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デジタルアドヒアランス技術は、結核の治療アウトカムを改善するか/Lancet

 結核治療では、治療のアドヒアランスが不良であると治療アウトカムの悪化のリスクも高まることが知られており、近年、服薬アドヒアランスを改善するためのデジタル技術の評価が進められ、WHOは条件付きでこれを推奨している。オランダ・KNCV Tuberculosis FoundationのDegu Jerene氏らは、ウェブベースのアドヒアランスプラットフォームと連携したスマートピルボックスまたは薬剤ラベルを用いたデジタルアドヒアランス技術(digital adherence technologies:DAT)は、薬剤感受性結核患者における不良な治療アウトカムを低減しないことを示した。研究の詳細は、Lancet誌オンライン版2025年3月11日号で報告された。4ヵ国220施設のクラスター無作為化試験 研究グループは、薬剤感受性結核患者におけるスマートピルボックスおよび薬剤ラベルに基づくDATの有益性の評価を目的に実践的なクラスター無作為化試験を行い、2021年6月~2022年7月に4ヵ国(フィリピン、南アフリカ、タンザニア、ウクライナ)の220の施設で患者を募集した(ユニットエイド[Unitaid]の助成を受けた)。 220の参加施設(クラスター)を、標準治療群(110施設)または介入群(110施設)に無作為に割り付け、ウクライナを除いて介入群をさらにスマートピルボックス群または薬剤ラベル群に1対1の割合で無作為に割り付けた。年齢18歳以上の薬剤感受性結核患者を対象とした。 ピルボックス群の施設の患者は薬剤を保管するピルボックス(薬箱)を配布され、視覚・聴覚的に服薬を促すリマインダーが発せられて、ボックスを開けるとアドヒアランスプラットフォームに信号が送信され、服薬したとみなされた。薬剤ラベル群の患者は、コードが表示されたラベルを貼った薬剤を受け取り、治療量を服薬すると、携帯電話で無料のテキストメッセージをアドヒアランスプラットフォームに送り、これをもって服薬が完了したとみなされた。標準治療群の患者は、各国のガイドラインに準拠した標準治療を受けた。 主要アウトカムは、不良な治療終了の複合アウトカムとし、治療失敗、追跡不能(連続で2ヵ月以上の治療中断)、治療開始から28日以降における多剤耐性レジメンへの切り換え、死亡と定義した。不良な治療終了、フィリピンで8.8%、ウクライナで26.7% 2万5,606例を登録した(介入群1万2,980例、標準治療群1万2,626例)。このうち2万3,483例(91.7%)(それぞれ1万2,170例、1万1,313例)をITT集団とした。ITT集団の35.0%(8,208例)が女性で、年齢中央値は南アフリカの介入群41歳、標準治療群40歳から、フィリピンのそれぞれ47歳および46歳までの範囲であった。ITT集団のうち、介入群の1万540例(86.6%)と標準治療群の9,717例(85.9%)を主要アウトカムの解析の対象とした。 主要アウトカムの発生率は、フィリピンで最も低く(8.8%)、ウクライナで最も高く(26.7%)、南アフリカ(16.0%)とタンザニア(17.1%)はその中間であった。主要アウトカムのリスクは、4つの国のいずれにおいても介入による差は生じず、補正後オッズ比はフィリピンで1.13(95%信頼区間[CI]:0.72~1.78、p=0.59)、タンザニアで1.49(0.99~2.23、p=0.056)、南アフリカで1.19(0.88~1.60、p=0.25)であり、ウクライナの補正リスク比は1.15(0.83~1.59、p=0.38)だった。PP解析では、ウクライナを除き差はない ピルボックス群で、不注意による治療状況の開示に起因する社会的問題が2件発生し、患者の脱落につながった。また、per-protocol(PP)集団の介入群における、解析からの除外の最も頻度の高い原因は、DAT開始の失敗であった(4,884件の解析からの除外のうち4,311件[88.3%])。 PP解析による主要アウトカムの発生率は、ウクライナでは介入群で低かった(14.7%vs.25.5%、補正後リスク比:0.66[95%CI:0.46~0.94])が、他の国では差を認めなかった。 著者は、「これまでに得られたエビデンスは、DATによるアドヒアランスの改善を示しているが、治療アウトカムの結果にはばらつきがみられるため、評価されたアウトカムでは検出されなかったDATの有益性が存在する可能性が示唆されている」「追加的介入として、患者のニーズに基づくトリアージ、最小限の社会的基盤による支援しか必要としないDATの使用、低コストの携帯電話の提供、標準化されたさまざまなアプローチに関する医療従事者の訓練などを導入することで、治療アウトカムに及ぼすDATの効果が改善する可能性がある」「DATの使用は、経済的評価や、患者および関係者の嗜好、計画された治療アウトカム以外の重要な患者アウトカムへの影響に関する追加的なデータを慎重に検討したうえで行うべきである」としている。

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3月24日 世界結核デー【今日は何の日?】

【3月24日 世界結核デー】〔由来〕ドイツのロベルト・コッホが結核菌を発見し演説した日にちなみ、世界保健機関(WHO)が1997年に制定。世界中でこの日の前後に結核撲滅や結核の啓発について、イベントが開催されている。関連コンテンツ集団感染相次ぐ、結核の4年連続低蔓延国化は厳しいか【現場から木曜日】tuberculosis(結核)【病名のルーツはどこから?英語で学ぶ医学用語】結核再増加、「3年間限定の低蔓延国」となるか?【現場から木曜日】結核薬ベダキリンを米国と欧州が本承認【バイオの火曜日】多剤耐性結核の家庭内感染予防、レボフロキサシンは有効か/NEJM

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リファンピシン耐性キノロン感性結核に対する経口抗菌薬(解説:寺田教彦氏)

 結核は、依然として世界的な公衆衛生の問題であり、2023年WHO世界結核対策報告書によると、2022年には約1,060万人が結核を発症し、130万人が死亡したとされる。結核治療を困難にする要因の1つに薬剤耐性結核(MDR/RR-TB)があり、今回の対象であるリファンピシン耐性結核は、毎年約41万人が罹患すると推定されている。このうち治療を受けたのは40%にすぎず、その治療成功率は65%にとどまっている(WHO. Global tuberculosis report 2023.)。これは、従来のレジメンが18~24ヵ月と治療期間が長く、アミノグリコシド系やポリペプチド系の注射製剤が含まれ、副作用の問題もあったためと考えられる。 2016年から2017年にかけて、本研究(endTB試験)を含めた3つの多国籍ランダム化比較試験(STREAM2試験、TB-PRACTECAL試験)が開始され、リファンピシン耐性結核に対する6ヵ月または9ヵ月の全経口短期レジメンの安全性と有効性が評価された。 本研究は、15歳以上のリファンピシン耐性・フルオロキノロン感性の結核患者を対象に、ベダキリン(B)、デラマニド(D)、リネゾリド(L)、レボフロキサシン(Lfx)またはモキシフロキサシン(M)、クロファジミン(C)、ピラジナミド(Z)から成る5つの併用レジメン(BLMZ、BCLLfxZ、BDLLfxZ、DCLLfxZ、DCMZ)と、当時のWHOガイドラインに準拠した標準治療群の計6つの治療群を比較した。その結果、3つのレジメンが標準治療に対して非劣性を示した(詳細は「リファンピシン耐性/キノロン感受性結核に有効な経口レジメンは?/NEJM」参照)。 WHOは2024年8月に発表したKey updates to the treatment of drug-resistant tuberculosis: rapid communication, June 2024において、本試験(endTB)の結果を解釈し、内容を更新している。ガイドライン開発グループの解釈では、フルオロキノロン感受性が確認されたMDR/RR-TB患者において、BLMZ、BLLfxCZ、BDLLfxZの3種類の9ヵ月全経口レジメンは、長期(≧18ヵ月)レジメンの代替として効果的かつ安全に使用できるが、DCLLfxZおよびDCMZレジメンは治療失敗・再発率および獲得耐性率が高いため推奨されないとされた。そのため、WHOはフルオロキノロン感性MDR/RR-TB患者に対し、9ヵ月の全経口レジメン(優先順位:BLMZ>BLLfxCZ>BDLLfxZ)を従来の長期レジメンに代わる選択肢の1つとして提案した(条件付き推奨、エビデンスの確実性は非常に低い)。 本研究のレジメンは小児用製剤もあり、妊娠中の使用も検討可能である。今後、2025年のWHOガイドライン改訂にも反映され、より多くの患者に適用可能な治療法の1つとなることが期待される。

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第253回 石破首相・高額療養費に対する答弁大炎上で、制度見直しの“見直し”検討へ……。いよいよ始まる医療費大削減に向けたロシアン・ルーレット

