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第4回 特別編 覚えておきたい熱中症の基本事項【救急診療の基礎知識】

覚えておきたい熱中症の基本事項7月に入り東京も連日気温が30℃を超え、40℃近い猛暑が続いています。連日熱中症による症状で救急搬送、外来受診される患者さんが後を絶ちません。熱中症に限りませんが、早期に異常を認知し、介入すること、そして、何より予防に努めることが非常に大切です。暑さに負けないために今回は熱中症の基本的事項をまとめておきましょう。●診療のPoint(1)夏場は常に熱中症を疑え!(2)非労作性熱中症は要注意! 屋内でも熱中症は起こりうる!(3)重症度を頭に入れ、危険なサインを見逃すな!熱中症の定義「熱中症とは何ですか?」と質問されて正確に答えられるでしょうか。以前は熱射病、熱痙攣、熱失神という言葉が使用されていましたが、現在は用いられません(重症度と共に後述します)。熱中症とは「暑熱環境における身体適応の障害によって起こる状態の総称」とされ、「暑熱による諸症状を呈するもの」のうちで、他の原因疾患を除外したものと定義されています。わが国では毎年7~8月に熱中症の発生率が多く、「今そこにある危機」と認識し、熱中症の症状を頭に入れ意識しておく必要があるのです。熱中症の死亡率本邦の年間発症数は約40万人、そのうち8.7%(約3万5,000人)が入院、0.13%(約520名)が死亡しています。この数値は現在も大きな変化はなく、2016年の死亡者数は621名で65歳以上が79.2%という結果でした(厚生労働省 人口動態統計)。2018年は2017年より暑く、熱中症患者は増加することが予想されます。熱中症を軽視してはいけません。労作性vs.非労作性熱中症と聞くと炎天下の中、スポーツや仕事をしている最中に引き起こされるイメージが強いですが、それだけではありません。熱中症は、「労作性熱中症」と「非労作性熱中症」に分類(表1)され、屋内でも発生します。そして、この非労作性熱中症が厄介なのです。画像を拡大する労作性熱中症の患者背景としては若年男性のスポーツ、中壮年男性の労働(建設業、製造業、運送業、とくに日給制のような短い雇用期間の方)、非労作性熱中症では独居の高齢者が典型的です。労作性熱中症の場合には、若く、集団で活動していることが多く、基礎疾患もなく早期に発見、介入できるため予後は良好ですが、非労作性熱中症は、自宅で発生することが多く、発見が遅れ、また心疾患などの基礎疾患、利尿薬などの内服薬などの影響から治療に難渋することがあるわけです。実際、救急医学会の熱中症実態調査において、熱中症の死亡の危険因子は、(1)高齢、(2)屋内発症、(3)非労作性熱中症でした1)。重症度に影響するばかりでなく、再発防止手段にも影響します。意識して対応しましょう。熱中症の重症度以前、熱中症は、熱射病、熱痙攣、熱失神などの呼び名がありましたが、現在は重症度を理解しやすいように表2のように分類されています1)。I度は必ずしも体温は上がりません。症状で判断します。II度は頭痛や嘔吐、倦怠感に加え、深部体温の上昇を認めます。III度は、意識障害、臓器障害を認め、早急な対応が必要になります。画像を拡大する熱中症を疑うことは、病歴から難しくありませんが、重症度の判断は初期評価をきちんと行わなければ見誤ります。とくに重篤化しやすい、非労作性熱中症の高齢者には注意が必要です。意識が普段と同様か否か、腎前性腎障害に代表される臓器障害を認めていないかを評価しましょう。熱中症の治療治療の原則、「安静」「環境改善」「塩分+水分の補給」は絶対です。重症度や経口摂取の可否を評価し、細胞外液の点滴の適応を判断します。高齢者がぐったりしている、十分な飲水が困難な場合には、点滴を選択したほうがよいでしょう。また、点滴が必要と評価した患者では、採血や血液ガスも検査・評価し、臓器障害の有無も併せて確認しましょう。熱中症II度以上は、体温調節中枢が正常に機能していない状態です。皮膚や筋肉の血管拡張、血流増加、多量の発汗によって循環血液量減少性ショックへと陥ります。急速な輸液に加え、高体温が持続すると多臓器不全(意識障害、痙攣、急性腎障害、DIC etc.)を伴い、輸液だけでなく呼吸管理や透析などの全身管理が必要となることもあります。初期対応としては以下の2点を意識し、速やかに対応しましょう。(1)目標体温深部体温*が39℃を超える高体温の持続は予後不良因子であり、38℃台になるまでは積極的な冷却処置を行いましょう。*深部体温中枢温を正確に反映する部位は腋窩温でも皮膚温でもありません。最も好ましいのは深部体温(膀胱温、直腸温、食道温)です。救急外来など初療時には、直腸温を測定するか、温度センサー付きバルーンカテーテルを利用し、膀胱温を測定するとよいでしょう。健康な人の体温の平均値は、腋窩温36.4℃に対して直腸温37.5℃と約1℃異なると言われていますが、高体温で発汗している場合や測定方法によって、腋窩温や皮膚温は容易に変化します(正しく測定できません)。熱中症、とくに重症度が高いと判断した症例では、深部体温を測定する意識をもちましょう。(2)冷却方法体表冷却法が一般的です。気化熱を利用します。ぬるま湯(40〜45℃)を霧吹きを用いて体表にかけ、扇風機などで扇ぐとよいでしょう。本当に熱中症か?!熱中症は環境因子だけでも十分起こりえますが、普段であれば自己対応(環境を変える、水分・塩分を摂取する)ができずに発生した可能性があります。つまり、熱中症に陥った原因をきちんと検索する必要があります。とくに非労作性熱中症の場合には、尿路感染症や肺炎などの感染症などが引き金となっているかもしれません。また、薬剤やクリーゼなども熱中症様症状をとることがあります。これらの鑑別は病歴をきちんと把握すればおおよそ可能です。明らかに部屋が暑かった、当日の朝までは普段どおりであったなどの病歴がわかれば、感染症や薬剤の影響は考えづらいでしょう。それに対して、数日前から体調の変化があった場合には、感染症などの影響も考え対応する必要があります。発熱か高体温か判断できず、とりあえず血液培養を2セット提出するのは簡単ですが、それ以上に病歴聴取や身体所見を評価することのほうが大切です。プロカルシトニンも鑑別には役立たないため提出は不要でしょう。熱中症の予防熱中症は予防可能です。起こしてしまった人へは、治療だけでなく正しい熱中症の知識、そして周囲の方への啓発・指導を含め、ポイントを絞って熱中症を起こさないために必要なことを伝えましょう。「また熱中症の患者か!?」と思うのではなく、チャンスだと思い、再発予防に努めましょう。熱中症の基本的事項を伝授熱中症の初期症状、非労作性熱中症に関して伝えましょう。症状が熱中症によるものであることを知っておかないと対応できません。また、熱中症は屋外で起こるものと思っていると、非労作性熱中症に陥ります。高齢の方からは「風通しがいいのでクーラーは使用していません(設置していません)」、「クーラーは嫌いでね」という台詞をよく聞きますが、必要性をきちんと説明し、理解してもらうことが大切です。●熱中症の発生リスク評価を伝授猛暑が続いていますが、どの程度危険なのかを認識しなければ、「大丈夫だろう」と軽視してしまいます。朝のニュースをテレビやスマホで確認するのもよいですが、暑さ指数(Wet Bulb Globe Temperature:WBGT)を確認する癖をもっておきましょう。熱中症の発生に関与する因子は気温だけではなく、湿度、風速、日射輻射です。とくに湿度は大きく影響し、これらを実際に計測し算出して出てきた数値がWBGTです。細かなことは割愛しますが、WBGT>28℃になると熱中症が急増し危険と判断します(表3)。画像を拡大する●環境省の熱中症予防情報を伝授環境省熱中症予防情報サイトでは、WBGT(暑さ指数)を都道府県、地点別に確認できます。本稿執筆時の7月19日10時現在の東京都(都道府県)、東京(地点)のWBGT値は31.9℃(危険)と赤表示され、一目で熱中症のリスクが高いことがわかります。3日間の予測も併せて確認できるため、熱中症を予防する立場にある学校の教師や職場の管理者は必ず確認しておく必要があります。朝のニュースなどで危険性は日々報道されていますが、それでもなお発生しているのが熱中症です。願わくは、自ら確認し意識しておくことが必要と考えます。「熱中症の危険がある」ということを事前に意識して対応すれば、体調の変化に対する対応も迅速に行えるでしょう。●熱中症? と思った際の対応を伝授こむら返りや頭痛、倦怠感などを自覚し、環境因子から熱中症? と判断した場合には、速やかに環境を改善し(日陰や店舗内など涼しい場所へ移動)、水分だけでなく塩分を摂取するように勧めましょう。症状が改善しない場合や、自身で水分・塩分の摂取が困難な場合には、時間経過で改善することも多いですが、症状の増悪、一人暮らしで経過を診ることができる家族がいない場合には、病院へ受診するように指示したほうがよいでしょう。屋内外のリスクを見極め夏を過ごす7月は熱中症予防強化月間の重点取組期間です(厚生労働省「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」)。まだまだ暑い日が続きます。日頃の体調管理を行いつつ、屋外でのスポーツや作業をする場合には、リスクを評価し、予防に努め、屋内で過ごす場合には、温度・湿度を意識した環境の設定を行い、夏を乗り切りましょう!1)日本救急医学会熱中症に関する委員会. 熱中症の実態調査-日本救急医学会Heatstroke STUDY 2012最終報告-.日救急医会誌. 2014;25:846-862.

