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学会オンライン参加の効能【Dr. 中島の 新・徒然草】(581)

五百八十一の段 学会オンライン参加の効能5月だというのに、無茶苦茶暑い日が続いています。外来に来られる患者さんの第一声が「暑い、暑い!」というのが最近の日常となりました。私が中学生や高校生だった頃は、6月1日と10月1日に一斉に衣替えをしていたものです。白い夏服に切り替わるその日は、季節の変化をはっきりと感じさせてくれました。ところが最近では、その習慣もすっかり時代遅れになりつつあります。初夏の暑さが年々厳しさを増しており、夏服への移行は2週間ほど前倒しにした方がよいのでは、と思わざるを得ません。さて、今回は学会参加についてお話ししたいと思います。新型コロナウイルスの流行をきっかけに、全国規模の学会の開催形式は大きく様変わりしました。現地参加に加えて、オンライン参加が選択肢として定着してきたのです。私はもっぱらオンライン派。理由は単純で、遠くまで出掛ける必要がないからです。新幹線や飛行機を使って半日がかりで現地入りするだけで、すでに疲労困憊。宿泊先のホテルでもぐっすり眠れないこともあり、翌日まで疲れを持ち越すこともありました。その点、オンライン参加であれば移動のストレスもなく、慣れた環境で視聴できます。画面の見やすさも利点の一つです。パソコンのモニターに映し出されるスライドは、多少文字数が多くても読みやすく、視認性に優れています。また、イヤホンを使えば音声も非常にクリア。とくに外国人演者による英語の発表のリスニングには強力な味方です。病院にいながら空き時間を使ってセッションを視聴できるのも、オンラインならではの利点。時には発表を聴きながら簡単な事務作業をこなすこともできます。とはいえ、院内PHSが鳴って呼び出されることもあり、ようやく戻ってきたらセッションが終わっていた、ということもしばしば経験しました。そこで今年の春は、もっぱら自宅からの参加に切り替えています。これが思いのほか快適で、今後もこのスタイルを続けようと思わされました。もちろん自宅にいても完全に集中できるとは限りません。急な来客や宅配便の対応で、途中退席を余儀なくされることもあります。それでも、見逃したセッションは後日オンデマンドで視聴可能。オンライン形式ならではの強みですね。また、領域講習単位を取得する目的で、専門外の発表を視聴する機会も増えました。各演者が何年もかけて積み上げてきた研究成果が、わずか20分ほどに凝縮されて発表され、毎回のように「世の中、こんなに進んでいるのか!」と驚かされます。こうした発表の情報の質や密度は、日常的に配信されているYouTube動画などとは比較になりません。その一方で、各発表演題の内容を理解するには大変な集中力が必要です。私の場合、4演題ほど視聴すると疲れてしまうので、自然に瞼が下がって……すみません。考えてみれば、今では院内の全職員参加必須講演会ですらオンデマンド配信が併用される時代です。学会出席もまた、現地参加に加えてオンラインやオンデマンドを組み合わせることで、より柔軟な対応が可能となりました。オンライン参加はやむを得ず選ぶという位置付けではなく、むしろ積極的に活用すべき手段だと思います。これからますます暑くなる季節に、涼しく快適な部屋からのオンライン参加。たとえコロナが完全に終息しても、こういった多様な参加形式はぜひ続いてほしいものです。最後に1句学会は 麦茶片手に オンライン

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COVID-19は糖尿病患者の院内死亡率を高める

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は高齢者や基礎疾患のある人で重症化しやすいことが知られているが、今回、治療中の糖尿病がCOVID-19による院内死亡率や人工呼吸器使用、血液透析といった腎代替療法の重大なリスク因子である、とする研究結果が報告された。研究は東京医科大学病院糖尿病・代謝・内分泌内科の諏訪内浩紹氏、鈴木亮氏らによるもので、詳細は「PLOS One」に3月19日掲載された。 COVID-19は多臓器障害を伴い、重症化した場合は、急性呼吸窮迫症候群、急性腎障害、その他の臓器不全を引き起こすことが多い。日本ではCOVID-19による死亡率は比較的低いが、糖尿病患者の場合では死亡リスクの上昇が報告されている。一方で、糖尿病患者におけるCOVID-19の治療と転帰を検討する包括的な研究は依然として限られている。そのような背景から、著者らはCOVID-19が糖尿病患者に及ぼす影響を評価するために、多施設の後ろ向きコホート研究を実施した。本研究では、院内死亡率、人工呼吸器の使用、ICUへの入院、血液透析(HD)、持続的血液濾過透析(CHDF)、医療リソースの利用状況に関する影響が検討された。 研究には、千葉県内38医療機関の診断群分類包括評価(DPC)データより、2020年2月1日~2021年11月31日までの間にCOVID-19と診断された1万1,601人が含まれた。この中から、18歳未満、妊娠中、糖尿病未治療の症例など計825人が除外され、最終的な解析対象を1万776人(対照群7,679人、糖尿病群3,097人)とした。連続変数とカテゴリ変数の比較には、それぞれスチューデントのt検定とフィッシャーの正確確率検定を使用した。 糖尿病群の患者は対照群の患者よりも平均年齢とBMIが高かった(67.4歳 vs 55.7歳、25.6kg/m2 vs 23.6kg/m2、各P<0.001)。糖尿病の治療に関しては、インスリン使用率は88.4%、経口血糖降下薬は44.2%であり、インスリン療法の割合が高かった。 COVID-19による平均入院日数は、糖尿病群で17.8±15.3日であり、対照群(10.2±8.5日)と比べて有意に延長された(P<0.001)。院内死亡率は、糖尿病群と対照群でそれぞれ、12.9%と3.5%であり、糖尿病群で高くなっていた(オッズ比OR 4.05〔95%信頼区間3.45~4.78〕、P<0.001)。また、年齢別のサブグループ解析を行った結果、50~59歳にORのピークがみられ(同12.8〔3.71~44.1〕、P<0.01)、この年齢層がCOVID-19による院内死亡の強いリスク因子であることが示唆された。 次に、糖尿病がアウトカム(院内死亡率、人工呼吸器の使用、ICU入院、HD、CHDF)に及ぼす影響を検討するため回帰分析を行ったところ、糖尿病群の全てのアウトカムのORは対照群と比較して有意に高かった。また、年齢、性別、BMI、救急車の利用で調整した重回帰分析を行った場合でも、全てのアウトカムのORは有意なままであったことから、糖尿病がこれらのアウトカムの独立した因子であることが示された。 本研究について著者らは、「2020~2021年のDPCデータの解析から、糖尿病はCOVID-19における院内死亡率、人工呼吸器の使用、ICU入院、HD、CHDFの独立したリスク因子であることが示された。院内死亡率に関しては特に18~79歳の糖尿病群で対照群より高く、働き盛りの50~59歳で最もオッズ比が高かったことから、以降の若年世代に対してのワクチン接種勧奨や行動制限は有効だったのではないか」と述べている。 また、本研究の強みとして、レセプトデータをベースとしており、患者の使用している糖尿病治療薬などの臨床情報や、かかった医療費に関しての情報が含まれていた点を挙げており、「本研究はCOVID-19と糖尿病の臨床的特徴を明らかにし、将来の治療の改善に役立つものと考えている」と付け加えた。 本研究の限界点として、今回使用したDPCデータには、入院前の情報、臨床検査値やCOVID-19の重症度分類に関する情報、ワクチン接種に関する情報が含まれていないことを挙げている。

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バロキサビル単回投与による家庭内インフルエンザ伝播予防効果(解説:寺田教彦氏)

 ウイルス性上気道炎に対する抗ウイルス薬の伝播抑制効果は従来注目されてきたが、臨床研究においてその有効性を明確に示すことは困難であった。そうした中、2025年にNew England Journal of Medicine誌に掲載された本研究は、メーカーからの後援を受けた研究ではあるものの、インフルエンザ発症者に対して発症後48時間以内にバロキサビルを単回投与することで、家庭内でのウイルス伝播が有意に抑制されることを示した。 バロキサビルは日本で開発された新規抗インフルエンザ薬であり、以下のような特徴を有する。【長所】・単回経口投与で治療が完結する。・ウイルス力価の迅速な低下が期待される。・臨床効果はオセルタミビルなどのノイラミニダーゼ阻害薬(NAI)と同等であり、とくにインフルエンザB型に対して優れているとする報告がある(Ison MG, et al. Lancet Infect Dis. 2020;20:1204-1214.)。【懸念点】・投与後にPA/I38X変異を有するウイルスが一定頻度で検出されており、バロキサビルの使用が増加すると耐性ウイルスの拡大が懸念されうる(Hayden FG, et al. N Engl J Med. 2018;379:913-923.)。・妊婦、免疫不全者、重症入院患者に対する有効性に関するエビデンスが現時点では不足している。・他の抗インフルエンザ薬と比較して薬価が高い。 本研究は、インフルエンザ発症から48時間以内の指標患者(index case)にバロキサビルを単回投与し、家庭内接触者へのインフルエンザ伝播抑制効果を検討した無作為化比較試験である。指標患者に重篤な合併症リスクのある者は含まれておらず、また家庭内接触者に2歳未満児、妊婦、免疫不全者といったインフルエンザ感染症の重症化リスクが高い者がいる場合も除外されていた。 主な結果として、無作為化から5日目までの家庭内接触者の感染率はバロキサビル群で9.5%、プラセボ群で13.4%と有意に低く(相対リスク低下29.0%)、インフルエンザ伝播に対する抑制効果が確認された。一方で、有症状インフルエンザの発症率はバロキサビル群5.8%、プラセボ群7.6%であり、統計学的有意差は認められなかった。 本研究結果は、バロキサビル投与により、インフルエンザ伝播率は有意に抑制されたが、有症状のインフルエンザ発症の抑制は限定的であることを示唆している。抗インフルエンザ薬の役割を「他者への伝播抑制」とした場合、指標患者の周囲に健常者のみがいる状況では、薬の内服による追加的なメリットは限定的であろう。だが、同居家族に高リスク者がいる場合には、バロキサビルの投与は、感染拡大とインフルエンザ重症化を予防することが期待されうる。 さらに、公衆衛生的観点からは、2020年のCOVID-19のようなパンデミックがインフルエンザで発生した場合、ワクチン展開以前の初期対応としてバロキサビルを活用する戦略も理論的に検討されうる。 なお、本研究では次の2点も注目された。 第1に、副作用の頻度である。バロキサビル群における有害事象発現率は4.6%、プラセボ群では7.0%であり、いずれも軽度(Grade1または2)であった。これまでの報告と同様に、本剤の忍容性は良好と考えられる。 第2に、バロキサビル投与に伴う耐性変異の出現である。バロキサビルを投与された指標患者においてPA/I38X変異は7.2%で認められたが、家庭内接触者では耐性ウイルスに感染した症例はなかった。これは、耐性ウイルスが患者体内でのみ発生したことを意味するのではなく、家庭内接触者は指標患者がバロキサビルを服用する前にすでに感染していたと考えられる。 バロキサビルは、インフルエンザ治療における重要な薬剤の1つであり、今後も耐性ウイルスの出現状況を注視しつつ、適正使用が求められる抗微生物薬である。[結論]バロキサビルは、インフルエンザの家庭内伝播を有意に抑制する効果を示し、とくに高リスク者の保護という観点で臨床的意義を持つ可能性がある。一方で、耐性ウイルスの出現や、重症例・免疫不全患者への有効性など、今後さらに検証を要する課題もある。

