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注射薬のデュピルマブが喘息患者の気道閉塞を改善

 抗炎症作用のある注射薬のデュピルマブ(商品名デュピクセント)が、喘息患者の粘液の蓄積を減らし、喘息発作時の気道の閉塞を改善するのに有効であることが、新たな臨床試験で示された。この試験の結果によると、デュピルマブを使用した患者では、粘液による気道閉塞が見られる割合が半減したという。ビスペビアウ病院(デンマーク)のCeleste Porsbjerg氏らによるこの臨床試験の詳細は、「American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine」に10月27日掲載された。 Porsbjerg氏は、「中等症から重症の喘息では、肺の中にたまった粘液により気道が塞がれて呼吸が制限され、重度の喘息発作が生じたり、死に至ることもある」とニュースリリースの中で述べている。同氏らによると、体内に少量の粘液があるのは普通のことであり、風邪やインフルエンザに罹患したときを除けば、それが問題になることはない。しかし、喘息患者の場合、炎症によって気道が狭まり、粘液が気道を塞ぐと命に関わる恐れがあるという。 今回の臨床試験には関与していない専門家の1人で、アレルギー&喘息ネットワークのチーフ・リサーチ・オフィサーのDe De Gardner氏は、「喘息発作時に粘液の分泌量が増える患者にとっては、それが強いストレスや不安の原因になる。粘液が喉に詰まり、うまく咳で出せなかったりすると、吐き気を催すこともある」とニュースリリースの中でコメントしている。 Drugs.comによると、デュピルマブはもともと免疫に関連した疾患であるアトピー性皮膚炎の治療薬として2017年に承認され、その後、喘息、副鼻腔炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの治療にも用いられるようになった。デュピルマブは、炎症に関わるサイトカイン(インターロイキン〔IL〕-4、IL-13)の働きを直接抑えることで作用する。 今回報告された臨床試験では、109人の中等症から重症の喘息患者を24週間にわたって、2週間ごとにデュピルマブ(300mg)を注射投与する群(72人)とプラセボを注射投与する群(37人)にランダムに割り付けた。 その結果、デュピルマブ群では重度の粘液による気道の閉塞が認められる患者の割合が治療開始前の67.2%から試験終了時には32.8%に低下し、大幅な改善が見られた。一方、プラセボ群での割合は試験開始前(76.7%)と試験終了時(73.3%)で、ほとんど変化が認められなかった。また、呼気の分析でも、デュピルマブ群ではプラセボ群と比べて、炎症の指標である呼気中一酸化窒素濃度(FeNO)が25ppb未満まで減少した患者の割合が有意に多く、さらに、肺機能も有意に改善したことが示された。 Porsbjerg氏らは、「これらの結果は、デュピルマブが中等症から重症の喘息患者において、治療開始からわずか4週間で粘液による気道の閉塞と炎症を軽減することを示している」と結論付けている。ただし、デュピルマブは安価な薬ではない。Drugs.comによると、同薬の1カ月分(300mgの注射を2回分)の価格は約3,900ドル(1ドル154円換算で約60万円)に上るという。 なお、今回報告された臨床試験は、デュピルマブを製造するSanofi/Regeneron Pharmaceuticals社の資金提供を受けて実施された。

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風邪や咳症状に対する日本での市販薬使用状況は?

 OTC医薬品の適切な使用を促進し、国民医療費の削減に貢献するうえで、OTC医薬品の使用に影響を与える要因を理解することは重要である。大阪大学の田 雨時氏らは、COVID-19パンデミック後の日本における風邪や咳に対するOTC医薬品を用いたセルフメディケーションの現状を調査し、関連要因を明らかにするため、本調査を実施した。BMC Public Health誌2025年5月24日号の報告。 2024年4月25日〜6月26日にオンライン横断調査を実施した。日本の風邪や咳に対するセルフメディケーション行動の現状および社会背景や心理評価尺度に関する共変量を収集した。これらの関連性の分析には、多変量ロジスティック回帰分析を用いた。結果のロバスト性を検証するため、サブグループ分析および感度分析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・分析には、参加者1,086例を含めた。・参加者の43.6%が風邪や咳の症状が出始めた時点でOTC医薬品を服用していた。・症状が1週間続いた後、医療機関を受診した割合は61.7%であった。・参加者の80%超が使用上の注意を厳守していた。・1週間以内に医療機関を受診することに関連する因子には、年齢、居住地域、教育水準、婚姻状況、保険の種類、基礎疾患の有無、定期的な医師の受診、外向性が挙げられた。・服用量順守に関しては、協調性が正の因子であり、子供がいることは負の因子であることが示された。・OTC医薬品の使用期限の認識については、健康関連情報を検索するためのインターネットリテラシーを示すeHEALSが、有意かつロバストな正の因子であることが明らかとなった。 著者らは「日本人の多くは、風邪や咳に対してOTC医薬品を使用していることが明らかとなった。また、ほとんどの参加者は、OTC医薬品の適切な使用を順守していた」とし、「OTC医薬品のさらなる普及促進のためには、本研究で明らかになった主な因子に対処することが重要である」と結論付けている。

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第269回 2026年度改定の主戦場は外来診療 かかりつけ医機能報告制度が“新たな物差し”に/財務省

<先週の動き> 1.2026年度改定の主戦場は外来診療 かかりつけ医機能報告制度が“新たな物差し”に/財務省 2.インフルエンザ12週連続増加 5県で警報レベル、過去2番目の早さで流行拡大/厚労省 3.医師少数区域を再定義、へき地尺度の導入で支援対象を拡大/厚労省 4.大学病院の医師処遇改善へ、給与体系見直しと研究時間確保に向け取りまとめ/政府 5.12月2日からマイナ保険証へ全面移行 期限切れ保険証は3月末まで有効に/厚労省 6.高齢者3割負担拡大も議論加速へ、金融所得の保険料反映が本格化/政府 1.2026年度改定の主戦場は外来診療 かかりつけ医機能報告制度が“新たな物差し”に/財務省2026年度の診療報酬改定に向け、財務省が「診療所・調剤薬局の適正化」を強く打ち出し、開業医を巡る環境が一段と厳しくなりつつある。焦点は、今年度スタートした「かかりつけ医機能報告制度」を土台に、機能を十分に果たしていない診療所の報酬を減算し、機能を発揮する診療所に評価を集中させる方向性だ。具体的には、報告制度上の「1号機能」を持たない医療機関の初診・再診料を減算し、【機能強化加算】【外来管理加算】は廃止、【地域包括診療料・加算】は認知症地域包括診療料などと統合し、発展的改組という案が財政制度等審議会で示されている。かかりつけ医機能報告制度では、研修修了や総合診療専門医の有無、17診療領域・40疾患の1次診療対応、患者からの相談対応などを「1号機能」として毎年報告し、時間外診療・在宅・介護連携などを「2号機能」として申告する。かかりつけ医機能報告制度は今年度始まったばかりで、初回報告が2026(令和8)年1月頃に予定されている。その結果が今後の加算要件・減算判定の「物差し」となる可能性が高い。これにより、機能強化加算と地域包括診療料などの加算要件が報告制度と整合的に整理される可能性がある。財務省は、診療所は過去に「高い利益率を維持してきた」とし、物価・賃上げ対応は病院に重点配分すべきと主張する一方、無床診療所などの経常利益率は中央値2.5%、最頻値0~1%と低水準であり、インフレ下で悪化しているとの日本医師会のデータも示されている。日本医師会の松本 吉郎会長は、開業医の高収入イメージを強調する財務省資料は「恣意的」と強く批判し、補助金終了後の厳しい経営実態を踏まえた「真水」の財源確保と十分な改定率を求めている。開業医にとって当面の実務ポイントは、「報告制度への対応」ならびに「収益構造の見直し」となる。まず、報告制度は、自院がどの診療領域・疾患まで1次診療を担うか、相談窓口としてどこまで責任を負うか、時間外・在宅・介護連携をどう位置付けるかを棚卸しするツールと捉えたい。1号機能の対応領域が限定的であれば、今後の診療報酬上の評価が縮小しかねない。研修修了者の配置や、地域包括診療料・生活習慣病管理料・在宅医療の組み合わせも含め、自院の「かかりつけ医像」を描き直す必要がある。同時に、機能強化加算・外来管理加算への依存度が高いクリニックは要注意となる。これらが縮小・廃止された場合に備え、地域包括診療料・加算への移行、逆紹介の受け皿としての役割強化、連携強化診療情報提供料や在宅関連の評価、オンライン診療(D to P with Nなど)の活用など、収益を強化する戦略が求められる。今年度始まったばかりの「かかりつけ医機能報告制度」、どのように対応するかが、次期改定以降の経営戦略の出発点になりそうだ。 参考 1) かかりつけ医機能報告制度にかかる研修(日本医師会) 2) かかりつけ医「未対応なら報酬減」 財務省、登録制にらみ改革提起(日経新聞) 3) 日医・松本会長 財政審を批判「医療界の分断を招く」開業医の高給与水準は「恣意的にイメージ先行」(ミクスオンライン) 4) 機能強化加算と地域包括診療料・加算を「かかりつけ医機能報告制度」と対応させ整理か(日経メディカル) 2.インフルエンザ12週連続増加 5県で警報レベル、過去2番目の早さで流行拡大/厚労省インフルエンザの感染拡大が全国で続いており、厚生労働省が発表した最新データでは、11月3~9日の1週間の患者数が1医療機関当たり21.82人と、前週の約1.5倍で12週連続の増加となった。注意報レベル(10人)を大きく上回り、宮城県(47.11人)、埼玉県(45.78人)など5県で警報レベル(30人)超。東京都も都独自基準で警報を発表した。全国で3,584校が休校・学級閉鎖となり、前週比1.5倍以上の増加と、教育現場での感染も拡大している。今年の流行は例年より1ヵ月以上早く、過去20年で2番目の早さ。近畿地方・徳島県でも注意報レベルに達する地域が急増し、地域差を超えて全国的に拡大している。クリニックでもワクチン接種希望者が急増しており、現場からは「1~2ヵ月早い流行」との声が上がる。流行の背景には、近年のインバウンドの増加に加え、各地で開催されるイベントや大阪万国博覧会など国際的な催事により、海外からのウイルス流入が増えた可能性が指摘されている。一方、新型コロナウイルスは全国で1医療機関当たり1.95人と前週比14%減で減少傾向にあるが、感染症専門家は「別系統のインフルエンザ流行やコロナ再増加もあり得る」とし、 来年2月までの警戒を継続すべきと警鐘を鳴らしている。厚労省でも引き続き、「手洗い・マスク・換気」など基本的感染対策の徹底を呼びかけている。 参考 1) 2025年 11月14日 インフルエンザの発生状況について(厚労省) 2) インフルエンザ・新型コロナウイルス感染症の定点当たり報告数の推移(同) 3) インフルエンザ感染者が前週の1.46倍、感染拡大続く…新型コロナは減少(読売新聞) 4) インフルエンザ患者数は8.4万人に 万全な感染予防を(ウェザーニュース) 5) インフルエンザ流行警報、全国6自治体が発令…首都圏・東北で拡大(リセマム) 3.医師少数区域を再定義、へき地尺度の導入で支援対象を拡大/厚労省厚生労働省は、11月14日に開かれた「地域医療構想・医療計画等に関する検討会」で、次期医師確保計画(2025年度以降)で用いる医師偏在指標の見直し案を提示した。現行指標が抱える「地理的条件を十分に反映できない」という課題を踏まえ、人口密度、最寄り2次救急医療機関までの距離、離島・豪雪地帯といった条件を数値化し「へき地尺度(Rurality Index for Japan:RIJ)」を併用し、医師少数区域を再定義する方針。具体的には、現行の医師偏在指標で下位3分の1に該当する区域に加え、中位3分の1のうちへき地尺度が上位10%の区域を「医師少数区域」に追加する案が示された。RIJは(1)人口密度、(2)2次救急病院への距離、(3)離島、(4)特別豪雪地帯の4要素により構成され、へき地度の高い地域では、医師が対応すべき診療範囲が広がる傾向が明確になっている。構成員からは、地理的要素を反映できる点についておおむね評価が示され、一方で「算定式が複雑で現場への説明が難しい」との懸念も上がった。また、全国の医師数自体は増加しているため、偏在指標の下位3分の1基準を固定的に運用すると、多くの都道府県が基準外となる可能性も指摘された。厚労省は、次期計画では医師偏在指標とへき地尺度の双方を踏まえ、都道府県が「重点医師偏在対策支援区域」を設定し、医師確保に向けた重点支援を行う仕組みを強化する方針である。支援対象医療機関の選定においても、へき地医療・救急医療・在宅医療など地域の医療提供体制上の役割を考慮し、地域医療対策協議会および保険者協議会の合意を前提とする。医師偏在は、都市部と地方の医療格差を生み、地域住民のライフラインに影響するため政策課題である。今回の指標見直しは、「人数ベースの偏在」から「地理的ハンディキャップを加味した偏在」へと視点を転換する試みといえ、へき地を抱える地域にとっては実態に即した区域指定につながる可能性が高い。今後は、新指標の丁寧な説明と自治体の運用力が問われる局面となる。 参考 1) 医師確保計画の見直しについて(厚労省) 2) 医師偏在指標に「へき地尺度」併用へ 地域医療構想・医療計画検討会(CB news) 4.大学病院の医師処遇改善へ、給与体系見直しと研究時間確保に向け取りまとめ/政府高市 早苗総理大臣は11月10日の衆院予算委員会で、大学病院勤務医の給与水準や研究時間の不足が深刻な問題となっている現状を受け、「年度内に大学病院教員の処遇改善と適切な給与体系の方針をまとめる」と表明した。自民・維新の連立合意書に基づくもので、教育・研究・診療を担う大学病院の機能強化を社会保障改革の重要項目として位置付ける。質疑では、日本維新の会の梅村 聡議員が、53歳国立大学外科教授の手取りが33万円という給与明細を示し「収入確保のため土日や平日昼にアルバイトせざるを得ず、研究・教育に時間を割けない」と窮状を訴えた。医局員12人中常勤4人、非常勤8人で外来・手術を回す実態も示され、高市首相は「このままでは人材流出につながる」と強い危機感を示した。松本 洋平文部科学大臣は、国公私立81大学病院の2024年度の経常赤字が508億円に達し、診療偏重で教育・研究が圧迫されている現状を説明。大学病院の本来的な機能が損なわれているとの認識を共有した。大学の研究力低下も指摘され、自然科学系上位10%論文数が20年前の世界4位から13位へ後退したこと、医療関連貿易赤字が1990年の約2,800億円から2023年には4兆9,664億円に拡大したとのデータも示された。高市総理はこれらを受け、「大学に対する基盤的経費は必要な財源を確保する」とし、研究開発と人材育成は国の成長戦略そのものであると強調した。さらに、社会保障改革の議論の中で、高齢者層が多く負担する税(例:相続税)を含む財源の再設計についても「1つの提案として受け止める」と前向きな姿勢を見せた。今回の議論は、大学病院の経営改善だけでなく、診療・教育・研究の三位一体機能を再建し、医師の働き方・キャリア形成、ひいてはわが国の医学研究力の立て直しに直結する政策課題として位置付けられつつある。 参考 1) 高市首相、大学病院教員の処遇改善「年度内に方針」人材流出の懸念も表明(CB news) 2) 高市首相 「大学病院勤務医の適切な給与体系の構築含む機能強化」に意欲 経営状況厳しく(ミクスオンライン) 5.12月2日からマイナ保険証へ全面移行 期限切れ保険証は3月末まで有効に/厚労省12月2日から従来の健康保険証が廃止され「マイナ保険証」へ完全移行する中、厚生労働省は移行期の混乱回避を目的に、2026年3月末まで期限切れ保険証の使用を認める特例措置を全国の医療機関に通知した。昨年12月に保険証の新規発行が停止され、最長1年の経過措置が終了するため、12月1日をもって協会けんぽ・健保組合加入者約7,700万人の従来の保険証は形式上すべて期限切れとなるが、資格確認さえできれば10割負担を求めない。すでに7月に期限切れとなった後期高齢者医療制度・国保加入者に続き、今回の通知で全加入者が特例の対象となった。厚労省は医療機関に対し、期限切れ保険証を提示した患者がいた場合、保険資格の確認後、通常の負担割合でレセプト請求するよう要請。一方で、特例は公式な一般向け周知は行わず、原則は「マイナ保険証」または自動送付される「資格確認書」で受診する体制へ移行する方針は変わらない。資格確認書は保険証の代替として使用可能だが、「資格情報のお知らせ」とは異なり、後者では受診できない点を現場で説明する必要がある。背景には、周知不足による混乱リスクがある。国保で期限切れ直後の8月、18.5%の医療機関が「期限切れ保険証の持参が増えた」と回答しており、12月以降は同様の事例が増加することが確実視されている。さらに、マイナ保険証の利用率は10月時点で37.1%にとどまり、若年層や働き盛り世代では周知が届いていない。「期限を知らない」「カードを持ち歩かない」「登録方法を把握していない」といった声も多く、受診機会の確保には医療機関による実務的な対応が不可欠となる。マイナ保険証は、診療・薬剤情報の参照、限度額適用の自動反映、救急現場での活用など医療的メリットが期待される一方、制度への不信も根強く利用が伸びない。完全移行の初動は、現場負担の増加が避けられないが、厚労省は年度末までの特例運用を「移行期の安全策」と位置付けている。医療機関は、資格確認の確実な運用、窓口の説明強化、患者への資格確認書の案内など、年末から春にかけての実務準備が求められる。 参考 1) マイナ保険証を基本とする仕組みへの移行について(厚労省) 2) 「マイナ保険証」完全移行へ、26年3月末までは従来保険証でも使える特例措置…厚労省が周知(読売新聞) 3) 従来の健康保険証、期限切れでも10割負担にならず 26年3月まで(毎日新聞) 4) 12月1日で使えなく…ならない「紙の保険証」 政府が「特例」認めて来年3月末まで使用OK 周知不足で混乱必至(東京新聞) 6.高齢者3割負担拡大も議論加速へ、金融所得の保険料反映が本格化/政府政府・与党内で社会保障制度改革の議論が一気に加速している。最大の論点は、医療・介護保険料の算定に「金融所得」を反映させる新たな仕組みの導入である。現行制度では、上場株式の配当や利子収入などの金融所得は、確定申告を行った場合のみ保険料に反映される。一方、申告を行わない場合は算定から完全に外れ、金額ベースで約9割が把握されない状況だ。厚生労働省や各自治体は確定申告されていない金融所得を把握する手段がなく、「同じ所得でも申告の有無で負担が変わるのは不公平」との指摘が続いていた。これを受け、厚労省は証券会社などが国税庁へ提出する税務調書を活用し、市町村が参照できる「法定調書データベース(仮称)」を創設する案を提示。自民党および日本維新の会も協議で導入の方向性に一致しており、年末までに一定の結論をまとめる見通しだ。上野 賢一郎厚生労働大臣も「前向きに取り組む」と明言しており、制度化に向けた動きが本格化している。同時に議論が進むのが高齢者の医療費自己負担(現役並み所得の3割負担)の拡大である。現行では、単身年収383万円以上などの比較的高所得層が対象だが、高齢者の所得増や受診日数減少を踏まえ、基準の見直しを求める意見が厚労省部会で相次いだ。一方で「高齢者への過度な負担増」への懸念も根強く、慎重な検討が必要との声も大きい。加えて、自民・維新協議では「OTC類似薬」の保険適用見直しも初期の重要論点となっている。湿布薬や風邪薬など市販薬と効果が重複する医薬品を保険給付外とする案だが、利用者負担の増加や日本医師会などの反対もあり調整は難航が予想される。超高齢社会において、医療・介護費の伸びを抑え現役世代の負担をどう軽減するかは避けて通れない課題である。金融所得の把握強化と高齢者負担の見直しという2つの柱は、今後の社会保障制度改革の中核テーマとなり、年末に向けて政策の具体像が示される見込みだ。 参考 1) 社会保障(2)(財務省) 2) 社会保障制度改革 “新たな仕組み導入へ検討進める” 厚労相(NHK) 3) 金融所得、保険料に反映 厚労省検討 税務調書を活用(日経新聞) 4) 社会保障改革めぐる自民・維新の協議 どのテーマでぶつかる? OTC類似薬、高齢者の負担増、保険料引き下げ(東京新聞)

