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出血性脳卒中、日本は欧米の2倍

 秋田県立脳血管研究センターの鈴木 一夫氏らは、秋田県脳卒中発症登録における1995年~2004年の新規発症例(2万8,781例)の脳画像を評価し、日本における出血性脳卒中の割合は欧米諸国の約2倍であることを報告した。Neurological sciences誌オンライン版2014年8月10日号に掲載。 対象症例を脳画像により脳梗塞(1万8,018例、62.6%)、脳出血(7,423例、25.8%)、クモ膜下出血(3,340例、11.6%)の3つに分類した。脳梗塞および脳出血はそれぞれ病変領域で分類し、クモ膜下出血は破裂動脈瘤の場所により3つに分類した。 主な結果は以下のとおり。・日本における出血性脳卒中の割合は37.4%であり、欧米諸国の約2倍であった。・脳梗塞のうち、ラクナ梗塞が5,437例(30.2%)、皮質梗塞が6,121例(34.0%)、テント下梗塞が2,703例(15.0%)であった。・脳出血のうち、被殻出血が1,379例(18.6%)、視床出血が2,251例(30.3%)、皮質下出血が1,204例(16.2%)であった。・破裂脳動脈瘤の場所は性別により異なり、女性では内頸動脈の割合が最も高く(40.8%)、男性では前交通動脈の割合が最も高かった(46.8%)。

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原因不明の脳卒中後の心房細動検出、携帯型心電図で5倍以上改善/NEJM

 原因不明の脳卒中後の心房細動検出について、30日イベントレコーダー付き携帯型心電計によるモニタリングが、従来の24時間ホルター心電図によるモニタリングより有効であることが示された。検出率は5倍以上有意に改善し、抗凝固療法の施行率はほぼ2倍上昇したという。カナダ・トロント大学のDavid J. Gladstone氏らが、前向き無作為化比較試験を行い報告した。NEJM誌2014年6月26日号掲載の報告より。原因不明の脳梗塞またはTIA発症患者を2群に分け評価 試験は、6ヵ月以内に原因不明の脳梗塞または一過性脳虚血発作(TIA)を発症した、心房細動歴のない55歳以上の患者572例を対象に行われた。なおTIA発症の被験者は、24時間心電図など標準的な検査を行ったが、その原因は不明だった患者を適格とした。 被験者を無作為に2群に分け、一方の群(280例)には、非侵襲的な30日イベントレコーダー付き携帯型心電計による心電図モニタリングを、もう一方の対照群(277例)には、従来の24時間ホルター心電図検査によるモニタリングを行った。 主要評価項目は、試験開始後90日以内に新たに検出された30秒以上持続する心房細動だった。副次評価項目には、2.5分以上持続する心房細動や、90日時点における抗凝固療法の有無などが含まれた。30秒以上の心房細動検出率、携帯型心電図群はホルター心電図群より約13%上昇 結果、30秒以上持続する心房細動の検出は、携帯型心電図群は280例中45例(16.1%)であったのに対し、対照群では277例中9例(3.2%)の検出にとどまった(絶対差:12.9ポイント、95%信頼区間[CI]:8.0~17.6、p<0.001)。1例検出に必要なスクリーニング患者数は8例だった。 また、副次評価項目の2.5分以上持続する心房細動については、携帯型心電図群では284例中28例(9.9%)に認められたのに対し、対照群では277例中7例(2.5%)であった(同:7.4ポイント、3.4~11.3、p<0.001)。 試験開始後90日までに経口抗凝固薬の処方を受けた人は、対照群で279例中31例(11.1%)だったのに対し、携帯型心電図群は280例中52例(18.6%)と有意に高率だった(絶対差:7.5ポイント、同:1.6~13.3、p=0.01)。

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原因不明の脳卒中後の心房細動検出に、着用型長期間心臓モニターが有用/NEJM

 原因不明の脳卒中後の心房細動(AF)の検出に関して、植込み型心臓モニター(ICM)を用いた長期の心電図モニタリングが従来法よりも有用であることが、無作為化対照試験の結果、明らかにされた。イタリアのサクロ・クオーレ・カトリック大学のTommaso Sanna氏らCRYSTAL AF研究グループが報告した。現行のガイドラインでは、脳梗塞発症後の心房細動のルールアウトには、少なくとも24時間のECGモニタリングを行うことが推奨されている。しかし、最も有効なモニタリングの期間および様式は確立されていなかった。NEJM誌2014年6月26日号掲載の報告より。441例の患者を対象に、6ヵ月以内の初発AF検出までの期間を検討 脳卒中症例のうち20~40%は、完璧な診断評価を行っても原因がわからない(原因不明の脳卒中)という現状がある。そうしたことも含めて研究グループは、原因不明の脳卒中後のAF検出は、治療上の意義があるとして本検討を行った。 441例の患者を対象に、ICMを用いた長期モニタリングが、従来フォローアップ(対照)よりも有効であるかどうかを評価した。 被験者は40歳以上、24時間のECG心電図モニタリングではAF所見が認められなかった患者で、指標イベントの発生後90日以内に無作為化を受けた。 主要エンドポイントは、6ヵ月以内の最初のAF(30秒超持続)検出までの期間であった。副次エンドポイントには、12ヵ月以内の最初のAF検出までの期間などが含まれた。ICMモニタリングのAF検出、6ヵ月以内では従来法の6.4倍 ICM群には221例が、対照群には220例が無作為化された。指標イベントから無作為化までの期間中央値は38.1±27.6日であった。ベースライン時の患者特性は、平均年齢61.5±11.3歳、女性が36.5%、指標イベントの90.9%は非ラクナ梗塞であった。 結果、6ヵ月以内のAF検出率は、ICM群8.9%(19例)に対して対照群1.4%(3例)であった(ハザード比[HR]:6.4、95%信頼区間[CI]:1.9~21.7、p<0.001)。 12ヵ月以内のAF検出率は、ICM群12.4%(29例)に対して対照群2.0%(4例)であった(ハザード比[HR]:7.3、95%信頼区間[CI]:2.6~20.8、p<0.001)。 結果を踏まえて著者は、「原因不明の脳卒中後のAF検出について、ICMによる心電図モニタリングは、従来の追跡方法よりも優れていた」と結論している。

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高血圧は全ての心血管疾患発症リスク:英国プライマリケア医登録研究(解説:桑島 巌 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(219)より-

日本の「高血圧治療ガイドライン2014」では中年層の降圧目標が根拠が乏しいまま緩和されたが、それを再び見直す必要を思わせる英国プライマリ・ケア医登録追跡研究データである。 本研究の大きな特徴は英国でのプライマリ・ケア医に登録された患者の長期追跡であり、一般住民での検診をベースとした追跡研究と大きく異なる。したがっていわゆる虚弱体質や慢性炎症性疾患を有する例は含まれておらず、またすでに心筋梗塞、脳梗塞などの既往例も除外されており、あくまでも心血管疾患を初発するまでの追跡である。 結果は血圧が高いことが30歳から90歳までのどの年齢層にとっても、心血管疾患の発症のリスクであり、血圧が心血管系の大きな負荷であることをあらためて示した。心血管イベントにとって最も負担が少ない血圧レベルは収縮期血圧90~114 / 拡張期血圧60~74mmHgであり、J曲線はみられないことを示したが、至適血圧が120mmHgであることを確認した成績といえよう。 とくに収縮期血圧上昇と関連が深いのは脳出血、くも膜下出血、安定狭心症、心筋梗塞であり、拡張期血圧上昇と関連が深いのは腹部大動脈瘤であったという。とくに大動脈瘤は拡張期高血圧、脈圧が小さいことと関連していたのは意外である。 30歳代での高血圧患者における生涯心血管発症リスクは63.3%、正常血圧では46.1%であり、この世代で高血圧を有することは心血管発症を5年早める、という結果である。生活習慣病に関心をもたない健康過信世代の高血圧リスクに対する注意喚起を促す貴重なエビデンスである。 英国の医療制度は、国民の99%以上がプライマリ・ケア医に登録されて、プライマリ・ケア医から基幹病院へ紹介された場合も電子カルテで厳格に追跡されている。 患者はどの医療機関も選ぶことができるというわが国の医療システムとは根本的な違いがあるものの本研究の結果は、高血圧を降圧不十分なまま放置した場合の長期的予後を示す有用なエビデンスといえる。 最近、単年度の検診、人間ドック受診者150万人のデータから血圧基準を147mmHgと誤解を招くような発表を行った、日本人間ドック学会データとは根本的に異なるものである。

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体調変化は早めに連絡

心筋梗塞や脳梗塞は急に起こることがあるので、体調変化を感じたら早めに受診しましょう。心筋梗塞、脳梗塞発症のメカニズム脂質コア脂質コアの一部が障害を受けると、血栓の形成により、急速に血管が閉塞します。その結果、心筋梗塞や脳梗塞が発症します。Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.

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「SGLT2阻害薬の適正使用を呼びかけるRecommendation」で副作用事例と対応策を公表

日本糖尿病学会「SGLT2阻害薬の適正使用に関する委員会」は、SGLT2阻害薬の発売開始から約1ヵ月の副作用報告を受け、6月13日に「SGLT2阻害薬の適正使用を呼びかけるRecommendation」を公表した。発表によると、報告された副作用として、当初予想された尿路・性器感染症に加え、重症低血糖、ケトアシドーシス、脳梗塞、全身性皮疹など重篤な副作用が発症しているとのことである。同委員会では、「現時点では必ずしも因果関係が明らかでないものも含まれている」としたうえで、「今の時点でこれらの副作用情報を広く共有することにより、今後、副作用のさらなる拡大を未然に防止することが必要と考えRecommendationと具体的副作用事例とその対策を報告した」としている。■Recommendation1.SU 薬などインスリン分泌促進薬やインスリンと併用する場合には、低血糖に十分留意して、それらの用量を減じる(方法については下記参照)。患者にも低血糖に関する教育を十分行うこと。2.高齢者への投与は、慎重に適応を考えたうえで開始する。発売から3ヵ月間に65歳以上の患者に投与する場合には、全例登録すること。3.脱水防止について患者への説明も含めて十分に対策を講じること。利尿薬との併用は推奨されない。4.発熱・下痢・嘔吐などがあるとき、ないしは食思不振で食事が十分摂れないような場合(シックデイ)には休薬する。5.本剤投与後、皮疹・紅斑などが認められた場合にはすみやかに投与を中止し、副作用報告を行うこと。6.尿路感染・性器感染については、適宜問診・検査を行って、発見に努めること。問診では質問紙の活用も推奨される。7.原則として、本剤はほかに2剤程度までの併用が当面推奨される。■副作用の事例と対策(抜粋)●重症低血糖24例(うち4例が重症例)の低血糖が報告され、多数の糖尿病薬を使用している患者にさらに追加されている場合が多くみられた。併用薬はSU薬、インスリンに加えて、ほかの作用機序の薬剤も含まれている。SGLT2阻害薬の添付文書にあるように、スルホニルウレア剤、速効型インスリン分泌促進剤またはインスリン製剤と同剤を併用する場合は、低血糖のリスクを軽減するためあらかじめスルホニルウレア剤などの併用剤の減量を検討する必要がある。とくに、SU薬にSGLT2阻害薬を併用する場合には、DPP-4阻害薬の場合に準じて、以下の通りSU薬の減量を検討することが必要。グリメピリド2mg/日を超えて使用している患者は2mg/日以下に減じるグリベンクラミド1.25mg/日を超えて使用している患者は1.25mg/日以下に減じるグリクラジド40mg/日を超えて使用している患者は40mg/日以下に減じる●ケトアシドーシス1例の報告例。本例では極端な糖質制限が行われていた。SGLT2阻害薬の投与に際し、インスリン分泌能が低下している症例への投与では、ケトアシドーシス発現に厳重な注意を図るとともに、同時に栄養不良状態、飢餓状態の患者や極端な糖質制限を行っている患者への投与ではケトアシドーシスを発現させうることに注意が必要。●脳梗塞3例(うち2例重篤、1例非重篤)の報告。脱水が脳梗塞発現に至りうることに改めて注意を喚起し、高齢者や利尿剤併用患者などの体液減少を起こしやすい患者に対するSGLT2阻害薬の投与は、十分な理由がある場合のみとし、とくに投与初期には体液減少に対する十分な観察と適切な水分補給を必ず行い、投与中はその注意を継続する。また、脱水がビグアナイド薬による乳酸アシドーシスの重大な危険因子であることに鑑み、ビグアナイド薬使用患者にSGLT2阻害薬を併用する場合には、脱水と乳酸アシドーシスに対する十分な注意が必要。参考「ビグアナイド薬の適正使用に関する委員会」からhttp://www.jds.or.jp/modules/important/index.php?page=article&storyid=20●全身性皮疹・紅斑全身性皮疹が7例(うち6例は重篤)の報告、全身紅斑または紅斑性皮疹が4例(うち3例が重篤)の報告。SGLT2阻害薬投与後、1~12日目で発症。SGLT2阻害薬との因果関係が疑われ、投与に際しては十分な注意が必要。SGLT2阻害薬の使用にあたっては、「適応を十分考慮したうえで、添付文書に示されている安全情報に十分な注意を払い、また、本Recommendationを十分に踏まえて、とくに安全性を最優先して適正使用されるべき」と注意を喚起している。●詳しくは、「SGLT2阻害薬の適正使用に関する委員会」からhttp://www.jds.or.jp/modules/important/index.php?page=article&storyid=48

