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第123回 集団感染相次ぐ、結核の4年連続低蔓延国化は厳しいか

各地で結核の集団感染今年は結核の集団感染の報道が多いです。厚労省では「20人」というのが集団感染の1つの目安になっています。日本医療研究開発機構(AMED)の「結核低蔓延化に向けた国内の結核対策に資する研究班」による『結核集団発生調査の手引』1)では、集団感染ではなく集団発生という用語が使われており、20人という規定はなく、当該地域の結核罹患率を有意に超えて増加したものと定義されています。いずれにしても現時点では20人を目安に報告されているため、「30人が集団感染」と報道されると、エエーッ!と驚いてしまうかもしれません。たとえば、9月には足立区で、11月には島根県で集団感染事例の報告がありました。いずれも初発患者1例から、複数人へ感染させたというシナリオが想定されています。ただ、注意いただきたいのは、同じ結核菌株が感染したという証明をしているわけではなく、あくまで疫学的リンクからの推定に基づくという点です。高齢者の場合、インターフェロンγ遊離アッセイ(IGRA:クォンティフェロンやT-SPOT)がもともと陽性という方もいるので、潜在性結核感染症の新規同定の多くは、推定に基づいています。潜在性結核感染症は、発病しないための予防的治療を行う感染症です。生活に何ら制限もありません。ですから、こういった報道を耳にしたとき「多くの人が肺結核を発症している」という誤解を持たないようにしないといけません。日本の保健所の初動は非常に優れているので、先んじて報道しているのです。新型コロナやインフルエンザのようにきわめて感染率が高いわけではなく、トータルでみると多くが発病しません(図)。イメージとしては「1割が発病する」という理解でよいでしょう。画像を拡大する図. ヒト結核菌感染の自然史(種々の文献をもとに筆者作成)今年の結核報告数は大きなリバウンド国立感染症研究所の集計によると、第43週(10/27)までのデータでは、結核の報告数はすでに1万2,672人となっています2)。2021年の年間の結核報告数が現時点と全く同じくらいで、このときの罹患率が10万人当たり10.3人ということでした。となると、このままだと日本の罹患率が再び2ケタになる可能性があり、3年連続低蔓延国化したにもかかわらず、それを返上しなければならないかもしれません(低蔓延国の基準は10万人当たり10人を下回っていること)。参考文献・参考サイト1)日本医療研究開発機構(AMED)新興再興感染症研究「結核低蔓延化に向けた国内の結核対策に資する研究班」太田分担. 結核集団発生調査の手引(Ver. 2.05). 2023年3月17日. 2)国立感染症研究所. IDWR速報データ 2024年第43週(2024年11月5日)

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尿から嫌気性菌が発育したら何を考える?【とことん極める!腎盂腎炎】第9回

尿から嫌気性菌が発育したら何を考える?Teaching point(1)ルーチンで尿検体の嫌気性培養は依頼しない(2)汚染のない尿検体のグラム染色で菌体が見えるのに通常の培養で発育がないときに嫌気性菌の存在を疑う(3)尿検体から嫌気性菌が発育したら、泌尿器および生殖器関連の膿瘍疾患や瘻孔形成を疑う《今回の症例》66歳女性。進行子宮頸がんによる尿管狭窄のため半年前から尿管ステントを留置している。今回、発熱と腰痛で来院し、右腰部の叩打痛から腎盂腎炎が疑われた。ステントの交換時に尿管から尿検体を採尿し、グラム染色で白血球と複数種のグラム陰性桿菌を認めた。通常の培養条件では大腸菌のみが発育し、細菌検査室が嫌気培養を追加したところ、Bacteroides fragilisが発育した。検体採取は清潔操作で行われ、汚染は考えにくい。感染症内科に結果の解釈と治療についてコンサルトされた。1.尿検体の嫌気性培養は通常行わない細菌検査室では尿検体の嫌気性培養はルーチンで行われず、また医師側も嫌気培養を行う明確な理由がなければ依頼すべきではない。なぜなら、尿検体から嫌気性菌が分離されるのは約1%1)とまれで、嫌気性菌が常在している陰部からの採尿は汚染の確率が高く起炎菌との判別が困難であり、培養に手間と費用を要するためだ。とくに、中間尿やカテーテル尿検体の嫌気性培養は依頼を断られる2)。嫌気性培養が行われるのは、(1)恥骨上穿刺や泌尿器手技による腎盂尿などの汚染の可能性が低い尿検体、(2)嫌気性菌を疑う尿所見があるとき、(3)嫌気性菌が関与する病態を疑うときに限られる2)。2.嫌気性菌を疑う尿所見は?尿グラム染色所見と培養結果の乖離が嫌気性菌を疑うきっかけとして重要である2)。まず、検体の採取状況で汚染がないことを確認する。扁平上皮の混入は皮膚接触による汚染を示唆する。また、抗菌薬の先行投与がないことも確認する。そのうえで、尿検体のグラム染色で膿尿と細菌を認めるが通常の培養(血液寒天培地とBTB乳糖寒天培地)で菌の発育がなければ嫌気性菌の存在を疑う2)。細菌検査室によっては、この時点で嫌気性培養を追加することがある。グラム陰性桿菌であればより嫌気性菌を疑うが、グラム陰性双球菌の場合には淋菌を疑い核酸増幅検査の追加を考える。一方で、膿尿がみられるのにグラム染色で菌体が見えず、通常の尿培養で発育がなければ嫌気性菌よりも、腎結核やクラミジア感染症などの無菌性膿尿を疑う。3.嫌気性菌が発育する病態は?表に嫌気性菌が発育した際の鑑別疾患をまとめた。なかでも、泌尿器および生殖器関連の膿瘍疾患と、泌尿器と周囲の消化管や生殖器との瘻孔形成では高率に嫌気性菌が同定され重要な鑑別疾患である。その他の感染経路に、便汚染しやすい外性器および尿道周囲からの上行性感染やカテーテル、泌尿器科処置に伴う経尿道感染、経血流感染があるがまれだ3)。画像を拡大する主な鑑別疾患となる泌尿器・生殖器関連の膿瘍では、103例のうち95例(93%)で嫌気性菌を含む複数菌が同定され、その内訳はグラム陰性桿菌(B. fragilis、Prevotella属、Porphyromonas属)、Clostridium属のほか、嫌気性グラム陽性球菌やActinomyces属だったとされる3)。膀胱腸瘻についても、瘻孔形成による尿への便混入を反映し48例のうち44例(92%)で嫌気性菌を含む複数菌が同定されたとされる4)。逆に尿検体から嫌気性菌が同定された症例を集めて膿瘍や解剖学的異常の頻度を調べた報告はないが、筆者はとくに悪性腫瘍などの背景のある症例や難治性・反復性腎盂腎炎の症例などでは、解剖学的異常と膿瘍の検索をすることをお勧めしたい。また、まれな嫌気性菌が尿路感染症を起こすこともある。通性嫌気性菌のActinotignum(旧Actinobaculum)属のA. schaalii、A. urinale、A. massilienseで尿路感染症の報告がある。このうち最多のA. schaaliiは腎結石や尿路閉塞などがある高齢者で腎盂腎炎を起こす。グラム染色ではわずかに曲がった時々分岐のあるグラム陽性桿菌が見えるのに通常の培養で発育しにくいときは炭酸ガスでの嫌気培養が必要である。A. schaaliiはST合剤とシプロフロキサシンに耐性で、β-ラクタム系薬での治療報告がある5)。Arcanobacterium属もほぼ同様の経過で判明するグラム陽性桿菌で、やはり発育に炭酸ガスを要し、β-ラクタム系薬での治療報告がある6)。グラム陽性桿菌のGardnerella vaginalisは性的活動期にある女性の細菌性膣症や反復性尿路感染症、パートナーの尿路感染症の原因になるが、約3万3,000の尿検体中の0.6〜2.3%とまれである7)。メトロニダゾールなどでの治療報告がある。臨床経過と背景リスクによっては炭酸ガスを用いた嫌気培養の追加が考慮されるだろう。《症例(その後)》造影CTを追加したところ骨盤内膿瘍が疑われ、緊急開腹で洗浄したところ、腫瘍転移による結腸膀胱瘻が判明した。細菌検査室の機転により発育した嫌気性菌が膿瘍および膀胱腸瘻の手掛かりになった症例であった。1)Headington JT、Beyerlein B. J Clin Pathol. 1966;19:573-576.2)Chan WW. 3.12 Urine Cultures. Clinical microbiology procedures handbook, 4th Ed. In Leber AL (Ed), ASM Press, Washington DC. 2016;3.12.14-3.12.17.3)Brook I. Int J Urol. 2004;11:133-141.4)Solkar MH, et al. Colorectal Dis. 2005;7:467-471.5)Lotte R, et al. Clin Microbiol Infect. 2016;22:28-36.6)Lepargneur JP, et al. Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 1998;17:399-401.7)Clarke RW, et al. J Infect. 1989;19:191-193.

