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第7回 リモート出演で気になったタレントの“ナメクジ腫れ”

こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。5月14日、47都道府県のうち39県で新型コロナウイルス対策の緊急事態宣言が解除されました。残る宣言の対象区域は北海道、埼玉、千葉、東京、神奈川、京都、大阪、兵庫の8都道府県ですが、政府は5月21日を目処に解除の可否を改めて判断するとのことです。そんな自粛解除の流れの中、最近気になったのが、テレビのバラエティ番組に出ている女性タレントの顔です。タレントが自宅からリモート出演するバラエティ番組が増えていますが、ある若手女性タレントの目の下、いわゆる「下眼瞼」と呼ばれる部分が、ナメクジが付いたように腫れているのです。気になり出すとそこばかり目が行くもので、ここ2週間ばかりの間にもう1人、“ナメクジ腫れ”が生じている女性タレントを見つけました。“ナメクジ腫れ”の正体はいったい何でしょう? 知人に聞いたところ、「うかつなことは言えないけれど、ヒアルロン酸注射か二重(ふたえ)手術の痕では」との見立てでした。つまり、彼女たちはつい最近、美容整形の手術を受けたのではないか、というわけです。「不要の医療ではないが、不急の医療」私自身は美容整形の現場を取材したことはほとんどないので、「タレントも仕事が暇になったので、美容整形を受けに行ったのかな」と思っていただけなのですが、先週、あるニュースを読んでコロナの影響はこんなところにまで、と驚きました。それは共同通信が配信し、日本経済新聞(5月12日)や地方紙に掲載された「美容整形『多くは不急、今は控えて』」というニュースです。そのニュースによれば、記者が複数の美容関係者に取材したところ、新型コロナウイルス感染症の影響で外出自粛が続く中、美容整形を申し込む人が増えている、とのこと。記事は、「在宅勤務や休校、マスク着用で、手術後の顔の腫れや容姿の急変を他人に知られずに済むためではないか」と分析、「大学などが休みになり始める1月後半から予約が増えるのは例年通りだが、今年はとくに予約申し込みが多い」とのことでした。記事では、ある美容外科のケースも紹介、医療資材の不足から、消毒液の入手が困難な時期もあり、施術で通常10枚ほど用意するガーゼも2~5枚に制限、半分に切って使ったこともあった、としています。実際、外出自粛が続いた結果、今年の春の美容整形人気は本当のようです。日本美容外科学会はホームページで、一般の人に対して「美容医療をお受けになろうとお考えの方へ  新型コロナウィルス(COVID-19)感染予防に関するお願い」を掲示、「美容医療は不要の医療ではありませんが、多くの方にとって不急の医療と考えます」として「今お考えの美容医療は感染が収束するまでお待ちいただきたい」と訴えています。学会が「不急の医療」と言ってしまっている点が、なかなか興味深いです。一方、同学会は会員の医療機関にも、「美容外科診療の対応について」として、「待機可能な侵襲的美容外科治療を希望する患者に対しては、事態が収束に向かうまでは、実施内容の低侵襲化、あるいは実施の延期や中止を検討する」「新型コロナウィルス感染患者の治療に必要な医療資源(医療物資、輸液、抗生剤、ベンチレーター、医療スタッフ等)を感染症指定医療機関等へ供給することを最優先に考え、使用を最小限にすること」の2点を提言しています。国難と呼ばれる事態に不急の自由診療美容整形のプチブームに、私がとやかく言うことはありません。ただ、一つ気になったのは、美容整形外科の医師たちは、新型コロナウイルス感染症で医療リソース(モノもヒトも)が全国的に払底する時期にどう動いていたか、ということです。急性期病院勤務の医師は病院で新型コロナウイルスと戦い、都道府県医師会・郡市区医師会の医師は行政検査の委託を受け、PCR検査に携わるなどしています。たとえば、東京都医師会はPCR検査の体制を強化しようと、かかりつけ医の紹介で検査を受けられる「PCR検査センター」の設置を進めています。美容整形外科は自由診療がほとんどですから、地域の医師会に加入している医師も少ないでしょう。そうなると、ほとんどの美容整形外科医は、新型コロナウイルス感染症の診断・治療とは何の接点もないまま、自らの日常診療を続けていると思われます。先の日本美容外科学会の会員への呼びかけも「提言」となっており、会員に何らかのアクションを要請するものでもないからです。日本は自由標榜制なので、医師が自分の専門に美容整形外科を選ぶことは何の問題もありません。ただし、医師の教育・養成には相当の税金が投入されていることを考えると、“国難”と呼ばれる事態において、不急の自由診療だけに注力する医師の姿勢には、いささか疑問を覚えます。もっとも、新型コロナウイルス感染症の診断数がピークの頃、外来診療を止めてしまっていた、うちの近所の診療所(何科まではここでは書きません)も同類かもしれませんが…。

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非典型溶血性尿毒症症候群〔aHUS :atypical hemolytic uremic syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義非典型尿毒症症候群(atypical hemolytic uremic syndrome:aHUS)は、補体制御異常に伴い血栓性微小血管症(thrombotic microangiopathy:TMA)を呈する疾患である。TMAは、1)微小血管症性溶血性貧血、2)消費性血小板減少、3)微小血管内血小板血栓による臓器機能障害、を特徴とする病態である。■ 疫学欧州の疫学データでは、成人における発症頻度は毎年100万人に2~3人、小児では100万人に7人程度とされる。わが国での新規発症は年間100~200例程度と考えられている。わが国の遺伝子解析結果では、C3変異例の割合が高く(約30%)、欧米で多いとされるCFH遺伝子変異の割合は低い(約10%)。■ 病因病因は大きく、先天性、後天性、その他に分かれる。1)先天性aHUS遺伝子変異による補体制御因子の機能喪失あるいは補体活性化因子の機能獲得により補体第2経路が過剰に活性化されることで血管内皮細胞や血小板表面の活性化をもたらし微小血栓が産生されaHUSが発症する(表1)。機能喪失の例として、H因子(CFH)、I因子(CFI)、CD46(membrane cofactor protein:MCP)、トロンボモジュリン(THBD)の変異、機能獲得の例として補体C3、B因子(CFB)の変異が挙げられる。補体制御系ではないが、diacylglycerol kinase ε(DGKE)やプラスミノーゲン(PLG)遺伝子の変異も先天性のaHUSに含めることが多い。表1 aHUSの原因別の治療反応性と予後画像を拡大する2)後天性aHUS抗H因子抗体の出現が挙げられる。CFHの機能障害により補体第2経路が過剰に活性化する。抗H因子抗体陽性者の多くにCFHおよびCFH関連蛋白質(CFHR)1~5の遺伝子欠損が関与するとされている。3)その他現時点では原因が特定できないaHUSが40%程度存在する。■ 症状溶血性貧血、血小板減少、急性腎障害による症状を認める。具体的には血小板減少による出血斑(紫斑)などの出血症状や溶血性貧血による全身倦怠感、息切れ、高度の腎不全による浮腫、乏尿などである。発熱、精神神経症状、高血圧、心不全、消化器症状などを認めることもある。下痢があってもaHUSが否定されるわけではないことに注意を要する。aHUSの発症には多くの場合、感染症、妊娠、がん、加齢など補体の活性化につながるイベントが観察される。わが国の疫学調査でも、75%の症例で感染症を始めとする何らかの契機が確認されている。■ 予後一般に、MCP変異例は軽症で予後良好、CFHの変異例は重症で予後不良、C3変異例はその中間程度と言われている(表1)。海外データではaHUS全体における慢性腎不全に至る確率、つまり腎死亡率は約50%と報告されている。わが国の疫学データではaHUSの総死亡率は5.4%、腎死亡率は15%と比較的良好であった。特に、わが国に多いC3 p.I1157T変異例および抗CFH抗体陽性例の予後は良いとされている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ TMA分類の概念TMAの3徴候を認める患者のうち、STEC-HUS、TTP、二次性TMA(代謝異常症、感染症、薬剤性、自己免疫性疾患、悪性腫瘍、HELLP症候群、移植後などによるTMA)を除いたものを臨床的aHUSと診断する(図1)。図1 aHUS定義の概念図画像を拡大する■ 診断手順と鑑別診断フローチャート(図2)に従い鑑別診断を進めていく。図2 TMA鑑別と治療のフローチャート画像を拡大する1)TMAの診断aHUS診断におけるTMAの3徴候は、下記のとおり。(1)微小血管症性溶血性貧血:ヘモグロビン(Hb) 10g/dL未満血中 Hb値のみで判断するのではなく、血清LDHの上昇、血清ハプトグロビンの著減(多くは検出感度以下)、末梢血塗沫標本での破砕赤血球の存在をもとに微小血管症性溶血の有無を確認する。なお、破砕赤血球を検出しない場合もある。(2)血小板減少:血小板(platelets:PLT)15万/μL未満(3)急性腎障害(acute kidney injury:AKI):小児例では年齢・性別による血清クレアチニン基準値の1.5倍以上(血清クレアチニンは、日本小児腎臓病学会の基準値を用いる)。成人例では、sCrの基礎値から1.5 倍以上の上昇または尿量0.5mL/kg/時以下が6時間以上持続のいずれかを満たすものをAKIと診断する。2)TMA類似疾患との鑑別溶血性貧血を来す疾患として自己免疫性溶血性貧血(AIHA)が鑑別に挙がる。AIHAでは直接クームス試験が陽性となる。消費性血小板減少を来す疾患としては、播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:DIC)を鑑別する。PT、APTT、FDP、Dダイマー、フィブリノーゲンなどを測定する。TMAでは原則として凝固異常はみられないが、DICでは著明な凝固系異常を呈する。また、DICは通常感染症やがんなどの基礎疾患に伴い発症する。3)STEC-HUSとの鑑別食事歴と下痢・血便の有無を問診する。STEC-HUSは、通常血液成分が多い重度の血便を伴う。超音波検査では結腸壁の著明な肥厚とエコー輝度の上昇が特徴的である。便培養検査、便中の志賀毒素直接検出検査、血清の大腸菌O157LPS抗体検査が有用である。小児では、STEC-HUSがTMA全体の約90%を占めることから、生後6ヵ月以降で、重度の血便を主体とした典型的な消化器症状を伴う症例では、最初に考える。逆に生後6ヵ月までの乳児にTMAをみた場合はaHUSを強く疑う。小児のSTEC-HUSの1%に補体関連遺伝子変異が認められると報告されている点に注意が必要である。詳細は、HUSガイドラインを参照。4)TTPとの鑑別血漿を採取し、ADAMTS13活性を測定する。10%未満であればTTPと診断できる。aHUS、STEC-HUS、二次性TMAなどでもADAMTS13活性の軽度低下を認めることがあるが、一般に20%以下にはならない。aHUSにおける臓器障害は急性腎障害(AKI)が最も多いのに対して、TTPでは精神神経症状を認めることが多い。TTPでも血尿、蛋白尿を認めることがあるが、腎不全に至る例はまれである。5)二次性TMAとの鑑別TMAを来す基礎疾患を有する二次性TMAの除外を行った患者が、臨床的にaHUSと診断される。aHUS確定診断のための遺伝子診断は時間を要するため、多くの症例で急性期には臨床的に判断する。表2に示す二次性TMAの主たる原因を記す。可能であれば、原因除去あるいは原疾患の治療を優先する。コバラミン代謝異常症は特に生後6ヵ月未満で考慮すべき病態である。生後1年以内に、哺乳不良、嘔吐、成長発育不良、活気低下、筋緊張低下、痙攣などを契機に発見される例が多いが、成人例もある。ビタミンB12、血漿ホモシスチン、血漿メチルマロン酸、尿中メチルマロン酸などを測定する。乳幼児の侵襲性肺炎球菌感染症がTMAを呈することがある。直接Coombs試験が約90%の症例で陽性を示す。肺炎球菌が産生するニューラミニダーゼによって露出するThomsen-Friedenreich (T)抗原に対する抗T-IgM抗体が血漿中に存在するため、血漿投与により病状が悪化する危険性がある。新鮮凍結血漿を用いた血漿交換療法や血漿輸注などの血漿治療は行わない。妊娠関連のTMAのうち、HELLP症候群(妊娠高血圧症に合併する溶血性貧血、肝障害、血小板減少)や子癇(妊娠中の高血圧症と痙攣)は分娩により速やかに軽快する。妊娠関連TMAは常位胎盤早期剥離に伴うDICとの鑑別も重要である。TTPは妊娠中の発症が多く,aHUSは分娩後の発症が多い。腎移植後に発症するTMAは、原疾患がaHUSで腎不全に陥った症例におけるaHUSの再発、腎移植後に新規で発症したaHUS、臓器移植に伴う急性抗体関連型拒絶反応が疑われる。aHUSが疑われる腎不全患者に腎移植を検討する場合は、あらかじめ遺伝子検査を行っておく。表2 二次性TMAの主たる原因a)妊娠関連TMAHELLP症候群子癪先天性または後天性TTPb)薬剤関連TMA抗血小板剤(チクロビジン、クロピドグレルなど)カルシニューリンインヒビターmTOR阻害剤抗悪性腫瘍剤(マイトマイシン、ゲムシタビンなど)経口避妊薬キニンc)移植後TMA固形臓器移植同種骨髄幹細胞移植d)その他コパラミン代謝異常症手術・外傷感染症(肺炎球菌、百日咳、インフルエンザ、HIV、水痘など)肺高血圧症悪性高血圧進行がん播種性血管内凝固症候群自己免疫疾患(SLE、抗リン脂質抗体症候群、強皮症、血管炎など)(芦田明ほか.日本アフェレシス学会雑誌.2015;34:40-47.より引用・改変)6)家族歴の聴取家族にTMA(aHUSやTTP)と診断された者や原因不明の腎不全を呈した者がいる場合、aHUSを疑う。ただし、aHUS原因遺伝子変異があっても発症するのは全体で50%程度とされている。よって家族性に遺伝子変異があっても家族歴がはっきりしない例も多い。さらに孤発例も存在する。7)治療反応性による診断の再検討aHUSは 75%の症例で感染症など何らかの疾患を契機に発症する。二次性TMAの原因となる疾患がaHUSを惹起することもある。実臨床においては二次性TMAとaHUSの鑑別はしばしば困難である。2次性TMAと考えられていた症例の中で、遺伝子検査によりaHUSと診断が変更されることは少なくない。いったんaHUSあるいは二次性TMAと診断しても、治療反応性や臨床経過により診断を再検討することが肝要である(図2)。■ 検査1)一般検査血算、破砕赤血球の有無、LDH、ハプログロビン、血清クレアチニン、各種凝固系検査でTMAを診断する。ADAMTS13-活性検査は保険適用となっている。STEC-HUSの鑑別を要する場合は便培養、便中志賀毒素検査、血清大腸菌O157LPS抗体検査を行う。一般の補体検査としてC3、C4を測定する。C3低値、C4正常は補体第2経路の活性化を示唆するが、aHUS全体の50%程度でしか認められない。2)補体関連特殊検査現在、全国aHUSレジストリー研究において、次に記す検査を実施している。ヒツジ赤血球を用いた溶血試験CFH遺伝子異常、抗CFH抗体陽性例において高頻度に陽性となる。比較的短期間で結果が得られる。診断のフローとしては、臨床的にaHUSが疑ったら溶血試験を実施する(図2)。抗CFH抗体検査:ELISA法にてCFH抗体を測定する。抗CFH抗体出現には、CFHおよびCFH関連蛋白質(CFHR)1~5の遺伝子欠損が関与するとされているため、遺伝子検査も並行して実施する。CFHR 領域は、多彩な遺伝子異常が報告されているが、相同性が高いことから遺伝子検査が困難な領域である。その他aHUSレジストリー研究では、血中のB因子活性化産物、可溶性C5b-9をはじめとする補体関連分子を測定しているが、その診断的意義は現時点で明確ではない。*問い合わせ先を下に記す。aHUSレジストリー事務局(名古屋大学 腎臓内科:ahus-office@med.nagoya-u.ac.jp)まで■ 遺伝子診断2020年4月からaHUSの診断のための補体関連因子の遺伝子検査が保険適用となった。既知の遺伝子として知られているC3、CFB、CFH、CFI、MCP(CD46)、THBD、diacylglycerol kinase ε(DGKE)を検査する。臨床的にaHUSと診断された患者の約60%にこれらの遺伝子変異を認める。さらに詳細な遺伝子解析についての相談は、上記のaHUSレジストリー事務局で受け付けている。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)aHUSが疑われる患者は、血漿交換治療や血液透析が可能な専門施設に転送して治療を行う。TMA を呈し、STEC-HUS や血漿治療を行わない侵襲性肺炎球菌感染症などが否定的である場合には、速やかに血漿交換治療を開始する。輸液療法・輸血・血圧管理・急性腎障害に対する支持療法や血液透析など総合的な全身管理も重要である。1)血漿交換・血漿輸注血漿療法は1970年代後半から導入され、aHUS患者の死亡率は50%から25%にまで低下した。血漿交換を行う場合は3日間連日で施行し、その後は反応を見ながら徐々に間隔を開けていく。血漿交換を行うことが難しい身体の小さい患児では血漿輸注が施行されることもある。血漿輸注や血漿交換により、aHUS の約70%が血液学的寛解に至る。しかし、長期的には TMA の再発、腎不全の進行、死亡のリスクは依然として高い。血漿交換が無効である場合には、aHUSではなく二次性TMAの可能性も考える。2)エクリズマブ(抗補体C5ヒト化モノクローナル抗体、商品名:ソリリス)成人では、STEC-HUS、TTP、二次性 TMA 鑑別の検査を行いつつ、わが国では同時に溶血試験を行う。溶血試験陽性あるいは臨床的にaHUSと診断されたら、エクリズマブの投与を検討する。小児においては、成人と比較して二次性 TMA の割合が低く、血漿交換や血漿輸注のためのカテーテル挿入による合併症が多いことなどから、臨床的にaHUS と診断された時点で早期にエクリズマブ投与の開始を検討する。aHUSであれば1週間以内、遅くとも4週間までには治療効果が見られることが多い。効果がみられない場合は、二次性TMAである可能性を考え、診断を再検討する(図2)。遺伝子検査の結果、比較的軽症とされるMCP変異あるいはC3 p.I1157T変異では、エクリズマブの中止が検討される。予後不良とされるCFH変異では、エクリズマブは継続投与される。※エクリズマブ使用時の注意エクリズマブ使用時には髄膜炎菌感染症対策が必須である。莢膜多糖体を形成する細菌の殺菌には補体活性化が重要であり、エクリズマブ使用下での髄膜炎菌感染症による死亡例も報告されている。そのため、緊急投与時を除きエクリズマブ投与開始2週間前までに髄膜炎菌ワクチンの接種が推奨される。髄膜炎菌ワクチン接種、抗菌薬予防投与ともに髄膜炎菌感染症の全症例を予防することはできないことに留意すべきである。具体的なワクチン接種や抗菌薬による予防および治療法については、日本腎臓学会の「ソリリス使用時の注意・対応事項」を参照されたい。3)免疫抑制治療抗CFH抗体陽性例に対しては、血漿治療と免疫抑制薬・ステロイドを併用する。臓器障害を伴ったaHUSの場合にはエクリズマブの使用も考慮される。抗CFH抗体価が低下したら、エクリズマブの中止を検討する。4 今後の展望■ aHUSの診断2020年4月からaHUSの遺伝子解析が保険収載された。aHUSの診断にとっては大きな進展である。しかし、aHUSの診断・治療・臨床経過には依然不明な点が多い。aHUSレジストリー研究の成果がaHUS診療の向上につながることが期待される。■ 新規治療薬アレクシオンファーマ合同会社は、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH) の治療薬として、長時間作用型抗補体(C5)モノクローナル抗体製剤ラブリズマブ(商品名:ユルトミリス)を上市した。エクリズマブは2週間間隔の投与が必要であるが、ラブリズマブは8週間隔投与で維持可能である。今後、aHUSへも適応が広がる見込みである。中外製薬株式会社は抗C5リサイクリング抗体SKY59の開発を進めている。現在のところ対象疾患はPNHとなっている。5 主たる診療科腎臓内科、小児科、血液内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)診療ガイド 2015(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 非典型溶血性尿毒症症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)aHUSレジストリー事務局ホームページ(名古屋大学腎臓内科ホームページ)(医療従事者向けのまとまった情報)1)Fujisawa M, et al. Clin and Experimental Nephrology. 2018;22:1088–1099.2)Goodship TH, et al. Kidney Int. 2017;91:539.3)Aigner C, et al. Clin Kidney J. 2019;12:333.4)Lee H,et al. Korean J Intern Med. 2020;35:25-40.5)Kato H, et al. Clin Exp Nephrol. 2016;20:536-543.公開履歴初回2020年04月14日

