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ワルファリン管理に対するPT-INR迅速検査の重要性が高まる

本邦では、心原性脳塞栓症をはじめとする脳塞栓症が増加している。それとともに、抗凝固薬の使用機会は増加している。抗凝固薬の中でもワルファリンは長年にわたり臨床で使われ、脳塞栓症の発症リスク減少のエビデンスを有する基本薬である。反面、その出血リスクなどから過小使用が問題となっており、ワルファリンのモニタリング指標であるPT-INRを至適治療域内へコントロールしなければならない。今回は、PT-INRを診療現場で簡便に測定できるPOCT(Point Of Care Testing)機器コアグチェックを用いた迅速測定の有用性について、製造元および販売元であるロシュ・ダイアグノスティックス株式会社、エーディア株式会社に聞いた。そこには、単なる検査に留まらないメリットがあった。PT-INRの測定環境と高まるニーズ2013年12月、日本循環器学会より「心房細動治療(薬物)ガイドライン(2013年改訂版)」が発表された。新ガイドラインでは、NOAC(Non vitamin K antagonist Oral Anticoagulants)を新たに追加し、CHADS2スコアに応じて推奨度とエビデンスが示されている。CHADS2スコア2点以上の場合は、ワルファリンが推奨されている。これらの患者は、塞栓リスク、出血リスクともに高いといわれ、きめ細かな服薬調整が必要となる。日本循環器学会や日本血栓止血学会も、ワルファリンを有効かつ安全に使うため、モニタリング指標PT-INRの測定を推奨しており、その重要性はますます高まっていくと考えられる。通常、院内に検査室を持たないクリニック等では、PT-INRを外注検査で測定しているケースが多い。外注検査の場合、検査結果が得られるまでに時間がかかる。そのため検査結果のフィードバックのために、患者に再来院させるという負担を強いることもある。簡単、短時間、どこでも測れるPT-INRそのようななか、コアグチェックは2007年PT-INRをその場で測定できるPOCT機器として発売された。一般医療機器としては、XSとXSプラスの2種類が承認されている。いずれの機種も、メモリー機能を備えており(XSで300件、XSプラスで2,000件)、患者の経時的な測定数値を確認することができる。また、電池での使用が可能なため、さまざまな状況や場所で使用できる。一般医療機器としては、コアグチェックXSとコアグチェックXSプラスがある。ほかに植込型補助人工心臓(非拍動流型)装着患者の血液凝固能自己測定用にXSパーソナルがある。(写真提供:ロシュ・ダイアグノスティック株式会社、エーディア株式会社)測定方法はいたって簡単である。専用のテストストリップを機器に挿入し、10μLの血液を滴下するだけでPT-INRを測定できる。検査結果は開始から約1分で得ることができる。操作は、専用のテストストリップを挿入、血液(10μL)をテストストリップに滴下すると、自動的に測定が始まる。検査結果は開始から約1分で得られる。コアグチェックは、キャリブレーションの手間がなく、試薬有効期限警告などエラー防止機能も備わっている。また、院内検査、外注検査との良好な相関が得られており、正確性についても高い評価を受けている。コアグチェックXS測定手技を動画で紹介7’05”(動画提供:エーディア株式会社)PT-INR迅速測定がもたらすメリットワルファリンの効果には、個人差があるといわれ、食事、併用薬、体調変化、生活状況でも変動する。たとえば外注検査の場合、検査結果が得られるまでに時間がかかるため、出血傾向などのリスクがあっても、速やかな投与量の調整が難しい。コアグチェックを用いたPOCTにより、受診時に適切な指示を出すことが可能となり、より厳密で質の高いワルファリン管理が期待できる。実際にコアグチェックを使用している医師はどう感じているのだろうか。使用者の意見には、“使いやすい”、“その場で結果がみられて便利”など、好評なものが多いようだ。また、電池使用でどこでも測定可能なので、最近では訪問診療で用いるケースも増えているという。さらに、医師が前回値と現在値を確認の上、診察してくれることで、患者のワルファリン服用への理解が深まり、アドヒアランスも向上するといった恩恵もあるという。アドヒアランス不良は重大な問題であり、そういう観点からも大きなメリットがあるようだ。加えて、その場で測定し結果を説明してくれることで、患者の医師への評判があがるケースもみられる。コアグチェック導入によりワルファリン管理が向上した実際に外来診療でコアグチェックを活用することにより、PT-INR管理が向上したエビデンスが報告されている1)。この試験は、大阪府内の外来クリニック8施設を対象に、POCT導入前後のTTR(Time in Therapeutic Range:治療域内時間)をレトロスペクティブに比較検討したものである。その結果、TTRは、導入前の51.9%から69.3%へと改善された。内訳をみると、INR治療域を上回った時間はPOCT導入前後で同程度、INR治療域を下回った時間はPOCT導入後有意に改善された。つまり、出血イベントの危険性を増やすことなく、血栓イベントの予防効果の改善が示された。画像を拡大する画像を拡大するPOCT導入後のTTRは、導入前に比べ有意に改善(51.9% vs. 69.3%, p

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Vol. 2 No. 3 慢性血栓塞栓性肺高血圧症に対するカテーテルインターベンションの現状と展望 バルーン肺動脈形成術は肺動脈血栓内膜摘除術の代替療法となりうるか?

