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第77回 mRNAワクチン技術でまさかの「がん治療」

悪性黒色腫・膵がんに対するmRNAワクチン技術Unsplashより使用mRNAワクチンは、新型コロナウイルスに対して有効性や安全性が検証されましたが、がん細胞を対象とした研究が世界各国で進められています。がん細胞に特異的なタンパクを作るmRNAを接種することで、がん細胞を攻撃する細胞性免疫が成立するというメカニズムです。さて、mRNA-4157/V940は、がんの遺伝子変異に基づいて設計された、腫瘍特異的変異抗原(ネオアンチゲン)をコードするmRNAベースの個別化ワクチンです。完全切除後の再発リスクが高い病期のStageIII/IVの悪性黒色腫において、ペムブロリズマブ単剤療法と比較して、疾患の再発または死亡のリスクを有意に減少させたことが1年前に話題となりました。2023年12月14日のModerna社(米国)のプレスリリースでは、当該追跡3年の結果が報告されています。mRNA-4157/V940とペムブロリズマブ併用による術後補助療法によって、ペムブロリズマブ単剤より無再発生存期間の延長が確認され、再発または死亡のリスクが49%減少したことが報告されました(ハザード比[HR]:0.510、95%信頼区間[CI]:0.288~0.906、片側p=0.0095)。また、無遠隔転移生存期間も有意に延長し、遠隔転移の発生または死亡リスクを62%減少させました(HR:0.384、95%CI:0.172~0.858、片側p=0.0077)。―――かなり効果があると言っても差し支えのない成績です。生存期間が非常に短い膵がんにおいても、mRNAベースの個別化ワクチンによってT細胞応答がみられた症例では、生存期間が長くなるのではないかと期待されています1)。「mRNAワクチンを接種したらターボがんになる」というデマmRNAワクチンといえば、「遺伝子が書き換えられて発がんする」という根も葉もないウワサが流れ、一部トンデモがん情報提供インフルエンサーで騒がれたことがありました。とくに、がんの急速な進行のことを独自に「ターボがん」などと名付け、デマが流布されました。そもそも「ターボがん」自体がコンセンサスのない概念なので、二重デマなわけですが…。何億回と接種されてきた新型コロナワクチンですが、現時点で発がんに関する安全性シグナルは検知されていません。アメリカの国立がん研究所においても、「新型コロナワクチンが発がんを引き起こし、再発やがんの進行につながることを支持するデータはない」と明記されています2)。そんなmRNAワクチン技術によって、発がんどころか、がんの治療が行えるというのは、誠に興味深い現象です。参考文献・参考サイト1)Rojas RA, et al. Personalized RNA neoantigen vaccines stimulate T cells in pancreatic cancer. Nature. 2023 Jun;618(7963):144-150.2)National Cancer Institute:COVID-19 Vaccines and People with Cancer

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ミシガン州の5人の女性で眼梅毒、感染源は同一の無症候性梅毒男性

 「Morbidity and Mortality Weekly Report」11月24日号に、米ミシガン州で2022年3月から7月の間に5人の女性において確認された眼梅毒の症例に関する報告書が掲載された。この報告書をまとめた、米カラマズー郡保健地域サービス局(KCHCSD)のWilliam Nettleton氏らは、これらの女性がいずれも、無症候性梅毒の同一の男性と性的関係を持っていたこと、および眼梅毒自体が非常にまれなことから、この男性が持っていた梅毒菌(Treponema pallidum)の株が眼合併症のリスクを高めたのではないかと見ている。 梅毒菌は、感染しても多くの場合、症状がすぐに現れることはないため、気付かないうちに他者を感染させてしまうことがある。梅毒の症状は、時間とともに全身に進行していき、視力の永久的な損傷など深刻な神経症状を引き起こす可能性がある。 残念ながら梅毒は、地域を問わず、特に性的に活発な米国人の間で復活を遂げつつある。Nettleton氏らによると、ミシガン州では人口10万人当たりの症例数が2016年の3.8人から2022年には9.7人にまで増加しており、特にミシガン州南西部(カラマズー周辺)での増加が顕著だという。 2022年のミシガン州のアウトブレイクでは、上記の40〜60歳の女性5人が眼梅毒で入院した。患者の詳細は以下の通り。患者A:梅毒トレポネーマ抗体検査で陽性が判明したことから、眼科医により3月にKCHCSDへ紹介された。患者は目のかすみと失明の恐怖を訴え、また、単純ヘルペスウイルス感染症の再発との見立てでバラシクロビルを使用していたが病変が改善しなかったことを報告した。患者B:4月に頭痛、軽度の難聴、目のかすみの悪化と複視の悪化を訴え、神経梅毒と診断されて入院した。患者C:5月に梅毒検査で陽性が判明。患者には、全身の発疹、手のひらの皮むけ、視界に浮遊する斑点が見える(飛蚊症)などの症状が現れていた。患者D:膣潰瘍と、手および腹部に発疹が現れており、6月に眼科医から眼梅毒の診断を受けた。患者E:5月に飛蚊症などを訴えて眼科で診察を受け、7月に眼梅毒と神経梅毒と診断されて入院した。 保健員が5月にこれらの女性と性的関係を持った男性を探し出し、梅毒検査を行ったところ、陽性であったが、梅毒の症状は現れていなかった。この男性と5人の女性は、最終的にペニシリン治療を受け、全員が治癒した。 眼梅毒のアウトブレイクは他にも記録されているが、研究グループによると、ミシガン州のアウトブレイクは、「異性間性的接触に起因する症例として初めて記録されたもの」であるという。また、梅毒の合併症は、通常、病状がより進行した段階で生じるにもかかわらず、今回の症例では、「全ての患者が梅毒の初期段階にあった」ことを懸念すべき点として挙げている。さらに、過去に確認された多くのクラスターと異なり、注射薬の使用やトランザクションセックスを報告した患者はおらず、全員がHIV陰性であったことにも言及している。 報告書ではこのほかにも、2022年のミシガン州における梅毒症例の大半は男性であるものの、梅毒症例に女性が占める割合は、2016年には9%だったのが2022年には23%に増加している点も指摘されている。 Nettleton氏らは、「梅毒は、迅速に診断して治療すれは、永続的な視覚障害や聴覚障害を含む全身合併症を予防できる疾患だ」と述べ、医師に、梅毒の症例に注視するよう助言している。

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12月27日 国際疫病対策の日【今日は何の日?】

【12月27日 国際疫病対策の日】〔由来〕新型コロナウイルス感染の初確認から約1年となる2020年、疫病の大流行に対する備えの必要性を国際社会が認識し続ける狙いをこめて、国連総会の本会議で採択し、制定。関連コンテンツ新興再興感染症に気を付けろッ!コロナの症状、ワクチン回数による違い【患者説明用スライド】年齢別、コロナ後遺症の発生頻度【患者説明用スライド】コロナ再感染、高齢者よりも若年層で増加コロナとインフルの死亡リスク、最新研究では差が縮まる

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手袋をしたままのアルコール擦式消毒、効果は?

 世界保健機関(WHO)が推奨する5つのタイミング(患者に触れる前、清潔/無菌操作の前、体液に曝露された可能性のある場合、患者に触れた後、患者周辺の環境や物品に触れた後)で手袋をしたままアルコール擦式消毒を行うことは、ゴールドスタンダードである手袋の交換と比較すると効果は劣ったが、試験参加者が通常行っている対応と比較すると大幅に汚染を減少させた。米国・メリーランド大学のKerri A. Thom氏らによるInfection Control & Hospital Epidemiology誌オンライン版2023年11月23日号の報告。 著者らは、成人および小児の外科、中間治療、救急治療ユニットを有する4つの病院の医療従事者を対象に、混合研究法を用いた多施設共同無作為化比較試験を実施した。参加者は介入群(WHO推奨の5つの手指衛生タイミングで、手袋の上からアルコール消毒し、手をこする)、ゴールドスタンダード(GS)群(WHO推奨の5つの手指衛生タイミングで、手袋を外し、手指衛生を実施し、新しい手袋を着用する)、通常対応群(参加者が通常行っているとおりに手指衛生・手袋の交換を行う)の3群に無作為に割り付けられ、総コロニー数および病原性細菌の有無を評価。GS群と介入群および通常対応群と介入群が比較された。 主な結果は以下のとおり。・GS群と介入群を比較した結果、手袋をはめた状態の手に細菌が確認されたのはGS群では641回中432回(67.4%)、介入群では662回中548回(82.8%)であった(p<0.001)。・総コロニー数中央値はGS群では2CFU(四分位範囲[IQR]:0~5)、介入群では4CFU(IQR:1~15)であった(p<0.001)。・病原性細菌はGS群3.9%、介入群7.3%で同定された(p<0.01)。・患者のケア再開までに要する時間は、GS群では平均28.7秒、介入群では平均14秒であった(p<0.001)。・通常対応群と介入群を比較した結果、手袋をはめた状態の手に細菌が確認されたのは通常対応群では135回中133回(98.5%)、介入群では226回中173回(76.6%)であった(p<0.001)。・総コロニー数中央値は通常対応群では29CFU(IQR:10.5~105.5)、介入群では2CFU(IQR:1~14.75)であった(p<0.001)。・病原性細菌は通常対応群28.1%、介入群7.1%で同定された(p<0.001)。・通常対応群において、WHO推奨の5つの手指衛生タイミングは537回記録されたが、そのうち手指衛生あるいは手袋の交換の実施が確認されたのは26回(4.8%)だった。そのうち遵守率が高かったのは「体液に曝露された可能性のある場合」で、低かったのは「患者周辺の環境や物品に触れた後」および「患者に触れる前」であった。・テストされた331個の手袋のうち、6個(1.8%)に微細な穴があることが判明し、これらはすべて介入群で特定された。 著者らは、ゴールドスタンダード遵守の実現可能性の低さを考慮すると、WHOや疾病予防管理センター(CDC)は、1人の患者のケア中においては手袋をしたままのアルコール擦式消毒を推奨することも検討すべきではないかとしている。

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次世代mRNAコロナワクチン、国内第III相で有効性・安全性を確認/Meiji Seika

