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ドラえもん【注意欠如・多動性障害(ADHD)】

「うっかりしてた!」みなさんは、「うっかりしてた!」とヒヤっとしたことはありませんか?うっかりミス、いわゆるヒヤリ・ハットです。病院では、誤薬が一番多いヒヤリ・ハットのようです。どうして私たちはうっかりしてしまうのか?どうしてうっかりの程度は人によって違うのか?そして、うっかりを減らすにはどうすればいいのか?今回、これらの疑問を、国民的人気アニメ番組「ドラえもん」でおなじみの、ジャイアンとのび太のキャラクターをモデルにして、みなさんといっしょに考えていきたいと思います。ジャイアンとのび太に共通する特性ジャイアンは「ガキ大将」で「悪ガキ」です。一方、のび太は、「グズでノロマ」で「弱虫」です。この2人の関係は、いじめっ子といじめられっ子として描かれることが多く、一見すると真反対のキャラクターです。しかし、よくよくこの2人を見て行くと、ある共通した特性や行動のパターンが浮き上がってきます。そして、このパターンは、スネ夫やしずかちゃんなどの他のキャラクターにはっきりとみられないものです。そのポイントは3つです。まず、2人とも、特にジャイアンは、気が早いということです(衝動性)。ジャイアンは、怒りっぽく、喧嘩っ早いです。一方、のび太は、早とちりや言ってはいけないことをボロリと漏らす失言癖があります。第2に、2人とも気が多いということです(多動性)。気の多さは、気の早さが繰り返される落ち着きのなさから来ていると言えます。2人とも、せっかちで、飽きっぽいです。第3に、2人とも、特にのび太は、気が散りやすいということです(不注意)。気の散りやすさは、気の早さや気の多さの裏返しとも言えます。つまり、気が早くて気が多いからこそ、その分、気が散りやすいとも言えます。ジャイアンものび太も要領(順序立て)は悪く、忘れものが多く、授業中に集中して聞いていないことが多いです。そして、先生の言い付けに従うのも苦手で、学校のテストも低い点数が多いです。特に、のび太はぼんやりしがちなため、ドジでおっちょこちょいです。そして、うっかり口を滑らすのは、先ほどの失言癖につながっていきます注意欠如・多動性障害(ADHD)気が早い(衝動性)、気が多い(多動性)、気が散りやすい(不注意)という3つの特性によって、学校や家庭などでの日常生活においてとても困ることが小学校低学年(7歳)までにみられ、続いている場合は、注意欠如・多動性障害(ADHD)と呼ばれます(表1)。ジャイアンは衝動性の傾向が強く(多動性―衝動性優勢型)、のび太は不注意の傾向が強いようです(不注意優勢型)。しかし、この2人の程度は、薬などの積極的な治療が必要な障害と呼べるほどのレベルではなさそうです。また、この特性の傾向の子どもたちの多くは、成長するにつれて、目立たなくなることが多いです。ただ、中には、不注意の特性が大人になっても、残っている場合があります。大事なのは、私たちがこの特性をより良く知ることで、この特性と上手に付き合っていくためのヒントを探ることができるのではないかということです。表1 ADHDの診断基準(DSM-IV)混合型不注意優勢型多動性―衝動性優勢型症状(>6/9項目)が半年以上持続不注意多動性衝動性1. 不注意な間違い2. 集中困難3. 聞こえない4. 指示に従えない5. 順序立てが困難6. 課題への回避7. 物を失くしやすい8. 気が散りやすい9. 忘れっぽい1. 座位で手足を動かす(もじもじ)2. 座っていられない3. 走り回る4. 静かに遊べない5. じっとしていない6. しゃべりすぎる7. 食いぎみ(出し抜け)に答える8. 順番が待てない9. 話の遮り、割り込み7歳(小学校低学年)以前に存在2つ以上の状況(例、学校、家庭、病院、職場など)で存在ADHD特性の二面性―困った面と魅力この特性の困った面は、裏を返せば、魅力にもなります(表2)。どう見えるかは、その時代や文化など周りの状況との折り合いで変わってきます。例えば、日常の世界でのジャイアンとのび太は、困ったキャラとして目に映ることが多いですが、大長編映画で冒険する時のジャイアンとのび太はどうでしょう?この2人は、とても熱血で勇敢でフットワークが軽いのです。そして、決断力があり、リーダーシップをとっています。これは、気の早さ(衝動性)や気の多さ(多動性)の特性から来ています。ADHDの秘めたエネルギーです。何ごともそつなくこなすスネ夫や穏やかで大人しいしずかちゃんにはないものです。平和な日常の世界で、ジャイアンが、ムシャクシャしているという理由だけでのび太やスネ夫に八つ当たりするのは困ります。しかし、場面場面をよくよく見ると、例えば、少女マンガを読んで号泣するなど感受性豊かな面もあります(衝動性)。また、のび太の散漫さ(不注意)は、計算問題などの課題をこなすことには向いていません。しかし、緻密さが求められない伸び伸びとした状況では、大らかで癒し系であるとも言えます。表2 ADHDの特性の二面性困った面魅力ジャイアン気が早い(衝動性)怒りっぽいけんかっ早い(暴力)早とちり失言癖衝動買い熱血勇敢、豪快、大胆アイデアマンチャレンジ精神フロンティア(開拓)精神気が多い(多動性)落着きがないせっかち飽きっぽい、移り気エネルギッシュフットワ-クが軽い新し物好きのび太気が散りやすい(不注意)集中力がない、散漫忘れっぽいドジ、おっちょこちょいおっとり、お淑やか大らか、癒し系おとぼけキャラADHDの特性の原因―生物学的因子それでは、気が早い、気が多い、気が散りやすいというADHDの特性の原因は何なんでしょうか?それは、一言で言えば、脳の発達の偏りです。その詳しいメカニズムはまだ完全には解明されていませんが、脳内の神経伝達物質のアンバランスなどが明らかになってきています。そして、さらにその原因に関しては、遺伝、胎生期の母体の喫煙、周生期の合併症などの生物学的因子が報告されています。未来のジャイアンの息子・ヤサシとのび太の息子・ノビスケは、それぞれの父親のキャラから逆転しているのも、遺伝の要素の示唆に富みます。ADHDの特性のメカニズム私たちの目や耳に入っていく情報は、インプットされる段階で、脳によって無意識的に必要なものと必要でないものに強弱を付けられています。この情報量の調整によって、仕事、勉強、日常生活で、一定時間の適度な集中力を発揮することができます。ところが、この調整がうまくいかないと、目や耳に入っていく全ての情報、特に欲求の対象に脳が飛び付いてしまうのです。そして、頭の中では、必要な情報が不要な情報に埋もれてしまい、逆に、頭がパンクして全く尻込んでしまうのです。学校から帰り、宿題に取り組んでいるのび太は、階下のママの「おやつよ」との声や、ジャイアンとスネ夫の「野球に行こうぜ」との誘いに、すぐに気が散ってしまうのです。また、欲求は、怒りや喜びなどの感情に密接につながっているので、ジャイアンが情に熱いのも納得がいきます。ADHDの特性を例えるなら、アクセルが効きすぎる車です。アクセルが効きすぎる分、ブレーキやハンドルは消耗し、しかも燃費が悪く燃料切れですぐに止まってしまいます。この車にとっては、特にこまめなアクセルとブレーキのバランスやハンドル裁きを使い分けることが必要な小道や路地、つまり複雑な情報処理が求められる現代社会を「走り抜く」のはとても大変なことなのです。環境調整―かかわり方のコツ、構造化、視覚化ADHDの特性は、ちょうど足の速い人も遅い人もいるのと同じように、その人のユニークさとも言えます。彼らがうまくいかないのは、単に努力が足りないのではなく、ぴったり合った取り組み(環境調整)が足りないのです。例えるなら、このユニークな「車」には、特別な「ナビ」(かかわり方のコツ)、こまめな「交通整理」(構造化)、そして目に見える「交通標識」(視覚化)が必要だということです。(1)ジャイアン(多動性―衝動性優勢型)の母ちゃんへのアドバイスジャイアンは、店番や配達をサボったり、弱い者いじめをしたり、リサイタルで近所に迷惑をかけたりしています。これらが見つかると、ジャイアンの母ちゃんは、ゲンコツや平手打ちなどの体罰を加えて叱りつけます。ジャイアンが唯一、心の底から恐れている存在です。このかかわり方はジャイアンの乱暴さ(衝動性)の抑えになっているように描かれていますが、果たしてそうでしょうか?実は、皮肉にも、このかかわり方が衝動性をより強めている可能性があります。「悪い子は叩いていい」という学習をしてしまい、「叩かれる子は叩く子になる」リスクを大いにはらんでいます(モデリング)。1. かかわり方のコツジャイアンの母ちゃんへのアドバイスとして、まず、かかわり方のコツは、怒りなどのネガティブな感情ではなく、愛情深さや改善される喜びなどのポジティブな感情を前面に出すことです。例えば、騒々しい時は「うるさい!」と一喝するのではなく、「声のボリュームを8から5に下げると嬉しい」と具体的に肯定的に伝えることです。2. 視覚化と構造化そして、やって良いことと悪いことの線引きのルールを目に見える形にすることです(視覚的構造化)。外食や遊園地にいっしょに行くなどのご褒美リストや「がんばり表」をリビングや本人の部屋の壁に貼り、ご褒美を目指して毎日達成するとポイントが加算されるというポイント制(トークンエコノミー)を導入します(行動療法)。例えるなら、目の前に常にニンジンをぶら下げている馬の状況を作るのです(動機付け)。もちろん好ましい行動は褒めますが、逆に、好ましくない行動をした時は、まず、ポイントが加算されないことへの残念さを指摘することです。