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新年度スタート!4月中にやるべきたった1つのこと【研修医ケンスケのM6カレンダー】第1回

新年度スタート!4月中にやるべきたった1つのことさて、お待たせしました「研修医ケンスケのM6カレンダー」。この連載は、普段は初期臨床研修医として走り回っている私、杉田研介が月に1 回お届けする新企画です。私が医学部6年生当時の1年間をどう過ごしていたのか、月ごとに振り返りながら、みなさんと医師国家試験までの1年をともに駆け抜ける、をテーマにお送りして参ります。この原稿を書いているただいまは2025年4月22日で、住んでいる愛知県ではすっかり葉桜になった空に、もう夏の風を感じるそんな夜です。みなさまいかがお過ごしでしょうか。今回は記念すべき本連載1本目!緊張しております(汗)3日坊主の私にとって「連載?!」というのが初めてお話をいただいた時にまず感じたことですが、いよいよスタートするなと身が引き締まる思いです。当時を懐かしみながら、あの時の自分へ何を話しかけるのか?みなさんの6年生としての1年間が少しでも良い思い出になる、そんなお力添えができるように頑張って参りますので、ぜひ応援のほどよろしくお願い申し上げます。愛知県で働く、九州男児!さてさて、今回は1本目早速スタートしていきたいのですが、まずはお前誰だよ、という方が多いかと思うので、簡単に自己紹介をさせていただきます。(研修医1年目の7月の写真。どこか初々しい)私、杉田研介と申します。現在は愛知県内で初期臨床研修医として働いています。私自身は生まれも育ちも九州で、大学も九州だったのですが、初期臨床研修ではご縁があって本州・愛知県へ出て参りました。大学内では学年代表を務め、学外では医学生のイベントにいろいろ顔を出したり、医療系ITでインターンをしていたり、そんな感じで過ごしていました。ちなみに受験したのは第118回医師国家試験です。将来は総合診療や救急といったプライマリケアの第一線で働く臨床医を志していますが、元々メディアにも興味があるので、今回のようにブログなりラジオなりで情報に携わるお仕事もできたらなと考えています。文章の口調がどこかラジオっぽいのは学生の頃に自分で番組を企画した、そんな名残です。走り出す準備、まずは1度勉強会をさあ、ようやく本編スタートなのですが、今月は4月。ついに最終学年、6年生。「医師国家試験が現実味を帯びてきた…」と感じている人も多いのではないでしょうか。かく言う私も、新学期前日の夕食で友人から「もう受験生だよね」と言われて、ため息とともに背筋が伸びたのを覚えています。しかし、「まだ」4月。「正直、どこか本気に感じない、なれない」という人もいると思います。焦らなくても大丈夫。4月は“走り出す準備”を整える時期です。4月にぜひ準備してほしいなと思うことはいろいろありますが、原稿のボリュームとも相談して1つだけ挙げろ、と言われたら「勉強会を実施する」コレです。次月以降でより詰めた話はするとして、国家試験対策(卒業試験も同様に。何ならより重要かも)で何から手をつけ始めるか、と問われたら「まずは今月中に1回でもいいから、誰かと一緒に勉強会してみて」そう回答します。読者のみなさまにおかれましてはすでにいつもの4人でやってます、という方もいらっしゃるかもしれませんが、勉強会といっても、勉強会でただ集まるだけでは終わってほしくないので、ぜひ耳を傾けてみてください。勉強会を実施する、その意義は次の3つあると考えています。自分の学習状況に責任を持つ誰かと会って話す、心の健康を保つアウトプットの絶好の機会になる1つひとつ考察しましょう。(5年生の時から勉強会を共にした4人でイタリアへ卒業旅行へ)自分の学習状況に責任を持つ1つ目の「自分の学習状況に責任を持つ」という言葉の背景には、人間は1人では脆い、という私なりの持論が投影されています。冒頭で、三日坊主の私です、と述べましたが、「継続することが大得意!」という方がよっぽど珍しいのかなと思っています。過去の試験対策でも「今度こそは講義があったその日から」と決心するも気付けば数日前、下手すれば前日の夜、なんて経験をされた方もいらっしゃいますよね。ところが2月頭に予定されている医師国家試験の試験範囲は実に膨大で、ちょっとやそっとの付け焼き刃では太刀打ちできませんし、運よく合格したとしても、控える臨床研修での不安が募るだけです。長期計画が難しいことは十二分にわかりますし、仮に長期計画を作ったとしても計画は変更する、そんなことを考えていたら計画を立てることすら面倒に感じて何も進まない、、、そんな負のループにはハマってほしくありません。勉強会という、誰かと会って強制的に自分の学習状況を客観視することができる状況を作ってしまうのは得策です。誰かと会って話す、心の健康を保つ2つ目は「誰かと会って話す、心の健康を保つ」です。医師国家試験は大学受験と違って競争試験ではないですが、試験は試験。特に大学生になって遊び方にも多様性がある中で勉強をし続ける、そんな難しさがあるのでは、なんて思ったりもします。医学を学ぶこと自体は楽しいことですが、試験勉強となると滅入ることだって珍しくありません。1人で勉強すること自体は欠かせませんが、1人だけで駆け抜けることは個人的にはオススメしません。勉強会なので勉強の話がメインになることはそうなのですが、誰かと会って話す機会とは、社会を成す人間にとって自然な時間だと思います。また時期が近づいたら触れようと思いますが、医師国家試験も最終的にはメンタルゲームなところがあります。アウトプットの絶好の機会になるさて最後は「アウトプットの絶好の機会になる」です。誰かと会って話す勉強会では、インプットを同時に行うよりも、勉強会メンバーの誰かにとってアウトプットの場となるように運営することがコツです。アウトプットの方法として定番なのは一般問題のように、一問一答形式での口頭試問です。これまでの定期試験でもよく実施してきたのではないでしょうか。もちろん、一問一答形式はアウトプットには欠かせないのですが、ぜひ6年生のみなさんには項目ごとに学習を深掘りしてほしいです。例えば脳梗塞に対する臨床問題を数題取り組むとして、勉強会メンバーのうち、Aさんは疫学・リスク因子、それらをカバーする公衆衛生、Bさんは臨床像・診断、Cさんは治療・予後について、といったように一口に脳梗塞といっても様々な側面から問題について考察してほしいです。医師国家試験ではある年は臨床問題の問題文中の設定が、その疾患の疾患らしさ、として翌年には一般問題として問われる。そのまた逆も然り、なんてことがよくあります。ここで重要なのが、多角的に疾患や問題に向き合ってきたか、ということです。複数人で問題に取り組むことで、自分1人で勉強してて気づくことがなかった視点からさらに学習が深まります。(笑い合い、時に議論し合ったあの時間も、今となっては良い思い出です)今月のまとめいかがだったでしょうか。記念すべき1回目、4月まず何から手をつける?として勉強会のすゝめを説いてきました。勉強会が1回でもできればまずはOK、そこから定期的に集まる機会に繋げる、繋げた勉強会は絶好のアウトプットの時間にする。これがポイントです。これまで勉強会の機会がなかった方にとってはハードルが高く感じるかと思いますが、一度腰を上げてみましょう。誰かがいますから。学内で難しければ学外に目を向けてみれば、そのサポートをするサービスは近年よく整ってきていますよ。さあ、ということで今月は一旦ここまで。導入や自己紹介があったので、具体的な学習方法まで言及できませんでしたが、次月以降で紹介して参りますので、ぜひお楽しみに!

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tenecteplase、脳梗塞治療でアルテプラーゼと同等の効果