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帯状疱疹ワクチンで認知症の発症リスクを低減できる可能性(解説:小金丸博氏)

 「帯状疱疹ワクチンの接種が、認知症の発症リスクを低減する可能性がある」。この仮説は近年の観察研究で示唆されてきたが、2025年になってそれを強く支持する2つの高品質な準実験的研究がNature誌およびJAMA誌に相次いで報告され、大きな注目を集めている。 まず、先行研究としてウェールズでの研究結果が2025年4月2日号のNature誌に報告された。2013年にウェールズで導入された帯状疱疹ワクチン接種プログラムでは、1933年9月2日以降に生まれた人が接種対象となり、それ以前に生まれた人は対象外とされた。この明確な誕生日による区分を利用し、年齢のみがわずかに違うと推定される2つの集団を比較することで、交絡因子の影響を最小限に抑えた。その結果、ワクチン接種者では、7年間の追跡期間中に認知症と診断されるリスクが20%低下(3.5%ポイントの絶対リスク減少)し、この効果はとくに女性で顕著であった。 続いて今回、オーストラリアでの研究結果がJAMA誌オンライン版2025年4月23日号に報告された。2016年にオーストラリアで導入された帯状疱疹ワクチン(商品名:Zostavax)の無料接種プログラムに基づき、誕生日による接種適格性を利用して接種群と非接種群を比較した。その結果、ワクチン接種適格者では、7.4年間の追跡期間中に新たに認知症と診断される確率が1.8%ポイント低下した。ワクチン接種者と非接種者の間で、教育歴、既往歴、他の予防医療サービスの利用状況に大きな差がなかったことから、健康意識の違いによるバイアスの影響は最小限と考えられた。また、この研究では、性別による効果の差異は明確に示されなかった。先行研究では女性でより強い予防効果が観察されていることから、今後の研究での検討が期待される。 これら2つの研究の特徴は、どちらも回帰不連続デザイン(regression discontinuity design)を用いている点にある。これは、自然ルールではない人為的なルールによって生まれる境界線を利用した統計的因果推論の手法の1つである。両研究共に、ワクチン接種の適格性を外的要因に基づいて決定することで交絡因子の影響を最小限に抑えており、従来の観察研究よりも因果関係の推定に信頼性が高いと評価されている。 今回の研究の対象となったのは主に生ワクチン(Zostavax)であり、不活化ワクチン(商品名:Shingrix)ではなかった。現在、日本を含む多くの国ではShingrixが主流となっている。Shingrixは免疫応答がより強力であるとされる一方で、Zostavaxと同様の神経保護効果が得られるかは不明である。今後、Shingrixを用いた研究や他国での再現性の確認が進むことで、より確固たるエビデンスが構築されることが期待される。 帯状疱疹ワクチン接種が認知症リスクを低減させるメカニズムとして、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)の再活性化抑制や、ワクチンによる免疫系の調節効果などが考えられている。VZVの再活性化が神経炎症や神経変性を惹起する可能性があり、慢性的な神経炎症が認知機能の低下に関与しているという仮説が考えられている。また、ワクチン接種が免疫老化の進行を遅らせることも、間接的な効果として議論されている。 日本においては、50歳以上を対象に帯状疱疹ワクチンが適用となっており、帯状疱疹および帯状疱疹後神経痛の予防目的での接種が徐々に広がりつつある。認知症予防効果が確立されれば、高齢者医療におけるさらなる付加価値として期待される。ただし、現時点では認知症予防を明確な適応とは規定しておらず、あくまで副次的な効果として受け止めるべきである。 高齢化社会の進展と認知症の増加が避けられない中、帯状疱疹ワクチンが神経変性疾患のリスクにも影響を及ぼす可能性を持つことは、予防医療の新たな可能性を提示している。今後のさらなるエビデンスの蓄積が期待される。

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人工関節感染疑い、培養が陰性である原因は?【1分間で学べる感染症】第26回

画像を拡大するTake home message人工関節感染(Prosthetic joint infection:PJI)疑いで培養が陰性である場合、先行する抗菌薬、培養が難しい微生物、検体採取の問題、非感染性疾患の4つの原因を考えよう。皆さんが目の前の患者さんの人工関節感染(PJI)を疑った際は、まず関節穿刺で関節穿刺液を採取して培養検査を提出すると思います。培養で何らかの原因微生物が検出されると思いきや、培養結果が陰性である状況に遭遇した場合、解釈とそのマネジメントに頭を悩まされることになります。単に「培養陰性だから感染ではない」と結論付けず、ここでは培養が陰性となる4つの原因を考えていきたいと思います。1)先行する抗菌薬の影響最も頻度の高い原因です。検体採取前に抗菌薬が投与されていた場合、培養結果が陰性となることがあります。患者さんの状態によりますが、状態が安定している場合にはいったん抗菌薬を中断し、抗菌薬を使用しない状況での培養提出が推奨されます。2)培養が難しい・培養されない微生物特殊な環境だけで増殖する微生物や、発育に時間がかかる微生物は、通常の培養法では検出が困難です。Cutibacterium acnesは発育に時間がかかるため、10~14日間の延長培養が推奨されます。非結核性抗酸菌や真菌も時間を要します。また、まれながらMycoplasma、Coxiella、Brucella、Ureaplasmaなどの報告もあります。3)検体採取の問題採取する検体数が不十分であったり、適切でない検体(例:スワブ)が使用されたりする場合、また保存や搬送過程に問題があると、培養感度が低下します。複数部位からの適切な量と種類の検体を、適切な条件で処理することが重要です。4)非感染性疾患関節痛や炎症を呈する非感染性疾患が、感染と間違えられることがあります。代表的なものに、痛風、偽痛風、メタローシスなどがあり、これらはPJIと類似した臨床像を示すため、診断に悩むことがたびたびあります。この4つの枠組みを念頭に置きながら、追加検査と初期治療に進むようにしましょう。1)Parikh MS, et al. J Infect Public Health. 2016;9:545-556.2)Goh GS, et al. J Arthroplasty. 2022;37:1488-1493.3)Tan TL, et al. JB JS Open Access. 2018;3:e0060.4)Tsai SW, et al. J Clin Orthop Trauma. 2024;52:102430.

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モデルナのコロナワクチン、生後6ヵ月からの追加免疫の一変承認を取得

 モデルナ・ジャパンは5月19日付のプレスリリースにて、新型コロナウイルスワクチン「スパイクバックス筋注」について、生後6ヵ月以上4歳以下を対象とした追加免疫に関する承認事項の一部変更を厚生労働省から取得したと発表した。 これまで「スパイクバックス筋注」は、生後6ヵ月以上5歳未満に対して初回免疫のみ承認されており、追加免疫は5歳以上が対象であったが、今回の承認により、生後6ヵ月から追加免疫としても接種できるようになる。 COVID-19は、高齢者や免疫不全を有する高リスク者だけでなく、乳幼児においても重症化のリスクが高く、肺炎などの入院を要する疾病を引き起こす可能性がある。同社は、今回の承認が、幅広い世代のCOVID-19感染症予防に貢献すると期待を示している。

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治療法もワクチンもない伝染性紅斑

治療法もワクチンもない伝染性紅斑(リンゴ病)とは●原因と感染経路伝染性紅斑(リンゴ病)は、子供を中心に流行するヒトパルボウイルスB19を原因とする感染症で、患者の咳やくしゃみなどのしぶきに触れることで感染(飛沫・接触感染 )します。●主な症状約10日間の潜伏期間の後、両頬に紅い発疹が出現し(下図)、続いて体や手・足に網目状の発疹が出現、1週間程度で消失します。発疹が淡く、他疾患との区別が難しい場合もあります。多くの場合、両頬に発疹が出現する7~10日前に、微熱や風邪様の症状があることが多く、この時期が1番人に感染させやすくなります。発疹出現期には、感染力はほぼ消失します。●治療や予防法特別な治療方法はなく、対症療法が行われます。予防ワクチンもありません。このウイルスはアルコール消毒の効果が乏しいため、流水と石けんによる手洗いが大切です。また、感染拡大防止のために患者さんはマスクをしましょう 。●とくに注意が必要な人妊娠中あるいは妊娠の可能性がある女性は注意が必要です。胎児にも感染し、胎児水腫などの重篤な状態や、流産のリスクとなる可能性があります。周囲で患者発生がみられた場合 、感冒様症状の人や患者との接触をできる限り避けるよう注意をしてください。国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト 伝染性紅斑より引用(2025年5月14日閲覧)https://id-info.jihs.go.jp/diseases/ta/5th-disease/010/5th-disease.htmlCopyright © 2025 CareNet,Inc. All rights reserved.

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コロナ入院患者の院内死亡リスク、オミクロン後もインフルの1.8倍超/感染症学会・化学療法学会

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、オミクロン株流行以降、重症度が低下したとする報告がある一方、インフルエンザと比較すると依然として重症度が高いとの報告もある。国内の死亡者数においても、5類感染症移行後、COVID-19による死亡者数はインフルエンザの約15倍に上ると厚生労働省の統計で報告されている。こうした背景から、長崎大学熱帯医学研究所の前田 遥氏らの研究グループは、COVID-19患者の入院中の死亡リスクをインフルエンザ患者と比較評価した。本結果は、5月8~10日に開催された第99回日本感染症学会総会・学術講演会/第73回日本化学療法学会総会 合同学会にて、前田氏が発表した。 本研究は、徳洲会メディカルデータベースを用いた後ろ向きコホート研究として実施された。DPCシステムに加入する50施設のデータから、18歳以上で入院契機病名がCOVID-19またはインフルエンザである患者を対象とした。解析対象期間は、インフルエンザ患者が2018年1月~2022年12月、COVID-19患者が2020年3月~2022年12月。両検査陽性者、入院時病名と検査結果の不一致例、COVID-19患者における抗体投与目的と考えられる短期入院例、転帰不明例は除外された。統計解析には、競合リスクを考慮した原因別ハザードモデルを使用し、インフルエンザ患者と比較したCOVID-19患者の院内死亡ハザード比を算出した。年齢、性別、チャールソン併存疾患指数(CCI)、高齢者施設入所の有無、入院医療機関を調整因子とした。90日超の入院は90日で打ち切りとした。また、COVID-19の流行時期による臨床状況の変化を考慮し、以下の3期間に分けて解析を行った。・I期:流行開始~ワクチン導入前(2020年3月~2021年2月)・II期:ワクチン導入後~オミクロン株流行前(アルファ株、デルタ株流行期)(2021年3月~2021年12月)・III期:オミクロン株流行期(2022年1月~2022年12月) 主な結果は以下のとおり。・解析対象は、COVID-19入院患者1万8,336例、インフルエンザ入院患者2,657例。年齢中央値は、COVID-19患者のI期(3,695例):65歳(四分位範囲:48~78)、II期(5,959例):55歳(44~71)、III期(8,682例):80歳(68~88)、インフルエンザ患者:82歳(74~88)。・院内死亡割合は、インフルエンザ患者で5.9%に対し、COVID-19患者ではIII期(オミクロン株流行期)が9.1%であった。I期は6.3%、II期は5.5%であった。・人工呼吸器やHFNC/NPPVの使用割合は、アルファ株やデルタ株が流行したII期が最も高かった。 -人工呼吸器の使用:COVID-19 II期 7.8%vs.インフルエンザ 3.5% - HFNC/NPPVの使用:COVID-19 II期 8.8%vs.インフルエンザ 0.6%・入院期間は、COVID-19の全期間とインフルエンザでほぼ同様の約10日であった。・インフルエンザと比較したCOVID-19の院内死亡ハザード比は、I期:1.51(95%信頼区間[CI]:1.16~1.96)、II期:2.21(1.73~2.83)、III期:1.85(1.53~2.24)であり、II期が最も高かった。・入院時に酸素投与が必要であった患者に限定した場合も、I期:1.76(95%CI:1.18~2.64)、II期:2.17(1.50~3.14)、III期:2.01(1.53~2.65)となり、同様の傾向が認められた。 前田氏は本研究の結果について「COVID-19入院患者は、インフルエンザの入院患者と比較して、全期間を通じて院内死亡リスクが高いことが明らかになった。入院時に酸素投与を受けた患者に限定した解析でも同様の結果であり、入院時点で一般に入院適応があると考えられる患者に限定しても、COVID-19の死亡リスクが高いことが示唆された。新型コロナワクチン導入後の期間においては、入院患者が若年であり、入院時点でワクチン接種が完了していない集団であった可能性が考えられるが、本研究ではワクチン接種歴のデータが含まれていないため、今後の検討課題としたい」と結論付けた。

