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鼻水が止まりません…【漢方カンファレンス2】第3回

鼻水が止まりません…以下の症例で考えられる処方をお答えください。(経過の項の「???」にあてはまる漢方薬を考えてみましょう)【今回の症例】20代後半女性主訴水様性鼻汁既往気管支喘息(小児期)、アレルギー性鼻炎病歴3日前、帰宅途中に雨に濡れた。翌朝、寒気がして咽頭痛と水様性鼻汁が出現。市販の感冒薬を飲んで様子をみたが、37.5℃の発熱、さらに翌日には咳嗽も出現したため受診した。水様性鼻汁が止まらずに困っている。現症身長169cm、体重56kg。体温37.4℃、血圧108/70mmHg、脈拍70回/分 整、SpO2 98%、咽頭発赤なし、扁桃肥大なし、白苔なし、頸部リンパ節腫脹なし、呼吸音異常なし。経過受診時「???」エキス2包を外来で内服。15分後水様性鼻汁が軽減「???」エキス3包 分3で処方。(解答は本ページ下部をチェック!)(帰宅して安静にし、2〜3時間おきに内服するように指導)翌日帰宅後、2回目を内服して布団に入った。悪寒がなくなり体が温かくなり解熱した。2日後咽頭痛と咳嗽が改善した。問診・診察漢方医は以下に示す漢方診療のポイントに基づいて、今回の症例を以下のように考えます。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?(冷えがあるか、温まると症状は改善するか、倦怠感は強いか、など)(2)虚実はどうか(症状の程度、脈・腹の力)(3)気血水の異常を考える(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む【問診】<陰陽の問診> 寒がりですか? 暑がりですか? 悪寒がありますか? 体熱感がありますか? 横になりたいほどの倦怠感はありませんか? 普段は寒がりです。 少し寒気があって上着を1枚羽織っています。 体熱感はありません。 横になりたいほどの倦怠感はありません。 のどは渇きますか? いま、飲み物は温かい物と冷たい物のどちらを飲みたいですか? のどは渇きません。 温かい飲み物が飲みたいです。 <鼻汁の性状> 鼻水はどのような性状ですか? 色はついていますか? 無色で水のようにタラッと垂れてきます。 <ほかの随伴症状> のどの痛みは強いですか? 体の節々が痛みますか? 汗をかいていますか? 口の苦味や食欲低下はありませんか? 咳はひどいですか? 痰は絡みますか? のどは少し痛いくらいです。 体の痛みはありません。 汗は少しかいています。 口の苦味はなく、食欲もあります。 咳はそこまでひどくありません。 痰は絡みません。 普段から冷え症でむくみやすいですか? 冷え症で夕方に足がむくみます。 【診察】顔色はやや蒼白。脈診は、やや浮で、反発力は中程度、幅の細い脈であった。舌は淡紅色で腫大と歯痕があり、湿潤した白苔が少量、腹診では腹力は中等度より軟弱で、心窩部に振水音あり。胸脇苦満(きょうきょうくまん)は認めなかった。触診では、皮膚はわずかに湿潤傾向、四肢の冷感はなし。カンファレンス 今回は風邪の症例ですね。風邪の治療は漢方治療の基本ですからしっかり押さえておきましょう。 感冒(風邪)では、咳、鼻、のどの症状が同程度に現れるのが典型です。本症例でも咳嗽と咽頭痛もありますが、水様性鼻汁が目立つことから、鼻型の風邪(急性鼻炎)といえそうです。 風邪の漢方治療では、発症直後で悪寒のある太陽病(たいようびょう)、その後、生体内に病邪が侵入した少陽病(しょうようびょう)として治療するのでした。 よく覚えていますね。一般的には太陽病は発症2~3日で、それ以降は少陽病に移行することが多いです。 本症例は発症3日目ですからどちらか判断は難しいですね。 そうだね。脈が浮で自覚症状として寒気があるから太陽病でいいだろう。診断では、悪寒の有無に加えて、脈診で脈が浮であることが大事なポイントだ(太陽病については本ページ下部の「今回のポイント」の項参照)。 本症例は、脈はやや浮、上着を羽織りたくなるような寒気があるということで太陽病と診断できそうです。 そうですね。さらに問診で少陽病の特徴である口の苦味や食欲低下がないこと、そして診察で舌の厚い舌苔や腹部の胸脇苦満がないことを確認して、少陽病を除外していますね。少陽病の特徴も覚えておきましょう。 太陽病ということは漢方診療のポイント(1)の「陰陽(いんよう)」は陽証ということになりますか? 今回は、寒がり、温かい飲み物を好む、顔面蒼白とあまり熱が主体の陽証とは考えにくいですね。太陽病の葛根湯(かっこんとう)や麻黄湯(まおうとう)では、悪寒と同時かその後に、熱を示唆する所見、顔面紅潮や強い咽頭痛など熱があるのでしたよね? いいところに気付いたね。今回は太陽病だけど、陽証らしくないというのがポイントだよ。では質問だけど、陰証の風邪によく用いる漢方薬を覚えているかい? えっと… 麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)です。麻黄附子細辛湯は全身に冷えと強い倦怠感がある陰証、少陰病(しょういんびょう)に用います。麻黄附子細辛湯の風邪は、水様性鼻汁、チクチクとした咽頭痛、倦怠感といった症状が特徴で、脈が沈でした。さらに風邪のひき始めが少陰病から始まる場合を「直中少陰(じきちゅうのしょういん)」(直(ただ)ちに少陰に中(あ)たる)とよびます。漢方カンファレンス第5回「風邪で冷えてきつい…」で学びました。 しっかり復習しておきます。本症例では「横になりたいほどの倦怠感がありますか?」と問診し、さらに四肢の冷えを触診で確認しています。本症例ではどちらも該当せず少陰病ではないようです。やはり陽証・太陽病らしいですね。 脈がやや浮ということから太陽病と診断できるけれど、脈診は初学者には難しいこと、麻黄附子細辛湯でも例外的に脈が浮いている場合があるからね1)。必ず全身倦怠感の程度と触診などで冷えの有無を確認して、少陰病の麻黄附子細辛湯の風邪でないか、常に考える必要があるね。 漢方診療のポイント(2)である「虚実」はどうでしょう? 脈は強弱中間、触診で汗をかいているようなので、虚証でしょうか? そうですね。ただし、脈の力は強弱中間と弱ではなく、発汗の程度も軽度なので虚実間としましょう。太陽病・虚証では発汗が自他覚的にも明らかなことが多いです。陰陽・六病位・虚実の判定まできました。漢方診療のポイント(3)気血水の異常に移りましょう。 水様性鼻汁は水毒ですね。 下肢が浮腫みやすいことや腹診の振水音も水毒です。本症例は、太陽病だけど熱はあまり目立たず、水毒があるといえますね。まとめてみましょう。 【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?悪寒がある。横になりたいほどの倦怠感はない、脈がやや浮温かい飲み物を好む、顔面蒼白(陽証:太陽病、熱よりも冷えが目立つ)(2)虚実はどうか脈:強弱中間、軽度の発汗傾向→虚実中間(3)気血水の異常を考える水様性鼻汁、下肢浮腫、振水音→水毒(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む水様性鼻汁、振水音解答・解説【解答】本症例は太陽病・虚実間証で、水毒がある場合に用いる小青竜湯(しょうせいりゅうとう)で治療しました。【解説】小青竜湯は太陽病・虚実間に分類されますが、特殊な位置付けです。太陽病で陽証といいながらも、体内に冷え(寒)がある病態に用いられます。ちょっと冷えがあって水っぽいイメージです。そのため小青竜湯は、太陽病でありながらその病態の一部は太陰病にまたがっているとも解説されています。構成生薬は、葛根湯や麻黄湯などと同様に発汗作用のある麻黄(まおう)と桂皮(けいひ)が含まれることは共通ですが、熱薬である乾姜(かんきょう)、細辛(さいしん)に加え、利水作用や鎮咳作用のある半夏(はんげ)・五味子(ごみし)を含みます。そのためあまり熱感が目立たない水様性鼻汁を伴う風邪やアレルギー性鼻炎によい適応です。日頃からむくみやすい、振水音があるなどの水毒の傾向をもつ人が風邪をひいたり、寒さにあたって鼻汁が出たりする場合に、小青竜湯の適応となることが多いようです。なお、小青竜湯は、通年性アレルギー性鼻炎に対する小青竜湯の効果を示した二重盲検RCT2)が存在し、『鼻アレルギー診療ガイドライン 2024年版』にも掲載されている漢方薬です。ほかの太陽病の漢方薬と趣が異なるため悪寒のある急性期に限定せず、より幅広い時期に用いることができます。今回のポイント「太陽病」の解説風邪のひき始めのように、悪寒に加え、脈が浮である時期を太陽病(陽の始まりという意味)といいます。太陽病の病位は表(ひょう:体表)で闘病反応が起こっている時期で、葛根湯や麻黄湯などの発汗作用のある漢方薬で治療します。太陽病は図(太陽病のチェックリスト)の順に診断、虚実の判定、漢方薬の選択を行います。診断には、悪寒の有無に加えて、脈診で脈が浮であることが大事なポイントです。橈骨動脈を橈骨茎状突起の高さに第2~4指をそろえて触知します。軽く置いたときに表在性に触れることができれば浮(ふ:浮いている)と表現します。指を沈めていって初めてはっきり触れてくれば沈(ちん:沈んでいる)になります。発症からの時期(多くは2~3日以内)も参考にして診断します。次に虚実の判定を行います。脈を押しこんで全体から受ける反発力をみて脈の「強弱」の判定をします。少しの力でペシャンとつぶれて触れなくなるような脈は「弱」、反発力が充実していれば「強」と診断します。さらに太陽病の虚実の判定には、汗の有無を参考にします。悪寒があるにもかかわらず皮膚のしまりがなくて、発汗している状態は闘病反応が弱い(虚)、汗がなく皮膚がサラッと乾いている場合は闘病反応が強い(実)と判定します。また虚実の判定には咽頭痛などの上気道炎症状の強さも参考になります。最後に、漢方薬ごとの特異的徴候として、項(うなじ)のこわばり(葛根湯)、多関節痛(麻黄湯)、水様性鼻汁(アレルギー性鼻炎)などを確認して処方を決定します(図)。太陽病は漢方薬をクリアカットに選択できるため、しっかりマスターしてください。今回の鑑別処方水様性鼻汁は冷えと水毒と考えますが、膿性鼻汁では炎症(熱)が強い病態と考えて治療します。葛根湯加川芎辛夷(かっこんとうかせんきゅうしんい)は太陽病の葛根湯に川芎(せんきゅう)と辛夷(しんい)が加わった処方で、頭痛や項のこわばりに加えて、鼻閉・前頭部の圧迫感が目立つ場合に適応になります。太陽病ですから副鼻腔炎の急性期がよい適応です。越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)は、アレルギーによる粘膜の炎症や浮腫(漢方医学的には熱と水毒)を改善させる効果があり、鼻閉が強い場合や目や鼻のかゆみを訴える場合にも有効です。葛根湯加川芎辛夷、越婢加朮湯とも麻黄が含まれるため、内服期間が長くなる場合は胃もたれ、不眠、動悸などの副作用の出現に注意する必要があります。辛夷清肺湯(しんいせいはいとう)は石膏(せっこう)・黄芩(おうごん)・知母(ちも)といった清熱作用のある生薬が含まれ、炎症(熱)の強い急性期の副鼻腔炎で、副鼻腔に熱感を感じる場合によい適応です。荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)は中耳炎・副鼻腔炎・ニキビなど頭頸部に炎症を繰り返しやすい体質で、慢性化した副鼻腔炎に用います。皮膚が浅黒く乾燥傾向のある場合がよい適応になります。参考文献1)藤平健, 中村謙介 編著. 傷寒論演習 緑書房. 1997;577-584.2)馬場駿吉 ほか. 耳鼻臨床. 1995;88:389-405.

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風邪のときのスープ」に効果はある?

 風邪症候群や咽頭炎、インフルエンザ様疾患などの急性気道感染症の症状を和らげるために、温かいスープを飲むと良いとされることがある。この伝統的な食事療法の有効性を検討することを目的に、英国・University of the West of ScotlandのSandra Lucas氏らが、システマティックレビューを実施した。その結果、スープの摂取は、急性気道感染症の症状緩和や炎症抑制をもたらす可能性が示唆された。本研究結果は、Nutrients誌2025年7月7日号で報告された。 本研究では、急性気道感染症に対するスープの効果を評価した研究を対象として、システマティックレビューを実施した。2024年2月までに公表された論文を対象に、MEDLINE、Embase、Scopus、CINAHL、CENTRAL、Cochrane Database of Systematic Reviewsなどを用いて文献を検索した。適格基準を満たした4件の無作為化比較試験(対象342例)を抽出し、メタ解析は行わずナラティブ統合を行った。解析対象となった研究で用いられたスープは、鶏肉ベースのスープに野菜やハーブを追加したものが主なものであった。評価項目は、症状重症度、罹病期間、炎症マーカーなどとした。 主な結果は以下のとおり。・3試験において、スープ摂取群は鼻閉、咽頭痛、咳といった急性気道感染症の症状がわずかながら軽減した。・1試験において、スープ摂取群は罹病期間が1~2.5日短縮した。・2試験において、スープ摂取群でC反応性タンパク(CRP)、IL-6、TNF-αといった炎症マーカーが低下する傾向がみられた。・小児を対象とした1試験において、免疫グロブリン(IgA、IgG、IgM)値の上昇など、免疫機能の改善を示唆する結果が得られた。 著者らは、「スープは水分補給、栄養補給、抗炎症作用の相乗効果により、急性気道感染症の症状軽減、全体的な健康の維持に寄与する可能性がある。ただし、研究間の異質性や標準化されたプロトコールの欠如などの限界が存在するため、より厳密かつ多様な研究による検証が求められる」とまとめた。

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米国での麻疹症例数、過去25年間で最多に

 米ジョンズ・ホプキンス大学により設立されたCenter for Outbreak Response Innovation(CORI)のデータによると、米国では7月時点で1,270例以上の麻疹症例が確認され(注:2025年7月15日時点で1,309例)、過去25年間で最多となっている。この数字は2019年に記録された1,274件を上回っている。 専門家は、報告されていない症例も多いことから、実際の症例数はこの数字よりもはるかに多い可能性があると見ている。現時点で、すでにテキサス州で小児2人、ニューメキシコ州で成人1人の計3人が麻疹により死亡している。CNNは、これらの3人はいずれもワクチンを接種していなかったと報じている。 米国医師会(AMA)会長のBruce A. Scott氏は、「麻疹の流行が続く中で、小児の定期予防接種率も低下していることを考えると、この状況はワクチンで予防可能な病気の蔓延をさらに促進するだろう」と述べている。 麻疹は麻疹ウイルスへの感染が原因で生じる疾患で、感染力は非常に強い。米国では、麻疹・おたふく風邪・風疹(MMR)ワクチンの普及により、2000年に麻疹根絶が宣言され、それ以降、症例は年間数十〜数百件で推移していた。 CNNの報道によると、現時点で少なくとも38州において麻疹症例が報告されており、少なくとも27の州で個別のアウトブレイクが起きている。新たな症例数の増加はワクチン接種率の大幅な低下と一致している。最大のアウトブレイクは、1月以降これまでに750件以上の症例(注:7月15日時点で796症例)が確認されたテキサス州西部で発生した。アウトブレイクが発生した同州のゲインズ郡は、州内で小児ワクチン接種率が最も低い郡の一つであり、同地域の未就学児のほぼ4人に1人が、2024~25年度中に義務付けられているMMRワクチンを接種していない。 テキサス州のアウトブレイクは近隣のニューメキシコ州とオクラホマ州にも広がっており、また、カンザス州の症例とも関連している可能性が指摘されている。飛行機での移動も麻疹蔓延の一因となっている。コロラド州では、州外からの旅行者が感染力のある状態で飛行機に搭乗したことが原因で、同時刻に空港にいた人々を含む複数の新規感染者が発生した。テキサス州での流行に関連する症例が2026年まで続いた場合、米国の麻疹根絶のステータスが取り消される可能性があると専門家らは懸念している。 米疾病対策センター(CDC)によると、2025年の麻疹罹患者の約8人に1人が入院しており、症例の約30%は5歳未満の小児だった。症例の大半はワクチン未接種だった。MMRワクチンは非常に効果的であり、麻疹ウイルスに対する有効性は1回接種で93%、2回接種で97%である。 今回のアウトブレイクを受け、テキサス州などの一部の州では、MMRワクチンの接種機会を拡大し、従来の1歳から前倒しして生後6カ月で1回目の接種を受けられるようにした。ヘルスケア分析会社Truvetaのデータによると、この措置によりテキサス州でのワクチン接種率は2019年より8倍増加したという。また、ニューメキシコ州でも接種率は昨年のほぼ2倍になったという。しかし専門家は、それでも全国のワクチン接種率は望ましい水準に達していないと警鐘を鳴らす。米国は未就学児におけるMMRワクチン2回接種率95%の達成を目標としているが、CNNによると、この目標は4年連続で達成されていない。 それどころか、公衆衛生のリーダーたちは、ワクチンに対する不信感の高まりと連邦政府の保健指導部の変更により状況は悪化していると指摘している。米国のワクチン政策を策定するCDCには依然として所長がおらず、米国保健福祉省(HHS)長官のロバート・F・ケネディ・ジュニア(Robert F. Kennedy Jr)氏は長年にわたり反ワクチンの情報を拡散してきた経緯がある。ケネディ氏は4月に、ワクチンを支持するこれまでで最も強力な公の声明を発表したが、それは以前の発言とは矛盾する内容だった。さらに6月には、米国のワクチン接種政策を導くワクチン専門家委員会のメンバーを全面的に解任し、ワクチン懐疑論者を後任として任命している。

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患者説明をわかりやすく!病態や治療の説明文作成術【誰でも使えるChatGPT】第4回

