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第40回 「5類新型コロナ」の出勤停止は何日間?

意外にも政府は「5日間」を推す形にインフルエンザには、学校保健安全法において「発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日(幼児にあっては3日)を経過するまで」という細かい規定があり、学校だけでなく、企業でもこれを用いて運用しているケースが多いと思います。新型コロナが「5類感染症」になった後、これまであった「療養期間はなしになる」という理解が広まっていますが、さすがにそれはないでしょう。たぶん。ゴホゴホ咳をして3日目で出勤されたら、いくら何でも迷惑というものですが、政府からは、どういうわけか「5日間」という提案がなされているようです。現在はまだ新型インフルエンザ等感染症のもとにあるため、感染症法に基づいて、症状がある人は7日間が経過し症状軽快から24時間経過した場合、無症状の人は5日目に検査キットで陰性が確認できたら6日目から解除可能、と定められています。有症状だと、インフルエンザより2日間長いくらい対応しないと、感染が広がりやすいという認識だったのです。それがどういうわけか、インフルエンザと同様「5日間」ということになりそうです。PCRで新型コロナ陽性が確定した後、感染性の新型コロナウイルスが検出されなくなるまでの期間は、オミクロン株で中央値5日間とされています1)。また、国立感染症研究所のデータでは10日を超えての感染リスクは低いとされています2)。7日間というのはちょうどこの間くらいの位置で、全員が感染させないというわけではない点に注意が必要です。発症後7日目には、幾何平均ウイルス力価が検出限界値を下回るというデータも直近示されており3)、CDCも現時点では療養期間は5日間としています。現状、いくらインフルエンザと同じ「5類感染症」に移行するとはいえ、同じようなウイルスだからということで5日間に短縮するとなると、それなりのリスクを抱えることになるかもしれません。学校保健安全法に明記される方針であり、近々厚労省から「5類」後の療養期間について正式な発表があるでしょう。医療機関で働く人の場合、感染の危険性にさらされるのは患者さんですから、個々の病院で検討されてもよいかもしれません。濃厚接触者の概念は新型コロナの濃厚接触者の自宅待機期間は5日間とされていました。しかしもはや、濃厚接触者かどうかなどあまり気にされていないムードになっていて、これについては「5類」化によって消失するのではないかと思います。濃厚に曝露した人は注意してください、くらいの文言になるかもしれません。参考文献・参考サイト1)Boucau J, et al. N Engl J Med. 2022;387:275-277.2)国立感染症研究所:SARS-CoV-2 オミクロン株感染による新型コロナウイルス感染症の積極的疫学調査(第6報):ウイルス学的・血清学的特徴3)国立感染症研究所:オミクロン系統感染者鼻咽頭検体中の感染性ウイルスの定量

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コロナ入院患者のヘパリンによる治療効果、重症度・BMIで差/JAMA

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)入院患者において、治療量ヘパリン投与の効果にばらつきがあることが、カナダ・トロント総合病院のEwan C. Goligher氏らにより示された。治療効果の異質性(HTE)を3つの手法で評価した結果、入院時の重症度が低い人やBMI値が低い人では有益である可能性があるが、重症度が高い人やBMI値が高い人では有害となる可能性が高かったという。これまでに行われたCOVID-19入院患者を対象とした治療量ヘパリンに関する無作為化臨床試験(RCT)では相反する結果が示されており、個人間のHTEが原因ではないかとみなされていた。結果を踏まえて著者は、「RCTのデザインおよび解析では、HTEを考慮することが重要であることが示された」とまとめている。JAMA誌2023年4月4日号掲載の報告。治療効果の異質性を3つの手法で評価 研究グループは2020年4月~2021年1月に、北米、南米、欧州、アジア、オーストラリアで、COVID-19で入院した3,320例を登録し、治療量ヘパリン vs.通常ケアの薬物療法による血栓予防効果を比較した複数プラットフォーム適応型RCTについて、探索的解析を行った。また、治療量ヘパリンのHTEについて、(1)ベースライン特性の従来型サブグループ解析、(2)多変量アウトカム予測モデル(リスクベースのアプローチ)、(3)多変量因果フォレストモデル(効果ベースのアプローチ)の3つの方法で評価した。解析は、オリジナル試験と一貫したベイジアン統計を主として用いた。 主要アウトカムは、臓器支持療法を必要としない日数(入院中死亡は-1とし、退院まで生存した場合は、最大21日のうち心血管系・呼吸器系の臓器支援が不要だった日数)と、入院生存率だった。複数プラットフォームRCT集団では、治療量ヘパリンの効果認められず 治療量ヘパリン群と通常ケア群のベースラインの人口統計学的特性は似かよっており、年齢中央値は60歳、女性は38%、32%が非白人種、45%がヒスパニック系だった。 複数プラットフォームRCT集団では、治療量ヘパリンによる臓器支持療法を必要としない日数の増大は認められなかった(オッズ比[OR]の事後分布中央値:1.05、95%信用区間[CrI]:0.91~1.22)。 従来型サブグループ解析では、治療量ヘパリンの臓器支持療法を必要としない日数に対する効果は、ベースラインの臓器支持療法の必要性(OR中央値:重症0.85 vs.軽症1.30、OR差の事後確率99.8%)、性別(同:女性0.87 vs.男性1.16、96.4%)、BMI(30未満 vs.30以上、すべての比較において>90%)で差が認められた。 リスクベースの解析では、予後不良リスクが最も低い患者がヘパリンによる便益を得られる傾向が最も高く(最低十分位群:>1のORの事後確率92%)、予後不良リスクが最も高い患者がヘパリンによる害を受ける傾向が最も高かった(最高十分位群:<1のORの事後確率87%)。 効果ベースの解析では、害を受けるリスクが最も高い患者(治療効果の差に関するp=0.05)はBMI値が高く、ベースラインで臓器支持療法を要する可能性が高い傾向が認められた。

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妊婦への2価RSVワクチン、乳児の重症下気道感染を予防/NEJM

 妊婦への2価RSV融合前F蛋白ベース(RSVpreF)ワクチン投与は、乳児において診察を要する重症の呼吸器合胞体ウイルス(RSV)関連下気道感染症に対し予防効果があり、安全性への懸念は示されなかった。英国・ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のBeate Kampmann氏らが、約7,400例の妊婦とその出生児を対象に行った第III相二重盲検プラセボ対照無作為化試験の結果を報告した。これまで、同ワクチンの妊婦への投与の効果は不明であった。NEJM誌オンライン版2023年4月5日号掲載の報告。18ヵ国で49歳以下の健康な妊婦を対象に試験 研究グループは18ヵ国で、妊娠24~36週、49歳以下の健康な妊婦を対象に試験を行った。被験者を無作為に2群に割り付け、一方には2価RSVpreFワクチン(120μg)を、もう一方にはプラセボをいずれも単回筋肉内投与した。 有効性の主要エンドポイントは2つで、生後90日、120日、150日、180日以内の乳児における、診察を要した重症RSV関連下気道感染症と、診察を要したRSV関連下気道感染症だった。 ワクチンの有効性を示す信頼区間(CI)下限値(90日以内が99.5%CI値、それ以降は97.58%CI値)は20%超と規定した。有害事象発生率は両群で同等 2020年6月17日~2022年10月2日に7,392例の妊婦が無作為化され、そのうち7,358例(RSVpreFワクチン群3,682例、プラセボ群3,676例)が接種および評価を受けた。乳児についてはRSVpreFワクチン群3,570例とプラセボ群3,558例が組み込まれた。 本論は事前規定の中間解析の結果を示すもので、主要エンドポイントの1つに関して、ワクチンの有効性を示す基準が満たされた。 生後90日以内の、診察を要した重症RSV関連下気道感染症は、RSVpreFワクチン群の乳児で6件、プラセボ群では33件だった(ワクチン有効性:81.8%、99.5%CI:40.6~96.3)。同様に生後180日以内では19件と62件だった(ワクチン有効性:69.4%、97.58%CI:44.3~84.1)。 一方で、診察を要したRSV関連下気道感染症については、生後90日以内でRSVpreFワクチン群の乳児24件、プラセボ群56件が報告され(ワクチン有効性:57.1%、99.5%CI:14.7~79.8)、統計学的な有効性を示す基準を満たさなかった。 安全性に関連する兆候は、妊婦および生後24ヵ月までの乳幼児ともに認められなかった。ワクチン投与1ヵ月以内または生後1ヵ月以内に発生した有害事象の発生率は、RSVpreFワクチン群(妊婦13.8%、乳児37.1%)とプラセボ群(13.1%、34.5%)で同程度だった。

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第156回 大阪急性期・総合医療センターがサイバー攻撃の報告書公表、VPNの脆弱性狙われ閉域網破られる、IDとパスワード使い回しで被害拡大

