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第298回 医学部地域枠「9年勤務」の運用緩和へ、留学・子育てに配慮/厚労省

<先週の動き> 1.医学部地域枠「9年勤務」の運用緩和へ、留学・子育てに配慮/厚労省 2.「やせ薬」目的で拡散するマンジャロ、個人売買の監視強化/厚労省 3.外来医師過多区域で新規開業対応を強化、9医療圏を候補に提示/厚労省 4.出生率1.14で過去最低、周産期・小児医療の集約化議論へ/厚労省 5.外科医への退職強要で大津市民病院側に100万円支払い命令/大津地裁 6.私物PCとクラウド利用に警鐘、患者情報1,365件漏えいの可能性/藤田医大 1.医学部地域枠「9年勤務」の運用緩和へ、留学・子育てに配慮/厚労省厚生労働省は、医学部入試の「地域枠」について、卒業後に特定地域で原則9年以上勤務する現在の運用を見直す検討に入った。地域枠は、一般入試とは別に定員を設け、奨学金の貸与と引き換えに、卒後一定期間、都道府県知事が指定する医療機関などで勤務する仕組み。2025年度は医学部定員9,393人のうち1,847人と約2割をこの地域枠の学生が占めた。医師偏在対策の柱の1つだが、若手医師の20~30歳代は、専門医取得、海外留学、結婚・出産・育児、家族介護などの時期と重なる。10~18年度に地域枠で入学した4,917人のうち、入学時の条件を満たさなかった人は301人。その理由としては「個人的な理由」が最多だった。厚労省は有識者検討会で議論を進め、留学や専門医資格取得のための猶予期間、一時中断の柔軟化などを検討し、年内の取りまとめを目指す。地域枠をめぐっては、都道府県ごとの運用差も課題となっている。育児休業による中断は全都道府県で認められている一方で、留学は35、介護は31都道府県にとどまる。高知大学のように、臨床研修後の残り7年間を15年間のうちに終えればよいとする柔軟な制度や、自治医科大学のように卒業生同士の結婚に配慮し、一定条件で配偶者の出身都道府県勤務を認める例もある。山梨県では、県内勤務を条件に修学資金返還を免除する制度について、条件を満たさない場合に最大約842万円を求める違約金条項を廃止する方針が示された。同条項をめぐっては、消費者機構日本が差し止めを求め、甲府地裁が今年1月に「平均的な損害を超え不当」として差し止めを命じていた。県は控訴していたが、制度を見直し、県による面接、在学中の地域医療実習、勤務年数に応じた段階的な返還免除、貸与額の引き上げなどを導入する。地域医療を支える制度の実効性を保ちつつ、18歳時点の選択で30代までのキャリアを過度に拘束しない制度設計が問われている。 参考 1) 医師の「地域枠9年」緩和 厚労省検討 医学部入試 留学・子育てに配慮(日経新聞) 2) 山梨県 医師確保のための「地域枠」制度 違約金条項を廃止へ(NHK) 3) 山梨県が医学部の修学資金制度を見直し、「違約金」を廃止(朝日新聞) 4) 山梨、医師修学資金貸与の違約金を廃止 裁判踏まえ見直し(毎日新聞) 2.「やせ薬」目的で拡散するマンジャロ、個人売買の監視強化/厚労省糖尿病治療薬チルゼパチド(商品名:マンジャロ)をダイエット目的で使用したり、SNSで個人間売買したりする動きが広がっているとして、厚生労働省が注意喚起と監視を強化する。上野 賢一郎厚生労働大臣は6月5日の閣議後の会見で、「マンジャロを個人間で売買することは違法」と明言。都道府県など関係機関と連携し、SNSを含むネットパトロールを強化し、法違反には厳正に対処する考えを示した。マンジャロは米・イーライリリーが開発したGIP/GLP-1受容体作動薬で、国内では2型糖尿病において効能・効果で承認され、医師の処方のもとで使用されている。その一方で、食欲を抑える作用が注目され、美容・ダイエット目的での使用を勧めるSNS投稿や美容クリニックの広告が拡散している。上野厚労相は「糖尿病治療以外で使用した場合の安全性、有効性は確認されていない。思わぬ副作用につながる可能性も否定できない」と述べ、適正使用を呼びかけた。6月2日には、大阪府警がマンジャロをSNS経由で無許可販売したなどとして、大阪府・奈良県の20~30代の男女3人を医薬品医療機器法(薬機法)違反の疑いで書類送検した。薬機法は、許可を受けていない者が業として医薬品を販売することを禁じており、違反すれば3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金の対象となる。処方箋医薬品であるマンジャロは、許可業者であっても処方箋なしには販売できない。また、販売目的で保管する「貯蔵」も処罰対象となり得る。購入しただけの人を直接処罰する規定はないとされるが、余った薬を友人に有償で譲ったり、SNSで転売したりすれば無許可販売に問われる可能性がある。さらに、正規ルート外で入手した医薬品は偽造品や不適切な温度管理のリスクがあり、重い副作用が出ても医薬品副作用被害救済制度の対象外となる。医療者には、マンジャロが単なる「やせ薬」ではなく糖尿病治療薬であることを患者に説明し、安易な個人売買や自己判断での使用を避けるよう啓発する姿勢が求められる。 参考 1) マンジャロ個人間売買、厚労相「法違反は厳正に対処」 注意喚起強化(朝日新聞) 2) 糖尿病治療薬「マンジャロ」上野厚労相が適正な使用を呼びかけ(NHK) 3) 厚労相「法違反、厳正に対処」 マンジャロ個人売買の横行受け(毎日新聞) 4) 「やせ薬」危険な個人売買 糖尿病薬「マンジャロ」取引横行 許可なくSNSで販売疑い異例の立件(同) 5) マンジャロ無許可販売で書類送検、買う側には「罰則なし」? それでも弁護士が購入を勧めないワケ(弁護士ドットコム) 3.外来医師過多区域で新規開業対応を強化、9医療圏を候補に提示/厚労省厚生労働省は、2027年度から始まる第8次医療計画後期に向け、「外来医療に係る医療提供体制の確保に関するガイドライン」を都道府県に通知した。今回の見直しは、都市部など診療所医師が集中する地域で新規開業への対応を強める一方で、医師不足地域では診療所の承継・開業支援を進めるもので、外来医療における偏在策が具体化しつつある。ガイドラインでは、外来医師偏在指標と可住地面積当たり診療所数を基に、とくに外来医師が多い「外来医師過多区域」の候補として、東京・区中央部、区西部、区西南部、区南部、区西北部、京都・乙訓、大阪市、福岡・糸島、神戸の9つの2次医療圏を提示した。外来医師過多区域では、無床診療所の新規開設希望者に対し、原則として開設6ヵ月前までの事前届出を求める。届出では、夜間・休日の初期救急、在宅医療、発熱外来、学校医・予防接種、警察医会への協力など、地域で不足する医療機能を担う意向の有無や内容を示す必要がある。要請や勧告に従わない場合には、内容の公表に加え、保険医療機関の指定期間を通常より短縮する対応も想定される。その一方で、制度は一律の開業抑制ではない。親の死亡に伴う急な診療所承継や、自治体の求めに応じて地域外来医療を担う場合などは、事前届出の猶予・免除の対象となり得る。また、診療所の全医師が育児や介護で夜間・休日対応ができない場合など、地域で不足する医療機能を担えない「やむを得ない事情」も例示された。医師不足地域では、国と都道府県による診療所の承継・開業支援が始まっている。2024年度補正予算で102億円、2026年度当初予算で20億円が措置され、施設整備、医療機器購入、職員給与や材料費などの運営経費を支援する。青森県では県内全6つの2次医療圏を重点医師偏在対策支援区域に定め、2025年度に19診療所が交付対象となった。承継10施設、新規開業9施設で、内科に加え産科や小児科の開業も含まれた。県内診療所数の減少幅は緩やかになっており、県や医師会からは支援事業を評価する声が出ている。外来医療の偏在対策は、開業の自由と地域に必要な医療機能の確保をどう両立させるかが焦点となる。都市部では新規開業医に地域で不足する医療機能への協力を求め、医師不足地域では経済的支援で承継・開業を後押しする「要請と支援」の両輪が動き出した。今後は、地域医療構想、かかりつけ医機能報告、外来機能報告のデータを活用しつつ、長期的な財源確保と、地域ごとの実効性ある協議が問われる。 参考 1) 外来医療に係る医療提供体制の確保に関するガイドライン~第8次(後期)~」について(厚労省) 2) 開業規制の医師過多区域、5都府県の9圏域候補 国がガイドラインで示す(CB news) 3) 第8次後期外来医療計画のGLを通知、外来医師過多区域の取り組みを記載-厚労省(日本医事新報) 4) 第8次後期の外来計画でGL 過多区域の「特例」示す(MEDIFAX) 5) 重点区域の診療所支援、偏在是正に一定の効果 「長期的な財源確保」を(同) 4.出生率1.14で過去最低、周産期・小児医療の集約化議論へ/厚労省厚生労働省が公表した2025年人口動態統計(概数)で、わが国の出生数は前年比1万4,937人減の67万1,236人となり、10年連続で過去最少を更新した。合計特殊出生率は1.14で、3年連続の過去最低となった。出生数の減少率は2.2%と、近年の5%台からは縮小したが、死亡数158万9,489人との差である自然減は91万8,253人に達し、19年連続の人口減少となった。婚姻件数は48万9,119組で2年連続増加したが、この10年では14万組余り減っており、少子化の基調は変わっていない。都道府県別の出生率は、沖縄1.52、宮崎1.46、福井1.45が高く、東京0.96、北海道・宮城1.00と低かった。関東以北で低く、西日本で高い「西高東低」の傾向がみられた。この背景には、所得・雇用の不安定さ、出会いの少なさ、子育て費用、仕事と育児の両立困難、固定的な性別役割分担意識の地域差など、複数の要因が絡むとされる。政府は児童手当の拡充、子供誰でも通園制度、育児休業給付の充実、出産費用無償化などを進めるが、尾崎 正直官房副長官は「少子化に歯止めがかかっていない」との認識を示している。医療現場への影響はすでに顕在化している。国内の分娩取扱施設は2006年の3,098施設から2025年には1,856施設へ約4割減少し、診療所は初めて1,000施設を下回った。埼玉県本庄市では地域最後の分娩施設が少子化による経営難などを理由に分娩を休止し、妊婦健診は地域診療所、分娩は近隣施設で担うセミオープン型へ移行した。小児医療でも、低出生体重児や小児外科症例の減少により、NICU・GCUの空床、専門医・指導医育成の症例確保、こども病院の赤字が課題となっている。NICUは出生1万人当たり46.2床と、かつての整備目標を大きく上回る一方で、GCUの病床利用率が50%未満の地域周産期母子医療センターも多い。第9次医療計画に向けて、国は周産期・小児医療の病床数見直し、集約化、都道府県を越えた広域連携の検討を始める。少子化は単なる人口政策ではなく、分娩、小児救急、NICU、小児外科、思春期医療まで含む医療提供体制の再編問題である。安全性を維持しながら、患者・家族の移動負担や地域アクセスをどう支えるかが、今後の医療政策の焦点となる。 参考 1) 人口動態統計月報(概数)(令和7(2025)年12月分(年計を含む))(厚労省) 2) 13県で出生率上昇も…少子化に歯止めかからず 対策の拡充不可避 令和7年人口動態統計(産経新聞) 3) 出生率1・14、過去最低を更新 出生数は最少の67万人 令和7年人口動態統計(同) 4) 閉じる分娩施設、減る小児の症例数 世界最高水準を誇る医療の未来は(朝日新聞) 5) 少子化で経営成り立たず 地域最後のお産休止、空床増えるこども病院(同) 6) 去年の出生数67万人 過去最少 少子化対策ポイントは(NHK) 5.外科医への退職強要で大津市民病院側に100万円支払い命令/大津地裁大津市立大津市民病院に勤務していた外科医3人が、業績不振を理由に退職を強要され、パワーハラスメントを受けたとして、病院を運営する地方独立行政法人や前理事長、前院長に慰謝料や未払い退職金など計約2,900万円の支払いを求めた訴訟で、大津地裁は6月5日、原告のうち1人に対する退職強要を認め、病院側に慰謝料100万円の支払いを命じた。パワハラについては3人とも認めず、残る2人への退職強要も否定した。判決によると、前理事長らは2021年4~9月、外科などの業績不振を理由に「改善の兆しが見えないということで決断せざるを得ない」などと発言。同年9月の面談では、元副院長に対し、「外科の医師には退職してもらい、別の大学のチームに来てもらうよう頼む」趣旨の発言をした。田野倉 真也裁判官は、外科の経営低迷が元副院長らの責任とは認められないにもかかわらず、退職を求めた言動は「社会通念上相当と認められる退職勧奨の範囲を超えた」と判断。自由な退職意思の形成を妨げる退職強要に当たるとして、精神的苦痛と退職を余儀なくされたことへの慰謝料を認めた。その一方で、残る2人の医師については、問題となった面談に出席しておらず、前理事長らの意向を元副院長から伝えられたに過ぎないとして、退職を強要されたとは評価できないとした。また、原告側が主張したパワハラについても、3人いずれについても認定しなかった。前理事長が元副院長に対して名誉毀損を理由に550万円を求めた反訴も棄却された。今回の判決は、病院経営の改善や診療科再編を理由とする人事対応であっても、特定医師に退職を既定方針として繰り返し伝える行為は、適法な退職勧奨の範囲を超え得ることを示した。医師不足や経営悪化を背景に診療体制の見直しを迫られる医療機関では、業績評価の根拠、面談記録、本人の自由意思の確保、配置転換や業務改善の選択肢提示など、手続きの透明性が一層問われる。 参考 1) 大津市民病院の損賠訴訟 退職強要認め100万円支払命令 地裁判決(産経新聞) 2) 「退職の決定」何度も通知するパワハラ…市立病院側に医師1人に100万円の支払い命じる判決(読売新聞) 3) 大津市民病院の前理事長ら、医師に退職強要 100万円の損害賠償支払い命令、大津地裁(中日新聞) 6.私物PCとクラウド利用に警鐘、患者情報1,365件漏えいの可能性/藤田医大藤田医科大学病院は、6月3日に看護師の私物パソコン(PC)に保存されていた患者情報1,365件が外部に漏えいした可能性があると発表した。対象は、末期腎不全、腹膜透析、腎代替療法指導を受けた一部患者で、氏名、性別、生年月日、患者ID、病名、転帰、入退院日、検査データなどが含まれる。現時点で不正利用は確認されていないが、病院は対象患者への謝罪と経過報告、相談窓口の設置、全職員研修、個人情報の取扱実態調査を進める。今回の事案で注目すべきは、病院本体の電子カルテが直接侵害されたのではなく、職員が規定に反して患者情報を私物PCに保存し、自宅でサポート詐欺型の不正侵入を受けた点である。看護師は学会発表資料の作成などを目的に、2020年ごろからクラウドを介して患者情報を私物PCと共有していた。5月25日、自宅でウェブサイトを閲覧中に偽の警告画面が表示され、表示された連絡先やURLに応じた結果、第三者による遠隔操作を受けたとみられる。その後、ウイルス駆除名目の金銭請求、身に覚えのないクレジット請求、携帯電話アカウント変更通知などがあり、専門業者からサポート詐欺と情報漏えいの可能性を指摘された。医療機関のサイバー対策は、ランサムウェア対策のみを想定すれば足りる段階ではなくなっている。偽警告、遠隔操作、クラウド同期、私物端末、学会・研究用データの持ち出しが組み合わされば、重大な個人情報漏えいにつながる。とくに、匿名化が不十分な症例リストや検査データ、紹介状、退院サマリーを、発表準備や在宅作業のために個人端末へ移す運用は、診療所でも起こり得る。厚生労働省は5月29日に開かれた「医療等情報利活用ワーキンググループ」で示した「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第7.0版(案)」は、病院だけでなく、一般診療所、歯科診療所、薬局、訪問看護ステーション、介護事業者も対象とする。医療情報を保存するシステムに限らず、医療情報を扱う情報システム全般が対象であり、私物PCやクラウド利用も管理外ではなくなっている。さらに令和8年度版チェックリスト案では、二要素認証、パスワード要件、端末・サーバ・ネットワーク機器の台帳管理、アクセス権限管理、USBなど外部記録媒体の制限、不要ソフトの停止、インシデント時の連絡体制、サイバー攻撃を想定した事業継続計画(BCP)の策定が重視されている。まず、クリニックなどでも「患者情報をどの端末、クラウド、USB、メールに置いているか」を確認し、私物PC端末への保存禁止、学会・研究用データの匿名化手順、クラウド共有の承認制、偽警告が出た際に電話しない・URLを開かないなどのセキュリティ教育が必要となる。サイバー対策はもはや医療情報システム部門だけの課題ではなく、診療情報の持ち出しルールと緊急時対応を明文化するなど、医療機関の経営者にとって重要な課題になっている。 参考 1) 個人情報漏洩に関するご報告とお詫び(藤田医科大病院) 2) 第32回 健康・医療・介護情報利活用検討会 医療等情報利活用ワーキンググループ(厚労省) 3) 患者情報1,365件漏えいか 藤田医科大病院 相談窓口設置へ(読売新聞) 4) 藤田医科大病院で1,300件超の患者情報漏えい 私物PCでサポート詐欺被害(CB news) 5) 藤田医大病院 私用パソコンに保存 患者の個人情報流出か(NHK)

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つなぐべきか、つながざるべきか、それが問題だ(解説:山地杏平氏)

