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大量輸血の外傷患者、4F-PCCの有効性認められず/JAMA

 大量輸血のリスクがある外傷患者において、高比率輸血戦略に4因子含有プロトロンビン複合体濃縮製剤(4F-PCC)を追加しても24時間の血液製剤消費量の有意な減少は認められず、血栓塞栓イベントの発生が有意に増加した。フランス・グルノーブル・アルプ大学のPierre Bouzat氏らが「PROCOAG試験」の結果を報告した。外傷性出血における最適な輸血戦略は不明である。最近の観察研究では、4F-PCCの早期投与と新鮮凍結血漿(FFP)の併用により、血栓塞栓イベントが増加することなく血液製剤の消費量と死亡率が低下することが示されていた。今回の試験を受けて著者は、「大量輸血のリスクを有する患者における4F-PCCの使用は支持されない」とまとめている。JAMA誌2023年4月25日号掲載の報告。24時間血液製剤消費量を4F-PCC群とプラセボ群で比較 「PROCOAG試験」は、フランスのレベルI外傷センター12施設において実施された無作為化二重盲検プラセボ対照優越性試験。 研究グループは、2017年12月29日~2021年8月31日の期間に、大量輸血が予想される外傷患者連続症例を登録し、4F-PCC群(第IX因子25 IU/kg[1mL/kg]静脈内投与)またはプラセボ群(生理食塩水1mL/kg静脈内投与)に無作為に割り付けた。全例、入院時に濃厚赤血球(PRBC)とFFPの比率が1対1から2対1の輸血を早期に受け、欧州外傷性出血ガイドラインの勧告に従って治療された。最終追跡調査日は2021年8月31日であった。 主要アウトカムは、24時間の血液製剤消費量(有効性)、副次アウトカムは動脈または静脈血栓塞栓イベント(安全性)とした。24時間血液製剤消費量に有意差なし、血栓塞栓イベントは4F-PCC群で増加 4,313例がスクリーニングされ、適格基準を満たした350例のうち327例が無作為化され、同意撤回を除く324例が解析対象となった(4F-PCC群164例、プラセボ群160例)。患者背景は、年齢中央値39歳(四分位範囲[IQR]:27~56)、Injury Severity Score中央値36(IQR:26~50[大外傷])、入院時血中乳酸値の中央値4.6mmol/L(IQR:2.8~7.4)。入院前動脈収縮期血圧90mmHg未満の患者割合は59%(179/324例)、233例(73%)が男性、226例(69%)が緊急の出血コントロールを要した。 24時間の血液製剤消費量の中央値は、4F-PCC群12 U(IQR:5~19)、プラセボ群11 U(IQR:6~19)であり、両群間に有意差はなかった(絶対差:0.2 U、95%CI:-2.99~3.33、p=0.72)。 少なくとも1つの血栓塞栓イベントが発現した患者は、4F-PCC群56例(35%)に対し、プラセボ群では37例(24%)で、4F-PCC群のほうが多かった(絶対差:11%[95%CI:1~21]、相対リスク:1.48[95%CI:1.04~2.10]、p=0.03)。

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輸血ドナーの性別、レシピエントの死亡率には影響せず/NEJM

 血液ドナーの特性が輸血レシピエントのアウトカムに影響を及ぼす可能性を示唆する観察研究のエビデンスが増えているという。カナダ・モントリオール大学のMichael Chasse氏らは「iTADS試験」において、女性の赤血球ドナーからの輸血を受けた患者と男性の赤血球ドナーからの輸血を受けた患者で、生存率に有意差はないことを示した。研究の詳細は、NEJM誌2023年4月13日号で報告された。カナダの二重盲検無作為化試験 iTADS試験は、カナダの3施設が参加した二重盲検無作為化試験であり、2018年9月~2020年12月の期間に患者の登録が行われた(カナダ保健研究機構の助成を受けた)。 赤血球輸血を受ける患者が、男性ドナーの赤血球を輸血する群、または女性ドナーの赤血球を輸血する群に無作為に割り付けられた。無作為化は、血液供給業者による過去の配分とマッチさせるため、60対40(男性ドナー群対女性ドナー群)の割合で行われた。 主要アウトカムは生存(無作為化の日から死亡または追跡期間終了の日まで)であり、男性ドナー群が参照群とされた。 8,719例が登録され、輸血前に男性ドナー群に5,190例が、女性ドナー群に3,529例が割り付けられた。ベースラインの全体の平均(±SD)年齢は66.8±16.4歳、女性が50.7%であった。入院患者が79.9%、外来患者が11.3%、救急患者が6.9%であり、入院患者のうち外科治療が42.2%、集中治療が39.7%を占めた。MRSA感染リスクは女性ドナー群で高い ベースラインの輸血前ヘモグロビン値は79.5±19.7g/Lであった。女性ドナー群の患者は平均5.4±10.5単位の赤血球の投与を受け、男性ドナー群の患者は平均5.1±8.9単位の投与を受けた(群間差:0.3単位、95%信頼区間[CI]:-0.1~0.7)。 平均追跡期間11.2ヵ月の時点で、女性ドナー群の1,141例、男性ドナー群の1,712例が死亡した。生存率は女性ドナー群が58.0%、男性ドナー群が56.1%で、死亡の補正後ハザード比(HR)は0.98(95%CI:0.91~1.06)であり、両群間に有意な差は認められなかった(p=0.43[log-rank検定])。 30日、3ヵ月、6ヵ月、1年、2年時の生存率にも、両群間に有意差はみられなかった。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染の発生率は、男性ドナー群よりも女性ドナー群で高かった(HR:2.00、95%CI:1.15~3.46)。入院患者における平均入院日数は、女性ドナー群が21.0±26.6日、男性ドナー群は20.8±27.3日だった(群間差:0.2日、95%CI:-1.1~1.5)。 著者は、「サブグループ解析では、男性ドナー群の男性患者に比べ女性ドナー群の男性患者で死亡リスクが低く(HR:0.90、95%CI:0.81~0.99)、20~29.9歳のドナーから輸血を受けた患者においては男性ドナー群に比べ女性ドナー群の患者で死亡リスクが高かった(HR:2.93、95%CI:1.30~6.64)が、これらの知見は偶然によるものと考えられる」としている。

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血小板無力症〔GT:Glanzmann thrombasthenia〕

1 疾患概要■ 定義血小板無力症(Glanzmann thrombasthenia:GT)は、1918年にGlanzmannにより初めて報告された1)一般的な遺伝性血小板障害(Inherited platelet disorders:IPD)であり、その中でも最もよく知られた先天性血小板機能異常症である。血小板インテグリンαIIbβ3(alphaIIbbeta3:いわゆる糖蛋白質[glycoprotein:GP]IIb/IIIaとして知られている)の量的欠損あるいは質的異常のため、血小板凝集機能の障害により主に中等度から重度の粘膜皮膚出血を伴う出血性疾患である。インテグリンαIIbβ3機能の喪失により、血小板はフィブリノーゲンや他の接着蛋白質と結合できなくなり、血小板による血栓形成不全、および多くの場合に血餅退縮が認められなくなる。 ■ 疫学血液凝固異常症全国調査では血液凝固VIII因子の欠乏症である血友病Aが男性出生児5,000人に約1人,また最も頻度が高いと推定される血漿蛋白であるvon Willebrand factor(VWF)の欠損症であるvon Willebrand病(VWD)については出生児1,000人に1人2、3)と報告される(出血症状を呈するのはその中の約1%と考えられている)。IPDは、これらの遺伝性出血性疾患の発症頻度に比べてさらに低くまれな疾患である。UK Haemophilia Centres Doctors Organisation(UKHCDO)に登録された報告2)では、VWDや血友病A・Bを含む凝固障害(87%)に比較して血小板数・血小板機能障害(8%)である。その8%のIPDの中ではGTは比較的頻度が高いが、明らかな出血症状を伴うことから診断が容易であるためと想定される(GT:5.4%、ベルナール・スーリエ症候群:3.7%、その他の血小板障害:90.1%)。凝固異常に比較して、IPDが疑われる症例ではその分子的な原因を臨床検査により正確に特定できないことも多く、その他の血小板障害(90.1%)としてひとくくりにされている。GTは、常染色体潜性(劣性)遺伝形式のために一般的にホモ接合体変異で発症し、ある血縁集団(民族)ではGTの発症頻度が高いことが知られている。遺伝子型が同一のGT症例でも臨床像が大きく異なり、遺伝子型と表現型の相関はない1、4)。血縁以外では複合ヘテロ接合によるものが主である。■ 病因(図1)図1 遺伝性血小板障害に関与する主要な血小板構造画像を拡大するインテグリンαIIbサブユニットをコードするITGA2B遺伝子やβ3サブユニットをコードするITGB3遺伝子の変異は、インテグリンαIIbβ3複合体の生合成や構造に影響を与え、GTを引き起こす。片方のサブユニットの欠落または不完全な構造のサブユニット生成により、成熟巨核球で変異サブユニットと残存する未使用の正常サブユニットの両方の破壊が誘導されるが、例外もありβ3がαvと結合して血小板に少量存在するαvβ3を形成する5)。わが国における血小板無力症では、欧米例とは異なりβ3の欠損例が少なく、αIIb遺伝子に異常が存在することが多くαIIbの著減例が多い。また、異なる家系であるが同一の遺伝子異常が比較的高率に存在することは単民族性に起因すると考えられている6)。このほかに、血小板活性化によりインテグリン活性化に関連した構造変化を促す「インサイドアウト」シグナル伝達や、主要なリガンドと結合したαIIbβ3がさらなる構造変化を起こして血小板形態変化や血餅退縮に不可欠な「アウトサイドイン」シグナル伝達経路を阻害する細胞内ドメインの変異体も存在する。細胞質および膜近位ドメインのまれな機能獲得型単一アレル変異体では、自発的に受容体の構造変化が促進される結果、巨大血小板性血小板減少症を引き起こす。「インサイドアウト」シグナルに重要な役割を果たすCalDAG-GEFI(Ca2+ and diacylglycerol-regulated guanine nucleotide exchange factor)[RASGRP2遺伝子]およびKindlin-3(FERMT3遺伝子)の遺伝子変異により、GT同様の臨床症状および血小板機能障害を発症する。この機能性蛋白質が関与する他の症候としては、CalDAG-GEFIは他の血球系、血管系、脳線条体に存在し、ハンチントン病との関連も指摘されており、Kindlin-3の遺伝子変異では、白血球接着不全III(leukocyte adhesion deficiency III:LAD-III)を引き起こす。LAD-III症候群は常染色体潜性(劣性)遺伝で、白血球減少、血小板機能不全、感染症の再発を特徴とする疾患である5)。■ 症状GTでは鼻出血や消化管出血など軽度から重度の粘膜皮膚出血が主症状であるが、外傷・出産・手術に関連した過剰出血なども認める。男女ともに罹患するが、とくに女性では月経や出産などにより明らかな出血症状を伴うことがある。実際、過多月経を訴える女性の50%がIPDと診断されており、さらにIPDの女性は排卵に関連した出血を起こすことがあり、子宮内膜症のリスクも高いとされている7)。■ 分類GTの分類では、インテグリンαIIbβ3の発現量により分類される。多くの症例が相当するI型では、ほとんどαIIbβ3が発現していないため、血小板凝集が欠如し血餅退縮もみられない。発現量は少ないがαIIbβ3が残存するII型では、血小板凝集は欠如するが血餅退縮は認める。また、非機能的なαIIbβ3を発現するまれなvariant GTなどがある1、5)。■ 予後GTは、消化管出血や血尿など重篤な出血症状を時折引き起こすことがあるが、慎重な経過観察と適切な支持療法により予後は良好である。GTの出血傾向は小児期より認められその症状は顕著であるが、一般的に年齢とともに軽減することが知られており、多くの成人症例で本疾患が日常生活に及ぼす影響は限られている。診断された患者さんが出血で死亡することは、外傷や他の疾患(がんなど)など重篤な合併症の併発に関連しない限りまれである1)。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)血小板機能障害は1次止血の異常であり、主に皮膚や粘膜に発現することが多い。出血症状の状況(部位や頻度、期間、再発傾向、出血量)および重症度(出血評価ツール)を評価することは、出血症状を呈する患者の評価における最初の重要なステップである。出血の誘因が年齢や性別(月経)に影響するかどうかを念頭に、患者自身および家族の出血歴(術後または抜歯後の出血を含む)、服薬状況(非ステロイド性抗炎症薬)について正確な問診を行う。また、IPDを疑う場合は、出血とは無関係の症状、たとえば眼病変や難聴、湿疹や再発性感染、各臓器の形成不全、精神遅滞、肝腎機能など他器官の異常の可能性に注意を払い、血小板異常機能に関連した症候群型の可能性を評価できるようにする7)。【遺伝性血小板障害の診断】症候学的特徴(出血症状、その他症状、家族歴)血小板数/形態血小板機能検査(透過光血小板凝集検査法)フローサイトメトリー免疫蛍光法、電子顕微鏡法分子遺伝学的解析(Boeckelmann D, et al. Hamostaseologie. 2021;41:460-468.より作成)出血症状に対するスクリーニング検査は、比較的簡単な基礎的な臨床検査で可能であり非専門施設でも実施できる。血液算定、末梢血塗抹標本での形態観察、血液凝固スクリーニング、VWDを除外するためのVWFスクリーニング(VWF抗原、VWF活性[リストセチン補因子活性]、必要に応じて血液凝固第VIII因子活性)などを行う(図2)。上記のスクリーニング検査でIPDの可能性を検討するが、IPDの中には血小板減少を伴うものもあるので、短絡的に特発性血小板減少性紫斑病と診断しないように注意する。末梢血塗抹標本の評価では、血小板の大きさ(巨大血小板)や構造、他の血球の異常の可能性(白血球の封入体)について情報を得ることができ、これらが存在すれば特定のIPDが示唆される。図2 遺伝性血小板障害(フォン・ヴィレブランド病を含む)での血小板凝集のパターン、遺伝子変異と関連する表現型画像を拡大する血小板機能検査として最も広く用いられている方法は透過光血小板凝集検査法(LTA)であり、標準化の問題はあるもののLTAはいまだ血小板機能検査のゴールドスタンダードである。近年では、全自動血液凝固測定装置でLTAが検査できるものもあるため、LTA専用の検査機器を用意しなくても実施できる。図3に示すように、GTではリストセチンを除くすべてのアゴニスト(血小板活性化物質)に対して凝集を示さない。GTやベルナール・スーリエ症候群などの血小板受容体欠損症の診断に細胞表面抗原を測定するフローサイトメトリー(図4)は極めて重要であり、インテグリンαIIbβ3の血小板表面発現の欠損や減少が認められる。インテグリンαIIbβ3活性化エピトープ(PAC-1)を認識する抗体では、活性化不全が認められる8)。図3 血小板無力症と健常者の透過光血小板凝集検査法での所見(PA-200を用いて測定)画像を拡大する図4 血小板表面マーカー画像を拡大するGTでは臨床所見や上記の検査の組み合わせで確定診断が可能であるが、その他IPDを診断するための検査としては、顆粒含有量および放出量の測定(血小板溶解液およびLTA記録終了時の多血小板血漿サンプルの上清中での血小板因子-4やβトロンボグロブリン、セロトニンなど)のほか、血清トロンボキサンB2(TXB2)測定(アラキドン酸由来で生理活性物質であるトロンボキサンA2の血中における安定代謝産物)、電子顕微鏡による形態、血小板の流動条件下での接着および血栓形成などの観察、細胞内蛋白質のウェスタンブロッティングなどが参考となる。遺伝子検査はIPDの診断において、とくに病態の原因と考えられる候補遺伝子の解析を行い、主に確定診断的な役割を果たす重要な検査である。今後は、次世代シーケンサーの普及によるジェノタイピングにより、遺伝子型判定を行うことが容易となりつつあり、いずれIPDでの第一線の診断法となると想定される。ただしこれらの上記に記載した検査については、現段階では保険適用外であるもの、研究機関でしか行えないものも数多い。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)予防や治療の選択肢は限られているため、日常生活での出血リスクを最小限に抑えること、出血など緊急時の対応に備えることが必要である(図5)。図5 出血性疾患に対する出血の予防と治療画像を拡大する罹患している病名や抗血栓薬など避けるべき薬剤などの医療情報(カード)を配布することも有効である。この対応方法は、出血性疾患でおおむね同様と考えられるが、たとえばGTに対しては血小板輸血による同種抗体生成リスクを可能な限り避けるなど、個々の疾患において特別な注意が必要なものもある。この抗血小板抗体は、輸血された血小板除去やその機能の阻害を引き起こし、輸血効果を減弱させる血小板不応の原因となる。観血的手技においては、出血のリスクと処置のベネフィットなど治療効率の評価、多職種(外科医、血栓止血専門医、看護師、臨床検査技師など)による出血に対するケアや止血評価、止血対策のためのプロトコルの確立と遵守(血小板輸血や遺伝子組み換え活性化FVII製剤、抗線溶薬の使用、観血術前や出産前の予防投与の考慮)が不可欠である。IPD患者にとって妊娠は、分娩関連出血リスクが高いことや新生児にも出血の危険があるなどの問題がある。最小限の対策ですむ軽症出血症例から最大限の予防が必要な重篤な出血歴のある女性まで状況が異なるために、個々の症例において産科医や血液内科医の間で管理を計画しなければならない。重症出血症例に対する経膣分娩や帝王切開の選択なども依然として難しい。4 今後の展望出血時の対応などの臨床的な役割を担う医療機関や遺伝子診断などの専門的な解析施設へのアクセスを容易にできるようにすることが望まれる。たとえば、血友病のみならずIPDを含めたすべての出血性疾患について相談や診療可能な施設の連携体制の構築すること、そしてIPD診断については特殊検査や遺伝子検査(次世代シーケンサー)を扱う専門施設を確立することなどである。遺伝性出血性疾患の中には、標準的な治療では対応しきれない再発性の重篤な出血を伴う若い症例なども散見され、治療について難渋することがある。こうした症例に対しては、遺伝性疾患であるからこそ幹細胞移植や遺伝子治療が必要と考えられるが、まだ選択肢にはない。近い将来には、治療法についても革新的技術の導入が期待される。5 主たる診療科血液内科(血栓止血専門医)※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報小児慢性特定疾病情報センター 血小板無力症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)国立成育医療研究センター 先天性血小板減少症の診断とレジストリ(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)大阪大学‐血液・腫瘍内科学 血小板疾患研究グループ山梨大学大学院 総合研究部医学域 臨床検査医学講座(医療従事者向けのまとまった情報)1)Nurden AT. Orphanet J Rare Dis. 2006;1:10.2)Sivapalaratnam S, et al. Br J Haematol. 2017;179:363-376.3)日笠聡ほか. 日本血栓止血学会誌. 2021;32:413-481.4)Sandrock-Lang K, et al. Hamostaseologie. 2016;36:178-186.5)Nurden P, et al. Haematologica. 2021;106:337-350.6)冨山佳昭. 日本血栓止血学会誌. 2005;16:171-178.7)Gresele P, et al. Thromb Res. 2019;181:S54-S59.8)Gresele P, et al. Semin Thromb Hemost. 2016;42:292-305.公開履歴初回2023年3月30日

