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2種利尿薬、大規模試験で心血管転帰を直接比較/NEJM

 実臨床での一般的用量でサイアザイド系利尿薬のクロルタリドン(国内販売中止)とヒドロクロロチアジドを比較した大規模プラグマティック試験において、クロルタリドン投与を受けた患者はヒドロクロロチアジド投与を受けた患者と比べて、主要心血管アウトカムのイベントまたは非がん関連死の発生は低減しなかった。米国・ミネソタ大学のAreef Ishani氏らが、1万3,523例を対象に行った無作為化試験の結果を報告した。ガイドラインではクロルタリドンが1次治療の降圧薬として推奨されているが、実際の処方率はヒドロクロロチアジドが圧倒的に高い(米国メディケアの報告では150万例vs.1,150万例)。研究グループは、こうした乖離は、初期の試験ではクロルタリドンがヒドロクロロチアジドよりも優れることが示されていたが、最近の試験で、両者の効果は同程度であること、クロルタリドンの有害事象リスク増大との関連が示唆されたことと関係しているのではとして、リアルワールドにおける有効性の評価を行った。NEJM誌オンライン版2022年12月14日号掲載の報告。 非致死的心筋梗塞と非がん関連死の複合アウトカムの初回発生を比較 研究グループは、米国の退役軍人医療システムに加入する65歳以上で、ヒドロクロロチアジド(1日25mgまたは50mg)を服用する患者を無作為に2群に分け、一方にはヒドロクロロチアジドを継続投与、もう一方にはクロルタリドン(1日12.5mgまたは25mg)に処方変更し投与した。 主要アウトカムは、非致死的心血管イベント(非致死的心筋梗塞、脳卒中、心不全による入院、不安定狭心症による緊急冠動脈血行再建術)、および非がん関連死の複合アウトカムの初回発生とした。安全性(電解質異常、入院、急性腎障害など)についても評価した。低カリウム血症の発生がクロルタリドンで有意に高率 計1万3,523例が無作為化を受けた。被験者の平均年齢は72歳、男性97%、黒人15%、脳卒中または心筋梗塞既往10.8%、45%が地方在住だった。また、1万2,781例(94.5%)がベースラインで、ヒドロクロロチアジド25mg/日を服用していた。各群のベースラインの平均収縮期血圧値は、いずれも139mmHgだった。 追跡期間中央値2.4年で、主要アウトカムイベントの発生率はクロルタリドン群10.4%(702例)、ヒドロクロロチアジド群10.0%(675例)で、ほとんど違いはみられなかった(ハザード比[HR]:1.04、95%信頼区間[CI]:0.94~1.16、p=0.45)。主要アウトカムの個別イベントの発生率も、いずれも両群で差はなかった。 一方で、低カリウム血症の発生は、クロルタリドン群(6.0%)が、ヒドロクロロチアジド群(4.4%)よりも有意に高率だった(HR:1.38、95%CI:1.19~1.60、p<0.001)。

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SGLT2阻害薬は非糖尿病CKDにおいてもなぜ腎イベントを軽減するか?(解説:栗山哲氏)

本論文は何が新しいか SGLT2阻害薬に関するこれまでのシステマティックレビューやメタ解析は、2型糖尿病(diabetes mellitus:DM)患者を中心に検討されてきた。本論文では、非DM患者の登録割合が多い最近の大規模研究EMPA-KIDNEY、DELIVER、DAPA-CKD加えて、2022年9月の時点における13の大規模研究、総計9万409例(DM 7万4,804例[82.7%]、非DM 1万5,605例[17.3%]、平均eGFR:37~85mL/min/1.73m2)を解析した。本研究は、DMの有無によりSGLT2阻害薬の心・腎保護作用に差異があるか否かを膨大な症例数で解析した点が新しい。本論文の主要結果 腎アウトカムは、CKD進展(eGFR 50%以上の持続的低下、持続的なeGFR低値、末期腎不全)、急性腎障害(acute kidney injury:AKI)で評価、心血管リスクは心血管死または心不全による入院の複合項目で評価した。 結果は、SGLT2阻害薬は、CKD進展リスクを37%低下(相対リスク[RR]:0.63、95%信頼区間[CI]:0.58~0.69)。その低下の程度は、DM患者(RR:0.62)と非DM患者(RR:0.69)で同等。腎疾患別では、糖尿病性腎臓病(diabetic kidney disease:DKD)(RR:0.60、95%CI:0.53~0.69)と慢性腎炎(chronic glomerulonephritis:CGN)(RR:0.60、95%CI:0.46~0.78)でのリスク低下は40%だが、腎硬化症(nephrosclerosis:NS)のリスク低下は30%であった(RR:0.70、95%CI:0.50~1.00、群間のheterogeneity p=0.67)。また、AKIのリスクは23%低下(RR:0.77、95%CI:0.70~0.84)、心血管死または心不全による入院のリスクは23%低下(RR:0.77、95%CI:0.74~0.81)で、これらもDMの有無にかかわらず同等であった。さらに、SGLT2阻害薬は心血管死リスクも低下させたが(RR:0.86、95%CI:0.81~0.92)、非心血管死リスクは低下させなかった(RR:0.94、95%CI:0.88~1.02)。上記のリスク軽減にベースラインのeGFRは関連していなかった。糖尿病治療薬・SGLT2阻害薬はなぜ非DMでも効くのか? DAPA-CKDやEMPA-KIDNEYにおいてCKD患者では、2型DMの有無を問わず心・腎イベントを減少させることが示唆されていた。本研究ではSGLT2阻害薬の関連する13研究の多数の症例についてメタ解析を実施し、腎アウトカムはDMの有無にかかわらず同等であることを確認した。作用機序の面から考えると、SGLT2阻害薬はDM治療薬であることから、非DM性CGNでのリスク低下は糖代謝改善では説明がつかない。では、糖代謝とは独立したいかなる機序が想定されるのであろうか。 2型DMでは、近位尿細管のSGLT2発現が増加している。そのため、輸入細動脈が拡張し糸球体過剰ろ過がみられる。CGNやNSにおいても腎機能が中等度低下すると、輸出細動脈の収縮により過剰ろ過がみられる(注:NSは病態初期は糸球体虚血があり内圧は通常上昇していない)。SGLT2阻害薬は、近位尿細管でNa再吸収を抑制して遠位尿細管のmacula densa(MD:緻密斑)に流入するNaを増大させ、尿細管-緻密斑フィードバック(tubuloglomerular feedback:TGF-MD)を適正化し、糸球体内圧を低下させる。この糸球体内圧低下は、eGFRのinitial dip(初期に起こる10~20%の一過性の低下)として観察される。Initial dipはDM、非DMにかかわらず観察されることから、非DM性CKD患者においても腎保護作用の主要機序はTGF-MD機能改善による糸球体血行動態改善が考えられる(Kraus BJ, et al. Kidney Int. 2021;99:750-762.)。 一方、CKDの病態進展には、尿細管間質病変も重要である。この点、SGLT2阻害薬には、尿細管間質の線維化抑制や抗炎症効果が示唆されている(Nespoux J, et al. Curr Opin Nephrol Hypertens. 2020;29:190-198.)。臨床的にはエンパグリフロジンの尿中L-FABP(尿細管間質障害のマーカー)低下作用やエリスロポエチン増加に伴うHb値増加などを示唆する成績もある。SGLT2阻害薬には、上記以外にも、降圧効果、食塩感受性改善、インスリン感受性改善、尿酸値低下、交感神経機能改善、などあり、これらも重要な心・腎保護機序と考えられる。また、同剤は、近位尿細管に作用するユニークな利尿薬との仮説もある。SGLT2阻害による浸透圧利尿(グルコース尿・Na尿)は、利尿作用による水・Na負荷軽減のみならず腎うっ血を改善することで尿細管間質障害を改善させていると考えられる(Kuriyama S. Kidney Blood Press Res. 2019;44:449-456.)。本論文から何を学び、どう実地診療に生かす? SGLT2阻害薬は、単にDMのみならず動脈硬化性心血管病、心不全、CKDやDKD、NAFLDなどへ適応症が拡大していく可能性がある。最近、心不全治療ではファンタスティックフォー(fantastic four:ARNI、SGLT2阻害薬、β遮断薬、MRB)なる4剤の組み合わせがトレンドで脚光を浴びている。DKD治療においてもKDIGO 2022では4種類の腎保護薬(RAS阻害薬、SGLT2阻害薬、非ステロイド骨格MRB[フィネレノン]、GLP-1アナログ)が推奨されており(Kidney Disease: Improving Global Outcomes (KDIGO) Diabetes Work Group. Kidney Int. 2022;102:S1-S127.)、これに呼応し新たに腎臓病ファンタスティックフォー(the DKD fantastic four)なる治療戦略が提唱されつつある(Mima A. Adv Ther. 2022;39:3488-3500.)。また、本論文が掲載されたLancet誌上には、SGLT2阻害薬がCKD治療の早期からの「foundational drug:基礎薬」になり得るのではとのコメントもある(Mark PB, et al. Lancet. 2022;400:1745-1747.)。今後、DKDあるいは非DM性CKDに対しては、従来からのRAS抑制薬にSGLT2阻害薬の併用、さらに治療抵抗例にはMRBやGLP-1アナログを追加・併用する治療法が普及する可能性がある。 さて、本題の「SGLT2阻害薬は非糖尿病CKDにおいてもなぜ腎イベントを軽減するか?」の答えは、多因子にわたる複合的効果となろう。現在、本邦ではダパグリフロジンがCKDに適応症が取れている。腎臓病診療の現場では、ダパグリフロジンをDKD治療目的だけではなく、非DM性CGNの腎保護目的に対しても使われはじめている。例えばIgA腎炎に対する扁摘パルス療法は一定の寛解率は期待されるが、必ずしも腎予後が改善しない例もある。これらの患者のunmet needsに対してSGLT2阻害薬を含め腎臓病ファンタスティックフォーによる治療介入(とくに早期からが良い?)が新たな腎保護戦略として注目されている。

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治療抵抗性高血圧に対する二重エンドセリン受容体拮抗薬の効果(解説:石川讓治氏)

