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インフルエンザは1,000分の1、COVID-19余波でその他感染症が激減

 日本感染症学会と日本環境感染学会を中心に各医学会や企業・団体が連携し、感染症の予防に向けた啓発活動を行う共同プロジェクト「FUSEGU2020」は、2021年に開催が予定されるオリンピックを鑑み、注意すべき感染症と2020年の感染症流行の状況を解説するメディアセミナーを行った。 セミナーにおいて、防衛医科大学校内科学(感染症・呼吸器)教授の川名 明彦氏が「国際的マスギャザリングに向け、注意すべき感染症」と題した発表を行った。川名氏は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行を受け、その他の感染症の流行状況に大きな変化が生じている状況を紹介した。 オリンピックをはじめとした大規模イベント時にはインバウンド感染症(罹患した外国人の訪日を契機として持ち込まれた感染症)に警戒が必要となる。首都圏にとどまらず全国のホストタウンにおいても流行のリスクを踏まえ、事前の周知・対応が重要な感染症として結核・麻疹・デング熱・侵襲性髄膜炎菌感染症が挙げられた。 しかし、COVID-19拡大につれて海外との往来は制限され、東京オリンピックは延期が決定。緊急事態宣言に伴い外出自粛となり、宣言解除後もリモートワーク推進や会合自粛の流れが続いている。4月以降は訪日外国人数が例年の1,000分の1以下という極めて低い水準で推移しており、日常生活においては手洗い、マスク、換気、ソーシャルディスタンスの確保などが習慣化している。 こうした状況に伴い、今年はCOVID-19以外の主だった感染症の発症数が激減している。たとえば、インフルエンザの12月第1週の報告数は63(昨年同期:4万7,200)、流行の基準とされる定点当たりの新規患者数も0.01(同:9.52、流行開始の目安は1.0)と激減しており、冬の流行シーズンに入った現在も大規模な流行の報告はない。 ほかにも、2013年の流行時には年間1万4,344人、昨年も2,306人の感染者を出した風疹は12月第1週までの累計報告数が99人、昨年744人だった麻疹は同13人といずれも激減。人との接触機会の減少とともに、麻疹の場合は患者に訪日外国人の割合が多く、訪日者の減少が大きな要因として考えられるという。 川名氏は「患者の受診抑制による未診断、といった要因も考えられるため慎重な判断が必要だが、COVID-19感染防止対策が接触・飛沫感染を主な感染経路とするその他感染症の流行に抑制的に作用していることは間違いないだろう」と解説。一方で、淋菌感染症、性器クラミジア感染症、梅毒となった性感染症については例年と比較した発症数に大きな変化はなく、「こうした感染症には異なる予防対策が必要になるだろう」とした。

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筋萎縮性側索硬化症(ALS)に対する多剤併用試験の意義(解説:森本悟氏)-1331

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、運動ニューロン障害による筋萎縮、筋力低下、嚥下障害、呼吸不全等を特徴とする神経難病であり、有効な治療法はほとんど存在しない。 しかし今回、ALSの有効な治療薬として、フェニル酪酸ナトリウム(sodium phenylbutyrate)-taurursodiol合剤が報告された(Paganoni S, et al. N Engl J Med. 2020.383:919-930. )。 フェニル酪酸ナトリウムは、本邦では尿素サイクル異常症治療薬として使用されている。この薬剤は、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤としても働き、低分子シャペロンである熱ショックタンパク質(HSP)を増加させる。それにより、ALSの病態として重要なタンパク質(TDP-43)の異常蓄積を防ぎ、小胞体ストレスによる神経毒性を低減する。一方、taurursodiol(ウルソデオキシコール酸[ウルソジオール]のタウリン抱合体)は漢方薬の原料である熊胆の成分であり、小胞体ストレスを軽減するとともに、ミトコンドリアにおけるBax蛋白の膜移行を阻害し、細胞死を防ぐ働きがある。 従来の数多くの基礎研究により、小胞体ストレス、ミトコンドリア機能不全、あるいは小胞体-ミトコンドリア接触部(MAM)の破綻などがALSにおける重要な病態であるということが提唱されてきたが、今回の臨床試験の報告により、これらの仮説が証明された。さらに本治験患者を長期観察した続報として、ALSにおける運動機能改善のみならず、投薬患者はプラセボ群と比較して6.5ヵ月長い生存期間中央値(無作為化後最大35ヵ月間のフォローアップ)を認めた(Paganoni S, et al. Muscle Nerve. 2021;63:31-39.)。 これまで、脳血管障害や結核治療のように複数の薬剤を併用することで、“multi-target”および“synergistic effect”も含めて有効性を高められる可能性が言われてきたが、今回の報告は、ALSに対する“多剤併用試験”の先駆的な成功例である。 一方で、最近の話題として、ALSを含む多くの神経変性疾患に対する治療開発戦略において、“iPS細胞創薬”が台頭してきている(Okano H, et al. Trends Pharmacol Sci. 2020;41:99-109. )。このコンセプトにより、これまでの動物モデルでは成しえなかった“孤発性疾患モデル”が現実的なものとなり、神経変性疾患の大部分を占める孤発性患者を直接的なターゲットとした創薬が可能となりつつある。 近年、ALSに対する創薬(研究)の報告が相次いでおり、一刻も早くALSが克服されることを切に願ってやまない。

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第37回 差別・偏見問題から「マスク警察」の思考を考える

先日、ある専門家の講演を聞いていてハッと気づいたことがある。話とは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)についての差別・偏見問題である。この専門家はCOVID-19以前に感染症で差別・偏見が発生していた背景要因を複数指摘したが、その中でもっとも腹に落ちたのが「潜在的な被差別構造」という要因だ。これは感染症の蔓延に関係なく、差別・偏見を受けやすい集団があり、一部の感染症はそうした集団で広がりやすい。このため社会で従来から存在した差別が感染症の蔓延で顕在化しやすいという論理である。この具体例を一つ挙げるならば、結核だろう。結核は従来から貧困層で感染が拡大しやすく、これに未知・不治の病への恐怖、医療措置としての隔離がもたらすマイナスイメージなどから、結核患者は忌み嫌われた。現在でもWHOの調査などでは、世界各国の推定結核罹患率と国民総所得は逆相関の関係にあり、先進国でハイリスク集団と指摘されるのはホームレス、受刑者、薬物中毒者など社会的には敬遠されがちな集団である。ちなみに講演をした専門家は社会全般に感染が広がるCOVID-19に関しては「潜在的な被差別構造」が必ずしも当てはまらないと話したが、逆に私はCOVID-19でもこの要因は合致するかもしれないという思いを強くした。なぜそのように思ったかと言うと、私自身がこれまで微妙に理解しがたい経験をしていたからである。その経験とはマスク着用を巡るものである。私はマスク着用を最小限にしている。屋外を歩く際にマスクは着用していない。というのは、もともと皮膚が弱く、不織布マスクなどを長時間着用していると口の周りのひどいかぶれにより日常生活で苦労するからである。政府の旧・新型コロナウイルス感染症対策専門家会議が市民向けに発したメッセージでも屋内で人と会話する時、人と十分な距離が取れない時はマスクの着用を謳っているものの、屋外でのマスク着用はとくに推奨していない。感染症専門医に話を聞いても屋外で人と話をしない場合にマスクは不要と言う人がほとんどである。このような対応をしていると、路上で前方から歩いてくる人が私を避けたりすることなどは経験しているものの、マスクを着用するよう指摘する、いわゆる「マスク警察」と呼ばれる面々と出会ったことはない。厳密にいうと1人は出会ったことはあるが、それは私にではなく、コンビニの店員に向かって「マスクをしていない人がいる」と私を指していた人物がいたくらいである。一方、私の周囲ではマスク警察からかなり厳しい指摘を受けたという話はよく耳にするし、SNS上でもそうした話はあふれている。この違いはなぜだろうと従来からやや不思議に思っていたのである。だが、この専門家の指摘を受けて気づいたのである。少なくとも私の周囲でマスク警察に遭遇したことがあると話してくれた人(7人)はいずれも女性と未成年。Twitterを検索すると、それほど顕著ではないがやはり遭遇者には女性や未成年が多く、これに若年男性が加わる。大概彼らにマスク着用すべきと言うのは年長者のようだ。単純に言えば、指摘する側から見て弱い、反撃してこないと思われる、あるいは若年やそれに伴う「無知」と勝手に決めつけられているであろうケースがほとんどである。つまり私がマスク警察に遭遇しなかったのは、すでに頭部の両サイドに白髪が交じる五十路のおじさんで、小汚くて面倒臭そうと思われているからだと推定できる。また、本人はそういう自覚はないのだが、時々眼光が鋭すぎる、あるいは目つきが悪いと指摘されることがあるので、その影響もあるかもしれない。余談になるが、「小汚くて面倒くさそう」は自虐でも何でもない。20代の若い頃はむしろ電車や街頭で因縁をつけられることが多かった。前述の目つきが悪いという指摘と、私が身長167cmで、学生時代は体重が55.5kgしかない小柄なもやしっ子だったから「弱そう」「反撃してこないだろう」と思われていたのだろう。現在も身長はそのままで体重60kgなので、まだ小柄なほうに入るはずである。そう考えると、マスク警察の指摘(因縁?)がないのは、小汚くて面倒くさそうと思われているとしか考えられない。余談ついでに言うと、もともと勝気な私は若い頃に因縁をつけられた場合も黙っていることができず、周囲に聞こえるような大声で「何か問題でも?」と言いながら、間合いを詰めて相手に近寄っていたが、そうすると大概の相手は自分から去るか周囲が慌てて止めに入るという感じだった。この性格は、相手が嫌がることであっても報じる必要があれば堂々と、そして手を変え品を変え何度も質問するという今の職業に求められるスキルにそのまま繋がっている(笑)。そしてこの専門家の講演に対する参加者の質問に「新型コロナを受けての医療・介護従事者に対する差別には、医療従事者・介護従事者=女性が多い、と言うことも関係しているのではないだろうか?」というものがあり、専門家が「それもあるかもしれない」と答えていた。私もさもありなんと思ったものである。こうしてみると、実は今回のCOVID-19を巡る差別・偏見も新しい問題ではなく、古くからの苔むした差別・偏見が少なからずベースにあるのだろうと考えられる。だが、それ故に根深く、一朝一夕には解決できない問題だともいえる。差別・偏見を解消するための一つの手段は、当事者同士の対話と言うことになるのだろうが、それすらも接触を減らすというプリミティブな予防対策しか取れないこの環境では難しい。理解が一歩進んだと思う反面、現実で前に進めないというもどかしさ、ジレンマを感じずにはいられないのである。

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「メジコン」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第24回

第24回 「メジコン」の名称の由来は?販売名メジコン®錠15mgメジコン®散10%メジコン®配合シロップ一般名(和名[命名法])1)メジコン錠15mg・メジコン散10%デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物(JAN)[日局]2)メジコン配合シロップデキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物(JAN)[日局]クレゾールスルホン酸カリウム(JAN)[局外規]効能又は効果(1)メジコン錠15mg・メジコン散10% 1.下記疾患に伴う咳嗽感冒、急性気管支炎、慢性気管支炎、気管支拡張症、肺炎、肺結核、上気道炎(咽喉頭炎、 鼻カタル) 2.気管支造影術及び気管支鏡検査時の咳嗽(2)メジコン配合シロップ下記疾患に伴う咳嗽及び喀痰喀出困難急性気管支炎、慢性気管支炎、感冒・上気道炎、肺結核、百日咳用法及び用量(1)メジコン錠15mg・メジコン散10%通常、成人にはデキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物として1回15~30 mgを 1日1~4回経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。(2)メジコン配合シロップ通常、成人には1日18~24 mL、8~14歳1日9~16mL、3ヵ月~7歳1日3~8 mLを3~4回に分割経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。警告内容とその理由該当しない禁忌内容とその理由(原則禁忌を含む)【禁忌(次の患者には投与しないこと)】1.本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者2.MAO阻害剤投与中の患者※本内容は2020年11月4日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2019年12月改訂(改訂第14版)医薬品インタビューフォーム「メジコン®錠15mg、メジコン®散10%、メジコン®配合シロップ」2)シオノギ製薬:製品情報一覧

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経口DPP-1阻害薬による気管支拡張症の増悪抑制について(解説:小林英夫氏)-1298

 本論文は気管支拡張症への経口DPP-1(dipeptidyl peptidase 1)阻害薬であるbrensocatib投与により、喀痰中好中球エラスターゼ活性のベースライン低下や臨床アウトカム(増悪)改善が得られたとする第II相試験結果である。DPP-4阻害薬なら糖尿病治療薬として市販されており耳なじみもあろうが、DPP-1阻害薬となると情報が少ないのではないだろうか。詳細説明は割愛するが、好中球エラスターゼなどの好中球セリンプロテアーゼ活性に関与する酵素(DPP-1)を阻害することで、喀痰中の酵素量や活性を低下させえるとのことである。いずれにしろ今後の第III相試験結果を待ちたい。 さて、なぜに昔の疾患と思われている気管支拡張症の検討なのであろうか。まず、気管支拡張症とは疾患名としてよりも、気管支が拡張しているという形態診断名であり、1980年代まではいまや消滅した気管支造影検査によって診断されていた。現在は高分解能CTによって気管支径が併走する肺動脈径の100%以上に拡大しているときに診断される。原因としては、先天性、肺疾患罹患後、免疫不全、アレルギー性疾患などと多岐にわたるが、原因不明(特発性)が最多とされる。気管支拡張症が一時期忘れられていた理由の一部として、筆者はびまん性汎細気管支炎(DPB)へのマクロライド療法の関与を想定する。DPBでは中葉・舌区を中心に気管支拡張合併が通常であり、さらに1980年代にはびまん性気管支拡張の大半はDPB由来ではないかとの本邦論文も発表されている。そのDPBは日本発のマクロライド療法により著減し、最近では希少疾患になろうとしていることから、気管支拡張症も追随して減少したのではと思っていた。 ところが近年、軽症例を含めると、想像以上に多数の潜在症例が埋もれているのではないかと欧米から報告され、気管支拡張症の国際的ガイドラインが刊行されている(Polverino E, et al. Eur Respir J. 2007;50:1700629.)。加えてmicrobiome(体内常在細菌叢とその遺伝情報)が多彩な慢性炎症性疾患の成立に関与しているのではないかという世界的関心の中、気管支拡張症も気道に存在するmicrobiomeが要因の1つではないかと推定されている。健康人の気道からは細菌は検出されないと教えられた世代にとって驚きの知見である。加えて、急増する非結核性抗酸菌症や、関節リウマチなどの免疫性炎症性疾患による気管支拡張症も呼吸器領域では注目の病態である。日本での罹患頻度の統計はないが、関節リウマチを母集団とすると30%もの合併があるという報告も見られ、新たな方法論の発展により気管支拡張症が見直されつつある。

