サイト内検索

検索結果 合計:224件 表示位置:1 - 20

1.

キャリア中断後に見つけた 総合診療能力で専門性を強化する新しい診療スタイル【ReGeneral インタビュー】第4回

キャリア中断後に見つけた 総合診療能力で専門性を強化する新しい診療スタイル「医師という仕事が好きです。総合診療の入り口を担いながら、専門的なことももっと学んで、糖尿病や内分泌疾患を中心にコモンディジーズや救急初期対応ができるようになりたい」そう語るのは、総合医育成プログラム修了生の帆秋 理笑子氏。糖尿病内科専攻後、家庭の事情で約7年間のブランクを経て、再び糖尿病を中心にした診療スタイルに戻るまでの道のりで出会ったのが、総合診療でした。専門性を高めることと総合診療がどのように関連するのかを聞きました。プライマリ・ケア認定医取得を機に、専門キャリアを再設計――現在どのような診療をされているか教えてください。流動的ですが、糖尿病内科7割、一般内科3割くらいで診療をしています。約1年前に今の勤務先に赴任した当時は、糖尿病診療よりも誤嚥性肺炎などを診ることが多かったのですが、だんだんと引継ぎと新患どちらも増えて、現在は糖尿病を中心に内科診療を行っています。前職は大分県内の同じような中核病院で働いていましたが、糖尿病専門医を取得したいという思いがあり、研修施設である今の職場に移りました。2023年にプライマリ・ケア認定医を取得したことが、このキャリアチェンジを実行する自信にも武器にもなりました。――2023年に認定医取得とのことですが、プログラムはいつ・どのような経緯で受講されたのですか。受講は2021年からです。きっかけは2016年に常勤で診療を再開したことです。卒後数年してから、糖尿病内科を専攻していましたが、9年目くらいから臨床から離れた期間が7年ほどあり、最初は老健施設から仕事を再開して徐々に体力面と治療のアップデートを行いました。前職の病院で糖尿病を診ながら一般内科診療も始め、地域医療でさまざまな役割を担ううちに、「ジェネラルに診られるようになりたい、総合診療のトレーニングを受けたい」と強く思うようになりました。そこで、2019年に勇気を出して大分大学総合診療科に研修希望で見学に伺い、このプログラムを教えていただきました。私の話に耳を傾けてくれた先生方に今でもとても感謝しています。当時は東京に行って受講する形式で費用も高くて諦めていましたが、2021年にオンライン化されて「ああ、これなら家でもできる。チャンスだ!」と思って参加を決めました。2023年に認定医を取得した後も受講を続けています。大人の学び直し 安心して飛び込める環境――印象的な講義はありましたか。診療実践コースでは、整形外科、循環器内科が印象的でした。整形外科では、脊髄からの神経支配域を身振り手振りや語呂合わせで教えてくれたのをよく覚えています。また骨折の写真や整形外科的診察の動画をたくさん使って説明してくださったのが面白くて理解しやすかったです。循環器では、日常診療で使える心電図の読み方や高血圧の診療、胸痛への対応などをざっくばらんに教えていただきました。循環器は興味があっても苦手に感じていた分野なので、動画を何度も見返して勉強した分、印象が強いですね。ノンテクニカルスキルコースでは、ミーティング・ファシリテーションの講義が記憶に残っています。ここで会議やグループ活動の舵取りの手法を学びました。板書の効果や、会議に応じた机や椅子の並べ方、アイデアを広げてからまとめる方法など、これまで無意識に行っていたことも、意識を向けると意味があると知りました。――受講中に苦労した点はありますか。糖尿病や、それに関連する腎臓や認知症の講義は安心して受けられましたが、あまり馴染みのない科、たとえばマイナーエマージェンシーや救急、耳鼻科の講義を受けるときは、自信がなく不安が大きかったです。実際に受講してみると、講師の先生方はとても優しく熱心でしたし、講義のやり方も工夫されていて新鮮でした。また、事務局が手厚くサポートして心理的安全性をしっかり担保してくれたのが大きな支えになりました。オンラインですので、受講中に画面がフリーズしてしまうことも何度かありましたが、講義によっては復習用動画を作って何度も視聴できるような環境を整えられていて、聴き取れなかった部分は後から補うことができました。――心理的安全が保たれた。それはどんなサポートだったのですか。たとえば、質問のときです。質問するのは意外と難しいんです。自分がよく知っている疾患なら「いい質問だね」と言ってもらいやすいですが、詳しくない分野だと的外れになりがちです。講師からしたらわけがわからない質問かも…と不安になることもありました。実際、一度スルーされたのかな?と思った瞬間もあります。ですが、運営の先生方が参加者全員の質問をリストアップして、どんな質問も漏れなくすべて扱ってもらえる仕組みになっていました。それから、最初の受講時に「ほかの人の発言を否定しないでください」というアナウンスもありました。この声掛けがあったので、自分の意見を批判されることはあっても、否定されない。これが安心感につながって、得意ではない診療科の授業にも思い切って飛び込むことができましたし、質問やグループ内での発言を行うことができました。――ご自身の診療にこのプログラムはどう役立っていますか。最近の出来事だと、糖尿病性の足壊疽を診るとき、皮膚科の褥瘡の講義で学んだ内容がとても役立っています。壊疽も褥瘡も血流障害が関係していることが多く、評価や薬の選択がリンクしていて、受けてよかったなと思う瞬間でした。それから、腎臓内科の講義を受けたことで、糖尿病診療の中で腎臓を診るときに、薬をいつまで継続すべきかといった、細かい判断がしやすくなりました。糖尿病の合併症で腎機能が悪化して透析になる方も多いですから、お互いの専門領域に関わる聞きづらい質問ができたのは、このプログラムならではかもしれません。専門医がその疾患をよく理解していることは確かですが、付随するさまざまな問題や合併症の管理に他科の医師の協力は必要不可欠です。その時に、こうして他科の医師の考え方を知ったおかげで、コミュニケーションを取りやすくなりました。糖尿病という疾患を診るときの視野が広がりましたし、自分の専門性を高める上でも、何をもっと勉強しなければならないのかが少しずつ見えてきた気がします。ほかにも一般内科の診療を行う上でリハビリテーションの必要性は年々高まっていると感じていたため、リハビリの講義で、リスク管理や障害の診断とADLの評価法などを学び、疾患と生活を結びつける上でとても役立っています。――他科の先生から刺激を受けたという点で、印象に残っていることはありますか。行動変容1)という診療実践コースの授業のグループワークが印象に残っています。行動変容というと、問診で情報を引き出して患者さんが生活習慣を修正できるように導くといった、糖尿病内科で日頃からやっていることがテーマになります。正直、自分は得意だと思っていました。でも、同じグループのある先生の問診に目を見張りました。外科出身で、今は開業して一般内科を診ているこの先生は、私よりずっと上手だったんです。本当に驚きました。糖尿病内科では診察に追われて、ついイエス・ノーで答えられるクローズドクエスチョンで聞いてしまうことが多いのですが、その先生はオープンクエスチョンをとても上手に使って、患者役の方から自然に話を引き出していました。その姿を見て、私ももっと頑張ろうとやる気になりましたし、負けられないという刺激にもなりました。他科の先生が自分より上手だと落ち込むこともできますけど、前向きに捉える方がいいですよね。いろんな先生のやり方を、自分が奮起する材料にできるといいなと思っています。総合診療能力を活かして専門性も磨く、新しい働き方――専門性を磨きたいと思う人にとっても、総合診療能力は必要でしょうか。わたしはそう思います。総合診療の必要性を感じて大分大学総合診療科を見学したとき、自分の進みたい方向をもう一度深く考えました。そこでクリアになったのは、私は専門の糖尿病と隣接する内分泌の診療の幅を広げながら、同時に一般内科の初期対応やマネジメントといった“総合診療の入り口”をマスターしたいという希望でした。さまざまな専門性・働き方の先生方を尊重し、そこから真摯に学び、力を借りながら、自分が決めた進路を進みたいと思ったんです。一方で専門だけでは対応しきれない現実も理解しています。患者さんの多くは高齢で、認知症や肺炎や骨折など複数の疾患があり、生活や家族の問題も絡んでいます。都会なら各診療科に回せるかもしれませんが、地方や個人病院では難しい。だから、専門的な治療だけでなく、専門と専門の間をつなぐマネジメントや初期対応は、どの科の専門医にも必要なのではないかと思います。総合診療的なアプローチを学ぶことは、専門診療の視野が広がる、地域のニーズに応えられることでキャリアの選択肢が増えるという2つの点で、専門性を高めたいと思う人にも価値があると思います。大人になってからの学習ですから、習ったことすべてをすぐに活用・実践できるというような大きな期待は持たずに、経験を積みながら少しずつできることを増やしていくくらいの気楽な気持ちで始めてもよいのではないでしょうか。――今後の展望は?総合診療の基本的なことを今以上にできるようになりながら、糖尿病と内分泌の専門的な診療を深めていくのが個人的な夢です。 人間は忘れる生き物だと痛感しているので、この先も反復学習と実臨床での実践を続けて、総合医育成プログラムの内容をしっかりできるようになりたい。そして専門以外でも得意な分野が生まれてくるといいなと思っています。私自身はプログラムを受けていてもできていないことが多々あります。でも全部を自分で賄えなくても、このプログラムで学んだエッセンスを活かしながら他の人の力を借りて、少しでもよい方向に診療を進めていき、自分の夢が実現するように頑張っていきたいと思っています。――同じように専門性を大切にしながら、総合診療にも興味を持たれた方にメッセージを。私は約7年のブランクを経て、再び臨床に戻る決断をしてからの一歩一歩が、このプログラムとの出会いにつながりました。時間はかかりましたが、希望していた糖尿病診療を増やすことができ、プログラムでの学びは一般内科や救急だけでなく、自分の専門にも新しい発見をもたらしています。努力しても診療がうまくいかず落ち込む日もあれば、うれしくて喜びを感じる瞬間もあります。一喜一憂の毎日ですが、やりがいがあり、この仕事が好きです。プログラムに参加して、恥をかくのは確かに嫌です。ただ自分のやりたいことに挑戦しないと失敗もないけれど進歩もありません。挑戦して、そこから学べることはありますし、次につなげていくこともできます。そして何より、医師になってある程度経験を積んでから、もう一度、大人の学び直しをできることがすごく楽しいです。このプログラムは、授業料を払い土日を費やしてでも学びたいと思っている、年齢も専攻科も異なるさまざまな背景を背負った全国のやる気に満ちた医師仲間と知りあうことができ、切磋琢磨しながら学べる貴重な場です。事務局のサポートも手厚く、先生方も熱心です。また私のように診療の第一線から離れた医師が復職する上でも大きな助けになってくれると思います。取り組み方次第で道は開けます。もし迷っているなら、ぜひ思い切ってチャレンジしてみてください。 引用 1) 行動変容:喫煙・食事・運動に関する患者の行動変容を支援する面接技法を学び、準備段階の評価や効果的な対話を通じて生活習慣改善を促す力を養うことを目的としたセッション

2.

