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アトピー性皮膚炎へのウパダシチニブ、増量および減量の有効性と安全性/BJD

 成人の中等症〜重症のアトピー性皮膚炎に対する、JAK1阻害薬ウパダシチニブのこれまでの主要な臨床試験では、15mg(UPA15)および30mg(UPA30)の固定用量1日1回投与による有効性と安全性が評価されてきた。カナダ・クイーンズ大学のMelinda Gooderham氏らは、日本を含む第IIIb/IV相無作為化国際多施設共同盲検treat-to-target試験を実施し、12週間の治療後の臨床反応に基づくUPA30への増量およびUPA15への減量の有効性と安全性を検討した。British Journal of Dermatology誌2025年12月号掲載の報告より。 18歳以上65歳未満の中等症〜重症のアトピー性皮膚炎患者461例が1:1の割合でUPA15群またはUPA30群に無作為に割り付けられ、12週間の二重盲検期間中1日1回経口投与された。UPA15群では、12週時点でEczema Area and Severity Index(EASI)-90未達成の患者は30mgに増量し(UPA15/30群)、EASI-90を達成した患者は15mgの投与を継続した(UPA15/15群)。UPA30群では、12週時点でEASI-90未達成の患者は30mgの投与を継続し(UPA30/30群)、EASI-90を達成した患者は15mgに減量した(UPA30/15群)。 主要有効性評価項目は、24週時点におけるEASI-90達成率で、安全性についても評価された。 主な結果は以下のとおり。・UPA15群に229例、UPA30群に232例が割り付けられた。・24週時点で、UPA15/30群の48.1%(64/133例、95%信頼区間[CI]:39.6~56.6)がEASI-90を達成し、UPA30/15群の68.5%(89/130例、95%CI:60.5~76.4)がEASI-90を維持していた。・24週時点で、UPA15/15群では74.6%(53/71例、95%CI:64.5~84.8)、UPA30/30群では29.3%(24/82例、95%CI:19.4~39.1)がEASI-90を維持していた。・24週時点で、UPA15/30群の32.5%(27/83例、95%CI:22.5~42.6)およびUPA30/15群の38.0%(38/100例、95%CI:28.5~47.5)が最悪のかゆみの数値評価尺度(WP-NRS)0または1を達成し、それぞれ20.7%(17/82例、95%CI:12.0~29.5)および35.0%(35/100例、95%CI:25.7~44.3)がEASI-90かつWP-NRS 0/1を達成した。・24週時点における試験治療下での有害事象の発現率は、UPA15/15群では43.1%(31/72例)、UPA15/30群では54.2%(78/144例)、UPA30/30群では61.5%(56/91例)、UPA30/15群では48.9%(65/133例)であった。悪性腫瘍、中央判定された静脈血栓塞栓症イベント、死亡は報告されていない。 著者らは、「12週時点のEASI-90達成状況に応じたウパダシチニブの用量漸増/減量戦略により、24週時点でのEASI-90達成および維持が可能であることが示された」とし、安全性についても既知のウパダシチニブの安全性プロファイルと一致し、新たな安全性上の懸念は確認されなかったとまとめている。

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雷雨の日には喘息関連の救急外来受診が増える

 雷雨の最中や直後に喘息症状が急増する現象は、雷雨喘息と呼ばれている。この現象について検討した新たな研究で、雷雨の日には、実際に喘息関連の救急外来(ED)受診が大幅に増加することが示された。米カンザス大学医療センターのDiala Merheb氏らによるこの研究結果は、米国アレルギー・喘息・免疫学会年次学術会議(ACAAI 2025、11月6〜10日、米オーランド)で発表された。Merheb氏は、「これらの結果は、米国においても、雷雨が喘息患者に深刻な健康リスクをもたらす可能性があることを裏付けている」と述べている。 Merheb氏らによると、雷雨喘息は世界的に広く報告されている現象であり、世界アレルギー機構も認めていると研究者らは背景説明の中で述べている。しかし、米国の花粉が多い地域における雷雨喘息に関する研究は限定的であり、米国人に対する脅威は十分に理解されていないという。 この研究では、2020年1月1日から2024年12月31日の間にカンザス州ウィチタの3カ所の病院で発生した4,439件の喘息関連のED症例を分析し、雷雨との関連を検討した。雷雨日は、米国立環境情報センターの気象データを用いて調べた。 研究対象期間中に発生した雷雨日は38日で、試験対象期間のわずか2%を占めるに過ぎなかったが、雷雨日には喘息関連ED受診の14.1%(627/4,439件)が発生していた。ED受診件数の平均は、雷雨の日で17.91件であり、雷雨ではない日(3.09件)と比較して有意に多かった。 Merheb氏は、「嵐は予測不可能なので、患者と医療提供者は、喘息の行動計画に雷雨に特化した予防措置を含める必要がある」とACAAIのニュースリリースで述べている。 米ハーバード大学医学大学院によると、気象現象の展開次第で雷雨によって喘息発作が起きやすくなる可能性があるという。そのメカニズムは次のように説明されている。まず、冷たい下降気流によって花粉やカビなどのアレルゲンが濃縮され、それが湿気を帯びた厚い雲の中に巻き上げられる。雷雨の際には、風、湿気、雷によりそれらの粒子が分解され、肺の奥深くまで簡単に吸い込まれるようになる。さらに、嵐の際に突風により小さな粒子が集められることで、大量吸入の可能性が高まる。 共同研究者であるカンザス大学医療システムのアレルギー専門医であるSelina Gierer氏は、「自分の子どもが喘息持ちである人は、花粉の飛散量が多い日や寒い天候に備えるのと同じように、雷雨にも注意を払うべきだろう。誘因を理解し、明確な行動計画を立てることで、ED受診を回避することができる」と話している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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統計が苦手でも大丈夫!ChatGPTで研究デザインと統計解析を相談する方法【誰でも使えるChatGPT】第6回