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リネゾリド処方の際の5つの副作用【1分間で学べる感染症】第14回

画像を拡大するTake home messageリネゾリドを使用する際には、血小板減少症を中心として重要な5つのポイントを覚えておこう。抗MRSA薬の1つにリネゾリドがあります。頻度は少ないものの、重要な場面で使うことがある薬剤です。今回は、リネゾリドに関する5つの重要事項を学んでいきましょう。1)消化器系症状リネゾリドの副作用には、使用早期から現れる可能性があるものとして腹痛、嘔気、嘔吐などの消化器症状が挙げられます。最も頻度が高い副作用の1つですが、症例によっては対症療法のみで自然に改善する場合もあります。2)骨髄抑制次に押さえておくべき副作用は骨髄抑制です。とくに血小板減少症に対する注意が必要です。骨髄抑制の副作用は約2週間以上の使用で発現するとされ、短期間の使用は問題ないことが多いのですが、使用期間が2週間を超える疾患には使用しにくくなります。一般的には、使用中止後1~3週間で回復するとされています。3)セロトニン症候群リネゾリドを開始する際には、相互作用のチェックも重要です。リスクの程度差はあるものの、SSRI、SNRI、MAO阻害薬との併用はセロトニン症候群を引き起こす可能性があります。最近の報告によると、セロトニン症候群を引き起こす可能性のある薬剤のうち、SSRIの中でもエスシタロプラムやオピオイドのメサドンなどはとくに関与が強いと報告されています。発症は服用から数時間~数日以内に現れることが多く、中止すれば24時間以内に改善するといわれています。しかし、まれに横紋筋融解症や腎不全などを来すこともあるため、注意が必要です。開始する際には、薬剤師と連携を取りながら、慎重に併用薬を確認する必要があります。4)乳酸アシドーシスまれながら、乳酸アシドーシスの副作用も報告されています。これは2003年に初めて報告されましたが、発症までの期間は1~16週間と幅があります。致死率は25%にも上るとされており注意が必要です。リネゾリド使用中に乳酸アシドーシスを来した場合には、ほかの原因検索と共にリネゾリドの副作用を考慮することが重要です。5)末梢神経障害・視神経障害末梢神経障害・視神経障害は、ノカルジアや非結核性抗酸菌症、多剤耐性結核などに対する特殊な状況で、長期の投与が必要な際の副作用として報告されています。末梢神経障害は「手袋と靴下型」(手袋や靴下が覆うように手足の先端部分から徐々に症状が進行していく)で発症まで5~11ヵ月、視神経障害は視力低下や色覚異常を来すことが多いとされています。リネゾリドは長期で使用することは少ないため頻度は高くありませんが、頭の片隅に入れておきましょう。以上、有名な血小板減少症以外にも、リネゾリドのこれらの重要な副作用・相互作用に関して念頭に置き、使用する際には患者さんに、その有益性とリスクに関して十分に説明するようにしましょう。1)Apodaca AA, et al. N Engl J Med. 2003;348:86-87.2)Legout L, et al. Clin Infect Dis. 2004;38:767-768.3)Crass RL, et al. Antimicrob Agents Chemother. 2019;63:e00605-e00619.4)Gatti M, et al. Eur J Clin Pharmacol. 2021;77:233-239.5)Mao Y, et al. Medicine (Baltimore). 2018;97;e12114.6)Narita M, et al. Pharmacotherapy. 2007;27:1189-1197.

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第234回 「院長以下に障がい者の人権(尊厳)を守る意識が極めて薄弱であった」 大牟田病院事件の提言書で思い出したノンフィクションの傑作「ルポ・精神病棟」

複数の男性職員が筋ジストロフィーなどの入院患者に対して性的、身体的、心理的虐待を行うこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。野球盛り上がっていますね。この連休は、日本のプロ野球のクライマックスシリーズ(CS)と、MLBのロサンゼルス・ドジャースのポストシーズンの試合観戦(テレビ)でほぼつぶれました。前回のこの連載では「パドレス、このまま上まで行くかも」と書きましたが、残念ながらドジャースに負けてしまいました。それにしても、対パドレス戦でドジャースが劣勢に立った時、大谷 翔平選手が「あと2勝すればいい」と淡々と話していたのが印象的でした。大谷選手の古巣の日本ハムファイターズもその言葉通り、劣勢から2連勝してCSのファイナルステージに駒を進めました。何事も諦めたり、弱音を吐いたりするのは良くないということですね。勉強になりました。さて、今回は独立行政法人国立病院機構 大牟田病院(福岡県大牟田市)で起こった患者虐待事件について書きます。複数の男性職員が、筋ジストロフィーなどの入院患者に対して性的虐待、身体的虐待、心理的虐待などさまざまな虐待を行っていたこの事件、病院が設置した第三者委員会は10月1日、「病院全体として、院長以下に障がい者の人権(尊厳)を守る意識が極めて薄弱であった」とする調査結果をまとめた提言書1)を公表しました。福岡県警は不同意わいせつや暴行の疑いで、職員1人と元職員2人を書類送検この事件が新聞・テレビなどによる報道で発覚したのは2024年5月でした。当時の西日本新聞などの報道によれば、2023年12月に女性患者から「男性介護士に下半身を触られた」という訴えがあったのをきっかけに、同病院が障害者虐待防止法に基づき各患者の居住自治体などに通報、調査が開始されました。その結果、看護師や介護士の男性職員5人が2021年ごろから、男女11人の入院患者に虐待を繰り返していた疑いが判明したとのことです。被害者はいずれも筋ジストロフィーや重症心身障害の患者で、うち7人が性的虐待、4人が心理的・身体的虐待でした。その後、病院は2024年7月までに、12人の患者が虐待被害を受けた疑いがあるとして福岡県内外の計8自治体に通報。調査の結果、5自治体で性的虐待6件、身体的虐待4件、心理的虐待4件が認定されました。一方、2自治体は虐待との判断に至らず、1自治体は「虐待ではない」と判断しました。9月11日、福岡県警はこの問題で、障害があり抵抗できない患者の体を触ったり、頭を叩いたりしたとして、不同意わいせつや暴行の疑いで、職員1人(64歳・男性看護師)と元職員2人(51歳・無職男性、64歳・他施設の男性介護職員)を書類送検しています。虐待を近くで目撃した職員がいたにもかかわらず虐待行為だという認識がなかった第三者委員会が公表した提言書は、調査した7件のうち4件を虐待と認定、残る3件も人権侵害の疑いがあるとしました。すべての事案について虐待を近くで目撃した職員がいたにもかかわらず、虐待行為という認識がなく、通報されていませんでした。「言ってもきちんと処理されるとは思えない」という雰囲気が職場にあり、「仲間を売るようなことをする人がいる」という言葉も交わされていた、としています。障害者総合支援法の療養介護病棟については、「障害福祉サービス事業所としての倫理観や理念が現実の運営において欠如していた」と指摘。「管理・監督責任者として院長があたることになっているものの、形骸化して名目上のものになっていて、実質的に管理・監督がなされていなかった」としています。さらに、病院全体の責任のほか、関係職員らに対する処分についても言及、「(いずれの案件も)当該職員のみならず、その上司を含めて各事案に応じた適正な懲戒処分がなされていなかった(ていない)。この懲戒手続きについては大牟田病院を統括する国立病院機構九州グループが主導すべきであるが、その指導・監督責任が果たされていない」と上部組織の対応も厳しく批判しています。前身は結核専門の国立療養所、性格・機能の異なる2つの病院が一つの組織として運営最初にこのニュースを聞いた時、「なぜ、急性期医療を提供している国立病院機構の医療機関で虐待が?」と疑問に思ったのですが、同病院の前身が結核専門の国立療養所で、1975年に重症心身障害棟を開設、77年に国立大牟田病院となった、という経緯を知ってなんとなく腑に落ちました。同病院の現在の病床数は402床で、その内訳は一般病床120床、神経難病100床、筋ジストロフィー80床、重症心身障害者80床、結核20床、感染症2床となっています。呼吸器内科・脳神経内科などは地域住民に対して一般診療を行う一方、神経難病、筋ジストロフィーなどの入院患者を九州全域から受け入れ、専門的な医療・介護を提供しています。前者と後者では医療内容は異なり、スタッフに求められる技術・能力もまったく違います。つまり、性格・機能の異なる2つの病院が一つの組織として運営されていたわけです。提言書を読む限り、後者の病棟は閉鎖的で院長の目が届かない(あるいは院長でさえアンタッチャブルな)状況にあったようです。虐待を虐待とも感じず、報告も行わない看護師や介護士たち。おそらくそうした組織風土は最近できあがったものではなく、長年に渡って形づくられてきたのでしょう。提言書によれば、大牟田病院では2014年にも虐待事案が発生しており、その後に研修会が開かれ、「障害者虐待防止対応規定」も改訂されていたとのことです。第三者委員会は、10年前の教訓がまったく生かされていなかった点も問題視しています。看護師ら5人が逮捕・書類送検された滝山病院事件それにしても、この大牟田病院の事件といい、2023年に大きな問題となった東京都八王子市の滝山病院の事件といい、どうして病院や老人施設、障害者施設などで看護師や介護士による虐待事件が次々と明らかになるのでしょう。2023年2月、入院患者への暴行事件が発覚した東京・八王子市の精神科病院、滝山病院の事件は、看護師ら5人が逮捕・書類送検され略式命令で罰金刑が確定しています。NHKが2023年6月に放送したETV特集「ルポ死亡退院~精神医療・闇の実態~」では、同病院の看護師が患者を罵倒したり威嚇したりする様子や、患者の人権をないがしろにした院長や看護部長の会話を記録した動画が放送され、大きな衝撃を与えました。2023年12月に公表された第三者委員会の報告書は、「現場はモラルハザードというべき状況」とし、病院経営陣の怠慢さや無責任な体制を指摘しています。同年12月18日付の朝日新聞によれば、第三者委員会の委員長を務めた伊井 和彦弁護士は、「責任は病院の経営者、トップにあると言わざるを得ない」とした上で、「異常に高い非常勤率が、患者への責任感を低下させた」と指摘しています。同記事は、滝山病院の非常勤職員は給料が高かったことから、「他の病院とかけ持ちする看護師もいるという。暴行事件で刑事責任に問われた5人は、夜勤中の非常勤看護師だった」と書くとともに、そのことが「相互に干渉しようとしない無関心な状況をつくった」という伊井弁護士の言葉を紹介しています。虐待行為を行う看護師や介護士など職員の資質だけでなく組織をマネジメントする側にも大きな問題こうした事件、もちろん、虐待行為を行う看護師や介護士など職員の資質に問題があるのは当然ですが、組織をマネジメントする側にも大きな問題があると言えそうです。滝山病院のように非常勤中心の組織はチームとしての意識が希薄になりがちで、職員個々の人間性がそのまま患者・入所者などに向けられてしまいます。そこをマネジメントするのが看護師長や院長の役割ですが、放ったらかしにすれば暴走する職員が出てきます。さらに、チームが機能不全になると、虐待などの不正行為を見たらそれを報告し、ルールに則って罰する、という当たり前の組織運営も行われにくくなります。まして、院長など管理者の目が届かないとなれば、そこはもう“治外法権”で悪がはびこる温床となります。報道によれば大牟田病院の入院患者の証言として、「職員と患者との間で上下関係があった」「怖くて拒否できなかった」といった声もあったそうです。「ルポ・精神病棟」の出版から50年経っても似たような虐待が続いている滝山病院と大牟田病院の事件報道を読んで、私は半世紀前、1973年に出版された医療ノンフィクションの傑作、「ルポ・精神病棟」(朝日新聞社刊)を思い出しました。朝日新聞の記者だった大熊 一夫氏が、アルコール患者を装って精神病院に潜入、電気ショックを使った患者虐待や、薬漬け、拘束の実態を克明に記したルポです。3週間入院する計画が生命の危険を感じるほどの処遇や医療処置を受けた結果12日目に音を上げ、妻の助力で病院から脱出する経緯はホラー小説のようです。同書はその後の日本の精神科医療の改革に大きな影響を与えたと言われています。同書の出版から50年以上を経ても、精神病院に限らず、社会から隔離された障害者医療や高齢者医療の現場では、似たような虐待が続いているというのは一体どういうことでしょう。「人間の尊厳」「患者の人権」と医療者は軽々しく口にしますが、日本の医療・介護の世界ではまだ完全に浸透し切っていないのかもしれません。医療・介護者への教育にも問題がありそうです。書籍の「ルポ・精神病棟」は文庫版ももう絶版ですが、kindle版が出ており、電子書籍で読めます。興味のある方はぜひご一読ください。参考1)当院職員による入院患者さまへの虐待事案に係る第三者委員会による提言書の公表について