その他、トイレ掃除、お小遣いの減額、行動の制限などのペナルティを設けること、さらには一定期間、無視することがあげられます。大事なのは、好ましくない時の対応がどんなことであるかをあらかじめ本人に伝え、親もルールに従っていることを示すことです。また、有り余るエネルギー(多動性)をうまく発散させるために、地域のスポーツクラブなどに積極的に参加させることです(転換)。また、手足のもじもじ(多動性)は、貧乏揺すり、ペン回し、テーブルの指叩きなどのより受け入れられる「癖」に転換していくこともできます(代償行為)。さらに、例えば、靴の中での靴底への足指叩きなど見えないところへの転換はなお適応的であると言えます。(2)のび太(不注意優勢型)のママへのアドバイスのび太は、いつも部屋で昼寝をして、なかなか勉強をしません。そんなのび太がテストで0点を取ってくると、のび太のママは、のび太を毎回ガミガミと叱りつけています。ママはどうやら「叱ると子どもは勉強する」「勉強するまで叱り続けるべきである」という信念(スキーマ)を持っているようです。いわゆる古典的な教育ママのモデルです。しかし、残念なことに、叱られるのび太は進歩していません。と同時に、叱るママも進歩していないのです。「同じことを繰り返している」と繰り返し叱ること自体、皮肉にも「同じことを繰り返している」と言えます。のび太は懲りていないわけですが、同時に、実はママも懲りていないのでした。1. かかわり方のコツのび太のママへのアドバイスは、「叱り方」、つまり、かかわり方を変えることです。まず、目に付くのが、ママは、「勉強しなさい!」「早くやりなさい!」と口うるさく勤勉さを強調しますが、自分はいつも居間でテレビを見ていて勤勉ではありません(ダブルスタンダード)。もちろんママは主婦業を立派にこなしてはいるのですが、何かに打ち込むという勤勉さのモデルを、のび太に目に見える形で示すことが効果的です(視覚化)。例えば、ママは、日課の家事だけでなく、趣味ややりたいことの目標を掲げ、それに向かって努力している背中をさりげなく見せることです。2. 構造化ジャイアンへの枠組みと同じように、のび太にも生活の枠組みを目に見える形にすることが大切です(視覚的構造化)。これは私たちの生活にもそのまま応用できます。特に、最初に触れたヒヤリ・ハットを防止するためのヒントになる取り組み(環境調整)です。a. 時間の構造化まず、日課表や時間割によって、やるべき定時を決めることです(時間の構造化)。例えば、宿題をやる時間を決めます。その内容は、飽きないようにバリエーションで小分けにして、その間のこまめな休憩時間も決めます。そして、カウントダウンしていくキッチンタイマーを目の前にして、集中力が途切れないようにします。また、部屋を散らかしやすいなら、1日5分のお掃除タイムを決めます。アポのある日は、段取りの予定を決めます。例えば、遅刻予防のためには、決められた15分前の時間を自分の予定表に設定します。その予定表を見るのを忘れるのを防ぐため、予定表を見る時間も決めます。例えば、毎食後などです。また、付箋などのリマインダー、携帯電話のタイマー機能や「秘書アプリ」も最近は大いに活用できます。b. 場所の構造化部屋を散らかさないためには、物のあるべき定位置を決めることです(場所の構造化)。部屋の散らかりは、物の置き場所が決まっていないという頭の中の散らかり具合を映し出しています。例えば、物を使ったら、必ず定位置に戻す習慣を付けることです。また、書類などの大切なものがなくならないように、大切なものを置く場所を決めます。こまかく整理できるように、小箱も有効に活用できます。冷蔵庫の中も定位置を決めれば、無暗に突っ込まなくなります。定位置には、文字や絵で示しておけば、意識付けが高まります(視覚的構造化)。また、集中力を高める理想的な作業環境を知っておくことも重要です。実は、のび太の部屋は、最も気が散りやすい学習環境のモデルなのです。3つのポイントがあげられます。まず、机が窓に向いていることです。窓から見える人や鳥など動いているものに目を奪われがちになります。窓は、視界に入りにくい位置にあるのが理想的です。2つ目は、ドアが視界に入らない点です。ママにいつ覗かれるかと気になってしまう可能性があります。ドアは、視界に入る位置にあるのが理想的です。3つ目は、背後に空間がある点です。そこでドラえもんがどら焼きを食べていれば、どうでしょう?人は本能的に背後が壁だと落ち着きますので、背後は、壁であるのが理想的です。3. 視覚化ご褒美リスト、がんばり表、親の背中、付箋などのリマインダーなど、目に見える形にして、目に付きやすくすることについては、すでに触れてきました(視覚化)。さらに、部屋の片付けのポイントとして、大きな棚を買わないことです。大きな棚は、散らかったものを詰め込んで見えなくしているだけになります。ちょうど、部屋が片付いていない時にお客さんが来たら、散らかったものを一気に押入れに押し込んだり、一か所に寄せて大きな布を被せるのと同じです。これは、片付けたのではなく、隠しただけなのです。視覚化の真逆の行動です。つまり、ポイントは、散らかった様子を自分に見える形にして、お掃除のやる気を高めることです。のび太が0点の答案を隠さないのと同じくらい大切なことと言えます。(3)2人の母へのアドバイス1. リスクこのままジャイアンとのび太が中学生になったらどうなるでしょうか?マンガやアニメで、大学生や大人の彼らは描かれていますが、中学生や高校生の多感な思春期の彼らは描かれていません。これは、ADHDの特性のあるキャラクターを描いたドラえもんの「ブラックボックス」と言えます。ジャイアンの「おまえのものはおれのもの、おれのものもおれのもの」という身勝手さは、このままだと対人トラブルや反社会的な行動を生み出すリスクがあります(素行障害、反社会性パーソナリティ)。その時は、もはや体格的に母親の力では抑えが効きません。一方、のび太は、「のび太のくせに(生意気だぞ)」と言われ続けて、「どうせぼくなんて」「ぼくは何をやってもだめなんだ」と自信をなくし(低い自己評価)、そこに目を付けられて、ますますいじめのターゲットにされるかもしれません。自信のなさは、対人関係を回避しようとする引きこもりを生み出すリスクがあります(回避性パーソナリティ)。つまり、ADHDの特性は、これ自体は個性なのですが、性格(パーソナリティ)を形作るうえで大きな影響を与えやすいということです。そして、一番重要なことは、この性格は、育む環境によって、魅力にもリスクにもなりうるということです。ADHDの特性によるリスクは、例えるなら、高血圧のリスクです。高血圧は、これ自体は困りませんが、心臓病(虚血性心疾患)や脳卒中(脳血管障害)などのリスクがあります。これと同じように、ADHDの特性は反社会性や回避性のパーソナリティのリスクがあるのです。2. 自尊心と他人への敬意を高める高血圧の人が心臓病や脳卒中を予防するためには、食事療法や運動療法、深刻な場合は薬物療法が必要です。これと同じように、ADHDの特性のある子が、より社会に合わせられ、個性を発揮するためには、その方向付けがとても大切であるということが分かります。そのポイントは、自分を大切にする心(自尊心)と他人を大切にする心(敬意)ことです。そのためには、先ほど触れたかかわり方のコツを踏まえて、彼らが小さな成功体験を積み重ねていくことです。例えば、本人の「良いところリスト」を作って、貼るのも良いでしょう。ジャイアンの母ちゃんは、ジャイアンが店を手伝っていることを当たり前だと思わず、感謝することをお勧めしたいです。すると、ジャイアンは、自尊心が満たされていることにより、他人への感謝や敬意を示すことのできる大人に育っていきます。のび太のママは、のび太の特技であるあやとりや射撃のセンスを勉強に役立たないくだらないことだと思わず、好ましい評価をして、親子でいっしょに大会や集まりに参加することをお勧めしたいところです。体罰を加えたり、ガミガミ叱るのは、自尊心が低く、他人への敬意も払えない子を育て上げるハイリスクの教育ママのモデルと言えます。ここから、親もADHDの特性をよく知って、自分も他人も大切にできる心を育むかかわり方を勉強する必要があることが分かります(ペアレントトレーニング)。表3 環境調整かかわり方のコツ構造化視覚化ジャイアン(多動性―衝動性優勢型)×体罰を加える◎ポジティブな感情を出す◎スポーツで発散する×隠す◎目に見える形にする◎目に付きやすくする◎具体的、肯定的に伝える◎良いところリストを作る◎ご褒美リスト、がんばり表を作るのび太(不注意優勢型)△ガミガミ叱る◎親が努力している背中を見せる◎定時、定位置、予定を決める◎小分けにする◎バリエーションを付ける(4)ドラえもんモデル―自尊心を高め教訓を導くジャイアンとのび太の未来にリスクがある中、登場するのがドラえもんです。秘密道具を出すドラえもんののび太へのかかわり方は、さきほど触れたジャイアンの母ちゃんやのび太のママとは対照的です。秘密道具は、のび太の望みを次々と叶えていると思われがちですが、実はそうでもありません。例えば、ドラえもんは、非常識なリクエストにはきっぱりダメと言い、聞き入れません。ドラえもんなりに何の秘密道具を出すかの基準がはっきりとあるのです。その基準から、どうやら、主に2つのメッセージ性がありそうです。1つ目は、自信を引き出し、自尊心を高めることです。例えば、「コンピューターペンシル」や「暗記パン」によって、勉強ができるという爽快感や達成感を味わい、成功体験を積み重ねていくことは、「自分はできる」という自信や「次はこうなりたい」というビジョンを引き出してくれます。