皆さん、こんにちは。近畿大学皮膚科の大塚です。さて、今回は多くの臨床医が苦手意識を持つ「統計解析」にChatGPTを活用する方法についてお話しします。「統計の教科書を読んでも難しくてわからない」「どの統計手法を使えばいいのか判断できない」「サンプルサイズが小さいけど、どう対処すればいいのか」こうした悩みを抱えている先生方は多いのではないでしょうか。今回ご紹介するのは、ChatGPTを「統計の家庭教師」として活用する方法です。ただし重要なのは、ChatGPTに実際の計算をさせるのではなく、研究デザインの相談や統計手法の選択といった「方針決定」の段階で活用するということです。実際のデータ解析は統計ソフトで行い、ChatGPTはその前段階での相談相手として使う。この使い分けが成功のカギとなります。関連サイトChatGPTINDEX臨床研究における統計相談の3つの段階この相談から得られること統計手法選択での重要なポイント論文記載での活用ChatGPTに「させてはいけないこと」統計相談の5つのルールTake-Home Message臨床研究における統計相談の3つの段階ChatGPTを統計相談で活用する場面は、大きく3つに分けられます。段階1:研究デザインの検討データを集める前の段階で、どのような研究デザインが適切か、どんな評価項目を設定すべきかを相談します。この段階での相談が最も効果的で、後からの修正は困難なため、研究の成否を左右します。段階2:統計手法の選択データを収集した後、どの統計手法を使うべきかを相談します。データの性質(連続変数かカテゴリカル変数か、正規分布するか、対応があるかなど)に応じて、適切な検定方法を提案してもらいます。段階3:結果の解釈支援統計ソフトで解析した結果をどう解釈し、論文にどう記載するかを相談します。p値の意味、効果サイズの解釈、適切な図表の選び方などをアドバイスしてもらえます。それでは、それぞれの段階での具体的な活用例を見ていきましょう。実践例1:研究デザインの相談【研究を始める前】シナリオ「当院のアトピー性皮膚炎患者さんに新しい治療を始めたが、その効果を客観的に評価して学会発表したい。でも、どんな研究デザインが適切なのか、わからない…」多くの先生が、日常診療の中で「この治療効果を論文にできないだろうか」と考えることがあるでしょう。しかし、研究デザインをどう組み立てるか、評価項目をどう設定するか、サンプルサイズはどのくらい必要かなど、わからないことだらけです。こうした初期段階での疑問に、ChatGPTは具体的な提案をしてくれます。研究計画の立案支援あなたは臨床研究の方法論に詳しい統計の専門家です。以下の研究課題について、適切な研究デザインを提案してください。【研究課題】「当院皮膚科外来のアトピー性皮膚炎患者に対するデュピルマブ導入後の治療効果と患者QOLの変化を評価したい」【現状】- 対象過去1年間にデュピルマブを開始した患者、約30例- 評価項目EASI、DLQI、VAS(かゆみ)- データカルテから後方視的に収集可能- 比較対照なし(単群での評価)以下の項目について具体的に提案してください:1.適切な研究デザイン(後ろ向きvs.前向き、など)2.主要評価項目と副次評価項目の設定3.評価時点の設定(ベースライン、フォローアップ)4.除外基準の設定5.必要なサンプルサイズの考え方6.この研究の限界と対処法ChatGPTからの回答例 【提案する研究デザイン】後ろ向きコホート研究(Single-arm observational study)【詳細な設計】1.研究デザイン- 後ろ向き観察研究(Retrospective cohort study)- 単群での治療前後比較- 理由:すでにデータが蓄積されており、介入を加えない観察研究として実施可能2.評価項目主要評価項目:EASI(Eczema Area and Severity Index)- 投与開始時と16週後の変化量- 50%以上の改善率(EASI-50)副次評価項目:- DLQI(生活の質)の変化- VAS(かゆみ)の変化- 治療継続率- 有害事象の発現率3.評価時点の設定- ベースライン(投与開始時)- 4週後- 16週後(主要評価時点)- 52週後(長期効果の評価)※データがあれば4.除外基準- 他の生物学的製剤の使用歴がある患者- 重症な併存疾患がある患者- 評価時点でのデータ欠損が多い患者5.サンプルサイズ30例は小規模だが、記述統計と効果サイズの報告としては妥当- 検出力計算は困難だが、探索的研究として位置付ける- 可能であれば40~50例まで増やすことを推奨6.研究の限界と対処法限界:- 対照群がない- 後ろ向き研究のため、データ欠損の可能性- 選択バイアス(デュピルマブを選択した患者特性)対処法:- ベースライン特性を詳細に記述- 欠損データの扱いを明記- 既報告の他施設データとの比較を考察で言及この相談から得られることこのように、ChatGPTに相談することで、研究の全体像が見えてきます。とくに重要なのは「研究の限界」を先に把握できることです。後ろ向き研究であること、対照群がないこと、サンプルサイズが小さいことなど、あらかじめ限界を理解したうえで研究を進めれば、論文執筆時の考察でも適切に言及することができます。また、倫理審査を申請する際にも、この提案内容は非常に参考になります。評価項目や評価時点が明確になっていれば、倫理審査委員会での質問にも的確に答えられるでしょう。ただし、注意すべきは、ChatGPTの提案はあくまで「たたき台」であるということです。実際には、自施設の状況や利用可能なリソースに応じて調整が必要ですし、可能であれば生物統計の専門家に相談することをお勧めします。実践例2:統計手法の選択相談【データ収集後】シナリオ「データは集まったけど、どの統計手法を使えばいいのかがわからない…」研究計画どおりにデータを収集したものの、いざ統計解析をしようとすると、どの検定方法を使えばいいのかわからなくなることはよくあります。対応のあるt検定か、対応のないt検定か。正規分布しない場合はどうするのか。多重比較の補正は必要なのか。こうした具体的な疑問に、ChatGPTは明確な答えを提示してくれます。統計手法の選択あなたは医学統計の専門家です。以下のデータに対して、適切な統計解析手法を提案してください。【研究内容】アトピー性皮膚炎患者30例のデュピルマブ治療前後の比較【データの種類】- EASIスコア(連続変数、正規分布を仮定) - 治療前:平均28.5±標準偏差10.2 - 16週後:平均12.3±標準偏差8.5- DLQIスコア(連続変数、やや右に偏った分布) - 治療前:中央値15(四分位範囲12~20) - 16週後:中央値6(四分位範囲3~10)- 治療効果(カテゴリカル変数) - 著効:12例 - 有効:15例 - 無効:3例【質問】1.治療前後のEASIスコアの比較に適した検定方法2.DLQIスコアの比較に適した検定方法3.治療効果の割合を示す適切な方法4.多重比較の補正が必要か5.効果サイズ(Effect Size)の計算方法ChatGPTからの回答例 【統計解析の提案】1.EASIスコアの比較推奨:対応のあるt検定(Paired t-test)理由:- 同一患者の治療前後比較- 連続変数- 正規分布を仮定できる- サンプルサイズが30で中心極限定理が適用可能代替法:- 正規性が怪しい場合はWilcoxon符号順位検定2.DLQIスコアの比較推奨:Wilcoxon符号順位検定(Wilcoxon signed-rank test)理由:- 分布が偏っている(ノンパラメトリック検定が適切)- 対応のあるデータ- 中央値と四分位範囲で記述されている3.治療効果の割合推奨:記述統計として割合と95%信頼区間を提示- 著効率:40.0%(95%CI:22.7~59.4%)- 有効以上の割合:90.0%(95%CI:73.5~97.9%)検定は不要(単群での評価のため)4.多重比較の補正今回は不要理由:- 主要評価項目はEASI(1つ)- 副次評価項目は探索的な位置付け- ただし、考察では多重性の問題に言及すべき5.効果サイズの計算推奨:Cohen's d計算式:d=(平均の差)/(標準偏差のプール値)d=(28.5~12.3)/ √[(10.22+8.52)/2]d ≒1.73(非常に大きな効果サイズ)解釈:- d>0.8:大きな効果- あなたの研究:d=1.73(非常に強い治療効果を示唆)統計手法選択での重要なポイントこの例で注目すべきは、ChatGPTが「なぜその検定方法を選ぶのか」という理由も説明してくれる点です。単に「対応のあるt検定を使いなさい」と言われるより、「同一患者の前後比較だから対応のあるt検定」という理由がわかれば、次回以降の研究でも応用できます。また、効果サイズ(Cohen's d)の計算式まで提示してくれるのも便利です。統計学的有意差だけでなく、効果サイズを報告することは、最近の医学雑誌では標準的になってきています。p値だけでは臨床的な意義はわかりませんが、効果サイズを見れば「どのくらい強い効果なのか」がわかります。ただし、ここでも注意が必要です。ChatGPTが提案する計算式や数値は、必ず統計ソフトで再計算して確認してください。手計算での誤りやバージョンによる違いがある可能性があるためです。実践例3:結果の解釈とグラフ作成の相談シナリオ「統計ソフトで解析したけど、p値の解釈や図表のつくり方で悩んでいる」統計ソフトを使って検定を実行すると、p値やt値などの数値が出力されます。しかし、これをどう解釈し、論文にどう記載すればいいのかがわからないという声をよく聞きます。また、結果を図表で示す際に、どの種類のグラフが適切かも悩ましい問題です。結果の解釈支援あなたは統計結果をわかりやすく説明する専門家です。以下の解析結果について、論文に記載すべき内容と適切な図表の形式を提案してください。【解析結果】対応のあるt検定(EASIスコア)- 治療前:28.5±10.2- 16週後:12.3±8.5- 平均差:16.2(95%CI:12.5~19.9)- t値=8.95、p<0.001- Cohen's d=1.73【質問】1.この結果を論文に記載する際の文例2.適切な図表の形式(グラフの種類)3.p値の解釈で注意すべき点4.臨床的意義の考察ポイントChatGPTからの回答例 【論文記載の文例】Results部分:「デュピルマブ投与開始から16週後、EASIスコアは治療前の28.5±10.2から12.3±8.5へ有意に改善した(平均差:16.2点、95%CI:12.5~19.9、p<0.001)。効果サイズはCohen's d=1.73であり、非常に大きな治療効果が認められた」【推奨する図表】図1:Box plot(箱ひげ図)+Individual data points- X軸:治療前、16週後- Y軸:EASIスコア- 個別症例の変化を線で結ぶ- 理由:個々の患者の変化が視覚的にわかる図2:Bar graph(棒グラフ)with error bars- 平均値と標準誤差を表示- マーク(p<0.001)を追加- シンプルでわかりやすい【p値の解釈での注意点】適切な解釈:「治療前後で統計学的に有意な差が認められた(p<0.001)」避けるべき表現:「治療前後で有意差があったため、治療効果が証明された」理由:統計学的有意差と臨床的重要性は別物【臨床的意義の考察ポイント】1.MCID(臨床的に意味のある最小変化量)との比較- EASIのMCIDは一般的に6~7点- 今回の改善幅16.2点はMCIDを大きく上回る2.EASI-50、EASI-75の達成率- 50%以上改善した患者の割合を計算- 他の研究との比較が可能3.効果サイズ(d=1.73)の解釈- 非常に大きな効果- 単群研究でもこの効果サイズは臨床的に重要論文記載での活用この例でとくに役立つのは、具体的な文例を提示してくれる点です。統計の専門用語を適切に使いながら、医学論文として自然な表現で記載する方法がわかります。また、「避けるべき表現」も示してくれるので、よくある誤りを防ぐことができます。グラフの種類についても、単に「箱ひげ図がいい」と言うだけでなく、「個別症例の変化を線で結ぶ」という具体的な提案があるため、実際に作図する際のイメージが湧きやすくなります。ChatGPTに「させてはいけないこと」ここまで、ChatGPTの有効な活用法を見てきましたが、逆に「させてはいけないこと」も明確にしておく必要があります。実際のデータ解析をさせないChatGPTに患者データを入力して、「この30例のデータを解析してください」と依頼することは避けてください。その理由は3つあります。1)個人情報保護の問題です。たとえ氏名を伏せても、年齢、性別、検査値などの組み合わせで個人が特定される可能性があります。2)計算の正確性が保証されません。ChatGPTは統計ソフトではなく、計算ミスのリスクがあります。3)再現性の担保が困難です。同じデータで同じ質問をしても、異なる結果が返ってくる可能性があります。統計ソフトの代わりにしないChatGPTはあくまで「アドバイザー」であり、実際の計算は必ずR、SPSS、JMP、Excelなどの統計ソフトで行ってください。「どの統計手法を使うべきか」はChatGPTに相談し、「実際の計算」は統計ソフトで行う、という役割分担が重要です。p-hackingの相談をしない「有意差が出る方法を教えて」「p値を0.05未満にする方法は?」といった質問は、研究不正につながります。統計手法は研究デザインの段階で決めるべきであり、結果を見てから手法を変えることは許されません。統計相談の5つのルールChatGPTを統計相談で活用する際は、以下の5つのルールを守ってください。ルール1:実データは入力しない患者の個人情報保護のため、実際のデータは入力せず、サマリー統計(平均値、標準偏差など)や仮想データのみを使用してください。ルール2:提案は必ず検証するChatGPTの提案内容は、必ず統計の教科書や専門家に確認してください。複数の情報源でクロスチェックすることが重要です。ルール3:計算は専用ソフトでChatGPTは方針決定まで。実際の解析は必ず統計ソフトで行ってください。ルール4:研究デザインは早めに相談データ収集前の研究デザイン段階で相談するのが最も効果的です。後から修正するのは困難です。ルール5:限界を明記するサンプルサイズの制約、研究デザインの限界、AIで相談したことなどは、研究ノートに記録しておきましょう。Take-Home Message今回ご紹介した統計相談でのChatGPT活用法は、統計が苦手な臨床医にとって心強い味方となるはずです。しかし、重要なのは「使い方を間違えない」ことです。ChatGPTを統計の家庭教師として活用する3原則を、もう一度確認しておきましょう。原則1:相談相手として使う計算機ではなく、考え方を学ぶツールとして使いましょう。「どんな統計手法が適切か」の方針決定に活用してください。原則2:研究の早い段階からデータ収集前の研究デザイン相談が最も効果的です。後からの修正は困難ですから、計画段階でしっかり相談しましょう。原則3:必ず専門家の確認を統計の専門書で裏付けを取り、可能なら生物統計家への相談も検討してください。重要な判断はAIだけに頼らないでください。統計が苦手でも、AIを使えば一歩を踏み出すことができます。統計の専門家に相談する前の「予習」として、ChatGPTで基本的な方向性をつかむことで、より実りある議論が可能になります。研究の質を高めながら、効率的に進めるために、ChatGPTを「あなたの理解度に合わせて解説してくれる優しい統計の先生」として活用してみてください。

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日本のプライマリケア受診の蕁麻疹患者、約3分の1が罹患期間3年以上