川上 崇史 氏慶應義塾大学病院循環器内科はじめに慢性血栓塞栓性肺高血圧症(chronic thromboembolic pulmonary hypertension:CTEPH)とは、器質化血栓により広範囲の肺動脈が狭窄または閉塞した結果、肺高血圧症を合併した状態である。早期に適切な治療がなされない場合、予後不良であり、心不全から死に至るといわれている1)。当初Riedelらは、CTEPHの予後は、平均肺動脈圧が30mmHg、40mmHg、50mmHg以上と段階的に上昇するにつれて、5年生存率は50%、30%、10%へ低下すると報告した2)。現在、各種肺血管拡張剤が発達しており、上記より良好な成績であるとは思われるが、効果は限定的である。また、中枢型CTEPHに対しては、肺動脈血栓内膜摘除術(pulmonary endarterectomy:PEA)が根治術として確立されている3)。しかし、末梢型CTEPHに対する成績は中枢型CTEPHと比較して劣っており、末梢型のためにPEA適応外となる症例も少なからず存在する。2000年代半ばより、本邦において、薬物療法で十分な治療効果が得られず、PEA適応外である症例に対して、バルーン肺動脈形成術(balloon pulmonary angioplasty:BPA)が試みられ、有効性が報告された。以下、本邦から治療効果と安全性が確立したBPAについて概説する。BPAについて最初に複数例のCTEPHに対するBPAの有効性を報告したのは、2001年のFeinsteinらである4)。Feinsteinらは、末梢型や並存疾患によりPEA適応外である18例のCTEPHに対して、平均2.6セッションのBPAを施行し、平均36か月間、経過観察した。BPA後、平均肺動脈圧の有意な低下(43→33.7mmHg)とNYHA分類の改善(3.3→1.8)、6分間歩行距離の改善(191→454m)を認めたが、PEAと同様の合併症である再灌流性肺水腫が18例中11例(61.1%)に発症し、人工呼吸器管理が3例(16.6%)、BPA関連死が1例(5.6%)という成績であった。当時の旧式のバルーンカテーテルや0.035インチガイドワイヤーを用いて行われたBPAの初期報告は、上記のように有効性を認めたわけであるが、外科的根治術であるPEAの有効性には及ばなかった。当時、UCSDのJamiesonらのPEA周術期死亡率は4.4%であり、術後の平均肺動脈圧は、中枢型CTEPHで46から28mmHg、末梢型CTEPHで47から32mmHgまで改善することができた3)。このため、米国ではBPAはPEAに劣ると結論づけられた。当時、CTEPHの治療選択肢には、PEAと薬物療法があり、PEAの適応症例であれば、十分な改善を得ることができたが、PEA適応外の症例を薬物療法で治療してもあまり改善は得られなかった。結果として、年齢、並存疾患(全身麻酔ができない)、末梢型CTEPHなどでPEAが実施できない症例が割と多いこと、末梢病変の存在によりPEA後の残存肺高血圧症が10%程度あることが問題として残った。このような背景において、2000年代半ばより、本邦の施設でPEA適応外である重症CTEPHに対して、BPAが施行されるようになり、いくつかの報告がされた5-7)。なかでも、岡山医療センターのMizoguchi、Matsubaraらの報告は、68名のCTEPH患者に対して255セッションのBPAを施行し、最大7年間、経過観察している。結果、BPA後に平均肺動脈圧、肺血管抵抗の低下(各々45.4→24mmHg、942→327dyne sec/cm5)、心係数の増加(CI 2.2→3.2L/min/m2)、6分間歩行距離の延長(296→368m)、BNPの有意な改善(330→35pg/mL)を認めた。酸素投与量も減量(oxygen inhalation 3.0→1.3)することができ、68名中、26名の患者(38%)で在宅酸素療法を離脱することができた。また、96%の患者がWHO分類ⅠまたはⅡまで改善することができた。周術期死亡率は1.5%であり、再灌流性肺障害(再灌流性肺水腫と同義)を含めた呼吸器関連合併症を認めたが、症例経験の増加に伴い、合併症は有意に低下すると報告している。以上、2010年以降の本邦からの報告において、改良されたBPAは、Feinsteinらの初期のBPAと比べて、安全性・有効性ともに著しく改善したといえる。改善した理由としては、バルーンカテーテルの発達、0.014インチガイドワイヤーの使用、画像診断デバイス(IVUSなど)の積極的な使用などがあると思われる。手技の流れについては次項で述べる。BPAの実際術前、右心カテーテル検査・肺動脈造影を必ず行い、個々の患者における肺高血圧症の重症度と肺動脈病変の形態評価を行う。検査結果より、右房圧が高ければ、利尿剤を調節し、心拍出量が低値(CI 2.0L/min以下)であれば、術前からドブタミンの投与を行う。抗凝固療法については前日からワルファリンカリウムを中止している。重症例で軽度の肺出血が致死的となる可能性がある場合、コントロールしやすいヘパリンへ置換する方法もあると考える。ワルファリンは他剤との併用により容易に効果が増強するので、PT-INRの頻回の測定を要する。また、われわれはエポプロステノールを使用していない。理由はCTEPHにおいて肺動脈圧の低下作用が軽微であること、中心静脈カテーテル留置など手技が煩雑であること、抗凝集作用により出血を助長する可能性があると考えているからである。次に実際のBPA手技について述べる。手技は施設間でやや異なっていると思われる。しかし、0.014インチガイドワイヤーの使用、肺動脈主幹部へのロングシース挿入、積極的な画像診断デバイスの使用などは各施設である程度、共通していると思われる。以下、われわれの施設の手法を述べる。アプローチ部位の第1選択は、右内頸静脈である(図1)。理由はガイディングカテーテルのバックアップや操作性がよいことである。また、術後のスワンガンツカテーテル留置が迅速にできることも利点である。内頸静脈が使用できない場合は、大腿静脈アプローチを考慮する。まず、エコーガイド下に9Fr 8.5cmシース(スワンガンツカテーテル留置用シース)を右内頸静脈に挿入する。内頸静脈アプローチとはいえ、稀に気胸を合併することがある。気胸はBPA後の必要時にNPPVが使用できなくなるなど、術後管理を困難にするため、必ず避けねばならない。このため、われわれは100%、エコーガイド下穿刺を実践している。図1 右内頸静脈アプローチ画像を拡大する次に6Fr 55cmまたは70cmロングシースを9Frシース内へ挿入する。6Frロングシースの先端をJ型またはPigtail型にシェイピングし、0.035インチラジフォーカスガイドワイヤーに乗せて、治療対象となる左右肺動脈の近位部へ進める。その後、6Frロングシース内へ6Frガイディングカテーテルを入れ、治療標的となる肺動脈病変へエンゲージする。ガイディングカテーテルの選択には術者の好みもあると思うが、われわれは岡山医療センターと同様、柔らかい材質のMulti-purposeカテーテルを第1選択とすることが多い。その他、治療標的血管により、AL1カテーテルやJR4カテーテルを適宜、選択する。稀であるが、完全閉塞病変に対して、材質の固いガイディングカテーテルを使用することがある。ガイディングカテーテルのエンゲージ後、正面、左前斜位60度の2方向で選択造影を行い、0.014インチガイドワイヤーをバルーンかマイクロカテーテルサポート下に肺動脈病変を通過させる。肺動脈病変に対するワイヤリングは、PCIやEVTと違うと感じる術者が多い。これは、肺動脈の解剖が3次元的に多彩であること(細かい分岐が多い)、肺動脈は脆弱で破綻しやすいこと、肺動脈病変が他の動脈硬化病変と大きく異なること、呼吸変動の存在などに起因すると思われる。特にBPAにおいて、呼吸変動をコントロールすることはとても重要である。呼吸変動を上手に利用すれば、ガイドワイヤー通過の助けになるが、上手にコントロールできなければ、ガイドワイヤーによる肺血管障害(肺出血)が容易に起こると思われる。当院では、肺血管障害を最小限にするため、ガイドワイヤーの通過後、可能な限り、先端荷重の軽いコイルタイプのガイドワイヤーへ交換している。ガイドワイヤー通過後は、血管内超音波(IVUS)または光干渉断層法(OCT)で病変性状・範囲・血管径などを評価し、病変型に準じて、血管径の50~80%程度のサイズのバルーンカテーテルで拡張していく。なお、平均肺動脈圧40mmHg以上または心拍出量2.0L/min以下の症例の場合は、岡山医療センターの手法に倣って、上記より20%程度減じたバルーンサイズを選択している。なお、CTEPHの肺動脈病変は再狭窄することはほぼなく、バルーンサイズを減じても大きな問題になることはない。しかし、複数回治療後に平均肺動脈圧が低下した症例の場合は、適切なサイズのバルーンカテーテルで拡張することがさらなる改善のために必要である。次に術後管理について述べる。BPA後は原則として、スワンガンツカテーテルを留置し、集中治療室管理としている。また、術後、再灌流性肺障害の有無や程度を確認するために必ず胸部単純CTを施行する。これらは、術後の再灌流性肺障害の有無、重症度の評価をするために行っている。経過がよければ、翌日午前中に集中治療室から一般病室へ戻ることができ、午後には歩行可能となる。当院での104セッションのBPAにおいては、1セッションのみで3日間の集中治療室管理を要したが、残り103セッションの集中治療室の滞在期間は1日であった。なお、最近、NPPV装着は必須としていないが、常にスタンバイしておく必要がある。NPPV適応となるのは、コントロール困難な喀血・血痰、重度の酸素化不良例などである。以下に当院の症例を示す。症 例54歳、女性主 訴労作時呼吸困難既往歴特になし家族歴特になし現病歴2011年11月、労作時呼吸困難(WHO分類Ⅱ)を認めた。2012年1月、労作時呼吸困難が悪化したため(WHO分類Ⅲ)、近医を受診し、急性肺塞栓症の診断で緊急入院となった。抗凝固療法を行い、外来で経過観察していたが、2012年9月、労作時呼吸困難が再増悪したため(WHO分類Ⅲ)、同医を受診。心エコー図で肺高血圧症を指摘され、CTEPHと診断された。2012年11月、精査加療目的で当院を紹介受診した。右心カテーテル:右房圧9、肺動脈圧73/23/m41、心拍出量1.8、肺血管抵抗1156肺動脈造影:図2入院後経過タダラフィル20mg/日を内服開始したが、肺動脈圧66/24/m39、心拍出量1.8、肺血管抵抗967と有意な改善は認めなかった。本人・家族と相談し、BPAの方針となった。1回目BPA:左A9、A102回目BPA:右A6、A8、A103回目BPA:右A1、A2、A3、A4、A54回目BPA:左A1+2、A85回目BPA:左A4、A56回目BPA:右A1、A3、A6、A7、A8、A9治療後計6回のBPAで計20病変を治療後、症状は消失した(WHO分類Ⅰ)。また、右心カテーテルでは肺動脈圧34/11/m19、心拍出量3.1、肺血管抵抗316と著明な改善を認めた。図2 肺動脈造影画像を拡大するBPAの現状と今後の適応過去の報告において、FeinsteinらはBPA適応を末梢型CTEPHや併存疾患により全身麻酔が困難なPEA適応外のCTEPHとしてきた。これらは、本邦からの報告でも同様である。しかし、近年、BPAは有効性に加えて、安全性も大きく向上しており、当院では適応範囲を拡大して、以下をBPAの適応としている。中枢型CTEPH(原則としてinoperable)末梢型CTEPH高齢重篤な併存疾患を有するCTEPHPEA後の残存PH軽度から中等度のCTEPH上記の重篤な併存疾患とは、全身麻酔ができない症例のことであると考える。また、BPAの普及により、最も恩恵を受けたのは、PEA後の残存PHと軽度から中等度のCTEPH症例であろう。PEA後の残存PHに対して再度、PEAを行うのは実際、高リスクであり、BPAはよい選択肢である。また、軽度から中等度のCTEPHは、従来、薬物療法で経過観察されていた患者群であるが、これらの症例に対して、BPAを行うことによりさらにQOLが向上し、薬物療法の減量、在宅酸素療法の減量・中止が可能となることをしばしば経験する。以上より、カテーテル治療であるBPAは低侵襲であり、PEAより適応範囲が広いと思われる。しかし、BPAに適した症例、PEAに適した症例があり、個々の患者でよく検討することが重要である。CTEPHには、血管造影上、いくつかの特徴的な病変があることが報告されている8)。当院で治療した計476病変を検討した結果、病変により、BPAの手技成功率が異なることが確認された(図3)。当然であるが、カテーテル手術のため、閉塞病変の方が狭窄病変より治療が難しく、再灌流性肺障害を含めた合併症発生率も高率である。しかし、BPAで閉塞病変を開存させることにより、著しく血行動態や酸素化の改善を経験することが多々あり、個人的には、閉塞病変は可能な限り開存させるべきであると考える。図3 各種病変と手技成功率画像を拡大する一方、用手的に器質化血栓を摘除するPEAは、BPAと比べて、閉塞病変の治療が容易にできるかもしれない。また、器質化血栓が多量である場合、器質化血栓をバルーンで壁に圧着させるBPAより、完全に摘除するPEAの方が理にかなっているかもしれない。しかし、PEAでは到達が困難である肺動脈枝が存在することも事実である。いずれにしても、BPA、PEAの双方とも一長一短があり、適応決定に際しては、外科医・カテーテル治療医の両者で話し合うことが望ましいと考えられる。まとめ以上、近年、本邦で発展を遂げたインターベンションであるBPAについて概説した。従来、CTEPHに対する根治術はPEAだけであったため、BPAの発展は、CTEPH患者にとって大きな福音であると思われる。現在、経験のある施設で再灌流性肺障害を低減させる試みがなされ、合併症発症率は確実に減少している。しかし、安全性を重視するあまり、治療効果を減じるようでは、本末転倒といわざるをえない。低い合併症発生率と高い治療効果の双方を合わせもったBPAでなければならない。CTEPHの第一の治療ゴールは、平均肺動脈圧30mmHg以下を達成することである。これにより、CTEPH患者の予後を改善することができる。そして、第二の治療ゴールは、さらなる平均肺動脈圧の低下を目指して(20mmHg以下)、QOLの向上や酸素投与量の減量・中止、薬物療法の減量などを達成することである(図4)。われわれは可能な限り、平均肺動脈圧の低下を目指す「lower is better」を目標として、日々、CTEPHを治療している。また、BPAは本邦が世界をリードしている分野であり、今後、本邦から多くの知見が報告されなければならないと考える。図4 治療のゴール画像を拡大する最後にわれわれも発展途上であり、今後、多くの施設とBPAの発展について協力していければと思っている。文献1)Piazza G et al. Chronic thromboembolic pulmonary hypertension. New Engl J Med 2011;364: 351-360.2)Riedel M et al. Long term follow-up of patients with pulmonary thromboembolism: late prognosis and evolution of hemodynamic and respiratory data. Chest 1982; 81: 151-158.3)Thistlethwaite PA et al. Operative classification of thromboembolic disease determines outcome after pulmonary endarterectomy. J Thorac Cardiovasc Surg 2002; 124: 1203-1211.4)Feinstein JA et al. Balloon pulmonary angioplasty for treatment of chronic thromboembolic pulmonary hypertension. Circulation 2001; 103:10-13.5)Sugimura K et al. Percutaneous transluminal pulmonary angioplasty markedly improves pulmonary hemodynamics and long-term prognosis in patients with chronic thromboembolic pulmonary hypertension. Circ J 2012; 76: 485-488.6)Kataoka M et al. Percutaneous transluminal pulmonary angioplasty for the treatment of chronic thromboembolic pulmonary hypertension. Circ Cardiovasc Interv 2012; 5: 756-762.7)Mizoguchi H et al. Refined balloon pulmonary angioplasty for inoperable patients with chronic thromboembolic pulmonary hypertension. Circ Cardiovasc Interv 2012; 5: 748-755.8)Auger WR et al. Chronic major-vessel thromboembolic pulmonary artery obstruction:appearance at angiography. Radiology 1992;182: 393-398.