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第117回 結核再増加、「3年間限定の低蔓延国」となるか?

結核の集団感染最近、「結核の集団感染」のニュースが多くなっています。保健所が察知したクラスターが増加したことが多かったためですが、日本で高齢者や施設入所者の割合が増えていることも影響しているかもしれません。このまま忘れられていくのかと思っていましたが、結核についてざわざわしてきました。国立感染症研究所の集計によると、9月22日までの患者数は1万1,015人とされています1)。驚くべきことに、この数字は昨年の累計新規報告数をすでに超えており、このまま推移すると、数年ぶりの罹患率に逆戻りする可能性も出てきました(図)。図. 結核新規登録者数と罹患率(筆者作成)コロナ禍に結核が減少した理由は、軽症で受診する人が減ったことによる「過少診断」が一因かもしれません。実際に『結核の統計2024』2)では、診断が遅れた(受診から結核診断までの期間が1ヵ月以上)人の割合は、22.5%と高い数値です。コロナ禍で受診控えが続いたので、2020年以降結核登録者が減った印象はあります。そのため、いつかはリバウンドに転じるのではないかと懸念していました。マイコプラズマやRSウイルスのように、アフターコロナですぐにリバウンドしてくる感染症もあれば、結核のように少し遅れてリバウンドする感染症もあるということでしょう。外国出生者の結核への対策が急務2024年に報告された2023年のデータでは、20~30代の若い結核患者さんのほとんどが外国出生者です。外国出生者の割合は、20~29歳で84.8%と大部分を占めています。外国出生者の結核登録者数は1,619人と前年から405人増加しています。入国して5年以内の外国出生者にしぼると、前年比+73.1%と急増しています。かつての「咳が長引く大学生が受診」といったケースは減少し、代わりに「日本語学校の学生クラスター」や「技能実習生が職場健診で異常を指摘」といったパターンが増加しています。日本における外国出生者の結核のうち、多くを占めるフィリピン、ベトナム、中国、インドネシア、ネパール、ミャンマーの6ヵ国を対象として、現在入国前結核スクリーニングを開始する見込みです。いずれにせよ、2024年の結核罹患率は今年より上昇することは確実で、「低蔓延国」の地位を失い、再び「中蔓延国」に逆戻りする可能性も出てきました。参考文献・参考サイト1)国立感染症研究所. IDWR速報データ 2024年第38週(2024年10月1日)2)公益財団法人 結核予防会編. 結核の統計2024.

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tuberculosis(結核)【病名のルーツはどこから?英語で学ぶ医学用語】第13回

言葉の由来「結核」は英語で“tuberculosis”(トゥバキュロウスィス)といいます。この病名は、「小さな塊」や「結節」を意味するラテン語の“tuberculum”に、状態を表す接尾辞の“-osis”が合わさってできたものです。結核の感染部位に小さな結節や塊が形成されることから、この名前が付けられました。「結核」という病名が医学的に使用され始めたのは19世紀のことです。結核の病態は古代から知られており、ヒポクラテスなど古代の医師たちもこの病気について記述を残していますが、当時は原因がわからず「消耗病」といった名称で呼ばれていました。医学や解剖学の進展で、死亡者の肺に小さな瘤がみられることがわかり、19世紀半ばに“tuberculosis”という病名が付けられました。結核の原因となる細菌である“mycobacterium tuberculosis”は、1882年にドイツの細菌学者ロベルト・コッホによって発見され、この発見が結核の診断と治療に革命をもたらしました。なお、結核菌は太古の昔から存在しており、イスラエル沖から発掘された紀元前7,000年ごろの人骨から結核菌の遺伝子が検出されています。日本では、結核は弥生時代からあったといわれていますが、本格的に流行したのは江戸時代から明治時代で、スペイン風邪流行下の1920年ごろに死亡者数はピークを迎えました。一時期は国民の死亡原因の首位になり、「国民病」と恐れられていましたが、結核予防法の制定や隔離治療、BCGの予防接種の推進などにより死亡者数は減少に転じました。併せて覚えよう! 周辺単語粟粒結核miliary tuberculosis多剤耐性結核multidrug-resistant tuberculosis空気予防策airborne precaution潜在性結核感染症latent tuberculosis infection非結核性抗酸菌症nontuberculous mycobacterial infectionこの病気、英語で説明できますか?Tuberculosis is a contagious disease caused by Mycobacterium tuberculosis, primarily affecting the lungs. It spreads through the air and can be latent or active. Symptoms include a persistent cough, fever, and weight loss. Tuberculosis is treatable with antibiotics but remains a global health challenge.講師紹介

