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第4回 エイエフ(AF)診断できます?【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第4回:エイエフ(AF)診断できます?“キング(King)・オブ・不整脈は何?”と聞かれたら、ボクは「心房細動(AF)」と即答します。臨床的にも心不全や脳梗塞など大事な側面を持ちますが、スタートは必ず心電図から。エイエフと正しく診断するための条件をDr.ヒロがレクチャーしましょう。症例提示55歳。男性。ここ数年、健診で血圧および血糖高値を指摘されるも受診せず。起床時より「胸全体がドンドン押されるような、常に走った後のような感じ」を自覚。改善しないため外来受診。血圧147/92mmHg、脈拍174/分、酸素飽和度98%。来院時の心電図を示す(図1)。(図1)来院時心電図画像を拡大する【問題1】心電図診断として正しいものはどれか。1)洞(性)不整脈2)洞(性)頻脈3)心房期外収縮連発(ショートラン)4)発作性上室性頻拍5)心房細動解答はこちら 5)解説はこちら “不整脈の代表選手AFは絶対性不整脈でf波あり”1)×:「洞調律」も呼吸などの影響でR-R間隔が不整にはなり得ます。しかし、洞調律の“証”たるP波がなければこう呼べません。2)×:頻脈(“検脈法”より168/分)ではありますが、1)と同じく洞性P波が欠如しています。3)×:連発・ショートラン(3連以上)が頻発して5)の心房細動と紛らわしいケースもありますが、期外収縮も基本調律が洞調律であることを前提とするため、今回は該当しません。4)×:いわゆる「narrow QRS tachycardia」を呈する代表格ですが、R-R間隔が整となる例が大半です。5)○:R-R間隔不整(絶対性不整脈)、洞性P波がなく細動波(f波)あり、頻脈の3条件を満たす典型的な心房細動です。発症様式から「発作性」が疑われます。今回の中年男性が訴える胸部症状は、医学的には「動悸」の範疇ですかね。一言で動悸と言っても、患者さんの訴えは本当に様々です。この方も『胸がドンドン』、『走った後の感じ』と、表現がユニークです。そして、選択肢には不整脈らしき病名がたくさん。『トホホ…苦手じゃん(泣)』って言わないで。「初心者、非専門医でも自分で読めた方がいいよ」とボクが伝える不整脈は、なんと2つ!一つは「期外収縮」。そしてもう一つが、今回のテーマ「心房細動(AF)」です。この2つだけで、ふだん目にする不整脈の5-6割はいけるんじゃないかな。特に心房細動は、持続性不整脈の中では最多で、脳梗塞や心不全の合併など、臨床的にも重要性が高いと思います。ちまたでは“AF(Atrial Fibrillation)”なんて呼ばれています。“AFの3つの診断条件をおさえる!”AFの心電図診断はカンタンです。特にボクの語呂合わせの通りに心電図を読んでくれる人にとってはね(第1回参照)。…え?なぜって?それは、はじめの“3つのR”の確認だけで診断できるからです。ですから、慣れたら“いの一番”に指摘可能な不整脈なわけです。最初はR-R間隔。AFには“絶対性不整脈(absolute arrhythmia/arrhythmia absoluta)”という別称があり、“筋金入り”の不整脈なんです。だから、R-R間隔がテンデンバラバラ、どれ一つとっても同じことはありません。どの誘導でもいいですが、たとえば心電図(図1)のI誘導はどうでしょう?真ん中へんはQRS波が密集していて、逆に周辺は割合空いていますよね。肩の力を抜き、用紙から目を離して俯瞰するのがコツ。R-R間隔の絶対不整は、私たちの目に“訴えかける”モノがあるからです。2つ目はRate(心拍数)。自動計測を“カンニング”すると「169/分」です。病歴の脈拍数も「174/分」です! 正常な「50~100/分」から明らかに逸脱しています。100/分オーバーは「頻脈」といいますよ。AFは頻脈性不整脈の代表です。初診(≒未治療)で心臓があまり傷んでない(≒病気がない)人や若めの人では、安静時とは思えない頻脈でやってくるのがテッパンです。『走った後の感じがずっと続いている』という言い方もたしかに、たしかに。ただ、患者さんによっては、“レート・コントロール(心拍数管理)”のために薬が使われていたり、高齢者ならそんな薬を使わなくとも房室伝導能低下のため、頻脈にならないことがしばしばです。だから、AFの診断に「頻脈」はマストではないんです。最後の3つ目のRは…そうRhythm(調律)です。だいぶ定着したかな、“イチニエフ(またはニアル)法”(第2回参照)の出番です。R-R間隔が少し広がった部分で確認するのがミソ。イチニエフ・ブイシゴロで陽性、アールで陰性を満たす洞性P波がないことがわかるでしょう。つまり洞調律じゃないんです。以上3点、R-R間隔、心拍数、調律のいずれもオカシイわけですから、こりゃ決定的な「不整脈」です。“心房細動の決定的証拠-心房の痙攣を表す小波”こんな時、最後の“ダメ押し”で見て欲しいのはV1誘導。これがボクのオススメ。心電図(図1)から抜き出してみました(図2)。(図2)細動波(f波)を見るならV1誘導!画像を拡大する注目すべきはQRS波の間をつなぐ基線。ここは本来フラットで、あってもP波くらいのもんなんです。でも、このV1誘導はグニャグニャンでしょ?英語で“カオス”(chaotic)と表現されますが、まさに“混沌”。とらえどころのないランダムな小波こそ、AFたる何よりのアカシです!この波形を「細動波」ないし「f波」といいます。fは“fibrillation(細動)”ってことで、心房筋が高頻度で痙攣している様子を表しています。AFが慢性化して長時間が経過すると、f波は徐々に縮小して見づらくなっていきますが、AFが心房“細動”たるゆえんは、この小波の存在なのです。余談ですが、心電図がこの世に生まれたのが1903年。それから5年後に若き天才Sir.Thomas Lewis(1881-1945)がこの「f波」の存在を銘記し、翌年(1909年)に臨床概念として「心房細動」を確立したとされます。それを思うと、AFって非常に由緒ある不整脈でしょ。話をf波に戻しましょう。V1以外に「下壁誘導」、すなわちニサンエフ(II、III、aVF)もf波を見やすい誘導ですので、セカンド・チョイス的に知っときましょう。さぁ、最後にまとめます。心房細動(AF)の心電図診断(1)R-R間隔の絶対不整(絶対性不整脈)(2)頻脈なら典型的(必須ではない)(3)洞性P波の欠如と細動波(f波)の存在今回の男性の心電図(図1)は、この3条件をバッチリ満たす「AF」です。これが動悸の正体でした!もう、皆さんは自信を持って診断できますね?Take-home Message1)AFは“3つのR”(レーサー・チェック)だけで診断できる!2)圧倒的なR-R間隔不整とV1誘導で細動波(f波)を見つけたら、「AF」と言ってほぼ間違いなし。【古都のこと~実相院門跡その2~】実相院門跡は庭園もいいです。市民も参加して作庭された『こころのお庭』には、「床みどり」とは別の趣があります。日本国土をイメージした苔島を囲む波型をした3つの杉皮オブジェが石庭に映えていました。遠くに望む山景と澄みきった青空。しばしのタイムスリップ感覚が実に心地よかったです。

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急性脳梗塞、rt-PA後の転帰を予測する臨床・画像所見は/JAMA

 急性虚血性脳卒中患者において、血栓部位がより末梢で、残存血流量が多く、再開通評価までの時間が長いほうが、アルテプラーゼ(rt-PA)静脈投与後の動脈閉塞再開通と関連することが確認された。rt-PAの投与を受けていない患者では、動脈再開通率は低値であった。カナダ・カルガリー大学のBijoy K. Menon氏らによる、多施設共同前向きコホート研究「INTERRSeCT研究」の結果で、著者は「これらの結果は、急性虚血性脳卒中患者の治療とトリアージの際に役立つ可能性がある」と述べている。脳血栓の再開通は急性虚血性脳卒中患者の臨床転帰の改善と関連しており、rt-PA静注療法と血栓特性、再開通時間との関連は脳卒中トリアージと今後の研究デザインにとって重要であるが、rt-PA静注療法による再開通率を検証したこれまでの研究は、症例数や試験デザイン、評価法などに限界があった。JAMA誌2018年9月11日号掲載の報告。急性虚血性脳卒中患者575例で、CTAまたは血管造影所見と再開通率を評価 INTERRSeCT研究では、2010年3月~2016年3月にカナダ、スペイン、韓国、チェコ、トルコの12施設において、急性虚血性脳卒中患者を対象に、頭蓋内血栓閉塞部位、臨床・画像所見と経時的な再開通率との関連が調べられた。コンピューター断層撮影血管造影(CTA)で頭蓋内動脈閉塞を呈した脳梗塞患者575例を対象に、人口統計学的特性、臨床所見、rt-PA投与から再開通までの時間、CTAで確認された頭蓋内血栓特性(部位と血管透過性)について評価した。 主要評価項目は、ベースラインのCTA撮影後6時間以内に得られた、再CTA画像または患部である頭蓋内閉塞の初回血管造影画像上で、改訂動脈閉塞スケール(rAOL:スコア0[主要閉塞病変が同じ]~3[主要閉塞部位の完全再開通])を用いて確認された再開通とした。 計575例(平均年齢72歳[IQR:63~80]、男性51.5%、発症からベースラインCTAまでの平均時間114分[IQR:74~180])のうち、275例(47.8%)がrt-PA静注療法単独、195例(33.9%)がrt-PA静注療法+血管内血栓除去術、48例(8.3%)が血管内血栓除去術単独、57例(9.9%)が保存療法を受けた。rt-PA静注療法による再開通は画像所見で予測可能 ベースラインCTAから再開通評価までの時間中央値は158分(IQR:79~268)、rt-PA静注開始から再開通評価までの時間中央値は132.5分(IQR:62~238)であった。 再開通の成功率は、全体で27.3%(157/575)、rt-PA静注療法群で30.4%(143/470)、非rt-PA静注療法群で13.3%(14/105)であった(群間差:17.1%、95%信頼区間[CI]:10.2~25.8%)。 rt-PA静注療法群では、治療開始から再開通評価までの時間(30分経過ごとのオッズ比[OR]:1.28、95%CI:1.18~1.38)、遠位血栓(たとえば末梢M1中大脳動脈[39/84例、46.4%]vs.内頸動脈[10/92例、10.9%]、OR:5.61、95%CI:2.38~13.26)、残存血流量大(たとえばhairline streakあり[30/45例、66.7%]vs.なし[91/377例、24.1%]、OR:7.03、95%CI:3.32~14.87)で、再開通との関連が確認された。

