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第12回 アナタはどうしてる? 術前心電図(前編)【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第12回:アナタはどうしてる? 術前心電図(前編)内科医であれば、外科系の先生方から術前心電図の異常について、一度はコンサルテーションされたことがありますよね? 循環器内科医なら日常茶飯事のこの案件、もちろん“正解”は一つじゃありません。前編の今回は、症例を通じて術前心電図の必要性について、Dr.ヒロと振り返ってみましょう。症例提示67歳、男性。変形性膝関節症に対して待機的手術が予定されている。整形外科から心電図異常に対するコンサルテーションがあった。既往歴:糖尿病、高血圧(ともに内服治療中)、喫煙:30本×約30年(10年前に禁煙)。コンサル時所見:血圧120/73mmHg、脈拍81/分・整。HbA1c:6.7%、ADLは自立。膝痛による多少の行動制限はあるが、階段昇降は可能で自転車にて通勤。仕事(事務職)も普通にこなせている。息切れや胸痛の自覚もなし。以下に術前の心電図を示す(図1)。(図1)術前の心電図画像を拡大する【問題1】心電図所見として正しいものを2つ選べ1)洞(性)徐脈2)左軸偏位3)不完全右脚ブロック4)(第)1度房室ブロック5)左室高電位(差)解答はこちら3)、5)解説はこちら術前心電図でも、いつも通りに系統的な心電図の判読を行いましょう(第1回)。1)×:R-R間隔は整、P波はコンスタントで、向きも“イチニエフの法則”に合致しますから、自信を持って「洞調律」です(第2回)。心拍数なら“検脈法”が簡便です。左半分(肢誘導)のみ、あるいは左右全体(肢誘導・胸部誘導)で数えても60/分ですから、「徐脈」基準を満たしません。Dr.ヒロ的な“境界線”は「50/分」でしたね。2)×:QRS電気軸は、“スパイク・チェック”にて、QRS波の「向き」を確認するのでした(第8回)。I、II、aVF誘導いずれも上向き(陽性)で、軸偏位はありません(正常軸)。ちなみに、以前紹介した“トントン法Neo”だと、「+40°」と計算されます(TPは、III [+120°]と-aVL [+150°]の間で前者よりの「+130°」)。3)○:典型的ではないですが、一応「不完全右脚ブロック」でいいでしょう。V1誘導の特徴的な「rSr'型(r<r')」と、イチエルゴロク(とくにI、aVL、V5)でS波が軽めに“主張”する感じです(Slurという)。QRS幅が0.12秒(3目盛り)以内なら、“不完全”という言葉を冠します(自動診断でQRS幅は0.102秒です)。4)×:「(第)1度房室ブロック」はPR(Q)間隔が延長した所見であり、“バランスよし!”の部分でチェックします。P波とQRS波の距離はちょい長め(≒0.20秒)ですが、これくらいではそう診断しません(目安:0.24秒以上)。「PR(Q)延長」との指摘にとどめるべき範疇でしょうか。5)○:QRS波の「高さ」は“高すぎ”ですね。具体的な数値も知っていて損はないですが、V4~V6あたりの誘導、とくにゴロク(V5、V6)のR波が突き抜けて直上の誘導に突き刺さる“重なり感”にボクはビビッときます(笑)。加えて、軽度ですがII、V4~6誘導に「ST低下」があり、高電位所見とあわせて「左室肥大(疑い)」とジャッジしたいものです。【問題2】術前心電図(図1)の意義について考察せよ。解答はこちら意義:耐術性や心合併症リスク評価の観点では「低い」解説はこちら非心臓手術の術前検査で何をどこまで調べるか? 心電図に限らず、これは全ての検査に言えることなので、純粋な心電図の読みから少し離れてお話しましょう。非心臓手術における術前検査に関するガイドラインは、米国では10年以上前*1、2から、そして最近ではわが国でも欧米のものを参考に作成*3されています。これらのガイドラインによると、今回のように日常生活や仕事などで特別な症状もなく十分に“動ける”ケースの場合、心電図検査のみならず、術前心血管系評価そのものが「適応なし」とされます。従って、心電図に「意義」を求めるのは“筋違い”なのかもしれません。ただ、現実はどうでしょう? 皆さんの病院の診療はガイドライン通りに行われていますか…? おそらく「NO」なのではないでしょうか?欧米では、こうした“見なくて良かった”心電図異常のコンサルト、手術の対象疾患とは無関係な心臓の追加検査が、コスト的にムダとみなされています。これは、検査技師やナースにも無駄な仕事をさせているともとらえることができますよね?*1:Fleisher LA, et al.Circulation.2014;130:e278-333.*2:Feely MA, et al.Am Fam Physician.2013;87:414-8.*3:日本循環器学会ほか:非心臓手術における合併心疾患の評価と管理に関するガイドライン2014年改訂版.(注:*1は2019年1月に一部改訂)循環器内科医・内科医にとって、外科医からの術前心電図のコンサルテーションは非常によくあります。実際に、日本の病院では、非心臓手術をする前に心電図を“(ほぼ)全例”やっているのではないでしょうか。そんな状況下で、術前心電図をすべきか否かを論じるのは正直ナンセンスな気もします。心電図検査をすること自体に、一見、悪いことなんて見当たりません。採血の痛みもレントゲンの被曝もない安全・安心な検査ですから。前述のガイドライン*1でも、低リスク手術でなければ心電図検査は年齢を問わず“考慮”(considered)となっています(ただし、膝手術を低リスクと見なす文献もあり)。ほかにも、「65歳以上」なら心電図を“推奨”(recommended)、今回のように「糖尿病」や「高血圧」を有するなら“考慮”(considered)とする文献もあります。「よく調べてもらっている」という患者さん側のプラスな印象も相まって、わが国の医療・保険制度上では、オーダーする側の医師のコスト意識も、諸外国に比べて断然低いと想像できます。“ルーチンでやっちゃえ”的な発想が根付くのにも納得です。でも、本当にそうでしょうか?少し古いレビューですが、次の表を見て下さい(図2)。(図2)ルーチン心電図の検査意義画像を拡大する既往歴や動悸・息切れ、胸痛などの心疾患を疑う思わせぶりな自覚症状があってもなくても、あまり深く考えずに術前に“ルーチン”で心電図検査をすると、4.6~31.7%に“異常”が見つかります。中央値は12.4%で、これは実に8人に1人の割合です。どうりで術前コンサルトが多いはずです。もしも、何も考えずに自動診断のところに何か所見が書いてあったら、循環器(内科)に相談しておこう、という外科医がいたとしたら、ボクたちの“通常業務”も圧迫しかねない“迷惑な相談”です(いないと信じたい)。でも、実際には臨床的意義のある心電図所見は約3分の1の4.6%、そして驚くなかれ、治療方針が変わったのは全体の0.6%なんです!より具体的に言うと、仮に200人の非心臓手術を受ける患者さんに、盲目的に術前心電図をオーダーすると、約25人に何らかの自動診断による所見があります。でも、治療方針に影響を与えるような重大な結果があるのはせいぜい1人。つまり大半の24人には大局に影響しない、ある意味“おせっかい”な指摘なんです。自分の診療を振り返ってみても、確かにと納得できる結果です。心電図をとってもデメリットはないと言いましたが、たとえば癌で手術を受けるだけでも不安な患者さんに、心電図が余計な“心配の種”になっていたら本末転倒だと思いませんか?今回の67歳男性も整形外科で膝の手術を受けるわけですが、心疾患の既往やそれを疑うサインもない中で、なかば“義務的”に心電図検査を受けたがために、「不完全右脚ブロック」と「左室肥大(疑い)」という“濡れ衣”を着せられようとしています。これはイカン。“ボクたちの仕事増やすな”という冗談は置いといて、今回、ボクが皆さんに投げかけたいテーゼはこれです。緊急性を要さない心電図異常、とくに「波形異常」の術前コンサルトの場合、循環器内科医(または内科医)のとるべきスタンスは…1)心電図異常=心臓病とは限らない2)今の心臓の状態は、今回の手術を優先して問題ないので、追加検査は原則必要ないと言ってあげること。これが非常に大事です。しいて言えば、所見の重症度や外科医の意向などから、せいぜい心エコー検査を追加するくらいでしょうか。この辺は一様ではなく、病院事情やコンサルタントの裁量で決めることになろうかと思います。ボクなりのコメント例を示します。「今回は手術を受けるために心電図検査を受けてもらいました。○○さんの検査結果には多少の所見がありましたが、ほかの人でもよくあることです。心臓病の既往や疑いもないですし、普段も自覚症状がないようなので手術には影響のないレベルです。必要に応じて、手術が済んでから調べても問題ないのですが、外科の先生の希望もあるため、念のためエコー検査だけ受けてもらえませんか?」患者を安心させ、コンサルティ(外科医)の顔もつぶさず、かつ病院の“慣習”にも逆らわない“正解”は様々でしょう。けれど、このような内容を知っているだけで対応も変わってくるのではないでしょうか。今回は、ルーチン化している術前検査の意義について、心電図を例に提起してみました。次回(後編)も引き続き、術前心電図をテーマに一歩進んだ異常所見の捉え方についてお伝えします。お楽しみに!Take-home Messageルーチンの術前心電図では高率に異常所見が見つかるが、大半は精査・急な処置ともに不要!【古都のこと~夕日ヶ浦海岸~】本連載では、京都市内ないし近郊の名所をご紹介してきましたが、今回は少し遠出します。おとそ気分覚めやらぬ1月初旬、京丹後市の夕日ヶ浦(浜詰)海岸を訪れました。京都縦貫自動車道を使って片道3時間(往復300km)の道のりですが、立派に府内です。春すら感じてしまう天候、はるかな水平線、海、空、そして数km続く白浜…。そこには、前年に訪れた際の小雨降る青黒い日本海とは“別の顔”がありました。“何をそんな小さなコト・モノ・ヒトにこだわっているの?”日本屈指のサンセット・ビーチのダイナミックなパノラマビューを眺めれば、誰でもそんな声が聞こえるはず。かに料理に舌鼓を鳴らし露天風呂につかれば、至高の休日です。

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第15回 低用量ピルのよくある質問に答えるエビデンス【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 低用量ピルは、避妊目的だけでなく、月経の周期、痛みや倦怠感などの月経困難症をコントロールすることで女性のさまざまな悩みを改善し、かつ安全性も高いという有用な薬剤です。しかし、副作用の懸念から抵抗を示される方も少なからずいらっしゃいます。副作用リスクを正しく認識していただいたうえでメリットを享受していただけるように、服薬指導でのよくある質問と参考となる研究を紹介します。低用量ピルは避妊のためのものではないのか低用量ピルには、避妊を目的とする経口避妊薬(Oral Contraceptive:OC)と月経困難症などの治療を目的とする低用量エストロゲン-プロゲスチン(Low dose estrogen-progestin:LEP)があり、どちらも服用すると、実際は妊娠していなくても下垂体は妊娠したと認識をするので排卵が起こらないようになります。低用量ピルの中止後は通常の月経に戻るのか月経をコントロールするという性質からか、低用量ピルの中止時に通常の月経に戻るのか、再び妊娠できる状態になるのか心配される方もいらっしゃいます。そういう場合には可逆性があることを説明できると安心材料になります。たとえば、レボノルゲストレル90μg/エチニルエストラジオール20μgを約1年服用した18〜49歳(平均年齢30.4歳)の女性で、通常の月経または妊娠に至るまでの期間を検討した観察研究では、最後の服用から90日以内に187例中185例(98.9%)で自然月経が再開または妊娠したという結果が出ています(自発月経181例、妊娠4例)。月経が再開するまでの期間の中央値は32日でした。これを踏まえると、中止後、妊娠していない状態で90日以上月経が再開しない場合は無月経の可能性が高いため、受診を勧める目安になります1)。低用量ピルを服用すると体重は増加するのかこれも比較的よくある質問ですが、服薬拒否にもつながりやすい事由なので丁寧な説明が求められます。体重増加について検討したコクランのシステマティックレビューがあり2)、試験の背景として体重増加がピル服用に関連していると考える女性が多く、服用の開始が遅れたり中止になったりすることが多いという問題が提示されています。しかしながら、実際にはプラセボ投与群または介入なし群を含む4試験では、低用量ピル(または避妊薬パッチ)の使用と体重増加の因果関係を支持する結果は見いだされませんでした。また、さまざまな種類のピルと投与量(エチニルエストラジオール20〜50μg)を比較した試験の大多数でも、グループ間で体重に関して有意差がないことが示されています。少なくとも大きな体重増加との関連はほぼないと説明してよさそうです。低用量ピルによる血栓症リスクはどれくらいあるのか血栓症ひいては静脈血栓塞栓症(VTE)は、ドロスピレノン・エチニルエストラジオール錠(商品目:ヤーズ配合錠)でブルーレターが発出されています。頻度としては低いのですが、低用量ピルに共通の副作用ですので、どの製剤であっても早期に兆候を察知して対処できるよう説明が必要です。VTEリスクの上昇は、エストロゲン含有ピルの摂取により、凝固因子II、VII、X、XII、VIIIおよびフィブリノゲンの血漿濃度が上がることが機序として考えられています3,4)。このリスクの感覚値をお伝えするうえで、参考になる症例対照研究があります5)。2015年にBMJ誌に掲載された研究で、2001~13年の間に英国においてVTEと診断された15~49歳の女性を対象としています。年齢、慣習、時期などをマッチさせた対照群を設定し、前年度の経口避妊薬摂取によってVTEの発生率が上がるかを検討したものです。オッズ比は、喫煙の有無、アルコール摂取、人種、BMI、合併疾患、他の経口避妊薬摂取などの因子で調整し、解析しています。その結果、年間10,000人当たりでVTEを発症する追加人数は、プロゲスチンの世代分類の観点からみると、第1世代(オーソ、シンフェーズ、ルナベルLD)と第2世代(トリキュラー、アンジュ)は6~7例の発生に対して、第3世代(マーベロン)は14例、第4世代(ヤーズ)は13例です。新しい世代のものほど、やや血栓症が出やすいという結果が出ています。一方で、エチニルエストラジオール含有量が高いほど脳卒中や心筋梗塞のイベントリスクが高い傾向にあり、表にあるようなプロゲスチンの種類による差は微々たるものであることを示唆するNEJM誌の論文もありますから6)、それも参考としてしっておくとよいかもしれません。VTEは早期の診断・治療が重要ですので、VTEの特徴的な兆候(英語の頭文字をとってACHES)を覚えておくと有用です。A:abdominal pain(激しい腹痛)C:chest pain(激しい胸痛、息苦しい、押しつぶされるような痛み)H:headache(激しい頭痛)E:eye/speech problems(見えにくい所がある、視野が狭い、舌のもつれ、失神、痙攣、意識障害)S:severe leg pain(ふくらはぎの痛み・むくみ、握ると痛い、赤くなっている)これらの兆候に気付いたら、重症化を防ぐため、すぐに中止のうえ受診を促す必要があるので、服薬指導時にお伝えしましょう。1)Davis AR, et al. Fertil Steril. 2008;89:1059-1063.2)Gallo MF, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2014 Jan 29:CD003987.3)Middeldorp S, et al. Thromb Haemost. 2000;84:4-8.4)Kemmeren JM, et al. Thromb Haemost. 2002;87:199-205.5)Vinogradova Y, et al. BMJ. 2015;350:h2135.6)Lidegaard O, et al. N Engl J Med. 2012;366:2257-2266.

