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検査等の定型的な手技、過失責任は?【医療訴訟の争点】第9回

症例診療時の医療処置ではさまざまな手技が行われるが、患者の病態(原因疾患の部位や大きさ・進行度などを含む)に応じて手技内容が異なるものと、患者の病態により左右されることの少ない定型化された機械的所作の手技とがある。今回は、機械的所作と言いうる要素が比較的大きいマンモトーム生検における局所麻酔の手技の過失の有無等が争われた東京地裁平成28年5月25日判決を紹介する。<登場人物>患者43歳(被告病院初診時)・女性人間ドックにて左乳腺腫瘤疑いと指摘されて被告病院を受診。原告患者本人被告総合病院(大学病院)事案の概要は以下の通りである。平成23年(2011年)1月12日人間ドックを受診し、左乳腺腫瘤疑いを指摘された。1月19日被告病院を紹介受診。被告病院にて、超音波検査やマンモグラフィ検査、細胞診等を受けたが、積極的に悪性を疑わせる所見が認められなかったことから、約6ヵ月後に経過観察をする方針となった。<以後、数ヵ月ごとに被告病院を受診し、穿刺吸引細胞診、乳腺MRI検査等を受けた>平成24年(2012年)10月17日超音波検査及びマンモグラフィ検査を受けた。10月19日被告病院を受診し、主治医のA医師(乳腺外科15年目)より説明を受け、エコーガイド下マンモトーム生検を受けることとなった。なお、A医師は、「治療に関する説明・同意書」を用いて、同生検の目的や方法を説明したほか、生じ得る合併症として、発生頻度の比較的高い出血や皮下血腫などについては説明したが、「予想される不利益」として気胸についての記載はなく、A医師も気胸が発生する可能性については説明しなかった。10月30日エコーガイド下マンモトーム生検を実施するにあたり、B医師(研修医終了後3年目)が局所麻酔を行ったところ、手技中に咳き込み、マンモトーム生検は中止となった。室内気でSpO2 100%、血圧は150 mmHg台と高かったものの、その後、111/75mmHgに戻り、心拍数は86/分、呼吸音にラ音はなく、皮下気腫が生じた場合に生じる頸部皮膚の握雪感も認めなかった。気胸が生じた可能性を考慮し胸部X線検査を行ったが、異常所見は認められなかった。10月31日原告は胸痛が出現したため被告病院の救急外来を受診した。胸部X線検査で左気胸が認められたため、被告病院の呼吸器外科を受診し、胸腔ドレーン挿入などの治療を受けた。実際の裁判結果裁判所は、以下の点を指摘し、「原告に生じた左気胸は、マンモトーム生検の局所麻酔を行った際に胸腔内まで麻酔針が貫通し、肺を穿刺したことによって生じた医原性気胸である」と認定した。一般に、気胸の病因による分類の一つに、医療行為に伴う医原性気胸があること本件では、マンモトーム生検の局所麻酔を行っている最中に原告に咳嗽が生じ、気分不快等を訴えたことマンモトーム生検中止の直後から原告には胸痛や息苦しさが生じていたものと認められることマンモトーム生検を行った平成24年10月30日当日の胸部X線検査では、原告に明らかな異常所見は認められなかったものの、翌31日も、原告の胸痛等の症状が持続し、同日の胸部X線検査及び胸部単純CT検査において、左気胸と診断されたこと裁判所は、本件の局所麻酔について、以下の点を指摘した。エコーガイド下マンモトーム生検の麻酔針の穿刺による合併症として気胸を指摘する文献は証拠上見当たらないこと(生検に伴う「合併症」として「乳房が小さい場合や病変が深部にあるとき、まれに局所麻酔の注射針で気胸を生じることがある」旨の文献の記載があるが、これは直接的には摘出生検に係る記載であり、エコーガイド下マンモトーム生検の麻酔針の穿刺に関するものとは読めないこと)エコーガイド下マンモトーム生検の局所麻酔を行うに当たっては、筋層直上に位置しており胸腔やその内部にある肺と至近距離にある部位(レトロマンマリースペース)まで麻酔針を到達させることが重要とされていることレトロマンマリースペースの位置からすると、麻酔針が胸腔内まで貫通し、肺を穿刺する一般的な危険性を有することは否定できないこと術者はモニター画面上で針先を中心に継続的な確認を行いながら自ら針の刺入等の操作を行っており、針先が明確に確認できなくなれば、針を回転させる等の方法で針先位置を確認し直した上で穿刺を継続し、あるいは刺入し直す等の方法で対応していること針治療や肺・胸腔穿刺(胸膜穿刺)、胸膜生検、中心静脈栄養法のための鎖骨下静脈穿刺、気管支鏡による経気管支肺生検なども同様に胸腔近傍において針の穿刺を行う手技ではあるが、エコーガイド下マンモトーム生検の麻酔針の胸腔内への貫通によって気胸を生じる例が極めてまれであることエコーガイド下マンモトーム生検の麻酔針の穿刺については、一定の抽象的な危険性や制約はあるものの、突発的な体動の発生や超音波による描出が特に困難な事情等特段の事情があれば別論、一般的には前記のような手段を講じ通常の注意義務を尽くすことによって胸腔内への貫通を防止し得ることが通常であることかかる事項を指摘した上で、裁判所は、以下のとおり判示し、手技上の過失(注意義務違反)があったものと推認されるとした。「本件マンモトーム生検の局所麻酔において、超音波画像で麻酔針の針先が確実に描出できていなかった可能性をもって、原告に生じた医原性気胸が不可避であったものと断ずることはできず、本件マンモトーム生検の局所麻酔において原告の胸腔内まで麻酔針を貫通させ、肺を穿刺したことについて、B医師には、針先の十分な確認を怠り、あるいは、超音波画像の評価を誤って麻酔針を進入させた手技上の注意義務違反ないし過失があったものと推認せざるを得ない」その上で、過失を覆す証拠がないとして、本件マンモトーム生検の局所麻酔の手技の過失を認めた。注意ポイント解説本件は、専ら施術における機械的所作の手技により、発症率が極めて低い合併症が生じたことにつき、手技上の過失が認められた事案である。裁判所が、エコーガイド下マンモトーム生検の麻酔針の穿刺については、一定の抽象的な危険性や制約はあることを指摘し、これによる気胸の合併症報告が極めてまれであること等を指摘し、通常の注意義務を尽くすことによって胸腔内への貫通を防止し得るとした上で、発生した合併症(気胸)について、「針先の十分な確認を怠り、あるいは、超音波画像の評価を誤って麻酔針を進入させた手技上の注意義務違反ないし過失があったものと推認せざるを得ない」としたことが注目される。かかる裁判所の判断は、患者の病態(原因疾患の部位や大きさ・進行度などを含む)に応じて手技内容が左右されることの少ない機械的所作の手技については、同様に当てはまる可能性がある。このため、機械的所作の手技の結果、発生がまれな合併症が生じた場合には、医療者の過失(注意義務違反)が推認される可能性があることに留意する必要がある。この場合、処置時(手技実施時)において、通常のケースと異なる配慮が必要な状態であったことや予想外の事態が生じたことをカルテ記載等で示せない限り、責任を回避することは困難と考えられる。医療者の視点本事案の裁判所の判断は、機械的所作とされる手技においても、術者の適切な確認が求められることを示しています。たとえば、中心静脈穿刺では、エコーガイド下であっても患者の体動や解剖学的個体差により、血管穿刺が困難になり、誤って胸膜を穿刺するリスクがあります。このような状況では、針先の動きを慎重にモニタリングし、異常があれば即座に対応する判断力が重要です。また、術中に通常と異なる状況が生じた場合、それを記録し、客観的な説明ができるよう備えておくことが、後のリスク管理につながります。安全な医療の提供には、技術の習熟だけでなく、想定外の事態に対応する柔軟な判断力と、それを記録・説明する意識が不可欠です。Take home message患者の病態(原因疾患の部位や大きさ・進行度などを含む)に応じて手技内容が左右されることの少ない機械的所作の手技の結果、発生がまれな合併症が生じた場合には、医療者の過失(注意義務違反)が推認される可能性がある。処置時(手技実施時)に通常と異なる事態が生じていたのであれば、そのことを記録しておく必要がある。キーワード合併症と医療者の責任合併症の中には、医療行為により不可避的に生じるものと、医療者の過失(注意義務違反)により生じるものとがある。悪しき結果が生じた場合にそのすべてが医療者の責任とされるものではないが、医療者の過失(注意義務違反)により生じたものについては、医療者に責任が発生する。このため、医療事故をめぐる紛争においては、患者側に生じた悪しき結果が、患者側の主張する医療者の過失(注意義務違反)によって生じたものであるのか、不可避の合併症であるのかが争われることも多い。この場合、医学文献・論文を用いての立証に加え、協力医の意見書の提出がされることや、裁判所の選任する鑑定医による鑑定がなされることもある。

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女性を悩ます第3の狭心症や循環器障害の指標とは/日本循環器協会

 日本循環器協会が主催するGo Red for Women Japan健康セミナー「赤をまとい女性の心臓病を考える2025」が、2月8日に東京大学の安田講堂で開催された。循環器疾患において、症状の違いや診断精度、治療法に対する性差がが明らかになっている昨今、日本国内でもそれらを学ぶための機会として、2024年より本イベントが始まった。本稿では、赤澤 純代氏(金沢医科大学総合内科学 臨床教授/女性総合医療センター センター長)と高橋 佐枝子氏(湘南大磯病院 副院長)の講演内容において、とくに患者に知っておいてほしい内容にフォーカスし、お届けする。循環器障害の指標となるむくみ、意識したい身体部位 まず、赤澤氏が「女性の健康と循環~むくみの鑑別と漢方~」と題し、漢方治療において重要な3本柱である気血水の“気”の生成や働き、その異常(気鬱、気逆、気虚)により生じるむくみについて解説。むくみを患者に意識してもらうことは、女性の各ライフステージの健康を考えていくうえでも重要であり、とくに更年期以降の女性の心疾患の罹患率の上昇にも影響を及ぼすことから、「たかがむくみ、されどむくみ」と強調した。むくみ改善のための血管の透過性を整えるための漢方としては、桂皮、桂枝、人参が重要で、治療薬の例として桃核承気湯の気逆への有効性などを挙げた。また、一言でむくみと言っても、その症状にはさまざまな疾患が隠れていることから、一般参加者に向けて、「スネを10秒押しても皮膚の変化が見られない場合は甲状腺機能低下症を、熱感がある場合は蜂窩織炎を、40秒以内に戻る場合は低アルブミン血症を疑う。そして、40秒以上戻らない場合には心疾患や腎疾患が発症している可能性を考慮し、一度、病院受診してほしい」と呼びかけた。このほか同氏は、舌診によりむくみや血流の悪さがわかるので舌の変化にも意識を向けること、1週間で2~3kgの体重変化がないか、などの注意すべき身体変化について啓発した。女性を悩ます第3の狭心症 続いて、高橋氏が「女性に多い微小血管狭心症」について説明した。胸痛を有する患者のうち心臓CTやカテーテル検査で狭窄や閉塞が目視できない患者が存在し、狭心症としての診断が遅れるケースが散見される。その原因が虚血性非閉塞性冠疾患(INOCA:Ischemic Non-obstructive Coronary Artery disease)の1つの微小血管狭心症である。INOCAは2020年にESCからVijay Kunadian氏ら専門家によるコンセンサスドキュメントの発表1)などをきっかけに診断方法などが提唱され、国内でも2015年に発刊された初版が『2023年JCS/CVIT/JCC ガイドライン フォーカスアップデート版 冠攣縮性狭心症と冠微小循環障害の診断と治療』2)にアップデートされている。胸痛があり冠動脈造影にて狭窄を認めなかったのは、男性が30%だったのに対して女性は60~70%に上り、微小血管狭心症の罹患には性差があると示唆されている。同氏は「微小血管狭心症の主な症状として、典型的な狭心症症状以外にも、発作時間が長い、ニトログリセリンの効果が薄い、症状に強弱があったり倦怠感などの訴えもあり循環器系の疾患ではないと診断されることも多い」とコメント。治療法について、「微小血管の循環障害、微小血管攣縮それぞれの治療法があるが、併存している患者も含まれるため、個々の対応が重要」とも説明した。最後に同氏は「微小血管狭心症は女性に多い疾患で、症状が非典型的であるために診断がつきにくいものの確立してきている。治療に関しては患者さんごとのカスタムメイドが必要」と締めくくった。Go Red for Womenとは Go Red for Womenは、“心臓病が女性の最大の死因であることを多くの人に知ってもらう”ために、米国心臓協会(AHA)が2004年から始めた女性の循環器疾患の予防・啓発のための活動である。「教育」「疾患啓発」の2本柱を中心に、毎年2月第1週金曜日に赤い何かを身に付けるなどして啓発活動を行っている。この活動が今では世界50ヵ国以上に広がっており、国内では日本循環器協会が中心となり2024年よりこの活動がスタートした。今回は上記2名の医師による講演のほか、パネルディスカッションにはタレントの山瀬まみ氏を迎え、一般参加者を盛り上げた。なお、今年は東京会場のほかに大阪・梅田スカイビルでも2月22日に開催が予定されている。

