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レディ・プレーヤー1【なぜゲームをやめられないの?どうなるの?(ゲーム依存症)】

今回のキーワード多人数同時参加型オンラインロールプレイングゲームeスポーツ「デジタルドラッグ」「ゲーム脳」「シンデレラ法」「スマホ育児」AI(人工知能)「ホモ・ルーデンス」(遊ぶ人)皆さんは、ゲームをしますか? またはお子さんがゲームをしますか? 今や、ゲームと言えば、多人数同時参加型オンラインロールプレイングゲーム(MMORPG)です。これは、インターネット上のサーバーを介して、不特定多数の人が同じゲームの中で、数人のチーム(ギルド)をつくり、冒険、狩り、モンスター退治などをするものです。自分のプレイの分身(アバター)によって、ほかのプレーヤーと文字のやりとりや会話を行うこともできます。さらにこれからは、VR(仮想現実)ゴーグルによる、よりリアルな体験をするゲームが注目されています。最近では、ゲームをeスポーツと呼び、従来のスポーツ大会の種目の1つに入れようとする動きがあります。また、学校の部活動の1つとして、「eスポーツ部」を認めようとする動きもあります。これは、サークルや同好会ではなく、部活動としてゲーム関連の費用を学校が負担することを意味します。どうやらゲームは、今、世の中でますます広がりを見せています。ところで、そのゲームをやめられない、やめさせられないと困っている人はいませんか? または、そのようは相談を受けることはありませんか? なぜゲームをやめられないのでしょうか? やめられないとどうなるのでしょうか? そもそも、なぜゲームは「ある」のでしょうか? そして、どうすれば良いのでしょうか? これらの疑問を解き明かすために、今回は、2018年の映画「レディ・プレーヤー1」を取り上げます。この映画を通して、ゲームをする心理を脳科学的に、そして、その起源を進化心理学的に掘り下げ、ゲーム依存症の理解を深めましょう。そして、私たちの未来の生き方について、一緒に考えていきましょう。なぜゲームをやめられないの?ストーリーの舞台は、未来の西暦2045年。多くの人は、食べる、寝る、トイレに行く以外は、VR(仮想現実)ゴーグルを着けて、オアシスというネット上のVR(仮想現実)の世界で過ごしています。まさに「食う、寝る、遊ぶ」です。まずここから、このVRの世界を現在のゲームと照らし合わせながら、その3つの特徴を整理してみましょう。そして、「なぜゲームをやめられないの?」という問いへの答えを導きましょう。(1)何でもできる -達成感主人公のウェイドは、「今、現実は重くて暗い。みんな逃げ場を求めている」「(一方で)オアシスは、想像が現実になる世界。何でもできる」と言っています。現実の世界は、ゴミだらけで荒廃しており、彼はぱっとしない日常を送ります。一方、オアシスは、色鮮やかで華やかで、魅力的なキャラクターたちが次々と登場し、冒険、戦闘、自動車レースなどが、毎日繰り返されています。ウェイドは、パーシヴァルという名のアバターで、やりたいことをして、毎日生き生きとした時間を過ごしています。1つ目の特徴は、何でもできる、つまり達成感が得られることです。これは、現在のゲームにも通じています。そのからくりは、主に3つあります。1つ目は、時間とお金をかければ必ずうまくいくように作られていることです。お金をかけるとは、課金システムで強い武器などのアイテムを得て、地位を上げることです。2つ目は、繰り返しやればチャンスが増すように作られていることです。たとえば、「連続ログインボーナス」は、毎日必ずログインして一定期間が経つと、ボーナスがもらえる仕組みです。また、「1日1回だけのチャンス」は、1日1回だけ特級アイテムを得る「ガチャ」(抽選)のチャンスがもらえる仕組みです。逆に言えば、1日1回しかチャンスがないので、毎日必ずログインしてチャレンジするよう仕向けられていると言えます(機会損失の回避)。3つ目は、次から次へと新しい課題が出され、飽きないように作られていることです。これは、ゲームの設定が常にアップデートされるためです。つまり、従来のゲームのようなクリア(ゴール)という概念がなく、延々とやり続けることが可能になります。このように、ゲームをやめられなくなるのは、やればやるほど達成感が得られるからです。逆に言えば、現実の世界では、そう簡単に達成感は得られません。そのわけは、ゲームほど何でもできる状況がそもそもあまりないからです。(2)仲間がいる -連帯感オアシスで、パーシヴァル(ウェイド、以下略)は「エイチは、はっきり言って親友だ。現実の世界では会ったことないけど」と言い、エイチと過ごします。やがて、彼は、オアシスの後継者の権利を掛けた宝探しレースをする最中、ランキングで暫定1位になり、オアシスの住人全員から注目を集めて、人気者になります。そして最後に彼は、エイチたちと5人組の仲間となり、オアシスの共同運営者になります。2つ目の特徴は、仲間がいる、つまり連帯感が得られることです。これは、現在のゲームにも通じています。そのからくりは、主に3つあります。1つ目は、自分の居場所があるように作られていることです。これは、毎回プレイ中にチームのメンバーとコミュニケーションをすることで、仲良くなり、信頼され、つながっている感覚が得られることです(所属欲求)。2つ目は、自分の役割があるように作られていることです。これは、チームで協力することで、お互いに必要とされ、勇気や決断力が認められる感覚が得られることです(承認欲求)。3つ目は、自分の目指すものがあるように作られていることです。これは、チームで敵や宝などの分かりやすいターゲットに向かって突き進んで達成していくことです(自己実現欲求)。これは、ゲームの1つ目の特徴である達成感にもつながります。もはや、チームのメンバーは「戦友」で、ターゲットは「戦果」とも言えます。逆に言えば、自分がやめると、チームのメンバーに遅れをとってしまったり、迷惑をかけることになります。このように、ゲームをやめられなくなるのは、やればやるほど連帯感が得られるからです。逆に言えば、現実の世界は、そう簡単に連帯感は得られません。そのわけは、ゲームほど仲間でいることの理由が見いだせないことが多いからです。(3)気楽である -安全感パーシヴァルは、現実のウェイドと違って、ビジュアルが良く、おしゃれで、身体能力も高いです。もちろん、見た目だけでなく声を変える設定もできます。彼は、アルテミスという女性とデートをして、イケイケのダンスもします。彼は、彼女に「現実の世界で会いたい」「君に恋してる」と言うと、「私の顔はこんなんじゃない。がっかりするよ」と言われてしまいます。また、パーシヴァルは、ライバルのソレントと向き合った時、VRゴーグルを一時的に外して、動悸を隠します。また、オアシスでは、死ぬと所持金は0になりますが、リセットすれば生き返るようになっています。3つ目の特徴は、気楽である、つまり安全感です。これは、現在のゲームにも通じています。そのからくりは、主に3つあります。1つ目は、見せたくない自分を見せないように作られていることです。これは、顔などの見た目から相手にされないのではないかという不安がなくなります。2つ目は、見たくない相手やものを見ないように作られていることです。これは、気が合わない相手でもその場にいなければならないという義務感がなくなります。また、音や光などの感覚刺激は、調節したり遮断することができます。3つ目は、いつでも休めたりやり直しができるように作られていることです。これは、失敗すると取り返しが付かないという緊張感がなくなります。このように、ゲームをやめられなくなるのは、安全感が保たれているからです。逆に言えば、現実の世界は、そう簡単に安全感は保たれません。そのわけは、ゲームほど気楽なままで何かを達成する機会はあまりないからです。ゲームをやめられないとどうなるの? ―ゲーム依存症ウェイドと同居する叔母の恋人は、オアシス内の戦闘ゲームでアバターが死んでしまい、「(高性能の武器を使うために)全部つぎ込んだ。勝てるはずだった」と怒り狂います。同じように、ある幼児は、アバターが死んで、泣き叫びます。ある男性は、飛び降り自殺をしようとします。ある母親は、ゲームに夢中になり、家事や育児に手が付かなくなっています。ウェイドは、「みんな、全部オアシスにつぎ込んでるから、全部失ったら(ゲームに負けてアバターが死んだら)、そりゃ正気も失うよね」と説明します。このように、お金や時間などが奪われて日常生活に差し障るほどゲームがやめられなくなる、コントロールができない状態は、通称、ゲーム依存症と言います。精神医学的には、ゲーム障害(ICD-11)、インターネットゲーム障害(DSM-5研究枠)と呼ばれます。また、先ほどご紹介した「ガチャ」(抽選)によってアイテムを得る課金システムは、必ずしも欲しいアイテムが得られるわけではないので、つい「ガチャ」をやりすぎてお金をつぎ込んでしまうというギャンブル依存症の要素もあります。ここから、ゲーム依存症の特徴を3つに分けて、脳科学的に考えてみましょう。そして、「どうなるの?」という問いへの答えを導きましょう。(1)もっとやりたくなる -渇望先ほどご紹介した達成感や連帯感は、脳へのご褒美、つまり報酬です。とくに連帯感は、社会的報酬と言います。これらは、満足感、幸福感、わくわく感、胸のときめき、快感などと自覚され、ドパミンという脳内ホルモン(神経伝達物質)が大きく関わっています(報酬系)。たとえば、栄養価が高いものを食べると、ドパミンが刺激され、美味しいと感じます。それが、もう1回食べようという動機付けになります。まさに、「味を覚える」「味を占める」というわけです。ゲームは、このドパミンがより効率的に分泌し続けるように人工的に作られたものです。分かりやすく言えば、安楽なままで快感がすぐに得られてしまう覚醒剤に似ています。実際の論文では、脳画像検査(PET)によって、ゲームの開始前と50分後での脳内(線条体)のドパミンの放出量が2倍に増えていると報告されています。これは、覚醒剤(0.2mg/kg)の静脈注射に匹敵します。もちろん現実の世界でも、達成感や連帯感からドパミンがこのレベルに増えることはあります。ただし、その頻度はまれで、時間は一瞬からせいぜい数十分です。美味しいものも満腹になればそれ以上食べられません。それに対して、ゲームは、やっている時間すべてです。つまり、ゲームによるドパミン分泌は、そもそも覚醒剤と同じくらい刺激が強くて長続きするものであるということです。もはやゲームは、「デジタル・ドラッグ」とも言えるでしょう。すると、どうなるでしょうか?1つ目の特徴は、ゲームをもっとやりたくなります(渇望)。言い換えれば、脳がゲームの刺激をより欲してしまいます。そのメカニズムは、大きく3つあります。1つ目は、ゲームの刺激に鈍くなることです(耐性)。これは、ちょうど1回目の覚醒剤の摂取が一番快感で、その後に同じ快感を得るために量が増えていくことに似ています。その理由として、ドパミンを使いすぎて足りなくなっていることがあげられます。もう1つの理由としては、慢性的なドパミンの刺激によって、脳内のドパミンの受け皿(受容体)の数が減ってしまうことがあげられます(ダウンレギュレーション)。これは、過剰な刺激で神経細胞が消耗するのを防ぐため、その反応を抑えることでバランスを保つ生体の調節機能が自動的に働くからです(ホメオスタシス)。2つ目は、ゲームをしないといらいらすることです(離脱症状)。これは、ちょうどアルコール依存症の人が断酒後に手が震えて汗が出るなどのいわゆる禁断症状に似ています。その理由として、慢性的な刺激を受けていると、それがバランスのとれた通常の状態(ホメオスタシス)であると脳が誤認識してしまい、逆に刺激がなくなると脳が異常だと誤作動を起こしてしまうからです。3つ目は、ゲーム関連に敏感になることです(プライミング、キュー)。たとえば、それは、ゲームの宣伝を見ることから、パソコンやスマホの画面をただ見ること、そして自室の椅子にただ座ることなどです。これは、ちょうど覚醒剤依存症の人が注射器を見ただけで覚醒剤を打ちたくなったり、アルコール依存症の人がおつまみを見ただけでビールが飲みたくなったり、ギャンブル依存症の人がネオンサインを見ただけパチンコがしたくなることに似ています。その理由として、刺激を受け続けることで脳神経のネットワークが変わり(短絡回路)、頭の中はその報酬がすべてになってしまうからです(投射ニューロン)。言い換えれば、その刺激と結び付いた情報や体験がセットになって脳に記憶として刻まれることで、報酬が予測されやすくなるからです(報酬予測、条件反射)。