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肺塞栓症への血栓溶解療法、全死因死亡は減少、大出血は増大/JAMA

 肺塞栓症に対する血栓溶解療法について、全死因死亡は減少するが、大出血および頭蓋内出血(ICH)は増大することが、メタ解析の結果、明らかにされた。米国・マウントサイナイヘルスシステムの聖ルーク-ルーズベルトがん病院のSaurav Chatterjee氏らが、16試験2,115例のデータを分析し報告した。一部の肺塞栓症患者に対して血栓溶解療法は有益である可能性が示されていたが、これまで行われた従来抗凝固療法と比較した生存の改善に関する解析は、統計的検出力が不十分で関連性は確認されていなかった。JAMA誌2014年6月18日号掲載の報告より。16試験2,115例について血栓溶解療法vs. 抗凝固療法を評価 研究グループは、急性肺塞栓症患者を対象に、抗凝固療法と比較した血栓溶解療法の死亡率における有益性および出血リスクを調べた。被験者には、中リスクの肺塞栓症(右室不全を有するが血行動態安定)患者も対象に含めた。 血栓溶解療法と抗凝固療法を比較した無作為化試験を適格条件に、PubMed、Cochrane Library、EMBASE、EBSCO、Web of Science、CINAHLの各データベースを検索(各発刊~2014年4月10日まで)。16試験2,115例を特定した。そのうち8試験1,775例は中リスク肺塞栓症(血行動態安定で右室不全を有する)患者だった。 2名のレビュワーがそれぞれ試験データから患者数、患者特性、追跡期間、アウトカムのデータを抽出し検討した。 主要アウトカムは、全死因死亡と大出血で、副次アウトカムは、肺塞栓症再発およびICHのリスクとした。固定効果モデルを用いて、Peto法によりオッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)を求め関連を評価した。血栓溶解療法、全死因死亡は減少、大出血は増大 結果、血栓溶解療法は、全死因死亡を有意に減少した。血栓溶解療法群の全死因死亡率は2.17%(23/1,061例)、抗凝固療法群は3.89%(41/1,054例)で、ORは0.53(95%CI:0.32~0.88)、治療必要数(NNT)は59例であった。 一方で大出血リスクは、血栓溶解療法群での有意な上昇が認められた。同群の大出血発生率は9.24%(98/1,061例)、抗凝固療法群は3.42%(36/1,054例)で、ORは2.73(95%CI:1.91~3.91)、有害必要数(NNH)は18例だった。ただし大出血リスクは、65歳以下の患者では有意な増大はみられなかった(OR:1.25、95%CI:0.50~3.14)。 また、血栓溶解療法群ではICH増大との有意な関連が認められた。発生率は1.46%(15/1,024例)vs. 0.19%(2/1,019例)、ORは4.63(95%CI:1.78~12.04)、NNHは78例だった。 肺塞栓症の再発は、血栓溶解療法群において有意な減少が認められた。1.17%(12/1,024例)vs. 3.04%(31/1,019例)、ORは0.40(95%CI:0.22~0.74)、NNTは54例だった。 中リスク肺塞栓患者の分析においても、全死因死亡は減少(OR:0.48、95%CI:0.25~0.92)、一方で大出血イベントについては増大が認められた(同:3.19、2.07~4.92)。 なお著者は今回の結果について、右室不全を有さない血行動態安定の肺塞栓症患者には適用できない可能性があるとしている。

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中等度リスク肺塞栓症への血栓溶解療法の臨床転帰は?/NEJM

 中等度リスクの肺塞栓症に対する血栓溶解療法は血行動態の代償不全を防止するが、大出血や脳卒中のリスクを増大させることが、フランス・ジョルジュ・ポンピドゥー・ヨーロッパ病院のGuy Meyer氏らが行ったPEITHO試験で示された。これまでの肺塞栓症の無作為化臨床試験では、血栓溶解療法による血行動態の迅速な改善効果は示されているものの、とくに発症時に血行動態の不安定がみられない患者では、臨床転帰への影響は確認されていなかったという。NEJM誌2014年4月10日号掲載の報告。血栓溶解薬の上乗せ効果をプラセボ対照無作為化試験で評価 PEITHO(Pulmonary Embolism Thrombolysis)試験は、正常血圧の急性肺塞栓症で、不良な転帰のリスクが中等度の患者に対する、ヘパリンによる標準的な抗凝固療法とテネクテプラーゼによる血栓溶解療法の併用の、臨床的有効性および安全性を評価する多施設共同二重盲検プラセボ対照無作為化試験である。 対象は、年齢18歳以上で、右室機能不全(心電図またはスパイラルCT)とともに心筋梗塞(トロポニンIまたはTが陽性)が確証された発症後15日以内の患者とした。これらの患者が、テネクテプラーゼ+ヘパリンを投与する群またはプラセボ+ヘパリンを投与する群に無作為に割り付けられた。 主要評価項目は、無作為割り付け後7日以内の死亡または血行動態の代償不全(または虚脱)とした。安全性に関する主要評価項目は,無作為化割り付け後7日以内の頭蓋外大出血と、虚血性または出血性脳卒中の発症とした。主要評価項目は有意に良好だが、死亡率には差はない 2007年11月~2012年7月までに、13ヵ国76施設から1,006例が登録され、テネクテプラーゼ群に506例、プラセボ群には500例が割り付けられた。プラセボ群の1例を除く1,005例がintention-to-treat解析の対象となった。 ベースラインの年齢中央値は両群とも70.0歳、男性がテネクテプラーゼ群47.8%、プラセボ群46.3%、平均体重はそれぞれ82.5kg、82.6kg、平均収縮期血圧は130.8mmHg、131.3mmHg、心拍数は94.5/分、92.3/分、呼吸数は21.8/分、21.6/分であった。 死亡または血行動態の代償不全の発生率は、テネクテプラーゼ群が2.6%(13/506例)であり、プラセボ群の5.6%(28/499例)に比べ有意に低かった(オッズ比:0.44、95%信頼区間:0.23~0.87、p=0.02)。無作為割り付けから7日までに、テネクテプラーゼ群の6例(1.2%)およびプラセボ群の9例(1.8%)が死亡した(p=0.42)。 頭蓋外出血の発生率は、テネクテプラーゼ群が6.3%(32例)と、プラセボ群の1.2%(6例)に比べ有意に高かった(p<0.001)。脳卒中の発生率は、テネクテプラーゼ群が2.4%(12例、そのうち10例が出血性)であり、プラセボ群の0.2%(1例、出血性)に比し有意に高値を示した(p=0.003)。30日までに、テネクテプラーゼ群の12例(2.4%)およびプラセボ群の16例(3.2%)が死亡した(p=0.42)。 著者は、「中等度リスクの肺塞栓症患者では、テネクテプラーゼによる血栓溶解療法は、血行動態の代償不全を抑制したが、大出血や脳卒中のリスクを増大させた」とまとめ、「右室機能障害がみられ、心筋トロポニン検査陽性で、血行動態が安定した肺塞栓症に対し、血栓溶解療法を考慮する場合は十分に注意を払う必要がある」と指摘している。

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統合失調症患者の突然死、その主な原因は

 統合失調症と突然死との関連は知られているが、剖検データが不足しており、死亡診断書や原因ルート評価を用いた先行研究では、大半の突然死について解明がなされていなかった。一方、住民ベースの突然の“自然死”の原因に関する事実分析データでは、最も共通した要因は冠動脈疾患(CAD)であることが明らかになっていた。ルーマニア・トランシルヴァニア大学のPetru Ifteni氏らは、精神科病院に入院中の統合失調症患者の突然死について、その発生率や原因を調べた。Schizophrenia Research誌オンライン版2014年4月3日号の掲載報告。 研究グループは、1989~2013年の精神科教育病院に入院した連続患者を対象に検討を行い、統合失調症患者の突然死の原因について剖検所見により特定した。 主な結果は以下のとおり。 ・被験者は、統合失調症連続入院患者7,189例であった。・医療記録をレビューした結果、57例(0.79%)の突然死を特定した。そのうち51例(89.5%、55.9±9.4歳、男性56.9%)の患者について剖検が行われていた。・剖検データに基づく分析の結果、突然死の原因は、ほとんどが心血管疾患(62.8%)であることが判明した。また特異的要因としては、心筋梗塞(52.9%)、肺炎(11.8%)、気道閉塞(7.8%)、心筋炎(5.9%)、拡張型心筋症、心膜血腫、肺塞栓症、出血性脳卒中、脳腫瘍(それぞれ2.0%)などであった。・突然死のうち6例(11.8%)は原因が不明であった。しかしそのうち3例は、剖検で冠動脈硬化症の所見がみられたことが記録されていた。・心筋梗塞の有無にかかわらず、患者の年齢、性別、喫煙歴、BMI、精神科治療は類似していた(p≧0.10)。 以上の結果より、統合失調症入院患者の突然死発生率は0.8%で一般住民における発生率よりもかなり多いことや、死因としては急性心筋梗塞が大半(52.9%)を占めていたことなどが明らかとなった。結果を踏まえて著者は、「統合失調症成人患者について、CADに対する速やかな認識と治療を臨床的優先事項としなければならない」とまとめている。関連医療ニュース 抗精神病薬の高用量投与で心血管イベントリスク上昇:横浜市立大 統合失調症患者、合併症別の死亡率を調査 救急搬送患者に対する抗精神病薬の使用状況は

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高齢者の肺塞栓症除外には年齢補正Dダイマー値が有用/JAMA

 血漿Dダイマー値を用いた急性肺塞栓症(PE)患者の除外診断について、固定指標値500μg/Lをカットオフ値として用いるよりも、年齢補正Dダイマー値を用いたほうが有用であることが、スイス・ジュネーヴ大学病院のMarc Righini氏らによる多施設共同前向き試験ADJUSTの結果、示された。Dダイマー測定は、PEが臨床的に疑われる患者において重要な診断戦略として位置づけられている。しかし、高齢者の診断ではその有用性が限定的で、年齢補正の必要性が提言されていた。JAMA誌2014年3月19日号掲載の報告より。19施設のERでPE診断戦略の精度を検討 ADJUST試験は、2010年1月1日から2013年2月28日にかけて、ベルギー、フランス、オランダ、スイスの19の医療施設で、治療アウトカムを前向きに評価して行われた。試験施設の救急部門を受診したPEが臨床的に疑われた全連続外来患者を、逐次診断戦略で評価した。診断はPEに関する簡易改訂ジュネーブ・スコアまたは2-level Wellsスコアを用いて行われ、臨床的可能性が高い患者についてはCT肺動脈造影[CTPA]が、低い/中等度の患者については高感度Dダイマー測定が行われ、全患者を形式的に3ヵ月間追跡した。 主要アウトカムは、診断戦略の失敗で、3ヵ月の追跡期間中に年齢補正のDダイマーカットオフ値に基づき抗凝固療法が行われず血栓塞栓症を発生した場合と定義した。75歳以上における年齢補正Dダイマー値による除外患者の割合は6.4%から29.7%に上昇 PEが疑われた患者3,346例が対象に含まれ、そのうちPE発生率は19%であった。 PEの臨床的可能性が低い/中等度であった2,898例のうち、Dダイマー値500μg/L未満の患者が817例(28.2%、95%信頼区間[CI]:26.6~29.9%)、同500μg/L以上だが年齢補正Dダイマーカットオフ値未満であった患者(年齢補正群)は337例(11.6%、同:10.5~12.9%)であった。 年齢補正群の3ヵ月間の診断戦略失敗率は、患者331例につき1例(0.3%、95%CI:0.1~1.7%)であった。 また75歳以上の患者766例のうち、673例がPEの臨床的可能性が低い/中等度の患者であったが、Dダイマー値の従来カットオフ値500μg/Lに年齢を加味することで、除外患者の割合は、673例のうち43例(6.4%、95%CI:4.8~8.5%)から200例(29.7%、同:26.4~33.3%)に上昇した。ほかの偽陰性所見はとくに伴わなかった。

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「案ずるより産むが易し」とはいうけれど・・・(コメンテーター:後藤 信哉 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(183)より-

