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血栓回収療法前の再灌流に対するtenecteplase増量の効果(解説:中川原譲二氏)-1214

 EXTEND-IA TNK試験において、tenecteplase 0.25mg/kgによる血栓溶解療法は、アルテプラーゼと比較し、脳梗塞患者に対する血栓除去術施行前の再灌流を改善することが示された。これを受けて、EXTEND-IA TNK Part 2試験は、tenecteplase 0.40mg/kgが、0.25mg/kgと比較して、血栓除去術施行前の脳再灌流を改善するかどうか確定することを目的に行われた。tenecteplase 0.40mg/kg vs.0.25mg/kgを比較 本試験は、オーストラリアとニュージーランドの27施設で、2017年12月~2019年7月の期間に登録された患者に対し非盲検下で治療を行い、画像診断および臨床転帰の評価は盲検下で実施した無作為化臨床試験である。対象は、標準的な静脈血栓溶解療法の適格基準である発症後4.5時間未満で内頸動脈/中大脳動脈/脳底動脈の閉塞を有する脳梗塞成人患者300例とした。tenecteplase 0.40mg/kg(最大40mg)群(150例)または0.25mg/kg(最大25mg)群(150例)に無作為化し、それぞれ血管内血栓除去術の前に投与した。 主要評価項目は、当該虚血領域の50%超の再灌流で、盲検下の神経放射線科医2人による合意に基づく評価とした。副次評価項目は、90日後の機能障害(mRSスコア:0~6点)、mRSスコア0~1または90日時点でベースラインからの変化なし(障害なし)、mRSスコア0~2または90日時点でベースラインからの変化なし(機能的自立)、3日後の早期神経学的改善(NIHSSスコアの8点以上の低下または0~1点への改善)、36時間以内の症候性頭蓋内出血および全死因死亡であった。tenecteplaseの投与量の違いで有効性に差はなし 無作為化された全300例(平均年齢72.7歳、女性141例[47%])が試験を完遂した。主要評価項目を達成した患者の割合は、0.40mg/kg群19.3%(29/150例)vs.0.25mg/kg群19.3%(29/150例)であった(補正前リスク差:0.0%[95%CI:-8.9~-8.9]、補正後リスク比:1.03[0.66~1.61]、p=0.89)。6つの副次評価項目についても、0.40mg/kg群と0.25mg/kg群の間で、4つの機能アウトカムのみならず、全死因死亡(26例[17%]vs.22例[15%]、補正前リスク差:2.7%[95%CI:-5.6~11.0])、ならびに症候性頭蓋内出血(7例[4.7%]vs.2例[1.3%]、3.3%[-0.5~7.2])も有意差は認められなかった。 主幹動脈閉塞の脳梗塞患者において、tenecteplaseの投与量0.40mg/kgは同0.25mg/kgと比較し、血栓除去術施行前の脳再灌流を改善しなかった。この結果は、血栓除去術が計画される主幹動脈閉塞の脳梗塞患者において、tenecteplase 0.40mg/kgは、同0.25mg/kgを超える優位性がないことを示唆する。血栓回収療法の導入と血栓溶解療法の位置付け 脳梗塞の急性期治療では、血栓回収療法の有効性が確立し、その導入によって医療現場の対応が劇的に変わりつつある。それに伴い、これまでの血栓溶解療法の位置付けも再考されつつある。血栓溶解療法の併用が、再灌流領域の拡大に寄与したとしても、最終的な転帰の改善をもたらすかどうかは、いまだに確定していない。発症から治療開始までの時間との闘いの中で、血栓回収療法を優先すべきか、血栓回収療法の前に血栓溶解療法の併用を考慮すべきかは、各脳卒中センターにおける脳梗塞緊急治療体制の完成度とその熟練度とも絡んで、個別に実施されているものと思われる。しかし、今後は、それぞれの方法が有用なサブグループを見いだす臨床研究を実施することが必要と推察される。

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急性期脳梗塞に対する神経保護薬nerinetideの有効性と安全性/Lancet(解説:中川原譲二氏)-1212

 nerinetideは、シナプス後肥厚部タンパク質95(PSD-95)を阻害するエイコサペプチドで、虚血再灌流の前臨床脳梗塞モデルで有効性が確認されている神経保護薬である。この試験では、急性期脳梗塞患者での迅速血管内血栓回収療法(EVT)に随伴する虚血再灌流におけるnerinetideの有効性と安全性を評価する目的で、多施設共同二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験(ESCAPE-NA1)が行われた。 対象は、年齢18歳以上、脳主幹動脈閉塞後12時間以内の急性期脳梗塞で、無作為割り付け時に機能障害を伴う脳梗塞がみられ、発症前は地域で自立して活動しており、脳卒中早期CTスコア(ASPECTS)が>4点、多相CT血管造影で中等度~良好な側副路充満が示されている患者であった。被験者はすべてEVTを施行され、適応がある場合は通常治療としてアルテプラーゼの静脈内投与よる血栓溶解療法が行われた。次いで、nerinetide 2.6mg/kg(最大270mg)を静脈内に単回投与する群、またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要評価項目は、90日時の良好な機能的アウトカム(mRSスコア:0~2点)とした。副次評価項目は、神経学的障害(NIHSS:0~2点)、日常生活動作の機能的自立(mBI:95~100点)、きわめて良好な機能的アウトカム(mRSスコア:0~1点)、死亡などであった。nerinetideは、急性期脳梗塞のEVT後の転帰を改善せず 2017年3月~2019年8月の期間に、8ヵ国の48の急性期治療病院で1,105例が登録され、nerinetide群に549例(年齢中央値71.5歳、女性48.8%)、プラセボ群には556例(70.3歳、50.5%)が割り付けられた。アルテプラーゼは、nerinetide群が549例中330例(60.1%)、プラセボ群は556例中329例(59.2%)に投与された。 90日時のmRSスコア0~2点は、nerinetide群が549例中337例(61.4%)で、プラセボ群は556例中329例(59.2%)で達成され、両群間に有意な差は認められなかった(補正後RR:1.04、95%CI:0.96~1.14、p=0.350)。NIHSS 0~2点の達成(nerinetide群58.3% vs.プラセボ群57.6%、補正後RR:1.01、95%CI:0.92~1.11)、mBI 95~100点の達成(62.1% vs.60.3%、1.03、0.94~1.12)、mRSスコア0~1点の達成(40.4% vs.40.6%、0.98、0.85~1.12)および死亡(12.2% vs.14.4%、0.84、0.63~1.13)にも、有意な差はなかった。nerinetideは、アルテプラーゼ非投与のEVT施行例で転帰を改善 アルテプラーゼ非投与例での90日mRSスコア0~2点の達成は、nerinetide群が219例中130例(59.3%)と、プラセボ群の227例中113例(49.8%)に比べ有意に良好であった(補正後RR:1.18、95%CI:1.01~1.38)。また、死亡もnerinetide群で有意に少なかった(0.66、0.44~0.99)。一方、アルテプラーゼ投与例では、このような差はみられなかった(90日mRSスコア0~2点達成の補正後RR:0.97[95%CI:0.87~1.08]、死亡の補正後RR:1.08[0.70~1.66])。 重篤な有害事象の発生は両群でほぼ同等であった(nerinetide群33.1% vs.プラセボ群35.7%、RR:0.92、95%CI:0.79~1.09)。また、進行性脳梗塞(stroke-in-evolution)、新規または再発脳梗塞、症候性頭蓋内出血、肺炎、うっ血性心不全、低血圧、尿路感染症、深部静脈血栓症/肺塞栓症、血管性浮腫の発生にも差はなかった。 以上より、nerinetideは、プラセボ群と比較して、急性期脳梗塞患者でのEVT施行後の良好な機能的転帰の達成割合を改善しなかったが、アルテプラーゼによる血栓溶解療法を併用しなかった集団では、これを改善するとともに、死亡を抑制する可能性があることが示された。EVTでは、アルテプラーゼ併用の有無で、nerinetide導入を選別すべきか? 一般に、急性期脳梗塞に対する早期の血流再開と神経保護の併用療法には、相加的・相乗的効果が期待される。しかし、今回のESCAPE-NA1試験では、アルテプラーゼ非併用群においてのみ、この効果が確認されたとされている。EVTでのアルテプラーゼ併用には、機械的な血栓回収時に末梢に飛散する血栓の溶解などにより、組織灌流を改善させる効果が期待されるが、その神経毒性が、nerinetideの神経保護効果を相殺する可能性も考えられる。今後、EVTが選択されたがアルテプラーゼは併用しない脳梗塞患者の治療へのnerinetide導入に関するさらなる知見が待たれる。

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週5日以上の入浴で脳心血管リスク減少~日本人3万人の前向き調査

 入浴は、血行動態機能を改善することから心血管疾患予防効果があると考えられているが、心血管疾患リスクへの長期的効果を調べた前向き研究はなかった。今回、大阪府立公衆衛生研究所の鵜飼 友彦氏らが中年期の日本人約3万人を追跡調査し、入浴頻度が心血管疾患リスクと逆相関することを報告した。Heart誌オンライン版2020年3月24日号に掲載。 本研究の対象は、心血管疾患またはがんの病歴のない40〜59歳の3万76人で、1990年から2009年まで追跡調査した。参加者を浴槽での入浴の頻度で、0〜2回/週、3〜4回/週、ほぼ毎日の3つに分類した。従来の心血管疾患リスク因子と食事因子を調整後、Cox比例ハザードモデルを用いて心血管疾患発症のハザード比(HR)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間53万8,373人年の間に、冠動脈疾患328例(心筋梗塞275例、心臓突然死53例)と脳卒中1,769例(脳梗塞991例、脳内出血510例、くも膜下出血255例、未分類の脳卒中13例)の計2,097例の心血管疾患を記録した。・ほぼ毎日または毎日の0〜2回/週に対する多変量HR(95%CI)は、心血管疾患では0.72(0.62〜0.84、傾向のp<0.001)、冠動脈疾患では0.65(0.45~0.94、傾向のp=0.065)、脳卒中全体では0.74(0.62〜0.87、傾向のp=0.005)、脳梗塞では0.77(0.62~0.97、傾向のp=0.467)、脳内出血では0.54(0.40〜0.73、傾向のp<0.001)であった。・心臓突然死、くも膜下出血のリスクとの間に関連はみられなかった。

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動脈硬化リスクの早期発見、見過ごしがちな値とは/日本動脈硬化学会

 動脈硬化と悪玉コレステロール増加の結びつきをよく知っている患者でも、TG(トリグリセライド、中性脂肪)値の増加は肥満者だけのものと捉えてはいないだろうかー。2020年2月21日、日本動脈硬化学会はプレスセミナー「食後高脂血症と動脈硬化」を開催。増田 大作氏(りんくうウェルネスケア研究センター センター長)が「食後高脂血症」について、矢作 直也氏(筑波大学医学医療系 准教授)が「糖尿病と動脈硬化」について講演した。TG値の増加をリポ蛋白で知る 動脈硬化に影響を及ぼす脂質の値は、健康診断を受ける人にとって気になる項目だ。増田氏によると「企業健診受診者の3分の1になんらかの脂質異常症が存在している」という。この脂質異常症の有無が動脈硬化リスクの判定材料となるわけだが、近年はコレステロール値だけではなくTG値の上昇が心血管疾患の増加因子として問題視されている。実際、将来の冠動脈疾患や脳梗塞発症の死亡予測に重要なことが、日本動脈硬化学会が発表した2017年版動脈硬化性疾患予防ガイドライン1)にも記されている。 TG値は、通常食後3時間程でピークとなり、徐々に低下して6~8時間で空腹時の値へ戻る。しかし、冠動脈疾患患者や糖尿病患者などでは、食後TG値の上昇が緩やかに続きピークが後ろ倒しとなり、8時間経過してもまだ高いことから、空腹時のTG値上昇につながる。この非空腹時(食後)TGが高値な病態は“食後高脂血症”と呼ばれ、動脈硬化を惹起するリポ蛋白の増加にもつながる。これを踏まえ同氏は「食後TG値が高くなるのは、食後にTGの多いレムナントリポ蛋白(とくに小腸からのカイロミクロンレムナント)が残っている証拠」と、話した。また、空腹時のみならず食後TG値にも心血管疾患イベントリスクとの相関が存在し、「空腹時TG値がほぼ正常でも非空腹時TG値が高い人は、レムナントリポ蛋白が蓄積している」と述べた。 次に同氏は動脈硬化リスク評価に有力なレムナントリポ蛋白の測定方法として、1)non-HDL-C、2)レムナントコレステロール3)アポB-48濃度測定の3つを挙げた。同氏はこれらの測定法について、「Non-HDLコレステロール測定はもっとも簡易的な反面、LDLコレステロールの上昇も反映するのでレムナント単独の変動がわかりにくい。レムナントコレステロール測定(RemL-C法など)は直接的定量的な評価が可能だが3ヵ月に1回しか算定ができないなどのデメリットがあり、対象者や測定タイミングに悩む医師が多い。アポB-48濃度測定は空腹時のカイロミクロンレムナントを測定するので、食生活や食材の影響を評価できる可能性があるが、まだ保険収載されていない」とそれぞれの長短について説明した。 最後に食後高脂血症を防ぐ方法として「薬物治療も重要だが、まずはThe Japan Dietのような動脈硬化を抑える食事の導入や定期的な運動が極めて重要」とコメントした。脂質異常症治療は糖尿病患者の血管に恩恵与える 糖尿病は動脈硬化性疾患の重要な危険因子であり、前述のガイドライン1)で動脈硬化性疾患の高リスクに分類されている。さらに、糖尿病患者では発症早期から血糖値のみならず脂質値、血圧値の厳格な管理を包括的に行う必要がある、とも記載されている。これらを踏まえ、矢作氏は糖尿病と動脈硬化の関係について解説した。 代表的な脂質異常症治療薬であるスタチン系薬剤では投与後早期に糖尿病に伴う心血管イベントの抑制が報告されている。一方で、インスリンを含む血糖降下薬の場合、投薬期間が5~10年程度では大血管障害に対する治療効果は乏しい。これについて同氏は「血糖降下薬の場合は、10年以上の長期経過の中でlegacy effectがみられる」と指摘した。 このような糖尿病治療の現況を前提として、同氏は指先検査を活用した糖尿病疑い症例の早期発見に努めている。東京都足立区と徳島県で、2010年10月~2017年9月に総計4,865名(希望者;ただし糖尿病治療中の人は対象外)に対して薬局での指先HbA1c検査(検体測定室)を導入したところ、糖尿病予備群疑い:701名、糖尿病疑い:515名を発見した。同氏はこの検体測定室での検査実績や既知のエビデンスを通し、「糖尿病患者の動脈硬化リスクは耐糖能異常などの前糖尿病状態から既に上昇していることが示されている。動脈硬化を予防するためには、前糖尿病の段階から早期発見、早期介入が必要である」と、締めくくった。