皆さん、こんにちは。近畿大学皮膚科の大塚です。第3回では、国際的な診療ガイドラインとの比較方法をご紹介しました。今回は、日常診療で最も時間を要する業務の1つである「患者さんへの説明」にChatGPTを活用する方法をご紹介します。「この病気について、もっと詳しく知りたい」「なぜこの薬を使うのか教えてほしい」―、患者さんからこうした要望を受けることは日常茶飯事です。限られた診療時間の中で、医学的に正確でありながら、患者さんにとってわかりやすい説明をすることは容易ではありません。今回は、ChatGPTを「患者教育アシスタント」として活用し、さまざまな知識レベルの患者さんに合わせた説明文を効率的に作成する方法をお伝えします。関連サイトChatGPTケース1:新しく診断された疾患の説明30代女性が尋常性乾癬と診断されました。「乾癬って何ですか?」と不安そうに質問されました。あなたは患者さんに寄り添う皮膚科専門医です。30代女性の患者さんに「尋常性乾癬」について初めて説明します。以下の要素を含めて、わかりやすく説明してください。含めるべき内容:1.どんな病気か(専門用語を避けて)2.原因(遺伝や生活習慣との関係)3.症状の特徴4.日常生活への影響5.治療の見通し6.よくある誤解の解消(感染しないことなど)条件:中学生でも理解できる言葉で不安を和らげる温かい口調で全体で400字程度最後に「一緒に治療していきましょう」というメッセージをChatGPTからの回答例 乾癬は、皮膚の細胞が通常より早く生まれ変わってしまう病気です。健康な皮膚は約1ヵ月で新しくなりますが、乾癬では数日で変わるため、古い皮膚が積み重なって赤く盛り上がり、白い粉のようなものが付きます。この病気は体質的なもので、ストレスや風邪などがきっかけで出ることがあります。大切なのは、ほかの人にうつる病気ではないということです。症状は良くなったり悪くなったりを繰り返しますが、今は優れた治療法がたくさんあります。塗り薬から始めて、必要に応じてほかの治療も選べます。乾癬は慢性の病気ですが、適切な治療で普通の生活を送っている方がたくさんいらっしゃいます。あなたの生活スタイルに合った治療法を見つけて、一緒に治療していきましょう。何か心配なことがあれば、いつでもご相談ください。ケース2:治療法の選択肢を比較説明アトピー性皮膚炎の患者さんに、新しい治療選択肢(JAK阻害薬の内服)を提案する際の説明が必要です。あなたは、わかりやすい説明が得意な皮膚科医です。中等症のアトピー性皮膚炎患者さん(40代男性、会社員)に、新しい治療選択肢を説明する文章を作成してください。現在の治療ステロイド外用薬(ストロングクラス)提案する治療JAK阻害薬(リンヴォック)の内服以下の形式で説明してください:1.なぜ新しい治療を提案するのか2.JAK阻害薬とは(仕組みを簡単に)3.期待できる効果4.起こりうる副作用と対策5.費用の目安6.今の治療との違い(メリット・デメリット)条件:専門用語には必ず説明を付ける箇条書きを効果的に使う判断材料となる具体的な情報を含めるChatGPTからの回答例 【新しい治療法のご提案について】なぜ新しい治療をお勧めするのか。現在の塗り薬だけでは、かゆみのコントロールが十分でなく、お仕事にも影響が出ているとのことでしたので、より強力な治療法をご提案したいと思います。JAK阻害薬(リンヴォック)とは体の中で過剰な炎症反応を起こす信号をブロックする飲み薬です1日1回の内服で、全身のアトピー症状を改善します2021年に承認された比較的新しいお薬です期待できる効果多くの方が2週間~1ヵ月で効果を実感かゆみが早期に改善(数日~1週間)全身の皮疹が改善し、塗り薬の量を減らせる可能性注意すべき副作用感染症にかかりやすくなる(定期的な血液検査でチェック)にきびができやすくなることがあるまれに:帯状疱疹、血栓症費用について3割負担で月額約1万5,000円(薬代のみ)高額療養費制度の対象【大塚からの追加コメント】実はこの薬価情報は正確ではありません。リンヴォック(15mg)の実際の薬価は1錠約4,300円で、3割負担だと月額約3万6,590円(2025年7月現在)になります。これはChatGPTが薬価を正確に把握していないことを示す良い例です。現在の治療との比較【メリット】◎全身に効果がある◎塗る手間が省ける◎効果が早い【デメリット】×定期的な検査が必要×費用が高い×妊娠希望時は中止が必要ご不明な点があれば、お気軽にご質問ください。ケース3:検査結果の説明パッチテストの結果を患者さんに説明する必要があります。複数のアレルゲンが陽性でした。あなたは検査結果をわかりやすく説明する皮膚科医です。パッチテストの結果を患者さん(50代女性、主婦)に説明する文章を作成してください。検査結果:ニッケル:強陽性(++)コバルト:陽性(+)香料ミックス:陽性(+)ゴム系物質:陰性(-)説明に含める内容:1.パッチテストとは何か(簡潔に)2.陽性の意味3.日常生活で注意すべき具体的な物品4.今後の対策5.前向きなメッセージ条件:不安をあおらない表現具体的な生活指導を含めるイラストで示すようなわかりやすさChatGPTの回答例 【パッチテスト結果のご説明】検査の結果について今回の検査で、皮膚のかぶれの原因となる物質がわかりました。これは「どの物質に触れると皮膚が反応するか」を調べる検査です。見つかったアレルギー物質【ニッケル】★★(強い反応)アクセサリー(とくに安価なもの)時計、ベルトのバックル、メガネのフレーム硬貨、鍵【コバルト】★(反応あり)青色の染料を含む製品ビタミンB12を含むサプリメント【香料ミックス】★(反応あり)香水、化粧品芳香剤、柔軟剤日常生活での工夫◎アクセサリーは「チタン」「プラチナ」「18金以上」を選ぶ◎化粧品は「無香料」表示のものを◎金属部分が肌に触れる場合は、透明マニキュアでコーティング◎手袋(綿やビニール)で直接触れないように前向きに過ごすために原因がわかったことは大きな前進です。これらを避けることで、皮膚トラブルは確実に減っていきます。完全に避けることが難しい場合もありますが、工夫次第で快適に過ごせます。一緒に対策を考えていきましょう。患者説明のプロンプト作成のコツ1)患者さんの背景を具体的に設定年齢、性別、職業、生活環境などを明確にすることで、より適切な説明文が生成されます。2)説明のレベルを明確に指定「中学生でもわかる」「専門用語を避けて」など、具体的な指示を入れましょう。3)感情面への配慮を忘れずに「不安を和らげる」「前向きなメッセージ」など、心理的サポートの要素も重要です。4)構造化された出力を求める箇条書きや見出しを使うよう指示することで、読みやすい説明文になります。注意点1)医学的正確性の確認ChatGPTが生成した内容は必ず医学的に正しいか確認し、必要に応じて修正してください。2)個別性への配慮生成された説明文はあくまでテンプレート。患者さんの理解度や心理状態に応じて調整が必要です。3)定期的な更新治療ガイドラインや薬剤情報は変更されることがあるため、定期的に内容を見直しましょう。AIの薬価情報に関する重要な教訓ケース2で示したリンヴォックの薬価は、実際とは大きく異なっていました。これは医療現場でChatGPTを使用する際の重要な教訓を示しています。薬価・費用に関する情報はとくに注意が必要ChatGPTは薬価改定や最新の保険適用情報を把握していません。具体的な金額を患者さんに伝える前に、必ず最新の薬価を確認しましょう。「おおよその目安」として伝える場合も、実際の金額との乖離に注意します。確認すべき情報のチェックリスト◎薬価(最新の薬価基準で確認)◎用法・用量(添付文書で確認)◎保険適用の条件(適応症、施設基準など)◎併用禁忌・注意(最新の情報で確認)このような具体的な数値や規制に関わる情報は、ChatGPTの回答をうのみにせず、必ず1次情報源で確認することが患者さんの信頼を得るために不可欠です。まとめ患者説明は医療の質を左右する重要な要素です。ChatGPTを活用することで、わかりやすく、思いやりのある説明文を効率的に作成できます。ポイントは:患者さんの立場に立った言葉選び医学的正確性とわかりやすさのバランス不安を和らげる配慮これらの説明文を印刷して渡したり、診察室でタブレットを使って見せたりすることで、患者さんの理解度と満足度の向上が期待できます。

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小児気道異物【すぐに使える小児診療のヒント】第4回

小児気道異物今回は、小児気道異物についてお話しします。「咳が続く」「熱が出た」など風邪様症状で受診する小児は多いですが、それらは本当に風邪ですか?症例1歳3ヵ月、男児咳嗽が出現したため5日前に近医を受診し、急性上気道炎として経過観察されていた。症状が持続し、2日前から発熱も認めるようになったため、近医を再診した。このような症例は、小児を診察していると非常によく遭遇すると思います。保育園に通う幼児は、しょっちゅう風邪をひいて発熱することもしばしば。たいていは急性上気道炎ですが、そんな数ある症例の中に「気道異物」は隠れています。気道異物とは?気道異物とは、本来であれば食道へ向かうべきものが誤って気管や気管支に入ってしまう状態を指します。とくに2歳未満の乳幼児に多く、男児にやや多い傾向があります。原因となるのは、ナッツ類や豆などの食べ物のほか、ビーズやボタン、ビニール片なども含まれます。この時期の小児はまだ犬歯や臼歯が生えそろっておらず、咀嚼力が不十分です。また、咳反射も未熟なため、異物が気道に入っても上手に吐き出せません。こうした身体的特徴に加え、なんでも口に入れて確認しようとする発達段階の特性も、気道異物のリスクを高めています。診断が遅れる理由小児の気道異物の典型的な症状としては、「突然の咳き込み」「喘鳴」「呼吸苦」などが知られています。しかし、実際には「咳が続く」「熱が出た」など非特異的な症状で受診することが多く、初診医が気道異物を疑わないまま経過を追ってしまうケースも少なくありません。異物によっては症状が一時的に軽快するものもあり、その後の症状と結びつかなくなって診断が難しくなることもあります。たとえば、ビニール片のような薄く柔らかい異物は気管内で一旦固定されると喘鳴や咳が軽減し、症状が目立たなくなることがあります。これを「無症状期」と言います。気道異物を疑ったとしても、CTや気管支鏡などの検査は小児では被曝や鎮静のリスクがあるため、実施にためらいが生じやすい現実があります。そのため「明らかな所見がなければ様子をみる」という判断がされやすく、この慎重さが診断の遅れにつながる理由でもあります。診断の鍵は「問診」言葉で症状を説明できない乳幼児では、診察時の所見だけでは判断がつきにくく、保護者から得られる情報が診断の鍵となります。しかし、保護者自身がその情報を重要視していない場合もあるため、「何か口に入れていませんでしたか」「急な咳き込みはありませんでしたか」といった吸引エピソードを探る質問に加え、「おもちゃの部品が足りない」「食べ物が床に落ちていた」といった状況証拠を確認する質問も重要です。診察時に症状が落ち着いていたとしても無症状期を考慮し、吸引の可能性について尋ねる習慣を持つことも診断につながります。また、保護者からの申告がない場合でも、急に始まった咳嗽や喘鳴、治療抵抗性の肺炎などがある場合には、常に気道異物の可能性を頭の片隅に置いておく必要があります。実際の説明例咳が続いていて、熱も出てきました。なんだか呼吸も苦しそうです。何かを口に入れてむせたり、急に咳き込んだりしませんでしたか?あっ!そういえば、1週間くらい前にナッツを与えたところ、むせこんでいました。ちょっと様子をみていたら一旦落ち着いたので、今の咳とは関係ないと思い込んでいました。画像検査と治療方針左主気管支、カシューナッツ画像を拡大する問診で気道異物の可能性が示唆されたとき、次に考えるのが画像検査による裏付けです。しかし、ここでもいくつかの注意点があります。単純X線検査では、ナッツ類やビニール片などの異物は写らないことが多く、診断の決め手にはなりにくいのが実情です。Holtzkneht徴候といった教科書的な所見も、実臨床ではなかなか確認できません。CT検査は異物の描出に有用で、冒頭の症例のもととなった患児の左主気管支でカシューナッツを発見しました。しかし、CT検査は被曝や鎮静の必要性があるため、小児では実施のハードルは高いでしょう。確定診断および治療は、気管支鏡を用いた異物の摘出です。全身麻酔下での気管支鏡検査(主に硬性鏡)が必要となり、設備と経験のある施設での対応が前提となります。したがって、気道異物の可能性が否定できない場合には、専門施設への紹介を検討することが重要です。予防のために気道異物は診断・治療の難しさだけでなく、予防の視点も欠かせません。とくに乳幼児期は、口に入れることで物の形や質感を学ぶ発達段階にあるため、「なんでも口に入れてしまう」こと自体は自然な行動です。だからこそ、周囲の大人が環境を整えることが何より大切です。たとえば、節分の豆やナッツ類は5歳未満には与えない、ミニトマトやブドウなど球状の食品は4等分に切るか柔らかく調理する、食事中は遊ばず食べることに集中できる環境を整える、小さなパーツ付きのおもちゃで遊ぶときは目を離さない―こうした日常の注意が、事故の予防に直結します。実際、節分の時期には消費者庁から注意喚起の文書が毎年発表されています。また、保護者自身が「誤って吸い込む危険」に気付いていないことも多いため、医療者からの丁寧な声かけが有効です。日頃から予防のための一言を添えたり、「子どもの事故防止ハンドブック」(子ども家庭庁・消費者庁発行)など無料で入手できる資料を紹介したりすることも、保護者への啓発に役立ちます。気道異物は、ありふれた咳や発熱の陰にひそんでいることがあります。急に始まった咳や、なかなか治らない喘鳴の背景には、思いがけない異物が潜んでいるかもしれません。いつもの診察に吸引の可能性を一言加える習慣が大きな見落としを防ぐ力になるはずです。暑い日が続いているため、次回は「熱中症」をテーマにお話します。参考資料 1) 今井丈英 ほか. 日本小児呼吸器学会雑誌. 2018;29:114-121. 2) 吉井れの ほか. 日本小児外科学会雑誌. 2024;60:884-889. 3) Shlizerman L, et al. Am J Otolaryngol. 2010;31:320-324. 4) 日本小児科学会:Injury Alert(傷害速報)「No.045 ベビーフード(大豆)の誤嚥による気道異物」 5) 消費者庁:食品による子どもの窒息・誤嚥(ごえん)事故に注意!―気管支炎や肺炎を起こすおそれも、硬い豆やナッツ類等は5歳以下の子どもには食べさせないで― 6) 消費者庁:子どもを事故から守る!事故防止ハンドブック

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第269回 某党のもう1人の爆弾候補、反ワク発言はノリなのか!?

連休ど真ん中の参院選挙7月3日、ついに参議院選挙が告示された。政治が流動化する中で、報道で政党として注目を浴びているのは、最大与党である自民党と昨年の衆院選で躍進した野党の国民民主党ぐらいである。国民民主党は国政でキャスティングボードを握り始めていたが、NHKの世論調査による政党支持率では、今年3月調査で最大野党の立憲民主党(以下、立民)を超えたものの、その後は緩やかに支持率が低下し、5月調査では立民に再逆転を許した。6月調査では前月比0.4%増の5.8%だったが、立民の2.6%増の8.4%に比べ停滞している。ここ最近の停滞については、旧民進党時代に不倫疑惑が持ち上がった山尾 志桜里氏を今回の参議院選挙の比例代表候補として公認することを5月に発表したものの、6月に山尾氏が開いた釈明会見に批判が集まり、その直後に山尾氏の公認を見送ったというドタバタが影響しているとも伝わる。国民民主党、世間を賑わすもう1人の公認実は国民民主党が今回の参議院選挙に際して、もう1つの“爆弾”を抱えていたことは、医療者の間では知っている人も少なくないだろう。過去に立憲民主党の比例代表で当選経験があり、山尾氏と同じく5月に同党の比例代表候補として公認された元格闘家の須藤 元気氏である。須藤氏はコロナ禍後、mRNAワクチンに懐疑的な発信をSNSのX(旧Twitter)で続けてきたことで知られる。たとえば以下のような感じだ。「世界中でストップしたワクチン接種をわが国だけが続けていると言う異常事態」(2023年10月26日)「透明性を示さないのにどうやってコロナワクチンの安全性を国民に理解してもらうんでしょうか。これ以上被害を増やさないためにも中止すべきです」(2023年12月12日)「ワクチン接種前に、そのリスクについてきちんとした説明を受けた方はいらっしゃるでしょうか。国が説明責任を果たしていなかったと考える方は少なくないでしょう。ワクチン接種から超過死亡数が急増したいま、国家が賠償責任を問われても当然だと思います」(2024年4月18日)「風邪に対してリスクのあるワクチンは、もはや不要なのではないでしょうか」(2024年8月31日)「報告されている健康被害の数を考えると、現在も接種が継続されている状況には疑問を感じざるを得ません」(2025年4月5日)ざっと並べただけでも以上である。すべてを書き出せば、本連載10回分はゆうに超えるだろう。その須藤氏を国民民主党が公認したゆえに、代表である玉木 雄一郎氏のXにも批判が相次いだ。須藤氏は公認発表当日、以下のような内容をX上で公表している。「2. ワクチンなど医療分野について 『副反応への懸念』を発信していましたが、ワクチンの重症化予防効果等を含めて科学的根拠を否定する立場ではありません。党の“科学的知見と透明性重視”の方針に従います。 その決意の証として、国民民主党から提示された確認書にサインして、党に提出しました。党として決定した事項に反する行動は取りません」コロナワクチンの反対姿勢はいずこへ須藤氏はこの件についてメディアからの直撃を受けたこともあったが、真正面からの回答は避けてきた。しかし、6月30日、都内での同党の街頭演説会終了後のぶら下がり会見と同日公開された同党衆院議員で救急医の福田 徹氏のYouTubeチャンネル「救急医政治家・福田とおるチャンネル」に動画「【国民民主党】須藤元気さんに科学の大切さを伝えました」で初めてワクチンについて釈明した。前者のぶら下がり会見について、ネット上で公開されていた動画では以下のようなやり取りが行われている。今、玉木代表におっしゃっていただいたように私自身のコロナ禍におけるワクチンについて(の発言は)科学的根拠に乏しいというご指摘を頂きました。その点については本当に深く反省しております。そして私の発信によりその当時本当に一生懸命働いてきた医療従事者の方々に心身ともに大きな負担をおかけしたことを、心からお詫び申し上げます。私自身、ちょっと経緯をお話ししますと、当時コロナ禍はまだよくわからない、いろいろなことがよくわからない状況下の中で、(ワクチンの?)リスクに対しては不安を持っていたのは確かです。その不安を持っている中、因果関係はわからないんですが、私自身の友人が接種後に職場で倒れて亡くなるという、残念でしたし、本当に悔しかったです。その不安がより強化され、その後ワクチン接種後の健康被害に遭われた方にお会いしたり、リスクに対して警鐘を鳴らす学者の方にお話を聞いたりして、私自身、その問題に対して一層深まった(?)のは事実であります。そうした中で国会議員として、やはり中立な立場でいなきゃいけない、何事もリスクとベネフィットがある中で、発信していかなければいけないというのは、自分なりには認識しつつ、ニュース記事の引用であったり、学者の方の言葉を引用して発信していたつもりですが、私自身の言葉足らずであったり、その中には事実と反するものがあるということは、改めて反省しております。国民民主党は、科学的根拠に基づいた実効性の高い感染症対策、公衆衛生政策というものを追求する党だと認識しております。私自身もその党の一員としてしっかりと国民の健康と命を守れるように、今後頑張っていきたいと思います。【記者】須藤さんは反ワク、反原発と言ったことは一度もないというふうにずっとおっしゃり続けていますが、そう捉えても仕方がないような発言が過去はありました。国民民主から出るにあたって、そして専門家の話を聞いた後で、その考えは完全に改まった、今はまったく違う考え方だとおっしゃっているんでしょうか。【須藤】そうですね。反ワクでも私はコロナ禍におけるワクチン以外のすべてのワクチンに対して反対だといったこと、自分は一度もありません。【記者】ワクチンに関しては、世の中にはまだ不安を抱く人、陰謀論とかいろんなものがあると思いますけど、今後再び国会議員という立場になった時には、そういう物の見方に対してはどのように対応していかれますか?【須藤】国民民主党の一員として科学的根拠に基づいた実効性のある感染症対策をやっていくべきだというのを認識しているので、党の仲間と共に発信していきたいと思います。【記者】須藤さんは過去にSNS上にコロナウイルスのワクチン接種で死者が急増したなどの書き込みがありましたが、そうした過去の発信については取り消されるということでよろしいでしょうか?【須藤】そうですね。ただ、決してなかったことにするということはするつもりはありません。もちろん説明責任が必要だと思いますので、ツイートに対しては今後どういうふうにしていくか検討していきたいと思います。【記者】須藤さんが発信したことによって何万リツイートもされているようなものもあるのですが、そういった情報発信をしたことに対しての責任についてはどのようにお考えですか?【須藤】事実に基づいていないものに関しては反省しています。二度とそういうことをしないように党の仲間と共に前に進んでいきたいと思います。この中で語られた友人の件については、一定程度理解はしようと思うのだが、ならばそれほど強い思いがあったのにここまで180度転換すると、個人的にはちょっと理解不能である。約8ヵ月前には、米国・保健福祉省長官にケネディ氏が就任したニュースを引用しながら、こんなつぶやきもXで披露している。「ケネディさんは長年、ワクチンの安全性に関する懸念を提起してきたので、(米国において)政策の見直しやワクチンに対する透明性と安全性が今まで以上に厳しく問われるはずです」立民の比例代表候補として6年前に当選してからこれまで彼が勉強していたことは、一夜にしてガラッと変わるほどのものだったのか?これは極めつきの私見なのだが、須藤氏のSNS発信、とくに最近国民民主党入りしてからの選挙活動の手伝いの映像を見ていると思うことがある。彼自身は元々格闘家だっただけあって、その名の通り映像で見える活動は元気いっぱいでノリがいい。それゆえにワクチンに懐疑的なスタンスも、国民民主党入りとその後の“転向”もすべてノリで動いていないか? と思ってしまうのだ。さてこうした須藤氏をどう評価するかは有権者次第である。いずれにせよ2週間強で結果は判明する。