 弁膜症の外科手術を行う際には、左主幹部病変であれば50%以上、その他の主要冠動脈であれば70%以上の狭窄を合併している場合、冠動脈バイパス術(CABG)を同時に施行することが推奨されます。また、中等度大動脈弁狭窄症など、本来であれば単独では手術適応とならない弁膜症であっても、CABGが必要な症例では同時手術が検討されることもあります。 開胸するのであれば、冠血行再建も同時に行うという考え方はリーズナブルだと思います。とくに内胸動脈グラフトや、近年良好な成績が報告されている静脈グラフトを用いることで、将来的な冠動脈イベントの抑制が期待されます。 一方で、せっかく作成したグラフトも長期的には閉塞することがあります。グラフトを冠動脈遠位部へ吻合すると、ネイティブ冠動脈近位部の病変が進行し、完全閉塞へ至ることも少なくありません。そのような状況でグラフトが閉塞すると、慢性完全閉塞病変に対する経皮的冠動脈インターベンション(PCI)が必要になったり、場合によってはグラフトそのものへの治療が必要になったりすることもあります。そのため、「どの病変にグラフトをつなぐべきか」という問題は、長期予後を考えるうえできわめて重要です。 このような背景の下、弁膜症手術時に冠動脈病変を認めた場合、冠動脈造影による解剖学的狭窄度に基づいてバイパスを行うべきか、それともangiography-derived fractional flow reserve(FFR)による生理学的評価に基づいてバイパスを行うべきかを検討したFAVOR IV-QVAS試験が、2026年にLancet誌に報告されました。 本試験では、angiography-derived FFRを用いた群において、作成されるグラフト数が減少し、人工心肺時間および大動脈遮断時間が短縮されました。さらに、30日以内の死亡、心筋梗塞、脳卒中、予定外血行再建、透析導入を含む主要複合エンドポイントは、FFR群で7.8%、冠動脈造影群で13.4%と有意に低下しました。 この結果はどちらかというと当たり前かとは感じます。CABGは周術期リスクを伴う一方で、遠隔期の冠動脈イベントを抑制することを目的とした治療です。そのため、短期成績のみを評価した場合には、介入を減らした群のほうが有利な結果を示す可能性があります。本試験の意義を正しく評価するためには、グラフト開存率や5年以上の遠隔期成績に関する今後の解析を待つ必要があります。 PCI領域ではFFRをはじめとする生理学的評価が広く普及しており、FAME試験やFAME 2試験をはじめとする多くの研究によって、解剖学的評価のみに基づく治療戦略よりも優れた臨床成績が示されてきました。現在の日本の保険診療においても、PCI施行前には何らかの虚血評価を行うことが求められています。しかし、重症三枝病変に対してCABGを行う際、「どの冠動脈にグラフトを吻合するべきか」という問題については、依然として議論の余地があります。たとえ病変がFFR陽性であっても、ネイティブ冠動脈の血流が比較的保たれている場合には、グラフト閉塞のリスクが高くなる可能性があります。実際、経験豊富な心臓外科医の中には、「FFR陽性であっても、この程度の狭窄であればグラフトは長期的に開存しにくい」と判断する場合があります。 PCIにおいては「その病変を治療すべきか」が主な論点であるのに対し、CABGでは「その病変にグラフトをつないだ際に長期的に機能するか」という別の視点が加わります。そのため、PCIの適応判断に有用であるFFRを、そのままCABGの吻合部位選択に応用できるかどうかについては、まだわかっていないように思います。FFRは虚血の有無を評価する指標としてきわめて優れていますが、グラフトの長期開存性を規定するのは、むしろ実際の血流需要かもしれません。その意味では、将来的にはFFRだけでなく、冠血流予備能(CFR)や冠血流量そのもの、さらには術中のエコーでのグラフト血流評価など、より「流量」に着目した指標の重要性が明らかになる可能性があるかもしれません。 FAVOR IV-QVAS試験の、長期予後やグラフト開存率に関する追加データ次第では、冠動脈バイパス術においても「狭窄があるからバイパスする」のではなく、「実際に虚血や血流障害を生じている血管のみを治療する」ということになるかもしれません。

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糖尿病患者の将来リスクをAI活用で予測/福島医大・日本糖尿病学会ほか

 福島県立医科大学と千葉大学、国立健康危機管理研究機構(JIHS)らの研究グループは、株式会社エフコムとの共同研究により、AIを活用して糖尿病を5つのサブタイプに分類し、将来の合併症・併存症リスク(糖尿病関連腎臓病、透析導入、心血管障害など)を推計するウェブプラットフォーム「福島医大 糖尿病未来予測ナビ」を研究・開発した。このウェブプラットフォームは、2026年5月20日に福島県立医科大学附属病院、日本糖尿病学会、てだこ浦西駅循環器・糖尿病クリニックの各ホームページ上で公開された。 糖尿病患者では、合併症の進行に大きな個人差がある。この研究は、国内最大級のデータベース「J-DREAMS」(日本糖尿病学会運営)を活用し、日本人の病態に最適化された予測モデルの構築を目的に開発され、患者の将来リスクを推計する。 ウェブプラットフォームの主なポイントは以下の3点。1)AIが糖尿病を5つのタイプに分類 日常診療で得られるデータ(年齢、BMI、血糖値など)を解析し、患者を5つのサブタイプ(クラスター)に分類、合併症リスクを可視化する。2)診断時点で将来の「透析リスク」を推計 早期段階のデータから将来の透析導入リスクを推計できる。とくに「重症インスリン抵抗性(SIRD)」は、8年間で透析導入リスクが約4%に達することを特定している。3)日常診療ですぐに活用可能な「ゼロセットアップ」設計 特別な検査を必要とせず、一部データが不足していてもAIが補完する独自技術を搭載。幅広い医療現場での活用が期待される。 研究・開発者の1人である島袋 充⽣氏(福島県立医科大学医学部糖尿病内分泌代謝内科学講座 教授)は、「患者と医療者が同じ未来を共有し、ともに歩んでいく。そんな新しい糖尿病医療のスタンダードを、福島から全国へ広げていきたい」と期待を寄せている。

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第296回 ナフサ不足で医療資材逼迫、医療用手袋5,000万枚を放出/政府

<先週の動き> 1.ナフサ不足で医療資材逼迫、医療用手袋5,000万枚を放出/政府 2.血管炎薬アバコパンで死亡20例、添付文書に「警告」新設/厚労省・キッセイ薬品 3.AIを悪用したサイバー攻撃に備え、医師会や病院団体と対策を協議/厚労省 4.マイナカード「任意」から義務化検討へ、全員保有を提言/自民党 5.禁忌の抗菌薬処方でSJS発症か、患者死亡で遺族に補償へ/三重県 6.東大医学系研究科の贈収賄事件、元特任准教授に有罪判決/東京地裁 1.ナフサ不足で医療資材逼迫、医療用手袋5,000万枚を放出/政府中東情勢の悪化を背景に、石油由来原料を使う医療資材の供給不安が医療現場に広がっている。政府は5月23日、感染症などの流行に備え国が備蓄していた医療用手袋のうち、まず5,000万枚の放出を開始した。都内の歯科診療所には同日、第1弾が到着。受け取った院長は「診療所は在庫を抱えられない。購入できて安心した」と語った。放出対象は、病院、診療所、訪問看護事業所、薬局、助産所など。在庫量が「今後1週間の想定消費量から購入見込み量を差し引いた数」の4週間分を下回る場合、医療機関等情報支援システム(G-MIS)を通じて申請できる。販売は1,000枚単位で、価格は1セット5,980円、1枚当たり約6円。購入可能数は想定消費量の2週間分を基準に決まり、条件を満たせば複数回の申請も可能とされる。21日時点で2,000を超える医療機関が対象となっており、茨城県でも第1弾として63医療機関から27万1,000枚の購入申し込みがあった。ただ、逼迫しているのは手袋だけではない。ナフサ価格の上昇を受け、廃液回収容器、投薬瓶、軟こう容器、点眼瓶、松葉杖、透析回路、医薬品包装用フィルムなどでも値上げや納期遅延、受注制限が相次いでいる。調剤薬局では小児用シロップ容器が不足し、粉薬での処方を依頼する例も出ている。医療資材卸では4月以降、平均2~3割の値上げが行われ、製品によっては1.5~2倍の値上げ要請もあるという。診療報酬や薬価は公定価格であり、医療機関や製薬企業は一般産業のようにコスト上昇分を価格転嫁しにくい。物価高、人件費高、光熱費高に加え、資材不足が中小医療機関の経営をさらに圧迫している。政府は追加放出も検討するとしているが、手袋の使用量は月9,000万枚規模ともされ、備蓄放出だけで不安を払拭するのは難しい。医療提供体制を維持するには、資材供給の安定化に加え、物価変動を診療報酬や薬価に反映する仕組みの検討が求められる。 参考 1) 医療用手袋の政府備蓄品が到着 厚労省、都内歯科で公開(日経新聞) 2) 国が備蓄している医療用手袋 購入要請があった医療機関にきょうから配送開始 中東情勢の影響を受けて放出(TBS NEWS) 3) ナフサ不足で医療資材逼迫 軟こう容器・松葉杖・手袋…中小医院資材逼迫で苦境(日経新聞) 4) 中東情勢悪化に伴う医療用グローブの国家備蓄放出、「医療機関在庫が不足する」場合に購入可能-厚労省(Gem Med) 2.血管炎薬アバコパンで死亡20例、添付文書に「警告」新設/厚労省・キッセイ薬品厚生労働省は5月21日、選択的C5a受容体拮抗薬アバコパン(商品名:タブネオスカプセル10mg)について、製造販売元のキッセイ薬品に対し、添付文書に「警告」欄を新設し、医療関係者へ安全性速報(ブルーレター)を発出するよう指示した。同薬の服用後、肝臓の胆管がなくなる「胆管消失症候群」を含む重篤な肝機能障害が報告され、国内で20例の死亡があったことを受けた措置。ブルーレターの発出は5年ぶりで、迅速な安全対策が必要と判断された。アバコパンは、顕微鏡的多発血管炎と多発血管炎性肉芽腫症を対象とする飲み薬で、いずれも国の指定難病。ステロイド使用量を減らせる薬として期待され、国内では2022年6月に発売され、直近1年間で推定約8,500例に使用された。死亡した20例は60~90代で、19例は投与開始から3ヵ月以内に肝機能障害を発症。胆管消失症候群は22例報告され、このうち13例が死亡しており、とくに深刻な副作用とみられている。改訂後の添付文書では、投与開始前と投与中の定期的な肝機能検査を求める。投与開始後3ヵ月間は少なくとも2週間に1回、その後3ヵ月間は少なくとも4週間に1回、6ヵ月以降も定期的に検査する。ALTまたはASTが基準値上限の3倍を超えた場合は投与を中断し、8倍超、5倍超が2週間以上続く場合、総ビリルビンやALPの上昇、黄疸やかゆみなどがあれば中止する。胆管消失症候群が疑われる場合も速やかに中止することを求めている。キッセイ薬品は、新規患者への投与を控えるよう注意喚起していたが、その後は頻回の検査を前提に新規投与も可能とされた。すでに服用中の患者には、自己判断で中止せず、体調変化があれば医師や薬剤師に相談するよう呼びかけている。その一方で、米国食品医薬品局(FDA)は有効性や承認申請資料を巡る疑義から米国での承認撤回を提案しており、厚労省も海外当局と連携し、有効性や安全性の確認を進める。 参考 1) タブネオスの安全性確保のための注意喚起について(キッセイ薬品) 2) タブネオスにブルーレター発出、添付文書の「警告」欄を新設(日経ドラッグインフォメーション) 3) 血管炎治療剤タブネオス 安全性速報を発出-添付文書に「警告」新設 キッセイ薬品(CB news) 4) キッセイ薬品工業が「ブルーレター」発出 タブネオス服用後の死亡患者20人報告で(中日新聞) 5) 投与患者20人死亡の血管炎治療薬、添付文書に「警告」欄を新設・頻繁な肝機能検査を要請…厚労省(読売新聞) 6) キッセイ薬品の血管炎薬、添付文書に「警告」欄 有効性に疑義も(朝日新聞) 7) キッセイ薬品、血管炎治療薬で安全性速報 死亡報告で厚労省指示(日経新聞) 3.AIを悪用したサイバー攻撃に備え、医師会や病院団体と対策を協議/厚労省厚生労働省は5月22日に、AIを悪用したサイバー攻撃への懸念が高まっているとして、医療機関や病院団体とサイバーセキュリティ対策に関する意見交換会を開いた。背景にあるのは、米アンソロピックが4月に発表した高性能AI“Claude Mythos”(クロード・ミュトス)で、ソフトウエアの脆弱性を自律的に検出し、攻撃プログラムの生成にもつながり得るとされる。国家サイバー統括室は18日、AIの急速な進展により攻撃の規模が拡大する恐れがあるとして、医療や金融など重要インフラ15分野に注意を呼びかけていた。意見交換には上野 賢一郎厚労相、厚労省や国家サイバー統括室の担当者、全国自治体病院協議会、全日本病院協会、日本病院会、日本医療法人協会などの関係者が出席した。上野厚労相は、医療現場では日々の診療や運営に追われ、サイバー対策が後回しになりがちだと指摘し、「現場任せではなく経営層の主体的な関与が不可欠」と強調。「サイバー攻撃の脅威はさらに増大する。必要な対応を速やかに進める」と述べた。医療機関ではこれまでも電子カルテが使えなくなり、診療を一時中断する被害が発生している。出席した医療機関側からは、「対策に充てる財源が乏しい」や「専門人材を確保できないこと」への不安が示され、国による財政的・技術的支援を求める声が上がった。厚労省は、医療情報システムの安全管理ガイドラインに基づく基本対策の徹底、攻撃を受けた場合の事業継続計画作り、補助金や経営層向け研修の活用を呼びかけた。政府は重要インフラ15分野ごとに安全基準を整備する方針で、厚労省も医療分野の実情に応じた対策を具体化する。今後、関係機関に事務連絡を出し、医療機関の機能停止が国民生活に重大な影響を及ぼさないよう、医療現場と連携して実効性ある体制作りを進める。診療継続を支える経営課題として、各病院の備えが問われる。 参考 1) ミュトス対応 医療機関と意見交換、厚労省 セキュリティー対策具体化へ(CB news) 2) 医療機関にサイバー攻撃対策を要請 厚労省、AI「ミュトス」念頭(日経新聞) 3) 新型AI「ミュトス」 厚生労働省と医療機関が意見交換 上野大臣「必要な対応を速やかに進める」 サイバー攻撃で診療一時中断も 「財源ない」「専門人材いない」の声も(TBS NEWS) 4) 「医療機関等におけるサイバーセキュリティ対策に関する厚生労働省との意見交換」を開催します(厚労省) 4.マイナカード「任意」から義務化検討へ、全員保有を提言/自民党自由民主党は5月19日、マイナンバーカードの取得義務化の検討を政府に求める政策提言「デジタル・ニッポン2026」を公表した。国民全員がカードを保有することを前提に、行政サービスの拡充や民間利用を進める狙いで、早ければ来年の通常国会で関連法改正を目指す。現在、マイナンバーカードの取得は任意で、4月末時点の保有率は82.7%。提言では、取得を法的に義務付ける必要性や実効性を検討すべきとするが、罰則は設けない方針。背景には、中低所得の現役世代支援として検討される「給付付き税額控除」や迅速な現金給付への活用がある。提言では、給付に必要な公金受取口座の登録義務化の検討も盛り込み、マイナカードを「デジタル社会のパスポート」と位置付けている。党デジタル社会推進本部長の平井 卓也衆院議員は、交付開始当初に比べ肯定的に受け止める人が増えたとして、「持っていることを前提に政策を組み上げる」と説明した。その一方で、個人情報の漏えいや目的外利用、プライバシー侵害への懸念はいまだに根強い。マイナ保険証の原則化を巡っては、医療機関の受付負担や高齢者の利用困難、資格確認書の併存などから「事実上の義務化」との批判もある。会計検査院の調査では、2025年7月末までに本人希望で廃止されたカードが累計93万枚に上り、トラブルへの不安や利便性を実感できないことが背景にあるとの見方も出ている。コンビニ交付や本人確認で「期待通りの使い勝手になっていない」との指摘もあり、普及策の妥当性が問われている。松本 尚デジタル相は22日の会見で、義務化について「法的に縛り付けることは議論が必要だ」と述べ、必要性への明言を避けた。カードを持ちたくない人が納得できる根拠や、どの政策と一体で進めるのかを検討する必要があるとの認識を示した。利便性向上と行政効率化を掲げる政府・与党に対し、制度への信頼回復と不安払拭が課題となる。 参考 1) デジタル・ニッポン2026ー責任あるアジャイル・ガバナンスー(自民党) 2) マイナカード、取得義務化を提言 自民「来年国会で法改正めざす」(朝日新聞) 3) マイナカード義務化「必要性もう少し議論」 松本デジタル相(日経新聞) 4) 任意だったのに…「マイナカード義務化」自民が提言へ 給付付き税額控除の議論が「絶好のラストチャンス」(東京新聞) 5) 「93万枚」が廃止されていたマイナンバーカード このままでは“第2の住基カード”に? 「多くの人が“便利さ”を感じていない」(デイリー新潮) 5.禁忌の抗菌薬処方でSJS発症か、患者死亡で遺族に補償へ/三重県三重県桑名市の地方独立行政法人 桑名市総合医療センターは5月21日、気管支喘息で入院した60代男性に禁忌薬を誤って処方し、男性が重い薬剤アレルギーとみられる症状を発症後、3月23日に死亡したと発表した。病院側は薬剤投与ミスを認め、遺族に謝罪するとともに補償する方針を示している。男性は2月中旬、喘息発作で同センターに入院し、ステロイド治療に伴う感染症予防のため、担当医が抗菌薬トリメトプリム スルファメトキサゾール(商品名:バクトラミン)を処方した。男性は退院後に服用したが、高熱や全身の発疹、皮膚や口腔内のただれなどを起こし、愛知県内の病院に搬送された。その後、スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)を発症したとみられ、より重篤な中毒性表皮壊死症(TEN)の可能性も指摘されている。最終的には腸閉塞を伴う敗血症性ショックなどで死亡した。バクトラミンは、スルファメトキサゾール・トリメトプリムを成分とするST合剤で、男性は過去に同じ成分を含む別の商品名の抗菌薬でアレルギー症状を起こしていた。電子カルテには投与禁忌の記載があったが、担当医は商品名の違いから同一成分だと認識せず、成分確認を十分に行わなかったという。一部報道では、医師がアレルギー歴を別系統の薬剤と誤認していたともされる。病院は、誤投薬とアレルギー反応との関連性は極めて高いと説明する一方で、死亡との直接の因果関係については病理解剖の結果や外部専門家を含む調査で検証する方針。県医師会には医療事故として報告しており、院内事故調査委員会や第三者委員会で原因究明と再発防止策を検討する。山田 典一病院長は記者会見で「痛切に責任を感じている」と謝罪し、「全職員がリスクを感じたら拾い上げる体制に変えなければならない」と述べた。 参考 1) 桑名市総合医療センターで男性に禁忌薬処方、難病発症 別の病院に転院後死亡(中日新聞) 2) 禁忌薬誤投与後に患者男性が死亡 三重の医療センター 因果関係調査(産経新聞) 3) 抗菌薬誤投与で難病発症、患者死亡 医師が成分確認せず-三重・桑名市総合医療センター(時事通信) 4) 桑名市総合医療センターの患者死亡 薬剤の投与ミス認める(NHK) 6.東大医学系研究科の贈収賄事件、元特任准教授に有罪判決/東京地裁東京大学大学院医学系研究科の共同研究を巡る贈収賄事件で、収賄罪に問われた元特任准教授の吉崎 歩被告(46)に対し、東京地裁は5月22日、懲役1年、執行猶予2年、追徴金約196万円の有罪判決を言い渡した。求刑は懲役1年2ヵ月、追徴金約196万円で、吉崎被告は公判で起訴内容を認めていた。判決によると、吉崎被告は2023年3月から2024年8月にかけて、東京大学大学院医学系研究科皮膚科学分野の元教授、佐藤 伸一被告(62)とともに、一般社団法人日本化粧品協会の代表理事だった引地 功一被告(52)から、都内の高級クラブや性風俗店などで30回にわたり、計約196万円相当の接待を受けた。接待は、皮膚疾患に対する大麻草由来成分カンナビジオール(CBD)の有効性などを調べる「臨床カンナビノイド学社会連携講座」の設置や共同研究の推進で便宜を図る見返りだったとされた。吉崎被告は同講座の講座長として、佐藤被告と日本化粧品協会との間に入り、研究実務や接待の段取りを調整していた。弁護側は、吉崎被告が佐藤被告を師と仰ぎ、強い影響下にあったため異を唱えることは難しかったと主張。判決も、上司である佐藤被告の意向に反することが困難だった点は認めた。その一方で、吉崎被告が接待の調整役を担い、単独で接待を受けたこともあり、自ら積極的に接待を受けたい意向があったとして、「刑事責任は軽視できない」と指摘した。遊興接待の内容についても、職務の廉潔性を害したことは明らかだとした。判決はさらに、東大の社会連携講座についても言及。大学の看板を営利目的で利用しようとする企業に悪用されかねない側面があり、公益的な研究として適切に運用されるかどうかが、講座を統括する担当教授のモラルに大きく依存していたと指摘した。産学連携を進める上で、研究費の受け入れや企業との距離感を個人の倫理観に委ねる危うさが改めて浮き彫りになった形。しかしながら、吉崎被告が事件後に東大を退職し、犯行を認めて反省していること、再び公職に就く可能性が低く再犯の可能性も低いことなどから、執行猶予付き判決が相当と判断された。事件では、佐藤被告も収賄罪で起訴されているほか、贈賄罪に問われた引地被告の判決は5月26日に予定されている。東大では別件でも医療機器選定を巡る収賄事件が起きており、大学病院における企業連携と利益相反管理のあり方が厳しく問われている。 参考 1) 東大病院汚職、元特任准教授に有罪判決 風俗店やクラブで接待受ける(朝日新聞) 2) 東大院汚職で元特任准教授に有罪判決 東京地裁(日経新聞) 3) 懲役1年執行猶予2年、性接待などを受け 東大病院の収賄事件、「教授の強い影響下にあった」元特任准教授に有罪判決(日経メディカル)