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nerinetide、急性期脳梗塞のEVT後の転帰改善せず/Lancet

 開発中の神経保護薬nerinetideは、急性期脳梗塞患者において、血管内血栓回収療法(EVT)施行後の良好な機能的転帰の達成割合を改善しないが、アルテプラーゼによる血栓溶解療法を併用しなかった集団では、これを改善するとともに、死亡を抑制する可能性があることが、カナダ・カルガリー大学のMichael D. Hill氏らによる「ESCAPE-NA1試験」で示された。研究の詳細は、Lancet誌オンライン版2020年2月20日号に掲載された。nerinetideは、シナプス後肥厚部タンパク質95(PSD-95、disks large homolog 4とも呼ばれる)を阻害するエイコサペプチドで、虚血再灌流の前臨床脳梗塞モデルで有効性が確認されている神経保護薬である。良好な機能的転帰をプラセボと比較する無作為化試験 研究グループは、急性期脳梗塞患者において、迅速EVT施行後の虚血再灌流傷害におけるnerinetideの有効性と安全性を評価する目的で、多施設共同二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験を行った(カナダ保健研究所[CIHR]などの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、大血管閉塞発症後12時間以内の急性期脳梗塞で、無作為割り付け時に後遺障害を伴う脳梗塞がみられ、発症前は地域で自立して活動しており、アルバータ脳卒中プログラム早期CTスコア(ASPECTS)が>4点、多相CT血管造影で中等度~良好な側副路充満が示されている患者であった。 被験者はすべてEVT(ステント型血栓回収機器、吸引機器)を施行され、適応がある場合は通常治療としてアルテプラーゼの静脈内投与よる血栓溶解療法が行われた。次いで、nerinetide 2.6mg/kg(最大270mg)を静脈内に単回投与する群、またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要評価項目は、90日時の良好な機能的アウトカム(修正Rankinスケール[mRS]のスコア0~2点)とした。副次評価項目は、神経学的障害(NIHSS:0~2点)、日常生活動作の機能的自立(修正Barthelインデックス[mBI]95~100点)、きわめて良好な機能的アウトカム(mRSスコア0~1点)、死亡などであった。アルテプラーゼ非投与のEVT施行例で、さらなる研究の可能性 2017年3月~2019年8月の期間に、8ヵ国の48の急性期治療病院(カナダ14施設、米国19施設、ドイツ5施設など)で1,105例が登録され、nerinetide群に549例(年齢中央値71.5歳[IQR:61.1~79.7]、女性48.8%)、プラセボ群には556例(70.3歳[60.4~80.1]、50.5%)が割り付けられた。アルテプラーゼは、nerinetide群が549例中330例(60.1%)、プラセボ群は556例中329例(59.2%)に投与された。 90日時のmRSスコア0~2点は、nerinetide群が549例中337例(61.4%)で、プラセボ群は556例中329例(59.2%)で達成され、両群間に有意な差は認められなかった(補正後リスク比[RR]:1.04、95%信頼区間[CI]:0.96~1.14、p=0.350)。 NIHSS 0~2点の達成(nerinetide群58.3% vs.プラセボ群57.6%、補正後RR:1.01、95%CI:0.92~1.11)、mBI 95~100点の達成(62.1% vs.60.3%、1.03、0.94~1.12)、mRSスコア0~1点の達成(40.4% vs.40.6%、0.98、0.85~1.12)および死亡(12.2% vs.14.4%、0.84、0.63~1.13)にも、有意な差はなかった。 アルテプラーゼ非投与例での90日mRSスコア0~2点の達成は、nerinetide群が219例中130例(59.3%)と、プラセボ群の227例中113例(49.8%)に比べ有意に良好であった(補正後RR:1.18、95%CI:1.01~1.38)。また、死亡もnerinetide群で有意に少なかった(0.66、0.44~0.99)。一方、アルテプラーゼ投与例では、このような差はみられなかった(90日mRSスコア0~2点達成の補正後RR:0.97[95%CI:0.87~1.08]、死亡の補正後RR:1.08[0.70~1.66])。 重篤な有害事象の発生は両群でほぼ同等であった(nerinetide群33.1% vs.プラセボ群35.7%、RR:0.92、95%CI:0.79~1.09)。また、進行性脳梗塞(stroke-in-evolution)、新規または再発脳梗塞、症候性頭蓋内出血、肺炎、うっ血性心不全、低血圧、尿路感染症、深部静脈血栓症/肺塞栓症、血管性浮腫の発生にも差はなかった。 著者は、「この新たな知見が確証されれば、さらなる研究を行うことで、EVTが選択されたがアルテプラーゼは併用しない脳梗塞患者の治療へのnerinetide導入に関する詳細なデータがもたらされる可能性がある」としている。

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脳梗塞へのtenecteplase、投与量で改善の違いは?/JAMA

 主幹動脈閉塞の脳梗塞患者において、tenecteplaseの投与量0.40mg/kgは同0.25mg/kgと比較し、血栓除去術施行前の脳再灌流を改善しなかった。オーストラリア・メルボルン大学のBruce C. V. Campbell氏らが、同国27施設およびニュージーランドの1施設で実施した多施設共同無作為化臨床試験「EXTEND-IA TNK Part 2試験」の結果を報告した。先行して行われたEXTEND-IA TNK試験において、同様の脳梗塞患者に対するtenecteplaseによる血栓溶解療法はアルテプラーゼと比較し、血栓除去術施行前の再灌流を改善することが示されていた。JAMA誌オンライン版2020年2月20日号掲載の報告。tenecteplase 0.40mg/kgまたは0.25mg/kgに無作為化 EXTEND-IA TNK Part 2試験は、2017年12月~2019年7月の期間に患者を登録し、非盲検下で治療を行い、画像診断および臨床転帰の評価は盲検下で実施した無作為化臨床試験である。対象は、標準的な静脈血栓溶解療法の適格基準である発症後4.5時間未満で内頸動脈/中大脳動脈/脳底動脈の閉塞を有する脳梗塞成人患者300例で、tenecteplase 0.40mg/kg(最大40mg)群(150例)またはtenecteplase 0.25mg/kg(最大25mg)群(150例)に無作為化し、それぞれ血管内血栓除去術の前に投与した(2019年10月まで追跡調査)。 主要評価項目は、当該虚血領域の50%超の再灌流で、盲検下の神経放射線科医2人による合意に基づく評価とした。 副次評価項目は、90日後の機能障害(modified Rankin Scale[mRS]スコア:0~6点)、mRSスコア0~1または90日時点でベースラインから変化なし、mRSスコア0~2または90日時点でベースラインからの変化なし、早期神経学的改善(3日後のNational Institutes of Health Stroke Scale[NIHSS]スコアの8点以上の低下または0~1点への改善)、36時間以内の症候性頭蓋内出血および全死因死亡であった。tenecteplase投与量の違いで有効性に差はなし 無作為化された300例(平均年齢72.7歳、女性141例[47%])が試験を完遂した。 主要評価項目を達成した患者の割合は、tenecteplase 0.40mg/kg群19.3%(29/150例)vs. tenecteplase 0.25mg/kg群19.3%(29/150例)であった(補正前リスク差:0.0%[95%信頼区間[CI]:-8.9~−8.9]、補正後リスク比:1.03[0.66~1.61]、p=0.89)。 6つの副次評価項目についても、tenecteplase 0.40mg/kg群とtenecteplase 0.25mg/kg群の間で、4つの機能アウトカムのみならず、全死因死亡(26例[17%]vs.22例[15%]、補正前リスク差:2.7%[95%CI:-5.6~11.0])、ならびに症候性頭蓋内出血(7例[4.7%]vs.2例[1.3%]、3.3%[-0.5~7.2])も有意差は認められなかった。

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再発性多発軟骨炎〔RP:relapsing polychondritis〕