道具は、単にのび太を助けているのではなく、のび太を前向きにさせる後押しをしているのです。2つ目は、道具を使うことによって教訓を得ることです。例えば、秘密道具によって、初めは問題が解決したかに見えて期待を抱かせますが、やがて、のび太が使い方を間違ったり、「絶妙」なタイミングで道具が壊れる展開が待っていることです。そして、最後に、ドラえもんが「道具に頼るからだ」と戒めるストーリーのオチです。のび太だけでなく、見ている私たちが気付くのは、道具を使うことは根本的な問題の解決になっていないこと、そして問題はやはり自分で取り組むのが大切であるということです。自尊心を高め教訓を導くこのドラえもんモデルは、いつもそばにいて支え続けるという母性的な面と、あるべき倫理観を示す父性的な面をバランス良く兼ね備えており、のび太の成長に欠かせない存在です。ADHDの特性の起源そもそも、なぜこのようなADHDの特性が多かれ少なかれ私たちに存在するのでしょうか?進化心理学的に考えれば、普遍的に存在することには、必ずそこに理由がありそうです。その理由とは、もともと人間は、ADHDの特性を持っていたのではないかとういことです。太古の昔から、人間を含む生き物は、食うか食われるかの生存競争から、早い動きに自動的に注意を向ける能力が進化しました(衝動性)。その反面、明らかに遅い動きに注意を向ける能力は、生存競争において必要がないため、進化しませんでした(チェンジ・ブラインドネス)。例えば、テレビのバラエティで、ある映像でどこが徐々に変化しているかを言い当てるクイズは、まさにこの遅い動きへの注意の能力が試されています。そして、このクイズは、きっとADHDの特性の強い人には苦手でしょう。さらに、人間の狩猟採集社会の時代では、夜中に寝ている時でも、獲物がさっとそばを横切れば、すかさず仕留める必要があります(衝動性)。また、飢餓が続けば、獲物や果実を求めて遠出をして動き回ります(多動性)。そんな勇敢であると同時にある程度向こう見ずな遺伝子を持つ種族が生き延び、子孫を残してきたのでした(適者生存)。ところが、1万年前、ほぼ同時期に農耕と牧畜が始まったことにより、社会構造が大きく変わりました。それは、狩猟採集社会から農耕牧畜社会への移り変わりです。狩猟民族の持つ瞬間的な高い集中力(瞬発性)よりも、新しく生まれた農耕民族が持つ持続的な一定の集中力(安定性)、つまりADHDの特性の少なさに価値が置かれるようになりました。ADHDの特性をより分かりやすくするために大胆に言うと、人類は、ぱっと応じるガツガツタイプとじっくり粘るコツコツタイプの2タイプに分けることができるということです。例えるなら、イソップ童話に登場する「兎と亀」です(表3)。国ごとのADHDの特性の程度の違いのわけ世界的に見ると、日本は、ADHDの子どもが少ないです。これはなぜでしょうか?1つの理由としては、日本は国土が狭い島国であったことです。この狭さ(狭小性)と出にくさ(閉鎖性)により、ADHDの特性は発揮されず、この血筋があまり増えなかったことが考えられます。もう1つの理由は、江戸時代に発展した形式を重んじる文化的な枠組みです。それまでの戦国時代は、ADHDの特性の強い戦国武将たちがしのぎを削っていました。特に織田信長は、ADHDの特性が強く、戦で先頭を切り、情報戦略を張り巡らし、時代を先駆ける型破りな革命児でした。現代の私たちも好きな人は多いです。しかし、結果的に、ADHDの特性の少ない徳川家康が天下統一を果たしてしまいました。信長と家康のADHDの特性の違いは対照的です。それは、「泣かぬなら殺してしまえ」と「泣くまで待とう」とそれぞれ対照的に読まれたホトトギスの俳句が物語っています。家康によって、鎖国が推し進められ、長らく平和な世の中が続きました。武士道や茶道などあらゆる形式が重んじられました。このような形式の重んじられた安定した封建社会は、ADHDの特性の少ない人たちが活躍するのに有利です。その一方、ADHDの特性の強い人たちにとっては、幼少期からの枠組みの強い環境がルールを守ることを根付かせて、ADHDの特性を目立たなくさせてきたのでしょう。幕末の激動の時代にようやくADHDの特性を発揮できる状況がやってきました。そして、その時に活躍したのが、ADHDの特性のとても強い坂本龍馬でした。彼は、気性が激しいことでも有名ですが、発想の転換が早く、行動力があり、時代を先駆けることができたのでした。一方、現代のアメリカ合衆国は、ADHDの子どもが多いとの統計があります。この理由は、そもそも彼らの祖先は、冒険心を持って新大陸を目指して集まった人たち、つまり、ADHDの特性の強い人たちだからではないかと思われます。だからこそ、同時に、アメリカ合衆国は、特許数が世界一です。彼らには、ADHDの特性の強いアイデアマンが多いのです。ジョブマッチング(表4)―ADHDの良さを引き出すそして今、新たな時代がやってきています。情報革命が起こり、情報が錯綜する中、国際的な競争力、発想力、行動力が問われる時代です。同時に、お財布携帯、統一化した交通カード、スケジュール管理、検索などのITによるシステム化により、生活スタイルがシンプルになり、ADHDの特性の強い人にも生きやすい時代になってきました。以前よりもシンプルで激動の「大草原」を、この「アクセル」の効きすぎる車は、きっと真っ先に駆け抜けていくでしょう。そのために、私たちはADHDの特性をよく知り、リスクをうまくカバーしつつ、その特性に合った職場環境を見いだす必要があります(ジョブマッチング)。例えば、ジャイアンの夢は、家業の雑貨店から「ゴウダショッピングモール」という自分の名を冠した大型百貨店を世界展開することです。いかにもジャイアンらしいアイデアです。実際に、未来のジャイアンは、「スーパー・ジャイアンズ」というスーパーマーケットを起業しています。ADHDの特性を生かして、起業家としての能力を発揮したのでした。しかし、ADHDの特性のリスクを考えれば、経営は優秀な部下に任せて、ジャイアンはあくまで次の起業に力を注ぐべきだということです。また、ADHDの特性の強い営業マンは、顧客の懐に飛び込むのがうまいのです。衝動性が積極性や仕事の早さとして生かされています。しかし、よくありがちな失敗は、アフターケアを疎かにするということです。よって、会社組織の取り組みとしては、アフターケアには、ADHDの特性の少ない別の担当者を向かわせるというチーム体制を敷くことです。さらに、とてもADHDの特性の強い人は、冒険家に向いています。冒険は、目的がシンプルで、達成されたら終わりというように期間が限定されています。彼らは、多動性や衝動性から、積極的な行動がパターン化して、刺激を求めやすくなっているのです。例えば、死ぬかもしれないけど、エベレストに登ることです。あえて危険な目に身をさらす冒険家の心理状態です(リスクテイカー)。これは、あえて遅刻ぎりぎりに到着するなど遅刻常習犯の心理でもあります。よって、厳しいノルマや規律を求められる学校や会社にはあまり向かないことになります。そして、方向付けが間違えば、その衝動性から、アルコール依存症や薬物依存症になりやすいリスクも潜んでいます。また、医療職において、ADHDの特性を発揮する場は、高い集中力やスピードが求められる救急や夜間当直と言えます。表4 ジョブマッチンングガツガツタイプ(狩猟採集民族)コツコツタイプ(農耕牧畜民族)ADHD特性多い(強い)少ない(弱い)モデル兎織田信長、坂本龍馬亀徳川家康特徴瞬間的な高い集中力(ぱっと応じる瞬発性)持続的な一定の集中力(じっくり粘る安定性)例一般職起業家、冒険家クリエーター、商品開発漁業、スポーツマン経営者、管理職公務員、サラリーマン農業、牧畜医療職急性疾患、救命救急緊急手術、精神科救急夜間当直慢性疾患精神疾患リハビリテーション薬物療法―「ドラえもん薬(ぐすり)」前半で触れたADHDの診断基準を満たしている場合、薬物療法を行います。その効果は、薬による一定の刺激覚醒により集中力を持続させ、学校や家庭での生活を維持していきます。これと同じように、ドラえもんの存在は、ワクワクする体験や冒険を通してのび太を適度に刺激している点で、「ドラえもん薬(ぐすり)」という一種の薬物療法とも言えそうです。では、私たちにとっての「ドラえもん薬」とは何でしょうか?それは、ワクワク感という心の覚醒を持続するために、日々の仕事や日常生活の中での夢や目標に向かって突き進んでいくことそのものです。ここに、最初に触れた「うっかりを減らすにはどうすればいいのか?」という疑問に対しての答えが見えてきます。1つの答えは、のび太のママへのアドバイスでもある作業の枠組みでした(構造化)。それは、定時、定位置、予定を決めるなど作業やチェックをシンプルに目に見える形にすることです。これに加えて、はっきりしてきたもう1つの答えは、仕事や日常生活の夢や目標を自ら意識付けて、日々の生活を生き生きと生きる心意気であると言えます。この自らへの刺激によって、のび太がしずかちゃんと結婚するという夢を叶えるように、私たちも人生をより豊かに歩んでいくことができるのではないでしょうか?1)「注意欠如・多動性障害―ADHD―診断・治療ガイドライン」(じほう) 齊藤万比古 20082)「ADHDのび太ジャイアン症候群」(主婦の友社) 司馬理英子 20083)「他人とうまくいかないのは、発達障害だから?」(PHP研究所) 姜昌勲 20124)「『のび太』という生き方」(アスコム) 横山泰行 2004