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第8回 冬の救急編:心筋梗塞はいつ疑う!?【救急診療の基礎知識】

12月も終盤。最近では都内も一気に冷え込んできました。毎朝布団から出るのが億劫になってきた今日この頃です。救急外来では急性冠症候群や脳卒中の患者数が上昇しているのではないでしょうか?ということで、今回は冬に多い疾患にフォーカスを当てようと思います。脳卒中は第5回までの症例で述べたため、今回は急性冠症候群(acute coronary syndrome:ACS)に関して、初療の時点でいかにして疑うかを中心に考えていきましょう。●今回のPoint1)胸痛を認めないからといって、安易に否定してはいけない!?2)急性冠症候群?と思ったら、常に大動脈解離の可能性も意識して対応を!?3)帯状疱疹を見逃すな! 必ず病変部を目視し、背部の観察も忘れるな!?はじめに急性冠症候群は、冠動脈粥腫の破綻、血栓形成を基盤として心筋虚血を呈する症候群であり、典型例は胸痛で発症し、心電図においてST上昇を認めます(ST-elevation myocardial infarction:STEMI)。典型例であれば誰もが疑い、診断は容易ですが、そればかりではないのが現実です。高感度トロポニンなどのバイオマーカーの上昇を認めるものの、ST変化が認められない非ST上昇型心筋梗塞(non-ST elevation myocardial infarction:NSTEMI)、バイオマーカーの上昇も伴わない不安定狭心症(unstable angina pectoris:UAP)の診断を限られた時間内で行うことは難しいものです。さらに、胸痛が主訴であれば誰もがACSを疑うとは思いますが、そうではない主訴であった場合には、みなさんは疑うことができるでしょうか。STEMI患者であれば、発症から再灌流までの時間を可能な限り短くする必要があります。そのためには、より早期に疑い対応できるか、具体的にはいかにして疑い心電図をとることができるかがポイントとなります。今回はその辺を中心に一緒に考えていきましょう。急性冠症候群はいつ疑うべきなのか?胸痛を認める場合「胸痛を認めていれば10分以内に心電図を確認する」。これは救急外来など初療に携わる人にとって今や常識ですね。痛みの程度がたいしたことがなくても、「ACSっぽくないなぁ」と思っても、まずは1枚心電図検査を施行することをお勧めします。何でもかんでもというのは、かっこ悪いかもしれませんが、非侵襲的かつ短時間で終わる検査でもあり、行うことのメリットが大きいと考えます。胸痛を認めACSを疑う患者においては、やはり大動脈解離か否かの鑑別は非常に重要となります。頻度は圧倒的にACSの方が多いですが、忘れた頃に解離はやってきます。まずはシンプルに理解しておきましょう。突然発症(sudden onset)であった場合には、大動脈解離をまず考えておいたほうがよいでしょう。ACSも急性の胸痛を自覚することが多いですが、大動脈解離はそれ以上に瞬間的に痛みがピークに達するのが一般的です。数秒内か数分内かといった感じです。「なんだか痛いな、いよいよ痛いな」というのがACS、「うわぁ!痛い!」というのが解離、そんな感じでしょうか。皮膚所見は必ず確認ACSを数時間の診療内にカテーテル検査を行わずに否定することは意外と難しく、HEART score(表1)1)などリスクを見積もるスコアリングシステムは存在しますが、低リスクであってもどうしても数%の患者を拾いあげることは難しいのが現状です。しかし、胸痛の原因となる疾患がACS以外に確定できれば、過度にACSを心配する必要はありません。画像を拡大する画像を拡大する高齢者の胸痛の原因として比較的頻度が高く、発症時に見逃されやすい疾患が帯状疱疹です。帯状疱疹は年齢と共に増加し、高齢者では非常に頻度の高い疾患です。痛みと皮疹のタイムラグが数日存在(長ければ1週間程度)するため、発症時には皮疹を認めないことも多く診断では悩まされます。胸痛患者では心電図は必須であるため、胸部誘導のV6あたりまでは皮膚所見が勝手に目に入ってくるとは思いますが、背部の観察もきちんと行っているでしょうか。観察を怠り、ACSの可能性を考えカテーテル検査が行われた症例を実際に耳にします。皮疹がまったくない状態でリスクが高い症例であれば、カテーテル検査を行う状況もあるかもしれませんが、明らかな皮疹が支配領域に認められれば、帯状疱疹を積極的に疑い、無駄な検査や患者の不安は回避できますよね。疼痛部位に加えて、神経支配領域(胸痛であれば背部、腹痛であれば背部に加え臀部)は必ず確認する癖をもっておくとよいでしょう。胸痛を認めない場合ACSを疑うことができなければ、心電図をオーダーしないでしょう。いくら高感度トロポニンなど有効なバイオマーカーが存在していても、フットワークが軽い循環器医がいても、残念ながら目の前の患者さんを適切にマネジメントできないのです。胸痛を認めない患者とは(1)高齢、(2)女性、(3)糖尿病、これが胸痛を認めない心筋梗塞患者の3つの代表的な要素です。2型糖尿病治療中の80歳女性の約半数は痛みを認めないのです2,3)。これがわずか数%であれば、胸痛がないことを理由にACSを否定することが可能かもしれませんが、2人に1人となればそうはいきません。3大要素以外には、心不全や脳卒中の既往症がある場合には、痛みを認めないことが多いですが、これらは普段のADLの低下や訴えが乏しいことが理由でしょう。既往症から心血管系イベントのリスクが高い患者ということが認識できれば、虚血性病変を疑い対応することが必要になります。胸痛以外の症状無痛性心筋梗塞患者の入口はどのようなものでしょうか。言い換えれば、胸痛以外のどのような症状を患者が訴えていたら疑うべきなのでしょうか。代表的な症状は表2のとおりです。これらの症状を訴えて来院した患者において、症状を説明しうる原因が同定できない場合には、ACSを考え対応する必要があります。65歳以上の高齢者では後述するcoronary risk factorが存在しなくても心筋梗塞は起こりえます。年齢が最大のリスクであり、高齢者ではとくに注意するようにしましょう。画像を拡大するたとえば、80歳の女性が嘔気・嘔吐を主訴に来院したとしましょう。バイタルサインは意識も清明でおおむね安定しています。高血圧、2型糖尿病、脂質異常症、骨粗鬆症の指摘を受け内服加療中です。さぁどのように対応するべきでしょうか。そうです、病歴や身体所見はもちろんとりますが、それと同時に心電図は一度確認しておきましょう。症状が数日持続している、食欲は通常どおりあるなど、ACSらしくないなと思ってもまずは1枚心電図を確認しておくのです。入口を広げると、胸痛ではなく失神や脱力、冷や汗などを認める患者においても「ACSかも!?」と思えるようになり、「胸痛はありませんか?」とこちらから問診できるようになります。患者は最もつらい症状を訴えるのです。胸痛よりも嘔気・嘔吐、脱力や倦怠感が強ければ、聞かなければ胸痛を訴えないものなのです。Coronary risk factorACSを疑った際にリスクを見積もる必要があります。冠動脈疾患の家族歴、高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙者、慢性腎臓病などはリスクであり、必ず確認すると思いますが、これらをすべて満たさない場合にはACSは否定してよいのでしょうか。答えは「No」です。 年齢が最大のリスクであり、65歳以上の高齢者では、前述したリスクファクターのどれも該当しなくても否定してはいけません。逆に40~50代で該当しなければ、可能性はきわめて低くなります。ちなみに家族歴はどのように確認していますか? 「ご家族の中で心筋梗塞や狭心症などを患った方はいますか?」と聞いてはいませんか。この問いに対して、「私の父が80歳で心筋梗塞にかかった」という返答があった場合に、それは意味があるでしょうか。わが国における心筋梗塞の平均発症年齢は、男性65歳、女性75歳程度です。ですから年齢を考慮すると心筋梗塞にかかってもおかしくはないなという、少なくともそれによって診療の方針が変わるような答えは得られませんね。ポイントは「若くして」です。先ほどの問いに対して「私の父は50歳で心臓の病気で亡くなりました」や、「私の兄弟が43歳で数年前に突然死して、不整脈が原因と言われました」といった返答があれば、今目の前にいる患者さんがたとえ若くても、家族歴ありと判断し、慎重に対応する必要があるのです。さいごに胸痛を認めればACSを疑い、対応することは誰もができるでしょう。しかし、そもそも疑うことができず、診断が遅れてしまうことも一定数存在するはずです。高齢者では(とくに女性、糖尿病あり)、入口を広げること、そして帯状疱疹に代表される心筋梗塞以外の胸痛疾患もきちんと鑑別に挙げ、対応することを意識してください。次回は、意識障害のピットフォールに戻り、アルコールによる典型的な意識障害のケースを学びましょう。1)Poldervaart JM, et al. Ann Intern Med. 2017;166:689-697.2)Canto JG, et al. JAMA. 2000;283:3223-3229.3)Bayer AJ, et al. J Am Geriatr Soc.1986;34:263-266.

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第9回 QRS電気軸で遊ぼう~トントン法の魅力~【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第9回:QRS電気軸で遊ぼう~トントン法の魅力~QRS電気軸が「正常軸」か「◯軸偏位」かについては、I誘導とaVF(またはII)誘導のQRS波の「向き」だけを見れば説明可能でしたね。今回の問題となる「角度は何度か」については、そこから少し工夫するだけで求めることができるため、ちょっとした“ゲーム感覚”で楽しいですよ。電気軸の本質に近づく、そんなレクチャーをDr.ヒロが提供します。症例提示47歳、女性。不定期の胸痛を主訴に来院。安静時心電図を以下に示す(図1)。(図1)受診時心電図画像を拡大する【問題】心電図のQRS電気軸は何度か?解答はこちら+30°(または自動診断の+35゚)解説はこちらQRS電気軸に関する定性的な議論であれば、I誘導とaVF(II)誘導のQRS波の「向き」に着目すればカンタンです。右軸・左軸偏位の頭の整理法も含めて前回述べました(第8回)。図1も、I、II、aVF誘導のQRS波がいずれも上向きなので、「正常軸」となりますね。でも、今回の問題では“何度か?”と尋ねられています。そんな時はまず、心電計にお伺いを立てましょう。上の自動診断の欄を見ると「軸:35度」となっているので、これを丸々写しても正解とします。今回は、心拍数のオリジナル計算法(検脈法:第3回)と同様に、定規もコンパスも計算機もなーんにも使わなくとも、己の頭だけで電気軸のおおまかな数値が言えるよ、というやり方を伝授しましょう。今回、ボクが紹介する方法を“トントン法”と名付けています。『またふざけたネーミング…(怒)』なんて言わないで。この手法を使えば、キチンと数値でQRS電気軸が言えるようになります。もともと難しいと敬遠されがちな電気軸の話なので、あまり考え込まずに“ゲーム感覚”で捉えましょう。何でもそうですが、心電図も各所で楽しむことが長く続けるコツだと思います。まず、次の図で説明します(図2)。図中のカメラ片手の宇宙人を自分の目線と考えてください。この宇宙人、ボクの大のお気に入りで今後も各所で登場します(笑)。(図2)心電図波形描写の基本事項画像を拡大する杉山 裕章. 心電図のみかた、考えかた[基礎編]. 中外医学社;2013.p.54.を改変心臓は、電気の流れ(刺激)を収縮(興奮)が後追いします。ボクが常々大切だと思っていることの一つに、「誘導は視点と言い換えよ」というものがあります。そして、心電図の基本ルールでは視点(誘導)に興奮が向かってくる時に、その誘導(視点)は上向き(陽性)の波として描かれます(図2、A点)。逆に、電気を見送る(離れていく)側なら、完全に下向き(陰性)の波となります(図2、B点)。これが「単極誘導」の考え方になります。では、電気興奮の流れと垂直方向かつ中点であるC点での波形はどうなるか、考えてみてください。最初の半分は興奮が近づいてきて、残り半分は遠ざかっていきますでしょ?…すると、時間経過も加味して前半が「上向き」、後半が「下向き」の波形となりますが、A点とB点のちょうど真ん中がC点ならば、両者の波の高さ・深さが同じになるはず。つまり“トントン”なんです。実は、これがトントン法のミソ、というか、逆転の発想をしようということなんです。実際のやり方は、今回の問題の心電図(図1)を使って解説します。電気軸ですから、方向性に強い肢誘導に注目するのは変わりません。上からザーッと見て“トントン”になっているQRS波を探すのです。すると…ありますでしょ。この症例ではIII誘導が該当します(図3)。基線に対して上向き(R波),下向き(S波)とも4mmちょっとの波となっています。(図3)症例のIII誘導を抜粋画像を拡大するこの部分を“トントン・ポイント(略してTP)”と、ボクは言っています。これに出くわすと、嬉しくなるのはボクだけ?これを“肢誘導の世界”で考えてみましょう。円座標で表現される心臓の前額断、だいぶ見慣れましたか?I誘導が±0゜で、II、III誘導はおのおの60°、120°と時計方向に回った場所でした(第8回)。この場合のTPはIII誘導ですから、「+120°」となるわけです(図3)。TPさえわかったら、もうひと頑張り。“ゴール”は近いですよ。(図4)“トントン法”によるQRS電気軸の求め方画像を拡大する先述の基本事項(図2)を意識して下さい。心室興奮が向かう方向(QRS電気軸)は、TPであるIII誘導(+120°)に垂直な矢印A(+30°)ないし、その正反対の矢印B(-150°)となります。さあ、正解は一つ。さて、どちらでしょう?それはI誘導が教えてくれますよ。これはイチエルゴロク(I、aVL、V5、V6)チームの一員で、心臓を真左から観察する誘導でした。心電図(図1)では、I誘導のQRS波はバッチリ上向き(陽性)です。つまり、全体的な心室興奮はI誘導に近づいて来ているはずで、矢印Aか矢印Bで選ぶなら左向きな前者の「+30°」が“真の方向”となります。これでQRS電気軸の方向が求まりました。最後にトントン法の概略をまとめておきます。■トントン法によるQRS電気軸の求め方■1)“方向性”に強い肢誘導のQRS波に着目する2)“トントン”(上向き波≒下向き波)となっている誘導(TP:トントンポイント)を探す。3)TPに直交する2方向のいずれかが真の電気軸で、I誘導などのQRS波の向きがうまく説明できるほうを選択する。さて、どうでしたか? トントン法って、なんだかゲームみたいでしょ? 細かいことがわからなくても、なんだかビシッと当たると嬉しくないですか? もしも、上下トントンの誘導が見当たらない場合、上向きと下向きの差が一番小さい誘導を“仮TP”として同じ議論をしてください。補足ですが、第8回で「正常軸」と判定した心電図の電気軸もこの考え方を使えば、TPであるaVL誘導(-30゚)を見て「+60°」と求めることができますよ(自動計測は“57度”となっています)。このように、肢誘導の世界は各誘導が“30°刻み”であり、おおむね電気軸も30°単位で求めることができるので、皆さんもぜひ試してみてください。かつて、ボクがP波も何もわからなかった時期、一章まるまる電気軸の求め方に割いた英書の日本語訳本を持っていました。残念ながら、卒業・転居そのほかに紛れて、その本は現在、ボクの手元にはありません(現在は絶版となっている様子)。ただ、この本での基本が頭に鮮明に残っていて、“トントン法”という愛称をつけて、皆さんにわかりやすく紹介することにしました(日本でもよく読まれているMarriottの心電図テキスト*でも、簡潔な既述ながら同様の方法が紹介されています)。でも、オリジナルの方法に何か少ーし物足りなかったDr.ヒロは、トントン法を改良し、もう少し細かい議論ができる“トントン法Neo”を完成させました。第11回で紹介しますので、乞うご期待!(*Wagner GS, et al. Marriott Practical Electrocardiography 12th ed. Philadelphia:Lippincott Williams & Wilkins;2013.p.54-57.)Take-home Message1)“トントン法”を活用すればQRS電気軸(角度)は自分でも求めることができる。2)“遊び心”が心電図の勉強を楽しくする!【古都のこと~善峯寺~】西国三十三所の第二十番、善峯寺(山号:西山)は、平安中期の長元2年(1029年)開山で、言わずと知れた紅葉の名所です。この素敵な紅葉に出会うには、広大な敷地を足で稼がねばなりません。周遊途上で遭遇する遊龍の松や幸福地蔵、桂昌院(徳川綱吉公の生母)ゆかりの品々…紹介に値するものが多く、1枚の写真では到底表現できません。さらに、京都市街の眺望が圧巻だったこと! 市内の観光スポットとはまた異なる秋の趣が、筋肉痛とともに心身に刻まれました。