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第26回 新型コロナ入院、対象を高齢、基礎疾患のある患者らに限定

<先週の動き>1.新型コロナ入院、対象を高齢、基礎疾患のある患者らに限定2.財政制度等審議会、高齢者の患者負担など見直しを急ぐ3.新公立病院改革ガイドライン発表延期、ただし進捗の点検・評価は必要4.安倍政権の未来投資会議を廃止、新たに成長戦略会議が発足5.健康食品会社が嘘の体験談で薬機法違反、広告会社・広告主ともに摘発1.新型コロナ入院、対象を高齢、基礎疾患のある患者らに限定菅内閣は10月9日に、新型コロナウイルス感染者のうち、入院対象者を原則65歳以上の高齢者や基礎疾患のある人らに絞る法令改正について閣議決定を行った。今回の改正では、感染症法が定める「指定感染症」の位置付けに変更はなかった。これまでは新型コロナの感染者全員が入院対象だったが、インフルエンザ流行を前に医療機関の負担を減らし、重症者治療に重点を置くための施策。24日に施行となる。(参考)新型コロナウイルス感染症を指定感染症として定める等の政令の一部を改正する政令(案)等について(概要)(厚生労働省健康局結核感染症課)2.財政制度等審議会、高齢者の患者負担など見直しを急ぐ8日に開催された財務省の財政制度等審議会・財政制度分科会において、今後の医療や子育てに関して議論を行った。この中でわが国の社会保障の現状について、OECD加盟国と比較して、受益(給付)と負担のバランスが不均衡の「中福祉、低負担」の状況が指摘された。2022年度以降、団塊世代が75歳を超えると、社会保障関係費が急増することが予想できる。これを念頭に、社会保障制度の持続可能性を確保するための改革が急務とされ、現在の年齢が上がるほど患者負担割合が低く、保険給付範囲が広がる構造を含め、患者負担のあり方を見直していく必要があるとした。今後、11月のまとめる建議に向けてさらに議論を行うが、患者負担の増加については国民の関心も高く、医療機関や医師会などとの調整が必要になる見込み。(参考)財政制度等審議会財政制度分科会(令和2年10月8日開催)資料:社会保障について(1)(総論、医療、子ども・子育て、雇用)(財務省)3.新公立病院改革ガイドライン発表延期、ただし進捗の点検・評価は必要総務省は、5日に通知「新公立病院改革ガイドラインの取扱いについて」を各都道府県や指定都市などに向けて発出した。本年の7月までに示すとされていた新ガイドラインは発表を延期するが、今年度は「公立病院改革ガイドライン」の最終年度であることから、新改革プランの進捗状況について点検・評価を求める内容となっている。また、不採算地区の公立病院への財政措置については、地域医療構想の推進に向け、過疎地など経営条件の厳しい地域において、二次救急や災害時などの拠点となる中核的な公立病院の機能を維持する目的で、新たに特別交付税措置を講ずるなどの見直しを行うこととなった。今後の新型コロナ拡大に伴う景気・財政悪化を考えると、リスト外の病院に対してもより一層の健全な病院経営を求められることとなり、地方自治体や医療従事者への影響は避けられない。(参考)新公立病院改革ガイドラインの取扱いについて(通知)(総務省自治財政局準公営企業室長)4.安倍政権の未来投資会議を廃止、新たに成長戦略会議が発足安倍政権が2016年に内閣府に設置し、医療・介護を含むさまざまな分野について検討を重ねてきた未来投資会議が廃止され、菅政権では新たに成長戦略会議として立ち上げることを、9日の閣議後に西村 康稔経済再生担当相が明らかにした。未来投資会議が担っていた機能は縮小される。議長に加藤官房長官、副議長に西村経済再生相と梶山経済産業相がそれぞれ就任し、今後は、経済財政諮問会議が国の経済財政政策をリードし、それに沿った形で成長戦略会議が具体化を検討することとなる。(参考)未来投資会議を廃止 「成長戦略会議」に衣替え―政府(時事ドットコム)5.健康食品会社が嘘の体験談で薬機法違反、広告会社・広告主ともに摘発大阪府警は、嘘の体験談を用いて健康食品の効果をうたった広告・販売を行ったとして、広告会社と広告主の健康食品販売会社「ステラ漢方」を7月に摘発した。今年の3月上旬まで開設されていた商品サイトには「医者が絶句するほどの脂肪肝だった私が1ヵ月で正常値まで下げた『最強健康法』とは?」といった目を引く内容のほか、肝機能の数値改善など効能効果の表記がされていた。商品は健康食品会社ホームページのリンクから購入できる仕組み。なお、同社は2014年にも根拠のない宣伝をしたとして、消費者庁から景品表示法の規定に基づく措置命令を受けている。今後、悪質な広告についてはさらに規制強化が進むだろう。(参考)記事広告が薬機法違反…大阪府警、広告代理店ら6人を逮捕(通販通信)脂肪肝が1ヵ月で……。嘘の体験談で宣伝、広告主を摘発(日本経済新聞)

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HIV患者の多剤耐性結核、ART実施で死亡リスク大幅減/Lancet

 抗レトロウイルス治療(ART)とより効果的な抗結核薬の使用が、HIV陽性の多剤耐性結核患者の死亡率の低下と関連していることが、米国・ペンシルベニア大学のGregory P. Bisson氏らによるメタ解析の結果、明らかにされた。HIV感染症が多剤耐性結核治療中の死亡リスクを増大することは知られているが、これまでARTや抗結核薬の使用が同リスクに影響するのかは不明だった。結果を踏まえて著者は、「これらの治療へのアクセスを強く求めるべきだろう」と述べている。Lancet誌2020年8月8日号掲載の報告。1993~2016年に多剤耐性結核で治療受けた患者を解析 研究グループは、1993~2016年にかけて、多剤耐性結核が確定または推定診断され、結核の治療を開始した18歳以上の成人患者個々のデータについてメタ解析を行った。分析したデータには、ART使用データおよびWHOの分類に基づく抗結核薬治療のデータが含まれていた。 主要解析では、多剤耐性結核治療中の死亡についてART実施により層別化し、HIV陽性患者をHIV陰性患者と比較(追跡不能データは除外)。世界銀行による国別の所得分類と薬剤耐性で厳密にマッチングし、年齢や性別、地域、多剤耐性結核治療の開始年、結核治療歴、直接監視下療法、抗酸菌塗抹陽性について傾向スコアマッチング後、ロジスティック回帰法を用いて補正後オッズ比(aOR)と95%信頼区間(CI)を求めて評価した。2次解析はHIV感染症患者を対象に行われた。HIV陽性・ART使用の死亡オッズ比1.8、同非使用は4.2 多剤耐性結核患者1万1,920例を包含して解析が行われた。うちHIV陽性・ART使用は2,997例(25%)、HIV陽性・ART非使用は886例(7%)。また、広範囲薬剤耐性結核患者は1,749例(15%)だった。 HIV陰性患者を基準とした、HIV陽性・多剤耐性結核患者全体の死亡に関するaORは2.4(95%CI:2.0~2.9)、そのうち、ART使用患者の同aORは1.8(1.5~2.2)、ART非使用または不明患者の同aORは4.2(3.0~5.9)だった。 HIV陽性患者において、WHO分類のグループA治療薬、またはモキシフロキサシン、レボフロキサシン、ベダキリン、リネゾリドの使用は、死亡オッズ比の有意な低下と関連していた。

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エイズ患者の結核治療:始めに検査?始めから治療?(解説:岡慎一氏)-1248

 エイズ患者に対する結核治療というのは、いまだに根が深い問題が残っている。とくに、結核が蔓延しているアジアやアフリカでは、結核はエイズ患者の死亡原因のトップにくる。 免疫不全の進行したエイズ患者の場合、大きく2つの問題がある。1つは、結核の症状が非典型的となり診断が難しいこと。もう1つは、HIVの治療で免疫が回復すると、免疫再構築症候群(IRIS)と呼ばれる激しい炎症反応が起こり、IRISで死亡することもあるのである。 少し前までは、エイズ患者の結核治療は、IRIS予防のために一定期間結核治療を先行させるか、HIV治療とほぼ同時に結核治療を開始するかということが議論になっていた。現在、多くのRandomized Controlled Trial(RCT)の結果から結核治療を先行させるのではなく、HIV治療とほぼ同時に結核治療を開始することが推奨されている。 さて、今回の研究である。今回は、エイズ患者において結核の検査をしてから結核治療を開始するか、検査なしで全例結核の治療を開始するかをRCTで振り分けている。実に現場に即したpracticalな研究である。結果、検査なし全例治療群の死亡率19.4/100 person-year(PY)に対し検査治療群20.3/100 PYと予後は同じであった。しかし、当たり前であるが、全例結核治療群では、重篤な副作用が多かった。研究グループからは、どちらを推奨するかは述べられていない。今回の研究における死亡率は、予想以上に低かったと述べられている。治療をしても死亡率は20/100 PY。結核は、エイズ患者にとっていまだ恐ろしい合併症である。

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未治療HIV結核患者、検査に基づく治療が有益/NEJM

 抗レトロウイルス療法(ART)歴のない重度免疫不全状態のHIV感染成人患者における結核治療について、検査結果に基づく治療は系統的・経験的治療と比べて24・48週後のアウトカムはいずれも同等で、Grade3/4の有害事象発生率は低いことが示された。フランス・ナント大学のFrancois-Xavier Blanc氏らSTATIS ANRS 12290 Trial Teamが、コートジボワールやウガンダなどの患者1,000例超を対象に無作為化比較試験を行い報告した。結核およびHIVの疾病負荷が高い地域において、HIV感染成人患者の多くがART開始時にはすでに重度の免疫不全状態にあり、これらの患者のART開始後の死亡率は高く、結核および侵襲性の細菌感染症が死因の多くを占めているという。NEJM誌2020年6月18日号掲載の報告。全死因死亡または侵襲性細菌感染症の複合エンドポイント発生率を比較 研究グループは、ART歴のないCD4陽性T細胞数100個/mm3未満のHIV成人患者を対象に、検査に基づく結核治療と、検査をせずに治療を始める系統的・経験的治療を比較する48週間の試験を行った。 コートジボワール(2施設)、ウガンダ(2施設)、カンボジア(1施設)、ベトナム(1施設)で集めた被験者を無作為に1対1の割合で2群に分け、一方にはスクリーニング(Xpert MTB/RIF検査、尿中リポアラビノマンナン検査、胸部X線撮影)を実施し、その結果に基づき結核治療を開始すべきかどうかを決めた(検査治療群、525例)。もう一方の群にはリファンピシン、イソニアジド、エタンブトール、ピラジナミドを2ヵ月間連日投与し、その後リファンピシンとイソニアジドを4ヵ月間連日投与する系統的・経験的治療を行った(系統的治療群、522例)。 主要評価エンドポイントは、全死因死亡または侵襲性細菌感染症の複合で、無作為化後24週以内(主要解析)または48週の時点で評価を行った。Grade3/4の薬剤関連有害事象リスク、系統的治療群は検査治療群の2.57倍 24週の時点で、全死因死亡または侵襲性細菌感染症の発生率(初回発生イベント)は、系統的治療群が19.4/100患者年、検査治療群が20.3/100患者年と、両群で同等だった(補正後ハザード比[HR]:0.95、95%信頼区間[CI]:0.63~1.44)。 48週時点での同発生率も、それぞれ12.8/100患者年、13.3/100患者年と同等だった(補正後HR:0.97、95%CI:0.67~1.40)。 24週の時点で、結核の確率は系統的治療群が3.0%と、検査治療群の17.9%に比べ低率だった(補正後HR:0.15、95%CI:0.09~0.26)。一方で、Grade3/4の薬剤関連有害事象の確率は、系統的治療群が17.4%と、検査治療群の7.2%に比べ高率だった(2.57、1.75~3.78)。 重篤な有害イベントの発生は、系統的治療群でより頻度が高かった。

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MRワクチン【今、知っておきたいワクチンの話】各論 第1回

