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第312回 過熱報道が続くハンタウイルス、その起源はアジアだった!

INDEXハンタウイルス感染が明らかになるまでウイルスの由来主な症状とは過去の論文報告を見ると…ハンタウイルス感染が明らかになるまでここ数日、世間の報道では「ハンタウイルス」の言葉が飛び交っている。オランダのオーシャンワイド・エクスペディションズ社(以下、OE社)が運営するクルーズ船「MVホンディウス号」の乗客から、げっ歯類の排せつ物を通じて感染することが一般的なハンタウイルスに感染したと思われる死亡者が発生したためだ。この件に関する同社ホームページのニュースリリースの第1報は5月3日。その内容は、アフリカ西部の島国カーボベルデ沖に停泊中の同号船内で乗客3名が死亡、別の乗客1名が現在南アフリカ・ヨハネスブルグの病院において集中治療室(ICU)で治療を受けており、さらに乗組員2名が救急治療を必要としているというもの。ちなみにカーボベルデという国名を聞いたことがない人も多いだろうが、アフリカにある旧ポルトガル領の島国だ。人口は約60万人で、独立(1975年)からまだ半世紀しかたっていない。ただ、クーデターが頻発するアフリカ各国の中で数少ない、未遂も含めクーデター経験ゼロで複数政党制を採用している国である。5月4日の第2報で明らかにされたのが以下の事実関係だ。(1)4月11日:乗船中のオランダ人乗客1人が死亡(当時は死因不明)(2)4月24日:英領セントヘレナ島で死亡した乗客のオランダ人の妻が遺体とともに帰国のため下船(3)4月27日:OE社は、セントヘレナ島で下船した死亡乗客の妻も帰国中に体調が悪化し、死亡したとの報告を受けた。また乗船中のイギリス人乗客の容体が悪化し、南アフリカに搬送。後にこの乗客からハンタウイルスの変異株が検出された(4)5月2日:乗船中のドイツ人乗客が死亡(5)イギリス人とオランダ人の乗組員2名が急性呼吸器症状を呈する。1名が軽症、もう1名が重症。5月6日、中央ヨーロッパ時間14:45発表の最新のニュースリリースまでの状況は、船内での医療搬送必要者は前出の乗組員2名を含む3名に増加。乗組員の重症度はともに重症となり、新たな搬送必要者は5月2日に死亡したドイツ人乗客の近親者で無症候だという。すでに乗組員2人はオランダに搬送され、残る1名も現在航空機で搬送中。さらにMVホンディウス号はカーボベルデを離れ、現在はスペイン領カナリア諸島に向かっている。また、スイス政府は6日、同号を下船してスイスに帰国した(上記とは別の)夫婦の夫がハンタウイルスに感染したことを発表している。ウイルスの由来さて、今回のハンタウイルス騒動に関する国内の報道については、私自身はやや過熱しすぎだと感じている。厚生労働省も冷静な対応を呼びかけるポストをX(旧Twitter)に投稿しているほどだ。確かにOE社の5月4日の発表では、この日時点での乗員乗客149人(死者1人を含む)の中に日本人乗客1人が含まれてはいる。ただ、現在船内にいる乗員・乗客には不快に思える表現になってしまうかもしれないが、現状は感染がクルーズ船内に事実上封じ込められているため、各国にとってただちに公衆衛生上の問題に発展することは少ないと考えられる。私個人は「ネズミの排せつ物を介して感染するハンタウイルスというウイルスがあり、国内外でネズミなどの排せつ物などを見かけた場合、あるいはそういう可能性があるとわかった場所は避けましょう」という知識を持っておけばよいぐらいに考えている。さてそのハンタウイルス、医療者の中でも初めて聞いたという人もいるかもしれない。たまたま私は簡単な知識は有していた。以前から繰り返し言及しているが、私の取材領域の1つが国際紛争だからである。というのも、ハンタウイルスが同定されたきっかけは1950年に勃発した朝鮮戦争であり、同戦争は第2次世界大戦後から現在までにアジア圏で起きた最も大規模な戦争であるため、そこそこ以上にその戦史には目を通しているからだ。さらに余談になるが、現在の南北朝鮮の事実上の国境となっている休戦ライン「軍事境界線」上にある双方の共同警備区域「板門店」には南北双方から訪れた経験がある。ハンタウイルス発見のきっかけとなったのは、朝鮮戦争中の1951年春から初夏にかけて、北緯38度線周辺の朝鮮半島中部の激戦地帯で、原因不明の腎性出血熱が多発した件である。とくに患者が集中したのは、現在の韓国北部を流れる漢灘江(ハンタンガン)周辺で、1951~54年の間に発生した患者数は3,000例前後と伝わっている。当時は「韓国出血熱」と呼ばれていたが、韓国・高麗大学校名誉教授の李 鎬汪(イ・ホワン)氏が1976年にウイルスの同定・分離に成功し、発生地帯だった漢灘江にちなんで「ハンターンウイルス」と命名された。李氏の発見は、既往者の血清が漢灘江周辺で捕獲されたセスジネズミの肺組織中の抗原に反応したことに起因しており、ネズミが自然宿主であることも同時にわかっている。この流行が起きた朝鮮戦争当時は、兵士が山岳地帯や野戦陣地・塹壕で長期間活動しており、そこに入り込んだネズミの排せつ物の乾燥粉塵を吸い込んだ結果と現在では考えられている。その後、同類のウイルスの発見が相次ぎ、1987年に国際ウイルス分類委員会(ICTV)によって、これらのウイルス群をまとめる新しい分類として「ハンタウイルス属」が新設された。その後、自然宿主別の分類変更が行われ、現在ハンタウイルスと報道されているものは、小型哺乳類を自然宿主とする「オルトハンタウイルス属」を指している。主な症状とはオルトハンタウイルス属に入るウイルスは、種類として60種類あり、主なものとしては、前出のハンターンウイルスのほかにソウルウイルス、アンデスウイルス、シンノンブレウイルスなどがある。ハンタウイルス感染症はウイルスの種類によって病型に違いがあり、前出の4種類のウイルスに関して言えば、前者2種類が俗にヨーロッパ・アジア型ともいわれる腎症候性出血熱(HFRS)、後者2種類が俗に南北アメリカ型と呼ばれるハンタウイルス肺症候群(HPS)の原因となっている。HFRSの初期症状は発熱、頭痛、軽度の血尿などで重症化すると低血圧や急性腎不全に至る。感染者の約3分の1では出血傾向が認められ、致死率はソウルウイルスでは1%未満といわれ、ハンターンウイルスでは5~15%。一方、HPSの初期症状は発熱や咳、筋肉痛などで、時に嘔吐や下痢も出現する。HPSは急速に呼吸不全につながることも少なくなく、呼吸器症状を呈した人での致死率は約38%。HPSの致死率については4割を超えるとの報告もある。HFRS、HPSとも少なくとも致死率だけはかなり高い。ただ、HFRSの10%を超える致死率報告は、透析技術なども進化していなかった発見当初のデータともいわれ、現状は限りなく最小値の5%前後に近づいているとの指摘もある。過去の論文報告を見ると…冒頭で述べたように、ハンタウイルスの感染はほとんどが宿主のげっ歯類、単純に言えばネズミの排せつ物のエアロゾルを吸い込むことで起こるが、アンデスウイルス(報道では「アンデス型」との用語も使用)に関しては、ヒト-ヒト感染も報告されている。そしてやや困ったことは、南アフリカ保健省は南アフリカに搬送され、ハンタウイルス感染が確認された症例からは、このアンデスウイルスが分離されたと発表している。もっとも、アンデスウイルスでのヒト-ヒト感染は、過去の報告を見ると、▽長時間接触▽同居▽治療・ケア担当▽体液曝露などがあったケースに限られる。また、ざっくりと論文検索すると、過去に報告されたヒト-ヒト感染例の主な発生地域は南米のチリとアルゼンチンであり、直近で公表されたアンデスウイルスでのヒト-ヒト感染のシステマティックレビューで抽出された症例数も30例に満たない1)。こうして見ると、やはり世の中全体として、「ハンタウイルス」と騒ぐほどではないのが実際ではないだろうか? もちろん今現在MVホンディウス号に乗船中の人にとっては気が気でないことは想像に難くない。そしてすでに報じられていることだが、ハンタウイルスをターゲットとした治療薬は存在しない。ただ、1991年に中国で行われたHFRS患者242例を対象としたリバビリン静注の無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験の結果では、死亡率や出血症状の有意な減少が認められたと報告されている2)。また、アメリカではHPSに対するリバビリンの無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験が行われたが、こちらは症例集積に時間を要して研究は途中で終了となり、途中までエントリーされた症例での群間比較では、有意差は認められなかったと報告されている3)。これ以外ではハンタウイルスがRNAウイルスということもあり、基礎研究などでは厄介な感染症に対する“何でも屋”的な存在になりつつあるファビピラビルの効果も研究されているようだ。そしてこのウイルスの「ワクチンはない」と報じられているが、実は中国、韓国では独自のワクチンが承認されている。このうちハンタウイルスの第1発見国である韓国で開発された「ハンタバックス」(3回接種)の臨床研究を見ると、急性腎障害(AKI)のステージ3への進展予防(重症化予防効果)が58.1%と算出されたものの、非接種群と比べ有意差がないという結果になっている。この研究は症例数が少ないため、有意差が出なかったと指摘されているが、もし有意差があったとしてもエンドポイントとの兼ね合いから考えれば、効果が限定的ともいえる。また、あくまでHFRSの原因となるハンタウイルスへの効果に過ぎず、HPSの原因となるアンデスウイルスなどへの効果は疑問視され、汎用性は低いと指摘されている。いずれにせよ厄介な感染症であることには変わりないが、今回の事案は冷静に知識を蓄える機会と割り切るのが一番よいかもしれない。参考1)Toledo J, et al. J Infect Dis. 2022;226:1362-1371.2)Huggins JW, et al. J Infect Dis. 1991;164:1119-1127.3)Mertz GJ, et al. Clin Infect Dis. 2004;39:1307-1313.

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糞便微生物移植で重症C. difficile感染症の生存率が改善か

 生命を脅かすClostridioides difficile感染症(C. difficile感染症)の患者では、糞便微生物移植(fecal microbiota transplantation;FMT)を迅速に行うことで生存率が改善する可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。FMTは、健康なドナーの腸内細菌を患者の消化管に移植し、腸内細菌叢のバランス回復を目指す治療法である。米ミネソタ大学医学部マイクロバイオータ治療プログラムディレクターのAlexander Khoruts氏らによるこの研究結果は、「Clinical Gastroenterology and Hepatology」に4月6日掲載された。 C. difficile感染症は、抗菌薬の使用によって腸内細菌叢が乱れると、日和見病原菌であるC. difficileが増殖して発症する。主な症状は重度の下痢や大腸炎などである。米疾病対策センター(CDC)によれば、抗菌薬の使用中または使用後3カ月以内では、C. difficileに感染するリスクが最大で10倍に高まる。米国では、C. difficile感染症により年間約1万5,000人が死亡しているという。 今回の研究では、C. difficile感染症の重症患者18人を対象に、ミネソタ大学で開発された「重症患者向けの標準化されたFMTプロトコル」の有効性が検討された。患者の平均年齢は74歳で、集中的な抗菌薬治療にもかかわらず病状が悪化し続けており、手術が困難なほど状態が不安定だった。 医師は大腸内視鏡を用いてFMTを実施し、健康な腸内細菌を患者の腸管内に移植した。移植前24時間は抗菌薬の投与を中止し、移植後約3日で再開した。この点について研究グループは、FMT後に4日以上抗菌薬を中断すると、C. difficileの再増殖リスクが高まる可能性があるためだと説明している。その結果、FMT後にC反応性蛋白(CRP)や白血球数などの炎症マーカーが急速に低下し、30日後の生存率は78%であった。 Khoruts氏は、「今回の研究結果には重要な注意点がある。それは、C. difficile感染症の重症患者は極めて重篤であることが多く、FMT介入のタイミングは非常に限られているため、FMT製剤は、すぐに使用できる状態でなければならないという点だ。当大学には、医薬品基準に準拠したFMT製品製造施設が備わっており、凍結保存バンクに治療用ユニットを常備している点で、類を見ない環境が整っている」とニュースリリースで述べている。 研究グループは、C. difficile感染症に対するFMTの有効性を十分に検証するためには、より大規模な研究が必要であると強調している。

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尿路感染症治療の新しい迅速抗菌薬検査が登場

 新しい迅速尿検査により、尿路感染症(UTI)の治療がより的確で効果的になる可能性が新たな研究で示された。現状の検査では、個々のUTIに効果的な抗菌薬を特定するまでに2~3日かかるが、新しい検査では約6時間で結果が得られるため、検査当日に適切な抗菌薬を処方できる可能性がある。英レディング大学発のスピンアウト企業であるAstratus Limited社のCEOで、同大学薬学部のOliver Hancox氏らによるこの研究は、「JAC-Antimicrobial Resistance」4月号に掲載された。 Hancox氏は、「現行の検査方法では、結果が届く頃には患者がすでに抗菌薬の服用を終えていたり、効果のない薬を処方されていたりすることがあった。検査当日に適切な抗菌薬を医師に伝えることができれば、患者はより早く適切な治療を受けることができる。その結果、耐性菌の発生リスクや、感染症が重篤な敗血症へ進行するリスクを低減できる」とニュースリリースで説明している。 現行の検査では、尿サンプルを一晩培養して細菌を識別可能なレベルまで増殖させる必要がある。一方、新しい検査(Rapid Microcapillary Direct-from-Urine Antibiotic Susceptibility Testing;RMD AST)では、あらかじめ複数の抗菌薬が入った細いチューブ状のカートリッジを使用する。このカートリッジを直接尿サンプルに浸して機器に設置し、光学イメージングにより、それぞれの管の中で細菌が増殖するかどうかを6時間追跡する。細菌の増殖が抑えられればその抗菌薬は有効、増殖すれば無効と判断される。 Hancox氏らは今回、この新しい検査の精度を確認するために、UTIが疑われる患者から採取した352件の尿サンプルの残余を用いて解析した。評価対象の抗菌薬は、UTIの第一選択薬として用いられるアンピシリン、アモキシシリン/クラブラン酸、トリメトプリム、ニトロフラントイン、シプロフロキサシン、セファレキシン、セフォキシチンの7種類であった。 その結果、細菌と抗菌薬の組み合わせに対するRMD ASTと従来の検査法との一致率は96.95%で(572/590)あることが示された。RMD ASTの結果が得られるまでの時間は、平均5.85時間だった。さらに、尿サンプルに防腐・保存剤として用いられることのあるホウ酸がRMD ASTに及ぼす影響を検討するため、サンプルをホウ酸の有無で分けて直接比較した。その結果、ホウ酸の有無にかかわらず一致率は98.75%であった。 今回の研究には関与していない英サウサンプトン大学のMatthew Inada-Kim氏は、「UTIは抗菌薬が必要となる一般的な疾患であり、最初から適切な治療を行うことは、患者にとって大きなメリットになる。通常の診療の中で採取されている検体をそのまま利用でき、かつ同日に結果が得られる検査は、実臨床における感染症管理を大きく変える可能性がある」と述べている。 Astratus Limited社は、2024年11月に本検査を開発した研究グループにより設立され、現在、この検査の市場投入に向けた取り組みが進められている。本研究は、英国政府の資金提供を受けて実施された。

