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米国1999~2016年の早期死亡率上昇、主因は薬物中毒/BMJ

 米国において若年~中年(25~46歳)の早期死亡率は、人種/民族集団を問わず全体的に増加していることが、米国・バージニア・コモンウェルス大学のSteven H. Woolf氏らによる、人口動態統計のシステマティックレビューの結果、示された。要因は多岐にわたり、とくに近年は後退現象のために長年にわたる死亡率の低下が相殺され、もともと死亡率が高い非ヒスパニック(NH)黒人、NH米国先住民/アラスカ先住民といった人種集団においては、さらなる上昇を生んでいた。著者は、「多数の要因として全身性要因が示されている。政策立案者は迅速に行動を起こし、米国における健康低下の原因に取り組まなくてはならない」と述べている。BMJ誌2018年8月15日号掲載の報告。早期死亡率はNH白人だけでなく非白人集団でも増加 研究グループは1999~2016年の期間で、25~64歳の米国成人を対象に、人種や民族集団における米国の人口動態統計の傾向を分析した。絶対的な死亡率変化を評価するため、1999~2016年と2012~16年における対前年変化の平均と、死亡率増加に起因する超過死亡率を算出するとともに、相対的な死亡率変化を評価するため、1999年vs.2016年と最低年vs.2016年の死亡率の相対差、ならびに1999~2016年およびjointpoint間の死亡率傾向モデルにおける相対的な変化率を算出した。 解析の結果、1999~2016年において、若年~中年期の全死因死亡率はNH白人だけでなく、NH米国先住民/アラスカ先住民でも同様に増加していた。NH黒人、ヒスパニック、NHアジア/太平洋諸島系の全死因死亡率は、当初は低下したが、この傾向は2009~2011年に終了した。 各集団での早期死亡率増加の原因の第1位は薬物過剰摂取であったが、アルコール関連障害、自殺、内臓疾患による死亡率も増加していた。NH白人の早期死亡率は多くの状況下で増加したが、同じような傾向は非白人集団にも影響を及ぼした。非白人集団における早期死亡率の増加は、とくに多くの死因で増加率が増した2012~16年において、NH白人を上回った。薬物過剰摂取・アルコール性肝疾患・自殺が主要死因だが、他要因でも死亡率上昇 1999~2016年において、NH米国先住民/アラスカ先住民では、12の死因で早期死亡率が増加し、薬物過剰摂取(411.4%)だけではなく、高血圧性疾患(269.3%)、肝臓がん(115.1%)、ウイルス性肝炎(112.1%)、神経系疾患(99.8%)でも増加していた。NH黒人では、薬物過剰摂取(149.6%)、殺人(21.4%)、高血圧性疾患(15.5%)、肥満(120.7%)、肝臓がん(49.5%)などの17の死因で早期死亡率が増加した。アルコール性肝疾患、慢性下気道疾患、自殺、糖尿病、膵臓がんは、早期死亡率が安定または低下した後に増加に転じた。 ヒスパニックでは、薬物過剰摂取(80.0%)、高血圧性疾患(40.6%)、肝臓がん(41.8%)、自殺(21.9%)、肥満(106.6%)、代謝性障害(60.0%)などの12の死因で早期死亡率が増加した。この集団でも、アルコール性肝疾患、精神および行動障害、殺人に関しては死亡率低下後に増加する後退現象が確認された。 NHアジア人/太平洋諸島の住人では、この後退現象は認められなかったが、薬物過剰摂取(300.6%)、アルコール性肝疾患(62.9%)、高血圧性疾患(28.3%)、脳腫瘍(56.6%)による早期死亡率は増加し、自殺率は2001年以降29.7%まで増加した。 米国の早期死亡率の相対増加率は、性別や地域で異なっており、致死的薬物過剰摂取の相対増加率は男性より女性が大きかった。非都市部のほうが死亡率の相対増加率は一般的に大きいが、NH白人とヒスパニックの薬物過剰摂取の相対増加率は大都市郊外周辺地域で最大であり、NH黒人では小規模都市で最大であった。

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膵がんアジュバントにおけるmFOLFIRINOXの可能性(PRODIGE 24/CCTG PA.6)/ASCO2018

 切除後の膵臓がんでは、術後補助化学療法を行ったにもかかわらず、7割の患者が2年以内に再発するとされる。そのため、より良好な成績の術後補助化学療法が求められている。この術後化学療法として、フルオロウラシルのボーラス投与を省いたmodified FOLFIRINOX(mFOLFIRINOX)療法とゲムシタビン単剤療法を比較した第III相試験PRODIGE 24/CCTG PA.6が行われ、その結果をフランス・Institut de Cancérologie de LorraineのThierry Conroy氏が、米国臨床腫瘍学会年次総会(ASCO2018)で発表した。 試験の登録患者はR0、R1切除施行、術後12週間以内の腫瘍マーカーが180U/mL未満で化学療法、放射線療法の治療歴のないPS 0~1の膵がん患者。患者は、mFOLFIRINOX(オキサリプラチン85mg/m2、レボホリナート200mg/m2、イリノテカン180mg/m2、フルオロウラシル2,400mg/m246時間持続投与)を2週間ごと最大12サイクル施行したmFOLFIRINOX群と、ゲムシタビン1,000mg/m2を3または4週間ごとを最大6サイクル施行するゲムシタビン群に無作為に割り付けられた。主要評価項目は無病生存期間(DFS)、副次評価項目は毒性、全生存期間(OS)、3年時点のがん特異的生存率(SS)、無転移生存期間(MFS)とした。 2012年4月~2016年10月に493例が登録され、mFOLFIRINOX群は247例、ゲムシタビン群は246例であった。追跡期間中央値は33.6ヵ月。 DFS中央値は、mFOLFIRINOX群が21.6ヵ月(17.7~27.6)、ゲムシタビン群が12.8ヵ月(11.7~15.2ヵ月)と、mFOLFIRINOX群で有意に延長した(HR:0.58、95%CI:0.46~0.73、p

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ペムブロリズマブ、臓器横断的な腫瘍に国内申請

 MSD株式会社(本社:東京都千代田区、社長:ヤニー・ウェストハイゼン)は2018年3月30日、局所進行性又は転移性の高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)がんに対する効能・効果について、抗PD-1抗体ペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)の製造販売承認事項一部変更承認申請を行った。 高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)とは、遺伝子の修復機能異常を示すバイオマーカー。細胞は、細胞分裂にともなう遺伝情報の複製においてDNAの複製ミスが発生した場合、修復機構が働いてそのミスを修復している。マイクロサテライト不安定性(MSI)は、この修復機構の機能低下によって、DNAの繰り返し配列(マイクロサテライト)が正常な細胞と異なる状態。 MSI-Highを示す腫瘍は、大腸がん、胃がんや膵臓がんなどの消化器系のがん、子宮内膜がんで最もよくみられる。また、頻度は低いものの乳がん、前立腺がん、膀胱がん、甲状腺がんなどでもみられる。転移性大腸がんでは、患者の約3~5%にMSI-Highを示す腫瘍がみられる。 臓器非特異的な、さまざまながんの共通のバイオマーカーでの適応で承認されたがん治療薬は、国内においてはまだない。 ペムブロリズマブは、2017年2月15日に国内で販売を開始。これまでに「根治切除不能な悪性黒色腫」「PD-L1陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん」「再発または難治性の古典的ホジキンリンパ腫」「がん化学療法後に増悪した根治切除不能な尿路上皮がん」の効能・効果承認を取得している。■関連記事ペムブロリズマブ、臓器横断的ながんの適応取得:FDA

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ビタミンDはがんを予防するのか?/BMJ

 ビタミンDの血中濃度とがんリスクに因果関係は存在するのか。ギリシャ・University of IoanninaのVasiliki I Dimitrakopoulou氏らは、同関連を明らかにするため、大規模遺伝子疫学ネットワークのデータを用いたメンデルランダム化試験にて検討を行った。その結果、評価を行った7種のがんいずれについても、線形の因果関係を示すエビデンスはほとんどなかったという。ただし、臨床的に意味のある効果の関連を、完全に否定はできなかった。BMJ誌2017年10月31日号掲載の報告。大規模遺伝子疫学ネットワークを用いて、7種のがんについて関連を評価 検討は、がんにおける遺伝的関連とメカニズム(Genetic Associations and Mechanisms in Oncology:GAME-ON)、大腸がんの遺伝的研究・疫学コンソーシアム(Genetic and Epidemiology of Colorectal Cancer Consortium:GECCO)、前立腺がんのゲノム変異に関する研究グループ(Prostate Cancer Association Group to Investigate Cancer Associated Alterations in the Genome:PRACTICAL)とMR-Baseプラットホームを通じて、がん患者7万563例とその対照8万4,418例のデータを入手し評価を行った。 がん患者の内訳は、前立腺がん2万2,898例、乳がん1万5,748例、肺がん1万2,537例、大腸がん1万1,488例、卵巣がん4,369例、膵臓がん1,896例、神経芽細胞腫1,627例であった。 ビタミンDと関連する4つの一塩基遺伝子多型(rs2282679、rs10741657、rs12785878、rs6013897)を用いて、血中25-ヒドロキシビタミンD(25(OH)D)のマルチ多型スコアを定義し評価した。 主要アウトカムは、大腸がん、乳がん、前立腺がん、卵巣がん、肺がん、膵臓がん、神経芽細胞腫の発生リスクで、逆分散法を用いて特異的多型との関連を評価した。尤度ベースアプローチでの評価も行った。副次アウトカムは、性別、解剖学的部位、ステージ、組織像によるがんサブタイプに基づく評価であった。関連を示すエビデンスはほとんどない 7種のがんおよびそのサブタイプすべてにおいて、25(OH)Dマルチ多型スコアとの関連を示すエビデンスは、ほとんどなかった。 具体的に、25(OH)D濃度を定義した遺伝子の25nmol/L上昇当たりにおけるオッズ比は、大腸がん0.92(95%信頼区間:0.76~1.10)、乳がん1.05(0.89~1.24)、前立腺がん0.89(0.77~1.02)、肺がん1.03(0.87~1.23)であった。この結果は、その他2つの解析アプローチの結果と一致していた。なお、試験の相対的効果サイズの検出力は中程度であった(たとえば、大部分の主要がんアウトカムについて、25(OH)Dの25nmol/L低下当たりのオッズ比は1.20~1.25であった)。 著者は、「これらの結果は、既報文献と合わせて、がん予防戦略として、ビタミンD不足の広範な集団スクリーニングとその後の広範にわたるビタミンDサプリメントの推奨をすべきではないとのエビデンスを提供するものであった」とまとめている。

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【GET!ザ・トレンド】HBOC(遺伝性乳がん卵巣がん症候群)