ワクチンで予防できる疾患(疾患について・疫学)ワクチンで予防できる疾患、VPD(Vaccine Preventable Disease)は、数えられるほどしかない。しかし、世界ではいまだに多くの子供や大人(時に胎児も)が、ワクチンで予防できるはずの感染症に罹患し、後遺症を患ったり、命を落としたりしている。わが国では2012~2013年の風疹大流行(感染者約17,000人)に引き続き1)、2018~2019年にも流行した(感染者5,000人以上)。その影響もあり、日本は下記期間において世界3位の風疹流行国となっている2)(図1、表1)。風疹ワクチンのもっとも重要な目的は先天性風疹症候群(Congenital Rubella Syndrom:CRS)の予防である。それには、風疹が流行しないよう、風疹含有ワクチン接種により集団免疫を高めることが何より重要である。図1 2019年3月~2020年2月(1年間)の風疹発生数と発生率(100万人当たり)画像を拡大する表1 風疹患者数(上位10ヵ国)Global Measles and Rubella Monthly Update (Accessed on April 24, 2020)より引用画像を拡大する一方、麻疹は、世界で約14万人の命を奪う(2018年推計)ウイルス感染症である。麻疹の死亡率は先進国でさえも約1,000人に1人といわれており、重症度の高い感染症である。感染力も強いため、風疹と同様、予防接種により高い集団免疫を獲得する必要がある。しかし、日本国内での麻疹の散発的流行はいまだ絶えない。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に係る緊急事態宣言が解除された今なお、予防接種は不要不急だと考え接種を控えるケースが見受けられる。しかし「ワクチンと新型コロナウイルスと検疫」でも述べられているように、予防接種(特に小児)は適切な時期に受けることが重要であり、接種を延期する必要はない。過度な制限や自粛により、予防できるはずの感染症に罹患してしまうことは避けなければならない3)。麻疹・風疹の概要VPDの第1弾として、「麻疹・風疹」を取り上げる。麻疹・風疹ワクチンともに、経済性、安全性、有効性に優れており費用対効果も高い。日本国内における麻疹・風疹の感染流行の首座は、小児よりも青年・成人である。そのため、あらゆる年代、あらゆる受診機会に触れるプライマリケア医からの啓発が、非常に重要かつ効果的である。麻疹について1)麻疹の概要感染経路:空気感染、飛沫感染、接触感染潜伏期:10~12日周囲に感染させうる期間:症状出現1日前~解熱後3日間感染力(R0:基本再生産数):12-18感染症法:5類感染症(全数報告、直ちに届出が必要)学校保健安全法:第2種(出席停止期間:解熱後3日経過するまで)注)R0(基本再生産数):集団にいるすべての人間が感染症に罹る可能性をもった(感受性を有した)状態で、一人の感染者が何人に感染させうるか、感染力の強さを表す。つまり、数が多い方が感染力は強いということになる。2)麻疹の臨床症状麻疹の特徴は、感染力の強さと重症度の2つである。空気感染する感染症は、麻疹以外では結核と水痘がある。感染力を表すR0(アールノート)は、インフルエンザが1-2、COVID-19が1.3-2.5(5月時点)なので、麻疹はこれらの約10倍に相当する極めて強い感染力をもつ。典型的な麻疹の臨床経過は、10~12日程度の潜伏期ののち、3つの病期を経る。感染力がもっとも強いカタル期(2~4日間)には、高熱、上気道症状、目の充血、コプリック斑などが出現する。その後、一旦解熱し、再度高熱(二峰性発熱)と全身性の紅斑(発疹期)が拡がる(3~5日間)。発疹が出て3~4日後に徐々に解熱し回復する(回復期)。麻疹に対する免疫をもたない人が感染すると、約3割に合併症が生じ、肺炎や脳炎、中耳炎、心筋炎などを来す。肺炎や脳炎は2大死亡原因と言われ、乳児では麻疹による死亡例の6割が肺炎に起因する。まれではあるが罹患してから数年後に発症する亜急性硬化性全脳炎(SSPE)という重篤な合併症を来すこともある。病歴や臨床症状から疑い、血清学的検査(IgM抗体、IgG抗体など)やPCR検査(咽頭、尿など)などにより確定診断をする(詳細は「医療機関での麻疹対応ガイドライン 第7版」4)を参照)。特異的な治療法はないため、対症療法が中心である。3)麻疹の疫学麻疹の感染者は、全数報告が開始された2008年が約1万1,000例だったが、2009年以降は、毎年数十~数百例の報告数である。2016年は165例、2017年は186例、2018年282例と続き、2019年は744例と多かった。かつては5歳未満の小児が主な感染者であったが、2011年頃からは20~30代の患者が半数以上占めている5)。2019年は感染者の56%が20~30代であり、主な感染者は接種歴のない乳児を除いて、30代をピークとした成人であることがわかる(図2、3)。図2 年齢群別接種歴別麻疹累積報告数 2019年第1~52週(n=744)画像を拡大する図3 年齢別麻疹累積報告数割合 2019年第1~52週(n=744)国立感染症研究所 感染症発生動向調査 2020年1月8日現在より引用画像を拡大する4)麻疹の抗体保有率抗体保有率は麻疹の感受性調査として、ほぼ毎年国立感染症研究所より報告されている。抗体価はあくまで免疫能の一部を表しているに過ぎないため、抗体価が基準を満たせば良い、という単純な話ではない(総論第4回 「抗体検査」参照)。しかし、年代と抗体保有率との相関性をみることで、ある程度の傾向が把握できるため紹介する。麻疹の抗体保有率(PA法16倍以上:図4赤線)は1歳以上の全年代で95%以上を維持しているが、修飾麻疹を含めた発症予防可能レベルは128倍以上が望ましい6)(図4:緑線)。10代と60代以上で128倍の抗体価を下回る人が多く、注意が必要である。また、すべての年代で128倍未満のものがいることから、輸入麻疹による感染拡大の危機は常につきまとうことになる。図4 麻疹の抗体価保有状況 2019年感染症流行予測調査より(2020年2月暫定値)国立感染症研究所 2019年感染症流行予測調査(2020年2月暫定値)より引用画像を拡大するわが国は2015年3月27日にWHOによる麻疹排除認定を受けた。麻疹排除認定の定義とは「質の高いサーベイランスが存在するある特定の地域、国等において、12ヵ月間以上継続した麻疹ウイルスの伝播がない状態」とされている。これは土着の麻疹ウイルスが国内流行しなくなった状態を意味するだけであり、土着でない、海外から持ち込まれた“輸入麻疹”は、麻疹排除認定後も、2020年現在まで国内で散発的にみられている(図5)。近年の代表的な事例として、2018年には海外からの旅行者を発端とした沖縄での集団感染(101例)や、2019年にはワクチン接種率の低い三重県の宗教団体関係者を中心とした集団感染(49例)などがある。その感染力の高さから4次や5次感染を来した事例も複数報告されている7)。その他、医療関係者、教育関係者、空港職員などが感染した事例も多く、不特定多数の人に接触しうる職種は特に、あらかじめワクチン接種により免疫を獲得しておくことが重要である。図5 麻疹累積報告数の推移 2013~2020年第15週 (2020年4月15日現在)国立感染症研究所 感染症発生動向調査より引用画像を拡大する麻疹はアジア・アフリカ諸国を始め、世界各国で流行が続いており、2019年は40万人以上が罹患したと報告されている。一方で、わが国への出入国者数は年々増加し、年間5,000万人を超えている。つまり、日本全体が麻疹に対する強固な集団免疫を獲得しないと、世界各国とのアクセスが容易な現代においては、“ふと”やってくる輸入麻疹を防げないのである。風疹について1)風疹の概要感染経路:飛沫感染、接触感染潜伏期:14~21日周囲に感染させうる期間:発疹出現前後1週間感染力(R0:基本再生産数):5-7感染症法:5類感染症(全数報告、直ちに届出が必要)学校保健安全法:第2種(出席停止期間:発疹が消失するまで)2)風疹の臨床症状風疹は、比較的予後の良い急性ウイルス感染症である。しかし、妊婦が風疹に罹患すると、その胎児に感染し、先天性風疹症候群(Congenital Rubella Syndrome:CRS)が発生する可能性がある(後述)。風疹の主な感染様式は、風邪やインフルエンザと同様に飛沫感染であり、感染力は比較的強い(R0は5-7)。風疹の臨床経過について。2~3週間の潜伏期の後、軽い発熱と淡い全身性発疹が同時に出現する。その他、耳下や頸部リンパ節腫脹も特徴的で、関節痛を伴うこともある。発疹は3~5日程度で消失するため、風疹は“三日はしか”とも言われる。風疹ウイルスに感染した成人の約15%は不顕性感染(感染していても症状がでない)であり、たとえ症状がでても軽度なことも多い。そのため、自分が感染していることに気付かず、他人に感染させてしまう可能性がある。診断方法:臨床症状から疑い、血清検査(IgMやIgGなど)にて確定診断を行う。治療:CRSも含め、風疹に特異的な治療法はなく対症療法が中心となる。そのため、ワクチンがもっとも有効な予防方法となる。予後は基本的には良好だが、時に血小板減少性紫斑病や脳炎を合併することがある。3)先天性風疹症候群(Congenital Rubella Syndrome:CRS)冒頭で述べたように、日本では2012~13年および2018~19年に風疹が流行した。2012~13年には17,000人以上の風疹感染者と45人のCRSが、2018~19年には5,000人以上の風疹感染者と5人のCRSが届出された。妊婦の風疹感染により流産や胎児死亡が起こりうることから、より多くの妊婦と胎児が風疹感染の犠牲となった可能性がある。CRSとは、風疹に対する免疫が不十分な妊婦が、妊娠中に風疹に罹患し、経胎盤感染により胎児が罹患する症候群である。3大症状は難聴、先天性心疾患、白内障であり、その他、肝脾腫、糖尿病、精神運動発達遅滞などを来す。妊婦(風疹に対する免疫が不十分な場合)の風疹感染によるCRS発生率は妊娠週数によって異なり、妊娠初期の感染は80%以上と非常に高率である(妊娠4~6週で100%、7~12週で約80%、13~16週で45~50%、17~20週で6%、20週以降で0%8))。2012~13年に発生したCRS45人の追跡調査で、11人が死亡していたことがわかり、致死率は24%と報告された。そのほとんどが重度の先天性疾患が死因となった1)。一方、CRS児の母親の年代は14~42歳と幅広く、風疹含有ワクチン接種歴が2回確認された母親はいなかった(接種歴1回が11例、なしが19例、不明が15例)。妊娠可能年齢の女性に対する風疹ワクチンの2回接種がいかに重要であるかがわかる。また、4例の母親には妊娠中に感染症状がなかった(31例は症状あり、10例は不明)ことから、不顕性感染によるCRSであったことが推測される。CRSもワクチンで予防できるVPDである。また、風疹流行は、妊婦にとって脅威である。妊娠可能年齢の女性やそのご家族には、積極的に風疹ワクチン2回の接種歴を確認し、不足回数分の接種を推奨いただきたい。4)風疹の疫学と抗体保有率近年の風疹流行の首座は成人(感染者の9割以上)であり、中でも20~50代の男性が約7~8割を占める9)。これらの年代は働き盛り、かつ子育て世代でもあることから、職場や家族内感染が主な感染源と推定された10)。一方、女性の感染者では妊娠可能年齢の20~30代が女性感染者全体の6割を占め、CRS予防の観点からも、憂慮すべきデータである。抗体保有率も上記の年代で低いことがわかる(図6)。風疹抗体価についてはHI法8倍以上(図6:赤線)で陽性とされるが、感染予防には16倍以上(図6:黄線)、さらにはCRS予防には32倍以上(図6:青線)が望ましい。男性については30~50代において抗体価が低いことがよくわかる。近年の風疹流行の首座の年代である。