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知っていますか?「リバース聴診器」法【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第295回

知っていますか?「リバース聴診器」法皆さんは、「リバース聴診器」ってご存じでしょうか? 私も実はあまり知らなくてですね、今日おどろき論文のコーナーで紹介するに至りました。Zhang Q, et al. Application of a reverse stethoscope to overcome communication barriers: A case report of an elderly patient with illiteracy and profound hearing loss. Medicine (Baltimore). 2025 Oct 24;104(43):e45546.あくまで補聴機器がすぐ使えない状況での当座のツールとして、難聴患者さんが聴診器イヤーピースをつけて、医療従事者がベルに優しく話すという手法が紹介されています。これを「リバース聴診器」法と呼びます(写真)。写真. 「リバース聴診器」法(CC BY 4.0)(文献より引用)画像を拡大するこの論文の主人公は74歳の男性で、末期腎不全に対する血液透析が必要でした。患者さんは82dBの音圧でやっと知覚できるレベルの重度難聴で、文字の読解はほぼ不可能、家族や支援資源にも乏しく、補聴器や人工内耳の使用歴もありませんでした。初診時には問診が立ち行かず、腰部痛を身ぶりで示す以外の情報が得られないうえ、透析手技の説明が伝わらず、不安のため頻脈を呈していました。医療チームは大声での会話、身ぶりによる説明、図表を用いた簡易マニュアルと三段階で試みましたが、音の歪みや抽象的図像の解釈困難のため、どれも失敗に終わりました。標準化した10問で理解度を評価すると、正答は1問のみ(10%)、1問当たり平均4.5分、総面談時間45分に達し、患者さんは退室しようとするほど苛立っていました。代替手段が急務であったため、チームは「リバース聴診器」法を導入しました。患者さんの外耳道に優しく挿入し、医師は胸部ピースを口から約2cmに構えて通常会話と同程度の音量(60~70dB)で発語しました。介入後、同じ10問で再評価すると、正答は8/10(80%)へ改善し、総時間は12分、1問当たり1.2分に短縮しました。生理学的指標も落ち着き、心拍数は110/分から78/分へ改善しました。これによりインフォームドコンセントがうまくいき、穿刺手順やリスクの理解が得られ、同意のうえで透析が実施できました。間に合わせの手法として、「リバース聴診器」法も知っておきたいところですね。

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急性期漢方の最新研究と今後の展望【急性期漢方アカデミア】第3回

急性期漢方を普及・研究するグループ「急性期漢方アカデミア(Acute phase Kampo Academia:AKA)」。急性期でこそ漢方の真価が発揮されるという信念のもと、6名の急性期漢方のエキスパートが集結して、その方法論の普及・啓発活動を2024年から始動した。第1回セミナーでは、急性期の“むくみ”に対する漢方を紹介した。今回は、それを踏まえて急性期に漢方を研究し、未来につなげていく取り組みと、今後の展望を紹介したい。さらなる高みへ急性期の“むくみ”に対する漢方を応用した診療をAKAでは研究にもつなげて、この分野を今後発展させたいと考えている。今回は、その一端を紹介したい。現代医学では、打撲や足関節捻挫などに対してRICE(Rest:安静、Icing:冷却、Compression:圧迫、Elevation:挙上)を早期に行うことで腫脹や痛みを軽減させるが、漢方治療では局所の熱感や腫脹を熱と水毒と捉えて、清熱利水薬による内服治療を行って治療可能である。局所の強い熱感と腫脹には麻黄と石膏が含まれる越婢加朮湯、やや遷延した熱感と腫脹には清熱作用のある小柴胡湯と利水剤である五苓散を組み合わせた柴苓湯が適応になる。50代女性が眼瞼の虫刺症で受診した。柴苓湯1回1包(3.0g)1日3回で治療したところ、翌日には腫脹が改善した(図1)。画像を拡大するまた離島の診療所に勤務する自治医科大学の後輩が、漢方を学び、超高齢者の浅達性II度熱傷に対して、ワセリンと創傷被覆剤による通常の治療に加えて、越婢加朮湯1回1包1日3回を併用することで早期の治癒が可能であった症例(図2)を報告している1)。熱傷のようなCommon Diseaseであっても、漢方薬による治療例はまだまだ報告が少なく、論文掲載のチャンスがあると考える。画像を拡大する蜂窩織炎に対する越婢加朮湯の有用性の検討最新の研究の一例として、蜂窩織炎に対する越婢加朮湯の有用性を検討した研究を紹介する2)。本研究では、蜂窩織炎に対する越婢加朮湯の有用性について、治療効果と安全性の観点から後方視的解析を行った。蜂窩織炎に対して越婢加朮湯を使用した103例(男性49例、女性54例)のうち、越婢加朮湯開始時からステロイドやNSAIDsを併用した4例を除外した99例(男性48例、女性51例)を対象とした。なお、壊死性筋膜炎症例はCTやMRIなどの画像検査や臨床症状から除外した。効果判定は越婢加朮湯により症状が改善した場合を有効とし、副作用や他剤に変更をするために越婢加朮湯の服用を中断した場合を無効とした。結果は有効94例、無効5例であった(有効率94.9%、図3)。有害事象は1例も認められなかった。抗菌薬は48.5%に使用されていたが、有効群と無効群の間に抗菌薬併用の差は認められなかった。画像を拡大する以上から、蜂窩織炎に対して越婢加朮湯は安全性が担保された有用な治療と考えられた。抗菌薬は48.5%に併用されていたが、抗菌薬の併用が必須であるか、NSAIDsの併用が有用であるかはさらなる検討が必要である。そして、これから3回にわたって、第1回AKAセミナーの内容を紹介した。次回の第2回は、急性期の気道感染症をテーマに2025年12月6日(土)17時よりOn Lineで開催する予定である(詳細はページ下部参照)。ゲスト講師には、ER型救急総合診療で著名な林 寛之先生(福井大学医学部附属病院 救急科総合診療部 教授)をお招きし、急性期の気道感染症のまとめと西洋医学的な治療の問題点を整理のうえ、急性期の気道感染症に応用できる漢方薬のAKAプロトコールを紹介したい。読者の皆さまのご参加を心よりお待ちしております。AKAメンバーである加島 雅之(熊本赤十字病院 総合内科部長)、中永 士師明(秋田大学大学院医学系研究科救急・集中治療医学講座 教授)、鍋島 茂樹(福岡大学医学部 総合診療学 教授)、熊田 恵介(岐阜大学医学部附属病院医療安全管理室 室長・教授/高次救命治療センター)、入江 康仁(聖隷横浜病院救急科 部長)、吉永 亮(飯塚病院漢方診療科 診療部長)(敬称略)の6名は、急性期病院で急性期・救急診療に従事しながらそこに漢方を応用しており、いずれも日本最大の漢方系学会である日本東洋医学会の認定する漢方専門医である。AKAセミナーでは、明日から応用できる簡単な漢方薬の使用法を示しているが、実際に示されている方法を試していただけると、少しだけ使っても効果があることに気付かれるだろう。しかし、さらに漢方の概念を応用すると、もっと劇的な症例を経験することも多い。著者も利尿薬に反応しない心腎症候群に漢方薬の併用で緊急透析を回避できた経験もある。こうしたさらなる高みを知るためには、ぜひ学会へ参加し漢方とはどのようなものか、どのような研究がなされているかを知っていただきたい。

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生存時間分析 その5【「実践的」臨床研究入門】第59回

Cox比例ハザード回帰モデルによる交絡因子調整の実際 その2前回はわれわれのResearch Question(RQ)をCox比例ハザード回帰モデルの式に当てはめて考えました。また、Cox比例ハザード回帰モデルを適用する前提条件である「比例ハザード性」の検証に必要な二重対数プロットの描画方法を、仮想データ・セットを用いたEZR(Easy R)の操作手順を交えて説明しました(連載第58回参照)。今回は、実際に仮想データ・セットを用いて、EZRを使用したCox比例ハザード回帰モデルによる交絡因子の調整方法について解説します。まず、以下の手順で仮想データ・セットをEZRに取り込んでください。仮想データ・セットをダウンロードする「ファイル」→「データのインポート」→「Excelのデータをインポート」次に、メニューバーから以下の順に選択します。「統計解析」→「生存期間の解析」→「生存期間に対する多変量解析(Cox比例ハザード回帰)」ポップアップウィンドウが開きますので、モデル名は「Cox比例ハザード回帰_透析導入」などと入力しましょう。前回までに説明したようにCox比例ハザード回帰モデルによる多変量解析では下記の3種類の変数が必要になります(連載第58回参照)。時間イベント発生までの at risk な観察期間(連続変数)→ Yearイベント末期腎不全(透析導入)発生の有無(イベント発生=1、打ち切り=0)→ Censor説明変数多変量解析に含めるすべての要因検証したい要因treat(厳格低たんぱく食の遵守の有無)交絡因子age(年齢)、sex(性別)、dm(糖尿病の有無)、sbp(血圧)、eGFR(ベースライン eGFR)、Loge_UP(蛋白尿定量_対数変換)、albumin(血清アルブミン値)、hemoglobin(ヘモグロビン値)まずは、交絡因子による調整前の単変量解析の結果を確認しましょう。時間YearイベントCensor説明変数treatのみを選択し、「OK」をクリックします。すると、単変量解析の結果が下図のように示されます。次に多変量解析を行います。前回示したCox比例ハザード回帰モデルの数式に示したように、すべての説明変数を+でつないで選択します(下図)。説明変数treat+age+sex+dm+sbp+eGFR+Loge_UP+albumin+hemoglobin画像を拡大するそれでは「OK」をクリックしましょう。EZRのRコマンダー出力ウィンドウに表示された解析結果のうち、主要なものを以下に解説します。検証したい要因であるtreat(厳格低たんぱく食の遵守の有無)のみを説明変数としたモデルでは、ハザード比(hazard ratio:HR)の点推定値は1.321であり、treat群は透析導入のリスクが高いことを示していますが、95%信頼区間(95% confidence interval:95%CI)は1をまたいでおり統計学的有意差はありません。多変量解析の結果は出力ウィンドウの最後に表示されています。単変量解析ではtreat群は透析導入のリスクを上げる傾向でしたが、多変量解析で交絡因子をCox比例ハザード回帰モデルに投入した結果、調整後のHRの点推定値は0.8239となり、リスクがむしろ下がる方向に変化しました。しかし、95%CI(0.5960~1.1390)は1をまたいでいるため、統計学的に有意差はありませんでした(p=2.412e-01=0.2413)(連載第51回参照)。

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肺動脈性肺高血圧症〔PAH : pulmonary arterial hypertension〕

