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ワクチンの3回目Booster接種は感染/重症化予防効果を著明に改善する(解説:山口佳寿博氏、田中希宇人氏)

 前論評(山口, 田中. ワクチン接種後の液性免疫の経時的低下―3回目Booster接種必要性の基礎的エビデンス)で論じたように、ワクチン接種後の液性免疫は、野生株、従来株、Delta株を中心とする変異株の別なく、月単位で有意に低下する。この液性免疫の経時的低下によって、Delta株を中心とする新型コロナウイルスの感染拡大(第6波)が今年の12月以降の冬場に発生する可能性を論評者らは危惧している。 第6波の発生を避けるためには、ワクチン接種後の時間経過と共に低下した液性免疫を再上昇させるためのワクチン3回目接種(Booster接種)、あるいは、Delta株を中心とするコロナ変異株抑制能力が高く効果持続期間がワクチンと同等、あるいは、それ以上に長いIgG monoclonal抗体をワクチン代替薬として考慮する必要がある(山口, 田中. 日本医事新報. 2021;5088:38.、山口, 田中. CareNet論評-1440)。ただし、現時点では、免疫不全を有さない一般成人に対してIgG monoclonal抗体を“pre-exposure and post-exposure prophylaxis”、すなわち、ワクチン代替薬として用いる方法は英国以外では承認されていない(Rubin R. JAMA Medical News & Perspectives. 2021 Oct 27.)。さらに、IgG monoclonal抗体の1回分の費用は20万円以上でワクチン2回接種の約100倍の高額治療であり、不特定多数の人に適用することは難しい。それ故、本論評では国民全体を対象としても医療経済面から施行可能な3回目のワクチンBooster接種に焦点を合わせ考えていくものとする。第6波の発生とその臨床的特徴 ワクチン3回目接種を考える前に、今冬季に発生が予想されるDelta株による第6波の臨床的特徴について考察する。 Chemaitellyらは、背景ウイルスがBeta株からDelta株に置換されつつあったカタ-ルにおける検討で、BNT162b2の2回接種後5~7ヵ月が経過するとワクチンの感染予防効果がピーク時の77.5%から20%前後まで低下するが、入院/死亡に対する重症化予防効果はワクチン接種後の時間経過とは無関係に90%前後に維持されることを示した(Chemaitelly H, et al. N Engl J Med. 2021 Oct 6. [Epub ahead of print])。Tartofらは米国における検討で、BNT162b2の2回接種後のDelta株に対する感染予防効果が、ピーク時の75%から4ヵ月後には53%まで低下すると報告した(Tartof SY, et al. Lancet. 2021;398:1407-1416.)。Goldbergらはイスラエルにおける検討で、Delta株の感染率は年齢とは無関係にBNT162b2ワクチン2回接種後の時間経過に依存して上昇、重症感染者比率も60歳以上の高齢者にあってはワクチン2回接種後の時間経過が長いほど高いことを報告した(Goldberg Y, et al. N Engl J Med. 2021 Oct 27. [Epub ahead of print])。しかしながら、高齢層で認められた重症感染に関する傾向は、59歳以下の若年/中年層では確認できなかった(若年/中年層における重症感染者数が少ないため統計処理が困難)。Grangeらはスコットランドにおける解析で、ワクチンの2回接種(BNT162b2、ChAdOx1)によって全体の死亡者数を軽減できるが、死亡者数は75歳以上の高齢者、男性、複数の併存症を有する人で有意に高いことを示した(Grange Z, et al. Lancet. 2021 Oct 28.)。この傾向は、非ワクチン接種者、不完全ワクチン接種者におけるDelta株感染に起因する死亡者の場合と質的に同じである。 今年の12月以降には、本邦においてもワクチン2回接種後6ヵ月以上経過した人たち(医療従事者を含む)の数が増加し、何らかの有効な施策を導入しない限り、液性免疫低下に起因するDelta株由来の第6波が必然的に発生するものと考えておかなければならない。この場合、Deltaは総称であり、原型(起源)のB.1.617.2に加え、それから派生したAY.1~AY.3、AY.4~AY.11(英国)ならびにAY.12(イスラエル)を含む(WHO. COVID-19 Weekly epidemiological update. 2021 Oct 19.)。これらのDelta株による第6波を阻止するための有効な医学的/社会的施策を講じる時間は2ヵ月ほどしか残されていない現実を、医療関係者ならびに為政者はもっと真摯に受け止める必要がある。 ただ、Delta株に起因する第6波は、国民の約70%以上がPfizer社あるいはModerna社のワクチンの2回接種を終了した状況下で発生するので、ワクチン未接種状態で発生するDelta株感染とは質的に異なる様相を呈するはずである。多くの国民がワクチンの2回接種を終了している時点で発生する第6波においては、感染者数はある程度の数に達するが、夏場の第5波よりも規模が小さいものと予想できる。第6波における感染者の重症度はワクチン未接種状況下で発生するDelta株感染に比べ、軽症者が多いという特徴を有するはずである。ワクチン接種者に発生する“液性免疫低下関連感染(DHIRI:Decreased humoral immune response-related infection)”では、ワクチンの抗ウイルス作用は完全に無効というわけではなく不完全ながらウイルスの病原性を抑制する。それ故、ワクチン接種後のDelta株感染にあっては、感染症状が弱く、症状持続期間が短く、重症化の頻度が低い比較的軽症患者が多くなるものと予想される。しかしながら、高齢層における死亡を含む重症患者数は、若年/中年層に比べ有意に多くなることも念頭に置く必要がある。ワクチン3回目Booster接種の効果 一般成人にPfizer社のBNT162b2を3回接種(2回接種後7.9~8.8ヵ月)した時のDelta株に対する中和抗体価は、2回接種後に比べ55歳以下の若年/中年者で5.5倍、65歳以上の高齢者で12.0倍高値になることが示された(Falsey AR, et al. N Engl J Med. 2021;385:1627-1629. )。Moderna社のmRNA-1273の3回接種(半量の50μg筋注、2回接種後5.9~7.5ヵ月)後の変異株(Beta株、Gamma株)に対する中和抗体価に関する検討でも、質的に同様の結果が報告されている(Wu K, et al. medRxiv. 2021 May 6.)。 本論評で取り上げたイスラエルの検討では、60歳以上の高齢者に対する3回目接種は2回目接種後と比較して新規感染リスクを11.3倍、重症化リスクを19.5倍低下させることが示された(Bar-On YM, et al. N Engl J Med. 2021;385:1393-1400.)。この結果を受け、イスラエルでは2021年7月30日以降、2回目接種後少なくとも5ヵ月以上経過した60歳以上の高齢者ならびに50歳以上の医療従事者を対象としてBNT162b2の3回目接種が開始されている(現在は、12歳以上を対象とすることに変更)。同様に、アラブ首長国連邦、ドイツ、フランスなどでも3回目接種が始まっている。 2021年9月17日、米国FDAは一般成人に対する3回目Booster接種に対してPfizer社のBNT162b2を使用することを緊急承認した。対象は、65歳以上の高齢者と16歳以上でコロナ感染による重症化因子を有する人とされた。後者には医療従事者、学校の教員など、コロナ患者との濃厚接触の確率が高い職業に従事する人たちも含まれる。Moderna社のmRNA-1273においても通常量の半量(50μg)を3回目接種に用いる緊急使用が10月14日に、Johnson & Johnson社のAdeno-vectored vaccineであるAd26.COV2.SのBooster接種(このワクチンの場合、2回目がBooster接種となる)が10月15日に承認された。さらに、米国FDAは、液性免疫原性が低いAd26.COV2.Sの代わりに、液性免疫原性が高いBNT162b2あるいはmRNA-1273をBooster接種時に使用してもよいと決定した(ハイブリッド・ワクチン)。 本邦においても、2021年9月17日、厚生労働省は3回目接種を認めることを決定し、実施の詳細について議論が開始されている。10月28日に開催された厚労省の分科会では12歳以上の国民全員を3回目接種(公費負担)の対象とすることが了承され、2回目接種後8ヵ月経過した人から順に3回目接種を施行する方向でまとまりつつある。3回目接種においてハイブリッド・ワクチンを認めるかどうかを含め、正式決定は11月中旬になされるとのことである(朝日新聞デジタル 2021年10月29日付)。 本論評では“3回目のワクチン接種”と記載したが、これはワクチン接種を3回施行すればすべての問題が解決することを意味しているわけではなく、必要に応じて4回目、5回目の接種をさらに追加する可能性を含んだ言葉だと解釈していただきたい。事実、フランス保健省は、2021年6月から臓器移植患者で3回目ワクチン接種に反応しない患者に対して4回目のワクチン接種を開始している(Rubin R. JAMA Medical News & Perspectives. 2021 Oct 27.)。 ワクチンの3回目接種による液性免疫の底上げは、免疫不全患者において絶対的に必要な手段であるが、紙面の都合上本論評では割愛する。この問題に関しては論評者らの総説を参照していただきたい(山口, 田中. 日本医事新報. 2021;5088:38.)。

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第82回 今年のインフル流行危機は南半球ではなく南アジアから学べ!?その傾向と対策は