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第249回 医療事故調査制度10年 問われる「報告文化」と診療所の安全対策/厚労省

<先週の動き> 1.医療事故調査制度10年 問われる「報告文化」と診療所の安全対策/厚労省 2.百日咳が過去最多ペースで拡大、マクロライド耐性株による死亡例も/小児科学会 3.救急車の選定療養費、半年で徴収率4%も軽症搬送は1割減/茨城 4.高度がん医療機関の「集約化」へ、医師確保と症例偏在が課題に/厚労省 5.看護師養成数が減少、地域医療に深刻な影響、人材確保へ政策転換が急務/看護協会 6.美容医療バブルに陰り 利益率2.6%・淘汰の時代へ/東京商工リサーチ 1.医療事故調査制度10年 問われる「報告文化」と診療所の安全対策/厚労省医療事故調査制度の施行から10年を迎え、厚生労働省は6月27日、「医療事故調査制度等の医療安全に係る検討会」を設置し、初会合を開いた。制度は、患者の予期せぬ死亡事例の原因を調査・分析し、再発防止に資することを目的として2015年に開始され、これまでに3,338件の報告がなされている。会合では、横浜市立大学病院が取り組む重大事例への会議体での分析と改善策検討の事例が紹介され、座長には中央大学の山本 和彦教授が就任した。一方で、地域医療を担う診療所における医療安全体制の遅れも明らかとなっている。日本プライマリ・ケア連合学会の調査では、医療安全指針の策定は53%、インシデントレポート件数は年間10件未満が約65%と、体制未整備や過少報告の実態が浮かび上がった。教育機会や外部支援体制の不足、データ活用の課題も指摘されており、安全文化の定着には支援強化が不可欠とされる。検討会では、生成AIを活用した好事例の抽出や標準モデルの提示、医学生・研修医への安全教育の強化、遺族の声の反映などが論点として挙げられた。また、医療安全対策加算や地域連携加算の届出施設数は年々増加しているが、中でも事故リスクが高い集中治療室や内視鏡手術に対しては、届出要件の厳格化も進められている。国は今秋を目途に施策の方向性を取りまとめ、医療安全体制の標準化と格差是正、とくに診療所や中小病院の支援策に向けた制度的整備を進める構えだ。 参考 1) 第1回医療事故調査制度等の医療安全に係る検討会(厚労省) 2) 患者の予期せぬ死亡の原因探る 医療安全施策の課題解決へ 厚労省検討会が初会合(産経新聞) 3) 診療所にも義務付けられている医療安全確保のための指針、約5割が作成せず(日経メディカル) 2.百日咳が過去最多ペースで拡大、マクロライド耐性株による死亡例も/小児科学会百日咳の全国的な流行が深刻化している。国立健康危機管理研究機構(JIHS)によると、2025年第24週の報告患者数は2,970人で、過去最多の前週に次ぐ規模。累計では前年の約8倍に達し、東京都では第25週に278人が報告され、3週連続で過去最多を更新している。とくに10~19歳の患者が多く、乳幼児にも拡大している。日本小児科学会はワクチン未接種の生後2ヵ月未満児への感染防止を呼び掛け、感染症対策の徹底とマクロライド耐性菌(MRBP)を想定した治療体制の整備を求めている。また、MRBPによる重症例や死亡例も確認されており、医療機関にはST合剤使用などを含む柔軟な対応が求められている。百日咳は飛沫・接触感染を介し、咳が数ヵ月持続することもあり、新生児や乳児では重篤化しやすい。2023年以降は世界的にも流行が拡大しており、コロナ禍による集団免疫の低下や感染対策の緩和が要因とされる。また、妊婦へのワクチン接種も感染予防の有効策として注目されている。海外では成人用百日咳ワクチンの妊娠中接種による乳児重症化予防の効果が報告されており、わが国でも小児用3種混合ワクチンの使用で抗体移行が期待できる。産婦人科専門医らは、妊娠27~36週の接種を推奨しており、家族全体での予防接種の重要性が増している。百日咳の今後の動向には警戒が必要であり、医療従事者には迅速な診断、耐性菌への備え、ワクチン啓発の三本柱による対策が求められている。 参考 1) 生後2ヵ月未満の乳児における重症百日咳の発症に関する注意喚起と治療薬選択について(日本小児科学会) 2) 生後2ヵ月未満の百日咳、感染対策の徹底呼び掛け 全国的な流行拡大止まらず 日本小児科学会(CB news) 3) 百日咳の報告数、微減も過去2番目の2,970人-累計は昨年の約8倍 JIHS公表(同) 4) 都内の百日咳報告数、3週連続最多の278人 前週比2割増、累計もワーストに迫る(同) 3.救急車の選定療養費、半年で徴収率4%も軽症搬送は1割減/茨城茨城県が2023年12月から導入した、緊急性の低い救急搬送患者から「選定療養費」を徴収する制度について、導入半年の徴収率はわずか約4%に止まった。一方、県内の「軽症など」による救急搬送は前年同期比で1割以上減少し、県は制度に一定の効果があったと評価している。主な徴収対象は腰痛や風邪症状などで、県の救急電話相談利用も増加した。救急要請に慎重になる傾向もみられ、とくに学校現場では、保護者への負担や判断責任をめぐる混乱が生じている。水戸市やつくば市では、生徒の軽症搬送で選定療養費が徴収され、教職員の間で救急要請をためらう事態も発生している。これを受け県は「緊急性が疑われる場合はためらわず救急車を」と繰り返し呼びかけている。相談で搬送助言があれば徴収は原則免除されるが、制度周知は不十分との指摘もあり、県はホームページなどを通じて説明強化に乗り出した。議会や市民団体からは、教育現場を徴収対象から除外するよう求める意見書や陳情も出されているが、県は現時点で除外の考えはないとしている。今後、熱中症搬送の増加も想定される中、制度の適正運用と現場支援の両立が問われている。 参考 1) 選定療養費 徴収率4% 茨城県内開始半年 軽症等搬送1割減(茨城新聞) 2) 選定療養費 学校、救急要請で苦慮 茨城県「緊急時 迷わずに」(同) 3) 「選定療養費」茨城県 “救急電話相談で助言あれば徴収ない”(NHK) 4.高度がん医療機関の「集約化」へ、医師確保と症例偏在が課題に/厚労省厚生労働省は6月23日に「がん診療提供体制のあり方に関する検討会」を開き、2040年に向けたがん医療の需給推計と、均てん化・集約化の方針案を提示した。推計によれば、がん患者数は大都市部を中心に増加する一方、地方では減少が見込まれる。治療法別では、手術療法の需要は減少傾向にある一方で、放射線療法や薬物療法は全国的に増加が予測される。とくに東京・沖縄・滋賀・神奈川では放射線療法の需要が30%以上増加する見込み。同時に、外科医の数は横ばいで、消化器外科医は減少傾向にあり、放射線科医も多数の施設に分散し、治療件数が少ない施設が目立つ。このような供給面の制約を踏まえ、厚労省は、医療技術の高度化や人材確保の観点からも集約化の必要性を強調した。希少がんや高度手術、粒子線治療などは都道府県単位での集約化、標準的な治療は医療圏単位での集約化の検討を求めている。今後は、各都道府県のがん診療連携協議会において、診療実績や患者数、医療従事者の配置状況などのデータをもとに、集約化・均てん化すべき医療の切り分けを進める。地域の実情や患者の医療アクセスに配慮しつつ、質の高い持続可能ながん医療提供体制の構築が求められる。 参考 1) 第18回がん診療提供体制のあり方に関する検討会[資料](厚労省) 2) がん放射線療法の需要、4都県で3割以上増 25-40年に 厚労省推計(CB news) 3) 多くの地域でがん患者が減少する点、手術患者は減少するが放射線・薬物療法患者は増加する点踏まえて集約化検討を-がん診療提供体制検討会(Gem Med) 4) 地域のがん診療実績踏まえ、患者アクセスにも配慮し、各都道府県で「がん医療の集約化」方針を協議せよ-がん診療提供体制検討会(同) 5.看護師養成数が減少、地域医療に深刻な影響、人材確保へ政策転換が急務/看護協会看護師養成の現場が、いま大きな転換点に立たされている。厚生労働省の報告によると、看護師学校養成所の卒業者数は2021年度をピークに減少に転じ、2024年度には大学卒業者も初めて減少した。看護系3年課程の定員充足率は9割を下回り、養成基盤そのものが揺らいでいる。背景には、少子化や大学進学志向の高まり、処遇改善の遅れがある。日本看護協会の調査では、看護師の平均基本給は12年間で約6,000円の増加に止まり、物価上昇に追いつかず、低賃金層では離職率が高い傾向が示された。17.5万円未満の初任給では離職率が16.9%と、27.5万円以上の倍に及ぶ。地方ではさらに深刻であり、釧路市医師会看護専門学校(北海道)や浜田准看護学校(島根県)など、入学者減少により複数の看護学校が閉校に追い込まれており、2028年度までに閉校予定の学校は全国で相次いでいる。これにより、医療過疎地域での看護職員供給に大きな穴が空く恐れがある。医師会立の看護学校でも定員割れが深刻化。群馬県では医師会立の准看護学校の6校中4校で存続が危ぶまれている。こうした中、ふるさと納税や自治体支援を活用した財源確保や、オンライン講義・地域密着型実習の導入など、各地で独自の取り組みも始まっている。また、看護学校内でのパワハラ問題も学生離れの一因とされている。教員の不適切な言動や旧来型の上下関係がハラスメントとして報じられ、若年層の看護職志望者にマイナスの影響を与えている。教育現場では、教員の意識改革と学生の主体性を育む学習スタイルへの転換が求められている。こうした危機を受け、福井県では定員充足率が90%未満の民間養成所への支援を盛り込んだ「看護師養成所学生確保重点支援事業」を新設し、運営費や広報支援を拡充するなどの対策が始まった。2025年には日本看護協会初の男性会長も就任し、「処遇改善を国に求め、地域で必要な看護師を確保したい」と意欲を示す。医療現場を支える看護職の安定確保は、医師の業務負担や診療機能の維持にも直結する喫緊の課題である。医師会や関係団体が連携し、看護教育・待遇改善への具体的支援と政策提言を強化する必要がある。 参考 1) 中央社会保険医療協議会 総会 医療提供体制等について(厚労省) 2) 看護師の新規養成数、ピークアウト 大卒が初の減少 厚労省調べ(CB news) 3) 看護師の基本給、12年でアップ約6千円のみ 低賃金だと離職率高く日看協調べ(同) 4) 看護師等養成所を取り巻く厳しい状況や新たな取り組みを報告(医師会) 5) 2024年度 「看護職員の賃金に関する実態調査」看護師のベースアップの低さが浮き彫りに(日看協) 6) 日本看護協会 初の男性会長が就任 “男性看護師 増加を期待”(NHK) 7) 釧路市医師会看護専門学校 入学者減り2030年度末に閉校へ(同) 8) 浜田准看護学校、2026年3月末で閉校へ(中国新聞) 6.美容医療バブルに陰り 利益率2.6%・淘汰の時代へ/東京商工リサーチ美容医療市場は拡大の一途をたどっている。東京商工リサーチによれば、全国248の美容クリニックの2024年の売上高は約3,137億円で、2022年比1.5倍に成長。SNSや自己投資志向を背景に需要が高まり、性別・年齢を問わず受診が一般化している。その一方で、利益率は2.6%と低く、倒産や休廃業が2024年には計7件と過去最多になった。単一施術型や広告依存型の経営はリスクが高く、差別化と持続的経営力が問われている。市場の急成長と裏腹に、美容医療による健康被害の報告も急増している。厚生労働省の分析では、施術件数は2019年の約123万件から2022年には約373万件に急増。2024年度には国民生活センターなどへの相談が1万700件あり、そのうち健康被害の訴えは898件に上った。施術結果への不満、合併症や後遺症も多く、顔のやけどやしびれ、感染例も報告されている。トラブルの背景には、SNS経由で施術を知った若年層がリスクを十分に理解せず施術を受ける傾向や、研修経験の乏しい「直美(ちょくび)」医師の増加もある。カウンセラー主導で契約が進み、医師の診察やリスク説明が不十分なケースも目立つ。厚労省は美容クリニック勤務医の資格や安全管理状況の年次報告を義務付ける方針。美容医療は「施術力」と「経営力」に加え、安全性・倫理性が問われる時代に入った。医師にとっては、信頼される提供体制の再構築が急務となっている。 参考 1) 「美容医療」市場は3年間で1.5倍に拡大 “経営力”と“施術力”で差別化が鮮明に(東京商工リサーチ) 2) 美容医療市場の売上高、3年で1.5倍 利益率は2.6%にとどまる 東京商工リサーチ(CB news) 3) 美容医療のトラブルが急増 結果に不満、合併症や後遺症も(中日新聞)

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マウステーピングは睡眠の質を改善する?

 最近、ソーシャルメディアを席巻しているトレンドの一つであるマウステープの使用について、残念な研究結果が報告された。睡眠時にテープなどで口を閉じた状態にすること(マウステーピング)は、口呼吸を防いで鼻呼吸をサポートし、口腔内の乾燥を防ぎ、いびきや睡眠時の一時的な呼吸停止(睡眠時無呼吸)を防ぐことで睡眠の質を高めるとされている。しかし新たな研究で、マウステーピングが実際に睡眠の質の改善に有効であることを示すエビデンスは限定的であり、場合によっては窒息のリスクを高める可能性のあることが明らかにされた。ロンドン健康科学センター(カナダ)耳鼻咽喉科・頭頸部外科学分野のBrian Rotenberg氏らによるこの研究結果は、「PLOS One」に5月21日掲載された。 女優のグウィネス・パルトローはInstagramでマウステープについて、「これはおそらく最近見つけた中で最高の健康ツールだわ。一晩中、鼻呼吸をすると、体内がアルカリ性に傾き、質の高い睡眠を促すそうよ」と述べたことをUs Weeklyは伝えている。しかしRotenberg氏は、「ソーシャルメディアで大量に喧伝されているマウステーピングの効果はエビデンスに乏しく、重度の鼻詰まりの人には有害な影響さえもたらす可能性がある」と述べている。 この研究では、1999年2月から2024年2月の間に発表されたマウステーピングの効果に関する既存の研究から10件の研究を抽出し、そのレビューが行われた。これらの研究では、サージカルテープやマウスピースなどさまざまな器具を用いたマウステーピングが検討されており、対象者の総計は213人に上った。 その結果、マウステーピングが無呼吸低呼吸指数(AHI)や酸素飽和度低下など睡眠時無呼吸の指標に対して統計学的に有意な改善を示した研究は、10件中わずか2件にとどまることが明らかになった。それ以外の研究では、マウステーピングの効果は何も確認されず、それどころか、鼻づまりがある状態でマウステーピングを行うと窒息のリスクが生じる可能性のあることが示唆されていた。 研究グループは、「例えば、花粉症や風邪、鼻中隔湾曲、扁桃腺肥大などの症状がある人は、鼻から十分な酸素を取り込めないため口呼吸をしている可能性がある」と指摘している。また、マウステーピングにより口が閉じられていると、睡眠中に嘔吐した際に吐瀉物で窒息する危険性もあるとしている。 その上で研究グループは、「マウステーピングは、有名人が推奨することの多い現代的な習慣だが、その効果は必ずしも科学的に証明されたものではない。マウステーピングに適さない人も多く、場合によっては深刻な健康被害のリスクにつながる可能性がある」と警鐘を鳴らしている。 一方で研究グループは、「本研究で対象とした研究は一貫して高品質ではなかったため、さらなる調査が必要だ」とも述べている。

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第246回 医師への食事提供ルールが来春から厳格化、MRとの懇親が制限対象に/医薬品公取協