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息切れがして歩きが遅い【漢方カンファレンス2】第8回

息切れがして歩きが遅い以下の症例で考えられる処方をお答えください。(経過の項の「???」にあてはまる漢方薬を考えてみましょう)【今回の症例】80代男性主訴呼吸困難、歩きが遅くなった既往慢性閉塞性肺疾患(COPD)、腰椎椎間板ヘルニア生活歴50歳まで喫煙、ADLは自立。病歴50歳時にCOPDと診断。呼吸器内科で吸入薬を中心とした治療を受け、咳や痰がときおりある程度で落ち着いていた。3ヵ月前に腰痛が悪化して、腰椎圧迫骨折の診断で3週間の入院加療を行った。退院後、腰痛は軽減して日常生活は問題なくできていたが、歩行時の息切れがひどくなった。以前から妻と散歩をしていたが、妻の歩きについていけなくなった。呼吸機能検査では悪化はなく、漢方治療を希望して受診した。現症身長161cm、体重52kg。体温35.4℃、血圧115/77mmHg、脈拍70回/分 整、SpO2 98%。呼吸音は異常なし、軽度の下肢浮腫あり。経過初診時「???」エキス3包 分3で治療開始。(解答は本ページ下部をチェック!)1ヵ月後息切れは変わらない。夜間尿が1〜2回に減った。下肢の浮腫は減ったが冷えは変わらない。ブシ末3包 分3を追加2ヵ月後腰痛と息切れがずいぶん楽になった。散歩に行く意欲がでてきた。3ヵ月後散歩で息切れがなくなって、妻と同じ速度で散歩ができるようになったと喜んでいる。問診・診察漢方医は以下に示す漢方診療のポイントに基づいて、今回の症例を以下のように考えます。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?(冷えがあるか、温まると症状は改善するか、倦怠感は強いか、など)(2)虚実はどうか(症状の程度、脈・腹の力)(3)気血水の異常を考える(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む【問診】<陰陽の問診> 寒がりですか? 暑がりですか? 体の冷えを自覚しますか? 体のどの部位が冷えますか? 横になりたいほどの倦怠感はありませんか? 寒がりです。 足、とくに膝下が冷えます。 足は冷えますが、足の裏がほてることがあります。 横になりたいほどではありませんが歩くと息切れがひどくきついです。 入浴で長くお湯に浸かるのは好きですか? 入浴で温まると、腰痛はどうなりますか? 冷房は苦手ですか? 入浴の時間は長いです。 入浴後は腰痛が軽くなります。 冷房は好きでも嫌いでもありません。 のどは渇きますか? 飲み物は温かい物と冷たい物のどちらを好みますか? のどは渇く方です。 温かい飲み物が好きです。 <飲水・食事> 1日どれくらい飲み物を摂っていますか? 食欲はありますか? 胃は弱くありませんか? だいたい1日1L程度です。 食欲はあります。 胃は丈夫です。 <汗・排尿・排便> 汗はよくかきますか? 尿は1日何回出ますか? 夜、布団に入ってからは尿に何回行きますか? 便は毎日出ますか? 下痢や便秘はありませんか? 汗はあまりかきません。 尿は1日12回くらいです。 夜は3回トイレに行くので困っています。 便は毎日出ます。下痢はありません。 <ほかの随伴症状> 全身倦怠感はありますか? 朝が一番きついということはありませんか? 腰痛はどうですか? よく眠れますか? 歩くときついですがじっとしていれば倦怠感はありません。 朝は調子がよいです。 腰痛は随分よくなりましたが動くとまだ痛いですね。 睡眠は問題ありません。 日中の眠気はありませんか? 目の疲れや抜け毛は多くありませんか? 足をよくつりますか? 頭痛やめまいはありませんか? 下肢はむくみませんか? 眠気はありません。 目の疲れや抜け毛はありません。 足はつりません。 頭痛やめまいはしません。 夕方になると下肢がむくみます。 風邪をひきやすいですか? 咳や痰はひどいですか? 風邪はあまりひきません。 咳はたまに出る程度です。痰も量は少ないです。 ときどき粘っこい痰が出ます。 イライラや不安はありませんか? どれくらい生活に支障が出ていますか? イライラや不安はありませんが、何をするにも億劫になりました。以前はグランドゴルフもやっていましたが、いまは散歩にいく気力もありません。 【診察】顔色は正常。脈診ではやや沈・強弱中間の脈。また、舌は暗赤色、乾燥した白苔が中等量、舌下静脈の怒張あり。腹診では腹力は中等度より軟弱、胸脇苦満(きょうきょうくまん)・心下痞鞕(しんかひこう)はなし、腹直筋緊張あり、上腹部と比べて下腹部の腹力が低下している小腹不仁(しょうふくふじん)を認めた。下肢に浮腫が軽度あり、触診で冷感あり。カンファレンス 今回の症例は、呼吸困難感と歩行速度の低下を訴える高齢の男性です。 COPDはコモンな疾患で、抗コリン薬やステロイドの吸入が標準的な治療ですが、それ以外の治療は乏しいです。本症例は呼吸機能検査の悪化はなく、腰椎圧迫骨折を契機に出現した症状ということで、肺というよりは体力や筋力の低下が問題で「リハビリを頑張ってください」と言いたくなりますね。 そうですね。COPDの治療には生活の質の改善や身体活動性の維持・向上が含まれますから、リハビリの強化は必要ですね。 全身倦怠感や息切れのために積極的にリハビリが行えない、意欲が低下してなかなかリハビリが進まないケースも多いですね。 そういうケースに漢方薬を使うことでリハビリがスムーズに行えるように支えることができたらよいね。 それでは、順番にみていきましょう。 下肢、とくに膝下の冷えの訴えがあるので陰証でしょうか。そのほか寒がり、入浴の時間は長い、温かい飲み物を好む、触診で下肢に冷感があるなどが陰証を示唆する所見です。ただし、横になりたいほどの倦怠感はない、脈は強弱中間であることから、少陰病や厥陰病(けついんびょう)というわけではないようです。 そうだね。ただし腰痛が入浴で温まると改善するということは、冷えの関与が考えられるね。 入浴で温まると痛みがよくなるということで附子(ぶし)を使いたくなります。 それでは漢方診療のポイント(2)の虚実はどうだろう? 脈は強弱中間、腹力は中等度より軟弱であることからやや虚証〜虚実間です。 そうですね。では気血水の異常を考えてみましょう。 歩行できついという全身倦怠感があるので気虚でしょうか? 疲れやすさは気虚と考えることができるね。ただし本症例では気虚の倦怠感の特徴である食欲低下や昼食後の眠気は目立たないね。また、風邪をひきやすいことも気虚の特徴だけど、そちらもないよね。 気虚はありそうだけど、典型的な気虚というわけでもなさそうですね。 また、朝調子が悪いという気鬱の全身倦怠感でもないようです。 血の異常はどうだろう? 抜け毛、こむら返り、目の疲れなど血虚はありません。瘀血は舌暗赤色、舌下静脈の怒張があります。 水毒の所見としては下肢の浮腫がありますね。また夜間尿3回は夜間頻尿で水毒と考えることができますね。ここまでをまとめると、太陰病で、気虚はありそうだけど典型ではない、瘀血、水毒となりますね。 散歩に行く意欲がない、何をするのも億劫というのは気鬱でしょうか? 気鬱としてもよいかもしれないね。ただし、下肢の冷え、腰痛、夜間頻尿、歩行速度の低下などと意欲の低下を一元的に考えるとどうだろう? なるほど、心身一如の漢方治療ですね。それらを加齢に伴う症状として考えると漢方医学的には腎虚(じんきょ)と捉えることができませんか? そのとおり。腎の働きが加齢とともに弱くなり、腎の機能が衰えてくることを腎虚というよ。代表的なものは腰以下の症状(冷え、腰痛、下肢痛、下肢の脱力感など)、排尿異常(夜間頻尿、頻尿や尿量減少:尿が多くても少なくてもよい)、精力減退だね。下肢(とくに膝から下)の冷えが典型だけど、手掌や足底のほてりを訴えることもあるよ。加齢に伴う症状として、聴力障害、視覚障害、呼吸器症状なども腎虚による症状だね(腎虚については本ページ下部の「今回のポイント」の項参照)。 腎虚といえば、坐骨神経痛や夜間頻尿など、腰下肢痛や排尿異常を思い浮かべてしまいますが、さまざまな症状が含まれるのですね。 先天の気は腎に蓄えられることから、全身倦怠感や意欲の低下といった気虚と類似した症状もあらわれることがあるのも理解できるね。 現代ではフレイルやサルコペニアなどが老化の概念として活用されていますね。とくにフレイルには多面性があって、身体的フレイル、心理・精神的フレイル、社会的フレイルに分類され、心理社会的側面な意味を含むことも腎の働きと似ていますね。 あとは細かい点だけど、足の裏がほてるという症状も腎虚で出現する症状だよ。 本症例をまとめましょう。 【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?寒がり、下肢、とくに膝下が冷える、入浴は長い、下肢に冷感→陰証(太陰病)(2)虚実はどうか脈:やや強弱中間、腹:中等度より軟弱→やや虚証〜虚実間(3)気血水の異常を考える歩くと倦怠感→気虚?、舌暗赤色、舌下静脈の怒張→瘀血、下肢浮腫→水毒、下肢冷えと浮腫、腰痛、夜間頻尿、意欲の低下→腎虚(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む加齢症状、小腹不仁解答・解説【解答】本症例は、腎虚に対して用いる八味地黄丸(はちみじおうがん)で治療をしました。【解説】腎虚に対して用いる漢方薬が八味地黄丸です。古典を参考に八味丸(はちみがん)という場合もあります。八味地黄丸は、地黄(じおう)、山茱萸(さんしゅゆ)、山薬(さんやく)が体を栄養・滋潤する作用があり、そのほか、利水作用のある茯苓(ぶくりょう)、沢瀉(たくしゃ)、駆瘀血作用のある牡丹皮(ぼたんぴ)に加え、体を温める桂皮(けいひ)と附子で構成されます。八味地黄丸は太陰病の虚証に適応となる漢方薬ですが、虚証の程度は軽く、虚実間からやや実証まで幅広く適応になります。ひどく虚弱で胃が弱い人ではしばしば胃もたれすることがあるので注意が必要です。そのため食前ではなくあえて食後に内服する、あるいは減量して用いる場合もあります。この胃もたれは構成生薬の地黄が原因です。八味地黄丸に牛膝(ごしつ)と車前子(しゃぜんし)を加えたものが牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)で浮腫やしびれが強い場合に用います。また、冷えが目立たない症例では桂皮と附子を除いた六味丸(ろくみがん)を用います。腎虚の治療の効果判定は、加齢に伴う症状ですから、内服によりすべての症状がすみやかに改善することは難しく、じっくりと月単位で内服してもらいます。八味地黄丸は軽度アルツハイマー認知症患者に対してアセチルコリンエステラーゼ阻害薬に併用することで、女性や65歳以上では有意に認知機能を改善させたという前向きオープンラベル多施設ランダム化比較試験があります1)。また、精神症状に関する報告として、八味地黄丸を意欲の低下を目標に15症例に投与したところ、7割以上に有効で八味地黄丸には意欲賦活作用があるとする症例報告2)やうつ病患者の倦怠感や気力の低下に八味地黄丸や六味丸が有効であったとする報告3)があります。また呼吸器症状に関しても気管支喘息に対する八味地黄丸の効果4)やストレスに起因した慢性咳嗽に八味地黄丸が有効であった症例5)が報告されています。腎虚の治療薬は、夜間頻尿や過活動膀胱などに対する泌尿器科的な症状や牛車腎気丸が末梢神経障害に用いるといったイメージが強いですが、腎虚はもっと幅広い概念であるため、精神症状や呼吸器症状に有効であるということにも注目すべきでしょう。「腎は納気(のうき)を司(つかさ)どる」といわれ、肺だけでなく腎も呼吸にも関与しているとされているのです。今回のポイント「腎虚」の解説生命活動を営む根源的エネルギーである気(き)は「先天の気」と「後天の気」に分けられます。生まれた後は呼吸や消化によって後天の気を取り入れることができます。一方、先天の気は、生まれながらの生命力というべきもので「腎」に宿ります。腎は現代医学的な腎臓とは異なる概念で、全身の生命活動を支える根本的な臓器として、水分代謝の調整のほか、成長、発育、生殖能、呼吸機能などが含まれます。腎の働きは加齢とともに弱くなり、腎の機能が衰えてくることを腎虚といいます。代表的なものは腰以下の症状(冷え、腰痛、下肢痛、下肢の脱力感など)、排尿異常(夜間頻尿、頻尿や尿量減少:尿が多くても少なくてもよい)、精力減退です。下肢(とくに膝から下)の冷えが典型ですが、手掌や足底のほてりを訴えることもあります。加齢に伴う症状として、聴力障害、視覚障害、呼吸器症状なども腎虚による症状です。また、腎は思考力、判断力、集中力の保持にかかわっていると考えられ、腎虚ではそれらが低下して、易疲労感や意欲の低下が出現します。腎虚を示唆する身体所見として、上腹部より下腹部の腹力が減弱した小腹不仁(図)があります。今回の鑑別処方今回は八味地黄丸や牛車腎気丸から展開する漢方治療を紹介します。八味地黄丸は腎虚に対して用いる漢方薬ですが、さらにほかの漢方医学的異常を認める場合はそれぞれの病態に応じてほかの漢方薬と併用します。八味地黄丸や牛車腎気丸には附子が含まれていますが、冷えを伴わない場合は六味丸を用います。六味丸は小児の発育障害のような病態に用いられた歴史があります。逆に冷えや痛みが強い場合には八味地黄丸や牛車腎気丸にブシ末を併用して冷えや痛みに対する治療を強化します。また腰以下の冷え、とくに腰周囲や大腿部の冷えが目立つ場合は苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう)を併用します。全身倦怠感が強く気虚を合併していれば、補中益気湯を併用することもあります。補中益気湯と八味地黄丸の併用はしばしば男性不妊に対する治療で用います。八味地黄丸に含まれる地黄で胃もたれを生じるような場合は人参湯(にんじんとう)と併用することがあります。また脱水傾向があるとか、気道粘膜が乾燥傾向にあって乾性咳嗽を伴う場合には、麦門冬湯(ばくもんどうとう)を併用します。麦門冬湯には滋潤(じじゅん)作用といって潤す作用があり、COPD患者で乾燥傾向があってしつこい咳嗽(喀痰はあっても少量)がある場合に適応です。今回の症例で乾性咳嗽が目立っていれば併用すればよいでしょう。この麦門冬湯と八味地黄丸の併用は煎じ薬では味麦地黄丸(みばくじおうがん)という漢方薬と類似した構成です。また、当科では「八味丸と桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)に持ち込めば勝ち戦」という漢方治療の口訣があります。最初は食欲低下、冷え、不眠など、それぞれの漢方治療を行うけれども、最後に八味地黄丸や桂枝茯苓丸を内服できるようになればこちらの漢方治療が上手くいったという意味です。さまざまな症状が改善して漢方医学的異常として最後に残るのは腎虚と瘀血ということで、なんとも味わい深い口訣です。漢方外来ではそれらを飲んでいて、積極的に運動をするなど、活動的な高齢者も多いです。2つの漢方薬はともに甘草を含まないことから偽アルドステロン症の恐れもなく、地黄による胃もたれや漢方薬によるアレルギーさえなければ長期内服しやすい組み合わせになります。参考文献1)Kainuma M, et al. Front Pharmacol. 2022;13:991982.2)尾﨑哲, 下村泰樹. 日東医誌. 1993;43:429-437.3)Yamada K, et al. Psychiatry Clin Neurosci. 2005;59:610-612.4)伊藤隆ほか. 日東医誌. 1996;47:443-449.5)木村容子ほか. 日東医誌. 2016;67:394-398.

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世界最高齢者の長生きの秘密とは?

 マリア・ブラニャス・モレラ(Maria Branyas Morera)さんは、2024年8月19日に117歳で亡くなった当時、世界最高齢者であった。彼女は一つの情熱的な願いを抱いてこの世を去った。バルセロナ大学(スペイン)医学部遺伝学科長のManel Esteller氏は、「ブラニャスさんはわれわれに、『私を研究してください。そうすれば他の人を助けることができます』と言った。彼女のその希望は現実となった」と話す。Esteller氏らがブラニャスさんについて包括的な分析を行った結果、ブラニャスさんには、健康的なライフスタイル、微生物叢内の有益なバクテリア、長寿に関連する遺伝子など多くの利点があったことが判明した。この研究の詳細は、「Cell Reports Medicine」に9月24日掲載された。 Esteller氏は、「健康的な老化は、何か一つの大きな特徴が関与するのではなく、むしろ、多くの小さな要因が相乗的に作用する、非常に個人差のあるプロセスであることが分かった。不健康な老化ではなく、健康的な老化につながる特徴をこれほど明確に示すことができたことは、将来、老若男女を問わず全ての人にとって有益になると思われる」と述べている。 ブラニャスさんは、1907年3月4日に米サンフランシスコで生まれ、8歳のときにスペインに移住した。彼女は2つの世界大戦、スペイン内戦、そして、スペイン風邪と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の2つのパンデミックを生き延びた。事実、ブラニャスさんは113歳のときにCOVID-19に罹患したが、完全回復した。 研究グループは、ブラニャスさんの健康と長寿は、彼女のライフスタイルによるところが大きいと話す。彼女は地中海式ダイエットを実践し、脂肪や加工糖を過剰に摂取しないよう気を付けていたし、タバコやアルコールも一切摂取しなかった。高齢で歩行が困難になるまでは、定期的にウォーキングも行っていた。 血液サンプルの解析からは、極端に短いテロメアや炎症傾向の強い免疫系、高齢化したBリンパ球の集団など、明確な老化の兆候が見られた。一方で、ゲノム解析の結果、ブラニャスさんには他のヨーロッパ人には見られないまれな遺伝子変異が存在することが明らかになった。これらの変異は、免疫機能、認知機能、心機能、神経保護、脂質代謝などの経路に関与しており、これがブラニャスさんの高コレステロール、心臓病、がん、認知症などのリスクを低下させた可能性がある。 また、ブラニャスさんの腸内細菌叢には、抗炎症作用を持つ有益なビフィズス菌が豊富に含まれていたことも判明した。炎症は老化を促進する要因の一つである。研究グループによると、ブラニャスさんは、食生活の一環としてヨーグルトを多く摂取していたという。さらに、エピジェネティック解析によって測定されたブラニャスさんの生物学的年齢は実年齢よりも大幅に若いことも明らかになった。 Esteller氏は、「われわれの研究結果は、多くの高齢者がより長く、より健康的な生活を送る上で有益となり得る要因を特定するのに役立つ。例えば、健康長寿に関連する特定の遺伝子が判明したことから、これらが医薬品開発の新たなターゲットとなる可能性がある」と述べている。 ただし、本研究には関与していない米ハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院のImmaculata De Vivo氏は、「1人の人間の人生から確かな結論を導き出すのはほぼ不可能だ。大規模でよく管理された集団研究とは対照的に、個々の症例の結果を解釈する際には、常に注意することが重要だ」と述べ、慎重な解釈を求めている。同氏は、「遺伝子やライフスタイルは健康に役立つかもしれないが、病気の原因は一般的に絶対的なものではなく確率の問題だ」と指摘し、ブラニャスさんと同程度に長生きするには、ある程度の幸運も必要なことをほのめかしている。

