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骨吸収抑制作用と骨形成促進作用を併せ持つ骨粗鬆症薬「イベニティ皮下注105mgシリンジ」【下平博士のDIノート】第22回

骨吸収抑制作用と骨形成促進作用を併せ持つ骨粗鬆症薬「イベニティ皮下注105mgシリンジ」今回は、世界に先駆けて日本で承認・発売されたヒト化抗スクレロスチンモノクローナル抗体「ロモソズマブ(商品名:イベニティ皮下注105mgシリンジ)」を紹介します。本剤は、骨吸収抑制作用と骨形成促進作用の2つの作用で骨密度を高め、骨折の危険性が高い骨粗鬆症患者の骨折リスクを低減することが期待されています。<効能・効果>本剤は、骨折の危険性の高い骨粗鬆症の適応で、2019年1月8日に承認され、2019年3月4日より発売されています。<用法・用量>通常、成人にはロモソズマブとして210mg(シリンジ2本分)を1ヵ月に1回、12ヵ月皮下投与します。なお、投与は病院、診療所などで行われます。<臨床効果>プラセボと比較した臨床試験では、閉経後骨粗鬆症患者7,180例(うち日本人492例)において、投与開始12ヵ月後に新規椎体骨折リスクを73%低減し、その効果は24ヵ月まで持続しました。<副作用>骨粗鬆症患者を対象としたプラセボ対照国際共同第III相試験で、本剤の投与を受けた3,744例中615例(16.4%)に臨床検査値異常を含む副作用が認められました。主な副作用は、関節痛(1.9%)、注射部位疼痛(1.3%)、注射部位紅斑(1.1%)、鼻咽頭炎(1.0%)でした(承認時)。なお、重大な副作用として低カルシウム血症、顎骨壊死・骨髄炎(頻度不明)が認められています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、骨形成を促すとともに骨吸収を抑えることで、骨密度を高めて骨折を予防します。2.本剤を投与中は、ブラッシングなどで口腔内を清潔に保ち、定期的に歯科検診を受けてください。顎の痛み、歯の緩み、歯茎の腫れなどを感じた場合は、主治医に連絡してください。3.本剤を使用中に歯の診察を受ける場合は、この薬を使っていることを必ず歯科医師に伝えてください。4.この薬により、低カルシウム血症が現れることがあります。指先や唇のしびれ、痙攣などの症状が見られた場合、すぐに医師・薬剤師に相談してください。<Shimo's eyes>本剤は、国内初の抗スクレロスチン抗体製剤です。スクレロスチンは、破骨細胞による骨吸収を促進し、骨芽細胞による骨形成を抑制する糖タンパク質です。本剤はこのスクレロスチンを阻害することで骨量を増加させ、骨折リスクを低下させます。本剤は、骨折の危険性の高い骨粗鬆症に対して月1回皮下投与します。投与中は、副作用である低カルシウム血症の発現リスクを軽減するために、カルシウムおよびビタミンDの補給を行います。とくに重度の腎機能障害や透析を受けている患者さんでは、低カルシウム血症が発現しやすいので、積極的に検査値などを確認するようにしましょう。本剤による治療を終了・中止する場合、骨吸収が一過性に亢進する懸念があるため、原則として骨吸収抑制薬が使用されます。なお、海外で実施されたアレンドロン酸ナトリウムを対照とした比較試験では、本剤投与群における虚血性心疾患または脳血管障害の発現割合が高い傾向にありました。使用に関しては、脆弱性骨折の有無、骨密度値や原発性骨粗鬆症の診断基準などを目安として、投与が適切かどうか判断することが望ましいとされています。骨粗鬆症による高齢者の骨折は、要介護・要支援の原因となり、健康寿命の延伸、QOLの維持などを妨げることから、本人・家族だけでなく社会にも大きな影響を及ぼします。本剤は、著しく骨密度が低い場合やすでに骨折部位がある場合など、数年以内に骨折するリスクが高い患者さんの新たな治療選択肢となるでしょう。なお、2019年4月時点において、本剤は米国と欧州では審査中であり、海外で承認されている国および地域はありませんので、副作用に関しては継続的な情報収集が必要です。

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75歳超にもスタチン療法は有益か/Lancet

 スタチン療法は、年齢にかかわらず主要血管イベントを有意に抑制することが、28件の無作為化試験、被験者総数約19万例を対象にしたメタ解析の結果、明らかになった。閉塞性血管疾患の所見がすでにみられない75歳超の高齢者におけるベネフィットについては、直接的なエビデンスが不足していたが、その点に関して現在、さらなる試験が行われているという。オーストラリアの研究グループ「Cholesterol Treatment Trialists' Collaboration」が行った研究結果で、Lancet誌2019年2月2日号で発表された。スタチン療法は、さまざまな患者の主要血管イベントや血管死を抑制することが示されているが、高齢者における有効性および安全性は不確かである。研究グループは、年齢の違いによるスタチン療法の有効性を比較したすべての大規模スタチン試験からデータを集めてメタ解析を行った。被験者年齢群を6グループに分け有効性を検証 研究グループは、適格条件に満たした、被験者数1,000例以上で治療期間2年以上の無作為化試験28件を対象にメタ解析を行った。そのうち22試験(被験者総数13万4,537例)からは被験者の個人データを、1試験(同1万2,705例)からは詳細サマリーデータを、5試験(同3万9,612例)からは強化スタチン療法と非強化スタチン療法を比較した個人データを組み込み、解析を行った。 スタチン療法の主要血管イベント(主要冠動脈イベント、脳卒中、冠血行再建術など)、死因別死亡、がん罹患への効果を、LDLコレステロール値1.0mmol/L低下ごとにおける率比(RR)として推算した。 被験者の年齢により、55歳以下、56~60歳、61~65歳、66~70歳、71~75歳、75歳超の6つのグループに分類し、異なる年齢グループの相対リスク減少率を比較した。グループ間の不均一性(2群間の場合)や傾向(2群超の場合)に対しては標準χ2検定法を用いた。主要冠動脈イベントリスク減少は高齢により縮小傾向 28試験の被験者総数は18万6,854例で、うち75歳超は8%(1万4,483例)であり、追跡期間中央値は4.9年だった。 全体的に、スタチン療法/強化スタチン療法は、LDLコレステロール値1.0mmol/L低下につき、主要血管イベントを21%減少した(RR:0.79、95%信頼区間[CI]:0.77~0.81)。すべての年齢グループで主要血管イベントの有意な減少が認められ、その相対リスクの減少幅は、年齢が上がるにつれて縮減したが、その傾向は有意ではなかった(傾向のp=0.06)。 同様に、主要冠動脈イベントについてスタチン療法/強化スタチン療法は、LDLコレステロール値1.0mmol/L低下による相対リスクの低下率は24%(RR:0.76、95%CI:0.73~0.79)で、年齢が上がるにつれて有意に縮減する傾向が認められた(傾向のp=0.009)。 冠血行再建術リスクについては、同相対リスク低下率は25%(RR:0.75、95%CI:0.73~0.78)で、年齢による有意な違いはみられなかった(傾向のp=0.6)。全脳卒中(タイプを問わない)リスクについても、同相対リスク低下率は16%(RR:0.84、95%CI:0.80~0.89)で、年齢による有意な違いはみられなかった(傾向のp=0.7)。 心不全または透析患者のみが登録されていた4試験(これら被験者はスタチン療法の有効性は示されなかった)を除外後、主要冠動脈イベントについては、年齢上昇に伴う相対リスク低下の縮減はわずかだが認められたものの(傾向のp=0.01)、主要血管イベントについては、やはり有意差は認められなかった(傾向のp=0.3)。 血管疾患既往患者においては、年齢にかかわらず、主要血管イベントの相対的な低下はわずかに認められた(傾向のp=0.2)。一方で血管疾患が不明な場合は、若年者よりも高齢者のほうが、低下が小さいようだった(傾向のp=0.05)。 血管死の同相対リスク減少率は12%(RR:0.88、95%CI:0.85~0.91)だった。高齢群でリスク低下率の縮減傾向が認められたものの(傾向のp=0.004)、心不全と透析患者のみを対象にした試験を除き解析した結果では、有意な傾向は認められなかった(傾向のp=0.2)。 なお、スタチン療法/強化スタチン療法は、どの年齢グループにおいても、非血管死、がん死、がん罹患のいずれにも影響はみられなかった。

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第5回 呼吸数、脈拍、血圧の測定方法 【薬剤師のためのバイタルサイン講座】

薬剤師である皆さんが患者さんのご自宅を訪問する時、患者さんは慢性的な病態であることが多く、容態の急変はないと思いがちです。しかし、慢性疾患であっても、急に容態が変化・悪化することはあります。そのような時、主治医や訪問看護師にすぐに連絡した方がよいかどうか迷うことがあるかもしれません。今回は、急を要するか否かの判断の仕方と、その判断に必要なバイタルサインの測定法について紹介します。1─呼吸数の測定方法呼吸の観察をする時には、患者さんに観察していることを知られないようにします。気付かれてしまうと、呼吸数や呼吸の様式が変わってしまうことがあるからです。方法としては、例えば脈拍を数えた後、脈をとり続けながら、胸や腹部の動きをみて呼吸数を数えます。30秒間の回数を2倍して1分あたりの回数にするとよいでしょう。通常、成人では1分間の呼吸回数はおよそ12~20回であり、12回未満の時は徐呼吸、24回以上の時は頻呼吸と言います(表1)。つまり、1回の呼吸に5~6秒以上かかっていたり、1回目の呼吸の始まりから3秒以内に次の呼吸が始まったりした時には異常といえます。具合の悪い患者さんでは、意識がなくなり、あごを上下させるような呼吸をすることがあります(下顎呼吸とか死戦期呼吸といいます)が、生命の危険性が差し迫った時にみられ、通常の呼吸ではありませんから注意が必要です。表1 呼吸数の評価2─脈拍の測定方法脈拍は、患者さんの動脈(手首内側の親指側の動脈)に、第2・3・4指をあてて測定します(写真1)。脈拍数は1分あたりの脈の数ですが、15秒間測定して4倍しても、20秒間測定して3倍してもよいです。正常の脈は規則的で、1分間に60~100回程度です。60回/分未満を徐脈、100回/分以上を頻脈といいます(表2)。熟練した医師は、脈拍数だけでなく、脈の強さや振幅の大きさ、脈の立ち上がりの速さまでも感じ取りますが、その域に達するにはそれなりの修行が必要です(笑)。写真1 橈骨動脈の触知の仕方 / 表2 脈拍数の評価3─血圧の測定方法水銀血圧計(写真2)を使いこなすには、少々練習が必要です。マンシェット(腕に巻く布製の部分)を巻き、ゴム球とバルブ(ネジの部分)を片手で扱いながら、水銀柱の圧を見つつ、聴診器を使って肘窩の動脈の音(コロトコフ音といいます)を聴いて...、などなど。しかし、今はボタンひとつで血圧と脈拍を測定してくれる自動血圧計がありますから、それを使用するとよいと思います。簡便な自動血圧計でも注意は必要です。マンシェットを巻く前に、血液透析用の血管の手術(シャント手術)を受けていないかを確認しましょう。その場合は他方の腕で血圧を測定します。また、まくりあげた衣服の袖が上腕を締め付けていないかを確認しましょう。腕は少し持ちあげて、肘窩の上腕動脈が心臓の高さ(およそ左右の乳頭を結んだ線の高さ)になるようにします。マンシェットは、上腕に、その下端が肘窩から1~3cmくらいになるように巻きます。きつすぎず、ゆるすぎず、指が1、2本入るくらいとします。緊張したり運動したりすると血圧が上がってしまいますから、少なくとも5分間は静かに座り、リラックスした状態で測定します。緊張して血圧が高く出てしまったと考えられる場合は、時間をおいて再度測定します。安定した値の2回の平均を血圧値としますが、医療従事者が測定した値だけでなく、本人が日頃測定する家庭血圧も有用です。手首で血圧を測定することもできますが、高血圧治療ガイドライン1)では上腕での測定が推奨されています。現在のガイドラインで示されている血圧値の分類を(表3)に示します。表3 成人における血圧値の分類日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会編.高血圧治療ガイドライン2014.東京,ライフサイエンス出版,2014.太田富雄,他.急性期意識障害の新しいgradingとその表現方法.第3回脳卒中の外科研究会講演集.東京,にゅーろん社,1975,61-69.Teasdale G, et al. Assessment of coma and impaired consciousness: a practical scale. Lancet.1974; 2: 81-84.脳卒中合同ガイドライン委員会.脳卒中治療ガイドライン2009.東京,協和企画,2009.