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第17回 内科からのレボフロキサシンの処方(後編)【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

前編 Q1予想される原因菌は?Q2患者さんに確認することは?Q3 疑義照会する?しない・・・8人PRSPを想定? 荒川隆之さん(病院)しません。経口へのスイッチングの場合、わざわざブロードスペクトルであるレボフロキサシンにする必要性は低く、クラブラン酸/アモキシシリンなどでもよい気はするのですが、ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)を想定されているのかもしれません。ガイドラインを参考に 奥村雪男さん(薬局)疑義照会しないと思います。JAID/JSC感染症治療ガイド2014でdefinitive therapyとして推奨される治療に、PSSP外来治療の第二選択と、PRSP外来治療の第一選択にレボフロキサシンが記載されています。投与期間については、「症状および検査所見の改善に応じて決定する。5~7日間が目安となる」とあるので、セフトリアキソン4日間+レボフロキサシン5日間で、不自然な日数ではないと思います。する・・・3人ガレノキサシンへの変更提案 清水直明さん(病院)発熱・呼吸器症状・食欲不振があるので、喘息発作ではなく呼吸器感染症と考えます。本来、肺炎球菌と確定しているのならば高用量ペニシリンを推奨すべきところですが、肺炎球菌の検査をしたかどうか、胸部レントゲンも撮ったかどうか不明確ですので、外来静注抗菌薬療法後のスイッチ療法としてはキノロン系抗菌薬もありだと思います。ただし、幾つかの成書から呼吸器感染症に対してはレボフロキサシンよりもガレノキサシンが有効性が高いと思いますし、特に、肺炎球菌に対してはレボフロキサシンとガレノキサシンのMICは結構異なっているので、「レボフロキサシン500mgでも特別問題ないかもしれませんが、より有効性を期待するという意味で、ジェニナック®錠 1回400mg 1日1回をお勧めします」と提案します。アモキシシリン高用量かアジスロマイシン単回投与に JITHURYOUさん(病院)疑義照会します。喘鳴がなく、熱があることを考えると、喘息発作ではなく呼吸器感染症でいいと思います。食欲がない、発熱からも肺炎の可能性があると考えます。その場合、呼吸器学会の鑑別基準でいくと、1~5の項目で3項目が該当するため非定型肺炎の可能性があると思われます。喘息があることや、非定型のカバーを考えるとレボフロキサシン経口内服指示は理解できます。しかし、セフトリアキソン点滴に効果があることから非定型肺炎はカバーしなくてよいと思います。PRSPである場合は、レボフロキサシン投与もうなずけます。しかし、結核のリスクがあること、喘息の管理としてステロイド吸入やマクロライド系抗菌薬を使用していないこと、飲酒習慣などもなく耐性菌リスクが少ないのではないかと考えられるため、今回のレボフロキサシンの処方は一考した方がいいのではないかと考えました。アモキシシリン高用量かアジスロマイシン単回投与(アドヒアランス考慮)を提案すると思います。細菌性肺炎と非定型肺炎の鑑別1.年齢60 歳未満2.基礎疾患がない、あるいは軽微3.頑固な咳嗽がある4.胸部聴診上所見が乏しい5.喀痰がない、あるいは迅速診断で原因菌らしきものがない6.末梢血白血球数が10,000/μL未満である1-6の6項目中4項目以上合致した場合、非定型肺炎の感度77.9%、特異度93.0%。1-5の5項目中3項目以上合致した場合、非定型肺炎の感度83.9%、特異度87.0%日本呼吸器学会呼吸器感染症に関するガイドライン作成委員会.成人市中肺炎診療ガイドライン.東京、日本呼吸器学会、2007.Q4 抗菌薬について、患者さんに説明することは?再受診のタイミングや他院受診時の注意 ふな3さん(薬局)必ず指示された日(3日後)から服用を開始すること食欲がなくても、食事が取れなくても、毎日必ず1錠服用すること症状が改善しても5 日分服用を続けること服薬して3日以上(=治療開始から7日以上)経過しても症状が改善しない場合には、すぐに医療機関を再受診すること他院(喘息治療など)に通院の際は、必ずレボフロキサシンを服用中であることを伝えることしっかり飲みきることと副作用について JITHURYOUさん(病院)耐性菌が出現しないよう、しっかり飲み切ること。確率は低いですが、アキレス腱炎や痙攣、光線過敏症などに気を付けること。患者さんへの説明例 清水直明さん(病院)「薬のせいでお腹が緩くなることがあります。我慢できる程度の軽い症状ならば抗菌薬をやめれば戻るので問題ありませんが、ひどい場合には服用を中止してご連絡ください」「牛乳などの乳製品や一部の制酸薬や下剤、貧血の薬(鉄剤)と一緒に服用すると効果が弱くなる可能性があるので、抗菌薬服用の前後2時間はそれらの摂取を避けるようにしてください」併用薬はなしとのことですが、OTCやサプリメントを服用している可能性はあり、その中に相互作用を起こすアルミニウムやマグネシウムなどが入っていることがあるので、一応伝えておきます。結核検査をしていた場合 キャンプ人さん(病院)「4日間点滴後の内服薬なので、飲み始める日にちを間違えないようにしてください」と言います。結核の検査をしていたなら、病院から検査結果の連絡があれば必ず受診するなど、そのままほったらかしにしないよう説明します。車の運転について 柏木紀久さん(薬局)3日後からの服用を理解しているかの確認と、5日間きちんと服用してもらうこと。車や機械などの運転を極力控えること。Q5 その他、気付いたことは?肺炎球菌→レボフロキサシン? 中堅薬剤師さん(薬局)肺炎球菌にすぐレボフロキサシン、はオーバートリートメントかな、と個人的に思います。できれば、アモキシシリン5~7日の投与で十分とコメントしたいです。地域のアンチバイオグラムは? 荒川隆之さん(病院)原因菌も肺炎球菌とされているので、通常ならレボフロキサシンではなく、クラブラン酸/アモキシシリンなどの経口の方が適しているものと考えますが、原因菌がPRSPであった場合は、レボフロキサシンでもよいのかもしれません。PRSPかどうかは尿中抗原などでは診断が付かず、培養の結果を待たなければなりません。喀痰培養などで肺炎球菌は増殖しづらく、処方の時点でPRSPだと断定はできていないものと考えます。地域のアンチバイオグラムにおいてPRSPの頻度が高い地域なのでしょうか。処方タイミング ふな3さん(薬局)4日間の点滴での容体の変化を見て、その後の抗菌薬フォローアップを決めるのが一般的だと思うので、なぜこのタイミングで処方なのかは疑問です。GWや年末年始でクローズする調剤薬局が多いタイミングだったのでしょうか。治療後の残存症状として、喘息症状の遷延や悪化があった場合、喘息治療薬も必要になる可能性があるので、やはり点滴投与後の処方が望ましいと感じます。また、出勤などは控えるように伝えられているのではと思うので、その点も確認したいです。肺炎球菌の耐性度は、ほとんどが中等度まで 奥村雪男さん(薬局)薬剤耐性対策としては可能であれば、レボフロキサシンより高用量のアモキシシリンなどのペニシリンが好ましかったのではと思います。日常診療で遭遇するほとんどの肺炎球菌はせいぜい中等度耐性(MICが1~2μg/mL)であり、高用量のペニシリンで対応可能とされています1)。処方例としては、アモキシシリン500~1,000mgの1日3~4回経口が挙げられています。感受性の結果次第ではペニシリン系を提案 児玉暁人さん(病院)セフトリアキソンで効果があるようであれば、レボフロキサシンでなくてもよいかもしれません。喀痰培養で感受性結果が分かれば、自信を持ってペニシリン系を処方できると思います。判定が早いので迅速キットでの検査だったのかもしれません。検査室がありグラム染色ができれば、その日でも肺炎球菌を想定はできますが。初日に培養を出せば4日目の点滴時には感受性結果が出るはずですので、そこで抗菌薬を決めて処方箋を出すというのでもいいのでは。検査が外注だとそうはいかないのですが。喘息の定期受診と生活指導 JITHURYOUさん(病院)喘息で併用薬なしということですが、本当に定期的な受診をしているのかは不明です。日常生活の支障がないのでしょう。しかし、発作がなくてもステロイド吸入で気道リモデリングの予防と喘息死の予防をすることは欠かせないこと、感染症が発作の引き金になるので合わせて定期受診すべきであることを伝えたいです。男性一人暮らし、ハウスダストアレルギーなので定期的な部屋の掃除なども指導したいですね。また、患者の身長体重から、BMIは17.31となります。やせ型の若い男性で気胸のリスクがあるので、咳が続き胸痛や呼吸困難などの症状があれば受診するように指導します(登山や出張などで飛行機など乗ること、楽器演奏、激しい運動などは治療が終わるまでできれば避けること)。さらに可能であれば、運動を少しずつしていき筋肉や体力をつけていき、呼吸器感染症や喘息、気胸予防をしていくように指導したいです。後日談(担当した薬剤師から)翌週、無事に回復しましたと処方箋を持って来局。咳症状が少し残っていたのでしょう、デキストロメトルファン錠15mgとカルボシステイン錠250mgを1回2 錠 1日3回 毎食後7日分を受け取って帰られました。後日談について 中堅薬剤師さん(薬局)後日談の咳が残るという主訴(おそらく感染後咳嗽)に対して、デキストロメトルファンは微妙かなあと感じました。呼吸器門前で働いてきた経験から、むやみな鎮咳剤投与は無意味ではないか、と考えるようになったからです。本当につらい咳なら、コデイン投与で間欠的にするべきですし、そもそもの治療が奏功していない可能性もあります。そんなにひどくない咳であれば、麦門冬湯でもよいと思います。1)青木眞. レジデントのための感染症診療マニュアル. 第2 版. 東京、医学書院、2008.[PharmaTribune 2017年7月号掲載]

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胎児へのトキソプラズマ垂直感染を抑制する抗原虫薬「スピラマイシン錠150万単位」【下平博士のDIノート】第14回

胎児へのトキソプラズマ垂直感染を抑制する抗原虫薬「スピラマイシン錠150万単位」今回は、「抗トキソプラズマ原虫薬スピラマイシン(商品名:スピラマイシン錠150万単位)」を紹介します。本剤は、妊娠中にトキソプラズマに初感染した妊婦が服用することで、胎児の先天性トキソプラズマ症の発症を抑制します。<効能・効果>本剤は先天性トキソプラズマ症の発症抑制の適応で、2018年7月2日に承認され、2018年9月25日より販売されています。トキソプラズマのタンパク合成を阻害することで、増殖抑制効果を示します。<用法・用量>通常、妊婦に1回2錠(スピラマイシンとして300万国際単位)を1日3回経口投与します。抗体検査や問診などにより妊娠成立後のトキソプラズマ初感染が疑われる場合に使用します。<患者さんへの指導例>1.妊娠中に初めてトキソプラズマに感染した場合に、胎児が感染することで発症する恐れのある「先天性トキソプラズマ症」を防ぐための薬です。2.胎児への感染が確認されないうちは、分娩まで続けて服用します。3.薬によって腸内細菌のバランスが崩れると、便が緩くなったり、おなかが痛くなったりすることがあります。4.高熱、激しい腹痛を伴う血便、めまい、動悸、胸痛などの症状がありましたら、服用をやめてすぐに医師の診察を受けてください。5.母乳中に移行することが報告されているため、本剤を服用中の授乳は避けてください。<Shimo's eyes>トキソプラズマは人畜共通の寄生原虫であり、猫を終宿主としますが、豚、牛、鶏、羊、馬などのほか、食肉用の動物以外も含めて、ほぼすべての哺乳類や鳥類に感染します。ヒトへの主な感染経路としては、加熱不十分な食肉、猫の糞便や洗浄不十分な野菜などによって、トキソプラズマ原虫を経口的に摂取することが挙げられます。また、園芸などの土いじりや砂場遊びが原因になることも考えられます。通常、健康な成人がトキソプラズマに感染した場合、風邪様の症状が出現することもありますが、多くの場合は無症状のまま潜伏感染に移行します。しかし、妊婦がトキソプラズマに初感染すると、胎盤を介して胎児に感染し、先天性トキソプラズマ症を発症する可能性があります。先天性トキソプラズマ症は流産・死産の原因になったり、生まれた子供に水頭症、網脈絡膜炎による視力障害、脳内石灰化、精神・運動機能障害などといった重大な臨床症状が認められたりすることがあるため、胎児への感染を抑制する必要があります。本剤は、抗菌活性に加え、抗トキソプラズマ活性を有する16員環のマクロライド系抗菌薬で、海外の診療ガイドラインではトキソプラズマに初感染した妊婦に対し、本剤が標準的治療薬として推奨されています。しかし、わが国ではこれまでトキソプラズマを適応症として承認されている薬剤はなかったため、日本産科婦人科学会より開発の要望がなされていました。本剤の抗原虫作用はトキソプラズマに対する増殖抑制であり、感染後早期に服用を開始することで、垂直感染が約60%低下するという報告があります。ただし、殺原虫効果はないため、胎児への感染が疑われる場合には、本剤の投与・継続の適否について慎重に検討する必要があります。実際には先天性トキソプラズマ症で生まれてくる児はわずかですが、加熱不十分な食肉を食べること、素手での飼い猫の糞便の処理や土いじりは、トキソプラズマ感染を引き起こすリスクがあることを薬剤師も再認識し、妊娠中または妊娠を予定している患者さんに対して調理方法や手袋の着用、十分な手洗いなどの注意喚起を行えるとよいでしょう。