高額療養費制度の負担限度額引き上げ問題ひとまず決着こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。日本経済新聞朝刊の名物コラム、「私の履歴書」の3月は政府の新型コロナ対策分科会の会長を務めた尾身 茂氏(現結核予防会理事長)です。まだ4回ほど終わったところですが、感染拡大が始まった2020年2月、政府が国民に感染状況の説明をすることを嫌がる中、専門家会議が独自の視点で見解を表明する場面など、当時の緊迫した状況が赤裸々に描かれています。「私の履歴書」と言えば、だいたい前半は企業人のルーツ(父親や母親のこと)について書かれることが多く、退屈なのですが、今回はなかなか読ませる構成になっています。わずか5年前、パンデミックの最中に国の中枢で何が起こっていたのかをおさらいする意味でも、尾身氏の「私の履歴書」は医療関係者必読と言えます。さて、国会で侃々諤々の議論が続いていた高額療養費制度の負担限度額引き上げ問題が2月28日、ひとまず決着しました。2025年8月の引き上げは予定通り実施、2026年8月以降の制度について、石破茂首相は「再検討する」と表明しました。また2月25日には、自民、公明両党は2025年度予算修正案の成立に向け、日本維新の会の賛成を取り付けました。教育無償化の具体策や社会保険料の負担軽減策などについて正式に合意し、3党の党首らが文書に署名しました。高額療養費制度見直しの“見直し”など医療の給付削減(自己負担増)に対する強い抵抗感がある中、一方で「社会保険料を引き下げろ」という声も高まっています。保険給付のレベルは現状そのままに、保険料は引き下げるなんてことが本当にできるのでしょうか。少数与党となった自民党は非常に難しい状況に追い込まれています。今後、医療費削減、医療の効率化に向けて本格的な議論が始まります。選挙もそうですが、今や政治状況はSNSなど、世論の動きによって瞬時に風向きが変わります。それはまさにロシアン・ルーレットのようなもので、標的が誰(あるいは何)になるかは予測しづらく、医療費大削減を迫る“弾丸”も最終的にどこに向かって発せられることになるのか、予断を許しません。石破首相、キムリア、オプジーボを名指しで批判して炎上「瞬時に風向きが変わる」ことでは、高額療養費制度の負担限度額引き上げがまさにそうでした。そもそも限度額引き上げは、1年以上前、2024年1月26日の社会保障審議会で示された「全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)」の中に、経済情勢に対応した患者負担などの見直しの一つとして明記されていました。昨年12月の社会保障審議会医療保険部会ではさまざまな意見を踏まえた見直し案が提示され、年末には高額療養費制度の負担限度額引き上げを含めた2025年度当初予算案を閣議決定しています。つまり、この1年余りのあいだ、負担限度額引き上げに対する大きな反対運動は起こっていなかったのです。政治状況がそれを許していたのか、野党の政治家たちが不勉強だったのか理由はわかりません。それが、年が明けて1月31日に立憲民主党の酒井 菜摘議員が予算委員会において、高額療養費制度の上限額引き上げに反対する質問を患者たちの反対意見を紹介しながら行うと、一気に社会問題化しました。石破首相は2月21日の衆院予算委員会で、酒井議員の再度の質問に対して「せっかくだから申し上げておくが、キムリアという薬は1回で3,000万円。有名なオプジーボが年間に1,000万円。ひと月で1,000万以上の医療費がかかるケースが10年間で7倍になっているということは、これは保険の財政から考えて何とかしないと制度そのものがもちません」と説明すると世の中が一気に騒ぎ始めました。同日、東京新聞がウェブサイトで「石破首相、がんや白血病の治療薬を『名指し』して医療費逼迫を強調 患者側から『薬を使う患者を傷つけた』の声」の記事を配信するとSNS上でも大炎上しました。石破首相としては、厚労省の用意した説明資料を参考に答弁を行ったに過ぎないと思われます。しかし、「超高額だがよく効く」薬である点など費用対効果については触れず、ただただ「高いからダメ」といった論調だったことは、その後の高額療養費制度の見直し議論に少なからぬ影響を及ぼしたようです。実際、「超高額だがよく効く」薬より、「安いが効果は今ひとつ(あるいはOTCで十分)」な薬を保険給付から外したりするほうがはるかに大きな医療費削減につながる、といった意見も出てきたからです。自民、公明、日本維新の3党合意で社会保険料の負担軽減へこうした議論とも関連するのが、自民、公明、日本維新の3党合意です。自民、公明両党は2025年度予算修正案の成立に向け日本維新の会の賛成を取り付けました。その条件として、教育無償化の具体策や社会保険料の負担軽減策などについて検討を進めることを正式に合意しました。合意文書には具体的検討事項として、「OTC類似薬の保険給付のあり方の見直し」「現役世代に負担が偏りがちな構造の見直しによる応能負担の徹底 」「医療 DXを通じた効率的で質の高い医療の実現 」「医療介護産業の成長産業化」が盛り込まれました。それぞれの具体策についてはこれから詰めるとされています。党幹部が参加する3党の協議体が設置される予定で、年末までに論点を検討し、早期に可能な施策については2026年度から実行に移すとしています。「2026年度から」ということは次期診療報酬改定に施策を盛り込むということです。上記の検討事項の中で診療報酬に直接関係するのは「OTC類似薬の保険給付のあり方の見直し」です。「昔から言われてきたことで、本当に実現するのか?」といった声もあるようですが、これを機に大きな改革につながっていく可能性もあります。なぜならば、合意文書にはこれらの具体策検討にあたって、政府与党の「全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)」等で「歳出改革等によって実質的な社会保険負担軽減の効果を1.0兆円程度生じさせる」とされていることや、公明党「公明党 2040 ビジョン(中間とりまとめ)」で「多剤重複投薬対策や重複検査対策などを進めることで医療費適正化の効果も得られる」と記されていること、さらには、日本維新の会の「社会保険料を下げる改革案(たたき台)」で「国民医療費の総額を、年間で最低4兆円削減することによって、現役世代一人当たりの社会保険料負担を年間6万円引き下げる」とされていることなどを「念頭に置く」と明記されたからです。OTC類似薬の保険外しが実現しなければ別の診療報酬にメスが入る可能性も「OTC類似薬の保険給付のあり方の見直し」などの改革は、直接、日本医師会などと利害がバッティングすることになります。しかし、「国民医療費を削減し社会保険料負担を引き下げる」という大方針が掲げられた以上、OTC類似薬の保険外しが実現しなければ、数点のマイナスで大きな医療削減効果がある別の診療報酬にメスが入る可能性もあるでしょう。高額医療費制度の見直しの議論の最中や3党合意に至る過程で、日本医師会は世の中に向かってあまり意見をアピールしていません(OTC類似薬の保険外しについては宮川政昭常任理事が記者会見でコメントしていましたが)。今、下手に意見を言うと、“弾丸”が弾倉から自分たちに向かって飛び出してくることを恐れているのかもしれません。2012年の3党合意はその後の社会保障制度改革の道筋を作った「3党合意」で思い出すのは、2012年の民主党政権下、野田 佳彦首相が主導して民主党、自民党、公明党の3党間において取り決められた社会保障と税の一体改革に関する合意です。この3党合意を経て同年8月に社会保障制度改革推進法を含む関連8法案が国会で可決成立しました。この推進法に基づいて「社会保障制度改革国民会議」が設置され、2013年5月に報告書がまとめられました。この報告書を踏まえて「社会保障制度改革プログラム法案」が国会に提出され、同年12月に成立しています。この間、政権は民主党から自民党に戻っていますが3党合意は堅持され、2018年頃までの社会保障制度改革の多くはこのプログラム法に沿って進められてきました。その意味でこの時の3党合意は大きな意味があったと言えるでしょう。今回の3党合意についても3党の協議体が設置される予定とのことです。2012年の時のように、突っ込んだ議論が行われ、プログラム法のような大胆なロードマップが描かれて実行に移されることになるのか。今後に注目したいと思います。

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アトピー、乾癬、円形脱毛症、白斑の日本人患者で多い併存疾患

 アトピー性皮膚炎、乾癬、円形脱毛症、白斑の日本人患者において、アレルギー性またはアトピー性疾患(アレルギー性鼻炎、結膜炎、喘息を含む)、皮膚疾患、感染症が最も頻繁にみられる併存疾患であり、とくにアトピー性皮膚炎および乾癬患者では、静脈血栓塞栓症、リンパ腫、帯状疱疹、結核の発生率が高いことが明らかになった。福岡大学の今福 信一氏らは、日本のJMDCレセプトデータを用いた後ろ向きコホート研究を実施、日本人皮膚疾患患者における併存疾患の有病率および発生率を評価した。The Journal of Dermatology誌オンライン版2025年2月7日号への報告より。 本研究では、2013年6月~2020年12月にJMDC請求データベースから収集されたデータが使用された。アトピー性皮膚炎、乾癬、円形脱毛症、または白斑と診断された患者は、年齢、性別、およびインデックス月(診断または治療の最初の記録があった月)によって、それらの疾患の診断による請求記録がない個人と1:1でマッチングされた。 主な結果は以下のとおり。・データには、アトピー性皮膚炎69万1,338例、乾癬5万1,988例、円形脱毛症4万3,692 例、白斑8,912例が含まれ、それぞれに対応するマッチング対照群が設定された。・それぞれの皮膚疾患患者において有病率の高かった併存疾患とマッチング対照群での有病率は、以下のとおりであった。アトピー性皮膚炎:アレルギー性鼻炎(47%vs.37%)、結膜炎(33%vs.23%)、喘息(27%vs.20%)、ウイルス感染症(22%vs.15%)、ざ瘡(11%vs.3%)乾癬:アレルギー性鼻炎(35%vs.28%)、結膜炎(21%vs.17%)、真菌感染症(17%vs.5%)、高血圧(16%vs.13%)、ウイルス感染症(16%vs.7%)円形脱毛症:アレルギー性鼻炎(40%vs.31%)、結膜炎(26%vs.19%)、ウイルス感染症(17%vs.8%)、喘息(14%vs.11%)、アトピー性皮膚炎(12%vs.3%)白斑:アレルギー性鼻炎(45%vs.36%)、結膜炎(30%vs.23%)、ウイルス感染症(21%vs.12%)、喘息(19%vs.16%)、アトピー性皮膚炎(16%vs.4%)・アトピー性皮膚炎コホートにおける併存疾患の発生率(10万人年当たり)は、マッチング対照群と比較して以下のとおりであった:静脈血栓塞栓症:51.4(95%信頼区間[CI]:48.3~54.7)vs.31.7(29.2~34.2)リンパ腫:13.8(12.2~15.6)vs.5.7(4.7~6.8)皮膚T細胞性リンパ腫:1.6(1.1~2.2)vs.0.1(0.0~0.4)帯状疱疹:740.9(728.8~753.1)vs.397.6(388.9~406.6)結核:8.4(7.1~9.7)vs.5.8(4.8~6.9)・乾癬コホートでのマッチング対照群との比較においても、同様の傾向が認められた。円形脱毛症および白斑のコホートでは、対照群と95%CIがほぼ重なっていた。

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リファンピシン耐性/キノロン感受性結核に有効な経口レジメンは?/NEJM

 リファンピシン耐性でフルオロキノロン感受性の結核患者の治療において、3つの経口レジメン(BCLLfxZ、BLMZ、BDLLfxZ)の短期投与が標準治療に対し非劣性で、Grade3以上の有害事象の頻度はレジメン間で同程度であることが、フランス・ソルボンヌ大学のLorenzo Guglielmetti氏らが実施した「endTB試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2025年1月30日号に掲載された。7ヵ国の第III相対照比較非劣性試験 endTB試験は、7ヵ国(ジョージア、インド、カザフスタン、レソト、パキスタン、ペルー、南アフリカ共和国)の12施設で実施した第III相非盲検対照比較非劣性試験であり、2017年2月~2021年10月の期間に参加者のスクリーニングと無作為化を行った(Unitaidの助成を受けた)。 年齢15歳以上のリファンピシン耐性でフルオロキノロン感受性の結核患者を、ベダキリン(B)、デラマニド(D)、リネゾリド(L)、レボフロキサシン(Lfx)またはモキシフロキサシン(M)、クロファジミン(C)、ピラジナミド(Z)から成る5つの併用レジメン(BLMZ、BCLLfxZ、BDLLfxZ、DCLLfxZ、DCMZ)または標準治療レジメン(WHOガイドラインに準拠)の6つの治療群に無作為に割り付けた。5つの併用レジメンは9ヵ月間投与した。 主要エンドポイントは73週目の良好なアウトカムとし、不良なアウトカムがなく、65~73週における連続2回の喀痰培養陰性または良好な細菌学的、臨床的、X線画像上の変化と定義した。不良なアウトカムには、死亡(死因は問わない)、5つの併用レジメンのうち1剤または標準治療レジメンのうち2剤の置き換えまたは追加、リファンピシン耐性結核に対する新たな治療の開始などが含まれた。非劣性マージンは-12%ポイントとした。per-protocol集団ではDCMZ群の非劣性確認できず 754例を無作為化し、このうち699例が修正ITT解析、562例がper-protocol解析の対象となった。修正ITT集団の内訳は、BLMZ群118例(年齢中央値31歳、女性34.7%)、BCLLfxZ群115例(38歳、32.2%)、BDLLfxZ群122例(32歳、45.1%)、DCLLfxZ群118例(30歳、32.2%)、DCMZ群107例(32歳、42.1%)、標準治療群119例(31歳、40.3%)であった。 修正ITT解析では、良好なアウトカムの全体の達成率は84.5%(591/699例)で、標準治療群では80.7%(96/119例)であった。修正ITT集団で非劣性が確認された新規レジメンは次の4つで、標準治療群とのリスク差はBCLLfxZ群で9.8%ポイント(95%信頼区間[CI]:0.9~18.7)、BLMZ群で8.3%ポイント(-0.8~17.4)、BDLLfxZ群で4.6%ポイント(-4.9~14.1)、DCMZ群で2.5%ポイント(-7.5~12.5)であった。DCLLfxZ群では非劣性が示されなかった。 per-protocol集団における良好なアウトカムの全体の達成率は95.9%であった。標準治療群とのリスク差はDCMZ群を除いて同程度で、DCMZ群では非劣性を確認できなかった。重篤な有害事象の頻度も同程度 Grade3以上の有害事象は全体の59.2%(441/745例)で発現し、6つのレジメンで54.8~62.7%の範囲であった。重篤な有害事象は、全体の15.2%(113例)に認め、6つのレジメンで13.1~16.7%の範囲と同程度だった。また、とくに注目すべき有害事象のうちGrade3以上の肝毒性イベント(ALTまたはAST上昇)は、全体で11.7%(87例)、標準治療群では7.1%(9例)にみられた。 著者は、「これらの結果は、リファンピシン耐性結核の成人および小児患者の治療における効果的で簡便な経口薬治療に関して、明るい展望をもたらすものである」としている。