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安定胸痛への冠動脈CTA管理、10年後アウトカムを改善/Lancet

 安定胸痛患者に対する冠動脈CT血管造影(CCTA)による管理は、10年後も冠動脈疾患死または非致死的心筋梗塞の持続的な減少と関連していた。英国・エディンバラ大学のMichelle C. Williams氏らSCOT-HEART Investigatorsが、スコットランドの循環器胸痛クリニック12施設で実施した無作為化非盲検並行群間比較試験「Scottish Computed Tomography of the Heart trial:SCOT-HEART試験」の10年追跡の結果を報告した。SCOT-HEART試験についてはこれまでに、CCTA管理により5年間の冠動脈疾患死または非致死的心筋梗塞のリスクが約4割低下することが示されていた。著者は、「CCTAによる冠動脈アテローム性動脈硬化症の同定は、安定胸痛患者の長期的な心血管疾患予防を改善する」とまとめている。Lancet誌2025年1月25日号掲載の報告。SCOT-HEART試験10年間の解析 研究グループは、冠動脈心疾患による症候性の安定狭心症の疑いのある18~75歳の患者を、標準治療+CCTA併用群または標準治療単独群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 今回の10年間の解析は事前に規定されたもので、eDRIS(electronic Data Research and Innovation Service)を介してスコットランド公衆衛生局(Public Health Scotland)より臨床アウトカムに関する情報を入手し、必要に応じて医療記録を確認するとともに、薬剤の使用に関する情報はPrescribing Information Systemから得た。 主要アウトカムは、冠動脈心疾患死または非致死的心筋梗塞の発生、副次アウトカムは全死因死亡、心血管死、冠動脈心疾患死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中などで、ITT解析を行った。10年後も冠動脈疾患死または非致死的心筋梗塞が減少 2010年11月18日~2014年9月24日に、4,146例が登録され(平均年齢57[SD 10]歳、男性2,325例[56.1%]、女性1,821例[43.9%])、2,073例が標準治療+CCTA併用群に、2,073例が標準治療単独群に割り付けられた。 追跡期間中央値10.0年(四分位範囲:9.3~11.0)において、冠動脈疾患死または非致死的心筋梗塞の発生は、CCTA併用群137例(6.6%)、標準治療単独群171例(8.2%)であり、CCTA併用群における減少が維持されていた(ハザード比[HR]:0.79、95%信頼区間[CI]:0.63~0.99、p=0.044)。 全死因死亡、心血管死、冠動脈心疾患死および非致死的脳卒中の発生は両群間で差はなかったが(すべてp>0.05)、非致死的心筋梗塞(90例[4.3%]vs.124例[6.0%]、HR:0.72[95%CI:0.55~0.94]、p=0.017)および主要有害心血管イベント(172例[8.3%]vs.214例[10.3%]、0.80[0.65~0.97]、p=0.026)はCCTA併用群のほうが少なかった。 また、冠動脈血行再建術の施行は同程度であったが(315例[15.2%]vs.318例[15.3%]、HR:1.00[95%CI:0.86~1.17]、p=0.99)、予防的治療薬の処方はCCTA群のほうが多かった(有効なデータのある患者1,486例中831例[55.9%]vs.1485例中728例[49.0%]、オッズ比:1.17[95%CI:1.01~1.36]、p=0.034)。

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心筋線維化を伴う無症候性重症AS、早期介入の効果は?/JAMA

 心筋線維化を伴う無症候性重症大動脈弁狭窄症(AS)患者において、早期の大動脈弁置換術による介入は標準的な管理と比較し、全死因死亡またはASに関連した予定外の入院の複合アウトカムに関して、明らかな有効性は認められなかった。英国・エディンバラ大学のKrithika Loganath氏らが、英国およびオーストラリアの心臓センター24施設で実施した前向き非盲検無作為化エンドポイント盲検化試験「Early Valve Replacement Guided by Biomarkers of Left Ventricular Decompensation in Asymptomatic Patients with Severe Aortic Stenosis trial:EVOLVED試験」の結果を報告した。AS患者では、左室代償不全に先立って心筋線維化が進行し、長期的な予後不良につながる。早期介入は、AS関連の臨床イベントリスクが高い患者において潜在的な利点が示唆されていた。著者は、「本試験では主要エンドポイントの95%信頼区間(CI)が広く、今回の結果を確認するにはさらなる研究が必要である」とまとめている。JAMA誌2025年1月21日号掲載の報告。経カテーテルまたは外科的大動脈弁置換術の早期介入と保存的管理を比較 研究グループは、2017年8月4日~2022年10月31日に、18歳以上の無症候性重症AS患者をスクリーニングし、高感度トロポニンI値が6ng/L以上または心電図で左室肥大が認められた場合に心臓MRIを行い、心筋線維化が確認された患者を、経カテーテルまたは外科的大動脈弁置換術を行う早期介入群と、ガイドラインに従った保存的管理を行う対照群に1対1の割合で無作為に割り付けた。最終追跡調査日は2024年7月26日であった。 主要アウトカムは、全死因死亡またはASに関連した予定外の入院(ASに起因する失神、心不全、胸痛、心室性不整脈、房室ブロック2度または3度を伴う)の複合とし、初回イベント発生までの時間についてITT解析を行った。副次アウトカムは、主要アウトカムの各イベント、12ヵ月時の症状(NYHA心機能分類による評価)などを含む9項目であった。複合アウトカムに両群で有意差なし 当初は356例の登録が計画されていたが、COVID-19の流行期に英国政府の指示に従い患者登録は5ヵ月間中断され、流行後も進まなかった。別の新たな2件の無作為化試験の結果から必要イベント件数が35件と推定されたことから、患者登録は早期に中止となった。 解析対象は224例(早期介入群113例、対照群111例)で、患者背景は平均(±SD)年齢73±9歳、女性63例(28%)、平均大動脈弁最大血流速度は4.3±0.5m/秒であった。 主要アウトカムのイベントは、早期介入群で113例中20例(18%)、対照群で111例中25例(23%)に発生した。ハザード比(HR)は0.79(95%CI:0.44~1.43、p=0.44)、群間差は-4.82%(95%CI:-15.31~5.66)であり、有意差は認められなかった。 副次アウトカムは、9項目中7項目で有意差が示されなかった。全死因死亡は、早期介入群で16例(14%)、対照群で14例(13%)に発生した(HR:1.22、95%CI:0.59~2.51)。ASに関連した予定外の入院は、それぞれ7例(6%)および19例(17%)確認された(0.37、0.16~0.88)。また、早期介入群は対照群と比較して、12ヵ月時のNYHA心機能分類II~IVの症状を有する患者の割合が低かった(21例[19.7%]vs.39例[37.9%]、オッズ比:0.37、95%CI:0.20~0.70)。

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乳がん患者の脱毛に対するミノキシジル投与は安全かつ効果的

 発毛剤のロゲインやリアップの有効成分であるミノキシジルを化学療法の最中や治療後に服用すると、多くの乳がん患者で発毛が促され、心臓関連の重大な副作用も認められなかったとする研究結果が報告された。脱毛症の治療薬として知られるミノキシジルは、血管拡張作用により血圧を下げる効果も有することから高血圧の治療薬としても用いられている。しかし、この血管拡張作用が化学療法に伴う心臓関連の副作用を増大させ、胸痛、息切れ、体液貯留などを引き起こすのではないかと懸念されていた。米ニューヨーク大学(NYU)グロスマン医学部のDevyn Zaminski氏らが、NYUランゴン・ヘルスの資金提供を受けて実施したこの研究の詳細は、「Journal of the American Academy of Dermatology」に12月3日掲載された。 Zaminski氏らは、化学療法の副作用の一つである脱毛は、女性によっては、自信を失うほどの苦痛を引き起こすこともあり、脱毛を恐れて化学療法を思いとどまる患者もいると言う。今回の研究では、2012年から2023年までのNYUランゴン・ヘルスの電子記録システムを用いて、女性の乳がん患者に対するミノキシジル投与の安全性と有効性が検討された。対象は、脱毛症治療薬として処方された経口ミノキシジルを1カ月以上服用し、薬の忍容性に関するデータがカルテに記録されていた51人。このうちの25人は化学療法に加えて手術や放射線治療の組み合わせを、26人は手術または放射線治療のみを受けていた。 その結果、医師による評価と患者の自己報告の両方から、低用量の経口ミノキシジルを服用した全ての患者で、治療開始後3~6カ月以内に発毛の改善または脱毛の安定化が確認されたことが明らかになった。追加の治療や入院を必要とするような深刻な心臓関連の副作用が生じた患者はいなかった。NYUグロスマン医学部のKristen Lo Sicco氏は、「本研究により、ミノキシジルは患者にとって安全であり、効果的であることが明らかになった。ミノキシジルの有効性は、外見的に自分らしさを失った患者が、それを取り戻し、自分をある程度コントロールできるようになる助けとなる可能性がある」と述べている。 ただし、研究グループは、軽度の体液貯留といった心臓関連の副作用の中には、患者が気が付かない無症候性のものもあるため申告されておらず、その結果、患者の健康記録に記録されていなかった可能性があると指摘している。また、医師と患者による評価の一部が自己申告または観察によるものであることも、本研究の限界の一つであるとしている。 Lo Sicco氏は、「さらなる研究でこれらの結果を確認するとともに、ミノキシジルが他の種類のがん患者や異なる化学療法を受けている患者にも安全かどうかを確かめる必要がある」と述べている。

