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生存時間分析 その1【「実践的」臨床研究入門】第55回

Cox比例ハザード回帰モデルの基本的な考え方今回からは、生存時間分析における多変量解析について解説します。われわれのResearch Question(RQ)のプライマリアウトカムは末期腎不全であり、そのアウトカム指標は末期腎不全の発生率です(連載第40回参照)。仮想データ・セットを使ってExcel関数で末期腎不全の発生率を計算する方法を示しました(第41回参照)。ここで用いた仮想データ・セットには「打ち切り」(連載第37回参照)のデータも含まれています。この「打ち切り」という事象も考慮し、Kaplan-Meier法を用いた生存時間曲線を描き、さらに厳格低たんぱく食遵守群と非遵守群の2群でLog-rank検定を用いて比較するまでのEZR(Eazy R)の操作手順についても解説しました(連載第42回、第43回、第44回参照)。発生率やKaplan-Meier曲線は生存時間に関する記述統計です(連載第50回参照)。この項では、アウトカム指標(目的変数)の型が生存時間である場合に適応される多変量解析手法、「Cox比例ハザード回帰モデル」(連載第49回、第50回参照)の基本的な考え方とその実際について述べていきます。まず初めに、生存時間分析において使用される「ハザード」と「ハザード比」、さらに「比例ハザード性」といった生物統計学の重要な概念について説明します。ハザードとハザード比ハザードとは、「ある瞬間におけるイベント発生のリスク」のことであり、「瞬間的なイベント発生率」と言い換えることもできます。ハザードは時間とともに変化する(時間依存的)ことがあります。例:透析導入直後は死亡のリスクが高く(ハザードが高い)、透析導入後ある程度時間が経過するにつれて安定しリスクが下がる(ハザードが低い)が、加齢に伴いリスクが再上昇する(ハザードが高い)、など。ハザード比(Hazard ratio:HR)は2つの比較群におけるハザードの比です。HRは、一方の群が他方の群と比較して、どの程度イベント発生のリスクが高いかを相対的に示しています。HRは単に「イベントが発生したかどうか」だけでなく、「いつイベントが発生したか」という「時間」の要素を考慮したリスク指標です。それゆえ、HRは時間経過が重要な生存時間分析において、治療効果やリスク要因の影響を評価する際によく使われ、主に「Cox比例ハザード回帰モデル」を用いて推定されます。比例ハザード性HRを解釈するうえでの重要な前提条件の1つに「比例ハザード性」があります。「比例ハザード性」とは、異なる群間におけるハザードの比が時間によらず一定である、という仮定です。前述したように、ハザード(瞬間的なイベント発生率)自体は観察期間中に経時的に変化し得るものの、HRは観察期間を通じて一定である、ということです。生存時間分析において、「Cox比例ハザード回帰モデル」はこの「比例ハザード性」の仮定のもとにHRを推定します。Kaplan-Meier曲線は生存時間分析において、イベントが発生するまでの時間(生存時間)の分布を視覚的に表現するグラフでした(連載第42回参照)。主に、異なる群間の生存率(イベント非発生率)の時間経過に伴う変化を比較する際に用いられます(連載第43回、第44回参照)。Kaplan-Meier曲線は「比例ハザード性」の仮定を視覚的に評価する簡便な手段でもあります。それでは、以前に仮想データ・セットからEZRで描画したKaplan-Meier曲線を確認してみましょう(連載第43回、第44回参照)。この図のように、2つのKaplan-Meier曲線がおおむね平行に推移し、観察期間の途中で交差したり、曲線間の距離が大きく変化したりしていない場合は、「比例ハザード性」の仮定が成立している可能性が高いとされます。したがって、われわれのRQの生存時間分析の多変量解析手法として、「Cox比例ハザード回帰モデル」を適用することは妥当と考えられます。

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COVID-19は糖尿病患者の院内死亡率を高める

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は高齢者や基礎疾患のある人で重症化しやすいことが知られているが、今回、治療中の糖尿病がCOVID-19による院内死亡率や人工呼吸器使用、血液透析といった腎代替療法の重大なリスク因子である、とする研究結果が報告された。研究は東京医科大学病院糖尿病・代謝・内分泌内科の諏訪内浩紹氏、鈴木亮氏らによるもので、詳細は「PLOS One」に3月19日掲載された。 COVID-19は多臓器障害を伴い、重症化した場合は、急性呼吸窮迫症候群、急性腎障害、その他の臓器不全を引き起こすことが多い。日本ではCOVID-19による死亡率は比較的低いが、糖尿病患者の場合では死亡リスクの上昇が報告されている。一方で、糖尿病患者におけるCOVID-19の治療と転帰を検討する包括的な研究は依然として限られている。そのような背景から、著者らはCOVID-19が糖尿病患者に及ぼす影響を評価するために、多施設の後ろ向きコホート研究を実施した。本研究では、院内死亡率、人工呼吸器の使用、ICUへの入院、血液透析(HD)、持続的血液濾過透析(CHDF)、医療リソースの利用状況に関する影響が検討された。 研究には、千葉県内38医療機関の診断群分類包括評価(DPC)データより、2020年2月1日~2021年11月31日までの間にCOVID-19と診断された1万1,601人が含まれた。この中から、18歳未満、妊娠中、糖尿病未治療の症例など計825人が除外され、最終的な解析対象を1万776人(対照群7,679人、糖尿病群3,097人)とした。連続変数とカテゴリ変数の比較には、それぞれスチューデントのt検定とフィッシャーの正確確率検定を使用した。 糖尿病群の患者は対照群の患者よりも平均年齢とBMIが高かった(67.4歳 vs 55.7歳、25.6kg/m2 vs 23.6kg/m2、各P<0.001)。糖尿病の治療に関しては、インスリン使用率は88.4%、経口血糖降下薬は44.2%であり、インスリン療法の割合が高かった。 COVID-19による平均入院日数は、糖尿病群で17.8±15.3日であり、対照群(10.2±8.5日)と比べて有意に延長された(P<0.001)。院内死亡率は、糖尿病群と対照群でそれぞれ、12.9%と3.5%であり、糖尿病群で高くなっていた(オッズ比OR 4.05〔95%信頼区間3.45~4.78〕、P<0.001)。また、年齢別のサブグループ解析を行った結果、50~59歳にORのピークがみられ(同12.8〔3.71~44.1〕、P<0.01)、この年齢層がCOVID-19による院内死亡の強いリスク因子であることが示唆された。 次に、糖尿病がアウトカム(院内死亡率、人工呼吸器の使用、ICU入院、HD、CHDF)に及ぼす影響を検討するため回帰分析を行ったところ、糖尿病群の全てのアウトカムのORは対照群と比較して有意に高かった。また、年齢、性別、BMI、救急車の利用で調整した重回帰分析を行った場合でも、全てのアウトカムのORは有意なままであったことから、糖尿病がこれらのアウトカムの独立した因子であることが示された。 本研究について著者らは、「2020~2021年のDPCデータの解析から、糖尿病はCOVID-19における院内死亡率、人工呼吸器の使用、ICU入院、HD、CHDFの独立したリスク因子であることが示された。院内死亡率に関しては特に18~79歳の糖尿病群で対照群より高く、働き盛りの50~59歳で最もオッズ比が高かったことから、以降の若年世代に対してのワクチン接種勧奨や行動制限は有効だったのではないか」と述べている。 また、本研究の強みとして、レセプトデータをベースとしており、患者の使用している糖尿病治療薬などの臨床情報や、かかった医療費に関しての情報が含まれていた点を挙げており、「本研究はCOVID-19と糖尿病の臨床的特徴を明らかにし、将来の治療の改善に役立つものと考えている」と付け加えた。 本研究の限界点として、今回使用したDPCデータには、入院前の情報、臨床検査値やCOVID-19の重症度分類に関する情報、ワクチン接種に関する情報が含まれていないことを挙げている。

