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手術やPCIはどこまで「本当に効いている」のか?―シャム対照試験とORBITA試験シリーズが示した医療の本質―【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第98回

「効く」とは何か―RCTとプラセボの基本医学において「治療が効く」とは何を意味するのでしょうか。単に「治療後に症状が改善した」という事実だけでは、その治療の有効性を証明したことにはなりません。人間の身体には自然治癒力があり、時間の経過とともに軽快することも多いからです。また、医師の熱心な態度や、最新治療を受けるという期待感が心理的に影響し、実際に痛みを和らげてしまうこともあります。これら、純粋な治療のメカニズム以外で評価を歪めうる要因を、医学では「バイアス」と呼びます。このバイアスを排除するために確立された方法が、無作為化比較試験(RCT)です。患者をランダムに「治療群」と「対照群」に分けることで背景を均等にし、純粋な治療効果をあぶり出そうとします。しかし、この方法の本質は「どう分けるか」ではなく、「比較対象(対照)に何を置くか」にあります。新薬の試験では、見た目がそっくりな「プラセボ(偽薬)」が用いられますが、これは患者の期待感や安心感(プラセボ効果)を制御するためです。つまり、現代医学における真の治療効果とは、「全体の改善度」から「プラセボ効果」を差し引いた、残りの部分を指すのです。侵襲的治療とシャム手術―その意義と歴史では、手術やカテーテル治療のような侵襲的医療ではどうでしょうか。実は、これらの手技は薬以上に強力なプラセボ効果を伴うことが知られています。「手術室に入り、麻酔を受け、専門医の処置を受ける」という強烈な体験は、患者に「治るはずだ」という強固な暗示を植え付けるからです。この影響を排除するために考案されたのが、「シャム手術(sham procedure)」です。これは、皮膚の切開などは行うものの、肝心の手術操作(病変の切除など)はせずに終了する「偽の手術」です。歴史的に見れば、シャム手術はときに医療界の常識を冷酷に覆してきました。その最も古典的な例が、1959年にアメリカのLeonard A. Cobb氏らが発表した内乳動脈結紮術(狭心症の手術)の試験です1)。当時、この手術で多くの患者が「胸の痛みが消えた」と喜び、医師も効果を確信していました。しかし、本物の手術と「切開するだけのシャム手術」を厳密に比較したところ、両群の症状改善度にまったく差がないことが判明したのです。それまで大真面目に行われていた手術の効果は、すべて強力なプラセボ効果でした。しかし、シャム手術の実施には高い壁が立ちはだかります。・倫理的・安全性の問題:効果が期待できないにもかかわらず、患者に麻酔や切開という利益のないリスクを負わせることの是非。・実施の困難さ:完全な盲検化(患者や医師に隠し通すこと)が難しく、また「痛み」のような主観的指標はプラセボ効果が最大化しやすいこと。シャム対照試験は、「科学的な厳密性を追求すればするほど、倫理的なジレンマに直面する」という、臨床研究の超え難い溝を象徴しています。ORBITA試験からORBITA-2へ―PCIのパラドックスこの困難を極限まで乗り越え、現代の循環器内科の領域に激震を走らせたのが、2017年のORBITA試験です2)。対象は、心臓の血管が狭くなる安定狭心症へのカテーテル治療(PCI)です。血管をステントで広げれば胸痛は消える。これは疑いようのない自明の理とされていました。同試験では、患者全員に徹底的な薬物治療を行ったうえで、本物のPCI群とシャムPCI群にランダムに分け、厳密な盲検化のもとで比較しました。結果は衝撃的でした。運動ができる時間の延長や症状の改善において、本物のPCIはシャムPCIに対して有意な差を示せなかったのです。この結果は当時、「PCIは意味がない」という極端な誤解を生みましたが、本質はそこではありません。「血管を物理的に広げる劇的な治療でさえ、その効果の大部分はプラセボ効果、あるいは徹底的な薬物療法の恩恵であった」という事実を証明した点にあります。医療界はこの事実を真摯に受け止め、さらなる検証へと進みました。それが2023年のORBITA-2試験です3)。今度は「抗狭心症薬をあえて中止・最小限にした状態」で比較したところ、PCI群がシャム群に対して症状を明確に改善させることが示されました。ここから、治療の価値とは手技そのものに絶対的に宿るのではなく、「どのような患者に、どのような治療環境のもとで行うか」という、関係性の中で流動的に決まるものだという重要な示唆が得られます。ORBITA-CTOと「医療の真の目的」この考え方は、最も治療難易度が高いとされる慢性完全閉塞(CTO)病変にも適用され、ORBITA-CTO試験が行われました4)。試験の結果、CTO-PCIはシャム群に比べて患者の狭心症症状を減らし、生活の質(QOL)を向上させることが証明されました。その一方で、死亡率や心筋梗塞の発症率といった「予後(寿命)」の改善には明確な差が認められませんでした。この結果は、CTO病変へのカテーテル治療の本質をクリアに定義しました。この治療は「命を延ばすための戦略」ではなく、「患者の日々の苦痛を和らげ、人生の質を豊かにするための戦略」であるということです。医療の目的を、病気の完治や延命だけに置きがちな私たちに、この研究は「いま目の前の患者が求めている利益(ベネフィット)とは何か」という根源的な問いを突きつけています。結びにかえて―シャム猫の瞳が教えてくれること ここで少しだけ、私の個人的な思い出話をさせてください。私は大の猫好きで、かつて美しいサファイアブルーの瞳を持つシャム猫と暮らしていました。そのため、医学の世界で初めて「シャム手術(sham surgery)」という言葉に出会ったとき、胸がチクリと痛んだのを覚えています。私の愛したあの気品ある猫の血統が、「偽物」や「見せかけ」という意味の形容詞として使われているのだろうか、と。しかし調べてみると、すぐに誤解は解けました。医学の “sham” は「欺瞞」「見せかけ」を意味する古い英語に由来し、猫のシャムはタイの旧国名(Siam)に由来する、まったく別の語源だったのです。あの美しい猫が「偽物の象徴」ではないとわかり、ホッと胸をなでおろしました。現代医学は、科学の光によって「本物の効果」と「見せかけの効果(プラセボ)」を冷徹に切り分けようとします。その厳密さは、患者を過剰な医療介入から守るために不可欠なものです。しかしその一方で、日常の中にある大切なもの――かつて私を癒やしてくれたシャム猫のぬくもりや、医師が患者に与える安心感の価値は、そのような科学的な二分法とは無関係な場所に存在しています。医学がどれだけ進歩し、手術の効果が数値化されたとしても、医療の本質には依然として「言葉にできない安心感」というプラセボ効果(=見せかけの優しさ)が満ちています。そして、それらもまた患者を救う大切な医療です。「本物」と「偽物」の狭間で葛藤すること、そしてその両方の価値を認めること。それこそが、医学という不完全で、しかし限りなく人間的な学問を学ぶ本当の意義なのかもしれません。 1) Cobb LA, et al. An evaluation of internal-mammary-artery ligation by a double-blind technic. N Engl J Med. 1959;260:1115-1118. 2) Al-Lamee R, et al. Percutaneous coronary intervention in stable angina (ORBITA): a double-blind, randomised controlled trial. Lancet. 2018;391:31-40. 3) Rajkumar CA, et al. A Placebo-Controlled Trial of Percutaneous Coronary Intervention for Stable Angina. N Engl J Med. 2023;389:2319-2330. 4) Khan S, et al. Randomized, Placebo-Controlled Trial of Chronic Total Occlusion Percutaneous Coronary Intervention in Stable Angina: The ORBITA-CTO Trial. J Am Coll Cardiol. 2026 Mar 29. [Epub ahead of print]

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脂肪肝は心血管イベントリスクの上昇と関連

 脂肪性肝疾患(脂肪肝)は、肝臓だけでなく心臓にも悪影響を及ぼす可能性があるようだ。新たな研究で、脂肪肝を有する人では有していない人に比べて、非石灰化冠動脈プラークの量が多く、全死因死亡や心筋梗塞などを含む主要イベントの発生率が約2倍に上昇していることが明らかになった。非石灰化プラークは、石灰化していないため破裂しやすく、血栓形成を通じて心血管イベントを引き起こすリスクが高いとされている。米マス・ジェネラル・ブリガム心臓血管研究所のJan Brendel氏らによるこの研究の詳細は、「Clinical Gastroenterology and Hepatology」に5月20日掲載された。Brendel氏は、「われわれの研究結果は、脂肪肝が単なる肝臓の疾患ではなく、心血管疾患リスクの重要な指標でもあることを示している」とニュースリリースで述べている。 研究グループによれば、米国成人の最大40%が脂肪肝を有している。肝臓への脂肪蓄積は、肝線維化および肝がんのリスクを高めるが、専門家の間では、その影響がより広範な健康問題に及ぶ可能性が指摘されている。 今回の研究では、胸痛治療のために受診した患者を対象とする大規模研究(PROMISE試験)参加者のうち、3,637人(平均年齢60.6歳、女性51.4%)を対象に、脂肪肝、冠動脈プラークの定量的構成、および主要心血管イベント(MACE)との関連を検討した。MACEは全死因死亡、非致死的心筋梗塞、不安定狭心症による入院が対象とされた。脂肪肝はCT画像で肝臓と脾臓の濃度差を比較する方法により判定した。一方、冠動脈はCT血管造影を用い、プラーク、石灰化プラーク、非石灰化プラーク、低濃度プラークの容積およびプラーク負荷(プラークが血管容積に占める比率)を測定して評価した。 対象者の25.5%が脂肪肝を有していた。全体として、脂肪肝患者は非脂肪肝患者と比較して、わずかに若年で、男性が多く、心血管リスク因子をより多く有しており、MACE発生率も高かった(4.1%対2.5%)。臨床的なリスク因子を調整して解析した結果、脂肪肝患者では、総プラークおよび非石灰化プラーク容積がいずれも24%大きく、低濃度プラーク容積が11%大きかった。また、総プラークおよび非石灰化プラーク負荷が15%、低濃度プラーク負荷が6%高かった。さらに、肥満や動脈硬化性心血管疾患リスクスコアなどで調整した後も、脂肪肝は心血管イベントリスクの69%の上昇と関連していた(調整ハザード比1.69)。媒介分析の結果、脂肪肝とMACEとの関連の10.9%は非石灰化プラーク負荷により説明されることが示された。 研究グループは、脂質低下作用を持つスタチンや減量効果を有するGLP-1受容体作動薬が、脂肪肝患者における心血管リスクを低減できるかどうかを今後の研究で検討すべきだと述べている。

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冠微小循環障害と予後―CFR・IMRによる評価の妥当性を巡って(解説:野間重孝氏)