ショック状態に対する治療をしない場合は責任を負う?【医療訴訟の争点】第17回

症例近年、高齢患者の急変時対応では、基礎疾患・予後を踏まえた治療方針の選択が重要となる。本稿では、ショック状態に陥った患者に対し救命処置を行わなかった医師の判断の適否が争われた、東京地裁令和7年2月27日判決を紹介する。<登場人物>患者76歳・男性(既往歴:間質性肺炎、双極性障害、糖尿病)原告患者の配偶者および子被告医療法人(内科・精神科を標榜する病院)事案の概要は以下の通りである。事案の概要を見る平成28年7月咳が続く・胸痛があると訴えて被告病院を受診。被告病院の紹介により国立病院を受診し、間質性肺炎と診断平成30年5月内服薬の処方中止後も咳が再燃しなくなったため、通院終了平成31年1月25日ここ数日食事が取れない、具合が悪いなどと訴えて、被告病院再受診。精査目的で入院。入院時のバイタル値は、体温36.8℃、脈拍93回/分、血圧149/90mmHg、SpO2 98%、呼吸は平静。腹部CT検査上は異常所見を認めなかった。細菌性の感染症疾患を疑い、抗菌薬の点滴投与と補液を開始。1月26日午前9時28分頃胸部CT検査。前日からこの日までの間に、両肺下葉に新たな浸潤影が出現。午前10時頃右肺の雑音や著明な痰がらみが見られ、白黄色痰が大量に吸引。午後3時頃肺雑音が両肺に生じ、再び白黄色痰が大量に吸引。37.6℃の発熱、呼吸がやや努力様、SpO2 76~80%に低下。酸素投与(2L/分)開始。午後4時40分頃酸素投与量が増量(7L/分)。両肺の雑音や発熱は続くも、痰がらみが消失して呼吸も平静、SpO2 96%。午後8時頃ジクロフェナクナトリウム(商品名:ボルタレン、解熱剤)の投与などもされ、体温は36.8℃に低下、肺の雑音も消失。1月28日午前2時熱(38℃)午前5時白黄色痰が大量に吸引担当医は、抗菌薬投与にかかわらず呼吸状態の悪化が続いていることから、細菌性の感染症ではなく、間質性肺炎の急性増悪であると判断し(ただし、細菌性の感染症を鑑別するための血液検査や細菌培養検査は行っていない)、抗菌薬の点滴投与を中止して、ステロイドミニパルス療法(ソル・メルコート500mg/日に生理食塩水100mL/日を付加したものを点滴投与)を開始。以後、発熱が断続的に見られたものの、肺の雑音は認められなくなり、呼吸は平静のままで経過。1月30日午前11時20分酸素投与量が7L/分から6L/分に減量。午後1時頃呼吸が促拍するようになる。午後3時SpO2 98%であるも、発熱(37.4℃)や少量の白色痰が見られる。血圧148/87午後5時30分SpO2 90%に低下、発熱(38.5℃)と肺雑音が見られ、黄色痰が大量に吸引される。血圧114/81。解熱のためジクロフェナクナトリウム投与。午後8時頃両肺の雑音や多量の黄色痰が見られ、SpO2 94%に低下し、努力様呼吸になって呼吸状態が急激に悪化。収縮期血圧が74/64に低下し、心拍数は120~130回/分に上昇。膝から下にチアノーゼが出現し、四肢が脱力した状態。担当医は、容体急変は間質性肺炎の急性増悪による(血圧低下についてはジクロフェナクナトリウムの影響もある)もので、ステロイドミニパルス療法が奏功しない限り救命困難と判断。ステロイドミニパルス療法と酸素投与(6L/分)のほかに治療は行わず、容体急変の原因を探るためのCT検査や血液検査などの検査も行わなかった。午後10時頃SpO2が上昇(午後9時時点で99%、午後10時時点で96%)、収縮期血圧も90台まで上昇(午後9時時点で90/23mmHg、午後10時時点で92/78)も、四肢の脱力、努力様呼吸や黄色痰が大量に吸引される状態が継続。1月31日午前0時下顎様呼吸、瞳孔拡大、血圧およびSpO2が測定不能。午前2時15分死亡2月2日午後3時他院において病理解剖。要旨は以下のとおり。(1)死因に関与した臓器を挙げるならば、肺または心臓と考えられる。(2)肺については、胸膜直下~隔壁の高度な線維化、線維化巣内の蜂巣構造、線維芽細胞巣(fibroblastic foci)を認め、隣接する領域の肺胞構造は保たれており、UIP(通常型間質性肺炎)パターンと考えられた。肺は、UIPパターンの間質性肺炎であるが、病理解剖時に採取した血液を用いた間質性肺炎マーカー検査の結果(KL-6値274U/mL〔基準値:500U/mL未満〕、SP-A値18.9ng/mL〔基準値:43.8ng/mL未満〕、SP-D値82.8ng/mL〔基準値:110ng/mL未満〕)からも活動性の低いものではなかったかと疑われ、これのみで死に至るものか疑問が残る。(3)心臓は、不安定プラークを疑う冠動脈病変を伴っており、心筋にも全周性の虚血性変化が見られたが、この変性像は区域性には見えず、アーチファクトの可能性もある。あえて推測すれば、剖検時に冠動脈に明らかな血栓形成はないが、肺うっ血水腫の存在と併せて、新鮮な心筋梗塞による心原性ショックは否定できない。(4)臓器別に病理組織学的検索を行った範囲では、直接死因を確定することは困難であり、臨床情報と併せて判断する必要がある。実際の裁判結果本件において、1月30日午後8時頃の急変・ショック状態(収縮期血圧は74mmHg、心拍数120〜130回/分、尿量減少、四肢チアノーゼ、努力様呼吸など)につき、担当医は、間質性肺炎急性増悪が原因であり救命は困難、輸液は肺水腫の悪化を招くとして、酸素投与以外の処置を行わず、ステロイドミニパルス療法のみにより経過を見る方針とした。これに対し、原告(患者の相続人ら)は、輸液負荷、昇圧薬、気管挿管、原因鑑別のための血液検査・画像検査などの救命処置をすべきであったと主張した。裁判所は、以下の点を指摘し、「1月30日午後8時の時点での本件患者の状態は、輸液剤や血管収縮薬の投与といった救命処置を行い、ショックの原因を把握した上で、それに対する治療を行うべきものであった」とした。ショックでは、血圧低下、心拍の異常(頻脈など)、呼吸の異常(頻呼吸)、皮膚の異常(末梢血管の収縮など)といった症状が見られ、一般的に、収縮期血圧90mmHg以下がショックの基準となる。午後8時時点において、本件患者は、血圧74/64と著しい低下、心拍数の120~130回/分への上昇、努力様呼吸、膝から下のチアノーゼの出現は、いずれもショックの症状というべきであり、とくに収縮期血圧については、ショックの基準値を大きく下回るので、本件患者はショックに陥って容体が急変したといえる。ショックは、迅速な原因の同定と治療介入がされなければ臓器不全を来し、死に至る症候群であるため、一般に、まずは、生命の危機的状況を避けるための救命処置を行う必要がある。本件患者に見られた1月30日の収縮期血圧の低下は、持続的に生じている上、膝から下にチアノーゼが生じ、末梢の循環不全を来すものであった。末梢の循環不全を来したショックについて、救命処置を行わずに血圧低下が持続すると、不可逆的な転帰を招く可能性があった。本件において被告病院は、「呼吸状態の悪化や血圧低下といった当時の本件患者の状態は、間質性肺炎の急性増悪や数時間前に投与したジクロフェナクナトリウムの影響によるものであって、救命不可能な状態に陥っており、輸液剤の投与などは肺水腫を招くなどかえって死期を早めるため、それらの投与を行うべきではなかった」と主張していた。これに対し、裁判所は、以下の点を指摘し、「被告病院の担当医には、1月30日午後8時頃、本件患者に対し、輸液剤や血管収縮薬の投与といった救命処置を行い、ショックの原因を把握した上で、それに対する処置・治療を行うべき注意義務があった」として、これらの処置を行わなかった注意義務違反(過失)があると判断した。血圧低下については、その数時間前に投与されたジクロフェナクナトリウムの影響はあったと認められるものの、呼吸状態の悪化など当時の本件患者の症状に照らし、ジクロフェナクナトリウムの影響だけで血圧低下の説明が付けられるかは疑問が残ること。血圧低下がジクロフェナクナトリウムによるものであったとしても、ショックに対する初期対応が不要となるものでもないこと。間質性肺炎の主症状の一つは乾性咳嗽(痰を伴わない乾いた咳)であり、典型的な間質性肺炎の急性増悪は痰を伴わない一方、黄色痰は感染症の可能性を示す所見であること。本件患者は、呼吸がやや努力様になった1月26日には白黄色痰が大量に吸引されており、1月30日午後5時30分や呼吸状態が急激に悪化した同日午後8時にも大量の黄色痰が見られているため、間質性肺炎の急性増悪とは必ずしも整合せず、細菌性肺炎などの感染症に罹患していたことを疑わせる所見があったこと。担当医は、本件患者に対して細菌培養検査などの感染症を除外鑑別するための検査を行っておらず、感染症の除外鑑別も積極的に行われていなかったため、当時の客観的な状態としては、感染症の罹患もなお疑うべきものであったこと。次に、裁判所は、本件患者の死後に行われた病理解剖の結果も踏まえてショックおよびショックに続く死亡の原因を検討し、以下のように、間質性肺炎急性増悪の可能性が相対的に高いものの、死亡原因は特定できないとした。「本件患者のショック(容体急変)ないしそれに続く死亡の原因は、間質性肺炎の急性増悪であった(少なくとも一定の寄与があった)可能性が相対的に高いものの、これと断ずることはできず、細菌性肺炎などの感染症による敗血症性ショックや心筋梗塞などによる心原性ショックが原因であった可能性も否定できず、その特定は困難であるといわざるを得ない」その上で、裁判所は考えられるそれぞれの原因につき、以下の点を指摘した上で「1月30日午後8時の段階で本件患者に対して救命処置が行われていたとしても、本件患者の上記死亡を回避できたとの高度の蓋然性があるということはできない」として、注意義務違反(過失)と本件患者の死亡との因果関係を否定し、被告の損害賠償責任を否定した。心筋梗塞などによる心原性ショックが原因である場合には、救命処置によって本件患者に生じた死亡を回避できた蓋然性があるが、そもそも、心原性ショックであった可能性も否定できない程度のものにとどまる。このため、この点をことさら強調するのは相当ではない。ショックなどの原因が敗血症性ショックであった場合でも、救命処置によって一定の効果があり、いったんは生命の危機的状況を脱し得た可能性はある。しかし、本件患者に生じた死亡を現実に回避するためには、感染症に対する治療として、血液培養検査などを行って同定した起炎菌に合う抗菌薬を投与する必要があり、これら一連の対応を執るのには相応の時間を要する。このため、本件患者にショックが生じてから死亡する約6時間のうちに、これら一連の対応を執って何らかの治療・救命効果が発揮されたということはできない。原因としての可能性が相対的に高い間質性肺炎の急性増悪については、「いったんは酸素化が安定しても、最終的には努力性呼吸から低酸素血症となり、死に至る」経過をたどることとなる。しかし、本件患者は、この努力様呼吸や下顎様呼吸が認められたのであるから、救命処置によってこれらの努力様呼吸などに至るのを回避できた現実的な可能性はなかった。注意ポイント解説本件は、ショック状態の患者に対する救命処置の要否が争点となった事案である。裁判所は、医師に輸液・昇圧薬などの救命処置を行う義務を認めつつ、その不履行と死亡との因果関係は否定し、結論として医療機関の損害賠償責任を否定した。すなわち、注意義務違反が成立しても、結果(死亡)との法的因果関係が認められない場合に責任が否定される典型例といえる。この点、注意義務違反がある場合に、義務違反と生じた結果との間の法的な因果関係があれば、損害賠償責任が肯定されることとなる。この法的因果関係については、「経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明すること」がなされた場合に認められる。本件は、考えられるショックおよびその後の死亡の原因のそれぞれについて、救命処置をとったことで死亡を回避できた「高度の蓋然性」が認められなかったために、法的因果関係がないものとされた。もっとも、「高度の蓋然性」が認められない場合であっても、「死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性」が認められる場合には、その可能性を侵害した損害が認められることとなる。そして、この「相当程度の可能性」については、比較的緩やかに肯定される傾向が否めない。このため、注意義務違反(過失)があるとされる場合において、「相当程度の可能性」すらも否定されて損害賠償責任が否定されるケースは少ない傾向にある。本件では、死亡の原因を特定しえないため、救命処置により「死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性」を証明のしようもないことから、相当程度の可能性も否定され、損害賠償責任が否定されたものである。なお、本件では、担当医が看取りを視野に入れた方針転換をしつつも、これを家族に説明していなかったという事情があり、裁判所は「遺族が強い不満を抱くことは理解できる」としている。このため、本件は医師が「治療方針転換をする際の説明の在り方」と「急変時の最小限の救命処置の必要性」を再確認させるものでもある。医療者の視点本判決において、裁判所は「ショック状態に対する輸液や昇圧薬の投与、原因精査を行うべき注意義務があった」とし、これを行わなかった医師の過失(注意義務違反)を認定しました。臨床現場の感覚としては、間質性肺炎の急性増悪が強く疑われる局面において、肺水腫を助長しうる輸液負荷や、全身状態が悪い中での負担の大きい検査を躊躇するのは、医学的には理解できる判断です。しかし、裁判所は当時の客観的なバイタルサイン(著しい血圧低下など)に基づき、まずは原因特定と標準的な救命処置を行うべきであったと判断しました。とくに本件で教訓とすべきは、担当医が「救命困難」と判断し、実質的に「看取り」の方針へ転換していたにもかかわらず、その説明と同意が家族となされていなかった点です。実臨床において、医学的に予後不良が明白であり、侵襲的な処置が患者の利益にならないと医師が確信する場合であっても、家族への十分な説明と合意(アドバンス・ケア・プランニングなど)のプロセスを経ずに標準治療を省略することは、法的責任を問われるリスクがあることを再認識する必要があります。Take home message高齢者・基礎疾患を抱える患者の急変時対応では、救命可能性が低い場合でも、診療録や家族への説明を含めた臨床判断のプロセスが重要である。とくに、救命処置をしない場合、家族への説明と同意の取付けは不可欠である。キーワード間質性肺炎、ショック、救命処置、看取り、法的因果関係、高度の蓋然性、相当程度の可能性

3.

意外な所に潜む血栓症のリスク/日本血液学会

 2025年10月10~12日に第87回日本血液学会学術集会が兵庫県にて開催された。10月12日、井上 克枝氏(山梨大学 臨床検査医学)、野上 恵嗣氏(奈良県立医科大学 小児科)を座長に、シンポジウム6「意外な所に潜む血栓症のリスク」が行われた。Nan Wang氏(米国・Columbia University Irving Medical Center)、Hanny Al-Samkari氏(米国・The Peggy S. Blitz Endowed Chair in Hematology/Oncology, Massachusetts General Hospital/Harvard Medical School)、長尾 梓氏(関西医科大学附属病院 血液腫瘍内科)、成田 朋子氏(名古屋市立大学大学院医学研究科 血液・腫瘍内科学)。JAK2V617Fクローン性造血とアテローム血栓症との関連 JAK2V617F(Jak2VF)クローン性造血は、アテローム血栓性の心血管疾患(CVD)との関連が指摘されている。Wang氏は、本シンポジウムにおいて、Jak2VFクローン性造血が動脈血栓症に及ぼす影響とそのメカニズムを評価した研究結果を報告した。 まず、3つのコホート研究を用いたメタ解析により、Jak2VFとCVD、血小板数、補正平均血小板容積との関連が確認された。また、マウスモデルでは20%または1.5%のJak2VFクローン性造血が動脈血栓症を促進し、血小板活性化を増加させることが示された。 Jak2VFクローン性造血は、前血小板形成および放出を促進し、血栓形成促進性の網状血小板数を増加させると考えられている。Gp1ba-Creを介して血小板におけるJak2VFを発現させたモデル(VFGp1ba)は、血小板数が増加した一方、白血球数には影響が見られなかった。このことから、VFGp1baは、血小板活性化と動脈血栓症を促進する可能性が示唆された。 また、Jak2VFクローン性造血では、変異型血小板と野生型(WT)血小板のいずれもが活性化しており、両者の間にクロストークが存在することが示唆された。Jak2VF血小板では、COX-1およびCOX-2が2~3倍に増加し、cPLA2の活性化とトロンボキサンA2産生の増加が認められた。一方、WT血小板は、活性化Jak2VF血小板由来の培養液に曝されるとさらに活性化し、この反応はトロンボキサン受容体拮抗薬により抑制された。さらに、低用量アスピリンは、VFGp1baマウスおよびJak2VFクローン性造血マウスで頸動脈血栓症を改善したが、WT対照マウスでは改善が見られなかった。 これらの結果を踏まえてWang氏は「Jak2VFクローン性造血によるアテローム性動脈硬化症の進行メカニズムにおいて、網状血小板の増加とトロンボキサンを介したクロストークが重要な役割を果たしており、アスピリンの潜在的な効果が期待される」と結論づけた。ITPにおける血栓症リスクとその管理 続いて、Al-Samkari氏が免疫性血小板減少症(ITP)における血栓症の重要なトピックスを紹介した。 ITPは、血小板破壊の増加と血小板産生の低下により生じる後天性自己免疫疾患である。さまざまな仮説に基づくメカニズムから、ITPは静脈血栓症および動脈血栓症のリスクを上昇させる可能性が指摘されている。実際、ITP患者の静脈血栓塞栓症のリスクは、一般集団の10~30倍と推定されている。また、トロンボポエチン受容体作動薬などの特定のITP治療薬は、血栓塞栓症リスクを上昇させる一方、脾臓チロシンキナーゼ阻害薬などの他の治療薬はリスクを低下させるとされている。 ITPにおける血栓症のリスク因子は、一般的な血栓症リスク因子に加え、年齢、脾臓摘出、複数回のITPの治療歴、免疫グロブリン静脈(IVIG)療法などが挙げられる。脾臓摘出後の生涯静脈血栓症リスクは3〜5倍に増加し、その発症率は7〜12%と報告されている。IVIG治療患者における血栓症リスクは約1%であり、血栓イベントの60%以上が注入後24時間以内に発生すると報告されている。とくに、45歳以上の患者や血栓イベントの既往歴を有する患者では、リスクがより高いと考えられる。 ITPにおける血栓症の治療について、Al-Samkari氏は次のように述べた。「出血がない場合であっても、血小板数が5万/μLを超える患者では抗凝固療法または抗血小板療法が通常適応となる。また、血小板数が3万/μL以上の場合には、年齢やその他のリスク因子を考慮しつつ、治療用量の抗凝固療法と抗血小板薬2剤併用療法を選択する必要がある」。日本人血友病患者のCVD管理のポイント 先天性血友病患者が胸痛を呈し、心エコー検査でST上昇が認められる場合には、緊急冠動脈インターベンションが必要となる。このような症例は、血友病患者の高齢化に伴い今後増加する可能性がある。 先天性血友病は、第VIII因子(血友病A)または第IX因子(血友病B)の欠乏によって引き起こされるX連鎖性出血性疾患であり、その重症度は重症(活性1%未満)、中等症(1~5%)、軽症(5~40%)に分類される。2024年度の日本における血液凝固異常症全国調査によると、血友病Aは5,956例、血友病Bは1,345例であると報告されている。血友病患者は関節内出血などの深部出血を呈し、血友病性関節症の発症やQOL低下につながる可能性があることから、予防的な因子補充療法は依然として治療の基本である。 近年、血友病治療は目覚ましい進歩を遂げており、半減期を延長した凝固因子濃縮製剤、第VIII因子模倣二重特異性抗体、抗凝固経路を標的としたリバランス療法、そして海外でも利用可能となった遺伝子治療など、新たな治療選択肢が登場している。一方、日本では高齢の血友病患者が比較的少なかったことから、CVDなどの血栓性合併症はまれで、その管理のための確立したガイドラインや十分なデータが存在しなかった。しかし、非因子療法の普及や包括的ケアシステムの拡充に伴い、血友病患者の長期予後は改善しつつある。2024年の全国調査では、日本の血友病Aおよび血友病B患者の平均年齢は約40.2歳であり、患者集団の高齢化が進んでいることが明らかにされた。 2019年以降に40歳以上であった血友病患者599例をフォローアップしたADVANCEコホート研究では、5年間で17例の死亡が観察され、死亡時の平均年齢は62.4歳(中央値:58.0歳)であったことが報告されている。70〜90代まで生存した患者も報告されており、血友病患者の寿命が延長していることも示されている。日本人男性の平均寿命(約81歳)との差は依然としてあるものの、日本人血友病患者の平均寿命が延びていることを明確に示す結果となった。 重要なポイントとして、長尾氏は「日本人は欧米人よりも出血傾向が高いと考えられるため、日本人患者に合わせた個別化かつバランスの取れたCVD管理戦略が不可欠である」と指摘した。さらに「血友病患者のCVD管理のための、日本人特有のエビデンスに基づく臨床ガイドラインを早急に策定する必要がある」と述べ、講演を締めくくった。多発性骨髄腫における血栓症リスク がん患者は健康な人と比較して血栓イベントの発生リスクが4~7倍高いことが報告されている。多発性骨髄腫はその中でも血栓イベントの発生率が高い疾患の1つであり、患者の約10%において臨床経過中に血栓イベントが生じるとされている。 血栓イベントのリスク因子は多岐にわたり、患者関連因子、疾患関連因子、治療関連因子の3つに大別される。たとえば治療関連リスクとしては、レナリドミドなどの免疫調節薬とデキサメタゾンの併用が挙げられる。 多発性骨髄腫患者における血栓イベントの発生は、治療に影響を及ぼし、アウトカム不良につながるため、適切な予防と評価が重要となる。成田氏は「診断時および定期的な血栓症のスクリーニングが有益であり、免疫調節薬を併用療法で使用する場合には、血栓症の予防およびモニタリングがとくに重要となる」と指摘した。 現在、日本における多発性骨髄腫患者の血栓症に関する調査が進行中であり、その結果が待ち望まれている。