 治療抵抗性高血圧は、降圧利尿薬を含む3種類の降圧薬の服用によっても目標血圧レベル(本研究では収縮期血圧140mmHg未満)に達しない高血圧であると定義されている。基本的な2種類としてカルシウムチャネル阻害薬およびアンジオテンシン変換酵素阻害薬またはアンジオテンシンII受容体阻害薬といった血管拡張薬が選択されることが多く、この定義には、血管収縮と体液ナトリウム貯留といった2つの血圧上昇の機序に対して介入しても血圧コントロールが不十分であることが重要であることが含まれている。従来から、第4番目の降圧薬として、血管拡張と体液ナトリウム貯留の両方に作用する薬剤であるスピロノラクトンやミネラルコルチコイド受容体阻害薬が投与されることが多かったが、高齢者や腎機能障害のある患者では、高カリウム血症に注意する必要があった。 本研究においては、二重エンドセリン受容体拮抗薬であるaprocitentan 12.5mg、25mgとプラセボを治療抵抗性高血圧患者に投与して、診察室における収縮期血圧がaprocitentan 12.5mg投与群で15.3mmHg、aprocitentan 25mg投与群で15.2mmHg低下したことが報告された。本研究においてはプラセボ群においても11.5mmHgの収縮期血圧の低下が認められており、実際の投薬による収縮期血圧の降圧効果はそれぞれ3.8mmHgおよび3.7mmHgであったと推定されている。24時間自由行動下血圧における降圧効果も4.2mmHgと5.9mmHgであり、aprocitentanの治療抵抗性高血圧に対する有効性を示した報告であった。 治療抵抗性高血圧の研究において、研究者を悩ませるのが、プラセボ群においても血圧が大きく低下する(本研究では11.5mmHg)ことで、従来の研究においてはピルカウントや尿中の降圧薬血中濃度のモニタリングをしながら、服薬アドヒアランスを厳密に調整しないと統計学的な有意差がでないことがあった。本研究においてもaprocitentan内服による実質の収縮期血圧低下度(プラセボ群との差)はaprocitentan 12.5mg群で3.8mmHg、aprocitentan 25mg群で3.7mmHg程度でしかなかった。現在、わが国で使用されているエンドセリン受容体拮抗薬は、肺動脈性肺高血圧に対する適応ではあるが、非常に高価である。本態性高血圧に対するaprocitentan投与が実際にどの程度の価格になるのかは明らかではないが、わが国においては本態性高血圧の患者は4,300万人いるといわれており(日本高血圧治療ガイドライン2019)、約4mmHgのさらなる降圧のためにどの程度の医療資源や財源を投入すべきかといったことも今後の議論になると思われる。 有害事象として、浮腫や体液貯留がaprocitentan 12.5 mmHg群で約9%、25mg群で約18%も認められた。治療抵抗性高血圧の重要な要因である体液貯留が10%近くの患者に認められたことは注意が必要であると思われる。そのため、効果とリスクのバランスの評価が難しいと感じられた。治療抵抗性高血圧に対する4番目の降圧薬として、aprocitentanとミネラルコルチコイド受容体阻害薬のどちらを優先するのかといったことも今後の検討が必要になると思われた。

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baxdrostat、治療抵抗性高血圧で有望な降圧効果/NEJM

 治療抵抗性高血圧患者の治療において、選択的アルドステロン合成阻害薬baxdrostatは用量依存性に収縮期血圧の低下をもたらし、高用量では拡張期血圧に対する降圧効果の可能性もあることが、米国・CinCor PharmaのMason W. Freeman氏らが実施した「BrigHTN試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2022年11月7日号で報告された。適応的デザインのプラセボ対照用量設定第II相試験 BrigHTN試験は、適応的デザインを用いた二重盲検無作為化プラセボ対照用量設定第II相試験であり、2020年7月~2022年6月の期間に患者のスクリーニングが行われた(米国・CinCor Pharmaの助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、利尿薬を含む少なくとも3剤の降圧薬の安定用量での投与を受けており、座位平均血圧が130/80mmHg以上の患者であった。被験者は、3種の用量のbaxdrostat(0.5mg、1mg、2mg)またはプラセボを1日1回、12週間、経口投与する4つの群に無作為に割り付けられた。 主要エンドポイントは、プラセボ群と比較したbaxdrostat群の各用量における、収縮期血圧のベースラインから12週目までの変化量とされた。副作用プロファイルは許容範囲 275例(baxdrostat 0.5mg群69例、同1mg群70例、同2mg群67例、プラセボ群69例)が無作為化の対象となり、248例(90%)が12週の試験を完遂した。各群の平均年齢の幅は61.2~63.8歳、男性の割合の幅は52~61%だった。全例が利尿薬の投与を受けており、91~96%がACE阻害薬またはARB、64~70%がカルシウム拮抗薬の投与を受けていた。 本試験は、事前に規定された中間解析で、独立データ監視委員会により顕著な有効性の基準を満たしたと結論されたため、早期中止となった。 ベースラインから12週までの収縮期血圧の最小二乗平均(LSM)(±SE)変化量は、baxdrostat群では用量依存性に低下し、0.5mg群が-12.1±1.9mmHg、1mg群が-17.5±2.0mmHg、2mg群は-20.3±2.1mmHgであった。 プラセボ群(LSM変化量:-9.4mmHg)と比較して、baxdrostat 1mg群(群間差:-8.1mmHg、95%信頼区間[CI]:-13.5~-2.8、p=0.003)および同2mg群(-11.0mmHg、-16.4~-5.5、p<0.001)では、収縮期血圧における有意な降圧効果が認められた。 一方、baxdrostat 2mg群における拡張期血圧のLSM(±SE)変化量は-14.3±1.31mmHgであり、プラセボ群との差は-5.2mmHg(95%CI:-8.7~-1.6)であった。 試験期間中に死亡例はなかった。重篤な有害事象は10例で18件認められたが、担当医によってbaxdrostatやプラセボ関連と判定されたものはなかった。副腎皮質機能低下症もみられなかった。 また、baxdrostatでとくに注目すべき有害事象は8例で10件発現し、低血圧が1件、低ナトリウム血症が3件、高カリウム血症が6件であった。カリウム値が6.0mmol/L以上に上昇した患者のうち2例は、投与を中止し、その後再投与したところ、このような上昇は発現しなかった。 著者は、「本試験により、アルドステロンは高血圧における治療抵抗性の原動力の1つであるとのエビデンスが加えられた」としている。

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ゾコーバ緊急承認を反映、コロナ薬物治療の考え方第15版/日本感染症学会

 日本感染症学会は11月22日、「COVID-19に対する薬物治療の考え方 第15版」を発刊した。今回のCOVID-19に対する薬物治療の考え方の改訂ではエンシトレルビル(商品名:ゾコーバ錠)の緊急承認を受け、薬物治療における注意点などが追加された。 日本感染症学会のCOVID-19に対する薬物治療の考え方におけるゾコーバ投与時の主な注意点は以下のとおり。・COVID-19の5つの症状(鼻水または鼻づまり、喉の痛み、咳の呼吸器症状、熱っぽさまたは発熱、倦怠感[疲労感])への効果が検討された臨床試験における成績等を踏まえ、高熱・強い咳症状・強い咽頭痛などの臨床症状がある者に処方を検討する・重症化リスク因子のない軽症例では薬物治療は慎重に判断すべきということに留意して使用する・重症化リスク因子のある軽症例に対して、重症化抑制効果を裏付けるデータは得られていない・SARS-CoV-2による感染症の症状が発現してから遅くとも72時間以内に初回投与する・(相互作用の観点から)服用中のすべての薬剤を確認する(添付文書には併用できない薬剤として、降圧薬や脂質異常症治療薬、抗凝固薬など36種類の薬剤を記載)・妊婦又は妊娠する可能性のある女性には投与しない・注意を要する主な副作用は、HDL減少、TG増加、頭痛、下痢、悪心など このほか、抗ウイルス薬等の対象と開始のタイミングの項には、「重症化リスク因子のない軽症例の多くは自然に改善することを念頭に、対症療法で経過を見ることができることから、エンシトレルビル等、重症化リスク因子のない軽症~中等症の患者に投与可能な症状を軽減する効果のある抗ウイルス薬については、症状を考慮した上で投与を判断すべきである」と、COVID-19に対する薬物治療の考え方には記載されている。

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第136回 ゾコーバがついに緊急承認、本承認までに残された命題とは