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コロナ罹患後症状、研究指標をアップデート/JAMA

 米国・スタンフォード大学のLinda N. Geng氏らは、米国国立衛生研究所(NIH)によるRECOVER(Researching COVID to Enhance Recovery)Initiativeの一環であるRECOVER-Adult studyにおいて、追加の参加者のデータを含めた最新解析を行い、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染後の持続的な症状であるLong COVID(LC)の研究指標を報告した。著者は、「LCの理解が進むに従って指標の継続的な改善が必要で、LC研究指標2023年版を更新した2024年版は、研究者がLCとその症状サブタイプを分類するのに役立つ」とまとめている。JAMA誌オンライン版2024年12月18日号掲載の報告。追加参加者を含めRECOVER成人コホートのデータを解析 研究グループは、米国およびプエルトリコの83施設において、SARS-CoV-2感染歴の有無にかかわらず18歳以上の成人を登録し、90日ごとに症状について調査した。 感染歴がある場合は、初回SARS-CoV-2感染から4.5ヵ月後以降に少なくとも1回来院しており、再感染から30日以内ではない者とした。 研究の対象とした来院期間は、2021年10月~2024年3月であった。 主要アウトカムはLCの有無と参加者が報告した52の症状で、LASSO回帰を用いた重み付けロジスティック回帰分析により、LCを特定する症状と各症状のスコアを算出した。2024年版では11症状で評価 解析対象は1万3,647例(SARS-CoV-2感染が確認されている人1万1,743例、感染歴が確認されていない人1,904例)で、年齢中央値は45歳(四分位範囲:34~69)、73%が女性であった。 LC研究指標2024年版では、2023年版で特定された12症状から3つの症状(性的欲求・性機能の変化、消化管症状、異常行動)が除外され、2つの症状(息切れ、いびきまたは睡眠時無呼吸)が追加された。その結果、LC研究指標は労作後倦怠感、疲労、ブレインフォグ、浮動性めまい、動悸、嗅覚・味覚の喪失または変化、口渇、慢性咳嗽、胸痛、息切れ、いびきまたは睡眠時無呼吸の11症状となった。 また、重度のLC症状を有する患者を特定するためのスコアの閾値は11点以上であった。 LC研究指標2024年版では、既知のSARS-CoV-2感染歴がある参加者の20%、既知の感染歴がない参加者の4%が「LCの可能性が高い」と分類され(2023年版ではそれぞれ21%、5%)、既知の感染歴がある参加者の39%が、2024年版で新たに追加されたカテゴリーである「LCの可能性あり」(スコアが1以上11未満)と分類された。 クラスター分析の結果、生活の質(QOL)を追跡するLC症状サブタイプとして、嗅覚または味覚の変化(サブタイプ1)、慢性咳嗽(サブタイプ2)、ブレインフォグ(サブタイプ3)、動悸(サブタイプ4)、労作後倦怠感・めまい・消化器症状(サブタイプ5)の5つが特定された。その中で、多系統症状で負荷の大きいサブタイプ5は、他のサブタイプよりも、QOL、身体の健康、日常機能が悪いと報告する頻度が高かった。

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糖尿病予備群が大動脈弁狭窄症を引き起こす

 糖尿病予備群の主要な原因であるインスリン抵抗性が、大動脈弁狭窄症のリスクを高めることを示唆するデータが発表された。クオピオ大学病院(フィンランド)のJohanna Kuusisto氏らの研究によるもので、詳細は「Annals of Medicine」に11月26日掲載された。 大動脈弁狭窄症(AS)は高齢者に多い心臓弁の病気の一つであり、心不全や死亡のリスクを高める。Kuusisto氏は、ジャーナル発のリリースの中で、「この新たな発見は、インスリン抵抗性がASの重大かつ修正可能なリスク因子である可能性を浮き彫りにしている。インスリンに対する感受性を高めることを意図した健康管理は、ASのリスクを減らし、高齢者の心血管アウトカムを改善するための新たなアプローチとなり得る」と語っている。 ASの発症後には、時間がたつにつれて大動脈弁が厚く硬くなっていき、心臓が血液を送り出す際の負担が大きくなる。しかし、胸痛や息切れ、動悸、疲労などが現れるまでに何年ものタイムラグがあり、それらの自覚症状が現れた時には既に重症化していることが少なくない。米国心臓協会(AHA)は、75歳以上の米国人の13%以上がASに罹患しているとしている。 一方、インスリン抵抗性は、血糖を細胞に取り込む時に必要なホルモンであるインスリンの作用が低下している状態のことで、2型糖尿病が発症する何年も前に起こり始めていることが多い。インスリン抵抗性がより進行すると、徐々に血糖値が高くなり、やがて糖尿病の診断基準を超える高血糖となる。 この研究では、ASのない45~73歳(平均年齢62歳)のフィンランド人男性1万144人を対象とする、メタボリックシンドロームの疫学調査のデータが解析に用いられた。平均10.8±1.4年の追跡期間中に、1.1%に当たる116人が新たにASと診断された。Cox回帰分析の結果、インスリン抵抗性を表す複数の指標が、ASの発症と関連していることが明らかになった。 例えば、血清Cペプチドが高い場合は、ASの発症ハザード比(HR)が1.47(95%信頼区間1.22~1.77)であった。血清Cペプチドが高いことはインスリン分泌が増加していることを示しており、インスリン抵抗性による血糖上昇の負荷が高まっていることを表している。また、Matsudaインデックスという指標が高い場合はHR0.68(0.56~0.82)だった。Matsudaインデックスは値が低いほどインスリン抵抗性がより強いことを意味する。これらの関連性は、ASの既知のリスク因子を調整した解析、および、糖尿病患者を除外した解析でも有意だった。 Kuusisto氏は、「体重管理や運動の励行などによってインスリン感受性を高めることが、ASの発症抑止につながるのかを確認するため、今後のさらなる研究が求められる」と述べている。

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結核が再び最も致命的な感染症のトップに

 世界保健機関(WHO)は10月29日に「Global Tuberculosis Report 2024」を公表し、2023年に世界中で820万人が新たに結核と診断されたことを報告した。この数は、1995年にWHOが結核の新規症例のモニタリングを開始して以来、最多だという。2022年の新規罹患者数(750万人)と比べても大幅な増加であり、2023年には、世界で最も多くの死者をもたらす感染症として、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を抑えて再びトップに躍り出た。 WHOのテドロス事務局長(Tedros Adhanom Ghebreyesus)は、「結核の予防・検出・治療に有効な手段があるにもかかわらず、結核が依然として多くの人を苦しめ、死に至らしめているという事実は憤慨すべきことだ」とWHOのニュースリリースで述べている。同氏は、「WHOは、各国が、これらの手段を積極的に活用し、結核の撲滅に向けて約束した取り組みを確実に実行するよう求めている」と付言している。 2023年の世界の結核患者数は1080万人に上り、男性の方が女性よりも多く(55%対33%)、12%は子どもと思春期の若者だった。また、HIV感染者が全罹患者の6.1%を占めていた。結核患者数には地域的な偏りが見られ、インド(26%)、インドネシア(10%)、中国(6.8%)、フィリピン(6.8%)、パキスタン(6.3%)の上位5カ国だけで56%に上り、これら5カ国にナイジェリア、バングラデシュ、コンゴ民主共和国を含めた8カ国が世界全体の感染者の3分の2を占めていた。 結核の新規罹患者の多くは、栄養不足、HIV感染、アルコール使用障害、喫煙(特に男性)、糖尿病の5つの主要なリスク因子が原因で結核を発症していた。WHOは、これらのリスク因子と貧困などの他の社会的決定要因に対処するには、協調的なアプローチが必要だと主張する。WHO世界結核プログラムディレクターのTereza Kasaeva氏は、「われわれは、資金不足、罹患者にのしかかる極めて大きな経済的負担、気候変動、紛争、移住と避難、COVID-19パンデミック、そして薬剤耐性結核など、数多くの困難な課題に直面している」と指摘。「全てのセクターと利害関係者が団結し、これらの差し迫った問題に立ち向かい、取り組みを強化することが不可欠だ」とWHOのニュースリリースで述べている。 一方、報告書には明るい兆しも見えた。結核による死亡者数は世界的に減少傾向にあり、新規罹患者数も安定し始めているという。それでもWHOは、「多剤耐性結核(MDR-TB)は依然として公衆衛生上の危機だ」と指摘し、「MDR-TBまたはリファンピシン耐性結核(RR-TB)の治療成功率は現在68%に達している。しかし、MDR/RR-TBを発症したと推定される40万人のうち、2023年に診断され治療を受けたのは44%に過ぎない」と懸念を示している。 結核は空気中の細菌によって引き起こされ、主に肺を侵す。WHOによると、世界人口の約4分の1が結核菌に感染していると推定されているが、そのうち症状が現れるのは5%から10%に過ぎないという。結核菌感染者は体調不良を感じないことも多く、感染力も低い。WHOは、「結核の症状は数カ月間、軽度のままで推移することがあるため、知らないうちに簡単に他人に病気を広めてしまう」と指摘している。主な結核の症状は、長引く咳(出血を伴うこともある)、胸痛、衰弱、倦怠感、体重減少、熱、寝汗などである。WHOは、「症状は感染部位により異なる。好発部位は肺だが、腎臓、脳、脊椎、皮膚にダメージを与える可能性もある」と付け加えている。

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腫瘍循環器学と不易流行【見落とさない!がんの心毒性】第30回(最終回)