この年代で抗体価が低いのは、後述する過去の予防接種制度の煽りを受けたことが原因であり、昨年度から全国で開始された「風疹第5期定期接種」の対象年齢(1962~1979年生まれ)が含まれる。一方、女性では、HI法8、16倍以上の抗体保有率は高いものの、CRS予防に望ましい32倍以上(図6:青線)の抗体保有率は妊娠可能年齢(10~40代)では7~8割にとどまる。やはり小児期に2回の定期接種が義務付けられていなかった年代が含まれており、男性のように成人に対する定期接種制度はないため、日常診療における接種歴の確認が重要となる。図6 男女別の風疹抗体保有率 2018年画像を拡大する国立感染症研究所 年齢別/年齢群別の風疹抗体保有状況、2018年より引用画像を拡大する妊娠可能年齢の女性やその家族には、あらかじめ風疹ワクチンでの予防措置を講じておくことが非常に重要である。ワクチンの概要(効果・副反応、生または不活化、定期または任意、接種方法) 1)麻疹・風疹ワクチン(表2)画像を拡大する効果(免疫獲得率)麻疹ワクチン:1回接種により免疫獲得率93~95%以上、2回接種で97~99%3)風疹ワクチン:1回接種による免疫獲得率は95%、2回接種では約99%11)副反応:一部(10~30%)に軽度の麻疹様発疹や風疹様症状(発熱、発疹、リンパ節腫脹、関節痛など)を伴うことがあるが、いずれも軽度で数日中に消失する一過性のものである。その他、ワクチン接種による一般的な副作用以外に、MRワクチンに特異的な副反応報告はない。禁忌:発熱や急性疾患に罹患中の人、妊婦、明らかな免疫抑制状態にある人、このワクチンによる重度のアレルギー症状(アナフィラキシーなど)を呈した既往がある人注意事項:生ワクチン接種後は、2ヵ月間は妊娠を避ける。ただし、この期間に妊娠しても、母体や胎児に問題が生じた報告はない。また、輸血製剤またはガンマグロブリン製剤投与後は6ヵ月の間隔をあけてから接種する。麻疹風疹(MR)ワクチンは、2006年から小児に対して2回の定期接種(1期、2期)が定められた。1期(1歳)の接種率は目標の95%以上を維持しているが、2期(5~6歳)についてはいまだ93~94%で推移している12)。あらゆる機会を利用してキャッチアップを行うことにより、すべての人が生涯で計2回のワクチン接種が受けられるような啓発や取り組みが喫緊の課題である。2)麻疹の緊急ワクチン接種麻疹患者との接触者で、麻疹に対する免疫がない人は、接触後72時間以内に麻疹含有ワクチンを接種することで、発症を予防できる可能性がある(緊急ワクチン接種)4)。1歳未満の乳児でも、生後6ヵ月以降であれば曝露後接種は可能である(自費)。しかし、この場合は母親からの移行抗体によりワクチンウイルスが中和されてしまう可能性もあるため、必ず1歳以降で2回の定期接種を受ける必要がある。3)接種のスケジュール(小児/成人)麻疹・風疹ワクチンは、いずれも1歳以上で生涯計2回接種することで、麻疹・風疹ウイルスに対する免疫能を高率に獲得できる。血清検査で診断された罹患歴がなければ、不足回数分の接種を推奨する。ウイルス抗体価の測定は必須ではない。理由は前述の「抗体検査」で述べられたとおりであり、改定された日本環境感染学会のワクチンガイドラインでも同様の考えに基づくアルゴリズムが提示されている13)。抗体価は参考値として測定することはあっても、あくまで接種歴の方が重要度としては高い。よって、抗体価を測定せずに、接種歴の情報を元に接種回数を決めてよい。接種歴がわからない(もしくは、接種した記憶はあるが、記録がない)場合は、接種しすぎることによる害はないため「接種歴なし」として、1ヵ月以上の間隔をあけて、2回の接種を推奨する。4)小児期に2回の麻疹・風疹ワクチン接種が定期接種となった年代麻疹・風疹(それぞれ単独)ワクチン:2000年4月2日生まれ以降の人(表3)は、小児期に麻疹・風疹含有ワクチンが定期接種化されている年代である。ただし、1990年4月2日生まれ~2000年4月1日生まれまでの人(特例措置の年代)の接種率は80%台と低かった。どの年代においても接種歴の確認が重要である。特例措置:麻疹または風疹ワクチンの2回目を、中学1年生(第3期)と高校3年生相当(第4期)に対象者を拡大して5年間の期間限定で接種が行われた。表3 出生年月日および性別別の早見表:麻疹(上段)、風疹(下段)画像を拡大する5)成人に対する風疹第5期定期接種14)1962年4月2日生まれ以降~1979年4月1日生まれの年代(41~58歳)は、小児期の予防接種制度の影響で、小児期に風疹含有ワクチンを2回接種する機会がなかった。そのため、先述したように風疹抗体保有率が低く、風疹流行の首座となってしまった。この世代に対して、2019年度から全国で該当者(風疹含有ワクチンの接種歴がなく罹患歴もないなど)には無料で風疹の抗体価測定を行い、抗体価が不足している場合(HI法8倍以下)は、無料でMRワクチンを接種できる“風疹第5期定期接種”が開始された。しかし、2020年4月時点でクーポン券を使用した抗体検査実施率は16.2%、予防接種実施割合は3.4%と低迷している15)。プライマリケア医による能動的な情報提供、啓発が望まれる。日常診療で役立つ接種のポイント(例:ワクチンの説明方法や接種時の工夫)繰り返しになるが、麻疹・風疹ともに、罹患歴がなければ1歳以上で生涯2回の接種が必要である。接種歴がないまたは不明の場合は、接種しすぎることによる害はないため、任意接種であれば、1ヵ月あけて2回の接種を推奨する。麻疹または風疹のいずれか一方のみの接種を希望する人がいた場合、2回の接種歴が記録で確認できなければ、MRワクチンでの接種を推奨する。下記、MRワクチン接種を負担なく啓発できる工夫について何点かご紹介する。1)外来における工夫(1)小児の受診時受診理由に関わらず、母子手帳の提出をルーチン化する。電話予約時に一言添える、受付時や看護師の予診時などに提出をお願いする。これを習慣化すると、受診者全体に徐々にその文化が根付いていく。医師が診療前後に母子手帳の接種記録を確認し、不足しているものがあれば推奨する。ワクチンスケジュールの知識がある看護師などが担当してもよい。(2)カルテ記録プロブレムリストに「ヘルスメンテナンス」または「予防接種歴」を追加する。医師自身がリマインドできるシステムを作る。外来で扱う主要なプロブレムが落ち着いたときに、患者さんに一言接種歴の確認をするだけでも良い。余裕ができたときに、不足しているワクチンについて紹介、接種の推奨をする。(3)ポスターを掲示するワクチン接種についてのポスターを待合室に掲示する。リーフレットとして配布してもよい15)。2)積極的にワクチン接種を推奨したい対象者(1)妊娠可能年齢の女性とその家族あらゆる感染症は、妊婦の流産早産に関連しうる。CRSを含めたVPDとそのワクチンについて情報提供する。特に、妊娠中は接種が禁忌となる生ワクチン(風疹・麻疹・水痘・ムンプス)について、妊娠前にあらかじめ免疫をつけておくことが重要であることを情報提供する。妊娠希望の女性に対して、MRワクチン接種の助成がある自治体も多い。自治体によっては、そのパートナーにも助成を出しているところもある。あらかじめ自身の自治体の助成制度の確認を行い、該当者がいれば渡せるように当該ページを印刷しておくとよい。(2)風疹第5期定期接種の対象者(41~58歳:2020年4月中旬時点)接種率の低さから、自宅に風疹対策のクーポン券(無料で受けられる風疹抗体検査の受診券)が届いていても、それに気付いていない、またはその重要性を知らず放置している例も多いことが考えられる。定期接種の対象である年代については、受付などで、対象者であることを示す札や目印を作成し、受診時に医療スタッフから制度利用の推奨・案内をできるようにしておくとよい。自宅に定期接種のクーポン券が届いていないかどうか事前に確認し、検査を推奨する。届いていなければ地域の保健所に問い合わせるよう促せば対応してくれる。(3)海外渡航予定のある人海外では麻疹流行国が多数ある。渡航先に関わらず、海外渡航時はルーチンワクチンをキャッチアップする良い機会である。あれば母子手帳をもとに、なければ麻疹を含めたVPDについてしっかり話し合う。長期出張の場合は会社からの補助がでないか、家族同伴の場合は家族の予防接種状況も含めて、安心かつ安全な海外渡航となるよう、サポートする。(4)不特定多数の人と接触する職業(空港など)・医療職・教育関係者などこれらの職業の人は、感染リスクが高く、感染した場合の公衆衛生学的なインパクトも大きい。これらの職業に携わる人には、積極的にワクチン接種歴の確認をし、不足回数分の接種を推奨する。今後の課題・展望世界では、世界保健機関(WHO)などにより、麻疹および風疹排除を加速させる活動が進められている(Global Vaccine Action Plan 2011-2020)。わが国では、2015年に認定された麻疹排除認定を取り消されることがないよう、小児定期接種の高い接種率(1、2期ともに95%以上)を目指すと同時に、海外から麻疹ウイルスを持ち込まれても、国内流行につながらない高い集団免疫を目標にしなければいけない。風疹については、2014年3月に厚生労働省が「風疹に関する特定感染症予防指針」を策定した。この指針は、早期にCRSの発生をなくし、2020年度までに風疹排除(適切なサーベイランス制度のもと、土着株による感染が1年以上確認されないこと)を達成することを目標としている(なお、2020年1~4月の風疹感染者数は73人とCRSが1人、4~5月は3人、CRSは0人15,17))。プライマリケア医には、既存の制度(自治体の助成制度や風疹第5期定期接種など)の積極的利用の促進、また、日常診療内で幅広い年代に対する能動的な啓発および接種歴の確認・推奨を行うことが望まれる。参考となるサイト(公的助成情報、主要研究グループ、参考となるサイト)こどもとおとなのワクチンサイト予防接種啓発ツール 厚生労働省1)2012~2014年に出生した先天性風疹症候群45例のフォローアップ調査結果報告(IASR;Vol.39:p33-34.)2)Global Measeles and Rubella Monthly Update(pptx). Measeles and Rubella Surveillansce Data WHO (Accessed on March,2020)3)新型コロナウイルス感染症に対するQ&A 日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会(2020年4月20日更新)4)医療機関での麻疹対応ガイドライン第7版 国立感染症研究所 感染症疫学センター (2018年4月17日)5)国立感染症研究所 病原微生物検出情報 麻疹[2019年2月現在](IASR Vol.40.p.49-51.)6)国立感染症研究所 病原微生物検出情報 麻疹の抗体保有状況2018年(IASR.Vol.40.p.62-63.)7)多屋馨子. モダンメディア. 2019;65:29-37.8)Ghidini A,et al. West J Med. 1993;159:366-373.9)風疹および先天性風疹症候群の発生に関するリスクアセスメント第3版(国立感染症研究所 2018年1月24日)10)風疹流行に関する緊急情報:2019年12月25日現在(国立感染症研究所 感染症疫学センター)11)風疹Q&A[2018年1月30日改定](国立感染症研究所)12)麻疹風疹予防接種の実施状況(厚生労働省)13)医療関係者のためのワクチンガイドライン 第3版(日本環境感染学会)14)風疹の追加的対策 専用ページ(厚生労働省)15)風疹に関する疫学情報 2020年4月8日現在(国立感染症研究所 感染症疫学センター )16)予防接種啓発ツール(厚生労働省)17)風疹に関する疫学情報 2020年6月3日現在(国立感染症研究所 感染症疫学センター)講師紹介