 Meiji Seika ファルマは12月21日付のプレスリリースにて、同社が国内における供給・販売を担う新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する次世代mRNAワクチン(レプリコンワクチン)「コスタイベ筋注用」(ARCT-154)について、追加免疫国内第III相試験の結果がThe Lancet Infectious Diseases誌オンライン版2023年12月20日号に掲載されたことを発表した。 本試験は、既存mRNAワクチンを接種済みの成人を対象とし、次世代mRNAワクチンと既存mRNAワクチンの追加接種を比較した初めての臨床試験だ。本試験の結果、ARCT-154の5μgの追加接種が、コミナティ(ファイザー製)の30μgの追加接種と比較して、武漢株(Wuhan-Hu-1)に対して非劣性を示し、オミクロン株BA.4/5株に対して優越性を示すことが認められた。 次世代mRNAワクチンのARCT-154は、新規のsa-mRNA技術を使用しており、細胞内に送達されたmRNAが増幅されるように設計されている。そのため、既存ワクチンよりも少ない接種量で高い中和抗体価、高い安全性と有効性、効果の持続が期待される。 本試験では、既存mRNAワクチンを3ヵ月以上前に3回接種した18歳以上の健康成人828例を対象に、1回の追加接種としてARCT-154を5μg(420例)、あるいはコミナティを30μg(408例)接種し、免疫原性および安全性を評価した。 主な結果は以下のとおり。・追加接種から4週間後の武漢株に対する中和抗体価の幾何平均(GMT)は、ARCT-154群:5,641(95%信頼区間[CI]:4,321~7,363)vs.コミナティ群:3,934(2,993~5,169)であった。GMT比:1.43(95%CI:1.26~1.63)。・武漢株に対する中和抗体応答率は、ARCT-154群:65.2%(95%CI:60.2~69.9)vs.コミナティ群:51.6%(46.4~56.8)で、差は13.6%(95%CI:6.8~20.5)となり、非劣性が示された。・オミクロン株BA.4/5に対する中和抗体価のGMTは、ARCT-154群:2,551(95%CI:1,687~3,859)vs.コミナティ:1,958(1,281~2,993)であった。GMT比:1.30(95%CI:1.07~1.58)。・BA.4/5に対する中和抗体応答率は、ARCT-154群:69.9%(95%CI:65.0~74.4)vs.コミナティ群:58.0%(52.8~63.1)となり、優越性が示された。・ARCT-154またはコミナティの追加接種により、重度または重篤な有害事象は認められず、忍容性は等しく良好だった。・特定局所反応については、ARCT-154群の95%、およびコミナティ群の97%から報告された。特定全身有害事象については、同じく66%および63%から報告された。 本試験結果は、ベトナムで実施された海外第I/II/IIIa相試験と海外第IIIb相試験、米国・シンガポールで実施された海外第II相試験などと合わせて申請資料として提出され、2023年11月28日に「コスタイベ筋注用」として厚生労働省より製造販売承認された。本試験は、接種後3ヵ月、6ヵ月、12ヵ月での安全性および免疫応答の持続性や細胞性免疫を検討するため現在も進行中。変異株対応の試験も進められており、2024年秋冬接種に向けて実用化を目指している。

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コロナワクチン全額公費接種を3月31日に終了/ヌバキソビッド供給終了/厚労省

 厚生労働省は12月25日、新型コロナワクチン接種体制確保事業に関する自治体向け説明会にて、2024年3月31日に新型コロナワクチンの特例臨時接種による全額公費の接種を終了することを発表した1)。2023年9月20日以降は、生後6ヵ月以上のすべての人を対象に、オミクロン株XBB.1.5対応1価ワクチンの全額公費による接種が行われていたが、2024年4月1日以降(令和6年度)から、65歳以上および重い基礎疾患のある60~64歳(インフルエンザワクチン等の接種対象者と同様)を対象に、秋冬に自治体による定期接種が行われる。特例臨時接種終了の情報提供として、リーフレットも掲載された2)。 厚労省は、低所得者以外の接種対象者の自己負担額は、7,000円(ワクチン価格:3,260円、手技料:3,740円)を標準として、各自治体にて検討するよう呼びかけた。接種を受ける努力義務や自治体からの接種奨励の規定はない。接種対象者以外は、任意接種として、時期を問わず自費で接種することとなる。 また同日、厚労省は、武田薬品工業が国内で製造販売する組換えコロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチン「ヌバキソビッド筋注」(従来株対応)について、現在流通しているものの有効期限を迎えた2023年12月25日をもって、供給を終了することも発表した3)。同ワクチンは、何らかの理由でXBB.1.5対応ワクチンが接種できない12歳以上に対して、公費接種で供給されていた。同ワクチンの活用状況として、同社により供給された約824万回分のうち、国内に配送されたのが約110万回分、廃棄されるのが約714万回分だとしている。なお、同社が11月20日に発表した「ヌバキソビッド筋注の供給に関するお知らせ」によると、2024年度以降の供給再開に向けて、変異株の流行状況を考慮したワクチンの準備に取り組んでいるという。

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2023年、読んでよかった!「この医学書」/会員医師アンケート

2023年も多くの医学書が刊行されました。CareNet.comでは、会員医師1,000人(内科、循環器科、呼吸器科、消化器科、精神科/心療内科・各200人)に、「今年読んでよかった医学書」についてアンケートを実施しました(今年刊行された本に限らず、今年読んだ本であればOK)。アンケートでは「ご自身の専門分野でよかった本」「専門分野以外でよかった本」を1冊ずつ、理由も添えて挙げてもらいました。本記事では、複数の医師から名前の挙がった書籍を、お薦めコメントと共に紹介します(アンケート実施日:12月5日)。ぜひ、年末年始の読書の参考にしてください。内科幅広いテーマの書籍が「専門分野」として挙げられた内科。『今日の治療薬』(南江堂)、『ハリソン内科学』(メディカル・サイエンス・インターナショナル)、『当直医マニュアル』(医歯薬出版)といった「ド定番」のほか、糖尿病治療に関する書籍と「日本内科学会雑誌」を挙げる人が目立ちました。『ジェネラリストのための内科外来マニュアル 第3版』(金城 光代ほか[編]、医学書院、2023年)内科外来のトップマニュアルが6年ぶりの改訂。内科医以外からも多くの推薦がありました。●推薦コメント「外来診療に役立った」「疾患別に緊急性や重症度などを考えさせるように導く内容となっていて面白い」『胃炎の京都分類 改訂第3版』(春間 賢[監修]、日本メディカルセンター、2023年)多くの画像で胃炎を解説する定番書の改訂第3版。●推薦コメント「慢性胃炎に対する内視鏡的・肉眼的考察により、これまでの慢性胃炎の概念を体系化した書物」「臨床に生かせる」『内科学 第12版』(矢崎 義雄・小室 一成[編]、朝倉書店、2022年)初版は1977年、病態生理を中心に内科的疾患の最新の知見を集大成した改訂12版。●推薦コメント「鉄板です」「ザ・定番と思われるため」循環器科内科医からも多くの推薦があった『ジェネラリストのための内科外来マニュアル』のほか、個別テーマでは心電図、PCIを扱った書籍が多く挙げられました。『循環とは何か? 虜になる循環の生理学』(中村 謙介[著]、三輪書店、2020年)難解な循環の生理学を、深くかつわかりやすく解説。●推薦コメント「面白い」「知識の整理になった」『PCIで使い倒す IVUS徹底活用術 改訂第2版』(本江 純子[編]、メジカルビュー社、2020年)「もっとこうしたらIVUSをより有効に活用できる」という手順・方法などを、実例と共に解説。●推薦コメント「IVUSの基本的な読影やトラブルシューティングなど、理論的にわかりやすかった」「説明がわかりやすく、実践的」『心不全治療薬の考え方,使い方 改訂2版』(齋藤 秀輝ほか[編]、中外医学社、2023年)心不全治療薬の整理のほか、使い分けや未知の事柄も追記した実践的な書の改訂版。●推薦コメント「いつも参考にしています」「心不全治療薬の“革命”を経て…、U40新世代が作り上げるバイブル」呼吸器科「間質性肺炎」「肺がん」「喘息」「気管支鏡」「人工呼吸」「咳」など、「専門」とする書籍テーマのバリエーションが多様だった呼吸器科。回答者によってさまざまな疾患に対応していることが垣間見える結果となりました。『ポケット呼吸器診療2023』(倉原 優[著]、シーニュ、2023年)CareNet.comの連載でもおなじみの倉原氏による定番の一冊の最新版。●推薦コメント「毎年非常に詳しく書かれているから」「ガイドラインや最新の治療薬のアップデートを記憶するのに役立つ」「呼吸器診療のtipsがコンパクトにまとめられている」『誤嚥性肺炎の主治医力』(飛野 和則[監修]、吉松 由貴[著]、南山堂、2021年)飯塚病院 呼吸器内科の著者らによる誤嚥性肺炎診療の実践書。●推薦コメント「気を付けるポイントを再認識した」「読みやすく、わかりやすかった」『抗菌薬の考え方,使い方 ver.5』(岩田 健太郎[著]、中外医学社、2022年)未曽有のコロナ禍を経て、新たに刊行された改訂版。●推薦コメント「大学の授業で習うべき重要な内容」「基本的な抗菌薬の知識を臨床の面から解説してある」「普段何気なく使用している抗菌薬の使用方法を見直すきっかけになった」消化器科内科医からも多く挙げられた『胃炎の京都分類 改訂第3版』のほか、医学誌「胃と腸」や『胃と腸アトラス』を「基本知識、専門知識がよくわかる」「読影の参考になる」「症例問題集が面白く勉強になる」と推薦する声が目立ちました。『専門医のための消化器病学 第3版』(下瀬川 徹ほか[監修]、医学書院、2021年)消化器専門医が知っておきたい最新知見を各領域のエキスパートが解説。●推薦コメント「内容が新しくてよい」「専門医として知っておくべき内容がまとめてあり、わかりやすい」「網羅的に消化器病の知識が記されており、教科書兼辞書として重宝している」『カール先生の大腸内視鏡挿入術 第2版』(軽部 友明[著]、日本医事新報社、2020年)内視鏡手技をテーマとした書籍が多いなか、内視鏡挿入のテクニックを動画付きで解説した本書を挙げる人が目立ちました。●推薦コメント「図が豊富」「基本的な内容が理解できた」「わかりやすく、新しい発見があった」『患者背景とサイトカインプロファイルから導く IBD治療薬 処方の最適解』(杉本 健[著]、南江堂、2023年)炎症性腸疾患(IBD)の治療薬について、著者独自の観点から患者ごとの最適解の考え方を提供。●推薦コメント「目から鱗でした」「わかりやすく、的確な具体例もある」精神科/心療内科他科と比較して同じ本を選択した回答者が多く、刊行から時間が経過した本も多く選ばれる傾向がありました。『精神診療プラチナマニュアル 第2版』(松崎 朝樹[著]、メディカル・サイエンス・インターナショナル、2020年)精神診療に必要かつ不可欠な内容をハンディサイズに収載。●推薦コメント「ノイヘレン(新人)時代にこういった入門書があればよかった。今でも復習に役立つ」「内容がわかりやすくまとまっている」「最新の話題が記載されている」『[新版]精神科治療の覚書』(中井 久夫[著]、日本評論社、2014年)「医者ができる最大の処方は希望である」。精神科医のみならず、すべての臨床医に向けられた基本の書。●推薦コメント「読みやすい」「改めて読み直してみて、初心を思い出せた」『カプラン臨床精神医学テキスト 第3版』(井上 令一[著・監修]、メディカル・サイエンス・インターナショナル、2016年)DSM-5準拠、高評と信頼を得た最高峰のテキストの改訂版。●推薦コメント「精神科医が学ぶことがおおむね網羅されている」「DSM-5に準じ体系化されていて、たくさんの疾患が網羅されている」「精神科専門医試験もここから多く出ていた」専門も専門外も!「信頼のシリーズ」アンケートの設問では「事典やガイドライン、医学雑誌以外の本を推薦ください」と条件を付けたものの、医師にとって最も身近であるこれらの書籍や、医学生・研修医、非専門医、コメディカルを対象とした定番シリーズを挙げる方も多くいました。「極論で語る」シリーズ(丸善出版)●推薦コメント「循環器疾患についてメカニズムと対応方法をわかりやすく解説してくれる」(『極論で語る循環器内科』/循環器科)、「体液コントロールにおける腎臓の視点を取り入れることができる」(『極論で語る腎臓内科』/循環器科)「病気がみえる」シリーズ(メディックメディア)●推薦コメント「看護学校の講師をしていますが、初心に返ることができた」(循環器科)、「基礎の確認になった」(循環器科)「レジデントのための」シリーズ(日本医事新報社)●推薦コメント「内科診療の疑問をEBMの側面でまとめてくれている」(『レジデントのための 内科診断の道標』/精神科)、「実臨床に即しており、非常にわかりやすい」(『レジデントのための これだけ輸液』/呼吸器科)どの科も必須「このテーマ」新型コロナウイルス感染症が収まり切らないなか、「専門外」の良書としてどの科の医師からも名前が挙がった本には、感染症をテーマとするものが多数ありました。『レジデントのための感染症診療マニュアル 第4版』(青木 眞[著]、医学書院、2020年)初版から20年。読み継がれてきた「感染症診療のバイブル」の最新版。●推薦コメント「抗菌薬の選択に参考となる」(呼吸器科)『感染症プラチナマニュアル Ver.8 2023-2024』(岡 秀昭[著]、メディカル・サイエンス・インターナショナル、2023年)2015年初版、ベストセラー「感染症診療マニュアル」の改訂第8版。●推薦コメント「実臨床に即しており、非常にわかりやすい」(呼吸器科)キラリと光る「新定番」絶対数としてはさほど多くないものの、最近刊行された注目の書籍が、複数の科の医師から「専門外の好著」として名前が挙がりました。『誰も教えてくれなかった皮疹の診かた・考えかた』(松田 光弘[著]、医学書院、2022年)皮膚科疾患のロジックが身に付く、フローチャートを用いた解説が好評の一冊。●推薦コメント「皮膚科が苦手だったが、まさに目からウロコ」(内科)、「皮疹を診る際の皮膚科医の思考過程がよくわかる」(内科)、「他科の医師でも皮疹診療についての基本がわかる」(呼吸器科)『世界一わかりやすい 筋肉のつながり図鑑』(きまた りょう[著]、KADOKAWA、2023年)100点以上のオールカラーイラストで筋肉のつながり・仕組みを平易に解説した一般書のベストセラー。●推薦コメント「筋肉の解剖学的特徴がわかりやすい」(内科)、「イラストがよい、わかりやすい」(消化器科)『心電図ハンター 心電図×非循環器医』(増井 伸高[著]、中外医学社、2016年)非循環器医をターゲットに、即座に判断できない微妙な症例を集め、心電図判読のコツを紹介。●推薦コメント「実際の臨床の場面を想定した形での判断基準などがわかりやすい」(内科)、「知りたいことがコンパクトにまとめてある」(呼吸器科)こんな本も! 医師ならではの一冊医学書以外でも、医師ならではの視点から、熱のこもったコメントと共に寄せられた本がありました。『蘭学事始』(杉田 玄白[著]、緒方 富雄[校註]、岩波文庫、1959年)江戸後期、杉田 玄白が著した蘭学創始期の回想録。●推薦コメント「印象に残った」(呼吸器科)『医療現場の行動経済学 すれ違う医者と患者』(大竹 文雄・平井 啓[編著]、東洋経済新報社、2018年)●推薦コメント「インフォームドコンセントからSDMになり、なんとなく感じていた違和感が、行動経済学的な考え方によりすっきりした」(消化器科)『嫌われる勇気』(岸見 一郎・古賀 史健[著]、ダイヤモンド社、2013年)アドラー心理学を解説する、100万部突破のベストセラー。●推薦コメント「承認欲求に気付くことができた」(循環器科)『わたしが誰かわからない ヤングケアラーを探す旅』(中村 佑子[著]、医学書院、2023年)●推薦コメント「一体ヤングケアラーとは誰なのか。世界をどのように感受していて、具体的に何に困っているのか。取材はドキメンタリーを読むようだ」(消化器科)