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ビタミンD受容体作動薬、透析患者の心血管リスク改善示せず/JAMA

 二次性副甲状腺機能亢進症(SHPT)を伴わない維持血液透析患者において、経口ビタミンD受容体作動薬(VDRA)アルファカルシドールは、心血管イベントのリスクを低減しないことが、大阪市立大学大学院医学研究科の庄司 哲雄氏らが行った「J-DAVID試験」で示された。研究の成果は、JAMA誌2018年12月11日号に掲載された。慢性腎臓病患者は、ビタミンD活性化が障害されるため心血管リスクが増大する。血液透析患者の観察研究では、活性型ビタミンDステロールは、副甲状腺ホルモン(PTH)値にかかわらず、全死因死亡のリスクを抑制することが報告されている。VDRAの有効性を評価する日本の無作為化試験 J-DAVIDは、維持血液透析を受けているSHPTを伴わない患者における、VDRAの心血管イベントおよび総死亡の改善効果の評価を目的とする日本の多施設共同非盲検エンドポイント盲検化無作為化試験である(日本腎臓財団の助成による)。 対象は、年齢20~80歳の維持血液透析を受けている患者であった。血清インタクトPTH値は180pg/mL以下とした。 被験者は、アルファカルシドール0.5μgを毎日経口投与する介入群または非投与(対照)群に無作為に割り付けられた。全例が、診療ガイドラインで推奨される標準的な薬物療法を受けた。 主要アウトカムは、48ヵ月のフォローアップ期間中に発生した、(1)致死的または非致死的心血管イベント(心筋梗塞、うっ血性心不全による入院、脳卒中、大動脈解離/破裂、虚血による下肢切断、心臓突然死)、(2)冠動脈血行再建(バルーン血管形成術、ステント留置)またはバイパス移植術、(3)下肢動脈血行再建(バルーン血管形成術、ステント留置)またはバイパス移植術の複合とした。副次アウトカムは全死因死亡であった。心血管イベント、全死因死亡とも有意差なし 2008年8月18日~2011年1月26日の期間に、全国の108の透析施設で976例が登録された。964例(年齢中央値65歳、女性386例[40.0%])がintention-to-treat解析に含まれ、944例(97.9%)が試験を完遂した。フォローアップ期間中央値は4.0年だった。 心血管イベントの主要複合アウトカムは、介入群では488例中103例(21.1%)に発生し、対照群の476例中85例(17.9%)に比べむしろ高率であったが、両群間に有意な差は認めなかった(絶対差:3.25%、95%信頼区間[CI]:-1.75~8.24%、ハザード比[HR]:1.25、95%CI:0.94~1.67、p=0.13)。 全死因死亡の発生率は、介入群が18.2%と、対照群の16.8%よりも高かったが、有意差はみられなかった(HR:1.12、95%CI:0.83~1.52、p=0.46)。 主要複合アウトカムのうち、心血管イベント(HR:1.26、95%CI:0.88~1.79)、冠動脈血行再建/バイパス移植術(1.20、0.64~2.25)、下肢動脈血行再建/バイパス移植術(1.40、0.64~3.05)のいずれにも有意な差はなかった。また、主要複合アウトカムのHRは、per-protocol解析では1.32(0.96~1.82、p=0.09)、修正per-protocol解析では1.34(0.97~1.83、0.07)に上昇したが、いずれも有意差はなかった。 重篤な有害事象は、介入群では心血管関連が199例(40.8%)、感染症関連が64例(13.1%)、悪性腫瘍関連が22例(4.5%)に、対照群ではそれぞれ191例(40.1%)、63例(13.2%)、21例(4.4%)に認められた。 著者は、「これらの知見は、SHPTを伴わない維持血液透析患者におけるVDRAの使用を支持しない」と結論したうえで、既報の観察研究と異なる結果となった理由の1つとして、副甲状腺機能や骨代謝回転がVDRAの心血管作用を修飾する可能性に言及し、「VDRAは副甲状腺機能亢進症や骨代謝回転が亢進した患者に処方されるのに対し、本研究ではインタクトPTH≦180pg/mLの患者を対象としていることから、VDRAは骨からのリン/カルシウムの動員を抑制することでSHPTの患者にのみ便益をもたらしている可能性がある」と指摘している。

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第7回 意識障害 その6 薬物中毒の具体的な対応は?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)ABCの安定が最優先! 気管挿管の適応を正しく理解しよう!2)治療の選択は適切に! 胃洗浄、血液浄化の適応は限られる。3)検査の解釈は適切に! 病歴、バイタルサイン、身体所見を重視せよ!【症例】42歳女性の意識障害:これまたよく遭遇する症例42歳女性。自室のベッド上で倒れているところを、同居している母親が発見し、救急要請。ベッド脇には空のPTP(press through pack[薬のシート])が散在していた。救急隊接触時のバイタルサインは以下のとおり。どのようにアプローチするべきだろうか?●搬送時のバイタルサイン意識:200/JCS血圧:102/58mmHg 脈拍:118回/分(整) 呼吸:18回/分 SpO2:97%(RA)体温:36.9℃ 瞳孔:3/3mm +/+この症例、誰もが急性薬物中毒を考えると思います。患者の周りには薬のシートも落ちているし、おそらくは過量に内服したのだろうと考えたくなります。急性薬物中毒の多くは、経過観察で改善しますが、ピットフォールを理解し対応しなければ、痛い目に遭いかねません。「どうせoverdose(薬物過量内服)でしょ」と軽視せず、いちいち根拠をもって鑑別を進めていきましょう。重度の意識障害で意識することは?(表1)このコーナーの10's Ruleの「1)ABCの安定が最優先!」を覚えているでしょうか。重度の意識障害、ショックでは気管挿管を考慮する必要がありました。意識の程度が3桁(100~300/JCS)と重度の場合には、たとえ酸素化の低下や換気不良を認めない場合にも、確実な気道確保目的に気管挿管を考慮する必要があることを忘れてはいけません。薬物中毒に伴う重度の意識障害、出血性ショック(消化管出血、腹腔内出血など)症例が典型的です。考えずに管理をしていると、目を離した際に舌根沈下、誤嚥などを来し、状態の悪化を招いてしまうことが少なくありません。来院時の酸素化や換気が問題なくても、バイタルサインの推移は常に確認し、気管挿管の可能性を意識しておきましょう。●Rule1 ABCの安定が最優先!●Rule8 電解質異常、アルコール、肝性脳症、薬物、精神疾患による意識障害は除外診断!画像を拡大する薬物中毒のバイタルサイン内服した薬剤や飲酒の併用の有無によってバイタルサインは大きく異なります。覚醒剤やコカインなど興奮系の薬剤では、血圧や脈拍、体温は上昇します。それに対して、頻度の高いベンゾジアゼピン系薬に代表される鎮静薬ではすべて逆になります。飲酒もしている場合には、さらにその変化が顕著となります。瞳孔も重要です。興奮系では一般的に散瞳し、オピオイドでは縮瞳します。救急外来では明らかな縮瞳を認める場合には、脳幹病変以外にオピオイド、有機リン中毒を考えます。「目は口ほどにものを言う」ことがあります。自身で必ず瞳孔所見をとることを意識しましょう。薬物中毒の基本的な対応は?急性薬物中毒の場合には、意識障害が遷延することが少なくないため、内服内容、内服時間をきちんと確認しましょう。内服してすぐに来院した場合と、3時間経過してから来院した場合とでは対応が大きく異なります。薬物過量内服においても初療における基本的対応は常に一緒です。“Airway、Breathing、Circulation”のABCを徹底的に管理します。原因薬剤が判明している場合には、拮抗薬の有無、除染・排泄促進の適応を判断します。拮抗薬など特徴的な治療のある中毒は表2のとおりです。最低限これだけは覚えておきましょう。除染や排泄促進は、内服内容が不明なときにはルーチンに行うものではありません。ここでは胃洗浄の禁忌、血液透析の適応を押さえておきましょう。画像を拡大する胃洗浄の禁忌意識障害患者において、確実な気道確保を行うことなしに胃洗浄を行ってはいけません。誤嚥のリスクが非常に高いことは容易に想像がつくでしょう。また、酸やアルカリを内服した場合も腐食作用が強く、穿孔のリスクがあるため禁忌です。胃洗浄を行い、予後を悪くしてはいけません。意識状態が保たれ、内服内容が判明している場合に限って行うようにしましょう。もちろん薬物が吸収されてしまってからでは意味がないため、原則内服から1時間を経過している場合には適応はないと考えておいてよいでしょう。CTを撮影し薬塊などが胃内に貯留している場合には、胃洗浄が有効という報告もありますが、薬物中毒患者全例に胸腹部CTを撮影することは現実的ではありません1)。エコー検査で明らかに胃内に貯留物がある場合には、考慮してもよいかもしれません。活性炭の投与もルーチンに行う必要はありません。胃洗浄の適応症例には、洗浄後投与すると覚えておけばよいでしょう。血液透析の適応となる中毒体内に吸収されたものを、体外に除去する手段として血液透析が挙げられますが、これもまたルーチンに行うべきではありません。多くの薬物は血液透析では除去できません。判断する基準として、分布容積と蛋白結合率を意識しましょう。分布容積が小さく、蛋白結合率が低ければ透析で除去しえますが、そういったものは表3のような中毒に限られます。診療頻度の高いベンゾジアゼピン系薬や非ベンゾジアゼピン系薬(Z薬)、三環系抗うつ薬は適応になりません。ベンゾジアゼピン系薬、Z薬の過量内服は遭遇頻度が高いですが、それらのみの内服であれば過量に内服しても、きちんと気道を確保し管理すれば、一般的に予後は良好であり透析は不要なのです。画像を拡大する薬物中毒の検査は?1)心電図心電図は忘れずに行いましょう。QT延長症候群など、薬剤の影響による変化を確認することは重要です。内服時間や意識状態を加味し、経時的に心電図をフォローすることも忘れてはいけません。以前の心電図の記録が存在する場合には、必ず比較し新規の変化か否かを評価しましょう。2)血液ガス酸素化や換気の評価、電解質や血糖値の評価、そして中毒に伴う代謝性アシドーシスを認めるか否かを評価しましょう。3)尿中薬物検査キットトライエージDOAなどの尿中薬物検査キットが存在し、診療に役立ちますが、結果の解釈には注意しなければなりません。陽性だから中毒、陰性だから中毒ではないとはいえないことを覚えておきましょう。偽陽性、偽陰性が少なくないため、病歴と合わせ、根拠の1つとして施行し、結果の解釈を誤らないようにしましょう。薬物中毒疑い患者の実際の対応“10's Rule”にのっとり対応することに変わりはありません。Ruleの1~4)では、重度の意識障害であるため、気管挿管を意識しつつ、患者背景を意識した対応を取ります。薬物過量内服患者の多くは女性、とくに20~50代です。また、薬物過量内服は繰り返すことが多く、身体所見では利き手とは逆の手にリストカット痕を認めることがあります。意識しておくとよいでしょう。バイタルサインがおおむね安定していれば、低血糖を否定し、頭部CTを撮影します。この場合には、脳卒中の否定以上に外傷検索を行います。薬物中毒の患者は、アルコールとともに薬を内服していることもあり、転倒などに伴う外傷を併発する場合があるので注意しましょう。また、採血では圧挫に伴う横紋筋融解症*を認めることもあります。適切な輸液管理が必要となるため、CK値や電解質、腎機能は必ず確認しましょう。アルコールの関与を疑う場合には、浸透圧ギャップからアルコールの推定血中濃度を計算すると、診断の助けとなります。詳細は、次回以降に解説します。*急性中毒の3合併症:誤嚥性肺炎、異常体温、非外傷性圧挫症候群急性薬物中毒の多くは、特異的な治療をせずとも時間経過とともに改善します。また、繰り返すことが多く、再来した場合には軽視しがちです。そのため、確立したアプローチを持たなければ痛い目をみることが少なくないのです。外傷や痙攣、誤嚥性肺炎の合併を見逃す、アルコールとともに内服しており、症状が遷延するなどはよくあることです。根拠をもって確定、除外する意識を常に持ちながら対応しましょう。症例の経過本症例では空のPTPの存在や40代の女性という背景から、第一に薬物過量内服を疑いながら、Ruleにのっとり対応しました。母親から病歴を聴取すると、来院3時間前までは普段どおりであり、その後患者の携帯電話の記録を確認すると、付き合っている彼氏とのメールのやり取りから、来院2時間ほど前に衝動的に薬を飲んだことが判明しました。内服内容もベンゾジアゼピン系の薬を中心としたもので致死量には至らず、採血や頭部CTでも異常がないことが確認できたため、モニタリングをしながら、家族付き添いの下、入院管理としました。時間経過とともに症状は改善し、翌日には意識清明、独歩可能となり、かかりつけの精神科と連携を取り、退院となりました。本症例は典型的な薬物中毒症例であり、基本的なことを徹底すれば恐れることはありません。きちんと病歴や身体所見をとること、バイタルサインは興奮系か抑制系かを意識しながら解釈し、瞳孔径を忘れずに確認すればよいのです。次回は、アルコールによる意識障害のピットフォールを、典型的なケースから学びましょう。1)Benson BE, et al. ClinToxicol(Phila). 2013;51:140-146.

