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高齢者の転倒・骨折予防、スクリーニング+介入は有効か/NEJM

 高齢者の転倒による骨折の予防において、郵送での情報提供に加え、転倒リスクのスクリーニングで対象を高リスク集団に限定した運動介入または多因子介入を行うアプローチは、郵送による情報提供のみと比較して骨折を減少させないことが、英国・エクセター大学のSarah E. Lamb氏らが行った無作為化試験「Prevention of Fall Injury Trial」で示された。研究の詳細は、NEJM誌2020年11月5日号で報告された。高齢者における転倒の発生は、地域スクリーニングとその結果を考慮した予防戦略によって抑制される可能性があるが、英国ではこれらの対策が骨折の発生、医療資源の活用、健康関連QOLに及ぼす効果は知られていないという。イングランドの63施設が参加した実践的クラスター無作為化試験 本研究は、イングランドの7つの地方と都市部の63の総合診療施設が参加した実践的な3群クラスター無作為化対照比較試験であり、2010年9月~2014年6月の期間に参加施設と参加者の募集が行われた(英国国立健康研究所[NIHR]の助成による)。 各地域の保健区域にある3つの総合診療施設が、3つの介入のいずれかに無作為に割り付けられた。参加施設は、自施設の患者登録データを用いて70歳以上の地域居住者に試験への参加を募った。運動介入または多因子転倒予防介入を行う群に割り付けられた施設は、参加者に転倒リスクに関する簡略なスクリーニング質問票を送付した。 郵送による情報提供、転倒リスクのスクリーニング、対象を限定した介入(転倒リスクが高い集団への運動介入または多因子転倒予防介入)を行った群の効果を、郵送による情報提供のみを行った群と比較した。 運動介入にはOtago運動プログラム(筋力、バランス、歩行)などが用いられた。多因子転倒予防介入では、看護師、総合診療医、老年病専門医が、転倒と病歴、歩行とバランス、投薬状況、視力、足と履き物などを評価し、家庭環境に関する聞き取りを実施して、服薬の見直し、運動(運動介入群と同じ)、専門医への紹介などが行われた。 主要アウトカムは、18ヵ月後の100人年当たりの骨折発生率とした。副次アウトカムは、転倒、健康関連QOL、フレイル、経済評価などであった。100人年当たりの骨折発生率:2.76件vs.3.06件vs.3.50件 63施設から70歳以上の9,803例(平均年齢78歳、女性5,150例[53%])が無作為に選出された。このうち3,223例が郵送による情報提供のみを行う群(21施設)、3,279例が郵送による情報提供に加え、転倒リスクのスクリーニングと対象を限定した運動介入を行う群(21施設)、3,301例は郵送による情報提供に加え、転倒リスクのスクリーニングと対象を限定した多因子転倒予防介入を行う群(21施設)に割り付けられた。 転倒リスクスクリーニング質問票は、運動群の3,279例中2,925例(89%)と、多因子転倒予防群の3,301例中2,854例(87%)から回答が返送された。これら質問票を返送した5,779例のうち、2,153例(37%)が「転倒リスクが高い」と判定され、介入を受けることが勧められた。 骨折データは9,803例中9,802例で得られた。18ヵ月の時点で、骨折は郵送による情報提供群で133件、運動群で152件、多因子転倒予防群で173件発生し、100人年当たりの発生率はそれぞれ2.76件、3.06件、3.50件であった。運動群の郵送による情報提供群に対する骨折発生の率比は1.20(95%信頼区間[CI]:0.91~1.59、p=0.19)、多因子転倒予防群の郵送による情報提供群に対する骨折発生の率比は1.30(0.99~1.71、p=0.06)であり、スクリーニングと対象を限定した介入は骨折発生率を抑制しなかった。 転倒、SF-12で評価した健康関連QOL、Strawbridge Frailty Indexスコアで評価したフレイルにも有意な差は認められなかった。また、2万ポンド(2万5,800米ドル)を閾値とした場合、運動介入で費用対効果が優れる確率は70%だった。 試験期間中に、3件の有害事象(狭心症エピソード1件、多因子転倒予防の評価中の転倒1件、大腿骨近位部骨折1件)が発現した。 著者は、「最近のCochraneレビューでは、転倒への多因子介入の効果は限定的でばらつきが大きいと報告されており、骨折については信頼できるエビデンスはないとされる。また、今回の試験では、既報の研究に比べ運動の転倒への効果が低かったが、どの研究よりも追跡期間が長かった」としている。

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病院風景3題【Dr. 中島の 新・徒然草】(348)

三百四十八の段 病院風景3題2020年も11月に突入し、ますます寒くなってきました。昨日、ついに電気毛布が登場。お蔭でよく眠れました。さて、今回は最近のちょっとした出来事を語りましょう。(その1)先日、顔面痙攣の患者さんにボトックスを打っていたときのこと。患者「中島先生は都構想に賛成? それとも反対?」中島「僕は〇〇ですね」患者「なんでまた?」ひとしきり政治ネタで盛り上がりました。考えてみれば、外科医のルーツは散髪屋さん。まさしく床屋談義です。患者「コロナも怖いし、私、投票はやめておこうかと思ってるのよ」中島「投票には行かないとダメでしょう」患者「先生は真面目やねえ」中島「自分が投票するからこそ、後で見るニュースが面白いんですよ」患者「じゃあ私も行こうかな」と、11月1日の投票日をスケジュールに入れて張り切っていたのですが、これ、投票は大阪市民だけなんですね。大阪府民であっても大阪市民でない私は関係なし。「府と市が一緒になって二重行政解消」と言ってるくらいだから府民も投票させてくれたらいいのに。確かに、大阪市外の自宅のほうには投票に関するこれといったお知らせも来ません。でも、職場のある大阪市中央区では選挙カーみたいなのが走り回っていました。「このままでは大阪市がなくなってしまいます!」「大阪市がなくなってもいいのでしょうか!」大きな声で主張していたのは、もっぱら反対派です。で、投票結果は反対派が賛成派を僅差で上回りました。面白いのが自民党と共産党が反対派、維新と公明党が賛成派だったことです。国語の試験で「呉越同舟を説明せよ」という問題が出たら、例として使えますね。(その2)転倒して、左手をついたら骨折してしまったという患者さん。彼女は若くして脳梗塞になり、左不全片麻痺になっていたのです。ほとんど見てわからない程度には回復したのですが、バランスが悪く、何かの拍子に転びそうになります。毎回、左足が引っかかるという同じパターン。中島「転んで受け身をとる練習をしたらどうですか?」患者「柔道みたいに?」中島「そう。左足が引っかかったときに、どううまく転ぶかって練習」患者「それ難しそう」中島「何も黒帯を取ろうってわけじゃないからできますよ」患者「できるかなあ」中島「最初は柔らかいマットか何かの上で練習するといいですよ」例によって、自分ではやらないことを偉そうに講釈してしまいました。でも、転ばないのも大切だけど、転んでしまったときの対処も大切ですよね。リハビリに取り入れるのもいいんじゃないかな。(その3)手術室でのお話。血管吻合の手術ですが、まずは若手が皮切開始。私は手術用顕微鏡をのぞきながら助手を務めます。もちろん、若手が行き詰まったら途中で交代するつもりでした。中島「おい、糸の真ん中を持ったら蝶々結びになってしまうやないか。端を持てよ」若手「すみません」中島「そもそも何回ぐらい練習してきたんや」若手「……」中島「100回か200回か、先生の回答はこの2択や」若手「……」中島「そうか、200回以上っていうのもあるから3択になるな」若手「もう勘弁してください」手術室というのは逃げ場がないので、熱血指導にはぴったりの場所です。と言いながらも、若手の吻合した血管はうまく開通し、見事に先発完投してくれました。手術室から出た時に若手2号と出くわしたので、つい余計な一言。中島「彼、時間はかかったけどうまくやりよったぞ」若手2号「先を越されて、ちょっと悔しいです」中島「先生にも必ず出番がくるから、その日に備えて練習しとこか」若手2号「そうします!」同期というのは何かと助け合う一方で、ライバル心も持っています。切磋琢磨して成長してくれるといいですね。最後に1句都構想 銀杏の黄色と ともに散る

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HPVワクチン【今、知っておきたいワクチンの話】各論 第5回