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第6回 チーム医療での薬剤師の立場って...?【はらこしなみの在宅訪問日誌】

在宅訪問専任薬剤師のはらこし なみです。遠慮は無用。良い人ではダメチーム医療・・・最近、毎日考えながら過ごしています。チーム医療の中での薬剤師ってなんでしょうか?何を期待され、何ができるのか。なぜそんなことを考えているのかと言うと・・・。【きっかけ1】在宅業務では、多くの医療スタッフやケアスタッフと顔を合わせたり、連絡を取り合ったり、最近は、メールを使用した情報共有も試みたり、診療所の在宅部へも頻繁に行くようになりました。関係が密になると、遠慮もなくなり、意見が活発になります。指導されることも多いです。ありがたいことです。先日、在宅を担当している看護師さんとお話ししている姿を、診療所所長の医師に後から指摘されました。「気を使いすぎ」だと。「もっとそこは怒ってほしかった」「その程度のことしかしていないの?」「あなたにとって、在宅医療とは何ですか?」「あなたの信念は?」ず~~ん。はぁ(涙)看護師や医師に気を使うのではなく、患者さん本位で思っていることをしっかり言わなければ。人が良いのではダメです。在宅医療の理念や私にとって在宅医療とは・・・を、なんとなく心に留めて過ごすようになりました(遅い??)薬局で調製してもらう必要ってありますか?【きっかけ2】「チーム医療の中での薬剤師とはなにか」悩み始めたきっかけ2つめ。先日の緩和ケア勉強会でのことでした。病棟看護師さんの「薬局で混注する必要ってありますか?」との発言。意見を求められたときしか言葉を発しない私。でも薬剤師として、ここは言わねば!「お家の中の雑菌が万が一輸液に入ったら、栄養満点の輸液の中で増殖し、直接バリアのない静脈へ...無菌調剤は必要だと思います!!」(キット製品などもありますので、それなら薬局での混注の必要はないです...というのは後から言うことにして...)緊張で心臓がバクバクしている間に...所長の医師のお言葉が。「僕は薬剤師は必要だと思う。チーム医療の中で薬剤師の必要性はいうまでもない、関わってほしい。薬局は設備が整っているし、利用すべきであり、必要としている患者さんもいる」と...。泣きました...(心の中で)薬剤師をそのように思ってくれている先生の発言に感動し、さらなる緊張感が。期待に応える仕事をしなければ。チーム医療における薬剤師って・・・?以前、この医師からは在宅医療における薬局での無菌調製の重要性を聞いていました。病院には無菌室がなく、注射薬は毎回病棟で混合している。それほど問題ないが、本来は無菌が望ましいと考えていること。在宅になると「保管」が必要になるため、無菌調製が必要だということ。勉強会で発言された病棟看護師さんは在宅の状況をご存じなく、「病院と同じように毎回家で混ぜたらよい」と考えられていたようです。「混合を誰がする?」「毎日訪問看護師が行けるのか?」「薬剤師が毎日行けば?」などの話になりました。(この委員会のあと、医師から「うちの職員の教育が足りずに申し訳ない」と謝られました)そして、「次回の緩和ケア委員会の議題を決めた。」といわれたときなんとなく嫌な予感...いつもは、次回の開催通知がくるだけなのに。次回のテーマは、「チーム医療における薬剤師の必要性」。病棟薬剤師、薬局薬剤師が発表することになりました。医師からは「言いたいこと、たくさんあるでしょ(笑)」って...大きな宿題をいただいてしまいました。は~、どうしよう。皆さんはチーム医療、チームの中の薬剤師、どのように考えられますか?

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第3回 無菌室のある薬局勉強会に参加&新しい患者さんの対応に緊張【はらこしなみの在宅訪問日誌】

大事なのはリスク管理。病院から新たなTPNの依頼が!在宅訪問専任薬剤師のはらこし なみです。勉強会で各薬局の無菌調整マニュアルを比較先日、無菌室を持つ薬局が集まって、勉強会をしました。それぞれの手技を確認し、無菌調製マニュアルを比較。あれが違う、これが違う...。たった5薬局なのに使っているグローブもガウンも違う。アンプルの扱いも、無菌室への入り方も...。しかし、根本にあるのはリスク管理。改めて徹底することとなりました。私にとってルートや針を扱うのは初めてのことであり、新鮮でした。でも、器材も定期的に扱わないと忘れてしまうよなあ~と思っていた矢先。患者さん+先生+器材 新しい出会いに感謝TPNはあまり扱ったことがないという泌尿器科の先生。退院時カンファレンスのとき「出してほしい物、処方箋に書くから言って!」と。「輸液セットは?ポンプは?病院で出しますか?それともこちらで準備しますか?」結局、先生がポンプを準備、輸液セットは院外処方箋で薬局から患者宅にお届けすることになりました。「とにかく、TPNが体に流れるようにしてほしいの!病院と同じように!」と医師から強く言われ、退院まで1週間。毎日ドキドキでした。病院の入退院連携室と毎日連絡を取り合い、ルート、針の品番、使用頻度、ガーゼやテープなどの衛生材料について...色々教えてもらいました。そして在宅スタート医療保険を利用し2週間は特別指示期間。 毎日看護師さんが訪問し、TPNやカニューレ管理(気管切開あり)、訪問医もほぼ毎日顔を見に。この2週間は、在宅療養ができるか?を見極める期間。本人がどんなに希望しても、必要な処置や治療がお家でできなければ、在宅療養は成り立ちません。ご家族にも、輸液バックの交換や痰の吸引(吸引器の使い方や吸引カテーテルの扱い方など)を覚えてもらう。エルネオパは開通してから持参し、ルートと針は訪問看護師さんが週1回交換。訪問医や訪問看護師さんが、在宅療養はちょっと無理だろうなぁ、と言っていたけれど、どうにか頑張ったご本人とご家族。2週間が過ぎ、介護保険に切り替わっても処方が途切れることはありませんでした。

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第2回 意識障害 その2 意識障害の具体的なアプローチ 10’s rule【救急診療の基礎知識】

72歳男性の意識障害:典型的なあの疾患の症例72歳男性。友人と食事中に、椅子から崩れるようにして倒れた。友人が呼び掛けると開眼はあるものの、反応が乏しく救急車を要請した。救急隊到着時、失語、右上下肢の麻痺を認め、脳卒中選定で当院へ要請があった。救急隊接触時のバイタルサインは以下のとおり。どのようにアプローチするべきだろうか?●搬送時のバイタルサイン意識:3/JCS、E4V2M5/GCS血圧:188/102mmHg 脈拍:98回/分(不整) 呼吸:18回/分SpO2:95%(RA) 体温:36.2℃ 瞳孔:3/3mm+/+意識障害のアプローチ意識障害は非常にコモンな症候であり、救急外来ではもちろんのこと、その他一般の外来であってもしばしば遭遇します。発熱や腹痛など他の症候で来院した患者であっても、意識障害を認める場合には必ずプロブレムリストに挙げて鑑別をする癖をもちましょう。意識はバイタルサインの中でも呼吸数と並んで非常に重要なバイタルサインであるばかりでなく、軽視されがちなバイタルサインの1つです。何となくおかしいというのも立派な意識障害でしたね。救急の現場では、人材や検査などの資源が限られるだけでなく、早期に判断することが必要です。じっくり考えている時間がないのです。そのため、意識障害、意識消失、ショックなどの頻度や緊急性が高い症候に関しては、症候ごとの軸となるアプローチ法を身に付けておく必要があります。もちろん、経験を重ね、最短距離でベストなアプローチをとることができれば良いですが、さまざまな制約がある場面では難しいものです。みなさんも意識障害患者を診る際に手順はあると思うのですが、まだアプローチ方法が確立していない、もしくは自身のアプローチ方法に自信がない方は参考にしてみてください。アプローチ方法の確立:10’s Rule1)私は表1の様な手順で意識障害患者に対応しています。坂本originalなものではありません。ごく当たり前のアプローチです。ですが、この当たり前のアプローチが意外と確立されておらず、しばしば診断が遅れてしまっている事例が少なくありません。「低血糖を否定する前に頭部CTを撮影」「髄膜炎を見逃してしまった」「飲酒患者の原因をアルコール中毒以外に考えなかった」などなど、みなさんも経験があるのではないでしょうか。画像を拡大する●Rule1 ABCの安定が最優先!意識障害であろうとなかろうと、バイタルサインの異常は早期に察知し、介入する必要があります。原因がわかっても救命できなければ意味がありません。バイタルサインでは、血圧や脈拍も重要ですが、呼吸数を意識する癖を持つと重症患者のトリアージに有効です。頻呼吸や徐呼吸、死戦期呼吸は要注意です。心停止患者に対するアプローチにおいても、反応を確認した後にさらに確認するバイタルサインは呼吸です。反応がなく、呼吸が正常でなければ胸骨圧迫開始でしたね。今後取り上げる予定の敗血症の診断基準に用いる「quick SOFA(qSOFA)」にも、意識、呼吸が含まれています。「意識障害患者ではまず『呼吸』に着目」、これを意識しておきましょう。気管挿管の適応血圧が低ければ輸液、場合によっては輸血、昇圧剤や止血処置が必要です。C(Circulation)の異常は、血圧や脈拍など、モニターに表示される数値で把握できるため、誰もが異変に気付き、対応することは難しくありません。それに対して、A(Airway)、B(Breathing)に対しては、SpO2のみで判断しがちですが、そうではありません。SpO2が95%と保たれていても、前述のとおり、呼吸回数が多い場合、換気が不十分な場合(CO2の貯留が認められる場合)、重度の意識障害を認める場合、ショックの場合には、確実な気道確保のために気管挿管が必要です。消化管出血に伴う出血性ショックでは、緊急上部内視鏡を行うこともありますが、その際にはCの改善に従事できるように、気管挿管を行い、AとBは安定させて内視鏡処置に専念する必要性を考える癖を持つようにしましょう。緊急内視鏡症例全例に気管挿管を行うわけではありませんが、SpO2が保たれているからといって内視鏡を行い、再吐血や不穏による誤嚥などによってAとBの異常が起こりうることは知っておきましょう。●Rule2 Vital signs、病歴、身体所見が超重要! 外傷検索、AMPLE聴取も忘れずに!症例の患者は、突然発症の右上下肢麻痺であり、誰もが脳卒中を考えるでしょう。それではvital signsは脳卒中に矛盾ないでしょうか。脳卒中に代表される頭蓋内疾患による意識障害では、通常血圧は高くなります(表2)2)。これは、脳卒中に伴う脳圧の亢進に対して、体血圧を上昇させ脳血流を維持しようとする生体の反応によるものです。つまり、脳卒中様症状を認めた場合に、血圧が高ければ「脳卒中らしい」ということです。さらに瞳孔の左右差や共同偏視を認めれば、より疑いは強くなります。画像を拡大する頸部の診察を忘れずに!意識障害患者は、「路上で倒れていた」「卒倒した」などの病歴から外傷を伴うことが少なくありません。その際、頭部外傷は気にすることはできても、頸部の病変を見逃してしまうことがあります。頸椎損傷など、頸の外傷は不用意な頸部の観察で症状を悪化させてしまうこともあるため、後頸部の圧痛は必ず確認すること、また意識障害のために評価が困難な場合には否定されるまで頸を保護するようにしましょう。画像を拡大する意識障害の鑑別では、既往歴や内服薬は大きく影響します。糖尿病治療中であれば低血糖や高血糖、心房細動の既往があれば心原性脳塞栓症、肝硬変を認めれば肝性脳症などなど。また、内服薬の影響は常に考え、お薬手帳を確認するだけでなく、漢方やサプリメント、家族や友人の薬を内服していないかまで確認しましょう3)。●Rule3 鑑別疾患の基本をmasterせよ!救急外来など初診時には、(1)緊急性、(2)簡便性、(3)検査前確率の3点に意識して鑑別を進めていきましょう。意識障害の原因はAIUEOTIPS(表4)です。表4はCarpenterの分類に大動脈解離(Aortic Dissection)、ビタミン欠乏(Supplement)を追加しています。頭に入れておきましょう。画像を拡大する●Rule4 意識障害と意識消失を明確に区別せよ!意識障害ではなく意識消失(失神や痙攣)の場合には、鑑別診断が異なるためアプローチが異なります。これは、今後のシリーズで詳細を述べる予定です。ここでは1つだけおさえておきましょう。それは、意識状態は「普段と比較する」ということです。高齢者が多いわが国では、認知症や脳卒中後の影響で普段から意思疎通が困難な場合も少なくありません。必ず普段の意識状態を知る人からの情報を確認し、意識障害の有無を把握しましょう。前述の「Rule4つ」は順番というよりも同時に確認していきます。かかりつけの患者さんであれば、来院前に内服薬や既往を確認しつつ、病歴から◯◯らしいかを意識しておきましょう。ここで、実際に前掲の症例を考えてみましょう。突然発症の右上下肢麻痺であり、3/JCSと明らかな意識障害を認めます(普段は見当識障害など特記異常はないことを確認)。血圧が普段と比較し高く、脈拍も心房細動を示唆する不整を認めます。ここまでの情報がそろえば、この患者さんの診断は脳卒中、とくに左大脳半球領域の脳梗塞で間違いなしですね?!実際にこの症例では、頭部CT、MRIとMRAを撮影したところ左中大脳動脈領域の急性期心原性脳塞栓症でした。診断は容易に思えるかもしれませんが、迅速かつ正確な診断を限られた時間の中で行うことは決して簡単ではありません。次回は、10’s Ruleの後半を、陥りやすいpitfallsを交えながら解説します。お楽しみに!1)坂本壮. 救急外来 ただいま診断中. 中外医学社;2015.2)Ikeda M, et al. BMJ. 2002;325:800.3)坂本壮ほか. 月刊薬事. 2017;59:148-156.コラム(2) 相談できるか否か、それが問題だ!「報告・連絡・相談(ほう・れん・そう)」が大事! この単語はみなさん聞いたことがあると思います。何か困ったことやトラブルに巻き込まれそうになったときは、自身で抱え込まずに、上司や同僚などに声をかけ、対応するのが良いことは誰もが納得するところです。それでは、この3つのうち最も大切なのはどれでしょうか。すべて大事なのですが、とくに「相談」は大事です。報告や連絡は事後であることが多いのに対して、相談はまさに困っているときにできるからです。言われてみると当たり前ですが、学年が上がるにつれて、また忙しくなるにつれて相談せずに自己解決し、後で後悔してしまうことが多いのではないでしょうか。「こんなことで相談したら情けないか…」「まぁ大丈夫だろう」「あの先生に前に相談したときに怒られたし…」など理由は多々あるかもしれませんが、医師の役目は患者さんの症状の改善であって、自分の評価を上げることではありません。原因検索や対応に悩んだら相談すること、指導医など相談される立場の医師は、相談されやすい環境作り、振る舞いを意識しましょう(私もこの部分は実践できているとは言えず、書きながら反省しています)。(次回は6月27日の予定)

