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第217回 バリアフリーはどこにある!?車いす介助から見えた現実

「百聞は一見に如かず」とはよく言ったものである。今まさに人生初の経験をしている。車いすの使用である。といっても自分自身が車いすを利用することになったわけではなく、父親の介助者としてだ。以前、本連載でも触れたが、80代後半の両親は今も健在で、父親は軽度認知障害(MCI)持ちで歩行も亀の歩み状態となっている。それでも父親の出掛けたがりな性分は変わらず、それに付き添う母親のイライラが募った結果、私と母親は折り畳み式の軽量車いすの利用を検討し始めていた。ただ、前述の本連載バックナンバーでも触れたように、介助者である母親が納得するものを見つけるという段階で停滞を余儀なくされた。ところが利用しなければならない事態が現実に発生してしまったのだ。父親の容態ちょうどゴールデン・ウイーク(GW)が始まる1週間前のことだった。いつもより早く目が覚めた私は、ジムで小一時間運動し、シャワールームで汗を流して脱衣所に戻ると、スマートフォンに実家近くに住む薬剤師の親戚からLINE通話の着信があったことに気付いた。朝から何だろうと思ってそのまま体を拭いていると、今度は母親から電話の着信。何かあったと直感的に思った。母親には以前から「生死にかかわること以外で日中に音声電話をかけてこないこと」と言い含めていたからだ。急いで電話を受けると、「詳細はLINEに送ってあるから。お父さん、今、病院に救急車で向かっている」と一気にまくしたてられた。母親の声の背後に救急車のサイレン音がかぶさっていた。「わかった。また、連絡頂戴」と言って、一旦電話を切った。そのままLINEを立ち上げてメッセージを確認すると、「しゃべりなくなって救急車で市立病院に向かっている。体は元気(原文ママ)」とのメッセージ。わかるような、わからないような。即座に「脳梗塞か」とだけLINEメッセージを返し、急いで服を着て事務所に戻った。道すがら前述の親戚に折り返し、どうやら「起床後に(父親の)足が浮腫んでいた」と母親が彼に話していたことを知った。事務所に到着した時点で母親から新たなメッセージが着信していた。「一時的に、梗塞したようで(救急)車の中で回復した。病院について診察受けている、大丈夫だと思う」私はこの日、午前10時と午後1時からオンラインでの打ち合わせがあったが、安定した通信状態が必要なので、それが終わるまで事務所は動けない。昼直前に母親から「脳梗塞が見つかり、入院になった」とのLINEメッセージが着信した。午後の打ち合わせを終え、そこから不在に備えた雑務を諸々こなして、仙台駅に到着したのは6時過ぎ。父親と面会できたのは翌日だった。面会時はちょうど理学療法士がついてリハビリ中。横で眺めていると、結構キチンとやり取りし、手足も動いている。理学療法士が去ってから、父親が起き上がってベッドの端に腰掛け、「この姿勢のほうが耳がよく聞こえる。ワハハ」と元気そうだった。主治医からは、アテローム血栓性脳梗塞で搬送時のNational Institutes of Health Stroke Scale(NIHSS)スコアは1。血栓回収療法は行わず、抗血小板薬の内服のみで対応しているが、経過観察や検査のため10日間の入院と説明を受けた。結局、私はそのままGW半ばまで病院にアクセスの良い市内のホテルに滞在し、毎日父親を見舞った。退院日には再び医師の説明を受け、軽度の心房細動が確認されたため、今後は内服薬を抗血小板薬から抗凝固薬へ切替えるとの方針が告げられた。駅構内・ホームで悪戦苦闘!最終的に後遺症もなく退院に漕ぎ着けたのだが、10日間の入院の結果、教科書通りなのかもしれないが、歩行力が低下してしまった。入院前から通所リハビリは利用していたが、母親が利用先の理学療法士から聞いた話によると、退院後は以前よりもふらつくシーンがやや増えたとのこと。このため母親が急遽ケアマネジャーに相談し、遠出をする時のことも考慮して、折り畳み式の軽量車いすをレンタルすることになったのだ。軽量車いすが実家に届いたのは5月末。そのため父親の状態確認と車いす介助を経験するため、私は帰省することにした。父親は自宅内や自宅近傍は自力歩行をしていたが、やや距離があるところに出かける時は車いすを使っていた。そして実家には今回レンタルした軽量車いすのほかに前述の親戚から譲り受けた車いすがあり、母親は仙台市内などの繁華街に出かける時は前者、地元の街中を移動するときは後者と使い分けていた。実際に介助してみると、なかなか大変である。どちらの車いすもまだ50代の私にとって重量面で堪えることはないが、非日常の車いす操作に伴い、さまざまな“ケアレスミス”が生じる。たとえば、父親の車いすを押しながら駅の自動改札を抜けた時のこと。改札の幅に問題はなく、父親は車いすに座ったまま自分の交通系ICカード(以下、ICカード)を自動改札に見事にタッチ(実はMCIだとこの自動改札のタッチを本人が忘れたりする)。ピッと音が鳴りホッとしてそのまま改札を通過した。実はここですでに“ミス”が発生していた。この時は母親も一緒にいたため、「あんた(私のこと)、自分のICカードは?」と言われてハッとした。父親のことに集中するあまり自分のICカードのタッチを忘れてしまっていたのだ。そのままホームに進む。以前は父親とこうして出かける時は、父親本人はシルバーカーを押していたので、改札前の歩行距離が最短で済む乗降口に並んでいた。この時も車いすを押しながらいつものようにその場所に並ぼうとすると、母親から「こっち!」と改札から少し離れた対抗ホームに向かう階段近くにある乗降口へと誘導された。「何でだろう?」とやや不思議に思ったが、電車が到着する2分ほど前にようやく理由がわかった。母親から促されて父親が電車に乗るために車いすから立ち上がる。最寄り路線を走るJRの車両はいまもドアが開いたところに大きな段差があるため、乗降時は車いすのままとはいかず、父親も自力歩行をしなければならない。そのために父親が車いすから立ち上がる際、足腰が弱った父親が不安定な車いす本体以外で支えとして掴まえることができるポールが、この階段脇の乗降口にしかなかったのだ。父親が立ち上がる直前に私は手早く車輪のブレーキをかけ、車いすを折り畳んで2人の後に続いた。この辺の操作を覚えることは何の苦もない。車内に乗り込むと、母親の指示で折り畳んだ車いすをシルバーシート脇の車両連結部付近にある広めのスペースに置いた。そして自分も両親の真向かいの席に座り、ホッと一息ついてから「あれ?」となった。というのも車いす導入後、母親はすでに父親と車いすを電車に乗せ、仙台市内の繁華街まで何度か出かけている。母親と2人がかりですら、気の抜けない作業だと私が思っていた「駅到着~電車に乗り終える」までの一連の作業を、母親はこれまで1人でこなしていたことに気付いたからだ。80代後半の小柄な母親にとってはかなり大変な作業なはずなのに。仙台駅に到着後は、私が軽量車いすを先に抱えて降りて、ホーム上で展開し、母親の介助で降りてきた父親を乗せ、ホーム中ほどにあるエレベーターまで移動。そこで改札階に上がり、3人で改札を抜ける。この時は私も忘れずICカードをタッチした。駅でのバス乗降、何が大変かって…父親のかかりつけ歯科医院の受診日のこと。とりあえず母親が路線バスで行ってみたいというので、仙台駅の有名なあのペデストリアンデッキ上を車いすを押しながら移動した。バスターミナルへはデッキから階段で降りていくことになる。幸いエレベーターはあったが、実はこれも大変。というのも駅舎からバス乗り場までの最短距離にある階段そばにはエレベーターはなく、デッキ上を大回りで移動してエレベーターがある場所まで移動して乗り場に降りることになった。バス乗り場では車いすに乗った父親の姿を見つけた係員が親切に誘導してくれ、事なきを得てバスに乗り込めた。しかし、折り畳んでもそれなりに大きさのある車いすを車内で保持しながらの移動は決して楽ではなく、人目もやや気になってしまう。目的地のバス停到着時は電車と同じく私が先行して降車し、母親に介助されながら降車した父親を車いすに乗せて、歯科医院まで私が歩道上を押して歩いた。何でもない作業に思っていたのだが、実はこれがそうでもない。歩道の所々には沿道から車両用の横断勾配があるのだが、この勾配に片輪でもかかると、かなりバランスが崩れる。自分は両親と比べまだ若いからとやや過信していたが、勾配でのバランス制御は介助者が車いすを押す力の多寡だけで解決するのはやや無理がある。そして目的地の歯科医院に到着すると、入口は道路の縁石からやや上方に傾斜したところにあった。そのまま前輪を浮かすように傾斜に乗り上げて前進しようとするもうまくいかない。結局、母親のアドバイスに従い、180度回転させ、引き上げるようにして傾斜を上ることになった。認知症カフェ参加、役所までヒヤヒヤそしてこの翌日には、実家近くの役所で開かれる認知症カフェに参加するため、役所まで再び父親を車いすに乗せて連れて行くことなった。この時に使用したのは親戚から譲り受けたほうの車いす。実家から役所までは2ルートあるのだが、母親からは歩道が綺麗に整備されたルートではなく、農道を拡張したルートを行くように指示された。曰く、前者はあの横断勾配が多くバランスを崩しやすいのだという。すでに前日にこの件は経験済みだったので、アドバイスに従うことにした。もっとも後者のルートは専用の歩道はなく、すぐ脇をビュンビュン乗用車が通り過ぎる。しかも路面の舗装は排水性アスファルトと呼ばれる粗い舗装のため、車いすに乗る父親には路面からのガタガタとした振動がまともに伝わってしまう。父親は文句ひとつ言わずに黙って乗っていたが。そして目的地の役所建物の目の前で車道から歩道に入ろうとしたところで。またガツンとやってしまった。ちょうど車道から歩道の境目は極めて緩やかなV字状で歩道の縁石も申し訳程度に隆起していた(後に現場まで行って定規で計測したところ2cm弱)のだが、前進ができない。結局、昨日の歯科医院前と同じく180度回転し、歩道側に引き上げるように車いすで乗り込み、再び180度方向転換して進み、無事、役所に到着した。背後からついてきた母親が「バリアフリーって歩行できる人のためのもので、車いすを使う人のものではないんだよね」と漏らした。同感だった。医療機関や介護施設ならば、車いすも想定したバリアフリーになっているだろうが、市中は必ずしもそうとは言えないのだ。明日はわが身、車いす介助者による事故そんなこんなもあって車いすについて調べるうちに行き着いたのが、独立行政法人製品評価技術基盤機構のホームページである。同機構は各種製品の安全関係に関する調査事業も行っており、そこでは報告のあった製品事故に関する情報も検索ができる。私が「車いす」のキーワードで検索すると、2019~22年に6件(電動車いすは除く)の報告があった。これはあくまで機構に報告があったものであり、世で起きた車いすに伴う事故の本当にごく一部だろう。いずれもリコールなどに該当する製品そのものの不具合ではない。どちらか言うと使用(介助)者側のミスなどに起因する。6件中4件は死亡事故だ。そのうちの1件の事故詳細を読んでいて何とも言えない気持ちになった。事故の詳細は施設介護者が入浴後の使用者を車いすに移乗させ、左足をフットサポートに乗せようとしたとき、車いすのバックサポートの後方に頭を倒していた使用者もろとも後方に転倒。そのまま使用者が亡くなったという事例である。使用者の姿勢もあり、左足をフットサポートに乗せようと持ち上げた時に重心が偏って起こった事故だ。不注意と言われればそれまでだが、介護者に悪意はまったくない。施設勤務介護者ですらこの状況なのだから、家族介護者で同様の事故が起こっているであろうことは容易に想像がつく。また、ある1件は介助者が、使用者の乗車した車いすを車いす用体重計に乗せるため前輪を上げる(浮かす)操作後に前進し、車いすが大きく傾き使用者が転落・負傷したという事案。まさに私が路上の縁石前で父親の車いすで行おうとしたこととほぼ同じ操作で事故は起きている。結局、介助者の「このくらい」という悪意のない行動が事故に結び付いているのだが、同時に私の少ない経験ながらも市中にはそうした操作を“強いられてしまう”現場があちこちにある。過去から比べれば世の中は進展しているとはいえ、私たちはまだ真のバリアフリー社会への途上にあるのだと改めて実感させられている。

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第216回 異例の承認「外傷性脳損傷による運動麻痺」の改善薬