<先週の動き> 1.医師への食事提供ルールが来春から厳格化、MRとの懇親が制限対象に/医薬品公取協 2.医療費削減のため風邪薬・湿布が保険外に? 医師会は反発/政府 3.三党合意で11万床削減の波紋、病床再編と医療DXの両輪は進むか/政府 4.「医療費タダ乗り」批判に本腰、外国人の社会保障制度見直しへ/政府 5.iPhoneでマイナ保険証対応へ、医療機関も対応準備を/デジタル庁 6.特定健診実施率、過去最高も目標未達、背景に情報提供の不足も/厚労省 1.医師への食事提供ルールが来春から厳格化、MRとの懇親が制限対象に/医薬品公取協医療用医薬品製造販売業公正取引協議会(医薬品公取協)は5月30日、講演会や情報提供における飲食提供のルールを13年ぶりに見直し、明確な金額基準と提供形態の規定を導入する新運用基準を発表した。来春の2026年4月1日から実施。新基準では、医師への飲食提供の上限は「飲酒を伴う飲食」で2万円、「飲酒を伴わない食事」で3,000円に統一された。講演会の役割者や医療機関から委託された業務に伴う飲食は上限2万円まで許容されるが、施設外でのMR活動における飲食は廃止され、食事のみ・上限3,000円に厳格化された。これは「飲酒を伴う情報提供は適切でない」との判断による。また、社内研修会の講師への慰労飲食は“乱用の恐れが大きい”として禁止され、従来1万円以下で認められていた着席型の懇親会も認めない方針とした。懇親行事は原則として立食形式に限定される。この見直しは、2012年の改定以降の社会変化-コロナ禍、情報提供のデジタル化、働き方改革など-を反映したもの。従来、飲食に関する基準は不明瞭で違反リスクも高かったことから、公務員倫理規程を参考に「国民・患者からの理解」重視で簡素化と整合性を図った。あわせて2024年度には、病院長への10年以上にわたる社有車送迎による規約違反が「指導」対象となるなど、透明性向上と規律強化が求められている。医薬品公取協の新会長には安川 健司氏(アステラス製薬)が就任し、改定ルールの周知と規約遵守、業界全体の信頼向上に取り組む姿勢を表明した。 参考 1) 飲食提供ルールを改定へ-施設外での酒席認めず、医療用医薬品製造販売業公正取引協議会(薬事日報) 2) メーカー公取協 飲食や食事の提供に関する運用基準見直し 上限額明記 社内研修会の慰労会は許容せず(ミクスオンライン) 2.医療費削減のため風邪薬・湿布が保険外に? 医師会は反発/政府政府は2026年度から、医療費削減策として「OTC類似薬」の一部を医療保険の適用外とする方向を正式に打ち出した。風邪薬や湿布薬、胃薬など、効能が市販薬と類似する処方薬が対象で、維新の会の試算では最大3,500億円の医療費削減が見込まれる。これにより、現役世代の保険料軽減が期待される一方で、高齢者や慢性疾患患者への影響は避けられず、日本医師会は「健康被害のリスクがある」として強く反発している。このような制度改革と並行して、製薬業界でもOTC市場への展開が活発化している。2025年6月、エーザイは国内で初めてPPI(プロトンポンプ阻害薬)のOTC化を実現し、「パリエットS」を発売した。同剤は医療用と同量のラベプラゾールナトリウムを含み、要指導医薬品として薬剤師の対面販売が義務付けられている。今後はアリナミン製薬(タケプロンS)や佐藤製薬(オメプラールS)も参入予定であり、OTC胃薬市場に構造変化をもたらす可能性が高い。さらにED治療薬「タダラフィル」のスイッチOTC化も動き出した。エスエス製薬が申請を進めており、薬剤師による問診と適正使用指導、医療機関との連携体制を構築する方針だ。偽造薬の蔓延や未受診者の多さ(ED患者の88%が未治療)を背景に、正規ルートでの治療アクセス拡充が期待されている。こうした変化により、軽症疾患の自己管理が推奨される一方で、診断機会の喪失や副作用管理の困難性が課題となる。医師にとっては、患者のセルフメディケーションを前提にした服薬管理の支援や、重症化リスクの早期発見の啓発がより重要となる。 参考 1) OTC類似薬、保険除外へ 26年度から一部、骨太明記 政府、患者負担配慮(共同通信) 2) “OTC類似薬見直し”で風邪薬や湿布が保険適用外に? 膨張する医療費の削減目的が背景「健康被害広まる」と医師会は反発(FNNプライムオンライン) 3) 国内初、OTCのPPI「パリエットS」が発売(日経ドラッグインフォメーション) 4) 緊急避妊薬のOTC化「面前服用は必要」意見多数(同) 3.三党合意で11万床削減の波紋、病床再編と医療DXの両輪は進むか/政府政府が6月6日に公表した「経済財政運営と改革の基本方針2025(骨太の方針)」に加え、自民・公明両党と日本維新の会の三党合意により、医療業界にとって重大な政策転換が進もうとしている。今回の合意では、全国で約11万床の病床削減と、電子カルテ普及率100%に向けた医療DXの加速が明記され、医療提供体制と経営構造に抜本的な変革が迫られることになる。三党は人口減少によって将来的に不要とされる病床が11万床にのぼると推定し、2040年を見据えた新たな地域医療構想の開始時期である2027年度までに、調査を踏まえて削減を図る方針。維新の試算では、この病床削減により年間約1兆円の医療費抑制効果が見込まれるとされるが、自民党側はこの数字への責任を明言せず、合意文書では「一定の合理性のある試算」との曖昧な表現に止まっている。他方、「骨太方針2025」では医療・介護給付費の対GDP比の上昇に対して制度改革を進める方針が打ち出されており、医師の地域偏在是正、在宅医療体制の整備、ICT活用の推進が重点項目となっている。とくに地方では医療・介護の維持そのものが課題となっており、病床の削減は地域医療体制の崩壊リスクを伴う。電子カルテ普及率の5年以内の実質100%実現も明記され、医療DXが急速に進む見通しである。医療情報の共有による効率化が期待される一方で、初期投資やシステム整備の負担が中小病院や診療所に重くのしかかる可能性がある。これに加え、介護分野でも人材確保と処遇改善、公的制度の見直しがセットで進められる。このような一連の改革は、医療の質の担保と地域格差の是正を両立させる必要があり、数値目標ありきで進めれば、現場の疲弊や医療難民の増加を招く恐れもある。全国自治体病院協議会も声明で「数字ありきではなく、適正な病床再編を」と強調している。現場の声を踏まえつつ、持続可能な医療・介護体制をどう築くか。今回の合意は社会保障改革の一里塚であると同時に、医療現場への重大な問いかけでもある。 参考 1) 経済財政運営と改革の基本方針 2025原案(経済財政諮問会議) 2) 自公維 “病床削減などで国民負担軽減”社会保障改革 合意(NHK) 3) 人口減で全国11万床が不要に…自公と維新が病床削減で合意、医療法改正案の年内成立目指す(読売新聞) 4) 自公維・社会保険料の負担軽減協議 余剰病床の削減で合意 11万床で1兆円の医療費削減(FNNプライムオンライン) 4.「医療費タダ乗り」批判に本腰、外国人の社会保障制度見直しへ/政府政府は6月6日、「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2025」の原案において、「外国人との秩序ある共生社会の実現」を掲げ、外国人による医療費の「タダ乗り」対策を中心とする制度見直しを明記した。外国人による社会保障の不適正利用や滞納への懸念が高まる中、入国審査の厳格化、在留資格更新への制限、情報基盤整備など、多方面からの対策が進められる。厚生労働省の調査では、外国人世帯主の国民健康保険納付率は全国平均で63%に止まり、日本人世帯の93%と比べて大きな差がある。政府はこれを受け、医療費の未払い履歴を入国管理や在留資格の審査に反映させる仕組みを構築し、保険制度の適用範囲の見直しも検討する。また、医療費未払いを理由とした外国人観光客の再入国拒否や、社会保険料滞納者への在留資格更新の不許可も新たな対応策として盛り込まれた。制度の実効性を高めるため、内閣官房に新たな司令塔組織を設置し、「外国人材の受け入れ・共生に関する関係閣僚会議」を中心に、法令順守や情報の透明性向上に取り組む方針。さらに、2028年度導入を目指す電子渡航認証制度や入国・出国情報の一元管理により、出入国管理の強化も進める。急増する外国人観光客や就労者との共生を前提に、制度の整合性と持続性が問われる中、国民の不安を背景にしたこの一連の対策は、今後の外国人政策全体の方向性を左右する転機となる可能性がある。 参考 1) 経済財政運営と改革の基本方針 2025原案(経済財政諮問会議) 2) 外国人医療費「タダ乗り」対策強化 政府「骨太の方針」原案 外国人関連部分の全容判明(産経新聞) 3) 医療費未払い、入国審査を厳格化 外国人材受け入れで司令塔組織-政府(時事通信) 5.iPhoneでマイナ保険証対応へ、医療機関も対応準備を/デジタル庁デジタル庁は6月6日、2025年6月24日からiPhoneにマイナンバーカード機能を搭載可能とする方針を発表した。これにより、iPhoneユーザーは物理カードを持ち歩かなくても、マイナポータルへのログインや、住民票などの証明書の取得が可能となる。ウォレットアプリへの登録後、顔認証や指紋認証で本人確認を行い、各種行政手続きに対応できる。医療現場にとって注目すべきは、9月以降に「マイナ保険証」機能もiPhone上で利用可能になる点だ。現在はAndroid端末のみが先行対応していたが、今後はiPhoneでも対応となる予定で、保険証確認がスマートフォン1台で完結する時代が到来する。厚生労働省は7月から一部の医療機関で実証実験の開始を予定。従来のカードリーダーにスマホ読取用アタッチメントを追加する形で運用される見込みだ。セキュリティ対策として、AppleのFace IDやTouch IDで保護されており、医療情報や銀行口座情報はスマホに保存されない設計。万が一の紛失時も24時間体制のフリーダイヤルやAppleの「探す」アプリから即時利用停止が可能となる。iPhoneへの対応により、患者側の利便性が大幅に向上する一方で、医療機関としては新たな読み取り機器や受付対応の見直しが求められる可能性がある。今後の制度設計や導入指針に注目が集まる。 参考 1) 2025年6月24日から「iPhoneのマイナンバーカード」を開始予定です(デジタル庁) 2) iPhoneにマイナ機能搭載、24日から…カードが手元になくても行政手続き可能に(読売新聞) 3) 「iPhoneのマイナンバーカード」6月24日開始(Impress Watch) 4) iPhoneへのマイナンバーカード搭載は6月24日から-秋には保険証にも 運転免許証対応は?(CNET Japan) 6.特定健診実施率、過去最高も目標未達、背景に情報提供の不足も/厚労省厚生労働省が公表した2023年度の「特定健康診査・特定保健指導」の実施状況によると、特定健診の実施率は59.9%、保健指導の実施率は27.6%となり、いずれも制度開始(2008年度)以来で過去最高となった。ただし、国が掲げる2023年度の目標値(健診70%以上、保健指導45%以上)には届かず、2029年度までの達成が継続課題となっている。健診の実施率は、健康保険組合や共済組合が80%超と高い一方で、市町村国保は38.2%に止まり、保険者間の格差が大きい。年代別では40~60代前半で60%を超えたが、高齢層では実施率が低下傾向にある。一方、東京都が行った2024年度「都民の健康と医療に関する実態と意識」調査によれば、健康意識は高まっているものの、特定健診の受診率は66%とコロナ前の72.3%には戻っておらず、保健指導の未実施者も多い。指摘内容は、「脂質異常」「高血圧」「肥満」が中心で、保健指導を受けた人のうち約7割が「おおむね」または「一部」実行していると回答した。生活習慣の改善意欲を持つ人は9割近くに上ったが、特定保健指導を「案内されていない」とする人が約4割おり、対象者への確実な情報提供や参加促進策が課題とされる。今後は、対象者の掘り起こしや、働き盛り世代・高齢層への個別アプローチの強化、保険者間の格差是正が、生活習慣病予防と医療費抑制に向けた鍵となる。 参考 1) 2023年度 特定健康診査・特定保健指導の実施状況(厚労省) 2) 特定健診実施率は59.9% 23年度、保健指導は27.6%(MEDIFAX) 3) 特定健診実施率59.9%、23年度 過去最高も国の目標未達(CB news) 4) 「都民の健康と医療に関する実態と意識」の結果(東京都)

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薬機法改正で調剤業務の外部委託が実現へ【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第152回

2025年5月14日、医薬品医療機器等法の一部を改正する法律案(薬機法の改正案)が参議院本会議において与野党の賛成多数で可決し、成立しました。前回の薬機法の改正は2019年でした。薬機法は5年をめどに見直しを検討することが決められているため、2024年から本改正に向けた議論が進められており、2025年2月に法案が提出されてこのたび可決されました。改正は大きく4項目あり、後発品の安定供給を確保するための基金設置や、製薬企業の責任役員の変更命令、ドラッグラグ・ロス解消に向けて医薬品開発が早期に行われるための措置などの医薬品の開発や流通に関する内容もあります。変更された項目の中で、皆さんの実務に大きく関連する可能性のある薬局機能の強化について詳しく見ていきましょう。1.調剤業務の外部委託調剤業務の一部を、別の薬局に外部委託できるようになります。薬局業界の業務フローが大きく変わる可能性がありますね。ただし、委託できるのは同じ都道府県内にある薬局です。対象となる業務は医薬品のピッキング・包装、事務作業で、患者対応や服薬指導は委託対象になりません。施行は2年以内とされています。2.若年者への購入制限ここ数年、中高生などの若年者が市販薬を乱用し、事件に発展するなどさまざまな問題が生じています。その対策として、市販薬の若年者への購入制限が設けられます。具体的には、咳止めや風邪薬など乱用の恐れのある医薬品の20歳未満への複数・大容量の販売が原則的に禁止されます。また、販売時は購入者の状況確認・情報提供を義務とします。万引きを防止するための顧客の手の届かない場所への商品陳列に関しては義務化が見送られたようですが、販売・情報提供を行う場所に継続的に専門家を配置することを求めています。施行は1年以内とされています。3.市販薬の販売規制の緩和現在でも市販薬を販売しているコンビニはありますが、薬剤師や登録販売者がその店舗にいることを条件としています。業界団体によると、市販薬を扱うコンビニは約5万7,000店のうち0.7%(23年2月時点)にとどまっているそうです。今回の改正後の具体的な方法としては、オンラインでの情報提供などを利用して購入可能にする仕組みを想定しています。薬局の薬剤師などが、ICTを活用し販売店舗の市販薬を遠隔で管理し購入者へ受け渡します。なお当面は、有資格者が所属する店舗と販売店舗は同一都道府県内にあることが条件です。有資格者のいないコンビニエンスストアでの市販薬購入が可能になるなど、小売業に新たなビジネスチャンスが生まれ、市場に大きな変化をもたらすかもしれません。施行は2年以内とされています。今回の改正薬機法の施行期日については「公布後6月以内に政令で定める日」とありますが、項目によって、施行日が異なります。「若年者への購入制限」が1年以内、「調剤業務の外部委託」「市販薬の販売規制の緩和」は2年以内とされています。次回は現状の課題を解決するための改正前回の2019年薬機法改正では何が変更されたか覚えていますか? 薬局が調剤のみならずOTC医薬品を含むすべての医薬品を安定的に提供する施設であること、薬剤師が医薬品の適正使用に必要な情報提供と薬学的知見に基づく指導を行う場所であることが規定され、調剤時に限らず必要に応じて患者の薬剤の使用状況の把握や服薬指導を行わなければならないとする服薬フォローアップを義務付けたのが前回の改正でした。形式上は重要な改正であった一方、残念ながら薬局・医薬品販売業の業務を大きく変えるものにはなりませんでした。今回の改正は、現状の課題を解決するための改正とも言えます。すでに目の前に困っている人がいるという状況です。若年者の医薬品の乱用は減るのか、また市販薬はアクセスしやすくなる一方で安全性は確保されるのかといった難しい問題もあります。「コンビニで売るんだったら勝手にどうぞ」というスタンスではなく、どのように安全性を確保していくのか、薬の専門家である薬剤師の関与が必要なのは間違いありません。1.医薬品等の品質及び安全性の確保の強化【医薬品医療機器等法】(1)製造販売業者における医薬品品質保証責任者及び医薬品安全管理責任者の設置を法定化する。(2)指定する医薬品の製造販売業者に対して、副作用に係る情報収集等に関する計画の作成、実施を義務付ける。(3)法令違反等があった場合に、製造販売業者等の薬事に関する業務に責任を有する役員の変更命令を可能とする。2.医療用医薬品等の安定供給体制の強化等【医薬品医療機器等法、医薬基盤・健康・栄養研究所法、麻向法、医療法】(1)医療用医薬品の供給体制管理責任者の設置、出荷停止時の届出義務付け、供給不足時の増産等の必要な協力の要請等を法定化する。また、電子処方箋管理サービスのデータを活用し、需給状況のモニタリングを行う。(2)製造販売承認を一部変更する場合の手続について、変更が中程度である場合の類型等を設ける。(3)品質の確保された後発医薬品の安定供給の確保のための基金を設置する。3.より活発な創薬が行われる環境の整備【医薬品医療機器等法、医薬基盤・健康・栄養研究所法】(1)条件付き承認制度を見直し、臨床的有効性が合理的に予測可能である場合等の承認を可能とする。(2)医薬品の製造販売業者に対して、小児用医薬品開発の計画策定を努力義務化する。(3)革新的な新薬の実用化を支援するための基金を設置する。4.国民への医薬品の適正な提供のための薬局機能の強化等【医薬品医療機器等法、薬剤師法】(1)薬局の所在地の都道府県知事等の許可により、調剤業務の一部の外部委託を可能とする。(2)濫用のおそれのある医薬品の販売について、販売方法を見直し、若年者に対しては適正量に限って販売すること等を義務付ける。(3)薬剤師等による遠隔での管理の下で、薬剤師等が常駐しない店舗における一般用医薬品の販売を可能とする。

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第244回 外科医半減時代に備え、集約化とインセンティブで若手確保を/外保連