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第2回 無菌室稼働から7回目、ドキドキの独り立ち!【はらこしなみの在宅訪問日誌】

在宅訪問専任薬剤師のはらこし なみです。責任と自己判断。1人でドキドキの混注先日の無菌室稼働から7回目。そろそろ体が先に動くようになってきて、「1人でも大丈夫だろう、次からはもう1人で」と決まりました。輸液やアンプルにアルコール吹き付けたり、トレーを消毒したり、シリンジやフィルターをそろえたり・・・入室前の準備をしつつ、緊張感も出てきて、もう一度マニュアルを読んで手技のチェック。一人で気楽かと思いきや、責任と自己判断という重みがのしかかり、ドキドキの混注になりました。一通り無菌操作を終え、無菌室すべての面・・・床、壁をアルコールで拭く掃除が、思いのほか大変でした。「でも、これはきっちりとやらないと!」と、アルコールにまみれながら終了。クリーンルームの外に出て、新鮮な空気が美味しく、ひと時ほっとします。でも、この輸液が何かトラブルを起こさないだろうか、チューブの詰まりはないか、体調はどうか、お届け時間は間に合うか・・・と、新たなドキドキが待っていました。腸閉塞の患者さんが在宅中心静脈栄養(TPN)の予定今、A病院に入院されている腸閉塞の患者さんが在宅中心静脈栄養(TPN)の予定です。※TPNは心臓に近い鎖骨の下を走る中心静脈にカテーテルを入れて、そのカテーテルに直接薬 剤や栄養剤を投与する方法。現在は・・・ラクトリン®ゲル液、フルカリック®。ロピオン®静注(静注用非ステロイド性鎮痛薬)を生食100mLに入れて側注管より注入。とのことでした。ロピオン®は在宅でいけますか?と先生より質問もあり、調べています。先生はロピオン®か、デュロテップ®でいくか、考え中のよう。しかし、新たな問題が・・・うすうす勘づいていたのですが、案の定、ロピオン®の安定性(生食 or ブドウ糖5%にmix)は3日間(72時間)までの資料しかなく、ロピオン®が乳濁性製剤のため、フィルターに目詰まりを起こす可能性がある、側管からフィルターを通さない方法が推奨される、とメーカーより回答をいただきました。うちの薬局の基準では、アンプル混中でTPNの場合はフィルター使用が前提。どうしたものか・・・??結局、ロピオン®が在宅には向かないことを先生にお伝えしました。処方提案もしたかったけれど、先生がお考えのデュロテップ®以外には思いつかず・・・。力不足を味わっていました。ところが、退院時処方を見ると、ハイペン®200mgが開始に!胃を全摘していない、完全に腸閉塞しているわけではないことから、退院までの間に内服を試して、可能になったそうです。"TPNだから経口投与はできない"と端から内服薬を除外していましたが、経口できるか否かはTPNかどうかではないこと、腸閉塞といっても様々な状態があり、まさに患者さん個々の状態にもよるのだということを学んだ一例でした・・・。日々精進です!

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第1回 楽しい同行♪&無菌室稼動!【はらこしなみの在宅訪問日誌】

初めまして。はらこし なみと申します。在宅訪問専任の薬剤師をしています。目の前の患者さんの在宅療養をより良いものに!と、患者さんのサポートに奮闘しています。お別れのときのやるせなさを乗り越え、チーム医療での自分の立ち位置を見つめ直しながら、前向きに頑張る日々を綴っていきたいと思います。楽しい同行♪「次回は2週間後の25日に伺いますね~」いつもの看護師さんの締めくくりで部屋を出ます。ここは高齢者専用住宅。今日は医師と看護師に同行しています。「先生、次はクリスマスですね~」「ぼく、サンタクロースになるよ」は?まさか先生。待ち合わせ場所の施設玄関に現れた先生は赤かった!!!きゃあ、先生~。施設入居者の皆さん、軒並み血圧up↑↑先生とわからず動揺する方まで...急いでお髭とって「僕です!」高齢者や病気を患っている方にとっては刺激が強すぎた?ほんの少しの変化(温度、気候もそうですが)が体に影響するのだと再認識しました...。無菌室稼動の依頼が!さて。病院主催の緩和ケア勉強会に参加して他の職種の方々と連携するように心懸けています。勉強会の最後には参加者の各部門から連絡事項の伝達があります。病院で在宅訪問を担当している看護師さんから「TPN患者さんの在宅が開始予定なのですが、混合できますか?」と。ここは高齢者専用住宅。今日は医師と看護師に同行しています。夢に見ていた無菌室の稼働!!うちの薬局には無菌室がありますが、実際に処方箋を受けたことはこれまでなかったんです。しかし、実際に段取りを始めると・・・、準備する物品の多さ、手順の確認、注射薬剤の知識のなさに焦り、緊張の毎日。薬局薬剤師にとって、注射、輸液などを扱うことがなく、未知の世界です・・・。無菌調製している別店舗のスタッフに色々と教えてもらう日々が始まりました。調製前の準備から指導されっぱなしです・・・。「1回1回、ドアはしっかりしめる!」「ここ拭いた?」「ここに置いちゃだめだよ!」ありがたい指導のもと、ようやく稼働にこぎ着けました。初の輸液処方箋。適応外使用に四苦八苦ですが、資料やガイドラインなどを勉強して、実際の現場ではこのような使用法もあるのだ、と改めて感じています。やっと1例。いっぱいいっぱいですが、これからは必要としている患者さんに届けられるよう、努力したいと思います。

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APROCCHSS試験-敗血症性ショックに対するステロイド2剤併用(解説:小金丸博氏)-831

 敗血症性ショック患者に対するステロイドの有効性を検討した研究(APROCCHSS)がNEJMで発表された。過去に発表された研究では、「死亡率を改善する」と結論付けた研究(Ger-Inf-051))もあれば、「死亡率を改善しない」と結論付けた研究(CORTICUS22)、HYPRESS3)、ADRENAL4))もあり、有効性に関して一致した見解は得られていなかった。 本研究は、敗血症性ショックに対するヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン投与の有効性を検討した多施設共同二重盲検ランダム化比較試験である。敗血症性ショックでICUへ入室した患者のうち、SOFAスコア3点、4点の重篤な臓器障害を2つ以上有し、ノルエピネフリンなどの血管作動薬を0.25μg/kg/min以上投与が必要な患者を対象とした。研究開始時は、活性化プロテインCとヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾンの2×2要因デザインで患者を組み込んでいたが、活性化プロテインCは試験途中で市場から撤退したため、その後はステロイド投与群とプラセボ投与群の2群で試験を継続した。その結果、プライマリアウトカムである90日死亡率はヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン投与群で43.0%、プラセボ投与群で49.1%であり、ヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン投与群が有意に低率だった(p=0.03)。また、セカンダリアウトカムであるICU退室時死亡率、退院時死亡率、180日死亡率もヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン投与群が有意に低率だった。 本論文の考察の中で、敗血症性ショックに対するステロイドの有効性に関する見解が一致しない理由が2つ挙げられている。1つは、投与するステロイドの種類の違いである。ステロイドの有効性を示したAPROCCHSSとGer-Inf-05では、ヒドロコルチゾンにミネラルコルチコイドであるフルドロコルチゾンが併用投与されている。フルドロコルチゾンを投与することによってアドレナリン作動薬の反応改善が期待できるとされており、アドレナリン作動薬が必要な敗血症性ショックに対して有効性を示した可能性がある。2つ目は、患者重症度の違いである。本試験では高用量の血管作動薬投与が必要な患者が対象となっており、プラセボ投与群の90日死亡率は49.1%と高率だった(ADRENALのプラセボ投与群の90日死亡率は28.8%)。重篤な敗血症性ショック患者に対してステロイド投与が有効である可能性がある。現行の敗血症ガイドラインでは、十分な輸液と昇圧薬の投与でも血行動態が安定しない患者に対してはステロイド投与が推奨されており、重症敗血症例に対してステロイドを投与することは妥当性があると考える。

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敗血症性ショックに対するグルココルチコイドの投与:長い議論の転機となるか(解説:吉田 敦 氏)-813

