サイト内検索|page:7

検索結果 合計:4463件 表示位置:121 - 140

121.

HIV、免疫療法により抗ウイルス薬を中断可能か

 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の長期的なコントロール、そして将来的には治癒につながる可能性に期待が高まる研究結果が報告された。HIV感染者10人を対象にした研究において、数カ月にわたる免疫療法の後に抗レトロウイルス療法(ART)を中断したところ、6人の患者で数カ月が経過してもウイルスが緩やかにしか増加せず、1人では18カ月以上にわたりウイルス抑制が維持されたことが示された。米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)医学部教授のSteven Deeks氏らによるこの研究結果は、「Nature」に12月1日掲載された。 世界保健機関(WHO)によると、HIV感染者数は世界中で約4000万人に上る。ARTは非常に効果的だが、生涯にわたって薬を服用する必要がある。この研究では、ARTを受けている10人のHIV感染者に対して、次の3段階の免疫療法が実施された。まずHIVのGag保存エレメント(CE)を標的としたDNAワクチンにIL(インターロイキン)-12を併用して初回接種(プライム)を行った後にMVAワクチンでブースト(強化)。次いで、ART継続中に2種類の広域中和抗体bNAb(10-1074、VRC07-523LS)とToll様受容体〔TLR〕9作動薬を投与。最後に、ART中断時に再びbNAb投与するというものであった。 2022年の動物実験では、同様の治療法を受けたサルのほとんどでサル版のHIVを抑制できたことが報告されている。この研究を率いた米ベス・イスラエル・ディーコネス医療センターのDan Barouch氏は、「この手法は、ウイルスに対する免疫学的制御を強化すれば、ART中止後のウイルスの再増殖を防いだり遅らせたりできる可能性があるという考えに基づいている」と説明している。 Deeks氏は、「この結果は刺激的であり、30年にわたって治療中断の研究を続けてきた私にとっても、これまでに類を見ない予想外の結果だった」とワシントン・ポスト紙に語っている。他の専門家も、この研究結果には期待が持てることに同意しているが、対照群を使ったさらなる研究が必要だと指摘している。メルボルン大学(オーストラリア)ドハティ研究所所長のSharon Lewin氏は、「この研究結果に非常に興奮している。小規模研究ではあるが、この分野に新たな方向性を与えるだろう。それは、この分野が切実に求めているものだ」と同紙宛てのメールの中で述べている。 今回の研究参加者の1人であるTom Perraultさん(60歳)は、研究参加前の2005年からHIV治療薬を毎日服用していた。ワシントン・ポスト紙の報道によると、Perraultさんは本研究の治療を受けた後、2021年7月に毎日の薬の服用を中止した。Perraultさんは、「7月も、8月も、9月も、10月も、ウイルスが増殖することはなかった。ふと、『自分の体がウイルスを抑えている。治療がうまくいっているんだ。これは、研究者の予想を上回る結果だ』と思った」と同紙に語っている。 その後、秋にウイルスの再増殖が認められたが、この経験が彼に希望を与えた。Perraultさんは、「あのときに感じた感動の深さに驚いた。突然、希望を抱く勇気が湧いてきた。誰だって、希望は持ちたいものだ。もしこの治療法が現実となれば、世界にとってどれほど素晴らしい贈り物になることか」と語った。 本研究ではまた、ART中止後にウイルスが再び増え始めた際、早い段階で活性化したCD8陽性T細胞の増加量が多かった参加者ほど、ピーク後のウイルス量が低く抑えられていたことが示された。論文の上席著者であるUCSFのRachel Rutishauser氏は、「これらの人の体内では、ウイルスが出現するとすぐにCD8陽性T細胞が対応する準備ができていたということだ」と説明している。同氏は、「われわれは、これが臨床で導入すべき治療法だと主張しているわけではない。この研究を踏まえ、次に考えるべきは、T細胞をどうすればさらに強化できるのかということだ」と強調している。

122.

ワクチン接種率の低下により世界で麻疹患者が急増

 世界保健機関(WHO)は11月28日、麻疹(はしか)排除に向けた世界の進捗状況をまとめた報告書を発表した。それによると、2000年から2024年の間に、世界の麻疹による死亡者数は88%減少し、およそ5800万人の命が救われた。一方で、かつて麻疹排除を目前にした国々で再び感染が広がっている事実も明らかにされた。これは、麻疹ワクチンの定期接種を受けていない小児が増えていることを示唆している。報告書では、「世界的な麻疹排除の達成は、依然として遠い目標だ」と指摘されている。 2024年には、米州を除く全てのWHO地域(アフリカ、南東アジア、欧州、東地中海、西太平洋)の59カ国で麻疹の大規模または深刻な流行(アウトブレイク)が59件発生した。これらのうち、23件(39%)がアフリカ地域、20件(34%)が欧州地域、10件(17%)が東地中海地域、5件が西太平洋地域、1件が南東アジア地域で報告された。麻疹のアウトブレイク数は、2021年には21件、2022年には37件であり、2024年のアウトブレイク数は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの発生以降では最多で、2003年以来2番目に多かった。 WHOは、麻疹ワクチンの定期接種や感染監視体制がパンデミック以降、十分に回復していないことが、これまでの成果を危うくしていると警告している。 米国は2000年に麻疹排除を達成した。これは、「12カ月間以上、伝播を継続した麻疹ウイルス(国内由来、国外由来を問わず)が存在しない状態」と定義されている。しかし、米疾病対策センター(CDC)は今年、1,798件の麻疹確定症例を報告した。これは、排除達成以降で最多である。WHOは現在、米国やカナダをはじめ、かつて麻疹排除を達成したにもかかわらず感染が再燃している国々を注視している。 WHOのテドロス・アダノム・ゲブレイェソス事務局長は、「麻疹ウイルスは、依然として世界で最も感染力の強いウイルスだ。有効で低コストのワクチンがあるにもかかわらず、ウイルスは接種率のすき間を突いて広がる」とCNNに対して語っている。 WHOで予防接種プログラムを統括するDiana Chang Blanc氏によると、2024年に麻疹ウイルスに対する免疫が十分でなかった小児は、世界で3000万人以上に上ったという。2024年の世界全体での麻疹ワクチンの初回接種率は84%であり、ワクチンの効果を95%まで高めるために必要な2回目の接種率は76%でしかなかった。 一方で、前進も見られている。今年、カーボベルデ、セイシェル、モーリシャスがアフリカ地域で初めて麻疹排除を達成した。さらに、太平洋地域の21の島嶼国では、麻疹と風疹の両方の排除を達成した。 Blanc氏は、「麻疹排除に向けて確かな進展があるのは事実だ。それでも、症例数と死亡者数は今なお容認できないほど高水準だ」と話す。同氏は、麻疹による死亡はワクチンの2回接種を受けることで全て予防可能であることを強調する。 WHOによると、接種率低下の背景には、パンデミック中の接種機会の喪失やワクチンに関する誤情報、紛争地域などワクチンを届けることが困難な地域の存在、資金減少が要因だとしている。さらにWHOは、麻疹・風疹実験室ネットワークへの支援縮小など、近年のグローバルヘルス分野における資金削減により免疫ギャップが拡大し、今後さらに大規模なアウトブレイクが発生する可能性があると警告している。

123.

多発性硬化症と口腔内細菌の意外な関係、最新研究が示す病態理解の可能性

 多発性硬化症(MS)は、中枢神経系の神経線維を包むミエリンが自己免疫反応によって障害される希少疾患で、視覚障害や運動麻痺、感覚障害などさまざまな症状を引き起こす。最新の研究で、MS患者の口腔内に存在する特定の歯周病菌、Fusobacterium nucleatum(F. nucleatum)の量が、病気の重症度や進行に関わる可能性が示された。研究は、広島大学大学院医系科学研究科脳神経内科学の内藤裕之氏、中森正博氏らによるもので、詳細は11月3日付で「Scientific Reports」に掲載された。 MSの発症には遺伝的素因に加え、ウイルス感染や喫煙、ビタミン欠乏などの環境因子が関与すると考えられ、近年は腸内細菌の異常も病態形成に影響することが示唆されている。また、口腔内細菌、特に歯周病菌も中枢神経疾患に影響することが報告されており、慢性的な炎症や免疫応答を介してMSの進行や重症度に関与する可能性がある。これまでに歯周病とMSの関連や、MS患者における特定菌種の増加が報告されているものの、臨床指標や再発・進行との具体的な関連や菌種ごとの差異は不明である。こうした背景を踏まえ著者らは、MSや視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)、抗MOG抗体関連疾患(MOGAD)の患者の舌苔サンプルから歯周病菌量を定量し、臨床特徴やMRI所見との関連、さらに菌種ごとの影響を探索する横断的研究を実施した。 本研究は2023年5~11月にかけて実施され、広島大学病院脳神経内科を受診した15歳以上のMS、NMOSD、MOGAD患者112人が解析対象となった。患者から採取した舌苔サンプルは4種の歯周病菌種 (F. nucleatum、P. gingivalis、P. intermedia、T. denticola)を標的とした定量的PCRを用いて分析した。先行研究に倣い、細菌の総存在量に対する比率が第3四分位数を超える場合「高相対量」と定義された。患者の重症度は総合障害度評価尺度(EDSS)で評価し、スコア4をカットオフとした。 本研究の最終的な解析対象は98人(平均年齢48.6歳、女性77.6%)となった。これらのうち、56人がMS、31人がNMOSD、11人がMOGADとそれぞれ診断された。MS、NMOSD、MOGADで歯周病菌の高相対量に有意差はなく、口腔衛生習慣もほぼ同等であった。 単変量解析により、MS患者における各歯周病菌とEDSSスコアの関係を調べたところ、F. nucleatumの相対量が高いMS患者は、低い患者に比べてEDSSスコアが有意に高く、EDSS ≥4の割合も多かった(61.5% vs 18.6%、P=0.003)。多重比較補正(Benjamini-Hochberg法)を行った後も、MS患者におけるF. nucleatumの高相対量とEDSS ≥4の関連のみが有意であった(P=0.036)。一方、他の歯周病菌の相対量は、EDSS ≥4との有意な関連は認められなかった。また、NMOSDおよびMOGAD患者においても、EDSSスコアと各菌の高相対量との関連は認められなかった。 単変量解析では、MS患者の重症度(EDSS ≥4)に影響を与える要因として、F. nucleatumの高相対量に加え、年齢、MSのサブタイプ、発作回数、罹病期間も示唆された。しかし、これらの因子を考慮した多変量解析では、F. nucleatumの高相対量のみが独立して有意であった(オッズ比10.0、95%信頼区間1.45~69.4、P=0.020)。 著者らは、「本研究は、MS患者において口腔内のF. nucleatum相対量がEDSSスコアと強く関連することを示した。因果関係は示せないが、将来的な研究課題としては、サイトカイン関連機構などの免疫学的メカニズムの解明や、口腔ケアなどの介入による影響の検討が挙げられる」と述べている。 本研究の限界として、単施設の横断的観察研究であり、MS以外の疾患群やF. nucleatum陽性患者が少なくサンプルサイズが限られていたこと、歯周病の臨床評価や抗菌薬使用歴、口腔行動の影響、免疫指標測定が不十分であり、残存交絡や因果関係の推定は困難であったことを挙げている。

124.

