サイト内検索

検索結果 合計:300件 表示位置:1 - 20

1.

新型インプラントで人工股関節の脱臼リスクが約7割低減

 慢性的な股関節痛に悩まされている患者にとって、人工股関節全置換術は生活の質(QOL)を大きく改善する可能性がある。しかし、術後は新しい股関節が脱臼しないよう、日常生活動作に注意を払う必要がある。こうした中、新たな研究で、より優れた設計の人工股関節インプラントによって、股関節脱臼のリスクを約7割低減できることが明らかになった。ウプサラ大学病院(スウェーデン)の整形外科医であるNils Hailer氏らによるこの研究結果は、7月2日付で「The Lancet」に掲載された。 研究グループによると、大腿骨近位部骨折に対する人工股関節全置換術後に生じる最も多い手術関連合併症は脱臼で、6~10%の患者に生じる。そのため、術後の回復期には脚を組むことや床の物を拾うこと、体をひねる動作を避けるよう指導される。Hailer氏は、「人工股関節の脱臼は極めて強い痛みを伴う。脱臼が起きた場合は、鎮静処置を施した上で関節を整復する必要があり、場合によっては追加手術が必要となる。一度脱臼すると、患者は人工股関節の機能を信頼できなくなることがあるため、QOLが低下する」と説明している。 この問題を改善するために開発されたのが、デュアルモビリティ(二重可動)型インプラントである。一般的な人工股関節では、大腿骨側に取り付けられた金属製やセラミック製の骨頭が、股関節側に固定された金属製カップの内側にはめ込まれたライナー内で可動する構造となっている。これに対し、デュアルモビリティ型では、人工骨頭をより大きなポリエチレン製ライナーで包み込む構造を採用し、人工骨頭とライナーの間、およびライナーと股関節側の金属製カップの間の2つの関節面で可動することで可動域を広げ、脱臼しにくくしている。研究グループは、「デュアルモビリティ型インプラントでは、脱臼が生じるまでの関節可動域を拡大することで人工股関節の安定性を高める」と説明している。なお、デュアルモビリティの概念は1970年代にフランスで開発されたが、米国で導入が進み始めたのは比較的最近であるという。 研究では、スウェーデンまたは英国で大腿骨近位部骨折を起こした65歳以上の患者1,600人(女性64%)を対象に、標準的な人工股関節全置換術を受ける群と、デュアルモビリティ型インプラントによる人工股関節全置換術を受ける群にランダムに割り付けた。その結果、手術から1年後までに股関節脱臼を起こした割合は、デュアルモビリティ型インプラント群で1.3%であったのに対し、標準インプラント群では4.2%であった。これは、デュアルモビリティ型インプラント群で脱臼リスクが73%低下したことを意味する(調整ハザード比0.27、95%信頼区間0.13~0.56、p<0.0001)。また、デュアルモビリティ群では手術関連合併症の発生リスクも低かった。 Hailer氏らは、「デュアルモビリティ型インプラントは標準型より高価であるものの、脱臼や合併症の減少により初期費用の増加分を相殺できる可能性がある」と指摘している。同氏らは、現在、その費用対効果について詳細な経済評価を進めているという。 論文の共著者である英ロンドン大学クイーン・メアリー校のXavier Griffin氏は、「重要なのは、このデュアルモビリティ型インプラントが新たな技術や特別な訓練を必要としない点だ。外科医はすでに両方のインプラントに精通しているため、現在の診療体制のままでただちに導入できる」と述べている。

2.

緩和ケアでパニック症状を見逃さない【非専門医のための緩和ケアTips】第128回

緩和ケアでパニック症状を見逃さない進行がん患者が突然の不安と息苦しさを訴え、「このまま死ぬのではないか」と取り乱す……、緩和ケアの現場では時々経験することです。医療者としては難しい対応を迫られ、緊急性も高いので、私の経験を共有したいと思います。今日の質問先日、訪問診療をしていた肺がん患者さんなのですが、呼吸困難が強くなり、パニック発作のような様子になってしまいました。在宅での対応が困難と判断し、もともと通院していた基幹病院に救急搬送としました。緩和ケアでもパニック発作の対応はあるのでしょうか?前提として、私自身は精神科的なパニック発作の診断には習熟していません。精神科的な診断および治療としての厳密さを欠いた部分もあるかと思いますが、その点をご了承ください。今回は緩和ケアの現場で遭遇する、患者がパニック発作様の苦痛を訴える状況を、便宜的に「パニック発作」として扱います。救急診療でしばしば遭遇するパニック発作では、身体的に重篤な疾患はない患者が多いでしょう。そのため、患者が「このまま死ぬのでは」と取り乱していても、「命に関わる状況ではないので、安心してください。呼吸を整えることで苦しさも和らぎますよ」といった声掛けをして対応すると思います。ただし、緩和ケアの臨床で遭遇するパニック発作は救急搬送におけるパニック発作とは明確に異なります。なぜなら、緩和ケアを提供している時点で身体症状の原因となる身体疾患があるからです。そう考えると、救急で遭遇する典型的なパニック発作と同じ対応のみで済ませるのは危険です。実際に病状が悪化したり、新たな病態が生じたり、症状が悪化したりすることが契機となって起こったパニック発作の可能性が高いためです。緩和ケアにおいてパニック発作を来しやすい状況としては、気道閉塞やがん性リンパ管症など、急に悪化する呼吸困難が生じるものが挙げられます。こうした病態は致命的となることがあり、症状の程度によっては緩和的鎮静を検討することもあります。声掛けやオピオイドの調整だけでは症状が和らがない可能性があることを理解しておきましょう。急激な病状悪化や、時間単位で死亡が予測されるような状況であれば緩和的鎮静の対応になることが多いでしょうが、もう少し軽い症状でもパニック発作を経験する場合があります。たとえば、慢性的な呼吸困難がある中で、体動時の呼吸困難が強いときにはパニック発作のように恐怖感が強くなってしまう、といったイメージです。そうした場合は、予防と発作時の対応法の準備が有効です。予防に関しては、患者と家族に対して「呼吸困難は恐怖感も強くなるので、パニックのようになりやすい症状である」と疾病理解を促し、具体的に対応法を打ち合わせます。たとえば、「呼吸困難が強くなりにくい立ち上がり動作」など、日常生活の中での工夫を指導します。状況に応じて、抗不安作用を有するベンゾジアゼピン系薬を頓用または定期投与で使用することもあります。SSRIなどの抗うつ薬の適応については、必要に応じて精神科専門医への相談を検討します。対応策を多く準備しておくこと自体が患者の安心感につながるため、薬剤とそれ以外の非薬物的なアプローチを関係者と一緒に検討します。今日のTips今日のTips緩和ケアにおけるパニック様症状では、精神症状への対応だけでなく、身体症状の悪化や新たな病態も評価することが大切です。

3.

最適な輸液ルート選択の考え方 その参【ケースで学ぶ輸液オーダー】第4回

はじめに「点滴ラインを何度も自己抜去してしまう認知症の患者さん」「その都度ルート再確保に奔走する看護師」「内心心苦しさを感じながら点滴を指示する医師」は、病棟「あるある」な光景でしょう。しかし、たとえ1日500mLの維持輸液だけだったとしても、必要な治療であればやめるわけにはいきません。そんなとき、全員をwin-winの関係にしてくれるのが、古くて新しい存在の「皮下輸液」です。症例特別養護老人ホームから誤嚥性肺炎で入院した90代女性。総合診療科に配属されたばかりの研修医A君が担当になりました。施設では普通食だったとのことですが、いざ服薬してみると明らかにむせています。言語聴覚士(ST)が介入し、嚥下訓練をしながら少しずつ嚥下調整食を試すことになりました。段階的にカロリーを上げていく間、どうしても経口以外からの水分補給が必要です。とはいえ、経鼻胃管の留置は自己抜去のリスクが高すぎます。そこでA君は、末梢静脈路から維持輸液500mLを1日2時間ほどかけて、まずは1週間行う計画を立てました。しかし、患者さんの末梢血管は細くて見えにくく脆弱です。看護師がなんとか確保したルートは、あえなく2日連続で自己抜去されてしまいました。「もう刺せる血管がありません」と看護師に詰められるA君。中心静脈カテーテルを留置するなら自己抜去対策に身体拘束が避けられない状況です。ほかに優しくて安全な方法はないのでしょうか?考えかたの整理19世紀中頃に登場した古典的治療法である皮下輸液は、経静脈栄養の発展・普及により廃れかかっていました。しかし近年では、高齢者の脱水治療や終末期ケアにおける「低侵襲で安全なルート」として見直されています。「血管が見つからなくて針が刺せない」「どうしても点滴を抜いてしまう」という場面において、皮下輸液は重篤な合併症がほとんどない、極めて安全な選択肢です。緩和ケア領域では、持続注入ポンプを用いた鎮痛薬の持続皮下注射も普及しています。『終末期がん患者の輸液療法に関するガイドライン 2013年版1)』『症状緩和のためのできる!使える!皮下投与 改訂2版2)』を参考に、皮下輸液の方法、注意点、皮下投与可能な薬剤例(表1)をまとめてみました。皮下輸液の方法投与速度60~500mL/時間1日投与量1,500mLまで(2ヵ所の場合は3,000mLまで)管理1~4日ごとの針・チューブ交換と、刺入部の観察(浮腫、発赤、痛み、感染、液漏れがないか)注意点静脈と違って効果発現までに時間がかかる。浮腫がある場所は吸収されにくいため穿刺に向かない。皮膚障害が起こることがある。出血傾向がある患者さんには禁忌。表1 皮下投与可能な薬剤例1,2)※添付文書上、皮下投与が可能なもの。その他は文献や経験的使用に基づく。画像を拡大するベテラン看護師に聞きました<皮下輸液の実際>当院で高齢者の皮下輸液を日常的に行っている病棟看護師に、現場のリアルを聞いてみました。準備するもの普段の点滴に使う24Gの静脈留置針と点滴セット。特別な道具は不要。点滴の落とし方たとえば維持輸液(ソリタT3など)500mLなら、約4時間かけてゆっくり落とすように重力滴下でクレンメを調整する。おすすめの穿刺部位頻用するのは腹部で、腹壁の厚みが少ない場合は大腿部を選択する。自己抜去のリスク管理リスクが極めて高い患者さんは点滴終了ごとに抜針する。また、大腿部に穿刺し、衣服のズボンの裾からこっそりラインを外へ誘導すると、患者さんの視界に入らず抜かれにくくなる。 痛みを訴えたら?もし注入開始後に痛みの訴えがあった場合は、刺入部をカイロや蒸しタオルで温めると痛みが和らぐ。図2 当院で入院患者に行われる皮下輸液の実際画像を拡大する保険適用上の注意点今回参照した本邦の文献1,2)では、海外文献や成書での使用例や国内での臨床経験に基づいた豊富な実例を紹介しているとともに、皮下投与が添付文書上の適応外に該当する場合は、「患者・家族に対する十分な説明を行い、場合によっては説明文書や同意書を作成したうえで、院内の手続きを経て適応外申請を行うなど、より厳格な対応が求められていく可能性がある2)」との認識も示しています。海外では、セファゾリンやセフトリアキソンなど、本邦では皮下投与の適応外となっている抗菌薬の皮下投与の安全性を示す報告3,4)や、皮下投与実施ガイドライン5)も存在し、皮下投与の安全性や有益性のよりどころになりますが、本邦で実施する場合は、医学的な正しさと制度の順守の両輪を念頭におきましょう。本症例の対応A君は、当面の輸液ルートとして皮下輸液を選択しました。腹部の皮下に24G静脈留置針を刺入し、ソリタT3 500mLを1日1本4時間程度で点滴しました。患者さんは刺入部を気にすることなく穏やかに過ごされ、鎮静薬の投与や身体拘束は必要ありませんでした。「末梢が見えない」「自己抜去のリスクがある」患者さんに維持輸液を500mL行わざるを得ない場合、皮下輸液を選択肢に入れましょう。皮下輸液に適する製剤、適さない製剤皮下組織への輸液投与は、静脈内投与と比較して薬剤の希釈および全身への拡散が起こりにくく、投与部位において一時的に高濃度で滞留する可能性があります。そのため、浸透圧、pH、局所刺激性といった薬剤の物理化学的特性の影響を強く受ける点に留意が必要です。皮下輸液に使用する輸液製剤は、原則として等張(浸透圧比約1)であり、かつ生体に近いpHであることが求められます。皮膚のpHは、表面では弱酸性(pH4~6)、角質下では中性から弱塩基性(pH6~7)とされており、これらの範囲から逸脱する製剤は局所刺激や組織障害のリスクを高める可能性があります。この観点から、生理食塩液、5%ブドウ糖液、1・3号液、リンゲル液は皮下投与が可能とされています。一方で、末梢静脈栄養輸液、高カロリー輸液は浸透圧比が3以上と高く、皮下投与には適しません。また、脂肪乳剤は浸透圧比が約1でありpHも6.5~8.5に調整されていますが、血管外漏出時に壊死や潰瘍形成を引き起こした症例が報告されています6)。このため、安全性の観点から皮下投与は推奨されません。1)日本緩和医療学会緩和医療ガイドライン委員会編. 終末期がん患者の輸液療法に関するガイドライン 2013年版. 金原出版;2013.2)梶山 徹ほか編. 症状緩和のためのできる!使える!皮下投与 改訂2版. 診断と治療社;2023.3)Moreal C, et al. New Microbiol. 2024;47:227-242.4)Forestier E, et al. Infect Dis Now. 2026;56:105232.5)Broadhurst D, et al. J Infus Nurs. 2023;46:199-209.6)Lu YX, et al. World J Clin Cases. 2021;9:4599-4606.