女優アンジェリーナ・ジョリーさんの報道などで社会的認知度が高まりましたが、HBOCとはどのようなものか教えていただけますか?HBOCは、Hereditary Breast and/or Ovarian Cancer Syndrome、遺伝性乳がん卵巣がん症候群です。HBOCはBRCA1、BRCA2遺伝子の変異が原因で発症します。このBRCA1/2遺伝子は、もともと損傷した遺伝子の修復機能を持っていますが、一部に変異を起こし機能不全になることで、逆にがんが発症しやすくなります。BRCA1/2遺伝子変異陽性者の生涯乳がん発症頻度は41~90%、卵巣がんの発症率は8~62%で、一般人に比べ、乳がんでは6~12倍、卵巣がんでは8~60倍です。BRCA1/2の変異は、乳がん全体の5~10%、卵巣がん全体の10%にみられます。若年発症が多く、再発を繰り返している患者さんが多いという特徴もあります。また、BRCA1/2遺伝子変異は、乳がん、卵巣がん以外にも前立腺がん、膵臓がんの発症にも影響しています。日本でも海外と同程度の患者さんがいるのでしょうか?2013年に行われた日本乳癌学会の班研究「HBOC患者および未発症BRCA変異陽性者への対策に関する研究」の結果では、遺伝学的検査を受けた日本人の乳がん患者さん260例の30%に、BRCA1/2の病的変異を認めています。遺伝学的検査を受けた患者さんの割合を考えると、欧米と同程度の患者がいると推測されます。5~10%というと少なく聞こえますが、日本の乳がん罹患数は年間約9万例(国立がん研究センターによる2017年のがん統計予測では8万9,100例)ですので、推定4,500~9,000例となります。さらに、今まで乳がんの診断を受けた患者さんや、これら陽性患者さんの背景にいる家系員も考えると、HBOC患者さんは潜在例も含め相当な数であると考えられます。HBOCでは、通常の患者さんとは医療の方針が変わるのでしょうか?BRCA1/2の病的変異が認められる場合、年1回のマンモグラフィー+MRI検査、化学予防、リスク低減外科療法(予防的乳房切除、卵管卵巣摘出術)といった、通常のがんとは異なる選択肢を考える必要があります。治療法についても、HBOC患者さんの場合は、一般的な乳がん卵巣がんとは異なってきます。たとえば、BRCA1変異の乳がんでは、通常の乳がんと異なり、70~80%がトリプルネガティブ乳がん(TNBC)です。BRCA2変異例では、一般的な乳がんと同様70~80%がHR陽性ですが、増殖能が高いルミナールBが多くを占めます(化学療法の対象)。このように特性を理解した治療選択が必要となります。また、BRCA1/2変異例に効果の高いPARP阻害薬も登場しています。さらに最近では、BRCA1変異例がタキサン耐性、プラチナ感受性であるなど、BRCA1と2の違いも明らかになりつつあります。さらに、手術についても考慮が必要です。BRCA1/2陽性乳がんの場合、手術後の同側乳がん、対側乳がんともに非遺伝性症例に比べ発症率が高いため、手術方針も変わってくる可能性があるためです。HBOCの診療を行うにあたり、どのようなことが障害となっているのでしょうか?遺伝子変異が疑われる方には、遺伝子カウンセリングを行い、インフォームド・コンセントの上で、遺伝学的検査、検診と進めていくことになりますが、実際には遺伝子カウンセリング、遺伝学的検査は公的保険の対象ではありません。検診についても同様です。若年性発症の場合は、Dense Breast(高濃度乳房)のためマンモグラフィーでは発見しづらく、MRIが有用とされていますが、日本では検診目的のMRIに公的補助はありません。その後の予防切除も保険適応ではありません。卵巣がんについては、卵管卵巣の予防的切除によるリスク低減手術が唯一死亡率を減らす手段ですが、自費診療となってしまいます。欧米では考え方が違っており、早期検診や予防切除といった積極的介入でHBOC患者の生命予後が改善されることから、1人のHBOC患者も逃さないよう、BRCA1/2変異者は25歳からの定期検診を推奨するなど、幅広いスクリーニングを行っています。公的補助をどう求めていくのか、これが日本での大きな課題といえます。HBOC診療向上のための現在および今後の活動について教えていただけますか?HBOC研究の向上を図るために、研究団体として「NPO法人 日本HBOCコンソーシアム」を設立し、日本のHBOCの実態解明、HBOCの効果的医療システムの提供を目的に、HBOC患者登録データべースの構築、教育セミナーの開催を行っています。また、関連3学会(日本乳癌学会、日本産科婦人科学会、日本人類遺伝学会)共同のガイドラインを作成しています(10月発刊)。さらに、この関連3学会共同で、「一般社団法人 日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構」を2016年に設立しました。この機構では、診療体制の施設認定要件(婦人科腫瘍専門医・乳腺専門医・臨床遺伝専門医の在籍、予防的手術設備など)を定め、HBOCを総合的、あるいは連携して診られる体制作りを行っています。HBOC管理加算などの保険適応や、現在、医療機関内で十分な身分保障のない遺伝子カウンセラーの国家資格化も目指しています。HBOCは、一般人の10倍ものがん発症率があるため、予防とはいえ、さまざまな介入をすることで、長期的な医療費削減になる可能性もあります。将来的には、日本の保険診療データを利用した発症仮説を立て、医療経済評価を行えればと考えています。※現在HBOCの遺伝学的検査、カウンセリングを行っている施設は日本HBOCコンソーシアムのホームページで公開されている。1)NPO法人 日本HBOCコンソーシアム2)一般社団法人 日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構

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2型糖尿病へのエキセナチド徐放剤、心血管転帰への影響と安全性/NEJM

 2型糖尿病患者に対し、心血管疾患の病歴の有無を問わず、通常治療にエキセナチド徐放剤(商品名:ビデュリオン)を追加投与した試験において、安全性についてはプラセボに対して非劣性を示し、心血管イベントの発生リスクに対する有効性については統計上の有意差は示されなかった。英国・チャーチル病院のRury R. Holman氏らが、1万4,752例の2型糖尿病患者を対象に行った無作為化プラセボ対照二重盲検試験「EXSCEL試験」の結果で、NEJM誌2017年9月14日号で発表された。35ヵ国、687ヵ所で試験 研究グループは35ヵ国、687ヵ所の医療機関を通じて、心血管疾患既往の有無を問わず、2型糖尿病患者1万4,752例を集めて無作為に2群に分け、一方にはエキセナチド徐放剤2mgを週1回皮下注射で投与し、もう一方にはプラセボを投与した。 主要アウトカムは、心血管死と非致死的心筋梗塞または非致死的脳卒中のいずれかの初回発生の複合であった。 エキセナチド週1回投与は、安全性に関してはプラセボに対し非劣性を、有効性に関しては優越性を示すとの主要仮説を立てて評価した。追跡期間中央値3.2年、複合アウトカム発生率は有意差なし 被験者1万4,752例中、心血管疾患既往者は73.1%に当たる1万782例、試験の追跡期間中央値は3.2年(四分位範囲:2.2~4.4)だった。 主要複合アウトカムの発生率は、エキセナチド群11.4%(7,356例中839例、3.7件/100人年)、プラセボ群12.2%(7,396例中905例、4.0件/100人年)と、両群で有意差はなかった(ハザード比:0.91、95%信頼区間:0.83~1.00)。 intention-to-treat解析の結果、エキセナチド週1回投与は、安全性に関してはプラセボに対して非劣性を示したが(p<0.001)、有効性に関する優越性は示されなかった(p=0.06)。 心血管死、致死的・非致死的心筋梗塞、致死的・非致死的脳卒中、心不全による入院、急性冠症候群による入院、急性膵炎、膵臓がん、甲状腺髄様がん、重篤な有害事象のいずれの発生率についても、両群で有意差は認められなかった。

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がん発症後、動脈血栓塞栓症リスクが2倍以上に

 がん患者の動脈血栓塞栓症リスクの疫学的な関連をより明確にするため、がんステージの影響を含めて、米国Weill Cornell MedicineのBabak B. Navi氏らが検討したところ、新規がん発症患者において、動脈血栓塞栓症リスクが短期的に大幅な増加を示すことがわかった。Journal of the American College of Cardiology誌2017年8月22日号に掲載。 本研究では、Surveillance Epidemiology and End Results-Medicareにリンクしたデータベースを用いて、2002~11年に新規に、乳がん、肺がん、前立腺がん、大腸がん、膀胱がん、膵臓がん、胃がん、非ホジキンリンパ腫と診断された患者を同定した。がんではないメディケア登録者と人口動態および併存疾患でマッチさせ、それぞれのペアを2012年まで追跡した。また、診断コードを用いて、心筋梗塞または虚血性脳卒中として定義された動脈血栓塞栓症を同定した。さらに、競合リスク生存率統計を用いて累積発症率を算出し、グループ間の比較にはCoxハザード分析を用いた。 主な結果は以下のとおり。・がん患者とマッチさせた対照患者27万9,719ペアを同定した。・動脈血栓塞栓症の6ヵ月累積発症率は、対照患者の2.2%(95%信頼区間[CI]:2.1~2.2%)と比べ、がん患者では4.7%(95%CI:4.6~4.8%)であった(ハザード比[HR]:2.2、95%CI:2.1~2.3)。・心筋梗塞の6ヵ月累積発症率は、 対照患者の0.7%(95%CI:0.6~0.7%)と比べ、がん患者では2.0%(95%CI:1.9~2.0%)であった(HR:2.9、95%CI:2.8~3.1)。・虚血性脳卒中の6ヵ月累積発症率は、対照患者の1.6%(95%CI:1.6~1.7%)に比べ、がん患者では3.0%(95%CI:2.9~3.1%)であった(HR:1.9、95%CI:1.8~2.0)。・過剰リスクはがん種によって異なり(肺がんで最大)、がんのステージと相関し、概して1年で解消した。

