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鉄欠乏症心不全患者に対するカルボキシマルトース第二鉄の静注は、心不全入院と心血管死を有意に減少させなかった:The FAIR-HF2無作為化臨床試験-心不全治療において貧血は難題-(解説:佐田政隆氏)

 心不全では貧血を伴うことが多く、貧血は心不全の重要な予後規定因子である。心不全による貧血の進行の機序としては、慢性炎症、腎機能低下、体液貯留による血液希釈、鉄欠乏などが想定されているが、「心・腎・貧血症候群」として近年、問題視されており、その病態の悪循環を断つためにいろいろな介入方法が試みられているが、特効薬がないのが現状である。 鉄欠乏は心不全患者の半数以上に合併し、心不全症状や運動耐容能の低下、心不全入院、心血管死と関連することが報告されている。鉄欠乏状態を評価するため、2つの指標が用いられている。フェリチンは体内の鉄を貯蔵するタンパク質で、血液中のフェリチンの量を測定することで体内の鉄の貯蔵量を推定することができる。一方、血清鉄は、トランスフェリンというタンパク質に結合して搬送され、血清鉄/総鉄結合能✕100(%)が鉄飽和度(TSAT)と呼ばれ、血液中の鉄と結合しているトランスフェリンの割合を指し、鉄の過不足を判断する指標として用いられる。心不全患者の鉄欠乏の基準として、血清フェリチン<100ng/mL、または血清フェリチン100~300ng/mLかつTSAT<20%と定義されており、このような患者を対象にして鉄補充の有効性と安全性をみる数々の臨床研究が行われてきた。6分間歩行や最大酸素摂取量といったソフトエンドポイントでは有効性を示した報告が多いが、心血管死と心不全入院といったハードエンドポイントでは、有効性を示すことができなかった研究がほとんどである。 今回のFAIR-HF2研究でも、カルボキシマルトース第二鉄の静注は主要評価項目である心血管死+心不全入院を36ヵ月の経過観察期間中に、減らす傾向はあったが有意差を示すことはできなかった。患者のQOLや患者自身による全体的な健康評価の改善に寄与することは確認された。 このような状況下、2025年3月28日発表の日本循環器学会・日本心不全学会の心不全診療ガイドラインにおいて、「鉄欠乏を有するHFrEF/HFmrEF患者に対する心不全症状や運動耐容能改善を目的にした静注鉄剤を考慮する」ことが推奨クラスIIaとされている。しかし、鉄過剰は酸化ストレスの増加をもたらし、脱力感や疲労感を生じさせ、発がん性との関係も報告され、重症の場合は、肝硬変や糖尿病、勃起不全、皮膚色素沈着、糖尿病といったヘモクロマトーシス様の症状を呈する。漫然と鉄剤を投与するのではなく、血清フェリチンやTSATによる細目なモニターが重要である。 心不全患者では慢性炎症のためヘプシジンが上昇しており、フェロポルチンといったマクロファージ中の鉄の有効利用を促進するタンパク質の分解が生じ、鉄利用が障害されている。このため、単なる鉄剤の投与が貧血の改善につながらないことが多い。最近、貧血治療薬として経口のHIF-PH阻害薬が各社から発売され、保存期慢性腎臓病患者と透析患者で、ヘモグロビン上昇作用はESA製剤に非劣性であることが報告されている。HIF-PH阻害薬は、ヘプシジンの低下、鉄の利用促進作用があることも報告されており、今後、心腎貧血症候群の悪循環を断ち切って、心不全患者の予後改善効果のエビデンスがRCTで示されることが期待される。

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DES留置術前の石灰化病変処置、オービタルアテレクトミーは予後を改善するか/Lancet

 薬剤溶出性ステント(DES)を用いた経皮的冠動脈インターベンション(PCI)施行前の重度の冠動脈石灰化病変の切削において、バルーン血管形成術に基づくアプローチと比較して、アテローム切除アブレーション式血管形成術用カテーテル(Diamondback 360 Coronary Orbital Atherectomy System)によるオービタルアテレクトミーは、最小ステント面積を拡張せず、1年後の標的血管不全の発生率も減少しないことが、米国・Columbia University Medical Center/NewYork-Presbyterian HospitalのAjay J. Kirtane氏らECLIPSE Investigatorsが実施した「ECLIPSE試験」で示された。研究の詳細は、Lancet誌2025年4月12日号に掲載された。米国の無作為化試験 ECLIPSE試験は、DES留置術前の重度冠動脈石灰化病変の前処置としてのオービタルアテレクトミーとバルーン血管形成術の有効性の比較を目的とする非盲検無作為化試験であり、2017年3月~2023年4月に米国の104施設で参加者の無作為化を行った(Abbott Vascularの助成を受けた)。 年齢18歳以上、1つ以上の新たな冠動脈標的病変に対するPCIを受ける慢性または急性冠症候群で、血管造影または血管内画像により冠動脈に重度のカルシウム蓄積を認め、推定生存期間が1年以上の患者を対象とした。これらの患者を、DESによるPCI施行前に重度石灰化病変を切削するために、オービタルアテレクトミーまたはバルーン血管形成術を受ける群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは2つで、1年後の標的血管不全(心臓死、標的血管心筋梗塞、虚血による標的血管の血行再建術の複合)と、事前に規定されたコホートにおける手技を行った後の血管内光干渉断層撮影(OCT)で評価した最大石灰化部位の最小ステント面積とし、ITT解析を行った。1年後の標的血管不全:11.5%vs.10.0% 2,005例(2,492病変)を登録し、ステント留置術の前にオービタルアテレクトミーによる病変の前処置を行う群に1,008例(1,250病変)、バルーン血管形成術を行う群に997例(1,242病変)を割り付けた。全体の年齢中央値は70.0歳(四分位範囲:64.0~76.0)、541例(27.0%)が女性であり、881例(43.9%)が糖尿病、479例(23.9%)が慢性腎臓病(112例[5.6%]が血液透析中)であった。 コアラボラトリーで血管造影により重度のカルシウム蓄積が確認されたのは、オービタルアテレクトミー群で97.1%(1,088例/1,120病変)、バルーン血管形成術群で97.0%(1,068例/1,101病変)だった。また、血管内画像ガイド下PCIは、それぞれ62.2%(627例/1,008例)および62.1%(619例/997例)で行われた。 1年後までに、標的血管不全はオービタルアテレクトミー群で1,008例中113例(11.5%[95%信頼区間[CI]:9.7~13.7])、バルーン血管形成術群で997例中97例(10.0%[8.3~12.1])に発生し、両群間に有意な差を認めなかった(群間差:1.5%[96%CI:-1.4~4.4]、ハザード比[HR]:1.16[96%CI:0.87~1.54]、p=0.28)。 また、OCTコホート(オービタルアテレクトミー群276例[286病変]、バルーン血管形成術群279例[292病変])における最大石灰化部位の最小ステント面積は、オービタルアテレクトミー群が7.67(SD 2.27)mm2、バルーン血管形成術群は7.42(2.54)mm2であり、両群間に有意差はなかった(平均群間差:0.26[99%CI:-0.31~0.82]、p=0.078)。1年後のステント血栓症:1.1%vs.0.4% 1年以内に、心臓死はオービタルアテレクトミー群で39例(4.0%)、バルーン血管形成術群で26例(2.7%)に発生した(HR:1.49[95%CI:0.91~2.45]、p=0.12)。最初の30日間にオービタルアテレクトミー群で8例に心臓死が発生し、このうち2例がデバイス関連、2例がデバイス関連の可能性があると判定された。 また、1年以内の標的血管心筋梗塞は、オービタルアテレクトミー群で55例(5.6%)、バルーン血管形成術群で43例(4.4%)(HR:1.27[95%CI:0.85~1.89]、p=0.24)、虚血による標的血管の血行再建術はそれぞれ40例(4.2%)および41例(4.4%)(0.97[0.63~1.49]、p=0.88)で発現し、ステント血栓症(definiteまたはprobable)は11例(1.1%)および4例(0.4%)(2.74[0.87~8.59]、p=0.085)に認めた。 著者は、「これらのデータは、ステント留置術前の冠動脈石灰化病変の処置の多くにおいては、血管内画像ガイド下のバルーン血管形成術を優先するアプローチが支持されることを示すものである」としている。

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CKDの貧血治療、ダプロデュスタットvs.ダルベポエチン アルファ~メタ解析

 貧血を伴う慢性腎臓病(CKD)患者を対象として、ダプロデュスタットとダルベポエチン アルファの有効性と安全性を比較したメタ解析の結果、ヘモグロビン(Hb)値、トランスフェリン飽和度、血清鉄の変化、有害事象の発現率は両群間で有意差を認めなかったものの、ダプロデュスタットはダルベポエチン アルファよりもフェリチン値の変化が小さく、総鉄結合能を改善したことを、中国・長春中医薬大学のShuyue Pang氏らが明らかにした。Journal of Pharmacological Sciences誌2025年5月号掲載の報告。 貧血はCKDの一般的な合併症であり、心血管イベントおよびCKD進行の危険因子である。近年は腎性貧血治療薬も増えているが、貧血を伴うCKD患者に対する治療戦略と有効性の最適化は早急に取り組むべき重要な課題として残されたままである。そこで研究グループは、ダプロデュスタットとダルベポエチン アルファの有効性と安全性を比較することを目的として、系統的レビューとメタ解析を行った。 PubMed、Embase、Cochrane Library、Web of Scienceをデータベース開設から2023年8月1日まで体系的に検索し、透析の有無にかかわらずCKDおよび貧血と診断された患者の治療として、ダプロデュスタット(試験群)とダルベポエチン アルファ(対照群)を比較したランダム化比較試験を抽出した。主要アウトカムはHb値、トランスフェリン飽和度、フェリチン値の変化で、副次アウトカムは総鉄結合能、血清鉄の変化、有害事象の発現率であった。 主な結果は以下のとおり。・4件のランダム化比較試験の7,419例が解析対象となった。ダプロデュスタット群は3,717例、ダルベポエチン アルファ群は3,702例であった。・Hb値の変化(標準化平均差[SMD]:3.23、95%信頼区間[CI]:-0.25~6.70)、トランスフェリン飽和度の変化(SMD:-0.07、95%CI:-0.31~0.17)、血清鉄の変化(SMD:0.24、95%CI:−0.05~0.53)は両群間で有意差を認めなかった。・ダプロデュスタット群はダルベポエチン アルファ群よりもフェリチン値の変化が有意に小さく(SMD:-0.05、95%CI:-0.10~-0.01)、総鉄結合能が改善した(SMD:0.57、95%CI:0.46~0.68)。・有害事象の発現率は両群間で同等であった(リスク比:1.02、95%CI:0.98~1.06)。 研究グループは「これらの結果は、Hb値の維持と安全性プロファイルの点でダプロデュスタットが劣っていないことを裏付けると同時に、鉄代謝における潜在的な利点を強調している」とまとめた。

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臨床に即した『MRSA感染症の診療ガイドライン2024』、主な改訂点は?