<先週の動き> 1.外科医半減時代に備え、集約化とインセンティブで若手確保を/外保連 2.リンゴ病が過去10年で最大の流行、妊婦への感染に最大限の警戒を/JHIS 3.医師の大学病院離れ深刻化 臨床と研究の両立支援に制度改革案/文科省 4.社会保障費改革、病床11万削減で自公維が大筋合意、骨太方針に明記へ 5.職員9%給与削減で合意、市立室蘭病院の苦渋の経営判断/北海道 6.禁煙外来の病院職員が敷地内で喫煙 赤十字病院が診療報酬を返還へ/岐阜県 1.外科医半減時代に備え、集約化とインセンティブで若手確保を/外保連外科医療の持続可能性が危機に瀕する中、日本消化器外科学会と日本心臓血管外科学会は、高難度症例の「地域拠点への集約化」と「経済的インセンティブの付与」をセットで推進する必要性を訴えた。外科系学会社会保険委員会連合(外保連)が5月19日に開催した記者懇談会で明らかにされた。消化器外科学会の試算によれば、同会員(65歳以下)は2023年の約1万6,000人から2043年には約8,000人にと半減すると予測される。背景には、キャリア形成の難しさ(専門医取得まで17~20年)や、救急・移植など多岐にわたる業務負担の重さ、そしてその努力に見合わない評価の低さがある。同学会の調査では、現役外科医の4割が「子に外科を勧めない」と回答しており、外科離れの深刻さがうかがえる。これに対し学会は、症例を拠点病院に集約することにより短期間で多くの経験が得られ、キャリア形成が加速する環境を整備すべきと提言。集約先病院には報酬上の評価を充実させ、医師のモチベーション維持と人材確保を図るべきとする。同様に、心臓血管外科学会も「症例数と成績の正の相関」に基づき、高難度手術の集約化を推進。「搬送時間が予後に影響を及ぼさない」というデータも示し、集約化による利点が搬送距離の不利を上回るとした。加えて、ICU体制強化やタスクシフト推進、報酬面での手厚い支援の必要性も訴えた。一方、救急・産科領域では「集約化一辺倒」の議論に警鐘が鳴らされた。医療アクセスの確保が不可欠であり、働き方改革と診療報酬の乖離が、地域医療の崩壊を招く危険があると警告。産科では正常分娩の保険適用による報酬低下が、医療提供体制に大きな打撃を与える懸念が指摘された。こうした各学会の提言の根拠となるのが、NCD(National Clinical Database)である。年間150万例以上の手術データを蓄積するこの巨大データベースは、症例の集約が望ましい術式や、施設ごとに必要な外科医数の可視化を可能にし、今後の医療提供体制の設計に極めて重要な役割を果たす。2026年度の診療報酬改定に向け、外保連はNCDに基づく科学的データを活用し、地域医療構想との整合を図った制度設計を強く求めている。 参考 1) 消化器外科医が20年間で半減、学会試算 キャリア形成見えにくく 「手術の集約を」(CB news) 2) NCDを活用することで、地域ごとに「どの外科領域のどの術式について、どの程度の集約化が必要か」などを明確化できる-外保連(Gem med) 2.伝染性紅斑(リンゴ病)が過去10年で最大の流行、妊婦への感染に最大限の警戒を/JHIS子供に多くみられるウイルス感染症の「伝染性紅斑(リンゴ病)」の感染が拡大しており、妊婦に対する注意喚起が強まっている。国立健康危機管理研究機構(JHIS)の発表によれば、2025年5月5~11日の1週間に全国約2,000の小児科定点医療機関から報告された患者数は、1施設当たり1.14人。これはこの時期としては過去10年で最多の水準であり、4月以降、1.0人超の高水準が継続している。都道府県別では、栃木県(4.19人)、宮城県・山形県(各3.23人)、北海道(2.87人)など、東北・北日本を中心に高い報告数が続く。専門家は、昨年秋の関東での流行から、地域と時期をずらしながら今年秋頃までの流行継続を予測している。伝染性紅斑は、パルボウイルスB19が原因で、飛沫感染や接触感染により伝播する。感染初期は風邪様症状を呈し、その後、頬部の紅斑が出現するのが特徴。小児や一般成人では自然軽快することが多いが、過去に感染歴のない妊婦が感染した場合、胎児水腫や流産・死産のリスクがあることが知られている。日本産婦人科感染症学会の山田 秀人氏は、「流行年には全国で100人以上の流産・死産が発生していると推定される」と警鐘を鳴らす。感染経路の特徴として、発疹出現の約1週間前が最も感染性が高く、無症候期に家庭内で感染が広がる点も問題視されている。治療法やワクチンは存在せず、予防策としては手洗い・マスクの着用、人混みの回避が推奨される。とくに妊婦や、妊婦と接する職業に従事する医療関係者、保育・教育従事者への注意喚起が重要である。厚生労働省も、家庭内感染防止の観点から、同居家族にも感染対策の徹底を求めている。 参考 1) リンゴ病の患者数 この時期としては過去10年で最多 感染対策を(NHK) 2) 「リンゴ病」感染拡大、流産の原因になることもあり注意呼びかけ(読売新聞) 3.医師の大学病院離れ深刻化 臨床と研究の両立支援に制度改革案/文科省文部科学省は5月21日に「今後の医学教育の在り方に関する検討会」を開き、大学病院の人材確保と魅力向上を目的とした中間骨子案を提示した。医学生の63.1%が大学病院以外への就職を希望し、その主因は給与や労働環境の良さであった。勤務希望理由として「地域医療への貢献」が最多(73.0%)だった一方で、「研究力向上」は34.4%に留まった。勤務医の離職傾向も顕著で、助教・医員の54.1%が大学病院以外での勤務を志望している。博士課程進学希望者は44.0%で、進学時期は専門研修後が主流となっている。これにより大学院進学率や学位取得率の低下が顕在化し、臨床と研究の両立困難さが浮き彫りとなっている。助教の64.9%は研究時間が週5時間以下とされ、研究力の国際的低下も深刻化している。対策として、専門研修と博士課程を両立可能な「臨床研究医コース」の推進、研究時間確保のためのバイアウト制度活用、研究費・環境整備の支援強化などが骨子案に盛り込まれた。また、特定機能病院の見直しにおいて、大学病院が地域医療構想に整合した「地域貢献機能」を担うことも明記された。今後の重点課題は、医師にとって大学病院勤務が魅力ある選択肢となるよう、制度・評価・財政面での総合的な支援体制の構築が喫緊の課題となる。 参考 1) 第14回 今後の医学教育の在り方に関する検討会(文科省) 2) 大学病院の人材確保で「臨床研究医の育成推進」 文科省検討会(MEDIFAX) 3) 医学部5・6年生の63%が大学病院での勤務希望せず 在職者も過半数で 文科省検討会(CB news) 4) 大学病院で働く医師の研究・教育時間が減少傾向、世界での研究力低下が課題に(日経メディカル) 4.社会保障費改革、病床11万削減で自公維が大筋合意、骨太方針に明記へ5月23日、自民党・公明党と日本維新の会は、国会内で開かれた社会保障改革に関する実務者協議で、全国の医療機関に存在する余剰病床をおよそ11万床削減する方針で大筋合意した。維新の主張を自公が一定程度受け入れる形で、政府が6月に取りまとめる「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」への明記を目指す。維新は、医療費の年間総額を最低4兆円削減し、現役世代1人当たりの社会保険料を年間6万円引き下げることを主張。11万床の病床削減によって、1兆円の医療費削減が可能との試算を示していた。今回の協議では、自公側もこの見解を共有したとされ、病床削減に向けた合意形成が進展した形。しかし、維新が併せて提案している、OTC(一般用医薬品)と同等の効能を持つ医薬品の保険給付除外については、自公との間で意見の隔たりが大きく、今国会での結論は困難との見通しが示された。今後も継続して協議が行われる予定。背景には、21日の党首討論で維新の前原 誠司共同代表が改革への進展が見られないことに対し「守らなければ内閣不信任に値する」と強く牽制したことがある。これを受け、石破 茂首相は翌日、自民党幹部に誠意ある対応を指示したとされ、今回の合意形成に一定の政治的圧力が影響したとの見方も出ている。自民党の田村 憲久元厚生労働相は「内容的にはほぼ同じ考えを共有できた」と発言。維新の岩谷 良平幹事長も「11万床の削減については相互理解に達した」と述べた。3党は今後、協議内容を文書化し、制度改革の具体的方針を固めていく。医療現場においては、病床削減が地域医療に及ぼす影響の精査と、代替的な医療提供体制の整備が急務となる。現場の声やデータを踏まえた、慎重な制度設計が求められる段階に入ったといえる。 参考 1) 自公維、余剰病床削減で大筋合意 「骨太方針」に明記の方向で調整(東京新聞) 2) 保険料負担軽減へ“11万床減で医療費1兆円削減”自公維が共有(NHK) 3) 余剰病床の削減で大筋合意、自公維の社会保障協議 骨太方針に明記へ(日経新聞) 5.職員9%給与削減で合意、市立室蘭病院の苦渋の経営判断/北海道北海道室蘭市の市立室蘭総合病院は、2025年度に約19.8億円の赤字、累積資金不足が37億円超に達する見込みであることを受け、正職員の基本給を9%削減することで労働組合と合意した。削減は2026年3月末までの限定措置で、医師と市からの人事交流職員を除外。会計年度任用職員は4%の削減とし、総額約5.85億円の人件費削減を見込む。当初、病院側は正職員11%、会計年度任用職員5%の削減を提案していたが、組合は「赤字は国の政策による構造的問題であり、職員に責任はない」と反発。一方で、公立病院として地域医療を守る責任や、市の財政健全化への影響を考慮し、約3ヵ月にわたる交渉の末に妥結した。市立病院は現在、経営が厳しい民間の「日鋼記念病院」との統合を目指しており、病院再編に向けた協議が進行中だが、統合後の病院機能や人員配置の見通しは不透明なままである。組合は「病院の将来像が見えないことが交渉長期化の要因」とし、地域医療の継続に対する懸念を表明している。室蘭市の病院事業会計は、一般会計から毎年約16億円の繰り入れを受けているが、補助金など外部財源への依存は困難な状況で、持続可能な病院運営が喫緊の課題となっている。地域の医療圏を支える中核病院として、感染症対応や災害時の医療提供といった機能維持が求められる中、今回の給与削減は苦渋の決断といえる。今後、医療提供体制の再構築と財政的持続可能性を両立させるには、国・自治体・医療機関の三者による支援体制の再検討と、地域医療ビジョンの明確化が急務とされている。 参考 1) 市立室蘭病院 正職員の基本給9%削減で労使合意 医療機能維持「苦渋の決断」 病院統合へ課題は山積(北海道新聞) 2) 厳しい経営続く市立室蘭総合病院 再来年まで職員給与9%削減(NHK) 3) 「地域医療守る」組合決断 市立室蘭、給与削減合意(室蘭民報) 6.禁煙外来の病院職員が敷地内で喫煙 赤十字病院が診療報酬を返還へ/岐阜県岐阜市の岐阜赤十字病院は、職員16人が長年にわたり敷地内で喫煙していた事実が発覚したことを受け、禁煙外来の診療報酬約450万円を患者や健康保険組合に返還する方針を明らかにした。同病院は2005年から敷地内を全面禁煙とし、2006年からは「敷地内禁煙」が禁煙外来における診療報酬の請求要件となっていた。病院によると、喫煙行為は少なくとも2006年6月~2023年12月まで継続的に行われていたとされ、看護師や元管理職を含む16人が病棟の陰などで喫煙していた。昨年12月、日赤岐阜県支部に寄せられた匿名の情報提供をきっかけに、今年1月から全職員約550人への聞き取り調査を実施し、事実が判明した。この問題により、「ニコチン依存症管理料」などの診療報酬請求の正当性が失われたと判断し、病院は2006年6月~2023年までの禁煙外来の受診者約750人と健康保険組合などに対し、報酬を返還する。返還対象者には5月下旬以降、順次連絡が行われる予定。同病院には、以前から投書箱などを通じ、職員の喫煙を指摘する声が寄せられていた。病院は厚生労働省東海北陸厚生局に報告し、5月23日にはホームページ上で事案を公表した。 担当者は「認識が甘く、申し訳ない」と謝罪し、今後は職員への禁煙教育の徹底や公益通報窓口の設置を含む再発防止策を講じるとしている。 参考 1) 禁煙外来あるのに…岐阜赤十字病院の職員16人、長年にわたり敷地内で喫煙 診療報酬返還へ(中日新聞) 2) 岐阜赤十字病院の職員が敷地内で喫煙 診療報酬を返還へ(NHK)

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治療法もワクチンもない伝染性紅斑

治療法もワクチンもない伝染性紅斑(リンゴ病)とは●原因と感染経路伝染性紅斑(リンゴ病)は、子供を中心に流行するヒトパルボウイルスB19を原因とする感染症で、患者の咳やくしゃみなどのしぶきに触れることで感染(飛沫・接触感染 )します。●主な症状約10日間の潜伏期間の後、両頬に紅い発疹が出現し(下図)、続いて体や手・足に網目状の発疹が出現、1週間程度で消失します。発疹が淡く、他疾患との区別が難しい場合もあります。多くの場合、両頬に発疹が出現する7~10日前に、微熱や風邪様の症状があることが多く、この時期が1番人に感染させやすくなります。発疹出現期には、感染力はほぼ消失します。●治療や予防法特別な治療方法はなく、対症療法が行われます。予防ワクチンもありません。このウイルスはアルコール消毒の効果が乏しいため、流水と石けんによる手洗いが大切です。また、感染拡大防止のために患者さんはマスクをしましょう 。●とくに注意が必要な人妊娠中あるいは妊娠の可能性がある女性は注意が必要です。胎児にも感染し、胎児水腫などの重篤な状態や、流産のリスクとなる可能性があります。周囲で患者発生がみられた場合 、感冒様症状の人や患者との接触をできる限り避けるよう注意をしてください。国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト 伝染性紅斑より引用(2025年5月14日閲覧)https://id-info.jihs.go.jp/diseases/ta/5th-disease/010/5th-disease.htmlCopyright © 2025 CareNet,Inc. All rights reserved.

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第262回 救急車利用で徴収されたケース、最も多い症状や年代は?

2024年2月、能登半島地震の関連取材で石川県小松市を訪れた時のことだ。小松駅のトイレに入ると妙な掲示が目についた。「救急車はタクシーではありません!」この後に以下のような記述が続いていた。「命にかかわる傷病者が救急車を待っています。このような症状での気軽な119番はお控えください。しゃっくりが止まらない歯が痛い蚊にさされた掲示の主は小松市消防本部である。この時は「そんなことで救急車を呼ぶ人がいるのか?」と驚き呆れたものだ。ここまでひどくはなくとも、従来から救急車による搬送事例に軽症者が多いことはよく知られている。総務省消防庁が先月発表した2024年度の「救急出動件数等(速報値)」1)によると、全国での救急車による救急出動件数は771万7,123件(対前年比1.0%増)、搬送された人の数は676万4,838人(同1.9%増)となり、いずれも1963年の集計開始以来、過去最高を記録した。これら搬送された人の受け入れ医療機関での傷病程度の判定結果では、軽症(外来診療)が316万7,205人で、搬送された人の約半数に当たる 46.8%を占めている。これらの人の多くは、救急車が出動する必要はなかったと言えるだろう。こうした必要性の低い救急搬送はリソースの無駄使いという問題とともに、医療機関の救急診療部門の疲弊によって救える命が救えなくなるという、より深刻な問題を引き起こす。こうした実情を受け、一部の自治体では緊急性が認められなかった救急搬送ケースで搬送された人から選定療養費を徴収するという動きも始まった。全国初のケースは三重県松坂市で、同市の地域医療支援病院である厚生連松阪中央総合病院、済生会松阪総合病院、松阪市民病院に救急搬送され、入院に至らなかった軽症例では7,700円の選定療養費を徴収する制度を2024年6月1日からスタートした。また、都道府県単位では、茨城県が初めて2024年12月2日から県内の22病院に搬送された人のうち、救急車要請時に緊急性が認められなかったと判断された場合には選定療養費を徴収する制度を始めた。徴収される選定療養費は病院ごとに1,100~1万3,200円まで幅があり、22病院中18病院が7,700円。なお、最低の1,100円は白十字総合病院(神栖市)のみ、最高額の1万3,200円は特定機能病院でもある筑波大学附属病院(つくば市)。両地域の制度とも該当者から一律徴収するのではなく、現場で医師の判断に基づき徴収の是非が決定される。こうした制度の導入時に最も懸念されるのが、救急車の呼び控えによる重症化だ。こうした懸念に加え、制度導入が実際の軽症者の救急車の出動要請の抑制につながるかも注目されるところ。この点について、松坂市、茨城県がともに検証調査結果を発表している2)。茨城県の1回目の検証調査結果は3月末に発表されたばかり。そこで今回、茨城県の検証結果を概観してみた。徴収されたケース、患者の症状や年齢、搬送時間は?茨城県は緊急性の判断目安を「搬送後の入院の有無や軽症かどうかではなく、救急車要請時の緊急性が認められないと判断された場合」と定義している。たとえば、熱中症、小児の熱性けいれん、てんかん発作などの症状は、病院到着時に改善し「軽症」と診断された場合でも、救急車を呼んだ時点での緊急性が認められるケースに該当し、徴収の対象とはならない。検証結果によると、制度導入から3ヵ月間(2024年12月〜2025年2月)に対象22病院が受け入れた救急搬送件数は2万2,362件。うち選定療養費が徴収されたのは全体の4.2%に当たる940件である。選定療養費が徴収された事例の主症状で最多は「風邪の症状」が8.8%(83件)、次いで「腹痛」が8.5%(80件)、「発熱」が7.2%(68件)、「打撲」が6.3%(59件)、「めまい・ふらつき」が5.6%(53件)など。検証期間中の1日(全時間帯)当たりの徴収件数は平日(月〜金)が9.6件、土日・祝日は12.3件で、休日に多い傾向が見られる。1時間刻みの時間帯別の徴収件数は平日が0.2~0.8件。最も多い0.8件は「22~23時」「0〜1時」の深夜帯。土日・祝日の場合は0.2~0.9件で、最多の0.9件は「15~16時」、これに次ぐ0.8件は「18~19時」、0.7件が「17~18時」「20~21時」「23~0時」で夕方から深夜にかけて多い傾向があった。年齢別の徴収率は、18歳未満が6.5%(徴収件数103件)、18歳以上65歳未満が6.6%(同408件)、65歳以上の高齢者が3.0%(同429件)。ちなみに18歳未満をより細分化すると、乳幼児(生後28日以上満7歳未満)が6.2%(同56件)、少年(満7歳以上満18歳未満)が7.0%(同47件)だった。このことから、若年層や中年層が比較的軽症で救急車の出動要請をしている実態が浮かび上がる。一方、検証期間中の茨城県全体での救急搬送件数は3万8,041件で、前年同期比で0.5%減少。選定療養費徴収の対象22病院のみの救急搬送件数は前述のように2万2,188件だが、こちらも前年同期比1.6%減となり、搬送全体に占める22病院への救急搬送の割合の58.3% も前年同期比0.7%減となった。他県の救急搬送の状況は?ちなみに参考として近隣の福島県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県の同時期の救急搬送件数を調査した結果では、対前年同期比で3.8〜8.6%増加していたという。また、検証期間中の県全体の救急搬送で「軽症等」*と判断されたものは1万6,162件で前年同期比9.2%減となった一方、「中等症以上」**は2万1,879件で前年同期比7.1%増。対象22病院での軽症等はこれら病院への救急搬送件数の38.7%に当たる8,577件で、この割合は前年同期比で5.3%も減少した。*総務省消防庁統計での「軽症(入院加療を必要とせず外来診療で対応可)」と「その他(医師の診断がないものなど)」の合計**「中等症(入院診療が必要なものの重症ではない)と「重症(3週間以上の入院加療が必要)」と「死亡」の合計結果を概観すると、茨城県の救急搬送での選定療養費制度導入は、救急搬送件数全体や軽症者の救急搬送件数の抑制に一定の効果があり、本当に緊急性の高いケースへの搬送集中が進んだ可能性が示唆される。運用は成功か、救急電話相談の導入も相まる茨城県の制度導入の効果は、今回の検証調査で明らかになった茨城県運営の救急電話相談(おとな:#7119、こども:#8000)の利用状況からもうかがえる。検証期間中の救急電話相談は3万8,493件あり、前年同期に比べ6.9%増。同時に応答率も前年同期の82.2%から92.1%にまで改善された。ちなみに応答率の改善について茨城県では今回の選定療養費徴収開始に合わせて回線数を増設した影響と分析している。前述の救急電話相談のうち救急車の要請を助言した割合は、おとな相談で前年同期の10.2%から16.4%に上昇した一方で、こども相談では4.9%から3.6%に微減。この実態は救急電話相談を経由して必要な場合のみ救急車を呼ぶ行動が定着しつつあると解釈できる。なお、選定療養費徴収制度の導入開始後1週間で、県民から「救急電話相談に電話したが繋がりづらい」という声が複数寄せられたことを受けて調査した結果、平日16時台の応答率が5割ほどに低下していたことが判明。茨城県は検証期間中の2024年12月12日から該当時間帯の回線数を従前の2回線から順次増設し、12月23日からは6回線に増設した。さらに時間帯別で土曜日の17時~24時台、平日の7時台~16時台に応答率が6割~7割ほどに低下したため、2025年1月14日からはこれら時間帯でも2回線を増設したという。茨城県保健医療部医療局医療政策課では、応答率は随時調査をしながら回線増設などの対応を現在も行っているとしている。そして最も懸念された救急車の呼び控えによる重症化ついては、県内の医療機関、消防本部などに該当事例があれば報告するように要請したものの、これまで報告はなかったという。また、制度開始後、県の医療政策課に寄せられた問い合わせ・意見は計91件。内訳は、「制度への質問」が最多の54件(59.3%)、「肯定的な意見」が7件(7.7%)、「否定的な意見」と「徴収に関する不満の申し立」が各6件(6.6%)、「その他(県への提案等)」が18件(19.8%)。徴収に対する不満の中には「救急電話相談から救急車を呼ぶよう助言されたが徴収された」という事例が報告されている。検証結果の報告書では、この件について「県が個別対応として、病院に事情を説明する対応を行った」と記述されていたが、同課に問い合わせたところ、この事例では患者が病院に救急電話相談で助言があった旨を伝えていなかったことが後に明らかとなり、病院が最終的に徴収した選定療養費の返金対応をしたという。今後、こうしたケースの対応について、同課では「救急電話相談で救急車要請があったことを最大限考慮して病院側が最終判断する」としている。概観すると、全体として制度自体は問題なく運用できていると映る。おそらく各自治体はこうした状況を横目で眺めていることだろう。個人的には今年度この動きが拡大していくか否か、また症例の蓄積により運用基準が今後変更されるかについて注目している。参考 1) 総務省:令和6年中の救急出動件数等(速報値) 2) 茨城県保健医療部:救急搬送における選定療養費の徴収に関する検証の結果について (2024年12月~2025年2月)

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バレニクリン、ニコチンベイピングの中止にも有効/JAMA

 中等度~重度のニコチンベイピング依存の青年において、遠隔からの簡易な行動カウンセリングにバレニクリン(α4β2ニコチン受容体部分作動薬)を併用すると、プラセボを併用した場合と比較してニコチンベイピングの中止が促進され、忍容性も良好であることが、米国・マサチューセッツ総合病院のA. Eden Evins氏らの検討で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2025年4月23日号に掲載された。3群を比較する米国の無作為化臨床試験 研究グループは、タバコを常用していない青年におけるニコチンベイピング中止に対するバレニクリンの有効性の評価を目的に、3群を比較する無作為化臨床試験を行った(米国国立衛生研究所[NIH]の助成を受けた)。2022年6月~2023年11月に米国の1州で参加者を登録し、2024年5月にデータ収集を終了した。 年齢16~25歳、過去90日間に週5日以上ニコチンベイピングをしており、次の月にベイピングの回数を減らすか中止を希望し、タバコを常用(週に5日以上)しておらず、ニコチン依存(10項目のE-cigarette Dependence Inventory[ECDI]スコアが4点以上)がみられる集団を対象とした。 被験者を、バレニクリン群(7日間で1mgの1日2回投与まで漸増し12週間投与+Zoomを介した週1回20分間の行動カウンセリング+テキストメッセージによりベイピング中止支援を行うThis is Quitting[TIQ]の紹介)、プラセボ群(プラセボ+行動カウンセリング+TIQの紹介)、強化通常ケア群(TIQの紹介のみ)に、1対1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、プラセボ群と比較したバレニクリン群の最後の4週間(9週目から12週目)における生化学的に検証した継続的なベイピング中止とした。プラセボ群と強化通常ケア群には差がない 261例(平均年齢21.4歳、女性53%)を登録し、バレニクリン群に88例、プラセボ群に87例、強化通常ケア群に86例を割り付けた。254例(97.3%)が24週間の試験を完了した。TIQへの登録の割合は、バレニクリン群が41%(36/88例)、プラセボ群が36%(31/87例)、強化通常ケア群が74%(64/86例)だった。 バレニクリン群とプラセボ群の比較では、9週目から12週目までの4週間における生化学的な継続的ベイピング中止の割合は、プラセボ群が14%であったのに対し、バレニクリン群は51%と有意に優れた(補正後オッズ比[aOR]:6.5[95%信頼区間[CI]:3.0~14.1]、p<0.001)。また、9週目から24週目までの16週間における継続的なベイピング中止の割合は、プラセボ群の7%に比べバレニクリン群は28%であり、有意に良好だった(6.0[2.1~16.9]、p<0.001)。 バレニクリン群と強化通常ケア群の比較では、生化学的な継続的ベイピング中止の割合は、9週目から12週目までの4週間(51%vs.6%、aOR:16.9[95%CI:6.2~46.3])および9週目から24週目までの16週間(28%vs.4%、11.0[3.1~38.2])のいずれにおいてもバレニクリン群で高かった。 プラセボ群と強化通常ケア群の比較では、4週間(プラセボ群14%vs.強化通常ケア群 6%、aOR:2.6[95%CI:0.9~7.9])および16週間(7%vs.4%、2.0[0.5~8.5])のいずれについても、継続的ベイピング中止の割合に有意な差を認めなかった。吐き気/嘔吐、風邪症状、鮮明な夢が高頻度に 全般に、試験薬の忍容性は良好であった。試験期間中の治療関連有害事象は、バレニクリン群で76例(86%)、プラセボ群で68例(79%)、強化通常ケア群で68例(79%)に発現した。バレニクリン群の有害事象発生率は先行研究と同程度であり、同群で頻度の高い有害事象として吐き気/嘔吐症状(バレニクリン群58%vs.プラセボ群27%)、風邪症状(47%vs.34%)、鮮明な夢(39%vs.16%)、不眠(31%vs.19%)が挙げられた。 有害事象による試験薬の投与中止はバレニクリン群で2例(2%)、プラセボ群で1例(1%)に、有害事象による減量はそれぞれ4例(5%)および1例(1%)にみられた。試験薬関連の重篤な有害事象は認めなかった。また、24週の時点でニコチンベイピングから離脱した参加者で、過去1ヵ月間に喫煙(タバコ)したと報告した者はいなかった。 著者は、「ニコチンベイピングに依存する青年の多くはタバコを常用したことがなく、ベイピングを止めたいと望んでいることから、今回のこの集団におけるベイピング中止に有効で、忍容性が高い薬物療法の知見は重要と考えられる」「精神神経系の有害事象である不安(バレニクリン群25%vs.プラセボ群33%)や気分障害(25%vs.31%)はプラセボ群で多く、おそらくニコチン離脱症状の一部であるこれらの症状をバレニクリンが軽減した可能性が示唆される」としている。