 敗血症性ショックにおいてグルココルチコイドの投与が有効であるかについては、長い間議論が続いてきた。グルココルチコイドの種類・量・投与法のみならず、何をもって有効とするかなど、介入と評価法についてもばらつきがあり、一方でこのような重症病態での副腎機能の評価について限界があったことも根底にある。今回大規模なランダム化比較試験が行われ、その結果が報告された。 オーストラリア、英国、ニュージーランド、サウジアラビア、デンマークのICUに敗血症性ショックで入室し、人工呼吸器管理を受けた18歳以上の患者3,800例を、無作為にヒドロコルチゾン(200mg/日)投与群とプラセボ投与群とに割り付けた。この際、SIRSの基準を2項目以上満たすこと、昇圧薬ないし変力作用のある薬剤を4時間以上投与されたことを条件とした。ヒドロコルチゾンは200mgを24時間以上かけて持続静注し、最長で7日間あるいはICU退室ないしは死亡までの投与とした。ランダム化から90日までの死亡をプライマリーアウトカム、さらに28日までの死亡、ショックの再発、ICU入室期間、入院期間、人工呼吸器管理の回数と期間、腎代替療法の回数と期間、新規の菌血症・真菌血症発症、ICUでの輸血をセカンダリーアウトカムとし、原疾患による死亡は除いた。 患者の平均年齢は約62歳、外科手術が行われた後に入室した患者は約31%、感染巣は肺(35%)、腹部(25%)、血液(7%)、皮膚軟部組織(7%)、尿路(7%)の順であり、介入前の基礎パラメーターや各検査値に2群間で差はなかった。なおショック発症からランダム化までは平均約20時間、ランダム化から薬剤投与開始までは0.8時間(中央値)であり、ヒドロコルチゾンの投与期間は5.1日(中央値)であった。 まずプライマリーアウトカムとしての90日死亡率は、ヒドロコルチゾン投与群では27.9%(1,832例中511例)、プラセボ投与群では28.8%(1,826例中526例)であり、有意差はなかった。次いでセカンダリーアウトカムでは、ショックから回復するまでの期間も、ICU退室までの期間も、さらに1回目の人工呼吸器管理の期間もヒドロコルチゾン投与群で有意に短かった(それぞれ3日と4日、p<0.001、10日と12日、p<0.001、6日と7日、p<0.001)。ただし再度人工呼吸器管理が必要な患者もおり、人工呼吸器を要しなかった期間としてみると差はなかった。輸血を要した割合も前者で少なかったが(37.0%と41.7%、p=0.004)、その他、28日死亡率やショックの再発率、退院までの日数、ICU退室後の生存期間、人工呼吸器管理の再導入率、腎代替療法の施行率・期間、菌血症・真菌血症発生率に差はなかった。 これまでの検討では、グルココルチコイドは高用量よりは低用量のほうが成績がよかったものの、二重盲検ランダム化比較試験では一致した結果が得られなかった1,2)。現行のガイドラインでも“十分な輸液と昇圧薬の投与でも血行動態の安定が得られない例”に対し、エビデンスが弱い推奨として記載されている3)。本検討は、上記のランダム化比較試験よりも症例数がかなり増えているのが特徴であり、2群で比較が可能であった項目も多い。したがって、グルココルチコイド投与の目的—改善を目指す指標—をより詳しく評価できたともいえる。一方で21例対6例と少数ではあるが、グルココルチコイド群で副作用が多く、中にはミオパチーなど重症例も存在した。グルココルチコイドとの相関の可能性を含んで、この結果は解釈したほうがよいであろう。本検討は、これまでの議論の転機となり、マネジメントや指針の再考につながるであろうか。これからの動向に注目したい。

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腰椎穿刺後の合併症リスク、非外傷性針 vs.従来針/Lancet

 腰椎穿刺を非外傷性針で受けた患者は、従来針で受けた患者と比べて、穿刺後の頭痛の発生率が低く、追加治療のための入院の必要性が少なく、有効性については同等であるとの結果が、カナダ・マックマスター大学のSiddharth Nath氏らによるシステマティックレビューとメタ解析で示された。非外傷性針は、腰椎穿刺後の合併症低減のために提案されたが、依然として臨床での採用は低調なままであるとの調査結果が示されている。Lancet誌オンライン版2017年12月6日号で発表された。穿刺後の頭痛の発生率を主要アウトカムにシステマティックレビューとメタ解析 研究グループは、システマティックレビューとメタ解析により、非外傷性針と従来針の腰椎穿刺後の患者のアウトカムを比較する検討を行った。13のデータベースを、開設から2017年8月15日時点まで検索。言語を問わず、あらゆる腰椎穿刺について非外傷性針と従来針の使用を比較していた無作為化対照試験を対象とした。硬膜穿刺ではなく(硬膜外注射であったもの)、対照が従来針ではないものは除外した。発表レポートから、試験のスクリーニングとデータの抽出を行い解析評価した。 主要アウトカムは、穿刺後の頭痛の発生率。さらに安全性と有効性のアウトカムを、ランダム効果および固定効果メタ解析により評価した。主要アウトカム発生の非外傷性針群の相対リスクは0.44 検索により、2万241件のレポートを特定し、基準で除外後、1989~2017年に行われた29ヵ国からの110試験・被験者総計3万1,412例のデータを解析に包含した。 穿刺後の頭痛発生率は、従来針群11.0%(95%信頼区間[CI]:9.1~13.3)に対し非外傷性針群は4.2%(同:3.3~5.2)と有意に低率だった(相対リスク[RR]:0.40、95%CI:0.34~0.47、p<0.0001、I2=45.4%)。また非外傷性針群は、静脈内輸液や鎮痛コントロールを要することが有意に少なく(RR:0.44、95%CI:0.29~0.64、p<0.0001)、硬膜外血液パッチの必要性(0.50、0.33~0.75、p=0.001)や、あらゆる頭痛(0.50、0.43~0.57、p<0.0001)、軽度頭痛(0.52、0.38~0.70、p<0.0001)、重度頭痛(0.41、0.28~0.59、p<0.0001)、神経根刺激(0.71、0.54~0.92、p=0.011)、さらに聴力障害(0.25、0.11~0.60、p=0.002)がいずれも有意に少なかった。一方、腰椎穿刺の初回試技での成功率、失敗率、平均試技回数、traumatic tapや腰痛の発生率は、両群間で有意差はなかった。 硬膜穿刺後の頭痛に関する事前規定のサブグループ解析の結果、針のタイプと患者の年齢、性別、予防的静脈内輸液の実施、針のゲージ、患者の姿勢(座位vs.側臥位)、腰椎穿刺の目的(麻酔vs.診断vs.脊髄造影)、穿刺後のベッド安静、担当医の専門性との間に相互作用は認められなかった。これらの結果は、推奨評価・開発・評価の格付けを用いて検証されており、質の高いエビデンスであるとされた。 結果を踏まえて著者は、「今回の所見は、臨床医とその関係者に対して、腰椎穿刺が必要な患者の優れた選択肢として、非外傷性針の安全性と有効性について総合的な評価と質の高いエビデンスを提示するものである」とまとめている。

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敗血症の早期蘇生プロトコル戦略、開発途上国では?/JAMA

 医療資源が限られる開発途上国において、大半がHIV陽性で敗血症と低血圧症を有する成人患者への、輸液および昇圧薬投与による早期蘇生プロトコル戦略では、標準治療と比較して院内死亡が増大したことが示された。米国・ヴァンダービルト大学のBen Andrews氏らがザンビア共和国で行った無作為化試験の結果で、著者は「さらなる試験を行い、異なる低中所得国の臨床設定および患者集団における、敗血症の患者への静脈内輸液と昇圧薬投与の影響を明らかにする必要がある」とまとめている。開発途上国における敗血症への早期蘇生プロトコルの効果は、これまで明らかにされていなかった。JAMA誌オンライン版2017年10月3日号掲載の報告。ザンビアの212例を対象に、無作為化試験で標準治療と比較 研究グループは、輸液、昇圧薬、輸血による早期蘇生プロトコルが、敗血症と低血圧症を有するザンビアの成人患者において、標準治療と比べて死亡率を低下させるかを調べた。2012年10月22日~2013年11月11日に、ザンビア国立病院(1,500床)の救急部門を受診した敗血症および低血圧症を有する成人患者212例を対象に無作為化試験が行われ、2013年12月9日までデータが収集された。 被験者は、1対1の割合で(1)敗血症のための早期蘇生プロトコルの介入を受ける群(107例)、または(2)標準治療を受ける群(105例)に無作為に割り付けられた。(1)は静脈内輸液ボーラス投与と、頸静脈圧、呼吸数、動脈血酸素飽和度のモニタリング、および平均動脈圧65mmHg以上を目標値とした昇圧薬投与の治療、輸血(ヘモグロビン値7g/dL未満)を、(2)は担当医の裁量の下で血行動態管理を行った。 主要アウトカムは院内死亡率で、副次アウトカムは、投与を受けた輸液量、昇圧薬投与の状況などであった。早期蘇生プロトコル群の院内死亡発生が1.46倍に 無作為化を受けた212例のうち3例が適格条件を満たしておらず、残る209例が試験を完了し解析に包含された。209例は、平均年齢36.7歳(SD 12.4)、男性117例(56.0%)、HIV陽性187例(89.5%)であった。 主要アウトカムの院内死亡の発生は、敗血症プロトコル群51/106例(48.1%)、標準治療群34/103例(33.0%)であった(群間差:15.1%[95%信頼区間[CI]:2.0~28.3]、相対リスク:1.46[95%CI:1.04~2.05]、p=0.03)。 救急部門受診後6時間で投与を受けた輸液量は、敗血症プロトコル群は中央値3.5L(四分位範囲:2.7~4.0)、標準治療群は同2.0L(1.0~2.5)であった(群間差中央値:1.2L、95%CI:1.0~1.5、p<0.001)。 昇圧薬の投与を受けたのは、敗血症プロトコル群15例(14.2%)、標準治療群2例(1.9%)であった(群間差:12.3%、95%CI:5.1~19.4、p<0.001)。

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敗血症に対する初期治療戦略完了までの時間と院内死亡率の関係(解説:小金丸 博 氏)-700

 敗血症は迅速な診断、治療が求められる緊急度の高い感染症である。2013年に米国のニューヨーク州保健局は、敗血症の初期治療戦略として“3時間バンドル”プロトコールの実施を病院に義務付けた。“3時間バンドル”には、(1)1時間以内に広域抗菌薬を投与すること、(2)抗菌薬投与前に血液培養を採取すること、(3)3時間以内に血清乳酸値を測定すること、が含まれる。さらに収縮期血圧が90mmHg未満に低下していたり血清乳酸値が高値の場合は、“6時間バンドル”として急速輸液(30mL/kg)や昇圧剤の投与、血清乳酸値の再測定を求めている。これらの初期治療戦略が敗血症の予後を改善するかは、まだ議論のあるところだった。 本研究は、ニューヨーク州保健局に報告された敗血症および敗血症性ショックを呈した患者のデータベースを検討したレトロスペクティブ研究である。“3時間バンドル”完遂までの時間とリスク補正後の院内死亡率との関係を評価した。その結果、“3時間バンドル”完遂までの時間が長いほど院内死亡率は上昇していた(1時間ごとのオッズ比:1.04、95%信頼区間:1.02~1.05、p<0.001)。同様に、広域抗菌薬投与までの時間が長いほど院内死亡率は上昇していた(同:1.04、1.03~1.06、p<0.001)。しかしながら、急速輸液完遂までの時間の長さは院内死亡率上昇と関連がなかった(同:1.01、0.99~1.02、p=0.21)。 広域抗菌薬をプロトコール開始後3~12時間で投与した群では、3時間以内に投与した群と比べて院内死亡率が上昇していた。とくにうっ血性心不全や慢性肺疾患などの基礎疾患を有する群や昇圧剤投与が必要だった群で強く相関しており、重症例ほど早期に抗菌薬を投与することの重要性が示された。 本研究では、初期の急速輸液完了までの時間は、敗血症の予後に関連しないという結果であった。理由として、死に至るような超重症例ほど初期急速輸液が行われていることや、急速大量輸液によって起こる肺浮腫などの有害事象が予後に関与した可能性が考えられる。 2016年に新しい敗血症の定義(Sepsis-3)が提唱された。敗血症性ショックの診断には、本研究の“3時間バンドル”にも含まれる血清乳酸値の測定が必須であるが、本邦では大規模病院以外では困難と思われる。現在の本邦においてはバンドルの遵守にこだわらず、病歴や理学所見からいかに敗血症を疑い、初期対応につなげるかが重要と考える。