ひと言で言えば、「ゲーム漬け」「ゲームに溺れる」ということです。逆に言えば、現実の世界の達成感や連帯感は、苦労しても少ししか得られないばかりか、脳がゲームだけでなく現実の生活の刺激にも鈍くなってしまうため、ますますバカらしくてどうでも良くなってしまいます。つまり、報酬系とは、その人の価値観であり、生き方を決めてしまうものです。まさに、ゲーム依存症になると、その人の生き方が変わってしまうと言えるでしょう。(2)頭が働かなくなる -認知機能障害ドパミンが慢性的に出すぎていると、興奮状態になった神経細胞がやがて消耗していき、死んでいきます(変性)。実際の論文では、脳画像検査(MRIのDTIやVBM)によって、ゲーム依存症の人の前頭葉などで、覚醒剤などの薬物依存症と同じように、神経ネットワークの統合性の低下や萎縮が認められていることが報告されています。すると、どうなるでしょうか?2つ目の特徴は、頭が働かなくなります(認知機能障害)。体が酷使されて弱るのと同じように、脳も酷使されて弱っている状態です。たとえば、衝動的でキレやすくなったり(眼窩前頭葉)、相手の気持ちに無関心で冷淡になったり(前帯状回)、無気力で無関心になります(外包)。これは、ちょうど同じくドパミンが慢性的に出すぎていることで引き起こされる統合失調症の陰性症状に似ています。かつて、根拠がないと批判され、「疑似科学」の烙印を押された「ゲーム脳」が、いまや現実の科学として認められたことになります。ウェイドは、「重くて暗い」現実から軽やかでまぶしいオアシスに逃げ場を求めていきました。しかし、実は、彼はオアシスでの強い刺激を受け続けていることで脳が消耗してしまい、現実が「重くて暗い」ようにますます見えてしまっているという解釈もできるでしょう。ここで、皆さんに考えていただきたいことがあります。それは、ゲームが、冒頭でもご紹介したeスポーツとしてスポーツ大会の種目の1つになったり、学校の部活動になるのは良いと言えるでしょうか? 答えは、ノーです。なぜなら、スポーツの理念(スポーツ基本法)の1つが健康になることであるという点で、ゲームは不健康になるリスクがあまりにも高いからです。もちろん、従来のスポーツもトレーニングをしすぎて体を壊すということはありえます。ただし、決定的な違いは、ゲームは刺激性や依存性があることです。そして、それによって「脳を壊す」おそれが著しく高いことです。そのゲームが従来のスポーツと並んでしまうと、あたかも健康的なイメージを子供にも植え付けてしまいます。ゲーム会社のマーケティング戦略に完全に取り込まれているように思われます。やはり、望ましいのは、ゲームは「eスポーツ」とは名乗らないこと、そしてゲームは「ゲーム大会」として従来のスポーツ大会とは区別し、別々に開催されることです。(3)気疲れしやすくなる -ストレス脆弱性先ほどご紹介した安全感が保たれることは、逆に言えば、ストレスフリーの時間が増えることになります。ストレスとは、相手からどう見られるか緊張したり、相手が何を考えているか察知し、状況により我慢するなど、周りの空気を読む意識的な労力です(社会脳)。また、外界で複雑に絡み合ってざわざわと揺らいでいる音や光などの感覚刺激の無意識的な情報処理です(デフォルトモードネットワーク)。すると、どうなるでしょうか?3つ目の特徴は、気疲れしやすくなります(ストレス脆弱性)。体を動かさないで鈍るのと同じように、頭も動かさないで鈍っている状態です。たとえば、人混みが耐えられなくなったり、初対面の相手に極度に緊張したり、雑談ができなくなったり、逆に、言われたことを過剰に気にするようになることです。これは、ちょうど同じく社会的参加のストレスを避けた「社会的ひきこもり」の精神状態に似ています。ウェイドは、オアシスで、アルテミスとイケイケのダンスをして体を密着させていたのに、現実の世界で会った時はキスするのをためらっていました。これは、もともと彼が奥手であったということに加えて、生身の人間と触れ合うことに緊張しやすくなっていたという解釈もできるでしょう。ゲーム依存症になりやすい人は? ―リスクそれでは、ゲーム依存症になりやすいのは、どんな人でしょうか? そういう人を特徴と状況に分けて、ゲーム依存症のリスクを考えてみましょう。(1)特徴特徴、つまり個人因子としては、主に2つあげられます。a.探究心が強いウェイドは、宝探しのヒントが、オアシスの開発者の言動にあるとひらめき、オアシスの博物館に何度も通い、探し求めます。1つ目の特徴は、探究心が強いことです(新奇性探求)。それを、ゲームが達成感として手軽に満たしてくれます。これは、ADHDとの関連が強いです。その特性としては、興味のあることに飛び付きます(衝動性)。一か八かの勝負事が好きで、スリルと興奮を追い求めます(衝動性)。ひらめきなどの発想の転換が早く、アイデアマンの素質もあります(多動性)。また、ADHDの気の早さ(衝動性)や気の多さ(多動性)と同時に見られる気の散りやすさ(不注意)が、ゲームをすることで改善し、一時的に注意力や集中力が高まることです。そもそもADHDは前頭葉のドパミンの働きが弱いです。そのため、ゲームをすることは、ADHD治療薬と同じようにドパミンの働きを活性化させます。ゲームが、あたかもADHDの自己治癒行動になっています。b.内気であるオアシスの開発者のハリデーは、「オアシスをつくったのは、現実世界はどうにも居心地が悪かったからなんだ」「周りの人たちと、どうつながっていいか分からなかった」「ずうっとびくびくしながら生きてきた」と言っています。現実のハリデーがおどおどしている一方で、オアシスでのアノラック(ハリデーのアバター名)は、堂々として威厳があります。2つ目の特徴は、内気であることです(回避性)。それを、ゲームが安心感として満たしてくれます。これは、社交不安、回避性パーソナリティ、そして自閉症スペクトラムとの関連が強いです。とくに自閉症スペクトラムの特性は、周りの空気を読むのが苦手であることです(社会的コミュニケーションの低さ)。これが、ゲームの中では目立たなくなります。そのわけは、コミュニケーションの目的や手段は、現実の世界では曖昧で複雑である一方、ゲームの中では明確で単純だからです。また、興味のあることには、のめり込みます(こだわり、過集中)。特性であるこだわりが生かされているとも言えます。さらに、自閉症スペクトラムの別のこだわりである音や光、肌触りへの敏感さ(感覚過敏)が、ゲームの環境では、調節・遮断することができるため、快適になることです。(2)状況状況、つまり環境因子としては、主に2つあげられます。a.居場所がないウェイドの両親は早くに病死しているため、ウェイドは叔母さんとその恋人の家に居候し、とても肩身の狭い思いをしています。1つ目の状況は、居場所がないことです(自尊心の低さ)。それを、ゲームが連帯感として満たしてくれます。これは、反応性愛着障害や境界性パーソナリティとの関連が強いです。自分を大切にしてくれるつながり(愛着対象)がないため、それを極度に欲してしまいます。また、自尊心の低さは、社交不安や回避性パーソナリティの根っこにもなっています。b.ストレスがたまっているウェイドは、叔母の恋人から暴力を振るわれ、叔母さんからは「あんたも出ていきな」と言われ、家出してから3日間、ゲーム漬けになっています。2つ目の状況は、ストレスがたまっていることです(ストレス負荷)。それを、ゲームが達成感、連帯感、安心感のある逃げ場として満たしてくれます。これは、適応障害やPTSDなどのストレス障害との関連が強いです。最近の研究では、トラウマなどのストレス体験を脳に記憶させることをある程度阻害するために、その体験から6時間以内にコンピューターゲームのテトリスをやり続ける予防策が提唱されています。まさにストレス解消法です。ゲームが、あたかもストレス障害の予防行動になっています。なぜゲームは「ある」の?そもそも、なぜゲームは「ある」のでしょうか? ここから、ゲームの起源を進化心理学的に考えてみましょう。そして、ゲームの三大要素に重ねてみましょう。(1)コミュニケーションをするため -相手約2億年前に哺乳類が誕生し、生まれてからより多くの記憶を学習する脳を進化させました。たとえば、ネズミは、相手のネズミと上になったり下になったりするじゃれ合いをします(プレイ・ファイティング)。また、犬は、相手の犬に頭を下げてお尻を上げて尻尾を振るあいさつ遊びをします(プレイ・バウ)。それらは、人間の1歳児から好まれる、体が触れ合うじゃれ合いや「グーチョキパーでなにつくろう」「てをたたきましょう」などの手遊びに通じます。ゲームの起源の1つ目は、コミュニケーションです。相手との相互作用によって、身体感覚を発達させ、あいさつをはじめとするコミュニケーションを学習するようになったと考えられます。ゲームの三大要素の1つに重ね合わせると、コミュニケーションとして相手がいることです。相手とは、ゲームでいう対戦相手、競争相手、つまり敵に当たります。さらには、チームメイト、協力関係の相手、つまり味方も当てはまります。(2)トレーニングをするため -ルール約700万年前に人類が誕生し、約300~400万年前に相手の気持ちをくむ脳を進化させました(社会脳)。それは、2歳児から好まれる「おままごと」などのふり遊び、見立て遊び、ごっこ遊びに当たります。そして、約10~20万年前に喉の構造を進化させ、言葉を話すようになり、抽象的な思考ができるようになりました。それは、現代の4歳児から好まれる「鬼ごっこ」「カード遊び」などのルール遊びに通じます。ゲームの起源の2つ目は、トレーニングです。ルール遊びを理解することを通して、社会生活のルールの学習をトレーニングとして積み重ねるようになったと考えられます。ゲームの三大要素の1つに重ね合わせると、トレーニングとしてルールがあることです。ルールとは、ゲームでいう武器を揃えることや戦略に当たります。(3)シミュレーションをするため -勝ち負け約1万数千年前に農業革命が起こり、人間は、食料という富を蓄積し、定住するようになりました。すると、部族同士の縄張り争いや略奪、つまり戦争が頻発するようになりました。また、食料の取り置きが可能になったため、時間の余裕ができるようになりました。その暇つぶしや娯楽として、戦いのまねごと、シミュレーションをするようになったでしょう。それは、現代の大人からも好まれるスポーツなどの競技に通じます。ゲームの起源の3つ目は、シミュレーションです。競技で勝ち負けの結果を重視することを通して、実際の社会生活をうまく切り抜けるシミュレーションの能力を発達させるようになったと考えられます。ゲームの三大要素の1つに重ね合わせると、シミュレーションとして勝ち負けがあることです。勝ち負けとは、ゲームでいう得点、生死、結果に当たります。このように、ゲームが「ある」のは、コミュニケーション、トレーニング、そしてシミュレーションをして、生存や生殖に有利になる手段として発達したからと言えます。人類は、「ホモサピエンス」(賢い人)と呼ばれますが、それだけでなく、「ホモ・ルーデンス」(遊ぶ人)とも呼ばれています。これは、遊びという現実から離れた想像力を持つ人類という意味です。ただし、その想像力の賜物(たまもの)であるゲームが、これからの技術革新によって、生活を支える手段を超えて、生活(人生)のすべて、つまり目的そのものになってしまう時代に来ています。どうすれば良いの?それでは、そんな生活と結び付きを強めるゲームの特徴を踏まえて、ゲーム依存症にどうすれば良いのでしょうか? その対策を主に3つ挙げてみましょう。(1)オフラインの時間を設ける ―ゲームの制限ウェイドは、オアシスの運営者となり、新しい取り組みを進めます。彼は、「3つ目の変更はいまいちウケなかったけど、火曜日と木曜日はオアシスを休みにしたんだ。」「人には現実で過ごす時間も必要だよ」と言っています。1つ目の対策は、オフラインの時間を設ける、つまりゲームの制限です。たとえば、韓国では、オンラインゲームをするためのIDが必要で、ユーザーが16歳未満の場合は、0時から6時までオフラインになるシャットダウン制が設けられています(「シンデレラ法」)。個人だけでなく、家族や社会としての取り組みも重要になるでしょう。たとえば、家族全員でオフラインにする時間帯を設定するなど家族の一体感も利用できます。また、オフラインによる制限の程度は、アルコール依存症や薬物依存症などの物質の依存症と、過食嘔吐(摂食障害)や抜毛症や自傷行為(境界性パーソナリティ)などの行動の依存症の中間であると考えることができます。もちろん、ゲームをアルコールや薬物のように完全に断つ制限ができれば一番良いです。