4.

米国がん協会、大腸がん検診の改訂ガイドラインを公表

 米国がん協会(ACS)はこのほど、医療機関で受ける血液検査を大腸がん検診に使用できるとする大腸がん検診の改訂ガイドラインを公表した。同ガイドラインではまた、便中の血液とがんに関連するDNAマーカーの両方を検出できる自宅検査キット「Cologuard」の使用も推奨されている。ガイドラインの全文は、「CA: A Cancer Journal for Clinicians」に5月27日掲載された。 ガイドラインをまとめた研究グループによると、今回の改訂は、専門家らが大腸がん検診のさらなる普及と罹患率の低下を推し進めようとする中で行われた。ガイドラインの上席著者であるACSがん早期検出センターのRobert Smith氏はニュースリリースで、「大腸がんは治療可能なだけでなく予防可能な疾患であるという点も、これまで以上に重視する必要がある。このガイドラインでより多くの検診手段を提示することで、大腸がん検診の対象となる成人が、命を救う可能性のある検査を受けやすくなる。その結果、検診受診率の格差解消につながるとともに、より多くのがんを治療可能な早期段階で発見できるようになるだろう」と述べている。 大腸がんは予防可能な数少ないがんの一つであり、医師が前がん病変のポリープを検出して切除すれば予防できると、研究グループは説明している。ACSによると、米国では、大腸がんは早期に発見できれば5年生存率は90%を超える。しかし、大腸がん検診の対象となる米国人の3人に1人が検査を受けておらず、その数は2000万人を超えていると研究グループは指摘する。さらに、大腸がんの全体的な罹患率と死亡率は、年々着実に減少しているものの、50歳未満では近年、増加傾向にあるという。実際、大腸がんは、50歳未満の成人におけるがんによる死因の第1位である。 大腸がん検診のゴールドスタンダードが現在も大腸内視鏡検査であることに変わりはない。大腸内視鏡検査は、鎮静薬を投与した状態で細く柔軟なチューブを大腸に挿入して行う。ポリープが見つかった場合には、その場で切除することも可能だ。しかし、強力な下剤を使って大腸を洗浄する検査前処置を不快に感じる人は多い。また、鎮静薬の使用に不安を抱く人もいる。そのためACSは、Cologuardのような自宅検査キットを含む便検査、さらには血液検査も含めることで、検診方法の選択肢を広げた。 血液検査(商品名Shield)では、腫瘍から血液中に放出されたがん細胞由来のDNA断片を検出することができる。専門家らによると、Shieldによる前がん病変のポリープや早期がんの検出能はそれほど高くないが、検診を全く受けないよりは受ける方が良いという。ガイドラインでは、CologuardのようなDNAベースの便検査は3年ごとの受診が推奨されている。一方、CTを用いたバーチャル大腸内視鏡検査ともいえる大腸CT検査(CTコロノグラフィ)や、大腸内視鏡検査と同様に内視鏡を用いるが、結腸の下部3分の1のみを検査する軟性S状結腸鏡検査は5年ごと、大腸内視鏡検査は10年ごとの受診が推奨されている。 また、検診は45歳から受け始めること、大腸がんリスクが高い場合はそれよりも早い段階から受けることが推奨されている。さらに、85歳以降は定期検診を終了してもよいとされている。 ACSチーフ・サイエンティフィック・オフィサーのWilliam Dahut氏は、「どの検査を選択するにせよ、最も重要なのは検診を受けることだ。このことは、医療サービスが行き届いていない地域や農村部の住民、マイノリティの人にも当てはまる。今回の改訂は、大腸がん検診の選択肢を広げ、あらゆる人ががん予防のための医療サービスを受けられるようにすることを目的に行われた」とニュースリリースの中で説明している。 なお、研究グループは、非侵襲的な検査で結果に異常が見られた人は、大腸内視鏡検査を追加で受けることが極めて重要だと強調している。

5.

第318回 女子医大プロポフォール事件、元准教授に有罪、元研修医に無罪の判決。「後知恵の意見で有罪とされているよう」と元准教授がコメント

事件発生から12年、業務上過失致死罪に問われた医師2人の判決は一人は有罪、もう一人が無罪こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。診療報酬が6月1日から改定されました。本体の改定率が30年ぶりに3%超えの3.09%(その大半は物価高や賃上げ対応に充てられましたが)となり、多くの医療機関はとりあえずはひと息つけそうです。今年度改定は2040年頃を見据えた「新たな地域医療構想」を先取りする形で急性期病院などの入院基本料が大きく変わりました。この改定で、地域の医療機関の再編統合や機能分担がこれからどれくらい進むのかが注目されます。そんな中、気になることがあります。国の財政運営の動きが今年は大きく遅れているのです。いつもは5月下旬に公表される財務省の財政制度等審議会の「春の建議」(昨年は5月27日公表でした)もまだ出ていません。来年度は社会保障改革、消費税減税に加え、いわゆる「戦略17分野」への予算措置も今年度に続き行わなければならず(17分野の官民投資ロードマップの公表も遅れています)、政府も財務省もお金がなさすぎて頭を抱えているのではないでしょうか。例年6月に公表される「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」の公表も7月にずれ込むようです。今年の骨太方針は、経済・財政・社会保障を一体的に見直す内容になると言われています。医療を含めた社会保障には今まで以上に厳しい目が向けられそうです。まずは、「春の建議」(といってももう盛夏ですが)の公表を待ちたいと思います。さて、今回は事件発生から12年、東京女子医大プロポフォール事件で元准教授(66)に有罪判決が出ましたので、それについて書いてみたいと思います。業務上過失致死罪に問われた医師2人の判決は、1人は有罪、もう1人は無罪という対照的な結果となりました。書類送検されたのは麻酔科医6人、在宅起訴に至ったのはそのうち2人東京女子医大病院(東京都新宿区)で2014年2月、リンパ管腫で首の手術を受けた後に人工呼吸器を付けていた男児(当時2歳)が、鎮静剤プロポフォールの投与を受けた後に死亡した医療事故で、東京地裁は5月29日、当時、中央ICUの現場責任者で業務上過失致死罪に問われた麻酔科医の元准教授(66)に禁錮1年6ヵ月、執行猶予3年(求刑:禁錮1年6ヵ月)の判決を言い渡しました。一方、男児の容体の管理に関わった元後期研修医(44)に対しては無罪(求刑:禁錮1年)を言い渡しました。両被告とも投与と死亡に因果関係はないなどとして無罪を主張していました。2人は、2014年2月18~21日、首の腫瘍を取り除く手術を受け人工呼吸器を装着していた男児に対して鎮静剤プロポフォールを投与した際、心電図に異常がみられるなど容体に変化があったにもかかわらず投与を中止せず、男児を急性循環不全で死亡させたとして、2021年1月に起訴されました。この事件については、6年前の本連載「第30回 東京女子医大麻酔科医6人書類送検、特定機能病院の再承認にも影響か」、5年前の「第44回 女子医大プロポフォール事件、阪大・国循論文不正事件に新展開」でも詳しく取り上げました。事故当時、プロポフォールはICUで人工呼吸器を装着した子供への投与は添付文書上「禁忌」でしたが、厚生労働省は「禁忌はあくまで原則」との見解を示しており、警視庁はプロポフォールの投与自体は過失とはせず、安全管理を怠ったことに焦点を当て、2020年10月に書類送検に踏み切りました。この時、起訴を求める「厳重処分」の意見も全員に付けられました。書類送検されたのは麻酔科医6人でしたが、翌2021年に在宅起訴に至ったのは2人で、ほかの4人は関与の度合いなどを考慮した結果、起訴猶予となっています。その後、2021年6月には民事裁判で東京地裁が事故に関与した麻酔科医3人と小児を執刀した耳鼻咽喉科医2人の損害賠償義務を認定、起訴された2人の医師の刑事裁判は2023年12月からスタート、公判は実に計36回を数えました。薬剤を変更せず、漫然とプロポフォール投与を続ける判断をしたことについて「元准教授の注意義務違反の程度は非常に大きい」裁判では投与と死亡の因果関係や、容体の変化を認識した時点で投与中止などの処置をしていれば事故を回避できたかなどが争われました。エムスリー(5月29日付)や日本経済新聞(5月30日付)などの報道によれば、細谷 泰暢裁判長は判決理由で、男児の死因は急性循環不全であり、その原因として小児集中治療における人工呼吸管理の鎮静には禁忌のプロポフォールを高用量・長時間使用したことを挙げました。禁忌薬の投与それ自体が注意義務違反に当たるとはしませんでした。しかし、プロポフォール注入症候群(PRIS)の症状が生じた時点でも別の薬剤に変更せず、漫然と投与を続ける判断をしたことについて、「元准教授の注意義務違反の程度は非常に大きい」と結論付けました。一方、元後期研修医に対しては、当時は研修医で麻酔の専門知識がなく、鎮静剤の選択を日常的に行っていなかった点も踏まえると、死亡を具体的に予見できたとは認められない、としました。「個々の医師の経験や立場の違いによって求められる医療水準は異なる」という観点から、有罪無罪の判断も分かれたわけです。1998年発表の「Bray論文」に示された「4mg/kg/h以上・48時間以上」の目安裁判で大きなポイントとなったのが「プロポフォールの投与量の目安」でした。検察は男児の死亡はプロポフォール注入症候群による循環不全が死亡の原因であり、プロポフォールを高用量・長時間投与し続けたなどの過失があると主張。「4mg/kg/h以上・48時間以上」がその目安であるとし、男児に対しては計70時間15分、平均で「8.1mg/kg/h」投与されたと指摘しました。これに対し弁護側は、プロポフォールについて、検察が示すような目安は当時存在しなかったことなどから、過失はないと主張していました。「4mg/kg/h以上・48時間以上」は1998年に発表された、通称「Bray論文」1)で示されたPRIS発現の目安です。Bray論文はプロポフォールの長時間・高用量持続投与に関連して、代謝性アシドーシス、横紋筋融解、心不全、不整脈などを伴う重篤な病態が起こり得ることが整理され、PRISという概念が広く知られる契機になった論文とされています。「4mg/kg/h以上・48時間以上」は「当時の標準的な医療水準として求められるものであった」と認定判決では、このBray論文がPRISの事実上の診断基準としての役割を果たしているとしたうえで、「この(4mg/kg/hを48時間以上)数値を超えると、PRISの危険性が高まることを考慮した上で、プロポフォールの投与を開始あるいはその投与を継続するかを判断すべきものであったということが言える。このことは、当時の標準的な医療水準として求められるものであった」と認定しました。その上で、術後2日目午後の時点(8.1mg/kg/hを52時間以上にわたって持続投与されており、翌朝まで投与継続した場合には70時間前後になることが見込まれていた)で「直ちに代替薬剤を投与して、プロポフォールの投与を中止するなどの適切な対処をすべき注意義務があったのに、これを怠って、漫然とプロポフォールの投与を継続した過失があったと認められる」と判断しました。「判決の言う標準的な医療水準は、当時のプロポフォールについての医学的な知見や、当時のICUの現場の実情から、かけ離れたもの」と元准教授このBray論文がPRISの事実上の診断基準になっていたとする裁判所の判断について、有罪となった元准教授は判決後にコメントを発表し、「結果が分かったところからさかのぼった後知恵の意見で有罪とされているように感じています。判決の言うプロポフォールに関する標準的な医療水準については、当時のプロポフォールについての医学的な知見や、当時のICUの現場の実情から、かけ離れたものだと感じます」と反論しています。5月30日付の日経メディカルの記事によれば、判決後に行われた医師2人の弁護人による記者会見で、元准教授の弁護人、後藤 貞人弁護士も「プロポフォールによってPRISが発症することが、当時、医学界において定着していたかというとそうではない」とコメント、元研修医の弁護人である高野 隆弁護士も「(4mg/kg/h以上・48時間以上より)何倍も多い量のプロポフォールを投与してもPRISを発症していない症例がありながら、論文の記載(4mg/kg/h以上・48時間以上)だけが独り歩きをし、あたかも当時の医療水準のように考えて起訴したことが間違いだ」と話しています。さらに後藤弁護士は、医師が業務上過失致死罪で有罪判決が出たことについて、2008年の福島県立大野病院事件の無罪判決などを契機として医療への刑事介入が下火になっていた状況が、今回の有罪判決をきっかけとして再び活発化することに対しても危機感を示したとのことです。なお、元准教授は控訴の方針とのことです。事故から12年、東京女子医大プロポフォール事件の裁判はまだまだ続きそうです。同大はこの事件をきっかけとして2015年に特定機能病院の承認を取り消され、現在も継続中です。医療事故の裁判と特定機能病院の承認は別次元の問題ではあるものの、少なからぬ影響はありそうです。元理事長逮捕など、スキャンダルに事欠かない東京女子医大の経営状態も改めて気になるところです。 1) Bray BJ. Paediatr Anaesth. 1998;8:491-499.