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10~18歳へのBCGワクチン再接種は有用か?/NEJM

 QuantiFERON-TB(QFT)検査陰性・ヒト免疫不全ウイルス(HIV)陰性の思春期児において、カルメットゲラン菌(BCG)ワクチン再接種により、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)の持続感染に対する防御効果は得られなかった。米国・Gates Medical Research InstituteのAlexander C. Schmidt氏らBCG REVAX Study Teamが第IIb相の二重盲検無作為化プラセボ対照試験の結果を報告した。先行研究の第II相試験で、BCGワクチン再接種による、結核菌の初回感染に対する防御効果は示されなかったが、副次エンドポイントである持続感染(初回QFT検査で陽転、さらに3ヵ月時点および6ヵ月時点の陽転持続で定義)予防へのワクチン効果(有効性45%、95%信頼区間[CI]:6~68)が観察されていた。NEJM誌2025年5月8日号掲載の報告。プラセボと比較し、結核菌の持続感染に対する防御効果を評価 試験は南アフリカ共和国5施設で、QFT検査陰性・HIV陰性の思春期児(10~18歳)を対象に、プラセボと比較したBCGワクチン再接種の結核菌の持続感染に対する防御効果(主要エンドポイント)を評価した。被験者は、BCGワクチン(Danish 1331)またはプラセボを皮内接種するよう1対1の割合で無作為に割り付けられた。BCGワクチンにはQFT検査で用いられる抗原が含まれておらず、71日時点のQFT検査陰性者は、ワクチンの有効性評価のための修正ITT集団に組み入れ可能であった。 有害事象は副次解析で、免疫原性は探索的解析にて評価した。ワクチンの有効性は修正ITT集団で評価した。集団には、無作為化されBCGワクチンまたはプラセボを接種され、接種後10週時のQFT検査が陰性(本基準は接種時に結核菌に感染していた被験者を除外するために追加された)であった全被験者を組み入れた。 層別Cox比例ハザードモデルを用いて、ハザード比(HR)と95%CIを推定して評価した。追跡期間中央値30ヵ月後の陽転持続、BCGワクチン群7.1%、プラセボ群7.0% 2019年10月16日~2021年7月22日に、1,836例が無作為化された(BCGワクチン群918例、プラセボ群917例)。 修正ITT集団(BCGワクチン群871例、プラセボ群849例)において、追跡期間中央値30ヵ月後、QFT検査に基づく陽転持続はBCGワクチン群で62/871例(7.1%[95%CI:5.4~8.8])、プラセボ群で59/849例(7.0%[5.2~8.7])に認められた(片側p=0.58)。BCGワクチン群vs.プラセボ群のQFT検査に基づく陽転持続のHRは1.04(95%CI:0.73~1.48)で、ワクチン有効率のポイント推定値は-3.8%(95%CI:-48.3~27.4)であった。 有害事象の発現頻度は、BCGワクチン群がプラセボ群よりも高かったが、ほとんどは注射部位反応(疼痛、発赤、腫脹、潰瘍形成)であった。BCGワクチン再接種は、サイトカイン陽性の1型CD4ヘルパーT細胞を誘導した。

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慢性C型肝炎、ソホスブビル/ダクラタスビルvs.ソホスブビル/ベルパタスビル/Lancet

 慢性C型肝炎患者において、ソホスブビル/ダクラタスビルのソホスブビル/ベルパタスビルに対する非劣性が示された。英国・インペリアル・カレッジ・ロンドンのGraham S. Cooke氏らが、ベトナムの公立病院2施設で実施した2×4要因デザインの無作為化非盲検非劣性試験の結果を報告した。WHOは、C型肝炎ウイルス感染症に対して3種類の抗ウイルス薬の併用療法のいずれかを8~12週間行うことを推奨しているが、これらのレジメンを比較した無作為化試験はなく、より短い治療期間で高い治癒率を達成できる可能性が示唆されていた。今回の結果を踏まえて著者は、「新たな戦略で高い有効性が認められたことから、治療へのアクセスが困難な集団への治療アプローチに役立つ可能性がある」と述べている。Lancet誌オンライン版2025年5月7日号掲載の報告。ソホスブビル/ダクラタスビル vs.ソホスブビル/ベルパタスビルで、4つの治療戦略を検討 研究グループは、軽度~中等度の肝線維化を有する18歳以上の慢性C型肝炎患者を、施設およびウイルス遺伝子型(1~5型vs.6型)で層別化し、ソホスブビル400mg+ダクラタスビル60mg(ソホスブビル/ダクラタスビル群)またはソホスブビル400mg+ベルパタスビル100mg(ソホスブビル/ベルパタスビル群)の各配合錠群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 同時に、それぞれ次の4つの治療戦略に1対1対1対1の割合で無作為に割り付けた。(1)12週間連日投与(標準治療)、(2)4週間連日投与+週1回ペグインターフェロン アルファ-2a皮下注(計4回)、(3)2週間連日投与後、平日5日間投与10週間(導入・維持療法)、(4)7日目のウイルス量に基づき治療期間(4・8・12週間)を調整する治療反応性ガイド(RGT)療法。 主要アウトカムは、治療終了後12週時のウイルス学的著効(SVR)とし、実際に受けた治療にかかわらず主要アウトカムを評価できるすべての患者を解析対象集団とした。非劣性マージンは、薬剤比較では5%、治療戦略比較では10%とし、安全性は無作為化された全患者で評価した。ソホスブビル/ダクラタスビルはソホスブビル/ベルパタスビルに対し非劣性 2020年6月19日~2023年5月10日に624例が無作為化された。患者背景は、年齢中央値42歳(四分位範囲:37~51)、男性470例(75%)、女性154例(25%)で、遺伝子型1~5型は328例(53%)、遺伝子型6型は296例(47%)であった。 主要アウトカムを評価できた患者は609例(98%)で、SVRの達成率はソホスブビル/ダクラタスビル群で97%(294/302例)、ソホスブビル/ベルパタスビル群で95%(292/307例)、両群のリスク差は2.2%(90%信用区間[CrI]:-0.2~4.8)であり5%の非劣性マージン内であった(ソホスブビル/ダクラタスビルがソホスブビル/ベルパタスビルより有効である確率93%)。 治療戦略別では、SVRの達成率は、標準治療群で99%(148/150例)、4週間+インターフェロン群で94%(143/152例)(対標準治療のリスク群間差:-4.5%、90%CrI:-8.3~-1.3)、導入・維持療法群で99%(151/152例)(0.6%、-1.1~2.7)、RGT群で93%(144/155例)(-5.7%、90%CrI:-9.6~-2.3)であり、すべて10%の非劣性マージン内であった。 重篤な有害事象は、ソホスブビル/ベルパタスビル群で11例(4%)、ソホスブビル/ダクラタスビル群で6例(2%)に認められたが、両群間に差はなかった(リスク群間差:-1.6%、95%CrI:-4.2~0.8、p=0.90)。一方、副作用は、標準治療群3%(5/154例)、4週間+インターフェロン群70%(109/156例)、導入・維持療法群4%(6/156例)、RGT群3%(5/158例)に発現し、4週間+インターフェロン群で多く認められた(標準治療群とのリスク群間差:66.8%、95%CrI:59.2~74.0、p<0.0001)。

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子宮頸がんワクチンの接種率は近隣の社会経済状況や地理に関連か

 子宮頸がんはほとんどの場合ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染により発症する。HPVにはワクチンが存在していることから、子宮頸がんは「予防できるがん」とも呼ばれる。この度、HPVワクチンの接種率が近隣地域の社会経済状況、医療機関へのアクセスに関連するという研究結果が報告された。近隣地域の社会経済状況が高く、医療機関へのアクセスが容易なほどHPVワクチンの接種率が高かったという。大阪医科薬科大学総合医学研究センター医療統計室の岡愛実子氏(大阪大学大学院医学系研究科産科学婦人科学教室)、同室室長の伊藤ゆり氏らの研究によるもので、詳細は「JAMA Network Open」に3月13日掲載された。 子宮頸がんは女性で4番目に多く、ステージが上がるほどその予後は悪くなる。よって、早期のHPVワクチンの接種が必要とされるが、日本におけるHPVワクチンの接種率は高所得国の中で最も低い。これは、厚生労働省がメディアの報道を受けて、2013~2021年にかけて接種勧奨を停止していたことに起因する。2022年度より接種勧奨を再開し、停止期間に接種を受けられなかった女性に対して、無料のHPVワクチン接種(キャッチアップ接種)を行ってきたが、接種率は勧奨停止前のレベルまで回復していない。 これまでの海外の研究で、裕福な地域や都市部に住む女性でHPVワクチンの接種率が高いことが報告されている。一方で、日本のHPVワクチンの接種率を向上させるには、国内の接種状況や、それに影響を及ぼすと考えられる地域要因に関する研究が必要とされていた。このような背景から、岡氏らはワクチンの定期接種プログラムが導入された2013年からのデータが保管されている大阪市のデータを用い、累積接種率と地域ベースの社会経済指標およびアクセス指標との関連を調査した。 調査には、大阪市から提供された2013~2022年度の定期接種およびキャッチアップ接種データを含む個別のHPVワクチン接種データを利用した。対象は、1997年度から2010年度に生まれ、大阪市でHPVワクチン接種を受けた女性とした。地域の社会経済指標(Areal Deprivation Index: ADI)を近隣地域の社会経済状況の指標、各地域の代表地点から500mの範囲内にあるHPVワクチン接種を提供する医療機関の数をアクセス指標として、それぞれ用いた。HPVワクチン接種の累積率とADIおよび医療施設へのアクセスとの関連は、ロバスト誤差分散を用いたポアソン回帰モデルによって評価した。 大阪市では18万5,373人の女性がHPVワクチンの接種対象であり、そのうち1万8,688人(10.1%)が接種を受けた。最も貧困度の高い地域に住む女性(2万8,078人中2,539人〔9.0%〕)と比較して、最も貧困度の低い地域に住む女性(4万2,170人中5,862人〔11.6%〕)の累積HPVワクチン接種率は高かった(Prevalence Ratio PR1.25〔95%信頼区間1.16~1.34〕)。さらに、医療施設へのアクセスが低い地域に住む女性(5万5,055人中5,128人〔9.3%〕)と比較して、アクセスが良好な地域に住む女性(5万4,740人中5,862人〔10.7%〕)で累積ワクチン接種率は高くなっていた(PR1.09〔1.03~1.16〕)。 累積HPVワクチン接種は、定期接種ではADIと有意に関連していたが(最富裕層 vs 最貧困層:PR1.46〔1.33~1.61〕)、キャッチアップ接種では関連していなかった(最富裕層 vs 最貧困層:PR1.01〔0.92~1.11〕)。 本研究について著者らは、「今回の横断研究では、社会経済状況が高く、医療施設へのアクセスが高いほど、累積HPVワクチンの接種率が高くなることが示された。これらの知見はHPVワクチン接種の不平等を減らすために、社会環境アプローチを含むさらなる戦略が必要であることを示唆している」と総括した。 本研究の限界点として、対象者の健康リテラシーやHPVワクチンに対する認識などの潜在的な交絡因子を調整していないこと、政府が接種勧奨を停止する前にワクチンを受けていた1994~1996年度生まれの対象者を含む2012年度までの接種者が除外されていたため、大阪市の累積接種率が過小に評価された可能性があることなどを挙げている。