診療システムの全面復旧に73日間を要し、逸失利益十数億円以上こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は足慣らし山行で久しぶりに奥多摩に行って来ました。奥多摩湖から惣岳山、御前山、湯久保山を経て檜原村に下るコース。例年この時期、御前山周辺ではカタクリの花が開花して楽しませてくれるのですが、今年は時期が早いのか遅いのか、花の数が今ひとつでした。カタクリは発芽したときは1枚葉で、この状態が7〜8年続き、葉が2枚になって初めて開花します。そういえば、今年の御前山周辺は1枚葉が多かった印象です。来春、再び訪れてみようと思います。さて、今回は昨年10月31日に起きた地方独立行政法人 大阪府立病院機構・大阪急性期・総合医療センター(大阪市住吉区)でのランサムウエア(身代金要求型ウイルス)によるサイバー攻撃について再度書いてみたいと思います。ランサムウエアによるサイバー攻撃によって発生したシステム障害によって、診療の停止を長期間余儀なくされた同センターは3月28日、外部有識者による情報セキュリティインシデント調査委員会(委員長・猪俣 敦夫大阪大教授)の報告書を公表しました1)。委託先の給食事業者経由で病院サーバの認証情報が抜き取られ、病院内のシステムが攻撃を受けたことや、基幹システムのサーバの大部分がランサムウエアによって暗号化されてしまい、診療システムの全面復旧に73日間を要したことなど、被害の詳細が明らかになりました。報告書では、電子カルテを含む基幹システムが同じIDとパスワードを使い回す状態であったことが被害拡大を招いたとも指摘しています。被害総額は現在精査中としながらも「調査・復旧費用で数億円、診療制限に伴う逸失利益として十数億円以上を見込んでいる」としています。診療体制の完全復旧まで73日かかるこの事件については発生当初、本連載の「第135回 大阪急性期・総合医療センターにサイバー攻撃、『身代金受け取った』報道の町立半田病院の二の舞?」でも書きました。経緯を簡単に振り返っておきましょう。事件は2022年10月31日の早朝に発覚しました。午前6時40分ごろ、職員がサーバの障害に気づき、同8時半ごろ、業者の調査でランサムウエアの攻撃と判明しました。サーバ上の画面には英語で「すべてのファイルは暗号化された。復元したければ、指定のアドレスにメールを送りビットコインで支払え。金額はメールを送る時間で変わる」という文面と、データに対する「身代金」を要求するメッセージが表示されていました。同センターは「金銭を支払う考えはない」としてすぐに大阪府警に相談、同日夜に記者会見を行いました。同センターは、システム障害によって患者の電子カルテが閲覧できず、診療報酬の計算ができない状態に陥り、外来診療を中止、緊急以外の予定手術は延期となりました。電子カルテシステムを含む基幹システムが再稼働し、外来での電子カルテ運用が再開したのは約6週間後でした。病棟での電子カルテ運用の再開は12月、2023年1月11日に通常診療にかかわる部門システムが再開し、診療体制が完全復旧しました。ランサムウエア感染から実に2ヵ月以上、73日が経っていました。中核のサーバはすべて同じパスワードを使い回し報告書によれば、ウイルスは外部の給食事業者のVPN(仮想プライベートネットワーク)から侵入し、事業者側のサーバと常時接続されていたセンター側の給食管理用サーバに入り込んだとのことです。給食事業者のシステムは、配食数や食事内容を管理するもので、病院のネットワークや電子カルテシステムと常時つながっており、病院はこのネットワークを利用し、糖尿病などの患者の食事内容を事業者に伝えていました。さらに、電子カルテのシステムを構成する中核のサーバはすべて同じパスワードを使い回しており、ウイルス対策ソフトも導入されていませんでした。このためウイルスの侵入から、適切な対応がとられるまでの5時間弱の間に感染が急拡大し、約20台のサーバでデータが暗号化されてしまったとのことです。3月26日付の朝日新聞の報道によれば、電子カルテのシステムはNEC(日本電気)が構築したものでした。センター側から閉域網(外部のインターネットと完全に切り離された閉じられたネットワーク)であるとの説明を受けていた同社は「利便性などを考慮し、同じパスワードを使うことも可能だ」と提案、採用されていたとのことです。同紙によれば、NECは事件発覚後の昨年11月、同じ電子カルテを使う全国280の病院を調査しました。その結果、半数以上の病院で同様の使い回しが判明しました。その後、パスワードの変更やほかのセキュリティ対策を順次進めているとのことです。サイバー攻撃を受けた根本原因が「VPN装置の脆弱性を狙われ閉域網が破られた」という点は、一昨年10月の徳島県つるぎ町の町立半田病院(「第118回 ランサムウエア被害の徳島・半田病院報告書に見る、病院のセキュリティ対策のずさんさ」参照)とまったく同じです。ちなみに、給食事業者のVPN機器も町立半田病院と同じ製品で、この事業者もソフトウエアの更新を怠っていました。病院もセキュリティ意識を高く持ち組織的な取り組みが必要今回公表された75ページにも及ぶ報告書は、専門外の人間にはいささか読むのが大変です。ただ、幸いなことに7枚のスライドにまとめられた概要版も用意されているので、医療機関の経営者や幹部の方は、こちらには一度目を通しておいた方がいいと思われます。報告書では、サイバー攻撃を許してしまったセキュリティ上の課題を「技術的発生要因」 「組織的発生要因」「人的発生要因」に分けて分析、予防に向けた提案をしている点が参考になります。「技術的発生要因」については、外部接続(リモートメンテナンス)の管理不備と内部のセキュリティの脆弱性を指摘、「組織的発生要因」については、ガバナンスの欠如とベンダーとの契約に関するさまざまな問題を指摘しています。「人的発生要因」では、ベンダーに対してはシステムや機器を提供する専門家として、サイバーセキュリティの知識と経験向上に努めるべきと提案、病院に対してもセキュリティ意識を高く持ち、組織的にシステムや機器の導入および運用を心掛けた取り組みが必要だ、としています。「国はガイドラインや法整備、財源の確保など、その役割はますます重要」と提言さらに報告書は、国に対する要望もまとめています。そこでは、「国においては、ガイドラインや法整備、財源の確保など、その役割はますます重要」「国においては、医療機関へのサイバー攻撃を災害の一つとして捉え、その支援対策を充実させるなど、患者が安全安心に医療を受けられるよう、更なる取り組みの推進が必要」など、国が主導して医療機関のセキュリティ対策に取り組むべきだと要望しています。医療機関にとってセキュリティ対策は頭が痛い問題実際、医療機関にとってはセキュリティ対策の人材確保や、そのための予算確保はなかなか頭が痛い問題のようです。自民党の「医療分野のデジタルセキュリティ対策推進プロジェクトチーム」は3月28日に初会合を開き、医療機関のセキュリティ対策について、厚生労働省、日本医師会などにヒアリングを行いました。この席で日本医師会は提出資料で、医療機関が十分なセキュリティ対策をとれていない背景として、「医療関係者が教育を受けていない」「大部分の医療機関には専門家がいない」「対策の財源がない」と指摘、「必要となるセキュリティ対策にかかる費用は本来、国が全額負担すべき」と訴えています。厚労省、警察庁もサイバー攻撃対策に本腰町立半田病院、大阪急性期・総合医療センターなどのサイバー攻撃をきっかけとして、国側の動きも急となってきています。3月30日、厚生労働省は、「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第6.0版」の案を公表、パブリックコメントの募集を始めました2)。同ガイドラインはこれまで、本編と別冊で構成されていましたが、今回の改定では、概説、経営管理、企画管理、システム運用の計4編の構成に変更されています。たとえば、システム運用編には、パソコンやVPN機器などの脆弱性や、ランサムウエアによるサイバー攻撃などに関する対策が明記されており、バックアップデータを保存した記録媒体を、端末やサーバ装置、ネットワークから切り離して保管するといった対策を求める内容となっています。同ガイドラインは、4月28日までパブリックコメントを募集し、5月中旬に公表する予定です。警察庁もサイバー攻撃被害に関する情報収集を強化する方針です。4月6日に開かれた警察庁の有識者会議の報告書の提言を基に、4月7日付の日本経済新聞は「警察庁はインターネットで通報できる一元窓口を2023年度内にも設け、企業の申告を促す」と報じています。同記事によれば、「これまでは都道府県ごとに窓口を設けていたが通報は低調だった。被害状況は捜査や分析に向けた端緒で、必要に応じて国直轄の専門部隊にも共有する」とのことです。国がサイバー攻撃対策に本腰を入れ始めたのは好ましいことです。ただ、病院や診療所の現場の経営者たちが、国任せ、行政任せ、ベンダー任せのままでは、医療機関に対するサイバー攻撃はこれからも増え続けるでしょう。財源は国にお願いするにせよ、医療機関内でもITや情報セキュリティに詳しい専門人材を確保することは、もはや急務と言えるでしょう。参考1)情報セキュリティインシデント調査委員会報告書について/大阪急性期・総合医療センター2)「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第6.0版(案)」に関する御意見の募集について

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BA.4/5対応2価ワクチン、初回接種での使用を申請/ファイザー

 ファイザーとビオンテックは4月11日付のプレスリリースにて、同社の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の2価ワクチン「コミナティRTU筋注(起源株/オミクロン株BA.4-5)」について、生後6ヵ月~4歳における初回免疫と追加免疫、および5歳以上における初回免疫での使用を可能とするための承認事項の一部変更を厚生労働省に申請したことを発表した。 本剤は現在、国内において5歳以上の追加免疫での使用のみ承認されている。なお、米国においては、5歳以上の追加免疫での使用に加え、2022年12月8日に生後6ヵ月~4歳における初回免疫の3回目としての使用が、2023年3月15日には同年齢層における1回の追加免疫(初回免疫を1価ワクチンで3回接種完了した者が対象)が米国食品医薬品局(FDA)より承認されている。

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第158回 胎児脳のコロナ感染 / コロナ入院患者死亡率は依然として高い

妊婦感染コロナの胎児脳への移行が初めて判明妊婦に感染した新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の胎児の脳への移行とその害が、米国・マイアミ大学の研究者いわく初めて認められました1,2,3)。調べられたのはコロナに感染した妊婦から生まれ、生まれてすぐに発作を起こし、出産時には認められなかった小頭症をやがて呈し、発達の大幅な遅れを示した小児2例です。2例の出産時の鼻ぬぐい液のPCR検査ではSARS-CoV-2は検出されませんでした。しかし2例とも抗コロナ抗体を有しており、血液中の炎症指標が有意に上昇していました。母親2例の胎盤を調べたところSARS-CoV-2のタンパク質が認められ、生まれた小児の血液と同様に炎症指標の亢進が認められました。小児の1例は1歳を迎えて間もない生後13ヵ月で不慮の死を遂げました。その脳を免疫染色で調べたところSARS-CoV-2に感染していたことを示すタンパク質が脳全域で認められました。亡くなったその小児が生前そうであったようにもう1例の小児も出生時には認められなかった小頭症をやがて呈し、発達もかなり遅れました。1歳になっても寝返りを打ったり支えなしで座ったりすることができず、報告の時点でホスピスを利用していました。妊娠半ばに感染したSARS-CoV-2は胎児と胎盤、さらには胎児の脳に至って胎盤と胎児の両方に炎症反応を誘発しうることを今回の調査結果は示しています。そうして生じた炎症反応は生後間もないころを過ぎても続く脳損傷や進行性の神経不調とどうやら関連しそうです。今回報告された2例の小児はコロナ流行が始まって間もない2020年のデルタ株優勢のころに妊娠第2期で感染した母親から生まれました。母親の1例は肺炎や多臓器疾患で集中治療室(ICU)に入り、そこでSARS-CoV-2感染が判明します。胎児の経過はその後も正常でしたが、妊娠32週時点で帝王切開による出産を要しました。死後脳に感染の痕跡が認められたのはこの母親の子です。一方、もう1例の母親のコロナ感染は無症状で、妊娠39週に満期出産に至っています。それら2例の母親が感染したころはワクチンが普及した現在と状況が違っていますが、胎児の経過観察の目下の方針は不十分であると著者は言っています。胎児の脳がSARS-CoV-2による影響を受けるのであればなおさら慎重な様子見が必要です。それは今後の課題でもあり、脳の発達へのコロナ感染の長期の影響を検討しなければなりません。コロナ入院患者の死亡率はインフル入院患者より依然として高いコロナ流行最初の年のその入院患者の死亡率はインフルエンザによる入院患者より5倍近く高いことが米国での試験で示唆されています。さてウイルスそのもの、治療、集団免疫が様変わりした今はどうなっているのでしょうか?この秋冬の同国のコロナ入院患者のデータを調べたところ、幸いにも差は縮まっているもののインフルエンザ入院患者の死亡率を依然として上回っていました4,5,6)。調べられたのは2020年10月1日~2023年1月31日にコロナまたはインフルエンザの感染前後(感染判明の2日前~10日後)に入院した退役軍人のデータです。いわずもがな高齢男性を主とするそれら1万1,399例のうちコロナ入院患者8,996例の30日間の死亡率は約6%(5.97%)であり、インフルエンザ入院患者2,403例のその割合である約4%(3.75%)を1.6倍ほど上回りました。他のコロナ転帰の調査がおおむねそうであるようにワクチンの効果がその解析でも認められています。ワクチン非接種者に比べて接種済みのコロナ入院患者の死亡率は低く、追加接種(boosted)も受けていると死亡率はさらに低くて済んでいました。コロナによる死を防ぐワクチンの価値を今回の結果は裏付けています。参考1)Benny M, et al. Pediatrics. 2023 Apr 06. [Epub ahead of print]2)COVID caused brain damage in 2 infants infected during pregnancy -US study / Reuters3)SARS-CoV-2 Crosses Placenta and Infects Brains of Two Infants: 'This Is a First' / MedScape4)Xie Y, et al. JAMA. 2023 Apr 06. [Epub ahead of print]5)COVID-19 patients were more likely to die than flu patients this past flu season: study / NMC6)Covid Is Still Deadlier for Patients Than Flu / Bloomberg