たとえば、それは、ゲームのメインアカウントを消去すること、刺激(キュー)となる通知も来ないようにすることです。しかし、ゲームは、デジタル機器との結び付きが強く、食べること、毛を抜くこと、リストカットをすることと同じくらい身近に溢れ手軽にできてしまう行動です。そのため、まず日常生活に差し障らない上限のお金や時間を決めて制限するのが現実的でしょう(ハームリダクション)。(2)現実の世界で社会生活をする ―「リアル」な体験ウェイドは、現実の世界で、サマンサ(アルテミスの実名)に「ここってゆっくりだね。風も人も」と言います。サマンサの住まいは自然の緑に囲まれており、オアシスの無機的な世界とのギャップに気付かされ、見ている私たちもほっとします。ラストシーンで、オアシスの開発者のハリデーはウェイドに「ようやく分かったんだよ。確かに現実はつらいし、苦しいし」「でも、唯一、現実の世界でしか、うまい飯は食えないってな。なぜなら、現実だけがリアルだから」と言っています。2つ目の対策は、現実の世界で社会生活をする、つまり「リアル」な体験です。つまり、ただゲームをしなければ良いというわけではなく、もともと人間に必要な社会生活を十分にすることです。なぜなら、私たちの脳は、原始の時代から大きく変わってはいないからです。そのために、ゲーム以外の、たとえば、相手に直接会ったり、スポーツをするなど、ゲームの代わりになる達成感や連帯感をあえて見いだし、安心感のない適度なストレスをあえて味わうことです。(3)子供に予防する ー低年齢化の予防ハリデーの子供時代、テレビゲームばかりしている様子が当たり前のように映し出されます。3つ目は、子供に予防する、つまり低年齢化の予防です。たとえば、使用時間帯と使用時間制限を書面にするなど、親子でルール作りをする取り組みです(ペアレンタル・コントロール)。フィルタリング機能やタイマー機能を駆使することもできます。同時に、先ほど触れたように、ほかの「リアル」な体験を一緒にすることです。学校や病院などの理解者、第三者を介入させるのも一案です。子供の予防対策が重要な理由は、ゲームの開始年齢が早いほど、ゲーム依存症の発症リスクが上がることが分かっているからです。子供の脳は、大人よりも刺激に敏感で、影響を受けやすいです(可塑性)。そして、影響を受けたら、大人よりも回復しにくいです。だからこそ、より刺激(嗜癖性)の強い、アルコールとタバコは20歳から、パチンコやポルノは18歳からと法律的に制限されています。ちなみに、スマートフォンのアプリでぐずる乳児をあやす、いわゆる「スマホ育児」は、どうでしょうか? とても危ういです。なぜなら、乳児には刺激が強すぎるからです。実際に、日本小児科医会からは「スマホに子守りをさせないで!」というポスターが出され、問題の提言がされています。現時点で、子供へのスマートフォンは制限されていないので、実質0歳から見せることができます。タバコは、麻薬へのゲートウェイ・ドラッグと言われます。「スマホ育児」は、ゲーム依存症への「ゲートウェイ・デジタルドラッグ」と言えるかもしれないです。よって、子供に早くからその「味」を覚えさせない取り組みが重要になります。そういう意味では、今後の社会的な取り組みとしては、刺激の強いゲームの宣伝を規制することになるでしょう。これは、ゲーム依存症の特徴でも触れたように、子供をなるべくゲームの刺激にさらさないことです。海外で映画の喫煙シーンがR指定になっているように、手がかり刺激(キュー)への反応性を高めなくするためです。私達の未来の生き方は? ―「幻」か「リアル」かパーシヴァルが「オアシスでは、結婚もできるし、離婚もできる」と説明するシーンがあります。その後、「オアシスで現実の世界で見つけられないものをやっと見つけた。生きがいとか。友達とか。愛も見つけた」とオアシスの住人に高らかに語るシーンもあります。彼はオアシスで大まじめで苦労もしています。自分は頼りにされていると実感もしています。オアシスで生きることが、人生そのものになっています。ストーリーの中では、現実の世界とうまくつながり、ハッピーエンドになりました。しかし、もしその達成感や連帯感、そして苦労さえもが、AI(人口知能)によって本人に都合良く作られたものだったらどうでしょうか?その答えに近いことをアルテミス(サマンサ)が答えています。彼女は、パーシヴァルに「あんたが見てるのは、私が見せたいと思ってる私」「私の夢に恋してるの」「あんたはリアルの世界に生きてない」「あんたが生きてるのは幻の中」と言い放っています。サマンサの父親は、課金による借金で強制労働をさせられて、現実の世界で死んでいました。彼女は、その敵討ちのためにオアシスの宝探しレースに参加していたのでした。彼女は、実は駆け引きに長けた現実主義者なのでした。ゲームと現実の世界の決定的な違いは、「幻」か「リアル」かです。「リアル」とは、単に食べ物が美味しい、セックスが気持ち良いだけでなく、仕事や人間関係がうまくいかないで逃げ出したくなる生々しい苦しさや葛藤も含まれます。そして、その「リアル」な苦労があるからこそ、些細な喜びにも意味を見いだせます。そして、苦労するからこその「リアル」な人間的成長があります。たとえば、山頂まで自分で登るのと、VRゴーグルを着けて空を飛んで登った気分になるのとでは、山頂に立つ喜びの「味」やそれを感じる「舌」の感度がまったく変わってくるということです。現在のゲームでも、時間とお金をかければ、自分に都合の良い理想の親友、パートナー、そして子供をつくることができます。それは、ユーザーが満足することを最優先にした「友情ごっこ」「恋愛ごっこ」「子育てごっこ」というコンテンツです。そこに、「リアル」な苦労はありません。その「幻」をどこまで生活(人生)の一部にするかです。つまり、「幻」をどこまで「リアル」の代わりとして望むかということです。私たちの未来の生き方が問われてきます。その生き方を見極めるために、3つの価値観を考えてみましょう。(1)「こうでなければならない」1つ目は、「こうでなければならない」という価値観です。これは、これまでの社会の価値観です。その社会構造としては、貧富の格差がありました。これは、約1万数千年前の農業革命によって生まれ、200年前の産業革命によって広がりました。その社会を生き残る個人の価値観としても、たとえば「親や先生の言うことを聞かなければならない」「友達と仲良くしなければならない」「勉強しなければならない」「仕事をしなければならない」「出世しなければならない」「結婚して子供を生まなければならない」「子育てをしなければならない」「子供を良い学校に行かせなければならない」「親の介護をしなければならない」という義務感がありました。そこには、親をはじめとする社会の同調圧力が個人に対して機能していました。同時に、その価値観に従ってさえいればうまくいくので、個人としても、あまり深く考えなくても良かったのでした。良く言えば、受け身で生きていれば良かった時代でした。(2)「どうであっても良い」ところが、時代が変わりつつあります。20世紀後半の情報革命により、社会よりも個人に重きがますます置かれるようになりました。「かけがえのない自分」「特別な存在」という自意識を根っこに、忍耐や自己犠牲よりも、個性や自己実現が尊ばれるようになりました。このような多様化した社会では、もはや「こうでなければならない」という価値観は通じにくくなります。そして、AI(人口知能)の登場です。貧富の格差を生み出す「面倒な仕事」がすべてAI化されたら、社会はどうなるでしょうか?2つ目は、「どうであっても良い」という価値観です。これは、これからの社会の価値観になるでしょう。2040年頃に「シンギュラリティ(技術的特異点)」というAIが人間の知能を超える転換点を迎えると言われています。その頃には、「生活革命」が起きるでしょう。それは、人間が何もしなくても生活(人生)が送れることです。ストーリーの設定である2045年のオアシスのように、「食う、寝る、遊ぶ(VRの世界で過ごす)」という生活が現実になるでしょう。この点で、現代の「ひきこもり」は、未来の生活を先駆けていると言えるかもしれません。彼らがますます増えているのも、彼らこそが時代の最先端だからとも言えるかもしれません。(3)「こうありたい」ただし、果たしてその生活は自分が望んでいるものでしょうか? 仕事をしないで遊んで暮らせているから、得しているようにも見えます。しかし、実はその分、何かを失って損しているかもしれないです。その生活は、安楽かもしれませんが、退屈で楽しくないかもしれません。なぜなら、やはり「リアル」な苦労をしていないからです。たとえば、それは、「友達とけんかする」「第一志望の学校に落ちる」「がんばっても仕事がうまく行かない」「交際相手から振られる」「夫婦喧嘩をする」「子供の夜泣きで眠れない」「子供が反抗期になる」「親が認知症になる」などの生々しい人生経験です。これらの「リアル」な苦労をしてこそ得られる人間的成長やそれを乗り越えた時の喜びがあります。なぜなら、先ほどにも触れましたか、私たちの脳は、ほとんど原始の時代のままだからです。原始の時代の環境と同じく、苦労することもセットであってこそ脳は恒常性(ホメオスタシス)を保つからです。ちょうど飽食の現代だからと言って食べ過ぎたりお酒を飲み過ぎたりすると、また便利な時代だからと言って運動不足になると不健康になるのと同じです。AIの時代だからと言って、ストレスフリー、つまり「ストレス不足」になると、不健康になるとも言えるでしょう。それでは、ストレスフルながらも人間的成長やその喜びを得るための価値観とは何でしょうか?3つ目は、「こうありたい」という価値観です。たとえば、けんかしながらも相手の気持ちに思いをはせることで、相手のことをより深く理解できるようになります。雑務を含め自分が最初から最後までかかわった仕事だからこそ思い入れや、やりがいを感じます。腹を立てながらも粘り強く子供の面倒を見ることで子供への愛情が深まり、そして子供からの愛着も深まります。逆に言えば、AIを相手にしていたら、「リアル」なコミュ力は高まりません。AIに仕事を任せたら、仕事をこなす能力も思い入れも高まりません。AIに子育てを任せたら、子供が懐くのはAIであり、自分ではなくなるかもしれません。つまり、自分が納得して「こうありたい」と主体的に思う気持ちが重要になっていきます。そして、その程度は、人それぞれになっていくでしょう。それは、未来の社会構造を大きく揺るがす、文化の較差と言えます。進化心理学的に言えば、受け身なままで安楽に生きれば、遺伝子(ジーン)も文化(ミーム)も残せません。残す人が、その先の未来をつくります。つまり、何をしたいか、何を与えたいか、そして何を残したいかは自分次第であることをますます問われる時代になってきました。そして、どういう自分になりたいか、どういう生き方を子供(次の世代)に伝えたいか、そしてどういう社会をつくっていきたいかを考えさせられます。「レディプレーヤー1」とは?「レディプレーヤー1」とは、初期のテレビゲームの最初に表示される「プレーヤー1、準備を」という意味です。原作者の思い入れからタイトルとされました。これを先ほどの3つの生き方に重ね合わせると、かつて人生はプレーヤーの1人としてクリアすべきという価値観がありました。つまり、人生は苦労しなければならないという考え方です。今や、人生はプレーヤー1(主役)として好きに生きていける価値観が広がりつつあります。これは、人生は苦労しなくても良いという考え方です。そして、その先は、「リアル」な人生のプレーヤー1(主役)としての「レディ」(心構え)をより意識する価値観が生き残ると言えるでしょう。つまり、人生は苦労したいという考え方です。この映画から、「リアル」な人生という苦労する「ゲーム」を通して、今、その瞬間の苦労をあえて買って出る、その苦労に意味付けをすることの大切さに気付くことができるのではないでしょうか? そして、「幻」への受け身ではなく、「リアル」への働きかけの大切さをより学ぶことができるのではないでしょうか?■関連記事(外部サイト含む)2019年サンプルスライド「嗜癖性障害」「カイジ」と「アカギ」(前編)【ギャンブル依存症とギャンブル脳】酔いがさめたら、うちに帰ろう。(前編)【アルコール依存症】酔いがさめたら、うちに帰ろう。(後編)【アルコール依存症】だめんず・うぉ~か~【共依存】1)スマホゲーム依存症:樋口進、内外出版社、20182)インターネット・ゲーム依存症:岡田尊司、文春新書、20153)進化発達心理学―ヒトの本性の起源:D.F.ビョークランドほか、新曜社、2008