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Vol. 1 No. 1 緒言

森野 禎浩 氏岩手医科大学内科学講座循環器内科分野本邦における急性冠症候群(acute coronarysyndrome: ACS)の治療実態を客観視する機会が訪れた。冠動脈インターベンション(percutaneous coronaryintervention:PCI)は国内で急速に普及したが、大都市にとどまらず、比較的中小の都市に点在する基幹病院でもprimary PCI(ACSの再潅流療法)を行うことができるのが日本の最大の特徴だ。欧米と異なり、年間PCI症例数300例に満たない小規模施設が散在するため、人的リソースが分散しがちで、スタッフ1人にかかる負担が増すばかりか、教育効率低下の恐れもある。一方、各地域に治療可能施設が分散することは、時間との闘いであるACS治療には潜在的なメリットも多い。ACS患者が来院すれば、主に若い専門医が昼夜を問わず集まり、心臓カテーテルで診断・血行再建を行うことが日本型診療の通例となっている。その代償として、現場スタッフはオンコール体制に縛られ街から外に出ることすら制約を受け、朝まで緊急カテをしてもそのまま午前の定時仕事に就くというのが通常で、それに見合う十分な報酬体制も整っていない。要するに、PCI 施行医やコメディカルの自己犠牲のもとに日本の急性期循環器医療は成り立ってきた。 日本のACSの治療実態を把握するため、約100施設で、連続症例登録を基本とした前向きレジストリー(PACIFIC試験)が行われ、その結果が最近公表された。同様の大規模国際レジストリー(GRACE試験:施行時期が異なるが大勢に大きな差はないはずである)と比較し、諸外国に比べて日本のACS治療体制がいかに特殊なのか、いかに好成績を収めているのか容易に理解できる。日本の代表的施設では94%ものACS患者が緊急PCIを受けているのに対し、欧米を含む諸外国においてはカテーテル検査ですら56%、PCIとなると全体の33%にしか行われていない。この著しい治療スタイルの違いが、ACS患者の院内死亡率に大差をつけた最大の誘因と考察されている。こうした事実を実感していないであろう日本の多くの現場スタッフに、日本型ACS医療の素晴らしさをできるだけ速く伝達しなければならないと考えていた。幸いなことに、新しく発刊されるCardioVascular Contemporary誌にこの分野の特集をしていただけることになり、さらに同試験を企画・指導した宮内先生ご自身に、PACIFIC試験に見る日本のACS治療の実態について詳説いただけることとなった。 ACSの急性期治療の大原則は、一刻も早い再潅流療法である。それに付随して、アスピリンとクロピドグレルのローディング投与のように、万国共通の確立された薬物療法が基礎を占める。しかしながら、ACS治療の具体的工夫となると、日本が牽引する分野が少なくない。primary PCIは大量の血栓を末梢に飛ばさないよう処理する必要があるが、血栓吸引や末梢塞栓防止の保護フィルターの臨床応用は、日本で盛んに進められてきた。また、ニコランジルやhANPといった薬剤の心筋保護作用を証明するために臨床試験も精力的に仕掛けられてきた。恐らく、生命予後のみならず、「心筋壊死量を少しでも少なくする」ことを目的に、これだけ精緻に、かつ二重・三重の追加療法を具体的に実践してきた国もないだろう。日本の良好なACS治療成績は、PCIの施行体制のみならず、このようなさまざまな集学的アプローチの複合結果だと思われる。こうしたACS治療の最新コンセンサスについては石井先生に明快にまとめていただいた。 救命し得たACS発症患者の外来管理のゴールは、血管イベントの2次予防であり、本質的にはそこまでACS治療と呼ぶべきである。彼らは安定狭心症の血行再建後の患者に比べても、血管イベントの再発率が高いことが知られ、より積極的な薬物治療介入が求められる。日本の動脈硬化性疾患の特徴として、脳血管障害の比率が高いことがREACHレジストリーで指摘されたが、薬物溶出性ステントによるPCI後の患者においても、脳血管障害の発生頻度が冠動脈イベントより高いことがj-Cypherレジストリーで明らかとなった。アテローム血栓症(ATIS)という疾患概念が提唱され随分経つが、脳血管合併症をかなり意識した薬物療法が日本の循環器内科医には必要である。ACS発症後の2次予防治療として、抗血小板薬やスタチンを中心とした積極的薬物介入の必要性やその他動脈硬化因子の改善が必要であることは周知の事実だが、この分野を画像診断に造詣の深い大倉先生にまとめていただけることとなった。 ACS、特にST上昇型心筋梗塞(STEMI)の場合、発症から閉塞血管の疎通にかかる時間が予後を左右する。そのため、「door-to-balloon時間(来院からバルーンなどによって血行の再疎通を果たせるまでの時間)を90分以内にしよう」ということが国際的スローガンとなってきた。筆者は最近岩手県に転勤したが、STEMI患者のpeak CPK値が、今まで経験した患者群より明らかに高いと実感している。これは広い医療圏ゆえの搬送問題、我慢強い患者さんの気質など、種々の時間的ハンディキャップに基づいていると考察できる。管轄地域のACSの医療体制構築が自身の最大のテーマであり、実現のためには1人でも多くのPCI施行医を育成するとともに、primary PCI施設の効率的再配置、患者啓蒙活動、初診医との連携強化など、時間短縮を目指したトータルな医療設計が不可欠である。地方の内科医数の減少に歯止めがかからないなか、過酷な診療実態から特に循環器内科医になることが敬遠される傾向にある昨今だ。今回の特集で、日本型ACS治療体制がどうやら世界に誇れる素晴らしいものであることがわかってきたが、現場スタッフの献身的努力に極度に依存する体質など、課題も山積みである。本来、循環器医療は非常にやり甲斐があり、おもしろく、若い医師の人気が集まる分野のはずである。今こそ、急性期循環器診療体制のグランドデザインを、行政も交えて皆で熟考していく必要があるのではないか?そんなことばかり考えて、初めての北国の冬を過ごしている。

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認知症患者の興奮症状に対し、抗精神病薬をどう使う?

 アルツハイマー病(AD)は精神症状の発現頻度が高く、治療にも難渋する。そのため、QOL低下や介護者ストレスなどの問題を引き起こす。このような認知症関連精神疾患の治療に抗精神病薬が用いられる頻度は高いが、死亡リスクの上昇が懸念されるため、FDAが警告を発している。オランダ・フローニンゲン大学のPeter Paul De Deyn氏らは、AD患者に対する非定型抗精神病薬アリピプラゾール投与に関するレビューと評価・考察を行った。Expert Opinion on Pharmacotherapy誌オンライン版2013年1月28日号の報告。 アリピプラゾールは、ドパミン受容体パーシャルアゴニスト、セロトニン5-HT2A受容体アンタゴニストで、低率の副作用プロファイルを有する新規の非定型抗精神病薬である。研究グループは、ADの精神症状など病理学的および疫学的概要をまとめ、アリピプラゾールの作用機序およびプレ臨床試験の結果について触れたうえで、AD関連精神疾患および興奮症状について無作為化試験の結果を考察した。その都度、メタ解析のデータを用い分析を行った。 主な考察と見解は以下のとおり。・無作為化プラセボ対照臨床試験において、アリピプラゾールはAD関連精神疾患の治療に対し少なからず有用であることが示された。・軽減された神経精神医学的症状は、主として精神機能と興奮であった。・個別試験において、アリピプラゾールの忍容性は概して良好であり、不慮の事故による外傷や傾眠を含む重篤な副作用はほとんど報告されなかった。・メタ解析において、定型抗精神病薬だけでなく非定型抗精神病薬においても、死亡率増大に関してクラスエフェクトが示された。・精神症状を合併した認知症患者に対しアリピプラゾールによる治療を行った試験を対象としたメタ解析で、アリピプラゾールは心血管疾患アウトカムおよび脳血管障害の増大、食欲亢進および体重増加を示さなかった。また、アピプラゾールは鎮静作用を示した。・これらの結果から、アリピプラゾールは持続的あるいは重度の精神症状や興奮を有する非薬物治療では治療困難な患者や、これらの症状が重篤な合併症をもたらす可能性がある患者、潜在的に自傷傾向のある患者に対して用いるべきである。ただし、継続的に治療する場合には、定期的に見直す必要がある。関連医療ニュース ・認知症に対する非定型抗精神病薬処方、そのリスクは? ・ドネペジル+メマンチン、アルツハイマー病への効果はどの程度? ・認知症患者に対する抗精神病薬処方の現状は?

