会へ向けた声明で述べている。CHPAはまた、消費者に与え得る影響を考慮すべきことも、委員会に要請している。Howard氏は、「端的に言えば、風邪薬の選択肢や入手可能性の低下に起因する負担は、消費者とすでに多くの問題に直面している米国の医療制度に直接のしかかることになる。だからこそ、CHPAはFDAの非処方箋薬諮問委員会に対し、このような広範な影響を及ぼし得る決定を下す際には、消費者の実体験とニーズを考慮するよう促すのだ」と説明している。 しかし、Fox氏によると、フェニレフリンの有効性を疑問視する研究結果は何年も前から存在しており、医師らはすでに、患者にフェニレフリンを勧めるのを控える傾向にあるという。同氏は、「風邪の症状には、プソイドエフェドリンおよびオキシメタゾリン点鼻薬が効果的だ。プソイドエフェドリンはほとんどの州で購入制限の対象となっており、薬局で購入することはできないが、有効な運転免許証があれば薬剤師から購入することができる」と話す。同氏はさらに、「特に高血圧の患者は、充血除去薬よりも抗ヒスタミン薬を試してみる方が良いかもしれない」と付け加えている。

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第177回 コロナ前に逆戻りする人ほど、医療崩壊を見くびる傾向?

新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の感染者報告が増加し続けている。ご存じのように新型コロナの感染拡大状況に関しては、感染症法上の分類が5類に移行してからは、定点報告に切り替わっている。その最初が2023年第19週(5月8〜14日)だが、この時の全国での定点当たりの感染者数は2.63人。その後、この数字はほぼ一貫して右肩上がりの増加を続け、最新の第35週(8月28日~9月3日)には20.50と約10倍にまで達している。しかし、東京都心の様子を見ている限りは、「どこ吹く風?」くらいの雰囲気だ。そうした中で、第35週の定点当たりの報告数が32.54人となり、都道府県別では全国第2位(1位は岩手県の35.24人)の宮城県医師会の会見を報じたテレビニュース映像がインターネット上で流れている。会見した宮城県医師会会長の佐藤 和宏氏の「医療現場は非常にひっ迫。助けられる命も助けられない」「これが医療崩壊。私はこの言葉が好きではないが、実際起こってみるとこれが医療崩壊なんだと思います。今はすでに『第9波』の中にいる」「やはりコロナはまだ終わっていないと思う。今更そんなこと言うなと、楽しくやりたい気持ちも私も十分わかるけど、身を守って、高齢者などの命を守るためには、まずマスクをしてほしい」という発言は、かなりの切迫感がこもっている。この発言、たまたま私は同じ宮城県出身であるため痛いほどわかる側面がある。宮城県と言えば、県庁所在地は杜の都で有名な仙台市で、事実上の東北地方の首都のような扱いでもある。その意味では医療的にも恵まれている部分もある。しかしながら、それは仙台市レベルで見ればであって、宮城県全体で俯瞰すると、やや状況が変わってくる。とくに病床数の多い総合病院の偏在はここでも大きな課題である。実際、私の実家のある町は、市区町村でいう町だが、人口は3万人を超える。にもかかわらず、町内には有床診療所しかない。確かに電車に乗って30分程度で仙台市内に辿り着けるし、車で10分程度も走れば隣接する自治体の総合病院にも行ける。「何も問題はないじゃないか?」と言われるかもしれないが、それは電車や自動車での移動に問題がないことが前提だ。このような医療提供体制で、新型コロナの定点報告数が30人を超えたらどのようになるかは容易に想像がつく。これは実際のデータからも窺い知ることができる。令和3(2021)年医療施設(動態)調査・病院報告によると、宮城県全体での人口10万人当たりの病床数は病院で1075.9床、一般診療所で61.6床。実は東北6県の中では最低値だ(もちろん多ければいいものではないことは百も承知である)。ちなみに人口約227万人の宮城県にいる日本感染症学会専門医は36人。これを、新型コロナの定点報告数が一時期30人を超えた沖縄県で見てみると、人口10万人当たりの病床数は病院で1267.4床、一般診療所で55.9床。人口約147万人に対する前述の感染症専門医数は26人。これに加え、宮城県の面積が沖縄県の3倍という事情を加味すれば、実のところ宮城県のほうが医療提供体制、感染症診療体制ともに脆弱と言っても過言ではない。さてこの報道に関する反応はざっくり言えば真っ二つである。医療従事者やある程度医療に知見のある人の多くは、この報道を淡々と引用し、注意喚起を促す方向が多いが、医療とはほぼ無縁の一般人では「また補助金目当てか?」「過去のインフルエンザ(以下、インフル)の流行時でこんなに騒いだか?」的な反応が散見される。「インフルで医療崩壊しなかったのにコロナで医療崩壊するのはおかしい」理論は時に医療従事者の一部も使う。確かにインフルの場合、厚生労働省・感染症サーベランス事業により発出される流行発生警報の基準は定点報告数30人が基準で、過去の警報発出時期に各地の医師会から医療崩壊を訴えることはほとんど聞かなかった。しかし、過去から繰り返しこの連載でも触れているように、新型コロナとインフルは大きく異なる。そもそも感染力が異なり、市中より明らかに警戒度・感染防止対策が進んでいるはずの医療機関内でも院内感染が容易に起こるという現実がある。当然ながら、受け入れる医療機関は相当警戒度を高めなければならず、スペック上の病床数や人員数は十分に機能しなくなる。しかも一般人側は、新型コロナに対し未だインフルほどの馴染みはないため、新型コロナ以前はインフルの疑いがあっても受診しなかった人の一部が、今は風邪様症状で受診する傾向がある。こうなれば当然、前述の医療崩壊が現実となる。よく「医療崩壊は日本の医療制度の欠陥が原因」という言説も耳にする。これは一理ありかもしれない。だが、その制度上の欠陥とは、大雨時に常にダムが無調整で放流を続けているかのような医療のフリーアクセスに行きつく。こうした主張をする人は、このフリーアクセスを制限したら、本当に日常の医療提供体制に満足するのだろうか? 私個人は甚だ疑問である。医療知識のない一般人の主張ならば、時と場合によって戯言と流しても良いが、医療従事者の一部がそういう主張をすると、いい加減にしてほしいと思うのは私だけではないだろう。新型コロナの5類移行以後を「ポストコロナ」時代と定義するなら、その時代に入り、いつまでこうした不毛な論争を続けなければならないのだろう。