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拡張型心筋症の治療は回復後中止してよいか/Lancet

 症状および心機能が回復した拡張型心筋症患者では、薬物療法を中止すべきか否かが問題となる。英国・王立ブロンプトン病院のBrian P. Halliday氏らは、治療を中止すると再発のリスクが高まるとの研究結果(TRED-HF試験)を示し、Lancet誌オンライン版2018年11月11日号で報告した。拡張型心筋症患者のアウトカムはさまざまで、多くは良好な経過をたどる。回復した患者における治療中止を前向きに調査したデータはないため、専門家のコンセンサスは得られておらず、明確な推奨を記載したガイドラインはないという。中止と継続の再発リスクを比較する無作為化パイロット試験 本研究は、回復した拡張型心筋症患者における治療中止の安全性を評価する非盲検無作為化パイロット試験(英国心臓財団などの助成による)。 対象は、現在は無症状の拡張型心筋症で、左室駆出率が40%未満から50%以上に改善し、左室拡張末期容積(LVEDV)が正常化し、NT-pro-BNP濃度が250ng/L未満の患者であった。患者登録は、英国の病院ネットワークを通じて行われた。被験者は、治療を中止する群または継続する群に無作為に割り付けられた。 治療中止群は、4週ごとに臨床評価を行い、ループ利尿薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)、β遮断薬、ACE阻害薬/ARBの順に投与を中止した。治療継続群は、6ヵ月後から同様の方法で治療を中止した。6ヵ月までを無作為割り付け期、6ヵ月以降は単群クロスオーバー期とした。 主要エンドポイントは、6ヵ月以内の拡張型心筋症の再発であった。再発の定義は、次の4つのうち1つ以上を満たす場合とした。1)LVEFの10%以上の低下かつLVEF<50%、2)LVEDVの10%以上の上昇かつ正常範囲を超える、3)NT-pro-BNP濃度がベースラインの2倍に上昇かつ400ng/L以上、4)徴候および症状に基づく心不全の臨床的エビデンス。全体の再発率は40%、再発予測因子の確立までは治療継続を 2016年4月21日~2017年8月22日の期間に51例が登録され、治療中止群に25例(年齢中央値:54歳[IQR:46~64]、男性:64%)、治療継続群には26例(56歳[45~64]、69%)が割り付けられた。 6ヵ月までに、治療中止群の11例(44%)が再発したのに対し、治療継続群では再発は認めなかった。Kaplan-Meier法による6ヵ月時の治療中止群のイベント発生率は45.7%(95%信頼区間[CI]:28.5~67.2、p=0.0001)であった。 6ヵ月以降、治療継続群は26例中25例(96%)で治療を中止した(1例は発作性心房細動が疑われたため中止できなかった)。このうち、単群クロスオーバー期の6ヵ月のフォローアップ期間中に9例が再発し、イベント発生率は36.0%(95%CI:20.6~57.8)であった。 したがって、治療を中止した50例中20例(40%)が再発したことになる。再発の原因は、LVEF低下が12例(60%)、LVEDV上昇が11例(55%)、NT-pro-BNP濃度上昇が9例(45%)、末梢浮腫の発現が1例(5%)であった。 両群とも死亡例の報告はなく、心不全による予定外の入院や主要有害心血管イベントもみられなかった。治療中止群で重篤な有害事象3件(非心臓性胸痛、尿路性敗血症、既存疾患への待機的手技のための入院)が認められた。 無作為割り付け期では、治療中止との関連が認められた因子として、LVEF低下(p=0.0001)、心拍数増加(p<0.0001)、拡張期血圧上昇(p=0.0083)、KCCQ(カンザスシティー心筋症質問票)スコア低下(p=0.0354)が挙げられた。 著者は、「再発の頑健な予測因子が確立されるまでは、期限を設けずに治療を継続すべきと考えられるが、患者が治療中止を希望する場合は、注意深く、かつさらなる情報を得るまでは無期限に、心機能の監視を行う必要がある」とし、「今後、心不全の薬物療法を安全に中止可能な患者や、一部の薬剤のみの継続投与によって心機能の恒久的な回復が維持できる患者のサブグループを同定する検討が必要である」と指摘している。

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肩腰膝の痛みをとる Dr.究のあなたもできるトリガーポイント注射

第1回 トリガーポイントとは何か? 第2回 トリガーポイントを見つける 診察の基本 第3回 肩痛で触るべき筋肉 第4回 腰痛は、ヘルニアを探すよりも筋肉を触る 第5回 膝痛では大腿から下腿まで触る 第6回 頭痛のトリガーポイント 第7回 胸痛・腹痛のトリガーポイント 慢性的な痛みを訴える患者さんに出会うのは日常茶飯事。根本的な解決にはならないけれど、唯一の選択肢として鎮痛薬や貼付剤を処方していませんか?整形外科領域の疾患やレッドフラッグを除外しても続く痛みの原因の多くは実は筋肉にあります。 トリガーポイント注射は、これにアプローチする、新しい治療方法です。 なぜ筋肉が原因で身体のあちこちに痛みが生じるのか?そのメカニズムは、実にシンプル。筋肉に痛い箇所がひとつあれば、それを代償するように体を使い、さらに痛みが連続していくのです。遭遇頻度の高い肩痛、腰痛、膝痛、そして、ときに筋肉が原因となっている腹痛や頭痛について、それぞれ診察、触診、注射のポイントを伝授します。第1回 トリガーポイントとは何か? 腰や膝の痛みを訴える患者さんに、鎮痛薬や貼付剤を処方するだけ?これからはトリガーポイント注射も選択肢に入れてください!”筋肉”が原因で慢性的な疼痛が生じるのはしばしばあること。トリガーポイント注射は、筋肉が原因の痛みにアプローチする、新しい治療方法です。 普段、筋骨格系の診察をしない先生でも、明日から実践できるよう、筋肉の位置や名称は3DCGでわかりやすく提示。トリガーポイント注射を第一線で実践する斉藤先生が、診察と注射のノウハウを実技で伝授します。第2回 トリガーポイントを見つける 診察の基本 痛みの原因になっている筋肉はどこなのか。注目すべきは、「痛みがある箇所よりも、つっぱりを感じるところ」。筋肉が短縮しているところにトリガーポイントがあります。今回は、視診、動作、触診とトリガーポイントを特定するための診察ノウハウを伝授。もちろん、見つけたトリガーポイントにどうやって安全に注射をしていくか、そのコツをお伝えします。第3回 肩痛で触るべき筋肉 肩痛で見るべきは、筋肉は3つ。どの筋肉にTPがあるかで、痛みの場所が違います。原因になる筋肉を特定する診察の方法、トリガーポイントを探す触診まで実技でわかりやすく解説します。第4回 腰痛は、ヘルニアを探すよりも筋肉を触る 腰痛の原因は椎間板ヘルニア?もちろんそういう場合は多いですが、神経所見をとると痛みやしびれの原因がヘルニアでないことはよくあります。ヘルニアがあってもなくても、一度トリガーポイントを探索してみましょう。今回は、腰痛を訴える場合に触るべき脊柱起立筋群、殿筋群の診察ノウハウを解説します。さらに、意外な部位にある腰痛の原因も紹介します。第5回 膝痛では大腿から下腿まで触る 膝関節だけに注目しても、痛みが取れない原因は、膝痛には大腿から下腿までの筋肉がかかわっているから。大腿から下腿まで、確認すべき筋肉を、CG、触診、超音波を駆使して立体的に解説します。膝の前面か後面か、痛む部位に応じたトリガーポイントを見つけるコツを詰め込みました。第6回 頭痛のトリガーポイント 緊張性頭痛や片頭痛といった頭痛には肩、首、顔、頭の筋肉が関与している可能性があります。レッドフラッグを除外しても、鎮痛薬を処方しても、継続する頭痛に、トリガーポイントを取り入れることで苦痛を和らげられる可能性が大きく広がります。触るべき筋肉の位置とトリガーポイント、触診のコツを押さえましょう。第7回 胸痛・腹痛のトリガーポイント 筋肉があれば、そこにはトリガーポイントが形成される可能性があります。人間は全身筋肉に覆われているので、どの部位であってもトリガーポイントによる痛みが生じるとも言えます。胸部のトリガーポイントでは狭心症と見まがう痛みを生じることがあります。腹部では逆流性食道炎や過敏性腸症候群、胃潰瘍など消化器疾患と似た症状がでることも。いずれも触るべき筋肉の解剖と触診、超音波像で診察のポイントを解説します。

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日本の常識、世界の常識(解説:野間重孝氏)-931

 2015年にLancet誌(オンライン版)に発表されたSCOT-HEART試験は、安定胸痛患者の管理に冠動脈造影CT(CTA)を利用することにより、診断精度、診断頻度を上げることができることを示したが、フォローアップ期間が短かったこともあり、非致死性・致死性心筋梗塞の発症頻度の低下を証明することはできなかった(低下傾向はみられたが統計学的有意差が得られなかった)。このことから、CTAの利用が非致死性・致死性心筋梗塞の発症を低下させることを示すことを主な目的として、同研究グループが前研究の参加者を対象に5年間(中間値で4.8年)の長期フォローを行ったのが本研究である。結果: 1. 主要評価項目の5年発生率は、標準治療群3.9%(81例)に対し、CTA群2.3%(48例)と、CTA群が有意に低いことが示された(ハザード比[HR]:0.59、95%信頼区間[CI]:0.41~0.84、p=0.004)。 2. 侵襲的冠動脈造影と冠血行再建術の実施率は、追跡開始当初の数ヵ月間はCTA群で標準治療群より高率だったが、5年時点では両群で同程度に認められた。 3. 一方で、予防療法や抗狭心症療法を開始した患者の割合は、CTA群が標準治療群より多かった。 4. 心血管系の原因による死亡、心血管以外の原因による死亡、全死因死亡の発生率は、いずれも両群で有意差は認められなかった。彼らの結論を要約すれば: 1. 安定胸痛の患者に対し、標準治療に加えCT冠動脈造影(CTA)を行うことで、5年間の非致死性・致死性心筋梗塞の発生リスクを約4割低下させることができる。 2. 一方、侵襲的冠動脈造影や冠血行再建術の5年実施率は、両群で有意差が認められなかった。 結論の1と2の関係に戸惑う人もいるかもしれない。実際率直な疑問として、冠動脈造影・血行再建の実施率に差がないのに、どうして非致死性・致死性心筋梗塞の発症に差がなかったんだろう、と素朴な疑問をお持ちになる方も多いのではないかと思う。 致死性心筋梗塞の発症、非致死性心筋梗塞の発症ともに、時間を追うごとに差が開いていっている。この差が約4割に達したのである。 侵襲的CAGの施行、血行再建の割合は両者で差がついていない。 なぜ差がつかなかったかについては、CTA非活用群では診断がきちんとなされないまま、フォローされているうちに非致死性・致死性心筋梗塞がどんどん発症してしまい、その結果としてこういう集団がフォローアップから脱落し、結果CAGや血行再建の頻度に差がでなかったと解釈されるのである。さらに、早期の血行再建だけではなく、診断確定の有無により両群で至適内科療法の実施状況に差があったことも当然挙げられなくてはならないだろう。 そんなに差がでるものか? フォローアップの姿勢に問題があったんじゃないのか? と思われる方もいらっしゃると思う。ここであらためてご注意したいのは、彼らがフォローしたのは“stable chest pain”であって“stable angina”ではないことで、実際、論文中で著者らが「おそらく半数は実際には有意な動脈硬化を持っていない可能性がある」という記述をしていることである。英国全体における虚血性心疾患の取り扱いがどうなっているかまでは言及できないが、少なくとも彼らが扱った集団のフォローアップ体制はその程度だったのであり、それは世界的にみても決して珍しいことではないのである。 一方、以上の結果をみて「なんだ、当たり前じゃないか」と思われる方も多いのではないかと思う。わが国においては心電図・胸部レントゲン写真・経胸壁心エコー図等のスクリーニング項目を一通りこなして、少し怪しいと思った患者に対してCTAを撮るのは当たり前になっている。以前は運動負荷が行われたが、現在では運動耐容量の不明な狭心症患者に対していきなり運動負荷検査を行うことは危険であり、運動負荷検査は(決まりきった健康診断のスクリーニングを除けば)すでに診断の確定した狭心症患者の運動耐容量の決定に用いられるほうが普通になっている。 しかし、わが国において以上は常識とされているが、日本以外の国においては必ずしもそうではないことには注意が必要である。日本はCTの普及率がOECD加盟国の中でも群を抜いた1位であり(世界CTの10台に1台はわが国にある)、簡単に造影CTができる環境にある。また健康保険制度が整備されているため、収入の低い人であってもCTやシンチグラムなどの高価な検査を受けることができる。さらに、わが国では患者はどの医療機関にも原則自由にアクセス可能である。これらは世界ではまれなことであることを認識しておかなければ、現在の日本の医療に対する評価を誤ることになる。 本研究はCTAの、というよりも虚血性心疾患の治療において、速やかかつ正確な診断がいかに重要であるかを示した論文として、重要な研究であると考える。さらにいえば、医療と医療費の問題についてあらためて考えさせられた論文であったともいえる。

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脂肪が減ると死亡が増える!?:“imaging biomarker”としての新しいCTCAの使い方(解説:中野 明彦 氏)-924