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第8回 アセトアミノフェンもワルファリン併用で用量依存的にINR上昇【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 ワルファリンはさまざまな食品や薬剤と相互作用があり、併用注意に当たる飲み合わせが多いことはよく知られています。私も以前、脳梗塞の既往があり、ワルファリンを服用している患者さんに、市販の解熱鎮痛薬を一緒に服用してよいか質問され、薬剤の種類や使用目的について少し回答に悩んだことがあります。ワルファリンの添付文書にも記載があるように、NSAIDsには血小板凝集抑制作用があり、互いに出血傾向を助長するおそれがあるため、アセトアミノフェンが優先して使用されることも多くあります。しかし、アセトアミノフェンも機序は不明ですが、ワルファリンの併用注意欄に作用増強の記載があり、疑義照会の判断に迷うところです。そこで、今回はワルファリンとアセトアミノフェンを併用したいくつかの研究を紹介します。まずは、1998年にJAMA誌に掲載された症例対照研究です(Hylek EM, et al. JAMA. 1998;279:657-662.)。症例対照研究はまれな疾患や症状を検証するのに適した研究デザインで、すでにある事象が発生している「症例群」と、その事象が発生しておらず条件をマッチさせた「対照群」を選び、過去にさかのぼって事象が生じた要因を特定しようとする研究です。研究開始時点ですでに事象が発生しているものを調べる後ろ向き研究であるという点で、コホート研究と趣が異なります。この研究では1995年4月~1996年3月に、ワルファリンを1ヵ月以上服用しており、目標INR 2.0~3.0の外来患者を対象としました。INRが6.0以上の症例群(93例)と1.7~3.3の対照群(196例)の比較から得られた結果の多変量解析により、INR 6.0以上になる要因としてアセトアミノフェンが独立して関連している可能性が示唆されました。とくにアセトアミノフェン服用量が9.1g/週(1.3g/日)以上のときのオッズ比は10倍以上(95%信頼区間:2.6~37.9)でした。次に、2006年に発表された二重盲検クロスオーバー試験です(Mahe I, et al. Haematologica. 2006;91:1621-1627.)。こちらもワルファリンを1ヵ月以上服用している患者(20例)が参加しています。アセトアミノフェン1gまたはプラセボを1日4回に分けて14日間服用し、2週間のウォッシュアウト期間を設けた後に試験薬と対照薬を入れ替えて経過を調査しました。4日目で脱落しINR値を測定できなかった患者1例とプロトコール違反1例が最終解析から除かれています。平均INRはアセトアミノフェンを服用開始後急速に上昇し、1週間以内にプラセボよりも有意に増加しました。INRの平均最大値はアセトアミノフェンで3.45±0.78、プラセボで2.66±0.73で、ベースラインからの上昇幅はアセトアミノフェンで1.20±0.62、プラセボで0.37±0.48でした。なお、プロトコールから逸脱する数値の上昇がある場合は中止され、出血イベントはいずれの群においてもみられませんでした。さらに、プラセボ対照のランダム化比較試験の報告もあります(Zhang Q, et al. Eur J Clin Pharmacol. 2011;67:309-314.)。ワルファリン継続中の患者(45例)をアセトアミノフェン2g/日群、アセトアミノフェン3g/日群、またはプラセボ群に2:2:1の比率で割り付けて比較した研究です。2g群、3g群、プラセボ群のINRの平均最大増加率はそれぞれ0.70±0.49、0.67±0.62、0.14±0.42で、INRの上昇はアセトアミノフェン開始3日目で有意となりました。なお、INRが3.5を超えた場合には治療は中止されています。同様に、メタ解析の論文(Caldeira D, et al. Thromb Res. 2015;135:58-61.)や観察研究の系統的文献レビュー(Roberts E, et al. Ann Rheum Dis. 2016;75:552-559.)でも、その相互作用の可能性について警鐘が鳴らされています。アセトアミノフェン1.3g/日以上を3日以上連用なら注意が必要実践に落とし込むとすると、INRのモニタリングについて、アセトアミノフェン1.3g~2g/日を超える用量を連続3日以上服用している場合は、一定の注意を払ってもよいと思います。時にはその服用状況をワルファリンの処方医に報告することも必要でしょう。一方で、急性疾患による数日間の短期治療でアセトアミノフェンが1g/日を超えない程度であれば影響は少なそうです。この相互作用の機序については不明とされていますが、いくつかの説はありますので、最後にそのうちの1つであるNAPQI(N-acetyl-p-benzoquinone-imine)の影響だとする仮説を紹介しましょう。アセトアミノフェンは代謝を受けると毒性代謝産物であるNAPQIを生成します。通常は肝臓中のグルタチオン抱合を受けて速やかに無毒化されて除去されますが、アセトアミノフェンの服用量過多や糖尿病の合併などでNAPQIが蓄積しやすくなることがあります。これは、アセトアミノフェンによる肝障害の原因としても知られています。このNAPQIがビタミンK依存性カルボキシラーゼおよびビタミンKエポキシド還元酵素(VKOR)を阻害するため、複数のポイントでビタミンKサイクルを阻害し、ワルファリンの効果に影響を及ぼしているのではないかというものです(Thijssen HH, et al. Thromb Haemost. 2004;92:797-802.)。あくまでも仮説ですが、説得力はありますね。ワルファリンとアセトアミノフェンの併用はよくある飲み合わせですが、つい見落としがちな相互作用ですので意識してみてはいかがでしょうか。 1.Hylek EM, et al. JAMA. 1998;279:657-662. 2.Mahe I, et al. Haematologica. 2006;91:1621-1627.(先行研究はMahe I, et al. Br J Clin Pharmacol. 2005;59:371-374.) 3.Zhang Q, et al. Eur J Clin Pharmacol. 2011;67:309-314. 4.Caldeira D, et al. Thromb Res. 2015;135:58-61. 5.Roberts E, et al. Ann Rheum Dis. 2016;75:552-559. 6.Thijssen HH, et al. Thromb Haemost. 2004;92:797-802. 7.ワーファリン錠 添付文書 2018年4月改訂(第26版)

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ファブリー病〔Fabry disease〕

ファブリー病のダイジェスト版はこちら1 疾患概要■ 定義α-ガラクトシダーゼAの酵素欠損により心臓、腎臓などの組織を中心にグロボトリオシルセラミド(GL-3)が蓄積することにより、心不全、腎不全を来す疾患である。遺伝形式はX-連鎖の遺伝形式をとる。■ 疫学約4万人に1人と推定される。腎不全患者の0.2~0.5%、左室肥大の患者の4%、女性左室肥大の12%、男性脳卒中患者の4.9%、女性患者の2.4%。イタリアでは新生児男児3,100人に1人の頻度、台湾では1,250人に1人と患者頻度は高い。■ 病因ライソゾーム酵素であるα-ガラクトシダーゼの酵素欠損により全身組織にグロボトリオシルセラミド(GL-3)などの糖脂質が蓄積する(図1)。とくに血管内皮細胞に蓄積、心筋、腎臓、リンパ節、神経節など、全身組織に蓄積する。画像を拡大する■ 臨床症状(表1)ファブリー病の臨床症状は多彩である。小児期からの四肢の激痛、無痛、無汗などの自律神経症状、蛋白尿、腎不全などの臨床症状、不整脈、弁膜症、心不全などの心症状、頭痛、脳梗塞、知能障害などの神経症状、精神症状、皮膚症状として被角血管腫、難聴、めまい、耳鳴り、角膜混濁などの眼科症状、咳などの呼吸器症状などを認める。ファブリー病の臨床症状の進展は図1を参照。画像を拡大する■ 分類臨床的には「古典型」、心型、腎型といわれる「亜型」、「ヘテロ接合体女性患者」に分類される古典型(表2)では皮膚症状(被角血管腫)、自律神経症状(低汗、無痛、四肢痛など)を有する。心型、腎型ではこれらの症状は少ない。ヘテロ接合体女性患者では心症状が主体であるが、痛みなどは男性患者と同様に認められる。画像を拡大する■ 予後古典型の患者は早期の酵素補充療法をしないと、腎不全、心不全、脳梗塞で40~50代で死亡する患者が多い。心型、腎型では60~70代で死亡、ヘテロ女性患者は60~70代で心不全にて死亡する患者が多い。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)次の流れに従い、診断を行う。(1)臨床症状:小児期からの四肢の激痛、無汗、皮膚の被角血管腫、心不全、蛋白尿、腎不全、脳梗塞などの症状(2)血清、白血球、尿などでα-ガラクトシダーゼの酵素欠損を証明する(3)尿中GL-3の蓄積(4)皮膚での病理所見:電子顕微鏡でミエリン様蓄積物質を認める(5)遺伝子診断 3 治療 (治験中・研究中のものも含む)ファブリー病の治療として対症療法と根治療法がある。表3に概略をまとめた。画像を拡大する1)対症療法(1)疼痛ファブリー病での痛みは、患者に大きな負担である。幼少時から四肢の灼熱感のある痛みが生じ、思春期はとくに強い。女性患者でも4~5歳から四肢の痛みを感じる患者がいる。痛みは四肢以外にも下顎、頸部などさまざまである。とくに梅雨の時期、夏などは疼痛が強い。カルバマゼピン(商品名:テグレトールほか)、ガバぺンチン(同:ガバペン)などが有効である。(2)消化器症状腹痛、胃痛、下痢などがみられ、整腸剤などの投与が有効である。(3)心肥大、心不全、不整脈徐脈性不整脈には、ペースメーカーが有効である。心筋保護作用としてのACE阻害薬、 ARBの投与が推奨される。高血圧、高脂血症の予防は重要である。(4)腎障害腎保護策のためにARB、ACE阻害薬は有効との報告がある。蛋白食制限、減塩は必要である。腎不全に対しての腹膜あるいは血液透析療法、さらには腎移植が試みられている。(5)脳梗塞脳梗塞の予防のためのアスピリン、抗血小板凝集薬の投与などの抗凝固療法が必要。(6)その他めまい、難聴などに対する対症療法として、めまいにはベタヒスチンメシル(同:メリスロンほか)、突発性難聴にはステロイドが使用される。2)酵素補充療法酵素補充療法は、現在遺伝子工学的手法の進歩に伴いαガラクトシダーゼAの酵素製剤が2製剤開発されている。アガルシダーゼ アルファ(商品名:リプレガル)とアガルシダーゼ ベータ(同:ファブラザイムほか)が開発されている。アガルシダーゼ ベータはCHO(Chinese Hamster Ovary)細胞から遺伝子工学手法で作成された。投与量としては体重1kgあたりアガルシダーゼ アルファは0.2mg、アガルシダーゼ ベータは1mgを2週間に1回投与する。副作用としては蕁麻疹、悪寒、吐き気、鼻汁、軽度血圧低下、気道に違和感などの症状が見られるが、抗ヒスタミン薬、ステロイドの投与で軽快する場合が多い。副作用は投与後3~5ヵ月後に多く見られ、その後は軽快する場合が多い。そして、効果のポイントは次のとおりである。(1)痛みへの効果痛みは軽減傾向にある。発汗障害は改善傾向にある。(2)腎臓への効果腎臓、とくに腎血管内皮細胞でのGL-3の蓄積は除去される。糸球体のたこ足細胞でのGL-3の蓄積の除去には時間がかかる。GFRが60mL/min/1.73m2以上であれば治療後も維持できる。また、60mL/min/1.73m2 以下であれば、治療にかかわらず機能は低下することが明らかにされている。尿蛋白質では、蛋白の排泄が+1以上であれば酵素治療しても腎機能は低下するが、尿蛋白がマイナスであれば腎機能は悪化しない。(3)心機能への効果心筋の肥厚、左室心筋重量は酵素補充療法により減少する。左室機能改善の改善を認める。(4)脳神経系への効果酵素補充療法により血管の内皮細胞への蓄積は軽快するが、脳梗塞の所見は治療により変化はないと考えられる。また、白質変性への効果も少ない。(5)耳鼻科的効果酵素補充による聴力への効果はあまり期待できない。聴力検査で効果が認められていない。(6)眼症状への効果角膜に対する効果は軽快する傾向にある。網膜動脈閉塞で失明する。(7)皮膚症状への効果被角血管腫への効果は少ない。低(無)汗症への効果はみられ、酵素治療により汗をかくようになりQOLは上がる。(8)消化器症状への効果酵素補充療法により下痢などに対する効果が報告され、酵素治療とともに下痢、腹痛は改善傾向にある。体重は増加する患者が多い。4 今後の展望1)シャペロン治療低分子薬(デオキシノジリマイシンなど)は、ライソゾーム酵素のゴルジーライソゾーム系での酵素の合成、分解過程で作用する。すなわち変異酵素が分解促進、あるいは活性基が障害されている場合、シャペロンは有効であり、全体の約50~60%の患者の遺伝子異常に効果があるといわれている。ミガーラスタット(商品名:ガラフォルド)は、2018年5月に発売され、わが国でも保険適用となった。今後、効果や安全性について、さらに知見の積み重ねがなされる。2)遺伝子治療・細胞治療ファブリー病の最終治療としては、遺伝子治療法の開発が重要である。ファブリー病マウスを用いて「アデノ随伴ウイルス」(AAV)あるいは「レンチウイルスベクター」を用いての治療研究が進められており、モデルマウスではGL-3の臓器からの除去に成功している。また、骨髄幹細胞、あるいは間質幹細胞を用いて、遺伝子治療と組み合わせての治療効果も研究されている。3)ファブリー病のスクリーニングファブリー病の治療のためには、早期診断が重要である。早期診断のための新生児マス・スクリーニングも報告され、ガスリー濾紙血を用いて酵素診断することにより可能である。濾紙血による新生児スクリーニングでは、台湾でのファブリー病患者頻度は1/1,250(男児)、イタリアでは1/3,500(男児)、日本では1/6,500の頻度であり、決して珍しい疾患でないことが証明されている。また、ハイリスク患者スクリーニングとして、心筋症患者、左室肥大患者、腎不全患者、若年性脳梗塞患者にはファブリー病の患者の頻度が高いことが報告されている。早期診断により治療効果をあげることが重要である。5 主たる診療科腎臓内科、循環器内科、小児科、皮膚科、眼科、耳鼻科 など※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療情報難病情報センター ライソゾーム病(ファブリー病を含む)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報ふくろうの会(ファブリー病患者と家族の会)1)Desnick RJ, et al. α-Galactosidase A deficiency: Fabry disease. In: Scriver CR et al, editors. The Metabolic and Molecular Bases of Inherited Disease, 8th ed. New York: McGraw Hill; 2001. p. 3733–3774. 2)Eng CM, et al. N Engl J Med. 2001; 345: 9–16.3)Rolfs A, et al. Lancet. 2005; 366: 1794–1796.4)Sims K, et al. Stroke. 2009; 40: 788-794.5)衛藤義勝. 日本内科学雑誌.2009; 98: 163-170.公開履歴初回2013年2月28日更新2018年9月11日