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IgG4関連疾患〔IgG4-related disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義IgG4関連疾患とは、リンパ球とIgG4 陽性形質細胞の著しい浸潤と線維化により、同時性あるいは異時性に全身諸臓器の腫大や結節・肥厚性病変などを認める原因不明の疾患である。罹患臓器としては膵臓、胆管、涙腺・唾液腺、中枢神経系、甲状腺、肺、肝臓、消化管、腎臓、前立腺、後腹膜、動脈、リンパ節、皮膚、乳腺などが知られている。病変が複数臓器に及び、全身疾患としての特徴を有することが多いが、単一臓器病変の場合もある。臨床的には各臓器病変により異なった症状を呈し、臓器腫大、肥厚による閉塞、圧迫症状や細胞浸潤、線維化に伴う臓器機能不全など、時に重篤な合併症を伴うことがある。治療にはステロイドが有効なことが多い。ステロイド抵抗性・依存性や臓器障害を生じたIgG4関連疾患症例は、2015年7月から難病に指定された。■ 疫学IgG4関連疾患の診療は、種々の診療科にまたがるので、その患者数の推定は困難である。石川県で行われた調査では、年間336~1,300人のIgG4関連疾患の新規発症があり、わが国では2万6,000人の患者がいると推定される。わが国で2016年に行われた自己免疫性膵炎の全国調査では、自己免疫性膵炎の年間推計受療者数は1万3,436人、年間罹患患者数は3,984人、有病率10.1人/10万人と推定され、2011年の調査時の罹患患者数より倍増した。臓器によって異なるが、高齢の男性に多く発症する傾向がある。■ 病因IgG4関連疾患の病因は解明されていないが、免疫遺伝学的背景に自然免疫系、Th2にシフトした獲得免疫系、制御性T細胞などの異常が病態形成に関与する可能性が報告されている。■ 症状臨床症状・徴候は、罹患した臓器によって異なるが、臓器腫大や肥厚による閉塞・圧迫症状が主体となる。自己免疫性膵炎やIgG4関連硬化性胆管炎では膵腫大や胆管閉塞による閉塞性黄疸、IgG4関連涙腺・唾液腺炎では涙腺・唾液腺腫大、後腹膜線維症では尿管圧迫による水腎症や腎機能障害などがみられる。また、病態が持続進行すると、涙腺・唾液腺機能障害による乾燥症状や、膵内外分泌機能低下などが生じうる。■ 分類自己免疫性膵炎以外は、罹患した臓器の前に「IgG4関連」をつけて呼ぶ。IgG4関連疾患はほぼ全身の諸臓器に認められるが、現在IgG4関連疾患として明らかに認知されている疾患・病態を表1に示す。表1 IgG4関連疾患に包括される疾患・病態■ 予後IgG4関連疾患はステロイドが奏効するので、短期的予後は良好であるが、再燃する例が少なからず存在し、長期的予後は不明である。自己免疫性膵炎では、再燃を繰り返す例で、膵石が形成されることがある。また、IgG4関連疾患では、悪性腫瘍を合併しやすいとの報告もあり、注意を要する。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ IgG4関連疾患包括診断基準いくつかのIgG4関連疾患には、その診断基準があるが、IgG4関連疾患を包括する診断基準が2011年に作られ、2020年に改訂された。この基準は、各臓器病変の専門医以外の臨床医の使用、各臓器の診断基準との併用、簡潔化、病理組織診断の重要視、ステロイドの診断的治療は推奨しないなどを基本的なコンセプトとして作成された。臨床的所見、血液所見、病理所見の組み合わせにより診断する(表2)。表2 2020改訂IgG4関連疾患包括診断基準できる限り組織診断を加えて、各臓器の悪性腫瘍(がんや悪性リンパ腫など)や類似疾患(原発性硬化性胆管炎、シェーグレン症候群、キャッスルマン病、2次性後腹膜線維症、ウェゲナー肉芽腫、サルコイドーシス、チャーグ・ストラウス症候群など)と鑑別することが大事である。また、この基準で確定診断ができなくても、各臓器の診断基準により診断が可能である。■ 自己免疫性膵炎1型自己免疫性膵炎は、IgG4が関連する1型と、IgG4とは無関係で好中球の膵管上皮内浸潤を特徴とする2型に分かれる。自己免疫性膵炎1型は、自己免疫性膵炎臨床診断基準2018(表3)を用いて診断する。表3-1 自己免疫性膵炎臨床診断基準2018表3-2 自己免疫性膵炎臨床診断基準2018本症の診断においては、膵がんや胆管がんなどの腫瘍性の病変を否定することがきわめて重要である。診断基準では、膵腫大、主膵管の不整狭細像、高IgG4血症、病理所見、膵外病変とオプションとしてのステロイド治療の効果の組み合わせにより診断する。びまん性の膵腫大を呈する典型例では、高IgG4血症、病理所見か膵外病変のどれか1つを満たせば自己免疫性膵炎と診断できる。限局性膵腫大例では、膵がんとの鑑別がしばしば困難であり、ERP(内視鏡的逆行性膵管造影)による主膵管の膵管狭細像が必要であったが、改訂基準ではMRCP、EUS-FNAとステロイド治療の効果で確定診断できるようになった。膵のびまん性腫大は、本症に特異性の高い所見である。腹部ダイナミックCTでは遅延性増強パターンと被膜様構造(capsule-like rim)が特徴的である(図1)。画像を拡大するERPによる主膵管のびまん性不整狭細像も本症に特異的である。狭細像とは閉塞像や狭窄像と異なり、ある程度広い範囲に及んで、膵管径が通常より細くかつ不整を伴っている像を意味する(図2)。画像を拡大する限局性の病変では膵がんとの鑑別がとくに困難であるが、狭細部より上流側の主膵管には著しい拡張を認めない、狭細部からの分枝の派生や非連続性の複数の主膵管狭細像(skip lesions)は、膵がんとの鑑別に有用である。血中IgG4値の上昇は高率に認められるので、その診断的価値は高い。しかし、IgG4値の上昇は他疾患(アトピー性皮膚炎、天疱瘡、喘息など)や一部の膵臓がんや胆管がんでも認められるので注意を要する。病理組織像は、lymphoplasmacytic sclerosing pancreatitis(LPSP)と呼ばれる特徴的な所見で、高度のリンパ球とIgG4陽性の形質細胞の浸潤と、紡錘形細胞が錯綜配列を示す花筵状線維化(storiform fibrosis)と閉塞性静脈炎(obliterative phlebitis)を呈する(図3、4)。画像を拡大する画像を拡大する合併する他のIgG4関連疾患として、膵外胆管の硬化性胆管炎、涙腺・唾液腺炎と後腹膜線維症が取り上げられている。ステロイド治療の効果判定は、画像で評価可能な病変が対象であり、臨床症状や血液所見は対象としない。ステロイド開始2週間後に効果不十分の場合には、再精査が必要である。できる限り病理組織を採取する努力をすべきであり、ステロイドによる安易な診断的治療は厳に慎むべきである。■ IgG4関連硬化性胆管炎IgG4関連硬化性胆管炎の診断は、IgG4関連硬化性胆管炎臨床診断基準2020(表4)に基づいて、胆道画像検査、高IgG4血症、他のIgG4関連疾患(自己免疫性膵炎、IgG4関連涙腺・唾液腺炎、IgG4関連後腹膜線維症)の合併、胆管壁の病理組織所見、オプションとしてのステロイド治療の効果の組み合わせによって診断する。表4-1 IgG4関連硬化性胆管炎臨床診断基準2020表4-2 IgG4関連硬化性胆管炎臨床診断基準2020IgG4関連硬化性胆管炎の胆管像では、下部胆管狭窄を呈することが多いが、上部~肝門部胆管狭窄や肝内胆管狭窄を呈する例では、肝門部胆管がんや原発性硬化性胆管炎(PSC)との鑑別が問題となる。自己免疫性膵炎を合併しないIgG4関連硬化性胆管炎では、診断がとくに困難である。PSCでよくみられる全周性の輪状狭窄(annular stricture)、数珠状変化(beaded appearance)や肝内胆管の減少(pruned-tree appearance)などはIgG4関連硬化性胆管炎ではほとんど認められない(図5)。画像を拡大するIgG4関連硬化性胆管炎では、CTやUSなどにおいて、胆管狭窄部だけでなく狭窄のない部位の胆管にも壁肥厚が高頻度に認められ、この所見は胆管がんとの鑑別に有用である。経乳頭的胆管生検では採取検体が小さいため、IgG4関連硬化性胆管炎と診断できるだけの材料を採取できる例が少ない。肝内胆管に病変が及ぶIgG4関連硬化性胆管炎では、肝生検がPSCとの鑑別に有効なこともある。ステロイドへの良好な反応性は、IgG4関連硬化性胆管炎の診断をより確実なものとするので、ステロイドトライアルも診断の一手段となる。しかし、診断目的の安易なステロイド投与は慎むべきである。■ IgG4関連涙腺・唾液腺炎従来ミクリッツ病やキュットナー腫瘍と呼ばれていた疾患で、診断にはIgG4関連ミクリッツ病の診断基準が用いられる。涙腺、耳下腺、顎下腺の持続性(3ヵ月)、対称性の2対以上の腫脹を基本として、高IgG4血症か、涙腺・唾液腺組織に著明なIgG4陽性形質細胞浸潤(強拡大5視野でIgG4陽性/IgG4陽性細胞が50%以上)のいずれかを満たした場合に診断される。多くは対称性に涙腺、耳下腺、顎下腺、舌下腺、小唾液腺のいずれかが腫脹する。シェーグレン症候群との鑑別が問題となるが、シェーグレン症候群に比べて、抗SS-A/SS-B抗体が陰性であり、乾燥性角結膜炎や唾液腺分泌障害が軽度である。■ IgG4関連腎臓病IgG4関連腎臓病診断基準(表5)により診断される。表5 IgG4関連腎臓病診断基準IgG4関連腎臓病では、びまん性腎腫大、腎実質の多発性造影不良域、腎腫瘤、腎盂壁肥厚などの特徴的な画像所見を呈することが多い。腎組織は間質性腎炎が主体であるが、膜性腎症などの糸球体病変を伴う場合もある。■ IgG4関連後腹膜線維症腹部大動脈周囲や尿管周囲の軟部組織の肥厚が特徴で、腫瘤を形成したり水腎症を起こしたりする。生検困難例も多く、悪性疾患や感染症などによる2次性後腹膜線維症との鑑別が問題となる。■ IgG4関連呼吸器病変画像上、肺門縦隔リンパ節腫大、気管支壁/気管支血管束の肥厚、小葉間隔壁の肥厚、結節影、浸潤影、胸膜病変などの胸郭内病変を呈する。また、病理組織学的には、気管支血管束周囲、小葉間隔壁、胸膜などの間質に、著明なリンパ球とIgG4陽性細胞の浸潤と線維化を認める。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)経口ステロイド治療が、IgG4関連疾患の標準治療法である。経口プレドニゾロン0.6mg/kg/日の初期投与量を2~4週間投与し、その後画像検査や血液検査所見などを参考に約2週間の間隔で5mgずつ漸減し、3~6ヵ月ぐらいで維持量まで減らす。治療への反応が悪い例では悪性腫瘍などを疑診して、再検査を行う必要がある。IgG4関連疾患では、ステロイド中止後にしばしば再燃が起こるので、再燃予防に少量のプレドニゾロン(5mg/日程度)の維持療法を1年前後行うことが多い。ただし、IgG4関連疾患は基本的に予後良好な疾患であることに加え、高齢者発症が多いので、ステロイド長期投与の副作用(腰椎圧迫骨折、大腿骨頭壊死、耐糖能異常など)を考慮して、画像診断および血液検査で十分な改善が得られた症例では、ステロイド投与の早期中止が望まれる。ステロイドを中止する際には、個々の症例における活動性を見極め、できるだけ少量投与に切り替えて中止するほうが安全である。また、ステロイド治療中止後も慎重な経過観察が必要である。ステロイド治療後に再燃を来しやすい因子として、治療後の画像上の改善が不十分、治療後も血中IgG4高値が続く、治療前の血中IgG4値が著しく高値である、などが挙げられる。再燃例では、ステロイドの再投与や増量により寛解が得られることが多い。欧米では、再燃例に対して、免疫抑制薬やリツキシマブを投与して、良好な成績が報告されている。2017年に作成された自己免疫性膵炎の治療に関する国際コンセンサスでは、ステロイドに抵抗性または副作用でステロイドが投与できない症例では、リツキシマブを第1選択とすると記載された。4 今後の展望IgG4の病因の解明と確実性のより高い血清学的マーカーの開発が望まれる。治療に関しては、Bリンパ球の表面免疫グロブリンのCD20抗原に対する抗体であるリツキシマブ(キメラ型抗CD20抗体、商品名:リツキサン)が、ステロイドや免疫抑制薬使用後に再燃したIgG4関連疾患に有効であったと海外で報告されている。しかし、リツキシマブは高価な薬剤であり、また、わが国ではIgG4関連疾患に対する投与は保険適用になっていない。5 主たる診療科消化器内科、リウマチ科、内分泌科、耳鼻咽喉科、腎臓内科、呼吸器内科、泌尿器科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報がん・感染症センター 都立駒込病院 IgG4関連疾患センター(世界で初めての専門外来センター)日本膵臓学会ホームページ さまざまなガイドライン(医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター IgG4関連疾患(一般利用者向け、医療従事者向けのまとまった情報)1)厚生労働省難治性疾患等政策研究事業 IgG4関連疾患の診断基準ならびに診療指針の確立を目指す研究班. 日内誌. 2021;110:962-969.2)日本膵臓学会 厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患等政策研究事業) IgG4関連疾患の診断基準ならびに診療指針の確立を目指す研究班. 膵臓. 2018;33:902-913.3)中沢貴宏ほか. 胆道. 2021;35:593-601.4)IgG4関連腎臓病ワーキンググループ.日腎会誌.2011;53:1062-1073.公開履歴初回2015年10月20日更新2017年04月18日更新2022年07月28日

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2型糖尿病と部位別がん死亡リスク~アジア人77万人の解析

 東アジアと南アジアの約77万人のデータ解析から、2型糖尿病患者ではがん死亡リスクが26%高いことを、ニューヨーク州立大学のYu Chen氏らが報告した。また、部位別のがん死亡リスクも評価し、その結果から「がん死亡率を減少させるために、肥満と同様、糖尿病の蔓延をコントロール(予防、発見、管理)する必要性が示唆される」と結論している。Diabetologia誌オンライン版2017年3月7日号に掲載。 Asia Cohort Consortiumに含まれる19の前向き集団コホートにおける、東アジア人65万8,611人および南アジア人11万2,686人のデータについて、プール解析を実施した。ベースライン時に糖尿病であった場合の全がん死亡リスクおよび部位別のがん死亡リスクについて、糖尿病でなかった場合に対するハザード比(HR)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・平均追跡期間12.7年で、がんにより3万7,343人が死亡した(東アジア人3万6,667人、南アジア人676人)。・ベースライン時に糖尿病であった場合、全がん死亡リスクが有意に高かった(HR:1.26、95%CI:1.21~1.31)。・以下のがんでは、糖尿病との有意な正相関が認められた。  大腸がん(HR:1.41、95%CI:1.26~1.57)  肝がん(HR:2.05、95%CI:1.77~2.38)  胆管がん(HR:1.41、95%CI:1.04~1.92)  胆嚢がん(HR:1.33、95%CI:1.10~1.61)  膵臓がん(HR:1.53、95%CI:1.32~1.77)  乳がん(HR:1.72、95%CI:1.34~2.19)  子宮体がん(HR:2.73、95%CI:1.53~4.85)  卵巣がん(HR:1.60、95%CI:1.06~2.42)  前立腺がん(HR:1.41、95%CI:1.09~1.82)  腎がん(HR:1.84、95%CI:1.28~2.64)  甲状腺がん(HR:1.99、95%CI:1.03~3.86)  悪性リンパ腫(HR:1.39、95%CI:1.04~1.86)・白血病、膀胱がん、子宮頸がん、食道がん、胃がん、肺がんによる死亡リスクは、糖尿病との有意な関連は認められなかった。