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新型コロナは依然として高齢者に深刻な脅威、「結核・呼吸器感染症予防週間」でワクチン接種の重要性を強調/モデルナ

 モデルナ・ジャパン主催の「呼吸器感染症予防週間 特別啓発セミナー」が9月24日にオンラインで開催された。本セミナーでは、9月24~30日の「結核・呼吸器感染症予防週間」の一環として、迎 寛氏(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 呼吸器内科学分野[第二内科]教授)と参議院議員であり医師の秋野 公造氏が登壇し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が、とくに高齢者にとって依然として深刻な脅威であると警鐘を鳴らした。新型コロナの5類移行から3年が経ち、社会の警戒感や関心が薄れているなか、継続的なワクチン接種と社会全体の意識向上の重要性を訴えた。隠れコロナ感染と高齢者の重症化リスク セミナーの冒頭では、迎氏が新型コロナの現状と高齢者が直面するリスクについて、最新のデータを交えながら解説した。 新型コロナが5類に移行して以降、定点報告上の感染者数は減少傾向にあるものの、入院患者数は依然として高止まりしている。神奈川県の下水疫学データによると、とくに2025年以降、定点報告数と下水中の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)濃度との間に大きな乖離が生じており、下水データは市中に依然として不顕性を含む新型コロナウイルス感染者が多く存在することが示唆されている1)。迎氏は、定点報告では捉えきれていない「隠れコロナ感染者」が市中に多数存在し、その中から一定数の高齢者や基礎疾患を持つ人が重症化して入院に至っている可能性を指摘した。死因の第8位、死者の多くは高齢者 新型コロナは2023年と2024年の2年連続で、日本の死因第8位となっている。とくに深刻なのは高齢者の状況で、死亡者の97%が65歳以上、そのうち79%が80歳以上の高齢者で占められている2)。死亡者数はインフルエンザと比較して、新型コロナが約15倍であるという。こうしたデータから、迎氏は「コロナは風邪と同じ」という認識が誤りであるという見解を示した。また、新型コロナの感染拡大期には、高齢者のフレイル有病率も増加するという影響が懸念されている3)。 迎氏が所属する長崎大学病院には、この5年間で新型コロナにより1,047例が入院したという。臨床データからは、入院患者の死亡率は高齢になるほど顕著に高くなる一方で、ワクチン未接種の患者群は、接種済みの患者群に比べて、重症化する割合が明らかに高い結果となった。迎氏は、とくに高流量酸素療法が必要な患者や重症患者のうち、約4割がワクチン未接種者であったことは、ワクチンの重症化予防効果を明確に裏付けていると指摘した。 迎氏は日本が世界的にみてワクチンへの信頼度が低い傾向にあることに触れ4)、接種率が低下している現状を変えるためにも、9月24~30日の「結核・呼吸器感染症予防週間」を通じて、80歳以上の高齢者の死亡リスクやワクチン接種の重要性について啓発していきたいと述べた。「結核・呼吸器感染症予防週間」創設 続いて秋野氏が政策的な観点から、呼吸器感染症対策の現状と課題、そして今後の展望について語った。 秋野氏は、自身も創設に尽力した「結核・呼吸器感染症予防週間」について触れた。2024年度より、毎年9月24〜30日は、以前まで実施されていた「結核予防週間」が「結核・呼吸器感染症予防週間」に改められた。この期間には、インフルエンザや新型コロナなど、呼吸器感染症が例年流行する秋冬前に、呼吸器感染症に関する知識の普及啓発活動が行われる。秋野氏は、肺炎が依然として日本人の死因の上位を占める中で、秋冬の感染症シーズンを前に正しい知識を普及させることの重要性を強調した。普及啓発のシンボルとなる「黄色い縁取りのある緑色のリボン」のバッジや、啓発のためのポスターが5)、日本呼吸器学会、日本感染症学会、日本化学療法学会の協力のもと作成された。ワクチン定期接種は「65歳以上一律」でよいのか 秋野氏は、現在の新型コロナワクチンの定期接種制度が「65歳以上」と一律に定められている点が課題となっていることについて言及した。先に迎氏が述べたとおり、実際の死亡リスクは80歳以上で急激に高まる。研究によると、新型コロナの重症化リスクとして、「年齢(とくに80歳以上)」、「ワクチン接種から2年以上空いていること」が重要な因子となっている6)。こうした科学的知見に基づき、リスクの特性に応じた、よりきめ細やかな制度設計が必要だと主張した。とくに死亡リスクが突出して高い80歳以上に対し、費用負担のあり方や国による接種勧奨の必要性について、改めて検討すべきだと訴えた。海外のワクチン助成のあり方 さらに秋野氏は、肺炎球菌ワクチン接種に公的補助があった自治体の接種率は全国平均よりも2倍以上高いという研究を挙げ7)、公費助成とワクチン接種率には密接な関連が考えられると述べた。また、海外の新型コロナワクチン接種支援策との比較によると、米国、英国、フランス、オーストラリアなどの国々では、高齢者に対して年2回や無償での接種といった手厚い支援が行われており、接種率も高い水準を維持している。これに対し、日本の支援は年1回の定期接種で一部自己負担であり、国の助成が縮小されれば自己負担額が1万5,000円を超える可能性もあり、これが接種率低下の一因となりかねないと指摘した。 秋野氏は、「国民の命を守るため、最新の知見に基づいた柔軟な対応が必要」とし、今後も国会で働きかけていきたいと述べた。また、今回の「結核・呼吸器感染症予防週間」を通じて、新型コロナに対する現状を国民に広く知っていただき、高齢者の命を守る対策について共に考えていきたいとして、講演を終えた。■参考文献1)AdvanSentinel. 神奈川県におけるCOVID-19流行動向の多角的分析 - 下水疫学データが示す「見えざる感染リスク」(2025年7月22日)2)厚生労働省. 人口動態調査の人口動態統計月報(概数)3)Hirose T, et al. J Nutr Health Aging. 2025;29:100495.4)de Figueiredo A, et al. Lancet. 2020;396:898-908.5)厚生労働省. 感染症対策のための普及・啓発ツール6)Miyashita N, et al. Respir Investig. 2025;63:401-404.7)Naito T, et al. J Infect Chemother. 2014;20:450-453.

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全身だるくて食後に眠い【漢方カンファレンス2】第6回

全身だるくて食後に眠い以下の症例で考えられる処方をお答えください。(経過の項の「???」にあてはまる漢方薬を考えてみましょう)【今回の症例】50代後半女性主訴全身倦怠感、不眠既往腹圧性尿失禁、アレルギー性鼻炎生活歴仕事:事務職(人手不足で忙しい)、入退院を繰り返す母の介護中。病歴2〜3年前から不眠に悩んでいる。午前中から眠気がつらくて体がだるく仕事がはかどらない。12月に漢方治療を希望して受診。現症身長157cm、体重49kg。体温36.3℃、血圧119/80mmHg、脈拍60回/分 整。経過初診時「???」エキス3包 分3を処方。(解答は本ページ下部をチェック!)1ヵ月後寝つきがよくなった。全身倦怠感は変わらない。2ヵ月後夜中に目が覚めなくなった。仕事中も眠くならない。4ヵ月後忙しいが体調はよい。よく眠れている。問診・診察漢方医は以下に示す漢方診療のポイントに基づいて、今回の症例を以下のように考えます。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?(冷えがあるか、温まると症状は改善するか、倦怠感は強いか、など)(2)虚実はどうか(症状の程度、脈・腹の力)(3)気血水の異常を考える(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む問診<陰陽の問診>寒がりですか? 暑がりですか?体の冷えを自覚しますか?横になりたいほどの倦怠感はありませんか?寒がりの暑がりです。冷えの自覚はありません。倦怠感はありますがいつも横になりたいほどではありません。入浴は長くお湯に浸かるのが好きですか?冷房は苦手ですか?入浴で温まると体は楽になりますか?入浴時間は短いほうです。冷房は好きです。入浴してもとくに倦怠感の変化はありません。のどは渇きますか?飲み物は温かい物と冷たい物のどちらを好みますか?のどは渇きません。温かい飲み物を飲んでいます。<飲水・食事>1日どれくらい飲み物を摂っていますか?食欲はありますか?胃は丈夫ですか?だいたい1日1L程度です。食欲はあります。胃は弱くてすぐにもたれます。<汗・排尿・排便>汗はよくかくほうですか?尿は1日何回出ますか?夜、布団に入ってからは尿に何回行きますか?便秘や下痢はありませんか?汗はよくかきます。尿は1日7〜8回です。夜は尿に1回行きます。便は2日に1回で、便秘です。便秘するとお腹が張りますか?お腹は張りません。<ほかの随伴症状>全身倦怠感はとくにいつが悪いですか?朝がとくにきついですか?食後に眠くなりませんか?朝はそこまできつくありません。朝は比較的元気なのですが、午後がきついです。昼食後と夕食後は眠たいです。睡眠について教えてください。悪夢はありませんか?毎晩0時頃に就寝しますが1時間以上寝つけません。午前3時くらいに目が覚めて朝まで眠れない日が多いです。悪夢はありません。動悸はしませんか?抜け毛は多いですか?集中力がなかったりしませんか?皮膚は乾燥しますか?動悸はありません。抜け毛は多くありません。集中はできています。皮膚の乾燥はありません。イライラしたりやる気がなかったりすることはありませんか?そんなことはありません。そのほかに困っていることはありませんか?風邪をひきやすくて困っています。年に5〜6回風邪をひいてしまいます。診察顔色は正常。眼に力がなく声も小さい。脈診ではやや浮で弱の脈。また、舌は淡紅色で腫大・歯痕、湿潤した薄い白苔をまだら状に認める。腹診では腹力は軟弱、軽度の胸脇苦満(きょうきょうくまん)、心下痞鞕(しんかひこう)、小腹不仁(しょうふくふじん)あり、腹部大動脈の拍動は触知せず。四肢の触診では冷感なし。カンファレンス今回は50代女性の全身倦怠感、不眠の症例です。全身倦怠感を訴える患者さんは多いですね。感染症、内分泌疾患、悪性腫瘍、薬物の副作用、うつ病など、鑑別すべき疾患が多いので苦手です。発症から持続時間を1ヵ月以内、1〜6ヵ月、6ヵ月以上と分けると絞り込みが容易になりますよ。急性では感染症、慢性の場合では抑うつや不安などの精神疾患の割合が高くなります。とくに結核、甲状腺疾患、肝炎などは要注意と学びました。しかし検査を行っても異常がないケースが1/3ほどあるといわれます。原因が特定できない、かつ精神的な不調も目立たないケース、全身倦怠感が高度で日常生活に支障をきたしている症例もあって悩ましいですね。今回の症例は不眠があって仕事や介護の負担が背景にありそうですね。うつ病の除外は必要ですね。当科が初診時に行っている漢方医学的な問診票のなかには、気持ちが沈みがちである、気力がない、物事に興味がわかない、朝調子が悪い、集中力の低下など、精神症状に関する項目が複数あります。それでは、漢方診療のポイントの順番にみていきましょう。温かい飲み物を好む、寒がりのほかは、暑がり、冷えの自覚なし、冷房を好む、他覚的な四肢の冷感なしということで陽証を示唆する所見のほうが多いです。そうですね。全体としては陽証ですね。寒がりの暑がりはどう考えるかな?陰陽の判断はつかないということでしょうか?寒がりかつ暑がりは、陰陽の判断ではなく、虚証を示唆します。体力がなくて環境の変化についていけないイメージです。六病位ではどうだろう?太陽病ではなく、陽明病の強い熱感や腹満はないので少陽病です。そうですね。漢方診療のポイント(2)虚実はどうでしょう?脈の力は弱、腹力も軟弱で闘病反応の乏しい虚証です。陽証・虚証でいいようだね。(3)気血水の異常はどうだろう?本症例は、仕事や介護の負担で疲弊しているようですね。そうだね。生体のエネルギー量が不足した状態を気虚とよぶよ(気虚については本ページ下部の「今回のポイント」の項参照)。気虚の主な症状として、全身倦怠感、疲れやすい、食欲がない、風邪をひきやすいなどが挙げられるんだ。本症例にみられる「食後の眠気」は気虚に特徴的な症状だね。本症例は全身倦怠感とともに食後の眠気があるので気虚ですね。気虚以外にも全身倦怠感が生じることを覚えていますか?気鬱や水毒などでも全身倦怠感が生じるのでした。気鬱の全身倦怠感は、朝調子が悪い、抑うつ傾向、膨満感などが出現します。そのとおり。水毒の全身倦怠感は雨降り前に体が重く感じるよ。本症例ではそのほかの気虚の所見はわかるかな?風邪をひきやすいも気虚ですね。ほかには舌苔にも着目しましょう。本症例のような舌苔がまだら状になっている場合は気虚を示唆します。舌苔は消化機能を反映していると考えます。そのほかにも診察で、眼に力がない、声が小さいということも気虚を示唆するよ。江戸時代には、眼勢無力(がんせいむりょく)、語言軽微(ごげんけいび)と記されているよ。たしかに眼力があって、声が大きい人は元気ですね。漢方の診察は、五感をフルに使って行わないといけないのだ。また、本症例のように不眠がある場合は、漢方薬の鑑別のために気逆の有無を確認しています。気鬱でなく気逆ですか?ドキドキして眠れないというイメージです。どこを確認するかわかりますか?自覚症状で動悸があるかどうかでしょうか?自覚症状の動悸に加え、腹診での腹部大動脈の拍動を確認します。また悪夢が多いことも気逆になります。本症例では悪夢や腹部の動悸はありません。それでは気以外の異常はどうでしょう?気虚以外は目立ちません。脱毛、集中力の低下、皮膚の乾燥を問診していますが、血虚の症候はありません。気虚と血虚が同時にある場合は気血両虚(きけつりょうきょ)といいますが、それはなさそうですね。では本症例をまとめよう。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?冷えの自覚なし、冷房好き、入浴は短い、脈:やや浮→陽証(少陽病)(2)虚実はどうか寒がり・暑がり 脈:弱、腹:軟弱→虚証(3)気血水の異常を考える全身倦怠感、食後の眠気、風邪をひきやすい、地図状の舌苔→気虚(動悸や悪夢など気逆はなし)(脱毛や集中力の低下など血虚はなし)(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む眼勢無力、語言軽微解答・解説【解答】本症例は、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)で治療しました。【解説】補中益気湯は、中(ちゅう:消化吸収能という意味)を補って、気(き)を益(ま)すという意味です。補中益気湯は人参(にんじん)、黄耆(おうぎ)、白朮(びゃくじゅつ)、甘草(かんぞう)の補気作用のある生薬に加え、弛緩した筋トーヌスを引き締める作用(升堤[しょうてい]作用)をもつ生薬(柴胡[さいこ]・升麻[しょうま])が含まれることがポイントです。そのため、補中益気湯は、筋肉が弛緩傾向を示すサイン、四肢がだるい、眼に力がない、声が小さいなどが使用目標になります。最近ではあまり使われませんが内臓下垂、胃下垂といわれるような病態や子宮下垂、脱肛なども筋の弛緩傾向により生じることから、補中益気湯の適応とされています。また柴胡・升麻は抗炎症作用を併せ持ち、風邪や肺炎や尿路感染などの急性感染症が治癒した後、微熱があってなんとなく活気がない、食欲がないといった場合に良い適応になります。江戸時代の漢方医・津田玄仙は補中益気湯の8徴候として、四肢倦怠、眼勢無力、語言軽微、食失味、口中白沫、熱湯を好む、脈散大無力、臍動悸を挙げており、このうち2〜3該当すれば用いてよいと述べています。補中益気湯を投与すると、COPD患者の感冒罹患回数を減少させ、体重増加をもたらしたという報告1)があります。また、女性腹圧性尿失禁患者に対して補中益気湯の4週間の投与で尿失禁の回数が減少傾向、QOLのパラメーターや患者満足度が改善したという報告2)があり、女性下部尿路症状ガイドラインの腹圧性尿失禁に推奨グレードC1として掲載されています。今回のポイント「気虚」の解説漢方では生体内を循環する「気・血・水」の変調として病気を捉えます。気血水は陰陽・六病位とは別のパラメーターで、経度と緯度の関係にも例えられます。気血水のうち身体を巡る液体成分は血と水ですが、気は目に見えない、形がない、生命活動を営む根源的なエネルギーです。現在でも「活気がある」、「気が滅入る」などと日常で使われます。気の異常のうち、気の量的な不足、または作用力の不足を気虚といいます。気虚の主な症状として、全身倦怠感、疲れやすい、食欲がない、風邪をひきやすいなどが挙げられます。また食後は食事により少ないエネルギーが消化管に集中してしまうと考えられるため、「食後の眠気」は気虚に特徴的な症状です。気虚に対する基本となる漢方薬が四君子湯(しくんしとう)です。四君子湯は、茯苓、人参、白朮、甘草の4つの生薬を中心に構成されます。また気虚に対する漢方薬は人参とともに黄耆を含むことから参耆剤(じんぎざい)とよびます。補中益気湯や十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)がその代表です。今回の鑑別処方人参と黄耆が含まれる漢方薬を参耆剤とよびます。人参は消化管から、黄耆は体表面から気を補うイメージです。補中益気湯は全身倦怠感・食後の眠気などの気虚に加え、四肢がだるい、声が小さい、眼力がないといった筋トーヌスの低下した徴候がある際に用います。気虚に血(けつ)が不足した状態(血虚)を合併している場合、具体的には皮膚の乾燥、脱毛が多い、目が疲れる、集中力がない、爪がもろい、頭がぼーっとするなどの症状を伴う場合は、気血両虚に対する漢方薬が適応になり、十全大補湯がその代表です。十全大補湯と類似の漢方薬に人参養栄湯(にんじんようえいとう)があります。人参養栄湯には、遠志(おんじ)、陳皮(ちんぴ)、五味子(ごみし)といった喀痰、咳嗽などの呼吸器症状に対応する生薬が含まれることが特徴です。非定型抗酸菌症に対して人参養栄湯が有効であったという報告3)があるように、慢性の感染症で体力低下に加え、呼吸器症状があるのが典型で、近年ではフレイルに対する漢方薬として注目されています。大防風湯(だいぼうふうとう)は十全大補湯に附子(ぶし)と鎮痛作用のある生薬が加わった構成で、冷えと関節痛を伴う場合に用います。疲労感を伴う関節リウマチなどの膠原病の患者にしばしば用います。帰脾湯(きひとう)、加味帰脾湯は気虚に加え、くよくよ思い悩んでしまう(思慮過度)、不眠、抑うつがある場合に用います。全身倦怠感が投与目標というよりも不眠や抑うつなどの精神心理症状を主体に訴える場合に用いることが多いです。加味帰脾湯は帰脾湯に柴胡、山梔子(さんしし)が加わって熱感やイライラといった症状にも対応します。その他、人参と黄耆をともに含む参耆剤には、清暑益気湯(せいしょえっきとう)、半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)、当帰湯(とうきとう)、清心蓮子飲(せいしんれんしいん)があります。最後に気虚に冷えを合併している場合は、第5回で解説したように陰証と診断して、太陰病の人参湯(にんじんとう)や少陰病〜厥陰病(けついんびょう)の茯苓四逆湯(ぶくりょうしぎゃくとう:人参湯エキス+真武湯エキス)による治療が最優先であることにご注意ください。参考文献1)杉山幸比古. 日本胸部臨床. 1997;56:105-109.2)井上雅ほか. 日東医誌. 2010;61:853-855.3)Nogami T. J Family Med Prima Care. 2019;8:3025-3027.