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高用量鉄剤静注は貧血改善や赤血球造血刺激因子製剤(ESA)節減には良いが…(解説:浦 信行 氏)-955

 血液透析患者において、鉄剤静注は経口鉄剤投与に比較して貧血改善やESA節減には良いとする報告は、システマティックレビューではあるが2013年のBMJに報告されている。また、5万8,058例を対象とした観察研究において、高用量鉄剤静注群では低用量静注群に比較して投与量が400mg/月を超えると死亡や心血管リスクは上昇するが、それ以下では用量依存性にそれらのリスクを減らすとの2005年のAm J Soc Nephrolの報告もある。今回の研究はそれらと軌を一にする結果であり、前向き研究で高用量群と対照の低用量群との比較で示したことに大きな意義はあり、注目に値する。 しかし、投与量が200mg/月を超えるとリスクが上昇するとの報告や、わが国の研究においては50mg/週を超えると心血管リスクが上昇し、感染症のリスクも上昇すると報告されている。前掲のレビューでも感染症のリスクは有意に上昇したと報告されている。本研究では両群の感染症のリスクに差がなかったと報告している。また、低用量群での平均血清フェリチン量は150~200mg/mLであり、確かにわが国の2015年の日本透析医学会のガイドラインでの上限の300mg/mLを超えてはいない。それまでの報告ではこの上限を超えると感染症や心血管リスクの増大、そして肝臓への重篤な鉄沈着の可能性が報告されていた。 今回は感染症だけでなく心血管疾患発症のリスクの上昇もないと報告されているが、いくつかの懸念は残る。まず、これらを評価するのに2,141例の2.1年の試験で十分であるか、次に、両群いずれも心血管疾患発症と死亡の複合エンドポイントが30%を超えており、比較的多発している対象であること、加えて筆者らも限界としているが、英国1国だけの研究であることなどが挙げられる。 基礎疾患や病態の背景、人種や環境要因の差などを考えると、わが国の貧血治療にすぐに当てはめるのは早計と思われ、わが国での同様の検討が必要と考える。

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血液透析患者には高用量鉄剤静注が有効/NEJM

 血液透析患者において、積極的な高用量鉄剤の投与は、低用量鉄剤投与に対して非劣性であり、赤血球造血刺激因子製剤投与が少量になることが認められた。英国・キングスカレッジ病院のIain C. Macdougall氏らが、成人維持血液透析患者を対象に、高用量鉄剤の低用量に対する安全性および有効性を検証した多施設共同非盲検無作為化試験「Proactive IV Iron Therapy in Haemodialysis Patients:PIVOTAL試験」の結果を報告した。鉄剤の静脈投与は透析患者の標準治療であるが、臨床的に有効なレジメンに関して比較検討したデータは限定的であった。NEJM誌オンライン版2018年10月26日号掲載の報告。血液透析患者2,141例で、積極的高用量鉄剤静注と低用量鉄剤静注を比較 研究グループは、2013年11月~2018年6月に、成人維持血液透析患者2,141例を、積極的に高用量のスクロース鉄を静脈投与する群(高用量鉄剤群:1,093例)と、反応をみながら低用量のスクロース鉄を静脈投与する群(低用量鉄剤群:1,048例)に無作為に割り付けた。高用量鉄剤投与は400mg/月(フェリチン値>700μg/Lまたはトランスフェリン飽和度[TSAT]≧40%でなければ投与)、低用量鉄剤投与は0~400mg/月(鉄剤投与の指標であるフェリチン値<200μg/LまたはTSAT<20%で投与)であった。 主要評価項目は、非致死的心筋梗塞・非致死的脳卒中・心不全による入院・全死因死亡の複合エンドポイント(評価者盲検)とし、原因別Cox比例ハザードモデルを用いて主要評価項目の初回イベント発生までの時間を解析した。これらの複合評価項目は、再発イベントについても解析が行われた。その他の副次評価項目は、全死因死亡、感染症の発現率、赤血球造血刺激因子製剤の投与量などであった。 高用量鉄剤群の低用量鉄剤群に対する非劣性は、主要評価項目のハザード比の両側95%信頼区間上限値が1.25を超えない場合と定義した。血液透析患者への高用量鉄剤静注の非劣性が認められた 追跡期間中央値2.1年において、血液透析患者への鉄剤投与量中央値は、高用量鉄剤群264mg/月(四分位範囲[25th~75thパーセンタイル値]:200~336)、低用量鉄剤群145mg/月(同:100~190)であった。赤血球造血刺激因子製剤の投与量中央値は、高用量鉄剤群2万9,757 IU/月、低用量鉄剤群3万8,805 IU/月であった(群間差:-7,539IU、95%信頼区間[CI]:-9,485~-5,582)。 主要評価項目のイベントは、高用量鉄剤群で333例(30.5%)、低用量鉄剤群で343例(32.7%)確認された(ハザード比:0.88、95%CI:0.76~1.03、非劣性のp<0.001)。再発については、高用量鉄剤群で456件、低用量鉄剤群で538件のイベントが確認された(率比:0.78、95%CI:0.66~0.92)。感染症の発現率は両群で変わらなかった。

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成人の潜在性結核感染症に対するINH、RFPの比較試験(解説:吉田敦氏)-916

 潜在性結核感染症(LTBI)に対する治療は、イソニアジドの単剤投与(6~9ヵ月)が第1選択となる。しかしながら小生も自ら経験があるが、これだけ長い期間内服のアドヒアランスを保つのは容易ではなく、さらに肝障害のリスクもある。これまで他剤についても多くの検討が行われてきたが、今回イソニアジド9ヵ月(INH、5mg/kg/日、最大300mg/日)とリファンピシン4ヵ月(RFP、10mg/kg/日、最大600mg/日)のランダム化オープンラベル比較試験が9ヵ国で行われ、その結果が発表された。 まずLTBIと診断された成人を無作為にこの2群に割り付け、ランダム化から28ヵ月間に活動性結核感染症(微生物学的あるいは組織学的に証明された「確定例」を指す)を発症したかどうかを観察した(プライマリーアウトカム)。次にセカンダリーアウトカムとしてこの2群を追跡し、結核の「確定例」と「臨床診断例」が100人年当たりどの程度発生したか、さらにGrade3以上(薬剤中止を要する程度)の副作用と完遂率、耐性結核の割合を調査した。なお対象例にはHIV感染者は含まれるが、耐性結核に接触して感染した例や、妊娠例、抗結核薬と相互作用のある薬剤を内服している例は含まれない。また実際に処方の80%以上を服用した場合を完遂とした。 結果として、対象例のおよそ半数は18~35歳、3割が36~50歳であり、男性は4割であった。治療適応としては、活動性結核患者との濃厚接触が7割を占め、HIVは4%、その他の免疫不全は3%であった。また胸部X線写真上正常範囲内にあったものは78%であった。このうちRFP投与群3,443例では、活動性結核「確定例」は4例、「臨床診断例」は7,732人年で4例であった。一方INH投与群3,416例では、「確定例」は4例であり、「臨床診断例」は7,652人年で5例であった。RFP群からINH群を差し引いた差は、「確定例」のみならず「確定例」に「臨床診断例」を含めても100人年当たり0.01例と非常に小さくなった。さらにこの差の95%信頼区間を算出すると、RFP群はINH群に劣らなかったが、それに勝ってもいなかった。なお「確定例」4例で薬剤感受性を測定できたが、2例はすべての薬剤に感性、1例はINH耐性(INH群の患者)、1例はRFP耐性関連遺伝子を有するものの、感受性試験ではRFP感性(RFP群の患者)であった。また完遂率はRFP群78.8%、INH群63.2%、投与薬と関連が疑われるGrade3以上の副作用はそれぞれ0.8%、2.1%、肝障害はそれぞれ0.3%、1.7%であった(いずれもp<0.001)。このためRFP 4ヵ月投与はINH 9ヵ月投与に比べ完遂しやすく、効果もほぼ同等で、かつ安全性にも勝っていると結論した。 今回の検討は、国際的かつ大規模な多施設研究であることが大きな利点である。そしてこれまで観察研究等で得られていたRFP投与の非劣性が、より豊富なデータと詳細な解析で裏付けられた。HIV感染者の割合が低かったこと、活動性結核発症例が両群とも少なかったことが限界として挙げられているが、免疫抑制者をどのくらい含むかによっておそらく両群の結果も変わってくるであろう。免疫不全者におけるデータはINHであっても少ない。さらに本邦のように生物学的製剤使用者、透析患者、移植・免疫抑制薬使用者といった集団で、RFPがどの程度の効果を有するかは、さらに情報が必要である。 本検討ではまた、薬剤耐性・低感受性との関連についても知見がそれほど多くなかった。なおLTBIではないが、活動性結核治療後において、治療前のINH、RFPの最少発育阻止濃度(MIC)が感性のレンジ内であってもやや上昇していた例は、そうでない例に比べて再発が多かったという報告が最近なされている1)。RFPは単剤投与で耐性出現が懸念される薬剤でもある。これら薬剤の感受性との関連を把握することは容易ではないが、本検討を踏まえ、今後よりクローズアップされる課題であろう。

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消化管障害と相互作用が少ない二次性副甲状腺機能亢進症治療薬「オルケディア錠1mg/2mg」【下平博士のDIノート】第9回

消化管障害と相互作用が少ない二次性副甲状腺機能亢進症治療薬「オルケディア錠1mg/2mg」今回は、「エボカルセト錠(商品名:オルケディア錠1mg/2mg)」を紹介します。本剤は、既存のシナカルセト錠(商品名:レグパラ錠)と同等の有効性で、上部消化管に関する副作用の軽減が期待されます。<効能・効果>維持透析下の二次性副甲状腺機能亢進症の適応で、2018年3月23日に承認され、2018年5月22日より販売されています。副甲状腺細胞表面のカルシウム(Ca)受容体に作用して、副甲状腺ホルモン(PTH)の合成と分泌を抑制することで、血清PTHや血清Ca濃度を低下させます。<用法・用量>通常、成人には、エボカルセトとして1日1回1~2mgを開始用量として経口投与します。以降は、PTHおよび血清Ca濃度の十分な観察のもと、1日1回1~8mgの間で維持量を適宜設定します。効果不十分な場合には、1日1回12mgまで増量することができます。なお、増量を行う場合は増量幅を1mgとし、2週間以上の間隔をあけて行います。<副作用>国内臨床試験において、安全性評価対象の493例中、臨床検査値異常を含む副作用が208例(42.2%)に認められました。主な副作用は、低Ca血症83例(16.8%)、悪心23例(4.7%)、嘔吐20例(4.1%)、腹部不快感18例(3.7%)、下痢16例(3.2%)でした(承認時)。<患者さんへの指導例>1.この薬は、PTHの過剰な分泌を抑え、血液中のCaとリン(P)の濃度を下げる作用があります。2.しびれ、痙攣、気分不良、不整脈、血圧低下が起こることがあります。このような症状が現れた場合は、すぐに連絡してください(低カルシウム血症の症状)。3.この薬を使用中に妊娠が判明した場合は、ただちに使用を中止して連絡してください。4.透析療法下の二次性副甲状腺機能亢進症では、薬による治療とともに食事療法も併せて行い、体内のPとCa、PTHのバランスを整えることが大切です。<Shimo's eyes>二次性副甲状腺機能亢進症とは、副甲状腺以外の病気が原因でPTHが過剰に分泌される疾患で、腎機能の低下によっても生じます。PTHは血液中のPとCaを調節するホルモンであり、PTHが過剰に分泌されると、血液中のCa濃度が上がって骨折しやすくなったり(骨吸収)、血管などにCaが沈着・石灰化して動脈硬化や心臓弁膜症などを引き起こしたりします。透析下の二次性副甲状腺機能亢進症に対する治療としては、従来から活性型ビタミンD製剤やP吸着薬が用いられてきましたが、2008年にCa受容体作動薬であるシナカルセト錠が承認され、血清Ca濃度を上昇させずにPTH分泌を抑制し、有意に血清PTH濃度を低下させることができるようになりました。しかし、上部消化管に対する副作用のため、十分な効果を示す用量まで増量できないこともありました。本剤は、シナカルセトに続く2剤目の経口Ca受容体作動薬であり、シナカルセトと同様に1日1回の服用で同等の有効性を示すことが確認されています。一方で、上部消化管に関する有害事象は本剤投与群317例中41例(12.9%)、シナカルセト群317例中77例(24.3%)と少ない傾向が見られました(第III相実薬対照二重盲検比較試験)。そのため、服薬アドヒアランス向上による治療継続率の向上が期待されます。本剤の代謝経路はタウリン抱合とグリシン抱合であり、CYP関連で併用注意の対象薬がなく、他剤併用のリスクが軽減されています。ただし、妊婦には禁忌なので注意が必要です。

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高リスク心臓手術の輸血戦略、6ヵ月後の転帰は?/NEJM

 死亡リスクが中等度~高度の心臓手術を受ける成人患者において、制限的赤血球輸血は非制限的輸血と比較し、術後6ヵ月時点でも複合アウトカム(全死因死亡、心筋梗塞、脳卒中、透析を要する新規腎不全)に関して非劣性であることが認められた。カナダ・セント・マイケルズ病院のC. David Mazer氏らが、多施設共同無作為化非盲検非劣性試験「TRICS III」の最終解析結果を報告した。同試験の術後28日時の解析でも、退院または術後28日までの複合アウトカムについて、非制限的輸血戦略に対する制限的赤血球輸血の非劣性が報告されていた。NEJM誌オンライン版2018年8月26日号掲載の報告。制限的vs.非制限的赤血球輸血、術後6ヵ月の臨床転帰を比較 研究グループは、心臓外科手術後リスク予測モデルEuroSCORE Iスコアが6以上の、死亡リスクが中等度~高度な心臓手術を受ける成人患者5,243例を、制限的赤血球輸血群(全身麻酔導入以降の術中/術後、ヘモグロビン濃度<7.5g/dLの場合に輸血)、または非制限的赤血球輸血群(術中または術後ICU入室中:ヘモグロビン濃度<9.5g/dLで輸血、ICU以外の病棟:ヘモグロビン濃度<8.5g/dLで輸血)のいずれかに、無作為に割り付けた。 主要評価項目は、手術後6ヵ月以内の全死因死亡、心筋梗塞、脳卒中、透析を要する新規腎不全の複合アウトカム。副次評価項目は、主要評価項目に加え術後6ヵ月以内に発生した救急部受診、再入院および冠動脈血行再建術を含む複合アウトカム、および各構成要素とした。主要評価項目および副次評価項目は、修正intention-to-treat集団で解析した。術後6ヵ月時でも、複合アウトカムは非劣性、全死因死亡率も両群で有意差なし 術後6ヵ月時の主要複合アウトカムの発生率は、制限的輸血群17.4%(402/2,317例)、非制限的輸血群17.1%(402/2,347例)であり、制限的輸血群の非制限的輸血群に対する非劣性が示された。絶対リスク差は0.22ポイント(95%信頼区間[CI]:-1.95~2.39)、オッズ比(OR)は1.02(95%CI:0.87~1.18)で、事前規定の非劣性マージン(絶対リスク差の95%CI上限値が3ポイント未満)を満たした(p=0.006)。アウトカムを個別にみると、全死因死亡率は、制限的輸血群6.2%、非制限的輸血群6.4%であった(OR:0.95、95%CI:0.75~1.21)。 副次評価項目に関しては、両群で有意差は確認されなかった。 なお、著者は、術後28日時または退院後に輸血のプロトコールに従うよう医師に求めていなかったこと、転帰に関する情報がさまざまな情報源から得られていたこと、非盲検試験のバイアスの可能性を除外できていないことなどを研究の限界として挙げている。