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標的部位で持続的に放出される潰瘍性大腸炎薬「コレチメント錠9mg」【下平博士のDIノート】第128回

標的部位で持続的に放出される潰瘍性大腸炎薬「コレチメント錠9mg」今回は、潰瘍性大腸炎治療薬「ブデソニド腸溶性徐放錠(商品名:コレチメント錠9mg、製造販売元:フェリング・ファーマ)」を紹介します。本剤は、標的部位の大腸にブデソニドが送達され、持続的に放出されるように設計されている1日1回服用の薬剤で、良好な治療効果や服薬アドヒアランスが期待されています。<効能・効果>活動期潰瘍性大腸炎(重症を除く)の適応で、2023年6月26日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>通常、成人にはブデソニドとして9mgを1日1回朝経口投与します。投与開始8週間を目安に本剤の必要性を検討し、漫然と投与を継続しないように留意します。<安全性>2~5%未満に認められた副作用として潰瘍性大腸炎増悪があります。2%未満の副作用は、乳房膿瘍、感染性腸炎、乳腺炎、口腔ヘルペス、不眠症、睡眠障害、腹部膨満、口唇炎、ざ瘡、湿疹、蛋白尿、月経障害、末梢性浮腫、白血球数増加、尿中白血球陽性が報告されています。<患者さんへの指導例>本剤は、大腸に送られて持続的に炎症を鎮める潰瘍性大腸炎活動期の薬です。服薬時にかまないでください。生ワクチン(麻疹、風疹、おたふく風邪、水痘・帯状疱疹、BCGなど)を接種する際には医師に相談してください。疲れを残さないよう十分な睡眠と規則正しい生活が重要です。消化の悪い繊維質の多い食品や脂肪分の多い食品、香辛料などを避けて、腸に優しい食事を心がけましょう。<Shimo's eyes>潰瘍性大腸炎は、活動期には下痢や血便、腹痛、発熱などを伴い、寛解と再燃を繰り返す炎症性腸疾患であり、わが国では指定難病に指定されています。潰瘍性大腸炎の活動期には、軽症~中等症では5-アミノサリチル酸製剤が広く用いられ、効果不十分な場合や重症例にはステロイド薬などが投与されます。ステロイド抵抗例ではタクロリムスや生物学的製剤、ヤヌスキナーゼ阻害薬などが使用されます。本剤の特徴は、MMX(Multi-Matrix System)技術を用いた薬物送達システムにあり、pH応答性コーティングにより有効成分であるブデソニドを含むマルチマトリックスを潰瘍性大腸炎の標的部位である大腸で送達し、親水性基剤と親油性基剤がゲル化することでブデソニドを持続的かつ広範囲に放出させます。また、本剤の有効成分であるブデソニドはグルココルチコイド受容体親和性が高いステロイド薬であり、局所的に高い抗炎症活性を有する一方、肝初回通過効果によって糖質コルチコイド活性の低い代謝物となるため、経口投与によるバイオアベイラビリティが低いと考えられ、全身に曝露される糖質コルチコイド活性の軽減が期待されるアンテドラッグ型のステロイドとなります。本剤は1日1回投与の経口薬であることから、良好な服薬利便性や服薬アドヒアランスも期待でき、海外では2023年3月現在、75以上の国または地域で承認されています。なお、本成分を有効成分とする既存の潰瘍性大腸炎治療薬には、直腸~S状結腸に薬剤を送達するブデソニド注腸フォーム(商品名:レクタブル2mg注腸フォーム)がありますが、本剤は大腸全体が作用部位となる点に違いがあります。本剤の主な副作用として、潰瘍性大腸炎の増悪が2~5%未満で報告されています。本剤はほかの経口ステロイド薬と同様に、誘発感染症、続発性副腎皮質機能不全、クッシング症候群、骨密度の減少、消化性潰瘍、糖尿病、白内障、緑内障、精神障害などの重篤な副作用に注意が必要です。本剤投与前に水痘または麻疹の既往歴や予防接種の有無を確認しましょう。製剤の特性を維持するために、本剤を分割したり、乳鉢で粉砕したりすることはできません。患者さんにもかんで服用しないように伝えましょう。潰瘍性大腸炎治療の新たな選択肢が増えることで、患者さんのQOL向上が期待されます。

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12歳から使用可能な経口の円形脱毛症治療薬「リットフーロカプセル50mg」【下平博士のDIノート】第127回