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ボリコナゾールによる皮膚障害【1分間で学べる感染症】第40回

画像を拡大するTake home messageボリコナゾールによる副作用としては肝障害や幻視が知られているが、皮膚障害も重要である。光線過敏症や重症皮膚副作用に加え、長期使用では皮膚悪性腫瘍のリスクも報告されており、皮膚症状の早期発見と長期モニタリングが重要である。ボリコナゾールは侵襲性アスペルギルス症などの治療において中心的役割を担う抗真菌薬ですが、肝障害、幻視を中心とした眼科的副作用はよく知られています。今回は一歩踏み込んで、もう1つの重要な副作用である「皮膚障害」について学習しましょう。光線過敏症(Photosensitivity)ボリコナゾールの皮膚副作用で最もよく知られているのが光線過敏症です。発症機序は完全には解明されていませんが、投与量や投与期間に関連する可能性が指摘されています。とくに高用量使用、小児、メトトレキサート併用などがリスク因子とされています。発症時期は幅広く、1週間程度の早期から数年後までの報告があります。臨床的には日光曝露部位の紅斑、色素沈着、光線角化症様の病変として現れることがあり、遮光対策や皮膚科的フォローが重要です。重症薬疹(TEN、DRESS)まれではあるものの、TEN(中毒性表皮壊死症)やDRESS症候群などの重症薬疹が報告されています。これらはT細胞を介した免疫学的反応と考えられており、用量とは関連しないとされています。通常は投与開始1~8週間以内に発症しますが、再投与では1~4日で急速に再発することがあるため、注意が必要です。疑われた場合には速やかな薬剤中止と専門的治療が必要となります。皮膚悪性腫瘍(悪性メラノーマ、扁平上皮がん)長期使用において最も重要な副作用として、皮膚悪性腫瘍が挙げられます。とくに扁平上皮がんの発症リスクが高いことが報告されており、悪性メラノーマも重要です。平均発症期間は約3年とされています。リスク因子としては、高用量、長期使用、免疫抑制状態(とくに移植患者)、薬物代謝の個人差などが挙げられます。臨床では、光線角化症から扁平上皮がんへ進展するケースもあるため、長期投与患者では定期的な皮膚診察が推奨されます。ボリコナゾールは重篤な真菌感染症の治療に不可欠な薬剤ですが、皮膚関連副作用は多様であり、とくに長期治療では注意が必要です。投与前には光線過敏症の可能性を患者に説明し、長期使用例では皮膚病変の定期的な観察を行うことが重要です。また、新たな皮疹や皮膚変化を認めた場合には、早期に評価を行い、必要に応じてほかの抗真菌薬への変更も検討することが重要です。1)Voriconazole/UpToDate2)Williams K, et al. Clin Infect Dis. 2014;58:997-1002.3)Levine MT, et al. Clin Transplant. 2016;30:1377-1386.4)Tang H, et al. J Am Acad Dermatol. 2019;80:500-507.e10.

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第59回 新たな変異コロナウイルス「セミ」について私たちが知っておくべきこと

パンデミックから数年が経過し、私たちの生活はすっかり日常を取り戻しました。いわゆる新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のニュースを目にする機会もすっかり減ったと感じている方が多いのではないでしょうか。しかし、ウイルスは私たちの見えないところで今も静かに進化を続けています。そんな中、現在、新しい変異ウイルスが注目を集めています。その名は「BA.3.2」。そして、このウイルスに付けられたニックネームは「Cicada(シカダ)」、日本語で「セミ」です。なぜ、「セミ」という名前が付けられたのでしょうか? そして、このウイルスに対して私たちはどう向き合うべきなのでしょうか。JAMAの記事をもとに解説します1)。なぜ「セミ」?異例の長き沈黙を破った変異ウイルスコロナの変異ウイルスの多くは、現れては消えるまでのサイクルが非常に短く、通常は数週間から数ヵ月しか流行しません。かつて猛威を振るったオミクロンのBA.1も、数ヵ月で別の変異ウイルスに置き換わりました。しかし、今回の「セミ(BA.3.2)」は、これまでの常識とはまったく異なる変わり種のウイルスです。実はこのウイルス、最初に発見されたのは1年半以上も前の2024年11月、南アフリカでのことでした。その後、モザンビークやヨーロッパなどで散発的・局地的に見つかり、こちらアメリカで最初の感染者が確認されたのは2025年6月のことです。長らく目立った動きを見せなかったこのウイルスですが、2025年12月に世界保健機関(WHO)の「監視下の変異ウイルス(Variant Under Monitoring)」に指定され、2026年に入り、アメリカ各地の排水調査などから検出が報告されるようになりました。何年も土の中でじっと身を潜め、ある時期が来ると一斉に地上へ姿を現す「周期ゼミ」。この変異ウイルスが長期間の沈黙の後に急増した奇妙な振る舞いが、まさに「セミ」に似ていることから、このユニークなニックネームが付けられたのです。免疫を逃れる力と、感染しやすさの「トレードオフ」新しい変異ウイルスと聞くと、「また強い感染の波が来るのでは?」「重症化しやすいのでは?」と不安になるかもしれません。確かにこの「セミ」は、現在のワクチン抗原(例:JN.1など)と比べて、スパイクタンパク質の遺伝子配列に70〜75程度の置換・欠失などの変化があると報告されています。こうした変化のため、これまでの感染やワクチンで得られた抗体による中和が低下しうる(免疫回避の可能性がある)と考えられ、監視が続けられています。しかし、ここで紹介したい興味深い生物学的な現象があります。それは「適応度のトレードオフ」と呼ばれるものです。コロナウイルスが人間の細胞に感染するためには、細胞の表面にある「ACE2」という受け皿にくっつく必要があります。BA.3.2は免疫の監視を潜り抜けるように変異を多く持っているため、スパイクタンパクの構造が大きく変わってしまい、逆にACE2への結合のしやすさや細胞への侵入のしやすさについては、大きく落ちている可能性があると指摘されています。このように、ウイルスの進化では「免疫回避」と「感染のしやすさ」の間で「トレードオフ」が生じることがあるというわけです。少なくとも現時点では、WHOの初期評価などで、この変異ウイルスが重症化や入院、死亡のリスクを明確に増加させるという一貫したデータは見られない、とされています。また、ワクチンについては、抗体による中和が低下し得る一方で、重症化に対する防御は一定程度維持されることが期待されています。したがって、必要以上に恐れる必要はないでしょう。子供たちの間で感染が広がりやすい?ただし、研究者が注視している点の一つとして、BA.3.2の検出が子供に多く見られることが挙げられます。なぜ子供に多いのかについては、現在も専門家の間で議論が続いています。大人のように過去の感染経験がなく、ワクチン接種の回数が多くないため、免疫を持たない子供たちが単に感染しやすいだけだという意見もあれば、ウイルスが持つ特定の変異が子供への感染を有利にしているのではないかと疑う専門家もいます。これについては、今後のさらなるデータの収集が待たれるところです。いずれにせよ、とくに小さなお子さんがいるご家庭では、日頃からお子さんの体調変化に気を配っていただくことが大切です。ウイルスとの共存は続く今回登場した「セミ」ことBA.3.2について、現時点で直ちに大規模な医療逼迫を引き起こすような懸念はされていません。もしかすると、先のトレードオフが実際にあり、感染が広がりにくいかもしれないという楽観的な見方ができる可能性もあります。しかし、流行の度合いや重症度については引き続き監視が必要で、排水調査やゲノム解析などのデータが今後さらに蓄積されていく見込みです。いずれにせよ、コロナウイルスは、決して消え去ったわけではありません。私たちの社会が日常を取り戻した今も、ウイルスは(実際にそのような意思があるわけではありませんが)環境に適応しようと試行錯誤を続けています。過度な不安を抱く必要はありませんが、ウイルスがまだ身近に存在しているという事実は心の片隅に留めておいたほうがいいでしょう。1)Rubin R. What to Know About Cicada, or BA.3.2, the Latest SARS-CoV-2 Variant Under Monitoring. JAMA. 2026 Apr 17. [Epub ahead of print]

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造血細胞移植におけるEmergency/日本造血・免疫細胞療法学会

 造血細胞移植は、急性白血病や悪性リンパ腫などに対して根治を目指しうる治療法である。一方で、移植前処置や強力な免疫抑制療法、長期にわたる好中球減少状態などを背景に、早急な対応を講じなければ不可逆的な臓器障害を来し、致命的となりうる重篤な病態(Emergency)が急速に進行することもある。そのため移植医療の現場では、数日単位で生命予後が左右されるEmergencyに備える姿勢が不可欠であり、事態への即応力が強く求められることになる。 2026年2月27日~3月1日に開催された第48回日本造血・免疫細胞療法学会総会では、「造血細胞移植におけるEmergency」をテーマとした教育講演が行われた。造血細胞移植特有の緊急病態に焦点を当て、実臨床で遭遇した症例と文献的エビデンスを基に、見逃してはならない重篤合併症と初期対応の要点について、田中 喬氏(大阪国際メディカル&サイエンスセンター 大阪けいさつ病院 血液内科)が講演した。シクロホスファミド(Cy)心筋症―死亡リスクの高い劇症型の心合併症 近年、移植後シクロホスファミド(PTCy)は、ヒト白血球抗原(HLA)半合致血縁者間移植にとどまらず、HLA一致血縁者間移植や非血縁者間移植にも応用が広がり、移植片対宿主病(GVHD)予防の新たな標準治療となりつつあるPTCyは優れたGVHD予防効果をもたらす一方で、シクロホスファミド(Cy)心筋症という重篤な合併症のリスクも伴う。大量Cy投与後に発症するCy心筋症は、基本的には可逆的であるが、進行がきわめて速く、重症例では体外式膜型人工肺(ECMO)管理を要し、命に関わることもある。その希少性ゆえに、初めて遭遇した際には診断が遅れ、気付いたときにはすでに重症化しているケースが少なくない。発症率は近年の報告では1~5%前後と頻度こそ高くはないものの、ひとたび発症すれば急速に循環破綻へ至る死亡率の高い致死的合併症である。心不全と診断されてから死亡までの中央値が約3日とされる報告もあり、遭遇すれば重篤となる典型的な移植Emergencyである。 Cy心筋症の病態は完全には解明されていないが、代謝産物による血管内皮障害が起点と考えられている。血管内皮が障害されると血管透過性亢進により心筋の浮腫・壁肥厚が生じ、最終的に心筋障害を来す。ここで重要なことは、Cy心筋症発症初期の主病態が収縮不全ではなく拡張障害であるという点である。心筋の伸展性が浮腫によって低下し、拡張できなくなることで心拍出量が維持できなくなる。 アントラサイクリン心筋症が累積投与量依存であるのに対し、Cy心筋症は1回投与量と投与スケジュールに依存する用量依存性毒性である。安全な投与量の閾値は明確ではなく、既往のアントラサイクリン投与量や放射線治療歴がリスク因子として挙げられるものの、確立した予測因子は存在しない。 発症時期はCyの初回投与から10日以内が多く、症状出現までの中央値は2日(1~6日)、心不全診断までの中央値は4日(3~8日)とする報告がある。心電図ではvoltageの低下やST上昇、T波の陰転化を認めることが多い。胸部X線で心拡大を呈するが、これを容量過多と誤認してはならない。ただちに心エコーを施行し、著明な心筋壁肥厚と心嚢水貯留の有無を確認することが重要である。 特徴的なのは、初期には左室駆出率(EF)が保たれている症例が少なくない点である。心不全診断時にEFが50%以上に保たれていても、心筋壁が急速に肥厚し、拡張障害が進行している可能性がある。EFのみに依存した評価は危険である。 バイオマーカーに関して、トロポニンは必ずしも早期に上昇しない。一方、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)やNT-proBNPは比較的早期から上昇する可能性が報告されている。大量Cy投与後の症例では、投与後数日間のBNPモニタリングが早期発見に寄与する可能性がある。 Cy心筋症に対する確立した治療法はなく、一般的な心不全治療を行いながら心機能の回復を待つ。カテコラミン反応性は乏しいことが多く、循環動態が急速に悪化する場合には、早期からECMOや補助循環装置の導入を検討する必要がある。また、診断した時点で循環器内科や集中治療部門へ速やかにコンサルトする体制整備が不可欠となる。なお、ECMOが自施設で実施できない場合は、対応可能な施設への転院を躊躇してはならない。重症類洞閉塞症候群(SOS)―増悪因子となる腹部コンパートメント症候群(ACS) 重症類洞閉塞症候群(SOS)は、移植後早期に発症する重篤な肝合併症である。体重増加、腹水貯留、右季肋部痛、血小板減少などを呈し、重症例では多臓器不全へ進展する。 重症SOSの増悪因子として、腹部コンパートメント症候群(ACS)が注目される。腹腔内圧の上昇により静脈還流が障害され、腎機能低下や呼吸不全を来す。腹腔内圧は膀胱内圧で代用可能であり、簡便に測定できる。一般に腹腔内圧が20mmHgを超え、かつ臓器障害を伴う場合にACSと定義されるが、それ未満でも臓器障害を呈することがある。 病態の中心は腹腔内圧上昇による静脈うっ血であり、とくに腎静脈圧迫による腎不全が重要である。腹水ドレナージにより腹腔内圧を低下させることで、尿量や酸素化、門脈血流が改善する症例がある。腹部膨隆が目立つ重症SOSでは、膀胱内圧測定を積極的に行い、減圧治療を検討すべきである。重症消化管GVHD―評価すべき粘膜障害の程度と範囲 GVHDの中でも消化管病変は高頻度に認められるが、重症下部消化管GVHDは依然として予後不良である。従来は下痢量で重症度が評価されてきたが、下痢は炎症の結果にすぎない。本質的には粘膜障害の程度と範囲を評価すべきである。 多くの症例において病変は回盲部から始まり、口側および肛門側へ拡大する。重症例では炎症が小腸全体に及び、粘膜脱落を呈する。カプセル内視鏡による小腸粘膜の直接評価から、全周性の粘膜脱落(グレード4)や炎症が空腸まで及ぶ病変はきわめて予後不良であることが示されている。100日以内の非再発死亡率が約6割に達するとの報告もある。このような症例では、ステロイドを中心とした抗炎症療法のみでは不十分な可能性が高い。間葉系幹細胞(MSC)は免疫調整作用に加え、粘膜修復促進作用が期待されている。さらに、腸管粘膜維持に関与するGLP-2アナログなど、組織再生を意識した治療戦略も検討されている。炎症抑制と組織修復を両輪としたアプローチが今後の鍵となる。難治性感染症―想定外の病原体を疑う 造血細胞移植患者では、通常はまれな病原体による感染症が致命的経過をたどることがある。 Stenotrophomonas maltophiliaはグラム陰性桿菌であり、カルバペネムやグリコペプチドではカバーできない。移植患者では一定の頻度で菌血症を来し、肺出血を合併すると救命はきわめて困難である。持続する発熱性好中球減少症では、レボフロキサシンなど有効な抗菌薬による治療を検討する必要がある。 移植後のムーコル症も、致死率の高い真菌感染症である。βDグルカンは陰性のことが多く、確定診断には生検による組織診断が必須である。重症GVHDや長期ステロイド使用例で、原因不明の疼痛を伴う皮疹や急速進行性肺陰影を認めた場合はムーコル症を疑い、生検を積極的に行い、検査結果を待たずに有効な抗真菌薬による治療を開始すべきである。敗血症対応―基本を徹底する 敗血症では、乳酸値測定、血液培養採取、広域抗菌薬投与、必要に応じた急速輸液負荷や昇圧薬投与が基本となる。近年ガイドラインは若干修正されているが、移植患者では迅速な広域抗菌薬投与の重要性は変わらない。初期対応の遅れは予後に直結する。結語―「Emergencyを知って行動に移すこと」が重要 造血細胞移植におけるEmergencyは頻度こそ高くないものの、ひとたび発症すれば急速に悪化し、生命予後を左右する。Cy心筋症、重症SOS、重症消化管GVHD、難治性感染症、敗血症など、いずれも早期診断と迅速な初期対応が救命の鍵となる。「まれでも致命的となりうる病態を疑う」という姿勢を常に持っておく必要がある。とくにCy心筋症は診断後わずか数日で致命的経過をたどりうることを念頭に、心拡大を容量過多と安易に判断せず、速やかに心エコー評価と専門科連携を行うことが重要であり、BNPなどの指標も早期把握の一助となる。 重症SOSでは、腹腔内圧上昇に伴うACSが臓器不全を増悪させることがあり、膀胱内圧測定や適切な減圧介入を行う必要がある。厳密な定義上はACSに該当しない数値であっても、臓器障害を伴う場合には腹腔ドレナージを行うことで劇的に改善する可能性がある。 重症消化管GVHDは、下痢量ではなく、粘膜障害の程度と範囲を見ることが重要となる。カプセル内視鏡を用いた小腸評価では、全周性の粘膜脱落例や炎症が空腸まで及ぶ症例がきわめて予後不良であることから、抗炎症治療のみならず粘膜修復という視点で治療介入を行いたい。 感染症領域では、Stenotrophomonas maltophilia菌血症やムーコル症といった、頻度は高くないが致死率の高い病態があり、常に疑う姿勢が重要となる。敗血症対応は基本を徹底し、疑った場合は、乳酸値測定、血液培養採取、広域抗菌薬投与、急速輸液、昇圧薬投与を1時間以内に実施するいわゆる1時間バンドルの実施が求められ、常に迅速な対応を心掛けたい。 田中氏は講演を通じて、「移植医には腫瘍制御にとどまらず、全身状態を総合的に評価する集中治療的視点が必要である」と強調していた。さらに、「Emergencyについてよく知り、それを即座に想起し行動に移せる能力こそが、患者さんの命を守る最大の武器である」と一貫して述べていた。