 急性期脳梗塞の治療薬として2月28日、米食品医薬品局(FDA)により承認された血栓溶解薬のTNKase(一般名テネクテプラーゼ〔tenecteplase〕)の有効性と安全性は、米国の大多数の病院で使用されている血栓溶解薬のアルテプラーゼと同等であるとする研究結果が報告された。テネクテプラーゼには、アルテプラーゼと比べて投与に要する時間が格段に短いというメリットもある。米テキサス大学サウスウェスタン医療センターのJustin Rousseau氏らによる本研究の詳細は、「JAMA Network Open」に3月12日掲載された。 Rousseau氏らの説明によると、米国では毎年約80万人が脳卒中を発症し、その原因のほとんどは血栓が脳への血流を遮断することで生じる脳梗塞だという。アルテプラーゼは、1996年にFDAにより承認された血栓溶解薬であるが、投与に時間がかかるという欠点がある。同薬剤の投与プロセスは、最初に投与量の10%程度を1〜2分で急速投与し、その後、1時間かけて点滴で投与するというものであり、治療の中断や遅延を引き起こす可能性があると研究グループは指摘する。 これに対し、テネクテプラーゼはわずか数秒の注射で投与される。テネクテプラーゼは、血栓による心筋梗塞の治療薬としてすでに市場に出回っているが、急性期脳梗塞に対しては適応外で使用されていた。 今回の研究でRousseau氏らは、2020年7月1日から2022年6月30日の間に急性期脳梗塞に対する治療としてテネクテプラーゼを投与された9,465人(平均年齢69.6歳、女性47.6%)とアルテプラーゼを投与された7万85人(平均年齢68.5歳、女性48.6%)を対象に、有効性と安全性を比較した。有効性の主要評価項目は、退院時の機能的自立性(修正ランキンスケール〔mRS〕スコア0~2点)、副次評価項目は、退院時に障害がないこと(mRSスコア0~1点)、自宅退院、退院時の自立歩行であった。安全性の評価項目は、治療後36時間以内の症候性頭蓋内出血(sICH)、院内死亡、ホスピスへの退院、および院内死亡とホスピスへの退院の複合とされた。 その結果、対象者全体では、有効性と安全性の評価項目についてテネクテプラーゼ群とアルテプラーゼ群の間に有意な差は見られないことが明らかになった。一方、血管内血栓回収療法(EVT)適応があったが血栓溶解療法のみを受けた患者の間では、アルテプラーゼ群と比べてテネクテプラーゼ群で、自宅退院のオッズが有意に高く(調整オッズ比1.26、95%信頼区間1.03〜1.53)、院内死亡(同0.63、0.47〜0.85)、および院内死亡とホスピスへの退院の複合(同0.78、0.62〜0.97)のオッズは有意に低かった。 研究グループは、テネクテプラーゼとアルテプラーゼの有効性と安全性は同等であるが、投与の容易なテネクテプラーゼを使用することでEVTをより迅速に受けられるようになるなど、急性期脳梗塞の治療の柔軟性が高まる可能性があると見ている。 Rousseau氏は、「急性期脳梗塞の治療では、『時は脳なり』と言われる。効果的な治療が遅れるほど死滅する脳細胞が増え、予後が悪くなるからだ。本研究結果は、テネクテプラーゼがアルテプラーゼによる従来の治療法に代わる安全で効果的な治療法であり、場合によっては患者の回復を早める可能性があることを示唆している」とサウスウェスタン医療センターのニュースリリースの中で述べている。

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血栓溶解療法は後方循環系脳梗塞に発症後24時間まで有効か?(解説:内山真一郎氏)

 中国で行われたEXPECTS研究は、CTで高度の早期低吸収域がなく、血栓除去術が予定されていない、発症後4.5~24時間の後方循環系脳梗塞患者において、アルテプラーゼ投与と標準的内科治療を比較した無作為化試験である。結果は、90日後の自立例がアルテプラーゼ投与群で標準的内科治療群より有意に多く、36時間以内の症候性頭蓋内出血は両群間で有意差がなかった。 最近行われた無作為化比較試験では、灌流画像で証明された前方循環系の大血管閉塞患者で発症後24時間まで治療時間枠を拡大できる可能性が示唆されていたが、この研究により実用的で安価なCTでも症例選択に代用できることが示された。後方循環系は前方循環系よりも側副血行が豊富で虚血耐性が高く、血栓溶解療法による脳出血リスクが低いと考えられる。本研究では、血栓除去術が予定されていた大血管閉塞による重症例が除外されたことも脳出血リスクの低下に貢献したと思われる。本研究の限界として、対象患者が漢人のみであったため他の人種には全般化できないことを挙げているが、人種的に近い日本人患者には大いに参考になる結果ではないかと思われる。

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後方循環系の軽症脳梗塞、発症後4.5~24時間のrt-PA療法が有効/NEJM

 血栓除去術が予定されていない、主として後方循環系の軽症脳梗塞を発症した中国人患者において、発症後4.5~24時間のアルテプラーゼ(rt-PA)療法は標準薬物治療と比べて、90日時点の機能的自立の割合が高かった。中国・the Second Affiliated Hospital of Zhejiang UniversityのShenqiang Yan氏らEXPECTS Groupが中国の30ヵ所の脳卒中センターで行った多施設共同前向き無作為化非盲検アウトカム盲検試験の結果を報告した。後方循環系の虚血性脳卒中の発症後4.5~24時間に静脈内血栓溶解療法を用いることの有効性およびリスクは、十分に検討されていなかった。NEJM誌2025年4月3日号掲載の報告。アルテプラーゼvs.標準薬物治療で、90日時点の機能的自立を評価 研究グループは、後方循環系の脳梗塞を発症し、CT画像診断で早期の広範な低吸収域を認めず血栓除去術が予定されていない患者を、発症後4.5~24時間にアルテプラーゼ療法(0.9mg/kg体重、最大用量90mg)または標準薬物治療(Chinese Guidelines for Diagnosis and Treatment of Acute Ischemic Stroke 2018に基づく抗血小板療法およびその他の治療)を受ける群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、90日時点で評価した機能的自立(修正Rankinスケールスコア[範囲:0~6、高スコアほどより障害が重度であることを示す]が0~2と定義)とした。重要な安全性アウトカムは、無作為化後36時間以内の症候性頭蓋内出血および90日以内の死亡とした。90日時点の機能的自立、アルテプラーゼ群89.6%、標準薬物治療群72.6% 2022年8月~2024年5月に、計234例が無作為化された(アルテプラーゼ群117例、標準薬物治療群117例)。 ベースラインの両群特性はほぼバランスが取れており、年齢中央値は64歳(四分位範囲[IQR]:55~74)、女性が34.6%であった。既往歴は高血圧がアルテプラーゼ群70.9%と標準薬物治療群62.4%、糖尿病がそれぞれ34.2%と32.5%であった。発症前の修正Rankinスケールスコアは0の被験者が両群ともに97.4%で、無作為化前のNational Institutes of Health Stroke Scale(NIHSS)スコア(範囲:0~42、高スコアほど神経学的障害の重度が高いことを示す)中央値は、両群ともに3(IQR:2~6)と、大半の被験者が軽症脳梗塞であった。 発症から無作為化までの時間中央値は564分(IQR:390~834)であった。 90日時点で、機能的自立の患者割合はアルテプラーゼ群(89.6%)が標準薬物治療群(72.6%)より有意に高かった(補正後リスク比:1.16、95%信頼区間[CI]:1.03~1.30、p=0.01)。 36時間以内の症候性頭蓋内出血は、アルテプラーゼ群で2/116例(1.7%)、標準薬物治療群で1/115例(0.9%)に発現した(補正後リスク比:1.98、95%CI:0.18~21.56)。90日以内の死亡は、それぞれ6/115例(5.2%)と10/117例(8.5%)であった(0.61、0.23~1.62)。 著者は、「今回の試験の結果は、血管内血栓除去術が選択できない場合、この延長された時間枠内(発症後4.5~24時間)にアルテプラーゼ治療を用いることを支持するものである」と述べている。

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アスピリンがよい?それともクロピドグレル?(解説:後藤信哉氏)

 筆者は1986年に循環器内科に入ったので、PCI後に5%の症例が血管解離などにより完全閉塞する時代、解離をステントで解決したが数週後に血栓閉塞する時代、薬剤溶出ステントにより1~2年後でも血栓性閉塞する時代を経験してきた。とくに、ステント開発後、ステント血栓症予防のためにワルファリン、抗血小板薬、線溶薬などを手当たり次第に試した時代を経験している。チクロピジンとアスピリンの併用により、ステント血栓症をほぼ克服できたインパクトは大きかった。チクロピジンの後継薬であるクロピドグレルは、急性冠症候群の1年以内の血栓イベントを低減した。アスピリンとクロピドグレルの併用療法は、PCI後の抗血小板療法の標準治療となった。 抗血小板併用療法により重篤な出血イベントリスクが増える。それでも1剤を減らして単剤にするのは難しい。単剤にした瞬間、血栓イベントが起これば自分の責任のように感じてしまう。やめる薬をアスピリンにするか、クロピドグレルにするかも難しい。クロピドグレルが特許期間内であれば、メーカーは必死でクロピドグレルを残す努力をしたと思う。資本主義の世の中なので、資金のあるほうが広報の力は圧倒的に強い。学術雑誌であってもfairな比較は期待できなかった。 クロピドグレルは特許切れしても広く使用され、真の意味で優れた薬剤であること(メーカーの広報がなくても医師が使用するとの意味)が示された。本研究ではPCI後標準期間の抗血小板併用療法施行後、アスピリンまたはクロピドグレルに割り振った。クロピドグレルの認可承認試験は、アスピリンとの比較における有効性・安全性を検証したCAPRIE試験であった。今回はPCI後、16ヵ月ほどDAPTが施行された後にランダム化した。冠動脈疾患の慢性期の単一抗血小板薬としてクロピドグレルによる死亡、心筋梗塞、脳梗塞がアスピリンよりも少ないことが示された。 筆者は特許中の薬剤を応援することがない。資本主義における、資本力による広報のトリックを完全に見破れる自信もない。しかし、特許切れして、なお有効性・安全性を示す薬は本物と思う。アスピリンは安価で優れた薬であった。筆者はアスピリンについて一冊の本を書いたほどである(後藤 信哉編. 臨床現場におけるアスピリン使用の実際. 南江堂;2006.)。しかし、クロピドグレルも数十年かけて優れた薬であることを示した。今度はクロピドグレルの本を書きたいほどである。