新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の新規感染者報告数は減少し、すでに全国での1日の新規感染者報告数は10月末から300人を切る日が続いている。危機はほぼ去りつつあるのかどうかは、現時点ではまったくわからない。もっとも政府が新型コロナワクチンの2回接種完了者全員を3回目接種対象者としたことからもわかる通り、当面は国を挙げての新型コロナ警戒態勢が継続することは確実だ。そうした最中、11月に入り私は娘と共に今季のインフルエンザワクチン接種を済ませた。いつもワクチン接種でお世話になっているクリニックで接種したのだが、旧知の院長からは「よく予約取れたね」と言われた。このクリニックではインフルエンザワクチン接種予約はwebでできる。例年だと10月に入ってすぐ予約を入れるのだが、今年はクリニック側が予約を開始したのが10月半ば。しかも予約ページを覗くと、例年と比べ予約枠がきわめて少なく、油断していたら10月中はすべて埋まっていた。1週間前の朝8時から予約が入れられるシステムなので、10月最終週のとある日、朝8時前からクリニックのホームページを開きスタンバイして予約を入れた。予約完了確認メールがすぐ送られてきて、ほっとして再度ページを確認すると、私が予約した日の枠はすでに完全に埋まっていた。時計を見ると午前8時4分だった。そんなこんなで済ませたインフルエンザワクチンだが、新型コロナが流行し始めた昨年は、冬期シーズンを前に「新型コロナとインフルの同時流行はあるのか?」と騒がれた。結局、昨年1年間のインフルエンザ定点報告数は約56万人、一昨年の約188万人からは激減し、同時流行の懸念は杞憂に終わった。では今シーズンはどうなるだろうか? 日本感染症学会の「2021-2022年シーズンにおけるインフルエンザワクチン接種に関する考え方」が一番まとまっていてわかりやすい。端的に言えば、北半球の冬の流行予測の参考になる南半球の冬、すなわち北半球の夏の時期を見ると、インフルエンザ確定患者数はごく少数なため、北半球でも冬の流行の可能性は低いのではないかというのが大枠の見方だ。ただし、ここでは一つ不安要素を挙げている。それはアジアの亜熱帯地方、具体的には南アジアのインドやバングラデシュで夏季に流行が認められたこと。このことから今後の人流増加も加味すると、これら地域からのインフルエンザ「輸入」もありうるということだ。昨シーズンに流行がなかったことなどを加味すれば、日本国内は集団免疫が乏しいと考えられ、この観点からインフルエンザワクチンの接種を推奨している。さてここで気になるのがこの南アジアでのインフルエンザ流行状況だ。世界保健機関(WHO)によるインフルエンザのサーベイランス「FluNet」を参照すると、インドとネパールは今年の第25週あたりを機にインフルエンザの増加が見られ、第33週前後にピーク、それから徐々に減少している。当初はA(H1N1)pdm09が主流で、ピークを過ぎてからB(ビクトリア系統)が徐々に出現し、第37週以降はB(ビクトリア系統)が主流だ。一方、バングラデシュは今年の第20週あたりを境に増加し、第23週にピークを迎え、そこから徐々に減少して収束したかに見えたが、第35週を境に再び増加に転じ、第38週にピークを迎えて減少傾向となっているものの今も比較的高い水準の感染状況だ。こちらの流行株は当初、B(ビクトリア系統)が中心で第35週以降の第2波がA(H1N1)pdm09とインド、ネパールとは逆である。昨今の出入国管理統計の速報値を見ると、東京五輪関係の入国もあったとみられる7月と比較して、最新の9月時点はインドからの入国者が10%増(603人)、バングラデシュからは3.8倍(181人)、ネパールからは15倍(1,110人)と絶対数はまだまだ少ないものの明らかに増加傾向にある。感染症学会が指摘する「輸入」の危険は一定程度存在する。だが、それ以上に不気味なことがある。それはインフルエンザの流行動向がやや異なるインド・ネパールとバングラデシュ共に新型コロナの新規感染者報告数がピークを過ぎ、ほぼ収束に向かった時期にインフルエンザの流行が始まっているという共通点だ。新型コロナ収束の間隙を突いてインフルエンザが流行しやすいならば、まさに今の日本がその時期である。そしてその時期に前述のように流行地域からの人流は増加傾向にある。加えて日本国内では従来からインフルエンザワクチンの接種率は約3人に1人と決して高くない。さらに言えば、今年はワクチンの品薄の影響で高齢者でもまだ接種に至っていないケースは少なくない。かなり悪い条件が揃い過ぎていると言わざるを得ない。もっともインフルエンザに関しては、新型コロナに比べれば致死率も低く、流行地域などからの入国制限のような水際対策は非現実的である。結局、最終的な解決法としてはワクチン接種率をいかに上げるかに行き着かざるを得ない。まだまだ新型コロナの脅威が去ったわけではない今、致死率が低いとはいえ新型コロナと臨床診断で鑑別しにくいインフルエンザが流行すれば、医療現場はかなりの緊張と混乱を強いられる。昨年囁かれた「新型コロナ・インフルのダブルパンデミック」が現実とならなかったのは幸いだったが、その反作用として一般人からすると、私たちメディアも医療側も結果として「オオカミ少年」になってしまった。そうした雰囲気と「コロナ疲れ」がベースにある中で、一般人にいかにインフルエンザワクチン接種の重要性を認識してもらうか。私たちは昨年以上に心してかからねばならないだろうと思っている。

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ファイザー製ワクチン後、4ヵ月と6ヵ月で効果の差は?/NEJM

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のデルタ変異株に対する免疫は、2回目のワクチン接種から数ヵ月後には全年齢層において減弱したことが、イスラエル・Technion-Israel Institute of TechnologyのYair Goldberg氏らの研究で示された。イスラエルでは、2020年12月から新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するBNT162b2ワクチン(Pfizer-BioNTech製)の集団接種キャンペーンが開始され、大流行が急激に抑制された。その後、SARS-CoV-2の感染例がほとんどない期間を経て、2021年6月中旬にCOVID-19の流行が再燃。その理由として、デルタ(B.1.617.2)変異株に対するワクチンの有効性の低下と、免疫の減弱が考えられたが、イスラエルにおけるデルタ変異株に対するBNT162b2ワクチン免疫の減弱の程度は不明であった。NEJM誌オンライン版2021年10月27日号掲載の報告。ワクチン接種完遂後の感染率と重症化率を接種時期別に比較 研究グループは、2021年6月以前にワクチン接種を完遂したすべてのイスラエル住民を対象として、全国データベースを用いて2021年7月11日~31日における、確認された感染および重症化に関するデータを収集した。 ポアソン回帰モデルを用いて、ワクチン接種時期別のSARS-CoV-2への感染と重症COVID-19の発生を、年齢で層別化し交絡因子を補正して比較検討した。ワクチン完遂が2ヵ月早い人の感染率は1.6~1.7倍 7月11日~31日における感染率は、60歳以上では、2021年1月(接種対象となった最初の時期)にワクチン接種を完遂した人のほうが、2ヵ月後の3月にワクチン接種を完遂した人より高率であった(率比:1.6、95%信頼区間[CI]:1.3~2.0)。 40~59歳でも、同年齢層の接種開始月である2月にワクチン接種を完遂した人のほうが、2ヵ月後の4月に接種した人より高率であった(率比:1.7、95%CI:1.4~2.1)。16~39歳でも、3月(同年齢層の接種開始月)にワクチン接種を完遂した人は、2ヵ月後の5月に接種した人と比較して感染率比が1.6(95%CI:1.3~2.0)であった。 重症COVID-19の発生率については同様の比較において、60歳以上では率比が1.8(95%CI:1.1~2.9)、40~59歳で2.2(0.6~7.7)であった。16~39歳では症例数が少なく率比を算出できなかった。

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ファイザー製コロナワクチンBNT162b2 長期の有効性と安全性(解説:田中希宇人氏/山口佳寿博氏)