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JAK1を強く阻害する関節リウマチ治療薬「リンヴォック錠7.5mg/15mg」【下平博士のDIノート】第51回

JAK1を強く阻害する関節リウマチ治療薬「リンヴォック錠7.5mg/15mg」今回は、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬「ウパダシチニブ水和物(商品名:リンヴォック錠7.5mg/15mg、製造販売元:アッヴィ合同会社)」を紹介します。本剤は、中等度から重度の関節リウマチ患者において、メトトレキサート(MTX)などとの併用の有無にかかわらず、1日1回の投与で臨床的寛解を達成することが期待されています。<効能・効果>本剤は既存治療で効果不十分な関節リウマチ(関節の構造的損傷の防止を含む)の適応で、2020年1月23日に承認され、4月24日に発売されました。なお、2021年5月に「既存治療で効果不十分な関節症性乾癬」、同年8月に「既存治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎」の効能・効果が追加されました。<用法・用量>通常、成人にはウパダシチニブとして15mgを1日1回経口投与します。なお、患者の状態に応じて7.5mgを1日1回投与することもできます。免疫抑制作用の増強により感染症リスクの増加が予想されるので、本剤とほかのJAK阻害薬や生物学的製剤、タクロリムス、シクロスポリン、アザチオプリン、ミゾリビンなどの免疫抑制薬(局所製剤以外)との併用はできません。<安全性>関節リウマチ患者を対象とした本剤のプラセボ対照第III相試験において、本剤が投与された1,035例中275例(26.6%)に臨床検査値異常を含む副作用が認められました。主な副作用は、悪心23例(2.2%)、上気道感染、頭痛、アラニンアミノトランスフェラーゼ増加各19例(1.8%)、血中クレアチンホスホキナーゼ増加17例(1.6%)、気管支炎16例(1.5%)などでした(承認時)。なお、重大な副作用として、肺炎(0.1%未満)、帯状疱疹(0.7%)、結核(頻度不明)などの重篤な感染症(日和見感染症を含む)、消化管穿孔(頻度不明)、好中球減少(1.4%)、リンパ球減少(0.8%)、ヘモグロビン減少(貧血:0.7%)、ALT上昇(1.8%)、AST上昇(1.4%)、間質性肺炎(頻度不明)および静脈血栓塞栓症(頻度不明)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.この薬はJAKという酵素を強く阻害することで、関節リウマチの症状を改善します。2.薬の成分が少しずつ出るようにコーティングされているので、かみ砕かないでください。3.本剤の服用を長期間続けると、免疫力が低下する可能性があります。持続する発熱やのどの痛み、息切れ、咳、倦怠感、水疱、痛みを伴う皮疹などが現れた場合は、すぐにご連絡ください。4.この薬を服用している間は、生ワクチン(麻疹、風疹、おたふく風邪、水痘・帯状疱疹、BCGなど)の接種ができません。接種の必要がある場合は主治医に相談してください。5.(妊娠可能年齢の女性の場合)この薬を服用中および最終服用後一定の期間は、適切な避妊を行ってください。なお、国内治験においては、最終投与から30日まで避妊を行うよう定められていました。<Shimo's eyes>関節リウマチの薬物療法は近年大きく進展しています。通常、発症初期はMTXをはじめとする従来型合成疾患修飾性抗リウマチ薬(csDMARD)が使用されますが、十分量用いても効果が不十分な場合には、生物学的製剤、もしくは本剤のようなJAK阻害薬が選択されます。本剤は、関節リウマチに適応を持つ4番目のJAK阻害薬です。JAKには4種類のサブタイプ(JAK1、JAK2、JAK3、Tyk2)があり、本剤は炎症性サイトカインシグナルの伝達においてとくに重要な役割を持つJAK1を強く阻害することで、TNFαやIL-6の働きを遮断し、炎症性サイトカインの産生を抑制すると考えられています。本剤は、MTXで効果不十分な関節リウマチ患者を対象とした第III相無作為化二重盲検比較試験で、12週時のACR50改善率、患者による疼痛評価およびHAQ-DIのベースラインからの変化量において、ヒト型抗ヒトTNFαモノクローナル抗体製剤アダリムマブ(商品名:ヒュミラ)に対する優越性が示されました。また、ウパダシチニブ+MTX群では、プラセボ+MTX群およびアダリムマブ+MTX群と比較して、有意に高い臨床的寛解達成率が示されました。安全性に関する留意事項としては、警告欄で結核、肺炎などの重篤な感染症について注意喚起されています。また、トファシチニブ(同:ゼルヤンツ)、ペフィシチニブ(同:スマイラフ)と同様に、重度の肝機能障害患者には禁忌となっています。本剤は徐放性フィルムコーティング錠であり、調剤時に半割・粉砕することはできません。患者に対しても、割ったりかみ砕いたりしないように伝えましょう。※2022年3月、添付文書の改訂情報を基に一部内容の修正を行いました。参考1)PMDA添付文書 リンヴォック錠7.5mg/リンヴォック錠15mg