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多剤耐性結核の家庭内曝露小児、予防的レボフロキサシン投与は有効か/NEJM

 多剤耐性(MDR)結核に家庭内で曝露した小児は、レボフロキサシンによる予防的治療を受けた集団で、プラセボと比較し結核の発症率が低いもののその差は有意ではなく、Grade3または4の有害事象の頻度は同程度であることが、南アフリカ共和国・ステレンボッシュ大学のAnneke C. Hesseling氏らが実施した「TB-CHAMP試験」で示された。研究の詳細は、NEJM誌2024年12月19・26日号で報告された。南アフリカ共和国のクラスター無作為化プラセボ対照試験 TB-CHAMP試験は、南アフリカ共和国の5施設が参加した二重盲検クラスター無作為化プラセボ対照試験であり、2017年9月~2023年1月に行われた(Unitaidなどの助成を受けた)。 対象は、細菌学的に確認されたMDR肺結核の成人に家庭内で曝露した小児であった。5歳未満はインターフェロンγ遊離試験の結果またはヒト免疫不全ウイルス(HIV)への感染状態を問わず適格とし、5~17歳はインターフェロンγ遊離試験またはHIV感染が陽性の場合に適格とした。個々の世帯を試験レジメンに無作為に割り付け、これらの世帯の小児にレボフロキサシンまたはプラセボを24週間1日1回投与した。 有効性の主要エンドポイントは、無作為化から48週目までの、結核による死亡を含む結核の発症とした。安全性の主要エンドポイントは、投与期間中に発現した試験レジメンに関連する可能性があるとされたGrade3以上の有害事象であった。有効性の主要エンドポイントは1.1% vs.2.6% 922例を登録し、レボフロキサシン群に453例、プラセボ群に469例を割り付けた。全体の年齢中央値は2.8歳(四分位範囲:1.3~4.2)で、91.0%が5歳未満であり、49.2%が男児であった。各群の86%が、割り付けられた用量の80%以上の投与を受けた。 48週目までに結核を発症したのは、レボフロキサシン群5例(1.1%)、プラセボ群12例(2.6%)で、それぞれ100人年当たり1.2例(95%信頼区間[CI]:0.5~2.9)および2.9例(95%CI:1.6~5.2)であり、両群間に有意な差を認めなかった(ハザード比[HR]:0.44、95%CI:0.15~1.25、p=0.12)。感度分析の結果は、この主解析と一致していた。Grade3以上の試験レジメン関連有害事象は0.9% vs.1.7% 投与期間中のGrade3以上の有害事象は、レボフロキサシン群で4例(0.9%)、プラセボ群で8例(1.7%)に発現し、担当医により試験レジメンに関連する可能性があると判定された(HR:0.52、95%CI:0.16~1.71、p=0.29)。 追跡期間中に2例(各群1例ずつ)が死亡したが、いずれも担当医によって試験レジメンまたは結核による死亡ではないと判定された。また、レボフロキサシン群の1例にGrade2の腱炎がみられたが、投与中止から21日後に治癒した。有害事象による投与中止が、レボフロキサシン群の6例(1.3%)、プラセボ群の1例(0.2%)にみられた(HR:5.00、95%CI:0.61~41.32、p=0.14)。 著者は、「これらの知見は、異なる集団における他の試験の結果と統合し、世界的な施策や実臨床に役立てる必要がある」としている。

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多剤耐性結核の家庭内感染予防、レボフロキサシンは有効か/NEJM

 ベトナムの多剤耐性(MDR)結核患者の家庭内接触者の感染予防において、プラセボと比較してレボフロキサシンの連日投与は、30ヵ月の時点での結核の発生率が低いものの、その差は有意ではなく、有害事象はレボフロキサシンで多かったがGrade3/4の頻度は同程度であることが、オーストラリア・シドニー大学のGreg J. Fox氏らが実施した「VQUIN MDR試験」で示された。研究の詳細は、NEJM誌2024年12月19・26日合併号に掲載された。ベトナムの無作為化対照比較試験 VQUIN MDR試験は、ベトナムの都市部と農村部を含む10の省で行われた二重盲検無作為化対照比較試験であり、2016年3月~2019年8月に参加者のスクリーニングを実施した(オーストラリア国立保健医療研究評議会[NHMRC]の助成を受けた)。 対象は、細菌学的に確認されたリファンピシン耐性またはMDRの結核菌(Mycobacterium tuberculosis)感染患者(過去3ヵ月以内に治療開始)の家庭内接触者であった。ツベルクリン皮膚検査陽性または免疫機能が低下している接触者を、年齢を問わず適格とした。 被験者を、レボフロキサシンまたはプラセボを1日1回、180日間経口投与する群に無作為に割り付けた。錠剤は4週ごとに調剤され、1日の投与量は成人が体重1kg当たり10~15mg、小児は15~20mgで、最大投与量は750mgであった。 主要エンドポイントは、30ヵ月以内に細菌学的に確認された結核とした。副次エンドポイントにはGrade3または4の有害事象、全死因死亡、薬剤耐性の獲得などが含まれた。per-protocol集団でも差はない ITT集団として2,041例を登録し、レボフロキサシン群に1,023例、プラセボ群に1,018例を割り付けた。全体の年齢中央値は40歳(四分位範囲[IQR]:28~52、範囲:2~87)、36.0%が男性であり、1世帯当たりの接触者数中央値は1例(IQR:1~2、最大:13)だった。1,995例(97.7%)が30ヵ月の追跡を完了し、6ヵ月の試験レジメンを完遂したのはプラセボ群の82.9%に比べ、レボフロキサシン群は68.4%と低率であった(群間差:-14.5%ポイント、95%信頼区間[CI]:-19.4~-9.6)。 30ヵ月の追跡期間中に、ITT集団ではレボフロキサシン群で6例(0.6%)、プラセボ群で11例(1.1%)に、細菌学的に確認された結核が発生した。発生率比は0.55(95%CI:0.19~1.62)であり、両群間に有意な差を認めなかった。また、臨床的に結核と診断された患者はレボフロキサシン群で1例、プラセボ群で2例であった(発生率比:0.49、95%CI:0.04~5.46)。 per-protocol集団では、細菌学的に確認された結核がレボフロキサシン群で3例、プラセボ群で6例に発生し、発生率比は0.60(95%CI:0.15~2.40)だった。 両群とも、結核性病変の発生率は、試験レジメンを完遂した患者よりも完遂しなかった患者で高かった。耐性の獲得は認めない Gradeを問わない1つ以上の有害事象の報告は、プラセボ群で125例(13.0%)であったのに対し、レボフロキサシン群では306例(31.9%)と有意に多かった(リスク差:18.9%ポイント、95%CI:14.2~23.6、p<0.001)。 重度(Grade3/4)の有害事象は、レボフロキサシン群で29例(3.0%)、プラセボ群で19例(2.0%)に発生した(リスク差:1.0%ポイント、95%CI:-0.3~2.4、p=0.14)。 有害事象による恒久的な投与中止は、プラセボ群の11例(1.1%)に比べ、レボフロキサシン群は71例(7.4%)と有意に頻度が高かった(リスク差:6.3%ポイント、95%CI:4.3~8.2、p<0.001)。 両群とも最終投与から21日以内の死亡の報告はなく、30ヵ月の追跡期間中に発生した7件の死亡(レボフロキサシン群4例、プラセボ群3例)は、専門家の臨床評価委員会によっていずれも結核とは関連がないと判定された。また、フルオロキノロン耐性の獲得は観察されなかった。 著者は、「レボフロキサシンによる結核発生率の数値上の低下は、家庭内接触者における結核感染予防に、この薬剤が役割を持つ可能性を示唆しているが、推定される効果は明確ではなかった」「プラセボ群での結核発生率(1.1%)は、サンプルサイズ推定の根拠とした数値(3%)よりも低く、先行のコホート研究やメタ解析で報告された値よりもかなり低かった」「本試験で得られた知見を他の試験環境で得られた知見と組み合わせることで、さらに理解が深まるであろう」としている。

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難治性進行膀胱がん、新たな治療法に期待

 第一選択療法が奏効しない難治性の進行膀胱がん患者に希望をもたらす、新たな治療法に関する研究結果が報告された。Cretostimogene grenadenorepvec(以下、cretostimogene)と呼ばれる新薬による治療で、標準治療のBCG療法に反応を示さなかった筋層非浸潤性膀胱がん(NMIBC)患者の4分の3が完全寛解を達成したことが確認された。米メイヨー・クリニック総合がんセンターのMark Tyson氏らによるこの研究結果は、泌尿器腫瘍学会年次総会(SUO 2024、12月4〜6日、米ダラス)で発表された。Tyson氏は、「これらの研究結果は、膀胱がん患者の大きなアンメットニーズに応えるものであり、患者の生活の質(QOL)を向上させる可能性がある」と話している。 米国がん協会(ACS)によると、米国では毎年8万3,000人以上が新たに膀胱がんと診断され、このがんに関連して1万7,000人近くが死亡している。膀胱がんは高齢者に多く、女性よりも男性の方がリスクが高い。 膀胱がんでは、BCGワクチンを膀胱内に注入する治療法(膀胱内BCG注入療法)が標準治療とされている。BCGワクチンは、1921年に結核予防を目的に開発されたが、膀胱に注入することで免疫反応を引き起こし、がん細胞を攻撃してその増殖や再発を抑制する効果を期待できることから、膀胱がんの治療にも用いられている。しかし、全ての患者がBCG療法に反応するわけではないと研究グループは説明する。 今回の研究でTyson氏らは、BCG療法が奏効しなかった110人のNMIBC患者を対象に、cretostimogeneによる治療の安全性と有効性を検討した。Cretostimogeneは、腫瘍溶解性ウイルス療法の一種で、がん細胞に感染させたウイルスの力でがん細胞を攻撃させ、同時に免疫システムを活性化させることでがんの治癒を目指す。対象患者には、3年間にわたり膀胱内にcretostimogeneを断続的に投与する治療が行われた。 その結果、対象者の75%近くががんの完全寛解に至り、その多くが2年以上がんのない状態で生存していることが確認されたことを、Tyson氏らはメイヨー・クリニックのニュースリリースで報告している。また、驚くべきことに、ほとんどの対象者は膀胱摘出術を必要としなかった。さらに、cretostimogeneによる治療の忍容性は高く、重篤な副作用は最小限であったという。 Tyson氏は、「本研究により、cretostimogeneによる治療は効果的で安全性も高いことが判明した。膀胱摘出術の必要性を減らすこの治療法は、治療選択肢が限られている患者にとって待望の代替手段となる可能性がある」と述べている。研究グループは、今後の調査で長期的な有効性や、この治療法を他の治療法と組み合わせることでその有効性が高まるかどうかを調べる予定であるとしている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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中等症~重症の潰瘍性大腸炎、グセルクマブは有効かつ安全/Lancet