化学療法中のワクチン接種【かかりつけ医のためのがん患者フォローアップ】第6回

化学療法中のがん患者は、化学療法の影響や原疾患により免疫力が低下しているため、感染症に罹患しやすく重症化しやすい傾向があります。国内のガイドラインやASCOガイドラインおいても、がん患者の治療やケアにおいて適切なワクチン接種がもたらす良い影響が述べられています。今回は固形がん化学療法中の患者を想定した、5つの主なワクチンの特徴や効果、推奨される接種時期についてお話しします。1)インフルエンザワクチン背景がん患者がインフルエンザに罹患した場合、死亡のリスクが高いことが複数の研究から報告されています。とくに肺がんや血液腫瘍患者はより重症化するリスクが高いことが知られています。インフルエンザワクチンは、A型(H3N2・H1N1)とB型の3株を含む混合ワクチンであり、世界的流行株とWHO推奨株に基づき毎年選定されるため、毎年の接種が推奨されます。健康な人における有効性は70~90%程度とされていますが、流行株との一致度により変動します。予防効果と安全性複数の研究から、血清学的な反応は健康な人と比較して劣る可能性はあるものの、予防医学的な意義は明らかであることがメタアナリシスにより示されています。近年、高用量インフルエンザワクチン(商品名:エフルエルダ筋注)が承認され、米国では65歳以上のがん患者に高用量ワクチン接種が推奨されています。化学療法中のインフルエンザワクチン投与に関してとくに重篤な有害事象が増加するという報告はありません。注意点リツキシマブやオファツムマブ、オビヌツズマブなどの治療後は、少なくとも半年間はワクチン効果が期待できない可能性があります。また、免疫抑制薬を服用中の患者でも効果が低い場合があります。接種時期インフルエンザワクチンは10~12月までの接種が推奨されています。化学療法の開始前(少なくとも2週間前)に接種するのが理想ですが、治療中に流行期を迎える場合は接種時期を調整する必要があります。化学療法中は骨髄抑制の最も低下した時期(nadir)を避けて接種することが望ましいです。2)肺炎球菌ワクチン背景日本の成人市中肺炎では、肺炎球菌が最も頻度の高い起炎菌です。65歳以上や糖尿病・心不全などの基礎疾患を有する場合には、重症感染症を起こしうるため、肺炎球菌ワクチン接種が推奨されています。国内データでは、侵襲性肺炎球菌感染症の死亡率は約19%と高く、患者の約7割は65歳以上です。また、固形がん患者や脾摘患者が肺炎球菌感染症に罹患した場合、非がん患者と比較して死亡のリスクが高いことが報告されています。予防効果と安全性肺炎球菌ワクチンによる抗体価の上昇は、化学療法中であっても健康な人と同等であると報告されています。化学療法中の肺炎球菌ワクチン投与に関してとくに重篤な有害事象が増加するという報告はありません。ワクチンの特徴ポリサッカライドワクチン(ニューモバックス[PPSV23]:定期接種)と結合型ワクチン(キャップバックス[PCV21]、プレベナー20[PCV20]、バクニュバンス[PCV15])の2種類があります。免疫力をつける力(免疫原性)はPCV21/20/15のほうがPPSV23より高いです。日本ワクチン学会・日本感染症学会・日本呼吸器学会では、がん患者へのPCV20の1回接種もしくはPCV15とPPSV23の連続接種を推奨しています。画像を拡大する接種時期肺炎球菌感染症は1年を通して発生するため、季節を問わず接種が可能です。化学療法開始前(少なくとも2週間前)に接種、もしくは化学療法中は骨髄抑制の最も低下した時期(nadir)を避けて接種することが望ましいです。3)帯状疱疹ワクチン背景水痘帯状疱疹ウイルス(ヘルペスウイルス3型)初感染は水痘として発症し、感染後に後根神経節に不活性状態で長期間潜伏します。その後、加齢・疲労・病気などで免疫が弱まるとウイルスが再活性化し、帯状疱疹として発症します。症状は片側に帯状に広がる発疹と刺すような痛みが典型的で、約10%の症例で帯状疱疹後神経痛が発生し、QOLを低下させる原因になります。免疫不全のない患者と比較して、固形がん患者は約5倍、血液がん患者は約10倍帯状疱疹の頻度が高いことが報告されています。画像を拡大する安全性化学療法中の帯状疱疹ワクチン投与に関してとくに重篤な有害事象が増加するという報告はありません。生ワクチンは、免疫低下患者(がん薬物療法中やステロイド使用中)には接種不可です。接種時期化学療法の開始前(少なくとも2週間前)に接種します。化学療法中は骨髄抑制の最も低下した時期(nadir)を避けて接種することが望ましいです。4)新型コロナ(COVID-19)ワクチン背景がん患者はCOVID-19に罹患すると重症化しやすいため、ワクチン接種の利益は大きいです。そのため、基本的には接種を検討すべきとされています。ただし、がんの種類や治療内容、免疫状態により、効果や副反応が異なる可能性があります。治療のタイミングにより接種時期を調整したほうがよい場合もあります。副反応が治療の有害事象と区別しにくい場合があるため注意が必要となります。総じて、患者ごとの状況に応じて主治医と相談して判断することが重要と考えられます。予防効果と安全性ワクチンを接種したがん患者約3万例を対象とした観察研究が報告されており、がん患者であってもCOVID-19ワクチンを2回接種することで感染リスクが低下することが示されています。一方でワクチンの感染リスク低下効果は58%(非がん患者:90%以上)であり、がん患者ではワクチンの効果が減弱する可能性が示唆されています。とくにワクチン接種前6ヵ月以内に化学療法を受けた場合はワクチンの効果が低いことが報告されています。定期的な追加接種が推奨され、感染時は早期の受診と抗ウイルス薬治療が重要となります。接種時期基本的に最新の推奨スケジュールに従った接種が推奨され、明確な最適時期はまだ不明ですが化学療法の開始前に接種して、化学療法中は骨髄抑制の最も低下した時期を避けて接種することが望ましいです。抗CD20抗体(リツキシマブやオビヌツズマブなど)治療後半年以内はワクチンの効果が乏しいことが示されています。注意事項ワクチン接種により、接種側の腋窩・鎖骨上窩・頸部リンパ節の腫大が報告されており、PETでも集積を認めることがあり、転移との鑑別が必要になる場合があります。画像検査の際にはワクチン接種歴と部位の情報を得ておくことが望ましいです。5)RSウイルスワクチン背景高齢者、慢性の基礎疾患(喘息、COPD、心疾患、がんなど)、免疫機能が低下している人は、RSウイルス感染症の重症化リスクが高く、肺炎、入院、死亡などの重篤な転帰につながる可能性があります。また、RSウイルス感染症は、喘息、COPD、心疾患などの基礎疾患の増悪の原因となることもあり、日本では約6万3,000例の入院と約4,500例の院内死亡が推定されています。米国での大規模データ研究では、がん患者がRSウイルス感染症に罹患した場合、非がん患者と比較して死亡のリスクが2倍以上高いことが報告されています。画像を拡大する接種時期化学療法の開始前(少なくとも2週間前)に接種します。化学療法中は骨髄抑制の最も低下した時期(nadir)を避けて接種することが望ましいです。1)Kamboj M, et al. JCO Oncol Pract. 2024;20:889-892. 2)日本癌学会、日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会. 新型コロナウイルス感染症とがん診療について(医療従事者向け)Q&A:2021.3)国立がん研究センター:がん情報サービス4)日本乳癌学会. 乳癌診療ガイドライン2022年版. 金原出版:2022.5)アレックスビー筋注用添付文書6)アブリスボ筋注用添付文書講師紹介

125.

帯状疱疹ワクチン、認知症予防だけでなく進行も抑制か/Cell

 認知症の発症と進行には神経炎症が関連しており、神経向性ウイルスが認知症の発症や進行の一因となっている可能性が指摘されている。今年に入って、帯状疱疹ワクチンが認知症発症を予防する可能性があるとの報告1)があったが、同じ米国・スタンフォード大学の研究グループが、帯状疱疹ワクチン接種と軽度認知障害発症、さらにすでに認知症を発症した人の死亡リスクとの関連について調査を行い、結果がCell誌オンライン版2025年12月2日号に掲載された。 研究者らは、ウェールズのプライマリ診療所の電子カルテのデータから1925年9月1日~1942年9月1日生まれの30万4,940例を抽出、うち認知障害歴のない28万2,557例を軽度認知障害(MCI)発症リスクの解析対象とし、すでに認知症と診断された1万4,350例を認知症関連死亡の解析対象とした。ウェールズでは帯状疱疹ワクチン接種プログラム開始時にワクチンの数に限りがあったため、開始直後に80歳の誕生日を迎えた人は1年間ワクチン接種対象となったのに対し、直前に誕生日を迎えた人は生涯にわたって対象外となり、ワクチン接種率に大きな差が出たことを利用し、接種資格の有無と、実際の接種の有無で比較した。 主な結果は以下のとおり。・フォローアップ中にMCI発症リスク解析対象の7.3%(2万712例)がMCIと診断された。ワクチン接種資格あり群(資格あり群)ではMCI発症が1.5パーセントポイント減少し、実際にワクチンを接種した群(接種群)は3.1パーセントポイント減少した。・認知症関連死亡解析対象の49.1%(7,049例)が認知症関連で死亡した。資格あり群では認知症関連死が8.5パーセントポイント低下し、接種群は29.5パーセントポイント減少した。全死亡率においても資格あり群は6.5パーセントポイント、接種群は22.7パーセントポイント低下した。・MCI発症リスクおよび認知症関連の死亡リスク低減効果は、女性において有意差が認められた。一方で男性では統計学的な有意差は認められなかった。・認知症の病型別では、混合型認知症において、ほかの認知症(アルツハイマー型や血管性)よりも相対的な効果が高い傾向が示唆された。 研究者らは「この研究は、帯状疱疹ワクチンが、早期のMCIから認知症の最終段階である死亡に至るまで、認知症のリスクと進行を抑制する可能性を示した初のエビデンスである。今回は生ワクチンが対象だったが、近年では組み換えワクチンが普及しており、これらが同様の認知保護効果を持つかは今後の研究で明らかにする必要がある。また本研究は、交絡因子や制度的バイアスの可能性は完全には排除できず、今後の大規模ランダム化比較試験が待たれる」とした。

126.