 2013年に『MRSA感染症の治療ガイドライン』第1版が公表され、前回の2019年版から4年ぶり、4回目の改訂となる2024年版では、『MRSA感染症の診療ガイドライン』に名称が変更された1)。国内の医療機関におけるMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)の検出率は以前より低下してきているが、依然としてMRSAは多剤耐性菌のなかで最も遭遇する頻度の高い菌種であり、近年では従来の院内感染型から市中感染型のMRSA感染症が優位となってきている。そのため、個々の病態把握や、検査や診断、抗MRSA薬の投与判断と最適な投与方法を含め、適切な診療を行うことの重要性が増している。本ガイドライン作成委員長の光武 耕太郎氏(埼玉医科大学国際医療センター感染症科・感染制御科 教授)が2024年の第98回日本感染症学会学術講演会 第72回日本化学療法学会総会 合同学会で発表した講演を基に、本記事はガイドラインの主な改訂点についてまとめた。 厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業(JANIS)の検査部門(入院検体)の2023年報では、MRSAの分離率は中央値として5.95%を示し、耐性菌の中で最も高い割合であった2)。がん患者や維持透析患者などのICU患者では、多剤耐性菌の血流感染症による死亡率が高く、MRSA感染症の死亡率は約20%とされる。 2024年版の改訂点の特徴として、臨床に即したガイドラインをめざし、従来の叙述的な内容に加えてクリニカル・クエスチョン(CQ)方式を採用し、13のCQを記載して、より臨床を意識した構成となっている。第V章の「疾患別抗MRSA薬の選択と使用」では、疾患別に11の各論で網羅的に扱い、とくに整形外科領域(骨・関節感染症)では、3つのCQで詳細に解説している。光武氏は、本ガイドラインではCQに対する推奨やエビデンスの度合いをサマリーで端的に示しているが、Literature reviewにて膨大な文献を検討したプロセスを詳細に記載しているので、各読者がとくに関心の高い項目についてはぜひ目を通してほしいと語った。 光武氏は本ガイドラインに記載されたCQのうち、以下の7項目について解説した。CQ1. MRSA感染症の迅速診断(含む核酸検査)は推奨されるか・推奨:MRSA菌血症が疑われる場合、迅速診断を行うことを提案する。・推奨の強さ:弱く推奨する(提案する)・エビデンス総体の確実性:C(弱い) 血液培養でグラム陽性ブドウ状球菌もしくは黄色ブドウ球菌が検出された患者において、MRSA迅速同定検査は従来の同定感受性検査と比較し、死亡率や入院期間を改善しないが、適切な治療(標的治療)までの期間を短縮する可能性がある。皮膚軟部組織感染症における死亡率に関しては、1件の観察研究において、疾患関連死亡率は迅速検査群が有意に低い(オッズ比[OR]:0.25、95%信頼区間[CI]:0.07~0.81)とする報告がある3)。CQ4. ダプトマイシンの高容量投与(>6mg/kg)は必要か・推奨:MRSAを含むブドウ球菌等により菌血症、感染性心内膜炎患者に対して、高用量投与(>6mg/kg)はCK上昇発生率を考慮したうえで、その投与を弱く推奨する。・推奨の強さ:弱く推奨する・エビデンス総体の確実性:B(中程度) 今回実施されたメタ解析により、複雑性菌血症および感染性心内膜症患者では、標準投与群(4~6mg/kg)のほうが、高容量投与群(>6mg/kg)よりも有意に治療成功率が低いとする結果が示された(複雑性菌血症のOR:0.48[95%CI:0.30~0.76]、感染性心内膜症のOR:0.50[95%CI:0.30~0.82])4)。そのため、病態によっては最初から高用量投与することが推奨される。CQ5. 肺炎症例の喀痰からMRSAが分離されたら抗MRSA薬を投与すべきか・推奨:一律には投与しないことを提案するが、MRSAのみが単独で検出された肺炎では抗MRSA薬投与の必要性を検討してもよい。・推奨の強さ:実施しないことを弱く推奨する・エビデンス総体の確実性:D(非常に弱い) 肺炎症例に対して、かつてはバンコマイシンを投与することがあったが、抗MRSA薬を投与することによる死亡率改善効果は認められなかったため、一律に投与しないことが提案されている(死亡リスク比:1.67[95%CI:0.65~4.30、p=0.18、2=39%])。一方で、MRSAのみが単独検出された肺炎で、とくに人工呼吸器関連肺炎(VAP)はMSSA肺炎と比較して死亡率が高い可能性があるため、グラム染色を活用しながら抗MRSA薬投与を検討する余地がある。CQ7. 血流感染においてリネゾリドは第1選択となりうるか・推奨:MRSA菌血症において、リネゾリドやバンコマイシンやダプトマイシンと同等の第1選択とすることを弱く推奨する(提案する)。・推奨の強さ:弱く推奨する(提案する)・エビデンス総体の確実性:C(弱い) MRSA菌血症に対するリネゾリド投与例は、バンコマイシン、テイコプラニン、ダプトマイシン投与例と比較し、全死因死亡率等の治療成功率において非劣性を示す結果であり、第1選択となりうる(エビデンスC)。ただし実臨床では、リネゾリド投与期間中の血小板減少発現によって投与中止や変更を余儀なくされる症例が少なくない。とくに維持透析患者を含む腎機能障害者では、血中リネゾリド濃度が高値となり、血小板減少が高率となるため、注意が必要だ。CQ8. 整形外科手術でバンコマイシンパウダーの局所散布は手術部位感染(SSI)予防に有効か・推奨:整形外科手術でSSI予防を目的としたルーチンの局所バンコマイシン散布を実施しないことを弱く推奨する。・推奨の強さ:実施しないことを弱く推奨する・エビデンス総体の確実性:D(非常に弱い) 局所バンコマイシン散布は実臨床にて行われてきたものではあるが、今回実施されたメタ解析の結果、推奨しない理由として以下の項目が挙げられた。1. 全SSIの予防効果を認めない(エビデンスD)2. インプラントを用いる手術でも、SSI予防効果は認められない(エビデンスD)3. グラム陽性球菌に伴うSSIを予防する可能性はある(エビデンスC)4. SSI予防を目的とした局所バンコマイシン散布の、MRSA-SSI予防効果は明らかでない(エビデンスD)CQ11. 耐性グラム陽性菌感染症が疑われる新生児へのリネゾリドの投与は推奨されるか・推奨:バンコマイシン投与が困難な例に対してリネゾリドを投与することを弱く推奨する。・推奨の強さ:弱く推奨する・エビデンス総体の確実性:C(弱い) リネゾリドは新生児・早期乳児・NICUで管理中の小児におけるMRSAや耐性グラム陽性球菌感染症の治療薬として考慮される。バンコマイシンの使用が困難な状況では使用は現実的とされる。新生児へのリネゾリドの投与を弱く推奨する理由として以下の項目が挙げられた。1. リネゾリドの有効性は、バンコマイシン投与の有効性と比較して差を認めなかった(エビデンスC)2. リネゾリド投与後の有害事象発生率は、バンコマイシンと比較して差を認めなかった(エビデンスC)。リネゾリド投与例では血小板減少を認めることがあり注意が必要。出生時の在胎週数が低い児に、その傾向がより強いCQ13. 抗MRSA薬と他の抗菌薬(β-ラクタム系薬、ST合剤、リファンピシン)の併用は推奨されるか・推奨:心内膜炎を含む菌血症において、バンコマイシンもしくはダプトマイシンとβ-ラクタム系薬の併用を、症例に応じ弱く推奨する(提案する)。その他の併用はエビデンスが限定的であり、明確な推奨はできない。・推奨の強さ:弱く推奨する(提案する)・エビデンス総体の確実性B(中程度) 基本は単剤治療を行い、感染巣/ソースコントロールが重要となるが、抗MRSA薬の効果がみられない場合がある。バンコマイシンの最小発育阻止濃度(MIC)=2µg/mLを示すMRSAの菌血症に対し、高用量のダプトマイシン+ST合剤(スルファメトキサゾール/トリメトプリム)併用により、臨床的改善および微生物学的改善が期待される(エビデンスB)。バンコマイシンもしくはダプトマイシン+β-ラクタム系薬併用は、菌血症の持続時間や発生は減少させるものの死亡率に差はない。バンコマイシンもしくはダプトマイシン+リファンピシン併用は、血流感染症で死亡者数、細菌学的失敗率、再発率に差はなかった。 光武氏は最後に、抗MRSA薬の現状ついて述べた。日本では未承認だが、第5世代セフェム系抗菌薬のceftaroline、ceftobiprole、oritavancin、dalbavancin、omadacycline、delafloxacinといったものが、海外ではすでに使用されているという。現時点では実臨床での使用は難しいが、モノクローナル抗体製剤、バクテリオファージ、Lysinsの研究も進められている。また、MRSA治療にAIを導入する試みも各国から数多く報告されており5)、アップデートが必要な状況となっているという。 本ガイドラインは、日本化学療法学会のウェブサイトから購入することができる。