 グセルクマブは、中等症~重症の活動期潰瘍性大腸炎(UC)に対する導入療法および維持療法として有効かつ安全であることが、32ヵ国254施設で実施された第IIb/III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験「QUASAR試験」において示された。米国・シカゴ大学のDavid T. Rubin氏らQUASAR Study Groupが、第III相導入試験および維持試験の結果を報告した。グセルクマブは、インターロイキン(IL)-23を阻害するとともに、CD64にも結合する二重作用のヒト型ヒト抗IL-23p19モノクローナル抗体製剤で、IL-23の阻害がUCの治療に有望であることが示唆されていた。本邦ではUCへの適応は承認申請中。Lancet誌オンライン版2024年12月17日号掲載の報告。第IIb、第III相導入・維持試験でグセルクマブvs.プラセボを比較 QUASAR試験は、第IIb相試験、第III相導入試験および維持試験で構成された。 第IIb相および第III相導入試験の対象は、既存の治療(ステロイド、免疫抑制剤、生物学的製剤、JAK阻害薬)で効果不十分または忍容性不良の中等症~重症の活動期UCの成人患者で、グセルクマブ群(第IIb相では200mg群、400mg群、第III相導入試験では200mg群とし、それぞれ0、4、8週時に静脈内投与)またはプラセボ群に無作為に割り付けた。 第IIb相および第III相導入試験において、12週時に臨床的反応が認められたグセルクマブ群の患者、ならびにプラセボ群で12週時に臨床的反応が認められずグセルクマブ200mgを投与され24週時に臨床的反応が認められた患者は、第III相維持試験に組み込まれ、維持療法0週時にグセルクマブ200mgの4週ごと皮下投与(q4w)群、100mgの8週ごと皮下投与(q8w)群またはプラセボ群に1対1対1の割合で無作為に割り付けられ、それぞれ44週間投与した。 主要エンドポイントは、導入試験における12週時の臨床的寛解、および維持試験における44週目の臨床的寛解であった。グセルクマブによる臨床的寛解率は、導入療法12週時23%、維持療法44週時50% 第III相導入試験は、2021年5月18日~2022年6月2日に無作為化が行われ、ベースラインの修正Mayoスコアが5~9の患者701例が解析対象集団となった(グセルクマブ200mg群421例、プラセボ群280例)。 第III相維持試験には、2020年7月31日~2022年11月11日に、846例(第IIb相導入試験から267例、第III相導入試験から579例)が登録され、ベースラインの修正Mayoスコアが5~9の患者568例が主要解析対象集団となった(グセルクマブ100mg q8w群188例、200mg q4w群190例、プラセボ群190例)。 導入試験における12週時の臨床的寛解率は、グセルクマブ群23%(95/421例)、プラセボ群8%(22/280例)であり、グセルクマブ群で有意に高率であった(補正後群間差:15%、95%信頼区間[CI]:10~20、p<0.0001)。 維持試験における44週時の臨床的寛解率は、グセルクマブ200mg q4w群50%(95/190例)、100mg q8w群45%(85/188例)、プラセボ群19%(36/190例)であり、プラセボ群よりグセルクマブ両群で有意に高率であった(補正後群間差:200mg q4w群30%[95%CI:21~38、p<0.0001]、100mg q8w群25%[95%CI:16~34、p<0.0001])。 安全性プロファイルは良好で、承認された適応症におけるグセルクマブの安全性プロファイルと一致していた。導入試験では、両群の49%(グセルクマブ群421例中208例、プラセボ群280例中138例)に有害事象が報告され、重篤な有害事象はグセルクマブ群3%(12例)、プラセボ群7%(20例)、治療中止に至った有害事象はそれぞれ2%(7例)、4%(11例)に報告された。維持試験では、有害事象の発現率は治療群間で同程度であり、主な有害事象はUC、COVID-19および関節痛であった。両試験において、活動性結核、アナフィラキシー、血清病あるいは臨床的に重要な肝障害は報告されなかった。

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結核が再び最も致命的な感染症のトップに

 世界保健機関(WHO)は10月29日に「Global Tuberculosis Report 2024」を公表し、2023年に世界中で820万人が新たに結核と診断されたことを報告した。この数は、1995年にWHOが結核の新規症例のモニタリングを開始して以来、最多だという。2022年の新規罹患者数(750万人)と比べても大幅な増加であり、2023年には、世界で最も多くの死者をもたらす感染症として、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を抑えて再びトップに躍り出た。 WHOのテドロス事務局長(Tedros Adhanom Ghebreyesus)は、「結核の予防・検出・治療に有効な手段があるにもかかわらず、結核が依然として多くの人を苦しめ、死に至らしめているという事実は憤慨すべきことだ」とWHOのニュースリリースで述べている。同氏は、「WHOは、各国が、これらの手段を積極的に活用し、結核の撲滅に向けて約束した取り組みを確実に実行するよう求めている」と付言している。 2023年の世界の結核患者数は1080万人に上り、男性の方が女性よりも多く(55%対33%)、12%は子どもと思春期の若者だった。また、HIV感染者が全罹患者の6.1%を占めていた。結核患者数には地域的な偏りが見られ、インド(26%)、インドネシア(10%)、中国(6.8%)、フィリピン(6.8%)、パキスタン(6.3%)の上位5カ国だけで56%に上り、これら5カ国にナイジェリア、バングラデシュ、コンゴ民主共和国を含めた8カ国が世界全体の感染者の3分の2を占めていた。 結核の新規罹患者の多くは、栄養不足、HIV感染、アルコール使用障害、喫煙(特に男性)、糖尿病の5つの主要なリスク因子が原因で結核を発症していた。WHOは、これらのリスク因子と貧困などの他の社会的決定要因に対処するには、協調的なアプローチが必要だと主張する。WHO世界結核プログラムディレクターのTereza Kasaeva氏は、「われわれは、資金不足、罹患者にのしかかる極めて大きな経済的負担、気候変動、紛争、移住と避難、COVID-19パンデミック、そして薬剤耐性結核など、数多くの困難な課題に直面している」と指摘。「全てのセクターと利害関係者が団結し、これらの差し迫った問題に立ち向かい、取り組みを強化することが不可欠だ」とWHOのニュースリリースで述べている。 一方、報告書には明るい兆しも見えた。結核による死亡者数は世界的に減少傾向にあり、新規罹患者数も安定し始めているという。それでもWHOは、「多剤耐性結核(MDR-TB)は依然として公衆衛生上の危機だ」と指摘し、「MDR-TBまたはリファンピシン耐性結核(RR-TB)の治療成功率は現在68%に達している。しかし、MDR/RR-TBを発症したと推定される40万人のうち、2023年に診断され治療を受けたのは44%に過ぎない」と懸念を示している。 結核は空気中の細菌によって引き起こされ、主に肺を侵す。WHOによると、世界人口の約4分の1が結核菌に感染していると推定されているが、そのうち症状が現れるのは5%から10%に過ぎないという。結核菌感染者は体調不良を感じないことも多く、感染力も低い。WHOは、「結核の症状は数カ月間、軽度のままで推移することがあるため、知らないうちに簡単に他人に病気を広めてしまう」と指摘している。主な結核の症状は、長引く咳(出血を伴うこともある)、胸痛、衰弱、倦怠感、体重減少、熱、寝汗などである。WHOは、「症状は感染部位により異なる。好発部位は肺だが、腎臓、脳、脊椎、皮膚にダメージを与える可能性もある」と付け加えている。

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第123回 集団感染相次ぐ、結核の4年連続低蔓延国化は厳しいか

各地で結核の集団感染今年は結核の集団感染の報道が多いです。厚労省では「20人」というのが集団感染の1つの目安になっています。日本医療研究開発機構(AMED)の「結核低蔓延化に向けた国内の結核対策に資する研究班」による『結核集団発生調査の手引』1)では、集団感染ではなく集団発生という用語が使われており、20人という規定はなく、当該地域の結核罹患率を有意に超えて増加したものと定義されています。いずれにしても現時点では20人を目安に報告されているため、「30人が集団感染」と報道されると、エエーッ!と驚いてしまうかもしれません。たとえば、9月には足立区で、11月には島根県で集団感染事例の報告がありました。いずれも初発患者1例から、複数人へ感染させたというシナリオが想定されています。ただ、注意いただきたいのは、同じ結核菌株が感染したという証明をしているわけではなく、あくまで疫学的リンクからの推定に基づくという点です。高齢者の場合、インターフェロンγ遊離アッセイ(IGRA:クォンティフェロンやT-SPOT)がもともと陽性という方もいるので、潜在性結核感染症の新規同定の多くは、推定に基づいています。潜在性結核感染症は、発病しないための予防的治療を行う感染症です。生活に何ら制限もありません。ですから、こういった報道を耳にしたとき「多くの人が肺結核を発症している」という誤解を持たないようにしないといけません。日本の保健所の初動は非常に優れているので、先んじて報道しているのです。新型コロナやインフルエンザのようにきわめて感染率が高いわけではなく、トータルでみると多くが発病しません(図)。イメージとしては「1割が発病する」という理解でよいでしょう。画像を拡大する図. ヒト結核菌感染の自然史(種々の文献をもとに筆者作成)今年の結核報告数は大きなリバウンド国立感染症研究所の集計によると、第43週(10/27)までのデータでは、結核の報告数はすでに1万2,672人となっています2)。2021年の年間の結核報告数が現時点と全く同じくらいで、このときの罹患率が10万人当たり10.3人ということでした。となると、このままだと日本の罹患率が再び2ケタになる可能性があり、3年連続低蔓延国化したにもかかわらず、それを返上しなければならないかもしれません(低蔓延国の基準は10万人当たり10人を下回っていること)。参考文献・参考サイト1)日本医療研究開発機構(AMED)新興再興感染症研究「結核低蔓延化に向けた国内の結核対策に資する研究班」太田分担. 結核集団発生調査の手引(Ver. 2.05). 2023年3月17日. 2)国立感染症研究所. IDWR速報データ 2024年第43週(2024年11月5日)