 日本の9つの皮膚科プライマリケアクリニックを受診した蕁麻疹患者約千例において、36.1%が罹患期間3年以上であることが明らかになった。罹患期間は、高齢患者、皮膚描記症(dermographism)およびコリン性蕁麻疹患者でより長い傾向がみられた。広島大学の齋藤 怜氏らによる、The Journal of Dermatology誌オンライン版2025年10月31日号への報告より。 本研究では、蕁麻疹の予後に関連する因子を検討するため、2020年10月1日~11月11日に9つの皮膚科プライマリケアクリニックを受診した蕁麻疹患者1,061例を対象に、罹患期間についての横断的解析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・216例(20.4%)は急性蕁麻疹であり、蕁麻疹の罹患期間3年以上が383例(36.1%)、10年以上が125例(11.8%)であった。・罹患期間について、男女間で有意差は認められなかった。・20歳未満の患者では75例(38.9%)が急性蕁麻疹であった一方、50歳超の患者では20%超が罹患期間10年以上であった。・皮膚描記症およびコリン性蕁麻疹患者における罹患期間3年以上の患者の割合は、それぞれ42%および45.3%であった。

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注射薬のデュピルマブが喘息患者の気道閉塞を改善

 抗炎症作用のある注射薬のデュピルマブ(商品名デュピクセント)が、喘息患者の粘液の蓄積を減らし、喘息発作時の気道の閉塞を改善するのに有効であることが、新たな臨床試験で示された。この試験の結果によると、デュピルマブを使用した患者では、粘液による気道閉塞が見られる割合が半減したという。ビスペビアウ病院(デンマーク)のCeleste Porsbjerg氏らによるこの臨床試験の詳細は、「American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine」に10月27日掲載された。 Porsbjerg氏は、「中等症から重症の喘息では、肺の中にたまった粘液により気道が塞がれて呼吸が制限され、重度の喘息発作が生じたり、死に至ることもある」とニュースリリースの中で述べている。同氏らによると、体内に少量の粘液があるのは普通のことであり、風邪やインフルエンザに罹患したときを除けば、それが問題になることはない。しかし、喘息患者の場合、炎症によって気道が狭まり、粘液が気道を塞ぐと命に関わる恐れがあるという。 今回の臨床試験には関与していない専門家の1人で、アレルギー&喘息ネットワークのチーフ・リサーチ・オフィサーのDe De Gardner氏は、「喘息発作時に粘液の分泌量が増える患者にとっては、それが強いストレスや不安の原因になる。粘液が喉に詰まり、うまく咳で出せなかったりすると、吐き気を催すこともある」とニュースリリースの中でコメントしている。 Drugs.comによると、デュピルマブはもともと免疫に関連した疾患であるアトピー性皮膚炎の治療薬として2017年に承認され、その後、喘息、副鼻腔炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの治療にも用いられるようになった。デュピルマブは、炎症に関わるサイトカイン(インターロイキン〔IL〕-4、IL-13)の働きを直接抑えることで作用する。 今回報告された臨床試験では、109人の中等症から重症の喘息患者を24週間にわたって、2週間ごとにデュピルマブ(300mg)を注射投与する群(72人)とプラセボを注射投与する群(37人)にランダムに割り付けた。 その結果、デュピルマブ群では重度の粘液による気道の閉塞が認められる患者の割合が治療開始前の67.2%から試験終了時には32.8%に低下し、大幅な改善が見られた。一方、プラセボ群での割合は試験開始前(76.7%)と試験終了時(73.3%)で、ほとんど変化が認められなかった。また、呼気の分析でも、デュピルマブ群ではプラセボ群と比べて、炎症の指標である呼気中一酸化窒素濃度(FeNO)が25ppb未満まで減少した患者の割合が有意に多く、さらに、肺機能も有意に改善したことが示された。 Porsbjerg氏らは、「これらの結果は、デュピルマブが中等症から重症の喘息患者において、治療開始からわずか4週間で粘液による気道の閉塞と炎症を軽減することを示している」と結論付けている。ただし、デュピルマブは安価な薬ではない。Drugs.comによると、同薬の1カ月分(300mgの注射を2回分)の価格は約3,900ドル(1ドル154円換算で約60万円)に上るという。 なお、今回報告された臨床試験は、デュピルマブを製造するSanofi/Regeneron Pharmaceuticals社の資金提供を受けて実施された。

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小児のアトピー性皮膚炎、特発性慢性蕁麻疹の在宅治療に期待(デュピルマブ皮下注200mgペン発売)/サノフィ

 サノフィは、小児のアトピー性皮膚炎および特発性の慢性蕁麻疹の治療薬デュピルマブ(商品名:デュピクセント)の皮下注200mgペンを11月17日に発売した。 デュピルマブは、2型炎症において中心的な役割を果たすタンパク質であるIL-4およびIL-13の作用を阻害する、完全ヒト型モノクローナル抗体製剤。気管支喘息などのすでに承認された適応症に加え、原因不明の慢性そう痒症、慢性単純性苔癬などの開発も行っている。わが国では2025年2月に小児の気管支喘息、2025年4月に水疱性類天疱瘡に対して適応追加申請を行っている。 今回発売された「200mgペン」は、「デュピルマブ製剤」として在宅自己注射指導管理料の対象薬剤として指定されている。「あてる、押す」の2ステップによる簡便な操作で、200mgシリンジ製剤と同一組成の薬液を自動的に注入するペン型の注射剤。同社では、小児患者の在宅自己注射時の利便性向上が期待でき、新たな治療選択肢になると期待を寄せている。<製品概要>※今回の発売製品の情報のみ記載一般名:デュピルマブ(遺伝子組換え)商品名:デュピクセント皮下注200mgペン効能または効果:・既存治療で効果不十分な下記皮膚疾患 アトピー性皮膚炎 特発性の慢性蕁麻疹※最適使用推進ガイドライン対象用法および用量:〔アトピー性皮膚炎〕通常、生後6ヵ月以上の小児にはデュピルマブ(遺伝子組換え)として体重に応じて以下を皮下投与する。5kg以上15kg未満:1回200mgを4週間隔15kg以上30kg未満:1回300mgを4週間隔30kg以上60kg未満:初回に400mg、その後は1回200mgを2週間隔60kg以上:初回に600mg、その後は1回300mgを2週間隔〔特発性の慢性蕁麻疹〕通常、12歳以上の小児にはデュピルマブ(遺伝子組換え)として体重に応じて以下を皮下投与する。30kg以上60kg未満:初回に400mg、その後は1回200mgを2週間隔60kg以上:初回に600mg、その後は1回300mgを2週間隔薬価:デュピクセント皮下注200mgペン:3万9,706円(キット)製造販売承認日:2023年9月25日薬価基準収載日:2025年11月12日発売日:2025年11月17日製造販売元:サノフィ株式会社

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高市早苗内閣が発足、社会保障政策の行方は?【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第160回

自民党の高市 早苗氏が10月の臨時国会で第104代首相に指名されました。女性初の総理大臣誕生ということで、物価高やら円安やらの暗い日常に少し新しい時代の光が差し込んだかなという気がします。普段あまり政治に興味がなくても、決選投票や所信表明演説などを見た人は多いのではないでしょうか。自民党が与党であることに変わりはありませんが、公明党が連立から離脱し、自民党と日本維新の会による新しい連立政権が誕生し、その合意文書が発表されました。その中に、社会保障に関連するワードがいくつかあったりするなど、じわじわと医療にも変化の足音が聞こえています。合意文書の中の、社会保障政策の項に記載されたのは以下の文書です。「OTC類似薬」を含む薬剤自己負担の見直し、金融所得の反映などの応能負担の徹底など、25年通常国会で締結したいわゆる「医療法に関する3党合意書」および「骨太方針に関する3党合意書」に記載されている医療制度改革の具体的な制度設計を25年度中に実現しつつ、社会保障全体の改革を推進することで、現役世代の保険料率の上昇を止め、引き下げていくことを目指す。社会保障関係費の急激な増加に対する危機感と、現役世代を中心とした過度な負担上昇に対する問題意識を共有し、この現状を打破するための抜本的な改革を目指して、25年通常国会より実施されている社会保障改革に関する合意を引き継ぎ、社会保障改革に関する両党の協議体を定期開催するものとする。OTC類似薬の保険給付見直しについては、維新との合意も踏まえ、「骨太方針2025」で年末の予算編成に向けた議論を行うことが確定済みと言われています。自民・維新の連立協議の中でも、2025年度中に「骨太方針2025」を軸にした「具体的な制度設計」を実現するように動いていきそうです。維新が「現役世代の負担軽減を目的とした社会保障改革」を連立交渉で強く主張したと報じられており、OTC類似薬の保険給付見直しはその柱と言われています。維新は、市販薬とほぼ同様の効果の湿布薬や花粉症薬などの処方薬を保険給付から外すことで、医療費を年間数千億~1兆円規模で削減できるとしています。確かに、非常にわかりやすいですよね。OTC類似薬見直しは確実に進んでいくと思われます。また、「赤字に苦しむ医療機関や介護施設への対応は待ったなし」として、報酬改定の時期とは関係なく、これらの施設に補助金を支給する方針を示しました。しかしながら、一般的な話として、医療費増額につながる施策(医療機関や介護施設への補助など)と削減する施策(OTC類似薬の保険給付見直しなど)をどう両立させるのでしょうか。また、OTC類似薬の保険給付見直しの反対勢力である日本医師会は選挙で自民党を長年支えてきた組織です。この相反する事象をどうさばいていくのか、今後の政権運営に目が離せません。

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11月12日 皮膚の日【今日は何の日?】

【11月12日 皮膚の日】 〔由来〕 日本臨床皮膚科医会が、11月12日(いい・ひふ)の語呂合わせから1989年に制定。日本皮膚科学会と協力し、皮膚についての正しい知識の普及や皮膚科専門医療に対する理解を深めるための啓発活動を実施している。毎年この日の前後の時期に一般の方々を対象に、講演会や皮膚検診、相談会などの行事を全国的に展開している。関連コンテンツ お久しぶり受診の患者さんとの静かな戦い【Dr.デルぽんの診察室観察日記】 急に湿疹が出たときの症状チェック【患者説明用スライド】 中等症~重症の尋常性乾癬、経口IL-23受容体阻害薬icotrokinraが有望/Lancet 乳児期の保湿剤使用でアトピー性皮膚炎の発症率低下、非高リスク集団ほど 「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024」新薬5剤を含む治療アルゴリズムの考え方は

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英語で「花粉症」は?【患者と医療者で!使い分け★英単語】第38回

アレルギー性鼻炎 allergic rhinitis春先や秋になると、くしゃみや鼻水、目のかゆみが止まらなくなる…、多くの人が悩まされるこの症状は、日本では「花粉症」として広く知られています。この症状の医学的な英語名はallergic rhinitis(アレルギー性鼻炎)ですが、日常会話でこの言葉が使われることはあまりないでしょう。より自然に、そして誰にでも伝わる一般的な表現は何でしょうか?講師紹介

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花粉の飛散量が増えると自殺者が増える?