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〔CLEAR! ジャーナル四天王(49)〕 うつ病当事者の苦悩-これは身近な問題です―

この論文でも最初に触れられているが、うつ病はWHOの健康指標の一つであるDALY(死亡損失と障害損失)において、第1位である(低所得国を除く)。筆者もこの事実を大学病院の精神科短期研修者に毎月強調している。すなわち高所得国のDALYにおいては、うつ病(1位)、脳血管障害(3位)、認知症(4位)、アルコール性疾患(5位)であり、精神疾患の社会的負荷はきわめて大きく、社会の役に立ちたいと思う若い医師の諸君は決して当科研修を疎かにしてはならない(すべての科で誠実に努力すべし)。万が一にも社会貢献に興味薄であっても、社会においてまともに機能する医師になりたければ、やはり精神科研修にも励むべし、と。蛇足であるが、これを伝える場面は筆者の担当する「認知症」の小講義の冒頭のつかみに位置している。これらの疾患は高齢者においてはより深刻であり、高齢化がますます進む本邦はまさに瀬戸際にいるのである。 さらに本邦では、うつ病患者がまさに差別を恐れて精神科ではなく内科を受診する(平均月6名)という川上らの1990年の報告があった。プライマリ・ケアにおいて精神疾患はますます重要な領域と思われる。意を決して内科等を受診したうつ病患者が救われるような包括的医療提供が必要である。 差別をなくすにはどうすればいいだろうか? 一臨床医の私見であるが、差別の基盤には恐怖があるので、対象のことを知り、自分ももしかしたらそうであったかもしれない「仲間」として見ることができれば差別は減るのではないだろうか? となると、彼らがどう感じているのかを目に見える形にすることはとても有効だ。この研究は、当事者自身の体験や感じ方を評価している点で卓越している。また、この国際共同研究に日本も参加していることは勇気を与えてくれる。 以上が感想である。ここで終わってしまうと単なる感想文であるので、学術的なことにも触れたい。 DISCとは聞き慣れない評価尺度であるが、参考文献を見ると妥当性の検討は現在掲載待ちのようだ(原著 参考文献19)。寡聞にして知らなかったが、2009年のLancet誌では統合失調症を対象に同じような報告がなされている。今後要注目の評価尺度と言えそうだ。 この論文のポイントは簡単にまとめると、1)うつ病患者の約8割が何らかの差別体験を報告している、2)3人に1人は人から避けられるという差別経験がある、3)3人に1人は差別を恐れて仕事に応募しなかったり親密な人間関係を持たないなどしている、4)差別経験が多いものはうつ病エピソードが複数回あるものや入院歴があるなどの重症者である、であろう。入院歴の評価はこの結果からこれ以上のことは言えず、慎重であるべきだ。

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Dr.東田の今さら聞けない病態生理

第3回「糖尿病は飢餓である !?」第4回「高血圧をオームの法則で解け !」第5回「その時 脳に何が起こった?」 "第3回「糖尿病は飢餓である !?」今回は糖尿病を取り上げます。日本全国に800万人の患者さんがいると言われるこの病気。ケアネットTVでも再三番組で取り上げてきましたが、今回は病態生理の面からしっかりこの糖尿病を理解してください。“そんなこと知らなくても治療は出来るよ”と言う声に、「糖尿病ほど奥の深い病気はありません」と東田先生。『経験だけではどうにもならない病気、病態生理を知らずに治療などは決してしてはいけません』糖尿病の治療には自信があるという先生も、そうでない先生も是非一度ご覧になり、明日の臨床にお役立てください。第4回「高血圧をオームの法則で解け !?」50歳以上の日本人の4〜5人に一人が高血圧症だといいます。では、高血圧症の病態生理をどれくらいご存じでしょうか? 東田先生は「高血圧はずばり“オームの法則”だ!」と言われます。“オームの法則”とは、中学生で習った、あの「電圧=電流×抵抗」です。高血圧の9割を占める本態性高血圧は、塩分の過剰摂取、遺伝的要因などと言われますが、根本的なの原因は解明されていません。しかし、“オームの法則”を元にした高血圧の構成因子が分かれば、治療や投薬などについて根本から理解できるというのが東田先生の考え。臨床の幅が広がること間違いありません!今回もグラフィックをふんだんに使って解説します。第5回「その時 脳に何が起こった ?」誰もが驚いた長嶋監督の脳梗塞のように脳血管障害はある日突然、しかも、普段健康だと思われている人にも襲ってきます。そして、その予後は、発症後いかにすばやく対処したかにかかっていると言われています。家庭医としても「それは救急の仕事」と言わず、すばやく診断できる技術を身に付けておきたいものです。そこで今回は脳血管障害の症例を取り上げ、その症状から、患者さんの脳に何が起こったかを解説していきます。また、スタンフォード大学・メイヨークリニックツアーのリポートもお送りします。そこには東田先生の医療への並々ならぬ情熱が秘められています。「国試の神様」の呼び名からは想像できない、東田先生の一面もどうぞお楽しみに。"

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T&A 動きながら考える救急初療 -プライマリ・ケア編- 

第3回「胸痛」 第4回「発熱・頭痛」 第5回「何となく変なんです! 在宅編」  第3回「胸痛」-心電図変化がはっきりしない!それでも急性冠症候群に気をつけろ!-診療所で遭遇する致死的胸痛疾患-4 killer chest pains-とは何か?開業医の日頃の悩みにズバッと答えます!診断特性はそれほど高くない急性冠症候群の陽性尤度比(LR+)を患者の病歴と身体所見から丁寧に集め、診断に近づいていくデモンストレーションは一見の価値あり!第4回「発熱・頭痛」-何をもって髄膜炎?後方病院へ紹介する判断基準とは?-毎日の外来で、発熱と頭痛に悩んでいる患者さんを診ない日はないかもしれません。同じ症状の中で「見逃してはいけない疾患」として髄膜炎を認識することから始まり、髄膜炎を疑った時にどのような病歴や身体所見にフォーカスを当てて診療を行うとよいのかについて考えていきます。第5回「何となく変なんです!在宅編」-プライマリ・ケア医の脳血管障害の見極め方-高齢化に伴い急速にニーズが高まっている在宅診療。往診先の患者家族からの「何となく変」という曖昧な訴えのとらえかた、そして意識障害の鑑別疾患を効率よく絞り込むフレームワークや往診先の限られた状況下で脳血管障害を疑うための重要な指標について解説します。T&A RAP  Triage and Action !

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CKD患者の血圧管理:ARBで降圧不十分な場合、増量か?併用か?

 CKD患者の血圧管理においてARB単剤で降圧目標130/80mmHg未満に到達することは難しい。今回、熊本大学の光山氏らは、日本人対象の無作為化比較試験のサブ解析の結果、ARB単剤で降圧不十分時にARBを増量するより、Ca拮抗薬を併用したほうが心血管系イベントや死亡といったリスクを回避しやすいことを示唆した(Kidney International誌オンライン版10月10日号掲載報告)。 ARBを低用量から開始し、通常用量まで増量しても降圧目標に達しないケースでは次にどのような一手を打つべきか? さらに増量する方法のほか、Ca拮抗薬など他の降圧薬の追加も選択肢となる(『CKD治療ガイド2012』では尿蛋白を伴わず、糖尿病を合併していない場合は「降圧薬の種類を問わない」とされている)。 サブ解析は、無作為化オープン試験OlmeSartan and Calcium Antagonists Randomized(OSCAR)試験について行われた。OSCAR試験では心血管疾患もしくは2型糖尿病を1つ以上有する日本人の高齢者(65~85歳)高血圧患者1,164例を対象とし、ARB増量群(オルメサルタン40mg/日)あるいはARB+Ca拮抗薬併用群(オルメサルタン20mg/日+Ca拮抗薬)に無作為化された。今回のサブグループ解析の対象は、事前に設定されていたCKD患者(eGFR 60 mL/min/1.73 m2 未満)である。 主要評価項目は「心血管系イベント」および「非心血管疾患死」。心血管系イベントは「脳血管障害」「冠動脈疾患」「心不全」「その他動脈硬化性疾患」「糖尿病性合併症」「腎機能の悪化」と定義された。なお、本試験については、すでに2009年に小川氏(熊本大学)らによって主要結果が発表されている(Hypertens Res. 2009;32:575-580.)。 主な結果は下記のとおり。・血圧は併用群で増量群に比べ、有意に低下。・主要評価項目の発生率は併用群(16例)で増量群(30例)より少なかった(ハザード比 2.25)。・脳血管障害および心不全イベントが増量群でより多く発生した。

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ナイアシン/laropiprant併用の忍容性に疑問符。導入期間を含めおよそ1万5千例が脱落:HPS2-THRIVE試験