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敗血症の治療は早めるほどよい?/NEJM

 敗血症の治療において、3時間ケアバンドルの完了と抗菌薬投与をより早めることは、院内死亡率の低下と関連することが示された。なお、静脈内輸液の初回ボーラス投与完了を早めることは、関連していなかったという。2013年、米国ニューヨーク州は医療機関に対して、敗血症の迅速な同定と治療のためにプロトコルに従うことを義務づけたが、敗血症の治療を早めることが患者の転帰を改善するかについては議論されていた。米国・ピッツバーグ大学のChristopher W. Seymour氏らは、義務化後の状況を調査、検討した。NEJM誌2017年6月8日号(オンライン版2017年5月21日号)掲載の報告。敗血症に対する3時間ケアバンドル義務化後のニューヨーク州の状況を分析 検討は、2014年4月1日~2016年6月30日にニューヨーク州保健局に報告された、敗血症および敗血症性ショックを呈した患者のデータを分析して行われた。 ニューヨーク州が義務づけたプロトコルには、患者が救急部門に搬送されて6時間以内に敗血症プロトコルを開始すること、敗血症患者に対する3時間ケアバンドル(抗菌薬投与前の血液培養、血清乳酸値の測定、広域抗菌薬投与)の全項目を12時間以内に完了することが含まれていた。 多変量モデルを用いて、敗血症患者の3時間ケアバンドル完了までの時間とリスク補正後の死亡との関連を評価した。また、抗菌薬投与までの時間、静脈内輸液の初回ボーラス投与完了までの時間についても調べた。敗血症患者の3時間バンドル完了の時間が長くなるほど院内死亡率の上昇と関連 評価には、149病院の4万9,331例が含まれた。 そのうち4万696例(82.5%)が、敗血症に対する3時間ケアバンドルを3時間以内に完了していた。敗血症患者の3時間ケアバンドル完了までの時間中央値は1.30時間(四分位範囲:0.65~2.35)、抗菌薬投与までの時間中央値は0.95時間(四分位範囲:0.35~1.95)であり、静脈内輸液の初回ボーラス投与完了までの時間中央値は2.56時間(四分位範囲:1.33~4.20)であった。 12時間以内に3時間ケアバンドルを完了した敗血症患者において、バンドル完了の時間が長くなるほど、リスク補正後の院内死亡率の上昇と関連していた(オッズ比:1.04/時間、95%信頼区間[CI]:1.02~1.05、p<0.001)。同様の関連は、抗菌薬投与までの時間が長い場合にもみられた(同:1.04/時間、1.03~1.06、p<0.001)。しかしながら、静脈内輸液の初回ボーラス投与完了までの時間が長い場合にはみられなかった(同:1.01/時間、0.99~1.02、p=0.21)。

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ある日の救急外来【Dr. 中島の 新・徒然草】(164)

百六十四の段 ある日の救急外来年度末の土曜日のこと。夕方に救急外来をのぞくと、患者さんやその御家族でごったがえしていました。当院では、研修医2名が1・2次救急のファーストタッチを担当しています。日直から当直への交代時間はとうに過ぎたはずですが、研修医4名が、ショックバイタルの下血患者さんをはじめとした数名の救急患者さんに対応していました。中島「とにかくバイタルを何とかしろ!」研修医「はい」なんと言っても最重症は下血の患者さん。4人とも表情はテンパっていましたが、内視鏡オンコール医の「すぐ行くから腹部造影CTをやっといてくれ」を目標にして、何とか輸液と輸血でバイタルの立て直しを図っていました。そうこうしているうちにレジデントが応援に駆けつけ、ようやく血圧が100を超え始めました。このチャンスを逃さず、すかさず造影CTへ向かいます。残念ながらほかに用事があったので、私が見ることができたのはここまででした。翌朝、その後の経過を電子カルテで確認しました。造影CTでは、上行結腸から肝彎曲部の腸管内出血が疑われたようです。駆けつけた内視鏡オンコール医が大腸内視鏡で出血点を確認し、クリップ3つで止血に成功し、うまく救命することができました。この患者さんに人手を取られた結果、待たされたほかの患者さんから、いささか不平不満が出たようです。怒っている人ほど医学的には後回しになりがち、というのはよくある救急外来の景色。ただひたすらに頭を下げるのみです。年度末のこの時期、いつも研修管理委員会で問題になるのが、研修医の修了認定。内外の委員から「彼女の社会人としての資質はどうなのか?」「彼は患者さんやほかの職員に対する態度がなっていない」などと言われがちです。しかし、今回の救急室での対応を見るかぎり、合格点をあげてもいいのではないかと思いました。巣立っていく彼らの未来に幸多きことを祈ります。最後に1句出血の ショックを凌いで さあCT! 

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自己免疫性溶血性貧血〔AIHA: autoimmune hemolytic anemia〕