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第284回 抗ヒスタミン薬アゼラスチン点鼻液が新型コロナウイルス感染を予防

抗ヒスタミン薬アゼラスチン点鼻液が新型コロナウイルス感染を予防抗ヒスタミン薬(ヒスタミンH1受容体拮抗薬)のアゼラスチン点鼻液が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染を減らしました1,2)。ドイツの病院で募った健康な18~65歳の成人が参加したプラセボ対照第II相試験の結果です。アゼラスチンの効果はもっと幅広いかもしれず、なんなら風邪として知られるライノウイルス感染を減らしうることも示唆されました。アゼラスチンはアレルギー性鼻炎を治療する点鼻薬として海外では広く店頭販売されていますが、2022年に報告された前臨床研究で抗SARS-CoV-2活性が示唆されています3)。その研究では販売されている承認薬一揃いからSARS-CoV-2に効く薬を探すことが試みられ、アゼラスチンに白羽の矢が立ちました。細胞で検討したところ、市販の点鼻液の400分の1ほどの濃度のアゼラスチンの抗SARS-CoV-2活性が示されました。また、市販の点鼻液を5倍に薄めた0.02%のアゼラスチンが鼻組織のSARS-CoV-2の複製を72時間以内にほぼ完全に阻止しました。その前臨床検討結果を頼りにドイツで実施された無作為化試験CARVINで、まずはアゼラスチンのSARS-CoV-2感染治療効果が示されます。同国のUrsapharm Arzneimittel社が主催の同試験では、2021年3~4月にかけて募ったSARS-CoV-2感染患者90例が、鼻組織検討で有効だった0.02%のアゼラスチン、市販品と同一の0.1%のアゼラスチン、プラセボのいずれかを1日3回点鼻しました。その結果、11日間の投与期間のアゼラスチン0.1%群のウイルスがプラセボ群に比べて有意により減少しました4)。また、アゼラスチン0.1%群の症状は最も改善しました。その結果を受けてインドでより多くの被験者を募って実施された無作為化試験CARVIN-IIでも同様に有望な結果が得られています。CARVIN-II試験もUrsapharm Arzneimittel社からの資金で実施され、抗原検査でSARS-CoV-2感染が判明した294例が参加しました。CARVIN試験と同様にアゼラスチン0.1%が1日3回点鼻された患者のウイルスがプラセボ群に比べてより減少しました5)。また発熱、虚弱、低酸素症がプラセボに比べてより改善しました。それら2つの試験結果や作用機序を踏まえるに、アゼラスチンの感染予防効果を調べることは理にかなっているようです。そこでドイツのザールラント大学(Saarland University)のRobert Bals氏らは、アゼラスチン点鼻のSARS-CoV-2やその他の呼吸器病原体の感染予防効果を無作為化試験で調べてみることにしました。同試験もUrsapharm Arzneimittel社からの資金で実施されました。健康な成人がザールラント大学で募集され、最終的に450例が1日3回のアゼラスチンかプラセボの点鼻に割り振られました。約2ヵ月(56日)間の感染率はアゼラスチン群のほうがプラセボ群より有意に低く、それぞれ2.2%と6.7%でした(オッズ比:0.31)。意外にも、SARS-CoV-2以外で最も多かった感染のライノウイルス感染率もアゼラスチン群がプラセボ群より同様に低く、それぞれ1.8%と6.3%でした。ただし、その差が有意かどうかは検討されていません。より大規模な多施設での無作為化試験でのさらなる検討が必要ですが、アゼラスチン点鼻は思い立ったらすぐに実行可能な手軽な手段として既存の予防対策を補完する役割を担えるかもしれません。脆弱な人、感染率が高い時期、旅行する人にはとくに有益かもしれません。 参考 1) Lehr T, et al. JAMA Intern Med. 2025 Sep 2. [Epub ahead of print] 2) Clinical study shows that nasal spray containing azelastine reduces risk of coronavirus infection by two-thirds / Eurekalert 3) Konrat R, et al. Front Pharmacol. 2022;13:861295. 4) Klussmann JP, et al. Sci Rep. 2023;13:6839. 5) Meiser P, et al. Viruses. 2024;16:1914.

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体がだるくて横になりたい【漢方カンファレンス2】第5回

体がだるくて横になりたい以下の症例で考えられる処方をお答えください。(経過の項の「???」にあてはまる漢方薬を考えてみましょう) 【今回の症例】 30代男性 主訴 全身倦怠感、頭痛、めまい、微熱 既往 特記事項なし 生活歴 医療従事者、喫煙なし、機会飲酒 病歴 X年8月に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患。咽頭痛や38℃台の発熱があったが、合併症はなく2日後には解熱した。 その後、全身倦怠感、頭痛、ふらふらとするめまいが出現、夕方になると37℃台の微熱がでる日が続いた。疲労感が強く仕事に支障が出るようになり、休息をとったり、欠勤したりしないと体が動かない。 総合診療科で精査を受けたが明らかな異常なし。11月に漢方治療目的に受診。 現症 身長174cm、体重78.5kg。体温37.2℃、血圧110/60mmHg、脈拍56回/分 整 経過 初診時 「???(A)」エキス+「???(B)」エキス3包 分3で治療を開始。 2週後 少し動けるようになった。まだ仕事を休むことがある。 寒くなって体が冷えるようになった。 ブシ末エキス1.5g 分3を併用。 1ヵ月後 めまいや頭痛が改善した。まだ体が冷える。 「???(B)」を「???(C)」エキスに変更した。(解答は本ページ下部をチェック!) 2ヵ月後 冷えと全身倦怠感が軽くなった。 5ヵ月後 普通に働けるようになり、残業もできるようになった。 問診・診察漢方医は以下に示す漢方診療のポイントに基づいて、今回の症例を以下のように考えます。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?(冷えがあるか、温まると症状は改善するか、倦怠感は強いか、など)(2)虚実はどうか(症状の程度、脈・腹の力)(3)気血水の異常を考える(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む【問診】<陰陽の問診> 寒がりですか? 暑がりですか? 体の冷えを自覚しますか? 体のどの部位が冷えますか? 横になりたいほどの倦怠感はありませんか? 感染してから寒がりになって体が冷えるようになりました。 いつも厚着をしています。 体全体が冷えます。 きつくていつも横になりたいです。 微熱はどのくらいですか? いつ出ますか? 熱っぽさはありますか? 37℃前半です。 夕方に出ることが多いです。 体熱感はありません。 熱が出る前はぞくぞくと体が冷えます。 入浴では長くお湯に浸かるのが好きですか? 入浴で温まると体は楽になりますか? 冷房は苦手ですか? 入浴時間は長いです。 温まると少し楽になるのですが、入浴後はすぐに体が冷えてしまいます。 冷房は嫌いです。 のどは渇きますか? 飲み物は温かい物と冷たい物のどちらを好みますか? のどは渇きません。 温かい物を飲んでいます。 <飲水・食事> 1日どれくらい飲み物を摂っていますか? 食欲はありますか? 味覚はありますか? 1日1Lくらいです。 食欲はあります。 味覚は異常ないです。 <汗・排尿・排便> 汗はよくかくほうですか? 尿は1日何回出ますか? 夜、布団に入ってからは尿に何回行きますか? 便秘や下痢はありませんか? 汗はあまりかきません。 尿は4〜5回/日です。 布団に入ってからはトイレに行きません。 下痢気味で1日2〜3回です。 便の臭いは強いですか? 弱いですか? 嘔気はありませんか? 便の臭いは強くありません。 嘔気はありません。 <ほかの随伴症状> 頭痛やめまいはどのような感じですか? 雨や低気圧で悪化しませんか? 頭痛は頭全体が重い感じがします。 歩くとふらふらとめまいがします。 雨が降ると頭痛やめまいはひどい気がしますが、天気がよくても頭痛はあります。 全身倦怠感はとくにいつが悪いですか? とくにきついときはいつですか? 横になると楽になりますか? 日中きついですが朝がとくにぐったりします。 仕事をしたり、動いたりすると悪化します。 仕事もきつくて休みがちです。 よく眠れますか? 中途覚醒や悪夢はありませんか? 眠れますが熟睡感はありません。 中途覚醒や悪夢はありません。 咳や痰はありませんか? 昼食後に眠くなりませんか? のどのつまりはありませんか? 抜け毛が多いですか? 集中力がなかったりしませんか? 皮膚は乾燥しますか? 咳や痰はなくなりました。 昼食後は眠くなります。休みの日はほぼ1日中寝ています。 のどのつまりはありません。 抜け毛が多いです。 集中できずに、頭が働かない感じがあります。 皮膚は乾燥します。 意欲の低下や不安はありませんか? 体がきつくてやる気が出ません。 このまま治らないのではと不安です。 【診察】診察室でも厚手の上着を羽織っている。脈診では沈で反発力の非常に弱い脈。また、舌は暗赤色、湿潤した薄い白苔、舌下静脈の怒張あり。腹診では腹力はやや充実、両側胸脇苦満(きょうきょうくまん)、心下痞鞕(しんかひこう)、腹直筋緊張、両臍傍の圧痛を認めた。下肢の触診では冷感あり。カンファレンス 今回は30代男性のCOVID-19罹患後症状の症例です。 頻度は高くないものの、コロナ感染後にいわゆる後遺症といわれるような全身倦怠感を中心としたさまざまな症状が持続する方がいます。現代医学的にも確立された治療法がないので漢方という選択肢があるのはよいですね。 漢方治療でもCOVID-19罹患後症状は症状が多彩でまだ確立された治療があるとはいえませんが、こんなときこそ漢方診療のポイントに沿った治療が大事です。今回の症例は、全身倦怠感以外にも、頭痛、めまい、微熱、集中力の低下と症状がたくさんあります。 どこから手をつけるべきか悩ましいですね。全身倦怠感、めまい、頭痛ということで気虚や水毒が目立つ気がします。 漢方診療のポイントに沿って全体像を捉えていくことが大事だよ。 わかりました。では漢方診療のポイント(1)病態の陰陽ですが、本症例は37℃台前半の熱があることから陽証で、さらに夕方に熱が出るという病歴から少陽病の往来寒熱(おうらいかんねつ)が考えられます。 よく覚えていますね。胸脇苦満もありますし、少陽病の往来寒熱と合致しますね。 体温をそのまま熱ととってはいけないよ。漢方では体温計で測定した温度でなく、あくまで患者の自覚的な熱や冷えを重視するんだ。陰証で発熱するときに用いる漢方薬があるよ。覚えているかい? えっと、少陰病の麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)です。寒が主体の陰証の風邪に用いるのでした。 そのとおり。発熱はあってもゾクゾクと冷えて倦怠感が強いことが特徴でしたね。 ほかには?? …わかりません。 同じく少陰病の真武湯(しんぶとう)、さらに四逆湯(しぎゃくとう)でも発熱がみられることがあるんだ。陰証の最後のステージである厥陰病では「陰極まって陽」のように強い冷えがあるにもかかわらず、逆に発熱があったり、顔が赤かったりすることがあり、それを裏寒外熱(りかんがいねつ)とよぶよ。だから、一見すると陽証にみえることもあるんだ。 厥陰病でも発熱がみられることがあるのですね。アイスクリームの天ぷらのような状態ですね。 裏寒外熱がある場合は通脈四逆湯(つうみゃくしぎゃくとう)が典型だけど、真武湯や四逆湯の適応例でも発熱する場合があるとされているよ。これらは、真の熱ではなく、見せかけの熱といった意味で虚熱(きょねつ)というよ。 患者の自覚的な熱感や冷えのほかに鑑別する方法はありますか? 入浴や飲み物などの寒熱刺激に対する情報や四肢の触診などの所見も大事だけど、最終的には脈の浮沈や反発力が頼りになるね。陰証の場合の脈は沈・弱が特徴だからね。 もう一度、本症例の漢方診療のポイント(1)陰陽の判断からみていきましょう。 微熱がありますが体熱感がなく、感染後から寒がりで体が冷えるようになった、厚着、入浴時間は長い、入浴後にすぐに体が冷えるなどから陰証が揃っていますね。それに脈も沈ですから少陽病とは考えにくいですね。 そうだね。入浴で温まってもすぐに冷える、下肢の触診でも冷感があり、冷えの程度が強そうだね。六病位はどうだろう? 横になりたいほどの倦怠感からは少陰病が示唆されます。本症例の微熱を裏寒外熱とすれば、厥陰病の可能性もありますか? そうですね。脈の力が非常に弱いので厥陰病で四逆湯の適応も考えられます。ですからこの症例は少陰病〜厥陰病、虚証でよいでしょう。 「しまりがなく、細い茹でうどんが水にふやけたような」軟弱無力な脈は四逆湯の診断に重要だね。当科の回診でもこの脈が四逆湯の適応だ! と強調して必ず研修に来た先生に触れてもらっているよ。 本症例の虚実ですが、脈は弱ですが、腹力は中等度より充実と一致していません。どう考えたらよいでしょうか? 脈のほうが変化が早く、現在の状態を表しているといえるので、脈の所見を重視したほうがよいだろうね。それも軟弱無力な典型的な四逆湯の脈だからね。 漢方診療のポイント(3)気血水の異常はどうでしょうか? 全身倦怠感、昼食後の眠気は気虚です。頭痛やめまいがありますが、雨天と関連があるので水毒です。 気虚と水毒がありますね。下痢や尿の回数が4〜5回と少ないのも水毒です。ほかはどうでしょうか? 抜け毛が多い、皮膚の乾燥は血虚です。 頭が働かない感じで集中できないというのも血虚を示唆するよ。血虚は皮膚、筋肉、髪だけの問題ではないからね! COVID-19罹患後症状のブレインフォグは血虚や腎虚と考えるとよい印象があるね。 覚えておきます。とくに朝調子が悪い、やる気が起きないというのは気鬱でしょうか。 そうだね。これだけきつそうだと気鬱もあるよね。ほかにはどうだろう? 舌下静脈の怒張、臍傍圧痛は瘀血です。今回の症例は気血水の異常もたくさんありますね。 なかなか手強い症例ですね。また精査で明らかな異常はなく、30代と働き盛りなのにこれだけきつがっているのは非常につらい倦怠感で煩躁(はんそう)と考えてよさそうですね。 ハンソウ? どこかで聞いたような? 非常に苦しがっている状態を煩躁というのでしたね。煩躁といえば、考えられる処方は? …。 陽証だと大青竜湯(だいせいりゅうとう)、陰証だと呉茱萸湯(ごしゅゆとう)、茯苓四逆湯(ぶくりょうしぎゃくとう)が代表でした。インフルエンザの症例で、麻黄湯(まおうとう)のように無汗、多関節痛に加えて、非常に苦しがっている場合に大青竜湯、頭痛で非常に苦しがっている場合に呉茱萸湯、冷えて非常につらい倦怠感を訴える場合に茯苓四逆湯が適応になるのでした。 ここはキモだから覚えておかないといけないね。その他エキス剤にはないけど、小青竜加石膏湯(しょうせいりゅうかせっこうとう)、乾姜附子湯(かんきょうぶしとう)、桂枝加黄耆湯(けいしかおうぎとう)などが煩躁に適応する処方だよ。 本症例をまとめます。 【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?厚着、寒がり、体が冷える、下肢の冷感、横になりたいほどの倦怠感、脈:沈→陰証(少陰病〜厥陰病)×微熱、往来寒熱、胸脇苦満→脈や冷えから少陽病ではなさそう(2)虚実はどうか脈:非常に弱い、腹:やや充実→虚証(脈を優先)(3)気血水の異常を考える全身倦怠感、食後の眠気→気虚意欲の低下、朝調子が悪い→気鬱頭痛、めまい、雨天に悪化→水毒抜け毛、皮膚の乾燥、集中力の低下→血虚舌下静脈の怒張、臍傍圧痛→瘀血(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む非常につらい倦怠感、脈が軟弱無力解答・解説【解答】本症例は、茯苓四逆湯の方意でA:真武湯+B:人参湯(にんじんとう)で治療開始しました。また経過中に人参湯からC:附子理中湯(ぶしりちゅうとう)に変更しました。【解説】四逆湯は少陰病〜厥陰病に用いられる漢方薬で附子(ぶし)、乾姜(かんきょう)、甘草(かんぞう)で構成されます。四逆湯を現代医学で例えると、敗血症性ショックで低体温をきたした症例に保温しながら急速補液とノルアドレナリンで昇圧するイメージです。動物実験で出血性ショックモデルに対して茯苓四逆湯を投与すると心拍出量の増加と体温保持作用を示したという研究1)や四逆湯類がエンドトキシンショックに対して、血圧上昇、好中球数の上昇の抑制などによりショック予防効果を示したとする報告2)があります。現代は四逆湯を重篤な急性疾患に用いることはまれですが、慢性疾患で冷えや全身倦怠感がともに高度な場合に活用します。通脈四逆湯も四逆湯と同じく附子、乾姜、甘草で構成されますが、乾姜の比率が多くなります。乾姜はとくに消化・呼吸に関連する臓器を温めて賦活する作用が主体で、通脈四逆湯は体の中心を温めて元気をつけていくような漢方薬です。茯苓四逆湯は四逆湯に補気作用のある茯苓(ぶくりょう)と人参(にんじん)を加えたものです。茯苓四逆湯や通脈四逆湯はエキス製剤にはありませんが、茯苓四逆湯は人参湯エキスと真武湯エキスで代用できます。今回のポイント「少陰病・厥陰病」の解説陰証は寒が主体の病態で、少陰病になってくると寒が強く全身に及び、陰証のまっただ中になります。新陳代謝が低下して体力が衰えていることが特徴です。そのため少陰病は、生体の闘病反応が乏しく実証(じっしょう)であることはなく虚証(きょしょう)のみになります。脈も沈んで反発力が弱くなります。疲れやすくてすぐに横になりたがることが多く、「横になるところがあれば横になりたいですか?」「座るところがあったら座りたいですか?」と問診して、少陰病でないか確認します。さらに陰証の最後のステージである厥陰病に進行すると、冷えと全身倦怠感の程度が一段と強くなり、「極度の虚寒」、「極虚(きょくきょ)」といわれます。脈は沈んで、反発力が非常に弱い軟弱無力な脈で、「しまりがなく、細い茹でうどんが水にふやけたような、緊張感のない脈」とたとえられます。厥陰病は急性感染症ではショック状態に陥ったような危篤状態ですが、慢性疾患では冷えと倦怠感がどちらも強度で極度に疲弊した状態を厥陰病と捉えて治療します。また厥陰病では「陰極まって陽」のように強い冷えがあるにもかかわらず、逆に発熱があったり、顔が赤かったりすることがあります(裏寒外熱)。そのため一見すると陽証にみえることもあります。少陰病や厥陰病の治療では、代表的な熱薬である附子(トリカブトの根を加熱処理して弱毒化したもの)を含む漢方薬を用いて治療します。少陰病では真武湯や麻黄附子細辛湯が代表です。さらに進行すると附子とともに乾姜(生姜を蒸して乾燥させたもの)を用いて強力に体を温める治療を行います。附子、乾姜、甘草の3つの生薬から構成される漢方薬は四逆湯が基本となり、茯苓四逆湯や通脈四逆湯を用いて治療します。今回の鑑別処方附子と乾姜はそれぞれ温める力の強い熱薬といわれる生薬です。それぞれ温める部位や作用に違いがあって附子は先天の気を貯蔵する腎とかかわりが強く、そのほかに関節痛などに対する鎮痛作用があります。乾姜は消化や呼吸にかかわる消化管や肺を温める作用があります。また温め方にも違いがあり、附子はバーナーで炙ったり、電子レンジで温めたりするような急速に体全体を温めるイメージですが、乾姜は炭火でコトコトじっくり内臓を温めるイメージです。表に附子や乾姜が含まれる代表的な漢方薬を示しました。乾姜を含む漢方薬の場合、漢方薬が合っている場合は乾姜の辛みを感じずに甘く感じることがあります。逆に乾姜を含む漢方薬を必要としない症例では、辛くて飲みづらいと訴えます。人参湯には乾姜が含まれ、さらに附子を加えると附子理中湯になります。同様に大建中湯(だいけんちゅうとう)や苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう)も冷えが強ければ附子を加えて治療します。四逆湯は附子と乾姜を両方とも含みます。本症例のように茯苓四逆湯は人参湯エキスと真武湯エキスを併用するとエキス製剤で代用が可能です。通脈四逆湯には乾姜が多く含まれています。ちょっと苦しいですが、エキス剤のなかで比較的乾姜の量の多い苓姜朮甘湯にブシ末を併用することで代用することもあります。また実際の附子の漸増の方法として、慎重に行う場合、(1)最も気温が低下する朝1包(0.5g)増量、(2)朝夕に1包ずつ増量(1.0g)、(3)毎食後3包 分3に増量(1.5g)と順を追ってするとよいでしょう。慣れてくれば本症例のように、常用量のブシ末を一度に3包(1.5g)分3で増量することも可能です。参考文献1)木多秀彰 ほか. 日東医誌. 1995;46:251-256.2)Zhang H, et al. 和漢医薬雑誌. 1999;16:148-154.