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第240回 百日咳感染者、過去最多を更新 10代と乳幼児中心に拡大/厚労省

<先週の動き> 1.百日咳感染者、過去最多を更新 10代と乳幼児中心に拡大/厚労省 2.2週間以上咳なら早期受診を、マンガ喫茶で結核集団感染の注意喚起/千葉県 3.肺がん検診指針19年ぶり改訂、重喫煙者には低線量CTを推奨/国立がん研究センター 4.無床診療所の高利益にメス、2026年度報酬改定に向けて提言/財政審 5.病床削減支援、民間優先へ方針転換 自治体病院は対象外に/厚労省 6.大学病院への財政支援強化へ、医師養成・研究支援策を整理/文科省 1.百日咳感染者、過去最多を更新 10代と乳幼児中心に拡大/厚労省百日咳の流行が全国で急拡大している。国立健康危機管理研究機構(JIHS)と厚生労働省によると、4月7~13日の1週間で全国の感染者数は1,222人に達し、現在の統計(2018年~)開始以降で最多を記録している。10代が694人、0~9歳が350人と、若年層中心に広がっている。今シーズンの累積患者数は7,084人となり、すでに昨年(4,054人)を大幅に上回った。百日咳は、激しいけいれん性の咳が特徴。とくに生後6ヵ月未満の乳児では無呼吸や肺炎、脳症を併発し、致死率は0.6%と高い。3月以降感染者数は急増し続け、全国で耐性菌(MRBP株)の報告も増加。中国、韓国などで流行中の株と類似しており、コロナ後の国際往来再開が一因とみられる。地域別では新潟県(99人)、東京都(89人)、兵庫県(86人)などで多発。新潟や大阪、福岡でも過去最多水準を更新している。新潟県ではすでに年間最多だった2019年(499人)を超え、今年550人を報告。大阪府では1週間で110人、福岡県でも102人と、感染拡大が止まらない。対策としては、生後2ヵ月からの定期ワクチン接種の徹底に加え、11~12歳での追加接種が推奨される。日本小児科学会は、乳児への感染を防ぐため、兄姉や家族、とくに妊婦のワクチン接種も勧めている。妊婦が接種すれば胎児に抗体が移行し、生後数ヵ月間は防御効果が期待できる。感染対策はワクチンに加え、手洗いやマスク着用、咳エチケットの徹底が基本となる。長引く咳症状があれば、早期受診を促し、適切な診断と対応が求められる。耐性株による感染拡大にも注意が必要であり、今後も動向を注視した上で地域の流行状況に応じた柔軟な対応が望まれる。 参考 1)百日せき 感染状況MAP(NHK) 2)百日せき患者数 4月13日までの1週間1,222人 3週連続で過去最多(同) 3)「百日ぜき」急増 乳児死亡例も 妊婦や家族はワクチン接種も選択肢(毎日新聞) 4)「百日せき」の感染者数、3週連続で過去最多 直近は1,222人 中国からの流入か(産経新聞) 2.2週間以上咳なら早期受診を、マンガ喫茶で結核集団感染の注意喚起/千葉県千葉県は4月25日、習志野保健所管内の漫画喫茶において、利用者と従業員計6人が結核に感染し、うち4人が発病した集団感染事例を確認、厚生労働省に報告した。発端は昨年7月、長期利用していた40代男性が肺結核と診断されたことに始まる。その後、接触者15人を対象に健康診断を実施したところ、今年1月以降に感染者5人、発病者3人が確認された。さらに調査を拡大し、新たに感染者1人、発病者1人がみつかり、合計6人の感染、4人の発病に至った。発病者のうち1人は救急搬送され、現在も入院中であるが、全員適切な治療を受け、快方に向かっている。結核は、同一感染源により2家族以上、または20人以上に感染が広がった場合、発病者1人を感染者6人分と換算して集団感染と認定される。今回の事例はこの基準に該当した。千葉県内では令和6年に493人が新規に結核登録されており、集団感染は昨年に続き2年連続となる。県では、結核の初期症状が風邪に似ているため、2週間以上咳が続く場合には速やかな医療機関受診を呼びかけている。 参考 1)漫画喫茶で結核の集団感染、長期利用の40代男性ら5人確認…千葉・習志野保健所管内(読売新聞) 2)千葉で結核集団感染 昨年に漫画喫茶で広がり6人感染 2週間以上続く咳は医療機関へ(産経新聞) 3)漫画喫茶で結核集団感染 習志野保健所管内、利用者と従業員の計6人(千葉日報) 3.肺がん検診指針19年ぶり改訂、重喫煙者には低線量CTを推奨/国立がん研究センター国立がん研究センターは2025年4月25日、19年ぶりに改訂した「有効性評価に基づく肺がん検診ガイドライン 2025年度版」を公表した。改訂では、喫煙指数600以上(1日平均喫煙本数×喫煙年数)の50~74歳の重喫煙者を対象に、年1回の低線量CT検査を推奨、従来の胸部X線検査と喀痰細胞診の併用は、任意型検診も含め非推奨とされた。改訂の背景には、欧米でのランダム化比較試験(RCT)やメタ解析により、低線量CT検査が肺がんによる死亡リスクを約16%低下させる効果が確認されたことがある。一方、被曝によるがんリスク増加は否定され、標準体型の被験者に対しては線量2.5mGy以下と定義された。胸部X線検査は引き続き、40~79歳の非喫煙者、および40~49歳・75~79歳の重喫煙者に推奨される。なお、喀痰細胞診については、標的である肺門部扁平上皮がんの罹患率が国内で低下していることや、死亡率減少への寄与が証明できなかったため、検診としての併用は推奨されない。ただし診療行為としての喀痰細胞診は否定されていない。加熱式たばこについても、カートリッジ1本を紙巻きたばこ1本と換算して喫煙指数に加算される。禁煙して15年以内の者も対象とする。なお、非重喫煙者に対する低線量CT検診は、死亡率低減効果が不明確なため対策型検診では推奨されず、個人の判断による任意型検診に委ねることとされた。国立がん研究センターは、今後、低線量CT検診の導入にはマニュアル整備、検診体制(読影医や機器確保)、過剰診断・過剰治療への対応策が必要と指摘している。厚生労働省はこのガイドラインを踏まえ、市町村が行う住民検診への反映を検討する予定。肺がんは国内で年間約12万人が診断され、約7万5千人が死亡しており、がんによる死因の中では最多。 参考 1)有効性評価に基づく肺がん検診ガイドライン(2025年度版)(国立がん研究センター) 2)「重喫煙者」は年1回低線量CT検査を…国立がん研究センター、肺がん検診の指針改訂(読売新聞) 3)喫煙者は低線量CT推奨 肺がん検診指針を改定 死亡率減、06年度版以来(共同通信) 4)国がん「肺がん検診ガイドライン 2025年度版」を公開、50~74歳の重喫煙者に低線量CT検査を推奨(日経メディカル) 4.無床診療所の高利益にメス、2026年度報酬改定に向けて提言/財政審財政制度等審議会は4月23日、2026年度の診療報酬改定に向けた議論を行い、医師の都市部集中を是正するための報酬体系見直しを提言した。診療所が過剰な地域では、診療報酬を減額する一方、医療機関が不足する地域では加算措置を講じる「メリハリある改定」を求めた。とくに、無床診療所の利益率が8.6%と高水準にある点を指摘し、病院との経営状況の違いを踏まえた適正化を強調した。また、慢性疾患患者を継続的に診療する「かかりつけ医」機能を持つ医療機関への報酬体系も見直し、より質の高い医療提供を評価する仕組みを構築するよう求めた。現在一律に算定できる機能強化加算についても、廃止を含めた見直しを検討すべきと提言している。さらに、外来診療医師が過剰な地域で新規開業を希望する医師に対し、都道府県が要件を課す仕組みの強化や、要請に従わない場合の診療報酬減額措置も視野に入れる。医薬分業についても、医療機関内で薬を受け取る方が薬局より高くなる現行制度の見直しや、薬剤師による減薬提案など対人業務の評価拡充を求めた。人材紹介会社については、医療機関が高額手数料を負担している実態に懸念を示し、紹介会社の選別・規制強化も提言。持続可能な社会保障制度構築のため、限られた財源下で医療・介護費用の効率化と適正化を強く求めた。 参考 1) 財政制度等審議会財政制度分科会(財務省) 2) 財政制度等審議会 来年度の診療報酬改定に向けて議論(NHK) 3) 医師偏在「診療報酬改定で対応を」 財制審、都市部は報酬減も(日経新聞) 4) 診療所に照準、財務省「無床の利益率8.6%」めりはりある診療報酬改定求める(CB news) 5) 不適正な人材紹介会社の「排除を徹底」財務省提言 同一建物減算の強化も(同) 5.病床削減支援、民間優先へ方針転換 自治体病院は対象外に/厚労省厚生労働省は、病床削減を行う医療機関に対する医療施設等経営強化緊急支援事業(病床数適正化支援事業)において、申請数が想定(約7,000床)の7.7倍に当たる5万4,000床に達したことを受け、支援対象の条件を急遽厳格化する内示を通知した。1床当たり410万4,000円が支給されるこの制度は、地域医療の効率化を目指して病床削減を促すもので、当初は広範な適用を予定していたが、財源不足を背景に民間医療機関を優先する方針に転換し、公立病院など一般会計から繰り入れを受ける医療機関は対象外とされた。厚労省は第1次内示として7,170床分(約294億円)の配分を決定。1医療機関当たり50床を上限とし、経常赤字が続く民間医療機関を支援対象とした。公立病院などの自治体病院は大半が対象外となり、北海道では143医療機関・4,862床の申請のうち、採択は352床に止まった。留萌市立病院や室蘭総合病院など、補助金を前提に病床削減を計画していた自治体病院では、財源確保に向けた再検討が迫られている。自治体側からは「はしごを外された」「地域医療軽視だ」との反発が相次ぎ、支援対象からの排除が地域医療体制に深刻な影響を及ぼす懸念が広がっている。厚労省は6月中旬を目処に第2次内示を予定しているが、補助対象の拡大は不透明な状況だ。医療経済に詳しい識者からは「制度設計の甘さ」と「自治体病院の補助金依存体質」の両方に問題があると指摘され、地域医療のあり方を再考する契機とするべきとの声も上がっている。 参考 1) 令和7年度医療施設等経営強化緊急支援事業(病床数適正化支援事業)の内示について(厚労省) 2) 5万床超の返上申請に対して病床削減の支援対象は7,170床(日経メディカル) 3) 病床削減の申請5.4万床、想定の7.7倍に 福岡厚生労働相(日経新聞) 4) 病床減への補助 支給条件を厳格化 全国から応募殺到で厚労省 自治体病院、実質対象外に(北海道新聞) 5) 「はしごを外された」 国の唐突な補助金方針転換 憤る北海道の自治体病院(同) 6.大学病院への財政支援強化へ、医師養成・研究支援策を整理/文科省文部科学省は、4月23日に「今後の医学教育の在り方に関する検討会」を開き、大学病院の位置付けを明確化し、財政的支援を検討する整理案を示した。物価高騰による経営悪化や建設費増大に対応するため、大学病院の診療・教育・研究機能の重要性を改めて位置付け、これに応じた財政措置を求めた。また、特定機能病院の承認要件見直しに関し、地域医療を支える医師の養成・派遣体制の整備が重要と提言した。さらに、総合的な診療能力を持つ医師養成を推進するため、モデル・コア・カリキュラムの改訂により「総合的に患者・生活者をみる姿勢」を新たに資質・能力項目に追加した。一方、日本医学会連合は、大学病院教員の研究時間減少に危機感を示し、研究支援制度の拡充を求める要望書を文科省に提出した。医師の働き方改革により診療や教育の負担が増え、研究時間がさらに削減されていると指摘。バイアウト制度活用による研究時間確保や、研究補助員の充実などの支援策強化を求めた。加えて、医学生や若手医師が研究に取り組みやすくするため、早期大学院進学促進と給与保障、海外留学制度の柔軟化・拡充も提案された。これらの議論を受け、文科省は、大学病院を中心とした医師養成・地域医療強化、医学研究基盤の再構築に向けた支援策の具体化を進める方針。持続可能な医療提供体制と国際競争力ある医学研究体制の構築が急務となっている。 参考 1)第13回 今後の医学教育の在り方に関する検討会 配布資料(文科省) 2)大学病院、「位置付け明確化し財政支援」文科省が整理案(MEDIFAX) 3)大学病院での研究時間大幅減少 支援制度の整備を要望「働き方改革で拍車」医学会連合が指摘(CB news) 4)わが国の医学研究力の向上へ向けての要望書(日本医学会連合)

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睡眠不足の看護師は感染症に罹患しやすい

 夜間勤務(以下、夜勤)の影響で睡眠不足を感じている看護師は、風邪やその他の感染症への罹患リスクの高いことが新たな研究で明らかになった。研究グループは、「シフト勤務が睡眠の質に与える影響が看護師の免疫系に打撃を与え、感染症にかかりやすくさせている可能性がある」と述べている。Haukeland大学病院(ノルウェー)睡眠障害コンピテンスセンターのSiri Waage氏らによるこの研究結果は、「Chronobiology International」に3月9日掲載された。 この研究は、ノルウェーの看護師1,335人(女性90.4%、平均年齢41.9歳)を対象に、睡眠時間、睡眠負債、およびシフト勤務の特徴と自己報告による感染症の罹患頻度との関連を検討したもの。これらの看護師は、過去3カ月間における睡眠時間、睡眠負債、シフト勤務、および感染症(風邪、肺炎/気管支炎、副鼻腔炎、消化器感染症、泌尿器感染症)の罹患頻度について報告していた。 その結果、睡眠負債(1〜120分、または2時間超)が多いほど感染症の罹患リスクは上昇することが明らかになった。睡眠負債がない人と比べた睡眠負債がある人での感染症罹患の調整オッズ比は、睡眠負債が1〜120分、2時間超の順に、風邪で1.33(95%信頼区間1.00〜1.78)と2.32(同1.30〜4.13)、肺炎/気管支炎で2.29(同1.07~4.90)と3.88(同1.44~10.47)、副鼻腔炎で2.08(同1.22~3.54)と2.58(同1.19~5.59)、消化器感染症で1.45(同1.00~2.11)と2.45(同1.39~4.31)であった。 また、夜勤の有無や頻度(0回の場合と比べて1〜20回の場合)は、風邪のリスク増加と関連していた。風邪の調整オッズ比は、夜勤がない場合と比べてある場合では1.28(95%信頼区間1.00〜1.64)、夜勤が0回の場合と比べて1〜20回の場合では1.49(同1.08〜2.06)であった。一方、睡眠時間やクイックリターン(休息間隔が11時間未満)と感染症罹患との間に関連は認められなかった。 Waage氏は、「睡眠負債や、夜勤を含む不規則なシフトパターンは、看護師の免疫力を弱めるだけでなく、質の高い患者ケアを提供する能力にも影響を及ぼす可能性がある」と「Chronobiology International」の発行元であるTaylor & Francis社のニュースリリースの中で指摘している。 研究グループは、病院や医療システムは看護師が十分な睡眠を取れるようにすることで、患者により良いケアを提供できる可能性があると述べている。論文の共著者であるHaukeland大学病院のStale Pallesen氏は、「夜勤の連続勤務を制限し、シフト間に十分な回復時間を確保するなど、シフトパターンを最適化することで、看護師は恩恵を受けることができる」とニュースリリースで話している。同氏はさらに、「免疫系が正常に機能するには睡眠が重要であることに対する医療従事者の認識を高めるとともに、定期的な健康診断とワクチン接種を奨励することも役立つ可能性がある」と付言している。