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米国で4例目の豚由来腎臓移植を受けた患者が退院

 米マサチューセッツ総合病院で、同国で4例目となる、遺伝子編集された豚の腎臓を移植された、66歳の男性腎不全患者が退院した。この移植手術は、遺伝子編集された豚の臓器をヒトに用い得るかを調査するという、米食品医薬品局(FDA)が承認した新たな臨床試験の一環として実施された。同様の手術は、1月下旬にアラバマ州の女性に対しても行われ成功していて、その直後に行われた今回の手術も成功したことで、深刻なドナー不足の解決に向けて大きな一歩を踏み出した。 ニューヨークタイムズ紙によると、今回移植を受けた患者はニューハンプシャー州在住のTim Andrewsさん。彼は過去2年以上にわたり透析治療を受けていたが、透析開始後に心臓発作を起こし、吐き気と倦怠感にも悩まされていた。移植治療について医師と相談し始めた昨年8月ごろからは、車椅子に頼る生活だった。ところが、豚の腎臓を得てからわずか1週間後には、退院できるほどに回復した。「まるで新しいエンジンを手に入れたようだった。術後回復室から集中治療室に移動しベッドに移る際に、タップダンスをしたくらいだ。信じられないほど幸せだ」とAndrewsさんは語っている。 米国では現在、10万人以上が臓器移植を待っており、その患者の多くは腎臓を必要としている。ドナー不足のために、待機期間中に亡くなる人も少なくない。このギャップを埋めるために、複数のバイオテクノロジー企業が、豚の臓器のヒトに対する拒絶反応を抑制するための遺伝子編集技術を開発してきた。Andrewsさんに移植された腎臓は、59箇所の変更を含む、69箇所の遺伝子編集が施されたものだと、ニューヨークタイムズ紙が報じている。 これまでに米国内で4人がこのような技術の下、豚の腎臓の移植を受けている。その中の1人、アラバマ州のTowana Looneyさんは順調に回復している。しかしその一方で、ほかの2人の患者は移植手術後に死亡した。このような困難にもかかわらず、今回の移植手術を主導した、マサチューセッツ総合病院の移植外科医の1人である河合達郎氏によると、医師たちは常に学び続けているという。 では、移植外科医は何を目指しているのだろうか? ニューヨークタイムズ紙の取材に対して河合氏は、「遺伝子編集された豚の臓器を用いた移植医療を、より多くの患者に適用可能な治療法として、臓器不足の解決策を確立することだ。その実現にはまだ長い道のりが残されているが、今回の移植もそのための重要な一歩である」と答えている。 ただし、これらの症例の積み重ねによって、豚由来の臓器移植が安全かつ効果的であることが証明されたとしても、その費用や保険適用の課題がまだ不確定要素として残っている。腎不全患者の多くは働くことができずにメディケアに頼っているが、将来的にメディケアや民間保険が、このような移植医療をカバーするかどうかは現段階では不明だ。

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3月13日 世界腎臓デー【今日は何の日?】

【3月13日 世界腎臓デー】〔由来〕腎臓病の早期発見と治療の重要性を啓発する取り組みとして、国際腎臓学会などにより2006年から、3月第2木曜日を「世界腎臓デー」と定め、毎年、世界各地で腎臓病に関する啓発に向けてイベントが開催されている。関連コンテンツとことん極める!腎盂腎炎急速進行性糸球体腎炎【希少疾病ライブラリ】CKDステージ3への尿酸降下薬、尿酸値6未満達成でCKD進展抑制かCKDへのエンパグリフロジン、中止後も心腎保護効果が持続/NEJM低所得者、腎機能低下・透析開始リスクが1.7倍に/京都大学

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歯周病治療で糖尿病患者における人工透析リスクが低下か

 歯周病を治療している糖尿病患者では、人工透析に移行するリスクが32~44%低いことが明らかになった。東北大学大学院歯学研究科歯学イノベーションリエゾンセンターの草間太郎氏、同センターの竹内研時氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of Clinical Periodontology」に1月5日掲載された。 慢性腎臓病は糖尿病の重大な合併症の一つであり、進行した場合、死亡リスクも高まり人工透析や腎移植といった高額な介入が必要となる。したがって、患者の疾病負荷と医療経済の両方の観点から、慢性腎臓病を進行させるリスク因子の同定が待たれている。 歯周病は糖尿病の合併症であるだけでなく、糖尿病自体の発症やその他の合併症の要因でもあることが示唆されている。また、歯周病と腎機能低下との関連を示唆する報告もされていることから、研究グループは糖尿病患者における定期的な歯周病ケアが腎機能低下のリスクを軽減または進行を遅らせる可能性を想定し、大規模な糖尿病患者のデータを追跡した。具体的には、歯周病治療を伴う歯科受診を曝露変数として、人工透析に移行するリスクを後ろ向きに検討した。 本研究では、40~74歳までの2型糖尿病患者9万9,273人の医療受診データ、特定健診データが用いられた。2016年1月1日~2022年2月28日までの期間に、2型糖尿病を主傷病としていた患者を登録した。 9万9,273人の参加者(平均年齢は54.4±7.8歳、男性71.9%)における人工透析の発生率は1,000人あたり1年間で0.92人だった。交絡因子については、年齢、性別、被保険者の種類、チャールソン併存疾患指数、糖尿病の治療状況(外来の頻度、経口糖尿病治療薬の種類、インスリン製剤使用の有無、治療期間)、健診結果(高血圧、高脂血症、蛋白尿、HbA1c)、喫煙・飲酒といった生活習慣などが共変量として調整された。 交絡因子を調整後、人工透析開始のハザード比(HR)を分析した結果、歯科受診をしていなかった患者と比較して、1年に1回以上歯周病治療を受けている患者で32%(HR 0.68〔95%信頼区間0.51~0.91〕、P<0.05)、半年に1回以上治療を受けている患者で44%(同0.56〔0.41~0.77〕、P<0.001)、人工透析開始のリスクが低いことが示された。 研究グループは本研究の結果について、「これらの結果は、糖尿病性の腎疾患の進行を緩和し、患者の転帰を改善するためには、糖尿病治療に日常的な歯周病治療を組み込むことが重要であることを示唆している。また糖尿病患者の管理における専門医と歯科の連携欠如は以前より報告されており、本研究でも患者の半数以上が歯周病ケアを受けていなかった。今後、糖尿病患者の健康を維持するためには、専門医と歯科のさらなる連携が必要と考える」と総括した。なお、本研究の限界について、登録データは企業が提供する雇用保険に加入する個人のみが含まれていたことから、研究の参加者は日本人全体の特徴を表していない点などを挙げている。

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高齢透析患者のHb値と死亡の関連、栄養状態で異なる可能性/奈良県立医科大

 血液透析を受けている患者における最適なヘモグロビン(Hb)値は依然として議論が続いている。今回、日本における高齢の透析患者では、Hb値と死亡の関連は栄養状態によって異なり、栄養リスクの低い群ではHb値が10.0g/dL未満および13.0g/dL以上の場合に死亡リスクが増大したが、栄養リスクの高い群ではHb値が死亡に与える影響は弱まったため、栄養不良の高齢患者では貧血管理よりも栄養管理を優先する必要があることを、奈良県立医科大学の孤杉 公啓氏らが明らかにした。Journal of Renal Nutrition誌オンライン版2025年1月24日号掲載の報告。 貧血は血液透析を受けている高齢患者の一般的な合併症で、予後不良と関連している。高齢患者は栄養失調や蛋白・エネルギー消耗状態(protein-energy wasting)、フレイルになりやすい傾向があり、これらが貧血の経過に影響を及ぼすこともある。そこで研究グループは、血液透析を受けている高齢患者の最適なHb値は栄養状態などの全身状態によって異なるという仮説を立て、栄養状態別のHb値と死亡との関連を調査するために、2019~21年の日本透析医学会統計調査(JRDR)のデータベースを用いて観察研究を実施した。 解析対象は、週3回の血液透析を受けている75歳以上の9万5,771例であった。栄養指標であるNRI-JHを算出し、低リスク(<8点)、中リスク(8~10点)、高リスク(≧11点)の3つのグループに分類した。Hb値は、基準を10.0~10.9g/dLとして6つのグループに分類した(<9.0、9.0~9.9、10.0~10.9、11.0~11.9、12.0~12.9、≧13.0g/dL)。主要評価項目は全死因死亡であった。Hb値と死亡の関連はCox回帰分析を用いて推定した。非線形関係は制限付き3次スプライン解析を用いて検証した。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中央値24ヵ月で2万7,611例が死亡した。・全体集団において、Hb値10~10.9g/dLの場合と比較して、10.0g/dL未満および13.0g/dL以上で全死因死亡リスクが増大した(<9.0g/dLの調整ハザード比[aHR]:1.21[95%信頼区間[CI]:1.16~1.26]、9.0~9.9g/dLのaHR:1.06[1.02~1.10]、≧13g/dLのaHR:1.15[1.07~1.22])。・NRI-JHリスク別の解析では、低リスク群でもHb値10.0g/dL未満および13.0g/dL以上で全死因死亡リスクが増大した(<9.0g/dLのaHR:1.45[95%CI:1.32~1.59]、9.0~9.9g/dLのaHR:1.15[1.08~1.22]、≧13g/dLのaHR:1.18[1.07~1.29])。・NRI-JH高リスク群では、Hb値が<9.0g/dLの場合でのみリスクがわずかに増大した(aHR:1.07[95%CI:1.01~1.15])。 これらの結果より、研究グループは「高齢の透析患者のうち、高リスクの栄養状態にある患者ではHb値が死亡に与える影響は弱まった。維持すべきHb値の範囲は栄養状態によって異なる可能性があり、血液透析を受けている栄養不良の高齢患者では貧血管理よりも栄養管理を優先する必要がある」とまとめた。