1 疾患概要■ 概念・定義肺高血圧症(pulmonary hypertension:PH)は、肺動脈圧が上昇する一連の疾患の総称である。欧州の肺高血圧症診断治療ガイドライン2022では、右心カテーテルで安静時の平均肺動脈圧(mPAP)が20mmHgを超える状態と定義が変更された。さらに肺動脈性肺高血圧症(PAH)に関しても、mPAP>20mmHgかつ肺動脈楔入圧(PAWP)≦15mmHg、肺血管抵抗(PVR)>2 Wood単位(WU)と診断基準が変更された。しかし、わが国において、厚生労働省が指定した指定難病PAHの診断基準は2025年8月の時点では「mPAP≧25mmHg、PVR≧3WU、PAWP≦15mmHg」で変わりない。この数字は現在保険収載されている肺血管拡張薬の臨床試験がmPAP≧25mmHgの患者を対象としていることにある。mPAP 20~25mmHgの症例に対する治療薬の臨床的有用性や安全性に関する検証が待たれる。■ 疫学特発性PAHは一般臨床では100万人に1~2人、二次性または合併症PAHを考慮しても100万人に15人ときわめてまれである。従来、特発性PAHは30代を中心に20~40代女性に多く発症する傾向があったが、最近の調査では高齢者かつ男性の新規診断例の増加が指摘されている。小児は成人の約1/4の発症数で、1歳未満・4~7歳・12歳前後に発症のピークがある。男女比は小児では大差ないが、思春期以降の小児や成人では男性に比し女性が優位である。厚生労働省研究班の調査では、膠原病患者のうち混合性結合織病で7%、全身性エリテマトーデスで1.7%、強皮症で5%と比較的高頻度にPAHを発症する。■ 病因主な病変部位は前毛細血管の細小動脈である。1980年代までは血管の「過剰収縮ならびに弛緩低下の不均衡」説が病因と考えられてきたが、近年の分子細胞学的研究の進歩に伴い、炎症-変性-増殖を軸とした、内皮細胞機能障害を発端とした正常内皮細胞のアポトーシス亢進、異常平滑筋細胞のアポトーシス抵抗性獲得と無秩序な細胞増殖による「血管壁の肥厚性変化とリモデリング」 説へと、原因論のパラダイムシフトが起こってきた1, 2)。肺血管平滑筋細胞などの血管を構成する細胞の異常増殖は、細胞増殖抑制性シグナル(BMPR-II経路)と細胞増殖促進性シグナル(ActRIIA経路)のバランスの不均衡により生じると考えられている3)。遺伝学的には2000年に報告されたBMPR2を皮切りに、ACVRL1、ENG、SMAD9など、TGF-βシグナル伝達に関わる遺伝子が次々と疾患原因遺伝子として同定された4)。これらの遺伝子変異は家族歴を有する症例の50~70%、孤発例(特発性PAH)の20~30%に発見されるが、浸透率は10~20%と低い。また、2012年にCaveolin1(CAV1)、2013年にカリウムチャネル遺伝子であるKCNK3、2013年に膝蓋骨形成不全の原因遺伝子であるTBX4など、TGF-βシグナル伝達系とは直接関係がない遺伝子がPAH発症に関与していることが報告された5-7)。■ 症状PAHだけに特異的なものはない。初期は安静時の自覚症状に乏しく、労作時の息切れや呼吸困難、運動時の失神などが認められる。注意深い問診により診断の約2年前には何らかの症状が出現していることが多いが、てんかんや運動誘発性喘息、神経調節性失神などと誤診される例も少なくない。進行すると易疲労感、顔面や下腿の浮腫、胸痛、喀血などが出現する。■ 分類『ESC/ERS肺高血圧症診断治療ガイドライン2022』に示されたPHの臨床分類を以下に示す8)。1群PAH(肺動脈性肺高血圧症)1.1特発性PAH1.1.1 血管反応性試験でのnon-responders1.1.2 血管反応性試験でのacute responders(Ca拮抗薬長期反応例)1.2遺伝性PAH1.3薬物/毒物に関連するPAH1.4各種疾患に伴うPAH1.4.1 結合組織病(膠原病)に伴うPAH1.4.2 HIV感染症に伴うPAH1.4.3 門脈圧亢進症に伴うPAH(門脈肺高血圧症)1.4.4 先天性心疾患に伴うPAH1.4.5 住血吸虫症に伴うPAH1.5 肺静脈閉塞症/肺毛細血管腫症(PVOD/PCH)の特徴をもつPAH1.6 新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)2群PH(左心疾患に伴うPH)2.1 左心不全2.2.1 左室駆出率の保たれた心不全(HFpEF)2.2.2 左室駆出率が低下または軽度低下した心不全2.2 弁膜疾患2.3 後毛細血管性PHに至る先天性/後天性の心血管疾患3群PH(肺疾患および/または低酸素に伴うPH)3.1 慢性閉塞性肺疾患(COPD)3.2 間質性肺疾患(ILD)3.3 気腫合併肺線維症(CPFE)3.4 低換気症候群3.5 肺疾患を伴わない低酸素症(例:高地低酸素症)3.6 肺実質の成長障害4群PH(肺動脈閉塞に伴うPH)4.1 慢性血栓塞栓性PH(CTEPH)4.2 その他の肺動脈閉塞性疾患5群PH(詳細不明および/または多因子が関係したPH)5.1 血液疾患5.2 全身性疾患(サルコイドーシス、肺リンパ脈管筋腫症など)5.3 代謝性疾患5.4 慢性腎不全(透析あり/なし)5.5 肺腫瘍血栓性微小血管症(PTTN)5.6 線維性縦郭炎5.7 複雑先天性心疾患■ 予後1990年代まで平均生存期間は2年8ヵ月と予後不良であった。わが国では1999年より静注PGI2製剤エポプロステノールナトリウムが臨床使用され、また、異なる機序の経口肺血管拡張薬が相次いで開発され、併用療法が可能となった。近年では5年生存率は90%近くに劇的に改善してきている。一方、最大限の内科治療に抵抗を示す重症例も一定数存在し、肺移植施設への照会、肺移植適応の検討も考慮される。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)右心カテーテル検査による「肺動脈性のPH」の診断とともに、臨床分類における病型の確定、他のPHを来す疾患の除外(鑑別診断)、および重症度評価が行われる。症状の急激な進行や重度の右心不全を呈する症例はPH診療に精通した医師に相談することが望ましい。PHの各群の鑑別のためには、まず左心性心疾患による2群PH、呼吸器疾患/低酸素による3群PHの存在を検索し、次に肺換気血流シンチグラムなどにより肺血管塞栓性PH(4群)を否定する。ただし、呼吸器疾患/低酸素によるPHのみでは説明のできない高度のPHを呈する症例では1群PAHの合併を考慮すべきである。わが国の『肺高血圧症診療ガイダンス2024』に示された診断手順(図1)を参考にされたい9)。図1 PHの鑑別アルゴリズム(診断手順)画像を拡大する■ 主要症状および臨床所見1)労作時の息切れ2)易疲労感3)失神4)PHの存在を示唆する聴診所見(II音の肺動脈成分の亢進など)■ 診断のための検査所見1)右心カテーテル検査(指定難病PAHの診断基準に準拠)(1)肺動脈圧の上昇(安静時肺動脈平均圧で25mmHg以上、肺血管抵抗で3単位以上)(2)肺動脈楔入圧(左心房圧)は正常(15mmHg以下)2)肺血流シンチグラム区域性血流欠損なし(特発性または遺伝性PAHでは正常または斑状の血流欠損像を呈する)■ 参考とすべき検査所見1)心エコー検査にて、右室拡大や左室圧排所見、三尖弁逆流速度の上昇(>2.8m/s)、三尖弁輪収縮期移動距離の短縮(TAPSE<18mm)、など2)胸部X線像で肺動脈本幹部の拡大、末梢肺血管陰影の細小化3)心電図で右室肥大所見3 治療 (治験中・研究中のものも含む)『ESC/ERSのPH診断・治療ガイドライン2022』を基本とし、日本人のエビデンスと経験に基づいて作成されたPAH治療指針を図2に示す9,10)。図2 PAHの治療アルゴリズム画像を拡大するこれはPAH症例にのみ適応するものであって、他のPHの臨床グループ(2~5群)に属する症例には適応できない。一般的処置・支持療法に加え、根幹を成すのは3系統の肺血管拡張薬である。すなわち、プロスタノイド(PGI2)、ホスホジエステラーゼ 5型阻害薬(PDE5-i)、エンドセリン受容体拮抗薬(ERA)である。2015年にPAHに追加承認された、可溶性guanylate cyclase(sGC)刺激薬リオシグアトはPDE5-iとは異なり、NO非依存的にNO-cGMP経路を活性化し、肺血管拡張作用をもたらす利点がある。初期治療開始に先立ち、急性血管反応性試験(AVT)の反応性を確認する。良好な反応群(responder)には高用量のCa拮抗薬が推奨される。しかし、実臨床においてCa拮抗薬長期反応例は少なく、3~4ヵ月後の血行動態改善が乏しい場合には他の薬剤での治療介入を考慮する。AVT陰性例には重症度に基づいた予後リスク因子(表)を考慮し、リスク分類に応じて3系統の肺血管拡張薬のいずれかを用いて治療を開始する。表 PAHのリスク層別化画像を拡大する低~中リスク群にはERA(アンブリセンタン、マシテンタン)およびPDE5-i(シルデナフィル、タダラフィル)の2剤併用療法が広く行われている。高リスク群には静注・皮下注投与によるPGI2製剤(エポプロステノール、トレプロスチニル)、ERA、PDE5-iの3剤併用療法を行う。最近では初期から複数の治療薬を同時に併用する「初期併用療法」が主流となり良好な治療成績が示されているが、高齢者や併存疾患(高血圧、肥満、糖尿病、肺実質疾患など)を有する症例では、安全性を考慮しERAもしくはPDE5-iによる単剤治療から慎重に開始すべきである。右心不全ならびに左心還流血流低下が著しい最重症例では、体血管拡張による心拍出量増加・右心への還流静脈血流増加に対する肺血管拡張反応が弱く、かえって肺動脈圧上昇や右心不全増悪を来すことがあり、少量から開始し、急速な増量は避けるべきである。また、カテコラミン(ドブタミンやPDEIII阻害薬など)の併用が望まれ、体血圧低下や脈拍数増加、水分バランスにも十分留意する。初期治療開始後は3~4ヵ月以内に血行動態の再評価が望まれる。フォローアップ時において中リスクの場合は、経口PGI2受容体刺激薬セレキシパグもしくは吸入PGI2製剤トレプロスチニルの追加、PDE5-iからsGC刺激薬リオシグアトへの薬剤変更も考慮される。しかし、経口薬による多剤併用療法を行っても機能分類-III度から脱しない難治例には時期を逸さぬよう非経口PGI2製剤(エポプロステノール、トレプロスチニル)の導入を考慮すべきである。すでに非経口PGI2製剤を導入中の症例で用量変更など治療強化にも抵抗を示す場合は、肺移植認定施設に紹介し、肺移植適応を検討する。2025年8月にアクチビンシグナル伝達阻害薬ソタテルセプト(商品名:エアウィン 皮下注)がわが国でも保険収載された。これまでの3系統の肺血管拡張薬とは薬理機序が異なり、アクチビンシグナル伝達を阻害することで細胞増殖抑制性シグナルと細胞増殖促進性シグナルのバランスを改善し、肺血管平滑筋細胞の増殖を抑制する新しい薬剤である11)。ソタテルセプトは、既存の肺血管拡張薬による治療を受けている症例で中リスク以上の治療強化が必要な場合、追加治療としての有効性が期待される。3週間ごとに皮下注射する。主な副作用として、出血や血小板減少、ヘモグロビン増加などが報告されている。PHに対して開発中の薬剤や今後期待される治療を紹介する。吸入型のPDGF阻害薬ソラルチニブが成人PAHを対象とした第III相臨床試験を国内で進捗中である。トレプロスチニルのプロドラッグ(乾燥粉末)吸入製剤について海外での第II相試験が完了し、1日1回投与で既存の吸入薬に比べて利便性向上が期待できる。内因性エストロゲンはPHの病因の1つと考えられており、アロマターゼ阻害薬であるアナストロゾールの効果が研究されている。世界中で肺動脈自律神経叢を特異的に除神経するカテーテル治療開発が進められており、国内でも先進医療として薬物療法抵抗性PH対する新たな治療戦略として期待されている。4 今後の展望近年、肺血管疾患の研究は急速に成長をとげている。PHの発症リスクに関わる新たな遺伝的決定因子が発見され、PHの病因に関わる新規分子機構も明らかになりつつある。とくに細胞の代謝、増殖、炎症、マイクロRNAの調節機能に関する研究が盛んで、これらが新規標的治療の開発につながることが期待される。また、遺伝学と表現型の関連性によって予後転帰の決定要因が明らかとなれば、効率的かつテーラーメイドな治療戦略につながる可能性がある。5 主たる診療科循環器内科、膠原病内科、呼吸器内科、胸部心臓血管外科、小児科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 肺動脈性肺高血圧症(指定難病86)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本肺高血圧・肺循環学会合同ガイドライン(日本循環器学会)(2025年改訂された日本循環器学会および日本肺高血圧・ 肺循環学会の合同作成による肺高血圧症に関するガイドライン)肺高血圧症診療ガイダンス2024(日本肺高血圧・肺循環学会)(欧州ガイドライン2022を基とした日本の実地診療に即したガイダンス)2022 ESC/ERS Guidelines for the diagnosis and treatment of pulmonary hypertension(2022年に発刊された最新版の欧州ガイドライン、英文のみ)患者会の情報NPO法人 PAHの会(肺高血圧症患者と家族が運営している全国組織の患者会)Pulmonary Hypertension Association(世界最大かつ最古の肺高血圧症協会で16,000人以上の患者・家族・医療専門家からなる国際的なコミュニティ、日本語選択可) 1) Michelakis ED, et al. Circulation. 2008;18:1486-1495. 2) Morrell NW, et al. J Am Coll Cardiol. 2009;54:S20-31. 3) Guignabert C, et al. Circulation. 2023; 147: 1809-1822. 4) 永井礼子. 日本小児循環器学会雑誌. 2023; 39: 62-68. 5) Austin ED, et al. Circ Cardiovasc Genet. 2012;5:336-343. 6) Ma L, et al. N Engl J Med. 2013;369:351-361. 7) Kerstjens-Frederikse WS, et al. J Med Genet. 2013;50:500-506. 8) Humbert M, et al. Eur Heart J. 2022;43:3618-3731. 9) 日本肺高血圧・肺循環学会. 肺高血圧症診療ガイダンス2024. 10) Chin KM, et al. Eur Respir J. 2024;64:2401325. 11) Sahay S, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2024;210:581-592. 公開履歴初回2013年07月18日更新2025年11月06日