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新型コロナ、免疫回避能の高いJN.1へ急速に進化

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のオミクロン株BA.2.86(ピロラ)から派生したJN.1は、フランス、米国、シンガポール、カナダ、英国など全世界で急速に拡大しており、世界保健機構(WHO)は2023年12月18日付で、JN.1をVOI(注目すべき変異株)に追加した1)。中国・北京大学のSijie Yang氏らの研究グループは、JN.1のウイルス学的特徴を解析したところ、親株のBA.2.86よりも高い免疫回避能を獲得しており、それが受容体結合ドメインの変異(L455S)によるものである可能性が示唆された。The Lancet Infectious Diseases誌オンライン版2023年12月15日号に掲載の報告。新型コロナJN.1は抗体に対する広範な耐性を急速に獲得 本研究では、XBB感染後に回復した人の血漿を用いて、疑似ウイルスに基づく中和アッセイを行い、JN.1の体液性免疫回避能を調べた。対象となったのは、不活化ワクチン(Sinovac製)を3回接種後にXBBにブレークスルー感染(XBB BTI)していた27例、および、ワクチン3回接種後にBA.5またはBF.7に感染し、その後XBBに再感染(XBB再感染)していた54例。 新型コロナJN.1のウイルス学的特徴を解析した主な結果は以下のとおり。・JN.1は親株のBA.2.86と比較して、受容体結合ドメインの変異(L455S)が1つ追加したものとなっている。・JN.1はBA.2.86と比較して免疫回避能が有意に亢進していた。JN.1に対するXBB再感染血漿の50%中和力価値(NT50)は、BA.2.86に対するものより2.1倍低下していた。JN.1に対するXBB BTI血漿のNT50は、BA.2.86に対するものより1.1倍低下していた。・JN.1の免疫回避能は、競合する変異株のHV.1やJD.1.1を上回っていた。・JN.1の受容体結合ドメイン変異(L455S)によって、ACE2との結合親和性が顕著に低下していることが表面プラズモン共鳴法で認められた。これは、免疫回避能の向上がACE2結合の低下と引き換えになっていることを示している。・8種類のXBB.1.5中和クラス1モノクローナル抗体に対するJN.1の回避能を擬似ウイルス中和アッセイで調べたところ、クラス1抗体に対する回避能が高まっていることが示された。・治療用抗体に関しては、SA55(Singlomics製)は、JN.1を含むすべての変異株に対して中和効果を維持していた。 JN.1は、BA.2.86の抗原的多様性を受け継ぎ、L455Sを獲得することにより、抗体に対する広範な耐性を急速に獲得し、ヒトACE2結合の低下と引き換えに、より高い免疫回避能を示した。著者らは、高い免疫回避能は持たないものの、ヒトACE2結合親和性が高く、明確な抗原性を持つBA.2.86やBA.2.75のような株を監視することの重要性を強調している。このような株は、抗原性の違いから優勢株とは異なる集団を標的にすることができ、免疫回避性の高い変異を急速に蓄積して感染拡大する可能性があると指摘している。

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第176回 紙の保険証は来年12月2日に廃止、マイナ保険証を導入へ/政府