6.

第297回 改正健康保険法が成立、出産無償化とOTC類似薬負担増を導入/国会

<先週の動き> 1.改正健康保険法が成立、出産無償化とOTC類似薬負担増を導入/国会 2.診療報酬改定目前、キャンセル料を巡る混乱で厚労相が陳謝/厚労省 3.AIの悪用リスク踏まえ病院のサイバー対策強化を/厚労省 4.直近100日の薬剤情報を表示、ワクチン接種歴も/デジタル庁 5.糖尿病薬の個人間取引に警告 X投稿の7割超がマンジャロ/東京都 6.東京女子医大2歳児死亡事故、ICU責任医に有罪判決/東京地裁 1.改正健康保険法が成立、出産無償化とOTC類似薬負担増を導入/国会改正健康保険法など医療保険制度改革の関連法は5月29日の参議院本会議で、与党自民党や日本維新の会、国民民主党などの賛成多数で可決、成立した。柱は、正常分娩の実質無償化と、市販薬と成分や効能が似る「OTC類似薬」を処方された患者への追加負担の導入である。政府は給付と負担を見直し、現役世代の社会保険料負担を軽減すると説明しているが、患者団体や野党からは受診控えや家計圧迫への懸念がされている。出産費用については、現在は正常分娩が公的医療保険の対象外で、出産育児一時金50万円の支給で対応している。しかし、都市部を中心に費用が一時金を上回るケースが目立つため、厚生労働省が全国一律の基本単価を設定し、公的保険から医療機関へ全額給付する仕組みに改める。改正法の公布後2年以内、遅くとも2028年夏ごろまでの施行を目指す。すべての妊婦を対象に定額の現金給付も設ける。帝王切開は、従来通り保険診療で原則3割負担となり、正常分娩でも個室料などは自己負担となる。当面は医療機関の判断で出産育児一時金を継続できる経過措置も置き、産科経営や地域の周産期医療体制への影響に配慮する。OTC類似薬では、保湿薬、抗アレルギー薬、解熱鎮痛薬、胃腸薬など77成分、約1,100品目を対象とする案が示されている。薬剤費の4分の1を公的保険の給付対象から外し、患者の1~3割負担に上乗せする。2027年3月の開始を目指す。政府は市販薬を購入する人との公平性や、必要性の低い受診の抑制を狙う。その一方で、がんや難病の患者、子供、低所得者、医師が通年処方を必要と判断する患者などには追加負担を求めない方針であり、具体的な範囲は今後、専門家の意見を踏まえて定めるとしている。改正法には、75歳以上の後期高齢者の保険料や窓口負担の算定に、上場株式の配当など金融所得を反映させる仕組みの強化も盛り込まれた。さらに高額療養費制度について、将来の見直し時に、長期療養者の家計への影響を考慮することも明記した。参院厚生労働委員会は、OTC類似薬の対象を薬剤以外の診療行為に広げないよう検討することや、必要な受診が抑制されないよう影響を検証し、必要に応じて見直すことなど19項目の付帯決議を採択した。立憲民主党、公明党、共産党、れいわ新選組などは反対し、国民皆保険の維持と患者負担増の線引きが今後の焦点となる。 参考 1) 健康保険法等の一部を改正する法律案について(厚労省) 2) 「OTC類似薬」処方された患者に追加負担求める法律が成立(NHK) 3) 改正健康保険法が成立…OTC類似薬の患者追加負担、出産費用の実質無償化など柱(読売新聞) 4) 出産費用を無償に、改正法成立 厚労省が全国一律価格を設定へ(日経新聞) 5) 健保法等改正案 参院厚労委で賛成多数で可決 29日の参院本会議での採決を経て成立へ(ミクスオンライン) 2.診療報酬改定目前、キャンセル料を巡る混乱で厚労相が陳謝/厚労省厚生労働省は6月1日に診療報酬を改定する。物価高と賃上げへの対応が柱で、外来の初診料本体は2,910円に据え置く一方で、物価上昇分20円と職員の基本給引き上げに充てるベースアップ評価料170円が上乗せされ、初診時の患者負担は少なくとも190円引き上げられる。また、2026年3月以前からベースアップ評価料を算定していた医療機関でも、現行60円から230円へ引き上げられ、これらの上乗せは1年後にさらに拡大する予定となっている。薬局でも調剤基本料が立地や規模に応じて10~20円引き上げられ、3ヵ月に1回、物価上昇対応分として10円が加算できる。薬局版のベースアップ評価料も新設され、処方箋1回につき40円が上乗せされる。また、後発医薬品がある先発品を患者が希望する場合に、保険の窓口負担とは別に支払う選定療養費は、先発品と後発品の価格差の4分の1から2分の1へ引き上げられる。その一方で、注目された診察予約のキャンセル料について、厚労省は5月29日、「対象は『予約料』を設定し、選定療養として地方厚生局に届け出ている医療機関に限られる」と通知を訂正した。予約を受け付けていても予約料を徴収していない通常診療では、キャンセル料は取れない。対象は2024年8月時点で全国928施設にとどまる。徴収できるのは、患者都合による診察直前のキャンセルに限られ、窓口やウェブサイトなどで事前に説明し、患者の同意を得る必要がある。3月の通知では対象が選定療養に限られることが明確でなく、すべての医療機関でキャンセル料を取れるとの誤解が広がった。上野 賢一郎厚労相は「現場に混乱を生じさせた」と陳謝した。医療機関には、価格改定や人件費対応の一方で、患者説明と同意、掲示、届出の適正な運用が求められる。 参考 1) 診察予約キャンセル料 一定条件で請求可能に 厚労省が周知へ(NHK) 2) 診察キャンセル料めぐり厚労相謝罪 6月から一部医療機関で徴収可へ(朝日新聞) 3) 診察キャンセル料は一部病院のみ 厚労省が通知訂正、周知不足陳謝(共同通信) 4) 診療報酬、来月1日に改定 キャンセル料徴収可に 初診190円上げ(日経新聞) 3.AIの悪用リスク踏まえ病院のサイバー対策強化を/厚労省厚生労働省は5月27日、都道府県を通じ、医療機関に高性能AIの悪用リスクを踏まえたサイバーセキュリティ対策の再確認を求める事務連絡を発出した。AI技術の急速な進展により、脆弱性探索や攻撃手法の自動化が進み、攻撃のスピードや規模が拡大する恐れがあるための措置。医療分野は国民の生命・健康を支える重要インフラであり、電子カルテや医療機器、院内ネットワークが停止すれば診療継続に重大な支障が生じるとして、厚労省は経営層のリーダーシップによる対策強化を求めている。通知では、米Anthropic社が4月に公表した「Claude Mythos Preview」など、脆弱性の発見・修正能力を高めたフロンティアAIモデルの登場を例示。内閣官房国家サイバー統括室などが5月18日に発出した重要インフラ向け注意喚起を踏まえ、医療情報システムの安全管理ガイドラインを要約し、医療機関が優先的に確認すべき事項を整理した。重点項目では、サイバーセキュリティを経営課題に位置付け、責任者や意思決定体制、連絡系統を明確にすることを求めている。さらに、電子カルテ、医療機器、院内ネットワークなど重要システムの把握とリスク評価、ネットワーク分離やアクセス制御、外部委託・クラウド利用時の責任分担の明確化を要請するほか、機器の棚卸し、セキュリティパッチの迅速な適用、サポート終了機器の見直しも明記した。ランサムウェア対策では、オフラインを含むバックアップの取得・保管と復旧訓練、不審メール対応、感染兆候の早期検知体制を挙げた。インシデント発生時には、初動対応、影響範囲の確認、厚労省やベンダーとの連携、原因分析と再発防止策が必要とした。全職員への定期的な教育、標的型攻撃訓練、医療機器メーカーとの情報共有、調達段階からのセキュリティ要件確認も求めている。厚労省は、サイバー攻撃を想定したBCP(事業継続計画)の策定・見直しや、システム停止時の紙運用など代替手段の確保も促し、チェックリストを用いた点検を呼びかけている。 参考 1) 「高性能AIの悪用リスクを踏まえたサイバーセキュリティ対策の強化について(医療機関等向け注意喚起)」(厚労省) 2) 最新AI攻撃の対策確認を要請 医療機関に厚労省(毎日新聞) 3) 医療機関は最新AI対策の確認を サイバー攻撃悪用で厚労省(東京新聞) 4.直近100日の薬剤情報を表示、ワクチン接種歴も/デジタル庁デジタル庁は、マイナポータルの「薬」のページをリニューアルし、直近100日以内に受け取った薬の情報を確認できるようにした。従来は診療報酬明細書、いわゆるレセプト情報を基にしていたため、反映は前月分までに限られ、実臨床で使うにはタイムラグが大きかった。今回の改善により、電子処方箋に対応する薬局や医療機関で薬を受け取った場合、原則として当日中に情報が表示される。画面には「最近の薬」「最近の処方箋」が新設され、受け取った日付、薬局名、薬剤名、用法・用量が確認できる。政府によると、現在は薬局の89%が電子処方箋に対応している。その一方で、厚生労働省は6月から、ワクチン接種歴や副反応疑い事例を集約する新たな予防接種データベースの運用を始める。対象は公費助成を受けられる定期接種ワクチンで、接種したワクチンの種類や接種日などを市区町村から収集し、2028年春までに全国民の情報を集める計画である。国民はマイナポータルなどを通じて、自身の接種歴を確認できるようになる。6月以降の情報が中心で、5月以前の接種分の提供は任意となる。新データベースは、接種情報に加えて死亡情報、副反応疑い事例、レセプト情報とも連結される予定であり、2028年度から研究者らがワクチンの有効性や安全性、副反応疑い事例の発生頻度を活用し、分析しやすくする。今後、麻しん、風しんなどの流行時には、本人が接種歴を確認し、未接種であれば接種行動につながることも期待されている。医療者にとっては、問診時の服薬歴・接種歴確認の精度向上が見込まれる。救急外来、入院時、周術期、ポリファーマシー対策、ワクチン接種相談などで活用の余地は大きい。ただし、情報の反映範囲や過去接種歴の欠落、患者本人の閲覧・提示への依存といった限界もある。マイナポータル情報を補助線として使いつつ、従来の問診、お薬手帳、紹介状、薬剤師との連携を組み合わせる運用が求められる。 参考 1) 薬の画面で最近の薬や処方せんの情報を確認できるようになりました(デジタル庁) 2) 100日以内に受け取った薬の情報確認 マイナポータル改善、電子処方箋対応なら当日表示(産経新聞) 3) ワクチン接種歴、マイナポータルなどで確認可能に…新DB6月に運用開始・「効果」「副反応」分析にも活用へ(読売新聞) 5.糖尿病薬の個人間取引に警告 X投稿の7割超がマンジャロ/東京都東京都が2025年度、X(旧ツイッター)上で医薬品の不正販売が疑われる投稿に警告した497件のうち、約75%に当たる375件が、2型糖尿病治療薬チルゼパチド(商品名:マンジャロ)など糖尿病薬の取引に関するものだったことがわかった。都は公式アカウント「東京都庁薬務課」から、販売をうたう投稿に対し「医薬品であるマンジャロを許可等なく販売等することは医薬品医療機器等法に違反します。直ちに販売を中止して下さい」とリプライで警告している。マンジャロは2型糖尿病治療薬として承認されている一方で、近年は体重減少効果への関心から、ダイエットや美容目的での使用が広がっている。医療用医薬品を入手するには原則として医師の診察と処方が必要で、個人が許可なく販売する行為は、たとえ1回であっても医薬品医療機器等法に違反する恐れがある。東京都は、フリマサイトやオークションサイト、SNSでの医薬品販売に注意を呼びかけており、改善がない場合はX側に投稿削除を要請している。糖尿病薬をめぐっては、適応外使用や自己判断での使用による健康被害も懸念される。厚生労働省も、添付文書に基づく適切な使用がなされない場合、思わぬ健康被害につながる可能性があるとして注意喚起している。とくにGLP-1受容体作動薬などの使用では、消化器症状、低血糖リスク、既往歴や併用薬への配慮が必要であり、医師の管理を離れた流通は安全性の面で大きな問題となる。都による警告件数は、2023年度は62件、2024年度は78件だったが、2025年度は検索業務を外部委託したことで大幅に増えた。糖尿病薬関連に関して2023・24年度はいずれも2件にとどまっており、今回の急増はマンジャロ人気とSNS上の流通拡大を映している。Xから秘匿性の高い通信アプリ「テレグラム」に誘導するケースも確認されており、都は2026年度からテレグラム上でも警告を始める方針。医療者には、処方時の適正使用説明に加え、患者がSNS経由で医薬品を入手しないよう啓発する役割も求められる。 参考 1) 薬の不正販売疑い投稿、糖尿病薬が7割超 昨年度 都が「X」で確認・警告(日経新聞) 2) 「直ちに販売を中止して下さい」東京都庁薬務課、「マンジャロ」めぐりXで警告 歓迎の声相次ぐ(J-CASTニュース) 6.東京女子医大2歳児死亡事故、ICU責任医に有罪判決/東京地裁東京女子医科大学病院で2014年、手術後の2歳男児に鎮静剤プロポフォールが長時間・高用量で投与され死亡した医療事故を巡り、東京地裁は5月29日、業務上過失致死罪に問われた当時ICUの現場責任者の麻酔科医に禁錮1年6月、執行猶予3年を言い渡した。その一方で、当時後期研修医だった医師については無罪とした。プロポフォールは手術麻酔や鎮静に広く使われるが、添付文書では集中治療における人工呼吸中の小児への投与が禁忌とされている。裁判では、投与と死亡の因果関係、当時の医療水準からみた注意義務違反の有無が争点となった。判決では、医師の裁量で禁忌薬を使用する余地はあり得るとしつつ、本件では「投与量・投与時間が目安を大きく超え、心電図異常も継続していたことから、副作用リスクが高まった段階で投与を中止すべきだった」と認定。「通常の専門医であれば到底行わない高用量、長時間投与」として、責任者の過失を重くみた。その一方で、後期研修医については、当時は専門医資格を持たず、鎮静薬選択を日常的に担う立場ではなかったとして、死亡を具体的に予見できたとは認められないと判断した。判決は、チーム医療において職位、専門性、権限に応じて刑事責任を分けた点でも注目される。医療現場への示唆は大きい。禁忌薬や安全性が十分確認されていない医療行為を行う場合、医学的合理性、家族への説明と同意、リスク監視、投与量・時間の記録、異常時の中止基準を組織として明確化する必要がある。女子医大は事故後、特定機能病院の承認を取り消されており、厚生労働省は2016年、特定機能病院に対し安全性未確立の薬剤使用時の院内審査体制を義務付けた。今回の判決は、個人の裁量に依存せず、病院全体で高リスク医療を管理する体制整備の重要性を改めて示したものといえる。 参考 1) 2歳児死亡、麻酔科医に有罪 元研修医は無罪、東京女子医大(東京新聞) 2) 東京女子医大病院で2歳児死亡 医師1人に無罪判決、もう1人は有罪(朝日新聞) 3) 東京女子医大の2歳児死亡、元准教授に有罪判決 元研修医は無罪(日経新聞) 4) 東京女子医大 鎮静剤投与で2歳児死亡 責任者の医師に有罪判決(NHK)