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骨髄線維症の症状改善、新規クラスJAK阻害薬の有用性は?/Lancet

 新規クラスのJAK阻害薬momelotinibは、ダナゾールとの比較において、骨髄線維症関連の症状、貧血および脾臓の症状を有意に改善し、安全性は良好であることが示された。米国・テキサス大学MDアンダーソンがんセンターのSrdan Verstovsek氏らが、195例の患者を対象に行った第III相の国際二重盲検無作為化試験「MOMENTUM試験」の結果を報告した。著者は、「今回の所見は、骨髄線維症患者、とくに貧血患者への効果的な治療法としてmomelotinibの今後の使用を支持するものである」と述べている。Lancet誌2023年1月28日号掲載の報告。骨髄線維症に対して承認されたJAK阻害薬は、脾臓および関連症状を改善するが貧血の改善は有意ではない。momelotinibは、新規クラスのACVR1ならびにJAK1およびJAK2の阻害薬で、貧血に対しても効果があることが示されていた。骨髄線維症症状評価フォーム総症状スコアの50%以上減少を評価 MOMENTUM試験は、貧血および中または高リスクの骨髄線維症を有するJAK阻害薬既治療の症候性患者を対象に、momelotinibと実薬対照としてダナゾールを比較し、momelotinibの臨床的利点を確認する試験。21ヵ国、107ヵ所の医療機関を通じて被験者を登録して行われた。 適格患者は、原発性骨髄線維症、または真性多血症から移行した骨髄線維症、本態性血小板血症から移行した骨髄線維症の確定診断を受けた18歳以上だった。 研究グループは被験者を無作為に2対1の割合で2群に分け、一方にはmomelotinib(200mg、1日1回経口投与)+プラセボ(momelotinib群)、もう一方にはダナゾール(300mg、1日2回経口投与)+プラセボ(ダナゾール群)を投与した。総症状スコア(TSS、22未満vs.22以上)、脾臓サイズ(12cm未満vs.12cm以上)、無作為化前8週間以内の赤血球または全血ユニット輸血の有無(0ユニットvs.1~4ユニットvs.5ユニット以上)、試験場所による層別化も行った。 主要エンドポイントは、24週時点の骨髄線維症症状評価フォーム総症状スコア(MF-SAF TSS)反応率で、最終28日間の平均MF-SAF TSSが、ベースラインから50%以上低下した患者の割合と定義した。MF-SAF TSS反応率、momelotinib群25%、ダナゾール群9% 2020年4月24日~2021年12月3日に、195例が無作為化を受けた(momelotinib群130例[67%]、ダナゾール群65例[33%])。 主要エンドポイントを達成した患者の割合は、ダナゾール群よりもmomelotinib群で有意に高率だった(32例[25%]vs.6例[9%]、群間差:16ポイント、95%信頼区間[CI]:6~26、p=0.0095)。 最も頻度の高いグレード3以上の緊急治療を要する有害イベントは、両群ともに検査値に基づく血液学的異常で、貧血(momelotinib群79例[61%]vs.ダナゾール群49例[75%])、血小板減少症(36例[28%]vs.17例[26%])だった。最も頻度の高い非血液学的有害イベントは、両群ともに急性腎障害(4例[3%]vs.6例[9%])と、肺炎(3例[2%]vs.6例[9%])だった。

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第146回 マウスの老化を巻き戻し / 武田薬品の紫斑病薬が承認申請される

山中因子でマウスの老化を巻き戻し10年ほど前に京都大学の山中伸弥教授をノーベル賞へと導いたiPS細胞(人工多能性幹細胞)の素が個体の老化を巻き戻して若返らせうることを2つの研究チームが報告しました。今では山中教授の名を冠して山中因子と呼ばれるそのiPS細胞の素は4つのタンパク質(転写因子)で構成され、分化した成体細胞を多能性の幹細胞(iPS細胞)へと変えることで知られます。今回米国・カリフォルニア州サンディエゴのバイオテック企業Rejuvenate Bio社のチームはそれら山中因子のうちの3つOct4、Sox2、Klf4を届ける遺伝子治療で老化マウスがより長生きになったことを報告しました1,2)。ハーバード大学の抗老化治療研究者David Sinclair氏が率いる別のチームはRejuvenate社と同様の手段により、マウスの老化状態を若い状態へと回復させうることを示しました3,4)。頭文字をとってOSKと呼ばれるOct4、Sox2、Klf4はそれらどちらの研究でもメチル化などのDNA取り巻き・エピゲノムをより若い状態へと回復させたようです5)。Rejuvenate社はヒトの治療に即した手段を検討するべく、ヒトの遺伝子治療で使われているアデノ随伴ウイルス(AAV)を運搬役としてOSK遺伝子を老齢(生後124週間)のマウスに投与しました。するとその後の余命はより長くなり、対照群マウスが9週間ほどしか生きられなかったのに対してOSK遺伝子投与マウスはその約2倍の約18週間生存しました。加えて、健康指標が向上してより丈夫になったことがうかがわれました。分子レベルでもどうやら若返りしており、より若い頃に特有なメチル化特徴の幾らかをどうやら取り戻していました。山中因子はがんを生じやすくしうることが先立つ研究で示唆されていますが、幸いにも取るに足る害は今のところ認められていないとRejuvenate社の最高科学責任者(CSO)Noah Davidsohn氏は言っています5)。ハーバード大学のSinclair氏のチームが目指したのはDNA切断などのDNA配列の乱れではなくDNA取り巻きのエピゲノム情報の損失こそ老化の原因であるという仮説(information theory of aging)が正しいことの証明です。同チームはICE(inducible changes to the epigenome)という一工夫を加えたマウス(ICEマウス)のゲノムの20箇所のDNAをいったん切断してその後完全に修復させました5)。するとDNA切断の完全な修復とは裏腹にDNAメチル化や遺伝子発現は広範囲に渡って変化し、マウスのエピゲノムはメリハリの乏しい老化マウスにより似たものとなりました6)。また体調も損なわれ、体毛や色素を失い、弱々しくなって組織の老化を呈しました。エピゲノム情報の損失が老化の原因であるなら若返りをもたらす治療でエピゲノム情報も回復するはずです。そこでSinclair氏のチームもRejuvenate社と同様にOSK遺伝子を老けて見えるICEマウスに投与したところ、果たせるかなエピゲノム情報の回復が認められ、組織も若返りの兆候を呈しました。戻すことも可能なエピゲノム情報損失こそ老化の原因であることを今回の結果は示しているとSinclair氏のチームは結論していますが、若返りを研究するAltos Labs社が去年開設したAltos Cambridge Institute of Scienceの長Wolf Reik氏はそう断言するのは時期尚早と見ています。エピゲノム変化を引き出した大掛かりなDNA切断(とその修復)は他にも影響があったかもしれず、そうして生じたDNAエピゲノム変化を老化の原因とするのは困難であるとReik氏は言っています。それに、DNA切断(とその修復)を強いたマウスが自然に老化したマウスとどれだけ似ているかも分かっていません。米国・Albert Einstein College of Medicineの遺伝学者Jan Vijg氏によると、老化は種々の要因が絡んで進行していくものであることを忘れてはいけません。今回の2つの報告でのOSK遺伝子投与の効果はそれほどでもなく、1つでは寿命がいくらか伸びた程度で、もう1つでは強いて発生させた症状が部分的に解消したに過ぎません。老化は戻すことが可能な情報処理(program)であるとそれらの研究をもって結論することはできないとVijg氏は言っています。そのような批評はさておきRejuvenate社もSinclair氏のチームも臨床試験へと駒を進めることを目指します。Rejuvenate社はOSK治療効果の仕組みを研究し、治療の体内への運搬手段や成分の手直しをしています。同社の上述のCSO・Davidsohn氏によると治療成分はOSKに決定しているわけではありません。Sinclair氏はエピゲノム情報を回復させる治療に取り組むバイオテック企業Life Biosciencesを設立し、まずは霊長類の視力を改善させる研究を進めています6)。サルの眼へのOSK遺伝子投与の試験が進行中であり、その試験が成功してヒトにも十分安全らしいことがわかれば失明疾患の臨床試験の開始をすぐに米国FDAに申請するとSinclair氏は言っています5)。前々回紹介の武田薬品の紫斑病薬が承認申請される本連載の前々回(第144回)で取り上げた武田薬品の紫斑病薬TAK-755が良好なピボタル(主要な)第III相試験中間解析結果を受けて承認申請されます7,8)。今月5日に発表されたその中間解析の結果、同剤が投与された先天性血栓性血小板減少性紫斑病(cTTP)患者の血小板減少症事象は標準治療である血漿製剤使用群に比べて60%少なくて済み、その95%信頼区間の上限は100%未満に収まっていました(95%信頼区間:30~70%)。cTTPは血液凝固の制御に携わる血中タンパク質ADAMTS13の欠乏によって生じます。TAK-755はその不足を補う人工のADAMTS13です。【前々回の記事の誤解の訂正】前々回の記事で人工ADAMTS13(TAK-755)は現在第III相試験(NCT04683003)9)が進行中と記しましたが、その試験とそれに先立つもう1つの第III相試験(281102 試験/NCT03393975)10)が実施されています。前々回の記事で抜けていた281102 試験こそ今月5日に武田薬品が中間結果を発表したピボタル第III相試験です。Clinicaltrials.govによるとどちらの試験も本記事執筆時点で被験者組み入れが進行中です。お詫びして修正いたします。参考1)Gene Therapy Mediated Partial Reprogramming Extends Lifespan and Reverses Age-Related Changes in Aged Mice. bioRxiv. January 05, 2023. 2)Rejuvenate Bio Announces New Preclinical Research Evaluating Cellular Reprogramming for Age Reversal / BUSINESS WIRE3)Yang JH, et al. Cell Jan 9:S0092-8674.01570-7[Epub ahead of print].4)Loss of Epigenetic Information Can Drive Aging, Restoration Can Reverse It / Harvard Medical School5)Two research teams reverse signs of aging in mice / Science 6)Epigenetic Manipulations Can Accelerate or Reverse Aging in Mice / TheScientist7)Takeda Announces Favorable Phase 3 Safety and Efficacy Results of TAK-755 as Compared to Standard of Care in Congenital Thrombotic Thrombocytopenic Purpura (cTTP) / BUSINESS WIRE8)先天性血栓性血小板減少性紫斑病(cTTP)に対する標準治療と比較したTAK-755の良好な安全性および有効性を示す臨床第3相試験の結果について / 武田薬品9)A Study of TAK-755 in Participants With Congenital Thrombotic Thrombocytopenic Purpura(Clinical Trials.gov)10)A Study of BAX 930 in Children, Teenagers, and Adults Born With Thrombotic Thrombocytopenic Purpura (TTP) (Clinical Trials.gov)