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第5回 意識障害 その4 それって本当に脳卒中?【救急診療の基礎知識】

●今回のpoint1)発症時間を正確に把握せよ!2)頭部CTは病巣を推定し撮影せよ!3)適切な連携をとり、早期治療介入を!72歳男性の意識障害:典型的なあの疾患の症例72歳男性。友人と食事中に、椅子から崩れるようにして倒れた。友人が呼び掛けると開眼はあるものの、反応が乏しく救急車を要請した。救急隊到着時、失語、右上下肢の麻痺を認め、脳卒中選定で当院へ要請があった。救急隊接触時のバイタルサインは以下のとおり。どのようにアプローチするべきだろうか?●搬送時のバイタルサイン意識:3/JCS、E4V2M5/GCS血圧:188/102mmHg 脈拍:98回/分(不整) 呼吸:18回/分SpO2:95%(RA) 体温:36.2℃ 瞳孔:3/3mm+/+脳出血か、脳梗塞か、画像診断が有効だけど…「脳卒中かな?」と思っても、頭部CTを撮影する前にバイタルサインを安定させること、低血糖か否かを瞬時に判断することが重要であることは理解できたと思います(表)。今回はその後、すなわち具体的に脳卒中か否かを画像を撮影して判断する際の注意点を整理しておきましょう。「CT、MRIを撮影すれば脳卒中の診断なんて簡単!」なんて考えてはいけませんよ。画像を拡大する●Rule6 出血か梗塞か、それが問題だ!脳出血か脳梗塞か、画像を撮らずに判断可能でしょうか? 臨床の現場で、脳神経内科や脳神経外科の先生が、「この患者さんは出血っぽいなぁ」とCTを撮る前につぶやいているのを聞いたことはありませんか? 結論から言えば、出血らしい、梗塞らしい所見は存在するものの、画像を撮らずに判断することは困難です。一般的に痙攣、意識障害、嘔吐を認める場合には脳出血らしいとは言われます1)。私は初療の際、40~50歳代では梗塞よりも出血らしく、とくに収縮期血圧が200mmHgを越えるような場合にはその可能性は高いなと考え、高齢者、さらに心房細動を認める場合には、十中八九その原因は「心原性脳塞栓症」だろうと考えています。みなさんもこのようなイメージを持っているのではないでしょうか?!頭部CTをまずは撮影脳出血よりも脳梗塞らしければ、CTではなく、はじめからMRIを撮影すればよいのではないでしょうか? 脳梗塞であれば血栓溶解療法という時間の制約のある有効な治療法が存在するため、より早く診断をつけることができるに越したことはありません。血栓溶解療法を行う場合には、来院から1時間以内にrt-PA(アルテプラーゼ)を静注することが推奨されています(Time is Brain!)。しかし、MRIをまず撮影することは以下の理由からお勧めしません。・頭部CTはMRIと比較して迅速に撮影可能かつ原則禁忌なし・大動脈解離の否定は絶対(1)迅速かつ安全頭部CTの撮影時間は数分です。それに対してMRIは、撮影画像を選択しても10分以上かかります。梗塞巣が広範囲の場合や、嘔吐に伴う誤嚥性肺炎併発症例においては、呼吸のサポートが必要な場合もあり、極力診断に時間がかからず、安全に施行可能な検査を選択すべきでしょう。また、MRIはペースメーカー留置患者など撮影することができない患者群がいるのに対して、CTはほぼ全例施行可能です。私が経験した唯一撮影できなかった患者は、体重が200kgあり、CTの台におさまらなかった患者さんですが、まれですよね…。(2)大動脈解離の否定脳梗塞患者では、必ず大動脈解離の可能性も意識して対応するようにしましょう。とくに左半身の麻痺を認める場合には要注意です。当たり前ですが、血栓溶解療法を大動脈解離症例に行えばとんでもないことが起こります。大動脈解離が脳卒中様症状で来院する頻度は決して高くはありませんが、忘れた頃に遭遇します。そのため、血栓溶解療法を行うことを考慮している症例では、頭部CTで出血を認めない場合には、胸部CTも併せて行い大動脈解離の評価を行います。これは施設によっては異なり、胸部CTではなく、胸部X線、またはエコーで確認している施設もあるとは思いますが、病院の導線などの問題から、頭部CT撮影時に胸部CTも併せて評価している施設が多いのではないでしょうか。大動脈解離の確定診断は通常単純ではなく造影CTですが、脳卒中疑い症例では単純CTで評価しています。もちろん検査前確率で脳卒中よりも大動脈解離の可能性が高い場合には造影CTを撮影しますが、あくまで脳卒中を疑っている中で、大動脈解離の否定も忘れないというスタンスでの話です。大動脈解離の検査前確率を上げる因子として、意識障害のアプローチの中では、バイタルサイン、発症時の様子を意識するとよいでしょう。バイタルサインでは、脳卒中では通常血圧は上昇します。それに対して、身体所見上は脳卒中を疑わせるものの血圧が正常ないし低い場合には、大動脈解離に代表される“stroke mimics”を考える必要があります(参照 意識障害 その2)。この場合には積極的に血圧の左右差を確認しましょう。Stroke mimicsは、大動脈解離以外に、低血糖、痙攣・痙攣後、頭部外傷、髄膜炎、感染性心内膜炎でしたね。また、発症時に胸背部痛に代表される何らかの痛みを認めた場合にも、大動脈解離を考えます。意識障害を認める場合には、本人に確認することが困難な場合も少なくなく、その場合には家族など目撃者に必ず確認するようにしましょう。以上から、意識障害患者では低血糖否定後、速やかに頭部CTを撮影するのがお勧めです。CT撮影時の注意事項頭部CTを撮影するにあたり、注意する事項を冒頭のpointに沿って解説してきます。1)発症時間を正確に把握せよ!血栓溶解療法は脳梗塞発症から4.5時間以内に可能な治療です。血栓回収療法は、近年可能な時間は延びつつありますが、どちらも時間的制約がある治療であることは間違いありません。麻痺や構音障害がいつから始まったのか、言い換えればいつまで普段と変わらぬ状態であったのかを必ず意識して病歴を聴取しましょう。発見時間ではなく、「発症時間」です。“Wake up stroke”といって、前日就寝時までは問題なく、当日の起床時に麻痺を認め来院する患者は少なくありません。以前は発症時間が不明ないし、就寝時と考えると4.5時間以上経過している(たとえば前日22時に就寝し、当日5時半に麻痺を認める場合など)場合には、その段階で適応外とすることが多かったと思います。しかし、最近では、発症時間が不明な場合でも、頭部MRIの画像を利用して発症時間を推定し、血栓溶解療法を行うメリットも報告されています2)。現段階では、わが国では限られた施設のみが行っている戦略と考えられているため、病歴聴取よりも画像を優先することはありませんが、「寝て起きたときには脳梗塞が起こっていた症例は血栓溶解療法の適応なし」と瞬時に判断するのは早すぎるとは思っています。60歳以上では夜間に1回以上排尿のために起きていることが多く、就寝時間を確認するだけでなく、夜間トイレにいった形跡があるか(家族が物音を聞いているなど)は確認するべきでしょう。3時頃にいったという確認がとれれば、5時半の起床時に脳梗塞症状を認めた場合、血栓溶解療法の適応内ということになるのです。なんとか目の前の脳梗塞患者の予後を良くする術はないか(血栓溶解療法、血栓回収療法の適応はないのか)を常に意識して対応しましょう。2)頭部CTは病巣を意識して撮影を!血栓溶解療法の適応のある患者では、頭部CTは迅速に撮影しますが、低血糖の除外とともに最低限確認しておくべきことがあります。バイタルサインは当たり前として、ざっとで構わないので神経所見を確認し、脳卒中だとすると頭蓋内のどの辺に病巣がありそうかを頭にイメージする癖をもちましょう。「失語+右上下肢の運動麻痺→左中大脳動脈領域?」など、異常所見を推定し、画像評価をする必要があります。たとえば、左放線冠のラクナ梗塞を認めた症例において、重度の意識障害を認める、右だけでなく左半身の運動麻痺を認めるような場合には、痙攣の合併などを考慮する必要があります。麻痺がてんかんによるものであれば、血栓溶解療法は禁忌、脳梗塞に伴う急性症候性発作であれば禁忌ではありません。3)適切な連携をとり、早期治療介入を!急性期脳梗塞は“Time is Brain!”と言われ、より早期に治療介入することが重要です。血栓溶解療法適応症例は60分以内のrt-PA静注が理想とされていますが、これを実現するのは簡単ではありません。症例のように、現場から脳梗塞疑いの患者の要請が入ったら、その段階で人を集め、CT、MRI室へ一報し、スタンバイしておく必要があります。また、採血では凝固関連(PT-INRなど)が最も時間がかかり、早く結果を出してほしい旨を検査室に伝えて対応してもらいましょう。また、患者、家族に対する病状説明も重要であり、初療にあたる医師と病状説明する医師の2名は最低限確保し、対応するとよいでしょう。実際、この症例では、要請時の段階で医師を集め、来院後迅速に所見をとりつつ低血糖を否定しました。その後、頭部CT、胸部CTを撮影し、early CT signsや大動脈解離は認めませんでした。突然発症であり発症時間が明確であったため、急性期脳梗塞を疑いrt-PAの準備、家族への病状説明を行いつつ頭部MRIとMRAを撮影しました。結果、左中大脳動脈領域の急性期脳梗塞と診断し、血栓溶解療法を行う方針となりました。脳梗塞を疑うことはそれほど難しくありませんが、短時間で診断し、適切な診療を行うことは容易ではありません。Stroke mimicsを常に意識しながら対応すること、役割分担を行い皆で協力して対応しましょう!次回は「Rule 7 菌血症・敗血症が疑われたfever work up!」、高齢者の意識障害で多い感染症の診るべきポイントを解説します。1)Runchey S, et al. JAMA. 2010;303:2280-2286.2)Thomalla G, et al. NEJM. 2018;379:611-622.