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尿から嫌気性菌が発育したら何を考える?【とことん極める!腎盂腎炎】第9回

尿から嫌気性菌が発育したら何を考える?Teaching point(1)ルーチンで尿検体の嫌気性培養は依頼しない(2)汚染のない尿検体のグラム染色で菌体が見えるのに通常の培養で発育がないときに嫌気性菌の存在を疑う(3)尿検体から嫌気性菌が発育したら、泌尿器および生殖器関連の膿瘍疾患や瘻孔形成を疑う《今回の症例》66歳女性。進行子宮頸がんによる尿管狭窄のため半年前から尿管ステントを留置している。今回、発熱と腰痛で来院し、右腰部の叩打痛から腎盂腎炎が疑われた。ステントの交換時に尿管から尿検体を採尿し、グラム染色で白血球と複数種のグラム陰性桿菌を認めた。通常の培養条件では大腸菌のみが発育し、細菌検査室が嫌気培養を追加したところ、Bacteroides fragilisが発育した。検体採取は清潔操作で行われ、汚染は考えにくい。感染症内科に結果の解釈と治療についてコンサルトされた。1.尿検体の嫌気性培養は通常行わない細菌検査室では尿検体の嫌気性培養はルーチンで行われず、また医師側も嫌気培養を行う明確な理由がなければ依頼すべきではない。なぜなら、尿検体から嫌気性菌が分離されるのは約1%1)とまれで、嫌気性菌が常在している陰部からの採尿は汚染の確率が高く起炎菌との判別が困難であり、培養に手間と費用を要するためだ。とくに、中間尿やカテーテル尿検体の嫌気性培養は依頼を断られる2)。嫌気性培養が行われるのは、(1)恥骨上穿刺や泌尿器手技による腎盂尿などの汚染の可能性が低い尿検体、(2)嫌気性菌を疑う尿所見があるとき、(3)嫌気性菌が関与する病態を疑うときに限られる2)。2.嫌気性菌を疑う尿所見は?尿グラム染色所見と培養結果の乖離が嫌気性菌を疑うきっかけとして重要である2)。まず、検体の採取状況で汚染がないことを確認する。扁平上皮の混入は皮膚接触による汚染を示唆する。また、抗菌薬の先行投与がないことも確認する。そのうえで、尿検体のグラム染色で膿尿と細菌を認めるが通常の培養(血液寒天培地とBTB乳糖寒天培地)で菌の発育がなければ嫌気性菌の存在を疑う2)。細菌検査室によっては、この時点で嫌気性培養を追加することがある。グラム陰性桿菌であればより嫌気性菌を疑うが、グラム陰性双球菌の場合には淋菌を疑い核酸増幅検査の追加を考える。一方で、膿尿がみられるのにグラム染色で菌体が見えず、通常の尿培養で発育がなければ嫌気性菌よりも、腎結核やクラミジア感染症などの無菌性膿尿を疑う。3.嫌気性菌が発育する病態は?表に嫌気性菌が発育した際の鑑別疾患をまとめた。なかでも、泌尿器および生殖器関連の膿瘍疾患と、泌尿器と周囲の消化管や生殖器との瘻孔形成では高率に嫌気性菌が同定され重要な鑑別疾患である。その他の感染経路に、便汚染しやすい外性器および尿道周囲からの上行性感染やカテーテル、泌尿器科処置に伴う経尿道感染、経血流感染があるがまれだ3)。画像を拡大する主な鑑別疾患となる泌尿器・生殖器関連の膿瘍では、103例のうち95例(93%)で嫌気性菌を含む複数菌が同定され、その内訳はグラム陰性桿菌(B. fragilis、Prevotella属、Porphyromonas属)、Clostridium属のほか、嫌気性グラム陽性球菌やActinomyces属だったとされる3)。膀胱腸瘻についても、瘻孔形成による尿への便混入を反映し48例のうち44例(92%)で嫌気性菌を含む複数菌が同定されたとされる4)。逆に尿検体から嫌気性菌が同定された症例を集めて膿瘍や解剖学的異常の頻度を調べた報告はないが、筆者はとくに悪性腫瘍などの背景のある症例や難治性・反復性腎盂腎炎の症例などでは、解剖学的異常と膿瘍の検索をすることをお勧めしたい。また、まれな嫌気性菌が尿路感染症を起こすこともある。通性嫌気性菌のActinotignum(旧Actinobaculum)属のA. schaalii、A. urinale、A. massilienseで尿路感染症の報告がある。このうち最多のA. schaaliiは腎結石や尿路閉塞などがある高齢者で腎盂腎炎を起こす。グラム染色ではわずかに曲がった時々分岐のあるグラム陽性桿菌が見えるのに通常の培養で発育しにくいときは炭酸ガスでの嫌気培養が必要である。A. schaaliiはST合剤とシプロフロキサシンに耐性で、β-ラクタム系薬での治療報告がある5)。Arcanobacterium属もほぼ同様の経過で判明するグラム陽性桿菌で、やはり発育に炭酸ガスを要し、β-ラクタム系薬での治療報告がある6)。グラム陽性桿菌のGardnerella vaginalisは性的活動期にある女性の細菌性膣症や反復性尿路感染症、パートナーの尿路感染症の原因になるが、約3万3,000の尿検体中の0.6〜2.3%とまれである7)。メトロニダゾールなどでの治療報告がある。臨床経過と背景リスクによっては炭酸ガスを用いた嫌気培養の追加が考慮されるだろう。《症例(その後)》造影CTを追加したところ骨盤内膿瘍が疑われ、緊急開腹で洗浄したところ、腫瘍転移による結腸膀胱瘻が判明した。細菌検査室の機転により発育した嫌気性菌が膿瘍および膀胱腸瘻の手掛かりになった症例であった。1)Headington JT、Beyerlein B. J Clin Pathol. 1966;19:573-576.2)Chan WW. 3.12 Urine Cultures. Clinical microbiology procedures handbook, 4th Ed. In Leber AL (Ed), ASM Press, Washington DC. 2016;3.12.14-3.12.17.3)Brook I. Int J Urol. 2004;11:133-141.4)Solkar MH, et al. Colorectal Dis. 2005;7:467-471.5)Lotte R, et al. Clin Microbiol Infect. 2016;22:28-36.6)Lepargneur JP, et al. Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 1998;17:399-401.7)Clarke RW, et al. J Infect. 1989;19:191-193.

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リネゾリド処方の際の5つの副作用【1分間で学べる感染症】第14回

画像を拡大するTake home messageリネゾリドを使用する際には、血小板減少症を中心として重要な5つのポイントを覚えておこう。抗MRSA薬の1つにリネゾリドがあります。頻度は少ないものの、重要な場面で使うことがある薬剤です。今回は、リネゾリドに関する5つの重要事項を学んでいきましょう。1)消化器系症状リネゾリドの副作用には、使用早期から現れる可能性があるものとして腹痛、嘔気、嘔吐などの消化器症状が挙げられます。最も頻度が高い副作用の1つですが、症例によっては対症療法のみで自然に改善する場合もあります。2)骨髄抑制次に押さえておくべき副作用は骨髄抑制です。とくに血小板減少症に対する注意が必要です。骨髄抑制の副作用は約2週間以上の使用で発現するとされ、短期間の使用は問題ないことが多いのですが、使用期間が2週間を超える疾患には使用しにくくなります。一般的には、使用中止後1~3週間で回復するとされています。3)セロトニン症候群リネゾリドを開始する際には、相互作用のチェックも重要です。リスクの程度差はあるものの、SSRI、SNRI、MAO阻害薬との併用はセロトニン症候群を引き起こす可能性があります。最近の報告によると、セロトニン症候群を引き起こす可能性のある薬剤のうち、SSRIの中でもエスシタロプラムやオピオイドのメサドンなどはとくに関与が強いと報告されています。発症は服用から数時間~数日以内に現れることが多く、中止すれば24時間以内に改善するといわれています。しかし、まれに横紋筋融解症や腎不全などを来すこともあるため、注意が必要です。開始する際には、薬剤師と連携を取りながら、慎重に併用薬を確認する必要があります。4)乳酸アシドーシスまれながら、乳酸アシドーシスの副作用も報告されています。これは2003年に初めて報告されましたが、発症までの期間は1~16週間と幅があります。致死率は25%にも上るとされており注意が必要です。リネゾリド使用中に乳酸アシドーシスを来した場合には、ほかの原因検索と共にリネゾリドの副作用を考慮することが重要です。5)末梢神経障害・視神経障害末梢神経障害・視神経障害は、ノカルジアや非結核性抗酸菌症、多剤耐性結核などに対する特殊な状況で、長期の投与が必要な際の副作用として報告されています。末梢神経障害は「手袋と靴下型」(手袋や靴下が覆うように手足の先端部分から徐々に症状が進行していく)で発症まで5~11ヵ月、視神経障害は視力低下や色覚異常を来すことが多いとされています。リネゾリドは長期で使用することは少ないため頻度は高くありませんが、頭の片隅に入れておきましょう。以上、有名な血小板減少症以外にも、リネゾリドのこれらの重要な副作用・相互作用に関して念頭に置き、使用する際には患者さんに、その有益性とリスクに関して十分に説明するようにしましょう。1)Apodaca AA, et al. N Engl J Med. 2003;348:86-87.2)Legout L, et al. Clin Infect Dis. 2004;38:767-768.3)Crass RL, et al. Antimicrob Agents Chemother. 2019;63:e00605-e00619.4)Gatti M, et al. Eur J Clin Pharmacol. 2021;77:233-239.5)Mao Y, et al. Medicine (Baltimore). 2018;97;e12114.6)Narita M, et al. Pharmacotherapy. 2007;27:1189-1197.