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ファブリー病〔Fabry disease〕

ファブリー病のダイジェスト版はこちら1 疾患概要■ 定義α-ガラクトシダーゼAの酵素欠損により心臓、腎臓などの組織を中心にグロボトリオシルセラミド(GL-3)が蓄積することにより、心不全、腎不全を来す疾患である。遺伝形式はX-連鎖の遺伝形式をとる。■ 疫学約4万人に1人と推定される。腎不全患者の0.2~0.5%、左室肥大の患者の4%、女性左室肥大の12%、男性脳卒中患者の4.9%、女性患者の2.4%。イタリアでは新生児男児3,100人に1人の頻度、台湾では1,250人に1人と患者頻度は高い。■ 病因ライソゾーム酵素であるα-ガラクトシダーゼの酵素欠損により全身組織にグロボトリオシルセラミド(GL-3)などの糖脂質が蓄積する(図1)。とくに血管内皮細胞に蓄積、心筋、腎臓、リンパ節、神経節など、全身組織に蓄積する。画像を拡大する■ 臨床症状(表1)ファブリー病の臨床症状は多彩である。小児期からの四肢の激痛、無痛、無汗などの自律神経症状、蛋白尿、腎不全などの臨床症状、不整脈、弁膜症、心不全などの心症状、頭痛、脳梗塞、知能障害などの神経症状、精神症状、皮膚症状として被角血管腫、難聴、めまい、耳鳴り、角膜混濁などの眼科症状、咳などの呼吸器症状などを認める。ファブリー病の臨床症状の進展は図1を参照。画像を拡大する■ 分類臨床的には「古典型」、心型、腎型といわれる「亜型」、「ヘテロ接合体女性患者」に分類される古典型(表2)では皮膚症状(被角血管腫)、自律神経症状(低汗、無痛、四肢痛など)を有する。心型、腎型ではこれらの症状は少ない。ヘテロ接合体女性患者では心症状が主体であるが、痛みなどは男性患者と同様に認められる。画像を拡大する■ 予後古典型の患者は早期の酵素補充療法をしないと、腎不全、心不全、脳梗塞で40~50代で死亡する患者が多い。心型、腎型では60~70代で死亡、ヘテロ女性患者は60~70代で心不全にて死亡する患者が多い。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)次の流れに従い、診断を行う。(1)臨床症状:小児期からの四肢の激痛、無汗、皮膚の被角血管腫、心不全、蛋白尿、腎不全、脳梗塞などの症状(2)血清、白血球、尿などでα-ガラクトシダーゼの酵素欠損を証明する(3)尿中GL-3の蓄積(4)皮膚での病理所見:電子顕微鏡でミエリン様蓄積物質を認める(5)遺伝子診断 3 治療 (治験中・研究中のものも含む)ファブリー病の治療として対症療法と根治療法がある。表3に概略をまとめた。画像を拡大する1)対症療法(1)疼痛ファブリー病での痛みは、患者に大きな負担である。幼少時から四肢の灼熱感のある痛みが生じ、思春期はとくに強い。女性患者でも4~5歳から四肢の痛みを感じる患者がいる。痛みは四肢以外にも下顎、頸部などさまざまである。とくに梅雨の時期、夏などは疼痛が強い。カルバマゼピン(商品名:テグレトールほか)、ガバぺンチン(同:ガバペン)などが有効である。(2)消化器症状腹痛、胃痛、下痢などがみられ、整腸剤などの投与が有効である。(3)心肥大、心不全、不整脈徐脈性不整脈には、ペースメーカーが有効である。心筋保護作用としてのACE阻害薬、 ARBの投与が推奨される。高血圧、高脂血症の予防は重要である。(4)腎障害腎保護策のためにARB、ACE阻害薬は有効との報告がある。蛋白食制限、減塩は必要である。腎不全に対しての腹膜あるいは血液透析療法、さらには腎移植が試みられている。(5)脳梗塞脳梗塞の予防のためのアスピリン、抗血小板凝集薬の投与などの抗凝固療法が必要。(6)その他めまい、難聴などに対する対症療法として、めまいにはベタヒスチンメシル(同:メリスロンほか)、突発性難聴にはステロイドが使用される。2)酵素補充療法酵素補充療法は、現在遺伝子工学的手法の進歩に伴いαガラクトシダーゼAの酵素製剤が2製剤開発されている。アガルシダーゼ アルファ(商品名:リプレガル)とアガルシダーゼ ベータ(同:ファブラザイムほか)が開発されている。アガルシダーゼ ベータはCHO(Chinese Hamster Ovary)細胞から遺伝子工学手法で作成された。投与量としては体重1kgあたりアガルシダーゼ アルファは0.2mg、アガルシダーゼ ベータは1mgを2週間に1回投与する。副作用としては蕁麻疹、悪寒、吐き気、鼻汁、軽度血圧低下、気道に違和感などの症状が見られるが、抗ヒスタミン薬、ステロイドの投与で軽快する場合が多い。副作用は投与後3~5ヵ月後に多く見られ、その後は軽快する場合が多い。そして、効果のポイントは次のとおりである。(1)痛みへの効果痛みは軽減傾向にある。発汗障害は改善傾向にある。(2)腎臓への効果腎臓、とくに腎血管内皮細胞でのGL-3の蓄積は除去される。糸球体のたこ足細胞でのGL-3の蓄積の除去には時間がかかる。GFRが60mL/min/1.73m2以上であれば治療後も維持できる。また、60mL/min/1.73m2 以下であれば、治療にかかわらず機能は低下することが明らかにされている。尿蛋白質では、蛋白の排泄が+1以上であれば酵素治療しても腎機能は低下するが、尿蛋白がマイナスであれば腎機能は悪化しない。(3)心機能への効果心筋の肥厚、左室心筋重量は酵素補充療法により減少する。左室機能改善の改善を認める。(4)脳神経系への効果酵素補充療法により血管の内皮細胞への蓄積は軽快するが、脳梗塞の所見は治療により変化はないと考えられる。また、白質変性への効果も少ない。(5)耳鼻科的効果酵素補充による聴力への効果はあまり期待できない。聴力検査で効果が認められていない。(6)眼症状への効果角膜に対する効果は軽快する傾向にある。網膜動脈閉塞で失明する。(7)皮膚症状への効果被角血管腫への効果は少ない。低(無)汗症への効果はみられ、酵素治療により汗をかくようになりQOLは上がる。(8)消化器症状への効果酵素補充療法により下痢などに対する効果が報告され、酵素治療とともに下痢、腹痛は改善傾向にある。体重は増加する患者が多い。4 今後の展望1)シャペロン治療低分子薬(デオキシノジリマイシンなど)は、ライソゾーム酵素のゴルジーライソゾーム系での酵素の合成、分解過程で作用する。すなわち変異酵素が分解促進、あるいは活性基が障害されている場合、シャペロンは有効であり、全体の約50~60%の患者の遺伝子異常に効果があるといわれている。ミガーラスタット(商品名:ガラフォルド)は、2018年5月に発売され、わが国でも保険適用となった。今後、効果や安全性について、さらに知見の積み重ねがなされる。2)遺伝子治療・細胞治療ファブリー病の最終治療としては、遺伝子治療法の開発が重要である。ファブリー病マウスを用いて「アデノ随伴ウイルス」(AAV)あるいは「レンチウイルスベクター」を用いての治療研究が進められており、モデルマウスではGL-3の臓器からの除去に成功している。また、骨髄幹細胞、あるいは間質幹細胞を用いて、遺伝子治療と組み合わせての治療効果も研究されている。3)ファブリー病のスクリーニングファブリー病の治療のためには、早期診断が重要である。早期診断のための新生児マス・スクリーニングも報告され、ガスリー濾紙血を用いて酵素診断することにより可能である。濾紙血による新生児スクリーニングでは、台湾でのファブリー病患者頻度は1/1,250(男児)、イタリアでは1/3,500(男児)、日本では1/6,500の頻度であり、決して珍しい疾患でないことが証明されている。また、ハイリスク患者スクリーニングとして、心筋症患者、左室肥大患者、腎不全患者、若年性脳梗塞患者にはファブリー病の患者の頻度が高いことが報告されている。早期診断により治療効果をあげることが重要である。5 主たる診療科腎臓内科、循環器内科、小児科、皮膚科、眼科、耳鼻科 など※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療情報難病情報センター ライソゾーム病(ファブリー病を含む)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報ふくろうの会(ファブリー病患者と家族の会)1)Desnick RJ, et al. α-Galactosidase A deficiency: Fabry disease. In: Scriver CR et al, editors. The Metabolic and Molecular Bases of Inherited Disease, 8th ed. New York: McGraw Hill; 2001. p. 3733–3774. 2)Eng CM, et al. N Engl J Med. 2001; 345: 9–16.3)Rolfs A, et al. Lancet. 2005; 366: 1794–1796.4)Sims K, et al. Stroke. 2009; 40: 788-794.5)衛藤義勝. 日本内科学雑誌.2009; 98: 163-170.公開履歴初回2013年2月28日更新2018年9月11日

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リジン尿性蛋白不耐症〔LPI:lysinuric protein intolerance〕