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心臓手術で「エキストラ」にできること(解説:香坂俊氏)-905

 床屋に行ったりすると、最後に整髪料を付けてくれたり、あるいはジェル等を使って髪形を整えてくれたりすることがある。たまに肩や首をマッサージしてくれることもある。筆者は顔のパックを試していきませんか、と言われたこともある(断った)。ケースバイケースだが、こうした【エキストラなサービス】は概して嬉しいものである。 これが心臓外科手術だったらどうだろうか? 通常心臓外科手術というのは、目的とする冠動脈バイパス術なり弁置換術なりを行って、サッと胸を閉じてしまうことがほとんどだが、たまに術者が【エキストラなサービス】としてちょっとした手技を追加してくれることがある。 その代表格が左心耳の閉鎖術ではないだろうか。この左心耳は左房で盲端になっており、肺静脈から流れてくる血液の一時的なバッファー(緩衝地)として働いている。が、心房細動になると、途端にお荷物となり、盲端であるがために血栓が好発し、脳梗塞を起こすことが知られている。なので、冠動脈バイパス術なり弁置換術なりの心臓手術を行うときに、もしその患者さんが心房細動を合併していたら、ついでに心臓外科医が左心耳閉鎖術も一緒にやってくれることはよくある(同意の上で)。 この左心耳閉鎖術の追加は、伝統的に「おそらく生理学的に問題ないであろうし、血栓もできなくなるだろう」と考えられ、とくにRCTが行われることもなく慣習的に続けられてきた。そこで、「大きなデータベースもあることだし、一度ここらで一度検証しておこうか」ということで、米国での解析が行われた。 用いられたのは10,520例の心臓手術患者のデータである。ちなみにすべての方が65歳以上で、心房細動を合併していた。エキストラに左心耳閉鎖術が行われていたのは3割程度であったが、可能な限り背景因子などを調整し、マッチさせて比較したところ、予想通り左心耳閉鎖が行われた患者で予後が良好だったとの結果が得られている(平均追跡期間2.6年で脳梗塞のハザードは33%程度低下)。 ただ、この研究に関しては後ろ向き研究に関する限界を踏まえて解釈せねばならず、現場の「心臓外科医」がベストの判断で行った結果を検証しただけであるので、この結果即すべての心臓手術患者さんに対して左心耳閉鎖術を行うということにはならない。また、抗凝固療法の扱いにも決まったルールがあったわけではなく、サブ解析では「抗凝固が退院後も続けられていた症例に限れば、左心耳閉鎖施行と予後改善に関連はなかった」とされている。 とりあえず今の段階で言えることは、心臓外科医が【エキストラなサービス】として選択的に左心耳閉鎖術を行っても害はなく(よかった!)、場合によってはメリットがあるかもしれないということになる。米国で左心耳閉鎖が行われた症例の割合が30%程度だった、というのも1つの指標として役に立つだろう(その割合を大きく超えて左心耳閉鎖を行った場合、今回の結果が当てはまらなくなる可能性が高い)。今後この領域には、ウォッチマンなど経皮的に左心耳を閉鎖できるデバイスが導入されてくるが、こうした新たな手法による適応の拡大にはRCTの施行を視野に入れた慎重な議論が必要だろう。

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【GET!ザ・トレンド】脳神経細胞再生を現実にする(4)

インタビューのフルバージョン動画はこちら近年の研究で、ヒトの脳神経細胞にも再生機能があることが明らかになった。そのようななか、慢性脳卒中患者の機能を再生する細胞治療の臨床治験が行われている。これらの治験の中心的役割を担い、Stroke誌2018年4月18日号に総説「Cell Therapy for Chronic Stroke」*を発表したピッツバーグ大学 神経科 Lawrence R. Wechsler氏に、世界における慢性脳卒中の細胞治療の現状を聞いた。慢性脳卒中治療の現状について教えていただけますか。慢性脳卒中は、米国および世界のアンメット・メディカルニーズを代表するものでしょう。脳卒中診療の進化に多くの時間と労力を費やしてきたこともあり、急性期については、t-PAや機械的血栓除去といった進行抑制に介入する新たな治療法がいくつか出てきています。また、亜急性期では、理学療法である程度障害を改善することはできます。しかし、慢性期になると、障害改善のためにできることはほとんどありません。脳卒中の問題は、イベント発症後、数ヵ月および数年後にあります。米国では毎年約80万人の脳卒中が発症しており、後遺症による障害をかかえる患者さんは、4〜500万人と推定されています。現状では最大の努力をしても障害が残ってしまう、そういった患者さんを助ける試みが是が非でも必要です。先生の総説に代表されるように、慢性脳梗塞において、細胞治療が注目されていますが、細胞治療にどのような期待をお持ちですか。細胞療法が脳卒中の後遺症を持つ患者さんの機能を改善できるかに注目しています。少なくとも今この段階で、細胞治療は期待以上のものだと思います。発症前の状態に戻すことができれば、喜ばしいことですが、現段階ではまだ多くのハードルがあります。とはいえ、小さな機能の変化でも、その人の人生に大きな影響を与えることができます。たとえば、歩けなかった患者さんが、介助付きで歩けるようになる。手が麻痺した方がコップやペンを持てるようになる。話せなかった方が、コミュニケーションできるようになる。たとえ元に戻っていなくても、細胞治療でこういったことが実現できれば、患者さんの世界は大きく変わります。細胞治療はどのような機序で効果を発揮すると考えられますか。複数の機序があると思います。細胞タイプ、投与方法で、作用機序は変わってくる可能性があります。細胞がなぜ、いつ、どのように機能するのか、現時点では完全には理解されていません。ただ、一般的な細胞治療である間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell、以下MSC)において最も可能性が高いメカニズムは、免疫系の調節であると考えています。脳卒中後は激しい免疫応答があることがわかっており、その免疫応答の一部が回復の阻害する可能性があると考えています。この免疫応答や、有害な成分を抑制することによって、アウトカムを改善できるかもしれないと考えています。また、移植した細胞が、インターロイキンなどのサイトカイン、成長因子などを分泌して、生き残った細胞の機能回復を促進するパラクラインメカニズムにより、不可逆的に傷害された脳の領域を補うことが主な作用であると考えています。これらの要素が、神経細胞形成、血管新生の増加、グリア反応の減少、抗炎症作用などを生み出します。貢献度合いは定かではありませんが、こういったものの組み合わせが、何らかのベネフィットにつながる、と考えています。移植細胞自体が増殖再生するわけではないということですか。おそらく移植した細胞が、損傷した脳細胞に置き換わるような機能はないと思われます。不可逆的に損傷した脳の周辺には、修復反応を再生し回復を促進する機能を持った細胞がまだ存在します。細胞治療のターゲット領域はここで、周囲の細胞つまり再生反応をつないでいく細胞を活性化して、ダメージを受けた領域を補うと思われます。細胞治療の効果を有効に活用するために、どのような試みがなされていますか。MSC以外にも、神経前駆細胞、不死化腫瘍細胞などいくつかの細胞がありますが、最近、最も一般的に使用されているのはMSCです。そのMSCにも、骨髄の単核細胞由来のもの、歯髄、脂肪組織由来のものなどがあります。しかし、最も一般的なソースは骨髄です。骨髄由来のMSCの移植方法として、自家移植と同種(他家)移植がありますが、自家移植では手技の侵襲、高齢者の骨髄から採取した幹細胞の量と質の問題などがあります。一方、骨髄由来のMSCは同種(他家)移植でも拒絶反応がなく、免疫抑制が不要なこと、治療に十分な細胞量を産み出せることから、自家移植よりも同種(他家)移植が多く行われます。同種(他家)移植では、骨髄バンクから骨髄由来細胞を取り出し、企業が開発した方法で増殖し、いわゆる「Off the Shelf Product」を作り、脳卒中を起こした患者に、細胞を投与することが可能になります。細胞の投与経路も研究されています。静脈内投与、髄腔内投与、直接動脈内投与もできます。しかし、多くの研究で行われているのは、脳の穿刺孔から小さな針を入れ、細胞を脳に直接注入する方法です。投与経路を考えるうえで、脳卒中発症後の時間と、細胞の働きは重要です。発症後早い段階では、脳が発するシグナル(ホーミングシグナル)があり、動脈や静脈、髄腔内に投与された細胞は、損傷領域に引き込まれます。しかし、慢性期には、そのシグナルは消えてしまいます。つまり、慢性期では、静脈、動脈、髄腔内投与ではなく、損傷部位に直接注入しないと、そこで効果を発揮するのはむずかしいのです。そのため、慢性脳卒中モデルにおいては、定位脳手術を用いて、細胞を梗塞領域に直接注射することが最善のアプローチであるとされています。慢性脳卒中における細胞治療の臨床試験について教えていただけますか。まず、完了した試験についてお話しします。最初の試験群は10~15年前に行われた、Layton BioScience社の不死化腫瘍細胞の小規模な早期試験です。この細胞は、若年男性の奇形がん患者から単離され、定位脳手術によって、脳の損傷領域に直接移植しています。この研究は12例と、18例の2つの試験で行われました。非常に新しい研究であり、これらの細胞が腫瘍や重篤な反応を引き起こすか知見はありませんでしたが、細胞自体は安全で問題は生じませんでした。また、限定的な試験であったものの、有効性のヒントはいくつか示しました。さらに、ブタ胎児の細胞を用いた別の研究ありました。それも小規模な研究でしたが、合併症があり、5例の患者で中止になっています。この合併症は細胞に関連していなかったことが、判明しましたが、その懸念から、研究は再開されませんでした。その約10年後に、一連の新たな研究が行われました。まずピッツバーグ大学とスタンフォード大学が共同で行ったSanBio社の細胞(SB623)の第I相試験です。SB623は、骨髄由来のMSCであり、プラスミドを用いて、Notch-1を遺伝子導入した同種(他家)移植の製品です。脳卒中発症後6~60ヵ月の患者の梗塞部位の周辺に、定位脳手術で投与されました。このSB623の試験でも、手術に関連するもの以外に安全性の問題はありませんでした。また、小規模でコントロール群がないので、細胞の効果を証明できるような試験ではありませんでしたが、細胞が何らかの作用を示したのであろう、臨床的改善の示唆がいくつかありました。次のレベルの研究へ進むと決断するに十分な有効性を示すヒントがありました。もう1つはReNeuron社が行った試験です。この細胞はc-Mycという遺伝子を導入した神経前駆細胞(CTX0E03)です。CTX0E03の注入部位は脳梗塞部位ではなく被殻で、同じく定位脳手術で行われました。CTX0E03の試験も、安全性は適切で、一部の患者では臨床的に改善の徴候が見られました。細胞治療による改善の状況についてもう少し詳しく教えていただけますか。これらの早期試験では、一般的な脳卒中の機能スコアの一部に改善が見られました。グループ全体ではそれほど差は表れませんでしたが、患者さん個人を「ベースラインはここ、6ヵ月目はここ、12ヵ月目はここ」と、いろいろなスケールをとおして見ていくと、少なくともそこには細胞治療のベネフィットを示唆するシグナルがありました。その改善効果は一貫したもので、改善は最初の年に見られ、その後治療前の状態に悪化することなく、そのまま維持される傾向にありました。進行中および今後の試験についてはいかがですか。画像を拡大する慢性脳卒中細胞治療の臨床試験SanBio社のSB623で前述の第I相に続く、第IIb相試験ACTIsSIMAの組み入れが完了しています。患者の追跡期間は1年間なので結果が出るのはこれからですが、これは非常に興味深い研究です。その理由は、まず大規模な研究ということです。100例以上の患者が登録されています。そして、コントロールとしてSham(偽)手術群を登録していることです。Sham手術の患者は手術室で、細胞を投与された患者と同レベルの鎮静を与えられ、(表層レベルですが)頭蓋骨の穿刺孔施術も同様の手技で施行されます。脳に細胞を注入すること以外、すべてが同じように行われるわけです。また、手術チームと患者をフォロー・評価するチームを分けて、盲検が厳しく順守されるよう努力をしています。まだ結果は出ていませんが、本当に改善が認められるかどうか、とても示唆に富む試験だと思います。私たちはこの研究結果を心待ちにしています。また、ReNeuron社のCTX0E03細胞の第IIb相試験であるPISCES-IIIも行われます。トライアルのデザインは、Sham手術を採用し、盲検でチームを分離するなど、SanBio社のACTIsSIMA試験よく似ています。ACTIsSIMAおよびPISCES-III双方の研究でポジティブな結果がでれば、細胞治療が慢性脳卒中にとって、効果的な治療法であるという、強い示唆を与えてくれるでしょう。細胞治療で改善した患者さんの効果について、Wechsler先生はどのような印象をお持ちですか。興味深い質問です。というのも、測定していない項目において、ポジティブな変化を報告した患者が数多くいたのです。それらの患者さんのコメントは、記憶が良くなった、精神機能が改善された、活力がわいた、考えが明確になった、というものでした。運動機能については、スケールに表れた変化のみならず、評価指標には表れない小さな変化も患者さんから報告されています。手がうまく使えた、バランスをとって歩けた、といったものです。こういたものが、実際の効果なのか、(良くなりたいという患者さん思いからくる)プラセボ効果なのか、適切コントロール試験が重要になってきます。日本の臨床医にメッセージをいただけますか。慢性脳卒中の細胞治療は有望で、その結果は期待できるものです。しかし、まだ証明されたものではありません。実際にこれが効果的な治療になるかどうかを、進行中の研究で、最後まで調べる必要があります。細胞治療が、慢性脳卒中治療の選択肢に加わり、多くの患者さんを助けられるのであれば歓迎すべきことです。私は細胞治療が成功することを期待していますし、現状のすべての徴候を見るかぎり、効果があると言えるでしょう。また、細胞治療の発展形として、成長因子やサイトカインといった細胞の分泌物を同定・分離し、それらの物質を適正な標的に与えることができれば、細胞を注入する必要性すらなくなるかもしれません。私たちの最終目標は、脳を再構成することだと考えています。機能が失われた脳については、まだゴールから少し離れたところにありますが、進歩は続いています。いつかは、細胞を投与することで、残っている機能を増強させるだけでなく、脳を置き換えることができるようになる。そうすれば、さらに高い効果を得られるようになるでしょう。それが、われわれが今細胞治療で目指していることです。Lawrence R. Wechsler氏インタビュー動画ハイライト