【冠動脈CT:CTCAの現在地】 質問です。皆さんはどんな目的でCTCAをオーダーされますか? 「その胸痛から虚血を否定したい」「冠動脈狭窄を確かめたい」「冠動脈疾患のリスク;冠動脈カルシウムスコア(CCS)が知りたい」「プラークの不安定化を知りたい」「薬剤の効果;プラーク安定化を知りたい」。あるいはもっと高度に「FFR-CTや心筋灌流CTで冠動脈病変の機能性評価をしたい」でしょうか? さらにもう1つ。CTCAの結果、狭窄度が50%以下だったら、その患者さんには今後どのように対処されますか? CTCAは装置がどんどん多列化し解析プログラムも多様化し、その診断精度は向上、臨床応用の範囲は広がり患者さんにも優しい検査へと日進月歩で進化しています。しかし、評価対象の中心が冠動脈の内腔(狭窄度)あるいはプラークであることに変わりはありません。また「中等度リスクを有する症候性症例、あるいは急性冠症候群(ACS)を疑う胸痛についてはECG/enzyme変動のない低~中等度リスクの症例」を適応とする現行のガイドラインがCTCAに期待しているのは、高度狭窄性病変の有無を判定し“今”を切り取ることでしょう。【CTCAでの予後予測は?】 冠動脈病変を有する患者の予後を左右するのは、言うまでもなくACSの発症です。そして命運を決するのは狭窄度ではなくプラークの性状(質)だということもわかってきています。最近はCTCAから得られたプラークで“将来”を予測できるか、という検証結果が集積されつつあります。メタ解析では微小石灰化・低吸収プラーク・陽性リモデリング・ナプキンリングサインで定義されるhigh risk plaque(=不安定プラーク)とACS発症との強い関連が示されました。【CRISP CT studyの描く新機軸】 一方20年も前から、(冠)動脈硬化は炎症性疾患であり、その炎症がACSの引き金となるプラーク破綻を惹起する、と指摘されています。つまりCTCAで検証されている不安定プラークは現在進行中の炎症の「結果」を見ていることになります。これまで炎症のbiomarkerとして高感度CRPや一部のサイトカインが報告されていますが、冠動脈硬化に特異的ではなく、ましてや炎症の局在などわかるはずもありません。 では、その炎症が可視化・定量化できるとしたらどうでしょう。 本研究ではin vitro・ex vivo・in vivoで実証された「血管の炎症が周囲のpreadipocyteの分化・成熟を抑制し、adipocyteの脂肪含有量を減少させる」という事実から、これまで見向きもされなかった冠動脈の外側に着目したのです。通常のプロトコルで撮像されたCTCAを用いて主要冠動脈近位部でのfat attenuation index(FAI)を算出し、炎症のサロゲートマーカーとしました。 3枝間のFAI相関が良好だったため右冠動脈のFAIを中心に解析、4.5~6年間の予後(総死亡・心臓死)との関連が証明されただけでなく、FAIはさらに、古典的冠危険因子・高感度CRP・冠動脈石灰化・high risk plaqueなどとは独立した予後予測因子でした。【CRISP CT studyの歯応え】 ACSの半数は狭窄度50%以下の「病変」から発症すると言われており、したがって冠動脈造影やCTCAでの狭窄度評価からその発症予測は困難です。50%以上の狭窄性病変の有無にかかわらずFAI陽性(cut off値≧-70.1HU)例で心臓死に高いハザード比を示した本試験は、図らずしもそれを裏付けました。たとえ有意な冠動脈病変がなくてもaggressive preventionが必要な症例があり、imaging biomarkerとしてのFAIはその層別化に有用な可能性があります。 本試験は炎症局所でのイベント発生を予測するものではありません。むしろ、3枝のFAIが良好に相関していた事から考えれば、冠疾患症例は冠動脈全体に炎症(pan-vasculitis)が生じうるvulnerable patientとして捉えるべきなのかもしれません。 もちろん、今後の検証が必要な課題もあります。 たとえば、炎症の強い局所でイベントが起こりやすいのかどうか、それを予測できるのかどうか。 あるいは薬剤の介入がどう反映されるのか。折しもPCSK-9阻害薬や抗IL-1βモノクローナル抗体など強力かつ高価な抗動脈硬化薬が登場し、residual riskをどうコントロールするかに注目が集まっています。imaging biomarkerがこうした薬剤の効果判定、on-offのタイミングの見極めに役立つかもしれません。 さらに日常臨床をそのまま当てはめた本研究の解析対象は、50%狭窄以上が14~15%、観察期間内の心臓死が1~2%と結果的にはリスクの高くない症例群でした。これがガイドラインに下支えされたCTCAの現状かもしれませんが、もっとリスクの高い症例、あるいは無症候性の1次予防群だったらどうなのでしょうか? 今後の研究が待たれます。 これまでimaging biomarkerの代表格はcoronary calcium score(CCS)でしたが、残念ながらこれはirreversibleな指標です。おそらくreversibleと考えられるFAIを使ったプロジェクトが順調に進んでいけば、いつかガイドラインが変更される日が来るかもしれません。

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肩腰膝の痛みをとる Dr.究のあなたもできるトリガーポイント注射

CareNet DVD「肩腰膝の痛みをとる Dr.究のあなたもできるトリガーポイント注射」をお買い上げいただき誠にありがとうございます。第3回~7回では、関連する筋肉の超音波画像をご用意しております。本編と合わせてご利用ください。※予告なく資料配布を終了する場合がありますので、あらかじめご了承下さい。ダウンロード【第3回 肩痛】棘上筋・棘下筋・肩甲挙筋・上腕二頭筋PDFを表示こちらからダウンロード【第4回 腰痛】脊柱起立筋群・殿筋群PDFを表示こちらからダウンロード【第5回 膝痛】外側広筋・内側広筋・大腿二頭筋腓腹筋・膝窩筋・ヒラメ筋PDFを表示こちらからダウンロード【第6回 頭痛】胸鎖乳突筋・頭板状筋・僧帽筋頸板状筋・咬筋・側頭筋PDFを表示こちらからダウンロード【第7回 胸痛・腹痛】大胸筋・小胸筋・前鋸筋・肋間筋僧帽筋・中斜角筋・前斜角筋・腹直筋腹斜筋・腸腰筋・下後鋸筋・脊柱起立筋群PDFを表示こちらからダウンロード【一括ダウンロード】肩痛・腰痛・膝痛・頭痛・胸痛・腰痛こちらからダウンロード関連番組のご紹介(CareNeTV)プライマリ・ケアの疑問 Dr.前野のスペシャリストにQ!(整形外科編)(全14回)シリーズ解説:プライマリ・ケア医が日頃の診療で感じる疑問や悩みに、その分野の専門医が一問一答で答えるQ&A番組。今回は整形外科がテーマです。肩痛や腰痛、膝痛の診断方法や治療といった前野哲博先生が厳選した疑問に、スペシャリスト斉藤究先生がズバリお答えします。CareNeTVはこちら斉藤究氏の番組ページはこちら

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安定胸痛への標準治療+CTA、5年アウトカムを改善/NEJM

 安定胸痛の患者に対し、標準治療に加えCT冠動脈造影(CTA)を行うことで、5年間の冠動脈疾患死または非致死的心筋梗塞の発生リスクは約4割低下することが示された。侵襲的冠動脈造影や冠血行再建術の5年実施率は、いずれも増加は認められなかったという。英国・エジンバラ大学のDavid E. Newby氏らによる、Scottish Computed Tomography of the Heart(SCOT-HEART)試験の結果で、NEJM誌2018年9月6日号で発表された。安定胸痛の患者への評価では、CTAにより診断の確実性が増すことが示されていたが、5年後の臨床アウトカムに及ぼす影響は不明であった。5年冠動脈疾患死または非致死的心筋梗塞の発生を評価 SCOT-HEART試験では、安定胸痛を有し、その評価を目的に循環器診療所に紹介された18~75歳の患者4,146例を対象に、非盲検多施設共同並行群間比較試験を行った。 研究グループは被験者を無作為に2群に分け、一方の群には標準治療に加えCTAを(2,073例)、もう一方には標準治療のみを行った(2,073例)。 主要評価項目は、5年時点における冠動脈疾患死または非致死的心筋梗塞の発生だった。予防療法・抗狭心症療法の実施率がCTA併用群で1.3~1.4倍 追跡期間中央値は4.8年、2万254患者年を追跡した。 主要評価項目の5年発生率は、標準治療群3.9%(81例)に対し、CTA群2.3%(48例)と、CTA群が有意に低かった(ハザード比[HR]:0.59、95%信頼区間[CI]:0.41~0.84、p=0.004)。 侵襲的冠動脈造影と冠血行再建術の実施率は、追跡開始当初の数ヵ月間はCTA群で標準治療群より高率だったが、5年時点では両群で同程度に認められた。侵襲的冠動脈造影の実施者は、CTA群491例、標準治療群502例(HR:1.00、95%CI:0.88~1.13)、冠血行再建術はそれぞれ279例、267例だった(同:1.07、0.91~1.27)。 一方で、予防療法や抗狭心症療法を開始した患者の割合は、CTA群が標準治療群より多かった。予防療法のオッズ比は1.40(95%CI:1.19~1.65)、抗狭心症療法は同1.27(1.05~1.54)だった。 心血管系の原因による死亡、心血管以外の原因による死亡、全死因死亡の発生率は、いずれも両群で有意差は認められなかった。

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第1回 心電図の読み“型”伝授します【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

連載を始めるにあたりあなたは今まで心電図をどう習ってきましたか…?こういう症状ならココ、あるいは、この病態を疑ったらココを見る…一般的な心電図教育はこうだと思いますが、ボクに言わせると、これは否。そういうやり方では“心電図の壁”は越えられない。ウン、絶対に。ボクの専門とする心臓病だけに限ったことではありませんが、実臨床の患者さんはバリエーションに富むため、必ずしも思い描いたシナリオどおりにはいきません。今回扱う症例もそう。肺炎の裏に隠れている病態―「胸が痛い」と言わなくても、危険因子がなくっても、心電図は静かにメッセージを発しています。それを“受信”できるか、それが医師としての真価です。さぁ症例スタート!症例提示81歳。男性。COPD、不整脈にて通院中。1週間前より体調不良で食欲も低下、倦怠感あり。息苦しく動けなくなり、家人が救急要請。来院時所見:傾眠。体温36.8℃。血圧78/58mmHg。脈拍数68/分・不整。酸素飽和度90%(マスク6L/分)。胸部CTでは、両肺にブラ散見、浸潤影を認める。以下に来院時心電図を示す(図1)。(図1)来院時心電図画像を拡大する【問題】来院時心電図(図1)の所見として正しいものをすべて選べ。1)洞(性)頻脈2)上室期外収縮ショートラン3)頻脈性心房細動4)右軸偏位5)時計回転6)異常Q波7)ST上昇8)ST低下9)左室高電位(差)10)低電位(差)解答はこちら 3)、6)、7)、8)、9)、10)解説はこちら 記念すべき初回の症例です。COPD加療中の高齢男性で、肺炎か心不全などが疑われる状況です。さて、ここで心電図をどう読むか、それを問うています。1)頻脈(拍)ではあっても、P波がないので基本調律は洞調律ではありませんよ。2)自動診断が上室期外収縮*ショートラン(連発)と指摘していますが、これはマチガイ。*「上室性期外収縮」とも言われますが、日本循環器学会の循環器学用語集の表記に統一しました3)心房細動は○。R-R不整で頻脈、V2誘導に細動波(f波)らしきものがかろうじて見えるため。4)判定がやや難しいですが、軽めの「左軸」偏位のため×。5)「反時計」回転かなぁーというレベル。4)と共に微妙ですが×。そして、なんと残りは全部○。II、III、aVFの下壁誘導の異常Q波とST上昇に気付きましたか? それに加え、aVLとV2~V6のST低下も指摘してください。また、胸部誘導のV5、V6あたりの高電位(差)は目立ちますし、逆に肢誘導は低電位(差)です。一見、相反する所見が共存しているのも面白いところですね。以上を基に心電図から疑われる診断名頻脈性心房細動急性期~亜急性期のST上昇型心筋梗塞(下壁)左室肥大低電位(肢誘導)今回取り上げた男性では、両側の肺炎以外に、心電図から心房細動による頻脈とST上昇型心筋梗塞(下壁)疑いが読み取れなくてはいけません。これは大きな“情報”です。「病歴に[不整脈]とあるし、心房細動は以前からで慢性かなぁ」とか、「心筋梗塞は本当に急性かなぁ? 肺炎にそんなに偶然に合併するかなぁ。胸痛みたいな訴えはないし、ガッツリQ波もできてて、STレベルが後々まで正常に回復せずに残る病態もあるって聞いた気がするし、昔の“傷跡”を見てるだけなのかなぁ」などなど…こうしてあれこれ考えるのは楽しいです。あとは病歴や血液検査、心エコーその他から総合的に考えて判断してください。己の型(かた)を持て!「症例のように与えられた選択肢の○×判定だけならできても、まっサラの心電図を渡されると、どこからどう見ていいのか…トホホ(泣)」なんてヒトいませんか? これがクイズをいくらやっても、臨床には役立たない(ことが多い)最大の理由! だからこそ、ボクはそこに一石を投じたい。形式はクイズでも、それを通してホンモノの心電図の読み方を“共有”できたら最高です。では、どうすればいいのか? 皆さんに“型(かた)”を持ってほしいのです。常に“いつものやり方”で、心電図の“ささやき”を漏れなく拾ってほしいのです。一例として、ボクがここ最近、レクチャーするときに使っている“魔法の語呂合わせ”をご紹介します(図2)。(図2)心電図の読み“型”杉山 裕章. 心電図のはじめかた. 中外医学社;2017.p.142.を改変詳細を見る 心電図が苦手なアナタに送るDr.ヒロ謹製のチェック手順。自分ではなかなかシャレた語呂に仕上がったと思っていますが、どうでしょう? 別にすべての人がこのゴロで読む必要はありません。すでに“オレ流・ワタシ流”の確立した読み方があるなら、それで結構。手段・手順は何でもいいんです。大事なのは“漏れなく”所見を拾うこと。コレがすべてです。現在の日本の心電図教育では、これが大きく欠けていると思います。もしも、あなたに特定の読み“型”がないのなら、ぜひこのやり方で(笑)。この“系統的な判読法”を普及させるのが、ボクの天命の1つと(勝手に)感じています。少し余談ですが、食事で“食べる順番”が大事って話、根拠があって興味深いなぁって思った経験があります。そういう意味では、“読む順番”も大事です。心電図の世界ではね。これから図2の概略を解説します。まずは不整脈のスクリーニング。最初はRが3つなので、“レーサー(R3)・チェック”と呼んでます(笑)。1つでもアウトなら、その人には不整脈があるので、その場合、最後に「この人の不整脈は何?」と振り返る必要があります。1)R-R間隔の整・不整を見た目で即決しましょう。2)心拍数(Rate)はいろいろ。自動診断を信じるか、自分で計算して求めるか。いずれにせよ、50~100/分ならセーフ。3)最後のRは調律(Rhythm)。正常ならサイナス(洞調律)のハズ。次からが、いわゆる波形診断。“ピッ(タリ)”のP波。ここでは、波形から右房と左房の負荷所見(「拡大」がより正確な表現)を読みます。そしてQRS波のチェックに入ります。ここが心電図診断の“花形”の1つです。“ク”のQ波。異常Q波がないか探します。“ルッ(と)”ではR波を見てください。その形状から“スパイク・チェック”とボクは名付けています。R波のチェックは3つ、ズバリ(a)向き、(b)高さ、(c)幅です。1つ目の「向き」は聞き慣れないでしょうが(ボク独特の言い方かも)、ここではQRS電気軸(肢誘導)を第一に見てください。余裕があったら、胸部誘導で「回転」の異常がないかもどうぞ。2つ目の「高さ」では、“高すぎ”または“低すぎ”を見ます。とくに高電位(差)のほうが頻度も高く、臨床的にも重要です。“低すぎ”は、ほとんどが肢誘導の低電位(差)です。3つ目は「幅」を見ましょう。QRS波が一番“おデブ”な誘導でワイド(0.12秒以上)なら、大半は脚ブロックで説明できないか考えます。“スター”はST偏位をチェック。上昇も低下も基線から1mm以上の変化が有意です。すべての誘導を見渡して、確実に拾い上げるべし!“ト”はT波の異常。陰性T(波)の有無がその中心です。余裕があれば、「高さ」も見ます。原理的には、T波にも高低があって、「平低T(波)」など指摘できたら素晴らしい。“バランス”は波同士の距離とか関係性のこと。これもボクしか言ってないかなぁ。少しわかりにくいかも? 前者はPR(Q)間隔とQT間隔が適切か見ます。これは各々P波とQRS波、QRS波とT波との距離に相当します。さらに、先述のレーサー(R3)・チェックから不整脈がありそうなら、P波とQRS波の関係性(ボクの言う“つながり”)はどうかもチェックしてください。ここまでできれば“ゴール”です。心電図だけではだめ。他の情報もプラスせよ欲張りなボクが皆さんに伝えたいもう1つのこと。それは、心電図“だけ”で考えようとしないこと。私たちは、心電図から漏れなく所見を拾い出し、それ単独で診断するのではなく、他の情報も加味して病態を推察し、次の臨床行動に活かすべきです。微力ながら、ボクはそのお手伝いをしたいと思っています。初回から若造が偉そうにすいません。はぁー、でも最初から言いたいことが言えてよかったぁ。マンゾク、満足(笑)。Take-home Message1)心電図は読み“型”が大切。一定の手順で漏れなく読み切ることを常に意識しよう。2)心電図“だけ”では診断せず、患者さん全体を見よう。【古都のこと~予告編~】次回から、自ら撮影した写真と共に、気の向くままに京都を紹介します。関東出身で京都には5年強しか住んでおらず、ネタのストックもまだ不十分なため、初回は自分の“作業環境”を披露します。2018年7月から導入したXPS 9370(DELL)は、約6年使用し、3冊の拙著を世に送り出した前機種への愛着を超えられるでしょうか。制作の効率化と手指への負担軽減に多大に貢献してくれるHHKBキーボード(PFU)にも、“運命の赤い糸”を感じてしまいます。