連載終了にあたりある日、医療・医学情報サイトCareNet.comの編集者から腫瘍循環器学に関する連載をしませんかという企画をいただきました。そしてその内容はインターネット情報サイトを活用して、腫瘍循環器専門医のみならず一般の循環器医や腫瘍医の先生、メディカルスタッフの皆さんに腫瘍循環器学をわかりやすく理解していただくため、というものでした。この頃は、大阪府立成人病センター循環器内科において腫瘍循環器外来が開始して以来10年が経過した時点であり、日本腫瘍循環器学会が発足したばかりの時期でもありました。タイムリーな企画だなと考え、腫瘍循環器医として第一線で活躍されておられる大倉 裕二先生、草場 仁志先生、志賀 太郎先生をお誘いして本連載を開始することにいたしました。当初は2年間の予定でしたので、最初の1年は総論(第1回~第11回)、その後は症例中心に連載を行うことにいたしました(第12回~第28回)。途中CareNet.com読者の皆さまにアンケートを行う試みも行いました1,2)。症例報告については、当初の4名に加え多くのエキスパートの先生にご参加いただき、実際に先生方がご経験された症例などを元に原稿を作成していただきました。その結果、3年半、合計30回の連載企画になりました。今回は、最終回としてこれまでの3年間を振り返りながら腫瘍循環器学の現在と将来についてまとめさせていただきます。古くて新しいアントラサイクリン系抗がん剤まず取り上げたのは、最も古くから存在する抗がん剤の一つであるアントラサイクリン系抗がん剤でした。1970年代に報告されたアントラサイクリン心筋症こそが、腫瘍循環器領域で最初に報告された心血管合併症(心血管毒性)であり、大倉先生に第2回『見つかる時代から見つける時代へ』で執筆いただきました。それは「アントラサイクリン心不全は3回予防できる」と名言を残した素晴らしい内容でした。循環器医なら全員が知っているはずのアントラサイクリン心筋症ですが、その病態や管理については意外と知られておりません。第15回 化学療法中に心室期外収縮頻発!対応は?第17回 造血幹細胞移植後に心不全を発症した症例第21回 がん化学療法中に発症した肺塞栓症、がん治療医と循環器医が協力して行うべき適切な管理は?さらにアントラサイクリン系抗がん剤と同様に、以前から投与されている殺細胞性抗がん剤について、以下の回で取り上げられました。第22回 フッ化ピリミジン系薬剤投与による胸痛発作症例第25回 膵がん治療中に造影CTで偶然肺塞栓を発見!適切な対応は第26回 増加する化学療法患者-機転の利いた専攻医の検査オーダー第28回 膵がん患者に合併する静脈血栓塞栓症への対応法この古くて新しい抗がん剤については、第17回で取り上げましたように、がん治療が終了した後もがんサバイバーにおける晩期合併症としても大変注目されています。そして、乳がん領域で最も予後が不良であったトリプルネガティブ症例に対する最も新しい治療の一つとしてその有効性が明らかとなっています3)。腫瘍循環器学の始まりは分子標的薬から腫瘍循環器学は2000年になり登場した分子標的薬とそれに伴い出現する心血管毒性が報告されてから急激な発展を遂げています。第3回『HER2阻害薬の心毒性、そのリスク因子や管理は?』で取り上げたHER2阻害薬は、米国・MDアンダーソンがんセンターにおいて世界最初に開設されたOnco-Cardiology Unitのきっかけになったがん治療薬です。当時は副作用が少なく有効性の高い夢のような薬として登場いたしましたが、アントラサイクリンとの併用により高頻度で心毒性が出現(HERA試験)4)したことで、腫瘍循環器領域に注目が集まりました。HER2阻害薬は第3回で解説があるように、その可逆性には二面性があり腫瘍循環器的にも注意が必要な薬剤です。そして、現在最も多く投与されている分子標的薬である血管新生阻害薬について、以下の回で触れています。第4回 VEGFR-TKIの心毒性、注意すべきは治療開始○ヵ月第14回 深掘りしてみよう!ベバシズマブ併用化学療法このほか、第12回、第19回 と本連載でも多く取り上げられています。血管新生阻害薬は高血圧、心不全、血栓症など多くの心血管毒性に注意が必要な薬剤であり、Onco-Hypertension領域におけるがん治療関連高血圧の原因薬剤としても注目されています5)。古くて新しいがん関連血栓症がんと血栓症は、1800年代にトルーソー(Trousseau)らにより「がんと血栓症」が報告されて以来、トルーソー症候群という概念で古くから存在しています。そして現在は血管新生阻害薬などのがん治療薬の進歩に伴い、がん治療に伴う血栓症の頻度が急速に増加してきたことで、がん関連血栓症(CAT:cancer associated thrombosis)という新しい概念が生まれてきました(図1)6)。(図1)画像を拡大する本企画では第8回 がんと血栓症、好発するがん種とリスク因子は?第20回 静脈血栓塞栓症治療中の肺動脈塞栓を伴う右室内腫瘤の治療方針第21回 がん化学療法中に発症した肺塞栓症、がん治療医と循環器医が協力して行うべき適切な管理は?第23回 静脈血栓塞栓症の治療に難渋した肺がんの一例(前編)第24回 静脈血栓塞栓症の治療に難渋した肺がんの一例(後編)第25回 膵がん治療中に造影CTで偶然肺塞栓を発見!適切な対応は第28回 膵がん患者に合併する静脈血栓塞栓症への対応法で、症例クイズとして数多く取り上げています。また、本疾患概念などについては、第9回『不安に感じる心毒性とは?ー読者アンケートの結果から』や第26回『増加する化学療法患者-機転の利いた専攻医の検査オーダー』でも触れられています。そのほかのがん治療古くて新しいがん治療には、放射線療法そしてホルモン療法が挙げられます。第7回『進化する放射線治療に取り残されてる?new RTの心毒性対策とは』、そして第11回『免疫チェックポイント阻害薬、放射線治療の心毒性、どう回避する?』に放射線関連心機能障害(RACD:Radiation Associated Cardiovascular diseases)が取り上げられました。さらに、ホルモン療法は第16回 がん患者に出現した呼吸困難、見落としがちな疾患は?第27回 アンドロゲン遮断療法後に狭心症を発症した症例にて症例提示がなされています。一方、最も新しいがん治療である免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の登場はがん診療にパラダイムシフトを起こしています。ICIに関連した連載は、第5回 免疫チェックポイント阻害薬:“予後に影響大”の心筋炎を防ぐには?第11回 免疫チェックポイント阻害薬、放射線治療の心毒性、どう回避する?第18回 免疫チェックポイント阻害薬の開始後6日目に出現した全身倦怠感第29回 irAE心筋炎の原因の一つに新たな知見が!!と計4回に登場します。また、第6回『新治療が心臓にやさしいとは限らない~Onco-Cardiologyの一路平安~』には、副作用に関するコメントとして、心毒性と腫瘍循環器医が知っておかねばならない副作用情報の読み方がまとめられており、ぜひとも再読してみてください。今後の腫瘍循環器学ニッチな学際領域であった腫瘍循環器学はいまや世界的に多くの研究がなされるようになり、各学会でステートメントやガイドラインが作成されています。本邦では、本連載が始まった後Onco-Cardiologyガイドラインが作成され、現在もトランスレーショナルリサーチや臨床研究がなされており、多くのエビデンスが明らかとなってきています。このような背景の元で、2025年10月に大阪千里ライフサイエンスセンターにおいて第8回日本腫瘍循環器学会学術集会(大会長 向井 幹夫)が開催されます。テーマを「不易流行* がんと循環器:古くて新しい関係」としており、本連載をお読みになられた方にはぜひ学術集会にご参加いただき、一緒に討論いたしましょう。*精選版 日本国語大辞典 第二版より:蕉風俳諧の理念の一つ。新しみを求めてたえず変化する流行性にこそ永遠に変わることのない不易の本質があり、不易と流行とは根元において一つであるとし、それは風雅の誠に根ざすものだとする。芭蕉自身が説いた例は見られないが向井 去来、服部 土芳らの門人たちの俳論において展開された。今回、連載の編集にご協力いただきました3名の先生、そして連載をお願いした腫瘍循環器医の先生方に御礼申し上げます。そして、本連載を読んでいただきました読者の皆さまと共に更なるご発展を祈念いたします。最後にCareNet.com連載について最初から担当いただき、適切なアドバイスをいただきましたケアネット社ならびに担当された土井様に深謝いたします。監修向井 幹夫(大阪がん循環器病予防センター 副所長)編集大倉 裕二(新潟県立がんセンター腫瘍循環器科 部長)草場 仁志(国家公務員共済組合連合会 浜の町病院 腫瘍内科部長)志賀 太郎(がん研究会有明病院腫瘍循環器・循環器内科 部長)向井 幹夫著者大倉 裕二、加藤 浩、北原 康行、草場 仁志、塩山 渉、志賀 太郎、鈴木 崇仁、竹村 弘司、田尻 和子、田中 善宏、田辺 裕子、津端 由佳里、深田 光敬、藤野 晋、向井 幹夫、森山 祥平、吉野 真樹(50音順、敬称略)1)向井幹夫ほか. がん診療医が不安に感じる心毒性ーCareNet.comのアンケート調査よりー. 第5回日本腫瘍循環器学会学術集会.2)志賀太郎ほか. JOCS創設7年目の今、腫瘍医、循環器医、それぞれの意識は〜インターネットを用いた「余命期間と侵襲的循環器治療」に対するアンケート調査結果〜. 第7回日本腫瘍循環器学会学術集会.3)Schmid P, et al. N Engl J Med. 2022;386:556-567.4)Piccart-Gebhart MJ et al. N Engl J Med. 2005;353:1659-1672.5)Minegishi S et al. Hypertension 2023;80:e123-e124.6)Mukai M et al. J Cardiol. 2018;72:89-93.講師紹介

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発作性夜間ヘモグロビン尿症に経口治療薬が登場/ノバルティス

 ノバルティス ファーマは、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の単剤経口薬イプタコパン(商品名:ファビハルタ)の発売と適正使用の推進に向けて都内でメディアセミナーを開催した。 PNHは、後天性の遺伝子異常により赤血球が補体の攻撃を受けやすくなるまれな血液疾患。わが国には約1,000例程度の患者が推定されている。進行は緩徐であるが、溶血発作を繰り返すことで血栓症や造血不全になることもあり、脳卒中や臓器障害といった重篤な合併症を引き起こすリスクがある。 イプタコパンは、新たな作用機序により、現在使われている補体C5阻害薬による適切な治療を行っても十分な効果が得られないPNH患者のヘモグロビン(Hb)値とQOLを改善する単剤で使用できる唯一の経口治療薬。血管内外の溶血を抑制し、Hb値を改善することでPNHの課題に対処するとともに、患者を輸血などの侵襲的な処置を伴う治療から解放する有効な治療選択肢として期待されている。本セミナーでは、PNHの診療ならびに今後の治療への展望、患者の体験談などが講演された。PNHの治療と課題 はじめに「発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の治療と課題」をテーマに西村 純一氏(大阪大学大学院医学系研究科血液・腫瘍内科 招聘教授)が講演を行った。 PNHは後天性のまれな造血器疾患であり、わが国に中等症以上の指定難病の受給者証所持者が約1,000例(軽症例も含めると約2,000例は推定される)おり、年々増加している。有病率はアジア圏で高く、診断時年齢はわが国では45歳であり、性差はない。 発症は、補体活性の制御不能により引き起こされ、補体第二経路が介在することが知られている。典型的な症状として、貧血・めまい、疲労、息切れ・呼吸困難、ヘモグロビン尿症、黄疸、腹痛、嚥下困難、男性機能不全などがみられる。そして、3大徴候として「溶血、血栓症、骨髄不全」がみられ、とくに骨髄不全の有無が、再生不良性貧血や骨髄異形成症候群との鑑別でのメルクマールとなる。 PNHでは、慢性溶血によりNOが枯渇し、ヘモジデリンが腎臓尿細管に沈着するために腎機能が障害される。そのためにPNH患者の64%が慢性腎臓病(CKD)であり、21%がステージ3~5であるという報告もある1)。 また、血栓症についてPNHでは、血管内溶血などにより血栓症を合併する。その多くは静脈血栓症であるが、動脈血栓症も発症し、顆粒球のクローンサイズや溶血の程度が大きいほど血栓症リスクは増加する。 PNHの診断フローチャートによれば、溶血所見を確認後、PNHを疑う場合、フローサイトメトリー検査でPNHかそうでないかを診断する。 PNHの治療については、溶血が主体か(古典的PNH)、骨髄不全が主体か(骨髄不全型PNH)で分けて考えられている。骨髄不全が主体の場合、再生不良性貧血の診療が参照となる。一方、溶血が主体の場合、重症、中等症、軽症に分けて治療が行われる。 溶血の治療では、2010年に登場した補体C5阻害薬のエクリズマブから最新の補体B因子阻害薬のイプタコパンまで数種類の治療薬が現在使用できる(ただし抗補体療法は中等症[LDH値が正常の3倍以上、年に1~2回肉眼的ヘモグロビン尿症認知、腎障害、胸痛、腹痛などの症状あり]以上が適応)。 補体C5阻害薬の使用により、血管内溶血の抑制、貧血の改善、患者のQOLの改善、血栓症の予防、ステロイドの減量・中止、抗凝固薬の減量・中止、妊娠の管理ができるなどの効果が得られる。その一方で、持続性貧血の残存2)、輸血依存、疲労感などのQOL不良、治療薬に抵抗性のある患者への対応などの課題もある。 西村氏は「PNH患者のQOL向上のために、溶血に伴う持続性貧血だけでなく、疲労の改善も今後は考える必要がある」と語り、説明を終えた。イプタコパンは貧血に伴う疲労感の改善に期待される PNHに関して、患者の生命予後は良くなったが、患者のQOLの改善は課題とされている。そこで、イプタコパンがどういう効果を及ぼすか、また、今後の治療をどう考えるかについて「国際共同第III相試験の結果から考えるPNH治療の展望」をテーマに、植田 康敬氏(大阪大学大学院医学系研究科 血液・腫瘍内科 学内講師)が、イプタコパンのAPPLY-PNH試験の概要を説明した。 イプタコパンの国際共同第III相試験のAPPLY-PNH試験では、主要評価項目として、無輸血で126~168日目にHb値がベースラインから2g/dL以上増加するか、無輸血で126~168日目にHb値12g/dL以上となるかの2項目が評価された。また、副次評価項目として輸血回避、FACIT-Fatigueスコア(日常生活および機能に疲労が及ぼす影響を評価する患者報告アウトカムの指標、がん患者で頻用されている)3)のベースラインからの変化量、網状赤血球数のベースラインからの変化量などが評価された。 試験デザインとして、補体C5阻害薬投与下で貧血を呈するPNH患者97例(日本人9例を含む)について、主要評価期(24週間)にはイプタコパン群62例(日本人6例を含む)と補体C5阻害薬群35例(日本人3例を含む)に分け実施、継続投与期(24週間)には全員がイプタコパンを投与された。 その結果、血液学的奏効ではHb値の改善はイプタコパン群が82.3%だったのに対し、補体C5阻害薬では2.0%だった。また、輸血回避(無輸血)はイプタコパン群が94.8%だったのに対し、補体C5阻害薬では25.9%だった。LDH値の対ベースライン比は、イプタコパン群と補体C5阻害薬はほぼ変わらなかった。これは、血管内溶血の抑制維持を示すものとされる。 副次評価項目であるFACIT-Fatigueスコアでは、イプタコパン群が8.59だったのに対し、補体C5阻害薬では0.31だった(点数が低いほど疲労が大きい)。また、臨床的ブレイクスルー溶血の発現はイプタコパン群が2例(3.2%)だったのに対し、補体C5阻害薬では6例(17.1%)だった。 安全性面について、主な副作用として両群ともに頭痛、悪心、関節痛が報告されているが、死亡などの重篤なものは報告されなかった。 48週後の効果についてもイプタコパン群は、血液学的奏効、輸血回避も効果が持続し、FACIT-Fatigueスコアも高いまま効果が保たれ、安全面でも24週時と同様の結果だった。 植田氏は、「PNH合併症の貧血からくる疲労感が、患者のQOLや予後不良4)、認知機能に大きな影響を与えている。PNHでは貧血だけでなく、この疲労感の改善も考える必要がある。今回発売されたイプタコパンが、今後、これらの患者の疲労感の改善を促し、経口薬という身体に負担の少ない治療によりQOLが改善することを期待する」と述べ、説明を終えた。 最後にPNH患者の体験談として、「当初は15分の徒歩通勤も大変だったこと、最初のころの点滴治療がつらかったこと、現在では経口薬の治療により活動的になったことなど」が語られた。 なお、イプタコパンは、2024年6月24日に製造販売承認を取得し、同年8月15日に薬価基準収載、発売されている。効能・効果は発作性夜間ヘモグロビン尿症。用法・用量は、通常、成人に1回200mgを1日2回経口投与。薬価は7万3,218.10円となっている。