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第126回 改正感染症法が成立、公的病院に病床確保義務/厚労省

<先週の動き>1.改正感染症法が成立、公的病院に病床確保義務/厚労省2.電子処方箋に必須、HPKIカード発行を病院一括申請で支援/日医3.「かかりつけ医」を定義、役割を法律に明記へ/厚労省4.現役世代の負担軽減のために社会保障制度改革を/財政諮問会議5.電子カルテへのランサムウエア被害から1ヵ月、復旧の遅れで患者は半減/大阪6.来年度の薬価改定に向け、議論開始/中医協1.改正感染症法が成立、公的病院に病床確保義務/厚労省新たな感染症に対応し、医療体制を強化するための感染症法改正案が12月2日に開かれた参議院本会議で与党や立憲民主党などの賛成多数で可決、成立した。改正法では、国や都道府県の権限を強化し、各都道府県は感染症対応の予防計画を医療計画などで定め、入院、発熱外来や検査の実施件数などの目標数値を設定する。また、都道府県が事前に医療機関と協議し、有事の際の病床確保などを約束する協定を締結しておき、感染症拡大時に病床提供を義務付け、守らない場合には、勧告や指示を行い、病院名を公表するなど、協定を守るように求めるもの。施行は第8次医療計画の策定に合わせて、令和6年4月1日となっている。(参考)感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律等の一部を改正する法律案の概要感染症法等の一部を改正する法律案について(参考資料)改正感染症法が成立、公的病院に医療提供義務づけ…従わなければ勧告・指示が可能(読売新聞)中核病院に病床確保義務 改正感染症法成立(産経新聞)地域の医療提供体制強化 改正感染症法など成立 参院本会議(NHK)2.電子処方箋に必須、HPKIカード発行を病院一括申請で支援/日医日本医師会は11月30日の記者会見で、電子処方箋に必須となるHPKIカード(医師資格証)の普及について、これまでの日本医師会の取り組みと、今後、医療機関に向けた支援策について公表した。来年から本格的に開始する電子処方箋の発行時には電子署名が必要となる。このためHPKIカードが必要となるが、医療機関の電子カルテにカードリーダーがなくても電子処方箋を発行できるようにセカンド電子証明書も発行できるように対応するほか、病院単位で一括申請・交付を行うことで、発行の迅速化(最短2週間)をするなど、すべての医師に対して発行を進めていくことを表明した。(参考)電子処方箋運用、HPKIの不安払拭へ 日医、病院向け方針を再周知(Medifax)電子処方箋普及に向けた医師資格証(HPKIカード)の対応について(「日医君」だより)電子処方箋に向けた大学病院含む病院向け医師資格証(HPKIカード)に関する対応方針 (日本医師会)3.「かかりつけ医」を定義、役割を法律に明記へ/厚労省厚生労働省は11月28日に社会保障審議会医療部会を開催し、「かかりつけ医機能」について議論を行った。かかりつけ医機能は「身近な地域における日常的な医療の提供や健康管理に関する相談などを行う」と定義し、外来患者の診療のほか、休日や夜間の対応、在宅医療の提供など対応ができるかを各都道府県に報告し、都道府県が公表する方針を明らかにした。また、かかりつけ医に継続的に通院する患者には医療機関と書面を交わすことなども求めていくことを提案した。今後、さらに議論を重ね、早ければ来年の通常国会に法律の改正案を提出し、かかりつけ医の役割の強化を図りたいとしている。(参考)かかりつけ医機能について(厚労省)「かかりつけ医」の定義、役割を法定化へ(産経新聞 )「かかりつけ医」に求められる役割 法律に明記の方向で検討(NHK)「かかりつけ医機能」報告制度創設へ 厚労省が骨格案、医療法改正も視野(CB news)4.現役世代の負担軽減のために社会保障制度改革を/財政諮問会議岸田内閣は経済財政諮問会議を12月1日に開催し、来年度の予算編成に向けた議論を行った。この中で今後大幅な増大が見込まれる社会保障費について意見が交わされた。民間企業などの有識者議員からは、賃金・所得の上昇に加え、さらに社会保障制度改革を行い、現役世代の社会保険料負担の上昇を抑制することが強く求められた。また、医療・介護分野の成長力強化という社会保険制度の外の改革にも取り組むよう求められた。同日、厚生労働省が開催した社会保障審議会医療保険部会でも、現役世代の負担軽減のために、後期高齢者の医療保険の拠出による支援制度を見直し、大企業の健康保険組合の負担を増加させ、代わりに中小企業の従業員が加入する「協会けんぽ」の負担を減らす方針を示している。(参考)医療保険制度改革について(厚労省)経済・財政一体改革における重点課題(経済財政諮問会議)岸田首相 現役世代の保険料負担の上昇抑制へ 制度改革など指示(NHK)65~74歳の医療費支援見直し 健保組合の負担増案提示 厚労省(同)削減した財源「すべて現役世代の負担軽減に充当を」被用者保険者間の格差是正で、関係5団体(CB news)5.電子カルテへのランサムウエア被害から1ヵ月、復旧の遅れで患者は半減/大阪1ヵ月前にランサムウエアによるサイバー攻撃によって、電子カルテが使用できなくなった大阪急性期・総合医療センターは、現在も検査や診療に影響が出ている。原因は、外部の給食業者のネットワークセキュリティ機器が、セキュリティ対策が古いまま使用していたため、病院側のサーバ接続時にランサムウエアの攻撃を受け、基幹システムやバックアップデータに影響が及んでいたことが明らかになっている。11月10日から電子カルテの一部参照が可能となったことから、3次救急患者受け入れや小児救急診療の一部を再開しているが、採血や輸血管理システムは復旧していないため手書きでの対応のほか、新規の外来診療の受け付けは停止など診療に影響が出ており、システムの完全復旧は来年1月の見通し。(参考)患者数は通常の「50%」 大阪の病院、サイバー攻撃から1カ月(朝日新聞)サイバー攻撃で病院被害1カ月、影響続く 患者対応は半減 大阪(毎日新聞)大阪の病院は取引業者からランサムウエアがなぜ広がった?「攻撃の横展開」に注意(日経クロステック)6.来年度の薬価改定に向け、議論開始/中医協厚生労働省は12月2日に中央社会保険医療協議会の薬価専門部会を開催し、令和4年医薬品価格調査(薬価調査)の速報値を元に、来年度の薬価改定について議論を行った。診療側からは医薬品の安定供給が問題になっている現状を踏まえ、約7.0%の平均乖離率を超えている品目のみ改定として、大幅な引き下げに対して異論が唱えられた。予算を編成する財務省としては薬価の引き下げ対象品目を広げ、患者負担の軽減や医療費の伸びの抑制を目指している。ただ、製薬業界からは、薬価引き下げの対象品目から特許期間中の新薬などを外す意見が出ているため、さらに議論を行われる。今月末の予算編成までに、中医協で薬価改定の幅と対象品目について結論を出し、来年の春に改定が行われる見通し。(参考)令和4年医薬品価格調査(薬価調査)の速報値(中医協)医薬品の市場価格、公定価格より7%低く 厚労省調査(朝日新聞)市場価格、薬価を7%下回る 23年度引き下げ改定へ(日経新聞)今年の薬価調査、平均乖離率は約7.0%…23年度改定、議論大詰めへ(Answers News)

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映画「心のカルテ」(後編)【なんでやせ過ぎてるって分からないの?(エピジェネティックス)】Part 3

