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COVID-19の小児例は成人例に比べ症例数も少なく、ほとんどが無症状や軽症例であることがわかっている。COVID-19の臨床像を小児も含めた年齢層別に検討したイタリアからの報告では入院率、重症例の割合は年齢を重ねるごとに増加し、無症状例や軽症例は年齢とともに減少していた。3,836例の小児例の解析では約40%が無症状であり、ごく軽症や軽症を含めると95%以上という結果であった。ここで報告されている4例の小児死亡例は全例が6歳以下で、心血管系や悪性腫瘍の基礎疾患を併存している症例のみであり、新型コロナウイルスが原因とは考えられていなかった(Bellino S, et al. Pediatrics. 2020;146:e2020009399. )。本邦でも国立成育医療研究センターと国立国際医療研究センターの共同研究『COVID-19 Registry Japan(COVIREGI-JP)』を利用したCOVID-19の小児例が報告されている(Shoji K, et al. J Pediatric Infect Dis Soc. 2021 Sep 6. [Epub ahead of print] )。1,038例の18歳未満のCOVID-19例では約30%が無症状であり、症状を認めた730例のうち酸素投与まで必要となってしまう小児は15例(2.1%)であったとの報告である。 新型コロナワクチンの小児に対する報告はすでにファイザー製mRNAワクチンBNT162b2において安全性や有効性が示されている(Frenck RW Jr, et al. N Engl J Med. 2021;385:239-250. )。この研究では12~15歳の若年者2,260例が試験に参加しており、そのうち1,131例がBNT162b2ワクチンを接種している。副反応は一過性かつ軽度~中等度であり、注射部位の疼痛(79~86%)、疲労感(60~66%)、頭痛(55~65%)の頻度が高かったとの結果であった。またワクチン2回目接種後にCOVID-19を発症した症例はプラセボ群では1,129例中16例で認めたのに対し、BNT162b2ワクチン接種群では1例も認められずワクチン有効率は100%とされ、小児においても新型コロナワクチンの高い効果が示された結果となった。 本論評で取り上げた米国DM Clinical ResearchのAli氏らの論文『Teen COVE試験:Teen Coronavirus Efficacy trial』は2020年12月9日~2021年2月28日における12~17歳の健康な若年者3,732例を対象にモデルナ製新型コロナワクチンmRNA-1273ワクチンの安全性と有効性を確認するために行われた試験の中間解析結果を報告した。結果は12~17歳の若年者においても良好な安全性と18~25歳の若年成人と非劣性の免疫反応を示したとのことであった。 本研究に参加した若年者3,732例はmRNA-1273ワクチン接種群2,489例とプラセボ接種群1,243例に2対1でランダムに割り付けられ、28日間隔で2回接種された。主要評価項目は安全性と18~25歳の若年成人を対象にした臨床試験との免疫反応の非劣性を示すこととされ、副次評価項目としてはCOVID-19の発症予防やコロナウイルスの無症候性感染に対する有効性などが調査された。 まずワクチン接種の安全性としては局所の副反応として注射部位の疼痛が1回目の接種後93.1%、2回目の接種後92.4%、全身性のさまざまな副反応全体としては1回目の接種後68.5%、2回目の接種後86.1%が報告され、なかでも頭痛(1回目44.6%、2回目70.2%)、疲労感(47.9%、67.8%)、筋肉痛(26.9%、44.6%)、悪寒(18.4%、43.0%)が頻度の高い副反応として挙げられた(Ali K, et al. N Engl J Med. 2021 Aug 11. [Epub ahead of print])。ワクチン接種群の局所および全身性の副反応は約4日続き、1週間を越える局所での副反応はワクチン群でより高く、1回目接種後のほうが2回目接種後よりも頻度が高かった。また『COVE試験』(Baden LR, et al. N Engl J Med. 2021;384:403-416. )での18~25歳の若年成人と比較して、局所および全身性の副反応の頻度はほぼ同等の結果であったが、皮膚の紅斑は若年者のほうが高かった。本研究では小児多系統炎症性症候群(MIS-C)や死亡、そして心筋炎や心膜炎など特記すべき有害事象は認められなかった。 ワクチンの効果は若年成人に対する血清中和抗体の幾何平均力価比、応答率の差で評価され、それぞれ1.08(95%信頼区間:0.94~1.24)、0.2%(若年群98.8%、若年成人群98.6%)であり若年成人と同等の免疫原性が示された形となった。 Ali氏らは若年者に対する新型コロナワクチン接種は若年成人と同様の安全性を示し、免疫原性も非劣性であると述べているが、小児は重症化率や死亡者数が少なく正確な有効性を評価することは困難だとしている。小児では重症化率や死亡者数が少なく、無症状や軽症例が多いことは上記の本邦の報告でも同様の結果であり、小児に対するワクチンのメリットは成人者のそれとは異なることを理解する必要がある。また本研究が行われたのは2020年12月~2021年2月であり、現在本邦で問題になっているデルタ株を含めた変異株に対する有効性は評価することができない。 今回論評で取り上げたAli氏らの論文が解析された時点では、心筋炎・心膜炎の副反応は報告されていない。しかしながら英国ではBNT162b2ワクチン100万回接種当たり2.6件の心筋炎、2.0件の心膜炎、mRNA-1273ワクチン100万回接種当たり8.2件の心筋炎や心膜炎の発症が報告されている(厚生労働省「副反応疑い報告の状況について」 2021年7月21日)と発表している。本邦においてもBNT162b2ワクチン100万回接種当たり0.5件の心筋炎・心膜炎、mRNA-1273ワクチン100万回接種当たり0.6件の心筋炎・心膜炎の発症が報告されている。いずれもmRNAワクチン接種との因果関係は現時点では不明とされているが、年齢別にはmRNA-1273ワクチンでは10代の男性が症例は限られているものの100万回接種当たり17.1件と最も頻度が高い結果となっている(第68回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会「副反応疑い報告の状況について」)。BNT162b2ワクチン接種後の小児で心筋炎を発症した15例のケースシリーズでは、93%が男性、全例で胸痛と血清トロポニン値の上昇を認め、20%で心エコー上の心拍出量の低下を認めたが、死亡例は認められず良好な経過をたどったと報告している(Dionne A, et al. JAMA Cardiol. 2021 Aug 10. [Epub ahead of print] )。 現在2021年9月末で第5波は収束しつつある状況にあるが、学校における児童を発端としたクラス内感染や児童間での感染伝播の報告が散見された。またデルタ株流行下においては小児から家庭内に感染が広がるケースも認められた。ワクチンに対する感染予防効果や発症予防効果を考えれば、小児で影響の強いCOVID-19パンデミック下でのストレスや学校閉鎖などを防ぐために重要と捉えることができる。ただし成人のCOVID-19と比べると圧倒的に無症状や軽症例の多い小児において、きわめてまれなワクチン接種後の副反応であったとしても慎重に対応せざるを得ないと考える。