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小児におけるリスペリドン使用関連有害事象

 リスペリドンは、小児の行動障害によく使用されるが、この集団における薬剤関連有害事象の定義は、あいまいである。米国・ヴァンダービルト大学のKazeem A. Oshikoya氏らは、リスペリドン治療を受けた小児における有害事象発生率およびリスク因子について検討を行った。Drugs-Real World Outcomes誌オンライン版2019年3月27日号の報告。 ジェネラリストおよび小児科専門医が所属する学術医療センターで、4週間以上のリスペリドン治療を受けた18歳以下の患者を対象とした。非特定化された電子健康記録よりデータを収集した。有害事象は、患者または親/保護者からの報告および、医師による発見もしくは研究室でのフォロー中に検出された、リスペリドンに起因する害のあるあらゆるイベントと定義した。有害事象と臨床変数との関連は、単変量および多変量解析を用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・対象患者は、371例(年齢中央値:7.8歳[四分位範囲:5.9~10.2]、男児:271例[73.0%])であった。・最も一般的な診断は、注意欠如多動症(160例[43.1%])と自閉症(102例[27.5%])であった。・リスペリドンのターゲット症状は、攻撃性(166例[44.7%])および問題行動(114例[30.7%])であった。・有害事象は、110例(29.6%)で156件認められた。・そのうち、最も一般的な有害事象は、体重増加(32件[20.5%])および錐体外路症状(23件、14.7%)であった。・攻撃性、過敏性、自傷行為は、有害事象と正の相関が認められ、鎮痛薬と抗菌薬の併用と負の相関が認められた。・多変量解析では、この関連性は、自傷行為(調整オッズ比:3.1、95%CI:1.7~5.4)および抗菌薬の併用(調整オッズ比:0.2、95%CI:0.1~0.9)において有意なままであった。 著者らは「1ヵ月以上のリスペリドン治療により、小児の3人に1人が1つ以上の有害事象を経験した。自傷行為を有する小児では、とくに注意が必要である」としている。■関連記事小児攻撃性に対する抗精神病薬の効果~メタ解析自閉スペクトラム症とADHDを有する小児における不安障害と気分障害第2世代抗精神病薬、小児患者の至適治療域を模索

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結節性硬化症〔TS : tuberous sclerosis, Bourneville-Pringle病〕