7.

高齢者における大腸ポリープ切除後サーベイランスの検査間隔は?(解説:上村直実氏)

 大腸内視鏡検査(CS)は全大腸を観察して、大腸がん(CRC)の早期発見とポリープの発見・切除によるCRC予防を主たる目的としているが、検査や鎮静に伴うリスクが増加する高齢者に対する有用性に関しては不明な部分もあり、臨床現場で検査の実施に迷うこともある。今回、米国の65~74歳でCSを受けたことのある75歳以上の高齢退役軍人を対象として10年間の後ろ向きコホート研究を行ったところ『過去のCSで腺腫が認められた75歳以上の成人は、腺腫のなかった成人と比較して、その後のCRC発症率、CRCによる死亡率が有意に高いものの両群の差はわずか0.1%(累積死亡率0.4%vs.0.5%)であり、CRC以外の原因による死亡リスク50%弱のほうがはるかに高率であったことから、患者個々の健康状態を重視した対応が必要』との結果が2026年4月のJAMAに報告された。腺腫を切除した高齢者に対する定期的なCSは慎重に判断すべきとされたわけである。 日本の診療現場では便潜血検査(FIT)陽性や腹部症状などにより必要とされたCSで発見されたポリープ・腺腫が内視鏡的に切除されることが多く、その後の経過観察として年齢にかかわらずCRCの早期発見を目的として頻回なサーベイランスが行われている。2020年のGutに報告されたJapan Polyp Study(JPS)の結果を基にして作成された「大腸内視鏡スクリーニングとサーベイランスガイドライン」によると、内視鏡的に異常なしとされた『クリーンコロン』が確認された場合には3年ごとのCSが推奨されている。 一方、米国のガイドラインでは、1993年のNEJMに報告された『National Polyp Study』の結果から質の高いCSにより『クリーンコロン』とされた場合は10年に1回のフォローとされているが、最近ではさらに、高齢者に対するCSに関する鎮静のリスクやコストパフォーマンスを考慮した経過観察の必要性やCSの間隔が議論の的になっている。日本でも超高齢者に対するCSによる頻回の経過観察に疑問を持つ担当医も少なくないと思われる。 このような米国と日本の違いは医療保険制度の違いのみでなくスクリーニングに対する考え方の相違に由来している。米国では死亡リスクをアウトカムとするエビデンスが優先するため、CSにより死亡リスクの統計学的な低下を認めた研究結果から臨床現場でも10年に1回のフォローで十分とされているのに対して、日本では内視鏡的切除可能な病変の早期発見を目的とすることが多く、『クリーンコロン』に対して3年後の進行性病変の発見率をアウトカムとしたJPSの研究結果を用いて、実臨床でも切除後は3年後が適切であるとされているのが現状である。しかし、医療費の高騰が問題となりコストパフォーマンスに重点が置かれつつある現在、高齢者の検査間隔は日本でも考慮すべき課題となっている。

8.

患者に最も好まれる第1選択抗精神病薬は?

 初回エピソードの精神疾患患者に対する抗精神病薬の選択は、臨床医が複数の基準を経験的に評価する必要があるため、非常に困難な課題である。診療記録を用いて開発された精密治療(precision treatment)ルールは、臨床医の治療選択を支援する実用的なアプローチを提供できるが、副作用や患者の嗜好は考慮されていない。イタリア・University of PaviaのKamil Krakowski氏らは、初回エピソードの精神疾患における第1選択抗精神病薬推奨のための、有効性、副作用、患者の嗜好を総合的に考慮した精密治療ルールの開発および検証を行った。Translational Psychiatry誌オンライン版2026年4月11日号の報告。 本研究は、英国・サウスロンドンおよびモーズレイNHSトラストの早期精神病介入サービスから得た電子カルテデータを用い、RECORDおよびTRIPOD + AIガイドラインに準拠して実施された。精密治療ルールは、因果関係に基づく機械学習手法を用いて開発され、臨床的、人口統計学的、症状、物質使用に関する予測因子を用いて、有効性(薬剤変更、入院)および副作用(錐体外路症状、高プロラクチン血症、鎮静、性機能障害、体重増加)を推定した。副作用に関する患者の嗜好は、ランキング法を用いて考慮した。 主な結果は以下のとおり。・対象患者数は、1,709例(平均年齢:26.7歳、男性の割合:64%)。・アリピプラゾールは、患者の希望に応じて80~98%の患者に推奨された。・観察された治療決定と比較すると、治療ルールに基づく推奨では、高プロラクチン血症が4.7パーセントポイント(pp)、鎮静が15.8pp、性機能障害が4.3pp、体重増加が15.2pp減少すると推定された。・入院と薬剤の効果には変化がなかった。・錐体外路症状は、5.5pp増加すると推定された。 著者らは「本研究は、有効性、副作用、患者の希望を統合した、早期精神疾患に対する初の精密治療ルールを提示するものである。より大規模なデータセット、より多くの予測因子および治療選択肢を用いた、さらなる研究が求められる」としている。

9.