わが国初の表皮水疱症の遺伝子治療薬への期待/Krystal Biotech

 Krystal Biotech Japanは、指定難病である栄養障害型表皮水疱症(DEB)の治療薬としてわが国では最初の遺伝子治療薬ベレマゲン ゲペルパベク(商品名:バイジュベック ゲル)が、適用承認・発売されたことに寄せ、都内でプレスセミナーを開催した。セミナーでは、表皮水疱症の病態、診療の解説や患者からの疾患での苦労や新しい治療薬への期待などが語られた。皮膚の苦痛が続く表皮水疱症の病態 「栄養障害型表皮水疱症と最新治療について」をテーマに夏賀 健 氏(北海道大学大学院医学研究院皮膚科学教室 准教授)が、本症の疾患概要と今回発売されたベレマゲン ゲペルパベクの臨床試験結果などを解説した。 DEBは、7型コラーゲンの異常により、表皮に水疱やびらんが生じる疾患であり、顕性・潜性の2種類がある。 症状として皮膚の水疱やびらんによる痛みや感染症があり、患者は毎日1~2時間おきに被覆材の交換が必要となり、QOLに重大な悪影響を及ぼす。皮膚症状が顕著であるが、確定診断では遺伝子検査が必要となる(保険適用)。 わが国には数百例の患者が推定されるとともに、根治療法はなく、保険適用治療として自家培養表皮の移植だけとなっている。 今回発売されるベレマゲン ゲペルパベクは、7型コラーゲン遺伝子治療薬であり、ヘルペスウイルスベクターを利用し表皮と真皮の接着を促す。皮膚の傷に週1回塗布することで、たんぱくを補充し、皮膚を修復する。 ベレマゲン ゲペルパベクの海外第III相試験は、標的創傷の完全閉鎖を主要評価項目として、ベレマゲン ゲペルパベク群31例とプラセボ群31例で行われた。その結果、創傷の完全治癒率はベレマゲン ゲペルパベク群で67.4%、プラセボ群で21.6%だった。 ベレマゲン ゲペルパベク群において、有害事象は58.1%(13/31例)、副作用は3.2%(1/31例)に発現した。有害事象は掻痒症、悪寒、発疹など、副作用は紅斑が報告された。 これらの結果から夏賀氏は、ベレマゲン ゲペルパベクのDEBへのインパクトとして「患者の創傷が早く治り、痛み軽減、感染リスクの減少、そして、被覆材交換時間短縮につながる。患者のQOLの向上に役立つ治療薬となる」と期待を寄せた。さらなる国の患者支援を望む 次に患者の視点から「表皮水疱症と生きる困難と希望~在宅で使える遺伝子治療薬への期待~」をテーマに宮本 恵子 氏(表皮水疱症友の会 DebRA Japan 代表理事)が、患者の苦労や新薬への期待を語った。 宮本氏自身も潜性栄養障害型表皮水疱症であり、毎日繰り返す水疱とびらんの処置で苦労をしている。症状が進むと指の癒着などが起こり、機能不全や生活障害を起こすこと、患者の8割が皮膚がんを発症して亡くなることなど、患者の現状を紹介した。 そして、本症は、ほぼ医療者の間でも知られていない疾患であり、症状をフォローできる医師がいないことが課題であると指摘し、重要なことはわが国に数人しかいない専門医につなげることだと語った。また、わが国の診療の遅れについても触れ、患者は医療器材が毎月50万円近く必要だが満足な補助はされていないという。現在患者会には200人近く会員がおり、希少疾病治療薬の早期承認や訪問看護の条件にかなうように厚生労働省に要請している。その他、患者会では、海外団体との連携・協力や疾患の学習会の実施、市民向けの啓発活動もYouTubeなどで行っていることを説明した。

127.

HPVワクチンのHPV16/HPV18感染予防効果、1回接種vs.2回接種/NEJM

 2価または9価のヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの1回接種は2回接種に対して、HPV16またはHPV18感染への予防効果が非劣性であることが示された。米国国立がん研究所のAimee R. Kreimer氏らが無作為化試験の結果を報告した。HPVワクチンの複数回接種は有効であるが、世界的には接種が十分に行われていない。最新データでは、単回接種による予防が可能であることが示唆されているが、1回接種で2回接種と同等の予防効果が得られるのかは明らかになっていなかった。NEJM誌2025年12月18日号掲載の報告。2価または9価HPVワクチンについて評価 研究グループは、2017年11月29日~2020年2月28日にコスタリカの200地区以上で被験者を募り、HPVワクチン1回接種の2回接種に対する非劣性を検証する無作為化試験を行った。本試験では、12~16歳の女子を、2価HPVワクチンを1回接種または2回接種、9価HPVワクチンを1回接種または2回接種する4群に、1対1対1対1の割合で無作為に割り付けた。なお、コスタリカでは本試験の対象である年齢層の女子に対して、政府はHPVワクチンを提供していなかった。 主要エンドポイントは、接種後12ヵ月目~60ヵ月目に発生し、少なくとも6ヵ月間持続したHPV16またはHPV18の新規感染であった。事前に規定した非劣性マージンは、被験者100人当たりの感染例が1.25件とした。 また、試験に参加した女子と非無作為化サーベイの登録女性の、HPV16またはHPV18感染の比較も行った。両ワクチンともHPV16/HPV18感染予防に関して1回接種が2回接種に対し非劣性 合計2万330人が試験に登録・無作為化された。また、ワクチン非接種の3,005人がサーベイに登録された。 非劣性解析において、HPV16またはHPV18感染の予防に関して1回接種は2回接種に対して非劣性であることが示された。1回接種と2回接種の感染率差は、2価HPVワクチンでは-0.13件/100人(95%信頼区間[CI]:-0.45~0.15、非劣性のp<0.001)、9価HPVワクチンでは0.21件/100人(95%CI:-0.09~0.51、非劣性のp<0.001)であった。 ワクチンの有効性は4群ともに97%以上であった。安全性に関する懸念は認められなかった。

128.

ショック状態に対する治療をしない場合は責任を負う?【医療訴訟の争点】第17回

症例近年、高齢患者の急変時対応では、基礎疾患・予後を踏まえた治療方針の選択が重要となる。本稿では、ショック状態に陥った患者に対し救命処置を行わなかった医師の判断の適否が争われた、東京地裁令和7年2月27日判決を紹介する。<登場人物>患者76歳・男性(既往歴:間質性肺炎、双極性障害、糖尿病)原告患者の配偶者および子被告医療法人(内科・精神科を標榜する病院)事案の概要は以下の通りである。事案の概要を見る平成28年7月咳が続く・胸痛があると訴えて被告病院を受診。被告病院の紹介により国立病院を受診し、間質性肺炎と診断平成30年5月内服薬の処方中止後も咳が再燃しなくなったため、通院終了平成31年1月25日ここ数日食事が取れない、具合が悪いなどと訴えて、被告病院再受診。精査目的で入院。入院時のバイタル値は、体温36.8℃、脈拍93回/分、血圧149/90mmHg、SpO2 98%、呼吸は平静。腹部CT検査上は異常所見を認めなかった。細菌性の感染症疾患を疑い、抗菌薬の点滴投与と補液を開始。1月26日午前9時28分頃胸部CT検査。前日からこの日までの間に、両肺下葉に新たな浸潤影が出現。午前10時頃右肺の雑音や著明な痰がらみが見られ、白黄色痰が大量に吸引。午後3時頃肺雑音が両肺に生じ、再び白黄色痰が大量に吸引。37.6℃の発熱、呼吸がやや努力様、SpO2 76~80%に低下。酸素投与(2L/分)開始。午後4時40分頃酸素投与量が増量(7L/分)。両肺の雑音や発熱は続くも、痰がらみが消失して呼吸も平静、SpO2 96%。午後8時頃ジクロフェナクナトリウム(商品名:ボルタレン、解熱剤)の投与などもされ、体温は36.8℃に低下、肺の雑音も消失。1月28日午前2時熱(38℃)午前5時白黄色痰が大量に吸引担当医は、抗菌薬投与にかかわらず呼吸状態の悪化が続いていることから、細菌性の感染症ではなく、間質性肺炎の急性増悪であると判断し(ただし、細菌性の感染症を鑑別するための血液検査や細菌培養検査は行っていない)、抗菌薬の点滴投与を中止して、ステロイドミニパルス療法(ソル・メルコート500mg/日に生理食塩水100mL/日を付加したものを点滴投与)を開始。以後、発熱が断続的に見られたものの、肺の雑音は認められなくなり、呼吸は平静のままで経過。1月30日午前11時20分酸素投与量が7L/分から6L/分に減量。午後1時頃呼吸が促拍するようになる。午後3時SpO2 98%であるも、発熱(37.4℃)や少量の白色痰が見られる。血圧148/87午後5時30分SpO2 90%に低下、発熱(38.5℃)と肺雑音が見られ、黄色痰が大量に吸引される。血圧114/81。解熱のためジクロフェナクナトリウム投与。午後8時頃両肺の雑音や多量の黄色痰が見られ、SpO2 94%に低下し、努力様呼吸になって呼吸状態が急激に悪化。収縮期血圧が74/64に低下し、心拍数は120~130回/分に上昇。膝から下にチアノーゼが出現し、四肢が脱力した状態。担当医は、容体急変は間質性肺炎の急性増悪による(血圧低下についてはジクロフェナクナトリウムの影響もある)もので、ステロイドミニパルス療法が奏功しない限り救命困難と判断。ステロイドミニパルス療法と酸素投与(6L/分)のほかに治療は行わず、容体急変の原因を探るためのCT検査や血液検査などの検査も行わなかった。午後10時頃SpO2が上昇(午後9時時点で99%、午後10時時点で96%)、収縮期血圧も90台まで上昇(午後9時時点で90/23mmHg、午後10時時点で92/78)も、四肢の脱力、努力様呼吸や黄色痰が大量に吸引される状態が継続。1月31日午前0時下顎様呼吸、瞳孔拡大、血圧およびSpO2が測定不能。午前2時15分死亡2月2日午後3時他院において病理解剖。要旨は以下のとおり。(1)死因に関与した臓器を挙げるならば、肺または心臓と考えられる。(2)肺については、胸膜直下~隔壁の高度な線維化、線維化巣内の蜂巣構造、線維芽細胞巣(fibroblastic foci)を認め、隣接する領域の肺胞構造は保たれており、UIP(通常型間質性肺炎)パターンと考えられた。肺は、UIPパターンの間質性肺炎であるが、病理解剖時に採取した血液を用いた間質性肺炎マーカー検査の結果(KL-6値274U/mL〔基準値:500U/mL未満〕、SP-A値18.9ng/mL〔基準値:43.8ng/mL未満〕、SP-D値82.8ng/mL〔基準値:110ng/mL未満〕)からも活動性の低いものではなかったかと疑われ、これのみで死に至るものか疑問が残る。(3)心臓は、不安定プラークを疑う冠動脈病変を伴っており、心筋にも全周性の虚血性変化が見られたが、この変性像は区域性には見えず、アーチファクトの可能性もある。あえて推測すれば、剖検時に冠動脈に明らかな血栓形成はないが、肺うっ血水腫の存在と併せて、新鮮な心筋梗塞による心原性ショックは否定できない。(4)臓器別に病理組織学的検索を行った範囲では、直接死因を確定することは困難であり、臨床情報と併せて判断する必要がある。実際の裁判結果本件において、1月30日午後8時頃の急変・ショック状態(収縮期血圧は74mmHg、心拍数120〜130回/分、尿量減少、四肢チアノーゼ、努力様呼吸など)につき、担当医は、間質性肺炎急性増悪が原因であり救命は困難、輸液は肺水腫の悪化を招くとして、酸素投与以外の処置を行わず、ステロイドミニパルス療法のみにより経過を見る方針とした。これに対し、原告(患者の相続人ら)は、輸液負荷、昇圧薬、気管挿管、原因鑑別のための血液検査・画像検査などの救命処置をすべきであったと主張した。裁判所は、以下の点を指摘し、「1月30日午後8時の時点での本件患者の状態は、輸液剤や血管収縮薬の投与といった救命処置を行い、ショックの原因を把握した上で、それに対する治療を行うべきものであった」とした。ショックでは、血圧低下、心拍の異常(頻脈など)、呼吸の異常(頻呼吸)、皮膚の異常(末梢血管の収縮など)といった症状が見られ、一般的に、収縮期血圧90mmHg以下がショックの基準となる。午後8時時点において、本件患者は、血圧74/64と著しい低下、心拍数の120~130回/分への上昇、努力様呼吸、膝から下のチアノーゼの出現は、いずれもショックの症状というべきであり、とくに収縮期血圧については、ショックの基準値を大きく下回るので、本件患者はショックに陥って容体が急変したといえる。ショックは、迅速な原因の同定と治療介入がされなければ臓器不全を来し、死に至る症候群であるため、一般に、まずは、生命の危機的状況を避けるための救命処置を行う必要がある。本件患者に見られた1月30日の収縮期血圧の低下は、持続的に生じている上、膝から下にチアノーゼが生じ、末梢の循環不全を来すものであった。末梢の循環不全を来したショックについて、救命処置を行わずに血圧低下が持続すると、不可逆的な転帰を招く可能性があった。本件において被告病院は、「呼吸状態の悪化や血圧低下といった当時の本件患者の状態は、間質性肺炎の急性増悪や数時間前に投与したジクロフェナクナトリウムの影響によるものであって、救命不可能な状態に陥っており、輸液剤の投与などは肺水腫を招くなどかえって死期を早めるため、それらの投与を行うべきではなかった」と主張していた。これに対し、裁判所は、以下の点を指摘し、「被告病院の担当医には、1月30日午後8時頃、本件患者に対し、輸液剤や血管収縮薬の投与といった救命処置を行い、ショックの原因を把握した上で、それに対する処置・治療を行うべき注意義務があった」として、これらの処置を行わなかった注意義務違反(過失)があると判断した。血圧低下については、その数時間前に投与されたジクロフェナクナトリウムの影響はあったと認められるものの、呼吸状態の悪化など当時の本件患者の症状に照らし、ジクロフェナクナトリウムの影響だけで血圧低下の説明が付けられるかは疑問が残ること。血圧低下がジクロフェナクナトリウムによるものであったとしても、ショックに対する初期対応が不要となるものでもないこと。間質性肺炎の主症状の一つは乾性咳嗽(痰を伴わない乾いた咳)であり、典型的な間質性肺炎の急性増悪は痰を伴わない一方、黄色痰は感染症の可能性を示す所見であること。本件患者は、呼吸がやや努力様になった1月26日には白黄色痰が大量に吸引されており、1月30日午後5時30分や呼吸状態が急激に悪化した同日午後8時にも大量の黄色痰が見られているため、間質性肺炎の急性増悪とは必ずしも整合せず、細菌性肺炎などの感染症に罹患していたことを疑わせる所見があったこと。担当医は、本件患者に対して細菌培養検査などの感染症を除外鑑別するための検査を行っておらず、感染症の除外鑑別も積極的に行われていなかったため、当時の客観的な状態としては、感染症の罹患もなお疑うべきものであったこと。次に、裁判所は、本件患者の死後に行われた病理解剖の結果も踏まえてショックおよびショックに続く死亡の原因を検討し、以下のように、間質性肺炎急性増悪の可能性が相対的に高いものの、死亡原因は特定できないとした。「本件患者のショック(容体急変)ないしそれに続く死亡の原因は、間質性肺炎の急性増悪であった(少なくとも一定の寄与があった)可能性が相対的に高いものの、これと断ずることはできず、細菌性肺炎などの感染症による敗血症性ショックや心筋梗塞などによる心原性ショックが原因であった可能性も否定できず、その特定は困難であるといわざるを得ない」その上で、裁判所は考えられるそれぞれの原因につき、以下の点を指摘した上で「1月30日午後8時の段階で本件患者に対して救命処置が行われていたとしても、本件患者の上記死亡を回避できたとの高度の蓋然性があるということはできない」として、注意義務違反(過失)と本件患者の死亡との因果関係を否定し、被告の損害賠償責任を否定した。心筋梗塞などによる心原性ショックが原因である場合には、救命処置によって本件患者に生じた死亡を回避できた蓋然性があるが、そもそも、心原性ショックであった可能性も否定できない程度のものにとどまる。このため、この点をことさら強調するのは相当ではない。ショックなどの原因が敗血症性ショックであった場合でも、救命処置によって一定の効果があり、いったんは生命の危機的状況を脱し得た可能性はある。しかし、本件患者に生じた死亡を現実に回避するためには、感染症に対する治療として、血液培養検査などを行って同定した起炎菌に合う抗菌薬を投与する必要があり、これら一連の対応を執るのには相応の時間を要する。このため、本件患者にショックが生じてから死亡する約6時間のうちに、これら一連の対応を執って何らかの治療・救命効果が発揮されたということはできない。原因としての可能性が相対的に高い間質性肺炎の急性増悪については、「いったんは酸素化が安定しても、最終的には努力性呼吸から低酸素血症となり、死に至る」経過をたどることとなる。しかし、本件患者は、この努力様呼吸や下顎様呼吸が認められたのであるから、救命処置によってこれらの努力様呼吸などに至るのを回避できた現実的な可能性はなかった。注意ポイント解説本件は、ショック状態の患者に対する救命処置の要否が争点となった事案である。裁判所は、医師に輸液・昇圧薬などの救命処置を行う義務を認めつつ、その不履行と死亡との因果関係は否定し、結論として医療機関の損害賠償責任を否定した。すなわち、注意義務違反が成立しても、結果(死亡)との法的因果関係が認められない場合に責任が否定される典型例といえる。この点、注意義務違反がある場合に、義務違反と生じた結果との間の法的な因果関係があれば、損害賠償責任が肯定されることとなる。この法的因果関係については、「経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明すること」がなされた場合に認められる。本件は、考えられるショックおよびその後の死亡の原因のそれぞれについて、救命処置をとったことで死亡を回避できた「高度の蓋然性」が認められなかったために、法的因果関係がないものとされた。もっとも、「高度の蓋然性」が認められない場合であっても、「死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性」が認められる場合には、その可能性を侵害した損害が認められることとなる。そして、この「相当程度の可能性」については、比較的緩やかに肯定される傾向が否めない。このため、注意義務違反(過失)があるとされる場合において、「相当程度の可能性」すらも否定されて損害賠償責任が否定されるケースは少ない傾向にある。本件では、死亡の原因を特定しえないため、救命処置により「死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性」を証明のしようもないことから、相当程度の可能性も否定され、損害賠償責任が否定されたものである。なお、本件では、担当医が看取りを視野に入れた方針転換をしつつも、これを家族に説明していなかったという事情があり、裁判所は「遺族が強い不満を抱くことは理解できる」としている。このため、本件は医師が「治療方針転換をする際の説明の在り方」と「急変時の最小限の救命処置の必要性」を再確認させるものでもある。医療者の視点本判決において、裁判所は「ショック状態に対する輸液や昇圧薬の投与、原因精査を行うべき注意義務があった」とし、これを行わなかった医師の過失(注意義務違反)を認定しました。臨床現場の感覚としては、間質性肺炎の急性増悪が強く疑われる局面において、肺水腫を助長しうる輸液負荷や、全身状態が悪い中での負担の大きい検査を躊躇するのは、医学的には理解できる判断です。しかし、裁判所は当時の客観的なバイタルサイン(著しい血圧低下など)に基づき、まずは原因特定と標準的な救命処置を行うべきであったと判断しました。とくに本件で教訓とすべきは、担当医が「救命困難」と判断し、実質的に「看取り」の方針へ転換していたにもかかわらず、その説明と同意が家族となされていなかった点です。実臨床において、医学的に予後不良が明白であり、侵襲的な処置が患者の利益にならないと医師が確信する場合であっても、家族への十分な説明と合意(アドバンス・ケア・プランニングなど)のプロセスを経ずに標準治療を省略することは、法的責任を問われるリスクがあることを再認識する必要があります。Take home message高齢者・基礎疾患を抱える患者の急変時対応では、救命可能性が低い場合でも、診療録や家族への説明を含めた臨床判断のプロセスが重要である。とくに、救命処置をしない場合、家族への説明と同意の取付けは不可欠である。キーワード間質性肺炎、ショック、救命処置、看取り、法的因果関係、高度の蓋然性、相当程度の可能性