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血圧と12の心血管疾患の関連が明らかに~最新の研究より/Lancet

 30歳以上(最高95歳)の血圧値と12の心血管疾患との関連を分析した結果、どの年齢でも強い相関性が認められ、現状の高血圧治療戦略では生涯負荷が大きいことが明らかにされた。英国・Farr Institute of Health Informatics ResearchのEleni Rapsomaniki氏らが、同国プライマリ・ケア登録患者から抽出した125万例のデータを分析して報告した。著者は「今回の結果は、新たな降圧治療戦略の必要性を強調するものであり、その評価のための無作為化試験をデザインする際の有用な情報になると思われる」とまとめている。本報告は、血圧と心血管疾患との関連に関する最新の集団比較研究である。Lancet誌2014年5月31日号掲載の報告より。プライマリ・ケア登録125万例のデータを用いて分析 調査対象とした12の心血管疾患は、安定・不安定狭心症、心筋梗塞、予測していなかった冠動脈疾患死、心不全、心停止/突然死、一過性脳虚血発作、詳細不明の脳梗塞と脳卒中、くも膜下出血、脳内出血、末梢動脈疾患、腹部大動脈瘤)だった。 被験者データは、1997年1月~2010年3月にCALIBER(CArdiovascular research using LInked Bespoke studies and Electronic health Records)プログラムへと、225人のプライマリ・ケア医により登録された125万例分を用いた。被験者は30歳以上で、登録時は心血管疾患がなく、約5分の1(26万5,473例)が降圧治療を受けていた。 これらのデータについて、エンドポイントを12の心血管疾患の初発とし、臨床的に測定した血圧値と12の急性・慢性心血管疾患との関連を年齢特異的に比較検討した。また、生涯リスク(最高年齢95歳まで)と、その他リスク因子補正後の30歳、60歳、80歳時における心血管疾患発症の早まりを推算した。関連が低かったのは各年齢とも90~114/60~74mmHg、J曲線関連はみられず 追跡期間中央値5.2年の間に、8万3,098件の初発心血管疾患が記録されていた。 心血管疾患リスクが最も低かったのは、各年齢群とも、収縮期血圧値90~114mmHg、拡張期血圧60~74mmHgの人で、血圧低値群ではリスクが増大するというJ曲線関連のエビデンスはみられなかった。 また高血圧の影響は、心血管疾患エンドポイントでばらつきがあり、強く明白な影響が認められる一方で、まったく影響が認められない場合もあった。 収縮期血圧高値との関連が最も強かったのは、脳内出血(リスク比:1.44、95%信頼区間[CI]:1.32~1.58)、くも膜下出血(同:1.43、1.25~1.63)、安定狭心症(同:1.41、1.36~1.46)だった。逆に最も弱かったのは、腹部大動脈瘤(同:1.08、1.00~1.17)。 拡張期血圧と収縮期血圧の影響を比較した分析では、収縮期血圧上昇の影響が大きかったのは、安定狭心症、心筋梗塞、末梢動脈疾患だった。一方、拡張期血圧上昇の影響が大きかったのは腹部大動脈瘤であった。 脈圧の影響に関する分析では、腹部大動脈瘤だけが唯一、高値ほどアウトカムが良好となる逆相関がみられた(10mmHg上昇ごとのHR:0.91、95%CI:0.86~0.98)。なお脈圧の影響が最も強かったのは、末梢動脈疾患(HR:1.23、95%CI:1.20~1.27)だった。 高血圧症の人(血圧値140/90mmHg以上または降圧薬服用者)の30歳時における全心血管疾患発症の生涯リスクは63.3%(95%CI:62.9~63.8%)であるのに対して、正常血圧の人では46.1%(同:45.5~46.8%)だった。同年齢において高血圧は心血管疾患の発症を5.0年(95%CI:4.8~5.2年)早めることが示され、狭心症の発症が最も多かった(43%;安定狭心症22%、不安定狭心症21%)。 一方80歳時では、高血圧の影響による発症の早まりは1.6年(95%CI:1.5~1.7年)で、心不全、安定狭心症(それぞれ19%)が最も多かった。

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エキスパートに聞く! 「SGLT2阻害薬」 パート1

日常診療で抱く疑問に、専門医がわかりやすく、コンパクトに回答するコーナーです。今回は「糖尿病診療」の中で今旬の話題である「SGLT2阻害薬」について、会員医師からの疑問にご回答いただきました。明日の診療から使えるコツをお届けします。1日に尿に排泄される糖は、約60g程度と聞いています。この量は血糖コントロールの改善に差が出てくるのでしょうか、ご教示ください。健常人では糸球体から180g/日(血糖値100mg/dLの場合)の糖が濾過されますが、血糖値が尿糖排泄閾値160~180mg/dLを超えない限り、近位尿細管に発現するSGLT2(再吸収の約90%を担う)とSGLT1(再吸収の約10%を担う)の働きによりほぼ100%再吸収されるため、尿糖排泄はみられません。一方、健常人にSGLT2阻害薬を投与すれば、SGLT1による糖再吸収能が高まり、尿糖排泄量は糸球体濾過量の1/3程度にとどまると考えられています。尿糖排泄量は、血糖管理状況と腎機能の影響を受けるため、2型糖尿病患者にSGLT2阻害薬を投与した場合、尿糖排泄量のバラツキは大きくなり、各薬剤の添付文書によれば、70~140g/日まで増加します。すなわち血糖値が高いほど、尿糖排泄量が多くなり、HbA1c低下量は大きくなります。このようにSGLT2阻害薬による血糖改善効果の程度は、腎機能が正常である限り、使用時のHbA1c値によって変わってきます。具体的な投与対象患者像について、また、投与を避けたほうがよい患者像について、ご教示ください。SGLT2阻害薬は尿糖排泄促進により血糖を改善するため、腎機能低下がない限り血糖を低下させます。また、体重減少、血圧低下、中性脂肪低下、HDL-コレステロール上昇、尿酸低下、糖毒性改善に伴うインスリン分泌能およびインスリン抵抗性の改善といった多面的効果も期待できます。その一方で、(1) 浸透圧利尿による多尿、頻尿、脱水、血圧低下、(2) 尿糖排泄増加に伴う尿路/性器感染症、(3) 糖新生促進によるケトン体増加、筋組織の萎縮など今後の臨床応用において留意すべき多くの点があります。各々の留意点として、(1) 口渇を感じにくい高齢者、腎機能低下例、利尿剤使用例、脳梗塞既往例、自律神経障害例、乳酸アシドーシス危険因子の保有例、(2) 尿路/性器感染症の既往例、とくに女性、(3) インスリン分泌能低下例(ケトアシドーシスリスク)、やせ、筋肉量が少ない例が挙げられます。つまり、最も適切な投与患者像は、非高齢の、罹病期間が比較的短い、肥満2型糖尿病例と考えられます。これらの患者においてもSU薬やインスリンとの併用時には低血糖発現に留意すべきで、あらかじめSU薬、インスリンを減量することを勧めます。コントロール不良例で使用する場合の注意点についてご教示ください。血糖管理不良例では尿糖排泄量が増加するため、SGLT2阻害薬の有効性は高くなります。しかし、血糖管理不良時には内因性インスリン分泌能を見極める必要があり、さらに頻尿、脱水などの副作用の頻度や重症度が高くなる可能性があるため注意が必要です。新規2型糖尿病患者の場合、肥満でインスリン非依存状態にあればよい適応です。しかし、非肥満例では糖新生に伴う骨格筋萎縮の懸念が強く、不適と考えます。すでに他剤が投与されているインスリン非依存例では、前投薬がインスリン製剤もしくはSU薬の場合は低血糖に、ビグアナイド薬の場合は乳酸アシドーシスに注意する必要があります。他剤の使用の有無にかかわらず、インスリン依存状態(体重減少例、ケトーシス例)ではケトアシドーシスに注意する必要があり、インスリン製剤を先行投与すべきです。SGLT2阻害薬のHbA1cの低下効果はどの程度でしょうか、ご教示ください。2014年6月18日現在、わが国ではイプラグリフロジン(商品名:スーグラ)、ダパグリフロジン(同:フォシーガ)、ルセオグリフロジン(同:ルセフィ)、トホグリフロジン(同:アプルウェイ/デベルザ)が発売、カナグリフロジンが発売準備中、エンパグリフロジンが承認申請中の状態です。一般にHbA1cの低下効果は、ベースラインHbA1c値に依存します。すなわちHbA1cが高い患者ほどよく下がります。わが国での臨床試験結果から、HbA1c8%程度に使用した場合、0.7~1.0%の低下が期待できると思われます。この効果は薬剤間で有効性に差はないものと思われます。単独療法での各SGLT2阻害薬のHbA1c改善効果は、52週時点で-0.6~0.67%と大きな差はありません。IC50で評価した各SGLT2阻害薬のSGLT2阻害活性が1.3~6.7nmol/Lと大きな違いがないことからも有効性に大差はないと考えられます。(高齢者の)浸透圧利尿による脱水の程度、およびその対処法や泌尿器科領域の感染症の頻度とその重症度について、ご教示ください。SGLT2阻害薬は尿糖排泄増加に伴う浸透圧利尿により尿量を増加させ、継続投与による尿量増加は200~600mL/日程度とされています。そのため、通常より約500mL/日多く飲水を行えば脱水を回避できると予想されます。継続投与による体液量関連指標の変化は、ヘマトクリット:+1%、尿素窒素:+1.5mg/dL、血清クレアチニン値:腎機能正常例-0.05mg/dL、中等度腎機能低下例+0.1mg/dL程度です。また、多尿、頻尿、口渇の発現率は、各々0~1%、2~5%、0~2%です。しかし、前述した値はあくまでも平均値であり、各々の値の標準偏差は大きいため、実地臨床で使用する場合には注意が必要であり、とくに口渇感を感じにくい高齢者、利尿剤使用例、血糖管理不良例では注意を要します。SGLT2阻害薬では、尿糖排泄増加による尿路や性器感染症が懸念されています。発現頻度は各々1~5%、1~7%で、重症度は軽症から中等症にとどまり、重症例は現時点で報告されていません。これらの多くは既往を有する例であり、とくに女性では注意が必要です。※エキスパートに聞く!「糖尿病」Q&A Part2はこちら

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「SGLT2阻害薬の適正使用を呼びかけるRecommendation」を公表