12歳から使用可能な経口の円形脱毛症治療薬「リットフーロカプセル50mg」今回は、JAK3/TECファミリーキナーゼ阻害薬「リトレシチニブ(商品名:リットフーロカプセル50mg、製造販売元:ファイザー)」を紹介します。本剤は、12歳以上の小児から使用できる円形脱毛症治療の経口薬であり、広い患者におけるQOL向上が期待されます。<効能・効果>円形脱毛症(ただし、脱毛部位が広範囲に及ぶ難治の場合に限る)の適応で、2023年6月26日に製造販売承認を取得しました。本剤投与開始時に、頭部全体のおおむね50%以上に脱毛が認められ、過去6ヵ月程度毛髪に自然再生が認められない患者に投与します。<用法・用量>通常、成人および12歳以上の小児には、リトレシチニブとして50mgを1日1回経口投与しますなお、本剤による治療反応は、通常投与開始から48週までには得られるため、48週までに治療反応が得られない場合は投与中止を考慮します。<安全性>1%以上に認められた臨床検査値異常を含む副作用として、悪心、下痢、腹痛、疲労、気道感染、咽頭炎、毛包炎、尿路感染、頭痛、ざ瘡、蕁麻疹が報告されています。なお、重大な副作用として、感染症(帯状疱疹[0.9%]、口腔ヘルペス[0.8%]、単純ヘルペス[0.5%]、COVID-19[0.2%]、敗血症[0.1%]など)、リンパ球減少(1.6%)、血小板減少(0.3%)、ヘモグロビン減少(0.2%)、好中球減少(0.2%)、静脈血栓塞栓症(頻度不明)、肝機能障害(ALT上昇[0.9%]、AST上昇[0.5%])、出血(鼻出血[0.5%]、尿中血陽性[0.1%]、挫傷[0.1%]など)が設定されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、脱毛の原因となる免疫関連の酵素の働きを抑えることで、円形脱毛症の症状を改善します。2.免疫を抑える作用があるため、発熱、寒気、体のだるさ、咳の継続などの一般的な感染症症状のほか、帯状疱疹や単純ヘルペスなどの症状に注意し、気になる症状が現れた場合は速やかにご相談ください。3.本剤を使用している間は、生ワクチン(BCG、麻疹・風疹混合/単独、水痘、おたふく風邪など)の接種ができないので、接種の必要がある場合は医師にご相談ください。4.妊婦または妊娠している可能性がある人はこの薬を使用することはできません。妊娠する可能性のある人は、この薬を使用している間および使用終了後1ヵ月間は、適切な避妊を行ってください。5.ふくらはぎの色の変化、痛み、腫れ、息苦しさなどの症状が現れた場合は、すぐに医師にご連絡ください。<Shimo's eyes>円形脱毛症は、ストレスや疲労、感染症などをきっかけとして、自己の免疫細胞が毛包を攻撃することで脱毛症状が起こる疾患です。急性期と症状固定期(脱毛症状が約半年超)に分けられ、急性期で脱毛斑が単発または少数の場合には発症後1年以内の回復が期待できます。一方、急性期後に自然再生が認められず、脱毛症状が継続する重症の円形脱毛症では回復率は低いとされ、診療ガイドラインには局所免疫療法や紫外線療法などの治療が記載されていますが、より簡便で効果的な治療法が求められていました。本剤は、JAK3および5種類のTECファミリーキナーゼを不可逆的に阻害する共有結合形成型の経口投与可能な低分子製剤です。円形脱毛症の病態に関与するIL-15、IL-21などの共通γ鎖受容体のシグナル伝達をJAK3阻害により強力に抑制し、CD8陽性T細胞およびNK細胞の細胞溶解能をTECファミリーキナーゼ阻害により抑制することで治療効果を発揮します。全頭型および汎発型を含む円形脱毛症を有する患者を対象とした国際共同治験(ALLEGRO-2b/3、ALLEGRO-LT)で、本剤投与群は、24週時のSALT≦20(頭部脱毛が20%以下)達成割合はプラセボと比較して統計的に有意な改善を示しました。なお、円形脱毛症に使用する経口JAK阻害薬として、すでにバリシチニブ(商品名:オルミエント)が2022年6月に適応追加になっています。バリシチニブは15歳以上が対象ですが、本剤は12歳以上の小児でも使用可能です。本剤はほかのJAK阻害薬と同様に、活動性結核、妊娠中、血球減少は禁忌となっています。また、感染症の発症、帯状疱疹やB型肝炎ウイルスの再活性化の懸念もあるため、症状の発現が認められた場合にはすぐに受診するよう患者さんに説明しましょう。円形脱毛症は、多くの場合は頭皮で脱毛しますが、ときには眉毛、まつ毛を含む頭部全体や全身に症状が出ることでQOLが著しく低下する疾患です。ストレスが多い現代社会で、ニーズの高い医薬品と言えます。

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コロナ急性期、葛根湯+小柴胡湯加桔梗石膏の症状消失までの期間は?/東北大

 コロナウイルス感染症(COVID-19)の急性期症状を有する患者に、対症療法に加えて葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏を投与した結果、有意差はなかったもののすべての症状の消失までの期間は対照群よりも早い傾向にあり、息切れの消失は補足的評価において有意に早かったことを、東北大学の高山 真氏らが明らかにした。Journal of Infection and Chemotherapy誌オンライン版2023年7月26日号の報告。コロナ患者に葛根湯2.5g+小柴胡湯加桔梗石膏2.5gを1日3回投与 高山氏らが2021年2月22日~2022年2月16日にかけて実施した多施設共同ランダム化比較試験1)において、葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏の併用により、軽症~中等症I患者の発熱が早期に緩和され、とくに中等症I患者では呼吸不全への悪化が抑制傾向にあったことが報告されている。コロナウイルス感染症の症状や病状悪化のリスクはワクチン接種の有無によって異なる可能性があるため、今回はこのランダム化比較試験のデータを用いて、ワクチン接種の有無も加味した症状の消失に焦点を当てた事後分析を行った。 研究グループは、20歳以上で軽症~中等症Iのコロナウイルス感染症患者を対象に、通常の対症療法(解熱薬、鎮咳薬、去痰薬投与)を行うグループ(対照群)と、対症療法に加えて葛根湯2.5g+小柴胡湯加桔梗石膏2.5gを1日3回14日間経口投与するグループ(漢方群)の風邪様症状(発熱、咳、痰、倦怠感、息切れ)が消失するまでの日数を解析した。 コロナウイルス感染症患者に対症療法に加えて葛根湯2.5g+小柴胡湯加桔梗石膏2.5gを1日3回14日間経口投与した主な結果は以下のとおり。・解析には、漢方群73例(男性64.4%、年齢中央値35.0歳)、対照群75例(65.3%、36.0歳)が含まれた。そのうち、コロナワクチン接種者は、漢方群7例(9.6%)、対照群8例(10.7%)であった。初回診察時のリスク因子や重症度は両群で同等であった。・少なくとも1つ以上の症状が消失した割合は、漢方群84.9%、対照群84.0%であった。消失までに要した日数の中央値は漢方群2日(90%信頼区間[CI]:2.0~3.0)、対照群3日(90%CI:3.0~4.0)で、有意差は認められなかったものの漢方群のほうが短い傾向にあった(ハザード比[HR]:1.28、90%CI:0.95~1.72、p=0.0603)。コロナワクチン接種の有無別では、ワクチン未接種の漢方群のHRは1.31(90%CI:0.96~1.79、p=0.0538)でほぼ同等であった。・すべての症状が消失した割合は、漢方群47.1%、対照群9.1%であった。消失までに要した日数の中央値は、漢方群9日(6.0~NA)、対照群NAで、同様に漢方群のほうが短い傾向にあった(HR:3.73、95%CI:0.46~29.98、p=0.1763)。コロナワクチン未接種の漢方群のHRは4.17(95%CI:0.52~33.64、p=0.1368)であった。・競合リスクを考慮した共変量調整後の補足的評価において、息切れの消失は漢方群のほうが対照群よりも有意に早かった(HR:1.92、95%CI:1.07~3.42、p=0.0278)。コロナワクチン未接種の漢方群では、発熱(HR:1.68、95%CI:1.00~2.83、p=0.0498)および息切れ(HR:2.15、95%CI:1.17~3.96、p=0.0141)の消失が有意に早かった。 これらの結果より、研究グループは「軽症~中等症Iのコロナウイルス感染症患者に対する漢方治療の分析において、すべての症状の評価においても各症状の評価においても、対照群よりも漢方群のほうが早く症状が消失していた。これらの結果は、急性期のコロナウイルス感染症患者に対する漢方治療の利点を示すものである」とまとめた。

