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褥瘡患者の体位交換が3時間おきでも不適切と判断されたケース

皮膚最終判決判例タイムズ 949号192-197頁概要小脳出血により寝たきり状態となった59歳男性。既往症として糖尿病があった。発症当初は総合病院にて治療が行われ、状態が安定した約3ヵ月後に後方病院へ転院した。転院後は約3時間おきの体位交換が行われていたが、約1週間で仙骨部に褥瘡を形成、次第に悪化した。そして、約6ヵ月後に腎不全の悪化により死亡したが、家族から褥瘡の悪化が全身状態の悪化を招き、ひいては腎不全となって死亡したと訴えられた。詳細な経過患者情報59歳男性経過1992年1月5日意識障害で発症し、A総合病院で小脳出血と診断され、開頭血腫除去手術を受けた59歳男性。既往症として糖尿病に罹患していた。術後の回復は思わしくなく、中枢性失語症、両側不全麻痺、四肢拘縮により寝返りも打てない状況であり、食事は経管栄養の状態であった。4月18日後方のB病院(32床)へ入院、A病院からの看護サマリーには、「褥瘡予防、気道閉鎖予防にて2時間毎の体位交換を励行しておりました。どうぞよろしく」「DMのため仙骨部、褥瘡できやすい」と記載されていた。なお、A病院では褥瘡形成なし。また、B病院では寝たきりの患者に対し、体位交換は3時間毎に行われていた。この時のBUN 40.4、Cre 0.94月26日仙骨部に第I度の褥瘡形成。イソジン®ゲルとデブリサン®の処置。6月15日患者独自の判断でエアーマット使用開始。6月25日第II度の褥瘡へと悪化。11月5日BUN 33.2、Cre 1.411月26日褥瘡のポケットが深くなり浸出液が多量、第III度の褥瘡へと悪化。次第に全身状態や意識状態が悪化。12月3日BUN 77、Cre 3.6透析が必要であるとの説明。12月26日呼吸困難に対し気管切開施行。12月28日家族の強い希望により、初期治療を行ったA総合病院へ転院。12月30日腎不全により死亡した。当事者の主張患者側(原告)の主張入院患者の褥瘡発生予防、褥瘡改善は医療担当者の責任であるのに、頻繁な体位交換、圧迫力の軽減、局所の保温、壊死組織物質の除去、適切なガーゼ交換などを怠り、褥瘡を悪化させて全身的衰弱を招き、腎機能を悪化させ腎不全となり、敗血症を併発させ、遂に死に至らしめてしまった注意義務違反、債務不履行がある。病院側(被告)の主張基準看護I類、患者4人に対し看護師1名という限られた看護師数では、事実上3時間毎の体位変換が限度である。死亡原因は小脳出血に引き続き併発した腎不全であり、褥瘡の悪化はその結果である。褥瘡は身体の臓器病変と完全に関連しており、単に褥瘡の治療を行えばよいと考えるのは早計である。裁判所の判断褥瘡を予防するために少なくとも2時間おきの体位交換が必要であったのに、看護体制から事実上3時間毎の体位変換が限度であることをもって、褥瘡の予防と治療に関する診療上の義務が免除ないし軽減される筋合いのものではない。そもそも2時間毎の体位変換を実施できないのであれば、それを実施できる医療機関に転医させるべきである。直接の死因である腎不全については、腎機能障害が原因と考えられるけれども、その一方で、褥瘡も腎機能を悪化させる要因として少なからざる影響を及ぼしたため、債務不履行ないし注意義務違反が認められる。原告側合計2,800万円の請求に対し、842万円の判決考察われわれ医療従事者がしばしば遭遇する「床ずれ」に対し、「寝たきりの患者には2時間毎の体位変換が医学常識であり、過酷な勤務態勢を理由に褥瘡をつくるとは何ごとか!褥瘡をつくることがわかっているのなら、褥瘡をつくらない病院へ転送すべきである」という、きれいごとばかりを並べた司法の判断がおりました。いったい、この判決文を書いた裁判官は、今現在の日本の病院事情をご存じなのでしょうか。ことに本件のような日常生活全面介護、意思の疎通もままならない患者が急性期をすぎて3~6ヵ月経過すると、2時間毎の体位変換が可能な総合病院に長期にわたって入院することは難しいのが常識でしょう。判決文では、最初の総合病院を退院した際、「病院の体制上、ある程度回復した患者をこれ以上入院させておくことが難しい」と裁判官は認識しておきながら、褥瘡をつくる心配があるからといって、再びこの患者に退院勧告をしたような病院に対し、褥瘡だけを治療目的としてもう一度入院治療をお願いするのはきわめて難しいことを、まったく考慮していません。一方本件では、最初の病院を退院する時には全身状態は安定していたと思われるし、その時点でさらなる積極的な治療が行われるとはいえない状態なので、自宅につれて帰るという選択肢もあったと思います。しかし往々にして、寝たきり状態の患者をすぐに家に連れて帰るような家族はむしろまれであるため、B病院に転院した背景には、家族の事情も大いにあったと思います。つまり、諸般の事情を勘案したうえで、2時間毎の体位変換が難しい看護体制の病院を選択せざるを得なかったのではないでしょうか。にもかかわらず、このB病院だけに責任を求めるのは、家族の役割を軽視しているばかりか、行政(厚生労働省の診療報酬)と司法の矛盾をもあらわにしていると思います。ただ残念ながら、今後同じような訴訟が起きるたびにこの判決が引用されて、「2時間毎の体位変換ができないような病院はけしからん」と判断される可能性がきわめて高くなります。そこで、今後同様のトラブルに巻き込まれないためには、「2時間毎の体位交換」を大原則とするしか方法はないと思います。なお、本件では細かい点をみてみると、患者と病院側とのコミュニケーションに問題があったことは否めません。たとえば、患者側に対し、「床ずれなんか痛くないよ、治るよ、治るよ」とか、「褥瘡のことについてうるさいのはあんただけだ」などと説明し、相手にしなかった点をことさら問題視しています。さらには、褥瘡に対し効果的といわれているエアーマットを、患者自らの判断で購入して使用するようになったことも、かなり裁判官の心証を悪くしていると思います。また、看護記録がつぶさに検討され、体位変換の記録が残っていないのは体位変換が行われなかったと認定されました。中には夜間一度も体位変換されなかった点が強調され、「3時間毎の体位変換といいながら、ちっともやっていなかったではないか」という判断に至ったと思われます。おそらく、体位変換したことをすべて看護記録に残すわけではないと思いますので、本当は体位変換を行っていたのかも知れず、この点は病院側に気の毒であったと思います。後々のためにも、記録はきちんと残しておく習慣を付ける必要があると思われます。現状では「2時間毎の体位交換」を完璧にこなすのが難しいのは、誰もが認めることではないかと思われます。そのため、なかなか難しい問題ではありますが、褥瘡に対しては医療者側は最大の努力を行っていることを患者側に示し、いったん褥瘡ができてしまっても、不用意な言葉は慎み、十分なコミュニケーションをとるのが現実的な対処方法ではないでしょうか。皮膚