やせの謎の答えは?先ほどの社会性メモリー(エピジェネティックな変化)による「やせアイデンティティ」の確立が、神経性やせ症に病識がない原因であると考えることができます。つまり、エレンの根っこの心理を代弁すれば「このまま(少食のまま)でいい」です。「やせたい」ではないです。「やせたい」という気持ちは現代のダイエット文化の影響による後付けであると考えることができます。そうすれば、すでにやせ過ぎているのにあまり食べないというやせ願望(肥満恐怖)や、やせ過ぎていてもそう思わないボディイメージの障害などの症状があるのも納得がいきます。また、男性は妊娠能力がなく、適応的生殖抑制を働かせる必要がないため、そもそも神経性やせ症にはなりにくいです。これが、神経性やせ症の顕著な男女差の原因であると考えられます。一方で、女性は児童期までに妊娠能力がなく、適応的生殖抑制を働かせる必要がありません。これが、神経性やせ症の好発年齢が児童期以前ではなく思春期に多い原因であると考えられます。また、成人期以降ではアイデンティティの確立はすでに終わっています。これが、神経性やせ症の好発年齢が成人期以降ではなく思春期に多い原因であると考えられます。さらに、エレンは子どもをつくれなくても、妹の子どものサポート役になることができます。そして、その子が思春期になった時に、過激なダイエットをしてしまえば、神経性やせ症になる可能性があるでしょう。これが、神経性やせ症を発症させる遺伝子が残っている(遺伝率が高い)原因です。つまり、直接的には子孫(遺伝子)を残せませんが、血縁者をサポートすることで間接的に「やせ遺伝子」を残すことになるというわけです。真の治療とは?神経性やせ症の正体は、過激なダイエットや食べ吐きなどによる栄養不足への反応のしやすさ(代謝メモリー)、栄養不足のストレスへの過敏さ(愛着メモリー)、栄養不足(やせ)へのアイデンティティ(社会性メモリー)という3つのエピジェネティックな変化であることがわかりました。つまり、神経性やせ症は、最終的にはアイデンティティという生き方の問題であり、説教や説得をしてもあまり効果がないことがわかります。もっと言えば、食事制限は、宗教的な理由から輸血を拒否することと同じとも捉えられます。早死にするリスクがあっても本人がその生き方を望むなら、私たちは神経性やせ症を病気として特別視せず、生き方の違いとして捉え直し、静かに見守ることが必要です。逆に言えば、本人に同意のない経鼻栄養(強制栄養)は、輸血を拒否する人に輸血をするのと同じ人権侵害に発展する恐れがあります。また、過激なダイエットも、生き方の問題として止められない点で、食べ吐きと同じ行動依存(嗜癖)であると捉えることができます。それでは、この神経性やせ症の正体を踏まえたうえで、ここからその真の治療を捉え直します。エレンが生活するグループホームでの取り組みを通して、主に3つ挙げてみましょう。(1)病識を促す-集団療法グループホームでは、メンバーたちが集まって話し合うミーティングが1日に朝と夕に1回ずつあります。心理カウンセラーが「夕方は反省会。今日の悪かったことと良かったことをテーマにします」と始めています。日常生活を通して、お互いの気持ちを聞き合い、励まし合ったり、慰め合ったりしています。1つ目は、病識を促すための集団療法です。これは、本人に自分と似た人を実際に見てもらうことで、「やせアイデンティティ」を見つめ直してもらう効果があります。また、仲間と一緒にいるという集団心理によって、同調の効果もあります。アルコール依存症と同じく、自助グループとしての取り組みです。ただし、同調によって、やせとして生きるアイデンティティが逆に強化される場合もあるため、カウンセラーのような方向付けをする役割が必要です。(2)治療意欲を高める-行動療法グループホームでは、目標の体重に戻るための生活上のさまざまなルールがあり、それを守るとポイントが加算され、破ると減点されます。ポイントが貯まると、外出などの自由が増えていきます。2つ目は、治療意欲を高めるための行動療法です。これは、行動を変えていくことで、生き方(アイデンティティ)を変えていく効果があります。アルコール依存症と同じく、飲酒を誘発する行動をしないようにする取り組みです。ただし、この取り組みも、本人が同意していないと、人権侵害になるリスクがあるため、日々のコミュニケーションが必要です。(3)家族が距離感を知る-家族療法実は、エレンの家族関係は複雑でした。そんな彼女のために、主治医のベッカム先生は「誰も責めない」と言い、家族を集めて、語らせます。しかし、言い争いになって、収集がつかなくなるのでした。3つ目は、家族が本人との距離感を知るための家族療法です。これは、家族が本人や誰かを責めるのではなく、本人をほど良くサポートする効果があります。アルコール依存症と同じく、家族が関わり方を学ぶ取り組みです。なお、ラストのほうで、実母がエレンを赤ちゃんに見立てて擬似授乳するシーンがあります。うまく育まれなかった愛着形成のやり直しをすることで、遠い記憶の上書きの象徴として描かれています。しかし、愛着メモリー(エピジェネティックな変化)は基本的に不可逆であることから、模擬授乳の実際の治療的な効果は不明です。予防は?映画のストーリーのその後に、もしもエレンが回復して、ルークと結ばれて娘を生んだとしたら、どうでしょうか?もちろん、幸せな家庭になってもらいたいです。ただし、その娘はもちろん「やせ遺伝子」を色濃く引き継ぎます。なお、エレンとルークのやせのエピジェネティックな変化も、娘に引き継がれるかどうかについては、現時点でまだはっきりしたことがわかっていません。植物や動物などにおいて、いくつかの特定のエピジェネティックな変化が次の世代に引き継がれていることがすでに確認されています。人間においても、いくつか可能性の報告はあるものの、遺伝子レベルで確認されているわけではありません。この現象はあったとしても、その影響度は植物や動物と比べて小さいものであることが推定されます。その理由は、人間は、植物やほかの動物と違い、文化も引き継いでいるからです。人間においてのエピジェネティックな変化の報告はどれも、現時点で、文化について触れられていませんでした。人間は、遺伝と並んで、文化(家庭外環境)の影響が大きいことから、エピジェネティックな変化が次の世代に引き継がれる必要がないとも言えます。この点で、「(エピジェネティックな変化によって)遺伝子は後から変わる」と言い切ることには慎重になったほうが良いと思われます。以上より、神経性やせ症への予防のヒントが見いだせます。それは、過激なダイエットをすることは、エピジェネティックな変化を招き、食べ吐きと同じように止められなくなり(依存的になり)、危険であるという事実を、もっと世の中に啓発して文化的に広めていくことです。そうすることで、神経性やせ症をはじめとする摂食障害の予防を徹底することができます。そんな文化の社会になった時、エレンとルークから生まれた娘は、神経性やせ症にならないことが期待できるのではないでしょうか?3)標準精神医学(第8版)P402:医学書院、20214)進化医学P184:羊土社、20135)もっとよくわかる!エピジェネティックスP162:羊土社、20206)摂食障害の進化心理学的理解の可能性P47:日本生物学的精神医学会誌Vol. 23 No. 1、20127)摂食障害の最近の動向」P148:心身医学、日本心身医学会、20148)人間と動物の病気を一緒にみるP295:バーバラ・N・ホロウィッツ、インターシフト、20149)進化と人間行動P167:長谷川寿一ほか、東京大学出版会、2022<< 前のページへ■関連記事ちびまる子ちゃん(続編)【その教室は社会の縮図? エリート教育の危うさとは?(社会適応能力)】

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ガイドライン改訂ーアナフィラキシーによる悲劇をなくそう

 アナフィラキシーガイドラインが8年ぶりに改訂され、主に「1.定義と診断基準」が変更になった。そこで、この改訂における背景やアナフィラキシー対応における院内での注意点についてAnaphylaxis対策委員会の委員長である海老澤 元宏氏(国立病院機構相模原病院 臨床研究センター長)に話を聞いた。アナフィラキシーガイドライン2022で診断基準が改訂 改訂となったアナフィラキシーガイドライン2022の診断基準では、世界アレルギー機構(WAO)が提唱する項目として3つから2つへ集約された。アナフィラキシーの定義は『重篤な全身性の過敏反応であり、通常は急速に発現し、死に至ることもある。重症のアナフィラキシーは、致死的になり得る気道・呼吸・循環器症状により特徴づけられるが、典型的な皮膚症状や循環性ショックを伴わない場合もある』としている。海老澤氏は「基準はまず皮膚症状の有無で区分されており皮膚症状がなくても、アナフィラキシーを疑う場面では血圧低下または気管支攣縮または喉頭症状のいずれかを発症していれば診断可能」と説明した。◆診断基準[アナフィラキシーガイドライン2022 p.2]※詳細はガイドライン参照 以下の2つの基準のいずれかを満たす場合、アナフィラキシーである可能性が非常に高い。1.皮膚、粘膜、またはその両方の症状(全身性の蕁麻疹、掻痒または紅潮、口唇・下・口蓋垂の腫脹など)が急速に(数分~数時間で)発症した場合。さらに、A~Cのうち少なくとも1つを伴う。  A. 気道/呼吸:呼吸不全(呼吸困難、呼気性喘鳴・気管支攣縮、吸気性喘鳴、PEF低下、低酸素血症など)  B. 循環器:血圧低下または臓器不全に伴う症状(筋緊張低下[虚脱]、失神、失禁など)  C. その他:重度の消化器症状(重度の痙攣性腹痛、反復性嘔吐など[特に食物以外のアレルゲンへの曝露後])2.典型的な皮膚症状を伴わなくても、当該患者にとって既知のアレルゲンまたはアレルゲンの可能性がきわめて高いものに曝露された後、血圧低下または気管支攣縮または喉頭症状が急速に(数分~数時間で)発症した場合。 また、アナフィラキシーガイドライン2022はさまざまな国内の研究結果やWAOアナフィラキシーガイダンス2020に基づいて作成されているが、これについて「国内でもアナフィラキシーに関する疫学的な調査が進み、ようやくアナフィラキシーガイドライン2022に反映させることができた」と、前回よりも国内でのアナフィラキシーの誘因に関する調査や症例解析が進んだことを強調した。アナフィラキシーガイドライン2022に盛り込まれた変更点 今回の取材にて、同氏は「アナフィラキシーに対し、アドレナリン筋注を第一選択にする」ことを強く訴えた。その理由の一つとして、「2015年10月1日~2017年9月30日の2年間に医療事故調査・支援センターに報告された院内調査結果報告書476件のうち、アナフィラキシーが死因となる事例が12件もあった。これらの誘因はすべて注射剤で、造影剤、抗生物質、筋弛緩剤などだった。アドレナリン筋注による治療を迅速に行っていれば死亡を防げた可能性が高いにもかかわらず、このような事例が未だに存在する」と、アドレナリン筋注が必要な事例へ適切に行われていないことに警鐘を鳴らした。 ではなぜ、アナフィラキシーに対しアドレナリン筋注が適切に行われないのか? これについて「アドレナリンと聞くと心肺蘇生に用いるイメージが固定化されている医師が一定数いる。また、アドレナリン筋注を経験したことがない医師の場合は最初に抗ヒスタミン薬やステロイドを用いて経過を見ようとする」と述べ、「アドレナリン筋注をプレホスピタルケアとして患者本人や学校の教員ですら投与していることを考えれば、診断が明確でさえあれば躊躇する必要はない」と話した。 アナフィラキシーを生じやすい造影剤や静脈注射、輸血の場合、症状出現までの時間はおよそ5~10分で時間的猶予はない。上記に述べたような症状が出現した場合には、原因を速やかに排除(投与の中止)しアドレナリン筋注を行った上で集中治療の専門家に委ねる必要がある。 また、アドレナリン筋注と並行して行う処置として併せて読んでおきたいのが“補液”の項目(p.24)である。「これまでは初期対応に力を入れて作成していたが、今回はアナフィラキシーの治療に関しても委員より盛り込むことの提案があった」と話した。 以下にはWAOガイダンスでも述べられ、アナフィラキシーガイドライン2022に盛り込まれた点を抜粋する。◆治療 2.薬物治療:第一選択薬(アドレナリン)[アナフィラキシーガイドライン2022 p.21]・心疾患、コントロール不良の高血圧、大動脈瘤などの既往を有する患者、合併症の多い高齢患者では、アドレナリン投与によるベネフィットと潜在的有害事象のリスクのバランスをとる必要があるものの、アナフィラキシー治療におけるアドレナリン使用の絶対禁忌疾患は存在しない1)・アドレナリンを使用しない場合でもアナフィラキシーの症状として急性冠症候群(狭心症、心筋梗塞、不整脈)をきたすことがある、アドレナリンの使用は、既知または疑いのある心血管疾患患者のアナフィラキシー治療においてもその使用は禁忌とされない1)・経静脈投与は心停止もしくは心停止に近い状態では必要であるが、それ以外では不整脈、高血圧などの有害作用を起こす可能性があるので、推奨されない2)◆治療 2.薬物治療:第二選択薬(アドレナリン以外)[アナフィラキシーガイドライン2022 p.23]・H1およびH2抗ヒスタミン薬は皮膚症状を緩和するが、その他の症状への効果は確認されていない3) このほか、同氏は「食物アレルギーの集積調査が進み、国内でも落花生やクルミなどのナッツ類や果物がソバや甲殻類よりも誘因として高い割合を示すことが明らかになった」と話した。さらに「病歴の聞き取りが不十分なことで起こるNSAIDs不耐症への鎮痛薬処方なども問題になっている」と指摘した。 なお、アナフィラキシーガイドライン2022は小児から成人までのアナフィラキシー患者に対する診断・治療・管理のレベル向上と、患者の生活の質の改善を目的にすべての医師向けに作成されている。日本アレルギー学会のWebからPDFが無料でダウンロードできるのでさまざまな場面でのアナフィラキシー対策に役立てて欲しい。

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妊娠中の不眠症~12年間の米国調査

 米国・サウスフロリダ大学のAnthony M. Kendle氏らは、全米の代表的な大規模データベースを用いて、12年間にわたる妊産婦の不眠症有病率とその傾向を推定し、不眠症、妊産婦の併存疾患、重度の妊産婦罹患率(SMM)との関連を調査した。その結果、妊産婦の不眠症の有病率は年々増加しており、不眠症はSMMの独立した予測因子であることが明らかとなった。Sleep誌オンライン版2022年7月28日号の報告。 2006~17年の入院患者サンプルより、米国の妊娠関連入院の連続横断的分析を実施した。分娩中および非分娩中の不眠症および産科併存疾患の診断には、ICD-9およびICD-10コードを用いた。主要アウトカムは、分娩中のSMM診断とした。不眠症とSMMの傾向を推定するため、ジョインポイント回帰を用いた。 主な結果は以下のとおり。・分娩入院件数約4,700万件のうち、不眠症と診断された女性は2万4,625例であった。・研究期間中の不眠症の年間発症率は、1万人当たり1.8から8.6に増加していた。・不眠症の粗発症率は、分娩以外の入院の場合で6.3倍高かった。・不眠症患者は、とくに神経筋疾患、精神疾患、喘息、物質使用障害などを併存していることが多かった。・非輸血SMMの有症率は、不眠症患者で3.6倍高かった(2.4% vs.0.7%)。・不眠症患者のSMMの割合は、年11%(95%信頼区間[CI]:3.0~19.7)で増加していた。・併存疾患で調整した後においても、不眠症患者のSMMの割合は、24%増加していた。