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病院の電力が尽きると何が起きる?【実例に基づく、明日はわが身の災害医療】第9回

病院の電力が尽きると何が起きる?日本は、世界でも有数の「災害大国」です。地震、台風、豪雨……。毎年どこかで自然災害が発生し、そのたびに医療機関は大きな試練にさらされています。では、もし災害によって病院の電力が途絶えてしまったら、一体どうなるでしょうか?病院に電気がなければ、ほとんど何もできない病院は「電気があって当たり前」の場所です。停電と聞いて、多くの人がまず思い浮かべるのは、人工呼吸器や透析装置といった医療機器でしょう。もちろんそれらが止まれば、命の危機に直結します。しかし、問題はそれだけにとどまりません。実際の病院全体の電力消費を見てみると、空調が34.7%、照明が32.6%を占めるのに対し、医療機器は6.6%にすぎません1)。空調が止まれば、真夏には熱中症、真冬には低体温症の患者さんが増えます。手術室やICUの温度・湿度管理もできなくなり、感染リスクが高まります。照明が消えれば、夜間の救急対応や処置がきわめて困難になります。さらに、電力供給が止まると、水や下水処理にも影響が及びます。電子カルテや検査システムも使えなくなり、診療は著しく制限されてしまいます。命に直結するのは、医療機器だけではありません。2018年7月豪雨で被災した岡山県のまび記念病院は、電源設備が浸水エリアの1階にあったことが被害を拡大させた一因とされました。そのため、新病院では電源を高所に移す設計がなされています。この事例は、「電源の確保」がいかに病院機能の継続に直結するかを示す教訓といえるでしょう。非常用電源はどれくらい持つのか?「非常用の発電機があるから安心」と思うかもしれません。ですが、現実はそう甘くありません。災害拠点病院では、業務継続計画(BCP)の策定が義務付けられており2)、一定の備蓄を整えています。ところが私たちの調査では3)、中核病院や一般病院では備蓄の水準に大きな差があり、燃料備蓄が1日未満という病院も少なくありません。厚生労働省のガイドラインでは「通常時の6割程度の電力をまかなえる自家発電機と、最低3日分の燃料備蓄」が目安とされています4)。しかし、2018年の北海道胆振東部地震では、災害拠点病院でさえ燃料不足に直面し、十分に機能を維持できなかった例が報告されています5)。平時からの備えをどうするか?では、どう備えればよいのでしょうか。答えは「平時からの準備」に尽きます。自院の非常用電源がどれくらい持つのかを確認しておく燃料の補給ルートをあらかじめ自治体や業者と相談しておく電力や燃料の残量を定期的にチェックする地域の病院同士で助け合える仕組みを平時に作っておく余談ですが、院内にある赤と緑のコンセントの意味を正しく理解することも大切です。赤いコンセントは非常用電源、緑のコンセントはUPS(無停電電源装置)に接続されており、停電時でも使用できる系統です(図)。人工呼吸器など生命維持に直結する機器は、必ずこれらのコンセントに接続する必要があります。さらに、非常時の電力には限りがあるため、供給可能な時間や容量を把握しておくこと、不必要な機器を接続しないことなど、平時からの準備と停電時の訓練が欠かせません。図. 電源の種類と特徴「必ず来る災害」に備えるために災害は「いつか来るかもしれないもの」ではなく、「必ず来るもの」です。そのとき、病院が機能を失うのか、最低限の医療を続けられるのかは、平時の備えにかかっています。医療従事者一人ひとりが「自分の病院の電源や燃料がどれくらい持つのか」を把握し、行動を起こすこと。そして、一つの病院だけでなく地域全体で電源や医療機器の稼働状況を「見える化」し、情報を共有すること。自治体や地域と協力して「助け合える仕組み」を作ること。その積み重ねこそが「防ぎえた死」を減らし、未来の患者さんの命を守る力になります。 1) 夏季の省エネ・節電メニュー. 経済産業省 資源エネルギー庁. 2) 病院の業務継続計画(BCP)の策定状況について.厚生労働省 第14回救急・災害医療提供体制等の在り方に関する検討会. 令和元年5月23日. 3) 平山隆浩、他. 病院機能に応じた災害時医療機器供給体制の最適化戦略 ―岡山県内病院の実態調査に基づく段階的 BCP 体制の提案―.医療機器学. 2025;95:392-400. 4) 災害拠点病院の燃料の確保について. 厚生労働省 第14回救急・災害医療提供体制等の在り方に関する検討会. 令和元年5月23日. 5) Youichi Y, et al. Field Study in Hokkaido Prefecture after the 2018 Hokkaido Eastern Iburi Earthquake. Sch J App Med Sci. 2018;6:3961-3963.