こちらでも何度も取り上げていた塩野義製薬の新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)治療薬のエンシトレルビル(商品名:ゾコーバ)がついに11月22日、緊急承認された。今回審議が行われた第5回薬事分科会・第13回医薬品第二部会合同会議も公開で行われたが、緊急承認に対して否定的意見が多数派だった前回に比べれば、かなり大人しいものになった。今回の再審議に当たって新たに塩野義製薬から提出されたデータは同薬の第II/III相試験の第III相パートの速報値だが、その内容については過去の本連載で触れたので割愛したい。審議内で一つ明らかになったのは第III相パートの主要評価項目、有効性の検証対象の用量、有効性の主要な解析対象集団が試験中に変更されていたことだ。もともと、エンシトレルビルでの主要評価項目は新型コロナ関連12症状の改善だったが、前回の合同会議で示された第IIb相パートの結果やオミクロン株の特性に合わせて、最終的な主要評価項目はオミクロン株に特徴的な5症状に変更されたという。これについて医薬品医療機器総合機構(PMDA)側は、新型コロナは流行株の変化で患者の臨床像なども変化することから、主要評価項目の適切さを試験開始前に設定するのは相当の困難これら変更が試験の盲検キーオープン前だったとの見解で許容している。少なくとも第IIb相のサブ解析結果の教訓を生かした形だ。そして、今回の審議でまず“噛みついた”のは前回審議で参考人の利益相反(COI)状況などを激しく責め立てた山梨大学学長の島田 眞路氏だった(参考:第118回)。その要点は以下の2点だ。緊急承認の条件には「代替手段がない」とあるが、すでに経口薬は2種類ある日本人集団だけ(治験は日本、韓国、ベトナムで実施)での解析では症状改善までの期間短縮はわずか6時間程度でとても有効とは言い切れないこれに対して事務方からの回答は以下のようなものだ。国産で安定供給ができ、適応が重症化リスクを問わないので代替手段がないに該当する日本人部分集団で群間差が小さい傾向が認められたことについて、評価・考察を行うための情報には限りがあり、今後改めて評価する必要がある島田氏の日本人集団に関する指摘に関しては、そもそも臨床試験自体が3ヵ国全体の参加者で無作為化されていることを考えれば、日本人集団のみのサブ解析結果は参考値程度に過ぎず、申し訳ないが揚げ足取りの感は否めない。もっとも島田氏がこの事務局説明に対して「(重症化)リスクのない人に使えるから良いんじゃないかって、リスクのない人はちょっと風邪症状があるなら、風邪薬でも飲んどきゃ良いんですよ」と反論したことは大筋で間違いではない。ただし、過去の新型コロナ患者の中には、表向きは基礎疾患がないにもかかわらず死亡した例があることも考えると、さすがに私個人はここまでは断言しにくい。一方、参加した委員から比較的質問・指摘が集中したのがウイルス量低下の意義に関するものだ。議決権はない国立病院機構名古屋医療センターの横幕 能行氏は「(今回の資料では)感染あるいは発症から72時間以内に投与しないと、機序も含めた解釈ではウイルス活性を絶ち切る、もしくはそれに近い効果を得ることはできない。そして72時間以降の投与ではウイルス量の低下もしくは感染性の低下については基本的にはまったく効果がないと読める。感染伝播の阻止、早期の職場復帰などを考えると、ウイルス量もしくは感染性の低下に関する効果のこの点を十分に認識していただいた上で市中に出す必要があるかと思う」と指摘した。これに関して事務方からは「ウイルス量低下の部分は、確かに数値の低下が認められているものの、これがどの程度の臨床的意義を持つかについてはなかなか評価が難しい」というすっきりしない反応だった。現段階でのデータではPMDAも何とも言えないのも実情だろう。最終的には島田氏以外の賛成多数により緊急承認が認められたが、臨床現場での意義はやはり依然として微妙だ。過去にも繰り返し書いているが、エンシトレルビルは、ニルマトレルビル/リトナビル(商品名:パキロビッド)と同じCYP3A阻害作用を有する3CLプロテアーゼ阻害薬であるため、併用禁忌薬は36種類とかなり多い。中には降圧薬、高脂血症治療薬、抗凝固薬といった中高年に処方割合の多い薬剤も多く、この年齢層で投与対象は少ないとみられる。そもそもこの層はモルヌピラビルやニルマトレルビル/リトナビルとも競合するため、これまでの使用実績が多いこれら薬剤のほうが選択肢として優先されるはずだ。となると若年者だが、催奇形性の問題から妊孕性のある女性では使いにくいことはこれまでも繰り返し述べてきたとおりだ。今回の緊急承認を受けて日本感染症学会が公表した「COVID-19に対する薬物治療の考え方第 15版」では、妊孕性のある女性へのエンシトレルビルの投与に当たっては▽問診で直前の月経終了日以降に性交渉を行っていないことを確認する▽投与開始前に妊娠検査を行い、陰性であることを確認することが望ましい、と注意喚起がされている。しかし、現実の臨床現場でこれが可能だろうか? 女性医師が女性患者に尋ねる場合でも、かなり高いハードルと言える。となると、ごく一部の若年男性が対象となるが、これまで国も都道府県も重症化リスクのない若年者へはむしろ受診を控えるよう呼びかけている。もしこうした若年男性がエンシトレルビルの処方を受けたいあまり発熱外来に殺到するならば、感染拡大期には逆に医療逼迫を加速させてしまい本末転倒である。では前述のような見かけ上では重症化リスクがないにもかかわらず突然死亡に至ってしまうような危険性がある症例を選び出して処方できるかと言えば、そうした危険性のある症例自体が現時点ではまだ十分に医学的プロファイリングができていない。そもそも、エンシトレルビルの第III相パートの結果で明らかになったのはオミクロン株特有の臨床症状の改善であって、重症化予防は今のところ未知数だ。となると、後は重症化リスクのない軽症・中等症の中で臨床症状が重めな「軽症の中の重症」のようなやや頭の中がこんがらがりそうな症例を選ばなければならない。強いて言うならば、たとえば酸素飽和度の基準で軽症と中等症を行ったり来たりするような不安定な症例だろうか? ただ、今までもこうした症例で抗ウイルス薬なしで対処できた例も少なくないだろう。そして国の一括買い上げのため価格は不明だが、抗ウイルス薬が安価なはずはなく、多くの臨床医が投与基準でかなり悩むことになるだろう。ならば専門医ほどいっそ端から使わないという選択肢、非専門医は悩んだ末にかなり幅広く処方するという二極分化が起こりうる可能性もある。この薬がこうも悩ましい状況を生み出してしまうのは、前回の合同会議の審議でも話題の中心だった「臨床症状改善効果の微妙さ」という点にかなり起因する。今回の第III相パートの結果では、オミクロン株に特徴的な5症状総合での改善ではプラセボ対照でようやく有意差は認められたものの、有意水準をどうにかクリアしたレベル(p=0.04)だ。ちなみに、もともとの主要評価項目だった12症状総合では今回も有意差は認められなかった。さらに言うと、緊急承認後に塩野義製薬が開催した記者会見後のぶら下がり質疑の中で同社の執行役員・医薬開発本部長の上原 健城氏は、今回の試験では解熱鎮痛薬の服用は除外基準に入っておらず、第III相パートでは両群とも被験者の2~3割はエンシトレルビルと解熱鎮痛薬の併用だったことを明らかにしている。もちろんリアルワールドを考えれば、解熱鎮痛薬を服用していない患者のみを集めるのは難しいだろう。「(解熱鎮痛薬服用が症状判定の)ノイズになってしまってはいけないので、服用直後数時間はデータを取らないようにした」(上原氏)とのこと。ただし、解熱鎮痛薬の抗炎症効果を考えれば、今回の主要評価項目に含まれていたオミクロン株に特徴的な症状のうち、「喉の痛み」の改善などには影響を及ぼす可能性はある。そうなるとエンシトレルビルの「真水」の薬効は、ますます微妙だと言わざるを得ない。もちろん今回の第III相パートはそもそも9割以上の被験者がワクチン接種済みで、さらに2~3割が解熱鎮痛薬の服用があった中でも有意差を認めたのだから、それらがない前提ならばもっと効果を発揮できた可能性もあるのでは? という推定も成り立つが、そう事は簡単な話ではない。緊急承認という枠組みで今後の追加データ次第では1年後に本承認となるか否かという大きな命題が残っていることもあるが、「統計学的有意差を認めたから、少なくとも現時点での緊急承認はこれで一件落着」と素直には言い難いと私個人は思っている。

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治療抵抗性高血圧、二重エンドセリン受容体拮抗薬が有効/Lancet

 エンドセリン経路の遮断による降圧作用が示唆されているが、現時点では治療標的とはなっていない。オーストラリア・西オーストラリア大学のMarkus P. Schlaich氏らは「PRECISION試験」において、二重エンドセリン受容体拮抗薬aprocitentanは治療抵抗性高血圧患者で良好な忍容性を示し、4週の時点での収縮期血圧(SBP)がプラセボに比べ有意に低下し、その効果は40週目まで持続したと報告した。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2022年11月7日号に掲載された。3部構成の無作為化第III相試験 PRECISION試験は、欧州、北米、アジア、オーストラリアの22ヵ国193施設が参加した無作為化第III相試験であり、2018年6月~2022年4月の期間に参加者の登録が行われた(Idorsia PharmaceuticalsとJanssen Biotechの助成を受けた)。 対象は、利尿薬を含むクラスの異なる3種の降圧薬から成る標準化された基礎治療を受けたが、診察室での座位SBPが140mmHg以上の患者であった。 試験は連続する3部から成り、パート1は4週間の二重盲検無作為化プラセボ対照の期間で、患者は標準化基礎治療に加えaprocitentan 12.5mg、同25mg、プラセボの1日1回経口投与を受ける群に1対1対1の割合で無作為に割り付けられた。パート2は32週間の単盲検(患者)の期間で、すべての患者がaprocitentan 25mgの投与を受けた。パート3は12週間の二重盲検無作為化プラセボ対照の投与中止期で、再度無作為化が行われ、患者はaprocitentan 25mg群またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要エンドポイントは、パート1のベースラインから4週目までの診察室座位SBP、主な副次エンドポイントはパート3のベースライン(36週目)から4週目(40週目)までの診察室座位SBPの変化であった。そのほか副次エンドポイントには、24時間時間自由行動下SBPの変化などが含まれた。4週時の24時間自由行動下SBPも良好 730例が登録され、このうち704例(96%)がパート1を、703例のうち613例(87%)がパート2を、613例のうち577例(94%)がパート3を完遂した。730例のうちaprocitentan 12.5mg群が243例(平均年齢61.2歳、男性59%)、同25mg群が243例(61.7歳、60%)、プラセボ群は244例(62.2歳、59%)であった。 パート1の4週時におけるSBPの最小二乗平均(SE)変化は、aprocitentan 12.5mg群が-15.3(0.9)mmHg、同25mg群が-15.2(0.9)mmHg、プラセボ群は-11.5(0.9)mmHgであった。プラセボ群との差は、aprocitentan 12.5mg群が-3.8(1.3)mmHg(97.5%信頼区間[CI]:-6.8~-0.8、p=0.0042)、同25mg群は-3.7(1.3)mmHg(-6.7~-0.8、p=0.0046)と、いずれも有意に低下した。 パート1の4週時における、24時間自由行動下SBPのプラセボ群との差は、aprocitentan 12.5mg群が-4.2mmHg(95%CI:-6.2~-2.1)、同25mg群は-5.9mmHg(-7.9~-3.8)であった。 パート3の4週(40週)時におけるSBP(主な副次エンドポイント)は、aprocitentan 25mgに比べプラセボ群で有意に高かった(5.8mmHg、95%CI:3.7~7.9、p<0.0001)。 パート1の4週間で発現した最も頻度の高い有害事象は浮腫/体液貯留で、aprocitentan 12.5mg群が9.1%、同25mg群が18.4%、プラセボ群は2.1%で認められた。試験期間中に治療関連死が11例(心血管死5例、新型コロナウイルス感染症関連死5例、腸穿孔1例)でみられたが、担当医によって試験薬関連と判定されたものはなかった。 著者は、「本研究により、aprocitentanによる二重エンドセリン受容体の遮断は、ガイドラインで推奨されている3剤併用降圧治療との併用で、良好な忍容性とともに、診察室および自由行動下の血圧の双方に持続的な降圧効果をもたらす有効な治療法であることが確立された」としている。

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降圧薬の服薬は朝でも夕でもどちらでもお好きな時間に〜降圧薬の時間薬理学を無視したトライアル(解説:桑島巖氏)