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75歳以上の降圧薬、ARB vs.Ca拮抗薬~日本人大規模データ

 75歳以上の高齢者では高血圧が多くみられ、心血管疾患や死亡のリスク因子となる。降圧治療の第1選択薬として、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)やカルシウム拮抗薬(CCB)が多く用いられるが、高齢者におけるエビデンスは限られている。そこで、野間 久史氏(統計数理研究所/総合研究大学院大学)、福田 治久氏(九州大学大学院医学研究院)らの研究グループは、本邦の全国規模の医療ビッグデータを用いて、target trial emulationの手法により75歳以上の高齢者におけるARBを含む治療とCCBを含む治療を比較した。その結果、ARBを用いた群はCCBを用いた群と比較して、全死亡、心不全入院、心筋梗塞、脳卒中、主要心血管イベント(MACE)のリスク低下と関連することが示された。本研究結果は、Journal of the American Geriatrics Society誌オンライン版2026年4月26日号に掲載された。 研究グループは、全国の医療情報を統合した500万例以上の大規模データベース(LIFE Study)を用いて、後ろ向き観察研究を実施した。対象は、2014年4月~2024年9月のデータに含まれる75歳以上のうち、過去12ヵ月間にARBまたはCCBの処方がなく、新たにARBまたはCCBを開始した2万9,822例とした(ARB群1万37例、CCB群1万9,785例)。主要評価項目は全死亡、副次評価項目は心不全入院、心筋梗塞、脳卒中、MACE、腎アウトカムなどとした。治療開始時点を起点とする新規使用者デザインを用いて、target trial emulationの手法により両群を比較した。 主な結果は以下のとおり。・対象患者の平均年齢は、ARB群81.7歳、CCB群81.8歳で、女性の割合はそれぞれ57.2%、57.1%であった。追跡期間中央値は4.0年。・追跡期間中に3,487例が死亡した。死亡はARB群1,141例、CCB群2,346例に発生し、ARB群はCCB群と比較して全死亡リスクが有意に低かった(ハザード比[HR]:0.885、95%信頼区間[CI]:0.823~0.951)。5年死亡率はARB群12.7%、CCB群14.8%で、絶対リスク差は-2.1%ポイント(95%CI:-3.1~-1.0)であった。・副次評価項目の心不全入院、心筋梗塞、MACEについてもARB群がCCB群と比較してリスクが低く、脳卒中についてもわずかながらARB群でリスク低下がみられた。一方で、腎アウトカム(持続的なeGFR 40%以上低下、末期腎不全または透析導入)については、両群間で有意差はみられなかった。各評価項目のHR(95%CI)は以下のとおり。 心不全入院:0.843(0.774~0.918) 心筋梗塞:0.867(0.795~0.945) 脳卒中:0.931(0.869~0.998) MACE:0.889(0.848~0.931) eGFR 40%以上低下:1.110(0.773~1.593) 末期腎不全/透析導入:0.611(0.354~1.056) 本研究結果について著者らは、「75歳以上の成人において、ARBを用いた降圧治療はCCBを用いた降圧治療と比較して、全死亡および心不全入院のリスク低下と関連し、心筋梗塞および脳卒中のリスクについても、小さいながら有意な低下が認められた。これらの知見は、75歳以上の高齢者に対して降圧治療を開始する際の薬剤選択に直接関わるエビデンスであり、この集団においてARBを優先的な選択肢として考慮する根拠となる可能性がある」とまとめた。一方で、本研究はtarget trial emulationの手法を用いることでバイアスの低減を図っているものの、観察研究であり、生活習慣や服薬遵守、医師の処方判断などの未測定要因の影響を完全には排除できないことも指摘している。

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第313回 ハンタウイルス、日本の暗黒史と国内で注意したい場所とは?

INDEXハンタウイルスの最新状況旧日本軍との深いかかわり後に明らかになった2つの国内事例日本のネズミも抗体陽性、注意したい場所とは…ハンタウイルスの最新状況オランダのオーシャン・エクスペディション社が運営しているクルーズ船「MVホンディウス号」でのハンタウイルス(アンデスウイルス)感染騒動は、その後、乗員乗客の大半がスペイン領カナリア諸島で下船し、現在同号は乗員25人と彼らのモニタリングを行う医療者2人を乗せてオランダに向けて航行中である。世界保健機関(WHO)の発表では、13日までに判明している感染者が8例、感染の疑いが2例、検査結果保留(検査機関2ヵ所でそれぞれ陽性と陰性の結果のため)が1例の計11例で、うち死者3例。ちなみに、最初にWHOに状況が報告された時点で既に死亡していた2例は、いずれも疑いに分類されている。WHOは発生状況の分析から、船内でヒト-ヒト感染が起きた可能性を指摘している。前出の数字で単純に致死率を算出するならば27.3%であり、アンデスウイルスに関しては、状況次第ではかなり悲惨な結果となることが改めて示されたといえる。なお、乗客の中に含まれていた日本人1人はイギリスに移送され、現地の医療機関で隔離中。最大で45日間の健康観察下に置かれる予定と報じられている。「45日間」には驚くが、これはアンデスウイルスの潜伏期間が最大6週間であるためだ。WHOは今後、乗員乗客からの追加感染例の発生の可能性に言及しつつも、「下船した人々の隔離、新たな感染疑い例の迅速な隔離、接触者の監視といった現在の対応により、さらなる感染拡大のリスクは抑制されるだろう」との見解を示している。この件では各国が乗客の経過観察にかなり神経をとがらせている現状を考えれば、私見ながら彼らを起点にした各地でのアウトブレイク発生という最悪の状況は避けられるのではないかと予想している。旧日本軍との深いかかわりさて、前回はハンタウイルスの分離・同定がアジアで始まったことや、ウイルスの特性などの概略に触れたが、今回は日本でのハンタウイルス感染症史に触れておきたい。実はハンタウイルスと日本とのかかわりは、ウイルス同定以前の1932年、日本が中国東北部に建国した傀儡国家・旧満州国で始まっている。1938年に同国内の旧ソ連国境に近い孫呉県(現黒竜江省黒河市)付近で流行性出血熱、通称「孫呉熱」が大流行し、1940年代に旧満州国内では旧日本軍兵士を中心に約1万例の患者が発生、死者は約3,000例だったと報告されている。ここで登場するのが、旧日本軍の暗部の1つと言える関東軍防疫給水部(通称731部隊)である。同部は捕虜を使った生体実験という非人道的な活動を行っていた秘密部隊として知られているが、その1つが孫呉熱の研究である。研究の中身は、孫呉熱に感染した日本軍兵士から採取した血液を捕虜に注射して感染確認を行うなど、聞いただけで身の毛もよだつものだ。研究結果の一部は、サルを対象に行った実験と偽装して論文発表もされている。当時、孫呉熱はウイルス感染症の可能性が指摘されたが、ウイルス同定には至っておらず、自然宿主も現地に土着するセスジネズミに寄生するダニが疑われていた。しかし、前回も触れたように、後年、韓国でハンタウイルスの1種であるハンターンウイルスが同定され、過去の臨床記録、疫学記録、病理所見の再検討が行われた結果、孫呉熱がハンタウイルス感染症の1種だったと臨床的に分類されるようになった。後に明らかになった2つの国内事例また、同様に過去に遡ってハンタウイルス感染症と認定されたのが、1960年代に大阪・梅田周辺で起こった通称「梅田熱」である。約10年間にわたって断続的に報告された患者数は119例でうち2例が死亡。後に発症後7~17年経過した患者から採取した血清検体から、ハンタウイルスの1種であるソウルウイルスの抗体が検出された。ちなみにソウルウイルスはドブネズミやクマネズミが自然宿主で、セスジネズミを自然宿主とするハンターンウイルスと比較し、同じ腎症候性出血熱(HFRS)の症状もより軽度といわれている。実際、大阪の事例は単純計算なら致死率1.7%であり、過去の報告での致死率下限が5%のハンターンウイルスよりも低率だ。さらに1970~84年にかけて、ハンタウイルスに汚染された実験ラットを通じたハンタウイルス感染症が全国の研究施設で報告された。報告された患者ほぼ全員に共通していたのが、ラットの飼育やケージ交換、ラットによる動物実験実施に従事していたこと。報告された感染者数は札幌医科大学、東北大学、名古屋市立大学をはじめとした全国21施設で126例に上り、このうち1981年に札幌医科大学の動物飼育担当職員1例が死亡した。時期からわかるように、このケースはハンタウイルス同定時期をまたいでおり、後になって国内の実験用ラットの供給網が全般的にソウルウイルスに汚染されていたことが明らかになった。この事例は特定された微生物や寄生虫が存在しないSpecific Pathogen Free(SPF)実験動物や動物実験施設のバリア化の普及につながる大きな契機になったと言われている。日本のネズミも抗体陽性、注意したい場所とは…これ以降、半世紀超にわたって日本ではハンタウイルス感染症の報告はないが、完全に安全とも言えない。たとえば、1996~98年にかけて全国の18検疫所が港湾地域で行った捕獲ネズミでの調査1)では、ハンタウイルス抗体陽性率は12.9%だった。また、2000~03年に北海道大学のグループが北海道、本州、四国、九州で行ったネズミの捕獲調査2)では、ネズミの種類別の抗体陽性率はアカネズミが1.0%、エゾヤチネズミが3.6%、ドブネズミが1.1%、クマネズミが6.7%。多くはないが、国内にもハンタウイルスは存在するのである。さらにもう1つ、ぎょっとする報告がある。実は1999年に米国・メイヨークリニックのグループが急性・慢性腎炎の約26%は、ハンタウイルス感染が原因の可能性があることを指摘した研究3)を発表した。これを受けて厚生労働省の研究班が、ハンタウイルス抗体陽性のネズミが確認された大阪港・神戸港近隣の大阪府・大阪市・神戸市・広島県・岡山県地域の8施設530例の透析患者に協力を得て、ハンタウイルスの抗体価を調査1)したところ、抗体陽性率は1.5%だったことがわかったのだ。概観すると、極めてまれとは言え、国内でも水面下でハンタウイルス感染症が発生している可能性が高いことになる。繰り返しになるが、むやみやたらと怖がるべきものではないし、恐怖訴求のつもりもないが、ネズミの排せつ物による汚染の可能性がある場所には近づかない、どうしても避けられない場合はマスクや手袋を着用するなどの対策は必要だろう。「ネズミの排せつ物による汚染の可能性がある場所」と聞いてもピンとこない人もいるかもしれないが、たとえば、亡くなった身内が居住し、長らく放置されていた家屋での遺品整理、ネズミが入り込む余地がある屋外の物置やガレージの整理・清掃などは、これに該当する。意外と身近に危険は潜んでいると言えるかもしれない。1)厚生労働科学研究成果データベース:我が国におけるハンタウイルス感染症(腎症候性出血熱)の疫学的検証(中間報告)2)Lokugamage N, et al. Microbiol Immunol. 2004;48:843-851.3)Patnaik M, et al. Am J Kidney Dis. 1999;33:734-737.

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第294回 増える診療所、減り続ける有床診療所 地域医療に懸念/厚労省