1 疾患概要■ 概念・定義再発性多発軟骨炎(relapsing polychondritis:RP)は、外耳の腫脹、鼻梁の破壊、発熱、関節炎などを呈し全身の軟骨組織に対して特異的に再発性の炎症を繰り返す疾患である。眼症状、皮膚症状、めまい・難聴など多彩な症状を示すが、呼吸器、心血管系、神経系の病変を持つ場合は、致死的な経過をたどることがまれではない。最近、この病気がいくつかのサブグループに分類することができ、臨床的な特徴に差異があることが知られている。■ 疫学RPの頻度として米国では100万人あたりの症例の推定発生率は3.5人。米国国防総省による有病率調査では100万人あたりの症例の推定罹患率は4.5人。英国ではRPの罹患率は9.0人/年とされている。わが国の全国主要病院に対して行なわれた疫学調査と人口動態を鑑みると、発症年齢は3歳から97歳までと広範囲に及び、平均発症年齢は53歳、男女比はほぼ1で、患者数はおおよそ400~500人と推定された。RPは、平成27年より新しく厚生労働省の指定難病として認められ4~5年程度経過したが、筆者らが疫学調査で推定した患者数とほぼ同等の患者数が実際に医療を受けているものと思われる。生存率は1986年の報告では、10年生存率55%とされていた。その後の報告(1998年)では、8年生存率94%であった。筆者らの調査では、全症例の中の9%が死亡していたことから、90%以上の生存率と推定している。■ 病因RPの病因は不明だが自己免疫の関与が報告されている。病理組織学的には、炎症軟骨に浸潤しているのは主にCD4+Tリンパ球を含むリンパ球、マクロファージ、好中球や形質細胞である。これら炎症細胞、軟骨細胞や産生される炎症メディエーターがマトリックスメタロプロテナーゼ産生や活性酸素種産生をもたらして、最終的に軟骨組織やプロテオグリカンに富む組織の破壊をもたらす。その発症に関する仮説として、初期には軟骨に向けられた自己免疫反応が起こりその後は、非軟骨組織にさらに自己免疫反応が広がるという考えがある。すなわち、病的免疫応答の開始メカニズムとしては軟骨組織の損傷があり、軟骨細胞または細胞外軟骨基質の免疫原性エピトープを露出させることにある。耳介の軟骨部分の穿孔に続いて、あるいはグルコサミンコンドロイチンサプリメントの摂取に続いてRPが発症したとする報告は、この仮説を支持している。II型コラーゲンのラットへの注射は、耳介軟骨炎を引き起こすこと、特定のHLA-DQ分子を有するマウスをII型コラーゲンで免疫すると耳介軟骨炎および多発性関節炎を引き起こすこと、マトリリン-1(気管軟骨に特異的な蛋白の一種)の免疫はラットにRPの呼吸障害を再現するなどの知見から、軟骨に対する自己免疫誘導の抗原は軟骨の成分であると考えられている。多くの自己免疫疾患と同様にRPでも疾患発症に患者の腫瘍組織適合性抗原は関与しており、RPの感受性はHLA-DR4の存在と有意に関連すると報告されている。臨床的にも、軟骨、コラーゲン(主にII型、IX、XおよびXIの他のタイプを含む)、マトリリン-1および軟骨オリゴマーマトリックスタンパク質(COMP)に対する自己抗体はRP患者で見出されている。いずれの自己抗体もRP患者の一部でしか認められないために、RP診断上の価値は認められていない。多くのRP患者の病態に共通する自己免疫反応は明らかにはなっていない。■ 症状1)基本的な症状RPでは時間経過とともに、あるいは治療によって炎症は次第に治まるが、再発を繰り返し徐々にそれぞれの臓器の機能不全症状が強くなる。軟骨の炎症が基本であるが、必ずしも軟骨細胞が存在しない部位にも炎症が認められる事があり、注意が必要である。特有の症状としては、軟骨に一致した疼痛、発赤、腫脹であり、特に鼻根部(鞍鼻)や耳介の病変は特徴的である。炎症は、耳介、鼻柱、強膜、心臓弁膜部の弾性軟骨、軸骨格関節における線維軟骨、末梢関節および気管の硝子軟骨などのすべての軟骨で起こりうる。軟骨炎は再発を繰り返し、耳介や鼻の変形をもたらす。炎症発作時の症状は、軟骨部の発赤、腫脹、疼痛であるが、重症例では発熱、全身倦怠感、体重減少もみられる。突然の難聴やめまいを起こすこともある。多発関節炎もよく認められる。関節炎は通常、移動性で、左右非対称性で、骨びらんや変形を起こさない。喉頭、気管、気管支の軟骨病変によって嗄声、窒息感、喘鳴、呼吸困難などさまざまな呼吸器症状をもたらす。あるいは気管や気管支の壁の肥厚や狭窄は無症状のこともあり、逆に二次性の気管支炎や肺炎を伴うこともある。わが国のRPにおいてはほぼ半数の症例が気道病変を持ち、重症化の危険性を有する。呼吸器症状は気道狭窄によって上記の症状が引き起こされるが、狭窄にはいくつかの機序が存在する。炎症による気道の肥厚、炎症に引き続く気道線維化、軟骨消失に伴う吸・呼気時の気道虚脱、両側声帯麻痺などである。気道狭窄と粘膜機能の低下はしばしば肺炎を引き起こし、死亡原因となる。炎症時には気道過敏性が亢進していて、気管支喘息との鑑別を要することがある。この場合には、吸引、気管支鏡、気切、気管支生検などの処置はすべて死亡の誘因となるため、気道を刺激する処置は最小限に留めるべきである。一方で、気道閉塞の緊急時には気切および気管チューブによる呼吸管理が必要になる。2)生命予後に関係する症状生命予後に影響する病変として心・血管系症状と中枢神経症状も重要である。心臓血管病変に関しては男性の方が女性より罹患率が高く、また重症化しやすい。これまでの報告ではRPの患者の15~46%に心臓血管病変を認めるとされている。その内訳としては、大動脈弁閉鎖不全症(AR)や僧帽弁閉鎖不全症、心筋炎、心膜炎、不整脈(房室ブロック、上室性頻脈)、虚血性心疾患、大血管の動脈瘤などが挙げられる。RP患者の10年のフォローアップ期間中において、心血管系合併症による死亡率は全体の39%を占めた。筆者らの疫学調査では心血管系合併症を持つRP患者の死亡率は35%であった。心血管病変で最も高頻度で認められるものはARであり、その有病率はRP患者の4~10%である。一般にARはRPと診断されてから平均で7年程度の経過を経てから認められるようになる。大動脈基部の拡張あるいは弁尖の退行がARの主たる成因である。MRに関してはARに比して頻度は低く1.8~3%と言われている。MRの成因に関しては弁輪拡大、弁尖の菲薄化、前尖の逸脱などで生じる。弁膜症の進行に伴い、左房/左室拡大を来し、収縮不全や左心不全を呈する。RP患者は房室伝導障害を合併することがあり、その頻度は4~6%と言われており、1度から3度房室ブロックのいずれもが認められる。高度房室ブロックの症例では一次的ペースメーカが必要となる症例もあり、ステロイド療法により房室伝導の改善に寄与したとの報告もある。RP患者では洞性頻脈をしばしば認めるが、心房細動や心房粗動の報告は洞性頻脈に比べまれである。心臓血管病変に関しては、RPの活動性の高い時期に発症する場合と無症候性時の両方に発症する可能性があり、RP患者の死因の1割以上を心臓血管が担うことを鑑みると、無症候であっても診察ごとの聴診を欠かさず、また定期的な心血管の検査が必要である。脳梗塞、脳出血、脳炎、髄膜炎などの中枢神経障害もわが国では全経過の中では、およそ1割の患者に認める。わが国では中枢神経障害合併症例は男性に有意に多く、これらの死亡率は18%と高いことが明らかになった。眼症状としては、強膜炎、上強膜炎、結膜炎、虹彩炎、角膜炎を伴うことが多い。まれには視神経炎をはじめより重症な眼症状を伴うこともある。皮膚症状には、口内アフタ、結節性紅斑、紫斑などが含まれる。まれに腎障害および骨髄異形成症候群・白血病を認め重症化する。特に60歳を超えた男性RP患者において時に骨髄異形成症候群を合併する傾向がある。全般的な予後は、一般に血液学的疾患に依存し、RPそのものには依存しない。■ RP患者の亜分類一部の患者では気道病変、心血管病変、あるいは中枢神経病変の進展により重症化、あるいは致命的な結果となる場合もまれではない。すなわちRP患者の中から、より重症になり得る患者亜集団の同定が求められている。フランスのDionらは経験した症例に基づいてRPが3つのサブグループに分けられると報告し、分類した。一方で、彼らの症例はわが国の患者群の臨床像とはやや異なる側面がある。そこで、わが国での実態を反映した本邦RP患者群の臨床像に基づいて新規分類について検討した。本邦RP症例の主要10症状(耳軟骨炎、鼻軟骨炎、前庭障害、関節炎、眼病変、気道軟骨炎、皮膚病変、心血管病変、中枢神経障害、腎障害)間の関連検討を行った。その結果、耳軟骨炎と気道軟骨炎の間に負の相関がみられた。すなわち耳軟骨炎と気道軟骨炎は合併しない傾向にある。また、弱いながらも耳軟骨炎と、心血管病変、関節炎、眼病変などに正の相関がみられた。この解析からは本邦RP患者群は2つに分類される可能性を報告した。筆者らの報告は直ちに、Dionらにより検証され、その中で筆者らが指摘した気管気管支病変と耳介病変の間に存在する強い負の相関に関しては確認されている。わが国においても、フランスにおいても、気管気管支病変を持つ患者群はそれを持たない患者群とは異なるサブグループに属していることが確認されている。そして、気管気管支病変を持たない患者群と耳介病変を持つ患者群の多くはオーバーラップしている。すなわち、わが国では気管気管支病変を持つ患者群と耳介病変を持つ患者群の2群が存在していることが示唆された。■ 予後重症度分類(案)(表1)では、致死的になりうる心血管、神経症状、呼吸器症状のあるものは、その時点で重症と考える。腎不全、失明の可能性を持つ網膜血管炎も重症と考えている。それ以外は症状検査所見の総和で重症度を評価する。わが国では、全患者中5%は症状がすべて解消された良好な状態を維持している。67%の患者は、病勢がコントロール下にあり、合計で71%の患者においては治療に対する反応がみられる。その一方、13%の患者においては、治療は限定的効果を示したのみであり、4%の患者では病態悪化または再発が見られている。表1 再発性多発軟骨炎重症度分類画像を拡大する2 診断 (検査・鑑別診断も含む)現在ではRPの診断にはMcAdamの診断基準(1976年)やDamianiの診断基準(1976年)が用いられる(表2)。実際上は、(1)両側の耳介軟骨炎(2)非びらん性多関節炎(3)鼻軟骨炎(4)結膜炎、強膜炎、ぶどう膜炎などの眼の炎症(5)喉頭・気道軟骨炎(6)感音性難聴、耳鳴り、めまいの蝸牛・前庭機能障害、の6項目の3項目以上を満たす、あるいは1項目以上陽性で、確定的な組織所見が得られる場合に診断される。これらに基づいて厚生労働省の臨床調査個人票も作成されている(表3)。表2 再発性多発軟骨炎の診断基準●マクアダムらの診断基準(McAdam's criteria)(以下の3つ以上が陽性1.両側性の耳介軟骨炎2.非びらん性、血清陰性、炎症性多発性関節炎3.鼻軟骨炎4.眼炎症:結膜炎、角膜炎、強膜炎、上強膜炎、ぶどう膜炎5.気道軟骨炎:喉頭あるいは気管軟骨炎6.蝸牛あるいは前庭機能障害:神経性難聴、耳鳴、めまい生検(耳、鼻、気管)の病理学的診断は、臨床的に診断が明らかであっても基本的には必要である●ダミアニらの診断基準(Damiani's criteria)1.マクアダムらの診断基準で3つ以上が陽性の場合は、必ずしも組織学的な確認は必要ない。2.マクアダムらの診断基準で1つ以上が陽性で、確定的な組織所見が得られる場合3.軟骨炎が解剖学的に離れた2ヵ所以上で認められ、それらがステロイド/ダプソン治療に反応して改善する場合表3 日本語版再発性多発軟骨炎疾患活動性評価票画像を拡大するしかし、一部の患者では、ことに髄膜炎や脳炎、眼の炎症などで初発して、そのあとで全身の軟骨炎の症状が出現するタイプの症例もある。さらには気管支喘息と診断されていたが、その後に軟骨炎が出現してRPと診断されるなど診断の難しい場合があることも事実である。そのために診断を確定する目的で、病変部の生検を行い、組織学的に軟骨組織周囲への炎症細胞浸潤を認めることを確認することが望ましい。生検のタイミングは重要で、軟骨炎の急性期に行うことが必須である。プロテオグリカンの減少およびリンパ球の浸潤に続発する軟骨基質の好塩基性染色の喪失を示し、マクロファージ、好中球および形質細胞が軟骨膜や軟骨に侵入する。これらの浸潤は軟骨をさまざまな程度に破壊する。次に、軟骨は軟骨細胞の変性および希薄化、間質の瘢痕化、線維化によって置き換えられる。軟骨膜輪郭は、細胞性および血管性の炎症性細胞浸潤により置き換えられる。石灰化および骨形成は、肉芽組織内で観察される場合もある。■ 診断と重症度判定に必要な検査RPの診断に特異的な検査は存在しないので、診断基準を基本として臨床所見、血液検査、画像所見、および軟骨病変の生検の総合的な判断によって診断がなされる。生命予後を考慮すると軽症に見えても気道病変、心・血管系症状および中枢神経系の検査は必須である。■ 血液検査所見炎症状態を反映して血沈、CRP、WBCが増加する。一部では抗typeIIコラーゲン抗体陽性、抗核抗体陽性、リウマチ因子陽性、抗好中球細胞質抗体(ANCA)陽性となる。サイトカインであるTREM-1、MCP-1、MIP-1beta、IL-8の上昇が認められる。■ 気道病変の評価呼吸機能検査と胸部CT検査を施行する。1)呼吸機能検査スパイロメトリー、フローボリュームカーブでの呼気気流制限の評価(気道閉塞・虚脱による1秒率低下、ピークフロー低下など)2)胸部CT検査(気道狭窄、気道壁の肥厚、軟骨石灰化など)吸気時のみでなく呼気時にも撮影すると病変のある気管支は狭小化がより明瞭になり、病変のある気管支領域は含気が減少するので、肺野のモザイク・パターンが認められる。3)胸部MRI特にT2強調画像で気道軟骨病変部の質的評価が可能である。MRI検査はCTに比較し、軟骨局所の炎症と線維化や浮腫との区別をよりよく描出できる場合がある。4)気管支鏡検査RP患者は、気道過敏性が亢進しているため、検査中や検査後に症状が急変することも多く、十分な経験を持つ医師が周到な準備をのちに実施することが望ましい。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)全身の検索による臓器病変の程度、組み合わせにより前述の重症度(表2)と活動性評価票の活動性(表3)を判定して適切な治療方針を決定することが必要である。■ 標準治療の手順軽症例で、炎症が軽度で耳介、鼻軟骨に限局する場合は、非ステロイド系抗炎症薬を用いる。効果不十分と考えられる場合は、少量の経口ステロイド剤を追加する。生命予後に影響する臓器症状を認める場合の多くは積極的なステロイド治療を選ぶ。炎症が強く呼吸器、眼、循環器、腎などの臓器障害や血管炎を伴う場合は、経口ステロイド剤の中等~大量を用いる。具体的にはプレドニゾロン錠を30~60mg/日を初期量として2~4週継続し、以降は1~2週ごとに10%程度減量する。これらの効果が不十分の場合にはステロイドパルス療法を考慮する。ステロイド減量で炎症が再燃する場合や単独使用の効果が不十分な場合、免疫抑制剤の併用を考える。■ ステロイド抵抗性の場合Mathianらは次のようなRP治療を提唱している。RPの症状がステロイド抵抗性で免疫抑制剤が必要な場合には、鼻、眼、および気管の病変にはメトトレキサートを処方する。メトトレキサートが奏功しない場合には、アザチオプリン(商品名:イムラン、アザニン)またはミコフェノール酸モフェチル(同:セルセプト)を次に使用する。シクロスポリンAは他の免疫抑制剤が奏功しない場合に腎毒性に注意しながら使用する。従来の免疫抑制剤での治療が失敗した場合には、生物学的製剤の使用を考慮する。現時点では、抗TNF治療は、従来の免疫抑制剤が効かない場合に使用される第1選択の生物学的製剤である。最近では生物学的製剤と同等以上の抗炎症効果を示すJAK阻害薬が関節リウマチで使用されている。今後、高度の炎症を持つ症例で生物学的製剤を含めて既存の治療では対応できない症例については、JAK阻害薬の応用が有用な場合があるかもしれない。今後の検討課題と思われる。心臓弁膜病変や大動脈病変の治療では、ステロイドおよび免疫抑制剤はあまり有効ではない。したがって、大動脈疾患は外科的に治療すべきであるという意見がある。わが国でも心臓弁膜病変や大動脈病変の死亡率が高く、PRの最重症病態の1つと考えられる。大動脈弁病変および近位大動脈の拡張を伴う患者では、通常、大動脈弁置換と上行大動脈の人工血管(composite graft)置換および冠動脈の再移植が行われる。手術後の合併症のリスクは複数あり、それらは術後ステロイド療法(および/または)RPの疾患活動性そのものに関連する。高安動脈炎に類似した血管病変には必要に応じて、動脈のステント留置や手術を行うべきとされる。呼吸困難を伴う症例には気管切開を要する場合がある。ステント留置は致死的な気道閉塞症例では適応であるが、最近、筆者らの施設では気道感染の長期管理という視点からステント留置はその適応を減らしてきている。気管および気管支軟化病変の患者では、夜間のBIPAP(Biphasic positive airway pressure)二相性陽性気道圧または連続陽性気道圧で人工呼吸器の使用が推奨される。日常生活については、治療薬を含めて易感染性があることに留意すること、過労、ストレスを避けること、自覚的な症状の有無にかかわらず定期的な医療機関を受診することが必要である。4 今後の展望RPは慢性に経過する中で、臓器障害の程度は進展、増悪するためにその死亡率はわが国では9%と高かった。わが国では気管気管支病変を持つ患者群と耳介病変を持つ患者群の2群が存在していることが示唆されている。今後の課題は、治療のガイドラインの策定である。中でも予後不良な患者サブグループを明瞭にして、そのサブグループにはintensiveな治療を行い、RPの進展の阻止と予後の改善をはかる必要がある。5 主たる診療科先に行った全国疫学調査でRP患者の受診診療科を調査した。その結果、リウマチ・免疫科、耳鼻咽喉科、皮膚科、呼吸器内科、腎臓内科に受診されている場合が多いことが明らかになった。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 再発性多発軟骨炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)聖マリアンナ医科大学 再発性多発軟骨炎とは(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報再発性多発軟骨炎患者会ホームページ(患者とその家族および支援者の会)1)McAdam P, et al. Medicine. 1976;55:193-215.2)Damiani JM, et al. Laruygoscope. 1979;89:929-946.3)Shimizu J, et al. Rheumatology. 2016;55:583-584.4)Shimizu J, et al. Arthritis Rheumatol. 2018;70:148-149.5)Shimizu J, et al. Medicine. 2018;97:e12837.公開履歴初回2020年02月24日

