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CT検査による将来のがんリスク、飲酒や過体重と同程度?

 米国では、年間6,200万人の患者に対して約9,300万件のCT検査が行われている。CT検査は診断に役立つが、被曝によってがんリスクを高める可能性がある。2009年の分析では、2007年の米国におけるCTの使用により将来約2万9,000件のがんが発症するとの推定が報告されたが、2007年以降、年間に実施されるCT検査数は30%以上増加しているという。 CT使用に関連する将来的ながん発症率の予測値を更新するため、カリフォルニア大学サンフランシスコ校疫学・生物統計学部のRebecca Smith-Bindman氏らは、2018年1月~2020年12月にカリフォルニア大学国際CT線量レジストリの検査データ12万1,212件を使用し、リスクモデルを用いた分析を実行した。放射線シミュレーションで18の臓器の線量を推定し、国立がん研究所の放射線リスク評価ツールを使用して将来的な放射線誘発がんリスクを予測した。データ解析は2023年10月~2024年10月に実施された。JAMA Internal Medicine誌オンライン版2025年4月14日号掲載の報告。 主な結果は以下のとおり。・米国において2023年に推定6,151万人が9,300万件のCT検査を受けた。そのうち257万人(4.2%)が小児、5,894万人(95.8%)が成人、3,260万人(53.0%)が女性だった。・これらの検査から、約10万3,000件の放射線誘発がんの発症が予測された。放射線誘発がんリスクは小児と青少年で高かったものの、成人におけるCT検査の活用率の高さによって、放射線誘発がん症例のほとんど(9万3,000件、91%)が成人によるものだった。・がん種別で多かったがんは、肺がん(2万2,400件)、大腸がん(8,700件)、白血病(7,900件)、膀胱がん(7,100件)で、女性患者では乳がんが2番目に多かった(5,700件)。・検査部位別では、成人では、腹部および骨盤CT検査によるものが最多(3万7,500件、37%)で、次いで胸部CT検査(2万1,500件、21%)が続いた。小児においては頭部CT検査が最多だった(53%)。・CT検査1回当たりのがんリスクは1歳未満の小児で最も高く、たとえば15~17歳の女子のがんリスクは1,000回当たり2件だったのに対し、1歳未満の女子では1,000回当たり20件だった。・小児は検査1回当たりのリスクが高かったものの、高齢者はCT検査の実施頻度が高く、全体では成人のリスクが高かった。たとえば、モデル予測では50~59歳の成人におけるCT検査の実施頻度ががん発生予測数(女性1万400件、男性9,300件)と最も高い相関関係にあったことが示された。 研究者らは「本研究では、現在のCT利用状況と放射線線量レベルに基づいて、2023年のCT検査が被曝患者の生涯にわたって約10万3,000件の将来のがんを引き起こすと推定された。現在の診療慣行が継続された場合、CT関連がんは最終的に年間新規がん診断の5%を占める可能性があり、そうなるとCTはアルコール摂取(5.4%)や体重過多(7.6%)といったほかの重要なリスク要因と同等になるだろう」とした。 一方、研究に関連しないほかの専門家からは「この研究は放射線被曝によるがんリスクの推定モデルであり、特定のCTスキャンと個々のがん症例との直接的な因果関係を示すものではないことに注意が必要だ」、「10万人のがん患者増という数字は憂慮すべきものだが、個人の生涯におけるがん発症リスクとしてはわずかな追加リスクに過ぎない」、「この結果は医師が必要と判断した場合にもCT検査を避けるべきだという意味ではない」といったコメントが寄せられている1)。

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既治療のHER2変異陽性NSCLC、zongertinibは有益/NEJM

 既治療のHER2変異陽性非小細胞肺がん(NSCLC)患者において、経口不可逆的HER2選択的チロシンキナーゼ阻害薬zongertinibは臨床的有益性を示し有害事象は主に低Gradeであったことが、米国・University of Texas M.D. Anderson Cancer CenterのJohn V. Heymach氏らBeamion LUNG-1 Investigatorsによる第Ib相試験の結果で報告された。HER2変異陽性NSCLC患者には、革新的な経口標的療法が求められている。zongertinibは第Ia相試験で進行または転移を有するHER2異常を認める固形がん患者への有効性が示されていた。NEJM誌オンライン版2025年4月28日号掲載の報告。複数コホートで用量探索および安全性・有効性を評価 第Ia/Ib試験はヒト初回投与試験で、現在も進行中である。進行または転移を有するHER2異常を認める固形がん患者(Ia相)および進行または転移を有するHER2変異陽性NSCLC患者(Ib相)を登録した複数コホートでzongertinibの用量探索および安全性・有効性が評価された。 本論ではIb相から既治療の患者が登録された3つのコホートにおけるzongertinibの主要解析の結果が報告された。3コホートは、チロシンキナーゼドメイン(TKD)変異陽性NSCLC患者(コホート1)、TKD変異陽性かつHER2標的抗体薬物複合体による治療歴のあるNSCLC患者(コホート5)、非TKD変異陽性NSCLC患者(探索的コホート3)である。 コホート1の患者は、zongertinib 1日1回120mgまたは240mgで投与を開始し、コホート3および5の患者は、同240mgで投与を開始した。コホート1の用量選択の中間解析の結果を受けて、その後は全コホートが120mgの投与を受けた。 主要評価項目は、盲検下独立中央判定で評価(コホート1、5)または治験担当医師判定で評価(コホート3)した奏効率(ORR)であった。副次評価項目は、奏効期間(DOR)、無増悪生存期間などであった。zongertinib 1日1回120mg投与群の71%で奏効 2023年3月8日~2024年11月29日に、オーストラリア、欧州、アジア、米国の74施設で、コホート1は132例、コホート5は39例、コホート3は25例の患者が治療を受けた。 データカットオフ(2024年11月29日)時点で、コホート1では計75例がzongertinib 1日1回120mgの投与を受けており、そのうち奏効を示したのは53例で(ORR:71%[95%信頼区間[CI]:60~80]、p<0.001)、DOR中央値は14.1ヵ月(95%CI:6.9~未到達)であった。Grade3以上の治療関連有害事象(TRAE)は13例(17%)に発現した。 コホート5(31例)では、ORRは48%(95%CI:32~65)であった。Grade3以上のTRAEは1例(3%)に発現した。 コホート3(20例)では、ORRは30%(95%CI:15~52)であった。Grade3以上のTRAEは5例(25%)に発現した。 全3コホートにおいて、薬剤性間質性肺疾患の発現は報告されなかった。

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がん診療に携わるすべての人のレベルアップ目指しセミナー開催/TCOG

 東京がん化学療法研究会(TCOG)は、第25回臨床腫瘍夏期セミナーをオンラインで開催する。 同セミナーは、がん診療に携わる医師、薬剤師、看護師、臨床研究関係者、製薬会社、CROなどを対象に、治療の最新情報、臨床研究論文を理解するための医学統計などさまざまな悪性腫瘍の基礎知識から最新情報まで幅広く習得できるよう企画している。セミナー概要・日時:2025年7月18日(金)~19日(土)・開催形式:オンライン(ライブ配信、後日オンデマンド配信を予定)・定員:500人・参加費:15,000円(2日間)・主催・企画:特定非営利活動法人 東京がん化学療法研究会・後援:日本医師会、東京都医師会、東京都病院薬剤師会、日本薬剤師研修センター、日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会、日本産科婦人科学会、日本医療薬学会、日本がん看護学会、西日本がん研究機構、North East Japan Study Group・交付単位(予定):日本薬剤師研修センターによる単位(1日受講:3単位、2日受講:6単位)、日本医療薬学会 認定がん専門薬剤師・がん指導薬剤師認定単位(7/18受講:2単位、7/19受講:2単位)、日本看護協会 認定看護師・専門看護師:「研修プログラムへの参加」(参加証発行)、日本臨床腫瘍薬学会 外来がん治療認定薬剤師講習(研修)認定単位(1日受講:3単位、2日受講:6単位)プログラム(要約)7月18日(金)9:30~16:509:30~10:55【がん薬物療法 TOPICS】 胃がん化学療法、ASCOにおける肺癌最新の話題11:05~12:30【医学統計】 臨床研究のための統計学の基本知識、臨床に生かすために知っておきたい医学統計13:50~15:15【最新のがん薬物療法I】 膵がん・胆道がん、大腸がん化学療法 ガイドライン改定を踏まえて15:25~16:50【妊孕性と家族性腫瘍】 遺伝性腫瘍~遺伝学的診断と遺伝カウンセリング、CAYAがん患者等に対する妊孕性温存/がん・生殖医療の現状と課題7月19日(土)9:30~16:509:30~10:55【がんにおける新規抗体医薬】 二重特異性抗体(バイスペシフィック抗体)の特徴と臨床成績、抗体薬物複合体(ADC)11:05~12:30【TOPICS 2】 MRDが拓く癌治療の新しいストラテジー、ctDNAによるがん種横断的なMRD検査の時代へ13:50~15:15【最新のがん薬物療法II】 子宮頸がん・子宮体がん薬物療法のトピックス、泌尿器がんに対する薬物療法UpDate202515:15~16:50【緩和医療と支持療法】 骨転移の緩和ケア、コミュニケーション/遺族ケア/気持ちのつらさガイドラインのエッセンス申し込みはTCOG「臨床腫瘍夏期セミナー」ページから「臨床腫瘍夏期セミナー」プログラム