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古いほど良い:友と酒とCABG?(解説:今中和人氏)

 血行再建後の抗血小板療法に関して熱く議論されてきたPCIに引き換え、CABGだって術後は何かしら抗血小板薬を投与はするものの、PCIと違って新製品なんて出てこないし、それ以上に外科医の“さが”というか、どうしても手技そのものにばかり関心が向いてしまって、グラフト素材やオフポンプ手術に比べて、投薬については議論が盛り上がっていない印象は否めない。 本論文の中心テーマは、大伏在静脈を用いたCABG術後のチカグレロル追加の便益で、アスピリン単剤かチカグレロル併用DAPT、またはチカグレロル単剤を投与した患者で、中期遠隔期のグラフト開存性を確認した前向き無作為化試験4本のメタ解析である。用量はアスピリン81~100mg、チカグレロルは90mgで、1次エンドポイントは12ヵ月以内の静脈グラフト不全と出血イベント、2次エンドポイントはMACCEとした(実際は4論文中2本がアスピリン単剤とDAPTの比較、1本はアスピリン単剤とチカグレロル単剤の比較、1本がアスピリン単剤、DAPT、チカグレロル単剤の3群比較)。 静脈グラフト不全はCTかCAGでの閉塞ないし50%以上の狭窄と定義し、出血イベントはBleeding Academic Research Consortium(BARC)の基準を用いている。これは医学的に問題とならないType 1から致死的なType 5まで分かれており、本論文では臨床的に有意で対処を要するType 2、Hb 3g/dLを超える低下や輸血を要するType 3、致死的出血であるType 5の3カテゴリーを「出血イベント」と定義した。 DAPT 435例とアスピリンSAPT 436例の比較では、年齢は67歳と66歳(男性85%)、人工心肺下手術は両群69%、平均バイパス本数2.3本、内視鏡的静脈採取が4.6% vs.6.1%であった。12ヵ月以内の静脈グラフト不全はDAPT群11.2% vs.SAPT群20.0%、閉塞は9.6% vs.16.2%と、チカグレロルの併用により有意に抑制された一方、出血イベントはDAPT群22.1% vs.SAPT群8.7%と有意に増加した(致死的なType 5は両群ゼロ)。このあたりのtrade-offはPCIのスタディで毎度おなじみである。 ただし画像上のグラフト不全は減ったものの、心臓死はともに0.7%、急性心筋梗塞は1.8% vs.1.4%、追加血行再建は2.8% vs.1.6%と有意差はないがむしろDAPT群で多く、脳卒中が1.4% vs.2.5%とDAPT群で少なかった。つまりアスピリン単剤で臨床的に重要なキー・グラフトの開存は同等に得られており、出血イベントは断然少ない。なお、チカグレロル単剤群はメリットもデメリットも有意差がないので、抗血小板薬は古い「ほど」良い、では言い過ぎで、古い「けど」良い、といったところ。 印象的だったのはサブ解析で、人工心肺下CABG術後の静脈グラフト不全はDAPT群10.0%、SAPT群15.4%だが、オフポンプ手術ではDAPT群14.0%に対しSAPT群32.1%に跳ね上がる。換言すると、オフポンプCABG後にアスピリン単剤では1年以内に3分の1がグラフト不全になってしまう。ぜひともDAPTを入れたくなる結果だが、DAPTにすればもちろん、前述の出血イベントを覚悟せねばならない。すると当然、「そもそもオフポンプCABGのメリットって何だっけ?」という疑問が湧いてくる。 この議論はとても長くなるが、10年前、オフポンプCABGは不利益が多い、と喝破した前向き無作為化のROOBY試験に対して、「これはVA(退役軍人病院)のスタディだから、技術レベルが低いだけだ」という、ちょっと大声では言いにくい反論がかなりあった。今回は有名施設も含む北米、オランダ、中国からの前向き無作為化論文のメタ解析である。症例数は十分多いとは言えないが、オフポンプ派のご意見はいかがであろうか? 古いほど良いと言えば友と酒、女房と鍋釜が定番のようだが、もしかしてCABGも?

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輸血してもヘモグロビンが低下!DHTRの可能性は?【知って得する!?医療略語】第17回

第17回 輸血してもヘモグロビンが低下!DHTRの可能性は?輸血後、数日してから副作用が起きることがあるんですか?遅発性の副作用があり、今回はその1つであるDHTRを見てみましょう≪医療略語アプリ「ポケットブレイン」より≫【略語】DHTR【日本語】遅発性溶血性輸血副作用【英字】Delayed Hemolytic Transfusion Reaction【分野】輸血関連【診療科】全診療科【関連】急性溶血性輸血副作用AHTR(Acute Hemolytic Transfusion Reaction)実際のアプリの検索画面はこちら※「ポケットブレイン」は医療略語を読み解くためのもので、略語の使用を促すものではありません。貧血患者さんに赤血球輸血をしても、思うようにヘモグロビン濃度が上昇しないばかりか、むしろ低下する場合があります。こんな時、筆者は輸血の原因が出血疾患であれば、出血の持続、大量輸液による血液希釈、輸血量の相対的不足を考えがちです。しかし、輸血をしてもヘモグロビンが上昇しない、あるいは低下する時には、「遅発性溶血性輸血副作用(DHTR:delayed hemolytic transfusion reaction)」の可能性を想起する必要があります。DHTRは発熱や貧血、溶血所見を来すとされますが、輸血後24時間以降に発症するため、患者さんの症状や検査所見と輸血イベントの関連性に気が付き難い可能性があります。臨床現場では採血手技的に伴う「溶血」に遭遇することは多々あり、輸血を要する患者さんが感染症などを合併し、発熱することも日常茶飯事です。むしろ感染症や慢性炎症のために消耗性貧血を来し、赤血球輸血をすることも多々あります。このため、輸血して数日経ってから生じる「溶血」や「発熱」と聞いても、輸血副作用を連想することが難しいのではないかと想像します。そんな見逃されやすい要素を持つDHTRですが、2013年に前川氏が「輸血療法とその副作用―見逃されている臨床病態」として取り挙げていたので、共有したいと思います。遅発性溶血性輸血副作用DHTR : delayed hemolytic transfusion reaction【概略】輸血の遅発性副作用の1つ輸血後24時間以降に生じる輸血の溶血性副作用ほとんどは2度目以降の輸血で発症(初回輸血例は稀)【病態】過去に輸血や妊娠で赤血球に対する同種抗体を産生した既往(感作)がある場合、対応抗原陽性の赤血球が輸血されると、抗原刺激によりメモリーB細胞が数日で抗赤血球抗体を急速産生する(二次免疫反応)。この抗体と赤血球が反応し溶血反応が起きる。溶血は主に血管外溶血(まれに血管内溶血)。なお、一次免疫応答による溶血が起きるケースが稀にあり、この場合は輸血後10~20日に発症するとされる。【頻度】輸血5,000~1万回に1回【発症】輸血後24時間以降(典型例は輸血後3~14日)【症状】発熱・黄疸・悪寒・倦怠感・血尿(血色素尿)・掻痒感【検査】貧血(ヘモグロビン濃度低下)・球状赤血球・総ビリルビン上昇・LDH上昇【予後】軽度な溶血例~死亡例まであり【補足】過去の輸血や妊娠による同種抗体は、年月が経つと測定感度以下に低下することがあり、この場合は不規則抗体検査や交差適合試験では同種抗体は検出できないことがある。このためDHTRを完全防止するのは難しいとされる。1)前川 平. 日内会誌. 2013;102:2433-2439.2)前川 平ほか.臨床血液. 2008;22:1306-1314.3)澤部 孝昭ほか. 日本輸血学会雑誌. 1993;39:974-978.4)安全な輸血療法ガイド5)日本輸血・細胞治療学会 輸血療法委員会 輸血副作用対応ガイド6)日本赤十字社HP 医薬品情報-溶血性副作用7)小林航太ほか. 仙台市立病院誌2017;37.39-42.

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トラネキサム酸、高用量で心臓手術関連の輸血を低減/JAMA

 人工心肺を用いた心臓手術を受けた患者では、トラネキサム酸の高用量投与は低用量と比較して、同種赤血球輸血を受けた患者の割合が統計学的に有意に少なく、安全性の主要複合エンドポイント(30日時の死亡、発作、腎機能障害、血栓イベント)の発生は非劣性であることが、中国国立医学科学院・北京協和医学院のJia Shi氏らが実施した「OPTIMAL試験」で示された。研究の成果は、JAMA誌2022年7月26日号に掲載された。中国4施設の無作為化試験 OPTIMAL試験は、人工心肺を用いた心臓手術を受けた患者ではトラネキサム酸の高用量は低用量に比べ、有効性が高く安全性は非劣性との仮説の検証を目的とする二重盲検無作為化試験であり、2018年12月~2021年4月の期間に、中国の4施設で参加者の登録が行われた(中国国家重点研究開発計画の助成による)。 対象は、年齢18~70歳、人工心肺を用いた待機的心臓手術を受ける予定で、本試験への参加についてインフォームド・コンセントを受ける意思と能力を持つ患者であった。患者はいつでも試験参加への同意を撤回できるとされた。 被験者は、高用量トラネキサム酸または低用量トラネキサム酸の投与を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。高用量群では、麻酔導入後、トラネキサム酸30mg/kgがボーラス静注され、術中は維持量16mg/kg/時がポンプ充填量2mg/kgで投与された。低用量群は、トラネキサム酸10mg/kgがボーラス静注され、術中は維持量2mg/kg/時がポンプ充填量1mg/kgで投与された。 有効性の主要エンドポイントは、手術開始後に同種赤血球輸血を受けた患者の割合(優越性仮説)とされ、安全性の主要エンドポイントは、術後30日の時点での全死因死亡、臨床的発作(全般強直間代発作、焦点発作)、腎機能障害(KDIGO基準のステージ2または3)、血栓イベント(心筋梗塞、虚血性脳卒中、深部静脈血栓症、肺塞栓症)の複合であった(非劣性仮説、非劣性マージン5%)。副次エンドポイントには、安全性の主要エンドポイントの各構成要素など15項目が含まれた。輸血:21.8% vs.26.0%、安全性:17.6% vs.16.8% 3,079例(平均年齢52.8歳、女性38.1%)が無作為化の対象となり、このうち3,031例(98.4%)が試験を完了した。高用量群に1,525例、低用量群に1,506例が割り付けられた。追跡期間中に48例(高用量群23例、低用量群25例)が脱落し、安全性の主要複合エンドポイントの評価から除外された。 手術開始から退院までに、少なくとも1回の同種赤血球輸血を受けた患者は、高用量群が1,525例中333例(21.8%)であり、低用量群の1,506例中391例(26.0%)に比べ、有意に割合が低かった(群間リスク差[RD]:-4.1%、片側97.55%信頼区間[CI]:-∞~-1.1、リスク比:0.84、片側97.55%CI:-∞~0.96、p=0.004)。 また、安全性の主要複合エンドポイントが発現した患者は、高用量群が265例(17.6%)、低用量群は249例(16.8%)と、高用量群の低用量群に対する非劣性が確認された(群間RD:0.8%、片側97.55%CI:-∞~3.9、非劣性検定のp=0.003)。 同種赤血球輸血量中央値は、高用量群が0.0mL(四分位範囲[IQR]:0.0~0.0)、低用量群は0.0mL(0.0~300.0)と、高用量群で有意に少なかった(群間差中央値:0.0mL、95%CI:0.0~0.0mL、p=0.01)。一方、新鮮凍結血漿や血小板、クリオプレシピテートの輸注量には両群間に差はなかった。 術後の胸部ドレナージによる総排液量、出血による再手術、人工呼吸器の使用期間、集中治療室(ICU)入室期間、術後入院期間にも、両群間で差は認められなかった。また、心筋梗塞の30日リスクや、腎機能障害、虚血性脳卒中、肺塞栓症、深部静脈血栓症、死亡の発生率にも有意な差はみられなかった。 発作は、高用量群が15例(1.0%)、低用量群は6例(0.4%)で発現したが、トラネキサム酸の用量が増加しても発作が有意に多くなることはなかった(群間RD:0.6%、95%CI:-0.0~1.2、相対リスク:2.47、95%CI:0.96~6.35、p=0.05)。 著者は、「トラネキサム酸の高用量と低用量のどちらを用いるかは、開心心臓手術と非開心心臓手術における手術関連の出血リスクによって決まる可能性がある」としている。

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第117回 なぜその情報が必要か―安倍氏銃撃事件から医療者や報道陣が学ぶべきこと