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心不全患者の亜鉛不足、死亡や腎不全が増加

 台湾・Chi Mei Medical CenterのYu-Min Lin氏らは、心不全(HF)患者の亜鉛欠乏が死亡率、心血管系や腎機能リスクおよび入院リスクの上昇と関連していることを明らかにした。Frontiers in Nutrition誌2025年4月28日号掲載の報告。 HF患者では、利尿薬やRA系阻害薬といった降圧薬の使用などが原因で、亜鉛欠乏症(ZD)の有病率が高いことが報告されている1,2)。また、亜鉛補充により左室駆出率を改善させる可能性も示唆されている3)が、亜鉛がHFの臨床転帰に与える影響を調査した大規模研究はほとんど行われていなかった。 本研究は、ZDとHFの臨床転帰との関連性を調べる目的で実施された多施設共同後ろ向きコホート研究である。2010年1月1日~2025年1月31日にHFを発症した成人患者をTriNetX社のネットワークと提携する世界142施設の医療機関の1億6,056万2,143例から年齢などの基準を満たす適格患者を抽出。血清亜鉛値が70μg/dL未満のZD患者(ZD群)と70~120μg/dL患者(対照群)を傾向スコアマッチングにて栄養状態、アルブミン値、利尿薬やβ遮断薬の使用などの交絡因子で調整し、8,290例(各群4,145例)について、1年間の追跡調査を行った。主要評価項目は、全死亡、主要心血管イベント(MACE)*、主要腎イベント(MAKE)**で、副次評価項目は全入院であった。*急性心筋梗塞、脳卒中(脳梗塞および脳出血を含む)、心室性不整脈(心室頻拍や心室細動など)、心停止を含む。**末期腎不全、緊急透析の開始、維持透析を含む。 主な結果は以下のとおり。・ZD群では、全死亡において対照群と比較して有意に高い累積罹患率を示し(ハザード比[HR]:1.46、95%信頼区間[CI]:1.29~1.66、p<0.001)、100人年あたりの罹患率はZD群で13.47、対照群で9.78であった。・MACEの上昇についてもZD群に関連し(HR:1.46、95%CI:1.30~1.64)、MAKEの上昇も同様に関連していた(HR:1.51、95%CI:1.34~1.70)。・全入院リスクも対照群と比較してZD群は高かった(HR:1.24、95%CI:1.16~1.32)。 研究結果より、研究者らは「心不全治療における亜鉛の評価と管理の臨床的重要性が浮き彫りになった」としている。

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糖尿病や腎臓病リスクが高まる健診の未受診期間は?/H.U.グループ中央研究所・国循

 2型糖尿病の進展は、糖尿病性腎症や透析を含む合併症の発症など健康上の大きな問題となる。年1回の健康診断と健康転帰との良好な関係は周知のことだが、定期的な健康診断をしなかった場合の2型糖尿病および透析への進展に及ぼす影響についてはどのようなものがあるだろうか。この課題に対して、H.U.グループ中央研究所の中村 いおり氏と国立循環器病研究センターの研究グループは、年1回の健康診断の受診頻度と糖尿病関連指標との関連、および透析予防における早期介入の潜在的影響について検討した。その結果、健康診断を3年以上連続して受診しなかった人は、2型糖尿病のリスクが高いことが示唆された。この結果は、BMC Public Health誌2025年4月14日号に掲載された。3年連続で健康診断を受けないと上がる2型糖尿病リスク 研究グループは、延岡市の40歳以上の市民2万2,094人を対象に、2021年の健診データを解析した。2018~20年の健診受診状況に基づいて参加者を4群に分類。ロジスティック回帰分析により、健診頻度とHbA1cや推算糸球体濾過量などの糖尿病関連指標との関連を評価した。健康診断を受けていない人が透析を受けるまでの期間は、以前に発表されたモデルを用い、未治療と治療のシナリオによって推定した。 主な結果は以下のとおり。・2021年に健康診断を受診した3,472人のうち、2,098人(60.4%)が女性、1,374人(39.6%)が男性だった。・3年連続で健診を受診しなかった人は、毎年健診を受けていた人よりも2型糖尿病のリスクが高かった(オッズ比:4.69、95%信頼区間:2.78~7.94)。・3年のうち1~2回受診した人と毎年受診した人では、2型糖尿病発症率に有意差は認められなかった。・発症の高リスクな人を対象としたシミュレーションでは、39人中32人に生涯透析を必要とする可能性があったが、早期介入により31人が透析を防ぐことができた。 研究グループでは、この結果から「健康診断を3年以上連続して受診しなかった人は2型糖尿病のリスクが高く、このような集団における糖尿病を予防するための的を絞った公的介入の必要性が強調される」と提言を行っている。

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豚由来腎臓を移植されていた米国人女性から移植腎を摘出

 遺伝子編集された豚の腎臓を移植し透析治療が不要になっていた米国人女性が、拒絶反応を来し、移植腎摘出に至ったことが報じられた。移植手術から130日後のことであり、遺伝子編集された豚由来腎臓が人の体内で機能した最長記録となった。 この女性は、米国アラバマ州に住む53歳の女性、Towana Looneyさん。移植術と摘出術を行った米ニューヨーク大学ランゴン・ヘルスの発表によると、Looneyさんは現在、透析治療を再開している。 一連の手術の執刀医であるRobert Montgomery氏は、ニューヨークタイムズ紙に対して、「移植腎の摘出は、動物の臓器を人に使用するという『異種移植』の後退を意味するものではない。今回のケースは異種移植による治療を受けた患者の中で、最も長く臓器が機能した。新しい治療法の確立には時間を要する。ホームランを狙って一発で勝負がつくというものではなく、単打や二塁打を着実に積み重ねていく進歩が鍵となる」としている。 Looneyさんは、移植手術の予後に影響を与える可能性のある、ほかの病状を抱えていた。医師たちは、免疫抑制剤の投与量を増やすという積極的な治療を行えば、移植した腎臓を救うことができる可能性も考えたが、結局、Looneyさんと医療チームはそれを断念した。「一番重要なことは安全だった」とMontgomery氏は話す。 一方のLooneyさんも、「2016年以来初めて、透析治療の予定を気にせず、友人や家族と楽しい時間を過ごすことができた。この結果は誰もが望んでいたものではないが、豚の腎臓を移植後の130日間で、多くの知見が蓄積されたと確信している。そして、この経験が腎臓病克服を目指す多くの人々の助けとなり、希望を与えることを願っている」と語っている。 移植腎摘出に至った経緯は、移植後の経過観察で、Looneyさんの血液中のクレアチニンの上昇が認められたことに始まる。クレアチニンは血液中の老廃物で、通常は腎臓の働きによって体外に排泄され、血液中の濃度は一定程度以下に抑えられている。それが上昇しているということは、腎臓に問題が起こり始めている可能性が考えられた。 Looneyさんはいったんアラバマ州の病院に入院した後、ニューヨークへ飛行機で移動。改めて検査が行われ、拒絶反応の兆候が確認されて、結局、4月11日に摘出術が行われた。 移植に用いられた豚由来腎臓を開発したバイオテクノロジー企業であるUnited Therapeutics社は、拒絶反応が起こるまで移植腎は正常に機能していたと述べている。また同社はLooneyさんの勇気をたたえるとともに、豚腎臓移植の臨床試験を本年後半に開始することを公表した。この臨床試験は、当初は6人の患者を対象に開始し、その後50人にまで拡大する予定だという。 現在、米国では55万人以上が腎不全により透析治療に依存しており、約10万人が移植待機リストに登録されている。それに対して、昨年行われた腎移植は2万5,000件足らずだったとニューヨークタイムズ紙は報じている。

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中国で豚由来腎臓移植が成功、生存中の患者としては3人目

 遺伝子編集された豚の腎臓を移植された中国人女性が、順調に回復していることが報告された。現在、世界で豚由来腎臓移植を受けて生存しているのは、この女性が3人目となる。研究者らは、将来的には豚の肝臓が人への移植の選択肢となる可能性にも言及している。 NBCニュースなどの報道によると、この女性は69歳で、豚由来腎臓を移植される以前、8年にわたり腎不全状態にあった。手術は第四軍医大学西京病院(中国)で行われ、移植チームの一員であるLin Wang氏によると、術後の患者は現在、病院で経過観察中であり腎機能は良好で容態も良いという。 この手術は、移植治療に必要な人の臓器が不足しているという現状に対応し、豚の臓器を遺伝子編集して用いるという試みの一環として実施されたもので、臓器機能不全に対する治療法としてまだ確立されたものではない。しかし既に世界でこれまでに、この手法を用いて4人が豚由来腎臓、2人が豚由来心臓を移植されている。この試みの初期段階には移植手術後の結果が芳しくないケースもあった。ただし、より最近になって米国で豚由来腎臓移植を受けた、アラバマ州の女性とニューハンプシャー州の男性の2人は、いずれも順調に回復していることが報じられている。 さらにWang氏らの研究チームは、腎臓だけでなく、豚の肝臓を移植に用いる試みも行っている。3月26日に「Nature」に掲載されたWang氏らの論文によると、脳死患者に豚由来の肝臓を移植して10日間にわたり経過を観察した。その結果、移植した肝臓は機能をし始める兆候を示し、肝機能として重要な胆汁とアルブミンの生成も開始した。その生成量は人の肝臓よりは少なかったが、「理論的には肝不全の患者をサポートするという目的に応用できる可能性がある」と同氏は述べている。 一方、Wang氏らの研究チームとは別に、米国の研究者らは、あたかも透析装置を使って血液を濾過するかのように、豚の肝臓を体外に取り付けるという試みを始めている。この研究には関与していない、米テキサス大学サウスウェスタン医療センターのParsia Vagefi氏は、「試みられている手法は、うまくいけば臓器不足解決に近づく一歩となり得る。しかし、他の優れた研究の初期段階と同様に、現時点では『答え』よりも『疑問』の方が多く存在している」と話している。 なお、Wang氏は、前述の脳死患者とは別の脳死患者に対して、人の肝臓を豚由来の肝臓に完全に置き換える試みを行っており、「現在、その結果の解析を進めている最中」と語っている。

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マリバビルの重要なポイント【1分間で学べる感染症】第25回