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第6回 DPP-4阻害薬による治療のキホン【糖尿病治療のキホンとギモン】

【第6回】DPP-4阻害薬による治療のキホン―DPP-4阻害薬の長期投与の安全性について教えてください。 最初のDPP-4阻害薬が海外で臨床使用されるようになってから約10年、国内で使用されるようになってから約7年が経過し、今では国内外で多くの糖尿病患者さんに使われています。しかし、古くから使われているSU薬やビグアナイド(BG)薬などに比べると使用期間が長くないため、長期投与の安全性について懸念される先生方も多いと思います。 DPP-4阻害薬については、心不全による入院リスクの増加が指摘されており、それを受け、1万4,671例の心血管疾患のある2型糖尿病患者さんを対象に、通常治療へのシタグリプチン追加の心血管に対する安全性を検討した多施設共同無作為化プラセボ対照二重盲検比較試験「TECOS(Trial to Evaluate Cardiovascular Outcomes after treatment with Sitagliptin)」が行われました1)。その結果、追跡期間中央値3年(四分位範囲2.3~3.8年)で、主要評価項目である心血管疾患死、非致死的心筋梗塞(MI)、非致死的脳卒中、不安定狭心症による入院の複合エンドポイントにおいて非劣性が示されており、これら有害事象のリスク上昇はみられなかったという結論に至っています※。また、類薬でも心血管に対する安全性を検討した試験が報告されています2)。 ※本試験でのシタグリプチン投与量は「100mg/日(30mL/分/1.73m2≦eGFR<50mL/分/1.73m2例は50mg/日)」となっており、国内での用法・用量は「通常、成人にはシタグリプチンとして50mgを1日1回経口投与する。なお、効果不十分な場合には、経過を十分に観察しながら100mg1日1回まで増量することができる。」です。 しかし、DPP-4阻害薬は、インスリン分泌を促進する消化管ホルモンであるGIPおよびGLP-1を分解し不活性化するDPP-4を阻害することで血糖値を下げる薬剤で、DPP-4は、免疫応答調節に関与するCD26などの活性化T細胞をはじめとし、さまざまな器官の細胞に存在するため、GIPおよびGLP-1以外の物質やホルモンなどに影響を及ぼす可能性があると考えられています。そのため、さらに長期的な安全性については、より多くの実臨床における使用成績が蓄積されることで、現時点で確認されていない有害事象を含め、わかってくることと思います。―DPP-4阻害薬の膵臓がんとの関連について教えてください。 DPP-4阻害薬の膵疾患との関連については以前より議論されており、さまざまな解析が行われ、多くの専門家がそれらを考察していますが、現在のところ、膵臓に対する安全性として、米国糖尿病学会(ADA)および欧州糖尿病学会(EASD)、国際糖尿病連合(IDF)は、情報が十分でないため、DPP-4阻害薬による治療に関する推奨事項を修正するには至らないという合同声明を発表しています3)。 国内では、保険会社の医療費支払い申請のデータベースを基に、DPP-4阻害薬における急性膵炎の発症を検討した後ろ向き解析で、急性膵炎のリスクを高めないという報告もありますが4)、現時点で、膵炎や膵臓がんなどへのDPP-4阻害薬の関与について、十分な症例数で、十分な期間、前向きに検討した試験はありません。しかし最近、インクレチン関連薬(DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬)による膵がんの発症リスクは、スルホニル尿素(SU)薬と変わらないことが、CNODES試験5)で確認されました。CNODES試験は、2型糖尿病患者の治療におけるインクレチン関連薬とその膵がんリスクの関連を検証した国際的な他施設共同コホート研究であり、カナダ、米国、英国の6施設が参加し2007年1月1日~2013年6月30日の間に抗糖尿病薬による治療を開始した97万2384例が解析の対象となりました。DPP-4阻害薬では、リナグリプチン、シタグリプチン、ビルダグリプチン、サキサグリプチンが、GLP-1受容体作動薬ではエキセナチド、リラグルチドが含まれました。SU薬と比較したインクレチン関連薬の膵がん発症の補正ハザード比[HR]は、1.02(95%信頼区間[CI]: 0.84~1.23)であり、有意な差を認めませんでした。また、SU薬と比べて、DPP-4阻害薬(補正HR: 1.02、95%CI: 0.84~1.24)およびGLP-1受容体作動薬(補正HR:1.13、95%CI:0.38~3.38)の膵がん発症リスクは、いずれも同等でした。治療開始後の期間についても、インクレチン関連薬の膵がんリスクに有意な影響はありませんでした。この論文では、インクレチン関連薬に起因するがんが潜在している可能性があるため監視を継続する必要はあるものの、今回の知見によりインクレチン関連薬の安全性が再確認された、と結論付けています。 DPP-4阻害薬の中には、重要な基本的注意として「急性膵炎が現れることがあるので、持続的な激しい腹痛、嘔吐などの初期症状が現れた場合には、速やかに医師の診察を受けるよう患者に指導すること」とされているものもあります。なお、糖尿病患者さんでは、健康成人に比べて急性膵炎や膵がんの発症率が高いので6)、DPP-4阻害薬使用の有無にかかわらず、注意して観察する必要があります。―1日1回、1日2回、週1回の製剤はどのような基準で選べばよいのか、教えてください。 投与回数はアドヒアランスに影響しますので、まずは患者さんの服薬状況やライフスタイルによって選ぶとよいと思います。アドヒアランスは効果に反映します。毎日きちんと服薬できているような患者さんでは問題ありませんが、仕事が忙しく、どうしても飲み忘れてしまうという患者さんや、勤務時間がバラバラだったり、夜勤などもあって、服薬が習慣化できないような患者さんでは、1日2回より1日1回、1日1回よりは週1回のほうが飲み忘れが少なくなるかもしれません。―DPP-4阻害薬の各薬剤間に大きな違いはあるのでしょうか。どのように使い分けをすべきか、教えてください。 DPP-4阻害薬の使い分けについては、第2回 薬物療法のキホン(総論)―同グループ内での薬剤の選択、使い分けを教えてください。をご覧ください。1)Green JB, et al. N Engl J Med. 2015;373:232-242.2)Scirica BM, et al. N Engl J Med. 2013;369:1317-1326.3)Egan AG, et al. N Engl J Med. 2014;370:794-797.4)Yabe D, et al. Diabetes Obes Metab. 2015;17:430-434.5)Azoulay L, et al. BMJ. 2016;352:i581.6)Ben Q, et al. Eur J Cancer. 201;47:1928-1937.