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リハビリテーション中の転倒事故で死亡したケース

リハビリテーション科最終判決平成14年6月28日 東京地方裁判所 平成12年(ワ)第3569号 損害賠償請求事件概要脳梗塞によるてんかん発作を起こして入院し、リハビリテーションを行っていた63歳男性。場所についての見当識障害がみられたが、食事は自力摂取し、病院スタッフとのコミュニケーションは良好であった。ところが椅子坐位姿勢の訓練中、看護師が目を離したすきに立ち上がろうとして後方へ転倒して急性硬膜下血腫を受傷。緊急開頭血腫除去手術が行われたが、3日後に死亡した。詳細な経過患者情報既往症として糖尿病(インスリン療法中)、糖尿病性網膜症による高度の視力障害、陳旧性脳梗塞などのある63歳男性経過1997年1月から某大学病院に通院開始。1998年9月14日自らが購入したドイツ製の脳梗塞治療薬を服用した後、顔面蒼白、嘔吐、痙攣、左半身麻痺などが出現。9月15日00:13救急車で大学病院に搬送。意識レベルはジャパンコーマスケール(JCS)で300。血圧232/120mmHg、脈拍120、顔面、下腿の浮腫著明。鎮静処置後に気管内挿管し、頭部CTスキャンでは右後頭葉の陳旧性脳梗塞、年齢に比べ高度な脳萎縮を認めた。02:00その後徐々に意識レベルは上昇し(JCS:3)抜管したが、拘禁症候群のためと思われる「夜間せん妄」、「ごきぶりがいる」などの幻覚症状、意味不明の言動、暴言、意識混濁状態、覚醒不良などがあり、活動性の上昇がなかなかみられなかった。9月19日ベッド上ギャッジ・アップ開始。9月20日椅子坐位姿勢によるリハビリテーション開始。場所についての見当識障害がみられたものの、意識レベルはJCS 1~2。「あいさつはしっかりとね、しますよ。今日は天気いいね」という会話あり。看護記録によれば、21:00頃覚醒す。その後不明言動きかれ、失見当識あり夜間時に覚醒、朝方に入眠する。意味不明なことをいう時もある朝方入眠したのは、低血糖のためか?BSコントロールつかず要注意ES自力摂取可も手元おぼつかないかんじあり。呂律回らないような、もぐもぐした口調。イスに移る時めまいあるも、ほぼ自力で移動可ES時、自力摂取せず、食べていてもそしゃくをやめてしまう。ボオーッとしてしまう。左側に倒れてしまうため、途中でベッドへ戻す時々ボーッとするのは、てんかんか?「ここはどこだっけ」会話成立するも失見当識ありES取りこぼし多く、ほとんど介助にて摂取す9月21日09:00全身清拭後しばらくベッド上ギャッジ・アップ。10:30ベッド上姿勢保持のリハビリテーション開始。場所についての見当識障害あり「俺は息子がいるんだ。でもね、ずっと会っていないんだ」「家のトイレ新しいんだよ。新しいトイレになってから1週間だから、早くそれを使いたいなあ。まだ駄目なの?仕方ないねえ。今家じゃないの?そう。病院なの。じゃあ仕方ないねえ」11:00担当医師の回診、前日よりも姿勢保持の時間を延ばし、食事も椅子坐位姿勢でとるよう指示。ベッドから下ろしてリハビリ用の椅子(パラマウント社製:鉄パイプ製の脚、肘置きのついた折り畳み式、背もたれの高さは比較的低い)に座らせた。その前に長テーブルを置いて挟むように固定し、テーブルの脚には左右各5kgの砂嚢をおいた。12:00看護師は「食事を取ってくるので動かないでね」との声かけに頷いたことを確認し、数メートル先の配膳車から食事を取ってきた。準備された食事は自力でほぼ全部摂取。食事終了後、看護師は患者に動かないよう声をかけ、数メートル先の配膳車に下膳。12:30食後の服薬および歯磨き。このときも看護師は「歯磨きの用意をしてくるから動かないでね」、「薬のお水を持ってくるから動かないでね」と声をかけ、患者の顔や表情を観察して、頷いたり、「大丈夫」などと答えたりするのを確認したうえでその場を離れた。13:00椅子坐位での姿勢保持リハビリが約2時間経過。「その姿勢で辛くないですか」との問いに患者は「大丈夫」と答えた。13:10午後の検査予定をナース・ステーションで確認するため、「動かないようにしてね」と声をかけ、廊下を隔て斜め向かい、数メートル先のナース・ステーションへ向かった。その直後、背後でガタンという音がし、患者は床に仰向けで後ろ側に転倒。ただちに看護師が駆けつけると、頭をさすりながらはっきりした口調で「頭打っちゃった」と返答。ところが意識レベルは徐々に低下、頭部CTスキャンで急性硬膜下血腫と診断し、緊急開頭血腫除去術を施行。9月24日20:53死亡。当事者の主張患者側(原告)の主張1.予見可能性坐位保持リハビリテーションはまだ2日目であり、長時間のリハビリテーションは患者にとって負担になることが予見できた。さらに場所についての見当識障害があるため、リハビリテーション中に椅子から立ち上がるなどの危険行動を起こして転倒する可能性は予見できた2.結果回避義務違反病院側は下記のうちのいずれかの措置をとれば転倒を回避できた(1)リハビリテーション中は看護師が終始付き添う(2)看護師が付添いを中断する際、リハビリテーションを中断する(3)長時間の坐位保持のリハビリテーションを回避する(4)車椅子や背丈の高い背もたれ付きの椅子を利用する、あるいは壁に近接して椅子を置くなど、椅子の後方に転倒しないための措置をとる(5)リハビリテーション中に立ち上がれないように、身体を椅子にベルトなどで固定する病院側(被告)の主張事故当時、患者は担当看護師と十分なコミュニケーションがとれており、「動かないようにしてね」という声かけにも頷いて看護師のいうことを十分理解し、その指示に従った行動を取ることができた。そして、少なくとも、担当看護師がナース・ステーションに午後の検査予定を確認しにいき戻ってくるまでの間、椅子坐位姿勢を保持するのに十分な状態であった。当時みられた見当識障害は場所についてのみであり、この見当識障害と立ち上がる動作をすることとは関係はない。したがって本件事故は予測不可能なものであり、病院側には過失はない。裁判所の判断1. 予見可能性事故当時、少なくとも看護師に挟まれた状態では自分で立っていることが可能であったため、自ら立ち上がり、または立ち上がろうとする運動機能を有していたことが認められる。そして、看護師の指示に対して頷くなどの行動をとったとしても、場所的見当識障害などが原因で指示の内容を理解せず、あるいはいったん理解しても失念して、立ち上がろうとするなどの行動をとること、その際に体のバランスを失って転倒するような事故が生じる可能性があることは、担当医師は予見可能であった。2. 結果回避義務違反転倒による受傷の可能性を予見し得たのであるから、担当医師ないし看護師は、テーブルを設置して前方への転倒を防ぐ方策だけではなく、椅子の後ろに壁を近接させたり、付添いを中断する時は椅子から立ち上がれないように身体を固定したり、転倒を防止するために常時看護師が付き添うなどの通常取り得る措置によって、転倒防止を図ることが可能であった(現に5kgの砂嚢2個を脚に乗せたテーブルを設置して前方への転倒防止策を講じていながら後方への転倒防止策は欠如していた)ので、医療行為を行う上で過失、債務不履行があった。2,949万の請求に対し、1,590万円の支払命令考察病院内の転倒事故はすべて医療過誤?今回の患者は、インスリンを使用するほどの糖尿病に加えて、糖尿病性網膜症による視力障害も高度であり、以前から脳梗塞を起こしていた比較的重症のケースです。そして、医師の許可なく服用したドイツ製の治療薬によって、顔面蒼白、嘔吐、左半身麻痺、てんかん発作を発症し、大学病院に緊急入院となりました。幸いにも発作はすぐに沈静化し、担当医師や看護師は何とか早く日常生活動作が自立するように、離床に向けた積極的なリハビリテーションを行ないました。このような中で起きたリハビリ用椅子からの転倒事故です。その直前の状況は、「ここはどこだっけ」といった場所に関する見当識障害はあったものの、担当医師や看護師とはスムーズに会話し、食事も自力で全量摂取していました。はたして、このような患者を担当した場合に、四六時中看護師が付き添って看視するのが一般的でしょうか。ましてや、看護師が離れる時は患者が転倒しないように椅子に縛り付けるのでしょうか?もし今回の転倒前にもしばしば立ち上がろうとしたり、病院スタッフの指示をきちんと守ることができず事故が心配される患者の場合には、上記のような配慮をするのが当然だと思います。しかし、今回の患者は、とてもそのような危険が迫っていたとはいえなかったと思います。ところが、判決では「場所に関する見当識障害」があったことを重要視し、この患者の転倒事故は予見可能である、そして、予見可能であるのなら転倒防止のための方策を講じなければならない、という単純な考え方により、100%担当医師の責任と判断しました。実際に転倒現場に立ち会わなかった医師の責任が問われているのですから、きわめて厳しい判決であると思いますし、このような考え方が標準とされるならば、軽度の認知症の患者はすべて椅子やベッドに縛り付けなければならない、などという極論にまで発展してしまうと思います。最近では、高齢者ケアにかかわるすべてのスタッフに「身体拘束ゼロ作戦」という厚生労働省の指導が行われていて、身体拘束は、「事故防止の対策を尽くしたうえでなお必要となるような場合、すなわち切迫性、非代替性、一時性の三つの要件を満たし、「緊急やむを得ない場合」のみに許容される」としています。確かに、身体拘束を減らすことは、患者の身体的弊害(関節拘縮や褥瘡など)、精神的弊害(認知障害や譫妄)、社会的弊害をなくすことにつながります。ところが実際の医療現場で、このような比較的軽症の患者に対し一時的にせよ(看護師が目を離す数秒~数十秒)身体拘束をしなかったことを問題視されると、それでなくても多忙な日常業務に大きな支障を来たすようになると思います。ただ法的な問題としては、「利用者のアセスメントに始まるケアのマネジメント過程において、身体拘束以外の事故発生防止のための対策を尽くしたか否かが重要」と判断されます。つまり、入院患者の「転倒」に対してどの程度の配慮を行っていたのか、という点が問われることになります。その意味では、患者側が提起した、(1)リハビリテーション中は看護師が終始付き添う(2)看護師が付添いを中断する際、リハビリテーションを中断する(3)長時間の坐位保持のリハビリテーションを回避する(4)車椅子や背丈の高い背もたれ付きの椅子を利用する、あるいは壁に近接して椅子を置くなど、椅子の後方に転倒しないための措置をとる(5)リハビリテーション中に立ち上がれないように、身体を椅子にベルトなどで固定するという主張も(若干の行き過ぎの感は否めませんが)抗弁しがたい内容になると思います。事故後の対応そのような考え方をしてもなお、このケースは不可抗力という側面が強いのではないかという印象を持ちます。今回事故が起きたのは大学病院であり、それなりに看護計画もしっかりしていたと思いますし、これが一般病院であればなおさら目の行き届かないケースがあり、事故発生のリスクはかなり高いと思います。そして、今回のケースが院内転倒事故に対する標準的な裁判所の判断になりますので、今後転倒事故で医事紛争にまで発展すると、ほとんどのケースで病院側の過失が認められることになるでしょう。とはいうものの、同様の転倒事故で裁判にまでいたらずに解決できるケースもあり、やはり事故前の対策づくりと同様に、事故後の対応がきわめて重要な意味をもちます。まずは入院時に患者および家族を教育し理解を得ることが肝心であり、転倒が少しでも心配されるケースにはあらかじめ家族にその旨を告知し、病院側でも転倒の可能性を念頭に置いた対応を行うことが望まれます。と同時に、高齢者を多く扱う施設では賠責保険を担当する損害保険会社との連携も重要でしょう。たとえば、小さな子供を扱う保育園や幼稚園では、子供同士がぶつかったり転倒したりなどといった事故が頻繁に発生します。その多くがかすり傷程度で済むと思いますが、中には重度の傷害を負って病院に入院となるケースもあります。そのような場合、保護者から必ずといって良いほど園の管理責任を問うクレームがきますが、保母さんにそこまで完璧な対応を求めるのは困難ではないかと思います。そこで施設によっては、治療費や慰謝料を「傷害保険」でまかなう契約を保険会社と交わして事故に備えるとともに、場合によってはその保険料を家族と折半するなどのやり方もあると思います。このような方法をそのまま病院に応用できるかどうかは難しい面もありますが、結局のところ最終的な解決は「金銭」に委ねられるわけですから、「医療過誤」ではなく不慮の傷害事故として解決する方が、無用なトラブルを避ける意味でも重要ではないかと思います。リハビリテーション科