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お酒飲みの皆さん、1日1合少しのお酒までやめられますか?(解説:野間重孝氏)-1180

 飲酒と心房細動の有病率は古くから研究されており、種々の疫学調査により過量飲酒が心房細動の有病率を上昇させることが証明されている。最近のFramingham Studyでは3 drink/日以上の飲酒で心房細動の危険性が増すことが報告されている(相対危険度1.34)。わが国での疫学調査でもエタノール46~69g/日で相対危険度1.36、それ以上では相対危険度2.90と、用量依存性に心房細動の有病率が上昇することが報告されている(Sano F, et al. Circ J. 2014;78:955-961.)。ちなみに海外の疫学ではdrinkという単位が用いられることが多く、これはアルコール12gを表す。日本で用いられる単位の1単位は20gでこれは大体日本酒で1合、ビールで500mLに相当する。本論文で取り扱われている16~17drink/週程度とは、日本酒で1升、ビールで500mL缶10本程度ということになる。興味深いことは、日本人はアルコール脱水素酵素やアルデヒド脱水素酵素の活性が欧米人に比して低いことが知られているが、一連の疫学研究でわが国と欧米との間に著しい差異は認められないことである。 アルコールと心房細動の関係は複合的といわれ、交感神経の興奮と副交感神経の抑制により心房筋の不応期が短縮し心房性期外収縮の多発を引き起こすこと、エタノールの代謝産物であるアセトアルデヒドが心房筋を障害すること、最近ではレニン・アンジオテンシン系の関与なども考えられている。解剖学的にはアルコール過量摂取者では心房の拡大や心房筋の線維化がみられることが報告されている。カテーテルアブレーション後の不整脈再発との関連が指摘されていることも注目される点だろう。 さらに付け加えれば、いわゆるbinge drinkerの問題がある。これは普段は常習的にアルコールを摂取する習慣がないが、宴会などの席で大量飲酒をしてしまうような人を指しており、多量に飲酒する機会の後に不整脈を発生することからholiday heartなどと呼ばれ、休日直後の月曜日やクリスマスから元旦の期間に頻度が高いことが知られている。このタイプによる心房細動発作の多くは単なる禁酒により改善することが知られている。 このようにアルコールの過量摂取と心房細動の疫学的関係はすでにほぼ明らかにされているが、ベースは洞調律だが、時々心房細動を起こすいわゆる発作性心房細動患者の発作抑制に禁酒が効果あるのかについては子細に検討されたことがなかった。この点に注目した筆者らがランダム割り付けを行うことにより検討したのが本研究である。結果は予想されたようにかなりの効果があることが証明された。 今回の結果はこれまでの一連の疫学研究から当然予想されたものであったが、評者が常々主張しているように、一見当たり前にみえることでも証明することには常に意義があり、その意味からは評価されなくてはならないだろう。しかし問題が個人の嗜好の問題であり、かつ心房細動は現在では確かに脳梗塞の主要な原因となっているとはいえ、生命予後に直結する疾患ではない。臨床の場で、1日2合に満たない飲酒も好ましくないと説明しても果たしてどの程度受け入れられるかには疑問が残ると思う。また非弁膜症性心房細動の最大の原因は加齢であって、人口の高齢化は皮肉にも医学の進歩の成果そのものともいえる。また他分野からは、適量のアルコールの摂取は虚血性心疾患の発生を抑制するという研究も出されている。本研究はアルコールと心房細動の関係を考えるワンピースを埋めたという意味では評価できるが、総体としての評価には微妙なものがあるように思えてならない。

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short DAPT vs.standard DAPTの新展開:黄昏るのはアスピリン?クロピドグレル?(解説:中野明彦氏)-1170

はじめに 本邦でBMSが使えるようになったのは平成6年、ステント血栓症予防には抗凝固療法(ワルファリン)より抗血小板剤:DAPT(アスピリン+チクロピジン)が優れるとわかったのはさらに数年後だった。その後アスピリンの相方が第2世代のADP受容体P2Y12拮抗薬:クロピドグレルに代わり、最近ではDAPT期間短縮の議論が尽くされているが、DAPT後の単剤抗血小板薬(SAPT)の主役はずっとアスピリンだった。そして時代は令和、そのアスピリンの牙城が崩れようとしている。 心房細動と異なり、ステント留置後の抗血栓療法には虚血リスク(ステント血栓症)と出血リスクの交差時期がある。薬剤溶出性ステント(DES)の進化・強化、2次予防の浸透などによる虚血リスク減少と、患者の高齢化に代表される出血リスク増加を背景に、想定される交差時期は前倒しになってきている。最新の欧米ガイドラインでは、安定型冠動脈疾患に対するDES留置後の標準DAPT期間を6ヵ月とし、出血リスクに応じて1~3ヵ月のshort DAPTをオプションとして認めている。同様に急性冠症候群(ACS)では標準:12ヵ月、オプション:6ヵ月である。もちろん日本循環器学会もこれに追従している。 しかし2018年ごろから、アスピリンに代わるSAPTとしてP2Y12拮抗薬monotherapyの可能性を模索する試験が続々と報告されている。・STOPDAPT-21):日本、3,045例、1 Mo(→クロピドグレル)vs.12 Mo、all comer(ACS 38%)、心血管+出血イベント・出血イベントともにshort DAPTに優越性・SMART-CHOICE2):韓国、2,993例、3 Mo(→クロピドグレル)vs.12 Mo、all comer(ACS 58%)、MACCEは非劣性、出血イベントはshort DAPTに優越性・GLOBAL-LEADERS3):EUを中心に18ヵ国、1万5,968例、1 Mo(→クロピドグレル、ACSはチカグレロル)vs.12 Mo DAPT→アスピリン、2年間、all comer(ACS 47%)、総死亡+Q-MI・出血イベントともに非劣性チカグレロルのmonotherapy チエノピリジン系(チクロピジン、クロピドグレル、プラスグレル)とは一線を画するCTPT系P2Y12拮抗薬であるチカグレロルは、代謝活性化を経ず直接抗血小板作用を発揮するため、作用の強さは血中濃度に依存し個体差がない。またADP受容体との結合が可逆的なため薬剤中断後の効果消失が速い。DAPTの一員としてPEGASUS-TIMI 54・THEMIS試験などで重症安定型冠動脈疾患への適応拡大が模索されているが、現行ガイドラインではACSに限定されている。 今回のTWILIGHT試験はPCI後3ヵ月間のshort DAPT(アスピリン+チカグレロル)とstandard DAPTの比較試験で、SAPTとしてチカグレロルを残した。前掲試験と異なる特徴は、・虚血・大出血イベントを合併した症例を除外し、3ヵ月後にランダム化したランドマーク解析であること・all comerではなく、虚血や出血リスクが高いと考えられる症例・病変*に限定したこと・3分の2がACSだがST上昇型心筋梗塞は含まれていないなどである。*:年齢65歳以上、女性、トロポニン陽性ACS、陳旧性心筋梗塞・末梢動脈疾患、血行再建の既往、薬物療法を要する糖尿病、G3a以上の慢性腎臓病、多枝冠動脈病変、血栓性病変へのPCI、30mmを超えるステント長、2本以上のステントを留置した分岐部病変、左冠動脈主幹部≧50%または左前下行枝近位部≧70%、アテレクトミーを要した石灰化病変 結果、ランダム化から1年間の死亡+虚血イベントは同等(short DAPT:3.9% vs.standard DAPT:3.9%)で、BARC基準2/3/5出血(4.0% vs.7.1%)・より重症なBARC基準3/5 出血(1.0% vs.2.0%)はほぼダブルスコアだった。 筆者らは「PCI治療を受けたハイリスク患者は、3ヵ月間のDAPT(アスピリン+チカグレロル)を実施した後、DAPT継続よりもチカグレロル単剤に切り替えたほうが総死亡・心筋梗塞・脳梗塞を増やすことなく出血リスクを減らすことができる」と結論付けた。日本への応用、そしてその先は? しかしどこか他人事である。 第1に、ACSに対するクロピドグレルvs.チカグレロルのDAPT対決(PLATO試験4))に参加できず別に施行したブリッジ試験(PHILO試験5))が不発に終わった日本では、チカグレロルの適応が大幅に制限されている。したがって、われわれが日常臨床で本試験を実感することはできない。 第2に出血イベントの多さに驚く。3ヵ月のDAPT期間内に発生した死亡+虚血イベントが1.2%だったのに対し、BARC 3b以上の大出血は1.5%だった。出血リスクの高い対照群や人種差のためかもしれないが、本来なら虚血イベントが上回るはずのPCI後早期に出血イベントのほうが多かったのでは本末転倒である。ランダム化後の出血イベント(上記)も加えると、さらに日本の臨床試験とかけ離れてくる。PHILO試験が出血性イベントで失敗したことを考えれば、プラスグレルのように日本人特有の用量設定が必要なのでは、と感じる。 とはいえ、脳出血や消化管出血のリスクが付きまとうアスピリンに代わるP2Y12拮抗薬monotherapyは魅力的なオプションではある。PCI後の抗血小板療法は血栓症予防と出血性合併症とのトレードオフで論ずるべき問題であり、症例や使用薬剤によって虚血リスクと出血リスクの交差時期(至適short DAPT期間)は変わるに違いない。さらに、どのP2Y12拮抗薬がmonotherapyとして最適なのか? 2次予防としても有効なのか? アスピリンのように「生涯」継続するのか? 医療経済的に釣り合うのか? 最初からmonotherapyではダメなのか? …検討すべき問題は山積するが、新しい時代に本試験が投じた一石は小さくない。

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第36回 本物?ニセモノ?下壁誘導Q波を見切るエクセレントな方法(後編)【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