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ある呼吸法活用で禁煙継続(Dr.坂根のすぐ使える患者指導画集)

患者さん用画 いわみせいじCopyright© 2025 CareNet,Inc. All rights reserved.説明のポイント(医療スタッフ向け)診察室での会話医師患者禁煙、頑張っておられますね。いえいえ、自分の健康のためですから…。けど、たまに吸いたい衝動にかられて…。医師 なるほど。そんなときはどうされているんですか?患者 水を飲んだり、深呼吸をしたり、しているんですが…。医師 なるほど。それなら、いい呼吸法がありますよ!患者 それは、どんな方法ですか?(興味深々)医師 ちょっと、やってみましょうか。まずは、「ふぅー」と音を立てて口から息を完全に吐き出します。次に、口を閉じて、画 いわみせいじ鼻から息を吸いながら4つ数えます。そして、息を止めて7つ数えます。最後に、8つ数えながら、「ふぅー」と音を立てながら、ゆっくりと口から息を吐き出します。患者 これを何回くらいしたらいいですか?医師 1セットを4回で、ニコチン切れでタバコが吸いたくなる朝や寝る前など、1日に2回からスタートしてみて下さい。これは「4-7-8呼吸法」と呼ばれています。是非、「4(し)7(な)8(や)」かにやってみて下さい。(手で数字を示しながら)患者 はい、わかりました。頑張ってやってみます。(嬉しそうな顔)ポイント自己流の呼吸法ではなく、効果的な呼吸法について実演を交えて説明します。Copyright© 2025 CareNet,Inc. All rights reserved.

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グローバルなリアルワールドエビデンスに期待(解説:田中希宇人氏/山口佳寿博氏)

 本研究は、進行非小細胞肺がん(NSCLC)患者のうち、PD-L1陽性(TPS≧1%)でEGFR変異やALK転座がない症例を対象に、免疫チェックポイント阻害薬ペムブロリズマブと、新規の二重特異性抗体ivonescimab(PD-1+VEGFに対する抗体)の有効性と安全性を比較した多施設ランダム化第III相試験「HARMONi-2試験」の報告である。中間解析時点での主要評価項目は無増悪生存期間PFSで、ivonescimab群で有意に延長が認められた(中央値11.1ヵ月vs.5.8ヵ月、HR:0.51、p<0.0001)。このPFSの改善効果はPD-L1 TPS 1~49%、TPS≧50%、扁平上皮がん、非扁平上皮がんを含む主要なサブグループで一貫していた。また奏効率ORRはivonescimab群で50%、ペムブロリズマブ群で39%、病勢コントロール率DCRはそれぞれ90%と71%であった。重篤な免疫関連有害事象(irAE)は両群で同程度であり、高血圧や蛋白尿などのVEGFに関連する有害事象はivonescimab群でやや多いものの管理可能な範囲であった。とくにベバシズマブが従来禁忌とされてきた扁平上皮がんでも、出血性合併症の増加は認められなかった。 本研究の最大のメリットは、「免疫治療の単剤療法」においてペムブロリズマブを上回る有効性を示した点である。とくに、PD-L1 TPS 1~49%の集団で有効性を示した初の免疫単剤であること、扁平上皮がんにも使用可能な抗VEGF併用薬であること、速い奏効と高い病勢コントロール率の3点は肺がん診療において重要かつ実践的であると考えられる。 PD-L1陽性肺がんに対するペムブロリズマブの初回治療の効果を検証した「KEYNOTE-042試験」ではTPS 1~49%の患者でPFS延長は示されなかったが、本試験では同群に対してHR 0.54と有意なPFS延長を示した。これにより、これまで「PD-L1低発現群で免疫治療の単剤治療は避けるべき」とされてきた症例に対する新たな選択肢の可能性を示した。また従来血管新生阻害薬であるベバシズマブは出血リスクから扁平上皮がんでは禁忌とされていたが、ivonescimabは同様の抗VEGF作用を有しながら出血性合併症は問題とならなかった。扁平上皮がんの1stラインにおける免疫薬単剤治療の選択肢が広がる点は、臨床的に非常に有用と考えられる。そして本研究におけるivonescimab群の奏効までの期間中央値は1.5ヵ月であり、治療早期に効果を期待したい症例に有利に働く。 本研究の有用性は十分に示されていると考えられるが、日本の実臨床で活かすためにはまだまだ問題点がある。まずすべての症例が中国人であり、外的妥当性に課題がある。薬物代謝や腫瘍の特性、人種差を考慮すると、日本人を含むグローバルな症例に対して本研究と外挿するには慎重な姿勢が求められる。また現時点で評価期間が短く、OSは未成熟な点である。他の臨床試験でも同様であるがPFS延長=延命とは限らず、今回の中間解析ではPFSの延長がそのまま予後改善につながるかどうかは現時点では不明である。比較対象がペムブロリズマブ単剤であることも問題である。昨今の進行非小細胞肺がんの標準治療は、プラチナ製剤を含む化学療法と免疫治療を組み合わせる複合免疫療法がスタンダードである。グローバルな標準治療と乖離しており、本試験の比較対象がペムブロリズマブ単剤であることは、比較の「厳しさ」に欠ける可能性がある。 ivonescimab群では目立った免疫関連有害事象こそ認められないものの、Grade3以上の高血圧や蛋白尿といった抗VEGFに由来する有害事象は一定数認められた。実臨床では、とくに腎障害リスクのある症例や高齢者では慎重な管理が必要と考えられる。 さまざまな問題点が指摘される本研究であるが、扁平上皮肺がんやPD-L1低発現群など治療選択肢が限られる症例に対しては期待できる結果が報告された。今後のグローバルなリアルワールドエビデンスに期待が持てる新規薬剤となるのであろう。

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第10回 年間10万人、CT検査の氾濫が生む“将来のがん”

近年、CT検査は診断能が飛躍的に向上し、急速に普及したため、米国では2023年に6,151万人に対し、約9,300万件もの検査が実施されました。人口当たりに直すと、1,000人当たり約280件となり、数字の大きさがより実感しやすいかもしれません。これは実際、世界でもトップレベルの頻度です。CT検査で用いられるX線は、細胞の損傷や遺伝子の突然変異を起こすのに十分なエネルギーを持つ「イオン化放射線」に分類され、「既知の発がん性物質」として扱われています。今回ご紹介するSmith-Bindman氏らの研究では、このCTの撮像回数から被曝量を割り出し、この被曝が米国国民の発がんにどの程度寄与するのかを推計しています1)。検査氾濫が招く10万件超のがんリスク彼らの研究モデルによれば、CT検査に伴うイオン化放射線による将来のがん発症数は、平均で年間約10万3,000件に上り、米国における年間新規がん診断の約5%を占めるという衝撃的な推計が行われました。子供では検査1件当たりのリスクが高くなるものの、検査件数そのものは成人に偏っているため、結果的に成人へのCT検査が総発がん数の約91%(約9万3,000件)を担うと報告されています。がんの内訳を見ると、肺がんが最も多く2万2,400件、次いで大腸がん、白血病、膀胱がんと続きます。女性では乳がんが5,700件と推計されました。部位別では、成人の腹部・骨盤部のCT検査が3,000万件(全検査の32%)実施され、それに由来するがんは3万7,500件と最も多く、続いて胸部CTが2,000万件(21%)で、将来のがんは2万1,500件と見積もられています。多様な分析を行ったうえでも、推計の総発がん数は8万~12万7,000件の範囲となり、推計値の不確実性を勘案しても、変わらず重要性の高い問題であると考察されています。この報告が重要なのは、単に「CTは放射線リスクを伴う」といった抽象的な議論ではなく、検査件数と年齢・部位別の実測の放射線量データを用いて、具体的な将来の発がん数を予測した点にあります。日本では――適正化への道標では、この結果を日本でどう受け止めればよいでしょうか。日本もOECD加盟国のなかでCT検査件数が常に上位にあり、米国ほどではないものの、検査回数も1人当たり高水準で推移しています。日本国内のNDBオープンデータに基づく推計では、例年人口1,000人当たり200~250件前後という高い水準です2,3)。今回の報告を参考にすると、日本で検査に伴う放射線発がんの潜在的負荷は決して無視できません。もちろんこれは、診断に必要とされる場合など、必要なCT検査をやめましょうという話ではありません。しかし、「一応、CTを撮っておきましょう」と必要性が曖昧な検査が行われていることも事実です。これについては、見直しが必要であることを改めて教えてくれる研究結果であったと思います。代替手段として超音波検査などで対応できたものもあるでしょう。また、可能な限り被曝を抑えた撮影条件を徹底し、検査部位を最小限に留めるなどの対策も重要です。結論として、本論文は「CT検査は命を救うが、利用過多は将来のがんを増やす」というトレードオフを定量的に示し、検査適正化と線量管理の徹底こそが利益と安全性の両立に不可欠であることを教えてくれます。医療者も患者も、急ぎでないCT検査の必要性を立ち止まって見極める意識がますます重要といえるのではないでしょうか。 1) Smith-Bindman R, et al. Projected Lifetime Cancer Risks From Current Computed Tomography Imaging. JAMA Intern Med. 2025 Apr 14. [Epub ahead of print] 2) Tsushima Y, et al. Radiation Exposure from CT Examinations in Japan. BMC Med Imaging. 2010;10:24. 3) 厚生労働省.【NDB】NDBオープンデータ.