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長期療養施設の高齢者の多くは、本当は痛みに耐えている

 The Services and Health for Elderly in Long TERm care(SHELTER)研究において、ヨーロッパの長期療養施設の入所者は国によって差はあるものの疼痛有病率が高く、大部分の入所者は疼痛が適切にコントロールされていると自己評価しているが、実際にはまだ強い痛みを有している入所者が多いことが明らかとなった。ドイツ・ウルム大学Bethesda病院のAlbert Lukas氏らによる報告で、こうした結果の背景にある理由を分析することが、疼痛管理の改善に役立つ可能性があるとまとめている。Journal of the American Medical Directors Association誌オンライン版1月31日の掲載報告。 今回の研究は、長期療養施設の入所者における疼痛について評価し、国家間で比較することが目的であった。 対象はヨーロッパ7ヵ国およびイスラエルの長期療養施設の入所者計3,926人で、インターライの長期療養施設(Long Term Care Facility:LTCF)版を用い疼痛の有病率、頻度、強さなどを評価した。 患者関連特性と不適切な疼痛管理の相関を二変量および多変量ロジスティック回帰モデルにより解析した。 主な結果は以下のとおり。・疼痛を有していた入所者は1,900人(48.4%)であった。・疼痛有病率は、イスラエルの19.8%からフィンランドの73.0%まで、国によって大きく異なった。・疼痛は、性別(女性)、骨折、転倒、褥瘡、睡眠障害、不安定な健康状態、がん、うつ病および薬剤数と正の相関があり、一方で認知症と負の相関があった。・多変量ロジスティック回帰モデルにおいて、睡眠障害を除いたすべての因子が有意であることが示された。・疼痛は十分コントロールされていると自己評価した入所者は88.1%に上ったが、痛みがないまたは軽度であると回答したのは56.8%にすぎなかった。【おすすめコンテンツ】~進化するnon cancer pain治療を考える~ 「慢性疼痛診療プラクティス」連載中! ・「不適切なオピオイド処方例(肩腱板断裂手術後難治性疼痛)」ケースレポート ・「不適切なオピオイド処方例(肩腱板断裂手術後難治性疼痛)」ケース解説

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Dr.清水のおいしい栄養療法

第1回 「栄養療法のスゴイところ!」第2回 「病院はガイコツだらけ!」第3回 「問診と身体診察でできる低栄養の評価」第4回 「アルブミンを使いこなそう!」第5回 「どうする?必要エネルギー量」第6回 「栄養の中身に気を配ろう!」第7回 「栄養の経路の考え方!」第8回 「栄養の経路の実例」第9回 「末梢静脈栄養の考え方(1)」第10回「末梢静脈栄養の考え方(2)」第11回「中心静脈栄養     メニューを決めるステップ」 このDVDは、これから「栄養療法をやってみよう」という方が入門編として気楽に学べる分かりやすい内容になっています。第1回「栄養療法のスゴイところ!」栄養療法は、低栄養の解消だけが目的ではありません。“褥瘡”や“MRSA”が治りやすい体を作ったり、NSTの活動により病院経営を増収させる、といった効果もあります。第1回では薬物療法とは違う、栄養療法の「スゴイところ」を紹介します。第2回「病院はガイコツだらけ!」たった一日の禁食がどれほど患者さんの体に影響するかご存知ですか?実は、太っていても低栄養になっている患者さんがいます。見た目だけでは判断しにくい低栄養。自分の担当患者さんを“隠れガイコツ”にしたくない方は、必見です。第3回「問診と身体診察でできる低栄養の評価」患者さんの栄養状態は、「誰でも、簡単に」評価できます。今日からできる、問診と身体診察での栄養状態の評価を紹介します。第4回「アルブミンを使いこなそう!」アルブミンを使いこなすと、栄養状態だけではなく、他の疾患を診断する力もつきます。「低アルブミンだけど低栄養ではない」という鑑別疾患を見分けるコツと、誤りがちな「アルブミンの落とし穴」を紹介。アルブミンを、徹底的に使いこなしましょう !第5回「どうする?必要エネルギー量」個々の患者さんに合った「一日分の必要エネルギー量」の算出方法を解説。最初は大変ですが、数をこなすうちに慣れてゆくので、まずは自分が担当している患者さんに実践してみましょう !第6回「栄養の中身に気を配ろう!」実は、ブドウ糖だけの点滴では、栄養補給は不十分です。ブドウ糖、つまり糖質だけの栄養だと、人体には何がおこるのか?どんな栄養を、どんな配分で患者さんに供給するのか?栄養の「中身」を組み立てる基本を解説します。第7回「栄養の経路の考え方!」ところで・・・「経口」「経鼻チューブ」「経腸チューブ」「末梢静脈(点滴)」・・・はたして、どの経路を選択することが、目の前の患者さんにとって最善なのでしょうか。患者さんの状態にあった経路選択の考え方と、目指すべき目標について解説。第8回「栄養の経路の実例」臨床現場では、さまざまな患者さんに栄養を投与していかなくてはいけません。「嘔吐や下痢がある患者さん」「脳梗塞で意識はないが胃は正常に活動している患者さん」等、具体的な5つの症例を元に、リスクを避けた的確な投与経路の選択の仕方を学びます。第9回「末梢静脈栄養の考え方(1)」病気が治った時すぐに退院できる“体”を作っておくためには、末梢静脈栄養をどのように組み立てたら良いのか。「考え方(1)」では、4つの構成要素のうち2つ、「糖質」「タンパク質(アミノ酸)」についてを、製剤名や投与量も含めて具体的に解説 !第10回「末梢静脈栄養の考え方(2)」脂肪乳剤を点滴しないと、たった2週間で大変なことに・・ ? 点滴による栄養補給、「考え方(2)」では、「脂質」「ビタミン」について。末梢静脈栄養を効果的に使って、患者さんを必須脂肪酸欠乏や乳酸アシドーシスから守るコツ、教えます ! 番組の最後に、清水先生はこの製剤をこの量で投与していますよ、という“メニュー例”があります。要チェック !第11回「中心静脈栄養 メニューを決めるステップ」どんな時に、中心静脈栄養に踏み切るの ? どのようにメニューを決めていくの ? さあ、考え方はもう勉強済みです。これまで学んできたことをもとに、中心静脈のメニューをつくってゆきましょう !