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による第5波で多くの医療機関で災害級の対応を強いられたものと考えているが、2021年10月中旬現在において波は完全に引き潮となっている。コロナが落ち着いてきた要因はいろいろ囁かれているが、日本全土でコロナワクチン接種が普及したこと(2021年10月19日現在、日本でのコロナワクチン2回目接種終了率68.0%)は大きく影響していると考える。現場でも実際にコロナが収束傾向な状況は大変喜ばしいことと思っている。 ファイザー製コロナワクチンBNT162b2の効果としては最初に95%の発症予防効果(Polack FP, et al. N Engl J Med. 2020;383:2603-2615.)が示され、その後もリアルワールドセッティングで感染予防効果率:92%、重症化予防効果率:92%、入院予防効果率:87%(Dagan N, et al. N Engl J Med. 2021;384:1412-1423.)とさまざまな臨床的有用性がすでに報告されている。さらに12~15歳の若年者ではBNT162b2コロナワクチンを2回接種後に新型コロナウイルス感染症を発症した症例は1例も認めずに高い有効性や安全性も示されている(Frenck RW Jr, et al. N Engl J Med. 2021;385:239-250.)。本邦では医療従事者が先駆けてコロナワクチンを接種したことから、現場でも長期の有効性や安全性プロファイルは関心の高いところである。 本論評で取り上げた米国・ニューヨーク州立大学のThomasらの論文ではファイザー製BNT162b2コロナワクチンは6ヵ月間の経過でワクチンの有効性は低下するものの、コロナウイルスの高い予防効果を示した結果を報告した。本研究では2020年7月27日から10月29日の約3ヵ月の間に米国を中心とした152施設で16歳以上の4万4,165例と、2020年10月15日から2021年1月12日までに米国の29施設から12~15歳の2,264例を試験に登録した。症例群はBNT162b2コロナワクチン接種群とプラセボ接種群に1:1で無作為に割り付けられた。2021年3月13日をデータカットオフ日として、6ヵ月での有効性と安全性が解析された。有効性はCOVID-19発症で評価されているが、12歳以上で評価可能であった4万2,094例のうち、2回目ワクチン接種後7日経過したコロナワクチン接種群で77例、プラセボ接種群で850例が発症し、ワクチンの有効性は91.3%という結果だった。新型コロナウイルスに感染歴がある症例も含めた有効性の解析では2回目のワクチン接種後7日~2ヵ月で96.2%という高い有効性であったが、2~4ヵ月の時点90.1%、4ヵ月以降では83.7%と2ヵ月経過するごとに有効性が6%ほど減弱する結果も示された。またコロナワクチン1回接種後に重症のCOVID-19に発展した31症例中30例がプラセボ群であり、重症化予防効果率は96.7%とされた。さらにWHOがVOC(variant of concern)として定義した変異株であるB.1.351(ベータ株)が確認された南アフリカにおいて、同地域でのワクチン有効性も100%であることが報告された。 安全性の評価では局所的には注射部位の疼痛が、全身性の反応としては倦怠感がワクチン接種群で多く報告され、ほとんどが軽度~中等度であった。 モデルナ製のmRNA-1273コロナワクチンも3万人以上の解析で2回接種後5ヵ月以上にわたりCOVID-19発症を93.2%抑え、重症化予防、無症候性感染の予防にも有効であったことが示されている(El Sahly HM, et al. N Engl J Med. 2021 Sep 22. [Epub ahead of print])。 コロナワクチンの長期のデータを評価する上でいくつかの問題点が考えられる。1つは地域で流行しているウイルスが変化していることが挙げられる。今回の報告ではBNT162b2コロナワクチン接種6ヵ月後においても高いワクチン有効性が保たれていることを示した結果であったが、本邦の第5波でも猛威を振るったB.1.617.2変異(デルタ株)がほとんど存在しなかった時期の解析であることは差し引いて考える必要がある。デルタ株は2020年10月にインドにおいて初めて検出されたN501Yを有さない第3世代変異株であるが、米国では2021年5月の時点でも数%の検出にとどまっており(山口、田中 ケアネット論評1422)、本研究のデータカットオフ時はその2ヵ月も前の解析となっている。また本研究ではBNT162b2コロナワクチン接種群2万1,926例中15例(0.068%)、プラセボ群で2万1,921例中14例(0.064%)の死亡が確認されており、死因は両群で一致していると報告している。しかしながら現在世界で数多く接種されているBNT162b2コロナワクチンやモデルナ製のmRNA-1273コロナワクチンの高い有効性が証明されており、プラセボ接種群をそのまま経過観察しているということは倫理的に問題があると考えざるを得ない。もちろんワクチン接種に関連した死亡はなかったと報告されているが、実際にプラセボ群で850例のCOVID-19発症者が確認されており、明らかに不利益を被っているのは火を見るより明らかであろう。最後に本研究には12歳未満の小児や妊婦で接種した症例は含まれておらず、今後のデータの集積は引き続き必要である。

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第82回 新型コロナとインフルエンザ「同時流行」の可能性は?

先週末の総選挙では、自民党単独では公示前の議席を減少させたものの、国会を安定的に運営できる「絶対安定多数」は確保した。閣僚による不祥事などが起きない限り、今後は安定的に政権を運営でき、医療界では新たな医療体制の構築や次期診療報酬改定に向けた動きが期待されている。医療界にとっての懸念は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の第6波の動向と共に、今冬のインフルエンザの行方だろう。早くも、インフルエンザワクチンが新型コロナの影響で足りないという。地域によっては、インフルエンザワクチンの接種予約がかなり困難な状況で、子どもの予約を取るために、いくつもの医療機関に50回近く電話をかけ続けたという母親も。Twitterには「インフルエンザの予約が取れない。子どもはコロナ打てないんだから、インフルくらい打たせて」といった親たちの切実な叫びが綴られている。コロナ対応のあおりでインフルワクチンは供給不足日本感染症学会は9月、今年はインフルエンザが大きな流行を起こす可能性もあるとのメッセージを発信した。例年のインフルエンザの感染者数は約1,000万人だが、昨シーズンは3密回避・手洗い・うがいの徹底などが奏功して約1万4,000人にまで減少した。しかし、それによってインフルエンザの免疫を持つ人が減少し、日本全体が感染しやすい状態になっているという。12歳以下の子どもの場合、インフルエンザワクチンは2回接種が必要だが、「2週間後ぐらいに2回目接種をしないと、ワクチンが足りなくなる可能性がある」と言う医師もいる。都内のあるクリニックでは、当初10月~12月までのインフルエンザワクチンの予約を受け付けていたが、10月分から予約を制限しており、11月分の新規予約は受け付けないという。なぜワクチン不足の状況になっているのか。厚生労働省によると、今年は10月第5週の時点では全体の65%の出荷量にとどまっており、11月~12月中旬頃まで継続的にワクチンが供給される見込みだ。厚労省は9月、各都道府県にインフルエンザワクチンの供給が遅れることを通達。世界的に原料が不足している上、ワクチン製造で使う部品が新型コロナ用に回され確保が難しくなっていることから、供給が遅れる見通しだという。今季の供給予定量は、2,567~2,792万本(1本:大人2回分)の見込みで、昨シーズンの8割程度だ。経済活動再開でインド・バングラのウイルス拡散もこのような状況下、果たして新型コロナとインフルエンザの同時流行はあるのだろうか。「同時流行はあり得る」と言い切るのは、感染症専門の大学教授だ。インフルエンザ流行の可能性について、日本感染症学会は以下の2つの理由を挙げる。まず前述の通り、前のシーズンにインフルエンザがほとんど流行しなかったため、集団免疫が形成されていない可能性があること。もう1つは海外の要因だ。今夏、インドおよびバングラデシュでインフルエンザが流行しており、国境を越えた人々の移動が再開されれば、世界中にウイルスが拡散される懸念があるという。新型コロナとインフルエンザ、各々の症状には発熱と咳という共通した症状があり、同時流行が起きた場合、にわかに区別が付きにくい。そのため、インフルエンザが流行すれば医療現場に双方の患者が混在し、混乱と逼迫を招く可能性がある。厚労省によると、新型コロナワクチンとインフルエンザワクチンは原則、同時接種は不可だが、2週間空ければ他方のワクチンも接種可能となる。ただ、あまり双方にとらわれ過ぎると、子どもの場合、その他の疾患の早期発見に遅れを来す懸念もあるだろう。新型コロナワクチン接種率のさらなる向上や、効果の高い治療薬の登場により、感染症としての位置付けが現状のままなのか、インフルエンザ並みになっていくのかが、今後の医療体制の構築に重要なポイントになるだろう。

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ソトロビマブ、高リスクの軽~中等症COVID-19への第III相中間解析/NEJM

 高リスクの軽症~中等症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者において、抗SARS-CoV-2モノクローナル抗体ソトロビマブは、疾患進行リスクを軽減することが示された。安全性シグナルは確認されなかった。カナダ・William Osler Health CentreのAnil Gupta氏らが、現在進行中の第III相多施設共同無作為化二重盲検試験「COMET-ICE試験」の、事前規定の中間解析の結果を報告した。COVID-19は、高齢および基礎疾患のある患者で入院・死亡リスクが高い。ソトロビマブは疾患早期に投与することで高リスク患者のCOVID-19の疾患進行を防ぐようデザインされた。NEJM誌オンライン版2021年10月27日号掲載の報告。24時間超入院・29日未満の死亡を比較 研究グループは、米国、カナダ、ブラジル、スペインの4ヵ国37ヵ所で、症状発症から5日以内で、疾患進行リスクが1つ以上認められた、入院前COVID-19患者を1対1の割合で無作為に2群に分け、一方にはソトロビマブ(500mg)を、もう一方にはプラセボをそれぞれ静脈投与した。 有効性の主要アウトカムは、24時間超のあらゆる入院または無作為化後29日以内の死亡だった。 試験は、2020年8月27日に開始され、2021年3月4日まで追跡された。本報告は、事前規定の中間解析の結果である。入院・死亡リスクはソトロビマブ群で8割強低下 中間解析でITT解析の対象とした被験者は583例で、ソトロビマブ群が291例、プラセボ群が292例だった。そのうち、疾患進行により入院または死亡に至ったのは、プラセボ群21例(7%)だったのに対しソトロビマブ群は3例(1%)だった(相対リスクの低下:85%、97.24%信頼区間:44~96、p=0.002)。 プラセボ群のうち5例が、集中治療室(ICU)で治療を受け、うち1例は無作為化後29日までに死亡した。 安全性については、868例(ソトロビマブ群430例、プラセボ群438例)を対象に評価した。報告された有害イベントは、ソトロビマブ群17%、プラセボ群19%、重篤有害イベントはそれぞれ2%と6%で、プラセボ群よりソトロビマブ群で低率だった。

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潰瘍性大腸炎の寛解導入および維持療法における低分子医薬品ozanimodの有用性(解説:上村直実氏)