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プレゼンを鍛える総理大臣ごっこ【Dr. 中島の 新・徒然草】(316)

三百十六の段 プレゼンを鍛える総理大臣ごっこ中島「報告を聴く相手は忙しいのだから、要領よくやってくれ」若者「いつも中島先生にそう言われているので、心掛けてはいるのですけど」中島「そういえば先生は、ちょうど救急外来の発表することになっとったんやな」若者「そうなんですよ」中島「ちょうどいい機会なんで、僕を安倍総理と思ってプレゼンしてみよか」若者「なんですか、それ?」中島「相手を総理大臣と思ったら、要領よく適度な緊張感でしゃべれるやろ」若者「それはそうかもしれませんけど」中島「〇〇先生。総理大臣の安倍です。救急外来について教えてください」若者「い、いきなり総理大臣になっちゃうんですか!」やってみてわかりましたが、総理大臣ごっこというのは、意外に効果があります。中島「2次救急ではどのように患者さんを診ているのですか?」若者「患者さんがやってきたらですね、まずは最初に救急隊のほうからその方の倒れていた状況とか聴いて、もし御家族がついて来ていたら外で待ってもらって、できたらその間に、初診の人だったら受診手続きを」中島「相手は総理大臣や、そんな長い話は聴かんぞ。なんでも5秒以内や!」若者「救急隊から引き継いで、僕らは検査とか病歴とか問診とか」中島「順番が無茶苦茶や。それに病歴と問診は同じやないか」5秒以内というのは、長ったらしい内容を早口で言え、ということではありません。結論を先に言って、相手を飽きさせないことが大切です。中島「『まずは病歴と身体診察をした後に検査を行います』やろ!」若者「さすが中島先生、うまいですね」中島「中島先生やなくて安倍総理大臣や、今は」若者「わかりました、総理大臣。問診、診察、検査の順です」中島「検査とはどのようなものですか。総理大臣にもわかるように教えてください」若者「たとえば発熱の患者さんだったら、いろいろ感染症とか肺炎とか髄膜炎とかが疑われるので、血液培養とか、それと炎症の程度をみるために、白血球数とかCRPという血液中の……」中島「何っ! プーチン大統領から電話が? ちょっと席を外させてもらうよ」若者「総理、待ってください! プーチンさんは後でいいです!」中島「君が言いたいのは、血液・尿検査と心電図と画像検査ですか?」若者「そ、そうです」中島「なぜ私のほうが良く知っているんですかね」若者「総理、すみません」中島「それに『とか』をたくさん使うと、プレゼンのピントがぼけますよ」若者「気を付けます」ごっこ遊びをすると、いつの間にか役に没入してしまいます、不思議なことに。中島「では画像検査とは具体的にどのようなものですか」若者「頭部外傷の患者さんだったら、頭部CTとか、胸部レントゲンも肺炎を疑った場合には必要になってきて、時にはMRIもですね、どうしても撮らなくてはならない時は上の先生と相談した上で」中島「おや、トランプ大統領が来たみたいなんで、今日はこの辺で」若者「ちょ、ちょっと待ってください、総理。いきなりトランプ大統領ですか!」中島「端的に単純レントゲン、CT、MRIということですか?」若者「そうです。総理、ありがとうございます」中島「『画像検査は大きくわけて3つあります』と最初に言うと、相手の注意をひきつけることができますね」若者「仰る通りです、総理!」もう若者にとっての中島は、総理大臣以外の何者でもないようです。中島「それでは治療の事についてお聞きします」若者「ぜひお願いします」中島「胃がんがあったら、手術して胃をとってしまうのですか?」若者「いやいや、そんなことまでは救急室ではやりません。というか、できません」中島「そうすると主に簡単な創傷処置とか投薬とかですか?」若者「その通りです」中島「急ぐ投薬にはどのようなものがありますか?」若者「急ぐ投薬ですか。それは例えば、血圧の下がっている人は脱水とか敗血症とか考えてですね、輸液とか血圧を上げるお薬を使うために、まず静脈ルートというか、薬を入れるために腕の静脈から……」中島「習近平国家主席から至急の電話が来たみたいです」若者「ちょ、ちょっと待ってください。国家主席は待たせておきましょう」中島「あの人を待たせると後がややこしいからな。皆そうだけど」若者「5秒、5秒だけでいいです」中島「じゃあ疾患と治療をセットで言ってください。〇〇には△△とか」若者「あの肺炎だったらCTRXとかですね、感染症には抗菌薬をいって」中島「肺炎も感染症のうちではないのですか?」若者「そ、そうです」中島「じゃあ私が疾患を言うから、先生の治療を教えてください。低血糖には?」若者「グルコースです」中島「アナフィラキシーには?」若者「アドレナリンです」中島「痙攣発作には?」若者「ジアゼパムです」中島「やればできるじゃないですか」若者「ありがとうございます。総理!」アホらしい「ごっこ遊び」ですが、効果は抜群!読者の皆さんも、ぜひ試してみて下さい。最後に1句 5秒だけ 5秒ください 安倍総理!

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COVID-19肺炎初期~中期にシクレソニドで改善、国内3症例の詳細

 国内における新型コロナウイルス感染症の患者を多く出したダイヤモンドプリンセス号。患者の一部について治療に当たった神奈川県立足柄上病院は3月2日、喘息治療の第1選択薬である吸入ステロイド薬のシクレソニドの投与により症状が改善した3例について、日本感染症学会のホームページにその詳細を報告した。いずれもCOVID-19による酸素化不良やCT所見などが見られたが、薬剤投与により良好な経過を得ているという。 症例の臨床的特徴や経過については、以下のとおり。症例1:73歳女性 2020年1月20日にダイヤモンドプリンセス号乗船、25日に香港に上陸。2月4日より咽頭痛、 倦怠感、食欲不振を認め、7日には38℃の発熱が出現。翌8日に検体が提出され、10日にPCR検査にてSARS-CoV-2陽性の判定となり、11日下船後、当該病院に搬送された。 入院時の採血では抗核抗体1,280倍で、手指の色調不良もあり、強皮症が疑われた。胸部レントゲンでは右下肺野に浸潤影を認め、CTでは両側中下肺野にかけてすりガラス陰影(GGO)が胸膜に沿って認められた。 当初は倦怠感が強く、ほとんど臥床状態であり、食事もできない状態であった。疎通不良や見当識障害も見られた。維持輸液およびセフトリアキソン、アジスロマイシンを開始したが改善せず、ロピナビル・リトナビル(LPV/r)を開始。解熱し、酸素化も改善したが、食欲は改善せず倦怠感が著明。GGOの陰影が増強し、領域の拡大も認められた。LPV/rの有害事象と見られる症状も出現したため、LPV/r中止後、シクレソニド吸入(200μg、1日2回)を開始(入院10日目)。開始後2日程度で発熱および酸素化が改善。食欲の回復も著明で、全身倦怠感も改善し、室内独歩可能に。鼻腔拭いPCRでSARS-CoV-2陰性を確認し、退院となった(入院19日目)。症例2:78歳男性 2020年1月20日にダイヤモンドプリンセス号乗船。2月6日より乾性咳嗽、倦怠感、食欲不振、下痢が出現し、固形物はほとんど食べられなくなった。37.4℃の発熱も見られた。16日のPCR検査でSARS-CoV-2陽性となり、16日に当該病院に入院した。 初診時の身体所見では、咽頭発赤やリンパ節腫脹はなく、肺野呼吸音に異常雑音はなかった。入院当初の胸部レントゲンでは右下肺野に浸潤影が認められた。入院5日目よりシクレソニド吸入(200μg、1日2回)を開始。来院時より水様便が持続し、食事もほとんど摂れない状態だったが、入院6日目から食欲が徐々に改善。下痢も回復し普通便となった。入院6日目には酸素中止が可能となり、倦怠感も改善。食事もほぼ全量摂取できるまでに回復した。咽頭拭いPCRでは、入院12日目の施行時にも陽性となり、シクレソニドを1,200μg/日(400μg、1 日3回)に増量して継続中。症例3:67歳女性 2020年1月20日にダイヤモンドプリンセス号乗船。2月6日より乾性咳嗽、8日より倦怠感、関節痛が出現。9日には38.9℃の発熱あり、その後食欲不振および下痢が出現し、食事がほとんどとれなくなった。16日のPCR検査でSARS-CoV-2陽性となり、そのまま当該病院に入院となった。 初診時の身体所見では、咽頭発赤やリンパ節腫脹はなく、肺野呼吸音に異常雑音はなかった。入院当初の胸部レントゲンでは右中肺野肺門部に浸潤影が認められた。来院時より倦怠感を認め、ベッドで横になっていることが多かった。食事は半量程度。増悪予防を目的として入院5日目からシクレソニド開始。入院6日目には胸部聴診で背側部からfine crackleが聴取され、CTでは両側下肺野背側にGGOを認めた。引き続き、シクレソニド投与のみで経過観察したところ、入院7日目ごろにはほとんどの症状が改善した。咽頭拭いPCRでは、入院12日目の施行時にも陽性となり、シクレソニドを1,200μg/日(400μg、1日3回)に増量して継続中。現在までの知見および考察・COVID-19に対し、シクレソニドの抗ウイルス作用と抗炎症作用が、重症化しつつある肺炎治療に有効であることが期待される。ただし、シクレソニド以外の吸入ステロイドには、COVID-19の抗ウイルス作用は現時点では認められない。・これまでの研究で、COVID-19に対するステロイド治療は、ウイルス血症を遷延させる可能性や糖尿病等の合併症があり推奨されないと報告されているが、シクレソニドはプロドラッグの吸入薬であり、肺の表面に留まるため、血中濃度増加はごく微量である。・投与時期は重症化する前の、感染早期〜中期あるいは肺炎初期が望ましく、ウイルスの早期陰性化や重症肺炎への進展防止効果が期待される。・新型コロナウイルスの増幅時間は6~8時間と考えられ、シクレソニドを頻回投与かつ肺胞に充分量を到達させるため、高用量投与を推奨する。・残存ウイルスの再活性化および耐性ウイルスの出現を避けるため、開始後は14日程度以上継続するのが望ましい。・ウイルスは肺胞上皮細胞で増殖しているため、吸入はできるだけ深く行うことが効果を高めると考えられる。・これらの知見から、以下の投与方法を提案する。 適応:COVID-19陽性確定者の肺炎 用法容量: (1)シクレソニド200μgを1日2回、 1回2吸入、14日分 (2)シクレソニド200μgを1日3回、 1回2吸入、約9日分・(1)を基本とし、重症例、効果不十分例に対しては(2)を検討する。

