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〔CLEAR! ジャーナル四天王(65)〕 スピロノラクトンは収縮機能保持心不全例の左室拡張機能指標を改善させる:予後改善効果に期待

本研究は左室収縮機能が保持された心不全患者を対象に、二重盲検法でスピロノラクトン25mgあるいは偽薬を各々約200例に対して1年間投与し、同薬の左室機能や形態、運動耐容能などに与える影響を検討した。その結果、同薬は左室拡張能指標、左室重量係数、NT-proBNP値を改善させることを明らかにした。しかし、運動耐容能やQOL指標には明らかな改善効果はみられなかったとしている。左室収縮機能保持心不全例の予後やQOLを改善させる治療法は確立されておらず、最近増えつつあるこのタイプの心不全に対する治療エビデンスを確立させることは喫緊の課題である。 本論文では、残念ながら生命予後や運動耐容能までの改善効果は見出すことはできなかった。とはいえ、投与法や対象群選定の工夫により、同薬の収縮機能保持心不全例に対しての臨床的有用性を期待させる結果である。しかし、注意しなければならないのは、対象例の9割以上が高血圧を合併しており、スピロノラクトン群は偽薬群に比較して収縮期血圧が最終的に約9mmHg低くなっている。この降圧効果の差をいかに解釈するかがポイントと考えられる。左室肥大を有する高血圧例では、いくつかの降圧薬により左室重量や左室拡張機能が改善することはすでに知られている。本論文では、その左室拡張機能改善と降圧効果は統計学的に処理しても独立したものとしているが、対照を偽薬ではなく同程度の降圧効果を有するものとした場合にも同様の効果が現れるものかを知りたいところである。

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〔CLEAR! ジャーナル四天王(53)〕 HOPE試験の再来か?ACE阻害薬が間歇性跛行に”降圧を超えた”有効性

ASOによる間歇性跛行を有する症例に対して、ACE阻害薬ラミプリルの6ヵ月投与は、歩行距離、歩行時間、歩行スピードのいずれも改善し、疼痛の軽減させることでQOL改善をもたらしたという論文である。 しかも、これらの改善に対する血圧低下は収縮期/拡張期血圧各々3.1/4.3mmHgと比較的少なく、また高血圧の有無にかかわらずその改善度は同様であった。このことから著者らは、HOPE試験と同じようにACE阻害薬の「降圧を超えた」血管保護効果があったとしている。この程度の血圧低下を、“降圧”とみなすか“降圧以外”とみなすかは判定が難しいが、HOPE試験では診察室血圧の差は軽微であっても24時間血圧、とくに夜間血圧に大きな差がみとめられていた。 本研究では、921例リクルートされた症例から212例のみが登録されており、大多数が登録基準を満たさず脱落している。患者背景では、高血圧患者は50%前後にすぎず、糖尿病患者も25%しか含まれていない。すなわち、冠動脈疾患、腎疾患など他の心血管合併症を有する例やプラセボ治療に耐えることのできない症例はすべて除外されていることになる。 実臨床の世界では、ASO症例は他の心血管合併症を有していることが多く、本試験の結果が実臨床の世界で通用するか否かは不明である。もう一つ、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)でも同様な結果が得られるか否かについて著者らは言及していないが、ACE阻害薬のブラジキニンによる血管拡張効果をWIQスコアの改善と関連づけていることから、ARBでは同様の改善効果は期待できないであろう。 いずれにしても比較的軽症なASO症例では高血圧の有無にかかわらずACE阻害薬の処方が有用であることを示す一つのエビデンスではあろう。

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バレンタインデーの前に知っておきたい「チョコレートが体に良い5つの理由」

 日本のチョコレートの年間消費量の2割程度がこの日に消費されるというバレンタインデー。近年、チョコレートが健康に良いことを裏付ける研究結果が発表されているため、バレンタインデーのこの機会に少しまとめてみた。研究者らは、チョコレートのカカオに多く含まれるフラバノールによる抗酸化、抗凝固、抗炎症作用などが心血管疾患に良い効果をもたらしているのではないかと考えているようだ。1. 毎日少量のダークチョコレート摂取で血圧が低下1) ダークチョコレートによる降圧効果が小規模な無作為化比較試験により示された(2007年JAMA誌掲載)。この試験では高血圧前症または高血圧症(第I度)44例に、ダークチョコレートを毎日6.3g(30kcal)、もしくはホワイトチョコレートを摂取させた。その結果、18週間で、ダークチョコレート摂取群の収縮期血圧が平均2.9mmHg、拡張期血圧も1.9mmHg下がった(p<0.001)。体重、血漿中の脂質、ブドウ糖、8-isoprostaneのレベルに変化はなかった。高血圧有病率は86%から68%まで減少した。一方、ホワイトチョコレート摂取群では血圧、血漿中マーカーとも変化は見られなかった。2. チョコレートの消費量が多い人ほど心血管疾患リスクが低い2) チョコレート消費量と心血管疾患リスクに関するメタアナリシスの結果が2011年のBMJ誌に発表されている。この研究では2010年10月までに発表された文献のデータベースを検索し、選択基準を満たした7試験(11万4,009人)をメタアナリシスの対象としている。この解析の結果、チョコレートの消費量が最も多い群は最も少ない群に比べて、全心血管疾患リスクが37%低下(相対リスク:0.63、95%信頼区間:0.44~0.90)し、脳卒中リスクが29%低下した(同:0.71、0.52~0.98)。しかし、心不全の抑制効果はみられなかった(相対リスク:0.95、95%信頼区間:0.61~1.48)。3. チョコレートを多く食べる男性で脳卒中リスクが17%低下3) スウェーデンのコホート研究によると、チョコレートの消費量が多い男性では脳卒中のリスクが17%低かったという(2012年Neurology誌掲載)。この研究では男性のチョコレート消費量と脳卒中リスクについて49~75歳のスウェーデン人男性3万7,103人を約10年間追跡した。その結果、チョコレートの消費量が最も多いグループ(中央値62.9g/週)は、最も少ないグループ(中央値0g/週)と比べて脳卒中のリスクが17%低下していた。 脳卒中既往例では再発率が19%低下 上記のスウェーデンのコホート研究を含む、5件の研究より脳卒中既往例に絞り込んだメタ解析を実施したところ、チョコレートの摂取量が最も多い被験者の脳卒中リスクはまったく食べない被験者より19%低かった。この解析結果より、著者はチョコレート摂取量50g/週につき脳卒中リスクが約14%低下したと試算している。4. チョコレート摂取頻度高いほどBMI低い4) チョコレートを頻繁に摂取する人ほどBMIが低い傾向にあることが2012年のArch Intern Med誌に発表されている。研究者らは心血管疾患、糖尿病、高LDL-C血症の既往のない男女(20-85歳)を対象に、チョコレートの摂取頻度とBMIとの関連を検討。週当たりのチョコレート摂取回数とBMIなどのデータが得られた972例を解析対象とした。その結果、年齢・性調整後、チョコレート摂取頻度が高い者ほどBMIが低い傾向にあった。5. チョコレートを多く食べる男性で糖尿病リスクが35%低下5) 岐阜県高山市におけるコホート研究によると、チョコレートの摂取頻度が1週間に1回以上の男性は糖尿病発症リスクが35%低下していた(ハザード比0.65、95%信頼区間0.43~0.97)。女性では糖尿病発症リスクの有意な低下は認められなかった(同0.73、0.48~1.13)。この結果は2010年のBritish Journal of Nutrition誌に発表されている。[番外編] チョコレートをたくさん食べる国ほどノーベル賞の受賞者も多い? 米国コロンビア大学のMesserli氏は、日本を含む世界22ヵ国の国民1人当たりのチョコレート消費量と、人口1,000万人当たりのノーベル賞受賞者数の相関関係を解析し、その結果が2012年のNEJM誌に発表されている。この解析結果によると、チョコレートの消費量とノーベル賞受賞者の数の間には、有意で強力な線形相関が認められた(相関係数r=0.791、p<0.0001)。チョコレート摂取量とノーベル賞受賞者の数がいずれも最高だったのはスイス。日本はチョコレートの消費量、ノーベル賞の受賞者数のいずれも22ヵ国中、中国に続いて低かった。(Messerli FH. N Engl J Med. 2012; 367: 1562-1564.)関連記事毎日少量のチョコレート摂取で血圧が低下(ジャーナル四天王)チョコレート高摂取による心血管代謝障害の抑制効果が明らかに(ジャーナル四天王)脳卒中予防でチョコレート好きに朗報