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第8回 話して生じる飛沫は空中を8分間漂い、新たなCOVID-19感染の火種となりうる

はしか(麻疹)、インフルエンザウィルス、結核菌等の呼吸器ウイルスは咳やくしゃみで放たれた飛沫を介して感染を広げます。飛沫のもとである口腔液に大量に新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が存在することが発症患者1)のみならず無症状の患者2)でも確認されており、おそらくSARS-CoV-2も飛沫に収まって浮遊できるでしょう。普通に話しても飛沫が生じることは、咳やくしゃみによる飛沫ほどは広く知られておらず、話したときに生じてしばらく浮遊しうる直径30μm未満の飛沫の意義はこれまで蚊帳の外に置かれていました。しかし米国NIH支部の国立糖尿病・消化器病・腎臓病研究所(NIDDK)の研究者らの試験結果によると、その認識は改める必要があるようです。先週水曜日にPNAS誌に掲載されたその報告によると、話したときに生じる飛沫は空中に8分間は浮遊し、新たなSARS-CoV-2感染の火種になるおそれがあるといいます3,4)。研究者は被験者に“stay healthy(健康でいよう)”というフレーズを25秒間繰り返し言ってもらい、そのときに発生する飛沫の浮遊(30cm落下)時間半減期を測定しました。その時間が8分間であり、話して生じた飛沫の直径はおよそ4 μm、口を出る前の乾燥前の粒子の直径は12μm以上と推定されました。この結果によると、1分間大声で話せば、ウイルスを含有する少なくとも1,000粒の飛沫が8分を超えて空中に留まり、その量はそれらを吸い込んだ誰かにCOVID-19を誘発しうるレベルだといいます。今回の研究を実施した研究チームは、話しているときの飛沫を撮影した結果を先月4月中旬にNEJM誌に報告しており5)、その試験では、布マスクをして話せば前方への飛沫の発散を抑えられることが示されています。アメリカ疾病管理センター(CDC)も推奨するマスク着用が、SARS-CoV-2の広がりを遅らせうる大事な役割を担うことを、前回のその報告と今回のPNAS報告は示していると、NIDDK広報担当者は米国の新聞USA TODAY紙に話しています6)。マスクの効果に関するこれまでの試験を集めて検討したPNAS誌投稿査読前報告7,8)の著者の見解はさらに揺るぎなく、公共の場でのマスク着用は、皆が守ればSARS-CoV-2の広まりを確実に防ぐ(Public mask wearing is most effective at stopping spread of the virus when compliance is high)と結論しています。参考1)Chan JF,et al. J Clin Microbiol. 2020 Apr 23;58.2)Wolfel R,et al. Nature. 2020 Apr 1. [Epub ahead of print]3)Droplets from Speech Can Float in Air for Eight Minutes: Study / TheScientist4)Stadnytskyi V,et al. Proc Natl Acad Sci USA. 2020 May 13. [Epub ahead of print]5)Anfinrud P,et al. N Engl J Med. 2020 Apr 15. [Epub ahead of print]6)Simply talking in confined spaces may be enough to spread the coronavirus, researchers say / USAToday7)If 80% of Americans Wore Masks, COVID-19 Infections Would Plummet, New Study Says / VanityFair8)Face Masks Against COVID-19: An Evidence Review. Preprints. Version 2 : Received: 12 May 2020

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新型コロナ陽性率とBCG接種歴の関係は?/JAMA

 一時期、BCGワクチン接種(以下、BCG接種)をしている人は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)にかかりにくい、というニュースが世界中を賑わした。ドイツやアメリカではBCG接種によるCOVID-19予防の有用性を検証するために臨床試験も始まっており、動向が気になるところである。このような状況に先駆け、今回、イスラエル・テルアビブ大学のUri Hamiel氏らは「小児期のBCG接種が成人期のCOVID-19に対して保護効果があるという考えを支持しない」という研究結果を発表。本研究で小児期のBCG接種群と非接種群での新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)陽性の結果割合が類似していたことを明らかにした。ただし、重症者の症例数が少ないため、BCG接種状況と疾患重症度との関連については結論付けられないとしている。JAMA誌オンライン版5月13日号のリサーチレターに報告した。 イスラエルでは1955~1982年の間、国家政策として新生児に対する BCG接種を行い、接種率は90%以上だった。しかし、1982年以降のBCG接種対象者は結核流行地からの移住者に限定されていた。 本研究は2020年3月1日~4月5日の期間、COVID-19症状(咳嗽、呼吸苦、発熱)を有する全症例を対象にRT-PCR法を実施、検査陽性率を1979〜1981年生まれ(39〜41歳)と1983~1985年生まれ(35〜37歳)で比較検討した大規模な人口ベースコホート。本研究の限界はイスラエルで出生しておらずワクチン接種状況が不明な人口が含まれたことだった。 主な結果は以下のとおり。・検査結果7万2,060件のうち、1979~1981年に生まれの結果は3,064件(出生コホート:1.02%、男性:49.2%、平均年齢40歳)、BCG非接種である1983~1985年生まれの結果は2,869件であった(同:0.96%、男性:50.8%、平均年齢35歳)。・SARS-CoV-2陽性となった割合について、BCG接種群とBCG非接種群で統計的有意差はなかった(361例[11.7%] vs. 299例[10.4%]、接種群との差1.3%、95%信頼区間[CI]:-0.3~2.9%、p=0.09)。・また、10万人あたりの検査陽性の割合にも統計的有意差はなかった(BCG接種群121 vs.BCG非接種群100、各群差:21、95%CI:-10〜50、p=0.15) 。・各群において重症疾患(機械的換気またはICU入室)は1例いたものの、死亡は報告されなかった。

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第7回 COVID-19に立ち向かう医療従事者をBCGワクチンで守れるか? 国際試験が進行中

新生児の結核予防にほぼ100年も前から使われてきたワクチンがほかの感染症も防ぐという裏付けに触発され、フランスの微生物学者の名にちなんで名付けられたそのワクチン・カルメットゲラン桿菌(BCG)で、目下の新型コロナウイルス感染(COVID-19)流行を防ぐことができるのか、研究者が調べ始めています。BCGワクチンの成分は結核を引き起こす細菌の類縁菌・Mycobacterium bovisを弱毒化したものです。これまでに40億人以上に接種されており、世界で最も広く投与されているワクチンの一つとなっています1)。BCGは結核に対する特異的な効果のみならず、幅広く、多くの感染症に対し非特異的に防御する効果を免疫系に備わせる働きがあります2)。たとえば、新生児の死亡率が高いギニアビサウでの3試験のメタ解析の結果、低体重出生児へのBCG-Denmark(BCGワクチンの1つ)接種は生後28日間の死亡率の38%低下と関連し、その効果は主に肺炎や敗血症による死亡の減少によってもたらされました3)。12~17歳の若者が参加した南アフリカでの無作為化試験ではBCG-Denmark接種で上気道感染症発現率がプラセボ群に比べて73%(2.1% vs 7.9%)低下しました2,4)。オランダのMihai Netea氏等による試験では、ウイルスへの効果も示唆されています。健康な成人にBCG-Denmarkを接種してしばらくしてからあえて弱毒化黄熱病ウイルスを投与したところ、血中ウイルス量がプラセボ投与に比べて有意に減少しました5)。そのような試験や研究成果を背景にして、COVID-19への効果の緒を掴むべく、BCG接種義務国とそうでない国を比較した結果が報告されるようになっています。たとえば査読前報告掲載サイトmedRxivに今月初めに掲載された報告によると、BCG接種が義務であることは流行最初の30日間のCOVID-19症例数や死亡数の増加がより緩やかであることと関連しました6)。3月末にmedRxivに掲載された別の報告ではイタリア、米国、オランダ等のBCGワクチンが広まっていない国はワクチンが広く接種されている国に比べて流行の被害がより大きいことが示されています7)。ただしそれらの報告は因果関係を示すものではありません。また、個々のヒト単位の比較ではなく国と国の比較には結果を偏らせる多くの要因が存在し、それらをすべて差し引いて解析することは不可能です。BCGワクチンをかれこれ20年調べているデンマークの疫学者Christine Stabell Benn氏は、COVID-19に関するそれらの最近のBCGワクチンの検討データは裏付けの重みとしては最底辺の類のものだが、長年に渡って蓄積された裏付けによると、BCGワクチンのCOVID-19予防効果にかけてみるのは悪くないと科学ニュースThe Scientistに話しています。Benn氏はすでに動きだしており、COVID-19のリスクが最も高い人々、すなわちその対処にあたる医療従事者1,500人を募る試験を始めています。BCGで欠勤が減るかどうかやCOVID-19発現が減るかどうか等が調べられます。デンマークでは1980年代までBCGワクチンが使われており、学校でかつてBCGワクチン接種経験がある医療従事者も試験には混じるでしょう。Benn氏は過去にBCG接種経験がある人への更なる接種は接種経験がない人より有効だろうと想定しています。Benn氏と協力関係にある上述のNetea氏はオランダで同様の試験を開始しています。また、オーストラリア出身のメディア王マードック氏の母親Dame Elisabeth Murdoch(エリザベス マードック)氏の支援を受けて30年前の1986年に設立された同国の小児健康研究所Murdock Children’s Research Institute(MCRI)は、Netea氏も協力する国際試験BRACEを3月27日に始めています。医療従事者を対象としたそれらの試験結果は待ち遠しいですが、無作為化試験以外で先走ってCOVID-19予防にBCGを接種してはいけないと世界保健機関(WHO)は釘を刺しています。あまり当てにならない最近の査読前報告を高品質な裏付けと勘違いしてBCGに群がると、すでに不足気味となっているBCGワクチンがそれを必要としている乳幼児に行き渡らなくなる恐れがあります。実際、アフリカの一部では小児向けのワクチンが医療従事者に横流しされていると上述のBRACE試験を率いるNigel Curtis氏は聞いており、「軽はずみにワクチンを使い始めると幼い子にツケが回る。いまあるワクチンは赤ちゃんの結核を予防するものだ」とThe Scientistに話しています。試験外での不適切な使用を注意しつつCurtis氏が進めているBRACE試験を支援する動きは広がっており、最近になってその被験者数はゲイツ財団(Bill & Melinda Gates Foundation)からの1,000万ドル支援を受けて4,000人から1万人へと大幅に増えています。5月5日の発表によると、試験にはすでに医療従事者2,500人が組み入れられています8)。感染症に広く効きうるBCGワクチン等が病因狙い撃ちワクチン完成までの橋渡しの役割を担うことは、目下のCOVID-19流行や将来の感染流行への対処に大いに貢献するだろうとCurtis氏等はLancet誌に記しています2)。参考1)An Old TB Vaccine Finds New Life in Coronavirus Trials / TheScientist2)Curtis N,et al. Lancet. 2020 Apr 30.3)Biering-Sørensen S,et al. Clin Infect Dis. 2017 Oct 1;65:1183-1190. 4)Nemes E,et al. N Engl J Med. 2018 Jul 12;379:138-149.5)Arts RJW,et al. Cell Host Microbe. 2018 Jan 10;23:89-100.6)Mandated Bacillus Calmette-Guerin (BCG) vaccination predicts flattened curves for the spread of COVID-19. medRxiv. May 04, 20207)Correlation between universal BCG vaccination policy and reduced morbidity and mortality for COVID-19: an epidemiological study. medRxiv. March 28, 20208)10M grant enables MCRI’s BCG vaccine trial to expand internationally, enrol 10,000 healthcare workers / Murdoch Children’s Research Institute’s (MCRI)

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薬剤耐性結核、ベダキリン+pretomanid+リネゾリドが有効/NEJM