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グラム陰性菌の菌血症、迅速抗菌薬感受性試験は臨床的に有効か/JAMA

 グラム陰性桿菌による血流感染症患者において、迅速抗菌薬感受性試験(AST)の追加は標準ASTと比較し、「desirability of outcome ranking(望ましい順位のアウトカム):DOOR」による評価では優越性は認められなかったことが、米国・Vanderbilt University Medical Center大学のRitu Banerjee氏らが行った「FAST試験」の結果で示された。血液培養時の陽性血液培養ボトルを用いて直接、感受性の表現型を評価する迅速ASTについて、その結果に基づき抗菌薬治療を行うことで臨床アウトカムを改善するかどうか、臨床的意義は不明であった。著者は、DOORでは差がなかったものの副次アウトカムや事前に規定した探索的アウトカムでは差がみられたことから、「今回の知見は、他の有効性および安全性のアウトカムと併せれば、迅速ASTの使用に関して役立つ可能性がある」とまとめている。JAMA誌オンライン版2026年4月18日号掲載の報告。主要アウトカムは、より望ましいアウトカムが得られる確率 FAST試験は、多剤耐性グラム陰性菌の有病率が高い4ヵ国の7施設(ギリシャ2、インド1、イスラエル3、スペイン1)で実施された無作為化非盲検優越性試験。 対象は、血液培養でグラム陰性桿菌が検出され、かつ血液培養の結果通知時点で入院中の患者で、年齢は問わなかった。ただし、直近7日以内のグラム陰性桿菌検出、血液培養結果通知時点で死亡、血液培養グラム染色でグラム陽性桿菌・グラム陽性球菌・グラム陰性球菌・酵母菌・真菌・複数の形態のグラム陰性桿菌を認めた患者などは除外した。 研究グループは、血液培養判定から16時間以内に対象患者を迅速AST群または標準AST群に無作為に割り付け、迅速AST群では各施設の標準ASTに加えVITEK REVEAL(bioMerieux製)を用いて迅速ASTを行った。 両群とも、全例、各施設の抗菌薬適正使用プログラムによる評価を受け、臨床チームで治療変更や抗菌薬の選択、用法および用量などを決定した。 主要アウトカムは、無作為化後30日時点のDOORであった。DOORは「有害イベントなしで生存」、「1つ以上の有害イベントを伴う生存」、「死亡」の3段階で順位付けし、有害イベントは入院継続または退院後30日以内の再入院、臨床効果なし、望ましくない事象(腎不全、多剤耐性菌の院内感染など)と定義した。迅速AST群で標準AST群より良好なDOORが得られる確率の95%信頼区間の下限が50%を超えた場合に、標準AST群に対する優越性が認められることとした。 副次アウトカムは、30日死亡、30日までの入院期間、集中治療室入室、院内感染、3日以内の有効な抗菌薬治療開始までの時間、3日以内の抗菌薬の増量または減量などであった。カルバペネム耐性菌感染症患者で、有効な抗菌薬治療開始までの時間が早まる 2023年12月~2025年5月に899例が無作為化され、このうち850例が解析対象集団となった(迅速AST群413例、標準AST群437例)。年齢中央値72歳、女性が43%であった。 迅速AST群で標準AST群より良好なDOORが得られる確率は48.8%(95%CI:45.3~52.4)であり、優越性は示されなかった。 有効な抗菌薬治療開始までの時間の中央値は両群で差はなく、抗菌薬の増量または減量までの時間の中央値は迅速AST群(22時間)が標準AST群(36時間)より14時間(95%信頼区間[CI]:6~22)短かった。その他の副次アウトカムは両群で差は認められなかった。 事前に規定されたサブグループ解析では、カルバペネム耐性菌感染症患者集団において有効な抗菌薬治療開始までの時間の中央値は迅速AST群で9.5時間、標準AST群で28時間であった(群間差:-18時間、95%CI:-42~6)。

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イヌリンにより変形性膝関節症の痛みが軽減か

 腸内環境を整えることで関節炎の痛みが和らぐかもしれない──そんな研究結果が報告された。変形性膝関節症(OA)患者を対象としたランダム化比較試験で、難消化性食品成分であるプレバイオティクスの摂取が痛みの軽減に寄与する可能性が示された。英ノッティンガム大学NIHRノッティンガム生物医学研究センターのAfroditi Kouraki氏らによるこの研究は、「Nutrients」に2月24日掲載された。 研究グループは、腸の健康を改善することがOAの新しい治療法になる可能性があると考えている。Kouraki氏は、「この研究は、朝食やヨーグルトにサプリメント(以下、サプリ)を加えるだけで、痛みが和らぎ、身体機能も改善される可能性があるという、わくわくするような可能性を示した」とニュースリリースで述べている。 腸内には何兆もの細菌が生息し、健康に幅広く影響を与えることが知られている。今回の研究では、チコリの根や菊芋などに含まれる天然食物繊維であるイヌリンに着目し、イヌリンのサプリと理学療法士の指導下で実施される運動プログラム(physiotherapy-supported exercise;PSE)が、OAの痛みにどのような影響を及ぼすのかを評価した。対象とされたOA患者117人(平均年齢67.5±9.4歳、女性58.1%)は、6週間にわたって、1)イヌリンのサプリ(20g/日)を摂取する群、2)イヌリン摂取とPSEを受ける群、3)PSEのみを受ける群、4)プラセボ(マルトデキストリン10g/日)を摂取する群の4群に、ランダムに割り付けられた。 その結果、イヌリンと理学療法は、いずれも単独で膝の痛みを軽減する効果のあることが明らかになった。Numerical Rating Scale(NRS)で評価した痛みは、プラセボ群と比較して、イヌリン群で−1.11ポイント(95%信頼区間−2.18〜−0.04、P=0.045)、PSE群で−1.55ポイント(同−2.52〜−0.58、P=0.002)改善した。また、イヌリン群では握力と、痛みに対する感受性(圧痛閾値、時間的荷重〔同じ強さの刺激を短時間で繰り返し受けると、痛みが次第に強く感じられる現象〕)に改善が見られた一方で、PSE群では、30秒立ち上がりテスト(30-CST)とTimed Up and Go(TUG)に改善が認められた。さらに、介入離脱率は、イヌリン群で3.6%だったのに対し、PSE群では21%だった。研究グループは、毎日のサプリ摂取は、定期的な運動よりも継続しやすい可能性があると指摘している。 このほか、イヌリン摂取群では、腸から分泌されるホルモンであるGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)の血中濃度の上昇と腸で産生される脂肪酸である酪酸レベルの上昇も確認された。GLP-1は、痛みの調節や筋肉の健康に関与しており、新しい肥満症治療薬でも標的とされている。一方、酪酸は全身の炎症や痛みの経路に影響を与えると考えられている。論文の上席著者であるNIHRノッティンガム生物医学研究センターAna Valdes氏は、「GLP-1と握力の関係は特に興味深く、腸-筋肉-痛みの相互作用が関連している可能性を示しており、今後、さらに調査する価値がある」と述べている。 本研究には関与していない、Arthritis UKで研究部長を務めるLucy Donaldson氏は、「研究者らは腸内細菌が痛みの感じ方にどのように関与するかを探り始めている。この予備的な研究は、食事と理学療法が異なるメカニズムで関節炎の症状を改善できる可能性を示しており、とても興味深い。バランスの取れた食事、食物繊維の摂取、定期的な運動が大切であることは分かっているが、それらがどのように作用して痛みを軽減するのかを理解するための研究をサポートできることをうれしく思う」とコメントしている。

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第316回 米国でサイケデリック薬が超速優先審査に

毎年20人に1人以上もの米国成人が生きるのを辛くし、活動を妨げる深刻な精神不調を被ります。その治療を推進する取り組みの一環として、今月18日にドナルド・トランプ大統領がサイケデリック薬(psychedelic drug)の超速優先審査(Commissioner’s National Priority Vouchers:CNPV)を米国FDAに命じました1,2)。大統領からのその通知によると、1,400万例を超える米国成人が深刻な精神不調を患い、およそ800万例にそれらの治療薬が処方されています。精神疾患の最悪の帰結の自殺率は2000~18年に37%も上昇しましたが、トランプ大統領の1期目に精神疾患患者を助ける取り組みが進展し、2018~20年には幸いにも5%低下しました3)。しかし、トランプ大統領曰く、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)蔓延とバイデン政権下での停滞のせいで進捗は止まり、自殺率は再び上昇して2022年には2018年と同じ最悪の水準に逆戻りしてしまいました。感じ方を変える(perception-altering)とFDAが説明4)するサイケデリック薬は、一通りの標準治療後も不調が続く深刻な精神疾患患者を対象とする試験で有望な成績を上げており、開発中のいくつかはすでに画期性優遇(Breakthrough Therapy)の指定を受けています。トランプ大統領は画期性優遇の指定を得ているサイケデリック薬の目ぼしいものにCNPV権利を付与することを18日に命じました。それを受けてFDA長官Marty Makary氏はLSDやマジックマッシュルームの活性成分のpsilocybinなどが属するセロトニン2A受容体作動薬の3つに権利を付与すると同日の記者会見で述べています5)。いわば大統領の「推し」となり、FDAの厚遇も約束されたサイケデリック薬への投資家の期待は当然ながら一気に膨らみ、AtaiBeckley、Compass Pathways、Enveric BioSciences、GH Research、Definium Therapeutics、Cybinなどのその界隈の会社の株価が軒並み上昇しています6)。そして、大統領命令からおよそ1週間後の先週金曜日24日に、FDAはサイケデリック薬を開発する3社に約束どおりCNPV権利を付与しました4,7)。FDAの発表では具体的な社名は明かされませんでしたが、大統領命令後に株価上昇の恩恵を得た一堂のうちの一社のCompass Pathwaysがその幸運に恵まれたことを明らかにしています8)。Compass社によるとCNPV権利を使うことで承認申請後の審査期間が超速の1~2ヵ月に短縮されます。Compass社はCOMP360という名称の人工のpsilocybinを開発しています。COMP360は治療抵抗性うつ病患者が参加した2つの第III相試験で目標の効果を示しており、先月の同社の発表によるとFDAへの承認申請が今年中に完了する見込みです9)。FDAがCNPV権利を付与したあとの2社の1つは大うつ病へのpsilocybin開発会社、もう1つは心的外傷後ストレス障害(PTSD)へのmethylone開発会社です。Usona InstituteとTranscend Therapeuticsがそれらの治療を開発しており、Reutersからの問い合わせに対してUsona Instituteは権利を得たと回答しています7)。一方、Transcend社はReutersに回答していません。Transcend社が開発しているmethyloneは植物成分のカチノンの類いです。カチノンはアンフェタミン様の作用を求めて使われているアラビア南部やアフリカ東部で育つ植物のカート(Catha edulis)の葉に含まれています10)。Transcend社はTSND-201という名称でmethyloneを開発しており、PTSD患者を対象とした第III相試験が進行中です11)。サイケデリック薬の時代の到来を予想していたのか、わが国の大塚製薬はほかでもないそのTranscend社の買収をつい先月末に発表しています12)。日本でサイケデリック薬が日の目を見ることもそう遠くないうちに実現するかもしれません。参考1)ACCELERATING MEDICAL TREATMENTS FOR SERIOUS MENTAL ILLNESS / THE WHITE HOUSE2)Trump orders FDA to fast-track reviews of psychedelic drugs after lobbying by podcaster / FierceBiotech3)Suicide Data and Statistics / CDC4)FDA Accelerates Action on Treatments for Serious Mental Illness Following Executive Order / FDA5)Trump orders FDA to fast-track reviews of psychedelic drugs after lobbying by podcaster. FierceBiotech.6)Psychedelic drug developers rally after Trump orders FDA to expedite reviews / Reuters7)US FDA moves to fast-track psychedelic drugs after Trump order / Reuters8)Compass Pathways Announces FDA Granted NDA Rolling Review Request and Awarded Commissioner's National Priority Voucher / BusinessWire9)Compass Pathways Announces Fourth Quarter and Full-Year 2025 Financial Results and Business Highlights / BusinessWire10)Effects of Synthetic Cathinones Contained in “Bath Salts” on Motor Behavior and a Functional Observational Battery in Mice NIH11)EMPOWER-1試験(ClinicalTrials.gov)12)大塚製薬のTranscend Therapeutics社買収について