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腫瘍浸潤クローン性造血、固形がんの死亡リスクと関連/NEJM

 「未確定の潜在能を持つクローン性造血(clonal hematopoiesis of indeterminate potential:CHIP)」は加齢に伴う病態で、がん患者における死亡率の上昇と関連する。腫瘍で変異アレル頻度(VAF)の高いCHIP変異が検出されることがあり、英国・フランシス・クリック研究所のOriol Pich氏らは、この現象を「腫瘍浸潤性クローン性造血(tumor-infiltrating clonal hematopoiesis:TI-CH)」と呼ぶ。同氏らは、今回、TI-CHは非小細胞肺がん(NSCLC)患者のがん再発や死亡のリスクを高め、固形腫瘍患者で全死因死亡のリスクを上昇させ、腫瘍免疫微小環境をリモデリングし、腫瘍オルガノイドの増殖を促すことを示した。研究の成果は、NEJM誌2025年4月24日号で報告された。TRACERx研究とMSK-IMPACTコホートの患者を解析 研究グループは、TRACERx研究に参加した未治療のStageIA~IIIAのNSCLC患者421例と、MSK-IMPACT汎がんコホートの75のがん種の患者4万9,351例(原発腫瘍3万1,556例、転移性腫瘍1万7,795例)において、CHIPおよびTI-CHの特徴を評価した(英国王立協会の助成を受けた)。 TI-CHと生存および再発との関連を調査し、肺腫瘍の生物学的特徴に及ぼすTET2変異CHIPの機能的影響について検討した。TI-CHにより固形腫瘍患者の死亡リスクが1.17倍に NSCLC患者では、CHIPを有する集団の42%(60/143例)にTI-CHを認めた。TI-CHは、死亡または再発のリスクが高いことの独立の予測因子であり、補正後ハザード比は、CHIPを有さない場合との比較で1.80(95%信頼区間[CI]:1.23~2.63、p=0.003)、TI-CHがなくCHIPを有する場合との比較で1.62(1.02~2.56)であった。 固形腫瘍患者では、CHIPを有する集団の26%(1,974/7,450例)にTI-CHが存在した。TI-CHがある場合の全死因死亡のリスクは、TI-CHがなくCHIPを有する場合の1.17倍(95%CI:1.06~1.29)であった。TET2変異―TI-CHの最も強力な遺伝的予測因子 TET2変異はTI-CHの最も強力な遺伝的予測因子であった。マウスでは、TET2変異が肺腫瘍細胞への単球の遊走を増強し、骨髄系細胞に富む腫瘍微小環境を強化し、腫瘍オルガノイドの増殖を促進することが示された。 著者は、「これらの結果は、加齢に伴う血液のクローン性増殖が腫瘍の進展に影響を与えるという考えを支持する」「がん診断にTI-CHが有用である可能性が示唆される」としている。

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早期肺がん患者の術後の内臓脂肪量は手術方法に影響される

 肺がん患者では、呼吸機能の低下だけでなく、体重、筋肉量、内臓脂肪量など、いわゆる体組成の減少により予後が悪化することが複数の研究で報告されている。この度、肺がん患者に対する肺葉切除術よりも切除範囲がより小さい区域切除術後で、体組成の一つである内臓脂肪が良好に維持されるという研究結果が報告された。神奈川県立がんセンター呼吸器外科の伊坂哲哉氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle」に3月4日掲載された。 近年行われた2cm以下の末梢型早期肺がんに対する区域切除術と肺葉切除術を比較した大規模な臨床試験JCOG0802/ WJOG4607Lでは、区域切除術が肺葉切除術よりも全生存率(OS)を改善した。この試験では、肺がより温存された区域切除群において肺葉切除群よりも、肺がん以外の病気による死亡が少ない結果であったが、その機序については未だ解明されていない。肺がん患者の良好な予後のためには、内臓脂肪を含む体組成を維持することが重要と考えられるが、肺葉切除と区域切除後の体組成変化の違いについても未だ明らかになっていない。このような背景から、伊坂氏らは肺がん患者における肺葉切除と区域切除後の内臓脂肪の変化量を比較し、予後との関連を明らかにするために、単施設の後ろ向き研究を実施した。 本研究には、2016年1月から2018年12月までに神奈川県立がんセンターで、肺葉切除または区域切除術を受けた、ステージ0~1の再発のない原発性肺がん患者346名(肺葉切除240名、区域切除106名)が含まれた。本研究の主要目的は肺葉切除と区域切除後のCTによる内臓脂肪面積(VFA)とウエスト周囲径(WC)の長期的(術後3年までの)変化とした。 解析対象のフォローアップ期間の中央値は5.2年(範囲5.0~5.9年)だった。最大腫瘍のサイズが2cm以上だった症例の割合と、病理学的ステージは肺葉切除術群で高かった。 術後6カ月時点のVFAとWCは、肺葉切除群でそれぞれ16.4%と1.0%減少した一方、区域切除群ではそれぞれ0.1%と0.2%増加していた(t検定 各P<0.001、P=0.029)。続いて、二元配置分散分析を実施し、両群におけるVFAとWCのベースラインからの変化量を比較したところ、術後3年まで肺葉切除群のVFAとWCは区域切除群より有意に減少していた(各P<0.001、P=0.038)。年齢、性別、腫瘍サイズ、ステージなどを調整した1対1の傾向スコアマッチングを行って比較した場合も、VFAとWCは有意に肺葉切除群で減少した(各P=0.009、P=0.020)。 術後3年時点のVFAおよびWCの変化量に対するカットオフ値は、Coxの比例ハザードモデルに基づき、それぞれ-13%と-5%と決定された。術後3年時点でのVFAの変化量が-13%以上の患者は、-13%未満の患者と比較して有意にOSが良好だった(5年OS率 97.7% vs 93.4%、ログランク検定 P=0.017)。WCの変化量についても、同様に変化量が-5%以上の患者で有意に良好なOSを示した(P=0.011)。 OSに関する多変量解析では、術後3年時点でのVFA変化量が-13%未満であることが有意な予後不良因子であった(P=0.013)。また、VFAの変化量が-13%未満、WCの変化量が-5%未満に関する多変量解析では、肺葉切除が独立したリスク因子となった(各P<0.001、P=0.004)。 本研究について著者らは、「本研究から、再発のない早期肺がん患者では、肺葉切除後に生じる長期的な内臓脂肪の減少が区域切除術後では起こらないことが示唆された。また、術後3年時点でのVFA変化が-13%未満であることが、早期肺がん患者の予後不良因子であることが示されたことからも、術後の内臓脂肪減少予防の重要性が明らかになったのではないか」と述べた。 本研究の限界点については、サンプルサイズの小さい単施設の後ろ向き研究であったこと、術後3年時点でCTデータが欠落していた患者が除外されていたことなどを挙げている。

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終末期の「身の置きどころのなさ」への対応【非専門医のための緩和ケアTips】第100回