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静注鎮静薬―機械呼吸管理下ARDSの生命予後を改善(解説:山口佳寿博氏/田中希宇人氏)

 成人呼吸促迫症候群(ARDS:acute respiratory distress syndrome)の概念が提唱されて以来約70年が経過し、多種多様の治療方針が提唱されてきた。しかしながら、ARDSに対する機械呼吸管理時の至適鎮静薬に関する十分なる検討結果は報告されていなかった。本論評では、フランスで施行された非盲検無作為化第III相試験(SESAR試験:Sevoflurane for Sedation in ARDS trial)の結果を基に成人ARDSにおける機械呼吸管理時の至適鎮静薬について考察するが、その臨床的意義を理解するために、ARDSの病態、薬物治療、機械呼吸管理など、ARDSに関する臨床像の全体を歴史的背景を含め考えていくものとする。ARDSの定義と病態 ARDSは1967年にAshbaughらによって提唱され、多様な原因により惹起された急激な肺組織炎症によって肺血管透過性が亢進し、非心原性急性肺水腫に起因する急性呼吸不全を招来する病態と定義された(Ashbaugh DG, et al. Lancet. 1967;2:319-323.)。ARDSの同義語としてacute lung injury(ALI:急性肺損傷)が存在する。ALIは1977年にMurrayらによって提唱された概念で、ALIの重症型がARDSに相当する(Murray JF. Am Rev Respir Dis. 1977;115:1071-1078.)。 ARDS発症1週以内は急性期と呼称され、肺胞隔壁の透過性亢進に起因する肺水腫を主体とするびまん性肺組織損傷(DAD:diffuse alveolar damage)を呈する。発症より1~2週が経過すると肺間質の線維化、II型肺胞上皮細胞の増殖が始まる(亜急性期)。発症より2~4週以上が経過すると著明な肺の線維化が進行し、肺組織破壊に起因する気腫病変も混在するようになる(慢性期)。本論評では、ARDS発症より2週以内をもって急性期、2~4週経過した場合を亜急性期、4週以上経過した場合を慢性期と定義する。 ARDSにおける肺の線維化は特発性間質性肺炎(肺線維症)の末期像に相当するものであり、10年の経過を要する肺線維症の病理像がわずか数週間で確立してしまう恐ろしい病態である(急性肺線維症)。急性期ARDSの主たる死亡原因が急性呼吸不全(重篤な低酸素血症)であるのに対して、慢性期のそれは急性肺線維症に起因する慢性呼吸不全に関連する末梢組織/臓器の多臓器障害(MOF:multiorgan failure)である。以上のように、ARDSにおける急性期病変と慢性期病変は質的に異なる病態であり、治療方針も異なることに留意する必要がある。急性期ARDSの薬物治療―歴史的変遷 新型インフルエンザ、新型コロナなど、人類が免疫を有さない新たな感染症のパンデミック時期を除いて、ARDSの年間発症率は2~8例/10万例と想定されており、急性期の致死率は25~40%である。ARDS発症に関わる分子生物学的病態解明に対する積極的な取り組み、それらを基礎とした多種多様の急性期治療が試みられてきた。しかしながら、ARDSの急性期致死率は上記の値より少し低下してきているものの、2025年現在、明確な減少が確認されていないのが現状である。 世界各国において独自のARDS診療ガイドラインが作成されているが、本邦でも、日本呼吸療法医学会(1999年、2004年)、日本呼吸器学会(2005年、2010年)ならびに、日本集中治療医学会、日本呼吸器学会、日本呼吸療法医学会の3学会合同(2016年、2021年)によるARDS診療ガイドラインが作成された。これらの診療ガイドラインにあって2021年に作成された3学会合同のガイドラインには、成人ARDSに加え小児ARDSの治療、呼吸管理に関しても項目別にコメントが示されており臨床的に有用である(ARDS診療ガイドライン2021作成委員会編. 日集中医誌. 2022;29:295-332.)。 以上のARDS診療ガイドラインの臨床現場における有用性は、2020年3月~2023年5月の約3年間にわたる新型コロナパンデミックに起因する中等症II(呼吸不全/低酸素血症を合併)、重症(ICU入院、機械呼吸管理を要する)のARDSを基に検証が進められた。新型コロナ惹起性重症ARDSに対する薬物治療にあって最も重要な知見は、免疫過剰抑制薬としての低用量ステロイドによるARDS発症1ヵ月以内の生命予後改善効果である(RECOVERY Collaborative Group. N Engl J Med. 2021;384:693-704.)。以上に加え、低用量ステロイド併用下で免疫抑制薬であるIL-6拮抗薬トシリズマブ(商品名:アクテムラ)が新型コロナ関連ARDSの早期生命予後を改善することが報告された(RECOVERY Collaborative Group. Lancet. 2021;397:1637-1645.)。さらに、抗ウイルス薬レムデシビル併用下で免疫抑制薬JAK-STAT阻害薬であるバリシチニブ(商品名:オルミエント)が新型コロナによる早期ARDSの生命予後を改善することも示された(RECOVERY Collaborative Group. Lancet. 2022;400:359-368.)。 以上の結果を踏まえ、本邦における中等症II以上の重篤な新型コロナ感染症に対する急性/亜急性期の基本的薬物治療として上記3剤の使用が推奨されたことは記憶に新しい。しかしながら、以上の結果は、早期の新型コロナ感染に対する知見であり、感染後1ヵ月以上経過した慢性期(肺線維症形成期)に対するものではない。 ARDSの慢性期においてステロイドを持続的に投与すべきか否かに関する確実な検証(投与量、期間)はなされておらず、ARDSの慢性期を含めた長期生命予後に対してステロイドがいかなる効果をもたらすかは今後の重要な検討課題の1つである。さらに、ARDSの病態を呈しながら中/高用量のステロイド投与の効果が証明されているARDSも存在することを念頭に置く必要がある(脂肪塞栓、ニューモシスチス肺炎、胃酸の誤飲、高濃度酸素曝露、異型性肺炎、薬剤性、急性好酸球性肺炎などに起因するARDS)。一方、グラム陰性桿菌の敗血症に起因する重症ARDSに対しては、新型コロナ感染症の場合と同様に低用量ステロイド投与を原則とする(Bone RC, et al. N Engl J Med. 1987;317:653-658.)。以上のように、重症ARDSに対する初期ステロイドの投与量はARDSの原因によって異なることに留意する必要がある(山口. 現代医療. 2002;34(増3):1961-1970.)。ARDSの呼吸管理―静注鎮静薬による生命予後の改善 重症ARDSの呼吸管理は、非侵襲的陽圧換気(NPPV:non-invasive positive pressure ventilation)や高流量鼻カニュラ酸素療法(HFNC:high flow nasal cannula)など、気管挿管なしの非侵襲的呼吸補助から始まる。しかしながら、気管挿管の遅れはARDSの死亡リスクを上昇させる危険性が指摘されている。非侵襲的手段で呼吸不全が管理できない場合には、気管挿管下の呼吸管理に早期に移行する必要がある。 気管挿管下の呼吸管理は、一回換気量(TV:tidal volume)を抑制したlow tidal ventilation(L-TV、TV=4~8mL/kg)に比較的高い呼気終末陽圧呼吸(PEEP:positive end-expiratory pressure、PEEP=10cmH2O以上)を加味して開始される(肺保護換気)。L-TVはARDSで損傷した肺組織のさらなる損傷悪化を抑制すると同時に生体内CO2貯留を許容する換気法でpermissive hypercapniaとも呼称される。L-TVの効果を上昇させるものとして腹臥位呼吸法がある(肺の酸素化効率を上昇)。急性期ARDSに対するpermissive hypercapniaの臨床的重要性(早期の生命予後改善効果)は1990年から2000年代初頭にかけて世界で検証が試みられたが、確実に“有効”と結論できるものではなかった(cf. Acute Respiratory Distress Syndrome Network. N Engl J Med. 2000;342:1301-1308.)。人工呼吸器管理で酸素化が維持できない場合に、肺保護の一環として体外式膜型人工肺(ECMO:extracorporeal membrane oxygenation)が適用される。ECMOによる肺保護治療が注目されたのは、2009年の新型インフルエンザパンデミックの発生時であった。その教訓を生かし、2020年における本邦のECMO設置率は50病床に1台と、世界有数のECMO保有国に成長した。しかしながら、高額医療であるECMO導入によって急性期ARDSの生命予後が真に改善するかどうかに関する臨床データは不十分であり、今後の検証が望まれる。 以上のように、現在のところ、呼吸管理法としていかなる方法がARDSの生命予後改善に寄与するかを確実に検証した試験は存在しない。今回論評するSESAR試験は、フランス37ヵ所のICUで施行された侵襲的機械呼吸施行時における吸入鎮静薬(セボフルラン、346例)と静注鎮静薬(プロポフォール、341例)の比較試験である。SESAR試験は、新型コロナ感染症が猛威を振るった2020~23年に施行されたもので、試験対象の50%以上が新型コロナに起因する中等症以上の成人ARDSであった。しかしながら、敗血症、誤飲、膵炎、外傷など、他の原因によるARDSも一定数含まれ、ARDS全体の動向を近似的に反映した試験と考えてよい。本試験において、ARDSの重症度、抗菌薬、ステロイド、機械呼吸の内容を含め、鎮静薬以外の因子は両群でほぼ同一に維持された。primary endpointとして試験開始28日以内の機械呼吸なしの日数、key secondary endpointとして試験開始90日での死亡率が検討された。その結果、28日以内の機械呼吸なしの日数、90日での死亡率はともに、静注鎮静薬プロポフォール群で有意に優れていることが判明した(90日目の死亡率:プロポフォール群でセボフルラン群に比べ1.3倍低い)。以上の内容は、ARDS発症後の慢性期(ARDS発症後4週以上で肺線維症形成期)に対しても静注鎮静薬による急性期呼吸管理が有利に働くことを示したものであり、ある意味、驚くべき結果と言ってよい。 以上、静注鎮静薬による初期呼吸管理がARDS慢性期の生命予後を有意に改善することが示されたが、今後、多数の侵襲的呼吸管理法の中でいかなる方法が急性~慢性期のARDSの生命予後改善に寄与するかに関し、組織的な比較試験が施行されることを望むものである。

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インフル・コロナ混合ワクチン、50歳以上への免疫原性・安全性確認/JAMA