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第234回 「院長以下に障がい者の人権(尊厳)を守る意識が極めて薄弱であった」 大牟田病院事件の提言書で思い出したノンフィクションの傑作「ルポ・精神病棟」

複数の男性職員が筋ジストロフィーなどの入院患者に対して性的、身体的、心理的虐待を行うこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。野球盛り上がっていますね。この連休は、日本のプロ野球のクライマックスシリーズ(CS)と、MLBのロサンゼルス・ドジャースのポストシーズンの試合観戦(テレビ)でほぼつぶれました。前回のこの連載では「パドレス、このまま上まで行くかも」と書きましたが、残念ながらドジャースに負けてしまいました。それにしても、対パドレス戦でドジャースが劣勢に立った時、大谷 翔平選手が「あと2勝すればいい」と淡々と話していたのが印象的でした。大谷選手の古巣の日本ハムファイターズもその言葉通り、劣勢から2連勝してCSのファイナルステージに駒を進めました。何事も諦めたり、弱音を吐いたりするのは良くないということですね。勉強になりました。さて、今回は独立行政法人国立病院機構 大牟田病院(福岡県大牟田市)で起こった患者虐待事件について書きます。複数の男性職員が、筋ジストロフィーなどの入院患者に対して性的虐待、身体的虐待、心理的虐待などさまざまな虐待を行っていたこの事件、病院が設置した第三者委員会は10月1日、「病院全体として、院長以下に障がい者の人権(尊厳)を守る意識が極めて薄弱であった」とする調査結果をまとめた提言書1)を公表しました。福岡県警は不同意わいせつや暴行の疑いで、職員1人と元職員2人を書類送検この事件が新聞・テレビなどによる報道で発覚したのは2024年5月でした。当時の西日本新聞などの報道によれば、2023年12月に女性患者から「男性介護士に下半身を触られた」という訴えがあったのをきっかけに、同病院が障害者虐待防止法に基づき各患者の居住自治体などに通報、調査が開始されました。その結果、看護師や介護士の男性職員5人が2021年ごろから、男女11人の入院患者に虐待を繰り返していた疑いが判明したとのことです。被害者はいずれも筋ジストロフィーや重症心身障害の患者で、うち7人が性的虐待、4人が心理的・身体的虐待でした。その後、病院は2024年7月までに、12人の患者が虐待被害を受けた疑いがあるとして福岡県内外の計8自治体に通報。調査の結果、5自治体で性的虐待6件、身体的虐待4件、心理的虐待4件が認定されました。一方、2自治体は虐待との判断に至らず、1自治体は「虐待ではない」と判断しました。9月11日、福岡県警はこの問題で、障害があり抵抗できない患者の体を触ったり、頭を叩いたりしたとして、不同意わいせつや暴行の疑いで、職員1人(64歳・男性看護師)と元職員2人(51歳・無職男性、64歳・他施設の男性介護職員)を書類送検しています。虐待を近くで目撃した職員がいたにもかかわらず虐待行為だという認識がなかった第三者委員会が公表した提言書は、調査した7件のうち4件を虐待と認定、残る3件も人権侵害の疑いがあるとしました。すべての事案について虐待を近くで目撃した職員がいたにもかかわらず、虐待行為という認識がなく、通報されていませんでした。「言ってもきちんと処理されるとは思えない」という雰囲気が職場にあり、「仲間を売るようなことをする人がいる」という言葉も交わされていた、としています。障害者総合支援法の療養介護病棟については、「障害福祉サービス事業所としての倫理観や理念が現実の運営において欠如していた」と指摘。「管理・監督責任者として院長があたることになっているものの、形骸化して名目上のものになっていて、実質的に管理・監督がなされていなかった」としています。さらに、病院全体の責任のほか、関係職員らに対する処分についても言及、「(いずれの案件も)当該職員のみならず、その上司を含めて各事案に応じた適正な懲戒処分がなされていなかった(ていない)。この懲戒手続きについては大牟田病院を統括する国立病院機構九州グループが主導すべきであるが、その指導・監督責任が果たされていない」と上部組織の対応も厳しく批判しています。前身は結核専門の国立療養所、性格・機能の異なる2つの病院が一つの組織として運営最初にこのニュースを聞いた時、「なぜ、急性期医療を提供している国立病院機構の医療機関で虐待が?」と疑問に思ったのですが、同病院の前身が結核専門の国立療養所で、1975年に重症心身障害棟を開設、77年に国立大牟田病院となった、という経緯を知ってなんとなく腑に落ちました。同病院の現在の病床数は402床で、その内訳は一般病床120床、神経難病100床、筋ジストロフィー80床、重症心身障害者80床、結核20床、感染症2床となっています。呼吸器内科・脳神経内科などは地域住民に対して一般診療を行う一方、神経難病、筋ジストロフィーなどの入院患者を九州全域から受け入れ、専門的な医療・介護を提供しています。前者と後者では医療内容は異なり、スタッフに求められる技術・能力もまったく違います。つまり、性格・機能の異なる2つの病院が一つの組織として運営されていたわけです。提言書を読む限り、後者の病棟は閉鎖的で院長の目が届かない(あるいは院長でさえアンタッチャブルな)状況にあったようです。虐待を虐待とも感じず、報告も行わない看護師や介護士たち。おそらくそうした組織風土は最近できあがったものではなく、長年に渡って形づくられてきたのでしょう。提言書によれば、大牟田病院では2014年にも虐待事案が発生しており、その後に研修会が開かれ、「障害者虐待防止対応規定」も改訂されていたとのことです。第三者委員会は、10年前の教訓がまったく生かされていなかった点も問題視しています。看護師ら5人が逮捕・書類送検された滝山病院事件それにしても、この大牟田病院の事件といい、2023年に大きな問題となった東京都八王子市の滝山病院の事件といい、どうして病院や老人施設、障害者施設などで看護師や介護士による虐待事件が次々と明らかになるのでしょう。2023年2月、入院患者への暴行事件が発覚した東京・八王子市の精神科病院、滝山病院の事件は、看護師ら5人が逮捕・書類送検され略式命令で罰金刑が確定しています。NHKが2023年6月に放送したETV特集「ルポ死亡退院~精神医療・闇の実態~」では、同病院の看護師が患者を罵倒したり威嚇したりする様子や、患者の人権をないがしろにした院長や看護部長の会話を記録した動画が放送され、大きな衝撃を与えました。2023年12月に公表された第三者委員会の報告書は、「現場はモラルハザードというべき状況」とし、病院経営陣の怠慢さや無責任な体制を指摘しています。同年12月18日付の朝日新聞によれば、第三者委員会の委員長を務めた伊井 和彦弁護士は、「責任は病院の経営者、トップにあると言わざるを得ない」とした上で、「異常に高い非常勤率が、患者への責任感を低下させた」と指摘しています。同記事は、滝山病院の非常勤職員は給料が高かったことから、「他の病院とかけ持ちする看護師もいるという。暴行事件で刑事責任に問われた5人は、夜勤中の非常勤看護師だった」と書くとともに、そのことが「相互に干渉しようとしない無関心な状況をつくった」という伊井弁護士の言葉を紹介しています。虐待行為を行う看護師や介護士など職員の資質だけでなく組織をマネジメントする側にも大きな問題こうした事件、もちろん、虐待行為を行う看護師や介護士など職員の資質に問題があるのは当然ですが、組織をマネジメントする側にも大きな問題があると言えそうです。滝山病院のように非常勤中心の組織はチームとしての意識が希薄になりがちで、職員個々の人間性がそのまま患者・入所者などに向けられてしまいます。そこをマネジメントするのが看護師長や院長の役割ですが、放ったらかしにすれば暴走する職員が出てきます。さらに、チームが機能不全になると、虐待などの不正行為を見たらそれを報告し、ルールに則って罰する、という当たり前の組織運営も行われにくくなります。まして、院長など管理者の目が届かないとなれば、そこはもう“治外法権”で悪がはびこる温床となります。報道によれば大牟田病院の入院患者の証言として、「職員と患者との間で上下関係があった」「怖くて拒否できなかった」といった声もあったそうです。「ルポ・精神病棟」の出版から50年経っても似たような虐待が続いている滝山病院と大牟田病院の事件報道を読んで、私は半世紀前、1973年に出版された医療ノンフィクションの傑作、「ルポ・精神病棟」(朝日新聞社刊)を思い出しました。朝日新聞の記者だった大熊 一夫氏が、アルコール患者を装って精神病院に潜入、電気ショックを使った患者虐待や、薬漬け、拘束の実態を克明に記したルポです。3週間入院する計画が生命の危険を感じるほどの処遇や医療処置を受けた結果12日目に音を上げ、妻の助力で病院から脱出する経緯はホラー小説のようです。同書はその後の日本の精神科医療の改革に大きな影響を与えたと言われています。同書の出版から50年以上を経ても、精神病院に限らず、社会から隔離された障害者医療や高齢者医療の現場では、似たような虐待が続いているというのは一体どういうことでしょう。「人間の尊厳」「患者の人権」と医療者は軽々しく口にしますが、日本の医療・介護の世界ではまだ完全に浸透し切っていないのかもしれません。医療・介護者への教育にも問題がありそうです。書籍の「ルポ・精神病棟」は文庫版ももう絶版ですが、kindle版が出ており、電子書籍で読めます。興味のある方はぜひご一読ください。参考1)当院職員による入院患者さまへの虐待事案に係る第三者委員会による提言書の公表について

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第117回 結核再増加、「3年間限定の低蔓延国」となるか?

結核の集団感染最近、「結核の集団感染」のニュースが多くなっています。保健所が察知したクラスターが増加したことが多かったためですが、日本で高齢者や施設入所者の割合が増えていることも影響しているかもしれません。このまま忘れられていくのかと思っていましたが、結核についてざわざわしてきました。国立感染症研究所の集計によると、9月22日までの患者数は1万1,015人とされています1)。驚くべきことに、この数字は昨年の累計新規報告数をすでに超えており、このまま推移すると、数年ぶりの罹患率に逆戻りする可能性も出てきました(図)。図. 結核新規登録者数と罹患率(筆者作成)コロナ禍に結核が減少した理由は、軽症で受診する人が減ったことによる「過少診断」が一因かもしれません。実際に『結核の統計2024』2)では、診断が遅れた(受診から結核診断までの期間が1ヵ月以上)人の割合は、22.5%と高い数値です。コロナ禍で受診控えが続いたので、2020年以降結核登録者が減った印象はあります。そのため、いつかはリバウンドに転じるのではないかと懸念していました。マイコプラズマやRSウイルスのように、アフターコロナですぐにリバウンドしてくる感染症もあれば、結核のように少し遅れてリバウンドする感染症もあるということでしょう。外国出生者の結核への対策が急務2024年に報告された2023年のデータでは、20~30代の若い結核患者さんのほとんどが外国出生者です。外国出生者の割合は、20~29歳で84.8%と大部分を占めています。外国出生者の結核登録者数は1,619人と前年から405人増加しています。入国して5年以内の外国出生者にしぼると、前年比+73.1%と急増しています。かつての「咳が長引く大学生が受診」といったケースは減少し、代わりに「日本語学校の学生クラスター」や「技能実習生が職場健診で異常を指摘」といったパターンが増加しています。日本における外国出生者の結核のうち、多くを占めるフィリピン、ベトナム、中国、インドネシア、ネパール、ミャンマーの6ヵ国を対象として、現在入国前結核スクリーニングを開始する見込みです。いずれにせよ、2024年の結核罹患率は今年より上昇することは確実で、「低蔓延国」の地位を失い、再び「中蔓延国」に逆戻りする可能性も出てきました。参考文献・参考サイト1)国立感染症研究所. IDWR速報データ 2024年第38週(2024年10月1日)2)公益財団法人 結核予防会編. 結核の統計2024.