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コロナ感染しても無症状な人の遺伝的特徴

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患すると、大多数に咳や喉の痛みなどの症状が現れるが、奇妙なことに、約5人に1人では何の症状も現れない。この現象には、ある遺伝的バリアントが関与しているようだ。米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)神経学および疫学・生物統計学分野教授のJill Hollenbach氏らによる研究において、HLA(ヒト白血球抗原)-B遺伝子の特定のアレル(対立遺伝子)を保有している人では、新型コロナウイルスに感染しても症状の現れない可能性が、保有していない人の2倍以上であることが示された。この研究の詳細は、「Nature」に7月19日掲載された。 通常、HLAは細菌やウイルスなどの健康に対する潜在的な脅威を検知し、それに対する免疫反応を誘導する。Hollenbach氏らは、HLAのこのような重要な役割に鑑み、新型コロナウイルスに感染しやすい、あるいは感染しにくい特定のHLAの遺伝的バリアントが存在する可能性を考え、それを調べるための研究を実施した。 Hollenbach氏らはまず、HLAの遺伝子型が判明しているボランティアの骨髄提供者に本研究への参加を呼びかけ、承諾した人には、COVID-19の症状を追跡するために設計されたモバイルアプリを使用してもらった。このようにして、2021年4月30日時点で2万9,947人を本研究に登録。この中から、ワクチン接種が広範に行われる前の2021年4月30日までに新型コロナウイルス検査で陽性の結果を報告していた1,428人を対象に解析を行った。1,428人中136人は、陽性判定の前後少なくとも2週間の間に症状が現れなかった無症候性感染者だった。 HLAの5つの遺伝子座とCOVID-19の経過との関連を検討した結果、無症候性感染者はHLAの遺伝子座に存在する特定のアレル(HLA-B*15:01)を保有している可能性が、有症状者よりも有意に高いことが明らかになった。具体的には、HLA-B*15:01を保有する頻度は、無症候性感染者で0.1103、有症状者で0.0495であり、オッズ比は2.38(95%信頼区間1.51〜3.65)と、前者でのHLA-B*15:01の発生頻度が後者の2倍以上であることが示された。また、無症候性感染者のうち、HLA-B*15:01を保有していた人の割合は約20%であったのに対し、有症状者での割合は9%にとどまっていた。 次に、このような関連が新型コロナウイルスに対する既存のT細胞による免疫反応に起因しているという仮説を検証するために、HLA-B*15:01を保有する人の血液サンプルを用いて、新型コロナウイルス由来の特定のペプチドに曝露した際のT細胞の反応を調べた。その結果、T細胞が新型コロナウイルスのSタンパク質由来のNQKLIANQFというペプチドに反応することが示された。また、このようなT細胞の大部分は多機能性のメモリーT細胞であり、通常の風邪の原因ウイルスである季節性コロナウイルス由来のペプチドにも交差反応性を示すことも判明した。このことは、HLA-B*15:01を保有する人では、新型コロナウイルスに曝露する以前に他のコロナウイルスに曝露することで、新型コロナウイルスに対するある程度の免疫を獲得していた可能性があり、このため、新型コロナウイルス感染後、症状が現れる前にウイルスを駆除することが可能であったことを示唆している。 Hollenbach氏は、「これらの結果は、次世代のワクチン設計に役立つだろう。また、感染した場合に、発症を防ぐ方法を知るためにも有用な情報だ」と話している。 この研究には関与していない、米カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)感染症・世界公衆衛生部門の責任者であるDavey Smith氏は、「パンデミック中に観察された謎がこの研究により解けたのではないか」と述べる。同氏はまた、このアレルを持つ患者は、「言ってみれば、COVID-19の遺伝的宝くじに当たったようなものだ」とコメントしている。 Smith氏は、「ウイルスに対するより効果の高いワクチンを作るためには、HLAがどのようにして鍵となるウイルスのペプチドを認識するのかの理解を深めることが重要だ。私には、HLAの遺伝子型のように、遺伝子によって免疫反応を最大限に高めるために受けるべきワクチンを決めるような世界が想像できる」と述べている。

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考えがまとまらない【Dr. 中島の 新・徒然草】(488)