終末期の「身の置きどころのなさ」への対応今回は記念すべき100回ですね。先日、これまでの連載を見返す機会があったのですが、いろんな話題を扱ってきたなあと感慨深かったです。ここまで続けてこられたのも、質問や感想を下さる読者の皆さまのおかげです。どうもありがとうございます。これからも緩和ケアの臨床に役立つ話題や、知っておくとより緩和ケアに興味が湧くことを発信してまいります。今回の質問お看取りが近い患者さん、身の置きどころがない様子で苦しそうで、家族も心配しています。入院を勧めることも考えるのですが、予後が短いことは確実なので、できれば最後まで自宅で過ごさせてあげたい気持ちもあり、悩んでいます。今回は100回記念らしい、緩和ケアの実践で非常に重要なご質問を頂きました。この「終末期の身の置きどころのなさ」は、緩和ケアの教科書では「Terminal restlessness」と表現されています。多くの場合、患者はせん妄のような意識障害の状態で、じっと横になっていられないような様子です。見るからに苦しそうで、話すことのできる患者さんなら「きつい、きつい」と言っている方を多く経験しました。ご家族が心配するのも当然です。こうした状況に対して、まずは介入可能な病態や症状を検討します。と言っても、多くの場合は原疾患が進行し、日単位で亡くなりそうな状況だからこそ生じている症状なので、原因を見つけて介入したら改善した、といった成功体験はありません。ただ、見逃すと申し訳ない点、具体的には不快な身体症状(痛み、呼吸困難など)の緩和は十分か、尿閉や便秘はないか、薬剤によるせん妄が生じていないか、を改めて確認します。可逆的な要因がないことを確認し、予後が日単位であれば、薬剤の投与を考えるのが現実的な対応策です。具体的にはベンゾジアゼピンと抗精神病薬との投与を検討します。ベンゾジアゼピン単剤だとせん妄を悪化させる可能性があるため、ハロペリドールなどの抗精神病薬を併用することが多いです。病状的に内服が難しいことが大半なので、皮下もしくは静脈注で投与します。この場合のベンゾジアゼピンは深い鎮静というよりも、少しうとうとさせることで身の置きどころのない症状を和らげることを企図したものです。具体的にはミダゾラムを調節型鎮静と同じように使用します。在宅だとすぐに注射薬が準備できない場合もあるかもしれません。その際はジアゼパムやブロマゼパムの坐薬で急場をしのぐことも検討します。ひとまず緊急避難的に症状を落ち着けたうえで、ご家族と丁寧な対話をするよう心掛けましょう。お看取りが近いことの共有や、ケアの目標についてこれまでを振り返りながら考えることも大切です。身の置きどころのなさは「緩和ケア的緊急事態」です。ぜひ、対応法を復習してみてください。今回のTips今回のTips終末期の身の置きどころのなさは「緩和ケア的緊急事態」。適切に症状を緩和し、本人・家族とコミュニケーションを図りましょう。

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第240回 百日咳感染者、過去最多を更新 10代と乳幼児中心に拡大/厚労省

<先週の動き> 1.百日咳感染者、過去最多を更新 10代と乳幼児中心に拡大/厚労省 2.2週間以上咳なら早期受診を、マンガ喫茶で結核集団感染の注意喚起/千葉県 3.肺がん検診指針19年ぶり改訂、重喫煙者には低線量CTを推奨/国立がん研究センター 4.無床診療所の高利益にメス、2026年度報酬改定に向けて提言/財政審 5.病床削減支援、民間優先へ方針転換 自治体病院は対象外に/厚労省 6.大学病院への財政支援強化へ、医師養成・研究支援策を整理/文科省 1.百日咳感染者、過去最多を更新 10代と乳幼児中心に拡大/厚労省百日咳の流行が全国で急拡大している。国立健康危機管理研究機構(JIHS)と厚生労働省によると、4月7~13日の1週間で全国の感染者数は1,222人に達し、現在の統計(2018年~)開始以降で最多を記録している。10代が694人、0~9歳が350人と、若年層中心に広がっている。今シーズンの累積患者数は7,084人となり、すでに昨年(4,054人)を大幅に上回った。百日咳は、激しいけいれん性の咳が特徴。とくに生後6ヵ月未満の乳児では無呼吸や肺炎、脳症を併発し、致死率は0.6%と高い。3月以降感染者数は急増し続け、全国で耐性菌(MRBP株)の報告も増加。中国、韓国などで流行中の株と類似しており、コロナ後の国際往来再開が一因とみられる。地域別では新潟県(99人)、東京都(89人)、兵庫県(86人)などで多発。新潟や大阪、福岡でも過去最多水準を更新している。新潟県ではすでに年間最多だった2019年(499人)を超え、今年550人を報告。大阪府では1週間で110人、福岡県でも102人と、感染拡大が止まらない。対策としては、生後2ヵ月からの定期ワクチン接種の徹底に加え、11~12歳での追加接種が推奨される。日本小児科学会は、乳児への感染を防ぐため、兄姉や家族、とくに妊婦のワクチン接種も勧めている。妊婦が接種すれば胎児に抗体が移行し、生後数ヵ月間は防御効果が期待できる。感染対策はワクチンに加え、手洗いやマスク着用、咳エチケットの徹底が基本となる。長引く咳症状があれば、早期受診を促し、適切な診断と対応が求められる。耐性株による感染拡大にも注意が必要であり、今後も動向を注視した上で地域の流行状況に応じた柔軟な対応が望まれる。 参考 1)百日せき 感染状況MAP(NHK) 2)百日せき患者数 4月13日までの1週間1,222人 3週連続で過去最多(同) 3)「百日ぜき」急増 乳児死亡例も 妊婦や家族はワクチン接種も選択肢(毎日新聞) 4)「百日せき」の感染者数、3週連続で過去最多 直近は1,222人 中国からの流入か(産経新聞) 2.2週間以上咳なら早期受診を、マンガ喫茶で結核集団感染の注意喚起/千葉県千葉県は4月25日、習志野保健所管内の漫画喫茶において、利用者と従業員計6人が結核に感染し、うち4人が発病した集団感染事例を確認、厚生労働省に報告した。発端は昨年7月、長期利用していた40代男性が肺結核と診断されたことに始まる。その後、接触者15人を対象に健康診断を実施したところ、今年1月以降に感染者5人、発病者3人が確認された。さらに調査を拡大し、新たに感染者1人、発病者1人がみつかり、合計6人の感染、4人の発病に至った。発病者のうち1人は救急搬送され、現在も入院中であるが、全員適切な治療を受け、快方に向かっている。結核は、同一感染源により2家族以上、または20人以上に感染が広がった場合、発病者1人を感染者6人分と換算して集団感染と認定される。今回の事例はこの基準に該当した。千葉県内では令和6年に493人が新規に結核登録されており、集団感染は昨年に続き2年連続となる。県では、結核の初期症状が風邪に似ているため、2週間以上咳が続く場合には速やかな医療機関受診を呼びかけている。 参考 1)漫画喫茶で結核の集団感染、長期利用の40代男性ら5人確認…千葉・習志野保健所管内(読売新聞) 2)千葉で結核集団感染 昨年に漫画喫茶で広がり6人感染 2週間以上続く咳は医療機関へ(産経新聞) 3)漫画喫茶で結核集団感染 習志野保健所管内、利用者と従業員の計6人(千葉日報) 3.肺がん検診指針19年ぶり改訂、重喫煙者には低線量CTを推奨/国立がん研究センター国立がん研究センターは2025年4月25日、19年ぶりに改訂した「有効性評価に基づく肺がん検診ガイドライン 2025年度版」を公表した。改訂では、喫煙指数600以上(1日平均喫煙本数×喫煙年数)の50~74歳の重喫煙者を対象に、年1回の低線量CT検査を推奨、従来の胸部X線検査と喀痰細胞診の併用は、任意型検診も含め非推奨とされた。改訂の背景には、欧米でのランダム化比較試験(RCT)やメタ解析により、低線量CT検査が肺がんによる死亡リスクを約16%低下させる効果が確認されたことがある。一方、被曝によるがんリスク増加は否定され、標準体型の被験者に対しては線量2.5mGy以下と定義された。胸部X線検査は引き続き、40~79歳の非喫煙者、および40~49歳・75~79歳の重喫煙者に推奨される。なお、喀痰細胞診については、標的である肺門部扁平上皮がんの罹患率が国内で低下していることや、死亡率減少への寄与が証明できなかったため、検診としての併用は推奨されない。ただし診療行為としての喀痰細胞診は否定されていない。加熱式たばこについても、カートリッジ1本を紙巻きたばこ1本と換算して喫煙指数に加算される。禁煙して15年以内の者も対象とする。なお、非重喫煙者に対する低線量CT検診は、死亡率低減効果が不明確なため対策型検診では推奨されず、個人の判断による任意型検診に委ねることとされた。国立がん研究センターは、今後、低線量CT検診の導入にはマニュアル整備、検診体制(読影医や機器確保)、過剰診断・過剰治療への対応策が必要と指摘している。厚生労働省はこのガイドラインを踏まえ、市町村が行う住民検診への反映を検討する予定。肺がんは国内で年間約12万人が診断され、約7万5千人が死亡しており、がんによる死因の中では最多。 参考 1)有効性評価に基づく肺がん検診ガイドライン(2025年度版)(国立がん研究センター) 2)「重喫煙者」は年1回低線量CT検査を…国立がん研究センター、肺がん検診の指針改訂(読売新聞) 3)喫煙者は低線量CT推奨 肺がん検診指針を改定 死亡率減、06年度版以来(共同通信) 4)国がん「肺がん検診ガイドライン 2025年度版」を公開、50~74歳の重喫煙者に低線量CT検査を推奨(日経メディカル) 4.無床診療所の高利益にメス、2026年度報酬改定に向けて提言/財政審財政制度等審議会は4月23日、2026年度の診療報酬改定に向けた議論を行い、医師の都市部集中を是正するための報酬体系見直しを提言した。診療所が過剰な地域では、診療報酬を減額する一方、医療機関が不足する地域では加算措置を講じる「メリハリある改定」を求めた。とくに、無床診療所の利益率が8.6%と高水準にある点を指摘し、病院との経営状況の違いを踏まえた適正化を強調した。また、慢性疾患患者を継続的に診療する「かかりつけ医」機能を持つ医療機関への報酬体系も見直し、より質の高い医療提供を評価する仕組みを構築するよう求めた。現在一律に算定できる機能強化加算についても、廃止を含めた見直しを検討すべきと提言している。さらに、外来診療医師が過剰な地域で新規開業を希望する医師に対し、都道府県が要件を課す仕組みの強化や、要請に従わない場合の診療報酬減額措置も視野に入れる。医薬分業についても、医療機関内で薬を受け取る方が薬局より高くなる現行制度の見直しや、薬剤師による減薬提案など対人業務の評価拡充を求めた。人材紹介会社については、医療機関が高額手数料を負担している実態に懸念を示し、紹介会社の選別・規制強化も提言。持続可能な社会保障制度構築のため、限られた財源下で医療・介護費用の効率化と適正化を強く求めた。 参考 1) 財政制度等審議会財政制度分科会(財務省) 2) 財政制度等審議会 来年度の診療報酬改定に向けて議論(NHK) 3) 医師偏在「診療報酬改定で対応を」 財制審、都市部は報酬減も(日経新聞) 4) 診療所に照準、財務省「無床の利益率8.6%」めりはりある診療報酬改定求める(CB news) 5) 不適正な人材紹介会社の「排除を徹底」財務省提言 同一建物減算の強化も(同) 5.病床削減支援、民間優先へ方針転換 自治体病院は対象外に/厚労省厚生労働省は、病床削減を行う医療機関に対する医療施設等経営強化緊急支援事業(病床数適正化支援事業)において、申請数が想定(約7,000床)の7.7倍に当たる5万4,000床に達したことを受け、支援対象の条件を急遽厳格化する内示を通知した。1床当たり410万4,000円が支給されるこの制度は、地域医療の効率化を目指して病床削減を促すもので、当初は広範な適用を予定していたが、財源不足を背景に民間医療機関を優先する方針に転換し、公立病院など一般会計から繰り入れを受ける医療機関は対象外とされた。厚労省は第1次内示として7,170床分(約294億円)の配分を決定。1医療機関当たり50床を上限とし、経常赤字が続く民間医療機関を支援対象とした。公立病院などの自治体病院は大半が対象外となり、北海道では143医療機関・4,862床の申請のうち、採択は352床に止まった。留萌市立病院や室蘭総合病院など、補助金を前提に病床削減を計画していた自治体病院では、財源確保に向けた再検討が迫られている。自治体側からは「はしごを外された」「地域医療軽視だ」との反発が相次ぎ、支援対象からの排除が地域医療体制に深刻な影響を及ぼす懸念が広がっている。厚労省は6月中旬を目処に第2次内示を予定しているが、補助対象の拡大は不透明な状況だ。医療経済に詳しい識者からは「制度設計の甘さ」と「自治体病院の補助金依存体質」の両方に問題があると指摘され、地域医療のあり方を再考する契機とするべきとの声も上がっている。 参考 1) 令和7年度医療施設等経営強化緊急支援事業(病床数適正化支援事業)の内示について(厚労省) 2) 5万床超の返上申請に対して病床削減の支援対象は7,170床(日経メディカル) 3) 病床削減の申請5.4万床、想定の7.7倍に 福岡厚生労働相(日経新聞) 4) 病床減への補助 支給条件を厳格化 全国から応募殺到で厚労省 自治体病院、実質対象外に(北海道新聞) 5) 「はしごを外された」 国の唐突な補助金方針転換 憤る北海道の自治体病院(同) 6.大学病院への財政支援強化へ、医師養成・研究支援策を整理/文科省文部科学省は、4月23日に「今後の医学教育の在り方に関する検討会」を開き、大学病院の位置付けを明確化し、財政的支援を検討する整理案を示した。物価高騰による経営悪化や建設費増大に対応するため、大学病院の診療・教育・研究機能の重要性を改めて位置付け、これに応じた財政措置を求めた。また、特定機能病院の承認要件見直しに関し、地域医療を支える医師の養成・派遣体制の整備が重要と提言した。さらに、総合的な診療能力を持つ医師養成を推進するため、モデル・コア・カリキュラムの改訂により「総合的に患者・生活者をみる姿勢」を新たに資質・能力項目に追加した。一方、日本医学会連合は、大学病院教員の研究時間減少に危機感を示し、研究支援制度の拡充を求める要望書を文科省に提出した。医師の働き方改革により診療や教育の負担が増え、研究時間がさらに削減されていると指摘。バイアウト制度活用による研究時間確保や、研究補助員の充実などの支援策強化を求めた。加えて、医学生や若手医師が研究に取り組みやすくするため、早期大学院進学促進と給与保障、海外留学制度の柔軟化・拡充も提案された。これらの議論を受け、文科省は、大学病院を中心とした医師養成・地域医療強化、医学研究基盤の再構築に向けた支援策の具体化を進める方針。持続可能な医療提供体制と国際競争力ある医学研究体制の構築が急務となっている。 参考 1)第13回 今後の医学教育の在り方に関する検討会 配布資料(文科省) 2)大学病院、「位置付け明確化し財政支援」文科省が整理案(MEDIFAX) 3)大学病院での研究時間大幅減少 支援制度の整備を要望「働き方改革で拍車」医学会連合が指摘(CB news) 4)わが国の医学研究力の向上へ向けての要望書(日本医学会連合)