1 疾患概要■ 概念・定義主に間葉系起源の異常細胞が皮膚、中枢神経など全身諸臓器に各種の過誤腫性病変を起こす遺伝性疾患である。従来、顔面の血管線維腫、痙攣発作、知能障害が3主徴とされているが、しばしば他に多くの病変を伴い、また患者間で症状に軽重の差が大きい。疾患責任遺伝子としてTSC1とTSC2が同定されている。■ 疫学わが国の患者は約15,000人と推測されている。最近軽症例の報告が比較的多い。■ 病因・発症機序常染色体性優性の遺伝性疾患で、浸透率は不完全、突然変異率が高く、孤発例が60%を占める。軽微な症例は見逃されている可能性もある。本症の80%にTSC1(9q34)遺伝子とTSC2(16p13.3)遺伝子のいずれかの変異が検出される。TSC1遺伝子変異は生成蛋白のtruncationを起こすような割合が高く、また家族発症例に多い。TSC2遺伝子変異は孤発例に、また小さな変異が多い。一般に臨床症状と遺伝子異常との関連性は明らかではない。両遺伝子産物はおのおのhamartin、tuberinと呼ばれ、前者は腫瘍抑制遺伝子産物の一種で、低分子量G蛋白Rhoを活性化し、アクチン結合蛋白であるERMファミリー蛋白と細胞膜裏打ち接着部で結合する。後者はRap1あるいはRab5のGAP(GTPase-activating protein)の触媒部位と相同性を有し、細胞増殖抑制、神経の分化など多様で重要な機能を有する。Hamartinとtuberinは複合体を形成してRheb(Ras homolog enriched in brain)のGAPとして作用Rheb-GTPを不活性化し、PI3 kinase/S6KI signaling pathwayを介してmTOR(mammalian target of rapamycin)を抑制、細胞増殖や細胞形態を制御している。Hamartinとtuberinはいずれかの変異により、m-TOR抑制機能が失われることで、本症の過誤腫性病変を惹起すると推定されている。近年、このm-TOR阻害薬(エベロリムスなど)が本症病変の治療に使われている。■ 臨床症状皮膚、中枢神経、その他の諸臓器にわたって各種病変がさまざまの頻度で経年齢的に出現する(表1)。画像を拡大する1)皮膚症状学童期前後に出現する顔面の血管線維腫が主徴で80%以上の患者にみられ頻度も高い。葉状白斑の頻度も比較的高く、乳幼児期から出現する木の葉状の不完全脱色素斑で乳幼児期に診断価値の高い症候の1つである。他に結合織母斑の粒起革様皮(Shagreen patch)、爪囲の血管線維腫であるKoenen腫瘍、白毛、懸垂状線維腫などがある。2)中枢神経症状幼小児早期より痙攣発作を起こし、精神発達遅滞、知能障害を来すことが多く、かつての3主徴の2徴候である。2012年の“Consensus Conference”で(1)脳の構造に関与する腫瘍や皮質結節病変、(2)てんかん(痙攣発作)、(3)TAND(TSC-associated neuropsychiatric disorders)の3症状に分類、整理された。(1)高頻度に大脳皮質や側脳室に硬化巣やグリア結節を生じ、石灰化像をみる。数%の患者に上衣下巨細胞性星細胞腫(subependymal giant cell astrocytoma:SEGA)が発生する。SEGAは小児期から思春期にかけて急速に増大することが多く、脳圧亢進症状などを来す。眼底の過誤腫や色素異常をみることもあり、通常は無症状であるが、時に視力障害を生ずる。(2)TSC患者に高頻度にみられ、生後5、6ヵ月頃に気付かれ、しばしば初発症状である。多彩な発作で、治療抵抗性のことも多い。点頭てんかんが過半数を占め、その多くが精神発達遅滞、知能障害を来す。(3)TSCに合併する攻撃的行動、自閉症・自閉的傾向、学習障害、他の神経精神症状などを総括した症状を示す。3)その他の症状学童期から中年期に後腹膜の血管筋脂肪腫で気付かれることもある。無症候性のことも多いが、時に増大して出血、壊死を来す。時に腎嚢腫、腎がんが出現する。周産期、新生児期に約半数の患者に心臓横紋筋腫を生ずるが、多くは無症候性で自然消退すると言われる。まれに、腫瘍により収縮障害、不整脈を来して突然死の原因となる。成人に肺リンパ管平滑筋腫症(lymphangiomyomatosis:LAM)や多巣性小結節性肺胞過形成(MMPH)を生ずることもある。前者は気胸を繰り返し、呼吸困難が徐々に進行、肺全体が蜂の巣状画像所見を呈し、予後不良といわれる。経過に個人差が大きい。後者(MMPH)は結核や肺がん、転移性腫瘍との鑑別が必要であるが、通常治療を要せず経過をみるだけでよい。■ 予後と経過各種病変がさまざまな頻度で経年的に出現する(表1)。それら病変がさまざまに予後に影響するが、中でも痙攣発作の有無・程度が患者の日常生活、社会生活に大きく影響する。従来、生命的予後が比較的短いといわれたが、軽症例の増加や各種治療法・ケアの進展によって生命的、また生活上の予後が改善方向に向かいつつあるという。死因は年代により異なり、10歳までは心臓横紋筋腫・同肉腫などの心血管系異常、10歳以上では腎病変が多い。SEGAなどの脳腫瘍は10代に特徴的な死因であり、40歳以上の女性では肺のLAMが増加する。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)遺伝子診断が確実であり、可能であるが、未知の遺伝子が存在する可能性、検査感度の問題、遺伝子変異と症状との関連性が低く、変異のホットスポットもない点などから一般的には通常使われない。遺伝子検査を受けるときは、そのメリット、デメリットをよく理解したうえで慎重に判断する必要がある。実際の診断では、ほとんどが臨床所見と画像検査などの臨床検査による。多彩な病変が年齢の経過とともに出現するので、症状・病変を確認して診断している。2018年に日本皮膚科学会が、「結節性硬化症の新規診断基準」を発表した(表2)。画像を拡大する■ 診断のポイント従来からいわれる顔面の血管線維腫、知能障害、痙攣発作の3主徴をはじめとする諸症状をみれば、比較的容易に診断できる。乳児期に数個以上の葉状白斑や痙攣発作を認めた場合は本症を疑って精査する。■ 検査成長・加齢とともに各種臓器病変が漸次出現するので、定期的診察と検査を、あるいは適宜の検査を計画する。顔面の結節病変、血管線維腫は、通常病理組織検査などはしないが、多発性丘疹状毛包上皮腫やBirt-Hogg-Dube syndromeなどの鑑別に、また、隆起革様皮でも病理組織学的検査で他疾患、病変と鑑別することがある。痙攣発作を起こしている患者あるいは結節性硬化症の疑われる乳幼児では、脳波検査が必要である。大脳皮質や側脳室の硬化巣やグリア結節はMRI検査をする。CTでもよいが精度が落ちるという。眼底の過誤腫や色素異常は眼底検査で確認できる。乳幼児では心エコーなどで心臓腫瘍(横紋筋腫)検査を、思春期以降はCTなどで腎血管筋脂肪腫を検出する必要がある。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 基本治療方針多臓器に亘って各種病変が生ずるので複数の専門診療科の連携が重要である。成長・加齢とともに各種臓器病変が漸次出現するので定期的診察と検査を、あるいは適宜の検査を計画する。本症の治療は対症療法が基本であるが、各種治療の改良、あるいは新規治療法の開発が進んでいる。近年本症の皮膚病変や脳腫瘍、LAMに対し、m‐TOR阻害薬(エベロリムス、シロリムス)の有効性が報告され、治療薬として使われている。■ 治療(表3)画像を拡大する1)皮膚病変顔面の血管線維腫にはレーザー焼灼、削皮術、冷凍凝固術、電気凝固術、大きい腫瘤は切除して形成・再建する。最近、m-TOR阻害薬(シロリムス)の外用ゲル製剤を顔面の血管線維腫に外用できるようになっている。シャグリンパッチ、爪囲線維腫などは大きい、機能面で問題があるなどの場合は切除する。白斑は通常治療の対象にはならない。2)中枢神経病変脳の構造に関与する腫瘍、結節の中では上衣下巨細胞性星細胞腫(subependymal giant cell astrocytoma:SEGA)が主要な治療対象病変である。一定の大きさがあって症状のない場合、あるいは増大傾向をみる場合は、外科的に切除、あるいはm-TOR阻害薬(エベロリムス)により治療する。急速進行例は外科的切除、頭蓋内圧軽減のためにシャント術も行う。本症の重要な症状である痙攣発作の治療が重要である。点頭てんかんにはビガバトリン(同:サブリル)、副腎皮質(ACTH)などが用いられる。ケトン食治療も試みられる。痙攣発作のフォーカス部位が同定できる難治例に、外科的治療が試みられることもある。点頭てんかん以外のてんかん発作には、発作型に応じた抗てんかん薬を選択し、治療する。なお、m-TOR阻害薬(エベロリムス)は、痙攣発作に対して一定の効果があるとされる。わが国での臨床使用は今後の課題である。精神発達遅滞や時に起こる自閉症に対しては、発達訓練や療育などの支援プログラムに基づいて適切にケア、指導する。定期的な受診、症状の評価などをきちんとすることも重要である。また、行動の突然の変化などに際しては、結節性硬化症の他病変の出現、増悪などがないかをチェックする。3)その他の症状(1)後腹膜の血管筋脂肪腫(angiomyolipoma: AML)腫瘍径が4cm以上、かつ増大傾向がある場合は出血や破裂の可能性もあり、腫瘍の塞栓療法、腫瘍切除、腎部分切除などを考慮する。希少疾病用医薬品としてm-TOR阻害薬(エベロリムス)が本病変に認可されている。無症候性の病変や増大傾向がなければ検査しつつ経過を観察する。(2)周産期、新生児期の心臓横紋筋腫収縮障害、伝導障害など心障害が重篤であれば腫瘍を摘出手術する。それ以外では心エコーや心電図で検査をしつつ経過を観察する。(3)呼吸器症状LAMで肺機能異常、あるいは機能低下が継続する場合は、m-TOR阻害薬(エベロリムス)が推奨されている。肺機能の安定化、悪化抑制が目標で、治癒が期待できるわけではない。一部の患者には、抗エストロゲン(LH-RHアゴニスト)による偽閉経療法、プロゲステロン療法、卵巣摘出術など有効ともいわれる。慢性閉塞性障害への治療、気管支拡張を促す治療、気胸の治療など状態に応じて対応する。時に肺移植が検討されることもある。MMPHは、結核や肺がん、転移性腫瘍との鑑別が必要であるが、通常治療を要せず経過をみるだけでよい。4 今後の展望当面の期待は治療法の進歩と改良である。本症病変にm-TOR阻害薬(エベロリムス)が有効であることが示され、皮膚病変、SEGAとAMLなどに使用できる。本症治療の選択肢の1つとしてある程度確立されている。しかしながら効果は限定的で、治癒せしめるにはいまだ遠い感がある。病態研究の進歩とともに、新たな分子標的薬剤が模索され、より効果の高い創薬、薬剤の出現を期待したい。もとより従来の診断治療法の改善・改良の努力もされており、今後も発展するはずである。患者のケアや社会生活上の支援体制の強化が、今後さらに望まれるところである。5 主たる診療科小児科(神経)、皮膚科、形成外科、腎泌尿器科、呼吸器科 など※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本結節性硬化症学会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)結節性硬化症のひろば(主に患者と患者家族向けの診療情報)患者会情報TSつばさ会(患者とその家族および支援者の会)1)金田眞理ほか. 結節性硬化症の診断基準および治療ガイドライン-改訂版.日皮会誌. 2018;128:1-16.2)大塚藤男ほか. 治療指針、結節性硬化症. 厚生科学研究特定疾患対策研究事業(神経皮膚症候群の新しい治療法の開発と治療指針作成に関する研究).平成13年度研究報告書.2002:79.3)Krueger DA, et al. Pediatric Neurol. 2013;48:255-265.4)Northrup H, et al. Pediatric Neurol. 2013;49:243-254.公開履歴初回2013年2月28日更新2019年2月5日(謝辞)本稿の制作につき、日本皮膚科学会からのご支援、ご協力に深甚なる謝意を表します(編集部)。

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自閉スペクトラム症における非感情性精神病性障害や双極性障害のリスク

 自閉スペクトラム症(ASD)を有する患者では、非感情性精神病性障害(NAPD)および双極性障害(BD)のリスクが高いといわれている。しかし、ASDとNAPDまたはBDの併発を検討したこれまでの研究では、診断バイアスや選択バイアスは考慮されていなかった。オランダ・マーストリヒト大学のR. Schalbroeck氏らは、オランダの精神医学的症例レジストリからの縦断データを用いて、ASD患者のNAPDまたはBDリスクを評価し、これまでのオランダ人集団における研究結果との比較を行った。Psychological Medicine誌オンライン版2018年11月21日号の報告。 ASD患者1万7,234例を対象に、16~35歳までフォローアップ調査を行った。NAPDまたはBDリスクは、カプランマイヤー法を用いて算出した。バイアスを減少させるために、16歳までにASDと診断された患者8,337例の分析を含めた個別分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・ASD患者のうち、35歳までにNAPDと診断された患者は23.50%(95%信頼区間[CI]:21.87~25.22)、BDと診断された患者は3.79%(95%CI:3.06~4.69)であった。・一般集団における診断率は、NAPDで0.91%(95%CI:0.63~1.28)、BDで0.13%(0.08~0.20)であった。・リスク推定値は、おおむね低値だったが、一般集団と比べると高値だった。16歳までにASDと診断された患者に限定すると、25歳までに1.87%(95%CI:1.33~2.61)がNAPDと診断され、0.57%(95%CI:0.21~1.53)がBDと診断された。・一般集団における上記の診断率は、NAPDで0.63%(95%CI:0.44~0.86)、BDで0.08%(95%CI:0.05~0.12)であった。 著者らは「ASD患者のNAPDまたはBD発症リスクは高かった。この結果には、診断バイアスや選択バイアスは影響していないと考えられる」としている。■関連記事日本人自閉スペクトラム症に対するアリピプラゾールの長期効果は自閉スペクトラム症におけるうつ病や自殺念慮のリスクと保護因子自閉症とADHD症状併発患者に対する非定型抗精神病薬の比較

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妊娠中の有害なライフイベントと5歳時のADHD症状との関連

 妊娠中の有害なライフイベントの経験は、子供のADHDと関連があるといわれているが、家族性交絡の影響はよくわかっていない。スウェーデン・カロリンスカ研究所のMina A. Rosenqvist氏らは、妊娠中の有害なライフイベントが、子供のADHD症状と関連しているかを明らかにするため、家族性の要因について検討を行った。Journal of Child Psychology and Psychiatry誌オンライン版2018年10月27日号の報告。 人口ベースのノルウェー母子コホート研究(Norwegian Mother and Child Cohort Study)に参加した子供3万4,751例(6,427例の兄弟姉妹を含む)のデータを収集した。母親からは、妊娠中に特定のライフイベントを経験したかどうかの報告を収集した。5歳時のADHD症状は、Conners' Parent Rating Scale-Revised(CPRS-R)簡易版を用いて評価した。ライフイベントと平均ADHDスコアとの関連は、全コホートにおける最小二乗法を用い、家族性交絡のために兄弟姉妹比較における固定効果線形回帰を用いてモデル化した。 主な結果は以下のとおり。・有害なライフイベントに曝露した子供では、5歳時のADHDスコアが高かった。最も影響が大きかったのは金銭的な問題(調整モデルにおける平均差:0.10、95%CI:0.09~0.11)、最も影響が小さかったのは親しい人の喪失であった(調整モデルにおける平均差:0.02、95%CI:0.01~0.04)。・有害なライフイベント曝露の不一致を兄弟姉妹で比較すると、統計学的に有意ではない減弱した推定値が得られた。たとえば、金銭的な問題の平均差は-0.03(95%CI:-0.07~0.02)であった。・母親がつらいまたは困難な経験をした場合には、イベント数に応じてADHDスコアが上昇し、兄弟姉妹比較の分析では、正常なほうへ推定値が減少した。 著者らは「本結果では、妊娠中の有害なライフイベントと子供のADHD症状との関連性が示唆され、これは家族性の要因によって説明される」としている。■関連記事母親の体格がADHD、自閉症リスクと関連か母親のADHD症状と子供のアウトカムとの関係ADHD発症しやすい家庭の傾向