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〔CLEAR! ジャーナル四天王(50)〕 降圧薬併用にNSAIDsで、急性腎障害が増加する!-多剤併用にご用心

薬剤による腎障害は、腎臓が多くの薬物の排泄臓器であることから、急性腎不全の重要な原因であり、臨床家は薬剤の使用にあたって、常に薬剤に起因する腎障害のリスクに配慮することが望まれている。数ある薬剤の中でも、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、その汎用性から、多くの使用機会があり、注意が必要とされる薬剤の一つである。とくに高齢者は複数の疾病を併存することが一般的であり、個々の疾病に沿ったガイドラン治療は、多くの場合、併用薬物によるリスクまでは十分に言及されていないのが現状である。 本論文は、およそ50万人のコホートを対象に、降圧薬、中でも降圧利尿薬、レニン・アンジオテンシン(RA)系阻害薬と、NSAIDsの併用による腎障害の発症リスクを解析した論文である。急性腎障害の判定は、ICD-10の診断コードに基づいている。 CKD診療は、腎保護と心血管保護とを両立させることが大きな目標である。降圧薬は高血圧合併のCKD診療において重要な地位を占めているが、これまでの臨床研究からは、その期待に反する結果をもたらす実態が明らかになっている。とくにRA系阻害薬では、併用による有害作用が報告されている。たとえば、RA系阻害薬同士の併用は、ALTITUDE試験やONTARGET試験において、腎機能障害を増加させることが示唆されている。また、RA系阻害薬と降圧利尿薬との併用は、GUARD試験およびACCOMPLISH試験で、尿蛋白改善とeGFR低下という腎保護効果に乖離が認められ、腎イベントの増加をもたらした。本研究では、RA系阻害薬、降圧利尿薬およびNSAIDsの、三剤併用により30%の急性腎障害の増加が認められ、その発症の多くは30日以内であり、改めて降圧薬の腎障害リスクに警鐘を鳴らすものとなった。 多くの臨床研究は、結果をもたらすメカニズムを証明することはできない。この研究も例外ではないが、著者らは本論文中に、“Biological Mechanism”の一節を設けて、降圧利尿薬とNSAIDsの併用下では、腎血流の低下(体液量の減少)と輸入細動脈の収縮(プロスタサイクリンの合成抑制)が起り、angiotensin IIを介する輸出細動脈の収縮と、ナトリウム貯留によって糸球体濾過量が保たれていること、RA系阻害薬がこのようなangiotensin IIの生理的な機能を抑制することにより、有害作用をもたらすことに言及している。局所性RA系が、さまざまな臓器障害をもたらすとする仮説が提示され、これまでにしばしば、RA系抑制薬の “降圧を超えた臓器保護効果”が訴求されている。しかし、これまでの大規模臨床研究の結果は、必ずしもこのような作用の存在を支持している訳ではない。 今一度、生体の恒常性を維持する生理的システムとしてのRA系の役割に対する認識を新たにすることが、必要ではないか。

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降圧薬2剤併用にNSAIDsを追加併用、30日間は急性腎不全に注意が必要/BMJ

 利尿薬、ACE阻害薬あるいはARB、NSAIDsの組み合わせによる3剤併用制法は、急性腎不全リスクを増大することが、カナダ・Jewish General HospitalのFrancesco Lapi氏らによるコホート内症例対照研究の結果、報告された。リスクは、治療開始から30日間が最も強かったという。著者は、「降圧薬は心血管系にベネフィットをもたらすが、NSAIDsを同時併用する場合は十分に注意をしなければならない」と結論している。BMJ誌2013年1月12日号(オンライン版2012年12月18日号)掲載報告より。2剤併用とNSAIDsを追加した3剤併用療法の、急性腎不全リスク増大との関連を調査 研究グループは、降圧薬の利尿薬、ACE阻害薬あるいはARBの2剤併用療法に、NSAIDsを追加し3剤併用療法とした場合の、急性腎不全リスク増大との関連について調べた。 コホート内症例対照研究の手法を用いた後ろ向きコホート研究で、UK Clinical Practice Research DatalinkとHospital Episodes Statisticsデータベースから一般診療関連のデータを抽出して行われた。 主要評価項目は、直近の2剤または3剤併用療法との関連でみた急性腎不全の発生率[95%信頼区間(CI)]だった。3剤併用療法、開始後30日間の急性腎不全の補正後発生率比1.82 対象は、降圧薬を服用する48万7,372人であった。 平均追跡期間5.9年(SD 3.4)の間に、急性腎不全の発生が特定されたのは2,215件であった(発生率:7/1万人・年)。 全体として、利尿薬、ACE阻害薬、ARBのいずれかと、NSAIDsとの組み合わせによる2剤併用療法の利用者では、急性腎不全発生の増大はみられなかった。補正後発生率比は、利尿薬+NSAIDsは1.02(95%CI:0.81~1.28)、ACE阻害薬またはARB+NSAIDsは0.89(同:0.69~1.15)だった。 一方で、3剤併用療法の利用者では急性腎不全発生の増大がみられた。補正後発生率比は1.31(95%CI:1.12~1.53)だった。 また2次解析の結果、3剤併用療法で最も高率のリスクがみられたのは、使用開始後30日間だった。同期間の補正後発生率比は1.82(95%CI:1.35~2.46)だった(31~60日:1.63、61~90日:1.56、≧90日:1.01。またNSAIDs半減期別では、<12時間:1.29、≧12時間:1.77)。

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ARBの長期使用はがんのリスクを増大させるか?

 アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)の長期使用とがんとの関連については、ランダム化比較試験や観察研究のメタアナリシスで矛盾した結果が報じられており、物議を醸している。 カナダのLaurent Azoulay氏らは、ARBが4つのがん(肺がん、大腸がん、乳がん、前立腺がん)全体のリスク増大に関連するかどうかを判断し、さらにそれぞれのがん種への影響を調べるため、United Kingdom General Practice Research Databaseにおいてコホート内症例対照解析を用いて後ろ向きコホート研究を行った。その結果、ARBの使用は4つのがん全体およびがん種ごとのいずれにおいても、リスクを増大させなかったと報告した。PLoS One 誌オンライン版2012年12月12日号に掲載。 本研究では、1995年(英国において最初のARBであるロサルタンの発売年)から2008年の間に降圧薬を処方された患者コホートを2010年12月31日まで追跡調査した。 症例は、追跡調査中に新たに肺がん、大腸がん、乳がん、前立腺がんと診断された患者とした。ARBの使用と利尿薬やβ遮断薬(両方またはどちらか)の使用とを比較して、条件付きロジスティック回帰分析を行い、がんの調整発生率比(RR)と95%信頼区間(CI)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・コホートには116万5,781人の患者が含まれ、4万1,059人の患者が4つのがん種のうちの1つに診断されていた(554/100,000人年)。・ARBの使用とがんの増加率は、利尿薬やβ遮断薬(両方またはどちらか)の使用と比較し、4つのがん全体(RR:1.00、95%CI:0.96~1.03)、およびがん種ごとのどちらにおいても関連が認められなかった。・アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬(RR:1.13、95%CI:1.06~1.20)とCa拮抗薬(RR:1.19、95%CI:1.12~1.27)の使用が、それぞれ肺がんの増加率と関連していた。 著者は、「ACE阻害薬とCa拮抗薬による肺がんの潜在的なリスクを評価するためにさらなる研究が必要」としている。