6月21日夜、私が接したのは異例中の異例の結論だった。国内バイオベンチャー・サンバイオが中等度から重度の外傷性脳損傷後の運動機能障害の改善を適応として申請中の再生医療等製品「アクーゴ脳内移植用注」(一般名:バンデフィテムセル、開発番号:SB623、以下は開発番号で表記)について、厚生労働省(以下、厚労省)の薬事審議会の再生医療等製品・生物由来技術部会*(以下、部会)は、再生医療等製品特有の条件および期限付承認を了承したが、端的に言うと「承認するが、当面出荷は認めず」という“玉虫色”の結論を出したのである。*旧薬事・食品衛生審議会、本年4月より改称SB623とは外傷性脳損傷は、交通事故、労働災害や高齢者のふらつきなどによる転落・転倒、スポーツ外傷などによって起こり、脳の神経細胞の損傷が著しい1割程度の中等~重度の患者では慢性的な記憶障害や運動機能障害などに至ってしまう。運動機能障害の症状は手足の動きの鈍化、嚥下機能の低下、円滑な発話が困難などで日常生活におけるQOLは大幅に低下する。外傷性脳損傷による慢性的な運動機能障害は、現状ではリハビリテーション以外にほぼ治療手段はない。そうした中で2001年に米国・カリフォルニア州で設立されたサンバイオ(2014年、日本に本社移転)が創業以来、開発に注力してきたのがその治療薬SB623である。SB623は健康成人骨髄液由来の間葉系間質細胞を加工・培養して作製されたヒト(同種)骨髄由来加工間葉系幹細胞。これを定位脳手術で脳内の損傷した神経組織へ直接移植手術を行うことで、脳神経再生能力を促し、喪失した運動機能を回復させる効果が見込まれている。損傷した脳の神経細胞の復元がきわめて難しいことは一定の医学知識があれば容易に想像がつくが、そこに挑んだのがSB623である。サンバイオが日本に拠点を移動した2014年11月には国内再生医療等製品に関する早期承認(条件および期限付承認)制度がスタート。同制度は、アンメットメディカルニーズゆえに被験者数の確保が難しく、二重盲検比較試験実施も困難な再生医療等製品について、有効性が推定され、安全性が認められた再生医療等製品を、条件や期限を設けたうえで早期承認する仕組み。承認後は製造販売後使用成績調査や製造販売後臨床試験を計画・実施し、7年を超えない範囲で有効性、安全性を検証したうえで、期限内に再度承認申請して本承認(正式承認)を取得する。株価に期待や不安が織り交ざる先進国内で最も再生医療等製品の上市ハードルを低くしたともいえる同制度は、サンバイオのSB623開発にとって追い風だったことは想像に難くない。同社は2015年に東京証券取引所マザーズ市場(現・グロース市場)に上場を果たし、2018年11月には外傷性脳損傷を対象にしたSB623の日米共同第II相「STEMTRA試験」で主要評価項目の達成を発表。2019年1月に同社株価は1万2,730円と上場以来の最高値を記録した。ただ、当時の株価急上昇は外傷性脳損傷でのポジティブな試験結果とは別の要因も働いていたと考えられる。というのも同社創業直後から、SB623は外傷性脳損傷よりはるかに市場規模が大きい慢性期脳梗塞での運動機能障害を適応とする臨床試験が先行していたからだ。つまり2018年11月の速報結果発表以降の株価の急上昇は、脳梗塞での試験成功への期待値も織り込んでいたというのが、関係者の間では共通認識だった。しかし、上場後の株価最高値を記録した2019年1月末、同社は業績予想の下方修正と脳梗塞で進んでいた第II相試験の主要評価項目未達を相次いで発表。翌2月に株価は反転急落し、同月最安値は2,401円にまで落ち込んだ。ところがこの3ヵ月後の2019年4月、外傷性脳損傷後の運動機能障害の改善の適応に関してSB623が厚生労働省の先駆け審査品目に指定を受け、再び期待が高まることになった。「先駆け審査指定制度」の法制化3年後に申請先駆け審査指定制度は、2014年6月に閣議決定された産業競争力の強化を通じ日本の成長戦略「日本再興戦略改訂2014」で謳われた「世界に先駆けた革新的医薬品・医療機器等の実用化の推進(先駆けパッケージ戦略)」を受け、2015年度から厚生労働省と医薬品医療機器総合機構(PMDA)が試行的に開始。2019年の薬機法改正で法制化された。同制度は(1)治療薬の画期性(2)対象疾患の重篤性(3)対象疾患に係る極めて高い有効性(4)世界に先駆けて日本で早期開発・申請する意思・体制、の4条件を満たす開発中の医薬品を、企業の申請に基づき薬事審議会での意見聴取などを考慮して指定する。指定を受けた医薬品は、申請前に事前にPMDAによる優先相談や事前評価を受けられ、申請から原則6ヵ月以内に承認可否が下されるなどの“特典”がある。そしてついに同社は2022年3月、「外傷性脳損傷に伴う慢性期の運動麻痺の改善」の適応で承認を申請。同制度の原則に基づけば2022年9月には承認可否が決定しているはずだったが、同年8月までに開催された2回の部会の議題には上らず、7月22日付で同社は9月までに先駆け審査制度に基づく承認の見込みはないとのプレスリリースを公表し、10月には「今期中の承認取得はないものと判断しています」とのプレスリリースも発表した。この中身が明らかになったのは2023年3月に行われた同社決算会見。同社が「細胞の製造の際に申請時点と比較して収量が減少する課題が発生した」と公表し、以後、同社のプレスリリースではこの点に関する情報発信が以下のように変化していった。「現時点ではまだ、申請時点と同等の収量に戻り切っていませんが、直近の製造を通して得られた追加データに基づく原因分析の結果、課題解決に直結すると考えられる施策を策定することができました。現在、この施策を講じた上で製造を行っており、8月にこの製造の収量結果をもって課題解決の判断ができる見込みです」(2023年6月)「収量に関する課題について、施策を講じた直近の製造において、収量の改善を確認することができました。今後、追加製造と並行して、生産関連の審査に適時適切に対応していくことで、引き続き、今期中の承認取得を目指します」(2023年8月)「収量に関する課題については解決し、審査は進捗しております。但し、審査の状況から承認取得にはもう少し時間を要するため、承認取得目標時期は2024年3月に修正いたします」(2023年12月)承認審議、そこから明らかになった課題そして今年3月18日、厚労省が3月25日の部会開催を発表し、その議題には「非公開案件 議題2 再生医療等製品『アクーゴ脳内移植用注』について」と記載されていた。「うわっ!承認審議か」と私も含め多くの記者が色めき立ったが、翌日の一部専門紙で「承認可否は審議せず、“今後の方向性”を審議する」と報じられた。そもそも部会審議の議題にあがりながら、承認可否を審議しないこと自体異例である。この時に厚労省が発表した資料によると、「治験製品と本品との同等性/同質性が確認される前提ではあるものの、一定の有効性は期待でき、ベネフィットを踏まえると安全性は許容可能。本品の有効性および安全性に関する情報は現時点で限定的であるものの、本品を臨床現場に提供する意義はあるものと評価」との見解を示しながらも、「現時点で得られたデータでは、治験製品と本品との同等性/同質性は判断できない」と記述されていた。要は製品としての品質が担保されていないということだ。この品質問題の詳細について厚労省側は企業秘密に該当するとして公表していない。サンバイオ側にも確認したところ、「お答えできない」との回答だった。ただ、この件に関する同社のプレスリリースでは品質に関する追加データを提出していく意向を示しており、「(提出するデータは)今後当局との協議の中で明確化して対応していく予定です。当局との協議次第となります」(同社広報)との回答だった。承認へ、本品が唯一の治療方法になる可能性そして再び6月12日に厚労省は6月18日の部会開催を発表。議題の1つが「再生医療等製品『アクーゴ脳内移植用注』の製造販売承認の可否、条件及び期限の要否並びに再審査期間の指定の要否について」。3月の開催案内に比べ、議題表記がかなり具体的であるため、私や周囲の何人かの記者は承認の見通しだろうと予想した。そして6月18日、夜9時からオンラインで開催された部会後の記者レク*。事前に厚労省からメールで届いた資料を読んでいて、「ああやっぱり承認か」と思いながらPDFをスクロールしていると、2ページ目の備考欄で目が留まった。そこには以下のような記載があった。*記者レクチャーの略。記者団などを相手に発表を行うと共に発表者から説明が行われる場「本品の製造実績が限られていることを踏まえ、あらかじめ定めた計画に基づき、本品の品質に関する情報を速やかに収集するとともに、治験製品と本品との品質の同等性/同質性を評価し、結果を報告すること。また、当該結果を踏まえ、必要な承認事項一部変更承認申請を行うとともに、当該申請が承認されるまでの間、本品の出荷を行わないこと。」(下線は筆者追加)実はこの時、記者レク参加予定の記者、AさんとBさんと同時並行でLINEのやり取りをしていた。すぐに2人からメッセージが着信した。Aさん「いや、承認条件の一番下、これなんですか?」Bさん「これってすぐには販売開始できないんですかね?」そして夜9時に厚労省医薬局医療機器審査管理課による記者レクが始まった。まず冒頭、担当者から以下のような説明があった。「(3月25日の部会では)今回の承認条件に関係する同等性/同質性の確認が困難だった。それを経てサンバイオ社から追加データが提出され、その内容をPMDAが評価した結果を踏まえて承認の可否を諮り、承認して差し支えないことになったが、3月に論点になっていた同等性/同質性については、追加データでもなお確認できないという結論。しかしながら、それでもなお承認して差し支えないと判断をしたのは、適用対象疾患に対しては、現時点では代替の治療方法がない、リハビリテーションをするしかないため、本品が唯一の治療方法になる可能性があるというところを鑑みて、条件を付したうえでデータの再提出後に改めて部会で議論することを織り込み済みであれば、承認して差し支えないだろうとの判断をいただいた」以下は医療機器審査管理課の担当者と記者との主なやり取りだ。―前回の部会以降追加で求めたデータはどのようなもので何がネックになっていたのか、可能な範囲で教えてください。担当者今後また審査に付される部分が含まれる内容になりますので、回答はなかなか難しい。先ほど申し上げたとおり、前回の部会以降に追加されたデータでは、同等性/同質性としては確認できなかったので、それを補完するために承認を一度与えたうえで承認後にデータを取り直すことを承認条件としました。―「必要な承認事項一部変更承認申請(通称・一変)を行うとともに」との記述があるが、審議の結果では今後一変の必要性が高いと見込まれたのでしょうか?(筆者)担当者現時点ではデータが不足している事実があり、それを充足したうえで内容を審査するプロセスを経るので、既存の承認事項の中で変更が必要な部分は審査内で明らかになってくる。ただ、少なくとも本品は製造実績が限られ、使用期限の設定ができていません。この点は改めて製造実績を積んで、使用期限設定の根拠となるデータを提出のうえで変更申請をしなければならないので、少なくとも1ヵ所は一変が必要でしょう。―そもそも承認条件付き期限付き承認は迅速に患者に治療薬を提供すること、既に非常に時間かかってます。制度のメリットが生かされていないという指摘もあります。担当者申請から承認に至るまで約2年かかっている点は、迅速なアクセスに至っていないという批判があること、承認されたらすぐアクセスできるものでもないことはご指摘の通りです。しかし、品質をないがしろにしてよいかは別問題で、本品はその点はまだ改善しなければならない点があり、すぐに出荷は認められない背景事情があります。―3月の審議時点とデータ的には変化はないが、厚労省とPMDAの考え方が変わったということですか?担当者追加のデータはあり、それを評価したうえで今回ご審議いただいたので、3月時点から今回の審議品目のデータには差はあります。―3月の審議時点と具体的に何が変わって条件付き承認を認めたのでしょうか?担当者繰り返し申し上げたとおり、3月時点ではなかったデータが今回追加で提出されておりますので、それを含めて評価をした結果、条件付き承認かつさらにこちらが求めたデータの提出とそれに伴う一変申請による承認までは出荷してはならないという条件付き承認を与える対応が妥当、という判断をさせていただきました。―承認しないのと、今回のように一旦は承認して承認条件をつけて実際に出荷できないのは、どのような違いがあるのでしょうか?担当者いずれの場合でもデータ収集のタスクが課せられることは変わりありません。本品の場合、患者のもとに迅速に届ける目的を達成するためにどのような方策が取れるかについて、厚労省とPMDAともさまざまな方策を考えました。その結果、承認前に収集することと承認後に収集することを比べた際、承認後のほうがサンバイオ社の実行可能性が高いと判断し、今回の措置を取りました。―追加データで同等性/同質性を確認できないものの、3月時点よりは科学的に同等性/同質性の確認により近づいたという判断だったのでしょうか?(筆者)担当者結論だけを見れば、同等性/同質性の確認ができない点は変わりませんが、追加データを評価した結果、一定の評価をできるという点が違いとしてあり、同等性の確認のレベルにより近づいたかと言えば微妙ながら近づいた、とご理解をいただければと思います。―承認後にデータ提出を求めたほうがよいという判断根拠はなんでしょうか?(筆者)担当者先ほどから繰り返し申し上げているとおりなんですが、この件はサンバイオ社が主語となりますので、具体的な内容については主体のサンバイオ社にご確認をお願いします。―承認後のほうがデータ収集しやすいというのはサンバイオ社が申し出たのでしょうか?(筆者)担当者さまざまなオプションを検討する中で、承認後のほうがデータを集めやすいということを議論の中で行政側とも合意をしました。記者レクの中で担当者も「異例」の言葉を使っていたが、今まで何か特殊な条件で承認された薬としたら、私の中で浮かぶのは本連載でも取り上げた抗インフルエンザ薬のファビピラビル(商品名:アビガン)くらいだ。とはいえ、アビガンのケースは催奇形性を警戒して通常出荷としなかっただけで、今回のように「承認されたけど、今の時点ではいかなる手段でも使えない」状況とは違う。この記事出稿後、同社はプレスリリースで、今後2回程度の市販品製造を行い、同等性/同質性を確認すること、出荷可能時期は2026年1月期第1四半期を想定している旨を公表した。今後、SB623ことアクーゴはどうなるのだろうか?