ワクチンで予防できる疾患ヒトパピローマウイルス(human papilloma virus:HPV)ワクチンは、HPV感染と感染によって発症する疾患を予防する。その代表が子宮頸がんである。HPV感染は、女性では、子宮頸がんのほか、肛門がん、膣がん、外陰部がん、口腔咽頭がん、肛門性器疣贅(尖圭コンジローマ)、男性では、肛門がん、陰茎がん、口腔咽頭がん、肛門性器疣贅の原因となる。HPVはヒトのみに感染する2本鎖DNAウイルスで、性交渉によって感染する。HPV感染はほとんどが一時的で典型的には12ヵ月以内に消失するが、12ヵ月を超えて感染が持続した場合に、数年の経過でがんを発症することがある1)。HPVには200種類以上のジェノタイプがあり、ジェノタイプによって、がんの発症リスクと発症する疾患が異なる(表1)。子宮頸がんの発症リスクが高い高リスクなジェノタイプは16型と18型がよく知られている。子宮頸がんの組織型のうち、扁平上皮がん、腺がん、腺扁平上皮がんは、約70%が、高リスク群である16型と18型が原因となる。そのほかのジェノタイプ、31, 33, 45, 52, 58型を加えると、約90%を占める2,3)。表1 HPVジェノタイプと関連疾患画像を拡大する子宮頸がんは、持続的なHPV感染によって、前がん病変である子宮頸部上皮内腫瘍(cervical intraepithelial neoplasia:CIN)やadenocarcinoma-in-situを経て発症する。CINは、組織学的にCIN1、CIN2、CIN3の3つに分類され、がんの発症リスクと関連している。CIN1やCIN2は通常がんへ進行することはまれで、正常組織へ戻るほうが多いと報告されている。CIN1からCIN3への進行は1年で1%程度だが、CIN2からCIN3への進行は2年以内に16%、5年以内に25%と上昇する。さらに、子宮頸がんやadenocarcinoma-in-situへの進行は、CIN2とCIN3は、CIN1と比較すると4.2倍のリスクがある。異形成が重度になるほどがん発症のリスクは高まる8)。ワクチンの概要(効果・副反応・生または不活化・定期または任意・接種方法)1)ワクチンの効果HPVワクチンには2価ワクチン(Cervarix)、4価ワクチン(Gardasil)、9価ワクチン(Gardasil 9、2020年に日本承認されたものは商品名をシルガード9という)の3種類が存在する。それぞれカバーするHPVの型が異なり、2価ワクチンは16, 18型、4価ワクチンは6, 11, 16, 18型、9価ワクチンは6, 11, 16, 18, 31, 33, 45, 52, 58型をカバーする(表2)。16, 18型は子宮頸がんの原因の約70%を占め、31, 33, 45, 52, 58型で約20%を占めるため、9価ワクチンでは子宮頸がんの原因の約90%をカバーできる。表2 HPVワクチンとカバーするHPVジェノタイプ画像を拡大するHPVワクチン接種により、HPV感染、子宮頸がんの前がん病変であるCIN2〜3、adenocarcinoma-in-situ、尖圭コンジローマ、肛門感染が減少することが示されてきた9)。前がん病変を確認した後に子宮頸がんが発症するまで放置するのは非倫理的であり、こうした病変は切除される。よって、がんに進行する前段階であり外科的治療の対象となる高悪性度の前がん病変の発生がエンドポイントに設定された。これまで、子宮頸がんの減少を直接示した報告はなかったが、本稿執筆中(2020年10月)に子宮頸がんが減少することを示した研究が発表された10)。若年女性に対する4価ワクチンの効果を検討した“FUTUREII”というランダム化比較試験では、15〜26歳の女性に4価ワクチン接種を行ったところ、48ヵ月の追跡期間で、プラセボと比較して、HPV16型または18型に関連したCIN2〜3、adenocarcinoma-in-situを含む前がん病変発症が98%減少した。CIN2単独では100%、CIN3では97%、adenocarcinoma-in-situでは100%の有効率が示された11)。また、10〜30歳の女性を対象とした、4価ワクチンの効果を検討したスウェーデンのコホート研究では、ワクチン接種者と非接種者を比較した場合、年齢補正後の子宮頸がんの発生率比は、0.51(95% CI,0.32-0.82)、暦年・居住地や親の特徴を追加補正した後の子宮頸がん発症率比は、0.37(95% CI,0.21-0.57)であり、初めて子宮頸がんが減少することが示された。4価ワクチンを17歳未満で接種した方が、17〜30歳で接種した場合よりも、子宮頸がんの発症が減少した10)。27〜45歳女性に対する4価ワクチンの研究では、予防効果は、CIN≧2の高度異形成は83.3%、尖圭コンジローマは100%と高く、接種後少なくとも10年間の予防効果が示された12)。9価ワクチンについては、16〜24歳の女性において、9価ワクチンと4価ワクチンの効果を48ヵ月追跡し比較した研究で、ワクチン接種前のHPV感染の有無に関わらず、高悪性度の子宮頸部や外陰部および膣の疾患(CIN、adenocarcinoma-in-situ、子宮頸がん、外陰上皮内腫瘍、膣がんを含む)の累積罹患率は100万人あたり14人と同等であった。また、9価ワクチンでカバーできる高悪性度の31, 33, 45, 52, 59型関連疾患(CIN, adenocarcinoma-in-situ, 子宮頸がん, 外陰上皮内腫瘍, 膣がんを含む)の罹患率については、9価ワクチンは100万人年あたり0.1人で、4価ワクチンは100万人年あたり1.6人であり、9価ワクチンの有効率は96.7%と高いことが示された13)。2)ワクチンの副反応主に報告されているワクチン接種後の有害事象は、注射部位の疼痛、腫脹、紅斑、掻痒感、全身症状は、頭痛、発熱、悪心、めまい、倦怠感などである14)。9価ワクチン接種者15,776例では、頭痛2,090例(13.2%)、発熱955例(6.1%)、失神36例(0.2%)が報告され、重篤な副反応は少なく0.1%未満であった15)。また、2009〜2015年にワクチン有害事象報告システムに報告された4価ワクチンの副反応は、合計60,461,220回接種のうち19,720例(0.03%)報告され、失神が100万接種あたり47例、体位性頻脈症候群(postural orthostatic tachycardia syndrome:POTS)やギラン・バレー症候群が100万接種あたり約1例、複雑性局所疼痛症候群(complex regional pain syndrome:CRPS)が100万接種あたり0.28例報告された16)。日本では、副反応としてCRPS、POTSに類似する病態、記憶障害や見当識障害などの高次脳機能障害や認知機能障害の報告が相次ぎ、それらは2014年に入り、HPVワクチン関連神経免疫異常症候群(HPV vaccine associated neuropathic syndrome:HANS)と呼ばれるようになった。HPVワクチンと、副反応と報告された症状との因果関係を調べる目的で行われた名古屋スタディでは、中学3年生〜大学3年生の女性約7万人を対象にアンケートを実施し、月経不順、疼痛、倦怠感、記憶障害、歩行困難、四肢の脱力を含む24の症状に関してワクチン接種者と非接種者とで比較したところ、症状発現に差はなく、ワクチンとそれらの症状との因果関係は示されなかった17)。接種スケジュールわが国では、HPVワクチンは2013年4月に定期接種化されたが、その後、副反応の報告が相次ぎ、同年6月に接種の積極的な勧奨が一時差し控えとなった。しかし、現在でも、A類の定期接種ワクチンに含まれている。画像を拡大する日本では、小学6年生〜高校1年生相当の女性に2価または4価ワクチンの3回接種が推奨されている。接種のタイミングは、2価ワクチンでは、初回接種、初回接種後1ヵ月、6ヵ月、4価ワクチンでは、初回接種、初回接種後2ヵ月、6ヵ月となっている。最近では、2020年7月21日に9価ワクチンであるシルガード9が、日本で製造販売承認された。9価ワクチンは、いまだ日本では定期接種化されていない(2020年10月現在)。画像を拡大する世界保健機関(World Health Organization:WHO)や米国予防接種諮問委員会(Advisory Committee on Immunization Practices:ACIP)は図3のように9〜14歳の男女全員に最低6ヵ月あけて2回のワクチン接種(0、6〜12ヵ月)を推奨している(男性は4価と9価ワクチンのみ承認)。12〜15ヵ月以上はあけないこと、5ヵ月以内に2回目を接種した場合は、初回から少なくとも6ヵ月あけて3回目の接種を行うことを推奨している18)。HIV、悪性腫瘍、造血幹細胞移植後、固形臓器移植後、自己免疫性疾患、免疫抑制薬使用中などの免疫不全者や、15歳以上の場合には、3回接種(0、1〜2、6ヵ月)が推奨されている。当初は、すべての対象者に3回接種が推奨されていたが、9〜14歳の場合、2回接種(0、6ヵ月)と3回接種(0、1〜2、6ヵ月)では免疫原性に差がないことが示されたため、2014年にWHOは2回接種に推奨を変更した19-22)。最近では、子宮頸部の高悪性度病変の発症をエンドポイントとしたコホート研究が報告され、16歳以下で4価ワクチンを接種開始した女性において、1〜2回接種は、3回接種と同等にCIN3以上の高悪性度病変に対する有効性が示されている23)。また、2価または4価ワクチンで接種を開始した場合に、9価ワクチンでシリーズを終了することは可能となっている。ただし、2価または4価ワクチンを3回接種終了後に9価ワクチンを追加接種することは推奨されていない24)。27〜45歳については、HPVワクチン接種の推奨はない。ただし、感染していない型のHPVに対する新規感染を予防するメリットはあり、実際CIN、尖圭コンジローマを有意に減少されることは示されている25)。接種のメリットがある場合は、医師と話し合いの上、接種を行うことが考慮できるとなっている。図3 米国予防接種諮問委員会(ACIP)やWHOにおけるHPVワクチン接種スケジュール画像を拡大する日常診療で役立つ接種ポイント接種は、筋注で行う。まれに、失神の報告があることから、失神による転倒や怪我を予防するため、ワクチン接種は座位または臥位で実施し、接種後は座位で15分間経過観察するよう推奨されている。注意点は、妊婦に対する安全性は確立していないこと、接種の禁忌は、HPVワクチンでのアナフィラキシーの既往、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)のアレルギーがある。今後の課題・展望WHOは2030年までにすべての国で、子宮頸がんの罹患率を100,000人年あたり4人未満、子宮頸がんの死亡率を30%減少させることを目標として掲げている。そのため、諸外国ではHPVワクチンプログラムが立ち上げられ、HPVワクチンの接種が積極的に行われている。オーストラリアでは、2019年10月の報告で、子宮頸がんの発症率は、2014年で100,000人年あたり7.4人だが、2020 年までに 100,000人年あたり6人未満、2028 年までに 100,000人年あたり4人未満に減少し、2066年には 100,000 人年あたり1人未満という非常にまれながんになることが予想されている26)。一方、日本は、2017年の子宮頸がんの罹患率は、100,000人年あたり16.9人で、ワクチン接種率は1%未満といった現状である27)。最近、オーストラリアの研究グループは、日本が2013年6月から現在に至るまで、HPVワクチン接種を差し控えたことによる、子宮頸がん罹患数や死亡数への影響について報告した。1994〜2007年に生まれた女性(2002年生まれ以降の女性の20歳までのワクチン接種率は1%未満)に関して、生涯における子宮頸がん罹患数が80,200〜82,100人、死亡数が16,500〜16,800人のところ、もし、2013年のワクチン接種の差し控えがなく接種率が70%で維持されていた場合、罹患数は52,900〜57,500人、死亡数は10,800〜11,800人となり、それぞれ24,600〜27,300人、5,000〜5,700人減少すると推定された。また、今後2020年以降の接種率が70%に回復し、キャッチアップも行った場合には、罹患数は64,000〜67,300人、死亡数は13,100〜13,800人となり、14,800〜16,200人の発症と3,000〜3,400人の死亡を防ぐことが可能であると推測した28)。9価ワクチンのシルガード9が承認され、ようやくHPVワクチンに対して、再度社会が動き始めたようだ。しかし、実際のところ、定期接種であることの周知や、積極的なワクチン接種までは進んでいない。早急に接種の積極的な勧奨を再開し、将来的には、子宮頸がんで苦しむ人がいなくなることを期待している。参考となるサイトこどもとおとなのワクチンサイト1)Joel M Palefsk. Up to date. Human papillomavirus infections: Epidemiology and disease associations.2)de Sanjose S, et al. Lancet Oncol. 2010;11:1048-1056.3)Schiffman M, et al. Lancet. 2007;370:890-907.4)EM Burd. Clin Microbiol Rev. 2003;16:1–17.5)Muñoz N, et al. N Engl J Med. 2003;348:518-527.6)D'Souza G, et al. N Engl J Med. 2007;356:1944-1956.7)Olesen TB, et al. Lancet Oncol. 2019;20:145-158.8)Holowaty P, et al. J Natl Cancer Inst. 1999;91:252-258.9)Bosch FX, et al. Vaccine. 2013;31:H1-31.10)Lei J, et al. N Engl J Med. 2020;383:1340-1348.11)FUTURE II Study Group. N Engl J Med. 2007;356:1915-1927.12)CDC.9vHPV Vaccine for Mid-Adult Persons (27-45 yo) Results from Clinical Studies.13)Joura EA, et al. N Engl J Med. 2015;372:711-723.14)Dahlström LA, et al. BMJ. 2013;347:f5906.15)Moreira ED Jr, et al. Pediatrics. 2016;138:e20154387.doi:10.1542/peds.2015-4387.16)Arana JE, et al. Vaccine. 2018;36:1781-1788.17)Suzuki S, et al. Papillomavirus Res. 2018;5:96-103.18)WHO.Comprehensive Cervical Cancer Control.19)Dobson SR, et al. JAMA. 2013;309:1793-1802.20)Puthanakit T, et al. J Infect Dis. 2016;214:525-536.21)Iversen OE, et al. JAMA. 2016;316:2411-2421.22)Huang LM, et al. J Infect Dis. 2017;215:1711–1719.23)Verdoodt F, et al. Clin Infect Dis. 2020;70:608-614.24)CDC.Supplemental information and guidance for vaccination providers regarding use of 9-valent HPV.25)FDA.FDA approves expanded use of Gardasil 9 to include individuals 27 through 45 years old.26)Hall MT, et al. Lancet Public Health. 2019;4:e19-e27.27)国立がん研究センター がん情報サービス.最新がん統計(2020年07月06日)28)Simms KT, et al. Lancet Public Health. 2020;5:e223-e234.講師紹介

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医療のイノベーション、ヘルスケアベンチャー大賞で体感しよう!