4.

肺動脈性肺高血圧症〔PAH : pulmonary arterial hypertension〕

1 疾患概要■ 概念・定義肺高血圧症(pulmonary hypertension:PH)は、肺動脈圧が上昇する一連の疾患の総称である。欧州の肺高血圧症診断治療ガイドライン2022では、右心カテーテルで安静時の平均肺動脈圧(mPAP)が20mmHgを超える状態と定義が変更された。さらに肺動脈性肺高血圧症(PAH)に関しても、mPAP>20mmHgかつ肺動脈楔入圧(PAWP)≦15mmHg、肺血管抵抗(PVR)>2 Wood単位(WU)と診断基準が変更された。しかし、わが国において、厚生労働省が指定した指定難病PAHの診断基準は2025年8月の時点では「mPAP≧25mmHg、PVR≧3WU、PAWP≦15mmHg」で変わりない。この数字は現在保険収載されている肺血管拡張薬の臨床試験がmPAP≧25mmHgの患者を対象としていることにある。mPAP 20~25mmHgの症例に対する治療薬の臨床的有用性や安全性に関する検証が待たれる。■ 疫学特発性PAHは一般臨床では100万人に1~2人、二次性または合併症PAHを考慮しても100万人に15人ときわめてまれである。従来、特発性PAHは30代を中心に20~40代女性に多く発症する傾向があったが、最近の調査では高齢者かつ男性の新規診断例の増加が指摘されている。小児は成人の約1/4の発症数で、1歳未満・4~7歳・12歳前後に発症のピークがある。男女比は小児では大差ないが、思春期以降の小児や成人では男性に比し女性が優位である。厚生労働省研究班の調査では、膠原病患者のうち混合性結合織病で7%、全身性エリテマトーデスで1.7%、強皮症で5%と比較的高頻度にPAHを発症する。■ 病因主な病変部位は前毛細血管の細小動脈である。1980年代までは血管の「過剰収縮ならびに弛緩低下の不均衡」説が病因と考えられてきたが、近年の分子細胞学的研究の進歩に伴い、炎症-変性-増殖を軸とした、内皮細胞機能障害を発端とした正常内皮細胞のアポトーシス亢進、異常平滑筋細胞のアポトーシス抵抗性獲得と無秩序な細胞増殖による「血管壁の肥厚性変化とリモデリング」 説へと、原因論のパラダイムシフトが起こってきた1, 2)。肺血管平滑筋細胞などの血管を構成する細胞の異常増殖は、細胞増殖抑制性シグナル(BMPR-II経路)と細胞増殖促進性シグナル(ActRIIA経路)のバランスの不均衡により生じると考えられている3)。遺伝学的には2000年に報告されたBMPR2を皮切りに、ACVRL1、ENG、SMAD9など、TGF-βシグナル伝達に関わる遺伝子が次々と疾患原因遺伝子として同定された4)。これらの遺伝子変異は家族歴を有する症例の50~70%、孤発例(特発性PAH)の20~30%に発見されるが、浸透率は10~20%と低い。また、2012年にCaveolin1(CAV1)、2013年にカリウムチャネル遺伝子であるKCNK3、2013年に膝蓋骨形成不全の原因遺伝子であるTBX4など、TGF-βシグナル伝達系とは直接関係がない遺伝子がPAH発症に関与していることが報告された5-7)。■ 症状PAHだけに特異的なものはない。初期は安静時の自覚症状に乏しく、労作時の息切れや呼吸困難、運動時の失神などが認められる。注意深い問診により診断の約2年前には何らかの症状が出現していることが多いが、てんかんや運動誘発性喘息、神経調節性失神などと誤診される例も少なくない。進行すると易疲労感、顔面や下腿の浮腫、胸痛、喀血などが出現する。■ 分類『ESC/ERS肺高血圧症診断治療ガイドライン2022』に示されたPHの臨床分類を以下に示す8)。1群PAH(肺動脈性肺高血圧症)1.1特発性PAH1.1.1 血管反応性試験でのnon-responders1.1.2 血管反応性試験でのacute responders(Ca拮抗薬長期反応例)1.2遺伝性PAH1.3薬物/毒物に関連するPAH1.4各種疾患に伴うPAH1.4.1 結合組織病(膠原病)に伴うPAH1.4.2 HIV感染症に伴うPAH1.4.3 門脈圧亢進症に伴うPAH(門脈肺高血圧症)1.4.4 先天性心疾患に伴うPAH1.4.5 住血吸虫症に伴うPAH1.5 肺静脈閉塞症/肺毛細血管腫症(PVOD/PCH)の特徴をもつPAH1.6 新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)2群PH(左心疾患に伴うPH)2.1 左心不全2.2.1 左室駆出率の保たれた心不全(HFpEF)2.2.2 左室駆出率が低下または軽度低下した心不全2.2 弁膜疾患2.3 後毛細血管性PHに至る先天性/後天性の心血管疾患3群PH(肺疾患および/または低酸素に伴うPH)3.1 慢性閉塞性肺疾患(COPD)3.2 間質性肺疾患(ILD)3.3 気腫合併肺線維症(CPFE)3.4 低換気症候群3.5 肺疾患を伴わない低酸素症(例:高地低酸素症)3.6 肺実質の成長障害4群PH(肺動脈閉塞に伴うPH)4.1 慢性血栓塞栓性PH(CTEPH)4.2 その他の肺動脈閉塞性疾患5群PH(詳細不明および/または多因子が関係したPH)5.1 血液疾患5.2 全身性疾患(サルコイドーシス、肺リンパ脈管筋腫症など)5.3 代謝性疾患5.4 慢性腎不全(透析あり/なし)5.5 肺腫瘍血栓性微小血管症(PTTN)5.6 線維性縦郭炎5.7 複雑先天性心疾患■ 予後1990年代まで平均生存期間は2年8ヵ月と予後不良であった。わが国では1999年より静注PGI2製剤エポプロステノールナトリウムが臨床使用され、また、異なる機序の経口肺血管拡張薬が相次いで開発され、併用療法が可能となった。近年では5年生存率は90%近くに劇的に改善してきている。一方、最大限の内科治療に抵抗を示す重症例も一定数存在し、肺移植施設への照会、肺移植適応の検討も考慮される。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)右心カテーテル検査による「肺動脈性のPH」の診断とともに、臨床分類における病型の確定、他のPHを来す疾患の除外(鑑別診断)、および重症度評価が行われる。症状の急激な進行や重度の右心不全を呈する症例はPH診療に精通した医師に相談することが望ましい。PHの各群の鑑別のためには、まず左心性心疾患による2群PH、呼吸器疾患/低酸素による3群PHの存在を検索し、次に肺換気血流シンチグラムなどにより肺血管塞栓性PH(4群)を否定する。ただし、呼吸器疾患/低酸素によるPHのみでは説明のできない高度のPHを呈する症例では1群PAHの合併を考慮すべきである。わが国の『肺高血圧症診療ガイダンス2024』に示された診断手順(図1)を参考にされたい9)。図1 PHの鑑別アルゴリズム(診断手順)画像を拡大する■ 主要症状および臨床所見1)労作時の息切れ2)易疲労感3)失神4)PHの存在を示唆する聴診所見(II音の肺動脈成分の亢進など)■ 診断のための検査所見1)右心カテーテル検査(指定難病PAHの診断基準に準拠)(1)肺動脈圧の上昇(安静時肺動脈平均圧で25mmHg以上、肺血管抵抗で3単位以上)(2)肺動脈楔入圧(左心房圧)は正常(15mmHg以下)2)肺血流シンチグラム区域性血流欠損なし(特発性または遺伝性PAHでは正常または斑状の血流欠損像を呈する)■ 参考とすべき検査所見1)心エコー検査にて、右室拡大や左室圧排所見、三尖弁逆流速度の上昇(>2.8m/s)、三尖弁輪収縮期移動距離の短縮(TAPSE<18mm)、など2)胸部X線像で肺動脈本幹部の拡大、末梢肺血管陰影の細小化3)心電図で右室肥大所見3 治療 (治験中・研究中のものも含む)『ESC/ERSのPH診断・治療ガイドライン2022』を基本とし、日本人のエビデンスと経験に基づいて作成されたPAH治療指針を図2に示す9,10)。図2 PAHの治療アルゴリズム画像を拡大するこれはPAH症例にのみ適応するものであって、他のPHの臨床グループ(2~5群)に属する症例には適応できない。一般的処置・支持療法に加え、根幹を成すのは3系統の肺血管拡張薬である。すなわち、プロスタノイド(PGI2)、ホスホジエステラーゼ 5型阻害薬(PDE5-i)、エンドセリン受容体拮抗薬(ERA)である。2015年にPAHに追加承認された、可溶性guanylate cyclase(sGC)刺激薬リオシグアトはPDE5-iとは異なり、NO非依存的にNO-cGMP経路を活性化し、肺血管拡張作用をもたらす利点がある。初期治療開始に先立ち、急性血管反応性試験(AVT)の反応性を確認する。良好な反応群(responder)には高用量のCa拮抗薬が推奨される。しかし、実臨床においてCa拮抗薬長期反応例は少なく、3~4ヵ月後の血行動態改善が乏しい場合には他の薬剤での治療介入を考慮する。AVT陰性例には重症度に基づいた予後リスク因子(表)を考慮し、リスク分類に応じて3系統の肺血管拡張薬のいずれかを用いて治療を開始する。表 PAHのリスク層別化画像を拡大する低~中リスク群にはERA(アンブリセンタン、マシテンタン)およびPDE5-i(シルデナフィル、タダラフィル)の2剤併用療法が広く行われている。高リスク群には静注・皮下注投与によるPGI2製剤(エポプロステノール、トレプロスチニル)、ERA、PDE5-iの3剤併用療法を行う。最近では初期から複数の治療薬を同時に併用する「初期併用療法」が主流となり良好な治療成績が示されているが、高齢者や併存疾患(高血圧、肥満、糖尿病、肺実質疾患など)を有する症例では、安全性を考慮しERAもしくはPDE5-iによる単剤治療から慎重に開始すべきである。右心不全ならびに左心還流血流低下が著しい最重症例では、体血管拡張による心拍出量増加・右心への還流静脈血流増加に対する肺血管拡張反応が弱く、かえって肺動脈圧上昇や右心不全増悪を来すことがあり、少量から開始し、急速な増量は避けるべきである。また、カテコラミン(ドブタミンやPDEIII阻害薬など)の併用が望まれ、体血圧低下や脈拍数増加、水分バランスにも十分留意する。初期治療開始後は3~4ヵ月以内に血行動態の再評価が望まれる。フォローアップ時において中リスクの場合は、経口PGI2受容体刺激薬セレキシパグもしくは吸入PGI2製剤トレプロスチニルの追加、PDE5-iからsGC刺激薬リオシグアトへの薬剤変更も考慮される。しかし、経口薬による多剤併用療法を行っても機能分類-III度から脱しない難治例には時期を逸さぬよう非経口PGI2製剤(エポプロステノール、トレプロスチニル)の導入を考慮すべきである。すでに非経口PGI2製剤を導入中の症例で用量変更など治療強化にも抵抗を示す場合は、肺移植認定施設に紹介し、肺移植適応を検討する。2025年8月にアクチビンシグナル伝達阻害薬ソタテルセプト(商品名:エアウィン 皮下注)がわが国でも保険収載された。これまでの3系統の肺血管拡張薬とは薬理機序が異なり、アクチビンシグナル伝達を阻害することで細胞増殖抑制性シグナルと細胞増殖促進性シグナルのバランスを改善し、肺血管平滑筋細胞の増殖を抑制する新しい薬剤である11)。ソタテルセプトは、既存の肺血管拡張薬による治療を受けている症例で中リスク以上の治療強化が必要な場合、追加治療としての有効性が期待される。3週間ごとに皮下注射する。主な副作用として、出血や血小板減少、ヘモグロビン増加などが報告されている。PHに対して開発中の薬剤や今後期待される治療を紹介する。吸入型のPDGF阻害薬ソラルチニブが成人PAHを対象とした第III相臨床試験を国内で進捗中である。トレプロスチニルのプロドラッグ(乾燥粉末)吸入製剤について海外での第II相試験が完了し、1日1回投与で既存の吸入薬に比べて利便性向上が期待できる。内因性エストロゲンはPHの病因の1つと考えられており、アロマターゼ阻害薬であるアナストロゾールの効果が研究されている。世界中で肺動脈自律神経叢を特異的に除神経するカテーテル治療開発が進められており、国内でも先進医療として薬物療法抵抗性PH対する新たな治療戦略として期待されている。4 今後の展望近年、肺血管疾患の研究は急速に成長をとげている。PHの発症リスクに関わる新たな遺伝的決定因子が発見され、PHの病因に関わる新規分子機構も明らかになりつつある。とくに細胞の代謝、増殖、炎症、マイクロRNAの調節機能に関する研究が盛んで、これらが新規標的治療の開発につながることが期待される。また、遺伝学と表現型の関連性によって予後転帰の決定要因が明らかとなれば、効率的かつテーラーメイドな治療戦略につながる可能性がある。5 主たる診療科循環器内科、膠原病内科、呼吸器内科、胸部心臓血管外科、小児科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 肺動脈性肺高血圧症(指定難病86)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本肺高血圧・肺循環学会合同ガイドライン(日本循環器学会)(2025年改訂された日本循環器学会および日本肺高血圧・ 肺循環学会の合同作成による肺高血圧症に関するガイドライン)肺高血圧症診療ガイダンス2024(日本肺高血圧・肺循環学会)(欧州ガイドライン2022を基とした日本の実地診療に即したガイダンス)2022 ESC/ERS Guidelines for the diagnosis and treatment of pulmonary hypertension(2022年に発刊された最新版の欧州ガイドライン、英文のみ)患者会の情報NPO法人 PAHの会(肺高血圧症患者と家族が運営している全国組織の患者会)Pulmonary Hypertension Association(世界最大かつ最古の肺高血圧症協会で16,000人以上の患者・家族・医療専門家からなる国際的なコミュニティ、日本語選択可) 1) Michelakis ED, et al. Circulation. 2008;18:1486-1495. 2) Morrell NW, et al. J Am Coll Cardiol. 2009;54:S20-31. 3) Guignabert C, et al. Circulation. 2023; 147: 1809-1822. 4) 永井礼子. 日本小児循環器学会雑誌. 2023; 39: 62-68. 5) Austin ED, et al. Circ Cardiovasc Genet. 2012;5:336-343. 6) Ma L, et al. N Engl J Med. 2013;369:351-361. 7) Kerstjens-Frederikse WS, et al. J Med Genet. 2013;50:500-506. 8) Humbert M, et al. Eur Heart J. 2022;43:3618-3731. 9) 日本肺高血圧・肺循環学会. 肺高血圧症診療ガイダンス2024. 10) Chin KM, et al. Eur Respir J. 2024;64:2401325. 11) Sahay S, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2024;210:581-592. 公開履歴初回2013年07月18日更新2025年11月06日