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最初の数分で患者の情報を系統立てて収集する【こんなときどうする?高齢者診療】第2回

外来で1人の患者に割ける診察時間は何分ありますか?今回は限られた時間の中で高齢者の健康問題の情報を効率的に得る方法「DEEP-IN」を紹介します。こんな場面を想定してみてください。90歳男性。独居。既往歴は安定した高血圧と糖尿病。前医の退職に伴い、新しいかかりつけ医を求めて新規患者枠で外来にやってきました。診察に使える時間は5分です。高齢者診療の原則は「老年症候群があるという前提で診療する」ことです。患者の老年症候群を把握すると、疾患の治療だけでなく、同時にQOL/ADLの維持・向上への次の一手を考えることができるようになります。包括的高齢者アセスメント(Comprehensive Geriatric Assessment ; CGA)は優れたツールですが、まとまった時間を十分にとることのできない外来で使うのはあまり現実的ではありません。そこで短時間で高齢者アセスメントができる型、簡易高齢者アセスメントを活用してみてはいかがでしょうか。簡易高齢者アセスメントの型は、高齢者にコモンに生じる項目の頭文字をとり「DEEP-IN」と覚えます。順番にDementia, Depression, Delirium, Drugs(認知機能、抑うつ、せん妄、服薬状況)、Eye(視力)、Ear(聴力)、Physical function・Fall(身体機能、転倒)、Incontinence(失禁)、Nutrition(栄養状態)です。この型は、短時間で高齢者の診療とケアに必要な情報が得られるよう、とくに「身体・認知機能」と日々の自立生活に必要な項目に注目して設計されています。DEEP-INで患者の情報を効率的に収集する各項目でどのようなことを聞くか、例をみてみましょう。D(認知機能)診察当日の曜日や家族・お孫さんの名前や年齢。これらで大まかな認知能力をアセスメントできます。E&E(視力・聴力)眼鏡や補聴器の使用有無だけでなく、テレビや電話が使いにくくなっていないか、と日々の生活からも情報を収集することができます。P(身体機能)毎日の生活で○○するのが難しい、不安、ということはないか。例えば着替えや洗濯、買い物などです。独居であれば入浴について聞くのがおすすめです!衣服の着脱、浴槽をまたぐ、水・お湯の温度を設定するなど、複雑な動作が数多く含まれている入浴という行為。これに問題や不安がなければ、ほかの日常生活動作も大丈夫というアセスメントも可能でしょう。I(失禁)多くの高齢者の方が悩まれている失禁ですが、これまで一度も聞かれたことがない、ということも珍しくありません。血圧が心配で来たのに、「尿失禁」について急に聞かれると驚く方もいます。デリケートな話題なので聞き方には配慮しましょう。「○○さんのお年になると悩む方も多いのですが」といった一言を添えると答えやすくなります。N(栄養状態)衣服やベルトのサイズ変化、1年間の体重変化や食事内容などが聞けるとGoodです!さて、DEEP-INの型を使って問診したところ、次のような情報が得られました。90歳男性。独居。安定した高血圧と糖尿病D:今日の曜日が言える。孫の名前と年齢を覚えている。しかし服薬記憶はあいまい。お薬手帳は所持。服用している薬の中に、副作用リスクが高い薬がある(NSAIDs、ベンゾジアゼピン、抗ヒスタミン薬が配合された総合感冒薬、抗アレルギー薬を常用)、複数の保険薬局を使用している。E&E:眼鏡と補聴器が欠かせない。眼鏡は2焦点レンズ1)。補聴器は耳掛け式。P:ADLはほぼ自立しているものの、入浴時に転倒の不安がある。直近12ヵ月で転倒歴はない。しかし外出時は杖を使用。I:尿便失禁なし。夜間頻尿もなし。N:1年で5kgの体重減少(これまで誰にも相談したことはない)。ベルトサイズ、時計のバンドサイズの変化、食欲低下あり。いかがでしょうか。「高血圧症、糖尿病」と疾患名だけでは焦点が定まっていなかった患者像の解像度がグッと高くなったと思いませんか?これだけの情報が得られれば、高血圧と糖尿病への処方だけでなく、自立した生活・QOLを向上させるような健康増進介入も可能です。今回は転倒リスクに注目してみましょう。赤字の項目すべてが転倒リスクにつながるため、介入策はないか考えてみましょう。介入の方法としては、(1)転倒につながる副作用がある薬剤の減薬・中止を検討する(2)視力検査と単焦点レンズの眼鏡への変更の2点は比較的簡単にできるのでは、と考えます。2焦点レンズの眼鏡の下部は近距離用に焦点があわせてあるため、足元を見たときに視界がぼやけて遠近感がつかみにくいため転倒のリスクが高まります。単焦点眼鏡への変更を提案してもいいでしょう。1回の問診で網羅できなくても、すべての健康問題を解決できないとしても、焦る必要はありません。これらの項目はさまざまな医療職の方でも情報収集が可能で、医師よりも聞きやすい、聞きなれていることも多いのではないでしょうか。例えば看護師の方に失禁に関して聞いていただくなど、ぜひチームで役割分担、情報共有してみてください。患者の日々の生活が鮮明に想像できるようになります。本人から情報を得られないときは?高齢者の診療においては、患者本人から情報が得られない状況によく遭遇します。その際は、身体診察から情報を得る、年齢・性別といった疫学的視点から頻度の高い症状・徴候を推測してみましょう。これは老年症候群を知っておくことにほかなりません! 医師で在宅医療に携わるサロンメンバーは、患者本人から情報が得られないときには「●歳をすぎたら、突然具合が悪くなって救急車に乗ることがあるかもしれません。そうなったときにすぐに対処できるように、子どもさんにお薬や治療のことを知ってもらっているんですよ」と声掛けをして、家族の同席を促すそうです。身内がいない方であれば地域包括支援センターとの連携を促すなど、どんな形であっても第3者の目を入れることがポイントです。この声掛けには老年医学で大切にしている、高齢者へのかかわり方のコツが詰まっています。1つめはノーマライゼーション。「●歳を過ぎたら皆さんそうしていますよ」と患者と同年代の人の多くがそうしていると伝えると心理的ハードルが下がります。2つめは「救急車に乗るかもしれない」という言い方で、予後予測を共有していること。患者と予後予測を共有するのは非常に重要ですが、受け入れがたい方が多い話題でもあります。このケースは今すぐに起こることではないが起こってもおかしくない話なので、患者が恐れを持ちづらいのがポイントです。そして最後に、「子どもさんに知ってもらっているんですよ」という締め方。どうしますか?と患者に選択させるのではなく、医療者としてのお勧めをデフォルトで提示すること。これで患者の意思決定ストレスを減らしています。いずれも患者に恥ずかしさや恐怖を与えない配慮が素晴らしいです。これらは高齢者にかかわるときあらゆる場面で役に立ちます。DEEP-INとともにぜひ診療で使ってみてください!参考1)多焦点レンズの使用は遠近感や周囲視野の視力を低下させ、転倒のリスク上昇と関連するといわれている。Lord SR,et al. J Am Geriatr Soc. 2002 Nov;50(11):1760-1766.

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CKD-MBDガイドライン改訂に向けて新たな治療の方向性を議論/日本透析医学会

 日本透析医学会による『慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常(CKD-MBD)の診療ガイドライン』の改訂に向けたポイントについて、2024年6月9日、同学会学術集会・総会のシンポジウム「CKD-MBDガイドライン 新時代」にて発表があった。 講演冒頭に濱野 高行氏(名古屋市立大学病院 腎臓内科・人工透析部)がCKD-MBDガイドライン改訂方針について、「CKD-MBDの個別化医療を目指して、さまざまなデータを解析して検討を積み重ねてきた。新しいガイドラインでは、患者の背景に合わせた診療の実現へつなげるためのユーザーフレンドリーな内容になるよう努めていきたい」とコメント。続いて、6人の医師が今後のCKD-MBDガイドライン改訂のポイントに関して解説した。CKD-MBDガイドライン改訂で実臨床に則したプラクティスポイント作成を目指す 保存期CKD-MBDについて、藤崎 毅一郎氏(飯塚病院 腎臓内科)から低カルシウム血症・高リン血症のプラクティスポイントに関する提案があった。低カルシウム血症では、「まずは補正カルシウム値を確認。その後、低カルシウム血症を誘発する薬剤の確認やintact PTH(iPTH)、リン、マグネシウムを測定し、二次性副甲状腺機能亢進症の確認を行ったうえで、カルシウム製剤または活性型ビタミンD製剤の投与を検討すること」とし、高リン血症に関しても補正カルシウム値の確認を行ったうえで、「低い場合にはカルシウム含有リン吸着薬、正常であれば鉄欠乏の有無を考慮したうえで鉄含有、非含有リン吸着薬の投与を検討すること」とコメントした。最後にガイドラインの改訂に向けて、「実臨床に則したプラクティスポイントの作成を目指して検討を続けていく」と述べた。CKD-MBDへの関心が低い医師でも使えるフローチャートを 血液透析患者における血清カルシウム、リンの管理目標値について、後藤 俊介氏(神戸大学医学部附属病院 腎臓内科 腎・血液浄化センター)から提案があった。理事会へ提出された素案によると、血清カルシウムの下限は8.4mg/dL以上のまま、上限に関しては9.5mg/dL未満、血清リンに関しても下限は3.5mg/dL以上のまま、上限は5.5mg/dL未満が管理目標値として検討されている。同氏は、血清カルシウム、リンの管理について、「カルシミメティクスや骨粗鬆症治療薬によってカルシウムが下がりやすい環境にもあるため、低カルシウム血症には注意すること。血清リンに関しては年齢や栄養状態をよく考慮して検討すること。原疾患が糖尿病、動脈硬化性疾患の既往がある場合には目標値の上限を下げて管理することも検討する必要がある」とコメント。また、「CKD-MBDにそれほど関心がない先生方にとっても、フローチャートなどを使って診療の手助けになるものを示していくことが大切である」と述べた。CKD-MBDガイドライン改訂で患者の背景に応じたリン低下薬選択を支援 前回のCKD-MBDガイドライン以降、多くのリン低下薬が登場し、患者に合わせた薬剤選択の重要性が注目されている。山田 俊輔氏(九州大学病院 腎・高血圧・脳血管内科)からは、患者特性に基づくリン低下薬の選択について提案があった。リン低下薬を選択する際の切り口として、「リン低下だけでなく薬剤による多面的な効果、便秘などの消化器症状、PPIやH2ブロッカーなど胃酸分泌抑制薬による影響、服薬錠数や医療経済など、リン低下薬の特性だけでなく患者背景に合わせて使い分けることが大切である」と改訂に向けたポイントを述べた。プラクティスポイントとして、リン低下薬選択に関するアプローチの仕方を示した「一覧表」の紹介もあった。同氏は一覧表に関して、「基本的には患者と相談してリン低下薬を選択していくことになるが、どうやって患者に合わせて使い分けていくべきか、視覚的にわかりやすいツールがあれば判断しやすいのではないか」とコメントした。PTHの管理・治療の個別化へ向けて 血液透析患者における副甲状腺機能の評価と管理について、駒場 大峰氏(東海大学医学部 腎内分泌代謝内科学)からPTHの管理を中心に提案があった。同氏は、「PTH管理においても治療の個別化が必要である」とし、管理目標値としてiPTH 240pg/mL以下の範囲で症例ごとに個別化すること、とコメントした。具体的には、骨折リスクの高い症例(高齢・女性・低BMI・骨代謝マーカー上昇)では管理目標値を低く設定する、カルシミメティクスを使用する場合にはiPTHの下限値を設けない、活性型ビタミンD製剤を単独で使用する場合は高カルシウム血症を避けるため下限値を60pg/mLとすることなどであった。内科的治療に関しては、PTHが管理目標値より高い場合には、血清カルシウム値や患者背景に基づいて活性型ビタミンD製剤、カルシミメティクスによって管理を検討すること、血清カルシウム値が管理目標値内にあって腫大腺や65歳以上、心血管石灰化、心不全リスク、骨折リスク、高リン血症を有するなど、1つでも該当する場合にはカルシミメティクスの使用や併用をより積極的に考慮することなどを挙げた。また、内科的治療に抵抗する重度の二次性副甲状腺機能亢進症の場合には副甲状腺摘出術の適応となるが、こちらも症例ごとに検討していく必要があると述べた。CKD-MBDにおける骨折リスクの評価・管理のポイントとは CKD-MBDにおける骨折リスクへの介入について、谷口 正智氏(福岡腎臓内科クリニック)からプラクティスポイントに関する解説があった。評価・管理のポイントとして、「脆弱性骨折の有無や骨密度検査および血清ALP値による骨代謝の評価を行い、骨折リスクが高い場合には、運動、転倒防止、栄養状態の改善、禁煙指導を実施したうえで、カルシミメティクスの投与を優先してPTHを低く管理することが重要である」とコメント。同氏は、それでも骨密度の改善が得られない、または骨代謝マーカーの亢進が認められる場合には、骨粗鬆症治療薬の投与を検討するよう提案した。また、透析・保存期CKD患者に対する骨粗鬆症治療薬の選択に関しては、使用制限や投与における注意点が薬剤別にまとめられた表を作成し、CKD患者においてリスクの高い骨粗鬆症治療薬もあるため、ヒートマップを活用する形で警鐘を鳴らしていくことなども必要であると述べた。CKD-MBDガイドライン改訂に向けた管理目標値の提案 腹膜透析患者におけるMBDについて、長谷川 毅氏(昭和大学 統括研究推進センター研究推進部門/医学部内科学講座腎臓内科学部門)からCKD-MBDガイドライン改訂に向けたポイントに関する解説があった。同氏は「リン低下薬に関しては十分なシステマティック・レビュー、メタ解析による報告がないため、血液透析患者での推奨に準拠すること。CKD-MBDの管理目標値に関しては、生命予後の観点から、リン、カルシウムを目標値内でも低めの値、残腎機能保護、血液透析への移行防止のために、リン、PTHを目標値内でも低めの値を目標とすること」と提案。また、プラクティスポイントとして、残腎機能のある症例でカルシミメティクスを使用することでリンの管理が難しくなる可能性があること、腹膜透析液のカルシウム濃度は血清カルシウム値、PTH値をみて選択することを挙げた。

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歯の外傷【いざというとき役立つ!救急処置おさらい帳】第15回