 昨年盛況に終わり、今年2回目を迎える『ヘルスケアベンチャー大賞』(主催:日本抗加齢協会、共催:日本抗加齢医学会)。この最終審査が10月26日(月)に開催される。 ヘルスケアベンチャー大賞は、アンチエイジング領域においてさまざまなシーズをもとに新しい可能性を拓き、社会課題の解決につなげていく試みとして、日本抗加齢医学会のイノベーション委員会発足後、坪田 一男氏(日本抗加齢医学会イノベーション委員会委員長)らが2019年に立ち上げた。ベンチャー企業や個人のアイデアによるビジネスプランを書類審査、1次審査、最終審査の3段階で評価し表彰する。 今年は新型コロナウイルス感染症が猛威を振るい、これまでの日常は非日常となりニューノーマルを余儀なくされている。そんな状況下、ヘルスケア分野でイノベーションを起こそうと多くの起業家や学生が応募した。今回はその中から選出されたファイナリスト8組のユニークなビジネスモデルのプレゼンテーションを聴講できるまたとない機会である。気になる方は参加登録をしてみてはいかがだろうか。第2回ヘルスケアベンチャー大賞 ファイナリスト決定 最終審査【日時】2020年10月26日(月)15~17時【参加方法】WEB開催 (最終審査会参加登録はこちら)【ファイナリスト】<企業5社>合同会社アントラクト:StA2BLEによる転倒リスク評価と機能回復訓練事業株式会社OUI:Smart Eye Cameraを使用した白内障診断AIの開発株式会社Surfs Med:変形性膝関節症に対する次世代インプラントの開発歯っぴー株式会社:テクノロジーで普及を拡張させる口腔ケア事業株式会社レストアビジョン:視覚再生遺伝子治療薬開発<個人3名>佐藤 拓己氏(東京工科大学):寿司を食べながらケトン体を高く保つ方法松本 成史氏(旭川医科大学):メンズヘルス指標に有効な新規「勃起力」計測装置の開発松本 佳津氏(愛知淑徳大学):長寿高齢社会を前提とした真に豊かな住空間をインテリアから考え、活用できる具体的な指標を作成する

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1日1回投与の長時間作用型COMT阻害薬「オンジェンティス錠25mg」【下平博士のDIノート】第59回

1日1回投与の長時間作用型COMT阻害薬「オンジェンティス錠25mg」今回は、末梢COMT阻害薬「オピカポン錠(商品名:オンジェンティス錠25mg、製造販売元:小野薬品工業)」を紹介します。本剤は、血漿中レボドパの脳内移行を効率化することで、パーキンソン病の日内変動を改善してOFF時間を短縮することが期待されています。<効能・効果>本剤は、レボドパ・カルビドパまたはレボドパ・ベンセラジド塩酸塩との併用によるパーキンソン病における症状の日内変動(wearing-off現象)改善の適応で、2020年6月29日に承認され、2020年8月26日より発売されています。なお、レボドパ・カルビドパまたはレボドパ・ベンセラジド塩酸塩による治療において、十分な効果の得られない患者に限り使用することができます。<用法・用量>通常、成人にはオピカポンとして25mgを1日1回、レボドパ・カルビドパまたはレボドパ・ベンセラジド塩酸塩の投与前後および食事の前後1時間以上空けて経口投与します。<安全性>国内第II相試験の安全性評価対象428例中、215例(50.2%)に臨床検査値異常を含む副作用が認められました。主な副作用は、ジスキネジア74例(17.3%)、便秘24例(5.6%)、幻覚19例(4.4%)、起立性低血圧18例(4.2%)、体重減少16例(3.7%)、悪心15例(3.5%)、幻視12例(2.8%)、口渇、傾眠各9例(2.1%)でした(承認時)。なお、重大な副作用として、ジスキネジア(17.3%)、幻覚(4.4%)、幻視(2.8%)、幻聴(0.7%)、せん妄(0.5%)、傾眠(2.1%)、前兆のない突発的睡眠(1.2%)があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、レボドパを分解する酵素の働きを抑えることで、脳内で不足しているドパミンを増やし、レボドパ製剤の効果が低下するOFF時間を短くします。2.食事やレボドパ製剤服用の前後1時間を避けて、毎日同じ時間帯に服用する必要があります。服用タイミングが難しい場合はご相談ください。3.体が勝手に動く、耐え難い眠気が突然現れる、ギャンブルや買い物、暴食などの衝動が抑えられない、実際にはないものがあるように感じる、便秘症状が強いなど、気になる症状がある場合はご連絡ください。4.眠気、立ちくらみ、めまいなどが現れることがあるので、自動車の運転、高所での作業など、危険を伴う作業は行わないでください。また、起立性低血圧などを引き起こす可能性があるので、転倒に伴うけがには十分に注意して生活してください。<Shimo's eyes>パーキンソン病の薬物療法では、病状の進行に伴ってレボドパ製剤の作用持続時間が短縮し、症状の日内変動(wearing-off現象)が発現することがあります。そのような場合には、COMT阻害薬、MAO-B阻害薬などのドパミン附随薬の併用が検討されます。本剤は、エンタカポン(商品名:コムタンほか)に続く2番目のCOMT阻害薬です。エンタカポンは、レボドパ製剤と同時に1日数回服用する必要がありますが、本剤は長時間作用型であるため1日1回投与となっています。本剤は血液脳関門(BBB)を通過せず、末梢でのレボドパ分解を抑制して脳内へのレボドパ移行率を高める薬剤です。レボドパ・カルビドパ(同:ネオドパストン、メネシットほか)または、レボドパ・ベンセラジド塩酸塩(同:マドパー、イーシー・ドパールほか)と併用して用いることで効果を発揮します。副作用では、レボドパのドパミン作動性により引き起こされるジスキネジア、幻覚、悪心、嘔吐、起立性低血圧などに注意が必要です。相互作用については、本剤はカテコール基を持つ薬物全般の代謝を阻害するため、COMTにより代謝される薬剤(アドレナリン、ノルアドレナリン、dl-イソプレナリンなど)だけでなく、MAO-B阻害薬(セレギリンなど)、三環系・四環系抗うつ薬、ノルアドレナリン取込み阻害作用あるいは放出促進作用を有する薬剤(SNRI、NaSSAなど)との併用によっても、作用が増強して血圧上昇などを引き起こす恐れがあります。また、本剤は消化管内で鉄とキレートを形成する可能性があり、本剤と鉄剤それぞれの効果が減弱する恐れがあるため、鉄剤とは少なくとも2~3時間以上空けて服用する必要があります。本剤は、1日1回1錠の投与で良好なアドヒアランスが期待できますが、毎日一定の時間帯に服用する必要があり、最適な服用タイミングは患者さんの生活リズムによって変わります。できる限り少ない負担で続けられる時間帯を確認するなど、適切なフォローを心掛けましょう。参考1)PMDA 添付文書 オンジェンティス錠25mg

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第20回 高齢者の肥満、食事・運動療法の方法と薬剤選択は?【高齢者糖尿病診療のコツ】

第20回 高齢者の肥満、食事・運動療法の方法と薬剤選択は?Q1 肥満症を合併した高齢者糖尿病ではどのような食事・運動療法を行うべきですか?食事・運動療法を行うにはまず、膝関節疾患や心血管疾患の有無をチェックし、認知機能、身体機能(ADL、サルコペニア、フレイル・転倒)、心理状態、栄養、薬剤、社会・経済状況、骨密度などを総合的に評価します。80歳以上の肥満症では治療によって血管障害や死亡のリスクを減らせるというエビデンスに乏しくなります。しかしながら、減量によって疼痛が軽減され、QOLが改善されるということも報告されていますので、膝関節痛などがある場合は減量を勧めてもいいと思います。肥満症を合併した糖尿病患者ではレジスタンス運動を含めた運動療法と食事療法を併用することが大切です。肥満症の高齢者に食事療法と運動療法の両者を併用し、減量を行うと、食事療法単独または運動療法単独と比べて、身体機能とQOLが改善します。有酸素運動とレジスタンス運動の両者を併用した方がそれぞれ単独の運動よりも歩行速度などの身体能力の改善効果が認められます。レジスタンス運動は肥満症の人は一人で行うことが困難な場合が多いので、介護保険のデイケア、市町村の運動教室などを利用し、監視下で運動することがいいと思います。また、体重による負荷を軽減する運動としてはプール歩行やエアロバイクなどを勧める場合もあります。また、高齢者の肥満では運動療法を行わず、食事療法のみで減量すると骨格筋量や骨密度が減少するリスクがあります。一方、適切なエネルギー量を設定し、運動療法を併用することにより筋肉量、身体機能、および骨密度を低下させることなく減量が可能であるとされています。Look AHEAD研究では高齢糖尿病患者を対象に運動を中心とした生活習慣改善と体重減少を行った介入群では、対照群と比べて、歩行速度が速く、SPPBスコアで評価した身体能力が有意に高いという結果が得られています。介入群は歩行速度低下のリスクが16%減少しました1)。とくに、65歳以上の高齢糖尿病患者でSPPBスコアの改善効果がみられました。食事のエネルギー摂取量に関しては、肥満があるとエネルギー制限を行うことになりますが、過度の制限によるサルコペニア・フレイル・低栄養の悪化に注意する必要があります。肥満高齢者にレジスタンス運動にエネルギー制限を併用した群では運動のみの群に比し体重減少とともに除脂肪量の減少がみられたが、歩行能力や要介護状態は改善し、筋肉内脂肪の減少を認めたという報告があります2)。この結果は減量によって筋肉内の脂肪をとることが筋肉の質を改善することにつながることを示唆しています。「糖尿病診療ガイドライン2019」においては、高齢者では[身長(m)]2×22~25で得られた目標体重に身体活動の係数をかけて総エネルギー量を計算します。J-EDIT研究では目標体重当りのエネルギー量が約25kcal/kg体重以下と35kcal/kg体重以上の群で死亡リスクの上昇がみられ、過度のエネルギー摂取もよくないことが示唆されています3)。高齢者でも肥満があり、減量が必要な場合には目標体重は[身長(m)]2に低めの係数(22~23)をかけて目標体重を求め、目標体重当たり25~30 kcalの範囲でエネルギー量を設定することが望ましいと考えています。一般のサルコペニア・フレイルに対してはタンパク質の十分な摂取(1.0~1.5㎏/㎏体重)が推奨されています。肥満やサルコペニア肥満がある場合のタンパク質摂取に関しては、まだ十分なエビデンスがありませんが、タンパク質は十分に摂取した方がいいという報告があります。膝OAがある高齢糖尿病女性の縦断研究でも、タンパク質の摂取が1.0g/㎏体重以上を摂取した群の方が膝進展力低下や身体機能低下が少ないという結果が得られました(図1)4)。サルコペニア肥満がある高齢女性を低カロリーかつ正常タンパク質(0.8g/㎏体重)摂取群と低カロリーかつ高タンパク質(1.2g/㎏体重)摂取群に割り付けて3ヵ月間治療した結果、骨格筋量の指標は正常タンパク質群では減少したのに対し、高タンパク質摂取群では有意に増加していました5)。したがって、肥満症のある高齢糖尿病患者では、少なくとも1.0g/㎏のタンパク質をとることが望ましいと思われます。画像を拡大するQ2 肥満症を合併した高齢糖尿病、薬物療法は何に注意が必要ですか?個々の病態に合わせて薬物選択を行いますが、肥満があるので、インスリン抵抗性を改善する薬剤を主体に治療します。体重減少を目的にする場合にはメトホルミン(高用量)、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬が使用されます。メトホルミンはeGFR 30ml/min/1.73m2以上を確認して使用し、eGFR 60ml/min/1.73m2以上を確認できれば少なくとも1,500㎎/日以上の高用量で使用します。SGLT2阻害薬は、心血管疾患合併例で、血糖コントロール目標設定のためのカテゴリーI(認知機能正常でADL自立)で積極的に使用し、カテゴリーIIでは運動や飲水ができる場合に使用するのがいいと考えています。GLP-1受容体作動薬は消化器症状に注意して使用します。いずれの薬剤を使用する場合もレジスタンス運動を含む運動を併用し、サルコペニア肥満やフレイルを予防することが大切です。1)Houston DK, et al . J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2018;73:1552-1559.2)Nicklas BJ, et al. Am J Clin Nutr. 2015;101:991-999.3)Omura T, et al. Geriatr Gerontol Int. 2020;20:59-65.4)Rahi B, et al. Eur J Nutr. 2016; 55:1729-1739. 5)Muscariello E, et al. Clin Interv Aging. 2016;11:133-140.