 日本糖尿病学会「SGLT2阻害薬の適正使用に関する委員会」は、SGLT2阻害薬の発売開始から約1ヵ月間の副作用報告を受けたことを踏まえ、6月13日に「SGLT2阻害薬の適正使用を呼びかけるRecommendation」を公表した。 発表によると、報告された副作用として、当初予想された尿路・性器感染症に加え、重症低血糖、ケトアシドーシス、脳梗塞、全身性皮疹など重篤な副作用が発症しているとのことである。 同委員会では、「現時点では必ずしも因果関係が明らかでないものも含まれている」としたうえで、「今の時点でこれらの副作用情報を広く共有することにより、今後、副作用のさらなる拡大を未然に防止することが必要と考えRecommendationと具体的副作用事例とその対策を報告した」としている。Recommendation 1. SU 薬等インスリン分泌促進薬やインスリンと併用する場合には、低血糖に十分留意して、それらの用量を減じる。患者にも低血糖に関する教育を十分行うこと。2. 高齢者への投与は、慎重に適応を考えたうえで開始する。発売から3ヵ月間に65歳以上の患者に投与する場合には、全例登録すること。3. 脱水防止について患者への説明も含めて十分に対策を講じること。利尿薬との併用は推奨されない。4. 発熱・下痢・嘔吐などがあるときないしは食思不振で食事が十分摂れないような場合(シックデイ)には休薬する。5. 本剤投与後、皮疹・紅斑などが認められた場合には速やかに投与を中止し、副作用報告を行うこと。6. 尿路感染・性器感染については、適宜問診・検査を行って、発見に努めること。問診では質問紙の活用も推奨される。7. 原則として、本剤はほかに2剤程度までの併用が当面推奨される。  さらに同委員会は、SGLT2阻害薬の使用にあたっては「適応を十分に考慮したうえで、添付文書に示されている安全情報に十分な注意を払い、また、本Recommendationを十分に踏まえて、とくに安全性を最優先して適正使用されるべき」と注意を喚起している。●詳しくは、「SGLT2阻害薬の適正使用に関する委員会」から■「SGLT2阻害薬」関連記事SGLT2阻害薬、CV/腎アウトカムへのベースライン特性の影響は/Lancet

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事例07 特定疾患療養管理料の査定(診療所 初診から1月以内)【斬らレセプト】

解説特定疾患療養管理料が、D事由(告示・通知の算定要件に合致していないと認められる)にて査定となった理由の問い合わせがあった。同管理料の留意事項には、「初診料を算定した初診の日又は退院の日からそれぞれ起算して1か月を経過した日以降に算定する。ただし、本管理料の性格に鑑み、1か月を経過した日が休日の場合であって、その休日の直前の休日でない日に算定要件を満たす場合には、その日に算定できる」ともあるとの訴えであった。よく内容を伺うと、事例の初診日3月20日から1ヵ月を経過した日は、4月20日となる。当日は日曜休診日であり、その前日の19日は土曜休診日であった。したがって、18日が算定要件を満たす日と判断してコメントを付記して提出したと説明された。しかし、この事例の19日は土曜日であって、「休日加算の取り扱い」(診療報酬点数表初診料の留意事項)に示される日曜日及び国民の祝日等に示される休日にはあたらないのである。もしも事例の19日が国民の休日にあたる場合には、18日に同管理料の算定はできる。

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CliPS -Clinical Presentation Stadium- @TOKYO2013

第1回「突然の片麻痺、構音障害」第2回「幸運にも彼女は肺炎になった」第3回「診断の目利きになる」第4回「Good Morning, NY!」第5回「不明熱」第6回「Ooops! I did it, again... 難しい呼吸困難の鑑別」第7回「Shock」第8回「外見の医療」第9回「What a good case!」第10回「首を動かすと電気が走る」第11回「木を診て森も診る」第12回「なぜキズを縫うのか」第13回「半年間にわたる間欠的な腹痛」第14回「高齢者高血圧管理におけるUnmet Medicak Needs: 『血圧変動』に対してどう考える?」第15回「患者満足度」第16回「ガイドラインって、そんなに大事ですか?」第17回「EBM or XBM?ーまれな疾患における診療方針決定の一例ー」第18回「原因不明を繰り返す発熱」第19回「脳卒中後の固定した麻痺 ―数年経過しても治療により改善するのか?―」第20回「眼科での恐怖の糖尿病」第21回「顔が赤くなるのは、すれてない証拠?」第22回「失神恐るるに足らず?」第23回「背部痛で救急搬送された82歳男性」第24回「免疫不全の患者さんが歩いてきた」第25回「初発痙攣にて搬送された 22歳女性  痙攣の鑑別に難渋した1例」【特典映像】魅せる!伝える!プレゼンの極意 『CliPS(Clinical Presentation Stadium)』は、限られた時間の中で、プレゼンター自身が経験した「とっておきの患者エピソード」や聞いた人が「きっと誰かに話したくなる」興味深い症例を「症例の面白さ(学び)」と「語りの妙(プレゼンスキル)」で魅せるプレゼンテーションの競演です。プレゼンターは、ケアネットでお馴染みの達人講師から若手医師・研修医まで。散りばめられたクリニカルパール。ツイストの効いたストーリー。ユーモアとウィットに富んだプレゼンの数々は、年齢、診療科にかかわりなく、医療者のハートをつかむことでしょう。あなたも『CliPS』の世界を楽しみ、学んで下さい!第1回「突然の片麻痺、構音障害」このタイトル『突然の片麻痺、構音障害』のような患者さんをみたとき、どのようなことを思い浮かべるでしょうか? おそらく診断は脳梗塞で良いだろうと。そして、治療計画、リハビリ、再発予防、介護状況など様々な側面にまで考えは及ぶでしょう。そういった様々な脳梗塞のマネージメントのうち、一番最初の診断のところでしていただきたい「あること」についてお話しします。患者さんの血液を採った時、一滴だけあることに使っていただきたいのです。第2回「幸運にも彼女は肺炎になった」近年、認知機能障害の患者さんに出会う機会は増えています。そして、その際にはしばしば「病歴のとりづらさ」や「診察への抵抗」に苦慮します。今回登場された伊藤先生も、正直言って、それらの患者さんには煩わしさや苦手意識を感じていたそうです。今回ご紹介する患者さんに出会うまでは・・・。治らないと思っていた病気が治るって素晴らしい!そんな症例です。第3回「診断の目利きになる」山中先生が日々の診断で気をつけていることはなんでしょうか?「はじめの1分間が何より大切」、「患者さんと眼の高さを合わせる」、「患者さんは本当のことを言ってくれない」、「キーワードから読み解く」、「診断の80%は問診による」、「典型的な症状をパッケージにして問う」など。診断の達人である山中先生の『攻める問診』メソッドの原点がここに表されています。患者さんの心をつかみ、効果的な病歴聴取や診察を行うためのさまざまなTIPSをご紹介いただきます。山中先生の話芸の素晴らしさにグイと引き込まれること必至です。第4回「Good Morning, NY!」岡田先生が、研修時代を過ごされたニューヨークでのお話。異国の病院で生き残るために、「日本人らしさ」と一貫した態度で信頼を勝ち得たそうです。2年目に出会った原因不明で発熱が続き、意識不明の患者さんとの感動的なエピソードを語っていただきます。第5回「不明熱」 不明熱をテーマに、膠原病科の岸本先生が、2ヶ月間も熱が下がらず、10kgの体重減、消化管に潰瘍、動脈瘤のある、36歳男性の症例をご紹介いただきます。学習的視点も踏まえた岸本先生の分かりやすいプレゼンテ-ションも必見です。第6回「Ooops! I did it, again... 難しい呼吸困難の鑑別」 呼吸困難をテーマに2つの症例を紹介いただきます。呼吸困難で典型的な疾患が心不全と肺炎。鑑別のキーポイントは、検査所見で十分でしょうか。一見ありふれた症例も、SOAPの順序を誤ると、、、非常に重要なメッセージが導き出されます。第7回「Shock」とびきり印象的なショックの症例を紹介します。イタリアンレストランに勤務されている61歳の男性。主訴は「気分が悪い」。ショック状態ですが、熱はなく、サチュレーションも正常。不思議なことに、毎年1回、同様の症状がでると。さて、この患者さんは?第8回「外見の医療」形成外科医の立場から人の「外見」という機能を語ります。顔の機能のうち「外見」という機能は、生命に直接関係ないものの、社会生活を営む上で需要な役割を果たしています。近い未来、「顔」の移植ということもあり得るのでしょうか?第9回「What a good case!」症例は29歳の女性。発熱と前胸部痛を主訴に見つかった肺多発結節影の症例。診断は?そして、採用された治療選択は?岡田先生の分かりやすいトークと意外性と重要な教訓に満ちたプレゼンテーションをお楽しみください。第10回「首を動かすと電気が走る」山中先生のかつて失敗して「痛い目」にあった症例です。60歳の男性で、主訴は「首を動かすと電気が走る」とのこと。しかし、発熱、耳が聞こえない、心雑音など異常箇所が増えていきます。せひ心に留めていただきたい教訓的なプレゼンテーションです。第11回「木を診て森も診る」46歳男性の糖尿病患者さん。 HbA1C が,この半年間で10.5%まで悪化。教育入院やインスリン導入を勧めるも、「それは出来ない」と強い拒絶。この背景にはいくつかの社会的・心理学的な要因があったのです。家庭医視点のプレゼンテーションです。第12回「なぜキズを縫うのか」なぜ傷を縫うのでしょうか? 額の傷を昨日縫合されたばかりの患者さんが紹介されてきたとき、菅原先生はすぐに抜糸をしてしまいました。なぜ?傷の治るメカニズムや、縫合のメリット/デメリットなどを形成外科のプロがわかりやすく解説します。第13回「半年間にわたる間欠的な腹痛」慢性的な下部腹痛の症例。半年前から明け方に臍周囲から下腹部の張るような痛みで覚醒するも、排便で症状は改善。内視鏡検査では大腸メラノーシスと痔を指摘されたのみで、身体所見も血液検査も異常なし。過敏性腸症候群?実際は・・・?第14回「高齢者高血圧管理におけるUnmet Medicak Needs: 『血圧変動』に対してどう考える?」高齢者の血圧の「日内変動」からいろいろなものが見えてくる。ある1ポイントの血圧だけでなく、幅広い視点からの血圧管理が必要。明日の高血圧治療にすぐに役立つプレゼンテーション!第15回「患者満足度」患者満足度にもっとも影響を与える因子は「医師」。その「医師」は患者満足度を上げるには、何をすればいいのでしょうか。岸本先生が研修医時代に学んだ心構えとは?第16回「ガイドラインって、そんなに大事ですか?」ガイドラインはどのくらい大切なのでしょうか。プラセボ効果の歴史を振り返りつつ、ガイドラインの背景にあるものに注目。第17回「EBM or XBM?ーまれな疾患における診療方針決定の一例ー」EBMだけでは対応できない稀なケースには、XBM(経験に基づく医療)で治療に臨まなければなりません。さて、今回の症例では?第18回「原因不明を繰り返す発熱」総合診療科の外来では「不明熱」の患者さんが多く訪れます。今回の「不明熱」に対して、記者出身の医師がしつこく問診を繰り返した結果、浮かび上がってきた答えは・・・。第19回「脳卒中後の固定した麻痺 ―数年経過しても治療により改善するのか?―」ボツリヌス療法と、経皮的電気刺激(TENS)とを併用して治療を行った症例についての報告です。さて、まったく動かすことのできなくなった患者さんの上肢には、どの程度の改善が見られたのでしょうか。第20回「眼科での恐怖の糖尿病」眼科医の視点から糖尿病を考えてみます。日本人の失明原因の第2位(1位の緑内障と僅差)が糖尿病網膜症となっています。内科医と眼科医の連携はまだまだ十分ではないと言えそうです。第21回「顔が赤くなるのは、すれてない証拠?」症例は70代男性の胸痛。1~2週間チクチクした鋭い痛みが一日中持続、緊急性は低そうです。検査をしても特徴的な所見に乏しく決め手に欠けました。さて、どんな疾患なのでしょう?実は大きなヒントがこの一見奇妙なタイトルに凝縮されているのです。第22回「失神恐るるに足らず?」患者が突然、目の前で意識を失って倒れたとします。まず一番最初に行うべきことは?「失神」は原因疾患によって予後が異なるため早期の正しい見極めが重要です。76歳女性の症例を題材に、日常臨床で遭遇する「失神」への対応を解説していただきます。第23回「背部痛で救急搬送された82歳男性」症例は82歳男性。背部痛を主訴に救急外来に搬送。しかしバイタルや検査では異常はなく痛み止めのみ処方。その一週間後に再び搬送された患者さんは激しい痛みを訴えているが、やはりバイタルは安定。ところが…。研修医時代の苦い経験を語ります。第24回「免疫不全の患者さんが歩いてきた」症例は59歳男性。悪性関節リウマチ、Caplan症候群という既往を持ち、強く免疫抑制をかけられている患者。発熱やだるさを主訴に歩いて外来受診。5日後、胸部CTで浸潤影があり入院。しかし肺炎を疑う呼吸器症状がありません。次に打つべき手とは?第25回「初発痙攣にて搬送された 22歳女性  痙攣の鑑別に難渋した1例」症例は22歳の女性。回転性めまいの後2分程度の初発痙攣があり救急搬送。診察・検査の結果、特記すべき所見はほぼ見あたらず、LAC5.1とやや上昇を認めるのみ。原因不明のまま「重篤な疾患はルールアウトされた」と判断。ところが全くの誤りでした。