 選択的スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)受容体調節薬ozanimodの潰瘍性大腸炎(UC)に対する有用性を検証した第III相臨床試験の結果、中等度から重度UCの寛解導入および寛解維持に有効性を認めたことがNEJM誌に掲載された。選択的S1P受容体調整薬ozanimodはUC患者の大腸粘膜へのリンパ球の浸潤を抑えることで炎症を抑制する効果が期待されている新規の低分子医薬品である。UCは特定疾患に指定されている原因不明の炎症性腸疾患(IBD)であり、現在の患者数は約18万人である。UCに対する薬物治療については、5-ASA製剤、ステロイド製剤、免疫調節薬、生物学的製剤が使用されているが、最近、ステロイドの長期投与に伴う副作用や依存性の懸念が強まり、ステロイドからの離脱や減量を目的として生物学的製剤や低分子医薬品の開発が盛んに行われている。すなわち、抗TNF阻害薬、インターロイキン阻害薬ウステキヌマブ、インテグリン拮抗薬vedolizumab、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬フィルゴチニブ、今回のozanimodなど新規薬剤の有用性を示す試験結果が報告されて次々と上市されている。今後、さらなる難治性のUCに対しては生物学的製剤と低分子医薬品の併用の有用性と安全性の検証が必要となることも予測される。 ozanimodを含めてUCに対する有用性と安全性を検証する臨床試験の研究デザインは国際間多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照第III相試験でほぼ一致しているが、最近のアウトカムは、一昔前の下痢や血便回数などの臨床的改善度のみでなく内視鏡を用いた肉眼的な粘膜治癒に加えて生検組織に好中球浸潤を認めないといった厳密なものに代わっている。したがって、試験結果の信憑性は高く、一般診療現場における有用性も十分に期待できるようになっている。 一方、薬剤の効果があればあるほど副作用ないしは安全性に関しては注意が必要となる。UCやリウマチなど自己免疫性疾患に対する新規薬剤のリスクとして結核やB型肝炎ウイルスの再活性化はよく知られているが、まれなものとして重篤なウイルス性脳疾患である進行性多巣性白質脳疾患(PML)の発現も報告されている。さらに市販後数年経過して心血管血栓症や死亡リスクの上昇が判明した事案の報告もあり、観察期間が限定されている臨床試験では検証できない長期使用の安全性については市販後に注意深く検証されるべきであり、今後、市販後の長期安全性に関する精緻な検証体制が重要である。

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閉塞性細気管支炎〔BO:Bronchiolitis obliterans〕

1 疾患概要■ 概念・定義閉塞性細気管支炎(Bronchiolitis obliterans:BO)の用語は、1901年にLangeによって初めて記述されたが、1973年にGosinkらによって瘢痕性の細気管支閉塞を来す病態として疾患概念が確立された。さまざまな病態を背景に、細気管支粘膜下から周辺の線維化・瘢痕化により細気管支内腔が閉塞し、肺野全体に散在性に広がることにより呼吸不全を来す疾患である。■ 疫学閉塞性細気管支炎は、乳幼児から高齢者までの男女に発症する希少疾患である。世界的にも疫学調査研究はなく有病率は不明であるが、わが国における全国調査では、2003年では287例、2011年では477例と報告されている。■ 病因閉塞性細気管支炎の原因として、有毒ガスの吸入、マイコプラズマやウイルス感染、ならびに薬剤との関連が報告されている。また、膠原病や自己免疫疾患への合併の報告が多く、とくに慢性関節リウマチに多い。特殊な例として、肺内で増殖性に広がる神経内分泌細胞の過形成に合併するもの、植物摂取によるもの(アマメシバ)、腫瘍随伴性天疱瘡への合併などその原因は多様である。原因不明の特発性症例の報告はまれであるが存在する。 近年、骨髄移植や心肺移植が盛んになるにつれ閉塞性細気管支炎の合併が報告され、これらの事実から何らかの免疫学的異常を背景に発症するものと考えられる。とくに心肺移植患者の長期予後を左右する重要な因子である。また、造血幹細胞移植においても長期生存移植患者のQOLを著しく悪化させる合併症である。■ 症状1)無症状期病初期には自覚症状や他覚症状がなく、早期の病変をみつけるには、現時点では肺機能検査のみが唯一の手段である。1秒量(FEV1.0)の低下を認めることから、肺移植患者ではFEV1.0とFEF25-75の低下が重症度の指標とされている。2)自覚症状期病変が広がることにより、乾性咳嗽や労作時呼吸困難が出現する。また、気管支喘息のような強制呼気時の連続性副雑音の自覚症状が現れることがある。3)進行期病勢が進むと細気管支閉塞部位より中枢の気管支拡張や繰り返す気道感染、胸腔内圧の上昇による気胸・縦隔気腫などを合併し、呼吸不全が進行する。■ 予後肺病変は不可逆的変化であるため、一般的に予後不良である。しかし、その経過はさまざまであり、(1)急激に発症し、急速に進行するもの、(2)急激に発症し病初期は急速に進行するが、その後安定した状態で肺機能を保つもの、(3)ゆっくりと発症し、慢性の経過で進行していくものがある。肺移植後5年までの閉塞性細気管支炎合併率は50~60%と報告されており、閉塞性細気管支炎発症後の5年生存率は30~40%と不良である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)自覚症状や身体所見から診断することは困難である。胸部単純X線画像は、ほぼ正常か、わずかに過膨張を示すに過ぎず、CTにおいても病勢が進行しなければ、異常と捉えられる所見は乏しい。高分解能CT(High-resolution CT:HRCT)の吸気相・呼気相での空気捕らえ込み現象(air-trapping)が診断の助けとなる。肺血流シンチにおける多発性陰影欠損を認めることがあり、肺血栓塞栓症との鑑別が問題になる。しかし、同時に肺換気シンチを実施することにより、肺血流シンチと同一部位の多発性陰影欠損を認める。閉塞性細気管支炎の確定診断には組織診断が必要であるが、肺機能が悪く、外科的肺生検に適さない症例も多い。また、病変が斑紋状分布であることや、病変部位を画像で捉える手段がないことから、不十分な標本のサンプリングや切り出しでは、外科的肺生検でも時に組織診断ができないことがあるので注意が必要である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)閉塞性細気管支炎の確立された治療法はなく、治療の目標は、細気管支での炎症を抑制し安定した状態に保つことである。■ 薬物療法骨髄移植や心肺移植、膠原病などの免疫学的背景を有する閉塞性細気管支炎に対しては、ステロイド薬や免疫抑制剤による免疫抑制強化が行われる。呼吸不全に対しては、慢性閉塞性肺疾患(COPD)に準じた治療が選択され、長時間作用性抗コリン薬(LAMA)、長時間作用性β2刺激薬(LABA)、吸入ステロイド薬(ICS)などが、自覚症状に合わせて用いられる。■ 在宅酸素療法労作時の低酸素血症を来たす場合には、慢性呼吸不全に対する保険適用に準じて在宅酸素療法が導入される。■ 手術療法内科的な治療にもかかわらず低酸素血症、高炭酸ガス血症、繰り返す気胸、呼吸機能障害が進行する場合で、年齢が55歳未満(両肺移植)、精神的に安定しており、本人と家族を含め移植医療を支える環境と協力体制が期待できる場合に肺移植の適応を検討する。4 今後の展望閉塞性細気管支炎は希少疾患であるが、骨髄移植や心肺移植をはじめ、移植医療が盛んになるにつれて発症の増加が予想される。また、自己免疫疾患や膠原病への合併症例や特発性症例の診断を確立していく上でも、今後の臨床情報の集積と早期診断・治療・予防に関する前向き研究を期待したい。5 主たる診療科呼吸器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 閉塞性細気管支炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業(びまん性肺疾患に関する調査研究班)(医療従事者向けのまとまった情報)1)長谷川好規. 日内会誌. 2011;100:772-776.2)Barker AF, et al. N Engl J Med. 2014;370:1820-1828.3)厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業「びまん性肺疾患に関する調査研究班」編. 難治性びまん性肺疾患診療の手引き.南江堂:2017.公開履歴初回2021年11月2日

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HPVワクチンとCOVID-19ワクチンの優先順位【今、知っておきたいワクチンの話】特別編2

