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葛根湯~随症治療と病名治療~【Dr.伊東のストーリーで語る漢方薬】第2回

葛根湯~随症治療と病名治療~葛根湯といえば、感冒初期につかう漢方薬として皆さんにも馴染みがあるかと思います。結構使いやすい薬で、古典落語には「葛根湯医者」という言葉もあります。どんな病気にも葛根湯を勧めるやぶ医者がいたという話ですね。「頭が痛い? 葛根湯を用意しますよ。お次は胃が痛い? 葛根湯をどうぞ。お次の患者さんは…」「先生、私は単なる付き添いですが」「付き添い? 退屈しているでしょう、あなたも葛根湯を飲んでいきなさいな」……とまぁ、そんな感じです。では、葛根湯医者が本当にやぶ医者だったのかと言われると、必ずしもそうとは言い切れません。江戸時代や明治時代は病気といえば、感染症か脳卒中です。参考までに、1900年の死因は、1位が肺炎と気管支炎、2位が結核、3位が脳卒中、4位が胃腸炎、5位が老衰です(図1)1)。図1 1900年の死因順位画像を拡大するそれに、江戸時代の平均寿命は30~40歳だと推定されているのです。医者にかかる時は急性期の感染症、とくに感冒が多くなることが容易に想像できるわけです。そうすると、葛根湯で正解という場面も多くなるので、葛根湯医者はあながち間違ったことをしていなかったのではと考えられます。感冒初期に使う漢方薬ここで、感冒初期につかう漢方薬を皆さんには3つ覚えていただきましょう。葛根湯、麻黄湯、桂枝湯の3つです。たぶん皆さんも聞いたことがあるかと思います。かなり大雑把に言えば、麻黄湯は体が頑丈な方向け、桂枝湯は虚弱な方向けで、葛根湯はその間です(図2)。図2 葛根湯、麻黄湯、桂枝湯が適応となる患者像画像を拡大する頑丈や虚弱がどういうことかは、今後詳しく説明しますが、ここで葛根湯の構成生薬をみてみましょう。葛根湯には葛根、麻黄、大棗(たいそう)、桂皮、生姜(しょうきょう)、芍薬(しゃくやく)、甘草の7つの生薬が含まれています。まだ生薬は覚えなくてもいいですが、7種類ということで、前回紹介した桔梗湯や芍薬甘草湯よりも効きが遅いことは想像できるかと思います。ちょっと遅いのですが、早ければ15分くらいで効いてくるのでよくできた漢方薬です。これらの生薬は、麻黄湯や桂枝湯とオーバーラップしているところが多く、だからこそ体が頑丈な人にも虚弱な人にも幅広く使える薬になっているとご理解ください(図3)。図3 葛根湯の構成生薬画像を拡大する随証治療ところで、葛根湯には葛根が含まれています。マメ科植物のクズの根っこの部分なのですが、これは麻黄湯や桂枝湯には含まれていません。じつは、この葛根が筋肉の凝りに効いてきます。「葛根湯が肩こりに効く」という話を聞いたことのある先生方もいるかと思います。ただし、この「肩こりに効く」というのは誤解が入っています。ちょっとここで、皆さんと一緒に古典を紐解いてみましょう。『傷寒論』という、後漢末期、つまり三国志時代の古典です。太陽病、項背強ばること几几、汗無く悪風するは、葛根湯之を主る。これを意訳すると、感冒初期でうなじが強ばって固くなっていて、汗が出ず寒気を感じている人には葛根湯が第1選択薬だと言っているんですね。そう「肩こり」ではなくて「首のこり」といった方が正確なのです。このように、古典の条文に載っているような症状や所見に準拠して漢方治療を行うことを「随証治療」といいます。一方で、市販のマニュアルは、こういった条文を現代語訳したり、一部を抜粋したりして作られていますが、その結果として「普通感冒の初期には葛根湯を使う」と西洋医学の病名に基づいた治療が行われるようになります。このやり方を「病名治療」といいます。漢方医学をものにしたい場合は、「病名治療」ではなく「随証治療」を学ぶ必要があります。最初は「病名治療」で勉強してもいいとは思いますが、最終的には「随証治療」も学ばないと、うまく効く漢方治療はできません。クイズでは、ここで1つクイズを出してみます。大いに渇し、舌上乾燥して煩し、水数升を飲まんと欲する者は、白虎加人参湯之を主る。これは「のどがカラカラで、水をガブガブ飲みたい人は白虎加人参湯が第1選択薬である」という意味の条文です。この条文には、前置きがあって割愛している箇所があるのですが、そこはご容赦ください。さて、この白虎加人参湯は、西洋医学で言うと何に使えそうか、考えてみてください。解答・解説はこちらたとえば、糖尿病はひどくなると喉が渇きますよね。また、シェーグレン病や熱中症も喉が渇きそうです。実際に、こういった状態を「体の芯に熱を持った状態」と漢方の世界では解釈していて、白虎加人参湯を処方することがあります。詳しい話を知りたい方には、症例報告が出ているのでそちらを見ていただくとして、このエクササイズを通じて「随証治療」と「病名治療」の関係性が何となく見えてきたのではないかなと思います(図4)。図4 随証治療と病名治療の例画像を拡大するまとめ葛根湯は、感冒初期に使える漢方薬で、体が頑丈な方から虚弱な方まで幅広く使えます。ただし、感冒初期に限るため、処方は2~3日分にとどめ、漫然と長期間処方しないほうがいいでしょう。漢方医学では古典の解釈が結構大事で、これをすっ飛ばすと「肩こりに葛根湯」のような誤解につながります。古典に基づいた「随証治療」を行うことが大切で「病名治療」はそのとっかかりに過ぎないことを認識していただくことが、漢方を上達させるコツです。次回は、麻黄湯のお話です。お楽しみに!1)厚生労働省. 心疾患-脳血管疾患死亡統計の概況 人口動態統計特殊報告 年次別にみた死因順位(第1~10位) 総数

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第284回 終末期医療における延命治療終了、4学会が合同ガイドライン改訂案

<先週の動き> 1.終末期医療における延命治療終了、4学会が合同ガイドライン改訂案 2.全国がん登録に「死亡場所」追加、研究活用促進へ/規制改革推進会議 3.小児科・産科、総合診療の人材不足鮮明 医師確保計画の改定で/厚労省 4.美容医療の診療録記載を省令で明確化へ、監督強化でパブコメ開始/厚労省 5.出生数70.6万人で過去最少更新、推計より17年早い少子化/厚労省 6.人口減少で経営悪化の病院再編、市立病院が閉院へ/室蘭市 1.終末期医療における延命治療終了、4学会が合同ガイドライン改訂案救急・集中治療領域における生命維持治療の終了・差し控えを巡り、日本集中治療医学会、日本救急医学会、日本循環器学会、日本緩和医療学会の4学会は、合同ガイドライン改訂案を公表した。2014年策定の指針から約11年ぶりの改訂となる。改訂案では「終末期」をあえて定義せず、人工呼吸器などの生命維持治療を開始しない、または終了する際の判断手順を具体化した点が特徴となっている。患者本人の価値観や意思を中心に、家族および医療チームが協議して方針を決定する「共同意思決定」を原則とした。また、1度治療を開始すると中止できないという臨床現場の萎縮を防ぐため、期限を区切って治療効果を評価する「タイム・リミテッド・トライアル」の考え方を明記。治療を差し控え、または終了した場合の緩和ケアについても、苦痛緩和の具体的手順や家族支援の在り方を詳細に示した。これまで、法的責任への懸念や指針のあいまいさから、患者が望まない治療が継続される事例も少なくなかった。今回の改訂案は、現場での判断を支える実践的指針として、患者の尊厳を尊重した医療の実現につながることが期待される。3月27日までパブリックコメントを実施している。 参考 1) 終末期医療の指針、救急など4学会改訂案 意思決定やケアの手順示す(朝日新聞) 2) 延命治療終了の手順具体化 学会指針案、11年ぶり改定(共同通信) 3) 延命治療終了の手順明記 4学会が指針案、患者の意思尊重 医療者・家族の協議求める(日経新聞) 4) 「救急・集中治療における生命維持治療の終了/差し控えに関する4学会合同ガイドライン」パブリックコメント募集のお知らせ(日本救急医学会) 2.全国がん登録に「死亡場所」追加、研究活用促進へ/規制改革推進会議政府の規制改革推進会議は2月26日、規制改革に関する中間答申を公表し、「全国がん登録情報および院内がん登録情報の利活用拡大」を最重要項目に位置付けた。がん登録に含まれる死亡日や死因情報は、遺族の個人情報に該当する可能性から、現行制度では第三者提供が厳しく制限されている。その一方で、多施設共同研究などでは生存確認や死亡情報の活用ニーズが高く、「研究に使えない」との指摘が相次いでいた。中間答申では、死亡日を5日単位でグループ化するなど、個人特定リスクを抑えた加工を施したうえでの第三者提供を検討すると明記。死因についても、がん死亡では部位が判別可能な情報、非がん死ではICD中間分類レベルの提供を可能とする方向性が示された。2026年の制度実施を目指す。これにあわせて、全国がん登録の届け出項目拡充も進められる。厚生労働省は、2027年診断症例から「死亡場所」を登録項目に追加する方針を了承。終末期医療や在宅看取りの実態把握に資する狙いだ。さらに、2028年以降はUICCのTNM分類(腫瘍径、リンパ節転移、遠隔転移)の追加も予定されている。また、院内がん登録とNDB(レセプト・特定健診情報)など公的データベースの連結解析を可能とし、本人同意を不要とする第三者提供の対象に院内がん登録を含める方針も示された。AYA世代や希少がんでは、国際標準分類に基づく情報提供を拡充する。その一方で、議論が続く自治体がん検診の「医師1人+AI読影」解禁は、今回の中間答申には盛り込まれなかった。政府は、今夏に規制改革実施計画を策定し、がん研究基盤の強化を急ぐとしている。 参考 1) がん登録情報の利活用、死亡日など提供方法を検討 中間答申 規制改革推進会議(CB news) 2) がん登録に「死亡場所」も 27年症例から項目追加 厚労省(同) 3) 規制改革推進に関する中間答申(規制改革推進会議) 3.小児科・産科、総合診療の人材不足鮮明 医師確保計画の改定で/厚労省厚生労働省は、2月25日に開かれた「第13回医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会」で、都道府県を対象に実施したアンケート結果を公表し、医師確保が特に必要な診療科として「小児科」を挙げた自治体が最多の41都道府県に上ったと明らかにした。次いで産科・産婦人科が40、総合診療科が34となり、生命予後に直結しやすく、24時間対応や当直負担の重い診療科で人材不足が深刻である実態が改めて浮き彫りとなった。特定診療科の医師確保に向けた支援策は44都道府県で実施しており、主な手法は(1)診療科を特定した地域枠の設定、(2)人件費や医師派遣費など医療機関への財政支援、(3)大学への寄附講座設置などであった。その一方で、都道府県が養成過程での対策を進めるために国に求める支援としては、財政支援の拡充、制度に関する情報提供や協議の場の設置、臨床研修・専門研修での採用上限設定など制度的関与の強化が多く挙げられた。この検討会において、第8次医師確保計画(後期、2027年度~)に反映する「医師養成過程の取組に係る議論の整理(案)」を大筋で了承した。整理案では、地域枠は原則として恒久定員内で設置する方針を明確化し、医師少数県や離島・豪雪地帯など、やむを得ない事情がある場合に限って臨時定員の活用を例外的に認めるとした。また、医学部段階だけでなく、臨床研修・専門研修を通じた偏在是正を重視し、若手医師の流出入や研修修了後の定着状況、地域枠医師の義務年限終了後の勤務実態を継続的に把握・検証することを都道府県に求めた。大学医学部・大学病院に対しては、地域医療を担う診療科への誘導や研修プログラムの魅力向上など、教育機能と地域医療政策の一体的運用がより強く求められることになる。 参考 1) 医師確保が特に必要な診療科、最多は「小児科」 厚労省の都道府県調査で(CB news) 2) 地域枠は原則「恒久定員内」に設置へ 医師多数県以外も 厚労省検討会が整理案(同) 3) 特に医師確保が必要な診療科として、41都道府県が「小児科」と回答(日経メディカル) 4) 医師確保計画策定ガイドラインの見直しに向けた医師養成過程の取組に係る議論の整理案(厚労省) 4.美容医療の診療録記載を省令で明確化へ、監督強化でパブコメ開始/厚労省厚生労働省は、美容医療を巡る健康被害や不適切な勧誘の増加を受け、医師の診療録の記載ルールを見直す省令改正案を公表し、パブリックコメントを実施している。意見募集は3月17日まで。改正案では、美容医療を提供する場合の診療録の記載事項に「患者の主訴」「患者が希望する治療内容」が含まれることを明確化し、保健所などの立入検査・指導で診療実態を確認できるようにする。これまでは医師法違反などが疑われる事案でも、診療録の記載自体が不十分で根拠が追えず、指導の実効性が上がらないケースがあったためであり、厚労省は監督強化の一環として2026年4月の施行を予定している。今回の医師法施行規則の改正は、美容医療の消費者相談の件数増加を受け、2024年に厚労省は「美容医療の適切な実施に関する検討会」での議論をもとに、同年11月の取りまとめで「診療録記載の徹底」を安全確保の柱に位置付けた経緯がある。わが国の美容医療はSNS拡散とコロナ禍の「特需」を追い風に急拡大し、推計では2024年に市場規模は6,310億円に達している。クリニック数は、2020年の1,404施設から2023年に2,016施設へと増加し、施術件数も2017年約160万件から2024年約306万件に伸長、自由診療の高収益性を背景に研修後すぐ美容医療に進む「直美」医師も2012年の16人から2022年には198人と急増している。その一方で、経験不足や合併症対応の脆弱さを不安視する声があり、国民生活センターへの相談件数も2022年度3,798件から2024年度1万736件へと急増している。自由診療は保険診療と異なり、診療内容について保険審査の枠外で、価格設定や運営の自由度が高い。クリニックによっては、カウンセラーにノルマを課して高額な施術へ誘導するほか、術後の合併症の対応能力不足、未承認の薬剤や医療機器を使用した施術での重篤な被害の発生も繰り返されている。SNSでは「痛みゼロ」「必ず小顔」など断定的表現や根拠不明の肩書が拡散しやすく、広告規制が届きにくい「グレーゾーン」も課題となっている。厚労省では、患者の「主訴」「希望する治療」の記録を明確化して、診療の妥当性や説明・同意の検証、トラブル時の事後検証を可能にし、行政指導につなげたい考え。2025年12月には美容医療機関に安全管理措置や相談先などの報告を年1回程度求める制度整備も進んでおり、今回の省令改正と併せ、統一的な指針整備、若手教育・倫理、広告監視の実効性をどう高めるかが焦点となる。厚労省は、パブリックコメントで記載項目の具体性や運用負担、立入検査での活用方法などへの意見を求めており、4月以降は現場での真摯な対応が求められる。 参考 1) 医師法施行規則及び歯科医師法施行規則の一部を改正する省令案に関する御意見の募集について(政府) 2) 美容医療の適切な実施に関する検討会 報告書(厚労省) 3) 美容医療、診療録の記載事項に「患者の主訴」「希望する治療内容」も 省令改正へ(CB news) 4) 美への欲望につけこみ高額な課金、死亡事故も…専門医は「過剰営業」を懸念(日経メディカル) 5) 「成功してるじゃん」美容医療で“しこり”も医師が失敗認めず…被害者が施術費用の返還など求めクリニックを提訴(弁護士JPニュース) 5.出生数70.6万人で過去最少更新、推計より17年早い少子化/厚労省厚生労働省が公表した人口動態統計速報(外国人を含む)によると、2025年の出生数は70万5,809人で、1899年の統計開始以降で過去最少を更新し、10年連続減少した。前年差は1万5,179人減(2.1%減)で、2022~24年の約5%減に比べ減少幅は縮小した。国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の将来推計(中位推計)では出生数が70万人台となるのは2042年と見込まれており、想定よりも約17年早いペースで少子化が進んでいる。死亡数は160万5,654人で0.8%減と5年ぶりに減少へ転じたが、出生数との差である自然減は89万9,845人と過去最大に拡大した。団塊の世代が全員75歳以上となる中、人口減の加速が改めて示された。婚姻数は50万5,656組で1.1%増、2年連続の増加。ただしコロナ禍前(2019年の59万組台)には戻っていない。離婚は18万2,969組で3.7%減だった。地域別では45道府県で出生数が減少する一方、東京都は8万8,518人(1.3%増)と速報値で9年ぶりに増加し、石川県も6,515人(128人増)と増加に転じた。全国出生数の約3割を首都圏1都3県が占め、地域差も鮮明となった。東京都は、現金給付や保育料無償化の拡大、無痛分娩助成など子育て支援を進めており、周辺自治体から転居希望の増加を指摘する声もある。上野 賢一郎厚生労働大臣は、若年層の所得向上や共働き・共育て支援を進める考えを示し、「婚姻増は良い傾向」と述べている。もっとも、出生数の下振れが続けば、年金・医療・介護の前提となる人口見通しが揺らぎ、給付と負担の再設計を迫る可能性がある。なお日本人のみの出生数・合計特殊出生率は6月公表予定で、出生数は60万人台となる見通しが示されている。政府は2030年までが少子化反転の「ラストチャンス」として、こども未来戦略を推進し、財源として公的医療保険に上乗せする支援金制度を段階的に運用する方針も示している。 参考 1) 人口動態統計速報(厚労省) 2) 2025年の出生数70万人、10年連続で最少更新…東京・石川が増加に(読売新聞) 3) 出生数過去最少の70万人 推計より17年早い少子化 25年速報値(毎日新聞) 4) 2025年の出生数70.5万人 少子化は推計より17年早く、人口減も進行(日経新聞) 5) 2025年、出生数は70万5,809人で10年連続減少、死亡数が160万5,654人で、自然増減は「マイナス89万9,845人」-厚労省(Gem Med) 6.人口減少で経営悪化の病院再編、市立病院が閉院へ/室蘭市北海道室蘭市は、経営悪化が続く市立室蘭総合病院について2027年度をめどに閉院し、高度急性期・急性期機能を製鉄記念室蘭病院へ統合する方針を正式に決定した。市内3病院(市立室蘭総合病院、製鉄記念室蘭病院、日鋼記念病院)の再編を巡り、地域医療連携再編等推進協議会が最終合意に達した。背景には、室蘭市および西胆振地域で進む人口減少と急性期医療需要の縮小がある。3病院が同様の急性期機能を維持し続ければ、病床過剰や症例分散により医療の質低下や医師確保難を招き、病院経営の持続性が失われるとの判断が示された。市立病院は1872年開設、517床・22診療科を有し、約720人が勤務する基幹病院だが、2024年度末で約85億円の負債を抱え、市の一般会計からの多額の繰り出しが市の財政を圧迫していた。再編後、東室蘭地域では製鉄記念室蘭病院が2次医療圏の救命救急・高度急性期拠点を担い、蘭西地域では日鋼記念病院を中心に急性期から回復期、在宅医療までを支える体制とする。道内初の結核患者収容モデル病室の稼働など、政策医療の集約も進める。その一方で、500人超の市立病院職員は公務員の身分を失うため、再就職支援が課題となる。北海道知事の鈴木 直道氏は、患者の受け皿確保や職員雇用について市と連携し、丁寧に対応する考えを示している。今回の閉院は、人口減少地域における公立病院再編の先行事例として、全国の地域医療に大きな影響を与える可能性がある。 参考 1) 室蘭市地域医療連携・再編等推進について(室蘭市) 2) 市立室蘭総合病院、27年度めどに閉院へ 製鉄記念室蘭病院へ機能統合 3病院再編で合意(CB news) 3) 市立室蘭総合病院を閉院へ 北海道室蘭市、70億円超の財政支出も(朝日新聞) 4) 150年の歴史がある市立病院が閉院へ…新年度に23億円支出方針の室蘭市の財政は「危機的水準」(読売新聞)