129.

Long COVIDの経過は8つのタイプに分かれる

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の罹患後症状、いわゆるlong COVIDは、一般に、新型コロナウイルスへの感染後に、疲労感やブレインフォグ、めまい、動悸などのさまざまな症状が3カ月以上持続する慢性疾患とされている。このほど新たな研究で、long COVIDの経過は、症状の重症度、持続期間、経過(改善傾向か悪化傾向か)により8つのタイプに分類されることが示唆された。米ハーバード大学医学大学院のTanayott Thaweethai氏らによるこの研究の詳細は、「Nature Communications」に11月17日掲載された。 Thaweethai氏らはこの研究で、RECOVER(Researching COVID to Enhance Recovery)イニシアチブへの参加成人3,659人(女性69%、99.6%は2021年12月以降のオミクロン株流行期に感染)を対象に、感染の3〜15カ月後に評価したlong COVIDの症状スコアに基づき、患者の縦断的経過パターンを解析した。対象者のうち、3,280人は最初の新型コロナウイルス感染から30日以内に試験に登録した急性期患者、残る379人は登録時には未感染であったがその後に感染したクロスオーバー群であった。 感染から3カ月時点で10.3%(374/3,644人)がlong COVIDの基準を満たしており、そのうち約81%が1年後も症状を有していた。解析の結果、long COVIDの経過として、以下の8つの異なるパターンが特定された。1)症状負担が持続的に重度(195人、5%):対象期間を通してlong COVIDの閾値を満たす。2)症状負担が断続的に重度(443人、12%):long COVIDの症状スコアが断続的に閾値を超える。3)改善傾向、症状負担が中等度(379人、10%):long COVIDの症状スコアが経時的に低下。4)改善傾向、症状負担は軽度(334人、9%):感染後3カ月時点の症状スコアが3)よりも低く、6カ月時点ではほぼ0。5)悪化傾向、症状負担は中等度(309人、8%):症状スコアが経時的に上昇。6)症状が遅れて悪化(217人、6%):感染後3〜12カ月の間の症状スコアは低いが、15カ月時点で増加。増加の一因は労作後の不調。7)一貫して症状負担が軽度(481人、13%):全体的に症状の負担は軽度だが、3〜15カ月の間に症状スコアが断続的に上昇する。ただし、いずれも閾値未満。8)一貫して症状負担は最小か無症状(1,301人、36%):一貫して症状スコアの閾値未満。 Thaweethai氏は、「われわれが特定したlong COVIDの経過の違いは、今後の研究において、患者ごとに回復期間が異なる理由の説明となり得るリスク因子やバイオマーカーの評価を可能にするとともに、潜在的な治療ターゲットの特定にも役立つだろう」とニュースリリースの中で述べている。 論文の上席著者である米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院のBruce Levy氏は、「この研究は、COVID-19の長期的経過の多様なパターンを定義するという緊急の必要性に応えるものだ。得られた結果は、long COVID罹患者に対する臨床的および公衆衛生的サポートに必要なリソースを判断するのに役立つとともに、long COVIDの生物学的根拠を探る研究にも役立つだろう」と述べている。 なお、米疾病対策センター(CDC)によると、long COVIDの症状として200種類以上が確認されているという。

130.