本物?ニセモノ?下壁誘導Q波を見切るエクセレントな方法(後編)だいぶ遅くなりましたが、皆さま、新年明けましておめでとうございます。2018年8月末から隔週で続けていた本連載を2020年1月からは1回/月ペースでお届けすることになりました。引き続き“価値ある”レクチャーを展開していく所存ですので、今年も“ドキ心”をよろしくお願いします。さて、今回も 昨年に引き続き、下壁誘導(II、III、aVF)のQ波をどう考えるか、Dr.ヒロと一緒に心電図の“技巧的”な記録法を学びましょう。第35回と同じ症例を用いて解説し「異常Q波」のレクチャーを終えたいと思います。では張り切ってスタートです!症例提示48歳、男性。糖尿病にてDPP-4阻害剤を内服中。泌尿器科より以下のコンサルテーションがあった。『腎がんに対して全身麻酔下で左腎摘除術を予定しています。自覚症状はとくにありませんが、術前心電図にて異常が疑われましたので、ご高診下さい』174cm、78kg(BMI:25.6)。血圧123/72mmHg、脈拍58/分・整。喫煙:15~20本×約30年(現在も喫煙中)。術前検査として記録された心電図を示す(図1)。(図1)術前外来の心電図画像を拡大する【問題1】心エコーでは左室下壁領域の壁運動低下があった(第35回参照)。本症例の「陳旧性下壁梗塞」の有無について、Q波の局在、ST-T変化の合併以外に、心電図上の注目ポイントを述べよ。解答はこちら平常時と深吸気時記録の比較解説はこちら症例は前回と同じ、腎がんに対して摘除術が予定された中年男性です。“ニ・サン・エフ”のいわゆる下壁誘導に「異常Q波」ありと読むのでした。“周囲確認法”的にはST-T異常も伴わず、本人に問診しても強い胸痛イベントの記憶もないため、フェイクQ波だと思いたいところではあります。しかし、心エコーで局所壁運動異常、背景に糖尿病もあるため、「無症候性心筋虚血(梗塞)」の線も捨てきれないという悩ましい状況なわけです。あくまでも術前ですから、冠動脈CT、心臓MRI(CMR)や核医学(RI)などの“大砲検査”に無制限に時間をかければいいというものでもありません。あくまでも腎がんの手術をつつがなく終えてもらうことが当座の目標です。大がかりでコストもかさむ検査をする前に、実は“一手間”かけて心電図をとるだけで、下壁Q波が本物かニセモノかを見抜ける場合があるのです。“深呼吸でQ波が消える?”いつか、皆さんにこの“ドキ心”レクチャーで紹介しようと思っていた論文*1があります。イタリアからの報告で、既知の冠動脈疾患(CAD)がない50人(平均年齢68歳、男性54%)を対象としています。これらの男女は見た目“健康”ですが、複数の冠危険因子、脳梗塞や末梢動脈疾患(PAD)の既往があり、下壁誘導にQ波が見られるという条件で選出されています(II:18%、III:98%、aVF:100%)。ちなみに、海外ではこうした“下壁Q波”は、一般住民でも1%弱(0.8%)に認められるそうです*2。全例に心エコーとCMRを行い、下壁にガドリニウム(Gd)遅延造影が見られた時に“本物”の下壁梗塞と認定されました。と、ここまでは至極普通なのですが、この論文がすごいのは、以前からささやかれていた「ニセモノの下壁Q波は深呼吸で“消える”」という、いわば“都市伝説”レベルの話が検証されているのです! 皆さん、こんな話って聞いたことありますか?方法はとても簡単です。安静時と思いっきり息を吸った状態(deep inspiration)の2枚、心電図を記録します。深吸気時でも変わらずQ波なら、それこそ真の「異常Q波」と見なし、下壁梗塞のサインと考えるのです。ちなみにQ波が“消える”とは、完全に消失することではなく、診断基準(第33回)を満たさなくなるという意味とご理解ください。このシンプルなやり方に“アダ名”をつけるのが、Dr.ヒロの得意技(笑)。言いやすい“深呼吸法”と名付けました。“本物なQ波の確率を高める所見はあるか?”この研究、実際の結果はどうだったのでしょうか? CMRで本当に下壁梗塞が検出されたのは50人中10人(20%)でした。単純にQ波が3つの誘導中2つ以上、それもほとんどサンエフ(III、aVF)だけなら、 “打率”は2割と低いわけです。単純に下壁梗塞の有無で各種因子が比較されましたが、有意なものはありませんでした。「有意」(p<0.05)に届かなかったものの“おしい”感じだったのは、1)男性、2)II誘導にQ波あり、3)ST-T所見の合併ありの3つです。性別(男性)は確かに冠危険因子の一つですし、背景疾患も含めて意識したいところです。ただ、これは“決定打”にはなりません。残りの2つも大事です。その昔「II誘導にQ波があったら高率に下壁梗塞あり」と習った記憶がありますが、この論文では半数弱(40%)にとどまりました(「なし」の場合の13%より確かに高率でしたが)。もう一つのST-T所見の合併、これは「ST上昇」や「陰性T波」であることが多いです。以前取り上げた心筋梗塞の「定義」を述べた合意文書でも、「幅0.02~0.03秒」の“グレーゾーン”でも、「深さ≧1mm」かつ「同誘導で陰性T波」なら本物の可能性が高まると述べられています。常日頃から漏れのない判読を心がけている立場としては、Q波「だけ」で考えないのは当然で、“周囲確認法”として多面的に考えることで“打率”が向上すると思っています(有意にならなかったのは、サンプル数が少ないためでしょうか)。“深呼吸法の実力やいかに”さて、いよいよ“深呼吸法”のジャッジです。次の図2をご覧ください。(図2)“深呼吸法”の識別能力画像を拡大する図中の「IQWs」とは、「下壁Q波」(Inferior Q-waves)の意味で、「MI」は「心筋梗塞」(myocardial infarction)です。“深呼吸法”で異常Q波が「残った」10人中、本物が8人。 なんと“打率”が8割にアップしました。よく見かける2×2分割表を作成し、感度、特異度を求めるとそれぞれ80%、95%になるわけです。しかも、特筆すべきは心エコーでの局所壁運動異常(asynergy)は各50%、88%であったこと。あれっ? 深吸気した心電図のほうが心エコーより“優秀”ってこと?…そうなんです。もちろん、単純に感度・特異度の値だけで比較できるものではありませんが、論文中ではいくつかの検討が加えられ、最終的に「“深呼吸法”は心エコーよりも下壁梗塞の診断精度が良かった」というのが、本論文の結論です。どうです、皆さん! “柔よく剛を制す”ではないですが、心電図を活用することで心エコー以上の芸当ができるなんて気持ちいいですよね。“判官贔屓”(はんがんびいき)と言われそうですが(笑)。ここで下壁誘導のQ波についてまとめておきましょう。■下壁誘導Q波の“仕分け方”■心筋梗塞の既往(問診)、冠危険因子の確認は必須III誘導「のみ」なら問題なし(お隣ルール)II誘導のQ波、ST-T所見の有無も参考に(周囲確認法)深吸気で“消える”Q波はニセモノの可能性大(深呼吸法)“実際に深呼吸法やってみた”心電図に限りませんが、新しい事柄を知った時、すぐに“実践”してみることで、その知識は真に定着するというのがボクの信条の一つです。早速、症例Aと症例Bを用いて“深呼吸法”を試してみました。【症例A】68歳、男性。他院から転医。糖尿病、脂質異常症、高血圧症あり。既往に心筋梗塞あり。【症例B】63歳、男性。術前心電図異常で紹介。高血圧症あり。以前から階段・坂道で息切れあり。臨床背景からは、【症例A】は本物な感じがしますが、【症例B】は、にわかに判断は難しいような気がします。皆さんはどう思いますか? 実際に“深呼吸法”も含めて行った心電図の様子を示します(図3)。(図3)自験例で“深呼吸法”やってみた画像を拡大するまず、安静時の心電図を見てみましょう。【症例A】では、II誘導を含めて下壁誘導すべてにQ波がありますが、陰性T波の随伴はありません(a)。一方の【症例B】は、Q波はIII、aVF誘導のみですが(QS型)、III誘導に陰性T波ありという状況です(c)。さて、“深呼吸法”の結果はどうでしょうか。息を深く吸うことで、幅・深さともに若干おとなしくなることにご注目ください。しかも、「息こらえ」のためか筋電図ノイズが混入して見づらくなるという特徴がありますよ。【症例A】ではII、III、aVF誘導ともQ波が残るので、がぜん”本物”度が増します。一方の【症例B】はどうでしょう?…III誘導は「QS型」のままですが、aVF誘導ではQ波がほぼ消えて「qr型」となったではありませんか! こうなると、もはや“お隣ルール”に該当せず、III誘導のみの“問題がない”パターンであることが露呈しました。実際の“正解”をまとめます。【症例A】は50歳時に右冠動脈中間部を責任血管とする急性下壁梗塞の既往があり、一方の【症例B】では、心エコーはほぼ正常で冠動脈CTでも有意狭窄はありませんでした。何度か述べているように、心電図だけですべてを判断するのは危険ですし、【症例B】のように一定のリスク、胸部症状や本人希望などに沿った総合的な判断から冠動脈精査を行うことは決して悪くないです。ただ、“深呼吸法”は実ははじめから“大丈夫”の太鼓判を押してくれていたことになります。ウーン、改めてすごいな。“おわりに”話を冒頭の症例に戻します。この方は心エコーとRI検査で左室下壁に異常があり、 “深呼吸法”でもII、III、aVFそれぞれでQ波は顕在でした。この患者さんの冠動脈造影(CAG)の結果 (図4)を見ると、左冠動脈には狭窄はありませんでしたが、右冠動脈の中間部で完全閉塞(図中赤矢印)、いわゆる“CTO”(Chronic Total Occlusion)と呼ばれる「慢性閉塞性病変」でした(左冠動脈造影で側副血行路を介して右冠動脈末梢が造影されています[図中黄矢印])。つまり、今回の中年男性は“本物”の下壁梗塞だったのです。(図4)48歳・男性のCAG画像を拡大するところで話は変わりますが、皆さんは「ブルガダ心電図」*3をご存じでしょうか。多くの臨床検査技師さんは、V1~V3誘導で「ST上昇」を見たら、「第1肋間上」での記録も残してくれ、これはだいぶ浸透しています。そこで提案。「下壁、とくにIII・aVF誘導にQ波があったら“深吸気”時の記録を追加する」をルーチンにしませんか?…とまぁ、とかく“欲張り”なDr.ヒロなのでした。Take-home Message下壁誘導の「異常Q波」を見たら、本物かニセモノか考えよう!冠危険因子、既往歴、II誘導のQ波やST-T変化の随伴とともに深呼吸法が参考になるはず。*1Nanni S, et al. J Electrocardiol. 2016;49:46-54.*2Godsk P, et al. Europace. 2012;14:1012-1017.*3『遺伝性不整脈の診療に関するガイドライン(2017年改訂版)』【古都のこと~智積院~】令和2年最初の『古都のこと』は、智積院(ちしゃくいん)から始めます。ここは「東山七条」と呼ばれるゾーンで、有名な三十三間堂や京都国立博物館のすぐ近くです。「あれっ、~寺じゃないの?」…そうなんです。ボクもそう思いました。正式名称は五百仏山根来寺(いおぶさん ねごろじ)智積院。一時退廃していた真言宗の「中興の祖」とされる興教大師が修行の場を根来山に移してから「学山」として栄え*1、室町時代後期(南北朝時代)に創建された学頭寺院の名称が「智積院」です。いわゆる「お坊さんの“学校”」なんですね。でも、これは和歌山県の話です。現在の東山の地に移ったのは、「根来衆」の“黒歴史”*2が関係しています。徳川家康から秀吉を祀る豊国神社と祥雲禅寺*3の地を拝領してからは、江戸時代以降「学問寺」としての位置を取り戻しました。さらに、明治時代の廃仏毀釈や根本道場(勧学院)・金堂*4の火難など不幸の歴史を辿りながら明治33年(1900年)に智山派総本山となった歴史を知ると、“学問”がつなぐ絆の強さに感動します。広大な敷地にボクは大学のキャンパスに漂う“自由”の気風をイメージし、既に離れた母校を懐かしみました。また、素敵な庭園とともに、敷地内にある宝物館には、国宝である長谷川等伯らによる障壁画『桜図』『楓図』(国宝)*5が拝める特典もありますよ。勧行体験のできる宿坊がリニューアル(2020年夏頃)したらまた来たいなぁと思うDr.ヒロなのでした。*1:弘法大師入定(高僧の死)後300年、荒廃した高野山に大伝法院(学問所で学徒の寮も兼ねた)を創建、宗派内の対立で同じ和歌山県内の根来山に修行の場を移し、教学「新義(真言宗)」を確立した。*2:いつしか“書物”を“火縄銃”に持ち替えた僧兵は種子島伝来の鉄砲を操ったという。天正13年(1585年)、豊臣秀吉による“根来攻め”により山内の堂塔が灰燼に帰し、当時の智積院住職であった玄宥(げんゆう)僧正が難を逃れたのが京都東山であった。*3:秀吉が夭逝した愛児鶴松(棄丸)の菩提を弔うため建立した。*4:宗祖弘法大師(空海)の生誕1200年の記念事業として昭和50年(1975年)に再建された。*5:中学・高校時代に誰しも一度や二度は図説で見たであろう“金ピカ”の障壁画に出会える。安土桃山時代らしい絢爛豪華さで、自分が想定したよりもスケールが大きくビックリ!