<先週の動き>1.紙の保険証は来年12月2日に廃止、マイナ保険証を導入へ/政府2.来年度の新型コロナワクチン定期接種、自己負担は7,000円/政府3.来年度の社会保障費過去最大の37兆円、医療・介護従事者の賃上げが実現へ/政府4.地方では3割以上の人口減、日本の2050年を予測/社会保障・人口問題研究所5.健康増進のための睡眠ガイド、成人は6時間以上を推奨/厚労省6.甲南医療センター院長らが書類送検、再発防止を求めて遺族会が発足/兵庫1.紙の保険証は来年12月2日に廃止、マイナ保険証を導入へ/政府政府は、マイナンバーカードと一体化した「マイナ保険証」へ移行して、2024年12月2日に現行の健康保険証を廃止することを閣議決定した。この変更により、現行の保険証は最長1年間使用可能な経過措置が設けられるが、新規発行は停止される。マイナ保険証を持たない人には、保険証の代わりとなる「資格確認書」が発行され、その有効期限は5年間となる。この政策に対して、ネット上では、政府の方針に対して「取得は任意だったはず」「進め方が詐欺的」といった不満が噴出している。政府は、医療機関や保険者、事業主と連携して利用促進に努めるとともに、マイナ保険証の利用率増加に応じた支援金の周知や、保険証の不安払拭やマイナンバーカード取得の円滑化に向けた取り組みを進めていく方針を明らかにしている。閣議決定では保険者の準備や窓口での円滑な対応を考慮して決定されたが、実際にマイナ保険証が使えなかったケースも報告されており、政府は引き続き周知広報を進めるとしている。マイナ保険証への変更は、わが国の社会保障制度におけるデジタル化の一環として注目されているが、利用率は4.5%に止まり、さらなる普及には国民の理解が不可欠となる。デジタル庁は、来年度の予算でマイナンバーカードの利便性向上・利活用シーンの拡大をさらに推進するするとともに、個人情報保護の体制強化に乗り出す方針を明らかにしている。参考1)健康保険証、来年12月2日に廃止 経過措置1年(CB news)2)紙の健康保険証は24年12月2日に廃止「マイナ保険証」へ一本化する期日を閣議決定(ITmedia NEWS)3)マイナ保険証移行で医療効率化へ 利用率は4.5%どまり(日経新聞)4)マイナンバー制度の普及推進継続 個人情報保護の体制強化に21億円(朝日新聞)2.来年度の新型コロナワクチン定期接種、自己負担は7,000円/政府政府は、65歳以上の高齢者と一定の基礎疾患を持つ60~64歳を対象とする、来年度の新型コロナウイルスワクチン定期接種の標準的な自己負担を7,000円とする方針を決定した。低所得者には接種費用の一部を助成し、実際の自己負担額が7,000円より低くなる可能性もある。一方、定期接種の対象者は65歳以上の高齢者と60~64歳で基礎疾患のある人で、それ以外の任意接種者は助成対象外となり、原則全額自己負担となる見込み。今年度までのコロナワクチンは全世代を対象に公費で全額負担されていたが、来年度からは年1回、秋から冬に接種する定期接種となる。政府は、ワクチン価格が3,260円、診察など接種にかかる手技料が3,740円の計7,000円と見積もっており、来年2月ごろにメーカー各社から価格を聞き取り、超過する場合は対応を検討する。この政策に対し、全国知事会からは負担軽減策を求める声が上がっている。米国ではワクチンの価格と手技料を合わせて2万円前後とされており、来年度以降、定期接種が高額になるケースが想定されている。政府は、接種費用の一部を助成し、市町村に助成金を交付して、国民の負担を軽減を目指している。参考1)コロナワクチン、自己負担7千円に 来年度、高齢者ら対象の定期接種(朝日新聞)2)コロナワクチン定期接種、自己負担の上限7,000円に…自治体が補助上乗せなら減額(読売新聞)3)コロナワクチン定期接種の自己負担7千円 来年度、政府が超過分助成へ(産経新聞)3.来年度の社会保障費過去最大の37兆円、医療・介護従事者の賃上げが実現へ/政府政府は12月24日、2024年度の予算案を閣議決定し、社会保障関係費が過去最大の37兆7,193億円に達することが確認された。この中で、医療費は12兆3,668億円を占める。来年度の診療報酬改定においては、本体部分が0.88%プラスに設定され、これにより看護師や医療関係職種の賃上げが実現される見込み。なお、賃上げ率は定期昇給を含めて約4%になると予測されている。一方、薬価は1%引き下げられ、診療報酬全体の改定率はマイナス0.12%となり、医療費の抑制効果は限定的となる見通し。また、後発薬の供給不足に対応するため636億円が投入され、医療や介護のデジタル化推進にも30億円が割り当てられる。このほか、特許切れの先発医薬品に対する後発薬との差額の25%が新たな患者負担となる見込み。介護分野では、報酬の引き上げにより賃金体系の底上げを図り、人手不足の解消を目指す方針。しかし、介護保険サービス利用者の自己負担引き上げは見送られ、高齢化に伴う費用増加への対応には課題が残されている。政府は、医療費の抑制と賃上げのバランスを考慮しながら、次世代への負担を軽減する持続可能な医療体系の構築を目指しているとのこと。参考1)令和6年度予算政府案(財務省)2)24年度予算案、社保費膨張で初の37兆円 総額112兆円(日経新聞)3)社会保障費、過去最大の37.7兆円 来年度予算案決定(CB news)4)来年度予算案 閣議決定 一般会計総額 2年連続110兆円超(NHK)4.地方では3割以上の人口減、日本の2050年を予測/社会保障・人口問題研究所国立社会保障・人口問題研究所が12月22日に公表した2050年の地域別将来推計人口によると、わが国の総人口は2,146万人減の1億468万人になる見込みで、東京を除く46道府県で人口が減少する。とくに秋田、青森、岩手など11県では、30%以上の人口減が予測されており、25道県では65歳以上の人口割合が4割を超えるとされている。地方の人口減少と高齢化は加速度的に進行し、東京への一極集中が深刻化すると予想されている。市区町村別では、全体の95.5%で2050年の人口が2020年に比べて減少し、19.7%は半数未満になると推計。また、全国的に人口減のスピードは加速し、とくに地方では社会基盤の維持が困難になる可能性が指摘されている。2050年には、全体の2割にあたる11の県で30%以上減少し、多くの地域で高齢者も減少し、人口減少が進むペースに地域差が出ることが明らかになった。専門家は、とくに人口減少のペースが早い地域では、インフラや公共交通機関が過剰なサービスにならないか、人口の規模に見合うよう見直すきっかけにするべきだと指摘している。また、地方の人口減少を止めるためには企業の役割が重要で、新たな投資を行い、地域で事業を継続・発展させ、雇用を生み出すことが必要だとも述べている。参考1)『日本の地域別将来推計人口(令和5(2023)年推計)』(国立社会保障・人口問題研究所)2)2050年の人口、東京への一極集中が深刻化…46道府県で減少(読売新聞)3)人口減少の日本 2050年にはどうなる 最新データからわかること(NHK)4)2050年の人口、11県で3割減予測 25道県で高齢者4割に(毎日新聞)5.健康増進のための睡眠ガイド、成人は6時間以上を推奨/厚労省厚生労働省の「健康づくりのための睡眠指針の改訂に関する検討会」が新たにまとめた「健康づくりのための睡眠ガイド2023」が公表された。公表された睡眠ガイドでは、睡眠の量と質の確保を目的とし、年代別に睡眠時間の目標を設定しており、小学生は9~12時間、中高生は8~10時間、成人には毎日6時間以上の睡眠を推奨している。一方、高齢者に対しては8時間以上の寝床時間を避けることが推奨されている。また、睡眠の質を向上させるための具体的なアドバイスも提供されており、日中の日光浴、寝室の暗さの確保、カフェイン摂取の制限などが挙げられている。日本人の睡眠時間は、世界的にみても短い傾向にあり、睡眠不足は、日中の眠気や疲労に加え、頭痛などの心身愁訴の増加、情動不安定、注意力や判断力の低下に関連した作業効率の低下・学業成績の低下など、多岐にわたる影響を及ぼし、事故など重大な結果を招く場合もある。さらに睡眠不足が慢性化すると肥満や心疾患などのリスクが高まることも指摘されている。睡眠の質を高めるためには、寝始めから3時間の睡眠が重要であり、適切な生活習慣の維持が求められている。さらに、睡眠に関する悩みを持つ人々のための専門的なサポートや、睡眠に特化したサービスを提供する施設の充実が求められている。参考1)健康づくりのための睡眠ガイド2023(案)(厚労省)2)睡眠時間の推奨 成人は6時間 “睡眠の質”上げるポイントは?(NHK)3)成人は6時間以上… 「健康に良い睡眠」ガイド案 厚労省検討会(毎日新聞)4)成人は睡眠6時間以上推奨 健康づくりで厚労省ガイド(日経新聞)6.甲南医療センター院長らが書類送検、再発防止を求めて遺族会が発足/兵庫神戸市東灘区の甲南医療センターで勤務していた26歳の専攻医、高島 晨伍氏が過労に伴い自殺した問題に関連して、西宮労働基準監督署は病院の運営法人「甲南会」や院長、上司だった医師を労働基準法違反の疑いで書類送検した。高島氏は、長時間労働が原因で2022年5月に自宅で自死した。同氏の直前1ヵ月間の時間外労働は207時間50分に及び、約100日間休日がなかったとされている。この事件を受けて、同氏の遺族らは「医師の過労死家族会」を立ち上げ、厚生労働省に医師の働き方改革を進めるよう強く求めた。家族会は、医師の労働時間が正確に反映されるよう要求し、すべての医療従事者に労務管理についての研修を義務付けることなどを含む請願書を提出した。母親である高島 淳子氏は、「患者の命を守る医師が命を落とすことはあってはならない」と述べ、労働環境の改善を強く希望した。武見 敬三厚生労働省大臣は、悪質な労基法違反には厳正に対処すると述べ、医師の働き方改革が重要な議題であると強調した。また、医師臨床研修病院に指定されている甲南医療センターで専攻医の過労自殺が起きたことについて、適切な労働時間と健康の管理が重要な課題であると指摘した。この事件は、医師の過重労働が医療安全に及ぼす影響と、医師自身の健康と命を守るための労働環境改善の必要性を浮き彫りにした。また、家族会の活動と政府の対応は、医師の過労死を防ぐための働き方改革の進展に向けた重要な一歩となることが期待されている。なお、医師の過労死家族会では、全国的活動、労災支援、行政訴求などの活動のための寄付を募っている。参考1)医師の過労死家族会2)甲南医療センター医師の過労自殺、病院側と院長らを書類送検 西宮労基署、労働基準法違反容疑(神戸新聞)3)「悪質な労基法違反は厳正に対処」厚労相 若手医師の過労自殺うけて(朝日新聞)4)神戸の病院で過労死した医師の母親など 家族会結成し国に要望(NHK)