画像を拡大するTake home messageマリバビルは難治性サイトメガロウイルス(CMV)感染症に対する新規抗ウイルス薬。使用に関する重要なポイントを押さえよう。マリバビル(maribavir)は、これまでの治療で反応しない難治性サイトメガロウイルス(CMV)感染症に対して登場した新しい経口抗ウイルス薬です。臓器移植や造血幹細胞移植後の免疫抑制下の患者において、マリバビルはその治療選択肢の1つとして注目されています。1)適応造血幹細胞移植を含む臓器移植を受けた患者において、既存の抗CMV療法に難治性を示すCMV感染症が適応となります。具体的には、ガンシクロビル、バルガンシクロビル、ホスカルネットなどに効果が乏しい、あるいは副作用により継続困難な状態を指します。2)作用機序UL97遺伝子は、CMVがコードするウイルス特有のプロテインキナーゼ(タンパク質リン酸化酵素)を産生します。マリバビルはこのUL97プロテインキナーゼを特異的に阻害することで抗ウイルス効果を発揮します。これまでの抗ウイルス薬(DNAポリメラーゼ阻害)とは異なる作用点を持ちます。また、重要な点としては、ガンシクロビル、バルガンシクロビルとは拮抗関係にあるため、併用は避ける必要があります。3)用量通常400mgを1日2回経口投与します。4)腎機能調整腎機能による用量調整は原則不要です。ただし、透析患者における有効性や安全性は十分に検証されていないことには留意が必要です。5)副作用味覚異常(37%)が最も多く報告されており、患者への十分な説明が必要です。その他、嘔気(21%)、下痢(19%)などの消化器症状がみられることがあります。一方、ガンシクロビル、バルガンシクロビルにおいて問題となる骨髄抑制、ホスカルネットで問題となる腎機能障害がいずれも少ないのは、マリバビルの優れた点だといえます。6)注意点マリバビルはCYP3A4を介した薬物相互作用に注意が必要です。とくにタクロリムス(タクロリムスの血中濃度上昇)や、リファンピシン(マリバビルの血中濃度低下)などとの併用時はモニタリングを行うことが推奨されます。また、マリバビルの耐性獲得にも注意が必要です。7)ほかのウイルスに対する活性マリバビルは、ガンシクロビル、バルガンシクロビル、ホスカルネットとは異なり、単純ヘルペスウイルス(HSV)や水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)には効果がありません。したがって、マリバビルに切り替える際には、HSV、VZVに対する予防的抗ウイルス薬の内服を追加する必要があるかどうかを、ケースごとに検討しなければなりません。まとめマリバビルは、難治性CMV感染症に対する新しい選択肢として、作用機序、副作用の面で従来の抗CMV薬剤と異なる特徴を有します。薬物相互作用や耐性獲得の懸念はあるものの、これまでのCMV治療の追加の一手として今後期待されていることから、皆さんもマリバビルに関する知識を深めましょう。1)Avery RK, et al. Clin Infect Dis. 2022;75:690-701.

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糖尿病性腎症の世界疾病負荷、1990~2021年にかけて増大

 糖尿病性腎症の世界疾病負荷は1990~2021年にかけて増大しており、2050年まで増大が続く見込みである、とする研究結果が報告された。成都市第三人民病院(中国)のXiao Ma氏らの研究によるもので、詳細は「Frontiers in Endocrinology」に2月21日掲載された。 慢性腎臓病(CKD)は糖尿病の深刻な合併症であり、その世界的負担は徐々に増加している。米国では2000~2019年の間に、約80万人の患者が糖尿病を主因とする腎不全により透析または腎移植を受けているという報告もある。糖尿病性腎症の独立したリスク因子としては、遺伝、高血糖、高血圧などが挙げられているものの、CKDを併発した糖尿病の発生率に関する完全な統計はない。そのような背景から、著者らは、世界疾病負荷研究(GBD)に基づき、1990~2021年のデータを使用して、1型および2型の糖尿病に起因するCKDの世界的な負荷の動向および今後の予測について分析した。 本研究では、推定年間変化率(EAPC)を用いて、疾病サブタイプ別および地域別の疾病負荷の動向を推定し、糖尿病によるCKDに対する様々な年齢層および代謝因子の影響を評価した。疾病負担の推定には、死亡者数、年齢標準化死亡率、障害調整生存年(DALY)、年齢標準化DALY率が使用された。国や地域の社会経済発展の指標には社会人口統計学的特性指数(SDI)を用いた。GBDが対象とする国や地域は、その指数によって、低SDI、中低SDI、中SDI、中高SDI、高SDIの5つのカテゴリーに分類された。さらに自己回帰和分移動平均(ARIMA)モデルを用いて、2022~2050年までの糖尿病性腎症の疾病負担を予測した。 解析の結果、糖尿病性腎症の疾病負荷およびそのEAPCは、世界204カ国の国別および地域別のSDIサブグループによって、大幅に異なっていた。また、さまざまな年齢集団や代謝因子(腎機能障害、空腹時血糖高値、高BMIなど)が糖尿病性腎症の疾病負荷に及ぼす影響にも、大きなばらつきが見られた。代謝因子が加齢に伴う死亡者数や死亡率に及ぼす影響には、正の相関が認められた。1型糖尿病によるCKDと2型糖尿病によるCKDの死亡率には、異なる代謝因子が異なる影響を及ぼしていた。 糖尿病性腎症の世界的な負荷は、ARIMAモデルに基づく予測では、治療介入を行わなければ2022~2050年にかけて増大が続くとされた。2050年までに、死亡者数は9億5480万人、DALYs2569万1,300年、死亡率は10万人あたり8.118人、DALYsは10万人あたり196.143年になると試算された。 著者らは、「本研究から、治療介入を行わない場合、糖尿病性腎症の世界的な負荷は2022~2050年にかけて年々増大し、将来的に世界全体の医療システムをさらに圧迫する可能性が示された。今回のデータは、特に糖尿病性腎症のリスクが高い集団における、糖尿病性CKDに対する費用対効果の高い政策や個別化された介入策の開発に役立つと考える」と述べている。 また、糖尿病の負担が中程度のSDIの国々で一貫して高かったことに関しては、「特に医療資源が乏しい低・中所得国においては、糖尿病とその合併症の効果的な管理のための、より正確で費用対効果の高い診断ツールや介入が今後必要とされるのではないか」と指摘している。

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鉄欠乏症心不全患者に対するカルボキシマルトース第二鉄の静注は、心不全入院と心血管死を有意に減少させなかった:The FAIR-HF2無作為化臨床試験-心不全治療において貧血は難題-(解説:佐田政隆氏)

 心不全では貧血を伴うことが多く、貧血は心不全の重要な予後規定因子である。心不全による貧血の進行の機序としては、慢性炎症、腎機能低下、体液貯留による血液希釈、鉄欠乏などが想定されているが、「心・腎・貧血症候群」として近年、問題視されており、その病態の悪循環を断つためにいろいろな介入方法が試みられているが、特効薬がないのが現状である。 鉄欠乏は心不全患者の半数以上に合併し、心不全症状や運動耐容能の低下、心不全入院、心血管死と関連することが報告されている。鉄欠乏状態を評価するため、2つの指標が用いられている。フェリチンは体内の鉄を貯蔵するタンパク質で、血液中のフェリチンの量を測定することで体内の鉄の貯蔵量を推定することができる。一方、血清鉄は、トランスフェリンというタンパク質に結合して搬送され、血清鉄/総鉄結合能✕100(%)が鉄飽和度(TSAT)と呼ばれ、血液中の鉄と結合しているトランスフェリンの割合を指し、鉄の過不足を判断する指標として用いられる。心不全患者の鉄欠乏の基準として、血清フェリチン<100ng/mL、または血清フェリチン100~300ng/mLかつTSAT<20%と定義されており、このような患者を対象にして鉄補充の有効性と安全性をみる数々の臨床研究が行われてきた。6分間歩行や最大酸素摂取量といったソフトエンドポイントでは有効性を示した報告が多いが、心血管死と心不全入院といったハードエンドポイントでは、有効性を示すことができなかった研究がほとんどである。 今回のFAIR-HF2研究でも、カルボキシマルトース第二鉄の静注は主要評価項目である心血管死+心不全入院を36ヵ月の経過観察期間中に、減らす傾向はあったが有意差を示すことはできなかった。患者のQOLや患者自身による全体的な健康評価の改善に寄与することは確認された。 このような状況下、2025年3月28日発表の日本循環器学会・日本心不全学会の心不全診療ガイドラインにおいて、「鉄欠乏を有するHFrEF/HFmrEF患者に対する心不全症状や運動耐容能改善を目的にした静注鉄剤を考慮する」ことが推奨クラスIIaとされている。しかし、鉄過剰は酸化ストレスの増加をもたらし、脱力感や疲労感を生じさせ、発がん性との関係も報告され、重症の場合は、肝硬変や糖尿病、勃起不全、皮膚色素沈着、糖尿病といったヘモクロマトーシス様の症状を呈する。漫然と鉄剤を投与するのではなく、血清フェリチンやTSATによる細目なモニターが重要である。 心不全患者では慢性炎症のためヘプシジンが上昇しており、フェロポルチンといったマクロファージ中の鉄の有効利用を促進するタンパク質の分解が生じ、鉄利用が障害されている。このため、単なる鉄剤の投与が貧血の改善につながらないことが多い。最近、貧血治療薬として経口のHIF-PH阻害薬が各社から発売され、保存期慢性腎臓病患者と透析患者で、ヘモグロビン上昇作用はESA製剤に非劣性であることが報告されている。HIF-PH阻害薬は、ヘプシジンの低下、鉄の利用促進作用があることも報告されており、今後、心腎貧血症候群の悪循環を断ち切って、心不全患者の予後改善効果のエビデンスがRCTで示されることが期待される。