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脳梗塞、一過性脳虚血発作発症後の脂質管理はどの程度まで(解説:吉岡成人氏)-1164

脳卒中治療ガイドライン2015 脳梗塞は適切な内科治療が行われなければ、最初の1年で10人に1人が再発する。一方、TIAも発症後90日以内の脳卒中発生率は15~20%である。脳梗塞、TIAの再発予防においては、抗血栓療法と内科的リスク(血圧、脂質、血糖)の管理が重要である。日本における『脳卒中治療ガイドライン2015』においても、脳梗塞患者の慢性期治療における脂質異常のコントロールが推奨されており、高用量のスタチン系薬剤は脳梗塞の再発予防に有用であると記されている(グレードB:行うように勧められる)。また、低用量のスタチン系薬剤で治療中の患者においてはEPA製剤の併用が脳卒中の再発予防に有効であることも併記されている(グレードB)。LDL-Cを70mg/dL未満に管理することの有用性と問題点 脳梗塞、TIA発症後の患者におけるLDL-Cの管理をどの程度にすべきかについての臨床研究が、NEJM誌オンライン版(2019年11月18日号)に掲載された。 3ヵ月以内に脳梗塞ないしは15日以内にTIAを発症した成人患者を対象として、フランスの61施設、韓国の16施設が参加した無作為化並行群間試験で2,860例が登録されている。LDL-Cを90~110mg/dLに管理する高目標群と70mg/dL未満に管理する低目標群の2群に分け、主要エンドポイントを複合心血管イベント(脳梗塞、心筋梗塞、冠動脈ないしは頸動脈の緊急血行再建術を要する新たな徴候、心血管死)として治療の有用性を検討した結果が示されている。追跡期間の中央値は3.5年(フランス5.3年、韓国2.0年)で、期間中に高目標群では平均LDL-C値が136mg/dLから96mg/dLとなり、低目標群では135mg/dLから65mg/dLとなった。追跡期間においてLDL-C値が目標域に維持されていた割合は高目標群で32.2%、低目標群で52.8%であった。 主要エンドポイントの発症率は高目標群で10.9%(2.98/100人・年)、低目標群で8.5%(2.27/100人・年)であり、厳格に脂質管理を行う群でのリスクの低下が示された(補正後ハザード比HR:0.78、95%信頼区間:0.61~0.98)。 サブグループ解析では、フランスの施設では低目標群で優位なリスク減少が認められ(HR:0.73、95%信頼区間:0.57~0.95)、韓国の施設ではHR 1.11と群間における差がなかった。また、既往に脳梗塞があった群では低目標群で有意にリスクが減少した(HR:0.67、95%信頼区間:0.52~0.87)が、TIA群ではリスクの減少は認められなかった(HR:2.06、95%信頼区間:1.03~4.12)。さらに、頻度は少なく、有意差はないものの、頭蓋内出血は低目標群で多く(1.3% vs.0.9%、HR:1.38、95%信頼区間:0.68~2.82)、観察期間中の糖尿病の発症率も低目標群で高かった(7.2% vs.5.7%、HR:1.27、95%信頼区間:0.95~1.70)。厳格なLDL-C管理は有用なのか 脳梗塞患者の再発予防に、厳格なLDL-C管理はどの程度有用なのであろうか。観察期間の長短がフランスと韓国での脂質管理の有用性に差異をもたらしたのであろうか、人種差は関連がないのであろうか。また、脂質の管理が示す再発予防の効果に関して、脳梗塞の患者とTIAの患者で異なっているのは、基礎となる病態が脳梗塞とTIAとで違ったものだからなのだろうか。LDL-Cを厳格に管理することと頭蓋内出血や新規の糖尿病の発症は統計学的に有意ではないが、臨床の現場では、どのように対応すべきなのであろうか。 主要エンドポイントが385例に達するまで継続する予定のevent-driven試験であったが、運営資金の不足により277例で早期中止となってしまったようである。日本人の脳梗塞患者、TIA患者における再発予防のためのLDL-C値はいかにあるべきか、その指針となる新たな臨床試験が必要なのかもしれない。

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慢性疼痛の“記憶された痛み”をうまく取り除くには?

 国が主導となって研究チームを発足するくらい、日本人は慢性的な痛みに日々悩まされている。おまけに、なかなか症状改善しない患者がドクターショッピングに陥ることで、国の医療費はますます圧迫されてしまう。そんな負の連鎖を断ち切り、臨床現場での正確な病態把握を求めるべく、昨年、厚生労働省「慢性の痛み対策」研究班と痛み関連の7学会が連携して『慢性疼痛治療ガイドライン』を発刊した。 このガイドライン作成にも携わり、上記研究班で中心的な役割を担っている牛田 享宏氏(愛知医科大学医学部学際的痛みセンター 教授)と伊達 久氏(仙台ペインクリニック院長)が、2019年10月31日に開催されたボストン・サイエンティフィック・ジャパン株式会社主催のメディアセミナー「『難治性慢性疼痛』による経済的・社会的影響と日本の『難治性慢性疼痛』治療の最新動向~病診連携モデルと臨床データの構築~」に登壇し、慢性疼痛対策の現状を語った。運動器慢性疼痛における日本の現状 日本での慢性疼痛疫学調査1,2)によると、痛みの訴え部位は腰痛が大半(58.6%)を占め、次いで肩:38.7%、下肢部:37.9%と続き、筋骨格系=運動器に引き起こされることが多い。驚いたことに、その年齢分布を見ると高齢者よりも30~50代の訴えが多い。自己負担の治療費は年間4,000億円以上、患者の15%以上が仕事への影響を抱えていた。牛田氏は「調査結果を見ると、患者の治療満足度は非常に低く、慢性疼痛を訴えた患者の1/3しか満足していない。結果、患者の半数が治療機関を変更している」と、実態を説明した。 また、このような慢性疼痛に悩む患者を精神科医が見た場合、線維筋痛症の有無を問わず約半数に身体表現性障害があり、患者の約95%には何かしらの精神疾患名(気分変調障害、大うつ病など)が付くことが明らかになった3)。慢性疼痛では“痛みは記憶される”ことを理解する このように慢性疼痛患者が精神疾患を抱える理由について、同氏は「痛みは頭で経験しているため」とコメントした。頭では痛み自体を感じる感覚体験と、辛さや苦しさを感じる情動体験が同時に生じているため、国際疼痛学会では痛みを“不快な情動体験”と定義している。これを踏まえて同氏は「なかなか治らない痛みの原因は情動の要素が大きい」と、話した。 治りにくい痛みの代表例として神経性障害疼痛がある。これは体性感覚神経系の損傷や疾患により引き起こされる痛みであり、罹患者数は日本人人口の1~3%に上る。脳梗塞患者の痛みもこれに該当し、患者にはうつや睡眠障害の併発、医療機関受診件数が3件以上になるケースが多くなるなどの特徴がある4)。 このほかにも、通常では痛みを伴わないような微小刺激が疼痛として認識される感覚異常をきたすアロデニアという病態の研究報告5)から、同氏は痛みが記憶されていることを説明。痛みが感覚だけではなく情動によっても悪化することに対し理解を求めた。さらに、「慢性疼痛患者は整形外科と精神科のどちらに行くべきか、診療における境界線によって悩まされている」とし、患者をチームで診るために厚生労働省による集学的痛みセンターが構築されたことを説明した。 集学的痛みセンターとは、医科だけではなく歯科も含めたシステム構築、地域医・在宅医療の連携モデル構築、を目指した厚生労働省政策研究班による事業である。系統的に改善しない患者を分析することで、治療方針やゴールの方向性を検討し、自宅でのコントロールを目的としているが、「慢性疼痛の診断法の確立のために主観的な痛みを客観的に見える化して評価する方法の構築が必要」と、同氏は今後の課題を語った。慢性疼痛患者が患者が痛みを強く感じているのは30分だけ 続いてペインクリニックの視点から、伊達氏が慢性疼痛治療ガイドラインでの推奨内容について解説した。本ガイドラインでは、推奨度を「1:する(しない)ことを強く推奨する」「2:する(しない)ことを弱く推奨する(提案する)」の2通りで提示し、エビデンスレベルを「A(強):効果の推定値に強く確信がある」「B(中):効果の推定値に中程度の確信がある」「C(弱):効果の推定値に対する確信は限定的である」「D(とても弱い):効果の推定値がほとんど確信できない」と規定している。 たとえば、運動療法の有効性はエビデンスレベル・推奨度が慢性腰痛:1A、変形性膝関節炎:1A、慢性頸部痛:1Bであり、身体を直接動かすことは慢性疼痛に効果的と示されている。同氏はこれらの根拠となる海外文献6,7)を紹介し、「運動療法は筋トレではなく血流改善を促すストレッチが中心なので、痛みがある時こそ有用。ストレッチはドパミン遊離にも影響を及ぼすため、痛みの蔓延化につながる心理社会的要因(不安、抑うつ、破局化思考)も解消される。また、慢性疼痛患者の突発痛は30分すると軽減することが多いため、痛い時にストレッチを行えば薬の依存から脱却できるかもしれない」とコメント。「心理社会的要因からくる痛みには認知行動療法が有効とされ、マインドフルネスなどの導入もガイドラインでは推奨(1A)している。しかし、現時点で保険適用外のため、診療報酬に対する要望を複数の学会が行っている」と、補足した。 最後に、痛みを直接除去する視点からインターベンショナル治療について説明。ガイドラインではパルス高周波神経根ブロック、末梢神経パルス高周波などが推奨度1A、脊髄刺激療法や肩甲上神経パルス高周波などが推奨度1Bに設定されている。なかでも脊髄刺激療法システムはほかの治療法と比較して、中枢感作、痛みのいずれにおいても効果が得られたことから、同氏は「運動療法や認知行動療法に加え、脊髄刺激療法も慢性疼痛治療の1つになり得る」と締めくくった。■参考1)服部政治.ペインクリニック. 2004;25:1541-1551.2)Nakamura M, et al. J Orthop Sci. 2011;16:424-32.3)Miki K, et al. Neuropsychopharmacol Rep. 2018;38:167-174.4)Inoue S, et al. Eur J Pain. 2017;21:727-737.5)Ushida T, et al. Brain Topogr. 2005;18:27-35.6)Goh SL et al, Ann Phys Rehabil Med. 2019 May 21.[Epub ahead of print]7)Gavi MB et al, PLoS One. 2014 mar 20. [Epub ahead of print]

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脳卒中後、CVイベント抑制のためのLDL-C目標値は?/NEJM

 アテローム性動脈硬化が証明され、虚血性脳卒中または一過性脳虚血発作(TIA)を発症した患者では、LDLコレステロール(LDL-C)の目標値を70mg/dL未満に設定すると、目標値90~110mg/dLに比べ、心血管イベントのリスクが低下することが、フランス国立保健医学研究所(INSERM)のPierre Amarenco氏らが行った「Treat Stroke to Target試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2019年11月18日号に掲載された。アテローム性動脈硬化に起因する虚血性脳卒中やTIAの患者では、スタチンを用いた強化脂質低下療法が推奨されている。一方、脳卒中発症後の心血管イベントの抑制におけるLDL-Cの目標値については、十分に検討されていないという。LDL-C目標値を70mg/dL未満とする群または90~110mg/dLとする群に割り付け 本研究は、フランスの61施設と韓国の16施設が参加した無作為化並行群間比較試験であり、2010年3月~2018年12月の期間に患者の割付が行われた(フランス連帯・保健省などの助成による)。 対象は、年齢18歳以上(韓国は20歳以上)、直近3ヵ月以内に虚血性脳卒中または15日以内にTIAを発症し、脳血管または冠動脈のアテローム性動脈硬化が証明されている患者であった。 被験者は、LDL-C目標値を70mg/dL未満とする群(低目標値群)または90~110mg/dLとする群(高目標値群)に無作為に割り付けられ、スタチンまたはエゼチミブ、あるいはこれら双方による治療を受けた。 主要エンドポイントは、主な心血管イベント(虚血性脳卒中、心筋梗塞、冠動脈または頸動脈の緊急血行再建術を要する新たな症状、心血管死)の複合とした。 本試験は、主要エンドポイントが385例で発生するまで継続する予定のevent-driven試験であるが、運営上の理由で2019年5月26日に早期中止となった。この時点でイベントを発生していた277例について解析が行われた。LDL-C低目標値群と高目標値群の主要複合エンドポイント:8.5% vs.10.9% 虚血性脳卒中または一過性脳虚血発作を発症した患者2,860例が登録され、LDL-C目標値を70mg/dL未満とする低目標値群に1,430例(平均年齢66.4±11.3歳、男性67.9%)、高目標値群にも1,430例(67.0±11.1歳、67.3%)が割り付けられた。 試験期間中に、LDL-C低目標値群65.9%、高目標値群94.0%がスタチンのみの投与を受け、それぞれ33.8%、5.8%はエゼチミブ+スタチンの投与を受けていた。追跡期間中央値2.7年の時点で、低目標値群30.3%、高目標値群28.5%が治療を中止していた。 ベースラインの平均LDL-C値は両群とも135mg/dL(3.5mmol/L)であった。追跡期間中央値3.5年の時点で、平均LDL-C値は、低目標値群が65mg/dL(1.7mmol/L)、高目標値群は96mg/dL(2.5mmol/L)に低下していた。 主要複合エンドポイントの発生率は、LDL-C低目標値群が8.5%(121/1,430例)と、高目標値群の10.9%(156/1,430例)に比べ有意に低かった(補正後ハザード比[HR]:0.78、95%信頼区間[CI]:0.61~0.98、p=0.04)。 主要複合エンドポイントのイベントの多くは非致死的脳梗塞または原因不明の脳卒中(低目標値群5.7%、高目標値群7.0%)であり、これに比べると、心血管死(1.2%、1.7%)、非致死的急性冠症候群(1.0%、1.6%)、緊急冠動脈血行再建術(0.3%、0.4%)、緊急頸動脈血行再建術(0.2%、0.2%)の頻度は低かった。 副次エンドポイント(心筋梗塞または緊急冠動脈血行再建術、脳梗塞または頸動脈/脳動脈血行再建術、脳梗塞またはTIA、血行再建術[頸動脈、冠動脈、末梢動脈]、死亡、脳梗塞または頭蓋内出血、頭蓋内出血、新規に診断された糖尿病)は、いずれも両群間に有意な差は認められなかった。このうち、頭蓋内出血(1.3%、0.9%)と糖尿病(7.2%、5.7%)の発生率は低目標値群で高い傾向がみられたが、他の項目は低目標値群で低い傾向が認められた。 著者は、「韓国は患者登録の開始がフランスよりも遅く、追跡期間中央値はそれぞれ2.0年および5.3年と差があり、韓国人患者では有意な効果の検出力はない可能性がある」とし、「今回の試験結果の解釈では、試験の早期中止を考慮する必要がある」と指摘している。