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〔CLEAR! ジャーナル四天王(40)〕 RA系抑制薬同士の併用はメリットなく、むしろ有害

レニン-アンジオテンシン(RA)系阻害薬としては、ACE阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)および直接的レニン阻害薬(アリスキレン)があるが、これまでONTARGET試験などで、ACE阻害薬とARBの併用は、ACE阻害薬単独に比べて心血管合併症予防効果が認められず、むしろ有害事象が増加するのみという結果が示されている。今回の結果も、RA系抑制薬同士の併用はメリットがなく、有害であることを明瞭に示した点で意義のある試験である。 このトライアルを企画した意図としては、本試験のプロトコールどおり、すでにACE阻害薬あるいはARBを服用している高血圧または高リスク症例に対して、アリスキレンを上乗せすることで、さらなるメリットが得られる可能性を期待していたと思われる。しかし、本試験の結果は直接的レニン阻害薬の存在意義そのものが危うくなる結果であり、期待は大きく崩れた。 対象例のうち、より高リスクの症例では、より多くの降圧薬に加えて抗血小板薬やスタチン薬が処方されている。しかも、対象症例の試験開始時点の収縮期血圧140mmHg以上は40.8%、拡張期血圧85mmHg以上は12.2%にすぎないということは、血圧管理もかなりなされていることになる。さらに、アリスキレン追加群の血圧下降度について、プラセボ群と比べて群間差が収縮期血圧1.3mmHg/拡張期血圧0.6mmHgということから、追加によってもさらなる降圧が見込めるわけではないことも示した。 むしろRA系同士の併用は、高カリウム血症という危険な有害事象を招く可能性があることを教えてくれた貴重なトライアルである。 やはり降圧薬併用の基本は、降圧機序の異なる薬剤同士を少量ずつ組み合わせことである。 今後、この試験の結果はガイドラインでもきちんと活かされ、かつ保険上でも併用禁忌として記載され広く臨床医に周知されるべきである。

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成人一般健診は罹患率や死亡率を低下させない/BMJ

 一般健康診断は新たな病気の発見数を増加したが、全体的にみても心血管系やがんについてみても、罹患率や死亡率は低下していないことが、デンマーク・ノルディックコクランセンターのLasse T Krogsboll氏らによる、無作為化試験対象のコクラン・システマティックレビューとメタ解析の結果、報告された。一般健診は、罹患率や死亡率を抑制するのに効果的であるとみなされ、リスク因子が抑制されるという共通認識の下および観察結果に基づいて世界各国でヘルスケアの基本として行われてきた。しかし、一方で罹患率と死亡率に関するベネフィットのエビデンスは不足していた。今回の解析でも、一般健診の重大有害転帰に関する影響については研究も報告もされておらずエビデンスは不明のままとなった。BMJ誌2012年11月24日号(オンライン版2012年11月20日号)掲載より。成人の健診受診者と非受診者を対象とした16の無作為化試験をレビュー Krogsboll氏らは、成人の患者関連アウトカム(罹患率と死亡率)に重点を置いた一般健診のベネフィットあるいは害悪を定量化することを目的とした。死亡率は、ランダム効果メタ解析で結果を評価し、他のアウトカムはメタ解析ができないものは質的統合を図った。 解析対象は、疾患やリスク因子に関して偏りのない成人集団を対象とした健診受診者と非受診者を比較した無作為化比較試験とした。健康診断とは、複数臓器の複数疾患やリスク因子をターゲットとして行う一般集団スクリーニングと定義し、高齢者対象のものは除外した。 16試験が選択され、うち14試験から解析可能なアウトカムデータ(参加者18万2,880例)が得られた。効果を検証する大規模長期の研究が必要 全体死亡のデータは9試験から得られた(死亡1万1,940例)。リスク比は0.99(95%信頼区間0.95~1.03)だった。 心血管死亡については8試験から得られ(死亡4,567例)、リスク比は1.03(0.91~1.17)であった。またがん死亡については8試験から得られ(死亡3,663例)、リスク比は1.01(0.92~1.12)だった。これらの分析結果は、サブグループ解析と感受性解析でも変わらなかった。 すべての試験からデータを得られたわけではないが、一般健診について、罹患率、入院、障害、懸念、医師の診察を受けること、仕事を休むことへの有益な影響はみいだせなかった。 また1試験において、受診者群が非受診者群と比べて6年間で、新たな病気の発見が総数で20%多くなり、慢性症状の自己申告数も増加していたことが認められた。別の1試験では、高血圧と脂質異常症の有病率の増加が認められた。 降圧薬服用に関するデータが得られた4試験のうち2試験では、降圧薬の投与の増加がみられた。 さらに4試験中2試験で、一般健診についてわずかに効果はあると自己申告のデータが得られたが、回答にバイアスがかかっている可能性があった。 Krogsboll氏は、「本所見は、医師は健診受診や予防への取り組みを止めるべきであるということを意味しているわけではない。重要なのは、システマティックな健診が効果がなかった理由であり、今後、個々の健診内容(心血管リスク因子や慢性腎臓病のスクリーニングなど)を直接研究することが必要である。本研究では、リスク因子の変化は一般健診の評価の指標には適さないことも示唆された。大規模な長期の追跡研究は不経済かもしれないが、効果がなく有害な一般健診ほど高くはつかないので実施の必要がある」とまとめている。

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激辛!伊賀流心臓塾

第6回「高血圧について 薬剤選択よりも大切なこと」第7回「不整脈知ってたらものすごい楽ですね!」第8回「避けては通れない臨床倫理の肝」 ※第1巻は「激辛!伊賀流心臓塾(第1巻)≪増補改訂版≫」となります。第6回「高血圧について 薬剤選択よりも大切なこと」自覚症状のない高血圧症においては、患者さん自身が治療途中でドロップアウトしてしまうケースが非常に多いのが実状ではないでしょうか。「どのような薬剤を選択するか」も大切ですが、それよりも、「患者さんに治療へのモチベーションを持っていただき、正しく治療を継続してもらうこと」の方が、はるかに重要であると伊賀先生は言います。番組では、薬剤治療だけでなく、高血圧治療に不可欠な減塩や運動療法についても患者自身が納得して治療を継続できるような様々な知恵を紹介していきますその他、二次性高血圧除外のための検査はどこまでするべきか、伊賀流禁煙指導法、白衣高血圧への対処、そして第一選択薬についてなど、皆様の疑問にズバリお答えします。【今回の症例】45歳男性。症状なし。5〜6年前の検診からいつも血圧160〜170/ 100であった。2年前に某総合病院を受診して降圧剤を処方されたが、1ヶ月で服用を自己中止する。今回、昇進試験を控え、会社から再診の指示があり当院を受診。心拍数は70、末梢動脈はすべて触知。その他の特記すべき所見なし。第7回「不整脈知ってたらものすごい楽ですね!」 ひとくちに動悸といっても、速いものから遅いもの、また規則的なものから不規則なものまで様々なタイプのものがあり、それらを患者さんが総称して「動悸」と呼んでいる…ということは、「第0回=イントロダクション」でもお伝えしました。 伊賀先生は、「的確に病歴を聴取することでほとんどの動悸の原因はわかる」と言います。そして、動悸の原因を特定せずに安易に不整脈薬などを処方することは厳に慎むべきとのこと。今回は、プライマリ・ケア医もぜひ知っておくべき動悸や不整脈特に日常よく遭遇する期外収縮、不整脈薬の使い方などについて核心を突いた解説をします。【今回の症例】65歳男性。2〜3年前から時々、特に夜間に「動悸」を感じていた。平地歩行や階段歩行では動悸も息切れもなし。血圧正常で、過剰心音、心雑音なく、胸部X線、心電図、一般採血も正常。第8回「避けては通れない臨床倫理の肝」 6センチ大の腹部大動脈瘤が偶然発見されたとします。純粋に「医学的適応」のみ考えれば手術するのが妥当であり、手術の目的は突然死を予防することです。ただ、手術したからといって日常生活に変化があるわけではなく、逆に手術しないからといって痛みや症状があるわけでもありません。このようなとき主治医は、「医学的な判断のみにとどまらず、患者の死生観や希望、そして家族の希望や経済的因子、生活の質の変化など、さまざまな背景を踏まえた総合的な判断を抜きにして決定をくだすことはできないと伊賀先生は言います。今回は、プライマリ・ケア医にとって避けては通れない臨床倫理をテーマに、その考え方や判断因子の整理の仕方などを学んでいきます。【今回の症例】85歳男性。元来無症状であった。上腹部痛から肝腫瘍疑いでCT検査を施行されたが肝腫瘍ではなく、腎動脈直下から始まる6.0cmの腹部動脈瘤を指摘された。血圧、バイタルサイン等は正常。