無意識に使う「意識◯◯」【脳がととのう 神経内科学講座】第1回

<今回のモヤっとPoint>「意識障害」と「意識消失」の違いは?「意識」と「覚醒」と「反応性」の違いは?はじめに意識という用語は臨床で日常的に使われますが、その守備範囲は広く、実は正確に扱おうとすると意外に難しいものです。たとえば、「意識消失」と「意識障害」は微妙にニュアンスが違いますし、「失神」はさらに意味が異なりますが、これらの正しい使い分けはできているでしょうか? もし間違って使っていると、専門医へのコンサルテーションの際に文脈が間違って伝わってしまい、コミュニケーションエラーの一端となってしまうこともあるでしょう。そこで今回は『意識』に関連した用語を整理していきたいと思います。意味の取り違え注意!―意識消失・意識障害・失神臨床でよく用いられる関連用語として、意識消失、意識障害、失神があります。いずれも「意識が悪い」という状態に関係する用語です。ですが、実際に表現している症候や病態は少しずつ異なります。とくに、文脈を意識して使い分ける必要があります。ここを整理しておくと、病歴聴取やコンサルテーションの精度が高まりますのでぜひ押さえておいてください。まずはそれぞれの違いを整えていきましょう。1)意識消失(loss of consciousness)ここでいう意識消失は、主に「一過性意識消失」、すなわち一時的に意識が失われ、その後回復した病歴上のイベントを指します。つまり、診察上の所見名というよりは、「そのとき何が起きたか」を記述する病歴的な用語といえます。たとえば、失神や一部のてんかん発作などで発生したイベントに対して用いられ、「急に倒れて反応がなくなった」「しばらく意識を失っていた」といった経過を含めて表現するときに適した用語になります。<脳がととのう具体例>「会話中に突然、意識消失して後方に倒れ込み、そのまま痙攣発作を呈しました」「重症の頭部外傷で現在入院3日目ですが、鎮静薬を中止しても意識消失が持続しています」上記のように、意識が悪い状態が遷延している状況については「意識障害が遷延しています」のほうが自然です。2)意識障害(disturbance of consciousness)意識障害は、診察時点で認められる覚醒や認識の障害を含む広い概念です。そのため、これは病歴上の出来事というより、現在の神経学的状態を表す所見名として使うのが自然です。つまり「現在、意識が悪い」という状態をさす時に用いると良いでしょう。もちろん意識障害には、軽い意識混濁から昏睡まで幅があるため、「意識障害」という表現だけでは解像度の低い情報になりがちです。だからこそ、Japan Coma Scale(JCS)や Glasgow Coma Scale(GCS)などの評価尺度を併記すると、具体性が増します。なお、後述しますが、意識障害の評価は行動反応の観察に依存するため、所見を記載する際には反応を妨げうる要因の有無も意識しておく必要があります。<脳がととのう具体例>「路上で倒れているところを発見され搬送された方で、救急隊到着時から現在もJCS 100の意識障害が遷延しています」意識障害には時間軸の情報がないので、このように文脈全体で意識障害がどこから持続しているのか、変化しているのかどうかを加えるとわかりやすいでしょう。3)失神失神は、一過性全脳低灌流によって生じる一過性の意識消失です。具体的には、急速に発症し、持続は短く、自然に、かつ完全に回復するイベントが失神の特徴です。したがって、失神は「意識が悪くなった状態」一般を指す言葉ではなく、推定される原因機序まで含んだ用語となります。つまり、一過性の『全脳低灌流』を前提としているので、まずは循環器疾患や反射性失神などが想起されます。そのため、「失神の精査として、一過性脳虚血発作(TIA)を疑います」という表現にはモヤモヤを感じてください。失神と表現している以上、「急速に発症し、持続は短く、自然にかつ完全に回復するような典型的な病歴」を想定しているはずなので、このような病歴では、TIAやてんかん発作だけを念頭に置くのではなく、まず失神として、起立性低血圧、反射性失神、不整脈などを含めた評価を行う必要があります。典型的には「排尿後に立ち上がった直後に倒れ、短時間で自然に回復した」という経過が、失神を想定するような病歴であり、「失神の精査が必要」と表現してよいでしょう。<脳がととのう具体例>「“意識障害”として紹介されましたが、話を聞くと、排泄後に立ち上がった直後に気分不快を自覚し、そのまま倒れたとのことでした。意識消失は短時間ですぐに覚醒し会話も可能だったようなので、まずは失神として精査したいと思います」「失神の精査として、一過性脳虚血発作(TIA)を疑います」なお、典型的な失神の病歴であれば、ルーチンとして脳画像検査や頸動脈評価を実施する意義は必ずしも高くありません。ただし、頭部外傷の有無に加え、局在神経徴候、複視、構音障害、嚥下障害、失調など、脳幹・小脳病変を示唆する所見がないかは確認しておきましょう。誤用しやすい、意識に関わる用語ところで、『意識』とは単一の機能ではなく、「覚醒していること」「自己や外界を認識していること」、あるいは「疎通が取れること」など複数の側面があります。それこそ臨床では、「呼びかけに反応しない」「会話が成り立たない」「見当識が保たれていない」などのシチュエーションで、しばしば、『意識が悪い』と表現されることがあります。もちろん、そこにはかなりの幅がありますし、反応が乏しいことと意識そのものが障害されていることは必ずしも同義ではありません。仮に、意識が保たれていても、重度の失語症や難聴、あるいは運動出力の障害があれば、十分な疎通は取れないでしょう。また、見かけ上は昏睡のようにみえても、心因性(機能性あるいは解離性の無反応状態など)の病態は、器質的な真の意識障害とはもちろん根本的に異なります。そのため、臨床で『意識が悪い』と表現するときは、どの視点からの意識を捉えているのかに留意する必要があります。そこで、『意識が悪い』という状況をどの視点で捉えるか医学的な表現を次に整えていきましょう。1)意識(consciousness)意識とは、覚醒しており、かつ自己や外界を認識できている状態をさします。すなわち、単に目が開いていることだけで規定されるものではなく、覚醒と認識の両方がある程度保たれていることを含む概念です。臨床的には、刺激に対する反応、注意の向け方、周囲の状況の理解、目的のある行動がみられるかどうかを総合して評価します。2)覚醒(arousal / wakefulness)覚醒とは、意識のうち「起きている」側面をさします。たとえば、自然に開眼しているか、呼びかけや刺激で開眼するか、刺激がなくても覚醒を保てるか、といった点が評価の中心になりますのでJCSで評価しやすいです。昏睡では覚醒そのものが失われており、この点で、“開眼はしているが認識が障害されている状態”とは区別されます。3)反応性(responsiveness)反応性とは、呼びかけや痛み刺激などに対して、行動や生理学的な変化を示す性質をさします。反応性の低下は覚醒や認識の状態を推定する重要な手がかりになりますが、『反応性』と『意識』は同義ではありません。なぜなら、失語や難聴、視覚障害、運動出力障害、鎮静薬の影響などによっても、見かけ上は反応性が低下してみえることがあるからです。そのため、意識障害の判定では、この反応性を妨げる要因がないかを除外する必要があります。4)認識(awareness)認識とは、自己や環境を理解している側面を指します。したがって、目が開いていても、周囲の状況を理解できない、あるいは目的のある反応に乏しい場合には、awareness の障害を考えます。ただし、awarenessは行動所見だけから完全に評価できるとは限りません。臨床では反応の有無や内容から推定せざるを得ないため、失語、運動出力障害、重度の全身状態、機能性の無反応状態などとの鑑別が必要です。すなわち、「反応が乏しい」ことはawareness障害を示唆する所見ではありますが、それ自体で直ちに同義とはいえません。いかがでしたでしょうか?脳神経領域のモヤモヤ、少しは“ととのう”ことができたのであれば嬉しいです。次回は何気なく使う「ピクつき」について解説しますので、少しずつ脳内をスッキリさせていきましょう。1)Laureys S, et al. Lancet Neurology. 2004;3:537-5462)Giacino JT, et al. Neurology. 2018;91:450-460.

10.

小柴胡湯~胸脇苦満と往来寒熱~【Dr.伊東のストーリーで語る漢方薬】第6回

小柴胡湯~胸脇苦満と往来寒熱~これまで解説してきた葛根湯(かっこんとう)、麻黄湯(まおうとう)、桂枝湯(けいしとう)は、いずれも感冒の初期に使うものでした。言い換えると、これらの薬は感冒を患ってから5~6日経った時に使うものではないということです。では、時間が少し経った感冒には何を使えばいいかというのが、今回のお話です。導入として、西洋医学の話をさせてください。感冒に対して西洋医学では、どんな時でも症状に合わせてアセトアミノフェンやデキストロメトルファンなどを使うと思います。つまり、西洋医学では一見すると感冒初期とそれ以降とをそんなに区別していないわけです。しかし、COVID-19の場合はちょっと違いますね。罹患初期には抗ウイルス薬、たとえばレムデシビルなどを使って、ウイルス量を減らしにいきます。少し時間が経ってからは、ウイルスそのものよりも炎症反応によって肺炎が悪化していくため、それを抑えるためにステロイドが重要になってきます。このような感じで、COVID-19では感冒初期とそれ以降を区別します。じつは、漢方薬の考え方もこれにちょっと似ています。葛根湯、麻黄湯、桂枝湯の解説をしている時に、やたら汗の話が出てきたのを覚えているでしょうか(図1)。じつは、感冒初期ではこれらの漢方薬を使うことで発汗を調整して、汗とともに悪いものを体表から体外へと追い出すイメージを昔の人は考えていたんです。図1 感冒初期に対する漢方薬の選び方画像を拡大する一方で、発症してから時間が経ってくると「悪いもの」、要はウイルスのことですね。それが体表や喉のあたりから肺、胃といった横隔膜レベルの臓器まで侵入してしまい、そこでも炎症を起こしてくるわけです。そこまで侵入されると、汗とともに追い出すことができなくなります。そこで、肺や胃のあたりの炎症を鎮静化するために、漢方では柴胡(さいこ)を含む漢方薬を使うことになるわけです。いわゆる柴胡剤。「東洋のステロイド」のイメージです(図2)。図2 COVID-19治療イメージ:西洋医学と漢方医学の比較画像を拡大する柴胡剤柴胡を含む漢方薬を柴胡剤と呼んでいて、その代表格が小柴胡湯(しょうさいことう)です。これを「こしば」なんとかと読まなくなったら、漢方の初心者卒業かなと勝手に思っています。冗談はさておき、小柴胡湯は、柴胡、半夏(はんげ)、黄芩(おうごん)、大棗(たいそう)、人参(にんじん)、甘草(かんぞう)、生姜(しょうきょう)の7種類の生薬で構成されます。大棗と生姜は以前紹介したように、胃腸に優しい生薬ですが、半夏と黄芩は胃のむくみや熱を除いてくれて、人参も胃を温めて支える生薬のため、構成生薬の作用点が胃に集中しているのが特徴的です。また、感冒初期の漢方薬には桂皮(けいひ)が必ずといっていいほど入っていましたが、小柴胡湯ではなくなりました(図3)。桂皮は気逆といって頭のほうに向かう症状を抑えてくれる生薬です。要は頭痛です。感冒初期では頭痛が症状として出やすいですが、少し時間が経つと頭痛はあまり目立たなくなってきますよね。そのため桂皮は要らなくなるのです。図3 小柴胡湯の構成生薬画像を拡大する小柴胡湯は虚実中間の患者に使う漢方薬です。結構幅広い体力の患者さんに使うことができます。一方で、世の中には実証の患者も虚証の患者もいて、その両極に対応する形で柴胡剤の派生処方が存在します。たとえば、実証であれば、便秘を目安に使う大柴胡湯(だいさいことう)、イライラを目安に使う柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)があります。虚証であれば、寒がっているのを目安に使う柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)が該当します。また、症状から桂枝湯と小柴胡湯の中間、つまり過渡期に位置する患者には、柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)という漢方薬もあります(図4)。たくさん薬が出てきましたが、ここは無理に覚えず、軽く流しておきましょう。図4 柴胡剤の派生処方画像を拡大する胸脇苦満と往来寒熱ここまで柴胡剤というもの紹介しましたが、これらの共通点として「胸脇苦満(きょうきょうくまん)」というお腹の所見を覚えてください。これは、肋骨弓の下に手を差し入れようとすると強い抵抗がある状態で、柴胡剤を使う目安として重要です(図5)。現代人はストレスを抱えて胃に負担をかけているので、この胸脇苦満が出ている人が結構多いです。ご自身の体に手を入れて確認してみてください。図5 胸脇苦満画像を拡大する日本漢方ではお腹の所見が大事で、個人的には再現性もあるため、学び始めの段階から勉強する価値があると思っています。たとえば、前回まで桂枝湯、桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)、建中湯(けんちゅうとう)の話をしましたが、こういった「芍薬が要になる漢方薬」が効く人のお腹は腹直筋が張っています。これを「腹直筋攣急(ふくちょくきんれんきゅう)」と呼ぶのですが、昔の人は「お腹に2本の棒を触れる」と表現しています(図6)。図6 腹直筋攣急画像を拡大する最後に、古典で小柴胡湯の話を締めておきましょう。こちらの条文は、長いですね(図7)。図7 小柴胡湯の古典条文画像を拡大する胸脇苦満はさっき出てきましたね。ここで注目してほしいのが「往来寒熱(おうらいかんねつ)」という言葉で、これは潮の満ち引きのように、熱が1日のなかで出たり引いたりすることを指しています。ときどきいませんか? かぜをひいてしばらくたった後に「夜だけ熱が出る」といって受診する方。医者目線だと少し説明に困るものです。これこそが往来寒熱ですね。そういう方は、倦怠感や食欲不振も訴えてくることが多いため、この条文通りの症状になってくるんです。また、この条文にはないですが「口の中が苦い」というのも柴胡剤を使うヒントになります。胃が悪いと舌苔が分厚くなってきて、舌の見た目もちょっと変わってきます。まとめ漢方の世界では感冒初期とそれ以降を区別します。治療のコンセプトも薬の選択肢も異なります。感冒初期が終わってからは、東洋のステロイドこと柴胡剤の出番です。ここでは、小柴胡湯を覚えておきましょう。使用にあたっては、胸脇苦満の存在を確認しておくと、勝率が上がってくると思います。胸脇苦満以外にも往来寒熱という言葉を覚えました。こういう独特の用語を知っていると、漢方の上達が早くなるため、もし余裕があれば、こちらも覚えていってください。次回は、これまでの内容をもう少し俯瞰的におさらいして、漢方の世界ならではの病気の捉え方を一緒にみていきましょう。それでは、お楽しみに!