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ESMO2024レポート 泌尿器科腫瘍

レポーター紹介欧州臨床腫瘍学会(European Society of Medical Oncology:ESMO)は臨床腫瘍学の国際学会では米国臨床腫瘍学会(ASCO)と並ぶ最大規模のイベントで、2024年はスペインのバルセロナにおいて9月13~17日の5日間の日程で開催された。ASCOが毎年シカゴで行われるのに対し、ESMOは欧州の各国で開催されるのが参加者のモチベーションにつながっているのか、年々演題の質が上がってきている印象である。2~4日目に最優秀演題の発表としてPresidential Symposiumが設けられ、12演題中泌尿器からは2演題(尿路上皮がんと前立腺がん)が選出された。口演発表は、Proffered PapersとMini Oralsの発表形式があり、日本からHigh grade pT1筋層非浸潤膀胱がんに対するBCG膀胱内注入療法のランダム化比較第III相試験であるJCOG1019試験も報告された。円安の影響(9月13日時点の1ユーロ=160.88円)で渡航費がかさむ今日この頃、ESMOはオンライン参加で節約をしたが、今年もPractice Changingな話題が豊富だっただけに、「現地参加したかった!」のが本音である。Presidential Symposium#LBA1 Ra223とエンザルタミドの併用療法は骨転移を有する去勢抵抗性前立腺がんのrPFSとOSを延長(PEACE-III試験)A randomized multicenter open label phase III trial comparing enzalutamide vs a combination of Radium-223 (Ra223) and enzalutamide in asymptomatic or mildly symptomatic patients with bone metastatic castration-resistant prostate cancer (mCRPC): First results of EORTC-GUCG 1333/PEACE-3塩化ラジウム223(Ra223)はカルシウム類似物質として骨転移巣を標的とし、崩壊時にα線を放出する放射線内用療法の治療薬で、ALSYMPCA試験において生存期間の延長が示され、日本でも2016年より臨床導入されている。近年は、新規ホルモン薬であるエンザルタミド(ENZ)やアビラテロンなどが転移のある去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)治療の主流となり、また非転移去勢抵抗性前立腺がん(m0CRPC)治療においては、アパルタミドやダロルタミドも標準治療となったことから、その使用状況は変化している。PEACE-3試験は、骨転移のあるmCRPC、無症状か軽症状、Performance Status(PS)0~1で臓器転移のない症例を対象とし、Ra223(55kBq/kgの静注、4週ごと、6サイクル)とENZ(160mg経口、連日)の併用と、ENZ単独を比較したランダム化比較第III相試験で、主要評価項目は画像上の無増悪生存(rPFS)であった。骨修飾薬は必須(119例集積後より)としていた。rPFSは片側α=0.025、β=0.10とし、ハザード比[HR]=0.68を検出するのに283イベントを必要とした。主要な副次評価項目として全生存(OS)を設定し、片側α=0.0034(中間解析)、0.0248(最終解析)でHR=0.75を検出するのに299イベントを必要とした。Ra223+ENZ群222例、ENZ群224例が登録され、ドセタキセル既治療は両群約30%、アビラテロン既治療は2~3%、骨以外の病変を有する症例は33~35%であり、バランスがとれていた。観察期間中央値42.2ヵ月時点のrPFS中央値はRa223+ENZ群で19.4ヵ月、ENZ群で16.4ヵ月(HR:0.69、95%信頼区間[CI]:0.54~0.87、p=0.0009)であり、併用群で有意な延長を認めた。OSは80%のイベント数での中間解析であったが、中央値はRa223+ENZ群で42.3ヵ月、ENZ群で35.0ヵ月(HR:0.69、95%CI:0.52~0.90、p=0.0031)であり、有意な延長を認めた。安全性では、治療関連の重篤な有害事象はRa223+ENZ群で28%、ENZ群で19%とわずかな増加を認めた。とくに注目されていた骨折は5.1%と1.3%、貧血は4.6%と2.2%、好中球減少は4.6%と0%の結果であった。演者のGillessen氏は、この結果によってmCRPCの1次治療の選択肢としてRa223+ENZが新たなオプションとなった、と締めくくった。日本のRa223の適応症は「骨転移のある去勢抵抗性前立腺がん」であり、本試験の対象患者となっている。CRPCでの新規ホルモン薬は標準治療であり、骨折リスクの増加を考慮してRa223との併用は回避すべき、と考えられてきたが、本試験のように骨修飾薬の併用を徹底すれば、ENZとの併用に関しては比較的安全で有効性も期待できることが読み取れる。日本の臨床現場にとっても日常診療を変える重要な報告であった。Presidential Symposium#LBA5 筋層浸潤膀胱がんに対する術前デュルバルマブ+化学療法と根治的膀胱全摘術および術後デュルバルマブはEFS、OSを延長(NIAGARA試験)A randomized phase III trial of neoadjuvant durvalumab plus chemotherapy followed by radical cystectomy and adjuvant durvalumab in muscle-invasive bladder cancer (NIAGARA)筋層浸潤膀胱がんの標準治療は、根治的膀胱全摘術と周術期のプラチナ併用化学療法+/-術後免疫チェックポイント阻害薬であるが、術前から免疫チェックポイント阻害薬を加えることの意義は検証されていなかった。NIAGARA試験は、シスプラチン適格となる筋層浸潤膀胱がん(cT2-T4aN0/1M0)を対象として行われた国際共同ランダム化比較第III相試験で、根治的膀胱全摘術前にゲムシタビン+シスプラチン(GC)療法4サイクルとGC+デュルバルマブ4サイクルにランダム化し、試験治療群では術後デュルバルマブを8サイクル行う治療が設定された。2つの主要評価項目として無イベント生存(EFS)および病理学的完全奏効(pCR)、主要な副次評価項目にOSが設定された。統計計画として、両側α=0.05が、pCRに0.001、EFSに0.049として割り振られ、いずれかが達成されればPositiveと判断するとされた。EFSが有意の場合、αはリサイクルされOSの検証にあてられる。GC+デュルバルマブ群は533例、GC群は530例の登録となり、手術はそれぞれ470例、446例で実施された。デュルバルマブの術後療法が開始された383例のうち、終了したのは288例であった。患者背景は、両群にアジア人を30%弱含み、腎機能良好(クレアチニンクリアランス60mL/min以上)はいずれも81%、リンパ節転移陽性例は5~6%であり、両群均等であった。追跡期間中央値42.3ヵ月時点のEFS中央値は、GC+デュルバルマブ群で「到達せず」、GC群で46.1ヵ月(HR:0.68、95%CI:0.56~0.82、p<0.0001)であった。pCR割合は33.8%と25.8%(オッズ比:1.49、95%CI:1.14~1.96、p=0.0038)で統計学的にNegativeと2022年に報告されていたが、再解析により37.3%と27.5%(オッズ:1.60、95%CI:1.23~2.06、p=0.0005)と、有意差ありと判断される数値であった。OS中央値は両群ともに「到達せず」であり、2年OSではGC+デュルバルマブ群で82.2%、GC群で75.2%、HR:0.75(95%CI:0.59~0.93、p=0.0106)であった。有害事象は、重篤なもので69%と68%と両群に差を認めず、膀胱全摘なしに関連したものは両群ともに1%、手術延期に関連したものは2%と1%であり、術前化学療法(NAC)の増強による悪影響は少ないという結果であった。シスプラチン適格の筋層浸潤膀胱がんにおいては、周術期のGC療法に加えてデュルバルマブを用いることが新たな標準治療と考えられる、とPowles氏は報告した。この報告のディスカッサントはワシントン大学のPetros Grivas氏であり、免疫チェックポイント阻害薬の位置付けの解釈の難しさを指摘した。現在の標準治療である術後ニボルマブ療法の対象は、NAC後はpT2以上の残存腫瘍がある症例である。NIAGARA試験では、pCRとなった3分の1の症例にもデュルバルマブの術後療法が行われているため、バイオマーカーによる追加検討を求めた。とはいえ、NIAGARA試験は日本も参加して行われた第III相試験であり、近い将来薬剤承認が認められれば、日常診療が刷新されるだろう。Proffered Paper session#LBA73 免疫療法を含む1~2ライン既治療の転移のある腎細胞がんに対するニボルマブ+tivozanib併用療法はPFS、OS延長を示せず (TiNivo-2試験)Tivozanib-nivolumab vs tivozanib monotherapy in patients with renal cell carcinoma (RCC) following 1 or 2 prior therapies including an immune checkpoint inhibitor (ICI): Results of the phase III TiNivo-2 studytivozanib(Tiv)は経口血管新生阻害薬であり、ニボルマブ(Niv)との併用は第I/II相試験で有効性と安全性が確認されている。TiNivo-2試験は、免疫チェックポイント阻害薬既治療で、転移のある腎細胞がんを対象にTiv+Niv併用療法とTiv単剤とを比較したランダム化比較第III相試験である。併用療法では、Tivは0.89mgを3週間内服1週間休薬としNiv 480mg静注と併用し、単独療法ではTiv 1.34mgを3週間内服1週間休薬で投与するデザインであり、主要評価項目は中央判定のPFSであった。Tiv+Niv群は171例、Tiv群には172例が登録され、患者背景は年齢中央値63~64歳、アジア人は含まれず、IMDCリスク分類はFavorable/Intermediate/Poorが18/66~67/16%、既治療ライン数は1/2Lが61~65/35~39%でありバランスがとれていた。PFS中央値はTiv+Niv群で5.7ヵ月、Tiv群で7.4ヵ月、HR:1.10(95%CI:0.84~1.43)、p=0.49であり、有意差を認めなかった。OS中央値は17.7ヵ月と22.1ヵ月、HR:1.00(95%CI:0.68~1.46)、p=0.9868であった。Tiv+Niv群とTiv群の有害事象(All grade)は、倦怠感で29%と40%、下痢で30%と36%、嘔気で16%と28%、甲状腺機能低下症で9%と15%であり、血管新生阻害薬の用量による有害事象がTiv群に多く発現していた。Tiv+Niv群に多かったのは、貧血(17%と9%)と掻痒症(16%と6%)であった。Choueiri氏は、TiNivo-2試験はアテゾリズマブ+カボザンチニブとカボザンチニブを比較したCONTACT-03試験と同様にNegativeな結果であったことから、2次治療がPD-1抗体であっても免疫チェックポイント阻害薬の継続使用は勧められない、と締めくくった。本試験の対象症例の詳細を確認すると、「1~2ライン以内に免疫チェックポイント阻害薬使用歴があり、前治療から6ヵ月以内の症例」が適格となっていた。日常診療では、再発リスクの高い限局性腎がん術後はペムブロリズマブで1年間術後治療を行うのが標準となっている。再発後の治療選択肢として、「免疫チェックポイント阻害薬を用いるべきかどうか」は重要な臨床疑問であったが、本試験とCONTACT-03試験の結果から、重要なのは免疫チェックポイント阻害薬ではなく血管新生阻害薬の単剤を十分量で用いることである、と結論付けてもよさそうである。Mini Oral Session#LBA68 転移性去勢感受性前立腺がんに対するダロルタミド+ADTはrPFSを延長 (ARANOTE試験)Efficacy and safety of darolutamide plus androgen-deprivation therapy (ADT) in patients with metastatic hormone-sensitive prostate cancer (mHSPC) from the phase III ARANOTE trial転移のある去勢感受性前立腺がん(mHSPC)の1次治療は、ARASENS試験においてドセタキセル(DTX)+アンドロゲン除去療法(ADT)と比較し、ダロルタミド(Daro)+DTX+ADTがOS延長を示したことから、日本でも承認され日常診療で使用されている。ESMO2024で発表されたARANOTE試験は、同じmHSPCを対象として行われた国際共同ランダム化比較第III相試験で、プラセボ+ADTとDaro+ADTを比較するデザインとなっている。主要評価項目は中央判定のrPFSであった。Daro+ADT群とプラセボ+ADT群に2:1にランダム化され、それぞれ446例と223例が登録され、アジア人(日本は含まれず、中国とインドが主体)は両群に約30%含まれていた。腫瘍量はHigh-volumeが約70%、de-novo転移の症例が71~75%であり、バランスのとれた患者背景であった。rPFS中央値は、Daro+ADT群で「到達せず」、プラセボ+ADT群で25.0ヵ月(HR:0.54、95%CI:0.41~0.71、p<0.0001)であった。サブグループ解析では、High-volume/Low-volumeでのHRはそれぞれ0.60(95%CI:0.44~0.80)/0.30(95%CI:0.15~0.60)であり、点推定値はLow volumeで小さい結果となった。有害事象は、明らかに併用療法で増強するものは認められなかった。これらの結果から、Saad氏は、DTXを使用しないDaro+ADTもmHSPCの標準治療の1つであると結論付けた。ARANOTE試験は日本が含まれなかった試験ではあるが、日本のダロルタミドの保険適用も変更されることを期待したい。とはいえ、High-volume症例にはDaro+DTX+ADTとすべきかDaro+ADTでよいのか、回答可能な臨床試験は行われておらず、日常診療には解決しない疑問が残っている。

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喀血の原因は、58年前の○○【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第264回