 インフルエンザと新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の混合ワクチン「mRNA-1083」の免疫原性と安全性を、50歳以上の成人を対象に評価した第III相無作為化観察者盲検試験の結果が報告された。開発中のmRNA-1083は、推奨されるインフルエンザワクチン(高用量、標準用量)およびCOVID-19ワクチンと比較して非劣性基準を満たし、4種すべてのインフルエンザ株(50~64歳)、SARS-CoV-2(全年齢)に対して高い免疫応答を誘導したことが実証され、許容可能な忍容性および安全性プロファイルが示された。米国・ModernaのAmanda K. Rudman Spergel氏らが報告した。JAMA誌オンライン版2025年5月7日号掲載の報告。4価ワクチン+COVID-19併用接種群と比較 試験は、2023年10月19日~11月21日に米国146施設で50歳以上の成人を登録して行われた。データ抽出は2024年4月9日に完了した。 被験者は年齢で2コホート(65歳以上、50~64歳)に分けられ、mRNA-1083+プラセボを接種する群、承認済みの季節性インフルエンザ4価ワクチン(65歳以上:高用量4価不活化インフルエンザワクチン[HD-IIV4]、50~64歳:標準用量IIV4[SD-IIV4])とCOVID-19ワクチン(全年齢:mRNA-1273)を併用接種する群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 本試験の主要目的は、29日時点におけるmRNA-1083接種後の体液性免疫応答の対照ワクチンに対する非劣性の検証、mRNA-1083の反応原性および安全性の評価であった。副次目的は、29日時点におけるmRNA-1083接種後の体液性免疫応答の対照ワクチンに対する優越性の検証などであった。mRNA-1083の免疫原性の非劣性、高い免疫応答の誘導を確認 全体で8,015例がワクチンを接種された(65歳以上4,017例、50~64歳3,998例)。年齢中央値は65歳以上のコホート70歳、50~64歳のコホート58歳、女性はそれぞれ54.2%と58.8%、黒人またはアフリカ系は18.4%と26.7%、ヒスパニックまたはラテン系は13.9%と19.3%であった。 mRNA-1083の免疫原性は、すべてのワクチン適合インフルエンザ株およびSARS-CoV-2株に対して非劣性が検証された。すなわち、幾何平均抗体価比の97.5%信頼区間(CI)下限値は0.667を上回り、セロコンバージョン/血清反応率の差の97.5%CI下限値は-10%超であった。 mRNA-1083は、4種すべてのインフルエンザ株に対してSD-IIV4(50~64歳に接種)よりも高い免疫応答を誘導し、3種のインフルエンザ株(A/H1N1、A/H3N2、B/ビクトリア)に対してHD-IIV4(65歳以上に接種)よりも高い免疫応答を誘導した。また、SARS-CoV-2(全年齢にmRNA-1273を接種)に関しても高い免疫応答を誘導した。 mRNA-1083接種後の依頼に基づく非自発的に報告された副反応は、両年齢コホートにおいて対照ワクチン群と比較し、頻度および重症度ともに数値的には高かった。頻度は、65歳以上ではmRNA-1083接種群83.5%、HD-IIV4+mRNA-1273接種群78.1%であり、50~64歳ではmRNA-1083接種群85.2%、SD-IIV4+mRNA-1273接種群81.8%であった。重症度は大半がGrade1または2であり短期間に消失した。以上から、安全性に関する懸念は認められなかった。

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第266回 プラスチックを食べて増えうる細菌が患者から見つかった

プラスチックを食べて増えうる細菌が患者から見つかった縫合糸、ステント、創傷被覆、植込み型の機器などで使われるプラスチックの類いを分解する酵素を有し、どうやらそれを食べて増えるらしい細菌が患者の検体から見つかりました1,2)。人の身体に直接触れるプラスチックの中で、ポリカプロラクトン(PCL)は生分解性であることや生体と相性がよいことなどの取り柄ゆえに医療で多く使われるようになっています。プラスチックを分解する能力を身につけた細菌がプラスチック廃棄地の土壌、海水、下水汚泥、埋立地、プラスチックを食べる虫の腸などの環境中から見つかっています3)。それらの細菌はプラスチックに構造が似たクチンなどの天然ポリマーの分解にあたる既存の酵素を応用して、PCLやポリエチレンテレフタラート(PET)などのプラスチックを分解する能力を身につけたようです。しかし、医療でまみえる細菌の酵素のプラスチック分解能がこれまで検討されたことはありません。カテーテル、人工呼吸器、植込み型の機器に細菌が定着することや、それらの細菌による感染症は病院の大きな悩みの種です。もし病原体が植込み型の機器を分解するなら、それら機器は損なわれ、細菌はより根づき、生じうる感染症の治療を一層困難にしそうです。もっというと、プラスチックを分解しうる病原体がプラスチックからの炭素を使って増え、より深刻な感染症を引き起こしうるかもしれません。そのような懸念を背景にして、英国ロンドンのブルネル大学のRonan McCarthy氏が率いるチームはヒトの病原性細菌のゲノムを検索し、プラスチック分解に携わることが知られる遺伝子の相同物を探してみました。すると、ある患者の傷口から単離されたPA-W23という識別名の緑膿菌がPCLを分解しうることが示され、Pap1という酵素がその働きを担うことが判明しました。試しに大腸菌にPap1遺伝子を導入したところ、PA-W23と同様にPCLを分解できるようになりました。なんとPA-W23はPCLの分解からの炭素のみで増殖可能でした。それに、プラスチックの分解能がその毒性強化に一役買うらしいことも示されました。細菌が作るねばねばの防御膜であるバイオフィルムは抗菌薬を効き難くし、感染症の治療を困難にします。PCLがあるとPA-W23はバイオフィルムをより多く生成しました。また、PCLの植え込みがあるとPA-W23の毒性が増すことが昆虫(Galleria mellonella larvae)の検討で確認されています。緑膿菌は病院での抗菌薬耐性感染の主因の1つで、世界保健機関(WHO)が新たな治療を最も必要とすると位置付けている病原体の1つです2)。緑膿菌はカテーテル関連尿路感染症(CA-UTI)や人工呼吸器関連肺炎(VAP)の多くを引き起こします。CA-UTIとVAPはどちらもプラスチックを含む機器の使用と関連します。今回の研究で確認されたのはPCLの分解のみですが、ことはPCLだけにとどまらないようで、他のプラスチックへの影響も心配です。すでに研究チームは他の病原体のPap1に似た酵素の兆し(signs)を把握しています。今やプラスチックが医療に深く浸透していることを踏まえるに、院内に居座りうる細菌のプラスチック分解能の識別は今後の重要な検討課題であろうと著者は言っています1)。 参考 1) Howard SA, et al. Cell Rep. 2025 May 5. [Epub ahead of print] 2) 'Superbug' found to digest medical plastic / Brunel University of London 3) Ru J, et al. Front Microbiol. 2020;11:442.

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第242回 糖尿病薬の適正使用について、医師と患者に注意喚起/PMDA