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の陽性者の増加も落ち着き、新しい日常が始まっている。COVID-19ワクチンについても成人の2回接種率が約7割を超える(11月1日現在)とともに、12歳以上のCOVID-19ワクチン接種も進んでいる。そんな環境の中でHPVワクチン接種も引き続き定期接種として行われており、徐々にではあるが増えてきている。そのためか、定期接種の最終年にあたる高校1年生についてCOVID-19ワクチンとHPVワクチンの接種時期が重複した場合のスケジュール調整や両ワクチンのリスクなどについて相談が寄せられているという。今回本稿では、こうしたケースでの被接種者や被接種者の保護者への説明に医療者が知っておきたい事項を本コーナーの監修であり、家庭医として活躍されている中山 久仁子氏にお聞きした。※このインタビューは2021年10月23日に行いました。掲載内容もインタビュー時点の情報です。臨床現場からみた両ワクチンの接種の注意点質問:COVID-19ワクチン、HPVワクチンについて臨床の現場から最近の知見などを教えてください回答:COVID-19ワクチンについては、現在満12歳以上で接種できるようになり、接種が進んでいます。私のいる自治体では10代の接種率も80%を超えました。COVID-19は、若年者の重症化リスクは低く、無症状で経過する場合が多いです。ですから、COVID-19ワクチンはまずは基礎疾患がある方、今後受験・進学などのイベント、集団での活動を予定している方などは接種していただきたいです。また、第5波では小児は家庭内感染の一因にもなっていたため、家族への感染予防という観点からも接種のメリットがあると考えます。未成年者にCOVID-19ワクチンを接種した場合、成人と同様に局所の副反応などがあります。そして、とくに注意したいのが「心筋炎」です。発生する確率は非常に低いですが、10~20歳代の男性に接種した場合、接種後1週間ほどは激しい運動を避けていただき、接種後4日程度の間に発症のリスクが高くなりますので胸痛、動悸、息切れ、浮腫などの症状がないかの観察が必要です。ファイザー社と武田/モデルナ社のワクチンのいずれでも心筋炎は起こりますが、ファイザー社のワクチンの方が発生頻度の報告頻度は少ないですが、直接の比較検討の報告はありません。また、新型コロナ感染による心筋炎のほうが、ワクチン後のリスクよりも高いと報告されています(参考資料:令和3年10月15日厚生科学審議会資料)。海外ではより低年齢の小児への接種が承認されました。今後、日本での接種年齢が12歳未満に引き下げられるかは、臨床試験の結果と感染者数の推移などにより厚生労働省が決定しますので現段階では不明です。ただ、接種するかしないかは、「ワクチンの効果」と「COVID-19に感染したときのデメリット(症状や後遺症など)とワクチン接種でのデメリット(副反応)の比較」を考慮して被接種者に考えていただくことが大切です。被接種者が迷ったとき、不安なときには、かかりつけ医に相談していただき、正確な情報を基に判断してもらうようにしてください。次にHPVワクチンについて、本ワクチンのメインターゲットの子宮頸がんなどのHPV関連がんの発症は、HPVに感染してから時間がかかります。ワクチンによるHPV感染の減少と前がん症状の減少の効果については以前より報告がありましたが、最近子宮頸がんの減少が海外・国内1,2)から報告されています。また、ワクチン接種後の「多様な症状」とHPVワクチンとの因果関係を示す根拠は報告されておらず、これらは機能性身体症状と考えられるとの見解が発表されています。名古屋スタディ3)でも「多様な症状」がHPVワクチン接種後に特有の症状ではないことが示され、海外でもワクチン接種と機能性身体症状の研究レポート4)などもでており、世界保健機関(WHO)も世界中の最新データを継続的に評価し、HPVワクチンの推奨を変更しなければならないような安全性の問題はみつかっていないと発表しています。わが国ではしばらく積極的勧奨が差し控えられていますが、今後は、HPVワクチンの接種機会が増えてくると思われます。その際、接種時に被接種者の不安や緊張感を減らすことが大切です。接種の際に、緊張させないため十分なコミュニケーションをとり、接種のメリットと起こりうる副反応についてあらかじめ説明して理解してもらい、納得した上で接種することが大切です。HPVワクチンのトピックスとして、9価ワクチン(商品名:シルガード9)が2020年に製造販売承認され、2021年2月24日に発売、使用できるようになりました。定期接種ではありませんが任意接種で使用できます。本ワクチンは世界的に主流となってきています。確認としてHPVワクチンの標準的なスケジュール(図1)と緊急の場合のスケジュール(図2)を示します。図1 HPVワクチン接種の標準スケジュール画像を拡大する図2 HPVワクチン接種 標準的な接種ができない場合のスケジュール画像を拡大する定期接種最終年であれば先にHPVワクチンを接種質問:COVID-19ワクチンとHPVワクチンが重複した場合の優先順位、スケジュールなど教えてください。回答:今問題になっているのは、11月中に高校1年生の女子学生がHPVワクチンの1回目接種をしないと3回目が定期接種の枠から外れてしまうことです。そのためHPVワクチンとCOVID-19ワクチンでは、どちらを先に接種した方がよいかという問題があります。結論から言いますと、定期接種の期間に接種するために「HPVワクチンを優先して接種した方がよい」と言えます。HPVワクチンと新型コロナワクチンの標準的なスケジュールは、4価ではHPVワクチンの初回の接種後にCOVID-19ワクチンを2回接種し、その後2回目のHPVワクチンを接種するスケジュールになります。2価は1回目と2回目の間が1ヵ月のため、1回目と2回目のHPVワクチンを接種してから、2回目の接種後2週間以降にCOVID-19の接種を開始します。期間が短くて標準的な接種ができない場合のモデルスケジュールを図3に示します。2価・4価ともに1回目と2回目の間が1ヵ月のため、HPVワクチンの1回目と2回目を接種して、2回目の接種後2週間以降にCOVID-19の接種を開始します。図3 HPVワクチンを標準的な接種ができない場合のスケジュールとCOVID-19ワクチン画像を拡大するなお、COVID-19ワクチンの接種の際に注意すべき点として、ワクチンを接種するとき前後2週間の間隔を空ける必要があります。これは、副反応などが起きた場合、どのワクチンとの関係があるかの確認のためです。また、COVID-19ワクチンの接種の際にHPVワクチンのスケジュールと情報提供を行うと、今後のスムーズな接種に役立ちます。被接種者に寄り添ったワクチン接種を最後にHPVワクチンの動向として、今後もさまざまなワクチンの効果などに関するエビデンスがでてきますので注目してほしいと思います。厚生労働省も2020年10月と21年1月に各自治体に対し「接種対象者に被接種者である旨のお知らせの送付について」事務連絡を行いました。この事務連絡により、自治体は被接種者に被接種者であることを通知できるようになりました。年間3千人もの方が子宮頸がんで亡くなっていることを考慮しますと、対象者に被接種者であるお知らせが届き、正確な情報が伝わることは大事なことです。同様に文部科学省では、2021年3月に「がん教育推進のための教材」が改訂され、がんの予防にワクチン接種による感染対策が有効であること追加されました。今後は自治体や学校など、地域においてワクチンで病気を予防することの教育や啓発を行っていっていただけると期待しています。HPVワクチンを接種する医療者は、ワクチンの効果と副反応の説明をしっかりと行い、副反応がでた場合には、その対処や必要時に紹介できる体制などをあらかじめ確認しておき、安心して接種できる環境にすることが望まれます。そして、日常診療やインフルエンザワクチンなどで接種対象者が外来などに受診した場合には、その方に必要で接種可能なワクチンについて情報提供することで、ワクチンで予防できる疾患の予防について、本人に伝えていっていただきたいと思います。参考となるサイトこどもとおとなのワクチンサイト(日本プライマリ・ケア連合学会)ヒトパピローマウイルス感染症~子宮頸がん(子宮けいがん)とHPVワクチン~(厚生労働省)1)Lei J, et al. N Engl J Med. 2020;14:1340-1348.

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第84回 COVID-19を防ぐ遺伝子変化を見つける国際研究が発足

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染して発症した人と接したにもかかわらず感染を免れたそれらの同居家族、とくに、感染者の非感染配偶者(serodiscordant spouse)や感染者と寝床が一緒の非感染者のゲノムやエクソームを解析して感染防御に大いに貢献している遺伝子変化を同定する試みが始まっています1,2)。感染を防ぐ遺伝子変化は他の病原体の研究で少ないながら3つほど見つかっています。1970年代に赤血球のDuffyという抗原の欠如がそれら細胞の三日熱マラリア原虫感染を阻止することが突き止められ、1990年代になってその欠如がGATA転写因子結合領域を妨害してDuffy遺伝子プロモーターの活性を損なわせる遺伝子変異によって引き起こされることが判明しました3)。同じく1990年代にはHIVの共受容体CCR5(別名:CKR5)の欠損がその感染を防ぐことが判明し4-6)、2000年代に入るとFUT2欠損がノロウイルスの胃腸感染を阻止することが明らかになります7)。Duffy遺伝子プロモーターと三日熱マラリア原虫のDuffy結合タンパク質、CCR5とHIVのgp120-gp41二量体の関係と同様にFUT2はノロウイルスのカプシドタンパク質VPgの結合相手です。それら3種の関連のどれをとっても病原体の細胞侵入を図らずも手助けする受容体や共受容体の完全な欠損が感染防御を担うことは単なる偶然ではなさそうであり、SARS-CoV-2感染でも同様の防御の仕組みが存在するらしいことがこれまでの研究で示唆されています。今年6月にmedrxivに発表された全ゲノム関連解析(GWAS)結果8)によるとSARS-CoV-2のスパイクタンパク質の受容体ACE2の遺伝子近くの変化がSARS-CoV-2感染を防ぐ役割を担い、どうやらその変化はACE2発現を減らすようです。7月に発表されたメタ解析9)ではSARS-CoV-2の感染しやすさと血液型が関連することが確実になりました。血液型O型のSARS-CoV-2感染防御の仕組みはまだはっきりしていませんが、血液型抗原は微生物の受容体や共受容体を担いうることがわかっており、SARS-CoV-2もそうなのかもしれません。血液型O型のSARS-CoV-2感染防御効果は微々たるものです。全世界の10の研究所からのチームが立ち上げた今回の取り組みはSARS-CoV-2感染を強力に防御する希少な遺伝子変化を明らかにすることを目標の一つとしています。そのような遺伝子変化は感染の仕組みの理解を助けることに加えて、CCR5欠損の同定とCCR5遮断薬マラビロック(maraviroc)がすでに証明している通り、SARS-CoV-2感染の予防や治療の開発にも役立つでしょう。マラビロックはHIV感染治療の一画を占める存在となっています。先月中旬にNature Immunology誌に掲載された試験の紹介によるとすでに被験者数は400人を超えており1)、その掲載から2週間と経たない間にロシアやインドなどの600人ほどから試験への参加を自薦する問い合わせがありました2)。試験は少なくとも千人を集めることを目指しており、世界中からの参加を歓迎すると研究者は言っています2)。参考1)Andreakos E,et al. Nat Immunol. 2021 Oct 18:1-6. [Epub ahead of print]2)The search for people who never get COVID / Nature3)Tournamille C,et al. Nat Genet. 1995 Jun;10:224-8. 4)Samson M,et al.Nature.1996 Aug 22;382:722-5.5)Liu R,et al.Cell . 1996 Aug 9;86:367-77.6)Dean M,et al.Science. 1996 Sep 27;273:1856-62.7)Lindesmith L,et al.Nat Med. 2003 May;9:548-53.8)Genome-wide analysis in 756,646 individuals provides first genetic evidence that ACE2 expression influences COVID-19 risk and yields genetic risk scores predictive of severe disease. medRxiv. June 10, 20219)COVID-19 Host Genetics Initiative. Nature 2021 Jul 8. [Epub ahead of print]