 高血圧合併症を予防するためには、降圧薬の服薬は朝と夕のどちらがよいか? このテーマは高血圧患者を診療する医師にとってぜひ知りたい情報であろう。 本研究はその問題に本格的に取り組んだ大規模臨床試験である。 夕方服用のほうが朝服用よりも心血管合併症効果に、より有効であったとの報告もあるが、いずれも小規模だったり、方法論に問題があったりするなどで本格的大規模臨床試験による決着が望まれていた。その課題にあえて取り組んだ点では評価できる。しかし、プロトコールに大きな欠陥があるのは否めない。 本研究では降圧薬の服用時間によって、朝(6~10時)服用群と夕(20~24時)服用群にランダム化し、主要エンドポイントを心血管死、または非致死的脳卒中、心筋梗塞に設定して平均5.2年間追跡した。 その結果、主要エンドポイントの発生には両群間に差がないという結論を導いている。 しかし本研究の最大の欠陥は、降圧薬の時間薬理学への考慮がまったくなされていない点である。プロトコールによれば、降圧利尿薬の服用に関して、夕方服用が夜間頻尿などの理由でトラブルになる場合には、利尿薬のみ夕方6時、または朝服用も可、というかなりelusiveなプロトコールである。降圧薬の内訳は論文には記載されていないが、そもそもARB、ACE阻害薬などの多くは血中濃度に依存して降圧効果を発揮するが、おそらく被験者のかなりの症例が服用していると思われるアムロジピンなどは、降圧効果の持続(血中濃度持続)が25時間と非常に長いため、朝服用でも夕服用でも降圧効果の持続には影響しない。またこれも多くの症例で服用していると思われる降圧利尿薬の降圧効果も血中濃度に依存せず持続性は長い。したがって、朝の服用でも夕方服用でも降圧効果およびその結果としての心血管イベント発生には影響しない。 本研究のconclusionに述べている「夜間頻尿などの不快な効果がない限り、お好きな時間帯(convenient time)の服用でよい」というのは当然の結果である。

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重症CKDのRAS阻害薬中止で、腎機能は改善するか/NEJM

 レニン-アンジオテンシン系(RAS)阻害薬(ACE阻害薬、ARB)は、軽症~中等症の慢性腎臓病(CKD)の進行を抑制するが、重症CKD患者ではRAS阻害薬を中止すると、推算糸球体濾過量(eGFR)が上昇し、その低下が遅延する可能性が示唆されている。英国・Hull University Teaching Hospitals NHS TrustのSunil Bhandari氏らは、「STOP ACEi試験」において、重症の進行性CKD(ステージ4/5)患者では、RAS阻害薬の投与を中止しても、継続した患者と比較して3年後のeGFR低下に関して臨床的に重要な変化はなく、死亡率も同程度であることを示した。研究の詳細は、NEJM誌オンライン版2022年11月3日号に掲載された。英国の重症CKD患者対象の無作為化試験 STOP ACEi試験は、重症の進行性CKD患者におけるRAS阻害薬の中止が、eGFRを上昇させるか、あるいは安定化させるかの検証を目的とする非盲検無作為化試験であり、英国の37施設で参加者の登録が行われた(英国国立健康研究所[NIHR]と英国医学研究会議[MRC]の助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、ステージ4/5のCKD(体表面積補正eGFR<30mL/分/1.73m2)で、透析および腎移植を受けておらず、過去2年間にeGFRが2mL/分/1.73m2以上低下し、ACE阻害薬またはARBの投与を6ヵ月以上受けている患者であった。被験者は、RAS阻害薬の投与を中止する群または投与を継続する群に無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは3年後のeGFRで、腎代替療法開始後のeGFRは除外された。副次アウトカムは、末期腎不全(ESKD)および腎代替療法の複合、腎代替療法(ESKD患者を含む)およびeGFRの50%以上低下の複合、死亡などであった。生活の質や運動能にも有意差はない 411例(年齢中央値63歳、男性68%)が登録され、投与中止群に206例、投与継続群に205例が割り付けられた。ベースラインのeGFR中央値は18mL/分/1.73m2、29%がeGFR<15mL/分/1.73m2、尿蛋白中央値は115mg/mmolであった。また、糖尿病(1型、2型)が37%、糖尿病性腎症が21%含まれた。58%が3剤以上の降圧薬、65%がスタチンの投与を受けていた。 3年の時点で、最小二乗平均(±SE)eGFRの値は、中止群が12.6±0.7mL/分/1.73m2、継続群は13.3±0.6mL/分/1.73m2であり、両群間に有意な差は認められなかった(群間差:-0.7、95%信頼区間[CI]:-2.5~1.0、p=0.42)。また、事前に規定されたサブグループで、アウトカムの異質性は観察されなかった。 3年時のESKDおよび腎代替療法の複合(中止群62%[128/206例]vs.継続群56%[115/205例]、ハザード比[HR]:1.28[95%CI:0.99~1.65])、腎代替療法(ESKD患者を含む)およびeGFRの50%以上低下の複合(68%[140/206例]vs.63%[127/202例]、相対リスク[RR]:1.07[95%CI:0.94~1.22])、死亡(10%[20/206例]vs.11%[22/205例]、HR:0.85[95%CI:0.46~1.57])について、両群間に有意差はなかった。また、生活の質(KDQOL-36)や運動能(6分間歩行距離)にも有意差はなかった。 重篤な有害事象(52% vs.49%)および心血管イベント(108件vs.88件)の頻度は、両群で同程度であった。 著者は、「これらの知見は、進行性CKD患者では、RAS阻害薬の投与中止により腎機能、生活の質、運動能が改善するとの仮説を支持しない」とまとめ、「本試験は、RAS阻害薬の中止が心血管イベントや死亡に及ぼす影響の評価に十分な検出力はなかったが、腎機能に関して中止による利益はないことが明らかになった。そのため心血管系の安全性を検討するための、より大規模な無作為化試験を行う理論的根拠はほとんどないと考えられる」としている。

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急性脳梗塞で血管内治療後の降圧コントロール、厳格vs.標準/Lancet

 頭蓋内主要動脈閉塞による急性虚血性脳卒中に対する血管内血栓除去術で再灌流に成功した成人患者に対し、収縮期血圧目標値を120mmHg未満とする厳格な降圧コントロールは、140~180mmHgとする降圧コントロールに比べ、90日後の機能回復などのアウトカムは不良であることが、中国・海軍軍医大学のPengfei Yang氏らが、821例を対象に行った無作為化比較試験の結果、示された。急性虚血性脳卒中に対する血管内血栓除去後の至適収縮期血圧については不明であったが、結果を踏まえて著者は、「機能回復のためには厳格な降圧コントロールは避けるべき」とまとめている。Lancet誌2022年11月5日号掲載の報告。90日後の機能回復をmRSで評価 研究グループは、血管内治療による再灌流後に血圧が上昇した患者において、厳格vs.標準の降圧コントロール治療の安全性と有効性を比較する非盲検・エンドポイント盲検化の無作為化比較試験を実施した。試験は中国44ヵ所の3次医療機関を通じて行われた。 頭蓋内主要動脈閉塞による急性虚血性脳卒中で血管内血栓除去術による再灌流に成功後、収縮期血圧値が持続的に高値(140mmHg以上が10分超)の18歳以上の患者を適格とした。 被験者を1対1の割合で無作為に2群に割り付け(中央で最小化アルゴリズムを備えたウェブベースのプログラムによる)、一方には厳格な降圧治療(収縮期血圧値の目標値を<120mmHg)を、もう一方には標準的な降圧治療(140~180mmHg)を、各目標値が1時間以内に達成され、72時間持続するよう行った。 主要有効性アウトカムは機能回復で、90日時点で修正Rankinスケール(mRS)スコア(範囲:0[症状なし]~6[死亡])の分布に従い評価した。解析は、修正ITTにて行われた。有効性解析は、比例オッズロジスティック回帰法にて行われた。治療割り付け(固定効果として)、部位(ランダム効果として)、ベースライン予後因子で補正が行われ、主要アウトカム評価に利用可能なデータが入手でき、同意が得られていた無作為化を受けた全患者が対象に含まれた。 安全性解析は、無作為化を受けた全患者を対象とした。治療効果は、オッズ比(OR)で示された。不良な機能アウトカム、厳格降圧群が標準降圧群の1.37倍 2020年7月20日~2022年3月7日に、821例の被験者が無作為化を受けた。2022年6月22日のアウトカムレビュー後、有効性と安全性への永続的な懸念が認められことから同試験は中止となった。同時点で厳格降圧群に407例が、標準降圧群に409例が割り付けられており、そのうち主要アウトカムデータが得られたのは、404例と406例だった。 不良な機能アウトカムは、厳格降圧群のほうが標準降圧群より多い可能性が認められた(共通OR:1.37、95%信頼区間[CI]:1.07~1.76)。また、標準降圧群に比べて厳格降圧群は、早期の神経症状増悪例が多く(1.53、1.18~1.97)、90日時点の重度の障害例も多かった(2.07、1.47~2.93)が、症候性頭蓋内出血については有意な群間差はなかった。重度有害イベントや死亡についても、両群で有意差はなかった。

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リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その5【「実践的」臨床研究入門】第25回

前回、筆者らが出版したコクラン・システマティックレビュー(SR:systematic review)論文1)のP(対象)の構成要素の検索式の実例を用いて、その構造を解説しました。今回は引き続き、このコクランSR論文1)のI(介入)を示す検索式と検索式全体の完成形の実際例について解説します(連載第24回参照)。Iの構成要素をORでつないでまとめる下記は、この論文のIである「アルドステロン受容体拮抗薬」の構成要素の検索式です。14.Mineralocorticoid Receptor Antagonists[mh]15.Diuretics, Potassium Sparing[mh:noexp]16.spironolactone[tiab]17.eplerenone[tiab]18.canrenone[tiab]19.#14 OR #15 OR #16 OR #17 OR #18#14は「アルドステロン受容体拮抗薬」のMeSH term (統制語)である”Mineralocorticoid Receptor Antagonists”です(連載第22回参照)。「アルドステロン受容体拮抗薬」は降圧薬の一種でK保持性利尿薬に分類される薬剤です。”Mineralocorticoid Receptor Antagonists”というMeSH termの階層構造をみてみると、下記およびリンクのとおりとなります。●Diuretics, Potassium Sparing○Epithelial Sodium Channel Blockers○Mineralocorticoid Receptor Antagonists#15では”Mineralocorticoid Receptor Antagonists”の上位概念である”Diuretics, Potassium Sparing”(K保持性利尿薬)を[mh: noexp]の「タグ」で指定しています。”Diuretics, Potassium Sparing”の下位概念のうち"Epithelial Sodium Channel Blockers"という違う薬剤クラスは除外した検索式になっています(連載第22回参照)。その結果、”Mineralocorticoid Receptor Antagonists”で拾えない”Diuretics, Potassium Sparing”をカバーしています。#16-18では、MeSH termで拾えない可能性のある「アルドステロン受容体拮抗薬」に含まれる薬剤固有名詞を、「タグ」でTitle/Abstractを指定したうえでテキストワードを列記し、検索式を補完しています(連載第23回、第24回参照)。#19で#14から#19を”OR”でつなぎ、Iの構成要素の検索式が出来上がります。最後にPとIの構成要素をANDでつなぐPとIそれぞれの構成要素は、MeSH termやテキストワードで示される類似した語句同士なので重なりは大きいのですが、”OR”でつなげて、できるだけ検索漏れがないようにします。高校の数学で習ったはずの「ベン図」で表すと、下の図のようなイメージです。「ベン図」とは、ある概念で表されるグループ(集合)の関係性を視覚的に表した図でした。PとIの構成要素の検索式がそれぞれ完成したら、最終的にはPとIの「集合」の重なり部分を求めます。こちらも「ベン図」で示すと下図のようになります。Pの構成要素の検索式のまとめである#13(下記、連載第24回参照)と13. #1 OR #2 OR #3 OR #4 OR #5 OR #6 OR #7 OR #8 OR #9 OR #10 OR #11 OR #12Iの構成要素をまとめた検索式#19を、#20(下記)のように”AND”でつなぐことで検索式が完成します。20. #13 AND #191)Hasegawa T, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2021 Feb 15;2:CD013109.