今回は歯の外傷の対処法についてです。「内科医が歯を診るの?」と思われるかもしれませんが、施設でも救急外来でも転倒して歯がぐらついている、歯が抜けてしまった、という症例はたまに経験します。しかし、医師が歯について勉強することは、恐らく学生以降あまりありません。かくいう私も、外傷で搬送されてきた前歯が抜けかけている患者さんを歯科にコンサルトする際に、「右の上の前歯がぐらぐらしていて…」という専門用語の出てこない説明しかできませんでした。医師であればやはり専門用語をある程度理解し、緊急性がどの程度あるかを判断してコンサルトする必要があると実感しました。とはいえ、歯科領域は医師が学ぶ機会は乏しいので、今回は主に歯についての基本的な知識と、プライマリケア医が困る機会が多いであろう歯肉からの出血に対する簡易な対処法を示します。なお、今回の用語と治療は日本外傷歯科学会のガイドラインに沿って行います1)。<症例>78歳、男性施設入所中、転倒し、顔面を打撲した。本人はけろっとしているが口腔内から出血しており往診依頼。歯は入れ歯などではなく、全部自分のものである。歯の名称頭部は大丈夫と判断したという前提で口腔内を診察していきます。まず、歯の名称からおさらいしましょう。図1 歯の名称画像を拡大する必ずしも覚える必要はありませんので、診察する際にインターネットなどで調べてください。この患者さんは上の右の前歯とその横の歯の歯肉から出血がありました。これは「上顎右側中切歯と側切歯」に該当します。歯の解剖私は広島大学卒業で、学生時代に細胞の絵を描いて説明する授業がありました。卒業生はわかると思いますが、絵心のない人は非常に苦労します。重要なのは絵の上手さではありませんでしたが、歯の絵を描いた際に、歯も複雑なのだなと思った記憶があります。さて下記がその歯の解剖です。図2 歯の解剖画像を拡大する「破折」と「露髄」歯が欠損したときの重要なワードは破折と露髄です。「歯が折れたときの正式名称は?」と聞かれて答えられる医師はあまり多くはないかもしれませんが、歯が割れたり、折れたりすることを破折と表現します。この患者を診察すると、上顎右側中切歯が欠損していましたので、「上顎右側中切歯の破折」と表現します。では露髄とは何でしょうか。これは歯髄という神経が破折によって見えることです。歯が欠損した場合、この歯髄が見えるかどうかが非常に重要になります。というのも、この部位は感染に弱く、可能な限り早くセメントなどで保護する必要があるからです。よって、露髄の情報も加えて「上顎右側中切歯の露髄を伴う破折」となります。歯が抜ける?ぐらぐらする?この患者さんの上顎右側側切歯はぐらぐらして少し飛び出していまました。ではこれはどのような表現でしょうか? 図3を参照してください。図3 歯の脱臼画像を拡大する歯を打撲したことを「振とう」、ぐらぐらしていることを「亜脱臼」、飛び出していることを「挺出性脱臼」、めり込んでいることを「陥入(埋入)」、完全に抜けていることを「完全脱臼」と表現します。本症例では、上顎右側中切歯は振とう、上顎右側側切歯は挺出性脱臼になります。この患者について歯科に電話で相談したところ、そのまま歯科受診となりました。その後、中切歯はセメントで処置を受け、側切歯は抜歯されました。歯肉からの出血次に、歯肉からの出血について紹介します。歯が抜けると出血することが多いです。その際に抗凝固薬を飲んでいるとなかなか止血しないことがあります。基本は圧迫止血になりますが、それでも止血しない場合はボスミンガーゼや局所止血剤を用いて圧迫止血を行います。これでほぼ止まりますが、それでも止まらない場合は縫合が必要になります。自力で縫合できればよいのですが、難しい場合は歯科に相談しましょう。ただ、ボスミンガーゼや局所止血剤を用いても止まらない場合は、高度の凝固異常がある可能性があるため、歯科に相談するとともに血液検査で凝固障害の有無を調べましょう。すでに抜けていた場合歯が完全脱臼してしまっている場合は、歯を生理食塩水か牛乳につけましょう。また、歯が汚れていたとしても磨いたりしてはいけません。歯の周囲には生着するために必要な歯根膜があり、磨くことで歯根膜を障害してしまうからです。水で洗う程度にしてください。以上が歯科に関する基礎知識のおさらいでした。歯はどうしても学ぶ機会が乏しいので、コンサルトするときの参考にしてください。1)日本外傷歯科学会. 歯の外傷治療のガイドライン. 2023.

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第215回 乱立する一般社団法人の美容クリニック、院長の名義貸しも常態化、見て見ぬふりの厚労省も規制にやっと本腰か?

NHKが先頭に立って報道してきた美容医療のトラブル問題こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。最近気になっていることに電動キックボードがあります。東京の中心部の道路では、企業が貸し出すタイプ(シェアリングサービス)や個人所有の電動キックボードが増えており、素足むき出しの若者(とくに女子)などがヘルメットも被らずに疾走しています。学生時代からヘルメットにブーツでオートバイに乗ってきた私(最近では胸部ガードもしています)としては、危なっかしくて見ていられません。2023年7月の法改正では、個人所有、貸し出しにかかわらず、時速20km以下の電動キックボード(特定小型原付)は免許不要で、ヘルメットも努力義務となりました。いわゆる規制緩和ということでしょうが、交差点での直進・左折優先の常識も知らない輩が車道、歩道の区別なく走り回るというのはどうなんでしょう。おそらく、事故が多発して、再び何らかの規制がかかるのではないでしょうか。そもそもあの小さなタイヤ径だと、多少大きな石や障害物、段差にぶつかると簡単に転倒してしまいます。素足だと即、血だらけです。なお、個人的には子供を乗せて猛スピードで走る母親運転の電動ママチャリ(電動アシスト自転車)や、若者がしたり顔で無免許運転するペダル付き原動機付自転車が電動キックボード以上に恐いのですが、それについてはまた日を改めて。さて今回は、NHKが先頭に立って報道している美容医療のトラブル問題について書いてみたいと思います。こちらは公益法人制度改革という規制緩和によって、少々やっかいなことになっているようです。専門の医師などによる検討会を立ち上げ、適切な美容医療のあり方や対策を協議へ5月30日朝、NHKは「美容医療でトラブル増加 厚労省 検討会立ち上げ対策など協議へ」と題するニュースを放送、「脱毛や薄毛治療など自由診療で行われる美容医療をめぐって健康被害などの相談や契約上のトラブルが増加していることを受け、厚生労働省は専門家などによる検討会を立ち上げ、対策などを協議していくことになりました」と報じました。NHKニュースによれば、「保険診療の場合は、地方厚生局や診療報酬の審査支払機関による確認が行われているが、自由診療の場合、第三者が確認する制度がない」とのことです。自由診療であり、保険財政には直接影響が及ばない美容医療は、長年厚労省が放置してきた問題でもあります。NHKの報道が事実ならば、何らかの“規制”や“ガイドライン”導入などが行われるかもしれません。近年開設の多くの美容医療のクリニックが医療法人ではなく一般社団法人実は、NHKのこの報道には前段がありました。前日、5月29日の午後7時のニュースで、「一般社団法人のクリニック 都市部で増 医師『名義貸し』証言も」のニュースを放送、それに続く「クローズアップ現代」でも「追跡“自由診療ビジネス”の闇 相次ぐ美容・健康トラブルの深層」のタイトルで、その実態を詳細に報道しました。「厚労省 検討会立ち上げ」のニュースは、そうした一連の報道の最後に発信されたスクープだったわけです。5月29日のニュースと「クローズアップ現代」を観て驚いたのは、「国民生活センターによると美容医療をめぐるトラブルの相談件数は昨年度が5,833件で、5年前のおよそ2.9倍に増加」したという実態に加え、多くの美容医療のクリニックが医療法人ではなく、一般社団法人で開設されており、理事長は医師以外であるケースが少なくない、という事実です。「クローズアップ現代」では、取材班が東京23区や大阪市内の一般社団法人のクリニックを独自に調査した結果も報道していました。それによれば、「一般社団法人が運営するクリニックは298件、ほとんどがコロナ禍前後に設立され、6割以上が美容医療を行っている」とのことでした。管理者となる医師の「名義貸し」が疑われるケースもさらに、管理者となる医師(いわゆる院長)の「名義貸し」が疑われるケースもあるとのこと。大阪市内の美容クリニックの管理医師となっていた医師の「保健所の職員が来た時に1度だけクリニックに行ったが、それ以降は1度も出勤しておらず、“名義貸し”状態だった。管理医師をやっていたときは給料をもらっていた」というショッキングなコメントを紹介していました。つまり、医師以外、異業種のオーナーが医師にお金を払って院長の名義を貸してもらい、一般社団法人で美容外科のクリニックを開設、実際の美容外科の施術は形成外科が専門でもない医師をアルバイトで雇って対応――、というのが基本的なビジネススキームのようです。院長の名義貸しは、ほかの医療機関の院長や病院の常勤医などではできないため、「医師免許がある大学院生」や「病院の研修医」などを専門業者が仲介して紹介してもらうケースが多い、とのことでした。また、「クローズアップ現代」では、実際に施術を行う医師について、飲食店オーナーが経営するクリニックの元職員の「小児科や放射線科などが専門で美容医療の経験のない30人ほどの医師がアルバイトで集められシフトを回していた。トラブルが起きた際のマニュアルなどは整備されていなかった」という証言も紹介していました。監督官庁がなく野放しの一般社団法人クリニック一般社団法人は2008年の公益法人制度改革にともなって創設された新しい法人類型です。原則、医師が理事長となる医療法人とは違い、管理者となる医師(いわゆる雇われ院長)が用意できれば誰でも経営に参入することができるほか、都道府県の認可も不要で登記のみで設立できます。診療所という業態の開設は管轄する保健所の認可が必要となりますが、保健所の管轄地域にすでに一般社団法人の診療所があれば、ほぼ認可されるようです。つまり、すでに一般社団法人の美容外科が乱立している大都市部ならば、その開設は極めて容易と言えます。医療法人であったり、保険診療を行ったりしているのであれば、そのクリニックは厚生労働省の管轄となります。しかし、一般社団法人は監督官庁がなく、事業の報告義務もありません。文字通り“野放し”なのです。自由診療で行われる“アコギな医療”に鋭いメスを問題は、美容医療だけではありません。「クローズアップ現代」では、一般社団法人の自由診療クリニックが、がん免疫療法や再生医療の世界にも積極的に進出し始めているとも報じていました。法律の力が及ばず監督外、管轄外になることについて、役所は往々にして無関心かつ放置しがちです。臨床効果が確立していないにもかかわらず、自由診療で法外な治療費をふっかけてきた一部のがん免疫療法についても、これまでとくに明確な規制を設けることはしませんでした。今回、厚労省は、美容医療について専門家などによる検討会を立ち上げ、対策などを協議する、とのことです。電動キックボードやペダル付き原動機付自転車などは、被害が交通事故という「目に見えるかたち」で現れるので対策も比較的講じやすいですが、広く自由診療で行われる“アコギな医療”の多くは、根拠となる法律や規制も曖昧なため、実際の被害がなかなか表沙汰になりません。せっかくの機会ですから、そうした“アコギな医療”にもぜひ鋭いメスを入れてほしいですし、さらに言えば、「第184回 線虫がん検査『N-NOSE』、検査精度の疑惑が再燃、日本核医学会の中にあるPET核医学分科会・PETがん検診ワーキンググループが本格調査へ」で書いたような、臨床的な評価が定まっていないにもかかわらず、一般向け検査で荒稼ぎする一部の検査法も、そろそろ“放置”するのはやめていただきたいと思います。

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高齢者診療の困ったを解決するヒントは「老年医学」にあり!【こんなときどうする?高齢者診療】第1回

今回のテーマは、「なぜ今、老年医学が必要なのか?」です。このような症例に出会ったことはありませんか?85歳女性。自宅独居。糖尿病、高血圧、冠動脈疾患の既往有。呼吸苦を主訴に救急外来を受診。肺炎と診断し入院にて抗菌薬加療。肺炎の治療は適切に行われ呼吸苦症状も改善したが、自力歩行・経口摂取が困難になり自宅への帰宅不可能に。適切な診断と治療をして疾患は治ったにもかかわらず状況が悪化してしまう-高齢者診療でよく遭遇する場面かもしれません。老年医学はこうしたジレンマに向かい合うきっかけを提供し、すべての高齢者に対してQOLの維持・向上を図ること、また同時に心や体のさまざまな症状をコントロールするために体系化された学問です。老年医学の原則とアプローチ(「型」)を実践することで、困難事例に解決の糸口をみつけることができるようになります。老年医学の原則:コモンなことはコモンに起きる-老年症候群と多疾患併存日本における平均寿命と健康寿命はいずれも延伸していますが、平均寿命と健康寿命のギャップは医療の進歩にも関わらず顕著には短縮しておらず、女性で約12年、男性で約7~8年あります。1)この期間に多くの高齢者が抱える問題が2つあります。ひとつは老年症候群。たとえば記憶力の低下や抑うつ、転倒や失禁などの認知・身体機能の低下など、高齢者にコモンに起きる症状・兆候を「老年症候群」と総称します。もうひとつは、多疾患併存(multimorbidity)です。年齢に比例して併存疾患の数が多くなり、60歳以降では約20%が3つ以上の疾患を有しているという調査があります。2)高齢者の治療やケアをする場合、老年症候群と多疾患併存があるという前提で診察やケアにあたることが大切です。老年医学の型:5つのM老年症候群があり、多疾患併存状態にある高齢者の診療は、疾患の診断-治療という線形思考で解決しないことがほとんどです。そこで、複雑な状況を俯瞰するために「5つのM」というフレームを使います。要素は、大切なこと(Matters most)、薬(Medicine)、認知機能・こころ(Mind)、身体機能(Mobility)、複雑性・落としどころ(Multi-complexity)の5つです。今回のケースを5つのMを使って考えてみましょう。ポイントはMatters mostから考え始めること。「生きがい」・「大切なこと」といったことでもよいのですが、「今、患者/家族にとって一番の困りごとは何か、肺炎を治療した先の日々の生活に期待することは何か?」を入院加療の時点で考えられると、行うべき介入がさまざまな角度から検討できるようになります。今回のケースでは、肺炎治療後に自宅に帰り、自立した生活をできる限り続けることがゴールだったと考えてみましょう。そうすると、肺炎治療に加えて1人で歩行するための筋力維持が必要だと気付くでしょう。また筋力を維持するためには栄養状態にも気を配らなければなりません。それに気付けば理学療法士や管理栄養士など、その分野の専門職に相談するという選択肢もあります。また、肺炎治療中の絶対安静や絶食は、筋力や栄養状態の維持を同時に叶えるために適切な選択だろうか?本当に必要なのだろうか?と立ち止まって考えることもできます。しかし命に係わるかもしれない肺炎の治療は優先事項のひとつですから、落としどころとして、安静期間をできる限り短くできないか検討する、あるいはリハビリテーションの開始を早める、誤嚥のリスクを見極めて経口摂取を早期から進めていく、といった選択肢が出てくるかもしれません。100%正しい選択肢はありません。ですが5つのMで全体像を俯瞰すると、目の前の患者に対して、提供できる医療やケアの条件の中で、患者のゴールに近づく落としどころや優先順位を考えることができます。高齢者にかかわるすべての医療者で情報収集し共有する今回のケースでは、例として理学療法士や管理栄養士を出しましたが、その他にもさまざまな専門職が高齢者の医療に携わっています。医師は診断・治療といった医学的介入を職業の専門性として持つ一方で、患者とコミュニケーションできる時間が少ないために十分な「患者―医師関係」が構築しにくく、患者・家族が本当に大切にしていることが届きにくい場合があります。そのため、協働できる多職種の方とともに患者の情報を得る、そして彼らの専門性を活かして介入の方法やその分量のバランスをとること、落としどころを見つけることが医師に求められるスキルのひとつです。参考1)内閣府.令和5年度版高齢社会白書(全体版).第1章第2節高齢期の暮らしの動向.2)Miguel J. Divo,et al. Eur Respir J. 2014; 44(4): 1055–1068.