参議院選挙最中の7月8日、奈良県奈良市の近鉄大和西大寺駅前で選挙応援中だった安倍 晋三元首相が凶弾に倒れた。殺人未遂(後に殺人に切り替え)の現行犯で逮捕された容疑者は、母親が宗教団体に入信し、その寄付が原因で家庭が崩壊。この団体と安倍元首相が親しいと考え、安倍元首相を標的にしたとしている。安倍元首相は現場で応急処置後に救急車とドクターヘリを使って奈良県立医科大学(以下、奈良医大)高度救命救急センターに搬送されたが、同日午後5時3分、死亡が確認された。日本国内では明治期の内閣制採用以降これまで64人の首相経験者がいるが、在任中あるいは退任後に殺害されたのは、安倍氏を含め7人。第二次世界大戦後では安倍氏が初めてである。今回、この件を医療・報道の側面から振り返りたい。まず、事件が発生したのは8日午前11時31分ごろ。奈良県選挙区の自由民主党公認候補の応援演説のため、奈良県入りした安倍氏は近鉄大和西大寺駅前の横断歩道中ごろにあるカードレールで囲まれた安全地帯で午前11時29分ごろから演説を開始。その直後、背後の車道に侵入してきた容疑者が安倍氏の背後約3mの距離から自作銃で発砲し、爆音と白煙が発生。一瞬後方を振り返った安倍氏だったが、容疑者がすぐさま2発目を発射した直後、避難するかのようにうずくまったまま倒れ込んだ。その後のタイムラインは以下のようになる。▽午前11時31分:奈良市消防局に通報▽午前11時32分:救急隊出動▽午前11時36分:消防局がドクターヘリを要請▽午前11時37分:救急隊などが現場に到着▽午前11時54分:現場から安倍元首相を搬送開始▽午後 0時 9分:平城京跡歴史公園で搬送をドクターヘリに引き継ぐ▽午後 0時20分:ドクターヘリが奈良県立医科大学到着安倍元首相が搬送される直前、現場の写真がネット上に公開されているが、そこで写っていた安倍元首相の顔面は蒼白。当時、駆け付けた現場近くのクリニックの医師の証言では、すでに看護師と思われる女性が心臓マッサージ中で自発呼吸はなく、ほぼ心肺停止状態。眼球結膜が真っ白でかなり出血していると考えられ、瞳孔も開きかけていたという。さらに周囲の呼びかけにはすでに反応がなく、痛覚を確認するための爪床刺激にも反応はなかった。この医師は、クリニックにあった自動体外式除細動器(AED)を装着させるも、解析の結果、適応はないと判断されたと語っている。適応がないということはすでに心停止ということになる。そこで心臓マッサージが再開されたという。同時に脳に血流が少しでも行くように医師が下肢挙上を行った。その後は上記のタイムライン通り。死亡確認後に行われた奈良医大による記者会見で、高度救命救急センター長で教授の福島 英賢氏が語った内容を箇条書きにする。救急隊接触時・搬送時にすでに心肺停止状態右頸部に約5cm間隔で2ヵ所の銃創らしきもの、左肩に射出口らしき傷処置中に体内から弾丸は未発見心臓および大血管の損傷による心肺停止と推定心室にも損傷対応は外来処置室で実施処置内容は蘇生的開胸による胸部止血と輸血輸血量は100単位以上一部止血をできたところもあったが、凝固能が失われさまざまなところから出血死因は失血死奈良県警が同日午後10時40分から翌日早朝にかけて約6時間半にわたって行った司法解剖の結果では、銃弾による傷は首と左上腕部の計2カ所。奈良医大の会見で射出口の可能性があると説明されていた左肩は射入口で、右頸部の銃創と思われた2か所のうち、片方については県警の司法解剖では銃創であるかは判別できなかったという。そのうえで死因は「左上腕部射創による左右鎖骨下動脈損傷にもとづく失血死」とされている。前述の奈良医大の会見での質疑については、SNS上で医療関係者を中心に“質問内容が稚拙”と批判も多かった。この印象はほぼ私も同じだが、その一部を改めて振り返り論評を加えたい。まず、記者と福島氏との間では同じようなやり取りが何度か繰り返されている。 記者A 無くなられた時間は5時3分ということですが、家族が到着されていたのは確か5時過ぎだったような気がするのですが、到着されていた時はすでにお亡くなりになられていたということでしょうか?福島氏救急隊接触時からずっと心肺停止状態であられました 記者B 今回、撃たれた現場で即死したという理解でよろしいでしょうか?福島氏撃たれた現場で心肺停止状態になったという表現になるかと思います 記者C 搬送された時点で手遅れという言い方をしてもよろしいでしょうか?福島氏すでにかなり大きな怪我があったことには違いありませんので、一般的にはそういうご理解になるのかもしれませんが、われわれとしては心肺停止状態ということで対応しています 当初の報道では救急隊の現場到着時に意識があったとも伝えられていたが、前述の現場で対応した医師の証言や会見を聞く限りでは、救急隊到着時から心肺停止状態だったことは間違いないようである。意識があったという報道は、おそらく銃撃のまさに直後の周囲の呼びかけに対してだったのだろう。本サイトの読者に対しては釈迦に説法だが、心停止、自発呼吸の停止、瞳孔散大の3点を医師が確認して死亡と判定されるまでは、心肺停止と定義されることが多い。一般人からすると、この状態は「死亡判定を受けていない事実上の死体」と捉えられがちで、海外の一部ではこの状態では報道上死亡扱いをすることも少なくない。その点で実は日本の報道のほうがきわめて厳格な扱いをしている。にもかかわらず、会見で上記のようなちぐはぐな応答が散見されたのは、おそらく記者の配置上の問題だろう。この「死亡」と「心肺停止」の定義について最も敏感と思われるのが、事件、事故、災害時を担当する社会部の警察担当記者、あるいは科学部記者。しかし、今回の事件の重大さを考えれば警察担当記者はおそらく奈良県警察本部に詰めていただろうし、事件時に科学部記者が出動することは少ない。つまり奈良医大の会見では、そのどちらでもない記者が大勢を占めていただろうと推定される。それゆえのちぐはぐさが上記のやり取りには表れていると思う。なお、SNS上では奈良医大に到着した昭恵夫人の様子を聞き出そうとしたかのような質問をした記者と、そのことには触れなかった福島氏のやり取りについて記者を批判しているケースが少なくない。私個人としてはどちらの立場も正しいと敢えて言及しておきたい。記者は聞けることは、真空ポンプで空気を吸い取るがごとくすべて聞くのが鉄則。初めから「どうせ答えてもらえないだろうから」と尻込みする記者は記者とは言えない。一方で患者を治療した際の医学的側面のみを語り、みだりにプライバシーや推定を語らない福島氏の立場も医療従事者として当然かつ正しい在り方である。メディア全般に不信感を持つ人にとってはこの評価は「身内びいき」と思われるかもしれないが、取材とは例えは悪いが「狐と狸の化かし合い」が常である。そのうえでこのやり取りの記者側の意図を私なりに推測すると、単純にどれだけ搬送時の安倍氏の状態がどれだけ深刻なものだったかを知りたかったということだろう。たぶん私が会見場にいたら、回答が得られたかどうかは別にして搬送時の推定失血量を聞いただろう。銃創の場合、発生から10分以内に開胸が行える医療機関への搬送ができるか否かが救命のカギを握る。また、循環血液量の30%以上の出血があれば生命の危機となる。以前官邸ホームページで公開されていた安倍氏の身長は175cm、体重は70kgだったことから、おおよその循環血液量は体重の約13分の1である5.8L。約1.7Lの出血で致命的だ。会見時に福島氏が説明した輸血量100単位以上について、記者から100単位以上とは何mLか問われ、福島氏は現時点でわからないと回答をしている。これはたぶん輸血したのが赤血球濃厚液(1単位140mL)、濃厚血小板液(10単位約200mL)、新鮮凍結血漿液(1単位約120mL)が入り混じって使われたからだろうと推察される。100単位を単純計算すれば、赤血球濃厚液換算で14L、濃厚血小板換算で2L、新鮮凍結血漿液で12Lとなる。治療時間5時間ということを加味しても搬送時点ですでに生命の危機の失血量だったことはほぼ確実と言って良いだろう。ちなみに事件発生当初、搬送時に意識があったと誤報(あくまで結果論だが)されたこともあり、私個人はなぜ奈良医大に搬送したのだろうと考えていた。もちろん奈良県内で重篤な患者を受け入れる三次救命救急施設3ヵ所のうち、ドクターヘリも有している奈良県立医科大学附属病院高度救命救急センターが最高位にあることから考えれば、常道ではある。ただ、繰り返しになるが銃創は発生から10分以内に開胸が行える医療機関への搬送が救命の鉄則。そうした中で同県内の三次救命救急施設3ヵ所のうち奈良県立病院機構奈良県総合医療センター救急・集中治療センターが現場から車で15分ほどだったことから、当初は私は上記のように思った。しかしながら、前述の奈良医大の会見を聞けば、極端な言い方をすれば事件現場で開胸して止血・輸血でも行わなければ、救命の可能性を見いだすことは難しかっただろうと考えた。また、輸血量からしても奈良医大のほうがそのストックが多かったと考えられるので、その点からも最終的には合点がいった。また、奈良医大の会見で、ある記者が心臓への損傷が疑われる際のAED使用や心臓マッサージを行うことの是非について尋ね、福島氏が一般論として正しい処置だと答えた件について、SNS上では記者に向けてやや批判めいた言説が目立つ。これは福島氏の答え次第では現場で処置した人が非難されかねないことを危惧した言説だろう。ただ、一般人ならば心臓に損傷の可能性がある時に本当にこうした処置をしていいものか悩むのはある意味当然である。というか、一般人はそうした知識がほとんどない。そうしたことを加味すれば、このやり取りは一般人に応急措置に対する知識を普及する上では有用なものだったと個人的には考えている。一方、今回の事件に関して私が1つだけ完全にNGと思った報道人の言動がある。安倍元首相に関する著作もある元民放記者が安倍氏の死亡時刻の1時間半ほど前に「安倍さんがお亡くなりになった」とのタイトルでSNSに投稿を行ったことだ。当然ながらこの投稿は批判されたが、元記者は正式な死亡発表後に「(投稿した時点で)家族にもすでに情報が伝わっていた」と強弁。しかし、最終的には提供された情報が誤っていた(その時点で家族は知らされていなかった)として謝罪している。そもそも人一人の死を外部にどのように伝えるかは例え公人でもあっても相当な慎重さが必要である。まして元民放記者の投稿時点で安倍元首相の妻である昭恵夫人は奈良に向けて移動中で、報道でも移動状況が逐次報じられていた。元民放記者はSNS投稿時点ですでに昭恵夫人が奈良に到着済みと聞いていたとの弁解を後に投稿していたが、リアルタイムの報道で得られる情報すら確認できていなかったのはお粗末としか言いようがない。元民放記者本人が弁解として書いていた「『確認された情報は出来るだけ早く報道する』というジャーナリズムの基本に立ち返って」という点は完全には否定しないが、たとえ家族の死亡確認後であってもそれをいつ報じるかの判断は各方面への影響を考えると容易ではない。一例を挙げると、公人の死去の報道は株式市場に影響を与えることもある。報道というのはそうしたことなども多角的に踏まえて行う仕事であり、いかように元民放記者が弁解しようが今回の行動は唾棄に値する。すでに一部の人はSNS上で見聞きしているかもしれないが、安倍氏の容体については当日の午後2~3時に「蘇生はほぼ不可能」という情報が永田町界隈に駆け回っていたことを一部の記者が死亡の公表後に明らかにしている。これは確かに事実で、筆者も耳にしている。しかしながら、例え家族による死亡確認後であってもそれを公にすることは、報道人としての確実な事実確認に加え、社会的にも心理的にも、いくつものハードルを超えなければならない。そのためこの元記者のような言動には私個人は驚きを隠せないのが本音ではある。

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急性期虚血性脳卒中へのtenecteplase、標準治療となる可能性/Lancet

 カナダの標準的な血栓溶解療法の基準を満たす急性期虚血性脳卒中の患者において、tenecteplase静注療法は、修正Rankinスケール(mRS)で評価した身体機能に関してアルテプラーゼ静注療法に対し非劣性で、安全性にも差はなく、アルテプラーゼに代わる妥当な選択肢であることが、カナダ・カルガリー大学のBijoy K. Menon氏らが実施した「AcT試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2022年6月29日号に掲載された。カナダのレジストリ連動型無作為化対照比較試験 AcT試験は、急性期虚血性脳卒中における、血栓溶解療法による再灌流の達成に関して、tenecteplaseの標準治療に対する非劣性の検証を目的とする、医師主導の実践的なレジストリ連動型非盲検無作為化対照比較試験であり、2019年12月~2022年1月の期間に、カナダの22ヵ所の脳卒中施設で参加者の登録が行われた(カナダ保健研究機構[CIHR]などの助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、後遺障害の原因となる神経障害を引き起こす虚血性脳卒中と診断され、症状発現から4.5時間以内に来院し、カナダのガイドラインで血栓溶解療法の適応となる患者であった。 被験者は、tenecteplase静注療法(0.25mg/kg、最大25mg)またはアルテプラーゼ静注療法(0.9mg/kg[0.09mgをボーラス投与後、残りの0.81mg/kgを60分で注入]、最大90mg)を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、intention-to-treat(ITT)集団における治療後90~120日のmRSスコア0または1の患者の割合とされた。この達成割合の群間差の95%信頼区間(CI)下限値が-5%を超える場合に、非劣性と判定された。主要アウトカム:36.9% vs.34.8%、口舌血管性浮腫はまれ 1,577例(年齢中央値74歳[IQR:63~83]、女性755例[47.9%])がITT集団に含まれ、tenecteplase群が806例、アルテプラーゼ群は771例であった。全体の症状発現から無作為化までの期間中央値は2時間(IQR:1.5~3.0)だった。主要アウトカムの追跡期間中央値は97日(IQR:91~111)であった。 データカットオフ日(2022年1月21日)の時点で、治療後90~120日にmRS 0または1を達成した患者の割合は、tenecteplase群が36.9%(296/802例)、アルテプラーゼ群は34.8%(266/765例)で、両群間の補正前リスク差は2.1%(95%CI:-2.6~6.9)であり、事前に規定された非劣性の閾値を満たした。 効果の方向性はtenecteplase群で良好であったが、tenecteplase群の優越性はみられなかった(p=0.19)。副次アウトカムにも両群に差はなかった。また、事前に規定されたサブグループのすべてで、主要アウトカムに関して治療効果の異質性は観察されなかった。 安全性解析では、24時間以内の症候性頭蓋内出血の発現割合(tenecteplase群3.4%[27/800例]vs.アルテプラーゼ群3.2%[24/763例]、群間リスク差:0.2、95%CI:-1.5~2.0)や、治療開始から90日以内の死亡の割合(15.3%[122/796例]vs.15.4%[117/758例]、-0.1、-3.7~3.5)には、意義のある差は認められなかった。 口舌血管性浮腫(tenecteplase群1.1% vs.アルテプラーゼ群1.2%)や、輸血を要する頭蓋外出血(0.8% vs.0.8%)はまれであった。また、追跡期間中の画像検査で、頭蓋内出血はそれぞれ19.3%(154/800例)および20.6%(157/763例)でみられた。 著者は、「tenecteplaseは、アルテプラーゼに比べ投与法が容易で使い勝手がよく、安価となる可能性がある。この研究の結果は、これまでのエビデンスと合わせて、症状発現から4.5時間以内の急性期虚血性脳卒中における血栓溶解療法の世界標準をtenecteplase 0.25mg/kgに切り換える、説得力のある根拠となるものである」としている。