1 疾患概要■ 定義二塩基性アミノ酸(リジン、アルギニン、オルニチン)の輸送蛋白の1つである y+LAT-1(y+L amino acid transporter-1)の機能異常によって、これらのアミノ酸の小腸での吸収障害、腎での再吸収障害を生じるために、アミノ酸バランスの破綻から、高アンモニア血症をはじめとした多彩な症状を来す疾患である。本疾患は常染色体劣性遺伝を呈し、責任遺伝子SLC7A7の病因変異が認められる。現在は指定難病となっている。■ 疫学わが国での患者数は30~40人と推定されている。■ 病因y+LAT-1 は主に腎、小腸などの上皮細胞基底膜側に存在する(図)。12の膜貫通領域をもった蛋白構造をとり、分子量は約40kDaである。調節ユニットである 4F2hc(the heavy chain of the cell-surface antigen 4F2)とジスルフィド結合を介してヘテロダイマーを形成することで、機能発現する。本蛋白の異常により二塩基性アミノ酸の吸収障害、腎尿細管上皮での再吸収障害を来す結果、これらの体内プールの減少、アミノ酸バランスの破綻を招き、諸症状を来す。所見の1つである高アンモニア血症は、尿素回路基質であるアルギニンとオルニチンの欠乏に基づくと推定されるが、詳細は不明である。また、SLC7A7 mRNAは全身の諸臓器(白血球、肺、肝、脾など)でも発現が確認されており、本疾患の多彩な症状は各々の膜輸送障害に基づく。上述の病態に加え、細胞内から細胞外への輸送障害に起因する細胞内アルギニンの増加、一酸化窒素(NO)産生の過剰なども関与していることが推定されている。画像を拡大する■ 症状離乳期以降、低身長(四肢・体幹均衡型)、低体重が認められるようになる。肝腫大も受診の契機となる。蛋白過剰摂取後には約半数で高アンモニア血症による神経症状を呈する。加えて飢餓、感染、ストレスなども高アンモニア血症の誘因となる。多くの症例においては1歳前後から、牛乳、肉、魚、卵などの高蛋白食品を摂取すると嘔気・嘔吐、腹痛、めまい、下痢などを呈するため、自然にこれらの食品を嫌うようになる。この「蛋白嫌い」は、本疾患の特徴の1つでもある。そのほか患者の2割に骨折の既往を、半数近くに骨粗鬆症を認める。さらにまばらな毛髪、皮膚や関節の過伸展がみられることもある。一方、本疾患では、約1/3の症例に何らかの血液免疫学的異常所見を有する。水痘の重症化、EBウイルスDNA持続高値、麻疹脳炎合併などのウイルス感染の重症化や感染防御能の低下が報告されている。さらに血球貪食症候群、自己免疫疾患(全身性エリテマトーデス、抗リン脂質抗体症候群、自己免疫性肝炎、関節リウマチ)合併の報告がある。成人期以降には肺合併症として、間質性肺炎、肺胞蛋白症などが増える傾向にある。無症状でも画像上の肺の線維化がたびたび認められる。また、腎尿細管病変や糸球体腎炎も比較的多い。循環器症状は少ないが、運動負荷後の心筋虚血性変化や脳梗塞を来した症例もあり、注意が必要である。■ 分類本疾患の臨床症状と重症度は多彩である。一般には出生時には症状を認めず、蛋白摂取量が増える離乳期以後に症状を認める例が多い。1)発症前型同胞が診断されたことを契機に、診断に至る例がある。この場合も軽度の低身長などを認めることが多い。2)急性発症型小児期の発症形態としては、高アンモニア血症に伴う意識障害や痙攣、嘔吐、精神運動発達遅滞などが多い。しかし、一部では間質性肺炎、易感染、血球貪食症候群、自己免疫疾患、血球減少などが初発症状となる例もある。3)慢性進行型軽症例は成人まで気付かれず、てんかんなどの神経疾患の精査から診断されることがある。■ 予後早期診断例が増え、精神運動発達遅延を呈する割合は減少傾向にある。しかし、肺合併症や腎病変は、アミノ酸補充にもかかわらず進行を抑えられないため、生命予後に大きく影響する。水痘や一般的な細菌感染は、腎臓・肺病変の重症化を招きうる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)高アンモニア血症を来す尿素サイクル異常症の各疾患の鑑別のため血中・尿中アミノ酸分析を提出する。加えてLDHやフェリチンが上昇していれば本疾患の可能性が高まる。確定診断には遺伝子解析を検討する。■ 一般血液検査所見1)血清LDH上昇:600~1,000IU/L程度が多い。2)血清フェリチン上昇:程度は症例によって異なる。3)高アンモニア血症:血中アンモニア高値の既往はほとんどの例でみられる。最高値は180~240μmol/L(300~400μg/dL)の範囲であることが多いが、時に600μmol/L (1,000μg/dL)程度まで上昇する例もある。また、食後に採血することで蛋白摂取後の一過性高アンモニア血症が判明し、診断に至ることがある。4)末梢白血球減少・血小板減少・貧血上記検査所見のほか、AST/ALTの軽度上昇(AST>ALT)、TG/TC上昇、貧血、甲状腺結合蛋白(TBG)増加、IgGサブクラスの異常、白血球貪食能や殺菌能の低下、NK細胞活性低下、補体低下、CD4/CD8比の低下などがみられることがある。■ 血中・尿中アミノ酸分析1)血中二塩基性アミノ酸値(リジン、アルギニン、オルニチン)正常下限の1/3程度から正常域まで分布する。また、二次的変化として、血中グルタミン、アラニン、グリシン、セリン、プロリンなどの上昇を認めることがある。2)尿の二塩基性アミノ酸濃度は通常増加(リジンは多量、アルギニン、オルニチンは中等度、シスチンは軽度)なかでもリジンの増加はほぼ全例にみられる。まれに(血中リジン量が極端に低い場合など)、これらのアミノ酸の腎クリアランスの計算が必要となる場合がある。(参考所見)尿中有機酸分析における尿中オロト酸測定:高アンモニア血症に付随して尿中オロト酸の増加を認める。■ 診断の根拠となる特殊検査1)遺伝子解析SLC7A7(y+LAT-1をコードする遺伝子)に病因変異を認める。遺伝子変異は今まで50種以上の報告がある。ただし本疾患の5%程度では遺伝子変異が同定されていない。■ 鑑別診断初発症状や病型の違いによって、鑑別疾患も多岐にわたる。1)尿素サイクル異常症の各疾患2)ライソゾーム病3)周期性嘔吐症、食物アレルギー、慢性腹痛、吸収不良症候群などの消化器疾患 4)てんかん、精神運動発達遅滞5)免疫不全症、血球貪食症候群、間質性肺炎初発症状や病型の違いによって、鑑別疾患も多岐にわたる。<診断に関して留意する点>低栄養状態では血中アミノ酸値が全体に低値となり、尿中排泄も低下していることがある。また、新生児や未熟児では尿のアミノ酸排泄が多く、新生児尿中アミノ酸の評価においては注意が必要である。逆にアミノ酸製剤投与下、ファンコーニ症候群などでは尿アミノ酸排泄過多を呈するので慎重に評価する。3 急性発作で発症した場合の診療高アンモニア血症の急性期で種々の臨床症状を認める場合は、速やかに窒素負荷となる蛋白を一旦除去するとともに、中心静脈栄養などにより十分なカロリーを補充することで蛋白異化の抑制を図る。さらに薬物療法として、L-アルギニン(商品名:アルギU)、フェニル酪酸ナトリウム(同:ブフェニール)、安息香酸ナトリウムなどが投与される。ほとんどの場合は、前述の薬物療法によって血中アンモニア値の低下が得られるが、無効な場合は持続的血液透析(CHD)の導入を図る。■ 慢性期の管理1)食事療法十分なカロリー摂取と蛋白制限が主体となる。小児では摂取蛋白0.8~1.5g/kg/日、成人では0.5~0.8g/kg/日が推奨される。一方、カロリーおよびCa、Fe、ZnやビタミンDなどは不足しやすく、特殊ミルクである蛋白除去粉乳(S-23)の併用も考慮する。2)薬物療法(1)L-シトルリン(日本では医薬品として認可されていない)中性アミノ酸であるため吸収障害はなく、肝でアルギニン、オルニチンに変換されるため、本疾患に有効である。投与により血中アンモニア値の低下や嘔気減少、食事摂取量の増加、活動性の増加、肝腫大の軽減などが認められている。(2)L-アルギニン(同:アルギU)有効だが、吸収障害のため効果が限られ、また浸透圧性下痢を来しうるため注意して使用する。なおL-アルギニンは、急性期の高アンモニア血症の治療としては有効であるが、本症における細胞内でのアルギニンの増加、NO産生過剰の観点からは、議論の余地があると思われる。(3)L-カルニチン2次性の低カルニチン血症を来している場合に併用する。(4)フェニル酪酸ナトリウム(同:ブフェニール)、安息香酸ナトリウム血中アンモニア値が不安定な例ではこれらの定期内服を検討する。その他対症療法として、免疫能改善のためのγグロブリン投与、肺・腎合併症に対するステロイド投与、骨粗鬆症へのビタミンD製剤やビスホスホネート薬の投与、成長ホルモン分泌不全性低身長への成長ホルモンの投与、重炭酸ナトリウム、抗痙攣薬、レボチロキシン(同:チラーヂンS)の投与などが試みられている。4 今後の展望小児期の発達予後に関する最重要課題は、高アンモニア血症をいかに防ぐかである。近年では、早期診断例が徐々に増えることによって正常発達例も増えてきた。その一方で、早期から食事・薬物療法を継続したとしても、成人期の肺・腎合併症は予防しきれていない。その病因として、尿素サイクルに起因する病態のみならず、各組織におけるアミノ酸の輸送障害やNO代謝の変化が想定されており、これらの病態解明と治療の開発が望まれる。5 主たる診療科小児科、神経内科。症状により精神科、腎臓内科、泌尿器科、呼吸器内科への受診も適宜行われている。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター リジン尿性蛋白不耐症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Sperandeo MP, et al. Hum Mutat. 2008;29:14-21.2)Torrents D, et al. Nat Genet. 1999;21:293-296.3)高橋勉. 厚労省研究班「リジン尿性蛋白不耐症における最終診断への診断プロトコールと治療指針の作成に関する研究」厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業 平成22年度総括分担研究報告書;2011.p.1-27.4)Charles Scriver, et al(editor). The Metabolic and Molecular Bases of Inherited Disease, 8th ed. New York City:McGraw-Hill;2001:pp.4933-4956.5)Sebastio G, et al. Am J Med Genet C Semin Med Genet. 2011;157:54-62.公開履歴初回2018年8月14日

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第4回 特別編 覚えておきたい熱中症の基本事項【救急診療の基礎知識】

覚えておきたい熱中症の基本事項7月に入り東京も連日気温が30℃を超え、40℃近い猛暑が続いています。連日熱中症による症状で救急搬送、外来受診される患者さんが後を絶ちません。熱中症に限りませんが、早期に異常を認知し、介入すること、そして、何より予防に努めることが非常に大切です。暑さに負けないために今回は熱中症の基本的事項をまとめておきましょう。●診療のPoint(1)夏場は常に熱中症を疑え!(2)非労作性熱中症は要注意! 屋内でも熱中症は起こりうる!(3)重症度を頭に入れ、危険なサインを見逃すな!熱中症の定義「熱中症とは何ですか?」と質問されて正確に答えられるでしょうか。以前は熱射病、熱痙攣、熱失神という言葉が使用されていましたが、現在は用いられません(重症度と共に後述します)。熱中症とは「暑熱環境における身体適応の障害によって起こる状態の総称」とされ、「暑熱による諸症状を呈するもの」のうちで、他の原因疾患を除外したものと定義されています。わが国では毎年7~8月に熱中症の発生率が多く、「今そこにある危機」と認識し、熱中症の症状を頭に入れ意識しておく必要があるのです。熱中症の死亡率本邦の年間発症数は約40万人、そのうち8.7%(約3万5,000人)が入院、0.13%(約520名)が死亡しています。この数値は現在も大きな変化はなく、2016年の死亡者数は621名で65歳以上が79.2%という結果でした(厚生労働省 人口動態統計)。2018年は2017年より暑く、熱中症患者は増加することが予想されます。熱中症を軽視してはいけません。労作性vs.非労作性熱中症と聞くと炎天下の中、スポーツや仕事をしている最中に引き起こされるイメージが強いですが、それだけではありません。熱中症は、「労作性熱中症」と「非労作性熱中症」に分類(表1)され、屋内でも発生します。そして、この非労作性熱中症が厄介なのです。画像を拡大する労作性熱中症の患者背景としては若年男性のスポーツ、中壮年男性の労働(建設業、製造業、運送業、とくに日給制のような短い雇用期間の方)、非労作性熱中症では独居の高齢者が典型的です。労作性熱中症の場合には、若く、集団で活動していることが多く、基礎疾患もなく早期に発見、介入できるため予後は良好ですが、非労作性熱中症は、自宅で発生することが多く、発見が遅れ、また心疾患などの基礎疾患、利尿薬などの内服薬などの影響から治療に難渋することがあるわけです。実際、救急医学会の熱中症実態調査において、熱中症の死亡の危険因子は、(1)高齢、(2)屋内発症、(3)非労作性熱中症でした1)。重症度に影響するばかりでなく、再発防止手段にも影響します。意識して対応しましょう。熱中症の重症度以前、熱中症は、熱射病、熱痙攣、熱失神などの呼び名がありましたが、現在は重症度を理解しやすいように表2のように分類されています1)。I度は必ずしも体温は上がりません。症状で判断します。II度は頭痛や嘔吐、倦怠感に加え、深部体温の上昇を認めます。III度は、意識障害、臓器障害を認め、早急な対応が必要になります。画像を拡大する熱中症を疑うことは、病歴から難しくありませんが、重症度の判断は初期評価をきちんと行わなければ見誤ります。とくに重篤化しやすい、非労作性熱中症の高齢者には注意が必要です。意識が普段と同様か否か、腎前性腎障害に代表される臓器障害を認めていないかを評価しましょう。熱中症の治療治療の原則、「安静」「環境改善」「塩分+水分の補給」は絶対です。重症度や経口摂取の可否を評価し、細胞外液の点滴の適応を判断します。高齢者がぐったりしている、十分な飲水が困難な場合には、点滴を選択したほうがよいでしょう。また、点滴が必要と評価した患者では、採血や血液ガスも検査・評価し、臓器障害の有無も併せて確認しましょう。熱中症II度以上は、体温調節中枢が正常に機能していない状態です。皮膚や筋肉の血管拡張、血流増加、多量の発汗によって循環血液量減少性ショックへと陥ります。急速な輸液に加え、高体温が持続すると多臓器不全(意識障害、痙攣、急性腎障害、DIC etc.)を伴い、輸液だけでなく呼吸管理や透析などの全身管理が必要となることもあります。初期対応としては以下の2点を意識し、速やかに対応しましょう。(1)目標体温深部体温*が39℃を超える高体温の持続は予後不良因子であり、38℃台になるまでは積極的な冷却処置を行いましょう。*深部体温中枢温を正確に反映する部位は腋窩温でも皮膚温でもありません。最も好ましいのは深部体温(膀胱温、直腸温、食道温)です。救急外来など初療時には、直腸温を測定するか、温度センサー付きバルーンカテーテルを利用し、膀胱温を測定するとよいでしょう。健康な人の体温の平均値は、腋窩温36.4℃に対して直腸温37.5℃と約1℃異なると言われていますが、高体温で発汗している場合や測定方法によって、腋窩温や皮膚温は容易に変化します(正しく測定できません)。熱中症、とくに重症度が高いと判断した症例では、深部体温を測定する意識をもちましょう。(2)冷却方法体表冷却法が一般的です。気化熱を利用します。ぬるま湯(40〜45℃)を霧吹きを用いて体表にかけ、扇風機などで扇ぐとよいでしょう。本当に熱中症か?!熱中症は環境因子だけでも十分起こりえますが、普段であれば自己対応(環境を変える、水分・塩分を摂取する)ができずに発生した可能性があります。つまり、熱中症に陥った原因をきちんと検索する必要があります。とくに非労作性熱中症の場合には、尿路感染症や肺炎などの感染症などが引き金となっているかもしれません。また、薬剤やクリーゼなども熱中症様症状をとることがあります。これらの鑑別は病歴をきちんと把握すればおおよそ可能です。明らかに部屋が暑かった、当日の朝までは普段どおりであったなどの病歴がわかれば、感染症や薬剤の影響は考えづらいでしょう。それに対して、数日前から体調の変化があった場合には、感染症などの影響も考え対応する必要があります。発熱か高体温か判断できず、とりあえず血液培養を2セット提出するのは簡単ですが、それ以上に病歴聴取や身体所見を評価することのほうが大切です。プロカルシトニンも鑑別には役立たないため提出は不要でしょう。熱中症の予防熱中症は予防可能です。起こしてしまった人へは、治療だけでなく正しい熱中症の知識、そして周囲の方への啓発・指導を含め、ポイントを絞って熱中症を起こさないために必要なことを伝えましょう。「また熱中症の患者か!?」と思うのではなく、チャンスだと思い、再発予防に努めましょう。熱中症の基本的事項を伝授熱中症の初期症状、非労作性熱中症に関して伝えましょう。症状が熱中症によるものであることを知っておかないと対応できません。また、熱中症は屋外で起こるものと思っていると、非労作性熱中症に陥ります。高齢の方からは「風通しがいいのでクーラーは使用していません(設置していません)」、「クーラーは嫌いでね」という台詞をよく聞きますが、必要性をきちんと説明し、理解してもらうことが大切です。●熱中症の発生リスク評価を伝授猛暑が続いていますが、どの程度危険なのかを認識しなければ、「大丈夫だろう」と軽視してしまいます。朝のニュースをテレビやスマホで確認するのもよいですが、暑さ指数(Wet Bulb Globe Temperature:WBGT)を確認する癖をもっておきましょう。熱中症の発生に関与する因子は気温だけではなく、湿度、風速、日射輻射です。とくに湿度は大きく影響し、これらを実際に計測し算出して出てきた数値がWBGTです。細かなことは割愛しますが、WBGT>28℃になると熱中症が急増し危険と判断します(表3)。画像を拡大する●環境省の熱中症予防情報を伝授環境省熱中症予防情報サイトでは、WBGT(暑さ指数)を都道府県、地点別に確認できます。本稿執筆時の7月19日10時現在の東京都(都道府県)、東京(地点)のWBGT値は31.9℃(危険)と赤表示され、一目で熱中症のリスクが高いことがわかります。3日間の予測も併せて確認できるため、熱中症を予防する立場にある学校の教師や職場の管理者は必ず確認しておく必要があります。朝のニュースなどで危険性は日々報道されていますが、それでもなお発生しているのが熱中症です。願わくは、自ら確認し意識しておくことが必要と考えます。「熱中症の危険がある」ということを事前に意識して対応すれば、体調の変化に対する対応も迅速に行えるでしょう。●熱中症? と思った際の対応を伝授こむら返りや頭痛、倦怠感などを自覚し、環境因子から熱中症? と判断した場合には、速やかに環境を改善し(日陰や店舗内など涼しい場所へ移動)、水分だけでなく塩分を摂取するように勧めましょう。症状が改善しない場合や、自身で水分・塩分の摂取が困難な場合には、時間経過で改善することも多いですが、症状の増悪、一人暮らしで経過を診ることができる家族がいない場合には、病院へ受診するように指示したほうがよいでしょう。屋内外のリスクを見極め夏を過ごす7月は熱中症予防強化月間の重点取組期間です(厚生労働省「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」)。まだまだ暑い日が続きます。日頃の体調管理を行いつつ、屋外でのスポーツや作業をする場合には、リスクを評価し、予防に努め、屋内で過ごす場合には、温度・湿度を意識した環境の設定を行い、夏を乗り切りましょう!1)日本救急医学会熱中症に関する委員会. 熱中症の実態調査-日本救急医学会Heatstroke STUDY 2012最終報告-.日救急医会誌. 2014;25:846-862.