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聖路加GENERAL 【内分泌疾患】

第4回「糖尿病の悪化だと思ったら・・・」第5回「ただ風邪といっても」第6回「2次性高血圧を見逃さない ! 」 第4回「糖尿病の悪化だと思ったら・・・」人間ドックにおいて、糖尿病の疑いということで精査を勧められていた68歳の男性。肥満も家族歴もないことから受診していませんでしたが、急な体重減少をきっかけに初めて検査を受けたところ、A1Cが13.7%と、急激に上昇していることが判明。高血糖の要因は、I型II型糖尿病以外にも、膵炎、膵がん、ヘモクロマトーシス、Cushing症候群、先端肥大症、PCOSなどさまざまなものがあります。本症例の患者さんは、急な体重減少もあることから膵臓のCTを撮影したところ、膵がんが発見されました。血糖の悪化が膵がん発見のきっかけになり、膵がんが糖尿病治療のきっかけになったという例を通して、糖尿病の裏に隠れている内分泌系の異常をどのようにして見抜くか、そしてその対応について解説します。第5回「ただ風邪といっても」もともと健康な21歳の女子大生。発熱、咽頭痛など、感染症の症状を呈したため近医で受診しました。数種類の抗菌薬を処方されましたが改善せず、ついには意識低下で救急コール。糖尿病の既往のある78歳の男性。家族が訪ねて行ったら、すでに意識がなく倒れていた。いずれも意識障害が出る危険な状態ですが、その裏には糖尿病がありました。意識障害の鑑別AIUEO tipsから始まって、DKA(糖尿病性ケトアシドーシス)、遷延性の低血糖による意識障害など、難度の高い診断について解説します。第6回「2次性高血圧を見逃さない ! 」最終回は、高血圧の裏に隠れた内分泌疾患を紹介します。10年間高血圧があるも、降圧薬が効かない60歳女性。特に目立った所見はないものの、低Kから原発性アルドステロン症をつきとめました。内分泌性高血圧もさまざまなものがありますが、まずは患者をよく観察することがポイントです。たとえば、「クッシング症候群」ではにきび、肥満、多毛、「アクロメガリー」では大きな鼻顎手足、「腎血管性高血圧」では腎周囲の血管雑音など。その後、症状によって、所定の検査をおこなうことで診断します。ともすれば、見逃して放置されてしまう可能性もある内分泌性高血圧を、具体的な症例を呈示して解説します。

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高血圧はカテーテルで治す時代がくるか?

 ケアネットでは、11月3~7日に開催されたAHA(米国心臓協会)学術集会での注目演題を速報した。その一つとして、同時に4ヵ所を焼灼する「EnligHTNカテーテル」を用いた腎動脈アブレーションのパイロット試験について報じたが、この発表に対する桑島 巌氏(東京都健康長寿医療センター 顧問)のコメントを得たため合わせて掲載する。桑島 巌氏(東京都健康長寿医療センター 顧問)のコメント 腎除神経は治療抵抗性高血圧に対して期待されている治療手技である。すでにドイツ、オーストラリアを中心に5,000例を超える治験が進行しており、今年の欧州心臓病学会や国際高血圧学会でも大きな話題となった。 カテーテルの種類はすでに6社から発売されているが、中でも世界的にはMEDTRONIC社が開発しているSymplicityカテーテルを用いた方法が広く用いられている。その結果についてはSymplicity HTN-1,2が発表されており、米国でも二重盲検法によるSymplicityHTN-3が進行中である。 Symplicityカテーテルはカテーテルを引きながららせん状に4~6ヵ所を焼灼するため、焼灼部位の位置関係の確実性に問題がある。また焼灼ごとに発生する痛みも課題である。今回のパイロット試験で用いられたEnligHTNカテーテルは、血管内で拡張し4ヵ所を同時に焼灼する方法であり、そのことで焼灼部位の位置関係が一定となることや時間短縮のメリットがある。 症例数は46例と多くはないが、降圧効果も期待されたように良好であり、副作用も少ない。夜間血圧に対する効果などが知りたいところである。また、腎除神経は、治療抵抗性高血圧に対しての降圧においては有効であることは間違いがないと思われるが、本当の有用性は脳心血管イベントの抑制が証明されてからということになる。

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速報!! AHA 2012

AHA(米国心臓協会)学術集会が、11月3~7日に開催された。興味深い演題を厳選。速報で伝えます。また、後日、その発表に対し、J-CLEARによる解説を予定しています。発表は、日々の臨床にどのような影響を与えるのか?今後、どのように進展していくのか?演題一覧11月7日発表演題EndOVascular Treatment for Infra-inguinal Vessel, in Patients With Critical Limb Sichemia (olive) Registry in Japan日本における下肢虚血に対する血管内治療の成績発表:OLIVEレジストリRandomized Comparison of the Effects of Two Doses of Dabigatran Etexilate on Clinical Outcomes Over 4.3 Years: Results of the Rely-able Double-blind Randomized Trialダビガトラン長期投与で、脳梗塞リスクと出血リスクはどう変わる?11月6日発表演題LAPLACE-TIMI 57 Primary Results期待の『抗PCSK9抗体』の最大規模第II相試験、報告される -LAPLACE-TIMI57試験-Effect of Cardiac Stem Cells in Patients with Ischemic Cardiomyopathy: Interim Results of the SCIPIO Trial Up to 2 Years After Therapy虚血性心不全に対する初の心筋幹細胞移植、2年目成績が明らかに!-SCIPIO試験-11月5日発表演題Effects of the Cholesteryl Ester Transfer Protein Inhibitor Dalcetrapib in Patients with Recent Acute Coronary SyndromeCETP阻害薬によるHDL-C増加、今度は有用性を示せたか?:dal-OUTCOMESEnligHTN™ I, First-in-man Multi-center Study of a Novel Multi-electrode Renal Denervation Catheter in Patients with Drug-Resistant Hypertension同時複数箇所焼灼カテーテルを用いた腎動脈アブレーションの安全性:降圧効果は?:EnligHTN 111月4日発表演題A Randomized Trial of Bedside Platelet Function Monitoring to Adjust Antiplatelet Therapy Versus Standard of Care in Patients Undergoing Drug Eluting Stent Implantation: The ARCTIC Study待機的ステント留置例におけるVweyfi-Nowによる血小板活性測定の有用性、認められず:ARCTICResults of the Trial to Assess Chelation Therapy心筋梗塞後慢性期に対するキレート療法、有用性を確立するには至らず:TACT