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自閉スペクトラム症に対するパルミトイルエタノールアミド補助療法のランダム化比較試験

 自閉スペクトラム症には、炎症やグルタミン酸興奮毒性が関連しているといわれている。パルミトイルエタノールアミドは、グルタミン酸による毒性を予防し、同時に炎症反応を阻害することが証明されている内因性カンナビノイドである。イラン・Iran University of Medical SciencesのMona Khalaj氏らは、小児自閉スペクトラム症に対する10週間のリスペリドンとパルミトイルエタノールアミドの併用療法の有効性を検証するため、初めてのランダム化並行群間二重盲検プラセボ対照試験を実施した。Journal of Psychiatric Research誌2018年8月号の報告。パルミトイルエタノールアミドがリスペリドンの治療効果を増大させる可能性 自閉スペクトラム症と中等度~高度な過敏症状を有する4~12歳の小児70例を対象に、2つの治療レジメン(リスペリドン+パルミトイルエタノールアミド[PEA群]またはリスペリドン+プラセボ[プラセボ群])にランダムに割り付けを行った。治療アウトカムは、異常行動チェックリスト-コミュニティ版(ABC-C)を用いて測定した。 小児自閉スペクトラム症に対するリスペリドンとパルミトイルエタノールアミドの併用療法の有効性を検証した主な結果は以下のとおり。・試験終了時(10週目)において、PEA群はプラセボ群と比較し、ABCの過敏性および多動性/ノンコンプライアンス症状の改善において、優れた有効性が示唆された(Cohen's d=0.94、95%CI:0.41~1.46、p=0.001)。・PEA群の多動性症状に対する改善効果は、5週目においても観察されていたが、そのエフェクトサイズ(d=0.53、p=0.04)は、10週目(d=0.94、p=0.001)よりも小さかった。・試験終了時において、PEA群の不適切な発言に対する効果は、プラセボ群を上回り、優れている傾向が認められた(d=0.51、p=0.051)。・ABC-Cサブスケールの他の2項目(無気力/引きこもり、常動行動)については、両群間に有意な差は認められなかった。 著者らは「本知見では、PEAが、自閉スペクトラム症に関連した過敏性や多動性に対するリスペリドンの治療効果を、増大させる可能性があることを示唆している。今後の研究において、自閉症治療に対するPEA単独療法の有用性についての調査が望まれる」としている。■関連記事アジアの小児自閉スペクトラム症の過敏性に対するアリピプラゾールのオープンラベル試験日本人自閉スペクトラム症に対するアリピプラゾールの長期効果は自閉症スペクトラム障害への薬物治療、国による違いが明らかに

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子どもに対する抗精神病薬の処方前後における血糖・プロラクチン検査実施率に関する研究

 多くの国で、抗精神病薬(主に統合失調症、双極性障害、自閉スペクトラム症に伴う易刺激性の治療に用いられる薬剤)による治療を受ける子供が増加している。大人と同様に、子供に対する抗精神病薬の使用は、糖尿病発症リスクの増大と関連している。このような点から、米国やカナダの診療ガイドラインでは、子供に対して抗精神病薬を処方する際、定期的に血糖検査を実施することが推奨されている。また、一部の抗精神病薬の使用はプロラクチンの上昇と関連しており、高プロラクチン血症による無月経、乳汁漏出、女性化乳房などの有害事象が、短期間のうちに発現する可能性もある。しかし、子供にとってこのような有害事象の徴候を適切に訴えることは難しいため、抗精神病薬を処方する際には、血糖検査と同時に、プロラクチン検査も実施すべきと考えられる。 医療経済研究機構の奥村 泰之氏らは、レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)を用いて、日本における、子供に対する抗精神病薬の処方前後の、血糖・プロラクチン検査実施率を明らかにするため検討を行った。Journal of child and adolescent psychopharmacology誌オンライン版2018年6月11日号の報告。 NDBを用いて、15ヵ月間のレトロスペクティブコホート研究を実施した。2014年4月~2015年3月に抗精神病薬を新規に処方された18歳以下の患者を、450日間フォローアップした。アウトカムは、処方前30日~処方後450日の間における、血糖・プロラクチン検査の実施状況とした。血糖・プロラクチン検査実施率は、次の4つの検査時期について評価した。(1)ベースライン期(処方前30日~処方日)、(2)1~3ヵ月期(処方後1~90日)、(3)4~9ヵ月期(処方後91~270日)、(4)10~15ヵ月期(処方後271~450日)。 主な結果は以下のとおり。・6,620施設から得られた、新規に抗精神病薬の処方を受けた4万3,608例のデータのうち、継続的に抗精神病薬を使用していた患者は、処方後90日で46.4%、270日で29.7%、450日で23.8%であった。・ベースライン期に検査を受けた患者の割合は、血糖検査13.5%(95%CI:13.2~13.8)、プロラクチン検査0.6%(95%CI:0.5~0.6)であった。・4つの検査時期すべてにおいて、定期的に血糖検査を受けた患者は、0.9%に減少していた。また、プロラクチン検査を受けた患者は、1~3ヵ月期で0.1%に減少していた。 著者らは、本研究結果について以下のようにまとめている。・本研究では、抗精神病薬の処方を受けた子供が血糖検査やプロラクチン検査を受けることは、まれであることが示唆された。・これらの検査実施率が低くなる背景として、抗精神病薬治療の一環として血糖検査やプロラクチン検査を実施する必要性が十分に認識されていないこと、採血に人手と時間を要すること、メンタルヘルスに関する相談の場で子供や保護者が採血を想定しておらず嫌がること、などが考えられる。また、子供のメンタルヘルスを診療できる医療機関が少なく、採血を苦痛として通院が阻害されてしまうことがないよう、医師が慎重にならざるを得ない状況も考えられる。・かかりつけ医が検査を実施して、その結果を、抗精神病薬を処方する医師と共有する体制を構築することも、解決策の1つであると考えられる。・抗精神病薬治療の一環として必要な検査を周知することに加えて、子供のメンタルヘルスを診療できる医療機関を増やし、かかりつけ医との診療連携を強化するなど、子供のメンタルヘルスに関する医療体制に対して総合的な観点からの解決が求められる。■関連記事小児に対する抗精神病薬処方、診断と使用薬剤の現状は非定型抗精神病薬、小児への適応外使用の現状日本の児童・思春期におけるADHD治療薬の処方率に関する研究

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親の年齢とてんかんリスクに関するレジストリベース調査

 出産時の母親、父親の年齢および親の年齢差と子供のてんかんリスクとの関連について、デンマーク・オーフス大学のJulie W. Dreier氏らが検討を行った。Epilepsia誌オンライン版2018年6月13日号の報告。 研究グループは、1981~2012年にデンマークで生まれたすべての単生児について、プロスペクティブ人口ベースレジストリ研究を実施した。Cox回帰分析を用いて、てんかんのハザード比(HR)および95%信頼区間(95%CI)を推定し、交絡調整を行った。 主な結果は以下のとおり。・研究期間中に158万7,897例、合計2,500万人年をフォローアップし、てんかん患者2万1,797例を抽出した。・母親の年齢が20歳未満で、父親が母親より5歳以上年上の夫婦に生まれた子供において、てんかんの過剰なリスクが認められた(HR:1.17、95%CI:1.07~1.29)。・両親の年齢差が大きくなるとてんかんリスクが増加し、父親が母親よりも15歳以上年上で、そのリスクは最も高かった(調整HR:1.28、95%CI:1.16~1.41)。・両親の年齢差を考慮した際、母親の年齢とは対照的に、父親の年齢は子供のてんかんリスクに関連する独立因子ではなかった(p=0.1418)。・母親の年齢および両親の年齢差との関連は、てんかんのサブタイプにおいて不変であり、てんかん発症年齢により修正されたが、その影響は子供の生後10年間において最も顕著であった。 著者らは「母親の年齢および両親の年齢差は、父親の年齢と無関係に、子供のてんかんリスクとの関連が認められた。本結果は、父親の年齢が高いとde novo変異が子供のてんかんリスクを高めるとの仮説を支持しなかった」としている。■関連記事スペインにおける妊娠中の抗てんかん薬使用に関する比較研究小児てんかんに対するレベチラセタムとフェノバルビタールの有効性比較母親の体格がADHD、自閉症リスクと関連か

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小児から18歳までのうつ病と自閉症気質との関連

 小児から成人期初期までの自閉スペクトラム症(ASD)において、うつ病の軌跡をフォローした人口ベースの研究は、あまり行われていない。そのため、遺伝的あるいは、いじめなどの環境的要因の役割は、いずれの集団においてもよくわかっていない。英国・ブリストル大学のDheeraj Rai氏らは、ASDや自閉症気質の有無にかかわらず、10~18歳の小児におけるうつ症状の軌跡を比較し、ASDと18歳時のICD-10うつ病診断との関連を評価し、遺伝的交絡およびいじめの重要性について検討を行った。JAMA psychiatry誌オンライン版2018年6月13日号の報告。 英国・ブリストルの親子出生コホートであるAvon縦断研究の参加者を、18歳までフォローアップした。データ分析は、2017年1~11月に実施した。うつ症状の評価は、10~18歳の間に6つの時点でShort Mood and Feelings Questionnaire(SMFQ)を用いて行った。18歳時のICD-10うつ病診断の確定には、Clinical Interview Schedule-Revisedを用いた。ASD診断および4つの自閉症気質(社会的コミュニケーション、一貫性、反復行動、社会性)について評価した。自閉症遺伝子多型リスクスコアは、Psychiatric Genomics Consortiumの自閉症発見ゲノムワイド関連研究の集計データを用いて得られた。いじめの評価は、8、10、13歳時に実施した。 主な結果は以下のとおり。・完全なデータを有する最大サンプル数は、軌跡分析で6,091例(男性:48.8%)、18歳時のうつ病診断で3,168例(男性:44.4%)。・ASDおよび自閉症気質を有する小児は、一般集団と比較し、10歳時における平均SMFQ抑うつスコアが高かった(社会的コミュニケーション:5.55[95%CI:5.16~5.95]vs.3.73[3.61~3.85]、ASD:7.31[6.22~8.40]vs.3.94[3.83~4.05])。また、それらは18歳時まで上昇したままであった(社会的コミュニケーション:7.65[95%CI:6.92~8.37]vs.6.50[6.29~6.71]、ASD:7.66[5.96~9.35]vs.6.62[6.43~6.81])。・社会的コミュニケーションの障害は、18歳時のうつ病リスクと関連しており(調整相対リスク:1.68、95%CI:1.05~2.70)、このリスクに対して、いじめが大きく影響していた。・自閉症遺伝子多型リスクスコアにより交絡するエビデンスはなかった。・多重代入法を用いてより大規模なサンプルを分析したところ、結果は類似しており、より正確な結果が得られた。 著者らは「ASDおよびASD気質を有する小児は、一般集団と比較し、10歳時のうつ症状スコアが高かった。また、うつ症状スコアの高さは18歳まで持続し、とくにいじめの状況で顕著であった。うつ病との関連において、社会的コミュニケーションの障害は、重要な自閉症気質であった。環境的要因であるいじめは、介入可能な標的となりうる」としている。■関連記事自閉スペクトラム症におけるうつ病や自殺念慮のリスクと保護因子成人発症精神疾患の背景に自閉スペクトラム症が関連母親の体格がADHD、自閉症リスクと関連か