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移植患者に対するワクチン接種/日本造血・免疫細胞療法学会

 造血幹細胞移植後の患者において、ワクチン接種は感染症予防のための重要な手段となる。しかし、免疫再構築の個別性やワクチン免疫原性の低下、さらには費用・制度面の課題などにより、実臨床における実装状況には施設間差が見られる。 2026年2月27日~3月1日に開催された第48回日本造血・免疫細胞療法学会総会では、「移植患者に対するワクチン接種」をテーマとしたシンポジウムが企画され、国内実態調査、優先度の高い予防接種の科学的根拠、実臨床における運用体制という3つの視点から、移植後ワクチン接種の現状と課題が提示された。造血幹細胞移植後のワクチン接種に関する国内実態調査より 冒頭、黒澤 彩子氏(伊那中央病院 腫瘍内科)は造血幹細胞移植後のワクチン接種に関する日本国内の実態を把握するために実施された全国規模のアンケート調査の結果について報告した。本調査は、厚生労働科学研究費補助金による研究班の一環として行われたもので、日本国内の移植認定施設(成人診療科・小児科)を対象に実施され、85%(成人診療科施設86%、小児科施設85%)という非常に高い回答率が得られている。 移植後は免疫が再構築される過程で既存の免疫が失われるため、ワクチン再接種が必要とされるが、その方針や実際の接種状況、さらにワクチンで予防可能な疾患(vaccine-preventable diseases:VPD)の発症状況を把握し、今後の施策や提言につなげることが本調査の目的であった。 まず、ワクチン再接種に対する認識について、同種移植後では成人診療科・小児科ともにほぼ100%の施設がその必要性と重要性を認識しており、約75〜80%の施設で統一した接種方針が定められていた。一方、自家移植後では診療科間で大きな差が見られた。小児科では約70%が必要性を認識し、半数以上が統一方針を有していたのに対し、成人診療科では必要性の認識は24%にとどまり、方針を持つ施設はわずか6%であった。その背景として「有用性が低い」「コストの問題」などが挙げられ、自家移植後の位置付けが十分に共有されていない実態が浮き彫りとなった。 接種されているワクチンの種類にも違いがある。回答した成人診療科の80%以上が“推奨”と回答したものはインフルエンザウイルス、肺炎球菌、麻疹風疹混合(MR)であり、接種率についてはそのうちインフルエンザと肺炎球菌で高い(対象の半数以上に接種という回答が75%超)傾向にあった。一方、小児科ではMR、おたふくかぜ、水痘、ヘモフィルス・インフルエンザ菌b型(Hib)、インフルエンザウイルスについて8割を超える施設が“推奨”とし、接種率も新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を除いて成人診療科と比較して小児科で高かった。施設体制の面では、すべてのワクチンを院内で接種可能な施設は20〜30%にとどまり、70〜80%の施設ではワクチンの種類や症例によっては接種を他院へ依頼しているという現状が示された。 水痘・帯状疱疹対策では、成人診療科では不活化ワクチンの推奨が進む一方、高額な費用負担が障壁となっている。不活化帯状疱疹ワクチンは18歳未満に適応がなく、小児は水痘に未罹患なことが多いため、小児科では水痘予防として生ワクチンが主に使用されている。また、抗ウイルス薬は移植後1〜2年、あるいは免疫抑制薬終了時まで予防投与されることが多いが、投与のタイミングや中止時期には施設間でばらつきがあった。 VPDの発症経験については、成人診療科・小児科ともに60〜90%の施設がCOVID-19、インフルエンザ、帯状疱疹、肺炎球菌感染症などを経験しており、移植患者が依然として高リスクであることが示された。死亡例は成人診療科では半数以上の施設が経験しており、とくにCOVID-19の影響が大きかった。一方、小児科では80%以上の施設が死亡例なしと回答し、成人診療科と比べて致死的転帰は少ない傾向が見られた。注目すべきは、自家移植後であってもVPD発症は決して少なくなく、軽視できない点である。加えて、COVID-19については、致死率の観点からとくに成人診療科において重要な課題であることが示された。一方で、ワクチン接種率はインフルエンザや肺炎球菌と比較して低く、対象の半数以上に接種しているとの回答は50%未満にとどまっており、この点も本調査より明らかとなった。 ワクチン接種率向上のための課題として、保険収載、自治体等による費用助成、長期フォローアップ(long-term follow-up:LTFU)体制の強化、最新の推奨を反映した資材の整備などが挙げられた。総じて、同種移植後の再接種の重要性は定着している一方で、自家移植後の再接種に関する認識不足や成人領域での接種されるワクチンの種類が限定されていること、さらに自己負担による費用面の問題が大きな障壁となっている。今後は制度的整備と情報の標準化を進め、移植患者をVPDから守る体制の構築が不可欠であると黒澤氏は結論付けた。同種移植患者に対する優先度の高い予防接種に関する研究について 同種造血幹細胞移植後の長期生存例が増加する一方、晩期合併症としての感染症対策は依然として重要な課題となっている。とくに移植後晩期には液性免疫の回復が遅延し、VPDに対する防御能が十分に再構築されない症例が少なくない。このような背景において、冲中 敬二氏(国立がん研究センター東病院 感染症科/造血幹細胞移植科)は、同種造血幹細胞移植患者に対する優先度の高いワクチン接種について、晩期感染症の疾病負荷および再接種戦略の最新エビデンスを整理し講演した。 移植後晩期に問題となるのは、肺炎球菌などの被包化細菌、帯状疱疹・単純ヘルペスを含むヘルペスウイルス群、さらに呼吸器ウイルスなどである。なかでも、移植片対宿主病(GVHD)予防として普及した移植後シクロホスファミド(PTCy)を用いたレジメンでは、CD4陽性T細胞の回復遅延に加え、サイトメガロウイルス(CMV)感染や非CMVヘルペスウイルス感染(HHV-6血症)、呼吸器ウイルス感染などの増加が米国のレジストリ解析によって示唆されている。このように、移植後晩期には液性免疫不全のみならず細胞性免疫の再構築不全も問題となることは少なくない。 海外でのアンケート調査によると、成人患者の40%以上が移植後晩期にVPD(インフルエンザ様疾患、帯状疱疹、子宮頸部細胞診異常など)を経験していることが示されている。小児データベース研究では、VPD発症頻度は7%程度と低いものの、帯状疱疹や侵襲性肺炎球菌感染症、インフルエンザなどの発症中央値は移植後190~300日で、移植から6ヵ月以降に多いことがわかる。すなわち、移植後晩期も感染症のリスクは持続し、長期にわたる免疫学的脆弱性を前提とした管理が必要となる。 同種移植患者の市中肺炎罹患率は一般人口より著明に高く、原因菌として肺炎球菌が約9%と最も頻度が高く、重症化リスクも高いことが海外から報告されている。呼吸器ウイルス感染については、RSウイルス(RSV)、インフルエンザ、COVID-19の米国での罹患後30日以内の寄与死亡率が4~6%とされ、日本からはインフルエンザ罹患後90日以内の寄与死亡率が2.2%とのデータが示されている。日本では約4分の3の症例で発症48時間以内に抗ウイルス薬が処方されているのに対し、米国では同期間内に処方を受ける症例は約4分の1にとどまっており、この差が寄与死亡率の違いの一因と考えられる。呼吸器ウイルス感染症を疑う症状が出現した際には、速やかな受診を促す患者教育の重要性が示唆される。 院内感染で呼吸器ウイルス感染症に罹患した場合はさらに予後が不良であり、院内での伝播は防がなければいけない。このためには外来での呼吸器感染症状スクリーニング、必要に応じた迅速PCR診断、感染判明時の接触・飛沫予防策の徹底が推奨される。また、患者本人のみならず同居家族や医療従事者へのワクチン接種も重要な間接防御策となる。 免疫記憶の消失も見逃せない。国内データでは、麻疹・ムンプス・風疹(MMR)の抗体保有率が移植5年で50%未満に低下しえること、B型肝炎表面(HBs)抗体の陰性化が再活性化リスクに関与することが示されている。つまり、小児期に定期接種歴があっても、移植後の防御免疫は保証されないことになる。このため、移植後のワクチン再接種が重要となり、厚労科研研究班は優先度の高いワクチン再接種に関する研究を通じ、水痘、MMR、ジフテリア・百日咳・破傷風(DPT)、肺炎球菌、B型肝炎ウイルス(HBV)などのワクチン再接種戦略をレビューしている。加えて、帯状疱疹ワクチン、RSVワクチン、COVID-19ワクチンなど、新規・更新ワクチンの有効性データも蓄積されつつある。 冲中氏は、同種移植患者では、晩期においても液性免疫不全が残存し、VPDは現実的かつ重篤な脅威となるとし、「免疫再構築の特性、GVHD治療状況、地域流行状況を踏まえ、計画的かつ優先順位を明確にしたワクチン再接種を実装することが、長期予後改善には重要となる」と強調した。同種造血細胞移植患者におけるワクチン接種の実際 移植後の患者では、続発性免疫不全や既存免疫記憶の低下により感染症リスクが高まるため、移植後の再予防接種が重要であることは広く認識されている。しかし、実際にワクチン再接種を確実に実施するためには、院内外での運用体制の整備が不可欠となる。そこで、森 有紀氏(虎の門病院 輸血・細胞治療部/造血細胞移植後長期フォローアップセンター)は、実臨床でワクチン接種を円滑に進める具体例として、虎の門病院における体制整備や役割分担の取り組みを紹介し、移植後ワクチン接種を実装するためのポイントについて解説した。 移植後ワクチン接種の運用体制を整備するには、まず、どこで接種を行うのか(移植施設か他の医療機関か)を明確にする必要がある。そのうえで、どの診療科が中心となって担うのか(血液内科、感染症科、小児科、一般内科など)を決め、さらに看護師や薬剤師を含めた多職種連携を具体的に設計していくことが求められる。 虎の門病院では、LTFU外来で血液内科医が適応と開始時期を判断し、その後臨床感染症科医へ紹介して、詳細説明、スケジュール作成、実際の接種を行う分業体制を構築することで専門性を担保しつつ、マンパワーの軽減にもつながっている。 一方、他の医療機関に接種を依頼する場合、移植施設側が適応判断を行い、紹介状や説明文書、患者手帳などを活用して情報共有を徹底することが重要である。とくにクリニック等に紹介する際には、具体的な日程を記載した接種スケジュールの提案や、無断キャンセル防止に関する事前説明(ワクチンを個別に取り寄せる場合があるため)なども大切なポイントとなる。 接種手順は、適応・開始時期の判断、インフォームド・コンセント、接種スケジュール作成、接種、接種後の注意点説明の流れとなる。ガイドラインでは、不活化ワクチンは、GVHDの増悪がなければ移植後3ヵ月(種別により6ヵ月ないし12ヵ月)を経過した後接種可能となっているが、開始時期が遅いほど免疫応答が得られやすいとされる。生ワクチンは、免疫抑制薬が終了し慢性GVHDを認めなければ移植後24ヵ月以降で接種可能とされるが、十分な免疫回復や輸血および所定の薬剤との間隔などの条件を満たすことが前提となる。いずれにしても、個々の患者の状況に応じた判断が必要となる。 さらに、帯状疱疹ワクチン接種後の抗体価上昇や安全性に関する施設データの提示、情報共有テンプレートの整備などの実践的工夫も紹介された。一方で、多くが任意接種・自費負担であること、自治体助成が限定的であること、接種歴証明の困難さや年齢制限といった制度的課題も残されている。 最後に森氏は「移植後ワクチン接種は、単なる推奨事項ではなく、長期予後を左右する重要な支持療法である。各施設の実情に応じた体制構築と地域連携を通じて、標準化と実装を進めていくことが、今後の移植医療の質向上に直結する」と締めくくった。