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乳がんサバイバーは多くの非がん疾患リスクが上昇/筑波大

 日本の乳がんサバイバーと年齢をマッチさせた一般集団における、がん以外の疾患の発症リスクを調査した結果、乳がんサバイバーは心不全、心房細動、骨折、消化管出血、肺炎、尿路感染症、不安・うつの発症リスクが高く、それらの疾患の多くは乳がんの診断から1年以内に発症するリスクが高いことを、筑波大学の河村 千登星氏らが明らかにした。Lancet Regional Health-Western Pacific誌2025年3月号掲載の報告。 近年、乳がんの生存率は向上しており、乳がんサバイバーの数も世界的に増加している。乳がんそのものの治療や経過観察に加え、乳がん以外の全般的な健康状態に対する関心も高まっており、欧米の研究では、乳がんサバイバーは心不全や骨折、不安・うつなどを発症するリスクが高いことが報告されている。しかし、日本を含むアジアからの研究は少なく、消化管出血や感染症などの頻度が比較的高くて生命に関連する疾患については世界的にも研究されていない。そこで研究グループは、日本の乳がんサバイバーと一般集団を比較して、がん以外の12種類の代表的な疾患の発症リスクを調査した。 日本国内の企業の従業員とその家族を対象とするJMDCデータベースを用いて、2005年1月~2019年12月に登録された18~74歳の女性の乳がんサバイバーと、同年齢の乳がんではない対照者を1:4の割合でマッチングさせた。乳がんサバイバーは上記期間に乳がんと診断され、1年以内に手術を受けた患者であった。転移/再発乳がん、肉腫、悪性葉状腫瘍の患者は除外した。2つのグループ間で、6つの心血管系疾患(心筋梗塞、心不全、心房細動、脳梗塞、頭蓋内出血、肺塞栓症)と6つの非心血管系疾患(骨粗鬆症性骨折、その他の骨折[肋骨骨折など]、消化管出血、肺炎、尿路感染症、不安・うつ)の発症リスクを比較した。 主な結果は以下のとおり。・解析対象は、乳がんサバイバー2万4,017例と、乳がんではない同年齢の女性9万6,068例(対照群)であった。平均年齢は両群ともに50.5(SD 8.7)歳であった。・乳がんサバイバー群は、対照群と比較して、心不全(調整ハザード比[aHR]:3.99[95%信頼区間[CI]:2.58~6.16])、消化管出血(3.55[3.10〜4.06])、不安・うつ(3.06[2.86〜3.28])、肺炎(2.69[2.47~2.94])、心房細動(1.83[1.40~2.40])、その他の骨折(1.82[1.65~2.01])、尿路感染症(1.68[1.60~1.77])、骨粗鬆症性骨折(1.63[1.38~1.93])の発症リスクが高かった。・多くの疾患の発症リスクは、乳がんの診断から1年未満のほうが1年以降(1~10年)よりも高かった。とくに不安・うつは顕著で、1年未満のaHRが5.98(95%CI:5.43~6.60)、1年以降のaHRが1.48(1.34~1.63)であった。骨折リスクは診断から1年以降のほうが高かった。・初期治療のレジメン別では、アントラサイクリン系およびタキサン系で治療したグループでは、骨粗鬆症性骨折、その他の骨折、消化管出血、肺炎、不安・うつの発症リスクが高い傾向にあり、アントラサイクリン系および抗HER2薬で治療したグループでは心不全のリスクが高い傾向にあった。アロマターゼ阻害薬で治療したグループでは骨粗鬆症性骨折、消化管出血の発症リスクが高い傾向にあった。 これらの結果より、研究グループは「医療者と患者双方がこれらの疾患のリスクを理解し、検診、予防、早期治療につなげることが重要である」とまとめた。

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ストレスは若年女性の原因不明脳梗塞のリスク

 50歳未満の女性における原因を特定できない脳梗塞と、ストレスとの関連が報告された。男性ではこの関連が認められないという。ヘルシンキ大学病院(フィンランド)のNicolas Martinez-Majander氏らの研究によるもので、詳細は「Neurology」に3月5日掲載された。 脳梗塞のリスクは、加齢や性別などの修正不能な因子と、喫煙や高血圧などの修正可能な因子によって規定されることが明らかになっているが、それらのリスク因子が該当しない原因不明の脳梗塞(cryptogenic ischemic stroke;CIS)もあり、近年、特に若年者のCIS増加が報告されている。これを背景に著者らは、若年者のCISにストレスが関与している可能性を想定し、以下の研究を行った。 この研究には欧州の19の医療機関が参加し、18~49歳の初発CIS患者群426人(年齢中央値41歳、女性47.7%)と、性別・年齢がマッチする脳卒中既往のない対照群426人を対象として、過去1カ月間に感じたストレスの程度を10項目の質問で評価した。各質問には0~4の範囲で回答してもらい、合計点が13点以下は「低ストレス」、14~26点は「中ストレス」、27点以上は「高ストレス」と判定。すると、患者群は対照群に比較して、中ストレス以上の割合が有意に高かった(46.2対33.3%、P<0.001)。 次に、結果に影響を及ぼし得る因子(年齢、喫煙、肥満、非健康的食習慣、大量飲酒、運動不足、高血圧、心血管疾患、糖尿病、うつ病、前兆を伴う片頭痛、教育歴)を統計学的に調整した検討を実施。その結果、ストレススコアが1点高いごとにCIS発症オッズ比(OR)が1.04(95%信頼区間1.01~1.07)であり、ストレスの強さとCISリスクとの独立した有意な関連が明らかになった。ストレスの強さ別に解析すると、中ストレスは有意な関連が示されたが(OR1.47〔同1.00~2.14〕)、高ストレスは非有意だった(OR2.62〔0.81~8.45〕)。 性別に解析した場合、女性では有意な関連があり(OR1.06〔1.02~1.11〕)、特に中ストレスとの強い関連が認められた(OR1.78〔1.07~2.96〕)。一方、男性では関連が見られなかった。 Martinez-Majander氏は、「ストレスを感じる女性はCISリスクが高く、男性はそうでない理由を理解するにはさらなる研究が求められる。高ストレスではなく中ストレスがリスクに関連している理由も明らかにする必要がある。それらの解明が脳梗塞予防につながる可能性がある」と話している。 また、本研究では、男性よりも女性の方がストレスを強く感じている割合が高いことも示された。具体的には、中ストレス以上の割合が女性では患者群57.6%、対照群41.4%であったのに対して、男性は同順に35.9%、26.0%だった。このような性差の理由についてMartinez-Majander氏は、「女性は家庭、介護、仕事など複数の役割をこなし、より強いストレスを受けていることが多いのではないか」と推測。一方で著者らは、「男性はストレスを我慢すべきものと考える傾向がある」として、「そのことが本研究の結果に影響を及ぼした可能性も否定できない」と述べている。

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TIA後の脳卒中リスクは長期間持続する(解説:内山真一郎氏)

 本研究は、38件の研究に登録された17万1,068例のTIAまたは軽症脳梗塞(大多数はTIA)のメタ解析である。脳卒中の再発リスクは最初の1年で5.9%、5年で12.5%、10年で19.8%であり、2年後からは毎年1.8%再発していた。われわれの行ったTIA registry.org研究でも、発症後2年後から5年後まで累積再発曲線は減衰することなく直線的に推移し、ブレーキがかかっていなかった(Amarenco P, et al. N Engl J Med. 2018;378:2182-2190.、本論文の引用文献14)。 このメタ解析やわれわれの研究結果は、現行のガイドラインによる長期の再発予防対策が不十分であることを示唆している。抗血栓療法のアドヒアランスを維持するとともに、脳卒中の危険因子の管理が十分であったかも見直す必要がある。さらに、高血圧、糖尿病、脂質異常、喫煙、心房細動のような伝統的危険因子以外の残余リスクがないかにも目を光らす必要がある(Uchiyama S, et al. Eur Stroke J. 2024 Nov 21. [Epub ahead of print])。

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CEA中の超音波血栓溶解法、第III相試験の結果/BMJ