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DES留置術前の石灰化病変処置、オービタルアテレクトミーは予後を改善するか/Lancet

 薬剤溶出性ステント(DES)を用いた経皮的冠動脈インターベンション(PCI)施行前の重度の冠動脈石灰化病変の切削において、バルーン血管形成術に基づくアプローチと比較して、アテローム切除アブレーション式血管形成術用カテーテル(Diamondback 360 Coronary Orbital Atherectomy System)によるオービタルアテレクトミーは、最小ステント面積を拡張せず、1年後の標的血管不全の発生率も減少しないことが、米国・Columbia University Medical Center/NewYork-Presbyterian HospitalのAjay J. Kirtane氏らECLIPSE Investigatorsが実施した「ECLIPSE試験」で示された。研究の詳細は、Lancet誌2025年4月12日号に掲載された。米国の無作為化試験 ECLIPSE試験は、DES留置術前の重度冠動脈石灰化病変の前処置としてのオービタルアテレクトミーとバルーン血管形成術の有効性の比較を目的とする非盲検無作為化試験であり、2017年3月~2023年4月に米国の104施設で参加者の無作為化を行った(Abbott Vascularの助成を受けた)。 年齢18歳以上、1つ以上の新たな冠動脈標的病変に対するPCIを受ける慢性または急性冠症候群で、血管造影または血管内画像により冠動脈に重度のカルシウム蓄積を認め、推定生存期間が1年以上の患者を対象とした。これらの患者を、DESによるPCI施行前に重度石灰化病変を切削するために、オービタルアテレクトミーまたはバルーン血管形成術を受ける群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは2つで、1年後の標的血管不全(心臓死、標的血管心筋梗塞、虚血による標的血管の血行再建術の複合)と、事前に規定されたコホートにおける手技を行った後の血管内光干渉断層撮影(OCT)で評価した最大石灰化部位の最小ステント面積とし、ITT解析を行った。1年後の標的血管不全:11.5%vs.10.0% 2,005例(2,492病変)を登録し、ステント留置術の前にオービタルアテレクトミーによる病変の前処置を行う群に1,008例(1,250病変)、バルーン血管形成術を行う群に997例(1,242病変)を割り付けた。全体の年齢中央値は70.0歳(四分位範囲:64.0~76.0)、541例(27.0%)が女性であり、881例(43.9%)が糖尿病、479例(23.9%)が慢性腎臓病(112例[5.6%]が血液透析中)であった。 コアラボラトリーで血管造影により重度のカルシウム蓄積が確認されたのは、オービタルアテレクトミー群で97.1%(1,088例/1,120病変)、バルーン血管形成術群で97.0%(1,068例/1,101病変)だった。また、血管内画像ガイド下PCIは、それぞれ62.2%(627例/1,008例)および62.1%(619例/997例)で行われた。 1年後までに、標的血管不全はオービタルアテレクトミー群で1,008例中113例(11.5%[95%信頼区間[CI]:9.7~13.7])、バルーン血管形成術群で997例中97例(10.0%[8.3~12.1])に発生し、両群間に有意な差を認めなかった(群間差:1.5%[96%CI:-1.4~4.4]、ハザード比[HR]:1.16[96%CI:0.87~1.54]、p=0.28)。 また、OCTコホート(オービタルアテレクトミー群276例[286病変]、バルーン血管形成術群279例[292病変])における最大石灰化部位の最小ステント面積は、オービタルアテレクトミー群が7.67(SD 2.27)mm2、バルーン血管形成術群は7.42(2.54)mm2であり、両群間に有意差はなかった(平均群間差:0.26[99%CI:-0.31~0.82]、p=0.078)。1年後のステント血栓症:1.1%vs.0.4% 1年以内に、心臓死はオービタルアテレクトミー群で39例(4.0%)、バルーン血管形成術群で26例(2.7%)に発生した(HR:1.49[95%CI:0.91~2.45]、p=0.12)。最初の30日間にオービタルアテレクトミー群で8例に心臓死が発生し、このうち2例がデバイス関連、2例がデバイス関連の可能性があると判定された。 また、1年以内の標的血管心筋梗塞は、オービタルアテレクトミー群で55例(5.6%)、バルーン血管形成術群で43例(4.4%)(HR:1.27[95%CI:0.85~1.89]、p=0.24)、虚血による標的血管の血行再建術はそれぞれ40例(4.2%)および41例(4.4%)(0.97[0.63~1.49]、p=0.88)で発現し、ステント血栓症(definiteまたはprobable)は11例(1.1%)および4例(0.4%)(2.74[0.87~8.59]、p=0.085)に認めた。 著者は、「これらのデータは、ステント留置術前の冠動脈石灰化病変の処置の多くにおいては、血管内画像ガイド下のバルーン血管形成術を優先するアプローチが支持されることを示すものである」としている。

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CKDの貧血治療、ダプロデュスタットvs.ダルベポエチン アルファ~メタ解析

 貧血を伴う慢性腎臓病(CKD)患者を対象として、ダプロデュスタットとダルベポエチン アルファの有効性と安全性を比較したメタ解析の結果、ヘモグロビン(Hb)値、トランスフェリン飽和度、血清鉄の変化、有害事象の発現率は両群間で有意差を認めなかったものの、ダプロデュスタットはダルベポエチン アルファよりもフェリチン値の変化が小さく、総鉄結合能を改善したことを、中国・長春中医薬大学のShuyue Pang氏らが明らかにした。Journal of Pharmacological Sciences誌2025年5月号掲載の報告。 貧血はCKDの一般的な合併症であり、心血管イベントおよびCKD進行の危険因子である。近年は腎性貧血治療薬も増えているが、貧血を伴うCKD患者に対する治療戦略と有効性の最適化は早急に取り組むべき重要な課題として残されたままである。そこで研究グループは、ダプロデュスタットとダルベポエチン アルファの有効性と安全性を比較することを目的として、系統的レビューとメタ解析を行った。 PubMed、Embase、Cochrane Library、Web of Scienceをデータベース開設から2023年8月1日まで体系的に検索し、透析の有無にかかわらずCKDおよび貧血と診断された患者の治療として、ダプロデュスタット(試験群)とダルベポエチン アルファ(対照群)を比較したランダム化比較試験を抽出した。主要アウトカムはHb値、トランスフェリン飽和度、フェリチン値の変化で、副次アウトカムは総鉄結合能、血清鉄の変化、有害事象の発現率であった。 主な結果は以下のとおり。・4件のランダム化比較試験の7,419例が解析対象となった。ダプロデュスタット群は3,717例、ダルベポエチン アルファ群は3,702例であった。・Hb値の変化(標準化平均差[SMD]:3.23、95%信頼区間[CI]:-0.25~6.70)、トランスフェリン飽和度の変化(SMD:-0.07、95%CI:-0.31~0.17)、血清鉄の変化(SMD:0.24、95%CI:−0.05~0.53)は両群間で有意差を認めなかった。・ダプロデュスタット群はダルベポエチン アルファ群よりもフェリチン値の変化が有意に小さく(SMD:-0.05、95%CI:-0.10~-0.01)、総鉄結合能が改善した(SMD:0.57、95%CI:0.46~0.68)。・有害事象の発現率は両群間で同等であった(リスク比:1.02、95%CI:0.98~1.06)。 研究グループは「これらの結果は、Hb値の維持と安全性プロファイルの点でダプロデュスタットが劣っていないことを裏付けると同時に、鉄代謝における潜在的な利点を強調している」とまとめた。

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臨床に即した『MRSA感染症の診療ガイドライン2024』、主な改訂点は?