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治療抵抗性の皮膚筋炎、新規経口TYK2/JAK1阻害薬brepocitinibが有効/NEJM

 brepocitinibは、皮膚筋炎への関与が知られているサイトカインシグナル伝達を遮断するfirst-in-classの経口選択的チロシンキナーゼ2(TYK2)/ヤヌスキナーゼ1(JAK1)阻害薬。米国・ハーバード大学医学大学院のRuth Ann Vleugels氏らは「VALOR試験」において、従来の治療に抵抗性の皮膚筋炎の成人患者では、brepocitinibはプラセボと比較して複合筋炎指数を有意に改善するほか、皮膚疾患の重症度、グルココルチコイドの漸減、機能障害などに関して有意な有益性を示すことを明らかにした。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2026年3月28日号(同31日更新)に掲載された。20ヵ国の第III相無作為化プラセボ対照比較試験 VALOR試験は、20ヵ国90施設で実施した第III相二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験であり、2022年10月~2024年6月に参加者のスクリーニングを行った(Priovant Therapeuticsの助成を受けた)。 対象は、18~75歳、欧州リウマチ学会/米国リウマチ学会(EULAR/ACR)の特発性炎症性筋疾患(definiteまたはprobable)の分類基準(2017年)と皮膚筋炎の亜分類基準を満たし、活動性の筋疾患(MMT-8スコア[0~150点、点数が低いほど筋力が低下]80~142点)および皮膚疾患(CDASI-Aスコア[0~100点、点数が高いほど疾患活動性が重度]6点以上)を有し、少なくとも1つの従来治療(全身グルココルチコイド療法、従来型DMARD、静注免疫グロブリン療法など)で効果が不十分な患者であった。 被験者を、brepocitinib 30mg、同15mg、プラセボを、1日1回経口投与する群に、1対1対1の割合で無作為に割り付けた。投与期間は52週であった。併せて標準治療を継続し、グルココルチコイドは漸減した。 主要エンドポイントは、52週の時点における、筋炎の活動性に関する6つの主要な指標を統合した加重複合筋炎指数である総合改善スコア(TIS、範囲:0~100点、点数が高いほど改善度が高い)の平均値とした。30mg群でTISが有意に改善 241例(平均年齢50.6歳、女性77.6%)を登録し、brepocitinib 30mg群に81例、同15mg群に81例、プラセボ群に79例を割り付けた。ベースラインの疾患活動性は、患者の81.3%が中等度~重度であり、皮膚疾患(平均[±SD]CDASI-Aスコア19.8[±11.5]点)、筋疾患(平均MMT-8スコア122.6[±15.9]点)とも高い活動性を示した。210例(87.1%)が52週の投与期間を完了した。 52週の時点で、平均TISは、brepocitinib 30mg群が46.5点、同15mg群が37.5点、プラセボ群は31.2点であった。30mg群とプラセボ群のTISの最小二乗平均差は15.3点(95%信頼区間[CI]:6.7~24.0、p<0.001)と有意差を認め、15mg群とプラセボ群の最小二乗平均差は6.3点(95%CI:-2.4~14.9)であった。 9項目の主な副次エンドポイントはすべて、プラセボ群に比べ30mg群で有意に優れた。たとえば、52週時にCDASI-Aスコアの40%以上かつ4点以上の改善を達成した患者の割合の最小二乗平均差は17%(95%CI:1~32、p=0.04)、52週時にTIS≧40点で、かつ経口グルココルチコイドの使用が最小限または非使用の患者の割合の最小二乗平均差は26%(95%CI:11~40、p<0.001)、機能障害の指標であるHAQ-DIスコアのベースラインから52週目までの変化量の最小二乗平均差は-0.30点(95%CI:-0.49~-0.10、p=0.004)であった。重篤な感染症が10%に 52週の投与期間に、重篤な有害事象はbrepocitinib 30mg群で13例(16%)、プラセボ群で10例(13%)に発現した。重篤な感染症の発生頻度は、プラセボ群に比べ30mg群で高かった(8例[10%]vs.1例[1%])。投与中止に至った有害事象は、30mg群で5例(6%)、プラセボ群で9例(11%)に認めた。 とくに注目すべき有害事象として、30mg群で心血管系が1例(1%)、ウイルスの再活性化が4例(5%)、ALT値またはAST値の上昇が1例(1%)にみられた。試験期間中に死亡の報告はなかった。二重の利点をもたらす可能性を示唆 著者は、「治療効果の大きさは、全身性の筋炎活動性、機能障害、皮膚疾患活動性を含む複数の領域において、確立された臨床的に意義のある最小変化量(MCID)の閾値を上回った」「臨床効果は4週目までに現れ、52週間の試験期間を通じて持続した」としている。 また、「長期の全身グルココルチコイド療法は、重大な毒性(感染症、糖尿病、心血管疾患、骨粗鬆症のリスク増大など)を伴うため、その減量は重要な治療目標とされる」とし、「本試験の知見は、brepocitinibが疾患活動性を抑制すると同時に、グルココルチコイドへの曝露を低減するという二重の利点をもたらす可能性を示唆する」と指摘している。

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米国のCOVID-19死亡数、過小評価の可能性

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック初期における米国での実際の死亡数は、公式発表よりも大幅に多かった可能性が新たな研究で示唆された。2020年から2021年にかけて、COVID-19関連死亡のうち、最大で約15万5,000人分が見逃されていた可能性が示されたという。同期間に死亡診断書に記録されたCOVID-19による死亡数は約84万人であることから、今回の推計に基づくと、関連死亡の約19%がカウントされていなかったことになる。米ミネソタ大学社会学准教授のElizabeth Wrigley-Field氏らによるこの研究の詳細は、「Science Advances」3月20日号に掲載された。 研究グループによれば、2020年3月から2021年12月にかけてのパンデミック初期には、病院内で死亡した患者のほぼ全例が新型コロナウイルスの検査を受けており、また、この期間の病院内における内因死の超過死亡数は、COVID-19による院内死亡数と概ね一致していた。これらの点を踏まえてWrigley-Field氏らは、機械学習アルゴリズムを用いて病院内で確認されたCOVID-19死亡の特徴を学習させ、そのモデルを肺炎や糖尿病など別の死因として記録された病院外死亡に適用することで、見逃されたCOVID-19による死亡数を推定した。パンデミック初期には、病院外で死亡した多くの人が新型コロナウイルスの検査を受けていなかった。 その結果、この期間におけるCOVID-19による死亡数は、公式発表では84万251人であったが、研究グループの推計では99万5,787人であった。これは、死亡数が公式発表より19%、人数にすると15万5,536人多いことに相当する。また、このような見逃された死亡が多く見られたのは、ヒスパニック系やネイティブ・アメリカン、アラスカ先住民、アジア系、黒人、アラバマ州、オクラホマ州、サウスカロライナ州などの南部および南西部の地域、さらに世帯収入が低く住民の健康状態が不良な郡であった。 専門家は、こうした差は医療アクセスの問題を反映していると指摘している。本研究には関与していない、米バージニア・コモンウェルス大学、社会・健康センターのSteven Woolf氏は、「社会的に周縁に置かれた人々は、医療にアクセスできないために、依然として不均衡に高い割合で死亡している」とAP通信に語った。 パンデミック初期には、特に病院外での検査体制が限られており、自宅で使える検査キットも普及していなかった。そのため、診断を受けることなく死亡した人もいた。また、地域によっては、死因調査を選挙で選ばれた検視官が担っているが、そうした検視官は法医学専門医と同等の訓練を受けていない場合もある。さらに、家族が死因としてCOVID-19の記載を望まなかったケースや、死後に検査が実施されなかったケースもあった。 論文の上席著者である米ボストン大学グローバルヘルス分野のAndrew Stokes氏は、「特に大都市以外では、時代遅れの死因調査制度が正確な死亡数の把握を妨げた主な要因の一つだ」と述べている。 米疾病対策センター(CDC)によると、パンデミックの発生以降、米国でのCOVID-19による死亡数は120万人を超えており、その3分の2以上が2020年と2021年に集中しているという。パンデミックによる正確な死亡数をめぐっては、オンライン上で誤情報が拡散したこともあり、過大評価か過小評価かを含めて広く議論されている。

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第292回 麻しん299人に急増、大型連休前に「症状ある場合は外出控えて」/厚労省