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未治療・再発肺MAC症、吸入アミカシン上乗せの有用性は?(ARISE)

 肺非結核性抗酸菌症(肺NTM症)のうち、Mycobacterium avium complex(MAC)を原因菌とするものが肺MAC症である。肺MAC症に対し、国際的なガイドラインではマクロライド系抗菌薬、エタンブトール、リファンピシンによる3剤併用療法が推奨されている1)。また、本邦の指針である『成人肺非結核性抗酸菌症化学療法に関する見解―2023年改訂―』でも、空洞がなく重度の気管支拡張所見がない場合は、マクロライド系抗菌薬(クラリスロマイシンまたはアジスロマイシン)、エタンブトール、リファンピシンの併用が標準治療とされている2)。ただし、この3剤併用療法には忍容性や治療成功率に課題も存在する。 そのような背景から、肺MAC症に対する新規治療薬としてアミカシンリポソーム吸入懸濁液(ALIS、商品名:アリケイス)が承認されているが、適応は「多剤併用療法による前治療において効果不十分な患者」に限定されている。そこで、米国・National Jewish HealthのCharles L. Daley氏らは、未治療または再発の非空洞性肺MAC症患者を対象に、アジスロマイシン+エタンブトールへALISを上乗せする治療の有用性を検討する国際共同第III相試験「ARISE試験」を実施した。その結果、ALIS併用群は対照群と比較して、6ヵ月時点および治療終了1ヵ月後の7ヵ月時点における排菌陰性化率が数値的に高く、より早期に排菌陰性化を達成することが示唆された。本研究結果は、Annals of the American Thoracic Society誌オンライン版2026年1月23日号で報告された。試験デザイン:国際共同無作為化二重盲検第III相試験対象:未治療または再発の非空洞性肺MAC症の成人患者99例試験群(ALIS群):アジスロマイシン(250mg/日)+エタンブトール(15mg/kg/日)+ALIS(590mg/日)を6ヵ月 48例対照群:アジスロマイシン(250mg/日)+エタンブトール(15mg/kg/日)+吸入プラセボを6ヵ月 51例評価項目:[主要評価項目]患者報告アウトカム(PRO)ツールの妥当性検証[副次評価項目]排菌陰性化率、安全性など 主な結果は以下のとおり。・対象患者の年齢中央値は69歳で、女性の割合は77.8%、白人の割合は80.8%であった。・6ヵ月時点の排菌陰性化率(5ヵ月・6ヵ月時点の連続で陰性)は、ALIS群80.6%、対照群63.9%であった(群間差16.7%、95%信頼区間[CI]:-1.4~34.9、p=0.0712)。・治療終了1ヵ月後の7ヵ月時点における排菌陰性化率(6ヵ月・7ヵ月時点の連続で陰性)は、ALIS群78.8%、対照群47.1%であり、ALIS群が高かった(群間差31.7%、95%CI:12.9~50.5、p=0.0010)。・排菌陰性化達成までの期間中央値は、ALIS群1.0ヵ月に対し、対照群では2.0ヵ月であった。・排菌陰性化を達成した患者のうち、7ヵ月時点までに再発が確認された割合は、ALIS群12.8%(5例)に対し、対照群では50.0%(20例)と対照群が高かった。・PRO評価(QOL-B RDスコア)において、ALIS群では7ヵ月時点まで継続的な改善傾向がみられた一方、対照群では3ヵ月以降に改善が頭打ちとなり、その後低下した。・安全性について、有害事象はALIS群91.7%、対照群80.4%に発現した。ALIS群で多くみられた有害事象は、発声障害(41.7%)、下痢(27.1%)、咳嗽(27.1%)などであり、新たな安全性シグナルは認められなかった。 本研究結果について、著者らは「本試験は6ヵ月間という短期間の検討であり、ガイドライン推奨の治療期間を反映していないものの、早期介入における吸入アミカシンの有用性を示す重要なデータである」と述べている。現在、同様の集団を対象とした12ヵ月間の長期投与による検証試験「ENCORE試験」が進行中である。

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気管支拡張症へのbrensocatib、日本人サブグループ解析結果(ASPEN)

 非嚢胞性線維症性気管支拡張症は、慢性的な咳嗽や膿性痰を伴い、増悪を繰り返すことで肺機能低下やQOL低下を招く進行性の炎症性呼吸器疾患である。炎症には好中球エラスターゼなどの好中球セリンプロテアーゼが深く関与しており、その活性化を担うのがジペプチジルペプチダーゼ1(DPP-1)とされている。そこで、DPP-1阻害薬brensocatibが開発され、非嚢胞性線維症性気管支拡張症患者を対象とした国際共同第III相試験「ASPEN試験」において、増悪を抑制することが示された。本試験の結果から、米国食品医薬品局(FDA)は2025年8月に非嚢胞性線維症気管支拡張症を適応症として、brensocatibを承認した(本邦では承認申請中)。 ASPEN試験は日本人87例が含まれる試験である。そこで、森本 耕三氏(公益財団法人結核予防会 複十字病院 呼吸器センター)らは本試験の日本人サブグループ解析を実施し、Respiratory Investigation誌2026年3月号で結果を報告した。本解析において、brensocatibは日本人においても増悪を抑制し、良好な安全性を示すことが示唆された。・試験デザイン:国際共同第III相二重盲検無作為化比較試験・対象:過去12ヵ月に2回以上の増悪歴(12~17歳は1回でも可)を有する非嚢胞性線維症性気管支拡張症患者・試験群1(brensocatib 10mg群):brensocatib(10mg、1日1回)を52週間 583例(日本人30例)・試験群2(brensocatib 25mg群):brensocatib(25mg、1日1回)を52週間 575例(日本人28例)・対照群(プラセボ群):プラセボ(1日1回)を52週間 563例(日本人29例)・評価項目:[主要評価項目]増悪の年間発現率[主要な副次評価項目]初回増悪までの期間、52週時点の無増悪割合、52週時点の1秒量(FEV1)のベースラインからの変化、重度増悪の年間発現率、QOL-B呼吸器症状ドメイン 日本人サブグループにおける主な結果は以下のとおり。・日本人87例の平均年齢は66.4歳で、女性の割合は56.3%であった。いずれの群もマクロライド系抗菌薬を使用している患者が多かった(brensocatib 10mg群80.0%、brensocatib 25mg群75.0%、プラセボ群79.3%)。・日本人サブグループは全体集団と比較して、男性の割合、75歳以上の割合、マクロライド長期投与を受けている割合、過去1年に増悪が3回以上あった患者の割合、気管支拡張薬吸入後の%FEV1値が高い傾向にあった。・主要評価項目である増悪の年間発現率(回/年)は、プラセボ群が1.20であったのに対し、brensocatib 10mg群0.45(率比:0.37、95%信頼区間[CI]:0.16~0.87)、25mg群0.39(率比:0.32、95%CI:0.14~0.75)であり、いずれの用量でもプラセボ群と比較して改善した。・初回増悪までの期間の中央値は、プラセボ群が40.1週であったのに対し、brensocatib 10mg群および25mg群ではいずれも未到達であった。プラセボ群と比較したハザード比は、それぞれ0.46(95%CI:0.19~1.12)、0.48(95%CI:0.20~1.17)であった。・52週時点の無増悪割合は、プラセボ群が47.6%であったのに対し、brensocatib 10mg群72.9%(オッズ比[OR]:3.10、95%CI:0.99~9.69)、25mg群71.2%(OR:2.77、95%CI:0.89~8.67)であった。・52週時点のFEV1のベースラインからの最小二乗平均変化量は、プラセボ群が-107mLであったのに対し、brensocatib 10mg群-59mL、25mg群-9mLであった。プラセボ群との群間差は、それぞれ47mL(95%CI:-20~115)、97mL(95%CI:32~162)であった。・重度増悪の年間発現率(回/年)は、プラセボ群が0.33であったのに対し、brensocatib 10mg群0.04(率比:0.11、95%CI:0.01~1.04)、25mg群0.10(率比:0.30、95%CI:0.06~1.62)であった。・52週時点のQOL-B呼吸器症状ドメインのベースラインからの最小二乗平均変化量は、プラセボ群が-2.38であったのに対し、brensocatib 10mg群3.26、25mg群5.01であった。プラセボ群との群間差は、それぞれ5.64(95%CI:-0.88~12.15)、7.39(95%CI:0.73~14.06)であった。・有害事象の発現割合は各群で同様であった(プラセボ群89.7%、brensocatib 10mg群90.0%、25mg群85.7%)。注目すべき有害事象の角化症はbrensocatib 25mg群の4例(14.3%)のみに認められ、すべて軽度であった。 以上の結果について、著者らは「ASPEN試験に登録された日本人患者において、現在の気管支拡張症管理にbrensocatibを追加した際の有効性および安全性は、全体集団で報告された結果と同様であった。brensocatib 10mgおよび25mgはいずれも、増悪抑制、呼吸機能低下抑制、患者報告アウトカム改善において、プラセボと比較して数値上の有用性を示した」とまとめた。