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“ロコトレ”とは?(Dr.坂根のすぐ使える患者指導画集)

患者さん用画 いわみせいじCopyright© 2021 CareNet,Inc. All rights reserved.説明のポイント(医療スタッフ向け)診察室での会話患者医師患者医師患者医師患者医師患者“ロコトレ”ってどんな運動ですか?片足立ちとスクワットのことです。片足立ちはバランス能力をつける運動ですが、ポイントがあります。ちょっと立ってもらえますか? 眼を開けてしっかり立ちます。転倒しないようにテーブルに手をついておいてください。(開眼と転倒予防について説明)…こんな感じですか?画 いわみせいじそうです。次に、床につかない程度に左足を上げます。これを1分間。次に、右足を上げて1分間。これで1セットです。(片足立ちの方法について説明)結構簡単にできますね。これを1日に何回やればいいですか?慣れてきたら、1日に3セットをお願いします。毎日、続けるとバランス能力がついて転倒しにくくなることが期待できますよ。なるほど。けど、毎日は続くかなぁ…。(不安そうな声)カレンダーに〇をつけるといいですよ! 1セットしたら1つ〇とかね。なるほど。3セットできたら、三重丸の花丸にします!(うれしそうな表情)ポイント診察室で実践してもらい、自宅でも簡単にできることを説明します。カレンダーの活用など、ロコトレを毎日続けるコツも伝えましょう。Copyright© 2021 CareNet,Inc. All rights reserved.

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第212回 新規開業の落とし穴(前編) 診療所の大型化・重装備化、複数医師開業というトレンドの背後にあるもの

コロナ禍が過ぎて、各地で診療所の新規開業が活発化こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は、愛知県で一人暮らしをしている父親の様子を見に行ってきました。先月、洗濯物の取り込み中に転倒し、顔面を強打、血だらけになってしまったと電話で話していたので心配しての帰省です。久しぶりに会ってみると、「おまえ、喋り方が下手になった。聞きづらいのでもっときちんと喋れ!」と話す92歳の父親は、自分の耳のせいだとはまったく考えていないようです。顔だけではなく頭も打ったのかな、と思ったのですが、土曜昼間にテレビで放送されていた、広島・中日戦での中日ドラゴンズの戦いぶりを観て、「中田 翔はもう少し打点がほしい」、「マルティネスは時々打たれるが、防御率ゼロは大したもんだ」と意外と的確な評価をしていたので、頭はまだ大丈夫そうだ、とひと安心した次第です。さて今回は、いつもの事件や医療行政の話題から少し離れて、新規開業の最近の動きについて書いてみたいと思います。というのも、医療業界で働く知人から「コロナ禍が過ぎて、各地で新規の開業が活発化しているようだ」と聞いたからです。実際、コロナ禍が過ぎて、新規開業は再び増え始めているようです。各地で活発化している病院の再編統合や、医師の働き方改革を背景に、病院での実際の働き方にやたら制約ができて、“バイト”も気軽にできなくなっていることも、勤務医生活に見切りを付けるきっかけになっているのかもしれません。2022年医療施設調査では、無床診療所は1,101施設増最近の大まかな開業動向は、厚生労働省が発表している「令和4(2022)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況」1)で確認できます。それによれば、2022年10月1日現在の一般診療所は10万5,182施設。うち無床診療所は 9万9,224 施設(一般診療所総数の94.3%)で、前年に比べて 1,101 施設増加しました。一方、有床診療所は5,958 施設(同5.7%)で、前年に比べ211 施設減少しました。この無床診療所1,101増という数字は、廃止・休止を差し引いた純増数です。同調査によれば新規開設は7,803施設でした。コロナ禍もあって前年2021年の9,503、2020年の8,250に比べると少ないですが、それでも年間8,000近い診療所の新規開業があり、その数は廃止・休止を上回っているのです。開業当初からMRIなど高額な医療機器を導入するところもこうした新規開業、最近の一つの傾向として言われているのは、「診療所の大型化・重装備化」、「複数医師による開業」です。以上の2点を背景に「開業費の増大」も指摘されています。昨年末、ある開業コンサルタントの話を聞く機会があったのですが、たとえば整形外科診療所では、開業当初からMRIなど高額な医療機器を導入するところが少なくないそうです。複数医師による開業は在宅専門診療所によくみられる傾向ですが、在宅医療ではない診療分野でも、最初から複数医師の共同開業や複数医師による診療体制を整えるところが増えているようです。国のかかりつけ医の議論の中で、かかりつけ医の体制は単独で構築するだけではなく、複数で一人の患者をフォローしていく体制も今後は望ましいと言及されたことも影響しているのかもしれません。一方、開業費は増大の一途です。大型化・重装備化で必然的に必要資金が増えることに加え、建築資材の高騰や、都市部での不動産マーケットの好況を背景に賃料が値上がりしていることなどもその要因です。戸建て開業では億単位の資金が必要になるケースは少なくないですし、大都市のテナント開業でも、そこそこの医療機器を揃えれば、億に近い資金が必要になってきます。そうした多額の開業資金を金融機関から借り入れる場合、相応の返済期間が必要になってきます。50代、60代になってからの新規開業は厳しく、勢い30代、40代という比較的若年での開業が増えていくことになります。開業の成否は二の次に、大規模・重装備、複数医師開業を提案するコンサルタントもただ、これから開業を考える医師が注意しなければならないのは、こうしたトレンドは、先程も書いたように金融機関や開業コンサルタント側の事情も多分に関係している、という点です。とくに地方では、企業や事業者数そのものが限られており、有望かつ融資金額が大きい案件はそんなにありません。というわけで、地方銀行や信用金庫にとって病院や診療所などの医療機関は願ってもない上顧客ということになります。融資金額を最大限に増やしたい金融機関や、コンサルタント料に加え診療所の管理業務を受託したい、関連企業で門前薬局を経営したい、と考える開業コンサルタントの中には、開業の成否は二の次に、大規模・重装備の診療所で、複数医師による病院並みの外来運営を企画・提案するところもあると聞きます。「医療機関が潰れたら、金融機関側も困るのでは?」と思う方もいるかもしれませんが、債務を負うのは医師です。仮に経営が破綻し診療所を畳むことになったとしても、金融機関側は「僻地の診療所などで10年も働いてもらえば億のお金でも返済してもらえる」と考えます。さらに、複数医師開業で債務者が複数いれば、返済期間も短くなります。そういった意味でも金融機関にとって医師は願ってもない上顧客なのです。最初、患者として勤務医に近づく開業コンサルタントもそうした状況下、開業志望の医師の相談や悩みに親身になって対応してくれる金融機関やコンサルタントがいる一方で、医師を単なる“カモ”としか見ない悪いやつもいます。結果、経営に疎い医師が騙される、という事態も発生します。「第176回 虫垂がんを宣告されたある医師の決断(後編) 田舎の親の病医院を継ぎたくない勤務医にも参考になる『中小病院が生き残るための20箇条』」で紹介した『続“虎”の病院経営日記 コバンザメ医療経営を超えて』(東謙二著、日経メディカル開発)の中には典型的なエピソードが紹介されています。同書の「中小病院が生き残るための20箇条」の章の20箇条目、「医師は世間知らず、開業で騙されないために」の項では、「熊本界隈でも新規開業したばかりの診療所の閉院が増えている」として、40代の公的病院勤務医の開業失敗話が紹介されています。最初、患者として勤務医が働く病院の外来にやってきた男が、親密になると「開業コンサルタントである」と打ち明けます。その後、地方銀行員と組んで言葉巧みかつ強引に勤務医を新規開業に導いていく展開は、モダンホラーさながらです。コンサルタントの“悪魔の囁き”、「先生なら開業すれば患者さんがたくさん集まるでしょうね」この本には、「先生なら開業すれば患者さんがたくさん集まるでしょうね」、「開業資金のことなら心配要りません」、「開業までのことはすべてお任せください」といったコンサルタントの“悪魔の囁き”の例もいくつか紹介されています。この勤務医は結局、「開業後、自腹を切りながら経営を続けたものの、結局は多額の借金を背負い閉院した」とのことです。なお、東氏は「医師をはじめ、医療従事者はほとんどが『性善説』の中で仕事をしているが、世の中には『性悪説』を基本に対処していかないとすぐに騙されてしまう世界もあるのである」と書くとともに、「だから開業するな、と言っているわけではない。自分の所有する土地があり、運転資金も十分にあるならば多くのリスクは回避できる。しかし、土地から購入して、全てが一から開業となれば、自分はかなりギャンブル性の高い勝負に出るのだと理解してほしい。もちろん全ての業者が悪徳ではないし、親身になってくれる経営コンサルタント会社や銀行もあるだろう」と結んでいます。収益が出ないと不正請求すれすれの無理な診療に手を染めるところも少し話が脱線してしまいました。診療所の大型化・重装備化、複数医師開業の話に戻りましょう。大型化・重装備化は開業費がかかり、複数医師開業は医師の人件費が倍になります。収入は増えますが、支出も当然増えます。患者数をこなしてもこなしても収益がなかなか出ないとなると、不正請求すれすれの無理な診療に手を染めるところも出てきます。私が昨年秋にかかった都内の整形外科はまさにそんな診療所でした(この項続く)。参考1)令和4(2022)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況/厚生労働省

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職場巡視のコツ:オフィス編【実践!産業医のしごと】

産業医として働き始めると、職場巡視の役割に戸惑うことがあるかもしれません。職場巡視とは、産業医が事業場を見回り、業務内容や作業環境が労働者に有害な影響を与える恐れがないかを確認することです。労働安全衛生規則では、産業医は月に1回、職場巡視を実施することが義務とされています。私自身も、最初は医師がオフィスを巡回する意義に疑問を持ち、その役割に違和感を覚えていました。しかし、今ではこの活動は産業医の職務の“核”となる、重要な業務の1つだと認識しています。本稿では、オフィス環境における職場巡視の要点を解説します。職場巡視は産業医にとっても意義深い職場巡視は法令により定められた産業医の職務です。適切な職場巡視は、見過ごされがちなリスクを発見し改善することで、職場の生産性向上と従業員の満足度向上に寄与します。一方で、職場を直接観察することは、産業医自身にとっても非常に有意義な経験です。嘱託産業医として、健康管理室での月1回の面談だけで、従業員の働く環境や職務内容を十分に把握することは困難です。職場巡視で従業員の表情や働く環境を目の当たりにすることで職場に関する理解を深め、貴重な情報を得ることができます。また、休職者対応をしているタイミングであれば、職場復帰後の環境をよりリアルに想像でき、精緻な就業判断を下すことができます。職場巡視ではテーマを決める職場巡視は、「テーマ」を設定して行うことをお勧めします。確認すべきことは多く、全項目を毎回チェックすることは非現実的であり、巡視の質を低下させる原因にもなります。「オフィスレイアウトの変更」「直近で発生した労働災害」など、特定のトピックに焦点を当てることで、漫然としがちなオフィスの職場巡視を、目的意識を持って行えるようになります。そうした大きなトピックがないときでも、「避難経路」「転倒防止対策」「腰痛対策」など、都度テーマを決めておくことで職場巡視の焦点が定まります。オフィスの職場巡視で確認すべきポイントオフィスの職場巡視で確認すべきポイントは、大きく分けて「作業環境」と「災害(安全)対策」です。具体的なチェック項目を以下に記載します。画像を拡大する職場巡視結果の指摘の方法にもポイントがある職場巡視の結果を指摘する際にもポイントがあります。たとえば、「たこ足配線が危ない」と伝えるだけでは、何がどう危ないのか、どう改善すればよいのかまでは伝わりません。「1つのコンセントの差込口の消費電力は1,500ワットまでです。それ以上になると火災の危険が高まります。たこ足配線を解消して1,500ワット以下にしてください」と伝えれば、指摘を受けた側も理解しやすいでしょう。リスクと望ましい状態を、具体的に示すようにしましょう。さらに、改善策については、産業医よりも現場に知恵があるため、現場も巻き込んで検討するようにしましょう。産業医はしばしば理想的な提案をしがちですが、ここでは実現可能な対策を提案することが重要です。改善後は安全衛生委員会や職場巡視で結果を確認し、必要に応じて再提言を行います。オンライン職場巡視は認められていない現在、オンラインでの職場巡視は認められていません。私自身の実感でも、オンラインでは職場の雰囲気や従業員の様子を観察し、その空気を感じ取ることは難しいと思います。職場巡視は五感をフルに活用して行うべき活動であり、実際に職場に足を運び、衛生管理者や職場関係者とコミュニケーションを取ることで、見落とされがちな問題を発見しやすくなります。産業医は「職場に足を運ぶ姿勢」を大切にしましょう。職場巡視は、産業医にとって職場の安全と健康を守るうえで不可欠な活動であり、産業医自身にとっても有意義な情報を得られる機会です。この役割を積極的に果たすことを通じて、職場改善におけるリーダーシップを発揮し、従業員がより健康で安全な環境で働けるよう貢献しましょう。