 本論文は、虚血性心疾患が疑われ侵襲的冠動脈造影を受けた患者を対象に、冠微小循環障害(coronary microvascular dysfunction:CMD)の有病率と予後的意義を検討した韓国7施設による前向き多施設コホート研究である。著者らは、冠動脈造影に加えて冠血流予備量比(fractional flow reserve:FFR)、冠血流予備能(coronary flow reserve:CFR)、微小循環抵抗指数(index of microcirculatory resistance:IMR)を系統的に評価し、CFR<2.0かつIMR≧25をCMDと定義した。その結果、CMDは非閉塞性冠動脈疾患のみならず、閉塞性心外膜冠動脈疾患を有する患者にも認められ、さらに全死因死亡、心筋梗塞、臨床的再血行再建術、または心不全入院から成る主要複合エンドポイントの増加と関連したと報告している。本研究は、心外膜冠動脈狭窄を中心として理解されてきた虚血性心疾患に、冠微小循環評価を組み込もうとする研究であるが、その解釈には後述するようにいくつかの慎重な検討を要する。 CMDとは、冠動脈造影で可視化される心外膜冠動脈狭窄だけでは説明しきれない心筋虚血、胸痛、あるいは予後不良を、細動脈・毛細血管レベルの冠循環異常として捉えようとする概念である。従来、虚血性心疾患は主として心外膜冠動脈狭窄の有無とその重症度によって理解されてきたが、実際の冠循環は心外膜冠動脈から微小循環、さらに心筋灌流へと連続した系として働いている。したがって、冠動脈造影で明らかな高度狭窄を認めない場合、あるいは心外膜冠動脈病変を治療した後にも症状や虚血が残存する場合には、微小循環レベルの異常が関与する可能性が考えられる。ただし、CMDは単一の疾患単位ではなく、構造的微小血管障害、血管反応性異常、内皮機能障害、微小血管攣縮などを含む広い病態概念である。 現時点において、CMDを臨床的に正確かつ直接的に評価する標準的指標は、なお確立されているとは言い難い。そのため実臨床および臨床研究では、CFRやIMRなどの冠循環生理学的指標が、いわば代替的指標として用いられている。CFRは、安静時冠血流に対して最大充血時に冠血流がどの程度増加しうるかを示す指標であり、冠循環全体としての血流予備能を反映する。一方、IMRは、最大充血時の遠位冠動脈圧と平均通過時間から算出され、微小循環抵抗を推定する指標とされる。しかし、CFRは心外膜冠動脈狭窄、びまん性冠動脈硬化、血圧、心拍数、左室拡張末期圧、薬剤などの影響を受け、IMRも測定血管、最大充血の程度、PCI前後の状態、手技条件などに左右される。したがって、CFRやIMRはCMDを考えるうえで有用な生理学的指標ではあるものの、微小循環障害そのものを直接可視化し、その存在を確定的に評価しうるものではない。 本研究の意義は、CMDを非閉塞性冠動脈疾患に限られた病態としてではなく、閉塞性心外膜冠動脈疾患にも併存しうる予後関連因子として、前向き多施設コホートで検討した点にある。従来、CMDは有意な心外膜冠動脈狭窄を認めないにもかかわらず、胸痛や虚血を呈する患者群において注目されることが多かった。しかし本研究では、虚血性心疾患が疑われ侵襲的冠動脈造影を受けた患者を対象にFFR、CFR、IMRを系統的に評価し、CFR<2.0かつIMR≧25と定義されるCMDが、閉塞性心外膜冠動脈疾患を有する患者にも認められること、さらにCMD群において主要複合エンドポイントが高率であったことを示した。 ただし、この結果を解釈する際には、本研究におけるCMDの定義そのものに立ち返る必要がある。考察の冒頭で著者らは、本研究が「CMDが心外膜冠動脈疾患としばしば併存することを示した」と述べている。しかし、本研究におけるCMDはCFR<2.0かつIMR≧25という冠循環生理学的指標に基づく操作的定義であり、微小循環障害そのものを直接証明したものではない。また、閉塞性心外膜冠動脈疾患を有する患者におけるCMDの頻度は21.5%であり、これを「しばしば併存する」と表現すること自体は可能であるとしても、その病態学的意味についてはより慎重な考察が必要であったと思われる。 加えて、本研究ではCMD群がベースラインの時点で高齢であり、高血圧、慢性腎不全、NT-proBNP高値、FFR≦0.80、PCI施行率なども高かったことから、この群がもともとより重い全身性血管障害ないし冠動脈疾患を有する集団であった可能性を否定できない。多変量解析による補正は行われているものの、観察研究である以上、残余交絡を完全に排除することは困難であり、主要エンドポイントの増加をCMDそのものに帰するには慎重であるべきである。 また、CFRおよびIMRという指標そのものの信頼性についても留意が必要である。生理学的評価は抗狭心症薬や血管作動薬の標準的washoutなしに行われており、測定値が薬剤影響下の冠循環反応を反映している可能性がある。さらに、閉塞性冠動脈疾患を有するCMD例の一部ではPCI後のCFR・IMR測定値に基づいてCMDが分類されているが、PCI後のCFRやIMRは手技に伴う微小循環への影響、distal embolisation、slow flow、血管拡張反応の変化などを受けうるため、必ずしもPCI前の微小循環状態をそのまま反映するものではない。加えて、CMDの定義に用いられたCFR<2.0という閾値自体も操作的であり、カットオフ値の設定はCMDの有病率や予後との関連に影響しうる。さらに、CMDには空間的不均一性が存在しうるにもかかわらず、評価は主として限られた冠動脈領域で行われており、その測定値を患者全体の微小循環状態の代表として扱うことにも限界がある。このように見れば、本研究でCMDと分類された群は、微小循環障害そのものを特異的に示す集団というより、より広範な冠動脈疾患重症度や冠循環予備能低下を反映する高リスク集団であった可能性がある。 この点は、主要複合エンドポイントの内訳からも示唆される。主要複合エンドポイントはCMD群で18.8%、非CMD群で10.5%と有意に増加していたが、個別項目では心筋梗塞および心不全入院の明確な増加は認められず、むしろ臨床的再血行再建、とくに非標的血管再血行再建やdeferred vessel revascularisationの増加が目立つ。したがって、本研究の結果を、CMDそのものが直接心筋梗塞や心不全を増加させたことの証明として読むのは適切ではない。むしろ、CFR低下とIMR上昇を併せ持つ患者群が、より広範な冠動脈疾患進展リスク、再評価・再治療リスク、あるいは残余リスクを有する可能性を示したものと解釈するほうが妥当であろう。 本研究は、CMDという病態概念を虚血性心疾患全体の中に位置付け直そうとする意義ある試みである。しかし、著者らがCMDと呼ぶ病態は、CFR<2.0かつIMR≧25という冠循環生理学的指標に基づく操作的定義であり、微小循環障害そのものを直接可視化し、病理学的に確定したものではない。したがって本研究は、CMDそのものの因果的意義を確定した研究というより、本研究で定義されたCMD表現型が、虚血性心疾患患者における残余リスクを識別しうる可能性を示した研究として読むべきであろう。

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マバカムテンは青年期の閉塞性肥大型心筋症にも有効である(解説:原田和昌氏)

 成人では閉塞性肥大型心筋症(HOCM)に対して心筋の収縮力を抑制する薬が承認されたが、小児の薬はなかった。わが国のガイドラインでは、HOCMの左室流出路閉塞軽減のためマバカムテンがClass 1で推奨されている。米国・フィラデルフィア小児病院のRossano氏らは、第III相二重盲検無作為化比較試験であるSCOUT-HCM試験にて、青年期(12歳以上18歳未満)のHOCM患者において、マバカムテンがプラセボと比較して、28週間にわたり左室流出路閉塞を有意に改善することを報告した。 NYHA心機能分類II度またはIII度の症候性HOCM患者44例を、マバカムテン群23例(14.7±1.7歳)、プラセボ群21例(14.6±1.7歳)に無作為に割り付け、有効性と安全性を評価した。マバカムテン群では、ベースラインにおける体重45kg以上は1日1回5mg、35kg以上45kg未満は1日1回2.5mgで投与を開始した。バルサルバ法による左室流出路圧較差および左室駆出率(LVEF)に基づき、増量または減量が可能であった。主要エンドポイントは、誘発時の左室流出路圧較差のベースラインから28週時の変化量であった。 誘発時の左室流出路圧較差は、それぞれ78.4±34.1mmHg、80.8±47.4mmHgであった。28週時点の誘発時左室流出路圧較差の最小二乗平均変化量は、マバカムテン群 -48.5 mmHg、プラセボ群 -0.5mmHgであった(p<0.001)。有害事象の発現率は両群で同程度で、重篤な有害事象は各群2例で認められた。マバカムテン群では1例で失神、もう1例で植込み型除細動器による不適切ショックが報告された。プラセボ群では1例で胸痛、もう1例で自殺念慮を伴ううつ病が報告された。LVEFが50%未満に低下した患者はなく、試験期間中に死亡の報告はなかった。また、心臓のリモデリングが改善し、病気の自然経過が改善される可能性を示唆する兆候がみられた。 本研究の限界として、被験者数が比較的少ない、研究期間が短い、被験者の大部分が白人であることが挙げられる。そのため、50週間の追跡調査、12歳未満の小児、さまざまなタイプのHOCM患者における有効性を今後研究すると書かれている。これまで、効果の高い新薬の、青年や小児への適応拡大に時間と治験費用がかかることが問題視されていた。その意味で、マバカムテンの青年患者への速やかな適応拡大を期待させる非常に意義のある試験である。

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事例47 ニトロペン舌下錠の査定と復活【斬らレセプト シーズン4】

解説診療所の近隣の住民が胸痛と冷汗を主訴に来院され、狭心症を疑ってニトログリセリン(商品名:ニトロペン)舌下錠を緊急投与しましたが、C事由(医学的理由による不適当)が適用されて査定となりました。ニトロペン舌下錠の添付文書を確認しました。効能又は効果に「狭心症等の一時的緩解」とありました。病名が確定している場合に使用される薬剤と捉えられます。しかしながら、緊急時には対症療法として有効な薬剤とも認識されています。今回の査定は、「狭心症が確定していないにも関わらずに使用していることから医学的に適当でない」として査定になったものと推測ができます。医師と相談して、再審査請求を行いました。時系列に来院時の状況からニトロペン舌下錠を緊急的に1錠投与後さらに1錠追加したことや、心電図などにて緊急性はないものと判断したことを記載して再審査請求したところ復活しました。査定対策として、ニトロペン舌下錠の緊急投与には「緊急対症療法」であることを必ずコメント付記して請求することにしています。

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マバカムテン、青年期の閉塞性肥大型心筋症には?/NEJM

 青年期(12歳以上18歳未満)の閉塞性肥大型心筋症(HOCM)患者において、マバカムテンの投与はプラセボ投与と比較して、28週の試験期間にわたり、左室流出路閉塞を有意に大きく改善した。米国・フィラデルフィア小児病院のJoseph W. Rossano氏らSCOUT-HCM Investigatorsが、第III相の二重盲検プラセボ対照無作為化試験の結果を報告した。肥大型心筋症の小児に対する承認薬はなく、左室流出路閉塞を認める患者では外科的介入が選択肢になる。マバカムテンは成人HOCMに対して承認されている選択的心筋ミオシン阻害薬で、有効性と良好な安全性プロファイルが確認されているが、小児患者に対する臨床的評価は行われていなかった。NEJM誌オンライン版2026年3月29日号掲載の報告。マバカムテン群vs.プラセボ群で左室流出路圧較差の変化量を評価 研究グループは、NYHA心機能分類IIまたはIII度の症候性HOCMの青年期患者(12歳以上18歳未満)を対象に、マバカムテンの有効性と安全性を評価した。 被験者を、マバカムテン群またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付けた。マバカムテン群では、ベースライン時点における体重45kg以上は1日1回5mg、35kg以上45kg未満は1日1回2.5mgで投与を開始し、バルサルバ法による左室流出路圧較差および左室駆出率(LVEF)に基づき、増量(5週目と9週目に1段階まで)または減量(12週目と24週目に1段階まで)が可能であった。 主要エンドポイントは、バルサルバ法による左室流出路圧較差の、ベースラインから28週時の変化量であった。28週時の変化量の群間差は-48.0mmHg 計44例が無作為化された。23例がマバカムテン群(女性8例[35%])、21例がプラセボ群(女性5例[24%])であった。平均(±SD)年齢はマバカムテン群14.7±1.7歳、プラセボ群14.6±1.7歳、ベースラインのバルサルバ左室流出路圧較差はそれぞれ78.4±34.1mmHg、80.8±47.4mmHgであり、両群で類似していた。 28週時点のバルサルバ左室流出路圧較差の最小二乗平均変化量は、マバカムテン群-48.5mmHg、プラセボ群-0.5mmHgであった(群間差:-48.0mmHg、95%信頼区間:-67.7~-28.3、p<0.001)。 有害事象の発現率は両群で同程度であった。重篤な有害事象は、各群2例で認められた。マバカムテン群では1例で失神エピソードを2回、もう1例で植込み型除細動器による不適切ショックが報告された。プラセボ群では1例で胸痛を、もう1例で自殺念慮を伴ううつ病が報告された。 LVEFが50%未満に低下した患者はいなかった。試験期間中の死亡の報告はなかった。

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第38回 交通事故の原因は?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)外傷は受傷機転を意識しよう!2)ショックの初動を理解しよう!3)ショックの鑑別に「初動を変える原因」を1度は考えよう!【症例】63歳男性。軽自動車を運転中、スピードはそれほど出ていなかったものの、電柱に追突した。目撃した通行人が救急要請。●受診時のバイタルサイン意識1/JCS血圧80/48mmHg脈拍108回/分(整)呼吸24回/分SpO293%(RA)体温36.5℃瞳孔3/3mm +/+既往歴心筋梗塞ショックの原因今回の症例、皆さんであればどのように対応するでしょうか。交通事故の傷病者ですから、外傷に伴う出血などを念頭に精査するでしょうか。少なくとも血圧の低下、頻脈を認めショックであることはすぐにわかると思います。外傷の初期診療としては、JATEC(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)などにのっとって、まずABC(気道・呼吸・循環)の安定化を図ります。大量出血の可能性のある胸腹部外傷や骨盤骨折などを念頭に対応することになりますが、今回の症例では、目撃者情報からも、高エネルギー外傷ではなく、本人にも明らかな疼痛の訴えはありませんでした。ショックは大きく、(1)血液分布異常性ショック(Distributive shock)、(2)循環血液量減少性ショック(Hypovolemic shock)、(3)心原性ショック(Cardiogenic shock)、(4)閉塞性ショック(Obstructive shock)に分類されます。このうち頻度が高いのは、(1)の血液分布異常性ショック、とくに敗血症性ショックでしょう1,2)(表1)。一方で、今回のような外傷では、当然ながら出血に伴う(2)循環血液量減少性ショックも考える必要があります。表1 ショックの原因@ER画像を拡大するショックの鑑別:評価すべきHi-Phy-Vi細かな原因まで同定できなくても、病態として4つのうちどれに該当するのかは、病歴(History)、身体所見(Physical examination)、バイタルサイン(Vital signs)を意識して評価すれば、おおよそ見当をつけることができます。最低限、以下の事項は迅速に確認しましょう。病歴では、今回のような外傷や吐下血、血便などのエピソードがあれば、出血に伴う(2)循環血液量減少性ショックを考えます。数時間から数日の経過で発症し、とくに発熱など感染を示唆する所見があれば、敗血症に代表される(1)血液分布異常性ショックを考えます。また、胸痛や呼吸困難などの症状が突然、あるいは急性に出現し、ショック徴候を伴う場合には、(3)心原性ショックだけでなく、(4)閉塞性ショックも念頭に置く必要があります。身体所見では、頸部や皮膚所見に注目します。(1)と(2)では、絶対的あるいは相対的に血管内ボリュームが不足するため、頸静脈は臥位でも虚脱していることが多いです。その一方で、(3)や(4)では頸静脈怒張を認めることがあります。バイタルサインでは、多くの場合、頻呼吸、頻脈、血圧低下を認めますが、脈圧にも注目しましょう。脈圧が収縮期血圧の25%未満であれば、心拍出量低下が示唆され、心原性ショックを考える手がかりになります。超音波が使用可能であれば、RUSH(Rapid Ultrasound in Shock)プロトコルなどを用いて、ショックの鑑別を体系的に評価しましょう。超音波は術者の技量に依存しますが、だからこそ普段から意識して技術を磨き、ショック患者に対しても迅速かつ自信を持ってプローブを当てられることは大きな強みになります。FAST(Focused Assessment with Sonography for Trauma)陰性を確認するだけで安心してはいけません。1度は早期に考慮すべきショックの原因多くのショックは、細胞外液投与を行い、それでも目標血圧を達成できなければノルアドレナリンなどの昇圧薬を用いることで、ある程度バイタルサインを安定化させることができます。しかし、それだけでは対応できないショックの原因もあります。私は表2の5つを意識しています。表2 ショックの「初動を変える原因」(1)アナフィラキシーアナフィラキシーの治療はアドレナリンが第1選択です。成人であれば、大腿外側に0.5mgを筋注します。細胞外液投与も必要ですが、アドレナリンを早期かつ適切に投与できるかどうかが予後を左右します。(2)出血外傷や消化管出血による大量出血では、細胞外液投与だけでは対応できません。失っているのは血液ですから、細胞外液は過量にならないよう注意しつつ、輸血を早期に考慮する必要があります。(3)中毒中毒では、解毒薬や拮抗薬が存在する場合があります。頻度は高くありませんが、通常のショックとは反応が異なると感じた場合には、鑑別として意識しておくとよいでしょう。(4)閉塞性ショックショックの4分類の1つですが、決して頻度は高くありません(表1)。しかし、脱気や心膜穿刺などの処置が必要になるため、必ず1度は考える必要があります。(5)ショック+徐脈ショックでは通常、頻脈になります。それにもかかわらず、血圧低下やショック徴候を認めているのに徐脈である場合には、表3のような病態を考える必要があります。とくに、高K(カリウム)血症、徐脈性不整脈、下壁梗塞では迅速な対応が求められます。心電図と血液ガス検査は早期に確認しましょう3)。表3 ショック+徐脈今回の症例では、来院後に身体所見をくまなく確認したところ、下腹部から臀部、さらに下腿にかけて皮疹を認め、強制呼気で喘鳴を聴取しました。そうです。原因は「アナフィラキシー」だったのです。アナフィラキシーに伴う意識消失とショックによって事故を起こしていたのでした。外傷後であり、さらに心筋梗塞の既往もあったため、現場の救急隊はショックの原因として出血や心原性は考慮していたものの、アナフィラキシーは鑑別に挙がらず、皮疹の存在にも気付いていませんでした。アナフィラキシーでは、約10%で皮疹を認めないとされますが、多くの症例では皮膚症状を伴います。ただし、疑って皮膚所見を探しにいかなければ、その存在に気付かないことも少なくありません。急性発症の皮膚症状に加えて、呼吸器症状(喘鳴など)、循環器症状(失神など)、消化器症状(嘔気・嘔吐、腹痛など)を認める場合には、1度はアナフィラキシーの可能性を意識し、病歴と身体所見を丁寧に評価しましょう。 1) Standl T, et al. Dtsch Arztebl Int. 2018;115:757-768. 2) Cecconi M, et al. Intensive Care Med. 2014;40:1795-1815. 3) 坂本 壮. 救急外来ただいま診断中 第二版. 中外医学社. 2024.