<先週の動き> 1.増える診療所、減り続ける有床診療所 地域医療に懸念/厚労省 2.18歳人口減少で、医療職の養成校の定員割れ深刻化、2040年へ確保を/厚労省 3.小規模クリニック苦境、医療・福祉倒産が3年連続最多/東京商工リサーチ 4.病院サイバー対策を強化、クラウド移行支援へ/政府 5.抗がん剤取り違えで乳児死亡 県立こども病院医師を減給処分/静岡県 6.奥能登の新病院構想、集約化か産科維持かで議論/石川県 1.増える診療所、減り続ける有床診療所 地域医療に懸念/厚労省厚生労働省の医療施設動態調査によると、2026年2月末時点の全国の病院数は7,972施設となり、前年同月比で75施設減少した。病院数は1990年の1万96施設をピークに減少が続いており、2025年には8,000施設を割り込んでいる。その一方で、一般診療所は10万5,548施設で、前年同月比407施設増となったが、その内訳をみると無床診療所が増える一方で、有床診療所の減少が続いている。有床診療所は2月末時点で5,080施設、病床数は6万6,672床となり、いずれも減少傾向にある。直近1年間では月平均約19施設、約348床のペースで減少しており、現在のペースが続けば2026年7月には5,000施設、6万5,000床を割り込み、2027年には6万床を下回る可能性も指摘されている。有床診療所は、在宅医療や高齢者医療、急性期病院からの受け入れなど、地域包括ケアを支える重要な役割を担っている。2次医療圏によっては総病床数の4分の1を有床診療所が占める地域もあり、その減少は地域医療体制の脆弱化につながることが懸念されている。厚労省はこれまで診療報酬改定で、有床診療所を「専門特化型」と「地域包括ケア型」に分類し、在宅患者や介護施設利用者の受け入れ評価、慢性透析患者対応、地域連携分娩管理加算などの支援策を拡充してきた。2026年度同改定でも入院基本料引き上げなどのテコ入れが行われている。しかし、減少傾向には歯止めがかかっていない。背景には経営難に加え、後継者不足や医師・看護師確保の困難さがあるとみられる。地域包括ケアシステムや高齢者医療を支える役割が期待される中、有床診療所の維持をどう図るかが今後の大きな課題となっている。 参考 1) 医療施設動態調査(2026年2月末概数)(厚労省) 2) 病院数が前年同月比75施設減、厚労省調べ 一般診療所は407施設増(CB news) 3) 有床診療所は2026年2月末に5,080施設・6万6,672床に減少、2026年7月に5,000施設・6万5,000床を切る公算-医療施設動態調査(Gem Med) 2.18歳人口減少で、医療職の養成校の定員割れ深刻化、2040年へ確保を/厚労省少子高齢化が進む中、看護師やリハビリ専門職など医療関係職種の養成・確保が新たな政策課題として浮上している。厚生労働省は5月7日、「医療関係職種の安定的な養成・確保に関する検討会」の初会合を開き、医師・歯科医師・薬剤師を除く12職種について、横断的な対策の検討を始めた。対象は、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、救急救命士、診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技士、視能訓練士、義肢装具士、歯科衛生士、歯科技工士である。背景にあるのは、18歳人口の減少と養成校の定員割れである。2024年度の定員充足率は、診療放射線技師が103.2%と唯一100%を上回った一方で、看護師は89.6%、理学療法士は87.8%、救急救命士は82.6%にとどまった。言語聴覚士は72.9%、臨床検査技師は76.1%、作業療法士は66.5%で、歯科技工士は53.5%、臨床工学技士は57.0%と6割を下回った。看護師国家試験の受験者数も2021年の6万6,124人をピークに減少し、2025年は6万3,131人となった。厚労省の推計では、2021年から2040年にかけて18歳人口は23道県で4割以上減少する見通しで、秋田県、青森県、岩手県、福島県では5割前後の減少が見込まれる。森光 敬子医政局長は、「養成校の努力だけで充足率の改善を図ることは、なかなか見込めない」と述べ、地域ごとの対応が必要との認識を示した。その一方で、現場では高年齢の看護職員の存在感が増している。55歳以上の看護職員は2008年の17.1万人から2024年には41.3万人へと2.4倍に増え、このうち65歳以上は10.8万人だった。厚労省は、ミドルやシニア層が希望に応じて働き続けられる支援が重要になるとしている。検討会では、養成校の集約化や共同化、遠隔授業、サテライト施設の活用、奨学金、社会人の参入促進、リカレント教育、育児・介護と両立できる働き方などが論点となる。さらに、限られた人員で医療水準を維持するため、各職種の質の確保や役割分担、地域別の需給推計の必要性も指摘された。2040年に向け、医療・介護ニーズは複雑化する一方で、支え手は減少する。養成校の定員割れは単なる学校経営の問題ではなく、地域医療の持続可能性に直結する。厚労省は年内をめどに意見を取りまとめ、2027年度予算や制度改正につなげたい考え。 参考 1) 第1回 医療関係職種の安定的な養成・確保に関する検討会(厚労省) 2) 少子高齢化進む2040年に向けて、看護職・リハ職など12医療専門職種の養成・確保策の検討開始-医療職種養成・確保検討会(Gem Med) 3) 18歳人口が4割超減少 23道県で 21-40年に(CB news) 4) 看護師国試、21年をピークに受験者数が減少 OT・PT・STの受験者数は定員割れで推移(同) 5) 医療職種の養成校、定員割れ改善「見込めない」厚労省医政局長が認識(同) 6) 医療職種、入学定員割れが顕著 安定的な養成・確保が課題に(同) 7) 55歳以上の看護職員、16年で2.4倍増 24年は41.3万人 厚労省集計(同) 3.小規模クリニック苦境、医療・福祉倒産が3年連続最多/東京商工リサーチ医療・福祉分野の経営悪化が深刻化している。東京商工リサーチによると、2025年度の医療・福祉事業の倒産は478件で、前年度比10%増となり、1988年度以降で過去最多を3年連続で更新した。とくに老人福祉・介護事業が182件と最多で、障害者福祉や児童福祉でも倒産が増加した。また、従業員5人未満の小規模事業者が大半を占めていた。病院やクリニック、歯科医院に限った「医療機関」の倒産も71件とこの20年間で最多となった。内訳はクリニック32件、歯科医院31件、病院8件で、とくに歯科医院の増加が目立つ。原因の約9割は「販売不振」と「既往債務のしわ寄せ」で、患者減少に加え、人件費や光熱費、医療材料費の高騰が経営を圧迫している。倒産の97%超は破産で、経営再建の難しさも浮き彫りとなった。歯科分野では、歯科診療所と歯科技工所の倒産が計39件に達し、過去20年で最多となった。全国の歯科診療所は約6万6,000施設と、コンビニの店舗数を上回る水準にある。予防歯科や審美歯科など需要は多様化しているものの、競争激化に加え、高額医療機器への投資、後継者不足、材料費高騰が重荷となっている。とりわけ歯科技工所では、銀など貴金属価格の上昇に加え、中東情勢悪化によるナフサ不足の影響で、樹脂系材料も値上がりしている。診療報酬改定でベースアップ支援料が新設されたが、コスト増を吸収できるかどうかは不透明だ。コロナ禍ではゼロゼロ融資などで倒産が抑えられていたが、支援終了後に経営悪化が顕在化した形。人口減少と高齢化が進む中、医療提供体制の維持には、単なる補助金ではなく、業務効率化や地域再編、M&Aも含めた抜本的な対策が求められている。 参考 1) 2025年度の「医療機関」倒産 20年で最多の71件 クリニック・歯科医院の淘汰が加速、「破産」が97%超(東京商工リサーチ) 2) 医療・福祉の倒産、3年連続で過去最多 東京商工リサーチ調べ(日経新聞) 3) 「歯科関連」倒産が過去20年で最多 「あると助かるがコンビニより多い」 コロナ禍後に医療現場で起きている「支援終了」(AERA DIGITAL) 4.病院へのサイバー対策を強化、クラウド移行支援へ/政府政府は、大規模病院に対するサイバーセキュリティ対策を強化するため、クラウド型システムへの移行を支援する方針を固めた。今夏にまとめる官民投資のロードマップでは、「2030年までに地域の拠点病院のサイバー対策100%実施」という数値目標を盛り込む見通し。背景には、医療機関を狙ったサイバー攻撃の増加がある。2022年には大阪急性期・総合医療センターが攻撃を受け、救急患者受け入れを制限。2026年2月には日本医科大武蔵小杉病院で個人情報漏洩が発生したほか、市立奈良病院でも今年4月にシステム障害が起き、救急受け入れ停止や外来制限に追い込まれた。市立奈良病院では、ネットワーク監視装置が異常通信を検知し、電子カルテを含む一部システムを停止。手術延期や紙カルテ運用への切り替えを余儀なくされた。現時点で個人情報漏洩や悪意ある侵入は確認されていないものの、奈良市は外部有識者による調査委員会を設置し、再発防止策を検討する。政府は、経済安全保障推進法の改正に合わせ、医療分野を「基幹インフラ」に追加する方向で調整している。対象は病床数400以上、診療科16以上などを満たす全国88病院で、多要素認証やサイバー攻撃を想定したBCP(事業継続計画)策定などを点検する。現在、多くの病院では院内サーバーで管理する「オンプレミス型」が主流だが、更新や監視の負担が大きく、データ連携にも障壁がある。このため政府は、クラウド型への移行を促進し、システム開発企業や医療機関への財政支援を検討している。また、厚労省は2026年5月にも「医療情報システムの安全管理ガイドライン第6.1版」を公表する予定で、AI利用に伴う情報漏洩リスクや職員教育の重要性も新たな論点となっている。診療継続と患者情報保護の両立に向け、医療機関のセキュリティ体制強化が急務となっている。 参考 1) 病院のサイバー対策支援 クラウド移行、政府が予算措置 今夏に数値目標(日経新聞) 2) 巧妙化するサイバー攻撃 医療機関のセキュリティ見直し急務(RESCHOニュース) 3) サイバー攻撃疑いの市立奈良病院、救急受け入れと外来診療を停止(日経メディカル) 4) 市立奈良病院システム障害 奈良市が謝罪、原因特定調査「継続中」(奈良新聞) 5.抗がん剤取り違えで乳児死亡 県立こども病院医師を減給処分/静岡県2021年に静岡県立こども病院にて生後3ヵ月の乳児に抗がん剤を誤投与した医療事故で、病院を運営する県立病院機構は5月8日、担当していた49歳の男性医師を減給の懲戒処分とした。乳児は重い障害を負い、約10ヵ月後に死亡している。事故当時、乳児は急性白血病で入院中だった。医師は本来、静脈内に投与すべき抗がん剤を、脊髄を囲む「髄腔」内に誤って投与した。病院の事故調査報告書によると、医師は看護師から薬剤を受け取る際、確認を十分に行わず、髄腔内投与用と静脈投与用の薬剤を取り違えたという。乳児は誤投与後、自発呼吸ができなくなる重大な障害を負い、治療が続けられたものの、10ヵ月後に死亡した。事故を受け、医師は昨年、業務上過失傷害の罪で略式起訴され、罰金50万円の略式命令を受けていた。病院と遺族側との間では民事上の示談も成立している。県立病院機構は5月8日付で、医師に対し「1日分賃金の半額」の減給処分を実施した。また、監督責任を問い、当時の院長と内科系診療部長についても文書厳重注意とした。男性医師は「大変申し訳ないことをしてしまった」と述べている。坂本 喜三郎理事長は「あってはならない重大事案」とした上で、「安全・安心な医療を提供できるよう、再発防止に職員一丸となって取り組む」とコメントしている。今回の事故では、薬剤確認の不徹底というヒューマンエラーが背景にあったとされる。小児がん治療のような高度医療では、複数人による確認体制や投与経路確認の徹底が不可欠であり、医療安全対策のあり方が改めて問われている。 参考 1) 医療ミスで生後3ヵ月の乳児死亡 薬剤を誤投与した男性医師を減給処分 1日分の賃金を半分に 患者は急性白血病で入院(テレビ静岡) 2) 乳児に薬を誤投与、重大な障害を負い10ヵ月後に死亡 静岡県立こども病院の男性医師を減給処分(中日新聞) 3) 静岡県立こども病院で乳児死亡“薬取り違え”で医師を懲戒処分(NHK) 6.奥能登の新病院構想、集約化か産科維持かで議論/石川県石川県が進める奥能登地域の病院再編を巡り、産科医療体制のあり方が大きな論点となっている。県は、人口減少や医療従事者不足が深刻化する奥能登地域の4つの公立病院について、救急や入院機能を集約した新病院を能登空港周辺に整備する方針で、7日に検討会を開いた。会議では、奥能登の妊婦は新病院で妊婦健診を受ける一方で、分娩は七尾市や金沢市の病院で行う案が県側から示された。県は、「分娩には24時間対応できる複数の産科医や小児科医、麻酔科医、新生児対応体制など膨大な人的・物的資源が必要であり、現状では医療従事者の確保が困難」と説明した。これに対し、輪島市や穴水町などの自治体側からは強い反発が相次いだ。輪島市の坂口 茂市長は「安全だけでなく、住民の安心感も重要だ」と述べ、奥能登で出産できない状況が若者流出にもつながると懸念を示した。出席者からは「若者は住むなと言っているに等しい」との声も上がった。奥能登では、能登半島地震以前は市立輪島病院が地域唯一の分娩機能を担っていたが、過去の医療事故を受けて複数医師体制を構築してきた経緯がある。現在は地震後の影響もあり、金沢からの医師派遣が週2回程度に減少し、妊婦健診など外来対応のみとなっている。その一方で、県側は宿泊費支援や搬送体制整備などで安全性を担保したい考えで、山野 之義知事は「安全第一が共通認識」とした上で、地域の要望も踏まえて工夫を検討したいと述べた。石川県は今後、産科や小児医療の分科会を設置し、専門家も交えて議論を継続する。今年度中に新病院の基本構想をまとめる方針だが、開院までにはさらに6~7年程度かかる見通しで、地域医療と人口維持をどう両立させるかが問われている。 参考 1) 石川 奥能登地域の病院再編 産科の医療体制について議論(NHK) 2) 「能登に住むなってことか」奥能登新病院に「分娩機能なし」提案 首長から反発 山野知事「どんな工夫ができるのか」議論する(石川テレビ) 3) 奥能登の新病院で分娩実施せず 石川県が体制案 市町首長から反論(朝日新聞) 4) 奥能登の新病院構想 自治体要望の分べん機能導入 医療従事者不足で石川県は慎重姿勢(テレビ金沢)

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ハンタウイルスとは

ハンタウイルスとは?患者さんからの質問に答える(2026年5月7日時点)出典:WHO:Hantavirus(https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/hantavirus)CDC:About Hantavirus(https://www.cdc.gov/hantavirus/about/index.html)ECDC:Hantavirus infection(https://www.ecdc.europa.eu/en/hantavirus-infection)日本感染症学会:ハンタウイルス肺症候群(https://www.kansensho.or.jp/ref/d65.html)日本感染症学会:腎症候性出血熱(https://www.kansensho.or.jp/ref/d35.html)厚生労働省検疫所 FORTH:感染症情報(https://www.forth.go.jp/moreinfo/topics/infectious_disease_name.html)Copyright © 2026 CareNet,Inc. All rights reserved.Q.ハンタウイルスとは?⚫ ハンタウイルスとは、ブニヤウイルス科のハンタウイルス属の総称。⚫ 南北アメリカ大陸(カナダ、米国、アルゼンチン、チリ、パラグアイ、ボリビア、ペルー)でさまざまなウイルス種が特定されているが、いずれも特定のげっ歯類を宿主とする。⚫ ハンタウイルス肺症候群(HPS)と腎症候性出血熱(HFRS)を引き起こす。⚫ HFRSの原因ウイルスは1976年に韓国で同定・分離され、HPSは1993年に米国南西部の砂漠地帯で発生し、初報告された。出典:WHO:Hantavirus(https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/hantavirus)CDC:About Hantavirus(https://www.cdc.gov/hantavirus/about/index.html)ECDC:Hantavirus infection(https://www.ecdc.europa.eu/en/hantavirus-infection)日本感染症学会:ハンタウイルス肺症候群(https://www.kansensho.or.jp/ref/d65.html)日本感染症学会:腎症候性出血熱(https://www.kansensho.or.jp/ref/d35.html)厚生労働省検疫所 FORTH:感染症情報(https://www.forth.go.jp/moreinfo/topics/infectious_disease_name.html)Copyright © 2026 CareNet,Inc. All rights reserved.Q.感染経路は?⚫ 自然宿主であるネズミの排泄物(糞、尿、唾液)の吸入により感染するが、汚染された巣材や物品を直接触る、汚染された食事を飲食する、感染したネズミに咬まれる/引っかかれるなどで感染する。⚫ 基本的にヒトからヒトへの感染はまれだが、例外的にハンタウイルスの一種のアンデスウイルスによるヒト-ヒト感染事例が報告されている。出典:WHO:Hantavirus(https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/hantavirus)CDC:About Hantavirus(https://www.cdc.gov/hantavirus/about/index.html)ECDC:Hantavirus infection(https://www.ecdc.europa.eu/en/hantavirus-infection)日本感染症学会:ハンタウイルス肺症候群(https://www.kansensho.or.jp/ref/d65.html)日本感染症学会:腎症候性出血熱(https://www.kansensho.or.jp/ref/d35.html)厚生労働省検疫所 FORTH:感染症情報(https://www.forth.go.jp/moreinfo/topics/infectious_disease_name.html)Copyright © 2026 CareNet,Inc. All rights reserved.Q.流行地は?⚫ 世界全体では、毎年1万~10万人以上の感染が発生していると推定されている。⚫ 欧州では、ハンタウイルス属プーマラウイルスが流行している北部および中部地域を中心に、毎年数千例が報告されている。⚫ 南米諸国(アルゼンチン、ブラジル、チリ、パラグアイなど)では、発生率は米国に比べて低いが、ハンタウイルス肺症候群(HPS)による致死率は米国よりも高いとされる。出典:WHO:Hantavirus(https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/hantavirus)CDC:About Hantavirus(https://www.cdc.gov/hantavirus/about/index.html)ECDC:Hantavirus infection(https://www.ecdc.europa.eu/en/hantavirus-infection)日本感染症学会:ハンタウイルス肺症候群(https://www.kansensho.or.jp/ref/d65.html)日本感染症学会:腎症候性出血熱(https://www.kansensho.or.jp/ref/d35.html)厚生労働省検疫所 FORTH:感染症情報(https://www.forth.go.jp/moreinfo/topics/infectious_disease_name.html)Copyright © 2026 CareNet,Inc. All rights reserved.Q.症状は?(1)⚫ ハンタウイルスの潜伏期間は1~5週間程度(通常約2週間)とされ、症状は感染後1~8週間で出現するとされる。⚫ ハンタウイルス肺症候群(HPS)の主な初期症状には、倦怠感、発熱、筋肉痛(とくに太もも、腰、背中)があり、頭痛、めまい、悪寒、消化器症状(腹痛、吐き気、嘔吐、下痢)などを呈する。⚫ HPSの場合、発症初期から4~10日後に咳、息切れ、肺への体液貯留、ショックなどの症状が急速に進行する可能性がある。出典:WHO:Hantavirus(https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/hantavirus)CDC:About Hantavirus(https://www.cdc.gov/hantavirus/about/index.html)ECDC:Hantavirus infection(https://www.ecdc.europa.eu/en/hantavirus-infection)日本感染症学会:ハンタウイルス肺症候群(https://www.kansensho.or.jp/ref/d65.html)日本感染症学会:腎症候性出血熱(https://www.kansensho.or.jp/ref/d35.html)厚生労働省検疫所 FORTH:感染症情報(https://www.forth.go.jp/moreinfo/topics/infectious_disease_name.html)Copyright © 2026 CareNet,Inc. All rights reserved.Q.症状は?(2)⚫ ハンタウイルスによる腎症候性出血熱(HFRS)は通常、感染後1~2週間以内に出現するが、まれに症状出現までに8週間かかる場合もある。⚫ HFRSの主な初期症状は、頭痛、背中や腹部の痛み、発熱、悪寒、吐き気、顔面紅潮、目の炎症や充血、発疹などの出血症状など。⚫ HFRSの重症例は、有熱期、低血圧・急性ショック期(4~10日)、乏尿期(尿量減少、8~13日)、利尿期(尿量増加、20~28日)、回復期に分けられ、内出血、急性腎不全などがみられることがある。出典:WHO:Hantavirus(https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/hantavirus)CDC:About Hantavirus(https://www.cdc.gov/hantavirus/about/index.html)ECDC:Hantavirus infection(https://www.ecdc.europa.eu/en/hantavirus-infection)日本感染症学会:ハンタウイルス肺症候群(https://www.kansensho.or.jp/ref/d65.html)日本感染症学会:腎症候性出血熱(https://www.kansensho.or.jp/ref/d35.html)厚生労働省検疫所 FORTH:感染症情報(https://www.forth.go.jp/moreinfo/topics/infectious_disease_name.html)Copyright © 2026 CareNet,Inc. All rights reserved.Q.予後は?⚫ ハンタウイルス肺症候群(HPS)の致死率は40%程度**国内の発生例や輸入例の報告はない⚫ 腎症候性出血熱(HFRS)の致死率は、原因となるウイルスにより異なる**ため、1%未満から最大15%と言われている。**ハンタウイルスの一種であるプーマラウイルス、ハンターンウイルスなども原因となる出典:WHO:Hantavirus(https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/hantavirus)CDC:About Hantavirus(https://www.cdc.gov/hantavirus/about/index.html)ECDC:Hantavirus infection(https://www.ecdc.europa.eu/en/hantavirus-infection)日本感染症学会:ハンタウイルス肺症候群(https://www.kansensho.or.jp/ref/d65.html)日本感染症学会:腎症候性出血熱(https://www.kansensho.or.jp/ref/d35.html)厚生労働省検疫所 FORTH:感染症情報(https://www.forth.go.jp/moreinfo/topics/infectious_disease_name.html)Copyright © 2026 CareNet,Inc. All rights reserved.Q.診断方法、届け出は?⚫ 初期症状が類似する疾患(インフルエンザ、COVID-19、ウイルス性肺炎、レプトスピラ症、デング熱、敗血症)との鑑別が必要になる。⚫ 渡航歴、接触歴、臨床像などから本疾患を疑った場合には、行政検査が依頼される。⚫ 血液、肺組織からウイルスの分離・同定による病原体の検出、PCR法による病原体遺伝子の検出、血清学的検査が行われる。⚫ 感染症法で4類感染症に指定されており、診断した医師はただちに最寄りの保健所に届け出を行う。出典:WHO:Hantavirus(https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/hantavirus)CDC:About Hantavirus(https://www.cdc.gov/hantavirus/about/index.html)ECDC:Hantavirus infection(https://www.ecdc.europa.eu/en/hantavirus-infection)日本感染症学会:ハンタウイルス肺症候群(https://www.kansensho.or.jp/ref/d65.html)日本感染症学会:腎症候性出血熱(https://www.kansensho.or.jp/ref/d35.html)厚生労働省検疫所 FORTH:感染症情報(https://www.forth.go.jp/moreinfo/topics/infectious_disease_name.html)Copyright © 2026 CareNet,Inc. All rights reserved.Q.治療方法は?⚫ 対症療法(安静、水分補給、症状に対する治療)が行われる。⚫ 早期の集中治療管理(とくに肺浮腫、低酸素血症、低血圧に対する治療)が重要である。また、HFRSの場合は血液透析が必要になることもある。⚫ 現時点でハンタウイルスに対する特異的な抗ウイルス治療薬やワクチンは存在しない。出典:WHO:Hantavirus(https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/hantavirus)CDC:About Hantavirus(https://www.cdc.gov/hantavirus/about/index.html)ECDC:Hantavirus infection(https://www.ecdc.europa.eu/en/hantavirus-infection)日本感染症学会:ハンタウイルス肺症候群(https://www.kansensho.or.jp/ref/d65.html)日本感染症学会:腎症候性出血熱(https://www.kansensho.or.jp/ref/d35.html)厚生労働省検疫所 FORTH:感染症情報(https://www.forth.go.jp/moreinfo/topics/infectious_disease_name.html)Copyright © 2026 CareNet,Inc. All rights reserved.Q.予防・感染対策は?⚫ 流行地域では、げっ歯類との接触を避け、とくにネズミの尿、糞、唾液、巣材への接触を避ける。⚫ ネズミの糞を片付ける際には、清掃前に汚染部分を漂白剤で十分に湿らせ、その後ペーパータオルなどで拭き取り、ごみ袋に入れて廃棄する。乾拭きしたり、掃除機で吸い取ったりすることは避ける。⚫ ネズミが建物に侵入できる開口部を塞いだり、食品を安全に保管するために、容器に蓋をして管理する。出典:WHO:Hantavirus(https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/hantavirus)CDC:About Hantavirus(https://www.cdc.gov/hantavirus/about/index.html)ECDC:Hantavirus infection(https://www.ecdc.europa.eu/en/hantavirus-infection)日本感染症学会:ハンタウイルス肺症候群(https://www.kansensho.or.jp/ref/d65.html)日本感染症学会:腎症候性出血熱(https://www.kansensho.or.jp/ref/d35.html)厚生労働省検疫所 FORTH:感染症情報(https://www.forth.go.jp/moreinfo/topics/infectious_disease_name.html)Copyright © 2026 CareNet,Inc. All rights reserved.