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世界初、遺伝子編集ブタ腎臓の異種移植は成功か/NEJM

 米国・マサチューセッツ総合病院の河合 達郎氏らは、遺伝子編集ブタ腎臓をヒトへ移植した世界初の症例について報告した。症例は、62歳男性で、2型糖尿病による末期腎不全のため69の遺伝子編集が施されたブタ腎臓が移植された。移植された腎臓は直ちに機能し、クレアチニン値は速やかに低下して透析は不要となった。しかし、腎機能は維持されていたものの、移植から52日目に、予期しない心臓突然死を来した。剖検では、重度の冠動脈疾患と心室の瘢痕化が認められたが、明らかな移植腎の拒絶反応は認められなかった。著者は、「今回の結果は、末期腎不全患者への移植アクセスを拡大するため、遺伝子編集ブタ腎臓異種移植の臨床応用を支持するものである」とまとめている。NEJM誌オンライン版2025年2月7日号掲載の報告。69の遺伝子編集を組み込んだブタ腎臓を2型糖尿病による末期腎不全患者に移植 移植に用いたブタ(Yucatanミニブタ)は、3つの主要な糖鎖抗原を除去し、7つのヒト遺伝子(TNFAIP3、HMOX1、CD47、CD46、CD55、THBD、EPCR)を導入して過剰発現させ、ブタ内在性レトロウイルスを不活性化するなど、計69の遺伝子編集を組み込んだ。 レシピエントは、2型糖尿病による末期腎不全の62歳男性であった。心筋梗塞、副甲状腺摘出術が既往で、2018年に献腎移植を受けたが、2023年5月にBKウイルス感染および糖尿病性腎症の再発により移植腎が機能不全となり、血液透析中であった。 マサチューセッツ総合病院の集学的チームによる包括的評価と、独立した精神科医および倫理委員会による評価を経て、移植を実施した。 免疫抑制療法は、前臨床研究に基づき、抗胸腺細胞グロブリン(ウサギ)、リツキシマブ、Fc修飾抗CD154モノクローナル抗体(tegoprubart)および抗C5抗体(ラブリズマブ)、タクロリムス、ミコフェノール酸とprednisoneを併用した。移植腎は機能していたが、糖尿病性虚血性心筋症に伴う不整脈で心臓突然死 移植手術は、冷虚血時間4時間38分で終了した。移植したブタ腎臓は移植後5分以内に尿を産生し、最初の48時間で6L超に達した。その後、尿量は1日1.5~2Lで安定した。患者の血漿クレアチニン値は、術前の11.8mg/dLから術後6日目には2.2mg/dLに低下した。 術後8日目に血漿クレアチニンが2.9mg/dLに上昇し、発熱、圧痛、尿量の減少を認めたが、感染症の検査は陰性であった。抗体介在性拒絶反応が疑われたため、メチルプレドニゾロン、トシリズマブを投与した。投与前の腎生検で、急性T細胞介在性拒絶反応(Banffグレード2A)が確認された。 術後9日目および10日目にメチルプレドニゾロンおよび抗胸腺細胞グロブリンを投与し、タクロリムスとミコフェノール酸を増量し、さらに補体C3阻害薬のペグセタコプランを投与した。トシリズマブの追加投与は行わなかった。その後、患者の尿量は増加し、血漿クレアチニン値は低下した。 術後18日目、血漿クレアチニン値2.5mg/dLで退院した。34日目に再び上昇したが、水分補給により1.57mg/dLまで低下した。推算糸球体濾過量(eGFR)は40~50mL/分/1.73m2であった。 術後25日目に皮下創感染症が発生し、外科的に一部切開するとともに、抗菌薬(リネゾリド、メロペネム)の投与を開始し、排膿ドレナージを実施した。緑膿菌陽性の後腹膜貯留液が排出された。切開は37日目に閉鎖し、2週間培養陰性および腹部CTにより貯留液の消失が確認されことから、51日目にドレーンを抜去した。 術後51日目、患者は外来を受診した。水分摂取量が少なく血漿クレアチニン値が2.7mg/dLと比較的高値であったため、補液を実施した。それ以外は、うっ血性心不全の症状はなく、身体所見も腎臓超音波検査でも異常は認められなかった。血圧、心拍数、呼吸数もすべて正常であった。 しかし、夕方に突然、呼吸困難に陥り、蘇生に努めたが術後52日目に亡くなった。剖検の結果、重度のびまん性冠動脈疾患を伴う心臓肥大、びまん性左室線維化などが認められ、これらはすべて糖尿病性虚血性心筋症によるものと考えられた。急性心筋梗塞、肺塞栓症、肺炎、他の臓器の炎症または薬物毒性は認められなかったことから、重症虚血性心筋症に伴う不整脈による心臓突然死と結論付けられている。

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第253回 米国バイオテックの遺伝子編集ブタ腎臓の2例目移植が成功

多くのニュースで取り上げられた米国のマサチューセッツ総合病院での世界初のブタ腎臓のヒトへの移植成功からおよそ1年が過ぎ、同病院で2例目のその試みが主執刀医の河合 達郎氏らの手によって先月1月25日に無事完了しました1,2)。昨春2024年3月の最初の移植も河合氏らに手によるものでした3)。移植されたのは、河合氏が勤めるマサチューセッツ総合病院があるボストンの隣のケンブリッジを拠点とするバイオテクノロジー企業eGenesis社が開発している遺伝子編集ブタ腎臓です。EGEN-2784と呼ばれるそのブタ腎臓はよりヒトに順応するようにし、感染の害が及ばないようするための69のCRISPR-Cas9遺伝子編集を経ています。具体的には、主要な3つの糖鎖抗原が省かれており、7つのヒト遺伝子(TNFAIP3、HMOX1、CD47、CD46、CD55、THBD、EPCR)を盛んに発現し、ブタ内在性レトロウイルスが働けないように不活性化されています。EGEN-2784はヒトへの最初の移植例となった62歳の末期腎疾患患者Rick Slayman氏の体内ですぐに機能し始め、11.8mg/dLだった血漿クレアチニン濃度が移植後6日目までに2.2mg/dLに下がりました。Slayman氏は透析が不要になるほどに回復しました4)。しかし腎機能維持にもかかわらず、Slayman氏は移植から2ヵ月ほど(52日目)で呼吸困難に陥って急逝しました。持病の糖尿病や虚血性心筋症によって生じたとされる冠動脈疾患を伴う心肥大、左室線維化、後壁梗塞が剖検で見受けられました。移植腎臓の拒絶反応や血栓性微小血管症の所見は認められませんでした。移植したブタ腎臓のレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)障害に起因しうる血液量(intravascular volume)の頻繁な変動がSlayman氏の不整脈リスクを高めた可能性はありますが、同氏はどうやら重度の虚血性心筋症と関連するリズム障害で突然心臓死(SCD)したようです。Slayman氏は生きるために移植を必要とする数千もの人々が希望を持てることを願ってEGEN-2784の移植を決めました5)。Slayman氏の遺志が引き継がれることを願う同氏の家族の期待を背に、河合氏らは66歳の男性Tim Andrews氏への2例目となるEGEN-2784移植手術を先月1月25日に無事終えました。2月7日のマサチューセッツ総合病院の発表によると、移植した腎臓は見込みどおり機能しており、Andrews氏は手術の1週間後の2月1日には早くも退院して透析いらずの生活を送っています1,2)。日本での開発も進むほかでもない日本のバイオテクノロジー企業のポル・メド・テックがeGenesis社と提携しており、昨年2月にはEGEN-2784の遺伝子編集技術を利用した移植医療用のブタを日本で生産できたことが発表されています6)。その9ヵ月ほど後の11月24日には、そうして作られた遺伝子改変ブタ腎臓のサルへの移植が実施されました7)。ことはさらに進み、先週5日にポル・メド・テックは実用化に向けた取り組みのための資金5億1千万円を調達したことを発表しています。ポル・メド・テックの遺伝子改変ブタ生産力は今のところ1年間あたり50頭です。2年後には1年間に数百頭生産できるようにし、移植実施医療機関への円滑な臓器の供給を目指します8)。参考1)Massachusetts General Hospital Performs Second Groundbreaking Xenotransplant of Genetically-Edited Pig Kidney into Living Recipient / Massachusetts General Hospital 2)eGenesis Announces Second Patient Successfully Transplanted with Genetically Engineered Porcine Kidney / BUSINESS WIRE3)World’s First Genetically-Edited Pig Kidney Transplant into Living Recipient Performed at Massachusetts General Hospital / Massachusetts General Hospital 4)Kawai T, et al. N Engl J Med.2025 Feb 7. [Epub ahead of print] 5)An Update on Mr. Rick Slayman, World’s First Recipient of a Genetically-Modified Pig Kidney / Massachusetts General Hospital6)eGenesis and PorMedTec Announce Successful Production of Genetically Engineered Porcine Donors in Japan / BUSINESS WIRE7)霊長類への遺伝子改変ブタ腎臓移植試験の実施について / PorMedTec8)第三者割当増資による資金調達実施のお知らせ / PorMedTec