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身体診察【とことん極める!腎盂腎炎】第2回

CVA叩打痛って役に立ちますか?Teaching point(1)CVA叩打痛があっても腎盂腎炎と決めつけない(2)CVA叩打痛がなくても腎盂腎炎を除外しない(3)他の所見や情報を合わせて総合的に判断する1.腎盂腎炎と身体診察腎盂腎炎の身体診察といえば肋骨脊柱角叩打法(costovertebral angel tenderness:CVA tenderness)が浮かぶ方も多いのではないだろうか。発熱、膿尿にCVA叩打痛があれば腎盂腎炎と診断したくなるが、CVA叩打痛は腎臓の周りの臓器にも振動が伝わり、肝胆道や脊椎の痛みを誘発することがあるため、肝胆道系感染症や化膿性脊椎炎を腎盂腎炎だと間違えてしまう場合がある。身体所見やその他の所見と組み合わせて総合的に判断する必要がある。2.CVA叩打痛と腎双手診CVA叩打痛は腎盂腎炎を示唆する身体所見として広く知られている。図1のように、胸椎と第12肋骨で作られる角に手を置き、上から拳で叩打し、左右差や痛みの誘発があるかどうかを観察する。なお腎臓は左の方がやや頭側に位置しているため、肋骨脊柱角の上部・下部とずらして叩打痛の確認をする。もし左右差や痛みがあれば腎盂腎炎を示唆する所見となるが、第1回で紹介したとおり、所見がないからといって腎盂腎炎を否定することはできず、ほかの所見と合わせて診断を考える必要がある。画像を拡大するその他の身体診察として腎双手診がある。腎臓のある側腹部を両手で挟み込み、痛みを生じるかどうかを確かめる診察であり尿管結石でも陽性となり得るが、腎盂腎炎においてCVA叩打痛陰性であっても腎双手診は陽性となる症例も散見される。CVA叩打痛は脊椎の痛みを反映している場合もある一方で腎双手診(図2)は大腸の病変を触れている可能性もある。CVA叩打痛が圧迫骨折などの脊椎の痛みを誘発していないか確かめるために、棘突起を押して圧痛を生じないか確かめることが有用である。棘突起を押して圧痛を生じるようであれば、椎体の病変の可能性が高くなる。画像を拡大するこのように、腎臓の位置は肉眼では把握しづらく、痛みを生じているのが腎臓なのか、その周囲の臓器なのかわかりにくい。裏技のような方法になるが、エコーで腎臓を描出しながらプローブで圧痛が生じるか確認する、いわばsonographic Murphy’s signの腎臓バージョンもある1)。3.自身が体験した非典型的なプレゼンテーション最後に自身が体験した非典型なプレゼンテーションを述べる。糖尿病の既往がある90歳の女性で、転倒後の腰痛で体動困難となり救急搬送された。身体診察・画像検査からは腰椎の圧迫骨折が疑われ、鎮痛目的に総合診療科に入院となった。その夜に39℃台の発熱を生じfever work upを行ったところ、右の双手診で側腹部に圧痛があり、尿検査では細菌尿・膿尿を認めた。圧迫骨折後の尿路感染症として治療を開始し、後日、尿培養と血液培養より感受性の一致したEscherichia coliが検出された。本人によく話を聞くと、転倒した日は朝から調子が悪く、来院前に悪寒戦慄も生じていたとのことだった。ERでは腰痛の診察で脊椎叩打痛があることを確認していたが、その後脊椎を一つひとつ押しても圧痛は誘発されず、腎双手診のみ再現性があった。腰椎圧迫骨折は陳旧性の物であり、急性単純性腎盂腎炎後の転倒挫傷だったのである。転倒後という病歴にとらわれ筋骨格系の疾患とアンカリングしていたが、そもそも転倒したのが体調不良であったから、という病歴を聞き取れれば初診時に尿路感染症を疑えていたかもしれない。この症例から高齢者の腎盂腎炎は転倒など一見関係なさそうな主訴の裏に隠れていること、腰痛の診察の際に腎双手診は脊椎の痛みと区別する際に有用であることを学んだ。4.腎盂腎炎診断の難しさ腎盂腎炎の診断は難しい。それは、腎盂腎炎の診断が非典型的な症状、細菌尿・膿尿の解釈、側腹部痛の身体所見、他疾患の除外など、さまざまな情報を統合して総合的に判断しなければならないからである。正しい診断にこだわることはもちろん重要だが、腎盂腎炎がさまざまな症状を呈し、また、どの身体所見も腎盂腎炎を確定診断・除外できないことを念頭に置き、柔軟に対応することが必要なのではないだろうか。たとえ典型的な症状や所見が揃っていなくても、できる限り他疾患の可能性について考慮したうえで、患者の余力も検討し腎盂腎炎として抗菌薬を開始することが筆者はリーズナブルであると考える。重要なことは治療を始めた後も、経過を観察し、合わない点があれば再度、腎盂腎炎の正当性について吟味することである。多種多様な鑑別疾患と総合的な判断が求められる腎盂腎炎は臨床医の能力が試される疾患である。1)Faust JS, Tsung JW. Crit Ultrasound J. 2017;9:1.

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降圧薬を開始・追加した高齢者は〇〇に注意?

 高齢者は転倒リスクの1つである起立性低血圧が生じやすい。そこで、米国・Rutgers UniversityのChintan V. Dave氏らの研究チームは、降圧薬が高齢者の骨折リスクへ及ぼす影響を検討した。その結果、降圧薬の開始・追加は骨折や転倒、失神のリスクを上昇させた。本研究結果は、JAMA Internal Medicine誌オンライン版2024年4月22日号で報告された。 研究チームは、2006~19年に長期介護施設へ入所した米国の退役軍人2万9,648人を対象に、target trial emulationの手法を用いた後ろ向きコホート研究を実施した。50個以上の共変量について1:4の割合で傾向スコアマッチングを行い、降圧薬の開始・追加後30日以内の骨折の発生リスクを評価した。認知症の有無、収縮期血圧(140mmHg以上/未満)、拡張期血圧(80mmHg以上/未満)、降圧薬の使用歴、年齢(80歳以上/未満)別のサブグループ解析も実施した。さらに、入院または救急受診を要する重度の転倒、失神のリスクも評価した。なお、降圧薬の開始・追加は、過去4週間以内に降圧薬を使用していない患者の降圧薬の使用、または過去4週間に使用している降圧薬とは別のクラスの降圧薬の追加と定義した。 主な結果は以下のとおり。・100人年当たりの30日以内の骨折の発生率は、対照群が2.2であったのに対し、降圧薬開始・追加群は5.4であり、有意に骨折リスクが高かった(ハザード比[HR]:2.42、95%信頼区間[CI]:1.43~4.08)。・降圧薬開始・追加群は、対照群と比較して入院または救急受診を要する重度の転倒(HR:1.80、95%CI:1.53~2.13)、失神(同:1.69、1.30~2.19)のリスクが高かった。・サブグループ解析の結果、認知症あり、収縮期血圧140mmHg以上、拡張期血圧80mmHg以上、過去4週間以内の降圧薬の使用歴なしの集団において、降圧薬開始・追加による骨折リスクの数値的な上昇がみられた。一方、年齢による差はみられなかった。サブグループ別の対照群に対するHRおよび95%CIは以下のとおり。 -認知症あり:3.28、1.76~6.10 -認知症なし:1.61、0.63~4.11 -収縮期血圧140mmHg以上:3.12、1.71~5.69 -収縮期血圧140mmHg未満:1.89、1.01~3.53 -拡張期血圧80mmHg以上:4.41、1.67~11.68 -拡張期血圧80mmHg未満:1.89、1.01~3.53 -過去4週間以内の降圧薬の使用歴なし:4.77、1.49~15.32 -過去4週間以内の降圧薬の使用歴あり:1.27、0.76~2.12 -80歳以上:2.07、1.08~3.95 -80歳未満:2.29、1.10~4.79 本研究結果について、著者らは「降圧薬の開始・追加は、とくに介護施設に入所する高齢者において、骨折リスクを増加させる可能性がある。このことから、降圧薬開始後という骨折リスクの高い期間は、注意深く観察することが勧められる」とまとめた。

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自分でトイレに行きたい【非専門医のための緩和ケアTips】第75回

第75回 自分でトイレに行きたい緩和ケアの仕事を始めた当初、患者にとって排泄の問題はこんなにも大切なのか! とびっくりする経験がいくつかありました。とくにADLが低下し、身の回りのことができなくなってくると、こうした問題はより頻繁に発生します。今回の質問訪問診療で担当している、がん終末期の患者さんの悩みです。自力でトイレに行きたがるのですが、呼吸困難が強く、自力歩行は危険と判断してオムツでの排泄をお願いしています。そのように何度も説明しているのですが、「トイレに行く」と聞いてもらえません。こうした場合、どう対応すればよいでしょうか?これは非常によくある、悩ましい状況ですね。客観的には自立して排泄することは難しいけれど、患者さんが自分で行きたがる…。緩和ケアをやっていると関係者で必ず話題になるトピックです。医師はもちろん、看護師や介護士はさらに頻繁に遭遇しているでしょう。呼吸困難低減を優先するならば、オムツや尿道カテーテル留置がシンプルな対応法でしょうが、医療者としてもなかなか割り切れない部分があります。そもそも、なぜ患者さんは自身でトイレに行きたいのでしょうか? 「自立したい」という気持ちは誰にとっても大切です。また、「迷惑を掛けたくない」という気持ちが強い方も多くいます。私はご本人がお話しできるコンディションであれば、率直にお尋ねします。「症状を考えると少し負担が大きいのではと心配しています。『トイレは自分で…』というのは、どういうお気持ちからですか?」といった感じです。もう一方の論点として、なぜ私たち医療者は、患者さんが自力でトイレに行くことを心配するのでしょうか? 「何よりも患者の希望を優先する」のであれば、そんなに悩まずに従っておけばよい、という考え方もあるはずです。この点についてもいろいろ議論はあるでしょうが、私自身の「ちゅうちょする理由」を挙げれば、「患者さんの呼吸困難を最小限にしたい」「転倒して、さらにQOLが下がることを避けたい」といったあたりが大きいと思います。このテーマは、患者さんの意向の深掘りや医学的状況の検討、関係者の思いなどの擦り合わせが必要となり、臨床倫理的な観点も重要です。「患者の希望通りにしておけばいい。転倒しても仕方がない!」というのはちょっと極端ですし、「転倒したら医療側の責任なので、絶対にオムツにしてください!」というのもケアの質に疑問を感じます。こうした生活に近い問題は、ケースごとに、対話を基盤としながらその場その場で最適な落とし所を考える必要があります。まずは「自分で排泄したい」「他者に迷惑を掛けたくない」といった多くの人が大切にしていることを前提として理解し、一緒に最適解を考えていく態度が大切です。結果として、医療者目線では心配であっても、「自力でトイレに行くのを見守る」といった対応もありえるでしょう。個別性を尊重したケアは大変さもありますが、緩和ケアのやりがいにもつながる部分です。皆さんはどのように考えますか?今回のTips今回のTips「自力でトイレに」…。患者が大切する価値観を理解し、関係者と一緒にベストなケアを考えよう。

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きちんと診察したのに、後日見逃しを疑われてしまった【もったいない患者対応】第5回

きちんと診察したのに、後日見逃しを疑われてしまった登場人物<今回の症例>20代男性自転車で走行中に自己転倒両下肢に複数の擦過傷、右膝に3cm程度の裂創あり、来院<負傷したときの状況を聞き出します>どんなふうに転びましたか?前を走っていた車が急に曲がったので慌ててブレーキをかけたんですが、その拍子に転んで溝にはまってしまって…。そんなにスピードは出ていなかったので大したことはないと思います。そうでしたか。右膝の怪我は縫わないといけませんが、それ以外の傷は、洗って軟膏を塗るだけで大丈夫そうですよ。膝だけですか、よかったです。(全身を診察しながら)他に痛いところはありませんか?ありません。大丈夫です。~3日後~昨日出張中にどうしても右手が痛くなって近くのクリニックに行ったら、骨折していました。先生、見逃したんですか?全身診察してくれましたよね?骨折ですか!?いや、痛いところはないとおっしゃっていたので…。ちゃんと診てくださいよ。クリニックの先生にも「なんで最初に診た先生がこの骨折を処置していないんだ」って言われましたよ!【POINT】唐廻先生は、外傷患者に対してきちんと全身診察をして「他に痛いところはないか」と聞いていました。「大したことはない」「他に痛いところはない」と言われ、唐廻先生も半ば油断していたようです。ところが、別の病院で骨折を指摘され、患者さんから不信感を抱かれてしまいました。初診時の対応のどこに問題があったのでしょうか?とっさの事故では、正確な情報が得づらい外傷患者に対する問診では受傷機転の確認が最も大切です。しかし、交通外傷などはとくにそうですが、患者さん本人の受傷時の記憶があいまいなことはよくあります。頭部打撲による逆行性健忘がありうる、という意味ではありません。単に“とっさのことで、どんな姿勢で転んだか、どこを打撲したか、が自分でもよくわからない”という意味です。つまり、患者さんの受傷機転に関する報告からは得られない情報があるかもしれない、ということに注意が必要なのです。本人から受傷したとの訴えがなかった部位に、後から外傷が判明することもあります。初診時に全身を診察し、こうした隠れた外傷を見抜くことができればベストですが、本人の訴えがまったくなく、かつ体表面に所見が乏しいときはそう簡単ではありません。後から悪化するケースがあることを伝えようそこで、患者さんには「突然のことで、どこを怪我したか自分でもわからないのが普通です。後から思いもよらぬ場所が痛くなってくるかもしれません。そのときは再度受診してください」と、あらかじめきちんと伝えておくことが肝要です。場合によっては「最初はなんともなかったのに、翌日になって腕が痛くなって検査したら骨折が見つかったケースもありますからね」と、具体例を提示してみるのもいいでしょう。こうした説明があるだけで、後から検査をして別の外傷が見つかっても「初診医が見逃した」と考える可能性は低くなります。重度の外傷が潜んでいることも外傷診療では“distracting pain”という概念があります。直訳すると“気をそらすような痛み”です。痛みの大きな部位に気を取られ、痛みは軽いものの、本来は治療を優先すべき重度の外傷を見逃してしまうことを意味します。今回のケースとは少し異なりますが、患者さんの痛みの訴えだけに頼りすぎると重要な情報を見逃す危険性があるため、注意が必要です。これでワンランクアップ!どんなふうに転びましたか?前を走っていた車が急に曲がったので慌ててブレーキをかけたんですが、その拍子に転んで溝にはまってしまって…。そんなにスピードは出ていなかったので大したことはないと思います。そうでしたか。でも、突然のことでどこをどんなふうに怪我したか、ご自身でもあまりよくわからないですよね。後から思いもよらぬ場所が痛くなってくるかもしれません※1ので、そのときは再度受診してくださいね。場合によっては、数日後に初めて骨折がわかる、なんてこともあるんです※2。※1:今後起こり得る可能性を伝える。※2:具体例をあげると、より理解してもらいやすい。そういうこともあるんですね。いまのところ大丈夫そうですが、気をつけておきます。

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医師の働き方改革に必須なのは財源の確保、米国の医療保険制度から考える(3)――人員確保には、人気の科に偏らないマッチングの仕組みも必要【臨床留学通信 from NY】第59回