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注射薬【アトピー性皮膚炎の治療】

デュピルマブ(商品名:デュピクセント)デュピルマブは、ヒト型抗ヒトIL-4/13受容体モノクローナル抗体の治療薬で、2018年から使用できるようになったアトピー性皮膚炎の治療薬です。2週間に1回注射をします。生物学的製剤であり、生体が作る抗体タンパクを人工的に作成しアトピーを悪化させる活性物質にピンポイントで作用させることを目的としています。デュピルマブの対象患者ステロイド外用剤やタクロリムス外用剤などの抗炎症外用剤による適切な治療を一定期間施行しても、十分な効果が得られず、強い炎症を伴う皮疹が広範囲に及ぶ患者。デュピルマブの注射の種類注射器型のシリンジと自己注射に向いているペンの2種類。デュピルマブの特徴アトピー性皮膚炎の炎症やかゆみに大きく関わる蛋白であるインターロイキン4(IL-4)、IL-13の働きを抑えます。具体的には、IL-4受容体α(IL-4Rα)をブロックする薬です。ブロックすることでアトピー性皮膚炎のかゆみ、皮膚炎症状が改善します。また、IL-4、13はフィラグリンという皮膚のバリア機能を保つための重要な蛋白を作りにくくさせることが知られており、これを抑制することで皮膚バリア機能の回復も期待できます。デュピルマブの用法・用量15歳以上の成人の初回投与は600mg(2本)です。以後、2週間おきに300mg(1本)ずつ注射します。初診時は問診と診察で適応があるかどうかの確認を行います。なお、初診時にデュピルマブの投与はできません。2023年9月25日より生後6ヵ月以上の小児に適応が追加されました。また、2023年12月18日より200mgシリンジが発売されました。小児では体重ごとに用法が変わります。具体的には5kg以上15kg 未満:1回 200mgを4週間隔、15kg以上30kg未満:1回 300mgを4週間隔、30kg以上60kg未満:初回に400mg、その後は1回 200mgを2週間隔、60kg以上:初回に600mg、その後は1回 300mgを2週間隔(成人と同様の用法、用量)で投与します。デュピルマブの薬価300mgシリンジ:5万8,593円300mgペン:5万8,775円200mg シリンジ:4万3,320円〔ワンポイント〕高額療養費制度の勧め:薬剤費が高額なため、高額療養費制度を利用されることを強くお勧めします。収入や年齢により適応となる場合やそうでない場合があります。自己注射をする場合、最大6本の注射薬を処方することができ、一部の方には高額療養費制度を用いて医療費の負担軽減が可能です。デュピクセント皮下注 電子添文(2023年9月改訂(第6版))ネモリズマブ(商品名:ミチーガ)ネモリズマブは、ヒト化抗ヒトIL-31受容体A(IL-31RA)モノクローナル抗体です。IL-31は、かゆみに重要な役割を果たすサイトカインで、主にTh2細胞から作られます。ネモリズマブは、アトピー性皮膚炎に伴うかゆみを改善する新しい発想の治療薬です。IL-31とアトピー性皮膚炎、そしてかゆみIL-31は、Th2細胞から産生され、アトピー性皮膚炎の皮膚病変部では、過剰に産生されていることが知られています1)。また、血清中のIL-31の濃度はアトピー性皮膚炎患者では上昇しており、病勢と相関していることが知られています2)。IL-31は神経線維が成長することを促進し、かゆみを増強する働きもあります3)。IL-31の受容体は神経線維や表皮角化細胞に分布しています。また、IL-31はバリア低下にも働くことが知られています4)。そして、この受容体は、感覚情報の中継点として機能する脊髄後根神経節に多く発現しており、かゆみを脳に伝えることにも深く関わっています5)。つまり、IL-31はかゆみに関係する神経を刺激して脳にそのかゆみを伝え、そして神経の成長を助けてかゆみを起こしやすくする働きがあります。この受容体は、IL-31RAとオンコスタチンM受容体(OSMR)が合わさってできており、ネモリズマブはそのうちIL-31RAに結合して働きを抑えます。ネモリズマブの効果第III相臨床試験の結果6)より、かゆみに関しては、1週目より有意な差がみられています。速やかなかゆみの改善という点を期待したいところです。ネモリズマブの副作用電子添文7)によると、アトピー性皮膚炎(18.5%)、皮膚感染症(ヘルペス感染、蜂巣炎、膿痂疹、二次感染など)(18.8%)が頻度の多い副作用です。ウイルス細菌真菌などによる重篤な感染症が3.4%に認められ、アナフィラキシー(血圧低下、呼吸困難、蕁麻疹など)などの重篤な過敏症が0.3%報告されています。使用上の注意ネモリズマブはかゆみを治療する薬剤であり、かゆみが改善した場合も含め、投与中はアトピー性皮膚炎に対して外用薬をはじめとした必要な治療を継続することが必要です。ネモリズマブはIgGという種類の抗体製剤ですので、胎盤や乳汁に移行することがあります。そのため、妊娠中や授乳中の投与は禁忌ではありませんが、治療上の有益性が投与の危険性を上回ると判断された場合にのみ使用することになっています。ネモリズマブの適応13歳以上のアトピー性皮膚炎に伴うそう痒(既存治療で効果不十分な場合に限る)となっています。ステロイド外用剤やタクロリムス外用剤などの抗炎症外用剤および抗ヒスタミン剤などの抗アレルギー剤による適切な治療を一定期間施行しても、そう痒を十分にコントロールできない患者さんが対象です。ネモリズマブの用法・用量ネモリズマブとして60mgを4週に1回皮下注射で投与します。在宅自己注射も可能です。ネモリズマブの薬価60mgシリンジ:11万7,181円1)Guttman-Yassky E, et al: J. Allergy Clin. 2019;143:155-172.2)Ezzat M H M, et al. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2011;25:334-339.3)Feld M, et al. J Allergy Clin Immunol. 2016;138:500-508.4)Cornelissen C, et al. J Allergy Clin Immunol. 2012;129:426-433.5)Furue M, et.al. Allergy. 2018;73:29-36.6)Kabashima K, et al. N Engl J Med. 2020;383:141-150.7)ミチーガ皮下注 電子添文(2023年11月改訂(第3版))トラロキヌマブ(商品名:アドトラーザ)トラロキヌマブは、IL-13を選択的に阻害するヒト免疫グロブリンIgG4モノクローナル抗体であり、IL-13がその受容体に結合するのをブロックします。IL-13はアトピー性皮膚炎の病変ができ、慢性化していくのに重要な働きをしますので、IL-13をブロックするのは合理的と考えられます。2022年12月に製造販売承認を取得、2023年3月に薬価基準に収載されました。2023年9月26日、アドトラーザ皮下注150mgシリンジが発売されました。IL-13の働きアトピー性皮膚炎の病変が持続するために重要な働きをするのが、Th2細胞というリンパ球です。Th2細胞は、IL-13やIL-4を産生することで皮膚のバリア機能低下、抗菌ペプチドの産生低下、IL-31というかゆみに関連するサイトカインの産生などを起こしてアトピー性皮膚炎の特徴的な病変を作ります。IL-13はIL-4と似た働きをしていますが、アトピー性皮膚炎の病態が作られる上で、IL-4よりIL-13のほうがより中心的な働きをしていることが知られています。また、線維化に関しても重要な役割を果たすことが解明され、アトピー性皮膚炎の慢性病変では苔癬化という皮膚がゴワついた感じになる病変ができますが、それにもIL-13の働きが重要であることが判明しています。トラロキヌマブの効果ステロイド外用剤併用下で、16週間トラロキヌマブを投与することで皮膚炎の重症度指標であるEASIが75%減少した患者割合であるEASI75は56.0%でした。これに対し外用薬だけの患者は35.7%でした。トラロキヌマブの適応従来の治療(ステロイド外用剤など)で十分な効果が得られない15歳以上のアトピー性皮膚炎患者トラロキヌマブの用法・用量トラロキヌマブはシリンジ製剤で、初回4本、その後2週間隔で2本を皮下注射します。現段階では在宅自己注射はできません。トラロキヌマブの薬価150mgシリンジ:2万9,295円アドトラーザ皮下注 電子添文(2023年9月改訂(第2版))

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認知症の評価に視覚活用、アイトラッキングシステムとは

 早期認知症発見のためのアイトラッキング技術を用いた「汎用タブレット型アイトラッキング式認知機能評価アプリ」の神経心理検査用プログラム『ミレボ』が2023年10月に日本で初めて医療機器製造販売承認を取得した。発売は24年春を予定している。この医療機器は日本抗加齢協会が主催する第1回ヘルスケアベンチャー大賞最終審査会(2019年開催)で大賞を取った武田 朱公氏(大阪大学大学院医学系研究科 臨床遺伝子治療学)の技術開発を基盤として同第5回大賞(10月27日開催)を受賞した高村 健太郎氏(株式会社アイ・ブレインサイエンス)らが産業化に成功したもの。 本稿では第5回ヘルスケアベンチャー大賞最終審査会での高村氏のプレゼンテーション、第3回日本抗加齢医学会WEBメディアセミナーでの武田氏の講演内容を踏まえ、このプログラムの開発経緯や今後の展望について紐解いていく。アイトラッキング式認知機能評価アプリとは 認知症疑い患者に対し従来行われているMMSEや改訂長谷川式認知症スケール(HDS-R)といった認知機能検査では、患者の心理的負担(緊張、焦り、落胆、怒りなど自尊心を傷付け心理的ストレスを招きやすい)、医療者負担(時間的制約、専門スタッフの在籍)、検査者間変動(採点のバラツキ)が課題になっているが、近年、AIを活用した新たな認知症診断技術として、脳波、視線、表情、音声、体動などのデータをAIによって定量化することで鑑別診断や予後予測ができるまで研究が進んでいる。また、現代では認知症の危険因子のなかに回避可能なものが多く存在することが医学的にも解明したこと、アルツハイマー病の根本的治療法が臨床応用されつつあることから、早期認知症患者の早期発見・治療導入のためのスクリーニング方法に注目が集まっている。 そこで、高村・武田両氏らは現場での課題を解決するべく新たなスクリーニング法の開発に着目し、認知症領域に一筋の光をもたらした。それがアイトラッキング式認知機能評価アプリである。両氏によると、認知症検査には▽安価▽特殊な機器が不要▽短時間(3分以内)▽言語依存性が低いなどの条件が求められるが、本アプリは「目の動きを利用した『眺めるだけの認知機能検査』技術。使用方法は簡便で、患者は“画面に表示される質問に沿ってタブレット画面を3分間見るだけ”。データを自動的にスコア化し、定量的かつ検査者の知識や経験に依存せず客観的に評価することが可能であり、まさに『短時間・簡易・低コスト』を実現した製品」と高村氏は話した。 さらに、認知症は非専門医による診断も難しい点が臨床課題であったが、臨床的に認知症と診断された被験者およびそれ以外の被験者(認知機能健常者および軽度認知障害[MCI]が疑われる被験者含む)を対象に実施した臨床試験において、主要評価項目である本アプリによる検査スコアとMMSEの総合点において高い相関が認められた。加えて、副次評価項目である検査者に対する使用評価調査において検査者の負担軽減が確認されたことから、認知症を診断できる施設数の増加にも寄与できる可能性がある。このほか、本アプリは多言語対応も可能であることから、将来展望として認知症患者が増加傾向のアジア圏をはじめ、欧米にも日本発の技術を輸出・展開し世界進出を図る予定だという。“技術の産業化”を果たし、ヘルスケア産業・医療界に参入 なお、薬機法に規制されない一般向けアプリとして認知機能評価法『MIRUDAKE』による事業化も進めており、公的機関(高齢者の免許更新時の検査など)、検診サービス(住民健診など)、介護サービス事業(デイサービスでの重点見守りなど)への提供をスタートさせている。 第1回大賞受賞時の宿題であった“技術の産業化”を見事に果たした両氏。アイトラッキング技術をさらに応用して認知症のみならず、本アプリからの情報をAI解析することで高い精度でMCIの発見を行う、ADHDや大うつ病の検査補助、認知症の予防/治療を行うDTxの実用化などさらなるSaMD創出に意欲を示している。認知症領域の現状 国内65歳以上の5人に2人は認知症またはMCIと推算されている。世界規模では開発途上国(とくにアジア圏)での患者数が増加傾向で、2050年には認知症患者数は1億3,150万例になることが予想されている。今秋には国内でもレカネマブの承認が報道されたことで、物忘れ外来の受診患者が増えている病院もあるそうだが、外来での診察時間は1人あたり10~15分程度と限られ、認知機能検査に時間を割くことが厳しく、診断や治療へコストをかけることができないのが現状である。ヘルスケアベンチャー大賞とは アンチエイジング領域においてさまざまなシーズをもとに新しい可能性を拓き社会課題の解決につなげていく試みとして、坪田 一男氏(日本抗加齢医学会イノベーション委員会委員長)らが2019年に立ち上げたもの。第5回の受賞者は以下のとおり。〇大賞株式会社アイ・ブレインサイエンス「認知症の早期診断を実現する医療機器の実用化」〇学会賞(企業)株式会社AutoPhagyGO 「健康寿命延伸を目指したオートファジー活性評価事業」〇ヘルスケアイノベーションチャレンジ賞(企業)エピクロノス株式会社「日本人に最適化されたエピゲノム年齢測定によるアンチエイジングの見える化」株式会社TrichoSeeds「男性型脱毛症治療のための毛髪の再生医療」株式会社プリメディカ「日本人腸内細菌叢データベースを活用した腸内環境評価システムの開発」〇アイデア賞(個人)市川 寛氏(同志社大学大学院)「超音波照射による酸化ストレス耐性誘導を介した老化関連疾患予防法の開発」楠 博氏(大阪歯科大学)「オーラルフレイルの新規診断法と治療薬の探索-医科からのアプローチ」