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抗菌薬による末梢神経障害【1分間で学べる感染症】第37回

画像を拡大するTake home message一部の抗菌薬・抗真菌薬は末梢神経障害を引き起こす可能性があり、とくに慢性使用時や高用量使用時には、そのリスクを念頭に置いた処方・モニタリングが重要であることを理解しよう。抗菌薬の使用中に、患者から「手足がしびれる」「足裏の感覚が鈍い」といった訴えがあった場合、まず考慮すべきは「薬剤性末梢神経障害(drug-induced peripheral neuropathy)」です。とくに抗菌薬を長期投与する機会の多い免疫不全、結核、真菌感染症の患者では、強く意識しておくことが重要です。今回は、抗菌薬による末梢神経障害の頻度や経過に着目して、代表的な薬剤を整理していきましょう。抗菌薬ごとの特徴と注意点メトロニダゾール抗嫌気性菌治療で広く使われる薬剤であり、高用量での長期使用(4週間で42g以上)では末梢神経障害が比較的高頻度で報告されています。症状は亜急性で、用量調整と早期中止により改善するといわれますが、一部の患者では長期間持続することがあります。イソニアジド結核治療の第1選択薬ですが、ビタミンB6(ピリドキシン)欠乏により末梢神経障害を起こすことがあります。ビタミンB6を併用することで発症頻度は大きく低下しますが、常に可能性を念頭に置いておくことが重要です。リネゾリドグラム陽性球菌に対する治療薬として使用されますが、2週間以上の使用で30%前後の頻度で神経障害が生じると報告されており、比較的頻度が高い抗菌薬として押さえておく必要があります。エタンブトール視神経障害のイメージが強い薬剤ですが、まれに末梢神経障害も報告されており、とくに高齢者や腎機能低下例では注意が必要です。フルオロキノロン系非常にまれながら感覚障害、異常感覚といった末梢神経障害が発現することが知られています。腱障害(腱炎や腱断裂、アキレス腱が多い)と併せて理解しましょう。ジアフェニルスルホン(ダプソン)ハンセン病やニューモシスチス肺炎の予防に使われる薬剤で、亜急性から慢性の経過をとる神経障害が報告されています。トリアゾール系抗真菌薬ボリコナゾールを中心に、慢性使用で神経毒性のリスクが上昇することが示唆されています。ボリコナゾールでは幻覚、高濃度で中枢神経障害も併せて覚えるようにしましょう。クロラムフェニコール現在では使用頻度が低い薬剤ですが、慢性的な神経毒性の報告があるため、投与機会がある場合には注意が必要です。末梢神経障害は、患者のQOLを大きく損なう副作用にもかかわらず、原因が特定されにくく、かつ進行性である可能性がある点で非常に重要です。上記の抗菌薬を継続している患者では、常に末梢神経障害のリスクを念頭に置き、出現した際には中止あるいは変更を検討します。1)Mauermann ML, et al. JAMA. 2025 Nov 17. [Epub ahead of print]

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高用量リファンピシン、結核性髄膜炎の予後を改善するか/NEJM

 結核性髄膜炎患者に対する治療において、リファンピシンの高用量投与は標準用量投与と比較して6ヵ月以内の死亡率を改善せず、有害な作用をもたらす可能性も否定できないことが、ウガンダ・Makerere UniversityのDavid B. Meya氏らHARVEST Trial Teamが実施した「HARVEST試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2025年12月18・25日号に掲載された。3ヵ国の無作為化プラセボ対照第III相試験 HARVEST試験は、インドネシア、南アフリカ、ウガンダの9ヵ所の病院で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり(英国医学研究審議会[MRC]などの助成を受けた)、2021年3月~2024年7月に成人(18歳以上)の結核性髄膜炎患者499例(ITT集団)を登録した。 被験者を、標準用量のイソニアジド+リファンピシン(10mg/kg/日)+エタンブトール+ピラジナミド(配合錠)に加え、追加リファンピシン錠(総投与量35mg/kg/日)を連日経口投与する群(高用量群、249例)、またはプラセボを投与する群(標準用量群、250例)のいずれかに無作為に割り付け、8週間投与した。両群とも、9~12ヵ月の治療期間の残りの期間は標準治療を受けた。 主要アウトカムは、無作為化から6ヵ月以内の死亡であった。 ITT集団(499例)の年齢中央値は37歳(四分位範囲[IQR]:28~45)で、222例(44.5%)が女性であった。428例(85.8%)はdefinite/probableの結核性髄膜炎だった。また、306例(61.3%)がMRC疾患重症度分類のグレード2で、304例(60.9%)はHIV感染者であった。ベースラインで348例(69.7%)が抗結核治療(中央値で3日間)を受け、473例(94.8%)がグルココルチコイドを処方されていた。サブグループ、副次アウトカムにも有益性はない 無作為化から6ヵ月以内の死亡(主要アウトカム)は、高用量群で109例(Kaplan-Meier推定値44.6%)、標準用量群で100例(40.7%)に発生し、両群間で有意差を認めなかった(ハザード比[HR]:1.17、95%信頼区間[CI]:0.89~1.54、p=0.25)。 また、6ヵ月以内に死亡した被験者の死亡までの期間中央値は、高用量群が13日(IQR:4~39)、標準用量群は24日(6~56)だった。 サブグループ解析でも、高用量群で有益な作用を示すエビデンスは認めなかった。高用量群で死亡率が高いサブグループとして、ベースラインで抗レトロウイルス療法(ART)を受けていたHIVの被験者(高用量群42%vs. 標準用量群25%、HR:2.01、95%CI:1.07~3.78)と、脳脊髄液(CSF)中の白血球数が<5/mm3の被験者(59%vs.36%、2.01、1.14~3.54)を認めた。 Kaplan-Meier法による12ヵ月時の死亡率(高用量群47.0%vs.標準用量群43.7%、HR:1.14、95%CI:0.88~1.49)や、24週時の修正Rankinスケールスコア(オッズ比:0.80、95%CI:0.58~1.11)にも両群間で有意差はみられなかった。また、他の副次アウトカム(Liverpool Outcomeスコア、グラスゴー・コーマ・スケールスコアなど)にも、両群間で有意差はなかった。新たな安全性シグナルの発現はない 新たな安全性シグナルは観察されなかった。重篤な有害事象(高用量群33.7%vs.標準用量群40.4%、p=0.12)の頻度は両群で同程度だった。グレード3~5の誤嚥性肺炎(6.4%vs.1.6%、p=0.006)が、高用量群で多く発生した。 グレード3/4の肝イベントのうち、総ビリルビン値の上昇(≧2.6×基準範囲上限[ULN]、9.6%vs.3.6%、p=0.007)が高用量群で高頻度にみられた。グレード3/4の薬剤性肝障害(8.0%vs.4.4%、p=0.09)は高用量群で頻度が高い傾向を認めたが、薬剤性肝障害による死亡は両群とも発生しなかった。 著者は、「高用量リファンピシンによる有益性が得られなかった説明として、次の2点が挙げられる。(1)高用量群では、肝代謝の誘導がより強かったため、グルココルチコイドの曝露量が低かった可能性がある、(2)高用量リファンピシンによるマイコバクテリアのより迅速な殺菌が、理論上は、より強い(有害な)免疫学的反応を引き起こした可能性がある」としている。

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WHOが結核の症例数や死亡者数の最新データを公表

 世界保健機関(WHO)が11月12日に公表した最新データによると、2024年の世界での結核の推定発症者数は2023年の1080万人から1%減の1070万人、結核による推定死亡者数は2023年の127万人から3%減の123万人といずれも減少した一方、新規診断数は2023年の820万件から微増して830万件であったという。2024年の新規診断数は推定発症者数の78%に当たり、いまだに多くの人が結核の診断を受けていないことが浮き彫りとなった。WHOは、診断、予防、治療において着実な進歩が見られる一方で、資金調達と医療への公平なアクセスにおける問題は残っており、これまでに得られた結核対策の成果が失われる恐れがあると指摘している。 結核結核菌により引き起こされる感染症で、好発部位は肺である。結核の感染経路は、活動性結核の人の咳やくしゃみにより放出された菌を吸い込むことによる空気感染や飛沫感染である。世界人口の約4分の1が結核菌を保有しているが、実際に発病するのはごくわずかである。結核は、未治療で放置すると致命的になる可能性があり、依然として世界中で死亡原因の上位を占めている。 この報告書は、184のWHO加盟国・地域から報告されたデータに基づくもの。WHOは、新規診断数の増加は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック中に減少した診断数の回復を反映している可能性があるとの見方を示している。 一部の国や地域では、政治的関与や投資による結核対策の成果が着実に現れている。2015年から2024年の間に、WHOアフリカ地域では結核発症率が28%、死亡者数は46%減少した。ヨーロッパ地域ではさらに大きな改善が見られ、発症率は39%、死亡者数は49%減少した。同期間中に、100カ国以上が結核発症率を20%以上、65カ国が結核による死亡者数を35%以上減少させた。 ただし、結核を世界的に終息させるには、依然として高負荷国での取り組みを加速させる必要がある。2024年には、世界での結核発症者の87%が30カ国に集中しており、特に上位8カ国(インド、インドネシア、フィリピン、中国、パキスタン、ナイジェリア、コンゴ共和国、バングラデシュ)だけで67%を占めている。 その他、結核の迅速検査実施率は、2023年の48%から2024年には54%に増加したことや、薬剤感受性結核の治療の成功率は88%と依然として非常に高いこと、薬剤耐性結核を発症する人は減少傾向にあり、治療成功率も2023年の68%から2024年には71%に改善したことなど、結核治療の向上も確認された。 このような進歩が確認されたものの、WHOは、世界全体の結核終息戦略の進捗状況は目標達成にはほど遠い状況だと警鐘を鳴らす。大きな障害となっているのは、2020年以降停滞している結核対策への国際的な資金であり、2024年時点で、予防、診断、治療に使うことができた資金はわずか59億米ドル(1ドル157円換算で9263億円)に過ぎず、2027年までに設定された目標額である年間220億米ドル(約3兆4540億円)の4分の1強にとどまっている。WHOは、米国における最近の予算削減により結核対策の進展はさらに遅れる可能性があるとの懸念を示している。

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高リスク筋層非浸潤性膀胱がん、デュルバルマブ併用でDFS改善(POTOMAC)/Lancet