<先週の動き> 1.麻しん299人に急増、大型連休前に「症状ある場合は外出控えて」/厚労省 2.2040年見据え、急性期集約と高齢者救急対応へ 地域医療構想を転換/厚労省 3.医学部定員削減へ、医師過剰時代に向け政策転換を/財務省 4.献血者数は横ばいも若年層が4割減、血液製剤の供給に懸念/厚労省 5.人材紹介料が医療経営を圧迫、10年で2.4倍に 早期離職トラブルも/日医 6.看護師不足が地域医療を直撃、養成校の募集停止相次ぐ/日看協 1.麻しん299人に急増、大型連休前に「症状ある場合は外出控えて」/厚労省麻しん(はしか)の感染拡大が続いている。国立健康危機管理研究機構によると、2026年の累計患者数は4月12日までに299人となり、2025年1年間の265人をすでに上回った。過去10年では2019年の744人に次ぐペースで、1週間の報告数も今年初めて50人を超えた。前回報じた236人からさらに増加しており、厚生労働省は警戒を強めている。上野 賢一郎厚労相は24日の記者会見で、「新型コロナウイルス感染症の流行以降、最多のペースで感染が拡大している」と述べ、ワクチン接種歴の確認と定期接種の徹底を呼びかけた。発熱、せき、鼻水、発疹など麻しんを疑う症状がある場合は外出を控え、医療機関を受診する際も公共交通機関の利用を可能な限り避けるよう求めた。感染拡大の背景には、海外からのウイルス流入と国内の免疫低下がある。わが国は2015年に世界保健機関(WHO)から、国内に土着する麻しんウイルスが確認されない「排除状態」と認定されたが、海外からの帰国者や訪日客を起点に感染が広がっている。患者は東京都が100人超と最も多く、神奈川県、千葉県、埼玉県を含む首都圏で過半数を占める。また、愛知県や鹿児島県では、高校などで集団感染も確認されている。麻しんは空気感染し、同じ部屋にいるだけで感染することがある。感染力はインフルエンザの約10倍とされ、発症すると発熱や上気道症状に続き、発疹が出る。脳炎などで重症化し、死亡することもある。対策の柱はMRワクチンの2回接種である。1回接種で93~95%、2回接種で97~99%の予防効果があるとされるが、国内の2回接種率はコロナ禍後に低下し、2024年度は91%まで下がった。流行抑制には95%以上の接種率が必要とされ、専門家は集団免疫の低下に警鐘を鳴らす。とくに20代後半から50代では、未罹患や1回接種のみで免疫が不十分な人も多い。大型連休で海外渡航や人流が増える時期を迎え、国は自治体向け緊急説明会を開き、接種歴確認と早期相談を呼びかけている。 参考 1)麻しん(はしか)の発生状況について(国立健康危機管理研究機構) 2)麻しん累積報告数の推移 2019~2026年(第1~15週)(同) 3)上野厚労相、はしか増に警戒「症状ある場合は外出控えて」 累計で昨年1年間を上回る(産経新聞) 4)はしか感染拡大 厚労相「ワクチン接種を」呼びかけ(日経新聞) 5)ウイルス定着していないはずなのに はしか患者が増えているのは(毎日新聞) 6)はしか患者が増加 ~何が真の脅威なのか~(時事通信) 2.2040年見据え、急性期集約と高齢者救急対応へ 地域医療構想を転換/厚労省厚生労働省は、2040年を見据えた「新たな地域医療構想」の具体化を進めている。従来の地域医療構想は、2025年の医療需要を前提に病床機能の分化・連携を促す枠組みだったが、今後は人口減少、85歳以上の高齢者の増加、医療・介護の複合ニーズ、医療従事者不足を踏まえ、入院だけでなく外来、在宅、介護連携を含む医療提供体制全体の再編へと対象を広げる。国の方針では、医療機関の連携・再編・集約化を進め、急性期医療を担う「急性期拠点機能」、高齢者救急や2次救急を受ける「高齢者救急・地域急性期機能」、在宅医療を支える「在宅医療等連携機能」、リハビリや慢性期などを担う「専門等機能」など、地域ごとに医療機関の役割を明確化する。急性期拠点は、人口20~30万人に1ヵ所を基本に確保する考え方が示されており、手術や重症救急は集約し、それ以外の高齢者救急は地域急性期病院が担う方向となる。その一方で、政府内では病床削減も重要な論点となっている。一般病床・療養病床で約5.6万床、精神病床で約5.3万床の削減を想定し、厚労省は病床削減を反映したKPIを検討する。年末に改訂される経済・財政新生計画の「改革実行プログラム」やEBPMアクションプランに盛り込む方針。勤務医にとって重要なことは、地域医療構想が単なる病床数調整ではなく、病院の機能や専門性、救急対応のほか、紹介・逆紹介、介護施設との連携を変える政策である点である。 今後は各医療機関が、2028年度までに2040年に向けて担う機能を決定し、2035年度をめどに一定の成果を出すことが求められる。地域の中小病院は、高齢者救急や在宅後方支援へ、大規模急性期病院は高度急性期・専門医療に特化と役割分担が進む可能性が高い。 参考 1)病床削減踏まえ地域医療構想のKPI設定へ、厚労省 年末改訂の「改革実行プログラム」に(CB news) 2)勤務医にとっての「新たな地域医療構想」~病床数等の議論から地域の医療提供体制全体の課題解決の議論へ~(日医) 3)新たな地域医療構想に関するとりまとめ(厚労省) 3.医学部定員削減へ、医師過剰時代に向け政策転換を/財務省財務省は、4月23日の財政制度等審議会で人口減少を踏まえた大学・医師養成の見直しを提起した。18歳人口が減少する一方で大学数は増え続け、半数超の私立大学が定員割れとなっているとして、2024年に624校ある私立大学を2040年までに217~372校へ縮減する目標を示した(少なくとも約4割の削減に当たる)。あわせて、医学部定員についても将来的な医師過剰を理由に「大胆な削減に踏み切るべきだ」と求めた。財務省は、医師需給は2029~32年ごろに均衡し、その後は過剰になることが「確定的」と分析している。医学部定員が現在の9,000人台で推移すれば、人口10万人当たり医師数は2022年の274人から2040年には340人まで増える見通しで、「医療費適正化や人材の最適配分の観点からも定員削減が必要だ」としている。その一方で、医療現場では医師不足の実感が根強い。日本経済新聞の調査では、地域で不足を感じる診療科として産婦人科と小児科が最多で、外科、総合診療科、救急科も多かった。とくに外科は若手医師の敬遠が目立ち、消化器外科医は今後20年で半減するとの推計もある。また、医師の「病院離れ」も進む。2024年末の病院勤務医は約21万9,000人で、2年前より約700人減少した。病院勤務医の減少は1979年以降で初めて。その一方で、診療所医師は約11万1,000人と約4,300人増加した。自由開業制のもと、都市部や負担の少ない外来中心の診療所に医師が流れ、地域・診療科・勤務形態の偏在が強まっている。厚生労働省は、これらの偏在対策として医学部臨時定員の削減を段階的に進める方針。2027年度は医師多数県で原則2割削減を継続し、2028年度からは医師多数県以外にも削減対象を広げる方向で検討する。その一方で、地域枠医師については、県内9年以上勤務などの義務を柔軟化し、離脱を防ぎながら地域定着を促す考えだ。今後の政策は、医師総数を抑えつつ、地域枠、専門研修、勤務環境改善、病院集約化を組み合わせ、限られた医師を効率的に配置する方向へ進む。医師が「余る」とされる一方で、地方病院、外科、救急、産婦人科、小児科などでは不足が続く可能性が高く、単なる定員削減ではなく、偏在是正とキャリア支援を一体で進められるかが焦点となる。 参考 1)医学部の大胆な定員削減を 人口減で医師余り「確定的」に 財政審(時事通信) 2)財政審「私大は40年までに4割減を」 医学部定員も削減要求(毎日新聞) 3)2028年度から医師多数県「以外」でも医学部入学定員を減員へ、地域枠医師の義務履行の柔軟化を検討-医師偏在対策検討会(Gem Med) 4)人口減少社会の中での総合的な国力の強化(財務省) 5)全国の診療科偏在、日経調査 小児・産婦人科が「不足」最多(日経新聞) 6)医師の病院離れ深刻に 診療所に転出、地域に偏り(同) 4.献血者数は横ばいも若年層が4割減、血液製剤の供給に懸念/厚労省若年層の献血離れが進み、輸血用血液だけでなく、血液由来医薬品の安定供給にも懸念が広がっている。厚生労働省によると、2024年度の献血者数はのべ約499万人で、全体では近年500万人前後を維持している。しかし、30代以下の献血者は2009年度の283万人から158万人へと15年間で4割以上減少した。その一方で、50・60代の献血者は2倍近くに増え、現在の血液供給は中高年のリピーターに支えられている。背景には、少子化に加え、コロナ禍で学校や企業での集団献血が減り、若者が献血に触れる機会が少なくなったことがある。献血可能年齢である16~69歳の人口は、今後20年間で約1,500万人減少すると推計されており、若年層の協力拡大は急務となっている。とくに深刻なのが、献血血液から作られる血漿分画製剤の供給問題である。献血血液のうち約4割は輸血用血液製剤に、6割弱は血漿分画製剤に使われる。このうち免疫グロブリン製剤は、川崎病、神経疾患、がん治療後の免疫低下、重症肺炎や敗血症など幅広い疾患に用いられ、需要は15年前の約2倍に増加した。川崎病では冠動脈後遺症を防ぐため早期投与が重要で、代替困難な薬剤でもある。その一方で、国内製造は限界に近付いている。血漿分画製剤を製造する国内メーカーは3社に限られ、設備の老朽化や厳しい品質管理、長い製造期間、薬価引き下げによる採算性低下が増産の壁となっている。免疫グロブリン製剤の国内自給率は、15年前の95%から2026年度には54%程度まで低下する見込みで、輸入依存度が高まっている。厚労省は、メーカーの設備投資補助や薬価面での支援を進めるとともに、小中学生への啓発パンフレット配布、学校献血、学生ボランティアによる呼びかけなど、若い世代への働きかけを強める。血液は人工的に作れず、保存期間も限られるために、若者の献血参加は、将来の輸血医療と血液由来医薬品の国内安定供給を支える重要な課題となっている。 参考 1)日本の未来を変える、若者の献血:今、若者の献血が必要な理由(厚労省) 2)若者の献血が変える日本のミライ:高校生が広げる献血の輪(同) 3)若者の献血離れで医薬品安定供給に懸念も 国も対策(NHK) 4)「このままでは輸血できなくなる未来に」献血離れが深刻 学校に献血バスの取り組みも(TBS) 5.人材紹介料が医療経営を圧迫、10年で2.4倍に 早期離職トラブルも/日医医療機関や介護施設が民間の有料職業紹介事業者に支払う紹介手数料が急増している。厚生労働省の2024年度職業紹介事業報告書によると、医師の紹介手数料は約283億円、看護師・准看護師は約598億円、施設・訪問介護職は約257億円で、3職種合計は約1,139億円に上った。10年前の2.4倍で、2年連続で1,000億円を超えた。背景には、医療・介護分野の慢性的な人手不足がある。2026年2月の有効求人倍率は、医師・薬剤師などが2.04倍、看護師などが2.21倍、介護職が3.78倍と、全職種平均を大きく上回る。医療機関や介護施設は人員配置基準を満たさなければ診療報酬・介護報酬を得られないため、退職者が出ると迅速な補充が迫られる。民間紹介サービスは、短期間で採用につながりやすく、求職者側もスマートフォンで条件検索しやすいため利用が広がっている。しかし、紹介手数料の原資は保険料や税金を含む公的財源であり、経営が厳しい医療機関にとっては負担が重い。さらに、採用後の早期離職や、紹介内容と実際の能力との不一致などのトラブルも多い。調査では、医療・介護・保育分野で有料紹介を使った事業者の56.8%が「紹介人材がすぐに辞めた」と回答している。日本医師会と四病院団体協議会は、紹介手数料の上限制、返戻金制度の義務化、定着期間に応じた手数料体系などを厚労省に要望した。日医は、高額な紹介料が中小病院の人材確保を一層困難にし、地域医療提供体制を揺るがす恐れがあると訴えている。その一方で、厚労省は市場への過度な介入には慎重姿勢を示している。公的なマッチング機能の強化も進む。日本医師会はドクターサポートセンターとドクターバンクをリニューアルし、都道府県医師会や行政のドクターバンク、ハローワークとの連携を拡大している。今後は、民間紹介に過度に依存しない採用ルートの整備と、求職者・医療機関双方の意識改革が課題となる。 参考 1)人材紹介料に消える医療費 10年で2.4倍1,000億円超、上限制要望の声(日経新聞) 2)日本医師会ドクターサポートセンターのリニューアル内容を説明(日医) 3)人材紹介料に苦しむ医療機関 経験した医師「ドクターバンクの充実を」(日経メディカル) 4)有料職業紹介事業の適正化とハローワークの機能強化に関する要望書(日本医師会・四病院団体協議会) 6.看護師不足が地域医療を直撃、養成校の募集停止相次ぐ/日看協看護師不足が地域医療の維持を揺るがしている。背景には、看護師を目指す若者の減少と、現場で働き続けることの難しさがある。全国の看護学校では定員割れや募集停止が相次ぎ、埼玉県秩父市の秩父看護専門学校も定員40人に対し、今年度の新入生は9人にとどまり、3年後に閉校する予定となった。関東甲信越では21校・22課程が今後の募集停止を決めている。養成校の縮小は地域医療に直結する。秩父市の中核病院では、この15年間に採用できた新卒看護師は地元看護学校の卒業生に限られ、今年度の新卒採用は1人。その一方で、昨年度は5人が退職した。千葉県銚子市の総合病院では、看護師不足により120床のうち24床を休止。千葉県内では少なくとも7病院で計424床が稼働できなくなっている。現場では、看護師1人が受け持つ患者数が増え、患者と向き合う時間も削られている。検温や血圧測定、清拭などのケアが十分に行えず、カルテ入力や薬剤確認などの業務負担も重い。日本看護協会の調査では、看護職として働き続けたいと答えた人は62.9%にとどまり、前回調査から低下した。新卒看護職員の離職率も8.2%で、休みの取りにくさや夜勤・残業の負担が離職要因となっている。その一方で、看護師確保に向けた取り組みも始まっている。ペットと暮らせる寮や休暇制度を整備して離職防止を図る病院、社会人学生を積極的に受け入れる看護専門学校もある。 准看護師制度については、地域医療を支える役割がある一方で、学生数の減少や看護教育の大学化を背景に、制度のあり方や看護師への一本化を巡る議論も続いている。看護師の就業者数は増えているが、高齢化による需要増には追い付いていない。有効求人倍率は高く、医療機関同士が人材を奪い合う状況にある一方で、賃金は公定価格である診療報酬・介護報酬に左右され、物価高や他産業の賃上げを反映しにくい。看護師不足は単なる人手不足ではなく、病床休止、患者ケアの質低下、地域医療の縮小につながる問題であり、養成制度、処遇改善、勤務環境改革を一体で進める必要がある。 参考 1)“憧れの職業”に何が起きたか 「看護学校」定員割れの衝撃 「不要論」と「新たなニーズ」の間で揺れる准看護師という存在(東洋経済オンライン) 2)相次ぐ募集停止 看護師不足の行く末は…(NHK) 3)看護師になっても...「働き続けたい」は6割、新卒で1割が離職 背景に過酷な労働実態(産経新聞)

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生菌製剤と食物繊維、肺がんに対するICIの効果を増強か/日本呼吸器学会

 がん免疫療法において腸内細菌叢へのアプローチが注目されている。近年、生菌製剤として用いられる酪酸菌Clostridium butyricum MIYAIRI 588株(以下、CBM588)が、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)を用いた進行肺がん患者の全生存期間(OS)の延長と関連していたことが、後ろ向き研究で報告されている1)。また、腎細胞がんでは、無作為化比較試験においても、CBM588がICIによる治療を受ける患者の無増悪生存期間や奏効率の改善に寄与する可能性が示唆されている2,3)。そこで、本邦においても、CBM588の使用の有無と食物繊維の摂取量がICIの効果に及ぼす影響について、前向き観察研究での検討が実施された。その結果、CBM588の使用はICIによる治療を受けた非小細胞肺がん(NSCLC)患者のOSを延長する可能性があり、その効果は食物繊維摂取量が多いと増強されることが示唆された。第66回日本呼吸器学会学術講演会において、徳永 龍輝氏(熊本大学病院 呼吸器内科)が報告した。 本研究は、単施設前向き観察研究として実施された。対象は、2021年3月~2024年8月に熊本大学病院でICIによる治療を開始した、20歳以上の進行・再発NSCLC患者101例とした。ICI治療開始3週間前から投与中の期間に、整腸剤としてCBM588を投与された患者(CBM588群、55例)と投与されなかった患者(対照群、46例)に分類した。また、アンケート回答が得られた88例について、推定食物繊維摂取量が10g/1,000kcal以上に相当するhigh-fiber集団(CBM588群25例、対照群30例)と、それ未満のlow-fiber集団(それぞれ23例、10例)に分類して評価した。OSの解析には、傾向スコアに基づく逆確率重み付け(IPTW)を用いたCox比例ハザードモデルを使用した。 主な結果は以下のとおり。・CBM588群は対照群と比較して、OSが有意に延長した。OS中央値はCBM588群未到達、対照群10.1ヵ月であった(ハザード比[HR]:0.44、95%信頼区間[CI]:0.24~0.78、p=0.005)。・IPTWを用いた解析においても、CBM588群でOSの有意な延長が認められた(HR:0.28、95%CI:0.14~0.58、p<0.001)。・食物繊維摂取量別の解析において、CBM588群ではhigh-fiber集団がlow-fiber集団と比較して、OSが有意に延長した。OS中央値はhigh-fiber集団未到達、low-fiber集団27.3ヵ月であった(HR:0.26、95%CI:0.08~0.82、p=0.021)。・一方、対照群では、high-fiber集団とlow-fiber集団の間にOSの差はみられなかった(OS中央値:15.9ヵ月vs.16.1ヵ月)。 本結果について、徳永氏は「腸内細菌は食物繊維の発酵により酪酸などの短鎖脂肪酸を産生する。この酪酸はCD8陽性T細胞の抗腫瘍機能を高めるとされており、ICIの抗腫瘍効果を増強した可能性が考えられる」と考察した。また「NSCLC患者において、CBM588はICIの効果を増強し、生存期間を延長する可能性がある。また、十分な食物繊維摂取下では、さらにICIの抗腫瘍効果を増強する可能性があることが示唆された」とまとめた。