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食道切除術の術後感染予防、アンピシリン・スルバクタムvs.セファゾリン~日本の全国データ

 セファゾリン(CEZ)は食道切除術における感染予防として広く使用されている。一方、アンピシリン・スルバクタム(ABPC/SBT)は好気性および嫌気性の口腔内細菌をターゲットとしていることから、一部の病院で好んで使用されている。そこで、国際医療福祉大学の平野 佑樹氏らが、食道切除術の術後感染予防における短期アウトカムを2剤で比較したところ、ABPC/SBTがCEZより術後短期アウトカムを有意に改善することが示された。Annals of Surgery誌オンライン版2023年12月15日号に掲載。 2010年7月~2019年3月に食道がんで食道切除術を受けた患者のデータを日本全国の入院患者データベースから抽出した。潜在的交絡因子を調整し、CEZによる感染予防投与とABPC/SBTによる感染予防投与の短期アウトカム(手術部位感染、吻合部漏出、呼吸不全など)を比較するために、傾向スコアのオーバーラップ重み付けを行った。 主な結果は以下のとおり。・対象患者1万7,772例のうち、1万6,077例(90.5%)にCEZが、1,695例(9.5%)にABPC/SBTが投与された。・手術部位感染は2,971例(16.7%)、吻合部漏出は2,604例(14.7%)、呼吸不全は2,754例(15.5%)に発生した。・オーバーラップ重み付け後、ABPC/SBTは手術部位感染(オッズ比[OR]:0.51、95%信頼区間[CI]:0.43~0.60)、吻合部漏出(OR:0.51、95%CI:0.43~0.61)、呼吸不全(OR:0.66、95%CI:0.57~0.77)の減少と有意に関連していた。また、呼吸器合併症、術後在院日数、総入院費用の減少とも関連していた。・Clostridioides difficile腸炎および非感染性合併症の割合には差がなかった。

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第76回 海外で新型コロナJN.1が急増

もう来ないでほしい「波」Unsplashより使用日本で現在流行している新型コロナはオミクロン株のEG.5系統(通称エリス)であり、全体の6~7割くらいがこれです。現在インフルエンザの流行で陰に隠れていますが、水面下で感染が広がりつつあるのではないかという見解が増えてきました。懸念されるのは、諸外国で急激に増えているJN.1です(図)。画像を拡大する図. 世界の新型コロナウイルス変異株流行状況GISAIDに登録された各国からのゲノムデータ報告数と国別流行株(10月30日~11月30日)1)諸外国の感染状況アメリカでは12月中旬で1日約3万人の感染者数が報告されており、入院患者数もじわじわと増えてきている状況です。オミクロン株の変異株であるBA.2.86(通称ピロラ)が台頭していますが、ピロラからさらに派生したJN.1(BA.2.86.1.1)が急速に増えています。一応これもピロラの仲間になるわけですが、ややこしいのでJN.1と呼びます。たとえばオランダでは、現在JN.1が最も流行していますが、下水の新型コロナウイルス量が過去最高を記録しており、感染が相当広がっていることがわかります。そのほか、フランスやイタリアにおいても、JN.1が優勢になった直後に急激な入院増加が観察されています。イタリアはこの1年で最多水準の新型コロナ患者数を記録しています。JN.1は、感染性や免疫逃避能がこれまでの変異ウイルスの中で最も強力であることがわかっています(当然といえば当然なのですが)2)。肺炎が多くないのはこれまでのオミクロン株と同様ですが、数が多いと医療逼迫の懸念が生じます。日本もこの波に飲み込まれるのではないかと考えられます。実際、すぐ近くのシンガポールでは呼吸器系の入院のほとんどがJN.1で占められている状況で、マレーシアでも感染者数が倍増しています。ゆえに、同じ島国である日本が、EG.5系統の流行のみでこの冬を乗り切る可能性は低いと考えられます。JN.1は、XBB.1.5やEG.5系統の感染で成立した免疫や、XBB.1.5ワクチンによる免疫を逃避しやすいことから3)、しばらく人類は、このいたちごっこを続けないといけないのかもしれません。ごく軽症であればもう騒がなくてよいのですが、これまでと同じメカニズムで医療逼迫が起こるなら、インフルエンザと同じように警戒し続ける必要があります。参考文献・参考サイト1)東京都健康安全研究センター:世界の新型コロナウイルス変異株流行状況2)Kaku Y, et al. Virological characteristics of the SARS-CoV-2 JN.1 variant. bioRxiv preprint. 2023 Dec 9. 3)※WHOはXBB.1.5対応ワクチンでJN.1に対しても接種効果ありとコメントしているWHO:Initial Risk Evaluation of JN.1, 19 December 2023

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mRNAベースのRSVワクチン、高齢者への有用性を確認/NEJM

 mRNAベースのRSウイルス(RSV)ワクチン「mRNA-1345」について、60歳以上の高齢者への単回接種はプラセボとの比較において、明白な安全性の懸念が生じることなく、RSV関連下気道疾患およびRSV関連急性呼吸器疾患の発生率を低下したことが示された。米国・ModernaのEleanor Wilson氏らが、第II-III相の無作為化二重盲検プラセボ対照試験(22ヵ国で実施、現在進行中)の結果を報告した。高齢者におけるRSV感染が重大な疾患と死亡を増加させていることが報告されている。mRNA-1345は、安定化させたRSV融合前F糖蛋白をコードするmRNAベースのRSVワクチンで、臨床研究中の新たなワクチンである。NEJM誌2023年12月14日号掲載の報告。プラセボ対照試験で、下気道疾患の予防の有効性を評価 研究グループは、60歳以上の高齢者を、mRNA-1345(50μg)またはプラセボを投与する群に1対1の割合で無作為に割り付け、追跡評価した。 主要エンドポイントは2つで、少なくとも2つの徴候・症状を伴うRSV関連下気道疾患の予防と、少なくとも3つの徴候・症状を伴うRSV関連下気道疾患の予防とした。重要な副次有効性エンドポイントは、RSV関連急性呼吸器疾患の予防とした。安全性も評価した。有効性82.4~83.7%、年齢や併存疾患で定義のサブグループ間も有効性は一致 2021年11月17日~2022年10月31日に、計3万5,541例が無作為化された(mRNA-1345ワクチン群1万7,793例、プラセボ群1万7,748例)。両群のベースライン特性はバランスが取れており、登録時の参加者の平均年齢は68.1歳、49.0%が女性、36.1%が非白人、34.5%がヒスパニック/ラテン系。1つ以上の併存疾患がある患者は29.3%、うっ血性心不全既往1.1%、COPD既往5.5%であった。21.9%が虚弱またはフレイルの状態であった。 追跡期間中央値は112日(範囲:1~379)。主要解析は、予想されたRSV関連下気道疾患症例の50%以上が発生した時点で行われた。 ワクチンの有効性は、少なくとも2つの徴候・症状を伴うRSV関連下気道疾患に対しては83.7%(95.88%信頼区間[CI]:66.0~92.2)であり、少なくとも3つの徴候・症状を伴うRSV関連下気道疾患に対しては82.4%(96.36%CI:34.8~95.3)であった。また、RSV関連急性呼吸器疾患に対するワクチンの有効性は68.4%(95%CI:50.9~79.7)だった。 防御効果は2つのRSVサブタイプ(AおよびB)いずれに対しても観察され、年齢および併存疾患で定義したサブグループ間でも概して一致していた。 mRNA-1345群ではプラセボ群よりも、局所副反応(58.7% vs.16.2%)、全身性副反応(47.7% vs.32.9%)の発現率が高かったが、ほとんどの副反応は軽度~中程度で、一過性のものだった。重篤な副反応の発現率は、各群とも2.8%であった。