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第142回 サル痘の国内感染が拡大傾向、注意喚起/厚労省

<先週の動き>1.サル痘の国内感染が拡大傾向、注意喚起/厚労省2.セキュリティ対策求め、オンライン診療のガイドラインを改定/厚労省3.医療DXで診療報酬改定の医療機関の負担を軽減を/厚労省4.飲む中絶薬、病院での待機を条件に月内に承認か/厚労省5.再生医療の産業育成、重点化で後押し/経産省6.民間病院グループが民事再生法申請、負債総額132億円/千葉県1.サル痘の国内感染が拡大傾向、注意喚起/厚労省厚生労働省は、去年、欧米を中心に流行した「サル痘」(感染症法上の4類感染症)の感染が、今年に入って国内でも感染者が増加しているため、「発疹など感染が疑われる症状がある人は医療機関に相談してほしい」と呼びかけている。厚生労働省によると、国内では2022年7月に1例目の患者が確認され、その後散発的に発生が報告されていたが、2023年4月4日時点で95例の患者報告が集積している。なお、厚生労働省は、WHOの新たな病名「エムポックス」の推奨を受けて、今後病名を変更するため政令改正の手続きを行っている。(参考)サル痘について(厚労省)サル痘の感染増加、今年87人感染 厚労省「疑う症状は相談を」(朝日新聞)「サル痘」感染 国内でことしに入り増加 “医療機関へ相談を”(NHK)サル痘感染者、100人に迫る 厚労省「疑い症状相談を」(共同通信)2.セキュリティ対策求め、オンライン診療のガイドラインを改定/厚労省厚生労働省は、このほど医療機関を標的とするサイバー攻撃の増加を受けて、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」を改訂した。この中で、厚労省は、医療機関側に対して、使用するオンライン診療システムが患者の医療情報が漏洩や改ざんがされないように情報セキュリティ対策を確認するように要請している。また、オンライン診療を計画するときは、患者に対してセキュリティリスクを説明し、同意を得なければならないなど記載が追加されている。(参考)オンライン診療の適切な実施に関する指針(厚労省)「オンライン診療の適切な実施に関する指針」に関するQ&A(同)オンライン診療、セキュリティーの責任分界点確認を 厚労省が指針改訂(CB news)オンライン診療指針を改訂!「得られる情報が少ない」点を強調するとともに、過重なセキュリティ対策規定を見直し!-厚労省(Gem Med)オンライン診療の適切な実施に関する指針、2023年3月改訂版とQ&A更新(医療経営研究所)3.医療DXで診療報酬改定の医療機関の負担を軽減を/厚労省厚生労働省は、「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チームを4月6日に持ち回り開催し、診療報酬改定DX対応方針案を公表した。令和6年度から医療DX工程表に基づいて、デジタル技術を最大限に活用し、共通算定モジュールの開発や共通算定マスタ・コードの整備と電子点数表の改善、標準様式のアプリ化とデータ連携などを行う。また、診療報酬改定の施行時期を後ろ倒しするなどで、中小病院や診療所などで負担となっている電子カルテなどのシステム改修コストを低減することを目的に、段階的に実装を目指す。(参考)第3回「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チーム(厚労省)診療報酬改定DX対応方針(案)(同)診療報酬施行後ろ倒しへ、夏までに時期決定 厚労省が対応方針(CB news)4.飲む中絶薬、病院での待機を条件に月内に承認か/厚労省先月、厚生労働省が審議する予定の妊娠初期の中絶に使用される経口妊娠中絶薬の「メフィーゴパック」(一般名:ミフェプリストン/ミソプロストール)[ラインファーマーズ]について、3月24日にパブリック・コメントが殺到したため、審議が見送りとなっていた。そして、今般、承認条件に新たに中絶が確認できるまで病院での待機を必須とする方向で検討していることが明らかとなった。厚生労働省は、インターネットや個人輸入により入手をしないよう、注意喚起を行っており、4月下旬に開催する薬事分科会で、製造販売の承認可否を審議する見通し。(参考)飲む中絶薬、病院待機を必須に 厚労省、月内にも承認審議(共同通信)ミフェプレックス(MIFEPREX)(わが国で未承認の経口妊娠中絶薬)に関する注意喚起について(厚労省)5.再生医療の産業育成、重点化で後押し/経産省経済産業省は、細胞・遺伝子治療分野が2030年まで年率30%の成長が見込まれるとして、再生医療を開発している研究機関や医療機関について、重要性が高い研究を行う拠点を重点的に補助金で支援する方針で、今年の春に公募を行い数ヵ所を決定する予定。一方、再生医療の安全性について懸念が高まっているため、日本再生医療学会は、再生医療認定医や上級臨床培養士、臨床培養士などの認定資格を持つ人が、医療機関内に一定数いることを要件とする医療機関の認定制度を発足させる方針であることが明らかになった。(参考)再生医療の治療・研究拠点に「お墨付き」、経産省が重点支援へ…3~5か所想定(読売新聞)再生医療「どの病院なら安全?」学会が認定へ 年内にも新たな制度(朝日新聞)2040年には市場が20倍? 注目の再生医療・細胞治療に匹敵する、世界初の発見(財経新聞)6.民間病院グループが民事再生法申請、負債総額132億円/千葉県千葉県で八千代病院や成田リハビリテーション病院を運営する医療法人社団心和会(四街道市)が、4月4日に東京地裁に民事再生法の適用を申請した。健診サービスのほか訪問介護ステーションの開設や積極的な多角経営を展開していたところ、新型コロナウイルスのクラスター発生などが影響したほか、前理事長の不動産トラブルなどで資金繰りが悪化し、経営状況では2021年から赤字となっていた。医療法人側は、診療体制を維持しながら、新たなスポンサーを探して事業譲渡を行う方針。(参考)「八千代病院」の医療法人が民事再生法申請 負債総額132億円 四街道・心和会 コロナ、不動産トラブルで資金繰り悪化(千葉日報)千葉県内で八千代病院など複数の病院を経営する(医)社団心和会が民事再生を申請(東京商工リサーチ)

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第154回 日本人の驚くべきマスク定着化ー新聞社の世論調査

先日、知人の墓参りとワーケーションを兼ねて京都に4日ほど滞在した。食事時と自分が会員となっているスポーツジムの系列店舗で運動する以外は、ほぼホテルの部屋で仕事をしていた。もっとも春先の京都にいながら観光ゼロというのも何なので、昼食時の帰りに1件ほど寺社・仏閣に立ち寄ったりもした。すでに京都市内はコロナ禍「明け」とも言える雰囲気で、市中心部の四条付近は外国人観光客でごった返していた。ぱっと見だが、白人系の人々は屋内外いずれもほぼノーマスク、対して日本人も含め見た目がアジア系の人々では屋外でもマスク着用率が明らかに高くなる印象だ。たまにアジア系の顔立ちでノーマスクの人たちを見かけるが、言葉を聞くとその多くは広東語、中国語などの非日本語である。それでもノーマスクの日本人は、少なくとも私が見る限り、東京などと比べると若年者を中心に明らかに多いと感じた。到着翌朝、ホテルのエレベーターに乗り込もうとし、先客の若い女性がノーマスクだった時は一瞬ぎょっとした。途中から乗り込んできたやはりノーマスクの男性2人は女性と顔見知りだったらしく、密閉空間のエレベーター内でそのままペチャクチャ話し始めた。会話の内容からすると、どうやら新入社員の研修中らしい。私はマスクをしていたものの、その間ずっとヒヤヒヤしていた。ところが慣れというのは怖いもので、3日も滞在していると、コンビニに行こうとしてホテルの部屋を出た際にマスクを忘れたことに気付いても、「短時間だし。ま、いいか」という感じになってしまう。すでにマスク着用が任意となった現時点での表現としては適切ではないかもしれないが、「こうやってなし崩し的にモラルハザードが起こる」と受け止めている。新聞社主催の世論調査から見えるマスク定着化そうした中で興味深い調査結果を目にした。読売新聞社が行った新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)に関する世論調査である。調査結果を報じた記事では「日本の社会は、全体として、新型コロナウイルスに、うまく対応できていると思いますか、思いませんか」との問いへの回答が、「思う」「どちらかといえば思う」合計で57%、「どちらかといえば思わない」「思わない」合計が41%となり、2021年から3年連続同様の調査を行った中で、初めて「思わない」よりも「思う」ほうが上回った点に主眼が置かれている。しかし、私が注目したのは調査結果内のマスク関連の回答である。まず、「新型コロナウイルスの感染を防ぐため、現在あなたが実践していることを、いくつでも選んでください」のトップが、「外出するときにマスクを着用する」の92%。さらに「あなたは、日常的にマスクを着用することを、つらいと感じますか、感じませんか」では、トップは「どちらかといえば感じない」が31%、次いで「感じない」が29%で、マスク着用に肯定的な層が6割を超えている。ちなみにこの設問で反対の立場である「感じる」が12%、「どちらかといえば感じる」が27%だった。ただし、この世論調査を読み解く際には2つの注意点がある。1つは調査の実施主体が読売新聞であることだ。新聞による無作為抽出世論調査の場合、回答者と新聞社の思想ベースが類似しがちになる。たとえば、保守的と分類されることが多い読売新聞の調査では、どうしても保守的な人が回答しがちになる。一方、リベラル傾向が強いと言われる朝日新聞社の読者に読売新聞社主催の調査が送付された際には回答拒否になる傾向が強まる。実際、今回のアンケートの回答を見ると、概して保守層に受け入れられやすいワクチン接種について、3回以上接種者は82%であり、現在の首相官邸が公開している総人口に占める3回ワクチン接種割合の68.6%と比べるとかなり高めだ。もう1つの注意点として、回答者の年齢層は50代以上が6割超を占めている。たとえば、調査で「あなたは、今後、自分が新型コロナウイルスに感染して重症になるのではないかという不安を、感じますか、感じませんか」では、「大いに感じる」「多少は感じる」の合計がやはり6割超である。その意味で今回明らかになったマスク信仰については、社会全体の傾向よりやや高めに出ていると解釈したほうが良いかもしれない。とは言っても、これだけの日本人にマスクが定着したという点には今回驚きを感じている。さて昨今の新型コロナの感染状況だが、すでに陽性者報告数は上昇トレンドに入り、第9波の到来が懸念されている。一部には早ければ5月下旬という説もある。現在、オミクロン株対応ワクチンの接種率は約45%と心もとないが、第8波でかなりの感染者が発生したことも考えると、今現在は事実上の「集団免疫」が成立している状況かもしれない。これに今回の世論調査でわかったマスク信仰の高さも考え合わせれば、もしかすると第9波は第8波を下回るのではないだろうか? もっともこれは個人的かつ希望的観測に過ぎない。ただ、間近に迫った新型コロナの感染症法上5類化で対応病床が減ると予想される中、その状態ですら医療側が対応可能なレベルかどうかは、かなり不透明ではないだろうか?