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第19回 高齢者の肥満、特有の問題と予後への影響は【高齢者糖尿病診療のコツ】

第19回 高齢者の肥満、特有の問題と予後への影響はQ1 高齢者の肥満、若年者とはちがう特徴とは?最近、高齢糖尿病患者でも肥満症が増えています。我が国の65歳以上の高齢糖尿病患者でBMI 25㎏/m2以上の頻度は2000年から2012年で28.4%から33.0%に増加したという報告もあります1)。こうした高齢者の肥満症の増加は1)加齢に伴う身体活動量の低下2)基礎代謝量の低下3)高齢者の食習慣の欧米化などが関係しているのでないかと思われます。高齢者の肥満症にはいくつかの特徴があります。加齢とともに内臓脂肪は増加し、除脂肪量(骨格筋量)が低下するという体組成の変化が起こり、BMI高値を伴わない腹部肥満、いわゆる隠れ肥満やメタボリックシンドロームが増加します。また、高齢者のBMIは体脂肪量を正確に反映しないことがあります。身長が低下することで、BMIは見かけ上増加することもあります。したがって、高齢者の肥満症の評価にはBMIだけでなく、ウエスト周囲長も測ることが大切です。ウエスト周囲長やウエスト・ヒップ比の高値の方がBMIよりも死亡のリスクの指標となることも知られています。また、高齢期の肥満症では死亡や心血管疾患のリスクが逆に減少するというobesity paradoxがみられる場合があります。これは、BMI低値の方が悪性疾患、サルコペニア、慢性感染症などの併存疾患によるリスクが増加することで、BMI高値におけるリスクが相対的に小さくなることが原因として考えられます。加齢とともに、肥満とサルコペニアが合併したサルコペニア肥満が増えます2)。サルコペニア肥満は糖尿病やメタボリックシンドロームの発症リスクも高いので、高齢者糖尿病でも注意すべきです。サルコペニア肥満では筋肉内の脂肪蓄積によるインスリン抵抗性、炎症、ビタミンD低下などが骨格筋量や筋力の減少をもたらし、身体機能低下をきたすと考えられ考えられています。サルコペニア肥満は、単なる肥満症と比べ、フレイル、ADL低下、転倒、骨粗鬆症、認知機能低下、および死亡をきたしやすいことが特徴です3)。サルコペニア肥満の定義は定まっていませんが、肥満の方は体脂肪%、ウエスト周囲長などで定義しています。われわれの調査では高齢糖尿病患者におけるDXA法による四肢骨格筋量と体脂肪量で定義したサルコペニア肥満の頻度は16.7%という結果でした2)。Q2 高齢者の肥満は身体機能や認知機能、死亡にどのような影響を及ぼしますか?高齢者のBMI 30kg/m2以上の肥満や腹部肥満は、ADL低下、歩行困難、フレイル、易転倒性などの身体機能低下と関連しています。Study of Osteoporosis Fracturesにおける高齢糖尿病患者でも家事や2~3ブロックの歩行が約2~2.5倍障害されると報告されています4)。また、高齢糖尿病患者がフレイルをきたしやすいことも腹部肥満によって一部説明できると報告されています5)。BMI 25kg/m2以上の肥満がある糖尿病患者では複数回の転倒を約3.5倍起こしやすくなります6)。とくにインスリン治療と過体重が重なると、何度も転倒しやすいとされています。中年期の肥満は認知症発症リスクになりますが、高齢期の肥満は認知症発症リスクに抑制的に働くことが知られています。しかしながら、高齢者の肥満患者の体重変化と認知症発症とはJカーブの関連が見られ、体重減少と体重増加の両者がリスクとなっています(図1)。画像を拡大する高齢糖尿病患者でも、BMI低値、体重減少(10%以上)と体重増加(10%以上)が認知症発症の危険因子であると報告されています7)。高齢糖尿病患者ではそれ自体が認知症発症のリスクですが、認知症発症のリスクとなる4つの肥満の中で、体重減少を伴った高齢者の肥満、メタボリックシンドローム(腹部肥満)、サルコペニア肥満に注意する必要があります(図2)。画像を拡大する一方、12の論文のメタ解析により、生活習慣の改善による意図的な体重減少は記憶力と注意力・遂行機能を改善することが明らかになっています8)。 Look Ahead研究では高齢者を含む2型糖尿病患者でもエネルギー制限と運動療法による介入によって、過体重の患者で認知機能の改善が見られています9)。糖尿病初期の肥満症患者を対象にリラグルチド1.8㎎/日を4ヵ月間投与した介入群と対照群で認知機能の変化を検討したRCTでは、両群とも7%の体重減少が得られたが、リラグルチド投与群では短期記憶と記憶複合スコアの有意な増加を認めたと報告されています10)。減量自体の効果よりも、GLP-1の脳のブドウ糖代謝の改善、可溶性AβによるIRS-1のセリンのリン酸化阻害によるインスリン情報伝達障害の改善などによる認知機能の改善効果の可能性もあります。いずれにせよ、高齢者の肥満症の患者では体重減少が意図的か否かに注意する必要があります。高齢糖尿病患者における肥満症と心血管疾患の発症や死亡に関しては、一致した結果が得られていません。肥満症合併の高齢糖尿病患者を対象に生活習慣改善と体重減少の介入を行ったLook AHAED研究では心血管疾患発症の減少は見られなかったと報告されています11)。我が国のJDCS研究とJ-EDIT研究の糖尿病患者のプール解析では、BMI 18.5未満の群で死亡リスクが上昇し、BMI 25㎏/m2以上の群では死亡リスクは増加していませんでした12)。とくに75歳以上ではBMI18.5未満の群の死亡リスクが8.1倍と75歳未満と比べてさらに高くなり、最も死亡リスクが低いBMIは25前後となりました。すなわち、低栄養による死亡リスクの方が増加し、肥満による死亡リスクが相対的に低下したと考えられます。1)Miyazawa I, et al. Endocr J. 2018;65:527-536.2)荒木 厚、周赫英、森聖二郎:日本老年医学会雑誌.2012;49:210-213.3)Batsis JA, et al. J Am Geriatr Soc. 2013;61:974-980.4)Gregg EW, et al. Diabetes Care. 2002; 25: 61-67.5)Volpato S, et al. J Gerontol A BiolSci Med Sci.2005; 60: 1539-1545.6)García-Esquinas E, et al. J Am Med Dir Assoc. 2015;16:748-754.7)Nam GE, et al. Diabetes Care. 2019;42:1217-1224.8)Siervo M, et al. Obes Rev. 2011;12:968-983.9)Espeland MA, et al. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2014;69:1101-1108.10)Vadini F, et al. Int J Obes (Lond). 2020 Jun;44:1254-1263.11)Wing RR, et al. N Engl J Med. 2013;369:145-154.12)Tanaka S, et al. J Clin Endocrinol Metab. 99: E2692-2696, 2014.

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ダロルタミド、転移のない去勢抵抗性前立腺がんの生存率改善/NEJM

 転移のない去勢抵抗性前立腺がん患者の治療において、ダロルタミドはプラセボに比べ、3年生存率が有意に高く、有害事象の発現はほぼ同程度であることが、フランス・Institut Gustave RoussyのKarim Fizazi氏らが行った「ARAMIS試験」の最終解析で示された。研究の成果は、NEJM誌2020年9月10日号に掲載された。ダロルタミドは、独自の化学構造を持つアンドロゲン受容体阻害薬で、本試験の主解析の結果(無転移生存期間中央値:ダロルタミド群40.4ヵ月、プラセボ群18.4ヵ月、ハザード比[HR]:0.41、95%信頼区間[CI]:0.34~0.50、p<0.0001)に基づき、転移のない去勢抵抗性前立腺がんの治療薬として、すでに米国食品医薬品局(FDA)の承認を得ている。主解析の時点では、全生存(OS)を解析するためのデータは不十分であり、試験期間を延長してフォローアップが継続されていた。OSを含む副次エンドポイントを評価 本研究は、転移のない去勢抵抗性前立腺がん患者の治療におけるダロルタミドの有用性を評価する二重盲検プラセボ対照無作為化第III相試験であり、2014年9月~2018年3月の期間に患者登録が行われた(Bayer HealthCareとOrion Pharmaの助成による)。 対象は、前立腺特異抗原(PSA)≧2ng/mL、PSA倍加時間≦10ヵ月、全身状態(ECOG PS)0または1の転移のない去勢抵抗性前立腺がんの患者であった。 被験者は、ダロルタミド(600mg)を1日2回、食事とともに経口投与する群、またはプラセボを投与する群に2対1の割合で無作為に割り付けられた。この間、アンドロゲン除去療法は継続された。 主要エンドポイント(無転移生存期間)の解析結果が肯定的であることが明らかとなった時点で、治療割り付けの盲検を中止し、プラセボ群の患者は非盲検下ダロルタミド投与へのクロスオーバーが許可された。 今回の事前に規定された最終解析では、OSを含む副次エンドポイントの評価が行われた。死亡リスク31%低下、他の副次エンドポイントにも有意差 1,509例が登録され、ダロルタミド群に955例、プラセボ群には554例が割り付けられた。フォローアップ期間中央値は29.0ヵ月だった。 データを非盲検とした時点でプラセボの投与を受けていた170例は、全例がダロルタミドにクロスオーバーされた。非盲検となる前にプラセボを中止していた137例は、ダロルタミド以外の1種類以上の延命治療を受けていた。 3年OS率はダロルタミド群が83%(95%CI:80~86)、プラセボ群は77%(72~81)であった。死亡リスクは、ダロルタミド群がプラセボ群に比べて31%低く、有意差が認められた(死亡のHR:0.69、95%CI:0.53~0.88、p=0.003)。 ダロルタミド群では、他の副次エンドポイントである症候性骨関連事象発現までの期間(HR:0.48、95%CI:0.29~0.82、p=0.005)、細胞傷害性化学療法開始までの期間(0.58、0.44~0.76、p<0.001)、疼痛進行までの期間(0.65、0.53~0.79、p<0.001)についても、有意な改善効果がみられた。 有害事象は、二重盲検期にはダロルタミド群85.7%、プラセボ群79.2%で発現した。有害事象による治療中止の割合は、主解析(ダロルタミド群8.9%、プラセボ群8.7%)と変わらず、二重盲検期の重篤な有害事象やGrade5の有害事象の割合も主解析と一致していた。ダロルタミド群では、疲労感が13.2%で報告され、二重盲検期に10%を超えた唯一の有害事象であった。発現率が5%を超えたその他の有害事象は、いずれも両群でほぼ同等の頻度であった。 治療曝露量で補正したとくに注意すべき有害事象(転倒、痙攣発作、高血圧、抑うつ/気分障害など)のほとんどは、両群間に頻度の差がないか、あってもわずかであった。 著者は、「この試験は規模が大きく、とくにフォローアップ期間を延長して報告したOSの解析において、頑健な統計解析が可能となった」としている。