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低LDLや低収縮期血圧と関連するgenetic variantsは生涯にわたる冠動脈疾患の低リスクと関連(解説:石川讓治氏)-1133

 高LDL血症および高血圧は冠動脈疾患の確立された危険因子である。本研究では、英国のバイオバンクに登録された43万8,952人の対象者のデータを用いて、低LDLコレステロール血症と関連するgenetic variantsが多い対象者と低収縮期血圧と関連するgenetic variantsが多い対象者を評価し、これらのgenetic variantsが、独立して、相加的に冠動脈疾患発症リスク低値と関連していたことを報告していた。これらのgenetic variantsの数が増えるにつれて連続的に冠動脈疾患発症リスクは低くなっていた。同様の関連は虚血性脳梗塞においても認められていた。 本研究では、低LDLコレステロール血症や低収縮期血圧と関連するgenetic variantsが少ない(つまりLDLコレステロールや収縮期血圧が高くなりやすい)対象者において、治療によるLDLコレステロールや収縮期血圧の低下度に影響を与えるかどうかは不明である。また、これらのgenetic variantsの有無によって、LDLや血圧の治療薬の選択や目標レベルを変えるかどうかも今後の課題である。サブグループ解析において、低LDL血症になりやすいgenetic variantsと低収縮期血圧になりやすいgenetic variantsの両方を持つ対象者の冠動脈疾患リスク低下度は、喫煙や肥満によって減少していた。有利なgenetic variantsの有無にかかわらず、喫煙や肥満といった治療可能な危険因子を改善することが重要であることは変わりないと思われる。

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脳梗塞・心筋梗塞既往歴のない患者でのアスピリン中止提案 【うまくいく!処方提案プラクティス】第8回

 今回は、抗血小板薬の中止提案を行った症例を紹介します。抗血小板薬の目的が動脈硬化性疾患の1次予防なのか2次予防なのかによって治療や提案すべき薬剤が異なってきますので、普段から患者さんの既往歴などの情報を得て、エビデンスを提示しながら提案できるとよいでしょう。患者情報80歳、女性(個人在宅)、体重:53kg、Scr:0.8基礎疾患:アルツハイマー型認知症、心不全、僧帽弁閉鎖不全症、骨粗鬆症、腰部脊柱管狭窄症、症候性てんかん、心房細動、高血圧症、脂質異常症血  圧:130/70台服薬管理:同居の長男夫婦がカレンダーにセットされた薬で管理、投薬。長男夫婦の在宅時間に合わせて用法を朝夕・就寝前に設定。往  診:月2回処方内容1.アルファカルシドール錠0.5μg 1錠 分1 朝食後2.アゾセミド錠30mg 1錠 分1 朝食後3.ウルソデオキシコール酸錠100mg 3錠 分1 朝食後4.L-アスパラギン酸カルシウム錠200mg 2錠 分2 朝夕食後5.バルプロ酸ナトリウム徐放錠200mg 2錠 分2 朝夕食後6.プラバスタチン錠10mg 1錠 分1 夕食後7.センノシド錠12mg 2錠 分1 就寝前8.アレンドロン酸錠35mg 1錠 分1 起床時 毎週木曜日9.アスピリン腸溶錠100mg 1錠 分1 朝食後(新規追加)本症例のポイントこの患者さんは、もともと循環器系の複合的な疾患がありますが、主治医からの診療情報提供書やケアマネジャーからのフェイスシートによると、脳梗塞や心筋梗塞の既往はありませんでした。ところが今回、心房細動と診断され、アスピリン腸溶錠が開始になったため大変驚きました。脳梗塞・心筋梗塞後などの再発予防目的(2次予防)としての抗血小板薬服用は臨床的使用意義が大きいことが確認されています。しかし、発症を未然に防ぐ目的(1次予防)の抗血小板薬の服用は、臨床効果よりも有害事象が上回ることが指摘されています。【JPAD試験1)】対象:動脈硬化性疾患の既往歴のない30〜85歳の2型糖尿病患者2,539例方法:アスピリン(81mgまたは100mg)投与群と非投与群に1:1に無作為に割り付けた(追跡中央値4.37年)評価項目:動脈硬化性疾患結果:動脈硬化性疾患の発現はアスピリン投与群で13.6件/1,000人年、非投与群で17.0件/1,000人年とアスピリン群で20%低い傾向にあるものの、統計学的有意差はなかった。【JPPP試験2)】対象:高血圧、脂質異常症、糖尿病を有する60〜85歳の日本人1万4,464例方法:既存の薬物療法+アスピリン(81mgまたは100mg)併用群と既存の薬物療法のみの群に無作為に1:1に割り付けた(追跡中央値5.02年)評価項目:心血管死亡、非致死的脳卒中、非致死的心筋梗塞の複合アウトカム結果:複合的アウトカムの発現率はアスピリン投与群で2.77%、アスピリン非投与群で2.96%とほぼ同等であったが、胃部不快感、消化管出血、さらに重篤な頭蓋外出血の有害事象はアスピリン投与群で有意に多かった。処方医は私が普段から訪問同行していない医療機関の医師でしたので、治療方針や処方意図は十分に把握できていないものの、上記の低用量アスピリンの1次予防のエビデンスから今回のアスピリン腸溶錠の中止および代替案の提示が必要と考えました。処方提案と経過医師にトレーシングレポートを用いて、JPAD試験とJPPP試験のデータを紹介し、1次予防のアスピリン腸溶錠の臨床的意義は低く、むしろ消化管出血などの有害事象のリスクがあるため、他剤への変更を提案しました。代替案については、心房細動における1次予防には直接経口抗凝固薬(DOAC)が適応と考え、腎機能・体重に合わせた補正用量であるエドキサバン30mg/日を提示しました。その後、トレーシングレポートを読んだ医師より電話連絡があり、提案のとおりにアスピリンを中止してエドキサバン30mgに変更する承認を得ることができました。速やかに処方変更の対応を行い、患者さんは胃部不快感や胃痛もなく経過しています。またエドキサバン変更後の皮下出血や鼻出血などの出血兆候もなく、副作用モニタリングは現在も継続中です。今回の症例のように1次予防の抗血小板薬については、基礎疾患や現病歴から適応の判断を検討し、医師とディスカッションを行うことで変更が可能かもしれません。1)Ogawa H, et al. JAMA. 2008;300:2134-2141.2)Ikeda Y, et al. JAMA. 2014;312:2510-2520.

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第14回 高齢糖尿病患者の動脈硬化、介入や治療強化のタイミングは?【高齢者糖尿病診療のコツ】

第14回 高齢糖尿病患者の動脈硬化、介入や治療強化のタイミングは?Q1 ABIだけで十分? それとも他の検査も行うべき?頸動脈エコーや足関節上腕血圧比(ABI)は簡便であり、後述の通り冠動脈スクリーニングの意味もあるので、糖尿病の患者であれば一度は行っておくとよいと思います。頸動脈狭窄やABI低下はいずれも冠動脈疾患とよく合併します1)。頸動脈内膜剥離術(CEA)を行った頸動脈狭窄症例での冠動脈疾患合併は約40%みられるとの報告があります2)。ABI低下がなくても無症候頸動脈狭窄と冠動脈狭窄を呈する症例もあるので、やはり頸動脈エコーは行っておくべきでしょう。また頸動脈エコーを行うとQ2で述べる不安定プラークの有無を知ることができるので有意義です。Q2 頚動脈エコーの結果と治療法選択の判断について教えてくださいIMT肥厚がその後の心血管疾患の発症予測に使えることが知られていますが、軽度のIMT肥厚は糖尿病患者では高頻度で認められるため、これらの患者においては一般的な動脈硬化のリスク因子の介入を行っています。すなわち、禁煙の他、適切な血糖・血圧・脂質のコントロールです。この段階での抗血小板薬の投与は行いません。高度の肥厚があるものについては、冠動脈病変をスクリーニングしています(後述)。無症候頸動脈狭窄の患者への抗血小板薬の投与で、脳梗塞一次予防の介入エビデンスはありません。しかし観察研究では、≧50%あるいは≧70%狭窄のある患者で抗血小板薬投与が同側の脳卒中発症抑制に関連したという報告があり、2015年の脳卒中ガイドラインでも、中等度以上の無症候頸動脈狭窄では他の心血管疾患の併存や出血性合併症のリスクなどを総合的に評価した上で、必要に応じて抗血小板療法を考慮してよいとしています3)。われわれもこれに準じ、通常50%以上(NASCET法)の狭窄例では抗血小板薬を投与していることが多いです。一方、無症候頸動脈狭窄や高度のIMT肥厚は冠動脈疾患を合併していることが多いので、これらの症例では通常の12誘導心電図だけでなく、一度循環器内科を紹介し、心エコーの他、冠動脈CTや心筋シンチグラムなどを考慮しています(高齢者ではトレッドミルテストが困難なことが多いため)。2型糖尿病患者で冠動脈インターベンションやバイパス術を必要とするような、高度な冠動脈病変を伴う患者を検出するために適正なIMT最大値(Max IMT)のカットオフ値としては2.45mmという報告があり、参考になると思います4)。冠動脈病変が疑われれば、抗血小板薬(アスピリンやクロピドグレル)を投与する意義はさらに大きくなります。抗血小板薬による消化管出血リスクは年齢リスクとともに増加し、日本人では海外の報告より高いといわれます。胃十二指腸潰瘍の既往があるものや、NSAIDs投与中の患者ではとくに消化管出血に注意を払わなければなりません。冠動脈疾患をともなわない無症候頸動脈狭窄でとくに出血リスクが高いと考えられる症例には、患者に説明のうえ投与を行わないこともあります。あるいは出血リスクが低いといわれているシロスタゾールに変更することもありますが、頭痛や頻脈などの副作用がありえます。とくに頻脈には注意が必要で、うっ血性心不全患者には禁忌であり、冠動脈狭窄のある患者にも狭心症を起こすリスクがあることから慎重投与となっています。このため必ず冠動脈病変の評価を行ってから投与すべきと考えます。なお、すでに他の疾患で抗凝固薬を投与されているものでは、頸動脈狭窄に対しての抗血小板薬の投与は控えています。なお、無症候性の頸動脈狭窄が認知機能低下5)やフレイル6) に関連するという報告もみられます。これらの患者では認知機能やフレイルの評価を行っておくことが望ましいと考えられます。頚動脈エコー所見で低輝度のプラークは、粥腫に富んだ不安定プラークであり脳梗塞のリスクとなります7)。潰瘍形成や可動性のあるものもリスクが高いプラークです。このような不安定プラークが観察されれば、プラーク安定化作用のあるスタチンを積極的に投与しています。糖尿病治療薬については、頸動脈狭窄症のある患者に対し、とくに有効だというエビデンスをもつものはありません。SGLT2阻害薬は最近心血管イベントリスクを低下させるという報告がありますが、高齢者では脱水をきたすリスクがあるので、明らかな頸動脈狭窄症例には慎重に投与すべきと考えます。Q3 専門医への紹介のタイミングについて教えてください脳卒中ガイドラインでは高度無症候性狭窄の場合、CEAやその代替療法としての頸動脈ステント留置術(CAS)を考慮してよいとされています3)。脳神経外科に紹介し、手術になることは高齢者では少ないように思いますが、内科治療を十分行っていても狭窄が進展したり、不安定プラークが残存したりする症例などはCASを行うことが多くなっています。また、TIAなどの有症状症例で50%以上狭窄の症例では紹介しています。手術は高齢者のCEAやCASに熟練した施設で行うことが望まれます。最近、CEAやCASを行った症例において認知機能の改善が認められたという報告がみられており、エビデンスの蓄積が期待されます8)。末梢動脈疾患では跛行や安静時痛のある患者や、ABIの低下があり下肢造影CTを撮影して狭窄が疑われる場合に血管外科に紹介しています。腎機能が悪い患者については下肢動脈エコーや非造影MRAで代用することが多いですが、エコーは検査者の技量に左右されることが多く、またいずれの検査も造影CTよりは精度が劣ると考えられます。最近炭酸ガスを用い、造影剤を使用しない血管造影がありますが9) 、施行している施設は限られます。このような施設で検査を受けるか、透析導入のリスクを説明のうえ造影剤検査を行うか、しばらく内科治療で様子をみるかは、外科医と患者さんで相談のうえ、決めていただいています。 Q4 頚動脈エコー検査の頻度は? 何歳まで検査を行うべき?頚動脈エコーのフォロー間隔についてのエビデンスはありませんが、われわれは通常1年に1回フォローしています。無症候の頸動脈狭窄や不安定プラークが出現した場合、内科治療の強化や冠動脈のスクリーニングの検討が必要と考えますので、80~90代でも冠動脈インターベンションを行う今日では、このような高齢の方でも評価を行っています。IMTは年齢とともに健常者でも肥厚しますが、平均IMTは90歳代でも1mmを超えないという報告もあり10)、高度の肥厚は異常と考えます。また上述のように、無症候頸動脈狭窄に対して内科治療を十分行っていても病変が進展した際には、外科医に紹介する判断の一助となります。一方、頸動脈狭窄あるいは冠動脈CTで石灰化がある方でも、すでにしっかり内科的治療が行われており、かつ冠動脈検査やインターベンションの希望がない場合は検査の頻度は減らしてもよいかもしれません。 1)Kawarada O. et al. Circ J .2003;67; 1003-1006. 2)Shimada T et al. J Neurosurg. 2005;103: 593-596.3)日本脳卒中学会. 脳卒中治療ガイドライン2015[追補2017対応].pp88-89.協和企画;2017.4)Irie Y, et al. Diabetes Care. 2013;36: 1327-1334.5)Dutra AP. Dement Neuropsychol. 2012;6:127-130.6)Newman AB, et al. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2001;56: M158–166.7)Polak JF, et al. Radiology. 1998;208: 649-654.8)Watanabe J, et al. J Stroke Cerebrovasc Dis. 2017;26:1297-1305.9)Merz CN, et al. Angiology. 2016;67:875-881.10)Homma S, et al. Stroke. 2001; 32: 830-335, 2001.