<先週の動き> 1.糖尿病薬の適正使用について、医師と患者に注意喚起/PMDA 2.百日咳患者が前年比3倍に急増、ワクチン接種と耐性菌対応が急務に/厚労省 3.国立大学病院の6割が赤字見通し、医師の働き方改革と物価高が直撃/国立大学病院長会議 4.子どもの数、過去最少に 出生数減少が深刻化/総務省 5.地方公務員の医師が無許可で副業、2,740万円報酬で免職/静岡県 6.「逆子」施術で医療事故、書類送検の医師に謝罪なし/京都府 1.糖尿病薬の適正使用について、医師と患者に注意喚起/PMDA近年、2型糖尿病治療薬として承認されているGLP-1受容体作動薬リラグルチド(商品名:ビクトーザ)およびGIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチド(同:マンジャロなど)を、痩身や美容目的で適応外使用するケースが急増しており、重大な健康被害も報告されている。これを受け、製薬企業各社および医薬品医療機器総合機構(PMDA)、日本糖尿病学会が相次いで注意喚起を行っている。これらの薬剤は、本来「2型糖尿病」に限定して承認されたものであり、減量や美容目的での使用は認められていない。また、肥満症の適用を取得しているGLP-1受容体作動薬セマグルチド(ウゴービ皮下注)についても、適用患者はBMI27以上で、2つ以上の肥満に関連する合併症(高血圧、脂質異常症、2型糖尿病、閉塞性睡眠時無呼吸症候群、心血管疾患など)を有する、またはBMI35以上の成人の肥満症に対して、6ヵ月以上の食事療法・運動療法を行い、効果不十分の患者に処方可能とされている。実際、ダイエット目的で処方された患者が、嘔吐・下痢・意識喪失などの副作用を訴える事例も相次いでいる。オンライン診療や美容クリニックにおいて「簡単に痩せる薬」として紹介されて処方されるケースが多く、安易な使用が健康リスクを高めている。日本糖尿病学会は、適用外使用によって本来の患者への供給が妨げられる問題も深刻だとし、2023年11月に見解を改訂。不適切な広告や処方を厳しく戒め、医師による慎重な対応を求めている。また、PMDAは、承認効能外での使用を助長する広告や診療が確認された場合には、速やかに規制当局へ報告する体制をとると発表した。さらに、GLP-1作動薬を肥満症治療に用いるには、セマグルチドのように、厚生労働省が定めた適正使用推進ガイドラインに基づいて、施設側には専門医の所属あるいは専門医が所属する施設と適切な連携体制の確立のほか、常勤の管理栄養士による適切な栄養指導ができることが条件になっており、適切な処方が求められている。製薬会社、医療機関、学会のいずれもが「安全性と有効性が確認された範囲での適正使用」を強調しており、医療関係者および患者に対し、安易なダイエット目的での使用を控えるよう改めて強く呼びかけている。 参考 1) GLP-1受容体作動薬及びGIP/GLP-1受容体作動薬の適正使用に関するお知らせ(PMDA) 2) GLP-1受容体作動薬及び GIP/GLP-1受容体作動薬の適正使用について(同) 3) 最適使用推進ガイドライン セマグルチド(厚労省) 4) GLP-1受容体作動薬および GIP/GLP-1受容体作動薬の適応外使用に関する日本糖尿病学会の見解(糖尿病学会) 5) 糖尿病治療薬の「ダイエット薬」としての使用の危険性を改めて強調、医療関係者・患者ともに「適正な使用」に協力を!-PMDA(Gem Med) 6) GLP-1受容体作動薬及びGIP/GLP-1受容体作動薬の適正使用に関するお知らせ(ノボ) 7) 【GLP-1受容体作動薬及びGIP/GLP-1受容体作動薬】ダイエット目的での使用に関する注意喚起について(リリー) 2.百日咳患者が前年比3倍に急増、ワクチン接種と耐性菌対応が急務に/厚労省国立健康危機管理研究機構(JIH)によれば、百日咳の感染が全国的に拡大していることが明らかになった。今年の累計患者数は5月初旬時点で1万1,921人に達し、前年(4,054人)の約3倍に上っている。4月21~27日の1週間だけで2,176人の新規患者が報告され、5週連続で過去最多を更新した。新潟県では感染者が全国最多となるなど、各地で過去に例のない規模で流行が続いている。百日咳は細菌による呼吸器感染症で、激しい咳が長期間続き、とくに生後6ヵ月未満の乳児が感染すると重症化して肺炎や脳症、死亡のリスクもある。主な感染経路は飛沫感染で、家庭や学校などでの拡大が指摘されている。今シーズンは、抗菌薬が効きにくい「耐性菌」の感染例も報告されており、治療が難航するケースもある。各自治体では手洗いやマスク着用など基本的な感染対策の徹底を呼びかけており、日本小児科学会は、生後2ヵ月以降の定期接種ワクチンの速やかな実施を推奨。宮城県では追加接種や妊婦へのワクチン接種で母子の抗体を高める対策も紹介されている。10代や小学生を中心とした感染の広がりが目立ち、学校などでの集団感染の可能性も懸念されている。大型連休明けの今後、さらなる拡大を防ぐには、予防接種と日常的な感染対策の両立が鍵となる。 参考 1) 百日せきの累計患者1万人超、5週連続最多…治療薬効きにくい耐性菌が広がったか(読売新聞) 2) 都内の百日咳報告数 連休で前週比3割減 132人、累計は1千人に迫る(CB news) 3) 百日せき ことしの患者が1万人超える 去年1年間の倍以上に(NHK) 4) 百日せき 症状や注意点は? 2025年は流行中 乳児は特に注意を 患者増加で過去最多5週連続に(同) 5) 百日せき感染状況MAP(同) 3.国立大学病院の6割が赤字見通し、医師の働き方改革と物価高が直撃/国立大学病院長会議国立大学病院長会議は2025年5月9日、全国42の国立大学病院のうち6割に当たる25病院が、2024年度決算で赤字になる見通しであると発表した。赤字総額は、前年度の約26億円から大幅に膨らみ、213億円に達する。国立大病院全体として赤字となるのは2年連続となり、経営の悪化が深刻化している。赤字の主な要因は、物価やエネルギー価格の上昇と、「医師の働き方改革」や人事院勧告対応に伴う人件費の急増。2023年度と比較して人件費は284億円増加した一方、診療報酬改定などによる増収は111億円に止まり、コスト増を賄いきれていない。診療材料や医薬品費も20~40%上昇し、高度な医療を提供すればするほど赤字が膨らむ構造となっている。加えて、診療報酬は公定価格で柔軟な調整が難しく、物価高騰に制度が追いついていない状況。赤字幅は一部基金による支援で抑えられたが、根本的な改善には至っていない。大鳥 精司会長(千葉大学病院長)は「診療数を増やしても材料費が高騰しており、やればやるだけ赤字になる」と語り、報酬の引き上げと財政支援の必要性を訴えている。現場ではすでに節約努力が限界に達しており、「あと1~2年で資金が枯渇する病院も出る」との懸念も示された。病院の経営悪化は大学本体の財政にも波及しかねず、国立大病院全体の存続に関わる危機として注視が必要だ。 参考 1) 国立大病院の6割が赤字見通し 2024年度「働き方改革」による人件費増や物価高影響(産経新聞) 2) 国立大病院213億円の赤字、24年度収支 6割の病院が赤字(CB news) 3) 国立大病院、6割が赤字 前年度を大幅に上回る 24年度決算(毎日新聞) 4.子どもの数、過去最少に 出生数減少が深刻化/総務省総務省が子どもの日にあわせて公表した統計によると、今年4月1日時点の15歳未満の子どもの数は1,366万人で、前年より35万人減少し、過去最少を更新した。減少は44年連続で、総人口に占める割合も11.1%と過去最低を記録している。1975年以降、51年連続で割合が低下しており、少子化の進行に歯止めがかかっていないことが鮮明になった。年齢別では、0~2歳が222万人(全体の1.8%)、3~5歳が250万人(2.0%)と、年少層ほど人口が少ない構造が続いている。将来的な労働力や社会保障の担い手が着実に減少していることがうかがえる。都道府県別でもすべての地域で子どもの数が前年を下回り、割合が最も高かったのは沖縄県の15.8%、最も低かったのは秋田県の8.8%だった。少子化は医療や社会保障、教育など多方面に影響を及ぼす。とくに医療では、出生数の減少とともに産婦人科や小児科の診療体制の維持が課題となっており、地方では分娩施設そのものが減少している現状がある。出生率は近年1.3%前後で推移しており、同時に65歳以上の高齢者が総人口の29%を超える中、医療ニーズの変化への対応も急務となっている。地域における出産医療の体制は、今後さらに集約・再編が進むとみられ、自治体による子育て支援や住環境整備といった包括的な政策とあわせて、医療資源の再配分と効率的な活用が要望されている。また、医療関係者にも、地域の実情を踏まえた持続可能な体制構築への関与が求められている。 参考 1) 我が国のこどもの数-「こどもの日」にちなんで-(総務省) 2) 15歳未満の子ども数は44年連続、人口に占める子どもの割合は51年連続で減少-総務省(Gem Med) 3) 子どもの数1,366万人、44年連続減で最低更新 1,400万人割る(日経新聞) 4) 15歳未満の子ども、人口の11.1%に 日本で進む人口危機(CNN) 5) 「世界一安全」な医療が崩れる!? 少子化に苦しむ“産婦人科”「出産費用の保険適用化」がもたらす“負”のシナリオとは(弁護士JPニュース) 6) 地元の病院で産めない…なぜ?いま何が?(NHK) 7) 子どもの数 44年連続減少 手厚い住宅支援に取り組む自治体も(同) 5.地方公務員の医師が無許可で副業、2,740万円報酬で免職/静岡県静岡県は2025年5月9日、健康福祉部の男性理事(62)を、地方公務員法に違反する無許可の兼業行為により懲戒免職とした。部長級職員の懲戒免職は県政史上初めてとなる。理事は、2019年10月~2024年12月までの約5年間、県外の複数の医療機関で診療業務に従事し、25の医療法人から計約2,740万円の報酬を得ていた。理事は県職員であることを伏せ、有給休暇などを使って少なくとも310日勤務。内部通報により発覚し、県が調査を進めたが、本人は一貫して否定。しかし、医療機関への聞き取りなどで事実が判明した。理事は2021年にも同様の無許可診療で文書訓告を受けていたが、再発し、反省もみられなかったことから、最も重い懲戒免職処分とされた。医師は医療提供体制や災害医療、医師確保事業の中核を担っており、県庁内では「県民への裏切り」との批判とともに「穴は大きい」との懸念も出ている。県は税務署や警察にも情報提供し、後任には地域医療課技監を専任配置した。地方公務員についても兼業を原則容認する国の方針はあるが、現状、地方公務員法第38条では今も営利活動には許可が必要であり、無許可の副業は懲戒対象となる。今回の事例は制度の運用とモラル両面での課題を浮き彫りにしている。 参考 1) 兼業許可得ず診療 医師免許持つ静岡県幹部職員を懲戒免職(NHK) 2) 静岡県理事を無許可兼業で懲戒免職…県外の医療機関に勤務、部長級の懲戒免職処分は県政史上初(読売新聞) 3) 副業で計2,740万円あまりの収入…医師免許を持つ県幹部が兼業許可を受けずに県外の医療機関で診療業務に従事し報酬得る 複数の医療法人から給与の受領も 事情聴取に事実を否定も懲戒免職(テレビ静岡) 4) 地方公務員の兼業について(総務省) 5) 地方公務員の兼業・副業促す 総務省が自治体に基準明示(日経新聞) 6.「逆子」施術で医療事故、書類送検の医師に謝罪なし/京都府京都第一赤十字病院(京都市東山区)で、「逆子」の胎児に対して行われた医療行為に関して、施術を担当した50代の男性医師が業務上過失傷害の疑いで京都府警に書類送検された。医師は2020年12月、当時妊娠中だった女性(当時37歳)に対し、腹部を圧迫して胎児を正常な向きに戻す「外回転術」を2度実施。その際、胎児が低酸素状態に陥ったにもかかわらず、緊急帝王切開などの適切な処置を怠った疑いが持たれている。その後、女性は別の医師による帝王切開で出産したが、生まれた男児(現在4歳)は脳の大部分に損傷を受け、脳性麻痺などの重度障害が残った。母親は2023年7月、医師を刑事告訴。京都府警が捜査を進めていた。病院側は「医療過誤があった」と認め、再発防止に取り組むとしているが、医師個人からの謝罪はなく、すでに同病院を退職し、他の医療機関に勤務しているという。母親は「息子の人生にどれほど重いものを残したか。正面から受け止めてほしい」「この件が医療の在り方を見直すきっかけになれば」とコメントしている。今回の事案は、出産医療におけるリスク対応と説明責任のあり方を問い直す事例となっている。 参考 1) 逆子の治療で重い障害負わせた疑い、医師を書類送検(朝日新聞) 2) 「逆子矯正」で胎児に障害、適切な処置怠った疑いで医師を書類送検(読売新聞) 3) 逆子の胎児を回転処置で低酸素状態に 帝王切開せず脳性まひなど障害残す 医師を書類送検(産経新聞)

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単純性淋菌感染症、新規抗菌薬gepotidacinが有効/Lancet

 gepotidacinは、細菌のDNA複製を阻害するファーストインクラスの殺菌作用を持つトリアザアセナフチレン系抗菌薬。英国・Birmingham University Hospitals NHS Foundation TrustのJonathan D. C. Ross氏らは「EAGLE-1試験」において、泌尿生殖器の単純性淋菌(Neisseria gonorrhoeae)感染症の治療では、細菌学的治療成功に関して本薬はセフトリアキソン+アジスロマイシン併用療法に対し非劣性で、新たな安全性の懸念は認めないことを示した。研究の成果は、Lancet誌2025年5月3日号で報告された。6ヵ国の第III相無作為化実薬対照非劣性試験 EAGLE-1試験は、泌尿生殖器の単純性淋菌感染症の治療における経口gepotidacinの有効性と安全性の評価を目的とする第III相非盲検無作為化実薬対照非劣性試験であり、2019年10月~2023年10月に6ヵ国(オーストラリア、ドイツ、メキシコ、スペイン、英国、米国)の49施設で患者を登録した(GSKなどの助成を受けた)。 年齢12歳以上、体重45kg以上で、臨床的に泌尿生殖器の単純性淋菌感染症が疑われるか淋菌検査陽性、あるいはこれら両方の患者を対象とした。被験者を、gepotidacin 3,000mg経口投与(10~12時間間隔で2回)を受ける群(314例)、またはセフトリアキソン500mg筋肉内投与+アジスロマイシン1g経口投与を受ける群(併用群、314例)に無作為に割り付けた。 有効性の主要エンドポイントは細菌学的治療成功とし、治癒判定(test-of-cure:TOC)時(4~8日目)の培養で確定された泌尿生殖器部位からのN. gonorrhoeaeの消失と定義した。非劣性マージンは-10%に設定し、細菌学的ITT(micro-ITT)集団で解析した。両群とも淋菌の持続生残は認めない 628例(ITT集団)を登録し、gepotidacin群に314例(平均年齢33.9歳、女性11%)、併用群に314例(33.7歳、11%)を割り付けた。micro-ITT集団は406例で、それぞれ202例(33.2歳、8%)および204例(33.0歳、8%)であり、372例の男性のうち82例(20%)が女性と性交渉する男性(MSW)であったのに対し、290例(71%)は男性間性交渉者(MSM)だった。人種は、白人が74%、黒人またはアフリカ系が15%であった。 micro-ITT集団におけるTOC時の細菌学的治療成功の割合は、gepotidacin群が92.6%(187/202例、95%信頼区間[CI]:88.0~95.8)、併用群は91.2%(186/204例、86.4~94.7)であった(補正後治療群間差:-0.1%[95%CI:-5.6~5.5])。両側95%CIの下限値が非劣性マージン(-10%)を上回ったため、gepotidacin群の併用群に対する非劣性が示された。 また、両群とも、TOC時の泌尿生殖器における淋菌の持続生残(bacterial persistence)は認めなかった。治療関連の重度または重篤な有害事象はない gepotidacin群では、有害事象(74%vs.33%)および薬剤関連有害事象(68%vs.14%)の頻度が高く、主に消化器系の有害事象(67%vs.16%)であった。これらのほとんどが軽度または中等度だった。治療関連の重度または重篤な有害事象は、両群とも発現しなかった。 著者は、「これらの知見は、単純性泌尿生殖器淋菌感染症に対する新たな経口薬治療の選択肢を提供するものである」としている。