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先端巨大症〔acromegaly〕

1 疾患概要■ 概念・定義手足の末端や顔貌の変化など特有な容姿から名付けられた疾患名であるが、成長ホルモン(GH)の過剰分泌により生じる。骨端線閉鎖以前では巨人症(gigantism)を、骨端線閉鎖以降では骨の末端の肥大を示す先端巨大症(acromegaly)を呈する。また、GH過剰状態が長期に持続すると、QOLは低下し、心・脳血管障害、悪性腫瘍、呼吸器疾患などを合併し、生命予後は不良となる。■ 疫学欧米の最近の報告によると、発生頻度(罹患率)は、年間3.5~6.5人/100万人、有病率は125~137人と報告されている。わが国の報告では、片上氏らの宮崎県での調査の結果、罹患率は5.3人/100万人、有病率85人と報告されている。本症に性差はみられず、40~60歳を好発年齢とし各年齢層に広く分布している。■ 病因先端巨大症の99%以上は、下垂体のGH産生腫瘍が原因であるが、ごくまれに気管支や膵、十二指腸などに発生する内分泌腫瘍から、異所性にGH放出ホルモンが過剰に産生される異所性GHRH産生腫瘍や、膵臓がんや悪性リンパ腫での異所性GH産生などが原因となる先端巨大症の報告例がある。■ 病態生理GH産生腫瘍もほかの下垂体腫瘍同様、モノクローナルな腫瘍で、体細胞レベルでの突然変異(somatic mutation)が腫瘍化の原因と考えられてきた。約半数の症例ではGHRH受容体と共役しているGタンパク質のαsubunitであるGsαの活性化変異(gsp変異)が認められる。その結果アデニル酸シクラーゼの活性化が持続し、細胞内のcAMPの増加が維持され、細胞増殖が促進する。一方、家族性にGH産生腺腫を合併する疾患にCarney complex、家族性GH腺腫(isolated familial somatotropinoma:IFS)、多発性内分泌腺腫症(MEN1および4)があるが、弧発性GH腺腫でもこれらの遺伝性疾患の原因遺伝子が検討されたが、不活化を伴う体細胞変異は認められていない。■ 臨床症状症状はGH過剰分泌に基づく症候が主体で、時に下垂体腫瘍が大きな場合には下垂体機能低下、視機能障害、頭痛など占拠性症候が同時に認められる。GHの過剰分泌により、肝臓でインスリン様成長因子-1(insulin-like growth factor 1: IGF-1)が過剰に産生され、これらGH、IGF-1の過剰分泌が長期に続くと、骨、軟部組織、内臓の肥大や変形が生じる。臨床症状としては顔貌の変化、手足の肥大はほぼ全例で認められ、耐糖能の低下、巨大舌、発汗過多も70%以上でみられる。また、先端巨大症では約25%(自験例で13%)の症例でプロラクチン(PRL)の同時産生を認めるため、月経異常(無月経、乳汁漏出)が主訴となることがある(図1、図2、表)。画像を拡大するA:先端巨大症の主な症状B:先端巨大症男性例の顔貌。骨の変形に伴う眉弓部・頬骨部の隆起、下顎の突出がみられ、鼻、口唇の肥大も認める特徴的な先端巨大症顔貌C:左は手指の腫大、皮膚の肥厚、多毛など典型的な先端巨大症の手(右は成人男性健常者)画像を拡大する画像を拡大する1)顔貌の変化眉弓部や頬骨部の隆起、下顎の突出、咬合不全、歯間の開大などが認められ、軟骨、軟部組織、皮膚も影響され、鼻、口唇も肥大し、いわゆる先端巨大症様顔貌を呈する(図1B)。2)骨、関節、結合組織手足の骨は伸び、手足の末端は肥大し、指は厚ぼったく太く丸みをおび、時に手指で小さな物をつまみ上げることが困難となる(図1C)。多角的にはX線検査における手指末節骨先端の花キャベツ様変化また結合組織も肥大によるheel pad(踵骨と足底の間の軟部組織)の肥厚が認められる。時に骨、結合組織の肥厚に伴い、手根管症候群や座骨神経痛、股関節、顎関節、膝関節の変形に伴う痛みも認められる。体型も椎骨の肥大変形により、胸部は後彎、腰部は前彎という独特な体型を呈する。これら骨に生じた変形は通常進行性で不可逆的である。3)皮膚肥厚し、色素沈着や発汗過多により、手掌、足底は常にべたつき、しばしば異臭を伴う。4)臓器肥大肝臓、腎臓、甲状腺などが肥大する。舌の肥大は巨大舌と呼ばれ、声帯の肥大などとともに特徴的な低い声となる(deepening of the voice)。5)循環器高率に高血圧を合併する。これは進行する動脈硬化と細胞外液量の増加が関与すると考えられている。心肥大も多く、最終的には拡張性の心不全を生じ、生命予後を左右する大きな一因となっている。6)呼吸器胸郭、肺の弾性が低下し、換気低下が進行すると慢性気管支炎、肺気腫など器質性変化が生じ、時に呼吸不全となる。また、近年本症は閉塞性の睡眠時無呼吸症候群の一因としても注目されている。7)代謝GHのインスリン拮抗作用が原因で耐糖能の低下、糖尿病が高頻度にみられる。8)占拠性症候下垂体腫瘍の70%以上は、腫瘍径1cm以上のmacroadenomaであるが、視野異常など視機能低下を合併する頻度はそれほど多くはない(自験例で5%)。同様に腫瘍の圧迫による続発性下垂体機能低下症もまれである。■ 予後放置した場合の生命予後は、一般人口と比較すると不良で、標準化死亡率は1.72倍高いと報告される一方、治療によりGH、IGF-1値が正常化すると、その後の生命予後は一般人と変わらなくなると報告されている。また、合併する高血圧、糖尿病、心疾患などの合併症のコントロールも生命予後の改善に寄与する。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 臨床所見とGH、IGF-1基礎値診断の基本はまず臨床的所見から先端巨大症を疑うことが重要である。しかし、通常患者が直接専門医を受診することは少なく、早期発見のためにも、合併疾患の治療科である整形外科、呼吸器科、一般内科医などへの本疾患の啓発が重要である。近年、新聞・雑誌や下垂体患者会などからの啓発活動の結果、患者自らがこの疾患を疑い、専門機関を受診するケースも増加している。本疾患が疑われる患者では、まずGH、IGF-1値を含めた下垂体ホルモン基礎値を測定し、GH過剰分泌の有無、他のホルモンの過剰あるいは低下の有無を検討する。重要なことは、GH基礎値は変動が大きく、単回の血中GH基礎値のみでのGH過剰状態の判定は不可能で、同時に必ずGHの総分泌量を反映するIGF-1値を測定することが重要である。臨床所見を認め、IGF-1値が年齢、性別の基準値より明らかに高値を示す場合には、通常先端巨大症と考えてよい(図2)。■ 経口ブドウ糖負荷試験など先端巨大症患者では、GHの抑制がないか、逆説的な増加を示し、0.4ng/mL未満には抑制されない。感度の高い検査で、本疾患が疑われる場合には必須の検査である。この検査は、先端巨大症の診断のみならず耐糖能の評価、治療後の耐糖能低下改善の予測などにも重要な検査である。以上で診断が確実となれば、他の前葉ホルモンの機能評価を兼ねたTRH、CRH、GnRH 3者負荷試験、薬物の効果を予測するドパミン作動薬(ブロモクリプチン)やオクトレオチド負荷試験を施行する。■ 画像検査次に重要なことは腫瘍の状況の把握で、このためには下垂体の精検MRIが最も重要である。通常1cm以下の微小腺腫が2~3割程度を占める。また、下垂体腫瘍が認められない場合には、異所性GHRH産生腫瘍なども考慮する必要がある(図2)。■ その他の検査合併症の評価のため、心機能、呼吸機能、動脈硬化の程度の評価、大腸がんの有無の評価なども重要な検査である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)先端巨大症を呈する下垂体腫瘍の治療の目的は、過剰に産生されているGHの早期の正常化と、腫瘍が大きく圧迫症候を伴っているときには、それらの改善にある。本疾患の治療の原則は、外科的切除が第1選択であるが、手術不能例や患者の同意が得られない特殊な場合、手術で治癒が不可能と考えられる一部の症例、外科的治療でも治癒が得られない場合には薬物療法、放射線療法などの補助療法を追加する。同時に合併症のコントロールも予後の改善からも重要である。先端巨大症の治療の流れを示すフローチャートを図3に示した。画像を拡大する■ 手術療法手術は通常経鼻的アプローチで行われ、これを「経蝶形骨洞手術」と呼び、手術用顕微鏡や内視鏡下に施行されるが、大きな腫瘍や浸潤性腫瘍では、患者の全身状態の改善による周術期のリスクの減少と腫瘍の縮小を目的として、術前短期(1~3回程度)のオクトレオチドLAR(商品名: サンドスタチンLAR)、ランレオチド(同:ソマチュリン)を使用する場合がある。現在のところ下垂体外科を専門とする施設での治癒率は、60~70%と報告されている(図4)。手術での治療成績不良な因子としては、腫瘍の大きさ、海綿静脈洞浸潤の有無などが挙げられる。画像を拡大する■ 薬物療法腫瘍からのGH分泌を抑制し、抗腫瘍効果のあるドパミン作動薬(ブロモクリプチン[商品名: パーロデル]やカベルゴリン[同:カバサール])、ソマトスタチンアナログ製剤が主に使用されている。それでも効果が不十分な場合には、GHの作用をブロックするペグビソマント(同:ソマバート)が使用される。ただし、ソマトスタチンアナログ製剤やペグビソマントは、有効率は高いものの、きわめて高価であること、ペグビソマントは毎日自己注射が必要なこと、カベルゴリンは保険適用ではないことが欠点である。また、これらの薬剤の効果をより高めるために、多剤薬物療法(combined therapy)も適時試みられている。■ 放射線照射海綿静脈洞内など外科切除困難な部位に腫瘍が残存し、薬物効果が不十分な場合などが適応となる。現在ではγナイフやサイバーナイフなどの定位放射線療法が主体で、従来の放射線療法に比較し、いずれも短時間でより選択的な照射が腫瘍へ可能であり、かつ治療効果発現までの時間も短く(通常1~2年)、正常下垂体、神経組織への障害も少ない。■ フォローアップ通常治療後、治癒基準を満たす症例が再発を呈することはきわめてまれであるが、半年~1年に1度GH、IGF-1検査のフォローが必要である。また、術前の症状の有無により、適時に大腸内視鏡、心エコーなどの定期的フォローも必要となるし、薬物療法施行例では、それぞれの副作用のチェック、さらに放射線療法が行われた症例ではGH、IGF-1はもちろん、下垂体機能低下症の長期にわたるフォローも重要となる。4 今後の展望本疾患の早期発見、早期治療のためには、関連診療科医師へのさらなる啓発活動が重要である。薬物治療法については、オクトレオチドLAR、ランレオチドなどの標準的なソマトスタチンアナログ製剤と比較して、より優れたGHおよびIGF-1の治療目標値への達成が期待されるSOM230(一般名: パシレオチド)が、2016年末にわが国で発売される予定である。また、ソマトスタチンアナログ製剤は、現在1ヵ月に1度の割合で病院での注射が必要となるが、アドヒアランスのより高い経口薬(oral octreotide)がすでに開発されており、近い将来広く臨床応用されることが期待される。5 主たる診療科下垂体疾患・腫瘍を取り扱う内分泌内科、脳神経外科、小児科6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 先端巨大症、下垂体性巨人症(下垂体性成長ホルモン分泌亢進症)平成27年施行の指定難病。先端巨大症は、下垂体性成長ホルモン分泌亢進症(告示番号77)に分類されている。本サイトは「厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業 間脳下垂体機能障害に関する調査研究 先端巨大症および下垂体性巨人症の診断と治療の手引き」にリンクされている。アクロメガリー広報センター(ノバルティスファーマ株式会社)先端巨大症ねっと(帝人ファーマ株式会社)いずれも製薬メーカーが運営するサイトであるが、患者向け、医療者向けの両サイトがあり、先端巨大症についての知識や治療法がわかりやすく解説されている。患者会情報下垂体患者の会(下垂会)2005年に下垂体疾患の患者有志が集まり、自分達の病気の難病指定を目標に結成され、現在全国規模で医療講演会や患者会を定期的に開催・活動している。1)Katznelson L, et al. J Clin Endocrinol Metab.2014;99:3933-3951.2)特集 先端巨大症の診療最前線. ホルモンと臨床.2009.3)平田結喜緒 編. 下垂体疾患診療マニュアル 改訂第2版.診断と治療社;2016.4)千原和夫 監修. 改訂版 Acromegaly Handbook.メディカルレビュー社;2013.公開履歴初回2016年10月18日

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失業とがん死亡の関連:世界銀行とWHOのデータから/Lancet

 失業率上昇はがん死亡率上昇と関連する。しかし、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC;http://uhcday.jp)はこの影響を阻止することが可能である。また、公的保健医療支出の増加はがん死亡率の低下と関連していることを、英国インペリアル・カレッジ・ロンドンのMahiben Maruthappu氏らが、がん死亡率と失業率、公的保健医療支出との関連、ならびにUHCの影響を調査する縦断的研究の結果、報告した。世界経済危機は、失業率の増加、および公的保健医療支出の減少と関連することが知られる。これまでそれに関して、がん転帰との関連を分析した研究はほとんどなかった。Lancet誌オンライン版2016年5月25日号掲載の報告。世界各国のがん死亡と経済指標の関連を分析 研究グループは、世界銀行の2013年版データセットから経済データを得るとともに、WHO死亡データベースから1990~2010年のがん死亡に関するデータを入手した。調査したがん種は、治療可能ながんとして生存率50%超の乳がん(女性)、前立腺がん(男性)、大腸がん(男性・女性)とし、5年生存率が10%に満たない肺がんおよび膵臓がんは治療不能がんにまとめた。なお、中国、インドおよびサハラ以南のアフリカについては完全ながん死亡データを得られなかった。 多変量回帰分析を用い、がん死亡と失業、公的保健医療支出との関連をUHCの有無別に検討した。また、2008年から2010年に多くの国で急激な失業率上昇が発生したことから、それ以前の傾向に基づいた推定死亡率と観察データを比較した。失業率上昇でがん死亡率が上昇、ただし国民皆保険制度がある国を除く 失業率については75ヵ国21億600万人、公的保健医療支出については79ヵ国21億5,600万人のデータを入手。2000~10年のがん死亡データが完全であったのは61ヵ国であり、最終解析には35ヵ国のデータが包含された。 解析の結果、失業率上昇は、すべてのがん死亡率、および女性の肺がんを除く各がん種の死亡率上昇と有意に関連していた。一方で、治療不能がんの死亡率は失業率の変化との有意な関連は認められなかった。 治療可能がんの場合、有意な関連は失業率上昇後5年間持続していた。しかし、UHCがある国(日本を含む26ヵ国)では、失業率とがん死亡率との有意な関連は認められなかった。また、公的保健医療支出が増加すると、すべてのがん、治療可能がん、およびがん種別の死亡率は有意に減少する関連も認められた。 2000~07年の傾向に基づく解析の結果、2008~10年において一部の治療可能がんの過剰死亡は4万人以上と算出され、そのほとんどがUHCのない国での死亡であった。 これらの結果を踏まえて著者は、保健医療アクセスの重要性を指摘。また、「2008~10年の世界経済危機は、経済協力開発機構(OECD)加盟国だけでも推定26万人以上のがん関連死増加と関連していたと推定される」と報告をまとめている。

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自己免疫性膵炎〔AIP : autoimmune pancreatitis〕