 BCG未治療の高リスク筋層非浸潤性膀胱がん(NMIBC)患者において、BCG導入・維持療法+1年間のデュルバルマブ(抗PD-L1抗体)の併用は標準治療であるBCG導入・維持療法単独と比較して、無病生存期間(DFS)の統計学的に有意かつ臨床的に意義のある改善をもたらし、安全性プロファイルは管理可能であることが、ドイツ・Charite Universitatsmedizin BerlinのMaria De Santis氏らPOTOMAC Investigatorsが行った第III相試験「POTOMAC試験」の結果で示された。研究の成果は、Lancet誌2025年11月8日号に掲載された。3群を比較する国際的な無作為化試験 POTOMAC試験は、日本を含む12ヵ国116施設で実施した非盲検無作為化試験であり、2018年6月~2020年10月に参加者の適格性を評価した(AstraZenecaの助成を受けた)。 年齢18歳以上、高リスクのNMIBCと診断され、無作為化前の4ヵ月以内に経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)を受け、3年以内にBCG膀胱内注入療法を受けていない患者1,018例を登録した。高リスク腫瘍の判定は、欧州泌尿器科学会(EAU)の基準に準拠した。 被験者を、デュルバルマブ(1,500mg、4週ごとに静脈内投与、13サイクル)+BCG導入(週1回、6週間)・維持(3、6、12、18、24ヵ月目に、週1回、3回)療法群(339例)、デュルバルマブ+BCG導入療法群(339例)、BCG導入・維持療法群(340例、比較群)に無作為に割り付けた。 主要評価項目は、試験担当医師評価によるDFSとし、ITT集団においてデュルバルマブ+BCG導入・維持療法群と比較群を比較した。DFSは、無作為化から高リスク病変の初回再発または全死因死亡までの期間と定義した(再発前の試験薬の投与中止の有無、他のがん治療薬の投与の有無は問わない)。全生存率には差がない 追跡期間中央値60.7ヵ月(四分位範囲:51.5~66.5)の時点で、DFSのイベントは、比較群で98件(29%)発生したのに対し、デュルバルマブ+BCG導入・維持療法群では67件(20%)と有意に減少した(ハザード比[HR]:0.68、95%信頼区間[CI]:0.50~0.93、log-rank検定のp=0.015)。 また、デュルバルマブ+BCG導入療法群で発生したDFSのイベントは105件(31%)で、比較群との間に有意差を認めなかった(HR:1.14、95%CI:0.86~1.50、p=0.35)。 この間に、デュルバルマブ+BCG導入・維持療法群で41例(12%)、比較群で52例(15%)が死亡し、群間で全生存率に有意差はなかった(0.80、95%CI:0.53~1.20)。両群とも全生存期間中央値には未到達だった。 EORTC QLQ-C30の総健康度/QOLスコアのベースラインからの補正後平均変化量は、デュルバルマブ+BCG導入・維持療法群が-7.6(SE 0.79、95%CI:-9.19~-6.07)、比較群は-4.9(0.78、-6.46~-3.41)であり、推定群間差は-2.7(95%CI:-4.85~-0.54)であった。排尿障害が最も高頻度 試験薬の投与を少なくとも1回受けた患者において、Grade3または4の治療関連有害事象は、デュルバルマブ+BCG導入・維持療法群で336例中71例(21%)、デュルバルマブ+BCG導入療法群で337例中52例(15%)、比較群で339例中13例(4%)に発現した。全群を通じて最も頻度の高い全Gradeの治療関連有害事象は排尿障害(それぞれ33%、18%、32%)であった。 重篤な治療関連有害事象は13%、11%、4%に発現し、治療関連有害事象による死亡例は認めなかった。 治療関連有害事象により試験薬の投与中止に至った患者は、デュルバルマブ+BCG導入・維持療法群で27%、デュルバルマブ+BCG導入療法群で16%、比較群で17%であった。BCGの投与中止に至ったあらゆる原因による有害事象は、それぞれ21%、7%、20%で報告された。 また、免疫介在性有害事象は27%、34%、1%に発生し、ほとんどが軽度で、Grade3または4は8%、8%、<1%だった。 著者は、「これらの結果は、PD-1/PD-L1経路の阻害とBCG膀胱内注入療法の併用が早期膀胱がんのアウトカムを改善するとの仮説を支持する」「デュルバルマブ+BCG導入療法とBCG導入・維持療法の間でDFSに有意差を認めなかったことは、BCG未治療の高リスクNMIBCの治療におけるBCG維持療法の重要性を強調するものである」「本試験の知見は、この患者集団における、デュルバルマブ1年投与とBCG導入・維持療法の併用の、新たな治療選択肢としての可能性を支持する」としている。

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世界の疾病負担とリスク因子、1990~2023年の状況/Lancet

 2010年以降、感染性・母子新生児・栄養関連(CMNN)疾患および多くの環境・行動リスク因子による疾病負担は大きく減少した一方で、人口の増加と高齢化が進む中で、代謝リスク因子および非感染性疾患(NCD)に起因する障害調整生存年数(DALY)は著しく増加していることが、米国・ワシントン大学のSimon I. Hay氏ら世界疾病負担研究(Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study:GBD)2023 Disease and Injury and Risk Factor Collaboratorsの解析で示された。Lancet誌2025年10月18日号掲載の報告。375の疾病・傷害、88のリスク因子について解析 研究グループは、死亡登録、各種調査、疾病登録および公表された科学論文を含む31万以上のデータソースを用い、375の疾病・傷害についてDALY、障害生存年数(YLD)、損失生存年数(YLL)を推定するとともに、88の修正可能なリスク因子が関与する疾病負担を算出した。疾病・傷害負担の推定に12万超のデータソースが、リスク因子推定に約5万9,000のデータソースが使用され、データ解析にはベイズメタ回帰モデリングツールのDisMod-MR 2.1や、新規ツールのDisMod-AT、時空間ガウス過程回帰モデル(ST-GPR)、比較リスク評価フレームワークなど、確立された方法が用いられた。 GBD 2023における疾病・傷害、リスク因子の推計値は、年齢(新生児早期から95歳以上までの25の年齢層)、性別(男性、女性、複合)、年次(1990~2023年までの各年)、および地域(204の国・地域を21の地域および7つのGBD super-regionに分類、加えて20ヵ国については660の地方自治体レベル)別に算出した。疾病・傷害ならびにリスク因子はそれぞれ4段階に分類した。NCDの負担は増加、虚血性心疾患、脳卒中、糖尿病が主因 世界全体で総DALYは、2010年の26億4,000万(95%不確実性区間[UI]:24億6,000万~28億6,000万)から2023年は28億(95%UI:25億7,000万~30億8,000万)と6.1%(95%UI:4.0~8.1)増加した。一方で、人口増加と高齢化を鑑みた年齢標準化DALY率は12.6%(95%UI:11.0~14.1)減少しており、長期的に大きく健康状態が改善していることが明らかになった。 世界全体のDALYにおけるNCDの寄与は、2010年の14億5,000万(95%UI:13億1,000万~16億1,000万)から2023年には18億(95%UI:16億3,000万~20億3,000万)に増加したが、年齢標準化DALY率は4.1%(95%UI:1.9~6.3)減少した。DALYに基づく2023年の主要なレベル3のNCDは、虚血性心疾患(1億9,300万DALY)、脳卒中(1億5,700万DALY)、糖尿病(9,020万DALY)であった。2010年以降に年齢標準化DALY率が最も増加したのは、不安障害(62.8%)、うつ病性障害(26.3%)、糖尿病(14.9%)であった。 一方、CMNN疾患では顕著な健康改善がみられ、DALYは2010年の8億7,400万から2023年には6億8,100万に減少し、年齢標準化DALY率は25.8%減少した。COVID-19パンデミック期間中、CMNN疾患によるDALYは増加したが、2023年までにパンデミック前の水準に戻った。2010年から2023年にかけてのCMNN疾患の年齢標準化DALY率の減少は、主に下痢性疾患(49.1%)、HIV/AIDS(42.9%)、結核(42.2%)の減少によるものであった。新生児疾患および下気道感染症は、2023年においても依然として世界的にレベル3のCMNN疾患の主因であったが、いずれも2010年からそれぞれ16.5%および24.8%顕著な減少を示した。同期間における傷害関連の年齢標準化DALY率は15.6%減少した。主なリスク因子は代謝リスク、2010~23年で30.7%増加 NCD、CMNN疾患、傷害による疾病負担の差異は、年齢、性別、時期、地域を問わず変わらなかった。 リスク分析の結果、2023年の世界全体のDALY約28億のうち、約50%(12億7,000万、95%UI:11億8,000万~13億8,000万)がGBDで分析された88のリスク因子が主因であった。DALYに最も大きく影響したレベル3のリスク因子は、収縮期血圧(SBP)高値、粒子状物質汚染、空腹時血糖(FPG)高値、喫煙、低出生体重・早産の5つで、このうちSBP高値は総DALYの8.4%(95%UI:6.9~10.0)を占めた。 レベル1の3つのGBDリスク因子カテゴリー(行動、代謝、環境・職業)のうち、2010~23年に代謝リスクのみ30.7%増加したが、代謝リスクに起因する年齢標準化DALY率は同期間に6.7%(95%UI:2.0~11.0)減少した。 レベル3の25の主なリスク因子のうち3つを除くすべてで、2010~23年に年齢標準化DALY率が低下した。たとえば、不衛生な衛生環境で54.4%(95%UI:38.7~65.3)、不衛生な水源で50.5%(33.3~63.1)、手洗い施設未整備で45.2%(25.6~72.0)、小児発育不全で44.9%(37.3~53.5)、いずれも減少した。 2010~23年に代謝リスクに起因する年齢標準化負担の減少が小さかったのは、高BMI負担率が世界的に大きく10.5%(95%UI:0.1~20.9)増加したこと、顕著ではないがFPG高値が6.2%(-2.7~15.6)増加したことが主因であった。

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リンパ節腫脹の鑑別診断【1分間で学べる感染症】第36回

画像を拡大するTake home messageリンパ節腫脹の原因は「MIAMI」という語呂合わせを活用して5つのカテゴリーに分けて整理しよう。リンパ節腫脹は、内科、外科、小児科、皮膚科など、さまざまな診療科で遭遇する重要なサインです。感染症など一過性で自然軽快するものも多い一方で、悪性疾患や自己免疫疾患、薬剤性、肉芽腫性疾患などが隠れている場合もあります。鑑別診断の挙げ方は多くありますが、網羅的に大まかにカテゴリー化する方法として、「MIAMI」(Malignancies・Infections・Autoimmune・Miscellaneous・Iatrogenic)という語呂合わせが提唱されています。今回は、この5つのカテゴリーに沿って、一緒に整理してみましょう。M:Malignancies(悪性腫瘍)悪性疾患によるリンパ節腫脹は、持続性・進行性・無痛性のことが多く、とくに高齢者や全身症状(発熱、体重減少、寝汗)を伴う場合には常に念頭に置く必要があります。代表的な疾患としては、悪性リンパ腫、白血病、転移性がん、カポジ肉腫、皮膚原発の腫瘍などが挙げられます。固定性で硬く、弾力のない腫脹がみられた場合は、早期の精査が推奨されます。I:Infections(感染症)感染症は最も頻度の高い原因です。細菌性では、皮膚粘膜感染(黄色ブドウ球菌、溶連菌)、猫ひっかき病(Bartonella)、結核、梅毒、ブルセラ症、野兎病などがあり、これらは病歴聴取と局所所見が診断の手掛かりとなります。ウイルス性では、EBウイルス、サイトメガロウイルス、HIV、風疹、アデノウイルス、肝炎ウイルスなどが含まれ、とくに伝染性単核球症では頸部リンパ節腫脹が目立ちます。まれですが、真菌、寄生虫、スピロヘータなども原因となることがあり、ヒストプラズマ症、クリプトコッカス症、リケッチア症、トキソプラズマ症、ライム病などが鑑別に挙がります。A:Autoimmune(自己免疫疾患)関節リウマチ(RA)やSLE(全身性エリテマトーデス)、皮膚筋炎、シェーグレン症候群、成人スティル病などの自己免疫疾患もリンパ節腫脹を来すことがあります。これらは多くの場合、他の全身症状や検査所見(関節炎、発疹、異常免疫グロブリンなど)と合わせて判断する必要があります。とくに全身性疾患の初期症状としてリンパ節腫脹が出現することもあるため、見逃さないよう注意が必要です。M:Miscellaneous(その他)まれではあるものの、Castleman病(血管濾胞性リンパ節過形成)や組織球症、川崎病、菊池病(壊死性リンパ節炎)、木村病、サルコイドーシスなども鑑別に含まれます。これらは一見すると感染症や自己免疫疾患と似た臨床像を呈することがあるため、病理診断や経過観察を要することがあります。I:Iatrogenic(医原性)薬剤による反応性リンパ節腫脹や血清病様反応なども存在します。とくに抗てんかん薬、抗菌薬、ワクチン、免疫チェックポイント阻害薬などが関与することが知られており、最近の薬剤歴の確認が不可欠です。また、ワクチン接種後の一時的なリンパ節腫脹(とくに腋窩)は、画像上の偽陽性を招くこともあるため注意が必要です。リンパ節腫脹は多彩な疾患のサインであり、その背景を見極めるためには、構造的かつ網羅的なアプローチが求められます。「MIAMI」というフレームワークを活用することで、見逃してはならない悪性疾患や慢性疾患の早期発見につながります。必要な検査や専門科紹介のタイミングを逃さないようにしましょう。1)Gaddey HL, et al. Am Fam Physician. 2016;94:896-903.

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世界の死亡パターン、過去30年の傾向と特徴/Lancet