8月26日の「クリニカルトライアル&レジストリ・アップデート I」セッションでは、HPS2-THRIVE試験の安全性中間解析が報告された。今回の発表は主に安全性に関する中間解析報告であり、忍容性に疑問を投げかけるものとなった。オックスフォード大学(英国)のJane Armitage氏が報告した。本試験は、ナイアシンによる動脈硬化性イベント抑制効果を検討する試験である。「LDL-C低下療法+ナイアシン」による心血管系イベント抑制作用は、昨年のAHAで報告された二重盲検試験AIM-HIGH (Atherothrombosis Intervention in Metabolic Syndrome with Low HDL/High Triglycerides and Impact on Global Health Outcomes)で、すでに否定されている。しかしAIM-HIGHの試験規模は登録数3,424例であり、HPS2-THRIVEに比べると小さい。またナイアシンによる顔面潮紅で二重盲検化が破られぬよう、対照群にも低用量のナイアシンを服用させていた。一方、HPS2-THRIVEは、laropiprant(ナイアシンによる顔面潮紅抑制剤)で潮紅抑制を図っているため、プラセボ群はナイアシンを全く服用していない。AIM-HIGHと異なり、純粋な「ナイアシン vs プラセボ」の比較が企図されている。HPS2-THRIVE試験の対象は、心筋梗塞、脳卒中、PVDあるいは冠動脈疾患合併糖尿病例である。ナイアシン/laropiprant(2g/日)群とプラセボ群に無作為化された。HDLコレステロール(HDL-C)を増加させるナイアシンが血管系イベントを抑制させるか、現在も二重盲検法で追跡中である(ただし全例、シンバスタチン 40mg/日(±エゼチミブ 10mg/日)によるLDLコレステロール(LDL-C)低下療法を受けている)。本試験では無作為化前、適格となった38,369例に、導入期間として8週間ナイアシン療法(ナイアシン/laropiprant)を行った。その結果、33.1%にあたる12,696例が脱落(服用中止)していた。うち76.9%(9,762例)は、薬剤が脱落の原因とされた。脱落理由として明らかな症状は、皮膚症状、消化管症状、筋症状などである。上記を経て、最終的に25,673例が無作為化された。42.6%は中国からの登録である。平均年齢は64.4歳、83%が男性だった。78%に冠動脈疾患、32%に脳血管障害、13%に末梢動脈疾患を認め、33%が糖尿病例(重複あり)だった。今回、「中間安全性解析」として報告されたのは、無作為化後平均3.4年間における試験薬服用中止例の割合とその理由である。ナイアシン療法群では、無作為化後さらに、24.0%(3,084例)が新たに脱落していた(15.7%が服用薬関連)。プラセボ群は15.4%である(服用薬関連は7.5%)。群間差の検定なし。ナイアシン療法群で発現率の高かった有害事象は、「皮膚症状」(5.1%)、「消化器症状」(3.6%)、「骨格筋症状」(1.6%)、「糖尿病関連」(0.9%)、「肝障害」(0.7%)である。いずれもプラセボ群よりも高い数値だった。ただし「肝障害」には一過性のものが含まれている。そのため重篤な肝障害に限れば、ナイアシン療法群、プラセボ群とも発現率は0.1%となった。また、ナイアシン療法群では「筋障害」発現率が0.54%と、プラセボ群の0.09%に比べ有意に高かった(リスク比:5.8、95%信頼区間:3.1~10.7)。この「筋障害」の増加は、主として中国人におけるリスク増加の結果だった(ナイアシン療法群:1.13% vs プラセボ群:0.18%)。Armitage氏によれば、2013年には臨床転帰を含む最終報告が行われるという。来年の結果報告が待たれる。関連リンク

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神経内科医の注目が集まる「てんかん診療」高齢者のてんかん患者が増加!

第53回日本神経学会学術大会(5月22日~25日、東京国際フォーラム)における共催セミナー(グラクソ・スミスクライン株式会社)にて、産業医科大学 辻 貞俊氏が「高齢者てんかんについて」と題して講演した。高齢者てんかん患者は50万人以上てんかんは小児および若年者での発症が多い疾患である。一方、加齢に伴う中枢神経疾患は、高齢者におけるてんかんの新規発症の原因となる。高齢者のてんかんは若年者のものとは病態が異なり、若年者とは異なった治療が必要となる。わが国では急速な高齢化に伴って、このような高齢発症のてんかん患者が増えており、若年発症てんかん患者のキャリーオーバーともあいまって、高齢世代のてんかん患者が増加している。高齢者てんかん(65歳以上で発症)は対人口比2~7%と言われており、患者数は50万人程度と推定される。診断が難しい、高齢者てんかん高齢者てんかんは脳血管障害や脳腫瘍、認知症などを原因とする症候性てんかんである。約1/3は脳波が正常であり、鑑別診断が難しい。そのため、高齢者てんかんの特徴を理解し、診断・治療を行うことが求められる。中でも最も重要なのが「失神」である。失神は70歳以上の約23%が経験するともいわれている。また、神経疾患(TIA、TGAなど)、循環器疾患、代謝・内分泌疾患、睡眠時行動異常、心因性非てんかん性発作などとの鑑別を行う必要がある。高齢者てんかんの特徴は、・複雑部分発作、過運動発作が多い・約1/4は鑑別が難しく、診断できない(約1/3は脳波正常)・部分てんかん(側頭葉てんかん、前頭葉てんかんが大部分)が最も多い・二次性全般発作が少ないため見逃されている可能性が高い・発作後のもうろう状態が数時間~数日続くことがある・非特異的な症状(ボーとした状態、不注意、無反応など)が多い  などである。高齢者てんかんは抗てんかん薬単剤で奏功率約80%高齢者てんかんは診断が難しい側面はあるものの、薬物療法による奏効率は高く、比較的予後は良好である。ただし、再発率は高く、再発による患者の心理的負担を考慮し、初回発作時から薬物療法を開始することが推奨される。高齢者てんかんの薬物療法のポイントは以下のとおりである。・初回発作時から薬物療法を開始する・相互作用に注意し、少量から投与を開始する・米国ガイドラインでは部分発作の場合、合併症がなければカルバマゼピン、ラモトリギンの順、合併症があればレベチラセタム、ラモトリギンの順、全般発作の場合はラモトリギン、バルプロ酸の順で推奨されている・約80%は単剤にて効果が認められている(成人の投与量より少量)・海外データによると新規抗てんかん薬は発作軽減に有効である・長期にわたり治療を継続することが重要であるまとめ 高齢者てんかんが増加している現状を踏まえ、神経内科医によるさらなるてんかん診療の推進が求められる。また、発症後6年以上経過した認知症患者ではてんかん発作の発現率が一般の5~10倍に増加するともいわれており、注意が必要である。辻氏は「まずは、正確な診断、そして積極的な治療を行ってほしい」と締めくくった。(ケアネット 鷹野 敦夫)

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ACC 2012 速報 動脈硬化性疾患例に対するPAR-1阻害薬上乗せの有用性は確認されず:TRA 2°P-TIMI 50

経口プロテアーゼ活性化受容体1(PAR-1)拮抗剤は、「トロンビンによる血小板凝集」の抑制という、新たな機序を持つ抗血小板剤である。しかし、動脈硬化性疾患例全般に対する有用性は、TRA 2°P-TIMI 50試験の結果、疑問符がついた。ブリガム・アンド・ウィミンズ病院(米国)のDavid A. Morrow氏が、Late Breaking Clinical Trialsセッションにて報告した。なお、本試験は2月7日、米国Merck社から概要が公表されている。本試験の対象は、心筋梗塞(MI)、虚血性脳血管障害(iCVD)あるいは末梢動脈疾患(PAD)の既往を有する26,449例。全例、病態は安定しており、標準的薬物治療を受けていた。既往歴はMIが最多で67%、次いでiCVDの19%、PADの14%だった。チエノピリジン系を含む抗血小板薬併用(DAPT)は、MI既往例の80%弱、PADの28%、iCVDの8%に認められた。これら26,449例は、PAR-1拮抗剤 "vorapaxar" 2.5mg/日群(13,225例)とプラセボ群(13,224例)に無作為化され、二重盲検法で追跡された。しかし試験開始1年後、PAR-1拮抗剤群におけるiCVD既往例の頭蓋内出血増加を、安全性監視委員会から指摘される。iCVD例(4,883例)の追跡はこの時点で中止され、残り21,556例が、最終的に2.5年間〔中央値〕追跡された。ただし、評価項目の解析には、iCVD例も含めた。その結果、有効性の一次評価項目である「心血管系死亡、心筋梗塞、脳卒中」は、PAR-1拮抗剤群でプラセボ群に比べ有意に減少していた(9.3%/3年 vs 10.5%/3年、ハザード比 [HR]:0.87、95%信頼区間 [CI]:0.80~0.94、p<0.001)。iCVD例を除外しても同様で、PAR-1拮抗剤群におけるHRは0.84だった(p<0.001)。一方、PAR-1拮抗剤群では、出血も有意に増加していた。安全性一次評価項目である「GUSTO分類中等度~重度出血」(要輸血・血行動態著明増悪 [含む頭蓋内出血])発生率は、プラセボ群の「2.5%/3年」に対し「4.2%/3年」だった〔HR:1.66、p<0.001)。iCVD例を除外して解析しても同様だった(HR:1.55、p=0.049)。そこで、上記「有効性一次評価項目」と「安全性一次評価項目」を併せ、「全般的有効性」として発生リスクを比較した。その結果、PAR-1拮抗剤群とプラセボ群に有意差は認められなかった(HR:0.97、95%CI:0.90-1.04、vsプラセボ群)。iCVD例を除いて解析しても、同様の結果だった(HR:0.96、95%CI:0.88~1.05) 。この結果を受けMorrow氏は、PAR-1拮抗剤が全ての動脈硬化性疾患例に適しているとは思わないとした上で、有用性が期待できる患者群の特定が重要だと述べた。本試験のサブ解析からは、体重60kg以上でiCVD既往のないMI患者における、有用性が示唆されている。

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米国で心房細動または心房粗動の患者向けにMultaqが提供可能に