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【速報!AHA2012】同時複数箇所焼灼カテーテルを用いた腎動脈アブレーションの安全性:降圧効果は?:EnligHTN 1

 近年、Symplicityカテーテルを用いた腎動脈アブレーションの、薬物治療抵抗性高血圧に対する著明な降圧作用が報告されている。今回、EnligHTNカテーテルを用いても、同様の有用性を期待できることが明らかになった。パイロットスタディ "EnligHTN I" の結果として、4日のClinical Science: Special RepoertsセッションにてVAメディカルセンター(米国)のVasilious Papademetriou氏が報告した。  EnligHTNカテーテルは血管内で拡張し、血管壁の異なる4カ所を同時にアブレーションできる。このため、Symplicityカテーテルならばプルバックしながら周回性に4回行うアブレーションを、一度で施行できる。また4つのアブレーション部位は位置関係が常に同じとなるので、アブレーションをより正確な位置で行いうるなどの利点があるという。 今回、Papademetriou氏らは、このEnligHTNカテーテルによる腎動脈アブレーションの安全性と降圧作用を、薬物治療抵抗性高血圧で検討した。「薬物治療抵抗性」の定義は、利尿薬併用にもかかわらず、「診療所収縮期高血圧(SBP)≧160mmHg」である。 46例が登録された。診療所血圧は、平均4.1剤の降圧薬服用にもかかわらず176/96mmHgだった。心拍数は71拍/分。また30%に睡眠時無呼吸を認めた。  まず安全性だが、腎動脈アブレーション後6か月間に大きな問題は認めなかった。すなわち周術期に事故はなく、アブレーションに由来する腎動脈狭窄も認めなかった。1例が入院を有する低血圧を来したものの、降圧薬の調節で解決した。腎機能も、糸球体濾過率(eGFR)半減、血清クレアチニン2倍化、末期腎不全移行は認めなかった。ただし有意ではないが、経時的にeGFRは低下、血清クレアチニンは増加していた。  降圧作用については、アブレーション前に176/96mmHgだった診療所血圧から、1か月後には28/10mmHgの有意な低下を認め、3か月後27/10mmHg、6か月後にも26/10mmHgと降圧作用は維持された。一方、24時間平均血圧の低下幅は、1か月後、3か月後とも10/5mmHg、6か月後10/6mmHgと、診療所血圧に比べ降圧幅が小さい傾向にあった。夜間血圧の降圧幅は示されなかった。 指定討論者のRobert Carey氏(バージニア大学:米国)はこの結果を、先行する一連のSimplicity試験とおおむね同じと評し、最終的には臨床転機を評価せねばならないと述べた。取材協力:宇津貴史(医学レポーター)「他の演題はこちら」

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CKD患者の血圧管理:ARBで降圧不十分な場合、増量か?併用か?

 CKD患者の血圧管理においてARB単剤で降圧目標130/80mmHg未満に到達することは難しい。今回、熊本大学の光山氏らは、日本人対象の無作為化比較試験のサブ解析の結果、ARB単剤で降圧不十分時にARBを増量するより、Ca拮抗薬を併用したほうが心血管系イベントや死亡といったリスクを回避しやすいことを示唆した(Kidney International誌オンライン版10月10日号掲載報告)。 ARBを低用量から開始し、通常用量まで増量しても降圧目標に達しないケースでは次にどのような一手を打つべきか? さらに増量する方法のほか、Ca拮抗薬など他の降圧薬の追加も選択肢となる(『CKD治療ガイド2012』では尿蛋白を伴わず、糖尿病を合併していない場合は「降圧薬の種類を問わない」とされている)。 サブ解析は、無作為化オープン試験OlmeSartan and Calcium Antagonists Randomized(OSCAR)試験について行われた。OSCAR試験では心血管疾患もしくは2型糖尿病を1つ以上有する日本人の高齢者(65~85歳)高血圧患者1,164例を対象とし、ARB増量群(オルメサルタン40mg/日)あるいはARB+Ca拮抗薬併用群(オルメサルタン20mg/日+Ca拮抗薬)に無作為化された。今回のサブグループ解析の対象は、事前に設定されていたCKD患者(eGFR 60 mL/min/1.73 m2 未満)である。 主要評価項目は「心血管系イベント」および「非心血管疾患死」。心血管系イベントは「脳血管障害」「冠動脈疾患」「心不全」「その他動脈硬化性疾患」「糖尿病性合併症」「腎機能の悪化」と定義された。なお、本試験については、すでに2009年に小川氏(熊本大学)らによって主要結果が発表されている(Hypertens Res. 2009;32:575-580.)。 主な結果は下記のとおり。・血圧は併用群で増量群に比べ、有意に低下。・主要評価項目の発生率は併用群(16例)で増量群(30例)より少なかった(ハザード比 2.25)。・脳血管障害および心不全イベントが増量群でより多く発生した。

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〔CLEAR! ジャーナル四天王(29)〕 抗血栓薬やスタチン薬時代においてβ遮断薬の有用性は証明されず

心筋梗塞後の症例に対するβ遮断薬処方は、すでに標準治療として定着している。これは多数のエビデンスに基づいているが、その多くはすでに10年以上以前のものである。はたして、今日のようにPCIが一般的になり、かつスタチン薬や抗血小板薬治療などが普及した今日においてもなお、β遮断薬の有用性はあるのであろうか。またβ遮断薬は、冠動脈疾患症例や高リスク症例に対しても有用と思われがちだが、その有用性は必ずしも証明されている訳ではない。それが本論文におけるメタ解析のアンチテーゼである。 たしかに上記の問題点は臨床上非常に重要であり、興味のあるところである。 本研究は、国際的な観察研究REACH登録での後ろ向き解析である。その結果は予想に反して、心筋梗塞後症例、心筋梗塞を有しない冠動脈疾患および高リスク症例のいずれにおいても、β遮断薬治療群の心血管系予後は非使用群と差がないことを示した。 この結果は、以下のような見方ができる。つまり、現代では一般的になった抗血栓薬や高脂血症治療の普及が大きくイベント発症を抑制し、また、降圧薬も広く普及したためにβ遮断薬の相対的有用性は減少したということである。 ただし、本試験には大きなリミテーションがあることも事実である。後ろ向き解析において、さまざまな交絡因子の影響を調整する、近年頻用されるPropensity scoreという手法が用いられているが、β遮断薬の種類や用量、そしてその既往など、調整しきれない部分も存在していることも考慮する必要があるだろう。また、対象となった症例の年齢層が70歳という高齢者であることも、β遮断薬の効果を発揮させにくくしている要因であるかもしれない。 よって、本試験の結果をもって実臨床に応用するには時期尚早であり、冠動脈疾患に対するβ遮断薬の適応は、個々の病態をみながら判断するべきである。

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〔CLEAR! ジャーナル四天王(25)〕 糖尿病患者の降圧目標値:エビデンスの質を見極める