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手強い診断書【Dr. 中島の 新・徒然草】(015)

十五の段 手強い診断書立場上、異動した医師の担当していた患者さんの診断書作成依頼が毎日のように回されてきます。いつのまにか、前任者のカルテだけを見て短時間で診断書を作成する要領が身についてしまいました。もちろん診断書作成ソフトはフル活用。そんなある日のこと。ヤケに分厚い紙の束がメールボックスに入っていたのです。名前だけは聞いたことのあるようなないような患者さんからの診断書作成依頼。中島「まっかせなさ~い。こんなものはチョコチョコポンだぜ」そう思って早速とりかかったのですが、これが難物。すでにメディカルクラークが下書きを試みていたのですが、ほとんどの欄が白紙のまま。まず困ったのが診断書作成ソフトの無力さです。患者さんは多発外傷で救急から脳外科に転科し、あわせて3回の入院、4回の手術、そして無数の外来受診をしているにもかかわらず、記入欄はそれぞれ2回、2回、7ヶ月分しかありません。それでも何とか書き終えて2通目は恐怖の手書き診断書。「事故当日の頭部CTを図示してください」「脳梗塞を起こしたときの頭部CTを図示してください」から始まり、「頭部外傷と脳梗塞の因果関係はどのようにお考えでしょうか?」ってアァタ、主治医でもないのに考えたこと、おまへんがな!これも何とか書き終えて3通目は後遺症の調査です。中島「たとえ会ったことがなくても、日常生活状況なんかは自宅に電話をかけて尋ねれば、チョイチョイチョイのチョ~イ」と思っていたらこれが甘かった。「外貌醜状を図示してください」「高次脳機能障害について心理テストの結果をお示しください。また原本のコピーを添付してください」前の主治医は心理テストなんかやってませんよ。「眼瞼下垂と外傷との因果関係をお教えください。また、眼瞼下垂の程度は上眼瞼が瞳孔にかかる、瞳孔に一部かかる、瞳孔を完全に覆うのいずれでしょうか?」「頻尿と外傷との因果関係の有無、1日の排尿回数をお教えください」眼瞼下垂? 排尿障害? そんなモンあったんか。これは電話で済む話では無さそう。そして…「肩関節の可動域制限について、その原因と可動域(自動・他動)をそれぞれ屈曲、伸展、外転、内転、外旋、内旋についての計測値を御記載ください」ここまでくると前任者のカルテ記載とか電話とかいう小手先は通用しません。「何でこんな厄介な診断書が…」と思いつつ、御自宅に電話しました。電話に出たのは患者さんの御主人です。中島「大阪医療センターの中島です」御主人「あっ、これはお世話になっています」中島「今診断書を作成しているところなんですけど」御主人「お手数をおかけします」中島「御本人を診ないことには記入の難しいところがあるので、ちょっと病院の方に御足労いただけないでしょうか」御主人「もちろん、いつでも参りますよ」中島「それでは早速ですが、明後日の午後はいかがですか? 1時間ほど時間をとれると思いますので」御主人「それでは明後日の午後にお伺いします。わざわざお電話いただいて恐縮です」中島「念のためですけど、御本人も連れて来てくださいね。長さや角度を測るんで、御主人だけ来ていただいても困りますんで」御主人「ええ、もちろんです。いやホントに先生、御親切にどうもありがとうございます!」すごく丁寧な御主人でした。質量ともに大変な診断書ではありましたが、このように感謝されると疲れも吹っ飛ぶ気がします。いささか単純ではありますが、人と人との関係なんてこんなモンですね。

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心臓カテーテル検査によって脳血管障害を来し死亡したケース