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「かぜ」への抗菌薬処方、原則算定不可へ/社会保険診療報酬支払基金

 社会保険診療報酬支払基金は8月29日付けの「支払基金における審査の一般的な取扱い(医科)において、一般に「風邪」と表現される「感冒」や「感冒性胃腸炎」などへの内服の抗生物質製剤・合成抗菌薬を処方した場合の算定は、“原則認められない”とする方針を示した。 支払基金・国保統一事例は以下のとおり。取扱い 次の傷病名に対する抗生物質製剤【内服薬】又は合成抗菌薬【内服薬】※の算定は、原則として認められない。※ペニシリン系、セフェム系、キノロン系、マクロライド系の内服薬で効能・効果に次の傷病名の記載がないものに限る。(後述参照)(1)感冒(2)小児のインフルエンザ(3)小児の気管支喘息(4)感冒性胃腸炎、感冒性腸炎(5)慢性上気道炎、慢性咽喉頭炎取扱いを作成した根拠等 抗生物質製剤は細菌または真菌に由来する抗菌薬、合成抗菌薬は化学的に合成された抗菌薬で、共に細菌感染症の治療において重要な医薬品である。 感冒やインフルエンザはウイルス性感染症、気管支喘息はアレルギーや環境要因に起因して気道の過敏や狭窄等をきたす疾患、また、慢性咽喉頭炎を含む慢性上気道炎は種々の原因で発生するが、細菌感染が原因となることは少ない疾患で、いずれも細菌感染症に該当しないことから、抗菌薬の臨床的有用性は低いと考えられる。 以上のことから、上記傷病名に対する抗生物質製剤【内服薬】又は合成抗菌薬【内服薬】の算定は、原則として認められないと判断した。<製品例>ペニシリン系アモキシシリン水和物(商品名:サワシリン、ワイドシリン ほか)アモキシシリン水和物・クラブラン酸カリウム(同:オーグメンチン、クラバモックス ほか)アンピシリン水和物(同:ビクシリン ほか)セフェム系セファレキシン(同:ケフレックス ほか)セフジニル(同:セフゾン ほか)セフカペンピボキシル塩酸塩水和物(同:フロモックス ほか)キノロン系レボフロキサシン水和物(同:クラビット ほか)シタフロキサシン水和物(同:グレースビット ほか)トスフロキサシントシル酸塩水和物(同:オゼックス ほか)メシル酸ガレノキサシン水和物(同:ジェニナック)ラスクフロキサシン塩酸塩(同:ラスビック)マクロライド系アジスロマイシン水和物(同:ジスロマック ほか)クラリスロマイシン(同:クラリス、クラリシッド ほか)エリスロマイシンステアリン酸塩(同:エリスロシン ほか)

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BPSDには抑肝散???【漢方カンファレンス2】第4回

BPSDには抑肝散???以下の症例で考えられる処方をお答えください。(経過の項の「???」にあてはまる漢方薬を考えてみましょう) 【今回の症例】 90代男性 主訴 奇声、介護への抵抗 既往 高血圧、アルツハイマー型認知症 病歴 5年前に認知症が悪化して施設入所。数ヵ月前から昼夜を問わず「あ゛ーっ」といった奇声や噛みつくなどの行動が目立ち始めた。介護への抵抗やほかの入居者からのクレームもあり、連日、抗精神病薬の頓服で対応していた。漢方薬で何とかならないかと受診。 薬剤歴 ドネペジル錠5mg 1回1錠、クエチアピン錠25mg 1錠頓用(1日4〜5回使用) 現症 身長165cm、体重52kg。体温36.7℃、血圧150/60mmHg、脈拍83回/分 整 経過 初診時 「???」エキス3包 分3で治療を開始。(解答は本ページ下部をチェック!) 2週後 夜間に奇声を発することが少なくなった。 1ヵ月後 介護への抵抗がなくなった。 2ヵ月後 精神的に落ち着き、笑顔もみられるようになった。 3ヵ月後 抗精神病薬の頓服が0〜1回/日で落ち着いている。 問診・診察漢方医は以下に示す漢方診療のポイントに基づいて、今回の症例を以下のように考えます。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?(冷えがあるか、温まると症状は改善するか、倦怠感は強いか、など)(2)虚実はどうか(症状の程度、脈・腹の力)(3)気血水の異常を考える(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む【問診】<陰陽の問診> 寒がりですか? 暑がりですか? 体の冷えを自覚しますか? 顔はのぼせませんか? 横になりたいほどの倦怠感はありませんか? 暑がりです。 冷えは自覚しません。 顔がのぼせます。 体はきつくありません。 入浴で長くお湯に浸かるのは好きですか? 冷房は苦手ですか? 入浴は長くできません。 冷房は好きです。 のどは渇きますか? 飲み物は温かい物と冷たい物のどちらを好みますか? のどが渇きます。 冷たい飲み物が好きです。 <飲水・食事> 1日どれくらい飲み物を摂っていますか? 食欲はありますか? 1日1.5L程度です。 食欲はあります。 <汗・排尿・排便> 汗はよくかくほうですか? 尿は1日何回出ますか? 夜、布団に入ってからは尿に何回行きますか? 便秘や下痢はありませんか? 汗かきで顔に汗が多いです。 尿は5〜6回/日です。 夜は1〜2回トイレに行きます。 便は毎日出ます。 <ほかの随伴症状> よく眠れますか? 悪夢はありませんか? 毎晩、眠れません。 悪夢はありません。 昼食後に眠くなりませんか? 動悸はありませんか? 足をつったり抜け毛が多かったりしませんか? 昼食後の眠気はありません。 動悸はありません。 足のつりや抜け毛はありません。 ほかに困っている症状はありますか? いつもイライラしています。 自然と怒りがこみあげて大きな声が出ます。 【診察】顔色は紅潮して怒った表情。脈診では浮沈間・やや強の脈。また、舌は暗赤色、乾燥した白黄苔が中等量。腹診では腹力は中等度、心下痞鞕(しんかひこう)、小腹不仁(しょうふくふじん)を認めた。四肢の触診では冷感はなし。※(いつも赤ら顔で怒った表情で大声を出している。布団はかぶっていないことが多い、食欲はあり、オムツ交換時、便臭が強い、夜間も眠らず大声を出していることが多い)カンファレンス 今回はアルツハイマー型認知症で施設入所している高齢者の症例ですね。自分は訪問診療にも行っているので、このようなケースによく遭遇します。認知症の周辺症状といえば、抑肝散(よくかんさん)ですね! 病名から漢方薬に飛びついてはいけませんよ。まずBPSD(behavioral and psychological symptom of dementia)による症状は、易怒性、興奮、妄想などの「陽性症状」と抑うつ、無気力などの「陰性症状」に分けられます。抑肝散は陽性症状に用いるのが原則です1)。 認知症の症例では、コミュニケーション困難で自覚症状の問診ができないことが多いです。今回の提示した問診はできたと仮定して記載しています。実際は自覚症状の問診はできず、「診察」の項の※のような情報を参考にすることも多いです。また普段の様子をよく知る看護師や介護スタッフからの情報収集が役立つことも多いですね。 高齢者では病歴がとれずに困りますからね。 問診以外でも、脈は動脈硬化で硬くなって不明瞭、舌は開口指示に従えない、お腹はオムツで診察するのに手間がかかる、などとなかなか所見が取りづらいことも多いですね。そのぶん、望診を重視して、診察時の見た目の印象が処方決定に役立つことも多いです2)。 そのため高齢者の漢方診療では、五感をフルに使う必要があるね。患者の表情、触診で冷えを確認、オムツの中の便や尿の臭いなどで虚実を判定するよ。便や尿の臭いが強い場合は実証、臭いが少ない場合は虚証を示唆する所見だね。だけど日常的にオムツ交換をやっている看護師や介護スタッフに質問すると、臭いに耐性ができているためか実際は臭いが強くても、便臭は強くないですっていうこともあるから注意だよ。可能であれば自分で確認したほうがよいけどね。 なるほど〜。高齢者の漢方治療のコツですね。 では、いつものように漢方診療のポイント(1)陰陽の判断からしてみましょう。 本症例は、暑がり、長く入浴できない、冷水を好むなどから陽証です。 そうだね。たとえ問診ができなくても、赤ら顔、布団をかぶっていないことが多い、四肢に冷えなし、便臭が強いなどの情報からも陽証だね。そのほかには乾燥した白黄苔、口渇なども熱を示唆する所見だね。 陰証の高齢患者さんは、布団にくるまっている、厚着、活気が乏しい、いつも寒がっているといった特徴がありますね。 高齢者だから、寝たきりだからといって、陰証・虚証と決めつけてはいけないよ。長生きできている高齢者だからこそ、生命力が強く体力があると考えることもできるのだ。 なんとなくイメージがわきますね。 六病位はどうですか? 陽明病ほど熱が強くないので少陽病です。ほかに腹満や便秘があることも陽明病の特徴でしたが、それらもないですね。 よくわかっているね。少陽病は慢性疾患において「川の流れがよどむ淵のように停滞する時期」といわれるんだ。陽証において、太陽病は悪寒・発熱、陽明病では身体にこもった強い熱と腹満・便秘といった特徴的な症状があるため、「慢性疾患で明らかな冷えがなければ少陽病」とも表現され、慢性疾患に対して漢方治療を行うことの多い現代では重要だよ(少陽病については本ページ下部の「今回のポイント」の項参照)。 なるほど。冷えがなくて、陰証が否定されれば、少陽病と考えることが多いのですね。納得です。 それでは、漢方診療のポイント(2)の虚実の判断に移ろう。 脈はやや強、腹力も中等度とあるので虚実間〜実証です。 漢方診療のポイント(3)気血水の異常はどうでしょうか? 食欲不振や全身倦怠感などの気虚はありません。 赤ら顔や顔に汗は気逆と捉えることができますか? 気逆でよいね。そのほかにも気逆には、動悸、驚きやすい、焦燥感、悪夢などがあるけどそれらはないようだ。血水に関しては、舌の暗赤色と舌下静脈の怒張は瘀血で、水の異常はあまり目立たないね。 あとはイライラ、不眠といった精神症状が目立ちます。 怒りっぽいことも含めて、精神症状として漢方診療のポイント(4)のキーワードで考えよう。本症例をまとめるよ。 【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?暑がり、長湯はできない、顔面紅潮、冷水を好む→陽証(少陽病)(問診ができない場合)顔面紅潮、布団をかけていない、便臭強い、四肢に冷えなし→陽証(少陽病)(2)虚実はどうか脈:やや強、腹:中等度→虚実間〜実証(3)気血水の異常を考える赤ら顔、顔に汗が多い→気逆舌暗赤色→瘀血(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込むイライラ、不眠、怒りっぽい、心下痞鞕(+)、胸脇苦満(−)解答・解説【解答】本症例は、陽証・実証・気逆に対して用いる黄連解毒湯(おうれんげどくとう)で治療をしました。【解説】黄連解毒湯は少陽病・実証に用いる漢方薬で、のぼせの傾向があって顔面紅潮し、精神不安、不眠、イライラなどの精神症状を訴える場合に用います。黄連(おうれん)、黄芩(おうごん)、黄柏(おうばく)、山梔子(さんしし)とすべて清熱作用をもつ生薬で構成されます。腹診では、心下痞鞕や下腹部に横断性の圧痛があるのが典型です。精神症状以外にも、のぼせを伴う鼻出血、急性胃炎、皮膚疾患などに活用されます。またお酒を飲むとすぐに顔が赤くなる人が黄連解毒湯を飲むと二日酔い予防になるといわれます。統合失調症患者の睡眠障害に対する報告3)や湿疹、皮膚炎に対する症例4)などが報告され、熱を伴うさまざまな疾患に用いられています。今回のポイント「少陽病」の解説太陽病では表(ひょう:体表面)に闘病反応がありました。少陽病は生体の内部に影響がおよび、表と裏(り:消化管)の間である半表半裏(はんぴょうはんり)が病位になります。実際は、半表半裏はのど〜上腹部あたりを指していると考えられます。そのため口が苦い、のどが乾く、ムカムカする嘔気、食欲不振などの症状が出現します。太陽病では着目しなかった舌や腹部の所見も重要になります。具体的には舌では舌苔が厚くなり(写真左)、腹診では両側季肋部に指を差し込むと抵抗感や患者の苦痛が出てきて、胸脇苦満(きょうきょうくまん)とよびます(写真右)。少陽病ではその場で闘病反応を鎮める治療を行い、「清解(せいかい)」といいます。少陽病の適応として発症から数日が経過したこじれた風邪が典型です。また、少陽病は慢性疾患において「川の流れがよどむ淵のように停滞する時期」といわれます。陽証において、太陽病は悪寒・発熱、陽明病では身体にこもった強い熱と腹満・便秘といった特徴的な症状がありますから、「慢性疾患で明らかな冷えがなければ少陽病」とも表現され、慢性疾患に対して漢方治療を行うことの多い現代では重要です。柴胡と黄芩が含まれる柴胡剤が少陽病期によく用いられ小柴胡湯(しょうさいことう)がその代表です。柴胡剤はこじれた風邪以外にも、ストレスと関連するイライラや不眠などの症状に用います。少陽病では柴胡剤以外にもさまざまな種類の漢方薬が準備されています。なお、黄連解毒湯は「赤い怒り」といわれ、赤ら顔、顔面紅潮が使用目標です。一方、抑肝散は「青い怒り」で、顔色があまりよくないのが典型です。したがって、のぼせや熱が目立つ症例では抑肝散よりも黄連解毒湯を考えてください。また、黄連解毒湯は止血作用があるので、鼻出血で顔ののぼせがあるような場合には黄連解毒湯を内服しながら、鼻を圧迫するとよいでしょう。上下部消化管内視鏡で止血困難な消化管出血の症例に黄連解毒湯を活用したという報告もあるのです5)。今回の鑑別処方BPSDの陽性症状に対して、黄連解毒湯と同じように、顔面紅潮、興奮などの精神症状があり、便秘を伴う場合には三黄瀉心湯(さんおうしゃしんとう)が適応になります。同じ気逆の症状でも、動悸や悪夢を伴う不眠があり、イライラしているような場合は柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれうとう)を用います。この場合は腹診で胸脇苦満や腹部大動脈の拍動が触知されるのが特徴です。黄連解毒湯や三黄瀉心湯の場合は、胸脇苦満はなく心下痞鞕が目標になり、腹診所見で鑑別する場合もあります。柴胡加竜骨牡蛎湯はメーカーによって瀉下作用のある大黄(だいおう)の有無に違いがあるので便秘によって使い分ける必要があり、大黄を含むほうがより実証の漢方薬です。このように興奮や不穏に対する症状には瀉下作用のある大黄が含まれることが多いです。これは大黄には瀉下作用だけでなく鎮静作用があり、単に便秘の改善を目標にしているのではないことを意識する必要があります。古典では統合失調症のような状態に大黄を一味(将軍湯とよぶ)で煎じて鎮静させたというような記載もあります。また抑肝散よりも怒りが目立たず、活気の低下や食欲不振がある場合は釣藤散(ちょうとうさん)を考えます。釣藤散は脳血管性認知症に対する二重盲検ランダム化比較試験(DB-RCT)6)があり、夜間せん妄や不眠などに加え、会話の自発や表情の乏しさといった意欲の低下の改善を認めています。このRCTを参考に当科では「療養型病床群において釣藤散投与を契機に経管栄養状態から経口摂取が可能となった高齢者の3例」を報告しました2)。当科では、釣藤散はBPSDの抑うつ、無気力などの陰性症状や低活動性せん妄に対して用いることが多いです。 1) 桒谷圭二. 誰もが使ったことのある漢方薬 〜でもDo処方だけじゃもったいない〜 3. 抑肝散。Gノート増刊. 2017;4:1066-1076. 2) 田原英一ほか. 日東医誌. 2002;53:63-69. 3) 山田和男ほか. 日東医誌. 1997;47:827-831. 4) 堀口裕治. 日東医誌. 1999;50:471-478. 5) 坂田雅浩ほか. 日東医誌. 2017;68:47-55. 6) Terasawa K, et al. Phytomedicine. 1997;4:15-22.