メチシリン感性黄色ブドウ球菌菌血症に対するクロキサシリンとセファゾリンの比較(CloCeBa試験)(解説:寺田教彦氏)

 メチシリン感性黄色ブドウ球菌(MSSA)菌血症は、感染性心内膜炎などの多彩な合併症を伴うことがあり、死亡率も高い重篤な疾患である。 日本では、中枢神経系合併症を除けば、MSSA菌血症の治療にはセファゾリンが第1選択薬として推奨されている。一方、欧米では長年の臨床経験を背景に、nafcillin、oxacillin、クロキサシリンなどの抗ブドウ球菌ペニシリン(antistaphylococcal penicillins:ASPs)が標準治療薬とされてきた。本邦でASPsが普及しなかった背景には、静注製剤が承認されていないこと、代替として安全性の高いセファゾリンが広く使用されてきたことなどがある。 近年、欧米ではセファゾリンをMSSA感染症の治療に使用する施設も増えており、観察研究においてASPsと同等の治療効果を示す報告が蓄積している(Lee S, et al. Comparative outcomes of cefazolin versus nafcillin for methicillin-susceptible Staphylococcus aureus bacteraemia: a prospective multicentre cohort study in Korea. Clin Microbiol Infect. 2018;24:152-158.)。しかし、これまでセファゾリンとASPsを直接比較した無作為化試験は存在しなかった。今回のCloCeBa試験は、MSSA菌血症に対するセファゾリンvs.クロキサシリンの有効性・安全性を初めてランダム化比較で評価した点に意義がある。 本試験の主要評価項目では、セファゾリンはクロキサシリンに対して非劣性を示し、さらに重篤な有害事象はクロキサシリンで有意に多かった。この結果は、既報の観察研究で示唆されていた「セファゾリンはASPsと同等の有効性を有し、忍容性では優れる」に一致しており、MSSA菌血症におけるセファゾリンの有用性を示した(ジャーナル四天王「MSSA菌血症、セファゾリンvs.クロキサシリン/Lancet」)。 私が、主要評価項目以外に本試験で注目した点として、事前規定のないサブグループ解析のblaZ type A株に対する治療効果(inoculum effect)がある。inoculum effectとは、β-ラクタマーゼ産生菌において菌量が多い条件でセファゾリンのMICが上昇し、活性が低下して見えるin vitro現象である。過去の研究でもblaZ type Aに加えてblaZ type Cを保有する株でこの現象が生じやすいことが指摘されてきた(Miller WR, et al. The Cefazolin Inoculum Effect Is Associated With Increased Mortality in Methicillin-Susceptible Staphylococcus aureus Bacteremia. Open Forum Infect Dis. 2018;5:ofy123.)。 CloCeBa試験では、blaZ type Aを持たない株ではすべての評価項目で非劣性が達成されたのに対し、blaZ type A保有株では菌血症再発以外の項目において非劣性が示されなかった。ただしこれはサブグループ解析であり、症例数も限られているため、本結果のみで「セファゾリンが劣る」と断定できるものではない。Day 3/5の細菌学的失敗率も数値上はセファゾリンで高かったものの、有意差には至っていない。 現時点では、blaZ type Aの有無によって抗菌薬選択を変更すべきと結論付ける根拠は不十分であるが、本研究からも、inoculum effectが影響しうる株でセファゾリンの効果が低下する可能性は否定できず、さらなる検証が必要である。 総合すると、今回のCloCeBa試験の結果は、日本におけるMSSA菌血症の第1選択薬としてセファゾリンを継続する妥当性を支持する内容である。ただし、blaZ type Aをはじめとした菌側因子が治療効果に及ぼす影響については、今後もデータの蓄積が期待される。

131.

避難所の感染対策、集団生活の場をどうマネジメントするか【実例に基づく、明日はわが身の災害医療】第12回

避難所の感染対策、集団生活の場をどうマネジメントするか大地震から1週間が経過しましたが、いまだ多数の住民が避難所生活を余儀なくされています。避難所には高齢者が多く、発熱や下痢を訴える避難者が出ており、地域の医師会を通じて避難所の衛生管理や感染対策を指導するように頼まれました。避難所での感染症対策は、集団生活による「密集・密接」と、限られた栄養状態、衛生環境が大きなリスクになります。高齢者が多い環境では、感染症の頻度は通常よりも高くなることが予想されます。とくに、発熱や嘔吐・下痢の症状を呈する避難者が出た場合は、感染性胃腸炎、インフルエンザ、新型コロナウイルス感染症などを想定した早期対応が重要です。避難所を管理する医師にとって、感染対策は単に「患者を診る」だけでなく、集団生活の場全体をどう守るかという視点が重要になります。医師が中心となって組織的に対応することで、感染拡大を未然に防ぐことができます。ここでは、現場で意識したいポイントを具体的に解説します。指揮と啓発:医師が空気を作る避難所管理医師は「診療医」と同時に「感染管理責任者」の2つの役割を担います。まずは医師が中心となり、看護師、保健師、避難所スタッフ、ボランティアなどと連携して「感染対策担当班」を設置します。これが感染拡大を未然に防ぐためのチームとなります。手洗い・マスク着用・トイレ使用法・発熱時の行動などを「避難所ルール」として明文化し、掲示や放送で繰り返すことが大切です。避難者は「感染への恐怖」に敏感です。不安がパニックや風評被害につながらないよう、私たち感染対策チームが率先して手洗いやマスクを実践し、避難者に「感染対策の意味」を伝えていく姿勢が求められます。また、現場では物品管理も重要です。薬剤・消毒薬・マスクなどの在庫を確認し、不足が見込まれるときは早めに行政へ要請するのも、感染対策チームの役割です。予防の徹底:環境と食を守る災害時には、しばしば断水になり、手洗いがおろそかになります。水道・石鹸が不足する場合は、アルコール消毒液を要所に配置しましょう。段ボールベッドや仕切りを活用し、避難者同士の距離を可能な限り確保するように心掛けます。可能な場合は、定期的(午前と午後に1回など)に窓やドアを開けて換気を行うことも忘れないようにしたいです。避難所で出される食品の管理にも注意が必要です。調理が必要なものは十分に加熱し、調理者、盛り付けや配膳をする人はできるだけ少人数に限定して、手指衛生と使い捨て手袋の着用を徹底してもらいます。食器類の共用は避け、使い捨てにするのが理想です。また、給水車の水を汲み置きして飲用したり、食材や食器、調理器具の洗浄に使用する場合は、あらかじめ煮沸します。乳児の哺乳瓶は、次亜塩素酸ナトリウム(商品名:ミルトン、ミルクポンなど)もしくは熱湯を用いて消毒し、衛生的な環境で調乳するように指導しましょう。発症者への対応:早期発見と拡大防止発熱・下痢・嘔吐などの症状のある人は、発見次第、速やかに別室や専用区画に移動してもらいます。可能であれば専用トイレも用意しましょう。発症者の症状、接触者、発症時刻を記録し、集団感染が疑われる場合はすぐに保健所へ報告します。同居家族や近くにいた人は、2~3日間の体調観察が必要です。現場で最も注意が必要なのが、嘔吐物・下痢便の処理です。必ずマニュアルを作成し、徹底してもらいます。ケアや清掃に当たる人は、マスク・手袋・ガウンやエプロンなどを着用し、嘔吐物・便は使い捨てペーパーで覆ったうえで、0.1~0.2%次亜塩素酸ナトリウムを用いて処理します。廃棄物は密閉袋に入れて廃棄することが鉄則です。また、鼻水、咳、咽頭痛など比較的限局した上気道症状だけであれば、感染症だけでなく、アレルギーの存在も念頭に置いて診療に当たります。段ボールベッド自体がアレルゲンになる可能性は低いですが、付着していたカビなどが原因となる場合もあります。避難所全体の健康管理日々の管理としては、健康観察シートを活用し、毎日、避難者全員に体温や症状を記録してもらいます。とくに高齢者、乳幼児、基礎疾患がある避難者など、ハイリスク群を重点的にモニタリングしましょう。保健所や医療機関と定期的に連絡を取り、検査や医療搬送も必要なときに速やかに行えるよう準備しておきます。基本的な清潔を保つために、定期的に居住区域やトイレの清掃を行うことは大変重要です。トイレ清掃を行った際は、その都度マスクと手袋は廃棄し、流水と石鹸を用いて手を洗い、その後アルコール消毒剤を使います。最後に、心に留めておきたいことがあります。過去に、飲み水や寝るスペースの確保に難渋している避難所で、隔離や手洗いのことばかりを厳しく指導し、周囲と軋轢を生んでしまった医師がいました。感染対策はときに家族を引き離したり、地域のコミュニティを分断したりする側面もあります。時期や状況によっては、その対策がメンタルを含めた別の健康被害を助長する可能性もあります。頭の片隅に置きながら、「感染対策」と「避難所生活」のバランスを考えることも、医師として大切な姿勢です。まとめ避難所管理医師は「診療医」+「感染管理責任者」の2つの役割を担います。現場では以下の4本柱を軸に行動することが重要です。スタッフや避難者への啓発衛生ルールの徹底発症者の早期隔離健康観察体制の構築これらを守ることで、感染症の芽を早期に摘み、避難所全体の安全を確保することができます。

132.

『肝細胞癌診療ガイドライン』改訂――エビデンス重視の作成方針、コーヒー・飲酒やMASLD予防のスタチン投与に関する推奨も

 2025年10月、『肝細胞癌診療ガイドライン 2025年版』(日本肝臓学会編、金原出版)が刊行された。2005年の初版以降、ほぼ4年ごとに改訂され、今回で第6版となる。肝内胆管がんに独自ガイドラインが発刊されたことを受け、『肝癌診療ガイドライン』から名称が変更された。改訂委員会委員長を務めた東京大学の長谷川 潔氏に改訂のポイントを聞いた。Good Practice StatementとFRQで「わかっていること・いないこと」を明示 今版の構成上の変更点としては、「診療上の重要度の高い医療行為について、新たにシステマティックレビューを行わなくとも、明確な理論的根拠や大きな正味の益があると診療ガイドライン作成グループが判断した医療行為を提示するもの」については、Good Practice Statement(GPS)として扱うことにした。これにより既存のCQ(Clinical Question)の一部をGPSに移行した。 また、「今後の研究が推奨される臨床疑問」はFuture Research Question(FRQ)として扱うことにした。FRQは「まだデータが不十分であり、CQとしての議論はできないが、今後CQとして議論すべき内容」を想定している。これらによって、50を超える臨床疑問を取り上げることが可能になり、それらに対し、「何がエビデンスとして確立しており、何がまだわかっていないのか」を見分けやすくなった。診療アルゴリズム、3位以下の選択肢や並列記載で科学的公平性を保つ ガイドラインの中で最も注目されるのは「治療アルゴリズム」だろう。治療選択肢が拡大したことを受け、前版までは推奨治療に優先順位を付けて2位までを記載していたが、今版からはエビデンスがあれば3位以下も「オプション治療」として掲載する方針とした。たとえば、腫瘍が1~3個・腫瘍径3cm以内の場合であれば、推奨治療は「切除/アブレーション」だが、オプション治療として「TACE/放射線/移植」も選択肢として掲載している。これにより、専門施設以外でも自施設で可能な治療範囲を判断したり、患者への説明に活用したりしやすくなっている。 また、治療やレジメンの優先順位もエビデンスを基に厳格に判断した。たとえば、切除不能例の1次治療のレジメンでは、実臨床ではアテゾリズマブ+ベバシズマブ療法が副作用管理などの面で使用頻度が高い傾向にあるが、ガイドライン上ではほかの2つのレジメン(トレメリムマブ+デュルバルマブ、ニボルマブ+イピリムマブ)と差を付けず、3つの治療法を並列に記載している。実臨床での使いやすさや感覚的な優劣があったとしても、それらを直接比較した試験結果がない以上、推奨度には差を付けるべきではないと判断した。 結果として、多くの場面で治療選択肢が増え、実臨床におけるガイドラインとしては使い勝手が落ちた面があるかもしれないが、あくまで客観的なデータを重視し、科学的な公平性を保つ方針を貫いた。判断の根拠となるデータ・論文はすべて記載しているので、判断に迷った場合は原典にあたって都度検討いただければと考えている。予防ではコーヒー・飲酒の生活習慣に関するCQを設定 近年ではB/C型肝炎ウイルス由来の肝細胞がんは減少している一方、非ウイルス性肝細胞がんは原因特定が困難で、予防法も確立されていない。多くの研究が行われている分野ではあるので、「肝発癌予防に有効な生活習慣は何か?」というCQを設定し、エビデンスが出てきた「コーヒー摂取」と「飲酒」について検討した。結果として「コーヒー摂取は、肝発癌リスクを減少させる可能性がある」(弱い推奨、エビデンスの強さC)、「肝発癌予防に禁酒(非飲酒)を推奨する」(弱い推奨、エビデンスの強さC)との記載となった。いずれもエビデンスレベルが低く、そのまま実臨床に落とし込むことは難しい状況であり、今後のエビデンスの蓄積が待たれる。MASLD患者の予防にスタチン・メトホルミンを検討 世界的に増加している代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD) では、とくに肝線維化進行例で肝がんリスクが高い。今版では新設CQとしてこの集団における肝発がん抑制について検討した。介入としては世界で標準的に使用されており論文数の多い薬剤としてスタチンとメトホルミンを選択した。ガイドラインの記載は「肝発癌予防を目的として、スタチンまたはメトホルミンの投与を弱く推奨する(エビデンスの強さC)」となった。ただ、予防目的で、高脂血症を合併していない患者へのスタチン投与、糖尿病を合併していない患者へのメトホルミン投与を行った研究はないため、これらは対象から外している。MASLD患者に対してはGLP-1受容体作動薬などが広く投与されるようになり、肝脂肪化および肝線維化の改善効果が報告されている。今後症例の蓄積とともにこれら薬剤の肝発がん抑制効果の検討も進むことが期待される。放射線治療・肝移植の適応拡大 その他の治療法に関しては、診断/治療の枠組みは大きく変わらないものの、2022年4月から保険収載となった粒子線(陽子線・重粒子線)治療の記載が増え、アルゴリズム内での位置付けが大きくなった。また、肝移植については、保険適用がChild-Pugh分類Bにも拡大されたことを受け、適応の選択肢が増加している。経済的だけでなく学術的COIも厳格に適用 改訂内容と直接は関係ないものの、今回の改訂作業において大きく変更したのがCOI(利益相反)の扱いだ。日本肝臓学会のCOI基準に従い、経済的COIだけでなく学術的COIについても厳密に適用した。具体的には、推奨の強さを決定する投票において、経済的なCOIがある者はもちろん、該当する臨床試験の論文に名前が掲載されている委員もその項目の投票を棄権するルールを徹底した。Minds診療ガイドライン作成の手法に厳格に沿った形であり、ほかのガイドラインに先駆けた客観性重視の取り組みといえる。投票結果もすべて掲載しており、委員会内で意見が分かれたところと一致したところも確認できる。今後の課題は「患者向けガイドライン」と「医療経済」 今後の課題としては、作成作業が追いついていない「患者・市民向けガイドライン」の整備が挙げられる。また、今版では医療経済の問題を「薬物療法の費用対効果の総説」としてまとめたが、治療選択における明確な指針の合意形成までには至らなかった。今後、限られた医療資源を最適に配分するために、医療経済の視点におけるガイドラインの継続的なアップデートも欠かせないと考えている。