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受胎期の父親の抗うつ薬使用、子供への影響は?/BMJ

 スウェーデン・カロリンスカ研究所のAlexander Viktorin氏らによる前向きコホート研究で、受胎前後での父親の抗うつ薬使用は、生まれてくる子供の4つの主要有害アウトカム(未熟児出産、先天異常、自閉症、知的障害)に関して安全であることが示された。これまで、妊娠中の母親の抗うつ薬使用については大規模に調査が行われている。その結果、抗うつ薬治療が精子に悪影響を及ぼす可能性を示唆する研究があったが、受胎時の父親の抗うつ薬治療についてはほとんど注目されていなかった。BMJ誌2018年6月8日号掲載の報告。受胎期に服用、妊娠期以後に服用、非服用を比較 研究グループは、回帰分析を用いた陰性対照と比較した観察的な前向きコホート研究で、受胎時期の父親の抗うつ薬使用と、生まれてくる子供の有害アウトカムとの関連を調べた。スウェーデン全国から2005年7月29日以降に妊娠、2006~07年に生まれた小児17万508例を対象とした。 同対象のうち父親が受胎期(受胎前4週~受胎後4週)に抗うつ薬治療を受けていたのは3,983例で、同治療を受けていない(非曝露)群は16万4,492例、父親が受胎期間中抗うつ薬を服用していないが妊娠期(受胎後4週~出産)に同治療を開始(陰性対照比較)群は2,033例であった。 主要評価項目は、未熟児出産、誕生時に先天異常と診断、自閉症スペクトラム障害の診断、知的障害の診断であった。未熟児出産、先天異常、自閉症、知的障害との関連はみられず ロジスティック回帰分析を用いた非曝露群との比較検討で、受胎時期の父親の抗うつ薬使用は、未熟児出産(補正後オッズ比:0.91、95%信頼区間[CI]:0.79~1.04)や先天異常(同:1.06、0.90~1.26)と関連性は認められなかった。また、Cox回帰分析を用いた検討で、受胎時期の父親の抗うつ薬使用は自閉症(補正後ハザード比:1.13、95%CI:0.84~1.53)や知的障害(0.82、0.51~1.31)と関連性はなかった。 妊娠期に抗うつ薬治療を開始した父親の子供についても、知的障害以外のアウトカムは類似していた。知的障害については補正後ハザード比の上昇がみられた(1.66、1.06~2.59)。 受胎期に抗うつ薬を使用した父親の子供3,983例は、妊娠期に抗うつ薬治療を開始した父親の子供2,033例と比較して、未熟児出産(1.09、0.86~1.37)、先天異常(0.98、0.70~1.20)、自閉症(0.79、0.50~1.27)について差はみられなかったが、知的障害についてはリスクの減少がみられた(0.49、0.26~0.93)。 著者は、「今回の結果は、公衆衛生業務をアシストし、患者や医師に計画的な妊娠における抗うつ薬使用の有無についての意思決定の助けとなり、受胎期の抗うつ薬服用を予定している父親の懸念を軽減することになるだろう」と述べている。一方で、今回のトピックに関する研究は限定的で、因果関係は明らかになっておらず、すべての個人や集団に普遍化できるとは限らないとしている。

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湿疹の重症度とメンタルヘルスの悪化の間には相関がある

 湿疹の重症度とメンタルヘルスとの間には有意な関連性があることが、東北大学災害科学国際研究所の國吉 保孝氏らによる研究で明らかになった。Allergology International誌2018年4月13日号に掲載。 子供の湿疹とメンタルヘルスとの関連性は過小評価されている。そのため、著者らは、宮城県内で行われたToMMo Child Health Studyに参加した小学2年生から中学2年生9,954人のデータを用い、「子どもの強さと困難さアンケート」(SDQ)※のスコアと湿疹の重症度との相関について調査を行った。 湿疹の重症度はInternational Study of Asthma and Allergies in Childhood(ISAAC)調査票の持続性屈曲性湿疹および睡眠障害の存在に基づいて、「正常」、「軽度/中等度」、「重度」と定義された。SDQは、合計スコアおよび4つのSDQサブスケール(情緒、行為、多動・不注意、仲間関係)のスコア(それぞれ16以上、5以上、5以上、7以上、5以上の場合)により、「支援の必要がおおいにある」と定義された。 主な結果は以下のとおり。・湿疹の重症度が上がるほど、SDQの合計スコアが有意に高かった(all p≦0.004 for trend)。・「SDQ合計スコア16以上」のオッズ比は、「軽度/中等度」の湿疹で1.51(95%CI:1.31~1.74)、「重度」の湿疹で2.63(95%CI:1.91~3.63)であった(p<0.001 for trend)。・SDQの4つのサブスケール(情緒、行為、多動・不注意、仲間関係)と湿疹の重症度との関連性も、同様の傾向を示した(all p≦ 0.017 for trend)。※「子どもの強さと困難さアンケート」(SDQ): 3歳から16歳くらいまでの子供についての、多側面における行動上の問題に関するスクリーニング尺度。子育てSDQともいう。自閉症スペクトラム障害や注意欠陥多動性障害、行為障害などの測定について信頼性が高く評価されている。

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自閉スペクトラム症におけるうつ病や自殺念慮のリスクと保護因子

 自閉スペクトラム症(ASD)患者では、自殺願望や自殺行為のリスクが有意に増加している。ASD患者の社会的困難さは、しばしば社会的隔離につながり、そのことでうつ病リスクを高める可能性があると考えられる。オーストラリア・ラ・トローブ大学のDarren Hedley氏らは、ASD患者の孤独感や社会的支援が、うつ病や自殺念慮に関連する潜在的なリスクおよび保護因子に及ぼす影響について検討を行った。Depression and anxiety誌オンライン版2018年4月16日号の報告。自閉症患者の36%は最近の自殺念慮を報告 対象は、全国調査に参加した14~80歳のASD患者185例(女性:92例)。 主な結果は以下のとおり。・対象の自閉症患者の49%にうつ病が認められ、36%は最近の自殺念慮を報告した。・対象の自閉症患者の約半数を占める女性において、男性よりもうつ病スコアが高かったが、自殺念慮に関しては、男女間で差は認められなかった。・回帰分析では、孤独感、社会的支援の満足度、ASD特性がうつ病スコアの予測因子であった。・社会的支援に対する満足度は、自殺念慮の予測因子とみられたが、うつ病の影響を考慮した後、有意ではなくなった。・パス解析では、ASD特性の重症度がうつ病と独立して関連していることが示唆された。また、うつ病に対する社会的支援数の効果は、孤独感と社会的支援の満足度によりもたらされ、自殺念慮に対する孤独感と社会的支援の満足度は、うつ病によりもたらされることが示唆された。・関連パターンは、男女ともに同様であった。 著者らは「本研究から、ASD患者における孤独感や社会的支援は、うつ病や自殺念慮の保護因子、リスク因子とするモデルを支持する結果が得られた」としている。

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アジアの小児自閉スペクトラム症の過敏性に対するアリピプラゾールのオープンラベル試験

 アジアの小児および青年(6~17歳)の自閉スペクトラム症の過敏性に対する、アリピプラゾールの有効性および忍容性を調査するため、韓国・蔚山大学校のHyo-Won Kim氏らは、12週間の多国籍多施設オープンラベル試験を実施した。Journal of child and adolescent psychopharmacology誌オンライン版2018年4月24日号の報告。 小児および青年の自閉スペクトラム症患者67例(10.0±3.1歳、男子:52例)を対象に、アリピプラゾールをフレキシブルドーズ(平均投与量:5.1±2.5mg、範囲:2~15mg)で12週間投与を行った。 主な結果は以下のとおり。・アリピプラゾールは、異常行動チェックリストのサブスケールにおいて、過敏性、無気力/引きこもり、常同行動、多動性、不適切な話し方の介護者評価スコアの平均値を、ベースラインから12週目までに有意に減少させた(各々、p<0.001)。・臨床全般印象・重症度スコア(Clinical Global Impression Severity of Illness scale score)も、ベースラインから12週目までに改善した(p<0.001)。・最も多く認められた有害事象は、体重増加であった。また、アリピプラゾールでの治療に関連する重篤な有害事象は認められなかった。 著者らは「本結果より、アジアの小児自閉スペクトラム症の過敏性に対する治療で、アリピプラゾールは、有効かつ忍容性のあることが示唆された。今後は、より大規模なサンプルサイズ、より長期間の研究が求められる」としている。■関連記事日本人自閉スペクトラム症に対するアリピプラゾールの効果は日本人自閉スペクトラム症に対するアリピプラゾールの長期効果は自閉症とADHD症状併発患者に対する非定型抗精神病薬の比較

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自閉スペクトラム症とADHDを有する小児における不安障害と気分障害

 自閉スペクトラム症(ASD)と注意欠如多動症(ADHD)は、頻繁に併発する。ASDとADHDを併発する小児のエンドフェノタイプを理解することは、臨床的な管理に影響を及ぼす可能性がある。米国・ジョンズ・ホプキンズ大学のEliza Gordon-Lipkin氏らは、ASD児の不安障害や気分障害の併発について、ADHDの有無別に比較を行った。Pediatrics誌4月号の報告。 インタラクティブ自閉症ネットワーク(インターネット経由による親からの報告、自閉症研究レジストリ)に登録されたASD児の横断的研究を行った。対象は、親からの報告、専門家、アンケートにより確認された6~17歳のASD診断児。親から報告されたADHD、不安障害、気分障害の診断や治療に関するデータを抽出した。ASDの重症度は、対人応答性尺度(Social Responsiveness Scale)総スコアを用いて測定した。主な結果は以下のとおり。・基準を満たした小児は、3,319例であった。・このうち、1,503例(45.3%)がADHDを併発していた。・ADHDの併発は年齢とともに増加し(p<0.001)、ASD重症化と関連が認められた(p<0.001)。・一般化線形モデルでは、ASDとADHDが併発した小児は、ASDのみの小児と比較し、不安障害(調整相対リスク:2.20、95%CI:1.97~2.46)や気分障害(調整相対リスク:2.72、95%CI:2.28~3.24)のリスクが高いことが明らかとなった。・不安障害や気分障害の罹患に対する最も重要な要因は、加齢であった。 著者らは「ASD児において、ADHDの併発は一般的であった。ASDとADHDが併発した小児では、不安障害や気分障害のリスクが高くなる。ASD児をケアする医師は、治療可能な状態が併発していることを認識する必要がある」としている。■関連記事自閉症とADHD症状併発患者に対する非定型抗精神病薬の比較母親の体格がADHD、自閉症リスクと関連か自閉スペクトラム症小児のうつ病や発達障害併発と兄弟姉妹の関連

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自閉スペクトラム症小児のうつ病や発達障害併発と兄弟姉妹の関連