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コロナ感染率と死亡率、米国各州で異なる要因は?/Lancet

 米国は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックへの対応に苦労したが、州別にみると一律ではなく、将来的なパンデミックの対策に活かせる点が見いだせたことを、米国・外交問題評議会(CFR)のThomas J. Bollyky氏らが、同国の公的データベースを用いた観察的分析の結果で報告した。著者は、「今回の調査結果は、将来の危機において、より良い健康アウトカムを促進するための臨床的および政治的介入の設計と目標に寄与するものとなるだろう」とまとめている。Lancet誌オンライン版2023年3月23日号掲載の報告。新型コロナ感染率・死亡率を州ごとに比較し、政策等との関連を検討 研究グループは、州間の感染率と死亡率のばらつき要因を特定し、現在および将来のパンデミックへの対応を改善するため、次の5つの重要な政策関連の課題を明らかにする検討を行った。(1)社会的、経済的、人種的な不平等がCOVID-19のアウトカムの州間のばらつきにどのように影響したか。(2)医療と公衆衛生のキャパシティが大きい州ほど、より良いアウトカムが得られたのか。(3)政治がアウトカムにどのように影響したか。(4)より多く、より長期に政策的な義務を課した州ほど、より良いアウトカムが得られたのか。(5)州での累積SARS-CoV-2感染と総COVD-19死の低下と、その州の経済的および教育的アウトカムとの間にトレードオフの関連はあるのかどうか。 検討では、保健指標評価研究所(IHME)のCOVID-19データベースより感染率および死亡率の推定値、商務省経済分析局のGDPデータ、連邦準備制度経済データの雇用率、国立教育統計センターの学生の標準テストの成績、国勢調査局の人種・民族に関するデータなど、米国の公的データベースから州別に抽出。COVID-19の影響緩和に成功した州の比較を容易にするため、感染率は人口密度で、死亡率は年齢および主要な併存疾患の有病率で標準化し、これらをパンデミック前の州の特性(教育水準、1人当たりの医療費など)、パンデミック中に州が採用した政策(マスク着用義務化、事業閉鎖など)、人口レベルの行動的反応(ワクチン接種、移動など)に回帰させた。州政府による感染防御の義務付けは感染率低下と、ワクチン接種率は死亡率低下と関連 2020年1月1日~2022年7月31日における標準化COVID-19累積死亡率は、米国内でばらつきがみられ(全国での死亡率は人口10万人当たり372例、95%不確定区間[UI]:364~379)、最低だったのはハワイ州(10万人当たり147例、95%UI:127~196)とニューハンプシャー州(10万人当たり215例、95%UI:183~271)で、最高はアリゾナ州(10万人当たり581例、95%UI:509~672)とワシントンDC(10万人当たり526例、95%UI:425~631)であった。 貧困率が低い、平均教育年数が長い、対人信頼感を示す人の割合が高いことは、感染率および死亡率の低下と関連していたが、黒人(非ヒスパニック系)またはヒスパニック系の割合が高い州は死亡率が高いことと関連していた。質の高い医療へのアクセスは、COVID-19による死亡とSARS-CoV-2感染の総数減少と関連していたが、州レベルでは、公的医療費や人口当たりの公衆衛生職員数の増加は関連していなかった。 州知事の所属政党はSARS-CoV-2感染率やCOVID-19死亡率の低下と関連していなかったが、COVID-19アウトカムの悪化は2020年共和党大統領候補に投票した州の有権者の割合と関連していた。 州政府による感染防御義務の採用は、マスク着用、移動度の低さ、およびワクチン接種率の高さと同様に感染率の低下と関連しており、ワクチン接種率は死亡率の低下と関連していた。 州のGDPと学生の読解力テストの成績は、州のCOVID-19政策対応、感染率、死亡率とは関連していなかった。しかし、雇用はレストランの閉鎖および感染率、死亡率の上昇と統計学的に有意に関連しており、雇用率が1ポイント上昇した州では、感染者が人口1万人当たり平均1,574例(95%UI:884~7,107)増加した。いくつかの政策的義務や感染防御行動は、小学4年生の数学のテストの点数低下と関連していたが、州レベルの学校閉鎖の推定値との関連性は確認されなかった。 結果を踏まえて著者は、「構造的不平等をできるだけなくして、ワクチン接種や対象を絞ったワクチン接種の義務化など科学的根拠に基づく介入策を展開し、社会全体でその適用を促進した州は、COVID-19死亡率を最小限に抑えるという点で最も優れた国に匹敵することができた」とまとめ、「COVID-19は、米国社会全体にすでに存在していた社会的、経済的および人種的な不平等の二極化と持続を拡大したが、次のパンデミックでは必ずしも同じ轍は踏まないだろう」と述べている。

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5歳未満のコロナワクチン、地域の流行状況と有効性のバランスを鑑みて(解説:田中希宇人氏/山口佳寿博氏)

 生後6ヵ月~4歳児に対するファイザー製コロナワクチン「BNT162b2」3回接種の安全性と有効性がNEJM誌に示されたので、現状と照らし合わせて検討してみたい。現在日本では、6ヵ月~4歳児に対するコロナワクチンは、この論文で示されている12歳以上の1/10量であるBNT162b2ワクチン3μgを3週間間隔で2回、その後8週間以上空けて3回目接種が可能となっている(厚生労働省「生後6か月~4歳の子どもへの接種(乳幼児接種)についてのお知らせ」)。 本研究では用量設定試験である第I相の結果から3μgの用量を採用した。第II/III相試験において、6ヵ月~2歳児1,178例と2~4歳児1,835例にBNT162b2ワクチンを、それぞれ598例と915例にプラセボを接種して比較検討した。また3回目接種まで完了した児は6ヵ月~2歳児で386例、2~4歳児で606例であった。最も重要な安全性の項目に関しては、ほとんどが軽度~中等度の接種反応イベントとなっており、Grade4のイベントは確認されなかったとされる。大人では頻度の高い発熱も、6ヵ月~2歳児で7%、2~4歳児で5%程度と報告されている。有効性に関してはオミクロン変異株流行下におけるコロナ発症予防効果が、3回目接種後の1週間以降で73.2%と示された。 2023年3月の本論考の執筆時点では、日本の第8波のコロナ流行はほぼ収束しており、コロナワクチン接種の有用性を感じにくくなっている。第7波、第8波の到来から日本小児科学会では、生後6ヵ月~4歳の小児でもコロナワクチン接種のメリットがあると捉え、「努力義務」としている(日本小児科学会「生後6か月以上5歳未満の小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方」)。オミクロン変異株流行期以降は呼吸不全こそまれであるものの、重症例や死亡例が増加していることや、コロナ感染に伴う熱性けいれんや脳症などの重症例が報告されていることに基づいている。また、これまでに有効性の知見から、重症化予防効果は発症予防効果を上回ることが期待されるため、生後6ヵ月~4歳の小児においてもコロナワクチン接種が推奨されている。 先日3月28日に世界保健機関(WHO)から発表された「新型コロナウイルス感染症ワクチン接種ガイダンス」においては、健康な生後6ヵ月~4歳児に対するワクチン接種は「低優先度」に分類されている。1次接種(1、2回目ワクチン接種)や追加接種(3回目ワクチン接種)に関しては有効性や安全性が確認されているものの、他の予防接種に比べベネフィットが少なく、各国の感染状況や費用対効果などを鑑みることとされている(WHO : SAGE updates COVID-19 vaccination guidance)。 本研究ではワクチン接種に伴う副反応に対しても検討されている。発赤や腫脹などの接種部位反応や発熱などの項目に関しては生後6ヵ月~4歳児でも正確な評価が可能だが、倦怠感や頭痛、筋痛や関節痛に関する客観的な項目に関しての評価はNEJM誌に掲載された論文といえども、にわかには信じ難いと4児のパパとしては考える(田中)。もちろん成人に比べワクチン接種量も少なく、局所の副反応も全身性の副反応も頻度は低く、安全性は許容範囲内と捉えられる。現在のコロナ感染が落ち着いている状況下でワクチン接種を進めていくことはいささか難しいと考えるが、今後起こりうる流行の状況や安全性・有効性を考えて、小児期に接種する他の予防接種の間に組み込むことは何の問題もないのではと考える。

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第39回 フードコートのアクリル板は必要か?