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これでイノカ(INOCA)?これでいいのだ!【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第76回

狭窄や閉塞のない原因不明の胸痛「本当に胸が痛いんです」外来の診察室で患者さんが話します。他病院を受診していたのですが、経過が思わしくなく当方を受診されたようです。「○○病院の循環器内科のお医者さんは、相手にしてくれないんです。本当に痛みがあるのに、心療内科に紹介するというのです。神経質だからとか、不安症だからという訳ではないんです。本当に胸が痛いんです。悔しいやら、情けないやら、先生、助けてください」患者は50歳の女性で、3ヵ月前から始まった胸痛を主訴に来院しました。胸痛は主に運動時に出現し、階段の上り下りや家事中に誘発されるそうです。前胸部に鈍痛として感じられ、締め付けられるような感覚を伴います。痛みは夜間にも現れることがあり、数分から10分程度持続します。全体的に疲れやすく、活動時に息苦しさもあるとの訴えです。○○病院を受診し、初診時の心電図や心エコーでは明らかな異常は認められませんでしたが、狭心症の疑いがあるからとの説明で心臓CT検査を受けました。その結果、冠動脈に狭窄や閉塞はなく大丈夫と言われたそうです。心臓CTを受ける前に、もし冠動脈に詰まりかけている部位があれば、入院してカテーテル治療が必要かもしれないと説明を受けたとのことでした。この時点までの医師の対応は、優しく患者に寄り添い、訴えにも親身に耳を傾けてくれたそうです。ところが、冠動脈に狭窄病変がないと結果が判明したときから、医師の対応が冷たくなり、症状を訴えても相手にしてくれなくなりました。近年注目されるINOCAこの患者さんのように、原因不明とされる胸痛に悩まされている方は、実は多く存在します。注目を集めている病態があります。目視できるサイズの冠動脈に閉塞や狭窄がない狭心症という意味で、虚血性非閉塞性冠疾患(Ischemic Non-obstructive Coronary Artery disease)といい、スペルの頭文字からINOCAと略され、「イノカ」と発音します。高血圧・糖尿病・脂質異常症などの動脈硬化リスクの高い患者では、冠動脈に明らかな閉塞・狭窄がみられます。一方で、動脈硬化リスクが低い患者では冠動脈が正常にみえることから、検査をしても異常なしとされることが多くありました。近年、INOCAを診断するための新しい検査機器が開発され、今まで診断することができなかった原因不明の胸痛に対する確定診断の道筋ができたのです。従来法の冠動脈造影検査が正常であっても、本当は心臓が血流障害のために悲鳴を上げている病態です。詳細は述べませんが、冠攣縮性狭心症や微小血管狭心症の可能性があります。微小血管狭心症とは、肉眼では見えない髪の毛ほどの太さ(100μm以下)の微小な冠動脈の動脈硬化や拡張不全、収縮亢進のために胸痛が生じるのです。この患者さんの場合、専用のカテーテル検査機器と解析ソフトを用いて微小血管の血流や抵抗値を測定し、微小血管狭心症の診断が確定しました。その病態に応じて内服薬を調整し、胸痛から開放されました。難しい症例は共感が薄れる?この例を通じて多くの考えることがありました。診断が難しい、あるいは治療が困難な症例に直面すると、医師は精神的な負担を感じやすくなります。これにより患者に対する対応が冷たくなったり、共感が薄れたりするのです。治療が順調に進み見通しが良い場合に、より共感的に対応することは簡単です。反対に、診断がつかない、治療の見込みがない場合には、距離を置いてしまう傾向があります。紹介した症例で最初に対応した○○病院の循環器内科医を責めている訳ではありません。医師であれば、誰でも思い当たる感情の揺らぎなのです。また「後医は名医」というように、情報が集約された時間的に後から診療する医師のほうが優位な立場にあることは明白です。とはいえ、どのような状況でも心の平静を保ち、フラットに対応できる精神力を維持することの大切さを学んだのでした。自分は、INOCAの症例に出会うたびに自問自答する呪文があります。「これでイノカ?」カンファレンスの場で声に出すと恥ずかしいので、心の中で唱えます。「これでいいのだ!」ご存じのように、バカボンのパパのあまりにも有名な決めセリフです。ザ・昭和のギャグアニメの主人公にして、私も最も敬愛する人物であるバカボンのパパは、バカ田大学を主席で卒業し、定職に就かず「これでいいのだ!」を合い言葉に、日々楽しく自由に生きる男です。美人の妻と、バカボンとはじめちゃんという2人の息子がいます。バカボンのパパの名言を紹介します。「わしはバカボンのパパなのだ。わしはリタイヤしたのだ。すべての心配からリタイヤしたのだ。だからわしは疲れないのだ。どうだ、これでいいのだ。やっぱり、これでいいのだ」バカボンという名前の由来は、サンスクリット語の仏教用語「薄伽梵(ばぎゃぼん)」という言葉という説もあるそうです。「これでいいのだ」は、お釈迦さまの「すべてをありのままに受け容れる」という悟りの境地に到達していることを示す言葉なのです。話が脱線したようですが、患者さんの訴える症状を否定することなく受け容れることが、INOCAの診断の鍵であることは間違いありません。「これでイノカ? やっぱり、これでいいのだ!」

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STEMIの最終的な梗塞サイズの縮小、ステロイドパルスは有効か?/ESC2024

 ST上昇型急性心筋梗塞(STEMI)患者の臨床転帰を左右する決定因子として、最終的な梗塞サイズが挙げられる。今回、最終的な梗塞サイズを縮小させる可能性がある方法として、梗塞早期でのグルココルチコイドのパルス療法による効果を検証するため、デンマーク・コペンハーゲン大学病院のJasmine Melissa Madsen氏らが医師主導二重盲検プラセボ対照ランダム化比較試験を実施した。その結果、STEMI患者に対し、入院前治療としてグルココルチコイドのパルス療法を行っても、3ヵ月後の最終的な梗塞サイズは縮小しなかったことが示された。この研究は8月30日~9月2日に英国・ロンドンで開催されたEuropean Society of Cardiology 2024(ESC2024、欧州心臓病学会)のセッションで報告され、JAMA Cardiology誌オンライン版2024年8月30日号オンライン版に同時掲載された。 本研究は、18歳以上で急性胸痛から12時間未満、心電図でSTEMIと診断された患者を対象に、2022年11月14日~2023年10月17日にデンマーク国立病院のRigshospitaletで実施された。最終追跡調査は2024年1月17日までであった。 対象者は入院前の段階で、グルココルチコイド(メチルプレドニゾロン250mg)静注群、またはプラセボ(9%NaCl 4mL)投与群に1対1で無作為に割り付けられ、Rigshospitaletで心臓MRI検査(CMR)のために受け入れられ次第すぐに、割り付け薬剤のボーラス投与が行われた。主要評価項目は3ヵ月後のCMRによる最終的な梗塞サイズ。副次評価項目は急性期および3ヵ月後のCMR結果、心臓バイオマーカーのピーク、3ヵ月後の臨床転帰、有害事象であった。 主な結果は以下のとおり。・割り付け後に適格基準を満たしたSTEMI患者530例の内訳は、年齢中央値65歳([四分位範囲[IQR]:56~75]、男性:418例(78.9%)だった。そのうち主要評価項目の評価を行うことができたのは401例(76%)で、グルココルチコイド群198例、プラセボ群203例だった。・最終的な梗塞サイズの中央値は治療群間で差はなかった(グルココルチコイド群5%[IQR:2~11]vs.プラセボ群6%[IQR:2~13]、p=0.24)。・ただし、プラセボ群と比較して、グルココルチコイド群では梗塞サイズが小さく(オッズ比[OR]:0.78、95%信頼区間[CI]:0.61~1.00)、微小血管閉塞(microvascular obstruction:MO)が少なく(相対リスク比[RR]:0.83、95%CI:0.71~0.99)、左室駆出率が有意に高かった(平均差:4.44%、95%CI:2.01~6.87)。・副次評価項目である心筋サルベージインデックス(MSI)や各種心筋マーカー(トロポニンTやCK-MBのピークなど)も両群間で差はなかった。・有害事象のうち30件(4%)は感染症に関連し、5件(0.7%)は皮膚合併症に関連したものであった。 本結果に対し、研究者らは「対象者の最終的な梗塞サイズが予想よりも小さかったため、この試験は検出力が不十分だった可能性がある」としている。