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HER2陽性乳がんの新規経口薬「ツカイザ錠50mg/150mg」【最新!DI情報】第60回

HER2陽性乳がんの新規経口薬「ツカイザ錠50mg/150mg」今回は、HER2チロシンキナーゼ阻害薬「ツカチニブ(商品名:ツカイザ錠50mg/150mg、製造販売元:ファイザー)」を紹介します。本剤は、化学療法歴のあるHER2陽性の手術不能または再発乳がんの治療薬であり、抗HER2療法に抵抗性を示した患者や脳転移のある患者の新たな治療選択肢として期待されています。<効能・効果>化学療法歴のあるHER2陽性の手術不能または再発乳がんの適応で、2026年2月19日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>トラスツズマブ(遺伝子組換え)およびカペシタビンとの併用において、通常、成人にはツカチニブとして1回300mgを1日2回経口投与します。なお、患者の状態により適宜減量します。<安全性>重大な副作用として、重度の下痢(10.6%)、肝機能障害(高ビリルビン血症[21.9%]、AST増加[20.0%]、ALT増加[20.0%])、間質性肺疾患(頻度不明)があります。その他の副作用(5%以上のもの)として、下痢(72.6%)、手足症候群(64.9%)、悪心(52.1%)、疲労(36.0%)、口内炎(26.8%)、嘔吐(25.3%)、食欲減退(20.9%)、感染症(眼、耳、上咽頭、上気道、気管支、皮膚、爪、爪床、尿路、膣、限局性)、貧血、好中球減少症、白血球減少症、血小板減少症、低カリウム血症、末梢性ニューロパチー(末梢性運動ニューロパチー、末梢性感覚ニューロパチー)、味覚障害(味覚不全)、頭痛、鼻出血、腹痛、消化不良、口腔障害(口腔内出血、口腔内痛、口腔内不快感、口内乾燥)、爪の障害(爪甲脱落症、爪甲剥離症、爪線状隆起、爪破損、陥入爪、爪変色、爪ジストロフィー、爪痛、爪毒性)、皮膚乾燥、皮膚色素過剰、爪囲炎、そう痒症、脱毛症、斑状丘疹状皮疹、筋骨格痛(筋肉痛、骨痛、関節痛、顎痛、頚部痛、胸痛、背部痛、四肢痛)、血中クレアチニン増加、無力症、体重減少(いずれも5%以上)があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、HER2チロシンキナーゼ阻害薬であり、化学療法歴のあるHER2陽性の手術不能または再発乳がんに用いられます。2.トラスツズマブ(遺伝子組換え)およびカペシタビンと併用して使用されます。3.咳、息切れ、息苦しさ、発熱などが現れた場合は、速やかに医療機関を受診してください。4.妊婦または妊娠している可能性のある人は医師に相談してください。5.妊娠する可能性のある女性は、この薬の投与期間中および最終投与後1週間は適切に避妊してください。<ここがポイント!>乳がんは、日本人女性において最も発生頻度の高いがんであり、そのうちHER2陽性乳がんは全体の約15~20%を占めています。HER2陽性乳がんは、HER2陰性乳がんと比較して、診断時に進行した病期で発見されることが多く、若年者に多く認められるほか、進行が速く、転移や再発のリスクが高いことが知られています。HER2は膜貫通性のチロシンキナーゼ受容体であり、その過剰発現や遺伝子増幅は腫瘍細胞の増殖を促進する重要な因子です。近年、抗HER2抗体薬やチロシンキナーゼ阻害薬などHER2を標的とした医薬品の開発により、HER2陽性乳がんの予後は大きく改善されました。しかしながら、多くの症例において抗HER2療法後に疾患の進行(PD)を認め、進行後の標準的な治療戦略はいまだ確立されていないのが現状です。ツカチニブエタノール付加物は、HER2を選択的に阻害する低分子チロシンキナーゼ阻害薬です。本剤は、HER2チロシンキナーゼのリン酸化を選択的かつ可逆的に阻害することで、腫瘍細胞の増殖・生存に関与する下流のシグナル伝達経路を抑制すると考えられています。化学療法歴のあるHER2陽性の手術不能または再発乳がんを適応症とし、既存の抗HER2療法に抵抗性を示す患者や脳転移を有する患者に対する新たな治療選択肢となります。本剤は、トラスツズマブおよびカペシタビンと併用して使用します。治療歴のある切除不能な局所進行または転移・再発HER2陽性乳がん患者を対象とした海外第II相試験(HER2CLIMB:ONT-380-206試験[カペシタビンとトラスツズマブを併用、脳転移がある患者を含む])において、主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)の中央値は、本剤群7.8ヵ月(95%信頼区間[CI]:7.5~9.6)、対照群5.6ヵ月(95%CI:4.2~7.1)であり、本剤群では対照群と比較してPFSが延長し、統計的に有意にPDまたは死亡のリスクが46%減少しました(層別ハザード比:0.54[95%CI:0.42~0.71]、p<0.00001[有意水準(両側):0.05])。また、治療歴のある切除不能な局所進行または転移・再発HER2陽性乳がん患者66例(日本人患者53例)を対象とした国際共同第II相試験(HER2CLIMB-03:MK-7119-001試験[カペシタビンとトラスツズマブを併用])において、主要評価項目である日本人集団の奏効率は35.4%(90%CI:24.0~48.3)で、90%CIの下限が事前に規定した閾値である20%を上回っていたことから帰無仮説は棄却され、日本人に対する本剤+トラスツズマブ+カペシタビン併用療法の有効性が示されました。

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肺塞栓症の鑑別【日常診療アップグレード】第53回

肺塞栓症の鑑別問題45歳男性。2日前から間欠的に胸痛があり救急外来を受診した。痛みの持続は数分間で、発熱や咳、悪寒、下肢の腫脹はない。痛みは深呼吸で悪化する。既往歴はとくになし。薬剤歴はない。バイタルサインは体温36.8℃、血圧136/76mmHg、脈拍数88/分、SpO2 98%(室内気)である。肺塞栓症の可能性が低いため、肺塞栓症に関する追加検査は行わなかった。

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冠動脈プラーク、女性は男性より少なくても高リスク

 女性は男性よりも動脈硬化の原因となるプラークの形成が少ない傾向にあるが、それは、必ずしも心臓の健康を守ることにつながるとは限らないようだ。冠動脈にプラークが認められる女性の割合は男性より少なく、量も少ない傾向があるにもかかわらず、心筋梗塞や胸痛による入院などの主要心血管イベント(MACE)のリスクは男性とほぼ同程度であることが明らかになった。米ハーバード大学医学大学院放射線医学分野のBorek Foldyna氏らによるこの研究の詳細は、「Circulation: Cardiovascular Imaging」に2月23日掲載された。 心疾患や動脈の詰まりは男性に多いというイメージがあるが、米国心臓協会(AHA)の統計によると、米国における心疾患による死亡の47%は女性が占めている。Foldyna氏は、「女性は冠動脈が男性より細いため、少量のプラークでもより大きな影響を受ける可能性がある」と述べている。 今回の研究では、臨床試験(Prospective Multicenter Imaging Study for Evaluation of Chest Pain;PROMISE)参加者4,267人(平均年齢60.4±8.2歳、女性2,199人)のデータを用いて、冠動脈プラークとMACEとの関連が検討された。これらの参加者は、米国とカナダの193の病院で胸痛の治療を受けており、冠動脈CT検査により総プラーク体積とプラーク負荷(血管体積に占めるプラークの割合)が測定されていた。MACEは、死亡、心筋梗塞、不安定狭心症による入院を対象とした。 解析の結果、冠動脈にプラークが認められた参加者の割合は、女性で55%、男性で75%であり、両群間に統計学的な有意差が認められた(P<0.001)。しかし、MACEの発生率は、女性で2.3%、男性で3.4%とほぼ同等であった。MACEリスク(ハザード比)が1.0を超える、つまりリスクが上昇に転じるプラーク負荷は女性で20%、男性で28%、ハザード比が1.5になるプラーク負荷はそれぞれ32%と42%であった。 これらの結果から研究グループは、「女性の心臓の健康を守るためには、性別に応じたガイドラインが必要になる可能性がある」と指摘している。また、Foldyna氏は、「プラーク量が中程度に増加しただけでも、女性では不釣り合いにリスクが高まる傾向があり、現在の標準的な高リスクの定義では、女性のリスクを過小評価している可能性がある」と述べている。 本研究には関与していないAHAのボランティア会長を務める、米カッツ女性健康研究所のStacey Rosen氏は、ニュースリリースの中で、「これらの知見は、心血管疾患が男女でいかに異なる形で影響を及ぼすかを認識することの重要性を改めて示すものだ」とコメントしている。 さらにRosen氏は、「女性と男性では、病気の現れ方に生物学的に根本的な違いがあるという認識がようやく広がりつつある。こうした違いは、リスク要因から症状、治療に対する反応に至るまで、あらゆる面に影響を及ぼす」と述べている。

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キャリア中断後に見つけた 総合診療能力で専門性を強化する新しい診療スタイル【ReGeneral インタビュー】第4回