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実践!Dr.鳥谷部のHow to ラップ療法―注目の新しい褥創治療―

実践!Dr.鳥谷部のHow to ラップ療法―注目の新しい褥創治療―特典映像「激論!褥瘡のラップ療法は是か非か!?」 実践!Dr.鳥谷部のHow to ラップ療法―注目の新しい褥創治療―講師は御存知、「ラップ療法」の提唱者のひとり、鳥谷部俊一先生。そしてプライマリ・ケア医の立場から、旧来のドレッシング材を用いた治療から「ラップ療法」に切り替えた経験をおもちの松尾美由起先生と、看護師のサポートが重要であることから、スーパーバイザーとして上條裕美看護師を招き、「ラップ療法」の経験などをお話いただいていきます。特典映像「激論!褥瘡のラップ療法は是か非か!?」また、「激論!褥瘡のラップ療法は是か非か!?」では、鳥谷部俊一先生をはじめ、皮膚科医、形成外科医、外傷治療専門医と立場の異なる4名の褥瘡治療のスペシャリストをお迎えし、「ラップ療法」の是非や、具体的な使用法をめぐって多角的な討論を繰り広げていただきます。

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褥創治療最前線!Dr.鳥谷部の超ラップ療法

第1回「理論篇」第2回「実践篇」 第1回「理論篇」登場以来医療界に衝撃を与えた「褥創のラップ療法」がバージョンアップして再登場!食品用ラップを使用するラップ療法は、「安い・早い・簡単」の三拍子で、それまでの褥創治療を飛躍的に進化させました。ただその有効性が確認される一方で、「蒸れる、匂う、かぶれる」問題が起きやすいことが指摘されたため、幾多の試行錯誤を経て遂に完成したのが「“超”ラップ療法」なのです。台所用穴あきポリ袋を使用することで、従来の欠点は一挙に解決し、さらに「超安・超早・超簡単」を実現しました。1枚23円で作れる改良型ドレッシング材の作り方や、様々な箇所にできる褥創へのあて方を、豊富な症例をもとに詳しく解説します。1) INTRODUCTION 褥創(褥瘡)とは? 2) 進化したラップ療法 3) 傷の治り方 4) なんでもかんでもラップ療法? 5) これから始める皆様へ第2回「実践篇」実践篇では、穴あきポリエチレン袋と紙おむつを使用する“究極の”ドレッシング剤(しかも1枚23円)」を作る方法や、仙骨部、足の指の間などにできた褥創への治療の実習。さらに、膝の裏、耳、後頭部など実に様々な場所にできてしまう褥創の対処のためのTipsなど、褥創治療の初心者から中級者まで幅広くお役立ていただける、具体的かつ実践的な技の数々をご紹介します。また、日用品を使用することに抵抗がある場合には、安価に“医療用”ラップを作る裏技もあります。感染に対処するデブリドマンの実際など、見たその日から簡単に褥創治療を開始できる内容です。 1) INTRODUCTION 褥創治療の基本2) 穴ポリ紙おむつの作り方・あて方(仙骨部・尾骨部)3) 暑さ対策4) 医療用ラップ、医療用紙おむつ5) 超ラップ療法入門6) 感染対策 7) 在宅治療と褥創のケア8) [症例] 膝9) [症例] 趾(あしゆび)10) [実演] 穴ポリ母乳パッド11) [実演] 踵 12) [実演] 趾(あしゆび)13) [症例] 耳・後頭部14) [症例] 坐骨部 15) [症例] 側胸部16) [症例] 肋骨部17) [症例] 大転子部18) [症例] 手や腕の表皮剥離19) [症例] 癌性皮膚潰瘍20) [症例] 仙骨部の骨腫瘍21) [症例] 骨髄炎を合併したASO

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福島県南相馬市・大町病院から(9) 南相馬に患者を戻して本当に大丈夫なのか

南相馬市大町病院佐藤 敏光2012年8月28日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行※本記事は、MRIC by 医療ガバナンス学会より許可をいただき、同学会のメールマガジンで配信された記事を転載しております。南相馬市大町病院の佐藤です。入院患者数は72名となりました。8月から定床が80床から104床に増えました。24床が急に増えたのは療養型病床を開けるようになったからです。療養型は30:1の看護基準で良く、72時間以内の夜勤時間も当てはめなくても良いそうです(月8回:2交代制のため1回16時間×8=128時間以内の枠はあり)。これは看護師不足の南相馬の病院にとっては良いことのように見えますが、実際は看護師の過重労働を課しているようなものです。看護助手さんができることはお願いしていますが、急性期以上に手のかかる患者がいることは事実です。実際、医療区分を上げる?ため、1日8回以上喀痰吸引を行い、PEGやバルーンカテが入っていても週1回入浴させ、福島県立医大の先生には、外来が終わった6時過ぎに『褥瘡回診』をしていただいています。そのような『企業努力』をしないと、慢性期を持つ民間病院は成り立っていかないのです。急性期に厚く、慢性期に冷たい診療報酬(入院基本料)が、慢性期病院の普及の妨げになり、双葉病院のような精神科病院に多くの慢性期患者が集まっていたのではなかったでしょうか。小野田病院の菊地院長先生は原発事故が起こらないことを前提としないと復興は進まないとおっしゃっていました。少し空いた急性期に群馬県に預けた患者さん達を戻し、少しづつ慢性期に移していく方法は、私を含め病院経営者は誰でも考えることです。この問題で8月初めに開かれた医局会は大きく揉めました。一人の医師から”福島第一原発がまだ不安定な時期に患者を戻して、本当に大丈夫なのか、避難マニュアルもできていないのに万が一原発が危なくなったときに昨年のようなことが繰り返されるのではないか”と発言があり、帰還計画の見直しが必要となりました。この医師は昨年の311時に、少なくなった看護師の代わりになって食事の世話、オムツの取り替え、体位変換などやってくれた医師でした。患者が全員避難完了後は、市内の避難所を廻り、食事の炊き出しなどを手伝っていたことを後から知りました。極限の苦労を体験したから言える重い言葉でした。避難マニュアル作成は私の仕事でした。緊急時避難準備区域解除前に作成された南相馬市の避難マニュアル( http://expres.umin.jp/mric/hinanzissikeikaku.pdf  )は、自宅にいる市民を対象としており、施設に入っている介護老人や入院患者については施設任せ、病院任せになっています。1年以内には完成をと知り合いの医師の病院の災害対策マニュアルを取り寄せましたが、職員の勤務について、原発事故の際には地震や火事の場合とは明らかに異なる対応をとらなければいけないことが分かり、つまづいてしまいました。以前のjisin-iryou netにも投稿しましたが、本院には震度6以上や火事の発生時には電話連絡網を通じて職員に集まるような内規があります。311時には津波に遭った市民に対応するため、非番の職員までもかけつけてくれました。1号機が爆発した後にも、市立病院を訪れた広島大星教授の屋内退避していれば大丈夫との言葉を信じ、病院に来る患者に対応していました(透析は3月17日まで継続)。3月14日に3号機が爆発した後は東電の子会社に勤める夫などから南相馬も危ないとの情報が流れると、あっという間に職員がいなくなってしまいました。屋内退避についても当時は外出について曖昧でした。車での通勤くらいは大丈夫ということでしたが、3月12日夜から15日午後までは南相馬の空間放射線濃度は福島県の中で(20km圏内を除いて)一番高かったのです。避難せずに通勤を続けた職員1人がWBCを受け、Ce137が検出された(2回目で検出されなくなりました)ことは前にもお伝えしましたが、新地から通う別な職員が今回初めてWBCを受け、Ce137が検出されたことを聞かされました。新地は空間放射線濃度は低いし、家庭菜園も作っていない、一緒に受けた夫や子供さんからは検出されなかったと。考えられるのは往復1時間あまりかかる通勤の間に車内に入った空気しかありません。今度福島第一原発が危機的状況に陥ったら、爆発する前に若い職員を避難させなければいけない、患者もできるだけ早く(ヘリコプターを使い)避難させなければいけない(30km圏内飛行禁止はナンセンスだと思います)、動かせない患者がいたら、その家族に食事の介助やオムツの交換をお願いする、群馬県から患者さんを戻すときにはそのくらいのことは(家族に)話しておきたいと思います。最近、吉田昌郎福島第一原発前所長がビデオレターで述べていることです。(六道輪廻サバイバル日記から)--これから第1原発や福島県はどうあるべきか?◆そういう次元の高い話になると今すぐに答えがないが、やっぱり発電所をどうきちっと安定化させるかがベースだ。そこができていない中で、地元にお帰りいただくわけにはいかないので、そこが最大の(課題だ)。これは事故当時も言っていたが、日本国中だけでなく世界の知恵を集めて、より発電所、第1原発をより安定化させることが一番求められている。いろいろなだれの責任うんぬんということもきちっとやるべきだが、やはり発電所を少しでも安定させる。それには人も必要だし、技術もいろいろな知恵が必要だ。そこに傾注するということが重要なことだと思う。そのうえで、地元の方々に(通常の)生活に戻っていただけるか考えることができる。いずれにしても現場を落ち着かせる、安定化させることが一番重要な責務だ。私はちょっとまだ十分な体力がないが、戻ったらそういう形で現場のために力を届けたい。--引用ここまで最少人員を残し、原発処理にあたった吉田前所長の福島県民に対する詫びの言葉と優しさが込められた話だと思います。