 サノフィ・アベンティス株式会社は7月31日、米国の薬局でMultaq(一般名:dronedarone)400mg錠の提供が開始されたことを発表した。 Multaqは、心房細動または心房粗動を最近発症し、関連する心血管リスク因子(70歳以上、高血圧、糖尿病、脳血管障害の既往歴、左房径50mm以上、または左室駆出率(LVEF)40%未満)を持ち、洞調律を維持しているか、または電気的除細動を受ける予定の発作性または持続性の心房細動または心房粗動の患者において、心血管系の理由による入院のリスクを減少することを適応症とする抗不整脈薬。2009年7月2日に米国食品医薬品局(FDA:Food and Drug Administration)から承認されている。 ATHENAスタディでは、心房細動・心房粗動の患者、またはこれらの病気を最近発症した患者(71%の患者は心不全がまったくなく、29%はNYHAクラスI~IIIの安定した心不全であった)において、Multaqの有効性と安全性が評価された。この試験では、Multaq400mg 1日2回投与を標準治療と併用すると、複合評価項目である心血管系の理由による入院もしくは全死亡がプラセボと比較して24%減少する(p

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FDAがMultaqを承認 2009年夏に米国で発売予定

フランスのサノフィ・アベンティス社は2日(現地時間)、米国食品医薬品局(FDA:Food and Drug Administration)からMultaq(一般名:dronedarone)400mg錠が承認されたことを発表した。心房細動または心房粗動の患者は、現在の疾病管理を改善する新たな治療選択肢をまもなく得ることができるようになるという。Multaqは、心房細動または心房粗動の患者における心血管系の理由による入院を減少させるという臨床ベネフィットを持つ、米国で承認された初の医薬品。Multaqは、心房細動/心房粗動を最近発症し、関連する心血管リスク因子を持ち、洞調律を維持しているか、または電気的除細動を受ける予定の発作性または持続性の心房細動または心房粗動の患者において、心血管系の理由による入院のリスクを減少することを適応症とする抗不整脈薬。関連する心血管リスク因子には、70歳以上であること、高血圧、糖尿病、脳血管障害の既往歴、左房径50mm以上であること、または左室駆出率(LVEF)40%未満であることなどがある。FDAによる承認は、約6,300人の患者が参加した5つの国際多施設共同無作為化臨床試験に基づいて行われた。ATHENAスタディでは、心房細動/心房粗動の患者、またはこれらの病気を最近発症した患者(71%の患者は心不全がまったくなく、29%はNYHAクラス I~IIIの安定した心不全であった)においてMultaqの有効性と安全性が検討されました。試験では、Multaq 400mg 1日2回投与を標準治療と併用すると、試験の主要評価項目である心血管系の理由による初回入院もしくは全死亡のリスクが24%減少する(p

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認知症治療の効果を評価する際は、年齢を考慮すべき

ケンブリッジ大学のGeorge M. Savva氏らの研究グループは、神経病理学的所見と認知症との関連について、加齢が及ぼす影響を推定するため、献体を用いた住民ベースの調査を行った。NEJM誌2009年5月28日号より。アルツハイマー病の研究は主に、65歳未満の若年高齢者に焦点を当てているが、より高齢な人を対照に含む研究で、アルツハイマー病と認知症との間の病理学的所見の関連は低いことが報告されてはいる。69~103歳死亡高齢者456例の脳を評価Savva氏らは、Medical Research Council Cognitive Function and Ageing Study(認知機能と老化に関する住民ベースの医学的調査)に献体された69~103歳で死亡した高齢者456例の脳について、アルツハイマー病、脳萎縮、ならびに脳血管障害の病理学的所見の評価を行った。評価に関する尺度には標準的な神経病理学的プロトコルを適用。神経病理学的変数は、病理学的病変の負荷が「なし、軽度」「中程度、高度」によって2群に分類した。その上で、ロジスティック回帰分析にて、神経病理学的所見と認知症との関連について、加齢が及ぼす影響を推定評価した。大脳新皮質の萎縮と認知症との関連、加齢と相関「中等度、高度」のアルツハイマー病型の病理学的変化の出現率は、加齢とともに減少した。大脳新皮質の神経突起プラーク(神経炎性斑)と認知症との関連は75歳で強く(オッズ比:8.63、95%信頼区間:3.81~19.60)、95歳で低下した(2.48、0.92~4.14)。同様に、アルツハイマー病と認知症に関連する他の病理学的な差異の関連性が、年齢が進むにつれて、脳の全領域で低下するのが観察された。対照的に、大脳新皮質の萎縮と認知症との関連においては、75歳ではオッズ比5.11(95%信頼区間:1.94~13.46)、95歳ではオッズ比6.10(2.80~13.28)で、加齢との相関が認められた。これらから研究グループは、集団への認知症介入効果を評価する際は、年齢を考慮する必要があると結論づけている。(朝田哲明:医療ライター)

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低用量アスピリン起因性消化管障害の予防に、ガスターが有効-米国消化器病学会にて発表・“FAMOUS試験”-

アステラス製薬株式会社は2日、5月30日から6月4日まで米国・シカゴにて開催されている米国消化器病学会(American Gastroenterology Association:AGA)にて、低用量アスピリン起因性消化管障害の予防にH2受容体拮抗剤「ガスター」(一般名:ファモチジン)が有効であるという試験「FAMOUS」の結果を発表したと報告した。血小板凝集能抑制効果を持つ低用量アスピリンは、心筋梗塞や脳梗塞などの動脈疾患や脳血管障害に対し有効性が確認されていて、幅広く処方されている薬剤だが、一方で消化管障害を高頻度で発症することが知られてる。消化管障害を発症した患者に対しては、低用量アスピリンの中止が望ましいものの、中止により原疾患の再発の危険性が高まるため、いかに消化管障害の発症を予防するかが課題となっている。FAMOUS(Famotidine for the Prevention of Peptic Ulcers in Users of Low-Dose Aspirin)試験は、英国・スコットランドで実施され、低用量アスピリン(75~325mg)服用中の患者404名を対象とした無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験。試験3ヶ月の内視鏡検査にて確認された食道及び胃・十二指腸病変は、ガスター40mg/日群で5.9%、placebo群で 33.0%と、ガスター群で有意に抑制されていた(p

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特殊な遺伝性脳血管障害CARASILはHTRA1遺伝子の変異と関連 

皮質下梗塞と白質脳症を伴う脳常染色体劣性動脈症(CARASIL)は、特殊な遺伝性脳血管障害で、成人期初期での発症、非高血圧性の脳小血管動脈症、禿髪症、変形性脊髄症を特徴とする。その原因遺伝子および発症メカニズムについて、新潟大学脳研究所神経内科准教授の小野寺理氏を中心とする研究グループは、HTRA1遺伝子変異との関連が確認されたこと、CARASIL患者に、同遺伝子変異による情報伝達抑制機能を持つTGF-β1の発現亢進を確認したことを発表した。本論執筆筆頭は同科の原賢寿氏。NEJM誌2009年4月23日号掲載より。CARASILを有した5家族を対象に解析研究グループは、CARASILを有した5家族を対象に、HTRA1遺伝子の変異が同定できるかを行った。連鎖解析、疾患に関係する領域の精密マッピング、候補遺伝子の塩基配列解析を行い、また、野生型遺伝子、変異型遺伝子の機能解析と、CARASIL患者2例の大脳小動脈で、TGF-βファミリーメンバーによるシグナル情報伝達、および遺伝子発現、タンパク質発現を測定した。HTRA1遺伝子変異の関与を確認結果、疾患とのつながりが、HTRA1遺伝子を含んでいる染色体10q上の2.4Mbの領域に見いだされた。塩基配列解析からは、HTRA1での2つのナンセンス変異と2つのミスセンス変異が確認された。HTRA1は、TGF-βファミリーメンバーによるシグナル情報伝達を抑制する働きを持つ。このうちHTRA1の1つのナンセンス変異と2つのミスセンス変異では、プロテアーゼ活性の低下が見られ、TGF-βファミリーメンバーによるシグナル情報伝達の抑制がされていなかった。残り1つのナンセンス変異では、HTRA1の減少が見られた。脳小動脈の免疫組織化学的解析からは、肥厚内膜ではフィブロネクチンのエクストラドメインAおよびバーシカンの発現亢進、中膜ではTGF-β1の発現亢進が確認された。これらから研究グループは、CARASILはHTRA1遺伝子の変異と関連していると結論。また今回の知見は、TGF-βファミリーメンバーによるシグナル情報伝達の脱抑制がCARASILの根底を成すことを明らかにしたと同時に、虚血性脳小血管疾患、禿髪症、脊椎症の治療戦略開発にも寄与するものであると結論している。(武藤まき:医療ライター)

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BPLTTCから新たなメタ解析:65歳の上下で降圧薬の有用性を比較