133.

血友病Bに対する遺伝子治療、第III相試験の最終解析/NEJM

 高活性の第IX因子Padua変異体を導入したアデノ随伴ウイルス血清型5(AAV5)ベクターを用いた遺伝子治療薬etranacogene dezaparvovecは、血友病B成人患者において、5年間にわたり持続的な第IX因子の発現と年間出血率の低下をもたらすことが確認された。米国・ミシガン大学のSteven W. Pipe氏らHOPE-B Study Group Investigatorsが、第III相の非盲検試験「HOPE-B試験」の最終解析結果を報告した。血友病Bの治療では、出血予防のため生涯にわたる定期的な第IX因子の補充が必要となる。遺伝子治療は、単回投与で持続的な第IX因子の発現と疾患コントロールが得られる可能性があり開発が期待されている。NEJM誌オンライン版2025年12月7日号掲載の報告。etranacogene dezaparvovecの単回投与後、5年間追跡 研究グループは、血友病B(第IX因子活性≦正常値2%)の男性患者54例に、第IX因子定期補充療法の導入期間(≧6ヵ月)後に、第IX因子Padua変異を発現するAAV5ベクターであるetranacogene dezaparvovec(2×1013ゲノムコピー/kg体重)を、AAV5中和抗体の有無にかかわらず単回投与した。 事前に規定された5年解析では、補正後年間出血率(etranacogene dezaparvovec投与後7~60ヵ月の出血率と導入期間の出血率の差)、第IX因子発現、および安全性について評価した。 本試験は2018年6月27日に開始され、最終解析のデータベースロックは2025年4月30日であった。54例中、53例がetranacogene dezaparvovecの全用量を投与され、1例は輸注関連過敏反応のため約10%用量の投与となった。50例(93%)が5年間の追跡調査を完了した。年間出血率は、投与後7~60ヵ月で導入期間(第IX因子定期補充療法)の63%減少 最大の解析対象集団54例において、全出血イベントの補正後年間出血率は、導入期間中の4.16に対し、遺伝子治療後7~60ヵ月は1.52で、63%(95%信頼区間:24~82)減少した。 5年間の追跡期間を通して第IX因子の発現は安定しており、5年時の第IX因子活性の平均(±標準偏差)は36.1±15.7 IU/dLであった。また、定期的予防投与および出血イベントの治療のための第IX因子濃縮製剤の平均使用量は、導入期間中の年間25万7,339 IUから遺伝子治療後7~60ヵ月では年間1万924 IUへと96%減少した。 有効性は、ベースラインでAAV5中和抗体を有する患者と有さない患者の間で大きな差は認められなかった。 治療との関連の可能性がある有害事象は、6ヵ月後以降はまれであった。 なお、etranacogene dezaparvovecの長期的な有効性および安全性、ならびに不確実な遺伝毒性リスクに関するさらなるデータを得るため、HOPE-B試験に参加し同意した患者は遺伝子治療後15年間、IX-TEND 3003試験において追跡調査される予定である。

134.

パラチフスAに対するワクチンの安全性、有効性と免疫原性(解説:寺田教彦氏)

 パラチフスA菌は、世界で年間200万例以上の症例が推定され、腸チフス(Salmonella Typhi)と共に、衛生水準の整っていない地域で依然として重要な公衆衛生上の課題となっている(John J, et al. N Engl J Med. 2023;388:1491-1500.)。日本における腸チフスおよびパラチフスの報告数は年間20~30例と少なく、7~9割が輸入症例だが、渡航医療の観点では一定の診療機会が存在する。 日本の渡航前外来では、腸チフスワクチンとしてVi多糖体ワクチン(商品名:タイフィム ブイアイ)が承認されて以降、南・東南アジアを中心とする流行地域への渡航者を対象に接種が行われている。しかし、この腸チフスワクチンは腸チフスの予防には有効である一方、パラチフスはVi抗原を有さないため、パラチフスAの予防には不向きである。現在、世界的にパラチフスAに対する承認済みワクチンは存在せず(MacLennan CA, et al. Open Forum Infect Dis. 2023;10:S58-S66.)、本研究対象のCVD 1902も開発中の候補ワクチンの1つである。 本論文は、経口弱毒生パラチフスA菌ワクチンCVD 1902を用いた、第II相二重盲検無作為化プラセボ対照試験であり、さらにControlled Human Infection Model(CHIM)を用いて、有効性・免疫原性・安全性を包括的に評価した点に特徴がある。 CHIM試験とは、厳密に管理された倫理的・臨床的条件下で、健康ボランティアに病原体(または弱毒株)を意図的に曝露し、感染成立、病態、免疫応答およびワクチンなどの予防介入の防御効果を評価する臨床研究モデルである。 本研究では、健康成人72例が英国6施設から登録され、CVD 1902群とプラセボ群に1:1で割り付けられた。ワクチンまたはプラセボを14日間隔で2回経口投与し、2回目投与から28日後にS. Paratyphi A野生株(NVGH308)を経口投与して感染チャレンジを行った。主要評価項目は、チャレンジ後14日以内の感染成立(72時間以降の血液培養陽性、または12時間以上持続する38℃以上の発熱)である。 主要評価項目の結果、感染成立率はCVD 1902群21%(7/34例)、プラセボ群75%(27/36例)と大きく異なり、ワクチン有効性は73%(95%CI:46~86)だった。この防御効果は腸チフスワクチン(Ty21a、Viワクチン)を用いた既存のCHIM試験を上回るもので、有効性の高さが示された。 免疫原性では、ワクチン群においてS. Paratyphi AのO抗原に対する血清IgGおよびIgA抗体価はDay14で明確に上昇し、IgGはDay42(2回目投与28日後)でも同レベルが維持されていた。一方、FliC抗原に対する抗体応答は認められなかった。さらに、血清抗体価と防御効果との直接の相関は明確ではなく、著者らは粘膜免疫、とくにsecretory IgAの関与を示唆しており、今後の解析が期待される。 安全性については、悪心・嘔吐、全身倦怠感などの軽度から中等度の副反応がワクチン群でやや多い傾向にあったが、ワクチン関連の重篤な有害事象は認められなかった。プラセボ群と比較しても、全体として良好な忍容性が示されたと評価できる。 また、ワクチンのさらなる意義として、便中排泄率の低下が挙げられる。チャレンジ72時間以降の便培養陽性率は、CVD 1902群24%(8/34例)、プラセボ群50%(18/36例)で、ワクチン接種により排泄率が減少した。これは、流行地域のリアルワールドにおいても二次感染リスクの低減に寄与しうる可能性がある。ただし、本試験はCHIMモデルであり、実際の流行地での効果を直接証明するものではない点には留意が必要である。 腸チフス・パラチフスの流行地域では、薬剤耐性化も問題で、パラチフスAでもキノロン耐性やアジスロマイシン低感受性化が進行している。治療薬選択が制限されつつある現状において、ワクチンによる発症予防と感染伝播抑制は治療負担および耐性菌のさらなる拡大を抑えるうえで重要である。 将来的には、腸チフスとパラチフスAの双方を標的とした二価ワクチン(Typhi+Paratyphi A)の開発も期待される。本報告は、パラチフスAワクチン実用化に向けた重要な報告で、今後の臨床応用につながる基礎的データであった。

135.

歯の根管治療は心臓の健康にも有益

 歯の根管治療を受けたい人はいないだろうが、もし受けなければならない場合は、心臓には良い影響があるかもしれない。英国の研究で、根管治療の成功は心臓病に関連する炎症を軽減し、さらにコレステロール値や血糖値を改善する可能性のあることが明らかにされた。英キングス・カレッジ・ロンドン歯内治療学分野のSadia Niazi氏らによるこの研究結果は、「Journal of Translational Medicine」に11月18日掲載された。 Niazi氏は、「歯の根管治療は口腔の健康を改善するだけでなく、糖尿病や心臓病などの深刻な疾患リスクの軽減にも役立つ可能性がある。このことは、口腔の健康が全身の健康に深く関わっていることを強く思い出させる」と話している。 根管治療は虫歯が歯の神経にまで達した場合に行われる神経の治療で、感染または損傷した歯髄(歯の内部にある神経と血管を含む軟組織)を除去し、歯の内部を清掃・洗浄した後に詰め物をして密封する。近年、多くの研究で、口腔の健康が心血管の健康に密接に関連していることが示されている。Niazi氏らも背景説明の中で、口腔内の感染症は、全身、特に心臓に炎症を引き起こす可能性があると指摘している。 今回の研究では、根管治療を受けた根尖性歯周炎患者65人を対象に2年間追跡して、根管治療の成功が血清の代謝プロファイルにどのような影響を与えるかを調べた。その上で、それらの変化とメタボリックシンドローム(MetS)の指標、炎症バイオマーカー、血液・根管内の微生物叢との関連を評価した。対象者から、治療前(ベースライン)、治療後3カ月、6カ月、1年、2年の5時点で血清サンプルを採取し、核磁気共鳴(NMR)分光法を用いて解析した。 その結果、根管治療後には、24種類(54.5%)の代謝物に有意な変化が認められた。具体的には、3カ月後に分岐鎖アミノ酸(バリン、ロイシン、イソロイシン)が有意に減少し、2年後にはグルコースとピルビン酸(解糖系で生成される代謝物)が有意に減少した。また、コレステロール、コリン、脂肪酸が短期間で減少し、トリプトファンは徐々に増加した。これらの結果は、糖代謝・脂質代謝の改善と炎症負荷の軽減を示唆しており、心臓の健康にとって好ましい兆候といえる。さらに、代謝プロファイルの変化は、MetSの臨床指標、炎症マーカー、治療前の血液・根管内の微生物叢と強く関連することも示された。 Niazi氏は、「根管の感染症が長期間続くと、細菌が血流に入り込んで炎症を引き起こし、血糖値や脂質値を上昇させる可能性がある。その結果、心臓病や糖尿病などのリスクが高まる。歯科医は、このような根管感染症の広範な影響を認識し、早期診断と治療を推進することが不可欠だ」とニュースリリースの中で述べている。同氏はまた、口腔の健康と全身の健康の間には密接な関係があることから、歯科医と他領域の医療専門家が連携して治療する必要があるとの考えも示している。

136.