 高度薬剤耐性結核症患者の治療において、ベダキリン+pretomanid+リネゾリド併用療法による26週間の治療は、治療終了から6ヵ月時のアウトカムが良好な患者の割合が90%と高く、有害事象は全般に管理可能であることが、南アフリカ共和国・ウィットウォータースランド大学のFrancesca Conradie氏らの検討(Nix-TB試験)で示された。研究の成果は、NEJM誌2020年3月5日号に掲載された。高度薬剤耐性結核患者の治療選択肢は限られており、アウトカムは不良である。pretomanidは、最近、超多剤耐性(XDR)肺結核症(イソニアジド、リファンピシン、フルオロキノロン系抗菌薬、および1剤以上の注射薬[アミカシン、カプレオマイシン、カナマイシン]に抵抗性)または複雑型多剤耐性(MDR)肺結核症(イソニアジド、リファンピシンに抵抗性で、治療に反応しない、または副作用で治療が継続できない)の成人患者の治療において、ベダキリンおよびリネゾリドとの併用レジメンが、「限定的集団における抗菌薬および抗真菌薬の開発経路(Limited Population Pathway for Antibacterial and Antifungal Drugs)」の下で、米国食品医薬品局(FDA)の承認を得ている。経口3剤の有用性を評価する非盲検単群試験 本研究は、結核菌に対する殺菌活性を有し、既知の耐性がほとんどない3つの経口薬の併用の有用性を評価する非盲検単群試験であり、現在も南アフリカの3施設で追跡調査が継続されている(TB Allianceなどの助成による)。 対象は、XDR結核症、および治療が奏効しなかったか、副作用のために2次治療レジメンが中止されたMDR結核症の患者であった。 ベダキリンは、400mgを1日1回、2週間投与された後、200mgを週に3回、24週間投与された。pretomanidは200mgを1日1回、26週間投与され、リネゾリドは1,200mgを1日1回、最長26週間投与された(有害事象によって用量を調節した)。 主要エンドポイントは、不良なアウトカムの発生とし、細菌学的または臨床的な治療失敗、あるいは治療終了から6ヵ月までの追跡期間中の再発と定義した。6ヵ月時に、臨床症状が消失し、培養陰性で、不良なアウトカムに分類されなかった患者を良好なアウトカムとした。XDR例とMDR例で、有効性に差はない 2015年4月16日~2017年11月15日の期間に109例(XDR例71例、MDR例38例)が登録された。ベースラインの年齢中央値は35歳(範囲:17~60)、男性が52%、黒人が76%であった。HIV陽性例が51%で、胸部X線画像で空洞形成が84%にみられ、BMI中央値は19.7(12.4~41.1)であった。 intention-to-treat(ITT)解析では、治療終了から6ヵ月時に11例(10%)が不良なアウトカムを呈し、98例(90%、95%信頼区間[CI]:83~95)が良好なアウトカムであった。修正ITT解析およびper-protocol解析でも結果はほぼ同様であった。XDR例の良好なアウトカムの患者は63例(89%、79~95)、MDR例では35例(92%、79~98)だった。 不良なアウトカムの11例のうち、死亡が7例(6例は治療期間中に死亡、1例は追跡期間中に不明な原因により死亡)で、治療期間中の同意撤回が1例、追跡期間中の再発が2例、追跡不能が1例であった。 治療期間中に、全例で1つ以上の有害事象の発現または増悪が認められた。重篤な有害事象は19例(17%)にみられ、HIV陽性例と陰性例で頻度は類似していた。リネゾリドの毒性作用として予測された末梢神経障害が81%に、骨髄抑制は48%に発現し、頻度は高かったものの管理可能であったが、リネゾリドの減量または中断が多かった。 著者は、「XDRおよびMDRという治療困難な結核症で90%という高い治療成功率が達成された。これは薬剤感受性結核症における標準治療(イソニアジド、リファンピシン、ピラジナミド、エタンブトール)の成績とほぼ同等である」としている。

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クローン病〔CD : Crohn’s disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義クローン病(Crohn’s disease: CD)は消化管の慢性肉芽腫性炎症性疾患であり、発症原因は不明であるが、免疫異常などの関与が考えられる。小腸、大腸を中心に浮腫や潰瘍を認め、腸管狭窄や瘻孔など特徴的な病態を生じる。■ 疫学主として若年者(10代後半~30代前半)に好発する。年々増加傾向にあり、わが国のCDの有病率は最近15年間で約4倍に増加、患者数4万人以上と推測され、日本では1.8:1.0の比率で男性に多い。現在も増加していると考えられる。■ 病因原因はいまだ不明であるが、遺伝的素因と食事などの環境因子の両者が関与し、消化管局所の免疫学的異常により、慢性の肉芽腫性炎症が持続する多因子疾患である。喫煙が増悪因子とされている。ほかに長鎖脂肪酸、多価不飽和脂肪酸、精製糖質の過剰摂取などが増悪因子として想定されている。■ 症状主症状は腹痛(70%)、下痢(80%)、体重減少・発熱(40~70%)である。肛門病変はCD患者の半数以上にみられ、先行する場合も多い(36~81%)。検査値の異常として、炎症所見(白血球数、CRP、血小板数、赤沈)の上昇、低栄養(血清総蛋白、アルブミン、総コレステロール値の低下)、貧血を示す。■ 分類正しい治療を考える上で、病変部位、疾患パターン、活動度・重症度の把握が重要である。病変部位は小腸型、小腸大腸型、大腸型の3つに大きく分類される。日本では小腸型20%、小腸大腸型50%、大腸型30%とされている。疾患パターンとして炎症型、狭窄型、瘻孔形成型の3通りに分類することが国際的に提唱されている。さらに疾患活動性として、症状が軽微もしくは消失する寛解期と、症状のある活動期に分けられる。重症度を客観的に評価するために、CD活動指数CDAI(表1)、IOIBDなどがあるが、日常診療に適した重症度分類は現在のところまだないため、患者の自覚症状、臨床所見、検査所見から総合的に評価する。画像を拡大する■ 予後CDは再燃、寛解を繰り返し慢性に経過する疾患である。病初期は消化管の炎症が中心であるが、徐々に狭窄型・瘻孔型へ移行し、手術が必要となる症例が多い。2000年に提唱されたCDの分類法であるモントリオール分類(表2)では発症時年齢、罹患範囲、病気の性質により分類されている。病型や病態は罹患期間により比率が変化し、Cosnes氏らは診断時に炎症型が85%であっても、20年後には88%が狭窄型から瘻孔型へ移行すると報告している 。累積手術率は発症後経過年数とともに上昇し、生涯手術率は80%以上になるという報告もある。海外での累積手術率は10年で34~71%である。わが国の累積手術率も、10年で70.8%、初回手術後の5年再手術率は16~43%、10年で26~67%と報告されている。とくに瘻孔型では手術率、術後再発率とも高くなっている。死亡率に関しては、Caravanらのメタ解析によるとCDの標準化死亡率は1.5(1.3~1.7)と算出されている。死亡率は過去30年で減少傾向にあるが、CDの死亡率比は一般住民よりやや高いとの報告がある。わが国では、やや高いとする報告と変わらないとする報告があり、死亡因子としては肝胆道疾患、消化管がん、肺がんが挙げられている。画像を拡大する2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 診断基準厚生労働省の診断基準(表3)に沿って診断を行う。2018年に改訂した診断基準(案) ではCDAI(Crohn’s disease activitiy index)や合併症、炎症所見、治療反応に基づくECCO(European Crohn’s and colitis organisation )(表4)の分類に準じた重症度分類(軽症、中等症、重症)が記載されている。画像を拡大する■ 診断の実際若年者に、主症状である腹痛(70%)、下痢(80%)、体重減少・発熱(40~70%)が続いた場合CDを念頭に置く。肛門病変はCD患者の半数以上にみられ、先行する場合も多い(36~81%)。血液検査にて炎症所見、低栄養、貧血がみられたら、CDを疑い終末回腸を含めた下部消化管内視鏡検査および生検を行う。診断基準に含まれる特徴的な所見および生検組織にて、非乾酪性類上皮肉芽腫が検出されれば診断が確定できる。病変の範囲、治療方針決定のためにも、上部消化管内視鏡検査、小腸X線造影検査を行うべきである。CDと鑑別を要する疾患として、腸結核、腸型ベーチェット病、単純性潰瘍、非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)潰瘍、感染性腸炎、虚血性腸炎、潰瘍性大腸炎などがあるため、服薬歴の確認・便培養・ツベルクリン反応およびクォンティフェロン(QFT)、病理組織検査を確認する。診断のフローチャートを図に示す。画像を拡大する1)画像検査所見(1)下部消化管内視鏡検査、小腸バルーン内視鏡検査検査前に、問診やX線にて強い狭窄症状がないか確認する。60~80%の患者では大腸と終末回腸が罹患する。病変は非連続性または区域性に分布し、偏側性で介在部はほぼ正常である。活動性病変として、縦走潰瘍と敷石像が特徴的な所見である。小病変としてはアフタや不整形潰瘍が認められる。(2)上部消化管内視鏡検査胃では、胃体上部小弯側の竹の節状外観、前庭部のたこいぼびらん・不整形潰瘍が認められる。十二指腸では、球部と下行脚に好発し、多発アフタ、不整形潰瘍、ノッチ様陥凹、結節状隆起が認められる。(3)消化管造影検査(X線検査)病変の大きさや分布、狭窄の程度、瘻孔の有無について簡単に検査ができる。所見の特徴は、縦走潰瘍、敷石像、非連続性病変、瘻孔、非対称性狭窄(偏側性変形)、裂孔、および多発するアフタがある。(4)その他近年、機器の性能向上および撮影技法の開発により、超音波検査、CT、MRIにより腸管自体を詳細に描出することが可能となった。小腸病変の診断に、経口造影剤で腸管内を満たし、造影CT検査を行うCT enterography(CTE)や、MRI撮影を行うMR enterography(MRE)が欧米では広く用いられており、わが国の一部の医療施設でも用いられている。撮影法の工夫により大腸も同時に評価ができるMR enterocolonography(MREC)も一部の施設では行われており、検査が標準化されれば、繰り返し行う場合も侵襲が少なく、内視鏡が到達できない腸管の評価にも有用と考えられる。2)病理検査所見CDには病理診断上、絶対的な基準となるものがなく、種々の所見を組み合わせて診断する。生検診断をするにあたっては、その有無を多数の生検標本で連続切片を作成し検討する。組織学的所見として重要なものは(1)全層性炎症像、(2)非乾酪性類上皮肉芽腫の検出、(3)裂溝、(4)潰瘍である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)CDは発症原因が不明であり、経過中に寛解と再燃を繰り返すことが多い。CDの根治的治療法は現時点ではないため、治療の目標は病勢をコントロールし、炎症を繰り返すことによる患者のQOL低下を予防することにある。そのため薬物療法、栄養療法、外科療法を組み合わせて症状を抑えるとともに、栄養状態を維持し、炎症の再燃や術後の再発を予防することが重要である。■ 内科治療(主に薬物治療として)活動期の治療と寛解期の治療に大別される。活動期CDの治療方針は、疾患の重症度、病変範囲、合併症の有無、患者の社会的背景を考慮して決定する。初発のCDでは、診断および病変範囲、重症度の確定と疾患に関する教育や総合的指導のため、専門医にコンサルトすることが望ましい。また、ステロイド依存や免疫調節薬の投与経験がない場合においても、生物学的製剤の投与に関しては専門医にコンサルトすべきである。わが国における平成30年度 CD治療指針、および各治療法の位置づけ(表5)を示す。画像を拡大する1)5-ASA製剤CDに適応があるのはメサラジン(商品名:ペンタサ)、サラゾスルファピリジン(同:サラゾピリン)の経口薬である。治療指針においては軽症~中等症の活動期の治療、寛解維持療法、術後再発予防のための治療薬として推奨されている。CDの寛解導入効果および寛解維持効果は限定的であるが有害性は低い。腸の病変部に直接作用し炎症を抑えるため、製剤の選択には薬剤の放出機序に注意して病変範囲によって決める必要がある。2)ステロイド(GS)5-ASA製剤無効例、全身症状を有する中等症以上の症例で寛解導入に有効である。関節症状、皮膚症状、眼症状などの腸管外合併症を有する場合や、発熱、CRP高値などの全身症状が著明な場合は、最初からステロイドを使用する。寛解維持効果はないため、副作用の面からも長期投与は避けるべきである。ステロイド依存となった場合は、少量の免疫調節薬(アザチオプリン〔AZA〕、6-メルカプトプリン〔6-MP〕)を併用し、ステロイドからの離脱を図る。軽症あるいは中等症例の回盲部病変の寛解導入には、全身性副作用を軽減し局所に作用するブデソニド(同:ゼンタコート)9mg/日の投与が有効である。3)免疫調節薬(AZA、6-MPなど)免疫調節薬として、AZA(同:イムラン、アザニン)、6-MP(同:ロイケリン)が主なものであり、AZAのみ保険適用となっている。AZAと6-MPは寛解導入、寛解維持に有効であり、ステロイド減量効果を有する。欧米の使用量はAZA 2.0~3.0mg/kg/日、6-MP 50mg/日または1.5mg/kg/日であるが、日本人は代謝酵素の問題から用量依存性の副作用が生じやすく、欧米より少量のAZA(50~100mg/日)、6-MP(20~50mg/日)が投与されることが多い。チオプリン製剤の副作用の中で、服用開始後早期に発現する重度の急性白血球減少と全脱毛がNUDT15遺伝子多型と関連することが明らかとされている。2019年2月よりNUDT15遺伝子多型検査が保険適用となっており、初回チオプリン製剤治療前には本検査を施行し、表6に従ってチオプリン製剤の適応を判断することが推奨される。AZA/6-MPの効果発現は緩徐で2~3ヵ月かかることが多いが、長期に安定した効果が期待できる。適応としてステロイド減量効果、難治例の寛解維持目的、瘻孔病変、術後再燃予防、抗TNF-α抗体製剤を使用する際の相乗効果があげられる。画像を拡大する4)抗体製剤(1)抗TNF-α抗体製剤わが国ではインフリキシマブ(同:レミケード)、アダリムマブ(同:ヒュミラ)が保険適用となっている。抗TNF-α抗体製剤は、CDの寛解導入、寛解維持に有効で外瘻閉鎖維持効果を有する。適応として、中等症~重症のステロイド・栄養療法が無効な症例、重症例で膿瘍や狭窄がない治療抵抗例、抗TNF-α抗体製剤で寛解導入された症例の寛解維持療法、膿瘍がコントロールされた肛門病変が挙げられる。早期に免疫調節薬と併用での導入が治療成績がよいとの報告があるが、副作用と医療費の問題もあり、全例導入は避けるべきである。早期導入を進める症例として、肛門病変を有する症例、穿孔型の症例、若年発症が挙げられる。(2)抗IL12/23p40抗体製剤2017年5月より中等症から重症の寛解導入および維持療法としてウステキヌマブ (同:ステラーラ)が使用可能となっている。導入時のみ点滴静注(体重あたり、55kg以下260㎎、55kgを超えて85kg以下390㎎、85kgを超える場合520㎎)、その後は12週間隔の皮下注射もしくは活動性が高い場合は8週間隔の皮下注射であり、投与間隔が長くてもよいという特徴がある。また、安全性が高いことも特徴である。腸管ダメージの進行があまりない炎症期の症例に有効との報告がある。肛門病変への効果については、まだ統一見解は得られていない。(3)抗α4β7インテグリン抗体製剤2018年11月より中等症から重症の寛解導入および維持療法としてベドリズマブ (同:エンタイビオ)が使用可能となっている。インフリキシマブ同様0週、2週、6週で投与後維持療法として8週間隔の点滴静注 (30分/回)を行う。抗TNF-α抗体製剤failure症例よりもnaive症例で寛解導入および維持効果を示した報告が多い。日本での長期効果の報告に関してはまだ症例数も少なく、今後のデータ集積が必要である。5)栄養療法活動期には腸管の安静を図りつつ、栄養状態を改善するために、低脂肪・低残渣・低刺激・高蛋白・高カロリー食を基本とする。糖質・脂質の多い食事は危険因子とされている。「クローン病診療ガイドライン(2011年)」では、栄養療法はステロイドとともに主として中等症以上が適応となり 、痔瘻や狭窄などの腸管合併症には無効である。1日30kcal/kg以上の成分栄養療法の継続が再発防止に有効であるが、長期にわたる成分栄養療法の継続はアドヒアランスの問題から困難であることも少なくない。総摂取カロリーの半分を成分栄養剤で摂取すれば、寛解維持に有効であることが示されており、1日900kcal以上を摂取するhalf EDが目標となっている。6)抗菌薬メトロニダゾール、シプロフロキサシンなどの抗菌薬は中等度~重症の活動期の治療薬として、肛門部病変の治療薬として有効性が示されている。病変部位別の比較では小腸病変より大腸病変に対して有効性が高いとされる。7)顆粒球・単球吸着療法(granulocyte/monocyte apheresis: GMA)2010年より大腸病変のあるCDに対しGMAが適応拡大となった。GMAは単独治療の適応はなく、既存治療の有効性が乏しい場合に併用療法として考慮すべきである。施行回数は週1回×5回を1クールとして、最大2クールまで施行する。8)内視鏡的バルーン拡張術(endoscopic balloon dilatation: EBD)CDは、経過中に高い確率で外科手術を要する疾患であり、手術適応の半数以上は腸管狭窄である。EBDは手術回避の目的として行われる内視鏡的治療であり、治療指針にも取り上げられている。適応としては、腸閉塞症状を伴う比較的短く(3cm以下)屈曲が少ない良性狭窄で、深い潰瘍や瘻孔を伴わないものである。適応外としては、細径内視鏡が通過する程度の狭窄、強度に屈曲した狭窄、長い狭窄、瘻孔合併例、炎症や潰瘍が合併している狭窄である。■ 外科的治療CDの外科的治療は内科的治療で改善しない病変のみに対して行い、QOLの改善が目的である。腸管病変に対する手術では、原則として切除をなるべく小範囲とし、小腸病変に対しては可能な症例では狭窄形成術を行い、腸管はなるべく温存する。5年再手術率16~43%、10年で32~76%と高く、可能な症例では腹腔鏡下手術が有効である。緊急手術、穿孔、広範囲膿瘍形成、複数回の開腹手術既往、腸管外多臓器への複雑な瘻孔などは開腹手術が選択される。厚生労働省研究班治療指針によるCDの手術適応は表7の通りである。完全な腸閉塞、穿孔、大量出血、中毒性巨大結腸症は緊急に手術を行う。狭窄病変については、活動性病変は内科治療、線維性狭窄で口側拡張の著しいもの、短い範囲に多発するもの、狭窄の範囲が長いもの、瘻孔を伴うもの、狭窄症状を繰り返すものは手術適応となる。肛門病変は、難治性で再発を繰り返す痔瘻・膿瘍が外科的治療の対象となる。治療として、痔瘻根治術、シートン法ドレナージ、人工肛門造設(一時的)、直腸切断術が選択される。治療の目標は症状の軽減と肛門機能の保持となる。画像を拡大する4 今後の展望現在、各種免疫を ターゲットとした治験が行われており、進行中の治験を以下に示す。グセルクマブ(商品名:トレムフィア):抗IL-23p19抗体(点滴静注および皮下注射製剤)Upadacitinib:JAK1阻害薬(経口)E6011:抗フラクタルカイン抗体(静注)Filgotinib:JAK1阻害薬(経口)BMS-986165:TYK2阻害療法(経口)5 主たる診療科消化器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療・研究に関するサイト難病情報センター CD(一般利用者と医療従事者向けの情報)東京医科歯科大学消化器内科 「潰瘍性大腸炎・クローン病先端治療センター」(一般利用者向けの情報)JIMRO IBD情報(一般利用者と医療従事者向けの情報)患者会に関するサイトIBDネットワーク(IBD患者と家族向け)1)日比紀文 監修.クローン病 新しい診断と治療.診断と治療社; 2011.2)難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班プロジェクト研究グループ 日本消化器病学会クローン病診療ガイドライン作成委員会・評価委員会.クローン病診療ガイドライン: 2011.3)NPO法人日本炎症性腸疾患協会(CCFJ)編.潰瘍性大腸炎の診療ガイド. 第2版.文光堂; 2011.4)日比紀文.炎症性腸疾患.医学書院; 2010.5)渡辺守.IBD(炎症性腸疾患を究める). メジカルビュー; 2011.公開履歴初回2013年04月11日更新2020年03月09日