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緩和ケアTipsを医師とナースが語り合う連載100回記念対談【視聴者に抽選でポイントプレゼント!】

緩和ケアTipsを医師とナースが語り合う連載100回記念対談本連載「非専門医のための緩和ケアTips」が、次回で100回を迎えます。連載100回を記念して執筆者である飯塚病院の柏木 秀行氏と、同院で一緒にケアに当たる緩和ケア認定看護師の宮崎 万友子氏の対談形式で、ライブを開催します。過去の記事から、反響の大きかったテーマをピックアップし、さらに深掘りします。取り上げるのは、以下の3テーマです。第15回 誰に?いつから?緩和ケアのニーズを見極める「この問い」第44回 痛みの評価が難しい患者さん第56回 希望を持ち続けることの意義緩和ケアの現場を熟知するエキスパート2人が、それぞれの視点から一般外来や病棟でも日々直面する悩みに切り込みます。緩和ケアに携わる医師・看護師の方はもちろん、臨床判断力や患者対応の質を高めたいすべての医療者必見の対談です。<ライブ基本情報>祝!CareNet.com連載100回記念対談 日常診療と看護に活かせる緩和ケアTIPS日時:2025年4月30日(水)20:00~21:00柏木 秀行氏(飯塚病院 連携医療・緩和ケア科)宮崎 万友子氏(飯塚病院 看護部 緩和ケア認定看護師)再配信日時:2025年5月3日(土祝)20:00~21:00視聴いただいた方に、抽選で100名様・1000ポイントが当たるキャンペーン!視聴後、アンケートで感想をお寄せいただいた方から抽選で100名様に1,000ポイントが当たるキャンペーンを実施します。

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タバコ規制により米国で400万人近い人が死亡を回避

 喫煙者を減らすための公衆衛生キャンペーンやタバコ税の導入などのさまざまな対策によって、米国では過去50年間で約400万人の肺がんによる死亡が防がれたことが明らかになった。回避された肺がんによる死亡者数は、同期間に回避された全てのがん死の約半数を占めるという。 この研究は、米国がん協会(ACS)のFarhad Islami氏らによるもので、詳細は「CA: A Cancer Journal for Clinicians」に3月25日掲載された。論文の筆頭著者である同氏は、「肺がんによる死亡を回避し得た人の推定数は膨大な数に上っている。これは、喫煙防止のための公衆衛生対策の推進が、肺がんによる早期死亡の低減に大きな効果を発揮してきたことを物語っている」としている。ただし一方で同氏は、「それにもかかわらず、肺がんは依然として米国におけるがん死の主要な原因であり、さらに、喫煙に起因する肺がん以外のがん、および、がん以外の喫煙関連疾患の罹患率や死亡率は依然として高いままだ」と、さらなる改善の必要性を強調している。 この研究では、1970~2022年の米国健康統計センター(NCHS)による全米での死亡データを利用して、年齢、性別、人種、調査年ごとに肺がんによる死亡数の予測値を算出した上で、その値から実際に発生していた肺がんによる死亡者数を差し引くという計算が行われた。その結果、この約50年間で385万6,240人(男性224万6,610人、女性160万9,630人)の肺がんによる死亡が回避されていたことが分かった。この数は、この間に回避された全てのがん死(750万4,040人)の51.4%を占めていた。 Islami氏は、「タバコ規制による喫煙の減少は何百万人もの命を救ってきたし、今後も何百万人もの人の命を救うことだろう。しかし、喫煙者をさらに減らし、喫煙関連疾患の死亡リスク抑制をより確実なものとするために、地域、州、国家レベルでのより強力な取り組みが必要とされている」と話している。また同氏は、喫煙リスクの高い集団に対して、そのような取り組みをより積極的に行うことの重要性も指摘。その理由の一つとして、例えば「教育歴が高校卒業以下の集団の喫煙率と肺がんによる死亡リスクは、大学を卒業した集団に比べて5倍高い」という事実を挙げている。 ACSに対して政策提言などのサポートを行っているACSがん対策推進ネットワークのLisa Lacasse氏は、「本研究の結果は、予防可能な死亡が依然として発生しているという事実を浮き彫りにしている」と論説。「喫煙者を減らし、最終的には米国民全員のタバコによる発がんという疾病負担を減らすためのアプローチの一環として、エビデンスに基づく喫煙防止策や禁煙プログラムの継続と、そのための資金の確保が、これまで以上に求められる」と同氏は述べ、タバコ税の引き上げを含めた包括的な禁煙政策の必要性を指摘している。