キャリア中断後に見つけた 総合診療能力で専門性を強化する新しい診療スタイル「医師という仕事が好きです。総合診療の入り口を担いながら、専門的なことももっと学んで、糖尿病や内分泌疾患を中心にコモンディジーズや救急初期対応ができるようになりたい」そう語るのは、総合医育成プログラム修了生の帆秋 理笑子氏。糖尿病内科専攻後、家庭の事情で約7年間のブランクを経て、再び糖尿病を中心にした診療スタイルに戻るまでの道のりで出会ったのが、総合診療でした。専門性を高めることと総合診療がどのように関連するのかを聞きました。プライマリ・ケア認定医取得を機に、専門キャリアを再設計――現在どのような診療をされているか教えてください。流動的ですが、糖尿病内科7割、一般内科3割くらいで診療をしています。約1年前に今の勤務先に赴任した当時は、糖尿病診療よりも誤嚥性肺炎などを診ることが多かったのですが、だんだんと引継ぎと新患どちらも増えて、現在は糖尿病を中心に内科診療を行っています。前職は大分県内の同じような中核病院で働いていましたが、糖尿病専門医を取得したいという思いがあり、研修施設である今の職場に移りました。2023年にプライマリ・ケア認定医を取得したことが、このキャリアチェンジを実行する自信にも武器にもなりました。――2023年に認定医取得とのことですが、プログラムはいつ・どのような経緯で受講されたのですか。受講は2021年からです。きっかけは2016年に常勤で診療を再開したことです。卒後数年してから、糖尿病内科を専攻していましたが、9年目くらいから臨床から離れた期間が7年ほどあり、最初は老健施設から仕事を再開して徐々に体力面と治療のアップデートを行いました。前職の病院で糖尿病を診ながら一般内科診療も始め、地域医療でさまざまな役割を担ううちに、「ジェネラルに診られるようになりたい、総合診療のトレーニングを受けたい」と強く思うようになりました。そこで、2019年に勇気を出して大分大学総合診療科に研修希望で見学に伺い、このプログラムを教えていただきました。私の話に耳を傾けてくれた先生方に今でもとても感謝しています。当時は東京に行って受講する形式で費用も高くて諦めていましたが、2021年にオンライン化されて「ああ、これなら家でもできる。チャンスだ!」と思って参加を決めました。2023年に認定医を取得した後も受講を続けています。大人の学び直し 安心して飛び込める環境――印象的な講義はありましたか。診療実践コースでは、整形外科、循環器内科が印象的でした。整形外科では、脊髄からの神経支配域を身振り手振りや語呂合わせで教えてくれたのをよく覚えています。また骨折の写真や整形外科的診察の動画をたくさん使って説明してくださったのが面白くて理解しやすかったです。循環器では、日常診療で使える心電図の読み方や高血圧の診療、胸痛への対応などをざっくばらんに教えていただきました。循環器は興味があっても苦手に感じていた分野なので、動画を何度も見返して勉強した分、印象が強いですね。ノンテクニカルスキルコースでは、ミーティング・ファシリテーションの講義が記憶に残っています。ここで会議やグループ活動の舵取りの手法を学びました。板書の効果や、会議に応じた机や椅子の並べ方、アイデアを広げてからまとめる方法など、これまで無意識に行っていたことも、意識を向けると意味があると知りました。――受講中に苦労した点はありますか。糖尿病や、それに関連する腎臓や認知症の講義は安心して受けられましたが、あまり馴染みのない科、たとえばマイナーエマージェンシーや救急、耳鼻科の講義を受けるときは、自信がなく不安が大きかったです。実際に受講してみると、講師の先生方はとても優しく熱心でしたし、講義のやり方も工夫されていて新鮮でした。また、事務局が手厚くサポートして心理的安全性をしっかり担保してくれたのが大きな支えになりました。オンラインですので、受講中に画面がフリーズしてしまうことも何度かありましたが、講義によっては復習用動画を作って何度も視聴できるような環境を整えられていて、聴き取れなかった部分は後から補うことができました。――心理的安全が保たれた。それはどんなサポートだったのですか。たとえば、質問のときです。質問するのは意外と難しいんです。自分がよく知っている疾患なら「いい質問だね」と言ってもらいやすいですが、詳しくない分野だと的外れになりがちです。講師からしたらわけがわからない質問かも…と不安になることもありました。実際、一度スルーされたのかな?と思った瞬間もあります。ですが、運営の先生方が参加者全員の質問をリストアップして、どんな質問も漏れなくすべて扱ってもらえる仕組みになっていました。それから、最初の受講時に「ほかの人の発言を否定しないでください」というアナウンスもありました。この声掛けがあったので、自分の意見を批判されることはあっても、否定されない。これが安心感につながって、得意ではない診療科の授業にも思い切って飛び込むことができましたし、質問やグループ内での発言を行うことができました。――ご自身の診療にこのプログラムはどう役立っていますか。最近の出来事だと、糖尿病性の足壊疽を診るとき、皮膚科の褥瘡の講義で学んだ内容がとても役立っています。壊疽も褥瘡も血流障害が関係していることが多く、評価や薬の選択がリンクしていて、受けてよかったなと思う瞬間でした。それから、腎臓内科の講義を受けたことで、糖尿病診療の中で腎臓を診るときに、薬をいつまで継続すべきかといった、細かい判断がしやすくなりました。糖尿病の合併症で腎機能が悪化して透析になる方も多いですから、お互いの専門領域に関わる聞きづらい質問ができたのは、このプログラムならではかもしれません。専門医がその疾患をよく理解していることは確かですが、付随するさまざまな問題や合併症の管理に他科の医師の協力は必要不可欠です。その時に、こうして他科の医師の考え方を知ったおかげで、コミュニケーションを取りやすくなりました。糖尿病という疾患を診るときの視野が広がりましたし、自分の専門性を高める上でも、何をもっと勉強しなければならないのかが少しずつ見えてきた気がします。ほかにも一般内科の診療を行う上でリハビリテーションの必要性は年々高まっていると感じていたため、リハビリの講義で、リスク管理や障害の診断とADLの評価法などを学び、疾患と生活を結びつける上でとても役立っています。――他科の先生から刺激を受けたという点で、印象に残っていることはありますか。行動変容1)という診療実践コースの授業のグループワークが印象に残っています。行動変容というと、問診で情報を引き出して患者さんが生活習慣を修正できるように導くといった、糖尿病内科で日頃からやっていることがテーマになります。正直、自分は得意だと思っていました。でも、同じグループのある先生の問診に目を見張りました。外科出身で、今は開業して一般内科を診ているこの先生は、私よりずっと上手だったんです。本当に驚きました。糖尿病内科では診察に追われて、ついイエス・ノーで答えられるクローズドクエスチョンで聞いてしまうことが多いのですが、その先生はオープンクエスチョンをとても上手に使って、患者役の方から自然に話を引き出していました。その姿を見て、私ももっと頑張ろうとやる気になりましたし、負けられないという刺激にもなりました。他科の先生が自分より上手だと落ち込むこともできますけど、前向きに捉える方がいいですよね。いろんな先生のやり方を、自分が奮起する材料にできるといいなと思っています。総合診療能力を活かして専門性も磨く、新しい働き方――専門性を磨きたいと思う人にとっても、総合診療能力は必要でしょうか。わたしはそう思います。総合診療の必要性を感じて大分大学総合診療科を見学したとき、自分の進みたい方向をもう一度深く考えました。そこでクリアになったのは、私は専門の糖尿病と隣接する内分泌の診療の幅を広げながら、同時に一般内科の初期対応やマネジメントといった“総合診療の入り口”をマスターしたいという希望でした。さまざまな専門性・働き方の先生方を尊重し、そこから真摯に学び、力を借りながら、自分が決めた進路を進みたいと思ったんです。一方で専門だけでは対応しきれない現実も理解しています。患者さんの多くは高齢で、認知症や肺炎や骨折など複数の疾患があり、生活や家族の問題も絡んでいます。都会なら各診療科に回せるかもしれませんが、地方や個人病院では難しい。だから、専門的な治療だけでなく、専門と専門の間をつなぐマネジメントや初期対応は、どの科の専門医にも必要なのではないかと思います。総合診療的なアプローチを学ぶことは、専門診療の視野が広がる、地域のニーズに応えられることでキャリアの選択肢が増えるという2つの点で、専門性を高めたいと思う人にも価値があると思います。大人になってからの学習ですから、習ったことすべてをすぐに活用・実践できるというような大きな期待は持たずに、経験を積みながら少しずつできることを増やしていくくらいの気楽な気持ちで始めてもよいのではないでしょうか。――今後の展望は?総合診療の基本的なことを今以上にできるようになりながら、糖尿病と内分泌の専門的な診療を深めていくのが個人的な夢です。 人間は忘れる生き物だと痛感しているので、この先も反復学習と実臨床での実践を続けて、総合医育成プログラムの内容をしっかりできるようになりたい。そして専門以外でも得意な分野が生まれてくるといいなと思っています。私自身はプログラムを受けていてもできていないことが多々あります。でも全部を自分で賄えなくても、このプログラムで学んだエッセンスを活かしながら他の人の力を借りて、少しでもよい方向に診療を進めていき、自分の夢が実現するように頑張っていきたいと思っています。――同じように専門性を大切にしながら、総合診療にも興味を持たれた方にメッセージを。私は約7年のブランクを経て、再び臨床に戻る決断をしてからの一歩一歩が、このプログラムとの出会いにつながりました。時間はかかりましたが、希望していた糖尿病診療を増やすことができ、プログラムでの学びは一般内科や救急だけでなく、自分の専門にも新しい発見をもたらしています。努力しても診療がうまくいかず落ち込む日もあれば、うれしくて喜びを感じる瞬間もあります。一喜一憂の毎日ですが、やりがいがあり、この仕事が好きです。プログラムに参加して、恥をかくのは確かに嫌です。ただ自分のやりたいことに挑戦しないと失敗もないけれど進歩もありません。挑戦して、そこから学べることはありますし、次につなげていくこともできます。そして何より、医師になってある程度経験を積んでから、もう一度、大人の学び直しをできることがすごく楽しいです。このプログラムは、授業料を払い土日を費やしてでも学びたいと思っている、年齢も専攻科も異なるさまざまな背景を背負った全国のやる気に満ちた医師仲間と知りあうことができ、切磋琢磨しながら学べる貴重な場です。事務局のサポートも手厚く、先生方も熱心です。また私のように診療の第一線から離れた医師が復職する上でも大きな助けになってくれると思います。取り組み方次第で道は開けます。もし迷っているなら、ぜひ思い切ってチャレンジしてみてください。 引用 1) 行動変容:喫煙・食事・運動に関する患者の行動変容を支援する面接技法を学び、準備段階の評価や効果的な対話を通じて生活習慣改善を促す力を養うことを目的としたセッション

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ショック状態に対する治療をしない場合は責任を負う?【医療訴訟の争点】第17回