 頸動脈内膜剥離術(CEA)中の経頭蓋ドプラプローブを用いた超音波血栓溶解法(sonolysis)は、30日以内の虚血性脳卒中、一過性脳虚血発作および死亡の複合エンドポイントの発生を有意に減少させたことが、欧州の16施設で実施された第III相無作為化二重盲検比較試験「SONOBIRDIE試験」の結果で示された。チェコ・ University of OstravaのDavid Skoloudik氏らSONOBIRDIE Trial Investigatorsが報告した。パイロット研究では、CEAを含むさまざまな治療中の脳卒中や脳梗塞のリスク軽減に、sonolysisは有用である可能性が示されていた。BMJ誌2025年3月19日号掲載の報告。内頸動脈狭窄70%以上の患者を対象に偽処置対照試験 研究グループは、NASCET法に基づきデュプレックス超音波検査で検出され、CT、MRIまたはデジタルサブトラクション血管造影により確認された、内頸動脈狭窄70%以上の患者を、sonolysis群または偽処置群(対照群)に1対1の割合で無作為に割り付けた。 sonolysisは、標準的な超音波装置と2MHz経頭蓋ドプラプローブを用いて行われ、超音波技師のみ非盲検下であった。 主要アウトカムは、無作為化後30日以内の虚血性脳卒中、一過性脳虚血発作および死亡の複合とした。また、MRIサブスタディのエンドポイントは、CEA後24(±4)時間時点での脳スキャンにおける1つ以上の新たな虚血性病変の出現、新規虚血性病変の数などであった。安全性アウトカムには、有害事象、重篤な有害事象、およびCEA後30日以内の出血性脳卒中(くも膜下出血を含む)の発生率が含まれた。複合エンドポイントの発生は2.2%vs.7.6%、安全性も良好 2015年8月20日~2020年10月14日に1,004例(sonolysis群507例、対照群497例)が登録され、最初の登録患者1,000例の中間解析において有効性が認められたため、早期中止となった。1,004例の患者背景は、平均年齢67.9(SD 7.8)歳、女性312例(31%)で、450例(45%)が症候性頸動脈狭窄、平均頸動脈狭窄度は79.9(SD 8.9)%であった。 主要アウトカムのイベントは、sonolysis群で11例(2.2%)、対照群で38例(7.6%)に発生し、sonolysis群で有意に少なかった(リスク群間差:-5.5%、95%信頼区間[CI]:-8.3~-2.8、p<0.001)。 MRIサブスタディにおける新たな虚血性病変の検出率も、sonolysis群8.5%(20/236例)、対照群17.4%(39/224例)であり、sonolysis群で有意に低かった(リスク群間差:-8.9%、95%CI:-15~-2.8、p=0.004)。 感度分析の結果、30日以内の虚血性脳卒中に対するsonolysisのリスク比は0.25(95%CI:0.11~0.56)、一過性脳虚血発作に対するリスク比は0.23(0.07~0.73)であった。 sonolysisは安全性も良好であり、sonolysis群の94.4%の患者で術後30日以内に重篤な有害事象は認められなかった。

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高血圧患者、CVD死亡リスクがとくに高い年齢層は?/東北医科薬科大

 高血圧は、心血管疾患(CVD)のリスクとなることは知られている。では、そのリスクは、日本人ではどの程度の血圧(BP)分類や年齢から発生するのであろうか。東北医科薬科大学医学部公衆衛生学・衛生学教室の佐藤 倫広氏らの研究グループは、このテーマについてEPOCH-JAPAN研究における7万人の10年追跡データを用いて、現在用いられているBP分類とCVD死亡リスクの関連を検討した。その結果、高血圧とCVD死亡リスクは関連があり、その傾向はとくに非高齢者で顕著だった。この研究はHypertension Research誌オンライン版に2025年2月20日に公開された。40~64歳の高血圧患者でCVD死亡リスク上昇が顕著 研究グループは、わが国で実施された10のコホート研究データを統合し、7万570例(平均年齢59.1歳、女性57.1%)を対象としたデータを解析した。追跡期間は平均9.9年で、降圧治療の有無で層別化し、最新のBP分類とCVD死亡リスクとの関連を検討した。BP分類は、日本高血圧学会ガイドライン(2019年)に従った。 主な結果は以下のとおり。・約10年間の追跡期間中に2,304例のCVD死亡が発生した。・Coxモデルにより、CVD死亡リスクはBP分類が高くなるとともに段階的に増大することが示され、この関連は40~64歳の高血圧未治療者でとくに顕著であった。・高血圧未治療のI度高血圧群(診察室:140~159かつ/または90~99mmHg、家庭:135~144かつ/または85~89mmHg)がCVD死亡に対する最も高い集団寄与危険割合(PAF)を示した。・治療を受けた患者を高血圧群に含めると、高血圧群のCVD死亡に対するPAFは41.1%だった。・同様のパターンがCVDサブタイプの死亡リスクでも観察され、高血圧症では脳内出血のPAFがとくに高かった。 研究グループでは、「これらの結果は、高血圧の早期予防と管理の重要性を示唆する」と述べている。

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在宅患者がやってきた【救急外来・当直で魅せる問題解決コンピテンシー】第4回