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好酸球数高値COPD、メポリズマブで中等度/重度の増悪低減/NEJM

 インターロイキン-5(IL-5)は好酸球性炎症において中心的な役割を担うサイトカインであり、慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の20~40%に好酸球性炎症を認める。メポリズマブはIL-5を標的とするヒト化モノクローナル抗体である。米国・ピッツバーグ大学のFrank C. Sciurba氏らMATINEE Study Investigatorsは、「MATINEE試験」において、好酸球数が高値のCOPD患者では、3剤併用吸入療法による基礎治療にプラセボを併用した場合と比較してメポリズマブの追加は、中等度または重度の増悪の年間発生率を有意に低下させ、増悪発生までの期間が長く、有害事象の発現率は同程度であることを示した。研究の成果は、NEJM誌2025年5月1日号に掲載された。25ヵ国の無作為化プラセボ対照第III相試験 MATINEE試験は、血中好酸球数が高値で、増悪リスクのあるCOPD患者における3剤吸入療法へのメポリズマブ追加の有効性と安全性の評価を目的とする二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2019年10月~2023年8月に25ヵ国344施設で患者を募集した(新型コロナウイルス感染症のため2020年3月23日~6月9日まで募集を中断)(GSKの助成を受けた)。 スクリーニング時に年齢40歳以上で、少なくとも1年前にCOPDの診断を受け、増悪の既往歴を有し、3剤吸入療法(吸入ステロイド薬、長時間作用型β2刺激薬、長時間作用型抗コリン薬)を3ヵ月以上受け、血中好酸球数≧300/μLの患者804例(平均[±SD]年齢66.2[±8.0]歳、女性31%)を修正ITT集団として登録した。 被験者を、4週ごとにメポリズマブ(100mg)を皮下投与する群(403例)、またはプラセボ群(401例)に無作為に割り付け、52~104週間投与した。 主要エンドポイントは、中等度または重度の増悪の年間発生率であった。治療への反応性には差がない 重度増悪の既往歴はメポリズマブ群で22%、プラセボ群で19%の患者に認めた。全体の25%の患者が過去または現在、心疾患の診断を受けており、72%が心血管疾患のリスク因子を有していた。平均曝露期間は両群とも約15ヵ月だった。 中等度または重度の増悪の年間発生率は、プラセボ群が1.01件/年であったのに対し、メポリズマブ群は0.80件/年と有意に低かった(率比:0.79[95%信頼区間[CI]:0.66~0.94]、p=0.01)。 また、副次エンドポイントである中等度または重度の増悪の初回発生までの期間中央値(Kaplan-Meier法)は、プラセボ群の321日と比較して、メポリズマブ群は419日であり有意に長かった(ハザード比:0.77[95%CI:0.64~0.93]、p=0.009)。 治療への反応性(QOLの指標としてのCOPDアセスメントテスト[CAT:0~40点、高スコアほど健康状態が不良であることを示す]のスコアが、ベースラインから52週目までに2点以上低下した場合)を認めた患者の割合は、メポリズマブ群が41%、プラセボ群は46%であり(オッズ比:0.81[95%CI:0.60~1.09])、両群間に有意な差はなかったため、階層的検定に基づきこれ以降の副次エンドポイントの評価に関して統計学的検定を行わなかった。MACEは両群とも3例に発現 投与期間中およびその後に発現した有害事象の割合は、メポリズマブ群で75%、プラセボ群で77%であった。投与期間中に発生した重篤な有害事象・死亡の割合はそれぞれの群で25%および28%であり、投与期間中およびその後の死亡の割合は両群とも11%(3例)だった。投与期間中およびその後に発生した主要有害心血管イベント(MACE:心血管死、非致死性の心筋梗塞・脳卒中、致死性または非致死性の心筋梗塞・脳卒中)は、両群とも11%(3例)に認めた。 著者は、「これらの知見は、ガイドラインに基づく維持療法のみを受けている患者に対して、メポリズマブ治療は付加的な有益性をもたらすことを示している」「先行研究と本試験の結果を統合すると、選択されたCOPD患者における2型炎症を標的とする個別化治療の妥当性が支持される」「増悪関連のエンドポイントはメポリズマブ群で良好であったが、CAT、St. George's Respiratory Questionnaire(SGRQ)、Evaluating Respiratory Symptoms in COPD(E-RS-COPD)、気管支拡張薬投与前のFEV1検査で評価した治療反応性は両群間に実質的な差を認めなかったことから、これらの原因を解明するための調査を要する」としている。

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大惨事はがんの診断数を減少させる

 自然災害やパンデミックなどの大惨事は、がんによる死者数の増加につながるかもしれない。新たな研究で、ハリケーン・イルマとハリケーン・マリアが2週間間隔でプエルトリコを襲った際に、同国での大腸がんの診断数が減少していたことが明らかになった。このような診断数の低下は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの発生直後にも認められたという。プエルトリコ大学総合がんセンターのTonatiuh Suarez-Ramos氏らによるこの研究結果は、「Cancer」に4月14日掲載された。 米国領プエルトリコでは、2017年9月初旬に超大型ハリケーン・イルマが島の北を通過したわずか2週間後に、カテゴリー5の最強ハリケーン・マリアが上陸し、甚大な被害を出した。当時、稼働していた病院はほとんどなく、高い貧困率などが原因ですでに制限されていた医療へのアクセスがさらに悪化した。さらに2020年にはCOVID-19パンデミックが発生した。政府が実施した厳格なロックダウン政策は、感染の抑制には効果的だったが、医療サービスの利用低下につながった。 Suarez-Ramos氏らは、このような大規模イベント発生による医療システムの混乱により、プエルトリコで2番目に多いがんである大腸がんの検診へのアクセスが制限され、それががんの早期発見の妨げとなった可能性があるのではないかと考えた。それを調べるために同氏らは、プエルトリコ中央がん登録簿の2012年1月1日から2021年12月31日までのデータを入手し、ハリケーン・イルマとハリケーン・マリアおよびCOVID-19パンデミックの発生直後および発生期間中に大腸がんの診断数がどのように変化したかを調査した。 その結果、2つのハリケーンがプエルトリコを襲った2017年9月の大腸がんの診断数は82件だったことが明らかになった。ハリケーンがなかった場合に想定された診断数は161.4件であり、統計モデルにより、ハリケーンによる即時の影響として診断数が28.3件減少したと推定された(17.5%の減少に相当)。 一方、パンデミック発生に伴うロックダウン後(2020年4月)の大腸がん診断数は50件であった。ロックダウンがなかった場合に想定された診断数は162.5件であり、統計モデルにより、ロックダウンにより診断数は即時的に39.4件減少したと推定された(24.2%の減少に相当)。 2021年12月の研究終了時点でも、早期大腸がんの診断数と50~75歳での診断数は、想定される診断数に達していなかった。また、末期大腸がんの診断数と、50歳未満および76歳以上の診断数は、想定される診断数を上回っていた。 論文の筆頭著者であるSuarez-Ramos氏は、「これらの調査結果は、ハリケーンの襲来やパンデミックの発生により医療へのアクセスが制限されたことが原因でがんの発見が遅れ、患者の健康状態が悪化した可能性があることを示唆している」とニュースリリースの中で述べている。研究グループは、このようなスクリーニング検査の混乱により、「将来的には、大腸がんが進行してから検出される患者が増え、生存率が低下する可能性がある」と危惧を示している。 米国地質調査所によると、気候変動による気温上昇により、より激しい嵐や壊滅的な山火事の発生が増え、海面上昇も進んでいるという。論文の上席著者であるプエルトリコ大学のKaren Ortiz-Ortiz氏は、「医療制度はこうした災害下でも人々が必要ながんの検査を受けられる方法を見つけておく必要がある。われわれの最終的な目標は、危機的状況下でも医療システムの回復力とアクセス性を高めること、また、人々がより長くより健康的な生活を送れるように支援することだ」とニュースリリースの中で語っている。