症例近年、高齢患者の急変時対応では、基礎疾患・予後を踏まえた治療方針の選択が重要となる。本稿では、ショック状態に陥った患者に対し救命処置を行わなかった医師の判断の適否が争われた、東京地裁令和7年2月27日判決を紹介する。<登場人物>患者76歳・男性(既往歴:間質性肺炎、双極性障害、糖尿病)原告患者の配偶者および子被告医療法人(内科・精神科を標榜する病院)事案の概要は以下の通りである。事案の概要を見る平成28年7月咳が続く・胸痛があると訴えて被告病院を受診。被告病院の紹介により国立病院を受診し、間質性肺炎と診断平成30年5月内服薬の処方中止後も咳が再燃しなくなったため、通院終了平成31年1月25日ここ数日食事が取れない、具合が悪いなどと訴えて、被告病院再受診。精査目的で入院。入院時のバイタル値は、体温36.8℃、脈拍93回/分、血圧149/90mmHg、SpO2 98%、呼吸は平静。腹部CT検査上は異常所見を認めなかった。細菌性の感染症疾患を疑い、抗菌薬の点滴投与と補液を開始。1月26日午前9時28分頃胸部CT検査。前日からこの日までの間に、両肺下葉に新たな浸潤影が出現。午前10時頃右肺の雑音や著明な痰がらみが見られ、白黄色痰が大量に吸引。午後3時頃肺雑音が両肺に生じ、再び白黄色痰が大量に吸引。37.6℃の発熱、呼吸がやや努力様、SpO2 76~80%に低下。酸素投与(2L/分)開始。午後4時40分頃酸素投与量が増量(7L/分)。両肺の雑音や発熱は続くも、痰がらみが消失して呼吸も平静、SpO2 96%。午後8時頃ジクロフェナクナトリウム(商品名:ボルタレン、解熱剤)の投与などもされ、体温は36.8℃に低下、肺の雑音も消失。1月28日午前2時熱(38℃)午前5時白黄色痰が大量に吸引担当医は、抗菌薬投与にかかわらず呼吸状態の悪化が続いていることから、細菌性の感染症ではなく、間質性肺炎の急性増悪であると判断し(ただし、細菌性の感染症を鑑別するための血液検査や細菌培養検査は行っていない)、抗菌薬の点滴投与を中止して、ステロイドミニパルス療法(ソル・メルコート500mg/日に生理食塩水100mL/日を付加したものを点滴投与)を開始。以後、発熱が断続的に見られたものの、肺の雑音は認められなくなり、呼吸は平静のままで経過。1月30日午前11時20分酸素投与量が7L/分から6L/分に減量。午後1時頃呼吸が促拍するようになる。午後3時SpO2 98%であるも、発熱(37.4℃)や少量の白色痰が見られる。血圧148/87午後5時30分SpO2 90%に低下、発熱(38.5℃)と肺雑音が見られ、黄色痰が大量に吸引される。血圧114/81。解熱のためジクロフェナクナトリウム投与。午後8時頃両肺の雑音や多量の黄色痰が見られ、SpO2 94%に低下し、努力様呼吸になって呼吸状態が急激に悪化。収縮期血圧が74/64に低下し、心拍数は120~130回/分に上昇。膝から下にチアノーゼが出現し、四肢が脱力した状態。担当医は、容体急変は間質性肺炎の急性増悪による(血圧低下についてはジクロフェナクナトリウムの影響もある)もので、ステロイドミニパルス療法が奏功しない限り救命困難と判断。ステロイドミニパルス療法と酸素投与(6L/分)のほかに治療は行わず、容体急変の原因を探るためのCT検査や血液検査などの検査も行わなかった。午後10時頃SpO2が上昇(午後9時時点で99%、午後10時時点で96%)、収縮期血圧も90台まで上昇(午後9時時点で90/23mmHg、午後10時時点で92/78)も、四肢の脱力、努力様呼吸や黄色痰が大量に吸引される状態が継続。1月31日午前0時下顎様呼吸、瞳孔拡大、血圧およびSpO2が測定不能。午前2時15分死亡2月2日午後3時他院において病理解剖。要旨は以下のとおり。(1)死因に関与した臓器を挙げるならば、肺または心臓と考えられる。(2)肺については、胸膜直下~隔壁の高度な線維化、線維化巣内の蜂巣構造、線維芽細胞巣(fibroblastic foci)を認め、隣接する領域の肺胞構造は保たれており、UIP(通常型間質性肺炎)パターンと考えられた。肺は、UIPパターンの間質性肺炎であるが、病理解剖時に採取した血液を用いた間質性肺炎マーカー検査の結果(KL-6値274U/mL〔基準値:500U/mL未満〕、SP-A値18.9ng/mL〔基準値:43.8ng/mL未満〕、SP-D値82.8ng/mL〔基準値:110ng/mL未満〕)からも活動性の低いものではなかったかと疑われ、これのみで死に至るものか疑問が残る。(3)心臓は、不安定プラークを疑う冠動脈病変を伴っており、心筋にも全周性の虚血性変化が見られたが、この変性像は区域性には見えず、アーチファクトの可能性もある。あえて推測すれば、剖検時に冠動脈に明らかな血栓形成はないが、肺うっ血水腫の存在と併せて、新鮮な心筋梗塞による心原性ショックは否定できない。(4)臓器別に病理組織学的検索を行った範囲では、直接死因を確定することは困難であり、臨床情報と併せて判断する必要がある。実際の裁判結果本件において、1月30日午後8時頃の急変・ショック状態(収縮期血圧は74mmHg、心拍数120〜130回/分、尿量減少、四肢チアノーゼ、努力様呼吸など)につき、担当医は、間質性肺炎急性増悪が原因であり救命は困難、輸液は肺水腫の悪化を招くとして、酸素投与以外の処置を行わず、ステロイドミニパルス療法のみにより経過を見る方針とした。これに対し、原告(患者の相続人ら)は、輸液負荷、昇圧薬、気管挿管、原因鑑別のための血液検査・画像検査などの救命処置をすべきであったと主張した。裁判所は、以下の点を指摘し、「1月30日午後8時の時点での本件患者の状態は、輸液剤や血管収縮薬の投与といった救命処置を行い、ショックの原因を把握した上で、それに対する治療を行うべきものであった」とした。ショックでは、血圧低下、心拍の異常(頻脈など)、呼吸の異常(頻呼吸)、皮膚の異常(末梢血管の収縮など)といった症状が見られ、一般的に、収縮期血圧90mmHg以下がショックの基準となる。午後8時時点において、本件患者は、血圧74/64と著しい低下、心拍数の120~130回/分への上昇、努力様呼吸、膝から下のチアノーゼの出現は、いずれもショックの症状というべきであり、とくに収縮期血圧については、ショックの基準値を大きく下回るので、本件患者はショックに陥って容体が急変したといえる。ショックは、迅速な原因の同定と治療介入がされなければ臓器不全を来し、死に至る症候群であるため、一般に、まずは、生命の危機的状況を避けるための救命処置を行う必要がある。本件患者に見られた1月30日の収縮期血圧の低下は、持続的に生じている上、膝から下にチアノーゼが生じ、末梢の循環不全を来すものであった。末梢の循環不全を来したショックについて、救命処置を行わずに血圧低下が持続すると、不可逆的な転帰を招く可能性があった。本件において被告病院は、「呼吸状態の悪化や血圧低下といった当時の本件患者の状態は、間質性肺炎の急性増悪や数時間前に投与したジクロフェナクナトリウムの影響によるものであって、救命不可能な状態に陥っており、輸液剤の投与などは肺水腫を招くなどかえって死期を早めるため、それらの投与を行うべきではなかった」と主張していた。これに対し、裁判所は、以下の点を指摘し、「被告病院の担当医には、1月30日午後8時頃、本件患者に対し、輸液剤や血管収縮薬の投与といった救命処置を行い、ショックの原因を把握した上で、それに対する処置・治療を行うべき注意義務があった」として、これらの処置を行わなかった注意義務違反(過失)があると判断した。血圧低下については、その数時間前に投与されたジクロフェナクナトリウムの影響はあったと認められるものの、呼吸状態の悪化など当時の本件患者の症状に照らし、ジクロフェナクナトリウムの影響だけで血圧低下の説明が付けられるかは疑問が残ること。血圧低下がジクロフェナクナトリウムによるものであったとしても、ショックに対する初期対応が不要となるものでもないこと。間質性肺炎の主症状の一つは乾性咳嗽(痰を伴わない乾いた咳)であり、典型的な間質性肺炎の急性増悪は痰を伴わない一方、黄色痰は感染症の可能性を示す所見であること。本件患者は、呼吸がやや努力様になった1月26日には白黄色痰が大量に吸引されており、1月30日午後5時30分や呼吸状態が急激に悪化した同日午後8時にも大量の黄色痰が見られているため、間質性肺炎の急性増悪とは必ずしも整合せず、細菌性肺炎などの感染症に罹患していたことを疑わせる所見があったこと。担当医は、本件患者に対して細菌培養検査などの感染症を除外鑑別するための検査を行っておらず、感染症の除外鑑別も積極的に行われていなかったため、当時の客観的な状態としては、感染症の罹患もなお疑うべきものであったこと。次に、裁判所は、本件患者の死後に行われた病理解剖の結果も踏まえてショックおよびショックに続く死亡の原因を検討し、以下のように、間質性肺炎急性増悪の可能性が相対的に高いものの、死亡原因は特定できないとした。「本件患者のショック(容体急変)ないしそれに続く死亡の原因は、間質性肺炎の急性増悪であった(少なくとも一定の寄与があった)可能性が相対的に高いものの、これと断ずることはできず、細菌性肺炎などの感染症による敗血症性ショックや心筋梗塞などによる心原性ショックが原因であった可能性も否定できず、その特定は困難であるといわざるを得ない」その上で、裁判所は考えられるそれぞれの原因につき、以下の点を指摘した上で「1月30日午後8時の段階で本件患者に対して救命処置が行われていたとしても、本件患者の上記死亡を回避できたとの高度の蓋然性があるということはできない」として、注意義務違反(過失)と本件患者の死亡との因果関係を否定し、被告の損害賠償責任を否定した。心筋梗塞などによる心原性ショックが原因である場合には、救命処置によって本件患者に生じた死亡を回避できた蓋然性があるが、そもそも、心原性ショックであった可能性も否定できない程度のものにとどまる。このため、この点をことさら強調するのは相当ではない。ショックなどの原因が敗血症性ショックであった場合でも、救命処置によって一定の効果があり、いったんは生命の危機的状況を脱し得た可能性はある。しかし、本件患者に生じた死亡を現実に回避するためには、感染症に対する治療として、血液培養検査などを行って同定した起炎菌に合う抗菌薬を投与する必要があり、これら一連の対応を執るのには相応の時間を要する。このため、本件患者にショックが生じてから死亡する約6時間のうちに、これら一連の対応を執って何らかの治療・救命効果が発揮されたということはできない。原因としての可能性が相対的に高い間質性肺炎の急性増悪については、「いったんは酸素化が安定しても、最終的には努力性呼吸から低酸素血症となり、死に至る」経過をたどることとなる。しかし、本件患者は、この努力様呼吸や下顎様呼吸が認められたのであるから、救命処置によってこれらの努力様呼吸などに至るのを回避できた現実的な可能性はなかった。注意ポイント解説本件は、ショック状態の患者に対する救命処置の要否が争点となった事案である。裁判所は、医師に輸液・昇圧薬などの救命処置を行う義務を認めつつ、その不履行と死亡との因果関係は否定し、結論として医療機関の損害賠償責任を否定した。すなわち、注意義務違反が成立しても、結果(死亡)との法的因果関係が認められない場合に責任が否定される典型例といえる。この点、注意義務違反がある場合に、義務違反と生じた結果との間の法的な因果関係があれば、損害賠償責任が肯定されることとなる。この法的因果関係については、「経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明すること」がなされた場合に認められる。本件は、考えられるショックおよびその後の死亡の原因のそれぞれについて、救命処置をとったことで死亡を回避できた「高度の蓋然性」が認められなかったために、法的因果関係がないものとされた。もっとも、「高度の蓋然性」が認められない場合であっても、「死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性」が認められる場合には、その可能性を侵害した損害が認められることとなる。そして、この「相当程度の可能性」については、比較的緩やかに肯定される傾向が否めない。このため、注意義務違反(過失)があるとされる場合において、「相当程度の可能性」すらも否定されて損害賠償責任が否定されるケースは少ない傾向にある。本件では、死亡の原因を特定しえないため、救命処置により「死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性」を証明のしようもないことから、相当程度の可能性も否定され、損害賠償責任が否定されたものである。なお、本件では、担当医が看取りを視野に入れた方針転換をしつつも、これを家族に説明していなかったという事情があり、裁判所は「遺族が強い不満を抱くことは理解できる」としている。このため、本件は医師が「治療方針転換をする際の説明の在り方」と「急変時の最小限の救命処置の必要性」を再確認させるものでもある。医療者の視点本判決において、裁判所は「ショック状態に対する輸液や昇圧薬の投与、原因精査を行うべき注意義務があった」とし、これを行わなかった医師の過失(注意義務違反)を認定しました。臨床現場の感覚としては、間質性肺炎の急性増悪が強く疑われる局面において、肺水腫を助長しうる輸液負荷や、全身状態が悪い中での負担の大きい検査を躊躇するのは、医学的には理解できる判断です。しかし、裁判所は当時の客観的なバイタルサイン(著しい血圧低下など)に基づき、まずは原因特定と標準的な救命処置を行うべきであったと判断しました。とくに本件で教訓とすべきは、担当医が「救命困難」と判断し、実質的に「看取り」の方針へ転換していたにもかかわらず、その説明と同意が家族となされていなかった点です。実臨床において、医学的に予後不良が明白であり、侵襲的な処置が患者の利益にならないと医師が確信する場合であっても、家族への十分な説明と合意(アドバンス・ケア・プランニングなど)のプロセスを経ずに標準治療を省略することは、法的責任を問われるリスクがあることを再認識する必要があります。Take home message高齢者・基礎疾患を抱える患者の急変時対応では、救命可能性が低い場合でも、診療録や家族への説明を含めた臨床判断のプロセスが重要である。とくに、救命処置をしない場合、家族への説明と同意の取付けは不可欠である。キーワード間質性肺炎、ショック、救命処置、看取り、法的因果関係、高度の蓋然性、相当程度の可能性

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意外な所に潜む血栓症のリスク/日本血液学会

 2025年10月10~12日に第87回日本血液学会学術集会が兵庫県にて開催された。10月12日、井上 克枝氏(山梨大学 臨床検査医学)、野上 恵嗣氏(奈良県立医科大学 小児科)を座長に、シンポジウム6「意外な所に潜む血栓症のリスク」が行われた。Nan Wang氏(米国・Columbia University Irving Medical Center)、Hanny Al-Samkari氏(米国・The Peggy S. Blitz Endowed Chair in Hematology/Oncology, Massachusetts General Hospital/Harvard Medical School)、長尾 梓氏(関西医科大学附属病院 血液腫瘍内科)、成田 朋子氏(名古屋市立大学大学院医学研究科 血液・腫瘍内科学)。JAK2V617Fクローン性造血とアテローム血栓症との関連 JAK2V617F(Jak2VF)クローン性造血は、アテローム血栓性の心血管疾患(CVD)との関連が指摘されている。Wang氏は、本シンポジウムにおいて、Jak2VFクローン性造血が動脈血栓症に及ぼす影響とそのメカニズムを評価した研究結果を報告した。 まず、3つのコホート研究を用いたメタ解析により、Jak2VFとCVD、血小板数、補正平均血小板容積との関連が確認された。また、マウスモデルでは20%または1.5%のJak2VFクローン性造血が動脈血栓症を促進し、血小板活性化を増加させることが示された。 Jak2VFクローン性造血は、前血小板形成および放出を促進し、血栓形成促進性の網状血小板数を増加させると考えられている。Gp1ba-Creを介して血小板におけるJak2VFを発現させたモデル(VFGp1ba)は、血小板数が増加した一方、白血球数には影響が見られなかった。このことから、VFGp1baは、血小板活性化と動脈血栓症を促進する可能性が示唆された。 また、Jak2VFクローン性造血では、変異型血小板と野生型(WT)血小板のいずれもが活性化しており、両者の間にクロストークが存在することが示唆された。Jak2VF血小板では、COX-1およびCOX-2が2~3倍に増加し、cPLA2の活性化とトロンボキサンA2産生の増加が認められた。一方、WT血小板は、活性化Jak2VF血小板由来の培養液に曝されるとさらに活性化し、この反応はトロンボキサン受容体拮抗薬により抑制された。さらに、低用量アスピリンは、VFGp1baマウスおよびJak2VFクローン性造血マウスで頸動脈血栓症を改善したが、WT対照マウスでは改善が見られなかった。 これらの結果を踏まえてWang氏は「Jak2VFクローン性造血によるアテローム性動脈硬化症の進行メカニズムにおいて、網状血小板の増加とトロンボキサンを介したクロストークが重要な役割を果たしており、アスピリンの潜在的な効果が期待される」と結論づけた。ITPにおける血栓症リスクとその管理 続いて、Al-Samkari氏が免疫性血小板減少症(ITP)における血栓症の重要なトピックスを紹介した。 ITPは、血小板破壊の増加と血小板産生の低下により生じる後天性自己免疫疾患である。さまざまな仮説に基づくメカニズムから、ITPは静脈血栓症および動脈血栓症のリスクを上昇させる可能性が指摘されている。実際、ITP患者の静脈血栓塞栓症のリスクは、一般集団の10~30倍と推定されている。また、トロンボポエチン受容体作動薬などの特定のITP治療薬は、血栓塞栓症リスクを上昇させる一方、脾臓チロシンキナーゼ阻害薬などの他の治療薬はリスクを低下させるとされている。 ITPにおける血栓症のリスク因子は、一般的な血栓症リスク因子に加え、年齢、脾臓摘出、複数回のITPの治療歴、免疫グロブリン静脈(IVIG)療法などが挙げられる。脾臓摘出後の生涯静脈血栓症リスクは3〜5倍に増加し、その発症率は7〜12%と報告されている。IVIG治療患者における血栓症リスクは約1%であり、血栓イベントの60%以上が注入後24時間以内に発生すると報告されている。とくに、45歳以上の患者や血栓イベントの既往歴を有する患者では、リスクがより高いと考えられる。 ITPにおける血栓症の治療について、Al-Samkari氏は次のように述べた。「出血がない場合であっても、血小板数が5万/μLを超える患者では抗凝固療法または抗血小板療法が通常適応となる。また、血小板数が3万/μL以上の場合には、年齢やその他のリスク因子を考慮しつつ、治療用量の抗凝固療法と抗血小板薬2剤併用療法を選択する必要がある」。日本人血友病患者のCVD管理のポイント 先天性血友病患者が胸痛を呈し、心エコー検査でST上昇が認められる場合には、緊急冠動脈インターベンションが必要となる。このような症例は、血友病患者の高齢化に伴い今後増加する可能性がある。 先天性血友病は、第VIII因子(血友病A)または第IX因子(血友病B)の欠乏によって引き起こされるX連鎖性出血性疾患であり、その重症度は重症(活性1%未満)、中等症(1~5%)、軽症(5~40%)に分類される。2024年度の日本における血液凝固異常症全国調査によると、血友病Aは5,956例、血友病Bは1,345例であると報告されている。血友病患者は関節内出血などの深部出血を呈し、血友病性関節症の発症やQOL低下につながる可能性があることから、予防的な因子補充療法は依然として治療の基本である。 近年、血友病治療は目覚ましい進歩を遂げており、半減期を延長した凝固因子濃縮製剤、第VIII因子模倣二重特異性抗体、抗凝固経路を標的としたリバランス療法、そして海外でも利用可能となった遺伝子治療など、新たな治療選択肢が登場している。一方、日本では高齢の血友病患者が比較的少なかったことから、CVDなどの血栓性合併症はまれで、その管理のための確立したガイドラインや十分なデータが存在しなかった。しかし、非因子療法の普及や包括的ケアシステムの拡充に伴い、血友病患者の長期予後は改善しつつある。2024年の全国調査では、日本の血友病Aおよび血友病B患者の平均年齢は約40.2歳であり、患者集団の高齢化が進んでいることが明らかにされた。 2019年以降に40歳以上であった血友病患者599例をフォローアップしたADVANCEコホート研究では、5年間で17例の死亡が観察され、死亡時の平均年齢は62.4歳(中央値:58.0歳)であったことが報告されている。70〜90代まで生存した患者も報告されており、血友病患者の寿命が延長していることも示されている。日本人男性の平均寿命(約81歳)との差は依然としてあるものの、日本人血友病患者の平均寿命が延びていることを明確に示す結果となった。 重要なポイントとして、長尾氏は「日本人は欧米人よりも出血傾向が高いと考えられるため、日本人患者に合わせた個別化かつバランスの取れたCVD管理戦略が不可欠である」と指摘した。さらに「血友病患者のCVD管理のための、日本人特有のエビデンスに基づく臨床ガイドラインを早急に策定する必要がある」と述べ、講演を締めくくった。多発性骨髄腫における血栓症リスク がん患者は健康な人と比較して血栓イベントの発生リスクが4~7倍高いことが報告されている。多発性骨髄腫はその中でも血栓イベントの発生率が高い疾患の1つであり、患者の約10%において臨床経過中に血栓イベントが生じるとされている。 血栓イベントのリスク因子は多岐にわたり、患者関連因子、疾患関連因子、治療関連因子の3つに大別される。たとえば治療関連リスクとしては、レナリドミドなどの免疫調節薬とデキサメタゾンの併用が挙げられる。 多発性骨髄腫患者における血栓イベントの発生は、治療に影響を及ぼし、アウトカム不良につながるため、適切な予防と評価が重要となる。成田氏は「診断時および定期的な血栓症のスクリーニングが有益であり、免疫調節薬を併用療法で使用する場合には、血栓症の予防およびモニタリングがとくに重要となる」と指摘した。 現在、日本における多発性骨髄腫患者の血栓症に関する調査が進行中であり、その結果が待ち望まれている。