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日本人コロナ患者で見られる肥満パラドックス

 日本人では、肥満は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化リスク因子ではない可能性を示唆するデータが報告された。肥満ではなく、むしろ低体重の場合に、COVID-19関連死のリスク上昇が認められるという。下関市立市民病院感染管理室の吉田順一氏らの研究によるもので、詳細は「International Journal of Medical Sciences」に9月11日掲載された。 古くから「肥満は健康の敵」とされてきたが近年、高齢者や心血管疾患患者などでは、むしろ太っている人の方が予後は良いという、「肥満パラドックス」と呼ばれる関連の存在が知られるようになってきた。COVID-19についても同様の関連が認められるとする報告がある。ただし、それを否定する報告もあり、このトピックに関する結論は得られていない。吉田氏らは2020年3月3日~2022年12月31日までの同院の入院COVID-19患者のデータを用いて、この点について検討した。 解析対象は1,105人でほぼ全員(99.3%)が日本人であり、半数(50.1%)が男性だった。主要評価項目は入院から29日以内の全死亡(あらゆる原因による死亡)とし、副次的評価項目として侵襲的呼吸管理(IRC)の施行を設定。年齢、性別、BMI、体表面積、ワクチン接種の有無、レムデシビル・デキサメタゾンの使用、化学療法施行、好中球/リンパ球比(NLR)などとの関連を解析した。なお、IRCは酸素マスクによる5L/分以上での酸素投与にもかかわらず、SpO2が93%未満の場合に施行されていた。また、年齢、BMI、NLRなどの連続変数は、ROC解析により予後予測のための最適な値を算出した上で、年齢は72.5歳、BMIは19.6、NLRは3.65をカットオフ値とした。 入院後29日目までに死亡が確認された患者は32人(2.9%)であり、COVID-19による死亡が20人、細菌性肺炎7人、心血管イベント3人、および敗血症性ショック、尿路感染症が各1人だった。年齢と性別の影響を調整後に、BMI別に死亡者数をプロットすると、死亡者数のピークはBMI11~15の範囲にあり、BMI22にも小さなピークが認められた。多変量解析から、死亡リスク低下に独立した関連のある因子として、BMI19.6超(P<0.001)とレムデシビルの使用(P=0.040)という2項目が特定された。反対に、年齢72.5歳超(P<0.001)、化学療法施行中(P=0.001)、NLR3.65超(P=0.001)は、死亡リスクの上昇と有意に関連していた。 IRCが施行されていたのは37人(3.3%)だった。年齢と性別の影響を調整後に、BMI別にIRC施行者数をプロットすると、BMI11~25の範囲で施行者数の増加が認められた。多変量解析から、IRC施行リスクの上昇と有意な関連のある因子として、年齢72.5歳超(P=0.031)、デキサメタゾンの使用(P=0.002)、NLR3.65超(P=0.048)が特定された。IRC施行リスクの低下と有意な関連のある因子は抽出されなかった。 著者らは、BMI19.6以下がCOVID-19患者の全死亡リスク増大に独立した関連があるという結果を基に、「日本人COVID-19患者で認められる肥満パラドックスは、BMI高値が保護的に働くというよりも、BMI低値の場合にハイリスクである結果として観察される現象ではないか」との考察を述べている。また、レムデシビルが死亡リスク低下の独立した関連因子である一方、デキサメタゾンがIRC施行リスク上昇の独立した関連因子であったことについては、「サイトカインストームに伴う呼吸不全にデキサメタゾンが使用された結果であり、同薬がIRC施行リスクを高めるわけではない」と解説している。

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第175回 研修医がGLP-1受容体作動薬を不正処方/東大病院

<先週の動き>1.研修医がGLP-1受容体作動薬を不正処方/東大病院2.5シーズンぶりのインフルエンザ警報、早期対策を/厚労省3.オンライン診療、メリットあるも要件の厳格化へ/厚労省4.処方箋なしで医薬品を販売する「零売薬局」、規制強化へ/厚労省5.レカネマブが保険適用、1年間で298万円/厚労省6.来年度診療報酬改定、医療従事者の賃上げに本体は0.88%引き上げ/政府1.研修医がGLP-1受容体作動薬を不正処方/東大病院東京大学医学部付属病院の臨床研修医2人が、病気ではないにも関わらず、互いに処方箋を発行し、GLP-1受容体作動薬を入手していたことが明らかになった。この報道に対して、病院側は「自己使用目的であって転売目的ではなく、常習性もなかった」と判断し、病院長から厳正な指導を行ったことを明らかにした。GLP-1受容体作動薬は、インターネット上で「やせ薬」として紹介されており、自由診療目的で処方を行う医療機関が急増している。一方、日本糖尿病学会は、11月28日に「2型糖尿病治療薬であるGLP-1受容体作動薬及びGIP/GLP-1受容体作動薬の適応外使用に関する見解」を発表しており、本来は糖尿病治療薬であるのに、美容、痩身、ダイエット目的での自由診療による処方が一部のクリニックで行われており、需要増加による供給不足が生じている。糖尿病治療薬の適切使用は重要であり、医療専門家による不適切な薬剤使用は、専門医の信頼を損なう行為であり、日本糖尿病学会はこれを厳しく警告している。参考1)GLP-1受容体作動薬およびGIP/GLP-1受容体作動薬の適応外使用に関する日本糖尿病学会の見解(日糖会)2)研修医、病気装い糖尿病薬入手=供給不足の「やせ薬」-東大病院(時事通信)3)東大病院の研修医2人、病気装って糖尿病薬を入手 「やせ薬」と話題(朝日新聞)2.5シーズンぶりのインフルエンザ警報、早期対策を/厚労省厚生労働省は、2023年12月15日に全国約5,000の定点医療機関から報告されたインフルエンザの感染者数が1医療機関当たり33.72人となり、警報レベル(30人超)に達したことを発表した。警報は2019年1月以来、5シーズンぶりの事態で、とくに北海道では60.97人と最多。全国で33道県が警報レベルを超え、1週間で6,382ヵ所の保育所や学校が休校や学級閉鎖に追い込まれた。慶應義塾大学の菅谷 憲夫客員教授は、「新型コロナウイルス感染症の流行中にインフルエンザの流行が抑えられたことで、とくに子どもを中心に免疫が落ちている」と指摘。基本的な感染対策の継続と、症状があれば早期受診を呼びかけている。また、菅谷教授は、2つのタイプのA型インフルエンザウイルスが同時に流行していることや、約3年間に大規模な流行がなかったことを、早期警報の要因として挙げている。高齢者や妊婦、基礎疾患を持つ人は、とくに注意が必要であり、発熱などの異常を感じたら早期受診が推奨されている。冬休みに小児のピークが過ぎる可能性があるが、年末年始の休暇シーズンで全国的な感染拡大の恐れもあるため、手洗い、うがい、マスク着用などの基本的な感染対策の徹底が求められている。参考1)インフルエンザ、全国で「警報レベル」…コロナ禍の感染対策で識者「免疫落ちている」(読売新聞)2)インフルエンザ、今季初の警報レベル 1医療機関33.72人 厚労省(毎日新聞)3.オンライン診療、メリットあるも要件の厳格化へ/厚労省厚生労働省は、12月15日に中央社会保険医療協議会(中医協)総会を開き、オンラインで患者を診療した際に医療機関が算定する初・再診料の要件を2024年度の診療報酬改定で厳格化する案を了承した。新たな要件には、「初診では向精神薬を処方しないこと」を医療機関のホームページに掲示することが含まれている。さらに、遠方の患者を多く診療する医療機関に対しては、対面診療の連携先を報告させることも検討されている。厚労省は、新型コロナウイルス禍を経て、オンライン診療は重要であるとして、保険診療だけでなく自由診療も対象にガイドラインを策定し、規制緩和を行なってきたが、初診時に向精神薬の処方を行ったり、メールやチャットだけで診察や薬の処方を行うなど、ガイドラインで認めていない方法で診療を行っている医療機関が問題視されてきた。今後、厚労省では、オンライン診療を行っている医療機関がガイドラインを遵守しているか実態調査を行うため、スケジュールや調査方法などを検討するほか、患者がオンライン診療を適切に行っている医療機関を選択できるよう、情報発信の強化に乗り出すことにした。一方、慶應義塾大学などの研究グループは、うつ病や不安症などの精神科診療において、オンライン診療が対面診療と同等の治療効果があることを発表した。この研究結果は、オンライン診療の普及に向けた政策的議論に貢献するもので、さらに、オンライン診療は、通院に要する時間の短縮や費用の削減といった副次的効果もあり、今後もデジタルトランスフォームを通して医療現場に浸透していくとみられる。参考1)オンラインの初・再診料要件、厳格化案を了承「向精神薬初診で処方せず」の掲示必須に(CB news)2)オンライン診療 不適切な医療機関の実態調査へ 厚労省(NHK)3)オンライン診療、対面と遜色なし 普及に弾み(日経新聞)4.処方箋なしで医薬品を販売する「零売薬局」、規制強化へ/厚労省厚生労働省は、処方箋なしで医療用医薬品を販売する「零売薬局」に対する規制を強化する方針を固めた。不適切な販売方法や広告が増加していることに対応するために打ち出されたもの。2022年時点で60店舗以上の零売薬局が存在し、例外的に処方箋なしで医療用医薬品を販売できるが、これまで大規模災害時など「正当な理由」がある場合に限られていた。しかし、一部の薬局が通知を逸脱し、やむを得ない状況ではないにも関わらず日常的に医療用医薬品を販売する薬局が増加していることや、不適切な広告などが確認されており、重大な疾患や副作用が見過ごされるリスクが高まっていた。厚労省は、処方箋に基づく販売を原則とし、やむを得ない場合に限って認めることを法令で明記する方針。また、医療用医薬品の販売を強調する広告も禁止する方向で調整している。厚労省は12月18日に開かれる医薬品の販売制度に関する検討会で取りまとめを行い、医薬品医療機器制度部会に報告した後、厚生労働省から正式に通知が発出される見込み。参考1)医薬品の販売制度に関する検討会(厚労省)2)「零売薬局」の販売規制へ 処方箋なしで医療用医薬品-認める条件明確化・厚労省(時事通信)3)特例のはずが…処方箋なし薬「零売」横行 副作用や疾患見逃す恐れ(毎日新聞)5.レカネマブが保険適用、1年間で298万円/厚労省厚生労働省は、アルツハイマー病の新薬「レカネマブ(商品名:レケンビ)」を公的医療保険の適用対象とし、体重50kgの患者の1回当たりの価格を約11万4千円、年間約298万円と設定した。この薬は、アルツハイマー病の原因物質「アミロイドβ(Aβ)」を取り除くことを目的とした初の治療薬で、軽度認知障害や軽度の認知症の人が対象。投与は2週に1度の点滴で行われる。レカネマブの投与は、副作用のリスクを考慮し、限られた医療機関でのみ行われる予定で、副作用には脳内の微小出血やむくみが含まれ、安全性を重視するため、認知症専門医が複数いる施設でMRIやPETを備えていることなどの条件に合致する限られた医療機関で処方される。臨床治験では、レカネマブを1年半投与したグループは、偽薬を投与したグループより病気の悪化を27%抑える結果が得られた。レカネマブの市場規模は、ピーク時に年間986億円に上ると予測されており、医療保険財政への影響が懸念されている。また、薬価の決定に際しては、社会的価値の反映が議論されたが、最終的には製造費や薬の新規性を考慮した通常の算定方法で算出された。専門家や関係者からは、新薬の保険適用により治療が前進することへの期待とともに、検査費用や治療に関する不安の意見も上がっている。また、効果が見込める患者の適切な選別や、新しい治療薬に対応できる認知症医療システムの構築が今後の課題とされている。参考1)新医薬品の薬価収載について(厚労省)2)認知症薬エーザイ「レカネマブ」 年298万円 中医協、保険適用を承認(日経新聞)3)見えぬ全体像、処方可能な医療機関は限定的 アルツハイマー病新薬(毎日新聞)4)アルツハイマー病新薬 年間約298万円で保険適用対象に 中医協(NHK)6.来年度診療報酬改定、医療従事者の賃上げに本体は0.88%引き上げ/政府政府は来年度の診療報酬改定において、医療従事者の人件費に相当する「本体」部分を0.88%引き上げる方針を固めた。今回の診療報酬の改定をめぐっては、各医療団体から物価高騰や医療従事者の賃上げに対応する意見が上がっていた。一方、薬の公定価格である「薬価」は約1%引き下げとなり、全体としてはマイナス改定となる見通し。岸田 文雄首相は、財務省と厚生労働省の間での議論を経て、賃上げ方針を医療従事者にも波及させるために、最終的に引き上げを決定した。診療報酬改定は原則2年に1度行われ、今回の改定は前回2022年度の0.43%引き上げを上回る水準となる。今回の改定により、医療従事者の処遇改善が期待される一方で、国民の保険料負担の増加が懸念される。また、診療所の利益剰余金の増加や医療費の抑制が課題となっており、国民負担の抑制が今後の大きな課題になっている。参考1)「本体」0.88%引き上げ=賃上げ対応、全体ではマイナス-24年度診療報酬改定(時事通信)2)診療報酬「本体」0.88%上げ、政府方針…「薬価」は1%引き下げで調整し全体ではマイナス改定(読売新聞)3)診療報酬改定 人件費など「本体」0.88%引き上げで調整 政府(NHK)