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第261回 なぜ鳥居薬品を?塩野義製薬の買収戦略とは

製薬業界は世界的に見ると、再編が著しい業界である。いわゆる老舗の製薬企業同士の合併・買収という意味では、2020年の米国・アッヴィによるアイルランド・アラガンの買収が近年では最新の動きと言えるだろうが、欧米のメガファーマによるバイオベンチャー買収は日常茶飯事の出来事と言ってよい。これに対し日本の製薬企業でも、上位企業によるメガファーマ同様のバイオベンチャー買収が一昔前と比べて盛んになったことは事実だ。ただ、新薬開発能力のある製薬企業は売上高で4兆円超の武田薬品を筆頭に下は500億円規模まで約30社がひしめく、世界的に見ても稀なほど“過密”な業界でもある。このためアナリストなどからは、1990年代から判で押したように「国内再編が必至」と言われてきた。その中で国内の製薬企業同士の合併や経営統合などが盛んだったのが2005~07年にかけてである。藤沢薬品工業と山之内製薬によるアステラス製薬、第一製薬と三共による第一三共、大日本製薬と住友製薬による大日本住友製薬(現・住友ファーマ)、田辺製薬と三菱ウェルファーマによる田辺三菱製薬はいずれもこの時期に誕生している。上場製薬企業あるいは上場企業の製薬部門の合併で言うと、もっとも直近は2008年の協和発酵キリン(現・協和キリン)だろう。あれから15年間、国内製薬企業は“沈黙”を続けてきたが、それが突如破られた。ゴールデンウイーク明けのつい先日、5月7日に塩野義製薬が「日本たばこ産業(JT)の医薬事業を約1,600億円で買収する」と発表したのだ。JTと鳥居薬品の歴史JTの医薬事業というのはやや複雑な構造をしているが、それを解説する前にJTの沿革について簡単に触れておきたい。JTはかつてタバコ・塩・樟脳(しょうのう)※の専売事業を行っていた旧大蔵省外局の専売局が外郭団体・日本専売公社として分離独立し、それが1985年に民営化されて誕生した。すでに1962年に樟脳の専売制度は廃止され、民営化時点ではタバコと塩の専売事業を引き継いだが、塩の製造販売は1997年に自由化され、すでにJTの手を離れている。※クスノキの根や枝を蒸留して作られ、香料や医薬品、防虫剤、セルロイドなどの原料となる。ただ、民営化直後からたばこ事業の将来性には一定のネガティブな見通しは持っていたのだろう。民営化直後から事業開発本部を設置し、1990年7月までに同本部を改組し、医薬、食品などの事業部を新設。1993年9月には医薬事業の研究体制の充実・強化を目的に医薬総合研究所を設置した。ただ、衆目一致するように医薬、いわゆる製薬事業は自前での研究開発から製品化までのリードタイムは最短で10数年とかなり気の長い事業である。そうしたことも影響してか、1998年に同社は国内中堅製薬企業の鳥居薬品の発行済株式の過半数を、株式公開買付(TOB)により取得し、連結子会社化した。子会社化された鳥居薬品は国内製薬業界では中堅でやや影が薄いと感じる人も少なくないだろうが、1872年創業の老舗である。たぶん私と同世代の医療者は同社の名前から連想するのは膵炎治療薬のナファモスタット(商品名:フサンほか)や痛風・高尿酸血症治療薬のベンズブロマロン(商品名:ユリノームほか)だろうか? 近年では品薄で供給制限が続いているスギ花粉症の減感作療法薬であるシダキュアが有名である。JTによる買収後は、研究開発機能がJT側、製造・販売が鳥居薬品という形で集約化されていた。余談だが、私が専門誌の新人記者だった頃、当時の上司は“鳥居薬品は研究開発力が高く、将来の製薬企業再編のキーになる”ことを予言していた…。塩野義の買収計画さて、今回の塩野義によるJT医薬事業の買収は以下のようなスキームだ。現在、鳥居薬品の株式の54.78%はJTが保有し、残る45.22%が株式市場で売買されている。まず、塩野義はこの45.22%を2025年5月8日~6月18日までの期間、1株6,350円、総額約807億円でTOBする。これが終了した後に鳥居薬品のJT持ち株分を鳥居薬品自身が約700億円で取得し、9月までの完全子会社化を目指す。この後さらに2025年12月までにJT医薬事業は会社分割して54億円で塩野義、JTの米国・子会社のAkros Pharmaを36億円で塩野義の米国・子会社Shionogi Incがそれぞれ買収する。JTの医薬事業は塩野義に吸収されるが、米Akros Pharma社はShionogi Incの完全子会社となる。なぜJTを?今回の買収は、昨年、塩野義からJTに対しオファーがあったことから始まったという。会見後に塩野義製薬代表取締役社長の手代木 功氏にこの点を尋ねたところ、「ここ数年、低分子創薬領域でのメディシナルケミスト(創薬化学者)の確保を念頭に薬学部だけでなく、農学部など幅広い領域への浸透を図り、米国・カリフォルニア州サンディエゴに細菌感染症治療薬の研究開発拠点の開設も目指していた。しかし、昨年買収したキューペックス社でも人材確保が思うように進まなかった」とのこと。そうした中でメディシナルケミストの層が厚いJTグループに注目したのがきっかけだったと話した。また、手代木氏はJT・鳥居の研究開発拠点が横浜市と大阪府高槻市にあり、とくに後者は塩野義の研究開発拠点である大阪府豊中市に近いことも大きな利点だったと語った。実際、会見の中でも手代木氏は「(研究拠点の近さも)大きなリストラなく進められる。研究所勤務者は異動、転勤などに不慣れだが、ここも非常にフィットすると考えた」と強調した。この辺は、研究開発畑出身の手代木氏らしい考えでもある。一方のJT側は「近年、新薬創出のハードルが上昇しているうえに、グローバルメガファーマを中心に国際的な開発競争が激化している。当社グループの事業運営では、医薬事業の中長期的な成長が不透明な状況だった」(JT代表取締役副社長・嶋吉 耕史氏)、「JTプラス鳥居という体制でこのまま事業を継続するよりも、より早く、より大きく、より確実に事業を成長させることができるのではないかと考えられた」(鳥居薬品代表取締役社長・近藤 紳雅氏)と語った。このJTと鳥居薬品側の説明は、ある意味、当然とも言える。現在のメガファーマの年間研究開発費は上位で軽く1兆円を超え、日本トップで世界第14位の武田薬品ですら7,000億円。しかし、JT・鳥居薬品のそれはわずか30億円強である。ちなみに塩野義の年間研究開発費は1,000億円超である。もっともメガファーマとの研究開発費規模の違いは、メガファーマの多くが高分子の抗体医薬品に軸足を置いているのに対し、塩野義や鳥居は低分子化合物が中心であるという事情も考慮しなければならない。とはいえ、JT・鳥居に関しては成長のドライバーとなる新薬を生み出す源泉の規模がここまで異なると、もはや「小さくともキラリと光る」ですらおぼつかないと言っても過言ではないのが実状だろう。今後の成長戦略さて今後は買収をした塩野義側がこれを土台にどう成長していくか? という点に焦点が移る。同社は2023~30年度の中期経営計画「STS2030 Revision」で2030年度の売上高8,000億円を目標に掲げている。現在地は2024年3月期決算での4,351億円である。単純計算すると、今回の買収でここに約1,000億円が上乗せされるが、新薬創出の不確実さを踏まえれば、2030年の目標はかなりハードルが高いと言わざるを得ない。しかも、同社は感染症領域が主軸であるため、どうしても製品群が対象とする感染症そのものの流行に業績が左右される。こうしたこともあってか前述の中期経営計画では「新製品/新規事業拡大」を強調し、既存の感染症領域のみならずアンメッド創薬などポートフォリオ拡大を掲げてきた。今回、JT・鳥居を買収することでアレルゲン領域・皮膚疾患領域へとウイングを広げることは可能になった。国内製薬業界では従来から塩野義の営業力への評価は高いだけに、今回の買収で今後のJT・鳥居の製品群の売上高伸長が予想される。とくに鳥居側には現在需要に供給が追い付かずに出荷制限となっている前述のシダキュアがあり、皮膚領域では2020年に発売されたばかりだが業績が好調なアトピー性皮膚炎治療薬のJAK阻害薬の外用剤・デルゴシチニブ(商品名:コレクチム軟膏)もある。塩野義と言えば、アトピー性皮膚炎治療薬ではある種の定番とも言われるステロイド外用薬のベタメタゾン吉草酸エステル(商品名:リンデロンVクリームほか)を有している企業でもある。実際、手代木氏も会見で「皮膚領域は今でこそそこまで強くないものの、かつてはステロイド外用薬の企業として一世を風靡し、現状でもそれなりの取り扱いはあり、このあたりの営業のフィットも非常に良い」と述べた。とはいえ、現状の両社業績をベースにJT・鳥居の製品群に対する塩野義の営業力強化を折り込んでも今後2~3年先までは売上高6,000億円規模ぐらいが限界ではないだろうか? その意味では同社が8,000億円という目標に到達するには、今後上市される新製品の売上高をかなりポジティブに予想しても、もう一段の再編は必要になるかもしれない。一方、何度も手代木氏が強調した研究開発力の強化では、塩野義の100人プラスアルファというメディシナルケミスト数にJTグループの約80人が組み込まれ、「全盛期の数にもう一度戻れる」(手代木氏)ことを明らかにするとともに、自社の研究開発リソースでは強化が及ばなかった免疫領域・腎領域にも手が届くようになるとも語った。同時に手代木氏が会見の中で語ったのは買収に至るデューディリジェンスでわかったJTのAI創薬と探索研究のレベルの高さである。「AI創薬のプラットフォームは正直に言って当社よりはるかに上で、日本の中でも相当進化している。当社の人間が見させていただいてすぐにでも一緒にやりたいと言ったほど。また、JTはフェーズ2ぐらいでのメガカンパニーへのライセンス・アウトを念頭にどうやったらそれが可能か意識をした前臨床・初期臨床試験を進めている。この点では多分当社より上を行く」以前の本連載でも私自身は日本の製薬業界は低分子創薬の世界ですらもはや後進国になりつつあると指摘したが、今回、手代木氏は“新生”塩野義製薬について「“グローバルでNo.1の低分子創薬力”を有する製薬企業となる」と大きなビジョンを掲げた。今回の件が国内製薬企業の再編へのきっかけと低分子創薬の復権につながるのか? 慎重に見守っていきたいと思う。参考1)JT

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尋常性ざ瘡の短時間接触療法薬「ベピオウォッシュゲル5%」【最新!DI情報】第38回

尋常性ざ瘡の短時間接触療法薬「ベピオウォッシュゲル5%」今回は、尋常性ざ瘡治療薬「過酸化ベンゾイル(商品名:ベピオウォッシュゲル5%、製造販売元:マルホ)」を紹介します。本剤は、わが国初の尋常性ざ瘡の短時間接触療法薬であり、外用薬の患部への接触を短時間にすることで、副作用を軽減しながら治療効果を発揮することが期待されています。<効能・効果>尋常性ざ瘡の適応で、2025年3月27日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>1日1回、洗顔後、患部に適量を塗布し、5~10分後に洗い流します。<安全性>副作用として、紅斑(5%以上)、皮膚剥脱(鱗屑・落屑)、刺激感、そう痒、皮膚炎、接触皮膚炎(アレルギー性接触皮膚炎を含む)、びらん、皮脂欠乏性湿疹、AST増加(いずれも5%未満)、乾燥、湿疹、蕁麻疹、間擦疹、乾皮症、脂腺機能亢進、腫脹、ピリピリ感、灼熱感、汗疹、違和感、皮脂欠乏症、ほてり、浮腫、丘疹、疼痛、水疱、口角炎、眼瞼炎、白血球数減少、白血球数増加、血小板数増加、血中ビリルビン増加、ALT増加、血中コレステロール減少、血中尿素減少、呼吸困難感(いずれも頻度不明)があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、にきび(尋常性ざ瘡)を治療する塗り薬です。2.にきびの原因菌(アクネ菌など)が増えるのを抑え、にきびの原因となる毛穴のつまりを改善します。3.1日1回、洗顔後、患部に塗布し、5~10分後に洗い流してください。眼、口唇、その他の粘膜や傷口は避けてください。4.この薬には漂白作用があるので、髪や衣料などに付着しないように注意してください。5.この薬を使用中は、強い日光に当たるのをなるべく避けるようにしてください。6.過敏反応や強い皮膚刺激症状が現れたときは使用を中止し、医師または薬剤師に相談してください。<ここがポイント!>尋常性ざ瘡は、一般的に「にきび」として知られる炎症性疾患です。好発部位は顔面や胸背部などの脂漏部位で、思春期以降に発生しやすく、病因にはホルモンバランスの乱れ、皮脂の過剰産生、角化異常、Cutibacterium acnes(C. acnes)などの細菌の増殖が複雑に関与しています。過酸化ベンゾイルは強力な酸化作用を持ち、尋常性ざ瘡の原因菌であるC. acnesなどの細菌に対する抗菌作用と、閉塞した毛漏斗部での角層剥離作用を有しています。国内では2.5%のゲルおよびローション製剤が販売されていますが、1日1回洗顔後に患部に塗布する必要があり、刺激やかぶれなどの副作用に加え、衣類に対する脱色作用に注意が必要です。本剤は、国内初の短時間接触療法(Short contact therapy)用ゲル製剤であり、既承認医薬品のゲル製剤(商品名:ベピオゲル2.5%)の新用量医薬品として開発されました。本剤は過酸化ベンゾイルを5%含有しており、外用薬の患部への接触を短時間にすることで副作用を軽減しながら治療効果を発揮します。商品名に「ウォッシュ」とあるように、1日1回、洗顔後に患部に塗布したのち、5~10分後に洗い流すという用法が特徴です。本剤は、高濃度の主薬成分を含む製剤を塗布部位から手早く除去できるように、洗浄力の高いアニオン性界面活性剤2種類を配合しています。顔面に尋常性ざ瘡を有する患者を対象とした第III相プラセボ対照試験(M605110-05試験)において、主要評価項目である治療開始12週後のベースラインからの総皮疹数の減少率(最小二乗平均値)は、本剤群55.90%(両側95%信頼区間:49.89~61.90)であり、プラセボ群の43.85%(38.06~49.64)と比較して統計学的に有意な差が認められました。この結果により、プラセボ群に対する本剤群の優越性が検証されました。

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