女性にとって出産は人生の一大イベントである。母子ともに無事であることは社会全体の一致した願いである。 しかし、「願い」と「事実」の間には解離がある。科学は感情とは無関係に事実を明らかにする。心筋梗塞、脳梗塞、静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症/肺血栓塞栓症)は前触れなしに突然発症する。心筋梗塞、肺塞栓症であれば発症後1時間後に死亡しても不思議はない。脳梗塞になれば発症後速やかに生涯に渡る麻痺という運命が決まってしまう。突然発症し、不可逆的な血栓イベントを避けたい気持ちは医師、患者、社会が共有している。 しかし、今回の論文は、出産後3ヵ月は血栓イベントリスクが高いことを容赦のない事実として示した。初回出産女性168万7,930例で出産後1年6ヵ月までの間に248例の脳卒中、47例の心筋梗塞、720例の静脈血栓塞栓症が発症したことは米国における事実である。イベントの多くは出産後6週以内に起こった。 出産という大事を成し遂げた母体をいたわる気持ちは世界共通であろう。もともと血栓イベントが起こり難い若い女性が脳卒中、心筋梗塞、静脈血栓塞栓症などを発症した場合、近親はどこにも向けられない怒りを感じることも理解できる。これらのイベント発症リスクは絶対値としては大きくない。 しかし、少数例といえども、適切な医療介入の元にあっても不幸なイベントが起こり得ることを事実として、感情とは切り離して取り扱う米国人の姿勢には学ぶことが多い。血栓イベントであるから「抗血栓薬」で予防できると考える人もいるかも知れない。しかし、一般論として重篤な出血イベントを年間数%惹起する「抗血栓薬」を「妊婦」という集団に一律に介入することはよいとは言えない。 滅多に起こらないけれど、起こると破局的となるイベントを「出血」という不可避の副作用を有する薬剤により予防するためには、「血栓イベント」リスクの著しく高い個人を同定する「個別化医療」の構成論的論理が必要である。 現時点では「患者集団の血栓イベントリスクを低減できる」介入手段はある。しかし、その介入素手段には「出血リスクの増加」という副作用がある。 血栓イベントは妊婦には滅多に起こることがなく、血栓イベントを起こす個人を同定する「個別化医療」の論理は確立されていない。自分の近親者が出産後の幸せな時期に血栓イベントにより急変すればどこにも向けようのない怒りと悲しみの感情が生まれることは理解できるが、科学は感情とはかかわりなく低い確率ではあるが不幸が現実として起こっていることを客観的に示している。われわれは、現実を数値として受け入れるしかない。

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突然の呼吸困難で死亡した肺梗塞のケース

呼吸器最終判決判例時報 1670号58-65頁概要突然呼吸困難、意識障害、チアノーゼを発症した33歳女性。胸腹部X線写真、心電図、頭部CTスキャンなどが施行されたが、明らかな異常はなく、経過観察のため入院となった。ところが入院後も状態は改善せず、血圧低下(70~80mmHg台)、努力様呼吸、低酸素血症などが継続した。初診から約20時間後の深夜になってはじめて肺塞栓症の疑いがもたれ、肺血流シンチグラフィーにより確診に至った。ただちに抗凝固剤や血栓溶解薬の投与が開始されたが、やがて危篤状態となり、初診から約27時間後に死亡に至った。詳細な経過患者情報33歳女性経過1992年9月6日06:40寝床で呼吸困難、意識障害が出現した33歳女性。07:20総合病院内科を受診し、当直医に全身冷汗、顔色不良、胸の苦しさを訴えた。初診時チアノーゼ、喘鳴はなく、血圧、脈拍、呼吸数、体温は正常。胸腹部X線写真、心電図に特別な異常なし。血管確保、制吐薬の静脈注射を行った。09:00日直医の診察。血圧82/54mmHg、脈拍88、中枢神経系の異常を疑ったが頭部CTスキャン異常なし。諸検査の結果から現時点で病名の特定は困難と感じ、当面経過観察とした。12:30意識は清明だが、吐き気、呼吸困難感が持続。動脈血ガスではpH 7.387、pO2 67.1、pCO2 33.1と低酸素血症があり、酸素吸入開始、呼吸心拍監視装置を装着。15:30一時的に症状は軽減。血圧82/54mmHg、意識は清明で頭重感があり、吐き気なし。心電図の異常もみられなかったが、意識障害と吐き気から脳炎などの症状を疑い、濃グリセリン(商品名:グリセオール〔脳圧降下薬〕)投与開始。その後もしばらく血圧は少し低いものの(80-90)、小康状態にあると判断された。21:15ナースコールがあり、呼吸微弱状態で発見され、頬をたたくなどして呼吸再開。血圧74/68mmHg、発語なし、尿失禁状態。しばらくして呼吸は落ち着く。以後は15分おきに経過観察が行われた。9月7日00:00苦しいとの訴えあり。心拍数が一時的に60台にまで低下。血圧74/68mmHg、昇圧剤の投与開始。00:40全身硬直性けいれん、一時的な呼吸停止。01:00動脈血ガスpH 7.351、pO2 59、pCO2 27、この時点で肺塞栓症を疑い、循環器専門医の応援を要請。02:30循環器医師来院。動脈血ガスpH 7.373、pO2 85.7、pCO2 30、最高血圧60-70、酸素供給を増量し、抗凝固剤-ヘパリンナトリウム(同:ヘパリン)、血栓溶解薬-アルテプラーゼ(同:グルトパ)投与開始。03:15緊急でX線技師を召集し、肺シンチ検査を実施、右上肺1/3、左上下肺各1/3に血流欠損がみられ、肺塞栓症と確定診断された。03:25検査中に全身硬直があり、危篤状態。救急蘇生が行われた。09:10死亡確認。当事者の主張患者側(原告)の主張初診時から約5時間の診療情報を総合して、肺塞栓症を含む肺循環障害を疑い、FDP検査や肺シンチ検査を行うなどして肺塞栓症であることを診断する注意義務があったにもかかわらずこれを怠った。そして、速やかに血栓溶解薬や抗凝固剤の投与などの治療を実施すべき注意義務も果たさなかった(裁判ではこの時点で肺塞栓症を疑わなければならないと判断)。もし適切な診断・治療が行われていれば、救命することが可能であった。病院側(被告)の主張肺塞栓症は特異的所見に乏しく、実践的医療の場において診断が困難とされている病気であり、この疾患の専門医でない担当医師にとって確定診断をすることは当時の医療水準からいって困難である。ショックを伴う急性肺塞栓症の予後は一般的に悪いとされており、もし遅滞なく治療が行われていたとしても救命できた可能性は低い。裁判所の判断1.病院受診前からショック状態を呈し入院後も低血圧が持続していたこと、動脈血ガスで低酸素血症および低炭酸ガス血症を呈したこと、胸部X線写真で異常所見がなかったことから、9月6日13:00の時点で肺塞栓症を含む肺循環障害を疑うことは十分可能であった(患者側の主張を採用)2.早期に診断され、ある程度の救命可能性はあったとしても、救命し得た蓋然性があるとまでは認められない3.死亡率が高く救命が比較的困難である場合であっても、救命についてある程度の期待がもたれ臨床医学上有用とされる治療方法がある以上、その時点の医療水準に照らしてもっとも期待される治療を受ける救命期待権があるが、本件では診断・治療の遅れにより救命期待権が侵害された原告側合計8,500万円の請求に対し、550万円の判決考察まずこの症例の背景について述べますと、死亡された女性はこの病院に勤務していた看護師であり、入院したのは日曜日の早朝、そして、直接治療を担当して「肺塞栓症の診断・治療が遅れた」と訴えられたのは、同病院の内科部長でした。いわば身内同士の争いであり、死亡という最悪の結果を招いたことに納得できなかったため裁判にまで発展したのではないかと思います。全経過を通じて、医療者側が不誠実な対応をとったとか、手抜きをしたというような印象はなく、それどころか、同僚を助けるべく看護師は頻回に訪室し、容態が悪くなった時には、深夜を厭わずに循環器科の医師や肺シンチを行うためのX線技師が駆けつけたりしています。確かに後方視的にみれば、裁判所の判断である発症5時間後の時点で肺塞栓症を疑うことはできますが、実際の臨床場面では相当難しかったのではないかと思います。手短にいえば、このときの血液ガス所見pH 7.387、pO2 67.1、pCO2 33.1と呼吸困難感をもって肺塞栓症を疑い(胸部X線、心電図は異常なし)、休日でもただちに肺シンチ検査を進めよ、ということになると思いますが、呼吸器専門医師ならばまだしも、一般内科医にとっては難しい判断ではないでしょうか。しかも、問題の発症5時間後に呼吸状態が悪化して酸素投与が開始された後、一時的ではありますが容態が回復して意識も清明になり、担当医は「小康状態」と判断して帰宅しました。その約2時間後から進行性に病状は悪化し、対応がすべて後手後手に回ったという経過です。裁判ではこの点について、「内科部長という役職は、(専門外ではあっても)必然的に肺塞栓症について一般の医療水準以上の臨床的知見を相当程度高く有することが期待される地位である」とし、「内科部長」である以上、専門外であることは免責の理由にはならないと判断されました。このような判決に対して、先生方にもいろいろと思うところがおありになろうかと思いますが、われわれ医師の常識と裁判の結果とは乖離してしまうケースがしばしばあると思います。本件のように医師の側が誠心誠意尽くしたと思っても、結果が悪いと思わぬ責任問題に発展してしまうということです。この判例から得られる教訓は、「呼吸困難と低酸素血症があり、なかなか診断がつかない時には肺塞栓症を念頭に置き、できうる限り肺シンチを行う。もし肺シンチが施行できなければ、施行可能な施設へ転送する」ということになろうかと思います。呼吸器

