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1 疾患概要■ 概念・定義特発性血小板減少性紫斑病(ITP:idiopathic thrombocytopenic purpura)は、厚生労働省の特定疾患治療研究事業対象疾患(特定疾患)に認定されている疾患であり、他の基礎疾患や薬剤などの原因がなく、血小板の破壊が亢進し減少する後天性の自己免疫疾患と考えられている。欧米では本疾患に対し、免疫性(immune)あるいは自己免疫性(autoimmune)という表現が用いられており、わが国においても本疾患の病名を免疫性血小板減少症(ITP:immune thrombocytopenia)へと改定する予定である。血小板が減少していても、必ずしも出血症状を伴うわけではないことが“purpura”を削除した理由であり、この考え方は本疾患の治療戦略とも密接に関連する。■ 疫学わが国におけるITPの有病者数は約2万人で、年間発症率は人口10万人当たり約2.16人と推計される。つまり年間約3,000人が新規に発症している計算になる。最近の調査では、慢性ITPの好発年齢として20~40代の若年女性に加え、60~80代でのピークが認められるようになってきている。高齢者の発症に男女比の差はない。急性ITPは5歳以下の発症が圧倒的である。■ 病因ITPの病因はいまだ不明な点が多いが、その主たる病態は血小板の破壊亢進である。ITPでは血小板膜GPIIb-IIIaやGPIb-IXなどに対する自己抗体が産生され、それらに感作された血小板は早期に脾臓を中心とした網内系においてマクロファージのFc受容体を介して捕捉され、破壊されて血小板減少を来す。これらの自己抗体は主として脾臓で産生されており、脾臓は主要な血小板抗体の産生部位であるとともに、血小板の破壊部位でもある。さらに最近では、ITPにおける抗血小板自己抗体は巨核球の分化・成熟にも障害を与え、血小板産生も正常コントロールと比べ減少していることが示されている。■ 症状症状は皮下出血、歯肉出血、鼻出血、性器出血など皮膚粘膜出血が主症状である。血小板数が1万/μL未満になると血尿、消化管出血、吐血、網膜出血を認めることもある。口腔内に高度の粘膜出血を認める場合は、消化管出血や頭蓋内出血を来す危険があり、早急な対応が必要である。血友病など凝固因子欠損症では関節内出血や筋肉内出血を生じるが、ITPでは通常、これらの深部出血は認めない。■ 分類ITPはその発症様式と経過より、急性型と慢性型に分類され、6ヵ月以内に自然寛解する病型は急性型、それ以後も血小板減少が持続する病型は慢性型と分類される。急性型は小児に多くみられ、ウイルス感染を主とする先行感染を伴うことが多い。一方、慢性型は成人に多い。しかしながら、発症時に急性型か慢性型かを区別することはきわめて困難である。最近では、12ヵ月経過したものを慢性型とする意見もある。■ 予後ITPでは、血小板数が3万/μL以上の場合、死亡率は正常コントロールと同じであり、予後は比較的良好と考えられている。しかし、3万/μL以下だと出血や感染症が多くなり、死亡率が約4倍に増加すると報告されている。この成績より、血小板数3万/μL以上を維持することが治療目標となっている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)ITPの診断に関しては、いまだに他の疾患の除外診断が主体であり、薬剤性やC型肝炎など血小板減少を来す他の疾患を鑑別しなければならない。とくに血小板数が3~5万/μL以下の症例で無症状の場合や検査コメントに血小板凝集(+)と記載されている場合は、末血用スピッツ内のEDTAにより誘導される「見かけ上」の血小板減少(EDTA依存性偽性血小板減少症)を除外すべきである(治療の必要なし)。ITPと同様に免疫学的機序で血小板が減少する二次的ITPとして、全身性エリテマトーデスなどの膠原病やリンパ系腫瘍、ウイルス肝炎、HIV感染などが挙げられる。詳しい病歴の聴取や身体所見、時には骨髄穿刺により先天性血小板減少症や薬剤性血小板減少症、さらには血小板産生障害に起因する骨髄異形成症候群や再生不良性貧血などの鑑別を行う。骨髄検査において典型的ITPでは、幼若な巨核球が目立つが巨核球数は正常あるいは増加しており、その他はとくに異常を認めない。PAIgG(Platelet-associated IgG:血小板関連IgG)は2006年に保険収載されたが、PAIgGは血小板に結合した(あるいは付着した)非特異的なIgGも測定するため、再生不良性貧血などの血小板減少時にも高値になることがあり、その診断的意義は少ない。2023年に血漿トロンボポエチン濃度と幼若血小板比率(IPF%)を組み込んだ新たなITPの診断基準が公表されている。一方、これらのバイオマーカーの測定は現時点で保険適用外であり、その保険収載が急務の課題である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ ITPにおける治療目標ITPの治療目標は血小板数を正常化させることではなく、危険な出血を予防することである。