11.

ガバペンチノイドと併用薬で薬物中毒リスクが上昇か

 ガバペンチノイド系鎮痛薬(以下、ガバペンチノイド)を他の薬剤と併用すると、薬物中毒のリスクが上昇する可能性が、新たな研究で示された。ガバペンチノイドとオピオイド系鎮痛薬(以下、オピオイド)やベンゾジアゼピン系薬剤(以下、ベンゾジアゼピン)の併用はこのリスクを高め、特に治療初期には顕著なリスク上昇が認められたという。英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)の薬剤疫学者であるKenneth Man氏らによるこの研究は、「PLOS Medicine」に4月16日掲載された。 Man氏らは、「今回の結果は、ガバペンチノイドが安全ではない、あるいは処方すべきではないことを示すものではない。ただ、特に他の薬剤を使用中の患者に処方する際には注意が必要であり、臨床医は患者を慎重にモニタリングする必要がある」とニュースリリースで述べている。 ガバペンチノイドは、主にガバペンチンやプレガバリン、ミロガバリンを含む薬剤群の総称であり、てんかん、神経痛、不安などの治療に広く用いられている。近年、ガバペンチノイドは、オピオイドの代替として鎮痛目的での使用が増加しており、現在では米国では7番目に多く処方される薬となっている。世界的に見ても、その使用量は2008年から2018年の間に4倍以上に増加している。 今回の研究では、2010年1月1日から2020年12月31日の間にガバペンチノイドを処方され、薬物中毒で入院した経験がある英国の18歳以上の患者1万6,827人(女性53.5%)を対象に、ガバペンチノイドによる治療と薬物中毒との関連が検討された。解析は自己対照ケースシリーズ(SCCS)デザインを用い、同一患者内で治療開始の90日前、治療開始後0~28日、29~56日、57~84日、およびそれ以降の治療期間に分けて、期間ごとの薬物中毒リスクを比較した。薬物中毒の症状は、意識消失、呼吸困難、けいれんなどである。観察期間中のいずれかの時点で、対象者の約9割がガバペンチノイドとオピオイドを、半数以上がベンゾジアゼピンを併用していた。 その結果、薬物中毒のリスクは、ガバペンチノイド非使用期間(対照期間)と比較して、治療開始の90日前にすでに約2倍に上昇していることが示された(調整発生率比2.09、P<0.001)。治療開始後0~28日間でもリスクは約1.8倍(同1.81、P<0.001)と高く、その後は徐々に低下したものの、それ以降の治療期間でも軽度の上昇が持続した(同1.11、P<0.001)。このことは、薬物中毒のリスクを軽減するためにガバペンチノイドを使用しても、その効果は限定的である可能性を示唆している。さらに、オピオイドやベンゾジアゼピンの併用によりリスクはさらに上昇し、治療開始後0~28日間では、オピオイド併用で約2倍、ベンゾジアゼピン併用で約4倍に達した。 薬物中毒リスクが最も高かったのがガバペンチノイドによる治療開始前90日間であったことは、オピオイドやベンゾジアゼピンなどの使用に対する懸念を背景に、医師がガバペンチノイドを処方した可能性を示唆している。論文の筆頭著者であるUCLのAndrew Yuen氏は、「臨床医がガバペンチノイドを処方する判断は、オピオイドなど他の薬剤に関連した薬物中毒リスクを減らす試みである場合がある」と述べている。同氏はまた、「ガバペンチノイドによる治療開始後に薬物中毒リスクはやや低下したものの、それでもなおリスクは高い状態が続いていた。この結果は、臨床医が治療期間を通じて継続的に薬物中毒リスクへ注意を払う必要があることを示唆している」と指摘している。 なお、ガバペンチノイドが直接的に薬物中毒を引き起こすかどうかは依然として不明である。ただし、これらの薬剤がオピオイドやベンゾジアゼピンなど他の薬の鎮静作用を増強する可能性があることを示すエビデンスは存在しているという。

12.

第318回 シロシビンで3人に1人近くがコカイン依存を脱却

コカイン使用を断つマジックマッシュルームの活性成分シロシビン(サイロシビン[psilocybin])の効果が無作為化試験で示されました1-3)。違法なコカイン栽培地域の拡大を背景にして、世界でのコカイン使用が増え続けています4)。推定によると2013年には1,700万例だったのが2023年には2,500万例に達しています。15~64歳のコカイン使用者の割合が同時期に0.36%から0.47%に増えたことになります。増え続けるコカイン使用の治療薬の検討に大金が費やされていますが、目ぼしい効果の確立には至っていません。1960年代から70年代の初めの試験でサイケデリックの類いの1つのLSDが有望なヘロインやアルコール依存治療成績を残しています。また、最近の試験でマジックマッシュルームのサイケデリック成分のシロシビンがアルコール依存患者の飲酒を減らす効果が認められています。さらには、禁煙効果を調べた試験でシロシビンは5人に2人ほどの40.5%を長期の禁煙に導きました。ニコチン貼付群でのその割合はわずか10%でした。サイケデリックはどうやら抗依存効果があるようですが、コカイン使用が対象の試験はこれまでありませんでした。そこで米国のアラバマ大学バーミンガム校(UAB)のPeter Hendricks氏らは、シロシビンにコカイン使用を断つ作用があるとの仮説を検証する試験を思い立ち、10年ほど前の2015年に被験者の組み入れを開始しました。試験に集まった40例は平均して毎日コカインを使用していました。全員が認知行動療法(CBT)を4~5回受け、半数はCBTに加えてシロシビンを単回経口投与する群、もう半数はプラセボとして抗ヒスタミン薬ジフェンヒドラミン(diphenhydramine)を単回経口投与する群に割り振られました。ジフェンヒドラミンは多めに投与すると鎮静などの精神に影響する作用をもたらすことが知られます。途中で脱落した4例を除く36例の半年後(180日時点)の検査で、6例がコカインをすっかり止めたと報告し、尿検査でコカインの検出がなかったことがその申告を裏付けていました。それら6例は全員がシロシビン投与群でした。すなわちシロシビン投与群の3人に1人に近い30%がコカイン断ちに成功していたことになります。プラセボ(ジフェンヒドラミン投与)群では誰ひとりそうはなっていませんでした。シロシビン群の患者は総じてコカイン使用が少なくなっており、1ヵ月当たりのその使用回数はわずか1.5回になっていました。一方、プラセボ群のコカイン使用は相変わらず多く、1ヵ月当たり12回を数えました。試験に参加したLorenzoという姓の男性の感想がScienceのニュースで紹介されています3)。今や63歳となるLorenzo氏はかつて何十年もコカインをほぼ毎日使用していました。家を失い、結婚が破綻し、コカイン所持で何日か収監されたこともありました。しかし今は違います。試験参加後に同氏は何年もコカインなしで過ごせており、今では家を持ち、定職に就いており、親密な連れもできました。Lorenzo氏は試験での服薬日に恐怖心が幸福と喜びに入れ替わると共に悲しみや後悔を覚え、神に謝罪し、チャンスが与えられたなら心を入れ替えてまともになると約束しました。いまだにコカインと共に過ごす古い友達に同氏はその体験を話しています。試験を率いたHendricks氏はより大規模な試験を開始すべく助成金を申請し、協力企業を探しています。今回の試験成績の権利はUABからカナダのRed Light Hollandの子会社Filament Healthに付与されています。同社は承認に向けた取り組みを手伝うと言っています5)。参考1)Hendricks PS, et al. JAMA Netw Open. 2026;9:e2611029.2)Psilocybin proves promising treatment for cocaine use disorder, according to UAB study / University of Alabama at Birmingham3)Magic mushroom compound shows promise against cocaine addiction / Science4)WORLD DRUG REPORT 2025/ UNODC5)Red Light Holland Highlights Publication of Randomized Clinical Trial Showing a Single Dose of Psilocybin Reduced Cocaine Use, with Filament Health Holding the Exclusive License to the Data and Intellectual Property.

13.

高齢者の不眠症治療、非ベンゾジアゼピン系催眠薬vs.オレキシン受容体拮抗薬

 世界的な高齢化の加速に伴い、高齢者の不眠症は、公衆衛生上の大きな課題となっている。高齢者の不眠症では、認知行動療法が第1選択治療であるにもかかわらず、薬物療法も依然として広く用いられている。しかし、高齢者に対する従来の非ベンゾジアゼピン系鎮静催眠薬(非BZRA)の使用には重大な安全性上の懸念が存在する。一方、新しい二重オレキシン受容体拮抗薬(DORA)の長期的な実臨床における安全性に関するエビデンスは依然として限られている。このエビデンスのギャップを埋めることは、高齢者における安全な薬剤使用を導くうえで、きわめて重要である。中国・Nanjing Youan HospitalのShuqing Gao氏らによる、Frontiers in Pharmacology誌2026年3月10日号の報告。 米国食品医薬品局(FDA)の有害事象報告システム(FAERS)データベースを用いて、医薬品安全性監視研究を実施した。対象期間は2004年第1四半期から2025年第2四半期。65歳以上の患者で、主要な疑わしい薬剤として非BZRAまたはDORAが記載されている症例報告を対象とした。報告オッズ比(ROR)、比例報告比(PRR)、情報成分(IC)、経験的ベイズ幾何平均(EBGM)を用いて、偽陽性を最小限に抑えるための厳格な閾値を設定し、包括的な不均衡分析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・高齢患者に関する報告5,447件を分析した。・本研究により、2つの薬剤クラス間で明確な有害事象プロファイルの違いが明らかになった。・非BZRA、とくにエスゾピクロンは、治療失敗(例:薬剤無効、不眠症)に関連する最も強いシグナルを示し、さらに味覚異常に関する特異的なシグナルも示した。・一方、DORAは、睡眠覚醒調節機構に合致する夢の異常事象(悪夢、異常な夢、幻覚など)について、強く一貫したシグナルを示した。・特筆すべきは、今回のデータセットにおいて、いずれの薬剤も転倒に関する統計的に有意なシグナルを示さなかった。・器官系分類分析の結果、精神および神経系疾患の発生率が最も高いことが示された。 著者らは「これらの結果は、非BZRAとDORAの安全性プロファイルの違いを明確に示した。非BZRAは治療失敗と味覚異常に関連しているのに対し、DORAは悪夢や幻覚などの神経精神症状と関連していた」としている。

14.

青緑色の吐物といえば…何中毒?その対処法は?【中毒診療の初期対応】第7回

<今回の症例>年齢・性別66歳・男性患者情報3ヵ月前に長年勤務していた職場を定年退職した。1ヵ月前よりうつ状態となり、数日前より不安・焦燥が著しく、じっとしていられない状態であった。搬送当日の早朝、グルホシネートアンモニウム塩18.5%を含有する除草剤(商品名:バスタ液剤)を200cc程服用し、青緑色の吐物を嘔吐しているところを妻に発見されて、救急医療施設に搬送された。経口摂取2時間後の初診時は、呼吸数12/分、SpO2 98%(室内気)、血圧126/82mmHg、心拍数76bpm、意識レベルJCS 0、瞳孔左右3.5mm同大、対光反射 迅速、体温36.6℃であった。嘔気以外の訴えはなかった。検査値末梢血では、WBC 6.20×103/mm3、Hb 14.2g/dL、Ht 43.4%、Plt 122×103/mm3、生化学検査では、TP 7.1g/dL、AST(GOT)32IU/L、ALT(GPT)36IU/L、LDH 296IU/L、CPK 72IU/L、AMY 178IU/L、Glu 98mg/dL、BUN 16mg/dL、Cr 0.8mg/dL、Na 137mEq/L、K 4.2mEq/L、Cl 99mEq/Lであった。動脈血ガス(室内気)では、pH 7.412、PaCO2 38.8Torr、PaO2 90.6Torr、HCO3- 23.8mmol/L、BE -0.4mmol/L、乳酸値 1.4mmol/Lであった。<問題1><解答はこちら>4.気管挿管および呼吸器管理を施行し、集中治療室に入院とするフェンタニルおよびプロポフォールの静脈内投与によって鎮静し、気管挿管および人工呼吸器管理を施行した。さらに、経鼻胃管を挿入し、300mLの微温湯で懸濁した活性炭50gを胃内に注入し、集中治療室に入院とした。経口摂取28時間後に自発呼吸が消失した。経口摂取50時間後より次第に自発呼吸を認め、摂取54時間後に鎮静薬を中止した。58時間後に離握手などの指示に従うことを確認して人工呼吸器を離脱し、気管チューブを抜管した。その後の経過は順調で、入院4日目にうつ病の治療目的で精神科病棟に転棟となった。後に、初診時(経口摂取2時間後)の血清より246µg/mLのグルホシネートが検出された。上條 吉人編. 臨床中毒学 第2版. 医学書院. 2023.小山 完二ほか. 日救急医会誌. 1997;8:617-618.