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小児の胃酸関連疾患の治療課題とPPIなどの薬物療法

 2018年7月13日アストラゼネカ株式会社は、第一三共株式会社と共同販売するプロトンポンプ阻害薬(PPI)エソメプラゾール(商品名:ネキシウム)が、1歳以上の小児への追加承認を本年1月に受け、4月に同薬の懸濁用顆粒分包が新発売されたことを期し、「進化する酸関連疾患治療~子どもの酸関連疾患の治療課題とPPIがもたらす変革を考える~」をテーマとするメディアセミナーを開催した。セミナーでは、小児の胃食道逆流症など酸関連疾患の診療と今後の展望などが解説された(写真は、左:中山 佳子氏、右上:木下 芳一氏、右下:清水 俊明氏)。小児向け治療薬の臨床試験数が少ない日本の現状 はじめに中山 佳子氏(信州大学医学部小児医学教室 講師)を講師に迎え、「小児酸関連疾患の実情とアンメットニーズ」をテーマに講演が行われた。 冒頭、エソメプラゾールが、ほかの国から10年近く遅れて小児適応が承認されたことに触れ、わが国の小児医薬品の開発状況を概説した。今回の小児適応拡大は、2006年に日本小児栄養消化器肝臓学会から出された要望が、ようやく実ったもの。現在でも成人治療薬の約20%程度しか小児適応がないという。とくに小児領域では、対象年齢層(新生児~思春期)が広いこと、対象患者数・投与量の少なさによる採算性からメーカの躊躇などの理由があると、世界的にみても治験数が少ないわが国の問題点を指摘した。 つぎに小児の酸関連疾患の特徴として胃食道逆流症と胃潰瘍、十二指腸潰瘍について説明を行った。小児の胃潰瘍、十二指腸潰瘍ではPPIが有効 小児の胃食道逆流症は、10歳未満の患児3.2%にあると推測され、14歳まででは約3.7万の患児がいると推計されている。こうした患児の主訴は「嘔吐・嘔気」「腹痛」であり、胸やけや呑酸の訴えがない、またはできないために、見逃されやすいという。そのため、咳嗽や喘鳴、体重減少・成長不良、胸痛など消化管外症状について、医療者が医療面接で気付き、本症を想定できるかが重要だと語る。 小児の胃食道逆流症診療では、診断として上部消化管造影検査、食道pHモニタリング、上部消化管内視鏡検査などが実施される。また、鑑別診断では、好酸球性食道炎、消化性潰瘍、代謝性アシドーシスなどとの鑑別が必要となる。治療では、家族への説明、生活指導から始まり、授乳方法の改善(少量頻回、増粘ミルク、アレルギー疾患用ミルクなど)、そして、PPIなどの薬物療法へと移行する。実際、エソメプラゾールで治療する場合、1日10~20mgを約2週間投与し、症状の改善を確認。有効ならば、4~8週間の治療継続を行うことになるが、無効・再燃例では、小児専門医に紹介が必要となる。 小児の胃潰瘍、十二指腸潰瘍では、十二指腸潰瘍の頻度が高く、主症状は年齢により異なるという。新生児~乳児期では反復性の嘔吐、消化管出血、幼児期では臍周囲痛など非特異的な痛み、学童期では上腹部圧痛を伴う心窩部痛が多くなる。とくに患児が主訴で「お腹がモヤモヤする」と訴えた場合、十二指腸潰瘍を疑い、必要な検査などの施行が望まれる。また、危険兆候として、夜間睡眠中の腹痛による覚醒、嘔吐や貧血、ヘリコバクター・ピロリ感染の家族歴も参考になる。診断では、臨床所見のほか、検査で腹部エコーや上部消化管内視鏡検査で潰瘍の診断を確実にすることが必要とされる。治療では、PPIが著効するため、1歳以上の本症確定例の小児ではエソメプラゾール10~20mgを第1選択薬として、早期の症状消失、潰瘍治癒を促すとしている。 最後に中山氏は、「小児の酸関連疾患では、腹痛や嘔吐などを繰り返すため、患児は活動制約、成長障害などの合併症を来しうるとともに その保護者もケアの負担や成長への不安など日常で苦労が重積する。こうした疾患に早期診断、早期治療介入をすることで、患児と保護者のQOLの改善につなげていく必要がある。また、PPIのアンメットニーズとして、長期投与、1歳未満の乳児への使用、ヘリコバクター・ピロリ除菌への補助などまだ解決されるべきことも多い」と課題を呈し、講演を終了した。小児に使用できない治療薬の保険承認への呼び水に セミナー後半では、木下 芳一氏(島根大学医学部内科学講座第二 教授)を座長に、清水 俊明氏(順天堂大学大学院医学研究科 小児思春期発達・病態学講座 主任教授)と中山氏をパネリストに「幼児・小児の酸関連疾患の早期発見、早期診断・治療につなげるには」をテーマにパネルディスカッションが行われた。 ディスカッションでは、「酸関連疾患、早期発見のコツ」について木下氏が尋ねたところ、清水氏が「不規則な位置や時間に腹痛があれば酸関連疾患を疑う。家族歴の聴取も大事だ」と回答し、中山氏が「患児向けに『胸やけ』などの言葉の言いかえをあらかじめ示しておく。保護者に患児の表情や気になる点を細かく聴取するべき」と回答し、臨床に役立つポイントが語られた。また、今後の展望について、清水氏は「今回のエソメプラゾールの保険適用が、別の小児に使用できない治療薬の保険承認への呼び水になればよいと思う」と述べ、中山氏は「安全に患児に使える治療薬の拡大を望みたい」と語り、ディスカッションを終えた。■参考アストラゼネカ ニュースリリースプロトンポンプ阻害剤「ネキシウム」の小児用法・用量の追加を目指し、新たに臨床試験を開始

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NSCLC 1次治療、化療にペムブロリズマブ併用でQOL改善(KEYNOTE-189)/日本臨床腫瘍学会

 未治療の非扁平上皮非小細胞肺がん(NSCLC)に対する国際共同無作為化第III相試験(KEYNOTE-189)のQOL評価で、ペムブロリズマブ+化学療法は化学療法単独と比べてQOLを維持・改善することが示された。関西医科大学の倉田 宝保氏が、第16回日本臨床腫瘍学会学術集会(7月19~21日、神戸)のセミプレナリーセッションで発表した。 KEYNOTE-189は、未治療の非扁平上皮NSCLC患者616例を、ペムブロリズマブ群(ペムブロリズマブ200mg+ペメトレキセド500mg/m2+カルボプラチンAUC5またはシスプラチン75mg/m2、3週ごと4サイクル、その後はペムブロリズマブ200mg+ペメトレキセド500mg/m2を3週ごと)と、プラセボ群(ペムブロリズマブ群のペムブロリズマブをプラセボに置き換え)に2対1に無作為に割り付けた試験である。主要評価項目である全生存と無増悪生存は、それぞれハザード比(HR)が0.49、0.52と、ペムブロリズマブ群で有意に改善、副次評価項目の全奏効率も47.6%とプラセボ群の18.9%に対して有意に高く、有害事象はほぼ同様であったことが報告されている。 今回、KEYNOTE-189において、患者報告アウトカム(PRO)を1回以上報告した602例を対象に、欧州がん治療研究機構(EORTC)のQOLに関するアンケートQLQ-C30およびQLQ-LC13を用いてQOLを評価した。主要評価項目は、12週および21週のQLQ-C30 全般的健康状態(GHS)/QOLスコアのベースラインからの変化と、QLQ-LC13咳嗽・胸痛・呼吸困難の複合スコアの悪化までの期間。 その結果、QLQ-C30 GHS/QOLスコアの12週での変化は、ペムブロリズマブ群で+1.0、プラセボ群で-2.6、その差は3.6(95%CI:-0.1~7.2、p=0.053)であった。また、21週での変化の差は5.3(95%CI:1.1~9.5、p=0.014)とプラセボ群が有意に低かった。咳・胸痛・呼吸困難の複合スコアの悪化までの期間の中央値は、ペムブロリズマブ群が未到達(95%CI:10.2ヵ月~未到達)、プラセボ群が7.0ヵ月(95%CI:4.3ヵ月~未到達)で、HRは0.81(95%CI:0.60~1.09、p=0.161)であった。■関連記事NSCLC 1次治療、ペムブロリズマブ併用でOS延長:第III相試験/NEJM

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鎌状赤血球症の疼痛にL-グルタミンが有効/NEJM

 鎌状赤血球貧血症の小児/成人患者において、医薬品グレードのL-グルタミン単独またはヒドロキシ尿素併用経口投与は、プラセボ±ヒドロキシ尿素と比較し、48週間の疼痛発作回数を著明に低下させた。米国・カリフォルニア大学ロサンゼルス校の新原 豊氏らが、多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照第III相試験の結果を報告した。医薬品グレードのL-グルタミン経口粉末薬は、鎌状細胞赤血球中の還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドの割合を上昇させることが認められており、この作用が鎌状赤血球症の複雑な病態生理に関与している酸化ストレスを減少させ、鎌状赤血球症に関連する疼痛を改善すると考えられていた。NEJM誌2018年7月19日号掲載の報告。鎌状赤血球症患者230例でL-グルタミンの有効性および安全性をプラセボと比較 研究グループは、2010年6月~2013年12月に、鎌状赤血球貧血症または鎌状赤血球-β0サラセミアで、過去1年間に2回以上の疼痛発作(外来または入院期間中に、救急治療部で麻薬性鎮痛薬または非ステロイド性抗炎症薬ケトロラクの非経口投与による治療を要する疼痛)の既往がある患者230例を登録し、医薬品グレードのL-グルタミン投与群(1回0.3g/kg体重を1日2回経口投与)とプラセボ投与群に2対1の割合で無作為に割り付け、48週間治療した。スクリーニングの少なくとも3ヵ月前から安定用量のヒドロキシ尿素を投与されていた患者は、48週間の治療期間中も継続可とした。 有効性の主要評価項目は、48週間の疼痛発作回数とし、コクラン・マンテル・ヘンツェル検定を用いてintention-to-treat解析を行った。L-グルタミンで疼痛発作が25%、入院回数が33%減少 230例(年齢5~58歳、女性53.9%)のうち、156例が試験を完遂した(L-グルタミン群152例中97例、プラセボ群78例中59例)。 疼痛発作回数中央値はL-グルタミン群3.0回、プラセボ群4.0回で、プラセボ群に比しL-グルタミン群で有意に減少した(p=0.005)。同様に入院回数中央値も、L-グルタミン群2.0回、プラセボ群3.0回で、L-グルタミン群が有意に少なかった(p=0.005)。 両群とも3分の2の患者がヒドロキシ尿素の併用投与を受けていた。プラセボ群と比較しL-グルタミン群で発現率が約5%以上高かった有害事象は、悪心、非心臓性胸痛、疲労、四肢の疼痛、背部痛であった。 なお今回の第III相試験の結果に基づき、米国食品医薬品局は2017年7月に医薬品グレードのL-グルタミンについて、5歳以上の小児および成人における鎌状赤血球症による急性合併症の軽減を適応症として承認した。