四百八十八の段 考えがまとまらない暑いですね。外に出る気がしません。毎日いるのは家か車か病院のどれか。ひたすらクーラーの効いたところで過ごしています。ただ、ベランダに干した洗濯物がよく乾くのだけは助かりますね。さて、先日来院した患者さんは30代の男性。主訴は頭痛、動悸、息切れ、微熱でした。これらの症状がひどいので会社を休んでいます。で、不明熱として当院の総合診療科に紹介されてきました。すでに前医で、レントゲンや心電図に加えて、膠原病スクリーニングや腫瘍マーカーを含む採血などがやり尽くされています。診断を付けるために私ができることなんか何も残っていません。なので、改めて病歴を確認しました。1ヵ月前に39度台の発熱が2~3日続いたそうです。それでコロナの検査をしたが、陰性でした。その後、熱は下がったのですが本調子になれません。仕事は現場の監督ですが、時には深夜近くに及びます。体がついていかないので、定時上がりの内勤に変えてもらいました。それでも倦怠感が続き、ついに休むに至ったとのこと。一番つらい症状は、体を動かした時の息切れと動悸。30代なのに走ったり階段を上ったりする気にはならないそうです。いくつかの医療機関を受診し、頻脈に対してβ遮断薬を処方されました。が、薬を飲んでも一向に良くなった気がしません。いろいろな医療機関を受診した後に、当院の総合診療科にたどり着きました。患者「仕事に戻りたいという気はあるんですけど、考えがまとまらなくて」中島「内勤の仕事に慣れていないのでしょうか?」患者「いや、前にも経験があるんで、そんなに難しい仕事ではないですね」中島「なるほど」患者「家でも物を考えるのが面倒になってしまって何もできないんですよ」息切れと動悸だけなら心臓や肺の疾患、もしくは貧血なども考えられます。でも考えがまとまらないという脳の症状もあるということは……ひょっとしてコロナ後遺症かも?確かにコロナ検査は陰性でした。しかし、検査の感度は70%しかありません。つまり、およそ3分の1のコロナは検査で見逃されるわけです。だから偽陰性だったのかも。そう考えると話の辻褄が合います。中島「もしかするとコロナ後遺症かもしれませんね。少し体調が良くなったとしても、あまり無理しないほうがいいですね」患者「会社のほうも休みにくくなってきたんで、そろそろ出勤したいんですよ」中島「内勤だったら何とかなりそうですか」患者「ええ」ということで「COVID-19後遺症:今後3ヵ月間の時間外勤務・出張を控えること」という診断書を作成しました。会社のほうはいいとして、もう1つの懸念が残っています。中島「家でゴロゴロすることを奥さんが許してくれるでしょうか」そう尋ねてみました。患者「理解してくれる……はずですけど」患者さんは目に見えて動揺しています。中島「お子さんは何歳でしたか?」患者「5歳と2歳です」中島「『育児で大変なのに、旦那は何もしてくれない』と奥さんに思われたりしませんかね」いくらご主人が会社で一生懸命働いているといっても、人というのは自分の目に入った情報だけで判断しがちです。患者「先生にそう言われると、だんだん心配になってきました」中島「まあ、そこはよく話し合って頑張ってください」第9波になってコロナ症例は増え続けています。その一方で、コロナ後遺症もよく目にするようになりました。若者にも軽症者にも起こるから厄介です。コロナをただの風邪と呼べるのは、もう少し先になりそうですね。最後に1句猛暑でも 頭の中は まだコロナ

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第173回 コロナと戦えるT細胞が風邪のお陰で育まれうることの初の裏付け

ウイルスが体内の細胞の1つに感染すると病原体駆逐に携わるヒト白血球抗原(HLA)遺伝子のタンパク質がその細胞表面にウイルスタンパク質の切れ端を提示して免疫系に通知します。その通知を受け、病原体を認識して記憶しうるT細胞が感染細胞を殺してウイルスが複製できないようにします。HLA遺伝子群の顔ぶれはすこぶる多彩で、その多くはどれかのウイルスへの免疫反応の強さの個人差に寄与しています。たとえばHLA-B遺伝子の1つは感染したヒト免疫不全ウイルス(HIV)が体内で極わずかなままで発症しない人にも認められ、かたや別の種類のHLA-B遺伝子を有する人では正反対にHIV感染後速やかにAIDSを発症します。HIV感染の経過との関連のように新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染の経過と関連するHLA遺伝子があるかもしれません。そこで米国・カリフォルニア大学の免疫遺伝研究者Jill Hollenbach氏が率いるチームは骨髄ドナー登録のおかげでHLAの種類が検査ですでに判明している3万例弱に協力を仰ぎ、SARS-CoV-2感染の経過とHLAの関連を調査しました。被験者の携帯機器にダウンロードしてもらったアプリを使って情報を集めたところSARS-CoV-2ワクチン普及前の2021年4月30日までに白人被験者の約1,400例がSARS-CoV-2に感染しており、その1割ほどの136例は無症状で済んでいました。HLA遺伝子情報と照らし合わせたところ、それら136例の5人に1人(20%)はHLA-B*15:01として知られるHLA-B遺伝子変異を有していました1)。一方、発症した人のHLA-B*15:01保有率は10人に1人に満たない9%でした。続いて、それら被験者とは別の米国とオーストラリアの被験者の血液検体を使ってHLA-B*15:01と発症予防を関連付ける仕組みの解明が試みられました。それら血液検体は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行前に集められました。それにも関わらずHLA-B*15:01保有者の血液検体の75%のT細胞はSARS-CoV-2スパイクタンパク質の一部NQK-Q8を認識しました。どうやらHLA-B*15:01保有者のT細胞はSARS-CoV-2の情報を知らされていないのにSARS-CoV-2と戦う準備ができているようなのです。それはなぜか。SARS-CoV-2が広まる前から馴染みの季節性コロナウイルス感染の経験がその理由の一端を担っているようです。風邪ウイルスとしても知られる季節性コロナウイルスのスパイクタンパク質はNQK-Q8とほぼ同一のペプチド配列NQK-A8を含みます。HLA-B*15:01保有者のT細胞はそのNQK-A8にも強力に反応しました。HLA-B*15:01保有者のT細胞は季節性コロナウイルスによる風邪の経験を糧に鍛えられ、SARS-CoV-2を含むほかの見知らぬコロナウイルスをも相手できる免疫を備えたのかもしれません。見知らぬSARS-CoV-2も相手しうるT細胞が季節性コロナウイルスとの先立つ交戦を経て生み出されうることを裏付けた初めての成果となったと免疫学の研究者などは述べています2)。今後の研究課題として、HLA-B*15:01がSARS-CoV-2への免疫反応を底上げする仕組みを調べる必要があります。その仕組みの解明は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の新たな予防ワクチンや治療手段の開発に役立ちそうです3)。参考1)Augusto DG, et al. Nature. 2023 Jul 19. [Epub ahead of print]2)One in five people who contract the COVID-19 virus don’t get sick. A gene variant may explain why / Science3)Gene Mutation May Explain Why Some Don’t Get Sick from COVID-19 / UC San Francisco