在宅患者がやってきたPoint在宅患者は、外来に通院できない事情がある。外来患者よりもより医療を必要としている人達だ!在宅患者・家族は、最期まで在宅生活を送れないさまざまな事情も抱えている。患者・家族をはじめ在宅チームは、急変時に病院バックベッドの存在があるから、在宅で頑張れる!在宅医療の普及で、患者・家族、医療者もWin-Winに!症例88歳女性。肝内胆管がん、多発肝転移、リンパ節転移、骨転移あり。消化器科主治医からは「いつでも調子が悪くなったら病院に戻ってきていいよ」と言われたうえで、A病院からB診療所に紹介され、訪問診療が開始された。高齢の夫と長男の妻の3人暮らし。キーパーソンの長男は海外に単身赴任中。嫁に行った長女はよく顔を見にきてくれる。疼痛コントロールも良好であった。訪問診療開始1ヵ月後、長男の妻より「今朝から左手の力が入らない、移動も困難になっている」とB診療所に電話あり。トルーソー症候群(悪性腫瘍の凝固能亢進による脳梗塞)の可能性ありと判断された。在宅医は「今回脳梗塞が疑われるが、原病に伴うものであるため、在宅での継続加療も可能」と長男の妻に話したが、長男の妻の強い希望で、A病院に救急紹介された。A病院では頭部CT、頭部MRIが施行され、左右多発脳梗塞(トルーソー症候群)と診断された。長男の妻は仕事と介護で疲れもピークに達しており、「入院させてほしい」と強い希望があった。救急では入院主治医決定に難航した。原疾患の消化器内科か、脳梗塞の神経内科か。“大人の事情”の協議の末、今回は神経内科で入院加療となった。「最期まで在宅でと決まってなかったの? どうして救急に送ってくるんでしょうね」と救急当番の研修医はボソッと心なくつぶやいてしまった。「『これって在宅医が悪いの?』、『患者・家族が悪いの?』って、そんな視点をもつ医者はロクな医者にならないぞ」と指導医に叱られた。「『病気をみずして人をみろ』が実践できたら、入院主治医決定に迷うことはないんだけどね」と、悲しそうに指導医はつぶやいた。おさえておきたい基本のアプローチどんな患者さん達が在宅医療を受けているのだろうか?在宅患者の85%以上は要介護状態にあり、要介護1~5の患者がそれぞれ10~20%ずつ存在する。在宅患者の基礎疾患は多様であり、とくに循環器疾患・認知症・脳血管疾患を抱える患者の割合が大きい(図1)1)。治癒が期待できない患者(末期悪性腫瘍や人工呼吸器を使用している患者、遺伝性疾患や神経筋難病など)は約15%を占める。図1 疾患別の患者割合在宅医療を受けている患者達は、表1のような状況で、ぎりぎりで在宅生活を送っている実情を理解しておこう。病院に紹介されて疾患だけ治して、家にポイッと帰すだけでは、よい医療の質は保たれないのだ。「病気をみずして、人をみよ」とまさしく体現しているのだ。表1 在宅医療利用患者の生活背景事情独居老々介護在宅介護困難で、施設(グループホーム、老人ホームなど)に入所中家族は働いており、昼間の介護者不在で、ほぼ毎日デイサービス利用している上記などの理由で特養などの施設へ入所したいが、空き待ちの間、在宅医療を受けている一方、患者は在宅療養を受けたくてもなかなかそれができないのが現状なんだ。図2のように、在宅療養移行や継続の阻害要因と、在宅医療推進にあたっての課題が、厚生労働省からもあげられている2)。24時間の在宅医療提供体制や、在宅医療・介護サービス供給量の拡充だけでなく、在宅療養者のバックベッドの確保・整備や、介護する家族支援は欠かせないことが、理解できるだろう。疾病をもつ患者の生活も支えていくことは、医療全体の医療費負担の軽減にもつながるんだ。図2 在宅療養移行・継続阻害要因と在宅医療推進の課題画像を拡大するそんな状況でようやく在宅療養が受けられたが、在宅療養が継続できなくなって病院に紹介されてくるときに、「あ~、ダメだ。病院にお世話にならないといけなくなってしまったぁぁぁ」という患者・家族の思いや在宅医の忸怩たる思いを慮って、病院の受け入れ側医師は優しく温かく良医としての矜持をもって受け入れてほしい。在宅医療を選択することは、在宅で必ずしも死を選択しているわけではなく、まだ準備ができていない患者・家族もいる、在宅で死を迎えたいと思っていても気が変わる場合もある、そんな多様性を病院の受け入れ医師は知っておかないといけない。落ちてはいけない・落ちたくないPitfallsまず、在宅患者は、外来に通えないという前提があることを理解しよう!訪問診療の対象にある患者は、外来通院できない患者に絞られることをまず前提として理解いただきたい。外来診療に通えない人とは、疾患の重症度が高く、多疾患併存状態も多く、通えない事情として身体的要因だけでなく社会的要因も考慮しなければならないだろう。実際に、高齢者を対象として在宅医療の有無の観点から入院患者の特徴と救急車搬送により入院となる割合の違いを明らかにすることを目的とした研究がある3)。在宅医療がある症例はない症例と比較して認知症やがんなど併存症を伴う割合や低栄養および低ADL患者である割合が高く、在院日数の長期化がみられ、介護施設へ転院となる割合が高かった。また、がんをはじめ多くの主傷病において救急車搬入により入院となる割合が高かった。この研究結果を踏まえて、外来患者よりも在宅患者のほうが救急車搬入による入院が多い実態を肝に銘じていただき、患者にも家族にも優しい対応をお願いしたい。米国では、高齢者を対象に在宅医療サービスを開始したところ、登録前の1年間と登録後で同じ患者で比較して、ERの訪問が約30%、入院が10%減少したという報告もある4)。やはり在宅医療は患者・家族、医療者にとって、Win-Winな制度と考えられるだろう。Pointなぜ在宅医療を受けているのか? という理由をまず考えてみよう!急激なADLの低下出現…在宅生活本当に続けられる!?冒頭の症例の患者は末期がんの状態であり、ADLの低下は予想されていた。しかし脳梗塞による急激なADL低下に、主介護者である長男の妻より、在宅加療継続は難しいとのお話があり、入院加療となった。長男の妻は仕事で日中介護できず、在宅生活も1ヵ月近くなっており介護疲れもあった。入院後にもカンファレンスを行い、元々入っていた訪問看護以外に訪問介護導入も可能とお話したが、実母を看取った経験も踏まえて、在宅加療を継続する自信がないとのことだった。本人の気持ちも確認したが、このまま入院でよいとのお話であった(長男の妻によると、ご本人は周囲の状況を察してあまりわがままは言えない性格とのことだった)。キーパーソンの息子も帰国したが、入院加療を続けてほしいとのお話であり、転院調整中にA病院でお亡くなりになった。在宅医療は病気だけをみていたのでは始まらない。生活背景や心理的背景も考慮して、家族も支えていかないといけない。無理矢理在宅を継続することで、長男の妻が精神的にも肉体的にも追い詰められて、本当に体を壊してもいけないのだ。また海外駐在の息子さんがいるというのも、権利意識やインフォームド・コンセントにも気を遣い、診療方針決定に大きく影響を受け、そういうことまで配慮してこそ在宅医療はうまくいくのだ。高齢者は、疾病でも外傷でも容易にADLが低下する。疾病の重症度だけで帰宅可能と判断しても、実際は帰宅後の介護負担が増加して、より危険にさらされる状況になってしまうことは珍しくない。尿路感染だけ診断して安易に帰宅させた老々介護の高齢女性が、自宅で転倒し大腿骨近位部骨折を併発して、救急車で舞い戻ってきたという事例もある。ときには患者家族と救急担当医の間で患者の押し付け合いのような現象が生じる。しかし、無理に帰宅させて病状が悪化するのでは、判断が甘いといわざるを得ない。帰宅後に病態の見落としが判明する場合もある。在宅医療を受けている患者の入院・帰宅の判断の際には、帰宅後の介護負担を十分に考慮し、メディカルソーシャルワーカーなどを通じて、ケアマネジャーや在宅主治医などと連携して、帰宅後の介護や医療提供を考慮するように心がけたい5)。Point継続しておうちで過ごせそうでしょうか? ケアマネ・在宅主治医にも相談してみましょう在宅患者・家族みんなが、最期まで在宅と考えているわけではない前述の患者も、最期まで在宅と決めて、訪問診療を開始したわけではない。退院の際に病院主治医から「困ったときは入院も考慮します」と話があり、その言葉が、患者・家族・在宅チームの安心につながっていた。在宅医療を含む自宅療養を受ける際にその患者や家族が抱える問題意識として、症状急変時の対応に不安があること、症状急変時すぐに入院できるか不安があることが、図2に示されている。他のケースでも、最期は病院でと病院主治医と約束し、在宅医療開始になった患者がいる。1人は肺がん末期で、呼吸苦や疼痛はオピオイド増量でコントロールしていたが、急激に呼吸状態が悪化し、訪問看護が呼ばれ、訪問看護からの連絡で往診のうえ、家族の希望も踏まえて紹介元の病院に紹介したが、24時間以内に亡くなった。もう1人は、肝細胞がん末期、胸水腹水貯留で、腹水除去などを在宅で行っていたが、深夜呼吸苦が増悪し、在宅酸素導入したが、家族が病院紹介を希望され、この方も24時間以内に亡くなった。結構ぎりぎり最期(死ぬ直前)まで患者も家族も在宅で頑張っているんだ。「だったら最期くらい家で看取ればいいのに」なんて冷たい言い方をしてはいけない。最後の最後につらそうにしている患者を家族が在宅で看ていられなくなってしまう気持ちもわかってあげよう。家族は医療者ではなく素人であり、死に対する免疫はないのだから。オンタリオの研究では、家で看取ると思っていても、最後は不安になって16%の人は救急車を呼ぶという6)。ぎりぎりまで在宅で患者に寄り添った家族にやさしい言葉をかけられる医療者こそ、心の通った医療者なんだ。Point病院主治医に、困ったらおいでと言われていたのですね。よくここまでおうちで頑張りましたね在宅看取りのはずなのに、どうして救急搬送してしまうのか?在宅看取りを希望していても、心配で在宅主治医や訪問看護師を呼ぶ前に119番通報してしまう家族もいるものと理解しよう。気が変わるのは仕方のないこと。むしろ絶対に気が変わったらダメなんて言ったら、在宅医療は推進できない。蘇生処置を行わない意思表示(DNAR:Do Not Attempt Resuscitation)のある終末期がん患者の臨死時に救急車要請となる理由を救急救命士への半構造的面接により検討した研究論文7)では、(1)DNARに関する社会的整備が未確立(臨死時救急車以外病院搬送手段がないなど)(2)救急車の役割に対する認識不足(蘇生処置をせずに救急搬送が可能という認識の住民や医師がいるなど)(3)看取りのための医療支援が不十分(4)介護施設での看取り体制が不十分(5)救急隊に頼れば何とかなるという認識(何かあったときは119番という住民感情があるなど)(6)在宅死を避けたい家族の思い(家族が在宅死に対する地域社会の反応を気にするなど)(7)家族の動揺(DNARの意思が揺らぐ家族など)といった7つの理由が明らかになったとしている。Pointとっさに、救急車を呼んでしまったのですね。最期にこんなにバタバタするとは想像しなかったですよね。状態が悪いのを見ているのはつらいので、無理もないですよワンポイントレッスン在宅側からの取り組み─在宅看取りの文化の醸成に向けて─在宅医療を受けていても、救急車を呼び、今まで関係のなかった病院に搬送されると、死亡判定後、警察が来て検死が始まる。警察が事情を聴きに家まで来てしまうのだ。「まさか警察が来て事情聴取を受けるなんてぇ…」と、思いがけない最期に憤りや後悔をあらわにする家族もいる。家族に後悔が残らないようにするための在宅側からの取り組みを紹介する。在宅医療を地域住民に啓発しよう2014年厚生労働省より全国1,741市町村別に在宅死の割合が発表されたが、全国平均12.8%に対し、筆者のクリニックがある永平寺町は6.7%であり、福井県下でも最下位だった。永平寺町内には福井大学医学部附属病院がそびえたち、町民の生活風景のなかに大学病院があることで、何かあれば大学病院に行けばよいとの住民感情もあっただろう。大学病院なのに町立病院のような親近感をもたれているといえばそのとおりなんだけど…。そんな状況を受け、2019年8月1日に永平寺町立在宅訪問診療所(24時間体制の在宅支援診療所)が設立された。開設の約1年前から町の福祉保健課、地域包括支援センターとともに永平寺町民に向けて、在宅医療についての説明会を約2年間にわたって計70回行い、在宅医療が何なのかの啓発活動に専念した。最期がイメージしやすいパンフレットを作成がんの末期で病院から紹介いただく患者でも、最期に向けてどのような経過を辿っていくのかイメージできず、強い不安を感じている患者・家族がほとんどだ。そこで当院ではパンフレットを作成し、タイミングをみて、パンフレットを用いながら、今後の変化について、説明している(図3)。図3 最期をイメージするためのパンフレット緩和ケア普及のための地域プロジェクトがフリーで提供している「これからの過ごし方」というパンフレットも大変参考になる8)。ほかにも、疼痛などの評価ツールなども掲載されているので、ぜひ参考にされたい(緩和ケア普及のための地域プロジェクト)。救急車を呼んでしまうと、その先には!?最期のときに焦って救急車を呼んでしまうと、救命のために心臓マッサージや気管挿管が行われ、病院で最期を迎えた場合は、警察による検死も行われることもあるとパンフレットや口頭でお伝えしている。119番をコールする前に、訪問看護か在宅医にコールを! ということで、24時間連絡可能な連絡先が記載された用紙をお渡しし、家の目立つところに掲示してもらっている。最期に呼ぶのはあわてない、あわてない…最期が近いと予測されている場合、また真夜中などにおうちで息を引き取った場合、あわてずに翌朝、当方に連絡してもらえればよいこともお伝えしている。息を引き取る瞬間にご家族や医療者がもし立ち会えなかったとしても、在宅主治医が死後24時間以内に往診し診察すれば、死亡診断書が書けるのだ。家族も夜はなるべく休んでいただくよう説明している。参考1)厚生労働省. 在宅患者の状況等に関するデータ.2)厚生労働省. 在宅医療の動向.3)たら澤邦男 ほか. 日本医療マネジメント学会雑誌. 2020;21:70-78.4)De Jonge E, Taler G. Caring. 2002;21:26-29.5)太田凡. 日本老年医学会雑誌. 2011;48:317-321.6)Kearney A, et al. Healthc Q. 2010;13:93-100.7)鈴木幸恵. 日本プライマリ・ケア連合学会誌. 2015;38:121-126.8)緩和ケア普及のための地域プロジェクト(厚生労働科学研究 がん対策のための戦略研究). これからの過ごし方について.執筆