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tuberculosis(結核)【病名のルーツはどこから?英語で学ぶ医学用語】第13回

言葉の由来「結核」は英語で“tuberculosis”(トゥバキュロウスィス)といいます。この病名は、「小さな塊」や「結節」を意味するラテン語の“tuberculum”に、状態を表す接尾辞の“-osis”が合わさってできたものです。結核の感染部位に小さな結節や塊が形成されることから、この名前が付けられました。「結核」という病名が医学的に使用され始めたのは19世紀のことです。結核の病態は古代から知られており、ヒポクラテスなど古代の医師たちもこの病気について記述を残していますが、当時は原因がわからず「消耗病」といった名称で呼ばれていました。医学や解剖学の進展で、死亡者の肺に小さな瘤がみられることがわかり、19世紀半ばに“tuberculosis”という病名が付けられました。結核の原因となる細菌である“mycobacterium tuberculosis”は、1882年にドイツの細菌学者ロベルト・コッホによって発見され、この発見が結核の診断と治療に革命をもたらしました。なお、結核菌は太古の昔から存在しており、イスラエル沖から発掘された紀元前7,000年ごろの人骨から結核菌の遺伝子が検出されています。日本では、結核は弥生時代からあったといわれていますが、本格的に流行したのは江戸時代から明治時代で、スペイン風邪流行下の1920年ごろに死亡者数はピークを迎えました。一時期は国民の死亡原因の首位になり、「国民病」と恐れられていましたが、結核予防法の制定や隔離治療、BCGの予防接種の推進などにより死亡者数は減少に転じました。併せて覚えよう! 周辺単語粟粒結核miliary tuberculosis多剤耐性結核multidrug-resistant tuberculosis空気予防策airborne precaution潜在性結核感染症latent tuberculosis infection非結核性抗酸菌症nontuberculous mycobacterial infectionこの病気、英語で説明できますか?Tuberculosis is a contagious disease caused by Mycobacterium tuberculosis, primarily affecting the lungs. It spreads through the air and can be latent or active. Symptoms include a persistent cough, fever, and weight loss. Tuberculosis is treatable with antibiotics but remains a global health challenge.講師紹介

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ESMO2024レポート 泌尿器科腫瘍

レポーター紹介欧州臨床腫瘍学会(European Society of Medical Oncology:ESMO)は臨床腫瘍学の国際学会では米国臨床腫瘍学会(ASCO)と並ぶ最大規模のイベントで、2024年はスペインのバルセロナにおいて9月13~17日の5日間の日程で開催された。ASCOが毎年シカゴで行われるのに対し、ESMOは欧州の各国で開催されるのが参加者のモチベーションにつながっているのか、年々演題の質が上がってきている印象である。2~4日目に最優秀演題の発表としてPresidential Symposiumが設けられ、12演題中泌尿器からは2演題(尿路上皮がんと前立腺がん)が選出された。口演発表は、Proffered PapersとMini Oralsの発表形式があり、日本からHigh grade pT1筋層非浸潤膀胱がんに対するBCG膀胱内注入療法のランダム化比較第III相試験であるJCOG1019試験も報告された。円安の影響(9月13日時点の1ユーロ=160.88円)で渡航費がかさむ今日この頃、ESMOはオンライン参加で節約をしたが、今年もPractice Changingな話題が豊富だっただけに、「現地参加したかった!」のが本音である。Presidential Symposium#LBA1 Ra223とエンザルタミドの併用療法は骨転移を有する去勢抵抗性前立腺がんのrPFSとOSを延長(PEACE-III試験)A randomized multicenter open label phase III trial comparing enzalutamide vs a combination of Radium-223 (Ra223) and enzalutamide in asymptomatic or mildly symptomatic patients with bone metastatic castration-resistant prostate cancer (mCRPC): First results of EORTC-GUCG 1333/PEACE-3塩化ラジウム223(Ra223)はカルシウム類似物質として骨転移巣を標的とし、崩壊時にα線を放出する放射線内用療法の治療薬で、ALSYMPCA試験において生存期間の延長が示され、日本でも2016年より臨床導入されている。近年は、新規ホルモン薬であるエンザルタミド(ENZ)やアビラテロンなどが転移のある去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)治療の主流となり、また非転移去勢抵抗性前立腺がん(m0CRPC)治療においては、アパルタミドやダロルタミドも標準治療となったことから、その使用状況は変化している。PEACE-3試験は、骨転移のあるmCRPC、無症状か軽症状、Performance Status(PS)0~1で臓器転移のない症例を対象とし、Ra223(55kBq/kgの静注、4週ごと、6サイクル)とENZ(160mg経口、連日)の併用と、ENZ単独を比較したランダム化比較第III相試験で、主要評価項目は画像上の無増悪生存(rPFS)であった。骨修飾薬は必須(119例集積後より)としていた。rPFSは片側α=0.025、β=0.10とし、ハザード比[HR]=0.68を検出するのに283イベントを必要とした。主要な副次評価項目として全生存(OS)を設定し、片側α=0.0034(中間解析)、0.0248(最終解析)でHR=0.75を検出するのに299イベントを必要とした。Ra223+ENZ群222例、ENZ群224例が登録され、ドセタキセル既治療は両群約30%、アビラテロン既治療は2~3%、骨以外の病変を有する症例は33~35%であり、バランスがとれていた。観察期間中央値42.2ヵ月時点のrPFS中央値はRa223+ENZ群で19.4ヵ月、ENZ群で16.4ヵ月(HR:0.69、95%信頼区間[CI]:0.54~0.87、p=0.0009)であり、併用群で有意な延長を認めた。OSは80%のイベント数での中間解析であったが、中央値はRa223+ENZ群で42.3ヵ月、ENZ群で35.0ヵ月(HR:0.69、95%CI:0.52~0.90、p=0.0031)であり、有意な延長を認めた。安全性では、治療関連の重篤な有害事象はRa223+ENZ群で28%、ENZ群で19%とわずかな増加を認めた。とくに注目されていた骨折は5.1%と1.3%、貧血は4.6%と2.2%、好中球減少は4.6%と0%の結果であった。演者のGillessen氏は、この結果によってmCRPCの1次治療の選択肢としてRa223+ENZが新たなオプションとなった、と締めくくった。日本のRa223の適応症は「骨転移のある去勢抵抗性前立腺がん」であり、本試験の対象患者となっている。CRPCでの新規ホルモン薬は標準治療であり、骨折リスクの増加を考慮してRa223との併用は回避すべき、と考えられてきたが、本試験のように骨修飾薬の併用を徹底すれば、ENZとの併用に関しては比較的安全で有効性も期待できることが読み取れる。日本の臨床現場にとっても日常診療を変える重要な報告であった。Presidential Symposium#LBA5 筋層浸潤膀胱がんに対する術前デュルバルマブ+化学療法と根治的膀胱全摘術および術後デュルバルマブはEFS、OSを延長(NIAGARA試験)A randomized phase III trial of neoadjuvant durvalumab plus chemotherapy followed by radical cystectomy and adjuvant durvalumab in muscle-invasive bladder cancer (NIAGARA)筋層浸潤膀胱がんの標準治療は、根治的膀胱全摘術と周術期のプラチナ併用化学療法+/-術後免疫チェックポイント阻害薬であるが、術前から免疫チェックポイント阻害薬を加えることの意義は検証されていなかった。NIAGARA試験は、シスプラチン適格となる筋層浸潤膀胱がん(cT2-T4aN0/1M0)を対象として行われた国際共同ランダム化比較第III相試験で、根治的膀胱全摘術前にゲムシタビン+シスプラチン(GC)療法4サイクルとGC+デュルバルマブ4サイクルにランダム化し、試験治療群では術後デュルバルマブを8サイクル行う治療が設定された。2つの主要評価項目として無イベント生存(EFS)および病理学的完全奏効(pCR)、主要な副次評価項目にOSが設定された。統計計画として、両側α=0.05が、pCRに0.001、EFSに0.049として割り振られ、いずれかが達成されればPositiveと判断するとされた。EFSが有意の場合、αはリサイクルされOSの検証にあてられる。GC+デュルバルマブ群は533例、GC群は530例の登録となり、手術はそれぞれ470例、446例で実施された。デュルバルマブの術後療法が開始された383例のうち、終了したのは288例であった。患者背景は、両群にアジア人を30%弱含み、腎機能良好(クレアチニンクリアランス60mL/min以上)はいずれも81%、リンパ節転移陽性例は5~6%であり、両群均等であった。追跡期間中央値42.3ヵ月時点のEFS中央値は、GC+デュルバルマブ群で「到達せず」、GC群で46.1ヵ月(HR:0.68、95%CI:0.56~0.82、p<0.0001)であった。pCR割合は33.8%と25.8%(オッズ比:1.49、95%CI:1.14~1.96、p=0.0038)で統計学的にNegativeと2022年に報告されていたが、再解析により37.3%と27.5%(オッズ:1.60、95%CI:1.23~2.06、p=0.0005)と、有意差ありと判断される数値であった。OS中央値は両群ともに「到達せず」であり、2年OSではGC+デュルバルマブ群で82.2%、GC群で75.2%、HR:0.75(95%CI:0.59~0.93、p=0.0106)であった。有害事象は、重篤なもので69%と68%と両群に差を認めず、膀胱全摘なしに関連したものは両群ともに1%、手術延期に関連したものは2%と1%であり、術前化学療法(NAC)の増強による悪影響は少ないという結果であった。シスプラチン適格の筋層浸潤膀胱がんにおいては、周術期のGC療法に加えてデュルバルマブを用いることが新たな標準治療と考えられる、とPowles氏は報告した。この報告のディスカッサントはワシントン大学のPetros Grivas氏であり、免疫チェックポイント阻害薬の位置付けの解釈の難しさを指摘した。現在の標準治療である術後ニボルマブ療法の対象は、NAC後はpT2以上の残存腫瘍がある症例である。NIAGARA試験では、pCRとなった3分の1の症例にもデュルバルマブの術後療法が行われているため、バイオマーカーによる追加検討を求めた。とはいえ、NIAGARA試験は日本も参加して行われた第III相試験であり、近い将来薬剤承認が認められれば、日常診療が刷新されるだろう。Proffered Paper session#LBA73 免疫療法を含む1~2ライン既治療の転移のある腎細胞がんに対するニボルマブ+tivozanib併用療法はPFS、OS延長を示せず (TiNivo-2試験)Tivozanib-nivolumab vs tivozanib monotherapy in patients with renal cell carcinoma (RCC) following 1 or 2 prior therapies including an immune checkpoint inhibitor (ICI): Results of the phase III TiNivo-2 studytivozanib(Tiv)は経口血管新生阻害薬であり、ニボルマブ(Niv)との併用は第I/II相試験で有効性と安全性が確認されている。TiNivo-2試験は、免疫チェックポイント阻害薬既治療で、転移のある腎細胞がんを対象にTiv+Niv併用療法とTiv単剤とを比較したランダム化比較第III相試験である。併用療法では、Tivは0.89mgを3週間内服1週間休薬としNiv 480mg静注と併用し、単独療法ではTiv 1.34mgを3週間内服1週間休薬で投与するデザインであり、主要評価項目は中央判定のPFSであった。Tiv+Niv群は171例、Tiv群には172例が登録され、患者背景は年齢中央値63~64歳、アジア人は含まれず、IMDCリスク分類はFavorable/Intermediate/Poorが18/66~67/16%、既治療ライン数は1/2Lが61~65/35~39%でありバランスがとれていた。PFS中央値はTiv+Niv群で5.7ヵ月、Tiv群で7.4ヵ月、HR:1.10(95%CI:0.84~1.43)、p=0.49であり、有意差を認めなかった。OS中央値は17.7ヵ月と22.1ヵ月、HR:1.00(95%CI:0.68~1.46)、p=0.9868であった。Tiv+Niv群とTiv群の有害事象(All grade)は、倦怠感で29%と40%、下痢で30%と36%、嘔気で16%と28%、甲状腺機能低下症で9%と15%であり、血管新生阻害薬の用量による有害事象がTiv群に多く発現していた。Tiv+Niv群に多かったのは、貧血(17%と9%)と掻痒症(16%と6%)であった。Choueiri氏は、TiNivo-2試験はアテゾリズマブ+カボザンチニブとカボザンチニブを比較したCONTACT-03試験と同様にNegativeな結果であったことから、2次治療がPD-1抗体であっても免疫チェックポイント阻害薬の継続使用は勧められない、と締めくくった。本試験の対象症例の詳細を確認すると、「1~2ライン以内に免疫チェックポイント阻害薬使用歴があり、前治療から6ヵ月以内の症例」が適格となっていた。日常診療では、再発リスクの高い限局性腎がん術後はペムブロリズマブで1年間術後治療を行うのが標準となっている。再発後の治療選択肢として、「免疫チェックポイント阻害薬を用いるべきかどうか」は重要な臨床疑問であったが、本試験とCONTACT-03試験の結果から、重要なのは免疫チェックポイント阻害薬ではなく血管新生阻害薬の単剤を十分量で用いることである、と結論付けてもよさそうである。Mini Oral Session#LBA68 転移性去勢感受性前立腺がんに対するダロルタミド+ADTはrPFSを延長 (ARANOTE試験)Efficacy and safety of darolutamide plus androgen-deprivation therapy (ADT) in patients with metastatic hormone-sensitive prostate cancer (mHSPC) from the phase III ARANOTE trial転移のある去勢感受性前立腺がん(mHSPC)の1次治療は、ARASENS試験においてドセタキセル(DTX)+アンドロゲン除去療法(ADT)と比較し、ダロルタミド(Daro)+DTX+ADTがOS延長を示したことから、日本でも承認され日常診療で使用されている。ESMO2024で発表されたARANOTE試験は、同じmHSPCを対象として行われた国際共同ランダム化比較第III相試験で、プラセボ+ADTとDaro+ADTを比較するデザインとなっている。主要評価項目は中央判定のrPFSであった。Daro+ADT群とプラセボ+ADT群に2:1にランダム化され、それぞれ446例と223例が登録され、アジア人(日本は含まれず、中国とインドが主体)は両群に約30%含まれていた。腫瘍量はHigh-volumeが約70%、de-novo転移の症例が71~75%であり、バランスのとれた患者背景であった。rPFS中央値は、Daro+ADT群で「到達せず」、プラセボ+ADT群で25.0ヵ月(HR:0.54、95%CI:0.41~0.71、p<0.0001)であった。サブグループ解析では、High-volume/Low-volumeでのHRはそれぞれ0.60(95%CI:0.44~0.80)/0.30(95%CI:0.15~0.60)であり、点推定値はLow volumeで小さい結果となった。有害事象は、明らかに併用療法で増強するものは認められなかった。これらの結果から、Saad氏は、DTXを使用しないDaro+ADTもmHSPCの標準治療の1つであると結論付けた。ARANOTE試験は日本が含まれなかった試験ではあるが、日本のダロルタミドの保険適用も変更されることを期待したい。とはいえ、High-volume症例にはDaro+DTX+ADTとすべきかDaro+ADTでよいのか、回答可能な臨床試験は行われておらず、日常診療には解決しない疑問が残っている。