 季節性アレルギーは多くの人にとって厄介なものだが、それが命に関わる可能性があると考える人はほとんどいないだろう。しかし新たな研究で、花粉の飛散量の増加に伴い自殺者数が増加し、特に精神疾患患者への影響は大きいことが明らかにされた。米ミシガン大学社会調査研究所のJoelle Abramowitz氏らによるこの研究結果は、「Journal of Health Economics」12月号に掲載予定。Abramowitz氏らは、季節性アレルギーを原因とする身体的苦痛は睡眠を妨げ、精神的苦痛を増大させ、それが自殺増加の一因となっている可能性が高いと推測している。 Abramowitz氏は、「本研究期間中に、米国では約50万人が自殺した。この研究で新たに得られたデータに基づくと、この期間に花粉が最大1万2,000人の死亡の一因となった可能性があると推定された。これは、年間で約900人から1,200人の死亡に相当する」とミシガン大学のニュースリリースの中で述べている。 この研究でAbramowitz氏らは、米国の34の大都市圏に含まれる186の郡で、2006年から2018年の間に集計された自殺件数と毎日の花粉飛散量のデータを用いて、両者の関連を検討した。花粉の飛散レベルを4段階に分けて検討した結果、飛散レベルが上がるにつれて自殺者数も増加することが明らかになった。具体的には、飛散レベルが最も低い場合と比較して、2番目のレベルでは自殺者数は4.5%、3番目のレベルでは5.5%、4番目の最も高いレベルでは7.4%増加していた。精神疾患やその治療歴のある人では、花粉レベルが最も高い日には自殺者数が8.6%増加していた。さらに、花粉の飛散量が多い日には、Googleでの「アレルギー」「うつ症状」に関する検索が増加することも示された。 こうした結果を受けて研究グループは、「この結果は、季節性アレルギーを単なる厄介物として扱うのではなく、もっと真剣に受け止めるべきであることを示している」と述べている。また、Abramowitz氏は、「すでに脆弱な状態にある人では、小さな刺激でも大きな影響を及ぼす可能性がある」と話している。 Abramowitz氏らは、「花粉の飛散予測をより正確にし、季節性アレルギーがメンタルヘルスに与える影響について広く周知することで、人々が自身を守る手段を取れるようになり、命が救われる可能性がある」と述べている。同氏らは、気候変動が進み花粉の季節が長期化して激しくなるにつれて、このことはさらに重要になるだろうと指摘している。 Abramowitz氏は、「花粉などの小さな環境変化に対する反応やメンタルヘルス全般について、われわれは意識を高めるべきだ。本研究結果を踏まえると、医療従事者は患者のアレルギー歴を把握しておくべきだろう。アレルギーと自殺リスクの上昇との関連は、他の研究でも示されている。この研究がより個別化されたケアにつながり、最終的には命を救うことにつながることを願っている」と話している。

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急性期の“むくみ”に対する漢方薬の使用法【急性期漢方アカデミア】第2回

急性期漢方を普及・研究するグループ「急性期漢方アカデミア(Acute phase Kampo Academia: AKA)」。急性期でこそ漢方の真価が発揮されるという信念のもと、6名の急性期漢方のエキスパートが集結して、その方法論の普及・啓発活動を2024年から始動した。その第1回セミナーで公開された、急性期の“むくみ”に対する漢方薬の使用法を今回は紹介したい。急性期の“むくみ”のAKAプロトコール急性期の“むくみ”に応用できる医療用漢方製剤のうち、とくに急性期病院でも使用しやすい五苓散(ごれいさん:17)、柴苓湯(さいれいとう:114)、越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう:28)、真武湯(しんぶとう:30)の4処方に注目して、AKAプロトコールを紹介し、具体的な使い分け方法を示す。図1は、急性期のむくみの病態を漢方における視点から、全身性か局所性であるか、熱感や発赤を伴っているか末梢の冷感を伴っているかの2大軸、4象限で分割した座標を提示、4つの処方の位置付けを示している。画像を拡大する図2は、使用の便を図るために、急性期の“むくみ”に対して4つの処方を使い分けるためのフローチャートを示した。画像を拡大する急性期の“むくみ”での漢方治療の実際急性期の“むくみ”に対して漢方薬を使用したAKAメンバーの経験した実際の症例を紹介したい。症例1【症例】91歳女性【主訴】下腿浮腫、労作時呼吸困難感【現病歴】2ヵ月前より増悪する下腿浮腫・労作時呼吸困難感で受診。精査の結果、大動脈弁閉鎖不全、僧帽弁閉不全、重症三尖弁閉鎖不全を伴う両心不全、Hb 8g/dL程度の貧血、血清クレアチニン値2mg/dL程度、尿蛋白3+で慢性腎臓病(CKD G4A3)を指摘された。右心不全および慢性腎臓病があるため、利尿剤は使用しにくいと考えられた。認知症もあり入院によるADL低下も懸念され、外来での加療を選択し漢方薬での治療を行った。四肢は冷えている。下腿浮腫あり。【処方および経過】AKAプロトコールにおける“全身性の”“冷感を伴う”浮腫であり、真武湯が選択された。真武湯は単独では利尿効果が弱いため、五苓散を併用。内服開始から浮腫は軽快傾向となり、2週間後には、肺高血圧や下大静脈径も改善し、胸水も消退した(図3)。画像を拡大する症例2【症例】29歳女性【主訴】右手の腫脹・疼痛【現病歴】来院3日前に右手背部の腫脹・疼痛が出現し、38℃台の発熱があり。来院前日に近医受診。全身疾患も含めて精査・加療目的で、当科紹介。【既往歴】アトピー性皮膚炎【診断】右前腕蜂巣炎【処方および経過】AKAプロトコールにおける“局所性の”“熱感・発赤を伴う”浮腫であり、越婢加朮湯が選択された。化膿性病変であることを考慮して黄連解毒湯とセファクロル750mg 分3を併用している。内服開始2日後で発赤・腫脹は消退傾向となり、5日後には、わずかに浮腫が残る程度で症状は消失した(図4)。画像を拡大する症例3【症例】20代女性 卵巣過剰刺激症候群からの急性呼吸不全【現病歴および経過】2023年某日 卵巣刺激法(ウルトラショート法)で卵胞刺激を施行。2日日に腹痛と呼吸苦を認め、前医救急外来受診。呼吸状態が悪化し4日目に当院搬送となった。図5のように両側胸水が顕著に貯留、利尿薬等を投与しつつNPPVによる陽圧換気を開始した。しかし、十分な尿量確保が困難となり人工呼吸器装着を考慮せざるを得ない状況となった。利水作用※を期待し五苓散の投与を開始、投与翌日より尿量増加傾向となった(図5)。画像を拡大するこのように血管透過性が亢進した病態において、五苓散の併用は病態の改善につながる場合がある。なお、この場合は分量を多めに使用することを考慮する(保険診療上、通常量より多くの投与は認められないため、処方の際には一定の配慮が必要である)。※ 利水作用:利水とは西洋医学の利尿薬のような強制利尿ではなく「水毒」と呼ばれる水の異常分布を調整すると考えられており、浮腫では利尿作用、脱水では抗利尿作用を発揮するとされる。症例4【症例】熱傷:80歳代、女性 既往に高血圧のある、生来元気な方。【現病歴および経過】X日自宅コンロの火で左脇を受傷し、近医クリニックを受診。大きな病院に行くように説明があった。X+1日当院紹介受診。左腋窩を中心に約2%の熱傷あり(図6)、II~III度熱傷を認めた。軟膏と被覆材による処置を行い、ツムラ柴苓湯エキス顆粒3包 分3、ツムラ越婢加朮湯エキス顆粒3包 分3を処方した。X+2日38℃台の発熱を来したが、来院時は37℃台の微熱(図7)。X+3日上腕部周辺の正常皮膚にやや発赤・熱感が発現した(図8)。安静時には疼痛はなく、本人の体力もあることから、同処方を継続した。X+4日37℃台の微熱はあるものの、昨日よりは全身状態は改善したとのことで、創部の発赤も消退していた(図9)画像を拡大するX+10日食思不振、倦怠感を訴えるため、ツムラ越婢加朮湯エキス顆粒からツムラ六君子湯エキス顆粒3包 分3に切り替え、柴苓湯は飲みきり終了とした(図10)。X+29日食思不振や倦怠感はなくなったことから、六君子湯も終了とした。X+73日上皮化が滞っているためツムラ十全大補湯エキス顆粒3包 分3を処方した(図11)。X+101日すべて上皮化し、終診となった(図12)。画像を拡大する以上のように漢方薬を使用した診療を行うことで、西洋医学単独では困難な病態に対する治癒の過程を促進できる可能性がある。