糖尿病患者における降圧目標値に関しての議論が盛んになっている。 わが国のガイドラインでは、糖尿病患者の降圧目標は130/80mmHgと厳格な降圧を推奨している。その根拠となったトライアルはUKPDS試験とHOT試験であるが、前者では厳格治療群とはいっても144/82mmHgであり、後者のHOT試験ではサブ解析で拡張期血圧が80mmHgまでの降圧達成群が85mmHg群や90mmHg群よりも心血管イベントが少なかったというものである。ガイドラインで示すような130/80mmHgという低いレベルがイベントを抑制するというエビデンスはなく、上記の2つのトライアル結果を演繹したにすぎない。 一方、2年前に発表されたACCORD試験は、収縮期血圧<140mmHgの緩和降圧群と<120mmHgの厳格降圧群との間で心血管イベント発症に有意差は認めず、糖尿病患者に対する積極的降圧に疑義をなげかけた最初のトライアルとなった。 しかし、本試験では致死的および非致死的脳卒中に関しては、積極的降圧群の方が予防効果は有意に優れるという結果も示しており、むしろ脳卒中の多い日本人では、積極的降圧を推奨したガイドラインを支持する解釈も可能であった。 今回のretrospective cohort研究は2型糖尿病患者では、厳格な降圧、収縮期血圧<130/80mmHg群は収縮期血圧が130~139mmHgの群に比べて死亡率の減少を示さなかったというものである。さらに110mmHg以下の降圧群では死亡率は有意に上昇するという結果を示した。 本試験の問題点は多い。まずretrospective研究の常として試験開始時の症例の臨床的背景が一律ではない可能性があること。心血管死ではなく総死亡をアウトカムとしており、死因の分析までできていないこと。そして、これもcohort研究の常として因果の逆転の可能性があること。すなわち血圧が低いから死亡したのではなく、心機能が低下したような症例が早期に死亡した可能性があること。そして何よりも、収縮期血圧が160mmHg以上の群ですら死亡率の上昇が認められていないことである。つまり、糖尿病患者の死亡率は血圧がかなり高くても増加しないという読み方ができるのである。 このような結果が出た背景には、糖尿病患者の大部分がスタチン薬や抗血小板薬など心血管予防薬を服用しているために、本当の意味での心血管合併症発症あるいは心血管死と血圧レベルとの関連が評価しにくくなっていると考えられる。多くのlimitationを含有する本試験の結果は、わが国のガイドラインを変更する根拠とはならない。

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2型糖尿病患者に対する厳格な降圧、全死因死亡のリスクを低下させない

 新規診断2型糖尿病患者に対する厳格な降圧(<130/80mmHg)は、心血管疾患合併の有無にかかわらず全死因死亡のリスクを低下させず、低血圧は不良な予後のリスクを増大させることが、英国・インペリアル・カレッジ・ロンドンのEszter Panna Vamos氏らの検討で確認された。欧米のガイドラインでは、心血管疾患のリスクが高い患者の血圧は<130/85mmHgに維持することが推奨されている。一方、糖尿病患者における正常血圧の維持が、心血管リスクにベネフィットをもたらすことを示す信頼性の高いエビデンスはなく、積極的な降圧の有害性を示唆する知見もあるという。BMJ誌2012年9月22日号(オンライン版8月30日号)掲載の報告。全死因死亡に及ぼす血圧の影響を後ろ向きコホート試験で評価研究グループは、新規に診断された2型糖尿病患者において血圧が全死因死亡に及ぼす影響を評価するために、レトロスペクティブなコホート試験を行った。1990~2005年にUnited Kingdom General Practice Research Databaseに登録された治療期間1年以上の新規診断2型糖尿病患者(18歳以上)12万6,092例を対象とした。“the lower the better”の指針は適用されない可能性が2型糖尿病の診断時に、1万2,379例(9.8%)が心血管疾患(心筋梗塞、脳卒中)を合併していた。フォローアップ期間中央値3.5年の時点における全体の死亡率は20.2%(2万5,495例)で、心血管疾患合併患者の死亡率は28.6%(3,535例)、非合併患者は19.3%(2万1,960例)だった。心血管疾患合併糖尿病患者に対する厳格な降圧(<130/80mmHg)は、ベースラインの背景因子(診断時年齢、性別、BMI、喫煙状況、HbA1c、コレステロール値、血圧など)で調整すると生存を改善しなかった。低血圧は全死因死亡のリスクを増大させた。すなわち、収縮期血圧を130~139mmHgでコントロールされた患者に比べ、110mmHgで維持された患者の全死因死亡のハザード比(HR)は2.79(95%信頼区間[CI]:1.74~4.48、p<0.001)であった。また、拡張期血圧を80~84mmHgでコントロールされた患者に比し、70~74mmHgに維持された患者のHRは1.32(95%CI:1.02~1.78、p=0.04)、70mmHg未満に維持された患者のHRは1.89(95%CI:1.40~2.56、p<0.001)と、やはり有意な差を認めた。同様の関連が、心血管疾患を合併していない2型糖尿病患者にもみられた。ベースライン時に高血圧と診断され、降圧治療を受けている患者においても同様の関連を認めた。著者は、「新規診断2型糖尿病患者に対する<130/80mmHgの降圧治療は、心血管疾患合併の有無にかかわらず、全死因死亡のリスクを低下させなかった。低血圧(とくに、<110/75mmHg)は不良な予後のリスクを増大させた」と結論し、「これらの知見により、高リスク患者の血圧コントロールでは“the lower the better”の指針は適用されない可能性が示唆される。現時点では、糖尿病患者における<130/80mmHgの降圧治療を支持する頑健なエビデンスが存在しないため、血圧を130~139/80~85mmHgにコントロールしつつ、他の治療法やライフスタイル介入を併用するアプローチが、糖尿病患者の心血管疾患アウトカムの改善につながると考えられる」と指摘する。

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普段見えない患者さんの実態がここに!高血圧患者調査2012 CONTENTS