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プロピオン酸血症〔PA:Propionic acidemia〕

1 疾患概要■ 概念・定義生体内で生じる各種の不揮発酸が代謝障害によって蓄積し、代謝性アシドーシスを主徴とする各種の症状・異常所見を呈する疾患群を「有機酸代謝異常症」と総称する。主な疾患は、分枝鎖アミノ酸の代謝経路上に多く、中でもプロピオン酸血症(Propionic acidemia:PA)は最も代表的なものである。本疾患では、3-ヒドロキシプロピオン酸、メチルクエン酸などの短鎖カルボン酸が体液中に蓄積し、典型的には重篤な代謝性アシドーシスを主徴とする急性脳症様の症状で発症するほか、各種臓器に慢性進行性の病的変化をもたらす。■ 疫学新生児マススクリーニング試験研究(1997~2012年、被検者数195万人)による国内での罹患頻度は約45,000人に1人と、高頻度に発見された。ただし、これには後述する「最軽症型」が多く含まれ、典型的な症状を示す患者の頻度は約40万人に1人と推計されている。■ 病因(図)バリン・イソロイシン代謝経路上の酵素「プロピオニオニル-CoAカルボキシラーゼ(PCC)」の活性低下に起因する、常染色体劣性遺伝性疾患(OMIM#606054)である。PCCはミトコンドリア基質に発現しており、αサブユニットとβサブユニットからなる多量体である。各サブユニットは、それぞれPCCA遺伝子(MIM*232000、局在13q32.3)とPCCB遺伝子(MIM*232050、局在3q22.3)にコードされている。図 プロピオン酸血症に関連する代謝経路画像を拡大する■ 症状典型的には新生児期から乳児期にかけて、重度の代謝性アシドーシスと高アンモニア血症が出現し、哺乳不良、嘔吐、呼吸障害、筋緊張低下などから、けいれんや嗜眠~昏睡など急性脳症の症状へ進展する。初発時以降も同様の急性増悪を繰り返しやすく、特に感染症罹患が契機となることが多い。コントロール困難例では、経口摂取不良が続き、身体発育が遅延する。1)中枢神経障害急性代謝不全の後遺症として、もしくは代謝異常が慢性的に中枢神経系に及ぼす影響によって、全般的な精神運動発達遅滞を呈することが多い。急性増悪を契機に、あるいは明らかな誘因なく、両側大脳基底核病変(梗塞様病変)を生じて不随意運動が出現することもある。2)心臓病変急性代謝不全による発症歴の有無に関わらず、心筋症や不整脈を併発しうる。心筋症は拡張型の報告が多いが、肥大型の報告もある。不整脈はQT延長が本疾患に特徴的である。3)その他汎血球減少、免疫不全、視神経萎縮、感音性難聴、膵炎などが報告されている。■ 分類1)発症前型新生児マススクリーニングで発見される無症状例を指す。そのうち多数を占めるPCCB p.Y435C変異のホモ接合体は、特段の症状を発症しないと目されており、「最軽症型」と呼ばれる。2)急性発症型呼吸障害、多呼吸、意識障害などで急性に発症し、代謝性アシドーシス、ケトーシス、高アンモニア血症、低血糖、高乳酸血症などの検査異常を呈する症例を指す。3)慢性進行型乳幼児期からの食思不振、反復性嘔吐などが認められ、身体発育や精神運動発達に遅延が現れる症例を指すが、経過中に急性症状を呈しうる。■ 予後新生児期発症の重症例は、急性期死亡ないし重篤な障害を遺すことが少なくない。遅発例も急性発症時の症状が軽いとは限らず、治療が遅れれば後遺症の危険が高くなる。また、急性代謝不全の有無に関わらず、心筋症、QT延長などの心臓合併症が出現・進行する可能性があり、特に心筋症は慢性期死亡の主要な原因に挙げられている。一方、新生児マススクリーニングで発見された87例(最長20歳まで)の予後調査では、患者の大半が少なくとも1アレルにPCCB p.Y435C変異を有しており、疾患との関連が明らかな症状の回答はなかった。したがって、この群の予後は総じて良好と思われるが、より長期的な評価(特に心臓への影響)には、さらに経過観察を続ける必要がある。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)1)一般血液・尿検査急性期には、アニオンギャップ開大性の代謝性アシドーシスをはじめ、ケトーシス、高アンモニア血症、低血糖、汎血球減少などが認められる。高乳酸血症や血清アミノトランスフェラーゼ(AST・ALT)、クレアチニンキナーゼの上昇を伴うことも多い。2)タンデム質量分析法(タンデムマス、MS/MS)による血中アシルカルニチン分析プロピオニルカルニチン(C3)の増加を認め、アセチルカルニチン(C2)との比(C3/C2)の上昇を伴う。これはメチルマロン酸血症と共通の所見であり、鑑別には尿中有機酸分析が必要である。C3/C2の上昇を伴わない場合は、異化亢進状態(=アセチルCoA増加)に伴う非特異的変化と考えられる。3)ガスクロマトグラフィ質量分析法(GC/MS)による尿中有機酸分析診断確定に最も重要な検査で、3-ヒドロキシプロピオン酸・プロピオニルグリシン・メチルクエン酸の排泄が増加する。メチルマロン酸血症との鑑別には、メチルマロン酸の排泄増加が伴わないことを確認する。4)PCC酵素活性測定白血球や皮膚線維芽細胞の破砕液を粗酵素源として測定可能であり、低下していれば確定所見となるが、実施しているのは一部の研究機関に限られる。5)遺伝子解析PCCA、PCCBのいずれにも病因となる変異が報告されている。遺伝学的検査料の算定対象である。※ 2)、3)は「先天性代謝異常症検査」として保険診療項目に収載されている。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 急性代謝不全の治療タンパク摂取を中止し、輸液にて80kcal/kg/日以上を確保する。有機酸の排泄促進に静注用L-カルニチンを投与する。未診断の段階では、ビタミンB12反応性メチルマロン酸血症の可能性に対するヒドロキソコバラミン(商品名:フレスミンS)またはシアノコバラミン(同:同名、ビタミンB12ほか)の投与をはじめ、チアミン(同:塩酸チアミン、メタボリンほか)、リボフラビン(同:強力ビスラーゼ、ハイボンほか)、ビオチン(同:同名)などの各種水溶性ビタミン剤も投与しておく。高アンモニア血症を認める場合は、安息香酸ナトリウムやカルグルミン酸を投与する。速やかに改善しない場合は、持続血液透析(CHD)または持続血液透析濾過(CHDF)を開始するか、実施可能施設へ転送する。■ 亜急性期〜慢性期の治療急性期所見の改善を評価しつつ、治療開始から24~36時間以内にアミノ酸輸液を開始する。経口摂取・経管栄養が可能になれば、母乳や育児用調製粉乳などへ変更し、自然タンパク摂取量を漸増する。必要エネルギーおよびタンパク量の不足分は、イソロイシン・バリン・メチオニン・スレオニン・グリシン除去粉乳(同:雪印S-22)で補う。薬物療法としては、L-カルニチン補充を続けるほか、腸内細菌によるプロピオン酸産生の抑制にメトロニダゾールやラクツロースを投与する。■ 肝移植・腎移植早期発症の重症例を中心に生体肝移植の実施例が増えている。食欲改善、食事療法緩和、救急受診・入院の大幅な減少などの効果が認められているが、移植後に急性代謝不全や中枢神経病変の進行などを認めた事例の報告もある。4 今後の展望新生児マススクリーニングによる発症前診断・治療開始による発症予防と予後改善が期待されているが、「最軽症型」が多発する一方で、最重症例の発症にはスクリーニングが間に合わないなど、その効果・有用性には限界も看取されている。また、臨床像が類似する尿素サイクル異常症では、肝移植によって根治的効果を得られるが、本疾患では中枢神経障害などに対する効果は十分ではない。これらの課題を克服する新規治療法としては、遺伝子治療の実用化が期待される。5 主たる診療科小児科・新生児科が診療に当たるが、急性期の治療は、先天代謝異常症専門医の下、小児の血液浄化療法に豊富な経験を有する医療機関で実施することが望ましい。成人期に移行した患者については、症状・病変に応じて内分泌代謝内科、神経内科、循環器内科などで対応しながら、小児科が並診する形が考えられる。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本先天代謝異常学会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本マススクリーニング学会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)タンデムマス・スクリーニング普及協会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)先天代謝異常症患者登録制度JaSMIn(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)島根大学医学部小児科(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)福井大学医学部小児科(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)岐阜大学大学院医学系研究科小児病態学(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)国立成育医療研究センター研究所マススクリーニング研究室(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報有機酸・脂肪酸代謝異常症の患者家族会「ひだまりたんぽぽ」(患者とその家族および支援者の会)1)日本先天代謝異常学会編集. 新生児マススクリーニング対象疾患等診療ガイドライン. 診断と治療社;2019.2)山口清次編集. よくわかる新生児マススクリーニングガイドブック. 診断と治療社; 2019.公開履歴初回2020年03月02日

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高齢ICU患者、低血圧許容で死亡は改善するか/JAMA

 血管拡張性の低血圧で昇圧薬の投与を受けている65歳以上の集中治療室(ICU)患者では、低血圧の許容(permissive hypotension)は通常治療と比較して、昇圧薬の曝露量を減少させるものの、90日死亡率は改善しないことが、カナダ・シャーブルック大学のFrancois Lamontagne氏らが行った無作為化試験で示された。研究の詳細は、JAMA誌オンライン版2020年2月12日号に掲載された。ICU患者では、心筋や腎臓の障害、死亡と関連する低血圧を回避するために、昇圧薬が一般的に使用されるが、収縮した血管床では血流が低下する可能性があり、心臓や代謝、微生物叢、免疫の機能に影響を及ぼすという。そのため、とくに高齢患者では、低血圧のリスクと昇圧薬のリスクの均衡を図ることが課題となっている。MAP目標値60~65mmHgを許容 本研究は、英国の65ヵ所のICUが参加した実用的な無作為化臨床試験であり、2017年7月~2019年3月の期間に実施された(英国国立健康研究機構[NIHR]医療技術評価プログラムなどの助成による)。 対象は、年齢65歳以上、ICUで血管拡張性低血圧(治療医判定)の治療として昇圧薬の注入が開始されてから6時間以内で、適切な輸液が行われている患者であった。 被験者は、平均動脈圧(MAP)の目標値(60~65mmHg)となるように昇圧薬を減量あるいは中止する群(低血圧許容群)、または治療医の裁量で、より個別的なアプローチで昇圧薬を投与する群(通常治療群)に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要な臨床アウトカムは、90日時の全死因死亡とした。ICU退室時と退院時の死亡率にも差はない 2,463例(平均年齢75[SD 7]歳、1,387例[57%]が男性)が、主要アウトカムの解析の対象となった。低血圧許容群が1,221例、通常治療群は1,242例であった。 ベースラインの背景因子は、日常の活動に支援を要する患者の割合(低血圧許容群34.4%、通常治療群30.9%)を除き、バランスが取れていた。無作為化直後のMAPは、低血圧許容群が69.9mmHg、通常治療群は71.1mmHgだった。 昇圧薬曝露時間は、低血圧許容群が通常治療群に比べ短かった(曝露時間中央値:33時間vs.38時間、中央値の群間差:-5.0時間、95%信頼区間[CI]:-7.8~-2.2、ノルエピネフリン当量の総投与量中央値:17.7mg vs.26.4mg、中央値の群間差:-8.7mg、95%CI:-12.8~-4.6)。 90日時に、低血圧許容群は1,221例中500例(41.0%)が死亡し、通常治療群は1,242例中544例(43.8%)が死亡した(絶対リスク差:-2.85%、95%CI:-6.75~1.05、p=0.15、補正前相対リスク:0.93、95%CI:0.85~1.03)。事前に規定されたベースラインの変量で補正した90日死亡率の補正後オッズ比は0.82(95%CI:0.68~0.98)であった。 ICU退室時の死亡率(29.9% vs.30.7%、絶対リスク差:-0.85、95%CI:-4.49~2.79、p=0.66)および救急病院退院時の死亡率(39.3% vs.41.5%、-2.23、-6.09~1.63、p=0.27)にも、有意な差は認められなかった。また、全体の生存期間にも差はなかった(補正後ハザード比:0.94、95%CI:0.84~1.05)。 重篤な有害事象として、低血圧許容群の79例(6.2%)と、通常治療群の75例(5.8%)が報告された。最も頻度の高い重篤な有害事象は、急性腎不全(41例[3.2%] vs.33例[2.5%])と、上室心臓不整脈(12例[0.9%] vs.13例[1.0%])であった。 著者は、「この試験の臨床的重要性を解釈する際は、主要アウトカムの点推定の信頼区間を考慮する必要がある。絶対リスク差と補正した解析の信頼区間は、高齢患者における昇圧薬への曝露の最小化が、有害ではなく、むしろ有益となる可能性があることを示唆する」としている。

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患者の死への立ち合い方-医学部で教わらなかった大切なこと