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リジン尿性蛋白不耐症〔LPI:lysinuric protein intolerance〕

1 疾患概要■ 定義二塩基性アミノ酸(リジン、アルギニン、オルニチン)の輸送蛋白の1つである y+LAT-1(y+L amino acid transporter-1)の機能異常によって、これらのアミノ酸の小腸での吸収障害、腎での再吸収障害を生じるために、アミノ酸バランスの破綻から、高アンモニア血症をはじめとした多彩な症状を来す疾患である。本疾患は常染色体劣性遺伝を呈し、責任遺伝子SLC7A7の病因変異が認められる。現在は指定難病となっている。■ 疫学わが国での患者数は30~40人と推定されている。■ 病因y+LAT-1 は主に腎、小腸などの上皮細胞基底膜側に存在する(図)。12の膜貫通領域をもった蛋白構造をとり、分子量は約40kDaである。調節ユニットである 4F2hc(the heavy chain of the cell-surface antigen 4F2)とジスルフィド結合を介してヘテロダイマーを形成することで、機能発現する。本蛋白の異常により二塩基性アミノ酸の吸収障害、腎尿細管上皮での再吸収障害を来す結果、これらの体内プールの減少、アミノ酸バランスの破綻を招き、諸症状を来す。所見の1つである高アンモニア血症は、尿素回路基質であるアルギニンとオルニチンの欠乏に基づくと推定されるが、詳細は不明である。また、SLC7A7 mRNAは全身の諸臓器(白血球、肺、肝、脾など)でも発現が確認されており、本疾患の多彩な症状は各々の膜輸送障害に基づく。上述の病態に加え、細胞内から細胞外への輸送障害に起因する細胞内アルギニンの増加、一酸化窒素(NO)産生の過剰なども関与していることが推定されている。画像を拡大する■ 症状離乳期以降、低身長(四肢・体幹均衡型)、低体重が認められるようになる。肝腫大も受診の契機となる。蛋白過剰摂取後には約半数で高アンモニア血症による神経症状を呈する。加えて飢餓、感染、ストレスなども高アンモニア血症の誘因となる。多くの症例においては1歳前後から、牛乳、肉、魚、卵などの高蛋白食品を摂取すると嘔気・嘔吐、腹痛、めまい、下痢などを呈するため、自然にこれらの食品を嫌うようになる。この「蛋白嫌い」は、本疾患の特徴の1つでもある。そのほか患者の2割に骨折の既往を、半数近くに骨粗鬆症を認める。さらにまばらな毛髪、皮膚や関節の過伸展がみられることもある。一方、本疾患では、約1/3の症例に何らかの血液免疫学的異常所見を有する。水痘の重症化、EBウイルスDNA持続高値、麻疹脳炎合併などのウイルス感染の重症化や感染防御能の低下が報告されている。さらに血球貪食症候群、自己免疫疾患(全身性エリテマトーデス、抗リン脂質抗体症候群、自己免疫性肝炎、関節リウマチ)合併の報告がある。成人期以降には肺合併症として、間質性肺炎、肺胞蛋白症などが増える傾向にある。無症状でも画像上の肺の線維化がたびたび認められる。また、腎尿細管病変や糸球体腎炎も比較的多い。循環器症状は少ないが、運動負荷後の心筋虚血性変化や脳梗塞を来した症例もあり、注意が必要である。■ 分類本疾患の臨床症状と重症度は多彩である。一般には出生時には症状を認めず、蛋白摂取量が増える離乳期以後に症状を認める例が多い。1)発症前型同胞が診断されたことを契機に、診断に至る例がある。この場合も軽度の低身長などを認めることが多い。2)急性発症型小児期の発症形態としては、高アンモニア血症に伴う意識障害や痙攣、嘔吐、精神運動発達遅滞などが多い。しかし、一部では間質性肺炎、易感染、血球貪食症候群、自己免疫疾患、血球減少などが初発症状となる例もある。3)慢性進行型軽症例は成人まで気付かれず、てんかんなどの神経疾患の精査から診断されることがある。■ 予後早期診断例が増え、精神運動発達遅延を呈する割合は減少傾向にある。しかし、肺合併症や腎病変は、アミノ酸補充にもかかわらず進行を抑えられないため、生命予後に大きく影響する。水痘や一般的な細菌感染は、腎臓・肺病変の重症化を招きうる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)高アンモニア血症を来す尿素サイクル異常症の各疾患の鑑別のため血中・尿中アミノ酸分析を提出する。加えてLDHやフェリチンが上昇していれば本疾患の可能性が高まる。確定診断には遺伝子解析を検討する。■ 一般血液検査所見1)血清LDH上昇:600~1,000IU/L程度が多い。2)血清フェリチン上昇:程度は症例によって異なる。3)高アンモニア血症:血中アンモニア高値の既往はほとんどの例でみられる。最高値は180~240μmol/L(300~400μg/dL)の範囲であることが多いが、時に600μmol/L (1,000μg/dL)程度まで上昇する例もある。また、食後に採血することで蛋白摂取後の一過性高アンモニア血症が判明し、診断に至ることがある。4)末梢白血球減少・血小板減少・貧血上記検査所見のほか、AST/ALTの軽度上昇(AST>ALT)、TG/TC上昇、貧血、甲状腺結合蛋白(TBG)増加、IgGサブクラスの異常、白血球貪食能や殺菌能の低下、NK細胞活性低下、補体低下、CD4/CD8比の低下などがみられることがある。■ 血中・尿中アミノ酸分析1)血中二塩基性アミノ酸値(リジン、アルギニン、オルニチン)正常下限の1/3程度から正常域まで分布する。また、二次的変化として、血中グルタミン、アラニン、グリシン、セリン、プロリンなどの上昇を認めることがある。2)尿の二塩基性アミノ酸濃度は通常増加(リジンは多量、アルギニン、オルニチンは中等度、シスチンは軽度)なかでもリジンの増加はほぼ全例にみられる。まれに(血中リジン量が極端に低い場合など)、これらのアミノ酸の腎クリアランスの計算が必要となる場合がある。(参考所見)尿中有機酸分析における尿中オロト酸測定:高アンモニア血症に付随して尿中オロト酸の増加を認める。■ 診断の根拠となる特殊検査1)遺伝子解析SLC7A7(y+LAT-1をコードする遺伝子)に病因変異を認める。遺伝子変異は今まで50種以上の報告がある。ただし本疾患の5%程度では遺伝子変異が同定されていない。■ 鑑別診断初発症状や病型の違いによって、鑑別疾患も多岐にわたる。1)尿素サイクル異常症の各疾患2)ライソゾーム病3)周期性嘔吐症、食物アレルギー、慢性腹痛、吸収不良症候群などの消化器疾患 4)てんかん、精神運動発達遅滞5)免疫不全症、血球貪食症候群、間質性肺炎初発症状や病型の違いによって、鑑別疾患も多岐にわたる。<診断に関して留意する点>低栄養状態では血中アミノ酸値が全体に低値となり、尿中排泄も低下していることがある。また、新生児や未熟児では尿のアミノ酸排泄が多く、新生児尿中アミノ酸の評価においては注意が必要である。逆にアミノ酸製剤投与下、ファンコーニ症候群などでは尿アミノ酸排泄過多を呈するので慎重に評価する。3 急性発作で発症した場合の診療高アンモニア血症の急性期で種々の臨床症状を認める場合は、速やかに窒素負荷となる蛋白を一旦除去するとともに、中心静脈栄養などにより十分なカロリーを補充することで蛋白異化の抑制を図る。さらに薬物療法として、L-アルギニン(商品名:アルギU)、フェニル酪酸ナトリウム(同:ブフェニール)、安息香酸ナトリウムなどが投与される。ほとんどの場合は、前述の薬物療法によって血中アンモニア値の低下が得られるが、無効な場合は持続的血液透析(CHD)の導入を図る。■ 慢性期の管理1)食事療法十分なカロリー摂取と蛋白制限が主体となる。小児では摂取蛋白0.8~1.5g/kg/日、成人では0.5~0.8g/kg/日が推奨される。一方、カロリーおよびCa、Fe、ZnやビタミンDなどは不足しやすく、特殊ミルクである蛋白除去粉乳(S-23)の併用も考慮する。2)薬物療法(1)L-シトルリン(日本では医薬品として認可されていない)中性アミノ酸であるため吸収障害はなく、肝でアルギニン、オルニチンに変換されるため、本疾患に有効である。投与により血中アンモニア値の低下や嘔気減少、食事摂取量の増加、活動性の増加、肝腫大の軽減などが認められている。(2)L-アルギニン(同:アルギU)有効だが、吸収障害のため効果が限られ、また浸透圧性下痢を来しうるため注意して使用する。なおL-アルギニンは、急性期の高アンモニア血症の治療としては有効であるが、本症における細胞内でのアルギニンの増加、NO産生過剰の観点からは、議論の余地があると思われる。(3)L-カルニチン2次性の低カルニチン血症を来している場合に併用する。(4)フェニル酪酸ナトリウム(同:ブフェニール)、安息香酸ナトリウム血中アンモニア値が不安定な例ではこれらの定期内服を検討する。その他対症療法として、免疫能改善のためのγグロブリン投与、肺・腎合併症に対するステロイド投与、骨粗鬆症へのビタミンD製剤やビスホスホネート薬の投与、成長ホルモン分泌不全性低身長への成長ホルモンの投与、重炭酸ナトリウム、抗痙攣薬、レボチロキシン(同:チラーヂンS)の投与などが試みられている。4 今後の展望小児期の発達予後に関する最重要課題は、高アンモニア血症をいかに防ぐかである。近年では、早期診断例が徐々に増えることによって正常発達例も増えてきた。その一方で、早期から食事・薬物療法を継続したとしても、成人期の肺・腎合併症は予防しきれていない。その病因として、尿素サイクルに起因する病態のみならず、各組織におけるアミノ酸の輸送障害やNO代謝の変化が想定されており、これらの病態解明と治療の開発が望まれる。5 主たる診療科小児科、神経内科。症状により精神科、腎臓内科、泌尿器科、呼吸器内科への受診も適宜行われている。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター リジン尿性蛋白不耐症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Sperandeo MP, et al. Hum Mutat. 2008;29:14-21.2)Torrents D, et al. Nat Genet. 1999;21:293-296.3)高橋勉. 厚労省研究班「リジン尿性蛋白不耐症における最終診断への診断プロトコールと治療指針の作成に関する研究」厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業 平成22年度総括分担研究報告書;2011.p.1-27.4)Charles Scriver, et al(editor). The Metabolic and Molecular Bases of Inherited Disease, 8th ed. New York City:McGraw-Hill;2001:pp.4933-4956.5)Sebastio G, et al. Am J Med Genet C Semin Med Genet. 2011;157:54-62.公開履歴初回2018年8月14日

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軽症脳梗塞急性期の治療効果はtPAとアスピリンで差がなかった(解説:内山真一郎氏)-897