5.

心室頻拍に定位放射線治療が有効か

 標的となる部分に放射線を当てて治療する定位放射線治療(以下、放射線治療)が、危険性の高い不整脈の一種である心室頻拍に対する安全性の高い治療法になり得ることが、新たな研究で示された。米セントルイス・ワシントン大学医学部放射線腫瘍科のShannon Jiang氏らによると、放射線治療の効果は、標準的な治療法だが複雑な手術であるカテーテルアブレーションと同等であったという。また、放射線治療は、カテーテルアブレーションと比べて死亡や重篤な副作用が少ないことも示された。詳細は、「International Journal of Radiation Oncology, Biology, Physics」に9月29日掲載されるとともに、米国放射線腫瘍学会(ASTRO 2025、9月29日~10月1日、米サンフランシスコ)でも発表された。 心室頻拍は、2つの心室から異常に速い心拍が発生する疾患だ。米国心臓協会(AHA)によると、発作時には心拍数が急上昇し、めまい、息切れ、失神、胸痛などが起こり、重症の場合には心停止を引き起こすこともある。Jiang氏らによると、進行した心室頻拍の患者は多くの場合、副作用の強い心臓の薬を大量に使用する。それでも効果が得られない場合には、足の静脈からカテーテルを心臓まで通し、異常な心拍の原因となっている心臓の組織を焼灼するカテーテルアブレーションが標準的な治療法となる。こうした中、近年、新たな治療選択肢として注目されているのが放射線治療だ。Jiang氏らによると、これは放射線を集中照射して異常なリズムを引き起こしている心臓の組織を破壊する治療法で、麻酔も不要であるという。 今回の研究では、リスクが高く、薬物治療による効果も得られない心室頻拍の患者43人の記録を分析した。カテーテルアブレーションを受けたことがない患者は4人のみだった。43人のうち、22人は放射線治療を1回だけ受け、残る21人は再度カテーテルアブレーションを受けた。その結果、どちらの治療も心臓リズムのコントロールに有効であることが示された。心室性ショックやVT(心室頻拍)ストーム(心室頻拍が短期間に繰り返し発生する状態)が起こるまでの期間中央値は、放射線治療で8.2カ月、カテーテルアブレーションで9.7カ月であり、両群間に有意な差はなかった。 しかし、治療から31日以内に死亡した5人のうち4人はカテーテルアブレーションを受けた患者で、1人はカテーテルアブレーションの施行中に死亡した。いずれの死亡も治療に関連する副作用によるものだった。一方、放射線治療を受けた患者では、3年間の追跡期間中に治療関連死の報告はなかった。また、治療後1年以内に副作用が原因で入院が必要になった患者は、カテーテルアブレーション群の38%に対して放射線治療群では9%にとどまっていた。治療後、合併症が起こるまでの期間中央値は、カテーテルアブレーション群6日間、放射線治療群10カ月で、カテーテルアブレーション群の方がより早く合併症が起きていたことも分かった。全生存期間も放射線治療群では長い傾向にあり、中央値は放射線治療群で28カ月、カテーテルアブレーション群で12カ月だった。ただし、症例数が少なかったため、この差は統計的に有意ではなかった。治療から1年後の全生存率は放射線治療群73%、カテーテルアブレーション群58%で、3年後では両群とも45%だった。 こうした結果を受けてJiang氏は、「われわれの研究は、特に治療後早期において放射線治療の方が安全性が高い可能性を示唆している。カテーテルアブレーションでは施術後早期に有害事象の発生がピークに達し、それらが死亡につながっていたが、放射線治療ではそのようなピークは認められなかった。このことが、安全性の差につながったようだ」と言う。 Jiang氏は、「この結果は有望ではあるが、心室頻拍に対する放射線治療の有効性を証明するには研究の規模が不十分である」と説明している。現在、放射線治療の有効性の確定的な証拠を得るための大規模な国際共同臨床試験への患者登録が進められているという。

6.

血栓症予防に、避難所ではどんな体操を勧めたらよいか?【実例に基づく、明日はわが身の災害医療】第8回

避難所ではどんな体操を勧めたらよいか?避難所生活も数日が経過し、衛生環境やプライバシーが不完全な慣れない暮らしの中で、とくに高齢の避難者の方々に、疲労の色が濃くなってきました。血栓症の予防や筋力の維持のため、避難者を支えるボランティアや行政の職員から、「何か体操をしてもらおうと思いますが、どうしましょう?」と相談を受けました。このような時、どんなアドバイスをしたらよいでしょうか?東日本大震災の避難所での教訓この問いに対して、私には苦い経験があります。東日本大震災の際、支援に訪れた南三陸町の大きな避難所で、実際に自治体の方からこの相談を受けました。その時、私は「ぜひやりましょう。ラジオ体操などが手軽でよいのではないでしょうか」と安易にお答えした記憶があります。しかしその後、災害医療の専門家から、「朝は低血糖や血圧上昇のリスクがあり、寒い屋外での体操は危険です」とご指摘を受け、自身の配慮が至っていなかったことを大いに反省しました。最終的には、理学療法士のボランティアの方が、午後の時間帯に、被災者の状態に合わせて考案した体操を実施してくださいました。この経験は、避難所での運動を考えるうえで重要な教訓となりました。避難生活の身体機能低下避難生活が続くと、心身にはさまざまな影響が現れます。仮設住宅で生活する高齢者は、自宅での生活継続群に比べ、身体機能が有意に低下することがわかっており、運動機会の確保が重要と示されています1)。また、ストレッチや体操など短時間で軽い運動や、徒手的で低侵襲のマッサージであっても、避難者の「気分」が改善され、即時的に心理状態を改善する効果があることが示されています2)。このように、避難所での運動を促すことは、身体機能の維持だけでなく、精神的にも良い影響があると考えられます。体操はいつ行うのが理想的か?―朝の運動に潜むリスクでは、体操はいつ行うのがよいのでしょうか。とくに朝の運動には注意が必要です。朝は覚醒に伴い交感神経が活性化し、「モーニングサージ」と呼ばれる朝の血圧上昇が起こりやすい時間帯です。実際に、心筋梗塞の発症は午前に発症のピークがあることが知られています。とくに高血圧や動脈硬化のある人は影響を受けやすいので、起床後いきなり激しい運動をすることは避けるように提唱されています3)。また、室温が20℃から10℃に下がるだけで、朝の収縮期血圧が5~9mmHg上昇するというデータがあり、寒さはモーニングサージを増幅します。寒い朝に体操を行う場合は、屋内で上着を着て、ゆっくり開始するのが安全です4)。私が南三陸でご指摘を受けたのは、こうしたことを深く考えていないと思われたからでしょう。「ラジオ体操」は避難所に適しているのか?誰もが知るラジオ体操ですが、避難所で行うにはいくつかの点を考慮する必要があります。ラジオ体操の歴史は古く、1928年に最初のラジオ放送があったといわれています。現在の形になったのは1951年の戦後になってからですが、その当時、音楽に合わせて同じ動きをする民衆にGHQが警戒し、一時的にラジオ体操を禁止したこともあるようです。フレイルがある高齢者に、毎日3セットのラジオ体操をしてもらうことで、俊敏な動きとバランス、持久力が有意に改善したと報告されています5)。しかし、ラジオ体操が考案された当時の平均寿命は60代でした。そもそもラジオ体操は60歳以上の人が毎日行う前提では作られておらず、確かに、ジャンプも含まれるラジオ体操は、高齢者にとってはかなりハードなものと言えます。こうした背景からか、全国の自治体で、理学療法士会など専門家により、高齢者や災害時のために非常に多くのストレッチや体操が考案されており、動画が公開されていますが、ラジオ体操を積極的に推奨されている例はあまり見かけません。たとえば、能登半島地震で活用された、稲葉先生お勧めの「かえるの合唱」に合わせた体操の動画6)や、東京都が推奨している体操7)(図)なども参考になります。画像を拡大する図. 避難生活で行う体操(参考文献7より)以下は、避難所での運動のミニプロトコル案です。避難所でのミニプロトコル案1.1日2回(午前/夕方)、3~5分の体操。椅子座位版も併用2.参加は任意、ハイリスク(急性疾患/胸痛/強い息切れ/著しい高血圧)は見学3.下肢ポンプ運動(踵上げ・足首回し)を前後に追加:VTE対策4.換気と距離確保、床の段差/滑りに注意いずれにしても、避難所や仮設住宅で生活している被災者は、避難生活中の心身機能の維持と回復のための運動が望ましく、無理のない範囲で体操を行うことが勧められます。 1) Ishii T, et al. Physical performance deterioration of temporary housing residents after the Great East Japan Earthquake. Prev Med Rep. 2015; 2:916-919. 2) 熊本 圭吾. 避難所の高齢被災者における軽い運動の心理的効果. 長保医大紀要. 2016;1:15-18. 3) Kario K. Morning surge in blood pressure and cardiovascular risk: evidence and perspectives. Hypertension. 2010;56:765-773. 4) Umishio W, et al. Cross-Sectional Analysis of the Relationship Between Home Blood Pressure and Indoor Temperature in Winter: A Nationwide Smart Wellness Housing Survey in Japan. Hypertension 2019 ;74:756-766. 5) Osuka Y, et al. Effects of Radio-Taiso on Health-related Quality of Life in Older Adults With Frailty: a Randomized Controlled Trial. J Epidemiol. 2024;34:467-476. 6) 体操プロジェクト. かんたんリズム体操(かえるの合唱編)【動画】 7) 東京都総務局総合防災部防災管理課. 東京防災. 2023;232-233.

7.

起立時のめまいや動悸に心不全治療薬が有効かも

 立ち上がったときに動悸やめまい、ふらつきを感じたことはないだろうか。これは、体位性頻脈症候群(POTS)と呼ばれる症状で、上記の症状に加え、疲労感や運動障害、胸痛、ブレインフォグ、吐き気などを伴うこともある。新たなパイロット研究の結果によると、イバブラジンと呼ばれる心不全治療薬が、POTS患者の心拍数の増加を抑え、血圧には影響を与えずに他の症状を大幅に改善する可能性のあることが示された。米バージニア大学保健学部のAntonio Abbate氏らによるこの研究結果は、「Journal of Cardiovascular Pharmacology」7月号に掲載された。 Abbate氏は、「これらの結果は、不適切な心拍数の増加こそが不調の原因であり、血圧に影響しない薬により心拍数を減らすことで生活の質(QOL)に違いをもたらすことができることを示唆している」とバージニア大学のニュースリリースの中で述べている。 研究グループによると、POTSの有病率は一般人口の1%以下と極めて低いが、近年、TikTokやその他のソーシャルメディアでPOTSが話題になっているという。POTSの原因は明らかになっていないため、POTSと診断してもらうことの難しさを訴える患者は多い。「患者は、かかりつけ医がPOTSに関する詳しい知識を持ち合わせていなかったり、治療方法が分からなかったりするため、別の専門医の診察を受けに行く。ところが、心臓専門医は心臓の問題ではないと判断する。実際にその通りだ。また、神経科医は脳に問題はないと言うが、それも正しい。POTSは『ハードウェア』の問題というより、『ソフトウェア』の問題なのだ」と話す。 イバブラジンは、心臓にある過分極活性化環状ヌクレオチド依存性(HCN)チャネルを阻害することで心拍数の増加を抑える薬で、心不全の悪化予防のために使用される。POTSの主な特徴は心拍数の増加であることから、研究グループは、イバブラジンがPOTSの症状改善に効果を発揮する可能性があると考えた。 そこで研究グループは、POTS患者10人(平均年齢28歳、女性8人)にイバブラジンを投与した。その結果、起立時の1分当たりの心拍数の増加幅は、イバブラジン投与前は平均40回であったのが、投与後は平均15回に減少したことが示された。また、研究参加者は心拍数以外の症状が改善したことも報告した。なかでも改善度が高かったのは、失神感(69%減)と胸痛(66%減)であった。 Abbate氏らは、「この全体的な症状の改善は、心拍数の増加がPOTSの他の症状を引き起こすことを示唆している」と述べている。同氏は、「POTS患者では、起立時に心拍数を制御するメカニズムが機能不全に陥り、心拍数が過度に増加する。すると、脳がこれを危険信号と感知し、ストレスホルモンであるノルアドレナリンの放出を促す。その結果、不安やパニック発作に似た症状が引き起こされる。イバブラジンで心拍数をコントロールすることによりこのループが抑制され、患者の気分が改善するのではないか」との見方を示している。 ただし研究グループは、これらの研究結果を確認し、POTSの原因をより深く理解するためには、さらなる研究が必要だと述べている。Abbate氏は、「かつては低血圧に起因する代償メカニズムとしか考えられていなかった高い心拍数自体が症状の原因となっている可能性がある。心拍数がどのように調節され、症状にどのように影響するかをより深く理解することが、POTS患者に対するより良い治療法の開発につながる可能性がある」と話している。

8.