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薬剤投与後の肝機能障害を見逃し、過誤と判断されたケース

消化器最終判決判例時報 1645号82-90頁概要回転性の眩暈を主訴として神経内科外来を受診し、脳血管障害と診断された69歳男性。トラピジル(商品名:ロコルナール)、チクロピジン(同:パナルジン)を処方されたところ、約1ヵ月後に感冒気味となり、発熱、食欲低下、胃部不快感などが出現、血液検査でGOT 660、GPT 1,058と高値を示し、急性肝炎と診断され入院となった。入院後速やかに肝機能は回復したが、急性肝炎の原因が薬剤によるものかどうかをめぐって訴訟に発展した。詳細な経過患者情報69歳男性経過1995年4月16日朝歯磨きの最中に回転性眩暈を自覚し、A総合病院神経内科を受診した。明らかな神経学的異常所見や自覚症状はなかったが、頭部MRI、頸部MRAにてラクナ型梗塞が発見されたことから、脳血管障害と診断された(4月17日に行われた血液検査ではGOT 21、GPT 14と正常範囲内であり、肝臓に関する既往症はないが、かなりの大酒家であった)。6月7日トラピジル、チクロピジンを4週間分処方した。7月5日再診時に神経症状・自覚症状はなく、トラピジル、チクロピジンを4週間分再度処方した。7月7日頃~感冒気味で発熱し、食欲低下、胃部不快感、上腹部痛などを認めた。7月12日内科外来受診。念のために行った血液検査で、GOT 660、GPT 1,058と異常高値であることがわかり、急性肝炎と診断された。7月15日~9月1日入院、肝機能は正常化した。なお、入院中に施行した血液検査で、B型肝炎・C型肝炎ウイルスは陰性、IgE高値。薬剤リンパ球刺激検査(LST)では、トラピジルで陽性反応を示した。当事者の主張患者側(原告)の主張1.急性肝炎の原因本件薬剤以外に肝機能に異常をもたらすような薬は服用しておらず、そのような病歴もない。また、薬剤中止後速やかに肝機能は改善し、薬剤リンパ球刺激検査でトラピジルが陽性を示し、担当医らも薬剤が原因と考えざるを得ないとしている。したがって、急性肝炎の原因は、担当医師が処方したトラピジル、チクロピジン、またはそれらの複合によるものである2.投薬過誤ついて原告の症状は脳梗塞や脳血栓症ではなく、小さな脳血栓症の痕跡があったといっても、これは高齢者のほとんどにみられる現象で各別問題はなかったので、薬剤を処方する必要性はなかった3.経過観察義務違反について本件薬剤の医薬品取扱説明書には、副作用として「ときにGOT、GPTなどの上昇があらわれることがあるので、観察を十分に行い異常が認められる場合には投与を中止すること」と明記されているにもかかわらず、漫然と4週間分を処方し、その間の肝機能検査、血液検査などの経過観察を怠った病院側(被告)の主張1.急性肝炎の原因GOT、GPTの経時的変動をみてみると、本件薬剤の服用を続けていた時点ですでに回復期に入っていたこと、薬剤服用中に解熱していたこと、本件の肝炎は原因不明のウイルス性肝炎である可能性は否定できず、また、1日焼酎を1/2瓶飲むほどであったのでアルコール性肝障害の素質があったことも影響を与えている。以上から、本件急性肝炎が本件薬剤に起因するとはいえない2.投薬過誤ついて初診時の症状である回転性眩暈は、小梗塞によるものと考えられ、その治療としては再発の防止が最優先されるのだから、厚生省告示によって1回30日分処方可能な本件薬剤を処方したことは当然である。また、初診時の肝機能は正常であったので、その後の急性肝炎を予見することは不可能であった3.経過観察義務違反について処方した薬剤に副作用が起こるという危険があるからといって、何らの具体的な異常所見もないのに血液検査や肝機能検査を行うことはない裁判所の判断1. 急性肝炎の原因原告には本件薬剤以外に肝機能障害をもたらすような服薬や罹病はなく、そのような既往症もなかったこと、本件薬剤中止後まもなく肝機能が正常に戻ったこと、薬剤リンパ球刺激試験(LST)の結果トラピジルで陽性反応が出たこと、アレルギー性疾患で増加するIgEが高値であったことなどの理由から、トラピジルが単独で、またはトラピジルとチクロピジンが複合的に作用して急性肝炎を惹起したと推認するのが自然かつ合理的である。病院側は原因不明のウイルス性肝炎の可能性を主張するが、そもそもウイルス性肝炎自体を疑うに足る的確な証拠がまったくない。アルコール性肝障害についても、飲酒歴が急性肝炎の発症に何らかの影響を与えた可能性は必ずしも否定できないが、そのことのみをもって薬剤性肝炎を覆すことはできない。2. 投薬過誤ついて原告の症状は比較的軽症であったので、本件薬剤の投与が必要かつもっとも適切であったかどうかは若干の疑問が残るが、本件薬剤の投与が禁止されるべき特段の事情は認められなかったので、投薬上の過失はない。3. 経過観察義務違反について医師は少なくとも医薬品の能書に記載された使用上の注意事項を遵守するべき義務がある。本件薬剤の投与によって肝炎に罹患したこと自体はやむを得ないが、7月5日の2回目の投薬時に簡単な血液検査をしていれば、急性肝炎に罹患したこと、またはそのおそれのあることを早期(少なくとも1週間程度早期)に認識予見することができ、薬剤の投与が停止され、適切な治療によって急性肝炎をより軽い症状にとどめ、48日にも及ぶ入院を免れさせることができた。原告側合計102万円の請求に対し、20万円の判決考察この裁判では、判決の金額自体は20万円と低額でしたが、訴訟にまで至った経過がやや特殊でした。判決文には、「病院側は入院当時、「急性肝炎は薬剤が原因である」と認めていたにもかかわらず、裁判提起の少し前から「急性肝炎の発症原因としてはあらゆる可能性が想定でき、とくにウイルス性肝炎であることを否定できないから結局発症原因は不明だ」と強調し始めたものであり、そのような対応にもっとも強い不満を抱いて裁判を提起したものである」と記載されました。この病院側の主張は、けっして間違いとはいえませんが、本件の経過(薬剤を中止したら肝機能が正常化したこと、トラピジルのLSTが陽性でIgEが高値であったこと)などをみれば、ほとんどの先生方は薬剤性肝障害と診断されるのではないかと思います。にもかかわらず、「発症原因は不明」と強調されたのは不可解であるばかりか、患者さんが怒るのも無理はないという気がします。結局のところ、最初から「薬剤性でした」として変更しなければ、もしかすると裁判にまで発展しなかったのかも知れません。もう1点、この裁判では重要なポイントがあります。それは、新規の薬剤を投与した場合には、定期的に副作用のチェック(血液検査)を行わないと、医療過誤を問われるリスクがあるという、医学的というよりもむしろ社会的な問題です。本件では、トラピジル、チクロピジンを投与した1ヵ月後の時点で血液検査を行わなかったことが、医療過誤とされました。病院側の主張のように、「何らの具体的な異常所見もないのに(薬剤開始後定期的に)血液検査や肝機能検査を行うことはない」というのはむしろ常識的な考え方であり、これまでの外来では、「この薬を飲んだ後に何か症状が出現した場合にはすぐに受診しなさい」という説明で十分であったと思います。しかも、頻回に血液検査を行うと医療費の高騰につながるばかりか、保険審査で査定されてしまうことすら考えられますが、今回の判決によって、薬剤投与後何も症状がなくても定期的に血液検査を行う義務のあることが示されました。なお、抗血小板剤の中でもチクロピジンには、以前から重篤な副作用による死亡例が報告されていて、薬剤添付文書には、「投与開始後2ヵ月は原則として2週間に1回の血液検査をしなさい」となっていますので、とくに注意が必要です。以下に概要を提示します。チクロピジン(パナルジン®)の副作用Kupfer Y, et al. New Engl J Med.1997; 337: 1245.3週間前に冠動脈にステントを入れ、チクロピジンとアスピリンを服用していた47歳女性。48時間前からの意識障害、黄疸、嘔気を主訴に入院、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)と診断された。入院後48時間で血小板数が87,000から2,000に激減し、輸血・血漿交換にもかかわらず死亡した。吉田道明、ほか.内科.1996; 77: 776.静脈血栓症と肺塞栓症のため、42日前からチクロピジンを服用していた83歳男性。42日目の血算で好中球が30/mm3と激減したため、ただちにチクロピジンを中止し、G-CSFなどを投与したが血小板も減少し、投与中止6日目に死亡した。チクロピジンの薬剤添付文書には、警告として「血小板減少性紫斑病(TTP)、無顆粒球症、重篤な肝障害などの重大な副作用が主に投与開始後2ヵ月以内に発現し、死亡に至る例も報告されている。投与開始後2ヵ月間は、とくに前記副作用の初期症状の発現に十分に留意し、原則として2週に1回、血球算定、肝機能検査を行い、副作用の発現が認められた場合にはただちに中止し、適切な処置を行う。投与中は定期的に血液検査を行い、副作用の発現に注意する」と明記されています。消化器

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人工股関節と膝関節置換術、肺塞栓症発生率はどちらが高いか?

 これまで、米国における、待機的初回人工股関節/膝関節置換術における入院中の肺塞栓症発生率は不明であった。以前の研究ではがん、外傷または再置換術の患者が含まれていたためである。今回、米国・メリーランド大学メディカルセンターのUsman Zahir氏らが行った後ろ向きコホート研究の結果、膝関節置換術は股関節置換術より入院中の肺塞栓症の発生率および発生リスクが高いことが明らかとなった。とくに複数関節置換術でのリスクが最も高く、死亡と関連していたという。Journal of Bone & Joint Surgery誌2013年11月20日の掲載報告。 研究グループは、1998~2009年の「医療費および利用状況に関する調査プロジェクト:入院患者サンプルデータベース(Healthcare Cost and Utilization Project Nationwide Inpatient Sample)」を用い、後ろ向きコホート研究を行った。 解析対象は、待機的初回人工股関節または膝関節置換術を受けた60歳以上の患者504万4,403例で、主要評価項目は入院中の肺塞栓症、副次的評価項目は死亡率とした。 主な結果は以下のとおり。・対象患者は、片側人工膝関節置換術を受けた人が66%を占め、複数関節置換術(両側膝関節、両側股関節、または膝関節と股関節)を受けたのは5%未満であった。・肺塞栓症の全発生率は0.358%(95%信頼区間[CI]:0.338~0.378)であった。 ・肺塞栓症発生率は手術の種類によって異なり、複数関節置換術が最も高く(0.777%、95%CI:0.677~0.876)、次いで膝関節置換術(0.400%、95%CI:0.377~0.423)、最も低いのが股関節置換術(0.201%、95%CI:0.179~0.223)であった。・複数関節置換術施行患者の肺塞栓症発症の補正後オッズ比は、股関節置換術施行患者の3.89倍であった。~進化するnon cancer pain治療を考える~ 「慢性疼痛診療プラクティス」連載中!・知っておいて損はない運動器慢性痛の知識・身体の痛みは心の痛みで増幅される。知っておいて損はない痛みの知識・脊椎疾患にみる慢性疼痛 脊髄障害性疼痛/Pain Drawingを治療に応用する

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関節への培養幹細胞注入は安全

 整形外科領域において、関節病変に対する幹細胞治療が期待されている。筋骨格系障害は非致命的な疾患であるため、幹細胞治療は安全性が必要条件となるが、オランダ・エラスムス大学医療センターのC.M.M. Peeters氏らはシステマティックレビューにより、関節への培養幹細胞注入は安全であることを報告した。潜在的な有害事象に十分注意しながら、幹細胞の関節内注入療法の開発を続けることは妥当と考えられる、と結論している。Osteoarthritis and Cartilage誌2013年10月号(オンライン版2013年7月4日号)の掲載報告。 システマティックレビューは、PubMed、EMBASE、Web of ScienceおよびCINAHLを用い、2013年2月までに発表された培養増殖幹細胞の関節内注入療法に関する論文を検索して行った。 条件を満たした論文は8本特定され、合計844例の有害事象を解析した(平均追跡期間21ヵ月間)。 主な結果は以下のとおり。・すべての研究で、軟骨修復および変形性関節症の治療のために自家骨髄間葉系幹細胞が使用されていた。・重篤な有害事象は4例報告された。骨髄穿刺後の感染症1例(おそらく関連あり、抗菌薬で回復)、骨髄穿刺2週後に発生した肺塞栓症1例(おそらく関連あり)、腫瘍2例(2例とも注入部位とは異なる場所に発生、関連なし)。・治療に関連した有害事象は、ほかに22例報告され、うち7例が幹細胞生成物と関連ありとされた。・治療に関連した主な有害事象は、疼痛や腫脹の増加と骨髄穿刺後の脱水であった。・疼痛や腫脹の増加は、幹細胞生成物と関連ありと報告された唯一の有害事象であった。・以上を踏まえて著者は、「直近の文献レビューの結果、関節病変に対する幹細胞治療は安全であると結論する」と述べ、「潜在的な有害事象への注意は引き続き必要と考えるが、幹細胞の関節内注入療法の開発を続けることが妥当と考えられる」とまとめている。~進化するnon cancer pain治療を考える~ 「慢性疼痛診療プラクティス」連載中!・知っておいて損はない運動器慢性痛の知識・身体の痛みは心の痛みで増幅される。知っておいて損はない痛みの知識・脊椎疾患にみる慢性疼痛 脊髄障害性疼痛/Pain Drawingを治療に応用する