 米国・ワシントン大学のMohsen Naghavi氏ら世界疾病負担研究(Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study:GBD)2023 Causes of Death Collaboratorsは、過去30年の世界における死亡のパターンを、改善された推定法を用いて調査し、COVID-19パンデミックのような重大イベントの影響、さらには低所得地域での非感染性疾患(NCD)の増加といった世界で疫学的転換が進んでいることを反映した、より広範な分野にわたる傾向を明らかにした。死因の定量化は、人々の健康を改善する効果的な戦略開発に向けた基礎的な段階である。GBDは、世界の死因を時代を超えて包括的かつ体系的に解析した結果を提供するものであり、GBD 2023では年齢と死因の関連の理解を深めることを目的として、70歳未満で死亡する確率(70q0)と死因別および性別の平均死亡年齢の定量化が行われた。Lancet誌2025年10月18日号掲載の報告。1990~2023年の292の死因について定量化 GBD 2023では、1990~2023年の各年について、204の国と地域および660のサブナショナル(地方政府)地域における年齢・性別・居住地・暦年ごとに分類した292の死因の推定値を算出した。 ほとんどの死因別死亡率の算出には、GBDのために開発されたモデリングツール「Cause of Death Ensemble model:CODEm」が用いられた。また、損失生存年数(YLL)、死亡確率、死亡時平均年齢、死亡時観測年齢および推定平均年齢も算出した。結果は件数と年齢標準化率で報告された。 GBD 2023における死因推定法の改善点は、COVID-19による死亡の誤分類の修正、COVID-19推定法のアップデート、CODEmモデリングフレームワークのアップデートなどであった。 解析には5万5,761のデータソースが用いられ、人口動態登録および口頭剖検データとともに、サーベイ、国勢調査、サーベイランスシステム、がん登録などのデータが含まれている。GBD 2023では、以前のGBDに使用されたデータに加えて、新たに312ヵ国年の人口動態登録の死因データ、3ヵ国年のサーベイランスデータ、51ヵ国年の口頭剖検データ、144ヵ国年のその他のタイプのデータが追加された。死因トップは2021年のみCOVID-19、時系列的には虚血性心疾患と脳卒中が上位2つ COVID-19パンデミックの初期数年は、長年にわたる世界の主要な死因順位に入れ替わりが起き、2021年にはCOVID-19が、世界の主要なレベル3のGBD死因分類の第1位であった。2023年には、COVID-19は同20位に落ち込み、上位2つの主要な死因は時系列的には典型的な順位(すなわち虚血性心疾患と脳卒中)に戻っていた。 虚血性心疾患と脳卒中は主要な死因のままであるが、世界的に年齢標準化死亡率の低下が進んでいた。他の4つの主要な死因(下痢性疾患、結核、胃がん、麻疹)も本研究対象の30年間で世界的に年齢標準化死亡率が大きく低下していた。その他の死因、とくに一部の地域では紛争やテロによる死因について、男女間で異なるパターンがみられた。 年齢標準化率でみたYLLは、新生児疾患についてかなりの減少が起きていた。それにもかかわらず、COVID-19が一時的に主要な死因になった2021年を除き、新生児疾患は世界のYLLの主要な要因であった。1990年と比較して、多くのワクチンで予防可能な疾患、とりわけジフテリア、百日咳、破傷風、麻疹で、総YLLは著しく低下していた。死亡時平均年齢、70q0は、性別や地域で大きくばらつき 加えて本研究では、全死因死亡率と死因別死亡率の平均死亡年齢を定量化し、性別および地域によって注目すべき違いがあることが判明した。 世界全体の全死因死亡時平均年齢は、1990年の46.8歳(95%不確実性区間[UI]:46.6~47.0)から2023年には63.4歳(63.1~63.7)に上昇した。男性では、1990年45.4歳(45.1~45.7)から2023年61.2歳(60.7~61.6)に、女性は同48.5歳(48.1~48.8)から65.9歳(65.5~66.3)に上昇した。2023年の全死因死亡平均年齢が最も高かったのは高所得super-regionで、女性は80.9歳(80.9~81.0)、男性は74.8歳(74.8~74.9)に達していた。対照的に、全死因死亡時平均年齢が最も低かったのはサハラ以南のアフリカ諸国で、2023年において女性は38.0歳(37.5~38.4)、男性は35.6歳(35.2~35.9)だった。 全死因70q0は、2000年から2023年にかけて、すべてのGBD super-region・region全体で低下していたが、それらの間で大きなばらつきがあることが認められた。 女性は、薬物使用障害、紛争およびテロリズムにより70q0が著しく上昇していることが明らかになった。男性の70q0上昇の主要な要因には、薬物使用障害とともに糖尿病も含まれていた。サハラ以南のアフリカ諸国では、多くのNCDについて70q0の上昇がみられた。また、NCDによる死亡時平均年齢は、全体では予測値よりも低かった。対象的に高所得super-regionでは薬物使用障害による70q0の上昇がみられたが、観測された死亡時平均年齢は予測値よりも低年齢であった。

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下垂体性ADH分泌異常症〔Pituitary ADH secretion disorder〕

1 疾患概要■ 定義抗利尿ホルモン(ADH)であるバソプレシン(AVP)は、視床下部の視索上核および室傍核に存在する大細胞性AVPニューロンで産生されるペプチドホルモンである。血漿浸透圧の上昇または循環血漿量の低下に応じて下垂体後葉から分泌され、腎集合管における水の再吸収を促進することで体液恒常性の維持に重要な役割を果たす。下垂体性ADH分泌異常症には、AVP分泌不全により多尿を呈する中枢性尿崩症と、低浸透圧環境下にも関わらずAVP分泌が持続し低ナトリウム血症を呈する抗利尿ホルモン不適切分泌症候群(SIADH)が含まれる。■ 疫学わが国における中枢性尿崩症の患者数は約5,000~1万人程度と推定されている1)。一方、SIADHの患者数は不明であるが、低ナトリウム血症は電解質異常の中で最も頻度が高く、全入院患者の2~3%で認められる。軽度の低ナトリウム血症を呈する患者を含めると、とくに高齢者では相当数に上ると推定されている1)。■ 病因中枢性尿崩症とSIADHの主な病因をそれぞれ表1および表2に示す。特発性中枢性尿崩症は視床下部や下垂体後葉に器質的異常を認めないが、一部はリンパ球性漏斗下垂体後葉炎に由来する可能性がある。続発性中枢性尿崩症は視床下部や下垂体の腫瘍や炎症、手術、外傷などによりAVPニューロンが障害され、AVP産生および分泌が低下することで発症する。SIADHの原因としては、中枢神経疾患、肺疾患、異所性AVP産生腫瘍、薬剤などが挙げられる。表1 中枢性尿崩症の病因特発性家族性続発性(視床下部-下垂体系の器質的障害):リンパ球性漏斗下垂体後葉炎胚細胞腫頭蓋咽頭腫奇形腫下垂体腫瘍(腺腫)転移性腫瘍白血病リンパ腫ランゲルハンス細胞組織球症サルコイドーシス結核脳炎脳出血・脳梗塞外傷・手術表2 SIADHの病因中枢神経系疾患髄膜炎脳炎頭部外傷くも膜下出血脳梗塞・脳出血脳腫瘍ギラン・バレー症候群肺疾患肺腫瘍肺炎肺結核肺アスペルギルス症気管支喘息腸圧呼吸異所性バソプレシン産生腫瘍肺小細胞がん膵がん薬剤ビンクリスチンクロフィブレートカルバマゼピンアミトリプチンイミプラミンSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)■ 症状中枢性尿崩症では、口渇、多飲、多尿を認め、尿量は1日1万mLに達することもある。血液は濃縮され高張性脱水に至り、上昇した血漿浸透圧により渇中枢が刺激され、強い口渇が生じて大量の水を飲むことになるが、摂取した水は尿としてすぐに排泄される。SIADHでは、頭痛、悪心、嘔吐、意識障害、痙攣など低ナトリウム血症に伴う症状が出現する。急速に血清ナトリウム濃度が低下した場合には重篤な症状が早期に出現するが、慢性の低ナトリウム血症では症状が軽度にとどまることがある。■ 予後中枢性尿崩症は、妊娠時や頭蓋内手術後の一過性発症を除き自然回復はまれであるが、飲水が可能な状態であれば生命予後は良好である。一方で、渇感障害を伴う場合や飲水が制限される場合には高度の高張性脱水を呈し、重篤な転機をたどることがある。実際、渇感障害を伴う尿崩症患者はそうでない患者に比べ、血清ナトリウム濃度150mEq/L以上の高ナトリウム血症の発症頻度が有意に高く、さらに重症感染症による入院や死亡率も有意に高いと報告されている2)。続発性中枢性尿崩症やSIADHの予後は、原因となる基礎疾患に依存する。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)「間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン2023年版」3)に記載された診断の手引きを表3および表4に示す。表3 中枢性尿崩症の診断の手引きI.主症候1.口渇2.多飲3.多尿II.検査所見1.尿量は成人においては1日3,000mL以上または40mL/kg以上、小児においては2,000mL/m2以上2.尿浸透圧は300mOsm/kg以下3.高張食塩水負荷試験(注1)におけるバソプレシン分泌の低下:5%高張食塩水負荷(0.05mL/kg/分で120分間点滴投与)時に、血漿浸透圧(血清ナトリウム濃度)高値においても分泌の低下を認める(注2)。4.水制限試験(飲水制限後、3%の体重減少または6.5時間で終了)(注1)においても尿浸透圧は300mOsm/kgを超えない。5.バソプレシン負荷試験(バソプレシン[ピトレシン注射液]5単位皮下注後30分ごとに2時間採尿)で尿量は減少し、尿浸透圧は300mOsm/kg以上に上昇する(注3)。III.参考所見1.原疾患の診断が確定していることがとくに続発性尿崩症の診断上の参考となる。2.血清ナトリウム濃度は正常域の上限か、あるいは上限をやや上回ることが多い。3.MRI T1強調画像において下垂体後葉輝度の低下を認める(注4)。IV.鑑別診断多尿を来す中枢性尿崩症以外の疾患として次のものを除外する。1.心因性多飲症:高張食塩水負荷試験で血漿バソプレシン濃度の上昇を認め、水制限試験で尿浸透圧の上昇を認める。2.腎性尿崩症:家族性(バソプレシンV2受容体遺伝子の病的バリアントまたはアクアポリン2遺伝子の病的バリアント)と続発性[腎疾患や電解質異常(低カリウム血症・高カルシウム血症)、薬剤(リチウム製剤など)に起因するもの]に分類される。バソプレシン負荷試験で尿量の減少と尿浸透圧の上昇を認めない。[診断基準]確実例:Iのすべてと、IIの1、2、3、またはIIの1、2、4、5を満たすもの。[病型分類]中枢性尿崩症の診断が下されたら下記の病型分類をすることが必要である。1.特発性中枢性尿崩症:画像上で器質的異常を視床下部-下垂体系に認めないもの。2.続発性中枢性尿崩症:画像上で器質的異常を視床下部-下垂体系に認めるもの。3.家族性中枢性尿崩症:原則として常染色体顕性遺伝形式を示し、家族内に同様の疾患患者があるもの。(注1)著明な脱水時(たとえば血清ナトリウム濃度が150mEq/L以上の際)に高張食塩水負荷試験や水制限試験を実施することは危険であり、避けるべきである。多尿が顕著な場合(たとえば1日尿量が1万mLに及ぶ場合)は、患者の苦痛を考慮して水制限試験より高張食塩水負荷試験を優先する。多尿が軽度で高張食塩水負荷試験においてバソプレシン分泌の低下が明らかでない場合や、デスモプレシンによる治療の必要性の判断に迷う場合には、水制限試験にて尿濃縮力を評価する。(注2)血清ナトリウム濃度と血漿バソプレシン濃度の回帰直線において傾きが0.1未満または血清ナトリウム濃度が149mEq/Lのときの推定血漿バソプレシン濃度が1.0pg/mL未満(中枢性尿崩症)。(注3)本試験は尿濃縮力を評価する水制限試験後に行うものであり、バソプレシン分泌能を評価する高張食塩水負荷試験後に行うものではない。なお、デスモプレシンは作用時間が長いため水中毒を生じる危険があり、バソプレシンの代わりに用いることは推奨されない。(注4)高齢者では中枢性尿崩症でなくても低下することがある。表4 SIADHの診断の手引きI.主症候脱水の所見を認めない。II.検査所見1.血清ナトリウム濃度は135mEq/Lを下回る。2.血漿浸透圧は280mOsm/kgを下回る。3.低ナトリウム血症、低浸透圧血症にもかかわらず、血漿バソプレシン濃度が抑制されていない。4.尿浸透圧は100mOsm/kgを上回る。5.尿中ナトリウム濃度は20mEq/L以上である。6.腎機能正常7.副腎皮質機能正常8.甲状腺機能正常III.参考所見1.倦怠感、食欲低下、意識障害などの低ナトリウム血症の症状を呈することがある。2.原疾患の診断が確定していることが診断上の参考となる。3.血漿レニン活性は5ng/mL/時間以下であることが多い。4.血清尿酸値は5mg/dL以下であることが多い。5.水分摂取を制限すると脱水が進行することなく低ナトリウム血症が改善する。IV.鑑別診断低ナトリウム血症を来す次のものを除外する。1.細胞外液量の過剰な低ナトリウム血症:心不全、肝硬変の腹水貯留時、ネフローゼ症候群2.ナトリウム漏出が著明な細胞外液量の減少する低ナトリウム血症:原発性副腎皮質機能低下症、塩類喪失性腎症、中枢性塩類喪失症候群、下痢、嘔吐、利尿剤の使用3.細胞外液量のほぼ正常な低ナトリウム血症:続発性副腎皮質機能低下症(下垂体前葉機能低下症)[診断基準]確実例:IおよびIIのすべてを満たすもの。中枢性尿崩症では、多尿の鑑別診断として、浸透圧利尿(尿浸透圧300mOsm/kgH2O以上)と低張性多尿(尿浸透圧300mOsm/kgH2O以下)を区別する必要がある。実臨床では、糖尿病に伴う浸透圧利尿の頻度が高い。低張性多尿の場合は、高張食塩水負荷試験、水制限試験およびバソプレシン負荷試験、デスモプレシン試験により、中枢性尿崩症、腎性尿崩症、心因性多飲症を鑑別する。SIADHでは、低ナトリウム血症と低浸透圧にもかかわらずAVP分泌の抑制がみられないことが診断上重要である。血清総蛋白や尿酸値の低下など血液希釈所見を伴うことが多い。SIADHは除外診断であり、低ナトリウム血症を呈するすべての疾患が鑑別対象となる。とくに続発性副腎皮質機能低下症は、SIADHと同様に細胞外液量がほぼ正常な低ナトリウム血症を呈し臨床像も類似するため、両者の鑑別は極めて重要である。3 治療中枢性尿崩症の治療にはデスモプレシンを用いる。水中毒を避けるため、最小用量から開始し、尿量、体重、血清ナトリウム濃度を確認しながら投与量および投与回数を調整する。その際、少なくとも1日1回はデスモプレシンの抗利尿効果が切れる時間帯を設けることが、水中毒による低ナトリウム血症の予防に重要である。SIADHの治療では、血清ナトリウム濃度が120mEq/L以下で中枢神経症状を伴い迅速な治療を要する場合には、3%食塩水にて補正を行う。ただし、急激な補正は浸透圧性脱髄症候群(ODS)の危険性があるため、血清ナトリウム濃度を頻回に測定しつつ、補正速度は24時間で8~10mEq/L以下にとどめる。血清ナトリウム濃度が125mEq/L以上の軽度かつ慢性期の症例では、1日15~20mL/kg体重の水分制限を行う。水分制限で改善が得られない場合には、入院下でAVPV2受容体拮抗薬トルバプタンの経口投与を検討する。4 今後の展望わが国においてAVP濃度は従来RIA法で測定されているが、抗体が有限であること、測定のためにアイソトープを使用する必要があること、さらに結果判明まで数日を要することなど、複数の課題を抱えている。近年、質量分析法によるAVP測定が試みられており、これらの課題を克服できるのみならず、高張食塩水負荷試験の所要時間短縮につながる可能性が報告されており4)、次世代の検査法として期待されている。一方、SIADHの治療においては、ODSの予防を重視した安全な低ナトリウム血症治療を実現するため、機械学習を用いた治療予測システムの開発が進められている5)。現在は社会実装に向けた精度検証が進行中であり、将来的には実臨床における安全かつ効率的な治療選択を支援するツールとなることが期待される。5 主たる診療科内分泌内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 下垂体性ADH分泌異常症(指定難病72)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)間脳下垂体機能障害に関する調査研究(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報中枢性尿崩症(CDI)の会(患者とその家族および支援者の会) 1) 難病情報センター 下垂体性ADH分泌異常症(指定難病72) 2) Arima H, et al. Endocr J. 2014;61:143-148. 3) 間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン作成委員会,厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業「間脳下垂体機能障害に関する調査研究」班. 日内分泌会誌. 2023;99:18-20. 4) Handa T, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2025 Jul 30.[Epub ahead of print] 5) Kinoshita T, et al. Endocr J. 2024;71:345-355. 公開履歴初回2025年10月17日