運動ベースの心臓リハビリは心房細動患者にも有効

 医師は、心筋梗塞や心不全を発症した患者にしばしば運動ベースの心臓リハビリテーション(以下、心臓リハビリ)を処方する。新たな研究で、そのような心臓リハビリプログラムは心房細動(AF)と呼ばれる一般的な不整脈を有する患者にも適しており、症状の改善にも役立つ可能性のあることが示された。英リバプール心臓血管科学センターのBenjamin Buckley氏らによるこの研究結果は、「British Journal of Sports Medicine」に7月29日掲載された。 運動ベースの心臓リハビリには、運動トレーニングに加えて、個別化された生活習慣リスクの管理、心理社会的介入、医学的リスク管理、健康行動に関する教育が含まれている。こうしたリハビリは、心筋梗塞を起こした患者や心不全と診断された患者、あるいは冠動脈ステント留置術を受けた患者に用いられるが、AF患者に適しているかどうかは不明なため、国際的なAF治療ガイドラインには含まれていない。 AFは、心房が機能不全を起こしてけいれんするように震えることで心拍リズムが乱れる疾患であり、動悸、胸痛、疲労、めまい、息切れなどの症状を引き起こす。AFがあると、脳卒中の原因となる血栓も形成されやすくなる。現行のAFに対する治療法は、薬物療法とアブレーションと呼ばれる電気治療である。AFは心筋梗塞や心不全と同時に起こることが多いが、運動ベースの心臓リハビリがAFを引き起こすのか否かは不明である。 Buckley氏らは今回、CENTRALやMEDLINEなどの論文データベースと臨床試験登録情報を用いて、AF患者に対する運動ベースの心臓リハビリの効果を、運動をしない場合と比較したランダム化比較試験を20件(対象者の総計2,039人)抽出し、メタアナリシスを実施した。平均追跡期間は11カ月であった。心臓リハビリプログラムのほとんどは中強度の運動(通常は有酸素運動)を取り入れており、実施期間は8週間から24週間で、1セッション当たりの時間は15〜90分だった。  解析の結果、全死因死亡は、運動ベースの心臓リハビリを受けた群で8.3%、リハビリを受けなかった群で6.0%(相対リスク1.06、95%信頼区間〔CI〕0.76〜1.48)、有害事象の発生率はそれぞれ2.9%と4.1%(同1.30、0.66〜2.56)であり、いずれも両群間に有意な差は認められなかった。一方、AFの症状の重症度(平均差−1.61、95%CI −3.06〜−0.16)、AFの負担(同−1.61、−2.76〜−0.45)、発生頻度(同−0.57、−1.07〜−0.07)、持続時間(同−0.58、−1.14〜−0.03)、再発(相対リスク0.68、95%CI 0.53〜0.89)、運動能力(最大酸素摂取量;平均差3.18、95%CI 1.05〜5.31mL/kg/分)については、運動ベースの心臓リハビリを受けた群で有意な改善が認められた。さらに、健康関連の生活の質(QOL)の精神的側面も向上した。  こうした結果を受けて研究グループは、「AFの治療ガイドラインには、薬物療法やアブレーション療法との併用で運動ベースの心臓リハビリを推奨する内容を盛り込み、この最新のエビデンスを反映させるべきだ」と述べている。 付随論評の著者である英ロンドン心臓血管細胞科学研究所のSarandeep Marwaha氏とSanjay Sharma氏は、「本研究結果は、運動ベースの心臓リハビリがAF患者に大きな利益をもたらすことを裏付ける説得力あるエビデンスである。特に基礎疾患のあるAF患者は、運動がAFを誘発するのではないかと不安を抱くことがあり、医師も、運動とAF発生との関連が不確実であることから運動の指導や処方を軽視しがちだ。しかし、AF患者における中等度の運動を評価するほとんどの研究は、有害事象のリスクが非常に低く、安全性を実証している」と述べている。

9.

固定用量の潰瘍性大腸炎治療薬「ベルスピティ錠2mg」【最新!DI情報】第44回

固定用量の潰瘍性大腸炎治療薬「ベルスピティ錠2mg」今回は、スフィンゴシン 1-リン酸受容体(S1P1,4,5)調節薬「エトラシモドL-アルギニン(商品名:ベルスピティ錠2mg、製造販売元:ファイザー)」を紹介します。本剤は、1日1回の固定用量での経口投与が可能な中等症~重症の潰瘍性大腸炎の治療薬であり、患者QOLの向上が期待されています。<効能・効果>中等症から重症の潰瘍性大腸炎の治療(既存治療で効果不十分な場合に限る)の適応で、2025年6月24日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>通常、成人にはエトラシモドとして2mgを1日1回経口投与します。<安全性>重大な副作用として、黄斑浮腫(0.1%)、感染症(0.9%)、進行性多巣性白質脳症(頻度不明)、リンパ球数減少(5.8%、28.0%)注)、リンパ球減少症(7.8%、10.8%)注)、肝機能障害(0.7%)、徐脈性不整脈(徐脈:1.5%、房室ブロック:0.6%)、可逆性後白質脳症症候群(頻度不明)があります。その他の副作用として、浮動性めまい、頭痛、γ-グルタミルトランスフェラーゼ増加(いずれも1%以上)、高コレステロール血症、傾眠、悪心、潰瘍性大腸炎、腹部膨満、嘔吐、ALT増加、肝酵素上昇、AST増加(いずれも0.3~1%)、尿路感染、好中球減少症、高カリウム血症、食欲減退、頭部不快感、片頭痛、視力障害、耳鳴、高血圧、口内炎、寝汗、発熱、疲労、非心臓性胸痛、無力症、血中アルカリホスファターゼ増加、体重減少(いずれも0.3%未満)があります。注)発現頻度は以下の順:本剤2mgを投与された日本人を含む1,037例(6試験、最長投与期間163.0週、投与期間の中央値49.57週)、本剤2mgを投与された日本人93例(4試験、最長投与期間203.0週、投与期間の中央値78.14週)<患者さんへの指導例>1.この薬は、中等症~重症の潰瘍性大腸炎に用いられる薬です。炎症部位に到達するリンパ球数が減少することで、潰瘍性大腸炎の症状を改善すると考えられています。2.これまで、他の薬物療法で適切な治療を行っても潰瘍性大腸炎の症状が残っている場合に使用されます。3.失神、浮動性めまい、息切れなどの症状が現れた場合は、ただちに医師に相談してください。とくにこの薬の使用を開始してから早い時期に注意が必要です。4.視覚異常(視野の中に見えない部分がある、物がゆがんで見える、視野の中心が暗くなる、色が見分けにくい)が現れた場合は、ただちに医師に相談してください。5.この薬の投与開始12週後までに効果が得られない場合は、他の治療に切り替えることがあります。6.妊婦または妊娠している可能性のある女性は服用できません。<ここがポイント!>潰瘍性大腸炎(UC)は、再燃と寛解を繰り返す慢性炎症性腸疾患です。病因は完全には解明されていませんが、腸管局所における異常な免疫応答、それに続くリンパ節から消化管内の炎症部位へのリンパ球の遊走が病態形成に深く関与していると考えられています。薬物治療には、5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤やステロイドが用いられます。ステロイドに抵抗性を示す場合は、タクロリムス、生物学的製剤、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬、スフィンゴシン1-リン酸(S1P)受容体調節薬などが寛解導入のために用いられます。エトラシモドL-アルギニンは、S1P受容体のサブタイプ1、4、5(S1P1,4,5)に選択的に作用し、炎症部位へのリンパ球の遊走を減少させることで、腸の炎症を抑制します。S1P受容体調節薬としては、オザニモドが2024年12月に承認されましたが、中等度以上の肝障害に対する使用制限や初回投与時から用量を漸増する必要があるなどの注意点があります。これに対して、エトラシモドは肝機能による使用制限がなく、1日1回の固定用量で経口投与できるため、肝機能に異常がある患者や初期の用量調節が困難な患者にとって、より使用しやすい選択肢となる可能性があります。中等症~重症の活動期にあるUC患者に対する寛解導入試験のAPD334-302/ELEVATE UC12試験(国際共同第III相試験)において、12週時(導入期)の臨床的寛解率は、プラセボ群の15.2%に対し、本剤2mg/日群は24.8%であり、本剤2mg/日群のプラセボ群に対する優越性が検証されました(p=0.026、Mantel-Haenszel法による層別因子)。

10.

わが国初の肥大型心筋症治療薬「カムザイオスカプセル1mg/2.5mg/5mg」【最新!DI情報】第42回

わが国初の肥大型心筋症治療薬「カムザイオスカプセル1mg/2.5mg/5mg」今回は、選択的心筋ミオシン阻害薬「マバカムテン(商品名:カムザイオスカプセル1mg/2.5mg/5mg、製造販売元:ブリストル・マイヤーズ スクイブ)」を紹介します。本剤は、肥大型心筋症における左室での心筋の過収縮を抑制し、閉塞性肥大型心筋症患者における拡張機能障害や左室流出路狭窄を改善することが期待されています。<効能・効果>閉塞性肥大型心筋症の適応で、2025年3月27日に製造販売承認を取得し、5月21日より発売されています。<用法・用量>通常、成人にはマバカムテンとして2.5mgを1日1回経口投与から開始し、患者の状態に応じて適宜増減します。ただし、最大投与量は1回15mgとします。<安全性>重大な副作用として、収縮機能障害により心不全を起こすことがあります(頻度不明)。ヒト脳性ナトリウム利尿ペプチド前駆体N端フラグメント(NT-proBNP)の上昇がみられた場合や、呼吸困難、胸痛、疲労、動悸、下肢浮腫などが発現または増悪した場合は、速やかに心機能の評価を行います。その他の副作用として、浮動性めまい、頭痛、疲労、末梢性浮腫、心房細動、動悸、労作性呼吸困難、呼吸困難、筋力低下、駆出率減少(いずれも1~3%未満)があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、閉塞性肥大型心筋症の治療薬です。心臓の過剰な収縮を抑え、血液の送り出しにくさを緩和します。2.1日1回、水やぬるま湯で服用してください。3.この薬には併用してはいけない薬や併用を注意すべき薬や食品もありますので、他の薬を使用している場合や、新たに使用する場合は、必ず医師または薬剤師に相談してください。4.妊娠する可能性がある人は、この薬の投与中および最終投与後4ヵ月間は適切に避妊してください。<ここがポイント!>肥大型心筋症(HCM)は、高血圧や弁膜症などの基礎疾患がないにもかかわらず、心室の肥大を引き起こす原発性の心疾患です。HCMは、左室拡張機能が低下しており、閉塞性HCMでは左室流出路(LVOT)が閉塞しています。主な原因は、心筋収縮関連タンパクの遺伝子異常とされていますが、未解明の点も少なくありません。初期には無症状または軽微な症状を示すことが多いですが、不整脈に伴う動悸やめまい、運動時の呼吸困難などが現れることがあります。心筋の収縮は、ミオシンヘッドがアクチンと結合し、クロスブリッジ(架橋)を形成することで起こり、アデノシン三リン酸(ATP)を消費します。HCMは、過剰な数のミオシンがクロスブリッジを形成する(動員される)ことにより心筋の過収縮が生じると考えられています。本剤は、心筋ミオシンに対する選択的かつ可逆的なアロステリック阻害薬です。ミオシンとアクチンのクロスブリッジ形成を抑制することで、HCMにおける左室での心筋の過収縮を抑制し、閉塞性肥大型心筋症患者における拡張機能障害やLVOT狭窄を改善します。なお、本剤は2023年6月にHCMに対する希少疾病用医薬品に指定されています。閉塞性肥大型心筋症患者を対象とした海外第III相試験(MYK-461-005)において、投与30週後の臨床的奏効(「最高酸素摂取量[pVO2]の1.5mL/kg/min以上の増加、かつNYHA心機能分類のI度以上の改善」または「pVO2の3.0mL/kg/min以上の増加、かつNYHA心機能分類の悪化なし」のいずれかを満たす)割合は、マバカムテン群で36.6%、プラセボ群で17.2%でした。プラセボとの差は19.4%(95%信頼区間:8.67~30.13)であり、群間に有意な差が認められたことから、マバカムテン群のプラセボ群に対する優越性が検証されました。同じく閉塞性肥大型心筋症患者を対象とした国内第III相試験(CV027004)において、ベースラインから30週後までの運動負荷後LVOT圧較差の変化量の平均値は-60.7(平均差:31.56)mmHgであり、運動負荷後LVOT圧較差はベースラインに比べて改善しました。

11.