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オラパリブのgBRCA変異陽性HER2-早期乳がんへの術後薬物療法、日本人解析結果(OlympiA)/日本乳癌学会

 gBRCA変異陽性、HER2陰性、再発高リスクの早期乳がん患者に対する術後薬物療法としてのオラパリブをプラセボと比較した国際共同第III相OlympiA試験において、主要解析(データカットオフ:2020年3月)で無浸潤疾患生存期間(iDFS)および遠隔無再発生存期間(DDFS)の有意な延長が示され、さらに第2回中間解析(データカットオフ:2021年7月)で全生存期間(OS)の有意な延長が示されている。今回、主要解析(データカットオフ:2020年3月)における日本人患者集団の有効性と安全性について、聖路加国際病院の山内 英子氏が第30回日本乳癌学会学術総会で発表した。オラパリブの再発高リスク早期乳がんの日本人患者における術後薬物療法としてのベネフィット・対象:局所治療および6サイクル以上の化学療法が終了したgBRCA変異陽性、HER2陰性 (HR陽性またはトリプルネガティブ)の再発高リスクの早期乳がん患者 1,836例(日本人140例)・試験群:オラパリブ(300mg、1日2回)を1年間投与 921例(日本人64例)・対照群:プラセボ(1日2回)を1年間投与 915例(日本人76例)・評価項目:[主要評価項目]iDFS[副次評価項目]DDFS、OS、安全性など 再発高リスクの早期乳がん患者に対する術後薬物療法としてのオラパリブをプラセボと比較したOlympiA試験における日本人患者集団の主な結果は以下のとおり。・再発高リスクの早期乳がん患者の患者背景は、日本人集団と全体集団とも両群間でバランスがとれていた。ただし、白金製剤を含む化学療法による前治療は、国内で承認されていないため海外とは大きな差があった。・オラパリブによるIDFSのベネフィットは、日本人集団(HR:0.50、95%CI:0.18~1.24)と全体集団(HR:0.58、95%CI:0.46~0.74、p<0.0001)とで同様だった。・オラパリブによるDDFSのベネフィットも、日本人集団(HR:0.41、95% CI:0.11~1.16)と全体集団(HR:0.57、95%CI:0.44~0.74、p<0.0001)とで同様だった。・主なGrade3以上の有害事象は、貧血、好中球減少、白血球減少で、貧血については本研究では輸血を必要とした症例はなかった。・日本人集団における有害事象の発現状況は、オラパリブにおける既知の安全性情報、全体集団と同様だった。 山内氏は、「OlympiA試験は国別のサブグループ解析に対する検出力を有してなかったが、今回の日本人集団における有効性および安全性の結果は、gBRCA変異陽性HER2陰性再発高リスク早期乳がんの日本人患者における術後薬物療法としてのオラパリブの臨床的ベネフィットを裏付けるものであった」と結論した。

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進行膵がん、TCR-T細胞療法が転移巣に著効した1例/NEJM

 米国・Earle A. Chiles Research InstituteのRom Leidner氏らが、KRAS G12Dを標的としたT細胞受容体(TCR)遺伝子治療により腫瘍縮小が得られた転移のある進行膵がん患者について報告した。膵管腺がんは現在の免疫療法に抵抗性を示し、依然として致死率が最も高いという。研究グループは以前、転移のある大腸がん患者の腫瘍浸潤リンパ球からKRAS G12Dを標的としたHLA-C★08:02拘束性TCRを同定し、自家KRAS G12D反応性腫瘍浸潤リンパ球を用いた治療により内臓転移の客観的縮小が観察されたことを報告し(N Engl J Med.2016;375:2255-2262.)、この腫瘍浸潤リンパ球由来のKRAS G12D反応性TCRが、HLA-C★08:02とKRAS G12Dを発現している腫瘍を有する患者の、TCR遺伝子治療として使用できる可能性が示唆されていた。NEJM誌2022年6月2日号掲載の報告。KRAS G12Dを標的としたHLA-C★08:02拘束性TCRを発現するT細胞を移植 患者は71歳女性で、67歳時に膵頭部腺がんと診断され、2018年に術前補助化学療法(FOLFIRINOX療法)、幽門輪温存膵頭十二指腸切除、術後FOLFIRINOX療法、カペシタビン併用放射線療法を実施した。 2019年まで再発なく経過したが肺転移が確認され、無症状で両肺に転移が進行したことから、2020年にピッツバーグ大学で実施された腫瘍浸潤リンパ球療法の臨床試験に参加するも、6ヵ月以内に肺転移の拡大が観察された。分子ゲノム研究の結果、PD-L1発現率(TPS)1%未満、KRAS G12D変異、マイクロサテライト安定、HLA-C★08:02発現などが確認されたことから、2021年6月、KRAS G12Dを標的とする2種類の同種HLA-C★08:02拘束性TCRを発現するよう別々のバッチでレトロウイルスによって形質導入した自家末梢血T細胞による治療を行った。肺転移巣は1ヵ月後で62%、6ヵ月後で72%縮小 細胞注入の5日前にトシリズマブ600mg単回静注、5日前と4日前にシクロフォスファミド30mg/kg/日静注による前処置を行った後、16.2×109個の自家T細胞を単回注入し(0日目)、細胞注入の18時間後に高用量IL-2(60万IU/mL、8時間毎静注)の投与を開始(予定していた6回の投与のうち、6回目は低血圧のため投与は行われず)。11日目に退院し、外来で骨髄増殖因子と血液製剤の投与を受けた。 細胞注入1ヵ月後の最初の追跡調査において、CTにより肺転移巣が62%縮小していることが観察され、RECIST v1.1に基づく部分奏効が得られた。この効果は最新の追跡調査時の細胞注入6ヵ月後も持続しており、RECIST v1.1に基づく腫瘍縮小は72%であった。 また、注入されたTCR改変T細胞は、注入の約1ヵ月後で循環血中の全T細胞の約13%、3ヵ月後で3.3%、6ヵ月後でも2.4%を占めていた。

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IDH1変異陽性AML、ivosidenib併用でEFS延長/NEJM

 イソクエン酸脱水素酵素1(IDH1)をコードする遺伝子に変異のある急性骨髄性白血病と新たに診断された患者の治療において、ivosidenibとアザシチジンの併用療法はプラセボとアザシチジン併用と比較して、無イベント生存期間(EFS)を有意に延長し、発熱性好中球減少症や感染症の発現頻度は低いものの好中球減少や出血は高いことが、スペイン・Hospital Universitari i Politecnic La FeのPau Montesinos氏らが実施した「AGILE試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2022年4月21日号で報告された。20ヵ国155施設の無作為化プラセボ対照第III相試験 研究グループは、IDH1変異陽性急性骨髄性白血病の治療における、アザシチジン治療へのivosidenib追加の安全性と有効性の評価を目的とする二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験を行い、2018年3月~2021年5月の期間に、20ヵ国155施設で参加者を登録した(Agios PharmaceuticalsとServier Pharmaceuticalsの助成を受けた)。 対象は、18歳以上、新規のIDH1変異陽性急性骨髄性白血病と診断され、強力な導入化学療法が適応とならず、Eastern Cooperative Oncology Group(ECOG)performance-statusスコア(0~4点、点数が高いほど機能障害度が高い)が0~2点の患者であった。 被験者は、ivosidenib(500mg、1日1回、経口投与)+アザシチジン(75mg/m2体表面積、28日サイクルで7日間、皮下または静脈内投与)、またはプラセボ+アザシチジンの投与を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要エンドポイントはEFSであり、無作為化の時点から、治療不成功(24週までに完全寛解が達成されない)、寛解後の再発、全死因死亡のいずれかまでの期間と定義された。完全寛解、客観的奏効、IDH1変異消失の割合も良好 146例が登録され、ivosidenib群に72例(年齢中央値76.0歳[範囲:58.0~84.0]、女性42%、二次性25%)、プラセボ群に74例(75.5歳[45.0~94.0]、49%、28%)が割り付けられた。 追跡期間中央値12.4ヵ月の時点におけるEFSは、ivosidenib群がプラセボ群に比べ有意に長かった(治療不成功、寛解後の再発、死亡のハザード比[HR]:0.33、95%信頼区間[CI]:0.16~0.69、p=0.002)。また、無イベント生存割合は、ivosidenib群が6ヵ月時40%、12ヵ月時37%で、プラセボ群はそれぞれ20%および12%と推定された。 追跡期間中央値15.1ヵ月時の全生存期間中央値は、ivosidenib群が24.0ヵ月と、プラセボ群の7.9ヵ月に比し有意に延長した(死亡のHR:0.44、95%CI:0.27~0.73、p=0.001)。 完全寛解の割合は、ivosidenib群が47%(95%CI:35~59)であり、プラセボ群の15%(8~25)よりも高率だった(オッズ比[OR]:4.8、95%CI:2.2~10.5、p<0.001)。また、完全寛解の期間中央値はそれぞれ未到達(95%CI:13.0~評価不能)および11.2ヵ月(95%CI:3.2~評価不能)、12ヵ月時の完全寛解割合は88%および36%、完全寛解までの期間中央値は4.3ヵ月(範囲:1.7~9.2)および3.8ヵ月(1.9~8.5)であった。 客観的奏効(完全寛解、血球数の回復を伴わない完全寛解、部分寛解、形態学的に白血病ではない状態)の割合は、ivosidenib群が62%(95%CI:50~74)と、プラセボ群の19%(95%CI:11~30)に比べ有意に高かった(OR:7.2、95%CI:3.3~15.4、p<0.001)。奏効期間中央値は、それぞれ22.1ヵ月(95%CI:13.0~評価不能)および9.2ヵ月(6.6~14.1)だった。 完全寛解または部分的な血球数の回復を伴う完全寛解の検体におけるIDH1変異消失の割合は、ivosidenib群が52%、プラセボ群は30%であり、骨髄単核細胞からのIDH1変異消失のデータがある患者におけるIDH1変異消失を伴う完全寛解の割合は、それぞれ33%および6%(p=0.009)であった。 全グレードの有害事象は、両群で貧血(ivosidenib群31%、プラセボ群29%)、発熱性好中球減少(28%、34%)、好中球減少(28%、16%)、血小板減少(28%、21%)、悪心(42%、38%)、嘔吐(41%、26%)の頻度が高く、出血イベント(41%、29%)と感染症(28%、49%)も高頻度に認められた。Grade3以上の有害事象では、貧血(25%、26%)、発熱性好中球減少(28%、34%)、好中球減少(27%、16%)、肺炎(23%、29%)、感染症(21%、30%)の頻度が高かった。全グレードの分化症候群は、14%および8%に認められた。 著者は、「ivosidenib+アザシチジン併用療法は、優れたIDH1変異消失割合とともに持続的で深い奏効をもたらし、健康関連QOLや輸血依存離脱も良好であったことから、変異型IDH1蛋白を標的とする治療の有用性が明らかとなった」とまとめ、「今後、ベネトクラクスをベースとする治療との比較や、これらのレジメンの併用を評価する試験が期待される」としている。

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回復期患者血漿、ワクチン未接種のコロナ外来患者に有効か?/NEJM