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生存時間分析 その4【「実践的」臨床研究入門】第58回

Cox比例ハザード回帰モデルによる交絡因子調整の実際前回まで、筆者らが出版した臨床研究の事例論文をもとに、Cox比例ハザード回帰モデルによる交絡因子の調整の考え方を解説しました。今回からは、われわれのResearch Question(RQ)をCox比例ハザード回帰モデルの数式(連載第57回参照)に当てはめて考えてみます。アウトカムは「末期腎不全(透析導入)」であり(連載第49回参照)、生存時間分析においては、打ち切りの概念を含んだイベント発生の有無のデータに加え、at riskな観察期間のデータが必要でした(連載第37回、第41回参照)。Censor:イベント発生の有無(イベント発生=1、打ち切り=0)Year:at riskな観察期間(連続変数)検証したい要因は、推定たんぱく質摂取量0.5g/kg標準体重/日未満(連載第49回参照)、すなわち「厳格低たんぱく食の遵守」です。交絡因子は以下の要因を挙げています(連載第49回参照)。年齢、性別、糖尿病の有無、血圧、ベースラインeGFR、蛋白尿定量、血清アルブミン値、ヘモグロビン値これらの要因をCox比例ハザード回帰モデルの数式に当てはめると、次のようになります。h(t|treat、age、sex、dm、sbp、eGFR、Loge_UP、albumin、hemoglobin)=h(t)×exp(β1treat)×exp(β2age)×exp(β3sex)×exp(β4dm)×exp(β5sbp)×exp(β6eGFR)×exp(β7Loge_UP)×exp(β8albumin)×exp(β9hemoglobin)=h(t)×exp(β1treat+β2age+β3sex+β4dm+β5sbp+β6eGFR+β7Loge_UP+β8albumin+β9hemoglobin)treat:厳格低たんぱく食の遵守の有無(あり=1、なし=0)age:年齢(連続変数)sex:性別(男性=1、女性=0)dm:糖尿病の有無(あり=1、なし=0)sbp:収縮期血圧(連続変数)eGFR :ベースラインeGFR(連続変数)Loge_UP:蛋白尿定量_対数変換(連続変数)(連載第48回参照)albumin:血清アルブミン値(連続変数)hemoglobin:ヘモグロビン値(連続変数)βn:各説明変数に対応する回帰係数ここで求めたいのは、検証したい要因である厳格低たんぱく食の遵守の有無を示す変数treatに対応する回帰係数β1の指数変換値exp(β1)です。exp(β1)は、上述のようにモデルに投入したすべての説明変数(交絡因子)の影響を多変量解析で調整したハザード比(adjusted hazard ratio:aHR)を表します。すなわち、交絡因子を調整した後の厳格低たんぱく食遵守群と非遵守群のHRを示します。実際には、これらの回帰係数やaHRはEZR(Eazy R)などの統計解析ソフトを用いて、データ・セットから点推定値と95%信頼区間を推定します。さて、Cox比例ハザード回帰モデルを適用するためには「比例ハザード性」の仮定が必要であることはすでに説明しました(連載第55回参照)。まずはKaplan-Meier曲線を描いて、生存曲線が交差していないことを確認することも解説しました。しかし、「比例ハザード性」の検証には、二重対数プロット(log-log plot)を評価することが必須とされています。それでは、仮想データ・セットからEZRを使用して二重対数プロットを描いてみます。仮想データ・セットをダウンロードする※ダウンロードできない場合は、右クリックして「名前をつけてリンク先を保存」を選択してください。まず、仮想データ・セットをダウンロードし、下記のデータが格納されていることを確認してください。A列:IDB列:Treat(1;厳格低たんぱく食遵守群、0;厳格低たんぱく食非遵守群)C列:Censor(1;アウトカム発生、0;打ち切り)D列:Year(at riskな観察期間)次に、以下の手順でEZRに仮想データ・セットを取り込みましょう。「ファイル」→「データのインポート」→「Excelのデータをインポート」仮想データ・セットがインポートできたら、下記の手順で二重対数プロットを描画します。「統計解析」→「生存期間の解析」→「生存曲線の記述と群間の比較(Logrank検定)」を選択下記のウィンドウが開いたら、以下のとおりにそれぞれの変数を選択してください。観察期間の変数:Yearイベント(1)、打ち切り(0)の変数:Censor群別する変数を選択:Treat層別化変数は選択なし、その他の設定はとりあえずデフォルトのままで、「OK」ボタンをクリックします。画像を拡大するここまでのEZRのGraphic User Interface(GUI)操作ではKaplan-Meier曲線だけが出力されますが、その際に自動生成されるRスクリプトに少し手を加えて、二重対数プロットを出力するという手順になります。Rスクリプトのウィンドウに表示されたコードから、以下の行を探してください。plot(km, bty="l", col=1:32, lty=1, lwd=1, conf.int=FALSE, mark.time=TRUE, xlab="Year", ylab="Probability")このコードの末尾に、二重対数プロットを描画するオプションのコード(fun="cloglog")を加え、またY軸ラベル(ylab)も、わかりやすいようにlog(-log(Probability)に変更します。plot(km, bty="l", col=1:32, lty=1, lwd=1, conf.int=FALSE, mark.time=TRUE, xlab="Year", ylab=" log(-log(Probability))", fun="cloglog")修正したコードをRスクリプトのウィンドウにコピペし、下図のようにカーソルを合わせた状態で「実行ボタン」をクリックします。画像を拡大する下図のような二重対数プロットが描けましたか。各群の曲線を視覚的に確認し、この図のようにおおむね平行であれば「比例ハザード性」の仮定は成立すると判断でき、Cox比例ハザード回帰モデルの適用の妥当性が担保されます。

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アルドステロンの心血管系に対する直接作用は?(解説:浦信行氏)

 アルドステロンは腎臓におけるNa再吸収亢進作用などにより体液量増大、Na貯留、昇圧作用などを介して心臓を含む臓器障害を発症・増悪させる。重症腎機能障害を有さない症例において、スピロノラクトンを中心とした鉱質コルチコイド受容体拮抗薬(MRA)は心不全や心血管死を有意に減少させることが、いくつかの臨床試験で明らかになっている。 一方、透析療法を受けている症例での心保護作用は明らかではなく、安全性も確立されていない。本年8月号のLancet誌では同一研究グループの2つの論文が掲載された。1つは3,689例を対象とし、スピロノラクトン25mg使用群と対照群に2分したRCTのACHIEVE試験(Walsh M, et al. Lancet. 2025;406:695-704.)で、もう1つはこの試験を含む4,349例を対象としたメタ解析(Pyne L, et al. Lancet. 2025;406:811-820.)である。この2論文の解説はCareNet.com(ジャーナル四天王2025年8月28日配信、9月3日配信)に詳述されており、ぜひ一読願いたいが結果はいずれも有意な効果を示さなかった。また、安全性に関しては実薬群で高K血症と女性化乳房が有意に多かった。 腎作用を期待できない症例ではMRAの心保護効果は証明できなかったわけであるが、この研究グループは2016年に先行メタ解析研究(Quach K, et al. Am J Kidney Dis. 2016;68:591-598.)の結果を報告している。その結果は、実薬群の高K血症は有意に多かったが、心血管死や全死亡が対照群の34~40%に有意に抑えられていた。しかし採用された9試験の合計症例は829例にとどまっており、またバイアス・リスクが低いものは5〜6試験で、かつ半数以上の試験が1年以内の短期試験であり、著者らも小規模試験で質が高くないものであることから、より十分な試験期間と規模の大きい質の高い試験で再度検討する必要があるとの考察であった。 今回のACHIEVE試験は大規模で質の高い試験であり、メタ解析もACHIEVE試験に644症例で検討したALCHEMIST試験が加わっており、症例数や質の部分でも高い試験の解析であったが、MRAの有意性は示されなかった。MRは腎臓のみならず、心筋や血管にもあり、また心筋局所からアルドステロン生成・分泌が明らかとなっており、心肥大や線維化などの作用が報告されている。腎作用が期待できない透析例では心作用の意義は大きくないとの解釈もできるが、これらの成績はステロイド骨格を有するMRAでの検討である。これらのMRAは他のステロイド受容体への作用が無視できない。事実、女性化乳房の発症が有意に多かった。 また、ACHIEVE試験での1次エンドポイントは女性ではHR:1.23(0.91~1.67)、男性では0.81(0.66~0.99)で性差があり、かつ、男性では19%有意なイベント抑制効果の可能性も示された。今後は非ステロイド骨格MRAでの検討や、性別での検討も必要になろう。また、透析例の心機能の評価も、より厳密な評価条件が必要であろう。UCGでの評価は体液量の変化でEFは大きく異なる。2群間比較試験では、群分けの段階で一定の条件下での評価が必要である。

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透析患者におけるアルドステロン拮抗薬の位置付けを再考する―ALCHEMIST試験の結果から(解説:石上友章氏)

 アルドステロンは副腎皮質球状帯より分泌される鉱質コルチコイドであり、その主要な作用部位は腎臓遠位尿細管に属するアルドステロン感受性遠位ネフロン(aldosterone-sensitive distal nephron:ASDN)である。アルドステロンは核内因子である鉱質コルチコイド受容体(mineralocorticoid receptor:MR)と結合し、アルドステロン誘導性タンパク(aldosterone-inducible protein:AIP)の遺伝子発現を活性化することにより、ナトリウム再吸収およびカリウム排泄を促進する。この作用特異性は、11β-hydroxysteroid dehydrogenase type 2(11βHSD2)によって担保される。血中に高濃度に存在し、かつMR親和性においてアルドステロンを凌駕するコルチゾールが、11βHSD2により不活性型のコルチゾンへ変換されることで、MR結合がアルドステロンに選択的に保証されているのである。この点において、アルドステロンは生理的に特異的なシグナル伝達を遂行するホルモンと位置付けられる。 一方で、腎臓以外の臓器においてアルドステロンは線維化、炎症、血管硬化を誘導しうることが知られ、心血管・腎保護的な観点からMR拮抗薬の臨床応用が注目されてきた。小規模試験や観察研究では、心血管イベント抑制効果を示唆する報告も散見されたが、バイアスや症例数の制約から解釈には限界があった。こうした背景の下に実施された大規模二重盲検無作為化試験が、今回Lancet誌に報告されたALCHEMIST試験である。 ALCHEMISTは血液透析中の腎不全患者で、かつ心血管リスクを有する症例を対象に、スピロノラクトン25mg/日とプラセボを比較した多施設共同試験である。主要複合エンドポイント(心血管死、非致死性心筋梗塞、急性冠症候群、脳卒中、心不全入院)の発症率は両群で同等であり(ハザード比:1.00、95%信頼区間:0.73~1.36)、有意差は認められなかった。さらに、既報の無作為化比較試験を統合したメタ解析においても、MR拮抗薬は全死亡あるいは心血管死亡を減少させないことが明らかとなった。安全性の面でも高カリウム血症の発症率に有意差はなく、臨床的便益を裏付ける根拠は得られなかった。 本試験の結果は、透析患者においてアルドステロン拮抗薬の腎外臓器保護効果が臨床的アウトカムの改善に結び付かないことを明確に示している。腎不全透析患者に特徴的な病態、すなわちRAAS活性やアルドステロン作用の修飾が背景にある可能性は否定できないが、いずれにしても現時点で「腎外保護」を目的としたMR拮抗薬の透析患者への投与は支持されない。 以上より、アルドステロンの生理的特異性を再確認するとともに、その腎外作用を臨床応用へと展開するには、病態特異的なメカニズム解明と適格集団の同定が不可欠であることを示唆する結果と解釈される。

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透析患者が被災したら?【実例に基づく、明日はわが身の災害医療】第6回