小細胞肺がん2次治療、タルラタマブがOS・PFS改善(DeLLPhi-304)/ASCO2025

 2ライン以上の治療歴を有する小細胞肺がん(SCLC)患者を対象とした国際共同第II相試験「DeLLphi-301試験」1)において、タルラタマブが良好な成績を示したことを受け、本邦では「がん化学療法後に増悪した小細胞肺癌」の適応で2025年4月16日に発売された。また、『肺癌診療ガイドライン2024年版』では、全身状態が良好(PS0~1)な再発SCLCの3次治療以降にタルラタマブを用いることを弱く推奨することが記載されている2)。より早期におけるタルラタマブの有用性を検討する試験として、SCLCの2次治療におけるタルラタマブの有用性を化学療法との比較により検証する国際共同第III相試験「DeLLphi-304試験」が進行中である。米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)において、Charles M. Rudin氏(米国・メモリアルスローンケタリングがんセンター)が、本試験の第1回中間解析の結果を報告した。本試験において、タルラタマブは化学療法と比較して全生存期間(OS)および無増悪生存期間(PFS)を改善することが示された。本結果は、NEJM誌オンライン版2025年6月2日号に同時掲載された3)。・試験デザイン:国際共同第III相無作為化比較試験・対象:プラチナ製剤を含む化学療法±抗PD-1/PD-L1抗体薬による1次治療を受けたSCLC患者(無症候性の脳転移は治療歴を問わず許容)・試験群(タルラタマブ群):タルラタマブ(1日目に1mg、8、15日目に10mgを点滴静注し、以降は2週間間隔で10mgを点滴静注) 254例・対照群(化学療法群):化学療法(トポテカン、アムルビシン、lurbinectedinのいずれか)※ 255例・評価項目:[主要評価項目]OS[主要な副次評価項目]PFS、患者報告アウトカム[副次評価項目]奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、安全性など※:日本はアムルビシン 主な結果は以下のとおり。・対象患者の年齢中央値は、タルラタマブ群64歳、化学療法群66歳であった。脳転移を有する割合は、それぞれ44%、45%であり、肝転移については、それぞれ33%、37%であった。1次治療で抗PD-1/PD-L1抗体薬による治療を受けた割合は、いずれの群も71%であった。・主要評価項目のOS中央値は、タルラタマブ群13.6ヵ月、化学療法群8.3ヵ月であり、タルラタマブ群が有意に改善した(ハザード比[HR]:0.60、95%信頼区間[CI]:0.47~0.77、p<0.001)。1年OS率は、それぞれ53%、37%であった(追跡期間中央値はそれぞれ11.2ヵ月、11.7ヵ月)。・OSのサブグループ解析において、化学療法無治療期間が6ヵ月未満(化学療法抵抗性)の集団を含めて、いずれのサブグループでもタルラタマブ群が良好な傾向にあった。とくに脳転移を有する集団でタルラタマブ群が優位であった(HR:0.45、95%CI:0.31~0.65)。・PFS中央値は、タルラタマブ群4.2ヵ月、化学療法群3.7ヵ月であり、タルラタマブ群が有意に改善した(HR:0.71、95%CI:0.59〜0.86、p=0.002)。1年PFS率は、それぞれ20%、4%であった。・ORRは、タルラタマブ群35%、化学療法群20%であり、DOR中央値は、それぞれ6.9ヵ月、5.5ヵ月であった。・患者報告アウトカムの息切れ、咳についてもタルラタマブ群が化学療法群と比べて有意に改善した(それぞれp<0.001、p=0.012)。胸痛については、有意差がみられなかったもののタルラタマブ群が良好な傾向にあった。・Grade3以上の治療関連有害事象(TRAE)の発現割合は、タルラタマブ群27%、化学療法群62%であった。治療中断または減量に至ったTRAEの発現割合は、タルラタマブ群19%、化学療法群55%であった。・タルラタマブの注目すべき有害事象であるサイトカイン放出症候群(CRS)は、タルラタマブ群の56%に発現したが、そのうちの98%はGrade1/2であった。またCRSの多くが投与2回目までに発現した。・免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)は、タルラタマブ群の6%に発現したが、1例を除いてGrade1/2であった。1例はGrade5であった。 本結果について、Rudin氏は「タルラタマブがSCLCの2次治療における標準治療となることを支持するものであり、DeLLphi-304試験はSCLCの2次治療の標準治療を塗り変えるだけでなく、肺がん領域におけるBiTE(二重特異性T細胞誘導)抗体による免疫療法の活用法に、新たな時代を切り拓くものであると考えている」とまとめた。

12.

検査等の定型的な手技、過失責任は?【医療訴訟の争点】第9回

症例診療時の医療処置ではさまざまな手技が行われるが、患者の病態(原因疾患の部位や大きさ・進行度などを含む)に応じて手技内容が異なるものと、患者の病態により左右されることの少ない定型化された機械的所作の手技とがある。今回は、機械的所作と言いうる要素が比較的大きいマンモトーム生検における局所麻酔の手技の過失の有無等が争われた東京地裁平成28年5月25日判決を紹介する。<登場人物>患者43歳(被告病院初診時)・女性人間ドックにて左乳腺腫瘤疑いと指摘されて被告病院を受診。原告患者本人被告総合病院(大学病院)事案の概要は以下の通りである。平成23年(2011年)1月12日人間ドックを受診し、左乳腺腫瘤疑いを指摘された。1月19日被告病院を紹介受診。被告病院にて、超音波検査やマンモグラフィ検査、細胞診等を受けたが、積極的に悪性を疑わせる所見が認められなかったことから、約6ヵ月後に経過観察をする方針となった。<以後、数ヵ月ごとに被告病院を受診し、穿刺吸引細胞診、乳腺MRI検査等を受けた>平成24年(2012年)10月17日超音波検査及びマンモグラフィ検査を受けた。10月19日被告病院を受診し、主治医のA医師(乳腺外科15年目)より説明を受け、エコーガイド下マンモトーム生検を受けることとなった。なお、A医師は、「治療に関する説明・同意書」を用いて、同生検の目的や方法を説明したほか、生じ得る合併症として、発生頻度の比較的高い出血や皮下血腫などについては説明したが、「予想される不利益」として気胸についての記載はなく、A医師も気胸が発生する可能性については説明しなかった。10月30日エコーガイド下マンモトーム生検を実施するにあたり、B医師(研修医終了後3年目)が局所麻酔を行ったところ、手技中に咳き込み、マンモトーム生検は中止となった。室内気でSpO2 100%、血圧は150 mmHg台と高かったものの、その後、111/75mmHgに戻り、心拍数は86/分、呼吸音にラ音はなく、皮下気腫が生じた場合に生じる頸部皮膚の握雪感も認めなかった。気胸が生じた可能性を考慮し胸部X線検査を行ったが、異常所見は認められなかった。10月31日原告は胸痛が出現したため被告病院の救急外来を受診した。胸部X線検査で左気胸が認められたため、被告病院の呼吸器外科を受診し、胸腔ドレーン挿入などの治療を受けた。実際の裁判結果裁判所は、以下の点を指摘し、「原告に生じた左気胸は、マンモトーム生検の局所麻酔を行った際に胸腔内まで麻酔針が貫通し、肺を穿刺したことによって生じた医原性気胸である」と認定した。一般に、気胸の病因による分類の一つに、医療行為に伴う医原性気胸があること本件では、マンモトーム生検の局所麻酔を行っている最中に原告に咳嗽が生じ、気分不快等を訴えたことマンモトーム生検中止の直後から原告には胸痛や息苦しさが生じていたものと認められることマンモトーム生検を行った平成24年10月30日当日の胸部X線検査では、原告に明らかな異常所見は認められなかったものの、翌31日も、原告の胸痛等の症状が持続し、同日の胸部X線検査及び胸部単純CT検査において、左気胸と診断されたこと裁判所は、本件の局所麻酔について、以下の点を指摘した。エコーガイド下マンモトーム生検の麻酔針の穿刺による合併症として気胸を指摘する文献は証拠上見当たらないこと(生検に伴う「合併症」として「乳房が小さい場合や病変が深部にあるとき、まれに局所麻酔の注射針で気胸を生じることがある」旨の文献の記載があるが、これは直接的には摘出生検に係る記載であり、エコーガイド下マンモトーム生検の麻酔針の穿刺に関するものとは読めないこと)エコーガイド下マンモトーム生検の局所麻酔を行うに当たっては、筋層直上に位置しており胸腔やその内部にある肺と至近距離にある部位(レトロマンマリースペース)まで麻酔針を到達させることが重要とされていることレトロマンマリースペースの位置からすると、麻酔針が胸腔内まで貫通し、肺を穿刺する一般的な危険性を有することは否定できないこと術者はモニター画面上で針先を中心に継続的な確認を行いながら自ら針の刺入等の操作を行っており、針先が明確に確認できなくなれば、針を回転させる等の方法で針先位置を確認し直した上で穿刺を継続し、あるいは刺入し直す等の方法で対応していること針治療や肺・胸腔穿刺(胸膜穿刺)、胸膜生検、中心静脈栄養法のための鎖骨下静脈穿刺、気管支鏡による経気管支肺生検なども同様に胸腔近傍において針の穿刺を行う手技ではあるが、エコーガイド下マンモトーム生検の麻酔針の胸腔内への貫通によって気胸を生じる例が極めてまれであることエコーガイド下マンモトーム生検の麻酔針の穿刺については、一定の抽象的な危険性や制約はあるものの、突発的な体動の発生や超音波による描出が特に困難な事情等特段の事情があれば別論、一般的には前記のような手段を講じ通常の注意義務を尽くすことによって胸腔内への貫通を防止し得ることが通常であることかかる事項を指摘した上で、裁判所は、以下のとおり判示し、手技上の過失(注意義務違反)があったものと推認されるとした。「本件マンモトーム生検の局所麻酔において、超音波画像で麻酔針の針先が確実に描出できていなかった可能性をもって、原告に生じた医原性気胸が不可避であったものと断ずることはできず、本件マンモトーム生検の局所麻酔において原告の胸腔内まで麻酔針を貫通させ、肺を穿刺したことについて、B医師には、針先の十分な確認を怠り、あるいは、超音波画像の評価を誤って麻酔針を進入させた手技上の注意義務違反ないし過失があったものと推認せざるを得ない」その上で、過失を覆す証拠がないとして、本件マンモトーム生検の局所麻酔の手技の過失を認めた。注意ポイント解説本件は、専ら施術における機械的所作の手技により、発症率が極めて低い合併症が生じたことにつき、手技上の過失が認められた事案である。裁判所が、エコーガイド下マンモトーム生検の麻酔針の穿刺については、一定の抽象的な危険性や制約はあることを指摘し、これによる気胸の合併症報告が極めてまれであること等を指摘し、通常の注意義務を尽くすことによって胸腔内への貫通を防止し得るとした上で、発生した合併症(気胸)について、「針先の十分な確認を怠り、あるいは、超音波画像の評価を誤って麻酔針を進入させた手技上の注意義務違反ないし過失があったものと推認せざるを得ない」としたことが注目される。かかる裁判所の判断は、患者の病態(原因疾患の部位や大きさ・進行度などを含む)に応じて手技内容が左右されることの少ない機械的所作の手技については、同様に当てはまる可能性がある。このため、機械的所作の手技の結果、発生がまれな合併症が生じた場合には、医療者の過失(注意義務違反)が推認される可能性があることに留意する必要がある。この場合、処置時(手技実施時)において、通常のケースと異なる配慮が必要な状態であったことや予想外の事態が生じたことをカルテ記載等で示せない限り、責任を回避することは困難と考えられる。医療者の視点本事案の裁判所の判断は、機械的所作とされる手技においても、術者の適切な確認が求められることを示しています。たとえば、中心静脈穿刺では、エコーガイド下であっても患者の体動や解剖学的個体差により、血管穿刺が困難になり、誤って胸膜を穿刺するリスクがあります。このような状況では、針先の動きを慎重にモニタリングし、異常があれば即座に対応する判断力が重要です。また、術中に通常と異なる状況が生じた場合、それを記録し、客観的な説明ができるよう備えておくことが、後のリスク管理につながります。安全な医療の提供には、技術の習熟だけでなく、想定外の事態に対応する柔軟な判断力と、それを記録・説明する意識が不可欠です。Take home message患者の病態(原因疾患の部位や大きさ・進行度などを含む)に応じて手技内容が左右されることの少ない機械的所作の手技の結果、発生がまれな合併症が生じた場合には、医療者の過失(注意義務違反)が推認される可能性がある。処置時(手技実施時)に通常と異なる事態が生じていたのであれば、そのことを記録しておく必要がある。キーワード合併症と医療者の責任合併症の中には、医療行為により不可避的に生じるものと、医療者の過失(注意義務違反)により生じるものとがある。悪しき結果が生じた場合にそのすべてが医療者の責任とされるものではないが、医療者の過失(注意義務違反)により生じたものについては、医療者に責任が発生する。このため、医療事故をめぐる紛争においては、患者側に生じた悪しき結果が、患者側の主張する医療者の過失(注意義務違反)によって生じたものであるのか、不可避の合併症であるのかが争われることも多い。この場合、医学文献・論文を用いての立証に加え、協力医の意見書の提出がされることや、裁判所の選任する鑑定医による鑑定がなされることもある。

13.

女性を悩ます第3の狭心症や循環器障害の指標とは/日本循環器協会

 日本循環器協会が主催するGo Red for Women Japan健康セミナー「赤をまとい女性の心臓病を考える2025」が、2月8日に東京大学の安田講堂で開催された。循環器疾患において、症状の違いや診断精度、治療法に対する性差がが明らかになっている昨今、日本国内でもそれらを学ぶための機会として、2024年より本イベントが始まった。本稿では、赤澤 純代氏(金沢医科大学総合内科学 臨床教授/女性総合医療センター センター長)と高橋 佐枝子氏(湘南大磯病院 副院長)の講演内容において、とくに患者に知っておいてほしい内容にフォーカスし、お届けする。循環器障害の指標となるむくみ、意識したい身体部位 まず、赤澤氏が「女性の健康と循環~むくみの鑑別と漢方~」と題し、漢方治療において重要な3本柱である気血水の“気”の生成や働き、その異常(気鬱、気逆、気虚)により生じるむくみについて解説。むくみを患者に意識してもらうことは、女性の各ライフステージの健康を考えていくうえでも重要であり、とくに更年期以降の女性の心疾患の罹患率の上昇にも影響を及ぼすことから、「たかがむくみ、されどむくみ」と強調した。むくみ改善のための血管の透過性を整えるための漢方としては、桂皮、桂枝、人参が重要で、治療薬の例として桃核承気湯の気逆への有効性などを挙げた。また、一言でむくみと言っても、その症状にはさまざまな疾患が隠れていることから、一般参加者に向けて、「スネを10秒押しても皮膚の変化が見られない場合は甲状腺機能低下症を、熱感がある場合は蜂窩織炎を、40秒以内に戻る場合は低アルブミン血症を疑う。そして、40秒以上戻らない場合には心疾患や腎疾患が発症している可能性を考慮し、一度、病院受診してほしい」と呼びかけた。このほか同氏は、舌診によりむくみや血流の悪さがわかるので舌の変化にも意識を向けること、1週間で2~3kgの体重変化がないか、などの注意すべき身体変化について啓発した。女性を悩ます第3の狭心症 続いて、高橋氏が「女性に多い微小血管狭心症」について説明した。胸痛を有する患者のうち心臓CTやカテーテル検査で狭窄や閉塞が目視できない患者が存在し、狭心症としての診断が遅れるケースが散見される。その原因が虚血性非閉塞性冠疾患(INOCA:Ischemic Non-obstructive Coronary Artery disease)の1つの微小血管狭心症である。INOCAは2020年にESCからVijay Kunadian氏ら専門家によるコンセンサスドキュメントの発表1)などをきっかけに診断方法などが提唱され、国内でも2015年に発刊された初版が『2023年JCS/CVIT/JCC ガイドライン フォーカスアップデート版 冠攣縮性狭心症と冠微小循環障害の診断と治療』2)にアップデートされている。胸痛があり冠動脈造影にて狭窄を認めなかったのは、男性が30%だったのに対して女性は60~70%に上り、微小血管狭心症の罹患には性差があると示唆されている。同氏は「微小血管狭心症の主な症状として、典型的な狭心症症状以外にも、発作時間が長い、ニトログリセリンの効果が薄い、症状に強弱があったり倦怠感などの訴えもあり循環器系の疾患ではないと診断されることも多い」とコメント。治療法について、「微小血管の循環障害、微小血管攣縮それぞれの治療法があるが、併存している患者も含まれるため、個々の対応が重要」とも説明した。最後に同氏は「微小血管狭心症は女性に多い疾患で、症状が非典型的であるために診断がつきにくいものの確立してきている。治療に関しては患者さんごとのカスタムメイドが必要」と締めくくった。Go Red for Womenとは Go Red for Womenは、“心臓病が女性の最大の死因であることを多くの人に知ってもらう”ために、米国心臓協会(AHA)が2004年から始めた女性の循環器疾患の予防・啓発のための活動である。「教育」「疾患啓発」の2本柱を中心に、毎年2月第1週金曜日に赤い何かを身に付けるなどして啓発活動を行っている。この活動が今では世界50ヵ国以上に広がっており、国内では日本循環器協会が中心となり2024年よりこの活動がスタートした。今回は上記2名の医師による講演のほか、パネルディスカッションにはタレントの山瀬まみ氏を迎え、一般参加者を盛り上げた。なお、今年は東京会場のほかに大阪・梅田スカイビルでも2月22日に開催が予定されている。

14.