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精神病性うつ病患者の再発に対するベンゾジアゼピンの影響

 ベンゾジアゼピンの長期投与は、依存、転倒、認知障害、死亡リスクを含む有害事象が懸念され、不安以外の症状に対する有効性のエビデンスが欠如していることから、うつ病治療には推奨されていない。しかし、多くのうつ病患者において、抗うつ薬とベンゾジアゼピンの併用が行われている。東京医科歯科大学の塩飽 裕紀氏らは、ベンゾジアゼピン使用がうつ病患者の再発または再燃リスクを低下させるか調査し、リスク低下の患者の特徴について検討を行った。Journal of Clinical Medicine誌2020年6月21日号の報告。 対象は、入院中に寛解を達成したうつ病患者108例。うつ病の再発および再燃を定量化するため、カプラン・マイヤー生存分析を用いた。主な結果は以下のとおり。・対象患者のうち、26例は重度の精神病性うつ病と診断されていた。・すべての患者をまとめて分析したところ、ベンゾジアゼピン使用患者と非使用患者の再発または再燃の割合に、有意な差は認められなかった。・精神病性うつ病患者の再発率は、ベンゾジアゼピン使用患者で21.2%、非使用患者で75.0%であった(log rank p=0.0040)。・カプラン・マイヤー生存分析では、効果は用量依存的であることが示唆された。 著者らは「ベンゾジアゼピンの補助療法は、重度の精神病性うつ病患者の再発または再燃の減少に有用である可能性がある」としている。

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血圧コントロール不良を契機に漫然投与のNSAIDsを卒業【うまくいく!処方提案プラクティス】第25回

 今回は、血圧上昇を理由にNSAIDsの中止を提案したケースを紹介します。高齢者では、骨折や転倒などによる受傷、手術を契機にNSAIDsが開始となり、そのまま漫然と投薬を続けていることは少なくありません。薬剤師は服薬開始日や理由を薬歴などに記録し、長期的に服用を続ける必要があるかどうかを医師と共同モニタリングしましょう。患者情報80歳、男性(施設入居)基礎疾患高血圧症、不眠症既往歴75歳時に大腿骨頸部骨折、60歳時に鼠径ヘルニア手術訪問診療の間隔2週間に1回服薬管理施設看護師が管理処方内容1.アムロジピン錠5mg 1錠 分1 朝食後2.エナラプリル錠5mg 1錠 分1 朝食後3.酸化マグネシウム錠 500mg 2錠 分2 朝夕食後4.セレコキシブ錠100mg 2錠 分2 朝夕食後5.レバミピド錠100mg 2錠 分2 朝夕食後6.ピコスルファートナトリウム錠2.5mg 1錠 分1 夕食後本症例のポイントこの患者さんは、普段から穏やかでおとなしい性格で、訪問診療時の血圧は140〜150/80〜90くらいで推移していました。セレコキシブが処方されていますが、日中や夜間の疼痛の訴えはなく、疼痛コントロールは安定していました。長期的にNSAIDsを服用すると、腎機能低下や胃潰瘍などのリスクがあるため、いつからセレコキシブを服用していて、いつまで服用しなければならないのか気になっていました。そのさなか、訪問診療時に血圧が158/96と高めの日があり、医師より降圧薬を追加するのはどうかと相談がありました。そこで、いくつか懸念事項があったので下記のように考えをまとめました。血圧上昇のアセスメント降圧薬を単に追加するのではなく、現行の治療薬で何か血圧に影響しているものはないかを検証することが先決です。そこで、真っ先にNSAIDsであるセレコキシブによる影響を考えました。セレコキシブは、過去の骨折の際に処方が開始となり、変更なくそのまま服用していることをお薬手帳や施設看護師から情報収集しました。通常、NSAIDsはアラキドン酸からプロスタグランジンへの産生を抑制し、水やNaの貯留と血管拡張抑制による影響から血圧を上昇させる可能性があります。血圧への影響や長期的な腎機能障害への影響については、COX-2選択的阻害薬でも非選択的NSAIDsと効果は同等といわれています。さらに、セレコキシブは長期間にわたって酸化マグネシウムと併用されていますが、AUCこそ変動はないものの、併用によってCmaxが低下するため、薬効低下が生じて十分な治療効果が得られていない可能性もあります。そこで、現在疼痛コントロールも安定していることと、血圧上昇の影響も考慮して、セレコキシブを中止する提案をすることにしました。処方提案と経過医師より降圧薬追加の相談を受けて、セレコキシブを中止することで血圧が安定する可能性があることを上記の考察を添えて回答しました。医師が長期間使っていた治療薬を中止することで患者さんの状態が変化することを懸念したため、セレコキシブを中止する代わりにアセトアミノフェン錠500mg 1錠/回 疼痛時の頓用を提案し、承認を得ることができました。セレコキシブと胃粘膜障害を防ぐために併用されていたレバミピドを中止した後も疼痛増悪はなく、アセトアミノフェン錠を服用することなく経過しました。血圧も130〜140/70〜80で落ち着いて推移しているため、その後も降圧薬を追加することなく患者さんは安定した状態を維持しています。1)セレコックス錠100mg/200mg 添付文書2)北村和雄. 宮崎医学会誌. 2008;32:1-5.

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不安感増悪の原因がデュロキセチンかプロピベリンか見極めて変更提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第24回

 複数の薬剤を服薬している患者さんでは、有害事象の原因薬剤の特定が困難なことが多くあります。しかし、症状や時期を聴取し原因を推論することで、必要な薬剤が削除されたり、不要な薬剤が追加されたりすることが回避できることがあります。今回は、有害事象を早期に察知して、影響の少ない薬剤に変更したケースを紹介します。患者情報90歳、男性(在宅)基礎疾患:高血圧症、過活動膀胱訪問診療の間隔:1週間に1回服薬管理:お薬カレンダーで管理し、訪問スタッフが声掛け処方内容1.アムロジピン5mg 1錠 分1 朝食後2.テプレノンカプセル50mg 1カプセル 分1 朝食後3.酸化マグネシウム錠250mg 1錠 分1 朝食後4.プロピベリン塩酸塩錠10mg 2錠 分1 朝食後5.デュロキセチン塩酸塩カプセル20mg 1カプセル 分1 朝食後6.ピコスルファートナトリウム錠2.5mg 1錠 便秘時7.経腸成分栄養剤(2−2)液 250mL 分1 朝食後本症例のポイントこの患者さんは5年前に奥様が亡くなってから独居で生活されていて、家族との交流はほとんどありません。日常的に不安感が強く、うつ病の診断でデュロキセチンが開始されると同時に、薬剤師の訪問介入が開始となりました。その際、服薬アドヒアランスは不良で、ほとんど薬に手を付けていない状況でした。認知機能は改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)で 25点と正常であったものの、薬剤と服薬回数の多さを負担に感じていたようです。そこで、当初は朝と夕に服用する薬剤が処方されていましたが、服薬を確実に行うことを優先して朝1回の服用に用法をまとめることを提案し、今回から上記の処方となりました。薬剤はカレンダーに1週間分をセットし、毎日の訪問スタッフ(訪問介護員、訪問看護師、訪問薬剤師、ケアマネジャー)が協力して声掛けを行うことで服薬アドヒアランスが安定しました。しかし、1週間後に口渇と不安感が増強したため、医師より新規開始薬のデュロキセチンが影響している可能性はないかという電話相談がありました。ここで、私が考えたアセスメントについてまとめると下記のようになります。服薬アドヒアランスが良好になったことによる有害事象アドヒアランスが安定することで初めて薬剤の本来の治療効果が生じることは多くありますが、今回は効果よりも有害事象が現れたのではないかと考えました。口渇および不安感増強で評価すべきポイントは、(1)新規開始薬のデュロキセチンによる影響、(2)プロピベリンの抗コリン作用による影響の2点です。デュロキセチンなどのセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬は、投与開始2週間以内や増量後に賦活症候群1)2)が生じやすいことが知られています。この患者さんはアドヒアランスが安定したことで同じような状態になり、不安や焦燥感が増悪したとも考えられました。しかし、賦活症候群の診断基準は曖昧であり、ほかの代表的な症状である不眠や攻撃性、易刺激性、アカシジアなどはなく、口渇が同時期に出ていることから可能性は低いと考えました。むしろ、口渇こそが患者さんに苦痛を与えており、これが不安につながっていると考えるのが自然だと感じました。そこで、アドヒアランスが改善したことで、プロピベリンの抗コリン作用の影響が強く出てしまっているのではないかと考えました。現在の排尿障害について患者さんに確認すると、昼間の頻尿はなく、夜間の尿意で起きることは1〜2回/日であり、それほど苦痛には感じていないとのことでした(過活動膀胱スコア[OABSS]3)は3点と軽症)。それよりも、「とにかく喉が渇いてしょうがない、口の中が気持ち悪い、変な病気になったんじゃないかと不安」と聴取し、プロピベリンがきっかけとなっていることがうかがえました。また、抗コリン薬は長期的には認知機能低下や便秘、嚥下機能低下、転倒4)などの懸念があり、変更が望ましいと考えました。処方提案と経過医師に電話で折り返し、患者さんとの上記のやりとりを含めて報告し、今回の不安感増大はプロピベリンによる口渇が原因となっている可能性を伝え、過活動膀胱治療薬をミラベグロン錠25mg 1錠へ変更することを提案しました。提案根拠としては、ミラベグロンは膀胱のβ3受容体刺激作用から蓄尿期のノルアドレナリンによる膀胱弛緩作用を増強することで膀胱容量を増大させるという蓄尿作用を示しますが、抗コリン作用がないからです。その結果、医師よりプロピベリンを中止し、ミラベグロンを開始するよう指示がありました。また、患者さんが服用錠数の多さを負担に感じていましたが、胃炎や胃潰瘍などの明白な病歴や症状を聴取できなかったため、テプレノンの必要性を医師に確認したところ、飲み切り終了の指示もありました。その後、ミラベグロンへの変更から7日目には口渇は消失し、不安や焦燥感も軽減していました。また排尿障害もOABSSは3点と変動はなく、代替薬への変更が奏効しました。1)浦部晶夫ほか編集. 今日の治療薬2020. 南江堂;2020.2)サインバルタカプセル20mg/30mg インタビューフォーム3)日本老年医学会ほか編集. 高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015;2015.4)日本排尿機能学会 過活動膀胱診療ガイドライン作成委員会編集. 過活動膀胱診療ガイドライン第2版;2015.