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第34回 高齢者の低体温症【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)冬場は常に疑い、深部体温を測定しよう!2)復温を速やかに行いながら初療を徹底しよう!3)原因検索とともに再発予防を行おう!【症例】81歳・男性ある日の朝方、自宅のベッド脇で倒れているところを同居の家族が発見し、呼びかけに対して反応が乏しいため救急要請。救急隊到着時以下のようなバイタルサイン。四肢は冷たく、SpO2、体温は測定できない。●搬送時のバイタルサイン意識100/JCS血圧76/56mmHg脈拍54回/分呼吸18回/分SpO2error体温error既往歴不明内服薬不明冬の救急外来インフルエンザが猛威を振るっています。今年も筆者が勤務する病院では、年末年始の救急外来が大混雑しました。心筋梗塞や脳卒中といった冬季に多発する疾患に加え、火災による一酸化炭素中毒や気道熱傷、さらには餅による窒息など、冬特有の症例も頻発し、現場は多忙を極めていました。さらに近年では、今回の症例のように低体温症の患者も増加しており、どのようなセッティングであっても初療の基本をしっかり把握しておく必要性がますます高まっています。偶発性低体温症(accidental hypothermia)とは低体温症(hypothermia)は、深部体温(直腸温、膀胱温、食道温、肺動脈温など)が35℃以下に低下した状態を指します。なお、事故や不慮の事態に起因する低体温を、低体温療法や低体温麻酔のように意図的に低体温とした場合と区別するために、「偶発性低体温症」と呼びます。水難事故や山岳避難など、環境要因のみが原因と想起される場合には、復温することに全集中すればよいですが、感染症や脳卒中、外傷などをきっかけに動けなくなり、結果として低体温が引き起こされている場合(二次性低体温)には、原因に対する介入を行わなければ改善は期待できません。熱中症と同様に、体温管理とともに原因検索を同時並行で行い対応する必要があるのです。二次性低体温の原因は、体温調節機能の障害、熱喪失の増加に大別され、それぞれ多岐に渡りますが、意識障害の原因検索に準じて行うとよいでしょう(参照:意識障害 その2 意識障害の具体的なアプローチ 10’s rule)。低体温の重症度低体温症の重症度分類としては、Swiss分類(Swiss Staging System)が広く知られています(表1)1)。この分類は、症状をもとに深部体温と重症度を推定できるよう設計されています。表1 偶発性低体温症重症度分類低体温症を確定診断するためには、深部体温の測定が不可欠です。腋窩体温で判断するのではなく、必ず深部体温を測定しましょう。これは熱中症の場合と同様で、体温が著しく低い(または高い)状況では、腋窩体温と深部体温の乖離が大きく、正確性を欠くためです2)。深部体温の測定方法としては、食道温が最も正確とされていますが、現場の実用性を考慮すると、温度センサー付きの尿道バルーンを使用し、膀胱温を尿量と併せて確認・管理する方法が推奨されます。一方で、深部体温の測定が困難な場合もあるでしょう。そのような場合には、意識状態に注目して重症度を推定することが重要です。意識状態が重度であるほど、低体温症の重症度は高くなり、予後が不良であることが明らかになっています3)。ショック+徐脈ショックでは通常、頻脈がみられますが、血圧が低下しているにもかかわらず脈拍が上昇しない、または徐脈である場合には、表2に示すような病態を考慮する必要があります4)。とくに冬など寒冷環境下では、低体温の関与を積極的に疑い、適切に対応しましょう。表2 ショック+徐脈Rescue collapse低体温患者、とくに重症度が高い場合、心臓の易刺激性により心室細動や無脈性心室頻拍が起こりやすいと報告されています。これはアシドーシスなどの影響が考えられますが、刺激や体動なども不整脈を惹起する可能性が示唆されており、この現象を“rescue collapse”と呼びます5)。過度な刺激は避け、愛護的な対応が必要です。実際〇℃以上になれば安全という絶対的な基準はありませんが、不整脈が起こりやすい状態であることを共通認識とし、復温や原因検索を行いながらバイタルサインを安定させることが重要です。「病着後、ある程度復温されない状態では患者を動かさない方がよい」というのは、皆さんの病院でも暗黙のルールになっているのではないでしょうか。これは、前述のrescue collapseを危惧した対応だと思われます。実際、体温が30℃未満ではリスクが高いとされていますが、30℃以上に上昇しても不整脈を完全に防ぐことができるわけではありません。また、根本的な原因に対する適切な介入を行わなければ、事態が改善しないことも多々あります。このため、注意深く観察しながら、精査を進める必要があります。仮にrescue collapseが発生した場合でも、周囲の人などからの目撃があれば蘇生率は比較的高いことが知られているため、慎重に経過を診ながら介入を行うのが現実的な対応といえるでしょう。低体温の治療脳卒中や外傷、低体温など、原因に対する治療も当然重要ですが、何よりも復温を急ぐ必要があります。原因検索を優先するあまり、復温のタイミングを逃してはなりません。 低体温と認識した段階で迅速に介入を開始しましょう。復温方法としては、以下のように3つの方法が挙げられます。1)受動的復温体温喪失を防ぐために、着替えや毛布、温かい飲み物を使用する。2)能動的体外復温ベアーハガーやArctic Sunなどの加温ブランケット、40~44℃の加温輸液を使用する。3)能動的体内復温 膀胱洗浄、血液透析、体外式膜型人工肺(ECMO)などを利用する。多くの症例では、体外復温で十分対応可能です。最も重要なのは、低体温であることを早期に認識し、迅速に介入することです。そのため、ECMOが行えないという理由で搬送を拒否するのではなく、まずは受け入れた上で復温を早期に開始することを徹底すべきです。低体温の予防救急外来で経験する低体温症の多くは、高齢者の自宅で発生した事例です。冒頭の症例のように、倒れているところを発見され、搬送されるケースが後を絶ちません。このような症例は、年々増加しているのではないでしょうか。高齢者、とくにフレイルの患者では死亡率が高いことが知られており6)、夏の熱中症と同様に、低体温への対策が急務です。基礎疾患の管理は当然ですが、暖房の適切な設置や、とくに発生しやすい朝の安否確認など、事前に対策を講じておくことが重要です。1)Paal P, et al. Scand J Trauma Resusc Emerg Med. 2016;24:111.2)Niven DJ, et al. Ann Intern Med. 2015;163:768-777.3)Fukuda M, et al. Acute Med Surg. 2022;9:e730.4)坂本 壮. 救急外来ただいま診断中 第2版. 中外医学社. 2024.5)Frei C, et al. Resuscitation. 2019;137:41-48.6)Takauji S, et al. BMC Geriatr. 2021;21:507.

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透析中の骨粗鬆症患者へのデノスマブは心血管イベントリスクを上げる可能性/京都大

 透析患者の骨粗鬆症の治療では、腎排泄に頼らないデノスマブが使用されている。しかし、その有効性、安全性を他の骨粗鬆症治療薬と比較した大規模研究はこれまでなかった。そこで、桝田 崇一郎氏(京都大学大学院医学研究科薬剤疫学分野)らの研究グループは、透析患者の骨粗鬆症に対するデノスマブは、ビスホスホネートと比較し、骨折リスクを低減させる一方で、心血管イベントのリスクを増加させる可能性があることを、電子レセプトデータを用いたコホート研究により明らかにした。本研究結果は、Annals of Internal Medicine誌2025年1月7日オンライン版に掲載された。1,032例でデノスマブと経口ビスホスホネートの効果を比較 研究グループは、DeSCヘルスケアが保有する電子レセプトデータを利用し、標的試験エミュレーションの枠組みのもと、透析患者の骨粗鬆症に対するデノスマブと経口ビスホスホネートの有効性と安全性を比較するコホート研究を実施した。 対象は50歳以上の透析患者で、骨粗鬆症の診断を受け、2015年4月~2021年10月までの間にデノスマブもしくは経口ビスホスホネートを新規に開始した患者。主要評価項目は、薬剤使用開始から3年間の骨折と主要心血管イベント(MACE)の発生リスク。 主な結果は以下のとおり。・患者は合計で1,032例が同定された(デノスマブ群658例、経口ビスホスホネート群374例)。・全体の平均年齢は74.5歳で、62.9%が女性だった。・MACEの3年間の発生率はデノスマブ群のほうが高く、リスク差は8.2%(95%信頼区間[CI]:-0.2~16.7)、リスク比は1.36(95%CI:0.99~1.87)だった。・複合骨折の3年間の発生率はデノスマブ群のほうが低く、リスク差は-5.3%(95%CI:-11.3~-0.6)、加重3年リスク比は0.55(95%CI:0.28~0.93)だった。 この結果を受け研究グループは、腎臓または骨粗鬆症の重症度、心血管またはその他の代謝リスクに関する臨床データが不足し、交絡が残存していたこと、安全性アウトカムには腎臓のエンドポイントが含まれていなかったことを研究の限界として指摘し、「経口ビスホスホネートと比較し、デノスマブは骨折リスクを45%低下させ、MACEリスクを36%上昇させると推定された。しかし、この推定値は不正確であり、今後も研究が必要である」と述べている。

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豚由来の腎臓で健康に暮らす米国人女性

 遺伝子編集された豚からの腎臓移植を受けて、新たな人生を歩み始めた米国人の女性が、新しい臓器とともに1カ月以上健康に暮らしていることが報告された。 この女性はアラバマ州在住のTowana Looneyさん、53歳。Looneyさん自身の腎臓が後に腎不全まで進行する過程は、彼女の母親への“贈り物”から始まった。1999年、彼女は病気の母親のために、自分の腎臓の一つを提供したのだ。彼女の移植治療を行った米ニューヨーク大学(NYU)ランゴン校の医師によると、Looneyさんはその後の妊娠時に血圧が急に高くなり、残っていた腎臓も機能不全に陥ったという。 2016年後半に、Looneyさんは透析療法を受ける必要が生じ、数カ月後には腎臓移植待機リストに名前が加えられた。しかし彼女の場合、免疫によってドナーの臓器に対する拒絶反応が強く現れる可能性が高いと予測されたために、より適した臓器が提供される機会を長く待たなければならなかった。 残された時間は少なくなっていった。なぜなら、透析療法開始後の8年間で、透析に利用可能な重要な血管が、徐々に失われていったからだ。最終的に米食品医薬品局(FDA)の「拡大アクセスプログラム」により、彼女に対する治療として、豚の腎臓を移植するという「異種移植」が許可された。FDAの拡大アクセスプログラムは、ほかに治療法がない重篤な患者に対して、いまだ実験的な段階にある治療を行おうとする際に、人道的な理由で特別にこれを許可するもの。 Looneyさんに移植された豚の腎臓には、ヒトへの移植に適したものにするために、10カ所の遺伝子編集が行われた。このような異種移植はまだ始まったばかりの治療法だが、医師らによると、移植から1カ月が経過した現在、Looneyさんの健康状態は良好だという。「これは本当にありがたいことだ。もう一度、人生のチャンスを与えられたように感じる。また旅行をして、家族や孫たちとともに、今まで以上に充実した時間を過ごせるようになることを待ちきれない」と彼女は語っている。 Looneyさんのケースは、遺伝子編集された豚の腎臓がヒトに移植された世界で3番目のケースであり、豚の臓器を移植され現在も生存している唯一のケースでもある。彼女はまた、10カ所の遺伝子編集が施された豚の腎臓を移植され、その臓器が人間の体内で正常に機能している唯一の人物でもある。 困難な移植手術を指揮したNYUランゴン校のRobert Montgomery氏は、「Looneyさんは、われわれが2021年に最初に異種移植の手術を行って以来、積み上げてきた進歩の集大成だ。彼女は腎不全に苦しむ人々にとって希望の光である。治療に関わった全ての医師、研究者、看護師、管理者、周術期ケアチームは、この成果にとても興奮している。Looneyさんの命を支えるために彼らが行ってきたことを、私はこの上なく誇りに感じている」と話している。 Looneyさんの腎臓移植を受けるまでの道のりは、彼女の故郷であるアラバマ州から始まった。彼女は当時、アラバマ大学バーミンガム校に勤務していた先進的な移植外科医、Jayme Locke氏の治療を受けることになった。彼女にFDAの拡大アクセスプログラムが適用されるように働きかけたのもLocke氏だ。そして同氏の研究により、遺伝子編集された豚の臓器が実際にLooneyさんの体内で適切に機能することが確認され、プログラム申請が承認されることになった。Montgomery氏はLocke氏の指導的立場にあり、2人のパートナーシップがこのプロセスの推進に役立った。 NYUランゴンヘルスのニュースリリースによると、現在、全米で約10万4,000人が臓器移植の待機リストに登録されており、そのうち9万400人以上は腎臓の移植を待っているという。多くの腎不全患者にとって、状況は明るいものとは言えない。現在、米国には80万8,000人以上の腎不全患者がいるが、2023年に新しい腎臓を移植されたのは、わずか2万7,000人だった。