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新型コロナは依然として高齢者に深刻な脅威、「結核・呼吸器感染症予防週間」でワクチン接種の重要性を強調/モデルナ

 モデルナ・ジャパン主催の「呼吸器感染症予防週間 特別啓発セミナー」が9月24日にオンラインで開催された。本セミナーでは、9月24~30日の「結核・呼吸器感染症予防週間」の一環として、迎 寛氏(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 呼吸器内科学分野[第二内科]教授)と参議院議員であり医師の秋野 公造氏が登壇し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が、とくに高齢者にとって依然として深刻な脅威であると警鐘を鳴らした。新型コロナの5類移行から3年が経ち、社会の警戒感や関心が薄れているなか、継続的なワクチン接種と社会全体の意識向上の重要性を訴えた。隠れコロナ感染と高齢者の重症化リスク セミナーの冒頭では、迎氏が新型コロナの現状と高齢者が直面するリスクについて、最新のデータを交えながら解説した。 新型コロナが5類に移行して以降、定点報告上の感染者数は減少傾向にあるものの、入院患者数は依然として高止まりしている。神奈川県の下水疫学データによると、とくに2025年以降、定点報告数と下水中の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)濃度との間に大きな乖離が生じており、下水データは市中に依然として不顕性を含む新型コロナウイルス感染者が多く存在することが示唆されている1)。迎氏は、定点報告では捉えきれていない「隠れコロナ感染者」が市中に多数存在し、その中から一定数の高齢者や基礎疾患を持つ人が重症化して入院に至っている可能性を指摘した。死因の第8位、死者の多くは高齢者 新型コロナは2023年と2024年の2年連続で、日本の死因第8位となっている。とくに深刻なのは高齢者の状況で、死亡者の97%が65歳以上、そのうち79%が80歳以上の高齢者で占められている2)。死亡者数はインフルエンザと比較して、新型コロナが約15倍であるという。こうしたデータから、迎氏は「コロナは風邪と同じ」という認識が誤りであるという見解を示した。また、新型コロナの感染拡大期には、高齢者のフレイル有病率も増加するという影響が懸念されている3)。 迎氏が所属する長崎大学病院には、この5年間で新型コロナにより1,047例が入院したという。臨床データからは、入院患者の死亡率は高齢になるほど顕著に高くなる一方で、ワクチン未接種の患者群は、接種済みの患者群に比べて、重症化する割合が明らかに高い結果となった。迎氏は、とくに高流量酸素療法が必要な患者や重症患者のうち、約4割がワクチン未接種者であったことは、ワクチンの重症化予防効果を明確に裏付けていると指摘した。 迎氏は日本が世界的にみてワクチンへの信頼度が低い傾向にあることに触れ4)、接種率が低下している現状を変えるためにも、9月24~30日の「結核・呼吸器感染症予防週間」を通じて、80歳以上の高齢者の死亡リスクやワクチン接種の重要性について啓発していきたいと述べた。「結核・呼吸器感染症予防週間」創設 続いて秋野氏が政策的な観点から、呼吸器感染症対策の現状と課題、そして今後の展望について語った。 秋野氏は、自身も創設に尽力した「結核・呼吸器感染症予防週間」について触れた。2024年度より、毎年9月24〜30日は、以前まで実施されていた「結核予防週間」が「結核・呼吸器感染症予防週間」に改められた。この期間には、インフルエンザや新型コロナなど、呼吸器感染症が例年流行する秋冬前に、呼吸器感染症に関する知識の普及啓発活動が行われる。秋野氏は、肺炎が依然として日本人の死因の上位を占める中で、秋冬の感染症シーズンを前に正しい知識を普及させることの重要性を強調した。普及啓発のシンボルとなる「黄色い縁取りのある緑色のリボン」のバッジや、啓発のためのポスターが5)、日本呼吸器学会、日本感染症学会、日本化学療法学会の協力のもと作成された。ワクチン定期接種は「65歳以上一律」でよいのか 秋野氏は、現在の新型コロナワクチンの定期接種制度が「65歳以上」と一律に定められている点が課題となっていることについて言及した。先に迎氏が述べたとおり、実際の死亡リスクは80歳以上で急激に高まる。研究によると、新型コロナの重症化リスクとして、「年齢(とくに80歳以上)」、「ワクチン接種から2年以上空いていること」が重要な因子となっている6)。こうした科学的知見に基づき、リスクの特性に応じた、よりきめ細やかな制度設計が必要だと主張した。とくに死亡リスクが突出して高い80歳以上に対し、費用負担のあり方や国による接種勧奨の必要性について、改めて検討すべきだと訴えた。海外のワクチン助成のあり方 さらに秋野氏は、肺炎球菌ワクチン接種に公的補助があった自治体の接種率は全国平均よりも2倍以上高いという研究を挙げ7)、公費助成とワクチン接種率には密接な関連が考えられると述べた。また、海外の新型コロナワクチン接種支援策との比較によると、米国、英国、フランス、オーストラリアなどの国々では、高齢者に対して年2回や無償での接種といった手厚い支援が行われており、接種率も高い水準を維持している。これに対し、日本の支援は年1回の定期接種で一部自己負担であり、国の助成が縮小されれば自己負担額が1万5,000円を超える可能性もあり、これが接種率低下の一因となりかねないと指摘した。 秋野氏は、「国民の命を守るため、最新の知見に基づいた柔軟な対応が必要」とし、今後も国会で働きかけていきたいと述べた。また、今回の「結核・呼吸器感染症予防週間」を通じて、新型コロナに対する現状を国民に広く知っていただき、高齢者の命を守る対策について共に考えていきたいとして、講演を終えた。■参考文献1)AdvanSentinel. 神奈川県におけるCOVID-19流行動向の多角的分析 - 下水疫学データが示す「見えざる感染リスク」(2025年7月22日)2)厚生労働省. 人口動態調査の人口動態統計月報(概数)3)Hirose T, et al. J Nutr Health Aging. 2025;29:100495.4)de Figueiredo A, et al. Lancet. 2020;396:898-908.5)厚生労働省. 感染症対策のための普及・啓発ツール6)Miyashita N, et al. Respir Investig. 2025;63:401-404.7)Naito T, et al. J Infect Chemother. 2014;20:450-453.