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がん患者におけるVTEとAF、わが国の実際/腫瘍循環器学会

日本のがん患者の静脈血栓塞栓症合併率は欧米並み 固形がん患者の2~8%に悪性腫瘍関連静脈血栓塞栓症(cancer-associated venous thromboembolism:CA-VTE)が合併すると欧米より報告されている。アジア人は白人と比較してCA-VTEの合併率が低いとの報告もあるが、日本人の固形腫場患者を対象としたCA-VTEの合併率の報告は少ない。神戸大学の能勢 拓氏らは、自施設における新規固形がん患者を対象として後方視的に情報を収集し、第2回日本腫瘍循環器学会で発表した。 対象は2,735例で、観察期間中央値は103日であった。CA-VTEが認められ、合併率は3.3%(2,735例中92例)で、欧米の報告と同等であった。CA-VTE合併例の年齢中央値は70歳で、52%が女性であった。症候ありは47%で、Dダイマー正常値(<1.0μg/mL)は5.4%であった。 がん種別のCA-VTE合併率は、肺がん12.0%、甲状腺がん5.0%、原発不明がん4.4%、肉腫4.2%、膵臓がん3.8%、乳がん3.8%、大腸がん3.7%、胆道がん3.3%、胃がん3.3%、食道がん2.3%などであった。固形がん患者のAF並存は約10%、循環器医の介入で予後改善 がん患者の予後は改善し、高齢化や治療による心血管疾患の予後への影響が無視できなくなっている。心房細動(AF)は頻度が高く、また脳梗塞のリスクなどがん治療へ悪影響を与える。しかし、進行がん患者におけるAFの併存頻度や、予後に与える影響については明らかでない。聖路加国際病院の佐藤 岳史氏らは、自施設における進行固形がん患者を対象に後方視的コホート研究を行い、AF併存の有無、循環器医の介入の有無による予後の違いを比較し、予後不良因子を検討した。 対象は1,879例、年齢中央値は66歳であった。AF併存患者は、9.9%(186例)であった。がん種別の併存率は、肺・縦隔がん16%、消化器がん10.6%、泌尿器がん10.6%、肝胆膵がん8.1%、婦人科がん7.1%、乳がん3.9%であった。抗がん治療を受けた患者1,349例のうち、AF併存なし患者の生存期間中央値は1.8年、AF併存患者は1.5年で生存期間に統計学的な差はなかった。AF併存群を循環器医の介入の有無で分けたところ、循環器医介入群(75例)の生存期間は1.7年、循環器医非介入群(50例)は1.1年であった。AF併存なしとの3群の多変量解析において、循環器医非介入のAF併存は独立した予後不良因子であった(HR:1.40、95%CI:1.01~1.95、p=0.04)。

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ベジタリアンは肉食より脳卒中リスク増/BMJ

 魚食や菜食主義(ベジタリアン)の人は、肉食の人と比較して虚血性心疾患の発生率は低かったが、ベジタリアンでは脳出血および全脳卒中の発生率が高いことが示された。英国・オックスフォード大学のTammy Y N Tong氏らが、ベジタリアンと虚血性心疾患および脳卒中との関連を調査した前向きコホート研究「EPIC-Oxford研究」の18年を超える追跡調査結果を報告した。これまでの研究では、ベジタリアンが非ベジタリアンより虚血性心疾患のリスクが低いことは報告されていたが、利用可能なデータが限られており、脳卒中に関するエビデンスは十分ではなかった。BMJ誌2019年9月4日号掲載の報告。約5万人を肉食・魚食・ベジタリアンに分け心血管疾患および脳卒中の発生を調査 研究グループは、1993~2001年に虚血性心疾患、脳卒中、狭心症または心血管疾患の既往がない4万8,188例を登録し、ベースラインとその後2010~13年に収集された食事の情報に基づいて、肉食群(魚、乳製品、卵を消費するかどうかにかかわらず肉を食べる人:2万4,428例)、魚食群(魚は食べるが肉は食べない人:7,506例)、菜食群(ヴィーガンを含むベジタリアン:1万6,254例)に分類し、追跡調査した。ベースラインとその後の2010年頃(平均追跡期間14年後)の両方で食事に関する報告があったのは2万8,364例であった。 主要評価項目は、2016年までの英国医療サービスの関連記録から特定された虚血性心疾患および脳卒中(脳梗塞、脳出血)の発生とし、Cox比例ハザードモデル、Wald検定を用いて解析した。ベジタリアン群の脳卒中が肉食群に比べ20%増加 18.1年以上の追跡調査の結果、虚血性心疾患2,820例、全脳卒中1,072例(脳梗塞519例、脳出血300例)が確認された。社会人口学的および生活習慣の交絡因子を調整後、魚食群およびベジタリアン群の虚血性心疾患の発生は、肉食群と比較してそれぞれ13%(ハザード比[HR]:0.87、95%信頼区間[CI]:0.77~0.99)および22%(HR:0.78、95%CI:0.70~0.87)低下した(異質性のp<0.001)。この差は、虚血性心疾患の発生が肉食群よりもベジタリアン群において、10年以上で1,000人当たり10症例(95%CI:6.7~13.1)少ないことに相当した。虚血性心疾患との関連性は、自己報告による高コレステロール、高血圧、糖尿病、BMIで調整すると、部分的に減弱した(ベジタリアン群のHR:0.90、95%CI:0.81~1.00)。 一方、ベジタリアン群では、全脳卒中の発生が肉食群より20%増加した(HR:1.20、95%CI:1.02~1.40)。これは、10年以上で1,000人当たり3症例多いことに相当し、大部分は脳出血の増加によるもので、脳卒中との関連性は疾患リスク因子を調整しても減弱しなかった。 なお、著者は研究の限界として、スタチンなどの薬物療法に関する情報が利用できなかったこと、食事や食事以外に関する交絡因子の可能性、対象者の多くが欧州の白人であり一般化できるかは限定的であることなどを挙げている。

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心房細動アブレーションは患者の予後を改善するのか(解説:今井靖氏)-1110

 本邦においても100万人近い心房細動患者が存在し、動悸、胸部不快感などの自覚症状をもたらすのみならず、脳塞栓、心不全の原因としても重要な疾患である。DOACの普及に伴い抗凝固療法の導入率が増加したが、その時流と並行して心房細動に対するカテーテルアブレーションも増加の途にある。リズムコントロールの手段として薬物療法に比して顕著に有効性が高く、薬物治療抵抗性、有症候性心房細動患者のQOL改善の手段として非常に優れた治療と考えられる。 一方、心房細動カテーテルアブレーションの長期生存率あるいは脳梗塞リスクに与える効果については今まで前向き試験として明らかにされたものはなく、CABANA試験において心房細動症例をカテーテルアブレーションあるいは薬物療法に割り付け、前者が後者に比較して予後に優れるか否かが検証された。医師主導・オープンラベルの10ヵ国にまたがる多施設国際共同研究であるが、対象として65歳以上、あるいは脳梗塞に対するリスク因子を1つ以上有する65歳未満の症候性心房細動2,204例を登録(2009年11月~2016年4月)、2017年末まで追跡がなされた。主要エンドポイントは死亡、後遺症を残す脳卒中、重症の出血あるいは心停止の複合とされ、副次エンドポイントとしては全死亡、死亡+心臓血管系入院、心房細動再発などである。2,204例(中央値68歳、女性37.2%、42.9%が発作性)が組み入れられ、カテーテルアブレーション群のうち1,006例(90.8%)が手技を受けた。一方、薬物療法群のうち301例(27.5%)が結果的にカテーテルアブレーションを受けていた。 intention-to-treat(ITT)解析では、追跡期間中央値48.5ヵ月において主要エンドポイントは、カテーテルアブレーション群89例(8.0%)、薬物療法群101例(9.2%)で、統計的有意差を認めなかった(ハザード比[HR]:0.86、95%信頼区間[CI]:0.65~1.15、p=0.30)。副次エンドポイントの全死亡では差がなかったが(5.2% vs.6.1%、HR:0.85、95%CI:0.60~1.21、p=0.38)、死亡または心臓血管系入院(51.7% vs.58.1%、HR:0.83、95%CI:0.74~0.93、p=0.001)、および心房細動の再発(49.9% vs.69.5%、HR:0.52、95%CI:0.45~0.60、p<0.001)は統計的有意差をもってカテーテルアブレーション群で低率であった。残念ながらカテーテルアブレーションによる主要エンドポイント減少効果が認められなかった。 実際に治療を受けたか否かという観点でper protocol解析を行うと、主要エンドポイントにおいてカテーテルアブレーションのHRは0.74(95%CI:0.54~1.01)、12ヵ月で見た場合、0.73(95%CI:0.54~0.99)と差を認めないか僅差であった。副次エンドポイントの1つである全死亡で見ると、6ヵ月で0.69(95%CI:0.47~1.10)、12ヵ月で0.68(95%CI:0.47~0.99)であった。この試験における限界として、クロスオーバーが相当数あること、イベント発生数が期待されたよりも低率に抑えられていたことなどがあり、研究デザインなどについても検討すべき点が含まれると考えられた。しかしこの研究からの日常臨床における解釈としては、長期予後改善効果は証明されていないが、症状が強い薬物治療抵抗性の心房細動アブレーションに対する適応の妥当性は堅持されるものと考えられる。 心不全合併心房細動については、昨年報告されたCASTLE-AF試験において、カテーテルアブレーション群が薬物療法群に比較して予後を改善することが報告され注目された。心房細動が心不全の惹起因子となっている場合、心房細動の抑制が心不全改善に寄与することが期待されるが、一方、心不全・心機能悪化の結果として心房細動が生じた場合、心房細動は予後不良のマーカーであってそれをカテーテル治療で抑制しても効果が得られないという可能性もあるため、心不全合併心房細動についても症例ごとに治療適応を判断する必要性があると思われる。今回のCABANA試験、またCASTLE-AF試験においてもカテーテルアブレーション手技は5~10年前あたりからの登録症例を最近まとめた研究であり、カテーテルアブレーション技術自体は高周波アブレーションにおいても3-Dガイド、コンタクトフォースなどのさらなる技術革新、クライオ、ホット、レーザーなどのバルーン技術の積極的導入など目覚ましい進歩があり、現在の日々の診療データ集積から心房細動アブレーションの有効性・問題点について検討を続ける必要性がある。

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