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第310回 麻疹患者の発生情報、個人特定のリスクか

INDEX都内の集団発生はブレークスルー感染?情報開示による個人特定のリスク都内の集団発生はブレークスルー感染?以前も本連載(第301回)で触れた麻疹の流行が止まらない。国立健康危機管理研究機構が公表している感染症発生動向調査週報(IDWR)によると、2026年15週(4月6~12日)時点の全国での報告数(速報値)は299例。報告事例は25都道府県に及び、最多は東京都の108例。すでに昨年末の52週(12月22日~28日)までの265例をわずか3ヵ月強で超えてしまった。今年は麻疹の流行がかなり危惧される状況だ。東京都では新宿区の小学校で生徒・教職員18例の感染が確認され、都内では12年ぶりの学年閉鎖という異例の事態にまで発展している。感染者の年齢は10代と40代で、由々しきことは、現時点で判明している感染者のワクチン接種歴は1回以下が2例、2回が16例と、そのほとんどがブレークスルー感染という現実である1)。あくまで推測になるものの、感染事例のうちワクチン2回接種済みの16例はおそらくほぼ全員が10代の生徒だろう。小学校であることを考えれば、これら16例の年齢は10~12歳。麻疹ワクチンの定期接種スケジュールから考えれば、2回目接種からわずか5~6年でブレークスルー感染に遭遇した計算になる。現在の新宿区内の小学校は公立私立含めて30校あり、総生徒数は約1万1,000人。単純計算すれば1校1学年当たりの生徒数は約60人。麻疹ワクチンの2回接種でも抗体価が得られない事例が1~5%、同ワクチンの発症予防効果が97%、接種後も10〜20年単位で防御効果が大きくは崩れないという一般的な認識から考えると、新宿区での多数のブレークスルー感染は説明がつかない。小学校の同一教室で朝から夕方まで時間を共有している結果、相当なウイルス量による曝露が起こり、その結果、ブレークスルー感染が起こったと考えるしかなさそうだ。情報開示による個人特定のリスクさて、今回の流行で各種発表を参照していた中、私が気になった事例がある。その理由は後述するが、最近では麻疹感染例が確認されると、各自治体は感染例の行動履歴のうち不特定多数に接触した可能性がある部分を公表し、注意を促す。これ自体はむしろ公衆衛生の観点からは必要な対応だと考えている。私が気になったのは、ある自治体での麻疹感染者の行動履歴の公表事例である。そこには不特定多数への感染リスクがある、立ち寄り先と公共交通機関の利用日時が分刻みで公表されていた。どちらも同一日のことだが、同事例を見ると、感染者がある時間の範囲内でどのような行動をしていたかが、かなりの確度で推定できる。そして、たまたまGoogleマップを利用して同事例の履歴と照らし合わせてみた際にハッとした。少なくとも同事例では、当たっているかどうかは別にして感染者個人の居住地域を推定できてしまう。この自治体の人口は数十万人規模だが、行動履歴から推定できる地域の人口はその5分の1程度。それでも10万人以上だが、公表された行動履歴からは、さらに数万人規模まで絞り込める。しかも今やネット時代。さまざまな情報をつなぎ合わせることで、誤認も含め個人を特定できてしまう可能性がある。ちなみにこうした行動履歴の公表内容は、旧国立感染症研究所感染症疫学センターが2016年6月に公表した『麻疹発生時対応ガイドライン 第二版:暫定改訂版』2)を基に各自治体の裁量に任されている。同ガイドラインでは以下のような記載があるのみである。「情報発信に際しては、患者数が減少しており、個人を特定できる可能性が以前より増しているため発症者及びその周囲にいる感染を受けた者両者への人権に配慮する必要がある。ただし、感染拡大や対策を実施するうえで、麻疹患者の情報の共有が重要となることもある。公表する情報の質、範囲などについては関係機関と十分協議し、個人のプライバシーと感染拡大防止の公衆衛生学的意義を考慮したうえで決定することが望ましい」もちろんこの自治体の公表内容については、個人情報保護と感染拡大防止のせめぎあいのギリギリのラインで決定されたものだろうとは思っている。とくに麻疹の場合は基本再生産数が12~18と、きわめて感染力が強い。時間を分刻みで公表しているのも、パニックのような過剰な反応が起きないようにとの配慮があるのだろうとも受け止めている。しかし、ケースによっては公表された情報から“犯人探し“が行われてしまう可能性は否定できない。言葉として不適切なことを承知で言えば、今回のケースは麻疹という一般には聞き慣れた感染症だから、そこまでのことは起きていないだろうと推察している。ただ、これが多くの人にとって聞き慣れない新興感染症で、この事例のような公表をした場合は、犯人探しリスクはかなり高まる。その意味では、今回のケースは個人特定を防ぐために、行動履歴の時間の粒度をやや粗めにするという対応はできなくもない。国はそろそろ過去の事例なども参照しながら、情報公開に関してはもう少し詳しいガイドラインを作成してもよいのではと思うのだが…。1)都庁総合ホームページ:麻しん(はしか)患者の集団発生について2)国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト::麻疹発生時対応ガイドライン〔第二版:暫定改訂版〕

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医療者の携帯電話が多剤耐性菌を広める!?

 医療従事者の多くが勤務時間中に仕事関連と個人的な目的の両方で携帯電話を使用しており、患者との接触とデバイスの操作を頻繁に切り替えている。しかし、感染予防の観点からみた高頻度接触表面としての携帯電話の役割については、十分に解明されていない。ドイツ・Goethe University FrankfurtのDaniel Hack氏らは、大学病院で医療従事者が使用する携帯電話上の多剤耐性菌の保有率および分子疫学を評価し、非医療従事者が使用する端末との比較検討を行った。Antimicrobial Resistance & Infection Control誌2026年4月4日号掲載の報告。 30ヵ月間にわたる横断研究において、医療従事者の携帯電話232台および非医療従事者の携帯電話241台を対象に、多剤耐性菌の保有率および総細菌数を評価した。医療従事者は患者と直接接する者(医師、看護師およびその他の医療者)、非医療従事者は患者と直接接触しない者(臨床実習前の医学生、事務職)と定義された。一部の端末については、アルコール含有ワイプによる清拭消毒の前後で評価を実施した。クローナルクラスターを同定するため、全ゲノム解析およびそれに続くcore genome multilocus sequence typing(cgMLST)解析が行われた。 主な結果は以下のとおり。・多剤耐性菌の保有率は、非医療従事者の携帯電話と比較して、医療従事者の携帯電話で有意に高かった(0.4%vs.15.1%、p<0.001)。・医療従事者間でのサブグループ解析の結果、一般病棟よりも集中治療室(ICU)で使用される端末(11.9%vs.23.4%)、個人用よりも共有の端末(9.1%vs.23.0%)において保有率が有意に高かった(p<0.05)。・医師と看護師の間およびスマートフォンとキーパッド式携帯端末の間で、多剤耐性菌の保有率に有意な差は認められなかった。・バンコマイシン耐性Enterococcus faeciumおよびメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が、それぞれ11.2%および4.7%の端末から検出された。一方で、多剤耐性グラム陰性菌(MDRGN)は検出されなかった。・cgMLST解析により、クローナルな多剤耐性菌株は主として同一病棟内で認められ、病棟間を越えて認められることはまれであった。・総細菌数は多剤耐性菌検出の予測因子ではなかった。・アルコール含有ワイプによる清拭により、評価を実施したすべての端末から多剤耐性菌が確実に除菌された。 著者らは、携帯電話は多剤耐性菌伝播における重要なリザーバーとなりうるとし、とくに共有端末およびICUの端末に対する標準化されたルーチン消毒を感染予防策として組み込むことが検討されるべきとしている。

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第315回 キノコが作る抗酸化物質L-エルゴチオネインが生理痛を緩和

キノコ(真菌)が作る硫黄含有アミノ酸の類いのL-エルゴチオネイン(L-ergothioneine、以下「EGT」)が安全に女性の生理痛を和らげました1,2)。EGTは抗酸化作用を担うことで知られます。有機カチオン輸送体のOCTN1を介して細胞内に取り込まれ、蓄積し、フリーラジカルを捕らえてDNAやタンパク質が酸化で傷つかないようにする働きを有します。生理痛を引き起こす原発性月経困難症(PD)は若年女性に最も多い婦人科疾患で、骨盤に明らかな病変がないにもかかわらず月経の直前や最中に生じる下腹部痛を特徴とします。PDの有病率は高ければ9割を超え、患者の生きやすさ、学業、仕事の生産性を大きく損なわせます。子宮の過剰収縮、虚血、低酸素を招く子宮内膜プロスタグランジンの過剰生成がPDの根源とされ、それらの虚血が炎症反応と重度の酸化ストレスを招くようです。抗酸化物質の枯渇と並行して活性酸素種(ROS)や脂質過酸化指標が増えることは生理痛の重症度と密接に関連します。そこで中国の南京市のGene III Biotechnology社のGuohua Xiao氏らは抗酸化物質のEGTに白羽の矢を立て、その生理痛緩和効果を調べる臨床試験を実施しました。試験にはPDと診断済みで、先立つ1ヵ月間に鎮痛薬や漢方薬などのPD治療を試みたことがない18~30歳の女性40例が参加しました。半数の20例は120mgのEGTを3回の月経の間に毎日服用し、あとの半数の20例にはプラセボが与えられ、生理痛のピークの推移が視覚アナログ尺度(Visual Analog Scale:VAS)で測定されました。EGT投与群のVASはベースライン時に4.8で、その後の1、2、3回目の生理時にはそれぞれ4.1、3.6、2.3に有意に下がっていました。プラセボ群では有意なVAS低下は認められませんでした。EGTは細胞に蓄積することから投与を続けるほどより有効なようです。実際、3回目の生理のときのEGT投与のVAS低下はプラセボを有意に上回りました。今回の試験で血中の炎症バイオマーカーはEGT群とプラセボ群で差がありませんでした。炎症を減らしてプロスタグランジンの生成を阻止するイブプロフェンなどの昔ながらの鎮痛薬が今のところ生理痛の緩和に使うべきとされていますが、どうやらEGTはそれら鎮痛薬が手を出す馴染みの炎症経路とは独立した細胞保護経路を介して鎮痛効果を発揮するのかもしれません。EGTは全身の炎症反応の誘発に至るより前に細胞ストレス発生源のフリーラジカルを排除してしまうらしいとXiao氏は言っています2)。Xiao氏は多施設でのより大規模な試験を計画しています。今回の試験で有害事象は幸いにも認められませんでしたが、大規模試験を実施すればEGTの効果を支える仕組みのみならず、安全性もより正確に把握できそうです。Xiao氏が年初に報告した別の試験では、肝機能異常を示す被験者の肝機能、体調、睡眠の指標がEGTで改善しています3)。2024年に報告された無作為化試験では軽度認知障害の高齢者の記憶/学習能力を改善しうるEGTの効果が示されており4)、その取り柄は生理痛緩和にとどまらず幅広いようです。参考1)Guo C, et al. Efficacy and Safety of Oral L-Ergothioneine Supplementation in Primary Dysmenorrhea: A Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled Clinical Trial. medRxiv. 2026 Mar 27.2)Antioxidant in mushrooms may target uterus cells to ease period pain / NewScientist3)Guo C, et al. Hepatoprotective Efficacy of GeneIII L-Ergothioneine Capsules: A Self-Controlled Clinical Trial. medRxiv. 2026 Jan 2.4)Yau YF, et al. J Alzheimers Dis. 2024;102:841-854.

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第291回 診療報酬「ベースアップ評価料」の対象が拡大、5月中の再届出が必須/厚労省