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ランダム化試験より個別最適化医療の論理が必要?(解説:後藤信哉氏)

 心房細動の脳梗塞予防には抗凝固薬が広く使用されるようになった。しかし、脳内出血の既往のある症例に抗凝固薬を使用するのは躊躇する。本研究は過去に頭蓋内出血の既往のある症例を対象として、心房細動症例における抗凝固薬介入の有効性と安全性の検証を目指した。319例をDOAC群と抗凝固薬なし群に割り付けて中央値1.4年観察したところ、DOAC群の虚血性脳卒中は0.83(95%信頼区間[CI]:0.14~2.57)/100人年、抗凝固薬なし群では8.60(同:5.43~12.80)/100人年と差がついた。 しかし、頭蓋内出血イベントはDOAC群が5.00(95%CI:2.68~8.39)/人年、抗凝固薬なし群では0.82(同:0.14~2.53)/人年であった。 ランダム化比較試験としては事前に設定した有効性、安全性エンドポイントに対する仮説検証が目標となるが、臨床家は結果に基づいて実臨床における治療選択を考える。「頭蓋内出血の既往のある心房細動」でもDOACで虚血性脳卒中リスクを低減できるが、頭蓋内出血リスクは増える。未来に虚血性脳卒中リスクの高い個別症例を選別してDOACをのませる、などの個別最適化医療への方向転換が必要である。

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強度を徐々に上げる歩行運動は脳卒中後の患者の転帰を向上させる

 脳卒中後の標準的なリハビリテーションに1日30分の強度を徐々に上げる歩行運動(以下、漸増負荷歩行運動)を加えることで、退院時の患者の生活の質(QOL)と運動能力が著しく改善したとする研究結果が報告された。ブリティッシュコロンビア大学(カナダ)理学療法学教授のJanice Eng氏らによるこの研究は、米国脳卒中学会(ASA)の国際脳卒中会議(ISC 2025、2月5〜7日、米ロサンゼルス)で発表された。Eng氏は、「ガイドラインでは、脳卒中後には体系的なリハビリテーション(以下、リハビリ)や運動療法を段階的に進めることを推奨しているものの、十分な強度を持つこうしたアプローチがリハビリプログラムに広く採用されているとは言えない」と米国心臓協会(AHA)のニュースリリースで述べている。 この研究は、カナダの12カ所の病院でリハビリ中の脳卒中患者306人を対象に実施された。試験参加者は、平均で1カ月前に脳梗塞または出血性脳卒中を発症し、リハビリのために入院しており、その時点で標準的な6分間歩行テストで歩くことができた距離は平均152mであった。 参加者は、標準的な理学療法を受ける群(162人)と新しいプロトコルに基づく理学療法を受ける群(144人)にランダムに割り付けられた。新しいプロトコルは、週5日、最低30分の理学療法セッションにおいて、中強度の運動強度を維持しながら2,000歩を歩くことを目標とするもので、強度は、参加者の最初の状態に基づき段階的に上げられた。参加者には心拍数と歩数を測定できる腕時計型の活動量計(ウェアラブルデバイス)を装着させ、それにより運動強度を評価した。運動能力、認知機能、QOLは、研究開始時と退院時(約4週間後)に評価された。 その結果、新しいプロトコルに基づく理学療法を受けた参加者では、標準的な理学療法を受けた参加者に比べて、退院時の6分間歩行テストで歩くことのできた距離が平均43.6m長いことが明らかになった。また、新しいプロトコルに基づく理学療法を受けた参加者では、QOL、バランス能力、可動性、歩行速度についても有意な向上を示した。 Eng氏は、「体系的な漸増負荷歩行運動は、ウェアラブルデバイスの助けを借りることで安全な強度を維持しやすくなる。安全な強度の維持は脳の治癒力と適応力である神経可塑性にとって極めて重要な要素だ」と話す。同氏は、「脳卒中後の数カ月は、脳の変化を最も期待できる時期だ。本研究結果は、この初期のリハビリ段階において、好ましい結果を示すことができた」と話している。 Eng氏はまた、この研究は、脳卒中患者のリハビリにおける歩行運動の利点を示しただけでなく、脳卒中治療ユニットが、新しい運動を既存のプログラムに簡単に組み込めることも示していると指摘する。同氏は、「われわれの研究は、実臨床の非常に成功した実験と言える」と語っている。 一方、この研究をレビューした米ジョンズ・ホプキンス大学理学療法・リハビリテーション科准教授のPreeti Raghavan氏は、「この研究は、脳卒中後の脳の可塑性が最も高い重要な時期に、入院リハビリ病棟で、新たなプロトコルを既存のプログラムに組み込むことが可能なことを示している」と述べ、「このプロトコルにより、患者の持久力が高まり、脳卒中後の障害が軽減された。これは脳卒中後の回復にとって非常に前向きなデータだ」と話している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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救急隊員によるnerinetideの入院前静注は脳虚血患者に有効か?(解説:内山真一郎氏)

 ESCAPE-NA1試験では、nerinetideが血栓溶解療法後の患者には効果がなかったのは、血栓溶解薬により産生されたプラスミンがnerinetideを分解して不活化してしまうためと考えられたことから、ESCAPE-NEXT試験では血栓溶解療法との併用は検討されなかった。 一方、FRONTIER試験では、病院に到着して血栓溶解療法が行われる前にnerinetideが投与されたので、神経保護と血栓溶解による再灌流の相乗効果が期待された。このアプローチは、発症から治療開始までの時間が短い利点があるが、脳梗塞以外に脳出血、TIA、脳卒中と紛らわしい疾患が混入する欠点もある。 nerinetideは、脳卒中が疑われるすべての患者に有効であるとはいえなかったが、最も効果があったのは血栓溶解療法を受けた症例であり、ターゲットとなる急性期脳梗塞患者には再灌流治療との併用療法として有益であると思われる。今後の臨床試験では、神経保護薬は動脈再開通前の虚血進行中の早期投与がとくに効果があるという仮説を検証すべきである。FRONTIER試験の結果は、血管内治療が可能な脳卒中センターの近くにいない患者に有用な戦略であることを支持している。