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COVID-19の血栓症は本当の問題なのか?(解説:後藤信哉氏)

 新型コロナウイルス感染は血管内皮細胞にも起こる。血管内皮細胞障害を介して深部静脈血栓症、脳血栓症などが増える。とくに、最初の武漢からのレポートでは入院例にヘパリンの抗凝固療法を施行していないこともあり、約半数の症例に静脈血栓イベントを認めたと注目された。米国、欧州などでは静脈血栓イベント予防のための低分子ヘパリンがルーチンになっていたが、それでも10~20%の症例に静脈血栓イベントを認めた。また、最近のランダム化比較試験にて静脈血栓の治療量を用いても、予防量投与時と重症化後には重篤な予後イベント発症率に差がないとされた。 本研究では症候性ではあるが外来症例が対象とされた。新型コロナウイルス感染の予後が血栓症により規定されているのであれば、従来確立された抗血栓療法である抗血小板薬アスピリン、抗凝固薬アピキサバンは有効なように思われる。考えられた仮説に対してランダム化比較試験による検証をするのが欧米人の偉いところである。登録された症例はPCR陽性、有症候性の40~80歳の男女であった。コントロール、アスピリン、予防量、治療量のアピキサバンの4群比較試験であった。死亡、血栓症などをエンドポイントとした実臨床ベースのランダム化比較試験であった。当初7,000例の登録を目標としたが、予想よりもイベントが著しく少なかったため、657例が対象になったときにDSMBの勧告により試験は中止となった。登録症例のうち22例が45日以内に肺炎にて入院となった。アスピリンまたはアピキサバンを服用した症例のうち、血栓イベントなどの有効性1次エンドポントを発現したのは3例であった。136例のコントロールでの血栓イベントも1例にすぎなかった。 新型コロナウイルス感染の入院例にて血栓イベントが多かったことは事実であった。しかし、有症候であっても外来通院中の症例の血栓イベントは決して多くはない。新型コロナウイルス感染による血栓イベントのメカニズムの解明には本研究は大きく期待できた。しかし、コントロールの血栓イベントの少なさから考えると、アスピリンとアピキサバンの比較まで行うためには数万人の登録が必要と思われる。有症候であっても外来通院中の症例には必ずしも抗血栓療法は必要ないらしい、くらいが本論文が示した結果と思う。

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第76回 過労自殺の半数はうつ病発症から6日以内/過労死等防止対策白書

<先週の動き>1.過労自殺の半数はうつ病発症から6日以内/過労死等防止対策白書2.12月開始の3回目ワクチン、接種対象者は限定せず/厚労省3.新型コロナワクチンの接種率、日本は人口の7割に到達4.制度にそぐわないDPC病院に是正か退出を/中医協5.研修医マッチング、昨年に続き6割以上が大学病院外で内定1.過労自殺の半数はうつ病発症から6日以内/過労死等防止対策白書政府は、「過労死等防止対策白書」を10月26日に閣議決定した。これは2014年に成立した過労死等防止対策推進法に基づいて国会に毎年報告を行っており、過労死等の概要や政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況を取りまとめたもの。今回の白書によれば、うつ病など精神障害で労災認定された過労自殺者は、発症から6日以内と短期間で亡くなる人が半数に上るとの調査結果が明らかとなっており、より一層の対策を求めている。(参考)コロナ影響の悩み、ストレスチェックで気付きを 厚労省が過労死等防止対策白書を公表(CBnewsマネジメント)過労自殺の半数、うつなど発症から6日以内 厚労省報告(日経新聞)資料 令和3年版過労死等防止対策白書の概要(厚労省)2.12月開始の3回目ワクチン、接種対象者は限定せず/厚労省厚生労働省は、10月28日に厚生科学審議会予防接種を開催し、新型コロナウイルスワクチンの追加接種(3回目)の対応方針をめぐって議論を行った。国内外の感染動向やワクチン効果の持続期間、諸外国の対応状況から、追加接種の必要があるとした。また、追加接種の時期は2回目接種完了からおおむね8ヵ月以上経過後に実施、使用するワクチンは、原則1・2回目に用いたワクチンと同一のものを用いることとされる。3回目接種の実施対象者は、高齢者や重症化リスクのある人に限定せず、2回目接種が完了したすべての人とする方針で一致した。(参考)“3回目接種”12月から順次開始へ 気になる副反応は(NHK)3回目ワクチン接種、対象者を限定せず 2回目終えた全員に、厚科審・分科会(CBnewsマネジメント)資料 新型コロナワクチンの接種について(厚労省)3.新型コロナワクチンの接種率、日本は人口の7割に到達政府は10月26日に、新型コロナウイルスワクチンの2回目接種を終えた人が、全人口の70.1%である8,879万人に到達したと発表した。アメリカは全人口の57%、フランス68%、イギリス67%、ドイツ66%であり、G7では2位のイタリア(71%)とほぼ肩を並べ、1位のカナダ74%に次ぐトップ水準となった。(参考)新型コロナワクチンについて(内閣府)ワクチン2回接種終えた人、人口の7割超える…海外より高水準(読売新聞)人口7割がワクチン完了 G7でトップ水準(産経新聞)Which countries are on track to reach global COVID-19 vaccination targets?(Our World in Data)4.制度にそぐわないDPC病院に是正か退出を/中医協厚労省は10月27日に中央社会保険医療協議会 診療報酬基本問題小委員会を開催し、2022年度診療報酬改定に向けて検討結果の取りまとめを行った。そこでDPC病院において、診療密度や在院日数が平均から外れている病院も認められ、DPC制度にそぐわない可能性があると指摘があったことから、調査報告について、支払い側の委員から「イエローカードを出し、それでも是正がなければレッドカードを出すべきだ」と意見が出された。今後、DPC制度にそぐわない病院をどのように対処するか仕組みの検討がなされるだろう。(参考)DPC外れ値病院、当面は「退出ルール」設定でなく、「診断群分類を分ける」等の対応検討しては―入院医療分科会(Gem Med)DPC外れ値病院へ、「是正なければレッドカードを」中医協・小委で支払側委員(CBnewsマネジメント)資料 第206回 中央社会保険医療協議会 診療報酬基本問題小委員会(厚労省)5.研修医マッチング、昨年に続き6割以上が大学病院外で内定厚労省は10月28日に、2021年度「医師臨床研修マッチング」の結果を発表した。新医師臨床研修制度が2004年4月に導入され、その翌年から大学病院以外の研修病院で研修を受ける医師が半数を超えている。今回、大学病院の内定割合36.7%(前年度38.1%)に対し、大学病院以外の臨床研修病院での内定割合は63.3%(前年度61.9%)と、大学病院以外での研修がさらに浸透してきていることが明らかとなった。(参考)2022年4月からの臨床研修医、都市部6都府県以外での研修が59.2%、大学病院以外での研修が63.3%に―厚労省(Gem Med)医師臨床研修の内定者数が増加 厚労省が2021年度のマッチング結果公表(CBnewsマネジメント)資料 令和3年度 研修医マッチングの結果(医師臨床研修マッチング協議会)資料 2021年度 研修プログラム別マッチング結果(同)

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コロナ禍で子供の神経性やせ症が増加/成育医療研究センター

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による外出自粛は社会経済上、多大な負の影響を及ぼした。また、子供たちはおいては学校に登校できない、当たり前にできていた運動会や修学旅行などの学校行事の中止や延期などでつらい時間を過ごしている。こうしたCOVID-19による社会変動は、子供たちにどのような影響を及ぼしているのであろう。 国立成育医療研究センター(理事長:五十嵐隆)は、子供の心の診療ネットワーク事業の一環で、「新型コロナウイルス感染症流行下の子供の心の実態調査」を実施。その結果を10月21日に発表した。 この調査は、全国26医療機関が参加したもので、コロナ流行前の2019年度と比較し、2020年度では神経性食欲不振(神経性やせ症:摂食障害の1つ。極端に食事制限をしたり、過剰な食事後に吐き出したり、過剰な運動を行うなどして、正常体重より明らかに低い状態になる疾患)の初診外来患者数が約1.6倍、新入院者数が約1.4倍に増加していたことが判明した。神経性やせ症が増加した一方で病床が足りない 本調査はコロナ禍の子供の心の実態調査を把握するため、2021年4月30日~6月30日に実施。子供の心の診療ネットワーク事業の全国26医療機関にアンケートを送付し、20歳未満の患者について回答を得たものを解析・集計した。 調査結果のポイントは下記の通り。・コロナ禍で、食事を食べられなくなる神経性やせ症が増加・子供の心の診療ネットワーク事業拠点病院から、コロナ禍で神経性痩せ症の患者が重症化し、入院期間が延びているとの報告があった・一方で、摂食障害の患者のための病床数が不足していることがわかった。摂食障害の病床充足率について回答があった5施設の内、4施設で病床使用率が増加し、充足率(現時点で摂食障害で入院している患者数/摂食障害の入院治療のために利用できる病床数×100)が200%を超える施設が2施設あった。摂食障害を治療できる医療機関が少ないこともあり、特定の施設に入院患者が集中していることが推測される。また、COVID-19感染者への病床数を増やしたため、摂食障害の患者の入院まで対応できなくなったことが影響している可能性も考えられる・神経性やせ症の患者増加の背景には、緊急事態宣言や学校の休校などの生活環境の変化によるストレス、子供たちが感染対策のために家に引きこもっていること、行事などのアクティビティが中止になったこと、友達に会えないこと、COVID-19感染症への不安などがあると推測される。当センターが実施した「コロナ×こどもアンケート」の第3回調査では、回答者(6〜18歳)全体の73%に、第5回調査では76%に、何らかのストレス反応がみられた・コロナ太り対策のダイエット特集の報道やSNSでの情報に、子供たちが影響された可能性も考えられる・「コロナ×こどもアンケート」の第4回調査では、「あまり食欲がない、または食べ過ぎる」と回答した子供(9~18歳)が、全体の約半数だった。また、同第5回調査では、いまの自分の体型について回答者(9~18歳)全体の38%が、「太りすぎ」「太りぎみ」と思っていると回答し、48%が痩せたいと思っていると回答した。さらに、痩せるために、回答者全体の4%が「食事の量を普段の3分の2以下に減らす」、2%が「食べたものを吐く」と回答していた。これらから、「コロナ禍の子供の心の実態調査」で判明した患者数以上に、摂食障害の潜在患者や予備軍の子供がいる可能性も推測される 以上の調査結果をうけ、「神経性やせ症患者が増加し、また入院日数も伸びていることから、入院病床数を確保することが必要であり、摂食障害を診察できる医療機関の拡充も求められる。神経性やせ症の場合、本人が病気を否認して医療機関での受診が遅れがちとなる。子供の食欲や体重の減少に家族や教育機関で気を配り、深刻な状態になる前に、まずは内科、小児科などのかかりつけの医を受診することが必要」とコメントしている。