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ホルモン補充療法、慢性疾患予防として支持されず/JAMA

 閉経後女性に対するホルモン療法は、症状の管理に有効な場合があるものの、慢性疾患の予防法としては適切でないことが、Women’s Health Initiative(WHI)試験の長期的追跡の結果から明らかとなった。米国・ブリガム&ウィメンズ病院のJoAnn E Manson氏らが、JAMA誌2013年10月3日号で報告した。米国では、当初、ホルモン療法は主に血管運動症状の治療法として用いられていたが、次第に冠動脈心疾患(CHD)や認知機能障害など加齢に伴う多くの慢性疾患の予防法とみなされるようになったという。現在も日常臨床で施行されているが、慢性疾患の予防におけるリスクやベネフィットに関する疑問は解消されずに残されたままだった。ホルモン療法に関する2つの研究を統合解析 研究グループは、WHI試験のホルモン療法に関する2つの研究について、介入終了後に長期的な追跡調査を行い、包括的な統合解析を実施した。対象は、1993~1998年までに米国の40施設に登録された50~79歳の閉経後女性2万7,347人。 子宮が切除されていない女性は、結合型ウマエストロゲン(CEE、0.625mg/日)+酢酸メドロキシプロゲステロン(MPA、2.5mg/日)を投与する群(8,506例)またはプラセボ群(8,102例)に、子宮切除術を受けた女性は、CEE(0.625mg/日)単独群(5,310例)またはプラセボ群(5,429例)に無作為に割り付けられた。 介入期間中央値はCEE+MPA試験が5.6年、CEE単独試験は7.2年で、通算13年のフォローアップが行われた(2010年9月30日まで)。有効性の主要評価項目はCHD、安全性の主要評価項目は浸潤性乳がんの発症とした。リスク、ベネフィットともに複雑なパターン示す CEE+MPA療法の介入期間中のCHDの発症数は、CEE+MPA療法群が196例、プラセボ群は159例であり、むしろプラセボ群で良好な傾向を認めたが有意な差はなかった(ハザード比[HR]:1.18、95%信頼区間[CI]:0.95~1.45、p=0.13)。また、浸潤性乳がんの発症数はそれぞれ206例、155例であり、プラセボ群で有意に良好だった(HR:1.24、95%CI:1.01~1.53、p=0.04)。 介入期間中にCEE+MPA療法群でリスクが増大した疾患として、脳卒中(p=0.01)、肺塞栓症(p<0.001)、深部静脈血栓症(p<0.001)、全心血管イベント(p=0.02)、認知症(65歳以上)(p=0.01)、胆嚢疾患(p<0.001)、尿失禁(p<0.001)、乳房圧痛(p<0.001)が挙げられ、ベネフィットは大腸がん(p=0.009)、大腿骨頸部骨折(p=0.03)、椎骨骨折(p=0.03)、糖尿病(p=0.005)、血管運動症状(p<0.001)、関節痛(p<0.001)などで認められた。 介入期間終了後には、ほとんどのリスクおよびベネフィットは消失したが、浸潤性乳がんの発症リスクは全期間を通じてCEE+MPA療法群で有意に高かった(HR:1.28、95%CI:1.11~1.48、p<0.001)。 一方、CEE単独療法群の介入期間中のCHDの発症数は204例、プラセボ群は222例(HR:0.94、95%CI:0.78~1.14)で、浸潤性乳がんの発症数はそれぞれ104例、135例(HR:0.79、95%CI:0.61~1.02)であり、いずれも両群間に有意な差は認めなかった。また、他の疾患のアウトカムはCEE+MPA療法群と類似していた。 2つのホルモン療法はいずれも全死因死亡には影響を及ぼさなかった(介入期間中:p=0.76、p=0.68、全期間:p=0.87、p=0.92)。CEE単独療法群では、全死因死亡、心筋梗塞、global indexが若い年齢層(50~59歳)で良好であった(傾向検定:p<0.05)。 CEE+MPA療法群における10,000人年当たりの有害事象の絶対リスク(global indexで評価)は、プラセボ群に比べ50~59歳で12件増えており、60~69歳では22件、70~79歳では38件増加していた。CEE単独群では50~59歳で19件低下したが、70~79歳では51件増加した。QOLのアウトカムは両治療群ともに一定の傾向はみられなかった。 著者は、「閉経後ホルモン療法のリスクおよびベネフィットは複雑なパターンを示した」と総括し、「一部の女性では症状の管理に有効であるが、慢性疾患の予防法としては支持されない」と結論づけている。

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新規抗凝固薬、ワルファリンに非劣性-静脈血栓塞栓症の再発-/NEJM

 経口第Xa因子阻害薬エドキサバン(商品名:リクシアナ)は、症候性静脈血栓塞栓症(VTE)の治療において、有効性がワルファリンに非劣性で、安全性は優れていることが、オランダ・アムステルダム大学のHarry R Buller氏らが行ったHokusai-VTE試験で示された。VTEは、心筋梗塞や脳卒中後にみられる心血管疾患として3番目に頻度が高く、北米では年間70万人以上が罹患しているという。従来の標準治療は低分子量ヘパリン+ビタミンK拮抗薬だが、ヘパリンの前投与の有無にかかわらず、新規経口抗凝固薬の有効性が確立されている。本研究は、2013年9月1日、アムステルダム市で開催された欧州心臓病学会(ESC)で報告され、同日付けのNEJM誌オンライン版に掲載された。最大1年投与の有用性を非劣性試験で評価 Hokusai-VTE試験は、ヘパリンを投与された急性VTE患者の治療において、エドキサバンのワルファリンに対する非劣性を評価する二重盲検無作為化試験。対象は、年齢18歳以上で、膝窩静脈、大腿静脈、腸骨静脈の急性症候性深部静脈血栓症(DVT)または急性症候性肺塞栓症(PE)の患者とした。 被験者は、非盲検下にエノキサパリンまたは未分画ヘパリンを5日以上投与された後、二重盲検、ダブルダミー下にエドキサバンまたはワルファリンを投与する群に無作為に割り付けられた。エドキサバンの投与量は60mg/日とし、腎機能障害(Ccr:30~50mL/分)、低体重(≦60kg)、P糖蛋白阻害薬を併用している患者には30mg/日が投与された。投与期間は3~12ヵ月で、治験担当医が患者の臨床的特徴や意向に応じて決定した。 有効性の主要評価項目は症候性VTEの発症率、安全性の主要評価項目は大出血または臨床的に重大な出血の発症率であり、ハザード比(HR)の95%信頼区間(CI)上限値が1.5未満の場合に非劣性と判定することとした。重症PE患者ではVTE発症が48%低減 2010年1月~2012年10月までに日本を含む37ヵ国439施設から8,292例が登録され、エドキサバン群に4,143例、ワルファリン群には4,149例が割り付けられた。治療を受けなかった患者を除く、それぞれ4,118例(DVT 2,468例、PE 1,650例、平均年齢55.7歳、男性57.3%、体重≦60kg 12.7%、Ccr 30~50mL/分 6.5%)、4,122例(2,453例、1,669例、55.9歳、57.2%、12.6%、6.6%)がmodified intention-to-treat集団として解析の対象となった。 12ヵ月間の治療が施行されたのは40%であった。エドキサバン群の服薬遵守率は80%であり、ワルファリン群の治療域(INR:2.0~3.0)達成時間の割合は63.5%だった。 有効性の主要評価項目は、エドキサバン群が3.2%(130例)、ワルファリン群は3.5%(146例)で、HRは0.89、95%CIは0.70~1.13であり、非劣性マージンが満たされた(非劣性のp<0.001)。安全性の主要評価項目は、エドキサバン群が8.5%(349例)、ワルファリン群は10.3%(423例)で、HRは0.81、95%CIは0.71~0.94と、有意な差が認められた(優越性のp=0.004)。他の有害事象の発症率は両群で同等であった。 PE患者のうち938例が右室機能不全(NT-proBNP≧500pg/mL)と判定された。この重症PEのサブグループにおける主要評価項目の発症率はエドキサバン群が3.3%と、ワルファリン群の6.2%に比べ有意に低値であった(HR:0.52、95%CI:0.28~0.98)。 著者は、「重症PEを含むVTE患者に対し、ヘパリン投与後のエドキサバン1日1回経口投与は、有効性が標準治療に劣らず、出血が有意に少なかった」とまとめ、「本試験では、有効性の評価は治療期間の長さにかかわらず12ヵ月時に行われており、実臨床で予測されるアウトカムをよりよく理解できるデザインとなっている」と指摘している。

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末梢挿入型中心静脈カテーテルは他のCVCと比べて深部静脈血栓症リスクが高い/Lancet

 末梢挿入型中心静脈カテーテル(PICC)は、他の中心静脈カテーテル(CVC)と比べて、深部静脈血栓症のリスクが高いことが明らかにされた。とくに、重篤患者やがん患者でリスクが高かった。米国・ミシガン大学ヘルスシステムのVineet Chopra氏らによるシステマティックレビューおよびメタ解析による結果で、これまでPICCと静脈血栓塞栓症リスク増大との関連は知られていたが、他のCVCと比べてどれほどのリスクがあるのかは明らかにされていなかった。結果を踏まえて著者は、「PICCを用いるかどうかの判断は、デバイスがもたらすベネフィットと血栓症のリスクを十分に推し量って検討すべきである」と結論している。Lancet誌オンライン版2013年5月20日号掲載の報告より。システマティックレビューおよびメタ解析でPICCとその他CVCのリスクを比較 研究グループは、静脈血栓塞栓症のリスクについて、PICCとその他CVCとの関連を比較するシステマティックレビューおよびメタ解析を行った。 Medline、Embase、Biosis、Cochrane Central Register of Controlled Trials、Conference Papers IndexおよびScopusなど複数のデータベースにて文献検索を行い、手動による参考文献とインターネット探索も行った。また、未公表データについて論文執筆者と連絡をとり入手した。 適格とした試験は、全文、アブストラクトあるいはポスター形式で発表されたすべてのヒト対象試験で、18歳以上成人がPICCを受けていたすべての試験とした。比較群のない試験に関しては、PICCを受けた患者における静脈血栓塞栓症のプール発生頻度を算出した。PICCとその他のCVCを比較した試験については、ランダムエフェクトメタ解析にてサマリーのオッズ比[OR]を算出した。PICCのオッズ比は2.55、肺塞栓症イベントはみられず 文献533件のうち、64試験(比較群あり12試験、なし52試験)・2万9,503例が適格条件を満たし解析に組み込まれた。 無比較群試験において、PICC関連の深部静脈血栓症の頻度は、重篤な疾患患者で最も高く(13.91%、95%信頼区間[CI]:7.68~20.14)、がん患者でも高かった(6.67%、同:4.69~8.64)。 11試験のメタ解析の結果、PICC関連の深部静脈血栓症リスクは、その他CVC関連と比べて有意に高かった(OR:2.55、95%CI:1.54~4.23、p<0.0001)。しかし、肺塞栓症リスクの増大はみられなかった(イベント発生なし)。 ベースラインでのPICC関連の深部静脈血栓症率2.7%とプールOR 2.55から求めた、CVCと比較した有害事象発生に必要な処置数(NNH)は26(95%CI:13~71)であった。■「深部静脈血栓症」関連記事下肢静脈瘤で深部静脈血栓症のリスク約5倍/JAMA