1 疾患概要■ 概念・定義自己免疫性膵炎(autoimmune pancreatitis: AIP)は、わが国から世界に発信した新しい疾患概念である。わが国におけるAIPは、病理組織学的に膵臓に多数のIgG4陽性形質細胞とリンパ球の浸潤と線維化および閉塞性静脈炎を特徴とする(lymphoplasmacytic sclerosing pancreatitis: LPSP)。高齢の男性に好発し、初発症状は黄疸が多く、急性膵炎を呈する例は少ない。また、硬化性胆管炎、硬化性唾液腺炎などの種々の硬化性の膵外病変をしばしば合併するが、その組織像は膵臓と同様にIgG4が関与する炎症性硬化性変化であることより、AIPはIgG4が関連する全身性疾患(IgG4関連疾患)の膵病変であると考えられている。一方、欧米ではIgG4関連の膵炎以外にも、臨床症状や膵画像所見は類似するものの、血液免疫学的異常所見に乏しく、病理組織学的に好中球病変による膵管上皮破壊像(granulocytic epithelial lesion: GEL)を特徴とするidiopathic duct-centric chronic pancreatitis(IDCP)がAIPとして報告されている。この疾患では、IgG4の関与はほとんどなく、発症年齢が若く、性差もなく、しばしば急性膵炎や炎症性腸疾患を合併する。近年、IgG4関連の膵炎(LPSP)をAIP 1型、好中球病変の膵炎(IDCP)をAIP 2型と分類するようになった。本稿では、主に1型について概説する。■ 疫学わが国で2007年に行われた全国調査では、AIPの年間推計受療者数は2,790人、有病率2.2人/10万人、罹患率0.9人/10万人であり、2011年の調査では年間推計受療者数は5,745人と増加している。わが国では、症例のほとんどが1型であり、2型はまれである。■ 病因AIPの病因は不明であるが、IgG4関連疾患である1型では、免疫遺伝学的背景に自然免疫系、Th2にシフトした獲得免疫系、制御性T細胞などの異常が病態形成に関与する可能性が報告されている。■ 症状AIPは、高齢の男性に好発する。閉塞性黄疸で発症することが多く、黄疸は動揺性の例 がある。腹痛や背部痛などの膵炎症状を呈する例は少なく、多くは軽度である。無症状で、糖尿病の発症や増悪にて発見されることもある。約半数で糖尿病の合併を認め、そのほとんどは2型糖尿病である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)自己免疫性膵炎臨床診断基準2011(表)を用いて診断する。表 自己免疫性膵炎臨床診断基準2011(日本膵臓学会・厚生労働省難治性膵疾患調査研究班)【疾患概念】わが国で多く報告されている自己免疫性膵炎は、その発症に自己免疫機序の関与が疑われる膵炎であるが、IgG4関連疾患の膵病変である可能性が高い。中高年の男性に多く、膵の腫大や腫瘤とともに、しばしば閉塞性黄疸を認めるため、膵癌や胆管癌などとの鑑別が必要である。高γグロブリン血症、高IgG血症、高IgG4血症、あるいは自己抗体陽性を高頻度に認め、しばしば硬化性胆管炎、硬化性唾液腺炎、後腹膜線維症などの膵外病変を合併する。病理組織学的には、著明なリンパ球やIgG4陽性形質細胞の浸潤、花筵状線維化(storiform fibrosis)、閉塞性静脈炎を特徴とするlymphoplasmacytic sclerosing pancreatitis(LPSP)を呈する。ステロイドが奏効するが、長期予後は不明であり、再燃しやすく膵石合併の報告もある。一方、欧米ではIgG4関連の膵炎以外にも、臨床症状や膵画像所見は類似するものの、血液免疫学的異常所見に乏しく、病理組織学的に好中球病変による膵管上皮破壊像(granulocytic epithelial lesion;GEL)を特徴とするidiopathic duct-centric chronic pancreatitis(IDCP)が自己免疫性膵炎として報告されている。男女差はなく、比較的若年者にもみられ、時に炎症性腸疾患を伴う。ステロイドが奏効し、再燃はまれである。国際的にはIgG4関連の膵炎(LPSP)を1型、好中球病変の膵炎(IDCP)を2型自己免疫性膵炎として分類し、国際コンセンサス基準(International Consensus of Diagnostic Criteria(ICDC)for autoimmune panceatitis)が提唱されている。しかしながら、わが国では2型はきわめてまれであるため、本診断基準ではわが国に多い1型を対象とし、2型は参照として記載するに留めた。【診断基準】A.診断項目I.膵腫大:a.びまん性腫大(diffuse)b.限局性腫大(segmental/focal)II.主膵管の不整狭細像: ERPIII.血清学的所見 高IgG4血症(≥135mg/dL)IV.病理所見:以下の(1)~(4)の所見のうち、a.3つ以上を認める。b.2つを認める。(1)高度のリンパ球、形質細胞の浸潤と線維化(2)強拡1視野当たり10個を超えるIgG4陽性形質細胞浸潤(3)花筵状線維化(storiform fibrosis)(4)閉塞性静脈炎(obliterative phlebitis)V.膵外病変:硬化性胆管炎、硬化性涙腺炎・唾液腺炎、後腹膜線維症a.臨床的病変臨床所見および画像所見において、膵外胆管の硬化性胆管炎、硬化性涙腺炎・唾液腺炎(Mikulicz病)あるいは後腹膜線維症と診断できる。b.病理学的病変硬化性胆管炎、硬化性涙腺炎・唾液腺炎、後腹膜線維症の特徴的な病理所見を認める。<オプション>ステロイド治療の効果専門施設においては、膵癌や胆管癌を除外後に、ステロイドによる治療効果を診断項目に含むこともできる。悪性疾患の鑑別が難しい場合は超音波内視鏡下穿刺吸引(EUS-FNA)細胞診まで行っておくことが望ましいが、病理学的な悪性腫瘍の除外診断なく、ステロイド投与による安易な治療的診断は避けるべきである。I.確診(1)びまん型Ia+III/IVb/V(a/b)(2)限局型Ib+II+<III/IVb/V(a/b)>の2つ以上またはIb+II+<III/IVb/V(a/b)>+オプション(3)病理組織学的確診IVaII.準確診限局型:Ib+II+<III/IVb/V(a/b)>III.疑診*びまん型:Ia+II+オプション限局型:Ib+II+オプション自己免疫性膵炎を示唆する限局性膵腫大を呈する例でERP像が得られなかった場合、EUS-FNAで膵がんが除外され、III/IVb/V(a/b)の1つ以上を満たせば、疑診とする。さらに、オプション所見が追加されれば準確診とする。疑診*:わが国ではきわめてまれな2型の可能性もある。+:かつ、/:または本症の診断においては、膵がんや胆管がんなどの腫瘍性の病変を否定することがきわめて重要である。診断に際しては、可能な限りのEUS-FNAを含めた内視鏡的な病理組織学的アプローチ(膵液細胞診、膵管・胆管ブラッシング細胞診、胆汁細胞診など)を施行すべきである。診断基準では、膵腫大、主膵管の不整狭細像、高IgG4血症、病理所見、膵外病変とオプションとしてのステロイド治療の効果の組み合わせにより診断する。びまん性の膵腫大を呈する典型例では、高IgG4血症、病理所見か膵外病変のどれか1つを満たせばAIPと診断できる。しかし、限局性膵腫大例では、膵がんとの鑑別がしばしば困難であり、内視鏡的膵管造影(ERP)による主膵管の膵管狭細像が必要である。■ 膵腫大“ソーセージ様”を呈する膵のびまん性(diffuse)腫大は、本症に特異性の高い所見である。しかし、限局性(segmental/focal)腫大では膵がんとの鑑別が問題となる。腹部超音波検査では、低エコーの膵腫大部に高エコースポットが散在することが多い(図1)。腹部ダイナミックCTでは、遅延性増強パターンと被膜様構造(capsule-like rim)が特徴的である(図2)。画像を拡大する画像を拡大する■ 主膵管の不整狭細像ERPによる主膵管の不整狭細像(図3、4)は本症に特異的である。狭細像とは閉塞像や狭窄像と異なり、ある程度広い範囲に及んで、膵管径が通常より細くかつ不整を伴っている像を意味する。典型例では狭細像が全膵管長の3分の1以上を占めるが、限局性の病変でも、狭細部より上流側の主膵管には著しい拡張を認めないことが多い。短い膵管狭細像の場合には膵がんとの鑑別がとくに困難である。主膵管の狭細部からの分枝の派生や非連続性の複数の主膵管狭細像(skip lesions)は、膵がんとの鑑別に有用である。MR胆管膵管撮影(MRCP)は主膵管の狭細像の正確な評価はできないが、主膵管が非連続に描出される場合や狭細部の上流の主膵管の拡張が軽度である場合には、診断の参考になる。画像を拡大する画像を拡大する■ 血清学的所見AIPでは、血中IgG4値の上昇(135mg/dL以上)を高率に認め、その診断的価値は高い。しかし、IgG4高値は他疾患(アトピー性皮膚炎、天疱瘡、喘息など)や一部の膵臓がんや胆管がんでも認められるので、この所見のみからAIPと診断することはできない。今回の診断基準には含まれていないが、高γグロブリン血症、高IgG血症(1,800mg/dL以上)、自己抗体(抗核抗体、リウマチ因子)を認めることが多い。■ 膵臓の病理所見本疾患はLPSPと呼ばれる特徴的な病理像を示す。高度のリンパ球、形質細胞の浸潤と、線維化を認める(図5)。形質細胞は、IgG4免疫染色で陽性を示す(図6)。線維化は、紡錘形細胞の増生からなり、花筵状(storiform fibrosis)と表現される特徴的な錯綜配列を示し、膵辺縁および周囲脂肪組織に出現しやすい。小葉間、膵周囲脂肪組織に存在する静脈では、リンパ球、形質細胞の浸潤と線維化よりなる病変が静脈内に進展して、閉塞性静脈炎(obliterative phlebitis)が生じる。画像を拡大する画像を拡大する■ 膵外病変(other organ involvement: OOI)AIPでは、種々のほかのIgG4関連疾患をしばしば合併する。その中で、膵外胆管の硬化性胆管炎、硬化性涙腺炎・唾液腺炎(ミクリッツ病 )、後腹膜線維症が診断基準に取り上げられている。硬化性胆管炎は、AIPに合併する頻度が最も高い膵外病変である。下部胆管に狭窄を認めることが多く(図4)、膵がんまたは下部胆管がんとの鑑別が必要となる。肝内・肝門部胆管狭窄は、原発性硬化性胆管炎(primary sclerosing cholangitis: PSC)や胆管がんとの鑑別を要する。AIPの診断に有用なOOIとしては、膵外胆管の硬化性胆管炎のみが取り上げられている。十二指腸乳頭部生検のIgG4染色は補助診断として有用である。AIPに合併する涙腺炎・唾液腺炎は、シェーグレン症候群とは異なって、涙腺分泌機能低下に起因する乾燥性角結膜炎症状や口腔乾燥症状は軽度のことが多い。顎下腺が多く、涙腺・唾液腺の腫脹の多くは左右対称性である。後腹膜線維症は、後腹膜を中心とする線維性結合織のびまん性増殖と炎症により、腹部CT/MRI所見において腹部大動脈周囲の軟部影や腫瘤を呈する。尿管閉塞を来し、水腎症を来す例もある。■ ステロイド治療の効果ステロイド治療の効果判定は、画像で評価可能な病変が対象であり、臨床症状や血液所見は対象としない。ステロイド開始2週間後に効果不十分の場合には再精査が必要である。できる限り病理組織を採取する努力をすべきであり、ステロイドによる安易な診断的治療は厳に慎むべきである。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)経口ステロイド治療が、AIPの標準治療法である。経口プレドニゾロン0.6mg/kg/日の初期投与量を2~4週間投与し、その後画像検査や血液検査所見を参考に約1~2週間の間隔で5mgずつ漸減し、3~6ヵ月ぐらいで維持量まで減らす。通常、治療開始2週間ほどで改善傾向が認められるので、治療への反応が悪い例では膵臓がんを疑診して 、再検査を行う必要がある。AIPは20~40%に再燃を起こすので、再燃予防にプレドニゾロン2.5~5mg/日の維持療法を1~3年行うことが多い(図7)。近年、欧米では、再燃例に対して免疫調整薬やリツキシマブの投与が行われ、良好な成績が報告されている。画像を拡大する4 今後の展望AIPの診断においては、膵臓がんとの鑑別が重要であるが、鑑別困難な例がいまだ存在する。病因の解明と確実性のより高い血清学的マーカーの開発が望まれる。EUS-FNAは、悪性腫瘍の否定には有用であるが、現時点では採取検体の量が少なく病理組織学的にAIPと診断できない例が多く、今後採取方法の改良が求められる。AIPでは、ステロイド治療後に再燃する例が多く、再燃予防を含めた標準治療法の確立が必要である。5 主たる診療科消化器内科、内分泌内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報自己免疫性膵炎診療ガイドライン2013(日本膵臓学会ホームページ)(医療従事者向けのまとまった情報)自己免疫性膵炎臨床診断基準(2011年)(日本膵臓学会ホームページ)(医療従事者向けのまとまった情報)1)日本膵臓学会・厚生労働省難治性膵疾患に関する調査研究班.膵臓.2012;27:17-25.2)厚生労働省難治性膵疾患調査研究班・日本膵臓学会.膵臓.2013;28:715-783.3)Kamisawa T, et al. Lancet.2015;385:460-471.公開履歴初回2014年03月06日更新2016年03月22日