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腎除神経術〜6ヵ月追跡で無効、3年追跡で有効の不思議(解説:桑島巌氏)

 治療抵抗性高血圧に対する治療法としてカテーテル腎除神経術が提唱され、いくつかの臨床研究で有効性の検証が行われてきたが、その代表的な研究として米国のSYMPLICITY HTNシリーズと欧州、オーストラリアのSPYRAL HTN-ON MED研究シリーズがある。いずれもラジオ波による焼灼であるが、他に超音波で焼灼するRADIAN-HTN SOLO研究もある。これらの試験では、焼灼方法の違いのほかに、治療抵抗性の定義の違いや対照の置き方などの違いがある。 2014年に発表されたSYMPLICITY HTN-3研究では、治療6ヵ月の成績では診察室血圧、24時間血圧ともにシャム治療群との間の降圧度の差を認めることができなかった。SYMPLICITY HTN-3試験の参入基準は3剤以上の降圧薬を服用していてもなお、診察室収縮期血圧160mmHg以上、24時間血圧135mmHgの治療抵抗性の高血圧症例である。本論文は観察期間をさらに延長して長期的有効性と有害事象について検討したものである。当初、参入資格を満たした535例を腎除神経治療群364例(68%)、シャム対照群171例(32%)にランダム化されたが、試験開始後6ヵ月の時点でシャム治療群に割り当てられた症例の中で、なお、治療抵抗性の基準を満たす例は腎除神経治療に切り替えてクロスオーバ群として腎除神経群に追加解析した。 36ヵ月間追跡できたのは腎除神経群219例、クロスオーバ群63例、非クロスオーバ群33例であった。 結論として、36ヵ月という長期での観察では、診察室血圧、24時間血圧ともにシャム治療群に比べて有意な降圧効果を示したという。 そこで問題となるのが、6ヵ月ではなぜシャム治療群と有意差が付かなくて、長期延長すると有意な差が付いたかである。 その理由として、(1)6ヵ月以降はシャム手術群でのプラセボ効果が薄まった可能性、(2)6ヵ月時点でシャム治療群に割り付けられた治療抵抗性群が、6ヵ月以降クロスオーバー群として腎除神経術を受けたことが影響した可能性。(3)その際、データ欠損値を補完(imputation)したことが影響した可能性。 しかし、治療抵抗性の高血圧が36ヵ月間持続することで心血管合併症発症あるいは進展に影響がなかったとは考えにくく、その点両群のバックグラウンドに差異が生じた可能性も否定できない。 現実的に個々の症例に対応する場合、6ヵ月間のフォローで降圧が得られなかった症例をそのまま経過観察というわけにはいかず、減塩指導の強化や薬剤追加などの対応が行われるであろう。この点、大規模臨床試験の統計結果とreal world にギャップがある。 百歩譲って、腎除神経術が有効であるとすれば、どのような症例が無効でどのような症例が有効であったかの分析結果が知りたいところである。 ただし、本研究で用いられた電極カテーテルは古典的なFlexカテーテル(メドトロニクス製)であり、術者がカテーテルをらせん状に回転させて腎動脈を焼灼するものであり、術者の技量が結果を左右する。その後メドトロニクス社は、4電極付きのSymplicity Spyral カテーテルを開発、これを用いたSPYRAL HTN-ON MEDが進行中である。36ヵ月の探索研究(proof of concept study)の結果ではシャム治療群に比べて有意に降圧効果が大きかったことが報告されているが、本年度秋のAHAでは最終結果が発表される予定だという。

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降圧薬はいつ服用?朝vs.就寝前でCVアウトカムを比較/Lancet

 降圧薬の服用は朝(6~10時)でも就寝前(20~24時)でも、主要心血管アウトカムは同等であることが、英国・ダンディー大学のIsla S. Mackenzie氏らによる前向き無作為化非盲検試験「TIME(Treatment in Morning versus Evening)試験」の結果、示された。先行研究では、降圧薬の服用は就寝前が朝よりもアウトカムが良好の可能性が示唆されていた。TIME試験は高血圧患者における通常降圧治療薬の就寝前服用が、朝の服用と比べて主要心血管アウトカムを改善するかどうかを検討する目的で行われたが、結果を踏まえて著者は、「患者には、望ましくない影響が最小限となるのであれば、都合の良い時間に定期的に服用可能であることをアドバイスできるだろう」とまとめている。Lancet誌オンライン版2022年10月11日号掲載の報告。降圧薬服用、6~10時vs.20~24時を検証 TIME試験は、18歳以上の高血圧症で、降圧薬1種以上を服用する患者を対象に、英国で行われたプラグマティックな前向き分散型並行群間比較試験。研究グループは被験者を無作為に1対1の割合で2群に分け(制限、層別化、最小化はいずれもなし)、一方の群は服用中のすべての通常降圧治療薬を朝(6~10時)に、もう一方の群は就寝前(20~24時)に、それぞれ服用した。 被験者は、複合主要エンドポイント(血管死、非致死的心筋梗塞または非致死的脳卒中による入院)について追跡調査を受けた。エンドポイントは、被験者報告またはlinkage to National Health Serviceデータセットによって特定され、治療割り付けをマスクされた委員会によって評価された。 主要エンドポイントは、intention-to-treat集団(すなわち治療群に無作為に割り付けられた全被験者)における、イベント初発までの期間だった。安全性は、少なくとも1回のフォローアップ質問票に回答した全被験者で評価した。主要エンドポイント発生、両群ともに約3~4%と同等 2011年12月17日~2018年6月5日に、2万4,610例がスクリーニングを受け、2万1,104例が就寝前服用群(1万503例)、朝服用群(1万601例)に無作為に割り付けられた。試験開始時の平均年齢は65.1歳(SD 9.3)、男性1万2,136例(57.5%)、女性8,968例(42.5%)であり、白人が1万9,101例(90.5%)、黒人、アフリカ系、カリブ系、英国系黒人が98例(0.5%)だった。1,637例(7.8%)は人種不明。心血管疾患既往者は2,725例(13.0%)だった。 追跡調査は2021年3月31日まで行われ、追跡期間中央値は5.2年(四分位範囲[IQR]:4.9~5.7)。試験中断者は、就寝前服用群5.0%(529/1万503例)、朝服用群3.0%(318/1万601例)だった。 主要エンドポイントの発生は、就寝前服用群3.4%(362例、100患者年当たり0.69件[95%信頼区間[CI]:0.62~0.76])、朝服用群3.7%(390例、0.72件[0.65~0.79])で、両群で同等だった(補正前ハザード比[HR]:0.95、95%CI:0.83~1.10、p=0.53)。 安全性に関する懸念は特定されなかった。

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治療抵抗性高血圧への腎デナベーション、長期アウトカムは/Lancet

 治療抵抗性高血圧患者に対する腎デナベーションシステム「Symplicity」(米国Medtronic製)の安全性と有効性を検討した偽処置(シャム)対照大規模臨床試験「SYMPLICITY HTN-3試験」の最終報告として、米国・ブリガム&ウィメンズ病院のDeepak L. Bhatt氏らが長期(36ヵ月フォローアップ)アウトカムの結果を発表した。処置後6ヵ月時点の評価では、降圧を安全に達成できることは確認された一方で有意な降圧の有効性は見いだせなかったが、36ヵ月時点の評価において、安全性に関するエビデンスが増強されるとともに、12~36ヵ月において、施術を受けた患者の降圧効果がシャム対照患者と比べて大きく、また血圧コントロールが良好であったことが示されたという。結果を踏まえて著者は、「腎デナベーションの臨床的効果が時間とともに衰えることはなく、増す可能性があることが示唆された」と述べている。Lancet誌オンライン版2022年9月16日号掲載の報告。腎デナベーションvs.シャム、36ヵ月の血圧変化、血圧コントロールを評価 SYMPLICITY HTN-3試験は、米国内88施設で行われた多施設共同単盲検シャム対照無作為化試験。18~80歳、利尿薬を含む3剤以上の最大耐用量投与にもかかわらず、座位診察室収縮期血圧(SBP)が160mmHg以上および24時間外来SBPが135mmHg以上の治療抵抗性高血圧患者を、2対1の割合で無作為に、単極(Flex)カテーテルを用いた腎デナベーションを受ける群またはシャム対照群に割り付け追跡評価した。 オリジナルの主要エンドポイントは、シャム対照群と比較した腎デナベーションの診察室SBPのベースラインから6ヵ月までの変化であった。その時点で包含基準を満たしたシャム対照患者(診察室SBP≧160mmHg、24時間外来SBP≧135mmHg、3剤以上の降圧薬処方)は、腎デナベーションを受けるクロスオーバーが可能であった。 36ヵ月までの変化は、オリジナルの腎デナベーション群とシャム対照群の患者で解析されたが、6ヵ月後に腎デナベーションを受けた患者(クロスオーバー群)と非クロスオーバー群も含まれ、腎デナベーションとシャム対照を比較するために、クロスオーバー群のフォローアップ血圧値は、クロスオーバー前のマスク時の最新血圧値を用いた推定値とした。その上で、腎デナベーション群とシャム対照群の長期血圧変化を報告し、両群の血圧コントロールを至適血圧範囲内時間(time in therapeutic blood pressure range)を用いた解析法で調べた。 安全性の主要エンドポイントは、全死因死亡、末期腎不全、重大塞栓イベント、介入を要した腎動脈穿孔または解離、血管合併症、服薬非アドヒアランスとは無関係の高血圧クリーゼによる入院、または6ヵ月以内70%超の新規腎動脈狭窄の発生であった。診察室SBPの変化、-26.4mmHg vs.-5.7mmHgで有意差、コントロールも良好 2011年9月29日~2013年5月6日に、1,442例がスクリーニングを受け、535例(37%、女性210例[39%]、男性325例[61%]、平均年齢57.9[SD 10.7]歳)が無作為化を受けた。腎デナベーション群は364例(68%、平均年齢57.9[SD 10.4]歳)、シャム対照群は171例(32%、56.2[11.2]歳)であった。 36ヵ月フォローアップデータは、オリジナル腎デナベーション群219例、クロスオーバー群63例、非クロスオーバー群33例から入手できた。 36ヵ月時点で、診察室SBPの変化は、腎デナベーション群-26.4mmHg(SD 25.9)、シャム対照群-5.7mmHg(24.4)で有意差が認められた(補正後治療群間差:-22.1mmHg[95%信頼区間[CI]:-27.2~-17.0]、p≦0.0001)。24時間外来SBPはそれぞれ-15.6mmHg(SD 20.8)、-0.3mmHg(15.1)で有意差が認められた(補正後治療群間差:-16.5mmHg[95%CI:-20.5~-12.5]、p≦0.0001)。 欠測値補完(imputation)前の解析で、腎デナベーション群のほうがシャム対照群よりも至適血圧範囲内時間を有した割合が高く(18%[SD 25.0]vs.9%[18.8]、p≦0.0001)、投薬負荷が類似していたが、腎デナベーション群のほうが血圧コントロールはより良好であることが示された。有意な結果は、欠測値補完後も変わらず一貫していた。 有害事象の発現頻度は、すべての治療群間で同程度で、腎デナベーションによるlate-emerging合併症のエビデンスは認められなかった。48ヵ月時点の安全性複合エンドポイント(全死因死亡、新規の末期腎疾患、末端器官損傷に至った重大塞栓イベント、血管合併症、腎動脈再介入、高血圧クリーゼなど)の発生率は、腎デナベーション群15%(54/352例)、クロスオーバー群14%(13/96例)、非クロスオーバー群14%(10/69例)であった。