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Dダイマー検査の年齢調整カットオフ値、静脈血栓塞栓症の診断精度を改善/BMJ

 臨床的に静脈血栓塞栓症(肺塞栓症、深部静脈血栓症)の疑いが高くない50歳以上の患者に対するDダイマー検査のカットオフ値として、従来の基準値に代えて年齢調整値を用いると、高い感度を維持したまま特異度が改善され、高精度に本症の除外診断が可能になることが、オランダ・ユトレヒト大学病院のHenrike J Schouten氏らの検討で示された。Dダイマーは血栓形成に対し高い感度を示すため、臨床的に静脈血栓塞栓症の可能性が高くない患者における本症の除外診断に有用とされるが、可能性が高い患者では本検査の結果にかかわらず画像検査を要する。一方、Dダイマーは加齢にともなって上昇するため、高齢患者の診断に従来のカットオフ値を用いると偽陽性率が上がり、特異度が低下することから、新たなカットオフ値として年齢調整値の導入が進められている。BMJ誌オンライン版2013年5月3日号掲載の報告。Dダイマー検査カットオフ値の診断精度をメタ解析で評価 研究グループは、静脈血栓塞栓症が疑われる50歳以上の患者におけるDダイマー検査カットオフ値の診断精度の評価を目的に、系統的なレビューとメタ解析を行った。 対象は、静脈血栓塞栓症が疑われる高齢患者に対し、従来の基準値(500μg/L)と年齢調整値(年齢×10μg/L)の双方のカットオフ値を用いたDダイマー検査および標準的検査を行った試験とした。データベースを検索して2012年6月21日までに発表された論文を選定し、筆頭著者と連絡を取った。 臨床的に静脈血栓塞栓症の可能性が高くない患者について、2×2分割表を作成し、年齢層、Dダイマー検査カットオフ値別の層別解析を行った。Dダイマー検査に年齢調整カットオフ値を適用することで特異度が実質的に上昇 5つの後ろ向き試験の13のコホート(肺塞栓症7コホート、深部静脈血栓症6コホート)に含まれた1万2,497例がメタ解析の対象となった。 従来のカットオフ値の特異度は、年齢が上がるに従って低下した。すなわち、51~60歳が57.6%、61~70歳が39.4%、71~80歳が24.5%、>80歳は14.7%であった。年齢調整カットオフ値の特異度は全年齢層で従来のカットオフ値よりも高値を示し、それぞれ62.3%、49.5%、44.2%、35.2%だった。 従来のカットオフ値の感度は、51~60歳が100%、61~70歳が99.0%、71~80歳が98.7%、>80歳は99.6%であったのに対し、年齢調整カットオフ値ではそれぞれ99.4%、97.3%、97.3%、97.0%であり、大きな変化はなく良好であった。 著者は、「Dダイマー検査に年齢調整カットオフ値を適用することで、感度にはほとんど影響を及ぼさずに特異度が実質的に上昇し、これによって50歳以上の臨床的に静脈血栓塞栓症の疑いが低い患者に対する本検査の臨床的有用性が改善された」と結論し、「メタ解析の対象はすべて後ろ向き試験であり、日常診療への導入には、今後、費用効果の検討や有効性に関する前向きの試験を行う必要がある」と指摘している。

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ER陽性乳がんへのタモキシフェン10年延長投与、再発・死亡リスクをさらに低下/Lancet

 エストロゲン受容体(ER)陽性乳がん患者に対するタモキシフェン(商品名:ノルバデックスほか)補助療法について、10年間の長期投与が標準療法とされる5年投与と比べて、再発および死亡のリスクをさらに有意に低下することが、英国・オックスフォード大学のChristina Davies氏らによる「ATLAS試験」の結果、明らかにされた。これまでの検討で、診断後15年以内の同患者は、5年間のタモキシフェン補助療法によって、乳がん死のリスクが大幅に低下することが明らかになっていた。Lancet誌2013年3月9日号(オンライン版2012年12月5日号)掲載の報告。5年補助療法完了患者を10年延長投与と終了群に無作為化し追跡 ATLAS(Adjuvant Tamoxifen:Longer Against Shorter)試験は、早期乳がんへのタモキシフェン補助療法を10年まで延長した場合の、さらなる効果を評価することを目的とした無作為化試験であった。5年の補助療法を完了した1万2,894例を、10年間まで延長する群と、5年で終了する群(オープン対照群)に、コンピュータによって1対1に無作為に割り付け追跡した。被験者(1996~2005年の間に登録)は毎年、再発、二次性がんの発症、入院、死亡について追跡を受けた。 本報告では、ER陽性乳がんであった6,846例における乳がんアウトカムへの延長治療の効果と、ERタイプを問わない(陽性、陰性、不明含む)全被験者の副作用に関する解析の結果が発表された。効果は10年目以降のほうが大きい ER陽性乳がん患者6,846例において、延長投与群(3,428例)のほうが5年終了群(3,418例)よりも有意に乳がん再発のリスクが低かった(617例vs. 711例、p=0.002)。また乳がん死のリスク(331例vs. 397例、p=0.01)、全死亡(639例vs. 722例、p=0.01)も有意に低下した。 乳がんの有害アウトカムの抑制効果は、10年目以降のほうが大きい傾向がみられた。すなわち、再発リスク(RR)は5~9年は0.90であったが、10年目以降は0.75であり、また乳がん死の5~9年のRRは0.97に対し、10年目以降は0.71であった。 5~14年間の累積再発率は、延長投与群21.4%であったのに対し、5年終了群は25.1%であった。また同乳がん死は12.2%、15.0%、絶対差は2.8%であった。 一方、ER陰性乳がん患者(1,248例)、ER不明乳がん患者(4,800例)の解析においては、延長投与群と5年終了群の乳がんアウトカムに関する差はみられなかった。 全被験者1万2,894例における解析では、乳がんの再発がなく乳がん以外を原因とする死亡への影響については、治療の延長による効果はみられなかった[RR:0.99、95%信頼区間(CI):0.89~1.10、p=0.84]。 疾患別にみた入院または死亡のリスク(RR)は次のとおりであった。肺塞栓症:1.87(p=0.01、両群死亡率0.2%)、脳卒中:1.06(p=0.63)、虚血性心疾患:0.76(p=0.02)、子宮がん:1.74(p=0.0002)。 5~14年の子宮がんの累積リスクは、延長投与群3.1%(死亡率0.4%)に対し、5年終了群は1.6%(同0.2%)であった(死亡率の絶対差0.2%)。 以上の結果を踏まえて著者は、「ER陽性乳がん患者へのタモキシフェン補助療法の10年間への延長投与は、5年で終了するよりもさらなる再発と死亡の低下をもたらすことが示された。この結果は、以前のタモキシフェン5年間投与と非投与を検討した試験の結果と合わせて、10年間のタモキシフェン補助療法は、診断後20年間の乳がん死亡を約半減する可能性があることを示唆するものである」と結論した。

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ダビガトラン、VTEの延長治療に有効、出血リスクも/NEJM

 直接トロンビン阻害薬ダビガトラン(商品名:プラザキサ)による抗凝固療法は、静脈血栓塞栓症(VTE)の延長治療として有効であり、大出血や臨床的に重要な出血のリスクはワルファリンよりは低いもののプラセボに比べると高いことが、カナダ・マクマスター大学のSam Schulman氏らの検討で示された。VTE治療はビタミンK拮抗薬が標準とされ、複数の血栓エピソードなど再発のリスク因子を有する場合は長期投与が推奨されるが、大出血のリスクとともに頻回のモニタリングや用量調整を要することが問題となる。ダビガトランは固定用量での投与が可能なうえ、頻回のモニタリングや用量調節が不要で、VTEの治療効果についてワルファリンに対する非劣性が確認されており、初期治療終了後の延長治療に適する可能性がある。NEJM誌2013年2月21日号掲載の報告実薬対照非劣性試験とプラセボ対照優位性試験の統合的解析 RE-MEDY試験は、初期治療終了後のVTE延長治療におけるダビガトラン(150mg、1日2回)のワルファリンに対する非劣性を検証する実薬対照試験であり、RE-SONATE試験はダビガトラン(150mg、1日2回)のプラセボに対する優位性を評価するプラセボ対照試験。 両試験ともに、対象は年齢18歳以上、症候性の近位型深部静脈血栓症(DVT)または肺塞栓症(PE)と診断され、標準的抗凝固薬による初期治療を終了した症例とした。 RE-MEDY試験では、有効性のハザード比(HR)の95%信頼区間(CI)上限値が2.85を超えない場合、および18ヵ月後のVTE再発のリスク差が2.8ポイント以内の場合に非劣性と判定した。ACSのリスクにも留意すべき RE-MEDY試験には、2006年7月~2010年7月までに33ヵ国265施設から2,856例が登録され、ダビガトラン群に1,430例(平均年齢55.4歳、女性39.1%)、ワルファリン群には1,426例(同:53.9歳、38.9%)が割り付けられた。また、RE-SONATE試験には、2007年11月~2010年9月までに21ヵ国147施設から1,343例が登録され、ダビガトラン群に681例(平均年齢56.1歳、女性44.1%)、プラセボ群には662例(同:55.5歳、45.0%)が割り付けられた。 RE-MEDY試験では、VTE再発率はダビガトラン群が1.8%(26例)と、ワルファリン群の1.3%(18例)に対し非劣性であった(HR:1.44、95%CI:0.78~2.64、非劣性検定:p=0.01、リスク差:0.38ポイント、95%CI:-0.50~1.25、非劣性検定:p<0.001)。 大出血の頻度はダビガトラン群が0.9%(13例)と、ワルファリン群の1.8%(25例)に比べほぼ半減したものの有意な差はなかった(HR:0.52、95%CI:0.27~1.02、p=0.06)。一方、大出血または臨床的に重要な出血の頻度はダビガトラン群で有意に減少した(HR:0.54、95%CI:0.41~0.71、p<0.001)。急性冠症候群(ACS)がダビガトラン群の0.9%(13例)にみられ、ワルファリン群の0.2%(3例)に比べ有意に高頻度であった(p=0.02)。 RE-SONATE試験のVTE再発率はダビガトラン群が0.4%(3例)と、プラセボ群の5.6%(37例)に比べ有意に良好であった(HR:0.08、95%CI:0.02~0.25、p<0.001)。大出血の発生率はそれぞれ0.3%(2例)、0%であったが、大出血または臨床的に重大な出血の発生率は5.3%(36例)、1.8%(12例)とダビガトラン群で有意に高値を示した(HR:2.92、95%CI:1.52~5.60、p=0.001)。ACSは両群に1例ずつ認められた。 著者は、2つの試験の結果を踏まえ、「ダビガトランによる抗凝固療法はVTEの延長治療として有効である。大出血や臨床的に重要な出血のリスクはワルファリンよりは低いもののプラセボに比べると高かった」とまとめている。