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米国ナーシングホーム入所者の褥瘡リスク、減少傾向にあるものの人種間格差続く

米国ナーシングホーム入所者の褥瘡罹患率は、2003年から2008年にかけて減少傾向にあるものの、白人入所者よりも黒人入所者で高率の状態が続いていることが明らかになった。米国・アイオア大学一般総合内科のYue Li氏らが、米国内の約1万2,500ヵ所のナーシングホームと、その入所者約250万人について観察研究を行った結果によるもので、JAMA誌2011年7月13日号で発表した。ステージ2以上の褥瘡罹患率、黒人が白人より約5ポイント高率研究グループは、2003~2008年にかけて、米国内1万2,4730ヵ所のナーシングホームに入所する、白人入所者210万人と黒人入所者34万6,808人を対象に、ステージ2~4の褥瘡罹患率について調査を行った。人種間格差が施設間や施設内でないか、罹患率の割合が調べられた。結果、2003年時点の補正前褥瘡罹患率は白人入所者では11.4%(95%信頼区間:11.3~11.5)だったのに対し、黒人入所者では16.8%(同:16.6~17.0)と高率だった。また2008年時点では、白人入所者は9.6%(同:9.5~9.7)だったのに対し、黒人入所者では14.6%(同:14.4~14.8)で、全体的には減っていたが黒人入所者の割合は依然として高かった。2003年の補正前同率の人種間格差は5.4ポイント、2008年は同5.0ポイントだった(傾向に関するp>0.05)。黒人入所者比率の高い施設で、人種を問わず褥瘡リスクが高い黒人入所者比率が35%以上の施設についてみたところ、2008年のステージ2~4の黒人入所者の補正前褥瘡罹患率は15.5%(95%信頼区間:15.2~15.8)であり、この値は、黒人入所者比率が5%未満の施設の同11.8%(同:10.9~12.7)に比べ高く、補正後オッズ比は1.59(同:1.52~1.67)だった。また黒人入所者比率35%以上の施設では、白人入居者の補正前褥瘡罹患率も12.1%(同:11.8~12.4)と、黒人入所者比率5%未満施設の同8.8%(同:8.7~8.9)と比べて高く、補正後オッズ比は、1.33(同:1.26~1.40)だった。研究グループは、褥瘡罹患率の人種間格差の原因の一部は施設にあるようだ、としている。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

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准教授 高橋 寛先生の答え

クリニックレベルでできる診察のポイントや紹介時の注意点など先生の記事大変勉強になりました。特に「主訴だけで判断すると危険です。他院で診断を受け、紹介状を持って来院する患者に関しては、その診断結果を鵜呑みにしないよう心掛けています。「単に腰痛 だから整形外科」と安易な診断を受けている方も多いのですが、よく診察してみると、婦人科、循環器系の病気であることが結構あります。」というくだりはハットしました。私の病院も腰痛患者を大きな病院へ紹介することが多々あります。精密な検査はできないまでも、クリニックレベルでできる診察のポイントや紹介時の注意点などがあれば是非教えて頂きたいと思います。宜しくお願いします。とにかく触診することです。60歳以上の方で、糖尿病、高血圧の方は多数おられます。下肢痛がひどい方の場合、血流障害があれば、下肢の皮膚温が低下しています。また必ず足背動脈の拍動はチェックすべきです。下肢の疼痛、しびれに関して、血流障害と腰椎病変が両方関与していることもままあります。手術をしたのち、残存した症状が血流障害の可能性もあります。私は何度も痛い目に遭っています。例えば76歳男性,糖尿病、高血圧の治療中の方でした。ABI正常値、足背動脈も蝕知可能、MRIではL5/Sの狭窄あり、S1神経根ブロックは有効でしたので内視鏡下手術を行いました。術後短期間は症状改善したようですが、下肢のしびれが再燃し、下肢の造影CTを行った所、立派なASOでした。術前に糖尿病科の医師に血流障害について質問したところ大丈夫と言われて鵜呑みにした結果です。最近では糖尿病、透析患者にはABIに加えTBIも検査しています。超音波骨折治療法について貴院は超音波骨折治療法の実施施設とのことですが、症例数と成績を教えていただけないでしょうか?また、この治療法は使える範囲が決まっていますが、仮にその範囲制限を考えなかった場合、範囲外の症例にも活用できそうなのでしょうか?症例数は把握しておりませんが多数行っております。成績は明らかに有効だと思います。制限が無ければ、新鮮骨折、骨切り手術、骨移植術などに対しての適応があれば良いと思います。(ヤンキース時代、松井選手が橈骨遠位端骨折に対してやってましたよね?)東邦での研修の改善ポイントについて東邦大学での研修についてお聞きします。当然良いところばかりではなく、改善する必要があることも多いと思います。高橋先生が感じる、ここは改善しなければ、と思っていらっしゃることがありましたら教えてもらいたいです。あくまで整形外科の事ですが、もっとじっくりと研修医相手に系統立てた講義をする時間を作るべきだと思います。これは研修医の先生へのお願いです。我々も人間です。興味を持ってぶつかってきてくれる人には、何でも見せるし、頑張ってお付き合いします。後期研修について現在、市中病院で研修している卒後1年目の者です。後期研修は大学でと思っております。東邦大学さんの雰囲気のよさが大変分かり参考になりました。ただ、よその大学出身でも、東邦大出身の先生と同じように扱っていただけるのでしょうか?また、現在東邦さんにいる後期研修医の中に他大学出身の先生は何割くらいいらっしゃるのでしょうか?差し支えなければ教えていただけると幸いです。正確な数は把握していないのでお答えできません。しかしながら東邦大学は、他大学の出身だからといって差別はしておりません。同等に扱っているはずです。私の部下にも他大学出身の医師がおりますが、脊椎外科の研修中であり、近日中に指導医を取得する予定です。他科にも他大学から入局し、講師以上になられている先生も多々おります。ストレスが腰痛につながるケースについて研修医なので質問が拙いかも知れませんが許して下さい。先生の記事の中にストレスが腰痛につながるケースがあるとありましたが、その症例を見分けるポイントはあるのでしょうか?ご教示宜しくお願いします。例えば、腰椎椎間板ヘルニア疑いの患者の場合です。通常はSLRテストをベッド上で行うはずです。これを疑わしい場合には、患者が座った状態で、膝関節を徐々に何気なく持ち上げます。すると本当にヘルニアの患者であれば体をのけぞらせます。これをflip testと言います。心理テストを行う事もあります。診察所見をとり、患者と話をし、画像所見と一致すれば問題ありませんが、違和感を感じた場合には医者同士で相談するのも1つの手でしょう。