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脳保護薬nerinetideは血栓溶解療法を行わない血栓除去術施行患者に有効か?(解説:内山真一郎氏)

 nerinetideは、急性期虚血性脳卒中の前臨床モデルで多くの研究が行われてきたイコサペプチドであり、再灌流療法前の脳損傷の進行を阻止することによる転帰改善効果が期待されている。nerinetide投与前にアルテプラーゼ治療を受けなかった患者では効果があり、受けた患者では効果がなかったが、アルテプラーゼの先行投与により産生されるプラスミンがnerinetideを分解して不活化してしまうためであると考えられている。 ESCAPE-NEXT試験は、nerinetideが有効だったESCAPE-NA1試験のアルテプラーゼ無投与群の結果を再現するためにデザインされた。結果は、事前に血栓溶解療法を行わなかった、発症後12時間を過ぎた血管内血栓除去術を施行した患者においてnerinetideの効果は観察されなかった。中立的な結果に終わった理由としては、脳卒中ケアの経時的変貌、治療時間枠の遅さ、COVID-19流行の影響、年齢の高さ、薬剤投与と再灌流の間のインターバルの短さが挙げられている。 血管内治療は、脳保護療法の理想的な唯一の患者選択肢とはいえないのかもしれない。同時に行われたFRONTIER試験の統合解析が待たれるが、脳保護療法の未来には今後も多くの紆余曲折がありそうである。

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脳出血既往AFに対する脳梗塞予防、DOACは有用か?/Lancet

 直接経口抗凝固薬(DOAC)は、心房細動を伴う脳内出血生存者の虚血性脳卒中予防に有効ではあるが、その有益性の一部は脳内出血再発の大幅なリスク増加により相殺されることが示された。英国・インペリアル・カレッジ・ロンドンのRoland Veltkamp氏らPRESTIGE-AF Consortiumが、欧州6ヵ国75施設で実施された第III相無作為化非盲検評価者盲検比較試験「PRESTIGE-AF試験」の結果を報告した。結果を踏まえて著者は、「これら脆弱な患者集団における脳卒中予防を最適化するには、さらなるエビデンスと無作為化データのメタ解析が必要である。特定の患者に対しては、より安全な薬物療法または機械的代替療法の評価も求められる」と述べている。DOACは、心房細動患者において血栓塞栓症の発症頻度を低下させるが、脳内出血生存者に対するベネフィットとリスクは不明であった。Lancet誌オンライン版2025年2月26日号掲載の報告。脳内出血発症後14日~1年のAF患者をDOAC群と抗凝固薬非投与群に無作為化 研究グループは、脳内出血発症後14日~12ヵ月(当初は6ヵ月)以内で、心房細動を有し、抗凝固療法の適応があり、修正Rankinスケール(mRS)スコアが4以下の18歳以上の患者を、脳内出血の部位と性別によって層別化し、DOAC群または抗凝固薬非投与群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 血管奇形または外傷に起因する脳内出血、左心耳閉鎖デバイスによる治療予定または既治療患者などは除外した。 DOAC群では、各地の試験担当医師の判断によりアピキサバン、ダビガトラン、エドキサバンまたはリバーロキサバンが投与された。抗凝固薬非投与群では、試験担当医師の判断で抗血小板薬(例:アスピリン100mg 1日1回)を投与または非投与した。 主要エンドポイントは2つで、初回虚血性脳卒中と脳内出血の初回再発とし、ITT集団で優越性と非劣性に関する階層的検定を実施した。脳内出血に関する非劣性マージンは、ハザード比(HR)の90%信頼区間上限が1.735未満とした。安全性についても、ITT集団を対象に解析した。DOAC群で虚血性脳卒中リスクは減少、脳内出血再発リスクは増大 2019年5月31日~2023年11月30日に319例が登録され、DOAC群(158例)および抗凝固薬非投与群(161例)に無作為に割り付けられた。患者背景は、年齢中央値が79歳(四分位範囲[IQR]:73~83)で、女性113例(35%)、男性206例(65%)であった。 追跡期間中央値1.4年(IQR:0.7~2.3)において、初回虚血性脳卒中の発症頻度は、DOAC群が抗凝固薬非投与群より低かった(HR:0.05、95%CI:0.01~0.36、log-rank検定p<0.0001)。すべての虚血性脳卒中イベントの発症頻度(100患者年当たり)は、DOAC群で0.83(95%CI:0.14~2.57)に対し、抗凝固薬非投与群では8.60(5.43~12.80)であった。 脳内出血の初回再発については、DOAC群は事前に規定された非劣性マージン(<1.735)を満たさなかった(HR:10.89、90%CI:1.95~60.72、p=0.96)。すべての脳内出血の発症頻度(100患者年当たり)は、DOAC群5.00(95%CI:2.68~8.39)に対し、抗凝固薬非投与群は0.82(95%CI:0.14~2.53)であった。 重篤な有害事象は、DOAC群で158例中70例(44%)、抗凝固薬非投与群で161例中89例(55%)に発現した。DOAC群では16例(10%)、抗凝固薬非投与群では21例(13%)が死亡した。

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虚血性脳卒中、救急車内でのnerinetide投与は有効?/Lancet

 虚血性脳卒中が疑われるすべての患者では、入院前の救急車内でのプラセボ投与と比較して神経保護薬nerinetideは、神経学的機能アウトカムを改善しないものの、症状発現から3時間以内に再灌流療法が選択された急性期虚血性脳卒中確定例では有効である可能性があることが、カナダ・ブリティッシュコロンビア大学のJim Christenson氏らが実施した「FRONTIER試験」で示された。研究の詳細は、Lancet誌2025年2月15日号で報告された。カナダ2州の無作為化プラセボ対照第II相試験 FRONTIER試験は、急性期脳卒中が疑われる徴候や症状を呈するすべての患者、および虚血性脳卒中が確認された患者のアウトカムを改善するために、血栓溶解療法や血管内血栓除去術による通常の治療に加えて、入院前の環境でnerinetideを投与する早期治療が有効か否かの検証を目的とする二重盲検無作為化プラセボ対照第II相試験であり、2015年3月~2023年3月に、カナダのオンタリオ州とブリティッシュコロンビア州の7施設で患者を登録した(Brain CanadaとNoNOの助成を受けた)。 年齢40~95歳、重症の脳卒中が疑われ、発症から3時間以内に試験薬の投与が可能で、Los Angeles Motor Scale(LAMS、0[症状なし]~5[最も重度の症状]点)の重症度スコアが2~5点の患者を対象とした。被験者を、nerinetide(2.6mg/kg)を静脈内投与する群、またはプラセボ群に無作為に割り付けた。救急隊員、病院の医療提供者、アウトカムの評価者には割り付け情報は知らされなかった。 主要アウトカムは、90日時点における修正Rankinスケール(mRS)スコア(0[症状なし]~6[死亡]点)に基づくレスポンダー(mRSが0~2点と定義。LAMSが2~3点でmRSが0~1点の80歳未満の患者を除く)とした。虚血性脳卒中患者では良好な傾向 532例を登録し、nerinetide群に265例、プラセボ群に267例を割り付けた。脳卒中が疑われた修正ITT(mITT)集団(nerinetide群254例、プラセボ群253例)には、急性期虚血性脳卒中321例(63%)、頭蓋内出血93例(18%)、一過性脳虚血発作44例(9%)、脳卒中類似疾患49例(10%)が含まれた。 症状発現から治療開始までの時間中央値は64分(四分位範囲[IQR]:47~100)であった。また、プラセボ群に比べnerinetide群は脳卒中の重症度が高かった(mITT集団におけるNIHSSスコア中央値:nerinetide群12点[IQR:5~19]vs.プラセボ群10点[4~18]、急性期虚血性脳卒中のサブグループのNIHSSスコア中央値:14点[7~19]vs.10点[4~18])。 主要アウトカムである90日後の事前に規定された二分法(sliding dichotomy)による良好な機能アウトカムは、nerinetide群254例中145例(57%)、プラセボ群253例中147例(58%)で達成し、両群間に有意な差を認めなかった(補正後オッズ比[OR]:1.05[95%信頼区間[CI]:0.73~1.51]、補正後リスク比:1.04[95%CI:0.85~1.25])。 虚血性脳卒中の確定例302例の解析では、病院到着時NHISSスコアと年齢で補正した機能アウトカムは、nerinetide群で良好な傾向がみられた(OR:1.53[95%CI:0.93~2.52]、リスク比:1.21[95%CI:0.97~1.52])。また、再灌流療法(血栓溶解療法または血管内血栓除去療法、あるいはこれら両方)を受けた患者では、機能アウトカムに関して改善が得られた(補正後OR:1.84[95%CI:1.03~3.28]、補正後リスク比:1.29[95%CI:1.01~1.65])ため、今後、検討を進める必要がある。安全性に関する懸念はなかった 出血性脳卒中および再灌流が得られなかった急性期虚血性脳卒中患者では、nerinetideによる明確な有益性は確認されなかった。 少なくとも1つの重篤な治療関連有害事象を発現した患者は、nerinetide群が93例(35%)、プラセボ群は97例(36%)であった。重篤な神経系の疾患はそれぞれ30例(11%)および40例(15%)に、重篤なせん妄は93例(35%)および97例(36%)に認めた。nerinetide群で死亡率の上昇や脳卒中の悪化は確認されなかった。 著者は、「本試験は、院外の救急車の中で救急隊員が患者を登録し、試験薬を投与することの実行可能性を示した」「この方法は、症状発現から登録までの間隔が短いという利点があったが、不均一な患者集団を登録するという欠点があり、多くの患者が急性期虚血性脳卒中以外の診断を受けたため、試験全体の統計学的検出力が低下した」「nerinetideは、急性期虚血性脳卒中患者において再灌流療法の補助として臨床的有益性をもたらす可能性がある」「神経保護薬は、動脈再疎通に先立ち、虚血の続く早い時期に投与するととくに有効であるという仮説は、今後の試験で検証する必要がある」としている。