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こじれた風邪には…【漢方カンファレンス】第6回

こじれた風邪には…以下の症例で考えられる処方をお答えください。(経過の項の「???」にあてはまる漢方薬を考えてみましょう)【今回の症例】40代女性主訴咳嗽既往特記事項なし病歴10日前に38.2℃の発熱、咽頭痛、鼻汁、咳嗽が出現した。近医に受診してウイルス性上気道炎の診断で総合感冒薬の処方を受けた。その後も37.5℃前後の発熱が持続して、咳、痰が続き、夜も眠れなくなったため来院した。現症身長167cm、体重56kg。体温37.4℃、血圧120/75mmHg、脈拍70回/分整、呼吸数16回/分、酸素飽和度98%。咽頭発赤あり、扁桃肥大なし、後鼻漏なし、頸部リンパ節腫脹なし、呼吸音異常なし。体熱感あり。胸部X線で肺炎像・胸水なし。経過初診時「???」エキス3包+「???」エキス3包分3を処方。(解答は本ページ下部をチェック!)1週間後漢方薬を内服してから、よく眠れるようになった。徐々に咳が軽減し、3日後には改善した。問診・診察漢方医は以下に示す漢方診療のポイントに基づいて、今回の症例を以下のように考えます。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?(冷えがあるか、温まると症状は改善するか、倦怠感は強いか、など)(2)虚実はどうか(症状の程度、脈・腹の力)(3)気血水の異常を考える(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む【問診】<冷えを確認>悪寒や体熱感がありますか?悪寒はなく、熱っぽい感じです。<軽度の悪寒を確認>(患者の首筋を紙であおぎながら)こうして風が吹いてもゾクゾクしませんか?ゾクゾクした感じはありません。<温冷刺激に対する反応を確認>のどは渇きませんか?今、温かい物と冷たい物のどちらが欲しいですか?のどは少し渇いていて、冷たい物が飲みたいです。<ほかの随伴症状を確認>のどの痛みは強いですか?頭痛はありませんか?のどの痛みは強いです。頭痛はありません。痰は多いですか?どのような痰ですか?食欲はどうですか?食べ物の味が変わっていませんか?痰は多くて、ねばっこくて黄色です。口のなかが苦い気がして、食べる量はいつもより少ないです。横になりたいほどの倦怠感はありませんか?横になりたいほどの倦怠感はありません。【診察】顔色は正常で、手足を触診しても冷えはなかった。また、脈診では、浮沈中間で、反発力は中等度(脈:浮沈間、強弱中間)であった。また、後頸部から背部を触診すると、汗を少しかいていた。また、舌をみると舌苔が厚く、腹診では腹力は中等度、両側季助部の抵抗を認めた。カンファレンス今回は、「感染後咳嗽」と診断されるようなこじれた風邪の症例ですね。外来でもしばしば経験します。今回のように肺炎などの合併も考えにくい場合には、現代医学的には対症療法を継続するくらいしか方法はありませんよね。今回の症例は、自他覚所見ともに冷えはなく、倦怠感も強くないので「陰証」とは考えにくいです。体熱感を自覚して冷たい水を好むという点からも「陽証」だと思います。病態の「陰陽」の判断が上手になりましたね。今回は「陽証」でよいですね。さらに陽証のなかでも、悪寒はないので太陽病(第4回「今回のポイント」の項参照)の時期は過ぎていると考えられます。その次は、闘病反応の程度を示す「虚実」の判定を行う必要があります。基本的に「虚実」は、脈診と腹診で反発力をみて判定するとよいよ。本症例では、脈診で、脈と腹の反発力は中等度となっていることから「虚実」は虚実中間くらいと考えてよいね。こじれている風邪や急性期を過ぎた風邪でも、冷えや倦怠感が目立つ場合は、陰証(少陰病[冷えが強く全身に及び、体力が衰えて、元気がないのが特徴]、第2回「今回のポイント」の項、第5回参照)で麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)の適応でないか、まず除外する必要があります。今回のように冷えが明らかでなく、微熱、咳嗽、咽頭痛が中心の場合には、少陽病期(本ページ下部の「今回のポイント」の項参照)であることが多いですね。本症例をまとめます。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?悪寒・冷えなし、冷たい飲み物を好む、体熱感あり→熱が主体(陽証)さらに脈:浮沈間、口が苦い、厚い舌苔、胸脇苦満など→少陽病(2)虚実はどうか脈:強弱中間、腹力:中等度(3)気血水の異常を考える喀痰が多い→水毒(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む微熱、湿性咳嗽、強い咽頭痛本症例は、微熱、咳嗽、口が苦い、舌苔が厚い、胸脇苦満など、少陽病の特徴が揃っていますね(今回のポイント「少陽病」の解説参照)。小柴胡湯(しょうさいことう)で治療するとよいでしょうか?小柴胡湯の適応と考えてよいでしょう。しかし、本症例のように咳嗽が主訴の場合には、小柴胡湯に鎮咳作用のある漢方薬を併用した方がより治療効果が高いです。本症例では、喀痰が多い湿性咳嗽ですので半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)と併用するとよいですね。喀痰の量が少ないか、乾性咳嗽の場合には麦門冬湯(ばくもんどうとう)を併用します。さらに小柴胡湯に桔梗(ききょう)と石膏(せっこう)を加えて鎮痛作用と抗炎症作用を強化した小柴胡湯加桔梗石膏(しょうさいことうかききょうせっこう)という漢方薬があります。本症例のように咽頭痛が強く、咽頭発赤がある場合には小柴胡湯よりも、小柴胡湯加桔梗石膏を用いる方がよいです。解答・解説【解答】本症例は、少陽病・虚実間で、小柴胡湯加桔梗石膏と湿性咳嗽に用いる半夏厚朴湯を併用して治療しました。【解説】少陽病期の代表的な漢方薬が小柴胡湯です。小柴胡湯にはさまざまなバラエティのエキス製剤がありますので覚えておくと便利です(表1)。今回紹介した鎮痛作用や抗炎症作用を強化した小柴胡湯加桔梗石膏以外にも、小柴胡湯に半夏厚朴湯が組み合わされた柴朴湯(さいぼくとう)があります。こちらは1種類の漢方薬で済むのが利点です。長引く咳のため胸痛を伴うようになった場合には小柴胡湯と小陥胸湯(しょうかんきょうとう)が合わさった柴陥湯(さいかんとう)という漢方薬もあります。また、小柴胡湯と利水剤の代表である五苓散(ごれいさん)が含まれる柴苓湯(さいれいとう)は、ウイルス性腸炎で下痢が続いて、微熱がある場合などに使用可能です。また、小柴胡湯は抗炎症作用をもつ生薬「柴胡(さいこ)」が含まれるのが特徴です。柴胡が含まれる小柴胡湯と仲間の漢方薬を「柴胡剤(さいこざい)」とよびます。柴胡剤はそれぞれの特徴により、使い分けられます。そのなかでも柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)は、太陽病期の桂枝湯(けいしとう)と小柴胡湯を混ぜたような処方で、太陽病から少陽病への移行期から風邪の治り際まで適応範囲が広く、使いやすいのが特徴です。どの柴胡剤を使うべきか迷う場合には柴胡桂枝湯がよいともいわれます。今回のポイント「少陽病」の解説漢方では風邪をいくつかのステージに分類します。風邪のひき始めのように悪寒があって、脈が浮である時期を「太陽病」といいました。さらに発症からおよそ2~3日経過して、悪寒がなくなって、脈が浮でなくなってくる時期を「少陽病」とよびます(表2)。太陽病では体表面にあった闘病反応が、少陽病では、生体の内部(半表半裏)まで影響をし始めて、口が苦い、のどが乾く、ムカムカする嘔気、食欲不振などの症状が出現します。脈は表在性に触知できる浮からやや沈んだ状態に変化します。また太陽病では着目しなかった舌や腹部の所見も重要になります。舌では、舌苔が厚くなってきます(写真左)。腹診では両側季助部に指を差し込む(写真右)と抵抗感や患者の苦痛が出てきて、胸脇苦満(きょうきょうくまん)とよびます。太陽病では、発汗により治療をしましたが、少陽病では、その場で闘病反応(炎症)を鎮める治療に変わります。少陽病の代表的な漢方薬が小柴胡湯です。

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健康な60歳以上の4人中1人に無症状の心臓弁膜症

 心臓弁膜症がある高齢者の割合は、これまで考えられていた以上に高いことが、新たな研究で示された。一見、健康で症状もない60歳以上の人の4人中1人以上に未診断の心臓弁膜症のあることが、英イースト・アングリア大学医学部心臓内科学臨床教授のVassilios Vassiliou氏らの研究によって明らかになった。この研究結果は、「European Heart Journal-Cardiovascular Imaging」に6月26日掲載された。 Vassiliou氏は、「われわれの研究から、こうした60歳以上の成人の28%以上に何らかの種類の心臓弁膜症のあることが明らかになった。ただ、安心できるのは、そのほとんどが極めて軽症であることだ」と言う。また、同氏は同大学のニュースリリースの中で、「このデータから、心臓弁膜症に関連する主要な要因が年齢であり、高齢になるほど心臓の弁の問題を抱える確率が高まることも示された」と説明している。 血液は本来、心臓の中で一方向に流れるようになっている。心臓の弁は拍動と拍動の間に血液が逆流するのを防ぎ、心臓の機能を最適な状態に保つ働きを担っている。心臓弁膜症は、これらの心臓の弁の1つ以上が十分に開かない、あるいは閉じないなどの機能不全に陥り、血液の一部が逆流することで起こる。 論文の上席著者である英ロイヤル・ブロンプトン病院のMichael Frenneaux氏は、「こうした問題が起こると心臓はより強く血液を押し出そうとし、心臓に過剰な負担がかかる。この状態が続くと、心筋梗塞や脳卒中、そのほかの心疾患のリスクが高まる」と説明する。心臓弁膜症の症状としては、息苦しさや胸痛、脱力感、めまい、疲労感、足首や足のむくみ、胸や首の動悸などが挙げられる。 今回の研究では、英国に居住する心臓弁膜症の診断を受けたことのない60歳以上の男女4,237人(平均年齢69.1歳、女性54.2%)を対象に、心臓弁膜症の有病率と無症候性の心臓弁膜症に関連する因子の評価を行った。研究参加者は健康に関する質問票に回答した後、診察と心臓超音波検査(心エコー検査)を受けた。 その結果、研究参加者の28.2%(1,195人)に心臓弁膜症が見つかった。ただ、中等症~重症の心臓弁膜症が見つかった人の割合はわずか2.4%(101人)であった。心臓弁膜症の有病率は年齢層が上がるごとに上昇しており、例えば60〜64歳で21.2%、70〜74歳で31.5%、85歳以上で53.6%あった。多変量回帰分析からは、臨床的に重要な心臓弁膜症と関連する唯一のパラメーターは年齢であることが示された(1歳増加するごとの心臓弁膜症発症のオッズ比は1.07、P<0.001)。臨床的に重要な心臓弁膜症を1例診断するために必要な心エコー検査の実施件数は60歳以上の人の場合は42回、75歳以上の人の場合は15回であることも示された。 心臓弁膜症の診断に必要な検査の主体となっているのが心エコー検査だが、心エコー検査は、「通常、患者から症状の訴えがあった場合、あるいは診察時に異常な心雑音が聞こえた場合にのみ実施される」とVassiliou氏は言う。その上で、「このことは高齢者にとって厄介な状況になり得る。というのも、軽い症状があったとしても、高齢者では身体活動量や運動機能の低下によってそれが分かりにくくなり、見逃されてしまう可能性があるからだ」と同氏は付け加えている。 Vassiliou氏は「この研究によって、高齢者の多くが、無症状でも心臓の弁に問題を抱えていることが明らかになった。もし心臓病を示唆するような新たな症状や兆候が現れたら、かかりつけ医に相談することを勧める」と話している。 研究グループは、今後は高齢者における心臓弁膜症の正確な有病率や、この疾患を高い精度で検出して管理できるようにするための、より優れたスクリーニング方法について、さらなる研究で明らかにする必要があるとの考えを示している。

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NSCLC患者への周術期ペムブロリズマブ、QOLの評価(KEYNOTE-671)/ASCO2024