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肺動脈性肺高血圧症〔PAH : pulmonary arterial hypertension〕

1 疾患概要■ 概念・定義肺高血圧症(pulmonary hypertension:PH)は、肺動脈圧が上昇する一連の疾患の総称である。欧州の肺高血圧症診断治療ガイドライン2022では、右心カテーテルで安静時の平均肺動脈圧(mPAP)が20mmHgを超える状態と定義が変更された。さらに肺動脈性肺高血圧症(PAH)に関しても、mPAP>20mmHgかつ肺動脈楔入圧(PAWP)≦15mmHg、肺血管抵抗(PVR)>2 Wood単位(WU)と診断基準が変更された。しかし、わが国において、厚生労働省が指定した指定難病PAHの診断基準は2025年8月の時点では「mPAP≧25mmHg、PVR≧3WU、PAWP≦15mmHg」で変わりない。この数字は現在保険収載されている肺血管拡張薬の臨床試験がmPAP≧25mmHgの患者を対象としていることにある。mPAP 20~25mmHgの症例に対する治療薬の臨床的有用性や安全性に関する検証が待たれる。■ 疫学特発性PAHは一般臨床では100万人に1~2人、二次性または合併症PAHを考慮しても100万人に15人ときわめてまれである。従来、特発性PAHは30代を中心に20~40代女性に多く発症する傾向があったが、最近の調査では高齢者かつ男性の新規診断例の増加が指摘されている。小児は成人の約1/4の発症数で、1歳未満・4~7歳・12歳前後に発症のピークがある。男女比は小児では大差ないが、思春期以降の小児や成人では男性に比し女性が優位である。厚生労働省研究班の調査では、膠原病患者のうち混合性結合織病で7%、全身性エリテマトーデスで1.7%、強皮症で5%と比較的高頻度にPAHを発症する。■ 病因主な病変部位は前毛細血管の細小動脈である。1980年代までは血管の「過剰収縮ならびに弛緩低下の不均衡」説が病因と考えられてきたが、近年の分子細胞学的研究の進歩に伴い、炎症-変性-増殖を軸とした、内皮細胞機能障害を発端とした正常内皮細胞のアポトーシス亢進、異常平滑筋細胞のアポトーシス抵抗性獲得と無秩序な細胞増殖による「血管壁の肥厚性変化とリモデリング」 説へと、原因論のパラダイムシフトが起こってきた1, 2)。肺血管平滑筋細胞などの血管を構成する細胞の異常増殖は、細胞増殖抑制性シグナル(BMPR-II経路)と細胞増殖促進性シグナル(ActRIIA経路)のバランスの不均衡により生じると考えられている3)。遺伝学的には2000年に報告されたBMPR2を皮切りに、ACVRL1、ENG、SMAD9など、TGF-βシグナル伝達に関わる遺伝子が次々と疾患原因遺伝子として同定された4)。これらの遺伝子変異は家族歴を有する症例の50~70%、孤発例(特発性PAH)の20~30%に発見されるが、浸透率は10~20%と低い。また、2012年にCaveolin1(CAV1)、2013年にカリウムチャネル遺伝子であるKCNK3、2013年に膝蓋骨形成不全の原因遺伝子であるTBX4など、TGF-βシグナル伝達系とは直接関係がない遺伝子がPAH発症に関与していることが報告された5-7)。■ 症状PAHだけに特異的なものはない。初期は安静時の自覚症状に乏しく、労作時の息切れや呼吸困難、運動時の失神などが認められる。注意深い問診により診断の約2年前には何らかの症状が出現していることが多いが、てんかんや運動誘発性喘息、神経調節性失神などと誤診される例も少なくない。進行すると易疲労感、顔面や下腿の浮腫、胸痛、喀血などが出現する。■ 分類『ESC/ERS肺高血圧症診断治療ガイドライン2022』に示されたPHの臨床分類を以下に示す8)。1群PAH(肺動脈性肺高血圧症)1.1特発性PAH1.1.1 血管反応性試験でのnon-responders1.1.2 血管反応性試験でのacute responders(Ca拮抗薬長期反応例)1.2遺伝性PAH1.3薬物/毒物に関連するPAH1.4各種疾患に伴うPAH1.4.1 結合組織病(膠原病)に伴うPAH1.4.2 HIV感染症に伴うPAH1.4.3 門脈圧亢進症に伴うPAH(門脈肺高血圧症)1.4.4 先天性心疾患に伴うPAH1.4.5 住血吸虫症に伴うPAH1.5 肺静脈閉塞症/肺毛細血管腫症(PVOD/PCH)の特徴をもつPAH1.6 新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)2群PH(左心疾患に伴うPH)2.1 左心不全2.2.1 左室駆出率の保たれた心不全(HFpEF)2.2.2 左室駆出率が低下または軽度低下した心不全2.2 弁膜疾患2.3 後毛細血管性PHに至る先天性/後天性の心血管疾患3群PH(肺疾患および/または低酸素に伴うPH)3.1 慢性閉塞性肺疾患(COPD)3.2 間質性肺疾患(ILD)3.3 気腫合併肺線維症(CPFE)3.4 低換気症候群3.5 肺疾患を伴わない低酸素症(例:高地低酸素症)3.6 肺実質の成長障害4群PH(肺動脈閉塞に伴うPH)4.1 慢性血栓塞栓性PH(CTEPH)4.2 その他の肺動脈閉塞性疾患5群PH(詳細不明および/または多因子が関係したPH)5.1 血液疾患5.2 全身性疾患(サルコイドーシス、肺リンパ脈管筋腫症など)5.3 代謝性疾患5.4 慢性腎不全(透析あり/なし)5.5 肺腫瘍血栓性微小血管症(PTTN)5.6 線維性縦郭炎5.7 複雑先天性心疾患■ 予後1990年代まで平均生存期間は2年8ヵ月と予後不良であった。わが国では1999年より静注PGI2製剤エポプロステノールナトリウムが臨床使用され、また、異なる機序の経口肺血管拡張薬が相次いで開発され、併用療法が可能となった。近年では5年生存率は90%近くに劇的に改善してきている。一方、最大限の内科治療に抵抗を示す重症例も一定数存在し、肺移植施設への照会、肺移植適応の検討も考慮される。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)右心カテーテル検査による「肺動脈性のPH」の診断とともに、臨床分類における病型の確定、他のPHを来す疾患の除外(鑑別診断)、および重症度評価が行われる。症状の急激な進行や重度の右心不全を呈する症例はPH診療に精通した医師に相談することが望ましい。PHの各群の鑑別のためには、まず左心性心疾患による2群PH、呼吸器疾患/低酸素による3群PHの存在を検索し、次に肺換気血流シンチグラムなどにより肺血管塞栓性PH(4群)を否定する。ただし、呼吸器疾患/低酸素によるPHのみでは説明のできない高度のPHを呈する症例では1群PAHの合併を考慮すべきである。わが国の『肺高血圧症診療ガイダンス2024』に示された診断手順(図1)を参考にされたい9)。図1 PHの鑑別アルゴリズム(診断手順)画像を拡大する■ 主要症状および臨床所見1)労作時の息切れ2)易疲労感3)失神4)PHの存在を示唆する聴診所見(II音の肺動脈成分の亢進など)■ 診断のための検査所見1)右心カテーテル検査(指定難病PAHの診断基準に準拠)(1)肺動脈圧の上昇(安静時肺動脈平均圧で25mmHg以上、肺血管抵抗で3単位以上)(2)肺動脈楔入圧(左心房圧)は正常(15mmHg以下)2)肺血流シンチグラム区域性血流欠損なし(特発性または遺伝性PAHでは正常または斑状の血流欠損像を呈する)■ 参考とすべき検査所見1)心エコー検査にて、右室拡大や左室圧排所見、三尖弁逆流速度の上昇(>2.8m/s)、三尖弁輪収縮期移動距離の短縮(TAPSE<18mm)、など2)胸部X線像で肺動脈本幹部の拡大、末梢肺血管陰影の細小化3)心電図で右室肥大所見3 治療 (治験中・研究中のものも含む)『ESC/ERSのPH診断・治療ガイドライン2022』を基本とし、日本人のエビデンスと経験に基づいて作成されたPAH治療指針を図2に示す9,10)。図2 PAHの治療アルゴリズム画像を拡大するこれはPAH症例にのみ適応するものであって、他のPHの臨床グループ(2~5群)に属する症例には適応できない。一般的処置・支持療法に加え、根幹を成すのは3系統の肺血管拡張薬である。すなわち、プロスタノイド(PGI2)、ホスホジエステラーゼ 5型阻害薬(PDE5-i)、エンドセリン受容体拮抗薬(ERA)である。2015年にPAHに追加承認された、可溶性guanylate cyclase(sGC)刺激薬リオシグアトはPDE5-iとは異なり、NO非依存的にNO-cGMP経路を活性化し、肺血管拡張作用をもたらす利点がある。初期治療開始に先立ち、急性血管反応性試験(AVT)の反応性を確認する。良好な反応群(responder)には高用量のCa拮抗薬が推奨される。しかし、実臨床においてCa拮抗薬長期反応例は少なく、3~4ヵ月後の血行動態改善が乏しい場合には他の薬剤での治療介入を考慮する。AVT陰性例には重症度に基づいた予後リスク因子(表)を考慮し、リスク分類に応じて3系統の肺血管拡張薬のいずれかを用いて治療を開始する。表 PAHのリスク層別化画像を拡大する低~中リスク群にはERA(アンブリセンタン、マシテンタン)およびPDE5-i(シルデナフィル、タダラフィル)の2剤併用療法が広く行われている。高リスク群には静注・皮下注投与によるPGI2製剤(エポプロステノール、トレプロスチニル)、ERA、PDE5-iの3剤併用療法を行う。最近では初期から複数の治療薬を同時に併用する「初期併用療法」が主流となり良好な治療成績が示されているが、高齢者や併存疾患(高血圧、肥満、糖尿病、肺実質疾患など)を有する症例では、安全性を考慮しERAもしくはPDE5-iによる単剤治療から慎重に開始すべきである。右心不全ならびに左心還流血流低下が著しい最重症例では、体血管拡張による心拍出量増加・右心への還流静脈血流増加に対する肺血管拡張反応が弱く、かえって肺動脈圧上昇や右心不全増悪を来すことがあり、少量から開始し、急速な増量は避けるべきである。また、カテコラミン(ドブタミンやPDEIII阻害薬など)の併用が望まれ、体血圧低下や脈拍数増加、水分バランスにも十分留意する。初期治療開始後は3~4ヵ月以内に血行動態の再評価が望まれる。フォローアップ時において中リスクの場合は、経口PGI2受容体刺激薬セレキシパグもしくは吸入PGI2製剤トレプロスチニルの追加、PDE5-iからsGC刺激薬リオシグアトへの薬剤変更も考慮される。しかし、経口薬による多剤併用療法を行っても機能分類-III度から脱しない難治例には時期を逸さぬよう非経口PGI2製剤(エポプロステノール、トレプロスチニル)の導入を考慮すべきである。すでに非経口PGI2製剤を導入中の症例で用量変更など治療強化にも抵抗を示す場合は、肺移植認定施設に紹介し、肺移植適応を検討する。2025年8月にアクチビンシグナル伝達阻害薬ソタテルセプト(商品名:エアウィン 皮下注)がわが国でも保険収載された。これまでの3系統の肺血管拡張薬とは薬理機序が異なり、アクチビンシグナル伝達を阻害することで細胞増殖抑制性シグナルと細胞増殖促進性シグナルのバランスを改善し、肺血管平滑筋細胞の増殖を抑制する新しい薬剤である11)。ソタテルセプトは、既存の肺血管拡張薬による治療を受けている症例で中リスク以上の治療強化が必要な場合、追加治療としての有効性が期待される。3週間ごとに皮下注射する。主な副作用として、出血や血小板減少、ヘモグロビン増加などが報告されている。PHに対して開発中の薬剤や今後期待される治療を紹介する。吸入型のPDGF阻害薬ソラルチニブが成人PAHを対象とした第III相臨床試験を国内で進捗中である。トレプロスチニルのプロドラッグ(乾燥粉末)吸入製剤について海外での第II相試験が完了し、1日1回投与で既存の吸入薬に比べて利便性向上が期待できる。内因性エストロゲンはPHの病因の1つと考えられており、アロマターゼ阻害薬であるアナストロゾールの効果が研究されている。世界中で肺動脈自律神経叢を特異的に除神経するカテーテル治療開発が進められており、国内でも先進医療として薬物療法抵抗性PH対する新たな治療戦略として期待されている。4 今後の展望近年、肺血管疾患の研究は急速に成長をとげている。PHの発症リスクに関わる新たな遺伝的決定因子が発見され、PHの病因に関わる新規分子機構も明らかになりつつある。とくに細胞の代謝、増殖、炎症、マイクロRNAの調節機能に関する研究が盛んで、これらが新規標的治療の開発につながることが期待される。また、遺伝学と表現型の関連性によって予後転帰の決定要因が明らかとなれば、効率的かつテーラーメイドな治療戦略につながる可能性がある。5 主たる診療科循環器内科、膠原病内科、呼吸器内科、胸部心臓血管外科、小児科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 肺動脈性肺高血圧症(指定難病86)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本肺高血圧・肺循環学会合同ガイドライン(日本循環器学会)(2025年改訂された日本循環器学会および日本肺高血圧・ 肺循環学会の合同作成による肺高血圧症に関するガイドライン)肺高血圧症診療ガイダンス2024(日本肺高血圧・肺循環学会)(欧州ガイドライン2022を基とした日本の実地診療に即したガイダンス)2022 ESC/ERS Guidelines for the diagnosis and treatment of pulmonary hypertension(2022年に発刊された最新版の欧州ガイドライン、英文のみ)患者会の情報NPO法人 PAHの会(肺高血圧症患者と家族が運営している全国組織の患者会)Pulmonary Hypertension Association(世界最大かつ最古の肺高血圧症協会で16,000人以上の患者・家族・医療専門家からなる国際的なコミュニティ、日本語選択可) 1) Michelakis ED, et al. Circulation. 2008;18:1486-1495. 2) Morrell NW, et al. J Am Coll Cardiol. 2009;54:S20-31. 3) Guignabert C, et al. Circulation. 2023; 147: 1809-1822. 4) 永井礼子. 日本小児循環器学会雑誌. 2023; 39: 62-68. 5) Austin ED, et al. Circ Cardiovasc Genet. 2012;5:336-343. 6) Ma L, et al. N Engl J Med. 2013;369:351-361. 7) Kerstjens-Frederikse WS, et al. J Med Genet. 2013;50:500-506. 8) Humbert M, et al. Eur Heart J. 2022;43:3618-3731. 9) 日本肺高血圧・肺循環学会. 肺高血圧症診療ガイダンス2024. 10) Chin KM, et al. Eur Respir J. 2024;64:2401325. 11) Sahay S, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2024;210:581-592. 公開履歴初回2013年07月18日更新2025年11月06日