15.

がん患者、24時間以内の死亡予測は可能か

 角膜反射の消失は、末期がん患者において24時間以内に死が差し迫っていることを示す特異的かつ臨床的に有用な徴候であることを韓国・Gyeongsang National University Changwon HospitalのSe-Il Go氏らが明らかにした。BMJ Supportive and Palliative Care誌2026年2月27日号掲載の報告。 研究者らは、末期がん患者における24時間以内の死亡を予測する上で、角膜反射の予後予測的意義を評価することを目的として前向き観察研究を実施。Gyeongsang National University Changwon Hospitalのホスピスセンターに入院し、死期が迫っている進行がん患者665例の分析を行った。訓練を受けた看護師が標準化された基準を用いて、角膜反射およびそのほかの臨死期の徴候を1日3回評価。混合効果ロジスティック回帰を用いて24時間以内の死亡予測因子を特定し、24~96時間における診断性能を検討した。 主な結果は以下のとおり。・角膜反射の消失は24時間以内の死亡と強く関連しており(オッズ比5.48、p<0.001)、24時間死亡は70.7%であった。・角膜反射の消失の特異度は85.0%、陽性的中率は70.7%といずれも高かった。・鎮静度を10段階に分けて評価するRichmond Agitation-Sedation Scale(RASS)スコアが-4(深い鎮静状態)または-5(昏睡)の患者においても角膜反射の消失は24時間死亡の有意な予測因子であり、角膜反射が消失した患者の71.2%が、反射が残存した患者の37.1%が24時間以内に死亡した。・そのほかの有意な予測因子として、末梢性チアノーゼ、酸素飽和度低下、低血圧などが認められた。 研究者らは「本研究結果は、臨死期の予後予測および意思決定への応用を裏付けるもの」としている。

16.

最適な輸液ルート選択の考え方 その壱【ケースで学ぶ輸液オーダー】第2回

最適な輸液ルート選択の考え方 その壱これから集中治療を行う患者さんに対して、「どこから、何のために、どんなルートを確保するのが安全か」ということをあまり考えずに、先輩医師のやり方を見てなんとなく慣習で選んでいたということは少なくないかもしれません。今一度、輸液ルート選択の思考回路を一緒に整理してみましょう。症例肺炎によるI型呼吸不全、敗血症性ショックでICUに入室した患者さんに対応するよう、指導医とともに緊急呼び出しされた初期研修医A君。酸素10L/分(マスク)、両側肘正中皮静脈から18Gを1本ずつ確保、両側とも細胞外液補充液を急速投与中、それでも血圧80/40mmHg、脈拍120/分、呼吸回数30回/分、SpO2 88%、ショックと低酸素血症が持続しています。迅速導入気管挿管(rapid sequence intubation)を行い、人工呼吸管理となりました。指導医は「あとは頼んだよ」と言って去っていきました。挿管後、患者さんは強い体動を認め、上肢をばたつかせています。ショックの治療と並行して持続的な鎮静・鎮痛が必要です。併存症に糖尿病があり血糖800mg/dL、さらに播種性血管内凝固症候群(DIC)も合併しています。さて、A君は次に何を行うべきでしょうか?考えかたの整理集中治療では、複数の薬剤・輸液を同時並行で安全に投与する必要があります。想定される投与内容は、ショックに対する細胞外液補充液・昇圧薬、人工呼吸中の鎮静薬・鎮痛薬、抗菌薬、維持輸液(将来的に栄養輸液に移行する可能性あり)、インスリンなどです。ここで大切なことが3つあります。1. 流量変動の影響を受けてはいけない薬剤がある例:昇圧薬、鎮静薬・鎮痛薬、インスリン持続投与などこれらは流量が変わると、血圧や鎮静レベル、血糖値が一気に変動するため、急速に注入するラインと同じラインにすべきではありません。2. 配合変化がありうる例:オメプラゾール、セフトリアキソン、アミオダロンなど他剤との混合で沈殿・失活が起こる薬剤があるため、不明な場合は必ず薬剤師に相談しましょう。ちなみに輸血と同一ラインで流せるのは生理食塩液のみです。3. 末梢で理論上可能でも現実的ではないことがある理論上、すべて末梢静脈から投与可能な薬剤でも、必要な薬剤が多すぎて、メイン点滴ルートの側管などを駆使しても現実的にすべて末梢から行えない場合もあります。その場合は、ルートの本数かせぎに複数のルーメンを持つトリプルやクワッドルーメンの中心静脈カテーテル挿入が必要です。中心静脈カテーテル挿入の主な適応は、(1)末梢静脈の確保困難、(2)薬剤の多剤併用、(3)刺激性、腐食性、高浸透圧性の薬剤投与(抗がん剤、昇圧薬、50%ブドウ糖、高カロリー輸液など)、(4)血行動態のモニタリング(スワンガンツカテーテル挿入、中心静脈圧測定などの圧モニター)です。本症例は、(2)多剤併用、(3)昇圧薬投与が該当します。本症例の対応本症例には以下の輸液、薬剤の投与が必要です。ショック:細胞外液補充液、ノルアドレナリン人工呼吸中の鎮静、鎮痛:プロポフォール、フェンタニル敗血症:抗菌薬維持輸液(将来的に中心静脈栄養に移行する可能性あり)インスリン(持続投与)本患者は強い体動を認めているため、現在の両側肘静脈ラインは今にも抜けそうで不安定であり、流量管理が困難かつ薬剤が組織侵襲性のある薬剤を投与すると血管外へ漏出する恐れがあります。以上から、組織侵襲性のある薬剤や一定の流量で投与すべき薬剤を複数かつ安全に投与する目的で、マルチルーメン中心静脈カテーテル挿入が必須です。中心静脈カテーテルの挿入部位はさまざまでそれぞれ長所・短所がありますが、本症例はDICを合併していることから止血の確実性が重要であり、動脈誤穿刺時の圧迫止血の容易さを考えると、内頸静脈または大腿静脈が有利です。ただし、清潔性・感染管理・将来の離床を考えると、右内頸静脈が第1選択となることも多いでしょう。もちろん、超緊急時は理想に固執せずに最も得意な部位から確実に挿入することも許容されます。図1 中心静脈カテーテル各挿入部位の利点、欠点1)画像を拡大する本症例はベテランICUナースによって図2で示す投与経路が組み立てられました。医師が投与経路の組み立てを自ら行うことはまれですが、たとえば昇圧薬、鎮静薬や鎮痛薬、時間をかけて静注する必要のある薬剤にグループ分けするなど、看護師が多くの薬剤を限られたルートからいかに工夫して投与しているか、そのオキテに着目するのは勉強になります。図2 本症例における輸液・薬剤投与経路の実際2)画像を拡大する目的に見合う最適な輸液ルートやカテーテルを選択しましょう。混ぜても大丈夫?注射薬は単独での使用を想定し開発されていますが、臨床現場では輸液バッグやルート内で配合されて投与される場合が多く、配合変化の危険が存在します。配合変化とは、2種類以上の注射薬を混合した際に生じる変化であり、物理的配合変化(例:混濁・沈殿)と化学的配合変化(例:有効成分の力価低下)に分けられます。配合変化による影響としては、力価の低下やルート閉塞、まれではありますが国外において死亡例が報告されています3)。ICUでは複数の静注薬を限られたルートの中で同時投与せざるを得ない状況があります。そのため、最適なルート選択をする上で配合変化の有無の確認は欠かせません。施設によっては配合変化表を作成し、ICUに配置していると思います。ルート選択の際に活用することにより、配合変化の頻度を下げる可能性が報告されており4)、有用なツールです。最後に、ルート管理において注射薬から内服薬への変更や不要な薬剤の中止を検討することも大事な視点になります。安易に継続処方とせず、薬剤の投与方法についても検討するようにしましょう。図3 (左)坂総合病院ICUの配合変化の問い合わせ記録集、(右)坂総合病院救急室の配合変化の有無の一覧表画像を拡大する1)Marino PL. ICUブック第4版. MEDSI;2015.p15-33.2)濱野繁. 10薬剤投与. In:道又元裕. これならわかるICU看護:照林社;2018.p.159.3)セフトリアキソンナトリウム 添付文書4)Kondo M, et al. J Nippon Med Sch. 2022;89:227-232.

17.

第313回 臨床試験でデクスメデトミジンがアルツハイマー病関連タンパク質除去を促進

脳の老廃物処理機能を後押しして、アルツハイマー病と関連するタンパク質がより除去されるようにする薬の組み合わせの効果が臨床試験で裏付けられました1,2)。「一線を画す進歩であり、神経変性疾患患者を助けうることに留まらず、健康な人が脳の機能を最大限にするのにも役立つかもしれない」とアミロイドβ(Aβ)検出化合物を研究するハーバード大学の准教授Shiju Gu氏は今回の成果を評しています。脳は代謝で生じる老廃物を血管に沿って流れるグリンパティック系を介して排出します。グリンパティック系からリンパ系へと運ばれた老廃物は、次に血液に至って処分されます。グリンパティック系はアルツハイマー病関連タンパク質のAβやタウの除去を促すことがげっ歯類の検討で示されています。その働きは睡眠中にとくに盛んで、睡眠不足はAβやタウの除去を滞らせます。ヒトの脳にもグリンパティック機能があり、やはり睡眠中に活動し、睡眠中にAβやタウが脳から排出されることに一役買っていることが神経画像解析で判明しています。残念なことにグリンパティック系は老化で衰え、アルツハイマー病ではとくに不調になるようです。一方幸いにも、脳の青斑核(LC)から伸びる神経のノルアドレナリンの働きを制するいくつかの手段で、睡眠中のグリンパティック機能を高めうることも示されています。たとえば、外科処置の際の鎮静によく使われるα2アドレナリン作動薬デクスメデトミジンは、LCの活動を抑制することでグリンパティック機能を高めることがげっ歯類の検討で示されています3)。デクスメデトミジンにはアルツハイマー病を模すマウスの認知機能低下を遅らせる効果もあります4)。そこで米国の製薬会社Applied Cognitionに勤めるPaul Dagum氏らは、ヒトではどうかを試すべく臨床試験でデクスメデトミジンのグリンパティック機能やAβとタウの除去への作用を調べることにしました。試験には平均年齢60歳の19人が参加し、試験室で寝ないで1晩を過ごした後にデクスメデトミジンと同剤につきものの副作用である低血圧を防ぐα1アドレナリン作動薬ミドドリンの投与を受けました。Applied社はその組み合わせをACX-02という名称を付けて開発しています。被験者には1週間後に再び試験室で一晩を寝ないで過ごしてもらいます。しかしその後が1回目の徹夜とは違い、ACX-02ではなくプラセボが投与されました。プラセボ投与との比較の結果、喜ばしいことにげっ歯類での検討と同様の効果が示されました。すなわちACX-02はグリンパティック機能を高めてAβとタウが脳から血液へと排出されるのを促す効果がありました。アルツハイマー病治療として承認済みのアミロイド除去抗体と違って、ACX-02ならAβとタウの両方の除去を促せそうであり、認知機能により有益かもしれません。Dagum氏らのチームは初期アルツハイマー病患者を募る試験でACX-02に一層の取り柄があるかどうかを調べるつもりです。パーキンソン病などの異常に折りたたまれた(ミスフォールド)タンパク質の蓄積による他の脳疾患にもACX-02は役立つかもしれません。もっというと、寝不足後の注意欠如の解消にも使えるかもしれない、と研究チームの1人は言っています2)。 参考 1) Dagum P, et al. Pharmacological enhancement of glymphatic function in humans increases the clearance of Alzheimer’s disease-related proteins. medRxiv. 2026 Mar 12. 2) The brain's cleaning system can be boosted to rid Alzheimer's proteins / NewScientist 3) Hablitz LM. et al. Sci Adv. 2019;5:eaav5447. 4) Ma K, et al. Drug Des Devel Ther. 2024;18:5351-5365.