1 疾患概要■ 概念・定義自己免疫性溶血性貧血(autoimmune hemolytic anemia:AIHA)は、赤血球膜上の抗原と反応する自己抗体が産生され、抗原抗体反応の結果、赤血球が傷害を受け、赤血球の寿命が著しく短縮(溶血)し、貧血を来す。AIHAは、自己抗体の性状によって温式抗体によるものと、冷式抗体によるものに2大別される。温式抗体(warm-type autoantibody)による病型を単に自己免疫性溶血性貧血(AIHA)と呼ぶことが多い。冷式抗体(cold-type autoantibody)による病型には、寒冷凝集素症(cold agglutinin disease:CAD)と発作性寒冷ヘモグロビン尿症(paroxysmal cold hemoglobinuria:PCH)とがある。温式抗体は体温付近で最大活性を示し、原則としてIgG抗体である。一方、冷式抗体は体温以下の低温で反応し、通常4℃で最大活性を示す。IgM寒冷凝集素とIgG二相性溶血素(Donath-Landsteiner抗体)が代表的である。時に温式抗体と冷式抗体の両者が検出されることがあり、混合型(mixed type)と呼ばれる。■ 疫学AIHAの推定患者数は100万人対3~10人、年間発症率は100万人対1~5人で、病型別比率は、温式AIHA90.4%、CAD7.7% 、PCH1.9%とされている。温式AIHAの特発性/続発性は、ほぼ同数に近いと考えられる。特発性温式AIHAは、小児期のピークを除いて二峰性に分布し、若年層(10~30歳で女性が優位)と老年層(50歳以後に増加し70代がピークで性差はない)に多くみられる。全体での男女比は1~2:3で女性にやや多い。CADのうち慢性特発性は40歳以後にほぼ限られ男性に目立つが、続発性は小児ないし若年成人に多い。PCHは、現在そのほとんどは小児期に限ってみられる。■ 病因自己抗体の出現機序として次のように整理されている。1)免疫応答機構は正常だが患者赤血球の抗原が変化して、異物ないし非自己と認識される。2)赤血球抗原に変化はないが、侵入微生物に対して産生された抗体が正常赤血球抗原と交差反応する。3)赤血球抗原に変化はないが、免疫系に内在する異常のために免疫的寛容が破綻する。4)すでに自己抗体産生を決定付けられている細胞が、単または多クローン性に増殖または活性化され、自己抗体が産生される。■ 症状1)温式AIHA臨床像は多様性に富み、発症の仕方も急激から潜行性まで幅広い。とくに急激発症では発熱、全身衰弱、心不全、呼吸困難、意識障害を伴うことがあり、ヘモグロビン尿や乏尿も受診理由となる。急激発症は小児や若年者に多く、高齢者では潜行性が多くなるが例外も多い。受診時の貧血は高度が多く、症状の強さには貧血の進行速度、心肺機能、基礎疾患などが関連する。黄疸もほぼ必発だが、肉眼的には比較的目立たない。特発性でのリンパ節腫大はまれである。脾腫の触知率は32~48%で、サイズも1~2横指程度が多い。温式AIHAの5~10%程度に直接クームス試験が陰性のものがあり、クームス陰性AIHAと呼ばれる。クームス試験が陽性にならない程度のIgG自己抗体が赤血球に結合しており、診断には赤血球結合IgG定量が有用である。クームス陽性AIHAと同様にステロイド反応性は良好である。特発性血小板減少性紫斑病(ITP)を合併する場合をエヴァンス症候群と呼び、特発性AIHAの10~20%程度を占める。2)寒冷凝集素症(CAD)臨床症状は溶血と末梢循環障害によるものからなる。感染に続発するCAD は、比較的急激に発症し、ヘモグロビン尿を伴い貧血も高度となることが多い。マイコプラズマ感染では、発症から2~3週後の肺炎の回復期に溶血症状を来す。血中には抗マイコプラズマ抗体が出現し、寒冷凝集素価が上昇する時期に一致する。溶血は2~3週で自己限定的に消退する。EBウイルス感染に伴う場合は症状の出現から1~3週後にみられ、溶血の持続は1ヵ月以内である。特発性慢性CADの発症は潜行性が多く慢性溶血が持続するが、寒冷曝露による溶血発作を認めることもある。循環障害の症状として、四肢末端・鼻尖・耳介のチアノーゼ、感覚異常、レイノー現象などがみられる。これは皮膚微小血管内でのスラッジングによる。クリオグロブリンによることもある。皮膚の網状皮斑を認めるが、下腿潰瘍はまれである。脾腫はあっても軽度である。3)発作性寒冷ヘモグロビン尿症(PCH)現在ではわずかに小児の感染後性と成人の特発性病型が残っている。以前よくみられた梅毒性の定型例では、寒冷曝露が溶血発作の誘因となり、発作性反復性の血管内溶血とヘモグロビン尿を来す。寒冷曝露から数分~数時間後に、背部痛、四肢痛、腹痛、頭痛、嘔吐、下痢、倦怠感に次いで、悪寒と発熱をみる。はじめの尿は赤色ないしポートワイン色調を示し、数時間続く。遅れて黄疸が出現する。肝脾腫はあっても軽度である。このような定型的臨床像は非梅毒性では少ない。急性ウイルス感染後の小児PCHは5歳以下に多く、男児に優位で、季節性、集簇性を認めることがある。発症が急激で溶血は激しく、腹痛、四肢痛、悪寒戦慄、ショック状態や心不全を来したり、ヘモグロビン尿に伴って急性腎不全を来すこともある。発作性・反復性がなく、寒冷曝露との関連も希薄で、ヘモグロビン尿も必発とはいえない。成人の慢性特発性病型はきわめてまれである。気温の変動とともに消長する血管内溶血が長期間にわたってみられる。■ 分類AIHAは臨床的な観点から、有意な基礎疾患ないし随伴疾患があるか否かによって、続発性(2次性)と特発性(1次性、原発性)に、また臨床経過によって急性と慢性とに区分される。基礎疾患としては全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ(RA)などの自己免疫疾患とリンパ免疫系疾患が代表的である。マイコプラズマや特定のウイルス感染の場合、卵巣腫瘍や一部の潰瘍性大腸炎に続発する場合などでは、基礎疾患の治癒や病変の切除とともにAIHAも消退し、臨床的な因果関係が認められる。 ■ 予後温式AIHAで基礎疾患のない特発例では、治療により1.5年までに40%の症例でクームス試験の陰性化がみられる。特発性AIHAの生命予後は5年で約80%、10年で約70%の生存率であるが、高齢者では予後不良である。続発性の予後は基礎疾患によって異なり、リンパ系疾患に比べてSLEなどの自己免疫性疾患に続発する場合のほうが良好である。CADは感染後2~3週の経過で消退し、再燃しない。リンパ増殖性疾患に続発するものは基礎疾患によって予後は異なるが、この場合でも溶血が管理の中心となることは少ない。小児の感染後性のPCH は発症から数日ないし数週で消退する。強い溶血による障害や腎不全を克服すれば一般に予後は良好であり、慢性化や再燃をみることはない。梅毒に伴う場合の多くは、駆梅療法によって溶血の軽減や消退をみる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)(図1 AIHAの診断フローチャート)最初に溶血性貧血としての一般的基準を満たすことを確認し、次いで疾患特異的な検査によって病型を確定する。溶血性貧血の診断基準と自己免疫性溶血性貧血の診断基準を表1と表2に示す。画像を拡大する血液検査や臨床症状から溶血性貧血を疑った場合は、直接クームス試験を行い、陽性の場合は特異的クームス試験で赤血球上のIgG と補体成分を確認する。補体のみ陽性の場合は、寒冷凝集素症(CAD)や発作性寒冷ヘモグロビン尿症(PCH)の鑑別のため、寒冷凝集素価測定とDonath-Landsteiner(DL)試験を行う。寒冷凝集素は、凝集価が1,000 倍以上、または1,000 倍未満でも30℃以上で凝集活性がある場合には病的意義があるとされる。スクリーニング検査として、患者血清(37~40℃下で分離)と生食に懸濁したO型赤血球を混和し、室温(20℃)に30~60分程度放置後、凝集を観察する。凝集が認められない場合は病的意義のない寒冷凝集素と考えられる。凝集がみられた場合には、さらに温度作動域の検討を行う。凝集素価が低値でもアルブミン法などで30℃以上での凝集が認められる場合は低力価寒冷凝集素症とする。DL 抗体の検出は、現在外注で依頼できる検査機関がないことから、自前の検査室で行う必要がある。直接クームス試験が陰性であったり、特異的クームス試験で補体のみ陽性の場合でも、症状などから温式AIHA が疑われる場合やほかの溶血性貧血が否定された場合は、赤血球結合IgG 定量を行うとクームス陰性AIHA と診断できることがある。温式AIHAと寒冷凝集素症が合併している場合は、混合型AIHA の診断となる。表1 溶血性貧血の診断基準(厚生労働省 特発性造血障害に関する調査研究班[平成16年度改訂])1)1)臨床所見として、通常、貧血と黄疸を認め、しばしば脾腫を触知する。ヘモグロビン尿や胆石を伴うことがある。2)以下の検査所見がみられる。(1)へモグロビン濃度低下(2)網赤血球増加(3)血清間接ビリルビン値上昇(4)尿中・便中ウロビリン体増加(5)血清ハプトグロビン値低下(6)骨髄赤芽球増加3)貧血と黄疸を伴うが、溶血を主因としない他の疾患(巨赤芽球性貧血、骨髄異形成症候群、赤白血病、congenital dyserythropoietic anemia、肝胆道疾患、体質性黄疸など)を除外する。4)1)、2)によって溶血性貧血を疑い、3)によって他疾患を除外し、診断の確実性を増す。しかし、溶血性貧血の診断だけでは不十分であり、特異性の高い検査によって病型を確定する。表2 自己免疫性溶血性貧血(AIHA)の診断基準(厚生労働省 特発性造血障害に関する調査研究班[平成16年度改訂])1)1)溶血性貧血の診断基準を満たす。2)広スペクトル抗血清による直接クームス試験が陽性である。3)同種免疫性溶血性貧血(不適合輸血、新生児溶血性疾患)および薬剤起因性免疫性溶血性貧血を除外する。4)1)~3)によって診断するが、さらに抗赤血球自己抗体の反応至適温度によって、温式(37℃)の(1)と、冷式(4℃)の(2)および(3)に区分する。(1)温式自己免疫性溶血性貧血臨床像は症例差が大きい。特異抗血清による直接クームス試験でIgGのみ、またはIgGと補体成分が検出されるのが原則であるが、抗補体または広スペクトル抗血清でのみ陽性のこともある。診断は(2)、(3)の除外によってもよい。(2)寒冷凝集素症(CAD)血清中に寒冷凝集素価の上昇があり、寒冷曝露による溶血の悪化や慢性溶血がみられる。直接クームス試験では補体成分が検出される。(3)発作性寒冷ヘモグロビン尿症(PCH)ヘモグロビン尿を特徴とし、血清中に二相性溶血素(Donath-Landsteiner抗体)が検出される。5)以下によって経過分類と病因分類を行う。急性推定発病または診断から6ヵ月までに治癒する。慢性推定発病または診断から6ヵ月以上遷延する。特発性基礎疾患を認めない。続発性先行または随伴する基礎疾患を認める。6)参考(1)診断には赤血球の形態所見(球状赤血球、赤血球凝集など)も参考になる。(2)温式AIHAでは、常用法による直接クームス試験が陰性のことがある(クームス陰性AIHA)。この場合、患者赤血球結合IgGの定量が有用である。(3)特発性温式AIHAに特発性血小板減少性紫斑病(ITP)が合併することがある(エヴァンス症候群)。また、寒冷凝集素価の上昇を伴う混合型もみられる。(4)寒冷凝集素症での溶血は寒冷凝集素価と平行するとは限らず、低力価でも溶血症状を示すことがある(低力価寒冷凝集素症)。(5)自己抗体の性状の判定には抗体遊出法などを行う。(6)基礎疾患には自己免疫疾患、リウマチ性疾患、リンパ増殖性疾患、免疫不全症、腫瘍、感染症(マイコプラズマ、ウイルス)などが含まれる。特発性で経過中にこれらの疾患が顕性化することがある。(7)薬剤起因性免疫性溶血性貧血でも広スペクトル抗血清による直接クームス試験が陽性となるので留意する。診断には臨床経過、薬剤中止の影響、薬剤特異性抗体の検出などが参考になる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 温式AIHAの治療(図2 特発性温式AIHAの治療フローチャート)画像を拡大する特発性の温式AIHAの治療では、副腎皮質ステロイド薬、摘脾術、免疫抑制薬が三本柱であり、そのうち副腎皮質ステロイド薬が第1選択である。特発性の80~90%はステロイド薬単独で管理が可能と考えられる。1)急性期:初期治療(寛解導入療法)ステロイド薬使用に対する重大な禁忌条件がなければ、プレドニゾロン換算で1.0mg/kgの大量(標準量)を連日経口投与する。高齢者や随伴疾患があるときは、減量投与が勧められる。約40%は4週までに血液学的寛解状態に達する。AIHAでは輸血はけっして安易に行わず、できる限り避けるべきとするのが一般的であるが、薬物治療が効果を発揮するまでの救命的な輸血は、機を失することなく行う必要がある。その場合、生命維持に必要なヘモグロビン濃度の維持を目標に行う。安全な輸血のため、輸血用血液の選択についてあらかじめ輸血部門と緊密な連携を取ることが勧められる。2)慢性期:ステロイド減量期ステロイド薬の減量は、状況が許すならば急がず、慎重なほうがよく、はじめの1ヵ月で初期量の約半量(中等量0.5mg/kg/日)とし、その後は溶血の安定度を確認しながら2週に5mgくらいのペースで減量し、10~15mg/日の初期維持量に入る。減量期に約5%で悪化をみるが、その際はいったん中等量(0.5mg/kg/日)まで増量する。3)寛解期:維持療法・治療中止時期ステロイド薬を初期維持量まで減量したら、網赤血球とクームス試験の推移をみて、ゆっくりとさらに減量を試み、平均5mg/日など最少維持量とする。直接クームス試験が陰性化し、数ヵ月以上経過しても再陽性化や溶血の再燃がみられず安定しているなら、維持療法をいったん中止して追跡することも可能となる。4)増悪期:再燃時、ステロイド不応例維持療法中に増悪傾向が明らかならば、早めに中等量まで増量し、寛解を得た後、再度減量する。ステロイド薬の維持量が15mg/日以上の場合、また副作用・合併症の出現があったり、悪化を繰り返すときは、2次・3次選択である摘脾や免疫抑制薬、抗体製剤の採用を積極的に考える。ステロイドによる初期治療に不応な場合は、まず悪性腫瘍などからの続発性AIHAの可能性を検索する。基礎疾患が認められない場合は、特発性温式AIHAとして複数の治療法が考慮されるが、優先順位や適応条件についての明確な基準はなく、患者の個別の状況により選択され、いずれの治療法もAIHAへの保険適用はない。唯一、摘脾とリツキシマブについては短期の有効性が実証されており、摘脾が標準的な2次治療として推奨されている。(1)摘脾脾臓は感作赤血球を処理する主要な臓器であり、自己抗体産生臓器でもある。わが国では特発性AIHAの約15%(欧米では25~57%)で摘脾が行われており、短期の有効性は約60%と高い。ステロイド投与が不要となる症例や20%程度に治癒症例もみられることから、ステロイド不応性AIHAの2次治療として推奨されている。(2)リツキシマブステロイド不応性温式AIHAに対する新たな治療法として注目されている。短期の有効性について多くの報告はあるが、まだ保険適用ではない。標準的治療としては375mg/m2を1週間おきに4回投与する。80%の有効率が報告されている。安全性に関しても大きな問題はない。短期間のステロイド投与を併用した低用量のリツキシマブ(100mg、4週ごと投与)も試みられている。(3)免疫抑制薬ステロイドに次ぐ薬物療法の2次選択として、シクロホスファミドやアザチオプリンなどが用いられる。主な作用は抗体産生抑制で、有効率は35~40%で、ステロイド薬の減量効果が主である。免疫抑制、催奇形性、発がん性、不妊症など副作用に注意が必要であり、有効であったとしても数ヵ月以上の長期投与は避ける。■ 冷式AIHAの治療保温が最も基本的である。室温、着衣、寝具などに十分な注意を払い、身体部分の露出や冷却を避ける。輸血や輸液の際の温度管理も問題となる。CADに対する副腎皮質ステロイド薬の有効性は温式AIHAに比しはるかに劣るが、激しい溶血の時期には短期間用いて有効とされることが多い。貧血が高度であれば、赤血球輸血も止むを得ないが、補体(C3d)を結合した患者赤血球が溶血に抵抗性となっているのに対し、輸注する赤血球はむしろ溶血しやすい点に留意する。摘脾は通常適応とはならない。リンパ腫に伴うときは、原疾患の化学療法が有効である。マイコプラズマ肺炎に伴うCADでは適切な抗菌薬を投与するが、溶血そのものに対する効果とは別であり、経過が自己限定的なので、保存療法によって自然経過を待つのが原則である。特発性慢性CADの治療として、リツキシマブ単独療法やリツキシマブ+フルダラビン併用療法が報告されている。■ PCHの治療小児で急性発症するPCHは、寒冷曝露との関連が明らかではないが、保温の必要性は同様である。急性溶血期を十分な支持療法で切り抜ける。溶血の抑制に副腎皮質ステロイド薬が用いられ、有効性は高い。小児PCHでは、摘脾を積極的に考慮する状況は少ない。貧血の進行が急速なら赤血球輸血も必要となるが、DL抗体はP特異性を示すことが多く、供血者赤血球は大多数がP陽性なので、溶血の悪化を招く恐れもある。急性腎不全では血液透析も必要となる。4 今後の展望AIHAの治療では、リツキシマブが登場したことで、ステロイド不応例などでの治療選択の幅が広がった。今後、自己抗原反応性T細胞などを対象にした疾患特異的な治療法の開発が期待される。5 主たる診療科血液内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報特発性造血障害に関する調査研究班(医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 自己免疫性溶血性貧血(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)改訂版作成のためのワーキンググループ(厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業特発性造血障害に関する調査研究). 自己免疫性溶血性貧血 診療の参照ガイド(平成26年度改訂版). 特発性造血障害に関する調査研究班.(参照2015.4.17)2)改訂版作成のためのワーキンググループ(厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業特発性造血障害に関する調査研究). 自己免疫性溶血性貧血 診療の参照ガイド(平成28年度改訂版). 特発性造血障害に関する調査研究班. (参照2017)公開履歴初回2015年05月26日更新2017年04月04日