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心室頻拍に定位放射線治療が有効か

 標的となる部分に放射線を当てて治療する定位放射線治療(以下、放射線治療)が、危険性の高い不整脈の一種である心室頻拍に対する安全性の高い治療法になり得ることが、新たな研究で示された。米セントルイス・ワシントン大学医学部放射線腫瘍科のShannon Jiang氏らによると、放射線治療の効果は、標準的な治療法だが複雑な手術であるカテーテルアブレーションと同等であったという。また、放射線治療は、カテーテルアブレーションと比べて死亡や重篤な副作用が少ないことも示された。詳細は、「International Journal of Radiation Oncology, Biology, Physics」に9月29日掲載されるとともに、米国放射線腫瘍学会(ASTRO 2025、9月29日~10月1日、米サンフランシスコ)でも発表された。 心室頻拍は、2つの心室から異常に速い心拍が発生する疾患だ。米国心臓協会(AHA)によると、発作時には心拍数が急上昇し、めまい、息切れ、失神、胸痛などが起こり、重症の場合には心停止を引き起こすこともある。Jiang氏らによると、進行した心室頻拍の患者は多くの場合、副作用の強い心臓の薬を大量に使用する。それでも効果が得られない場合には、足の静脈からカテーテルを心臓まで通し、異常な心拍の原因となっている心臓の組織を焼灼するカテーテルアブレーションが標準的な治療法となる。こうした中、近年、新たな治療選択肢として注目されているのが放射線治療だ。Jiang氏らによると、これは放射線を集中照射して異常なリズムを引き起こしている心臓の組織を破壊する治療法で、麻酔も不要であるという。 今回の研究では、リスクが高く、薬物治療による効果も得られない心室頻拍の患者43人の記録を分析した。カテーテルアブレーションを受けたことがない患者は4人のみだった。43人のうち、22人は放射線治療を1回だけ受け、残る21人は再度カテーテルアブレーションを受けた。その結果、どちらの治療も心臓リズムのコントロールに有効であることが示された。心室性ショックやVT(心室頻拍)ストーム(心室頻拍が短期間に繰り返し発生する状態)が起こるまでの期間中央値は、放射線治療で8.2カ月、カテーテルアブレーションで9.7カ月であり、両群間に有意な差はなかった。 しかし、治療から31日以内に死亡した5人のうち4人はカテーテルアブレーションを受けた患者で、1人はカテーテルアブレーションの施行中に死亡した。いずれの死亡も治療に関連する副作用によるものだった。一方、放射線治療を受けた患者では、3年間の追跡期間中に治療関連死の報告はなかった。また、治療後1年以内に副作用が原因で入院が必要になった患者は、カテーテルアブレーション群の38%に対して放射線治療群では9%にとどまっていた。治療後、合併症が起こるまでの期間中央値は、カテーテルアブレーション群6日間、放射線治療群10カ月で、カテーテルアブレーション群の方がより早く合併症が起きていたことも分かった。全生存期間も放射線治療群では長い傾向にあり、中央値は放射線治療群で28カ月、カテーテルアブレーション群で12カ月だった。ただし、症例数が少なかったため、この差は統計的に有意ではなかった。治療から1年後の全生存率は放射線治療群73%、カテーテルアブレーション群58%で、3年後では両群とも45%だった。 こうした結果を受けてJiang氏は、「われわれの研究は、特に治療後早期において放射線治療の方が安全性が高い可能性を示唆している。カテーテルアブレーションでは施術後早期に有害事象の発生がピークに達し、それらが死亡につながっていたが、放射線治療ではそのようなピークは認められなかった。このことが、安全性の差につながったようだ」と言う。 Jiang氏は、「この結果は有望ではあるが、心室頻拍に対する放射線治療の有効性を証明するには研究の規模が不十分である」と説明している。現在、放射線治療の有効性の確定的な証拠を得るための大規模な国際共同臨床試験への患者登録が進められているという。

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血栓症予防に、避難所ではどんな体操を勧めたらよいか?【実例に基づく、明日はわが身の災害医療】第8回

避難所ではどんな体操を勧めたらよいか?避難所生活も数日が経過し、衛生環境やプライバシーが不完全な慣れない暮らしの中で、とくに高齢の避難者の方々に、疲労の色が濃くなってきました。血栓症の予防や筋力の維持のため、避難者を支えるボランティアや行政の職員から、「何か体操をしてもらおうと思いますが、どうしましょう?」と相談を受けました。このような時、どんなアドバイスをしたらよいでしょうか?東日本大震災の避難所での教訓この問いに対して、私には苦い経験があります。東日本大震災の際、支援に訪れた南三陸町の大きな避難所で、実際に自治体の方からこの相談を受けました。その時、私は「ぜひやりましょう。ラジオ体操などが手軽でよいのではないでしょうか」と安易にお答えした記憶があります。しかしその後、災害医療の専門家から、「朝は低血糖や血圧上昇のリスクがあり、寒い屋外での体操は危険です」とご指摘を受け、自身の配慮が至っていなかったことを大いに反省しました。最終的には、理学療法士のボランティアの方が、午後の時間帯に、被災者の状態に合わせて考案した体操を実施してくださいました。この経験は、避難所での運動を考えるうえで重要な教訓となりました。避難生活の身体機能低下避難生活が続くと、心身にはさまざまな影響が現れます。仮設住宅で生活する高齢者は、自宅での生活継続群に比べ、身体機能が有意に低下することがわかっており、運動機会の確保が重要と示されています1)。また、ストレッチや体操など短時間で軽い運動や、徒手的で低侵襲のマッサージであっても、避難者の「気分」が改善され、即時的に心理状態を改善する効果があることが示されています2)。このように、避難所での運動を促すことは、身体機能の維持だけでなく、精神的にも良い影響があると考えられます。体操はいつ行うのが理想的か?―朝の運動に潜むリスクでは、体操はいつ行うのがよいのでしょうか。とくに朝の運動には注意が必要です。朝は覚醒に伴い交感神経が活性化し、「モーニングサージ」と呼ばれる朝の血圧上昇が起こりやすい時間帯です。実際に、心筋梗塞の発症は午前に発症のピークがあることが知られています。とくに高血圧や動脈硬化のある人は影響を受けやすいので、起床後いきなり激しい運動をすることは避けるように提唱されています3)。また、室温が20℃から10℃に下がるだけで、朝の収縮期血圧が5~9mmHg上昇するというデータがあり、寒さはモーニングサージを増幅します。寒い朝に体操を行う場合は、屋内で上着を着て、ゆっくり開始するのが安全です4)。私が南三陸でご指摘を受けたのは、こうしたことを深く考えていないと思われたからでしょう。「ラジオ体操」は避難所に適しているのか?誰もが知るラジオ体操ですが、避難所で行うにはいくつかの点を考慮する必要があります。ラジオ体操の歴史は古く、1928年に最初のラジオ放送があったといわれています。現在の形になったのは1951年の戦後になってからですが、その当時、音楽に合わせて同じ動きをする民衆にGHQが警戒し、一時的にラジオ体操を禁止したこともあるようです。フレイルがある高齢者に、毎日3セットのラジオ体操をしてもらうことで、俊敏な動きとバランス、持久力が有意に改善したと報告されています5)。しかし、ラジオ体操が考案された当時の平均寿命は60代でした。そもそもラジオ体操は60歳以上の人が毎日行う前提では作られておらず、確かに、ジャンプも含まれるラジオ体操は、高齢者にとってはかなりハードなものと言えます。こうした背景からか、全国の自治体で、理学療法士会など専門家により、高齢者や災害時のために非常に多くのストレッチや体操が考案されており、動画が公開されていますが、ラジオ体操を積極的に推奨されている例はあまり見かけません。たとえば、能登半島地震で活用された、稲葉先生お勧めの「かえるの合唱」に合わせた体操の動画6)や、東京都が推奨している体操7)(図)なども参考になります。画像を拡大する図. 避難生活で行う体操(参考文献7より)以下は、避難所での運動のミニプロトコル案です。避難所でのミニプロトコル案1.1日2回(午前/夕方)、3~5分の体操。椅子座位版も併用2.参加は任意、ハイリスク(急性疾患/胸痛/強い息切れ/著しい高血圧)は見学3.下肢ポンプ運動(踵上げ・足首回し)を前後に追加:VTE対策4.換気と距離確保、床の段差/滑りに注意いずれにしても、避難所や仮設住宅で生活している被災者は、避難生活中の心身機能の維持と回復のための運動が望ましく、無理のない範囲で体操を行うことが勧められます。 1) Ishii T, et al. Physical performance deterioration of temporary housing residents after the Great East Japan Earthquake. Prev Med Rep. 2015; 2:916-919. 2) 熊本 圭吾. 避難所の高齢被災者における軽い運動の心理的効果. 長保医大紀要. 2016;1:15-18. 3) Kario K. Morning surge in blood pressure and cardiovascular risk: evidence and perspectives. Hypertension. 2010;56:765-773. 4) Umishio W, et al. Cross-Sectional Analysis of the Relationship Between Home Blood Pressure and Indoor Temperature in Winter: A Nationwide Smart Wellness Housing Survey in Japan. Hypertension 2019 ;74:756-766. 5) Osuka Y, et al. Effects of Radio-Taiso on Health-related Quality of Life in Older Adults With Frailty: a Randomized Controlled Trial. J Epidemiol. 2024;34:467-476. 6) 体操プロジェクト. かんたんリズム体操(かえるの合唱編)【動画】 7) 東京都総務局総合防災部防災管理課. 東京防災. 2023;232-233.