1.調査目的と方法本調査の目的は、高血圧症患者において治療に対する意識を調べ、その実態を把握することである。2012年8月31日~9月4日に、高血圧症で「定期的に医療機関に通院している」500名を対象にオンラインにて実施した。2.結果1)回答患者の背景回答患者500人の性別は、男性が414名(82.8%)に対して女性が86名(17.2%)。年齢は50歳未満が122名(24.4%)、50歳代が215名(43.0%)、60歳以上が163名(32.6%)。不眠症を自覚している患者さんは500名のうち100名(20.0%)(表1)。表1画像を拡大する減塩意識がある患者さんは242名(48.4%)、1週間に1回以上の家庭血圧測定習慣がある患者さんは266名(53.2%)(表2)。表2画像を拡大する家庭血圧をより重視する患者さんが159名(31.8%)いる一方で、診察室血圧をより重視する患者さんが144名(28.8%)、どちらとも言えないと回答した患者さんも174名(34.8%)いた。降圧目標値は、最も多いのが130mmHgで282名(56.4%)。聞いたと思うが忘れたと回答した患者さんも143名(28.6%)いた(表3)。表3画像を拡大する2)高血圧患者調査結果高血圧患者の診察室血圧と家庭血圧から見た血圧コントロール状況回答者の血圧コントロール状況を「家庭収縮期血圧135mmHg」、「診察室収縮期血圧140mmHg」で区切り、4区分に分類した。家庭血圧135mmHg以上かつ診察室血圧140mmHg以上の「高血圧」が18.4%、家庭血圧135mmHg以上かつ診察室血圧140mmHg未満の「仮面高血圧」が24.0%、家庭血圧135mmHg未満かつ診察室血圧140mmHg以上の「白衣高血圧」が7.9%、家庭血圧135mmHg未満かつ診察室血圧140mmHg未満の「正常血圧」が49.7%という結果が得られた(図1)。図1画像を拡大する減塩意識が血圧コントロール状況に及ぼす影響「減塩を心がけている」高血圧患者では血圧コントロール良好者の割合が52.3%であり、「減塩を心がけていない」または「どちらとも言えない」患者さんの47.1%より血圧コントロール良好者の割合が高かった(図2)。図2画像を拡大する家庭血圧測定習慣が血圧コントロール状況に及ぼす影響「家庭血圧測定習慣がある」高血圧患者では血圧コントロール良好者の割合が53.8%であり、「家庭血圧測定習慣がない」患者さんの43.5%より血圧コントロール良好者の割合が高かった(図3)。図3画像を拡大する家庭血圧測定値の重視度が血圧コントロール状況に及ぼす影響「家庭血圧測定値をより重要と考えている」患者さんの54.2%が血圧コントロール良好であったのに対し、重要視していない患者さんでは血圧コントロールが良好者の割合は47.4%にとどまった(図4)。図4画像を拡大する不眠症が血圧コントロール状況に及ぼす影響高血圧患者の血圧コントロール状況を不眠症の有無別でみると、不眠症がある患者さんでは血圧コントロール良好者の割合が44.4%と低き、「不眠症なし」「どちらとも言えない」を選択した患者さんより血圧コントロールは不良であった(図5)。図5画像を拡大する血圧コントロール状況(降圧目標認識別)「降圧目標を覚えている」患者さんの中で血圧コントロール良好者の割合は47.5%、一方「覚えていない」患者さんにおける割合は48.0%とほぼ変わらない(図6)。図6画像を拡大する家庭血圧測定習慣と減塩意識の関係「家庭血圧測定習慣のある」患者さんでは「減塩を心がけている」割合が56.0%。一方、「習慣のない」患者さんでは39.9%と約16%の開きがあり、「家庭血圧測定習慣のある」患者さんは減塩意識が高いことがうかがえる(図7)。図7画像を拡大する3)医師と患者さんのギャップ前述の患者調査とは別に、高血圧症患者を診療している全国の医師600人を対象に、CareNet.comにて、アンケート調査への協力を依頼し、2012年9月4日~9月11日に得られた結果を患者調査の結果と比較した。重要視する血圧(患者と医師の比較)より重要視する血圧を医師と患者さんに尋ねたところ、「家庭血圧」と答えた割合が医師では80.2%であるのに対し、患者さんでは31.8%と半分以下であった。「診察室血圧」を選択した患者さんが28.8%、「どちらとも言えない」を選択した患者さんが34.8%という結果からも、医師自身は家庭血圧値の重要性を認識しているが、必ずしもそれが患者さんに十分に伝わっていないことがうかがえる(図8)。図8画像を拡大する苅尾 七臣氏(自治医科大学 内科学講座 循環器内科 主任教授)のコメント今回の調査で、高血圧患者の約30%が、さらに高血圧を診療している医師の約80%が、家庭血圧を重要視しているのを見て安心した。実際に、我々が約10年前に実施したJ-MORE研究では、診察室血圧が140/90mmHg未満の患者さんのうち、50%以上が家庭血圧のコントロールが135/85mmHgを超えている仮面高血圧であったが、インターネット調査の特性上、若年者が多く、比較的真面目な方が回答しているなどその限界はあるものの、今回の調査ではその頻度は1/3程度にとどまっている。この10年間で、医療現場では、かなり家庭血圧重視の高血圧診療が浸透し、実際に家庭血圧のコントロールが良好になってきたと推測される。また、家庭血圧測定習慣がある患者さんでは減塩意識が高いことより、家庭血圧測定は、医師任せにせず、生活習慣の改善に自己責任を持たせる第一歩と位置付けられる。いわゆる、「バイオフィードバック」がかかっていると言える。現在、「高血圧治療学会ガイドライン(JSH2014)」の作成が始まっているが、その中でも家庭血圧重視の高血圧診療はますます強調されることになるであろう。インデックスページへ戻る