 切除可能な非小細胞肺がん(NSCLC)患者を対象としたKEYNOTE-671試験では、術前補助療法としてペムブロリズマブ+化学療法、術後補助療法としてペムブロリズマブを用いた場合、術前補助療法として化学療法を用いた場合と比較して、無イベント生存期間(EFS)、全生存期間(OS)などが有意に改善したことが報告されている1)。今回、本試験における健康関連QOL(HRQOL)の解析結果が、米国臨床腫瘍学会年次総会(2024 ASCO Annual Meeting)で、イタリア・Fondazione IRCCS Istituto Nazionale dei TumoriのMarina Garassino氏より発表された。 KEYNOTE-671試験では、対象患者797例を以下のとおり試験群と対照群に1対1で無作為に割り付けた。・試験群(397例):ペムブロリズマブ200mg+化学療法(シスプラチン[75mg/m2]+ゲムシタビン[1,000mg/m2を各サイクル1、8日目]またはペメトレキセド[500mg/m2])を3週ごと最大4サイクル→手術→ペムブロリズマブ200mgを3週ごと最大13サイクル・対照群(400例):プラセボ+化学療法(同上)を3週ごと最大4サイクル→手術→プラセボを3週ごと最大13サイクル HRQOLの変化は副次的評価項目であり、患者はベースライン、術前補助療法フェーズ(手術前最後の受診時)、術後補助療法フェーズ(術後補助療法の1~4、7、10、13サイクル目)、術後補助療法後のフォローアップ期間中に、EORTC QLQ-C30およびQLQ-LC13の調査票に回答した。 主な結果は以下のとおり。・調査票への回答率は、両群ともに術前補助療法フェーズの11週目で87%以上(コンプライアンス87%以上)、術後補助療法フェーズの10週目で62%以上(コンプライアンス92%以上)であった。・ベースラインから術前補助療法フェーズの11週目までの変化および術後補助療法フェーズの10週目までの変化は、QLQ-C30の全般的な健康状態/QOL、機能尺度(身体、役割)、症状尺度/項目(呼吸困難)、QLQ-LC13の症状尺度/項目(咳、胸痛)において、両群間に差はなかった。・QLQ-C30の全般的な健康状態/QOL、機能尺度(身体、役割)は両群ともに術前補助療法フェーズで低下が認められたが、術後補助療法フェーズでおおむねベースラインレベルまで上昇した。 Garassino氏はKEYNOTE-671試験におけるHRQOLの結果について「OSとEFSの改善、新たな安全性シグナルが認められなかったことと併せて、術前および術後補助療法におけるペムブロリズマブの使用が新しい標準治療であることを裏付けている」とまとめた。

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50年代のすでに廃れた治療法に、もう一度光が当たるのか?(解説:野間重孝氏)

 冠状静脈洞減圧術(Coronary Sinus Decompression:CSD)という名称で呼ばれる処置は、奇しくも1950年代のほぼ同時期に、まったく異なった2つの分野で開発された。1つはこの論文の研究対象となっている冠動脈疾患治療目的のCSDであり、もう1つは先天性心疾患の治療目的で開発されたCSDである。混乱を避ける意味でも、まず後者について簡単に解説した後、本題に入りたいと思う。 先天性心疾患治療目的のCSDは冠静脈洞の形態異常や機能障害を有する患者の治療目的で開発されたもので、冠静脈洞型心房中隔欠損症、冠静脈洞閉鎖、冠静脈洞狭窄などを対象としており、そもそもは冠静脈洞型心房中隔欠損症を対象として開発された。もちろん開胸手術であり、当時、施行には高度なテクニックが必要であった。後に、より安全に施行できるデバイスの開発がなされ現在でもまだ行われているが、冠静脈洞型心房中隔欠損症そのものがきわめてまれな疾患のため、一部の専門の方を除いてはおそらくご存じでない方が多いのではないかと推察する。ここでは、とにかく今回の論文の内容とこの先天性心疾患治療手技は、名前は同じでもまったく別のものである点にのみご注意いただければ十分である。 さて、そこで問題の冠動脈疾患治療目的のCSDである。すでにおわかりのとおり、1950年代には経皮的冠動脈形成術はもちろん、バイパス手術も存在しなかった。その代わりに画期的な治療法として注目されていたのが、当時新しく開発されたCSDだった。具体的には開胸の後、冠静脈を露出させ、拡張術や冠静脈洞にバイパス手術が行われた。この治療法のメカニズムについてはいろいろと議論がなされるが、基本的にはわかりやすいもので、血液は高圧領域(つまり動脈領域)から低圧領域(つまり静脈領域)に流れるのだから、両領域の圧格差を大きくし、さらに静脈血をすばやく取り除くことで流れをよくすれば、より多くの血液が流れるであろうというものである。よく心筋灌流再分布であるとか冠微小循環の改善などを挙げる人がいるが、50年代にそのような概念はまだ確立されてはいなかった。 当時の研究法は現在とは違い厳密な統計学を用いた方法ではなかったから、その結果の解釈には一定の限界があるが、胸痛の改善、運動能力の向上、左室機能の改善、死亡率の低下などの利点が数多く報告された一方、当然のことながらプラセボ効果の可能性、研究・評価方法の欠陥、長期的な効果の検証不足などが指摘され、結局決着がつかないまま次の時代に移行していった。つまり、冠動脈バイパスなどの直接的な治療法の時代が訪れたのである。私たち研究者がよくよく反省しなければならない点をあえて挙げると、時代が変わると前の時代に問題になっていたことの究明から驚くほど急速に関心が遠のくことである。これは肺性心のメカニズムが現代に至るまで謎に包まれていることでも理解できるのではないかと思う。CSDの真の効果、メカニズムが解明されないまま次の時代に移行してしまったことが、本論文の解釈にも大きな影響を与えているのである。 今回の研究は冠静脈洞減圧デバイス(CSR)を難治性狭心症患者に経皮的に埋め込み、症状改善効果をRCTにより検証することだった。主要評価項目はアデノシン負荷MRIによる虚血面積減少量、運動耐容量、生活の質であった。重要な点は、CSRというデバイスの開発によって、心臓カテーテル手技に習熟した医師ならば特別なリスクを見込むことなく、経静脈的にデバイスの留置が可能になったという点である。結果は、CSR埋め込み群とプラセボ群で冠動脈血流量に差は見られなかったが、一方CSR群ではプラセボ群に比して日常の狭心症頻度が減少するという、矛盾したとも取れるものとなった。 まず、読者の中にはこの試験デザインに疑問を持った方が多かったのではないだろうか。というのは、研究対象が「従来の治療法である冠動脈バイパスやPCIで十分な症状改善が得られない重症冠動脈疾患患者」となっているからである。しかし、その一方で試験ではトレッドミル負荷なども行われているのである。トレッドミル負荷の対象になる冠動脈疾患患者が、果たして「きわめて重症な冠動脈疾患患者」といえるのかという問題である。しかし、ここは研究者たちの意見に耳を傾ける必要があるようだ。 彼らが今回対象とした患者は、・冠動脈疾患の診断を受けていること。・少なくとも2回の冠動脈バイパス術またはPCIを受けていること。・週に少なくとも1回は狭心症状を経験していること。・運動負荷試験で有意な狭心症を認めること。 とある。 つまり、現在有効といわれている治療法では狭心症状を改善することができない患者を「重症冠動脈患者」と呼んだということである。たとえば左冠動脈主幹部の90%狭窄は重症冠動脈疾患に決まっている。しかし、ほかに狭窄がなければバイパス1本で症状は軽快し、生命予後は確実に延長する。しかしそうした網の目から漏れてしまう難治性の狭心症患者がおり、それを彼らは「重症冠動脈疾患患者」と呼んだのである。これは冠動脈疾患を単に虚血領域の広さや狭窄の重症度とは別の尺度として受け入れられてよいものではないか、と評者は考えるものである。しかし、冠血流の実際の改善が認められない中での症状の軽快のメカニズムが明らかにならないことには、明確な評価を下すことは難しいのではないだろうか。また、長期フォローの結果も示されなければならないだろう。 現段階で評者は本論文を是とも非とも判断しかねるが、冠動脈疾患にはまだわれわれが知らない何かが潜んでいる可能性については考えを巡らせているところである。ただし、このような補助療法の有効性が認められたとしても、現在行われている機械的な血行再建術に取って代わるものではないことは断言しておかざるを得ないだろう。

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冠攣縮性狭心症の特効薬は、ニトロではなく猫です【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第69回

外来の診察室での患者さんとのやり取りです。中川「本当に長い時間お待たせして申し訳ございません」患者「調子が良かったので、待ち時間もまったく気になりませんでした」中川「前回の診察からお身体の具合はいかがでした?」患者「1回もニトロを使いませんでした、調子は良かったです」明るい表情で答えてくれます。冠攣縮性狭心症と診断されている40代の男性です。狭心症は、冠動脈の血流が低下し心筋に十分な血液が供給されなくなる病気です。通常の狭心症の原因は、動脈硬化性のプラークによって冠動脈に狭窄が生じることです。冠攣縮性狭心症では、胸痛のない非発作時には狭窄はありませんが、発作時にだけ冠動脈が痙攣するように縮み上がり狭窄を生じることで誘発されます。冠攣縮性狭心症は、狭心症としての胸痛発作だけでなく、急性冠症候群・突然死・不安定狭心症・心室頻拍/心室細動などの致死的不整脈や原因不明の心不全などにも関与している注意を要する病態です。虚血性心疾患の発症頻度は欧米人に多く、日本人では少ないとされています。しかし、冠攣縮性狭心症は日本人でより発症率が高いことが知られています。冠攣縮性狭心症では自覚症状に特徴があり、胸痛発作は深夜から早朝にかけてピークを有する日内変動がみられます。狭心症発作の特効薬としてニトログリセリンの舌下錠が有名です。ニトログリセリンは、冠動脈の拡張による酸素供給の増加と、静脈拡張による前負荷軽減と動脈拡張による後負荷軽減の両面から酸素消費を抑制し、狭心症の治療効果を発揮します。この患者さんも、2~3日に1回ほどの頻度で深夜から早朝に胸痛発作があり、ニトログリセリンの使用に頼っている状態でした。難治性の冠攣縮性狭心症の患者として対応に苦慮していました。それが、この1ヵ月余り発作が1度もなく、ニトログリセリンの使用もないというのです。中川「発作が起こらなくなって良かったですね」患者「本当にありがたいことです」患者さんも嬉しそうです。中川「調子が良くなったのは何が理由だと思いますか?」患者「普段の内服薬も同じですし、生活もとくに変わったと意識することはないですね」中川「何年間も発作が続いていたのに良かったですね」急に思い当たったことがあったのか、大声で患者さんが話しはじめます。患者「猫を飼いはじめたんです。妻が仕事帰りに寒さに震える子猫を見つけて、連れて帰ってきたんです。手のひらに乗るほど小さかったんです」この時点で私の外来診察は予定よりも相当遅れていました。10時の診察予約時間が、今は11時を過ぎています。調子が良いと言ってくれているのだから、早々に診察を終了する方向にもっていくこともできました。予定よりも遅れるほど、「待たせて申し訳ないので丁寧に診療しなきゃ!」と考えてしまい、さらに診察時間が長時間化して、その後の患者さんたちを一層待たせてしまうということがあります。私は、これを「負のスパイラル現象」と名付けています。ここから、診察とは名ばかりの猫談義を患者さんと私のあいだで続けてしまいました。要約は以下です。保護した子猫は弱々しく、放っておくことはできません。妻と一緒にスマホで対応を調べて頑張ったそうです。猫を温め、猫用ミルクをスポイトで与え、ティッシュでお尻をポンポンと刺激して排泄を促すなど尽くしたのです。毎日毎晩続けた甲斐があって、今では元気に家の中を走り回るまでになったそうです。可愛くてたまらないと語ってくれました。患者「先生、子猫を見てくれませんか」中川「ぜひとも!」スマホに保存された幾枚もの写真や動画を一緒に拝見させていただきました。さらに外来が遅れるのですが、今さらやめられません。閲覧を堪能するに値する美猫ぶりです。診察とうそぶきながら猫動画を楽しみました。さらに待つことになった患者さんにお詫び申し上げます。その日の晩に、家の猫を撫でながら考えました。この患者さんの冠攣縮性狭心症の症状が改善したことと、患者さんが子猫を招き入れたことの因果関係についてです。偶然かもしれませんが、私には偶然とは思えませんでした。もし子猫をレスキューしていなければ同様の発作が持続していたように思われます。精神的な情動ストレスは、冠攣縮性狭心症のリスクを高める要素の1つとなるからです。たとえば、過呼吸、不安や緊張、過労、睡眠不足などは、冠攣縮性狭心症の発作増悪の可能性を高めます。そのため、治療に当たっては、ストレスを避けて規則正しい生活を送ることが重要とされています。セラピーキャットとは、猫たちとの触れ合いを通じて人に癒しを施すことです。この患者さんが子猫と出会い触れ合うことで、猫から「癒し」というお返しをいただいたのです。「小医は病を治し、中医は人を治し、大医は国を治す」これは中国の古い言葉で、優れた医師は病気だけでなく国までも治すことができるという趣旨です。このような大事は私にはできるはずもありません。循環器内科医として心臓血管疾患に立ち向かう小医としての役目だけで精一杯です。しかし、この子猫は、患者さんの心に癒しを与えて「人」を治し、さらに冠攣縮性狭心症の発作を抑えて「病」を治したのです。すでに中医の域に到達しています。世間は空前の猫ブームです。テレビや雑誌、ネットや新聞で猫を見ない日はありません。猫に関連した商品が飛ぶように売れる経済効果から「ネコノミクス」という言葉も使われるほど、猫は注目されています。猫がもたらす幸せは、経済界から医療領域まで波及するようです。猫が大医として「国」を治す日も近いかもしれません。膝の上に乗ったわが家の愛猫レオが、大きなアクビをしました。猫は期待されることを望まないようです。では床に就くことにします。おやすみなさい。