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起立時のめまいや動悸に心不全治療薬が有効かも

 立ち上がったときに動悸やめまい、ふらつきを感じたことはないだろうか。これは、体位性頻脈症候群(POTS)と呼ばれる症状で、上記の症状に加え、疲労感や運動障害、胸痛、ブレインフォグ、吐き気などを伴うこともある。新たなパイロット研究の結果によると、イバブラジンと呼ばれる心不全治療薬が、POTS患者の心拍数の増加を抑え、血圧には影響を与えずに他の症状を大幅に改善する可能性のあることが示された。米バージニア大学保健学部のAntonio Abbate氏らによるこの研究結果は、「Journal of Cardiovascular Pharmacology」7月号に掲載された。 Abbate氏は、「これらの結果は、不適切な心拍数の増加こそが不調の原因であり、血圧に影響しない薬により心拍数を減らすことで生活の質(QOL)に違いをもたらすことができることを示唆している」とバージニア大学のニュースリリースの中で述べている。 研究グループによると、POTSの有病率は一般人口の1%以下と極めて低いが、近年、TikTokやその他のソーシャルメディアでPOTSが話題になっているという。POTSの原因は明らかになっていないため、POTSと診断してもらうことの難しさを訴える患者は多い。「患者は、かかりつけ医がPOTSに関する詳しい知識を持ち合わせていなかったり、治療方法が分からなかったりするため、別の専門医の診察を受けに行く。ところが、心臓専門医は心臓の問題ではないと判断する。実際にその通りだ。また、神経科医は脳に問題はないと言うが、それも正しい。POTSは『ハードウェア』の問題というより、『ソフトウェア』の問題なのだ」と話す。 イバブラジンは、心臓にある過分極活性化環状ヌクレオチド依存性(HCN)チャネルを阻害することで心拍数の増加を抑える薬で、心不全の悪化予防のために使用される。POTSの主な特徴は心拍数の増加であることから、研究グループは、イバブラジンがPOTSの症状改善に効果を発揮する可能性があると考えた。 そこで研究グループは、POTS患者10人(平均年齢28歳、女性8人)にイバブラジンを投与した。その結果、起立時の1分当たりの心拍数の増加幅は、イバブラジン投与前は平均40回であったのが、投与後は平均15回に減少したことが示された。また、研究参加者は心拍数以外の症状が改善したことも報告した。なかでも改善度が高かったのは、失神感(69%減)と胸痛(66%減)であった。 Abbate氏らは、「この全体的な症状の改善は、心拍数の増加がPOTSの他の症状を引き起こすことを示唆している」と述べている。同氏は、「POTS患者では、起立時に心拍数を制御するメカニズムが機能不全に陥り、心拍数が過度に増加する。すると、脳がこれを危険信号と感知し、ストレスホルモンであるノルアドレナリンの放出を促す。その結果、不安やパニック発作に似た症状が引き起こされる。イバブラジンで心拍数をコントロールすることによりこのループが抑制され、患者の気分が改善するのではないか」との見方を示している。 ただし研究グループは、これらの研究結果を確認し、POTSの原因をより深く理解するためには、さらなる研究が必要だと述べている。Abbate氏は、「かつては低血圧に起因する代償メカニズムとしか考えられていなかった高い心拍数自体が症状の原因となっている可能性がある。心拍数がどのように調節され、症状にどのように影響するかをより深く理解することが、POTS患者に対するより良い治療法の開発につながる可能性がある」と話している。

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運動ベースの心臓リハビリは心房細動患者にも有効

 医師は、心筋梗塞や心不全を発症した患者にしばしば運動ベースの心臓リハビリテーション(以下、心臓リハビリ)を処方する。新たな研究で、そのような心臓リハビリプログラムは心房細動(AF)と呼ばれる一般的な不整脈を有する患者にも適しており、症状の改善にも役立つ可能性のあることが示された。英リバプール心臓血管科学センターのBenjamin Buckley氏らによるこの研究結果は、「British Journal of Sports Medicine」に7月29日掲載された。 運動ベースの心臓リハビリには、運動トレーニングに加えて、個別化された生活習慣リスクの管理、心理社会的介入、医学的リスク管理、健康行動に関する教育が含まれている。こうしたリハビリは、心筋梗塞を起こした患者や心不全と診断された患者、あるいは冠動脈ステント留置術を受けた患者に用いられるが、AF患者に適しているかどうかは不明なため、国際的なAF治療ガイドラインには含まれていない。 AFは、心房が機能不全を起こしてけいれんするように震えることで心拍リズムが乱れる疾患であり、動悸、胸痛、疲労、めまい、息切れなどの症状を引き起こす。AFがあると、脳卒中の原因となる血栓も形成されやすくなる。現行のAFに対する治療法は、薬物療法とアブレーションと呼ばれる電気治療である。AFは心筋梗塞や心不全と同時に起こることが多いが、運動ベースの心臓リハビリがAFを引き起こすのか否かは不明である。 Buckley氏らは今回、CENTRALやMEDLINEなどの論文データベースと臨床試験登録情報を用いて、AF患者に対する運動ベースの心臓リハビリの効果を、運動をしない場合と比較したランダム化比較試験を20件(対象者の総計2,039人)抽出し、メタアナリシスを実施した。平均追跡期間は11カ月であった。心臓リハビリプログラムのほとんどは中強度の運動(通常は有酸素運動)を取り入れており、実施期間は8週間から24週間で、1セッション当たりの時間は15〜90分だった。  解析の結果、全死因死亡は、運動ベースの心臓リハビリを受けた群で8.3%、リハビリを受けなかった群で6.0%(相対リスク1.06、95%信頼区間〔CI〕0.76〜1.48)、有害事象の発生率はそれぞれ2.9%と4.1%(同1.30、0.66〜2.56)であり、いずれも両群間に有意な差は認められなかった。一方、AFの症状の重症度(平均差−1.61、95%CI −3.06〜−0.16)、AFの負担(同−1.61、−2.76〜−0.45)、発生頻度(同−0.57、−1.07〜−0.07)、持続時間(同−0.58、−1.14〜−0.03)、再発(相対リスク0.68、95%CI 0.53〜0.89)、運動能力(最大酸素摂取量;平均差3.18、95%CI 1.05〜5.31mL/kg/分)については、運動ベースの心臓リハビリを受けた群で有意な改善が認められた。さらに、健康関連の生活の質(QOL)の精神的側面も向上した。  こうした結果を受けて研究グループは、「AFの治療ガイドラインには、薬物療法やアブレーション療法との併用で運動ベースの心臓リハビリを推奨する内容を盛り込み、この最新のエビデンスを反映させるべきだ」と述べている。 付随論評の著者である英ロンドン心臓血管細胞科学研究所のSarandeep Marwaha氏とSanjay Sharma氏は、「本研究結果は、運動ベースの心臓リハビリがAF患者に大きな利益をもたらすことを裏付ける説得力あるエビデンスである。特に基礎疾患のあるAF患者は、運動がAFを誘発するのではないかと不安を抱くことがあり、医師も、運動とAF発生との関連が不確実であることから運動の指導や処方を軽視しがちだ。しかし、AF患者における中等度の運動を評価するほとんどの研究は、有害事象のリスクが非常に低く、安全性を実証している」と述べている。

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固定用量の潰瘍性大腸炎治療薬「ベルスピティ錠2mg」【最新!DI情報】第44回

固定用量の潰瘍性大腸炎治療薬「ベルスピティ錠2mg」今回は、スフィンゴシン 1-リン酸受容体(S1P1,4,5)調節薬「エトラシモドL-アルギニン(商品名:ベルスピティ錠2mg、製造販売元:ファイザー)」を紹介します。本剤は、1日1回の固定用量での経口投与が可能な中等症~重症の潰瘍性大腸炎の治療薬であり、患者QOLの向上が期待されています。<効能・効果>中等症から重症の潰瘍性大腸炎の治療(既存治療で効果不十分な場合に限る)の適応で、2025年6月24日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>通常、成人にはエトラシモドとして2mgを1日1回経口投与します。<安全性>重大な副作用として、黄斑浮腫(0.1%)、感染症(0.9%)、進行性多巣性白質脳症(頻度不明)、リンパ球数減少(5.8%、28.0%)注)、リンパ球減少症(7.8%、10.8%)注)、肝機能障害(0.7%)、徐脈性不整脈(徐脈:1.5%、房室ブロック:0.6%)、可逆性後白質脳症症候群(頻度不明)があります。その他の副作用として、浮動性めまい、頭痛、γ-グルタミルトランスフェラーゼ増加(いずれも1%以上)、高コレステロール血症、傾眠、悪心、潰瘍性大腸炎、腹部膨満、嘔吐、ALT増加、肝酵素上昇、AST増加(いずれも0.3~1%)、尿路感染、好中球減少症、高カリウム血症、食欲減退、頭部不快感、片頭痛、視力障害、耳鳴、高血圧、口内炎、寝汗、発熱、疲労、非心臓性胸痛、無力症、血中アルカリホスファターゼ増加、体重減少(いずれも0.3%未満)があります。注)発現頻度は以下の順:本剤2mgを投与された日本人を含む1,037例(6試験、最長投与期間163.0週、投与期間の中央値49.57週)、本剤2mgを投与された日本人93例(4試験、最長投与期間203.0週、投与期間の中央値78.14週)<患者さんへの指導例>1.この薬は、中等症~重症の潰瘍性大腸炎に用いられる薬です。炎症部位に到達するリンパ球数が減少することで、潰瘍性大腸炎の症状を改善すると考えられています。2.これまで、他の薬物療法で適切な治療を行っても潰瘍性大腸炎の症状が残っている場合に使用されます。3.失神、浮動性めまい、息切れなどの症状が現れた場合は、ただちに医師に相談してください。とくにこの薬の使用を開始してから早い時期に注意が必要です。4.視覚異常(視野の中に見えない部分がある、物がゆがんで見える、視野の中心が暗くなる、色が見分けにくい)が現れた場合は、ただちに医師に相談してください。5.この薬の投与開始12週後までに効果が得られない場合は、他の治療に切り替えることがあります。6.妊婦または妊娠している可能性のある女性は服用できません。<ここがポイント!>潰瘍性大腸炎(UC)は、再燃と寛解を繰り返す慢性炎症性腸疾患です。病因は完全には解明されていませんが、腸管局所における異常な免疫応答、それに続くリンパ節から消化管内の炎症部位へのリンパ球の遊走が病態形成に深く関与していると考えられています。薬物治療には、5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤やステロイドが用いられます。ステロイドに抵抗性を示す場合は、タクロリムス、生物学的製剤、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬、スフィンゴシン1-リン酸(S1P)受容体調節薬などが寛解導入のために用いられます。エトラシモドL-アルギニンは、S1P受容体のサブタイプ1、4、5(S1P1,4,5)に選択的に作用し、炎症部位へのリンパ球の遊走を減少させることで、腸の炎症を抑制します。S1P受容体調節薬としては、オザニモドが2024年12月に承認されましたが、中等度以上の肝障害に対する使用制限や初回投与時から用量を漸増する必要があるなどの注意点があります。これに対して、エトラシモドは肝機能による使用制限がなく、1日1回の固定用量で経口投与できるため、肝機能に異常がある患者や初期の用量調節が困難な患者にとって、より使用しやすい選択肢となる可能性があります。中等症~重症の活動期にあるUC患者に対する寛解導入試験のAPD334-302/ELEVATE UC12試験(国際共同第III相試験)において、12週時(導入期)の臨床的寛解率は、プラセボ群の15.2%に対し、本剤2mg/日群は24.8%であり、本剤2mg/日群のプラセボ群に対する優越性が検証されました(p=0.026、Mantel-Haenszel法による層別因子)。

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わが国初の肥大型心筋症治療薬「カムザイオスカプセル1mg/2.5mg/5mg」【最新!DI情報】第42回

わが国初の肥大型心筋症治療薬「カムザイオスカプセル1mg/2.5mg/5mg」今回は、選択的心筋ミオシン阻害薬「マバカムテン(商品名:カムザイオスカプセル1mg/2.5mg/5mg、製造販売元:ブリストル・マイヤーズ スクイブ)」を紹介します。本剤は、肥大型心筋症における左室での心筋の過収縮を抑制し、閉塞性肥大型心筋症患者における拡張機能障害や左室流出路狭窄を改善することが期待されています。<効能・効果>閉塞性肥大型心筋症の適応で、2025年3月27日に製造販売承認を取得し、5月21日より発売されています。<用法・用量>通常、成人にはマバカムテンとして2.5mgを1日1回経口投与から開始し、患者の状態に応じて適宜増減します。ただし、最大投与量は1回15mgとします。<安全性>重大な副作用として、収縮機能障害により心不全を起こすことがあります(頻度不明)。ヒト脳性ナトリウム利尿ペプチド前駆体N端フラグメント(NT-proBNP)の上昇がみられた場合や、呼吸困難、胸痛、疲労、動悸、下肢浮腫などが発現または増悪した場合は、速やかに心機能の評価を行います。その他の副作用として、浮動性めまい、頭痛、疲労、末梢性浮腫、心房細動、動悸、労作性呼吸困難、呼吸困難、筋力低下、駆出率減少(いずれも1~3%未満)があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、閉塞性肥大型心筋症の治療薬です。心臓の過剰な収縮を抑え、血液の送り出しにくさを緩和します。2.1日1回、水やぬるま湯で服用してください。3.この薬には併用してはいけない薬や併用を注意すべき薬や食品もありますので、他の薬を使用している場合や、新たに使用する場合は、必ず医師または薬剤師に相談してください。4.妊娠する可能性がある人は、この薬の投与中および最終投与後4ヵ月間は適切に避妊してください。<ここがポイント!>肥大型心筋症(HCM)は、高血圧や弁膜症などの基礎疾患がないにもかかわらず、心室の肥大を引き起こす原発性の心疾患です。HCMは、左室拡張機能が低下しており、閉塞性HCMでは左室流出路(LVOT)が閉塞しています。主な原因は、心筋収縮関連タンパクの遺伝子異常とされていますが、未解明の点も少なくありません。初期には無症状または軽微な症状を示すことが多いですが、不整脈に伴う動悸やめまい、運動時の呼吸困難などが現れることがあります。心筋の収縮は、ミオシンヘッドがアクチンと結合し、クロスブリッジ(架橋)を形成することで起こり、アデノシン三リン酸(ATP)を消費します。HCMは、過剰な数のミオシンがクロスブリッジを形成する(動員される)ことにより心筋の過収縮が生じると考えられています。本剤は、心筋ミオシンに対する選択的かつ可逆的なアロステリック阻害薬です。ミオシンとアクチンのクロスブリッジ形成を抑制することで、HCMにおける左室での心筋の過収縮を抑制し、閉塞性肥大型心筋症患者における拡張機能障害やLVOT狭窄を改善します。なお、本剤は2023年6月にHCMに対する希少疾病用医薬品に指定されています。閉塞性肥大型心筋症患者を対象とした海外第III相試験(MYK-461-005)において、投与30週後の臨床的奏効(「最高酸素摂取量[pVO2]の1.5mL/kg/min以上の増加、かつNYHA心機能分類のI度以上の改善」または「pVO2の3.0mL/kg/min以上の増加、かつNYHA心機能分類の悪化なし」のいずれかを満たす)割合は、マバカムテン群で36.6%、プラセボ群で17.2%でした。プラセボとの差は19.4%(95%信頼区間:8.67~30.13)であり、群間に有意な差が認められたことから、マバカムテン群のプラセボ群に対する優越性が検証されました。同じく閉塞性肥大型心筋症患者を対象とした国内第III相試験(CV027004)において、ベースラインから30週後までの運動負荷後LVOT圧較差の変化量の平均値は-60.7(平均差:31.56)mmHgであり、運動負荷後LVOT圧較差はベースラインに比べて改善しました。

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