 多くがワクチン未接種の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の外来患者において、症状発現から9日以内の回復期患者血漿の輸血は対照血漿と比較して、入院に至る病態悪化のリスクを有意に低減し、安全性は劣らないことが、米国・ジョンズ・ホプキンズ大学のDavid J. Sullivan氏らが実施した「CSSC-004試験」で確認された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2022年3月30日号に掲載された。米国23施設の無作為化対照比較試験 本研究は、COVID-19外来患者の重篤な合併症の予防における回復期患者血漿の有効性の評価を目的とする二重盲検無作為化対照比較試験であり、2020年6月3日~2021年10月1日の期間に、米国の23施設で参加者の登録が行われた(米国国防総省などの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)陽性で、COVID-19の症状発現から8日以内の外来患者であり、病態悪化のリスクやワクチン接種の有無は問われなかった。 被験者は、回復期患者血漿または対照血漿の輸血を受ける群(両群とも約250mLを単回投与)に、1対1の割合で無作為に割り付けられ、登録後24時間以内に約1時間をかけて輸血された後、30分間の経過観察が行われた。 対照血漿には、2019年に献血で得られたか、2019年12月以降にSARS-CoV-2陰性と判定された集団から得られた血漿が用いられた。 主要アウトカムは、輸血から28日以内のCOVID-19関連入院とされた。相対リスクが54%低下 1,225例(SARS-CoV-2陽性の判定はRNA検出が87%、抗原検出が13%)が無作為化の対象となり、このうち実際に輸血を受けた1,181例(年齢中央値43歳、65歳以上7%、50歳以上35%、女性57%[3例の妊婦を含む]、症状発現から輸血までの期間中央値6日)が修正intention-to-treat解析に含まれた(回復期患者血漿群592例、対照血漿群589例)。 ワクチンは、未接種が回復期患者血漿群83.3%、対照血漿群81.7%、部分接種がそれぞれ4.6%および5.3%、完全接種は12.2%および13.1%であった。 28日以内のCOVID-19関連入院は、回復期患者血漿群が592例中17例(2.9%)で認められ、対照血漿群の589例中37例(6.3%)と比較して有意に良好で(絶対リスク低下率:3.4ポイント、95%信頼区間[CI]:1.0~5.8、p=0.005)、相対リスクが54%低下した。1回の入院を回避するのに要する治療必要数は29.4例だった。 回復期患者血漿群の12例と対照血漿群の26例で、病態の悪化により酸素補給が行われた。対照血漿群の3例が、入院後に死亡した。 両群を合わせた入院患者54例のうち53例はワクチン未接種で、残りの1例は部分接種であり、完全接種はなかったため、ワクチン接種者における有効性の評価はできなかった。 Grade3/4の有害事象は89件発現し、回復期患者血漿群が34件、対照血漿群は55件であった。非入院患者では、16件のGrade3/4の有害事象が認められ、それぞれ7件および9件だった。 著者は、「これらの結果は、とくにワクチン配布に不均衡がみられる医療資源が乏しい地域において、公衆衛生上の重要な意味を持つ」とし、「将来のCOVID-19の世界的流行を想定すると、回復期患者血漿を迅速に投与できる輸血センターの設立が考慮すべき課題となるだろう。また、現在の世界的流行においても、モノクローナル抗体に対する耐性を持つSARS-CoV-2変異株が伝播し続けていることから、とくに地域で得られた最近の血漿には、循環する株に対する抗体が含まれるため、COVID-19回復期患者血漿の入手と配布の能力の開発が、有益性をもたらす可能性がある」と指摘している。

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心原性ショックへの体外式膜型人工肺、低体温管理は死亡率を改善せず /JAMA

 難治性心原性ショックに対し静脈-動脈方式の体外式膜型人工肺(VA-ECMO)を導入した患者において、早期に24時間中等度低体温(33~34度)管理を行っても正常体温(36~37度)管理と比較し、生存率は改善しなかった。フランス・CHRU NancyのBruno Levy氏らが、同国の20施設で実施した無作為化臨床試験「Hypothermia During ECMO trial:HYPO-ECMO試験」の結果を報告した。標準治療と標準治療+ECMOを比較した無作為化臨床試験はないにもかかわらず、難治性心原性ショックの管理におけるECMOの使用が世界的に増加しているが、心原性ショック時のVA-ECMOの最適な方法は不明であった。今回の結果について著者は、「95%信頼区間(CI)が広く、臨床的に重要な差が存在する可能性もあり、今回の結果で結論付けるべきではないと考えられる」との見解を示した。JAMA誌2022年2月1日号掲載の報告。VA-ECMO導入後6時間未満の患者で、24時間低体温管理vs.正常体温管理 研究グループは、2016年10月~2019年7月の期間に、心原性ショックに対してVA-ECMOを導入後6時間未満の適格患者374例を、24時間中等度低体温(33~34度)管理群(168例)または厳格な正常体温(36~37度)管理群(166例)に割り付けた。最終追跡調査年月は2019年11月であった。 主要評価項目は30日死亡。副次評価項目は、7日・60日・180日死亡、30日・60日・180日時点の死亡/心臓移植/左室補助人工心臓植込みへの移行/脳卒中の複合アウトカム、30日・60日・180日時点での人工呼吸器または腎代替療法を必要としない日数などを含む31項目であった。有害事象の評価には、重度出血、敗血症、VA-ECMO導入中の赤血球輸血単位数なども含まれた。30日死亡率は42% vs.51%で有意差なし 無作為化された374例のうち、334例(平均[±SD]年齢58±12歳、女性24%)が試験を完遂し、主要解析に組み込まれた。 30日死亡は、低体温管理群で71例(42%)、正常体温管理群で84例(51%)に認められ、補正後オッズ比(OR)は0.71(95%CI:0.45~1.13、p=0.15)、リスク差は-8.3%(95%CI:-16.3~-0.3)であった。また、30日時点の複合アウトカムの補正後ORは0.61(95%CI:0.39~0.96、p=0.03)、リスク差は-11.5%(95%CI:-23.2%~0.2%)であった。 31の副次評価項目のうち、30項目については両群間で有意差はみられなかった。 有害事象の発現率は、中等度または重度出血が低体温管理群41%、正常体温管理群42%、感染症が両群ともに52%、菌血症がそれぞれ20%および30%であった。

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第87回 弔問した訪問診療医を患者家族が銃殺、在宅医療現場に波紋

<先週の動き>1.弔問した訪問診療医を患者家族が銃殺、在宅医療現場に波紋2.抗原検査キット、優先度の通知で一般販売見合わせの可能性3.オンライン診療報酬は対面と特例対応の中間に、制限は撤廃か4.オンライン資格確認で患者情報を取得した場合の加算が新設5.今年度の診療報酬改定、看護必要度の心電図モニター管理を削除1.弔問した訪問診療医を患者家族が銃殺、在宅医療現場に波紋1月27日夜、埼玉県ふじみ野市で在宅診療を行っていた医師・鈴木 純一氏(44)が、その前日に死亡確認した女性患者(92)の息子・渡辺 宏容疑者(66)に銃殺される事件が発生した。司法解剖の結果、鈴木氏の死因は胸に銃弾1発を受けたことによる心臓破裂だった。散弾銃の弾は体内を貫通しており、至近距離から撃たれ即死だったとみられている。県警の調べによると、容疑者から「焼香に来てほしい」との連絡を受け、事件当日21時頃に患者宅を訪問した医療関係者7人に対し、容疑者は心臓マッサージなどの蘇生措置を求めたという。鈴木氏が丁寧に説明して対応を断わったところ、容疑者は散弾銃を2丁持ち出し、少なくとも3回発砲。容疑者は鈴木氏を撃った後、続けて理学療法士の男性(41)を撃ち、同行していた医療相談員の男性に催涙スプレーをかけ、別の医療相談員にも発砲したと供述しており、理学療法士は上半身に重傷を負った。亡くなった鈴木氏は、10年ほど前から地域医療の担い手として懸命に働き、患者や同僚からの信頼も厚かった。東入間医師会によると、同氏は2市1町における在宅医療の8割に当たる約300人の患者と関わっていたという。昨年9月、デルタ株の感染拡大により入院できず自宅療養するコロナ患者の自宅を訪問診療する鈴木氏をNHKが取材していたこともあり、死を悼む声が広がっている。(参考)容疑者、前日死亡の母の蘇生依頼 断られ発砲か 埼玉立てこもり(毎日新聞)母親の蘇生断られた後に発砲か 立てこもり容疑者、名指し呼び出しも(朝日新聞)死亡医師は即死、至近距離から胸に銃弾 計画的な犯行か…ふじみ野の立てこもり、医師ら指定し呼び出す(埼玉新聞)立てこもり事件で犠牲の医師鈴木純一さん、地域医療の担い手として信頼厚く(日刊スポーツ)立てこもり事件 亡くなった医師 コロナ患者など在宅医療支える(NHK)2.抗原検査キット、優先度の通知で一般販売見合わせの可能性厚労省は27日、オミクロン株の急拡大により、抗原定性検査キットの需要が急速に伸びていることを受け、流通側・発注側の双方に事務連絡を通知した。流通側には行政検査を行う医療機関や地方自治体からの発注、地方自治体からの委託を受けて抗原定性検査キットを配布する薬局からの発注を優先するよう定め、大量発注によって安定供給に支障を来す恐れがある場合には、複数回に分割して納品することなどを示した。また、発注側には上記優先度などを踏まえ、実需を超えた発注は控えるよう要請している。この方針を受け、薬局など抗原検査キットの一般販売を行ってきた店舗では、一時販売見合わせなどを検討している。(参考)新型コロナ抗原検査キット供給の優先付けを事務連絡 厚労省、実需を超えた発注控えて(CBnewsマネジメント)抗原検査キット 医療機関など優先供給で薬局の販売に影響も(NHK)新型コロナウイルス感染症オミクロン株の発生等に伴う抗原定性検査キットの適正な流通に向けた供給の優先付けについて(事務連絡 令和4年1月27日)新型コロナウイルス感染症オミクロン株の発生等に伴う抗原定性検査キットの発注等について(同)3.オンライン診療報酬は対面と特例対応の中間に、制限は撤廃か厚労省は26日に中医協総会を開催し、オンライン診療の診療報酬について、対面診療の点数(初診料:288点)とコロナ特例対応における点数(同214点)の中間にすることを公益裁定で決めた。現行のオンライン診療料を廃止し、2022年度診療報酬改定で新たに、初・再診料を新設する。新型コロナウイルス対応として初診からのオンライン診療が特別に許可されているが、診療報酬が対面より低いこともあり、これまでのところ実施している医療機関は約6%にとどまるなど、普及していない。なお、現行のオンライン診療料の算定要件であった医療機関と患者との間の時間・距離要件や、オンライン診療の実施割合の上限は撤廃される見込み。(参考)オンライン診療 診療報酬上の評価は「対面診療と特例対応の中間程度に」 公益裁定で(ミクスオンライン)オンライン初診料、初診料(288点)とコロナ特例(214点)の中間に、オンライン資格確認を加算で後押し―中医協総会(6)(Gem Med)コロナ禍のオンライン診療はわずか6%… 「直接診たことない」と断られるケースも(東京新聞)4.オンライン資格確認で患者情報を取得した場合の加算が新設28日に行われた中医協総会において、オンライン資格確認を用いて患者情報を取得して診療した場合は、「電子的保健医療情報活用加算」の算定が可能となることが承認された。厚労省によると、2021年10月からオンライン資格確認の本格運用を開始したものの、運用を開始した医療機関や薬局などは11%にとどまっており、導入を加速させるのが狙い。医療機関・薬局と患者の間で、薬の処方情報や特定検診情報などの情報共有が進み、医療の質向上が期待されている。(参考)22年度診療報酬改定 オンライン資格確認で「電子的保健医療情報活用加算」新設 導入促す(ミクスオンライン)オンライン資格確認等システム、まず「カードリーダー申し込み施設の準備完了」を最優先支援―社保審・医療保険部会(Gem Med)オンライン資格確認 三師会による「オンライン資格確認推進協議会」設置へ(ドラビズon-line)5.今年度の診療報酬改定、看護必要度の心電図モニター管理を削除26日の中医協総会で、急性期病棟の「重症度、医療・看護必要度」について見直しが行われ、「心電図モニターの管理」を削除することを公益裁定で決定した。これまで、急性期一般入院病床において、心電図モニターを装着している患者は重症度が高いとされてきたが、厚労省は入院患者の状態に応じた適切な評価を行う観点から、重症度、医療・看護必要度の評価項目や該当患者割合の基準について見直しを行ってきた。診療側はこの見直し案について反対していたが、公益側委員の裁定により、モニター管理は削除することが決定した。このほか、A項目の「点滴ライン同時3本以上」であったのを「注射薬剤3種類以上の管理」に変更し、「輸血血液製剤」を投与している患者について点数を1点から2点に変更することになった。今後、重症患者に対して高度な医療を提供する医療機関については「急性期充実体制加算」を新設して、高度医療機関に対して評価を行い、急性期一般入院料1から2・3等へ機能分化を促されることで、急性期病院の再編などが進む可能性がある。(参考)一般病棟用の重症度、医療・看護必要度に係る評価項目及び該当患者割合の基準について(中央社会保険医療協議会 総会)2022年度診療報酬改定 看護必要度は「心電図モニターの管理」削除へ 機能分化を促進(ミクスオンライン)心電図モニター管理削除など看護必要度の厳格化、コロナ禍でやるべきことだろうか?―日病・相澤会長(Gem Med)

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