奇形性脱臼について出生時にすでに完全に脱臼している、奇形性脱臼についてうかがいます。治療が困難な症例だと思いますが、先端の臨床研究では何かしら研究は進んでいるのでしょうか?またこのような患者の場合、人工関節を入れることが可能なのでしょうか?身近に聞ける医師がいないため、お聞きしたいと考えました。宜しくお願いします。ごめんなさい、先天性脱臼の研究については門外漢です。しかしながら、股関節脱臼、膝蓋骨脱臼、膝関節脱臼例の経験は当科でありますが、人工関節を入れていますよ。カイロプラクティックについて腰痛は専門外なので、素人質問になって恐縮です。小さな医院で内科をやっている町医者です。腰痛持ちの患者さんから、病院で診てもらうのが良いのか?カイロプラクティックに通うのが良いのか?と質問を受けることが多々あります。もちろん病院で診察してもらうことを進めるのですが、近所に、米政府の公認の「Doctor of Chiropractic」という資格を持っているカイロプラクティック師がいるらしく、整形外科医よりもそちらの方が専門的なのでは?と聞かれ、答えに困っています。何か明確に説得する方法はないものでしょうか?ご教示お願いします。私が留学した12年前にも、アメリカでも民間療法については問題視されておりました。単なる腰痛であれば、マッサージによって局所の血流が改善したり、筋緊張が緩和されて良いこともあります。しかしながら高齢者で骨粗鬆症がある場合、外傷が無くても脊椎圧迫骨折を来すことはままあります。脊柱の変形を力任せに引っ張っても矯正できるものではありません。よく骨盤牽引をすると、椎間板腔が拡がったり、脊柱の側弯が矯正されると勘違いされている患者さんもおられます。あくまで牽引は、筋緊張を和らげるために行っているものです。整形外科をやっておりますと、民間療法に行った後、症状がかえって悪くなり、受診される方を見受けます。私たち、整形外科で完全に痛みが取れないため民間療法に行く方もおられるでしょうが、少なくとも一度は整形外科を受診し、病態、骨質等を診察、評価されることをすすめます。やさしい手術について記事拝見しました。常に新しいものを取り入れようとしているお姿感服いたします。先生が駆け出しのころと、今とで一番変わった手術、術式を挙げるとしたら何があるでしょうか?できれば患者にとって最もやさしくなった手術を知りたいです。小生、とある田舎で老人相手にクリニックやっております。腰痛患者は総合病院におくりますが、高齢の方は大きい病院に行きなさいと言うと、怖がってなかなか行きません。「●●手術は、昔はこんなに大変だったけど、今は●●することで簡単になったんだよ。だからあなたの場合もよくなるよ、安心して大きい病院で診てもらいなさい。」と言って元気付けて不安を取り除きたいと考えております。宜しくお願いします。腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症に対する手術だと思います。内視鏡を用いた方法ですと通常、翌日には離床できます。また最近、全国的に普及している棘突起縦割式の除圧術も術後疼痛が少なく、術後2,3日で離床が可能です。とにかく私が医師になった20年以上前には術後2週間の安静は普通でした。高齢の方は臥床期間が長いと、誤嚥性肺炎、褥瘡、認知症、筋力低下など様々な合併症を生じます。なるべく痛みの少ない手術を高齢者にはする事が肝心です。また最近固定術もMIS(Minimally invasive surgery)といってなるべく侵襲の少ない方法を様々検討しております。早ければこれも翌日離床可能です。私どもも、どの方法が優れているか、現在検証中です。先天的?な脊柱管の形態画像診断をしている放射線科医です。「腰痛精査」といった依頼で、腰椎 MRI を読影することが多いです。画像所見そのものにはあまり意味はないと考え、依頼内容に関連する所見を中心にレポートに列挙し、「症状に合うものを選んでください」とという気持ちでいます。ところで質問なのですが、脊柱管の狭さ、という観点から見ると、椎間板や黄色靭帯などと並んで、 先天的?な脊柱管の形態も重要に思えます。椎弓根が短いというだけでなく、左右椎弓板のなす角度が狭いこともよく経験されます。自分なりに調べたのですが、あまり系統立てて検討した報告やコンセンサスのようなものを見つけることができませんでした。何か良い資料などがありましたら教えていただけないでしょうか。よろしくお願い申し上げます。(あまり重要なことでない、普通の教科書に載っている常識である、かもしれません。そうでしたらすいません。)先生のおっしゃる通りです。脊柱管が狭くても症状がない場合は治療の対象外であり、あくまで画像所見に見合った症状、症状に見合った画像所見があるかどうか整形外科医は判断すべきです。脊柱管狭窄症の分類には先天性(発育性脊柱管狭窄症)があります。古くはVerbiestの文献が有名です。J Bone Joint Surg36B 230-2371954,Orthop 、Clin North Am 6 : 177-196 1975などでしょうか?欧米人と、東洋人の我々ではかなり脊柱のアライメント、形態は異なります。そもそも脊柱管狭窄症自体が少ないと思います。日本人の正常例を報告した文献はあると思います。アメリカでは日本と異なりなかなか画像検査にも制限があります。今後先生が多数の症例から日本人の年代毎の形態評価など行い、発表されれば高く評価されるはずです。腰椎の形成術についてお世話になります。腰椎が潰れて歩行障害を生じている人に、椎体部分にプラスチックのようなものを入れ椎体を形成し、腰痛を緩和する手術があると聞きました。聖路加病院でやっているようですが、私は熊本ですが、地方でも一般的に普及してきている手術でしょうか?治療を希望している患者がいますのでお教えいただければ幸いです。経皮的椎体形成術は1984年にフランスで血管腫に対して初めて行われた術式ですが、近年、脊椎圧迫骨折に対しても行われています。椎体形成術には、骨セメント(PMMA),リン酸カルシウム骨セメント(CPC),自家骨、ハイドロキシアパタイトを用いた方法があります。骨セメントを用いた方法は、短時間で固まり、即効性があるため普及していますが、その一方、骨セメントの脊柱管内への漏出、固まる際に発生する熱、静脈塞栓等様々な問題点も抱えております。したがってもし放射線科医が行うのであれば、脊椎外科医と緊密な連携をとっている施設で行うべきでしょう。私どもの施設に、骨セメントを用いた椎体形成術後に馬尾障害を生じた患者が緊急搬送されてきた事もあります。どんな方法も、利点、欠点はあります。患者が納得できるように説明できる医師がぃる施設をお探しになるのが良いと思います。総括若い人には未来があります。是非、高い所を目指して頑張って下さい。頑張れば必ず周りが評価します。評価されれば余計に頑張りたくなります。また整形外科に興味のある方、是非、当科も選択肢の1つとして下さい。准教授 高橋 寛先生「人と交わり、先端を目指せ!-ある整形外科医の挑戦-」