感染対策の引き算手洗いや「3密」回避などの政府の基本的対処方針に基づき、各業界は感染対策のガイドラインを作成していましたが、5月8日から「5類感染症」に移行することで、基本的対処方針とそれに基づくガイドラインは廃止される方針です。となると、引き算していく感染対策を検討することになります。東京都民1万人が回答したアンケート調査によると、「もうやめたほうがよい」と思う感染対策は、「学校におけるマスク着用」、「黙食」、「ハンドドライヤー使用禁止」、「窓口や飲食店でのアクリル板やビニールの仕切り設置」が上位にランクインしています(図)。画像を拡大する図. 東京iCDCリスコミチームによる都民アンケート調査結果(2023年2月実施)、第119回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和5年3月23日)資料1)子供のワクチン接種率が低い学校では、有効とされる感染対策のマスクを一律に緩和することについてはさまざまな意見があります。個人的には、インフルエンザと同じように流行に応じて対応すればよいと思っています。フードコートのアクリル板アクリル板などのパーティションについては、結局ヒトの感染リスクを検討した明確なエビデンスがありません。物理的に飛沫を遮断する効果は当然あるので、アドバイザリーボードでも「今後も活用はあり得る」という玉虫色の結論となっています2)。私も子供連れでよくフードコートに行くのですが、現在もアクリル板の仕切りがあります。フードコートは、たとえ定期的に清掃をしているとしても、空いた席に次の人が座っていくシステムですから、前の使用者か次の使用者がきれいに清掃することが重要です。とはいえ、アクリル板まで拭きあげる人はほとんどおらず、飛び散ったうどんの汁や鉄板の油などでアクリル板が汚れていることのほうが多く、家族4人で座ったとき、汚いアクリル板で分断されている現状を非常に残念に思っています。フードコートは、よほどの混雑でなければ、相席ということは起こりません。なので、個人的には飲食店の形態に応じて引き算していけばよいのではと考えています。まれに起こる相席を想定してまで、アクリル板を設置するのはナンセンスだと思います。現時点で、政府は「事業者の判断に委ねる」という方針のようです。参考文献・参考サイト1)東京iCDCリスコミチームによる都民アンケート調査結果(2023年2月実施)、第119回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和5年3月23日)資料2)これからの身近な感染対策を考えるにあたって(第四報)~室内での感染対策におけるパーティションの効果と限界~、第119回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和5年3月23日)資料

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第155回 日本はパワハラ、セクハラ、性犯罪に鈍感、寛容すぎる?WHO葛西氏解任が日本に迫る意識改造とは?(後編)

パンデミック以前の日常が完全に戻ってきたこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末、関東はお花見日和でした。近所の公園では、葉桜となってきた桜の木の下で多くの人がノーマスクで宴会をしていました。パンデミック以前の日常が完全に戻ってきたわけですが、数週間前からこれだけ飲んで騒いでいるのに、新型コロナウイルス感染症の患者数は目立った増加となってはいません。感染症は本当に不思議な病気だなと思いながら、私も桜が舞い散る公園で、タコスにコロナビールを楽しみました。さて今回も、前回に引き続き、WHO(世界保健機関)の西太平洋地域事務局(フィリピン・マニラ)の葛西 健・事務局長が解任されたニュースを取り上げます。「The Lancet」が「グローバルヘルスの専門家たち葛西氏解任を歓迎」と報道WHOは3月8日、職員らへの人種差別的な発言などがあったとして内部告発され、昨年8月から休職中だった葛西・西太平洋地域事務局長を解任したと発表しました。日本国内では「解任理由がきちんと説明されていない」といった批判もあるようですが、国際的にはどうやら今回の解任を歓迎する声の方が大きいようです。医学雑誌の「The Lancet」は3月18日、「Global health experts welcome Kasai dismissal(グローバルヘルスの専門家たちが葛西氏解任を歓迎)」と題する記事を掲載しています1)。「葛西氏はWHO労働者への嫌がらせを行っていた」刺激的なタイトルのこの記事は、世界の複数のグローバルヘルスの専門家が、今回の調査や決定が適正に行われ、処分も妥当と考え、解任決定を歓迎していると報じています。記事によれば、WHOは虐待行為を一切容認しないという方針に沿って今回の内部告発を調査、すべてのWHOスタッフに適用される通常の手順に従って検討が行われたとのことです。その結果、葛西氏が「攻撃的なコミュニケーション、公の場での侮辱と人種的中傷」を含む、WHO労働者へのハラスメントを行っていたことが判明したとしています。これら結果を踏まえ、西太平洋地域委員会の投票が行われ、解任賛成13票、反対11票、棄権1票という結果となり、その後、非公開の理事会で葛西氏の解任が決定したとのことです。WHOの不正行為や虐待行為に対するチェックの目は一層厳しくなる同記事は、米国ジョージタウン大学のグローバルヘルス法の研究者の次のような発言も報じています。「この決定を行ったWHOに拍手を送る。その決定は正しかったが、もっと早く行われるべきだった。WHOは、誰もが尊重される安全で敬意に満ちた職場を作るために、可能な限り最高の基準を設定する必要があると考える」。同記事は、その他の世界のグローバルヘルスの専門家たちの今回の決定に対する賛意も伝えています。それらはある意味、日本が期待を持って送り込んでいた葛西氏の”評判”とも言えるもので、日本政府にはなかなか手厳しい内容となっています。ところで、WHO内部では葛西氏の事例のようなハラスメントだけではなく、エボラ出血熱発生中に起きたWHO労働者や援助労働者に対する性的虐待なども問題視されており、同記事は、葛西氏に行われた内部調査や解任決定を機に、WHOの組織内におけるその他のさまざまな不正行為や虐待行為に対するチェックの目は一層厳しくなるに違いない、と書いています。横浜DeNAに現役バリバリのMLBの投手入団そう言えば、WBC開催中の3月14日、横浜DeNAベイスターズは3年前の2020年、シンシナティ・レッズ時代にサイ・ヤング賞を獲得(同年に同じく候補となったダルビッシュ有投手と争いました)したMLB投手、前ロサンゼルス・ドジャースのトレバー・バウアー投手と契約を結んだことを発表しました。現役バリバリのMLBの投手がNPBに来るということで大きなニュースになりました。実は彼、2021年に知人女性に対するドメスティックバイオレンスの禁止規定違反でメジャーリーグ機構から324試合の長期の出場停止処分を受け(その後、異議申し立てをし、処分は194試合に短縮)、今年1月にドジャースとの契約が解除された選手です。契約解除後、MLBでは新たな契約をする球団は現れず、うまくDeNAが獲得したというわけです。MLBが獲得に動かなかった理由は多々あるようです。ヒューストン・アストロズの投手陣が強力な粘着物質を使っている疑いがあることを”チクリ”、粘着物質使用厳格化のきっかけを作ったことでMLBの選手たちから裏切り者扱いされた、という説も流れていますが、女性に対するドメスティックバイオレンスの一件も少なからず影響していることは確かでしょう。そうした”問題”選手を、トラブルにはとりあえず目をつぶって獲得し、大喜びしているのも日本人のパワハラ、セクハラへに対する鈍感さ、寛容さのなせる業かもしれません。DeNAは3月24日に横浜市内で華々しくバウアー投手の入団会見を行いましたが、その5日後の29日に同選手が「右肩の張りを訴えた」と球団が発表、4月中の一軍デビューは先送り濃厚となってしまいました。「バウアー投手はMLB復帰のために日本にリハビリに来ただけ。もとより真剣に投げる気はない」という声もあるようです。BBC制作ジャニーズのドキュメンタリーをほぼ黙殺の日本マスコミパワハラ、セクハラ関連の話題ということでは、英国のBBCが制作、公開したドキュメンタリー「Predator:The Secret Scandal of J-Pop」(J-POPの捕食者:秘められたスキャンダル)を日本のマスコミのほとんどが黙殺したことも挙げておきたいと思います。2019年に死去したジャニーズ事務所の創業者、ジャニー喜多川氏によるジャニーズJr.の少年への性的虐待を追ったこのドキュメンタリー、日本ではBBCワールドニュースで3月18日、19日に配信放送されました。この件について日本のマスコミで報道したのはかねてからジャニーズ問題を追ってきた週刊文春と、FRIDAYデジタル、日刊ゲンダイDIGITALなどごく一部でした。香港や韓国、台湾のメディアも大きく取り上げたというのに、日本のマスコミの沈黙ぶりは、異常と言えるかもしれません。こうした鈍感さ、時代遅れの寛容さや忖度は、葛西氏のパワハラ同様、国際社会ではもう認められなくなってきています。そうした自覚と意識改造が日本人には早急に求められていると思いますが、皆さんいかがでしょう。「ジャニー喜多川氏の性的虐待の事実と、メディアに与えた強い影響力を調査し、社会が見て見ぬふりをすることの残酷な結果を明らかにする」(BBCワールドニュースのWebサイトより)というこの番組、4月18日までAmazonプライム・ビデオで視聴可能です。興味のある方はご覧下さい。参考1)Zarocostas J, Lancet. 2023 Mar 18. [Epub ahead of print]

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新規ワクチンMV-LASV、ラッサ熱の予防に有望/Lancet

 ラッサ熱の予防において、遺伝子組み換え弱毒生麻疹ベクターラッサ熱ワクチン(MV-LASV)は、安全性と忍容性が許容範囲内であり、免疫原性はベクターに対する既存の免疫の影響を受けないと考えられ、さらなる開発の有望な候補であることが、オーストリア・Themis Bioscience(米国・Merckの子会社)のRoland Tschismarov氏らの検討で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2023年3月16日号で報告された。単一施設でのヒトで初めての第I相試験 研究グループは、年齢18~55歳の健康な成人を対象に、MV-LASVのヒトで初めての第I相試験を実施した(感染症流行対策イノベーション連合[CEPI]の助成を受けた)。本研究は、非盲検用量漸増試験(漸増期)と観察者盲検無作為化プラセボ対照比較試験(治療期)の2段階から成り、2019年9月~2020年1月に単一施設(ベルギー・アントワープ大学)で参加者の登録が行われた。 用量漸増試験では、参加者は低用量群(組織培養細胞感染量中央値×2×104を2回接種)または高用量群(組織培養細胞感染量中央値×1×105を2回接種)に、非無作為に連続的に割り付けられた。無作為化プラセボ対照試験では、参加者は低用量群、高用量群、プラセボ群に、2対2対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要エンドポイントは、試験開始から56日目までの非自発的または自発的に報告された有害事象とされた。局所有害事象の頻度はプラセボより高い 漸増期には、低用量群と高用量群に4例ずつが、治療期には、低用量群に25例(平均年齢27.3歳、男性56%)、高用量群に23例(33.9歳、30%)、プラセボ群に12例(33.6歳、33%)が割り付けられた。 ほとんどの有害事象は治療期に発現し、非自発的または自発的に報告された有害事象の頻度は3群で同程度であった。非自発的に報告された有害事象の割合は、低用量群が96%、高用量群が100%、プラセボ群が92%であり(p=0.6751)、自発的に報告された有害事象の割合は、それぞれ76%、70%、100%だった(p=0.1047)。 有意差が認められたのは非自発的に報告された局所の有害事象のみで、プラセボ群(12例中6例[50%])に比べ、MV-LASV接種群(低用量群:25例中24例[96%]、高用量群:23例中23例[100%])で高頻度であった(p=0.0001[Fisher-Freeman-Halton検定])。 有害事象のほとんどは軽度または中等度で、56日目までに重篤な有害事象やとくに注意すべき有害事象、死亡の報告はなかった。 全体として、最も頻度の高い非自発的に報告された局所有害事象は、注射部位の痛み(触れるか否かは問わず)、注射部位硬結、注射部位紅斑/発赤であり、全身性有害事象は、頭痛、インフルエンザ様症状、倦怠感、筋肉痛、下痢であった。また、最も頻度の高い自発的に報告された有害事象は、上咽頭炎、前失神、注射部位出血、筋骨格系のこわばりであった。 一方、MV-LASVは、2つの用量群とも高濃度のLASV特異的IgGを誘導し、最高値を示した42日目の幾何平均抗体価は、低用量群が62.9EU/mL(プラセボ群[6.1EU/mL]との比較でp<0.0001)、高用量群は145.9EU/mL(p<0.0001)であった。 著者は、「今後は、組織培養細胞感染量中央値の1×105倍量の高用量MV-LASVに焦点を当てて開発を進める必要がある」としている。