 脳梗塞急性期患者の半数以上は軽症であるが、これまでに行われた血栓溶解療法の臨床試験には介助を要さない軽症例も含まれていた。PRISMS試験は、米国国立衛生研究所脳卒中尺度(NIHSS)が5点までの軽症例において、アルテプラーゼの有効性と安全性を評価する目的で行われた。PRISMSは米国の多施設共同、第III相無作為化二重盲検比較試験であり、NIHSSが0~5点で介助を要さず、発症後3時間以内の治療を開始された症例が対象となった。 対象症例は米国での標準用量(0.9mg/kg)のアルテプラーゼ投与群かアスピリン325mg投与群に振り分けられ、90日後の転帰が改変ランキン尺度スコア(mRS)で評価された。安全性は治療開始後36時間以内の症候性頭蓋内出血で評価された。試験は資金難のため途中で中止されてしまったことから症例数は目標に達していない313例のみであったが、転帰良好例はアルテプラーゼ群78.2%、アスピリン群81.5%であり、症候性頭蓋内出血はアルテプラーゼ群3.2%、アスピリン群0%であり、アスピリンを上回るアルテプラーゼの有用性は示されなかった。 ただし、試験が早期に中止されてしまったため最終結論を下すことはできず、さらなる研究が必要であるが、軽症例の血栓溶解療法の適用に一石を投じる試験結果であったとはいえる。逆に、脳梗塞発症直後からのアスピリン投与の転帰改善効果をもっと見直す必要があることを示唆しているのかもしれない。

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心房細動患者への抗凝固薬とNSAID併用で大出血リスク上昇【Dr.河田pick up】

 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は頻繁に使用される薬剤である一方、出血と血栓症のリスクを高める可能性がある。心房細動患者におけるNSAIDsの影響を定量化して求めることを目的として、Yale大学のAnthony P. Kent氏らが行ったRE-LY(Randomized Evaluation of Long Term Anticoagulant Therapy)試験のPost-Hoc解析結果が報告された。Journal of American College of Cardiology誌2018年7月17日号に掲載。RE-LY試験のpost-Hoc解析 RE-LY試験は、1万8,113例の心房細動患者を対象としてダビガトラン(110mgまたは150mgを1日2回)とワルファリンの有効性・安全性を比較した前向き試験で、2009年にNew England Journal of Medicine誌に報告された。 今回のPost-Hoc解析では、治療と独立した多変量Cox回帰解析を用いて、NSAIDsを使用した患者とそうでない患者の臨床成績を比較。相互作用解析は治療に応じたCox回帰分析を用いて求められた。NSAIDsの使用に関しては、時間依存共変量解析がCoxモデルを求めるのに使用された。大出血のエピソードはNSAIDsの使用で有意に上昇 RE-LY試験に組み入れられた1万8,113例の心房細動患者のうち、2,279例がNSAIDsを少なくとも一度、試験期間中に使用した。大出血の頻度はNSAIDs使用例で有意に高かった(ハザード比[HR]:1.68、95%信頼区間[CI]:1.40~2.02、p<0.0001)。 NSAIDsは糸球体濾過量(GFR)を減少させることが知られていて、ダビガトランは80%が腎臓からろ過されるが、NSAIDsの使用はダビガトラン110mg群、150 mg群いずれにおいても、ワルファリン群と比較して大出血のリスクに変化を与えなかった(相互作用のp=ダビガトラン110mg群:0.93、ダビガトラン150 mg群:0.63)。消化管出血はNSAIDs使用例で有意に高かった(HR:1.81、95% CI:1.35~2.43、p <0.0001)。脳梗塞および全身の血栓症もNSAIDs使用例で有意に高かった (HR:1.50、95% CI:1.12~2.01、p=0.007)。NSAIDsの使用による影響、ダビガトランとワルファリンで違いみられず NSAIDs使用例での脳梗塞、全身の血栓症に対する影響は、ダビガトラン110 mg群または150 mg群いずれでもワルファリン群との比較において違いはなかった。(相互作用のp=ダビガトラン110mg群:0.54、ダビガトラン150 mg群:0.59)。心筋梗塞の発生率や全死亡率はNSAIDs使用の有無で違いは認められなかった(HR:1.22、95% CI:0.77~1.93、p=0.40)が、NSAIDs使用例では入院率が高かった(HR:1.64、95% CI:1.51~1.77、p <0.0001)。心房細動患者で抗凝固薬が必要な患者において、NSAIDsの併用には注意が必要 筆者らは結論として、NSAIDsの使用は大出血、脳梗塞、全身の血栓症、入院率の上昇と関連していたと報告している。NSAIDsとの併用においてダビガトラン(110mgまたは150mg)の安全性と有効性は、NSAIDsとワルファリンの併用と比較しても違いがなかったとしている。 今回の研究で、これまでの研究と同様にNSAIDsは無害な薬ではないことが確認され、心房細動で抗凝固薬が使用されている患者においては、必要性を検討すべきであるとも記されている。

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卵円孔開存患者では周術期の脳梗塞が多かった(解説:佐田政隆氏)-895

 卵円孔は、胎児期に右心房から左心房に血液が直接流れ込むための正常な構造であり、出産後肺循環が始まると閉鎖される。この閉鎖が不全である状態が卵円孔開存(patent foramen ovale; PFO)である。バブルテストや経食道心エコーなどの診断技術の向上によって、診断される頻度が増えており、成人で25%にPFOが認められるという報告もある。心房中隔欠損症などと異なり、PFOは血行動態に悪影響はなく、従来は放置して良いとされてきた。しかし、下肢などに血栓が生じると、PFOを通って右房から左房へ血栓が流れていって、奇異性脳塞栓症を生じさせることがまれに起こることが知られている。脳梗塞の既往がない周術期患者でPFOが本当に脳梗塞のリスクになるのかどうかは不明であった。 本研究では、全身麻酔下で非心臓手術を受けた成人18万2,393例について後ろ向き観察を行った。解析対象となった15万198人のうち約1%である1,540人にPFOが検出された。術後30日以内の、脳卒中推定リスクは、PFO群で5.9人/1,000人であるのに対して、PFOがない群で2.2人/1,000人であった。オッズ比2.66と、PFO群でPFOがない群より、有意に脳卒中のリスクが高かった。しかも、PFO群では大きい血管領域の脳梗塞が多く、脳卒中重症度の程度が大きかった。 本研究により、脳卒中の既往がない患者で、PFOが周術期の脳卒中リスクを高めることが明らかになった。PFOの検出率が1%であり、非PFO群にもPFOが含まれている可能性が高く、PFOによる脳卒中リスクはもっと高いと思われる。問題になるのは、術前にPFOが検出された場合、閉鎖術を施行すべきか、放置して構わないのかである。奇異性脳梗塞の予防のためには、抗血小板薬や抗凝固薬が有効といわれるが周術期には出血の危険性があり使用が制限される。もし、PFO閉鎖術で、周術期の脳卒中を予防できればメリットが大きい。 近年は、卵円孔開存に対する経カテーテル閉鎖デバイスが発達している。脳梗塞の既往のあるPFO患者で、PFO閉鎖は脳梗塞再発リスクを減少させることが最近の臨床研究から報告されている。しかし、脳梗塞の既往のないPFO患者に、術前に閉鎖術を行ったほうが良いのかどうかエビデンスがないのが現状である。PFO閉鎖術によって、新規発症の心房細動のリスクが上昇するという報告もある。PFOへの介入によって術後脳卒中のリスクが低減するのかどうか、ランダム化比較試験で検討する必要がある。

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ファブリー病に世界初の経口治療薬が登場

 2018年7月7日、アミカス・セラピューティスク株式会社は、同社が製造・販売する指定難病のファブリー病治療薬のミガーラスタット(商品名:ガラフォルド)が、5月に承認・発売されたことを期し、「ファブリー病治療:新たな選択肢~患者さんを取り巻く環境と最新情報~」と題するメディアラウンドテーブルを開催した。希少代謝性疾患の患者に治療を届けるのが使命 はじめに同社の会長兼CEOのジョン・F・クラウリー氏が挨拶し、「『希少代謝性疾患の患者に高品質の治療を届けるように目指す』ことが我々の使命」と述べた。また、企業責任は「患者、患者家族、社会に希少疾病を通じてコミットすることで『治療にとどまらない癒しをもたらすこと』」と企業概要を説明した。今後は、根治を目標に遺伝子治療薬の開発も行っていくと展望を語った。なお、クラウリー氏は、実子がポンぺ病を発症したことから製薬会社を起業し、治療薬を開発したことが映画化されるなど世界的に著名な人物である。治療選択肢が増えたファブリー病 つぎに衞藤 義勝氏(脳神経疾患研究所 先端医療研究センター長、東京慈恵会医科大学名誉教授)が、「日本におけるファブリー病と治療の現状」をテーマに、同疾患の概要を解説した。 ライソゾーム病の一種であるファブリー病は、ライソゾームのαガラクトシダーゼの欠損または活性低下から代謝されるべき糖脂質(GL-3)が細胞内に蓄積することで、全身にさまざまな症状を起こす希少疾病である。 ファブリー病は教科書的な疫学では4万例に1例とされているが、実際には人種、地域によってかなり異なり、わが国では新生児マススクリーニングで7,000例に1例と報告されている。臨床型ではファブリー病は、古典型(I型)、遅発型(II型)、ヘテロ女性型に分類され、古典型が半数以上を占めるとされる。 ファブリー病の主な臨床症状としては、脳血管障害、難聴、角膜混濁・白内障、左室肥大・冠攣縮性狭心症・心弁膜障害・不整脈、被角血管腫・低汗症、タンパク尿・腎不全、四肢疼痛・知覚異常、腹痛・下痢・便秘・嘔気・嘔吐など全身に症状がみられる。また、年代によってもファブリー病は症状の現れ方が異なり、小児・思春期では、慢性末梢神経痛、四肢疼痛、角膜混濁が多く、成人期(40歳以降)では心機能障害が多くなるという。 診断では、臨床症状のほか、臨床検査で酵素欠損の証明、尿中のGL-3蓄積、遺伝子診断などで確定診断が行われる。また、早期診断できれば、治療介入で症状改善も期待できることから、新生児スクリーニング、ハイリスク群のスクリーニングが重要だと同氏は指摘する。とくに女性患者は軽症で症状がでないこともあり、放置されている場合も多く、医療者の介入が必要だと強調した。 ファブリー病の治療では、疼痛、心・腎障害、脳梗塞などへの対症療法のほか、根治的治療として現在は酵素補充療法(以下「ERT」と略す)が主に行われ、腎臓などの臓器移植、造血幹細胞などの細胞治療が行われている。とくにERTでは、アガルシダーゼαなどを2週間に1回、1~4時間かけて点滴する治療が行われているが、患者への身体的負担は大きい。そこで登場したのが、シャペロン治療法と呼ばれている治療で、ミガーラスタットは、この治療法の薬に当たる。同薬の機序としては、体内の変異した酵素を安定化させ、リソソームへの適切な輸送を促進することで、蓄積した物質の分解を促す。また、経口治療薬であり、患者のアドヒアランス向上、QOL改善に期待が持たれている。将来的には、学童期の小児にも適用できるように欧州では臨床研究が進められている。 最後に同氏は、「ファブリー病では、治療の選択肢が拡大している一方で、個々の治療法の効果は不明なことも多い。現在、診療ガイドラインを作成しているが、エビデンスをきちんと積んでいくことが重要だと考える」と語り、講演を終えた。酵素補充保療法とスイッチできるミガーラスタット つぎにデリリン・A・ヒューズ氏(ロイヤルフリーロンドンNHS財団信託 血液学領域、ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン)が、「ファブリー病治療の新たな選択肢:ミガーラスタット塩酸塩」をテーマに講演を行った。 はじめに自院の状況について、ライソゾーム病の中ではファブリー病がもっとも多いこと、患者数が年15%程度増加していることを報告し、家族内で潜在性の患者も多いことも知られているため、早期スクリーニングの重要性などを強調した。 英国のガイドラインでは、診断後の治療でERTを行うとされているが、その限界も現在指摘されている。ERTの最大の課題は、治療を継続していくと抗体が形成されることであり、そのため酵素活性が中和され、薬の効果が出にくくなるという。また、細胞組織内の分泌が変化すると、末期では細胞壊死や線維化が起こり、この段階に至るとERTでは対応できなくなるほか、点滴静注という治療方法は患者の活動性を阻害することも挙げられている。実際、15年にわたるERTのフォローアップでは、心不全、腎不全、ペースメーカー、突然死のイベント発生が報告され、効果が限定的であることが判明しつつあるという1)。そして、ミガーラスタットは、こうした課題の解決に期待されている。 ミガーラスタットの使用に際しては、ファブリー病の確定診断と使用に際しての適格性チェック(たとえば分泌酵素量や遺伝子検査)が必要となる。ERTと異なる点は、使用年齢が16歳以上という点(ERTは8歳から治療可能)、GFRの検査が必要という点である。 最後に同氏は、シャペロン療法の可能性について触れ「病態生理、診療前段階、治療とその後の期間、実臨床でもデータの積み重ねが大切だ」と語り、講演を終えた。ミガーラスタットの概要一般名:ミガーラスタット製品名:ガラフォルド カプセル 123mg効能・効果:ミガーラスタットに反応性のあるGLA遺伝子変異を伴うファブリー病用法・用量:通常、16歳以上の患者に、1回123mgを隔日経口投与。なお、食事の前後2時間を避けて投与。薬価:14万2,662.10円/カプセル承認取得日:2018年3月23日発売日:2018年5月30日