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第312回 過熱報道が続くハンタウイルス、その起源はアジアだった!

INDEXハンタウイルス感染が明らかになるまでウイルスの由来主な症状とは過去の論文報告を見ると…ハンタウイルス感染が明らかになるまでここ数日、世間の報道では「ハンタウイルス」の言葉が飛び交っている。オランダのオーシャンワイド・エクスペディションズ社(以下、OE社)が運営するクルーズ船「MVホンディウス号」の乗客から、げっ歯類の排せつ物を通じて感染することが一般的なハンタウイルスに感染したと思われる死亡者が発生したためだ。この件に関する同社ホームページのニュースリリースの第1報は5月3日。その内容は、アフリカ西部の島国カーボベルデ沖に停泊中の同号船内で乗客3名が死亡、別の乗客1名が現在南アフリカ・ヨハネスブルグの病院において集中治療室(ICU)で治療を受けており、さらに乗組員2名が救急治療を必要としているというもの。ちなみにカーボベルデという国名を聞いたことがない人も多いだろうが、アフリカにある旧ポルトガル領の島国だ。人口は約60万人で、独立(1975年)からまだ半世紀しかたっていない。ただ、クーデターが頻発するアフリカ各国の中で数少ない、未遂も含めクーデター経験ゼロで複数政党制を採用している国である。5月4日の第2報で明らかにされたのが以下の事実関係だ。(1)4月11日:乗船中のオランダ人乗客1人が死亡(当時は死因不明)(2)4月24日:英領セントヘレナ島で死亡した乗客のオランダ人の妻が遺体とともに帰国のため下船(3)4月27日:OE社は、セントヘレナ島で下船した死亡乗客の妻も帰国中に体調が悪化し、死亡したとの報告を受けた。また乗船中のイギリス人乗客の容体が悪化し、南アフリカに搬送。後にこの乗客からハンタウイルスの変異株が検出された(4)5月2日:乗船中のドイツ人乗客が死亡(5)イギリス人とオランダ人の乗組員2名が急性呼吸器症状を呈する。1名が軽症、もう1名が重症。5月6日、中央ヨーロッパ時間14:45発表の最新のニュースリリースまでの状況は、船内での医療搬送必要者は前出の乗組員2名を含む3名に増加。乗組員の重症度はともに重症となり、新たな搬送必要者は5月2日に死亡したドイツ人乗客の近親者で無症候だという。すでに乗組員2人はオランダに搬送され、残る1名も現在航空機で搬送中。さらにMVホンディウス号はカーボベルデを離れ、現在はスペイン領カナリア諸島に向かっている。また、スイス政府は6日、同号を下船してスイスに帰国した(上記とは別の)夫婦の夫がハンタウイルスに感染したことを発表している。ウイルスの由来さて、今回のハンタウイルス騒動に関する国内の報道については、私自身はやや過熱しすぎだと感じている。厚生労働省も冷静な対応を呼びかけるポストをX(旧Twitter)に投稿しているほどだ。確かにOE社の5月4日の発表では、この日時点での乗員乗客149人(死者1人を含む)の中に日本人乗客1人が含まれてはいる。ただ、現在船内にいる乗員・乗客には不快に思える表現になってしまうかもしれないが、現状は感染がクルーズ船内に事実上封じ込められているため、各国にとってただちに公衆衛生上の問題に発展することは少ないと考えられる。私個人は「ネズミの排せつ物を介して感染するハンタウイルスというウイルスがあり、国内外でネズミなどの排せつ物などを見かけた場合、あるいはそういう可能性があるとわかった場所は避けましょう」という知識を持っておけばよいぐらいに考えている。さてそのハンタウイルス、医療者の中でも初めて聞いたという人もいるかもしれない。たまたま私は簡単な知識は有していた。以前から繰り返し言及しているが、私の取材領域の1つが国際紛争だからである。というのも、ハンタウイルスが同定されたきっかけは1950年に勃発した朝鮮戦争であり、同戦争は第2次世界大戦後から現在までにアジア圏で起きた最も大規模な戦争であるため、そこそこ以上にその戦史には目を通しているからだ。さらに余談になるが、現在の南北朝鮮の事実上の国境となっている休戦ライン「軍事境界線」上にある双方の共同警備区域「板門店」には南北双方から訪れた経験がある。ハンタウイルス発見のきっかけとなったのは、朝鮮戦争中の1951年春から初夏にかけて、北緯38度線周辺の朝鮮半島中部の激戦地帯で、原因不明の腎性出血熱が多発した件である。とくに患者が集中したのは、現在の韓国北部を流れる漢灘江(ハンタンガン)周辺で、1951~54年の間に発生した患者数は3,000例前後と伝わっている。当時は「韓国出血熱」と呼ばれていたが、韓国・高麗大学校名誉教授の李 鎬汪(イ・ホワン)氏が1976年にウイルスの同定・分離に成功し、発生地帯だった漢灘江にちなんで「ハンターンウイルス」と命名された。李氏の発見は、既往者の血清が漢灘江周辺で捕獲されたセスジネズミの肺組織中の抗原に反応したことに起因しており、ネズミが自然宿主であることも同時にわかっている。この流行が起きた朝鮮戦争当時は、兵士が山岳地帯や野戦陣地・塹壕で長期間活動しており、そこに入り込んだネズミの排せつ物の乾燥粉塵を吸い込んだ結果と現在では考えられている。その後、同類のウイルスの発見が相次ぎ、1987年に国際ウイルス分類委員会(ICTV)によって、これらのウイルス群をまとめる新しい分類として「ハンタウイルス属」が新設された。その後、自然宿主別の分類変更が行われ、現在ハンタウイルスと報道されているものは、小型哺乳類を自然宿主とする「オルトハンタウイルス属」を指している。主な症状とはオルトハンタウイルス属に入るウイルスは、種類として60種類あり、主なものとしては、前出のハンターンウイルスのほかにソウルウイルス、アンデスウイルス、シンノンブレウイルスなどがある。ハンタウイルス感染症はウイルスの種類によって病型に違いがあり、前出の4種類のウイルスに関して言えば、前者2種類が俗にヨーロッパ・アジア型ともいわれる腎症候性出血熱(HFRS)、後者2種類が俗に南北アメリカ型と呼ばれるハンタウイルス肺症候群(HPS)の原因となっている。HFRSの初期症状は発熱、頭痛、軽度の血尿などで重症化すると低血圧や急性腎不全に至る。感染者の約3分の1では出血傾向が認められ、致死率はソウルウイルスでは1%未満といわれ、ハンターンウイルスでは5~15%。一方、HPSの初期症状は発熱や咳、筋肉痛などで、時に嘔吐や下痢も出現する。HPSは急速に呼吸不全につながることも少なくなく、呼吸器症状を呈した人での致死率は約38%。HPSの致死率については4割を超えるとの報告もある。HFRS、HPSとも少なくとも致死率だけはかなり高い。ただ、HFRSの10%を超える致死率報告は、透析技術なども進化していなかった発見当初のデータともいわれ、現状は限りなく最小値の5%前後に近づいているとの指摘もある。過去の論文報告を見ると…冒頭で述べたように、ハンタウイルスの感染はほとんどが宿主のげっ歯類、単純に言えばネズミの排せつ物のエアロゾルを吸い込むことで起こるが、アンデスウイルス(報道では「アンデス型」との用語も使用)に関しては、ヒト-ヒト感染も報告されている。そしてやや困ったことは、南アフリカ保健省は南アフリカに搬送され、ハンタウイルス感染が確認された症例からは、このアンデスウイルスが分離されたと発表している。もっとも、アンデスウイルスでのヒト-ヒト感染は、過去の報告を見ると、▽長時間接触▽同居▽治療・ケア担当▽体液曝露などがあったケースに限られる。また、ざっくりと論文検索すると、過去に報告されたヒト-ヒト感染例の主な発生地域は南米のチリとアルゼンチンであり、直近で公表されたアンデスウイルスでのヒト-ヒト感染のシステマティックレビューで抽出された症例数も30例に満たない1)。こうして見ると、やはり世の中全体として、「ハンタウイルス」と騒ぐほどではないのが実際ではないだろうか? もちろん今現在MVホンディウス号に乗船中の人にとっては気が気でないことは想像に難くない。そしてすでに報じられていることだが、ハンタウイルスをターゲットとした治療薬は存在しない。ただ、1991年に中国で行われたHFRS患者242例を対象としたリバビリン静注の無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験の結果では、死亡率や出血症状の有意な減少が認められたと報告されている2)。また、アメリカではHPSに対するリバビリンの無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験が行われたが、こちらは症例集積に時間を要して研究は途中で終了となり、途中までエントリーされた症例での群間比較では、有意差は認められなかったと報告されている3)。これ以外ではハンタウイルスがRNAウイルスということもあり、基礎研究などでは厄介な感染症に対する“何でも屋”的な存在になりつつあるファビピラビルの効果も研究されているようだ。そしてこのウイルスの「ワクチンはない」と報じられているが、実は中国、韓国では独自のワクチンが承認されている。このうちハンタウイルスの第1発見国である韓国で開発された「ハンタバックス」(3回接種)の臨床研究を見ると、急性腎障害(AKI)のステージ3への進展予防(重症化予防効果)が58.1%と算出されたものの、非接種群と比べ有意差がないという結果になっている。この研究は症例数が少ないため、有意差が出なかったと指摘されているが、もし有意差があったとしてもエンドポイントとの兼ね合いから考えれば、効果が限定的ともいえる。また、あくまでHFRSの原因となるハンタウイルスへの効果に過ぎず、HPSの原因となるアンデスウイルスなどへの効果は疑問視され、汎用性は低いと指摘されている。いずれにせよ厄介な感染症であることには変わりないが、今回の事案は冷静に知識を蓄える機会と割り切るのが一番よいかもしれない。参考1)Toledo J, et al. J Infect Dis. 2022;226:1362-1371.2)Huggins JW, et al. J Infect Dis. 1991;164:1119-1127.3)Mertz GJ, et al. Clin Infect Dis. 2004;39:1307-1313.

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学会抄録のかたちにまとめる【「実践的」臨床研究入門】第63回

これまでの連載を通じ、架空の臨床シナリオを題材に、「漠然とした臨床上の疑問」であるクリニカル・クエスチョン(CQ)を「具体的で明確な研究課題」であるリサーチ・クエスチョン(RQ)に変換し、段階的にブラッシュアップしてきました。さらに、仮想データ・セットを用いて、EZR(Easy R)による基本的な統計解析手法の実際についても解説してきました。今回からは、これまでに得られた解析結果も含め、学会抄録のかたちにまとめてみたいと思います。構造化抄録学会抄録や原著論文のAbstractは、現在も多くの場合、IMRAD形式と呼ばれるかたちでまとめられています。IMRADとは、Introduction、Methods、Results、And Discussionというそれぞれの頭文字を取った略語です。日本語抄録では「背景・目的」、「方法」、「結果」、「考察・結論」という見出しで示されることが一般的です。しかし、IMRAD形式の抄録では研究方法に関する特定情報を迅速に把握しにくいことがあり、著者によってはそもそも重要な方法論の記述が十分になされていないこともあります。臨床研究における重要な特定情報とは、たとえば、研究デザインやP(対象)やIまたはE(介入または曝露要因)、O(アウトカム)といった構成要素とそれらの定義など、です。構造化抄録とは、IMRAD形式のうち、とくにMethods(方法)の記述の粒度を高め、より細分化して明示的な見出し(ラベル)を付した形式を指します。構造化抄録の典型的な構成要素は以下の通りです。Background(背景):研究の目的や重要性を簡潔に記載Objective(目的):研究の具体的な問い(RQに相当)Design(研究デザイン):研究デザインの種類(例:ランダム化比較試験、コホート研究、など)Setting(セッティング):研究が行われた場所や施設(例:単施設・多施設、外来・入院、大学病院・プライマリケア、など)Patients/Participants(対象):参加者数、主要な選択基準・除外基準Intervention/Exposure(介入または曝露):比較した介入内容(観察研究の場合は曝露要因)Measurements(評価項目):主要な評価指標(プライマリアウトカム)Results(結果):主要な結果(数値データ、信頼区間、p値など)Conclusions(結論):結果に基づいた結論とその臨床的意義このような構成は、JAMAやBMJ、Annals of Internal Medicineなどのトップジャーナルが定めるAbstractの形式に近く、近年では国内外で広く浸透しつつあります。構造化抄録はIMRAD形式の枠組みを拡張したものであり、読者が研究の内容や質をより迅速かつ明確に理解、評価する助けとなります。これまでの連載内容を踏まえ、われわれの研究を下記の通り構造化抄録のかたちにまとめてみました(連載第40回、41回、44回、45回、47回、53回、59回参照)。【背景】たんぱく質摂取制限は慢性腎臓病(CKD)進行抑制に推奨されているが、厳格な低たんぱく食(Low protein diet:LPD)の遵守と腎予後との関連については十分に検討されていない。【目的】保存期CKD患者において、推定たんぱく質摂取量(estimated daily protein intake:eDPI)と末期腎不全(ESKD)発症リスクおよび推定糸球体濾過量(eGFR)低下速度との関連を検討する。【研究デザイン】後ろ向きコホート研究【セッテイング】単施設外来【対象】成人保存期CKD患者(ネフローゼ症候群は除外)638例の連続症例。【曝露要因】24時間蓄尿検体からMaroni式を用いてDPIを推定し、0.5g/kg標準体重/日未満を厳格LPD遵守あり群(212例)、以上を遵守なし群(426例)として分類した。【評価項目】ESKD発症(維持透析導入または先行的腎移植)およびeGFR年間低下速度(mL/min/1.73m2/年)。【結果】平均観察期間3.9年において、ESKD発症率に両群間で有意差は認められなかった。Cox比例ハザード回帰モデルによる解析では、年齢、性別、糖尿病の有無、収縮期血圧、ベースラインeGFR、尿たんぱく定量、血清アルブミン値、ヘモグロビン値で調整した結果、厳格LPD遵守あり群のESKD発症に対する調整ハザード比は0.82(95%CI:0.60~1.14、p=0.24)であった。一方、多変量重回帰分析の結果、eGFR年間低下速度は厳格LPD遵守あり群が遵守なし群よりも2.03mL/min/1.73m2/年緩徐であった(95%CI:1.61~2.45、p<0.001)。【結論】非ネフローゼ症候群の保存期CKD患者において、DPI0.5g/kg標準体重/日未満の厳格なLPDの遵守はESKD発症リスクの低下とは関連しなかったが、eGFR低下速度の抑制に寄与する可能性が示唆された。

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第317回 妊娠高血圧腎症の血液ろ過治療が小規模試験で有効

抗体を使った血液ろ過による妊娠高血圧腎症治療が少人数の臨床試験で効果を示しました1-4)。妊娠高血圧腎症は命を落とすこともある妊娠中の重大な合併症で、高血圧を引き起こして母親と赤ちゃんの両方に深刻な害を及ぼす恐れがあります。残念ながらこれといった根本治療法はありません。妊娠高血圧腎症の進展につれて、胎盤が放つタンパク質のsFlt-1が増加します。sFlt-1は血管新生を促すVEGFやPLGFを阻止する抗血管新生因子として知られ、妊娠高血圧腎症の発症の主因の1つと目されていますsFlt-1を狙う抗体を妊婦に投与することが治療の手立てとなりそうですが、いかんせん胎児への害が心配です3)。そこでCedars-Sinai Medical CenterのAnanth Karumanchi氏らは抗体を体内に投与するのではなく、体外でsFlt-1を除去する手段を開発しました。その方法は抗sFlt-1抗体入りの吸着剤を詰めた血液ろ過(アフェレーシス)装置を使います。患者の血液を一旦体外に出し、透析に似た要領でその装置をくぐらせて体内に戻すことで血中のsFlt-1を除去します。まず妊娠したヒヒ(baboon)で試したところ、血中のsFlt-1の量がおよそ半減しました。続いて、出産にはまだ早い妊娠高血圧腎症の妊婦16例に試したところやはりsFlt-1濃度が低下し、動脈圧が低下しました。また、動脈圧の低下とsFlt-1濃度の低下が強く関連しました。そして何よりなことに妊娠をより長く保つ効果も示唆されました。入院してからの妊娠が中央値で10日間維持され、未治療の場合の見込み(4日間)2)を2倍超上回りました。母親の有害事象は軽微でした。軽度の低カルシウム血症が3例、針を指した部位の皮膚出血が1例、仮性陣痛が1例に生じました。赤ちゃんへの重大な害は認められませんでした。赤ちゃんの出産を急いで母親の命を繋ぎ止めることが今のところ妊娠高血圧腎症への唯一の対処法です。それはとりも直さず超早産の心配事と隣り合わせです。今回開発されたsFlt-1ろ過手段が使えるようになれば超早産の危機をより柔軟に乗り越えうるようになる、とCedars-Sinaiの産婦人科の長であるSarah Kilpatrick氏は言っています4)。今回の試験の位置付けはあくまでも予備試験(pilot trial)です。次の段階として、開発された手段が妊娠を確実に延長しうるかどうかや経過の改善をもたらすかどうかを、より大人数の対照群ありの試験で調べる必要があります2)。ちなみに、sFlt-1を体外で取り除く試みは他にもあり、たとえば15年ほど前の2011年にはsFlt-1を吸着するデキストラン硫酸セルロース(DSC)によるアフェレーシスの予備試験の結果が報告されています。妊娠高血圧腎症の3例がDSCアフェレーシスを複数回受け、入院後の妊娠が長ければ23日間保たれました5)。 参考 1) Thadhani R, et al. Nat Med. 2026 Apr 27. [Epub ahead of print] 2) Medicine: Blood filtering may provide treatment for preeclampsia / Nature. 3) Could blood filtering help treat one of pregnancy’s most deadly conditions? / Scientific American 4) Study: New preeclampsia treatment may safely extend pregnancy / Eurekalert 5) Thadhani R, et al. Circulation. 2011;124:940-50.