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ASCO2020レポート 老年腫瘍

レポーター紹介高齢がん患者を包括的に評価&サポートする診療の有用性を評価した臨床試験1)高齢がん患者を包括的に評価&サポートする診療社会の高齢化に伴い、がんを罹患している高齢者(以下、高齢がん患者)は増加し続けている。これまで、がん治療については腫瘍科医が、高齢者の一般診療については老年科医が別々に行ってきたが、この連携は必ずしも十分でなかった可能性がある。高齢者総合的機能評価(comprehensive geriatric assessment:CGA)は、老年医学領域では日常的に行われている、患者が有する身体的・精神的・社会的な機能を多角的に評価し、脆弱な点が見つかれば、それに対するサポートを行う診療手法である2)。具体的な評価項目(ドメイン)としては、生活機能、併存症、薬剤、栄養、認知機能、気分、社会支援、老年症候群(転倒、せん妄、失禁、骨粗鬆症など)である(表1)。画像を拡大するがん領域ではCGAに慣れている医療者が少ないため、まずは評価だけでも実施してみる、というのが世界的な流れであった(注:がん領域では、CGAから「総合的」が抜け、高齢者機能評価[geriatric assessment:GA]と表記されることが多い)。さまざまな研究の結果、GAは、1)重篤な有害事象を予測する因子になりうる、2)生命予後を予測する因子になりうる、3)通常の診療では気付かない障害を明らかにする、4)治療方針を決定する際の参考情報となる、ことが示された。この結果、国内外のガイドラインでは、高齢がん患者に対してGAを実施することが推奨されている3,4)。しかし、がん領域ではGAによる「評価」ばかりが注目されており、「脆弱性に対するサポート」は注目されてこなかった。今回いよいよ、がん領域でもGAによる評価だけでなく、脆弱性に対するサポートも含めた診療の有用性を評価すべくランダム化比較試験が施行され、その結果がASCO2020で発表された。「GAの結果とサポート方法を患者と医療者に伝える診療」の有用性を評価した多施設共同クラスター・ランダム化比較試験米国のMohileらは、「通常のがん診療」と比較して、「GAの結果とサポート方法を患者と医療者に伝える診療」が、重篤な有害事象発生割合を減らすか否かを検討するために、多施設共同クラスター・ランダム化比較試験を実施した。主な適格規準は、70歳以上、根治不能III期またはIV期の全がん種、治療前に行われたGAで少なくとも1つに障害がある、がん薬物治療が予定されている、などであった。standard armは通常診療(治療前に行われたGAの結果すら伝えない通常の診療)であり、test armは介入ケア(GAを実施し、その結果とサポート方法の提案を患者と医療者に伝える診療)であった。なお、国内外のガイドラインでGAが推奨されているにもかかわらず、standard armがGAを実施しない通常診療とされている理由は、現時点では、米国でも日常診療でGAを実施していないためである。介入ケア群での提案内容については、現時点では公表されておらず、また介入ケア群では、あくまで提案を伝えるのみであり、提案によって治療法を変更するよう強制したものではなかった。試験デザインとして、「施設」をランダム化するクラスター・ランダム化デザインを採用した。これは、通常の試験のように「患者」を両群に割り付けると、同じ医療者または同じ施設にもかかわらず、患者によって異なるアプローチを取ることになり、患者によっては不満を募らせる可能性があること、医療者がどちらか良い印象を持った診療を行ってしまうことで診療の効果が薄まることが予想されたためである。primary endpointは3ヵ月以内にGrade3~5の有害事象を経験した患者の割合、secondary endpointは6ヵ月時点での生存期間などであった。2013年から2019年にかけて、41施設が登録された(患者数:718例)。通常診療群と比較して介入ケア群では、消化器がんが多く(30.9% vs.38.1%)、肺がんが少なく(31.4% vs.18.1%)、黒人が多く(3.3% vs.11.5%)、既治療例が多かった(22.7% vs.30.8%)。Grade3~5の有害事象は、通常診療群で71.0%、介入ケア群で50.1%であり、介入ケア群で有意に低かった。相対リスク比(RR)は0.74(95%CI:0.63~0.87、p=0.0002)であり、この差はほとんどが非血液毒性によるものであった(RR:0.73、95%CI:0.53~1.0、p<0.05)。secondary endpointの1つである6ヵ月時点での生存期間は、通常診療群で74.3%、試験診療群で71.3%であった。介入ケア群では、1コース目でより多くの患者が強度を下げた治療を受けた(35.0% vs.48.7%)。治療開始3ヵ月以内の投与量変更は介入ケア群のほうが少なかった(57.5% vs.42.1%)。Mohileらは、GAの結果とサポート方法を患者と医療者に伝えることで、生存期間を大きく損なうことなく、Grade3~5の有害事象を減らした、1コース目での治療強度の低下でこれらの結果を説明できる可能性がある、と結論付けている。感想「GAの結果とサポート方法を患者と医療者に伝える診療」が、重篤な有害事象発生割合を減らすことが示された。現時点では、具体的なサポート方法が公表されていないため、最も重要な部分がわからないが、丁寧に高齢者を評価してサポートすれば、重篤な有害事象が減少するのは理解しやすいと思われる。一方、Mohileらは、「生存期間を大きく損なうことなく、Grade3~5の有害事象を減らした」と結論付けているが、これは全面的に受け入れられないと考える。今回公表されたのは「6ヵ月」時点での生存期間であり、余命が短い高齢者とはいえ、「6ヵ月」時点の生存期間だけを比較して、生存期間は同じくらいであったというのは無理があるように思う。追跡期間は1年とのことなので、今後1年時点の生存期間に大きな差がないかは確認する必要はあるだろう。また、本試験の特性上、施設をクラスター・ランダム化するしかなかったので仕方ないとはいえ、がん種や治療レジメンなどの背景因子が両群でそろっていない状態での群間比較であるため、有害事象や生存期間などの結果を全面的に信じることはできないと考える。しかし、「通常のがん診療」と「GAの結果とサポート方法を患者と医療者に伝える診療」を比較する場合はクラスター・ランダム化比較試験を選択するのは間違いではなく、それが故に背景因子がそろわないことはやむを得ないともいえる。つまり、今後もこれ以上、質の高い臨床試験は現れない可能性があることになる。したがって、今回の結果をうのみにしないまでも、Mohileらの結論に臨床的な違和感を覚えないのであれば、「高齢がん患者にとってつらいGrade3~5の非血液毒性が減り、そこまで生存期間が短くならない可能性がある」ということくらいは言ってもよいかもしれない。参考1)Gupta Mohile S, et al. ASCO 2020.2)健康長寿診療ハンドブック―実地医家のための老年医学のエッセンス―3)NCCN GUIDELINES FOR SPECIFIC POPULATIONS: Older Adult Oncology4)Wildiers H, et al. J Clin Oncol. 2014;32:2595-2603.

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第21回 めまい part1:回転性か浮動性かで分類すればいいんでしょ? 【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)前失神か否かをcheck! 2)持続時間を意識し良性発作性頭位めまい症(BPPV)か否かをcheck!
3)安静時に眼振があったらBPPVではない!
【症例】68歳女性。来院当日の起床時からめまいを自覚した。しばらく横になり、その後トイレにいこうと歩き始めたところ、再度症状が出現し、嘔気・嘔吐も伴い救急車を要請した。病院到着時、嘔気の訴えはあるがめまい症状は消失していた。しかし、病院のストレッチャーへ移動すると再びめまいが。。。●受診時のバイタルサイン意識清明血圧158/85mmHg脈拍95回/分(整)呼吸18回/分SpO298%(RA)体温36.1℃瞳孔開眼困難で評価できず既往歴高血圧、脂質異常症、虫垂炎めまいという言葉が含むもの「めまい」は研修医を始め若手の医師の誰もが苦手とする症候の1つでしょう。実際に私が全国の研修医の先生へ「苦手な症候は?」と聞くと、必ずといっていいほど「めまい」と返答があります。それはなぜでしょうか?医学生時代、必ず見るのがめまいを「末梢性」と「中枢性」に分類した表です。回転性めまいならば末梢性、浮動性めまいならば中枢性と習い、それぞれ代表的な疾患がBPPV・前庭神経炎、そして脳梗塞です。しかし、この分類は実際の臨床現場では役に立たないどころかエラーの原因となっていることは、誰もが感じていることでしょう。患者さんが「ぐるぐる回る」と訴えるから回転性と思ったら…、「フラフラ、地に足がついていない感じがする」と訴えるから浮動性と思ったら…、なんてことがよくありますよね。さらに、重症度が潜んでいる可能性のある前失神をめまいと訴えることもあります。患者さんがめまいを訴えて来院した場合には、めまいという言葉を使わないで症状を表現してもらいましょう。血の気が引くような症状であれば前失神、寝返りを打つだけで目の前がグラッと揺れるような症状であればBPPVに代表される回転性めまい、まっすぐ歩けず傾いてしまうのであれば小脳梗塞など中枢性病変が考えられるでしょう。もちろん、これ単独で判断はできませんが、前失神を見逃さないことはできるはずです。ちなみに、完全に意識を失ってしまう失神と比べると、前失神は重篤でないと考えがちですが、そんなことはなくリスクは同等です。前失神であっても、失神と同様の対応が必要となります(失神は第14回の項を確認してください)。めまい患者のアプローチめまいを訴える患者さんを診る場合には、前述の通りめまい以外の言葉で表現してもらい、原因疾患のらしさを見積もりますが、具体的にどのようにアプローチするべきでしょうか。STEP(1):中枢性めまい、前失神を除外頻度が高いのはBPPVなどの末梢性めまいですが、早期に拾い上げたいのはこれらの疾患です。最終診断は検査結果などを確認しなければ判断が難しいことが多いですが、前失神を示唆する病歴に加えて吐下血/血便を認める、貧血を示唆する所見を認める場合や、頭痛や麻痺、注視眼振や垂直性眼振など中枢性病変を示唆する所見を認める場合には、その時点でめまいのフローチャートではなく、消化管出血や脳卒中疑いとして対応する必要があります。STEP(2):BPPVか否かを判断頻度の高い疾患を確実に診断することができれば、前失神や中枢性めまいを過度に心配する必要はありません。BPPVの特徴を理解しズバッと診断、治療してしまいましょう。詳細は後述します。STEP(3):末梢性めまいの鑑別BPPV以外の末梢性めまいで頻度が高いのは、前庭神経炎です。持続するめまいの代表である脳梗塞とともに急性前庭症候群と分類されますが、HINTSやHINTS plusを用いて鑑別を進めましょう。STEP(4):帰宅or入院の判断末梢性めまいであれば帰宅可能と考えがちですが、症状が持続している場合には慎重に対応する必要があります。嘔気・嘔吐を伴うことも多く、食事が摂れない場合には要注意です。また、歩行が難しい場合にも末梢性のように思っても中枢性である場合や、転倒のリスクとなるため入院管理が適切といえるでしょう。BPPVの最大の特徴めまい患者の約50%はBPPVです。BPPVの特徴をきちんと理解しなければ、めまい診療は非常に難しくなります。頭部CTやMRI検査が必要なときもありますが、急性期の脳梗塞は必ずしも画像で陽性所見が認められるわけではなく、画像に依存しすぎるとエラーが生じます。「BPPVの最大の特徴は何か?」。このように研修医に質問すると、「頭を動かしたときに増悪するめまい」と返答があることが多いですが、これは違います! BPPVの正式名称が「良性発作性頭位めまい症」ですから、頭位が最大の特徴と思いがちですがそうではありません。前庭神経炎によるめまい、脳梗塞によるめまい、薬剤に伴うめまいも頭位を変換させれば症状は増悪するでしょう。最大の特徴、それは「持続時間」です。BPPVによるめまいは、安静にしていれば1分以内に治まります。耳石がぐわんぐわんと動いているのが原因ですから、その動きが横になるなど一定の姿勢をとり、止まることで症状も治まります。前庭神経炎や脳梗塞によるめまいは、症状の増悪はあってもゼロになることはありません。最も楽な姿勢をとってもめまいが持続していれば、その時点でBPPVではないのです。持続時間の確認の仕方持続時間はどのように確認するべきでしょうか? 患者さんに「症状はどれぐらい続きますか」と聞いてはいませんか? このように聞くと、たとえBPPVの患者さんであっても、「ずっと続いています」と答えることがあります。なぜだかわかりますか? BPPVは、安静にするとすぐに治まる、しかし動くと潜時を伴って、また、めまいが生じるという経過を辿ります。症状が治まり大丈夫かと思い動いたにも関わらず、再度症状を認めるため、患者さんは症状が続いていると訴えるのです。そのため、1回1回のめまいの持続時間に注目して聞くようにしましょう。「1回1回のめまいは横になるなど一定の姿勢をとると1分以内に治まりますか? そして、動くとまた始まる、そんな感じでしょうか?」と聞くと、BPPVの患者さん達は「そうそう」とよくぞわかってくれたといった反応を示すことが多いでしょう。安静時の所見に注目BPPVは安静時には耳石が動かないため症状も治まっています。眼振も認めません。救急外来でしばしば経験するのは、ストレッチャー上で右側臥位や座位で安静にしているときには、けろっとしている、そんな感じです。たとえ症状が軽そうで、安静にしているにも関わらず症状が持続している場合には、その時点でBPPVではありません。前庭神経炎を事前の感染徴候の有無で判断している場面に時々遭遇しますが、存在するのは50%程度と言われています。前庭神経炎かBPPVかは、めまいが持続しているか否か、特徴的な眼振の存在で判断しなければなりません。次回後編では、めまいの実践的なアプローチに関してお話します。1)坂本壮. 救急外来ただいま診断中. 中外医学社;2015.2)坂本壮. プライマリ・ケア. 2020;5:21-27.