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蕁麻疹に外用薬は非推奨、再確認したい治療の3ステップ

 かゆみを伴う赤みを帯びた膨らみ(膨疹)が一時的に現れて、しばらくすると跡形もなく消える蕁麻疹は、診察時には消えていることも多く、医師は症状を直接みて対応することが難しい。そのため、医師と患者の間には認識ギャップが生まれやすく、適切な診断・治療が選択されない要因となっている。サノフィは9月25日、慢性特発性蕁麻疹についてメディアセミナーを開催し、福永 淳氏(大阪医科薬科大学皮膚科学/アレルギーセンター)がその診療課題と治療進展について講演した。 なお、蕁麻疹の診療ガイドラインは現在改訂作業が進められており、次改訂版では病型分類における慢性(あるいは急性)蕁麻疹について、原因が特定できないという意味を表す“特発性”という言葉を加え、“慢性(急性)特発性蕁麻疹”に名称変更が予定されている。蕁麻疹の第1選択は経口の抗ヒスタミン薬、外用薬は非推奨 慢性特発性蕁麻疹は「原因が特定されず、症状(かゆみを伴う赤みを帯びた膨らみが現れて消える状態)が6週間以上続く蕁麻疹」と定義され、蕁麻疹患者全体の約6割を占める1)。幅広い世代でみられ40代に患者数のピークがあり1)、女性が約6割と報告されている2)。医療情報データベースを用いた最新の研究では、慢性特発性蕁麻疹の推定有病割合は1.6%、推定患者数は約200万人、1年間の新規発症者数は約100万人と推計されている3)。 蕁麻疹診療ガイドライン4)で推奨されている治療ステップは以下のとおりで、内服の抗ヒスタミン薬が治療の基本だが、臨床現場では蕁麻疹に対してステロイド外用薬が使われている事例も多くみられる。福永氏は「蕁麻疹に対するステロイド外用薬はガイドラインでは推奨されておらず、エビデンスもない」と指摘した。[治療の3ステップ]Step 1 抗ヒスタミン薬Step 2 状態に応じてH2拮抗薬*1、抗ロイコトリエン薬*1を追加Step 3 分子標的薬、免疫抑制薬*1、経口ステロイド薬*2を追加または変更*1:蕁麻疹、*2:慢性例に対しては保険適用外だが、炎症やかゆみを抑えることを目的に、慢性特発性蕁麻疹の治療にも使われることがある分子標的薬の登場で、Step 3の治療選択肢も広がる 一方で、Step 1の標準用量の第2世代抗ヒスタミン薬による治療では、コントロール不十分な患者が60%以上いると推定されている5,6)。Step 2の治療薬はエビデンスレベルとしては低く、国際的なガイドラインでは推奨度が低い。エビデンスレベルとしてはStep 3に位置付けられている分子標的薬のほうが高く、今後の日本のガイドラインでの位置付けについては検討されていくと福永氏は説明した。 原因が特定されない疾患ではあるが、薬剤の開発により病態の解明が進んでいる。福永氏は、「かゆみの原因となるヒスタミンを抑えるという出口戦略としての治療に頼る状況から、アレルギー反応を引き起こす物質をターゲットとした分子標的薬が使えるようになったことは大きい」とした。約4割が10年以上症状継続と回答、医師と患者の間に生じている認識ギャップ 症状コントロールが不十分(蕁麻疹コントロールテスト[UCT]スコア12点未満)な慢性特発性蕁麻疹患者277人を対象に、サノフィが実施した「慢性特発性じんましんの治療実態調査(2025年)」によると、39.0%が最初に症状が出てから現在までの期間が「10年以上」と回答し、うち27.8%は現在も「ほぼ毎日症状が出続けている」と回答した。福永氏は、「蕁麻疹は誰にでも起こりうるありふれた病気として、時間が経てば治ると思っている患者さんは多い。しかしなかには慢性化して、長期間症状に悩まされる患者さんもいる」とし、診療のなかでその可能性についても説明できるとよいが、現状なかなかできていないケースも多いのではないかと指摘した。 また、慢性特発性蕁麻疹をどのような疾患だと思うかという問いに対しては、「治療で完治を目指せる病気」との回答は5.1%にとどまり、コントロール不十分な慢性特発性蕁麻疹患者の多くが完治を目指せるとは思っていないことが明らかになった。福永氏は、「治療をしてもすぐには完治しないが、症状が出ていないときも治療を継続することが重要」とした。 原因を知りたいから検査をしてほしいという患者側のニーズと、蕁麻疹との関連が疑われる病歴や身体的所見がある場合に検査が推奨される医療者側にもギャップが生じることがある。福永氏は、「必ず原因がわかる病気ではなく、原因究明よりも治療が重要ということを説明する必要がある」と話し、丁寧な対話に加え、患部の写真撮影をお願いする、UCTスコアを活用するといった、ギャップを埋めるため・見えないものを見える化するための診療上の工夫の重要性を強調して講演を締めくくった。■参考文献1)Saito R, et al. J Dermatol. 2022;49:1255-1262.2)Fukunaga A, et al. J Clin Med. 2024;13:2967.3)Fukunaga A, et al. J Dermatol. 2025 Sep 8. [Epub ahead of print]4)秀 道広ほか. 蕁麻疹診療ガイドライン 2018. 日皮会誌. 128:2503-2624;2018.5)Guillen-Aguinaga S, et al. Br J Dermatol. 2016;175:1153-1165.6)Min TK, et al. Allergy Asthma Immunol Res. 2019;11:470-481.

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片頭痛発作の急性期治療と発症抑制の両方に有効な経口薬「ナルティークOD錠75mg」【最新!DI情報】第49回

片頭痛発作の急性期治療と発症抑制の両方に有効な経口薬「ナルティークOD錠75mg」今回は、経口カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)受容体拮抗薬「リメゲパント(商品名:ナルティークOD錠75mg、製造販売元:ファイザー)」を紹介します。本剤は、わが国で初めての片頭痛の急性期治療および発症抑制の両方を適応とする治療薬です。<効能・効果>片頭痛発作の急性期治療および発症抑制の適応で、2025年9月19日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>片頭痛発作の急性期治療:通常、成人にはリメゲパントとして1回75mgを片頭痛発作時に経口投与します。片頭痛発作の発症抑制:通常、成人にはリメゲパントとして75mgを隔日経口投与します。<安全性>重大な副作用として、過敏症(頻度不明)があります。その他の副作用として、便秘(1%以上)、浮動性めまい、悪心、下痢、アラニンアミノトランスフェラーゼ増加(いずれも0.5~1%未満)、上気道感染、尿路感染、単純ヘルペス、前庭神経炎、白血球減少症、好中球減少症、鉄欠乏性貧血、貧血、食欲亢進、うつ病、不眠症、易刺激性、異常な夢、錯乱状態、不安、傾眠、片頭痛、頭痛、錯感覚、頭部不快感、味覚不全、ドライアイ、回転性めまい、動悸、高血圧、潮紅、呼吸困難、腹痛、嘔吐、腹部不快感、胃食道逆流性疾患、肝機能異常、脂肪肝、発疹、そう痒症、ざ瘡、多汗症、蕁麻疹、頚部痛、背部痛、頻尿、疲労、倦怠感、口渇、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ増加、血中クレアチンホスホキナーゼ増加、体重増加、肝酵素上昇、血中クレアチニン増加、糸球体濾過率減少、肝機能検査値上昇、血圧上昇、心電図QT延長、サンバーン(いずれも0.5%未満)があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、片頭痛発作の急性期治療および発症抑制に用いられます。「前兆のない片頭痛」および「前兆のある片頭痛」のどちらにも使用できます。2.発作時には、頓用で服用します。ただし、1日に1錠を超えての服用はできません。3.発症を予防するには、隔日(2日に1回)、決まった時間に服用します。この薬を服用した日は、急性期治療として追加服用はできません。服用前であれば、急性期治療のために頓用で服用できますが、同日中に発症予防のための追加服用はできません。服用日以外の日に発作が生じた場合は、1日1錠まで服用ができます。<ここがポイント!>片頭痛は代表的な一次性頭痛の1つで、本邦における年間有病率は約8%(前兆のない片頭痛が5.8%、前兆のある片頭痛が2.6%)と報告されています。片頭痛は、日常生活に大きな支障を来す疾患であり、多くの患者が家事や仕事の生産性低下に悩まされています。片頭痛の主な誘因としてはストレスが最も多く、その他に女性ホルモンの変動、空腹、天候の変化、睡眠不足または過眠、特定の香水やにおいなどが挙げられます。片頭痛の発症機序は完全には解明されていませんが、「三叉神経血管説」が広く受け入れられています。この説では、何らかの原因で三叉神経を構成する無髄線維(C線維)からカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)が放出され、脳血管の拡張や神経の炎症を引き起こすことで痛みが生じると考えられています。リメゲパントは、CGRP受容体拮抗薬であり、CGRPによる血管拡張や神経原性炎症の誘導を阻害することで、片頭痛に伴う痛みや諸症状を軽減します。本剤の特徴は、わが国で初めて片頭痛発作の急性期治療および発症抑制の両方に適応を有する点です。急性期治療には片頭痛発作時に頓服で服用し、発症抑制には隔日で服用します。また、本剤は薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛:MOH)を誘発する可能性が低いと考えられているため、MOHの発症リスクを有する患者、またはMOHの既往のある患者について、添付文書上で特別な注意喚起をしていません。急性期治療に関しては、中等度または重度の片頭痛を有する日本人患者を対象とした国内第II/III相試験(BHV3000-313/C4951022試験)において、主要評価項目である投与2時間後の疼痛消失割合は、本剤75mg群で32.4%、プラセボ群で13.0%でした。群間差(本剤群-プラセボ群)は、19.4%(95%信頼区間[CI]:12.0~26.8)で本剤群のプラセボ群に対する優越性が検証されました(p<0.0001、Mantel-Haenszel検定)。一方、発症抑制に関しては、日本人患者を対象に片頭痛の予防療法を評価した国内第III相試験(BHV3000-309/4951021試験)において、主要評価項目である二重盲検期の最後の4週間(Week 9~12)での1ヵ月当たりの片頭痛日数のベースラインからの平均変化量は、本剤群で-2.4日(95%CI:-2.93~-1.96)、プラセボ群で-1.4日(95%CI:-1.87~-0.91)でした。両群間の差は-1.1日(95%CI:-1.73~-0.38)であり、本剤群のプラセボ群に対する優越性が検証されました(p=0.0021、反復測定線形混合効果モデル)。

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小児の消化管アレルギー(食物蛋白誘発胃腸症)【すぐに使える小児診療のヒント】第7回