喀血の原因は、58年前の○○2024年7月、アメリカの選挙演説をしていたドナルド・トランプ氏が狙撃されるという事件がありました。そのため、ここらへんで一度、弾丸関連の異物論文を復習しておこうと思うのが異物論文専門医です。大昔に受けた傷跡や異物などがその後、数十年の時を経て顕在化するというのはよくあります。異物論文の世界では、70年後に心筋梗塞を起こした症例などが有名です1)。さて、今日紹介するのは喀血例の報告です。アルツハイマー病や脳卒中の既往がある81歳の退役軍人が、喀血によって搬送されました。喀血の原因はいくつもありますが、高齢男性においては通常、結核、肺アスペルギルス症、喫煙などが想起されます。Shrinath V, et al. 'You bleed in war and you bleed in peace: Hemoptysis in a case with retained intra-thoracic bullet fragments decades after the injury.’ Lung India. 2024 Jul 1;41(4):331-332.酸素飽和度の低下もなく、バイタルサインは安定していました。喀血は鼻出血と同じように、一度止まってしまえば意外としばらく出血しないことが多いです。当然、原因があるならそれを解決しなければ、再喀血するリスクがあるわけですが。この高齢男性の喀血の原因は何だったのでしょうか?胸部X線画像では、陳旧性の肺の陰影のようなものが数個胸部に見られました。うーん、これが喀血を起こすものだろうか。確かに、過去に重症肺炎や結核の既往があったり、塵肺があったりすると、こういった石灰化が見られますが、それが急性喀血の原因にはなりにくいです。「もしかして吐血じゃね?」ということで、上部消化管内視鏡検査が行われましたが、何も異常はなく、むしろ声帯に血液が付着していることがわかりました。「ああ、これはやっぱり喀血だ」ということで、気管支鏡検査が行われました。しかし、気管支腫瘍や異物などは見られませんでした。胸部造影CTでは、左下葉と背中の皮下に金属影が確認されました。胸部X線写真正面像だけでは胸郭内・胸郭外のどちらに石灰化があるのか不明ですが、胸部CTではその場所が明らかとなります。皮下の金属影とくれば、アレでしょう。「これは戦時中の弾丸でしょうか?」こんな会話が診察室で行われたのかもしれません。そう、これは58年前、軍務に就いていたときに散弾銃で撃たれ、除去された弾丸と除去できなかった弾丸があるようでした。年齢や基礎疾患も考慮して、気管支動脈塞栓術までは行われませんでした。止血剤の投与で軽快退院しています。半世紀以上を経て、喀血を起こすというのは過去に類を見ないもので、現時点で「弾丸関連喀血」の世界最長記録であると論文中に記載されています。1)Burgazli KM, et al. An unusual case of retained bullet in the heart since World War II: a case report. Eur Rev Med Pharmacol Sci. 2013 Feb;17(3):420-1.

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第112回 エリスロシン錠の在庫が尽きる薬局続出

エリスロシン®錠争奪戦15時頃、外来の患者さんも残り10人くらいになり、ラストスパートをかけようというとき。「先生、調剤薬局から疑義照会が来ています」と外来ナースが横からいつものFAX用紙を見せてきました。湿布を貼る場所を書き忘れたかなと思いながら見てみると、「エリスロシン錠の在庫がありません」の文字が。どうやら、販売元のヴィアトリス製薬で生産に問題が発生し、供給が不安定になっているようです。エリスロシン錠をめぐる騒動は、静かに、しかし確実に広がっています。7月には限定出荷の通知がありましたが、処方が多い呼吸器内科や耳鼻咽喉科で、その影響を実感し始めています。呼吸器内科領域のエリスロシン処方びまん性汎細気管支炎(DPB)という、気管支がびまん性に拡張する疾患があります。喀痰に悩まされる方が多いです。悩まされるだけならまだしも、耐性緑膿菌を保菌したり、細菌感染症で入院を繰り返したり、わりと社会生活上インパクトが大きな慢性呼吸器疾患です。1980年代前半のDPBの5年生存率はわずか42%でした。しかし、エリスロマイシンの低用量投与が導入されると、その生存率は劇的に改善され1)、若くして亡くなるという事例は減りました。エリスロマイシンの効果は単なる抗菌作用にとどまらず、抗炎症効果も持っています。このため、細菌感染を予防するだけでなく、気道の炎症を抑える効果があるとされています。DPBの予後改善はこの抗炎症効果によるものと考えられています2)。基本的にはDPBをはじめとした気管支拡張症に対してエビデンスが蓄積されてきた薬剤ですが、肺Mycobacterium avium complex(MAC)症に対しても有効とされています3)。肺MAC症は、マクロライド、エタンブトール、リファンピシンを用いた多剤併用治療が行われますが、このマクロライドが示すのは、アジスロマイシンあるいはクラリスロマイシンです。エリスロマイシンの抗菌活性は決して高くなく、上述した抗炎症効果によって臨床的悪化を食い止める働きがあります。そのため、MACに対してクラリスロマイシンやアジスロマイシンとの間に交差耐性はないことが知られています。DPBに有効というだけでなく、MACに対するデメリットも少ないということで、エリスロマイシンを長期投与されている呼吸器内科通院中の患者さんは多いです。拡大解釈されて、気管支拡張症にも用いられています。マクロライドスイッチにご注意を冒頭の続きです。エリスロシン錠の在庫がありません問題ですが、「エリスロマイシン錠」やクラリスロマイシンに余波が広がりつつあるということが懸念材料です。まず、「エリスロシン錠」と「エリスロマイシン錠」は、厳密には一般名が異なる製品です。エリスロシン錠の一般名は、「エリスロマイシンステアリン酸塩」で、エリスロマイシン錠の一般名は、シンプルに「エリスロマイシン」です。エリスロマイシン錠は、エリスロシン錠の後発医薬品でないのです。実は、適応菌種などに微妙な差が存在します(表)。画像を拡大する表. エリスロシン錠とエリスロマイシン錠の適応菌種・適応症・効能効果(赤字が異なる部分)今回出荷が問題になっているのはエリスロシン錠ですが、現在「エリスロマイシン錠」の処方が増えていると聞いています。さらに、クラリスロマイシンの処方が一部地域で増えつつあるそうです。代替薬としてクラリスロマイシンが提示されることが、まれにあるようです。副鼻腔炎や気管支拡張症に長期間クラリスロマイシンの単剤治療を適用すると、マクロライド耐性の非結核性抗酸菌を助長する可能性があります4)。そのため、エリスロシン錠からクラリスロマイシンへスイッチ、というのは代替薬としては推奨できないと考えてよいでしょう。参考文献・参考サイト1)Kudoh S, et al. Improvement of survival in patients with diffuse panbronchiolitis treated with low-dose erythromycin. Am J Respir Crit Care Med. 1998 Jun;157(6 Pt 1):1829-1832. 2)Tanabe T, et al. Clarithromycin inhibits interleukin-13-induced goblet cell hyperplasia in human airway cells. Am J Respir Cell Mol Biol. 2011 Nov;45(5):1075-1083. 3)Komiya A, et al. Long-term, low-dose erythromycin monotherapy for Mycobacterium avium complex lung disease: a propensity score analysis. Int J Antimicrob Agents. 2014 Aug;44(2):131-135.4)Griffith DE, et al. Clinical and molecular analysis of macrolide resistance in Mycobacterium avium complex lung disease. Am J Respir Crit Care Med. 2006 Oct 15;174(8):928-934.

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非喫煙者の42%に肺がんと関連する肺結節所見

 45歳以上の非喫煙者(喫煙未経験者と元喫煙者)1万人以上を対象にした研究で、42.0%もの人に肺がんと関連する可能性のある肺結節が1つ以上認められたことが報告された。非喫煙者の肺がんリスクは、通常は低いと考えられている。この論文の上席著者を務めたフローニンゲン大学医療センター(オランダ)心胸部画像診断科教授のRozemarijn Vliegenthart氏は、「この数字は予想以上に高く、喫煙者のハイリスク集団で報告されている肺結節の発生率に近いものだった」と述べている。この研究の詳細は、「Radiology」に8月13日掲載された。 研究グループの説明によると、胸部CT検査で肺結節が見つかるのは珍しいことではなく、肺がんの高リスク集団においては初期肺がんの兆候である可能性が高い。また、肺結節の発生率とサイズに関する過去の研究の大半は、ヘビースモーカーの肺がん検診データに基づくものであり、現在の肺結節の管理に関する推奨のほとんどもこの集団をベースにしている。そのため、低リスク集団において肺結節が見つかった場合に現在のガイドラインに準拠すると、不必要な追加検査の実施につながる恐れもあるという。 Vliegenthart氏らは今回の研究で、45歳以上の非喫煙者1万431人(平均年齢60.4歳、女性56.6%、喫煙未経験者46.1%、元喫煙者53.9%)を対象に、肺結節の発生率とサイズの分布を年齢と性別ごとに調査した。 その結果、対象者の42.0%(4,377人、男性47.5%、女性37.7%)に1つ以上の肺結節が確認され、この割合は年齢とともに上昇することが明らかになった。また、臨床的に意味のある肺結節(結節サイズが6〜8mm以上)が認められた対象者の割合は11.1%で、この割合も年齢とともに上昇していた。さらに、男性の方が女性よりも肺結節が見つかる確率と複数の結節を持っている確率が高いことも示された。 ただしVliegenthart氏は、「これらの肺結節のほとんどは、がんではなかった。これらの非喫煙者での肺がん発症率は0.3%と極めて低く、発見された臨床的に意味のある結節や対応が必要とされる結節のほとんどが良性であることを示唆している」とフローニンゲン大学のニュースリリースで述べている。それでも、これらの結節が見つかった場合には、現行のがん検診ガイドラインに従った追加検査と診察が必要となる。 研究グループは、欧米諸国では喫煙者が減少傾向にあることに言及した上で、「肺がん検診のガイドラインを更新することが重要だ」との考えを示している。またVliegenthart氏は、「このような喫煙者の減少傾向に鑑みると、非喫煙者の肺結節に関する基礎的かつ包括的なデータを提供した今回の研究結果の重要性が増す」とニュースリリースの中で述べている。 なお、米国肺協会(ALA)によれば、肺結節はがん以外にも、大気汚染、関節リウマチのような慢性炎症性疾患、結核のような感染症によっても引き起こされるという。また、非喫煙者の肺結節は、交通事故や健康問題でX線検査やCT検査を受けたときに偶然、発見されることが多いという。

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肺の空洞性病変の鑑別診断(2)[感染症編]【1分間で学べる感染症】第8回

画像を拡大するTake home message肺の空洞性病変の感染症の鑑別診断は多岐にわたる。抗酸菌:結核、非結核性抗酸菌(M. avium、M. kansasiii、M. abscessusなど)細菌:黄色ブドウ球菌、緑色連鎖球菌、ノカルジア、放線菌、クレブシエラ、緑膿菌、Stenotrophomonas、口腔内の嫌気性菌、Legionella non-pneumophila真菌:アスペルギルス、ムーコル、クリプトコッカス寄生虫:エキノコックス、肺吸虫など今回のテーマは、肺の空洞性病変の鑑別診断「感染症編」です。肺の空洞性病変の総論については、前回「CAVITY」で学習しました。今回はその中でも感染症の鑑別診断について深く学習していくことにします。肺の空洞性病変を見たら、まずは肺結核を否定することが何より重要です。しかし、それ以外にも、あらゆる微生物が肺の空洞性病変を呈することが知られています。肺結核以外にも、非定型抗酸菌、具体的にはM.aviumやM. kansasiii、M. abscessusなどが有名です。細菌では、黄色ブドウ球菌、緑色連鎖球菌などのグラム陽性球菌、ノカルジアや放線菌などのグラム陽性桿菌、グラム陰性桿菌ではクレブシエラ、とくに免疫不全者では緑膿菌、Stenotrophomonasなどを鑑別に入れる必要があります。また口腔内の嫌気性菌やレジオネラのnon pneumophilaのタイプが原因となることもあります。真菌では、とくに好中球減少者においてアスペルギルスやムーコル症、またHIVやがんで細胞性免疫が低下している患者ではクリプトコッカスが問題になることがあります。寄生虫では、まれですがエキノコックスや東南アジアからの帰国者では肺吸虫などがあります。肺の空洞性病変を見た際には、疫学的なリスクを考慮しながら結核だけではなく、これらの幅広い病原微生物を考慮することが重要です。1)Harding MC, et al. Fed Pract. 2021;38:465-467.2)Parkar AP, et al. J Belg Soc Radiol. 2016;100:100.