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「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン」5年ぶりの改訂

CKD診療ガイドラインが全面改訂 日本腎臓学会は6月、5年ぶりの改訂となる「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018」を発行した。今回は専門医だけではなく、かかりつけ医や非専門医の利用を想定して制作されており、全面改訂する際に「CKD診療ガイド2012」と「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2013」を一元化させている。 前回同様、全章がクリニカルクエスチョン(CQ)形式の構成。CKD診療ガイドライン2018の主な改訂ポイントとして“STOP-DKD宣言”で注目を集めた、糖尿病性腎臓病(DKD)が章立てられているほか、高血圧・心血管疾患(CVD)、高齢者CKDについても詳しく取り上げられている。CKD診療ガイドラインの役割 本ガイドラインはすべての重症度のCKD患者を対象とし、診療上で問題となる小児CKDの特徴と対処法、CKD患者の妊娠時についても簡潔に記載されている。ただし、末期腎不全(ESKD)に達した維持透析患者や急性腎障害(AKI)患者は除外されているため、必要に応じて他のガイドラインを参照する必要がある。本来であれば病診連携が必要とされる疾患だが、本ガイドラインは専門医が不在とする地域での、かかりつけ医によるCKD診療のサポートに配慮した構成となっている。CKD診療ガイドライン2018では75歳以上は150/90mmHg未満を推奨 CKD診療ガイドライン第4章の「高血圧・CVD」では、血圧基準値を「糖尿病の有無」「尿蛋白の有無(軽度尿蛋白[0.15g/gCr]以上を尿蛋白ありと判定)」「年齢(75歳で区分)」の3つのポイントで定めている。・75歳未満の場合 CKDステージを問わず、糖尿病および尿蛋白の有無で判定 糖尿病なし:尿蛋白(-)140/90mmHg未満、尿蛋白(+)130/80mmHg未満 糖尿病あり:尿蛋白(+)130/80mmHg未満・75歳以上の場合 糖尿病、尿蛋白の有無にかかわらず150/90mmHg未満 起立性低血圧やAKIなどの有害事象がなければ、140/90mmHg未満への降圧を目指すが、80歳以上の120/60mmHg以下での管理において、Jカーブ現象が見られたという研究報告もあることから過降圧への注意も提案されている。CKD診療ガイドライン2018では高齢者への対応に変化 CKD診療ガイドライン第12章「高齢者CKD」では、高齢者CKDの年齢が“75歳以上”と改訂されており、これは2017年に日本老年学会・日本老年医学会 高齢者に関する定義検討ワーキンググループ において、「75歳以上を高齢者」と定義付けたことが反映されている。また、同章にはフレイルに対する介入のCQが盛り込まれており、これは厚生労働省が今年度より本格実施を始めた「高齢者の低栄養防止・重症化予防等の推進」に沿った改訂であることが伺える。DKDの推奨検査項目と管理目標値 CKD診療ガイドライン第16章「糖尿病性腎臓病(DKD)」では4つのCQが挙げられており、「尿アルブミン尿の測定」「浮腫を伴うDKDへのループ利尿薬投与」「HbA1c7.0%未満」「集約的治療」を推奨している。とくに血管合併症の発症・進行抑制ならびに総死亡率抑制のために集約的治療が重要とされ、以下の管理目標値を推奨としている。・BMI 22(生活習慣の修正[適切な体重管理、運動、禁煙、塩分制限食など])・HbA1c7.0%未満(現行のガイドラインで推奨されている血糖)・収縮期血圧130mmHg未満かつ拡張期血圧80mmHg未満・LDLコレステロール120mg/dl、HDLコレステロール40mg/dl、中性脂肪150mg/dl未満(早朝空腹時) ただし、「多因子の厳格な治療を推奨することで、投与薬剤数の増加や薬剤に関連する低血糖、過降圧、浮腫、高カリウム血症などのリスクが高まることにも注意が必要であり、適切なモニタリングと患者背景や生活環境を十分に勘案するように」といった注意事項も明記されている。PKD病診連携の架け橋に 常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)は透析導入原因の第4位となる疾患であるが、指定難病のため腎臓専門医・専門医療機関への紹介が必要となる。CKD診療ガイドライン第17章-3には、かかりつけ医による診療ポイントとして「脳動脈瘤」「トルバプタンによる治療」「血圧管理」について記載されているが、詳細については「エビデンスに基づく多発性嚢胞腎(PKD)診療ガイドライン2017」を参照とされている。今後の方針 今後の方針として「同改訂委員会が継続しメディカルスタッフや患者を利用者に想定したCKD療養ガイド2018を作成、出版する」と記され、医療者と患者が一体となって治療に取り組むことで、透析導入予防や医療費抑制につながることが期待される。

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DKDの意義とは―腎臓専門医からの視点

 5月24日から3日間にわたって開催された、第61回日本糖尿病学会年次学術集会(会長:宇都宮 一典)において、日本腎臓学会・日本糖尿病対策推進会議合同シンポジウムが行われ、岡田 浩一氏(埼玉医科大学腎臓内科 教授)が「糖尿病性腎臓病DKDの抑制を目指して」をテーマに講演した。なぜ、DKD(糖尿病性腎臓病:Diabetic Kidney Disease)? 日本糖尿病学会と日本腎臓学会の両理事長による“STOP-DKD宣言”の調印から7ヵ月が経過した。しかし、「現時点ではまだ十分に市民権を得た概念ではない」と、岡田氏は腎臓専門医の立場から日本でのDKDの意義を示した。 同氏によると「海外では2013年頃から“DKD”の概念が広まっており、現在、国際学会ではヒトの糖尿病関連腎症を示す病名としてDN(diabetic nephropathy:糖尿病性腎症)を使用していない。そのため、日本ではDN、海外ではDKDが使用される、いわばダブルスタンダードの状況である。国際間の情報収集・交換を考慮すると疾患概念を輸入する必要があるため、2学会の承認を得て決定した」とDKDの概念の発足理由を説明した。日本人の病態推移 日本人の2型糖尿病患者の40%以上は微量アルブミン以上の所見を有する糖尿病腎症であり、その中で高血圧性腎症(HN)の病態に類似の、アルブミン尿が顕性化せずにeGFRが低下する非典型的な経過をたどる症例が増加している。また、透析導入率で見ると、1998年以降年々増加し、現在は横ばいの推移を示しているが、高血圧を原因とする腎硬化症による透析導入は徐々に増加傾向である。さらに、性別、年齢別の経年変化のグラフ1)によれば、女性は85歳未満のすべての年代において糖尿病による透析導入率は低下しており、85歳以上では横ばいである。一方、男性は80歳未満では低下傾向であるが、80歳以上は増加傾向というデータが報告されている。これを踏まえ、同氏は「2型糖尿病患者の男性透析導入者は人口構成上、今後も増えることが予想されるため、重要なターゲット」と注意を促した。DKD疾患とその対策法とは 近年はRA系阻害薬の使用率が上昇し、それに伴う腎保護作用の恩恵を受けている。しかしその結果、アルブミン尿が検出されなくても腎機能が低下している症例が増えているのも事実である。これに同氏は「アルブミン尿をしっかり下げているにもかかわらずGFRが低い人が増えていることを考えると、集約的治療の網の目をくぐり抜けて腎不全に陥る糖尿病患者がおり、しかも高齢化や罹病期間の延長も関与している可能性がある」と現在の人口構成を踏まえた集約的治療の在り方と検査方法について危惧した。 このような症例を減らすためには現在の概念であるCKDやDNだけでは収まりきらないため、両学会は米国から広まったDKDの概念の国内普及に努めている。 同氏は6月に発刊される「CKD診療ガイドライン2018」に掲載予定のDKDの概念図を用い、「“DKD”とは典型的な糖尿病腎症+非典型的(顕性アルブミン尿を伴わずにGFRが落ちていく症例)で、その発症進展に糖尿病が関わっている腎症の包括的な疾患概念」と説明。また、「“CKD with DM(糖尿病合併CKD)”はさらに広い包括的な疾患概念として、海外では2014年頃から整理された疾患概念である。現在、これはDKD+非糖尿病関連CKD(多発嚢胞腎やIgA腎症のような独立したCKD)として理解されるようになった」と解説した。DKDに対する検査 次に同氏は、既存検査に加えて、新しい画像検査法であるBOLD MRIについて提唱した。顕性アルブミン尿を伴わずeGFRが低下している症例の腎生検では、典型的な糖尿病性糸球体硬化症と細動脈硬化が混在している所見が観察されることから、早い段階から腎硬化症と糖尿病の糸球体病変が合併しており、これが非典型的な糖尿病関連腎症の組織学的な特徴ではないか」という仮説を紹介した。顕性微量アルブミンが検出されないまま腎機能の低下をきたした原因には腎組織の虚血の関与が想定され、「このような症例に対し、尿アルブミンの定量に加えてeGFRの測定が重要であり、加えて腎臓の酸素化を可視化できるBOLD MRIなどの新しい検査法の開発・導入を推進すべき」とコメントした。DKDによる診療意図拡大へ J-DOIT3試験の応用が、より良い臓器合併症抑制効果に結びつくことを踏まえ、同氏は「これには多職種からなるチームでの介入が重要であり、そのためには、かかりつけ医から専門医への適切な紹介が必要となる。これを推進するため、両学会において紹介基準が作成された2)」と述べ、「この際、アルブミン尿とGFRを定期的に測定してもらうことが大前提となる」と適切な紹介のための注意点を伝えた。 最後に同氏は「ただし、DKDの中には、集約的治療では抑え込めない非典型的な糖尿病関連腎症が含まれている。この顕性アルブミン尿を伴わない腎症の病態解明と新しい管理・治療法の開発という2つの学会をあげての取り組みを促進すること、これが今、DKDの定義を発信する目的である」と締めくくった。

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透析医療の新たなる時代

 2018年5月22日にバクスター株式会社主催のプレスセミナーが開催された。今回は『変革期を迎える透析医療~腹膜透析治療の可能性とQOLを高める「治療法決定プロセス」の在り方とは~』と題し、日本透析医学会理事長 中元 秀友先生(埼玉医科大学病院 総合診療内科 教授)が登壇した。なぜ腹膜透析が浸透しないのか 人工透析患者は2016年時点で32万9,609人に上り、新規透析導入患者は3万9,344人と報告されている。血液透析(HD)導入が増加する一方、他国と比較して日本の腹膜透析(PD)導入率は2.7%と、PDの普及率は世界でも最低レベルである。 PDはHDと比較すると残存腎機能維持、QOL維持、患者満足度が良好であるのに対し、透析効率や除水効率の低さ、継続可能年数が短いことが問題点として挙げられる。なかでも一番の問題点として、「腹膜透析の専門家(医師、看護師)が少ないこと」「患者にとって十分な情報提供の不足」を中元氏は強調した。日本の透析技術に高い評価 「血液透析患者の治療方針と患者予後についての調査(DOPPS)」によると、日本は米国に次いで患者登録数が多く、現在は第7期調査が進められている。 世界12ヵ国の7,226名の透析患者を対象としたDOPPS(第4期調査)研究からの報告では、日本人1人当たりの透析期間は平均8.76年と参加国で最も長いと記されている。それにもかかわらず患者の活動状況の指標であるFunctional Status (FS)が最も良好であるのは、“日本の医療技術が優れ、シャントが計画的に作成される結果、透析導入も計画的に行われているため”とも報告されている。その他にも“保険制度が優れ、透析導入時の金銭的負担が少ない”というメリットがあり、「すべての患者が良好な血液透析を受けることができる。本邦の血液透析の成績が極めて良いことは誇るべきことであるが、これがPDの普及の足かせになっている可能性もある」と中元氏は語った。透析医療の変革期 2000年以降PD液は中性透析液となり、腹膜への侵襲性は大きく改善した。また、ブドウ糖に代わるものとしてイコデキストリンが登場し、緩衝剤へ重曹が使用されるようになったため、より生体に適合する透析液が発売されるようになった。中性液の有用性については、「中性液でEPSの発症率をみたNEXT-PD試験」において、EPSの発症を以前の研究と比較して約1/3まで抑えることが報告されている。 中元氏は、このように腹膜透析の医療技術が飛躍的に躍進しているものの「患者への情報に偏り」があることを、これまでのアンケート結果(全腎協、腎臓サポート協会)から指摘した。2008年の全腎協のアンケートでは「血液透析開始前の患者の6割が、さらに透析開始後も4割の患者は腹膜透析を知らなかった」と報告されている。また腎臓サポート協会の「治療法は医師が決定しそれに従った患者が半数以上だが、実際は、85%の患者が治療法を自身で決定したいと考えている」という結果から、今後、医療従事者の認識不足を解決し、患者がもっと治療の意思決定に参加できる態勢が必要であると説明した。在宅診療や労働人口の社会復帰に寄与 国としても適切な腎代替療法推進を目指している。平成30年度診療報酬改定では、糖尿病性腎症からの透析導入者抑制のため「糖尿病透析予防指導管理料」の対象患者の拡大や、療法選択への診療報酬加算の充実、特に腹膜透析や腎移植の推進評価として「腎代替療法実績加算 100点」算定が開始された。 高齢患者の在宅治療の推進、地域包括ケアの重要性が言われており、高齢者が社会生活を維持しながら透析治療を継続するためにはPDの普及が急がれる。今回、バクスターより発売された自動腹膜用灌流装置「ホームPDシステム かぐや」は医療従事者による遠隔操作により、さらに身近な在宅治療が実現可能となった。また、通院回数を減らすことが可能であり、就業への支障が少なく社会に対する疎外感の抑制にもメリットがある。 最後に中元氏は、「今後はこのシステムに大病院だけが関与するのではなく、在宅治療が増えていくことを見据え、中小病院やクリニックとの連携が重要となる」ことを強調し、PDは地域連携に考慮した治療法であるとPDの普及に期待を示した。■参考バクスターニュースリリース日本透析医学会 わが国の慢性透析療法の現況DOPPS