第59回:医師の働き方改革に必須なのは財源の確保、米国の医療保険制度から考える(3)前々回、前回に引き続き、医師の働き方改革と財源確保について、米国の医療保険制度から考える第3回です。医師の働き方改革は重要です。長過ぎる労働時間は、現在の若手の負担になっているのは事実です。昔はそうだった、という時代ではありません。しかしながら結局は財源が変わらず、患者さんに対する診察時間などが変わらなければ、解決しようがなく名ばかりと言えるでしょう。当直があたかも働いていないかのように虚偽の申告をせざるを得ないという、本末転倒になりかねません。米国では保険制度側がカルテをチェックする財源に関しては、以前に比べて高齢者が増え、若手が減っている高齢化社会のため、高齢者の負担を変えるのはやむを得ないでしょう。また、前回述べたように、安定している患者さんの不必要な診察を減らすべきです。場合によっては、国民皆保険であるため国側がカルテを閲覧できるようにしてもいいのではないでしょうか。米国では、保険会社(政府の公的保険も含む)がカルテを照会してクレームを入れることもよくあるので、それを参考にしてもよいでしょう。また、日本の高額療養費の負担保証ですが、緊急疾患であり、救命に直結するものであればすべてカバーするのがいいと思います。しかしながら、ここでは個々に対しては言及しづらいのですが、高額な医療で緊急ではないものに関しては、やはり公的保険にある程度制限を設け、すべて高額医療費としてカバーするのではなく米国のようなプライベート保険がもっと普及してもいいかもしれません。公的保険のみでカバーするのは限界です。財源をしっかり確保し、とくに緊急疾患に対する医療費を上げて、そこに人的資源が割けるようにすべきです。財源確保は人員確保につながる私が循環器内科だからというわけではないのですが、緊急疾患、夜間が多い科の成り手を確保することは、国として命題です。病院で働く時間が長過ぎて、バイトもできず、給料は減るだけでは、成り手も減る一方です。やはり、ある程度同じ病院の中でも働く時間や夜間などの緊急が多い人にはより給料を多く払う仕組みや、オンコールも医師を縛り付けているので、相応の対価も必要です。最終的には病院の集約化も必須となってくるかと思いますが、そこは簡単ではないでしょう。名ばかりの専門医制度ではなく、米国のように、人気の科では専門医資格がないと仕事ができないようにし、かつその科への受け入れ人数を制限し、医療が各地域に分配されるようにしないと、医師数が多くてもうまく回りません。米国では、日本のように研修一般をマッチングにするのではなく、専門的な内科や外科レジデント、循環器フェロー、心臓外科フェローになれる人数が決まっていて、かつ病院当たりのフェローの数などに制限を設けて、マッチングの仕組みで採用しています。それらを経ないと専門医を取得できず、基本的に専門医資格がないとその科で働けません。米国で人気の形成外科、皮膚科、眼科、整形外科は、稼ぎも良いのですが、競争が激しくUSMLEの点数も高得点が求められます。より良い大学を卒業する必要があり、全員が全員希望の専門医にはなれません。働き方改革は、単に時間を制限するだけではなく、財源の確保、人員の再分配が必要だと思います。

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現場の断捨離、始めませんか?~働き方改革に先行した日本医科大学の実例

医師の働き方改革がついに始まった。それでも、今もなお議論が絶えないのが、診療行為以外にあたる“研究や自己研鑽時間”の捉え方である。厚生労働省が2024年1月15日に『医師等の宿日直許可基準及び医師の研鑽に係る労働時間に関する考え方についての運用に当たっての留意事項について』を発出したものの、これまで根付いてきた労働環境に対するパラダイムシフトは、そう簡単なものではないはずだ。今回、臨床研究法や大規模臨床試験のDx化などに力を入れている松山 琴音氏(日本医科大学医療管理学 特任教授/学校法人日本医科大学研究統括センター副センター長)に治験効率化の視点から医師の働き方改革のヒントになるポイントを聞いた。土日対応の治験、働き方にメス小児への新型コロナワクチン普及が遅れている日本の状況を危惧し、今後の再流行に備えるべく、小児のワクチン接種の有効性・安全性の証明や国産ワクチン開発の進展に尽力する―。その活動を担う一人である松山 琴音氏は日本医科大学とその付属病院をはじめとするさまざまな臨床研究の基盤整備やDx化に力を注ぐ。その松山氏が所属する日本医科大学は、新型コロナワクチンの大規模接種会場運営の応需や、小児5,000例を対象とした『新型コロナワクチン(国産不活化)とインフルエンザワクチンの同時接種に関する大規模臨床試験』(現在、募集中)を行うなどしている1)。しかし、こういった取り組みは土日の業務対応が必須であり、治験においても治験の責任は大学病院の医師らが担う必要があるため、時間外労働は当たり前となる。「この治験では、パンデミック下に構築された大規模職域接種の仕組みを再利用し、医師、看護師や担当のスタッフは正当な対価の支払いを受けられるようにした」と話した。一方、病院経営には当然ながら収益が求められるが、それには医療者という人材がなくてはならない。「治療を担う医師の確保もさることながら、入院患者の受け入れ人数は看護師の人員配置基準によって決定付けられる。コンプライアンスの達成のみならず病床数確保のための人員確保が病院としての課題」と述べ、コロナパンデミックの発生によって医療者の“働き型”に少しずつ変化が見られたことを契機に、臨床研究の視点から同氏らは医師の働き方の課題解決に乗り出した。治験開始までを効率化させ、医療者の満足度up臨床試験や治験業務にはさまざまな医療者が関わり、当たり前のように時間外勤務も発生する。なかでも治験業務の大半を病院職員の1人である治験コーディネーター(CRC:Clinical Research Coordinator)が担うわけだが、CRCの時間内業務が達成されれば、医師を含むそのほかの職員の業務も効率化を図ることができるため、まずこの目標達成に向け、日本医科大学は治験運用ルールを設定し長時間労働是正のための断捨離を決行した。「一般的な治験業務で最も問題なのは、プロセスばかりが冗長で人材を掛け過ぎていること。無駄な対人業務を断捨離すれば、国内治験のスピードが加速しジャパンバッシングが起こらなくなる」と松山氏は国内の治験の在り方を指摘した。その課題解決策として、同氏はビッグデータの利活用のために、『SmarTrial』(Activade株式会社)と共同開発した費用算定機能を導入したことを明かした。「治験に登録可能な症例データはレセプトデータ、いわゆるビッグデータを活用することでフィージビリティ調査への対応をいち早く完了させ、治験責任医師や院内チームとともに早期からリクルートプランの作成やグローバル標準であるベンチマークコスト導入に向けた対応ができる」。また、治験の症例管理が可能である『SmarTrial』を導入したことで、「自施設では治験者ごとのToDo管理と試験全体のToDo管理を臨床開発モニター(CRA:Clinical Research Associate)と参加施設間で共有・完了確認できるシステムを導入し、費用算定機能と連結させた。治験の進捗状況が一覧化され、請求情報が紐付けられれば、CRA・CRC・医療者、そして医事課のスタッフの知っておくべき情報が統合され、登録症例ごとに治験のどの段階まで進んでいるのかが見えるようになった」と話した。さらにその結果として、「CRCの業務時間が週あたり1時間半も削減できた」というから驚きだ。「このシステムを利用することで候補被験者を事前に共有し、治験の状況の予測を立てられたり患者のvisit予定が把握できたりするため、医師のワークロード軽減にも貢献できた」と述べ、来るべき分散化臨床試験(DCT:Decentralized Clinical Trial)やサイトレス試験を見据えてDx化してきたことが、働き方改革に通じる取り組みであったことを説明した。画像を拡大する業務効率のポイント「丸抱えしない」「業務を見える化」また、“時間内”に業務を収めるポイントとして、「1人で業務を丸抱えしない」「業務プロセスを見える化」することだと述べ、リクルートマネージャーの設置、トヨタのかんばん方式にならった各治験の進捗管理を“見える化”のためのダッシュボードの導入が課題解決に繋がったことを説明した。リクルートマネージャーの設置画像を拡大する治験業務の場合、外部モニターからの進捗状況などの問い合わせや院内調整に多くの時間を割かれ、サテライト医療機関から紹介された患者が治験による受診をすると、窓口がはっきりせずに院内をたらい回しにされるリスクもある。リクルートマネージャーという外部対応に特化、患者の治験同意などを介在する人材を配置したことで、CRCは治験の質向上に向けたquality managerという新たな役割を果たし、ほかの院内スタッフの労力を軽減させることに繋がった。ダッシュボードの活用画像を拡大する治験の複雑さが招く業務過多を見える化画像を拡大する直接的な治験状況の確認、やるべきこと・問題点を早期に可視化、ワークロードを可視化するために、1)IRB・必須文書の電子化、2)Delegation listや教育研修記録の作成、3)フェアバリュー方式への対応、4)契約書における手順書の標準化、5)想定される症例数の調査、6)混み具合や収支に関する情報を収集・見える化した。このような取り組みのために、幾度となく病院経営層との対話を繰り返し、実行に至るまでに数年を要したそうだが、その苦労の甲斐もあり、今では某グローバル企業の治験において、日本医科大学系列全体での症例登録数は世界2位を誇るまでに至っている。同氏らは将来展望として、「病院ごとの仕組みのバラつきを統一し、情報を集約するための管理機能を研究統括センターに組み入れた。この取り組みを日本医科大学のある種のブランディングと捉え、“治験ブランディングチーム”と称して活動していく」と話した。また、「治験施設に足を運ばなくてもリジットなコミュニケーションを円滑に実行していくためにはこのようなリモート環境の整備が重要で、VRの利活用を検証するための実証実験や治験に対する社会の理解を進めるための患者市民参画に向けた活動も始めている」と、コロナ禍で定着し始めたリモート環境の更なる可能性を引き出すために奮闘している。働き方改革の“一歩先行く”国内のドラッグラグ・ロス問題が喫緊の課題となる日本。働き方改革が臨床研究の足かせになり研究を担う人材の確保に苦戦しては本末転倒である。今を生きる、そして次世代のための医療基盤として臨床研究の根を絶やさぬためも、リモート環境整備の加速化の波に乗り、医療全体の質の向上を目指す松山氏らによる取り組みが、患者、臨床研究を担う医師・医療者や製薬企業、ひいては日本国の未来を照らす手立てになるのではないだろうか。(取材・文:ケアネット 土井 舞子)参考1)日本医科大学治験サイト日本医科大学 研究統括センター厚生労働省:「医師の働き方改革」.jp講師紹介

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活性型ビタミンD3がサルコペニアを予防/産業医大

 前糖尿病と糖尿病はサルコペニアの独立した危険因子であることが報告されている1)。今回、前糖尿病患者への活性型ビタミンD3投与がサルコペニアを予防するかどうか調べた結果、筋力を増加させることでサルコペニアの発症を抑制し、転倒のリスクを低減させる可能性があることが、産業医科大学病院の河原 哲也氏らによって明らかにされた。Lancet Healthy Longevity誌オンライン版2024年2月29日号掲載の報告。 これまでの観察研究では、血清25-ヒドロキシビタミンD値とサルコペニア発症率との間に逆相関があることが報告されている2)。しかし、ビタミンDによる治療がサルコペニアを予防するかどうかは不明である。そこで研究グループは、活性型ビタミンD3製剤エルデカルシトールによる治療が前糖尿病患者のサルコペニアの発症を抑制するかどうかを評価するため、「Diabetes Prevention with active Vitamin D study(DPVD試験)※」の付随研究を実施した。※DPVD試験:前糖尿病の成人における2型糖尿病の1次予防として、活性型ビタミンD治療の効果を調査した多施設共同ランダム化二重盲検プラセボ対照試験。国内32施設で実施された。 対象は、耐糖能異常(75g経口ブドウ糖負荷試験で空腹時血糖値<126mg/dLおよび負荷後2時間値140~199mg/dL、かつHbA1c<6.5%)を有し、サルコペニアではない30歳以上の男女1,094例であった。エルデカルシトール(0.75μgを1日1回経口投与)群またはプラセボ群に1対1の割合に無作為に割り付けられた。 主要評価項目は、ITT集団における3年間のサルコペニア発症率で、その定義は握力が弱い(男性28kg未満、女性18kg未満)、骨格筋指数が低い(生体電気インピーダンス分析で男性7.0kg/m2未満、女性5.7kg/m2未満)こととした。副次評価項目は、3年間の転倒の発生率、握力と体組成の変化であった。 主な結果は以下のとおり。・解析にはエルデカルシトール群548例、プラセボ群546例が組み込まれた。平均年齢60.8歳、女性44.2%、平均BMI値24.5、2型糖尿病の家族歴があったのは59.5%であった。・約3年間の追跡期間中にサルコペニアを発症したのは、エルデカルシトール群4.6%、プラセボ群8.8%であり、エルデカルシトールによる治療は有意なサルコペニア予防効果を示した(ハザード比[HR]:0.51、95%信頼区間[CI]:0.31~0.83、p=0.0065)。・転倒の発生は、エルデカルシトール群24.6%、プラセボ群32.8%で有意差が認められた(HR:0.78、95%CI:0.62~0.97、p=0.0283)。・BMIと腹囲径の変化は両群で有意差は認められなかったものの、エルデカルシトール群ではプラセボ群よりも脂肪量指数が有意に減少し(-0.15% vs.0.31%、p=0.028)、骨格筋指数が有意に増加し(0.45% vs.-1.72%、p<0.0001)、握力も増加した(1.85% vs.0.45%、p=0.0003)。・有害事象の発生率は両群間で有意差は認められなかった。 これらの結果より、研究グループは「活性型ビタミンD3製剤エルデカルシトールの治療によって、骨格筋量および筋力を増加させることにより、前糖尿病患者のサルコペニアの発症を予防し、転倒のリスクを大幅に減少させる可能性を見出した。今後はサルコペニアや前糖尿病の有無にかかわらず高齢者を対象とした臨床試験を実施する予定である」とまとめた。

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転倒リスクが低減する運動は週何分?