 医師として働いている以上、何百回と患者の死に立ち合う。死は医療者にとっての日常だが、患者と家族には人生で数回しかない出来事だ。ある意味、死に慣れている医療者の悪気ない言動は、時に家族の悲しみを深めてしまうことがある。死に立ち合うとき、医療者は何に気を付ければよいのだろうか? 『地域の多職種で作る「死亡診断時の医師の立ち居振る舞い」についてのガイドブック』1)作成者の日下部 明彦氏(横浜市立大学 総合診療医学教室)に話を聞いた。-当直医の心ない振る舞いが、ガイドブック作成の原点 緩和ケア病棟で責任者をしていたとき、ある当直医の先生に対して、何人もの看護師や遺族から苦情を受けていました。 患者の死亡診断時にバタバタと入室して死亡時刻だけ告げて去っていくといった医師の振る舞いが、遺族を蔑ろにしているように感じられるというのです。医療スタッフの中には、そうした当直医の言動で、それまでに緩和ケアチームで行ってきたケアを台無しにされたと感じる人もいました。 態度を改めるよう注意しようと思っても、当直医の先生は私よりもはるかに年上です。年下の私から指摘されても反発されるだけだろうと悩みました。考えた末の結論が、研究や論文として形にすることです。医師同士で話すための説得力があると思い、アンケート調査とハンドブック作成に至りました。-医師が患者の死亡診断に向かうまでの望ましい振る舞いを時系列で例示 ガイドブックでは、医師が患者の死亡診断に向かうまでの準備から退出までの望ましい振る舞いを、時系列で例示しています。 患者のカルテを確認し、お名前をフルネームで覚える、病気の経過を把握する、身だしなみを整える、自分の名前を名乗る、経過・死因の説明を行う、携帯電話ではなく時計で死亡時刻を確認するといったことです。 これらは遺族・訪問看護師・在宅医へのアンケートから、遺族が重要だと感じた項目を基にしています。 ガイドブックは1つの参考として、ご家族や先生方の働いている環境に応じて、その場の空気感を大切にしてもらえたらと思います。-患者の死期を予測してチームに周知することが医師に求められる役割 ガイドブックは死亡診断時の振る舞いに特化していますが、医師にしかできないことがほかにあります。 それは患者の死期を予測することです。なぜなら、人生の最終段階の医療・ケアは予後予測に基づいて計画されるべきだからです。 予後数週間のがん患者に対して、輸液で延命効果は得られないというコンセンサスがあります2)。また、予後数日と考えられる老衰の患者への褥瘡処置は、治癒を目的としたものではないはずです。 予後予測のエビデンスとしては、がん、老衰、慢性疾患それぞれに経過が異なることが知られています。がんの場合は、急激にADLが低下し、そのまま回復を遂げることなく数ヵ月のうちに亡くなることが一般的です。ですから、がん患者の予後予測は比較的容易といえます。老衰では徐々にADLが衰えていきます。慢性疾患では、入院を要する急性増悪のたびに亡くなる可能性がありますが、入院加療で回復する場合とそうでない場合を事前に予測することは困難です3)。 Palliative Prognosis Score4)といった指標も有用です。身体活動や食事摂取状況などをスコアリングして、1ヵ月単位の中期的な余命を算出することができます。週単位の予測指標(Palliative Prognostic Index)もあります。これらを参考に日々の身体診察を行うことで、予後予測の能力は上がっていくものと考えます。 そして予後予測は、患者に関わる多職種チームに必ず共有してほしい。その情報が共有されてこそ、患者の余命に即した治療・ケアを行うことができるからです。 老衰や慢性疾患といった予測が難しい場合も、そのときの病状で可能な限りの予測を立て、病状が変わるたびに更新し、チームに周知することが医師に求められる役割だと思っています。-患者の死が予期できなかった場合に遺族の悲しみが長期化・深刻化 予後予測は、医療スタッフと共有するためだけに行うのではありません。残された時間を家族に伝えることも重要です。それも、わかりやすい言葉で。 はっきりと伝えることで家族を傷つけるのではないかと、心配される先生もおられるかもしれません。ですが、実際はその反対です。 がん患者の家族に予後1ヵ月程度と伝えたときに、「それならば、頑張って自宅で看取ります」と前向きな返答をもらうことはしばしばあります。 患者の死が予期できなかった場合、遺族の悲しみが長期化・深刻化して複雑性悲嘆となり、疾患に発展しやすいことが知られています。配慮をもって余命をお伝えすることは、亡くなるまでの時間をより有意義に過ごすため、そして遺族の今後のために医師にしかできない最善のサポートだと思います。-医師が患者の死期を告げるには遠回しな言葉では伝わらない 医師が家族に予測を伝えるときの言葉も重要です。私たちも人間ですから、患者の死期を告げるのは心苦しいものです。「何が起きてもおかしくありません」「急変の危険があります」といった遠回しな表現になってしまうのは致し方ないことだと思います。 ただ、こうした言い方では家族に伝わらないということをぜひ知ってほしい。 ではどういった言い方がよいのか。たとえば、「数日のうちにお亡くなりになると思います」「今夜あたりお別れになると思います」といった表現は一例です。亡くなる、お別れ、といった言葉を使うと伝わりやすくなります。 言い方以上に重要なのは、予後をお伝えする意図も併せてお話しすることだと思っています。医師が患者の死期をお伝えするのは、亡くなるまでの時間をより良く過ごせるように願っているからにほかなりません。そして、最期まで家族ができることも、ぜひ伝えてほしい大切な点です。 たとえば、患者の聴覚は最期まで残っています。好きな音楽をかけたり話し掛けたりすれば、患者が明確に反応できなくても伝わっている、というようなことです5)。 患者が亡くなるまでの間に家族ができることを伝えることで、一見つらいお話をする意図が伝わりやすくなると感じています。-患者の死を遺族が健全な形で受容し立ち直っていけるサポートが緩和ケア 死はとてもデリケートな場面ですが、どのように振る舞えばいいかを医学部で教わることはありませんでした。精いっぱいの医療を提供していても、振る舞い方を知らないばかりに医療者が遺族を傷つけてしまうというのは、双方にとって悲しいことです。 WHOの定義によると、緩和ケアには遺族の悲嘆ケアも含まれています。遺族が患者の死を健全な形で受容し立ち直っていけるよう、診断から患者の死後に至るまでのサポートが緩和ケアということです。 このスキームは現在の医学部教育にも組み込まれていて、遺族ケアの視点に根差した関わり方は、今後さらに求められていきます。 私は、治療のゴールは「遺族に良い医療を受けたと思ってもらえること」だと思うのです。そうでなければ、将来にわたって医療者が信頼されることはないのではないかと。死亡診断を行う医師は、たとえ当直医であっても、遺族から見れば医療チームの1人です。医療者を代表して、遺族に良い医療を受けたと思ってもらえる振る舞いをしていくことが、医療の継続につながると信じています。 日下部 明彦(くさかべ あきひこ)氏横浜市立大学 総合診療医学教室 准教授1996年、横浜市立大学医学部卒業。横浜甦生病院ホスピス病棟長(2007年)、みらい在宅クリニック副院長(2012年)を経て、2014年より現職。初期研修修了後、消化器内科、ホスピス、在宅医を経験し、各医療機関から見た緩和ケアや終末期医療の課題解決に取り組む。■関連コンテンツCareNeTV「死への立ち合い方‐死亡診断書の書き方から遺族への接し方まで」※視聴には有料の会員登録が必要です。

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BZP系薬剤抵抗性の小児けいれんてんかん重積、2次治療は?/Lancet

 ベンゾジアゼピン系薬剤抵抗性のけいれん性てんかん重積状態の小児における第2選択薬について、レベチラセタムはフェニトインに対し優越性は示されなかった。ニュージーランド・Starship Children's HospitalのStuart R. Dalziel氏らによる233例を対象とした非盲検多施設共同無作為化比較試験「ConSEPT」の結果で、Lancet誌オンライン版2019年4月17日号で発表した。本症の小児における第2選択薬は、フェニトインが現行では標準薬とされているが、効果があるのは60%に過ぎず、副作用が多く認められるという。レベチラセタムは新しい抗けいれん薬で、急速投与が可能であり、潜在的により有効であること、副作用プロファイルへの許容もより大きいことが示唆されている。レベチラセタムvs.フェニトイン、てんかん発作臨床的消失率を比較 ConSEPTは、レベチラセタムまたはフェニトインのいずれが、ベンゾジアゼピン系薬剤抵抗性のけいれん性てんかん重積状態の小児における第2選択薬として優れているかを明らかにすることを目的とした試験。2015年3月19日~2017年11月29日にかけて、オーストラリアとニュージーランドの13ヵ所の救急救命部門(ER)を通じて、けいれん性てんかん重積状態で、ベンゾジアゼピン系薬による1次治療で効果が得られなかった、生後3ヵ月~16歳の患者を対象に行われた。 研究グループは被験者を5歳以下と5歳超に層別化し、無作為に2群に分け、一方にはフェニトイン(20mg/kg、20分で静脈または骨髄内輸液)を、もう一方にはレベチラセタム(40mg/kg、5分で静脈または骨髄内輸液)を投与した。 主要アウトカムは、試験薬投与終了5分後のてんかん発作の臨床的消失で、intention-to-treat解析で評価した。投与終了5分後のてんかん発作の臨床的消失率、50~60%で同等 試験期間中に639例のけいれん性てんかん重積状態の小児がERを受診していた。そのうち127例は見逃され、278例は適格基準を満たしていなかった。また、1例は保護者の同意を得られず、ITT集団には残る233例(フェニトイン群114例、レベチラセタム群119例)が含まれた。 試験薬投与終了5分後にてんかん発作の臨床的消失が認められたのは、フェニトイン群60%(68例)、レベチラセタム群50%(60例)であった(リスク差:-9.2%、95%信頼区間[CI]:-21.9~3.5、p=0.16)。 フェニトイン群の1例が27日時点で出血性脳炎のため死亡したが、試験薬との関連はないと判断された。そのほかの重篤な有害事象は認められなかった。

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第16回 発熱の症例・全てのバイタルが異常。何を疑う?-3【薬剤師のためのバイタルサイン講座】

今回の症例は、発熱を来した症例です。発熱のため受診される高齢者は少なくありませんが、なかには早期に治療を開始しないと生命にかかわる場合もあります。患者さんDの場合◎経過──3家族の到着後、医師・訪問看護師、施設の職員とあなたは、家族とよく相談して、近隣の救急病院に救急搬送することにしました。その晩、帰宅したあなたは、SIRSと敗血症について調べてみました。「サーズ、サーズっと。あら?SARS(Severe Acute Respiratory Syndrome;重症急性呼吸器症候群)とは違うのね?」教科書を読むと、細菌毒素などにより様々なサイトカインや血管拡張物質が放出されて末梢血管抵抗が低下し、相対的に循環血液量が減少することで血圧が低下、臓器への低灌流や臓器障害を来すことが書かれていました。臓器への低灌流や臓器障害を来している場合は重症敗血症(severe sepsis)」と呼ばれ、適切な補液を行っても改善しない血圧低下があること、血圧を維持するためにドパミンやノルアドレナリンなどの昇圧薬を必要とする場合には「敗血症性ショック(septic shock)」といわれること、さらに循環動態を安定化させるための初期治療(Early Goal Directed Therapy; EGDT)について学びました。「すぐに点滴を始めたのは、このためだったのね」敗血症診療ガイドライン2016(J-SSCG2016)と新しい敗血症の定義つい最近、敗血症診療ガイドラインが新しくなったのをご存知ですか?新しいガイドラインでは敗血症の定義は「感染症によって重篤な臓器障害が引き起こされる状態」と変更されました。敗血症の病態について、「感染症による全身性炎症反応症候群」という考え方から、「感染症による臓器障害」に視点が移されたわけです(図2)。本文の「経過3」には「臓器への低灌流や臓器障害を来している場合は『重症敗血症』と呼れ・・・」とありますが、この以前の重症敗血症が今回の敗血症になりました。また、敗血症性ショックの診断基準は、「適切な輸液にもかかわらず血圧を維持するために循環作動薬を必要とし、『かつ血清乳酸値>2mmol/Lを認める』」となりました。そこで何か感じませんか?そうなんです、敗血症の定義からSIRSがなくなったんです。SIRSは体温・脈拍数・呼吸数・白血球数から診断できますね。新しい敗血症はバイタルサインからその徴候に気付くことができるのでしょうか・・・。敗血症の診断「感染症によって臓器障害が引き起こされた状態」が新しい敗血症の定義でしたね。そこで、どうしたら臓器障害がわかるんだろうという疑問が出てきます。臓器障害は「SOFA(sequential organ failure assessment)スコア」によって判断します(表4)。感染症があり、SOFAスコアが以前と比べて2点以上上昇していた場合に臓器障害があると判断して、敗血症と診断します。この表をみるとすぐに点数を付けるのは難しいな・・・と思いますよね。そこで、救急外来などではqSOFA(quick SOFA)を使用します(表5)。意識の変容・呼吸数(≧22回/分)・収縮期血圧(≦100mmHg)の3項目のうち2項目以上を満たすときに敗血症を疑います。ガイドラインが新しくなったといっても、やはりバイタルサインによって敗血症かどうか疑うことができますね。敗血症が疑われたら、その次にSOFAスコアを評価して、敗血症と診断するわけです。具体的な診断の流れを図に示します(図3)。スライドを拡大するスライドを拡大するEGDT(Early Goal Directed Therapy)についてEGDTは、中心静脈圧・平均動脈圧などを指標にしながら、補液・循環作動薬などを使用して、尿量・血中乳酸値などを早期に改善しようとする治療法ですが、近年の臨床試験ではEGDTを遵守しても有益性は見いだせなかったという結果が得られました。ただ、敗血症性ショックに対する初期治療の一つは補液であることにかわりはありません。時の流れでガイドラインが変わっても患者さんを診るときにバイタルサインが重要なことは変わっていないようですね。エピローグ救急搬送先の病院で細菌学的検査、抗菌薬の投与、およびドブタミン、ノルアドレナリンによる治療が行われました。敗血症性ショックでした。約3週間が経ち、退院後にあなたが訪問すると、その91歳の女性は以前と同じようにベッドの上に寝ていました。以前と同じように寝たきりの状態で、以前と同じように職員の介助で何とか食事をしていました。本人の家族(長男)に新しく処方された薬について説明する機会がありました。ベッドサイドで長男と話をしていると、普段無表情な本人が、長男が来ているところを見て少しニコッと微笑んだように見えました。五感を駆使して、患者さんの状態を感じとる今回のポイントは、敗血症とSIRSの概念を知り、急を要する発熱を見極めることができるようになることでした。それともう1つ、今回のあなたは五感を駆使して患者さんの状態を知ろうとしました。ぐったりしているところや呼吸の状態を"視て"、呼吸が速い様子(息づかい)を耳で"聴き"ながら、手や手首を"触れて"体温や脈の状態を確認しました(味覚と嗅覚が入っていないなんて言わないでくださいね)。緊急度を素早く察知する手段のひとつですから、バイタルサインと併せて患者さんを注意して観察するとよいと思います。