 2013年に『MRSA感染症の治療ガイドライン』第1版が公表され、前回の2019年版から4年ぶり、4回目の改訂となる2024年版では、『MRSA感染症の診療ガイドライン』に名称が変更された1)。国内の医療機関におけるMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)の検出率は以前より低下してきているが、依然としてMRSAは多剤耐性菌のなかで最も遭遇する頻度の高い菌種であり、近年では従来の院内感染型から市中感染型のMRSA感染症が優位となってきている。そのため、個々の病態把握や、検査や診断、抗MRSA薬の投与判断と最適な投与方法を含め、適切な診療を行うことの重要性が増している。本ガイドライン作成委員長の光武 耕太郎氏(埼玉医科大学国際医療センター感染症科・感染制御科 教授)が2024年の第98回日本感染症学会学術講演会 第72回日本化学療法学会総会 合同学会で発表した講演を基に、本記事はガイドラインの主な改訂点についてまとめた。 厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業(JANIS)の検査部門(入院検体)の2023年報では、MRSAの分離率は中央値として5.95%を示し、耐性菌の中で最も高い割合であった2)。がん患者や維持透析患者などのICU患者では、多剤耐性菌の血流感染症による死亡率が高く、MRSA感染症の死亡率は約20%とされる。 2024年版の改訂点の特徴として、臨床に即したガイドラインをめざし、従来の叙述的な内容に加えてクリニカル・クエスチョン(CQ)方式を採用し、13のCQを記載して、より臨床を意識した構成となっている。第V章の「疾患別抗MRSA薬の選択と使用」では、疾患別に11の各論で網羅的に扱い、とくに整形外科領域(骨・関節感染症)では、3つのCQで詳細に解説している。光武氏は、本ガイドラインではCQに対する推奨やエビデンスの度合いをサマリーで端的に示しているが、Literature reviewにて膨大な文献を検討したプロセスを詳細に記載しているので、各読者がとくに関心の高い項目についてはぜひ目を通してほしいと語った。 光武氏は本ガイドラインに記載されたCQのうち、以下の7項目について解説した。CQ1. MRSA感染症の迅速診断(含む核酸検査)は推奨されるか・推奨:MRSA菌血症が疑われる場合、迅速診断を行うことを提案する。・推奨の強さ:弱く推奨する(提案する)・エビデンス総体の確実性:C(弱い) 血液培養でグラム陽性ブドウ状球菌もしくは黄色ブドウ球菌が検出された患者において、MRSA迅速同定検査は従来の同定感受性検査と比較し、死亡率や入院期間を改善しないが、適切な治療(標的治療)までの期間を短縮する可能性がある。皮膚軟部組織感染症における死亡率に関しては、1件の観察研究において、疾患関連死亡率は迅速検査群が有意に低い(オッズ比[OR]:0.25、95%信頼区間[CI]:0.07~0.81)とする報告がある3)。CQ4. ダプトマイシンの高容量投与(>6mg/kg)は必要か・推奨:MRSAを含むブドウ球菌等により菌血症、感染性心内膜炎患者に対して、高用量投与(>6mg/kg)はCK上昇発生率を考慮したうえで、その投与を弱く推奨する。・推奨の強さ:弱く推奨する・エビデンス総体の確実性:B(中程度) 今回実施されたメタ解析により、複雑性菌血症および感染性心内膜症患者では、標準投与群(4~6mg/kg)のほうが、高容量投与群(>6mg/kg)よりも有意に治療成功率が低いとする結果が示された(複雑性菌血症のOR:0.48[95%CI:0.30~0.76]、感染性心内膜症のOR:0.50[95%CI:0.30~0.82])4)。そのため、病態によっては最初から高用量投与することが推奨される。CQ5. 肺炎症例の喀痰からMRSAが分離されたら抗MRSA薬を投与すべきか・推奨:一律には投与しないことを提案するが、MRSAのみが単独で検出された肺炎では抗MRSA薬投与の必要性を検討してもよい。・推奨の強さ:実施しないことを弱く推奨する・エビデンス総体の確実性:D(非常に弱い) 肺炎症例に対して、かつてはバンコマイシンを投与することがあったが、抗MRSA薬を投与することによる死亡率改善効果は認められなかったため、一律に投与しないことが提案されている(死亡リスク比:1.67[95%CI:0.65~4.30、p=0.18、2=39%])。一方で、MRSAのみが単独検出された肺炎で、とくに人工呼吸器関連肺炎(VAP)はMSSA肺炎と比較して死亡率が高い可能性があるため、グラム染色を活用しながら抗MRSA薬投与を検討する余地がある。CQ7. 血流感染においてリネゾリドは第1選択となりうるか・推奨:MRSA菌血症において、リネゾリドやバンコマイシンやダプトマイシンと同等の第1選択とすることを弱く推奨する(提案する)。・推奨の強さ:弱く推奨する(提案する)・エビデンス総体の確実性:C(弱い) MRSA菌血症に対するリネゾリド投与例は、バンコマイシン、テイコプラニン、ダプトマイシン投与例と比較し、全死因死亡率等の治療成功率において非劣性を示す結果であり、第1選択となりうる(エビデンスC)。ただし実臨床では、リネゾリド投与期間中の血小板減少発現によって投与中止や変更を余儀なくされる症例が少なくない。とくに維持透析患者を含む腎機能障害者では、血中リネゾリド濃度が高値となり、血小板減少が高率となるため、注意が必要だ。CQ8. 整形外科手術でバンコマイシンパウダーの局所散布は手術部位感染(SSI)予防に有効か・推奨:整形外科手術でSSI予防を目的としたルーチンの局所バンコマイシン散布を実施しないことを弱く推奨する。・推奨の強さ:実施しないことを弱く推奨する・エビデンス総体の確実性:D(非常に弱い) 局所バンコマイシン散布は実臨床にて行われてきたものではあるが、今回実施されたメタ解析の結果、推奨しない理由として以下の項目が挙げられた。1. 全SSIの予防効果を認めない(エビデンスD)2. インプラントを用いる手術でも、SSI予防効果は認められない(エビデンスD)3. グラム陽性球菌に伴うSSIを予防する可能性はある(エビデンスC)4. SSI予防を目的とした局所バンコマイシン散布の、MRSA-SSI予防効果は明らかでない(エビデンスD)CQ11. 耐性グラム陽性菌感染症が疑われる新生児へのリネゾリドの投与は推奨されるか・推奨:バンコマイシン投与が困難な例に対してリネゾリドを投与することを弱く推奨する。・推奨の強さ:弱く推奨する・エビデンス総体の確実性:C(弱い) リネゾリドは新生児・早期乳児・NICUで管理中の小児におけるMRSAや耐性グラム陽性球菌感染症の治療薬として考慮される。バンコマイシンの使用が困難な状況では使用は現実的とされる。新生児へのリネゾリドの投与を弱く推奨する理由として以下の項目が挙げられた。1. リネゾリドの有効性は、バンコマイシン投与の有効性と比較して差を認めなかった(エビデンスC)2. リネゾリド投与後の有害事象発生率は、バンコマイシンと比較して差を認めなかった(エビデンスC)。リネゾリド投与例では血小板減少を認めることがあり注意が必要。出生時の在胎週数が低い児に、その傾向がより強いCQ13. 抗MRSA薬と他の抗菌薬(β-ラクタム系薬、ST合剤、リファンピシン)の併用は推奨されるか・推奨:心内膜炎を含む菌血症において、バンコマイシンもしくはダプトマイシンとβ-ラクタム系薬の併用を、症例に応じ弱く推奨する(提案する)。その他の併用はエビデンスが限定的であり、明確な推奨はできない。・推奨の強さ:弱く推奨する(提案する)・エビデンス総体の確実性B(中程度) 基本は単剤治療を行い、感染巣/ソースコントロールが重要となるが、抗MRSA薬の効果がみられない場合がある。バンコマイシンの最小発育阻止濃度(MIC)=2µg/mLを示すMRSAの菌血症に対し、高用量のダプトマイシン+ST合剤(スルファメトキサゾール/トリメトプリム)併用により、臨床的改善および微生物学的改善が期待される(エビデンスB)。バンコマイシンもしくはダプトマイシン+β-ラクタム系薬併用は、菌血症の持続時間や発生は減少させるものの死亡率に差はない。バンコマイシンもしくはダプトマイシン+リファンピシン併用は、血流感染症で死亡者数、細菌学的失敗率、再発率に差はなかった。 光武氏は最後に、抗MRSA薬の現状ついて述べた。日本では未承認だが、第5世代セフェム系抗菌薬のceftaroline、ceftobiprole、oritavancin、dalbavancin、omadacycline、delafloxacinといったものが、海外ではすでに使用されているという。現時点では実臨床での使用は難しいが、モノクローナル抗体製剤、バクテリオファージ、Lysinsの研究も進められている。また、MRSA治療にAIを導入する試みも各国から数多く報告されており5)、アップデートが必要な状況となっているという。 本ガイドラインは、日本化学療法学会のウェブサイトから購入することができる。