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間質性肺炎合併肺がん、薬物療法のポイント~ステートメント改訂/日本呼吸器学会

 2017年10月に初版が発行された『間質性肺炎合併肺癌に関するステートメント』について、2025年4月に改訂第2版が発行された。肺がんの薬物療法は、数多くの分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬(ICI)、抗体薬物複合体(ADC)が登場するなど、目覚ましい進歩を遂げている。そのなかで、間質性肺炎(IP)を合併する肺がんの治療では、IPの急性増悪が問題となる。そこで、近年はIP合併肺がんに関する研究も実施され、エビデンスが蓄積されつつある。これらのエビデンスを含めて、本ステートメントの薬物療法のポイントについて、池田 慧氏(神奈川県立循環器呼吸器病センター)が第65回日本呼吸器学会学術講演会で解説した。NSCLCへの細胞傷害性抗がん薬 細胞傷害性抗がん薬によるIP合併非小細胞肺がん(NSCLC)の1次治療の中心は、カルボプラチンに(nab-)パクリタキセルまたはS-1を併用するレジメンである。これは、本邦で実施された複数の前向き研究や後ろ向き研究の多数例の報告に基づき、比較的安全に投与可能と判断されることによるものである。一方で2次治療以降の検討は少なく、標準治療は確立していない。これについて、池田氏は「後ろ向きの報告から、S-1が比較的安全に投与可能と判断され、用いられているのではないか」と述べた。 IP合併肺がん患者への細胞傷害性抗がん薬の使用について、『特発性肺線維症の治療ガイドライン2023(改訂第2版)』では投与を提案しているが(推奨の強さ:2、エビデンスの強さ:C[低])、「一部の患者には合理的な選択肢でない可能性がある」ことも記載されている。そのため、池田氏は急性増悪のリスク評価が重要であると述べる。リスク評価については、後ろ向き研究においてHRCTでの線維化範囲の広さ、UIP(通常型間質性肺炎)パターン、%FVC(努力肺活量の予測値に対する実測値の割合)低値、%DLco≦50%などが急性増悪のリスク因子として挙げられている。また、ILD-NSCLC-GAPスコア/modified GAPスコア、Glasgow Prognostic Scaleが急性増悪のリスク評価に有用である可能性も報告されている。ただし、確立されたリスク評価方法は存在せず、本ステートメントでは「治療前に急性増悪発症リスクを評価する方法は複数提案されているが確立していない」としている。SCLCへの細胞傷害性抗がん薬 IP合併小細胞肺がん(SCLC)について、本ステートメントの作成にあたり検索に含まれた介入研究は、国内の17例を対象としたカルボプラチン+エトポシドのパイロット試験のみである。本試験では、急性増悪の発現割合は5.9%と比較的低かったことが報告されている。また「びまん性肺疾患に関する調査研究」班(びまん班)の調査では、急性増悪の発現割合がカルボプラチン+エトポシドで3.7%、シスプラチン+エトポシドで11.0%であったことも報告されている。以上から、本ステートメントでは「プラチナ製剤とエトポシド併用療法がIP合併症例においても標準的治療とするコンセンサスが得られている」としている。分子標的薬 EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)のゲフィチニブ、エルロチニブ、オシメルチニブは、既存肺のIPが肺臓炎発現のリスク因子となることが報告されている。これらのことから、『特発性肺線維症の治療ガイドライン2023(改訂第2版)』では、IP合併肺がんに対して分子標的薬を投与しないことを推奨または提案するとされている。ただし、池田氏は「実際のところ、EGFR-TKI以外の分子標的薬については、既存肺のIPと肺臓炎リスクの関連は十分に検討されていない」と指摘する。近年では、KRAS、BRAF、METなどを標的とする分子標的薬が登場しており、これらの分子の遺伝子異常を有する患者には喫煙者が多いことから、肺気腫や間質性肺炎の合併が多い可能性も考えられる。そこで、びまん班が「間質性肺炎合併非小細胞肺癌におけるドライバー遺伝子変異/転座検索の実態と分子標的治療薬の安全性・有効性に関する多施設共同後方視的研究」を実施しており、すでに1,250例を超える症例が集積されているとのことである。池田氏は「かなり興味深い結果になっていることが期待され、近いうちに学会でデータを示し、IP合併肺がん患者でもドライバー遺伝子変異を調べることの意義を共有したい」と述べた。抗線維化薬 特発性肺線維症(IPF)合併NSCLC患者を対象に、カルボプラチン+nab-パクリタキセルへのニンテダニブの上乗せ効果を検討した国内第III相無作為化比較試験「J SONIC試験」では、主要評価項目であるIPF無増悪生存期間(PFS)の優越性は示せなかったものの、非扁平上皮がんに限定するとPFSとOSの延長傾向がみられた。また、IPF合併SCLC患者を対象とした国内第II相試験「NEXT SHIP試験」では、カルボプラチン+エトポシドにニンテダニブを上乗せすることで、間質性肺炎の急性増悪の発現割合を3.0%に抑制したことが報告されている。以上から、ニンテダニブはIP合併の非扁平上皮NSCLC、SCLCにおいて抗線維化作用と抗腫瘍作用の双方を期待でき、1次治療の選択肢の1つになる可能性がある。ADC、モノクローナル抗体 HER2を標的とするADCのトラスツズマブ デルクステカンは肺臓炎の発現が多く、胃がんの市販後調査では既存肺のIPが肺臓炎リスク因子となることが報告されている。そのため、本ステートメントではIP合併肺がんでの使用に際して注意が必要であることが記載されている。ICI ICIは、予後不良なIP合併進行肺がん患者に長期生存をもたらしうる現状で唯一の治療選択肢である。しかし、複数の観察研究において、既存肺に間質性肺疾患を有する場合は免疫関連有害事象(irAE)としての肺臓炎の発現割合が高いことが報告されている。そのため、IP合併肺がん患者へICIを投与する場合は肺臓炎リスクの低い患者の絞り込みが重要となる。 そこで、本邦では複数の介入研究が実施されている。HAVクライテリア(蜂巣肺なし、自己抗体なし、%VC[肺活量の予測値に対する実測値の割合]≧80%)を満たす軽症のIPを合併した肺がん患者に対してICIを投与することで、肺臓炎の発現が抑制されることが示唆されている。一方、HAVクライテリアより緩い基準(蜂巣肺を許容、%FVC≧70%など)で実施した試験では、Grade3以上の肺臓炎が23.5%に認められている。これらの結果を受け、本ステートメントでは「既存肺に蜂巣肺を有すると判断された症例に関しては、とくに肺臓炎のリスクが高いものとして慎重な姿勢で臨むべきである」ことが記載されている。また、これらの結果について、池田氏は「軽症のIPであれば比較的安全な可能性があるが、蜂巣肺を有している場合は、現状の介入研究のデータをみると肺臓炎リスクが高い可能性が示唆されている。ただし、有効性に関する良好なデータも示されており、細胞傷害性抗がん薬では長期生存が見込めない予後不良な集団であることも考慮すると、現状ではICIはIP合併肺がんに対して長期生存をもたらしうる唯一の選択肢であるため、リスクベネフィットを患者に共有し、一緒に考えながら治療を選択していく必要がある」と述べた。

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大腸がん死亡率に対する大腸内視鏡検査と2年ごとの便潜血検査の有用性(解説:上村直実氏)