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Dr.須藤のやり直し酸塩基平衡

第1回 基本的な生理学的知識 第2回 酸塩基平衡異常の基本第3回 血液ガスの読み方とケーススタディ01&02第4回 ケーススタディ03&04 第5回 K代謝の生理学とケーススタディ05 第6回 ケーススタディ06 第7回 ケーススタディ07 第8回 ケーススタディ08 第9回 ケーススタディ09 そして低K血症の鑑別診断の手順 第10回 尿中電解質の使い方 酸塩基平衡に苦手意識を持っていませんか?酸塩基平衡は、最低限の生理学的な基本を理解したうえで、個々の患者さんに応用できるようになると、これほど面白い分野はないといっても過言ではありません。このシリーズでは、達人Dr.須藤が酸塩基平衡の基本ルールをしっかりとレクチャー。シリーズ後半には、症例を基に、実用的な応用について、解説します。これで、あなたも酸塩基平衡が好きになる!第1回 基本的な生理学的知識 まずは、酸塩基平衡の生理学的な基本知識から解説します。酸の生成や負荷に対する生体の反応そして、基本用語の整理など、これまでぼんやりと知っていたことが、すっきりと整理され、理解できます。また、覚えづらいHenderson-Hasserbalch 式など、Dr.須藤ならではの覚えるコツもお教えします。第2回 酸塩基平衡異常の基本 酸塩基平衡異常は何らかの病的プロセス(代謝性・呼吸性)、(アシドーシス・アルカローシス)が複数参加した綱引きです。正常な状態であれば、綱は地面に置かれており、中央はpH7.40であるが、何らかの異常があると綱引き開始!綱引き勝負の行方は?Dr.須藤ならではの綱引きの図を使って、詳しく解説します。まずは、代謝性アシドーシスと代謝性アルカロ―シスの機序についてしっかりと理解してください。第3回 血液ガスの読み方とケーススタディ01&02 今回は基本的な血液ガスの読み方をレクチャー。血ガスは基本的な6つのステップをきちんと踏んでいくことで、患者さんの状態を読み解いていくことができます。また、今回から症例の解析に入ります。Dr.須藤が厳選した症例で、基本ルールのマスターと臨床の応用について学んでいきましょう。第4回 ケーススタディ03&04 今回は、2症例を基に混合性の酸塩基平衡異常を解説します。“Medical Mystery”と名付けられた症例03。pHは一見正常、でも患者の状態は非常にsick。さあ、患者にいったい何が起こっているのでしょう。そして、酸塩基平衡や電解質の異常をたくさん持っているアルコール依存症の患者の症例を取り上げるのは症例04。それらをどう解読していくのか、Dr.須藤の裏ワザも交えて解説します。第5回 K代謝の生理学とケーススタディ05 カリウム代謝異常(とくに低Kを血症)合併することが多い酸塩基平衡異常。今回は、カリウム代謝に関する基本的な腎生理学から学んでいきましょう。まずは、重要な尿細管細胞について。NHE3?NKCC2?ROMK?ENAC?・・・が何だか!!!心配いりません。Dr.須藤がこのような難しいことを一切省いて、臨床に必要なところに絞って、シンプルに解説します。第6回 ケーススタディ06 ケース06は「原因不明の腎機能障害を認めたの48歳の小柄な男性」。多彩な電解質異常、酸塩基平衡異常を来した今回の症例。Dr.須藤が“浅はか”だったと当時の苦い経験を基に解説します。ピットフォールはなんだったのか?また、AG正常代謝性アシドーシスの鑑別診断に、重要な意味を持つ尿のAnion GAPについても確認しておきましょう。第7回 ケーススタディ07 「クローン病治療にて多数の腸切除と人工肛門増設がある41歳男性の腎機能障害」の症例を取り上げます。さまざまな病態、酸塩基異常、電解質異常などを呈するこの患者をどう診断し、どこからどのように治療していくのか。臨床経過-血液ガスの数値と治療(輸液)の経過-を示しながら、診断と治療について詳しく解説します。第8回 ケーススタディ08 今回の症例は「腎機能障害と原因不明の低K血症で紹介された48歳女性」検査所見は、低K血症とAG正常代謝性アシドーシス、そして、尿のAGはマイナス!そう、この組み合わせで一番に考えられるのは「下剤濫用」。しかしながら、導き出される鑑別と、患者から得られる病歴が一致しない。時間稼ぎにクエン酸NaとスローKで外来で経過をみながら考えることを選択。だが、完全に補正されない・・・。思考停止に陥ったDr.須藤。その原因と診断は?第9回 ケーススタディ09 そして低K血症の鑑別診断の手順 「著明な低カリウム血症の35歳女性」を取り上げます。Dr.須藤の初診から1週間後、診察室に訪れた患者。なんと30分間も罵倒され続けることに!!一体患者に、、Dr.須藤に何が起こったのか!そして、いくつかのケーススタディでみてきた低カリウム血症の鑑別診断を、手順に沿って、シンプルにわかりやすく解説します。これまで何度も出てきた“KISS”と“尿血血”というキーワード。ついにその全貌が明らかに!第10回 尿中電解質の使い方 「クローン病治療にて多数の腸切除と人工肛門増設がある41歳男性の腎機能障害」の症例を取り上げます。さまざまな病態、酸塩基異常、電解質異常などを呈するこの患者をどう診断し、どこからどのように治療していくのか。臨床経過-血液ガスの数値と治療(輸液)の経過-を示しながら、診断と治療について詳しく解説します。

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サルコペニア嚥下障害は誤嚥性肺炎などの入院が引き金に

 元気だったはずの高齢者が、入院後に低栄養で寝たきりになるのはなぜか。2018年11月10、11日の2日間、第5回日本サルコペニア・フレイル学会大会が開催された。2日目に行われた「栄養の視点からみたサルコペニア・フレイル対策」のシンポジウムでは、若林 秀隆氏(横浜市立大学附属市民総合医療センターリハビリテーション科)が「栄養の視点からみたサルコペニアの摂食嚥下障害対策」について講演した。誤嚥性肺炎で救急搬送されサルコペニアの嚥下障害になる “嚥下障害があり、食べられないから低栄養になる”という流れはごく普通である。若林氏は、「低栄養があると嚥下障害を来すことがあり、これはリハビリテーションだけでは改善することができない。つまり、栄養改善が要」と、本来とは逆ともとれる低栄養のメカニズムについて解説した。 若林氏によると、一見、元気な老人でも実はサルコペニアを発症している可能性があるという。たとえば、喉のフレイル(嚥下障害ではないが正常より衰えている状態)が原因となり、誤嚥性肺炎を発症。その後、救急搬送され寝たきりや嚥下障害になる場合がある。この原因について同氏は、「急性期病院で誤嚥性肺炎を発症すると“根拠のない安静”や“禁食”がオーダされやすい」と、嚥下、腸管や心臓機能などの適切な評価がなされていない点を指摘。さらに、「病院内での不適切な安静臥床と栄養管理や肺炎の急性炎症による筋肉の分解でサルコペニアを生じる結果、これまで外出や食事が可能であった方でも寝たきりや嚥下障害となる」と、入院後の管理体制を問題視した。サルコペニアによる嚥下障害の定義とは 同氏らを含む4学会(日本サルコペニア・フレイル学会、日本摂食嚥下リハビリテーション学会、日本リハビリテーション栄養学会、日本嚥下医学会)は、サルコペニアによる嚥下障害を立証し、メカニズム、診断、治療、今後の展望に関する統一的見解を提言するために、ポジションペーパーを作成している1)。 この合同学会において、サルコペニアによる嚥下障害を以下のように定義している。1)全身の筋肉と嚥下関連筋の両者にサルコペニアを認める2)脳卒中など明らかな摂食嚥下障害の原因疾患が存在し、その疾患による摂食嚥下障害と考えられる場合は除外する3)神経筋疾患による筋肉量減少や筋力低下、そして摂食嚥下障害はサルコペニアの摂食嚥下障害には含めない ポジションペーパーに採用された研究の一部には、今年発表された基礎研究も含まれる。これによると、誤嚥性肺炎では舌や横隔膜で筋分解が亢進し、筋萎縮が生じることが示された2)。これについて同氏は、「人間でも同様のメカニズムにおいて呼吸筋、全身の骨格筋、嚥下筋の筋萎縮が引き起こされ、最終的に寝たきりに至るのでは」と、研究結果を踏まえた人体への影響を説明。さらに、同氏が行った嚥下関連筋のレジスタンストレーニングに関するRCT3)を示し、摂食嚥下障害の原因がサルコペニアの場合、栄養改善を行いながらレジスタンストレーニングを行うと改善しやすい傾向であることを解説した。急性期病院患者のサルコペニア嚥下障害の有病割合は32% 急性期病院の実態として、嚥下リハ患者のサルコペニア有病割合は49%を占め、患者の2人に1人がサルコペニアであることが判明している4)。さらに、患者全体ではサルコペニア嚥下障害の有病割合は32%と、3人に1人はサルコペニアの嚥下障害を有し、急性期病院で起こりがちな、“とりあえず安静”、“とりあえず禁食”、“とりあえず水電解質輸液のみ”によって引き起こされている。これを『医原性サルコペニア』と呼び、同氏は「サルコペニアによる嚥下障害の患者は、他の嚥下障害よりも予後が悪いため予防が重要」と予防の大切さを訴えた5)。サルコペニアによる摂食嚥下障害の予防・治療へ攻めの栄養管理 今後の展望として、サルコペニアによる摂食嚥下障害の予防、治療への介入研究、管理栄養士の積極的な介入を必要が必要であると述べ、それに有用な“攻めの栄養管理“を以下のように提唱した。・(痩せている)実体重の場合:エネルギー必要量=エネルギー消費量±蓄積量(200~750kcal/day)・理想体重の場合:35kcal/kg/day 最後に同氏は、「サルコペニアは地域での予防、軽微な状態で発見し介入することが重要」と述べ、リハ栄養診断やゴール設定など、リハ栄養における5つのステップ5)の活用を求めた。■参考1)Fujishima I, et al. Sarcopenia and dysphagia: Position paper by four professional organizations. Geriatr Gerontol Int, in press2)Komatsu R, et al. J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2018;9:643-653.3)Wakabayashi H, et al. Nutrition. 2018;48:111-116.4)Wakabayashi H, et al. J Nutr Health Aging. 2018 Oct 16.5) Nagano A, et al. Rehabilitation nutrition for iatrogenic sarcopenia and sarcopenic dysphagia. J Nutr Health Aging, in press■関連記事初の「サルコペニア診療ガイドライン」発刊高齢者のフレイル予防には口腔ケアと食環境整備を「食べる」ことは高齢者には大問題

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第7回 意識障害 その6 薬物中毒の具体的な対応は?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)ABCの安定が最優先! 気管挿管の適応を正しく理解しよう!2)治療の選択は適切に! 胃洗浄、血液浄化の適応は限られる。3)検査の解釈は適切に! 病歴、バイタルサイン、身体所見を重視せよ!【症例】42歳女性の意識障害:これまたよく遭遇する症例42歳女性。自室のベッド上で倒れているところを、同居している母親が発見し、救急要請。ベッド脇には空のPTP(press through pack[薬のシート])が散在していた。救急隊接触時のバイタルサインは以下のとおり。どのようにアプローチするべきだろうか?●搬送時のバイタルサイン意識:200/JCS血圧:102/58mmHg 脈拍:118回/分(整) 呼吸:18回/分 SpO2:97%(RA)体温:36.9℃ 瞳孔:3/3mm +/+この症例、誰もが急性薬物中毒を考えると思います。患者の周りには薬のシートも落ちているし、おそらくは過量に内服したのだろうと考えたくなります。急性薬物中毒の多くは、経過観察で改善しますが、ピットフォールを理解し対応しなければ、痛い目に遭いかねません。「どうせoverdose(薬物過量内服)でしょ」と軽視せず、いちいち根拠をもって鑑別を進めていきましょう。重度の意識障害で意識することは?(表1)このコーナーの10's Ruleの「1)ABCの安定が最優先!」を覚えているでしょうか。重度の意識障害、ショックでは気管挿管を考慮する必要がありました。意識の程度が3桁(100~300/JCS)と重度の場合には、たとえ酸素化の低下や換気不良を認めない場合にも、確実な気道確保目的に気管挿管を考慮する必要があることを忘れてはいけません。薬物中毒に伴う重度の意識障害、出血性ショック(消化管出血、腹腔内出血など)症例が典型的です。考えずに管理をしていると、目を離した際に舌根沈下、誤嚥などを来し、状態の悪化を招いてしまうことが少なくありません。来院時の酸素化や換気が問題なくても、バイタルサインの推移は常に確認し、気管挿管の可能性を意識しておきましょう。●Rule1 ABCの安定が最優先!●Rule8 電解質異常、アルコール、肝性脳症、薬物、精神疾患による意識障害は除外診断!画像を拡大する薬物中毒のバイタルサイン内服した薬剤や飲酒の併用の有無によってバイタルサインは大きく異なります。覚醒剤やコカインなど興奮系の薬剤では、血圧や脈拍、体温は上昇します。それに対して、頻度の高いベンゾジアゼピン系薬に代表される鎮静薬ではすべて逆になります。飲酒もしている場合には、さらにその変化が顕著となります。瞳孔も重要です。興奮系では一般的に散瞳し、オピオイドでは縮瞳します。救急外来では明らかな縮瞳を認める場合には、脳幹病変以外にオピオイド、有機リン中毒を考えます。「目は口ほどにものを言う」ことがあります。自身で必ず瞳孔所見をとることを意識しましょう。薬物中毒の基本的な対応は?急性薬物中毒の場合には、意識障害が遷延することが少なくないため、内服内容、内服時間をきちんと確認しましょう。内服してすぐに来院した場合と、3時間経過してから来院した場合とでは対応が大きく異なります。薬物過量内服においても初療における基本的対応は常に一緒です。“Airway、Breathing、Circulation”のABCを徹底的に管理します。原因薬剤が判明している場合には、拮抗薬の有無、除染・排泄促進の適応を判断します。拮抗薬など特徴的な治療のある中毒は表2のとおりです。最低限これだけは覚えておきましょう。除染や排泄促進は、内服内容が不明なときにはルーチンに行うものではありません。ここでは胃洗浄の禁忌、血液透析の適応を押さえておきましょう。画像を拡大する胃洗浄の禁忌意識障害患者において、確実な気道確保を行うことなしに胃洗浄を行ってはいけません。誤嚥のリスクが非常に高いことは容易に想像がつくでしょう。また、酸やアルカリを内服した場合も腐食作用が強く、穿孔のリスクがあるため禁忌です。胃洗浄を行い、予後を悪くしてはいけません。意識状態が保たれ、内服内容が判明している場合に限って行うようにしましょう。もちろん薬物が吸収されてしまってからでは意味がないため、原則内服から1時間を経過している場合には適応はないと考えておいてよいでしょう。CTを撮影し薬塊などが胃内に貯留している場合には、胃洗浄が有効という報告もありますが、薬物中毒患者全例に胸腹部CTを撮影することは現実的ではありません1)。エコー検査で明らかに胃内に貯留物がある場合には、考慮してもよいかもしれません。活性炭の投与もルーチンに行う必要はありません。胃洗浄の適応症例には、洗浄後投与すると覚えておけばよいでしょう。血液透析の適応となる中毒体内に吸収されたものを、体外に除去する手段として血液透析が挙げられますが、これもまたルーチンに行うべきではありません。多くの薬物は血液透析では除去できません。判断する基準として、分布容積と蛋白結合率を意識しましょう。分布容積が小さく、蛋白結合率が低ければ透析で除去しえますが、そういったものは表3のような中毒に限られます。診療頻度の高いベンゾジアゼピン系薬や非ベンゾジアゼピン系薬(Z薬)、三環系抗うつ薬は適応になりません。ベンゾジアゼピン系薬、Z薬の過量内服は遭遇頻度が高いですが、それらのみの内服であれば過量に内服しても、きちんと気道を確保し管理すれば、一般的に予後は良好であり透析は不要なのです。画像を拡大する薬物中毒の検査は?1)心電図心電図は忘れずに行いましょう。QT延長症候群など、薬剤の影響による変化を確認することは重要です。内服時間や意識状態を加味し、経時的に心電図をフォローすることも忘れてはいけません。以前の心電図の記録が存在する場合には、必ず比較し新規の変化か否かを評価しましょう。2)血液ガス酸素化や換気の評価、電解質や血糖値の評価、そして中毒に伴う代謝性アシドーシスを認めるか否かを評価しましょう。3)尿中薬物検査キットトライエージDOAなどの尿中薬物検査キットが存在し、診療に役立ちますが、結果の解釈には注意しなければなりません。陽性だから中毒、陰性だから中毒ではないとはいえないことを覚えておきましょう。偽陽性、偽陰性が少なくないため、病歴と合わせ、根拠の1つとして施行し、結果の解釈を誤らないようにしましょう。薬物中毒疑い患者の実際の対応“10's Rule”にのっとり対応することに変わりはありません。Ruleの1~4)では、重度の意識障害であるため、気管挿管を意識しつつ、患者背景を意識した対応を取ります。薬物過量内服患者の多くは女性、とくに20~50代です。また、薬物過量内服は繰り返すことが多く、身体所見では利き手とは逆の手にリストカット痕を認めることがあります。意識しておくとよいでしょう。バイタルサインがおおむね安定していれば、低血糖を否定し、頭部CTを撮影します。この場合には、脳卒中の否定以上に外傷検索を行います。薬物中毒の患者は、アルコールとともに薬を内服していることもあり、転倒などに伴う外傷を併発する場合があるので注意しましょう。また、採血では圧挫に伴う横紋筋融解症*を認めることもあります。適切な輸液管理が必要となるため、CK値や電解質、腎機能は必ず確認しましょう。アルコールの関与を疑う場合には、浸透圧ギャップからアルコールの推定血中濃度を計算すると、診断の助けとなります。詳細は、次回以降に解説します。*急性中毒の3合併症:誤嚥性肺炎、異常体温、非外傷性圧挫症候群急性薬物中毒の多くは、特異的な治療をせずとも時間経過とともに改善します。また、繰り返すことが多く、再来した場合には軽視しがちです。そのため、確立したアプローチを持たなければ痛い目をみることが少なくないのです。外傷や痙攣、誤嚥性肺炎の合併を見逃す、アルコールとともに内服しており、症状が遷延するなどはよくあることです。根拠をもって確定、除外する意識を常に持ちながら対応しましょう。症例の経過本症例では空のPTPの存在や40代の女性という背景から、第一に薬物過量内服を疑いながら、Ruleにのっとり対応しました。母親から病歴を聴取すると、来院3時間前までは普段どおりであり、その後患者の携帯電話の記録を確認すると、付き合っている彼氏とのメールのやり取りから、来院2時間ほど前に衝動的に薬を飲んだことが判明しました。内服内容もベンゾジアゼピン系の薬を中心としたもので致死量には至らず、採血や頭部CTでも異常がないことが確認できたため、モニタリングをしながら、家族付き添いの下、入院管理としました。時間経過とともに症状は改善し、翌日には意識清明、独歩可能となり、かかりつけの精神科と連携を取り、退院となりました。本症例は典型的な薬物中毒症例であり、基本的なことを徹底すれば恐れることはありません。きちんと病歴や身体所見をとること、バイタルサインは興奮系か抑制系かを意識しながら解釈し、瞳孔径を忘れずに確認すればよいのです。次回は、アルコールによる意識障害のピットフォールを、典型的なケースから学びましょう。1)Benson BE, et al. ClinToxicol(Phila). 2013;51:140-146.