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最新の鼻アレルギー診療ガイドラインの読むべき点とは

 今春のスギ・ヒノキの花粉総飛散量は、2024年の春より増加した地域が多く、天候の乱高下により、飛散が長期に及んでいる。そのため、外来などで季節性アレルギー性鼻炎(花粉症)を診療する機会も多いと予想される。花粉症診療で指針となる『鼻アレルギー診療ガイドライン-通年性鼻炎と花粉症- 2024年 改訂第10版』(編集:日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会)が、昨年2024年3月に上梓され、現在診療で広く活用されている。 本稿では、本ガイドラインの作成委員長である大久保 公裕氏(日本医科大学耳鼻咽喉科学 教授)に改訂のポイントや今春の花粉症の終息の見通し、今秋以降の花粉飛散を前にできる対策などを聞いた。医療者は知っておきたいLAR血清IgE陰性アレルギー性鼻炎の概念 今回の改訂では、全体のエビデンスなどの更新とともに、皮膚テストや血清特異的IgE検査に反応しない「LAR(local allergic rhinitis)血清IgE陰性アレルギー性鼻炎」が加わった。また、図示では、アレルギー性鼻炎の発症機序、種々発売されている治療薬について、その作用機序が追加されている。そのほか、「口腔アレルギー症候群」の記載を詳記するなど内容の充実が図られている。それらの中でもとくに医療者に読んでもらいたい箇所として次の2点を大久保氏は挙げた。(1)LAR血清IgE陰性アレルギー性鼻炎の概念の導入: このLAR血清IgE陰性アレルギー性鼻炎は、皮膚反応や血清特異的IgE抗体が陰性であるにもかかわらず、鼻粘膜表層ではアレルギー反応が起こっている疾患であり、従来の検査や所見でみつからなくても、将来的にアレルギー性鼻炎や気管支喘息に進展する可能性が示唆される。患者さんが来院し、花粉症の症状を訴えているにもかかわらず、検査で抗体がなかったとしても、もう少し踏み込んで診療をする必要がある。もし不明な点があれば専門医へ紹介する、問い合わせるなどが必要。(2)治療法の選択の簡便化: さまざまな治療薬が登場しており、処方した治療薬がアレルギー反応のどの部分に作用しているのか、図表で示している。これは治療薬の作用機序の理解に役立つと期待している。また、治療で効果減弱の場合、薬量を追加するのか、薬剤を変更するのか検討する際の参考に読んでもらいたい。 実際、本ガイドラインが発刊され、医療者からは、「診断が簡単に理解でき、診療ができるようになった」「『LAR血清IgE陰性アレルギー性鼻炎』の所見をみたことがあり、今後は自信をもって診療できる」などの声があったという。今春の飛散終息は5月中~下旬頃の見通し 今春の花粉症の特徴と終息の見通しでは、「今年はスギ花粉の飛散が1月から確認され、例年より早かった一方で、寒い日が続いたため、飛散が後ろ倒しになっている。そのために温暖な日が続くとかなりの数の花粉が飛散することが予測され、症状がつらい患者さんも出てくる。また、今月からヒノキの花粉飛散も始まるので、ダブルパンチとなる可能性もある」と特徴を振り返った。そして、終息については、「例年通り、5月連休以降に東北以外のスギ花粉は収まると予測される。また、東北ではヒノキがないので、スギ花粉の飛散動向だけに注意を払ってもらいたい。5月中~下旬に飛散は終わると考えている」と見通しを語った。 今秋・来春(2026年)の花粉症への備えについては、「今後の見通しは夏の気温によって変わってくる。暑ければ、ブタクサなどの花粉は大量飛散する可能性がある。とくに今春の花粉症で治療薬の効果が弱かった人は、スギ花粉の舌下免疫療法を開始する、冬季に鼻の粘膜を痛めないためにも風邪に気を付けることなどが肝要。マスクをせずむやみに人混みに行くことなど避けることが大事」と指摘した。 最後に次回のガイドラインの課題や展望については、「改訂第11版では、方式としてMinds方式のCQを追加する準備を進める。内容については、花粉症があることで食物アレルギー、口腔アレルギー症候群(OAS)、花粉-食物アレルギー症候群(PFAS)など複雑に交錯する疾患があり、これが今問題となっているので医療者は知っておく必要がある。とくに複数のアレルゲンによる感作が進んでいる小児へのアプローチについて、エビデンスは少ないが記載を検討していきたい」と展望を語った。主な改訂点と目次〔改訂第10版の主な改訂点〕【第1章 定義・分類】・鼻炎を「感染性」「アレルギー性」「非アレルギー性」に分類・LAR血清IgE陰性アレルギー性鼻炎を追加【第2章 疫学】・スギ花粉症の有病率は38.8%・マスクが発症予防になる可能性の示唆【第3章 発症のメカニズム】・前段階として感作と鼻粘膜の過敏性亢進が重要・アレルギー鼻炎(AR)はタイプ2炎症【第4章 検査・診断法】・典型的な症状と鼻粘膜所見で臨床的にARと診断し早期治療開始・皮膚テストに際し各種薬剤の中止期間を提示【第5章 治療】・各治療薬の作用機序図、免疫療法の作用機序図、スギ舌下免疫療法(SLIT)の効果を追加〔改訂第10版の目次〕第1章 定義・分類第2章 疫学第3章 発症のメカニズム第4章 検査・診断第5章 治療・Clinical Question & Answer(1)重症季節性アレルギー性鼻炎の症状改善に抗IgE抗体製剤は有効か(2)アレルギー性鼻炎患者に点鼻用血管収縮薬は鼻噴霧用ステロイド薬と併用すると有効か(3)抗ヒスタミン薬はアレルギー性鼻炎のくしゃみ・鼻漏・鼻閉の症状に有効か(4)抗ロイコトリエン薬、抗プロスタグランジンD2(PGD2)・トロンボキサンA2(TXA2薬)はアレルギー性鼻炎の鼻閉に有効か(5)漢方薬はアレルギー性鼻炎に有効か(6)アレルギー性鼻炎に対する複数の治療薬の併用は有効か(7)スギ花粉症に対して花粉飛散前からの治療は有効か(8)アレルギー性鼻炎に対するアレルゲン免疫療法の効果は持続するか(9)小児アレルギー性鼻炎に対するSLITは有効か(10)妊婦におけるアレルゲン免疫療法は安全か(11)職業性アレルギー性鼻炎の診断に血清特異的IgE検査は有用か(12)アレルギー性鼻炎の症状改善にプロバイオティクスは有効か第6章 その他Web版エビデンス集ほかのご紹介

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第237回 百日咳が流行、全国で累計4,100人に、速やかにワクチン接種を/厚労省

<先週の動き> 1.百日咳が流行、全国で累計4,100人に、速やかにワクチン接種を/厚労省 2.救急受診の判断に生成AIの活用、一般人の利用には誤解リスクあり/救急医学会 3.マイナンバー利用率26%に停滞、マイナ保険証“スマホ対応”化へ/厚労省 4.「日本版CDC」始動、感染症対応の司令塔・JIHSが発足/政府 5.医療費約4,336億円を削減へ、第4期医療費適正化計画が始動/厚労省 6.検査ビジネスに警鐘、疾患リスク通知は医師のみ可/厚労省・経産省 1.百日咳が流行、全国で累計4,100人に、速やかにワクチン接種を/厚労省2025年に入り、百日咳の患者報告数が急増している。国立健康危機管理研究機構(旧・国立感染症研究所などが統合)によると、3月23日までの1週間で全国から458人の患者が報告され、今年の累計は4,100人に達した。これは前年(2024年)の年間累計4,054人をすでに上回っている。都道府県別では、大阪府336人、東京都299人、新潟県258人、沖縄県252人、兵庫県233人の順で多く、都市部および一部地域での患者増加が顕著である。百日咳は主に小児の間で感染が拡大し、生後6ヵ月未満の乳児では無呼吸発作、肺炎、脳症など重篤な合併症を引き起こす可能性が高い。背景には、新型コロナウイルス感染症流行下での感染対策により百日咳の発生が抑えられていたことで、集団免疫が低下した可能性が指摘されている。また、患者の増加に伴い、従来のマクロライド系抗菌薬に対する耐性菌の報告も複数の地域で確認されており、日本小児科学会は注意喚起を行っている。耐性菌感染例では、標準的な治療にもかかわらず感染拡大リスクが残るため、治療薬の選択については感染症に詳しい小児科医との連携が推奨される。現行の定期予防接種には百日咳成分を含む四種混合ワクチン(DPT-IPV)があり、生後2ヵ月から接種ができる。厚生労働省および専門家は、生後2ヵ月を迎えた段階での速やかな接種を呼びかけており、とくに乳児家庭では感染拡大防止の観点からも接種率の向上が重要とされている。 参考 1) 「百日ぜき」急増 今年すでに4,100人、去年の患者数上回る(毎日新聞 ) 2) 百日せき ことしの累計患者数が4,100人に 去年1年間を上回る(NHK) 3) 百日せき「耐性菌」各地で報告 “速やかにワクチン接種を”(同) 4) 百日咳患者数の増加およびマクロライド耐性株の分離頻度増加について (小児科学会) 2.救急受診の判断に生成AIの活用、一般人の利用には誤解リスクあり/救急医学会日本救急医学会は、対話型AI「ChatGPT」による救急受診のアドバイスについて、「一般利用者が正確に理解できない可能性がある」とする研究結果を公表した。研究では、総務省消防庁の救急受診ガイドを基に466の症例(うち314例は緊急度が高い)をAIに判断させ、その回答を救急専門医7人と一般人157人が評価した。専門医の評価では、AIの回答は重症例で97%、軽症例で89%の精度で適切な判断をしているとされた。しかし、一般人は、同じ回答をみても重症例で「救急受診が必要」と解釈できたのは43%、軽症例で「不要」と判断できたのは32%に止まった。これはAIの助言が正確であっても、専門用語の受け取り方や伝わり方にズレが生じている可能性が指摘されている。さらに、AIの助言に「信頼して従った」とする人は全体の約半数に止まり、逆に不安が増したと答えた人も約13%存在した。研究を主導した東京慈恵医科大学の田上 隆教授は「AIの判断精度は高いが、解釈の誤りによる危険があるため、過度な依存は避けるべき」と述べている。学会は、体調に不安がある場合はAIだけに頼らず、医療者に相談し、わかりやすく説明を受けることの重要性を強調している。また、AIが正しく使われるためには、表現の工夫や専門家のサポートが不可欠であり、とくに緊急時には人との連携が不可欠だとしている。 参考 1) 救急受診すべきか「チャットGPT」助言、利用者が解釈誤る恐れ…「過度な依存避けるべき」(読売新聞) 2) 生成AIによる救急外来受診の推奨に関する妥当性研究-生成AIの回答に対する専門家と非医療従事者の解釈の差が明らかに-(日本救急医学会) 3.マイナンバー利用率26%に停滞、マイナ保険証“スマホ対応”化へ/厚労省厚生労働省は4月3日に社会保障審議会の医療保険部会を開き、マイナ保険証のスマホ搭載のスケジュール案を示した。部会では、マイナンバーカードに保険証機能を搭載した「マイナ保険証」をスマートフォンで利用できるようにして、2025年9月頃から希望する医療機関から順次導入を開始する方針を示した。まず、同年6~7月に全国10ヵ所程度の医療機関や薬局で実証事業を実施し、スマホでの操作性や資格確認のエラーなどを検証。問題がなければ、9月から環境の整った医療機関で本格運用を始める。スマホ保険証により、患者はマイナンバーカードを持参しなくても診療を受けられるようになるが、導入は医療機関ごとの任意対応であり、全施設への義務付けは行われない。そのため、スマホ対応していない医療機関も存在し、初めて受診する際にはマイナ保険証や資格確認書の持参が推奨される。マイナ保険証の全国利用率は2025年2月時点で26.6%と依然として低迷しており、政府は利用促進策の一環として、医療機関の診察券とマイナンバーカードの一体化、外付けリーダー導入への補助、顔認証付きカードリーダーの改善などを進めている。救急現場での活用を目指す「マイナ救急」や訪問看護ステーションへのオンライン資格確認導入も併せて推進している。また、後期高齢者医療制度の対象者には、スマホ対応やマイナ保険証の有無にかかわらず、2026年7月まで有効な「資格確認書」を交付し、受診機会の確保を図る。現役世代を中心にスマホ対応の需要は高く、今後の普及とシステム整備に向けた国の支援と広報強化が求められている。 参考 1) マイナ保険証の利用促進等について(厚労省) 2) 「マイナ保険証」機能搭載のスマホでの受診 9月ごろから導入へ(NHK) 3) “スマホ保険証”9月ごろから順次運用開始へ マイナ保険証の利用底上げ策 厚労省(CB news) 4) マイナ保険証、利用率26%に(日経新聞) 5) スマートフォンへマイナ保険証機能を搭載、2025年夏頃から対応済医療機関で「スマホ保険証受診」可能に-社保審・医療保険部会(Gem Med) 4.「日本版CDC」始動、感染症対応の司令塔・JIHSが発足/政府2025年4月1日、感染症危機に備える新たな専門組織「国立健康危機管理研究機構」(JIHS:Japan Institute for Health Security)が発足した。国立感染症研究所(感染研)と国立国際医療研究センター(NCGM)の統合により設立され、感染症をはじめとする健康危機への科学的かつ実践的な対応を一元的に担う。米国のCDC(疾病対策センター)をモデルにした「日本版CDC」として、初動対応の迅速化、研究と臨床の連携強化、情報発信の向上を目指す。JIHSでは、新型コロナウイルス流行時の教訓を踏まえ、感染症の調査・分析、ワクチン・治療薬の開発、診療支援体制の構築を平時から推進。有事の際には、病原体の特徴や患者情報の早期把握、リスク評価を政府に助言する。また、災害派遣医療チーム(DMAT)の事務局も機構内に設置され、現場対応力の強化が図られる。初代理事長にはNCGM前理事長の國土 典宏氏、副理事長には感染研前所長の脇田 隆字氏が就任。厚生労働省や内閣感染症危機管理統括庁と連携し、政策決定に科学的知見を提供する。福岡 資麿厚生労働大臣は「感染症危機管理体制の強化を着実に進める」と述べている。政府はJIHSに対し、6年間の中期目標として「初動対応の迅速化」「研究開発の強化」「有事の臨床機能の整備」「人材育成と国際連携」の4項目を掲げ、国民への平時からの情報発信にも取り組み、次なるパンデミックに向けた備えを社会全体で推進していく方針。4日には東京都内で設立記念式典が開催され、政府関係者や医療機関が参加。國土理事長は「科学と実践を融合し、次の健康危機にも即応できる体制を構築する」と意気込みを語っている。 参考 1) 国立健康機器管理研究機構 2) 日本版CDCが1日発足 感染研と国際医療センターを統合(時事通信) 3) 健康危機に備え新機構発足 略称は「JIHS」 有事の対応能力強化(産経新聞) 4) 健康危機に備え新機構「JIHS」発足 有事対応強化(日経新聞) 5.医療費約4,336億円を削減へ、第4期医療費適正化計画が始動/厚労省厚生労働省は、4月3日に開かれた社会保障審議会の医療保険部会で、第3期全国医療費適正化計画(2018~2023年度)の実績を報告した。後発医薬品の数量シェアは全国平均81.2%と目標を達成した一方、特定健診・保健指導の実施率(58.1%・26.5%)およびメタボ該当者の削減率(16.1%)は未達となった。医療費は推計49.7兆円に対し、実績48.0兆円と1.7兆円削減されたが、新型コロナによる受診抑制の影響も含まれていた。新たに実施される第4期全国医療費適正化計画(2024~2029年度)では、医療費を全国で約4,336億円削減する方針であり、主な施策として、後発薬・バイオシミラー使用の促進(約2,186億円)、多剤・重複投薬の適正化(約976億円)、効果が乏しい医療(風邪や急性下痢への抗菌薬処方など)の見直し(約270億円)、白内障手術や化学療法の外来移行(約106億円)などが挙げられている。この他、特定健診・保健指導推進による効果は約120億円、生活習慣病重症化予防で約678億円を見込む。加えて、医薬品の使用標準化を進める「地域フォーミュラリ」の導入も検討されている。第4期ではコロナの影響が少ないため、施策の効果がより明確に評価される見込み。また、医療費上限を定める「高額療養費制度」の見直し議論は2025年秋に持ち越された。医療費増加に直面する中、制度の持続可能性と公平性の両立が課題となっている。 参考 1) 第3期医療費適正化計画の実績評価及び第4期全国医療費適正化計画について(厚労省) 2) 後発薬数量シェア81.2%、3期計画 目標達成 メタボ健診は未達(CB news) 3) 2024-29年度の第4期医療費適正化計画、全国で約4,336億円の医療費適正化効果を見込んでいる-社保審・医療保険部会(Gem Med) 6.検査ビジネスに警鐘、疾患リスク通知は医師のみ可/厚労省・経産省民間企業による唾液・尿などを用いた疾患リスク判定サービス(いわゆるDTC検査)の拡大を受け、厚生労働省と経済産業省は、「無資格者が個人に疾患の罹患可能性を通知することは医師法違反に当たる」との見解を、3月28日付の事務連絡として都道府県に通知した。DTC(Direct to Consumer)検査は、消費者と事業者が直接検体や検査結果をやりとりする仕組みで、近年は遺伝子解析を用いたものも多く、市場拡大が進んでいる。一方で、サービスの品質や信頼性には課題があり、医療行為との境界線が不明確との指摘もあった。今回の通知では、無資格の民間事業者は医学的判断を下すことができないため、検査後のサービスは一般的な測定結果や基準値、測定項目に関する一般的情報の提供に止めるべきとされている。疾患リスクや罹患可能性に関する通知は、医師法に抵触する恐れがあり、今後の規制強化も視野に入る。通知は、医療・介護分野と関連する「健康寿命延伸産業」の事業活動指針の改定に伴い出されたもので、DTC検査を提供する事業者への影響が注目される。 参考 1) 健康寿命延伸産業分野における新事業活動のガイドライン(厚労省・経産省) 2) 医師資格ない検査ビジネス、疾患リスク通知は「違法」 厚労省と経産省が事務連絡(産経新聞) 3) 疾患リスク通知は「違法」 検査ビジネスで事務連絡(東京新聞)

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第257回 乳腺外科医わいせつ裁判、無罪確定。改めて考える冤罪回避のために医師、医療機関が心掛けるべきこととは