循環器最終判決判例タイムズ 824号183-197頁概要胸痛の精査目的で心臓カテーテル検査が行われた61歳男性。検査中に250を超える血圧上昇、意識障害がみられたため、ニトログリセリン、ニフェジピン(商品名:アダラート)などを投与しながら検査を続行した。検査後も意識障害が継続したが頭部CTでは出血なし。脳梗塞を念頭においた治療を行ったが、検査翌日に痙攣重積となり、気管切開、人工呼吸器管理となった。検査後9日目でようやく意識清明となり、検査後2週間で一般病室へ転室したが、その直後に消化管出血を合併。輸血をはじめとするさまざまな処置が講じられたものの、やがて播種性血管内凝固症候群、多臓器不全を併発し、検査から19日後に死亡した。詳細な経過患者情報高血圧、肥満、長期の飲酒歴、喫煙歴、高脂血症、軽度腎障害を指摘されていた61歳男性経過1983年1月12日胸がモヤモヤし少し苦しい感じが出現。1月18日胸が重苦しく圧迫感あり、近医を受診して狭心症と診断され、ニトログリセリンを処方された。1月26日某大学病院を受診、胸痛の訴えがあり狭心症が疑われた。初診時血圧200/92、心電図は正常。2月2日血圧160/105、心電図では左室肥大。3月初診から1ヵ月以上経過しても胸痛が治まらないので心臓カテーテル検査を勧めたが、患者の都合により延期された。9月胸痛の訴えあり。10月同様に胸痛の訴えあり。1983年5月25日左手親指の痺れ、麻痺が出現、運動は正常で感覚のみの麻痺。7月8日脳梗塞を疑って頭部CTスキャン施行、中等度の脳萎縮があるものの、明らかな異常なし。1985年9月血圧190/100、心電図上左軸偏位あり。1986年7月健康診断の結果、肥満(肥満度26%)、心電図上の左軸偏位、心肥大、動脈硬化症などを指摘され、「要精査」と判断された。冠状動脈の狭窄を疑う所見がみられたので、担当医師は心臓カテーテル検査を勧めた。9月17日心臓カテーテル検査目的で某大学病院に入院。9月18日12:30検査前投薬としてヒドロキシジン(同:アタラックス-P)50mg経口投与。検査開始前の血圧158/90、脈拍71。13:30血圧154/96。右肘よりカテーテルを挿入。13:48右心系カテーテル検査開始(肺動脈楔入圧、右肺動脈圧)。13:51心拍出量測定。13:57右心系カテーテル検査終了。この間とくに訴えなく異常なし。14:07左心系カテーテル検査開始、血圧169/9114:13左心室圧測定後間もなく血圧が200以上に上昇。14:21血圧232/117、胸の苦しさ、顔色口唇色が不良となる。ニトログリセリン1錠舌下。14:27血圧181/111と低下したので検査を再開。14:28左冠状動脈造影施行(結果は左冠状動脈に狭窄なし)、血圧は150-170で推移。左冠状動脈造影直後に約5.1秒間の心停止。咳をさせたところ脈は戻ったが、徐脈(45)、傾眠傾向がみられたので硫酸アトロピン0.5mg静注。血圧171/10214:36左心室撮影。血圧17514:40左心室のカテーテルを再び大動脈まで戻したところ、再度血圧上昇。14:45血圧253/130、アダラート®10mg舌下。14:50血圧234/12314:56血圧220程度まで低下したので、右冠状動脈造影再開。14:59血圧183/105。右冠状動脈造影終了(25~50%の狭窄病変あり)、直後に約1.8秒の心停止出現。15:01検査終了後の血管修復中に血圧230/117、ニトログリセリン4錠舌下。15:04カテーテル抜去、血圧224/11715:30検査室退室。血圧150/100、脈拍77、呼びかけに対し返答はするものの、すぐに眠り込む状態。15:40病室に帰室、血圧144/100、うとうとしていて声かけにも今ひとつ返答が得られない傾眠状態が継続。19:00呼名反応やうなずきはあるがすぐに閉眼してしまう状態。検査から3時間半後になってはじめて脳圧亢進による意識障害の可能性を考慮し、脳圧降下薬、ステロイド薬の投与開始。9月19日08:00左上肢屈曲位、傾眠傾向が継続したため頭部CT施行、脳出血は否定された。ところが検査後から意識レベルの低下(呼名反応消失)、左上肢の筋緊張が強くなり、左への共同偏視、左バビンスキー反射陽性がみられた。15:00神経内科医が往診し、脳塞栓がもっとも疑われるとのコメントあり。9月20日全身性の痙攣発作が頻発、意識レベルは昏睡状態となる。気管切開を施行し、人工呼吸器管理。痙攣重積状態に対しチオペンタールナトリウム(同:ラボナール)の持続静注開始。9月24日痙攣発作は消失し、意識レベルやや改善。9月27日ほぼ意識清明な状態にまで回復したが、腎機能の悪化傾向あり。9月30日人工呼吸器より離脱。10月3日09:30状態が改善したためICUから一般病室へ転室となる。13:00顔面紅潮、意識レベルの低下、大量の消化管出血が出現。10月4日上部消化管内視鏡検査施行、明らかな出血源は指摘できず、散在性出血がみられたためAGML(急性胃粘膜病変)と診断された。ところが、その後肝機能、腎機能の悪化、慢性膵炎の急性増悪、腎不全などとともに、血小板数の低下、フィブリノーゲンの著明な減少などからDICと診断。10月8日15:53全身状態の急激な悪化により死亡。当事者の主張患者側(原告)の主張1.心臓カテーテル検査の適応検査前に狭心症に罹患していたとしても軽度なものであり、心臓カテーテル検査を行う医学的必要性はなかった。また、検査の3年前から脳梗塞の疑いがもたれていたにもかかわらず、脳梗塞の症状がある患者にとってはきわめて危険な心臓カテーテル検査を行った2.異常高血圧にもかかわらず検査を中止しなかった過失250を越える異常な血圧の上昇を来した時点で、事故の発生を未然に防止するために検査を中止すべき注意義務があったのに、検査を強行した3.神経内科の診察を早期に手配しなかった過失検査終了時点で意識障害があり、脳塞栓が疑われる状況であったのに、神経内科専門医の診察を依頼したのは検査後24時間も経過してからであり、適切な処置が遅れた4.死因医学的に必要のない検査を行ったうえに、検査中の脳梗塞発症に気付かず検査を続行し、検査後もただちに専門医の診察を依頼しなかったことが原因で、最終的には胃出血によるDICおよび多臓器不全により死亡に至ったものである病院側(被告)の主張1.心臓カテーテル検査の適応患者には胸痛のほか、高血圧、肥満、長期の飲酒歴、喫煙歴、高脂血症、軽度腎障害などの冠状動脈狭窄を疑わせる所見が揃っており、冠状動脈を精査し、手術なり薬剤投与なりを開始することが治療上不可欠であった。脳梗塞については、検査の3年前に施行した頭部CTスキャンで異常はなく、自覚症状としてみられた左手親指、人差し指の感覚障害は末梢神経または神経根障害と考えられ、改めて脳梗塞を疑うべき症状は認められなかった2.異常高血圧にもかかわらず検査を中止しなかった過失心臓カテーテル検査中に最高血圧が230-250になるのは臨床上起こり得ることであり、血圧上昇時には必要に応じて降圧薬を投与し、経過を観察しながら検査を継続するものである。そして、200以上の血圧上昇がもつ意味は患者によって個体差があり、普段の血圧が170-190くらいであった本件の場合には検査時のストレスによって血圧が200以上になっても特別に異常な反応ではない3.神経内科の診察を早期に手配しなかった過失検査後に意識レベルが低下し、四肢硬直がおきたため脳梗塞、脳幹部循環障害などの可能性を考え、治療を開始するとともに神経内科などに相談しながら、最良の治療を行った4.死因死因は脳病変に基づくものではなく、意識障害が回復した後の消化管出血によるDIC、および多臓器不全に伴った心不全である。この消化管出血にはステロイド薬の使用、ストレスなどが関与したものであるが、抗潰瘍薬の投与などできるだけ予防策は講じていたのであるから、やむを得ないものであった裁判所の判断1. 心臓カテーテル検査の適応患者には検査前から高血圧、肥満、長期の喫煙歴、軽度の腎障害など、虚血性心疾患の危険因子のうちいくつかが明らかに存在し、さらに心電図で左室肥大および左軸偏位が認められ、胸痛という自覚症状もあったので、狭心症を疑って心臓カテーテル検査を行ったことに誤りはない。さらに急性期の脳梗塞患者、発症直後の脳卒中患者には冠状動脈造影を行ってはならないとされているが、本件の場合には検査前に急性期の脳梗塞が疑われるような症状はないので、心臓カテーテル検査を差し控えなければならないとはいえない。2. 異常高血圧にもかかわらず検査を中止しなかった過失250を越える異常な血圧の上昇がみられた時点で、検査のストレスによる血圧上昇だけでは説明できない急激な血圧の上昇であることに気付き、脳出血を主とする脳血管障害発生の可能性を考え、検査を中止するべきであった。さらに検査で用いた76%ウログラフィン®(滲透圧の高い造影剤)のため、脳梗塞によって生じた脳浮腫をさらに増強させる結果になった。3. 神経内科の診察を早期に手配しなかった過失検査終了後は、ただちに専門の神経内科医に相談するなどして合併症の治療を開始するべきであったのに、担当医らが脳血管障害の可能性に気付いたのは、検査終了から3時間半後であり、その間適切な治療を開始するのが遅れた。4. 死因脳梗塞が発症したにもかかわらず、検査を続行したことによって脳浮腫が助長され、意識障害が悪化した。さらに検査終了後もただちに適切な処置が行われなかったことが、胃からの大量出血を惹起し死亡にまで至らしめた大きな原因の一つになっている。原告側合計8,276万円の請求に対し4,528万円の判決考察心臓カテーテル検査に伴う死亡率は、1970年代までは多くの施設で1%を越えていましたが、技術の進歩とヘパリン使用の普及により、現在は0.1~0.3%の低水準に落ち着いています。また、心臓カテーテル検査に伴う脳血管障害の合併についても、0.1~0.2%の低水準であり、「組織だった抗凝固処置」によって大部分の脳血管系の事故が防止できるという考え方が主流になっています。カテーテル検査中に脳塞栓を生じる機序としては、(1)カテーテルによって動脈硬化を起こした血管に形成された壁在血栓が剥離されて飛ばされ、脳の血管に流れた結果脳梗塞を生じる(2)カテーテルの周囲に形成された血栓またはカテーテルのなかに形成された血栓が飛ばされ、脳の血管に移行して脳梗塞を生じる(3)粥状硬化、動脈硬化を起こした血管の粥腫(アテローム)がカテーテルによって剥離されて飛ばされ、脳の血管に流された結果脳梗塞を生じるの3つが想定されています。これに対する処置としては、(1)十分なヘパリン投与を行った患者においても、カテーテルのフラッシュは十分注意しかつ的確に行うこと(2)ガイドワイヤーは使用する前に十分に拭い、血液を付着させないこと(3)ガイドワイヤーを入れたままのカテーテル操作は、1回あたり2分以内にとどめること(2分経過後はガイドワイヤーを必ず抜き出して拭い、再度ガイドワイヤーを用いる時はカテーテルをフラッシュする)(4)リスクの高い患者では不必要にカテーテルやガイドワイヤーを頸動脈や椎骨脳底動脈に進めないなどが教科書的には重要とされていますが、現在心臓カテーテル検査を担当されている先生方にとってはもはや常識的なことではないかと思います。つまり本件では、心臓カテーテル検査中に発症した脳血管障害というまれな合併症に対し、どのように対処するべきであったのか、という点が最大のポイントでした。裁判所の判断では、心臓カテーテル検査中に「血圧が250以上に上昇した時点ですぐに検査を中止せよ」ということでしたが、循環器内科医にとってすぐさまこのような判断をすることは実際的ではないと思います。ここで問題となるのが、(1)コントロールはこれでよかったか(2)障害の可能性を念頭に置いていたかという2点にまとめられると思います。この当時の状況を推測すると、大学病院の循環器内科に入院して治療が行われていましたので、1日に数件の心臓カテーテル検査が予定され、全例を何とか(無事かつ迅速に)こなすことに主眼がおかれていたと思います。そして、検査中にみられた高血圧に対しては、とりあえずニトログリセリン、アダラート®などを適宜使用するのがいわば常識であり、通常のケースであれば何とか検査を終了することができたと思います。にもかかわらず、本件では降圧薬使用後も250を越える高血圧が持続していました。この次の判断として、血圧は高いながらも一見神経症状はなく大丈夫そうなので検査を続行してしまうか、それとも(少々面倒ではありますが)ニトログリセリン(同:ミリスロール)などの降圧薬を持続静注することによって血圧を厳重にコントロールするか、ということになると思います。結果的には前者を選択したために、裁判所からは「異常高血圧を認めた時点で検査中止するのが正しい」と判断されました。日常の心臓カテーテル検査では、時に200を超える血圧上昇をみることがありますが、ほとんどのケースでは無事に検査を終了できると思います。さらに、心臓カテーテル検査中に脳梗塞へ至るのは1,000例ないし500例に1例という頻度ですから、当時の状況からして、急いで微量注入器を準備して降圧薬の持続静注をするとか、血圧が安定するまでしばらく様子をみるなどといった判断はなかなか付きにくいのではないかと思います。しかし、本件のように心臓カテーテル検査中に脳血管障害が発症しますと、あとからどのような抗弁をしようとも、「異常高血圧に対して適切な処置をせず検査を強行するのはけしからん」とされてしまいますので、たとえ時間がかかって面倒に思っても、厳重な血圧管理をしなければあとで後悔することになると思います。次に問題となるのが、心臓カテーテル検査中に生じた「少々ボーっとしている」という軽度の意識障害をどのくらい重要視できたかという点です。後方視的にみれば、誰がみてもこの時の意識障害が脳梗塞に関連したものであったことがわかりますが、当時の担当医は「検査前投薬の影響が残っていて少しボーっとしているのであろう」と考えたため、脳梗塞発症を認識したのは検査から3時間半も経過したあとでした。前述したように、心臓カテーテル検査で脳梗塞を合併するのは1,000例ないし500例に1例という頻度ですから、ある意味では滅多に遭遇することのないリスクともいえます。しかし、日常的にこなしている(安全と思いがちな)検査であっても、どこにジョーカーが潜んでいるのか予測はまったくつかないため、本件のような事例があることを常に認識することによって早めの処置が可能になると思います。本件でも脳梗塞発症の可能性をいち早く念頭においていれば、たとえ最悪の結果に至ってしまっても医事紛争にまでは発展しなかった可能性が十分に考えられると思います。判決文全体を通読してみて、今回この事例を担当された先生方は真摯に医療の取り組まれているという印象が強く、けっして怠慢であるとか、レベルが低いなどという次元の問題ではありません。それだけに、このような医事紛争へ発展してしまうのは大変残念なことですので、少しでも侵襲を伴う医療行為には「最悪の事態」を想定しながら臨むべきではないかと思います。循環器

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急性心筋梗塞後にも心房細動患者にはCKDのステージに関わらずワルファリンを投与すべき!でも、日本でも同じ?(コメンテーター:平山 篤志 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(190)より-

ワルファリンは、心房細動患者で心原性脳梗塞や全身性塞栓症を予防するには有効な薬剤で、出血のリスクはあっても、Net Clinical Benefitの点からCHADS2スコアを考慮して使用すべきとされている。しかし、CKDのステージが進行するにつれ出血のリスクが増加することから、ワルファリン投与についてはControversialであった。 Carreroらはスウェーデン国内のすべての病院から急性期心疾患の登録研究を用いて、急性心筋梗塞後に退院した心房細動患者でワルファリン治療の効果を検討した結果、CKDのステージに関係なくワルファリン投与が優れていることを示した。また同時に、本論文においては急性心筋梗塞であっても抗血小板薬よりワルファリンの投与を優先すべきであることも示唆した。 しかし、この結論をすぐにわが国における実臨床の場に適応できるかというと、2つの問題点をあげておかなければならない。 まず、ワルファリンのコントロール状況を示すTime in Therapeutic Range(TTR)は、スウェーデンでは実臨床において70%以上である。TTRが低下すれば、よりイベントは塞栓症の発症も出血も多くなることが知られている。わが国では循環器専門病院でも50~60%と報告されていることから考えれば、さらに実際は低いと考えられるので、スウェーデンと同等のワルファリンの効果が得られるかは疑問である。 次に、急性心筋梗塞の治療でのPCIを含めた血行再建の頻度である。この登録研究では、PCIとCABGを含めた血行再建の頻度が30%程度である。おそらく90%以上に血行再建が行われ、しかもステントがPCIのほとんどに使用されているわが国の状況では、アスピリンとチエノピリジン系の2剤の抗血小板療法(Dual Antiplatelet Therapy:DAPT)が通常処方されている。心房細動があれば、ワルファリンを加えた3剤投与(Triple therapy)が必要となり、さらに出血のリスクが増加すると予測される。 WOEST試験でもTriple therapyには疑問が出されている。この論文でも、DAPTの頻度がワルファリン使用群で16.8%であるのに比べ、ワルファリン非使用群では52.6%であることを考えれば、直ちにすべての患者、とくに出血リスクの高い進行したCKD患者で、しかも実臨床で厳密なTTRのコントロールが困難なわが国において、同様なアウトカムを出せるかは疑問である。 今後CKDを合併した心房細動を有する心筋梗塞患者は、わが国でも増加すると考えられる。これらの患者にどのような抗凝固・抗血栓療法を行うかは、われわれが解決しなければならない問題である。

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「案ずるより産むが易し」とはいうけれど・・・(コメンテーター:後藤 信哉 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(183)より-

女性にとって出産は人生の一大イベントである。母子ともに無事であることは社会全体の一致した願いである。 しかし、「願い」と「事実」の間には解離がある。科学は感情とは無関係に事実を明らかにする。心筋梗塞、脳梗塞、静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症/肺血栓塞栓症)は前触れなしに突然発症する。心筋梗塞、肺塞栓症であれば発症後1時間後に死亡しても不思議はない。脳梗塞になれば発症後速やかに生涯に渡る麻痺という運命が決まってしまう。突然発症し、不可逆的な血栓イベントを避けたい気持ちは医師、患者、社会が共有している。 しかし、今回の論文は、出産後3ヵ月は血栓イベントリスクが高いことを容赦のない事実として示した。初回出産女性168万7,930例で出産後1年6ヵ月までの間に248例の脳卒中、47例の心筋梗塞、720例の静脈血栓塞栓症が発症したことは米国における事実である。イベントの多くは出産後6週以内に起こった。 出産という大事を成し遂げた母体をいたわる気持ちは世界共通であろう。もともと血栓イベントが起こり難い若い女性が脳卒中、心筋梗塞、静脈血栓塞栓症などを発症した場合、近親はどこにも向けられない怒りを感じることも理解できる。これらのイベント発症リスクは絶対値としては大きくない。 しかし、少数例といえども、適切な医療介入の元にあっても不幸なイベントが起こり得ることを事実として、感情とは切り離して取り扱う米国人の姿勢には学ぶことが多い。血栓イベントであるから「抗血栓薬」で予防できると考える人もいるかも知れない。しかし、一般論として重篤な出血イベントを年間数%惹起する「抗血栓薬」を「妊婦」という集団に一律に介入することはよいとは言えない。 滅多に起こらないけれど、起こると破局的となるイベントを「出血」という不可避の副作用を有する薬剤により予防するためには、「血栓イベント」リスクの著しく高い個人を同定する「個別化医療」の構成論的論理が必要である。 現時点では「患者集団の血栓イベントリスクを低減できる」介入手段はある。しかし、その介入素手段には「出血リスクの増加」という副作用がある。 血栓イベントは妊婦には滅多に起こることがなく、血栓イベントを起こす個人を同定する「個別化医療」の論理は確立されていない。自分の近親者が出産後の幸せな時期に血栓イベントにより急変すればどこにも向けようのない怒りと悲しみの感情が生まれることは理解できるが、科学は感情とはかかわりなく低い確率ではあるが不幸が現実として起こっていることを客観的に示している。われわれは、現実を数値として受け入れるしかない。