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鳥谷部俊一先生の答え

ラップ療法の患者家族への説明方法患者さんを自宅で介護している家族の方へ、ラップがガーゼよりも有効である旨を説明するときに上手く伝える方法はあるのでしょうか?また先生のご経験で、このように伝えると上手くいく。というノウハウがございましたら是非教えて頂きたいと考えております。宜しくお願いします。このような場合は、モイスキンパッドをお勧めします。「ガーゼの替わりにバンドエイド、キズパワーパッドを貼るのが時代の先端。治りも早く、痛くない。モイスキンパッドをよく見てください、巨大なバンドエイドですよ」。こんなふうに説明してください。モイスキンパッドで良くなってきたら、床ずれパッドを見せて、「そっくりでしょ。しかも安いんです」とお話しましょう。アトピー性皮膚炎のラップ療法アトピー性皮膚炎でもラップ療法が有効であるとか有効でないとか、賛否両論のようですが、先生はどのようにお考えでしょうか?また、有効である場合に、どのような点に気をつければ宜しいでしょうか?ご教示宜しくお願いします。ラップ療法は、床ずれの治療法です。「アトピー性皮膚炎にドレッシング療法が有効か」という質問にお答えできる立場ではありません。アトピー性皮膚炎に対するドレッシング療法の可能性の問題は興味深く、論議が深まることを期待します。モイスキンパッドはじめまして。日々、「皮膚・排泄ケア認定看護師」とともに床ずれの診療をさせていただいている一皮膚科医です。以前、形成外科の先生が手作りで、「モイスキンパッド」と同様なものを使用されていました。「皮膚・排泄ケア認定看護師」は、あまりいい顔をしていませんでした。実際、ある程度褥瘡は改善するものの、その周囲にかぶれを起こしたり、体部白癬に罹患する患者さんが後を立ちませんでした。結局、ラップ療法を中止することとなりました。これについて、先生はどのようにお考えになりますか?どのようにすれば、こうした皮膚トラブルを避けられますか?改善点はありますでしょうか?ご教示いただけるとありがたいと思います。ご質問ありがとうございます。いろいろ工夫してラップ療法を試みたことに敬服します。ラップ療法や、モイスキンパッド処置では、抗真菌剤を塗布して真菌症を簡単に治療することができます。2000年の医師会雑誌に書いたラップ療法の論文では、合併した「カンジダ症2例を抗真菌剤で治療した」と明記しております。夏など暑い季節には、予防的に抗真菌剤を塗ります。クリーム類がお勧めです。ラップ療法や、モイスキンパッド処置ではドレッシングを絆創膏で固定しないで毎日交換するので、外用薬を毎日塗るのが容易です。真菌は湿潤環境で増殖しますので、吸水力の高いモイスキンパッドを使って皮膚を乾燥させることをお勧めします。手作り「モイスキンパッド」の吸水力についてはデータがありませんのでコメントできません。既成のドレッシングや軟膏ガーゼの治療の場合も真菌感染を生ずるのですが、なぜか話題になることが少ないようです。高齢者の足をみると、ほとんどの方の爪が白く濁って変形しております。白癬症です。爪白癬がある人をよく観察すると、全身に角化した皮疹が見られます。掻痒感があれば、爪で引っかいた痕跡や、体を捩って背中を擦り付ける動作があるでしょう。足ユビ、足底、足背、下腿、膝、臀部、背部、後頭部、手、上肢などをよく調べれば、白癬菌が検出されます。皮膚を湿潤環境にすると、真菌類(カンジダ、白癬)が増殖しやすくなります。抗真菌外用薬(クリーム)を積極的に使用して治療します。基礎疾患が重篤な場合は?現場の知恵を洗練していく先生に敬意を持っております。通常の免疫能がある患者さんにおいては、水道水による洗浄と湿潤環境で軽快するというのはわかりますが、がん治療に伴い免疫不全状態にある患者さん、糖尿病のコントロールがうまくなくこれも免疫不全のある患者さん等、表在の細菌、真菌に弱いと考えられる患者さんにも同様に適応し、効果を期待できるのでしょうか。こうした患者さんにはある程度の消毒なり軟膏治療が必要になるのではないでしょうか。困難な症例に取り組むご様子に敬服します。基礎疾患が重篤な症例に対するラップ療法の有効性は確立しておりません。よって、このような症例には、「ガイドライン」に従った治療をするのが安全であると考えます。ただし、「こうした患者さんに消毒・軟膏治療が有効である」というエビデンスが無いのが現状です。また、「基礎疾患が重篤な患者にこそ、消毒や軟膏による有害事象が生じ易いのではないか」という観点からの検討も必要です。床ずれに対するラップ療法の治癒の機序床ずれはもともと血流障害ですが、これがラップ療法で治癒する機序は何でしょうか。創傷治療の本質に迫るご質問、ありがとうございます。既存の軟膏ガーゼ処置は、「厚い小さなドレッシング」が外力(圧力/ずれ力)を床ずれに加えるため、血流障害をおこして治癒を遷延させます。ラップ療法は、「薄い大きななドレッシング」が外力(圧力/ずれ力)を打ち消すことにより、血流を改善して治癒を促進する湿潤療法です。床ずれの原因は、「外力による血流障害」です。一方、下腿潰瘍などの末梢動脈疾患(PAD)は、「外力によらない血流障害」です。床ずれは、外力(圧力/ずれ力)を取り去ることにより血流が改善して治癒に向かいます。例えば、仙骨部の床ずれは、「腹臥位」で圧迫を防ぐことにより治癒した、という報告があります。要するに、「圧迫さえ無ければ床ずれは普通の切り傷と同じような治り方をする」ということです。圧迫を減らすための工夫が、体圧分散マットレス、体位変換、ポジショニングなどです。ラップ療法は、外力を分散するドレッシング療法・湿潤療法です。感染がある 虚血がある感染症があれば、抗菌作用のパスタ剤や、感受性のある抗菌軟膏やソフラチュールなどは一定期間必要じゃないでしょうか。血流を高めるPG剤も必要では。また、化学的デブリードメントにあたるプロメラインなども必要ではないでしょうか。ラップ療法を実践している医療者の多くは、感染症は抗生剤全身投与で、血流改善は(必要に応じて)PG剤全身投与で治療しております。デブリードメントは、外科的デブリードメントと湿潤療法による自己融解を行なっており、化学的デブリードメント剤は使っておりません。「学会ガイドライン」を参照したところ、ご指摘の外用剤はガーゼとの組み合わせでエビデンスが証明されているようですが、ラップ療法やモイスキンパッドとの組み合わせによるエビデンスはございません。今後、エビデンスが集積されてから併用されることをお勧めします。ラップで治療困難な症例の判別皮膚所見をみた当初から、外科治療、皮弁手術が必要かどうかは、判別可能でしょうか。ある程度ラップしたあとで、考慮するのでしょうか。もちろん他の疾患の管理をし栄養、感染など評価をした場合として。ラップ療法は床ずれの保存療法です。外科治療、皮弁手術を考慮される場合は、「学会ガイドライン」に従った治療をお勧めします。2010年の日本褥瘡学会での議論を拝見した限りでは、外科治療、皮弁手術の適応症例は減っているようでした。感染症に対して抗生剤と抗真菌薬の外用と全身投与について感染症には抗生剤の全身投与は理解できるのですが、表在真菌感染症に抗真菌薬の外用が効くのはどうしてでしょうか?抗生剤の外用はなぜ不適切なのでしょうか?ご教授よろしくお願いします。一部の領域(皮膚科、耳鼻科、歯科など)を除き、細菌感染症の治療は抗生剤全身投与が標準治療です。創感染に対する抗生剤外用は、耐性菌誘発リスクなどの理由から、CDCガイドラインなどは推奨しておりません、「学会ガイドライン」にも推奨の記載が見当たりません。表在真菌感染症は、表皮が感染の舞台なので、抗真菌外用剤がよく効きます。抗生剤の外用は無効です。細菌感染の舞台は真皮や皮下組織、あるいはさらに深部の組織です。閉鎖療法の場合は、創を閉鎖して組織間液が深部組織に逆流する結果抗菌薬が感染部位に到達すると想像されますが、ラップ療法・開放性湿潤療法では、創を開放するので組織間液の逆流は起きず、抗菌剤は感染部位に到達しないと考えます。全身投与された抗生物質は、血流を通じて感染部位に到達します。糖尿病性神経症、ASO合併の下肢壊疽80歳、女性、糖尿病で血液透析の患者です。3年前 右足趾を壊疽で切断。今回は左下足に足趾を中心に踵まで、壊疽、深い、汚染の褥瘡様潰瘍があります、悪臭がします。切断は拒否しています。ラップ療法は有効でしょうか?ラップ療法は、床ずれの治療法です。よって、この症例はラップ療法の適応外です。PADのガイドラインに従った治療をお勧めします。血管治療、デブリドマン後のドレッシング材としてモイスキンパッドが有効であったとの報告があります。このような処置は、ラップ療法とではなく、ドレッシング療法、湿潤療法と呼称すべきです。病院皮膚科形成外科との調整病院内科勤務医です。当院では褥瘡ケアは皮膚科の褥瘡ケアチームが回診しています。形成外科は陰圧吸引療法の高価な機械を使いますが患者の一部費用負担はあるものの病院としては赤字になるようです。どのようにして病院全体の褥瘡ケアを統一改善していったらよいでしょうか。アドバイスをお願い申し上げます。かつて同様の立場にあった内科医として、同情申し上げます。1999年に日本褥瘡学会でラップ療法の発表をして12年になりますが、2009年の学会シンポジウムで「ラップ療法と学会ガイドラインは並立する」と(私が)宣言したことが、「在宅のラップ療法を条件付で容認する」という2010年の学会理事会見解につながったようです。「褥瘡ケアの統一」は、学会ガイドラインで統一するか、ラップ療法で統一するかの選択問題ですが、未だ結論が出ておりません。より多くの方がラップ療法を支持するようになれば、学会がラップ療法を受容する日がいずれ来るでしょう。皆様のお働きを期待申し上げます。総括医学の歴史を紐解くと、新しい考え方が「専門領域の侵害」と受け止められ、いろいろな形で抵抗を受けてきたことが分かります。ゼンメルヴァイスの「消毒法」が医学界で受け入れられたのは、ゼンメルワイスの死後のことです。ラップ療法はインターネットの時代に遭遇して、学会よりも一般社会で先に普及しました。情報化社会では、権威者よりも一般社会が先に一次情報を入手することができます。そうした中にあって、情報の真贋を見抜く力(情報リテラシー)が必要であり、そうした能力が専門家と呼ばれる人々に求められております。MediTalkingという場でラップ療法の議論が深められたのはこうした時代の反映であり、有意義なものと考えます。顧問 鳥谷部俊一先生「床ずれの「ラップ療法」は高齢者医療の救世主!」

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鳥谷部俊一先生 [追加記事] 床ずれの「ラップ療法」は高齢者医療の救世主!