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妊婦・授乳婦・透析患者の尿路感染症、何を処方する?【Dr.山本の感染症ワンポイントレクチャー】第26回

Q26-1 妊婦・授乳婦の尿路感染症、何を処方する?妊婦、授乳中の方の尿路感染症で、使いやすい処方を教えてください。Q26-2 透析患者の尿路感染症、抗菌薬の選択は?ほとんど自尿がない透析患者では、尿路感染症への抗菌薬は何を選択すればよいでしょうか?

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第313回 救急患者争奪戦が激化の予感(後編)「地域最多救急病院」の判断は「病床機能報告のデータ等」に基づいて確認、「自院の救急搬送件数の8割以上の実績を有する他の医療機関」には搬送件数の照会必要

ホルムズ海峡封鎖は農業、医療に多大な影響こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は久しぶりに、茨城県の桜川市真壁町で有機農業をやっている大学の先輩のところに、農作業の支援に行ってきました。作業は春の定番、キュウリ、トマト栽培用の支柱立てとネット張りです。思えば、20年以上、この作業の手伝いをやってきているのですが、いまだにネット張りはうまくいったためしがなく、ナイロンのネットが展開時にぐちゃぐちゃになってしまいます。農作業は向かないなと実感させられる瞬間です。夜はワラビとフキを入れた猪鍋(実は豚肉)に筍ごはんという春のご馳走でした。先輩は料理を作りながら、「戦争で窒素などの化学肥料の供給危機が報道されているが、うちは有機なので幸いその影響はない。ただ、ナフサ不足でナイロンなどの化学繊維の価格が上がることで、農業用資材のコストは相当上昇するだろう」と浮かない顔でした。ホルムズ海峡封鎖の影響で、石油由来のナフサが高騰、注射器、手袋、カテーテル、透析用器具などの医療用資材が供給不足・価格高騰に陥っていますが、私たちの口に入るさまざまな食べ物(野菜や魚類など)への影響もこれから徐々に出始めるでしょう。戦争は本当に厄介ですね。人口20万人以下の医療圏で複数の急性期病院がある地域では激しい救急患者争奪戦の可能性さて、前回に引き続き、2026年度診療報酬改定で新設された2区分の急性期病院一般入院基本料(急性期病院A:看護配置7対1病棟で1日1,930点、同B:看護配置10対1病棟で1日1,643点)について書いてみたいと思います。前回詳しく書いたように、「急性期病院A一般入院料(以下、急性期病院A)」は、高度な救急・手術実績を持つ病院向けで、主に都市部における「急性期拠点機能」を想定しているようです。一方、「急性期病院B一般入院料(以下、急性期病院B)」は、主に人口減少地域などで急性期医療を担う病院を対象としていると考えられます。施設基準等からも明らかなように救急搬送件数が取得のカギであり、いずれも多数の救急患者が必要なため、病床過剰地域では病院間で救急患者の争奪戦が勃発しそうです。とくに「急性期病院B」の要件には、「人口20万人未満地域で二次医療圏内の搬送件数最大かつ1,000件以上」があり、搬送件数最大の1病院のみが対象となります。そのため、人口20万人以下の医療圏で複数の急性期病院がある地域では、激しい救急患者争奪戦が起こる可能性があります。では実際に、今ある各地の急性期病院はどんな動きを見せ始めているのでしょうか。日赤グループは90病院中45病院、徳洲会グループは31病院中24病院が「急性期病院A」メディファクスは、4月6日付で日本赤十字社のグループ病院、4月10日付で徳洲会グループの取得見込みを報じています。同紙によれば、「日本赤十字社は、グループ90病院のうち45病院が急性期病院A一般入院料の施設基準を満たすと見込んでいる」と報じています。また、「急性期病院Bは17病院の届け出を見込んでいる。内訳は、急性期一般入院料1からの届け出が11病院、入院料2からが4病院、入院料4からが2病院」としています。このほかに「急性期病院A」の基準を満たしているものの併設が認められない地域包括ケア病棟を持つ病院が5施設あるとのことで、同紙の取材に医療事業推進本部の渡部 洋一本部長は「現在の地域ニーズに基づき確保している地ケア病棟だが、今後も引き続き必要とするのかどうか、地域の中で判断すべき課題と受け止めている」と話したとのことです。一方、徳洲会グループ(3月末時点89病院)については、現在、「急性期一般入院料1を算定する31病院のうち、24病院が『急性期病院A一般入院料』を、6病院が『急性期病院B一般入院料』を届け出る見通し」と報じています。そして、「急性期Aを目指す24病院のうち10病院は、300床以上を有するグループの中心的な施設で、残り14病院は200~300床の規模となる」とのことです。なお、「急性期病院A」は「救急搬送件数:年2,000件以上」に加え、「全身麻酔手術件数:年1,200件以上」が要件となっており、これについて徳洲会グループの岸良 洋一部長(大阪本部医事部)は「とくに全麻手術件数は病床数に影響を受ける。200床未満で基準を満たすのは厳しい」との見方を示しています。全身麻酔手術件数を満たせず「急性期病院B」を選択する病院も各地の急性期病院の今後の動きについては、日経ヘルスケア4月号も特集記事「徹底分析!2026年度診療報酬改定」で詳細に報じています。同記事では、医療法人徳洲会・岸和田徳洲会病院(大阪府岸和田市、400床)、社会医療法人愛仁会の千船病院(大阪市西淀川区、308床)、高槻病院(大阪府高槻市、477床)、明石医療センター(兵庫県明石市、392床)、社会医療法人仁医会・牧田総合病院(東京都大田区、290床)などが、「急性期病院A」を届け出る予定とのことで、いずれもかなりの増収が見込まれるとしています。「急性期病院B」については、「届け出る医療機関の状況は多岐にわたりそうだ」として、社会医療法人水光会・宗像水光会総合病院(福岡県福津市、300床)や、医療法人永生会・南多摩病院(東京都八王子市、170床)、医療法人董仙会・恵寿総合病院(石川県七尾市、386床)のケースなどを紹介しています。宗像水光会総合病院は現状ある地域包括医療病棟を急性期病棟に転換する考えを示し、南多摩病院はその病床規模から「急性期病院A」の要件「全身麻酔手術件数:年1,200件以上」を満たせず「急性期病院B」を選択するとのことです。恵寿総合病院も看護配置7対1などを満たせず「急性期病院B」の選択になるとしています。 「地域最多救急病院」の判断について「直近の病床機能報告のデータ等に基づき確認」と厚労省が疑義解釈発出こうして医療メディアの報道を見てくると、「急性期病院A」は都市部で概ね250床以上の中規模・大規模病院で、救急や手術に積極的な「急性期拠点機能」を担う病院が選択することになるようです。一方、「急性期病院B」は200床に満たない病院も含め、都市部で「高齢者救急・地域急性期機能」に対応したり、地方で「急性期拠点機能」を展開したりする病院が選択することになるようです。もっとも、「急性期病院B」は地域包括ケア病棟との併存は可能ですが、地域包括医療病棟と併存させることはできないことから、ケアミックスの手法については近隣の医療機関も含めての体制再構築が求められることになります。ちなみに、厚生労働省保険局医療課は4月21日付で「急性期病院B一般入院料」、「急性期総合体制加算」で求める「地域最多救急病院」として届け出る場合の疑義解釈を発出しています。それによれば、「自院が所属する二次医療圏に所在する医療機関のうち、救急搬送件数が最多(地域最多救急病院)であることをどのように判断するか」との問い対し、「直近の病床機能報告のデータ等に基づき、当該医療機関が所属する二次医療圏において救急搬送件数が最多であることを確認した上で、届出を行うこと。この際、当該二次医療圏において、自院の救急搬送件数の概ね8割以上の実績を有する他の医療機関が存在する場合、又は新設、再編若しくは統合等により自院を上回る救急搬送件数となる可能性のある医療機関が存在する場合には、必要に応じて、当該医療機関に対し前年度の救急搬送件数を照会する等により確認を行うこと」としています。つまり、病床機能報告のデータ等で確認し、ライバル医療機関がある場合は、そこの搬送件数も確認しろ、ということのようです。救急患者争奪戦は単なる患者獲得に加えて、ある意味「情報戦」の側面も持つことになるかもしれません。

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第58回 【解説】医療機器サプライチェーンの危機:日米が直面する「透析インフラ」の脆弱性

近年、私たちの生命維持に直結する医療インフラが思わぬ形で脅威にさらされています。現在、日本とアメリカの双方で、人工透析などに不可欠な医療機器の供給危機が表面化しています。引き金となった原因は両国で異なりますが、浮き彫りになったのは「医療物資のサプライチェーンが抱える構造的な脆弱性」という共通の課題です。本稿では、日米それぞれの現状と今後の見通しについて解説していきます。中東情勢が直撃する日本現在、日本が直面しているのは、中東情勢の悪化に端を発するプラスチック原料「ナフサ」の世界的欠乏による直接的な打撃です。日本やアジアの医療機器メーカーは、製造工程において中東産のナフサに大きく依存しています。ロイター通信の報道によると、ナフサの供給不足により、国内シェアの大部分を占める医療機器メーカーのタイやベトナム工場で生産に遅れが生じ始めています1)。影響は深刻で、人工透析に使用されるチューブなどの「透析回路」は、早いもので2026年8月ごろから国内への出荷が困難になる可能性が指摘されています。また、手術用の廃液容器に至っては4月半ばで供給が途絶える見込みとされています。日本国内には約34万人(2024年末時点)の透析患者がおり、代替品の確保や調達先の多角化は待ったなしの状況です2)。 政府も危機感を強めており、高市政権下で経済産業省などがエネルギーの安定供給を含めた対応策の整理を急いでいるようです。構造的弱点が露呈した米国一方、アメリカの状況は日本とは少し異なります。アメリカでは、国内で豊富に採れる天然ガス由来の「エタン」をプラスチックの主な代替原料としているため、今回の中東情勢を起因とするナフサ不足の直接的な影響は受けていません。しかし、それならアメリカで全く問題がないのかといえば、そうではありません。アメリカもまた透析回路をはじめとする医療機器の深刻な不足にあえいでいるのです。その原因は、サプライチェーンの「極端な寡占化」と「製造拠点の偏在」という構造的な弱点にあるようです。アメリカでは、2025年初頭に主要サプライヤーの工場で発生した製造・供給トラブルの余波が現在も長引いており、FDAのリストでも血液回路が全国的な不足状態の物品に指定されています3)。 過去にも自然災害による特定工場の被災で全米の透析液が枯渇する事態が起きており、単一の企業や地域に過度に依存するリスクが恒常的に顕在化しているのです。命をつなぐインフラを守るための課題と今後の展望「原材料の海外依存(日本)」と「サプライヤーの寡占化(米国)」。原因は違いますが、一部の供給網の乱れが即座に患者の命を脅かすというリスクは日米共通です。この危機を乗り越えるため、日米の現場では使用機材の最大限の節約と、重症患者への優先使用といった運用レベルの対応が迫られています。さらに抜本的な対策として、米国腎臓学会は政府に対し、透析関連物資を自然災害や有事に備える「国家戦略備蓄」に正式に組み込むよう強く求めています4)。日本においても、今回のナフサ不足を教訓とし、調達ルートの多角化や国内製造基盤の支援、さらには重要医療物資の国家的な備蓄体制の構築が不可欠となるでしょう。グローバル化に伴い、いわば効率化されすぎてしまったサプライチェーンを、いかに強靱なものにしていくか。日米の医療現場と政府は今、大きな岐路に立たされているといえるでしょう。 1) Reuters(ロイター通信)「ナフサ供給不足に関する報道」2026年3月27日(参照日:2026年4月17日) 2) 日本透析医学会(JSDT)統計調査委員会「わが国の慢性透析療法の現況(2024年12月31日現在)」日本透析医学会ホームページ(統計調査資料)(参照日:2026年4月17日) 3) U.S. Food and Drug Administration (FDA), “Disruptions in Availability of Hemodialysis Bloodlines - Letter to Health Care Providers,” 2025 Mar 14. (参照日:2026年4月17日) 4) American Society of Nephrology (ASN), “RE: CMS-1516-ANPRM-Medicare Program; Ensuring Safety Through Domestic Security with Made in America Personal Protective Equipment (PPE) and Essential Medicine Procurement in Medicare Participating Hospitals” (comment letter), 2026 Mar 30.(参照日:2026年4月17日)

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1型糖尿病合併CKDに対するフィネレノンの可能性と限界―FINE-ONE試験が示したもの(解説:石上友章氏)

 1型糖尿病合併CKDに対する腎保護は、2型糖尿病合併CKDとは景色が異なる。2型ではSGLT2阻害薬が腎・心血管保護の中核に位置付けられ、そこにフィネレノンをどう上乗せするかが論点になりやすい。一方、1型では今なおインスリンを基盤とした良好な血糖管理が治療の根幹であり、KDIGOも1型では血糖管理の基盤をインスリンと整理している。さらにDCCT/EDICは、早期からの強化血糖管理が腎症を含む合併症の発症・進展抑制につながることを示しており、1型糖尿病合併CKDではまず血糖管理の質そのものが腎保護の出発点である。近年はCGM活用の重要性も一段と高まっている。 そのうえでFINE-ONE試験は、RAS阻害薬投与下の1型糖尿病合併CKD患者において、フィネレノンが6ヵ月時点のUACRを有意に低下させた点で意義深い。もっとも、その効果は手放しでは評価できない。高カリウム血症は増加し、eGFRは治療中により低下した一方、washout後にはeGFR差が縮小し、UACR改善もやや減弱した。したがって本剤の効果の少なくとも一部は、糸球体内圧変化を含むhemodynamicな機序を介した可逆的・機能的変化である可能性がある。これはRAS阻害薬や従来のステロイド性MRAにも通じる現象であり、本試験だけで長期腎予後や構造的腎保護を断定するのは早い。ただし、1型糖尿病合併CKDで新たな上乗せ治療の選択肢を示した意義は小さくない。 SGLT2阻害薬との比較では、2型糖尿病の経験をそのまま1型に持ち込めない点にも注意が必要である。FINE-ONE試験では、少なくともスクリーニング前8週間以内のSGLT2/1阻害薬またはGLP-1受容体作動薬使用例が除外されており、1型糖尿病合併CKDでフィネレノンとSGLT2阻害薬の優劣を直接論じられる設計ではない。加えて米国では、ダパグリフロジンは1型糖尿病の血糖管理適応を有しておらず、DKAリスク増加への注意喚起がなされている。欧州でも1型糖尿病適応は撤回されている。したがって現時点での本試験の位置付けは、「1型糖尿病合併CKDでは血糖管理とRAS阻害薬が主軸であり、そのうえにフィネレノンという新たな腎保護オプションが加わった」とみるのが最も妥当だろう。なお、民族差やアジア人集団での解釈は、今回の試験規模では探索的にとどまると受け止めたい。

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第291回 診療報酬「ベースアップ評価料」の対象が拡大、5月中の再届出が必須/厚労省