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喀血の原因は、58年前の○○【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第264回

喀血の原因は、58年前の○○2024年7月、アメリカの選挙演説をしていたドナルド・トランプ氏が狙撃されるという事件がありました。そのため、ここらへんで一度、弾丸関連の異物論文を復習しておこうと思うのが異物論文専門医です。大昔に受けた傷跡や異物などがその後、数十年の時を経て顕在化するというのはよくあります。異物論文の世界では、70年後に心筋梗塞を起こした症例などが有名です1)。さて、今日紹介するのは喀血例の報告です。アルツハイマー病や脳卒中の既往がある81歳の退役軍人が、喀血によって搬送されました。喀血の原因はいくつもありますが、高齢男性においては通常、結核、肺アスペルギルス症、喫煙などが想起されます。Shrinath V, et al. 'You bleed in war and you bleed in peace: Hemoptysis in a case with retained intra-thoracic bullet fragments decades after the injury.’ Lung India. 2024 Jul 1;41(4):331-332.酸素飽和度の低下もなく、バイタルサインは安定していました。喀血は鼻出血と同じように、一度止まってしまえば意外としばらく出血しないことが多いです。当然、原因があるならそれを解決しなければ、再喀血するリスクがあるわけですが。この高齢男性の喀血の原因は何だったのでしょうか?胸部X線画像では、陳旧性の肺の陰影のようなものが数個胸部に見られました。うーん、これが喀血を起こすものだろうか。確かに、過去に重症肺炎や結核の既往があったり、塵肺があったりすると、こういった石灰化が見られますが、それが急性喀血の原因にはなりにくいです。「もしかして吐血じゃね?」ということで、上部消化管内視鏡検査が行われましたが、何も異常はなく、むしろ声帯に血液が付着していることがわかりました。「ああ、これはやっぱり喀血だ」ということで、気管支鏡検査が行われました。しかし、気管支腫瘍や異物などは見られませんでした。胸部造影CTでは、左下葉と背中の皮下に金属影が確認されました。胸部X線写真正面像だけでは胸郭内・胸郭外のどちらに石灰化があるのか不明ですが、胸部CTではその場所が明らかとなります。皮下の金属影とくれば、アレでしょう。「これは戦時中の弾丸でしょうか?」こんな会話が診察室で行われたのかもしれません。そう、これは58年前、軍務に就いていたときに散弾銃で撃たれ、除去された弾丸と除去できなかった弾丸があるようでした。年齢や基礎疾患も考慮して、気管支動脈塞栓術までは行われませんでした。止血剤の投与で軽快退院しています。半世紀以上を経て、喀血を起こすというのは過去に類を見ないもので、現時点で「弾丸関連喀血」の世界最長記録であると論文中に記載されています。1)Burgazli KM, et al. An unusual case of retained bullet in the heart since World War II: a case report. Eur Rev Med Pharmacol Sci. 2013 Feb;17(3):420-1.

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第112回 エリスロシン錠の在庫が尽きる薬局続出

エリスロシン®錠争奪戦15時頃、外来の患者さんも残り10人くらいになり、ラストスパートをかけようというとき。「先生、調剤薬局から疑義照会が来ています」と外来ナースが横からいつものFAX用紙を見せてきました。湿布を貼る場所を書き忘れたかなと思いながら見てみると、「エリスロシン錠の在庫がありません」の文字が。どうやら、販売元のヴィアトリス製薬で生産に問題が発生し、供給が不安定になっているようです。エリスロシン錠をめぐる騒動は、静かに、しかし確実に広がっています。7月には限定出荷の通知がありましたが、処方が多い呼吸器内科や耳鼻咽喉科で、その影響を実感し始めています。呼吸器内科領域のエリスロシン処方びまん性汎細気管支炎(DPB)という、気管支がびまん性に拡張する疾患があります。喀痰に悩まされる方が多いです。悩まされるだけならまだしも、耐性緑膿菌を保菌したり、細菌感染症で入院を繰り返したり、わりと社会生活上インパクトが大きな慢性呼吸器疾患です。1980年代前半のDPBの5年生存率はわずか42%でした。しかし、エリスロマイシンの低用量投与が導入されると、その生存率は劇的に改善され1)、若くして亡くなるという事例は減りました。エリスロマイシンの効果は単なる抗菌作用にとどまらず、抗炎症効果も持っています。このため、細菌感染を予防するだけでなく、気道の炎症を抑える効果があるとされています。DPBの予後改善はこの抗炎症効果によるものと考えられています2)。基本的にはDPBをはじめとした気管支拡張症に対してエビデンスが蓄積されてきた薬剤ですが、肺Mycobacterium avium complex(MAC)症に対しても有効とされています3)。肺MAC症は、マクロライド、エタンブトール、リファンピシンを用いた多剤併用治療が行われますが、このマクロライドが示すのは、アジスロマイシンあるいはクラリスロマイシンです。エリスロマイシンの抗菌活性は決して高くなく、上述した抗炎症効果によって臨床的悪化を食い止める働きがあります。そのため、MACに対してクラリスロマイシンやアジスロマイシンとの間に交差耐性はないことが知られています。DPBに有効というだけでなく、MACに対するデメリットも少ないということで、エリスロマイシンを長期投与されている呼吸器内科通院中の患者さんは多いです。拡大解釈されて、気管支拡張症にも用いられています。マクロライドスイッチにご注意を冒頭の続きです。エリスロシン錠の在庫がありません問題ですが、「エリスロマイシン錠」やクラリスロマイシンに余波が広がりつつあるということが懸念材料です。まず、「エリスロシン錠」と「エリスロマイシン錠」は、厳密には一般名が異なる製品です。エリスロシン錠の一般名は、「エリスロマイシンステアリン酸塩」で、エリスロマイシン錠の一般名は、シンプルに「エリスロマイシン」です。エリスロマイシン錠は、エリスロシン錠の後発医薬品でないのです。実は、適応菌種などに微妙な差が存在します(表)。画像を拡大する表. エリスロシン錠とエリスロマイシン錠の適応菌種・適応症・効能効果(赤字が異なる部分)今回出荷が問題になっているのはエリスロシン錠ですが、現在「エリスロマイシン錠」の処方が増えていると聞いています。さらに、クラリスロマイシンの処方が一部地域で増えつつあるそうです。代替薬としてクラリスロマイシンが提示されることが、まれにあるようです。副鼻腔炎や気管支拡張症に長期間クラリスロマイシンの単剤治療を適用すると、マクロライド耐性の非結核性抗酸菌を助長する可能性があります4)。そのため、エリスロシン錠からクラリスロマイシンへスイッチ、というのは代替薬としては推奨できないと考えてよいでしょう。参考文献・参考サイト1)Kudoh S, et al. Improvement of survival in patients with diffuse panbronchiolitis treated with low-dose erythromycin. Am J Respir Crit Care Med. 1998 Jun;157(6 Pt 1):1829-1832. 2)Tanabe T, et al. Clarithromycin inhibits interleukin-13-induced goblet cell hyperplasia in human airway cells. Am J Respir Cell Mol Biol. 2011 Nov;45(5):1075-1083. 3)Komiya A, et al. Long-term, low-dose erythromycin monotherapy for Mycobacterium avium complex lung disease: a propensity score analysis. Int J Antimicrob Agents. 2014 Aug;44(2):131-135.4)Griffith DE, et al. Clinical and molecular analysis of macrolide resistance in Mycobacterium avium complex lung disease. Am J Respir Crit Care Med. 2006 Oct 15;174(8):928-934.

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