 日本対がん協会の報告によると、2023年の部位別がん死亡数を死因順位別にみると、男性は肺がん、大腸がん、胃がん、膵臓がん、肝臓がんの順に多く、女性は大腸がん、肺がん、膵臓がん、乳がん、胃がんの順となっている。同年の大腸がん罹患者数は14万8,000人で死亡者数が5万3,000人とされており、罹患者のうち3人に1人が死亡する可能性が推測される。このように、大腸がんは肺がんの次にがん死亡者数が多い疾患であるが、早期がんの完治率は90%以上という特徴を有する疾患であり、早期発見、とくに検診が非常に重要である。 大腸がん検診に関して、直接の大腸内視鏡検査を行う米国に対して、欧州やオーストラリアでは免疫学的便潜血検査(FIT)を用いた検診が主流である。今回、スペインの15施設において2年ごとのFITを用いた検診と1回だけの大腸内視鏡検査を行う検診の各検診プログラムの参加率と10年後の大腸がん死亡率を比較した検討結果が、2025年3月のLancet誌に報告された。結果は、両プログラムへの参加率は大腸内視鏡検査より2年ごとのFIT検診が有意に高く(31.8%vs.39.9%)、10年時の大腸がん死亡率についてはFITベースの検診と大腸内視鏡検査プログラムが同等(0.22%vs.0.24%)であった。すなわち、大腸がん予防のために10年に一度大腸内視鏡検査を行うか、2年に1回FIT検査を行うことが推奨される結果となっている。 日本では、早期発見するための方策として住民検診でFITの2日法が推奨されており、FITによる1次検診から精密検査の内視鏡検査へ誘導する方法が確実に施行されれば、大腸がん死亡者数が激減することが容易に予測される。しかしながら、日本大腸肛門病学会によると、住民検診におけるFIT受診率は20%であり、そのうち便潜血陽性でも精密検査である大腸内視鏡検査を受けているのは60%とされている。なお、大腸がんが発見されるのは全体の0.1〜0.2%とされているが、このうち7割が早期がんで根治可能である。検診受診率が低い点が大きな課題であり、受診率の向上へ向けてさまざまな取り組みが策定されているのが現状である。 これに対して、大腸がん死亡率が高い筆頭国であった米国では、近年大腸がん死亡率が著明に低下している。驚くことに人口が日本の約3倍近くもあるにもかかわらず、本邦の大腸がん死亡者数よりも少なくなっている。米国では50歳を過ぎた国民に通常数十万円を要するCSを1回だけ無償で提供しており、大腸がん検診受診率が約70%と日本に比べて非常に高くなっている。このように、米国と本邦の大腸がん死亡率の差は、検診受診率の差が大きな一因と考えられる。 日本では、マンパワーや費用の問題から住民検診において大腸内視鏡検査を直接用いることは難しい状況である。したがって、FITにより検診に対する参加率をさらに向上させる対策と国民の啓蒙が重要であるとともに、一般診療現場において熟知すべき重要な研究結果と思われる。

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肝障害患者へのオピオイド【非専門医のための緩和ケアTips】第99回

肝障害患者へのオピオイドモルヒネは腎不全患者に投与する時は注意が必要というのは有名ですが、肝障害患者に対してはどのような注意が必要なのでしょうか? さまざまな基礎疾患の患者に対応する必要のある緩和ケア領域、肝障害について考えてみたいと思います。今回の質問在宅診療でアルコール性肝硬変のある大腸がん患者を診ているのですが、オピオイドを使用する場合、どのような注意点があるでしょうか? 肝障害があると薬剤の代謝も悪くなると思うので、心配です。今回も臨床的な質問をいただきました。実はこの肝障害患者へのオピオイドの使用は、あまりエビデンスが確立されていない分野です。医薬品インタビューフォームなどの情報を見ると、フェンタニルは「比較的用量調整不要とされるが、慎重に使用」と記載されており、それ以外のオピオイドは「投与量の調節が必要、もしくは使用を推奨しない」という記載となっています。肝障害患者に使用が推奨されていないのは、メサドン、コデイン、トラマドールです。とくにメサドンは「重度の肝疾患患者において、半減期が大幅に延びた」という報告があり、私も基本的には使用しません。一方、モルヒネやオキシコドンなどほかのオピオイドは減量したうえで慎重に投与することを検討します1)。ただし、先述のように確立されたエビデンスはなく、ほかの文献では「フェンタニルも投与量調整が必要」や「メサドンも投与量を調整すれば使用可能」とする報告もあり、迷うところです。臨床的には安全な範囲を見積もりながら慎重に投与し、効果と副作用を評価することになります。こういった機会でないとなかなか勉強することのない、薬剤の代謝について復習してみましょう。肝機能障害がある際に代謝が低下する理由はいくつかあるのですが、代謝酵素(CYP3A4など)の活性が半分程度まで低下することが大きく影響します。私も専門家ではないのでざっくりとした説明になりますが、CYPは種類があり、薬剤ごとに関与するCYPが異なります。このため、薬剤ごとに代謝の影響を確認する必要があるのです。「障害されている肝細胞が多いほど代謝機能が低下する」というのはイメージしやすいでしょう。今回の質問のように肝臓全体に影響があるアルコール性肝硬変の場合は肝細胞が広範に萎縮し、代謝機能が大きく低下するケースが多いでしょう。一方、肝細胞がんでは比較的肝細胞数が維持されることが多いとされます。こうした意味でも病態ごとに考える必要があるのです。今回は緩和ケアの専門家でもクリアカットにコメントしにくい、肝障害患者へのオピオイドについて考えてみました。まずは「重度肝障害患者に対しては、メサドン、コデイン、トラマドールは避ける」という点を押さえましょう。今回のTips今回のTips肝障害患者へのオピオイド投与。避ける薬剤を確認し、使用できる薬剤も慎重に投与量を考えよう。1)Pharmacokinetics in Patients with Impaired Hepatic Function: Study Design, Data Analysis, and Impact on Dosing and Labeling/FDA

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第84回 臨床研究で用いられる“PICO”と“PECO”とは?【統計のそこが知りたい!】

第84回 臨床研究で用いられる“PICO”と“PECO”とは?臨床研究や医学論文を読んでいる方々にとって、“PICO”と“PECO”は馴染み深いフレームワークです。しかし、意外にその意味や活用方法を改めて考える機会は少ないかもしれません。これらのフレームワークは、適切な臨床研究の設計やエビデンスの解釈においてとても重要となります。今回は、PICOとPECOの概要と、その意義や具体的な活用法について解説します。■PICOとはPICOは、臨床研究の設計や系統的レビュー、臨床診療ガイドラインの作成時に用いられるフレームワークであり、以下の要素で構成されています。P(Patient/Population/Problem)対象となる患者、集団、問題I(Intervention)介入や治療法C(Comparison)比較対照O(Outcome)結果やアウトカム■PICOの各要素の詳細P(Patient/Population/Problem)対象とする患者群の特性(年齢、性別、疾患の種類やステージなど)を明確にします。たとえば、「高血圧症の成人」や「2型糖尿病の患者」など、研究の対象となる集団を具体的に設定します。I(Intervention)研究で評価する治療法や介入を明確にします。具体例として、「新規の降圧薬」や「食事療法」といったものが挙げられます。C(Comparison)介入の効果を比較する対照群を示します。プラセボや標準治療、他の治療法などが比較対象となる場合があります。対照群が存在しない場合(例:観察研究など)もあります。O(Outcome)研究で評価するアウトカムを示します。主要アウトカムとして設定されるものには、死亡率、再発率、副作用などが含まれます。■PICOの具体例たとえば、「新しい降圧薬Aの効果と安全性を検討する臨床試験」のPICOのフレームワークは次のようになります。P高血圧症の成人I降圧薬ACプラセボO血圧の変化、薬の副作用PICOのフレームワークを用いることで、研究の焦点を明確にし、適切な研究デザインやエビデンスの解釈に役立てることができます。■PECOとはPECOとはPICOの変形で、とくに疫学研究や予防に関連する研究でよく用いられます。PECOは以下の要素で構成されます。P(Population)対象となる集団E(Exposure)曝露やリスク因子C(Comparison)比較対照O(Outcome)結果やアウトカム■PECOの各要素の詳細P(Population)対象となる集団を明確にします。年齢、性別、地域、疾患の有無などの基準で集団を定義します。E(Exposure)曝露やリスク因子を示します。たとえば、「喫煙習慣」や「運動不足」といった生活習慣に関するものや、「化学物質への曝露」などが含まれます。C(Comparison)比較対象群を設定します。非曝露群や別の曝露水準を持つ群が対照群となります。O(Outcome)研究で評価するアウトカムを示します。発症率や死亡率、生活の質などが主なアウトカムとなります。■PECOの具体例たとえば、「喫煙と肺がんの関連を調査するコホート研究」のPECOのフレームワークは次のようになります。P成人(男女)E喫煙者C非喫煙者O肺がんの発症率PECOのフレームワークは、観察研究においてリスク因子や曝露とアウトカムの関連性を明らかにするために役立ちます。■PICO/PECOの活用例1)PICO/PECOのフレームワーク系統的レビューとメタアナリシスにおいて、研究課題を明確に定義するための重要なステップとなります。研究課題を具体的に設定することで、適切な文献の検索と選定が行えるようになります。たとえば、糖尿病患者における新規治療薬の効果を評価する系統的レビューを行う場合、PICOのフレームワークを使うことで、次のような課題が設定できます。P2型糖尿病患者I新規治療薬XCプラセボまたは標準治療O血糖コントロール、体重変化、副作用上記の課題に基づき、関連する研究を選定し、統合した解析を行うことが可能です。2)臨床診療ガイドラインの作成臨床診療ガイドラインを作成する際にも、PICO/PECOのフレームワークは重要です。エビデンスに基づく推奨を作成するためには、まず適切な研究課題を設定する必要があります。たとえば、骨粗鬆症患者へのビタミンDサプリメントの効果を評価するためのガイドラインを作成する場合、次のようなPICOのフレームワークが考えられます。P骨粗鬆症患者IビタミンDサプリメントCプラセボまたは無治療O骨折リスクの低下、副作用上記の課題を基に関連文献を検索し、エビデンスに基づく推奨を行います。3)個別の臨床研究設計臨床研究のデザイン段階でPICO/PECOを活用することで、研究目的を明確にし、適切な対象者の選定やアウトカムの設定が可能です。これにより、バイアスの少ない信頼性の高い結果が得られます。このように、PICOとPECOのフレームワークは、臨床研究の設計、系統的レビューやメタアナリシスの実施、ガイドラインの作成など、医療統計において不可欠なツールです。これらのフレームワークを効果的に活用することで、明確な研究課題の設定と適切なエビデンスの解釈が可能となり、患者にとって有益な医療を提供するための指針となるだけではなく、論文を読む際にもこのPICOとPECOのフレームワークを知っておくと論文の理解が深まります。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ統計のそこが知りたい!第4回 アンケート調査に必要なn数の決め方第5回 臨床試験で必要なn数(サンプルサイズ)「わかる統計教室」第4回 ギモンを解決! 一問一答質問2 何人くらいの患者さんを対象にアンケート調査をすればよいですか?