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新型コロナ治療薬ゾコーバ錠125mgの一般流通開始/塩野義

 塩野義製薬は3月31日付のプレスリリースにて、同社の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬ゾコーバ錠125mg(一般名:エンシトレルビル フマル酸)について、同日より一般流通を開始したことを発表した。薬価は、1錠7,407.4円となる。 本剤は、2022年11月22日付で厚生労働省より「SARS-CoV-2による感染症」の適応で、緊急承認制度(医薬品医療機器等法第14条の2の2)に基づく製造販売承認を取得した。本剤の緊急承認は、オミクロン株流行期に重症化リスク因子の有無やワクチン接種の有無によらず、幅広い軽症/中等症患者を対象に日本を中心としたアジア(韓国、ベトナム)で実施した、第II/III相臨床試験のPhase 3 partの良好な試験結果に基づく。2023年3月15日に薬価基準収載となった。 本剤の用法・用量は、通常、12歳以上の小児および成人には、エンシトレルビルとして1日目は375mgを、2~5日目は125mgを1日1回経口投与する。なお、本剤は緊急承認医薬品であるため、処方に際しては、担当医師からの説明と患者または代諾者からの同意書の取得が必要となる。

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第141回 令和4年の救急車の出動、過去最高の722万件を記録/消防庁

<先週の動き>1.令和4年の救急車の出動、過去最高の722万件を記録/消防庁2.新型コロナ、基本的な感染対策は自主的に判断を/厚労省3.がん検診率60%以上を目標に、がん対策基本計画/政府4.経鼻インフルエンザワクチンが国内初承認、2024年度シーズンから供給へ/第一三共5.相澤病院、元職員が患者の個人情報を外部に持ち出し/相澤病院6.美容医療「ハイフ」の健康被害防止へ、施術は医師に限定を/消費者庁1.令和4年の救急車の出動、過去最高の722万件を記録/消防庁総務省消防庁は、3月31日に令和4年度の救急出動件数の速報値を発表した。令和4年の救急車の出動件数は前年度に比べて16.7%増の722万9,838件、搬送人数も621万6,909人と過去最高を記録した。同庁によると、高齢者の増加のほか、新型コロナウイルス感染症の拡大によって、救急要請が増えたのが原因としている。また、同日に救急業務のあり方に関する検討会の報告書を公表し、この中で、マイナンバーカードを活用した救急業務の迅速化・円滑化のため、システム構築の検討を加速することが盛り込まれた。(参考)「令和4年中の救急出動件数等(速報値)」の公表(消防庁)「令和4年度 救急業務のあり方に関する検討会 報告書」(同)救急車の出動最多722万件 22年、コロナで要請急増(日経新聞)2.新型コロナ、基本的な感染対策は自主的に判断を/厚労省3月31日、加藤勝信厚生労働大臣は新型コロナウイルスの感染症法の位置付けが5類に移行する前に、移行後の感染症対策について方針の変更を説明した。手洗いや換気は引き続き有効とするが、入場時の検温などの対策は効果やコストなどを踏まえて、自主的に判断を求めるとする基本的な考えを示した。医療機関や介護施設などに対しては、院内や施設内の感染対策について引き続き国が示すとしている。(参考)【事務連絡】新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付け変更後の基本的な感染対策の考え方について(厚労省)アクリル板設置や検温など事業者判断に 5類移行後の基本的な感染対策で厚生労働省(東京新聞)新型コロナ5類移行後 “入場時検温など自主的に判断” 厚労省(NHK)コロナ対策変更へ、厚労相「マスク着用と同様」主体的な選択を尊重、5類移行で(CB news)3.がん検診率60%以上を目標に、がん対策基本計画/政府政府は、3月28日に2023年度から始まる新たな「第4期がん対策基本計画」を閣議決定した。がんによる死亡率を低下させるため、がん検診の受診率を現行より引き上げ、60%以上に向上させるほか、オンラインによる相談支援や緩和ケアの充実などが盛り込まれた。なお、がん検診の受診率は男性の肺がん検診を除くと、現行の第3期がん対策基本計画でも、50%未満であり、新型コロナウイルス感染症の拡大により頭打ちとなっているがん検診の受診率のさらなる向上を目指す。(参考)第4期がん対策基本計画を閣議決定 政府、デジタル化推進へ(CB news)がん検診率60%に向上目標 政府、4期計画を閣議決定(東京新聞)第4期がん対策推進基本計画案を閣議決定!がん医療の均てん化とともに、希少がんなどでは集約化により「優れたがん医療提供体制」を構築!(Gem Med)がん対策推進基本計画[第4期]<令和5年3月28日閣議決定>(厚労省)4.経鼻インフルエンザワクチンが国内初承認、2024年度シーズンから供給へ/第一三共3月27日、国内初の「経鼻インフルエンザワクチン」が正式に承認されたことを製造メーカーの第一三共が明らかにした。同社によると、2015年にアストラゼネカ社の子会社メディミューン社と提携し、国内での開発・販売契約に基づいて開発を開始。国内における知見の結果、経鼻インフルエンザワクチン「フルミスト点鼻液」としてこの度承認申請を行い、承認された。季節性インフルエンザの予防に新たな選択肢を提供できるとしている。対象は2歳以上19歳未満の人で、0.2mLを1回(各鼻腔内に0.1mLを1噴霧)、鼻腔内に噴霧する。(参考)第一三共、経鼻インフルワクチンが承認 24年度発売(日経新聞)フルミストが製造販売承認を取得(日経メディカル)経鼻弱毒生インフルエンザワクチン「フルミストR点鼻液」の国内における製造販売承認取得のお知らせ(第一三共)5.相澤病院、元職員が患者の個人情報を外部に持ち出し/相澤病院長野県松本市の相澤病院において、患者の個人情報が不正に持ち出されたことが明らかになり、病院を経営する医療法人は内閣府の個人情報保護委員会に2月に報告、また、松本警察署に事件相談を行い、告訴状を提出した。病院によると、2023年1月、同院に通院中の患者の申し出によって、元職員から患者が他の医療機関での治療の勧誘を受けたことが判明。病院側の聞き取り調査によって、2022年5月に元職員が、後輩職員に業務マニュアルの閲覧を申し出て、業務フォルダからデータをコピーして持ち出したことが明らかとなった。漏洩したデータは透析治療患者ならびに高気圧酸素療法患者の個人情報3,137人分(亡くなった患者を含む)の住所・氏名・生年月日など基本的な識別情報のほか、各種医療情報、家族情報が含まれていた。病院側は、研修内容の見直しと再発防止に努めたいとしている。(参考)患者さん個人情報等の漏えい(不正取得)について[お詫び](相澤病院)長野の相沢病院、元職員が患者らの個人情報3137人分を外部に漏えい(読売新聞)松本市の相澤病院 患者ら3100余の個人情報持ち出されたか(NHK)6.美容医療「ハイフ」の健康被害防止へ、施術は医師に限定を/消費者庁痩身などを目的として、エステサロンで超音波を照射する超音波機器「HIFU(ハイフ)」を使った健康被害が増加していることに対し、消費者庁の消費者安全調査委員会は、ハイフを用いた施術について、施術者を医師に限定すべきだと提言した。委員会によると、ハイフによってやけどやシミが生じた事故は、2015年より8年間で135件が報告され、増加傾向にある。医療問題弁護団はこの提言を受け、4月2日に無料で電話相談を行った。(参考)エステの超音波施術「医師に限定を」 消費者事故調が厚労省に提言(朝日新聞)超音波美容施術で事故相次ぐ 消費者事故調 国に法規制求める(NHK)消費者安全法第23条第1項の規定に基づく事故等原因調査報告書)エステサロン等でのHIFU)ハイフ)による事故)を公表しました。(消費者庁)【4月2日(日)10時~16時・HIFUホットライン実施】HIFU(高密度焦点式超音波)被害の電話相談を実施します(医療問題弁護団)

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リブタヨは進行または再発の子宮頸がんに対する初の単剤療法/サノフィ