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クロピドグレルとアスピリンの併用は脳梗塞再発予防効果があるが出血も増加する(解説:内山真一郎氏)-887

 POINTは発症後12時間以内の軽症脳梗塞か高リスクの一過性脳虚血発作(TIA)において、クロピドグレル(初日600mg、2日目より75mg)とアスピリン(50~325mg)の併用療法とアスピリンの単独療法を比較する試験であった。結果は、併用群で単独群より虚血イベントが有意に少なく、出血イベントは有意に多かった。発症後24時間以内の軽症脳梗塞とTIAを対象に中国で行われたCHANCEでは、クロピドグレル+アスピリン併用療法でアスピリン単独療法より虚血イベントは有意に少なく、出血イベントは差がなかった。 CHANCEではクロピドグレルのloading doseが300mgと少なく、併用療法期間が3週間と短かったことが、POINTより出血イベントが少なかった理由として考えられる。実際、POINTでも併用療法の虚血イベント低減効果は最初の30日間のみであったが、出血イベントのリスクは90日間変わらなかった。 これらのエビデンスから、クロピドグレル+アスピリン併用療法は最初の3~4週間に限定したほうがリスク・ベネフィットの観点から好ましいといえよう。ただし、CHANCEの遺伝子サブ解析によりCYP2C19の機能喪失アレルのキャリアではクロピドグレルの併用効果がないことが報告されているので、このキャリアが中国人と同様に多い日本人ではクロピドグレル不応性を考慮する必要がある。

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経済レベルの異なる国々における脳卒中診療パターンと転帰(中川原譲二氏)-883

 低・中所得国では脳卒中が人々にもたらす影響にはばらつきがある。高所得国では、脳卒中の診療と転帰における改善が報告されているが、低・中所得国での診療の状況と転帰についてはほとんど知られていない。著者ら(英国・グラスゴー大学のPeter Langhorne氏ら)は、経済レベルの異なる国々における実施可能な診療のパターンと患者転帰との関係を比較検討した。32ヵ国、142ヵ所の医療機関が参加した観察研究 研究グループは2007年1月11日~2015年8月8日にかけて、32ヵ国142ヵ所の医療機関を通じて、「INTERSTROKE」研究に参加した1万3,447例の脳卒中患者を対象に、診療の違い(用いられた治療と医療機関へのアクセス)のパターンと効果について検討を行った。また、研究に参加した施設に対して、患者データに加え、健康管理や脳卒中の診療設備に関する情報を調査票により収集した。患者層特性と診療区分に対して単変量・多変量解析を行い、利用できる医療機関、提供された治療と、1ヵ月時点の患者転帰との関連を分析した。脳卒中ケアユニットでの治療や適切な抗血小板療法は、転帰を改善 被験者のうち、すべての情報を得られたのは1万2,342例(92%)だった(28ヵ国108病院)。そのうち、高所得国の被験者は2,576例(10ヵ国38病院)、低・中所得国は9,766例(18ヵ国70病院)だった。低・中所得国の患者は高所得国に比べ、重篤な脳卒中や脳内出血が多く、診療へのアクセスが不十分で、検査や治療の利用が少なかった(p<0.0001)。また、低・中所得国の転帰不良は、患者層特性の違いのみによるものだった。一方、所得に関係なくすべての国において、脳卒中ケアユニットへのアクセスが、検査や治療の利用の改善、リハビリテーション・サービスへのアクセス、重症度によらない生存率の改善と関連していた(オッズ比[OR]:1.29、95%信頼区間[CI]:1.14~1.44、p<0.0001)。それらは、患者層特性や診療の他の評価法とも独立していた。また、急性期の抗血小板療法は、患者層や診療の特性にかかわらず、生存率を改善した(OR:1.39、95%CI:1.12~1.72)。低・中所得国では、診療とその提供体制の改善が不可欠 以上から、低・中所得国では、エビデンスに基づく治療や診断、および脳卒中ケアユニットが、まれにしか活用されていないことが明らかにされた。一方で、脳卒中ケアユニットへのアクセスや抗血小板療法の適切な使用は、転帰の改善と関連していることも示された。したがって、低・中所得国では、診療とその提供体制の改善が、転帰の改善に不可欠であると解釈される。高所得国に恥じない脳卒中診療提供体制の構築が課題 脳卒中診療では、診療提供体制の改善が、転帰の改善に不可欠であることは、低・中所得国に限らず、高所得国であるわが国においても、当てはまる。わが国で2005年に一般臨床での使用が承認された急性期脳梗塞に対するt-PA静注療法は、診療施設における脳卒中ケアユニットの運用と一体のものとして導入された。また、近年エビデンスが確立した急性期脳梗塞に対する血管内治療手技による血栓回収療法についても、各診療圏内に血管内治療手技が24時間提供できる診療体制の構築がなければ、当該診療圏全体としての脳卒中の転帰の改善には、結び付かない。わが国においては、高所得国に恥じない脳卒中の診療体制の構築が課題である。

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第3回 意識障害 その3 低血糖の確定診断は?【救急診療の基礎知識】

72歳男性の意識障害:典型的なあの疾患の症例72歳男性。友人と食事中に、椅子から崩れるようにして倒れた。友人が呼び掛けると開眼はあるものの、反応が乏しく救急車を要請した。救急隊到着時、失語、右上下肢の麻痺を認め、脳卒中選定で当院へ要請があった。救急隊接触時のバイタルサインは以下のとおり。どのようにアプローチするべきだろうか?●搬送時のバイタルサイン意識:3/JCS、E4V2M5/GCS血圧:188/102mmHg 脈拍:98回/分(不整) 呼吸:18回/分SpO2:95%(RA) 体温:36.2℃ 瞳孔:3/3mm+/+10のルールのうち低血糖に注目この症例は前回お伝えしたとおり、左中大脳動脈領域の心原性脳塞栓症でした。誰もが納得する結果だと思いますが、脳梗塞には「血栓溶解療法(rt-PA療法)」、「血栓回収療法」という時間に制約のある治療法が存在します。つまり、迅速に、そして正確に診断し、有効な治療法を診断の遅れによって逃すことのないようにしなければなりません。頭部CT、MRIを撮影すれば簡単に診断できるでしょ?! と思うかもしれませんが、いくつかのpitfallsがあり、注意が必要です。今回も“10’s Rule”(表1)にのっとり、説明していきます1)。今回は5)からです。画像を拡大する●Rule5 何が何でも低血糖の否定から! デキスタ、血液ガスcheck!意識障害患者を診たら、まずは低血糖を除外しましょう。低血糖になりうる人はある程度決まっていますが、緊急性、簡便性の面からまず確認することをお勧めします。低血糖の時間が遷延すると、低血糖脳症という不可逆的な状況となってしまうため、迅速な対応が必要なのです。低血糖によって片麻痺や失語を認めることもあるため、侮ってはいけません2)。低血糖の診断基準:Whippleの3徴(表2)をcheck!画像を拡大する低血糖と診断するためには満たすべき条件が3つ存在します。陥りがちなエラーとして血糖は測定したものの、ブドウ糖投与後の症状の改善を怠ってしまうことです。血糖を測定し低いからといって、意識障害の原因が低血糖であるとは限りません。必ず血糖値が改善した際に、普段と同様の意識状態へ改善することを確認しなければなりません。血糖低値と低血糖は似て非なるものであることを理解しておきましょう。低血糖の原因:臭いものに蓋をするな!低血糖に陥るには必ず原因が存在します。“Whippleの3徴”を満たしたからといって安心してはいけません。原因に対する介入が行われなければ再度低血糖に陥ってしまいます。低血糖の原因は表3のとおりです。最も多い原因は、インスリンやスルホニルウレア薬(SU薬)など血糖降下作用の強い糖尿病薬によるものです。そのため使用薬剤は必ず確認しましょう。画像を拡大するるい痩を認める場合には低栄養、腹水貯留やクモ状血管腫、黄疸を認める場合には肝硬変(とくにアルコール性)を考え対応します。バイタルサインがSIRS(表4)やqSOFA(表5)の項目を満たす場合には感染症、とくに敗血症に伴う低血糖を考えフォーカス検索を行いましょう(次回以降で感染症×意識障害の詳細を説明する予定です)。画像を拡大する画像を拡大する低血糖の治療:ブドウ糖の投与で安心するな!低血糖の治療は、経口が可能であればブドウ糖の内服、意識障害を認め内服が困難な場合には経静脈的にブドウ糖を投与します。一般的には50%ブドウ糖を40mL静注することが多いと思います。ここで忘れてはいけないのはビタミンB1欠乏です。ビタミンB1が欠乏している状態でブドウ糖のみを投与すると、さらにビタミンB1は枯渇し、ウェルニッケ脳症やコルサコフ症候群を起こしかねません。ビタミンB1が枯渇している状態が考えられる患者では、ブドウ糖と同時にビタミンB1の投与(最低でも100mg)を忘れずに行いましょう。ビタミンB1の成人の必要量は1~2mg/日であり、通常の食事を摂取していれば枯渇することはありません。しかし、アルコール依存患者のように慢性的な食の偏りがある場合には枯渇しえます。一般的にビタミンB1が枯渇するには2~3週間を要するといわれています。救急外来などの初療では、患者の背景が把握しきれないことも少なくないため、アルコール依存症以外に、低栄養状態が示唆される場合、妊娠悪阻を認める患者、さらにはビタミンB1が枯渇している可能性が否定できない場合には、ビタミンB1を躊躇することなく投与した方が良いでしょう。ウェルニッケ脳症はアルコール多飲患者にのみ発症するわけではないことは知っておきましょう(表6)。画像を拡大するそれでは、いよいよRule6「出血か梗塞か、それが問題だ!」です。やっと頭部CTを撮影…というところで今回も時間がきてしまいました。脳卒中や頭部外傷に伴う意識障害は頻度も高く、緊急性が高いため常に考えておく必要がありますが、頭部CTを撮影する前に必ずバイタルサインを安定させること、低血糖を除外することは忘れずに実践するようにしましょう。それではまた次回!1)坂本壮. 救急外来 ただいま診断中!. 中外医学社;2015.2)Foster JW, et al. Stroke. 1987;18:944-946.コラム(3) 「くすりもりすく」、内服薬は正確に把握を!高齢者の多くは、高血圧、糖尿病、認知症、不眠症などに対して定期的に薬を内服しています。高齢者の2人に1人はポリファーマシーといって5剤以上の薬を内服しています。ポリファーマシーが悪いというわけではありませんが、薬剤の影響でさまざまな症状が出現しうることを、常に意識しておく必要があります。意識障害、発熱、消化器症状、浮腫、アナフィラキシーなどは代表的であり救急外来でもしばしば経験します。「高齢者ではいかなる症状も1度は薬剤性を考える」という癖を持っておくとよいでしょう。また、内服薬はお薬手帳を確認することはもちろんのこと、漢方やサプリメント、さらには過去に処方された薬や家族や友人からもらった薬を内服していないかも、可能な限り確認するとよいでしょう。お薬手帳のみでは把握しきれないこともあるからです。(次回は7月25日の予定)

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発症時間不明の脳梗塞、MRIミスマッチを根拠とするrt-PA静注療法で転帰改善か(中川原譲二氏)-871