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第6回 意識障害 その5 敗血症ってなんだ?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)バイタルサインを総合的に判断し、敗血症を見逃すな!2)“No Culture,No Therapy!”、治療の根拠を必ず残そう!3)敗血症の初療は1時間以内に確実に! やるべきことを整理し遂行しよう!【症例】82歳女性の意識障害:これまたよく出会う原因82歳女性。来院前日から活気がなく、就寝前に熱っぽさを自覚し、普段と比較し早めに寝た。来院当日起床時から38℃台の発熱を認め、体動困難となり、同居している娘さんが救急要請。救急隊接触時のバイタルサインは以下のとおり。どのようにアプローチするべきだろうか?●搬送時のバイタルサイン意識:10/JCS、E3V4M6/GCS血圧:102/48mmHg 脈拍:118回/分(整) 呼吸:24回/分 SpO2:97%(RA)体温:37.9℃ 瞳孔:3/3mm +/+前回までの症例が一段落ついたため、今回は新たな症例です。高齢女性の意識障害です。誰もが経験したことのあるような症例ではないでしょうか。救急外来で多くの患者さんを診ている先生ならば、原因はわかりますよね?!前回までの復習をしながらアプローチしていきましょう。Dr.Sakamotoの10’s Ruleの1~6)を確認(表1)病歴やバイタルサインに重きを置き、患者背景から「○○らしい」ということを意識しながら救急車到着を待ちます。来院時も大きく変わらぬバイタルサインであれば、意識消失ではなく意識障害であり、まず鑑別すべきは低血糖です。低血糖が否定されれば、頭部CTを考慮しますが…。画像を拡大する原因は感染症か否か?病歴やバイタルサインから、なんらかの感染症が原因の意識障害を疑うことは難しくありません。それでは、今回の症例において体温が36.0℃であったらどうでしょうか? 発熱を認めた場合には細菌やウイルスの感染を考えやすいですが、ない場合に疑えるか否か、ここが初療におけるポイントです。この症例は、疫学的にも、そしてバイタルサイン的にも敗血症による意識障害が最も考えやすいですが、その理由は説明できるでしょうか。●Rule7 菌血症・敗血症が疑われたらfever work up!高齢者の感染症は意識障害を伴うことが多い救急外来や一般の外来で出会う感染症のフォーカスの多くは、肺炎や尿路感染症、その他、皮膚軟部組織感染症や腹腔内感染症です。とくに肺炎、尿路感染症の頻度が高く、さらに高齢女性となれば尿路感染症は非常に多く、常に考慮する必要があります。また、肺炎や腎盂腎炎は、意識障害を認めることが珍しくないことを忘れてはいけません。「発熱のため」、「認知症の影響で普段から」などと、目の前の患者の意識状態を勝手に根拠なく評価してはいけません。意識障害のアプローチの最初で述べたように、まずは「意識障害であることを認識!」しなければ、正しい評価はできません。感染症らしいバイタルサイン:qSOFAとSIRS*感染症らしいバイタルサインとは、どのようなものでしょうか。急性に発熱を認める場合にはもちろん、なんらかの感染症の関与を考えますが、臨床の現場で悩むのは、その感染症がウイルス感染症なのか細菌感染症なのか、さらには細菌感染症の中でも抗菌薬を使用すべき病態なのか否かです。救急外来など初療時にはフォーカスがわからないことも少なくなく、病歴や臓器特異的所見(肺炎であれば、酸素化や聴診所見、腎盂腎炎であれば叩打痛や頻尿、残尿感など)をきちんと評価してもわからないこともあります。そのような場合にはバイタルサインに注目して対応しましょう。そのためにまず、現在の敗血症の定義について歴史的な流れを知っておきましょう。現在の敗血症の定義は、「感染による制御不能な宿主反応によって引き起こされる生命を脅かす臓器障害1)」です(図1、2)。一昔前までは「感染症によるSIRS」でしたが、2016年に敗血症性ショックの定義とともに変わりました。そして、敗血症と診断するために、ベッドサイドで用いる術として、SIRS(表2)に代わりqSOFA (quickSOFA)(表3)が導入されました。その理由として、以下の2点が挙げられます。1)なんでもかんでも敗血症になってしまうSIRSの4項目を見ればわかるとおり、2項目以上は簡単に満たしてしまいます。皆さんが階段を駆け上がっただけでも満たしますよね(笑)。実際に感染症以外に、膵炎、外傷、熱傷などSIRSを満たす症候や疾患は多々存在し、さらに、インフルエンザなどウイルスに伴う発熱であっても、それに見合う体温の上昇を認めればSIRSは簡単に満たすため、SIRS+感染症を敗血症と定義した場合には、多くの発熱患者が敗血症と判断される実情がありました。2)SIRSを満たさない重篤な感染症を見逃してしまうSIRSを満たさないからといって敗血症でないといえるのでしょうか。実際にSIRSは満たさないものの、臓器障害を呈した状態が以前の定義(SIRS+感染症=敗血症)では12%程度認められました。つまり、SIRSでは拾いあげられない重篤な病態が存在したということです。これは問題であり、敗血症患者の初療が遅れ予後の悪化に直結します。画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大するそこで登場したのがqSOFAです。qSOFAは、(1)呼吸数≧22/分、(2)意識障害、(3)収縮期血圧≦100mmHgの3項目で構成され、2項目以上満たす場合に陽性と判断します。項目数がSIRSと比較し少なくなり、どれもバイタルサインで構成されていることが特徴ですが、その中でも呼吸数と意識障害の2項目が取り上げられているのが超・超・重要です。敗血症に限らず重症患者を見逃さないために評価すべきバイタルサインとして、この2項目は非常に重要であり、逆にこれら2項目に問題なければ、たとえ血圧が低めであっても焦る必要は通常ありません。心停止のアルゴリズムでもまず評価すべきは意識、そして、その次に評価するのは呼吸ですよね。また、これら2項目は医療者自身で測定しなければ正確な判断はできません。普段と比較した意識の変化、代謝性アシドーシスの代償を示唆する頻呼吸を見逃さないように、患者さんに接触後速やかに評価しましょう。*qSOFA:quick Sequential[Sepsis- Related] Organ Failure Assessment ScoreSIRS:Systemic Inflammatory Response Syndrome“No Culture,No Therapy!”:適切な治療のために根拠を残そう!“Fever work up”という言葉を聞いたことがあるでしょうか? 感染症かなと思ったら、必ずフォーカス検索を行う必要があります。熱があるから抗菌薬、酸素化が悪いから肺炎、尿が濁っているから尿路感染症というのは、上手くいくこともありますが、しばしば裏切られて後々痛い目に遭います。高齢者や好中球減少などの免疫不全患者では、とくに症状が乏しいことがあり悩まされます。フォーカスがわからないならば、抗菌薬を投与せずに経過を診るというのも1つの選択肢ですが、重症度が高い場合にはそうも言っていられません。また、前医から抗菌薬がすでに投与されている場合には、さらにその判断を難しくさせます。そのため、われわれが行うべきことは「(1)グラム染色を行いその場で関与している菌の有無を判断する、(2)培養を採取し根拠を残す」の2つです。(1)は施設によっては困難かもしれませんが、施行可能な施設では行わない理由がありません。喀痰、尿、髄液、胸水、腹水など、フォーカスと考えられる場所はきちんと評価し、その目でちゃんと評価しましょう。自信がない人はまずは細菌検査室の技師さんと仲良くなりましょう。いろいろ教えてくださいます。(2)は誰でもできますね。しかし、意外とやってしまうのが、痰が出ないから喀痰のグラム染色、培養を提出しない、髄膜炎を考慮しながらも腰椎穿刺を施行しないなんてことはないでしょうか。肺炎の起因菌を同定する機会があるのならば、痰を出さなければできません。血液培養は10%程度しか陽性になりません、肺炎球菌尿中抗原は混合感染の評価は困難、一度陽性となると数ヵ月陽性になるなど、目の前の患者の肺炎の起因菌を同定できるとは限りません。とにかく痰を頑張って採取するのです。喀出困難であれば、誘発喀痰、吸引なども考慮しましょう。肺炎患者の多くは数日前から食事摂取量が低下しており、脱水を伴うことが多く、外液投与後に喀痰がでやすくなることもしばしば経験します。とにかく採取し検査室へ走り、起因菌を同定しましょう。髄液も同様です。フォーカスがわからず、本症例のように意識障害を認め、その原因に悩むようであれば、腰椎穿刺を行う判断をした方がよいでしょう。不用意に行う必要はありませんが、限られた時間で対応する必要がある場合には、踏ん切りをつけるのも重要です。敗血症の1時間バンドルを遂行しよう!敗血症かなと思ったら表4にある5項目を遂行しましょう。ここではポイントのみ追記しておきます。敗血症性ショックの診断基準にも入りましたが、乳酸値は敗血症を疑ったら測定し、上昇している場合には、治療効果判定目的に低下を入れ、確認するようにしましょう。血圧は収縮期血圧だけでなく、平均動脈圧を評価し管理しましょう。十分な輸液でも目標血圧に至らない場合には、昇圧剤を使用しますが、まず使用するのはノルアドレナリンです。施設毎にシリンジの組成は異なるかもしれませんが、きちんと処方できるようになりましょう。ノルアドレナリンを使用することは頭に入っていても、実際にオーダーできなければ救命できません。バンドルに含まれていませんが重要な治療が1つ存在します。それがドレナージや手術などの抗菌薬以外の外科的介入(5D:drug、drainage、debridement、device removal、definitive controlの選択を適切に行う)です。急性閉塞性腎盂腎炎に対する尿管ステントや腎瘻、総胆管結石に伴う胆管炎に対するERCPなどが代表的です。バンドルの5項目に優先されるものではありませんが、同時並行でマネジメントしなければ一気に敗血症性ショックへと陥ります。どのタイミングでコンサルトするか、明確な基準はありませんが、院内で事前に話し合って決めておくとよいでしょう。画像を拡大する今回の症例を振り返る今回の症例は、高齢女性がqSOFAならびにSIRSを満たしている状態です。疫学的に腎盂腎炎に伴う敗血症の可能性を考えながら、バンドルにのっとり対応しました。もちろん低血糖の否定や頭部CTなども行いますが、以前の症例のように積極的に頭蓋内疾患を疑って撮影しているわけではありません。この場合には、脳卒中以上に明らかな外傷歴はなくても、慢性硬膜下血腫など外傷性変化も考慮する必要があるため施行するものです。尿のグラム染色では大腸菌様のグラム陰性桿菌を認め、腎叩打痛ははっきりしませんでしたが、エコーで左水腎症を認めました。抗菌薬を投与しつつ、バイタルサインが安定したところで腹部CTを施行すると左尿管結石を認め、意識状態は外液投与とともに普段と同様の状態へ改善したため、急性閉塞性腎盂腎炎による敗血症が原因と考え、泌尿器科医と連携をとりつつ対応することになりました。翌日、血液培養からグラム陰性桿菌が2セット4本から検出され、尿培養所見とも合致していたため確定診断に至りました。いかがだったでしょうか。よくある疾患ですが、系統だったアプローチを行わなければ忙しい、そして時間の限られた状況での対応は意外と難しいものです。多くの患者さんの対応をしていれば、原因疾患の検査前確率を正しく見積もることができるようになり、ショートカットで原因の同定に至ることもできると思いますが、それまではコツコツと一つひとつ考えながら対応していきましょう。次回はアルコールや薬剤による意識障害の対応に関して考えていきましょう。1)Singer M, et al. JAMA. 2016;315:801-810.2)Levy MM, et al. Crit Care Med. 2018;46:997-1000

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小児の敗血症バンドルの1時間完遂で、院内死亡リスクが低減/JAMA

 3項目から成る小児の1時間敗血症バンドル(1-hour sepsis bundle)を1時間以内に完遂すると、これを1時間で完遂しなかった場合に比べ院内死亡率が改善し、入院期間が短縮することが、米国・ピッツバーグ大学のIdris V. R. Evans氏らの検討で明らかとなった。研究の成果は、JAMA誌2018年7月24日号に掲載された。2013年、ニューヨーク州は、小児の敗血症治療を一括したバンドルとして、血液培養、広域抗菌薬、20mL/kg輸液静脈内ボーラス投与を1時間以内に行うよう規定したが、1時間以内の完遂がアウトカムを改善するかは不明であった。ニューヨーク州の小児敗血症治療規則の有用性を検証 本コホート研究は、ニューヨーク州の救急診療部、入院治療部、集中治療室が参加し、2014年4月1日~2016年12月31日の期間に行われた(米国国立衛生研究所[NIH]などの助成による)。 対象は、年齢18歳以下で、敗血症または敗血症性ショックで敗血症プロトコールが開始され、ニューヨーク州保健局(NYSDOH)に報告された患者であった。1時間敗血症バンドルには、抗菌薬投与前の血液培養、広域抗菌薬の投与、20mL/kg輸液の静脈内ボーラス投与が含まれた。 1時間敗血症バンドルが1時間以内に完遂された場合と、これが1時間以内に完遂されなかった場合のリスク補正後院内死亡率を評価した。個々の項目の1時間完遂に死亡率抑制効果はない 54施設から報告された1,179例が解析の対象となった。平均年齢は7.2(SD 6.2)歳、男児が54.2%、試験参加前に罹病歴のない健康な小児が44.5%で、敗血症性ショックが68.8%にみられた。139例(11.8%)が院内で死亡した。 294例(24.9%)が、1時間敗血症バンドルを1時間以内に完遂した。血液培養は740例(62.8%)が、抗菌薬投与は798例(67.7%)が、輸液ボーラス投与は548例(46.5%)が、それぞれ1時間以内に完遂した。 敗血症バンドルの1時間完遂例のリスク補正後院内死亡率は8.7%であり、非完遂例の12.7%に比べ有意に低かった(補正オッズ比[OR]:0.59、95%信頼区間[CI]:0.38~0.93、p=0.02、予測リスク差[RD]:4.0、95%CI:0.9~7.0)。 一方、敗血症バンドル個々の項目の1時間完遂例のリスク補正後院内死亡率は、いずれも非完遂例との比較において有意差を認めなかった。血液培養はOR:0.73(95%CI:0.51~1.06、p=0.10)、RD:2.6%(95%CI:-0.5~5.7%)であり、抗菌薬投与は0.78(0.55~1.12、p=0.18)、2.1%(-1.1~5.2%)、輸液ボーラス投与は0.88(0.56~1.37、p=0.56)、1.1%(-2.6~4.8%)であった。 敗血症バンドルの完遂に2、3、4時間を要した場合の平均予測院内死亡率は、1時間が経過するごとに約2%ずつ上昇した。また、ニューヨーク州の典型的な小児敗血症の症例で、1時間敗血症バンドルの院内死亡リスクを推算したところ、1時間以内で完遂した場合は8%、完遂に4時間を要した場合は13%だった。 入院期間は、敗血症バンドルの1時間完遂により、全例で有意に短縮し(補正後発生率比[IRR]:0.76、95%CI:0.64~0.89、p=0.001)、生存例でも有意に短縮したが(0.71、0.60~0.84、p<0.001)、死亡例では短縮しなかった(1.09、0.71~1.69、p=0.68)。 著者は、「これらの知見は、小児敗血症治療を一括化したバンドルはアウトカムの改善効果を示したとする単一施設の結果と一致する」としている。