 高齢女性7,000人超を対象としたコホート研究によって、150分/週以上の余暇の運動を行っている場合、けがを伴う転倒とけがを伴わない転倒の両方のリスクが有意に低減したことを、オーストラリア・シドニー大学のWing S. Kwok氏らが明らかにした。JAMA Network Open誌2024年1月31日号掲載の報告。 世界保健機関(WHO)は、心身の健康のために150~300分/週の中強度の運動を行うことを推奨している。しかし、これまでのシステマティックレビューおよびメタ解析では、運動量と転倒または転倒に伴うけがとの関連に一貫性がない。そこで研究グループは、高齢女性における余暇の運動量・種類と、けがを伴わない転倒およびけがを伴う転倒との間に関連性があるかどうかを調べるため、一般集団ベースのコホート研究を行った。 研究グループは、オーストラリア女性の健康に関する縦断研究(ALSWH)のデータをレトロスペクティブに解析した。解析には、1946~51年生まれで、2016年と2019年の追跡調査票に記入した7,139人(平均年齢[SD]:67.7[1.5]歳)が含まれた。2016年の調査では、運動の種類(早歩き、中強度の運動[軽いテニスや水泳など]、高強度の運動[呼吸が荒くなるようなエアロビクス、サイクリング、ランニングなど])と1週間当たりの運動量(0分、1~150分未満、150~300分未満、300分以上)を聴取した。2019年の調査では、過去12ヵ月間の転倒転倒に伴うけがの有無を聴取した。 主な結果は以下のとおり。・7,139人中2,012人(28.2%)が過去12ヵ月間に転倒した。996人がけがを伴わない転倒、1,016人がけがを伴う転倒であった。・運動をしなかった(0分/週)群と比較して、1~150分/週群のけがを伴わない転倒のオッズ比(OR)は0.88(95%信頼区間[CI]:0.71~1.10)で有意な関連は認められなかった。150~300分/週群は0.74(0.59~0.92)、300分以上/週群は0.66(0.54~0.80)で関連が認められた。・けがを伴う転倒のORは、1~150分/週群が0.87(95%CI:0.70~1.09)で同じく関連が認められず、150~300分/週群は0.70(0.56~0.88)、300分以上/週群は0.77(063~0.93)で関連が認められた。・運動の種類別にみると、早歩き(OR:0.83[95%CI:0.70~0.97])、中強度の運動(0.81[0.70~0.93])および中~高強度の運動(0.84[0.70~0.99])を行っている集団では、けがを伴わない転倒のリスクが低減した。高強度の運動はリスク低減傾向にあったが有意ではなかった(0.87[0.74~1.01])。・すべての運動の種類とけがを伴う転倒との間には統計学的に有意な関連は認められなかった。

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第183回 新型コロナ公費支援は3月末で終了、通常の医療体制へ/厚労省

<先週の動き>1.新型コロナ公費支援は3月末で終了、通常の医療体制へ/厚労省2.アルコールは少量でも要注意、飲酒ガイドラインを公表/厚労省3.SNSが暴いた入試ミス、PC操作ミスによる不合格判定が発覚/愛知医大4.専攻医の過労自死問題を受け、甲南医療センターを現地調査へ/専門医機構5.医師らの未払い時間外手当、小牧市が8億円支給へ/愛知県6.診療報酬改定で人気往診アプリ『みてねコールドクター』が終了へ/コールドクター1.新型コロナ公費支援は3月末で終了、通常の医療体制へ/厚労省厚生労働省は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する医療費の公費支援を2024年3月末で終了し、4月から通常の医療体制に完全移行する方針を発表した。これまで、COVID-19の治療薬や入院医療費に関しては、患者や医療機関への一部公費支援が継続されていたが、4月からは他の病気と同様に保険診療の負担割合に応じた自己負担が求められるようになる。COVID-19への公費支援は、治療薬の全額公費負担が2021年10月より始まり、昨年10月には縮小された。また、患者は年齢や収入に応じ、3,000~9,000円の自己負担をしていた。4月からは、たとえば重症化予防薬モルヌピラビル(商品名:ラゲブリオ)を使用する場合、1日2回5日分の処方で約9万円のうち、3割負担であれば約28,000円を自己負担することになる。また、月最大1万円の入院医療費の公費支援や、コロナ患者用病床を確保した医療機関への病床確保料の支払いも終了する。COVID-19の感染状況は改善傾向にあり、定点医療機関当たりの感染者数が12週ぶりに減少している。これらの背景から、政府は公費支援の全面撤廃と通常の診療体制への移行が可能と判断した。さらに、次の感染症危機に備え、公的医療機関などに入院受け入れなどを義務付ける改正感染症法が4月から施行される。参考1)新型コロナの公費負担、4月から全面撤廃へ…治療薬に自己負担・入院支援も打ち切り(読売新聞)2)新型コロナ公費支援 3月末で終了 4月からは通常の医療体制へ(NHK)3)新型コロナ公費支援、3月末で完全廃止 厚生労働省(日経新聞)2.アルコールは少量でも要注意、飲酒ガイドラインを公表/厚労省厚生労働省は、飲酒による健康リスクを明らかにするため、「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」を発表した。初めて作成されたこの指針では、純アルコール量に着目し、疾患別に発症リスクを例示している。大腸がんのリスクは1日20g以上の純アルコール摂取で高まり、高血圧に関しては少量の飲酒でもリスクが上昇すると指摘されている。純アルコール量20gは、ビール中瓶1本、日本酒1合、またはウイスキーのダブル1杯に相当。ガイドラインによると、脳梗塞の発症リスクは、男性で1日40g、女性で11gの純アルコール摂取量で高まる。女性は14gで乳がん、男性は20gで前立腺がんのリスクが増加する。さらに、男性は少量の飲酒でも胃がんや食道がんを発症しやすいと報告されている。とくに女性や高齢者は、体内の水分量が少なくアルコールの影響を受けやすいため、注意が必要。また、女性は少量や短期間の飲酒でもアルコール性肝硬変になるリスクがあり、高齢者では認知症や転倒のリスクが一定量を超えると高まる。ガイドラインでは、不安や不眠を解消するための飲酒を避け、他人への飲酒を強要しないこと、飲酒前や飲酒中の食事の摂取、水分補給、週に数日の断酒日の設定など、健康への配慮としての留意点も挙げている。厚労省の担当者は、「体への影響は個人差があり、ガイドラインを参考に、自分に合った飲酒量を決めることが重要だ」と強調している。参考1)健康に配慮した飲酒に関するガイドライン(厚労省)2)ビールロング缶1日1本で大腸がんの危険、女性は男性より少量・短期間でアルコール性肝硬変も(読売新聞)3)飲酒少量でも高血圧リスク 健康に配慮、留意点も 厚労省が初の指針(東京新聞)3.SNSが暴いた入試ミス、PC操作ミスによる不合格判定が発覚/愛知医大愛知医科大学(愛知県長久手市)は、大学入学共通テストを使用した医学部入学試験の過程で、PC操作ミスにより本来2次試験の受験資格を有していた80人の受験生を誤って不合格としていたことを発表した。この問題は、SNS上で受験生間の投稿を通じて疑問が提起され、その後の大学による確認作業で明らかになった。受験生は、自己採点結果から「自分より点数が低い友人が合格している」といった内容をSNSに投稿していた。操作ミスは、大学入試センターから提供された成績データを学内システムに転記する際に発生したもので、一部受験生の点数が実際よりも低く記録されてしまったことが原因。発覚後、同大学は該当する80人の受験生に対し、予定されていた2次試験への参加資格があることを通知し、さらに受験できない者のために別の日程も設定した。この事態を重くみた大学は、「受験生に混乱を招いたことを深くお詫びする」との声明を発表し、今後のチェック体制の見直しを約束し、2度と同様のミスが発生しないようにするとしている。参考1)令和6年度医学部大学入学共通テスト利用選抜(前期)における 第2次試験受験資格者の判定ミスについて(愛知医大)2)愛知医科大学 医学部入試で80人を誤って不合格に PC操作ミスで(NHK)3)愛知医科大、PC操作ミスで80人誤って不合格…SNSで結果疑う投稿相次ぎ大学が確認し判明(読売新聞)4)「自己採点で自分より低い友人が合格」愛知医科大、判定ミスで80人不合格に(中日新聞)4.専攻医の過労自死問題を受け、甲南医療センターを現地調査へ/専門医機構日本専門医機構は、2024年2月19日の定例記者会見で、2024年度に研修を開始する専攻医の採用予定数が9,496人と発表し、過去最多であることを明らかにした。2023年度の9,325人から増加し、とくに整形外科で93人、救急科で66人の増加がみられる一方、皮膚科では51人、外科では25人の減少が確認された。同機構理事長の渡辺 毅氏は、外科専攻医の減少は問題であると指摘している。専攻医数の増加は、東北医科薬科大学や国際医療福祉大学の医学部新設とその卒業生の専攻医登録が影響しているとされ、とくに医師不足が指摘されている外科は微減傾向にあるものの、救急科では増加が予想されている。また、専攻医の過労自死問題を受け、甲南医療センター(神戸市)でのサイトビジット(現地調査)を実施する予定であり、専攻医の心身の健康維持や時間外勤務の上限明示などの環境整備が適切に行われているかを目的に調査が行われる。渡辺氏は、「得られた知見を将来の専攻医研修プログラムや専門医制度の整備指針の改善に生かしたい」と述べている。専攻医遺族が甲南医療センター側を提訴しているため、訴訟に影響が出ないような日程での実施を目指している。参考1)2024年度専攻医、整形外科や救急科で増加(日経メディカル)2)来年度の専攻医、昨年度比150人増の9,500人(Medical Tribune)5.医師らの未払い時間外手当、小牧市が8億円支給へ/愛知県小牧市民病院(愛知県)が、医師や薬剤師を含む約277人の職員に対して、夜勤や土日祝日の当直業務で適切に支払われていなかった時間外勤務手当の差額約8億円を支給することを発表した。これは、病院の医師の働き方改革を機に勤務や手当の見直しが行われた際に、複数の医師からの指摘を受けて発覚、本来、労働実態に応じて支給されるべき時間外手当が、一律の定額で支給されていたことが問題となったもの。病院側は、2023年4月からこの問題を調査し、約4年分の差額を医師、薬剤師、放射線技師などの職員に支払うことを決定した。また、3月以降は時間外勤務手当を適切に支給する制度に改めることも発表した。これまでの誤った運用は「慣例に従っていた」との理由から起こったとしている。さらに、病院は夜間や休日の手当の見直しも発表し、2020年4月~2024年2月までの間に当直業務に従事した職員に対して、法律で定められた賃金よりも過小だった手当の差額を支給する。病院側はこれまで、労働基準法に基づいた時間外勤務手当の支給が必要な場合、特例措置として「宿日直許可」を労働基準監督署に申請する必要があることを知らなかったと述べている。この措置により、病院は正規の時間外勤務手当とこれまで支給してきた手当との差額を職員に支給し、法律に準拠した形での勤務条件の改善を目指す。差額の支払いについては、市議会定例会に補正予算案を提出し、支払いは5月下旬に行われる予定。参考1)時間外手当、差額8億円支払いへ 医師ら277人に 愛知の市民病院(朝日新聞)2)小牧市民病院、夜間・休日手当見直しへ 20年以降の差額も支給(中日新聞)6.診療報酬改定で人気往診アプリ『みてねコールドクター』が終了へ/コールドクター夜間や休日に医師の往診をWebやアプリから依頼できるサービス「みてねコールドクター」が、診療報酬の改定により条件が厳格化されるため、3月31日をもって終了することが発表された。このサービスは、子供の医療助成制度適用で都内では自己負担0円(交通費別)で利用が可能で、約400人の医師が登録・在籍し、夜間・休日の急病時に最短30分で自宅に医師を派遣し、その場で薬を渡すことができた。2022年にはミクシィとの資本業務提携を経て、サービス名に「みてね」のブランドを冠し、とくに子育て世代から高い評価を得ていた。今回の診療報酬改定では、医療従事者の賃上げなどに充てるための基本報酬の引き上げが注目されていたが、往診サービスについては「普段から訪問診療を受けていない患者」への緊急往診や夜間往診の診療報酬が低下し、この変化に伴い「みてねコールドクター」はサービスの終了を決定した。同社は、今後の市場の変化を見据えての決定であると説明しており、オンライン診療や医療相談サービスは継続する。診療報酬の改定では、救急搬送の不必要な減少や医療現場の負担軽減を期待していたが、実際には小児科領域の往診が主であり、コロナ禍での特殊な状況下では多くの人にとって救いとなった。しかし、保険診療の方向性としては、緊急時のみに駆けつける医師ではなく、日常を支えるかかりつけ医の強化が求められている。参考1)往診のサービス提供終了のお知らせ(コールドクター)2)往診アプリ「みてねコールドクター」往診終了 診療報酬改定で(ITmedia NEWS)3)「みてねコールドクター」の往診サービスが終了に(Impress)4)人気の“往診サービス”が突然の終了、理由は「診療報酬改定」なぜ?(Withnews)

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入院リスクが高い主訴は?

 救急外来(emergency department:ED)で疲労感などの非特異的な訴え(non-specific complaints:NSC)をする高齢患者は、入院リスクならびに30日死亡率が高いことが明らかになった。この結果はスウェーデン・ルンド大学のKarin Erwander氏らがNSCで救急外来を訪れた高齢者の入院と死亡率を、呼吸困難、胸痛、腹痛など特定の訴えをした患者と比較した研究より示唆された。加えて、NSC患者はEDの滞在時間(length of stay:LOS)が長く、入院率が高く、そして入院1回あたりの在院日数が最も長かった。BMC Geriatrics誌2024年1月3日号掲載の報告。 本研究は2016年にRegion HallandのEDを1回以上受診した65歳以上の患者1万5,528例のうち、NSCおよび特定の主訴(呼吸困難、胸痛、腹痛)を抱えて救急外来を訪れた4,927例を対象とした後ろ向き観察研究。NSCとして疲労、意識障害、全身の脱力感、転倒の危険性を定義付けた。主要評価項目は入院と30日死亡率であった。 主な結果は以下のとおり。・4,927例の主訴の内訳は胸痛1,599例(32%)、呼吸困難1,343例(27%)、腹痛1,460例(30%)、NSC525例(11%)であった。なお、本施設全体におけるEDを受診する主訴TOP10は外傷、胸痛、腹痛、呼吸困難、骨格筋系の痛み、感染症、神経内科領域、不整脈、めまい、NSCの順であった。・NCS患者の平均年齢は80歳であった。・入院率は呼吸困難(79%)、NSC(70%)、胸痛(63%)、腹痛(61%)の順に高かった。・NSC患者の平均LOSは4.7時間で、これは胸痛、呼吸困難、腹痛を訴えた患者と比較して有意に高かった(p<0.001)。また、72時間以内に再入院する割合も高かった。・全集団の平均病床日数が4.2日であったのに対し、NSC患者では5.6日であった。・NSCおよび呼吸困難を訴えた患者は30日死亡率が最も高かった。 本研究では、NSCを有する高齢患者を評価することの難しさなどを示し、EDのスタッフが患者一人ひとりに対し最適なケアを行うためには、さらなる研究が必要としている。

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