1979年東北大学医学部卒業。東北大学医学部第二内科、鹿島台町国民健康保険病院内科、慈泉会相澤病院 統括医長、至高会たかせクリニック 顧問を経て、現職に至る。床ずれ治療「ラップ療法」の創案者。追加記事掲載について形成外科専門医の方から「ラップ療法」の危険性について指摘いただきました。<指摘内容>閉鎖療法は簡便なので、医療従事者が取り掛かりやすい。しかし創傷に精通したものでないと症状を悪化させる場合がある。傷の中には感染を伴っている状態のものがあり、これにラップ療法を行ったため、細菌が中で繁殖し、敗血症に陥った例がある。この点に関して、鳥谷部先生からのコメントを追加記事として掲載いたします。鳥谷部先生からのコメント「2010年に、『いわゆる「ラップ療法」に関する日本褥瘡学会理事会見解』が発表されました。http://www.jspu.org/jpn/info/pdf/20100303.pdf『褥瘡の治療にあたっては医療用として認可された創傷被覆材の使用が望ましい。非医療用材料を用いた、いわゆる「ラップ療法」は、医療用として認可された創傷被覆材の継続使用が困難な在宅などの療養環境において使用することを考慮してもよい。ただし、褥瘡の治療について十分な知識と経験を持った医師の責任のもとで、患者・家族に十分な説明をして同意を得たうえで実施すべきである。』2011年、ラップ療法(食品用ラップまたは穴あきプラスチックフィルムを貼付する処置と標準治療(学会ガイドラインに準拠した処置)を比較したランダム化比較研究が行われ、両群の治療成績が同等であるとの結果が学会誌に発表されました*1。この結果をうけ、近く改訂される日本褥瘡学会ガイドラインでは、「"いわゆる"ラップ療法(食品用ラップや穴あきプラスチックフィルムを貼付する処置)」が推奨度C1の処置法として掲載される見通しです。学会ガイドライン検討委員会は、ラップ療法のリスクが高いことを考慮して「十分な知識と経験を持った医師の責任のもとで、患者・家族に十分な説明をして同意を得たうえで実施すべきである」との文言を付け加えたようですが、それならばむしろ「医師の目の届きにくい在宅などではなく、病院に入院している患者に限定して行い、入院患者の治療に習熟した医師が在宅患者を治療すべきである」とするべきでしょう。そもそもラップ療法のランダム化試験は大部分が入院患者を対象にした臨床研究です。そのエビデンスを入院患者ではなくあえて在宅患者に限定適用しガイドラインに書き込んだのは、諸般の事情があったのでしょうか。筆者が日本医師会雑誌(2000年)に発表したラップ療法を追試した方々の多くは、それまでの外用剤とガーゼによる処置法で苦労を重ね、創感染治療に習熟した医師たちでした。最初の何例かは慎重を期して入院管理下で行い、医師自ら毎日処置を行いました。創感染など合併症の管理は当然のことでしたが、それでも従来の治療法よりは比較的容易に対処できたと伝え聞いています。ラップ療法が普及するに従い、従来の治療経験なくして最初からラップ療法を行う医師あるいは非医師があらわれたのでしょうか。ラップ療法(ラップや穴あきポリエチレンを貼付)は、素人目には「簡単な治療」に見えるため、ややもすると安易に行われ、医師の目の届かないところで行われているうちに重症感染を併発し、対応が遅れて敗血症のため亡くなった事例があったのではないかと危惧しております。ラップ療法の臨床研究によると、ラップ療法が他の治療法に比べて特別に創感染を起こしやすいという傾向は認められなかったそうです*1。創感染については筆者は以下のように対応していますので参考にしてください。『褥瘡周囲の熱感,浮腫,滲出液増加,疼痛,発熱,白血球増多,CRP上昇を認めた場合は,感染あるいは持続感染と考え,第一,第二世代のセフェム系あるいは合成ペニシリン系抗生剤,マクロライド,アミノグリコシドなどを全身投与する.創面を細菌培養すると,創感染の有無にかかわらず,大腸菌,黄色ブドウ球菌,緑膿菌が検出される.創面より培養された菌の多くは耐性菌で前述の抗生剤は無効と思われるのだが,実際のところ感染兆候は消失し創所見は改善する.感染終息後に細菌培養をすると,これらの耐性菌が検出される.すなわち,創の表面にいる菌は創感染とは無関係であり,起炎菌は創の深部に存在し,その多くは耐性菌ではないのだろう.褥瘡を有する患者が肺炎や尿路感染を起こすと,創感染がなくても創の状態が悪化(浮腫,滲出液の増加,肉芽壊死)することが多い.発熱時は全身状態を評価し,感染を疑った場合は積極的に抗生剤を全身投与して治療してほしい.』褥瘡の治療は、ラップ療法であれ、学会標準治療であれ、いずれの場合でも創傷治療に経験のある医師が十分な注意を払って行うべきものです。褥瘡治療の経験に乏しい医師は、入院患者を対象に、感染のない浅い褥瘡を医療用ドレッシング(モイスキンパッド・白十字)で治療し、経験を積んでください。3度の褥瘡に対しては早期のデブリードマンを行って創感染を未然に防いでください。感染の兆候(発熱、熱感、腫脹、疼痛、膿性浸出液)を認めたら、早期に抗生物質を全身投与して感染の進展を防ぎましょう。感染が深部に及ぶ症例、骨壊死を伴う症例、閉塞性動脈症を伴う足病変は、しかるべき専門医のいる病院に入院させて治療してください。以上の事例に習熟してから、ラップや穴あきポリエチレンを貼付する「"いわゆる"ラップ療法」に挑戦したり、在宅患者の治療をしていただきたい。褥瘡を発症するような患者はもともと重篤な基礎疾患を合併しており、一旦感染が重症化すると敗血症のため亡くなる可能性が高いのはご承知のことと存じます。患者・家族には、褥瘡がしばしば致死的な疾患であることを十分に説明し、同意を得たうえで治療してください。筆者は2002年以来同意書書式例を公開しておりますので、ぜひ活用してください。*1 文献:水原章浩,尾藤誠司,大西山大 ほか:ラップ療法の治療効果~ガイドラインによる標準法との比較検討.褥瘡会誌, 13:134-141,2011. 褥瘡の予防・治療に関する説明書(例)褥瘡(じょくそう)・床ずれとは、ふとんに接触している皮膚が、すれや圧迫によって血のめぐりが悪くなってできる傷です。自力で寝返りを打てない状態になると、一定の部位に力が加わり続け、皮膚には血液が流れなくなり壊死が生じます。これが褥瘡です。○○○病院では褥瘡対策委員会をつくり、病院内のみならず地域での褥瘡の予防と治療および研究に取り組んでいます。最近褥瘡の研究が進み、次のようなことがわかってきました。圧力を分散させるエアマットレスや体位変換などによって褥瘡の発生を減らすことができるが、最大限の努力をしても患者の全身状態が悪ければ発生を免れない。病院を受診する前にできかかっていた褥瘡が受診または入院後に完成して、あたかも受診後(入院後)にできたように見える経過をたどる例がある。褥瘡の治療法はこの数年間で大きく進歩したが、患者の全身状態が悪ければ必ずしも治らない。褥瘡の治療法はいまだ発展途上である。○○○病院では褥瘡の患者さまにラップ療法を実施しております。(鳥谷部俊一,末丸修三:食品包装用フィルムを用いるⅢ-Ⅳ度褥瘡治療の試み,日本医師会雑誌2000;123(10):1605-1611.水原章浩,尾藤誠司,大西山大 ほか:ラップ療法の治療効果~ガイドラインによる標準法との比較検討.褥瘡会誌, 13:134-141,2011.)ラップ療法は、日本褥瘡学会ガイドライン(次回改訂)に掲載が予定されており、すでに多くの施設で実施されておりますが、非医療材料(食品用ラップや穴あきプラスチックフィルム)を用いますので患者さま(ご家族)の同意が必要です。同意をいただけない場合は厚生労働省の承認をうけた医療材料を用いた方法で治療します。また安全性と有効性を確認するための検査、記録をしております。許可いただければ結果を外部に発表させていただきます。発表に際して、個人のプライバシーは十分に保護されるよう配慮されます。どのようなかたちで発表されるかについては、担当医または院長にお尋ねください。発表にご協力いただけるかどうかは全く自由です。同意いただいた後の撤回もいつでも可能です。また、ご協力いただけなくてもあなたの診療に不利益を生ずることはありません。日付   年   月   日○○○病院 院長私は、褥瘡の予防治療に関し口頭及び文書を用いて説明を受け、その内容を十分理解いたしました。本人  氏  名生年月日代理人 氏名 続柄説明者 職名 氏名ラップ療法を実施することについての同意書検査結果、記録などの学術発表についての同意書私は、褥瘡の治療にラップ療法を実施することについて、および○○○病院における診療で得られた検査結果、記録(写真を含む)の学術発表への利用について、口頭及び文書を用いて説明を受け、その内容を十分理解いたしました。私は、次のように判断いたします。私の褥瘡の治療においてラップ療法をおこなうことに、1 同意します。2 同意しません。診療後、検査結果、記録(写真を含む)の学術発表への利用について、1 同意します。2 同意しません。日付   年   月   日○○○病院 院長-------------------------------------※本記事は、追加記事です。ページ下部にある[質問と回答を見る]をクリックすると、前回と同じ「質問と回答ページ」が表示されます。予めご了承ください。質問と回答を公開中!

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アメリカ医療研究品質機構のノウハウを活用して患者安全指標はつくれそうだ

患者安全は国際的な問題だが、その指標づくりは容易ではない。アメリカには、医療研究品質機構(AHRQ:Agency for Healthcare Research and Quality:http://www.ahrq.gov/)が病院診療データを基に開発した患者安全の指標があり、数ヵ国がその指標を自国の患者安全指標づくりに活用しているがイギリスでも活用できないか。Healthcare Commission(ロンドン)のVeena S Raleigh氏らが、29あるAHRQの指標のうち9つについて症例対照試験を行い有用性を検証した。BMJ誌2008年11月22日号(オンライン版2008年10月17日号)掲載より。「病院エピソード統計」から症例群、対照群を引き出し入院期間、死亡率を比較試験はAHRQの9つの指標で、イギリスの全NHS(国民医療保健サービス)トラストを対象とする「病院エピソード統計」(2003-2004、2004-2005、2005-2006)から患者安全の指標、有害転帰の指標を引き出せるか検証された。9つの指針は、「死亡率が低い疾患医療での死亡数」「医原性気胸」「褥瘡」「医療処置が必要となった待機感染症」「術後股関節骨折」「術後敗血症」、および産科的外傷についての3指針(後産期分娩時器具あり・なし、帝王切開時)。指標を経験していると判定された患者症例群と、対照照合症例群(2005-2006データから、年齢、性、同一医療サービス受療群、主要専門科目、NHSトラストで照合)との入院期間、死亡率を比較し、アメリカのデータ(2000年版)との比較も行われた。コーディング、制度、サービス供給パターンの違いはなお考慮すべき入院期間は、1指標(帝王切開時の外傷)を除き、対照群よりも症例群のほうが長かった(各指標値:0.2~17.1日、P

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