小児の消化管アレルギー(食物蛋白誘発胃腸症)消化管アレルギー(食物蛋白誘発胃腸症)は、2000年ごろから急速に認知が広がった比較的新しい疾患概念であり、新生児・乳幼児を中心に増加しています。嘔吐や下痢を主訴に受診する乳児では、感染症や外科的疾患に加えて、食物蛋白誘発胃腸症を鑑別に挙げることが重要です。今回は、代表的な新生児・乳児食物蛋白誘発胃腸症の一型である食物蛋白誘発胃腸炎(Food Protein-Induced Enterocolitis Syndrome:FPIES[エフパイス])を中心に解説します。症例2ヵ月、男児。授乳2時間後に大量に嘔吐を繰り返したため救急外来を受診。普段は完全母乳栄養だが、本日は祖母に預けるため普段は使わない人工乳を使用したとのこと。受診時には活気良好で、腹部所見なし。食物蛋白誘発胃腸症の特徴と分類一般的に食物アレルギーというと、蕁麻疹や呼吸症状を伴う即時型(IgE依存型)アレルギーを想起するでしょう。しかし、食物蛋白誘発胃腸症はIgEが関与せず、主に消化管粘膜で炎症反応が起こる非即時型(非IgE依存型)アレルギーです。食物摂取後、数時間~数日かけて症状が出現し、皮膚症状や呼吸器症状を伴わないことが大きな特徴です。新生児・乳児の消化管アレルギーはわが国独自の疾患概念として扱われていましたが、小児の消化器分野や国際的な概念を鑑みて「食物蛋白誘発胃腸症」として再定義されました。食物蛋白誘発胃腸症は経過や症状から下記のようにいくつかのサブグループに分けられます。画像を拡大する最も代表的なものはFPIESです。日本での有病率は約1.4%と報告されており、決してまれな疾患ではありません。FPIESは経過により急性型と慢性型に分けられます。急性型は原因食物摂取後1~6時間に反復する強い嘔吐が出現し、顔色不良やぐったりするなど全身状態の悪化を伴うこともあります。重症例では、輸液やステロイド投与による全身管理が必要になることがあります。なお、急性期の対応として即時型アレルギーのようにエピネフリン筋注を行っても効果は期待できません。一般的には摂取を中止すると数時間で速やかに改善し、経過は短いのが特徴です。一方、慢性型は原因食物の摂取を続けることで数日~数週かけて嘔吐や下痢、体重増加不良が現れ、除去後も改善までに時間を要します。画像を拡大する実際には症状が重なり合っているためサブグループに分けられないことがしばしばあり、そのために診断や治療に支障を来す場合も見受けられます。日本ではNomuraらによる「嘔吐と血便の有無」で4群に分けるクラスター分類が提唱され、臨床的な整理に有用です。原因となる食物原因となる食物は国や地域によって異なりますが、国際的には乳、魚、鶏卵、穀物、大豆の順になっています。日本の13施設による多施設共同研究(成育医療センター・筑波大学ほか)では、食後1~4時間以内に遅延性の嘔吐を呈した小児225例を対象に解析を行った結果、FPIESの原因食物は鶏卵が最も多く(58.0%)、続いて大豆・小麦(各11.1%)、魚(6.6%)、牛乳(6.2%)でした。鶏卵では94%が卵黄によるものでした。牛乳が原因で発症した児の月例の中央値は1ヵ月と最も早い結果でした。原因食物の違いは各国の離乳食事情によるようで、初期に摂取するものが原因になりやすいと考えられています。診断と治療の基本FPIESには、下記のような診断基準が設けられています。臨床的には、(1)被疑食物を除去して症状が改善すること(食物除去試験)、(2)再度摂取することで症状の再現性があること(食物負荷試験)、(3)他の疾患に当てはまらないこと、を確認します。とくに、小児領域では腹部症状や体重増加不良を来す疾患が多数あるため、他疾患がないか十分に確認することが重要です。FPIESを含む食物蛋白誘発胃腸症は非IgE依存性であるため、一般的なIgE依存性の食物アレルギーで行うような血液検査やプリックテストでは診断できません。末梢血好酸球数、アレルゲン特異的リンパ球刺激試験(ALST)、便粘液好酸球検査、消化管内視鏡検査などを補助的に行うこともありますが、いずれも条件が限定されており、その所見のみで確定診断できるほど有用な検査ではありません。画像を拡大する治療の基本は原因物質の除去です。人工乳(乳)が原因の場合には、代わりに加水分解乳やアミノ酸乳といった栄養剤を使用します。食物除去によって栄養素が不足しないよう、病院の管理栄養士と相談しながら、適宜栄養素の内服や補助食品などを併用します。一般的にFPIESの予後は良好と考えられています。寛解率や時期は原因食物によって異なりますが、幼児期のうちに治ることが多いと報告されており、除去している原因食物が食べられるようになったかどうか、定期的な食物負荷試験で確認します。冒頭の症例では、追加の問診で「半月ほど前にも一度祖母に預けた際に人工乳を使用して2~3時間後に大量に嘔吐した」との情報があり、症状の再現性が確認されました。人工乳の使用を一旦中止し、これまで母乳では症状が出ていなかったため母乳での対応を継続しました。母が不在で母乳の供給が困難な場合には、アレルギー用ミルクである加水分解乳(ニューMA1など)を選択しました。その後、症状の反復がないこと、体重増加が良好であることなどを確認し、症状寛解後数ヵ月を経て経口負荷試験を行いました。離乳食の進み具合に合わせて、他の食材に関しても相談しながら通院中です。保護者への対応の工夫発症予防として、妊娠中の食物制限や離乳食の開始時期を遅らせることは、医学的根拠に乏しく推奨されません。また、「なんとなく怖いから卵はまだ与えていない」といった安易な食物摂取制限も避けるべきです。過度な制限は成長や発達に影響を及ぼすこともあるため、そのリスクを共有し、バランスのとれた摂取を勧めましょう。食物蛋白誘発胃腸症に限らず、食物アレルギーは子供の成長・発達や将来にも関わるため、保護者の心理的負担は非常に大きいものです。長期的な予後や今後の方針を丁寧に共有することで、不安の軽減につながります。FPIESは多くの場合、1~3歳ごろまでに自然寛解することが知られています。日本の報告では、卵黄、乳、小麦、大豆などの原因食品を対象とした場合、発症から12ヵ月後には約半数の児が寛解し、24ヵ月後にはおよそ8~9割が耐性を獲得していました。とくに乳製品が原因の場合、耐性を獲得する月齢の中央値は約17ヵ月と報告されています。冒頭の症例のように乳が原因の場合、乳児の栄養源の中心であるため成長に直結する大きな課題となります。保護者の不安に寄り添いながら、現実的な栄養管理の方法を一緒に模索していくことが重要です。次回は、絶対に見逃してはならない疾患の1つ、「精巣捻転」について取り上げます。夜風が涼しくなり、ようやく過ごしやすい季節になってきました。季節の変わり目、どうぞお身体にお気をつけてお過ごしください。ひとことメモ:よくあるQ&A妊娠中に特定の食物を控えれば、子供のアレルギー発症を抑えられるって本当?発症予防を目的とした母の妊娠・授乳中の抗原食物の制限、除去は推奨されない。完全母乳栄養であれば、赤ちゃんのアレルギー発症を予防できるって本当?母乳中には食物由来ペプチド、サイトカインが含まれており、児が食物に対して寛容を誘導するのに適している。ただし、母乳が原因で食物蛋白誘発胃腸症を発症することもある。他のアレルギーの可能性は?他の即時型アレルギーとは別の疾患概念であるため、必ずしも他の食物アレルギーを発症する可能性が高いとは限らない。離乳食の開始を遅らせると、アレルギー発症を防げるって本当?離乳食を遅らせることは予防・治療には繋がらず、むしろ成長を妨げることもあるため、安易に遅らせるべきではない。参考資料1)食物アレルギー診療ガイドライン20212)Nomura I, et al. J Allergy Clin Immunol. 2011;127:685-688.3)国立成育医療研究センターホームページ4)好酸球性消化管疾患(新生児-乳児食物蛋白誘発胃腸炎)(指定難病98)/難病情報センター5)早野 聡ほか. 浜松医科大学小児科学雑誌. 2025;5:12-18.

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COVID-19罹患は喘息やアレルギー性鼻炎の発症と関連

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患により、喘息、アレルギー性鼻炎、長期にわたる慢性副鼻腔炎の発症リスクが高まる可能性のあることが、新たな研究で明らかにされた。一方で、ワクチン接種により喘息と慢性副鼻腔炎のリスクは低下することも示された。カロリンスカ研究所(スウェーデン)のPhilip Curman氏らによるこの研究結果は、「The Journal of Allergy and Clinical Immunology」に8月12日掲載された。 Curman氏は、「ワクチン接種が感染そのものを防ぐだけでなく、特定の呼吸器合併症に対しても優れた予防効果をもたらす可能性のあることが興味深い」と同研究所のニュースリリースの中で述べている。 この研究でCurman氏らは、米国の電子健康記録のデータベースを用いて後ろ向きコホート研究を実施し、COVID-19罹患後における2型炎症性疾患(喘息、アレルギー性鼻炎、慢性副鼻腔炎、アトピー性皮膚炎、好酸球性食道炎)のリスクを評価した。対象者は、COVID-19に罹患した97万3,794人、新型コロナワクチン接種者69万1,270人、新型コロナウイルスに感染しておらず、ワクチンも未接種の対照群438万8,409人である。 解析の結果、COVID-19罹患群では対照群に比べて、喘息のリスクが65.6%(ハザード比1.656、95%信頼区間1.590〜1.725)、アレルギー性鼻炎のリスクが27.2%(同1.272、1.214〜1.333)、慢性副鼻腔炎のリスクが74.4%(同1.744、1.671〜1.821)、有意に高いことが明らかになった。アトピー性皮膚炎と好酸球性食道炎のリスクについては変化が見られなかった。その一方で、ワクチン接種者ではむしろリスク低下が見られ、喘息リスクは32.2%(同0.678、0.636〜0.722)、慢性副鼻腔炎リスクは20.1%(同0.799、0.752〜0.850)低下していた。直接比較からは、COVID-19罹患群ではワクチン接種群に比べて呼吸器系の2型炎症性疾患リスクが 2〜3倍高いことが示された。 これらの結果を踏まえてCurman氏は、「本研究結果は、COVID-19への罹患は気道に2型炎症性疾患を引き起こす可能性があるものの、他の臓器には影響しないことを示唆している」と述べている。 ただし研究グループは、本研究は観察研究であり、COVID-19罹患と気道の2型炎症性疾患との間に関連が示されたに過ぎないとして、慎重な解釈を求めている。

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慢性咳嗽のカギ「咳過敏症」、改訂ガイドラインで注目/杏林