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第277回  いよいよ本格化するOTC類似薬の保険外し議論、日本医師会の主張と現場医師の意向に微妙なズレ?(前編)

日経新聞と日経メディカルが 「OTC類似薬の保険外しに医師の賛成6割」という調査結果公表こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。皆さん、夏休みはどう過ごされたでしょうか。私は、山仲間と2023年に復旧された北アルプスの伊藤新道(長野県側、高瀬ダム上流の湯俣川を三俣蓮華岳に突き上げる沢沿いの登山道。1983年より崩落等により40年間廃道でした)に行く予定でした。しかし、天候や沢の状況(復旧されたものの、落石と増水で吊橋や桟道が何ヵ所か破損し、すでに使用不能に)を勘案し、今年は断念することにしました。来年夏に再び挑戦しようと山仲間と話しているのですが、自分たちの年齢、体力、気力との相談になりそうです。さて、三党合意(自民・公明・維新)によるOTC類似薬の保険外しに関する議論がまもなく本格化します。この動きに反対する日本医師会など、医療団体の動きも活発になってきました。日本医師会は8月6日の記者会見で、改めてOTC類似薬の保険外しの動きに対し強い反対の意向を表明しました。ところが、日本経済新聞社と日経メディカル Onlineが共同で今年7月に行った調査では、「OTC類似薬の保険外しに医師の賛成6割」という意外な結果が出ています。日本医師会の主張と現場の医師の意向にはどうも微妙なズレがあるようです。予算編成過程を通じて具体的な検討を進め、早期に実現可能なものは2026年度から実行される予定だがOTC類似薬の保険外しの政策は、2025年6月11日に基本方針が三党で合意され、6月13日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2025」(骨太方針2025)に「OTC類似薬(市販薬と成分や用量が同等の処方薬)を段階的に保険給付から除外する」という方針が盛り込まれました。本連載でも「第270回 『骨太の方針2025 』の注目ポイント(後編) 『OTC類似薬の保険給付のあり方の見直し』に強い反対の声上がるも、『セルフメディケーション=危険』と医療者が決めつけること自体パターナリズムでは?」で、「骨太の方針2025」に対する日本医師会の松本 吉郎会長の「OTC類似薬を保険適用から除外した場合、たとえば院内での処置等に用いる薬剤、薬剤の処方、在宅医療における薬剤使用に影響することが懸念されるが、これは絶対に避けなければならない」というコメントを紹介しつつ、「『セルフメディケーションを推進すれば、健康被害が増える』というロジックはいかがなものでしょう。(中略)OTCよりも危険な処方薬ですらきちんと説明が行われず、ポリファーマシーによる健康被害が頻発している状況をさておいて、『セルフメディケーション=危険』と医療者が決めつけること自体がパターナリズムに近いものを感じます」と書きました。今後の日程は、2025年末までの予算編成過程を通じて具体的な検討を進め、早期に実現可能なものは2026年度から実行される予定です。今秋以降、本格的な項目選定や実施方法などの議論が進むとみられますが、現時点ではどの薬剤が除外対象となるかは確定していません。日医の反対理由は「経済的負担の増加」と「自己判断・自己責任での服用に伴う臨床的なリスク」ということで、議論が本格化する直前の今、日本医師会による牽制も始まりました。8月6日に開いた記者会見で日本医師会は、OTC類似薬の保険外しの動きに対して、改めて強い反対の意向を示しました。m3.comなどの報道によれば、江澤 和彦常任理事は「適切な医療は保険診療により確保するという国民皆保険の理念を堅持すべきで、給付範囲を縮小すべきではない」と話し、反対の理由として、第1に患者の「経済的負担の増加」、第2に「自己判断・自己責任での服用に伴う臨床的なリスク」を挙げました。「経済的負担の増加」について江澤氏は、一般用医薬品は医療用医薬品に比べ高額なことが多く、自己負担と比較すると「30倍以上となる」とし、「経済的理由で治療アクセスが絶たれるという大きな問題が生じる」と指摘。また、OTC類似薬は軽症の病気から難病まで幅広く使用されている基礎的な医薬品であるとして、「院内や在宅医療の処方にも大きな支障を来すことから、保険適用を外すことは断固反対」と述べました。また、疾患により保険適用のあり方を変えてはどうかという意見があることに対しては、「医療用医薬品と一般用医薬品では効能や効果の表記が異なっており、単純に適応できるものではない」としました。もう1つの反対理由「自己判断・自己責任での服用に伴う臨床的なリスク」については、患者が服用量や継続の判断、重複や禁忌などを自己判断することは極めて困難だとして、「受診無しの服薬だけで症状が軽くなったことを治癒と勘違いしたり、服用を中途半端に繰り返したりすることで、悪化や重症化を来たすことも危惧される」と述べました。そして、実臨床では処方のみならず、必要な場合に適切な検査のほか、食事や運動など生活習慣の指導を行いながら治療を行っているとして、「仮にOTC類似薬であっても、購入して服用するだけでは適切な治療とはならない」と述べました。医師は一般用医薬品の服用状況が確認できない点も問題視、「OTC類似薬の保険適用除外は、重複投与や相互作用の問題等、診療に大きな支障を来たす懸念がある」と保険適用除外の危険性を指摘しました。そして最後に、OTC類似薬の保険適用除外に賛成する医師の意見も少なくないとの一部報道に言及、「調査対象に偏りが見受けられるため、調査結果については詳細な分析が必要」と苦言を呈しました。診療所開業医でも36%が保険適用除外に賛成江澤氏が苦言を呈した一部報道とは、日本経済新聞社と日経メディカル Onlineが共同で調査を行い、7月30日に公表した、医師7,864人に聞いたOTC類似薬の保険適用除外への賛否に関する調査の結果の報道だと思われます。日本医師会の記者会見の1週間前の7月30日、日本経済新聞朝刊は「風邪薬・湿布などの保険適用 医師6割『除外に賛成』」という記事を一面に掲載、同日、日経メディカル Onlineは、「医師7,864人に聞いたOTC類似薬の保険適用除外への賛否」という記事を配信しました。それらの記事によれば、調査に回答した医師たちの過半数である62%が「OTC類似薬の保険適用除外」に対し賛成(「賛成」20%、「どちらかと言えば賛成」42%の合計)だったとのことです。立場別では、病院勤務医が「賛成」の率が最も高く(69%)、次いで診療所勤務医(54%)、病院経営者(51%)の順でした。診療所開業医は36%と、反対の立場を取る医師が多数派だったものの、それでも約4割が保険適用除外に賛成という結果は、日本医師会をある意味震撼させる結果であったと言えるでしょう。翌週に開かれた日本医師会の記者会見も、この調査結果に対する”火消し”の意味もあったかもしれません。それにしても、日本医師会の主張と現場の医師の意向にズレがあるということについてどう考えればいいのでしょうか?(この項続く)

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鼻水が止まりません…【漢方カンファレンス2】第3回

鼻水が止まりません…以下の症例で考えられる処方をお答えください。(経過の項の「???」にあてはまる漢方薬を考えてみましょう)【今回の症例】20代後半女性主訴水様性鼻汁既往気管支喘息(小児期)、アレルギー性鼻炎病歴3日前、帰宅途中に雨に濡れた。翌朝、寒気がして咽頭痛と水様性鼻汁が出現。市販の感冒薬を飲んで様子をみたが、37.5℃の発熱、さらに翌日には咳嗽も出現したため受診した。水様性鼻汁が止まらずに困っている。現症身長169cm、体重56kg。体温37.4℃、血圧108/70mmHg、脈拍70回/分 整、SpO2 98%、咽頭発赤なし、扁桃肥大なし、白苔なし、頸部リンパ節腫脹なし、呼吸音異常なし。経過受診時「???」エキス2包を外来で内服。15分後水様性鼻汁が軽減「???」エキス3包 分3で処方。(解答は本ページ下部をチェック!)(帰宅して安静にし、2〜3時間おきに内服するように指導)翌日帰宅後、2回目を内服して布団に入った。悪寒がなくなり体が温かくなり解熱した。2日後咽頭痛と咳嗽が改善した。問診・診察漢方医は以下に示す漢方診療のポイントに基づいて、今回の症例を以下のように考えます。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?(冷えがあるか、温まると症状は改善するか、倦怠感は強いか、など)(2)虚実はどうか(症状の程度、脈・腹の力)(3)気血水の異常を考える(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む【問診】<陰陽の問診> 寒がりですか? 暑がりですか? 悪寒がありますか? 体熱感がありますか? 横になりたいほどの倦怠感はありませんか? 普段は寒がりです。 少し寒気があって上着を1枚羽織っています。 体熱感はありません。 横になりたいほどの倦怠感はありません。 のどは渇きますか? いま、飲み物は温かい物と冷たい物のどちらを飲みたいですか? のどは渇きません。 温かい飲み物が飲みたいです。 <鼻汁の性状> 鼻水はどのような性状ですか? 色はついていますか? 無色で水のようにタラッと垂れてきます。 <ほかの随伴症状> のどの痛みは強いですか? 体の節々が痛みますか? 汗をかいていますか? 口の苦味や食欲低下はありませんか? 咳はひどいですか? 痰は絡みますか? のどは少し痛いくらいです。 体の痛みはありません。 汗は少しかいています。 口の苦味はなく、食欲もあります。 咳はそこまでひどくありません。 痰は絡みません。 普段から冷え症でむくみやすいですか? 冷え症で夕方に足がむくみます。 【診察】顔色はやや蒼白。脈診は、やや浮で、反発力は中程度、幅の細い脈であった。舌は淡紅色で腫大と歯痕があり、湿潤した白苔が少量、腹診では腹力は中等度より軟弱で、心窩部に振水音あり。胸脇苦満(きょうきょうくまん)は認めなかった。触診では、皮膚はわずかに湿潤傾向、四肢の冷感はなし。カンファレンス 今回は風邪の症例ですね。風邪の治療は漢方治療の基本ですからしっかり押さえておきましょう。 感冒(風邪)では、咳、鼻、のどの症状が同程度に現れるのが典型です。本症例でも咳嗽と咽頭痛もありますが、水様性鼻汁が目立つことから、鼻型の風邪(急性鼻炎)といえそうです。 風邪の漢方治療では、発症直後で悪寒のある太陽病(たいようびょう)、その後、生体内に病邪が侵入した少陽病(しょうようびょう)として治療するのでした。 よく覚えていますね。一般的には太陽病は発症2~3日で、それ以降は少陽病に移行することが多いです。 本症例は発症3日目ですからどちらか判断は難しいですね。 そうだね。脈が浮で自覚症状として寒気があるから太陽病でいいだろう。診断では、悪寒の有無に加えて、脈診で脈が浮であることが大事なポイントだ(太陽病については本ページ下部の「今回のポイント」の項参照)。 本症例は、脈はやや浮、上着を羽織りたくなるような寒気があるということで太陽病と診断できそうです。 そうですね。さらに問診で少陽病の特徴である口の苦味や食欲低下がないこと、そして診察で舌の厚い舌苔や腹部の胸脇苦満がないことを確認して、少陽病を除外していますね。少陽病の特徴も覚えておきましょう。 太陽病ということは漢方診療のポイント(1)の「陰陽(いんよう)」は陽証ということになりますか? 今回は、寒がり、温かい飲み物を好む、顔面蒼白とあまり熱が主体の陽証とは考えにくいですね。太陽病の葛根湯(かっこんとう)や麻黄湯(まおうとう)では、悪寒と同時かその後に、熱を示唆する所見、顔面紅潮や強い咽頭痛など熱があるのでしたよね? いいところに気付いたね。今回は太陽病だけど、陽証らしくないというのがポイントだよ。では質問だけど、陰証の風邪によく用いる漢方薬を覚えているかい? えっと… 麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)です。麻黄附子細辛湯は全身に冷えと強い倦怠感がある陰証、少陰病(しょういんびょう)に用います。麻黄附子細辛湯の風邪は、水様性鼻汁、チクチクとした咽頭痛、倦怠感といった症状が特徴で、脈が沈でした。さらに風邪のひき始めが少陰病から始まる場合を「直中少陰(じきちゅうのしょういん)」(直(ただ)ちに少陰に中(あ)たる)とよびます。漢方カンファレンス第5回「風邪で冷えてきつい…」で学びました。 しっかり復習しておきます。本症例では「横になりたいほどの倦怠感がありますか?」と問診し、さらに四肢の冷えを触診で確認しています。本症例ではどちらも該当せず少陰病ではないようです。やはり陽証・太陽病らしいですね。 脈がやや浮ということから太陽病と診断できるけれど、脈診は初学者には難しいこと、麻黄附子細辛湯でも例外的に脈が浮いている場合があるからね1)。必ず全身倦怠感の程度と触診などで冷えの有無を確認して、少陰病の麻黄附子細辛湯の風邪でないか、常に考える必要があるね。 漢方診療のポイント(2)である「虚実」はどうでしょう? 脈は強弱中間、触診で汗をかいているようなので、虚証でしょうか? そうですね。ただし、脈の力は強弱中間と弱ではなく、発汗の程度も軽度なので虚実間としましょう。太陽病・虚証では発汗が自他覚的にも明らかなことが多いです。陰陽・六病位・虚実の判定まできました。漢方診療のポイント(3)気血水の異常に移りましょう。 水様性鼻汁は水毒ですね。 下肢が浮腫みやすいことや腹診の振水音も水毒です。本症例は、太陽病だけど熱はあまり目立たず、水毒があるといえますね。まとめてみましょう。 【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?悪寒がある。横になりたいほどの倦怠感はない、脈がやや浮温かい飲み物を好む、顔面蒼白(陽証:太陽病、熱よりも冷えが目立つ)(2)虚実はどうか脈:強弱中間、軽度の発汗傾向→虚実中間(3)気血水の異常を考える水様性鼻汁、下肢浮腫、振水音→水毒(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む水様性鼻汁、振水音解答・解説【解答】本症例は太陽病・虚実間証で、水毒がある場合に用いる小青竜湯(しょうせいりゅうとう)で治療しました。【解説】小青竜湯は太陽病・虚実間に分類されますが、特殊な位置付けです。太陽病で陽証といいながらも、体内に冷え(寒)がある病態に用いられます。ちょっと冷えがあって水っぽいイメージです。そのため小青竜湯は、太陽病でありながらその病態の一部は太陰病にまたがっているとも解説されています。構成生薬は、葛根湯や麻黄湯などと同様に発汗作用のある麻黄(まおう)と桂皮(けいひ)が含まれることは共通ですが、熱薬である乾姜(かんきょう)、細辛(さいしん)に加え、利水作用や鎮咳作用のある半夏(はんげ)・五味子(ごみし)を含みます。そのためあまり熱感が目立たない水様性鼻汁を伴う風邪やアレルギー性鼻炎によい適応です。日頃からむくみやすい、振水音があるなどの水毒の傾向をもつ人が風邪をひいたり、寒さにあたって鼻汁が出たりする場合に、小青竜湯の適応となることが多いようです。なお、小青竜湯は、通年性アレルギー性鼻炎に対する小青竜湯の効果を示した二重盲検RCT2)が存在し、『鼻アレルギー診療ガイドライン 2024年版』にも掲載されている漢方薬です。ほかの太陽病の漢方薬と趣が異なるため悪寒のある急性期に限定せず、より幅広い時期に用いることができます。今回のポイント「太陽病」の解説風邪のひき始めのように、悪寒に加え、脈が浮である時期を太陽病(陽の始まりという意味)といいます。太陽病の病位は表(ひょう:体表)で闘病反応が起こっている時期で、葛根湯や麻黄湯などの発汗作用のある漢方薬で治療します。太陽病は図(太陽病のチェックリスト)の順に診断、虚実の判定、漢方薬の選択を行います。診断には、悪寒の有無に加えて、脈診で脈が浮であることが大事なポイントです。橈骨動脈を橈骨茎状突起の高さに第2~4指をそろえて触知します。軽く置いたときに表在性に触れることができれば浮(ふ:浮いている)と表現します。指を沈めていって初めてはっきり触れてくれば沈(ちん:沈んでいる)になります。発症からの時期(多くは2~3日以内)も参考にして診断します。次に虚実の判定を行います。脈を押しこんで全体から受ける反発力をみて脈の「強弱」の判定をします。少しの力でペシャンとつぶれて触れなくなるような脈は「弱」、反発力が充実していれば「強」と診断します。さらに太陽病の虚実の判定には、汗の有無を参考にします。悪寒があるにもかかわらず皮膚のしまりがなくて、発汗している状態は闘病反応が弱い(虚)、汗がなく皮膚がサラッと乾いている場合は闘病反応が強い(実)と判定します。また虚実の判定には咽頭痛などの上気道炎症状の強さも参考になります。最後に、漢方薬ごとの特異的徴候として、項(うなじ)のこわばり(葛根湯)、多関節痛(麻黄湯)、水様性鼻汁(アレルギー性鼻炎)などを確認して処方を決定します(図)。太陽病は漢方薬をクリアカットに選択できるため、しっかりマスターしてください。今回の鑑別処方水様性鼻汁は冷えと水毒と考えますが、膿性鼻汁では炎症(熱)が強い病態と考えて治療します。葛根湯加川芎辛夷(かっこんとうかせんきゅうしんい)は太陽病の葛根湯に川芎(せんきゅう)と辛夷(しんい)が加わった処方で、頭痛や項のこわばりに加えて、鼻閉・前頭部の圧迫感が目立つ場合に適応になります。太陽病ですから副鼻腔炎の急性期がよい適応です。越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)は、アレルギーによる粘膜の炎症や浮腫(漢方医学的には熱と水毒)を改善させる効果があり、鼻閉が強い場合や目や鼻のかゆみを訴える場合にも有効です。葛根湯加川芎辛夷、越婢加朮湯とも麻黄が含まれるため、内服期間が長くなる場合は胃もたれ、不眠、動悸などの副作用の出現に注意する必要があります。辛夷清肺湯(しんいせいはいとう)は石膏(せっこう)・黄芩(おうごん)・知母(ちも)といった清熱作用のある生薬が含まれ、炎症(熱)の強い急性期の副鼻腔炎で、副鼻腔に熱感を感じる場合によい適応です。荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)は中耳炎・副鼻腔炎・ニキビなど頭頸部に炎症を繰り返しやすい体質で、慢性化した副鼻腔炎に用います。皮膚が浅黒く乾燥傾向のある場合がよい適応になります。参考文献1)藤平健, 中村謙介 編著. 傷寒論演習 緑書房. 1997;577-584.2)馬場駿吉 ほか. 耳鼻臨床. 1995;88:389-405.

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風邪のときのスープ」に効果はある?

 風邪症候群や咽頭炎、インフルエンザ様疾患などの急性気道感染症の症状を和らげるために、温かいスープを飲むと良いとされることがある。この伝統的な食事療法の有効性を検討することを目的に、英国・University of the West of ScotlandのSandra Lucas氏らが、システマティックレビューを実施した。その結果、スープの摂取は、急性気道感染症の症状緩和や炎症抑制をもたらす可能性が示唆された。本研究結果は、Nutrients誌2025年7月7日号で報告された。 本研究では、急性気道感染症に対するスープの効果を評価した研究を対象として、システマティックレビューを実施した。2024年2月までに公表された論文を対象に、MEDLINE、Embase、Scopus、CINAHL、CENTRAL、Cochrane Database of Systematic Reviewsなどを用いて文献を検索した。適格基準を満たした4件の無作為化比較試験(対象342例)を抽出し、メタ解析は行わずナラティブ統合を行った。解析対象となった研究で用いられたスープは、鶏肉ベースのスープに野菜やハーブを追加したものが主なものであった。評価項目は、症状重症度、罹病期間、炎症マーカーなどとした。 主な結果は以下のとおり。・3試験において、スープ摂取群は鼻閉、咽頭痛、咳といった急性気道感染症の症状がわずかながら軽減した。・1試験において、スープ摂取群は罹病期間が1~2.5日短縮した。・2試験において、スープ摂取群でC反応性タンパク(CRP)、IL-6、TNF-αといった炎症マーカーが低下する傾向がみられた。・小児を対象とした1試験において、免疫グロブリン(IgA、IgG、IgM)値の上昇など、免疫機能の改善を示唆する結果が得られた。 著者らは、「スープは水分補給、栄養補給、抗炎症作用の相乗効果により、急性気道感染症の症状軽減、全体的な健康の維持に寄与する可能性がある。ただし、研究間の異質性や標準化されたプロトコールの欠如などの限界が存在するため、より厳密かつ多様な研究による検証が求められる」とまとめた。

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米国での麻疹症例数、過去25年間で最多に

 米ジョンズ・ホプキンス大学により設立されたCenter for Outbreak Response Innovation(CORI)のデータによると、米国では7月時点で1,270例以上の麻疹症例が確認され(注:2025年7月15日時点で1,309例)、過去25年間で最多となっている。この数字は2019年に記録された1,274件を上回っている。 専門家は、報告されていない症例も多いことから、実際の症例数はこの数字よりもはるかに多い可能性があると見ている。現時点で、すでにテキサス州で小児2人、ニューメキシコ州で成人1人の計3人が麻疹により死亡している。CNNは、これらの3人はいずれもワクチンを接種していなかったと報じている。 米国医師会(AMA)会長のBruce A. Scott氏は、「麻疹の流行が続く中で、小児の定期予防接種率も低下していることを考えると、この状況はワクチンで予防可能な病気の蔓延をさらに促進するだろう」と述べている。 麻疹は麻疹ウイルスへの感染が原因で生じる疾患で、感染力は非常に強い。米国では、麻疹・おたふく風邪・風疹(MMR)ワクチンの普及により、2000年に麻疹根絶が宣言され、それ以降、症例は年間数十〜数百件で推移していた。 CNNの報道によると、現時点で少なくとも38州において麻疹症例が報告されており、少なくとも27の州で個別のアウトブレイクが起きている。新たな症例数の増加はワクチン接種率の大幅な低下と一致している。最大のアウトブレイクは、1月以降これまでに750件以上の症例(注:7月15日時点で796症例)が確認されたテキサス州西部で発生した。アウトブレイクが発生した同州のゲインズ郡は、州内で小児ワクチン接種率が最も低い郡の一つであり、同地域の未就学児のほぼ4人に1人が、2024~25年度中に義務付けられているMMRワクチンを接種していない。 テキサス州のアウトブレイクは近隣のニューメキシコ州とオクラホマ州にも広がっており、また、カンザス州の症例とも関連している可能性が指摘されている。飛行機での移動も麻疹蔓延の一因となっている。コロラド州では、州外からの旅行者が感染力のある状態で飛行機に搭乗したことが原因で、同時刻に空港にいた人々を含む複数の新規感染者が発生した。テキサス州での流行に関連する症例が2026年まで続いた場合、米国の麻疹根絶のステータスが取り消される可能性があると専門家らは懸念している。 米疾病対策センター(CDC)によると、2025年の麻疹罹患者の約8人に1人が入院しており、症例の約30%は5歳未満の小児だった。症例の大半はワクチン未接種だった。MMRワクチンは非常に効果的であり、麻疹ウイルスに対する有効性は1回接種で93%、2回接種で97%である。 今回のアウトブレイクを受け、テキサス州などの一部の州では、MMRワクチンの接種機会を拡大し、従来の1歳から前倒しして生後6カ月で1回目の接種を受けられるようにした。ヘルスケア分析会社Truvetaのデータによると、この措置によりテキサス州でのワクチン接種率は2019年より8倍増加したという。また、ニューメキシコ州でも接種率は昨年のほぼ2倍になったという。しかし専門家は、それでも全国のワクチン接種率は望ましい水準に達していないと警鐘を鳴らす。米国は未就学児におけるMMRワクチン2回接種率95%の達成を目標としているが、CNNによると、この目標は4年連続で達成されていない。 それどころか、公衆衛生のリーダーたちは、ワクチンに対する不信感の高まりと連邦政府の保健指導部の変更により状況は悪化していると指摘している。米国のワクチン政策を策定するCDCには依然として所長がおらず、米国保健福祉省(HHS)長官のロバート・F・ケネディ・ジュニア(Robert F. Kennedy Jr)氏は長年にわたり反ワクチンの情報を拡散してきた経緯がある。ケネディ氏は4月に、ワクチンを支持するこれまでで最も強力な公の声明を発表したが、それは以前の発言とは矛盾する内容だった。さらに6月には、米国のワクチン接種政策を導くワクチン専門家委員会のメンバーを全面的に解任し、ワクチン懐疑論者を後任として任命している。