<先週の動き> 1.診療報酬「ベースアップ評価料」の対象が拡大、5月中の再届出が必須/厚労省 2.麻しん236人、コロナ後最多ペース 10~20代中心に感染拡大/小児学会 3.中東情勢緊迫化で医療物資「目詰まり」 5月に手袋5,000万枚放出/内閣府 4.2040年の外科医不足に備え、がん治療の拠点病院を再編へ/厚労省 5.医師偏在対策の柱・地域枠が再設計へ 2028年度以降は定員減も/厚労省 6.医療機関倒産、20年で最多 人件費高騰が経営圧迫/東京商工リサーチ 1.診療報酬「ベースアップ評価料」の対象が拡大、5月中の再届出が必須/厚労省人件費や物価の上昇で経営環境が厳しさを増すなか、厚生労働省はクリニックや中小病院に対して支援策を拡充し、日本医師会はその活用を呼びかけている。国は2026年度の「働き方改革推進支援助成金」を拡充し、常勤10人未満の小規模事業所では賃上げ加算の上限を引き上げ、最大300万円を上乗せできるようにした。労務管理研修やソフト導入、勤務間インターバル導入、時間外労働削減などの取り組みに応じ、補助上限は最大520万円となる。加えて、月60時間以内の時間外労働の割増賃金率を5%以上引き上げた場合の加算も新設された。その一方で、診療報酬ではベースアップ評価料が見直され、対象職種は看護師や薬剤師に加え、40歳未満の医師や歯科医師、事務職員にも広がった。点数も大幅に引き上げられ、継続的な賃上げを行う医療機関はより高く評価される。しかし、診療所の届出率は病院よりも低く、無床診療所59.2%、有床診療所70.0%にとどまっている。6月の診療報酬改定に向けて、算定するためには医療機関は5月中に必ず届出を行う必要がある。また、2024年度にすでに届け出ている医療機関も再届出が必要となる。賃金改善計画書は不要となり、手続き負担は軽減された。さらに、評価料収入は全額を賃上げに充てること、8月の実績報告に備えて対象職員数や賃上げ実績を整理しておくことが重要となる。人材流出を防ぎ、他産業に見劣りしない処遇改善を進めるためにも、診療所は助成金と評価料を組み合わせて活用する姿勢が求められる。 参考 1)働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)(厚労省) 2)令和8年度診療報酬改定ベースアップ評価料による賃上げについて(日医) 3)日医がベースアップ評価料の積極的な算定を呼びかけ、届け出率は無床診療所で約6割(日経メディカル) 4)日医がベースアップ評価料の届け出を呼びかけ(MEDICAL TRIBUNE) 2.麻しん236人、コロナ後最多ペース 10~20代中心に感染拡大/小児学会麻しん(はしか)の感染拡大が続いている。2026年4月上旬までに報告された患者は236人に達し、新型コロナ禍後で最多だった2025年(265人)を上回るペースで推移している。感染者は10~20代が半数を占め、若年層を中心に流行の兆しが強まっている。麻しんは極めて感染力が強く、免疫を持たない場合ほぼ100%発症するほか、肺炎や脳炎など重篤な合併症を引き起こす可能性がある。わが国は2015年に世界保健機関(WHO)から「排除状態」と認定されたが、近年は海外からの持ち込みを起点とした感染が続いている。世界的にも患者数は増加しており、各国で流行が拡大している。国内ではコロナ禍の水際対策で患者数は一時減少したが、2023年以降は増加に転じた。地域別では東京都が最多で、鹿児島県、愛知県と続く。とくに都市部での感染が目立ち、成人を含む若年層への広がりが確認されている。背景にはワクチン接種率の低下がある。麻疹の排除維持には2回接種で95%以上の接種率が必要とされるが、現状はこれを下回っている。感染者の半数以上が未接種、1回接種、あるいは接種歴不明であり、十分な免疫を持たない層の存在が流行拡大の要因となっている。麻しんへの予防接種は1歳時と小学校入学前の2回接種で高い予防効果が得られる。日本小児科学会は、接種歴を確認し未接種や不明の場合は任意接種を検討するよう呼びかけるとともに、発熱や発疹などの症状がある場合は事前連絡のうえで医療機関を受診するよう求めている。流行抑制には、ワクチン接種の徹底と早期受診が不可欠だ。 参考 1)麻しん累積報告数の推移 2019~26年 (JIHS) 2)2026年における麻疹患者数増加に関する注意喚起 (小児科学会) 3)はしか感染、230人超 新型コロナ後で最多ペース-10~20代が中心(時事通信) 4)はしか感染者増加“子どもの定期接種確実に”日本ワクチン学会(NHK) 5)海外からの流入・予防接種率低下等で麻疹(はしか)流行の兆し、適切なワクチン接種(定期・任意)と医療機関受診を-小児科学会(Gem Med) 3.中東情勢緊迫化で医療物資「目詰まり」 5月に手袋5,000万枚放出/内閣府中東情勢の緊迫化による原油・ナフサ供給不安が、医療物資の流通に影響を及ぼしている。政府は4月16日に「中東情勢に関する関係閣僚会議」を開き、対策として感染症流行に備え備蓄している医療用手袋約5億枚のうち、5,000万枚を2026年5月から医療機関向けに放出する方針を決定した。放出対象は、採血や検査で用いる非滅菌手袋で、新型コロナウイルス感染症医療機関等情報支援システム(G-MIS)を通じて医療機関が必要量を申請し供給される仕組みを整備する。厚生労働省によると、医療物資の供給不安に関する相談はメーカー・卸・医療機関を合わせ2,956件に上り、うち34件が供給に影響ありと判断された。消毒液や透析関連物資など一部は解決が進む一方で、透析用チューブや滅菌関連資材などでは中長期的な供給不安が残る。医療機関からの相談は急増しており、需給逼迫の兆しが強まっている。背景には、医療用手袋やガウン、チューブなど多くの医療消耗品が石油由来であり、原料のナフサを中東に依存している構造がある。現場では価格上昇や出荷制限の動きもみられ、手術や透析など生命維持医療への影響を懸念する声が上がる。実際に通販業者では購入制限が導入され、需給の不安定化が流通段階にも波及している。政府は約1.3万の医療機関から情報収集できるシステムを稼働させ、専門チームを増員して供給状況の把握と対策を強化している。また、アジア諸国との連携によるサプライチェーン強靭化にも着手し、エネルギー供給の安定化を通じた医療物資確保を図る方針。医療物資の安定供給は、エネルギー安全保障と一体の課題となっており、短期対応と中長期対策の両立が求められる。 参考 1)石油関連製品の供給不足に伴う厚生労働分野の影響・対応について(厚労省) 2)中東情勢に関する関係閣僚会議(首相官邸) 3)高市首相 5月から医療用手袋5,000万枚の備蓄放出を表明(NHK) 4)高市首相、医療用手袋5,000万枚放出表明 中東情勢で確保困難(毎日新聞) 4.2040年の外科医不足に備え、がん治療の拠点病院を再編へ/厚労省厚生労働省は、4月16日に「がん診療提供体制のあり方に関する検討会」を開き、高度ながん治療を担う病院の集約化を進める方針を明確にした。従来は全国どこでも一定水準のがん医療を受けられる「均てん化」を重視してきたが、今後は人口減少や医師不足、医療の高度化を踏まえ、質の高い治療を維持するために「集約化」との両立へ軸足を移す。とくに消化器外科では担い手不足が深刻で、現状のままでは2040年にがん治療を担う外科医が約9,200人と足元から39%減り、需要の5,200人を下回る見通しとなっている。一般の医師数は増加している一方で、一般外科医・消化器外科医はこの10年で減少し、若手ほど減り幅が大きい。長時間労働や負担に見合わない処遇が背景にあり、外科医がいる病院の約半数で消化器外科医は1~2人にとどまる。こうした状況から、厚労省は食道がんや膵がんなど高難度手術を拠点病院や大学病院へ集約し、希少がんでは県域を超えた集約も視野に入れる。その一方で、胃がんや大腸がんの標準的手術、長期の薬物療法や検診などは地域の医療機関で担う考え。今後は、新たな地域医療構想と連動し、各医療機関の機能を2028年度までに整理し、第9次医療計画へ反映する。がん診療連携拠点病院の整備指針も見直され、指定期間は最長3年に短縮される見通しで、構想や医療計画との整合性を高める。もっとも、都道府県ごとの議論の進捗にはばらつきが大きく、実施時期未定の地域も多い。国によるデータ提供や技術支援を強化しつつ、患者の受療アクセス低下を防ぎながら、医療の質、病院経営、勤務環境改善を両立できる再編を進められるかが焦点となる。 参考 1)第20回がん診療提供体制のあり方に関する検討会(厚労省) 2)がん医療・地域医療構想・医療計画等を連動させ「集約化すべき病院、高度医療の内容」等を明確化する-がん診療提供体制検討会(Gem Med) 3)がんの医療体制、地域医療構想と連動して整備へ 厚労省案 「28年度までに決定」(CB news) 4)がん手術維持へ病院集約 40年に外科医5,000人超不足、厚労省(日経新聞) 5.医師偏在対策の柱・地域枠が再設計へ 2028年度以降は定員減も/厚労省医師偏在対策の柱として拡大してきた医学部の地域枠が、現在見直しの局面に入っている。厚生労働省は、4月17日に開催した「医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会」で、2027年度の医学部臨時定員の調整方法を了承し、医師多数県を中心に削減を進めつつ、へき地尺度などを用いて一部地域では削減幅を緩和する方針を示した。医学部定員に占める地域枠などは2007年度の173人から2025年度には1,847人へと増え、全体の19.9%を占めるまで拡大しており、医学部定員9,393人のなかで大きな比重を占めている。この拡大は2008年度以降の臨時定員増を背景とするが、近年は医師数の増加ペース見直しの議論が進み、今後は臨時定員の縮減とともに、地域枠を恒久定員内で運用する方向が示された。検討会では、2027年度以降は医師多数県の臨時定員削減を基本としつつ、へき地尺度や高齢化の進展を踏まえて調整する方針を確認した。さらに2028年度以降は、医師多数県に限らず定員適正化を進める方向性が示され、量的拡大から質的最適化への転換が明確になりつつある。地域枠の制度設計も見直し対象となっている。現在は卒後9年以上の地域勤務が求められ、一定期間を医師不足地域で従事する仕組みとなっているが、義務履行中断者が約7%に上るなど、若手医師のライフイベントや専門医取得との両立が課題となっている。厚労省の資料でも、仕事と育児の両立志向の高まりなど、若年層の価値観変化が制度運用に影響していることが示されている。実際、日経メディカルの調査では「地域枠は必要だが見直しが必要」との回答が約半数を占め、当事者では6割近くに達した。背景には、都市部の生活の利便性や教育環境、キャリア形成機会の偏在があり、単なる配置義務では地域定着につながらない現実がある。地域枠は一定の成果を上げつつも、若手医師の価値観変化や医師需給の転換期を受け、制度疲労が顕在化している。今後は定員管理、勤務環境改善、経済的インセンティブを組み合わせた総合的な再設計が求められる。 参考 1)医師の確保・偏在対策における医学部臨時定員の方針について(厚労省) 2)今後の地域枠等の運用について(同) 3)27年度臨時定員、へき地尺度で多数県の削減幅を緩和 検討会が了承(MEDIFAX) 4)地域枠、医師48%が「従事期間や奨学金の利息見直しが必要」(日経メディカル) 6.医療機関倒産、20年で最多 人件費高騰が経営圧迫/東京商工リサーチ東京商工リサーチの調査によると、2025年度に倒産した医療機関(病院、診療所、歯科医院)は前年度比20.3%増の71件となり、過去20年で最多を更新した。コロナ禍では支援策により低水準に抑えられていたが、収束後の2023年度以降は53件、59件、71件と増加が続き、経営の悪化が顕在化している。業態別では診療所が32件、歯科医院が31件といずれも最多で、とくに歯科は前年度比1.5倍と急増した。その一方で、病院は8件と減少したものの、依然として高い水準にある。負債規模では1億円以上の案件も多く、中堅規模以上の医療機関の倒産が目立つ点も特徴だ。原因は「販売不振」が66%を占め、「既往のシワ寄せ」と合わせ約9割に達した。人口減少による患者数減少や診療報酬改定の影響に加え、光熱費や人件費、医療材料費の上昇により収益構造が悪化している。さらに、経営者の高齢化や人手不足、設備の老朽化も重なり、経営継続が困難となるケースが増えている。倒産形態は破産が69件で全体の97%を占め、再建型の民事再生は2件にとどまった。医療機関は収益規制や後継者不足などから再建が難しく、退出に直結しやすい構造が浮き彫りとなっている。医療機関の倒産は地域の医療提供体制に影響を及ぼし、とくに高齢化が進む地方では受診機会の喪失につながる懸念が強い。2026年6月の診療報酬改定の効果は不透明で、今後、公的支援の強化に加え、M&Aなどを含めた医療機関の再編・集約が一層進む可能性がある。 参考 1)2025年度の「医療機関」倒産 20年で最多の71件 クリニック・歯科医院の淘汰が加速、「破産」が97%超(東京商工リサーチ) 2)25年度の医療機関倒産、過去20年で最多の71件 商工リサーチ調べ(日経新聞)

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トロイの木馬にやられた!【Dr. 中島の 新・徒然草】(627)

六百二十七の段 トロイの木馬にやられた!朝夕が暑くなってきましたね。二十四節気では4月20日ごろから5月4日ごろまでを穀雨と呼び、次は立夏になるのだそうです。夏目前なら暑いはず。中島家では、ついに麦茶が登場しました。やはり冷えた麦茶を飲むと五体に染みわたります。さて、ある日のこと。自宅のPCで何げなく年金の関係のサイトを見ていたら……突然、「トロイの木馬に感染!」というポップアップが出てきました。慌てて右上の×印を押します。すると同じようなポップアップがどんどん増えていきました。 中島 「うわあ!」 思わず叫びました。すると血相を変えた妻が飛んできて「何をやっとるんじゃ。早くネットを切らんかい!」と怒鳴り、パソコンそのものを強制終了してしまったのです。 妻 「何をヘンなサイトを見ていたの!」 そう問い詰められました。まるで怪しいサイトでも見ていたみたいな言われようです。 中島 「単に年金のサイトを見ていただけなんやけど」 怪しいサイトからは最も遠い存在のはず。 妻 「年金サイトが一番危ないのよ!」 妻に理屈は通じません。 が、幸いなことに、妻はそのまま自宅からのオンライン会議に出席しました。その間にChatGPTに相談します。私にとって唯一の味方かもしれません。 ChatGPT 「ご安心ください。ほとんどの場合スケアウェア(Scareware)という無害なものです」 「落ち着いて対処しましょう。慌てて何かアプリをダウンロードしたり、電話したりしてはなりません」 「すぐにネットを遮断したのは最良の選択肢でした」 そう言って力付けてくれます。それからは、ChatGPTの言うとおりに操作して、窮地を脱することができました。今はパソコンも機嫌よく動いています。結局スケアウェアというのは、相手を驚かせて電話をさせたり、危ないアプリをダウンロードさせたりしてパソコンから情報を盗み取ろうとするものだとのこと。考えてみれば、本当に感染した場合には「感染した」などと宣言するはずもありません。こっそり侵入して悪さをするはず。で、ちょっと調べてみました。そうするとあちこちで、いろいろな人が引っかかっているニュースが出てきます。浜松市で76歳の男性が自宅のパソコンを使っていたところ、突然「トロイの木馬に感染しました!」という表示が出てきたのだとか。この男性が慌てて画面に表示された電話番号に連絡すると「パソコンを直すには費用が必要です」と言われ、指示どおりにコンビニで15万円分の電子マネーを購入して、そのコード番号を相手に伝えてしまいました。結果は言わずもがな。山梨県の笛吹市商工会でも業務中に「トロイの木馬に感染しました」という表示が出たそうです。職員が何度再起動しても表示が消えず、画面に出ていた電話番号に連絡すると、マイクロソフト社を名乗る男が応対し「パソコンがウイルスに感染している可能性があります」と言われました。で、この男の指示どおりに、業務用パソコンに遠隔操作ができるソフトウェアが使えるように設定し、さらにネットバンクのIDとパスワードを教えてしまったとのこと。その結果、この日に現金合わせて1,000万円が個人名義の口座に不正送金されてしまいました。このニュースでは「サポート詐欺」と呼んでいましたが、サポートするふりをしてお金を騙し取るからなのでしょう。このニュースのコメント欄には「こんなバカいるんか」とか「個人で補填してくださいね」とか「下には下がいるもんだ」とかで、非難轟々。最後に「頭がトロイ」とあったのには笑ってしまいました。それにしても、いきなりそんな表示が出たらびっくり仰天です。読者の皆さまも、くれぐれもお気を付けください。最後に1句 にせトロイ 驚かされる 穀雨かな

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帯状疱疹、50歳未満でも罹患リスクが高くなる6つの併存疾患

 50歳以上および免疫不全を有する成人では、帯状疱疹の罹患リスクが高いが、18~49歳の併存疾患を有する患者における帯状疱疹罹患リスクについてのエビデンスは不足している。グラクソ・スミスクラインのRachel A. Cohen氏らによる米国の医療保険請求データを用いた大規模後ろ向き研究の結果、特定の併存疾患を有する若年成人(30歳以上)では、50~59歳の併存疾患および免疫不全のない成人と比較して帯状疱疹の罹患リスクが高いことが示された。Clinical Infectious Diseases誌オンライン版2026年3月27日号掲載の報告。 本後ろ向きコホート研究では、2015~22年の米国におけるMerative MarketScan CommercialおよびMedicare Supplementalのデータが用いられた。併存疾患(喘息、慢性腎臓病[CKD]、慢性閉塞性肺疾患[COPD]、うつ病、糖尿病、ストレス、および外傷)を有する免疫不全のない若年成人(18~49歳)における帯状疱疹罹患率(IR)を、併存疾患および免疫不全のない成人(50~59歳)と比較した。 併存疾患および免疫不全のない50~59歳と比較した調整罹患率比(aIRR)について、非劣性マージン(95%信頼区間[CI]の下限:0.62)があらかじめ設定された。aIRRは、同等(aIRRの95%CIの下限>0.62かつ≦1.0)、有意に高い(同>1.0)、または結論不能(それ以外の結果)に分類した。帯状疱疹罹患の定義は、診断コードに加え、±7日以内の経口抗ウイルス薬の処方とした。感度分析として、併存疾患の数(1、2、または3以上)別に帯状疱疹の罹患率を検討した。 主な結果は以下のとおり。・対象集団は、帯状疱疹罹患歴または帯状疱疹ワクチンの接種歴がなく18歳以上の2,067万3,677人。免疫不全症および自己免疫疾患を有する成人を除外後、併存疾患を有する成人は316万45人であった。・全体として、併存疾患を有する成人において3万1,995件の帯状疱疹発症が報告された。・帯状疱疹罹患率は、気管支喘息(aIRR:1.19[95%CI:1.10~1.29])、COPD(1.31[1.22~1.40])、うつ病(1.31[1.22~1.40])、糖尿病(1.18[1.06~1.32])、ストレス(1.28[1.11~1.47])、および外傷(1.25[1.17~1.34])を有する集団では30~39歳において、またCKD(1.50[1.28~1.77])を有する集団では50~59歳において、50~59歳の併存疾患および免疫不全のない成人と比較して有意に高かった(aIRRの95%CIの下限>1.0)。・感度分析の結果、帯状疱疹罹患率は併存疾患数の増加および年齢の上昇に伴って増加する傾向がみられた。

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