 兄や姉を持つ自閉スペクトラム症(ASD)の小児において、標準的なメンタルヘルスの社会的要因(家庭の収入、親の教育、小児期の逆境的体験など)を管理した後のうつ病、不安、行動の問題または注意欠如症(ADD)や注意欠如多動症(ADHD)の有病率について、米国・セント・ジョン・フィッシャー大学のGuillermo Montes氏が調査を行った。Maternal and child health journal誌オンライン版2018年2月10日号の報告。 2011~12年の米国子ども健康調査(National Survey of Children's Health)のデータを用いて、ASD小児1,624例を、一人っ子、長子、兄姉ありの3群に分類した。クロス集計の補正デザイン、単変量・多変量ロジスティック回帰を推定した。 主な結果は以下のとおり。・3群のASD小児は、年齢を除く人口統計学的特徴、小児期の逆境的体験、親によるASD重症度の報告について同程度であった。・兄姉のいるASD小児では、うつ病、不安、行動の問題を有する割合が有意に低かった。また、ADDまたはADHD診断率も低かった。・調整されたオッズ比は、0.12~0.53の範囲であり、強い関連性が示唆された。 著者らは「兄や姉のいるASD小児は、他のASD小児と比較し、メンタルヘルスの障害を併発する可能性が低かった。逆に、長子や一人っ子のASD小児は、これらのリスクが高かった。ASD小児においてこのことがどのように寄与するか理解するため、さらなる研究が必要である。また、一人っ子や長子のASD小児に対する介入に、それが適応できるかを検討することが求められる」としている。■関連記事自閉症とADHD症状併発患者に対する非定型抗精神病薬の比較ADHD発症しやすい家庭の傾向母親の体格がADHD、自閉症リスクと関連か

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母親のADHD症状と子供のアウトカムとの関係

 オーストラリア・メルボルン大学のDaryl Efron氏らは、母親の注意欠如多動症(ADHD)の症状と、その子供の機能アウトカムとの関連について、コミュニティベースの小児サンプルを用いて調査を行った。Archives of disease in childhood誌オンライン版2018年1月9日号の報告。 本コホート研究では、メルボルンの学校に通学しているADHD児および健常対照児を対象に、複合スクリーニング(コナーズ3 ADHD指標)とケースカンファレンス(Diagnostic Interview Schedule for Children Ver.4)を用いて評価を行った。分析には、ADHD児117例、健常対照児149例が含まれた。小児の平均年齢は8.9歳。母親のADHD症状(成人ADHDの症状重症度を把握するための評価尺度:CAARS)と子供のアウトカム(ADHD重症度、QOL、学力、社会的感情機能)を測定した。 主な結果は以下のとおり。・ADHD児を有する母親は、健常対照児の母親と比較し、臨床的にADHD症状が高かった(調整分析:18.0% vs.2.0%、p<0.001)。・母親らの報告によると、ADHD児と健常対照児との比較において、母親のADHD症状の上昇は、子供のADHD症状の重症度の増大(p=0.01 vs.p=0.003)、低いQOL(p=0.003 vs. p=0.003)との関連が認められた。・さらに母親のADHD症状の上昇は、健常対照児における親の感情的な問題、仲間の問題、全般的な障害スコアの増加との関連が認められた(すべてのp<0.01)。 著者らは「母親のADHD症状は、ADHD症状の重症度の増大、QOLの低下と関連していた。ADHDでない小児では、親の感情的および社会的機能とのネガティブな関連が認められた。子供の評価においては、母親のADHD症状を考慮し、成人に対応するサービスの紹介を検討する必要がある」としている。■関連記事ADHD発症しやすい家庭の傾向母親の体格がADHD、自閉症リスクと関連か子供の好き嫌いの多さに影響する親の精神症状

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妊婦のうつ病と子供の成長との関連

 母親のうつ病と子供の成長との関連について、正確な見解は報告されていない。これは、子供の性別による影響に注目が限定されている可能性がある。米国・アメリカ国立衛生研究所のHyojun Park氏らは、母親のうつ病時期と子供の成長との関連について、とくに性差に注目し、集団ベースの出産コホートを用いて評価を行った。Obesity誌2018年1月号の報告。 本検討では、Upstate KIDS研究に登録された2008~10年に3歳未満の子供、4,394人を対象とした。母親のうつ病は、病院退院記録により出産前の評価を行い、アンケートにより出産後の評価を行った。子供の成長は、性別および年齢別の体重、身長、身長体重比、BMIより測定した。全サンプル、個別、性別で成長アウトカムを推定するため、調整線形混合効果モデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・出産前のうつ病は、一人っ子の男児において、低体重(zスコア:-0.24、95%CI:-0.43~-0.05)や低身長(zスコア:-0.26、95%CI:-0.51~-0.02)と関連が認められた。・出産後のうつ症状は、一人っ子の女児において、身長体重比の高さと関連が認められた(zスコア:0.21、95%CI:0.01~0.42)。 著者らは「出産前のうつ病は、男児の低体重、低身長と関連しており、出産後の抑うつ症状は、女児の身長体重比の高さと関連していた。抑うつ症状の時期と性別特異的な反応のメカニズムについては、さらなる検討が必要である」としている。■関連記事産後うつ病になりやすい女性の特徴:高知大出産後のうつ病リスクは「10~15%」新スクリーニングツール期待母親の体格がADHD、自閉症リスクと関連か

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統合失調症と自閉スペクトラム症における白質代謝率の増加

 統合失調症や自閉スペクトラム症は、しばしば白質の障害を有する。統合失調症におけるさまざまな白質領域における代謝率、脳灌流、基礎活動の上昇が、数々の研究で報告されているが、自閉スペクトラム症では研究されていなかった。米国・マウントサイナイ医科大学のSerge A. Mitelman氏らは、自閉スペクトラム症患者(25例)と統合失調症患者(41例)および健常対照者(55例)の白質代謝率を、定位的に配置された関心領域について幅広く比較するため、18F-FDGポジトロン断層法(PET)を用いて、検討を行った。Brain imaging and behavior誌オンライン版2017年11月22日号の報告。 主な結果は以下のとおり。・自閉スペクトラム症患者および統合失調症患者において、内包、脳梁、白質の前索、側頭葉を含む評価された白質領域にわたり、代謝率の増加が認められた。・これらの増加は、統合失調症患者よりも自閉スペクトラム症患者において、より顕著で、より広範かつ非対称であった。・両疾患の患者において、最も高い代謝率の増加は、前頭前白質および内包前脚で認められた。・健常対照者と比較し、白質代謝の差は、あまり顕著ではなかった。近接する白質代謝の差は、統合失調症患者よりも自閉スペクトラム症患者で、より顕著であった。 著者らは「統合失調症および自閉スペクトラム症は、白質全体にわたる代謝活性の増加と関連していた。灰白質と異なり、白質代謝異常のvectorは、統合失調症と自閉スペクトラム症で類似していると考えられ、代償性の代謝亢進を伴う非効率的な機能的連結性を反映する可能性があり、神経発達障害の共通の特徴である」としている。■関連記事初回エピソード統合失調症の灰白質に対するω-3脂肪酸の影響日本人自閉スペクトラム症に対するアリピプラゾールの長期効果はドパミンD2/3受容体拮抗薬、統合失調症患者の脳白質を改善

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妊娠中の飲酒、子供の認知機能に及ぼす影響

 妊娠中のアルコール摂取は、子供の発育の危険因子であると考えられている。子宮内アルコール曝露の子供におけるバイオマーカーについては、ほとんど研究されていない。ドイツ・フリードリヒ・アレクサンダー大学エアランゲン・ニュルンベルクのAnna Eichler氏らは、胎便中のアルコール代謝物(エチルグルクロニド:EtG)が、小学校就学年齢の子供における認知機能の発達、ADHD関連行動、注意および執行制御の神経生理学的マーカーと関連しているかを調査した。Journal of child psychology and psychiatry, and allied disciplines誌オンライン版2017年9月11日号の報告。 母親は、妊娠第3期にアルコール摂取に関する自己アンケートを提出した。胎便のサンプルは、出生時に収集した。検出限界(10ng/g以上)を上回る胎便中EtGを有する44例と、そうではない対照群44例の比較を行った。検出量の影響を調査するため、第2の閾値(154ng/g以上)を設定した。子供が小学校就学年齢に達した際、母親はADHD関連行動を評価し、子供の認知機能の発達はIQテストバッテリーを用いて測定され、イベント関連の可能性の測定にはgo/nogoタスクを用いた。 主な結果は以下のとおり。・両方のEtG陽性群は、対照群と比較しgo/nogoタスクに対する注意力リソースが少なかった(goタスクにおけるP3が減少)。・胎便中EtGが154ng/g以上の群は、他の群よりもIQが6ポイント低かった。・EtG 154ng/g以上の群は、EtG値とADHD関連行動との間に正の相関が認められた。・これらの有意な影響は、母親の自己報告データでは観察されなかった。 著者らは「EtGと認知機能障害、注意力リソース能力、ADHD関連行動との関連は、部分的に検出量に依存的な影響が認められた。母親の自己報告に加え、この子宮内アルコール曝露のバイオマーカーは、子供の発達の予測因子と考えられる」としている。■関連記事ADHD発症しやすい家庭の傾向妊娠中の抗うつ薬治療、注意すべきは母親の体格がADHD、自閉症リスクと関連か

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日本人自閉スペクトラム症に対するアリピプラゾールの長期効果は

 東京都立小児総合医療センターの市川 宏伸氏らは、日本人小児(6~17歳)の自閉スペクトラム症に伴う易刺激性の治療に対する、アリピプラゾールの長期安全性および有効性を評価した。Psychiatry and clinical neurosciences誌オンライン版2017年9月23日号の報告。 本研究は、以前行われた8週間の二重盲検無作為化プラセボ対照試験のオープンラベル後続研究として実施された。登録患者には、アリピプラゾールが本邦で自閉スペクトラム症に伴う易刺激性の適応を取得するまで、フレキシブルドーズ(1~15mg/日)にて投与を行った。 主な結果は以下のとおり。・登録された86例のうち、70例(81%)が48週間の評価を完了した。・平均治療期間は、694.9日であった。・治療期間中のアリピプラゾール1日平均用量は7.2mg、最終平均用量は8.5mgであった。・最も一般的な治療中の有害事象(20%以上)は、鼻咽頭炎、傾眠、インフルエンザ、体重増加であった。・これらの有害事象の大部分は軽度から中等度であり、死亡例はなく、プロラクチン低下、バイタルサイン、身長、ECGパラメータを除く臨床検査値に関連する所見は認められなかった。・48週時の、異常行動チェックリスト日本語版(ABC-J)の易刺激性サブスケールスコアにおけるベースラインからの平均変化量は、以前の試験のプラセボ群と比較し-6.3、以前の試験のアリピプラゾール群と比較し-2.6であった。 著者らは「アリピプラゾールは、日本人小児の自閉スペクトラム症に伴う易刺激性の長期治療に対し、一般的に安全であり、良好な忍容性と有効性が認められた」としている。■関連記事日本人自閉スペクトラム症に対するアリピプラゾールの効果は母親の体格がADHD、自閉症リスクと関連か妊娠中の抗うつ薬使用、自閉スペクトラム症への影響は

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