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3月は心筋梗塞・脳梗塞に要注意!?医療ビッグデータで患者推移が明らかに/MDV

 メディカル・データ・ビジョンは、自社の保有する国内最大規模の診療データベースを用いて急性心筋梗塞と脳梗塞に関するデータを抽出し、それぞれの患者数の月別推移、10歳刻みの男女別患者数、65歳以上/未満の男女別併発疾患患者比率を公表した。調査期間は2019年4月~2024年3月で、その期間のデータがそろっていた377施設を対象とした。2~3月に急増、慢性疾患を併存する患者は要注意 本データを用いて急性心筋梗塞と脳梗塞の患者数と季節性について検証したところ、2019年度が最も高い水準で推移しており、以降の年度はやや低下傾向にあるものの、季節的な変動は共通し、冬季では2~3月に急増する傾向がみられた。「急性心筋梗塞」「脳梗塞」それぞれの患者数月別推移を見る※2020年5月の患者数の落ち込みは、コロナ禍による救急医療の逼迫や、医療機関の受け入れ制限による診断・治療の機会の減少が影響している可能性があるという。 また、65歳以上の心筋梗塞ならびに脳梗塞患者の併存疾患として、男女ともに高血圧症、食道炎を伴う胃食道逆流症、便秘、高脂血症があり、高血圧症については男女ともに6割を超えていた。 この結果を踏まえ、加藤 祐子氏(心臓血管研究所付属病院循環器内科 心不全担当部長/心臓リハビリテーション科担当部長)は、「寒暖差による血圧変動に加え、年度末のストレスや生活リズムの乱れが影響を与えている可能性がある」と指摘。「寒暖差は自律神経のバランスを乱しやすく、血管を収縮させ、血液粘稠度が高くなるなどの変化を起こしやすいと考えられる。冬場は身体活動が低下している人も多い」と説明した。また、自律神経のバランスを保ち、急な気温変化にも堪えない体をつくり、心筋梗塞や脳梗塞の最大のリスクである高血圧のコントロールのためにも、「毎日合計30分はすたすた歩き、収縮期血圧120mmHg未満(リラックスした状態で測定)を目指しましょう」とコメントを寄せている。

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血栓溶解療法なしの急性期脳梗塞、nerinetideの有用性は?/Lancet

 シナプス後肥厚部タンパク質95(PSD-95)を阻害するエイコサペプチドであるnerinetideは、発症後12時間以内の急性期虚血性脳卒中患者において良好な機能的アウトカムの達成割合を改善しなかった。重篤な有害事象との関連はみられなかった。カナダ・カルガリー大学のMichael D. Hill氏らが、カナダ、米国、ドイツ、イタリア、オランダ、ノルウェー、スイス、オーストラリア、シンガポールの77施設で実施した無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験「ESCAPE-NEXT試験」の結果を報告した。先行のESCAPE-NA1試験で、nerinetideは静脈内血栓溶解療法の非併用集団において機能的アウトカムの改善と関連していたが、血栓溶解療法との併用における有益性は確認されていなかった。著者は、「さらなる研究により、投与の最適なタイミングや、現在の再灌流療法との併用で有益性を得られる可能性のあるサブグループ集団を特定する必要があるだろう」とまとめている。Lancet誌2025年2月15日号掲載の報告。プラスミノーゲン活性化因子を投与していない急性期脳梗塞患者が対象 研究グループは、発症後12時間以内の前方循環系主幹動脈閉塞による急性期虚血性脳卒中の患者を登録した。 適格基準は、18歳以上、無作為化時点で障害を伴う虚血性脳卒中を発症(ベースラインのNIHSSスコア>5)、脳卒中発症前は地域社会で自立して生活しており(Barthel Indexスコア>90)、ASPECTS>4、プラスミノーゲン活性化因子による治療を受けていない患者とした。 適格患者を、インターネットを用いたリアルタイムの動的・層別・最小化法を用い、nerinetide群またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付けた。nerinetide群では推定体重または実測体重(判明している場合)に基づきnerinetide 2.6mg/kgを最高用量270mgまで、プラセボ群では生理食塩水をそれぞれ単回静脈内投与した。全例に血管内血栓除去術を施行した。 主要アウトカムは、無作為化から90日後の良好な機能的アウトカムで、修正Rankinスケール(mRS)スコア0~2と定義した。ITT解析を実施し、脳卒中発症から無作為化までの時間(≦4.5時間/>4.5時間)、年齢、性別、ベースラインのNIHSSスコア、閉塞部位、適格な画像診断から無作為化までの時間、ベースラインのASPECTS、および地域で補正した。副次アウトカムは、死亡率、脳卒中の悪化、機能的自立の改善、および神経学的障害であった。良好な機能的アウトカムの達成割合は、nerinetide群45%、プラセボ群46% 2020年12月6日~2023年1月31日に、850例がnerinetide群(454例)またはプラセボ群(396例)に割り付けられた。 主要アウトカムである90日時点のmRSスコア0~2を達成した患者の割合は、nerinetide群45%(206/454例)、プラセボ群46%(181/396例)であった。オッズ比は0.97(95%信頼区間:0.72~1.30、p=0.82)で、両群間に有意差は認められなかった。 安全性については(解析対象集団は試験薬の投与を受けた844例)、重篤な有害事象の発現率はnerinetide群41%(183/451例)、プラセボ群34%(134/393例)であり同程度であった。

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ケアネットが役に立った!【Dr. 中島の 新・徒然草】(569)

五百六十九の段 ケアネットが役に立った!2月も終わりが近づいてきました。少しずつ日が長くなり、春の気配を感じます。来月には、もう少し暖かくなることを期待したいですね。さて、今回は「ケアネットが役に立った!」という話をしたいと思います。もちろん、普段からケアネットの記事は有用ですが、今回はとくに「これは!」と思う内容でした。それは、論文/ニュースの欄で紹介されていた、「急性期脳梗塞、EVT+高気圧酸素治療vs.EVT単独/Lancet」という記事です。実は私は以前から、急性期脳梗塞では高濃度酸素吸入が有効ではないかと考えていました。というのも、片麻痺のある陳旧性脳梗塞の患者さんに、マスクで10L/分程度の100%酸素を吸入してもらうと、一時的に麻痺が改善することがあるからです。これは外来でも簡単に試せるので、興味のある方は一度やってみてもよいかもしれません。酸素を吸入すると、一時的とはいえ麻痺のある手足の動きが改善し、びっくりさせられます。「陳旧性の脳梗塞ですら効果があるのだから、急性期ならなおさら効果が期待できるのではなかろうか。高濃度酸素吸入で閉塞血管再開通までの時間を稼ぐことができれば、最終的な転帰も改善するかも?」と私は思っていました。そこで、同僚のストロークチームの先生に「患者さんの搬入時に酸素吸入しているの?」と尋ねてみたところ、返ってきたのは「いやあ、あまりやっていませんねえ」という答え。しかし、今回の論文(Lancet. 2025;405:486–497)を読んで驚きました。まさに私が考えていたことが実際に行われていたのです。この研究では、血栓回収療法(EVT:endovascular thrombectomy)の適応となる急性期脳梗塞の症例が、以下の2群にランダムに振り分けられています。高濃度酸素吸入群- 非再呼吸マスクを用い、10L/分の100%酸素吸入- 気管挿管されている場合は100%酸素での換気シャム治療群(対照群)- 1L/分の100%酸素(低流量)- 気管挿管されている場合は30%酸素での換気いずれも、酸素吸入は4時間行われました。結果はどうだったか。高濃度酸素吸入群は、シャム治療群に比べ、90日後のmRSの中央値が1ポイント良好だったと報告されています。mRS(modified Rankin Scale)は、無症状(0)から死亡(6)までの7段階で機能予後を評価する指標であり、1ポイントの違いはADLに大きな影響を与えます。つまり、この研究によれば、血栓回収療法に伴う高濃度酸素吸入で転帰が改善する可能性が示唆されたのです。まさに、以前から私が考えていたことがこの論文で裏付けられた形になりました。マスクでの高濃度酸素吸入は、特別な手間もかからず、副作用のリスクもごく低いものです。この方法が今後、脳卒中治療の現場で広がっていく可能性は十分にあるのではないでしょうか。今回は、ケアネットで非常に有益な記事を見つけた、というお話でした。最後に一句春寒に わが意を得たり ケアネット

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