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第23回 非専門医に求められる医療水準の範囲

■今回のテーマのポイント1.神経疾患で一番訴訟が多い疾患は脳梗塞であり、争点としては、治療の遅れおよび診断の遅れが多い2.非専門科に求められる医療水準は、専門科において求められる水準よりも低い3.ただ、非専門科においても一般医学書程度の知識は要求される事件の概要X(71歳、女性)は、高血圧症などにてY病院循環器科外来(A医師)を受診していました。また、平成20年11月に追突事故に遭い、同事故の影響で左手指にしびれがでたこと、そのためリハビリ中であることをA医師に伝えていました。平成21年3月3日午後9時頃、持ち帰り用の食品を受け取るため、自宅付近の居酒屋を訪れ、代金を支払おうと財布から硬貨を取り出そうとしたところ、左手から硬貨を落とし、それを拾おうとしてはまた落としてしまいました。居酒屋の経営者夫妻は、Xのその様子および、Xの顔面の片側が垂れ下がっていたのをみて、同店で以前、脳梗塞を発症した客の様子と似ていたことから、救急車を要請しました。居酒屋に到着した救急隊員は、Xの状況について、椅子に座っており、意識清明、顔色正常、呼吸正常であること、歩行不能であったが、他自覚症状もなく、四肢のしびれや麻痺もなく、頭痛、嘔気、めまいもないことから、TIA(一過性脳虚血発作)疑いとしてかかりつけのY病院に受け入れ依頼をしました。Y病院受診時のXは、意識清明で、血圧166/110、歩行障害はなく、腱反射、瞳孔反射ともに正常でした。当直のB医師(消化器外科医)は、当時、TIAには意識障害があると思っていたため、XはTIAではないと判断し、ちょうど翌日、A医師の外来受診予定であったことから、夜間で十分な検査ができないので、翌日検査を受けるように伝え、異常時は再診するように伝えた上、Xを帰宅させました。翌4日、A医師が診察したところ、バレー徴候もなく、フィンガー・トゥ・ノーズテストも異常所見はなく、また、心音、呼吸音に問題はなく、末梢浮腫も認めませんでした。脳梗塞の診断のため、頭部MRI、MRAおよびDWI(拡散強調画像)を施行しましたが、陳旧性脳梗塞を認めるものの、新鮮な脳血管障害は認められませんでした。A医師が現症状を尋ねたところ、Xは「どうもありません。」と答えたことから、前日に原告が小銭を取りこぼしたのは、平成20年11月の追突事故による左手指のしびれのためと考え、従前の処方のみで経過観察としました。ところが、Xは、3月18日早朝、自宅で倒れているところを家族に発見され、Z病院に救急搬送されたところ、脳梗塞と診断されました。Z病院にて治療およびリハビリテーションを行ったものの、Xには、中等度の感覚性失語、右片麻痺により、要介護3級の状態となりました。そこで、Xは、Y病院に対し、遅くとも3月4日の段階でTIAと診断し、抗凝固療法などを行うべきであったとして、約8,050万円の支払いを求める訴訟を提起しました。事件の判決■原告一部勝訴(440万円)被告は、当時の医療水準では、非専門医療機関、非専門医に対しては、適切な問診を行い、TIA又はその疑いがあることを診断する義務があるというレベルまでは要求できないと主張し、P医師(被告側鑑定医)は、おおむね以下の内容の意見を述べている。各ガイドラインは、専門医及び一般内科医用とされているが、まず専門医の脳卒中治療を標準化し、それから一般内科医へ広がっていくように期待されているものであり、非専門医は通常見ないものであり、本件当時は、上記ガイドライン2009は出ておらず、もし出ていたとしても、非専門医がこれを知らなくても全くおかしなことではない。平成23年3月に一般内科医を対象としたアンケートでも、上記ガイドラインを読んだのは4分の1以下というのが実情である。TIAは、非専門医に正確に理解されておらず、非専門医の「TIA疑い」と診断した患者の多くはTIAではなく、実際にTIAであったケースは1割以下である。今日においても、非専門医が、単なる失神をTIAだと誤解している例がある。TIAの定義や診断については、専門医の間でもコンセンサスは得られていない。TIAにおける脳梗塞発症リスクの指標にABCD2スコアがあるが、今日においても非専門医には浸透していない。そのため、本件当時、非専門医がこれを知らなくても全く不思議なことではなく、不勉強だということでもない。しかしながら、P医師の上記意見は、次のとおり、いずれも採用できない。前記認定の一般的知見は、ガイドライン2009を待つまでもなく、今日の診断指針、メルクマニュアル等の極めて一般的な文献に基づいて認定し得るものであって、ガイドラインに関するP医師の意見はその前提を欠くものである。また、医療水準は医師の注意義務の基準となるものであって、平均的医師が現に行っている医療慣行とは必ずしも一致するものではない(最高裁判所平成8年1月23日第三小法廷判決・民集50巻1号1頁参照)。一般的な医学書にはTIAに関する記載がある以上、その記載程度の知識は非専門医でも得ておくべきであるから、そのような知識の獲得を怠り、TIAに関する間違った認識の下に行った診療行為は、他にも、TIAである旨の誤診が多く見られたり、単なる失神をTIAだと誤解した例があったからといって正当化されるものではない。さらに、被告は、TIAの定義や診断については専門医の間でもコンセンサスが得られておらず、また、ABCD2スコアは非専門医には浸透していないともいうが、定義について、専門家の間に、異論があるとしても、前記認定の一般的知見に基づく定義等は、平成2年以来、一般的に承認されているものであり、前記認定を妨げるものではない。また、ABCD2スコアは、TIAから脳梗塞発症のリスクを予測するための指標であり、TIA又はその疑いがあるか否かの診断に影響するものではない。以上によれば、P医師の上記意見によっても、医療水準についての前記判断は左右されないというべきであり、このような見解に沿った被告の前記主張は採用できない。(*判決文中、下線は筆者による加筆)(福岡地判平成24年3月27日判時2157号68頁)ポイント解説■神経疾患の訴訟の現状今回は、神経疾患です。神経疾患で最も訴訟となっているのは脳梗塞です(表1)。脳梗塞に対し、近年、抗凝固療法(血栓溶解療法)が行われるようになったことから、診断・治療の遅れによって予後に大きな変化が生じうるようになりました。その結果、表2をみていただければわかるように、昨今、訴訟となる事例が増加しており、争点も診断の遅れ、治療の遅れが中心となっています。ただ、訴訟となり始めたのが最近であることからか、原告勝訴率は低く、今回紹介した事例においても、原告勝訴はしていますが、認容額は請求額の5.5%ほどであり、実質的には原告敗訴ともいえる内容となっています。医療の進歩により、訴訟が増加することは皮肉ではありますが、その一方で現在の裁判所は慎重な判断をしているといえそうです。■非専門科に求められる医療水準今回の事例で問題となったのは、非専門科の医師にどこまでの医療水準が求められるかという点です。夜間、患者を診察したのが消化器外科医(B医師)で、翌朝外来にて診察したのが循環器内科医(A医師)であり、両者とも神経内科を専門としていません。そして、ともにTIAに関する認識が乏しかったため、抗凝固療法を行わず、かといって神経内科を受診させることもしませんでした。民事医療訴訟における過失とは、第1回で解説したように、「人の生命及び健康を管理すべき業務(医業)に従事する者は、その業務の性質に照らし、危険防止のために実験上必要とされる最善の注意義務を要求されるのであるが(最判昭和36年2月16日民集15巻2号244頁)、具体的な個々の案件において、債務不履行又は不法行為をもって問われる医師の注意義務の基準となるべきものは、一般的には診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準である(最判昭和57年3月30日民集135号563頁)。そして、この臨床医学の実践における医療水準は、全国一律に絶対的な基準として考えるべきものではなく、診療に当たった当該医師の専門分野、所属する診療機関の性格、その所在する地域の医療環境の特性等の諸般の事情を考慮して決せられるべきものであるが(最判平成7年6月9日民集49巻6号1499頁)、医療水準は、医師の注意義務の基準(規範)となるものであるから、平均的医師が現に行っている医療慣行とは必ずしも一致するものではなく、医師が医療慣行に従った医療行為を行ったからといって、医療水準に従った注意義務を尽くしたと直ちにいうことはできない」(最判平成8年1月23日民集50巻1号1頁)を指します。したがって、非専門科に求められる医療水準は、「専門科に求められる医療水準よりは低いのですが、かといって平均的医師が行っている医療慣行と常に一致するわけではなく、より高い水準が求められることもある」ということになります。本件訴訟において、被告側は非専門科におけるTIAの認識、診断の難しさを主張しましたが、判決では、一般医学書に記載されている程度の疾患概念の理解については、非専門科にも求められるとしました。本判決およびその他の判例からみた非専門科に求められる具体的な医療水準としては、「最新のガイドラインの内容を熟知することまでは必要ないが、一般的な医学書程度の知識は非専門科でも得ておくべきである」とする傾向があります(図)。非専門科においてまで高度な医療水準が求められるとなると、救急医療の崩壊を導くことは、2000年代の苦い経験です。ただ、その一方で、非専門科とはいえ、プロフェッションである医師に対し、一定程度の水準は求められるのは当然といえます。常に刷新し続ける医療において、この微妙なさじ加減につき、個別具体的な事例を通じて司法と医療の相互理解を継続していくことが、何より肝要と思われます。裁判例のリンク次のサイトでさらに詳しい裁判の内容がご覧いただけます。(出現順)最高裁判所平成8年1月23日第三小法廷判決・民集50巻1号1頁福岡地判平成24年3月27日判時2157号68頁本事件の判決については、最高裁のサイトでまだ公開されておりません。最判昭和36年2月16日民集15巻2号244頁最判昭和57年3月30日民集135号563頁最判平成7年6月9日民集49巻6号1499頁