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第4回 育児をする医師は負け組?【宮本研のメディア×ドクターの視座】

第4回 育児をする医師は負け組?ある日の当直中、急性心筋梗塞と判明した外来患者を前に、私は循環器内科のオンコール医師へ急いで電話をかけました。受話器の向こうでは、幼い子供の大きな泣き声が聞こえます。独身の私には事態の深刻さがピンときませんでした。「ああ、分かった、AMIね・・・。今さ、子供を風呂に入れているけど、すぐに行く。○○先生に連絡して、カテの準備を病棟スタッフに頼んで」数十分後、風呂上がりで紅潮した顔の先輩医師が到着すると、長めの髪も乾ききらないまま、心臓カテーテル室へと走って行きました。あれから10年以上が経ち、毎晩、幼い子供たちをお風呂に入れながら、この瞬間にオンコールで呼び出されることが、切実な問題として分かるようになりました。もし妻が不在であったり対応できない時間帯であれば、誰かの助け無しには、夜遅くに子供たちを置いて、病院へ駆けつけることは不可能です。親が慌てて出かける事情が理解できない彼らは大泣きし、相当に厳しい状況となるでしょう。勤務医生活をふり返ると、腎臓内科医が1人体制だった民間病院での7年間は、24時間オンコール体制が毎日続きました。大学や基幹病院よりも呼び出しが少ないとはいえ、朝5時に病棟急変の連絡が入る、深夜1時に緊急透析の判断を問われるといった立場は、精神的に苦しい環境でした。そこに育児が加われば、やっと夜泣きがおさまった子供をオンコールの着信で起こされてしまう。不意の電話は、幼児にとっては恐怖でもあります。「何を軟弱なことを言ってる! それが医者だろう!」という意見もあるかと思いますが、私の父方は100年以上の医師家系で、とくに父が外科医の多忙な日々を送り、オンコールや当直が続き、早々に家庭が崩壊した事実をお伝えしておきます。家族を犠牲にして働くことが、本当に医師の美徳なのか。父親が週末さえもいない中で、母親が「患者さんのために、パパは病院へ行ったんだよ」と言う意味は、高校生になっても理解できませんでした。しかし父と同じく医師になってみると、院内に長時間いる先生が素晴らしい、というデファクト・スタンダード的な見方が、まだあちこちにありました。長時間労働をいとわず、急変時は昼夜を問わずに駆けつけ、床やソファで仮眠を取れば超人的なパフォーマンスを発揮する医師。たびたび身体を壊しつつ、そのような望まれる医師像に挑んできて、「長続きしようがない」というのが私なりの結論です。肉体の老化は年々進み、我が身を満足にメンテナンスできない環境では、医師なりの思考回路も鈍っていく。猛烈なプレッシャーは心身の余裕も破壊します。そして、育児という連続的で多大な負荷は、自宅内での実労働として重くのしかかります。幼い子供は機嫌も体調もグズりも、常に変わり続ける。親の思うとおりにはならないし、真夜中に抱っこしてもずっと泣かれ続ければ、大人の我慢も限界にきてしまう。他人からは見えない修羅場を毎日抱えながら、ハードな医師業も年々レベルアップしろというのは、結構な無茶ぶりでしょう。育児をしている医師、とくに女性は、フルタイム勤務を続けにくい。これは他のビジネスでも同様ですが、最近は多様な支援や代替策を探すことが可能となりつつあります。人員の手当や勤務環境の調整など、医師業よりはかなり柔軟に対応できているのではないでしょうか。育児中の女性社員に優秀なパフォーマンスを発揮してもらうための経営施策は、ハードワーク男性を主戦力としてきた医師業界と比べて、明らかに進歩しているように感じます。けれども、働き方改革における先送りのように、公的な任務を背負う医師業界では、個人の状況は後回しにして、社会的な貢献度合いが優先されやすい。メディア業界で白衣を着用せずに働いてみると、世間一般の理解も医療界としての内部対策も、ともに“不足しっぱなし”であると痛感します。女性に対する「こんなときに妊娠なんて」という言葉は、医師業界でも蔓延するハラスメント行為ですが、きっと今日もどこかで実際に起こっているはず。新卒医師の3分の1以上が女性である時代にもかかわらず、毎日の育児に対する支援や理解、さらに先達たちの発言は不十分です。「忙しくて育児なんて全然しなかったけど、子供たちは奥さんが頑張って育ててくれた」という丸投げ談は、この発想を若い医師へ当てはめること自体、現代のハラスメントになりかねません。ましてや、育児をしている医師はキャリアの負け組だ、というひそかな認識も、医師の働き方が改善しない重大な要因ではないでしょうか。育児はもうひとつの無償労働である。だが、将来の日本を支える人材を懸命に育てる重要な責務でもある。―「オートマチックな育児などない」という声をもっと大きく取り上げ、医師業界に横たわる育児軽視を短期に好転させていくことが、今こそ重要です。

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身体能力低下の悪循環を断つ診療

 2018年4月19~21日の3日間、第104回 日本消化器病学会総会(会長 小池 和彦氏[東京大学医学部消化器内科 教授])が、「深化する多様性~消化器病学の未来を描く~」をテーマに、都内の京王プラザホテルにおいて開催された。期間中、消化器領域の最新の知見が、シンポジウム、パネルディスカッション、ワークショップなどで講演された。 本稿では、その中で総会2日目に行われた招請講演の概要をお届けする。フレイル、サルコペニアに共通するのは「筋力と身体機能の低下」 招請講演は、肝疾患におけるサルコペニアとの関連から「フレイル・サルコペニアと慢性疾患管理」をテーマに、秋下 雅弘氏(東京大学大学院医学系研究科 加齢医学 教授)を講師に迎えて行われた。 はじめに高齢者の亡くなる状態を概括、いわゆるピンピンコロリは1割程度であり、残りの高齢者は運動機能の低下により、寝たきりなどの介護状態で亡くなっていると述べ、その運動機能の低下にフレイルと(主に一次性)サルコペニアが関係していると指摘した。 フレイルは、「加齢に伴う予備能力低下のため、ストレスに対する回復力が低下した状態」を表し、要介護状態に至る前段階として位置付けられている(ただし、可逆性はあるとされる)。また、サルコペニアは「高齢期にみられる骨格筋量の低下と筋力もしくは身体機能(歩行速度など)の低下」と定義される。両病態はお互いに包含するものであり、とくに筋力と身体機能の低下は重複する。フレイル、サルコペニアは世界初のガイドラインなどで診療 診療については、『フレイル診療ガイド 2018年版』と『サルコペニア診療ガイドライン 2017年版』が世界で初めて刊行され、詳しく解説されている(消化器領域では『肝疾患におけるサルコペニアの判定基準』により二次性サルコペニアの診療が行われている)。 フレイルの診断は、現在統一された基準はなく、一例として身体的フレイルの代表的な診断法と位置付けられている“Cardiovascular Health Study基準”(CHS基準)を修正した日本版CHS(J-CHS)基準が提唱され、体重減少、筋力低下、疲労感、歩行速度、身体活動の5項目のうち3つ以上の該当でフレイルと判定される。スクリーニングでは、質問形式で要介護認定ともシンクロする「簡易フレイルインデックス」など使いやすいものが開発されている。 一方、サルコペニアも同様に統一基準はないが、Asian Working Group for Sarcopenia(AWGS)によってアジア人向けの診断基準が作られ、年齢、握力、歩行速度、筋肉量により診断されるが、歩行速度など、わが国の実情に合わない点もあり注意が必要という(先の二次性サルコペニアの診断ではCT画像所見による筋肉量の測定がある)。 また、両病態とも筋肉量の測定など容易ではないが、外来で簡単にできる「指輪っかテスト」なども開発され、利用されている。 治療に関しては両病態ともに、レジスタンス運動を追加した運動療法や、十分な栄養を摂る栄養療法が行われる。詳細は先述のガイドラインなどに譲るが、「タンパク質」の摂取を例に一部を概略的に示すと、慢性腎不全の患者では腎臓機能維持の都合上、タンパク質の摂取が制限されるが、その制限が過ぎるとサルコペニアに進んでしまう。そのため、透析に進展させない程度のタンパク質の摂取を許すなど、患者のリスクとベネフィットを比較、検討して決めることが重要という。薬剤が6種類を超えるとハイリスク 続いて「ポリファーマシー」に触れ、ポリファーマシーはフレイルの危険因子であり、薬剤数が6種類を超えるとハイリスクになると指摘する(5種類以上で転倒のリスクが増す)。また、6種類以上の服用はサルコペニアの発症を1.6倍高めるというKashiwa studyの報告を示すとともに、広島県呉市のレセプト報告を例に85~89歳が一番多くの薬を服用している実態を紹介した。 消化器領域につき、「食欲低下」では非ステロイド性抗炎症薬、アスピリン、緩下薬などが、「便秘」では睡眠薬・抗不安薬(ベンゾジアゼピン)、三環系抗うつ薬などが、「ふらつき・転倒」では降圧薬、睡眠薬・抗不安薬、三環系抗うつ薬などが関係すると考えられ、「高齢者への処方時は、優先順位を決めて処方し、非専門領域についても注意してほしい」と語った。とくに「便秘」は抗コリン薬が原因になることが多いという。また、「GERD」についてはH2ブロッカーが認知機能を低下させる恐れがあるため注意が必要であり、第1選択薬のPPIでも漫然とした長期使用は避けるなど、必要に応じた使い方が望ましいという。 まとめとして、高齢者の生活改善では「規則正しい食事」「排泄機能の維持」「適切な睡眠習慣」が大切で、とくに「食事は服薬のアドヒアランス維持のためにも気を付けてもらいたい」とその重要性を指摘した。最後に秋下氏は「フレイル、サルコペニアは、身体的な負の悪循環を形成することを理解してもらいたい」と述べ、レクチャーを終えた。■参考第104回 日本消化器病学会総会■関連記事ニュース 初の「サルコペニア診療ガイドライン」発刊