透析患者が被災したら?豪雨の後の水害で多くの家屋が浸水し、停電、断水のため医療機関も機能不全になっています。避難所のスタッフから、維持透析を週3回行っていて明日が透析日という避難者がいて、対応について相談を受けました。どうすればよいでしょうか?血液透析には、1人当たり1回の透析で100L以上の大量の水が必要であり、装置を動かすには当然電気が必要です。大災害で施設や設備が損傷したり、断水や停電が起きたりすると血液透析ができなくなり、透析患者の生命は危険にさらされます。事実、東日本大震災では、一時は数百施設が透析不能となり、1,300名以上の患者さんが一時的に被災県外に移動しました。熊本地震でも約30施設で透析ができなくなったことが報告されています。普段からの備え透析施設は、支援透析施設が使えるように、患者カードや手帳、透析記録のコピーなど災害時に必要な情報を患者に提供します。他施設で透析をするうえで必要な情報ドライウェイト氏名・年齢アレルギーがあればその内容感染症の有無(慢性肝炎など)処方されている薬の種類とその飲み方人工血管の場合血流の向き普段透析を受けている施設の連絡先普段から患者さんに対して、災害時は透析時間が短くなったり、次の透析までの間隔が長くなったりする場合があることを説明し、自分で自分の身を守ることの大切さを強調しましょう。避難所に避難した場合は、透析患者であることを自治体の職員やボランティア、巡回の医師・看護師に申し出るよう指導をしておくことが必要です。また、透析スタッフもしっかり訓練しておくことも重要です。災害時には、基本的には各自治体が透析災害対策本部のネットワークを利用して、行政・透析関連企業および該当都道府県下のすべての透析施設間の連絡ができるようになっています。日本透析医会の災害時情報ネットワークのウェブサイトも参考にしてください1)。アメリカでは、ハリケーンに備え、前もって透析をしておくことで透析患者の予後を改善することに成功しています。台風など、あらかじめ災害が起こることが予期できる場合には、前倒しをして透析をしておくことも考慮してもいいかもしれません2,3)。避難所での対応【食事】避難所では、非常食や配給食が提供されることが多く、透析患者にとっては平常時よりも尿素窒素やカリウムの数値が高くなる危険性があります。避難所では、水分は日常の3分の2程度に減らすように指導されている患者さんが多いですが、過度な脱水は血栓症の原因にもなります。水分制限は食事摂取の低下の原因にもなります。一方で、食事量が不足してカロリーが減ると、体内のタンパク質が壊れて尿素窒素やカリウムが上昇するため、栄養は十分に摂る必要があります。災害時に透析患者が食事面で留意すべき点食塩、タンパク質、カリウム、リンを平時より大幅に制限する1日の水分量は「尿量+300~400mL以下」に抑えるエネルギー(カロリー)をしっかり確保するカロリー確保には、白米、麺類、パンなど炭水化物が有効です。ただし、麺類やパンには意外に多くの塩分が含まれているため注意が必要です4)。そこで、「カロリーメイト」のようなバランス栄養食品が勧められます。カロリーメイトは、十分なカロリーが摂れ、カルシウム、ビタミン、食物繊維などを多く含む一方、塩分やタンパク質、リン、カリウムの摂取量を比較的抑えやすいというメリットがあります。参考カロリーメイト(ブロックタイプ:1箱4本入り)の場合、カロリー400kcal、カルシウム200mg、食物繊維2g、タンパク質8~9g、カリウム90~100mg、リン80~100mg、食塩相当量約0.7~0.9gです(大塚製薬「カロリーメイト」サイトより)。【応急処置】避難所の医療資源と環境でできることは限られていますが、透析患者の生命を奪うのは主にうっ血性心不全と高カリウムです。危険な高カリウム血症に対しては、内服薬としては陽イオン交換樹脂製剤のポリスチレンスルホン酸ナトリウム(商品名:ケイキサレート)が使われることがあります。陽イオン交換樹脂製剤は大腸でナトリウムとカリウムを交換しますが、カルシウムも吸着するため、カリウムに対する選択性は乏しいといわれています。ケイキサレート30gを20%ソルビトール50mLに溶解して内服してもらいます。非ポリマー無機陽イオン交換化合物の経口剤であるジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム(商品名:ロケルマ)は、胃で吸収され、カリウムに対する選択性が比較的高いのですが、災害時の使用については即効性の面を考慮し、薬剤師や製造元への確認が必要です。避難所では難しいかもしれませんが、血糖値を測定しながらインスリン+グルコース療法を行い、透析までの緊急回避を行う場合もあります。ヒューマリンR注10単位+50%ブドウ糖550mLを静脈注射し、その後は10%ブドウ糖液を50mL/hで投与する方法が提唱されています5,6)。災害時要配慮者である透析患者の被災時の対応について概説しました。災害医療は、あくまで日常の救急医療の延長であり、普段から「もしも」のことを意識しておくことが必要なことは言うまでもありません。 1) 日本透析医会 災害時情報ネットワーク 2) Lurie N, et al. Early dialysis and adverse outcomes after Hurricane Sandy. Am J Kidney Dis. 2015;66: 507-512. 3) Foster M, et al. Personal disaster preparedness of dialysis patients in North Carolina. Clin J Am Soc Nephrol. 2011;6:2478-2484. 4) Inoue T, Nakao A, Kuboyama K, Hashimoto A, Masutani M, Ueda T, Kotani J. Gastrointestinal symptoms and food/nutrition concerns after the great East Japan earthquake in March 2011: survey of evacuees in a temporary shelter. Prehosp Disaster Med. 2014;29:303-306. 5) Fadel E, et al. Scoping Review of Kidney Patients and Providers Perspectives on Disaster Management. Kidney Int Rep. 2025;10:1346-1359. 6) Lempert KD, et al. Renal failure patients in disasters. Disaster Med Public Health Prep. 2019;13:782-790.

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中等度~重度のCKD関連そう痒症、anrikefon vs.プラセボ/BMJ

 血液透析を受けている中等度~重度のそう痒症を有する患者において、新規末梢性κオピオイド受容体作動薬anrikefon(旧称HSK21542)は安全であることが確認され、かゆみの強度を顕著に軽減し、かゆみに関連する生活の質(QOL)を改善させたことが、中国・Southeast University School of MedicineのBi-Cheng Liu氏らAnrikefon-302 study collaborator groupによる、第III相の多施設共同二重盲検無作為化プラセボ対照試験の結果で示された。κオピオイド受容体作動薬は、中等度~重度の慢性腎臓病(CKD)関連そう痒症の有望な治療戦略とみなされている。anrikefonは、κオピオイド受容体への結合親和性を高める親水性の小ペプチドおよびスピロ環構造を有し、血液脳関門の通過は最小限となる。持続的な治療効果と中枢性のオピオイド副作用発現頻度の低さから、CKD関連そう痒症を有する患者の新たな治療選択肢として期待されていた。BMJ誌2025年8月19日号掲載の報告。中国の50施設で試験、有効性と安全性を評価 研究グループは、2022年6月~2024年6月に、中国の50施設でCKD関連そう痒症を有する患者におけるanrikefonの有効性と安全性を評価する試験を行った。 被験者は、週3回の血液透析を3ヵ月以上受けている成人(18歳以上)で、乾燥体重40~135kg、中等度~重度のそう痒症を有する患者とした。中等度~重度そう痒症の定義は、週平均の24時間Worst Itch Numeric Rating Scale(WI-NRS)スコアが5超の場合とした。 適格患者を無作為に1対1の割合で、anrikefon 0.3μg/kgを週3回静脈内投与する群またはプラセボを投与する群に割り付け、12週間投与し、その後に任意の非盲検延長試験に組み入れanrikefon治療を40週間行った。 主要エンドポイントは、12週時の週平均24時間WI-NRSスコアがベースラインから4ポイント以上低下した患者の割合であった。副次エンドポイントは、12週時の週平均24時間WI-NRSスコアがベースラインから3ポイント以上低下した患者の割合、およびSkindex-10と5-Dかゆみスケールを用いたベースラインからのかゆみ関連QOLの変化とした。また、ベースラインから非盲検延長治療40週目の、かゆみ関連QOLの変化も、5-Dかゆみスケールを用いて報告された。anrikefonの安全性は試験期間を通じて評価された。anrikefon群のかゆみ関連QOLが有意に改善 血液透析を受けている中等度~重度のCKD関連そう痒症を有する患者652例がスクリーニングを受け、545例がanrikefon群(275例)またはプラセボ群(270例)に無作為化された。 12週間の二重盲検試験を完了したのは、anrikefon群243/275例(88%)、プラセボ群254/270例(94%)であった。その後の40週間の非盲検延長試験には443例が組み入れられた。試験集団は、大部分が男性(70%)で平均年齢は52.7歳。ベースラインの週平均WI-NRSスコアは7.0(SD 1.1)で、両群のベースライン特性は類似していた。また、鎮痒薬の併用割合は両群間で同等であった。 12週時のWI-NRSスコアがベースラインから4ポイント以上低下した患者の割合は、anrikefon群37%であったのに対しプラセボ群は15%であった(p<0.001)。 12週時のWI-NRSスコアがベースラインから3ポイント以上低下した患者の割合は、anrikefon群51%であったのに対しプラセボ群は24%であった(p<0.001)。 anrikefon群はプラセボ群と比べて、かゆみ関連QOLが有意に改善したことが示された(5-Dかゆみスケールのベースラインからの平均変化スコア:-5.3 vs.-3.1[p<0.001]、Skindex-10スケールの同平均変化スコア:-15.2 vs.-9.3[p<0.001])。 anrikefon群は、非盲検延長治療40週の間も、5-DかゆみスケールにおけるQOLスコアの持続的な改善が示され、持続的な長期有効性が確認された。 軽症~中等症のめまいが、anrikefon群でプラセボ群よりも多くみられたが、明らかな臨床的影響は認められなかった。

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透析を要する腎不全患者、MRAは心血管死を予防するか/Lancet

 ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)は、心不全および非重症慢性腎臓病の患者の心血管イベントを予防する可能性があるが、透析を要する腎不全患者への効果は明らかではない。カナダ・McMaster UniversityのLonnie Pyne氏らの研究チームは、この患者集団におけるMRAの有効性と安全性の評価を目的に、系統的レビューとメタ解析を実施。ステロイド型MRAは、透析を要する腎不全患者における心血管疾患による死亡にほとんど、あるいはまったく影響を及ぼさなかったことを示した。研究の成果は、Lancet誌2025年8月23日号で報告された。19試験4,675例のメタ解析 本研究では、1974~2015年に発表された論文に関する以前の系統的レビューに、その後2025年3月18日までに新たに報告された10件の論文(最近の2つの大規模試験[ALCHEMIST、ACHIEVE]を含む)を追加してデータを更新し、メタ解析を実施した(本研究は特定の研究助成を受けていない)。 維持透析療法を受けている腎不全の成人(年齢18歳以上)患者において、MRAと対照(プラセボまたは標準治療)を比較した無作為化対照比較試験を対象とし、ステロイド型MRAに関する19件の試験(スピロノラクトン18件、エプレレノン2件、これら2剤を対象とした1件を含む)に参加した4,675例を解析に含めた。 主要アウトカムは心血管疾患による死亡率とし、経験的ベイズ法に基づく変量効果モデルを用いて評価した。心血管死のリスクに差はない 心血管死亡率の評価は11件(4,349例)の試験で行われ、このうち5件(3,562例)はバイアスリスクが低く、6件(787例)は高かった。低バイアスリスク試験における心血管死の発生率はMRA群で14.8%(264/1,785例)、対照群で15.5%(276/1,777例)であり(オッズ比[OR]:0.98[95%信頼区間[CI]:0.80~1.20]、I2=2.9%、τ2=0.0、エビデンスの確実性:中)、両群間に差を認めなかった。 MRA群で、1,000例当たりのイベント数が年間1件(95%CI:-14~11)減少すると示唆された。 また、高バイアスリスク試験における心血管死の発生率のORは0.33(95%CI:0.17~0.67)、全試験のORは0.73(0.46~1.16)であった。高カリウム血症、女性化乳房のリスクが上昇 心血管死以外の7つの評価項目に関する低バイアスリスク試験または全試験の解析結果は以下のとおりであった。MRA群で高カリウム血症(≧6.5mmol/L)と、女性化乳房または乳房痛のリスクが上昇したが、各試験の絶対リスクは低かった。・心不全による入院:低バイアスリスク試験2件(3,182例)、MRA群5.9%(94/1,580例)vs.対照群6.6%(106/1,602例)、OR:0.70(95%CI:0.30~1.65)、I2=71.1%、τ2=0.29、エビデンスの確実性:低。 ・全死因死亡:同6件(3,602例)、30.6%(553/1,805例)vs.31.9%(574/1,797例)、0.97(0.84~1.12)、0%、0、中。 ・全入院:同1件(2,538例)、57.8%(728/1,260例)vs.58.5%(748/1,278例)、0.97(0.83~1.14)、中。 ・高カリウム血症(≧6.0mmol/L):全試験5件(1,104例)、33.7%(190/563例)vs.31.8%(172/541例)、1.07(0.81~1.40)、0.0%、0.0、低。 ・高カリウム血症(≧6.5mmol/L):低バイアスリスク試験4件(2,918例)、8.2%(120/1,465例)vs.5.7%(78/1,375例)、1.50(1.11~2.03)、0.0%、0.0、中。 ・女性化乳房または乳房痛:同5件(3,448例)、2.3%(40/1,728例)vs.0.7%(12/1,720例)、3.02(1.57~5.81)、0.0%、0.0、中。 ・低血圧:全試験5件(3,012例)、2.3%(35/1,509例)vs.2.0%(30/1,500例)、1.04(0.61~1.78)、0.0%、0.0、低。非ステロイド型MRAの情報はない 著者は、「本研究の知見は、ステロイド型MRAは透析を要する腎不全患者における心血管疾患による死亡にほとんど、あるいはまったく影響を及ぼさず、潜在的な有害性(harm)のリスクを示唆する」「これらの患者のサブグループにおけるステロイド型MRAの効果に関する情報は不十分であり、非ステロイド型MRAについては情報がまったくない」としたうえで、「これらの患者は心血管死のリスクが依然として高く、有効な治療法が引き続き緊急に求められている」とまとめている。