安定胸痛への冠動脈CTA管理、10年後アウトカムを改善/Lancet

 安定胸痛患者に対する冠動脈CT血管造影(CCTA)による管理は、10年後も冠動脈疾患死または非致死的心筋梗塞の持続的な減少と関連していた。英国・エディンバラ大学のMichelle C. Williams氏らSCOT-HEART Investigatorsが、スコットランドの循環器胸痛クリニック12施設で実施した無作為化非盲検並行群間比較試験「Scottish Computed Tomography of the Heart trial:SCOT-HEART試験」の10年追跡の結果を報告した。SCOT-HEART試験についてはこれまでに、CCTA管理により5年間の冠動脈疾患死または非致死的心筋梗塞のリスクが約4割低下することが示されていた。著者は、「CCTAによる冠動脈アテローム性動脈硬化症の同定は、安定胸痛患者の長期的な心血管疾患予防を改善する」とまとめている。Lancet誌2025年1月25日号掲載の報告。SCOT-HEART試験10年間の解析 研究グループは、冠動脈心疾患による症候性の安定狭心症の疑いのある18~75歳の患者を、標準治療+CCTA併用群または標準治療単独群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 今回の10年間の解析は事前に規定されたもので、eDRIS(electronic Data Research and Innovation Service)を介してスコットランド公衆衛生局(Public Health Scotland)より臨床アウトカムに関する情報を入手し、必要に応じて医療記録を確認するとともに、薬剤の使用に関する情報はPrescribing Information Systemから得た。 主要アウトカムは、冠動脈心疾患死または非致死的心筋梗塞の発生、副次アウトカムは全死因死亡、心血管死、冠動脈心疾患死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中などで、ITT解析を行った。10年後も冠動脈疾患死または非致死的心筋梗塞が減少 2010年11月18日~2014年9月24日に、4,146例が登録され(平均年齢57[SD 10]歳、男性2,325例[56.1%]、女性1,821例[43.9%])、2,073例が標準治療+CCTA併用群に、2,073例が標準治療単独群に割り付けられた。 追跡期間中央値10.0年(四分位範囲:9.3~11.0)において、冠動脈疾患死または非致死的心筋梗塞の発生は、CCTA併用群137例(6.6%)、標準治療単独群171例(8.2%)であり、CCTA併用群における減少が維持されていた(ハザード比[HR]:0.79、95%信頼区間[CI]:0.63~0.99、p=0.044)。 全死因死亡、心血管死、冠動脈心疾患死および非致死的脳卒中の発生は両群間で差はなかったが(すべてp>0.05)、非致死的心筋梗塞(90例[4.3%]vs.124例[6.0%]、HR:0.72[95%CI:0.55~0.94]、p=0.017)および主要有害心血管イベント(172例[8.3%]vs.214例[10.3%]、0.80[0.65~0.97]、p=0.026)はCCTA併用群のほうが少なかった。 また、冠動脈血行再建術の施行は同程度であったが(315例[15.2%]vs.318例[15.3%]、HR:1.00[95%CI:0.86~1.17]、p=0.99)、予防的治療薬の処方はCCTA群のほうが多かった(有効なデータのある患者1,486例中831例[55.9%]vs.1485例中728例[49.0%]、オッズ比:1.17[95%CI:1.01~1.36]、p=0.034)。

15.

心筋線維化を伴う無症候性重症AS、早期介入の効果は?/JAMA

 心筋線維化を伴う無症候性重症大動脈弁狭窄症(AS)患者において、早期の大動脈弁置換術による介入は標準的な管理と比較し、全死因死亡またはASに関連した予定外の入院の複合アウトカムに関して、明らかな有効性は認められなかった。英国・エディンバラ大学のKrithika Loganath氏らが、英国およびオーストラリアの心臓センター24施設で実施した前向き非盲検無作為化エンドポイント盲検化試験「Early Valve Replacement Guided by Biomarkers of Left Ventricular Decompensation in Asymptomatic Patients with Severe Aortic Stenosis trial:EVOLVED試験」の結果を報告した。AS患者では、左室代償不全に先立って心筋線維化が進行し、長期的な予後不良につながる。早期介入は、AS関連の臨床イベントリスクが高い患者において潜在的な利点が示唆されていた。著者は、「本試験では主要エンドポイントの95%信頼区間(CI)が広く、今回の結果を確認するにはさらなる研究が必要である」とまとめている。JAMA誌2025年1月21日号掲載の報告。経カテーテルまたは外科的大動脈弁置換術の早期介入と保存的管理を比較 研究グループは、2017年8月4日~2022年10月31日に、18歳以上の無症候性重症AS患者をスクリーニングし、高感度トロポニンI値が6ng/L以上または心電図で左室肥大が認められた場合に心臓MRIを行い、心筋線維化が確認された患者を、経カテーテルまたは外科的大動脈弁置換術を行う早期介入群と、ガイドラインに従った保存的管理を行う対照群に1対1の割合で無作為に割り付けた。最終追跡調査日は2024年7月26日であった。 主要アウトカムは、全死因死亡またはASに関連した予定外の入院(ASに起因する失神、心不全、胸痛、心室性不整脈、房室ブロック2度または3度を伴う)の複合とし、初回イベント発生までの時間についてITT解析を行った。副次アウトカムは、主要アウトカムの各イベント、12ヵ月時の症状(NYHA心機能分類による評価)などを含む9項目であった。複合アウトカムに両群で有意差なし 当初は356例の登録が計画されていたが、COVID-19の流行期に英国政府の指示に従い患者登録は5ヵ月間中断され、流行後も進まなかった。別の新たな2件の無作為化試験の結果から必要イベント件数が35件と推定されたことから、患者登録は早期に中止となった。 解析対象は224例(早期介入群113例、対照群111例)で、患者背景は平均(±SD)年齢73±9歳、女性63例(28%)、平均大動脈弁最大血流速度は4.3±0.5m/秒であった。 主要アウトカムのイベントは、早期介入群で113例中20例(18%)、対照群で111例中25例(23%)に発生した。ハザード比(HR)は0.79(95%CI:0.44~1.43、p=0.44)、群間差は-4.82%(95%CI:-15.31~5.66)であり、有意差は認められなかった。 副次アウトカムは、9項目中7項目で有意差が示されなかった。全死因死亡は、早期介入群で16例(14%)、対照群で14例(13%)に発生した(HR:1.22、95%CI:0.59~2.51)。ASに関連した予定外の入院は、それぞれ7例(6%)および19例(17%)確認された(0.37、0.16~0.88)。また、早期介入群は対照群と比較して、12ヵ月時のNYHA心機能分類II~IVの症状を有する患者の割合が低かった(21例[19.7%]vs.39例[37.9%]、オッズ比:0.37、95%CI:0.20~0.70)。

16.

乳がん患者の脱毛に対するミノキシジル投与は安全かつ効果的

 発毛剤のロゲインやリアップの有効成分であるミノキシジルを化学療法の最中や治療後に服用すると、多くの乳がん患者で発毛が促され、心臓関連の重大な副作用も認められなかったとする研究結果が報告された。脱毛症の治療薬として知られるミノキシジルは、血管拡張作用により血圧を下げる効果も有することから高血圧の治療薬としても用いられている。しかし、この血管拡張作用が化学療法に伴う心臓関連の副作用を増大させ、胸痛、息切れ、体液貯留などを引き起こすのではないかと懸念されていた。米ニューヨーク大学(NYU)グロスマン医学部のDevyn Zaminski氏らが、NYUランゴン・ヘルスの資金提供を受けて実施したこの研究の詳細は、「Journal of the American Academy of Dermatology」に12月3日掲載された。 Zaminski氏らは、化学療法の副作用の一つである脱毛は、女性によっては、自信を失うほどの苦痛を引き起こすこともあり、脱毛を恐れて化学療法を思いとどまる患者もいると言う。今回の研究では、2012年から2023年までのNYUランゴン・ヘルスの電子記録システムを用いて、女性の乳がん患者に対するミノキシジル投与の安全性と有効性が検討された。対象は、脱毛症治療薬として処方された経口ミノキシジルを1カ月以上服用し、薬の忍容性に関するデータがカルテに記録されていた51人。このうちの25人は化学療法に加えて手術や放射線治療の組み合わせを、26人は手術または放射線治療のみを受けていた。 その結果、医師による評価と患者の自己報告の両方から、低用量の経口ミノキシジルを服用した全ての患者で、治療開始後3~6カ月以内に発毛の改善または脱毛の安定化が確認されたことが明らかになった。追加の治療や入院を必要とするような深刻な心臓関連の副作用が生じた患者はいなかった。NYUグロスマン医学部のKristen Lo Sicco氏は、「本研究により、ミノキシジルは患者にとって安全であり、効果的であることが明らかになった。ミノキシジルの有効性は、外見的に自分らしさを失った患者が、それを取り戻し、自分をある程度コントロールできるようになる助けとなる可能性がある」と述べている。 ただし、研究グループは、軽度の体液貯留といった心臓関連の副作用の中には、患者が気が付かない無症候性のものもあるため申告されておらず、その結果、患者の健康記録に記録されていなかった可能性があると指摘している。また、医師と患者による評価の一部が自己申告または観察によるものであることも、本研究の限界の一つであるとしている。 Lo Sicco氏は、「さらなる研究でこれらの結果を確認するとともに、ミノキシジルが他の種類のがん患者や異なる化学療法を受けている患者にも安全かどうかを確かめる必要がある」と述べている。

17.

コロナ罹患後症状、研究指標をアップデート/JAMA

 米国・スタンフォード大学のLinda N. Geng氏らは、米国国立衛生研究所(NIH)によるRECOVER(Researching COVID to Enhance Recovery)Initiativeの一環であるRECOVER-Adult studyにおいて、追加の参加者のデータを含めた最新解析を行い、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染後の持続的な症状であるLong COVID(LC)の研究指標を報告した。著者は、「LCの理解が進むに従って指標の継続的な改善が必要で、LC研究指標2023年版を更新した2024年版は、研究者がLCとその症状サブタイプを分類するのに役立つ」とまとめている。JAMA誌オンライン版2024年12月18日号掲載の報告。追加参加者を含めRECOVER成人コホートのデータを解析 研究グループは、米国およびプエルトリコの83施設において、SARS-CoV-2感染歴の有無にかかわらず18歳以上の成人を登録し、90日ごとに症状について調査した。 感染歴がある場合は、初回SARS-CoV-2感染から4.5ヵ月後以降に少なくとも1回来院しており、再感染から30日以内ではない者とした。 研究の対象とした来院期間は、2021年10月~2024年3月であった。 主要アウトカムはLCの有無と参加者が報告した52の症状で、LASSO回帰を用いた重み付けロジスティック回帰分析により、LCを特定する症状と各症状のスコアを算出した。2024年版では11症状で評価 解析対象は1万3,647例(SARS-CoV-2感染が確認されている人1万1,743例、感染歴が確認されていない人1,904例)で、年齢中央値は45歳(四分位範囲:34~69)、73%が女性であった。 LC研究指標2024年版では、2023年版で特定された12症状から3つの症状(性的欲求・性機能の変化、消化管症状、異常行動)が除外され、2つの症状(息切れ、いびきまたは睡眠時無呼吸)が追加された。その結果、LC研究指標は労作後倦怠感、疲労、ブレインフォグ、浮動性めまい、動悸、嗅覚・味覚の喪失または変化、口渇、慢性咳嗽、胸痛、息切れ、いびきまたは睡眠時無呼吸の11症状となった。 また、重度のLC症状を有する患者を特定するためのスコアの閾値は11点以上であった。 LC研究指標2024年版では、既知のSARS-CoV-2感染歴がある参加者の20%、既知の感染歴がない参加者の4%が「LCの可能性が高い」と分類され(2023年版ではそれぞれ21%、5%)、既知の感染歴がある参加者の39%が、2024年版で新たに追加されたカテゴリーである「LCの可能性あり」(スコアが1以上11未満)と分類された。 クラスター分析の結果、生活の質(QOL)を追跡するLC症状サブタイプとして、嗅覚または味覚の変化(サブタイプ1)、慢性咳嗽(サブタイプ2)、ブレインフォグ(サブタイプ3)、動悸(サブタイプ4)、労作後倦怠感・めまい・消化器症状(サブタイプ5)の5つが特定された。その中で、多系統症状で負荷の大きいサブタイプ5は、他のサブタイプよりも、QOL、身体の健康、日常機能が悪いと報告する頻度が高かった。

18.