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第3回 乳がん術後のタモキシフェンが10年継続となった根拠【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 抗エストロゲン薬であるタモキシフェンは、エストロゲンを取り込んで増殖するエストロゲン受容体陽性乳がんに有効性が高く、乳がん術後の再発予防の目的でよく処方されます。術後補助療法として、タモキシフェンを5年間投与し、場合によってはさらに5年継続して計10年間投与するという治療選択肢がNCCNやASCOの診療ガイドライン、日本乳癌学会による「乳癌診療ガイドライン」に2014年以降記載されるようになりました。薬局においても、「タモキシフェンは5年よりも10年継続したほうが乳がんの再発率が低いので、10年間服用すると医師に説明を受けた」とおっしゃる患者さんに会った経験が何度もあります。薬剤の服用を5年間延長するということは、服用の手間や経済的負担が少なからず増えますから、そのメリットとデメリットについて相談を受けた経験のある薬剤師さんもいるのではないでしょうか。そこで今回は、なぜタモキシフェンを10年継続するという選択肢が診療ガイドラインに提示されるようになったのか、その背景にある試験を2つ紹介します。1つ目が、2013年にLancet誌に掲載された通称ATLAS試験です。Long-term effects of continuing adjuvant tamoxifen to 10 years versus stopping at 5 years after diagnosis of oestrogen receptor-positive breast cancer: ATLAS, a randomised trial.Davies C, et al. Lancet. 2013;381:805-816.これは、すでに5年間タモキシフェン20mg/日によるホルモン療法を完了した早期乳がんの女性患者1万2,894例を、追加でさらに5年間投与した10年継続群と5年時点で中止した群にランダムに割り付けて比較検討した試験です。結論としては、10年継続群は中止群と比べて、エストロゲン受容体陽性の早期乳がん患者の死亡率および再発率を有意に低下させました。組み入れ患者1万2,894例の内訳を少し詳しく見ると、6,846例(53%)はエストロゲン受容体陽性、1,248例(10%)はエストロゲン受容体陰性、4,800例(37%)は陰性か陽性か不明とされており、治療継続に難ありと見られた場合は除外されています。患者の91%が診断から10年のフォローアップを、77%が15年のフォローアップを完遂しています。エストロゲン受容体陽性の患者に関しての結果は下表のとおりです。期間別に見ると、乳がんによる死亡のリスク比は、5~9年では0.97(95%信頼区間:0.79~1.18)、10年目以降では0.71(95%信頼区間:0.58~0.88)、再発率は5~9年では0.90(95%信頼区間:0.79~1.02)、10年目以降では0.75(95%信頼区間:0.62~0.90)と、有害アウトカムの抑制効果は10年目以降のほうが大きい傾向が見られました。なお、エストロゲン受容体陰性と受容体不明の患者における乳がんアウトカムに有意な差は見いだされませんでした。エストロゲン受容体ステータスと関係なくすべての被験者における副作用リスクの解析では、10年継続で子宮内膜がん(リスク比:1.74、95%信頼区間:1.30~2.34)と肺塞栓症(リスク比:1.87、95%信頼区間:1.13~3.07)の発生率が増加したものの、虚血性心疾患(リスク比:0.76、95%信頼区間:0.60~0.95)および対側乳がん(リスク比:0.88、95%信頼区間:0.77~1.00)は減少傾向にありました。「長く飲んだほうがいいと言っても、10年間服用しても、5年間服用したときより死亡や再発が2%程度減るだけか」と思われる方もいるかもしれませんが、10年続けることで約40~50人に1人が再発ないし死亡を免れるのですから少なからずインパクトがあります。一方で長く続けると、肺塞栓などの血栓症や子宮内膜症、子宮筋腫、子宮内膜がんなどの発症率がやや増えることも示唆されているので注意も必要です。10年継続に有意な再発・死亡抑制効果2つ目の試験として、ATLASと並行して行われていたaTTom試験を紹介します。こちらも、基本的なデザインは似通っており、タモキシフェンによるホルモン療法を5年間受けた早期乳がん患者(6,953例)を、さらに5年間投与した10年継続群(3,468例)と5年時点で中止した群(3,485例)にランダムに割り付け、乳がんの再発率や全死亡を比較したものです。乳がんの再発は、中止群で3,468例中672例(19.3%)、10年継続群で3,485例中580例(16.7%)と2.6%の減少(p=0.003)で、これはタモキシフェン服用期間を5年から10年に延ばすと、およそ38例に1例で乳がん再発予防の恩恵を受けられるだろうという計算になります。一方で、子宮内膜がんによる死亡は中止群で20例(0.6%)、10年継続群で37例(1.1%)と服用期間が延長するとやや増える傾向にあります。10年継続したほうが良好なアウトカムであったという大まかな結果の方向性は、ATLASとそう大きくずれはなく、こうした論文が2本立て続けに出たためか、ASCOのガイドラインは2014年に改訂されています。タモキシフェンを長期服用する場合、ホットフラッシュなどの副作用はある程度認容する必要がありますし、上記で紹介してきた副作用の懸念もあることから、血栓塞栓症の初期症状である痺れ、息切れ、胸痛、めまいや、子宮系の副作用徴候である不正出血などがみられたら受診を促すということも考慮しておくことが大切です。また、何らかの理由でタモキシフェンが使えない場合の選択肢も聞かれたら答えられるとよいかもしれません。いずれにせよ、副作用リスクとベネフィットを十分理解しておきたいところです。1)Long-term effects of continuing adjuvant tamoxifen to 10 years versus stopping at 5 years after diagnosis of oestrogen receptor-positive breast cancer: ATLAS, a randomised trial.Davies C, et al. Lancet. 2013;381:805-816.2)aTTom: Long-term effects of continuing adjuvant tamoxifen to 10 years versus stopping at 5 years in 6,953 women with early breast cancer.Gray RG, et al. J Clin Oncol. 2013;31:suppl 5.3)ASCO Guideline Update Recommends Tamoxifen for Up to 10 Years for Women With Non-Metastatic Hormone Receptor Positive Breast Cancer4)NCCNガイドライン5)日本乳癌学会 乳癌診療ガイドライン閉経前ホルモン受容体陽性乳癌に対する術後内分泌療法として、タモキシフェンおよびLH-RH アゴニストは勧められるか(薬物療法・初期治療・ID10050)

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全身性エリテマトーデス〔SLE:Systemic Lupus Erythematosus〕

1 疾患概要■ 概念・定義全身性エリテマトーデス(Systemic Lupus Erythematosus:SLE)は、自己免疫異常を基盤として発症し、多彩な自己抗体の産生により多臓器に障害を来す全身性炎症性疾患で、再燃と寛解を繰り返しながら病像が完成される。全身に多彩な病変を呈しうるが、個々人によって障害臓器やその程度が異なるため、それぞれに応じた管理と治療が必要となる。■ 疫学本疾患は指定難病に指定されており、令和元年(2019年)度末の特定医療費(指定難病)受給者証所持者数は6万1,835件であり、計算上の有病率は10万人中50人である。男女比は1対9で女性に多く、発症年齢は10~30代で大半を占める。■ 病因発症要因として、遺伝的背景要因に加えて、感染症や紫外線などの環境要因が引き金となり、発症することが考えられているが、不明点が多い。その病態は、抗dsDNA抗体を主体とする多彩な自己抗体の出現に加え、多岐にわたる免疫異常によって形成される。自然免疫と獲得免疫それぞれの段階で異常が指摘されており、樹状細胞・マクロファージを含めた貪食能を持つ抗原提示細胞、各種T細胞、B細胞、サイトカインなどの異常が病態に関与している。体内の細胞は常に破壊と産生を繰り返しているが、前述の引き金などを契機に体内の核酸物質が蓄積することで、異常な免疫反応が惹起され、自己抗体が産生され免疫複合体が形成される。そして、それらが各臓器に蓄積し、さらなる炎症・自己免疫を引き起こし、病態が形成されていく。■ 症状障害臓器に応じた症状が、同時もしくは経過中に異なる時期に出現しうる。初発症状として最も頻度が高いものは、発熱、関節症状、皮膚粘膜症状である。全身倦怠感やリンパ節腫脹を伴う。関節痛(関節炎)は通常骨破壊を伴わない。皮膚粘膜症状として、日光過敏症や露光部に一致した頬部紅斑のほかに、手指や四肢体幹部に多彩な皮疹を呈し、脱毛、口腔内潰瘍などを呈する。その他、レイノー現象、腎炎に関連した浮腫、肺病変や血管病変と関連した労作時呼吸困難、肺胞出血に伴う血痰、漿膜炎と関連した胸痛・腹痛、神経精神症状など、さまざまな症状を呈しうる。■ 分類SLEは障害臓器と重症度により治療内容が異なる。とくに重要臓器として、腎臓、中枢神経、肺を侵すものが挙げられ、生命および機能予後が著しく障害される可能性が高い障害である。ループス腎炎は組織学的に分類されており、International Society of Nephrology/Renal Pathology Society(ISN/RPS)分類が用いられている。神経精神ループス(Neuropsychiatric SLE:NPSLE)では大きく中枢神経病変と末梢神経病変に分類され、それぞれの中でさらに詳細な臨床分類がなされる。■ 予後生命予後は、1950年代は5年生存率がおよそ50%であったが、2007年のわが国の報告では10年生存率がおよそ90%、20年生存率はおよそ75%である1)。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)検査所見として、抗核抗体、抗(ds)DNA抗体、抗Sm抗体、抗リン脂質抗体(ループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体、β2GPⅠ依存性抗カルジオリピン抗体など)が陽性となる。また、血清補体低値、免疫複合体高値、白血球減少(リンパ球減少)、血小板減少、溶血性貧血、直接クームス陽性を呈する。ループス腎炎合併の場合はeGFR低下、蛋白尿、赤血球尿、白血球尿、細胞性円柱が出現しうる。SLEの診断では1997年の米国リウマチ学会分類基準2)および2012年のSystemic Lupus International Collaborating Clinics(SLICC)分類基準3)を参考に、他疾患との鑑別を行い、総合的に判断する(表1、2)。2019年に欧州リウマチ学会と米国リウマチ学会が合同で作成した新しい分類基準4)が提唱された。今後はわが国においても本基準の検証を元に診療に用いられることが考えられる。画像を拡大する表2 Systemic Lupus International Collaborating Clinics 2012分類基準画像を拡大するループス腎炎が疑われる場合は、積極的に腎生検を行い、ISN/RPS分類による病型分類を行う。50~60%のNPSLEはSLE診断時か1年以内に発症する。感染症、代謝性疾患、薬剤性を除外する必要がある。髄液細胞数、蛋白の増加、糖の低下、髄液IL-6濃度高値であることがある。MRI、脳血流シンチ、脳波で鑑別を進める。貧血の進行を伴う呼吸困難、両側肺びまん性浸潤影あるいは斑状陰影を認めた場合は肺胞出血を考慮する。全身症状、リンパ節腫脹、関節炎を呈する鑑別疾患は、パルボウイルス、EBV、HIVを含むウイルス感染症、結核、悪性リンパ腫、血管炎症候群、他の膠原病および類縁疾患が挙がるが、感染症を契機に発症や再燃をすることや、他の膠原病を合併することもしばしばある。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)SLEの基本的な治療薬はステロイド、免疫抑制薬、抗マラリア薬であるが、近年は生物学的製剤が承認され、複数の分子標的治療が世界的に試みられている。ステロイドおよび免疫抑制薬の選択と使用量については、障害臓器の種類と重症度(疾患活動性)、病型分類、合併症の有無によって異なる。治療の際には、(1)SLEのどの障害臓器を標的として治療をするのか、(2)何を治療指標として経過をみるのか、(3)出現しうる合併症は何かを明確にしながら進めていくことが重要である。SLEの治療選択については、『全身性エリテマトーデス診療ガイドライン2019』の記載にある通り、重要臓器障害があり、生命や機能的予後を脅かす場合は、ステロイド大量投与に加えて免疫抑制薬の併用が基本となる5)(図)。ステロイドは強力かつ有効な免疫抑制薬でありSLE治療の中心となっているが、免疫抑制薬と併用することで予後が改善される。ステロイドの使用量は治療標的臓器と重症度による。ステロイドパルス療法とは、メチルプレドニゾロン(商品名:ソル・メドロール)250~1,000mg/日を3日間点滴投与、大量ステロイドとはプレドニゾロン換算で30~100mg/日を点滴もしくは経口投与、中等量とは同じく7.5~30mg/日、少量とは7.5mg/日以下が目安となるが、体重により異なる6)(表3)。ステロイドの副作用はさまざまなものがあり、投与量と投与期間に依存して必発である。したがって、副作用予防と管理を適切に行う必要がある。また、大量のステロイドを長期に投与することは副作用の観点から行わず、再燃に注意しながら漸減する必要がある。画像を拡大する画像を拡大する寛解導入療法として用いられる免疫抑制薬は、シクロホスファミド(同:エンドキサン)とミコフェノール酸モフェチル(同:セルセプト)が主体となる(ループス腎炎の治療については別項参照)。治療抵抗性の場合、免疫抑制薬を変更するなど治療標的を変更しながら進めていく。病態や障害臓器の程度により、カルシニューリン阻害薬のシクロスポリン(同:サンディミュン、ネオーラル)、タクロリムス(同:プログラフ)やアザチオプリン(同:イムラン、アザニン)も用いられる。症例に応じてそれぞれの有効性と副作用の特徴を考慮しながら選択する(表4)。画像を拡大するリツキシマブは、米国リウマチ学会(American College of Rheumatology:ACR)および欧州リウマチ学会(European League Against Rheumatism:EULAR)/欧州腎臓学会-欧州透析移植学会(European Renal Association – European Dialysis and Transplant Association:ERA-EDTA)の推奨7,8)においては、既存の治療に抵抗性の場合に選択肢となりうるが、重症感染症や進行性多巣性白質脳症の注意は必要と考えられる。わが国ではネフローゼ症候群に対しては保険承認されているが、SLEそのものに対する保険適用はない。可溶型Bリンパ球刺激因子(B Lymphocyte Stimulator:BLyS)を中和する完全ヒト型モノクローナル抗体であるベリムマブ(同:ベンリスタ)は、既存治療で効果不十分のSLEに対する治療薬として、2017年にわが国で保険承認され、治療選択肢の1つとなっている9)。本稿執筆時点では、筋骨格系や皮膚病変にとくに有効であり、ステロイド減量効果、再燃抑制、障害蓄積の抑制に有効と考えられている。ループス腎炎に対しては一定の有効性を示す報告10)が出てきており、適切な症例選択が望まれる。NPSLEでの有効性はわかっていない。ヒドロキシクロロキン(同:プラケニル)は海外では古くから使用されていたが、わが国では2015年7月に適用承認された。全身症状、皮疹、関節炎などにとくに有効であり、SLEの予後改善、腎炎の再燃予防を示唆する報告がある。短期的には薬疹、長期的には網膜症などの副作用に注意を要し、治療開始前と開始後の定期的な眼科受診が必要である。アニフロルマブ(同:サフネロー)はSLE病態に関与しているI型インターフェロンα受容体のサブユニット1に対する抗体製剤であり、2021年9月にわが国でSLEの適応が承認された。臨床症状の改善、ステロイド減量効果が示された。一方で、アニフロルマブはウイルス感染制御に関与するインターフェロンシグナル伝達を阻害するため、感染症の発現リスクが増加する可能性が考えられている。執筆時点では全例市販後調査が行われており、日本リウマチ学会より適正使用の手引きが公開されている。実臨床での有効性と安全性が今後検証される。SLEの病態は複雑であり、臨床所見も多岐にわたるため、複数の診療科との連携を図りながら各々の臓器障害に対する治療および合併症に対して、妊娠や出産、授乳に対する配慮を含めて、個々に応じた管理が必要である。4 今後の展望本稿執筆時点では、世界でおよそ30種類もの新規治療薬の第II/III相臨床試験が進行中である。とくにB細胞、T細胞、共刺激経路、サイトカイン、細胞内シグナル伝達経路を標的とした分子標的治療薬が評価中である。また、異なる作用機序の薬剤を組み合わせる試みもなされている。SLEは集団としてヘテロであることから、適切な評価のためのアウトカムの設定方法や薬剤ごとのバイオマーカーの探索が同時に行われている。5 主たる診療科リウマチ・膠原病内科、皮膚科、腎臓内科、その他、障害臓器や治療合併症に応じて多くの診療科との連携が必要となる。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 全身性エリテマトーデス(公費対象)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報全国膠原病友の会(膠原病患者とその家族の会)1)Funauchi M, et al. Rheumatol Int. 2007;27:243-249.2)Hochberg MC, et al. Arthritis Rheum. 1997;40:1725.3)Petri M, et al. Arthritis Rheum. 2012;64:2677-2686.4)Aringer M, et al. Ann Rheum Dis. 2019;78:1151-1159.5)厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業 自己免疫疾患に関する調査研究(自己免疫班),日本リウマチ学会(編):全身性エリテマトーデス診療ガイドライン2019.南山堂,2019.6)Buttgereit F, et al. Ann Rheum Dis. 2002;61:718-722.7)Hahn BH, et al. Arthritis Care Res (Hoboken). 2012;64:797-808.8)Bertsias GK, et al. Ann Rheum Dis. 2012;71:1771-1782.9)Furie R, et al. Arthritis Rheum. 2011;63:3918-3930.10)Furie R, et al. N Engl J Med. 2020;383:1117-1128.公開履歴初回2018年04月10日更新2022年02月25日