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第225回 新しい帯状疱疹ワクチンと認知症リスク低下が関連

新しい帯状疱疹ワクチンと認知症リスク低下が関連米国の20万例強の記録を英国オックスフォード大学の研究者らが解析したところ、2017年から同国で使用されるようになった新しい組み換え帯状疱疹ワクチンであるシングリックス接種と認知症を生じ難いことが関連しました1-3)。2006年から使われ始めて7年ほど前まで最も一般的だった別の帯状疱疹ワクチンZostavaxは生きた弱毒化ウイルスを成分とします。何を隠そうZostavaxも認知症が生じ難くなることとの関連が先立つ試験で示されています。しかし今回の新たな結果によると、認知症発現を遅らせるか、ともすると防ぎうるシングリックスの効果はZostavaxに比べて高いようです。帯状疱疹は高齢者の多くに生じる深刻な疾患の1つです。ストレスや化学療法などの免疫を弱らす事態に乗じて体内に潜む水痘帯状疱疹ウイルスが再活性化することを原因とし、痛い皮疹を引き起こし、2次感染や傷跡を残すことがあります。帯状疱疹は加齢につれて生じ易くなることから、高齢者へのそのワクチン接種が必要とされています。米国では50歳、英国では65歳での帯状疱疹ワクチン接種が推奨されています。米国を含む多くの国で帯状疱疹ワクチンは代替わりしてより有効なシングリックスが使われるようになっており、Zostavaxは使われなくなっています。シングリックスは組み換えワクチンであり、病原体のDNAのごく一部を細胞に挿入して作られるタンパク質を成分とします。それらタンパク質が体内で感染予防に必要な免疫反応を引き出します。米国では2017年後半からシングリックスがZostavaxの代わりに使われるようになりました。オックスフォード大学のMaxime Taquet氏らは、その区切り以降にシングリックスを接種した人とそれ以前にZostavaxを接種した人の認知症の生じ易さを比較しました。選ばれた人の数はどちらも10万例強で、平均年齢は71歳です。6年間の経過を追ったところ、シングリックス接種群の認知症の発症率はZostavax接種群に比べて17%低いことが示されました。また、帯状疱疹以外のワクチン(インフルエンザワクチンと3種混合ワクチン)接種群と比べてもシングリックス接種群の認知症発症率は2~3割ほど低く済んでいました。帯状疱疹ワクチンと認知症が生じ難くなることを関連付ける仕組みは不明で、今後調べる必要があります。もしかしたら帯状疱疹の原因ウイルスが認知症を生じ易くし、帯状疱疹ワクチンはそれらウイルスを阻止することで認知症をより生じ難くするのかもしれません2)。または、ワクチン自体が脳に有益な効果をもたらしている可能性もあります。ところで認知症発症率低下との関連は帯状疱疹以外のワクチンでも示されています。結核の予防や膀胱がん治療に使われるBCGワクチンはその1つで、認知症の発症リスクの45%低下との関連が昨年発表されたメタ解析で確認されています4)。BCGワクチンといえば新型コロナウイルス感染症(COVID-19)予防効果がかつて期待されましたが、プラセボ対照無作為化試験でその効果を示すことができませんでした5)。残念な結果になったとはいえBCGワクチンのCOVID-19予防効果は最終的に無作為化試験で検証されました。その試験と同様のシングリックスの認知症予防効果を検証する大規模無作為化試験の構想を今回の結果は促すだろうとTaquet氏らは論文に記しています。参考1)Taquet M, et al. Nat Med. 2024 Jul 25. [Epub ahead of print]2)New shingles vaccine could reduce risk of dementia / University of Oxford 3)Evidence mounts that shingles vaccines protect against dementia / NewScientist4)Han C, et al. Front Aging Neurosci. 2023;15:1243588. 5)Pittet LF, et al. N Engl J Med. 2023;388:1582-1596.

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肺の空洞性病変の鑑別診断(1)[総論編]【1分間で学べる感染症】第7回

画像を拡大するTake home message肺の空洞性病変の鑑別診断は「CAVITY」で覚えよう。肺の空洞性病変を見たら、皆さんは何の鑑別を考えますか?鑑別診断は多岐にわたりますが、大まかな分類を覚えるのに 「CAVITY」という語呂合わせが有用です。CCancer がん(扁平上皮がん、肺転移)AAutoimmuneVVascular 血管性(肺塞栓症、敗血症性肺塞栓症)IInfection 感染(結核、非結核性抗酸菌症、細菌、真菌、寄生虫)※詳しくは次回説明します。TTrauma 外傷(肺気瘤)YYouth/congenital 若年性/先天性(非結核性抗酸菌症、細菌、真菌、寄生虫)重要な点は、「感染性だけではなく、非感染性の幅広い鑑別診断がある」ことを理解することです。診断には、気管支鏡検査や肺生検を要することも多いですが、その他の病歴や身体所見などを総合的に考慮し、診断のための検査を進める必要があります。1)Harding MC, et al. Fed Pract. 2021;38:465-467.2)Cho Y, et al. Am Osteopath Coll Radiol. 2019;8:18-24.

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第222回 結核薬ベダキリンを米国と欧州が本承認

結核薬ベダキリンを米国と欧州が本承認欧米で10年以上前にひとまず許可されたJohnson & Johnsonの結核薬ベダキリン(商品名:サチュロ錠)がそれら地域で本承認にこぎ着けました1,2)。第II相試験で良い結果が得られたことを受けて、米国FDAは10年以上前の2012年に同剤を取り急ぎ承認(accelerated approval)しました。欧州はその2年後の2014年にやはり第II相試験結果に基づいてFDAと同様に同剤を条件付き承認(conditional approval)しています。米国での2012年の承認の際の同剤使用は成人に限られていました。2019年になって12歳以上の小児への使用も許可され、その翌年2020年には5歳以上の小児への使用も認められました。そして今回第III相STREAM Stage 2試験でベダキリンを含む経口薬治療の臨床的有用性(clinical benefit)が示されたことを受けて、米国と欧州の両方で本承認に至りました。2022年にLancet誌に結果が報告されたSTREAM Stage 2試験は7ヵ国の13の病院で実施され、15歳以上のリファンピシン耐性結核患者588例が参加しました3)。76週時点で結核菌が見当たらず(培養検査陰性)、それまでを死なずに無事に過ごした経過良好患者の割合の比較で、ベダキリンを含む経口薬治療群が対照の注射薬治療群に勝りました。経過良好の患者割合は、ベダキリンを含む経口薬治療群では83%、同剤を含まない対照群では71%でした。米国と欧州のどちらも、少なくともリファンピシンとイソニアジドに耐性のある結核菌が原因の肺結核の併用療法(combination therapy)の一環としてベダキリンを使うことを認めています。日本では2018年1月に承認され、同年5月に発売されました4)。いまやベダキリンは世界保健機関(WHO)が推奨する薬剤耐性結核治療の要となっており、ベダキリンを含む経口薬のみの投与が多剤耐性結核患者4例に3例の治療を担っています。昨年Johnson & Johnsonは結核治療普及の取り組みであるStop TB Partnershipがベダキリンの後発医薬品を世界のほとんどの低~中所得国(LMIC)に提供するのを許可しました。また、134のLMICでベダキリンの特許を行使しないとの意向も同社は示しています。参考1)Johnson & Johnson Receives Approval from U.S. FDA and European Commission for SIRTURO? (bedaquiline) / J&J2)FDA Roundup: June 25, 2024 / PRNewswire3)Goodall RL, et al. Lancet. 2022;400:1858-1868.4)新規抗結核薬「サチュロ錠100mg」新発売のお知らせ/ヤンセン

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島根大学医学部 内科学講座呼吸器・臨床腫瘍学(附属病院 呼吸器・化学療法内科)【大学医局紹介~がん診療編】