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Sepsis-3の予後予測に最適な指標について(解説:小林 英夫 氏)-638

 本論文は、オセアニア地域の18万例以上のデータベースを用いた後方視的コホート研究で、結論は、感染症疑いで集中治療室(ICU)に入院した症例の院内死亡予測には「連続臓器不全評価(SOFA)スコア2点以上」が、全身性炎症反応症候群(SIRS)診断基準や迅速SOFA(qSOFA)スコアよりも有用、となっている。この研究背景は、集中治療以外の医師にとっては、ややなじみにくいかもしれないので概説する。 敗血症(Sepsis)の定義が、2016年にSepsis-3として改訂された。Sepsisは病態・症候群であり決定的診断基準が確立していないため、研究の進歩とともにその基準が改定される。SIRSという過剰炎症に引き続き、代償性抗炎症反応症候群(CARS)という免疫抑制状態が生じるなど、敗血症ではより複雑多様な変化が生じていることから、その視点を臓器障害に向ける必要性が指摘された。Sepsis-3は、15年ぶりの改定で従来と大きく変化している。その新定義は「感染症に対する制御不十分な宿主反応に起因した生命を脅かす臓器障害」となった。1991年のSepsis-1の定義「感染によって生じたSIRS」とは大きく変化した。定義の変更は診断基準の変更を伴い、ICUにおいては「SOFAスコア計2点以上」がSepsis-3で導入された。SOFAスコアとは、呼吸・凝固・肝・血圧・中枢神経・腎の6項目を各々5段階評価し、合計点で評価する手法である。Sepsis-3は、菌血症やSIRSの有無が条件から消え、より重症度が高い患者集団すなわち旧基準の重症敗血症に限定されている。 さらに、Sepsis-3ではICUとICU以外の診断手順が異なる。ICU以外では検査やモニタリングをせずとも、ベッドサイドの観察だけで判定可能なqSOFAがスクリーニングツールに導入された。スコア2つ以上でSepsis疑いとなり、引き続きSOFAスコア評価を実施することとなる(qSOFAは、呼吸数22回/分以上、収縮期血圧100mmHg以下、意識障害(GCS<15)で規定される)。この診断特異度は低いものの、外来やベッドサイドでのSepsis-3疑い検出には簡便で、多方面での普及が望まれる。なお、本論文に直接関わらないが、Septic shockとは「死亡率を増加させるのに十分に重篤な循環、細胞、代謝の異常を有する敗血症のサブセット」で、適切な輸液負荷にもかかわらず平均血圧65mmHg以上を維持するための循環薬を必要とし、かつ血清乳酸値の2mmol/L以上、と定義されている。 以上の背景を鑑みれば、文頭に記述した本論文の結論は予測された内容であろう。注意点として、Sepsisには絶対的指標がないため、Sepsis-3診断基準が何をみているのかを常に念頭に置く必要がある。また、院内死亡率は全死亡率なので死亡原因は時期によっても異なり、敗血症以外の死亡集団も含んでしまうことになるといった側面も指摘できよう。参考までに、日本集中治療医学会・日本救急医学会のホームページには日本版敗血症診療ガイドライン2016が、JAMA誌2017年1月19日号にはManagement of Sepsis and Septic Shockが公表されている。参考Howell MD, et al. JAMA. 2017 Jan 19.[Epub ahead of print]日本版敗血症診療ガイドライン2016(日本集中治療医学会/日本救急医学会)PDF

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敗血症性ショックへのバソプレシンの腎不全改善効果は?/JAMA

 敗血症性ショック患者に対する昇圧薬の1次治療では、バソプレシンの腎不全の改善効果はノルエピネフリンを上回らないことが、英国インペリアル・カレッジ・ロンドンのAnthony C Gordon氏らが実施したVANISH試験で示された。研究の成果は、JAMA誌2016年8月2日号に掲載された。敗血症性ショックには感染症治療に加え輸液および昇圧薬の投与が行われる。米国では昇圧薬の1次治療はノルエピネフリンが推奨されているが、バソプレシンは糸球体濾過量の維持や、クレアチニンクリアランスの改善の効果がより高いことが示唆されている。腎不全への効果を無作為化要因(2×2)試験で評価 VANISH試験は、敗血症性ショック患者において、バソプレシンとノルエピネフリンの早期投与による腎不全への有効性を比較する二重盲検無作為化要因(2×2)試験(英国国立健康研究所[NIHR]の助成による)。 対象は、年齢16歳以上、発症後6時間以内に初期蘇生輸液を行ったものの昇圧薬の投与を要する病態を呈する敗血症性ショックの患者であった。 被験者は、バソプレシン(最大0.06U/分まで漸増)+ヒドロコルチゾン、バソプレシン+プラセボ、ノルエピネフリン(最大12μg/分まで漸増)+ヒドロコルチゾン、ノルエピネフリン+プラセボを投与する4つの群に無作為に割り付けられた。目標平均動脈圧(MAP)は65~75mmHgが推奨された。 主要評価項目は、割り付け後28日間の腎不全(AKIN基準ステージ3)のない日とし、(1)腎不全が発現しない患者の割合、および(2)死亡、腎不全あるいはその双方が発現した患者の生存または腎不全のない日数(中央値)の評価を行った。より大規模な試験で検証を 2013年2月~2015年5月までに、英国の18の集中治療室(ICU)に409例が登録された。全体の年齢中央値は66歳、男性が58.2%を占め、ショックの診断から昇圧薬の投与までの期間中央値は3.5時間だった。 腎不全がみられない生存者の割合は、バソプレシン群が57.0%(94/165例)ノルエピネフリン群は59.2%(93/157例)であり、両群間に有意な差を認めなかった(群間差:-2.3%、95%信頼区間[CI]:-13.0~8.5%)。 死亡、腎不全あるいはその双方が発現した患者における腎不全のない日数中央値は、バソプレシン群が9日(IQR:1~24)、ノルエピネフリン群は13日(IQR:1~25)であり、有意な差はみられなかった(群間差:-4日、95%CI:-11~5日)。 腎代替療法の導入率は、バソプレシン群が25.4%と、ノルエピネフリン群の35.3%に比べ有意に低かった(群間差:-9.9%、95%CI:-19.3~−0.6%)。 28日死亡率は、バソプレシン群が30.9%(63/204例)、ノルエピネフリン群は27.5(56/204例)であり、有意な差はなかった(群間差:3.4%、95%CI:-5.4~12.3%)。 また、重篤な有害事象の発現率は、バソプレシン群が10.7%(22/205例)、ノルエピネフリン群は8.3%(17/204例)であり、有意差はなかった(群間差:2.5%、95%CI:-3.3~8.2%)。 著者は、「これらの知見は、ノルエピネフリンの代替としてバソプレシンを使用することを支持しないが、95%CIの範囲はバソプレシンが臨床的に意味のあるベネフィットをもたらす可能性を含んでおり、より大規模な試験での検証を要すると考えられる」と指摘している。