18.

ICUでの身体拘束、限定的vs.系統的/JAMA

 侵襲的人工換気を受けるICU入室成人患者に対する手首拘束具の使用について、低頻度(限定的)使用戦略は高頻度(系統的)使用戦略と比べて、14日時点のせん妄または昏睡のない日数を減少させないことが示された。フランス・パリ・シテ大学のRomain Sonneville氏らR2D2-ICU Investigator Study Groupが、非盲検無作為化試験「R2D2-ICU試験」の結果を報告した。先行研究によると、ICU入室患者の約半数が身体拘束を受けているとされる。ICUにおける身体拘束は現実的な安全対策と見なされている一方、身体拘束が患者のストレスや興奮を増大させ、鎮静薬などの使用によってせん妄や昏睡のリスク、ひいては死亡や認知機能低下などのリスクが高まる懸念も指摘されている。しかし、身体拘束の頻度を減らすことが臨床アウトカムを改善できるかについては、これまで明らかにされてこなかった。JAMA誌オンライン版2026年3月17日号掲載の報告。無作為化後14日間のせん妄または昏睡のない生存日数を評価 試験は、2021年1月5日~2024年1月2日にフランスの10ヵ所のICUで行われた。研究グループは、スクリーニング時点で、侵襲的人工換気開始から6時間未満で、かつ少なくとも48時間以上の人工換気の継続が予想される成人患者405例を登録し、身体拘束を限定的に行う手首拘束具の低頻度使用戦略群(重度の興奮状態[Richmond Agitation-Sedation Scale:RASSスコア〈-5:無反応~4:攻撃的〉が3以上]とされ、必要性がある場合にだけ手首拘束具を使用する、201例)、または高頻度使用戦略群(手首拘束具を系統的に装着し毎日評価して使用する、204例)に無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、無作為化後14日間のせん妄または昏睡のない生存日数。副次アウトカムは、自己抜去の発生率、90日死亡率などであった。 2024年5月17日に追跡を終了し、2025年6月1日~12月15日に統計学的解析が行われた。主要アウトカムの有意差なし、自己抜去発生や90日死亡率も差が認められず 主要アウトカムのデータは396例で得られた。年齢中央値は65歳(四分位範囲[IQR]:56~73)、245例(62%)が男性で、Sequential Organ Failure Assessment:SOFAスコアは7(IQR:4~10)であった。 無作為化後14日間のせん妄または昏睡のない生存日数中央値は、低頻度使用戦略群6.67日(95%信頼区間[CI]:5.69~7.65)、高頻度使用戦略群6.30日(95%CI:5.35~7.24)であった(補正後群間差:0.37日、95%CI:-0.71~1.46、p=0.51)。 自己抜去は、低頻度使用戦略群18例(9.2%)、高頻度使用戦略群17例(8.5%)で発生し、90日死亡率はそれぞれ37.2%、41.0%であった。

19.

高齢者の術後せん妄の予防に有効な薬物療法とは/BMJ

 術後せん妄の予防に鎮静薬デクスメデトミジンが有効であり、エビデンスの質は高くないもののコルチコステロイド、メラトニン受容体作動薬、parecoxib、経鼻インスリン、オランザピンにも潜在的な有益性があることが、英国・オックスフォード大学のMatthew Luney氏らの検討で示された。手術後に急激な意識障害や注意力の低下を来す術後せん妄は、認知症発症のリスクを高めるだけでなく、多大な医療コストの要因ともなっており、高齢化社会における重大な課題とされるが、有効な薬物療法は確立されていない。BMJ誌2026年2月12日号掲載の報告。158試験4万1,084例のネットワークメタ解析 研究グループは、高齢者の術後せん妄に有効な薬剤を特定し、罹患率や死亡率への影響を評価する目的で、既報の無作為化対照比較試験の系統的レビューとネットワークメタ解析を実施した(英国国立衛生研究所[NIHR]のdoctoral research fellowshipの助成を受けた)。 2024年3月4日の時点で、医学関連データベースに登録された関連文献を検索した。対象は、参加者の年齢が60歳以上で、全身または区域麻酔を要する手術後のせん妄の予防を目的に1つ以上の薬剤を投与し、妥当性の検証が済んでいるせん妄評価ツールをアウトカムの評価に用いた無作為化対照比較試験とした。局所麻酔のみの試験、術前に患者が機械換気を受けていた試験、せん妄の治療介入に関する試験は除外した。ベイズ法に基づくネットワークメタ解析を用いて介入法の比較を行った。 52種類の薬物介入を比較した158件の試験(参加者4万1,084例)を特定した。1件の試験の参加者数中央値は120例(四分位範囲:80~259、範囲:16~7,507)で、単施設試験が135件、多施設共同試験が23件だった。これらの試験の結果はすべて1999~2024年に発表され、87件(55%)は2021~24年に報告されていた。17件の試験を、バイアスのリスクが高いと判定した。術後せん妄は14.5%(5,957例)に発現した。術後の悪心・嘔吐の抑制効果も デクスメデトミジンは、外科領域全体(オッズ比[OR]:0.45、95%信用区間[CrI]:0.36~0.56)、胸部手術を除く各専門領域(非心臓手術のOR:0.41[95%CrI:0.31~0.54]、心臓手術:0.52[0.31~0.82]、大腿骨近位部骨折修復手術:0.35[0.17~0.63]、腹部手術:0.38[0.17~0.81]、整形外科手術:0.35[0.20~0.60]、待機的手術:0.47[0.37~0.59]、緊急手術:0.22[0.08~0.46])のいずれにおいても、プラセボに比べ術後せん妄の予防効果が高く、バイアスのリスクが高い試験を除外した感度分析(OR:0.46、95%CrI:0.36~0.57)でも高い効果を示した。 また、デクスメデトミジンの術後せん妄の予防効果は、手術時の麻酔法を問わず優れた(全身麻酔のOR:0.45[95%CrI:0.35~0.57]、区域麻酔:0.28[0.11~0.64])。 デクスメデトミジンは、低血圧(OR:1.40、95%CrI:1.08~1.81)と徐脈(1.60、1.32~2.00)の頻度が高かった一方で、術後の悪心・嘔吐(0.67、0.49~0.87)を抑制した。重症度軽減はコルチコステロイドのみ バイアスのリスクが高い試験を除外した感度分析で、デクスメデトミジンのほかに優れた術後せん妄予防効果を認めた介入として、コルチコステロイド(OR:0.53、95%CrI:0.31~0.87)、メラトニン受容体作動薬(0.54、0.34~0.85)、parecoxib(0.34、0.16~0.74)、オランザピン(0.27、0.07~0.94)、経鼻インスリン(0.13、0.04~0.34)が挙げられたが、これらの試験のエビデンスの質は中~非常に低いであった。 penehyclidineは、プラセボに比べ術後せん妄を有意に増加させた唯一の介入であった(外科領域全体のOR:6.20、95%CrI:1.19~35.37)。 Memorial Delirium Assessment Scale(MDAS)を用いた評価で、プラセボと比較してせん妄の重症度をわずかとはいえ軽減した薬剤は、コルチコステロイド(平均群間差:-2.42、95%CrI:-4.72~-0.12)のみであった。ほとんどの介入は、入院期間、死亡率、術後合併症、生活の質、術後の認知機能に影響を及ぼさなかった。また、コルチコステロイドにより感染症関連合併症が増加することはなかった(OR:0.97、95%CrI:0.66~1.65)。 著者は、「術後せん妄への介入が、せん妄の重症度、精神的苦痛(患者が重視しているにもかかわらず報告がほとんどない)、生活の質、認知機能、自立度、医療資源の消費量に及ぼす影響を評価し、医療経済分析に資する情報を得るために、厳格に実施される試験が必要なことは明らかである」としている。

20.

高齢者の減薬、EHRによる医師への通知が有効/JAMA

 高齢者に対する「潜在的に不適切な薬剤」、とくにベンゾジアゼピン系薬剤や抗コリン薬の処方は、転倒や入院のリスクを約30%増加させることが知られている。臨床ガイドラインは、これらの薬剤の使用制限を推奨しているが、多忙な診療現場における時間の制約や、患者の希望、現状維持バイアスなどが障壁となり、減薬(deprescribing)による処方の適正化は容易ではないという。米国・ブリガム&ウィメンズ病院・ハーバード大学のJulie C. Lauffenburger氏らは「NUDGE-EHR-2試験」において、行動科学の知見に基づく電子健康記録(EHR)への介入ツール(ナッジ[nudge]と呼ばれる医師への通知システム)が、高齢患者における不適切な処方の削減にきわめて有効であることを示した。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2026年1月29日号で報告された。201人のプライマリケア医(PCP)が参加した3群無作為化優越性試験 NUDGE-EHR-2試験は、米国ボストン市のマサチューセッツ総合病院で実施した実践的な3群並行無作為化優越性試験(米国国立老化研究所[NIA]の助成を受けた)。201人のプライマリケア医(PCP)を、2022年11月、3つの群にクラスター無作為化した。 対象は、無作為化されたPCPの患者で、年齢65歳以上、2022年11月10日~2024年3月15日にPCPを受診し、過去180日間に1種類以上のベンゾジアゼピン系薬剤または非ベンゾジアゼピン系鎮静催眠薬、あるいは2種類以上の抗コリン薬の処方を受けた患者であった。 PCPは、介入を受けず通常ケアを行う群または次の2つのEHR介入を受ける群に割り付けられた。(1)事前コミットメント介入群:初回診察時にEHRメッセージを受信し、患者と投薬のリスクや減薬(薬剤の漸減・中止)について話し合いを開始するよう要請された。2回目およびそれ以降の診察時には、患者に不適切な可能性のある薬剤の減薬を促すよう要請するEHRメッセージをリマインダーとして受信した。(2)ブースター介入群:初回診察時にEHRメッセージを受信し、患者に減薬を促すよう要請された。PCPは、4週間後にリマインダーを送信するよう設定することができ、これを設定したPCPは受信箱でリマインダーを受け取った。 主要アウトカムは、初回診察時から追跡期間終了時までに行われた1種類以上の減薬とした。減薬は、EHRデータを用いて患者レベルで評価した医師の主導による薬剤の中止または漸減と定義した。減薬率の改善、事前コミットメント介入群40%、ブースター介入群26% 1,146例(平均年齢73.6[SD 6.4]歳、女性799例[69.7%]、平均追跡期間289.9[SD 141.0]日)が解析に含まれた。PCPは平均5.7(SD 4.7)例の患者を診察した。平均受診回数は、事前コミットメント介入群が2.6(SD 2.2)回、ブースター介入群が2.3(SD 1.6)回、通常ケア群が2.2(SD 1.6)回だった。 373例(32.5%)で、少なくとも1種類の薬剤の減薬が達成された。内訳は、事前コミットメント介入群が145例(36.8%)、ブースター介入群が122例(34.3%)、通常ケア群が106例(26.8%)であった。 通常ケア群と比較して、減薬の割合は事前コミットメント介入群で40%高く(相対リスク[RR]:1.40、95%信頼区間[CI]:1.14~1.73、絶対群間差:10.4%)、ブースター介入群で26%高かった(RR:1.26、95%CI:1.01~1.57、絶対群間差:6.5%)。 有害事象報告システムを通じた重篤な有害事象の報告はなかった。手動によるEHRレビューに基づく死亡の報告は、事前コミットメント介入群で1.4%、ブースター介入群で3.9%、通常ケア群で1.8%であった。累積投与量が減少しなかった原因は 主要アウトカムの結果とは異なり、通常ケアと比較して2つの介入法は、ベンゾジアゼピン系薬剤、非ベンゾジアゼピン系鎮静催眠薬、強力な抗コリン作用を有する薬剤の、処方された累積投与量を有意に減少させなかった。 この原因として、著者は、症例数がもっと多ければ差を検出できた可能性とともに、一部の医師が、介入の通知を受けて、ベンゾジアゼピン系薬剤および非ベンゾジアゼピン系鎮静催眠薬を、抗コリン薬に代替した可能性があること、1つの薬剤クラスの使用を減らす一方で別の薬剤クラスを増やした可能性があると指摘している。

検索結果 合計:300件 表示位置:1 - 20