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医師の政治信条、終末期治療に影響を及ぼすか/BMJ

 米国では、医師の政党支持は、全国規模の医療施策に関する見解の違いと関連することが知られている。米国・ハーバード大学医学大学院のAnupam B. Jena氏らは、医師の政党支持と入院患者への終末期治療の関連を検討し、支持政党の違いは終末期の支出や強化終末期治療の施行状況などに影響を及ぼさないことを示した。研究の成果は、BMJ誌2018年4月11日号に掲載された。医師の政党支持は、二極化した医療上の争点を反映した仮想的な臨床シナリオにおいて、治療の推奨と関連するとの報告があるが、医師の政治信条の終末期の治療への影響は、これまで知られていないという。支持政党別の終末期治療の違いを後ろ向きに検討 研究グループは、メディケア加入の入院患者への内科医による終末期治療を、支持政党別(共和党、民主党)に後ろ向きに比較する観察研究を行った(外部からの助成は受けていない)。 2008~12年の期間に、一般的な病態で入院し、その後病院で、または退院後早期に死亡したメディケア加入者のデータを収集した。 病院で死亡した患者および退院後にホスピスを紹介されたが30日以内の死亡リスクが高いと予測された患者における、総入院費、集中治療室の使用、強化終末期治療(挿管・人工呼吸器装着、気管切開、胃瘻管挿入、血液透析、経腸栄養、心肺蘇生)を主要アウトカムとした。医師は、連邦政治献金データを用いて共和党支持、民主党支持、支持政党なしに分類された。 解析の対象となった148万808例のうち、9万3,976例(6.3%)が1,523人の民主党を支持する医師に、5万8,876例(4.0%)が768人の共和党支持の医師に、132万7,956例(89.6%)は2万3,627人の支持政党なしの医師による治療を受けた。 5万1,621例(3.5%)が病院で死亡した。退院後30日、60日、90日以内の死亡は、それぞれ14万8,457例(10.0%)、21万1,604例(14.3%)、25万4,856例(17.2%)だった。早期死亡リスクの高い患者のホスピス入所率にも差はない 患者の人口統計学的および臨床的な背景因子は3群間でほぼ同様であった。平均年齢は、民主党支持の医師の治療を受けた患者が74.4歳、共和党支持の医師の治療を受けた患者は75.3歳(p=0.002)で、女性がそれぞれ58.8%、60.2%(p=0.002)、白人が80.1%、83.3%(p=0.002)であり、主な慢性疾患では高血圧が89.2%、90.2%(p=0.002)、急性心筋梗塞が68%、69.4%(p=0.03)などと有意な差がみられたものの、その差はわずかであり、一定の方向性もないため、重大な交絡因子となる可能性はないと考えられた。 民主党支持の医師は共和党支持の医師に比べ、平均年齢が若く(48.8 vs.51.0歳、p<0.001)、女性が多く(24.6 vs.14.7%、p<0.001)、米国の医学校の上位20校の卒業生が多かった(14.8 vs.6.4%、p<0.001)。支持政党なしの医師は、支持政党ありの医師に比べ平均年齢が若く(43.0歳、p<0.001)、女性が多く(36.8%、p<0.001)、上位20校の卒業生が少なかった(5.7%、p<0.001)。 患者の共変量と病院別の固定効果で調整後の終末期の平均支出は、民主党支持の医師が1万7,938ドル(1万2,872ポンド、1万4,612ユーロ、95%信頼区間[CI]:1万7,176~1万8,700ドル)、共和党支持の医師は1万8,409ドル(95%CI:1万7,362~1万9,456)であり、補正後群間差は472ドル(95%CI:-803~1,747ドル、p=0.47)と、有意な差は認めなかった。 病院で死亡した患者における終末期の集中治療室の使用(民主党支持の医師:52.5% vs.共和党支持の医師:54.6%、p=0.22)および強化終末期治療(38.0 vs.40.6%、p=0.14)には、医師の支持政党の違いによる差はみられなかった。 退院後にホスピスに入所した患者の割合にも、医師の支持政党による差はなかった。たとえば、退院後30日以内の予測死亡リスクが高い上位5%の患者7万4,048例の補正後ホスピス入所率は、民主党支持の医師の患者が15.8%、共和党支持の医師の患者が15.0%、支持政党なしの医師の患者は15.2%であった(民主党支持と共和党支持の補正後群間差:-0.8%、95%CI:−2.7~0.9%、p=0.43)。 著者は、「医師の政治的な好みによる、外来患者や、医療に関する政治的議論のある他の領域への影響を理解するために、さらなる検討を要する」としている。

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全身性エリテマトーデス〔SLE:Systemic Lupus Erythematosus〕

1 疾患概要■ 概念・定義全身性エリテマトーデス(Systemic Lupus Erythematosus:SLE)は、自己免疫異常を基盤として発症し、多彩な自己抗体の産生により多臓器に障害を来す全身性炎症性疾患で、再燃と寛解を繰り返しながら病像が完成される。全身に多彩な病変を呈しうるが、個々人によって障害臓器やその程度が異なるため、それぞれに応じた管理と治療が必要となる。■ 疫学本疾患は指定難病に指定されており、令和元年(2019年)度末の特定医療費(指定難病)受給者証所持者数は6万1,835件であり、計算上の有病率は10万人中50人である。男女比は1対9で女性に多く、発症年齢は10~30代で大半を占める。■ 病因発症要因として、遺伝的背景要因に加えて、感染症や紫外線などの環境要因が引き金となり、発症することが考えられているが、不明点が多い。その病態は、抗dsDNA抗体を主体とする多彩な自己抗体の出現に加え、多岐にわたる免疫異常によって形成される。自然免疫と獲得免疫それぞれの段階で異常が指摘されており、樹状細胞・マクロファージを含めた貪食能を持つ抗原提示細胞、各種T細胞、B細胞、サイトカインなどの異常が病態に関与している。体内の細胞は常に破壊と産生を繰り返しているが、前述の引き金などを契機に体内の核酸物質が蓄積することで、異常な免疫反応が惹起され、自己抗体が産生され免疫複合体が形成される。そして、それらが各臓器に蓄積し、さらなる炎症・自己免疫を引き起こし、病態が形成されていく。■ 症状障害臓器に応じた症状が、同時もしくは経過中に異なる時期に出現しうる。初発症状として最も頻度が高いものは、発熱、関節症状、皮膚粘膜症状である。全身倦怠感やリンパ節腫脹を伴う。関節痛(関節炎)は通常骨破壊を伴わない。皮膚粘膜症状として、日光過敏症や露光部に一致した頬部紅斑のほかに、手指や四肢体幹部に多彩な皮疹を呈し、脱毛、口腔内潰瘍などを呈する。その他、レイノー現象、腎炎に関連した浮腫、肺病変や血管病変と関連した労作時呼吸困難、肺胞出血に伴う血痰、漿膜炎と関連した胸痛・腹痛、神経精神症状など、さまざまな症状を呈しうる。■ 分類SLEは障害臓器と重症度により治療内容が異なる。とくに重要臓器として、腎臓、中枢神経、肺を侵すものが挙げられ、生命および機能予後が著しく障害される可能性が高い障害である。ループス腎炎は組織学的に分類されており、International Society of Nephrology/Renal Pathology Society(ISN/RPS)分類が用いられている。神経精神ループス(Neuropsychiatric SLE:NPSLE)では大きく中枢神経病変と末梢神経病変に分類され、それぞれの中でさらに詳細な臨床分類がなされる。■ 予後生命予後は、1950年代は5年生存率がおよそ50%であったが、2007年のわが国の報告では10年生存率がおよそ90%、20年生存率はおよそ75%である1)。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)検査所見として、抗核抗体、抗(ds)DNA抗体、抗Sm抗体、抗リン脂質抗体(ループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体、β2GPⅠ依存性抗カルジオリピン抗体など)が陽性となる。また、血清補体低値、免疫複合体高値、白血球減少(リンパ球減少)、血小板減少、溶血性貧血、直接クームス陽性を呈する。ループス腎炎合併の場合はeGFR低下、蛋白尿、赤血球尿、白血球尿、細胞性円柱が出現しうる。SLEの診断では1997年の米国リウマチ学会分類基準2)および2012年のSystemic Lupus International Collaborating Clinics(SLICC)分類基準3)を参考に、他疾患との鑑別を行い、総合的に判断する(表1、2)。2019年に欧州リウマチ学会と米国リウマチ学会が合同で作成した新しい分類基準4)が提唱された。今後はわが国においても本基準の検証を元に診療に用いられることが考えられる。画像を拡大する表2 Systemic Lupus International Collaborating Clinics 2012分類基準画像を拡大するループス腎炎が疑われる場合は、積極的に腎生検を行い、ISN/RPS分類による病型分類を行う。50~60%のNPSLEはSLE診断時か1年以内に発症する。感染症、代謝性疾患、薬剤性を除外する必要がある。髄液細胞数、蛋白の増加、糖の低下、髄液IL-6濃度高値であることがある。MRI、脳血流シンチ、脳波で鑑別を進める。貧血の進行を伴う呼吸困難、両側肺びまん性浸潤影あるいは斑状陰影を認めた場合は肺胞出血を考慮する。全身症状、リンパ節腫脹、関節炎を呈する鑑別疾患は、パルボウイルス、EBV、HIVを含むウイルス感染症、結核、悪性リンパ腫、血管炎症候群、他の膠原病および類縁疾患が挙がるが、感染症を契機に発症や再燃をすることや、他の膠原病を合併することもしばしばある。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)SLEの基本的な治療薬はステロイド、免疫抑制薬、抗マラリア薬であるが、近年は生物学的製剤が承認され、複数の分子標的治療が世界的に試みられている。ステロイドおよび免疫抑制薬の選択と使用量については、障害臓器の種類と重症度(疾患活動性)、病型分類、合併症の有無によって異なる。治療の際には、(1)SLEのどの障害臓器を標的として治療をするのか、(2)何を治療指標として経過をみるのか、(3)出現しうる合併症は何かを明確にしながら進めていくことが重要である。SLEの治療選択については、『全身性エリテマトーデス診療ガイドライン2019』の記載にある通り、重要臓器障害があり、生命や機能的予後を脅かす場合は、ステロイド大量投与に加えて免疫抑制薬の併用が基本となる5)(図)。ステロイドは強力かつ有効な免疫抑制薬でありSLE治療の中心となっているが、免疫抑制薬と併用することで予後が改善される。ステロイドの使用量は治療標的臓器と重症度による。ステロイドパルス療法とは、メチルプレドニゾロン(商品名:ソル・メドロール)250~1,000mg/日を3日間点滴投与、大量ステロイドとはプレドニゾロン換算で30~100mg/日を点滴もしくは経口投与、中等量とは同じく7.5~30mg/日、少量とは7.5mg/日以下が目安となるが、体重により異なる6)(表3)。ステロイドの副作用はさまざまなものがあり、投与量と投与期間に依存して必発である。したがって、副作用予防と管理を適切に行う必要がある。また、大量のステロイドを長期に投与することは副作用の観点から行わず、再燃に注意しながら漸減する必要がある。画像を拡大する画像を拡大する寛解導入療法として用いられる免疫抑制薬は、シクロホスファミド(同:エンドキサン)とミコフェノール酸モフェチル(同:セルセプト)が主体となる(ループス腎炎の治療については別項参照)。治療抵抗性の場合、免疫抑制薬を変更するなど治療標的を変更しながら進めていく。病態や障害臓器の程度により、カルシニューリン阻害薬のシクロスポリン(同:サンディミュン、ネオーラル)、タクロリムス(同:プログラフ)やアザチオプリン(同:イムラン、アザニン)も用いられる。症例に応じてそれぞれの有効性と副作用の特徴を考慮しながら選択する(表4)。画像を拡大するリツキシマブは、米国リウマチ学会(American College of Rheumatology:ACR)および欧州リウマチ学会(European League Against Rheumatism:EULAR)/欧州腎臓学会-欧州透析移植学会(European Renal Association – European Dialysis and Transplant Association:ERA-EDTA)の推奨7,8)においては、既存の治療に抵抗性の場合に選択肢となりうるが、重症感染症や進行性多巣性白質脳症の注意は必要と考えられる。わが国ではネフローゼ症候群に対しては保険承認されているが、SLEそのものに対する保険適用はない。可溶型Bリンパ球刺激因子(B Lymphocyte Stimulator:BLyS)を中和する完全ヒト型モノクローナル抗体であるベリムマブ(同:ベンリスタ)は、既存治療で効果不十分のSLEに対する治療薬として、2017年にわが国で保険承認され、治療選択肢の1つとなっている9)。本稿執筆時点では、筋骨格系や皮膚病変にとくに有効であり、ステロイド減量効果、再燃抑制、障害蓄積の抑制に有効と考えられている。ループス腎炎に対しては一定の有効性を示す報告10)が出てきており、適切な症例選択が望まれる。NPSLEでの有効性はわかっていない。ヒドロキシクロロキン(同:プラケニル)は海外では古くから使用されていたが、わが国では2015年7月に適用承認された。全身症状、皮疹、関節炎などにとくに有効であり、SLEの予後改善、腎炎の再燃予防を示唆する報告がある。短期的には薬疹、長期的には網膜症などの副作用に注意を要し、治療開始前と開始後の定期的な眼科受診が必要である。アニフロルマブ(同:サフネロー)はSLE病態に関与しているI型インターフェロンα受容体のサブユニット1に対する抗体製剤であり、2021年9月にわが国でSLEの適応が承認された。臨床症状の改善、ステロイド減量効果が示された。一方で、アニフロルマブはウイルス感染制御に関与するインターフェロンシグナル伝達を阻害するため、感染症の発現リスクが増加する可能性が考えられている。執筆時点では全例市販後調査が行われており、日本リウマチ学会より適正使用の手引きが公開されている。実臨床での有効性と安全性が今後検証される。SLEの病態は複雑であり、臨床所見も多岐にわたるため、複数の診療科との連携を図りながら各々の臓器障害に対する治療および合併症に対して、妊娠や出産、授乳に対する配慮を含めて、個々に応じた管理が必要である。4 今後の展望本稿執筆時点では、世界でおよそ30種類もの新規治療薬の第II/III相臨床試験が進行中である。とくにB細胞、T細胞、共刺激経路、サイトカイン、細胞内シグナル伝達経路を標的とした分子標的治療薬が評価中である。また、異なる作用機序の薬剤を組み合わせる試みもなされている。SLEは集団としてヘテロであることから、適切な評価のためのアウトカムの設定方法や薬剤ごとのバイオマーカーの探索が同時に行われている。5 主たる診療科リウマチ・膠原病内科、皮膚科、腎臓内科、その他、障害臓器や治療合併症に応じて多くの診療科との連携が必要となる。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 全身性エリテマトーデス(公費対象)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報全国膠原病友の会(膠原病患者とその家族の会)1)Funauchi M, et al. Rheumatol Int. 2007;27:243-249.2)Hochberg MC, et al. Arthritis Rheum. 1997;40:1725.3)Petri M, et al. Arthritis Rheum. 2012;64:2677-2686.4)Aringer M, et al. Ann Rheum Dis. 2019;78:1151-1159.5)厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業 自己免疫疾患に関する調査研究(自己免疫班),日本リウマチ学会(編):全身性エリテマトーデス診療ガイドライン2019.南山堂,2019.6)Buttgereit F, et al. Ann Rheum Dis. 2002;61:718-722.7)Hahn BH, et al. Arthritis Care Res (Hoboken). 2012;64:797-808.8)Bertsias GK, et al. Ann Rheum Dis. 2012;71:1771-1782.9)Furie R, et al. Arthritis Rheum. 2011;63:3918-3930.10)Furie R, et al. N Engl J Med. 2020;383:1117-1128.公開履歴初回2018年04月10日更新2022年02月25日

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