<先週の動き> 1.診療報酬「ベースアップ評価料」の対象が拡大、5月中の再届出が必須/厚労省 2.麻しん236人、コロナ後最多ペース 10~20代中心に感染拡大/小児学会 3.中東情勢緊迫化で医療物資「目詰まり」 5月に手袋5,000万枚放出/内閣府 4.2040年の外科医不足に備え、がん治療の拠点病院を再編へ/厚労省 5.医師偏在対策の柱・地域枠が再設計へ 2028年度以降は定員減も/厚労省 6.医療機関倒産、20年で最多 人件費高騰が経営圧迫/東京商工リサーチ 1.診療報酬「ベースアップ評価料」の対象が拡大、5月中の再届出が必須/厚労省人件費や物価の上昇で経営環境が厳しさを増すなか、厚生労働省はクリニックや中小病院に対して支援策を拡充し、日本医師会はその活用を呼びかけている。国は2026年度の「働き方改革推進支援助成金」を拡充し、常勤10人未満の小規模事業所では賃上げ加算の上限を引き上げ、最大300万円を上乗せできるようにした。労務管理研修やソフト導入、勤務間インターバル導入、時間外労働削減などの取り組みに応じ、補助上限は最大520万円となる。加えて、月60時間以内の時間外労働の割増賃金率を5%以上引き上げた場合の加算も新設された。その一方で、診療報酬ではベースアップ評価料が見直され、対象職種は看護師や薬剤師に加え、40歳未満の医師や歯科医師、事務職員にも広がった。点数も大幅に引き上げられ、継続的な賃上げを行う医療機関はより高く評価される。しかし、診療所の届出率は病院よりも低く、無床診療所59.2%、有床診療所70.0%にとどまっている。6月の診療報酬改定に向けて、算定するためには医療機関は5月中に必ず届出を行う必要がある。また、2024年度にすでに届け出ている医療機関も再届出が必要となる。賃金改善計画書は不要となり、手続き負担は軽減された。さらに、評価料収入は全額を賃上げに充てること、8月の実績報告に備えて対象職員数や賃上げ実績を整理しておくことが重要となる。人材流出を防ぎ、他産業に見劣りしない処遇改善を進めるためにも、診療所は助成金と評価料を組み合わせて活用する姿勢が求められる。 参考 1)働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)(厚労省) 2)令和8年度診療報酬改定ベースアップ評価料による賃上げについて(日医) 3)日医がベースアップ評価料の積極的な算定を呼びかけ、届け出率は無床診療所で約6割(日経メディカル) 4)日医がベースアップ評価料の届け出を呼びかけ(MEDICAL TRIBUNE) 2.麻しん236人、コロナ後最多ペース 10~20代中心に感染拡大/小児学会麻しん(はしか)の感染拡大が続いている。2026年4月上旬までに報告された患者は236人に達し、新型コロナ禍後で最多だった2025年(265人)を上回るペースで推移している。感染者は10~20代が半数を占め、若年層を中心に流行の兆しが強まっている。麻しんは極めて感染力が強く、免疫を持たない場合ほぼ100%発症するほか、肺炎や脳炎など重篤な合併症を引き起こす可能性がある。わが国は2015年に世界保健機関(WHO)から「排除状態」と認定されたが、近年は海外からの持ち込みを起点とした感染が続いている。世界的にも患者数は増加しており、各国で流行が拡大している。国内ではコロナ禍の水際対策で患者数は一時減少したが、2023年以降は増加に転じた。地域別では東京都が最多で、鹿児島県、愛知県と続く。とくに都市部での感染が目立ち、成人を含む若年層への広がりが確認されている。背景にはワクチン接種率の低下がある。麻疹の排除維持には2回接種で95%以上の接種率が必要とされるが、現状はこれを下回っている。感染者の半数以上が未接種、1回接種、あるいは接種歴不明であり、十分な免疫を持たない層の存在が流行拡大の要因となっている。麻しんへの予防接種は1歳時と小学校入学前の2回接種で高い予防効果が得られる。日本小児科学会は、接種歴を確認し未接種や不明の場合は任意接種を検討するよう呼びかけるとともに、発熱や発疹などの症状がある場合は事前連絡のうえで医療機関を受診するよう求めている。流行抑制には、ワクチン接種の徹底と早期受診が不可欠だ。 参考 1)麻しん累積報告数の推移 2019~26年 (JIHS) 2)2026年における麻疹患者数増加に関する注意喚起 (小児科学会) 3)はしか感染、230人超 新型コロナ後で最多ペース-10~20代が中心(時事通信) 4)はしか感染者増加“子どもの定期接種確実に”日本ワクチン学会(NHK) 5)海外からの流入・予防接種率低下等で麻疹(はしか)流行の兆し、適切なワクチン接種(定期・任意)と医療機関受診を-小児科学会(Gem Med) 3.中東情勢緊迫化で医療物資「目詰まり」 5月に手袋5,000万枚放出/内閣府中東情勢の緊迫化による原油・ナフサ供給不安が、医療物資の流通に影響を及ぼしている。政府は4月16日に「中東情勢に関する関係閣僚会議」を開き、対策として感染症流行に備え備蓄している医療用手袋約5億枚のうち、5,000万枚を2026年5月から医療機関向けに放出する方針を決定した。放出対象は、採血や検査で用いる非滅菌手袋で、新型コロナウイルス感染症医療機関等情報支援システム(G-MIS)を通じて医療機関が必要量を申請し供給される仕組みを整備する。厚生労働省によると、医療物資の供給不安に関する相談はメーカー・卸・医療機関を合わせ2,956件に上り、うち34件が供給に影響ありと判断された。消毒液や透析関連物資など一部は解決が進む一方で、透析用チューブや滅菌関連資材などでは中長期的な供給不安が残る。医療機関からの相談は急増しており、需給逼迫の兆しが強まっている。背景には、医療用手袋やガウン、チューブなど多くの医療消耗品が石油由来であり、原料のナフサを中東に依存している構造がある。現場では価格上昇や出荷制限の動きもみられ、手術や透析など生命維持医療への影響を懸念する声が上がる。実際に通販業者では購入制限が導入され、需給の不安定化が流通段階にも波及している。政府は約1.3万の医療機関から情報収集できるシステムを稼働させ、専門チームを増員して供給状況の把握と対策を強化している。また、アジア諸国との連携によるサプライチェーン強靭化にも着手し、エネルギー供給の安定化を通じた医療物資確保を図る方針。医療物資の安定供給は、エネルギー安全保障と一体の課題となっており、短期対応と中長期対策の両立が求められる。 参考 1)石油関連製品の供給不足に伴う厚生労働分野の影響・対応について(厚労省) 2)中東情勢に関する関係閣僚会議(首相官邸) 3)高市首相 5月から医療用手袋5,000万枚の備蓄放出を表明(NHK) 4)高市首相、医療用手袋5,000万枚放出表明 中東情勢で確保困難(毎日新聞) 4.2040年の外科医不足に備え、がん治療の拠点病院を再編へ/厚労省厚生労働省は、4月16日に「がん診療提供体制のあり方に関する検討会」を開き、高度ながん治療を担う病院の集約化を進める方針を明確にした。従来は全国どこでも一定水準のがん医療を受けられる「均てん化」を重視してきたが、今後は人口減少や医師不足、医療の高度化を踏まえ、質の高い治療を維持するために「集約化」との両立へ軸足を移す。とくに消化器外科では担い手不足が深刻で、現状のままでは2040年にがん治療を担う外科医が約9,200人と足元から39%減り、需要の5,200人を下回る見通しとなっている。一般の医師数は増加している一方で、一般外科医・消化器外科医はこの10年で減少し、若手ほど減り幅が大きい。長時間労働や負担に見合わない処遇が背景にあり、外科医がいる病院の約半数で消化器外科医は1~2人にとどまる。こうした状況から、厚労省は食道がんや膵がんなど高難度手術を拠点病院や大学病院へ集約し、希少がんでは県域を超えた集約も視野に入れる。その一方で、胃がんや大腸がんの標準的手術、長期の薬物療法や検診などは地域の医療機関で担う考え。今後は、新たな地域医療構想と連動し、各医療機関の機能を2028年度までに整理し、第9次医療計画へ反映する。がん診療連携拠点病院の整備指針も見直され、指定期間は最長3年に短縮される見通しで、構想や医療計画との整合性を高める。もっとも、都道府県ごとの議論の進捗にはばらつきが大きく、実施時期未定の地域も多い。国によるデータ提供や技術支援を強化しつつ、患者の受療アクセス低下を防ぎながら、医療の質、病院経営、勤務環境改善を両立できる再編を進められるかが焦点となる。 参考 1)第20回がん診療提供体制のあり方に関する検討会(厚労省) 2)がん医療・地域医療構想・医療計画等を連動させ「集約化すべき病院、高度医療の内容」等を明確化する-がん診療提供体制検討会(Gem Med) 3)がんの医療体制、地域医療構想と連動して整備へ 厚労省案 「28年度までに決定」(CB news) 4)がん手術維持へ病院集約 40年に外科医5,000人超不足、厚労省(日経新聞) 5.医師偏在対策の柱・地域枠が再設計へ 2028年度以降は定員減も/厚労省医師偏在対策の柱として拡大してきた医学部の地域枠が、現在見直しの局面に入っている。厚生労働省は、4月17日に開催した「医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会」で、2027年度の医学部臨時定員の調整方法を了承し、医師多数県を中心に削減を進めつつ、へき地尺度などを用いて一部地域では削減幅を緩和する方針を示した。医学部定員に占める地域枠などは2007年度の173人から2025年度には1,847人へと増え、全体の19.9%を占めるまで拡大しており、医学部定員9,393人のなかで大きな比重を占めている。この拡大は2008年度以降の臨時定員増を背景とするが、近年は医師数の増加ペース見直しの議論が進み、今後は臨時定員の縮減とともに、地域枠を恒久定員内で運用する方向が示された。検討会では、2027年度以降は医師多数県の臨時定員削減を基本としつつ、へき地尺度や高齢化の進展を踏まえて調整する方針を確認した。さらに2028年度以降は、医師多数県に限らず定員適正化を進める方向性が示され、量的拡大から質的最適化への転換が明確になりつつある。地域枠の制度設計も見直し対象となっている。現在は卒後9年以上の地域勤務が求められ、一定期間を医師不足地域で従事する仕組みとなっているが、義務履行中断者が約7%に上るなど、若手医師のライフイベントや専門医取得との両立が課題となっている。厚労省の資料でも、仕事と育児の両立志向の高まりなど、若年層の価値観変化が制度運用に影響していることが示されている。実際、日経メディカルの調査では「地域枠は必要だが見直しが必要」との回答が約半数を占め、当事者では6割近くに達した。背景には、都市部の生活の利便性や教育環境、キャリア形成機会の偏在があり、単なる配置義務では地域定着につながらない現実がある。地域枠は一定の成果を上げつつも、若手医師の価値観変化や医師需給の転換期を受け、制度疲労が顕在化している。今後は定員管理、勤務環境改善、経済的インセンティブを組み合わせた総合的な再設計が求められる。 参考 1)医師の確保・偏在対策における医学部臨時定員の方針について(厚労省) 2)今後の地域枠等の運用について(同) 3)27年度臨時定員、へき地尺度で多数県の削減幅を緩和 検討会が了承(MEDIFAX) 4)地域枠、医師48%が「従事期間や奨学金の利息見直しが必要」(日経メディカル) 6.医療機関倒産、20年で最多 人件費高騰が経営圧迫/東京商工リサーチ東京商工リサーチの調査によると、2025年度に倒産した医療機関(病院、診療所、歯科医院)は前年度比20.3%増の71件となり、過去20年で最多を更新した。コロナ禍では支援策により低水準に抑えられていたが、収束後の2023年度以降は53件、59件、71件と増加が続き、経営の悪化が顕在化している。業態別では診療所が32件、歯科医院が31件といずれも最多で、とくに歯科は前年度比1.5倍と急増した。その一方で、病院は8件と減少したものの、依然として高い水準にある。負債規模では1億円以上の案件も多く、中堅規模以上の医療機関の倒産が目立つ点も特徴だ。原因は「販売不振」が66%を占め、「既往のシワ寄せ」と合わせ約9割に達した。人口減少による患者数減少や診療報酬改定の影響に加え、光熱費や人件費、医療材料費の上昇により収益構造が悪化している。さらに、経営者の高齢化や人手不足、設備の老朽化も重なり、経営継続が困難となるケースが増えている。倒産形態は破産が69件で全体の97%を占め、再建型の民事再生は2件にとどまった。医療機関は収益規制や後継者不足などから再建が難しく、退出に直結しやすい構造が浮き彫りとなっている。医療機関の倒産は地域の医療提供体制に影響を及ぼし、とくに高齢化が進む地方では受診機会の喪失につながる懸念が強い。2026年6月の診療報酬改定の効果は不透明で、今後、公的支援の強化に加え、M&Aなどを含めた医療機関の再編・集約が一層進む可能性がある。 参考 1)2025年度の「医療機関」倒産 20年で最多の71件 クリニック・歯科医院の淘汰が加速、「破産」が97%超(東京商工リサーチ) 2)25年度の医療機関倒産、過去20年で最多の71件 商工リサーチ調べ(日経新聞)

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第309回 ホルムズ海峡封鎖、不足が懸念される医療資材とは

INDEXホルムズ海峡封鎖が医療問題にも発展か日本のナフサ対策と現状ホルムズ海峡封鎖が医療問題にも発展かイランと米国・イスラエルによる戦争は、現時点では2週間の停戦が継続中で、一部では停戦期間の延長とともにイランと米国の停戦協議が続けられると報じられている。一方、イランにより事実上封鎖されていたペルシャ湾入り口のホルムズ海峡では、この停戦期間中に米海軍が進出し、イランへの逆封鎖に転じた。情勢は今も不透明で、気まぐれな米国・トランプ大統領の発言にも左右される状況である。先日、本連載(第303回)では原油、液化天然ガス(LNG)の供給不安化をもとに今後の電気料金上昇の影響を試算したが、昨今では石油製品の一種である「ナフサ」の供給不安が各メディアで報じられている。ナフサは、エチレン、プロピレン、ブタジエン、ベンゼン、トルエン、キシレンといった石油化学基礎製品の原料であり、これからもわかる通り、ナフサの供給不安は国内の幅広い消費財の供給に影響を及ぼす。石油化学工業協会(JPCA)によると、2024年のナフサ輸入量は約2,056万kLで、うち中東からの輸入割合は73.6%。原油と違って国家備蓄はなく、民間在庫は国内消費の20日分程度といわれている。国内の石油化学工業各社は現在、米国や中南米などへ輸入先の転換を図っているとされる一方、関連各社からは自社製品の値上げや出荷制限の発表が相次いでいる。この状況は医療関連製品も無縁ではないのは多くの人が承知していることだろう。ナフサを原料とする医療資材は、ざっと挙げるだけでも、透析装置部品(透析回路、廃液容器、輸液バッグなど)、注射器、輸液バッグ、カテーテル、輸液ライン、人工血管・人工心肺回路、手術用手袋・ガウン・マスク、検査キット・診断用ディスポ製品、消毒薬原料(アルコール・フェノール系)、医薬品原料(合成薬の中間体)、医薬品添加物(ワセリンなど)、医薬品包装(PTPシートなど)と多岐にわたるからだ。実際、透析を行う医療機関の不安の声などはすでにメディア各社によって報じられているほか、科学・産業機器や病院・介護用品の商社であるアズワンは医療用ニトリル手袋や注射針回収ボックスなどの出荷制限を始めた。今のところこの件に関して、いわゆるパニックバイと呼ばれるような供給不安に基づく買い占めは起きていない模様だ。これは一般大衆と違い、医療者はある程度の情報リテラシーがあることや、ナフサの供給不安定化の影響があまりにも広範囲過ぎてどうしてよいかわからないという2つの要素があるのだろうと個人的には感じている。日本のナフサ対策と現状もちろん国も手をこまねいているわけではなく、厚生労働省と経済産業省は「中東情勢の影響を受ける医薬品、医療機器、医療物資等の確保対策本部」(本部長:上野 賢一郎厚生労働相・赤沢 亮正経済産業相)を設置し、3月31日に初会合が開かれ、これまで4月16日までに3回の会合が行われた。同対策本部ではメーカーや卸業者向けと医療機関向けの相談窓口を開設し、医療機関126施設を対象とした定点観測の実施、広域災害救急医療情報システム(EMIS)を用いたオンラインによる随時報告システムの運用も始めている。16日現在、両窓口に寄せられた相談は2,956件で、供給に影響が及んでいると判断された資材は34件、うち10件は当面の供給は解決済みとしている。こうした中で注目すべきは、高市 早苗首相のある行動だ。高市氏は4月5日、X(旧Twitter)であるポスト(投稿)を行った。端的に要約すれば、今年6月までに日本のナフサ供給が途絶する可能性を指摘した報道番組を受け、現在の国内のナフサ在庫量や今後の調達見通しなどに関して具体的な数字をあげて、「報道番組の指摘は現実とは異なる」旨を伝えたものだ。実は現代のSNS社会を念頭にパニックバイを防ぐために専門家などから指摘されている有効な手段が「供給量の可視化」と「初動の迅速な情報発信」の2つであり、高市首相のポストはこれをおおむね兼ね備えている。とくに首相自身のXは約285万人のフォロワーがおり、厚生労働省、経済産業省のそれぞれ公式Xのフォロワー数(前者が約100万人、後者が約34万人)とは比較にならない拡散力を持つ。私自身は職責の性格上(?)、あまり政治家の行動を褒めることはないのだが、これについては明らかなファインプレーだと思っている。ただし、国としては、これを首相個人の功績で終わらせるのではなく、公的に受け継いで信頼性の高い情報発信をできるかが、今回の供給不安を終息させるカギを握ると考えている。そのうえで高市氏のポストの内容で個人的にちょっと惜しいと感じたのは、在庫の開示や現実の調達能力に関して「◯ヵ月」「kl/月」が入り混じっていたところである。少なくとも石油化学製品のサプライチェーンに関しては、医療者も素人であり、とくに前者の「在庫◯ヵ月」はイメージが湧きにくい。これを平時の国内の調達量と、現在の在庫量・調達量をすべてkl単位で定期的に比較公表すれば、おそらく国民の多くがより信頼性の高い情報と認識するだろうし、そこで平時とあまり変わらない在庫量・調達量が示されれば、安心感も増すだろう。もちろんこの方式を取れば、実際に調達量が細ってきたときは不安に駆られる人も出てくる。しかし、この場合は細った調達量に対して、どのような対策を打っているかをリアルタイムで開示していけばよい。これで医療者も含めた国民の不安のかなりの部分は解消できるはずである。

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IgA腎症、イプタコパンが有効~APPLAUSE-IgAN最終解析/NEJM

 イプタコパンは、補体代替経路の補体B因子を標的とする強力な経口補体阻害薬。「APPLAUSE-IgAN試験」の9ヵ月時点の中間解析で、急速な疾患進行のリスクが高いIgA腎症患者において、本薬はプラセボと比較して24時間尿蛋白/クレアチニン比の有意な減少(38.3%の減少、p<0.001)をもたらし、安全性プロファイルは許容範囲内であることが示されたため、すでに原発性IgA腎症の治療薬として米国食品医薬品局(FDA)の迅速承認を得ている(本邦ではIgA腎症に対しては未承認)。英国・University of LeicesterのJonathan Barratt氏らは、今回、同試験の24ヵ月時の最終解析を実施。イプタコパンはプラセボと比較して腎機能低下を有意に減速させたことを報告した。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2026年3月29日号で発表された。国際的な無作為化プラセボ対照第III相試験 APPLAUSE-IgAN試験は、日本の施設も参加した国際的な二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2021年1月~2025年9月に患者を登録した(Novartisの助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、ACE阻害薬やARBなどによる支持療法にもかかわらずIgA腎症を認め(生検で確定)、推算糸球体濾過量(eGFR)≧30mL/分/1.73m2、24時間尿蛋白/クレアチニン比≧1の患者であった。 被験者を、イプタコパン(200mg、1日2回)またはプラセボを経口投与する群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、24ヵ月間にわたるeGFRの年間総変化量とした。副次エンドポイントとして、複合腎不全エンドポイント(eGFRのベースラインとの比較で30%以上の低下が4週間以上持続、eGFR<15mL/分/1.73m2の状態が4週間以上持続、維持透析[4週間以上]の導入、腎移植の実施、腎不全による死亡)のtime-to-event解析も行った。eGFRの年間総変化量が有意に良好 477例を登録し、イプタコパン群に238例(平均[±SD]年齢39.7[±11.6]歳、男性56.3%)、プラセボ群に239例(39.2[±12.5]歳、50.6%)を割り付けた。それぞれ18.9%および36.8%の患者が、主にeGFRの30%以上の低下が原因で試験薬の投与を中止した。 24ヵ月の時点でのeGFRの年間総変化量(最小二乗平均)は、イプタコパン群が-3.10mL/分/1.73m2/年と、プラセボ群の-6.12mL/分/1.73m2/年に対し、低下の勾配が有意に緩徐であった(群間差:3.02mL/分/1.73m2/年、95%信頼区間[CI]:2.02~4.01、補正後のp<0.001)。 また、複合腎不全エンドポイントの発生率は、イプタコパン群が21.4%と、プラセボ群の33.5%と比べて有意に低かった(ハザード比[HR]:0.57、95%CI:0.40~0.81、p=0.003)。 もう1つの副次エンドポイントである9ヵ月時の24時間尿蛋白/クレアチニン比<1の患者の割合は、イプタコパン群が43.9%とプラセボ群の17.5%に比べて有意に高かった(群間差:26.4%[95%CI:18.7~34.0]、オッズ比[OR]:4.45[2.79~7.09]、p<0.001)。有害事象の8割が軽度~中等度 有害事象の発生率は、イプタコパン群で87.0%、プラセボ群で89.1%であった。イプタコパン群で頻度の高い有害事象は、COVID-19(21.0%)、上気道感染症(16.0%)、上咽頭炎(10.1%)であった。同群の有害事象の重症度別の発生率は、軽度が46.6%、中等度が34.0%、重度が6.3%だった。 重篤な有害事象は、イプタコパン群で12.2%、プラセボ群で11.7%に発現し、重篤な感染症はそれぞれ6.7%および2.1%にみられた。試験薬との関連が疑われた有害事象は20.2%および20.5%、試験薬の投与中止に至った有害事象は4.6%および4.6%に発現した。死亡例は認めなかった。 著者は、「イプタコパン群は慢性的なeGFR低下の発生率がプラセボ群の約半分であり、腎機能の全体的な低下の幅も著明に小さかった」とし、「イプタコパンは、進行リスクの高いIgA腎症患者において、腎機能の低下の速度を有意に減速した」と結論付けている。また、「本試験は、尿蛋白高値に基づき進行リスクが高いと判定されたIgA腎症を対象としており、低リスク例におけるイプタコパンの効果は不明である」と指摘している。