具体的には血小板3万/μL以上かつ出血症状が無い状態にすることが当面の治療目標となる。「成人ITP治療の参照ガイド2019改訂版」では、初診時血小板が3万/μL以上あり出血傾向を認めない場合は、無治療での経過観察としている。血小板数を正常に維持するために高用量の副腎皮質ステロイドを長期に使用すべきではないとの立場である。図に「成人ITP治療の参照ガイド2019 改訂版」の概要を示す。なお、本ガイドは、https://www.jstage.jst.go.jp/article/rinketsu/60/8/60_877/_pdfにて公開されている。画像を拡大する1)第1選択治療(1)ピロリ菌除菌療法(2010年6月より保険適用)わが国においては、ITPに関してH.pylori(ピロリ菌)除菌療法の有効性が示されている。ピロリ菌感染患者には、第1選択として試みる価値がある。出血症状を伴う例に対しては、ステロイド療法をまず選択し、血小板数が比較的安定した時点で除菌療法を試みる。(2)副腎皮質ステロイド療法ピロリ菌陰性患者や除菌無効例には、副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン)が第1選択となる。副腎皮質ステロイドは網内系における血小板の貪食および血小板自己抗体の産生を抑制する。血小板数3万/μL以下の症例で出血症状を伴う症例が対象である。とくに口腔内や鼻腔内の出血を認める場合は積極的に治療を行う。50~75%において血小板が増加するが、多くは副腎皮質ステロイド減量に伴い血小板が減少する。初期投与量としては0.5~1mg/kg/日を2~4週間投与後、血小板数の増加がなくても8~12週かけて10mg/日以下にまで漸減する。経過が良ければさらに減量する。2)第2選択治療(1)トロンボポエチン(TPO)受容体作動薬ITPでは血小板造血が障害されているものの、血清TPO濃度は正常~軽度上昇に止まる。この成績より、血小板造血を促進する治療薬としてTPO受容体作動薬が開発され、2011年より保険適用となっている。薬剤としては、ロミプロスチム(商品名:ロミプレート/皮下注)やエルトロンボパグ オラミン(同:レボレード/経口薬)があり、優れた有効性が示されている。血栓症の発症や骨髄線維化のリスクがあるため、これらに関しては慎重にモニターすべきである。妊婦には使用できない。(2)リツキシマブB細胞に発現しているCD20抗原を認識するヒトマウスキメラモノクローナル抗体で、B 細胞を減少させ、抗体産生を低下させる作用がある。わが国では2017年3月よりITPに対して適応拡大されている。(3)脾臓摘出術(脾摘)発症後6~12ヵ月以上経過し、各種治療にて血小板数3万/μL以上を維持できない症例に考慮する。寛解率は約60%。摘脾の1週間前より免疫グロブリン大量療法(後述)にて血小板を増加させる。近年では、TPO受容体作動薬などの新規薬剤の登場により、脾摘施行例は減少している。(4)新規ITP治療薬「成人ITP治療の参照ガイド2019改訂版」公開後に新たに上市されたITP治療薬として、ホスタマチニブ([Syk阻害剤]およびエフガルチギモド(胎児性Fc受容体阻害剤)が挙げられる。これらの薬剤の治療上の位置付けに関しては、今後の検討課題である。3)難治ITP症例への治療法(第3選択治療)本項で述べる薬剤は、ITPへの適応は無いものの、文献などにて有効性が示唆されている薬剤である。4)緊急時の治療診断時、消化管出血や頭蓋内出血などの重篤な出血を認める症例や、脾摘など外科的処置が必要な症例には、免疫グロブリン大量療法やメチルプレドニンパルス療法にて血小板を速やかに増加させ、出血をコントロールする必要がある。血小板輸血は一般には行わないが、活動性出血を伴う重症例では血小板輸血も積極的に考慮する。4 今後の展望上記以外の新たなITP治療薬として、BTK阻害薬、新規TPO受容体作動薬、抗CD38抗体薬など種々の薬剤が開発、治験されており、これらの薬剤の上市が待たれる。5 主たる診療科血液内科、あるいは血液・腫瘍内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)成人特発性血小板減少性紫斑病治療の参照ガイド2012年版(医療従事者向けのまとまった情報)妊娠合併特発性血小板減少性紫斑病診療の参照ガイド(医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報つばさのひろば(血液疾患患者とその家族の会)1)Cines DB, et al. N Engl J Med.2002;346:995-1008.2)冨山佳昭. 臨床血液. 2011;52:627-632.3)柏木浩和ほか. 臨床血液. 2019;60:877-896.4)柏木浩和ほか. 臨床血液. 2024;64:1245-1257.公開履歴初回2013年03月28日更新2015年11月02日更新2024年9月16日