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第14回 尾身副座長すら寝耳に水だった?急転直下の専門家会議廃止の裏側

政府の「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」(以下、専門家会議)が廃止され、代わりに新設された「新型コロナウイルス感染症対策分科会」(以下、分科会)が7月6日、初会合を開いた。一連の背景には、担当大臣のスタンドプレーや経済活動を優先したい官邸の思惑もあり、果たして分科会が有効に機能するかどうかは疑問だ。廃止の一報が流れたのは、6月24日、専門家会議の尾身 茂副座長らがまさに日本記者クラブで会見中のことだった。席上、記者から質問された尾身氏が「知りませんでした」と答え、多くの人に奇異な印象を与えた。同じ時間帯に、別の会見で廃止を発表した西村 康稔・経済再生相兼新型コロナ対策担当相は、「唐突」などと与野党から批判を受け、「『廃止』と強く言い過ぎたことを反省している。十分に説明できず申し訳ない」と陳謝。首相の座を目指す西村大臣の“スタンドプレー”が明らかとなる一幕であった。専門家会議は、政府の新型インフルエンザ感染症対策本部の下、医学的な見地から適切な助言を行うことを目的に、2月に設けられた。「3密」「オーバーシュート」「ロックダウン」などの言葉も専門家会議から広がり、新型コロナ対策で大きな影響を与えた。一方で、議事録を作成していなかったことなど、多くの批判にもさらされた。専門家会議を前面に出し、責任回避とも取れる西村大臣の言動も影響していると思われる。特定業種名を挙げたクラスター情報も発信していたことから、ある構成員は「身の危険を感じる人もいた」と打ち明ける。このような経緯も踏まえ、専門家会議は6月24日の会見で、「あたかも専門家会議が政策を決定しているような印象を与えた」と振り返り、「政府との関係性を明確にする必要がある」と提言。それを制するかのように、西村大臣は「廃止」を公表したのだった。西村大臣は以前、感染症や公衆衛生の専門家が中心の同会議に、経済の専門家を入れるよう打診したが、断られた。一方、分科会には感染症の専門家や医療関係者だけでなく、経済学者や県知事、政権に近い新聞社の役員なども構成員となっている。また、新型インフルエンザ等対策閣僚会議の下、特別措置法を根拠とする有識者会議の分科会として発足しており、責任や権限の範囲も明確になった。分科会は経済活動を優先したい首相にとって、専門家会議より都合の良い組織に衣替えした。しかし、経済活動を優先するあまり、新型コロナ対策の科学的知見が軽視される懸念はないだろうか。東京を中心に感染者数が大きく右肩上がりになっている昨今。分科会が医学的見地をなおざりにした結果、収束が遠のいたなんていうことになれば、本末転倒という以外の何物でもない。

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高齢1型糖尿病患者における低血糖の抑止とCGM(持続血糖モニター)(解説:吉岡成人氏)-1253

 35年前の本邦における疫学調査では、1型糖尿病の患者は進展した網膜症や末期腎症などの合併症の頻度が高く死亡リスクが高いと報告されている(糖尿病. 1985;28:833-839.)。しかし、近年、インスリン製剤や注入器の進化、さらにはCGMなどの導入により血糖コントロールが改善し、合併症や併発症の早期発見、早期治療が可能となったことも相まって、1型糖尿病のQOLや生命予後が良好なものとなっている。その一方で、罹病期間が長く、高齢となった1型の糖尿病の患者が徐々に増加しており、加齢に伴って引き起こされる無自覚低血糖、認知機能の低下、転倒骨折、不整脈による突然死などが臨床の現場で大きな問題となっている。CGMによって高齢1型糖尿病の低血糖の頻度は減少するか 皮下組織のグルコース濃度を持続的に測定し、リアルタイムでその結果を確認できる機器(isCGM:intermittently scanned continuous glucose monitoring)を用いた場合と、従来の、血糖測定器を用いて1日4回の血糖測定(SMBG)を行う場合で、低血糖の頻度に差があるのか否かを検討した成績が、JAMA誌2020年6月16日号に掲載された。 60歳以上の1型糖尿病203例を対象に、CGM群(103例)とSMBG群(100例)に無作為に1対1の割合で割り付け、無作為化後7週、15週、25週後に来院し、患者自身が測定値を確認できないCGMを1週間装着し、その際のグルコース濃度が70mg/dL未満を示した時間の割合を主要評価項目として、54mg/dL未満、60mg/dL未満の低血糖、高血糖、HbA1c、認知機能などを副次評価項目として検討している。 対象となった患者は、中央値で年齢68歳、罹病期間36年、白人が93%、インスリンポンプを使用している患者が53%、HbA1cは7.5%であった。 グルコース濃度70mg/dL未満の時間(中央値)は、CGM群でベースラインが5.1%(73分/日)、追跡期間では2.7%(39分/日)、SMBG群でベースラインが4.7%(68分/日)、追跡期間では4.9%(70分/日)であり、統計学的に有意な差を認めた(補正後の時間差:-1.9%[-27分/日])。副次評価項目でもCGM群では、54mg/dL未満、60mg/dL未満の低血糖の頻度も減少し、250mg/dLを超えるグルコース濃度の頻度も減少し、HbA1cもCGM群では7.6%から7.2%へと有意な改善を示した。重症低血糖はCGM群1例、SMBG群10例であった。日本における診療の現場で、この研究をどのように捉えるか 今回報告された研究では、罹病期間36年、平均年齢68歳の1型糖尿病が研究の対象となっている。罹病期間が長く、高齢の1型糖尿病ではあるが、約半数はすでにインスリンポンプを使用し、大学院修了者が約30%と高学歴で、年収10万ドルを超える患者も20%以上含まれている。専門的な治療を受けており、社会経済状況が安定した状態にあり、観察前のHbA1cも7.5%ときわめて良好な血糖コントロール状態を維持している。 日本でも、確かに、このような範疇に入る1型糖尿病の患者は一定の割合で存在する。しかし、臨床の現場では、独居や老々介護の中で認知機能が徐々に低下し、低血糖を頻発し、たびたび救急搬送をされることも少なからず経験される。訪問看護師が、週に2~3回患者のもとを訪れ、インスリンの注射手技を確認することしかできない、高齢者施設に入居することを提案しても、そこでは1日2回以下でなければインスリン注射に対応できないといわれ、医療従事者が頭を抱えて憂鬱な思いに駆られることもある。 CGMを利用して低血糖の時間が少なくなることは臨床的に有用なことではあるが、日本において高齢の1型糖尿病が今後ますます増加していくことを考えると、医療のシステム、社会全体のケアのシステムが少しでも改善することこそが、CGMやSMBGよりも大切なのではなかろうかと思われる。

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第52回 転倒しそうなときは横向き・おへそを見るよう意識して頭を守る!【使える!服薬指導箋】

第52回 転倒しそうなときは横向き・おへそを見るよう意識して頭を守る!1)John Stephen Batchelor, et al. Br J Neurosurg. 2012 Aug;26:525-530.2)John Stephen Batchelor, et al. Br J Neurosurg. 2013 Feb;27:12-18.3)Ramesh Grandhi, et al. J Trauma Acute Care Surg. 2015 Mar;78:614-621.4)根來 信也, 他. 身体教育医学研究. 2005;6:39-47.