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がん患者は血圧140/90未満でも心不全リスク増/東京大学ほか

 がん患者では、国内における正常域血圧の範囲内であっても心不全などの心血管疾患の発症リスクが上昇し、さらに血圧が高くなるほどそれらの発症リスクも高くなることを、東京大学の小室 一成氏、金子 英弘氏、佐賀大学の野出 孝一氏、香川大学の西山 成氏、滋賀医科大学の矢野 裕一朗氏らの研究グループが発表した。これまで、がん患者における高血圧と心血管疾患発症の関係や、どの程度の血圧値が疾患発症と関連するのか明らかではなかった。Journal of clinical oncology誌オンライン版2022年9月8日号掲載の報告。 本研究では、2005年1月~2020年4月までに健診・レセプトデータベースのJMDC Claims Databaseに登録され、乳がん、大腸・直腸がん、胃がんの既往を有する3万3,991例(年齢中央値53歳、34%が男性)を解析対象とした。血圧降下薬を服用中の患者や、心不全を含む心血管疾患の既往がある患者は除外された。主要アウトカムは、心不全の発症であった。 主な結果は以下のとおり。・平均観察期間2.6年(±2.2年)の間に、779例で心不全の発症が認められた。・米国ガイドラインに準じて分類した正常血圧(収縮期血圧120mmHg未満/拡張期血圧80mmHg未満)と比較した心不全のハザード比は、ステージ1高血圧(130~139mmHg/ 80~89mmHg)が1.24(95%信頼区間:1.03~1.49)、ステージ2 高血圧(140mmHg以上/ 90mmHg以上)が1.99(同:1.63~2.43)と血圧が上がるほど上昇した。・心不全以外の心血管疾患(心筋梗塞、狭心症、脳卒中、心房細動)においても、血圧上昇に伴う発症リスクの上昇が認められた。・この影響は、化学療法などの積極的ながん治療を行っている患者においても認められた。 高血圧は、がん患者においても高頻度に認められる併存症であるが、臨床においては血圧低下(食欲不振に伴う脱水など)が問題となることも多いため、高血圧については積極的な治療が行われない場面もあったと考えられる。それを踏まえて、研究グループは、「本研究において、がん患者では、降圧治療を受けていないステージ1高血圧やステージ2高血圧においても、心不全や他の心血管疾患のリスクが高かった。がん患者においても、適切な血圧コントロールが重要である」とまとめた。

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第115回 感染症法改正、病床確保拒否する病院に罰則を/内閣府

<先週の動き>1.感染症法改正、病床確保拒否する病院に罰則を/内閣府2.オミクロン株対応の新ワクチン、今月中に接種開始へ/厚労省3.病院のかかりつけ医機能は中小病院が中心に/日本病院会4.日本ようやく「結核低まん延国」に/厚労省5.世界初の高血圧の治療アプリが保険適用に/厚労省6.介護保険の給付が10兆円越え、高齢化で過去最高に/厚労省1.感染症法改正、病床確保拒否する病院に罰則を/内閣府岸田内閣は、9月2日に新型コロナウイルス感染症対策本部を開き、新型コロナウイルス感染症に関するこれまでの取組を踏まえた、次の感染症危機に備えるための具体策をまとめた。この中で、感染症法の改正を行い、感染症発生・まん延時に備えて、都道府県に対してあらかじめ、各医療機関と具体的な役割・対応について協定を締結しておくことを求める。さらに、公立・公的医療機関などや特定機能病院・地域医療支援病院に対しては、感染症発生時に担うべき医療の提供を義務付け、応じない場合は罰則を盛り込む方針を明らかにした。また、次の感染症危機に対して、政府の司令塔機能の強化するため、司令塔機能を担う組織として「内閣感染症危機管理統括庁(仮称)」を設置を盛り込んだ法案をこの秋の臨時国会に改正案を提出し、次年度の設立を目指す。(参考)第97回 新型コロナウイルス感染症対策本部(首相官邸)政府が新たな感染症対策 医療機関に罰則、23年度中に司令塔組織(毎日新聞)政府、病床確保拒否に罰則 5年度に司令塔組織創設(産経新聞)大病院の病床確保へ法改正 実効性に課題(日経新聞)2.オミクロン株対応の新ワクチン、今月中に接種開始へ/厚労省厚生労働省は9月2日に開催された厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会の議論で、オミクロン株対応ワクチン接種については、接種時期や接種対象者についての方針を取りまとめた。政府はすでにオミクロン株対応ワクチンの輸入を一部前倒しして開始しており、薬事承認を経て、9月中旬開催予定の分科会において、オミクロン株対応ワクチンの接種を特例臨時接種として諮問し、オミクロン株対応ワクチン接種を開始するとしている。各自治体に対しては、接種の準備を行い、開始時期は令和4年10月半ばを目途としているが、準備ができ次第開始する。また、現在、高齢者、重症化リスクの高い人や医療従事者など4回目接種の対象者に対して行なっている従来のワクチン接種について、2価のオミクロン株対応ワクチン(BA.1対応型)へ切り替えも早期に行うこととした。(参考)第36回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会(厚労省)オミクロン株に対応した新型コロナワクチンの接種体制確保について(その3)(事務連絡)新ワクチン、今月半ばにも オミクロン対応、高齢者などから(東京新聞)オミクロン株対応ワクチン、今月半ばに配送開始…高齢者ら優先で接種(読売新聞)改良ワクチン3,000万回分 オミクロン型対応 19日ごろから配送(日経新聞)3.病院のかかりつけ医機能は中小病院が中心に/日本病院会日本病院会の相澤孝夫会長は、8月29日の記者会見で「かかりつけ医機能」について、「医師個人の機能ではなく、医療機関としての機能であるとして、かかりつけ医機能を推進する病院として『地域を支えていく中小規模病院』の機能を充実・強化が必要である」と見解を述べた。具体的な機能としたのは、地域の医療機関などとの連携や在宅医療支援、介護などとの連携について示した。日本病院会では、病院のかかりつけ医機能の在り方にさらに議論を進め、厚生労働省の「第8次医療計画等に関する検討会」に見解を示す見込み。(参考)病院のかかりつけ医機能、「中小規模病院」を中心に 日病が方向性(MEDIFAX)「かかりつけ医機能」、急病対応や総合診療などが最重要要素で、中小病院で充実していくべき-日病・相澤会長(Gem Med)4.日本ようやく「結核低まん延国」に/厚労省厚生労働省は、8月30日に2021年の結核登録者情報調査年報集計結果を公表した。これによると、わが国の2021年の結核罹患率(人口10万対)について、前年と比較して0.9減少し、人口10万人あたりの活動性結核患者の発生数が10人未満の結核の低まん延国となったことが明らかとなった。わが国は過去に結核が蔓延した影響があり、結核患者の高齢化はますます進行し、新登録結核患者のうち70歳以上が占める割合は63.5%と高く、引き続き対策が求められる。(参考)2021年 結核登録者情報調査年報集計結果について(厚労省)2021(令和3)年結核年報速報(疫学情報センター)日本、結核「低まん延国」に…人口10万人あたりの患者数が初めて10人を下回る(読売新聞)国内結核患者 過去最少「結核低まん延国」に コロナ対策影響か(NHK)5.世界初の高血圧の治療アプリが保険適用に/厚労省CureApp社は、禁煙補助に続いて、世界初の高血圧治療補助アプリ「CureAppHT」を9月1日に「成人の本態性高血圧症の治療補助」で保険適用されたことを受け、即日発売した。高血圧患者の行動変容を促し、生活習慣の改善による降圧効果を図るとする医療機器として認められた。6ヵ月を限度に毎月830点(初月のみ計970点)を算定するためには200床未満の医療機関では、地域包括診療料、地域包括診療加算、高血圧症を主病とする生活習慣病管理料のいずれかの算定実績が要件とされている。一方、200床以上の医療機関では、日本高血圧学会の定める「高血圧認定研修施設」であり、かつ22年度診療報酬改定で新設された「紹介受診重点医療機関」であることが要件とされた。(参考)CureAppが高血圧の治療用アプリを承認申請、薬なしで12週後の降圧効果を確認(日経クロステック)CureApp 高血圧治療補助アプリが保険適用、即日発売 生活習慣修正をトータルサポート(ミクスオンライン)中医協総会 CureAppの高血圧治療補助アプリは「新規技術料」で評価 使用実態のフォローアップを(同)6.介護保険の給付が10兆円越え、高齢化で過去最高に/厚労省厚生労働省は、令和2年度の介護保険事業状況報告の年報を8月31日に公表した。これによると、令和2年度の保険給付関係の累計の総数は、件数1億6,303万件、費用総額10兆7,247億円と過去最高となったことが明らかになった。給付費の内訳は、居宅介護(介護予防)サービス4兆7,872億円、地域密着型介護(介護予防)サービス1兆6,459億円、施設介護サービス3兆1,629億円となっており、要介護・要支援認定者数は、令和2年度末現在で682万人と前年度より13万人増加している。介護保険の給付費は過去20年間で3倍以上の増加となっており、今後はさらに団塊の世代が75歳以上となることで、介護費の増加は加速するとみられる。(参考)令和2年度 介護保険事業状況報告(厚労省)介護給付、初めて10兆円超え 20年度、高齢化で過去最高(共同通信)介護給付費、初の10兆円超え 20年度 20年間で3倍超、厚労省(CB news)要介護・要支援認定は過去最多の682万人 厚労省が20年度の年報公表、前年度比13万人増(同)