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通院費増で遺伝子変異に関連した治験への参加率が低下、制度拡充が必要/国立がん研究センター

 がんの臨床試験(治験)では、地域の医療機関が参加条件に該当した患者を治験実施施設に紹介することが一般的だ。患者は自宅から離れた治験実施施設に通わねばならないケースも多く、時間的・経済的負担が生じる。国立がん研究センター中央病院 先端医療科の上原 悠治氏、小山 隆文氏らは、施設までの通院費と治験の参加可能性が関連するかを検討する後ろ向きコホート研究を行った。 2020~22年に、がん遺伝子パネル検査後に国立がん研究センター中央病院に治験目的で紹介された進行固形腫瘍患者1,127例を対象に、通院費と治験参加状況の関連を調査した。主要評価項目は遺伝子変異に関連した治験への参加、副次評価項目は遺伝子変異とは関連しない治験への参加だった。多変量ロジスティック回帰分析により、移動費用と治験参加率との関連を評価した。本研究の結果はESMO Real World Data and Digital Oncology誌オンライン版2025年2月25日号に掲載された。 主な結果は以下のとおり。・1,127例のうち、127例(11%)は遺伝子変異に関連した治験に参加し、114例(10%)は遺伝子変異とは関連しない治験に参加した。・通院費(公共交通機関の往復料金)の中央値は17ドル(約2,000円:2022年、研究開始時の為替レート[1ドル=120円]で計算)だった。多変量解析の結果、通院費が100ドル(約1万2,000円)以上の患者は、100ドル未満の患者と比較して、遺伝子変異に関連する治験に参加する割合が有意に低いことが示された(7%vs.13%、オッズ比[OR]:0.51、95%信頼区間[CI]:0.30~0.88)。・遺伝子変異に関連する治験への参加する割合は、通院費が100ドル未満、100~200ドル未満、200ドル以上と増加するにつれ低下した(13%vs.9%vs.6%、OR:0.70、95%CI:0.28~1.52、OR:0.46、95%CI:0.22~0.85)。・通院費は遺伝子変異とは関連しない治験へ参加する割合には影響を与えなかった。遺伝子変異に関連する治験の参加者は初回診察予約から治験参加までの期間の中央値が、遺伝子変異とは関連しない治験の参加者よりも短かった(21日vs.31日、p=0.006)。 この結果を受けた上原氏のコメントは以下のとおり。 「現在、国立がん研究センターでは、治験参加者への『被験者負担軽減費』として通院の負担を軽減する制度がある。しかし、当制度は参加者の居住地にかかわらず一律で、遠方に住む参加者は交通費の負担が重くなる傾向にある。本邦で治験を実施している多くのがんセンターや大学病院でも、こうした負担軽減費の相場は1回の通院あたり7,000~1万円程度となっており、通院費が遠方から治験を検討している患者の大きな負担となっていることが予想された。 米国の場合、2018年に出た米国食品医薬品局(FDA)のガイダンス1)で、通院費、宿泊費等の合理的な費用を支給することは治験参加者に対して不当な影響を及ばさない(=治験に参加する強い誘引にならない)旨が示されており、全額支給を行う医療機関も増えてきている。同様の制度を本邦で検討する際、実際に高額な通院費が治験に入る際の障壁になっていないかどうか検討するために計画したのが本研究だ。 結果として、がんの遺伝子変異に関連する一治験において、通院費負担が大きくなるほど参加する割合が低下することが確認された。遺伝子変異とは関連しない一治験では傾向が見出されなかったのは、遺伝子変異に関連する治験に比べて治験参加までの期間が長く、その間に病態が進行して参加できなくなる、などの背景があったと考察している。 本邦における治験へのアクセスの地域格差を解消するため、この結果をもとに、参加者の居住地に応じた被験者負担を軽減する制度の必要性が感じられた。今後は、患者個々の社会的因子を考慮した通院費の負担感など、より詳細な因子を調査することも検討している。また、オンライン診療などを活用する分散型臨床試験(DCT)の導入が別のアプローチの解決策となる可能性がある。」

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臓器の生物学的老化の加速は疾患リスクに影響する

 臓器の生物学的年齢(臓器年齢)は人によって異なり、臓器の老化の加速により、その臓器だけでなく、他の臓器に関連した疾患のリスクも予測できる可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)のMika Kivimaki氏らによるこの研究の詳細は、「The Lancet Digital Health」3月号に掲載された。 Kivimaki氏らは、特定の臓器年齢の加速は、1)その臓器の疾患リスクを高めるのか、2)他の臓器に関連する加齢関連疾患や、それらの疾患の同時発症のリスクも高めるのか、を検討した。対象は、35年以上にわたり1万人以上の英国成人を追跡したホワイトホールII研究のデータから抽出した、45〜69歳の6,235人とした。対象者の血漿プロテオームの解析により9つの臓器(心臓、血管、肝臓、免疫系、膵臓、腎臓、肺、腸、脳)の年齢を推定し、同年代の人の臓器年齢との差を算出した。その後、対象者を平均19.8年間追跡し、45種類の加齢関連疾患とマルチモビディティ(多疾患併存)の発症について調査した。 年齢、性別、人種、解析対象外の臓器における年齢差を調整して解析した結果、臓器年齢の差が大きい人では、30種類の疾患のリスクが高いことが明らかになった。また、6種類の疾患は、それぞれが関連する特定の臓器の生物学的老化の加速とのみ関連していた。具体的には、臓器年齢の差が1標準偏差増加するごとに、肝臓では肝不全リスクが2.13倍、心臓では拡張型心筋症リスクが1.65倍、慢性心不全リスクが1.52倍に、肺では肺がんリスクが1.29倍に、免疫系では無顆粒球症が1.27倍、リンパ節転移リスクが1.23倍の上昇を示した。さらに、臓器年齢の差が大きいほど、複数の臓器に関連した疾患が同時に発症するリスクも上昇を示し、臓器年齢の差が1標準偏差増加するごとに同リスクは、動脈で2.03倍、腎臓で1.78倍、心臓と脳で1.52倍、膵臓で1.43倍、肺で1.37倍、免疫系で1.36倍、肝臓で1.30倍に上昇していた。 意外なことに、認知症のリスクが最も高かったのは、脳ではなく免疫系の生物学的老化の加速が見られた人だった。研究グループは、「この結果は、重度の感染症にかかりやすい人は老年期に認知症になるリスクも高いという、これまでの研究結果を裏付けるものだ」と述べている。また、「この研究結果は、炎症プロセスが神経変性疾患の発症に重要な役割を果たしている可能性があることを示唆するものだ」との見方も示している。 研究グループは、「この研究は、臓器特異的な血液検査が早期の疾患リスクの特定に役立つ可能性があることを浮き彫りにしている」と述べている。Kivimaki氏は、「このような検査により、将来的には、特定の臓器に対する適切なケアが必要かどうかのアドバイスや、特定の疾患を発症するリスクが高い可能性があるとの早期警告を提供できる可能性がある」と話している。

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第10回日本がんサポーティブケア学会学術集会 会長インタビュー【Oncologyインタビュー】第49回

出演:和歌山県立医科大学 内科学第三講座(呼吸器内科・腫瘍内科)教授 山本 信之氏2025年5月17日より、第10回日本がんサポーティブケア学会学術集会が開催される。総会のテーマは「最高のがんサポーティブケアを目指して beyond evidence」である。会長の和歌山県立医科大学山本信之氏に学術集会の見どころについて聞いた。参考第10回日本がんサポーティブケア学会学術集会ホームページ

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