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米国で4例目の豚由来腎臓移植を受けた患者が退院

 米マサチューセッツ総合病院で、同国で4例目となる、遺伝子編集された豚の腎臓を移植された、66歳の男性腎不全患者が退院した。この移植手術は、遺伝子編集された豚の臓器をヒトに用い得るかを調査するという、米食品医薬品局(FDA)が承認した新たな臨床試験の一環として実施された。同様の手術は、1月下旬にアラバマ州の女性に対しても行われ成功していて、その直後に行われた今回の手術も成功したことで、深刻なドナー不足の解決に向けて大きな一歩を踏み出した。 ニューヨークタイムズ紙によると、今回移植を受けた患者はニューハンプシャー州在住のTim Andrewsさん。彼は過去2年以上にわたり透析治療を受けていたが、透析開始後に心臓発作を起こし、吐き気と倦怠感にも悩まされていた。移植治療について医師と相談し始めた昨年8月ごろからは、車椅子に頼る生活だった。ところが、豚の腎臓を得てからわずか1週間後には、退院できるほどに回復した。「まるで新しいエンジンを手に入れたようだった。術後回復室から集中治療室に移動しベッドに移る際に、タップダンスをしたくらいだ。信じられないほど幸せだ」とAndrewsさんは語っている。 米国では現在、10万人以上が臓器移植を待っており、その患者の多くは腎臓を必要としている。ドナー不足のために、待機期間中に亡くなる人も少なくない。このギャップを埋めるために、複数のバイオテクノロジー企業が、豚の臓器のヒトに対する拒絶反応を抑制するための遺伝子編集技術を開発してきた。Andrewsさんに移植された腎臓は、59箇所の変更を含む、69箇所の遺伝子編集が施されたものだと、ニューヨークタイムズ紙が報じている。 これまでに米国内で4人がこのような技術の下、豚の腎臓の移植を受けている。その中の1人、アラバマ州のTowana Looneyさんは順調に回復している。しかしその一方で、ほかの2人の患者は移植手術後に死亡した。このような困難にもかかわらず、今回の移植手術を主導した、マサチューセッツ総合病院の移植外科医の1人である河合達郎氏によると、医師たちは常に学び続けているという。 では、移植外科医は何を目指しているのだろうか? ニューヨークタイムズ紙の取材に対して河合氏は、「遺伝子編集された豚の臓器を用いた移植医療を、より多くの患者に適用可能な治療法として、臓器不足の解決策を確立することだ。その実現にはまだ長い道のりが残されているが、今回の移植もそのための重要な一歩である」と答えている。 ただし、これらの症例の積み重ねによって、豚由来の臓器移植が安全かつ効果的であることが証明されたとしても、その費用や保険適用の課題がまだ不確定要素として残っている。腎不全患者の多くは働くことができずにメディケアに頼っているが、将来的にメディケアや民間保険が、このような移植医療をカバーするかどうかは現段階では不明だ。

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3月13日 世界腎臓デー【今日は何の日?】

【3月13日 世界腎臓デー】〔由来〕腎臓病の早期発見と治療の重要性を啓発する取り組みとして、国際腎臓学会などにより2006年から、3月第2木曜日を「世界腎臓デー」と定め、毎年、世界各地で腎臓病に関する啓発に向けてイベントが開催されている。関連コンテンツとことん極める!腎盂腎炎急速進行性糸球体腎炎【希少疾病ライブラリ】CKDステージ3への尿酸降下薬、尿酸値6未満達成でCKD進展抑制かCKDへのエンパグリフロジン、中止後も心腎保護効果が持続/NEJM低所得者、腎機能低下・透析開始リスクが1.7倍に/京都大学

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歯周病治療で糖尿病患者における人工透析リスクが低下か

 歯周病を治療している糖尿病患者では、人工透析に移行するリスクが32~44%低いことが明らかになった。東北大学大学院歯学研究科歯学イノベーションリエゾンセンターの草間太郎氏、同センターの竹内研時氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of Clinical Periodontology」に1月5日掲載された。 慢性腎臓病は糖尿病の重大な合併症の一つであり、進行した場合、死亡リスクも高まり人工透析や腎移植といった高額な介入が必要となる。したがって、患者の疾病負荷と医療経済の両方の観点から、慢性腎臓病を進行させるリスク因子の同定が待たれている。 歯周病は糖尿病の合併症であるだけでなく、糖尿病自体の発症やその他の合併症の要因でもあることが示唆されている。また、歯周病と腎機能低下との関連を示唆する報告もされていることから、研究グループは糖尿病患者における定期的な歯周病ケアが腎機能低下のリスクを軽減または進行を遅らせる可能性を想定し、大規模な糖尿病患者のデータを追跡した。具体的には、歯周病治療を伴う歯科受診を曝露変数として、人工透析に移行するリスクを後ろ向きに検討した。 本研究では、40~74歳までの2型糖尿病患者9万9,273人の医療受診データ、特定健診データが用いられた。2016年1月1日~2022年2月28日までの期間に、2型糖尿病を主傷病としていた患者を登録した。 9万9,273人の参加者(平均年齢は54.4±7.8歳、男性71.9%)における人工透析の発生率は1,000人あたり1年間で0.92人だった。交絡因子については、年齢、性別、被保険者の種類、チャールソン併存疾患指数、糖尿病の治療状況(外来の頻度、経口糖尿病治療薬の種類、インスリン製剤使用の有無、治療期間)、健診結果(高血圧、高脂血症、蛋白尿、HbA1c)、喫煙・飲酒といった生活習慣などが共変量として調整された。 交絡因子を調整後、人工透析開始のハザード比(HR)を分析した結果、歯科受診をしていなかった患者と比較して、1年に1回以上歯周病治療を受けている患者で32%(HR 0.68〔95%信頼区間0.51~0.91〕、P<0.05)、半年に1回以上治療を受けている患者で44%(同0.56〔0.41~0.77〕、P<0.001)、人工透析開始のリスクが低いことが示された。 研究グループは本研究の結果について、「これらの結果は、糖尿病性の腎疾患の進行を緩和し、患者の転帰を改善するためには、糖尿病治療に日常的な歯周病治療を組み込むことが重要であることを示唆している。また糖尿病患者の管理における専門医と歯科の連携欠如は以前より報告されており、本研究でも患者の半数以上が歯周病ケアを受けていなかった。今後、糖尿病患者の健康を維持するためには、専門医と歯科のさらなる連携が必要と考える」と総括した。なお、本研究の限界について、登録データは企業が提供する雇用保険に加入する個人のみが含まれていたことから、研究の参加者は日本人全体の特徴を表していない点などを挙げている。

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高齢透析患者のHb値と死亡の関連、栄養状態で異なる可能性/奈良県立医科大

 血液透析を受けている患者における最適なヘモグロビン(Hb)値は依然として議論が続いている。今回、日本における高齢の透析患者では、Hb値と死亡の関連は栄養状態によって異なり、栄養リスクの低い群ではHb値が10.0g/dL未満および13.0g/dL以上の場合に死亡リスクが増大したが、栄養リスクの高い群ではHb値が死亡に与える影響は弱まったため、栄養不良の高齢患者では貧血管理よりも栄養管理を優先する必要があることを、奈良県立医科大学の孤杉 公啓氏らが明らかにした。Journal of Renal Nutrition誌オンライン版2025年1月24日号掲載の報告。 貧血は血液透析を受けている高齢患者の一般的な合併症で、予後不良と関連している。高齢患者は栄養失調や蛋白・エネルギー消耗状態(protein-energy wasting)、フレイルになりやすい傾向があり、これらが貧血の経過に影響を及ぼすこともある。そこで研究グループは、血液透析を受けている高齢患者の最適なHb値は栄養状態などの全身状態によって異なるという仮説を立て、栄養状態別のHb値と死亡との関連を調査するために、2019~21年の日本透析医学会統計調査(JRDR)のデータベースを用いて観察研究を実施した。 解析対象は、週3回の血液透析を受けている75歳以上の9万5,771例であった。栄養指標であるNRI-JHを算出し、低リスク(<8点)、中リスク(8~10点)、高リスク(≧11点)の3つのグループに分類した。Hb値は、基準を10.0~10.9g/dLとして6つのグループに分類した(<9.0、9.0~9.9、10.0~10.9、11.0~11.9、12.0~12.9、≧13.0g/dL)。主要評価項目は全死因死亡であった。Hb値と死亡の関連はCox回帰分析を用いて推定した。非線形関係は制限付き3次スプライン解析を用いて検証した。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中央値24ヵ月で2万7,611例が死亡した。・全体集団において、Hb値10~10.9g/dLの場合と比較して、10.0g/dL未満および13.0g/dL以上で全死因死亡リスクが増大した(<9.0g/dLの調整ハザード比[aHR]:1.21[95%信頼区間[CI]:1.16~1.26]、9.0~9.9g/dLのaHR:1.06[1.02~1.10]、≧13g/dLのaHR:1.15[1.07~1.22])。・NRI-JHリスク別の解析では、低リスク群でもHb値10.0g/dL未満および13.0g/dL以上で全死因死亡リスクが増大した(<9.0g/dLのaHR:1.45[95%CI:1.32~1.59]、9.0~9.9g/dLのaHR:1.15[1.08~1.22]、≧13g/dLのaHR:1.18[1.07~1.29])。・NRI-JH高リスク群では、Hb値が<9.0g/dLの場合でのみリスクがわずかに増大した(aHR:1.07[95%CI:1.01~1.15])。 これらの結果より、研究グループは「高齢の透析患者のうち、高リスクの栄養状態にある患者ではHb値が死亡に与える影響は弱まった。維持すべきHb値の範囲は栄養状態によって異なる可能性があり、血液透析を受けている栄養不良の高齢患者では貧血管理よりも栄養管理を優先する必要がある」とまとめた。