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第4回 特別編 覚えておきたい熱中症の基本事項【救急診療の基礎知識】

覚えておきたい熱中症の基本事項7月に入り東京も連日気温が30℃を超え、40℃近い猛暑が続いています。連日熱中症による症状で救急搬送、外来受診される患者さんが後を絶ちません。熱中症に限りませんが、早期に異常を認知し、介入すること、そして、何より予防に努めることが非常に大切です。暑さに負けないために今回は熱中症の基本的事項をまとめておきましょう。●診療のPoint(1)夏場は常に熱中症を疑え!(2)非労作性熱中症は要注意! 屋内でも熱中症は起こりうる!(3)重症度を頭に入れ、危険なサインを見逃すな!熱中症の定義「熱中症とは何ですか?」と質問されて正確に答えられるでしょうか。以前は熱射病、熱痙攣、熱失神という言葉が使用されていましたが、現在は用いられません(重症度と共に後述します)。熱中症とは「暑熱環境における身体適応の障害によって起こる状態の総称」とされ、「暑熱による諸症状を呈するもの」のうちで、他の原因疾患を除外したものと定義されています。わが国では毎年7~8月に熱中症の発生率が多く、「今そこにある危機」と認識し、熱中症の症状を頭に入れ意識しておく必要があるのです。熱中症の死亡率本邦の年間発症数は約40万人、そのうち8.7%(約3万5,000人)が入院、0.13%(約520名)が死亡しています。この数値は現在も大きな変化はなく、2016年の死亡者数は621名で65歳以上が79.2%という結果でした(厚生労働省 人口動態統計)。2018年は2017年より暑く、熱中症患者は増加することが予想されます。熱中症を軽視してはいけません。労作性vs.非労作性熱中症と聞くと炎天下の中、スポーツや仕事をしている最中に引き起こされるイメージが強いですが、それだけではありません。熱中症は、「労作性熱中症」と「非労作性熱中症」に分類(表1)され、屋内でも発生します。そして、この非労作性熱中症が厄介なのです。画像を拡大する労作性熱中症の患者背景としては若年男性のスポーツ、中壮年男性の労働(建設業、製造業、運送業、とくに日給制のような短い雇用期間の方)、非労作性熱中症では独居の高齢者が典型的です。労作性熱中症の場合には、若く、集団で活動していることが多く、基礎疾患もなく早期に発見、介入できるため予後は良好ですが、非労作性熱中症は、自宅で発生することが多く、発見が遅れ、また心疾患などの基礎疾患、利尿薬などの内服薬などの影響から治療に難渋することがあるわけです。実際、救急医学会の熱中症実態調査において、熱中症の死亡の危険因子は、(1)高齢、(2)屋内発症、(3)非労作性熱中症でした1)。重症度に影響するばかりでなく、再発防止手段にも影響します。意識して対応しましょう。熱中症の重症度以前、熱中症は、熱射病、熱痙攣、熱失神などの呼び名がありましたが、現在は重症度を理解しやすいように表2のように分類されています1)。I度は必ずしも体温は上がりません。症状で判断します。II度は頭痛や嘔吐、倦怠感に加え、深部体温の上昇を認めます。III度は、意識障害、臓器障害を認め、早急な対応が必要になります。画像を拡大する熱中症を疑うことは、病歴から難しくありませんが、重症度の判断は初期評価をきちんと行わなければ見誤ります。とくに重篤化しやすい、非労作性熱中症の高齢者には注意が必要です。意識が普段と同様か否か、腎前性腎障害に代表される臓器障害を認めていないかを評価しましょう。熱中症の治療治療の原則、「安静」「環境改善」「塩分+水分の補給」は絶対です。重症度や経口摂取の可否を評価し、細胞外液の点滴の適応を判断します。高齢者がぐったりしている、十分な飲水が困難な場合には、点滴を選択したほうがよいでしょう。また、点滴が必要と評価した患者では、採血や血液ガスも検査・評価し、臓器障害の有無も併せて確認しましょう。熱中症II度以上は、体温調節中枢が正常に機能していない状態です。皮膚や筋肉の血管拡張、血流増加、多量の発汗によって循環血液量減少性ショックへと陥ります。急速な輸液に加え、高体温が持続すると多臓器不全(意識障害、痙攣、急性腎障害、DIC etc.)を伴い、輸液だけでなく呼吸管理や透析などの全身管理が必要となることもあります。初期対応としては以下の2点を意識し、速やかに対応しましょう。(1)目標体温深部体温*が39℃を超える高体温の持続は予後不良因子であり、38℃台になるまでは積極的な冷却処置を行いましょう。*深部体温中枢温を正確に反映する部位は腋窩温でも皮膚温でもありません。最も好ましいのは深部体温(膀胱温、直腸温、食道温)です。救急外来など初療時には、直腸温を測定するか、温度センサー付きバルーンカテーテルを利用し、膀胱温を測定するとよいでしょう。健康な人の体温の平均値は、腋窩温36.4℃に対して直腸温37.5℃と約1℃異なると言われていますが、高体温で発汗している場合や測定方法によって、腋窩温や皮膚温は容易に変化します(正しく測定できません)。熱中症、とくに重症度が高いと判断した症例では、深部体温を測定する意識をもちましょう。(2)冷却方法体表冷却法が一般的です。気化熱を利用します。ぬるま湯(40〜45℃)を霧吹きを用いて体表にかけ、扇風機などで扇ぐとよいでしょう。本当に熱中症か?!熱中症は環境因子だけでも十分起こりえますが、普段であれば自己対応(環境を変える、水分・塩分を摂取する)ができずに発生した可能性があります。つまり、熱中症に陥った原因をきちんと検索する必要があります。とくに非労作性熱中症の場合には、尿路感染症や肺炎などの感染症などが引き金となっているかもしれません。また、薬剤やクリーゼなども熱中症様症状をとることがあります。これらの鑑別は病歴をきちんと把握すればおおよそ可能です。明らかに部屋が暑かった、当日の朝までは普段どおりであったなどの病歴がわかれば、感染症や薬剤の影響は考えづらいでしょう。それに対して、数日前から体調の変化があった場合には、感染症などの影響も考え対応する必要があります。発熱か高体温か判断できず、とりあえず血液培養を2セット提出するのは簡単ですが、それ以上に病歴聴取や身体所見を評価することのほうが大切です。プロカルシトニンも鑑別には役立たないため提出は不要でしょう。熱中症の予防熱中症は予防可能です。起こしてしまった人へは、治療だけでなく正しい熱中症の知識、そして周囲の方への啓発・指導を含め、ポイントを絞って熱中症を起こさないために必要なことを伝えましょう。「また熱中症の患者か!?」と思うのではなく、チャンスだと思い、再発予防に努めましょう。熱中症の基本的事項を伝授熱中症の初期症状、非労作性熱中症に関して伝えましょう。症状が熱中症によるものであることを知っておかないと対応できません。また、熱中症は屋外で起こるものと思っていると、非労作性熱中症に陥ります。高齢の方からは「風通しがいいのでクーラーは使用していません(設置していません)」、「クーラーは嫌いでね」という台詞をよく聞きますが、必要性をきちんと説明し、理解してもらうことが大切です。●熱中症の発生リスク評価を伝授猛暑が続いていますが、どの程度危険なのかを認識しなければ、「大丈夫だろう」と軽視してしまいます。朝のニュースをテレビやスマホで確認するのもよいですが、暑さ指数(Wet Bulb Globe Temperature:WBGT)を確認する癖をもっておきましょう。熱中症の発生に関与する因子は気温だけではなく、湿度、風速、日射輻射です。とくに湿度は大きく影響し、これらを実際に計測し算出して出てきた数値がWBGTです。細かなことは割愛しますが、WBGT>28℃になると熱中症が急増し危険と判断します(表3)。画像を拡大する●環境省の熱中症予防情報を伝授環境省熱中症予防情報サイトでは、WBGT(暑さ指数)を都道府県、地点別に確認できます。本稿執筆時の7月19日10時現在の東京都(都道府県)、東京(地点)のWBGT値は31.9℃(危険)と赤表示され、一目で熱中症のリスクが高いことがわかります。3日間の予測も併せて確認できるため、熱中症を予防する立場にある学校の教師や職場の管理者は必ず確認しておく必要があります。朝のニュースなどで危険性は日々報道されていますが、それでもなお発生しているのが熱中症です。願わくは、自ら確認し意識しておくことが必要と考えます。「熱中症の危険がある」ということを事前に意識して対応すれば、体調の変化に対する対応も迅速に行えるでしょう。●熱中症? と思った際の対応を伝授こむら返りや頭痛、倦怠感などを自覚し、環境因子から熱中症? と判断した場合には、速やかに環境を改善し(日陰や店舗内など涼しい場所へ移動)、水分だけでなく塩分を摂取するように勧めましょう。症状が改善しない場合や、自身で水分・塩分の摂取が困難な場合には、時間経過で改善することも多いですが、症状の増悪、一人暮らしで経過を診ることができる家族がいない場合には、病院へ受診するように指示したほうがよいでしょう。屋内外のリスクを見極め夏を過ごす7月は熱中症予防強化月間の重点取組期間です(厚生労働省「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」)。まだまだ暑い日が続きます。日頃の体調管理を行いつつ、屋外でのスポーツや作業をする場合には、リスクを評価し、予防に努め、屋内で過ごす場合には、温度・湿度を意識した環境の設定を行い、夏を乗り切りましょう!1)日本救急医学会熱中症に関する委員会. 熱中症の実態調査-日本救急医学会Heatstroke STUDY 2012最終報告-.日救急医会誌. 2014;25:846-862.

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第6回 チーム医療での薬剤師の立場って...?【はらこしなみの在宅訪問日誌】

在宅訪問専任薬剤師のはらこし なみです。遠慮は無用。良い人ではダメチーム医療・・・最近、毎日考えながら過ごしています。チーム医療の中での薬剤師ってなんでしょうか?何を期待され、何ができるのか。なぜそんなことを考えているのかと言うと・・・。【きっかけ1】在宅業務では、多くの医療スタッフやケアスタッフと顔を合わせたり、連絡を取り合ったり、最近は、メールを使用した情報共有も試みたり、診療所の在宅部へも頻繁に行くようになりました。関係が密になると、遠慮もなくなり、意見が活発になります。指導されることも多いです。ありがたいことです。先日、在宅を担当している看護師さんとお話ししている姿を、診療所所長の医師に後から指摘されました。「気を使いすぎ」だと。「もっとそこは怒ってほしかった」「その程度のことしかしていないの?」「あなたにとって、在宅医療とは何ですか?」「あなたの信念は?」ず~~ん。はぁ(涙)看護師や医師に気を使うのではなく、患者さん本位で思っていることをしっかり言わなければ。人が良いのではダメです。在宅医療の理念や私にとって在宅医療とは・・・を、なんとなく心に留めて過ごすようになりました(遅い??)薬局で調製してもらう必要ってありますか?【きっかけ2】「チーム医療の中での薬剤師とはなにか」悩み始めたきっかけ2つめ。先日の緩和ケア勉強会でのことでした。病棟看護師さんの「薬局で混注する必要ってありますか?」との発言。意見を求められたときしか言葉を発しない私。でも薬剤師として、ここは言わねば!「お家の中の雑菌が万が一輸液に入ったら、栄養満点の輸液の中で増殖し、直接バリアのない静脈へ...無菌調剤は必要だと思います!!」(キット製品などもありますので、それなら薬局での混注の必要はないです...というのは後から言うことにして...)緊張で心臓がバクバクしている間に...所長の医師のお言葉が。「僕は薬剤師は必要だと思う。チーム医療の中で薬剤師の必要性はいうまでもない、関わってほしい。薬局は設備が整っているし、利用すべきであり、必要としている患者さんもいる」と...。泣きました...(心の中で)薬剤師をそのように思ってくれている先生の発言に感動し、さらなる緊張感が。期待に応える仕事をしなければ。チーム医療における薬剤師って・・・?以前、この医師からは在宅医療における薬局での無菌調製の重要性を聞いていました。病院には無菌室がなく、注射薬は毎回病棟で混合している。それほど問題ないが、本来は無菌が望ましいと考えていること。在宅になると「保管」が必要になるため、無菌調製が必要だということ。勉強会で発言された病棟看護師さんは在宅の状況をご存じなく、「病院と同じように毎回家で混ぜたらよい」と考えられていたようです。「混合を誰がする?」「毎日訪問看護師が行けるのか?」「薬剤師が毎日行けば?」などの話になりました。(この委員会のあと、医師から「うちの職員の教育が足りずに申し訳ない」と謝られました)そして、「次回の緩和ケア委員会の議題を決めた。」といわれたときなんとなく嫌な予感...いつもは、次回の開催通知がくるだけなのに。次回のテーマは、「チーム医療における薬剤師の必要性」。病棟薬剤師、薬局薬剤師が発表することになりました。医師からは「言いたいこと、たくさんあるでしょ(笑)」って...大きな宿題をいただいてしまいました。は~、どうしよう。皆さんはチーム医療、チームの中の薬剤師、どのように考えられますか?