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ED治療薬、心臓病の薬との組み合わせは危険な場合も

 心疾患の治療目的で硝酸薬を使用中の男性が、バイアグラ(一般名シルデナフィルクエン酸塩)やシアリス(一般名タダラフィル)といった勃起障害(ED)治療薬を併用すると、死亡リスクや心筋梗塞、心不全などのリスクが高まる可能性が、新たな研究で示された。カロリンスカ研究所(スウェーデン)のDaniel Peter Andersson氏らによるこの研究の詳細は、「Journal of the American College of Cardiology」1月23日号に掲載された。Andersson氏は「医師が、心血管疾患のある男性からED治療薬の処方を求められることが増えつつある」とした上で、「硝酸薬を使用している患者がED治療薬を併用することで、ネガティブな健康アウトカムのリスクが高まる可能性がある」と警鐘を鳴らしている。 バイアグラやシアリスなどのED治療薬はPDE5阻害薬と呼ばれ、動脈を広げて陰茎への血流を増加させる働きがある。また、硝酸薬にも血管を拡張する作用があり、狭心症による胸痛の治療や心不全の症状を緩和するために使用される。 PDE5阻害薬と硝酸薬はいずれも血圧低下の原因となり得るため、ガイドラインでは、これらを併用すべきではないとの推奨が示されている。それにもかかわらず、実際にはPDE5阻害薬と硝酸薬の両方が処方されている患者の数は増加しつつある。しかし、これらを併用した場合にどのような影響があるのかについてのリアルワールド(実臨床)のデータはほとんどない。 Andersson氏らは、2006年から2013年の間に心筋梗塞を発症するか血行再建術を受け、硝酸薬が最大18カ月の間隔を空けて2回以上処方されていた18歳以上の患者6万1,487人(平均年齢69.5±12.2歳)を選び出し、その医療記録を分析した。硝酸薬の2回目の処方前6カ月間にPDE5阻害薬が処方されていた患者は除外された。対象者のうち5,710人(9%)にはED治療薬としてPDE5阻害薬も処方されていた。追跡期間中央値は5.9年だった。 解析の結果、硝酸薬とPDE5阻害薬の両方が処方されていた男性では、硝酸薬のみが処方されていた男性に比べて、全死亡リスクが39%、心血管疾患による死亡リスクが34%、心血管疾患以外の原因による死亡リスクが40%、心筋梗塞リスクが72%、心不全リスクが67%、冠動脈血行再建術を受けるリスクが95%、主要心血管イベントの発生リスクが70%高いことが示された。ただし、硝酸薬とPDE5阻害薬の両方が処方された男性でも、PDE5阻害薬の使用開始から28日以内では、死亡や心筋梗塞、心不全といったイベントの発生数は少なく、即時性の高いリスクは低~中程度であることが示されたとAndersson氏らは説明している。 Andersson氏は、「われわれの目標は、硝酸薬による治療を受けている患者にPDE5阻害薬を処方する前に、患者中心の視点で慎重に考慮する必要性を明確に示すことだ」と米国心臓病学会(ACC)のニュースリリースで述べている。その上で、「ED治療薬が心血管疾患のある男性に与える影響は現時点では不明瞭だが、今回の結果は、この影響に関するさらなる研究を正当化するものだ」としている。 一方、米ベイラー大学心臓病学教授のGlenn Levine氏は付随論評で「体調管理が行き届いている軽度の狭心症の男性であれば、ED治療薬はそれなりに安全だ。しかし、硝酸薬の継続的な処方が必要な状態でED治療薬を併用するのは、賢明とは言えない」との見解を示している。同氏は、「EDと冠動脈疾患の組み合わせは高頻度に見られる不幸な組み合わせだ。しかし、適切な予防策とケアを行うことで、これらは何年にもわたって共存できる」と述べている。

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入院リスクが高い主訴は?

 救急外来(emergency department:ED)で疲労感などの非特異的な訴え(non-specific complaints:NSC)をする高齢患者は、入院リスクならびに30日死亡率が高いことが明らかになった。この結果はスウェーデン・ルンド大学のKarin Erwander氏らがNSCで救急外来を訪れた高齢者の入院と死亡率を、呼吸困難、胸痛、腹痛など特定の訴えをした患者と比較した研究より示唆された。加えて、NSC患者はEDの滞在時間(length of stay:LOS)が長く、入院率が高く、そして入院1回あたりの在院日数が最も長かった。BMC Geriatrics誌2024年1月3日号掲載の報告。 本研究は2016年にRegion HallandのEDを1回以上受診した65歳以上の患者1万5,528例のうち、NSCおよび特定の主訴(呼吸困難、胸痛、腹痛)を抱えて救急外来を訪れた4,927例を対象とした後ろ向き観察研究。NSCとして疲労、意識障害、全身の脱力感、転倒の危険性を定義付けた。主要評価項目は入院と30日死亡率であった。 主な結果は以下のとおり。・4,927例の主訴の内訳は胸痛1,599例(32%)、呼吸困難1,343例(27%)、腹痛1,460例(30%)、NSC525例(11%)であった。なお、本施設全体におけるEDを受診する主訴TOP10は外傷、胸痛、腹痛、呼吸困難、骨格筋系の痛み、感染症、神経内科領域、不整脈、めまい、NSCの順であった。・NCS患者の平均年齢は80歳であった。・入院率は呼吸困難(79%)、NSC(70%)、胸痛(63%)、腹痛(61%)の順に高かった。・NSC患者の平均LOSは4.7時間で、これは胸痛、呼吸困難、腹痛を訴えた患者と比較して有意に高かった(p<0.001)。また、72時間以内に再入院する割合も高かった。・全集団の平均病床日数が4.2日であったのに対し、NSC患者では5.6日であった。・NSCおよび呼吸困難を訴えた患者は30日死亡率が最も高かった。 本研究では、NSCを有する高齢患者を評価することの難しさなどを示し、EDのスタッフが患者一人ひとりに対し最適なケアを行うためには、さらなる研究が必要としている。

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マスクにアロマシールを貼るとメンタルにも好影響

 香りのするシール(アロマシール)をマスクに貼ると、息切れなどの症状が軽くなり、メンタルヘルスにも良い影響が生じることが、無作為化二重盲検比較試験の結果として報告された。星薬科大学の湧井宣行氏らの研究によるもので、詳細は「PLOS ONE」に11月16日掲載された。 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック以降、マスクを着用する機会が増加した。マスク着用時に8割以上の人が息苦しさや暑苦しさなどのストレスを感じていると報告されている。COVID-19の感染抑止にマスクが有効であったことが示されたことから、パンデミック終息後にも他の呼吸器感染症のリスク低減のために、引き続きマスク着用が推奨される傾向が続くと考えられ、着用時のストレス対策の重要性が増している。 対策の一つとして香り(アロマ)が役立つ可能性があり、夜勤看護師を対象に行われた研究では、アロマスプレーをマスクに吹きかけると眠気が抑制されて注意力が高まると報告されている。しかし、スプレーで噴射したアロマ成分は短時間で蒸発してしまい、効果が長続きしないという欠点がある。これに対してアロマシールは香りが長時間持続するという特徴があり、マスク貼付用のシールも流通している。ただし、マスク用アロマシールの効果をエビデンスレベルの高い研究手法で検証した結果は報告されていない。以上を背景として湧井氏らは、エビデンスレベルが最も高い研究手法とされる、プラセボ対照無作為化二重盲検比較試験を行った。 研究参加者は、18歳以上の大学生62人(平均年齢21.1±1.6歳、女性88.5%)。アロマオイルを習慣的に用いている学生、アロマオイルが好きでない、またはアレルギーのある学生、慢性疾患のある学生などは除外されている。無作為に31人ずつの2群に分け、1群には柑橘系の香りのするアロマシールを支給し、他の1群には無臭のシールを支給して、2週間にわたって使用してもらった。香りが強すぎる場合はシールをハサミで切り、任意の大きさに調節して良いこととした。なお、柑橘系の香りは世界で最も人気がある香りとされている。 主要評価項目は、抑うつや不安・ストレスの程度を把握する「DASS-21」という指標のスコアとした。そのほかに、マスク着用時の不快感を5点満点で回答してもらうアンケートを用いた評価、および、世界保健機関(WHO)によるメンタルヘルスの評価指標である「WHO-5」のスコアを、副次的評価項目とした。なお、DASS-21は63点満点でスコアが高いほど抑うつや不安・ストレスが強いことを表し、WHO-5は25点満点でスコアが高いほどメンタルヘルスが良好と判定する。本研究参加者のベースラインのDASS-21は8.33±7.26、WHO-5は15.39±4.01で、不快感のアンケートのスコアは2.43±1.01だった。 ベースラインにおいて、年齢、性別の分布、上記3種類の評価指標のスコア、および、外出頻度、香りの好みに有意差はなかった。2週間の介入期間中のシール利用日数は、アロマ群は5.6±1.2/週、プラセボ群は5.4±1.3/週であり、プラセボ群の1人が介入期間中に脱落し、最終的にアロマ群31人、プラセボ群30人が解析対象となった。 結果について、まず主要評価項目であるDASS-21の変化に着目すると、アロマ群ではベースラインから2週後に-3.68(95%信頼区間-5.42~-1.93)と有意に低下(改善)していたのに対して、プラセボ群は-1.06(同-2.48~0.71)であり有意な変化が観察されなかった。最小二乗平均の差(LSMD)は-2.61(同-5.10~-0.12)で群間に有意差が確認された(P=0.04)。また、DASS-21の下位尺度の中で、抑うつの指標についてもLSMDが-1.05(同-2.06~-0.04)であり、有意差が認められた(P=0.04)。 不快感のアンケートのスコアも、アロマ群は2週後に-0.62(同-0.87~-0.37)と有意に低下していたのに対して、プラセボ群では-0.09(同-0.34~0.16)であり有意な変化は観察されなかった。LSMDは-0.53(同-0.88~-0.18)で有意差が確認された(P=0.004)。 WHO-5については、下位尺度の「落ち着いたリラックスした気分で過ごした」というスコアの変化に有意差があり、アロマ群でより大きく上昇していた(P=0.02)。有害事象として、アロマ群で頭痛、プラセボ群で胸痛がそれぞれ1件報告されたが、いずれもシール貼付との関連性は確認されず、2日以内に改善していた。 著者らは、本研究の対象が若年者のみであり、かつ、男性よりも嗅覚が優れているとされる女性が大半を占めていたという限界点を挙げた上で、「マスクにアロマシールを貼ることで呼吸の快適性が向上し、メンタルヘルス上のメリットも得られることが実証された」と述べている。また、感染症抑止という目的だけでなく、リラックス効果を得るという目的で、例えば飛行機の長時間フライト時にアロマシールを貼付したマスクを着用するという使い方もあるのではないかとの提案を付け加えている。

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