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12~18歳のデルタ株への感染予防効果90%、ファイザー製ワクチン/NEJM

 デルタ変異株が流行しているイスラエルで、ファイザー製ワクチンの効果を12~18歳を対象とした観察コホート研究で調べたところ、2回目接種後7~21日の感染予防の有効率は90%、発症予防の有効率は93%だった。この結果から、ファイザー製ワクチンの接種完了後数週間は、デルタ株への感染とCOVID-19発症のどちらにも非常に有効であることが示唆された。米国・Boston Children's HospitalのBen Y. Reis氏らが、NEJM誌オンライン版2021年10月21日号のCORRESPONDENCEで報告した。 著者らは、デルタ変異株に対するファイザー製ワクチン(BNT162b2 mRNAワクチン)の有効性を推定するために、イスラエル最大の医療機関であるClalit Health Servicesのデータを使用し、2021年6月8日~9月14日にワクチン接種を受けていた新型コロナウイルス感染歴のない12~18歳を対象に観察コホート研究を実施した。ワクチンの有効率は、1からリスク比を引いた数字とした。 主な結果は以下のとおり。・ワクチン接種者18万4,905人のうち、13万464人が適格要件を満たし、このうち9万4,354人がワクチン未接種の対照9万4,354人と一致した。・PCR検査の頻度は、ワクチン接種群とワクチン未接種群で同様だった。・感染のカプランマイヤー曲線は、最初の数日間はワクチン接種群と未接種群で類似していたが、その後ワクチン接種群で上昇が遅れ始めた。・新型コロナウイルス感染に対する推定有効率は、初回接種後14~20日で59%(95%信頼区間[CI]:52~65)、初回接種後21~27日で66%(同:59~72)、2回目接種後7~21日で90%(同:88~92)だった。・COVID-19発症に対する推定有効率は、初回接種後14〜20日で57%(95%CI:39〜71)、初回接種後21〜27日で82%(同:73〜91)、2回目接種後7〜21日目で93%(同:88〜97)だった。

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新型コロナウイルスワクチン接種によりギラン・バレー症候群の発症リスクは4倍に高まる(解説:内山真一郎氏)

 米国食品医薬品局(FDA)は、新型コロナウイルスワクチンAd26.COV2.S(ヤンセン/ジョンソン・エンド・ジョンソン)接種後のギラン・バレー症候群(GBS)に懸念を表明しているが、2021年7月までに全米で報告された130例を分析している。平均年齢は56歳、65歳未満が86%、男性が60%であった。ワクチン接種後GBS発症までの平均日数は13日、93%は重症、死亡は1例であった。これはワクチン接種10万回に1件発症する計算になる。期待値に対する観察値の比率は4.18であり、ワクチン接種によりGBSの発症リスクは4倍以上に高まることになり、年間10万人当たり6.36例発症すると推計される。このように、ワクチン接種後の発症率は低いものの、発症リスクは有意に高まることから、本ワクチン接種には安全性に懸念を持たざるを得ないと結論している。ただし、本研究は受動登録システムによる診療記録の分析であり、GBSの確定診断も確立する必要があることを課題として挙げている。 ところで、欧州医薬品庁(EMA)は、7月末までにアストラゼネカ製ワクチン5億9,200万回のうち、GBSが833件発症したことを報告している。また、英国の医薬品・医療製品規制庁(MHRA)は、10月13日までにGBSがアストラゼネカのワクチンで432件、ファイザー/ビオンテックのワクチンで59件、モデルナのワクチンで4件発症したことを報告している。日本でも厚生労働省からの報告が待たれる。

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第81回 週刊誌にトンデモ記事を載せないためコロナ第6波予測で重要視するのは…

医療をテーマにしたフリージャーナリストという立場になると、今回の新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)関連では週刊誌からはよくコメントを求められることがある。大概は医師が捉まらない時の代役のようなものである。もっとも1ヵ月前くらいから新規感染者報告数が激減したことにより落ち着いてきたが、ここに来てまたぽつぽつと連絡が入るようになった。しかもそのすべてが判で押したように同じことを聞く。 「第6波はいつ来るんですかね?」こういう未来予測的なものが一番答えにくい。というか、こうしたことはたいてい予測通りにはならない。そもそも今回の新型コロナに関しては感染症専門医ですら悪い意味で何度も予測を外しているはずだ。具体例を挙げるなら、中国でのパンデミック勃発当初、全世界にこれほど広がるとは思っていなかっただろうし、発症前の無症状期に感染力があったというのも意外だったろう。そして比較的容易に飛沫感染するため、これまでの感染症対策としてのマスクの位置付けを大きく変えてしまった。また、ウイルスの生存原理としては変異株で感染力が増せば、ウイルスは弱毒化すると考えられているが、新型コロナの変異株では感染力も毒性も高くなっていると報告されている。唯一良い意味で予測が外れたのは、わずか1年弱でワクチンが登場したことぐらいではないか。そんなこんなもあって前述のような問いには「来る可能性はあるかもしれないが、まったく来ない可能性もあるかも」とぼやかしているが、そう答えると「では、来るとしたらいつですか?」と突っ込まれてしまう。「冬じゃないですか?」と答えると、「冬のいつですか?年内ですか、年明け以降ですか?」と続くので、結局何らかの予測を答えざるを得ない状況に追い込まれる。答えないという手もあるのだが、そうすると時に記者が完全なトンデモ系の人に流れて“トンデモ記事の一丁あがり”になることもある。自分は一応、かなり抑制的に答えているつもりなので、それを防ぐ意味でも答えざるを得なくなる。今私が答えている内容はこんな感じだ。まず、冬期は低湿度・水分摂取量の減少で気道の絨毛の働きが弱くなるため、一般論として多くの人で呼吸器感染症にかかるリスクが高まる。たとえば東京都内で見ると、平均相対湿度が50%台と最も低水準になるのは12月~3月にかけてである。一方、第6波の到来に影響を与えるのが、当然ながらワクチン接種率である。10月27日時点で全人口に占めるワクチン接種完了率は70.6%とついに7割超となった。しかし、デルタ株の基本再生産数5.0~9.5人から算出できる、今時点で必要な接種率は80~89%(集団免疫獲得に必要な全人口に占めるワクチン接種完了者率)とかなり高めで、この達成はかなり難しい。ただ、希望者全員への接種完了は11月中と予想されており、そう考えるとある意味まだフレッシュな抗体を獲得した人がいる年内に第6波は考えにくい。一方、国内で優先接種対象になった医療従事者や高齢者では徐々に抗体価が低下してくる。先日Lancet誌に公表された論文でのファイザーのコミナティ筋注の感染予防効果はワクチン接種5ヵ月後で47%である。その意味でワクチンによる感染予防効果の低下を考えると、優先接種対象者はすでにややリスクが高い状態である。もっとも医療従事者は一般人よりも厳格な感染予防対策を行っており、高齢者はそのほかの年齢層以上に冬期の外出を控えがちになるので、これらの人たちで感染が再燃して拡大する可能性は低いのではないだろうか? また、3回目のブースター接種が年内にスタートすれば、医療従事者や高齢者での感染者増加の可能性はかなり低くなると考えられる。となると高齢者や基礎疾患保有者以外の一般接種が本格化した7月から5~6ヵ月後ということになり、この点からも第6波が到来するとしたら年明けの1月以降と予測される。もっともこの予測に大きく影響を与えるファクターが2つある。1つはこれまた「ワクチン接種率」で、運よく集団免疫達成の80%ラインを超えた場合、第6波はかなり後ろにずれ込むか、来ても小規模なものになる、あるいはベストのシナリオとして「来ない」ということもありうる。もう1つのファクターが「人流の増加」で、新型インフルエンザ等特別措置法に基づく緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が全国で解除され、今後極端に人流が増加した場合に第6波到来は年内に前倒しになるかもしれない。だが、いずれにせよワクチン接種率が7割超なのでブレイクスルー感染を考慮しても第5波に比べてかなり規模が小さくなるのではないか。これが正解であるかはわからない。むしろこの予測が良い意味では外れて「第6波到来せず」のシナリオであってほしいと本気で考えている。

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ファイザー社製COVID-19ワクチンの変異株に対する有効性の経時的変化(解説:小金丸博氏)