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3年ぶりのオンライン英会話【Dr. 中島の 新・徒然草】(563)

五百六十三の段 3年ぶりのオンライン英会話ここのところ、異常な寒さが続いています。表示される摂氏○度というのはそんなに低くないのですが。天気予報には実際の気温のほかに体感温度も示されます。それによれば、体感気温は実際の気温よりもかなり低く出ていました。やっぱり!さて、私にとって永遠の課題である英語です。久しぶりにオンライン英会話をやってみようと思って調べたら、最後のレッスンが2022年1月。一応休会手続きはしていたものの、実に3年間もの空白が!やはり生身の人間相手に場数を踏むことも大切ですね。そう思って再開しました。時々やってくる外国人患者さんの外来診療を想定してのレッスンです。今回の講師は60代の女性。中島「そちらが患者役で私が医師役ということで、ロールプレイをしてくれませんか?」講師「お医者さんといっても専門がいろいろあるんでしょう?」中島「私は脳外科ですが、主訴は何でもいいですよ」講師「難しいなあ」中島「良かったらご自身の健康問題の相談に乗りましょうか」講師「私、悪いところがいっぱいあるから」ということで、始まったのが講師自身の糖尿病の相談でした。薬をもらって飲んでいるのだそうです。でも、ご自分のHbA1cの数値なんかはまったく知らないようでした。中島「検査をしたら必ずHbA1cの値をチェックしてください」講師「わかったわ」中島「糖尿病を放置したらどうなるかご存じですか?」講師「知らなーい」中島「失明したり腎臓を悪くしたりして透析になってしまいますよ」講師「そうなの!」中島「週2回とか3回とか病院に行くことになりますから」講師「そうなったら旅行に行けないじゃない!」もはや英語のレッスンというよりも健康相談ですね。講師「何か食べてはいけない物とか、注意することある?」中島「ジュースばっかり飲むとか、ドカ食いするとかはやめたほうがいいですね」講師「フィリピンは果物が美味しいのよ。だからついたくさん食べてしまうんだけど」中島「マンゴーでもバナナでも、1口ずつ味わって食べましょう」講師「わかったわ。ほかに何かある?」中島「夕食を摂ったあと、まだもう少し欲しいと思うことがありますよね」講師「あるある!」中島「そんな時は10分だけ待ちましょう。そうしたら食べること自体に興味がなくなりますから」講師「そうなの?」中島「満腹になっても、そのことを脳が感じ取るまで少し時間がかかるんですよ」これをどう英語で表現したものか?後でChatGPTに聞いてみました。There is a time gap between your stomach being full and feeling full.うまいなあ!というわけで、60代の講師の場合は多くの健康問題を抱えている分、若い講師よりも診察ロールプレイには向いていたというお話です。目標としては、1回のレッスンで新しい英語の知識を最低3つ得る、というところにしたいと思います。読者の皆さんの参考になれば幸いです。最後に1句厳寒の 英語の授業は 糖尿病

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第225回 インフルエンザ猛威! 過去最多の感染者数で救急搬送困難事例が多発/厚労省