糖尿病予備群が大動脈弁狭窄症を引き起こす

 糖尿病予備群の主要な原因であるインスリン抵抗性が、大動脈弁狭窄症のリスクを高めることを示唆するデータが発表された。クオピオ大学病院(フィンランド)のJohanna Kuusisto氏らの研究によるもので、詳細は「Annals of Medicine」に11月26日掲載された。 大動脈弁狭窄症(AS)は高齢者に多い心臓弁の病気の一つであり、心不全や死亡のリスクを高める。Kuusisto氏は、ジャーナル発のリリースの中で、「この新たな発見は、インスリン抵抗性がASの重大かつ修正可能なリスク因子である可能性を浮き彫りにしている。インスリンに対する感受性を高めることを意図した健康管理は、ASのリスクを減らし、高齢者の心血管アウトカムを改善するための新たなアプローチとなり得る」と語っている。 ASの発症後には、時間がたつにつれて大動脈弁が厚く硬くなっていき、心臓が血液を送り出す際の負担が大きくなる。しかし、胸痛や息切れ、動悸、疲労などが現れるまでに何年ものタイムラグがあり、それらの自覚症状が現れた時には既に重症化していることが少なくない。米国心臓協会(AHA)は、75歳以上の米国人の13%以上がASに罹患しているとしている。 一方、インスリン抵抗性は、血糖を細胞に取り込む時に必要なホルモンであるインスリンの作用が低下している状態のことで、2型糖尿病が発症する何年も前に起こり始めていることが多い。インスリン抵抗性がより進行すると、徐々に血糖値が高くなり、やがて糖尿病の診断基準を超える高血糖となる。 この研究では、ASのない45~73歳(平均年齢62歳)のフィンランド人男性1万144人を対象とする、メタボリックシンドロームの疫学調査のデータが解析に用いられた。平均10.8±1.4年の追跡期間中に、1.1%に当たる116人が新たにASと診断された。Cox回帰分析の結果、インスリン抵抗性を表す複数の指標が、ASの発症と関連していることが明らかになった。 例えば、血清Cペプチドが高い場合は、ASの発症ハザード比(HR)が1.47(95%信頼区間1.22~1.77)であった。血清Cペプチドが高いことはインスリン分泌が増加していることを示しており、インスリン抵抗性による血糖上昇の負荷が高まっていることを表している。また、Matsudaインデックスという指標が高い場合はHR0.68(0.56~0.82)だった。Matsudaインデックスは値が低いほどインスリン抵抗性がより強いことを意味する。これらの関連性は、ASの既知のリスク因子を調整した解析、および、糖尿病患者を除外した解析でも有意だった。 Kuusisto氏は、「体重管理や運動の励行などによってインスリン感受性を高めることが、ASの発症抑止につながるのかを確認するため、今後のさらなる研究が求められる」と述べている。

19.

結核が再び最も致命的な感染症のトップに

 世界保健機関(WHO)は10月29日に「Global Tuberculosis Report 2024」を公表し、2023年に世界中で820万人が新たに結核と診断されたことを報告した。この数は、1995年にWHOが結核の新規症例のモニタリングを開始して以来、最多だという。2022年の新規罹患者数(750万人)と比べても大幅な増加であり、2023年には、世界で最も多くの死者をもたらす感染症として、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を抑えて再びトップに躍り出た。 WHOのテドロス事務局長(Tedros Adhanom Ghebreyesus)は、「結核の予防・検出・治療に有効な手段があるにもかかわらず、結核が依然として多くの人を苦しめ、死に至らしめているという事実は憤慨すべきことだ」とWHOのニュースリリースで述べている。同氏は、「WHOは、各国が、これらの手段を積極的に活用し、結核の撲滅に向けて約束した取り組みを確実に実行するよう求めている」と付言している。 2023年の世界の結核患者数は1080万人に上り、男性の方が女性よりも多く(55%対33%)、12%は子どもと思春期の若者だった。また、HIV感染者が全罹患者の6.1%を占めていた。結核患者数には地域的な偏りが見られ、インド(26%)、インドネシア(10%)、中国(6.8%)、フィリピン(6.8%)、パキスタン(6.3%)の上位5カ国だけで56%に上り、これら5カ国にナイジェリア、バングラデシュ、コンゴ民主共和国を含めた8カ国が世界全体の感染者の3分の2を占めていた。 結核の新規罹患者の多くは、栄養不足、HIV感染、アルコール使用障害、喫煙(特に男性)、糖尿病の5つの主要なリスク因子が原因で結核を発症していた。WHOは、これらのリスク因子と貧困などの他の社会的決定要因に対処するには、協調的なアプローチが必要だと主張する。WHO世界結核プログラムディレクターのTereza Kasaeva氏は、「われわれは、資金不足、罹患者にのしかかる極めて大きな経済的負担、気候変動、紛争、移住と避難、COVID-19パンデミック、そして薬剤耐性結核など、数多くの困難な課題に直面している」と指摘。「全てのセクターと利害関係者が団結し、これらの差し迫った問題に立ち向かい、取り組みを強化することが不可欠だ」とWHOのニュースリリースで述べている。 一方、報告書には明るい兆しも見えた。結核による死亡者数は世界的に減少傾向にあり、新規罹患者数も安定し始めているという。それでもWHOは、「多剤耐性結核(MDR-TB)は依然として公衆衛生上の危機だ」と指摘し、「MDR-TBまたはリファンピシン耐性結核(RR-TB)の治療成功率は現在68%に達している。しかし、MDR/RR-TBを発症したと推定される40万人のうち、2023年に診断され治療を受けたのは44%に過ぎない」と懸念を示している。 結核は空気中の細菌によって引き起こされ、主に肺を侵す。WHOによると、世界人口の約4分の1が結核菌に感染していると推定されているが、そのうち症状が現れるのは5%から10%に過ぎないという。結核菌感染者は体調不良を感じないことも多く、感染力も低い。WHOは、「結核の症状は数カ月間、軽度のままで推移することがあるため、知らないうちに簡単に他人に病気を広めてしまう」と指摘している。主な結核の症状は、長引く咳(出血を伴うこともある)、胸痛、衰弱、倦怠感、体重減少、熱、寝汗などである。WHOは、「症状は感染部位により異なる。好発部位は肺だが、腎臓、脳、脊椎、皮膚にダメージを与える可能性もある」と付け加えている。

20.

腫瘍循環器学と不易流行【見落とさない!がんの心毒性】第30回(最終回)

連載終了にあたりある日、医療・医学情報サイトCareNet.comの編集者から腫瘍循環器学に関する連載をしませんかという企画をいただきました。そしてその内容はインターネット情報サイトを活用して、腫瘍循環器専門医のみならず一般の循環器医や腫瘍医の先生、メディカルスタッフの皆さんに腫瘍循環器学をわかりやすく理解していただくため、というものでした。この頃は、大阪府立成人病センター循環器内科において腫瘍循環器外来が開始して以来10年が経過した時点であり、日本腫瘍循環器学会が発足したばかりの時期でもありました。タイムリーな企画だなと考え、腫瘍循環器医として第一線で活躍されておられる大倉 裕二先生、草場 仁志先生、志賀 太郎先生をお誘いして本連載を開始することにいたしました。当初は2年間の予定でしたので、最初の1年は総論(第1回~第11回)、その後は症例中心に連載を行うことにいたしました(第12回~第28回)。途中CareNet.com読者の皆さまにアンケートを行う試みも行いました1,2)。症例報告については、当初の4名に加え多くのエキスパートの先生にご参加いただき、実際に先生方がご経験された症例などを元に原稿を作成していただきました。その結果、3年半、合計30回の連載企画になりました。今回は、最終回としてこれまでの3年間を振り返りながら腫瘍循環器学の現在と将来についてまとめさせていただきます。古くて新しいアントラサイクリン系抗がん剤まず取り上げたのは、最も古くから存在する抗がん剤の一つであるアントラサイクリン系抗がん剤でした。1970年代に報告されたアントラサイクリン心筋症こそが、腫瘍循環器領域で最初に報告された心血管合併症(心血管毒性)であり、大倉先生に第2回『見つかる時代から見つける時代へ』で執筆いただきました。それは「アントラサイクリン心不全は3回予防できる」と名言を残した素晴らしい内容でした。循環器医なら全員が知っているはずのアントラサイクリン心筋症ですが、その病態や管理については意外と知られておりません。第15回 化学療法中に心室期外収縮頻発!対応は?第17回 造血幹細胞移植後に心不全を発症した症例第21回 がん化学療法中に発症した肺塞栓症、がん治療医と循環器医が協力して行うべき適切な管理は?さらにアントラサイクリン系抗がん剤と同様に、以前から投与されている殺細胞性抗がん剤について、以下の回で取り上げられました。第22回 フッ化ピリミジン系薬剤投与による胸痛発作症例第25回 膵がん治療中に造影CTで偶然肺塞栓を発見!適切な対応は第26回 増加する化学療法患者-機転の利いた専攻医の検査オーダー第28回 膵がん患者に合併する静脈血栓塞栓症への対応法この古くて新しい抗がん剤については、第17回で取り上げましたように、がん治療が終了した後もがんサバイバーにおける晩期合併症としても大変注目されています。そして、乳がん領域で最も予後が不良であったトリプルネガティブ症例に対する最も新しい治療の一つとしてその有効性が明らかとなっています3)。腫瘍循環器学の始まりは分子標的薬から腫瘍循環器学は2000年になり登場した分子標的薬とそれに伴い出現する心血管毒性が報告されてから急激な発展を遂げています。第3回『HER2阻害薬の心毒性、そのリスク因子や管理は?』で取り上げたHER2阻害薬は、米国・MDアンダーソンがんセンターにおいて世界最初に開設されたOnco-Cardiology Unitのきっかけになったがん治療薬です。当時は副作用が少なく有効性の高い夢のような薬として登場いたしましたが、アントラサイクリンとの併用により高頻度で心毒性が出現(HERA試験)4)したことで、腫瘍循環器領域に注目が集まりました。HER2阻害薬は第3回で解説があるように、その可逆性には二面性があり腫瘍循環器的にも注意が必要な薬剤です。そして、現在最も多く投与されている分子標的薬である血管新生阻害薬について、以下の回で触れています。第4回 VEGFR-TKIの心毒性、注意すべきは治療開始○ヵ月第14回 深掘りしてみよう!ベバシズマブ併用化学療法このほか、第12回、第19回 と本連載でも多く取り上げられています。血管新生阻害薬は高血圧、心不全、血栓症など多くの心血管毒性に注意が必要な薬剤であり、Onco-Hypertension領域におけるがん治療関連高血圧の原因薬剤としても注目されています5)。古くて新しいがん関連血栓症がんと血栓症は、1800年代にトルーソー(Trousseau)らにより「がんと血栓症」が報告されて以来、トルーソー症候群という概念で古くから存在しています。そして現在は血管新生阻害薬などのがん治療薬の進歩に伴い、がん治療に伴う血栓症の頻度が急速に増加してきたことで、がん関連血栓症(CAT:cancer associated thrombosis)という新しい概念が生まれてきました(図1)6)。(図1)画像を拡大する本企画では第8回 がんと血栓症、好発するがん種とリスク因子は?第20回 静脈血栓塞栓症治療中の肺動脈塞栓を伴う右室内腫瘤の治療方針第21回 がん化学療法中に発症した肺塞栓症、がん治療医と循環器医が協力して行うべき適切な管理は?第23回 静脈血栓塞栓症の治療に難渋した肺がんの一例(前編)第24回 静脈血栓塞栓症の治療に難渋した肺がんの一例(後編)第25回 膵がん治療中に造影CTで偶然肺塞栓を発見!適切な対応は第28回 膵がん患者に合併する静脈血栓塞栓症への対応法で、症例クイズとして数多く取り上げています。また、本疾患概念などについては、第9回『不安に感じる心毒性とは?ー読者アンケートの結果から』や第26回『増加する化学療法患者-機転の利いた専攻医の検査オーダー』でも触れられています。そのほかのがん治療古くて新しいがん治療には、放射線療法そしてホルモン療法が挙げられます。第7回『進化する放射線治療に取り残されてる?new RTの心毒性対策とは』、そして第11回『免疫チェックポイント阻害薬、放射線治療の心毒性、どう回避する?』に放射線関連心機能障害(RACD:Radiation Associated Cardiovascular diseases)が取り上げられました。さらに、ホルモン療法は第16回 がん患者に出現した呼吸困難、見落としがちな疾患は?第27回 アンドロゲン遮断療法後に狭心症を発症した症例にて症例提示がなされています。一方、最も新しいがん治療である免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の登場はがん診療にパラダイムシフトを起こしています。ICIに関連した連載は、第5回 免疫チェックポイント阻害薬:“予後に影響大”の心筋炎を防ぐには?第11回 免疫チェックポイント阻害薬、放射線治療の心毒性、どう回避する?第18回 免疫チェックポイント阻害薬の開始後6日目に出現した全身倦怠感第29回 irAE心筋炎の原因の一つに新たな知見が!!と計4回に登場します。また、第6回『新治療が心臓にやさしいとは限らない~Onco-Cardiologyの一路平安~』には、副作用に関するコメントとして、心毒性と腫瘍循環器医が知っておかねばならない副作用情報の読み方がまとめられており、ぜひとも再読してみてください。今後の腫瘍循環器学ニッチな学際領域であった腫瘍循環器学はいまや世界的に多くの研究がなされるようになり、各学会でステートメントやガイドラインが作成されています。本邦では、本連載が始まった後Onco-Cardiologyガイドラインが作成され、現在もトランスレーショナルリサーチや臨床研究がなされており、多くのエビデンスが明らかとなってきています。このような背景の元で、2025年10月に大阪千里ライフサイエンスセンターにおいて第8回日本腫瘍循環器学会学術集会(大会長 向井 幹夫)が開催されます。テーマを「不易流行* がんと循環器:古くて新しい関係」としており、本連載をお読みになられた方にはぜひ学術集会にご参加いただき、一緒に討論いたしましょう。*精選版 日本国語大辞典 第二版より:蕉風俳諧の理念の一つ。新しみを求めてたえず変化する流行性にこそ永遠に変わることのない不易の本質があり、不易と流行とは根元において一つであるとし、それは風雅の誠に根ざすものだとする。芭蕉自身が説いた例は見られないが向井 去来、服部 土芳らの門人たちの俳論において展開された。今回、連載の編集にご協力いただきました3名の先生、そして連載をお願いした腫瘍循環器医の先生方に御礼申し上げます。そして、本連載を読んでいただきました読者の皆さまと共に更なるご発展を祈念いたします。最後にCareNet.com連載について最初から担当いただき、適切なアドバイスをいただきましたケアネット社ならびに担当された土井様に深謝いたします。監修向井 幹夫(大阪がん循環器病予防センター 副所長)編集大倉 裕二(新潟県立がんセンター腫瘍循環器科 部長)草場 仁志(国家公務員共済組合連合会 浜の町病院 腫瘍内科部長)志賀 太郎(がん研究会有明病院腫瘍循環器・循環器内科 部長)向井 幹夫著者大倉 裕二、加藤 浩、北原 康行、草場 仁志、塩山 渉、志賀 太郎、鈴木 崇仁、竹村 弘司、田尻 和子、田中 善宏、田辺 裕子、津端 由佳里、深田 光敬、藤野 晋、向井 幹夫、森山 祥平、吉野 真樹(50音順、敬称略)1)向井幹夫ほか. がん診療医が不安に感じる心毒性ーCareNet.comのアンケート調査よりー. 第5回日本腫瘍循環器学会学術集会.2)志賀太郎ほか. JOCS創設7年目の今、腫瘍医、循環器医、それぞれの意識は〜インターネットを用いた「余命期間と侵襲的循環器治療」に対するアンケート調査結果〜. 第7回日本腫瘍循環器学会学術集会.3)Schmid P, et al. N Engl J Med. 2022;386:556-567.4)Piccart-Gebhart MJ et al. N Engl J Med. 2005;353:1659-1672.5)Minegishi S et al. Hypertension 2023;80:e123-e124.6)Mukai M et al. J Cardiol. 2018;72:89-93.講師紹介

検索結果 合計:224件 表示位置:1 - 20