認知症発症リスク、亜鉛欠乏で30%増

 亜鉛欠乏が神経の炎症やシナプス機能障害をもたらすことで認知機能低下の可能性が指摘されているが、実際に亜鉛欠乏と認知症の発症を関連付ける疫学的エビデンスは限られている。今回、台湾・Chi Mei Medical CenterのSheng-Han Huang氏らが、亜鉛欠乏が新規発症認知症の独立した修正可能なリスク因子であり、明確な用量反応関係が認められることを明らかにした。Frontiers in Nutrition誌2025年11月4日号掲載の報告。 研究者らは、亜鉛欠乏と認知症の新規発症リスクの関連を調査するため、TriNetXの研究ネットワークを用いて、2010年1月~2023年12月に血清亜鉛の検査を受けた50歳以上を対象とした後ろ向きコホート研究を実施。対象者を亜鉛濃度(欠乏症:70μg/dL未満、正常値:70~120μg/dL)で層別化し、認知機能障害の既往がある者、亜鉛代謝に影響を与える疾患を有する患者を除外後、人口統計学的特性、併存疾患、薬剤、臨床検査値に基づき1対1の傾向スコアマッチングを行った。主要評価項目は3年以内の新規認知症の発症とした。また、追加評価項目として認知機能障害を、本研究の解析アプローチ検証のための陽性対照評価項目として肺炎を含めた。*原著論文では亜鉛濃度をμg/mLで表記しているが、診療指針等を考慮し本文ではμg/dLに修正。 主な結果は以下のとおり。・傾向スコアマッチング後、各群に3万4,249例が含まれた。・亜鉛欠乏は、認知症発症リスクを34%上昇させる(調整ハザード比[HR]:1.34、95%信頼区間[CI]:1.17~1.53、p<0.001)、肺炎発症リスクを72%上昇させる(調整HR:1.72、95%CI:1.63~1.81、p<0.001)ことと関連していた。・認知機能障害は、全期間を対象とした解析では有意な関連を示さなかった(調整HR:1.08、95%CI:0.92~1.28、p=0.339)が、新型コロナウイルス感染症パンデミック前の期間(2010~19年)の解析では、調整HRが1.38(95%CI:1.11~1.72、p=0.004)と有意な関連を示した。・軽度から中等度の亜鉛欠乏(50~70μg/dL)と重度の亜鉛欠乏(50μg/dL未満)をそれぞれ正常亜鉛レベルでの認知症新規発症リスクと比較した場合、軽度から中等度の亜鉛欠乏の調整HRは1.26(95%CI:1.10~1.46)、重度の亜鉛欠乏では調整HRは1.71(95%CI:1.36~2.16)と用量反応関係が明らかであった。 これらの知見より研究者らは、「認知症予防戦略において血清亜鉛の状態を評価し、最適化することの重要性を支持する。因果関係を明らかにし、最適な介入プロトコルを決定するためにランダム化比較試験の実施が期待される」としている。

137.

成人のRSウイルスワクチンに関する見解を発表/感染症学会、呼吸器学会、ワクチン学会

 日本感染症学会(理事長:松本 哲哉氏)、日本呼吸器学会(同:高橋 和久氏)、日本ワクチン学会(同:中野 貴司氏)の3学会は合同で、「成人のRSウイルスワクチンに関する見解」を12月9日に発表した。 Respiratory syncytial virus(RSV)感染症は、新生児期から感染が始まり、2歳を迎えるまでにほとんどの人が感染するウイルスによる感染症。生涯獲得免疫はなく、成人では鼻風邪のような症状、乳幼児では多量の鼻みずと喘鳴などの症状が現れる。治療薬はなく、対症療法のみとなるが、ワクチンで予防ができる感染症である。 RSV感染症は、基礎疾患を有する成人ではインフルエンザと同程度の重症化リスクを持つと考えられており、高齢者などはワクチンの任意接種対象となっている。2026年4月からは妊婦に対しRSVワクチンが定期接種になることもあり、今後、RSV感染症の予防対策の重要性はますます高まると考えられている。 3学会では、今般の見解について、「現時点でのRSVワクチンの科学的な情報であり、また接種の必要性を考える際の参考としていただきたい」と述べている。高齢者のRSV感染症の疾患負荷をワクチンで防ぐ1)主旨 RSV感染症は、国内外の研究報告をふまえると、高齢者、慢性呼吸器疾患、慢性心疾患などの基礎疾患を有する成人には、インフルエンザと同程度の重症化リスクを持つと考えられている。高齢者施設やハイリスク病棟での集団感染も報告されており、公衆衛生危機管理上の重点感染症にも分類されるRSV感染症の感染対策として、高齢者へのRSVワクチンの接種を推奨する。 今後、わが国でも死亡転帰など重症化に関する高齢者のRSV感染症の疫学情報のさらなる蓄積が望まれる。2)主なワクチン 現在、わが国で接種できるワクチンは任意接種として2つの組換えタンパク質ワクチンとmRNA(2025年5月承認、今後発売)がある。3)国内の高齢者における疾病負荷 2022年9月~2024年8月の2年間にわたり国内の4つの2次医療圏の急性期医療機関で実施された積極的サーベイランス研究で、RSV感染症による入院率は65歳以上人口10万人年当たり1年目29例、2年目36例、18歳以上のRSV感染症の院内死亡率は7.1%と報告されている。 わが国の2015~18年の医療保険データベースMedical Data Vision(MDV)を用いたRSV流行期と非流行期の時系列モデリング解析によって、全国のRSV関連入院率を推定した研究によると、65歳以上のRSV関連呼吸器疾患の入院率は10万人当たり96~157例と示されている。また、RSV感染症の文献をシステマティックレビューした報告によると、わが国の60歳以上の年間のRSVによる急性呼吸器感染症患者数は約69.8万人、入院患者数は約6.3万人、院内死亡者数は約4,500人と推定されている。4)慢性心肺疾患患者ではRSV感染症の重症化リスクが高まる 慢性心肺疾患を有する患者では、RSV感染症は重症化リスクが高まることが知られている。米国・ニューヨーク州のサーベイランス研究では、65歳以上のRSV入院率は1.37~2.56/1,000例であり、慢性閉塞性肺疾患、喘息、うっ血性心不全患者の入院率は、これらのない患者と比較して、それぞれ3.5~13.4倍、2.3~2.5倍、5.9~7.6倍高いことが報告されている1)。5)RSV感染症はインフルエンザと同程度の疾病負荷がある わが国の1,038例の呼吸器症状を有する救急入院患者を対象とした2023年7~12月に行われた前向き研究では、RSV感染症は22例が報告され、院内死亡率は13.6%(3/22)であったのに対して、インフルエンザは28例が報告され、院内死亡例はなかった2)。呼吸器症状を有しPCR検査を実施した外来および入院患者541例を対象に2022年11月~2023年11月の期間に実施された後ろ向き研究では、RSV感染症とインフルエンザの割合はそれぞれ3.3%と1.8%だった3)。また、30日間死亡率は、RSV感染症が5.6%(1/18)、インフルエンザでの死亡例はなかった。4つの2次医療圏における積極的サーベイランスの研究でも、18歳以上の肺炎または急性呼吸器感染症の入院患者におけるRSVとインフルエンザウイルスの陽性率は、それぞれ2.8%と3.3%であり、院内死亡率はそれぞれ7.1%と2.0%だった4)。6)高齢者施設ではRSVの集団感染が発生している 高齢者の介護施設などからRSVの集団感染の発生が複数報告され、重要な課題となっている。RSV感染症の小児における全国流行の時期に、高知県の老人保健施設の入所者110例中49例が発熱し、31例でRSV迅速検査が陽性を示し、基礎疾患を有する4例の高齢者がRSV感染を機に死亡した5)。また、富山県の介護老人保健施設では、入所者と職員あわせて49例に発熱や鼻汁などの症状がみられ、3人のPCR検査および遺伝子系統樹解析で同一のRSVが検出され集団感染と確定された6)。7)高齢者へのRSVワクチンの接種を推奨 RSV感染症は、高齢者および慢性呼吸器疾患・慢性心疾患などの基礎疾患を有する成人において、国内外でインフルエンザと同程度の重症化リスク(入院率や死亡率)があることが報告されている。RSVは、高齢者および基礎疾患を有する成人において、呼吸器感染症の主要な原因ウイルスと考えられるが、成人のRSV感染症には、インフルエンザや新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のような抗ウイルス薬は存在しない。現在、複数のRSVワクチンが承認されているが、いずれも高い有効性と良好な忍容性を示しており、予防接種のベネフィットはリスクを上回ると考えられる。公衆衛生危機管理上の重点感染症7)に指定されているRSV感染症の感染対策として、RSVワクチンの接種を推奨する。なお、わが国ではRSV感染症による死亡者数をはじめ全国的な疫学データが十分ではないことから、今後わが国でも、死亡転帰など重症化に関する高齢者のRSV感染症の疫学情報のさらなる蓄積が望まれる。■参考文献1)Branche AR, et al. Clin Infect Dis. 2022;74:1004-1011.2)Nakamura T, et al. J Infect Chemother. 2024;30:1085-1087.3)Asai N, et al. J Infect Chemother. 2024;30:1156-1161.4)Maeda H, et al. medRxiv. 2025 Jun 20. [Preprint]5)武内可尚、他. 臨床とウイルス. 2022;50:139-142.6)米田哲也、他. 病原微生物検出情報月報(IASR). 2018;39:126-127.7)第94回 厚生科学審議会感染症部会. 重点感染症リストの見直しについて(2025年3月26日)■参考成人のRSウイルスワクチンに関する見解

138.