礒部 威 氏(教授/診療科長)津端 由佳里 氏(診療教授/副診療科長)奥野 峰苗 氏(医科医員)津田 洸旬 氏(医科医員)講座の基本情報医局独自の取り組み・特徴われわれの教室は、増加する呼吸器疾患と、がん医療の均てん化を推進するため、全国的に不足している呼吸器専門医・がん薬物療法専門医の育成を行ってきました。その特徴は呼吸器病学・腫瘍内科学・感染症学をベースとした、総合内科医の育成に取り組み、患者さんを疾患横断的、全人的に診療する力の養成にあります。肺がんは高齢化が進み、診断時に50%以上が75歳以上の高齢者です。高齢者は複数の慢性疾患を抱え、薬物の代謝や排泄が低下しているため、高齢者機能評価による適切な評価と介入ががん薬物療法を行う際には重要となります。教室の主要な臨床・教育・研究テーマが高齢者機能評価の普及と実践です。すでに高齢者機能評価の有用性を検討する多施設共同研究(ENSURE-GA)が終了し、現在は肺がん薬物療法時における高齢者機能評価の有用性を検討する多施設共同研究が始まったところです。また、呼吸器診療において持続可能な開発目標(SDGs)を掲げ、島根県の呼吸器診療、がん診療の基盤を整え、健康増進に寄与することを目的としたクラウドファンディングを開始しました。今後の教室の発展にご注目ください。我が医局のエースを紹介!津端はじめに自己紹介と医局の雰囲気の実際を教えてください。奥野医師10年目の奥野 峰苗です。もともと薬剤師でしたが、がんのエビデンスを作る臨床研究に興味があり、医学部に入りました。入局時は個別のキャリアプランを具体的に提案してくれ、ここなら自分の夢がかなえられる! と思い決めました。院外研修など自身のキャリアプランについてもトップダウンでなく、希望を聞いてもらえる医局だと思います。津田医師4年目の津田 洸旬です。大阪大学の人間科学部で学んでいましたが、医学こそ人間を科学する学問だ! と気が付き医学部へ入りました。研修医のころから薬物療法に興味があり、肺がん症例では診断から薬物療法、人生の最終段階まで寄り添えることにやりがいを感じました。趣味は美味しいごはんとお酒です(笑)。医局の雰囲気は一言で言うと「明るい」。若手から専門医まで在籍していて、カンファレンスは若手も発言しやすいです。津端では、当科でのがん診療/研究のやりがいはどんなところに感じていますか?奥野私はチームリーダーなのですが、一緒に考える、お互い刺激を受け合うチームを目指しています。研究は自身で立案したCQを、実際に臨床研究に結び付けることを医局がサポートしてくれます。先日、初めて国際学会(ATS)で発表してきました。語学の壁は感じましたが、今後もどんどんチャレンジしていきたいです。津端国立がん研究センターでの国内留学も終えられ、臨床試験の立案から実施、そして学会発表まで行えるよう成長できているという証拠ですね。津田肺がん診療が日進月歩であることを最前線で感じられ、とてもやりがいを感じますし、高齢者が多く併存疾患への対応にも携わることができています。診断・治療だけではなく、大学に緩和ケア病棟があって看取りまで担当できるのも当科の特色です。先輩方からサポートいただきつつ入局1年目から多施設共同試験のPIも経験でき、勉強になっています。津端それでは最後に、今後の目標と医学生/研修医の皆さんへメッセージをどうぞ!奥野さらにたくさんの臨床研究を立案することが目標です。肺がん患者さんの予後は延長し、新しい治療もたくさん出てきていますがまだまだ奥深い世界です。当科は少し迷っている方でも、サポートして一緒にやりたいことを見つけてもらえます。津田まずは専門医を取得する。そのうえで、肺がんを中心として専門性を高め、国内外の留学も目標です。がん診療、とくに肺がんは難しいという印象があるかもしれませんが、個々の症例と向き合うことで理解は深まりますし、患者さんに最期まで寄り添える、とてもやりがいのある領域です。津端今日はありがとうございました、これからも一緒に当科を盛り上げていきましょう!島根大学医学部 内科学講座呼吸器・臨床腫瘍学(附属病院 呼吸器・化学療法内科)住所〒693-8501 島根県出雲市塩冶町89-1問い合わせ先koka-nai@med.shimane-u.ac.jp医局ホームページ島根大学医学部 内科学講座呼吸器・臨床腫瘍学専門医取得実績のある学会日本内科学会日本呼吸器学会日本臨床腫瘍学会日本呼吸器内視鏡学会日本結核・非結核性抗酸菌症学会日本老年医学会日本アレルギー学会日本喘息学会日本がん治療認定医機構 ほか研修プログラムの特徴(1)ガイドラインに準拠した診療スタイルを身につけることができる(2)チームによる教育・研修体制を組み、常に上級医からの指導を受けることができる(3)完全当直、待機医師制度のため、オン・オフが明確化される詳細はこちら

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臨床留学通信、ニューヨーク最終章【臨床留学通信 from NY】第61回

第61回:臨床留学通信、ニューヨーク最終章ニューヨークからボストンのハーバード大学医学部マサチューセッツ総合病院(MGH)に移るに当たって、書類処理に追われています。まず、アメリカの病院で働く際には、健康診断がかなりきっちりしています。過去のワクチンの証明書やMMRなどの抗体価、日本人だとツベルクリン反応が陽性になってしまうので、クォンティフェロンの採血結果(3ヵ月以内)の提出などです。日本で働いてると、友達に採血オーダーしてもらってちょっとした合間に採血して、ということは簡単ですが、こちらだとそうはいきません。自身のプライマリケアにMyChartと呼ばれるウェブサイトから、その都度ラインのように担当医に連絡してオーダーしてもらい、通ってるプライマリケアまで行って採血をする形で、結構不便です。多くの場合、かかりつけの病院と自身の勤務先の病院は離れているため、勤務先の病院で採血、というわけにはいかないのです。今回、ニューヨーク州からマサチューセッツ州へ州が変わることもあり、州用のライセンス取得のために申請が必要で、過去のUSMLEの合格証明を、発行機関にお金を払って送ってもらったりします。新しい病院で働く場合多くはHIPPA(Health Insurance Portability and Accountability Act)と呼ばれる、病院で働く際の医者の守秘義務等を履行するために、オンラインコースを延々と受けなければいけません。そのほかに、もし銃撃事件に巻き込まれたら、といった恐ろしいシミュレーションを想定したオンラインコースもあります。隠れることもできず、退路を断たれたらどうする?という質問に対して、“Fight”という選択肢をどうしても選ぶことはできませんでしたが、どうやらそれが正解のようです…。ACLS/BLSも必要で、コースを受けなければいけませんが、病院側が用意してくれたコースがあるのでお金は掛かりません。引っ越しもなかなか大変で、不動産会社を経由して、古くて狭い2LDKが現在とほぼ同等の1ヵ月2800ドル、光熱費込みで約3,000ドル(45万円)です。引っ越し料金は、引っ越し業者に頼むと1,800ドル(27万円)も掛かります。米国では小学校の格差が激しく、学区の良い地域に住むと、どうしても古くて狭くても家賃が高くなってしまうのです。現在のニューヨーク郊外も、今度のボストン郊外も、そこだけはなんとか守るようにしています。なお、皇后雅子さまが住まわれたBelmontと呼ばれる地域の近くで、この地域の公立の高校からハーバード大学に入ることも多いようです。なお、6月下旬に引っ越すのですが、家賃を6月1日から払わないとなかなか良い物件は借りられないと不動産会社に言われたこともあり、6月はほぼ2倍の家賃を払うことになってしまいます。また夏休みに日本に一時帰国するのですが、ボストンから東京への直航便は、ニューヨークより便が少ないせいか高額で、エコノミークラスでも往復で3,200ドル(48万円)もして、なんじゃこりゃと言いたいところです。フェローの給料ではなかなか厳しいものです。そんなこんなで日々追われていますが、ニューヨークのNプログラム※の会合でBBQなどがあり、最後のニューヨークステイを楽しみたいと思います。アイコンの自由の女神のあるリバティ島には大学生の時に行きましたが、この6年間は行かずじまいになりそうです。7月以降は、施設を変わると最初はどうしても大変だったりしますが、comfort zoneに甘んじることなく、いろいろな施設の違いを感じ、世界最高峰の病院の1つと呼ばれるMGHを楽しんでいきたいと思います。※Nプログラムは、東京海上日動火災保険株式会社が実施する、米国の教育病院における臨床医学レジデンシー・プログラムに日系の若手医師を派遣するプログラム。

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ワクチン接種、50年間で約1億5,400万人の死亡を回避/Lancet

 1974年以降、小児期の生存率は世界のあらゆる地域で大幅に向上しており、2024年までの50年間における乳幼児の生存率の改善には、拡大予防接種計画(Expanded Programme on Immunization:EPI)に基づくワクチン接種が唯一で最大の貢献をしたと推定されることが、スイス熱帯公衆衛生研究所のAndrew J. Shattock氏らの調査で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2024年5月2日号に掲載された。14種の病原菌へのワクチン接種50年の影響を定量化 研究グループは、EPI発足50周年を期に、14種の病原菌に関して、ワクチン接種による世界的な公衆衛生への影響の定量化を試みた(世界保健機関[WHO]の助成を受けた)。 モデル化した病原菌について、1974年以降に接種されたすべての定期および追加ワクチンの接種状況を考慮して、ワクチン接種がなかったと仮定した場合の死亡率と罹患率を年齢別のコホートごとに推定した。 次いで、これらのアウトカムのデータを用いて、この期間に世界的に低下した小児の死亡率に対するワクチン接種の寄与の程度を評価した。救われた生命の6割は麻疹ワクチンによる 1974年6月1日~2024年5月31日に、14種の病原菌を対象としたワクチン接種計画により、1億5,400万人の死亡を回避したと推定された。このうち1億4,600万人は5歳未満の小児で、1億100万人は1歳未満であった。 これは、ワクチン接種が90億年の生存年数と、102億年の完全な健康状態の年数(回避された障害調整生存年数[DALY])をもたらし、世界で年間2億年を超える健康な生存年数を得たことを意味する。 また、1人の死亡の回避ごとに、平均58年の生存年数と平均66年の完全な健康が得られ、102億年の完全な健康状態のうち8億年(7.8%)はポリオの回避によってもたらされた。全体として、この50年間で救われた1億5,400万人のうち9,370万人(60.8%)は麻疹ワクチンによるものであった。生存可能性の増加は、成人後期にも 世界の乳幼児死亡率の減少の40%はワクチン接種によるもので、西太平洋地域の21%からアフリカ地域の52%までの幅を認めた。この減少への相対的な寄与の程度は、EPIワクチンの原型であるBCG、3種混合(DTP)、麻疹、ポリオワクチンの適応範囲が集中的に拡大された1980年代にとくに高かった。 また、1974年以降にワクチン接種がなかったと仮定した場合と比較して、ワクチン接種を受けた場合は、2024年に10歳未満の小児が次の誕生日まで生存する確率は44%高く、25歳では35%、50歳では16%高かった。このように、ワクチン接種による生存の可能性の増加は成人後期まで観察された。 著者は、「ワクチン接種によって小児期の生存率が大幅に改善したことは、プライマリ・ヘルスケアにおける予防接種の重要性を強調するものである」と述べるとともに、「とくに麻疹ワクチンについては、未接種および接種が遅れている小児や、見逃されがちな地域にも、ワクチンの恩恵が確実に行きわたるようにすることが、将来救われる生命を最大化するためにきわめて重要である」としている。