<先週の動き>1.インフルエンザ猛威! 過去最多の感染者数で救急搬送困難事例が多発/厚労省2.インフル治療薬不足が深刻化「過剰発注控えて」協力要請/厚労省3.2040年、医師の高齢化で自治体2割が「診療所なし」/厚労省4.高齢化社会の岐路、2040年の介護について検討開始/厚労省5.病院船で災害医療を強化、推進計画案パブコメ開始/政府6.看護師による不適切処置示唆のSNS投稿疑惑 病院が内部調査/千葉大1.インフルエンザ猛威! 過去最多の感染者数で救急搬送困難事例が多発/厚労省年末年始にかけて、インフルエンザと新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の患者が急増し、医療現場が逼迫している。とくに、救急搬送の困難事例が増加しており、患者の受け入れ先がみつからないケースが相次いでいる。厚生労働省によると、昨年12月23~29日の1週間に報告されたインフルエンザの患者数は、1医療機関当たり64.39人と、過去10年で最多を記録した。全国的に警報レベルを超えており、専門家はさらなる感染拡大を懸念している。COVID-19も増加傾向にあり、昨年12月23~29日の新規感染者数は、1定点当たり7.01人と、5週連続で増加している。感染拡大の影響で、発熱などを訴える患者が急増し、救急要請が殺到している。名古屋市では、12月の救急出動件数が過去最多を更新。救急車の稼働率が80%を超える「救急隊逼迫アラート」が頻繁に発令され、1月6日には稼働率が一時的に100%に達し、出動可能な救急車がない時間帯もあったという。救急搬送の困難事例が増加している背景には、医療従事者不足や病床不足など、医療体制の脆弱さがある。インフルエンザやCOVID-19だけでなく、他の疾患や怪我など、救急搬送が必要な患者は常に発生している。医療現場の逼迫を解消するためには、政府による医療体制の強化、国民一人ひとりの感染予防対策の徹底、そして、救急車の適切な利用などが求められる。参考1)全国インフルエンザ患者数 統計開始以来最多に(NHK)2)全国インフル定点報告64.39人、現行統計で最多 感染者数は30万人超え 厚労省(CB news)3)インフルエンザ流行、全国の感染者数が過去最多…タミフル後発薬は生産追いつかず供給停止(読売新聞)4)「救急搬送困難事案」も急増 ひっきりなしに鳴り続ける119番通報 名古屋(名古屋テレビ)5)インフルエンザの流行状況(東京都 2024-2025年シーズン)2.インフル治療薬不足が深刻化「過剰発注控えて」協力要請/厚労省インフルエンザの流行拡大を受け、治療薬の供給が逼迫し、各社が対応に追われている。沢井製薬は1月8日、インフルエンザ治療薬オセルタミビル(商品名:タミフル)の後発薬の供給を一時停止すると発表した。12月からの急激な流行拡大で需要が想定を上回り、生産が追いついていないためだ。カプセルは2月上旬、ドライシロップは1月下旬に供給を再開する予定という。厚生労働省は8日、タミフル後発薬の供給停止を受け、医療機関や薬局に対し、過剰な発注を控え、他社製品や代替薬への処方変更などを検討するよう要請した。中外製薬も9日、タミフルの先発品の一部を限定出荷すると発表した。昨年末以降、増産を続けてきたものの、製造が追いつかない状況だという。原料の入手が難しくなっていることなどから、増産分が今シーズンに間に合うか現時点では不明だという。塩野義製薬も9日、インフルエンザ治療薬バロキサビル マルボキシル(商品名:ゾフルーザ)の供給調整を始めると発表した。他社製品の供給状況などを踏まえ、限定出荷などの措置を講じることで、過剰発注を防ぎ、市中での適正在庫の維持を目指す。インフルエンザは12月中旬頃から感染が急拡大しており、治療薬の供給不足が長期化すれば、患者の治療に影響が出る可能性もある。参考1)オセルタミビルリン酸塩製剤の適正な使用と発注について(厚労省)2)厚労省が「過剰発注控えて」と協力要請 タミフルのジェネリック一時供給停止で(産経新聞)3)中外製薬のタミフル、一部で限定出荷に インフルエンザの急激な流行拡大うけ(産経新聞)4)塩野義、インフルエンザ治療薬の供給調整 過剰発注防ぐ(日経新聞)3.2040年、医師の高齢化で自治体2割が「診療所なし」/厚労省2025年は「団塊の世代」が全員75歳以上の後期高齢者となる年であり、医療現場では大きな変化が予想されている。高齢化の進展に伴い、在宅医療や救急搬送の需要増加が見込まれる一方で、医師不足が深刻化し、地域医療の維持が困難になる可能性が高まっている。厚生労働省の推計によると、75歳以上の患者数は2025年には1日当たり7万9,000人と、2020年と比べて1万人以上増加する見通しだ。救急搬送される75歳以上の高齢者も、2025年には1ヵ月当たり28万人と、2020年と比較し4万2,000人増加すると予測されている。また、医師の高齢化も進み、2040年には市区町村の2割で診療所がゼロになる可能性があるという。厚労省の試算では、医師が75歳で引退すると仮定した場合、診療所のない自治体数は2040年に342となり、全国約1,700自治体の2割に相当する。医師不足は、とくに地方部で深刻化している。青森県佐井村や埼玉県東秩父村のように、常駐医師のいない状態が続く地域も少なくない。医師不足が解消されなければ、高齢者が住み慣れた地域で医療を受け続けることが難しくなり、医療崩壊につながる可能性もある。地域医療を維持するためには、医師の確保が急務である。国は、地域医療構想に基づき、在宅医療や高齢者救急への対応強化、医療機関と介護施設の連携強化などを推進しているが、医師不足は深刻であり、抜本的な対策が必要とされている。参考1)高齢化 “2025年問題” 在宅医療や救急搬送の体制構築が課題に(NHK)2)自治体2割が「診療所なし」 2040年試算、医師高齢化響く(日経新聞)4.高齢化社会の岐路、2040年の介護について検討開始/厚労省厚生労働省は1月9日、「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方」検討会を立ち上げ、初会合を開いた。2040年に高齢者数がピークを迎える中、地域の実情に応じた介護サービスの提供体制や人材確保策を検討するのが狙い。検討会では、都市部、中山間地域、一般市といった地域特性に応じたサービス提供モデルの構築、介護人材の確保・定着、テクノロジー活用による生産性向上、経営支援、介護予防など、幅広い論点について議論が行われる。具体的には、中山間・人口減少地域では、介護ニーズの減少と人材不足に対応するため、介護報酬や人員基準の柔軟化、補助金などの財政支援の必要性が指摘されている。一方、都市部では増加する介護ニーズに対応するために新たなサービス提供体制の構築が課題となっている。今後不足するとみられる介護人材の確保・定着には、処遇改善の強化として、介護職員の賃金向上、キャリアアップ支援、働きがいのある職場環境作りなどが課題として、検討される。さらに外国人材の活用やICT・AIなどのテクノロジー活用による生産性向上も重要なテーマとなる。そのほか介護事業所の経営支援のほか、事業者間の連携、事業所の大規模化、職場環境改善などを促進するためのインセンティブや相談窓口の設置など具体的な支援策を検討する。検討会は今後、先進的な取り組みを行う自治体や事業者へのヒアリングなどを実施しながら、2025年春頃をめどに中間取りまとめを行う予定。この中間取りまとめは、今後の介護保険制度改正や2027年度の介護報酬改定に活用される。参考1)第1回「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方」検討会(厚労省)2)2040年の介護制度を議論 厚労省が検討会(日経新聞)3)「2040年問題」議論開始 高齢者数ピークも介護人材不足 厚労省(朝日新聞)4)少子高齢化が地域ごとにバラバラに進む「2040年」見据え、介護サービス提供や介護人材確保などの在り方を考える-厚労省検討会(Gem Med)5)介護の大規模化インセンティブ付与へ 春ごろ中間まとめ 厚労省・新検討会(CB news)5.病院船で災害医療を強化、推進計画案パブコメ開始/政府政府は1月8日、災害時などに海上で医療活動を行う「病院船」の活用に向けた推進計画案を公表し、パブリックコメントの募集を開始した。締め切りは1月20日。病院船は、大規模災害発生時に被災地で医療を提供する船舶のことで、昨年6月に施行された「病院船の活用促進に関する法律」に基づき、政府は年内をめどに病院船の整備計画を策定する方針。推進計画案では、病院船の役割として、被災地における医療提供機能の補完、医療従事者や物資の輸送、被災者の避難などを挙げている。また、船舶の確保については、当面の間、民間事業者の協力を得て、民間の既存船舶を活用する方向性を示している。具体的には、民間船舶に医療機材を積み込み、災害時に被災地へ派遣する。政府はDMAT(災害派遣医療チーム)や日本赤十字社救護班、JMAT(日本医師会災害医療チーム)などと連携し、医療従事者の確保や保健医療福祉調整本部への支援を行うとしている。病院船の活用は、東日本大震災以降、たびたび議論されてきた。大規模災害発生時に、陸上の医療機関の被災やアクセスが困難になった場合でも、海路を通じて医療を提供できるという利点がある。具体的な活用イメージは以下の通り。発災直後~72時間:沖合で活動し、被災地から脱出する透析患者や入院患者などを搬送する「脱出船」としての役割を担う。発災後1週間~1ヵ月:被災地付近の港に接岸し、現地で救護活動を行う「救護船」としての役割を担う。亜急性期・慢性期:陸上機能の回復に伴い、船舶での医療活動ニーズが低下する。課題としては、被災地から離れた場所への移送に対する患者の同意取得、救護船へのアクセス確保などがある。一方で、病院船の建造・維持費や医療従事者の確保、平時における活用方法などが問題点として挙げられている。政府は、これらの問題点を解決しながら、病院船の活用を進めていく方針。今回のパブリックコメント募集では、推進計画案に対する意見を広く国民から募り、計画に反映させることで、より実効性の高いものにすることを目指している。参考1)災害時等における船舶を活用した医療提供体制の整備の推進に関する計画(案)に関する意見募集について(内閣府)2)船舶活用医療推進本部(内閣官房)3)病院船、体制整備推進計画案でパブコメ 政府(MEDIFAX)4)病院船、25年度に運用開始へ 岸田首相が計画づくり指示(日経新聞)6.看護師による不適切処置示唆のSNS投稿疑惑 病院が内部調査/千葉大千葉大学医学部附属病院(千葉市中央区)の看護師が、患者への不適切な処置を示唆する内容をX(旧ツイッター)に投稿していた疑惑が浮上し、病院が内部調査に乗り出している。問題の投稿は2023年秋頃から確認されていたとされ、「インシデントを隠蔽している」「薬を捨てている」「褥瘡を発生させた」など、患者の安全を脅かすような内容が含まれていた。また、所属する科の医師への暴言もあったという。これらの投稿は、看護師を名乗る匿名アカウントから発信されていた。アカウントは現在削除されているが、投稿内容から同病院の看護師によるものと疑われている。病院側は1月6日に不適切な投稿を把握し、事実関係の確認を開始。8日には大鳥 精司病院長名で「現在、事実関係などを調査中です。今後、調査結果を踏まえ、病院として適切に対応してまいります」とのコメントをホームページに掲載した。10日には、調査対象となっている職員に自宅待機を命じたことを明らかにした。病院は、SNSでの個人的な情報発信を禁止していないものの、院内ガイドラインで責任ある投稿を求めている。今回の件を受け、病院側は改めて職員への注意喚起を行うとともに、再発防止に向けた対策を検討する方針。この問題は、患者の安全確保や病院への信頼に関わる重大な事態であり、調査の行方が注目される。参考1)当院に関する「X」の投稿について(第2報)2)患者への不適切な処置を示唆するSNS投稿? 千葉大病院が内部調査(朝日新聞)3)千葉大学病院 “不適切処置”投稿の可能性ある職員 自宅待機に(NHK)4)千葉大医学部附属病院めぐる看護師のX不適切投稿疑惑、調査対象の職員に「自宅待機を命じた」「まだ断定できる事実はなく」(ZAKZAK)5)「薬を患者に飲ませず捨てている」千葉大病院関係者がXに不適切投稿か 内部調査を実施(産経新聞)

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第129回 「脳外科医竹田くん」在宅起訴

2025年になりました。今年も医療に関するホットな話題をお届けできればと思っています。内部告発漫画?『脳外科医竹田くん』さて、『脳外科医竹田くん』という漫画をご存じでしょうか。もう知らない人はいないですよね。『脳外科医 竹田くん あり得ない脳神経外科医 竹田くんの物語』未熟な外科技術により複数の医療事故を起こす脳神経外科医である竹田くんの診療風景を描いたWEB漫画であり、漫画の内容と、実際の医療事故の話(被害者ブログや報道内容)が酷似しており、あまりにリアルな内容から内部告発の漫画だろうとして話題を集めました。先日、この漫画のモデルになったと思われる方が、在宅起訴になったことが報道されました。関わった手術のうち、少なくとも8件で患者が死亡または後遺障害が残る医療事故が発生したと報道されており、業務上過失傷害罪の時効5年までで残り1ヵ月を切ったタイミングで起訴となっています。手術で助手を務め、2024年7月に竹田くんと共に書類送検された上司の科長は不起訴となっています。「在宅起訴」は、刑事事件を起こした被疑者の身柄を拘束せずに検察官が起訴することです。刑事事件といえば、基本的に逮捕されて身柄を拘束されることが一般的ですが、在宅での起訴もありえます。身体拘束を受けたまま起訴されると、保釈が認められなければ仕事などができなくなりますが、在宅起訴の場合は生活を続けながら刑事事件と向き合うことが可能です。また、この訴訟に関しては、被害者やその代理人が公判に出席して被告人に直接質問が可能な「被害者参加制度」が適用される見通しです。被害者家族のブログ私の知る限り、神経を誤って切断し後遺障害を負わせた女性の家族と、維持透析目的で搬送された病院で透析をされなかった男性の家族の2人が、被害者としてのブログを立ち上げています(リンクは貼りません)。今回の件を受けて、それぞれ、「執刀した医師を厳罰に処していただき、医療過誤を起こした医師が繰り返し手術したり不適切な診療を続けることのないよう、医道審議会には厳しい行政処分を下していただけますよう強く望みます」「明らかな医療事故を起こした父のケースに対し、裁判ではどのように判断してくださるのか、興味を持っています」と厳しいコメントを寄せています。家族たちの声には、医療者として考えさせられるものがあります。医療行為が刑事事件として問われるのは、明らかな注意義務違反や重大な過失がある場合に限られるのが一般的です。しかし、今回は地検側が手術映像を専門家に見てもらい検証した結果、刑事責任を問えると判断しました。このような形での起訴は珍しいケースですね。

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レムデシビルの添付文書改訂、「重度の腎障害患者への投与は推奨しない」を削除

 新型コロナウイルス感染症治療薬であるレムデシビル(商品名:ベクルリー)の添付文書の改訂について、医薬品医療機器総合機構(PMDA)のホームページ上に12月16日掲載された。「eGFR30未満の重度の腎機能障害患者への投与は推奨しない」を削除 今回の改訂では、「特定の背景を有する患者に関する注意」の「腎機能障害患者」の項目で、「重度の腎機能障害(成人、乳児、幼児及び小児はeGFRが30mL/min/1.73m2未満、正期産新生児(7日~28日)では血清クレアチニン1mg/dL以上)の患者投与は推奨しない。治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与を考慮すること」という記載が削除された。また、「薬物動態」の項目では、腎機能障害患者におけるレムデシビルの薬物動態データが追記された。 本改訂において、COVID-19で入院した重度の腎機能障害患者(eGFR30未満)を対象とした海外第III相試験(GS-US-540-5912試験)および腎機能の程度別被験者(eGFR15未満、15以上30未満、30以上60未満、60以上90未満、90以上)を対象とした海外第I相試験(GS-US-540-9015試験)の試験成績を得られたことから、改訂可能と判断された。 なお本剤について、欧州では2023年6月、米国では2023年7月に、透析を受けている患者を含む重度の腎機能障害を有するCOVID-19患者の治療薬として承認されており、全ステージの腎疾患に対して使用可能である。