東京高裁、差し戻し控訴審の判決で検察側の控訴を棄却、東京高検は上告断念こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末、関東は日曜だけは好天で、テレビで野球ばかり観ているのもなんなので、近所の公園に花見に出かけました。この連載もちょうど丸5年、今回から6年目に入ります。2020年4月1日掲載の、「第1回 医療関係者が医療関係者を『バイ菌』扱いしちゃダメだろ」では、コロナ禍真っ只中にもかかわらず、パンデミックを一瞬忘れたかのような東京・目黒川の花見客の浮かれ具合について、「1~2週間後、東京が危ないかも」と書いたものです。日曜のNHKニュースでは、その目黒川の花見の様子を報道していました。あれから5年、外国人の花見客だらけで大混雑の目黒川の様子を見て、5年の月日の長さと変化の大きさを実感した週末でした。さて今回は、本連載でも幾度か取り上げた、準強制わいせつ罪で逮捕・起訴され、一審無罪、二審有罪となった東京都足立区の医療法人財団健和会・柳原病院の医師・関根 進氏(49)に対する差し戻し控訴審について書いてみたいと思います。3月12日、東京高等裁判所(齊藤 啓昭裁判長)は差し戻し控訴審の判決で、一審の無罪判決について「事実の誤認は認められない」として、検察側の控訴を棄却しました。そして3月25日、東京高等検察庁は関根氏を無罪とした東京高裁判決に対し上告しないと発表しました。これによって、最高裁まで行ったこの事件において関根氏の無罪が確定しました。事件から実に9年、あまりにも長かった裁判がやっと終わりを迎えました。女性の術後せん妄の有無および程度、女性の体の付着物のDNA型の鑑定結果の信用性が争われるこの事件の経緯については、「第82回 わいせつ裁判で逆転有罪の医師、来年上告審弁論へ。性犯罪厳罰化の中、対応模索の医師・医療機関」、「第98回 まだまだ終わらない乳腺外科医わいせつ裁判、最高裁が高裁判決を破棄し差し戻し」でも詳しく書きましたが、改めておさらいしておきます。事件は2016年5月に起きました。乳腺外科が専門の関根氏は、働く柳原病院で、女性の右胸から乳腺腫瘍を摘出する手術を実施。術後に、病室で女性にわいせつな行為をしたとして起訴されました。関根氏は同年8月に逮捕、105日間勾留されました。起訴事実は、手術後で抗拒不能状態にあり、ベッドに横たわる女性患者に対して、診察の一環と誤信させ、着衣をめくり左乳房を露出させた上で、その左乳首を舐めるなどのわいせつ行為をした、というものです。公判では全身麻酔手術を終えた女性の被害証言の信用性、女性の術後せん妄の有無と程度、女性の体の付着物から被告のDNA型が検出されたとする鑑定結果の信用性が争われました。一審無罪、「術後せん妄」が主な争点となった二審は逆転有罪に2019年2月20日の一審・東京地裁判決は、被害を受けたと証言する女性が「(麻酔の影響で)性的幻想を体験していた可能性がある」と指摘。付着物の鑑定結果については「会話時の唾液の飛沫や触診で付着した可能性が排斥できない」として無罪(求刑懲役3年)と結論づけました。これに対し、2020年7月13日の二審・東京高裁判決は真逆の判決となりました。二審では「術後せん妄」が主な争点となり、弁護側、検察側双方が推薦する精神科医2人が証言。結果、高裁判決は女性の証言について、「具体的かつ詳細であり、特に、わいせつ被害を受けて不快感、屈辱感を感じる一方で、医師が患者に対してそのようなことをするはずがないとも思って、気持ちが揺れ動く様子を極めて生々しく述べている。上司に送ったLINEのメッセージの内容とも符合する。A(被害者)の証言は、本件犯行の直接証拠として強い証明力を有する」と判断。付着物を巡る一審の判断についても、手術室での位置関係などの実験結果などから不合理だったとして、一審判決を破棄し、「被害者の精神的、肉体的苦痛は大きい」として逆転有罪、関根氏に懲役2年を言い渡しました。日本医師会、日本医学会は「控訴審判決は学術的にも問題が多い」と強く非難この二審の逆転判決は、医療関係者に大きな衝撃を与え、日本医師会、日本医学会は「控訴審判決は学術的にも問題が多い」として関根氏を守る立場を鮮明に打ち出しました。日本医学会の門田 守人会長(当時)は、「行為に蓋然性がないこと」「せん妄の有無に関する科学的根拠」「検査結果の正確性」の3つの問題点を挙げ、とくに「せん妄」については、今回採用されたと思われる、せん妄状態に関する検察側の証人の意見に対し、その根拠が果たして科学的なものであるのかと指摘、「推測だとしたら許されるものではない」と強く批判しました。関根氏は上告、最高裁は2022年1月21日に上告審弁論を開き、2月18日、懲役2年を命じた二審・東京高裁判決を破棄し、同高裁に差し戻す判決を下しました。最高裁は、せん妄の可能性を否定する根拠とされた専門家の証言について「医学的に一般なものではない」と疑義を呈し、DNA定量検査の信頼性についても、証拠鑑定を行った科学捜査研究所がDNAの増幅曲線や検量図のデータを残していないこと、DNA抽出液を証拠鑑定後に破棄したことなどその手法に問題が多く、「信頼性に不明確な部分がある」と判断しました。それから約3年、東京高裁は3月12日の差し戻し控訴審の判決で、麻酔学や精神医学の知見を踏まえ、女性が麻酔から覚醒する際に術後せん妄に陥り幻覚を体験した可能性を排除できないとするとともに、DNA定量検査についても「結果自体が相当の変動幅を含む可能性を否定できない」と指摘、胸に多量の男性医師のDNAが付着していたとしてもわいせつ行為を証明するには不十分と結論付け、一審の無罪判決を支持、検察側の控訴を棄却しました。そして検察は上告を断念、無罪が確定したのです。「警察と検察は、片方の言い分を過剰に信じ、客観的な物の見方ができない、そして一度決めたら振り返りや修正することのない組織」3月12日付の日経メディカルなどの報道によれば、同日開かれた記者会見で関根氏は、「この裁判の結果については当然であり、何の疑いもないと考えています。警察と検察は、片方の言い分を過剰に信じ、客観的な物の見方ができない、そして一度決めたら振り返りや修正することのない組織だと思いました。まるで戦前の軍隊のようです。これらに私の生活や仕事そして家族を奪われたこと、警察と検察に対して強く憤りを感じます。警察による尾行・不法侵入によるゴミあさり、恫喝。長期間にわたる身柄拘束による日常からの断絶。こうした人権侵害について問題としない裁判所の態度も大きな問題だと感じます。マスコミに対しても疑問を感じます。逮捕後に警察署入り口で待ち構えていたテレビカメラ。中身をよく吟味せずに衝撃度の強い内容を、より視聴者受けするやり方で情報を垂れ流すやり方について、大きな問題であると考えます」と語ったとのことです。「『不当な有罪判決』や『遅すぎる無罪判決』が今後も形を変えて繰り返されることを強く危惧している」と弁護団一方、弁護団は、9年もの年月がかかった要因として、「最大の原因は二審。今日の判決は一審判決を全面的に是認したもの。差し戻し審での証言も多少は吟味されたが、基本的には2020年7月に言い渡すことができた判決だった」と指摘するとともに、「捜査機関は、せん妄の可能性を認識しながらも、再現性の乏しいDNA定量検査により、医師が患者の乳頭を『なめた』と強弁し続けた。DNA抽出液、定量データを破棄し、検査記録の原本まで書き換えた。捜査官は、証拠隠滅罪に問われることもなく、科捜研の閉ざされた検査室では今もあしき慣行が続いている。また、有罪を言い渡した高裁判事は、せん妄に関するでたらめな見解を正しいものとして採用した。DNA定量検査についても、科学の本質を理解せず、『えせ科学』を見分ける能力を欠いていた。差し戻し審も、弁護団の追加実験などの科学的証拠を多数却下し、改ざんされた検査記録の検証を拒んだ。裁判所は、虚心坦懐に真実と向き合う熱意や覚悟が欠けている。(中略)医師は職業上、人体との接触が避けられない。弁護団は、『不当な有罪判決』や『遅すぎる無罪判決』が今後も形を変えて繰り返されることを強く危惧している」と、捜査方法や裁判の問題点を強く批判しました。医師の診察には必ず医療職の同席者を、誤解を受けそうな診察に際しては説明を尽くし同意を取るでは、こうした冤罪の被害者とならないために、医師・医療機関側はどんな対策を取ればいいのでしょうか。そもそも性犯罪は、加害者と被害者の2人のときに起こることが多く、通常の事件と比べ目撃者や証拠が少ないと言われています。結果、裁判は加害者、被害者双方の証言や提出証拠に頼らざるを得ず、その信用性が争点となります。そんな中、近年、裁判所は被害を訴える側の証言を重く見る傾向が強くなっている、という声も聞きます。医師や医療機関は、あらぬ誤解を患者や家族などから受けないような対策を、今まで以上にしっかりと取る必要が出てきています。交通事故では、ドライブレコーダーの活用が一般的になってきましたが、診察室や病室に画像レコーダーを設置することはもちろんできません。ゆえに、現状では、医師の診察には必ず看護師など医療職を同席させる、わいせつ行為の誤解を受けそうな診察に際しては説明を尽くし同意を取る、といった対策がまず基本となるでしょう。医療機関は術中、術後だけでなく広く薬剤によるせん妄への対策をそしてこの事件で特に教訓として指摘されているのが、患者のせん妄対策です。この事件に関して、谷口医院院長の谷口 恭氏は毎日新聞の医療記事サイト、医療プレミアに3月24日「無罪判決まで8年半--「乳腺外科医冤罪事件」はなぜ生まれたか」と題する記事を寄稿、「女性が『ウソ』を言っているわけではないと私は考えています。では、なぜ女性はこのような証言をしたのでしょうか。それは、手術で使用された麻酔薬や鎮静剤のせいです。術後にはこれらが体内に残っているため、意識や記憶が曖昧になり、自分が言ったことや聞いたことを覚えていないことがよくあります。また、手術を受けていなくても、睡眠薬の服用だけで自身の行動や言動を覚えていないことは日常診療でもしばしば経験します」と書くとともに、「医師として私が言いたいことは、『術中や術後に使用される麻酔薬、鎮静剤、鎮痛剤のみならず、外来患者に処方される睡眠薬や抗不安薬、さらには薬局で簡単に買える風邪薬やせき止めでさえも、意識や記憶が曖昧になり、ときには錯乱が生じることもある』ということです」と、広く薬剤によるせん妄に対する注意喚起をしています。なお、3月12日付の日経メディカルなどの報道によれば、同日の記者会見で弁護団も「麻酔科や外科などにとって術後せん妄や覚醒時せん妄は珍しいことではない。しかし、今回のような症例は医師にとってのリスクでもあり、回避するための仕組みが十分だったとは言えない。本件の弁護側証人にも、医療の現場において術後せん妄などの存在を患者にきちんと説明すること、医療者側もリスクとして知っておき予防策を取ることが必要だと証言された先生が複数いた」と、患者がせん妄下における幻覚による被害の訴えをした場合の対策や予防策の必要性を訴えています。2020年度診療報酬改定では、「せん妄ハイリスク患者ケア加算(入院中1回、100点)」も新設されています。医療機関は、本事件のような冤罪を避けるためにも患者のせん妄対策に本腰を入れるべきだと言えるでしょう。

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第236回 はしか患者が全国で32人と急増、厚労省・外務省が注意喚起/厚労省

<先週の動き> 1.はしか患者が全国で32人と急増、厚労省・外務省が注意喚起/厚労省 2.大腸がん検診、精度管理と受診率向上が急務 /国がん 3.2025年度の専攻医は過去最多の9762人、外科医が増加/専門医機構 4.マイナ保険証トラブルが多発、9割の医療機関で発生 /保団連 5.医療費4兆円削減? 社会保障改革でOTC類似薬の保険適用除外を巡り3党協議へ 6.地域医療構想推進区域を全国決定 兵庫県の「東播磨」も指定/厚労省 1.はしか患者が全国で32人と急増、厚労省・外務省が注意喚起/厚労省日本国内で、はしか(麻しん)の患者報告が増加しており、注意が必要となっている。国立感染症研究所の調査によると、今年の患者数はすでに32人に達し、昨年の総患者数に迫る勢い。とくに、ベトナムへの渡航歴がある患者が多く報告されている。患者の年齢層は20~30代が中心で、全患者の7割近くを占めている。はしかは感染力が非常に強く、空気感染、飛沫感染、接触感染によって人から人へと伝播する。免疫のない人が感染すると、ほぼ100%発症すると言われており、発熱、咳、鼻水などの風邪のような症状や、発疹が現れる。重症化すると肺炎や中耳炎を合併し、脳炎を発症する場合もある。こうした状況を受け、厚生労働省と外務省は、国民に対し注意喚起を行っている。海外渡航を予定している人は、渡航先の流行状況を確認し、予防接種歴を確認することが推奨されている。予防接種を受けていない場合は、渡航前に接種を検討することが重要である。 参考 1) 麻しんについて(厚労省) 2) 海外における麻しん(はしか)に関する注意喚起(外務省) 3) 麻しん累積報告数の推移 2018年~2025年(第1~11週)(国立感染症研究所) 4) はしか患者報告相次ぐ 全国で32人 ベトナム渡航で感染か(毎日新聞) 2.大腸がん検診、精度管理と受診率向上が急務/国がん国立がん研究センターは、大腸がんの死亡率低減に向け、全国統一の検診プログラム導入を提言する「大腸がんファクトシート」を公開した。ファクトシートによると、わが国における75歳以上の大腸がん年齢調整死亡率は、諸外国と比較して高い水準にある。1992年から導入された便潜血検査による対策型検診は、死亡率の減少に一定の効果をみせたものの、その減少幅は他国に比べて緩やかである。この要因として、住民検診、職域検診、人間ドックなど、多岐にわたる検診が混在し、精度管理指標の評価が困難であることが指摘されている。結果として、検診の効果が十分に発揮されていない可能性がある。提言では、検診プログラムの全国統一化、または全数把握システムの構築を求め、データの一元管理による精度管理の向上、受診率・精密検査受診率の向上が重要であると強調している。現状では、大腸がん検診の受診率は低迷しており、2023年度の住民検診受診率はわずか6.8%に止まる。また、職域検診など、法的根拠のない検診も存在し、データが十分に公表されていない点も課題となっている。ファクトシートでは、大腸がんの病態、罹患・死亡の動向、リスク要因、検診、治療、今後の対策など、多岐にわたる情報が網羅されている。とくに、日本人のリスク要因として「喫煙、飲酒、肥満、高身長」が挙げられ、食生活や運動習慣の改善が重要であることが示された。また、便潜血検査の有効性が改めて示される一方で、大腸内視鏡検査については、現在進行中の大規模試験の結果を踏まえた慎重な検討が必要とされている。国がんは、今後の対策として、日本人に適した予防法の確立、全国統一プログラムによる検診の実施、受診勧奨の強化、精度管理の徹底などを提言している。とくに、大腸内視鏡検査については、有効性の検証とともに、対象者、処理能力、精度管理、安全性、検査歴などの課題解決に向けた検討を求めている。 参考 1) 大腸がんファクトシート(国立がん研究センターがん対策研究所) 2) 大腸がん検診、全国統一のプログラム実施を 諸外国より高い死亡率 国がんがファクトシート公開(CB news) 3) 大腸がんの罹患数・死亡数低下に向け、まず住民検診、職域検診、人間ドック等に分かれている「がん検診データ」を集約し実態把握をー国がん(Gem Med) 3.2025年度の専攻医は過去最多の9,762人、外科医が増加/専門医機構日本専門医機構は、2025年度の専攻医採用数は過去最多の9,762人となる見込みであることを明らかにした。医学部定員の増加を背景に、全体として採用数は増加傾向にある。とくに、医師不足が深刻な外科では、前年度比56人増の863人と増加が顕著であった。耳鼻咽喉科も72人増と大幅な伸びを示した。一方、精神科、産婦人科、放射線科などでは減少がみられた。地域別では、東京近郊で増加傾向にあるが、医師不足が深刻な東北地方での増加は限定的。この地域偏在の解消に向け、2026年度からは新たなシーリング制度が導入され、医師不足地域との連携を促進する仕組みとなる。専門研修と並行して研究を目指す「臨床研究医コース」は、25人と増加に転じた。機構は、2026年度に研究奨励賞を創設するなど、研究医育成への支援を強化する方針を示している。また、機構では、医師の地域・診療科偏在を解消しつつ、質の高い専門医育成を目指すため、今後も制度の改善に取り組むとしている。 参考 1) 2025年度専攻医採用数一覧(日本専門医機構) 2) 来年度の専攻医数、過去最多に(Medical Tribune) 3) 新専門医目指す「専攻医」の2025年度採用は9,762名、外科専攻医が増加、東北地方での専攻医増は限定的-日本専門医機構(Gem Med) 4.マイナ保険証トラブルが多発、9割の医療機関で発生/保団連マイナ保険証の利用を巡り、全国保険医団体連合会(保団連)が実施した調査で、医療機関の約9割で何らかのトラブルが発生していたことが明らかになった。トラブルの内容としては、氏名や住所の漢字が正確に表示されないケースが最も多く、次いでカードリーダーの接続不良や認証エラー、資格情報が無効となるケース、マイナ保険証の有効期限切れなどが報告されている。これらのトラブルにより、医療機関では窓口業務の負担が増加し、とくに高齢者を中心に、カードリーダーの使用が困難な患者や、使用方法を理解できない患者への対応に時間を要している。また、資格情報などの確認が取れるまで、患者に医療費を全額負担させるケースも発生している。保団連は、こうした状況を受け、トラブル時にバックアップとなる健康保険証の存続を訴えている。従来の保険証は、患者が医療機関を受診する際に資格を証明する重要な役割を果たしており、医療機関と患者の双方にとって有益であることが調査結果からも示唆されている。マイナ保険証の利用には、初診の患者の登録が簡単になる、資格情報の確認がオンラインで可能になるなどのメリットもある。しかし、トラブル発生時の対応に時間がかかることや、再診の患者が多い現状を考慮すると、マイナ保険証のメリットは限定的であるという指摘もある。さらに、マイナンバーカードのICチップに搭載されている電子証明書の有効期限は5年であり、2020年にマイナポイント事業でカードを作成した人の更新時期が迫っている。今後、電子証明書の失効によりマイナ保険証が利用できなくなる人が増加し、医療現場でのトラブルがさらに多発することが懸念されている。 参考 1) 保険証発行停止後の医療現場のマイナ保険証トラブルは? 8,000医療機関から回答(保団連) 2) マイナ保険証エラーで「いったん全額負担」1,720件 医療機関を全国調査したら「トラブルあった」9割(東京新聞) 3) マイナ保険証移行後にトラブル 9割の医療機関で 保団連の中間集計(CB news) 4) “マイナ保険証”使えず医療費「患者が全額負担」のケースも多数…保団連が現場トラブルの実態を報告(弁護士JP) 5.医療費4兆円削減? 社会保障改革でOTC類似薬の保険適用除外を巡り3党協議へ自民・公明・維新の3党は3月27日に、社会保障改革に関する協議体の2回目の会合を開き、OTC類似薬(市販薬と類似の医療用医薬品)の保険適用除外について、来週開催される次回の会合で議論することを決定した。維新の会の岩谷 良平幹事長は、会合後の記者会見で、主な議題は協議テーマの選定であり、1回目の会合に続きOTC類似薬の保険給付の見直しを提案したと説明。これに対し、自民・公明両党は改革案の提出を求め、岩谷幹事長は弊害や課題を整理し、協議を進める考えを示した。また、自民・公明両党は専門家を招いての議論を提案したが、維新の会は迅速な改革を主張し対立。結果として、次回の会合に専門家を招くことは見送られた。一方、日本医師会はOTC類似薬の健康保険からの適用除外に強く反対している。保険適用除外による患者の経済的負担増加や受診控えによる健康被害、薬の適正使用が困難になることを懸念している。とくに高齢者や基礎疾患を持つ患者への影響は大きく、医療費全体の増加も指摘した。ドラッグストア協会は、医療費抑制には理解を示しつつも、患者の負担増を懸念し、財源の活用方法を含めた議論を求めている。3党は今後、週1回のペースで協議を重ね、5月中旬までに一定の方向性をまとめる予定。しかし、専門家の参加や改革案の内容を巡り、早くも意見の隔たりが表面化しており、議論の行方は不透明である。 参考 1) 社保改革で実務者が初会合 自公維3党協議(日経新聞) 2) OTC類似薬の保険適用除外、3党で来週協議へ 専門家の出席巡り激しい応酬も 社会保障改革(CB news) 3) 社会保険料の削減を目的としたOTC類似薬の保険適用除外やOTC医薬品化に強い懸念を表明(日医ニュース) 4) ドラッグストア協会 OTC類似薬の保険適用除外論議にコメント(ドラビズオンライン) 6.地域医療構想推進区域を全国決定 兵庫県の「東播磨」も指定/厚労省厚生労働省は、地域医療構想の実現を加速化するため、各都道府県に「推進区域」を設定する取り組みを進めており、新たに兵庫県の「東播磨構想区域」を推進区域に追加した。これにより、全都道府県から計74ヵ所の推進区域が出そろった。高齢化の進展に伴い、2025年度には、人口の大きなボリュームゾーンを占める「いわゆる団塊の世代」がすべて75歳以上の後期高齢者となる。これに伴い、今後、急速に医療ニーズが増加・複雑化することが予想される。地域医療構想は、こうした医療ニーズの増加・複雑化に対応できるような効率的かつ質の高い医療提供体制を構築するために、各地域で進められている取り組みである。しかし、2025年度を目前に控えた現時点でも、地域医療構想の実現に向けた取り組みの進捗状況は地域によって大きなばらつきがある。具体的には、「病床の必要量と2025年の病床数見込みとの乖離があり、それに関する分析が進んでいない地域がある」「医療提供体制の課題解決に向けた工程表作成が進んでいない地域がある」といった状況となっている。さらに、すべての構想区域で、救急医療提供体制や医師確保など、医療提供体制に何らかの問題を抱えていることが判明している。そこで厚労省は、地域医療構想実現に向けた動きを加速化するため、2024年3月に、各都道府県におおむね1~2ヵ所ずつ「推進区域」を指定し、当該区域において「推進区域対応方針」を作成し、地域医療構想実現に向けた取り組みを加速化する方針を固めた。推進区域は、厚労省と都道府県とで調整し、データ特性だけでは説明できない病床数の差異や、再検証対象医療機関の対応状況、その他医療提供体制上の課題などを総合的に勘案して設定される。各都道府県は、2024年度中に、推進区域の地域医療構想調整会議で協議を行い、当該区域における将来のあるべき医療提供体制、医療提供体制上の課題、当該課題の解決に向けた方向性・具体的な取り組み内容を含む「区域対応方針」を策定し、それに基づく取り組みを推進することが求められる。また、推進区域のうち10~20ヵ所程度は「モデル推進区域」として指定され、厚労省による技術的・財政的支援が行われる。 参考 1) 地域医療構想における推進区域及びモデル推進区域の設定等について(厚労省) 2) 推進区域74ヵ所出そろう、兵庫の「東播磨」追加 25年の地域医療構想 モデル推進区域は16ヵ所(CB news) 3) 地域医療構想実現に向けた取り組みの加速化を目指す【推進区域】、兵庫県明石市、加古川市など含む「東播磨」区域を追加決定-厚労省(Gem Med)

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