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第290回 はしか急増、3月末で全国に197人 接種歴確認と2回接種が急務/厚労省

<先週の動き> 1.はしか急増、3月末で全国に197人 接種歴確認と2回接種が急務/厚労省 2.中東情勢悪化で医療現場に不安 EMIS活用して在庫把握へ/厚労省 3.医師偏在に現場が危機感、4割が開業規制支持 地域格差是正へ/日経新聞 4.オンライン診療を医療法に明記 96項目の遵守事項で安全確保/厚労省 5.OTC類似薬に25%負担 医療保険改革が審議入り、応能負担強化へ/政府 6.看護専門学校の定員割れ深刻化 2040年見据えた人材確保策を議論/厚労省 1.はしか急増、3月末で全国に197人 接種歴確認と2回接種が急務/厚労省麻疹(はしか)の感染拡大が続いている。国立健康危機管理研究機構(JIHS)によると、2026年第13週までの全国累計患者数は197人に達し、前年同時期の3倍超と、2020年以降で最も速いペースで増加している。東京都48人、鹿児島県24人、愛知県23人が多く、海外流行地からの持ち込みを起点に国内感染が広がった可能性が高い。麻疹は空気感染し、免疫のない人は同じ空間にいるだけで感染し得るうえ、肺炎や脳炎など重い合併症を招くこともあるが、特効薬はない。唯一有効な予防策はワクチン接種で、MRワクチン2回接種が基本となる。日本感染症学会も、流行防止には2回接種率95%以上が必要だと注意喚起をしている。東京都では4月10日時点の患者数が速報値で97人に達し、昨年同時期の10倍超となった。10~30代が約9割を占め、接種歴が1回のみ、あるいは不明な若年成人の脆弱性が浮き彫りになっている。千葉県では今年22例目が確認され、昨年通年に並んだほか、川崎市でも4月だけで複数例が報告された。厚生労働省は、発熱や発疹がある場合は事前に医療機関へ連絡し、公共交通機関を避けて受診するよう求めている。接種歴の確認と未完了者への追加接種が急務となる。 参考 1) 感染症発生動向調査(IDWR)2026年第13週(国立健康危機管理機構) 2) 麻しん(はしか)が世界・国内で増加しています(日本感染症学会) 3) 空気感染するはしか、増加続く 厚労省が接種徹底と注意呼びかけ(Science Portal) 4) はしか患者3月までに197人、コロナ禍後最多だった前年同時期の3倍以上…子どものワクチン接種呼びかけ(読売新聞) 5) はしかの全国感染者数 1週間の新たな感染者30人 感染者数高止まり(日テレNEWS) 2.中東情勢悪化で医療現場に不安 EMIS活用して在庫把握へ/厚労省中東情勢の悪化を受け、石油由来原料を使う医薬品、医療機器、医療物資の供給不安が医療現場で強まっている。厚生労働省と経済産業省の対策本部によると、4月8日時点で医療機関やメーカー・卸業者からの相談は計543件に上り、このうち16件が安定供給に影響ありと判断された。透析回路や医療用手袋など10件はなお対応検討中であり、政府は流通段階の「目詰まり」解消を急ぐとしている。政府は現時点で「直ちに供給が滞る状況ではない」と説明する一方で、医療7団体は買い占めや過剰発注が連鎖すれば、供給不足や価格上昇を招きかねないと懸念を表明した。上野 賢一郎厚生労働大臣との意見交換では、需給見通しの正確な情報発信や、必要量に見合った発注の徹底、医療機関同士で物資を融通できる体制整備を求める声が相次いだ。とくに医療用手袋など日常的に消費する物資への警戒感が強い。厚労省は10日から、災害時に使う広域災害救急医療情報システム(EMIS)を活用し、全国約1万3,000の病院などから在庫や受け入れ状況をオンラインで把握する体制を開始した。今後は定点観測や相談窓口、EMISによる情報収集を通じて需給逼迫の兆候を早期に捉え、厚労・経産両省と医療団体が連携して、安定供給を維持する構え。焦点は、実際の不足が起きる前に冷静な発注行動と情報共有で市場不安を抑え込めるかにある。 参考 1) EMISポータルサイト(厚労省) 2) 医師会ら “医療用物資の需給情報発信し安定的な確保”要請(NHK) 3) 厚労省 医療用物資の調達 災害時にシステム活用で経産省と連携(同) 4) 医療機関1.3万ヵ所から物資の供給状況把握へ 厚労省 災害時システムで10日から情報収集(CB news) 5) 医療物資の供給把握 厚労省、システム運用 全国1.3万の病院(日経新聞) 3.医師偏在に現場が危機感、4割が開業規制支持 地域格差是正へ/日経新聞医師の地域偏在・診療科偏在が深刻化する中、医師自身の間でも自由開業の規制を求める声が強まっている。日本経済新聞と日経メディカルの共同調査では、「開業規制が必要」との回答は42%で、「必要ない」の21%を大きく上回った。地域偏在を深刻とみる回答は46%、診療科偏在も47%に達し、現場の危機感が明確となった。偏在の認識は地域で差が大きく、東京23区では29%にとどまる一方、町村では65%に達する。人口10万人当たり医師数などを基にした偏在指標でも、東京都と岩手県で約2倍の格差があり、西日本に多く東日本に少ない「西高東低」の傾向も続く。勤務医ほど規制支持が強く、病院勤務医では46%が必要と回答したのに対し、開業医では賛否が拮抗した。こうした背景には、現行の自由開業制の下で都市部・人気診療科への集中が進み、地域医療の持続性が揺らいでいる現状がある。厚生労働省の医師確保計画見直しでは、医師偏在は「地域」と「診療科」の二重構造で進行し、とくに外来中心の診療所医師が都市部に偏在している点が課題とされている。政府は改正医療法に基づき、2026年4月から「外来医師過多区域」を設定し、新規開業者に対し在宅医療や夜間対応、医師不足地域での診療などを要請できる制度を開始した。応じない場合には保険医療機関の指定期間短縮というディスインセンティブも設けたが、あくまで要請ベースにとどまる。その一方で、厚労省の資料では、医師確保は単なる配置の問題にとどまらず、勤務環境やキャリアパス、地域医療構想との整合的な政策が不可欠とされる。そのため、単純な規制だけではなく、地域勤務へのインセンティブやタスクシフト、医療提供体制の再編といった総合的な対策が求められている。先述のアンケートの自由回答でも「自由開業制を続ける限り偏在は解消しない」との声がある一方で、「過疎地への誘導策が重要」との指摘も多い。規制と誘導の最適な組み合わせが、今後の医師偏在対策の焦点となる。 参考 1) 野放図な開業を医師も危惧、4割「規制を」 大都市・診療科の偏り加速(日経新聞) 2) 医師の42%が「開業規制が必要」と回答、「不必要」にダブルスコア(日経メディカル) 3) 外来医師過多区域に係る候補区域の公表について(厚労省) 4) 医師確保計画の見直し等に向けたとりまとめ(同) 5) 医師偏在解消に向け、2026年4月から外来医師過多区域・重点医師偏在対策支援区域を設定し対応を強化-地域医療構想・医療計画検討会(Gem Med) 4.オンライン診療を医療法に明記 96項目の遵守事項で安全確保/厚労省2026年4月1日、改正医療法に基づくオンライン診療の関連規定が施行され、これまで通知や指針を中心に運用されてきたオンライン診療が、医療法上明確に位置付けられた。厚生労働省は施行に先立ち、医療機関向けチェックリストを通知し、計96項目の遵守事項と14項目の推奨事項を整理。オンライン診療の提供面では34項目、提供体制では62項目を求め、安全性と適正実施の徹底を図る。新ルールでは、オンライン診療は対面診療の代替ではなく補完とされ、医師は診療の都度、医学的観点から実施の可否を判断し、不適切な場合は速やかに対面診療へ切り替える必要がある。患者への事前説明と同意取得も必須で、触診ができず得られる情報が限られること、対面診療を組み合わせる必要があること、診療計画や急変時対応などを説明しなければならない。初診からのオンライン診療は原則として「かかりつけ医」が行うが、休日夜間やかかりつけ医不在時など例外的に他医師が行う場合は、診療前相談を経た上で、対面診療へ確実につなぐ体制整備が求められる。処方では初診時の麻薬・向精神薬投与や長期処方を制限し、メールやチャットのみで完結する診療も認めない。加えて、通信環境やセキュリティ対策も厳格化され、システムの安全性確認やアクセス管理、情報漏洩対策などが医療機関の責務として明確化された。今回の法改正では、患者がオンライン診療を受ける場所として「オンライン診療受診施設」も制度化された。公共施設などを活用した受診環境整備が可能となる一方で、広告規制も拡大され、受診施設に関する表示も新たな規制対象となる。こうした制度整備の背景には、医療アクセス改善への期待がある。日経新聞・日経メディカルの調査では、医師の51%が「オンライン診療は地域偏在の緩和に寄与する」と回答した。ただ、届け出医療機関はなお限定的で、導入コストや対面より低い診療報酬が普及の壁として残っている。今後は安全確保と普及促進をどう両立させるかが焦点となる。 参考 1) (医療機関向け)基準等遵守の確認をするためのチェックリスト(厚労省) 2) オンライン診療の実施に際し患者に対して説明すべき内容のチェックリスト(同) 3) オンライン診療の基準、厚労省がチェックリスト 順守事項に計96項目挙げる(CB news) 4) 医師の51%が遠隔診療に期待 地域偏在対策、普及へ報酬増求める声(日経新聞) 5) 改正医療法によるオンライン診療規制に伴う医療広告規制の変容~その1 医療広告規制と「オンライン診療受診施設に関する広告」規制~(のぞみ総合法律事務所) 5.OTC類似薬に25%負担 医療保険改革が審議入り、応能負担強化へ/政府4月9日、政府が国会に提出した健康保険法等改正案が衆議院本会議で審議入りした。今回の改革は、増大する社会保障費と現役世代の保険料負担の抑制を背景に、「給付と負担の見直し」と「制度の持続可能性確保」を柱とするものである。最大の焦点は、市販薬と同等の効能を持つ「OTC類似薬」に対する新たな患者負担の導入だ。対象は解熱鎮痛薬や抗アレルギー薬など約77成分・1,100品目に及び、薬剤費の4分の1を保険給付から外し、追加負担として患者に求める仕組みを創設する。これは「一部保険外療養」として制度化され、現役世代の保険料負担を年間2,600億円程度軽減する効果が見込まれている。その一方で、がんや難病患者、小児、長期使用が必要な患者などには負担を課さない方向で検討が進められている。また、後期高齢者医療制度では、株式配当などの金融所得を保険料や窓口負担に反映させる仕組みを強化する。現行制度では申告方法により負担に差が生じる問題があり、金融機関からのデータ提出を義務化することで「応能負担」の徹底を図る。さらに、出産費用については、全国一律の基本単価を設定し、保険で全額給付する仕組みへの転換を進める。従来の出産育児一時金では費用上昇に追いつかず自己負担が残る課題があり、現物給付化と情報の見える化により負担軽減と選択の透明性向上を目指す。このほか、高額療養費制度では長期療養者への影響配慮を明文化し、医療機関の業務効率化や勤務環境改善を支援する新たな基金事業も創設される。DXや生成AI活用などによる効率化も政策的に後押しされる点が特徴となっている。政府は「世代間・世代内の公平性確保」と「限られた財源の効率的活用」を強調する一方で、野党からは「患者負担増による受診控え」や「治療遅延のリスク」が指摘されており、制度設計の妥当性が今後の審議の焦点となる。 参考 1) 健康保険法等の一部を改正する法律案について(厚労省) 2) 健保法等改正案が衆院で審議入り 高市首相「不断の改革に取り組む」 上野厚労相「負担の公平性確保」(ミクスオンライン) 3) OTC類似薬の追加負担「がんや入院中の患者には求めず」 上野厚労相(日経新聞) 6.看護専門学校の定員割れ深刻化 2040年見据えた人材確保策を議論/厚労省厚生労働省は4月10日、「2040年に向けた看護職員の養成・確保の在り方に関する検討会」の初会合を開き、2040年ごろの看護職員の需給を都道府県別に推計する方針を示した。新たな地域医療構想の実現に向け、看護人材の確保と資質向上は不可欠であり、秋ごろまでに養成・確保策と推計方法を議論し、冬ごろに取りまとめる見通し。背景には、看護人材確保を巡る状況の悪化がある。厚労省の調査では、3年制看護専門学校の2025年度入学者は2万868人で、定員充足率は79.5%と初めて8割を下回った。2017年度をピークに減少傾向が続いており、大学入学者は増えているものの、専門学校と大学を合わせた入学者総数も5年連続で減少している。専門学校卒業生は地元就職率が高いとされ、地方の看護師確保への影響が懸念されている。実際、地域では養成基盤の縮小が進む。埼玉県では看護専門学校44校のうち少なくとも7校が募集停止を表明し、少子化や志願者減、4年制大学志向の強まりが経営難に拍車をかけている。人口10万人当たり看護師数が全国最下位の同県では、地域医療への影響に強い危機感が広がる。秩父地域では唯一の看護師養成校の存続も不透明となっている。厚労省の検討会では、若年人口減少に加え、現在の就業者の多くを占める45歳以上が2040年には高齢化することを踏まえ、退職増や高年齢者就業も見込んだ推計を行う。加えて、訪問看護の深刻な人手不足や領域偏在、ICT活用による業務効率化、育児・介護との両立支援、ハラスメント対策など勤務環境の改善も主要な論点となる。看護師不足は、単なる人数の問題ではなく、地域偏在、領域偏在、養成基盤の弱体化が重なった構造的な問題として対策が求められている。 参考 1) 第1回 2040年に向けた看護職員の養成・確保の在り方に関する検討会:資料(厚労省) 2) 看護専門学校の入学者、定員比で初めて8割下回る…学生離れ進み地方で不足との指摘も(読売新聞) 3) 看護職員の40年ごろの需給を地域別に推計へ 厚労省、養成・確保対策の検討会が初会合(CB news) 4) 埼玉県内の看護専門学校 本年度以降、7校が学生募集停止 志願者減少で経営難(東京新聞)

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弁疾患と冠動脈疾患の併存、FFRに基づくCABGでアウトカム改善/Lancet

 待機的弁手術が予定されている冠動脈疾患を有する患者において、血管造影によるFFR(冠血流予備量比)に基づく冠動脈バイパス術(CABG)は、冠動脈造影による解剖学的指針に基づくCABGと比較し、周術期複合アウトカムの発生を低下させたことが示された。中国・上海交通大学医学院附属瑞金医院のYunpeng Zhu氏らが、中国の3次医療施設12施設で実施した研究者主導の無作為化三重盲検試験「FAVOR IV-QVAS試験」の結果を報告した。冠動脈疾患を併発している弁手術予定患者に対し、現行ガイドラインでは、冠動脈造影で評価された狭窄の重症度に基づき、解剖学的指針に基づくCABGを行うことが推奨されているが、FFRに基づく戦略がこの患者集団において臨床アウトカムを改善しうるかどうかは検討されていなかった。Lancet誌2026年3月21日号掲載の報告。FFR≦0.80のみCABG実施vs.狭窄率≧50%の血管にCABG実施を評価 FAVOR IV-QVAS試験の対象は、原発性大動脈弁疾患、僧帽弁疾患またはその両方のため待機的弁手術が予定されており、冠動脈造影により直径1.5mm以上で冠動脈バイパス術(CABG)に適した血管において50%以上の狭窄を認める主要冠動脈を1本以上有する18歳以上の成人であった。 研究グループは、適格患者を血管造影によるFFR値が0.80以下の場合のみCABGを実施する群(血管造影FFR群)、または冠動脈造影で狭窄率が50%以上のすべての血管に対してCABGを実施する群(冠動脈造影群)に1対1の割合で無作為に割り付けた。患者、フォローアップ担当医師およびアウトカム評価者は割り付けについて盲検化された。 主要アウトカムは、術後30日以内の全死因死亡、心筋梗塞、脳卒中、予定外の冠動脈再血行再建術および透析を必要とする新規腎不全の複合であった。重要な副次アウトカムは、1年時および3年時における全死因死亡、心筋梗塞、脳卒中、予定外の冠動脈再血行再建術、不安定狭心症による入院または心不全による入院の複合であった。 主要アウトカムおよび重要な副次アウトカムの主要解析は、無作為化され手術を受け、かつ主要アウトカムのデータが入手可能な患者(修正ITT集団)を対象集団とした。なお、主要アウトカムのデータが欠測率2%以下の場合は完全症例解析、2%を超えた場合は多重代入法を用いて解析することが事前に計画された。主要複合アウトカムの発生は、FFR≦0.80のみCABG実施群で有意に低下 2019年8月4日~2024年8月13日に793例が登録され、396例が血管造影FFR群、397例が冠動脈造影群に無作為に割り付けられた。冠動脈造影群の1例は手術を拒否したため、修正ITT集団から除外された。年齢中央値は65歳(四分位範囲[IQR]:59~70)で、221例(28%)が女性、571例(72%)が男性であった。CABGは、血管造影FFR群で223例(56%)、冠動脈造影群で388例(98%)に施行された。 主要複合アウトカムのイベントは、血管造影FFR群で31例(7.8%)、冠動脈造影群で53例(13.4%)に発生した(絶対群間差:-5.6%ポイント[95%信頼区間[CI]:-9.9~-1.3]、リスク比:0.58[95%CI:0.38~0.89]、p=0.011)。30日全死因死亡は、血管造影FFR群で11例(2.8%)、冠動脈造影群で17例(4.3%)に認められた。 追跡期間中央値27ヵ月(血管造影FFR群28ヵ月[IQR:18~44]、冠動脈造影群27ヵ月[18~42])時点において、重要な副次アウトカムは血管造影FFR群で82例(20.7%)、冠動脈造影群で106例(26.8%)に発生した(ハザード比:0.74、95%CI:0.55~0.98、p=0.036)。

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