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DPP-4阻害薬と心不全による入院に関連はあるのか?(解説:小川 大輔 氏)-494

 2型糖尿病の治療において、DPP-4阻害薬は海外では第1選択薬のメトホルミンに次ぐ第2選択薬の1つという位置付けであるが、わが国では最も広く使用されている糖尿病治療薬である。DPP-4阻害薬が汎用される理由は、使い勝手が良く低血糖を起こしにくいためと考えられる。 一方で、DPP-4阻害薬は免疫系に対する影響や、膵炎・膵臓がんに対するリスク、心不全に対するリスクが以前より懸念されている。最近BMJ誌に、インクレチン関連薬と膵臓がんに関するレビュー1)と、DPP-4阻害薬と心不全に関するレビューが同時に掲載された2)。それぞれ、ジャーナル四天王の2016年3月2日公開の記事(インクレチン製剤で膵がんリスクは増大するか)および2016年2月26日公開の記事(DPP-4阻害薬は心不全入院リスクを高める可能性)に、要旨が掲載されているので参照されたい。 今回、中国の研究者らは、2型糖尿病患者におけるDPP-4阻害薬の使用による心不全リスクの増大について、無作為化比較試験(RCT)および観察研究のシステマティックレビューとメタ解析を行い報告した。心不全については、RCTと観察研究のいずれの解析においても、DPP-4阻害薬群と対照群との間で心不全のリスクに有意差は認められなかった。一方、心不全による入院に関しては、RCT・観察研究ともDPP-4阻害薬群で対照群よりリスクが増加することが示唆された。 この論文では、とくに心血管疾患のリスクを有する2型糖尿病患者においてはDPP-4阻害薬の使用により、心不全そのもののリスクは増えないものの、心不全による“入院”のリスクが若干増大する可能性がある、と指摘している。しかし、この結論をそのまま受け入れることは難しい。なぜなら、著者らが本文中に記載しているとおり、RCT・観察研究の追跡期間が約1~2年と短く、また解析対象とした研究のエビデンスの質が、すべてにおいて高いとはいえないためである。 それ以前に、心不全は増えないが心不全による“入院”が増えるとは、一体何を意味するのか? 心不全が増えなければ、それによる入院も増えるはずがないのではないだろうか。結局、「DPP-4阻害薬の使用により、心不全のリスクも心不全による入院のリスクも増加するかどうかは不明である」というのがこのレビューの結論であろう。

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【GET!ザ・トレンド】今後も拡大が予想される新たな疾患概念「IgG4関連疾患」

2015年、Lancet誌のReviewで取り上げられた、本邦発21世紀の新たな疾患概念「IgG4関連疾患」。疾患概念の提唱者であり同Reviewの筆頭著者である東京都立駒込病院 副院長 神澤 輝実氏に、非専門家に向けたIgG4関連疾患の解説をしていただいた。IgG4関連疾患はどのような疾患ですか?一言でいうと、リンパ球とIgG4陽性形質細胞の著しい浸潤と線維化によって、全身のさまざまな臓器に腫大や結節などが生じる原因不明の疾患です。膵臓、胆管、涙腺、唾液腺などでの発症が知られていますが、頭からつま先までほぼ全身の臓器や部位が冒されます。罹患した臓器によって症状は異なりますが、概してステロイドが奏効し、治療の第1選択薬はステロイド薬です。以前から存在が知られている疾患の中にも、IgG4関連疾患と判明した、代表的な疾患にはどのようなものがあるのでしょうか?まず、自己免疫性膵炎です。この疾患は以前から腫瘤形成性膵炎といわれ、特殊な膵炎として捉えられていましたが、IgG4関連疾患であることがわかりました。両側の涙腺や唾液腺が腫れるミクリッツ病、片側の唾液腺が腫れるキュットナー腫瘍、昔から知られているこれらの疾患も最近になってIgG4関連疾患であることがわかりました。また、原発性硬化性胆管炎(PSC)のうち高齢者が罹患するケース、以前から原因不明とされていた後腹膜線維症(オルモンド病)の一部もIgG4関連疾患だということがわかりました。さらに、未解明な部分も多いですが、橋本病、大動脈瘤、冠動脈瘤、下垂体炎の一部も、IgG4が関連しているのではないかといわれています。Lancet誌という高インパクトファクターの国際的医学誌にReviewが掲載されました。これは、世界的に意義が認められたということですね。世界的にみても、まさにトピックスだったのだと思います。Lancetに日本人の論文が載ることは少ないのですが、今回は多くのページを割いています。IgG4関連疾患は、新しい疾患概念であるとともに、全身の臓器に関連します。つまり、臓器横断的にすべての医療者に関係するのです。さらに、不要な医療が提供されていたことも1つの要因だと思います。米国では膵切除された2~2.5%が自己免疫性膵炎だったという報告があります。IgG4関連硬化性胆管炎などは、ステロイド以外の治療で臓器機能障害にまで悪化してしまう例もみられていました。このようなことから、世界的にも、広く知ってもらうべき疾患という判断から取り上げられたのだと思います。とはいえ、私がこの疾患概念が提唱したのが2003年、世界的に注目され出したのは2000年代後半からです。まだ発展途上の疾患だといえるでしょう。IgG4関連疾患は全身にわたる疾患ですので、非専門医の先生方も実地診療で遭遇することがあると思います。患者さんを見逃さないためのポイントを教えていただけますか?まず一般的に高齢者に多くみられることです。そのほか画像所見以外のポイントとしては、男女の罹患率がほぼ同じであるIgG4関連涙腺・唾液腺疾患以外のIgG4関連疾患では、男性の比率が高いIgG4関連疾患の結節は、あまり痛みがなく固い病変が多発するため、他臓器に発症していることもある血液検査では、約半分でIgGが高値となり、抗核抗体、リウマチ因子などが3~4割で陽性になる線維化、細胞浸潤があるが、生検してもがん細胞は出てこないといったことが特徴です。いくつかのIgG4 関連疾患で診断基準を設けていますので、ご参照いただきたいと思います(希少疾病ライブラリ「IgG4関連疾患」参照)。また、その際は、できる限り組織診断を加えて、類似疾患との鑑別をしていただきたいと思います。自己免疫膵炎の画像診断のポイントですが、自己免疫膵炎は膵臓がんと異なり、造影剤を用いたCTでは時間の経過により正常の膵臓と同様に染まってきます。ERP(内視鏡的逆行性膵管造影)所見も自己免疫膵炎に特徴的な主膵管不整狭細像を提示します。IgG4関連硬化性胆管炎では、原発性硬化性胆管炎が鑑別として重要となってきます。IgG4関連硬化性胆管炎では下部胆管の狭窄が多く、また限局した胆管の狭窄であり、その上流への胆管に拡張を認めるといった特徴があります。診断がついた後、非専門医がフォローするケースも多いと思いますが、その際役に立つポイントについて教えていただけますか?IgG4関連疾患におけるステロイド治療の適応は、一般的には有症状例です。しかし、悪化せず経過する例や自然に治癒する例もありますので、症状が軽い場合は経過観察するケースもあります。ステロイド治療についてですが、ほとんどの例が服薬でいったん改善します。しかし、ステロイドの減量中あるいは中止後に、2~3割の例が再燃します。再燃は、現病巣と違う臓器や部位に起こることもあります。そこで、再燃予防に少量のステロイドを比較的長期に服用していただきます。ステロイド治療開始後も画像上の改善が不十分な例や、血中IgG4の高値が持続する場合は、再燃することが多いため注意が必要です。こういったケースに遭遇した場合は、専門医に相談いただければと思います。ステロイド以外の治療法も開発されているのでしょうか?患者さんは高齢者が多いため、ステロイドを離脱する方向で治療していくのですが、再燃するとステロイド投与量が多くなりますし、離脱しにくくなってしまいます。欧米ではそういった例に対して、免疫抑制薬やリツキシマブを用いることもあります。日本では認可されていませんが、今後、検討されていくことになるでしょう。非専門医の先生方へメッセージをお願いします※IgG4関連疾患は2015年7月、医療費助成対象疾病の指定難病(指定難病300)となり、公費負担の対象となった。Kamisawa T, et al. IgG4-related disease. Lancet. 2015;385:1460-1471.

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転移性膵臓がん、イリノテカン+フルオロウラシル+葉酸で生存延長/Lancet

 ゲムシタビン治療歴のある転移性膵臓がんの患者に対して、ナノリポソーム型イリノテカン+フルオロウラシル+葉酸(NAPOLI-1)の投与が、ナノリポソーム型イリノテカン単独投与やフルオロウラシル/葉酸のみの投与に比べ、生存期間は有意に延長することが示された。米国・ワシントン大学のAndrea Wang-Gillam氏らによる第III相の非盲検無作為化比較試験の結果、報告された。第II相試験で、同患者へのナノリポソーム型イリノテカン単独投与の有効性が示され、研究グループは第III相試験では、単独投与とフルオロウラシル/葉酸を併用した場合を比較した。Lancet誌オンライン版2015年11月20日号掲載の報告。14ヵ国76ヵ所で417例を対象に試験 試験は2012年1月11日~13年9月11日にかけて、14ヵ国76ヵ所の医療機関を通じ、ゲムシタビン治療歴のある転移性膵臓がんの患者417例を対象に行われた。 研究グループは被験者を無作為に3群に分け、1群には、ナノリポソーム型イリノテカン単独投与(151例、3週間ごとに120mg/m2)を、別の群にはフルオロウラシル+葉酸を投与し(149例)、もう1つの群には、ナノリポソーム型イリノテカン(80mg/m2)+フルオロウラシル/葉酸を併用投与した(117例)。いずれも、病勢進行または耐えがたい毒性作用が生じるまで投与を継続した。 主要評価項目は、ITT(intention-to-treat)解析による生存期間だった。イリノテカン+フルオロウラシル+葉酸群の生存期間6.1ヵ月 313例が死亡した時点で、イリノテカン+フルオロウラシル+葉酸群の生存期間中央値は、6.1ヵ月(95%信頼区間:4.8~8.9)だった。 それに対し、フルオロウラシル+葉酸群の同中央値は、4.2ヵ月(同:3.3~5.3)と有意に短かった(ハザード比:0.67、同:0.49~0.92、p=0.012)。また、イリノテカン単独投与群の生存期間は、4.9ヵ月(同:4.2~5.6)で、フルオロウラシル+葉酸群と同等だった(p=0.94)。 イリノテカン+フルオロウラシル+葉酸群で、発現頻度が高かったGrade3/4の有害事象は、好中球減少症が32例(27%)で、下痢15例(13%)、嘔吐13例(11%)、疲労感16例(14%)だった。

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~プライマリ・ケアの疑問~  Dr.前野のスペシャリストにQ!【消化器編】