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喘息の症状悪化、次にすべきは?【乗り切れ!アレルギー症状の初診対応】第1回

喘息の症状悪化、次にすべきは?講師富山赤十字病院 小児アレルギーセンター センター長 足立 雄一 氏【今回の症例】7歳の男児。1年ほど前から喘息のため、吸入ステロイド薬(フルチカゾン換算で50μgを1日2回吸入)で治療。半年以上良い状態が続いていたが、ここ2~3ヵ月は風邪をひくと咳込みが長引き、その都度、気管支拡張薬や去痰薬を内服していた。今回は、最近体育の授業で息苦しいことがある、と来院。吸入は朝晩続けている。どのように対応すればよいか?1.吸入ステロイド薬を増量する2.吸入ステロイド薬は増量せず、長時間作用性β2刺激薬との合剤に変更する3.吸入ステロイド薬は増量せず、ロイコトリエン受容体拮抗薬を追加する

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第160回 インフルの集団感染、新型コロナの教訓はいずこに!?

新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の教訓は生かされていないのか? 宮崎県でのインフルエンザ集団発生の報道を知って、そう思った。1つの高校で教職員・生徒を合わせて491人ものインフルエンザの感染者が発生したとの一報を目にした時は、正直「冗談だろう? もしかして新型コロナと間違えた?」と思った。集団発生が起きた高校の生徒数はわからないが、宮崎県内の高校のデータを参照すると、全日制高校の生徒数は最大規模でも約1,600人。多くは700~900人規模かそれ以下である。ざっくり計算をすると、集団発生が起きた高校では2~4人に1人がインフルエンザに感染したことになる。となると基本再生産数が約2のインフルエンザではなく、5以上と報告されているオミクロン株による新型コロナではないかと考えてしまったのだが、この時期の呼吸器感染症ではPCR検査による鑑別はしているはずで、やはりインフルエンザということなのだろう。ただ、立ち止まって考えてみれば、不思議はないのかもしれない。まず、報道されているように、きっかけはどうやら体育祭のようだ。前回の記事でも触れたように、文部科学省が4月1日から「学校での教職員・生徒のマスク着用を原則不要」と通知した中、体育祭では教職員・生徒の多くがマスクを外していた可能性がある。その環境で人と人とが密着しやすい体育祭を行えば、集団発生が起こりやすいのは確かだ。ここであえて言及すると、この高校の体育祭で教職員・生徒の多くが実際にマスク非着用だったとしても、私はこれを批判するつもりはない。とはいえ、近年、1つの学校で短期間にこれだけのインフルエンザ患者が発生したケースは、少なくとも私個人は記憶にない。そしてここまでの集団発生の主たる原因は、マスク非着用での体育祭実施よりも、コロナ禍でインフルエンザの流行がかなり抑えられた結果、多くの人でインフルエンザに対して免疫が失われていたからではないだろうか。これに高校生がインフルエンザワクチンの定期接種の対象者ではないこと、仮に昨秋以降にワクチン接種をした人がいたとしても季節外れで効力が失われていることを考え併せると、今回の集団発生はおおむね説明がつくのかもしれない。では、ここからは私がこの事例でどんな「教訓」が生かされていないと考えているかに話の軸を移していきたい。ここでは釈迦に説法となるが、改めてインフルエンザの特徴を整理しよう。潜伏期間は1~3日無症候割合は10%ほどで、こうしたケースではウイルス量は低い感染力(ウイルス排出量)のピークは発症後この特徴を踏まえれば、今回の集団発生は、他者への感染が起きやすい環境と集団免疫の喪失に加え、この教職員・生徒の中に症状があるのに体育祭に参加した人がいるということだ。まさに私が指摘したいのはこの点である。コロナ禍を通じて、繰り返し叫ばれたのは「風邪様症状のある人は外出を控えて」というメッセージだ。コロナ禍当初には、OTCの風邪薬のCMで有名だった「風邪でも絶対休めないあなたへ」というキャッチコピーもついに消えた(このコピーについては2016年から問題が指摘されていたが、変更されたのは2020年3月ごろ。当該製薬企業は「TVCMの放映期間ならびにキャンペーンが終了したため修正した」と説明している)。残念ながら、今回の集団発生ではこのメッセージが守られていなかった可能性があると考えざるを得ない。集団発生の時期は新型コロナの感染症法上「5類化」後であり、この高校では久々の体育祭だったかもしれない。ならば教職員・生徒共に無理を押してでも参加したい気持ちがあったのだろうと想像する。しかし、ちょっとした“油断”がこれだけの事態を招いてしまう。今はコロナ禍を経た過渡期だが、同時にこれまでに得た教訓を踏まえ、社会がより良い方向に定着していくための重要な時期でもある。たとえば、コロナ禍で得られた重要な教訓・経験の1つはリモート化・オンライン化である。これを活用して体育祭の実況中継によるハイブリット開催も可能だったはず。数少ない貴重なイベントだからこそ、体調不良の教職員・生徒が少しでも安心して休め、かつ疎外感を抱かないようそこまで配慮しても良かったのではと思う。しかも、以前よりもこうしたことは低コストでできる。もちろん現場で参加する高揚感や充実感にはかなわないのは確かだが、そうしたサポートがないより遥かにマシなはず。そして社会がコロナ禍明けで「湧いている」ようにも見える今こそ、コロナ禍の教訓をいかに社会に定着させるかを改めて再認識する必要がある。そのためには途方もない地味な努力の継続が求められるだろう。たとえば「風邪様症状のある人は家で休もう」と言い続けることはその1つだ。これはある種、医療関係者だけでなく社会全体にとって「苦痛」な作業となる。しかし、これをあきらめたら、私たちは新型コロナに真の敗北を喫することになる。