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世界初、遺伝子編集ブタ腎臓の異種移植は成功か/NEJM

 米国・マサチューセッツ総合病院の河合 達郎氏らは、遺伝子編集ブタ腎臓をヒトへ移植した世界初の症例について報告した。症例は、62歳男性で、2型糖尿病による末期腎不全のため69の遺伝子編集が施されたブタ腎臓が移植された。移植された腎臓は直ちに機能し、クレアチニン値は速やかに低下して透析は不要となった。しかし、腎機能は維持されていたものの、移植から52日目に、予期しない心臓突然死を来した。剖検では、重度の冠動脈疾患と心室の瘢痕化が認められたが、明らかな移植腎の拒絶反応は認められなかった。著者は、「今回の結果は、末期腎不全患者への移植アクセスを拡大するため、遺伝子編集ブタ腎臓異種移植の臨床応用を支持するものである」とまとめている。NEJM誌オンライン版2025年2月7日号掲載の報告。69の遺伝子編集を組み込んだブタ腎臓を2型糖尿病による末期腎不全患者に移植 移植に用いたブタ(Yucatanミニブタ)は、3つの主要な糖鎖抗原を除去し、7つのヒト遺伝子(TNFAIP3、HMOX1、CD47、CD46、CD55、THBD、EPCR)を導入して過剰発現させ、ブタ内在性レトロウイルスを不活性化するなど、計69の遺伝子編集を組み込んだ。 レシピエントは、2型糖尿病による末期腎不全の62歳男性であった。心筋梗塞、副甲状腺摘出術が既往で、2018年に献腎移植を受けたが、2023年5月にBKウイルス感染および糖尿病性腎症の再発により移植腎が機能不全となり、血液透析中であった。 マサチューセッツ総合病院の集学的チームによる包括的評価と、独立した精神科医および倫理委員会による評価を経て、移植を実施した。 免疫抑制療法は、前臨床研究に基づき、抗胸腺細胞グロブリン(ウサギ)、リツキシマブ、Fc修飾抗CD154モノクローナル抗体(tegoprubart)および抗C5抗体(ラブリズマブ)、タクロリムス、ミコフェノール酸とprednisoneを併用した。移植腎は機能していたが、糖尿病性虚血性心筋症に伴う不整脈で心臓突然死 移植手術は、冷虚血時間4時間38分で終了した。移植したブタ腎臓は移植後5分以内に尿を産生し、最初の48時間で6L超に達した。その後、尿量は1日1.5~2Lで安定した。患者の血漿クレアチニン値は、術前の11.8mg/dLから術後6日目には2.2mg/dLに低下した。 術後8日目に血漿クレアチニンが2.9mg/dLに上昇し、発熱、圧痛、尿量の減少を認めたが、感染症の検査は陰性であった。抗体介在性拒絶反応が疑われたため、メチルプレドニゾロン、トシリズマブを投与した。投与前の腎生検で、急性T細胞介在性拒絶反応(Banffグレード2A)が確認された。 術後9日目および10日目にメチルプレドニゾロンおよび抗胸腺細胞グロブリンを投与し、タクロリムスとミコフェノール酸を増量し、さらに補体C3阻害薬のペグセタコプランを投与した。トシリズマブの追加投与は行わなかった。その後、患者の尿量は増加し、血漿クレアチニン値は低下した。 術後18日目、血漿クレアチニン値2.5mg/dLで退院した。34日目に再び上昇したが、水分補給により1.57mg/dLまで低下した。推算糸球体濾過量(eGFR)は40~50mL/分/1.73m2であった。 術後25日目に皮下創感染症が発生し、外科的に一部切開するとともに、抗菌薬(リネゾリド、メロペネム)の投与を開始し、排膿ドレナージを実施した。緑膿菌陽性の後腹膜貯留液が排出された。切開は37日目に閉鎖し、2週間培養陰性および腹部CTにより貯留液の消失が確認されことから、51日目にドレーンを抜去した。 術後51日目、患者は外来を受診した。水分摂取量が少なく血漿クレアチニン値が2.7mg/dLと比較的高値であったため、補液を実施した。それ以外は、うっ血性心不全の症状はなく、身体所見も腎臓超音波検査でも異常は認められなかった。血圧、心拍数、呼吸数もすべて正常であった。 しかし、夕方に突然、呼吸困難に陥り、蘇生に努めたが術後52日目に亡くなった。剖検の結果、重度のびまん性冠動脈疾患を伴う心臓肥大、びまん性左室線維化などが認められ、これらはすべて糖尿病性虚血性心筋症によるものと考えられた。急性心筋梗塞、肺塞栓症、肺炎、他の臓器の炎症または薬物毒性は認められなかったことから、重症虚血性心筋症に伴う不整脈による心臓突然死と結論付けられている。

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第253回 米国バイオテックの遺伝子編集ブタ腎臓の2例目移植が成功

多くのニュースで取り上げられた米国のマサチューセッツ総合病院での世界初のブタ腎臓のヒトへの移植成功からおよそ1年が過ぎ、同病院で2例目のその試みが主執刀医の河合 達郎氏らの手によって先月1月25日に無事完了しました1,2)。昨春2024年3月の最初の移植も河合氏らに手によるものでした3)。移植されたのは、河合氏が勤めるマサチューセッツ総合病院があるボストンの隣のケンブリッジを拠点とするバイオテクノロジー企業eGenesis社が開発している遺伝子編集ブタ腎臓です。EGEN-2784と呼ばれるそのブタ腎臓はよりヒトに順応するようにし、感染の害が及ばないようするための69のCRISPR-Cas9遺伝子編集を経ています。具体的には、主要な3つの糖鎖抗原が省かれており、7つのヒト遺伝子(TNFAIP3、HMOX1、CD47、CD46、CD55、THBD、EPCR)を盛んに発現し、ブタ内在性レトロウイルスが働けないように不活性化されています。EGEN-2784はヒトへの最初の移植例となった62歳の末期腎疾患患者Rick Slayman氏の体内ですぐに機能し始め、11.8mg/dLだった血漿クレアチニン濃度が移植後6日目までに2.2mg/dLに下がりました。Slayman氏は透析が不要になるほどに回復しました4)。しかし腎機能維持にもかかわらず、Slayman氏は移植から2ヵ月ほど(52日目)で呼吸困難に陥って急逝しました。持病の糖尿病や虚血性心筋症によって生じたとされる冠動脈疾患を伴う心肥大、左室線維化、後壁梗塞が剖検で見受けられました。移植腎臓の拒絶反応や血栓性微小血管症の所見は認められませんでした。移植したブタ腎臓のレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)障害に起因しうる血液量(intravascular volume)の頻繁な変動がSlayman氏の不整脈リスクを高めた可能性はありますが、同氏はどうやら重度の虚血性心筋症と関連するリズム障害で突然心臓死(SCD)したようです。Slayman氏は生きるために移植を必要とする数千もの人々が希望を持てることを願ってEGEN-2784の移植を決めました5)。Slayman氏の遺志が引き継がれることを願う同氏の家族の期待を背に、河合氏らは66歳の男性Tim Andrews氏への2例目となるEGEN-2784移植手術を先月1月25日に無事終えました。2月7日のマサチューセッツ総合病院の発表によると、移植した腎臓は見込みどおり機能しており、Andrews氏は手術の1週間後の2月1日には早くも退院して透析いらずの生活を送っています1,2)。日本での開発も進むほかでもない日本のバイオテクノロジー企業のポル・メド・テックがeGenesis社と提携しており、昨年2月にはEGEN-2784の遺伝子編集技術を利用した移植医療用のブタを日本で生産できたことが発表されています6)。その9ヵ月ほど後の11月24日には、そうして作られた遺伝子改変ブタ腎臓のサルへの移植が実施されました7)。ことはさらに進み、先週5日にポル・メド・テックは実用化に向けた取り組みのための資金5億1千万円を調達したことを発表しています。ポル・メド・テックの遺伝子改変ブタ生産力は今のところ1年間あたり50頭です。2年後には1年間に数百頭生産できるようにし、移植実施医療機関への円滑な臓器の供給を目指します8)。参考1)Massachusetts General Hospital Performs Second Groundbreaking Xenotransplant of Genetically-Edited Pig Kidney into Living Recipient / Massachusetts General Hospital 2)eGenesis Announces Second Patient Successfully Transplanted with Genetically Engineered Porcine Kidney / BUSINESS WIRE3)World’s First Genetically-Edited Pig Kidney Transplant into Living Recipient Performed at Massachusetts General Hospital / Massachusetts General Hospital 4)Kawai T, et al. N Engl J Med.2025 Feb 7. [Epub ahead of print] 5)An Update on Mr. Rick Slayman, World’s First Recipient of a Genetically-Modified Pig Kidney / Massachusetts General Hospital6)eGenesis and PorMedTec Announce Successful Production of Genetically Engineered Porcine Donors in Japan / BUSINESS WIRE7)霊長類への遺伝子改変ブタ腎臓移植試験の実施について / PorMedTec8)第三者割当増資による資金調達実施のお知らせ / PorMedTec