わが国初の水いぼ外用薬「ワイキャンス外用液0.71%」【最新!DI情報】第53回

わが国初の水いぼ外用薬「ワイキャンス外用液0.71%」ウイルス性疣贅治療薬「カンタリジン(商品名:ワイキャンス外用液0.71%、製造販売元:鳥居薬品)」を紹介します。本剤は伝染性軟属腫(水いぼ)の治療薬として承認されたわが国初の外用薬であり、摘除や液体窒素による凍結に代わり得る新たな治療選択肢として期待されています。<効能・効果>伝染性軟属腫の適応で、2025年9月19日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>通常、成人および2歳以上の小児に、3週間に1回、患部に適量を塗布します。塗布16~24時間後に、石鹸を用いて水で洗い流します。なお、本剤の8回の投与までに治療反応が得られない場合は、他の治療法を考慮します。<安全性>副作用として、適用部位小水疱(95.7%)、適用部位痂皮(90.2%)、適用部位紅斑(87.9%)、適用部位疼痛(79.7%)、適用部位そう痒感(70.3%)、適用部位びらん(62.5%)、適用部位変色(55.9%)、適用部位皮膚剥脱(35.5%)、適用部位浮腫(22.7%)、適用部位乾燥、適用部位瘢痕、適用部位潰瘍、適用部位湿疹、接触皮膚炎、適用部位腫脹(いずれも1~10%未満)、適用部位丘疹、水疱性皮膚炎、痂皮、皮膚色素過剰、紅斑、化膿、膿痂疹、皮膚感染、細菌感染、膿痂疹性湿疹、発熱、性器水疱(いずれも1%未満)があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、ウイルス性疣贅治療薬に分類される塗り薬です。2.伝染性軟属腫(水いぼ)の治療に用います。塗布した部位に水ぶくれができ、その水ぶくれが剥がれ落ちるときにウイルスに感染した組織も一緒に取り除かれることで、病変が改善すると考えられています。3.この薬は、医療機関で患部に適量を塗布します。塗布後16~24時間経過したら、石鹸を用いて水で洗い流してください。4.洗い流すまでの間、塗布部位に触れたり、舐めたり、噛んだりしないでください。誤って薬が口に入った場合には、ただちに医師や薬剤師に相談してください。5.他の医療機関を受診する場合や、薬局などで他の薬を購入する場合は、この薬を使用していることを必ず医師または薬剤師に伝えてください。<ここがポイント!>「いぼ」には、ウイルス感染を原因とするものがあり、主な原因ウイルスとしてヒトパピローマウイルス(HPV)と伝染性軟属腫ウイルスが知られています。伝染性軟属腫ウイルスは、ポックスウイルス科に属し、伝染性軟属腫の原因となります。本疾患は主に小児で発症し、体幹や四肢に多発することが特徴で、一般的に「水いぼ」と呼ばれています。病変は直径1~4mm程度の光沢を有する平滑な丘疹であり、周囲に湿疹反応を伴い、そう痒を生じることがあります。掻破によって自己感染が起こり、病変が拡大することもあります。治療として摘除や液体窒素による凍結療法が行われていますが、小児においては疼痛と恐怖心を伴うことが問題となっていました。わが国においては、これまで伝染性軟属腫に対する治療薬は承認されていませんでした。本剤は、有効成分としてカンタリジンを含有する国内初の伝染性軟属腫治療薬です。塗布した部位において、中性セリンプロテアーゼの活性化を介して、表皮のデスモソームを脆弱化し、表皮構造を破壊することで水疱を形成します。この水疱形成により病巣皮膚が剥がれ落ち、ウイルス感染組織が除去されると考えられています。さらに、水疱形成に伴う局所炎症反応や免疫応答の促進が、病変の消失に寄与すると推察されています。製剤は、複数回の使用による交差汚染や揮発性溶媒の濃度変化を最小限に抑えるために、単回使用のアプリケータ形態を採用しています。また、誤飲防止のため、苦味剤として安息香酸デナトニウムを配合しています。2歳以上の日本人伝染性軟属腫患者を対象に、3週ごとに1回、最大4回(本剤はプラセボ対照期終了後を含めて最大8回)塗布した国内第III相臨床試験(208-3-1試験)において、主要評価項目であるすべての治療可能な病変の完全消失が認められた被験者の割合は、本剤群50.0%(95%信頼区間[CI]:41.68~58.32)、プラセボ群23.2%(95%CI:16.83~30.68)であり、本剤群はプラセボ群と比較し統計学的に有意な差が認められ(p<0.001)、プラセボに対する優越性が検証されました。また、群間差(本剤群-プラセボ群)の点推定値は26.8%(95%CI:15.67~37.88)でした。

139.

mRNAインフルワクチン、不活化ワクチンに対する優越性を確認/NEJM

 ヌクレオシド修飾メッセンジャーRNA(modRNA)インフルエンザワクチンは、対照ワクチンと比較して相対的有効性に関して統計学的な優越性を示し、A/H3N2株とA/H1N1株に対する免疫応答が顕著である一方、副反応の頻度は高いことが示された。米国・East-West Medical Research InstituteのDavid Fitz-Patrick氏らが、第III相無作為化試験「Pfizer C4781004試験」の結果を報告した。modRNAインフルエンザワクチンは、インフルエンザA型とB型のそれぞれ2つの株(A/H3N2、A/H1N1、B/Yamagata、B/Victoria)のヘマグルチニンをコードする4価のワクチンである。研究の成果は、NEJM誌2025年11月20日号で報告された。3ヵ国1流行期で実施、承認済みの標準的な不活化4価インフルエンザワクチンと比較 Pfizer C4781004試験は、2022~23年のインフルエンザ流行期に米国の242施設、南アフリカ共和国の5施設、フィリピンの1施設で実施した無作為化試験(Pfizerの助成を受けた)。 年齢18~64歳の健康な成人を、modRNA群、または承認済みの標準的な不活化4価インフルエンザワクチンを接種する群(対照群)に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは相対的有効性とし、modRNAワクチン接種後少なくとも14日の時点でインフルエンザ様症状があり検査でインフルエンザが確認された参加者の割合が、対照群よりも低いことと定義した。相対的有効性の非劣性(両側95%信頼区間[CI]の下限値が-10%ポイント以上)および優越性(同0%ポイント以上)を検証した。 免疫原性は赤血球凝集抑制(HAI)試験で評価した。また、接種後7日以内の反応原性(副反応)、1ヵ月後までの有害事象、6ヵ月後までの重篤な有害事象の評価を行った。相対的有効性34.5%、非劣性・優越性の基準満たす 2022年10月24日~2023年1月30日に1万8,476例(平均年齢43歳、男性41.9%、白人73.6%)を登録し、9,225例をmodRNA群、9,251例を対照群に割り付けた。それぞれ9,191例および9,197例が実際にワクチンの接種を受け、全体の92.9%が6ヵ月間の追跡を完了した。 接種後14日目以降にインフルエンザ様症状が発現し検査でインフルエンザが確認された参加者は、modRNA群で57例、対照群で87例であり、対照群と比較したmodRNA群の相対的有効性は34.5%(95%CI:7.4~53.9)であった。95%CIの下限値は、非劣性および優越性の双方の基準を満たした。 インフルエンザ様症状の原因ウイルス株は、主にA/H3N2株とA/H1N1株であり、B型株が原因のものはごくわずかであった。HAI試験における抗体反応は、インフルエンザA型で非劣性が示されたが、B型では示されなかった。安全性プロファイルは2群でほぼ同様 安全性プロファイルは2つの群でほぼ同様であり、新たな安全性の懸念は確認されなかった。 反応原性(副反応)のイベントは、modRNA群で報告が多かった(局所反応:70.1%vs.43.1%、全身性イベント:65.8%vs.48.7%)。これらは全般に軽度または中等度で一過性であり、重度のイベントに両群間で臨床的に意義のある差は認めなかった。最も頻度の高い局所反応は疼痛で、最も頻度の高い全身性イベントは倦怠感と頭痛であった。発熱(≦40.0°C)は、modRNA群で5.6%、対照群で1.7%に発現した。 安全性データのカットオフ日(2023年9月29日)の時点で、ワクチン接種から4週間までの有害事象の報告は、modRNA群で6.7%、対照群で4.9%であった。ワクチン関連の有害事象は、modRNA群で3.3%、対照群で1.4%だった。 重篤かつ生命を脅かす有害事象、重篤な有害事象、試験中止に至った有害事象の頻度は低く、両群で同程度であった。modRNA群の1例で、ワクチン関連の重篤な有害事象(Grade3の接種部位反応とGrade4のアナフィラキシー反応)がみられた。接種後6ヵ月までに、16例に致死的な有害事象が発生した(modRNA群7例、対照群9例)が、いずれもワクチン関連とは判断されなかった。接種後1週間以内の死亡例の報告はなかった。 著者は、「modRNAワクチンプラットフォームが許容可能な安全性を備えた効果的なワクチンを迅速かつ大量に生産する能力は、COVID-19だけでなく、インフルエンザなどの季節性の呼吸器疾患の予防への応用においても重要である」「本試験で確認されたmodRNAワクチンによるインフルエンザの予防効果は、ヘマグルチニンのみをコードするように設計されたワクチンで達成されたが、modRNAワクチンは他のインフルエンザウイルス抗原を標的にできる可能性もある」「modRNAプラットフォームはインフルエンザワクチンの開発において有望であり、既存製品を上回る恩恵をもたらす可能性がある」としている。

140.

脳腫瘍内部に細菌シグナルの存在を発見

 脳は、細菌の存在しない無菌環境と考えられている。しかし新たな研究で、脳腫瘍の内部に細菌が存在することを示唆するシグナルが確認された。研究グループは、これらの細菌は、がんの成長や挙動に影響を与えている可能性があると考えている。これまでにも大腸がんなどの消化器がんにおいて細菌が発見されているが、他の部位の腫瘍における細菌の存在については議論があった。米テキサス大学MDアンダーソンがんセンター外科腫瘍学およびゲノム医学分野のJennifer Wargo氏らによるこの研究結果は、「Nature Medicine」に11月14日掲載された。 Wargo氏は、「この研究は、脳腫瘍の生物学に対する理解に新たな次元を開くものだ。微生物の要素が脳腫瘍の微小環境(がん細胞の周囲にある細胞や分子、構造のまとまりのこと)にどのような影響を与えるかをマッピングすることで、がん患者の転帰を改善するための新たな治療戦略を特定できる可能性がある」とニュースリリースの中で述べている。 この研究では、221人の患者から採取した243個の脳組織サンプルが分析された。サンプルには、脳腫瘍(神経膠腫、転移性脳腫瘍)由来のサンプルが168個、非がんまたは腫瘍隣接組織のサンプルが75個含まれていた。 蛍光 in situ ハイブリダイゼーション法(FISH法)、免疫組織化学、高解像度イメージング技術を用いた解析の結果、神経膠腫および転移性脳腫瘍の両サンプルで細菌の16SリボソームRNA(16S rRNA)やリポ多糖(LPS)が検出された。これらの細菌シグナルは、腫瘍細胞や免疫細胞、間質細胞の内部に局在していた。また、カスタム16S rRNA解析およびメタゲノム解析により、腫瘍微小環境における細菌シグナルと関連する特定の菌群が同定されたが、標準的な培養法では生菌は得られなかった。空間解析からは、細菌16S rRNAシグナルのパターンが、抗菌反応や免疫代謝の特徴と、領域レベル・細胞近傍レベル・細胞レベルで相関していることが示された。さらに、腫瘍内の細菌16S rRANの配列は、サンプル提供者自身の口腔や腸内の細菌と重複しており、離れた場所の微生物叢との関連も示唆された。 論文の筆頭著者であるMDアンダーソンがん研究センター外科腫瘍学分野のGolnaz Morad氏は、「本研究により、脳腫瘍の微小環境において、これまで知られていなかった役割を担う要素が明らかになった。この要素は、脳腫瘍の挙動を説明する手がかりとなる可能性がある」とニュースリリースの中で述べている。また同氏は、「細菌要素は腫瘍内の免疫細胞と相互作用し、腫瘍の成長や治療への反応に影響を与える可能性がある」との見方を示している。ただし研究グループは、この研究では、脳腫瘍内に存在する細菌ががんの増殖を直接促進するような、意味のある変化を引き起こすかどうかは不明であるとしている。 研究グループは現在、細菌がどのように脳に到達し、脳腫瘍の形成に関与しているのかをより深く理解するための研究に取り組んでおり、その一つとして、歯周病が脳への細菌の拡散に影響を与えるかどうかを調査しているという。

検索結果 合計:4463件 表示位置:121 - 140