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全身だるくて食後に眠い【漢方カンファレンス2】第6回

全身だるくて食後に眠い以下の症例で考えられる処方をお答えください。(経過の項の「???」にあてはまる漢方薬を考えてみましょう)【今回の症例】50代後半女性主訴全身倦怠感、不眠既往腹圧性尿失禁、アレルギー性鼻炎生活歴仕事:事務職(人手不足で忙しい)、入退院を繰り返す母の介護中。病歴2〜3年前から不眠に悩んでいる。午前中から眠気がつらくて体がだるく仕事がはかどらない。12月に漢方治療を希望して受診。現症身長157cm、体重49kg。体温36.3℃、血圧119/80mmHg、脈拍60回/分 整。経過初診時「???」エキス3包 分3を処方。(解答は本ページ下部をチェック!)1ヵ月後寝つきがよくなった。全身倦怠感は変わらない。2ヵ月後夜中に目が覚めなくなった。仕事中も眠くならない。4ヵ月後忙しいが体調はよい。よく眠れている。問診・診察漢方医は以下に示す漢方診療のポイントに基づいて、今回の症例を以下のように考えます。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?(冷えがあるか、温まると症状は改善するか、倦怠感は強いか、など)(2)虚実はどうか(症状の程度、脈・腹の力)(3)気血水の異常を考える(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む問診<陰陽の問診>寒がりですか? 暑がりですか?体の冷えを自覚しますか?横になりたいほどの倦怠感はありませんか?寒がりの暑がりです。冷えの自覚はありません。倦怠感はありますがいつも横になりたいほどではありません。入浴は長くお湯に浸かるのが好きですか?冷房は苦手ですか?入浴で温まると体は楽になりますか?入浴時間は短いほうです。冷房は好きです。入浴してもとくに倦怠感の変化はありません。のどは渇きますか?飲み物は温かい物と冷たい物のどちらを好みますか?のどは渇きません。温かい飲み物を飲んでいます。<飲水・食事>1日どれくらい飲み物を摂っていますか?食欲はありますか?胃は丈夫ですか?だいたい1日1L程度です。食欲はあります。胃は弱くてすぐにもたれます。<汗・排尿・排便>汗はよくかくほうですか?尿は1日何回出ますか?夜、布団に入ってからは尿に何回行きますか?便秘や下痢はありませんか?汗はよくかきます。尿は1日7〜8回です。夜は尿に1回行きます。便は2日に1回で、便秘です。便秘するとお腹が張りますか?お腹は張りません。<ほかの随伴症状>全身倦怠感はとくにいつが悪いですか?朝がとくにきついですか?食後に眠くなりませんか?朝はそこまできつくありません。朝は比較的元気なのですが、午後がきついです。昼食後と夕食後は眠たいです。睡眠について教えてください。悪夢はありませんか?毎晩0時頃に就寝しますが1時間以上寝つけません。午前3時くらいに目が覚めて朝まで眠れない日が多いです。悪夢はありません。動悸はしませんか?抜け毛は多いですか?集中力がなかったりしませんか?皮膚は乾燥しますか?動悸はありません。抜け毛は多くありません。集中はできています。皮膚の乾燥はありません。イライラしたりやる気がなかったりすることはありませんか?そんなことはありません。そのほかに困っていることはありませんか?風邪をひきやすくて困っています。年に5〜6回風邪をひいてしまいます。診察顔色は正常。眼に力がなく声も小さい。脈診ではやや浮で弱の脈。また、舌は淡紅色で腫大・歯痕、湿潤した薄い白苔をまだら状に認める。腹診では腹力は軟弱、軽度の胸脇苦満(きょうきょうくまん)、心下痞鞕(しんかひこう)、小腹不仁(しょうふくふじん)あり、腹部大動脈の拍動は触知せず。四肢の触診では冷感なし。カンファレンス今回は50代女性の全身倦怠感、不眠の症例です。全身倦怠感を訴える患者さんは多いですね。感染症、内分泌疾患、悪性腫瘍、薬物の副作用、うつ病など、鑑別すべき疾患が多いので苦手です。発症から持続時間を1ヵ月以内、1〜6ヵ月、6ヵ月以上と分けると絞り込みが容易になりますよ。急性では感染症、慢性の場合では抑うつや不安などの精神疾患の割合が高くなります。とくに結核、甲状腺疾患、肝炎などは要注意と学びました。しかし検査を行っても異常がないケースが1/3ほどあるといわれます。原因が特定できない、かつ精神的な不調も目立たないケース、全身倦怠感が高度で日常生活に支障をきたしている症例もあって悩ましいですね。今回の症例は不眠があって仕事や介護の負担が背景にありそうですね。うつ病の除外は必要ですね。当科が初診時に行っている漢方医学的な問診票のなかには、気持ちが沈みがちである、気力がない、物事に興味がわかない、朝調子が悪い、集中力の低下など、精神症状に関する項目が複数あります。それでは、漢方診療のポイントの順番にみていきましょう。温かい飲み物を好む、寒がりのほかは、暑がり、冷えの自覚なし、冷房を好む、他覚的な四肢の冷感なしということで陽証を示唆する所見のほうが多いです。そうですね。全体としては陽証ですね。寒がりの暑がりはどう考えるかな?陰陽の判断はつかないということでしょうか?寒がりかつ暑がりは、陰陽の判断ではなく、虚証を示唆します。体力がなくて環境の変化についていけないイメージです。六病位ではどうだろう?太陽病ではなく、陽明病の強い熱感や腹満はないので少陽病です。そうですね。漢方診療のポイント(2)虚実はどうでしょう?脈の力は弱、腹力も軟弱で闘病反応の乏しい虚証です。陽証・虚証でいいようだね。(3)気血水の異常はどうだろう?本症例は、仕事や介護の負担で疲弊しているようですね。そうだね。生体のエネルギー量が不足した状態を気虚とよぶよ(気虚については本ページ下部の「今回のポイント」の項参照)。気虚の主な症状として、全身倦怠感、疲れやすい、食欲がない、風邪をひきやすいなどが挙げられるんだ。本症例にみられる「食後の眠気」は気虚に特徴的な症状だね。本症例は全身倦怠感とともに食後の眠気があるので気虚ですね。気虚以外にも全身倦怠感が生じることを覚えていますか?気鬱や水毒などでも全身倦怠感が生じるのでした。気鬱の全身倦怠感は、朝調子が悪い、抑うつ傾向、膨満感などが出現します。そのとおり。水毒の全身倦怠感は雨降り前に体が重く感じるよ。本症例ではそのほかの気虚の所見はわかるかな?風邪をひきやすいも気虚ですね。ほかには舌苔にも着目しましょう。本症例のような舌苔がまだら状になっている場合は気虚を示唆します。舌苔は消化機能を反映していると考えます。そのほかにも診察で、眼に力がない、声が小さいということも気虚を示唆するよ。江戸時代には、眼勢無力(がんせいむりょく)、語言軽微(ごげんけいび)と記されているよ。たしかに眼力があって、声が大きい人は元気ですね。漢方の診察は、五感をフルに使って行わないといけないのだ。また、本症例のように不眠がある場合は、漢方薬の鑑別のために気逆の有無を確認しています。気鬱でなく気逆ですか?ドキドキして眠れないというイメージです。どこを確認するかわかりますか?自覚症状で動悸があるかどうかでしょうか?自覚症状の動悸に加え、腹診での腹部大動脈の拍動を確認します。また悪夢が多いことも気逆になります。本症例では悪夢や腹部の動悸はありません。それでは気以外の異常はどうでしょう?気虚以外は目立ちません。脱毛、集中力の低下、皮膚の乾燥を問診していますが、血虚の症候はありません。気虚と血虚が同時にある場合は気血両虚(きけつりょうきょ)といいますが、それはなさそうですね。では本症例をまとめよう。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?冷えの自覚なし、冷房好き、入浴は短い、脈:やや浮→陽証(少陽病)(2)虚実はどうか寒がり・暑がり 脈:弱、腹:軟弱→虚証(3)気血水の異常を考える全身倦怠感、食後の眠気、風邪をひきやすい、地図状の舌苔→気虚(動悸や悪夢など気逆はなし)(脱毛や集中力の低下など血虚はなし)(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む眼勢無力、語言軽微解答・解説【解答】本症例は、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)で治療しました。【解説】補中益気湯は、中(ちゅう:消化吸収能という意味)を補って、気(き)を益(ま)すという意味です。補中益気湯は人参(にんじん)、黄耆(おうぎ)、白朮(びゃくじゅつ)、甘草(かんぞう)の補気作用のある生薬に加え、弛緩した筋トーヌスを引き締める作用(升堤[しょうてい]作用)をもつ生薬(柴胡[さいこ]・升麻[しょうま])が含まれることがポイントです。そのため、補中益気湯は、筋肉が弛緩傾向を示すサイン、四肢がだるい、眼に力がない、声が小さいなどが使用目標になります。最近ではあまり使われませんが内臓下垂、胃下垂といわれるような病態や子宮下垂、脱肛なども筋の弛緩傾向により生じることから、補中益気湯の適応とされています。また柴胡・升麻は抗炎症作用を併せ持ち、風邪や肺炎や尿路感染などの急性感染症が治癒した後、微熱があってなんとなく活気がない、食欲がないといった場合に良い適応になります。江戸時代の漢方医・津田玄仙は補中益気湯の8徴候として、四肢倦怠、眼勢無力、語言軽微、食失味、口中白沫、熱湯を好む、脈散大無力、臍動悸を挙げており、このうち2〜3該当すれば用いてよいと述べています。補中益気湯を投与すると、COPD患者の感冒罹患回数を減少させ、体重増加をもたらしたという報告1)があります。また、女性腹圧性尿失禁患者に対して補中益気湯の4週間の投与で尿失禁の回数が減少傾向、QOLのパラメーターや患者満足度が改善したという報告2)があり、女性下部尿路症状ガイドラインの腹圧性尿失禁に推奨グレードC1として掲載されています。今回のポイント「気虚」の解説漢方では生体内を循環する「気・血・水」の変調として病気を捉えます。気血水は陰陽・六病位とは別のパラメーターで、経度と緯度の関係にも例えられます。気血水のうち身体を巡る液体成分は血と水ですが、気は目に見えない、形がない、生命活動を営む根源的なエネルギーです。現在でも「活気がある」、「気が滅入る」などと日常で使われます。気の異常のうち、気の量的な不足、または作用力の不足を気虚といいます。気虚の主な症状として、全身倦怠感、疲れやすい、食欲がない、風邪をひきやすいなどが挙げられます。また食後は食事により少ないエネルギーが消化管に集中してしまうと考えられるため、「食後の眠気」は気虚に特徴的な症状です。気虚に対する基本となる漢方薬が四君子湯(しくんしとう)です。四君子湯は、茯苓、人参、白朮、甘草の4つの生薬を中心に構成されます。また気虚に対する漢方薬は人参とともに黄耆を含むことから参耆剤(じんぎざい)とよびます。補中益気湯や十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)がその代表です。今回の鑑別処方人参と黄耆が含まれる漢方薬を参耆剤とよびます。人参は消化管から、黄耆は体表面から気を補うイメージです。補中益気湯は全身倦怠感・食後の眠気などの気虚に加え、四肢がだるい、声が小さい、眼力がないといった筋トーヌスの低下した徴候がある際に用います。気虚に血(けつ)が不足した状態(血虚)を合併している場合、具体的には皮膚の乾燥、脱毛が多い、目が疲れる、集中力がない、爪がもろい、頭がぼーっとするなどの症状を伴う場合は、気血両虚に対する漢方薬が適応になり、十全大補湯がその代表です。十全大補湯と類似の漢方薬に人参養栄湯(にんじんようえいとう)があります。人参養栄湯には、遠志(おんじ)、陳皮(ちんぴ)、五味子(ごみし)といった喀痰、咳嗽などの呼吸器症状に対応する生薬が含まれることが特徴です。非定型抗酸菌症に対して人参養栄湯が有効であったという報告3)があるように、慢性の感染症で体力低下に加え、呼吸器症状があるのが典型で、近年ではフレイルに対する漢方薬として注目されています。大防風湯(だいぼうふうとう)は十全大補湯に附子(ぶし)と鎮痛作用のある生薬が加わった構成で、冷えと関節痛を伴う場合に用います。疲労感を伴う関節リウマチなどの膠原病の患者にしばしば用います。帰脾湯(きひとう)、加味帰脾湯は気虚に加え、くよくよ思い悩んでしまう(思慮過度)、不眠、抑うつがある場合に用います。全身倦怠感が投与目標というよりも不眠や抑うつなどの精神心理症状を主体に訴える場合に用いることが多いです。加味帰脾湯は帰脾湯に柴胡、山梔子(さんしし)が加わって熱感やイライラといった症状にも対応します。その他、人参と黄耆をともに含む参耆剤には、清暑益気湯(せいしょえっきとう)、半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)、当帰湯(とうきとう)、清心蓮子飲(せいしんれんしいん)があります。最後に気虚に冷えを合併している場合は、第5回で解説したように陰証と診断して、太陰病の人参湯(にんじんとう)や少陰病〜厥陰病(けついんびょう)の茯苓四逆湯(ぶくりょうしぎゃくとう:人参湯エキス+真武湯エキス)による治療が最優先であることにご注意ください。参考文献1)杉山幸比古. 日本胸部臨床. 1997;56:105-109.2)井上雅ほか. 日東医誌. 2010;61:853-855.3)Nogami T. J Family Med Prima Care. 2019;8:3025-3027.

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逆ハローサイン(Reversed halo sign)【1分間で学べる感染症】第33回

画像を拡大するTake home message免疫不全患者に逆ハローサインが見られた場合は、ムーコル症(Mucormycosis)の頻度が高い一方で、感染性・非感染性ともに多岐にわたる鑑別疾患が存在する。はじめに逆ハローサイン(Reversed halo sign)とは、限局性のすりガラス陰影(GGO:ground-glass opacity)の円形領域が、三日月状または完全な輪状の浸潤影に囲まれている画像所見を指します。画像を拡大するCTで認められるこの特徴的な陰影は、特定の病原体による肺感染症や、さまざまな非感染性疾患の一徴候として現れることがあり、画像を基に適切な鑑別と初期対応ができるかが診療の成否を左右します。感染性疾患逆ハローサインを示す感染症の中で最も重要なのは、ムーコル症(Mucormycosis)です。とくに血液悪性腫瘍や造血幹細胞移植後などの免疫不全状態にある患者では典型的な所見の1つとされ、迅速な抗真菌治療および外科的デブリードマンが必要となる場合があります。そのほかの感染症としては、侵襲性アスペルギルス症、肺炎球菌性肺炎(改善期に一過性に出現することがある)、オウム病(Chlamydia psittaciを病原体とする)、レジオネラ肺炎、結核、ニューモシスチス肺炎(Pneumocystis jiroveciiを病原体とする)、およびヒストプラズマ症などの二相性感染症が含まれます。これらの病原体は、患者の基礎疾患や曝露歴、免疫状態によって鑑別順位が変動するため、全身状態やリスク評価に基づいたアプローチが必要です。非感染性疾患逆ハローサインを示す非感染性の疾患としては、多発血管炎性肉芽腫症(GPA、旧ウェゲナー肉芽腫症)や好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)などの壊死性血管炎が重要です。これらは肺病変をきっかけに診断に至ることも多く、逆ハローサインが初発の手掛かりとなることがあります。そのほかにもサルコイドーシス、皮膚筋炎に伴う肺病変、肺線維症や肺腺がん、リンパ腫様肉芽腫症、特発性器質化肺炎(COP)、肺塞栓症など、炎症性や腫瘍性、血行障害に基づく病変も含まれます。これらは感染症とは異なる治療戦略が必要となるため、鑑別の誤りが予後に直結する可能性もあります。逆ハローサインを見た際には、「感染性か非感染性か」「免疫状態はどうか」「急性か慢性か」「全身に病変があるか」といった観点から診断アプローチを組み立てることが重要です。このように、逆ハローサインは、幅広い鑑別疾患が原因となって生じる重要なサインです。免疫不全者ではムーコル症を念頭に置きつつ、ほかの感染症や血管炎性疾患も見逃さぬよう、全体像を評価しながら診断を進めることが求められます。1)Georgiadou SP, et al. Clin Infect Dis. 2011;52:1144-1155.2)Godoy MC, et al. Br J Radiol. 2012;85:1226-1235.3)Maturu VN, et al. Respir Care. 2014;59:1440-1449.

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新インプラントデバイスがBCG不応性膀胱がんに有効

 TAR-200と呼ばれる、薬剤を封入した小さなプレッツェル型のインプラントデバイスにより、BCG(カルメット・ゲラン桿菌)治療に反応しない高リスク膀胱がん患者の5人中4人でがんが消失したとする第2相臨床試験の結果が報告された。米南カリフォルニア大学ケック医学校泌尿器腫瘍科長のSiamak Daneshmand氏らによるこの研究の詳細は、「Journal of Clinical Oncology」に7月30日掲載された。 Daneshmand氏は、「これまで、治療抵抗性を示す膀胱がんに対する治療選択肢は非常に限られていた。この新しい治療法は、一般的な膀胱がんに対する治療法としてこれまでに報告されたものの中では最も効果が高い」と述べている。 従来の治療では膀胱内に液体のゲムシタビンを注入するが、薬剤は数時間で排泄されてしまうため、がんに対する効果は限定的であった。一方、ジョンソン・エンド・ジョンソン社が開発したTAR-200は、プレッツェル型の小型デバイスにゲムシタビンを封入したもので、カテーテルを通して膀胱内に挿入される。TAR-200は膀胱内で、1回の治療サイクルである3週間にわたりゲムシタビンをゆっくりと持続的に放出する。「この研究の背景にある理屈は、薬剤が膀胱内にとどまる時間が長いほど深く浸透し、より多くのがんを破壊できるというものだ」とDaneshmand氏は説明している。 今回の臨床試験は、BCG不応性の筋層非浸潤性膀胱がん(NMIBC)患者85人を対象に実施された。NMIBCは膀胱がんの中で最も多いタイプのがんである。対象患者はいずれも再発や他の部位への転移の可能性が高いため、高リスクと診断されていた。患者のうち、BCG不応性の上皮内がん(CIS)を有する群(乳頭状腫瘍の有無は問わない)は、C1群(TAR-200+セトレリマブ〔抗PD-1モノクローナル抗体〕、53人)、C2群(TAR-200単独、85人)、C3群(セトレリマブ単独、28人)に、CISを伴わず乳頭状腫瘍のみを有する患者はC4群(TAR-200単独、52人)に割り付けられ、それぞれの治療を受けた。治療期間は、TAR-200が24カ月、セトレリマブが18カ月であった。主要評価項目は、C1~C3群では完全奏効率、C4群では無病生存率とされた。 その結果、C2群では、完全奏効率は82.4%(70/85人)、治療反応期間の中央値は25.8カ月であることが明らかになった。C1群とC3群の完全奏効率は67.9%と46.4%であった。また、C4群での6・9・12カ月時点での無病生存率はそれぞれ、85.3%、81.1%。70.2%であった。 これらの結果を踏まえてDaneshmand氏は、「化学療法薬を数時間ではなく数週間かけてゆっくりと放出する方が、はるかに効果的なアプローチのようだ」と述べている。 米食品医薬品局(FDA)はTAR-200に新医薬品申請の優先審査を認可した。これはFDAが、この機器の審査を迅速化することを意味すると研究グループは述べている。なお、本臨床試験は、ジョンソン・エンド・ジョンソン社傘下のヤンセン・リサーチ&ディベロップメント社の資金提供を受けた。

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第274回 ケネディ氏のワクチン開発支援打ち切りを深読み