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アドヒアランス不良でアセトアミノフェン分3から変更提案した薬剤は?【うまくいく!処方提案プラクティス】第23回

 今回は、アセトアミノフェンの複数回投与が開始になったものの、アドヒアランス不良のため疼痛コントロールが困難であった症例です。良好な疼痛コントロールとアドヒアランスを得るために提案した代替薬とその根拠を紹介します。患者情報93歳、男性(在宅)基礎疾患:うっ血性心不全、右被殻出血(左麻痺あり)、前立腺肥大症、高尿酸血症訪問診療の間隔:2週間に1回服薬管理:お薬カレンダーで管理し、ヘルパーによる毎日の訪問介護時に服薬処方内容1.タムスロシン塩酸塩錠0.2mg 1錠 分1 夕食後2.ボノプラザン錠10mg 1錠 分1 夕食後3.トリクロルメチアジド錠1mg 1錠 分1 夕食後4.フェブキソスタット錠10mg 1錠 分1 夕食後5.センノシド錠12mg 2錠 分1 夕食後6.クエン酸第一鉄ナトリウム錠50mg 2錠 分1 夕食後7.アセトアミノフェン錠200mg 6錠 分3 朝昼夕食後8.ピコスルファート内用液0.75% 便秘時 就寝前7〜8滴本症例のポイントこの患者さんは、脳出血後の左麻痺によって手先の不自由さがあり、ほぼベッド上で生活していました。そのため、服薬回数をすべて1日1回で統一して一包化し、毎日夕方の訪問介護の時間に服薬していました。ところが先日、トイレへ移動する際に転倒して受傷し、睡眠時や排泄時の疼痛のため、アセトアミノフェン錠200mg 6錠 分3 毎食後が開始となりました。朝・昼のアセトアミノフェンは、ヘルパーさんが夕方の訪問介護時にベッド近くに置いておいて、患者さんご自身で服薬することになりました。しかし、2回分を重複して服用したり服薬を忘れてしまったりと服薬アドヒアランスが維持できず、疼痛が管理できないという問題がありました。同じタイミングでケアマネジャーから、薬をなんとか1回にまとめられないものかと相談があり、アセトアミノフェンの変更提案を検討することにしました。1日1回の服用に適したNSAIDsを検討1日複数回服用することで重複投薬のリスクがあり、飲み忘れによって疼痛コントロールも不十分であるため、ほかの定期薬に合わせて服用できる鎮痛薬を検討しました。ここで候補に挙がったのは長時間作用型NSAIDsのメロキシカムです。長時間作用型という性質上、1日1回で疼痛コントロールできることに加え、服薬回数の負担も軽減できることから当該患者さんの処方薬として妥当だと考えました。半減期が長いため、高齢者や腎・肝機能が低下している場合は注意が必要ですが、この患者さんは心不全の状態が安定していて、直近の検査結果からも腎機能は年齢相応(Scr:0.78mg/dL、eGFR:57.8mL/min/1.73m2)で大きな悪化もないことから薬物有害事象の懸念は少ないと考えました。処方提案と経過医師に上記内容をトレーシングレポートで相談したところ、疼痛コントロールもしっかり行う必要があるが、誤薬のリスクを下げるためにも変更しようと了承いただきました。提案当日に変更対応となり、アセトアミノフェン錠の回収とメロキシカム錠10mgを夕食後投与としてカレンダーにセットしました。そして、患者さんとヘルパーさんへ鎮痛薬の変更があることを説明し、今後は朝・昼の薬はなくなることをお伝えしました。患者さんも複数回の服薬や飲み忘れ、重複投薬のことを気にしていたので、今回の変更を受けて安心していました。その後、患者さんは疼痛コントロールも良好で、疼痛による苦痛も有害事象もなく生活を続けています。

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転落死のリスクが高いのは男性?女性?【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第165回

転落死のリスクが高いのは男性?女性?pixabayより使用この研究は、高所から転落した高齢者のアウトカムを調べたものです。転倒の研究は過去にいくつかありますが、高所からという条件に限った研究は、なかなかニッチです。高所からの転落によるアウトカムに性差はないというのが当初の仮説でした。しかし、蓋を開けてみると……。El-Menyar A, et al.Females fall more from heights but males survive less among a geriatric population: insights from an American level 1 trauma center. BMC Geriatr. 2019 Aug 29;19(1):238. doi: 10.1186/s12877-019-1252-6.これは2012年1月~16年12月、高所からの転落により、ウェストチェスターメディカルセンター大学病院のレベル1外傷センターに運ばれた60歳以上の男女を登録した研究です。患者は3群に分けられました。グループ160~69歳グループ270~79歳グループ380~89歳8,528人の外傷患者さんのうち、53%にあたる3,665人が高所からの転落でした。多いですね、半分ですやん。59.5%にあたる2,181人が60歳以上で、52%が女性でした。さて、転落のリスクは年齢とともに上昇していき、グループ2でオッズ比1.52、グループ3で3.40でした。女性は、1.2倍転落リスクが高かったそうです(年齢補正オッズ比[OR]:1.24、95%信頼区間[CI]:1.05~1.45)。転落の3分の2が1m以下の低いところからの転落でした。ええっと……、全然高所とは言えませんが……、まぁ細かいことは抜きにしましょう。最も外傷重症度が高かったのはグループ2で、下肢の外傷重症度が高かったのはグループ3でした。全体での死亡率は8.7%で、グループ1が3.6%、グループ2が11.3%、グループ3が14%でした。そして、なんと!! 男性は女性と比べて、どの年齢層でも死亡率が高いという結果でした(グループ1:4.6% vs.1%、グループ2:12.9% vs.4.2%、グループ3:17.3% vs.6.9%)。多変量解析によると、ショックインデックス(OR:3.8、95%CI:1.27~11.33)、男性(OR:2.70、95%CI:1.69~4.19)は死亡の独立リスク因子でした。というわけで、女性は転落しやすいけど、男性のほうが死亡リスクは高いと言えるのです!たぶん!

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高齢1型DM患者の低血糖発現、CGM vs.標準BGM/JAMA

 60歳以上の1型糖尿病高齢患者では、標準的な血糖測定(BGM)に比べ持続血糖測定(CGM)を行うことにより、低血糖がわずかではあるが統計学的に有意に減少することが認められた。米国・AdventHealth Translational Research InstituteのRichard E. Pratley氏らが、米国の内分泌科22施設で実施した無作為化臨床試験の結果を報告した。CGMはリアルタイムで血糖値を評価できることから、1型糖尿病高齢患者の低血糖を軽減することが期待されていた。JAMA誌2020年6月16日号掲載の報告。1型DM高齢患者203例を対象に、CGM vs.標準BGM下の低血糖発現を評価 研究グループは、60歳以上の1型糖尿病患者203例を、CGM群(103例)と標準BGM群(100例)に1対1の割合で無作為に割り付けた。標準BGM群には、自宅で1日4回以上血糖測定を行ってもらうとともに、無作為化後7、15および25週後に来院してCGM(盲検下)を1週間装着してもらった。両群とも無作為化後4、8、16および26週後に評価した。 主要評価項目は、6ヵ月の追跡期間におけるCGM測定下で血糖値70mg/dL未満を示した時間の割合。副次評価項目は、血糖値54mg/dL未満または60mg/dL未満の低血糖、高血糖、血糖コントロール(血糖値、HbA1c)、認知機能および患者報告アウトカム(PRO)など31項目が事前に定義された。血糖値70mg/dL未満の時間の割合、CGM群で有意に低下 203例の患者背景は、年齢中央値68歳(四分位範囲[IQR]:65~71)、罹病期間中央値36年(IQR:25~48)、女性52%、インスリンポンプ使用者53%、平均HbA1c 7.5%(標準偏差0.9%)であった。203例中83%が6ヵ月間で6日/週以上CGMを使用した。 血糖値70mg/dL未満の時間中央値は、CGM群がベースラインでは5.1%(73分/日)、追跡期間時は2.7%(39分/日)であり、標準BGM群はそれぞれ4.7%(68分/日)、4.9%(70分/日)であった(補正後群間差:-1.9%[-27分/日]、95%信頼区間[CI]:-2.8~-1.1[-40~-16分/日]、p<0.001)。 副次評価項目31項目中、CGM評価による低血糖および高血糖に関する全9項目と、HbA1cに関する7項目中6項目で統計学的有意差が認められたが、認知機能およびPROに関する15項目については、有意差は認められなかった。CGM群では、標準BGM群と比較して平均HbA1cが低下した(補正後群間差:-0.3%、95%CI:-0.4~-0.1、p<0.001)。 主な有害事象(CGM群、標準BGM群)は、重症低血糖(1例、10例)、骨折(5例、1例)、転倒(4例、3例)、救急外来受診(6例、8例)であった。 著者は、社会経済状況が高く専門的な糖尿病治療を受けている患者を対象としていること、介入期間が6ヵ月間と短いこと、旧型のCGMセンサーを使用したことなどを研究の限界として挙げ、「長期的な臨床的有用性を理解するためには、さらなる研究が必要である」とまとめている。

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入院を契機にADLが低下した患者の処方薬見直し【うまくいく!処方提案プラクティス】第22回

 今回は、入院を契機にADLが低下し、それまでの服用薬を見直した事例を紹介します。患者さんの生活様式が変わることでそれまで必要だった薬剤が不要になるケースもありますので、処方薬を点検して、現在の状態と処方薬の必要性が合致しているかを確認しましょう。患者情報90歳、女性(施設入居)基礎疾患:心房細動、高血圧、骨粗鬆症訪問診療の間隔:2週間に1回副作用歴:エドキサバン服用による歯茎と鼻出血のため服用中止処方内容1.エルデカルシトールカプセル0.75μg 1カプセル 分1 朝食後2.テルミサルタン錠40mg 1錠 分1 朝食後3.アムロジピン錠5mg 1錠 分1 朝食後4.アレンドロン酸錠35mg 1錠 分1 起床時 週1回土曜日5.スボレキサント錠15mg 1錠 分1 夕食後6.酸化マグネシウム錠330mg 1錠 分1 夕食後7.経腸成分栄養剤(2−2)液 750mL 分3 朝昼夕食後(入院中の新規開始薬)本症例のポイント患者さんは施設入居中に急性巣状腎炎と細菌性誤嚥性肺炎を発症し、入院することになりました。入院前は車いすで生活していたものの、トイレや食事も自分で行っていましたが、入院中はほぼベッド上で過ごし、トイレや食事介助が必要になるなどADLが低下しました。また、食事摂取が進まず、嚥下機能も低下したため、末梢静脈栄養が行われましたが、退院に向けた内服への切り替えとして経腸成分栄養剤(2−2)液が開始されました。退院後の訪問診療の同行の際に気になる点がいくつかあったため、まとめることにしました。1.嚥下機能低下により錠剤の服用が困難嚥下機能が低下し、錠剤の服用が困難となりました。とくにアレンドロン酸錠を起床時に上体を起こして飲むことが難しく、無理な服用から食道潰瘍のリスクにもつながる懸念がありました。注射薬への変更、もしくは骨折リスクが低いようであれば中止を提案することにしました。なお、ビスホスホネート製剤を中止した場合、活性型ビタミンD3製剤単独での治療効果も限定的であることから両剤とも中止が望ましいと考えました。2.降圧薬の服用により低血圧に入院前の血圧は、おおむね収縮期/拡張期:130〜140/70〜80で推移していましたが、ADL低下に伴い食事摂取がほとんどなくなり、血圧の低下がありました。このまま服用を続けると低血圧を起こして転倒のリスクもあるため、降圧薬の中止が妥当と判断しました。3.日中の傾眠からスボレキサントを変更スボレキサントは湿度と光の影響を受けるため粉砕不可ですので、代替薬を考えることにしました。また、看護師より日中の傾眠が強くて食事摂取が安定しないので、もう少しマイルドな薬に変更できないかという相談もありました。そこで、睡眠−覚醒リズムの改善と昼夜のメリハリ、夜間睡眠に加えて朝や日中の症状改善効果のあるラメルテオン錠を粉砕して対応することを検討しました。処方提案と経過訪問診療同行時に、医師に上記3点について口頭で相談したところ、内服薬を少なくすることで誤嚥のリスクも減らすことができるから夕食後の薬のみにまとめよう、と了承を得ました。降圧薬に関しては、食事摂取量が安定してきたところで再度血圧評価をして、再開についてはそこで再検討することになりました。内服薬変更後の血圧推移は、収縮期/拡張期:120〜130/70〜80の幅で推移しており、夜間の中途覚醒や入眠障害などもなく経過しました。食事摂取量は、経腸成分栄養剤(2−2)液を70〜80%ほど摂れるようになってきました。現在、引き続き食事摂取量や血圧推移、内服薬の服用状況をモニタリングしています。Avenell A, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2014;2014:CD000227.Reid IR, et al. Lancet. 2014;383:146-155. 矢吹拓 編. 薬の上手な出し方&やめ方. 医学書院;2020.

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