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オリーブ橋小脳萎縮症〔OPCA: olivopontocerebellar atrophy〕

1 疾患概要■ 概念・定義オリーブ橋小脳萎縮症(olivopontocerebellar atrophy:OPCA)は、1900年にDejerine とThomasにより初めて記載された神経変性疾患である。本症は神経病理学的には小脳皮質、延髄オリーブ核、橋核の系統的な変性を主体とし、臨床的には小脳失調症状に加えて、種々の程度に自律神経症状、錐体外路症状、錐体路徴候を伴う。現在では線条体黒質変性症(striatonigral degeneration:SND)、Shy-Drager症候群とともに多系統萎縮症(multiple system atrophy:MSA)に包括されている。多系統萎縮症として1つの疾患単位にまとめられた根拠は、神経病理学的にこれらの3疾患に共通してα-シヌクレイン(α-synuclein)陽性のグリア細胞質内封入体(glial cytoplasmic inclusion:GCI)が認められるからである。なお、MSAという概念は1969年にGrahamとOppenheimerにより1例のShy-Drager症候群患者の詳細な臨床病理学的報告に際して提唱されたものである。OPCA、SND、Shy-Drager症候群のそれぞれの原著、さらにMSAという疾患概念が成立するまでの歴史的な経緯については、高橋の総説に詳しく紹介されている1)。その後、2回(1998年、2008年)のコンセンサス会議を経て、現在、MSAは小脳失調症状を主体とするMSA-C(MSA with predominant cerebellar ataxia)とパーキンソン症状を主体とするMSA-P(MSA with predominant parkinsonism)に大別される2)。MSA-Cか、MSA-Pかの判断は、患者の評価時点での主症状を基になされている。したがって従来OPCAと診断された症例は、現行のMSA診断基準によれば、その大半がMSA-Cとみなされる。この点を踏まえて、本稿ではMSA-CをOPCAと同義語として扱う。■ 疫学欧米ではMSA-PがMSA-Cより多いが(スペインでは例外的にMSA-Cが多い3))、わが国ではこの比率は逆転しており、MSA-Cが多い3-6)。このことは神経病理学的にも裏付けられており、英国人MSA患者では被殻、淡蒼球の病変の頻度が日本人MSA患者より有意に高い一方で、橋の病変の頻度は日本人MSA患者で有意に高いことが知られている7)。特定医療費(指定難病)受給者証の所持者数で見ると平成30年度末にはMSA患者は全国で11,406人であるが、この中には重症度基準を満たさない軽症者は含まれていない。そのうち約2/3はMSA-Cと見積もられる。■ 病因いまだ十分には解明されていない。α-シヌクレイン陽性GCIの存在からMSAはパーキンソン病やレビー小体型認知症と共にα-シヌクレイノパチーと総称される。神経症状が見られないpreclinical MSAというべき時期にも黒質、被殻、橋底部、小脳には多数のGCIの存在が確認されている(神経細胞脱落はほぼ黒質、被殻に限局)8)。このことはGCIが神経細胞脱落に先行して起こる変化であり、MSAの病因・発症に深く関与していることを推察するものと思われる。MSAはほとんどが孤発性であるが、ごくまれに家系内に複数の発症者(同胞発症)が見られることがある。このようなMSA多発家系の大規模ゲノム解析からCOQ2遺伝子の機能障害性変異がMSAの発症に関連することが報告されている9)。COQ2はミトコンドリア電子伝達系において電子の運搬に関わるコエンザイムQ10の合成に関わる酵素である。このことから一部のMSAの発症の要因として、ミトコンドリアにおけるATP合成の低下、活性酸素種の除去能低下が関与する可能性が推察されている。また、Mitsuiらは、MSA患者ではGaucher病の原因遺伝子であるGBA遺伝子の病因変異を有する頻度が健常対照者に比べて有意に高いことを報告している10)。このことは日本人患者のみならず、ヨーロッパ、北米の患者でも実証されており、これら3つのサンプルシリーズのメタ解析ではプールオッズ比2.44(95%信頼区間:1.14-5.21)であった。しかも変異保因者頻度はMSA-C患者群がMSA-P患者群よりも高かったとのことである。GBA遺伝子の病因変異は、パーキンソン病やレビー小体型認知症の危険因子としても知られており、MSAが遺伝学的にもパーキンソン病やレビー小体型認知症と一部共通した分子基盤を有するものと考えられる。さらにこの仮説を支持するかのように、中国から日本人MSA患者に高頻度に見られるCOQ2遺伝子のV393A変異がパーキンソン病と関連するという報告が出ている11)。■ 症状MSA-Cの発症は多くは50歳代である3-6)。通常、小脳失調症状(起立時、歩行時のふらつき)で発症する。中には排尿障害などの自律神経症状で発症する症例が見られる。初診時の自覚症状として自律神経症状を訴える患者は必ずしも多くないが、詳細な問診や診察により排尿障害、起立性低血圧、陰萎(勃起不全)などの自律神経症状は高率に認められる。初診時にパーキンソン症状や錐体路徴候が見られる頻度は低い(~20%)6)。診断時には小脳失調症状および自律神経症状が病像の中核をなす。経過とともにパーキンソン症状や錐体路徴候が見られる頻度は上がる。パーキンソン症状が顕在化すると、小脳症状はむしろ目立たなくなる場合がある。パーキンソン症状は動作緩慢、筋強剛が見られる頻度が高く、姿勢保持障害や振戦はやや頻度が下がる。振戦は姿勢時、動作時振戦が主体であり、パーキンソン病に見られる古典的な丸薬丸め運動様の安静時振戦は通常見られない2)。パーキンソン病に比べて、レボドパ薬に対する反応が不良で進行が速い。また、抑うつ、レム睡眠期行動異常、認知症(とくに遂行機能の障害など、前頭葉機能低下)、感情失禁などの非運動症状を伴うことがある。注意すべきは上気道閉塞(声帯外転麻痺など)による呼吸障害である12)。吸気時の喘鳴、いびき(新規の出現、従来からあるいびきの増強や変質など)、呼吸困難、発声障害、睡眠時無呼吸などで気付かれる。これは病期とは関係なく初期でも起こることがある。上気道閉塞を伴う呼吸障害は突然死の原因になりうる。■ 予後日本人患者230人を検討したWatanabeらによれば、MSA全体の機能的予後では発症から歩行に補助具を要するまでが約3年、車いす生活になるまでが約5年、ベッド臥床になるまでが約8年(いずれも中央値)とされる5)。また、発症から死亡までの生存期間は約9年(中央値)である。発症から診断まではMSA全体で3.3±2.0年(MSA-Cでは3.2±2.1年、MSA-Pは3.4±1.7年)とされており5)、したがって診断がついてからの生命予後はおよそ6年程度となる。MSA-CのほうがMSA-Pよりもやや機能的予後はよいとされるが、生存期間には大差がない。発症から3年以内に運動症状(小脳失調症状やパーキンソン症状)と自律神経症状の併存が見られた患者では、病状の進行が速いことが指摘されている5)。The European MSA Study Groupの報告でも、発症からの生存期間(中央値)は9.8年と推定されている4)。また、予後不良の予測因子として、MSA-Pであること、尿排出障害の存在を挙げている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)広く普及しているGilmanらのMSA診断基準(ほぼ確実例)を表に示す2)。表 probable MSA(ほぼ確実なMSA)の診断基準2)孤発性、進行性、かつ成人発症(>30歳)の疾患で以下の特徴を有する。自律神経機能不全―尿失禁(排尿のコントロール不能、男性では勃起不全を伴う)、あるいは起立後3分以内に少なくとも収縮期血圧30mmHg、あるいは拡張期血圧15 mmHgの降下を伴う起立性低血圧― かつ、レボドパ薬に反応が乏しいパーキンソニズム(筋強剛を伴う動作緩慢、振戦、あるいは姿勢反射障害)あるいは、小脳失調症状(失調性歩行に構音障害、四肢失調、あるいは小脳性眼球運動障害を伴う)ここで強調されているのは孤発性、進行性、成人発症(>30歳)である点と自律神経症状が必須である点である。したがって、本症を疑った場合には起立試験(Schellong試験)や尿流動態検査(urodynamic study)が重要である。他疾患と鑑別するうえでもMRI検査は必ず施行すべきである。MSAではMRI上、被殻、中小脳脚、橋、小脳の萎縮は高頻度に見られ(図)、かつ特徴的な橋の十字サイン(hot cross bun sign、図)、被殻外側部の線状高信号(hyperintense lateral putaminal rim)、被殻後部の低信号(posterior putaminal hypointensity)(いずれもT2強調像)が見られる。概してMSA-CではMSA-Pに比べて、橋十字サインを認める頻度は高く、一方、被殻外側部の線状高信号を認める頻度は低い。また、MSAでは中小脳脚の高信号(T2強調像、図)も診断の助けになる。画像を拡大するKikuchiらは[11C]-BF-227を用いたpositron emission tomography(PET)にて、MSA患者では対照者に比べて大脳皮質下白質、被殻、後部帯状回、淡蒼球、一次運動野などに有意な集積が見られたことを報告している13)。BF-227は病理切片にてGCIを染め出すことから、これらの所見はMSA患者脳内のGCI分布を捉えているものと推察されている。上記したようにGCIはMSAのごく早期から生じる病変であることから、[11C]-BF-227 PETは早期診断に有用な画像バイオマーカーになる可能性がある。MSA-Cの鑑別上、最も問題になるのは、皮質性小脳萎縮症(cortical cerebellar atrophy:CCA)である。CCAは孤発性のほぼ純粋小脳型を呈する失調症である。とくに病初期のMSA-Cで自律神経症状やパーキンソン症状が見られない時期(GilmanらのMSA診断基準では“疑い”をも満たさない時期)では両者の鑑別は困難である。仮にCCAと診断しても発症後5年程度はMSAの可能性を排除せず、小脳外症状(特に自律神経症状)の出現の有無やMRI上の脳幹・中小脳脚の萎縮、橋十字サインの出現の有無について注意深く経過観察すべきである。この点は運動失調症研究班で提唱した特発性小脳失調症(idiopathic cerebellar ataxia: IDCA、IDCAは病理診断名であるCCAに代わる臨床診断名である)の診断基準でも強調している14)。なお、桑原らは、MSA-Cにおいては橋十字サインの方が起立性低血圧より早期に出現する、と報告している15)。MSA-CではCCAに比べて臨床的な進行は圧倒的に速い16)。また、Kogaらは臨床的にMSAと診断された134例の剖検脳を検討したが、このうち83例(62%)は病理学的にもMSAと確定診断されたものの、他の51例にはレビー小体型認知症が19例、進行性核上性麻痺が15例、パーキンソン病が8例含まれたと報告している17)。レビー小体型認知症やパーキンソン病がMSAと誤診される最大の理由は自律神経症状の存在によるとされ、一方、進行性核上性麻痺がMSAと誤診される最大の理由は小脳失調症状の存在であった。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)有効な原因療法は確立されていない。個々の患者の病状に応じた対症療法が基本となる。対症療法としては、薬物治療と非薬物治療に大別される。■ 薬物治療1)小脳失調症状プロチレリン酒石酸塩水和物(商品名:ヒルトニン)やタルチレリン水和物(同:セレジスト)が使用される。2)自律神経症状主な治療対象は排尿障害(神経因性膀胱)、起立性低血圧、便秘などである。MSAの神経因性膀胱では排出障害(低活動型)による尿勢低下、残尿、尿閉、溢流性尿失禁、および蓄尿障害(過活動型)による頻尿、切迫性尿失禁のいずれもが見られる。排出障害に対する基本薬はα1受容体遮断薬であるウラピジル(同:エブランチル)やコリン作動薬であるべタネコール塩化物(同:ベサコリン)などである。蓄尿障害に対しては、抗コリン薬が第1選択である。抗コリン薬としてはプロピベリン塩酸塩(同:バップフォー)、オキシブチニン塩酸塩(同:ポラキス)、コハク酸ソリフェナシン(同:ベシケア)などがある。起立性低血圧には、ドロキシドパ(同:ドプス)やアメジニウムメチル硫酸塩(同:リズミック)などが使用される。3)パーキンソン症状パーキンソン病に準じてレボドパ薬やドパミンアゴニストなどが使用される。4)錐体路症状痙縮が強い症例では、抗痙縮薬が適応となる。エペリゾン塩酸塩(同:ミオナール)、チザニジン塩酸塩(同:テルネリン)、バクロフェン(同:リオレサール、ギャバロン)などである。■ 非薬物治療患者の病期や重症度に応じたリハビリテーションが推奨される(リハビリテーションについては、参考になるサイトの「SCD・MSAネット」のSCD・MSAリハビリのツボを参照)。上気道閉塞による呼吸障害に対して、気管切開や非侵襲的陽圧換気療法が施行される。ただし、非侵襲的陽圧換気療法によりfloppy epiglottisが出現し(喉頭蓋が咽頭後壁に倒れ込む)、上気道閉塞がかえって増悪することがあるため注意が必要である12)。さらにMSAの呼吸障害は中枢性(呼吸中枢の障害)の場合があるので、治療法の選択においては、病態を十分に見極める必要がある。4 今後の展望選択的セロトニン再取り込み阻害薬である塩酸セルトラリン(商品名:ジェイゾロフト)やパロキセチン塩酸塩水和物(同:パキシル)、グルタミン酸受容体の阻害薬リルゾール(同:リルテック)、オートファジー促進作用が期待されるリチウム、抗結核薬リファンピシン、抗菌薬ミノサイクリン、モノアミンオキシダーゼ阻害薬ラサギリン、ノルエピネフリン前駆体ドロキシドパ、免疫グロブリン静注療法、あるいは自己骨髄あるいは脂肪織由来の間葉系幹細胞移植など、さまざまな治療手段の有効性が培養細胞レベル、あるいはモデル動物レベルにおいて示唆され、実際に一部はMSA患者を対象にした臨床試験が行われている18, 19)。これらのうちリルゾール、ミノサイクリン、リチウム、リファンピシン、ラサギリンについては、無作為化比較試験においてMSA患者での有用性が証明されなかった18)。間葉系幹細胞移植に関しては、MSAのみならず、筋萎縮性側策硬化症やアルツハイマー病など神経変性疾患において数多くの臨床試験が進められている20)。韓国では33名のMSA患者を対象に無作為化比較試験が行なわれた21)。これによると12ヵ月後の評価において、対照群(プラセボ群)に比べると間葉系幹細胞治療群ではUMSARS (unified MSA rating scale)の悪化速度が遅延し、かつグルコース代謝の低下速度や灰白質容積の減少速度が遅延することが示唆された21)。ただし、動注手技に伴うと思われる急性脳虚血変化が治療群29%、対照群35%に生じており、安全性に課題が残る。また、MSA多発家系におけるCOQ2変異の同定、さらにはCOQ2変異ホモ接合患者の剖検脳におけるコエンザイムQ10含量の著減を受けて、国内ではMSA患者に対してコエンザイムQ10の無作為化比較試験(医師主導治験)が進められている。5 主たる診療科神経内科、泌尿器科、リハビリテーション科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン2018.(監修:日本神経学会・厚生労働省「運動失調症の医療基盤に関する調査研究班」.南江堂.2018)(医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター オリーブ橋小脳萎縮症SCD・MSAネット 脊髄小脳変性症・多系統萎縮症の総合情報サイト(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報NPO全国脊髄小脳変性症・多系統萎縮症友の会(患者とその家族および支援者の会)1)高橋昭. 東女医大誌. 1993;63:108-115.2)Gilman S, et al. Neurology. 2008;71:670-676.3)Kollensperger M, et al. Mov Disord. 2010;25:2604-2612.(Kollenspergerのoはウムラウト)4)Wenning GK, et al. Lancet Neurol. 2013;12:264-274.5)Watanabe H, et al. Brain. 2002;125:1070-1083.6)Yabe I, et al. J Neurol Sci. 2006;249:115-121.7)Ozawa T, et al. J Parkinsons Dis. 2012;2:7-18.8)Kon T,et al. Neuropathology. 2013;33:667-672.9)The Multiple-System Atrophy Research Collaboration. N Engl J Med. 2013;369:233-244.10)Mitsui J, et al. Ann Clin Transl Neurol. 2015;2:417-426.11)Yang X, et al. PLoS One. 2015;10:e0130970.12)磯崎英治. 神経進歩. 2006;50:409-419.13)Kikuchi A, et al. Brain. 2010;133:1772-1778.14)Yoshida K, et al. J Neurol Sci. 2018;384:30-35.15)桑原聡ほか. 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業)「運動失調症の医療基盤に関する調査研究」2019年度研究報告会プログラム・抄録集. P30.16)Tsuji S, et al. Cerebellum. 2008;7:189-197.17)Koga S, et al. Neurology. 2015;85:404-412. 18)Palma JA, et al. Clin Auton Res. 2015;25:37-45.19)Poewe W, et al. Mov Disord. 2015;30:1528-1538.20)Staff NP, et al. Mayo Clin Proc. 2019;94:892-905.21)Lee PH, et al. Ann Neurol. 2012;72:32-40.公開履歴初回2015年04月09日更新2020年03月09日

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全身性エリテマトーデス治療薬の開発最前線

治療の基本はステロイド剤だが、無効例、高用量非忍容例では古典的免疫抑制剤も併用される。状況が動いたのは2015年だ。新たな機序を有する免疫抑制剤「ミコフェノール酸モフェチル」(商標名:セルセプト・カプセル)とマラリア治療薬「ヒドロキシクロロキン」(同:プラケニル錠)が、エリテマトーデス治療薬として承認をうけた。さらに2017年には、可溶型Bリンパ球刺激因子(BLyS)標的モノクローナル抗体製剤「ベリムマブ」(同:ベンリスタ注射薬)も承認に至った。現在、開発中の薬剤としては、インターロイキン(IL)-12、23を標的とするモノクローナル抗体でありウステキヌマブ(商標名:ステラーラ)のエリテマトーデスへの応用が検討され、2018年には、第II相試験の結果が以下の通り報告された。従来治療下において活動性を示す全身性エリテマトーデス102例を対象としたランダム化試験において、プラセボに比べ、24週間後の「SRI4レスポンダー」率はプラセボ群に比べ28%の有意高値だった(62% vs. 33%) [van Vollenhoven RF et al. Lancet 2018; 392: 1330] 。さらに48週間追跡でも、ウステキヌマブ群における「SRI4レスポンダー」率は63.3%を維持。56週間までの観察で、死亡、発がん、日和見感染、結核は1例もなし。1年間の有害事象発現率は、プラセボ群からの24週時クロスオーバー33例を含む、全ウステキヌマブ投与例の81.7%。重篤な有害事象に限れば、15.1%だった [van Vollenhoven RF et al. Arthritis Rheumatol. 2019 Nov 25] 。これらの結果を受け現在、500例を登録予定の第III相試験が、2023年12月末終了を目標に進行中である(NCT03517722)。本試験ではわが国でも患者登録が進められており、IL-12/23を標的とする唯一の薬剤として、期待が集まっている。また、完全ヒト化IgG1モノクローナル抗体(mAb)のBIIB059も、申請に近づいた。同剤は、形質細胞様樹状細胞に発現した血液樹状細胞抗原2(BDCA2)受容体に結合し、その結果、炎症性サイトカインであるタイプ-I インターフェロン(IFN-I)の産生を低下させる。IFN-Iはすでに、全身性エリテマトーデスの病態形成における極めて重要な役割が知られていた。2019年3月には、全身性エリテマトーデス12例を対象としたランダム化試験において、BIIB059によるBDCA2受容体の細胞内部移行、さらに皮膚病変部におけるIFN-I誘導たんぱくの減少が報告された [Furie R et al. J Clin Invest. 2019; 129: 1359] 。そして同年12月にはさらに、全身性エリテマトーデス132例を対象としたランダム化試験 “LILAC”の結果、BIIB059がプラセボに比べ、24週間後の「活動性を有する関節」数を有意に減少させたとの情報が、製造社より公表された(NCT02847598)。ただし現時点では、申請など今後の予定は、明らかにされていない。

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新型コロナウイルスに関連する患者への対応について/厚生労働省

 中国・湖北省武漢市当局は1月20日現在、新型コロナウイルスの感染者が136人増えて198人となり、3例の死亡が確認されたことを発表している。 一方わが国でも、神奈川県内の医療機関を受診した武漢市の滞在歴がある肺炎患者において、国内で初めて新型コロナウイルス陽性の結果が確認された。厚生労働省が発表している患者の情報は以下のとおり。■患者概要・年代:30代・性別:男性・居住都道府県:神奈川県・症状:1月3日から発熱あり。6日に帰国し、同日に医療機関を受診。10日から入院。15日に症状が軽快し、退院。・滞在国:中華人民共和国(湖北省武漢市)・滞在国での行動歴:本人からの報告によれば、「武漢市の海鮮市場(華南海鮮城)には立ち寄っていない」とのこと。ただし中国において、詳細不明の肺炎患者と濃厚接触の可能性がある。■疑い患者に関しても、保健所へ相談など慎重な対応を 日本医師会に向けて、厚生労働省健康局結核感染症課から「新型コロナウイルスに関連した肺炎患者の発生に係る注意喚起について」(令和2年1月17日 事務連絡)が発出されている。 新型コロナウイルスに関連した肺炎の疑いがある患者への対応に当たっては、「中国湖北省武漢市で報告されている新型コロナウイルス関連肺炎に対する対応と院内感染対策」を参考に、画像検査などで肺炎と診断された場合には、「疑似症サーベイランスの運用ガイダンス(第三版)」における「重症」の定義に合致しない場合でも、同サーベイランスの運用について保健所へ相談するよう呼び掛けている。

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