 現行ガイドラインの下では、アルテプラーゼ静脈療法は、発症から4.5時間未満であることが確認された急性脳梗塞だけに施行されている。ドイツ・ハンブルク・エッペンドルフ大学医療センターのGotz Thomalla氏らは、発症時間が不明だが、MRIによって発症が直近の脳梗塞と示唆された患者について、アルテプラーゼ静脈療法にベネフィットがあるかを検討した(多施設共同無作為化二重盲険プラセボ対照試験「WAKE-UP試験」)。その結果、発症時間不明の急性脳卒中患者において、脳虚血領域のMRIによる拡散強調画像(DWI)とFLAIR画像のミスマッチを根拠に行ったアルテプラーゼ静脈療法は、プラセボ投与と比べて、90日時点の機能的転帰は有意に良好であることが示された。ただし、頭蓋内出血は数的には多く認められた(NEJM誌オンライン版2018年5月16日号)。MRIミスマッチを根拠に介入、90日時点の機能的転帰を評価 研究グループは、ヨーロッパの8ヵ国で発症時間が不明の脳卒中患者を集め、アルテプラーゼ静脈内投与群またはプラセボ群に無作為に割り付けた。すべての患者についてMRIが施行され、DWIで虚血病変が認められるが、FLAIR画像では明らかな高信号域(hyperintensity)が認められず、脳卒中発症がおそらく4.5時間未満と示唆された。なお、被験者のうち、血栓除去術が予定されていた患者は除外した。主要評価項目は、修正Rankinスケール(mRS)による90日時点の神経学的障害スコア(0[障害なし]~6[死亡])が、0または1で定義される良好な転帰とした。副次評価項目は、シフト解析による、アルテプラーゼ群がプラセボ群よりも、mRSのスコアを低下させる尤度とした。治療群で機能的アウトカムは有意に改善、一方で死亡・頭蓋内出血例が上昇 試験は、当初800例を見込んでいたが、無作為化を受けた503例(アルテプラーゼ群254例、プラセボ群249例)の登録時点で、試験継続の資金調達が困難と予想され早期に中止となった。90日時点で転帰良好であった患者は、アルテプラーゼ群131/246例(53.3%)、プラセボ群102/244例(41.8%)であった(補正後オッズ比:1.61、95%信頼区[CI]:1.09~2.36、p=0.02)。90日時点のmRSスコアの中央値は、アルテプラーゼ群1、プラセボ群2であった(補正後共通オッズ比:1.62、95%CI:1.17~2.23、p=0.003)。一方で、死亡は、アルテプラーゼ群10例(4.1%)、プラセボ群3例(1.2%)が報告された(オッズ比:3.38、95%CI:0.92~12.52、p=0.07)。また症候性頭蓋内出血は、アルテプラーゼ群2.0%、プラセボ群0.4%で認められた(オッズ比:4.95、95%CI:0.57~42.87、p=0.15)。アルテプラーゼ静脈療法の治療根拠にtissue-baseの適応が加わる 現行のアルテプラーゼ静脈療法は、当初は発症から3時間未満であることが確認された急性脳梗塞だけが適応とされ(NINDS trial、1995年)、その後、time windowが発症から4.5時間未満まで延長された(ECASS III trial、2008年)。すなわち、アルテプラーゼ静脈療法については、time-baseの適応基準のみが確立されてきた。これに対して、今回の研究は、発症時間が不明であっても、MRIでDWIとFLAIR画像のミスマッチが見られる症例では、アルテプラーゼ静脈療法が有効であることが示され、tissue-baseの適応基準が加わったことになる。脳梗塞の成立には、発症からの時間と虚血組織の残存脳血流が関与することは言うまでもない。DWIとFLAIR画像のミスマッチは、発症からの時間が間もないことを反映する。しかし、残存脳血流がきわめて乏しい症例のDWIでは高信号病変(不可逆病変)がただちに出現するが、FLAIR画像では高信号病変の出現に時間がかかる。急性期のFLAIR画像に高信号病変が見られないことは、必ずしも組織の不可逆的変化の程度を反映しない。本研究におけるアルテプラーゼ群の死亡や症候性頭蓋内出血の増加が、FLAIR画像に高信号病変が見られない重症脳虚血症例に対するtime window外の治療開始を反映している可能性があることを考慮する必要がある。

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TIA患者の脳卒中リスクは5年後まで減らない(解説:内山真一郎氏)-870

 TIAregistry.orgは発症後7日以内の一過性脳虚血発作(TIA)または軽症脳梗塞(minor stroke)を登録して観察する前向きコホート研究であった。私は日本の研究代表者であり、該当患者を年間100例以上診療している日本の6施設に参加していただいた。 1年間の追跡調査の結果は2016年にNew England Journal of Medicine誌に発表している。この時の結果では、1年後までの血管イベント発症率は、ガイドラインを順守した脳卒中専門医の救急対応により10年前の歴史的対照と比べて半減していた。しかしながら、今回の2~5年後までの累積発症率は、それ以上減衰することなく直線的に推移していた。 この結果は、現状のガイドラインを順守しても、長期の残余リスクは依然として高く、より厳格な危険因子の管理目標達成と、より強力な再発予防対策が必要であることを示唆している。ただし、日本人のサブ解析では背景因子、病型、動脈病変、診療体制、予知因子が非日本人と異なっており、独自の対策も必要であると考えている。

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これはいける!と思ったのに:ESUSの意外な失敗(解説:後藤信哉氏)-864

 薬剤として経口抗Xa薬が開発された当時、標的疾患としては「脳梗塞2次予防がよい」と各社にアドバイスした。冠動脈疾患、心房細動より、脳梗塞中の再発リスクが高く、新規の抗血栓薬が必要と思ったからである。脳梗塞の病態は複雑である。微小血管病と想定されるラクナ梗塞、抗血小板薬が有効なアテローム血栓性閉塞では、抗凝固薬は役立たないのではないかとの意見もあった。心房細動の脳卒中予防試験も、予防対象は「脳卒中・全身塞栓症」で心原性塞栓ではなかった。 心房細動の脳卒中予防試験が成功したので、「心房細動以外の脳塞栓予防」にも抗凝固薬が有効と考えてESUSという疾患概念が提案されたのであろう。「抗凝固薬より抗血小板薬」といわれていた急性冠症候群、ステント血栓症、心筋梗塞、末梢血管疾患では、2.5mg 1日2回の少量リバーロキサバンのイベント予防効果がランダム化比較試験により示された。比較対象をワルファリンより抗血栓効果・出血イベントリスクの少ないアスピリンとして、ESUSではリバーロキサバンの容量15mgの優越性を示すことができなかった。本試験はDSMBにより中止勧告されているとはいえ、当初予定の74%に相当する332例もの有効性1次エンドポイントが起きている。ESUS症例では年間5%近く血栓イベントが起こることが確認され、ESUS予防の重要性は再確認された。15mg/日のリバーロキサバンによる重篤な出血イベント発症リスクは、アスピリンの2倍を超える。ESUSという疾患概念をつくって、抗凝固薬の適応拡大を目指した戦略は失敗に終わった。各種NOACsの心房細動症例の試験も、「INR 2~3を標的とした出血しやすいワルファリン」との比較において「出血性梗塞を含む脳卒中」にて非劣性、優劣性を示したにすぎない。もっとも有効性を期待できると想定されたESUSでの試験の失敗は、心房細動における脳卒中予防試験の人工性(ワルファリンのPT-INRによる縛り、出血を含む脳卒中という有効性1次エンドポイントなど)について再度真剣に考える機会を提供している。容認できる出血イベントの範囲での脳卒中予防を考えるのであれば、COMPASSの2.5mg×2/日がベストなのかもしれない。 ランダム化比較試験は試験管の実験に近い。ランダム化比較試験に基づいた適応症どおりにのみ薬剤が実臨床でも使用されるようになれば、最適な患者集団を選定する「育薬」が不可能になる。患者集団に対する薬剤の有効性、安全性の事前予測の困難性があらためて確認された。

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リアルワールドエビデンスを活用したSGLT2阻害薬の治療ゴールとは

 2018年5月15日、アストラゼネカ株式会社は、「リアルワールドデータから見えるSGLT2阻害剤による糖尿病治療の新たなステージ~日本人を含むCVD‐REAL2研究の結果によって示唆される日本人糖尿病患者さんのベネフィットや真の治療ゴールとは~」をテーマとしたプレスセミナーを開催した。香坂 俊氏(慶應義塾大学医学部 循環器内科 講師)と門脇 孝氏(東京大学医学部付属病院 特任研究員・帝京大学医学部 常勤客員教授)の2名が講師として招かれ、リアルワールドエビデンス(RWE)の未来と糖尿病治療のエビデンスへの活用についてそれぞれ解説した。安全性確立の時代からランダム比較化試験(RCT)へ 香坂氏によると、1960~70年代に世界を震撼させたサリドマイド事件をきっかけに臨床試験の重要性やそれに基づく認可システムに警鐘が鳴らされ、比較対照試験が一般的となった。さらに、この事件を踏まえ、1990年代からランダム化比較試験(RCT)が一般化されるようになるが、 「基礎研究が安全性の検証のみ」「比較対照がプラセボ」 「効果の実証」についての問題点が議論されるようになり、根拠に基づく医療(EBM)、客観的な医療的介入が治療方針として提唱されるようになった。RCTの限界 さらに、2000年代になるとRCT中心の医療から薬剤間の比較研究へと変わったが、患者の予後に差がつく薬剤に淘汰されていく。その中で、「副作用検出に症例数が少ない(Too Few)」「適応疾患が限定(Too Narrow)」「高齢者が除外(Too Median-Aged)」のような、いわゆる「RCTの5Toos」の問題が指摘されるようになった。なぜRWEなのか? これらの問題を踏まえ、登場したのが「リアルワールドエビデンス(RWE)」である。コホートあるいはデータベース研究、症例対照研究を利活用するため、相対的に「早く」「広く」「安く」結論が得られることが最大のメリットであり、臨床データで選ばれないような特定集団に着目することができる(ビッグデータの活用)点も大きな特徴である。 一方で、「『バイアスを完全に除くことができない』『登録されている情報が限定的』『コントロール(比較対照群)を設定できない』ため、データの信憑性に欠ける点が今後の解決すべき課題である」と同氏は語る。CVD-REAL2:RCTとRWEの方向性が合致した研究 ここで、事例としてRWEを使ったCVD-REAL2が示された。この研究は、世界主要3地域の2型糖尿病患者を対象に、SGLT2阻害薬もしくは他の血糖降下薬による治療において、全死亡、心不全による入院、全死亡または入院の複合解析、心筋梗塞、そして脳卒中との関係性を比較した試験である。そして、SGLT2阻害薬の大規模なRWEの中でも、同薬がより良好な心血管ベネフィットを示したと注目を浴びている。 このほかにRWEが活用された例として、『急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)』の事例を紹介し、同氏は「これは非常にRWEの特性が活かせた事例」と述べ、「データ活用の発展に伴い、RCTの結果のみを鵜呑みにして医療を行うのではなく、その場面や領域に即したRWEを活用しながら診断の方針を確定させることが必要」と強調した。SGLT2阻害薬に対する意識変化 続いて、門脇氏が糖尿病専門医の視点からSGLT2阻害薬でのRWEの活用を説明した。SGLT2阻害薬は発売直後、「SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation」が策定され、服用により通常体液量が減少するので脱水、脳梗塞への注意喚起が行われた治療薬である。 ところが2015年9月にEMPA-REG OUTCOME試験での非致死的脳卒中の減少が報告されたことから、SGLT2阻害薬は糖尿病専門医だけでなく循環器科専門医の間でも、その可能性に期待が高まるようになった。DECLARE-TIMI58のもたらす結果とは 今回、門脇氏が講演で紹介したDECLARE-TIMI58試験は、2型糖尿病(6.5%≦HbA1c<12%)かつ、心血管疾患既往のある40歳以上、または1つ以上の心血管リスク因子を保有する男性(55歳以上)あるいは女性(60歳以上)の患者、約1万7,000例が登録され、試験期間が中央値4.5年の研究である。同試験では、心不全の抑制を評価するために、これまでの試験では副次評価項目としてしか評価されてこなかった、心血管死または心不全による入院の複合や心血管死、心筋梗塞、虚血性脳卒中の複合が主要評価項目となっている。同氏は「この研究でRWEを活用し、糖尿病治療の最終目標をより多くの医師が意識し達成することを期待したい」と伝えている。また、「この研究結果は2018年の後半に発表される予定で、重要な役割を果たす可能性があるのでぜひ注目してほしい」とも述べている。■参考アストラゼネカ株式会社 プレスリリースDECLARE-TIMI 58試験スキーム■関連記事SGLT2阻害薬で心血管リスク低下~40万例超のCVD-REAL2試験SGLT2阻害薬、CV/腎アウトカムへのベースライン特性の影響は/Lancet

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