 8週間以上咳嗽が持続する慢性咳嗽は、推定患者数が250〜300万例とされる。慢性咳嗽は生活へ悪影響を及ぼし、患者のQOLを低下させるが、医師への相談割合は44%にとどまっているという報告もある。そこで、杏林製薬は慢性咳嗽の啓発を目的に、2025年8月29日にプレスセミナーを開催した。松本 久子氏(近畿大学医学部 呼吸器・アレルギー内科学教室 主任教授)と丸毛 聡氏(公益財団法人田附興風会 医学研究所北野病院 呼吸器内科 主任部長)が登壇し、慢性咳嗽における「咳過敏症」の重要性や2025年4月に改訂された『咳嗽・喀痰の診療ガイドライン2025』に基づく治療方針などを解説した。慢性咳嗽により労働生産性が約3割低下 松本氏は「知ってますか? 『長引く咳』と『咳過敏症』」と題し、慢性咳嗽のQOLへの影響や病態、咳過敏症の臨床像やメカニズムなどについて解説した。 慢性咳嗽はQOLを大きく低下させる。心理的側面では「咳をすると周囲の目線が気になる」「咳をすることが恥ずかしい」「会話や電話ができない」などの悪影響が生じる。また、食事への影響が生じたり、とくに女性では尿失禁が起こったりする場合もある。症状が強い場合には、咳失神や肋骨骨折にもつながる。このように、慢性咳嗽患者は日常生活においてさまざまな困りごとを抱えており、労働生産性の損失率は約30%にのぼるという報告がなされている。 慢性咳嗽の原因はさまざまであり、主な疾患として、喘息、アトピー咳嗽、胃食道逆流症(GERD)、副鼻腔気管支症候群などが挙げられる。そこで問題となるのが、これらの疾患は画像検査や呼吸機能検査、血液検査で特異的な所見がみられないことが多いという点である。そのため、慢性咳嗽の診断・治療では、咳の出やすいタイミングや随伴する症状などを問診で明らかにし、原因疾患に対する治療を行いながら経過を観察していくこととなる。しかし、これらの疾患に対する治療を行っても、約2割が難治性慢性咳嗽となっているのが現状である。難治性慢性咳嗽の背景にある咳過敏症 松本氏は、「難治性慢性咳嗽の背景にあるのが咳過敏症症候群である」と指摘する。咳過敏症症候群は「低レベルの温度刺激、機械的・化学的刺激を契機に生じる難治性の咳を呈する臨床症候群」と定義され1)、煙や香水などの香り、会話や笑うことなどのわずかな刺激により咳が出て止まらなくなる状態である。 2023年に公開された英国胸部学会の最新のガイドライン「成人慢性咳嗽に関するClinical Statement」2)では、慢性咳嗽の「treatable traits(治療可能な特性)」として12項目が示され、このなかの1つに「咳過敏症」が示されている。これについて、松本氏は「慢性咳嗽という大きな括りのなかには、さまざまな原因疾患があり、加えて咳過敏症もあるという考えである。難治化した慢性咳嗽患者は咳過敏症を有していると考えることもできる」と述べ、咳過敏症に対する対応の重要性を強調した。改訂ガイドラインでtreatable traitsを明記 続いて、丸毛氏が「長引く咳に関する診療の進め方-最新の診療ガイドラインをふまえて-」と題して講演した。そのなかで、『咳嗽・喀痰の診療ガイドライン2025』の咳嗽パートの改訂のポイントから、「慢性咳嗽のtreatable traits」「咳過敏症の重要性」「難治性慢性咳嗽についての詳説」の3項目を取り上げ、解説した。 容易に原因の特定ができない狭義の成人遷延性・慢性咳嗽の対応として、本ガイドラインでは、喀痰がある場合は「副鼻腔気管支症候群」への治療的診断を行い、喀痰がない、あるいは少量の場合は「咳喘息」「アトピー咳嗽/喉頭アレルギー(慢性)」「GERD」「感染後咳嗽」に対する診断的治療を行って、咳嗽の改善を評価することが示されている。ここまでは前版と同様であるが、前版では原因疾患への対応で改善がみられない場合の治療法は示されていなかった。しかし、改訂ガイドラインでは、その先の対応として「treatable traitsの検索」「P2X3受容体拮抗薬の使用の検討」が示された。 treatable traitsの概念は、患者の病態のなかで、「明確に評価・測定できる」「臨床的に意義があり、予後や生活に影響する」「有効な介入手段が存在する」という条件を満たすものである。treatable traitsは患者によって単一の場合もあれば、複数の場合もある。また、複数の場合は個々のtraitsが占める割合も患者によって異なる。 従来の診療は、喘息であれば吸入ステロイド薬、COPDであれば気管支拡張薬など、診断名に応じて標準治療を一括適用するという考えであった。しかし、treatable traitsを考慮した治療では、同じ診断名でも個々の病態の構成要素は異なるため、それらをしっかりと見極めて治療を行う。これは「プレシジョン・メディシンに近い考え方である」と丸毛氏は述べる。 改訂ガイドラインでは、英国胸部学会の最新のガイドライン「成人慢性咳嗽に関するClinical Statement」2)で示されたtreatable traitsが採用されており、「GERD」「喘息などの呼吸器系基礎疾患」「睡眠時無呼吸症候群」「肥満」「ACE阻害薬の服用」など、12項目が示されている。そのなかの1つに「咳過敏症」がある。これについて、丸毛氏は「慢性咳嗽の難治化の要因となる咳過敏症がtreatable traitsとして示されたのは非常に重要なことである。改訂ガイドラインは、非専門医の先生方にも個別化医療を実践しやすく作成されているため、ぜひ活用いただきたい」と述べ、ガイドラインの普及による咳嗽診療レベルの向上への期待を語った。選択的P2X3受容体拮抗薬「ゲーファピキサント」の登場 咳過敏症に対する初の分子標的薬が、選択的P2X3受容体拮抗薬ゲーファピキサント(商品名:リフヌア)である。咳のメカニズムの1つとして、P2X3受容体の関与がある。炎症や刺激により気道上皮細胞などから放出されたATPが、感覚神経に存在するP2X3受容体を刺激することで咳過敏性が亢進する。ゲーファピキサントはこれを抑制することで、咳嗽を改善させる。ゲーファピキサントは難治性の慢性咳嗽を改善するほか、日常生活や睡眠の質の改善も報告されている。 ゲーファピキサントは発売から3年以上が経過し、使用経験も積み重ねられている。改訂ガイドラインでも、フローチャートに難治性咳嗽の選択肢として掲載された。これについて、丸毛氏は「咳嗽は非専門医の先生方が多く診られているため、咳嗽の診療に慣れた先生であれば、非専門医であっても選択肢として提示可能であると判断され、ガイドラインにも記載されている」と説明した。 ゲーファピキサントには代表的な有害事象として、味覚に関連する有害事象があり、マネジメントが重要となる。そこで、味覚に関連する有害事象への対応について松本氏に聞いたところ「亜鉛が欠乏すると味覚障害が強くなりやすいため、亜鉛欠乏に注意することが必要である。また、後ろ向き研究ではあるが、麦門冬湯を併用していると味覚障害が軽かったというデータもあるため、麦門冬湯の併用も選択肢の1つになるのではないか」との回答が得られた。

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遅発型ポンペ病の新規併用療法薬「ポムビリティ点滴静注用105mg」【最新!DI情報】第46回

遅発型ポンペ病の新規併用療法薬「ポムビリティ点滴静注用105mg」今回は、ポンペ病治療薬「シパグルコシダーゼ アルファ(遺伝子組換え)(商品名:ポムビリティ点滴静注用105mg、製造販売元:アミカス・セラピューティクス)」を紹介します。ポンペ病の筋組織に蓄積するグリコーゲンを減少させる作用を有する薬剤であり、成人の遅発型ポンペ病の新たな治療選択肢として期待されています。<効能・効果>遅発型ポンペ病に対するミグルスタットとの併用療法の適応で、製造販売承認を2025年6月24日に取得し、8月27日より発売されています。<用法・用量>ミグルスタットとの併用において、通常、体重40kg以上の成人にはシパグルコシダーゼ アルファ(遺伝子組換え)として、1回体重1kg当たり20mgを隔週点滴静脈内投与します。なお、ミグルスタットを投与してから1時間後に本剤の投与を開始します。<安全性>重大な副作用として、infusion reaction(23.5%)、アナフィラキシー(1.2%)があります。その他の副作用として、頭痛(5%以上10%未満)、浮動性めまい、味覚不全、片頭痛、平衡障害、認知障害、錯感覚、傾眠、振戦、頻脈、悪夢、潮紅、高血圧、呼吸困難、腹部膨満、下痢、腹痛、鼓腸、食道痙攣、そう痒症、発疹、蕁麻疹、紅斑性皮疹、筋痙縮、筋力低下、筋骨格硬直、筋肉痛、発熱、悪寒、胸部不快感、顔面痛、疲労、注入部位腫脹、倦怠感、疼痛、血中尿素増加、体温変動、リンパ球数減少、眼瞼痙攣、皮膚擦過傷(1%以上5%未満)があります。急性呼吸器疾患のある患者、または心機能もしくは呼吸機能が低下している患者に本剤を投与する場合、症状の急性増悪が起こる可能性があるので、患者の状態を十分に観察し、必要に応じて適切な処置が必要です。<患者さんへの指導例>1.この薬は、遺伝子組換えポンペ病治療剤と呼ばれる薬です。ミグルスタット(オプフォルダカプセル65mg)と併用されます。2.体内で不足している酵素(酸性アルファグルコシダーゼ)を補充してライソゾーム中のグリコーゲンを分解します。<ここがポイント!>ポンペ病(Pompe disease)はライソゾーム病の一種であり、酸性アルファグルコシダーゼ(GAA)の遺伝子変異により発症する先天性代謝異常症です。GAAはライソゾーム内でグリコーゲンを分解する酵素であり、欠損または活性低下により、骨格筋、肝臓、心筋などにグリコーゲンが異常に蓄積します。その結果、筋力低下、肝腫大、心筋症などの症状を引き起こします。ポンペ病は、発症時期によって幼児型と遅発型(小児型および成人型)に分類されます。乳児型は完全酵素欠損であり、自然経過では呼吸不全や心不全により、多くの場合、1歳未満で死に至ります。一方、患者の大多数を占める遅発型は、発症年齢が幅広く、残存酵素活性(正常の40%未満)を有しています。遅発型の主な症状は、近位筋筋力や呼吸筋筋力の低下であり、心機能低下はまれです。治療には、酵素欠乏状態を改善するために、アルグルコシダーゼアルファやアバルグルコシダーゼアルファを用いた酵素補充療法(ERT)が行われます。ERTの導入により、ポンペ病の治療は飛躍的に進歩し、患者のQOLは大きく向上しましたが、効果不十分な症例も報告されており、とくに筋肉への標的指向性特性の改善が求められていました。本剤は、既存のアルグルコシダーゼアルファと同様にヒトGAAの遺伝子組換え製剤ですが、ライソゾームへの送達効率を高めるための改良がなされています。ライソゾーム移行に必要な天然構造であるマンノース-6-リン酸(M6P)を多く含んでおり、とくにカチオン非依存性マンノース-6-リン酸受容体(CI-MPR)への結合親和性を高めるため、2ヵ所がリン酸化されたビスマンノース-6-リン酸(bis-M6P)を有する糖鎖が付加されています。この構造により、投与直後の酵素濃度が低い骨格筋においても、酵素の細胞内取込みおよびライソゾームへの送達(標的指向性)が改善されています。なお、本剤はミグルスタットとの併用が必須です。ミグルスタットは本剤の血中の安定性を高め、酵素活性の低下を防ぐことで治療効果を維持します。遅発型ポンペ病患者を対象としたATB200-03試験において、6分間歩行距離(6MWD)の52週でのベースラインからの変化量(外れ値の患者を除いたITT-OBS集団)の平均値±SDは、本剤+ミグルスタット併用群では20.6±42.3m、アルグルコシダーゼアルファ/プラセボ群では8.02±40.6mであり、本併用群では52週までの6MWDの経時的改善がみられました。MMRM(Mixed-effect model for repeated measures)から得られた最小二乗平均値の群間差は14.2m(95%信頼区間:-2.60~31.0)でした(p=0.097、名目上のp値)。