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疑わしきは、まず渡航歴の聴取

 7月14日、国立国際医療研究センター病院/国際感染症センターは、蚊媒介感染症の1つである「黄熱」についてのメディアセミナーを同院で開催した、セミナーでは、流行状況、予防、診療の観点から解説が行われた。ゼロではない、黄熱持ち込みの可能性 はじめに、石金 正裕氏(同院国際感染症センター)が、「現在の流行状況:リスク評価」をテーマに説明を行った。 黄熱は、フラビウイルス科に属する黄熱ウイルスを原因とし、ネッタイシマカによって媒介・伝播される感染症である。そのため体液などを介したヒトヒト直接感染はないとされる。 主にアフリカ、南アメリカ地域で流行し、世界保健機関(WHO)の推計では、全世界の年間患者数は8万4,000人~17万人(うち死亡者は最大6万人)と推定されている。 感染後の潜伏期は3~6日、多くの場合は無症状であるが、頭痛、発熱、筋肉痛、嘔吐などの症状を呈し、重症化すると複数臓器からの出血、黄疸などを来すという(重症化した場合の致命率は20~50%)。多くの場合、症状発現後3~4日程度で回復するが、一部は重症化する。診断は、ウイルスの遺伝子または抗体のPCR法での検査による。現在、有効な治療薬はなく、輸液や頭痛、発熱などの対症療法が行われるが、黄熱ワクチンによる予防はできる。 アフリカ南西部のアンゴラでは、30年ぶりの黄熱のアウトブレイクが報告され、周辺地域への感染拡大が懸念されるとともに、流行地域である中南米のリオデジャネイロ(ブラジル)でのオリンピック開催に伴う、感染拡大も懸念されている。 媒介する蚊の性質の違いや他国の輸入例での感染不拡大をみると、輸入例を端緒として国内感染が起こる可能性は低いとしながらも、「わが国に持ち込まれる可能性はゼロではないため、引き続き流行地域渡航時のワクチン接種と防蚊対策は重要であり、医療者は患者さんへの渡航歴の聴取など漏らさず行ってほしい」と注意を促した。 なお、わが国では、第2次世界大戦以降、輸入例も含め報告例は1例もなく、現在4類感染症に指定されている。健康な旅行はワクチン接種から 次に竹下 望氏(同院国際感染症センター)が、「日本に黄熱を持ち込ませないために」と題して、黄熱ワクチンと防蚊対策に重点をおいて解説を行った。 黄熱の予防ワクチンは、1回接種で、0.5mLを皮下注射で接種し、生涯免疫が獲得できるとされている。国際保健規則(IHR)では、生後9ヵ月以上の渡航者が黄熱流行地域に渡航する際、その国や地域ごとに予防接種の推奨または義務付けがされている(接種後28日間は他のワクチン接種ができなくなるので注意)。 ワクチンの接種では、生後9ヵ月未満の子供、アレルギーを既往に持つ人(とくに卵)、免疫低下と診断され持病のある人、免疫抑制の治療中の人、胸腺不全/胸腺切除術を受けた人は、禁忌とされている(渡航時は禁忌証明書の発行が必要)。また、妊婦、授乳婦、免疫低下の疾患(たとえばHIVなど)を持病に持つ人、60歳以上の高齢者は、慎重な判断が必要とされている。 予想される副反応は、軽微なもので発熱、倦怠、接種部位の発赤、痒みなどがあり、約5~10日ほど続く。重度な副反応としては、重いアレルギー反応(5万人に約1人)、神経障害(12万人に約1人)、内臓障害(25万人に1人)が確認されている。ワクチンの接種は、全国20ヵ所の検疫所関連機関、2ヵ所の日本検疫衛生協会診療所、国立国際医療センター、東京医科大学病院などで受けることができる。 リオデジャネイロへの渡航については、沿岸部に1週間程度の滞在ならワクチンの接種は必要ないものの、アマゾン川上流域やイグアスなどに行く場合は接種を考慮したほうがよい。滞在中は防蚊対策(露出の少ない服装、虫よけ薬の塗布など)をしっかり行うこと、A型肝炎、破傷風などにも注意することが必要だという。 最後に「健康な旅行のための10か条」として、予防接種のほかに、渡航前に旅行医学の専門医に相談する、常備薬や服用薬の準備、旅行者保険への加入、現地での事故に注意する、性交渉ではコンドームを装着、安全な水・食糧の確認、日光曝露への対応、不必要に動物に近づかないなどの注意を喚起した。「旅行先で感染し、国内に持ち込ませないためにも、適切な時期にワクチンなどを接種することで予防計画を立てて旅をしてほしい」とレクチャーを終えた。黄熱との鑑別はどうするか 最後に大曲 貴夫氏(同院国際感染症センター長)が、「黄熱をうたがった場合の対応」として医師などが診断で気を付けるべきポイントを解説した。 黄熱の臨床所見は、先述のもの以外に仙腰痛、下肢関節痛、食欲不振など非特異的な症状がみられ、とくに病初期にはマラリアと酷似しており鑑別は難しいという。また、マラリアだけでなく、デング熱、チクングニア熱、ワイル病、回帰熱、ウイルス性肝炎、リフトバレー熱、Q熱、腸チフスなどの疾患とも症状が似ている。何よりも、外来ではまず「渡航歴」を聴くことが重要で、これで診断疾患を絞ることもできるので、疑わしい場合は問診で患者さんに確認することが大切だという。また、診断に迷ったら、専門医に相談することも重要で、日本感染症学会サイトの専門医を活用することもできる。 最後に、「患者が入院したときの対応として、『患者さんの体液、とくに血液に直接触れない』、『針刺し事故を起こさない』を順守し、感染防止を徹底してほしい」とレクチャーを終えた1)。厚生労働省検疫所-FORTH 黄熱について

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超人伝説【Dr. 中島の 新・徒然草】(107)

百七の段 超人伝説遠い遠い昔、ICUで研修医をしていたころのことです。何かの拍子に超人的な記憶力を持つ先生のことが話題になりました。その先生は、これまでにICUに入室した個々の患者さんの経過はもとより、細かい検査の数値に至るまで、すぐに答えていたそうです。ところがある日のこと、何故その先生が何でも覚えているかが判明してしまいました。なんと!週刊誌代わりにいつも患者さんのチャートをペラリ、ペラリとめくって眺めていたのだそうです。チャートというのは、あの上半分が方眼紙みたいになっているICU特有の熱形表のことです。たしか1日分がA3くらいの大きさでした。その先生、特に数字を覚えようとか勉強しようとか、そんな気もなく、単に眺めていただけ。でも、常時ペラリ、ペラリとやっていると、いつの間にか内容が頭に入ってしまい、驚異の記憶力を持つ人間だと周囲に誤解されてしまったのです。さて、このエピソードからは学ぶべきことは2つあります。1つは、「ペラリ、ペラリ」は常人を超人にする力があるということです。単なる習慣だけで「驚異の記憶力」を持つことができたら素晴らしいですよね。もう1つ。「ペラリ、ペラリ」だけで通用するのは、せいぜいチャート止まりだろうということです。ICUのチャートには、特別複雑なことが書かれているわけではありません。バイタルや輸液量、簡単な検査結果くらいです。なので、「ペラリ、ペラリ」だけで中身がいつの間にか頭に定着したのも当然です。でも、小難しい教科書をいくら「ペラリ、ペラリ」とやっても、わからないまま残ってしまいます。まずは、机の前に座り、腰を据えて本気で内容を理解するべきです。いったん理解しさえすれば、後は「ペラリ、ペラリ」が本領発揮です。ということで某先生の「ペラリ、ペラリ」戦法、よかったら皆さんもお使い下さい。最後に1句常人を 超人化する ペラリかな

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Dr.山本の感染症ワンポイントレクチャー Q28

Q28 実際の侵入門戸は、三方活栓なのか、刺入部なのか、点滴自体の汚染なのか、また、カテーテル感染を防ぐために最も有用な手段について教えてください。 侵入門戸はご指摘のとおり、カテーテル刺入部、汚染したカテーテルのハブ、汚染した輸液などがあり、血行性に他の部位の感染巣から播種してくることもあります1)。 参考文献1)のフルテキストの中の図1がわかりやすいので参考になさってください。カテーテル感染を防ぐために最も有用な手段は、カテーテルを入れないことです。次の手段は不要なカテーテルを速やかに抜去することです。そんなのわかりきったことで、必要だから留置しているんだ! というお叱りもあるかもしれませんが、本当に毎日必要性を吟味されている方はどれくらいいらっしゃるでしょうか?最近、いろいろな病院の中にコンビニエンスストアができて、患者さんが買い物をしているのを見かけますが、どこの病院にもアミノ酸製剤らしき輸液がつながりながら、お弁当やらカップヌードルを買っている光景を目にします。点滴ラインが取りにくいから、何かあったときのためにラインを残しておきたい! という気持ちもわかりますが、必要性のないラインのためにカテーテル関連血流感染症(CRBSI)になり、長期間(たとえば黄色ブドウ球菌のCRBSIなら最低でも2週間、場合によっては数週間の点滴治療が必要になります)の経静脈的抗菌薬治療が必要になっては本末転倒です。 1)Crnich CJ, et al. Clin Infect Dis. 2002;34:1232-1242.

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抗がん薬副作用マネジメントの進展

 2015年12月10日都内にて、「抗がん薬副作用マネジメントの進展」と題するセミナーが開かれた(主催:アストラゼネカ株式会社)。演者である久保田 馨氏(日本医科大学附属病院 がん診療センター部長)は、抗がん薬の副作用対策を中心に講演。患者さんの負担を考えながら予防・対処する大切さを語った。 以下、セミナーの内容を記載する。【はじめに】 本セミナーでは「細胞障害性抗がん薬」の副作用のうち、好中球減少症とシスプラチン投与時の対処、さらに「分子標的薬」「免疫チェックポイント阻害薬」の副作用対策について述べる。【安易な予防的G-CSF投与は避けるべき】 「細胞障害性抗がん薬」で、注意すべき副作用に「発熱性好中球減少症」がある。この対処としては、以下の3点が推奨される。・リスクファクターの検討・単剤での有効性が確認されている薬剤の選択・発熱性好中球減少20%以上のレジメンでのG-CSF予防投与 ただし、最後の予防的G-CSF投与には注意が必要だ。過去、臨床では好中球減少が認められれば、発熱がない場合であってもG-CSF投与が行われてきた。 たとえば、発熱性好中球減少時の抗菌薬投与には、明らかな生存率改善のエビデンスがある。しかし、G-CSF投与を抗菌薬と同様に考えてはいけない。低リスク例へのG-CSF予防投与はエビデンスがなく、現状のガイドラインを鑑みても適切ではない。薬剤追加は、場合によってはがん患者のQOLを低くすることもある。それを上回るメリットがない限り、医療者は慎重になるべきである。【つらい悪心/嘔吐には適切な制吐薬を】 抗がん剤による悪心・嘔吐は患者にとって、最もつらい症状と言われており、QOL悪化につながる。実際、「がん化学療法で患者が最も嫌う副作用2005」の調査結果1)によると、コントロール不良の悪心/嘔吐(CINV)は死亡と同程度の位置付けであった。とくに、シスプラチンは催吐性リスクが高く、悪心・嘔吐の予防のために、適切な制吐薬を使用すべきである。2013 ASCO総会において発表されたTRIPLE試験では、パロノセトロンが遅発期において有意に悪心・嘔吐を抑制したことが示されている。高度催吐性化学療法時には、パロノセトロン+デキサメタゾン+アプレピタントの併用で悪心・嘔吐を予防することを推奨したい。【短時間輸液療法への期待】 患者さんは1回当たりの治療時間が長引くことを嫌がる。シスプラチン投与では輸液や利尿薬を使用し腎障害の軽減を図るわけだが、投与前後の輸液投与に4時間以上、薬剤の点滴に2時間以上かかるため、トータルで10時間以上かかってしまう。単純に尿量を確保する目的での大量補液は、外来治療が進む昨今の状況には合わず、そこまでして投与しても、Grade2以上の血清クレアチニン上昇は2割程度報告されていた2)。 そこで、マグネシウム補充がシスプラチン起因性腎障害抑制につながるとの報告3)を基に、久保田氏の所属施設を中心にマグネシウム補充を取り入れた形で短時間輸液療法を行うこととした。トータル3時間半の投与法で検討した結果、97.8%の患者でGrad2以上の腎障害の出現はなかった4)。 このように、現時点でもがん患者のQOL向上を目指す治療方法は研究され、実施されつつある。【分子標的薬、免疫CP阻害薬の副作用対策】 「分子標的薬」「免疫チェックポイント阻害薬」の副作用は、「細胞障害性抗がん薬」の副作用とは位置付けが異なる。 分子標的薬の副作用は、その標的を持つ正常細胞に限定して現れる。たとえば、抗EGFR抗体薬やEGFRチロシンキナーゼ阻害薬による皮膚症状などが代表的だ。この対策として、久保田氏の所属施設では、医療者用のスキンケア指導パンフレットを作成し活用している。保湿剤の一覧や塗布法、爪の切り方、入院・外来時スキンケア指導フローなどを共有することで、適切な対処につながる。 また、重大な副作用として「間質性肺炎」も注意が必要だ。投与4週以内の発症が多いので、患者さんには「発熱」「空咳」「息切れ」が出たら必ず来院するよう伝えることが大切だ。 最近登場した免疫チェックポイント阻害薬の副作用は、体内の多岐にわたる場所で起こる可能性がある。下垂体機能低下などホルモン異常による倦怠感なども、見逃さないよう注意が必要である。これまでの薬と異なり、投与10ヵ月後など有害事象がかなり遅れて発現するケースも報告されている。多くが外来で投与されることから、患者や家族へ事前説明をしっかりと行うことを意識していただきたい。【まとめ】 抗がん薬治療では副作用マネジメントが重要となる。薬剤の作用機序や薬物動態を正しく理解することは、副作用の適切な対処につながる。医療者側は、ぜひ正しい知識を持って、患者さんのために積極的な副作用対策を行っていただきたい。

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