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血液透析患者へのスピロノラクトン、心血管イベントを抑制するか/Lancet

 慢性血液透析を受けている腎不全患者は、一般集団と比較して心血管疾患による死亡リスクが10~20倍高いが、血液透析患者は通常、心血管アウトカムを評価する臨床試験から除外されるという。フランス・Association ALTIRのPatrick Rossignol氏らALCHEMIST study groupは、心血管イベントのリスクの高い血液透析患者において、ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬スピロノラクトンの有効性を評価する目的で、研究者主導の多施設共同二重盲検無作為化プラセボ対照イベント主導型試験「ALCHEMIST試験」を実施。スピロノラクトンは主要心血管イベント(MACE)の発生を抑制しなかったことを示した。研究の詳細は、Lancet誌2025年8月16日号に掲載された。欧州3ヵ国の早期中止試験 本試験は、2013年6月~2020年11月に3ヵ国(フランス、ベルギー、モナコ)の64施設で参加者を登録し行われた(フランス保健省の助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、腎不全で慢性血液透析(週3回以上)を受けており、少なくとも1つの心血管合併症またはリスク因子を有する患者644例であった。スピロノラクトン群(25mg/日まで漸増、経口投与)に320例、プラセボ群に324例を無作為に割り付け、主要エンドポイントであるMACE(心血管死、非致死的心筋梗塞、急性冠症候群、脳卒中、心不全による入院)の発生率を評価した。 試験は2022年11月(最後の参加者の追跡期間が2年の時点)に資金不足のため早期中止となった。MACE発生率は改善せず 全体の年齢中央値は70.8歳(四分位範囲[IQR]:63.5~78.1)、男性が444例(69%)で、血液透析期間中央値は1.7年(IQR:0.7~4.5)だった。追跡期間中央値は32.6ヵ月(17.3~48.4)であった。 MACEの発生率は、スピロノラクトン群で24%(78/320例、10.66/100人年[95%信頼区間[CI]:8.54~13.31])、プラセボ群で24%(79/324例、10.70/100人年[8.59~13.35])と、両群間に有意な差を認めなかった(ハザード比[HR]:1.00[95%CI:0.73~1.36]、p=0.98)。 MACEの各項目では、心不全による入院(2%[7/320例]vs.5%[17/324例]、HR:0.41[95%CI:0.17~1.00])の発生率がスピロノラクトン群で低かったが、他の項目については両群間に差はなかった。忍容性は良好 副次エンドポイントについては、心停止からの蘇生を含む非致死的心血管イベント(12%[37/320例]vs.17%[56/324例]、HR:0.66[95%CI:0.43~0.99])の発生率はスピロノラクトン群で良好であった。一方、全死因死亡、心血管系以外の原因による死亡、高カリウム血症(血清カリウム値>6mmol/L)、低カリウム血症(同<4mmol/L)の発生率には両群間に差がなかった。 スピロノラクトン群の忍容性は良好であった。とくに注目すべき有害事象としての高カリウム血症の発生率の群間差は1.8%ポイント(イベント発生率はスピロノラクトン群11.7%vs.プラセボ群9.9%)、とくに注目すべき重篤な有害事象としての高カリウム血症の発生率の群間差は2.7%ポイント(28.3%vs.25.6%)と小さかった。5試験のメタ解析でもほぼ同様の結果 既報の4試験と本試験を対象にメタ解析を行った。その結果、プラセボと比較してミネラルコルチコイド受容体拮抗薬は、全死因死亡(オッズ比[OR]:0.71[95%CI:0.41~1.24]、p=0.23、I2=43%)、心血管死(0.72[0.33~1.58]、p=0.41、I2=57%)、非致死的心血管イベント(1.00[0.77~1.30]、p=0.99、I2=0%)の改善をもたらさなかった。 また、プラセボに比しミネラルコルチコイド受容体拮抗薬は、高カリウム血症イベント(OR:1.04[95%CI:0.90~1.20]、p=0.58、I2=0%)の発生率を上昇させなかった。 著者は、「本試験および本試験を含むメタ解析の結果は、スピロノラクトンが心血管リスクの高い血液透析を受けている腎不全患者に臨床的有益性をもたらさないことを示している」「これらの患者におけるミネラルコルチコイド受容体拮抗薬の適応外使用が、心血管死や全死因死亡を有意に低下させたとする実臨床データがあるが、本試験の知見はこれを支持しない」としている。

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スピロノラクトン、維持透析患者の心不全・心血管死を減少させるか/Lancet

 維持透析を受けている腎不全患者において、スピロノラクトン25mgの1日1回経口投与はプラセボと比較し、心血管死および心不全による入院の複合アウトカムを減少させなかった。カナダ・McMaster UniversityのMichael Walsh氏らが、12ヵ国143の透析プログラムで実施した医師主導の無作為化並行群間比較試験「ACHIEVE試験」の結果を報告した。維持透析を受けている腎不全患者は心血管疾患および死亡のリスクが大きいが、スピロノラクトンがこれらの患者において心不全および心血管死を減少させるかどうかは明らかになっていなかった。著者は、「本試験では、維持透析患者におけるスピロノラクトン導入の有益性は認められなかった。維持透析患者の心血管疾患と死亡を減少させるための、ステロイド性ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬に代わる選択肢について、さらなる研究が必要である」とまとめている。Lancet誌2025年8月16日号掲載の報告。心血管死または心不全による入院の複合アウトカムをプラセボと比較 ACHIEVE試験の対象は、45歳以上、または糖尿病の既往がある18歳以上の腎不全患者で、3ヵ月以上維持透析を受けている患者であった。 研究グループは、登録患者全例に非盲検導入期としてスピロノラクトン25mgを1日1回7週間以上経口投与し、血清カリウム値が6.0mmol/Lを超えておらず、忍容性があり試験薬の服薬を順守できると判断した患者を、ブロック無作為化法(ブロックサイズ4)により、施設で層別化し、スピロノラクトン群とプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付けた。患者、医療従事者および評価者は、いずれも盲検化された。 主要アウトカムは心血管死または心不全による入院の複合アウトカムで、無作為化された全患者を解析対象集団としてイベント発生までのtime-to-event解析を行った。無益性のため試験は早期に中止 2017年9月19日~2024年10月31日に3,689例がスクリーニングされ、3,565例が非盲検導入期に登録された。このうち2,538例が、スピロノラクトン群(1,260例)またはプラセボ群(1,278例)に無作為化された。患者背景は、女性931例(36.7%)、男性1,607例(63.3%)であった。 2024年12月10日時点で、主要アウトカムのイベント報告数508件(総予想数の78%)を含む中間解析の結果に基づき、外部の安全性・有効性モニタリング委員会により無益性による試験の早期中止が勧告された。最終追跡調査は2025年2月28日に終了し、追跡期間中央値は1.8年(四分位範囲:0.85~3.35)であった。 複合アウトカムのイベントは、スピロノラクトン群で258例(10.46件/100患者年)、プラセボ群で276例(11.33件/100患者年)に認められ、ハザード比(HR)は0.92(95%信頼区間[CI]:0.78~1.09、p=0.35)であった。 両群で心血管死(HR:0.89、95%CI:0.74~1.08)、心臓死(0.81、0.64~1.03)、血管死(1.07、0.77~1.47)、および全死因死亡(0.95、0.83~1.09)はいずれも同等で、心不全による初回入院(0.97、0.72~1.30)ならびにあらゆる初回入院(0.96、0.87~1.06)も両群で差はなかった。

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市中発症型MRSAと院内獲得型MRSAの比較【1分間で学べる感染症】第32回

画像を拡大するTake home message市中発症型MRSAは、若年者を中心に皮膚軟部組織感染症を引き起こすことが多く、院内獲得型MRSAとは臨床像・薬剤耐性・遺伝子背景が異なるため、その違いを理解しよう。MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)は、医療関連感染だけでなく市中でも発症することがあり、起因背景や臨床像、薬剤感受性に違いがあります。今回は、市中発症型MRSAと院内獲得型MRSAの主な違いについて整理し、それぞれの理解を深めていきましょう。リスク患者市中発症型MRSA(Community-associated MRSA:CA-MRSA)は、若年者、スポーツ選手、軍隊、薬物静注使用者、同性愛者など、医療機関と接点のない健康な方々に発症することが多く報告されています。接触機会の多い生活環境や皮膚の小さな外傷が感染契機となります。一方、院内獲得型MRSA(Healthcare-associated MRSA:HA-MRSA)は、入院患者、長期療養施設入所者、透析患者、長期カテーテル留置中の患者など、医療的介入を受ける方々に多く認められます。病院内の医療機器や環境が感染源となることがしばしばです。臨床症状CA-MRSAでは、皮膚軟部組織感染症(蜂窩織炎、膿瘍など)が主な臨床像であり、とくにPVL(Panton-Valentine leukocidin)遺伝子を保有する株では壊死性肺炎など重篤な病態を呈することもあります。一方、HA-MRSAは、肺炎、菌血症、術後創部感染、皮膚軟部組織感染症など、多彩な感染症を引き起こします。重篤な基礎疾患を有する入院患者では、全身感染に進展することも少なくありません。抗菌薬耐性CA-MRSAはβラクタム系抗菌薬に耐性を示す一方で、ST合剤(スルファメトキサゾール・トリメトプリム)、ドキシサイクリン、クリンダマイシンなどの非βラクタム系抗菌薬に感受性を示すことが多くあります。一方、HA-MRSAは、βラクタム系抗菌薬に耐性を示すことに加え、上記の抗菌薬にも耐性を示すことが多く、バンコマイシン、リネゾリド、ダプトマイシンなど、選択肢が限られます。SCCタイプCA-MRSAは、SCCmecタイプIVやVを有している一方、HA-MRSAは、SCCmecタイプI〜IIIを有することが多いとされています。PVL遺伝子CA-MRSAはPVL遺伝子を高頻度に保有し、この毒素が好中球を破壊することで強い炎症反応や組織破壊を引き起こします。PVL陽性株による壊死性肺炎や皮膚壊死病変の報告もあり、とくに注意が必要です。一方、HA-MRSAではPVL遺伝子の保有はまれであり、主に基礎疾患に伴う易感染性や長期医療介入が病態進展に関与します。このように、市中発症型MRSAと院内獲得型MRSAは臨床的背景や対応すべき抗菌薬の選択が異なるため、上記のポイントを十分に念頭に置いておく必要があります。1)Nichol KA, et al. J Antimicrob Chemother. 2019;74(Suppl 4):iv55-iv63.2)Naimi TS, et al. JAMA. 2003;290:2976-2984.3)Huang H, et al. J Clin Microbiol. 2006;44:2423-2427.