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第3回 無菌室のある薬局勉強会に参加&新しい患者さんの対応に緊張【はらこしなみの在宅訪問日誌】

大事なのはリスク管理。病院から新たなTPNの依頼が!在宅訪問専任薬剤師のはらこし なみです。勉強会で各薬局の無菌調整マニュアルを比較先日、無菌室を持つ薬局が集まって、勉強会をしました。それぞれの手技を確認し、無菌調製マニュアルを比較。あれが違う、これが違う...。たった5薬局なのに使っているグローブもガウンも違う。アンプルの扱いも、無菌室への入り方も...。しかし、根本にあるのはリスク管理。改めて徹底することとなりました。私にとってルートや針を扱うのは初めてのことであり、新鮮でした。でも、器材も定期的に扱わないと忘れてしまうよなあ~と思っていた矢先。患者さん+先生+器材 新しい出会いに感謝TPNはあまり扱ったことがないという泌尿器科の先生。退院時カンファレンスのとき「出してほしい物、処方箋に書くから言って!」と。「輸液セットは?ポンプは?病院で出しますか?それともこちらで準備しますか?」結局、先生がポンプを準備、輸液セットは院外処方箋で薬局から患者宅にお届けすることになりました。「とにかく、TPNが体に流れるようにしてほしいの!病院と同じように!」と医師から強く言われ、退院まで1週間。毎日ドキドキでした。病院の入退院連携室と毎日連絡を取り合い、ルート、針の品番、使用頻度、ガーゼやテープなどの衛生材料について...色々教えてもらいました。そして在宅スタート医療保険を利用し2週間は特別指示期間。 毎日看護師さんが訪問し、TPNやカニューレ管理(気管切開あり)、訪問医もほぼ毎日顔を見に。この2週間は、在宅療養ができるか?を見極める期間。本人がどんなに希望しても、必要な処置や治療がお家でできなければ、在宅療養は成り立ちません。ご家族にも、輸液バックの交換や痰の吸引(吸引器の使い方や吸引カテーテルの扱い方など)を覚えてもらう。エルネオパは開通してから持参し、ルートと針は訪問看護師さんが週1回交換。訪問医や訪問看護師さんが、在宅療養はちょっと無理だろうなぁ、と言っていたけれど、どうにか頑張ったご本人とご家族。2週間が過ぎ、介護保険に切り替わっても処方が途切れることはありませんでした。

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第2回 意識障害 その2 意識障害の具体的なアプローチ 10’s rule【救急診療の基礎知識】

72歳男性の意識障害:典型的なあの疾患の症例72歳男性。友人と食事中に、椅子から崩れるようにして倒れた。友人が呼び掛けると開眼はあるものの、反応が乏しく救急車を要請した。救急隊到着時、失語、右上下肢の麻痺を認め、脳卒中選定で当院へ要請があった。救急隊接触時のバイタルサインは以下のとおり。どのようにアプローチするべきだろうか?●搬送時のバイタルサイン意識:3/JCS、E4V2M5/GCS血圧:188/102mmHg 脈拍:98回/分(不整) 呼吸:18回/分SpO2:95%(RA) 体温:36.2℃ 瞳孔:3/3mm+/+意識障害のアプローチ意識障害は非常にコモンな症候であり、救急外来ではもちろんのこと、その他一般の外来であってもしばしば遭遇します。発熱や腹痛など他の症候で来院した患者であっても、意識障害を認める場合には必ずプロブレムリストに挙げて鑑別をする癖をもちましょう。意識はバイタルサインの中でも呼吸数と並んで非常に重要なバイタルサインであるばかりでなく、軽視されがちなバイタルサインの1つです。何となくおかしいというのも立派な意識障害でしたね。救急の現場では、人材や検査などの資源が限られるだけでなく、早期に判断することが必要です。じっくり考えている時間がないのです。そのため、意識障害、意識消失、ショックなどの頻度や緊急性が高い症候に関しては、症候ごとの軸となるアプローチ法を身に付けておく必要があります。もちろん、経験を重ね、最短距離でベストなアプローチをとることができれば良いですが、さまざまな制約がある場面では難しいものです。みなさんも意識障害患者を診る際に手順はあると思うのですが、まだアプローチ方法が確立していない、もしくは自身のアプローチ方法に自信がない方は参考にしてみてください。アプローチ方法の確立:10’s Rule1)私は表1の様な手順で意識障害患者に対応しています。坂本originalなものではありません。ごく当たり前のアプローチです。ですが、この当たり前のアプローチが意外と確立されておらず、しばしば診断が遅れてしまっている事例が少なくありません。「低血糖を否定する前に頭部CTを撮影」「髄膜炎を見逃してしまった」「飲酒患者の原因をアルコール中毒以外に考えなかった」などなど、みなさんも経験があるのではないでしょうか。画像を拡大する●Rule1 ABCの安定が最優先!意識障害であろうとなかろうと、バイタルサインの異常は早期に察知し、介入する必要があります。原因がわかっても救命できなければ意味がありません。バイタルサインでは、血圧や脈拍も重要ですが、呼吸数を意識する癖を持つと重症患者のトリアージに有効です。頻呼吸や徐呼吸、死戦期呼吸は要注意です。心停止患者に対するアプローチにおいても、反応を確認した後にさらに確認するバイタルサインは呼吸です。反応がなく、呼吸が正常でなければ胸骨圧迫開始でしたね。今後取り上げる予定の敗血症の診断基準に用いる「quick SOFA(qSOFA)」にも、意識、呼吸が含まれています。「意識障害患者ではまず『呼吸』に着目」、これを意識しておきましょう。気管挿管の適応血圧が低ければ輸液、場合によっては輸血、昇圧剤や止血処置が必要です。C(Circulation)の異常は、血圧や脈拍など、モニターに表示される数値で把握できるため、誰もが異変に気付き、対応することは難しくありません。それに対して、A(Airway)、B(Breathing)に対しては、SpO2のみで判断しがちですが、そうではありません。SpO2が95%と保たれていても、前述のとおり、呼吸回数が多い場合、換気が不十分な場合(CO2の貯留が認められる場合)、重度の意識障害を認める場合、ショックの場合には、確実な気道確保のために気管挿管が必要です。消化管出血に伴う出血性ショックでは、緊急上部内視鏡を行うこともありますが、その際にはCの改善に従事できるように、気管挿管を行い、AとBは安定させて内視鏡処置に専念する必要性を考える癖を持つようにしましょう。緊急内視鏡症例全例に気管挿管を行うわけではありませんが、SpO2が保たれているからといって内視鏡を行い、再吐血や不穏による誤嚥などによってAとBの異常が起こりうることは知っておきましょう。●Rule2 Vital signs、病歴、身体所見が超重要! 外傷検索、AMPLE聴取も忘れずに!症例の患者は、突然発症の右上下肢麻痺であり、誰もが脳卒中を考えるでしょう。それではvital signsは脳卒中に矛盾ないでしょうか。脳卒中に代表される頭蓋内疾患による意識障害では、通常血圧は高くなります(表2)2)。これは、脳卒中に伴う脳圧の亢進に対して、体血圧を上昇させ脳血流を維持しようとする生体の反応によるものです。つまり、脳卒中様症状を認めた場合に、血圧が高ければ「脳卒中らしい」ということです。さらに瞳孔の左右差や共同偏視を認めれば、より疑いは強くなります。画像を拡大する頸部の診察を忘れずに!意識障害患者は、「路上で倒れていた」「卒倒した」などの病歴から外傷を伴うことが少なくありません。その際、頭部外傷は気にすることはできても、頸部の病変を見逃してしまうことがあります。頸椎損傷など、頸の外傷は不用意な頸部の観察で症状を悪化させてしまうこともあるため、後頸部の圧痛は必ず確認すること、また意識障害のために評価が困難な場合には否定されるまで頸を保護するようにしましょう。画像を拡大する意識障害の鑑別では、既往歴や内服薬は大きく影響します。糖尿病治療中であれば低血糖や高血糖、心房細動の既往があれば心原性脳塞栓症、肝硬変を認めれば肝性脳症などなど。また、内服薬の影響は常に考え、お薬手帳を確認するだけでなく、漢方やサプリメント、家族や友人の薬を内服していないかまで確認しましょう3)。●Rule3 鑑別疾患の基本をmasterせよ!救急外来など初診時には、(1)緊急性、(2)簡便性、(3)検査前確率の3点に意識して鑑別を進めていきましょう。意識障害の原因はAIUEOTIPS(表4)です。表4はCarpenterの分類に大動脈解離(Aortic Dissection)、ビタミン欠乏(Supplement)を追加しています。頭に入れておきましょう。画像を拡大する●Rule4 意識障害と意識消失を明確に区別せよ!意識障害ではなく意識消失(失神や痙攣)の場合には、鑑別診断が異なるためアプローチが異なります。これは、今後のシリーズで詳細を述べる予定です。ここでは1つだけおさえておきましょう。それは、意識状態は「普段と比較する」ということです。高齢者が多いわが国では、認知症や脳卒中後の影響で普段から意思疎通が困難な場合も少なくありません。必ず普段の意識状態を知る人からの情報を確認し、意識障害の有無を把握しましょう。前述の「Rule4つ」は順番というよりも同時に確認していきます。かかりつけの患者さんであれば、来院前に内服薬や既往を確認しつつ、病歴から◯◯らしいかを意識しておきましょう。ここで、実際に前掲の症例を考えてみましょう。突然発症の右上下肢麻痺であり、3/JCSと明らかな意識障害を認めます(普段は見当識障害など特記異常はないことを確認)。血圧が普段と比較し高く、脈拍も心房細動を示唆する不整を認めます。ここまでの情報がそろえば、この患者さんの診断は脳卒中、とくに左大脳半球領域の脳梗塞で間違いなしですね?!実際にこの症例では、頭部CT、MRIとMRAを撮影したところ左中大脳動脈領域の急性期心原性脳塞栓症でした。診断は容易に思えるかもしれませんが、迅速かつ正確な診断を限られた時間の中で行うことは決して簡単ではありません。次回は、10’s Ruleの後半を、陥りやすいpitfallsを交えながら解説します。お楽しみに!1)坂本壮. 救急外来 ただいま診断中. 中外医学社;2015.2)Ikeda M, et al. BMJ. 2002;325:800.3)坂本壮ほか. 月刊薬事. 2017;59:148-156.コラム(2) 相談できるか否か、それが問題だ!「報告・連絡・相談(ほう・れん・そう)」が大事! この単語はみなさん聞いたことがあると思います。何か困ったことやトラブルに巻き込まれそうになったときは、自身で抱え込まずに、上司や同僚などに声をかけ、対応するのが良いことは誰もが納得するところです。それでは、この3つのうち最も大切なのはどれでしょうか。すべて大事なのですが、とくに「相談」は大事です。報告や連絡は事後であることが多いのに対して、相談はまさに困っているときにできるからです。言われてみると当たり前ですが、学年が上がるにつれて、また忙しくなるにつれて相談せずに自己解決し、後で後悔してしまうことが多いのではないでしょうか。「こんなことで相談したら情けないか…」「まぁ大丈夫だろう」「あの先生に前に相談したときに怒られたし…」など理由は多々あるかもしれませんが、医師の役目は患者さんの症状の改善であって、自分の評価を上げることではありません。原因検索や対応に悩んだら相談すること、指導医など相談される立場の医師は、相談されやすい環境作り、振る舞いを意識しましょう(私もこの部分は実践できているとは言えず、書きながら反省しています)。(次回は6月27日の予定)

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第2回 無菌室稼働から7回目、ドキドキの独り立ち!【はらこしなみの在宅訪問日誌】

在宅訪問専任薬剤師のはらこし なみです。責任と自己判断。1人でドキドキの混注先日の無菌室稼働から7回目。そろそろ体が先に動くようになってきて、「1人でも大丈夫だろう、次からはもう1人で」と決まりました。輸液やアンプルにアルコール吹き付けたり、トレーを消毒したり、シリンジやフィルターをそろえたり・・・入室前の準備をしつつ、緊張感も出てきて、もう一度マニュアルを読んで手技のチェック。一人で気楽かと思いきや、責任と自己判断という重みがのしかかり、ドキドキの混注になりました。一通り無菌操作を終え、無菌室すべての面・・・床、壁をアルコールで拭く掃除が、思いのほか大変でした。「でも、これはきっちりとやらないと!」と、アルコールにまみれながら終了。クリーンルームの外に出て、新鮮な空気が美味しく、ひと時ほっとします。でも、この輸液が何かトラブルを起こさないだろうか、チューブの詰まりはないか、体調はどうか、お届け時間は間に合うか・・・と、新たなドキドキが待っていました。腸閉塞の患者さんが在宅中心静脈栄養(TPN)の予定今、A病院に入院されている腸閉塞の患者さんが在宅中心静脈栄養(TPN)の予定です。※TPNは心臓に近い鎖骨の下を走る中心静脈にカテーテルを入れて、そのカテーテルに直接薬 剤や栄養剤を投与する方法。現在は・・・ラクトリン®ゲル液、フルカリック®。ロピオン®静注(静注用非ステロイド性鎮痛薬)を生食100mLに入れて側注管より注入。とのことでした。ロピオン®は在宅でいけますか?と先生より質問もあり、調べています。先生はロピオン®か、デュロテップ®でいくか、考え中のよう。しかし、新たな問題が・・・うすうす勘づいていたのですが、案の定、ロピオン®の安定性(生食 or ブドウ糖5%にmix)は3日間(72時間)までの資料しかなく、ロピオン®が乳濁性製剤のため、フィルターに目詰まりを起こす可能性がある、側管からフィルターを通さない方法が推奨される、とメーカーより回答をいただきました。うちの薬局の基準では、アンプル混中でTPNの場合はフィルター使用が前提。どうしたものか・・・??結局、ロピオン®が在宅には向かないことを先生にお伝えしました。処方提案もしたかったけれど、先生がお考えのデュロテップ®以外には思いつかず・・・。力不足を味わっていました。ところが、退院時処方を見ると、ハイペン®200mgが開始に!胃を全摘していない、完全に腸閉塞しているわけではないことから、退院までの間に内服を試して、可能になったそうです。"TPNだから経口投与はできない"と端から内服薬を除外していましたが、経口できるか否かはTPNかどうかではないこと、腸閉塞といっても様々な状態があり、まさに患者さん個々の状態にもよるのだということを学んだ一例でした・・・。日々精進です!

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第1回 楽しい同行♪&無菌室稼動!【はらこしなみの在宅訪問日誌】

初めまして。はらこし なみと申します。在宅訪問専任の薬剤師をしています。目の前の患者さんの在宅療養をより良いものに!と、患者さんのサポートに奮闘しています。お別れのときのやるせなさを乗り越え、チーム医療での自分の立ち位置を見つめ直しながら、前向きに頑張る日々を綴っていきたいと思います。楽しい同行♪「次回は2週間後の25日に伺いますね~」いつもの看護師さんの締めくくりで部屋を出ます。ここは高齢者専用住宅。今日は医師と看護師に同行しています。「先生、次はクリスマスですね~」「ぼく、サンタクロースになるよ」は?まさか先生。待ち合わせ場所の施設玄関に現れた先生は赤かった!!!きゃあ、先生~。施設入居者の皆さん、軒並み血圧up↑↑先生とわからず動揺する方まで...急いでお髭とって「僕です!」高齢者や病気を患っている方にとっては刺激が強すぎた?ほんの少しの変化(温度、気候もそうですが)が体に影響するのだと再認識しました...。無菌室稼動の依頼が!さて。病院主催の緩和ケア勉強会に参加して他の職種の方々と連携するように心懸けています。勉強会の最後には参加者の各部門から連絡事項の伝達があります。病院で在宅訪問を担当している看護師さんから「TPN患者さんの在宅が開始予定なのですが、混合できますか?」と。ここは高齢者専用住宅。今日は医師と看護師に同行しています。夢に見ていた無菌室の稼働!!うちの薬局には無菌室がありますが、実際に処方箋を受けたことはこれまでなかったんです。しかし、実際に段取りを始めると・・・、準備する物品の多さ、手順の確認、注射薬剤の知識のなさに焦り、緊張の毎日。薬局薬剤師にとって、注射、輸液などを扱うことがなく、未知の世界です・・・。無菌調製している別店舗のスタッフに色々と教えてもらう日々が始まりました。調製前の準備から指導されっぱなしです・・・。「1回1回、ドアはしっかりしめる!」「ここ拭いた?」「ここに置いちゃだめだよ!」ありがたい指導のもと、ようやく稼働にこぎ着けました。初の輸液処方箋。適応外使用に四苦八苦ですが、資料やガイドラインなどを勉強して、実際の現場ではこのような使用法もあるのだ、と改めて感じています。やっと1例。いっぱいいっぱいですが、これからは必要としている患者さんに届けられるよう、努力したいと思います。

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