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患者説明をわかりやすく!病態や治療の説明文作成術【誰でも使えるChatGPT】第4回

皆さん、こんにちは。近畿大学皮膚科の大塚です。第3回では、国際的な診療ガイドラインとの比較方法をご紹介しました。今回は、日常診療で最も時間を要する業務の1つである「患者さんへの説明」にChatGPTを活用する方法をご紹介します。「この病気について、もっと詳しく知りたい」「なぜこの薬を使うのか教えてほしい」―、患者さんからこうした要望を受けることは日常茶飯事です。限られた診療時間の中で、医学的に正確でありながら、患者さんにとってわかりやすい説明をすることは容易ではありません。今回は、ChatGPTを「患者教育アシスタント」として活用し、さまざまな知識レベルの患者さんに合わせた説明文を効率的に作成する方法をお伝えします。関連サイトChatGPTケース1:新しく診断された疾患の説明30代女性が尋常性乾癬と診断されました。「乾癬って何ですか?」と不安そうに質問されました。あなたは患者さんに寄り添う皮膚科専門医です。30代女性の患者さんに「尋常性乾癬」について初めて説明します。以下の要素を含めて、わかりやすく説明してください。含めるべき内容:1.どんな病気か(専門用語を避けて)2.原因(遺伝や生活習慣との関係)3.症状の特徴4.日常生活への影響5.治療の見通し6.よくある誤解の解消(感染しないことなど)条件:中学生でも理解できる言葉で不安を和らげる温かい口調で全体で400字程度最後に「一緒に治療していきましょう」というメッセージをChatGPTからの回答例 乾癬は、皮膚の細胞が通常より早く生まれ変わってしまう病気です。健康な皮膚は約1ヵ月で新しくなりますが、乾癬では数日で変わるため、古い皮膚が積み重なって赤く盛り上がり、白い粉のようなものが付きます。この病気は体質的なもので、ストレスや風邪などがきっかけで出ることがあります。大切なのは、ほかの人にうつる病気ではないということです。症状は良くなったり悪くなったりを繰り返しますが、今は優れた治療法がたくさんあります。塗り薬から始めて、必要に応じてほかの治療も選べます。乾癬は慢性の病気ですが、適切な治療で普通の生活を送っている方がたくさんいらっしゃいます。あなたの生活スタイルに合った治療法を見つけて、一緒に治療していきましょう。何か心配なことがあれば、いつでもご相談ください。ケース2:治療法の選択肢を比較説明アトピー性皮膚炎の患者さんに、新しい治療選択肢(JAK阻害薬の内服)を提案する際の説明が必要です。あなたは、わかりやすい説明が得意な皮膚科医です。中等症のアトピー性皮膚炎患者さん(40代男性、会社員)に、新しい治療選択肢を説明する文章を作成してください。現在の治療ステロイド外用薬(ストロングクラス)提案する治療JAK阻害薬(リンヴォック)の内服以下の形式で説明してください:1.なぜ新しい治療を提案するのか2.JAK阻害薬とは(仕組みを簡単に)3.期待できる効果4.起こりうる副作用と対策5.費用の目安6.今の治療との違い(メリット・デメリット)条件:専門用語には必ず説明を付ける箇条書きを効果的に使う判断材料となる具体的な情報を含めるChatGPTからの回答例 【新しい治療法のご提案について】なぜ新しい治療をお勧めするのか。現在の塗り薬だけでは、かゆみのコントロールが十分でなく、お仕事にも影響が出ているとのことでしたので、より強力な治療法をご提案したいと思います。JAK阻害薬(リンヴォック)とは体の中で過剰な炎症反応を起こす信号をブロックする飲み薬です1日1回の内服で、全身のアトピー症状を改善します2021年に承認された比較的新しいお薬です期待できる効果多くの方が2週間~1ヵ月で効果を実感かゆみが早期に改善(数日~1週間)全身の皮疹が改善し、塗り薬の量を減らせる可能性注意すべき副作用感染症にかかりやすくなる(定期的な血液検査でチェック)にきびができやすくなることがあるまれに:帯状疱疹、血栓症費用について3割負担で月額約1万5,000円(薬代のみ)高額療養費制度の対象【大塚からの追加コメント】実はこの薬価情報は正確ではありません。リンヴォック(15mg)の実際の薬価は1錠約4,300円で、3割負担だと月額約3万6,590円(2025年7月現在)になります。これはChatGPTが薬価を正確に把握していないことを示す良い例です。現在の治療との比較【メリット】◎全身に効果がある◎塗る手間が省ける◎効果が早い【デメリット】×定期的な検査が必要×費用が高い×妊娠希望時は中止が必要ご不明な点があれば、お気軽にご質問ください。ケース3:検査結果の説明パッチテストの結果を患者さんに説明する必要があります。複数のアレルゲンが陽性でした。あなたは検査結果をわかりやすく説明する皮膚科医です。パッチテストの結果を患者さん(50代女性、主婦)に説明する文章を作成してください。検査結果:ニッケル:強陽性(++)コバルト:陽性(+)香料ミックス:陽性(+)ゴム系物質:陰性(-)説明に含める内容:1.パッチテストとは何か(簡潔に)2.陽性の意味3.日常生活で注意すべき具体的な物品4.今後の対策5.前向きなメッセージ条件:不安をあおらない表現具体的な生活指導を含めるイラストで示すようなわかりやすさChatGPTの回答例 【パッチテスト結果のご説明】検査の結果について今回の検査で、皮膚のかぶれの原因となる物質がわかりました。これは「どの物質に触れると皮膚が反応するか」を調べる検査です。見つかったアレルギー物質【ニッケル】★★(強い反応)アクセサリー(とくに安価なもの)時計、ベルトのバックル、メガネのフレーム硬貨、鍵【コバルト】★(反応あり)青色の染料を含む製品ビタミンB12を含むサプリメント【香料ミックス】★(反応あり)香水、化粧品芳香剤、柔軟剤日常生活での工夫◎アクセサリーは「チタン」「プラチナ」「18金以上」を選ぶ◎化粧品は「無香料」表示のものを◎金属部分が肌に触れる場合は、透明マニキュアでコーティング◎手袋(綿やビニール)で直接触れないように前向きに過ごすために原因がわかったことは大きな前進です。これらを避けることで、皮膚トラブルは確実に減っていきます。完全に避けることが難しい場合もありますが、工夫次第で快適に過ごせます。一緒に対策を考えていきましょう。患者説明のプロンプト作成のコツ1)患者さんの背景を具体的に設定年齢、性別、職業、生活環境などを明確にすることで、より適切な説明文が生成されます。2)説明のレベルを明確に指定「中学生でもわかる」「専門用語を避けて」など、具体的な指示を入れましょう。3)感情面への配慮を忘れずに「不安を和らげる」「前向きなメッセージ」など、心理的サポートの要素も重要です。4)構造化された出力を求める箇条書きや見出しを使うよう指示することで、読みやすい説明文になります。注意点1)医学的正確性の確認ChatGPTが生成した内容は必ず医学的に正しいか確認し、必要に応じて修正してください。2)個別性への配慮生成された説明文はあくまでテンプレート。患者さんの理解度や心理状態に応じて調整が必要です。3)定期的な更新治療ガイドラインや薬剤情報は変更されることがあるため、定期的に内容を見直しましょう。AIの薬価情報に関する重要な教訓ケース2で示したリンヴォックの薬価は、実際とは大きく異なっていました。これは医療現場でChatGPTを使用する際の重要な教訓を示しています。薬価・費用に関する情報はとくに注意が必要ChatGPTは薬価改定や最新の保険適用情報を把握していません。具体的な金額を患者さんに伝える前に、必ず最新の薬価を確認しましょう。「おおよその目安」として伝える場合も、実際の金額との乖離に注意します。確認すべき情報のチェックリスト◎薬価(最新の薬価基準で確認)◎用法・用量(添付文書で確認)◎保険適用の条件(適応症、施設基準など)◎併用禁忌・注意(最新の情報で確認)このような具体的な数値や規制に関わる情報は、ChatGPTの回答をうのみにせず、必ず1次情報源で確認することが患者さんの信頼を得るために不可欠です。まとめ患者説明は医療の質を左右する重要な要素です。ChatGPTを活用することで、わかりやすく、思いやりのある説明文を効率的に作成できます。ポイントは:患者さんの立場に立った言葉選び医学的正確性とわかりやすさのバランス不安を和らげる配慮これらの説明文を印刷して渡したり、診察室でタブレットを使って見せたりすることで、患者さんの理解度と満足度の向上が期待できます。

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小児気道異物【すぐに使える小児診療のヒント】第4回

小児気道異物今回は、小児気道異物についてお話しします。「咳が続く」「熱が出た」など風邪様症状で受診する小児は多いですが、それらは本当に風邪ですか?症例1歳3ヵ月、男児咳嗽が出現したため5日前に近医を受診し、急性上気道炎として経過観察されていた。症状が持続し、2日前から発熱も認めるようになったため、近医を再診した。このような症例は、小児を診察していると非常によく遭遇すると思います。保育園に通う幼児は、しょっちゅう風邪をひいて発熱することもしばしば。たいていは急性上気道炎ですが、そんな数ある症例の中に「気道異物」は隠れています。気道異物とは?気道異物とは、本来であれば食道へ向かうべきものが誤って気管や気管支に入ってしまう状態を指します。とくに2歳未満の乳幼児に多く、男児にやや多い傾向があります。原因となるのは、ナッツ類や豆などの食べ物のほか、ビーズやボタン、ビニール片なども含まれます。この時期の小児はまだ犬歯や臼歯が生えそろっておらず、咀嚼力が不十分です。また、咳反射も未熟なため、異物が気道に入っても上手に吐き出せません。こうした身体的特徴に加え、なんでも口に入れて確認しようとする発達段階の特性も、気道異物のリスクを高めています。診断が遅れる理由小児の気道異物の典型的な症状としては、「突然の咳き込み」「喘鳴」「呼吸苦」などが知られています。しかし、実際には「咳が続く」「熱が出た」など非特異的な症状で受診することが多く、初診医が気道異物を疑わないまま経過を追ってしまうケースも少なくありません。異物によっては症状が一時的に軽快するものもあり、その後の症状と結びつかなくなって診断が難しくなることもあります。たとえば、ビニール片のような薄く柔らかい異物は気管内で一旦固定されると喘鳴や咳が軽減し、症状が目立たなくなることがあります。これを「無症状期」と言います。気道異物を疑ったとしても、CTや気管支鏡などの検査は小児では被曝や鎮静のリスクがあるため、実施にためらいが生じやすい現実があります。そのため「明らかな所見がなければ様子をみる」という判断がされやすく、この慎重さが診断の遅れにつながる理由でもあります。診断の鍵は「問診」言葉で症状を説明できない乳幼児では、診察時の所見だけでは判断がつきにくく、保護者から得られる情報が診断の鍵となります。しかし、保護者自身がその情報を重要視していない場合もあるため、「何か口に入れていませんでしたか」「急な咳き込みはありませんでしたか」といった吸引エピソードを探る質問に加え、「おもちゃの部品が足りない」「食べ物が床に落ちていた」といった状況証拠を確認する質問も重要です。診察時に症状が落ち着いていたとしても無症状期を考慮し、吸引の可能性について尋ねる習慣を持つことも診断につながります。また、保護者からの申告がない場合でも、急に始まった咳嗽や喘鳴、治療抵抗性の肺炎などがある場合には、常に気道異物の可能性を頭の片隅に置いておく必要があります。実際の説明例咳が続いていて、熱も出てきました。なんだか呼吸も苦しそうです。何かを口に入れてむせたり、急に咳き込んだりしませんでしたか?あっ!そういえば、1週間くらい前にナッツを与えたところ、むせこんでいました。ちょっと様子をみていたら一旦落ち着いたので、今の咳とは関係ないと思い込んでいました。画像検査と治療方針左主気管支、カシューナッツ画像を拡大する問診で気道異物の可能性が示唆されたとき、次に考えるのが画像検査による裏付けです。しかし、ここでもいくつかの注意点があります。単純X線検査では、ナッツ類やビニール片などの異物は写らないことが多く、診断の決め手にはなりにくいのが実情です。Holtzkneht徴候といった教科書的な所見も、実臨床ではなかなか確認できません。CT検査は異物の描出に有用で、冒頭の症例のもととなった患児の左主気管支でカシューナッツを発見しました。しかし、CT検査は被曝や鎮静の必要性があるため、小児では実施のハードルは高いでしょう。確定診断および治療は、気管支鏡を用いた異物の摘出です。全身麻酔下での気管支鏡検査(主に硬性鏡)が必要となり、設備と経験のある施設での対応が前提となります。したがって、気道異物の可能性が否定できない場合には、専門施設への紹介を検討することが重要です。予防のために気道異物は診断・治療の難しさだけでなく、予防の視点も欠かせません。とくに乳幼児期は、口に入れることで物の形や質感を学ぶ発達段階にあるため、「なんでも口に入れてしまう」こと自体は自然な行動です。だからこそ、周囲の大人が環境を整えることが何より大切です。たとえば、節分の豆やナッツ類は5歳未満には与えない、ミニトマトやブドウなど球状の食品は4等分に切るか柔らかく調理する、食事中は遊ばず食べることに集中できる環境を整える、小さなパーツ付きのおもちゃで遊ぶときは目を離さない―こうした日常の注意が、事故の予防に直結します。実際、節分の時期には消費者庁から注意喚起の文書が毎年発表されています。また、保護者自身が「誤って吸い込む危険」に気付いていないことも多いため、医療者からの丁寧な声かけが有効です。日頃から予防のための一言を添えたり、「子どもの事故防止ハンドブック」(子ども家庭庁・消費者庁発行)など無料で入手できる資料を紹介したりすることも、保護者への啓発に役立ちます。気道異物は、ありふれた咳や発熱の陰にひそんでいることがあります。急に始まった咳や、なかなか治らない喘鳴の背景には、思いがけない異物が潜んでいるかもしれません。いつもの診察に吸引の可能性を一言加える習慣が大きな見落としを防ぐ力になるはずです。暑い日が続いているため、次回は「熱中症」をテーマにお話します。参考資料 1) 今井丈英 ほか. 日本小児呼吸器学会雑誌. 2018;29:114-121. 2) 吉井れの ほか. 日本小児外科学会雑誌. 2024;60:884-889. 3) Shlizerman L, et al. Am J Otolaryngol. 2010;31:320-324. 4) 日本小児科学会:Injury Alert(傷害速報)「No.045 ベビーフード(大豆)の誤嚥による気道異物」 5) 消費者庁:食品による子どもの窒息・誤嚥(ごえん)事故に注意!―気管支炎や肺炎を起こすおそれも、硬い豆やナッツ類等は5歳以下の子どもには食べさせないで― 6) 消費者庁:子どもを事故から守る!事故防止ハンドブック

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第269回 某党のもう1人の爆弾候補、反ワク発言はノリなのか!?