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透析前の運動は透析中の運動と同様に心筋スタニングを抑制

 透析中の運動療法が血液透析誘発性心筋スタニングを軽減することが報告されているが、日常診療での実施には設備やスタッフ配置など多くの課題がある。今回、透析前の運動療法でも透析中の運動療法と同等の心保護効果があることが、フランス・Avignon UniversityのMatthieu Josse氏らによって明らかになった。Clinical Journal of the American Society of Nephrology誌オンライン版2025年8月12日号掲載の報告。 本研究は非盲検ランダム化クロスオーバー試験として実施され、末期腎不全患者25例を対象に、(1)運動療法を伴わない標準的な血液透析を実施(標準透析)、(2)血液透析中に運動療法を実施(透析中運動)、(3)運動療法を終えてから血液透析を実施(透析前運動)の3種類の介入をランダムな順序でそれぞれ実施した。2次元心エコー検査と全血粘度の測定は、透析開始直前と透析中負荷ピーク時に実施した。心血管血行動態は30分ごとにモニタリングした。 主な結果は以下のとおり。・左室局所壁運動異常は、標準透析と比較して、透析中運動および透析前運動で有意に減少した。 -透析中運動:1.60セグメント減少(95%信頼区間[CI]:0.09~3.10、p=0.04) -透析前運動:1.72セグメント減少(95%CI:0.21~3.22、p=0.02)・心筋スタニング抑制効果は、透析中運動と透析前運動で差はなかった(p=0.86)。・血行動態は、運動期間を除けば透析中運動と標準透析で類似しており、透析前運動と標準透析では完全に同様であった・透析中運動では全血粘度低下が抑制され、高せん断速度での全血粘度変化と左室局所壁運動異常の減少に有意な関連が認められた(p=0.006およびp=0.04)。・透析前運動では、左室局所壁運動異常の改善と血行動態変化との有意な関連は認められなかった(p>0.42)。 これらの結果より、研究グループは「血液透析前の運動療法は、透析中の運動療法と同等の心保護効果をもたらした。この効果は、血行動態の変化によるものではなく、運動そのものに由来する可能性が高い」とまとめた。

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生存時間分析 その3【「実践的」臨床研究入門】第57回

Cox比例ハザード回帰モデルによる交絡因子の調整前回まで、Cox比例ハザード回帰モデルの基本的な考え方を説明しました。今回は、Cox比例ハザード回帰モデルによる交絡因子(連載第45回参照)の調整について、前回に引き続き筆者らが出版した実際の臨床研究論文1)のリサーチ・クエスチョン(RQ)を例にして解説します。Cox比例ハザード回帰モデルは、イベント発生までの時間(生存時間)に対する多変量解析手法です(連載第50回参照)。このモデルにより、特定の要因がハザード(ある瞬間におけるイベント発生のリスク、すなわち瞬間的なイベント発生率)に与える影響を評価できます(連載第55回参照)。Cox比例ハザード回帰モデルの基本的な形は以下のような積(かけ算)の式で表されます(連載第56回参照)。h(t|X)=h0(t)×exp(β1X1+β2X2・・・+βnXn)h(t|X):特定の説明変数のセットXを持つ個体の時点tにおけるハザードh0(t):基準ハザード関数X1、X2、…、Xn:交絡因子を含む説明変数β1、β2、…、βn:各説明変数に対応する回帰係数上記のように、Cox比例ハザード回帰モデルを用いた交絡因子の調整は、回帰モデルの式に交絡因子を説明変数として含めることで行われます。たとえば、事例論文1)の要因である透析導入前腎専門医診療(Pre-Nephrology Visit:PNV)の有無という変数X1が透析導入後早期(1年以内)の死亡のハザード(アウトカム)に与える影響を評価する際に、糖尿病(DM)の有無(X2)が交絡因子であるとします。この場合、回帰モデルの式は以下のようになります。h(t|X1、X2)=h0(t)×exp(β1X1)×exp(β2X2)=h0(t)×exp(β1X1+β2X2)X1:PNVの有無(あり=1、なし=0)X2:DMの有無(あり=1、なし=0)この回帰モデルでは、回帰係数β1は、DMの有無(X2)の効果であるexp(β2X2)を調整したうえでの、PNVの有無(X1)がハザードに与える影響を推定します(連載第55回、第56回参照)。DMという交絡因子の影響を取り除いたPNVの調整ハザード比(adjusted hazard ratio:aHR)は exp(β1)となります。事例論文1)では、交絡因子として、年齢、性別、血液検査データ(ヘモグロビンや血清アルブミンなど)やDMを含む14の並存疾患などの要因を交絡因子として調整したと記載されています。したがって、この研究で実際に使用されたCox比例ハザード回帰モデルの簡略化された概念的な式は、以下のようになります。h(t|PNV、Age、Sex、…、DM)=h0(t)×exp(βPNV・PNV+βAge・Age+βSex・Sex+・・・+βDM・DM)βPNVの指数変換 exp(βPNV)がPNVのaHRとなり、事例論文1)で点推定値は0.57と報告されています 。95%信頼区間(95%confidence interval:95%CI)は0.50〜0.66と1をまたいでおらず、p<0.0001と統計学的にも有意差を認めました。これは、すべての交絡因子を統計的に調整した後でも、PNVを受けた患者群はPNVを受けなかった患者群と比較して、透析導入後早期(1年以内)死亡のリスクが43%低いことを意味します(1-0.57=0.43)。腎臓内科医の存在意義? の1つを示す解析結果を出せた、と安堵しました。1)Hasegawa T et al. Clin J Am Soc Nephrol. 2009;4:595-602.

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輸液選択、乳酸リンゲル液vs.生理食塩水/NEJM

 日常的に行われている静脈内輸液投与に関して、乳酸リンゲル液のほうが生理食塩水よりも臨床的に優れているかは不明である。カナダ・オタワ大学のLauralyn McIntyre氏らCanadian Critical Care Trials Groupは、病院単位で期間を区切って両者を比較した検討において、乳酸リンゲル液を使用した場合に、初回入院後90日以内の死亡または再入院の発生率は有意に低下しなかったことを示した。NEJM誌オンライン版2025年6月12日号掲載の報告。カナダの7病院で試験、12週間ずつ使用をクロスオーバー 研究グループは、カナダのオンタリオ州にある7つの大学および地域病院で、非盲検、2期間、2シークエンス、クラスター無作為化クロスオーバー試験を実施した。静脈内輸液を病院全体で12週間ずつ乳酸リンゲル液または生理食塩水に割り付け、アウトカムを比較した。乳酸リンゲル液または生理食塩水使用への切り替えは、ウォッシュアウト後に行った。 主要アウトカムは、初回入院後90日以内の死亡または再入院の複合とした。副次アウトカムは、主要アウトカムの各項目、入院期間、初回入院後90日以内の透析導入、90日以内の救急外来受診、自宅以外の施設への退院とした。 アウトカムデータは、保健行政データベースから入手した。解析は病院単位で行い、主要アウトカムは、参加病院全体で平均化した乳酸リンゲル液使用と生理食塩水使用の効果を比較推算した。初回入院後90日以内の死亡または再入院の複合発生率は同等 試験は2016年8月~2020年3月に行われ、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックにより試験が中断される前に、7病院が12週間ずつ2期間の試験を完了した。 主要アウトカムに関するデータは、4万3,626例の適格患者から入手できた(乳酸リンゲル液群2万2,017例、生理食塩水群2万1,609例)。 初回入院後90日以内の死亡または再入院の複合発生率は、乳酸リンゲル液群20.3±3.5%、生理食塩水群21.4±3.3%であった(補正後群間差:-0.53%ポイント、95%信頼区間:-1.85~0.79、p=0.35)。 副次アウトカムの結果もすべて、主要アウトカムの結果と一致していた。重篤な有害事象は報告されなかった。

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TAVI後の脳卒中リスクを低減する目的でのルーチンでの脳塞栓保護デバイスの使用は推奨されない(解説:加藤貴雄氏)

 BHF PROTECT-TAVI試験は、経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)における脳塞栓保護(CEP)デバイスの有効性を検証した英国での7,600例規模の大規模無作為化比較試験である(Kharbanda RK, et al. N Engl J Med. 2025;392:2403-2412)。CEPデバイス(Sentinel)の使用群と非使用群において、TAVI後72時間以内または退院までの脳卒中発症率に有意な差はなかった。この結果は、先行研究である北米・欧州・オーストラリアを中心に約3,000例で行われた、PROTECTED TAVR試験の結果と一致しており(Kapadia SR, et al. N Engl J Med. 2022;387:1253-1263)、TAVI後の脳卒中リスクを低減する目的でのルーチンでの使用は推奨されない結果であった。安全性に差はなかった。 本邦では「脳塞栓保護システムの適正使用に係る指針」が経カテーテル的心臓弁治療関連学会協議会から昨年出され、画像検査所見から、「大動脈弁の著しい石灰化又は上行弓部大動脈のアテローム病変によりTAVR時の脳塞栓症のリスクが高いと思われる患者」、または、既往歴から、「末梢血管疾患の既往・慢性腎臓病(透析含む)の既往・脳卒中の既往」があること、が適応評価に考慮されるべき項目として挙げられている。フィルターが留置される部分、すなわち左総頸動脈または腕頭動脈のいずれかに70%を超える狭窄や拡張・解離のない患者に用いることも重要である。高リスク患者に適正に用いることが重要で、高リスク患者に対象を絞った臨床試験も必要と思われる。

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第254回 新型コロナ、全国的に再拡大 定点報告数が20週ぶりに4人台/厚労省