第1回 帰してはいけない腹痛の見分け方は? 第2回 専門医でもヒヤリとした腹痛の症例を教えてください! 第3回 腹痛の部位で疾患の鑑別はできる? 第4回 虫垂炎を見逃さないコツは? 第5回 ピロリ菌検査は何を使うのがよい? 第6回 ピロリ菌除菌後にすべきことはある? 第7回 胃潰瘍治療のベストな処方は? 第8回 PPIが効かないとき、プライマリ・ケア医はどうするべき? 第9回 便秘の治療、どうしたらいい? 第10回 便秘症状から重篤な疾患を疑うことはできる? 第11回 GERDの診断と治療について教えてください! 第12回 止瀉薬を出してはいけない下痢の見分け方は? 第13回 過敏性腸症候群、診断のコツは? 第14回 プライマリ・ケアで膵臓がんを早期発見するコツは? 腹痛や虫垂炎、胃潰瘍にGERD。日常臨床でよく遭遇する消化器疾患の診察・検査・治療に関する14の質問を、番組MCを務める総合診療医の前野哲博先生が経験豊富な消化器科専門医 西野徳之先生にぶつけます。プライマリケア医視点のまとめも加え、すぐに現場で役立つ知識を詰め込みました!第1回 帰してはいけない腹痛の見分け方は?プライマリケアで日常的にみるからこそ油断してはいけないのが腹痛。軽症の患者のなかに緊急手術が必要な患者が埋もれていることも。今回はズバリ、帰していい腹痛の条件・帰してはいけない症例をお教えいただきます。精度が高く、診療所でも使える診断ツールは必見です。第2回 専門医でもヒヤリとした腹痛の症例を教えてください!第1回の帰してはいけない腹痛の鑑別に続き、今回も腹痛を取り上げます。腹部の痛みは局在性に乏しいうえ、鑑別疾患も多種多様。専門医ですら重篤な症例を見逃しかけてヒヤっとしたことはあるといいます。今回は西野先生に症例を提示いただき、見逃さないコツを教わります。第3回 腹痛の部位で疾患の鑑別はできる? 腹痛の部位で疾患を鑑別する方法は複数知られていますが、局在性に乏しい腹部疾患では思っているほど役立たないことも。今回は実臨床で使えるひとつの考え方をレクチャーします。前野先生がこれなら研修医にもわかりやすい!と太鼓判を押したスペシャリスト西野先生のノウハウをお見逃しなく!第4回 虫垂炎を見逃さないコツは? この腹痛は虫垂炎?それとも?虫垂炎は決して見逃せない疾患ですが、典型的な症状をきたす患者ばかりでなく、鑑別に苦慮することも多いのではないでしょうか。今回は、確定診断でなくとも虫垂炎を見逃さないコツをズバリお教えいただきます。第5回 ピロリ菌検査は何を使うのがよい? ピロリ菌感染の検査には、呼気試験、血液、便などの様々な検査法があります。どのように検査法を選択し、結果を解釈すればよいのか?専門医が勧める検査方法、またピロリ菌についての最新トピックも交えて明日から使えるノウハウをお届けします。第6回 ピロリ菌除菌後にすべきことはある? ピロリ菌感染が明らかになった際に、何をどんな手順で行うべきか?除菌治療と治療後の注意点を簡潔にレクチャー。また除菌が成功しなかったとき、プライマリケアでどう対応すべきかも解説します。第7回 胃潰瘍治療のベストな処方は? 今回は胃潰瘍の治療がテーマです。胃潰瘍の治療には、主流であるPPIのほかに、H2ブロッカーや粘膜保護薬などの薬が使われています。それぞれの薬の使い分けや注意点はどのように考えればよいのか、薬剤選択についての疑問にズバリお答えします。第8回 PPIが効かないとき、プライマリ・ケア医はどうするべき?胃潰瘍のファーストチョイスとして使われるPPIですが、その効果がなかったとき、プライマリケア医はどのように考えればいいのでしょうか。今回は西野先生に症例を提示いただき、臨床に役立つヒントを見つけていきます。第9回 便秘の治療、どうしたらいい? 今回のテーマは便秘です。便秘は日常臨床で頻繁にみられる症状ですが、生活に支障のある「便秘症」の診断は実は難しいもの。プライマリケア医はどのように情報を集め、どう評価し、どのように治療方針を立てればよいでしょうか。診断、治療についてスペシャリストの知恵を伝授してもらいましょう!第10回 便秘症状から重篤な疾患を疑うことはできる? 実際は重篤な疾患でも、患者の自覚症状は「便秘」ということは往々にしてあります。今回は西野先生が遭遇した症例を例に、便秘を訴える患者の中から異常を見逃さないためのポイントを学びます。第11回 GERDの診断と治療について教えてください! 今回はGERDがテーマです。GERDはプライマリケアできわめてよく遭遇する疾患のひとつですが、どのように診断し、治療すればよいのでしょうか。診断の際に気を付けるべきことなどを解説します。第12回 止瀉薬を出してはいけない下痢の見分け方は? 今回は下痢の治療がテーマです。安易に下痢を止めてはいけないといわれますが、実際には患者さんは薬を希望することもよくあります。どんな条件ならば止瀉薬を出していいのか?処方するときの注意点は?日常診療で感じる疑問にズバリ回答します!第13回 過敏性腸症候群、診断のコツは?今回は過敏性腸症候群がテーマです。過敏性腸症候群は訴えが多彩で、コントロールに難渋することもしばしばある疾患。IBSを治療するうえで必ず除外したい疾患は?どの薬を初めに処方すべきか?コントロール不良の場合、どうやって薬剤を変更していくのか?様々な疑問に答えていきます。第14回 プライマリ・ケアで膵臓がんを早期発見するコツは?自覚症状が出にくく、早期発見が難しいといわれる膵臓がん。しかし発見する機会がないわけではなく、プライマリケアでこそ特に注意して疑ってほしいと西野先生は強調します。今回は異変に気付くためのポイントや考え方についてレクチャーします!

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ピオグリタゾンとがん(解説:吉岡 成人 氏)-397

日本人における糖尿病とがん 日本における糖尿病患者の死因の第1位は「がん」であり、糖尿病患者の高齢化と相まって、糖尿病患者の2人に1人はがんになり、3人に1人ががんで死亡する時代となっている。日本人の2型糖尿病患者におけるがん罹患のハザード比は1.20前後であり、大腸がん、肝臓がん、膵臓がんのリスクが増加することが、疫学調査によって確認されている。糖尿病によってがんの罹患リスクが上昇するメカニズムとしては、インスリン抵抗性、高インスリン血症の影響が大きいと考えられている。インスリンはインスリン受容体のみならず、インスリン様成長因子(IGF-1)の受容体とも結合することで細胞増殖を促し、がんの発生、増殖にも関連する。チアゾリジン薬であるピオグリタゾンとがん ピオグリタゾン(商品名:アクトス)は承認前の動物実験において、雄ラットにおける膀胱腫瘍の増加が確認されていた。そのため、欧米の規制当局により米国の医療保険組織であるKPNC(Kaiser Permanente North California)の医療保険加入者データベースを用いた前向きの観察研究が2004年から行われ、2011年に公表された5年時の中間報告で、ピオグリタゾンを2年間以上使用した患者において、膀胱がんのリスクが1.40倍(95%信頼区間:1.03~2.00)と、有意に上昇することが確認された。さらに、フランスでの保険データベースによる、糖尿病患者約150万例を対象とした後ろ向きコホート研究でも、膀胱がんのリスクが1.22倍(95%信頼区間:1.05~1.43)であることが報告され、フランスとドイツではピオグリタゾンが販売停止となった。また、日本においても、アクトスの添付文書における「重要な基本的注意」に、(1)膀胱がん治療中の患者には投与しないこと、(2)膀胱がんの既往がある患者には薬剤の有効性および危険性を十分に勘案したうえで、投与の可否を慎重に判断すること、(3)患者またはその家族に膀胱がん発症のリスクを十分に説明してから投与すること、(4)投与中は定期的な尿検査等を実施することなどが記載されるようになった。多国間における国際データでの評価 その後、欧州と北米の6つのコホート研究を対象に、100万例以上の糖尿病患者を対象として、割り付けバイアス(allocation bias)を最小化したモデルを用いた検討が2015年3月に報告された。その論文では、年齢、糖尿病の罹患期間、喫煙、ピオグリタゾンの使用歴で調整した後の100日間の累積使用当たりの発症率比は、男性で1.01(95%信頼区間:0.97~1.06)、女性で1.04(95%信頼区間:0.97~1.11)であり、ピオグリタゾンと膀胱がんのリスクは関連が認められないと報告された1)。KPNCの最終報告 今回、JAMA誌に報告されたのが、5年時の中間報告で物議を醸しだしたKPNCの10年時における最終解析である。ピオグリタゾンの使用と膀胱がんのみならず前立腺がん、乳がん、肺がん、子宮内膜がん、大腸がん、非ホジキンリンパ腫、膵臓がん、腎がん、直腸がん、悪性黒色腫の罹患リスクとの関連を、40歳以上の糖尿病患者約20万例のコホート分析およびコホート内症例対照分析で検証したものである。 その結果、ピオグリタゾン使用は、膀胱がんリスクの増加とは関連しなかった(調整後ハザード比1.06:95%信頼区間:0.89~1.26)と結論付けられた。 しかし、解析対象とした10種の悪性疾患中8種の悪性疾患とピオグリタゾンの関連は認められなかったものの、前立腺がんのハザード比は1.13(95%信頼区間:1.02~1.26)、膵がんのハザード比は1.41(95%信頼区間:1.16~1.71、10万例/年当たりの膵臓がんの粗発生率は、使用者で81.8例、非使用者で48.4例)であったことが報告されている。 チアゾリジンの膀胱がんを発症するリスクに対する懸念は払拭されたのか、前立腺がんと膵がんのリスクに関するデータは、偶然なのか、交絡因子の影響なのか、事実なのか……、また1つの問題が提示されたのかもしれない。

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ピオグリタゾンのがんリスクを検討~20万人のコホート試験/JAMA

 ピオグリタゾン(商品名:アクトスほか)の使用は、膀胱がんリスク増大と有意な関連は認められなかったが、がんリスクを除外することはできないことを、米国・ペンシルベニア大学のJames D. Lewis氏らが、約20万人について行ったコホート試験の結果、報告した。前立腺がんおよび膵臓がんリスク増大との関連が示され、著者は「さらなる検討を行い、それらの関連性に因果関係があるのか、偶然によるものか、残余交絡や逆相関についても調べる必要がある」とまとめている。JAMA誌2015年7月21日号掲載の報告。膀胱がん、その他10種類のがん発症リスクとの関連を追跡 研究グループは、米国のカイザー・パーマネンテ北カリフォルニアのデータベースから、1997~2002年時点で40歳以上の糖尿病患者19万3,099例(膀胱がんコホート)について、2012年12月まで追跡し、ピオグリタゾン使用と膀胱がんリスクについて分析した。 さらに、膀胱がんほか、前立腺がん、女性の乳がんや、肺(気管支含む)、子宮体、結腸、非ホジキンリンパ腫、膵臓、腎臓/腎盂、直腸、メラノーマの10種類のがんリスクとの関連について、40歳以上の糖尿病患者23万6,507例について、1997~2005年から2012年6月まで追跡した。ピオグリタゾン、前立腺がんを1.13倍、膵臓がんを1.41倍に 膀胱がんコホートのうちピオグリタゾンを服用したことのある人は、3万4,181例(18%)で、服用期間中央値は2.8年だった。そのうち膀胱がんを発症した人は1,261例で、ピオグリタゾン使用者の膀胱がん粗発生率は89.9/10万人年に対し、非使用者では75.9/10万人年だった。ピオグリタゾン使用者は非使用者と比べて、膀胱がん発症リスクの増大は認められなかった(補正後ハザード比:1.06、95%信頼区間[CI]:0.89~1.26)。 結果は、ケースコントロール解析でも同様であった(ピオグリタゾン使用:症例患者群19.6%、対照群17.5%、補正後オッズ比1.18、95%CI:0.78~1.80)。 補正後解析において、その他10種類のがんのうち8種類では、ピオグリタゾン使用により発症リスク増大はみられなかったが、前立腺がん(ハザード比:1.13、95%CI:1.02~1.26)と膵臓がん(同:1.41、1.16~1.71)では増大がみられた。使用者 vs.非使用者の粗発生率は、10万人年当たり前立腺がんが453.3 vs.449.3人年、膵臓がんが81.1 vs.48.4人年だった。

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