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第160回 岡山大教授の論文不正、懲戒解雇で決着も論文撤回にはまだ応じず

コロナは文字通り“普通の風邪”へこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。5月8日、新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけが「5類」に移行しました。これに伴い、3年3ヵ月余りにわたって設置されていた政府の対策本部も廃止されました。また、WHOのテドロス事務局長は5月5日の記者会見で、新型コロナウイルス感染症をめぐる世界の状況について、2020年1月に発表した「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」の終了を宣言しました。これで、新型コロナウイルス感染症の流行はほぼ“終息”し、文字通り“普通の風邪”となったと言えるでしょう。ただ、日本においてこの3年間で浮き彫りになった医療提供体制や医療連携の課題がすべて解決したとは到底言えません。“喉元過ぎれば熱さを忘れる“ではないですが、次のパンデミックにおいても同じような失敗、ドタバタを繰り返さぬよう、政府や医療関係者にはこの3年間の徹底した検証とパンデミック対策の更新を行ってほしいと思います。ところで、WHOのデータによれば、これまでに世界人口(約80億人)の1%弱が新型コロナウイルス感染症に感染(診断された確定例の累積)し、0.1%弱が死亡したと報告されています(途上国などを考慮すると、実際はより多くが感染し、0.25%超が死亡したとの見方もあります)。今から100年前、世界的大流行を引き起こしたA/H1N1型のスペインインフルエンザ(いわゆるスペイン風邪)では、1918〜1920年の3年間に3度の流行の波が押し寄せたと言われています。そして、当時の世界人口(18億〜20億人と推定)の25〜30%が感染し、2〜5%が死亡したと推計されています。当時は、抗生物質やワクチンはおろか、インフルエンザウイルスの存在すらわかっておらず、医学・医療のレベルも低かったので、全人口に対する死亡率の差はこんなものだろうと思われますが、終息までに同じく約3年かかっている点がとても興味深いです。どれだけ医学が進歩しても、「新興感染症によるパンデミックの終息には3年はかかる」ということなのでしょうか。誰かにこの謎を解き明かしてもらいたいと思います。岡山大、細胞生理学分野の教授を懲戒解雇さて今回は、岡山大学医学部での論文不正について書きます。岡山大学・学術研究院医歯薬学域の神谷 厚範教授(医学部・細胞生理学分野)が2019年7月にnature neuroscience電子版に発表したがん治療に関する論文1)に実験に使ったマウスの数などの捏造や画像の使い回しが113ヵ所確認も確認された問題で、同大は4月17日、神谷教授を懲戒解雇処分とした、と発表しました(処分は4月14日付)。AMEDもプレスリリース、全国紙も大きく報道した研究この事件、たびたび発覚する医学部や生命科学系の研究者による論文不正ではあるのですが、2019年に発表したのがnature neuroscienceという一流誌であったため、研究資金を提供した日本のAMED(国立研究開発法人 日本医療研究開発機構)も論文掲載当時、「がんに自律神経が影響することを発見!がんの神経医療の開発へ」と題するプレスリリース(最近までAMEDのサイトに掲載されていましたが4月27日に取り下げられました)を出し、全国紙やNHKもその成果を大きく報道しました。そうした経緯もあってか今回の懲戒解雇を報道したメディアの数も心なしか多かった印象です。研究成果を“誤報”したことへのメディア自身の反省もあったのかもしれません。全国紙各紙は、今回の懲戒解雇報道の末尾に2019年の記事を取り消す旨を記しています。たとえば読売新聞は「2019年7月9日の朝刊社会面で、神谷教授らによる論文について『乳がん 交感神経で悪化?』の見出しで報じました。岡山大などが論文不正を認定し、日本医療研究開発機構も研究費の一部返還と、神谷教授に対する新たな研究申請の停止を決めたことから、記事と見出しを取り消します」と記しました。交感神経の働きを止めるとがんの進行も抑えられることを、マウスを使って確認神谷元教授が発表した論文は、交感神経をがんの中で活発に働かせたところ腫瘍が大きくなるなどがんが進行し、交感神経の働きを止めるとがんの進行も抑えられることを乳がんのマウスを使った実験で確認した、という内容でした。マウスにヒトの乳がん組織を移植し、乳がん組織内の交感神経を刺激し続けると、60日後、刺激しないマウスと比較して刺激したマウスのがんの面積は2倍近く大きくなり、転移数も多かったそうです。一方、遺伝子治療で交感神経の活性化を止めると、60日経ってもがんの大きさはほとんど変化せず、転移もなかったとのことです。当時の朝日新聞の記事によれば、神谷元教授は「不安や怒りなどをうまくコントロールし、交感神経を刺激し過ぎないようにすることで、良い影響を与えられるかも知れない」と話していました。AMEDに論文に関する匿名の告発が届き不正発覚「精神の状態ががんの転移にも影響する…」。一般人にも極めてわかりやすいロジックゆえ、マスコミも飛びつきやすかったこの研究ですが、2020年9月にAMEDに対し同論文に関する匿名の告発があったことで事態は急転します。告発を受け取ったAMEDは、元教授が論文の実験を行った前任地、国立循環器病研究センターと岡山大に研究不正の予備調査実施の要請を行いました。翌2021年には、それぞれで調査委員会が立ち上げられ、本格的な調査がスタートしました。国立循環器病研究センターの調査報告書2)は2023年3月2日に、岡山大学の調査報告書3)は3月24日にそれぞれ公表されました。実験に用いたとするマウス、ラットの数と実際に使用できた数が大きく乖離それらの調査結果によれば、論文ではマウス914匹、ラット368匹を実験に用いたとしていましたが、神谷元教授が購入するなどして実際に使用できたとみられるのはそれぞれ72匹、35匹しかいなかったとのことです。