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エキスパートに聞く!「高血圧」Q&A

CareNet.comでは9月の高血圧特集企画を行う中で、会員の先生より「高血圧」に関する質問を募集しました。その中から、特に多くいただいた質問に対し、下澤達雄先生にご回答いただきます。家庭血圧を用いる際の留意点について教えてください。昨年8月に発表された英国の高血圧ガイドラインでは、24時間血圧あるいは家庭血圧を高血圧の確定診断ならびに降圧治療の効果判定に用いることが強く推奨されました。わが国でも家庭血圧測定の指針が高血圧学会より出されており、実臨床でも多くの先生がお使いになっていることが、今回たくさんのご質問をいただいたことからも推察されます。そこで、家庭血圧を用いる際の留意点をいくつか挙げたいと思います。1.信頼性機械そのものの信頼性は診察室で同時に用手法と比較することで確認することができますが、血圧手帳を用いた自己申告による血圧値は必ずしも信頼できません。高知県で行われた調査では実測値と自己申告値には開きがあり、患者は低めに申告することが報告されています。よって、家庭血圧が低い場合でも臓器障害がある場合にはとくに診察室血圧を参考にした降圧治療が必要となります。あるいはメモリー機能をもった家庭血圧計を用い、実測値を医療側が把握できるようにする工夫が必要です。2.家庭血圧の測定方法血圧は複数回測れば必ず異なった値を示します。一般的には数回測ると徐々に低い値となります。高血圧学会の家庭血圧の指針では1日1回でよいと書かれていますが、これはまず患者に家庭血圧を測定させるために簡便な最低限の方法が記載されていると理解しています。すでに家庭血圧を日常的に測定できる患者においては複数回測定し、一番高い値と一番低い値、あるいは平均値を記載してもらうのがいいかと思います。測定時間は服薬直前が望ましいですが、日常生活にあわせてほぼ同じタイミングで測定できる時間を指導しています。3.夜間血圧を反映するか?何がわかるのか?残念ながら夜間血圧は夜間に測定する必要があり、家庭血圧では知ることができません。正しく測定でき、正直に申告された家庭血圧で白衣性高血圧、仮面高血圧がわかることはもちろんですが、曜日による血圧変動(週末ストレスがない場合に血圧が下がる)や睡眠状態との関連を知ることもできます。4.診察室血圧との乖離前述のように白衣性高血圧、仮面高血圧と診断されますが、臓器障害がある場合は高いほうの血圧を目安に治療を行うべきです。血圧変動について教えてください。外来診察毎の血圧変動が大きいと脳血管イベントが多くなることが報告されました。以来、糖尿病の際の血糖の変動が臓器障害と関連づけられています。動物実験でも交感神経を切除して血圧変動を大きくすると、レニン・アンジオテンシン系が亢進して臓器障害が進行することが報告されています。ヒトにおいては長期にわたる一拍ごとの血圧変動をみることは困難であり確立したエビデンスはありませんが、血圧変動は少なくする方が望ましいでしょう。血圧変動が大きい原因として自律神経障害、褐色細胞腫のような器質的な異常のほかに服薬アドヒアランス不良、精神的ストレス、不眠(睡眠時無呼吸)といった要因もあり、医師のみならず看護師、薬剤師などからの患者の病歴、生活歴聴取が必要となります。服薬は管理されているにもかかわらず認知症患者ではとくに血圧変動が大きいことが問題になりますが、多くの場合は多発性脳梗塞を合併している例です。転倒のリスクがなければ認知症の進行、脳梗塞の再発予防を考えて血圧は低い値にコントロールしたいところです。実際には服薬数を増やせないなどの制限があり、合剤を積極的に使ってのコントロールとなります。食塩感受性について教えてください。塩分摂取により血圧が上昇する食塩感受性患者は、上昇しない非感受性患者にくらべ血圧値が同等でも心血管イベントが多いことから、食塩感受性の診断についての質問を多くいただきました。しかし、食塩感受性を診断するには現在のところ入院にて食塩負荷、減塩食を食べさせ、その間の血圧を測定することのほかには確実な方法はないのが現状です。実臨床においては早朝第二尿のナトリウムとクレアチニンを測定することで食塩摂取量を知ることができる(「日本高血圧学会減塩ワーキンググループ報告」日本高血圧学会より入手可能)ので塩分摂取量が多い患者について経時的に観察したり減塩指導の動機付けとして用いることもできます。あるいはサイアザイド系利尿薬に対する血圧反応性も食塩感受性を知る一つの方法です。効果的な減塩指導について教えてください。日本の食文化はみそ、塩、しょうゆの上に成り立っているので、減塩指導はともすれば日本の食文化を否定することにもなりかねません。しかし、現在の一般的食生活を見てみると加工食品がふんだんに使われており、この点を改善指導することで減塩は可能となります。たとえばソーセージ100gに塩は約2g、プロセスチーズでは約3g含まれており、こういった加工食品を減らすことを指導できるでしょう。また、加齢に伴い味覚は低下するため減塩が難しくなります。そこはワサビ、生姜、茗荷、唐辛子、胡椒といったスパイスをうまく使うように指導します。そして、食卓に出された食材に塩、しょうゆを追加でかけないよう、食卓には塩、しょうゆを置かないなどの細かな指導が必要となります。男性患者の場合、食事を実際に作る配偶者への指導も重要で、医師だけでなく看護師、栄養士、薬剤師、検査技師、保健婦など患者に関わるすべての医療従事者の協力体制が有効です。塩分過剰摂取は血圧上昇のみならず血圧が上昇しない場合でも酸化ストレスを増加させ耐糖能異常につながることが動物実験では示されており、摂取量を6g/日程度まで下げることは高血圧の有無にかかわらず有用であると思われます。降圧薬の減量、中止方法について教えてください。血圧のコントロールが良好で、臓器障害がないような場合、また尿中ナトリウムも低めの場合は降圧薬を中止できることもあります。その場合、4~5月位に中止し、夏の暑い間を経過観察し、10~11月から冬の寒い間に血圧が再上昇しないことを確認します。その後も家庭血圧で血圧を経過観察し、年に一回の臓器障害の進展のチェックを行います。多剤併用しており血圧が良好なコントロールの場合、薬剤の減量が可能です。長期にβ遮断薬を使っている場合は心筋虚血のリスクがあるのでβ遮断薬は漸減します。便秘、浮腫、歯肉腫脹、起立性低血圧がある場合はカルシウム拮抗薬の副作用の可能性もあるためカルシウム拮抗薬から減量します。昨今の酷暑ではとくに高齢者や腎機能低下例においては、レニン・アンジオテンシン系抑制剤や利尿薬の減量が必要となる例があります。早朝高血圧の対処方法について教えてください。家庭血圧を測定あるいは24時間血圧にて早朝高血圧が明らかになった場合、最近の研究では夜間高血圧ほどのリスクはないとの報告もありますが、降圧薬の服用時間を調整することでコントロール可能となることがあります。レニン・アンジオテンシン系阻害薬は夕方服用に適した薬剤といえます。ただし、夜間の過度の降圧に注意して少量より開始するのが好ましいでしょう。α遮断薬も有効とする報告もありますが、α遮断薬自体の臓器保護効果が疑問視されており、α遮断薬を追加投与するよりは現在服用しているレニン・アンジオテンシン系阻害薬の服用時間をずらすことが適切と考えます。難治性高血圧の対処方法について教えてください。異なる三系統の降圧薬を十分量を内服しても血圧のコントロールがつかない場合、難治性高血圧と呼ばれます。このような例では服薬アドヒアランス、二次性高血圧の再評価、睡眠時無呼吸の評価をまず行います。服薬アドヒアランスが不良の場合は合剤を用いること、服薬の必要性を再教育すること、服薬想起の道具(ピルボックスなど)が有効といわれており、医師だけでなく薬剤師、看護師、保健婦の協力が必要となります。すでに薬剤を服用している場合、ホルモン検査は薬剤の影響を受けるので評価が難しくなります。実臨床では副腎のCTを先行させてもいいと思います。あるいは十分量の抗アルドステロン薬(スピロノラクトンで75~100mg)を投与し治療的診断を行うことも有用です。腎血管性高血圧についてはMR angiographyが有用でしょう。以上のような精査で問題がない場合、中枢性の降圧薬(レセルピン)を少量朝1回追加することが有用である例を経験しています。あるいはジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬をかんきつ類と一緒に服用させる、あるいはヘルベッサーと併用しジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬の血中濃度を高めることも有用でしょう。白衣性高血圧の対処方法について教えてください。イギリスのガイドラインでは診察室血圧と24時間血圧、あるいは家庭血圧を用いて高血圧の診断を行い、臓器障害がない場合は白衣性高血圧は薬物介入をせずに年に1回の経過観察をするとしています。24時間血圧を用いて病院来院時のみ高血圧でその他の日常生活の中では全くの正常血圧であり、アルブミン尿も含め臓器障害が認められず、糖尿病などのリスク因子がない場合は薬物介入は必要ないと考えます。しかし、経過観察は必要で、患者には日常生活の中で突然の来客などストレスがかかると血圧が上がっている可能性を話し、徐々に臓器障害が出てくる可能性を説明する必要があるでしょう。白衣性高血圧で患者が薬物介入を希望する場合、抗不安薬も有効です。また、臓器障害がある場合はJSH2009に則って合併する臓器障害に応じて薬物を選択します。その際、心拍数が上昇するといった副作用のない薬物をまず選択します。拡張期血圧の対処方法について教えてください。収縮期血圧が大動脈のコンプライアンスと心拍出量で規定されるのに対し、拡張期血圧は全身の末梢血管抵抗と心拍出量で規定されます。よって高齢者で大血管の硬化が明らかになると収縮期血圧が上昇し脈圧が増大します。心臓の仕事量は収縮期血圧と心拍数の積に比例するため、収縮期血圧が高くなると心筋酸素消費量が増え、心虚血と心不全のリスクが増えます。一方冠動脈は拡張期に灌流されるので、拡張期血圧を下げすぎると、冠血流が低下する危険があります。実際、大規模臨床試験をみても拡張期血圧と心血管イベントにはJカーブに近い現象が認められます。拡張期のみ高い例は若年者に多く認められますが、治療の第一歩は減塩にあります。また個人的経験ですが、10年ほど前にARBが発売された当初、カルシウム拮抗薬やACE阻害薬にくらべ拡張期血圧がよく下がる印象がありましたが、統計的処理はされていません。また当時は利尿薬の使用頻度が低かったというバイアスもあります。現状では拡張期血圧のみを下げるための有効な治療法は生活習慣の改善のほかには確立されていないといえます。合剤の有用性について教えてください。いかなる服薬介入治療もその効果は服薬アドヒアランスに依存することは明白です。それゆえ、われわれは服薬アドヒアランスをよくする努力は惜しむべきではありません。アドヒアランスに関わる因子は複数ありますが、処方する立場として最も簡便にできることは服薬数を減らすことであり、その点において合剤はきわめて有効といえます。現在降圧薬に限らずぜんそく薬、糖尿病薬、高脂血症薬の合剤が日本でも使用可能ですが、海外の現状をみるとまだまだ立ち遅れています。私は実臨床の中で合剤の併用も行いARBの最大容量を合剤として処方し、3種の薬剤を2錠ですませ、患者の経済的負担も軽減するよう努力しています。

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高血圧白書2012

株式会社ケアネットでは、このほど「高血圧白書2012」をまとめた。本調査は、高血圧症患者を1ヵ月に10人以上診察している医師を対象に、2012年6月にインターネット調査を実施し、その回答をまとめたものである。以下、(1)調査方法(2)医師背景(3)薬物治療開始血圧/降圧目標の推移(4)降圧薬の選択―などを中心に、「高血圧白書2012」の概要をこれまで9回の一連のトラッキング調査の結果からの推移として紹介する。CONTENTS1.調査目的と方法2.結果1)回答医師の背景2)薬物治療開始血圧/降圧目標の推移3)降圧薬の選択

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