 サノフィは3月30日付のプレスリリースで、「がん化学療法後に増悪した進行又は再発の子宮頸癌」を効能または効果として、リブタヨ点滴静注350mg(一般名:セミプリマブ、以下「リブタヨ」)の販売を同日より開始したことを発表した。リブタヨ群は化学療法群と比較して死亡リスクが31%低減 子宮頸がんは、世界では女性のがん死因の第4位に当たり、35~44歳での診断が最も多い疾患である。大部分はヒトパピローマウイルス(HPV)の感染を原因とし、約80%を扁平上皮がん(子宮頸部の外部を覆う細胞から発生)、残る患者の多くを腺がん(子宮頸部の内部にある腺細胞から発生)が占めている。進行または再発の子宮頸がんの治療選択肢は限られており、世界で毎年約57万人の女性が子宮頸がんと診断されていることから、新たな治療法の登場が望まれていた。 リブタヨは、T細胞の表面にある免疫チェックポイント受容体PD-1を標的とする完全ヒトモノクローナル抗体である。リブタヨは、2次治療の子宮頸がん患者が対象の第III相試験において、全生存期間の改善を単剤投与で初めて立証し、子宮頸がんの2次治療の前向き比較試験においても、全生存期間が改善された初めての薬剤である。 リブタヨの進行性子宮頸がんにおける無作為化試験である国際共同第III相試験(EMPOWER Cervical-1試験)は、再発・転移性の扁平上皮がんまたは腺がんで2次治療の女性患者(年齢中央値:51歳)を対象に実施された。患者は無作為化され、リブタヨ単剤投与群(350mgを3週間ごとに投与)または広く使われている化学療法(イリノテカン、トポテカン、ペメトレキセド、ビノレルビンまたはゲムシタビン※)から治験責任医師が選択する薬剤を投与する群のいずれかに割り付けられた。※ペメトレキセド、ビノレルビン、ゲムシタビンは国内で子宮頸がんの適応はない。 本試験の結果、リブタヨ群(304例)では化学療法群(304例)と比較して、死亡リスクが31%低減し、全生存期間は有意に延長した。全体集団における全生存期間の中央値は、リブタヨ群で12.0ヵ月、化学療法群で8.5ヵ月であった(ハザード比[HR]:0.69、95%信頼区間[CI]:0.56~0.84、p<0.001)。 安全性は、治験薬の投与を1回以上受けた患者を対象に、リブタヨ群300例(投与期間の中央値:15週間、範囲:1~101週間)、化学療法群290例(10週間、1~82週間)で評価した。治験薬との因果関係が否定できない有害事象は、リブタヨ群で56.7%、化学療法群で81.4%に認められた。リブタヨ群における、発現割合5%以上の主な副作用は、疲労(10.7%)、悪心(9.3%)、貧血(7.3%)、無力症(7.3%)、食欲減退(7.3%)、下痢(6.7%)、甲状腺機能低下症(6.0%)、嘔吐(5.7%)、関節痛(5.7%)、発疹(5.0%)およびそう痒症(5.0%)であった。なお、リブタヨの新たな安全性シグナルは認められなかった。 リブタヨは、サノフィとRegeneronとのグローバル提携契約の下で共同開発された製品である。2022年7月1日現在、Regeneronはリブタヨの開発およびマーケティングをグローバルレベルで担っており、日本では、Regeneronに代わってサノフィがリブタヨを販売する。サノフィとRegeneronは、「引き続き子宮頸がんの日本人患者に希望を届けられるよう鋭意努力し、患者とその家族や医療関係者へさらなる貢献をしていく」としている。

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第153回 ゾコーバの妊婦投与3例発覚は氷山の一角!求められるフォロー体制

催奇形性の問題から妊婦や妊娠している可能性がある女性には投与禁忌となっている新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)治療薬のエンシトレルビル(商品名:ゾコーバ)。先日、これに関して、妊婦に投与してしまった事例が報じられた。同薬の発売以降、妊婦への投与が発覚したのはこれで3例目。いずれも催奇形性があることが患者に伝えられたうえで投与が行われ、後に妊娠が発覚したという事例である。うち1例については、後に流産したことが報告されているものの、自然流産の可能性も考えられるため、因果関係は不明という。厚生労働省によると3月15日時点でのエンシトレルビルの投与実績は3万7,198例。一般に新型コロナ患者は男女比1:1と言われるが、この薬の催奇形性に対する注意喚起がこれまでもかなり行われていることから考えると、女性での投与事例は多くとも1万人前後ではなかろうか?この前提で行けば3,000人に1人でこうした事例が発生している計算になる。もっともこれまで発覚した3例のように当事者が妊娠を自覚せずに服用し、今も判明していない事例もあると想定すれば、もう少し高い頻度で発生していることになる。しかし、改めてこの問題は一筋縄ではいかないと感じている。企業も行政もかなり最大限の注意喚起は行っているはずだし、実際、女性患者向けのチラシもある。とはいえ、投与直前の妊娠の可能性がある性行為の有無については完全に自己申告に頼らざるを得ない。そしてこの一件で改めて思い起こしたのが、今回の新型コロナ騒動の初期にドラッグ・リポジショニングで有効性が期待された抗インフルエンザ薬のファビピラビル(商品名:アビガン)のことである。そもそもエンシトレルビルの場合、確認された催奇形性はウサギで臨床曝露量の5.0倍相当以上。その意味であえて言えば、可能性の範囲に留まる。これに対し、ファビピラビルは臨床曝露量以下で、マウス、ラット、ウサギ、サルの4種類で催奇形性が確認されている。もはや可能性の範疇を超えてほぼ確実といっても差し支えない。ファビピラビルについては2020年10月に新型コロナを適応とする承認申請が行われたが、企業側が提出した臨床試験データでは有効性が確認できたとは言い難いとの判断で12月に継続審議となり、そのまま有効性が確認されずに終わっている。もし、あの時点で承認されていたら、当時ではおよそ想像できなかった巨大な規模となった第8波の際に使われていたはずである。その場合、どうなっていただろう。考えるだけでぞっとする。ご存じのように、ファビピラビルに関しては抗インフルエンザ薬としての承認時の催奇形性問題を踏まえ、異例の一般流通なしでの国家備蓄のみとなった。実は当時、この件を取材した際、厚労省関係者に催奇形性に対する警戒が必要とは言え、あまりにもやり過ぎではないかと尋ねたことがある。当時の関係者の反応が私は今でも忘れられない。この人は私の顔をキッと睨み、10秒ほど無言になった後、目線を外して独り言のようにこう言った。「村上さん、現実を知らなすぎるよ」ちなみにファビピラビルの承認時に提出された臨床試験の結果を見ればわかるが、インフルエンザに対する効果は、今回のエンシトレルビルの新型コロナに対する効果と同様にかなり微妙なものだった。今よりも若かった私はムッとして「だったらあの程度の効果なんだし、承認しなきゃいいだけじゃないですか?」と言い放ち、この人は「それに関して私が言えることはないよ」と返してきて、そのまま話が終わってしまった。あれから時が経ち、エンシトレルビルでの「アクシデント」も目にし、この人が言っていた言葉の意味をようやく実感している。そして今から見れば当時のファビピラビル承認後の取り扱いは、ある種の英断だったかもしれないとも思う。もっともエンシトレルビルに関しては、すでに流通もし、新型コロナがかなり強力な感染力を持つ以上、今後は当事者に誰も悪意がない中で最悪のケースが起こるかもしれない。それを防ぐためには今以上の注意喚起が必要だが、加えてこれ以上に今早急に取り組まなければならないことがある。それは不幸にも妊娠に気づかずにエンシトレルビルを投与された妊婦に対するケア体制の構築である。今回判明した妊婦は出産まで相当な不安にさいなまれるはずだ。今後も同様の事例が増えれば、中には不安に押しつぶされそうになった結果、中絶という選択肢を取る女性が出てくるかもしれない。悲劇を増幅させないために、この点は待ったなしで対策せねばならないのではないだろうか?

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新型コロナワクチン接種ガイダンスを改訂/WHO

 世界保健機関(WHO)は3月28日付のリリースで、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン接種ガイダンスを改訂したことを発表した。今回の改訂は、同機関の予防接種に関する専門家戦略アドバイザリーグループ(SAGE)が3月20~23日に開催した会議を受け、オミクロン株流行期の現在において、ワクチンや感染、またはハイブリッド免疫によって、世界的にすべての年齢層でSARS-CoV-2の抗体保有率が増加していることが考慮されたものとなる。SARS-CoV-2感染による死亡や重症化のリスクが最も高い集団を守ることを優先し、レジリエンスのある保健システムを維持することに重点を置いた、新たなロードマップが提示された。 今回発表された新型コロナワクチン接種のロードマップでは、健康な小児や青年といった低リスク者に対するワクチン接種の費用対効果について検討されたほか、追加接種の間隔に関する推奨などが含まれている。 改訂の主な内容は以下のとおり。・ワクチン接種の優先度順に、高・中・低の3つグループを設定した。・高優先度群には、高齢者、糖尿病や心臓病などの重大な基礎疾患のある若年者、生後6ヵ月以上のHIV感染者や移植患者などの免疫不全者、妊婦、最前線の医療従事者が含まれる。この群に対して、ワクチンの最終接種から6~12ヵ月後に追加接種することを推奨している。・中優先度群には、健康な成人(50~60歳未満で基礎疾患のない者)と、基礎疾患のある小児と青年が含まれる。この群に対して、1次接種(初回シリーズ)と初回の追加接種を奨励している。・低優先度群には、生後6ヵ月~17歳の健康な小児と青年が含まれる。この群に対する新型コロナワクチンの1次接種と追加接種の安全性と有効性は確認されている。しかし、ロタウイルスや麻疹、肺炎球菌ワクチンなど、以前から小児に必須のワクチンや、中~高優先度群への新型コロナワクチンの確立されたベネフィットと比較すると、健康な小児や青年への新型コロナワクチン接種による公衆衛生上の影響は低く、疾病負荷が低いことを考慮して、SAGEはこの年齢層への新型コロナワクチン接種を検討している国に対し、疾病負荷や費用対効果、その他の保健の優先事項や機会費用などの状況要因に基づいて決定するように促している。・6ヵ月未満の乳児における重症COVID-19の負荷は大きく、妊婦へのワクチン接種は、母親と胎児の両方を保護し、COVID-19による乳児の入院の低減に効果的であるため推奨される。・SAGEは新型コロナの2価ワクチンに関する推奨事項も更新し、1次接種にBA.5対応2価mRNAワクチンの使用を検討することを推奨している。

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看護施設スタッフの検査強化で、入所者のコロナ関連死減少/NEJM