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アピキサバン、VTEの抗凝固療法の延長治療として有用/NEJM

 経口第Xa因子阻害薬アピキサバン(商品名:エリキュース)による抗凝固療法の延長治療は、大出血の発生率を上昇することなく静脈血栓塞栓症(VTE)の再発リスクを低減することが、イタリア・ペルージャ大学のGiancarlo Agnelli氏らによるAMPLIFY-EXT試験で示された。深部静脈血栓症(DVT)や肺塞栓症(PE)などのVTEは、心疾患や脳卒中後の血管関連死の原因として3番目に頻度が高いという。欧米のガイドラインは3ヵ月以上の抗凝固療法を推奨しているが、標準治療であるワルファリンは、出血リスクのほかモニタリングや食事制限などの問題で治療の継続が難しくなることが多く、延長治療の決定には困難が伴う。アピキサバンは固定用量レジメンでの投与が可能で、モニタリングも不要なため、VTEの延長治療の選択肢となる可能性があった。NEJM誌2013年2月21日号(オンライン版2012年12月8日号)掲載の報告。2つの用量の有効性と安全性をプラセボ対照試験で評価 AMPLIFY-EXT試験は、VTEに対する抗凝固療法の延長治療としてのアピキサバンの有用性を評価する二重盲検プラセボ対照無作為化試験。 対象は、年齢18歳以上、症候性のDVTまたはPEの診断で標準的な6~12ヵ月の抗凝固療法を完遂したが、抗凝固療法の継続・中止の判断が臨床的に困難な症例とした。 これらの患者が、アピキサバンの治療用量(5mg、1日2回)、血栓予防用量(2.5mg、1日2回)またはプラセボを与する群のいずれかに無作為に割り付けられ、12ヵ月の治療が行われた。VTE再発/全死因死亡:プラセボ群11.6%、2.5mg群3.8%、5mg群4.2% 2008年5月~2011年7月までに28ヵ国328施設から2,482例(ITT集団)が登録され、アピキサバン2.5mg群に840例(平均年齢56.6歳、男性58.0%、DVT 64.8%)、5mg群に813例(同:56.4歳、57.7%、64.8%)、プラセボ群には829例(同:57.1歳、56.5%、66.5%)が割り付けられた。 有効性に関する主要評価項目である症候性VTEの再発または全死因死亡の発生率は、プラセボ群の11.6%(96例)に比べ2.5mg群は3.8%[32例、相対リスク(RR):0.33、95%信頼区間(CI):0.22~0.48、差:7.8ポイント、95%CI:5.5~10.3、p<0.001]、5mg群は4.2%(34例、0.36、0.25~0.53、7.4、4.8~10.0、p<0.001)であり、いずれも有意な差が認められた。 有効性の副次的評価項目である症候性VTEの再発またはVTE関連死の発生率は、プラセボ群の8.8%(73例)に対し2.5mg群が1.7%(14例、RR:0.19、95%CI:0.11~0.33、差:7.2ポイント、95%CI:5.0~9.3、p<0.001)、5mg群も1.7%(14例、0.20、0.11~0.34、7.0、4.9~9.1、p<0.001)と、両群とも有意に優れた。 安全性の主要評価項目である大出血の発生率は、プラセボ群の0.5%(4例)、2.5mg群の0.2%(2例)、5mg群の0.1%(1例)に認められ、大量ではないものの臨床的に重要な出血は、それぞれ2.3%(19例)、3.0%(25例)、4.2%(34例)にみられた。全死因死亡は、プラセボ群の1.7%に比べ2.5mg群は0.8%、5mg群は0.5%だった。 著者は、「アピキサバンの治療用量または血栓予防用量を用いた抗凝固療法の延長治療により、VTEの再発リスクが抑制され、大出血の発生率は上昇しなかった」と結論し、「今後、より長期の治療のリスクとベネフィットを評価する臨床試験を行う必要がある。アピキサバン群で動脈血栓イベントの低下が観察されたことから、VTEの持続的な血栓リスクには動脈血栓も関与している可能性がある」と指摘している。

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ATLAS - 10 v 5 years of adjuvant tamoxifen (TAM) in ER+ disease: Effects on outcome in the first and in the second decade after diagnosis

ATLAS - エストロゲン受容体陽性乳癌における術後タモキシフェン5年対10年の比較:診断後10年間およびさらにその後10年間の効果ATLASはAdjuvant Tamoxifen: Longer Against Shorterの略である。本試験の結果は発表と同時にLancet oncologyに論文掲載された。EBCTCGのメタアナリシスによれば、タモキシフェン(商品名:ノルバデックスほか)を服用する群とまったく使用しない群を比較したとき、服用終了5年以降も15年以上にわたって生存率の差が開き続けており(Lancet. 2012; 378: 771-784)、これをCarryover effectと表現している。本試験では約5年間タモキシフェンを服用した乳癌女性15,244例が、世界36の国あるいは地域から1996年~2005年の間に登録された。そのうちエストロゲン受容体陽性の6,846例(53%)を解析対象とし、受容体不明(4,800例、37%)、受容体陰性(1,248例、10%)は除外した。アジアおよび中東から25%が登録されていた。対象者の89%が閉経後であった。また19%で子宮摘出術が行われていた。10年継続群と5年中止群で、再発は617対711例(2p=0.002)、乳癌死は331対397例(2p=0.01)、全生存率は639対722例(2p=0.01)であった。期間毎にみたとき乳癌死のハザード比は5年から10年未満で0.97(95%CI:0.79~1.18)、10年以上で0.71(同0.58~0.88、p=0.0016)となっており、より長期間の観察で有意差がみられていた。つまりCarryover effectが認められている。解析時点で77%が診断後15年まで経過観察中であり、今後より差が開く可能性もある。タモキシフェン服用率は、割り付けから2年経過した時点で10年服用群84%、中止群80%と4%の差であった。15年での子宮内膜癌と肺塞栓症による死亡は10年服用群で0.2%の上昇がみられた。これは乳癌死亡が3%減少するのと比べて、非常に少ないと判断される。本試験の特徴はpragmatic trial(実際的な試験)と表現され、世界的規模であり、組み入れ基準がゆるく、シンプルな実施および経過観察であり,死亡率のわずかな差をみるために非常に大きな登録数であることである。一般的に行われてきた無作為化比較試験のような厳格な基準でないということは、裏返せば実際の臨床により即した試験であると言える。そういった意味から、この結果はわれわれの日常臨床にすぐに適応できるものであると考えられる。症例の89%が閉経後であり、実際ほとんどの方は、MA.17試験の結果よりタモキシフェン5年終了後には、レトロゾール(商品名:フェマーラ)へのスイッチが推奨される。閉経前は11%と少なくみえるが、それでも630例であり、サブセットアナリシスをみても、閉経前と閉経後でのばらつきはない。さらに“閉経後”の定義は記載されておらず、タモキシフェン服用中の判断はかなり慎重でなければならないことから、実際には閉経後と判断しにくい方は相当数いる可能性がある。そういった場合には、やはりタモキシフェンの継続が推奨されることになろう。また、薬剤変更することによる有害事象への不安がある場合などは、やはりタモキシフェン延長を考えてよいと思われる。ATLAS試験以外にaTTom試験があり、来年報告される予定とされているが、ほとんどがエストロゲン受容体不明で、規模も7,000例であることから有意差はより出にくい可能性がある。さらにEBCTCGのメタアナリシスの結果も来年報告される予定であり、その中にはATLAS、aTTom、NSABP B-14、Scottish trialなども含まれると思われるが、いわゆる“ごちゃまぜバイアス”にも注意して解釈していく必要があろう。現時点で、タモキシフェン10年服用をどのような患者さんに適応するのがよいだろうか。そもそも絶対リスク減少は非常に小さいことから、予後良好なグループ、たとえばリンパ節転移陰性、腫瘍径2cm以下、核グレード1といったような場合にはほとんど差が出ない可能性が高い。逆に再発高危険群では絶対リスク減少は大きくなると予想される。これらのことを患者さんと話し合いながら決めていくのが現実的であろう。レポート一覧

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脊椎手術後の最大有害事象、外科医は死亡に10点、患者は脳卒中に9.2点と評価

 脊椎手術後のさまざまな有害事象の影響について、患者と医師の認識の度合いを調査した結果、双方ともに項目間にはかなりのばらつきがあり、全体的には患者の方が医師よりも有害事象の影響を強く認識していることが明らかになった。脊椎手術後の有害事象はなお多く発生しているが、これまで患者中心のアウトカム評価ツールは開発されていない。米国・オレゴン健康科学大学のRobert Hart氏らは、手術結果とQOLにおいて有害事象の影響を考慮することは重要なファーストステップであるとして、両者の認識について評価する、合併症発生シナリオベースのサーベイ調査を行った。Spine誌オンライン版2012年11月2日号の掲載報告。 サーベイ調査は22の潜在的な周術期の有害事象(心筋梗塞、脳卒中、脊髄損傷、神経根損傷、馬尾損傷、失明、硬膜損傷、輸血、深部静脈血栓症、肺塞栓症、表在性感染症、深在性感染症、呼吸不全、尿路感染症、偽関節、隣接椎間障害、脊柱変形が持続、インプラント治療失敗、死亡、腎機能不全、消化管系の合併症、性機能障害)を、14人の脊椎手術専門外科医と、16例の成人脊柱変形患者に対して示し行われた。 各合併症が起きた場合の影響スコアを、総合的な重症度、手術に対する満足度、QOLへの影響からなる3つのカテゴリーで評価してもらい、Wilcoxon/Kruskal-Wallis検定にて外科医と患者との比較を行った。 主な結果は以下のとおり。・外科医と患者の各合併症の平均影響スコアは、イベント間でばらつきがみられた。外科医では、最低が0.9点(輸血)、最高が10.0点(死亡)であり、患者では最低が2.3点(尿路感染症)、最高が9.2点(脳卒中)であった。・患者のスコアでは、6つの潜在的な有害事象(脳卒中、呼吸不全、心筋梗塞、肺塞栓症、硬膜損傷、輸血)について、3つのすべてのカテゴリーの評価が、外科医より一貫して高かった(p<0.05)。・さらに3つの合併症(腎機能不全、偽関節、深部静脈血栓症)は、1つあるいは2つのカテゴリーについて、患者の評価の方が高かった。 これらの結果を踏まえて著者は、「患者本位の立場から有害事象を説明することで、より完成度の高い手術結果の提供が可能となるであろう」と結論している。

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