降圧大規模試験に関する前向きメタ解析であるBlood Pressure Lowering Treatment Trialists’Collaboration(BPLTTC)から新たなデータが報告された。65歳未満の高血圧患者には「ACE阻害薬」、「より積極的な降圧」、「利尿薬またはβ遮断薬」がイベント抑制の観点からは好ましいようだ。BMJ誌2008年5月17日号(オンライン版2008年5月14日号)からの報告。31試験20満例弱を対象今回解析対象となったのは31試験に参加した190,606例。異なった薬剤あるいは降圧目標を比較した降圧無作為化試験のうち、1,000人年以上の規模を持ち2006年9月までにデータを入手でき、かつ本メタ解析が事前に定めている患者情報の得られた試験である。65歳「未満」群(平均年齢57歳)と「以上」群(平均年齢72歳)に分け、1次評価項目である心血管系イベント(脳血管障害、冠動脈イベント[突然死含む]、心不全)のリスクが比較された。65歳「以上」「未満」間で有意なバラツキみられず結果だが、まずプラセボ群と比較したACE阻害薬群、Ca拮抗薬群の心血管系イベント減少率は65歳「未満」「以上」で同等だった。すなわちプラセボ群と比較したACE阻害薬群の心血管系イベント相対リスクは、65歳未満で0.76(95%信頼区間:0.66~0.88)、65歳以上で0.83(95%信頼区間:0.74~0.94)[バラツキ:P=0.37]、Ca拮抗薬群では65歳未満0.84(95%信頼区間:0.54~1.31)、65歳以上0.74(95%信頼区間:0.59~0.92))[バラツキ:P=0.59]だった。「非積極的降圧」と「積極的降圧」を比較しても同様で、積極的降圧群の相対リスクは65歳未満で0.88(95%信頼区間:0.75~1.04)、65歳以上1.03(95%信頼区間:0.83~1.24 [バラツキ:P=0.24] となっていた。「ACE阻害薬 vs 利尿薬またはβ遮断薬」、「Ca拮抗薬 vs 利尿薬またはβ遮断薬」、「ACE阻害薬 vs Ca拮抗薬」、「ARB vs その他」で比較しても同様で、65歳「以上」と「未満」の間にイベント抑制作用の有意なバラツキはみられなかった。65歳「未満」・「以上」ではなく年齢を連続変数として解析しても、各種降圧薬による心血管系イベント抑制作用は有意な影響を受けていなかった。なお65歳「未満」と「以上」の間に「一定度の降圧により得られるイベント相対リスクの減少率」の差もなかった。降圧治療は少なくとも本解析で検討された範囲であれば年齢の高低を問わず有用であり、また年齢により降圧薬の有用性に差はない──と研究者らは結論している。(宇津貴史:医学レポーター)

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PCI施術医の技能評価とデータ公開に有用な方法が開発された

経皮的冠動脈インターベンション(PCI)施術医の技能評価やアウトカムの予測にはnorth west quality improvement programme(NWQIP)モデルが有用で、データの提示、公開には累積ファンネルプロットおよびファンネルプロットが使用可能なことが、英国James Cook大学病院循環器科のBabu Kunadian氏らの検討で明らかとなった。英国では心臓外科医の相対的な技能が公開されているが、施術医特異的なPCIデータはまだないという。NWQIPはPCI施行後の心臓の主要有害事象の予測モデルを提供しており、内的および外的妥当性が確立されている。BMJ誌2008年4月26日号(オンライン版2008年3月26日号)掲載の報告。院内有害事象をNWQIPモデルで解析、ファンネルプロットで提示研究グループは、PCI施術医の技能の早期評価を目的に、確立されたリスクスコアに基づく予測結果を用いて施術医の院内アウトカムデータを比較する方法として、ファンネルプロットおよび累積ファンネルプロットを用いるアプローチの評価を行った。対象は、2003年1月~2006年12月に英国北東部の3次医療施設でPCIを実施した5人の循環器医。個々の施術医について、院内で発生した心血管/脳血管の主要有害事象(院内死亡、Q波心筋梗塞、緊急CABG、脳血管障害)をNWQIPの予測リスクを用いて解析した。それぞれの施術医の全体的な技能はファンネルプロットで示し、一連の患者をベースとした個々の施術医の技能は累積ファンネルプロットで提示した。PCI施行後のイベント発生率の実測値が予測値を下回るPCIを施行された5,198例のファンネルプロットにより、心血管/脳血管の主要有害事象の平均発生率は全体で1.96%であることが示された。これはNWQIPの予測リスクである2.06%を下回っている。全施術医における心血管/脳血管の主要有害事象の院内発生率の3σ上方管理限界は2.75%以内であり、2σ上方警告限界は2.49%であった。Kunadian氏は、「心血管/脳血管の主要有害事象の院内発生率は、全体としてイベント発生率の予測値を下回っていた。PCI施行後の院内イベント発生率は、3σ管理限界のファンネルプロットおよび累積ファンネルプロットを用いて個々の施術医のアウトカムを提示し、公開すれば十分にモニター可能であった。上方警告限界(管理限界値2σ)は内的モニタリングに使用可能である」と結論している。また、「これらのチャートの主たる便益は、イベント発生の実測値と予測値を別個に示すことで透明性を保てることである。このアプローチにより、個々の施術医は自分の技能をモニターできるが、他の同業医の技能評価にも使用できるかもしれない。この方法は、個々の施術医の症例規模(case volume)や症例分類法(case mix)の差にかかわりなく適用可能である」と考察している。(菅野守:医学ライター)

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アスピリン抵抗性は心血管系死亡のリスク?

アスピリンによる抗血小板作用が通常ほど見られない「アスピリン抵抗性」の存在が知られているが、20試験2,930例を解析したところ、心血管系疾患患者の28%に「抵抗性」が見られ、それらの患者では「非抵抗性」患者に比べ心血管系イベントリスク、死亡ともにオッズ比が有意に増加しているとの報告がBMJ誌2008年1月26号に掲載された(オンライン版1月17日付)。University Health Network(カナダ)のGeorge Krasopoulos氏らが報告した。解析20試験中アスピリン抵抗性は2,930例中810例(28%)本解析に含まれた20試験はいずれも、心血管系疾患患者に対するアスピリンの予後改善作用を検討したものである。アスピリン抵抗性の有無はそれぞれの試験で定義されている場合それに従い、定義がない場合はKrasopoulos氏らが文献から判定した。また6試験985例では、クロピドグレルやGPIIb/IIIa阻害薬などアスピリン以外の抗血小板薬服用が許されていた。その結果、アスピリン抵抗性は2,930例中810例(28%)に認められた。男性に比べ女性、腎機能正常患者に比べ腎機能低下患者で「抵抗性」は有意に多かった。また「抵抗性」患者では、心血管系イベント発生リスクが有意に高かった。すなわち、「非抵抗性」患者に比べたオッズ比は、全心血管系イベント:3.85(95%信頼区間:3.08~4.80)、急性冠症候群:4.06(95%信頼区間:2.96~5.56)、脳血管障害初発:3.78(95%信頼区間:1.25~11.41)、全死亡:5.99(95%信頼区間:2.28~15.72)だった。アスピリン抵抗性患者における心血管系イベントリスクの増加は、75~100mg/日、100超~325mg/日、いずれの用量でも認められた。本当にアスピリン抵抗性なのか以上などからKrasopoulos氏らは「アスピリン抵抗性患者は心血管系イベントリスクが高い」と結論する。ただし本研究では3試験390例(13.3%)ではアスピリンの服薬コンプライアンスが全く確認されておらず、試験期間中コンプライアンスが繰り返し検討されたのは1試験71例だけだった。またKrasopoulos氏らは、アスピリン抵抗性が見られる患者でも、それ故に処方を中止することのないよう注意を喚起している。なおアスピリン抵抗性患者を対象としたGPIIb/IIIa阻害薬による二次予防作用を賢答化する無作為化試験として、TREND-AR(TiRofiban Evaluation of Surrogate ENDpoints in Prevention of Ischemic Complications During Percutaneous Interventions in Patients With Coronary Disease and Aspirin Resistance)[NCT00398463] が2006年5月に開始されたが、2007年末、対象患者にクロピドグレル抵抗性患者も含まれるよう変更された。終了は2011年の予定だという。(宇津貴史:医学レポーター)

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COPD――多彩な併存症を持つ全身性疾患

2007年10月23日、COPD(慢性閉塞性肺疾患)治療薬スピリーバ(販売:日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社/ファイザー株式会社)承認取得3周年記念記者会見で、日本医科大学呼吸器内科教授、同大学呼吸ケアクリニック所長の木田厚瑞氏はCOPDの多彩な併存症について講演を行った。COPDは虚血性心疾患、肺がん、骨粗鬆症、糖尿病、うつなど多彩な併存症をもつことで注目を浴びています。木田氏が以前、解剖になった4,552名の患者を対象に、COPDの主要病態である肺気腫の合併疾患の頻度を調べたところ、脳血管障害70.9%、肺炎61.0%、胃潰瘍43.9%、肺結核24.1%、肺がん21.5%が認められ、いずれも肺気腫なしの患者より有意に高かった。また、COPD患者の死因の35%は肺炎、27%は心血管疾患、21%はがんであった(*1)。COPD患者は、呼吸機能の低下に従って、骨粗鬆症の発生頻度が大幅に増加することが知られている(*2)。COPDにおける骨粗鬆症のリスクファクターとしては、喫煙、活動量の低下、体重減少と筋肉量の減少、およびステロイド治療などが考えられている(*3)。また、COPD患者の41%にうつがあり、死亡率が高いとの報告がある(*4)。一方、COPD患者の13~17%に貧血が起こり、貧血が併存する場合、運動機能が落ち、生存率も下がる(*5,6)。このように、COPDの併存症は、多彩であるため、プライマリ・ケアと専門性の高い医療機関との連携(紹介・逆紹介)が望ましいと木田氏が強調した。一方、木田氏は、併存症を治療すると同時に、COPDに対し、効果の乏しい不適切な薬物処方をやめ、適切な治療を行うことで、患者QOLの向上、医療費の抑制につながると話した。【文献】*1 Rabe KF. N Engl J Med 2007; 356: 851.*2 Bolton CE. Am J Respir Crit Care Med 2004; 170:1286.*3 lonescu AA. Eur Respir J 2003; 22(suppl 46): 64s.*4 Fan VS, et al. Gender, depression, and risk of hospitalization and mortality in COPD*5 John M, et al. Chest 2005; 127: 825-829.*6 Cote C, et al. Eur Respir J 2007; 29: 923-929.(ケアネット 呉 晨)

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