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脳梗塞を正中神経麻痺と誤診したケース

整形外科最終判決判例時報 1631号100-109頁概要右手のだるさ、右手関節の背屈困難を主訴に整形外科を受診し、右正中神経麻痺と診断された47歳男性。約3ヵ月間にわたってビタミン剤投与、低周波刺激による理学療法を受けたが目立った効果はなく、やがて右顔面のしびれも顕著となったため患者は別の総合病院内科を受診した。諸検査の結果、脳梗塞と診断されたが、右手の症状は改善されずに高度の障害が残存した。詳細な経過患者情報とくに既往症のない47歳男性経過1991年11月頃右手が少しだるく感じるようになる。12月12日近所の接骨院を受診、マッサージおよび電気治療を受ける。しかし右手のだるさは改善せず、やがて右手を伸ばすことができなくなり、右手第3-第5指も動かなくなったため整形外科受診を勧められる。1992年1月6日某病院整形外科受診。症状が右手に限局していたため、正中神経麻痺と診断してビタミン剤の注射および内服を指示した。連日の通院により右手が少し動くようになり、痛みも減少したが、依然として右手のだるさ、動かしにくさは残存した。1月21日第1指、第3指の屈曲は可能であったが、伸展は不完全であり、内転もできないことが確認されたので、ビタミン剤に加えて低周波刺激による理学療法が追加された。2月右上腕から前腕にかけてしびれ感、痛みが生じる。3月6日右握力13kg、左握力41kg3月16日右顔面にしびれ感が生じ医師に申告したが、診断・治療内容に変更なし。4月8日なかなか症状が改善されないため、別の総合病院内科を受診。諸検査の結果脳梗塞が疑われたため、入院を勧められる。4月9日この時はじめて担当の整形外科担当医師は、末梢神経系の異常のみならず中枢神経系の異常を疑って頭部CTスキャンを施行。その結果、左側頭葉に脳梗塞を確認し、入院治療を勧めた。しかし前日に別の総合病院からも入院の必要性を説明されていたので患者は入院を拒否。4月14日総合病院内科に入院。右手の握力低下、右頬のしびれ、右上腕の突っ張る感じは脳梗塞(左後側頭葉)の後遺症であり、すでに慢性期となっていたのでこれ以上の改善は期待できず、抗血小板抑制剤などを内服しながら自宅でのリハビリを指示された。また、入院中に頸椎の後縦靱帯骨化症を指摘されたが、部分的なもので占拠率は低く、症候的ではないと判断された。さらに頸部MRIでは第5-第6頸椎椎間板ヘルニアを指摘されたが、手術は不要と判断された。4月24日さらに別病院に入院して脳血管撮影施行。左頸動脈の一部に狭窄が確認された。6月13日脳梗塞による右手手指の機能の著しい障害に対し、身体障害者4級の認定を受けた。当事者の主張患者側(原告)の主張初診当初から脳血管障害を疑うべき中枢性運動障害があったのに、右手のしびれ、手指のIP関節、MP関節の局所症状を正中神経麻痺と誤診したため、脳梗塞に対する早期の内科的、外科的治療のチャンスを失い、脳梗塞が治癒せずに後遺障害が残った病院側(被告)の主張当初は右手関節の背屈不能、しびれ感を主訴に受診したため正中神経麻痺と診断した。その後次第に改善傾向にあり、4月9日になってはじめて「口がしびれる」と訴えたため頭部CTスキャンを施行し脳梗塞が確認されたので、診断の遅延はない(なおカルテには3月16日に顔面のしびれが出現と記載)画像所見の脳梗塞(後側頭葉大脳皮質1.3×3.0cm三角形の病変)は、運動領野と知覚領野にまたがるほど広範囲ではないため、上肢と顔面に障害が及ぶとは考えにくい中枢性運動障害(錐体路障害)では手指のIP関節、MP関節に限局した局所症状は起こり得ない大脳皮質の脳梗塞では疼痛は起こり得ないため、顔面のしびれを訴え始める前の原告の症状(右上肢のしびれや疼痛、運動障害)は後縦靱帯骨化症もしくは椎間板ヘルニアに起因する症状である裁判所の判断各病院のカルテ記載、原告の申告内容から判断して、右上肢の障害発症は平成3年11月ないし12月であり、初診当初から中枢性運動障害であって脳血管障害を疑うべき状態であった画像所見で問題となった左後側頭葉以外に、左内包後脚にも低吸収域を疑う病変がある(患者側鑑定人の意見を採用)。各病院で撮影したMRI上左内包後脚に病変を指摘できないからといって、本件の脳梗塞が左後側頭葉の大脳皮質に生じた小さなものと即断できない。MRIの読影には読影者の経験・技量によるものが大きい中枢性運動障害(錐体路障害)によって手指のIP関節、MP関節に限局した局所症状は起こり得ないとは限らない原告が訴えた右上肢の疼痛は、脳血管障害に起因する運動障害により四肢を動かさないことによる拘縮の痛みである可能性がある以上から、たとえ被告の専門が神経内科ではなく整形外科であったとしても、脳梗塞であったことに3ヵ月も気付かず正中神経麻痺の診断ならびに治療を継続したことは、医師として軽率であったとの誹りを逃れることはできない。原告側合計6,000万円の請求に対し3,999万円の判決考察本件では(1)発症時の年齢が47歳と脳梗塞のケースとしてはやや若年齢であったこと(2)初診時の症状が右上肢だけに限局し、それも手指のIP関節、MP関節の局所症状であり正中神経麻痺でも説明可能と思われるなど、脳梗塞としては非典型的であり、診断が困難なケースであったと思います。しかし、初診から約3ヵ月もビタミン剤を投与し続けてあまり効果が得られなかったことに加えて、右顔面のしびれという新たな症状を申告したにもかかわらず担当医師は取り合わなかったことは、注意義務違反とされても仕方がないと思います。裁判でもその点に注目していて、「カルテには日付および診察した医師名以外何も記載されていないことが多く、仮に記載されていたとしてもきわめて簡潔にしか記載されていない場合が多いので、原告が訴える症状が忠実にカルテに記載されていたかどうか疑問である」とされました。つまり、カルテの記載がお粗末な点をみて「きちんと患者を診ていないではないか」という判断が優先したような印象です。ことにこの病院では5名の医師が代わる代わる診察に当たっていて、一貫して症状を追跡していた医師がいなかったことも問題を複雑にしています。この5名の医師のなかにはアルバイトの先生も含まれていたでしょうから、そのような医師にとっては、いったん「正中神経麻痺」という診断がついて毎日のようにビタミン剤の注射や理学療法を受けている患者に対し、改めて検査を追加したり症状を細かくみるといったことは省略されやすいと思います。したがって、病院側の対応が遅れたという点に関しては同情する面もありますが、やはり患者の申告にはなるべく耳を傾けるようにしないと、予期せぬ事態を招くことになると思います。一方で、裁判官の判断にも疑問点がいくつかあります。1. この患者さんは脳梗塞にもっと早く気付いていたら本当に回復の可能性があったのでしょうか?本件では左後側頭葉大脳皮質に発生した3cm程度の「脳血栓」であり、脳血管撮影では(詳細な部位は不明ですが)左頸動脈に狭窄病変が確認されたとのことです。しかも発症は急激ではなく、初診の約2ヵ月前から「少し右手がだるい」という症状で始まりました。裁判所は脳梗塞の教科書的な説明を引用して、「脳梗塞の患者は発症初期から入院させ精神的かつ身体的安静を与え、脳梗塞とそれによる脳浮腫を軽減させるための薬物療法を行うとともにリハビリを開始し、慢性期には運動療法および脳循環代謝改善薬の投与などを行わなければ運動障害などの後遺症を回避することは困難である」ため、早く脳梗塞に気付かなかったのは病院側が悪い、残った後遺障害はすべて医者の責任だ、と短絡しています。脳梗塞を数多く診察されている先生ならばすでにお気づきのことと思いますが、脳梗塞はいったん発症すると完全に元に戻るような治療法はなく、むしろ再発予防のほうに主眼がおかれると思います。本件では発症が緩徐であったために初診時にはすでに1ヵ月以上経過していたため、裁判所のいうような「脳浮腫」は初診時にはほとんど問題にはなっていなかった可能性が高いと思います。つまり、最初から脳梗塞と診断されていたとしても結果はあまり変わらなかった可能性のほうが高いということです。2. 病院側の主張を否認するためにかなり強引な論理展開をしている点たとえば、「患者が主張した「右上肢の疼痛」は脳梗塞ではおきないので、この時の症状には後縦靱帯骨化症もしくは頸椎椎間板ヘルニアによるものと考えるのが妥当である」という病院側の主張に対し、「右上肢の疼痛は、脳血管障害に起因する運動障害により四肢を動かさないことによる拘縮による痛みである」と判断しています。もちろん、脳梗塞によって高度の片麻痺が生じた患者さんであれば、拘縮による疼痛がみられることもしばしば経験されます。しかし、本件ではあくまでも「軽度の運動障害、軽度の握力低下」を来した症例ですので、関節が拘縮して救急車を呼ばなければならないような痛みが出現するとは、とても思えません(痛みに対しては心因的な要素も疑われます)。また、「画像所見の脳梗塞は運動領野と知覚領野にまたがるほど広範囲ではないため、上肢と顔面に障害が及ぶとは考えにくい」という病院側の主張を、「MRIの読影には読影者の経験・技量によるものが大きい」ことを理由に退けているのはかなり恣意的な判断といわざるを得ません。このような納得のいかない判決に対しては、医学的に反論する余地も十分にあるとは思うのですが、カルテ記載などがお粗末で患者をよくみていない点をことさら取り上げられてしまうと、「医者が悪い」という結論を覆すのは相当難しいのではないかと思います(本件は第1審で確定)。整形外科