こうした動物の使用数に関する捏造が108ヵ所に上り、「論文の実験は不可能」と結論付けています。ほかにも実験結果を示す画像5ヵ所の捏造も認定されました。たとえば自律神経の操作でマウスのがんの増殖が抑制されたとした実験では「0日目」と「60日目」の画像がいずれも同じ日に撮影されていました。調査報告書は、露光時間を変えることで見かけ上、がんの大きさを調整したとみられるとしています。調査委員会の調べに対し、神谷元教授は「2018年6月の大阪府北部地震でハードディスクが落下して故障し、データを失った」として実験データを提供しませんでした。捏造の指摘についても「マウスは再利用していた」「画像の取り違いがあった」などと説明し、不正を認めていないとのことです。岡山大が懲戒免職という重い処分を下したのに対し、AMEDは神谷元教授が論文執筆時に所属していた国立循環器病研究センターに対し、研究費の一部約11万8,000円の返還を求めました。AMEDによると、神谷教授が同センターで研究所室長などとして活動していた2015~2018年度、計約4,700万円の研究資金を提供。このうち、不正が確認された論文に直接関係する費用として、英文の校正費(2017年度)について返還を求めたとのことです。同センターは返還に応じる方針です。研究所時代の成果を引っさげ、教授に就任神谷元教授は1994年に浜松医科大学医学部卒業、2000年に名古屋大学大学院医学系研究科博士課程を修了しています。名古屋大学環境医学研究所助手を経て2002年より国立循環器病研究センター研究所・循環動態機能部室員となり、2017年には同循環モデル解析研究室長となっています。同研究所時代の研究成果を引っさげ、2018年に岡山大学の教授に就任しました。2019年にnature neuroscienceに発表した論文は、国立循環器病研究センター研究所の室長時代に行った実験によって得られた成果を発表したものであり、そのためもあって、同センターによる調査報告書は50ページ(岡山大学は10ページ)と長く、不正の背景や原因をより詳しく分析した内容となっています。研究姿勢が「科学者としてあるべき真摯さや誠実な姿勢からかけ離れたものであった」その中で、論文不正の社会的影響については、「論文I(nature neuroscience掲載の論文)については、2019年7月5日に岡山大学をはじめ5機関の連名で記者発表され、複数の新聞で報道されるとともに、元室長により複数回学会等で発表されている。また、元室長により、この論文と関連する別の研究が開始されている。加えて、この論文の被引用回数は2022 年8月4日現在で100回を超えており、すでに相当数の論文で引用がなされている状況である。掲載された『Nature Neuroscience』は、影響力の大きな科学雑誌であり、この論文を基に、新たな研究を着想している研究者がいることも十分に想定される。以上より、患者を対象とした新たな臨床研究等がスタートしているような状況でないものの、このような論文において、極めて不適切な研究が行われた事実が当該分野の研究の進展に与える悪影響は大きいと言わざるを得ない」と書いています。さらに、発生要因については、「今回の事案が発生した要因として、まず、元室長の研究に対する姿勢が、科学者としてあるべき真摯さや誠実な姿勢からかけ離れたものであった点を挙げざるを得ない。科学者として当然に備えるべき『科学界に対して真正なる結果を報告する』という意識、倫理観が欠如していたことが、今回の事案が引き起こされた最大の要因と言える。科学雑誌では、科学的根拠となる実験手法を正確に記載して、再検証ができるようにすることが求められているが、元室長による論文の記載は、それとはかけ離れたものであった」と、元室長個人の研究者としての姿勢を厳しく糾弾しています。さらに、「元室長が、調査の過程において、科学者が第三者的な立場から本実験結果を評価する上で考えもしない独自の主張を繰り返すとともに、『共著者や学術誌の査読者と編集者も気付かずに、そのまま出版されてしまいました』と他に責任を転嫁するような主張を行い、また、『大量の図の中においてこのエラーに気付くのは困難でした』と、図表が大量であれば、過失が許されるかのような主張をしたことも、上記の意識の欠如を裏付けるものである」とも書いています。2020年には別の国立循環器病研究センター室長による論文不正もそれにしても、論文不正が発覚すると、研究が行われた前職・元職の研究所や大学だけではなく、現職の職場でも調査を行わなければならないので大変です。今回は、国立循環器病研究センターの調査委員会は5人、岡山大の調査委員会では7人が調査を担当しています。数本の論文の捏造や改ざんのためにそれだけの時間と労力(外部有識者には費用も)が割かれたわけです。大変な無駄遣いと言えるでしょう。そう言えば、国立循環器病研究センターの論文不正としては、2020年8月にも別の事案が発覚し(「第22回 大阪大論文不正事件の“ナゾ” NHKスペシャル「人体」でも取り上げられた臨床研究の行方は?」参照)、大きなニュースになりました。この時も、同センターで室長を務めていた医師が発表した論文5本に捏造・改ざんが確認されています。論文を量産することでどこかの大学教授のポストをなんとか狙いたい“室長”という微妙な地位が、不正に走らせる一因となっているのでしょうか。なお、nature neuroscienceの論文について、岡山大は撤回するよう神谷元教授に対して勧告を行いましたが、まだ撤回は行われていません。参考1)Kamiya A, et al. Nat Neurosci. 2019;22:1289-1305.2)研究活動の不正行為に関する調査結果報告書/国立循環器病研究センター3)研究活動の不正行為及び倫理指針不適合に関する調査結果報告について/岡山大学

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