 ファイザー社製のCOVID-19ワクチンのリアルワールドにおける有効性を評価した後ろ向きコホート研究がLancet誌に報告された。ワクチンの有効性は6ヵ月間持続するのか、デルタ変異株に対しても予防効果はあるのか、といった疑問に対する1つの答えを提示している。 ワクチンのSARS-CoV-2感染に対する有効性は73%(95%信頼区間[CI]:72~74)だったが、ワクチン接種1ヵ月後と5ヵ月後を比べると、88%(同:86~89)から47%(同:43~51)に低下した。この現象はデルタ株、非デルタ株ともに認めており、ワクチンの感染予防効果は変異株の種類にかかわらず、経時的に低下することが示された。 ワクチンのCOVID-19関連の入院に対する有効性は90%(95%信頼区間[CI]:89~92)だった。ワクチン接種6ヵ月後までのデルタ変異株によるCOVID-19関連の入院に対する予防効果は93%(同:84~96)と高率であり、入院予防効果が6ヵ月間は持続することが示された。ワクチンによる入院予防効果がいつまで維持されるのか、今後の研究結果を待ちたい。 2021年6月~7月にかけて世界中でデルタ変異株が流行した。イスラエルや米国からの報告によると、デルタ変異株に対してワクチンの有効性が低下する可能性が示唆されていたが、本研究の結果からは、ワクチン有効性の低下の原因は変異株の影響より、時間経過とともに免疫力が低下したことが主な要因と考えられた。COVID-19ワクチンに関する今後の課題として、新たな変異株に対する有効性の評価や、ブースター(追加)接種スケジュールの確立などが挙げられる。感染予防効果を維持するためにはワクチンのブースター接種は必須と考えられるため、的確なワクチン接種スケジュールの確立のために、さらなる知見の集積が必要である。

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第81回 新型コロナに「新たな変異株」が確認されたロシアの今

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の新規感染者数が連日3万人を超えるロシアで、デルタ株よりも感染力が強いとみられる変異株の感染が確認された。専門家によると、新たな変異株「AY.4.2」の感染力は、デルタ株を10%程度上回る可能性があり、流行すれば感染者が一層増える懸念がある。ロシア政府の国産ワクチンへのこだわり、国民のワクチンに対する不信や危機意識の薄さが、接種率の低迷(2回目は32%)、ひいては感染拡大の背景にあると指摘されている。国際的に経済活動が活発化しつつある中、ロシア発の新型変異株が拡散するようなことはあってはならない。自国ワクチンと政府に対する国民の不信ロシアは新型コロナのパンデミックに際し、世界初のワクチン生産と接種に動いた。しかし、接種は自国製ワクチンの「スプートニクV」に限定され、その有効性に対する国民の不信感もあり、接種率はすこぶる低調だ。また、9月に実施された総選挙では、野党指導者の身柄拘束や立候補禁止措置、バラ撒き政策など、政府・与党のなりふり構わぬ選挙対策が国民の政治不信を招き、これらもまたワクチン接種率が上がらない一因となっている。ロシア政府は、世界保健機関(WHO)に対し「スプートニクV」の緊急使用の申請をしたが、「承認に必要なデータや法的な手続きに不足がある」との理由で承認されず、ワクチン売り込みで競う中国製ワクチンは、すでに2種類が承認されている。11月8日から始まる米国の新たな入国規制では、入国に必要なワクチン接種証明はWHOの承認を得たものに限られるため、「スプートニクV」の接種証明では入国許可の対象外となる。ロシア政府のワクチン外交に打撃となっていることは想像に難くない。金融市場は活況でも実態経済は悪化の懸念ロシアでは昨年、新型コロナ感染対策として大都市部を中心に外出禁止令などを実施したが、実体経済に悪影響を及ぼしたため、その後は行動制限に及び腰の対応が続いた。しかし、感染拡大に歯止めが掛からない中、プーチン大統領は先ごろ、国内全土の企業や学校などを休みにする「非労働日」を設ける大統領令を発表。モスクワやサンクトペテルブルクでは、生活必需品を扱う店以外の営業を停止するなど経済活動を制限し、不要不急の外出を控えるよう市民に呼び掛けている。金融市場では、原油高や金融引き締めを追い風にルーブル相場や株価は堅調に推移しているものの、実体経済への悪影響が今後の市場環境を激変させる可能性もある。自国ワクチン偏重主義や、国民の信用が得られない政府の在り方がワクチン接種率の低迷をもたらしているロシア。政治と感染症対策が一蓮托生であるということをつくづく思い知らされる。

1839.

6~12歳未満にコロナワクチン半量投与で強い抗体、第III相試験中間解析/モデルナ

 米国・モデルナ社は10月25日付のプレスリリースで、同社の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンについて、12歳未満の小児を対象にした第II/III相試験の中間解析のデータを公表した。公表したのは6歳~12歳未満のコホートで、良好な安全性プロファイルを有するmRNA-1273ワクチン50μg(通常100μgのところ、その半量)を2回投与したところ、強い中和抗体応答を示したという。モデルナは、本解析結果を近く米国食品医薬品局(FDA)をはじめ、海外諸国の規制当局に提出する。 モデルナが6ヵ月~12歳未満の小児を対象に実施している第II/III相試験(KidCOVE試験)では、6ヵ月~2歳未満、2~6歳未満、6歳~12歳未満の3つの年齢層に分け、mRNA-1273ワクチン50μgを2回接種した際の安全性、忍容性、反応原性および有効性を評価している。このうち6歳から12歳未満のコホートには4,753例が登録。第III相COVE試験(18歳以上対象、mRNA-1273ワクチン100μg×2回接種)で得られた若年成人と本コホートを比べたSARS-Cov-2血清中和抗体価の幾何平均比(GMR)は1.5(95%信頼区間[CI]:1.3~1.8)、血清反応率は99.3%だった。2回目接種の1ヵ月後に本コホートで強い免疫応答を示し、主要評価項目である第III相COVE試験を対照群として比較した免疫原性における非劣性を達成した。有害事象の大半は軽度または中等度で、最も一般的な誘発有害事象は、疲労、頭痛、発熱、注射部位の痛みだった。KidCOVE試験では、引き続き6ヵ月~6歳未満の小児の登録を継続し、研究が続いている。 COVID-19ワクチンを巡っては、米国・ファイザー社でも小児を対象とした臨床試験を進めている。同試験では、5~11歳の小児に対し、BNT162b2ワクチンの2回接種後7日以降の発症予防率が90.7%を示すデータが先ごろ公表され、FDAの諮問委員会は10月26日、ファイザー製ワクチンの緊急使用承認(EUA)の対象を5~11歳にも拡大するよう勧告した。

1840.

D-ダイマー高値のコロナ中等症、ヘパリン治療量の有効性は?/BMJ

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で入院したD-ダイマー高値の中等症患者において、治療量のヘパリンは主要評価項目の有意な改善には至らなかったが、28日死亡リスクは低下し、大出血リスクは低いと考えられることが、カナダ・トロント大学のMichelle Sholzberg氏らによる医師主導の多施設共同無作為化非盲検(評価者盲検)比較試験「RAPID試験」で示された。これまで、無作為化試験において、治療量のヘパリンは中等症のCOVID-19入院患者には有益であるが、重症患者には効果がなく、治療量ヘパリンの開始時期が重要であることが示唆されていた。BMJ誌2021年10月14日号掲載の報告。治療量または予防量のヘパリンを28日間投与 研究グループは、中等症のCOVID-19入院患者に対するヘパリンの治療量と予防量の有効性を比較する目的で、ブラジル、カナダ、アイルランド、サウジアラビア、アラブ首長国連邦および米国の28施設においてRAPID試験を実施した。 対象は、2020年5月29日~2021年4月12日に中等症COVID-19で入院し、D-ダイマー値上昇が認められた成人465例。治療量ヘパリン群(228例)または予防量ヘパリン群(237例)に、施設と年齢(≦65歳、>65歳)で層別化し1対1の割合で無作為に割り付けた。無作為化後24時間以内にヘパリン(低分子ヘパリンまたは未分画ヘパリン)による各用量での治療を開始し、退院、28日目、試験中止または死亡のいずれか早い時期まで継続した。 主要評価項目は、28日目までの全死因死亡、侵襲的機械換気、非侵襲的機械換気または集中治療室(ICU)入室の複合エンドポイント。副次評価項目は、全死因死亡、全死亡または機械的換気の複合、および静脈血栓塞栓症などで、安全性評価項目は大出血などであった。治療量ヘパリン群、28日全死因死亡リスクが有意に低下 被験者465例の背景は、平均年齢60歳、264例(56.8%)が男性、BMI平均値は30.3であった。 28日時点で主要評価項目のイベントは、治療量ヘパリン群で16.2%(37/228例)、予防量ヘパリン群で21.9%(52/237例)に発生した(オッズ比[OR]:0.69、95%信頼区間[CI]:0.43~1.10、p=0.12)。 死亡は、それぞれ4例(1.8%)および18例(7.6%)に発生(OR:0.22、95%CI:0.07~0.65、p=0.006)、全死因死亡と機械的換気の複合イベントはそれぞれ23例(10.1%)および38例(16.0%)に認められた(0.59、0.34~1.02、p=0.06)。 静脈血栓塞栓症の発生は、治療量ヘパリン群2例(0.9%)、予防量ヘパリン群6例(2.5%)で(OR:0.34、95%CI:0.07~1.71、p=0.19)、大出血はそれぞれ2例(0.9%)、4例(1.7%)(0.52、0.09~2.85、p=0.69)報告された。

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