<先週の動き> 1.新型コロナ、全国的に再拡大 定点報告数が20週ぶりに4人台/厚労省 2.熱中症搬送、今年最多の1万人超 高齢者が半数以上占める/消防庁 3.高難度の外科手術は集約、外科医に報酬強化を 中医協で議論進む/厚労省 4.無床診療所が初の10万件超え 一方で有床診は7万床割れが現実に/厚労省 5.国立病院機構、全体の83%が赤字に 新型コロナ補助終了と物価高が打撃/国立病院機構 6.マイナ保険証、9月からスマホ対応へ 制度周知と現場支援が課題に/厚労省 1.新型コロナ、全国的に再拡大 定点報告数が20週ぶりに4人台/厚労省厚生労働省の発表によると、2025年第30週(7月21~27日)の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の定点報告数は全国平均で1医療機関当たり4.12人となり、20週ぶりに4人台に達した。感染者数は全国で1万5,924人(前週比約32%増)となり、定点報告医療機関の削減(5,000→3,000ヵ所)以降では最多となる。地域別では、沖縄が最多(14.13人)で、宮崎(10.07人)、鹿児島(9.33人)、熊本(7.85人)と南九州での拡大が著しい。宮崎県では、2週前と比べて1医療機関当たりの患者数が2.43人から4倍となる10.07人に急増し、昨年8月以来の水準になった。過去、夏季に1施設当たり30人規模まで感染が広がった記録があり、夏休みや帰省による人流増加に伴うさらなる流行拡大が懸念される。県では、手洗い・うがい、マスク着用、換気の徹底など基本的な感染症対策の再徹底を呼びかけている。また、今回の感染拡大は沖縄を除く全国46都道府県で報告数が増加しており、全国的な再流行の兆候が明確になっている。2025年春以降の「定点縮小体制」の下では、定点数が減ったため総感染者数の統計的把握は難しくなっているが、1施設当たりの報告数の上昇は実質的な感染拡大を示すものとみられる。今後も地域間の感染格差と重症化リスクの高い層への対応が重要となる。 参考 1) コロナ定点報告数、20週ぶりの4人台 感染者は前週比3割増1.59万人 厚労省(CB news) 2) 宮崎 新型コロナ患者急増 この2週間で4倍 感染防止対策を(NHK) 3) コロナ感染者増 前週比1.32倍 定点当たり4.12人(沖縄タイムス) 2.熱中症搬送、今年最多の1万人超 高齢者が半数以上占める/消防庁総務省消防庁の速報によると、2025年7月21~27日の1週間で熱中症により救急搬送された人は全国で1万804人となり、今年最多を記録した。前週比ではほぼ倍増(103.5%増)、5月以降の累計搬送者数は5万3,126人に達し、前年同期より約7,000人多い。東京都が最も多く1,099人、以下埼玉(750人)、北海道(690人)、大阪(641人)と続く。とくに北海道では、北見市で39.0℃を観測するなど記録的な暑さとなり、搬送者数は前年同期の2倍以上に上った。傷病程度別では、外来対応の軽症が6,821人、中等症3,624人、3週間以上の入院を要する重症が260人。死亡も16人確認され、14都道府県に分布していた。年代別では65歳以上の高齢者が6,012人と半数以上を占め、成人(18~64歳)が3,759人、少年(7~17歳)が969人、7歳未満は64人だった。発生場所では住居内が最多(4,083人)、続いて道路(2,094人)、駅や駐車場などの屋外公衆空間(1,328人)、職場(1,244人)と続き、屋内外問わず広く発生していた。とくに高齢者の自宅内での発症が多く、エアコンの使用を控える傾向も指摘されている。消防庁は、こまめな水分補給やエアコンの使用、作業時の休憩に加え、離れて暮らす高齢者への声かけや見守りの重要性を強調している。猛暑は今後も続く見込みであり、医療機関・行政機関ともに、高リスク者への啓発と搬送体制の強化が求められる。 参考 1) 全国の熱中症による救急搬送状況 令和7年7月21日~7月27日(消防庁) 2) 熱中症搬送、全国で今年最多の1万804人 16人の死亡確認 21~27日(産経新聞) 3) 熱中症搬送 27日までの1週間 全国1万人余 前週の2倍近くに増加(NHK) 4) 熱中症搬送者数、今年最多1万804人-前週比倍増 消防庁(CB news) 3.高難度の外科手術は集約、外科医に報酬強化を 中医協で議論進む/厚労省厚生労働省は、7月31日に中央社会保険医療協議会(中医協)の「入院・外来医療等の調査・評価分科会」を開き、外科医の減少と診療科偏在を背景に、急性期入院医療や高難度手術の「集約化」と、それを担う病院や外科医への診療報酬上の支援強化が議論された。とくに消化器外科医は、若年層で減少傾向にあり、外科医の勤務実態(業務負担・ワークライフバランス)を反映した経済的インセンティブの付与が急務とされた。同分科会では「集約化」が医療の質と病院経営の安定化に寄与する一方で、患者の医療アクセスや均てん化医療とのバランスも重要視された。また、症例数と治療成績の相関や、人口規模と医師数・症例数の関係が示され、とくに人口20万人未満の地域では、消化器外科医が1~2人のみの病院が多く、集約化の必要性が高いとされた。外科医確保に向けては、時間外・休日加算の活用や診療報酬による直接的な処遇改善策が提起されたが、現行制度の届け出が困難であることから、取得要件の緩和や新たな支援スキームの検討が必要との意見も出た。今後の診療報酬改定では、手術集約の促進に加え、外科医個人に報いる新たな加算制度の創設も検討課題となる。 参考 1) 令和7年度 第8回入院・外来医療等の調査・評価分科会[議事資料](厚労省) 2) 外科医不足解消に向け、「急性期入院医療・高難度手術の集約化」や「外科医の給与増」などを診療報酬で促進せよ-入院・外来医療分科会(Gem Med) 3) 手術を集約的に担う病院「適切に評価を」外科医不足対策で 中医協・分科会(CB news) 4.無床診療所が初の10万件超え 一方で有床診は7万床割れが現実に/厚労省厚生労働省が、7月31日に公表した医療施設動態調査(2025年5月末概数)によると、無床診療所の施設数がついに10万119施設となり、過去の修正を経て統計上初めて10万件を突破した。前年同月比で331施設の増加となり、無床診療所の増加傾向が鮮明となっている。その一方で、有床診療所は5,240施設と11施設の減少を記録し、1年前からは271施設の減。病床数も6万9,659床と前年同月比で4,116床の減少を示し、2025年4月末時点ではついに「7万床」を割り込んだ。減少ペースが続けば、2026年3月には5,000施設、7月には6万5,000床を下回る可能性が高い。この傾向の背景には、診療報酬の制度改正にもかかわらず経営環境の厳しさや後継者不足などの構造的課題がある。厚労省は、過去の改定で「地域包括ケア型」有床診への支援を強化し、初期加算の細分化や新加算(透析患者やハイリスク分娩管理への評価)を導入したが、有床診療所の減少に歯止めはかかっていない。有床診は一部地域では地域医療の4分の1を担っており、入院対応が可能な地域資源としての意義が大きい。今後の診療報酬改定に向けて、有床診の役割を再評価し、制度的・人的支援の在り方を見直すことが求められる。 参考 1) 医療施設動態調査(令和7年5月末概数)(厚労省) 2) 無床診療所が10万カ所を突破 5月末概数 1年で331カ所増加(CB news) 5.国立病院機構、全体の83%が赤字に 新型コロナ補助終了と物価高が打撃/国立病院機構国立病院機構(NHO)は、2024年度の経常収支が375億円の赤字となり、設立以来最大の損失を記録した。新木 一弘理事長は、厚生労働省の有識者会議で「このままでは機構の存続も危うい」と述べ、経営改善の緊急性を強調した。前年度は190億円の赤字であり、1年で倍近くに悪化し、赤字病院は117施設(83.6%)に上った。主因は新型コロナ病床補助金の廃止(-233億円)に加え、人件費(+138億円)、材料費(+69億円)、光熱費の高騰などで経常費用は393億円増加。一方、入院・外来収益は増加傾向にあり、病床利用率も78.8%へ改善。クリティカルパス実施率や訪問看護利用、地域連携指標も一定の成果をみせたが、マイナ保険証のオンライン資格確認利用は22.8%に止まり、DX推進の遅れが浮き彫りとなった。業績改善策として、NHOは「経営改善総合プラン」を策定し、病院別KPIの可視化、好事例の横展開、院長層への経営研修強化などを実行している。チーム医療や特定行為研修修了者の配置も推進し、2024年度は特定行為看護師が596名へと前年比173名増となった。なお、他の公的病院でも赤字拡大傾向が続いており、済生会270億円、日本赤十字(日赤)450億円と並ぶ水準にあり、経営改善には診療報酬での対応が求められる。 参考 1) 独立行政法人評価に関する有識者会議 国立病院WG [配布資料](厚労省) 2) 国立病院機構が375億円の赤字に転落「過去最悪に」 24年度(CB news) 6.マイナ保険証、9月からスマホ対応へ 制度周知と現場支援が課題に/厚労省2025年7月末をもって、国民健康保険(国保)加入者の約7割(1,700万人)と後期高齢者医療制度加入者全員(1,900万人)の保険証が有効期限を迎え、原則「マイナ保険証」または「資格確認書」が必要となった。だが、制度や書類の違いを理解していない患者が多く、現場では混乱と説明負担が拡大している。厚生労働省は、急増する問い合わせや誤持参への対応として、これまで保険証として使えなかった「資格情報のお知らせ」の単独使用を国保加入者に限り来年3月まで特例的に認める方針へと転換した。加えて、75歳以上の高齢者には原則全員に資格確認書を配布し、移行を円滑にする意図を示したが、制度はかえって複雑化している。この混乱の背景には、昨年12月の保険証新規発行停止を皮切りに、厚労省が短期間に複数のルール変更や特例通知を繰り返したことがある。現場の医療機関や自治体などは、周知が追い付かず、患者対応に多大な事務負担を強いられている。中には「制度を知らずに期限切れの保険証を持参した」、「資格確認書とお知らせの違いがわからない」といった事例が各地で報告されている。一方、厚労省は新たな利用促進策として、スマートフォンによる「スマホ保険証」導入を進めており、読み取り機器(汎用カードリーダー)購入に1台5,000円を上限に補助する制度を創設し、早ければ9月から一部医療機関で運用を開始する。ただし、導入には顔認証端末や周辺機器整備が必要で、対応の遅れや補助制度の認知不足も懸念されている。今後は、制度の安定運用に向け、患者・医療機関の双方に対するわかりやすい周知と、例外措置の整理・一元化が急務となる。 参考 1) 9月からマイナ保険証がスマホでも使えます(厚労省) 2) 医療機関・薬局の窓口に訪れる患者に対する資格確認方法等に関するセミナー(同) 3) 外来診療等におけるマイナ保険証のスマホ搭載対応について(1)[スマホ搭載の概要](国保連合会) 4) 一部の健康保険証きょうから“原則使えず” 医療機関の対応は(NHK) 5) 「スマホ保険証」対応準備に補助 機器購入で5000円上限-厚労省(時事通信) 6) 国保などの健康保険証が7月末で期限切れ、「マイナ保険証」移行呼びかけ…来年3月まで使用は可能(読売新聞) 7) マイナ保険証でまたルール変更…知らない人続出の「資格情報のお知らせ」で 大量の期限切れ前に 厚労省の弁解は(東京新聞)

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