 米国の高度看護施設(skilled nursing facilities)において、職員に対する新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)サーベイランス検査の強化は、とくにワクチン承認前において、入所者の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発症および関連死の、臨床的に意味のある減少と関連していた。米国・ロチェスター大学のBrian E. McGarry氏らが、メディケア・メディケイド・サービスセンター(CMS)のデータベースを用いた後ろ向きコホート研究の結果を報告した。高度看護施設の職員へのCOVID-19サーベイランス検査は広く行われているが、施設入所者のアウトカムとの関連性についてのエビデンスは限定的であった。NEJM誌2023年3月23日号掲載の報告。高度看護施設1万3,424施設について、77週間調査 研究グループは、CMSのCOVID-19 Nursing Home Databaseにおける2020年11月22日~2022年5月15日のデータを用い、ワクチン承認前、B.1.1.529(オミクロン)株優勢前、オミクロン株優勢中の3つの期間における、高度看護施設1万3,424施設の職員のSARS-CoV-2検査と入所者のCOVID-19について後ろ向きコホート研究を行った。同データベースは、高度看護施設が米国疾病予防管理センター(CDC)の医療安全ネットワーク(NHSN:National Healthcare Safety Network)に週単位で提出するデータを含んでいる。 主要アウトカムは2つで、潜在的アウトブレイク(COVID-19症例が2週間なかった後にCOVID-19が発生と定義)時におけるCOVID-19発症およびCOVID-19関連死の週間累積例数(潜在的アウトブレイク100件当たりの件数として報告)で、検査回数の多い施設(検査数の90パーセンタイル)と少ない施設(10パーセンタイル)で比較した。スタッフ検査回数が多い施設で、少ない施設よりCOVID-19発症/関連死が減少 77週間の調査期間において、潜在的アウトブレイク100件当たりのCOVID-19症例は、スタッフへの検査回数が多い施設が519.7例に対し、少ない施設は591.2例であった(補正後群間差:-71.5、95%信頼区間[CI]:-91.3~-51.6)。また、潜在的アウトブレイク100件当たりのCOVID-19関連死は、多い施設42.7例に対し、少ない施設49.8例であった(-7.1、-11.0~-3.2)。 ワクチン承認前においては、潜在的アウトブレイク100件当たりのCOVID-19症例は、スタッフへの検査回数が多い施設759.9例、少ない施設1,060.2例(補正後群間差:-300.3、95%CI:-377.1~-223.5)、COVID-19関連死はそれぞれ125.2例、166.8例(-41.6、-57.8~-25.5)であった。 オミクロン株優勢前は、スタッフへの検査回数が多い施設と少ない施設でCOVID-19症例数、COVID-19関連死数のいずれも同程度であった。オミクロン株優勢中は、多い施設でCOVID-19症例数が減少した。しかし死亡数は両群で同程度であった。

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第154回 日本はパワハラ、セクハラ、性犯罪に鈍感、寛容すぎる?WHO葛西氏解任が日本に迫る意識改造とは?(前編)

休職中だったWHO西太平洋地域事務局の葛西 健・事務局長とうとう解任こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。ワールド・ベースボール・クラシック (WBC)が終わってしまいました。日本代表の優勝に終わった今大会ですが、栗山 英樹監督以下、コーチ陣のほとんどが北海道日本ハムファイターズ(以下、日ハム)の在籍経験者で占められていたことは特筆に値します(代表の投手コーチだった吉井 理人・ロッテ監督も日ハムの投手コーチ時代にダルビッシュ 有選手、大谷 翔平選手を指導)。時折映るブルペンには、かつて日ハムでダルビッシュ選手の球を受けていた鶴岡 慎也氏もいました(ブルペンキャッチャーとして帯同)。首脳陣や裏方の組織編成に、栗山監督が日ハム時代に一緒に働き、自身の考えや戦い方を熟知している人間たちを招集したということでしょう。今回のWBCは、野球というスポーツを超えて、組織づくりという面でもとても参考になりました。ちなみに今回日本代表にスタッフとして参加した大谷選手の通訳の水原 一平氏(元日ハム通訳)は決勝戦直後、自身のインスタグラムに「日ハム組」と題して、コーチ陣に大谷 翔平選手、ダルビッシュ 有選手、近藤 健介選手、伊藤 大海選手らの出場選手も加わった集合写真を掲載しました。総勢なんと13人、全員がにこやかに笑う写真はまるで日ハムが世界で優勝したかのようでした。さて今回は、同じ”世界”ということで、WBCならぬWHO(世界保健機関)の西太平洋地域事務局(フィリピン・マニラ)の葛西 健・事務局長が解任されたニュースを取り上げます。昨年8月から休職となっていた葛西氏、日本政府の強力なロビー活動も虚しく、正式に解任となってしまいました。「調査の結果、不適切な行為があったことが判明した」とWHOWHOは3月8日、職員らへの人種差別的な発言などがあったとして内部告発され、昨年8月から休職中だった葛西・西太平洋地域事務局長を解任したと発表しました。WHOが地域事務局長を解任したのは初めてだそうです。共同通信などの報道によると、葛西氏の処遇を決める地域委員会の投票では解任賛成が13票、反対が11票、棄権が1票とほぼ拮抗。その結果を踏まえ、WHOは「調査の結果、不適切な行為があったことが判明した」とし「(葛西氏の)任命を取消した」と発表しました。不適切な行為の詳細は明らかにしていません。匿名の職員30人以上がWHO執行部に苦情を申し立て内部告発についてはAP通信が昨年1月に最初に報じました。それらの報道によれば、葛西氏は部下の職員に人種差別的な発言をしたり、「攻撃的なコミュニケーションや公然の場で恥をかかせる行為」を繰り返したり、一部の太平洋地域における新型コロナウイルスの感染拡大は「文化や人種のレベルが劣ることによる能力不足」などと述べたりしたとのことです。さらに、機密情報を日本政府に漏らしたという疑いも浮上していました。匿名の職員30人以上がWHO執行部に苦情を申し立て、WHOは告発内容について調査を開始、葛西氏を休職扱いとしました。葛西氏は、調査開始当初、声明で「部下に厳しく接したことは事実だが、特定の国籍の人を攻撃したことはない。機密情報を漏洩したとの非難にも異議がある」と告発内容を否定していました。テドロス事務局長の後任の最有力候補だった葛西氏葛西氏は慶應大学医学部出身の医師で、ロンドン大学衛生熱帯医学大学院を修了後、岩手県庁で働いた後、厚生省(当時)に入省しました。同省保健医療局結核感染症課の国際感染症専門官などを経て2000年からWHO西太平洋地域事務局に感染症対策医官として勤務、西太平洋地域の結核対策や、SARS対応に取り組みました。その後、厚生労働省の大臣官房国際課課長補佐としていったん日本に戻り、宮崎県福祉保健部次長などを務め、地域の医療や感染症対策などに取り組みました。2006年に再びWHOに戻り、西太平洋地域事務局感染症対策課長、WHOベトナム代表などを務め順調に出世、2019年2月、日本政府の強力な支援を受けて、地域委員会の選挙でWHO西太平洋地域事務局長に選ばれました。WHOの西太平洋地域事務局は、世界に6ヵ所あるWHOの地域事務局の一つで、日本や中国、オーストラリアなどを管轄しています。西太平洋地域事務局長には、新型インフルエンザ等対策有識者会議の会長を務める尾身 茂氏も1999年から2006年まで就いていました。葛西氏は、WHOのトップ、テドロス・アダノム事務局長の後任の最有力候補とも目されていました。2006年の選挙で尾身 茂氏が苦杯を舐めたWHO事務局長のポストの獲得は、日本政府にとっても悲願と言えることでした。今回の解任は、WHOをはじめとする国際機関のポスト獲得に注力してきた日本政府には非常に大きな痛手となりました。この方面に詳しい知人に話を聞くと、「いろいろな国際機関があるが、WHOは将来日本がトップを取れるかもしれない数少ない機関の一つだった。告発が表沙汰になってから、日本は嘆願書を出し、尾身氏をマニラに送り込むなど、強力なロビー活動を展開したがダメだった。葛西氏は否定し続けてきたが、告発が事実だった可能性は高い」と話していました。なお、松野 博一官房長官は解任が決まった翌日、9日の記者会見で、WHOが葛西氏を解任したことについて、「選挙で選ばれた局長に対する処分であり、調査・事実認定は公正公平に行われ、地域委員会、加盟国がコミットした上で行われる必要があると一貫して主張してきた」と述べる一方、「日本政府は人種差別やハラスメントを容認しないWHOの政策を支持する立場だ」とも語りました。歴代の厚労大臣がWHOに「嘆願書」ところでこの件に関し、雑誌「集中」2023年1月号は「WHO葛西 健氏の処分、対応巡り政府与党内に波紋」という記事を掲載、2022年10月に歴代の厚生労働大臣がWHOのテドロス事務局長に「嘆願書」を送っていたと報じています。同記事によれば、嘆願書は田村 憲久・元厚労相、塩崎 恭久・元厚労相、根本 匠・元厚労相、後藤 茂之・前厚労相、武見 敬三・元厚労副大臣、古川 俊治・自民党参院議員、橋本 岳・元厚労副大臣、丸川 珠代・元厚労政務官の8人の連名で、「私達は日本の国会議員として、グローバルヘルスやWHOと密接な関わりを持って来ました。私達は、WHO西太平洋事務局長の葛西 健先生に対する疑念に対するWHOの対応について懸念を共有する為に、この連名で書簡を送ります」として、「私達はこの疑惑について直接知っている訳ではないので、特にコメントしません。しかし、葛西 健先生を長年知っている私達にとって、これらの疑惑は真実から遠く離れたものでしかありません」と葛西氏に対する疑惑に疑問を呈しています。その上で、加藤 勝信厚労相が、22年9月に開催された西太平洋地域の地域委員会において、今回の内部告発や調査などについて十分な情報開示と正式な議論を求める意見を表明したにも関わらず、それに対して具体的な行動が取られていないことに懸念を表明しています。葛西氏は今回のような疑惑を招くような人物ではない、調査結果を公表してほしい、葛西氏の言い分も聞くべきだ…。歴代の厚労大臣らによる異例の嘆願書がWHOに送られたものの、結局は解任に至ってしまいました。一体、何が悪かったのでしょうか。パワハラが表沙汰になった段階でほぼほぼアウトの欧米先進国WHO内でのさまざまな事情やパワーバランスももちろん大きいと思いますが、一つにはパワハラやセクハラなどに鈍感、寛容過ぎる日本人の特性が災いした可能性があります。欧米先進国では、パワハラやセクハラについては表沙汰になった(訴えられた、告発された)段階で、ほぼほぼアウトというのが常識と言われています。そもそも複数(30人!)の人間から告発された段階で、仕事の能力以前にその人の人間性に疑問符が付けられてしまいます。ましてや多様性の象徴とも言える国際機関での差別発言は、たとえそこに悪意がなかったとしてもアウトでしょう。そのアウトさがAP通信で報道されたのは2022年1月。すぐさま火消しに入らなかった日本政府や頑なに告発内容を否定し続けた葛西氏にも非がありそうです。「解任理由が不明確」との批判もありますが、国際的には今回の解任、歓迎の声も大きいようです。医学雑誌の「The Lancet」は3月18日、「Global health experts welcome Kasai dismissal」(グローバルヘルスの専門家たち葛西氏解任を歓迎)と題する記事を掲載しているのです。(この項続く)

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