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抗IL-4Rαモノクローナル抗体薬stapokibart、鼻茸を伴う重症慢性副鼻腔炎に有効/JAMA

 鼻茸を伴う重症の慢性副鼻腔炎成人患者において、日常的な点鼻ステロイド療法にstapokibartを併用投与することで24週時の鼻茸サイズと鼻症状の重症度を有意に改善させることが示された。中国・首都医科大学のShen Shen氏らが、中国の51施設で実施した第III相無作為化二重盲検比較試験「CROWNS-2試験」の結果を報告した。stapokibartは、新規の抗インターロイキン4受容体αサブユニット(IL-4Rα)モノクローナル抗体であり、中国において中等症~重症のアトピー性皮膚炎ならびに季節性アレルギー性鼻炎の治療薬として用いられている。第II相無作為化二重盲検比較試験「CROWNS-1試験」において、鼻茸を伴う重症の好酸球性慢性副鼻腔炎に対する有効性が示されていた。JAMA誌オンライン版2025年8月18日号掲載の報告。ステロイド点鼻療法へのstapokibart併用をプラセボ併用と比較 CROWNS-2試験の対象は鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎の成人患者で、スクリーニングの6ヵ月以上前に副鼻腔手術歴があるか、または過去2年以内に全身性ステロイド投与歴があり、両側の鼻茸スコアが5以上(範囲:0~8)かつ週平均鼻閉スコアが2以上(範囲:0~3)の患者であった。なお、登録患者の60%以上は鼻茸を伴う好酸球性慢性副鼻腔炎であることとした。好酸球性慢性副鼻腔炎は、血中好酸球が6.9%以上(喘息なし)または3.7%以上(喘息あり)、鼻茸組織中好酸球数が55個/HPF以上または27%以上と定義した。 研究グループは、適格患者をstapokibart(300mg皮下投与)群またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付け、2週ごとに24週間投与した(試験投与期)。両群とも4週間の導入期および試験投与期中、モメタゾンフランカルボン酸エステル点鼻液を1日1回(各鼻腔に100μg)噴霧した。 主要エンドポイントは2つで、全体集団および好酸球性慢性副鼻腔炎患者集団における24週時の鼻茸スコアおよび鼻閉スコアのベースラインからの変化であった(意味のある変化の閾値[MCT]はそれぞれ≧1点および≧0.5点)。stapokibartの有効性と安全性を確認 2022年8月9日~2023年4月28日に、274例がスクリーニングされ、適格患者180例が無作為化された。このうち、179例(平均[±SD]年齢45.0±12.9歳、女性61例[34.1%])が少なくとも1回試験薬の投与を受けた(stapokibart群90例、プラセボ群89例)。追跡調査終了日は2024年6月25日であった。 24週時における鼻茸スコアのベースラインからの最小二乗(LS)平均変化量は、全体集団でstapokibart群-2.6点、プラセボ群-0.3点(LS平均群間差:-2.3、95%信頼区間[CI]:-2.6~-1.9、p<0.001)、好酸球性慢性副鼻腔炎患者集団ではそれぞれ-3.0点、-0.4点(-2.5、-2.9~-2.1、p<0.001)であった。 24週時における鼻閉症状のベースラインからのLS平均変化量は、全体集団でstapokibart群-1.2点、プラセボ群-0.5点(LS平均群間差:-0.7、95%CI:-0.9~-0.5、p<0.001)、好酸球性慢性副鼻腔炎患者集団でそれぞれ-1.3点、-0.5点(-0.8、-1.0~-0.6、p<0.001)であった。 有害事象の発現割合は、stapokibart群77.8%、プラセボ群69.7%、重篤な有害事象はそれぞれ2.2%、1.1%であった。stapokibart群では、プラセボ群に比べて関節痛(7.8%vs.0%)ならびに高尿酸血症(5.6%vs.1.1%)の発現割合が高かった。

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第276回 医学誌側が拒否!ケネディ氏がワクチン論文に要請したこと

INDEX今さら何を…医学誌編集部がケネディ氏へ抵抗示す職権の乱用が過ぎる今さら何を…「私はこれまで『反ワクチン』や『反産業』と呼ばれてきましたが、それは事実ではありません。私は反ワクチンではありませんし、反産業でもありません。私は安全を重視する立場なのです」「私の子どもたちは全員、ワクチンを接種しています。ワクチンは医学において極めて重要な役割を果たしています」上記の発言は、米国・保健福祉省長官のロバート・F・ケネディ・ジュニア氏(以下、ケネディ氏)が米連邦議会上院財務委員会の指名承認公聴会で述べた発言だ。同公聴会は大統領が指名する閣僚の承認是非を検討するプロセスの入口である。以前からケネディ氏のことは本連載(第264回、第267回、第274回参照)で同氏によるACIP(予防接種の実施に関する諮問委員会)の委員全員の解任、mRNAワクチン研究の縮小などを取り上げ、なかば「週刊ケネディ」状態になっているが、それはこれほど突っ込みどころの多い人物もそうそういないからである。昨今の報道からもこの人のワクチン懐疑主義は筋金入りであり、前述の公聴会発言は長官承認を得るための方便に過ぎなかったのだと改めて思っている。医学誌編集部がケネディ氏へ抵抗示すその昨今の報道とは「ケネディ米厚生長官のワクチン研究撤回要請、医学誌が拒否」というロイター電である。要約すると、“デンマーク国立血清学研究所(SSI)が行った小児用ワクチンに含まれるアジュバントのアルミニウムと50種類の疾患(自閉症、喘息、自己免疫疾患を含む)との関連性を調べた大規模コホート研究の結果、これら疾患の増加とアルミニウム・アジュバントとの関連は認められなかったという研究に対して、ケネディ氏が撤回を要求し、掲載した『Annals of Internal Medicine』誌編集部が拒否した”というものだ。この研究1)、中身を見ると個人的にはなかなかのものと感じる。まず研究に使用したデータはデンマークの国民健康登録データで、デンマークでの小児用ワクチン接種プログラムが始まった1997~2018年までに生まれ、2歳時点まで国内に居住していたすべての子どもを対象にしている。移住、死亡、特定の先天性疾患や先天性風疹症候群、呼吸器疾患、原発性免疫不全症、心不全または肝不全などの既往例を除外した最終的な解析対象は122万4,176例と極めて規模が大きい。ちなみにデンマークのワクチンプログラムは、2歳までにジフテリア・破傷風・百日咳、不活化ポリオの混合ワクチンとヒブワクチンの3回接種とMMRワクチンの1回目を完了させるもので、2007年からは肺炎球菌ワクチン(2010年までは7価、それ以降は13価)が加わっている。この研究結果によると、アルミニウム・アジュバントの曝露量は出生年代によって異なり、総アルミニウム曝露量の中央値は3mg(四分位範囲2.8~3.4)。最終的な生後2年間のワクチン接種によるアルミニウム累積曝露量1mg増加当たりの調整ハザード比は、自己免疫疾患が0.98(95%信頼区間:0.94~1.02)、アトピー性またはアレルギー性疾患が0.99(同:0.98~1.01)、神経発達障害が0.93(同:0.90~0.97)という結果だった。レトロスペクティブな研究ではあるが、これだけ大規模であることを考えれば、その欠点はかなり補えていると言える。また、この研究の特徴は日本より先行して導入されたデンマーク版マイナンバーであるCPR(Central Persons Registration)番号を利用しているため、親の経済状況などの交絡因子などは可能な限り調整されているはずだ。職権の乱用が過ぎるこの研究についてケネディ氏は「製薬業界による欺瞞的なプロパガンダ」と評し、対照群がないことなどを批判したらしいが、研究の筆頭著者は「デンマークでのワクチン未接種率は2%未満のため、統計学的に意味のある対照群設定は困難」と反論している。世界の大国・アメリカの閣僚とは言え、そもそも学術誌に掲載された査読済み論文を自らの要請だけで撤回させられると本気で思っているならば、相当な破廉恥だと思うのは私だけではないはずだ。 1) Andersson NW, et al. Ann Intern Med. 2025 Jul 15. [Epub ahead of print]

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乳児期の保湿剤使用でアトピー性皮膚炎の発症率低下、非高リスク集団ほど

 リスクに基づく選別を行っていない乳児集団における、アトピー性皮膚炎の1次予防を目的とした保湿剤(emollient)による介入を評価した研究はほとんどない。今回、リスクに基づく選別のない米国の代表的な乳児集団において、生後9週未満から毎日保湿剤を全身に塗布することで、生後24ヵ月時点におけるアトピー性皮膚炎の累積発症率が低下することが示された。米国・Oregon Health & Science UniversityのEric L Simpson氏らによるJAMA Dermatology誌オンライン版2025年7月23日号掲載の報告。 研究者らは、米国の4州におけるプライマリケア診療ネットワーク(practice-based research networks)に属する25の小児科・家庭医診療所から、1,247組の乳児と保護者を対象に、プラグマティック無作為化分散型臨床試験を実施した。参加者の募集は2018年7月~2021年2月に行い、追跡調査は2023年2月までに完了した。 乳児と保護者のペアは、1)生後9週目未満までに毎日の全身への保湿剤塗布を開始した保湿剤使用群、あるいは2)保湿剤の塗布を控える対照群に無作為に割り付けられた。主要評価項目は、生後24ヵ月までに患者の診療記録に記載された医師診断によるアトピー性皮膚炎の発症。参加者は3ヵ月ごとに電子アンケートに回答し、有害事象の報告やアトピー性皮膚炎診断の有無を研究チームに通知した。訓練を受けた研究コーディネーターが、参加者の診療記録から情報を抽出した。 主な結果は以下のとおり。・1,247人の乳児のうち、553人(44.3%)が女児で、無作為化時の平均(SD)日齢は23.9日(16.3)であった。・24ヵ月時点でのアトピー性皮膚炎の累積発症率(SE)は、保湿剤使用群で36.1%(2.1)、対照群で43.0%(2.1)であり、相対リスク(RR)は0.84(95%信頼区間[CI]:0.73~0.97、p=0.02)であった。また、アトピー性皮膚炎の非高リスク集団では、より高い効果がみられた(RR:0.75、95%CI:0.60~0.90、p=0.01)。・また、家庭内に犬がいる場合には保護効果が有意に増強された(RR:0.68、95%CI:0.50~0.90、p=0.01)。・皮膚に関連する有害事象の発生率に群間差は認められなかった。

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