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長引く咳や痰、新型コロナ以外で増加傾向の疾患とは

 5月9日は「呼吸の日」。これに先駆け、インスメッドは罹患者数/死亡者数が増加傾向にある肺非結核性抗酸菌症(肺NTM症)に関するオンラインアンケート調査を実施した1)。その結果、肺NTM症について、「知っている」と回答したのは9.3%、「聞いたことがあるが、詳しくは知らない」は22.3%と、認知率の低さが浮き彫りになった。また、肺NTM症の症状として特徴的な咳や痰の症状を有していたにもかかわらず、全回答者の半数以上(608例)は医療機関を未受診と回答していた。その理由を尋ねたところ、79.9%が「病院に行くほどではないと思っている」と回答していたことも明らかになった。 本アンケートは、肺NTM症を含む感染症および呼吸器疾患に関する一般の意識や行動を把握することを目的に、現在もしくは過去に咳/痰の症状のある/あった30~70代の男女1,092例を対象に、疾患の理解度などの実態を調査したもの。肺NTM症の課題、疾患浸透率の低さか 肺NTM症とは原因菌である非結核性抗酸菌(nontuberculous mycobacteria:NTM)が肺に感染することにより発症する感染症で、土や水などの自然環境、台所や風呂場などの水回りの生活環境に常在菌として生息し、空気中に漂うNTMを吸い込むことにより感染する2)。今回、“感染症全般の感染源・原因となる可能性があるもので知っているもの”として、回答者の90%超が「人の飛沫(くしゃみ、咳など)」「ウイルス」と回答したのに対し、肺NTM症の要因となる「水(水道水など)」を挙げたのは35.3%に留まった。また、シャワーなどの水回りの掃除が肺NTM症予防には重要となるが、「水回りの掃除」を意識して行っている人は27.2%と少なかった。肺NTM症、肺結核の罹患者数をしのぐ勢いで増加 2014年の国内調査によると、人口10万人当たりの肺NTM症罹患率は2007年の全国調査と比較して約2.6倍も増加、現在では肺結核をしのぐ罹患者数となっている。肺NTM症の主な症状として、咳嗽、喀痰、血痰、倦怠感、体重減少などが挙げられるが、症状の強さや疾患の経過は患者によってさまざまといわれている。初期は無症状のことも多く、健康診断やほかの疾患の検査がきっかけとなって偶然にみつかるケース、無症状の場合にそのまま放置してしまうケースも少なくないという。また、厚生労働省の令和4年人口動態調査では、国内で肺NTM症による死亡者数が年間1,158例であったことが報告されており、罹患者数、死亡者数ともに増加の一途をたどっている深刻な疾患である。しかし、今回の調査結果によってその認知率の低さから、罹患率の高い中高年のやせ型女性を中心に啓発を行う必要があることも明らかになった。 肺NTM症と肺結核との大きな違いは、人から人へ感染しないといわれていること、前述のように、水などの自然環境、水回りなどの生活環境にいる菌を吸い込むことで感染する点である。それを踏まえた感染予防対策として、長谷川 直樹氏(慶應義塾大学医学部感染症学教室 教授)は「NTMは消毒薬にも強いという性質があり、生活環境から排除することは難しい。浴室や台所などは、日頃からなるべく清潔にすることを心掛け、排水溝だけでなく、シャワーヘッドやホースのぬめりを取り除き、よく乾燥させる。掃除の際はマスクを着用することも重要」とコメントしている。

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新型コロナが世界の死因の第2位に(GBD 2021)/Lancet

 米国・ワシントン大学のMohsen Naghavi氏らGBD 2021 Causes of Death Collaboratorsは、「世界疾病負担研究(GBD)」の最新の成果としてGBD 2021の解析結果を報告した。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行により、長期にわたる平均余命の改善や多くの主要な死因による死亡の減少が妨げられ、このような悪影響が地域によって不均一に広がった一方、COVID-19の流行にもかかわらず、いくつかの重要な死因の減少には継続的な進展がみられ、世界的な平均余命の改善につながったことが明らかとなった。研究の詳細は、Lancet誌オンライン版2024年4月3日号に掲載された。1990~2021年の世界の原因別死亡率、YLLを評価 本研究では、1990~2021年の204の国と地域、および各国の811の地方(郡、州など)における288の死因による死亡率と損失生存年数(YLL)を、年齢、性、場所、年ごとに評価した(米国・ビル&メリンダ・ゲイツ財団の助成を受けた)。 解析には、人口動態登録や口頭剖検のほか、国勢調査やサーベイランス、がん登録など、5万6,604件のデータソースを用いた。平均余命や高死亡率の地理的な集中の解析も行った。COVID-19が2021年の死因の第2位に 2019年の世界の主要な年齢調整死因は1990年と同じであり、第1位が虚血性心疾患、次いで脳卒中、慢性閉塞性肺疾患、下気道感染症の順であった。これに対し2021年には、COVID-19(年齢調整死亡率:人口10万人当たり94.0人[95%不確定区間[UI]:89.2~100.0])が脳卒中に代わって第2位となり、脳卒中は第3位、慢性閉塞性肺疾患は第4位であった。 2021年にCOVID-19による年齢調整死亡率が最も高かった地域は、サハラ以南のアフリカ(10万人当たり271.0人[95%UI:250.1~290.7])と中南米・カリブ海諸国(195.4人[182.1~211.4])であった。 一方、2021年のCOVID-19による年齢調整死亡率が最も低かったのは、高所得地域(10万人当たり48.1人[95%UI:47.4~48.8])と東南アジア・東アジア・オセアニア(23.2人[16.3~37.2])であった。2019~21年に平均余命が1.6年短縮 世界の平均余命は、解析した22の死因のうち18について、1990~2019年の間に着実に改善した。この改善に最も寄与したのは腸管感染症による死亡数の減少で、平均余命が1.1年延長した。次いで下気道感染症で0.9年、脳卒中で0.8年、その他の感染性疾患、虚血性心疾患、新生物、新生児疾患でそれぞれ0.6年の延長が得られた。 一方、2019~21年の間に世界の平均余命は1.6年短縮したが、これは主にCOVID-19やその他の世界的流行に関連した死亡による死亡率の増加に起因するものであった。 また、平均余命の変動は地域によって大きく異なり、東南アジア・東アジア・オセアニアは全体で8.3年(95%UI:6.7~9.9)延長し、COVID-19による平均余命の短縮が最も小さかった(0.4年)。COVID-19により平均余命が最も短縮したのは中南米・カリブ海諸国だった(3.6年)。 さらに2021年の時点で、288の死因のうち53が世界人口の50%未満の地域に高度に集中しており、同様のパターンを示した死因が44だけであった1990年以降、これらの死因は徐々に地理的に集中するようになっていた。この集中現象は、腸管感染症、下気道感染症、マラリア、HIV/AIDS、新生児疾患、結核、麻疹について指摘されている。 著者は、「高死亡率の地理的な集中のパターンを調査することで、公衆衛生上の介入が成功した地域が明らかになり、このような成功例を特定の死因が強く残存する地域に適用することで、あらゆる地域の人々の平均余命を改善するための施策の立案に資する可能性がある」とし、「GBD 2021における死因推定の包括的な性質は、死亡率の改善と悪化から学ぶ貴重な機会を提供し、死亡率減少の進展を加速させる一助となるであろう」と述べている。

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スプラトゥーンが上手いと気管支鏡も上手い!?

 結核予防会複十字病院呼吸器内科の下田 真史氏らの研究により、気管支鏡の経験が乏しい集団では、ビデオゲームの技能と気管支鏡の観察時間に相関が認められることが示された。これまでに、ビデオゲームと消化器内視鏡や腹腔鏡手術などのさまざまな医療手技の技能との関係が報告されているが、気管支鏡に関する報告は不足していた。本研究結果は、Scientific Reports誌2024年1月27日号で報告された。 本研究は、2021年1月~2023年10月の期間に結核予防会複十字病院で実施した。参加者を気管支鏡の経験をもとに未経験群23人(気管支鏡の経験のない医学生またはレジデント)、熟練群18人(気管支鏡の経験が100件以上の呼吸器内科の医師)に分類した。ビデオゲームの技能と気管支鏡の技能の関係を検討するため、ビデオゲーム(スプラトゥーン2[任天堂])のクリア時間と、モデルを使用した気管支鏡による内腔観察に要する時間を測定した。ビデオゲームの技能は、クリアまでの時間が短いほど技能が高いものとした。さらに、アクションを伴うビデオゲームの習慣から、週1時間以上かつ6年以上の経験がある参加者をゲーマー、それ以外を非ゲーマーに分類して同様の検討を行った。 主な結果は以下のとおり。・未経験群において、ビデオゲームのクリア時間と気管支鏡による内腔観察に要する時間に中等度の有意な相関が認められた(r=0.453、p=0.030)。・熟練群では有意な相関は認められなかった(r=0.268、p=0.283)。・未経験群において、ゲーマーサブグループ(12人)と非ゲーマーサブグループ(11人)を比較すると、ゲーマーサブグループは気管支鏡による内腔観察に要する時間が有意に短かった(観察時間中央値:200秒vs.281秒、p=0.005)。 本研究結果について、著者らは「気管支鏡の経験が乏しい集団において、ビデオゲームの技能と気管支鏡の技能との間に相関があることが示された。ビデオゲームに慣れ親しんでいる人は、気管支鏡の技能を素早く習得できる可能性が示唆された」と結論付けている。

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