INDEX米国、mRNAワクチン開発を縮小へ契約終了と継続、わかっていること保健福祉省長官の意図悪魔はどっち?米国、mRNAワクチン開発を縮小へ当の本人は大真面目なのだろうが、傍から見ると、もはやガード下の居酒屋にいる酔っ払いオヤジが政治を語っているようだ。何のことかと言えば、米国・保健福祉省(HHS)が8月5日、傘下の生物医学先端研究開発局(BARDA)が行っているmRNAワクチンの研究開発支援を段階的に縮小すると発表した件である。ご存じのように現在のHHS長官はあのロバート・F・ケネディ・ジュニア氏である(第264回参照)。今回、影響を受けるのはBARDAで行われていた総額約5億ドル(約700億円)におよぶ22件のmRNAワクチン開発プロジェクトである。このプロジェクトすべてとその支援金額の詳細は明らかになっていないが、現時点で判明しているのは以下のような感じである。契約終了と継続、わかっていることまず契約が終了したのが、エモリー大学が行っていた吸入できるパウダータイプのmRNAワクチン研究、Tiba Biotech社(本社:マサチューセッツ州ケンブリッジ)が行っていた支援額約75万ドル(約1億2,000万円)のインフルエンザに対するRNA医薬の研究。また、BARDAへの提案そのものが却下されたのが、ファイザー社によるmRNAワクチン開発(詳細不明)、サノフィ・パスツール社によるmRNAインフルエンザワクチン開発、グリットストーン・バイオ社(本社:カリフォルニア州エメリービル)に対する支援額最大4億3,300万ドル(約637億6,300万円)の新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)に対する汎変異株対応の自己増幅型mRNAワクチン開発などである。一方でモデルナ社とテキサス大学医学部が国防総省と協力するフィロウイルス感染症(エボラ出血熱やマールブルグ病)へのmRNAワクチン開発、アークトゥルス・セラピューティクス社(本社:カリフォルニア州サンディエゴ)との支援総額最大6,320万ドル(約9億円)のH5N1鳥インフルエンザ自己増幅型mRNAワクチン開発の一部などは維持されるという。わかっている範囲だけでも、かなり広範な新規mRNAワクチンと既存ワクチンの新規モダリティに影響が及ぶことになるようだ。保健福祉省長官の意図この決定に関するHHSのプレスリリース1)には、「私たちは専門家の意見に耳を傾け、科学を検証し、行動を起こした。BARDAは、これらのワクチンがCOVID-19やインフルエンザなどの上気道感染症を効果的に予防できないことを示すデータに基づき、22件のmRNAワクチン開発への投資を停止する。私たちは、この資金をウイルスが変異しても効果を維持できる、より安全で幅広いワクチンプラットフォームへとシフトさせている」とするケネディ氏のコメントも含まれている。前述のように今回影響を受けるプロジェクトには、ケネディ氏が言うところの「ウイルスが変異しても効果を維持できる」ワクチン開発も含まれているのだが、どうやら本人のmRNAワクチン嫌悪が先に立っている模様だ。そもそも本人のコメントにある「上気道感染症を効果的に予防できないことを示すデータ」とは何を意味するのかは明記されていない始末である。この辺について、より深読みすると、いわゆるワクチンの三大効果と呼ばれる「感染予防」「発症予防」「重症化予防」のうち、ワクチンに懐疑的な人たちがよく示す「感染予防そのものが効果的に得られていないではないか」という主張なのかもしれない。確かに以前の本連載でも取り上げたが、内閣官房の新型インフルエンザ等対策推進会議 新型コロナウイルス感染症対策分科会会長だった尾身 茂氏(現・公益財団法人結核予防会 理事長)がテレビ出演時に言及したように、オミクロン株以降、mRNAワクチンの感染予防としての効果は高くないのが現実である。しかし、最も重大な事象である入院・死亡といった重症化予防効果に関して確たるものがあるのは、もはや異論はないだろう。もし感染予防効果うんぬんだけで測るならば、現在使われているインフルエンザの不活性化ワクチンも同様に無用なものとなってしまうが、そうした認識を持つ医療者はかなり少数派であるはずだ。また、mRNAワクチンは新規ウイルスに対する迅速なワクチン開発という点では、かつてない威力を発揮したことも私たちは実感している。今回のコロナ禍を従来型の不活性化ワクチン開発で乗り切ろうとしていたならば、今のような平常生活に戻るまでに要した時間は相当長いものになっていた可能性が高い。もはやmRNAワクチンについては、これがあることを前提に(1)これまでワクチン開発が難しかった病原体での新規開発、(2)抗体価持続期間の延長、(3)副反応の軽減、という方向性に進むフェーズに来ていると考えたほうがよい。その意味では今回影響を受けたワクチン研究開発プログラムを見ると、(2)については日本発の新型コロナワクチンとなったコスタイベで使われた自己増幅技術が次世代ワクチンとして注目を集めていることもうかがえる。悪魔はどっち?いずれにせよ、ケネディ氏の打ち出した方針はかなりの頓珍漢ぶりである。ちなみに同氏の最近のX(旧Twitter)の投稿を見ると、FDAの中庭のベンチに刻まれたセンテンスという投稿がある。そのセンテンスとは「The devil has got hold of the food supply of this country(悪魔がこの国の食糧供給を掌握している)」というもの。しかし、Xに搭載されている生成AIのGrokが「この写真は改変されている可能性が高い」と指摘している。要はそんなセンテンスなどベンチに刻まれていないということだ。いやはやとんだ人がHHS長官になったものである。「悪魔」はあなたではないのか、と問いたい。 参考 1) U.S. Department of Health and Human Services:HHS Winds Down mRNA Vaccine Development Under BARDA

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グローバルヘルスの開発援助、今後5年でさらに低下か/Lancet

 米国・保健指標評価研究所(IHME)のAngela E. Apeagyei氏らは、幅広いデータソースを用い、1990~2030年の保健分野の開発援助(Development assistance for health:DAH)について分析し、主要供与国の援助削減により2025年のDAHは2009年の水準まで落ち込み、今後5年間でさらに低下するとの予測を報告した。DAHは新型コロナウイルス感染症のパンデミック中に最高水準に達したが、その後、世界経済の不確実性や各国での予算の取り合いが増す中で減少し、2025年初頭に米国や英国など主要供与国が援助の大幅な削減を発表したことで、中・低所得国における保健財政の先行きに対する懸念が高まっている。著者は、「DAHの大幅削減は保健格差の拡大を招く恐れがある。過去30年間で達成された世界的な健康問題に関する大きな成果を守るため、被援助国における効率性の向上、戦略的な優先順位付け、財政レジリエンスの強化が急務である」と述べている。Lancet誌2025年7月26日号掲載の報告。OECD、グローバルファンド、Gaviなどを含む幅広いデータソースからDAHを推計 研究グループは、経済協力開発機構(OECD)の債権者報告システム(Creditor Reporting System:CRS)データベース、世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)およびワクチンと予防接種のための世界同盟(Gavi)などの機関のオンラインデータベース、民間慈善団体や非政府組織の財務報告書といった幅広いデータソースを用い、1990~2030年のDAHを推計した。 支出は、IHME Financing Global Healthの報告で15年以上にわたり開発されてきた標準化キーワードタグ付け法を用い、資金源、支出機関、保健重点分野および被援助国で分類した。 2025年については、主要供与国が発表した予算削減を組み込み、暫定的な推計を算出した。2030年までの予測については、各供与国の資金提供目標および線形回帰モデルを用いた。今回のDAH追跡では、供与国の範囲拡大および追加の支出組織に関する保健分野の細分化などを改良した。ピークは2021年の803億ドル、2025年に半減、2030年は345~378億ドルに減少 DAHは2021年に803億ドルでピークに達し、2024年には496億ドルに減少した。2025年には、発表された予算削減、とくに米国の二国間援助の削減によりDAHはさらに384億ドルまで減少し、2009年の水準にまで落ち込むと予想された。 主要な感染症や小児ワクチン分野にDAHを提供している世界の主要な保健機関(英国外務・英連邦・開発省、米国国際開発庁、フランス開発庁など)は支出を削減する見込みである。一方で、主要な国際開発金融機関は大規模な資金削減から保護されているため、DAHの支出全体に占める世界銀行の相対的な割合が増加している。 現行の政策の下ではDAHは停滞が続き、2030年には362億ドルになると予想される。感度分析では、2025年の推定値は米国の削減幅の変動に応じて、悲観的シナリオの368億ドルから楽観的シナリオの400億ドルまでの範囲となる可能性がある。同様に今後5年間では、DAHの総額は2030年に、米国の貢献が肯定的なシナリオでは378億ドル、否定的なシナリオでは345億ドルになると予想される。

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米国の国際援助打ち切り、世界の死亡率に及ぼす影響/Lancet

 米国国際開発庁(USAID)の資金援助は、過去20年間で低所得国および中所得国(LMICs)における成人および小児の死亡率低下に大きく貢献しており、2025年前半に開始された突然の資金削減が撤回されない場合、2030年までに驚くべき数の回避可能な死亡が発生する可能性があることを、ブラジル・Federal University of BahiaのDaniella Medeiros Cavalcanti氏らが明らかにした。USAIDは人道支援および開発援助における世界最大の資金提供機関であるが、その活動が世界の健康に与える影響、ならびに資金削減がもたらす影響を評価した研究はほとんどなかった。Lancet誌2025年7月19日号掲載の報告。133の国・地域のデータを用い分析 研究グループは、USAIDの資金援助レベルが「なし」~「非常に高い」の133の国または地域(LMICsを含む)のパネルデータを用い、予測分析を統合した後ろ向きインパクト評価を実施した。 まず、人口統計学的、社会経済的および医療関連の要因を補正したロバスト標準誤差(robust SE)を用いた固定効果多変量ポアソンモデルにより、2001~21年の全年齢層および全死因死亡率に対するUSAID資金の影響を推定した。次に年齢別、性別および死因別にその影響を評価した。 さらに、複数の感度分析と三角測量分析を実施し、最後に後ろ向き評価と動的マイクロシミュレーションモデルを統合して2030年までの影響を推定した。援助打ち切りで2030年までに全体で約1,400万人、5歳未満で約450万人が死亡 USAID資金援助レベルの向上(主にLMICs、とくにアフリカ諸国に向けた)は、年齢標準化全死因死亡率の15%減少(率比[RR]:0.85、95%信頼区間[CI]:0.78~0.93)、および5歳未満死亡率の32%減少(0.68、0.57~0.80)と関連していた。これは、USAIDの資金援助により21年間に、全年齢で9,183万9,663人(95%CI:8,569万135~9,829万1,626)、5歳未満で3,039万1,980人(2,602万3,132~3,548万2,636)の死亡が回避されたことを意味していた。 USAIDの資金援助は、HIV/AIDSによる死亡率の65%減少(RR:0.35、95%CI:0.29~0.42)、マラリアによる死亡率の51%減少(0.49、0.39~0.61)、および熱帯病による死亡率の50%減少(0.50、0.40~0.62)と関連しており、それぞれ2,550万人、800万人および890万人の死亡が回避された。 結核、栄養障害、下痢症、下気道感染症および周産期異常による死亡率の有意な減少も観察された。 予測モデルでは、現在の大幅な資金削減は2030年までに、5歳未満の453万7,157人(不確実性区間:312万4,796~591万791)を含む全年齢で計1,405万1,750人(847万5,990~1,966万2,191)超の死亡を追加でもたらす可能性が示唆された。

20.

気管支拡張症に対する初めての有効な治療に注目(解説:田中希宇人氏 /山口佳寿博氏)

 本研究は気管支拡張症に対する初の有効な薬物療法に関する重要な知見と考える。現在、気管支拡張症に承認された治療薬が存在せず、去痰剤や反復する感染に対する抗菌薬投与、抗炎症作用を期待したマクロライド系抗菌薬の長期少量投与などが経験的に用いられている。しかもこれらの治療法に関してはエビデンスは限定的で、耐性菌やQT延長などの副作用も懸念される。brensocatibはカテプシンC(DPP-1)を抑えることで好中球の炎症酵素活性を阻害するというまったく新しい機序によって気管支拡張症そのものの病態に直接作用し、増悪頻度を減らしうる治療薬と捉えられる。 brensocatibは頻回に増悪を繰り返す中等症~重症の気管支拡張症に対する新たな治療選択肢として期待される。とくに、従来の非結核性抗酸菌症を合併しているなどの理由で長期マクロライド療法が使えない症例や、マクロライドで効果不十分な場合に有用と考えられる。本研究では約35%が緑膿菌陽性、29%が前年に複数回の増悪歴を持つなど比較的重症例が含まれており、こうした複雑かつ重症症例で有効性が証明されたことから、今後は増悪リスクが高い症例に対する治療となりうる。逆に軽症で増悪の少ない気管支拡張症に関しては、重症で増悪回数の多い症例と同等のメリットがあるかどうかは不明である。また、結核を含めた抗酸菌感染症の合併例は除外されているので、そのような実臨床で頭を悩ます症例に関しても治療効果は不透明である。 本研究の試験期間中における死亡者は限られており、brensocatibが生存や死亡を改善するかは現時点では不明である。筆者らも呼吸機能低下を遅らせることで罹患や死亡を改善させるのでは、と間接的に述べるにとどまっている。 長期の安全性に関しても現時点では不安要素が残る。brensocatibはカテプシンC(DPP-1)を抑えることによって好中球の活性化を阻害する薬剤であり、長期投与することで理論上は感染防御能の低下など免疫への影響も懸念される。本研究は52週間といった比較的限られた期間での評価であり、慢性疾患である気管支拡張症に対しては、さらに数年単位の長期服用時の安全性データの蓄積と検討が望まれる。 brensocatibは気管支拡張症治療に対する新たな選択肢であることは間違いないが、実臨床でとくに効果の高い症例を選ぶためにはさらに慎重な検討が必要である。既存治療とどう組み合わされるべきか、どのような症例に最も有益か、長期のメリット・デメリットは何か、知見を集積することが重要と考える。

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