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重度母体合併症、その後の出産減少と関連/JAMA

 最初の出産で重度の母体合併症(SMM)を発症した女性はその後の出産の可能性が低いことが、スウェーデン・カロリンスカ研究所のEleni Tsamantioti氏らによるコホート研究の結果において示された。SMMを経験した女性は健康問題が長く続く可能性があり、SMMと将来の妊娠の可能性との関連性は不明であった。著者は、「SMMの既往歴がある女性には、適切な生殖カウンセリングと出産前ケアの強化が非常に重要である」とまとめている。JAMA誌オンライン版2024年11月25日号掲載の報告。スウェーデンの初産女性約105万人を対象に解析 研究グループは、スウェーデンの出生登録(Medical Birth Register)および患者登録(National Patient Register)のデータを用い、コホート研究を実施した。 対象は、1999年1月1日~2021年12月31日の間の初産女性104万6,974例で、初産時の妊娠22週から出産後42日以内のSMMを特定するとともに、出産後43日目から2回目の出産に至った妊娠の最終月経初日まで、または死亡、移住あるいは2021年12月31日のいずれか早い時点まで追跡した。 SMMは、次の14種類からなる複合イベントと定義した。(1)重症妊娠高血圧腎症、HELLP(溶血、肝酵素上昇、血小板減少)症候群、子癇、(2)重症出血、(3)手術合併症、(4)子宮全摘、(5)敗血症、(6)肺塞栓症・産科的塞栓症、播種性血管内凝固症候群、ショック、(7)心合併症、(8)急性腎不全、透析、(9)重度の子宮破裂、(10)脳血管障害、(11)妊娠中・分娩時・産褥期の麻酔合併症、(12)重度の精神疾患、(13)人工呼吸、(14)その他(重症鎌状赤血球貧血症、急性および亜急性肝不全、急性呼吸促迫症候群、てんかん重積状態を含む)。 主要アウトカムは、2回目の出産(生児出産または在胎22週以降の胎児死亡と定義される死産)とし、多変量Cox比例ハザード回帰モデルを用いて、初産時SMMと2回目出産率またはその期間との関連について解析した。初産時SMM発症女性は発症しなかった女性より2回目出産率が低い 解析対象104万6,974例中、初産時にSMMが認められた女性は3万6,790例(3.5%)であった。初産時SMMを発症した女性は発症しなかった女性と比較して、2回目出産率が低かった(1,000人年当たり136.6 vs.182.4)。 母体の特性を補正後も、初産時のSMMは調査期間中の2回目出産率の低下と関連しており(補正後ハザード比:0.88、95%信頼区間:0.87~0.89)、とくに初産時の重度子宮破裂(0.48、0.27~0.85)、心合併症(0.49、0.41~0.58)、脳血管障害(0.60、0.50~0.73)、および重度精神疾患(0.48、0.44~0.53)で顕著であった。 同胞分析の結果、これらの関連性は家族性交絡の影響を受けていないことが示された。

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第80回 κ(カッパ)係数による一致度の評価とは?【統計のそこが知りたい!】

第80回 κ(カッパ)係数による一致度の評価とは?実際の臨床業務ではしばしば起こる事象として、病理診断や画像診断では診断医によって診断が異なる可能性があります。たとえば、IgA腎症の予後を推定するための組織学的分類は、本症の末期腎不全への進展の危険因子と考えられる腎生検組織所見を基に、わが国では、「IgA腎症診療指針 第2版」(日本腎臓学会)において、IgA腎症患者の予後は、メサンギウム細胞増殖と基質増加、糸球体の硬化、半月体の形成、ボウマン嚢との癒着、尿細管・間質病変、血管病変の程度から、以下の4群に分類されています(注:本指針は改訂され第3版が刊行されている)。1:予後良好群(透析療法に至る可能性がほとんどないもの)2:予後比較的良好群(透析療法に至る可能性が低いもの)3:予後比較的不良群(5年以上・20年以内に透析療法に移行する可能性があるもの)4:予後不良群(5年以内に透析療法に移行する可能性があるもの)同じ腎病理組織像をみても、医師Aは「比較的予後不良群」と診断し、医師Bは「比較的予後良好群」と診断するかもしれません。「比較的予後不良」と診断されれば、「5年以上・20年以内に透析に移行する可能性がある」ということですが、「比較的予後良好群」と診断された場合、「透析に至る可能性がかなり低い」ということになり、患者さんが受ける印象は大きく異なりますし、当然ながら治療方針も異なってくる可能性があります。理想的な病理組織分類、画像診断分類とは、正確に予後を予測する分類であることは当然ですが、誰が何度診断しても同じ診断が得られる分類であるべきです。カテゴリー変数(名義変数、順序変数)として表現される診断の一致度(reproducibility)を評価するために、よく利用される統計学的手法が「κ係数(kappa statistic)」です。■κ係数とはある現象を2人の観察者が観察した場合、この結果がどの程度一致しているかを表す統計量を「κ統計量」や「一致率」と言います。0~1までの値をとり、値が大きいほど一致度が高いといえます。一般に、κ係数は、以下のように判定されます。0.8を超える高い一致度0.6〜0.8かなりの一致度0.4〜0.6中等度の一致度0.4以下低い一致度κ係数≧0.6であれば、観察者間の一致度(reproducibility)が十分高いと判断されます。■κ係数の計算方法実際にκ係数を計算してみましょう。ここに40例の患者について、医師Aと医師Bの病理診断データがあるとします。両者のグレード分類は表1のようになりました。表1 医師AとBのグレード分類両者の一致度を調べるために、表2のようにクロス集計を行います。表2 医師AとBのクロス集計次に判別的中率を算出します。次に一致度をκ係数で調べます。判別的中率は「偶然による一致率」を勘案していない点で、「見かけ上の一致率(observed degree of agreement)」と言われています。κ係数は、判別的中率から見かけ上の一致率を除去したもので、偶然の一致率は次のように算出できます。表3に縦計をT1、T2、T3、T4、横計をY1、Y2、Y3、Y4、全度数をnとします。表2 医師AとBのクロス集計表3 偶然の一致率の集計縦計は、表2の縦計の数値(青枠内)を全体n=40で割った値が入ります(表3(1))。横計には、表2の横計の数値(緑枠)を全体n=40で割った値が入ります(表3(2))。(3)、(4)、(3)×(4)は、表2の数値を代入した算出した結果を示しています。κ係数を以下のように求めてみると、κ係数は高い値を示し、検定によるp値は0.000で、2人の病理医の一致度(reproducibility)は十分高いと評価されます。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ統計のそこが知りたい!第38回 変動係数とは?「わかる統計教室」第3回 理解しておきたい検定セクション13 カイ2乗検定

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CKDステージ3への尿酸降下薬、尿酸値6未満達成でCKD進展抑制か

 高尿酸血症は慢性腎臓病(CKD)患者で高頻度にみられる。高尿酸血症を有するCKD患者に対する尿酸低下療法については、『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第3版』では、腎機能を抑制する目的に尿酸降下薬を用いることが条件付きで推奨されている1)。また、『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023』では、保存期CKD患者に対する尿酸低下療法について、「腎機能悪化を抑制する可能性があり、行うことを考慮してもよい」とされている2)。しかし、CKD患者における血清尿酸値の管理目標に関する無作為化比較試験は存在しない。中国・中南大学のYilun Wan氏らの研究グループは、英国のデータベース(IQVIA Medical Research Data[IMRD])を用いて、痛風を有するCKDステージ3の患者への尿酸低下療法について、血清尿酸値6.0mg/dL未満達成の有無別に腎機能への影響を検討した。その結果、血清尿酸値6.0mg/dL未満達成群は、非達成群と比較して腎機能障害の進展が増加せず、むしろ抑制される可能性が示された。本研究結果は、JAMA Internal Medicine誌オンライン版2024年11月25日号で報告された。 本研究の対象は、IMRDに登録された40~89歳の痛風を有するCKDステージ3(eGFR 30~60mL/min/1.73m2が3ヵ月以上持続、またはCKDステージ3の診断記録を有する)で、尿酸降下薬による治療を受けた患者1万4,792例であった。対象患者を尿酸降下薬開始から1年以内の血清尿酸値6.0mg/dL未満の達成の有無で分類し(達成群/非達成群)、腎機能への影響を検討した。両群の比較にはtarget trial emulationのデザインを用いた。target trial emulationの手法として、cloning-censoring-weighting法を用いて、達成群と非達成群を比較した。評価項目は腎機能高度低下または末期腎不全(eGFR 30mL/min/1.73m2未満が3ヵ月以上持続、またはCKDステージ4/5、血液透析、腹膜透析、腎移植のいずれかの診断記録を有する)とした。 主な結果は以下のとおり。・対象患者の年齢(平均値±標準偏差[SD])は73.1±9.5歳で、男性は62.3%(9,215例)であった。ベースライン時の血清尿酸値、eGFR(いずれも平均値±SD)は、それぞれ8.9±1.6mg/dL、49.9±12.3mL/min/1.73m2であった。・尿酸降下薬の内訳は、アロプリノールが98.8%(1万4,615例)、フェブキソスタットが1.2%(177例)であった。・尿酸降下薬開始から1年以内に血清尿酸値6.0mg/dL未満を達成した割合は31.8%(4,706例)であった。・追跡開始から5年間の腎機能高度低下または末期腎不全の発生率は、達成群が10.32%、非達成群が12.73%であり、調整リスク差は-2.41%(95%信頼区間[CI]:-4.61~-0.21)、ハザード比(HR)は0.89(95%CI:0.80~0.98)であった。・末期腎不全の発生率は、達成群が0.6%、非達成群が1.2%であり、調整リスク差は-0.63%(95%CI:-0.94~-0.32)、HRは0.67(95%CI:0.46~0.97)であった。 本研究結果について、著者らは「痛風を有するCKD患者において、血清尿酸値6.0mg/dL未満を目標とする尿酸低下療法は、忍容性が良好であり、CKDの進展を抑制する可能性も示された」と考察し、「痛風を有するCKD患者の治療において、血清尿酸値の目標値を達成するために、尿酸降下薬による治療を最適化することを支持するものである」とまとめた。

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