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アドヒアランス改善による意識障害が生じたため薬剤を徹底見直し【うまくいく!処方提案プラクティス】第50回

 今回は、服薬アドヒアランスが改善したら治療効果が過剰に現れて意識障害を起こした事例を紹介します。薬剤師のさまざまな工夫や手法によってアドヒアランスが改善することは喜ばしいことですが、急激な変化が生じることもあるため、あらかじめ変化を予測して治療計画を立てておくことが重要です。患者情報88歳、男性(自宅で妻と2人暮らし)基礎疾患陳旧性脳梗塞(発症様式不明)、認知症、糖尿病、高血圧症 服薬管理妻身体所見身長161.5cm、体重54.7kg介入前の検査所見HbA1c 7.0、HDL 47mg/dL、LDL 83mg/dL、AST 19、ALT 23、Scr 1.03mg/dL、推算CCr 38.5mL/min処方内容1.チクロピジン錠100mg 2錠 分2 朝夕食後2.アログリプチン錠25mg 1錠 分1 朝食後3.カンデサルタン錠12mg 1錠 分1 昼食後4.ニフェジピン徐放(24時間持続)錠20mg 2錠 分2 朝夕食後5.グリメピリド錠1mg 1錠 分1 朝食後6.ボグリボースOD錠0.2mg 3錠 分3 毎食直前本症例のポイントこの患者さんの服薬管理は奥様が行っていましたが、PTPシートのままの管理で、かつ、服薬タイミングが複数回あることから飲み忘れが多かったため、訪問医の紹介で薬局が在宅訪問することになりました。訪問介入前の血圧は140〜160/80〜100と高めを推移していました。初回訪問時に飲み忘れや残薬を確認したところ、食直前や昼・夜の薬がとくに服用できておらず、少なくとも3ヵ月分の余剰があることがわかりました。そこで、奥様と医師に一包化管理の承認を取り、その日から始めることになりました。訪問介入開始後のフォローアップでは、血圧が110~120/60~70、心拍数が70台となりました。しかし、1ヵ月が経過したころに奥様より「夫の話のつじつまが合わない。そわそわしていて顔色も悪い。食事は元気がないこともあって、これまでの30~40%程度しか食べない。昼以降はうとうと寝ていることが多い。最近怒りっぽくなって常にイライラしている」と相談がありました。その日のバイタルを確認すると、血圧が170/100と高く、心拍数も95と頻脈になっていました。上腕は汗ばんでいて、衣服も汗で湿っているような感じがしました。また、最近になって便秘が出現し、お腹が張って不機嫌なのではないかという話も聴取しました。これらの追加情報から、下記のことを考察しました。(1)低血糖出現の可能性症状やその発現タイミングから、服薬アドヒアランスが改善して、これまで飲めていなかった薬の治療効果よりも副作用が強く現れたのではないかと考えました。一番懸念したことは、元々腎機能も悪く、HbA1cが高齢者の目標値の下限である7.01)であったことから、SU薬のグリメピリド錠が過度に作用して低血糖に陥っている可能性です。低血糖によるカテコラミン分泌上昇から、頻呼吸はないものの血圧上昇や頻脈、焦燥感、興奮、日中活動低下(ブドウ糖低下)に至っている恐れもあります2)。(2)食事量低下とボグリボースによる便秘発現の可能性便秘の発現については、低血糖によって食事量が低下したことで腸管蠕動が低下した可能性と、α-グルコシダーゼ阻害薬のボグリボース錠の服薬徹底により代表的な副作用でもある便秘が生じた可能性を考えました。(3)現状の服薬管理に合わせた薬剤の選定・見直しの必要性一包化管理を開始してから服薬アドヒアランスが安定しているため、服薬タイミングをシンプルに整理して、治療負担となっている薬剤の中止・減量を提案する必要があると考えました。とくに1日3回の食直前薬であるボグリボース錠は本人の服薬負担だけでなく、奥様の介護負担増加にも繋ります。血圧推移も安定してきたことから、降圧薬を減らすことも可能と考えました。処方提案と経過医師に電話で状況を報告したところ、臨時往診することになりました。診療中に医師より「低血糖症状が出現しているため治療薬を調整しようと思うが、考えがあれば教えてください」と聞かれたため、上記1~2より、グリメピリド錠は低血糖を起こしてることから中止、また便秘に影響している懸念からボグリボース錠の中止も提案しました。医師からは、今回採血もしているので次回の訪問診療まで経口血糖降下薬はすべて中止する旨の返答がありました。また、今回のことをきっかけにチクロピジン錠はクロピドグレル錠50mg 1錠 朝食後に変更となりました。昼のカンデサルタン錠は中止となり、ニフェジピン24時間持続徐放錠は40mg 1錠 朝食後に変更となりました。1週間後のフォローアップでは、食事量は50%程度であるものの活気が出てきていて、血圧は120~130/70~80台で推移していました。血色不良やイライラしていた様子、日中の傾眠もなく、デイサービスの利用ができるところまで回復しました。臨時往診時の採血結果では、HbA1cは5.5、空腹時血糖は60台まで低下していましたが、その後のHbA1cは6.0台で留まっており、経口血糖降下薬は再開せずに生活しています。1)日本糖尿病学会編著. 糖尿病治療ガイド2022-2023.文光堂;2018.2)岸田直樹著・監修. 薬学管理に活かす臨床推論.日経BP;2019.

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第123回  高血圧治療用アプリ保険適用、中医協委員は健康アプリとの線引きの曖昧さやフォローアップの必要性を指摘