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TNF受容体関連周期性症候群〔TRAPS:Tumor necrosis factor receptor-associated periodic syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義TNF受容体関連周期性症候群(Tumor necrosis factor receptor-associated periodic syndrome:TRAPS)は、常染色体優性形式をとる家族性の周期性発熱・炎症疾患である。本疾患は1982年にWilliamsonらが再発性の発熱、皮疹、筋痛、腹痛を呈するアイルランド/スコットランドの1家系を見いだし、“familial Hibernian fever”として報告したことに始まる。1999年にMcDermottらが1型TNF受容体の遺伝子変異が本疾患の原因であることを報告し“TRAPS”と命名した1)。その論文において、自己炎症という新しい疾患概念が提唱された。TRAPSは自己炎症疾患(autoinflammatory disease)の代表的疾患であり、自己抗体や自己反応性T細胞によって生じる自己免疫疾患(autoimmune disease)とは異なり、自然免疫系の異常によって発症すると考えられている。本症は2015年1月1日より医療費助成対象疾患(指定難病、小児慢性特定疾病)となった。■ 疫学欧米人、アジア人、アフリカ系アメリカ人などさまざまな人種において、まれな疾患として報告されている。「TNF受容体関連周期性症候群(TRAPS)の病態の解明と診断基準作成に関する研究」研究班(研究代表者:堀内孝彦[九州大学] 平成22-24年度 厚生労働省)が行った全国調査では、わが国には少なくとも33家系51例の患者がいることが明らかになった2)。■ 病因1型TNF受容体遺伝子(TNFRSF1A)の変異で生じる。1型TNF受容体は455個のアミノ酸より構成され、細胞外ドメインの4つのCRD(cysteine-rich domain)と細胞膜貫通部、細胞内ドメインと細胞内のDD(death domain)という特徴的な構造を持っている。TRAPSで報告されている変異のほとんどはCRD1とCRD2をコードしているエクソン2-4の単一塩基ミスセンス変異である。なかでもタンパクの高次構造に重要な働きをしているジスルフィド(S-S)結合を形成するシステイン残基の変異が多い。これらの変異がTRAPSの病態形成にいかに関与するかは、いくつかの仮説が提唱されてきた。現時点では次のように考えられている。高次構造の異常によるmisfolding(タンパク質の折り畳みの不良)のため、変異1型TNF受容体は細胞表面へ輸送されずに小胞体内に停滞する。小胞体内の変異1型TNF受容体は、ミトコンドリアからのROS産生を介して細胞内のMAPキナーゼ脱リン酸化酵素を阻害することにより、定常状態でのMAPキナーゼを活性化状態にする。これだけでは炎症性サイトカイン産生の誘導は起こらないが、細菌感染などでToll様受容体からのシグナルが加わることにより、IL-1、IL-6、TNFなどの炎症性サイトカイン産生誘導が起こると考えられる。また、マクロファージなどのTNF産生細胞では、片方の対立遺伝子由来の正常なTNF受容体からのシグナルにより、炎症がパラクライン的に増幅されると考えられる3)。■ 症状TRAPSは常染色体優性の遺伝形式をとり、典型的な変異を示すものでは浸透率は85%以上と高い。発症年齢は同一家族内でも一定ではなく、乳児期から成人期に至るまで幅広い。症状の種類については2002年にHullらが提案したTRAPS診断指針を参照いただきたい(表1)4)。発作時には、38℃以上の発熱はほぼ必発であり、それに加えて腹痛、筋痛、皮疹、結膜炎、眼窩周囲浮腫、胸痛、関節痛などの随伴症状をともなう。わが国のTRAPS患者での個々の症状の頻度を表2に示す2)。表1 TRAPS診断指針1. 6ヵ月を超えて反復する炎症症状によるエピソードの存在(いくつかは同時にみられることが一般的)(1)発熱(2)腹痛(3)筋痛(移動性)(4)皮疹(筋痛を伴う紅斑様皮疹)(5)結膜炎・眼窩周囲浮腫(6)胸痛(7)関節痛、あるいは単関節滑膜炎2. エピソードの持続期間が(エピソードごとにさまざまだが)平均して5日を超える3. ステロイドに反応するがコルヒチンには反応しない4. 家族歴あり(いつも認められるとは限らない)5. どの人種、民族でも起こりうる画像を拡大する1)発熱最も特徴的でありTRAPSを疑うきっかけになる。1ヵ月~数ヵ月の間隔で不規則に繰り返す。発熱の期間は通常1~4週間であることが多く、平均21日程度である。2)腹痛日本人の頻度は欧米人に比べて少ない。腹膜炎や腸炎、腹壁の筋膜炎によって生じる。嘔気や便秘を伴うこともある。3)筋痛原因は筋炎というよりも筋膜炎と考えられている。症状は通常1ヵ所に起こり、発作期間中に寛解と増悪を繰り返す。4)皮疹(図1A)遠心性に移動性の紅斑であり筋痛の位置に一致することも多い。熱感と圧痛を有し、自然消退する。5)結膜炎・眼窩周囲浮腫(図1B)片側性または両側性の結膜炎、眼窩周囲浮腫、眼窩周囲痛が発作期間中に出現する。6)胸痛胸膜炎や胸壁の筋膜炎による症状である。7)関節痛非破壊性、非対称性で下肢の大関節に起きることが多い。画像を拡大する■ 予後TRAPSの長期予後については不明な点が多いが、経過とともに症状が増悪していく症例も、軽症化していく症例もみられる。長期的な経過では、ステロイド治療の副作用や、アミロイドーシスの合併が問題となる。欧米ではアミロイドーシスは10%の合併頻度であるが、わが国の全国調査ではアミロイドーシス合併例の報告はない。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)2002年、Hullらは症状、家族歴などから構成される「TRAPS診断指針」を発表したが、これは診断基準ではなく、遺伝子検査の適応を判断するための指針であった(表1)。TRAPS診断のgold standardは遺伝子検査である。疾患関連性が明確なTNFRSF1A遺伝子異常は、CDR1、CDR2のシステインの変異、T50M変異などである。これらが認められれば診断は確定する。その一方で、病的意義の明らかではない多型も存在する。その代表は、欧米ではP46LとR92Qである。これらは欧米の健常人の数%に認められるため、病的意義について議論がある。P46LとR92QのTRAPSは浸透率が低く、軽症で予後が良い。わが国ではT61Iが最も多くのTRAPS患者から報告されているが、健常人にも約1%の対立遺伝子頻度で認めるため病的意義については議論がある6)。TNFRSF1A遺伝子異常のリストは、INFEVER websiteで参照できる。「自己炎症疾患とその類縁疾患に対する新規診療基盤の確立」研究班(研究代表者:平家俊男[京都大学]平成24-26年度 厚生労働省)では、前述の厚生労働省堀内班の研究結果を踏まえてTRAPS診療フローチャートを作成した。この診断フローチャートは、指定難病、小児慢性特定疾病の診断基準として利用されている(図2)。6ヵ月以上の炎症兆候の反復を必須条件とし、家族歴などの補助項目を満たす場合に遺伝子検査を推奨している。最終的な診断は遺伝子検査による。遺伝子検査結果の解釈は専門家への相談が必要である。画像を拡大する2015年、ヨーロッパの小児リウマチ学会(Paediatric Rheumatology International Trials Organisation:PRINTO)は、ヨーロッパを中心とした自己炎症症候群患者のデータベース(Eurofever registry)のデータを元に、家族性地中海熱、メバロン酸キナーゼ欠損症、クリオピリン関連周期熱症候群、TRAPSの予備的臨床的診断基準を作成し発表した(表3)7)。作成にあたり遺伝子検査で診断が確定した患者がgold standardとされた。TRAPSのP46LとR92Qのような浸透率の低い遺伝子異常や疾患関連性が不明な遺伝子異常は除外された。陰性対照群としてPFAPA症候群を加えた5疾患の患者群の臨床所見について多変量解析が行われ、各疾患を区別する項目が抽出され、そして、各項目をスコア化して診断基準が作成された。診断基準の適用については、感染症や他のリウマチ性疾患などを除外していることが重要な前提条件である。この予備的臨床的診断基準は、遺伝子検査の適応の判断や、疾患関連性が不明な遺伝子異常を有する患者の診断において参考にできる。将来的には、検査値や遺伝子検査と組み合わせた診断基準の作成が期待される。画像を拡大する症状は典型的な有熱性エピソードに関連してなければならない(感染症などの併存疾患を除外する)。†:末梢側へ向かって移動する紅斑であり、最も典型的には筋痛の部位を覆い、通常四肢または体幹に生じる。‡:東地中海:トルコ人、アルメニア人、非アシュケナージ系ユダヤ人、アラブ人  北地中海:イタリア人、スペイン人、ギリシャ人略称FMF:家族性地中海熱 MKD:メバロン酸キナーゼ欠損症 CAPS:クリオピリン関連周期熱症候群 TRAPS:TNF受容体関連周期性症候群■ 検査本症に疾患特異的なバイオマーカーはない。発作時に血沈、CRP、フィブリノゲン、フェリチン、血清アミロイドA蛋白などの急性期反応物質の増加が認められる。好中球の増加、慢性炎症に伴う小球性低色素性貧血、血小板の増加なども認められる。これらの検査値は発作間欠期にも正常ではないことがある。筋症状があっても、CK、アルドラーゼの上昇は認められない。最も重篤な合併症であるアミロイドーシスでは腎病変の頻度が高く、蛋白尿が認められるため、早期発見のために定期的な尿検査が推奨される。血清中の可溶型1型TNF受容体濃度の低値が特徴的とされていたが、TRAPSに特異的な所見とはいえず診断的意義は乏しいと考えられる。■ 鑑別診断ほかの周期性発熱を呈する疾患が挙げられる。ただし、筋痛や腹痛などが前景に立ち高熱が認められない症例、炎症性エピソードが周期的(反復性)ではなく慢性的に持続する患者などでもTRAPSの可能性はある。具体的には、家族性地中海熱、メバロン酸キナーゼ欠損症、クリオピリン関連周期熱症候群などの自己炎症疾患や全身型若年性特発性関節炎、成人スティル病、ベーチェット病などが鑑別に挙がる。TRAPS様症状の家族歴は、遺伝子異常の存在を予測する最も重要な因子である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)前述したわが国のTRAPS診断フローチャートに、治療(TRAPS診療の推奨)についての記述がある(表4)。また、2015年にPRINTOからTRAPSを含む自己炎症疾患の診療に関するエビデンスに基づいたレコメンデーションが発表された(表5)。発作時の短期的なNSAIDsもしくはステロイド投与が基本治療である。発作が軽症で頻度も年1、2回などと少ない場合、NSAIDsによる症状緩和のみでも対応可能である。わが国の診断フローチャートにある、経口プレドニゾロン(PSL)1mg/kg/日で開始し7~10日で減量・中止する方法(表4)は、HullらがTRAPS診断指針を発表した論文で推奨した方法である。留意事項に記載されているとおり、必要なステロイドの投与量や期間は、症例毎に、また同一症例でも発作ごとに異なり、状況に応じて判断していく必要がある。ステロイドは、当初効果があった症例でも次第に効果が減弱し、増量や継続投与を強いられる場合がある。重度の発作が頻発する場合、追加治療としてTNF阻害薬のエタネルセプト(商品名:エンブレル)とIL-1阻害薬カナキヌマブ(同:イラリス)が推奨されている。エタネルセプトは受容体製剤であるが、同じTNF阻害薬でも抗体製剤であるインフリキシマブ(同:レミケード)とアダリムマブ(同:ヒュミラ)はTRAPSで著しい増悪を起こした報告があり使用が推奨されない。また、エタネルセプトもステロイドと同様に効果が減弱するとの報告がある。PRINTOのレコメンデーションは、IL-1阻害薬の推奨度をより高く設定し、欧州医薬品庁(European Medicines Agency:EMA)は、TRAPSに対するIL-1阻害薬のカナキヌマブの使用を認可している。わが国でも2016年12月にカナキヌマブがTRAPSに対して適応が追加された。画像を拡大する表5 TRAPS診療の推奨画像を拡大するL:エビデンスレベル1B(randomised controlled study)、2A(controlled study without randomisation)、2B(quasi-experimental study)、3(descriptive study)、4(expert opinion)S:推奨の強さA(based on level 1 evidence)、B(based on level 2 or extrapolated from level 1)、C(based on level 3 or extrapolated from level 1 or 2)、D(based on level 4 or extrapolated from level 3 or 4 evidence)略称TRAPS:TNF受容体関連周期性症候群 MKD:メバロン酸キナーゼ欠損症 CAPS:クリオピリン関連周期熱症候群4 今後の展望TRAPSは国内の推定患者数が数十例の極めてまれな疾患だが、不明熱の診療などで鑑別疾患に挙がることは少なくない。TRAPS様症状の家族歴があるときには遺伝子検査が診断に最も有用であるが、保険適用はなく施行できる施設も限られており、容易にできる検査とは言い難い。日本免疫不全・自己炎症学会では、TRAPSを含めた関連疾患の遺伝子検査の保険適用を将来的に目指した検討を進めている。5 主たる診療科小児科、膠原病内科、血液内科、感染症内科、総合診療科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療研究情報INFEVER website(医療従事者向けのまとまった情報)一般社団法人日本免疫不全・自己炎症学会(医療従事者向けのまとまった情報)1)McDermott MF, et al. Cell. 1999;97:133-144.2)Ueda N, et al. Arthritis Rheumatol. 2016;68:2760-2771.3)Simon A, et al. Proc Natl Acad Sci USA. 2010;107:9801-9806.4)Hull KM, et al. Medicine (Baltimore). 2002;81:349-368.5)Lachmann HJ, et al. Ann Rheum Dis. 2014;73:2160-2167.6)Horiuchi T. Intern Med. 2015;54:1957-1958.7)Federici S et al. Ann Rheum Dis. 2015;74:799-805.公開履歴初回2018年03月27日

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「意識障害」は遭遇するけど苦手

 CareNet.comでは、会員医師の方々に「内科的な救急診療」に関するアンケートを実施。今回、その結果がまとまったので概要を報告する。 調査は、2018年1月22日にCareNet.comの会員医師を対象にインターネット上で行われ、回答者総数は329名。その内訳は、20代:2%、30代:16%、40代:29%、50代:34%、60代:16%、70代:2%。また、所属別では勤務医師が79%、開業医師が21%だった。救急対応の多くは病院や診療所で遭遇 設問1で「過去3年以内の救急診療の経験」を尋ねたところ、「ある」との回答が75%、「ない」は25%だった。回答した会員の8割近くが何らかの救急診療を経験していた。 設問2で「救急診療をした場所(複数回答)」について尋ねたところ、「病院」での対応が一番多く(243回答)、続いて「診療所・クリニック」(84回答)、「国内の外出先」(10回答)の順で多かった。ドラマなどでよくある航空機や電車内での救急診療は1桁台であり、多くは医療機関で遭遇していた。また、救急診療を経験したことがないという回答数は44だった。救急診療で知りたい症候、「意識障害」「失神」「痙攣」が上位 設問3「救急診療した具体的な症候(複数回答)」では、「意識障害」(191回答)、「呼吸困難」(153回答)、「腹痛」(143回答)の順で多く、生命予後に直結する症候が占めた。また、不定愁訴では「腹痛」(143回答)、「発熱」(142回答)、「めまい」(136回答)が多かった。 設問4で「救急診療で詳しく知りたい症候(複数回答)」について尋ねたところ、「意識障害」(176回答)、「失神」(139回答)、「痙攣」(130回答)の順で多く、上位はいずれも診断時に患者とコミュニケーションがとれない症候で占められた。 最後に設問5として「内科的な救急診療で知りたい、日頃疑問に思っていること」を自由記入で質問したところ、「めまい」に関しての疑問が一番多く、そのほかにも「意識障害」「胸痛」などへの疑問が寄せられた。今回の調査結果の詳細と、寄せられた具体的なコメントは、CareNet.comに掲載中。

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