連休ど真ん中の参院選挙7月3日、ついに参議院選挙が告示された。政治が流動化する中で、報道で政党として注目を浴びているのは、最大与党である自民党と昨年の衆院選で躍進した野党の国民民主党ぐらいである。国民民主党は国政でキャスティングボードを握り始めていたが、NHKの世論調査による政党支持率では、今年3月調査で最大野党の立憲民主党(以下、立民)を超えたものの、その後は緩やかに支持率が低下し、5月調査では立民に再逆転を許した。6月調査では前月比0.4%増の5.8%だったが、立民の2.6%増の8.4%に比べ停滞している。ここ最近の停滞については、旧民進党時代に不倫疑惑が持ち上がった山尾 志桜里氏を今回の参議院選挙の比例代表候補として公認することを5月に発表したものの、6月に山尾氏が開いた釈明会見に批判が集まり、その直後に山尾氏の公認を見送ったというドタバタが影響しているとも伝わる。国民民主党、世間を賑わすもう1人の公認実は国民民主党が今回の参議院選挙に際して、もう1つの“爆弾”を抱えていたことは、医療者の間では知っている人も少なくないだろう。過去に立憲民主党の比例代表で当選経験があり、山尾氏と同じく5月に同党の比例代表候補として公認された元格闘家の須藤 元気氏である。須藤氏はコロナ禍後、mRNAワクチンに懐疑的な発信をSNSのX(旧Twitter)で続けてきたことで知られる。たとえば以下のような感じだ。「世界中でストップしたワクチン接種をわが国だけが続けていると言う異常事態」(2023年10月26日)「透明性を示さないのにどうやってコロナワクチンの安全性を国民に理解してもらうんでしょうか。これ以上被害を増やさないためにも中止すべきです」(2023年12月12日)「ワクチン接種前に、そのリスクについてきちんとした説明を受けた方はいらっしゃるでしょうか。国が説明責任を果たしていなかったと考える方は少なくないでしょう。ワクチン接種から超過死亡数が急増したいま、国家が賠償責任を問われても当然だと思います」(2024年4月18日)「風邪に対してリスクのあるワクチンは、もはや不要なのではないでしょうか」(2024年8月31日)「報告されている健康被害の数を考えると、現在も接種が継続されている状況には疑問を感じざるを得ません」(2025年4月5日)ざっと並べただけでも以上である。すべてを書き出せば、本連載10回分はゆうに超えるだろう。その須藤氏を国民民主党が公認したゆえに、代表である玉木 雄一郎氏のXにも批判が相次いだ。須藤氏は公認発表当日、以下のような内容をX上で公表している。「2. ワクチンなど医療分野について 『副反応への懸念』を発信していましたが、ワクチンの重症化予防効果等を含めて科学的根拠を否定する立場ではありません。党の“科学的知見と透明性重視”の方針に従います。 その決意の証として、国民民主党から提示された確認書にサインして、党に提出しました。党として決定した事項に反する行動は取りません」コロナワクチンの反対姿勢はいずこへ須藤氏はこの件についてメディアからの直撃を受けたこともあったが、真正面からの回答は避けてきた。しかし、6月30日、都内での同党の街頭演説会終了後のぶら下がり会見と同日公開された同党衆院議員で救急医の福田 徹氏のYouTubeチャンネル「救急医政治家・福田とおるチャンネル」に動画「【国民民主党】須藤元気さんに科学の大切さを伝えました」で初めてワクチンについて釈明した。前者のぶら下がり会見について、ネット上で公開されていた動画では以下のようなやり取りが行われている。今、玉木代表におっしゃっていただいたように私自身のコロナ禍におけるワクチンについて(の発言は)科学的根拠に乏しいというご指摘を頂きました。その点については本当に深く反省しております。そして私の発信によりその当時本当に一生懸命働いてきた医療従事者の方々に心身ともに大きな負担をおかけしたことを、心からお詫び申し上げます。私自身、ちょっと経緯をお話ししますと、当時コロナ禍はまだよくわからない、いろいろなことがよくわからない状況下の中で、(ワクチンの?)リスクに対しては不安を持っていたのは確かです。その不安を持っている中、因果関係はわからないんですが、私自身の友人が接種後に職場で倒れて亡くなるという、残念でしたし、本当に悔しかったです。その不安がより強化され、その後ワクチン接種後の健康被害に遭われた方にお会いしたり、リスクに対して警鐘を鳴らす学者の方にお話を聞いたりして、私自身、その問題に対して一層深まった(?)のは事実であります。そうした中で国会議員として、やはり中立な立場でいなきゃいけない、何事もリスクとベネフィットがある中で、発信していかなければいけないというのは、自分なりには認識しつつ、ニュース記事の引用であったり、学者の方の言葉を引用して発信していたつもりですが、私自身の言葉足らずであったり、その中には事実と反するものがあるということは、改めて反省しております。国民民主党は、科学的根拠に基づいた実効性の高い感染症対策、公衆衛生政策というものを追求する党だと認識しております。私自身もその党の一員としてしっかりと国民の健康と命を守れるように、今後頑張っていきたいと思います。【記者】須藤さんは反ワク、反原発と言ったことは一度もないというふうにずっとおっしゃり続けていますが、そう捉えても仕方がないような発言が過去はありました。国民民主から出るにあたって、そして専門家の話を聞いた後で、その考えは完全に改まった、今はまったく違う考え方だとおっしゃっているんでしょうか。【須藤】そうですね。反ワクでも私はコロナ禍におけるワクチン以外のすべてのワクチンに対して反対だといったこと、自分は一度もありません。【記者】ワクチンに関しては、世の中にはまだ不安を抱く人、陰謀論とかいろんなものがあると思いますけど、今後再び国会議員という立場になった時には、そういう物の見方に対してはどのように対応していかれますか?【須藤】国民民主党の一員として科学的根拠に基づいた実効性のある感染症対策をやっていくべきだというのを認識しているので、党の仲間と共に発信していきたいと思います。【記者】須藤さんは過去にSNS上にコロナウイルスのワクチン接種で死者が急増したなどの書き込みがありましたが、そうした過去の発信については取り消されるということでよろしいでしょうか?【須藤】そうですね。ただ、決してなかったことにするということはするつもりはありません。もちろん説明責任が必要だと思いますので、ツイートに対しては今後どういうふうにしていくか検討していきたいと思います。【記者】須藤さんが発信したことによって何万リツイートもされているようなものもあるのですが、そういった情報発信をしたことに対しての責任についてはどのようにお考えですか?【須藤】事実に基づいていないものに関しては反省しています。二度とそういうことをしないように党の仲間と共に前に進んでいきたいと思います。この中で語られた友人の件については、一定程度理解はしようと思うのだが、ならばそれほど強い思いがあったのにここまで180度転換すると、個人的にはちょっと理解不能である。約8ヵ月前には、米国・保健福祉省長官にケネディ氏が就任したニュースを引用しながら、こんなつぶやきもXで披露している。「ケネディさんは長年、ワクチンの安全性に関する懸念を提起してきたので、(米国において)政策の見直しやワクチンに対する透明性と安全性が今まで以上に厳しく問われるはずです」立民の比例代表候補として6年前に当選してからこれまで彼が勉強していたことは、一夜にしてガラッと変わるほどのものだったのか?これは極めつきの私見なのだが、須藤氏のSNS発信、とくに最近国民民主党入りしてからの選挙活動の手伝いの映像を見ていると思うことがある。彼自身は元々格闘家だっただけあって、その名の通り映像で見える活動は元気いっぱいでノリがいい。それゆえにワクチンに懐疑的なスタンスも、国民民主党入りとその後の“転向”もすべてノリで動いていないか? と思ってしまうのだ。さてこうした須藤氏をどう評価するかは有権者次第である。いずれにせよ2週間強で結果は判明する。

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第249回 医療事故調査制度10年 問われる「報告文化」と診療所の安全対策/厚労省

<先週の動き> 1.医療事故調査制度10年 問われる「報告文化」と診療所の安全対策/厚労省 2.百日咳が過去最多ペースで拡大、マクロライド耐性株による死亡例も/小児科学会 3.救急車の選定療養費、半年で徴収率4%も軽症搬送は1割減/茨城 4.高度がん医療機関の「集約化」へ、医師確保と症例偏在が課題に/厚労省 5.看護師養成数が減少、地域医療に深刻な影響、人材確保へ政策転換が急務/看護協会 6.美容医療バブルに陰り 利益率2.6%・淘汰の時代へ/東京商工リサーチ 1.医療事故調査制度10年 問われる「報告文化」と診療所の安全対策/厚労省医療事故調査制度の施行から10年を迎え、厚生労働省は6月27日、「医療事故調査制度等の医療安全に係る検討会」を設置し、初会合を開いた。制度は、患者の予期せぬ死亡事例の原因を調査・分析し、再発防止に資することを目的として2015年に開始され、これまでに3,338件の報告がなされている。会合では、横浜市立大学病院が取り組む重大事例への会議体での分析と改善策検討の事例が紹介され、座長には中央大学の山本 和彦教授が就任した。一方で、地域医療を担う診療所における医療安全体制の遅れも明らかとなっている。日本プライマリ・ケア連合学会の調査では、医療安全指針の策定は53%、インシデントレポート件数は年間10件未満が約65%と、体制未整備や過少報告の実態が浮かび上がった。教育機会や外部支援体制の不足、データ活用の課題も指摘されており、安全文化の定着には支援強化が不可欠とされる。検討会では、生成AIを活用した好事例の抽出や標準モデルの提示、医学生・研修医への安全教育の強化、遺族の声の反映などが論点として挙げられた。また、医療安全対策加算や地域連携加算の届出施設数は年々増加しているが、中でも事故リスクが高い集中治療室や内視鏡手術に対しては、届出要件の厳格化も進められている。国は今秋を目途に施策の方向性を取りまとめ、医療安全体制の標準化と格差是正、とくに診療所や中小病院の支援策に向けた制度的整備を進める構えだ。 参考 1) 第1回医療事故調査制度等の医療安全に係る検討会(厚労省) 2) 患者の予期せぬ死亡の原因探る 医療安全施策の課題解決へ 厚労省検討会が初会合(産経新聞) 3) 診療所にも義務付けられている医療安全確保のための指針、約5割が作成せず(日経メディカル) 2.百日咳が過去最多ペースで拡大、マクロライド耐性株による死亡例も/小児科学会百日咳の全国的な流行が深刻化している。国立健康危機管理研究機構(JIHS)によると、2025年第24週の報告患者数は2,970人で、過去最多の前週に次ぐ規模。累計では前年の約8倍に達し、東京都では第25週に278人が報告され、3週連続で過去最多を更新している。とくに10~19歳の患者が多く、乳幼児にも拡大している。日本小児科学会はワクチン未接種の生後2ヵ月未満児への感染防止を呼び掛け、感染症対策の徹底とマクロライド耐性菌(MRBP)を想定した治療体制の整備を求めている。また、MRBPによる重症例や死亡例も確認されており、医療機関にはST合剤使用などを含む柔軟な対応が求められている。百日咳は飛沫・接触感染を介し、咳が数ヵ月持続することもあり、新生児や乳児では重篤化しやすい。2023年以降は世界的にも流行が拡大しており、コロナ禍による集団免疫の低下や感染対策の緩和が要因とされる。また、妊婦へのワクチン接種も感染予防の有効策として注目されている。海外では成人用百日咳ワクチンの妊娠中接種による乳児重症化予防の効果が報告されており、わが国でも小児用3種混合ワクチンの使用で抗体移行が期待できる。産婦人科専門医らは、妊娠27~36週の接種を推奨しており、家族全体での予防接種の重要性が増している。百日咳の今後の動向には警戒が必要であり、医療従事者には迅速な診断、耐性菌への備え、ワクチン啓発の三本柱による対策が求められている。 参考 1) 生後2ヵ月未満の乳児における重症百日咳の発症に関する注意喚起と治療薬選択について(日本小児科学会) 2) 生後2ヵ月未満の百日咳、感染対策の徹底呼び掛け 全国的な流行拡大止まらず 日本小児科学会(CB news) 3) 百日咳の報告数、微減も過去2番目の2,970人-累計は昨年の約8倍 JIHS公表(同) 4) 都内の百日咳報告数、3週連続最多の278人 前週比2割増、累計もワーストに迫る(同) 3.救急車の選定療養費、半年で徴収率4%も軽症搬送は1割減/茨城茨城県が2023年12月から導入した、緊急性の低い救急搬送患者から「選定療養費」を徴収する制度について、導入半年の徴収率はわずか約4%に止まった。一方、県内の「軽症など」による救急搬送は前年同期比で1割以上減少し、県は制度に一定の効果があったと評価している。主な徴収対象は腰痛や風邪症状などで、県の救急電話相談利用も増加した。救急要請に慎重になる傾向もみられ、とくに学校現場では、保護者への負担や判断責任をめぐる混乱が生じている。水戸市やつくば市では、生徒の軽症搬送で選定療養費が徴収され、教職員の間で救急要請をためらう事態も発生している。これを受け県は「緊急性が疑われる場合はためらわず救急車を」と繰り返し呼びかけている。相談で搬送助言があれば徴収は原則免除されるが、制度周知は不十分との指摘もあり、県はホームページなどを通じて説明強化に乗り出した。議会や市民団体からは、教育現場を徴収対象から除外するよう求める意見書や陳情も出されているが、県は現時点で除外の考えはないとしている。今後、熱中症搬送の増加も想定される中、制度の適正運用と現場支援の両立が問われている。 参考 1) 選定療養費 徴収率4% 茨城県内開始半年 軽症等搬送1割減(茨城新聞) 2) 選定療養費 学校、救急要請で苦慮 茨城県「緊急時 迷わずに」(同) 3) 「選定療養費」茨城県 “救急電話相談で助言あれば徴収ない”(NHK) 4.高度がん医療機関の「集約化」へ、医師確保と症例偏在が課題に/厚労省厚生労働省は6月23日に「がん診療提供体制のあり方に関する検討会」を開き、2040年に向けたがん医療の需給推計と、均てん化・集約化の方針案を提示した。推計によれば、がん患者数は大都市部を中心に増加する一方、地方では減少が見込まれる。治療法別では、手術療法の需要は減少傾向にある一方で、放射線療法や薬物療法は全国的に増加が予測される。とくに東京・沖縄・滋賀・神奈川では放射線療法の需要が30%以上増加する見込み。同時に、外科医の数は横ばいで、消化器外科医は減少傾向にあり、放射線科医も多数の施設に分散し、治療件数が少ない施設が目立つ。このような供給面の制約を踏まえ、厚労省は、医療技術の高度化や人材確保の観点からも集約化の必要性を強調した。希少がんや高度手術、粒子線治療などは都道府県単位での集約化、標準的な治療は医療圏単位での集約化の検討を求めている。今後は、各都道府県のがん診療連携協議会において、診療実績や患者数、医療従事者の配置状況などのデータをもとに、集約化・均てん化すべき医療の切り分けを進める。地域の実情や患者の医療アクセスに配慮しつつ、質の高い持続可能ながん医療提供体制の構築が求められる。 参考 1) 第18回がん診療提供体制のあり方に関する検討会[資料](厚労省) 2) がん放射線療法の需要、4都県で3割以上増 25-40年に 厚労省推計(CB news) 3) 多くの地域でがん患者が減少する点、手術患者は減少するが放射線・薬物療法患者は増加する点踏まえて集約化検討を-がん診療提供体制検討会(Gem Med) 4) 地域のがん診療実績踏まえ、患者アクセスにも配慮し、各都道府県で「がん医療の集約化」方針を協議せよ-がん診療提供体制検討会(同) 5.看護師養成数が減少、地域医療に深刻な影響、人材確保へ政策転換が急務/看護協会看護師養成の現場が、いま大きな転換点に立たされている。厚生労働省の報告によると、看護師学校養成所の卒業者数は2021年度をピークに減少に転じ、2024年度には大学卒業者も初めて減少した。看護系3年課程の定員充足率は9割を下回り、養成基盤そのものが揺らいでいる。背景には、少子化や大学進学志向の高まり、処遇改善の遅れがある。日本看護協会の調査では、看護師の平均基本給は12年間で約6,000円の増加に止まり、物価上昇に追いつかず、低賃金層では離職率が高い傾向が示された。17.5万円未満の初任給では離職率が16.9%と、27.5万円以上の倍に及ぶ。地方ではさらに深刻であり、釧路市医師会看護専門学校(北海道)や浜田准看護学校(島根県)など、入学者減少により複数の看護学校が閉校に追い込まれており、2028年度までに閉校予定の学校は全国で相次いでいる。これにより、医療過疎地域での看護職員供給に大きな穴が空く恐れがある。医師会立の看護学校でも定員割れが深刻化。群馬県では医師会立の准看護学校の6校中4校で存続が危ぶまれている。こうした中、ふるさと納税や自治体支援を活用した財源確保や、オンライン講義・地域密着型実習の導入など、各地で独自の取り組みも始まっている。また、看護学校内でのパワハラ問題も学生離れの一因とされている。教員の不適切な言動や旧来型の上下関係がハラスメントとして報じられ、若年層の看護職志望者にマイナスの影響を与えている。教育現場では、教員の意識改革と学生の主体性を育む学習スタイルへの転換が求められている。こうした危機を受け、福井県では定員充足率が90%未満の民間養成所への支援を盛り込んだ「看護師養成所学生確保重点支援事業」を新設し、運営費や広報支援を拡充するなどの対策が始まった。2025年には日本看護協会初の男性会長も就任し、「処遇改善を国に求め、地域で必要な看護師を確保したい」と意欲を示す。医療現場を支える看護職の安定確保は、医師の業務負担や診療機能の維持にも直結する喫緊の課題である。医師会や関係団体が連携し、看護教育・待遇改善への具体的支援と政策提言を強化する必要がある。 参考 1) 中央社会保険医療協議会 総会 医療提供体制等について(厚労省) 2) 看護師の新規養成数、ピークアウト 大卒が初の減少 厚労省調べ(CB news) 3) 看護師の基本給、12年でアップ約6千円のみ 低賃金だと離職率高く日看協調べ(同) 4) 看護師等養成所を取り巻く厳しい状況や新たな取り組みを報告(医師会) 5) 2024年度 「看護職員の賃金に関する実態調査」看護師のベースアップの低さが浮き彫りに(日看協) 6) 日本看護協会 初の男性会長が就任 “男性看護師 増加を期待”(NHK) 7) 釧路市医師会看護専門学校 入学者減り2030年度末に閉校へ(同) 8) 浜田准看護学校、2026年3月末で閉校へ(中国新聞) 6.美容医療バブルに陰り 利益率2.6%・淘汰の時代へ/東京商工リサーチ美容医療市場は拡大の一途をたどっている。東京商工リサーチによれば、全国248の美容クリニックの2024年の売上高は約3,137億円で、2022年比1.5倍に成長。SNSや自己投資志向を背景に需要が高まり、性別・年齢を問わず受診が一般化している。その一方で、利益率は2.6%と低く、倒産や休廃業が2024年には計7件と過去最多になった。単一施術型や広告依存型の経営はリスクが高く、差別化と持続的経営力が問われている。市場の急成長と裏腹に、美容医療による健康被害の報告も急増している。厚生労働省の分析では、施術件数は2019年の約123万件から2022年には約373万件に急増。2024年度には国民生活センターなどへの相談が1万700件あり、そのうち健康被害の訴えは898件に上った。施術結果への不満、合併症や後遺症も多く、顔のやけどやしびれ、感染例も報告されている。トラブルの背景には、SNS経由で施術を知った若年層がリスクを十分に理解せず施術を受ける傾向や、研修経験の乏しい「直美(ちょくび)」医師の増加もある。カウンセラー主導で契約が進み、医師の診察やリスク説明が不十分なケースも目立つ。厚労省は美容クリニック勤務医の資格や安全管理状況の年次報告を義務付ける方針。美容医療は「施術力」と「経営力」に加え、安全性・倫理性が問われる時代に入った。医師にとっては、信頼される提供体制の再構築が急務となっている。 参考 1) 「美容医療」市場は3年間で1.5倍に拡大 “経営力”と“施術力”で差別化が鮮明に(東京商工リサーチ) 2) 美容医療市場の売上高、3年で1.5倍 利益率は2.6%にとどまる 東京商工リサーチ(CB news) 3) 美容医療のトラブルが急増 結果に不満、合併症や後遺症も(中日新聞)

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マウステーピングは睡眠の質を改善する?

 最近、ソーシャルメディアを席巻しているトレンドの一つであるマウステープの使用について、残念な研究結果が報告された。睡眠時にテープなどで口を閉じた状態にすること(マウステーピング)は、口呼吸を防いで鼻呼吸をサポートし、口腔内の乾燥を防ぎ、いびきや睡眠時の一時的な呼吸停止(睡眠時無呼吸)を防ぐことで睡眠の質を高めるとされている。しかし新たな研究で、マウステーピングが実際に睡眠の質の改善に有効であることを示すエビデンスは限定的であり、場合によっては窒息のリスクを高める可能性のあることが明らかにされた。ロンドン健康科学センター(カナダ)耳鼻咽喉科・頭頸部外科学分野のBrian Rotenberg氏らによるこの研究結果は、「PLOS One」に5月21日掲載された。 女優のグウィネス・パルトローはInstagramでマウステープについて、「これはおそらく最近見つけた中で最高の健康ツールだわ。一晩中、鼻呼吸をすると、体内がアルカリ性に傾き、質の高い睡眠を促すそうよ」と述べたことをUs Weeklyは伝えている。しかしRotenberg氏は、「ソーシャルメディアで大量に喧伝されているマウステーピングの効果はエビデンスに乏しく、重度の鼻詰まりの人には有害な影響さえもたらす可能性がある」と述べている。 この研究では、1999年2月から2024年2月の間に発表されたマウステーピングの効果に関する既存の研究から10件の研究を抽出し、そのレビューが行われた。これらの研究では、サージカルテープやマウスピースなどさまざまな器具を用いたマウステーピングが検討されており、対象者の総計は213人に上った。 その結果、マウステーピングが無呼吸低呼吸指数(AHI)や酸素飽和度低下など睡眠時無呼吸の指標に対して統計学的に有意な改善を示した研究は、10件中わずか2件にとどまることが明らかになった。それ以外の研究では、マウステーピングの効果は何も確認されず、それどころか、鼻づまりがある状態でマウステーピングを行うと窒息のリスクが生じる可能性のあることが示唆されていた。 研究グループは、「例えば、花粉症や風邪、鼻中隔湾曲、扁桃腺肥大などの症状がある人は、鼻から十分な酸素を取り込めないため口呼吸をしている可能性がある」と指摘している。また、マウステーピングにより口が閉じられていると、睡眠中に嘔吐した際に吐瀉物で窒息する危険性もあるとしている。 その上で研究グループは、「マウステーピングは、有名人が推奨することの多い現代的な習慣だが、その効果は必ずしも科学的に証明されたものではない。マウステーピングに適さない人も多く、場合によっては深刻な健康被害のリスクにつながる可能性がある」と警鐘を鳴らしている。 一方で研究グループは、「本研究で対象とした研究は一貫して高品質ではなかったため、さらなる調査が必要だ」とも述べている。

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