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薬剤投与後の肝機能障害を見逃し、過誤と判断されたケース

消化器最終判決判例時報 1645号82-90頁概要回転性の眩暈を主訴として神経内科外来を受診し、脳血管障害と診断された69歳男性。トラピジル(商品名:ロコルナール)、チクロピジン(同:パナルジン)を処方されたところ、約1ヵ月後に感冒気味となり、発熱、食欲低下、胃部不快感などが出現、血液検査でGOT 660、GPT 1,058と高値を示し、急性肝炎と診断され入院となった。入院後速やかに肝機能は回復したが、急性肝炎の原因が薬剤によるものかどうかをめぐって訴訟に発展した。詳細な経過患者情報69歳男性経過1995年4月16日朝歯磨きの最中に回転性眩暈を自覚し、A総合病院神経内科を受診した。明らかな神経学的異常所見や自覚症状はなかったが、頭部MRI、頸部MRAにてラクナ型梗塞が発見されたことから、脳血管障害と診断された(4月17日に行われた血液検査ではGOT 21、GPT 14と正常範囲内であり、肝臓に関する既往症はないが、かなりの大酒家であった)。6月7日トラピジル、チクロピジンを4週間分処方した。7月5日再診時に神経症状・自覚症状はなく、トラピジル、チクロピジンを4週間分再度処方した。7月7日頃~感冒気味で発熱し、食欲低下、胃部不快感、上腹部痛などを認めた。7月12日内科外来受診。念のために行った血液検査で、GOT 660、GPT 1,058と異常高値であることがわかり、急性肝炎と診断された。7月15日~9月1日入院、肝機能は正常化した。なお、入院中に施行した血液検査で、B型肝炎・C型肝炎ウイルスは陰性、IgE高値。薬剤リンパ球刺激検査(LST)では、トラピジルで陽性反応を示した。当事者の主張患者側(原告)の主張1.急性肝炎の原因本件薬剤以外に肝機能に異常をもたらすような薬は服用しておらず、そのような病歴もない。また、薬剤中止後速やかに肝機能は改善し、薬剤リンパ球刺激検査でトラピジルが陽性を示し、担当医らも薬剤が原因と考えざるを得ないとしている。したがって、急性肝炎の原因は、担当医師が処方したトラピジル、チクロピジン、またはそれらの複合によるものである2.投薬過誤ついて原告の症状は脳梗塞や脳血栓症ではなく、小さな脳血栓症の痕跡があったといっても、これは高齢者のほとんどにみられる現象で各別問題はなかったので、薬剤を処方する必要性はなかった3.経過観察義務違反について本件薬剤の医薬品取扱説明書には、副作用として「ときにGOT、GPTなどの上昇があらわれることがあるので、観察を十分に行い異常が認められる場合には投与を中止すること」と明記されているにもかかわらず、漫然と4週間分を処方し、その間の肝機能検査、血液検査などの経過観察を怠った病院側(被告)の主張1.急性肝炎の原因GOT、GPTの経時的変動をみてみると、本件薬剤の服用を続けていた時点ですでに回復期に入っていたこと、薬剤服用中に解熱していたこと、本件の肝炎は原因不明のウイルス性肝炎である可能性は否定できず、また、1日焼酎を1/2瓶飲むほどであったのでアルコール性肝障害の素質があったことも影響を与えている。以上から、本件急性肝炎が本件薬剤に起因するとはいえない2.投薬過誤ついて初診時の症状である回転性眩暈は、小梗塞によるものと考えられ、その治療としては再発の防止が最優先されるのだから、厚生省告示によって1回30日分処方可能な本件薬剤を処方したことは当然である。また、初診時の肝機能は正常であったので、その後の急性肝炎を予見することは不可能であった3.経過観察義務違反について処方した薬剤に副作用が起こるという危険があるからといって、何らの具体的な異常所見もないのに血液検査や肝機能検査を行うことはない裁判所の判断1. 急性肝炎の原因原告には本件薬剤以外に肝機能障害をもたらすような服薬や罹病はなく、そのような既往症もなかったこと、本件薬剤中止後まもなく肝機能が正常に戻ったこと、薬剤リンパ球刺激試験(LST)の結果トラピジルで陽性反応が出たこと、アレルギー性疾患で増加するIgEが高値であったことなどの理由から、トラピジルが単独で、またはトラピジルとチクロピジンが複合的に作用して急性肝炎を惹起したと推認するのが自然かつ合理的である。病院側は原因不明のウイルス性肝炎の可能性を主張するが、そもそもウイルス性肝炎自体を疑うに足る的確な証拠がまったくない。アルコール性肝障害についても、飲酒歴が急性肝炎の発症に何らかの影響を与えた可能性は必ずしも否定できないが、そのことのみをもって薬剤性肝炎を覆すことはできない。2. 投薬過誤ついて原告の症状は比較的軽症であったので、本件薬剤の投与が必要かつもっとも適切であったかどうかは若干の疑問が残るが、本件薬剤の投与が禁止されるべき特段の事情は認められなかったので、投薬上の過失はない。3. 経過観察義務違反について医師は少なくとも医薬品の能書に記載された使用上の注意事項を遵守するべき義務がある。本件薬剤の投与によって肝炎に罹患したこと自体はやむを得ないが、7月5日の2回目の投薬時に簡単な血液検査をしていれば、急性肝炎に罹患したこと、またはそのおそれのあることを早期(少なくとも1週間程度早期)に認識予見することができ、薬剤の投与が停止され、適切な治療によって急性肝炎をより軽い症状にとどめ、48日にも及ぶ入院を免れさせることができた。原告側合計102万円の請求に対し、20万円の判決考察この裁判では、判決の金額自体は20万円と低額でしたが、訴訟にまで至った経過がやや特殊でした。判決文には、「病院側は入院当時、「急性肝炎は薬剤が原因である」と認めていたにもかかわらず、裁判提起の少し前から「急性肝炎の発症原因としてはあらゆる可能性が想定でき、とくにウイルス性肝炎であることを否定できないから結局発症原因は不明だ」と強調し始めたものであり、そのような対応にもっとも強い不満を抱いて裁判を提起したものである」と記載されました。この病院側の主張は、けっして間違いとはいえませんが、本件の経過(薬剤を中止したら肝機能が正常化したこと、トラピジルのLSTが陽性でIgEが高値であったこと)などをみれば、ほとんどの先生方は薬剤性肝障害と診断されるのではないかと思います。にもかかわらず、「発症原因は不明」と強調されたのは不可解であるばかりか、患者さんが怒るのも無理はないという気がします。結局のところ、最初から「薬剤性でした」として変更しなければ、もしかすると裁判にまで発展しなかったのかも知れません。もう1点、この裁判では重要なポイントがあります。それは、新規の薬剤を投与した場合には、定期的に副作用のチェック(血液検査)を行わないと、医療過誤を問われるリスクがあるという、医学的というよりもむしろ社会的な問題です。本件では、トラピジル、チクロピジンを投与した1ヵ月後の時点で血液検査を行わなかったことが、医療過誤とされました。病院側の主張のように、「何らの具体的な異常所見もないのに(薬剤開始後定期的に)血液検査や肝機能検査を行うことはない」というのはむしろ常識的な考え方であり、これまでの外来では、「この薬を飲んだ後に何か症状が出現した場合にはすぐに受診しなさい」という説明で十分であったと思います。しかも、頻回に血液検査を行うと医療費の高騰につながるばかりか、保険審査で査定されてしまうことすら考えられますが、今回の判決によって、薬剤投与後何も症状がなくても定期的に血液検査を行う義務のあることが示されました。なお、抗血小板剤の中でもチクロピジンには、以前から重篤な副作用による死亡例が報告されていて、薬剤添付文書には、「投与開始後2ヵ月は原則として2週間に1回の血液検査をしなさい」となっていますので、とくに注意が必要です。以下に概要を提示します。チクロピジン(パナルジン®)の副作用Kupfer Y, et al. New Engl J Med.1997; 337: 1245.3週間前に冠動脈にステントを入れ、チクロピジンとアスピリンを服用していた47歳女性。48時間前からの意識障害、黄疸、嘔気を主訴に入院、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)と診断された。入院後48時間で血小板数が87,000から2,000に激減し、輸血・血漿交換にもかかわらず死亡した。吉田道明、ほか.内科.1996; 77: 776.静脈血栓症と肺塞栓症のため、42日前からチクロピジンを服用していた83歳男性。42日目の血算で好中球が30/mm3と激減したため、ただちにチクロピジンを中止し、G-CSFなどを投与したが血小板も減少し、投与中止6日目に死亡した。チクロピジンの薬剤添付文書には、警告として「血小板減少性紫斑病(TTP)、無顆粒球症、重篤な肝障害などの重大な副作用が主に投与開始後2ヵ月以内に発現し、死亡に至る例も報告されている。投与開始後2ヵ月間は、とくに前記副作用の初期症状の発現に十分に留意し、原則として2週に1回、血球算定、肝機能検査を行い、副作用の発現が認められた場合にはただちに中止し、適切な処置を行う。投与中は定期的に血液検査を行い、副作用の発現に注意する」と明記されています。消化器

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冠動脈CT:カルシウム容積スコアと密度スコア(コメンテーター:近森 大志郎 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(164)より-

冠動脈カルシウム・スコアは従来の冠危険因子に加えて、心血管疾患イベント(心臓死・心筋梗塞・脳梗塞など)の独立したリスク因子として確立している。しかしながら、冠動脈石灰化は中膜に出現し、スタチンによる治療過程にて密度が亢進するとの基礎的報告もあることから、冠動脈プラーク病変の治癒過程を反映しているとの意見もある。このことは、冠動脈石灰化の容積と密度を合わせて評価している、従来のカルシウム・スコア(Agatston)の弱点となる可能性がある。 Criquiらは45~84歳の約3,400例を対象とした観察研究であるMESA(Multi-Ethinic Study of Atherosclerosis)試験の冠動脈石灰化のデータを再評価した。すなわち、従来のカルシウム・スコアを、カルシウム容積スコアと、4ポイントに半定量化したカルシウム密度スコアに分別して、心血管イベントとの関連性について検討した。 7.6年の追跡期間中に、175例の冠動脈イベントと90例のその他の心臓イベント、合わせて計265例の心血管イベントが発生した。多変量解析では、カルシウム容積スコアと冠動脈イベントおよび心血管イベントとの間には正の相関を認め、スコアが1標準偏差増大すれば、ハザード比はそれぞれ1.81および1.68へと増大することが判明した。これに対して、カルシウム密度スコアは冠動脈イベントおよび心血管イベントに対して負の相関を示し、スコアが1標準偏差増大すれば、ハザード比は0.73および0.71へと減少することが示された。さらに、これらのイベント予測は、従来のカルシウム・スコアと比較してカルシウム容積スコアとカルシウム密度スコアを別々に評価した予測モデルの方が優れていることが示された。 本研究は、基礎データおよび病態生理の見地から批判されていた、従来のカルシウム・スコアの弱点を臨床的に初めて実証したという点で重要である。心血管疾患イベントを予測する他の臨床病態因子として、負荷誘発性心筋虚血が挙げられるが、本指標は虚血の深さと広さが相乗的にリスクを増大する方向で作用することが知られている。これに対して、カルシウム・スコアは相反する方向に作用する因子を内在しており、このことが本指標の有用性を低下させている可能性がある。例えばNayaらはPET検査により負荷誘発性心筋虚血が認められない約900例を経過観察したところ、PETで評価した冠血流予備能はリスク層別化に有用であるが、従来のカルシウム・スコアは無効であったと報告している(Naya M et al. J Am Coll Cardiol. 2013; 61: 2098-2106.)。 Criquiらの報告は、密度の高い冠動脈の石灰化は心血管イベントに対して保護的に作用する、という興味深い概念を支持する研究結果である。しかしながら、肝心のカルシウム密度スコアについては、初期のMESA試験における冠動脈CTの再検討であり、半定量化されたデータに過ぎない。 今後、臨床の現場で有効となるためには、カルシウム密度測定の洗練化および標準化が必須である。次に、冠動脈イベントを保護するカルシウム密度スコアのカットオフ・ポイントを明らかにする必要がある。以上が確立すれば、冠動脈CTによって評価されるカルシウム密度スコアの臨床的有用性が高まると推測される。

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脳梗塞急性期の積極的な降圧治療は2週間後の転帰を改善するか?/JAMA

 虚血性脳卒中患者の急性期における降圧治療は、死亡や身体機能障害の抑制に寄与しないことが、米国・チューレーン大学のJiang He氏らが行ったCATIS試験で示された。高血圧患者や脳卒中、一過性脳虚血発作(TIA)の既往歴を有する正常血圧者では、降圧治療により脳卒中のリスクが低減することが報告されている。脳卒中の1次および2次予防における降圧のベネフィットは確立されているが、血圧の上昇がみられる急性虚血性脳卒中患者に対する降圧治療の効果は知られていないという。JAMA誌オンライン版2013年11月17日号掲載の報告。急性期の降圧治療の予後改善効果を無作為化試験で評価 CATIS(China Antihypertensive Trial in Acute Ischemic Stroke)試験は、急性虚血性脳卒中患者に対する降圧治療の有用性を評価する多施設共同単盲検無作為化試験。発症後48時間以内、血圧の上昇が認められる虚血性脳卒中患者を対象とした。 被験者は、入院期間中に降圧治療を施行する群または施行しない群に無作為に割り付けられた。降圧治療群は、割り付け後24時間以内に収縮期血圧を10~25%低下させ、7日以内に140/90mmHgを達成し、これを入院期間中維持することを目標とした。 割り付け情報は、治療医や看護師にはマスクされなかったが、患者やデータの収集を行った研究者にはマスクされた。主要評価項目は、割り付け後14日以内の死亡、14日時の重篤な身体機能障害(修正Rankinスケール:3~5)、14日以前に退院した場合は退院時の重篤な身体機能障害とした。収縮期血圧は有意に低下したが 2009年8月~2013年5月までに、中国の26施設から4,071例が登録され、降圧治療群に2,038例が、対照群には2,033例が割り付けられた。全体の平均年齢は62.0歳、男性が64.0%で、入院時に49.1%が降圧薬を投与されており、77.9%が血栓性脳卒中であった。 割り付けから24時間以内に、平均収縮期血圧は降圧治療群が166.7mmHgから144.7mmHgまで12.7%低下したのに対し、対照群は165.6mmHgから152.9mmHgまで7.2%の低下であり、有意な差が認められた(群間差:-5.5%、95%信頼区間[CI]:-4.9~-6.1、絶対差:-9.1mmHg、95%CI:-10.2~-8.1、p<0.001)。また、割り付けから7日の時点で、平均収縮期血圧は降圧治療群が137.3mmHg、対照群は146.5mmHgと、有意差がみられた(群間差:-9.3mmHg、95%CI:-10.1~-8.4、p<0.001)。 このように急性期の降圧効果に差を認めたにもかかわらず、14日または退院時の主要評価項目の発生には両群間に差はなかった(イベント発生数:降圧治療群683件、対照群681件、オッズ比:1.00、95%CI:0.88~1.14、p=0.98)。さらに、副次評価項目である3ヵ月後の死亡または重篤な身体機能障害の発生も、両群で同等であった(イベント発生数:降圧治療群500件、対照群502件、オッズ比:0.99、95%CI:0.86~1.15、p=0.93)。 著者は、「急性虚血性脳卒中患者では、降圧治療により血圧の低下を達成しても、入院中は降圧治療を中止した患者と比較して、急性期の死亡や重篤な身体機能障害の抑制にはつながらないことが示された」と結論し、「本試験は中国人患者のみを対象としており、全体の約3分の1にヘパリンが投与されるなど欧米の急性脳卒中の管理とは異なる部分もあるが、以前の検討では中国人と欧米人で急性脳卒中と血圧低下の関連に差はないことが報告されている」と考察している。

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