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第34回 高齢者の低体温症【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)冬場は常に疑い、深部体温を測定しよう!2)復温を速やかに行いながら初療を徹底しよう!3)原因検索とともに再発予防を行おう!【症例】81歳・男性ある日の朝方、自宅のベッド脇で倒れているところを同居の家族が発見し、呼びかけに対して反応が乏しいため救急要請。救急隊到着時以下のようなバイタルサイン。四肢は冷たく、SpO2、体温は測定できない。●搬送時のバイタルサイン意識100/JCS血圧76/56mmHg脈拍54回/分呼吸18回/分SpO2error体温error既往歴不明内服薬不明冬の救急外来インフルエンザが猛威を振るっています。今年も筆者が勤務する病院では、年末年始の救急外来が大混雑しました。心筋梗塞や脳卒中といった冬季に多発する疾患に加え、火災による一酸化炭素中毒や気道熱傷、さらには餅による窒息など、冬特有の症例も頻発し、現場は多忙を極めていました。さらに近年では、今回の症例のように低体温症の患者も増加しており、どのようなセッティングであっても初療の基本をしっかり把握しておく必要性がますます高まっています。偶発性低体温症(accidental hypothermia)とは低体温症(hypothermia)は、深部体温(直腸温、膀胱温、食道温、肺動脈温など)が35℃以下に低下した状態を指します。なお、事故や不慮の事態に起因する低体温を、低体温療法や低体温麻酔のように意図的に低体温とした場合と区別するために、「偶発性低体温症」と呼びます。水難事故や山岳避難など、環境要因のみが原因と想起される場合には、復温することに全集中すればよいですが、感染症や脳卒中、外傷などをきっかけに動けなくなり、結果として低体温が引き起こされている場合(二次性低体温)には、原因に対する介入を行わなければ改善は期待できません。熱中症と同様に、体温管理とともに原因検索を同時並行で行い対応する必要があるのです。二次性低体温の原因は、体温調節機能の障害、熱喪失の増加に大別され、それぞれ多岐に渡りますが、意識障害の原因検索に準じて行うとよいでしょう(参照:意識障害 その2 意識障害の具体的なアプローチ 10’s rule)。低体温の重症度低体温症の重症度分類としては、Swiss分類(Swiss Staging System)が広く知られています(表1)1)。この分類は、症状をもとに深部体温と重症度を推定できるよう設計されています。表1 偶発性低体温症重症度分類低体温症を確定診断するためには、深部体温の測定が不可欠です。腋窩体温で判断するのではなく、必ず深部体温を測定しましょう。これは熱中症の場合と同様で、体温が著しく低い(または高い)状況では、腋窩体温と深部体温の乖離が大きく、正確性を欠くためです2)。深部体温の測定方法としては、食道温が最も正確とされていますが、現場の実用性を考慮すると、温度センサー付きの尿道バルーンを使用し、膀胱温を尿量と併せて確認・管理する方法が推奨されます。一方で、深部体温の測定が困難な場合もあるでしょう。そのような場合には、意識状態に注目して重症度を推定することが重要です。意識状態が重度であるほど、低体温症の重症度は高くなり、予後が不良であることが明らかになっています3)。ショック+徐脈ショックでは通常、頻脈がみられますが、血圧が低下しているにもかかわらず脈拍が上昇しない、または徐脈である場合には、表2に示すような病態を考慮する必要があります4)。とくに冬など寒冷環境下では、低体温の関与を積極的に疑い、適切に対応しましょう。表2 ショック+徐脈Rescue collapse低体温患者、とくに重症度が高い場合、心臓の易刺激性により心室細動や無脈性心室頻拍が起こりやすいと報告されています。これはアシドーシスなどの影響が考えられますが、刺激や体動なども不整脈を惹起する可能性が示唆されており、この現象を“rescue collapse”と呼びます5)。過度な刺激は避け、愛護的な対応が必要です。実際〇℃以上になれば安全という絶対的な基準はありませんが、不整脈が起こりやすい状態であることを共通認識とし、復温や原因検索を行いながらバイタルサインを安定させることが重要です。「病着後、ある程度復温されない状態では患者を動かさない方がよい」というのは、皆さんの病院でも暗黙のルールになっているのではないでしょうか。これは、前述のrescue collapseを危惧した対応だと思われます。実際、体温が30℃未満ではリスクが高いとされていますが、30℃以上に上昇しても不整脈を完全に防ぐことができるわけではありません。また、根本的な原因に対する適切な介入を行わなければ、事態が改善しないことも多々あります。このため、注意深く観察しながら、精査を進める必要があります。仮にrescue collapseが発生した場合でも、周囲の人などからの目撃があれば蘇生率は比較的高いことが知られているため、慎重に経過を診ながら介入を行うのが現実的な対応といえるでしょう。低体温の治療脳卒中や外傷、低体温など、原因に対する治療も当然重要ですが、何よりも復温を急ぐ必要があります。原因検索を優先するあまり、復温のタイミングを逃してはなりません。 低体温と認識した段階で迅速に介入を開始しましょう。復温方法としては、以下のように3つの方法が挙げられます。1)受動的復温体温喪失を防ぐために、着替えや毛布、温かい飲み物を使用する。2)能動的体外復温ベアーハガーやArctic Sunなどの加温ブランケット、40~44℃の加温輸液を使用する。3)能動的体内復温 膀胱洗浄、血液透析、体外式膜型人工肺(ECMO)などを利用する。多くの症例では、体外復温で十分対応可能です。最も重要なのは、低体温であることを早期に認識し、迅速に介入することです。そのため、ECMOが行えないという理由で搬送を拒否するのではなく、まずは受け入れた上で復温を早期に開始することを徹底すべきです。低体温の予防救急外来で経験する低体温症の多くは、高齢者の自宅で発生した事例です。冒頭の症例のように、倒れているところを発見され、搬送されるケースが後を絶ちません。このような症例は、年々増加しているのではないでしょうか。高齢者、とくにフレイルの患者では死亡率が高いことが知られており6)、夏の熱中症と同様に、低体温への対策が急務です。基礎疾患の管理は当然ですが、暖房の適切な設置や、とくに発生しやすい朝の安否確認など、事前に対策を講じておくことが重要です。1)Paal P, et al. Scand J Trauma Resusc Emerg Med. 2016;24:111.2)Niven DJ, et al. Ann Intern Med. 2015;163:768-777.3)Fukuda M, et al. Acute Med Surg. 2022;9:e730.4)坂本 壮. 救急外来ただいま診断中 第2版. 中外医学社. 2024.5)Frei C, et al. Resuscitation. 2019;137:41-48.6)Takauji S, et al. BMC Geriatr. 2021;21:507.

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透析中の骨粗鬆症患者へのデノスマブは心血管イベントリスクを上げる可能性/京都大

 透析患者の骨粗鬆症の治療では、腎排泄に頼らないデノスマブが使用されている。しかし、その有効性、安全性を他の骨粗鬆症治療薬と比較した大規模研究はこれまでなかった。そこで、桝田 崇一郎氏(京都大学大学院医学研究科薬剤疫学分野)らの研究グループは、透析患者の骨粗鬆症に対するデノスマブは、ビスホスホネートと比較し、骨折リスクを低減させる一方で、心血管イベントのリスクを増加させる可能性があることを、電子レセプトデータを用いたコホート研究により明らかにした。本研究結果は、Annals of Internal Medicine誌2025年1月7日オンライン版に掲載された。1,032例でデノスマブと経口ビスホスホネートの効果を比較 研究グループは、DeSCヘルスケアが保有する電子レセプトデータを利用し、標的試験エミュレーションの枠組みのもと、透析患者の骨粗鬆症に対するデノスマブと経口ビスホスホネートの有効性と安全性を比較するコホート研究を実施した。 対象は50歳以上の透析患者で、骨粗鬆症の診断を受け、2015年4月~2021年10月までの間にデノスマブもしくは経口ビスホスホネートを新規に開始した患者。主要評価項目は、薬剤使用開始から3年間の骨折と主要心血管イベント(MACE)の発生リスク。 主な結果は以下のとおり。・患者は合計で1,032例が同定された(デノスマブ群658例、経口ビスホスホネート群374例)。・全体の平均年齢は74.5歳で、62.9%が女性だった。・MACEの3年間の発生率はデノスマブ群のほうが高く、リスク差は8.2%(95%信頼区間[CI]:-0.2~16.7)、リスク比は1.36(95%CI:0.99~1.87)だった。・複合骨折の3年間の発生率はデノスマブ群のほうが低く、リスク差は-5.3%(95%CI:-11.3~-0.6)、加重3年リスク比は0.55(95%CI:0.28~0.93)だった。 この結果を受け研究グループは、腎臓または骨粗鬆症の重症度、心血管またはその他の代謝リスクに関する臨床データが不足し、交絡が残存していたこと、安全性アウトカムには腎臓のエンドポイントが含まれていなかったことを研究の限界として指摘し、「経口ビスホスホネートと比較し、デノスマブは骨折リスクを45%低下させ、MACEリスクを36%上昇させると推定された。しかし、この推定値は不正確であり、今後も研究が必要である」と述べている。

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