日本で2番目に承認されたDTxこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。週末から月曜にかけては、甲子園の高校野球観戦三昧でした。夏の全国高校野球選手権大会の決勝は仙台育英高校が下関国際高校に勝ち、優勝旗が初めて「白河の関超え」(東北勢の初優勝)をすることになりました。仙台育英は夏の大会決勝進出3度目にしての悲願達成です。個人的に記憶に鮮明なのは、大越 基投手が仙台育英のエースだった1989年の決勝です。大越投手は一人で全6試合を投げ抜き、帝京(東東京)との決勝は延長10回、0-2で敗れました。その大越投手、ダイエー・ホークス(当時)引退後は大学に入学し直して教員の資格を取り、現在は下関国際高校の地元でもある山口県下関市の早鞆(はやとも)高校野球部監督を務めています(2012年に春の選抜大会出場)。大越氏は決勝当日、8月22日の朝日新聞朝刊の「エール 東北人+山口の監督として」に登場、「OB、東北人としては育英を応援したいけど、山口県の監督としては下関に深紅の大優勝旗が来てほしい」と語っていました。同じ山口県内のライバル校を倒し、東北勢の長年の呪縛も解いた母校・仙台育英高校の優勝に、大越氏もほっと胸をなでおろしているのではないでしょうか。さて、今回は8月3日、中央社会保険医療協議会総会で医療機器として保険適用が決まったCureApp社の「CureApp HT高血圧治療補助アプリ」について書いてみたいと思います。日本で2番目に承認されたこのデジタル治療薬(Digital Therapeutics:DTx)に対し、中医協委員から使用実態についてのフォローアップの必要性を指摘されるなど、厳しい意見も多数出されました。月1回830点、6ヵ月を限度に算定中医協総会は8月3日、CureApp社の「CureApp HT高血圧治療補助アプリ」について保険適用を了承しました。診療報酬上は特定保険医療材料としては設定せず、新規技術料で評価されます。同社のニコチン依存症治療アプリも同様の区分で承認されており、これに準じた扱いです。具体的には、同アプリを使用して高血圧症に関する総合的な指導および治療管理を行った場合、アプリによる治療開始時に「禁煙治療補助システム指導管理加算」を準用する形で、140点を1回に限り算定します。また、同アプリを使用して高血圧症に関する総合的な指導および治療管理を行った場合に「血糖自己測定器加算の4(月60回以上測定する場合)」を準用し、月1回に限り830点を算定します。830点の算定については、初回の使用日の月から6ヵ月を限度としており、加えて前回算定日から、平均して7日間のうち5日以上、アプリに血圧値が入力されている場合にのみ算定できるとしています。なお、アプリの使用に当たっては、関連学会の策定するガイドラインおよび適正使用指針の順守を求めています。830点6ヵ月は患者側にとってはなかなか高い点数ですが、皆さんどう思われるでしょう? 6ヵ月間のアプリ使用料は3割負担で約1万5,000円となります。一般的なゲーム課金と比べると、少々高い印象です。同アプリは9月には保険収載される見通しです。中医協の資料によれば、推定適用患者数(ピーク時)は約824万人、このうち市場規模予測(ピーク時)として同アプリの使用患者数は約7万人と見積もられています。国はDTxなどプログラム医療機器の普及・定着に前のめり「CureApp HT高血圧治療補助アプリ」は、同社が自治医科大学の研究グループと共同開発した治療用アプリで、患者がスマートフォンなどを用いて使用するものです。患者がIoT血圧計で測定した家庭血圧や、生活習慣のログを日々記録すると、アプリはこれらのデータを基に、患者ごとに個別化された治療ガイダンスとして、食事、運動、睡眠などに関する情報を表示します。これにより患者の行動変容を促すことで降圧効果が得られるとしています。同アプリについては、本連載でも、2022年4月26日に薬事承認された直後に「第109回 高血圧治療用アプリの薬事承認取得で考えた、『デジタル薬』が効く人・効かない人の微妙な線引き(前編)」、「第110回 同(後編)」と2回に渡り取り上げ、国がDTxをはじめとするプログラム医療機器(SaMD)の普及・定着に相当前のめりになっている状況や、DTxの臨床試験の不可解さについて書きました。「アプリのアドバイスになかなか従わない人に果たして効果があるか」前編では、同アプリが薬事承認の了承に当たって、「承認後1年経過するごとに、市販後の有効性に関する情報を収集し、有効性が維持されていることを医薬品医療機器総合機構(PMDA)宛てに報告すること」という条件が付けられたことを紹介、「こうしたスマホアプリに順応して素直に行動を変えられる人ならよいが、頑固でアプリのアドバイスになかなか従わない人に果たして効果があるのだろうか」という素朴な疑問を投げかけました。続く後編では、「CureApp HT 高血圧症治療補助アプリ」の臨床試験の結果を読み解き、「主要評価項目であるABPM (24時間自由行動下血圧測定)による24時間のSBP(収縮期血圧)が、高血圧治療ガイドラインに準拠した生活習慣の修正に同アプリを併用した『介入群』と、同ガイドラインに準拠した生活習慣の修正を指導するのみの『対照群』を比較評価した結果、『介入群』の方が有意な改善を示した、とのことですが、『有意な改善』とは言っても、血圧の変化量の群間差は-2.4[-4.5〜-0.3]で、素人目には劇的というほどではありませんでした」と書きました。さらに、PMDAが公開した「CureApp HT 高血圧症治療補助アプリ」の審議結果報告書には臨床試験の対象患者について、「20歳以上65歳未満の降圧薬による内服治療を受けていないI度又はII度の本態性高血圧患者のうち、 食事・運動療法等の生活習慣の修正を行うことで降圧効果を十分に期待できると判断された患者を対象」と記載されているものの、「『降圧効果を十分に期待できる』をどう判断したかについては書かれていない」と指摘しました。また、DTxの成功例として知られる米Welldoc社の糖尿病治療用アプリ「BlueStar」も、相当厳格な対象患者絞り込みによって、有意差のある結果を出していたらしいことにも言及。DTxの開発は国内外で、糖尿病、うつ病、不眠症、アルコール依存症とさまざまな領域で活発化しているものの、大日本住友製薬など、開発に頓挫したケースもあることを紹介しました。中医協、支払側・診療側双方の委員から厳しい指摘この連載で書いたような、DTxの治療効果への疑問や、臨床試験での対象患者選びがブラックボックス化していることなどは、中医協委員も感じていたのかもしれません。総会では中医協委員から厳しい意見が出されました。日経メディカルやミクスオンラインなどの報道によれば、同アプリの保険適用に当たっては、支払側委員から「ニコチン依存症の治療用アプリとは異なり、(高血圧症治療補助アプリ)は健康アプリに近い印象があり、同様のアプリが今後登場してきた際には判断が難しくなるのではないか」、「通常の生活習慣指導と比較したアプリの効果についてはエビデンスがあるものの、他の健康アプリとの比較は行われていない」など、一般向けの健康アプリとの線引きの曖昧さが指摘されました。一方、診療側委員からは、「次回改定時には前例にとらわれず、専門組織からの意見などを受けて、本製品の評価について見直しを行うことも検討する必要がある。一定期間の使用を踏まえたアウトカム評価を導入することも必要ではないか」と使用実態についてのフォローアップが求められました。サワイ、CureAppが開発する肝炎治療用アプリの販売権を獲得健康アプリとの線引きの曖昧さの指摘や、フォローアップをしっかり行うようにとの要請など、なかなかに厳しい船出と言えます。しかし、DTxはこれからも次々と上市される見込みです。後発医薬品大手のサワイグループホールディングスは(サワイGHD)8月2日、CureAppが開発する肝炎の治療用アプリの販売権を獲得したと発表しました。契約一時金に加え、臨床試験の進展に応じCureAppに最大105億円を支払うとのことです。この治療用アプリは肝臓に炎症を引き起こす非アルコール性脂肪肝炎(NASH)を治療対象にしたものです。医師の代わりに患者に食生活の見直しや運動などを促し、生活習慣の改善をめざすとしています。「CureApp HT 高血圧症治療補助アプリ」と同様、医師が患者に処方して使うDTxです。CureAppと東京大学医学部附属病院が共同で2016年10月より単施設における臨床研究を開始、2018年4月からは多施設共同臨床研究を実施し、認知行動療法に基づいた本アプリによる明確な体重減少ならびに肝線維化の改善効果が認められたとしています。今後、これまでの試験データを基に、第III相臨床試験に進む予定とのことです。第III相臨床試験はCureAppとサワイGHDが共同して行い、上市後の販売や営業活動はサワイGHDが担うとしています。NASHの患者は国内に200万人程度、その予備軍は推定1,000万人程度いるとされ、病気が進行すると肝硬変や肝がんを引きおこすおそれがあります。確立された薬物療法がなく、運動療法や食事療法などの生活改善が中心になっており、その一翼を同アプリが担うとしています。ただ、認知行動療法で体重減少を目指す点は理解できますが、その療法と肝線維化との関連性がどうなっているのか、プレスリリースや報道などでは今ひとつわかりません。それこそ、普通の一般向け減量アプリとの差別化はどうなるのでしょう。第III相臨床試験では、そのあたりもきちんと実証し、公表して欲しいと思います。

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リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その2【「実践的」臨床研究入門】第22回

前回、網羅的なPubMed検索を行うために役立つツールであるMeSH(Medical Subject Headings)の概要を説明しました。今回からは、MeSHも活用したPubMed検索式の具体的な作成方法について解説します。まずは、あなたの「漠然とした臨床上の疑問」であるクリニカル・クエスチョン(CQ)を「具体的で明確な研究課題」であるリサーチ・クエスチョン(RQ)に変換しましょう(連載第1回参照)。言い換えると、CQをRQの典型的な「鋳型」であるPE(I)COのP(対象)とE(曝露要因)もしくはI(介入)、C(比較対照)、O(アウトカム)に流し込むのです。ここでは、われわれが最近出版したコクラン・システマティックレビュー (SR: systematic review)論文1)のPICOを例に挙げて、説明します。検索式はPとI(もしくはE)で構成する降圧薬の1種であるアルドステロン受容体拮抗薬は、心血管疾患(CVD: cardiovascular disease)発症リスクを低下させることが知られています。しかし、腎機能が廃絶した透析患者では、アルドステロン受容体拮抗薬の作用機序から重篤な高カリウム血症を生じる懸念もあり、その有効性と安全性については確かなエビデンスは確立されていませんでした。このような背景のもと、われわれは下記のCQとRQ(PICO)を立案しました。CQ:アルドステロン受容体拮抗薬は透析患者の予後を改善するかP:透析患者I:アルドステロン受容体拮抗薬C:プラセボもしくは通常治療(アルドステロン受容体拮抗薬なし)O:全死亡、CVD死亡、CVD発症、高カリウム血症、などこのように、RQ(PICO)を立てた後、はじめに押さえておくべき検索式作成のポイントは、下記のとおりです。まず、PとI(またはE)というRQの2つの構成要素の概念を英語検索ワードに変換して、検索式の構築を考えます。適切な英語検索ワードの選択については連載第3回で解説しました。その手順を踏んで、Pの構成要素の概念である「透析」をライフサイエンス辞書で検索してみると、まず"dialysis"という英語キーワードがヒットします。続いて、前回解説したMeSHも調べてみましょう。MeSHデータベースで"dialysis"を検索すると、リンクのように"Renal Dialysis"や”Dialysis”、"Peritoneal Dialysis"などのMeSH term(統制語)がヒットします。Iのアルドステロン受容体拮抗薬もライフサイエンス辞書で調べると、"aldosterone receptor antagonist"という英語キーワードが検索されます。同様に、MeSHデータベースで"aldosterone receptor antagonist"をキーワードに検索すると、リンクのように”Mineralocorticoid Receptor Antagonists”がMeSH termでした。検索式作成におけるもう一つのポイントは、CとOは検索式に一般的には含めない、ということです。なぜなら、CやOはひとつの構成概念では決まらないことが多いからです。実際、今回提示したわれわれのコクランSR1)論文のRQ(PICO)でも、Cはプラセボもしくは通常治療と2つの概念で構成されています。Oも、ここで記載した4つのアウトカムだけでなく、Summary of findings tableに記載した主要なものだけでも、女性化乳房(アルドステロン受容体拮抗薬の頻度の多い副作用)、左心室重量(心エコーにて評価)と計6つ挙げています1)。また、PubMedでの検索の対象になるのは論文タイトルと抄録ですので、CやOの構成概念は必ずしも記載されていないことが多い、ということもCとOを検索式に含めない理由とされています。1)Hasegawa T,et al. Cochrane Database Syst Rev. 2021 Feb 15;2:CD013109.

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無症候性内頚動脈狭窄症に対する内科治療の高い発症抑制効果が確認された(解説:高梨成彦氏)

 本研究では内科治療を適用されたNASCET 70~99%の無症候性高度頸動脈狭窄症患者において、同側脳卒中の発症率が5年間で4.7%と、過去の報告よりも低く抑えられたことが報告された。 観察期間中のスタチンと降圧薬のアドヒアランスはそれぞれ70.7%、88.5%と高い水準に保たれており、血中LDLコレステロール濃度と血圧は正常範囲内に管理されていた。近年の進歩した内科治療によって脳卒中の発症率が低く抑えられたと考えられる。 この結果を踏まえると、無症候性頸動脈狭窄症については発見時の狭窄度だけを根拠に血行再建術を適用することはできないだろう。本研究ではNASCET 90%以上の狭窄をhigh-grade stenosisと分類して狭窄度の進行を観察している。そして同側脳卒中を発症した患者のうち24.1%が観察中にhigh-grade stenosisに進行した患者で、12.8%は閉塞を来した患者であった。 無症候性高度頸動脈狭窄症患者の中でも狭窄が進行した患者については脳卒中発症リスクが高く、血行再建術の適応がある可能性が示唆される。 他の研究では、超音波検査で低輝度を呈するプラークを認めた患者では同側脳卒中発症の相対危険度が2.31と高かったという報告(Gupta A, et al. Stroke. 2015;46:91-97.)や、経頭蓋ドップラーでembolic signalを認めた患者では同側脳卒中発症の相対危険度が6.37と高かったという報告(Markus HS, et al. Lancet Neurol. 2010;9:663-671.)がある。 無症候性頸動脈狭窄症患者に対しては基本的に内科治療を適用し、前述のような狭窄度以外の因子を考慮して脳卒中発症の危険性が高いことが予想される患者を選択し、血行再建術の適応を判断する必要があるだろう。

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