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BMIが高いとコロナワクチンの抗体応答が低い

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチンが普及し、その効果に関してさまざまな報告がなされている。ワクチンと体型、とくにBMI高値の肥満の人にはどのように関係するのであろう。この疑問に対し、オーストラリア・クイーンズ大学化学・分子バイオサイエンス学部のMarcus Zw Tong氏らの研究グループは、COVID-19から回復した被験者から血液サンプルを採取し、ワクチン接種前後の抗体反応を測定・解析した。その結果、高いBMIがワクチンの抗体応答低下と関連することが示唆された。Clinical & Translational Immunology誌2023年12月3日号の報告。BMIの上昇がワクチンの体液性免疫応答の障害と関連 方法としてSARS-CoV-2感染から約3ヵ月後および13ヵ月後に回復した被験者から血液サンプルを採取(これらの対象者はSARS-CoV-2に曝露されておらず、また、その間にワクチン接種も受けていない)。そして、2回目のCOVID-19ワクチン接種後約5ヵ月経過した人(大多数はSARS-CoV-2感染歴なし)から血液サンプルを採取。SARS-CoV-2に対する体液性反応を測定し、BMIが25以上かそれ以下かでグループ分けし、結果を解析した。 主な結果は以下のとおり。・年齢および性差を考慮した場合、高いBMI(25以上)がSARS-CoV-2感染後のワクチン抗体応答の低下と関連することが示された。・感染後3ヵ月では、高いBMIはワクチン抗体価の低下と関連していた。・感染後13ヵ月では、高いBMIはワクチン抗体価の低下およびスパイク陽性B細胞の割合の低下と関連していた。・2次ワクチン接種後5ヵ月目では、BMI≧25とSARS-CoV-2に対する体液性免疫との間に有意な関連は認められなかった。 これらの結果を受けて、Tong氏らは「高いBMIはSARS-CoV-2感染に対する体液性免疫応答の障害と関連していることが示された。BMIが25以上の人における感染誘導性免疫の障害は、感染誘導性免疫に依存するのではなく、ワクチン接種のさらなる促進を示唆する」と結論付けている。

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重症ARDS、ECMO中の腹臥位は無益/JAMA

 重症急性呼吸窮迫症候群(ARDS)で静脈脱血・静脈送血の体外式膜型人工肺(VV-ECMO)による治療を受けている患者において、腹臥位療法は仰臥位療法と比較し、ECMO離脱成功までの期間を短縮しなかった。フランス・ソルボンヌ大学のMatthieu Schmidt氏らが、同国14施設の集中治療室(ICU)で実施した医師主導の無作為化並行群間比較試験「PRONECMO試験」の結果を報告した。腹臥位療法は重症ARDS患者の転帰を改善する可能性が示唆されているが、VV-ECMOを受けているARDS患者に対して、仰臥位療法と比較し臨床転帰を改善するかどうかは不明であった。JAMA誌オンライン版2023年12月1日号掲載の報告。ECMO施行48時間未満の重症ARDS患者を無作為化、60日以内のECMO離脱成功を比較 研究グループは2021年3月3日~12月7日に、ICUにてVV-ECMO施行開始から48時間未満の18歳以上75歳未満の重症ARDS患者を、腹臥位ECMO群または仰臥位ECMO群に1対1の割合に無作為に割り付けた。 腹臥位ECMO群では、腹臥位療法の早期中止基準を満たさない限り、最初の4日間に16時間の腹臥位を少なくとも4回行い、仰臥位ECMO群ではECMO施行中の腹臥位を60日目まで禁止した。 主要アウトカムは、無作為化後60日以内のECMO離脱成功までの期間。離脱成功は、ECMO中止後30日間、ECMOまたは肺移植を受けず生存した場合と定義した。副次アウトカムは、無作為化後90日時点の全死亡、ECMOおよび人工呼吸器非装着期間、ICU在室および入院期間などであった。また、有害事象(無作為化後7日間の褥瘡を含む)および重篤な有害事象についても評価した。腹臥位療法と仰臥位療法で、主要アウトカムおよび副次アウトカムに有意差なし 適格性を評価された250例のうち170例が無作為化され(腹臥位ECMO群86例、仰臥位ECMO群84例)、全例が追跡調査を完了した。 170例の年齢中央値は51歳(四分位範囲[IQR]:43~59)、女性は60例(35%)。170例中159例(94%)は、ARDSの主な原因が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)肺炎であった。ECMO開始前に164例(96%)が腹臥位で、呼吸器系コンプライアンス中央値は15.0mL/cm H2O(IQR:10.7~20.6)であった。 無作為化後60日以内にECMO離脱に成功した患者は、腹臥位ECMO群86例中38例(44%)、仰臥位ECMO群84例中37例(44%)であった(群間リスク差:0.1%[95%信頼区間[CI]:-14.9~15.2]、部分分布ハザード比:1.11[95%CI:0.71~1.75]、p=0.64)。 また、無作為化後90日以内に腹臥位ECMO群で44例(51%)、仰臥位ECMO群で40例(48%)が死亡し(絶対群間リスク差:2.4%、95%CI:-13.9~18.6、p=0.62)、90日以内のECMO装着期間(日数)の平均値はそれぞれ27.51および32.19(絶対群間差:-4.9、95%CI:-11.2~1.5、p=0.13)であり、すべての副次アウトカムで両群間に有意差はなかった。 重篤な有害事象については、心停止の発生率は腹臥位ECMO群より仰臥位ECMO群で有意に高かったが(3.5% vs.13.1%、絶対群間リスク差:-9.6%[95%CI:-19.0~-0.2]、相対リスク:0.27[95%CI:0.08~0.92]、p=0.05)、それ以外の重篤な有害事象の発現率は両群で同等であり、両群とも不測のECMO脱血管、予定外の抜管および重度の喀血の発生は認められなかった。

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小児インフルエンザ治療でのタミフル使用の実態とは

 米国では、インフルエンザに罹患した小児にはタミフルなどの抗ウイルス薬を処方することが推奨されているにもかかわらず、その処方率は低く、特に2歳未満の小児では5人に3人が同薬を処方されていないことが新たな研究で明らかになった。米ヴァンダービルト大学モンロー・カレル・ジュニア小児病院の小児科医であるJames Antoon氏らによるこの研究の詳細は、「Pediatrics」に11月13日掲載された。 この研究は、IBM MarketScan Commercial Claims and Encounters Databaseを用いて、米国の50州での民間保険に関連する取引データの中から2010年7月1日から2019年6月30日の間の外来または救急外来での18歳未満の小児に対する処方箋の請求データを収集し、小児インフルエンザ患者に対する抗ウイルス薬処方の動向を調査したもの。抗ウイルス薬の処方は、オセルタミビル(商品名タミフル)、バロキサビル(商品名ゾフルーザ)、またはザナミビル(商品名リレンザ)が処方された場合と定義された。主要評価項目は、小児インフルエンザ患者での抗ウイルス薬の処方箋受取率(抗ウイルス薬の薬局請求数を対象小児の総数で割ったもの)、副次評価項目は、インフルエンザの診断を受けた患者のうち抗ウイルス薬による治療を受けた患者の割合と、物価の上昇を考慮した抗ウイルス薬のコストとした。 その結果、研究対象期間中における治療用・予防用を合わせた抗ウイルス薬の処方件数は141万6,764件であり、そのほとんど(99.8%)がオセルタミビルであることが明らかになった。研究対象期間全体で、1インフルエンザシーズン当たりの抗ウイルス薬の平均処方件数は小児1,000人当たり20.6件であり、インフルエンザシーズンにより4.35件から48.6件の変動が見られた。 抗ウイルス薬により治療された患者の割合は、年齢層では12歳以上、インフルエンザシーズンでは2017/2018年シーズン、地理別では東南中央地域で特に高かった。これに対して、インフルエンザ合併症のリスクが高い2歳未満のインフルエンザ患者のうち、ガイドラインに則った抗ウイルス薬による治療を受けた患者の割合は40%未満(1,000人当たり367件の処方)と低かった。 物価の上昇を考慮した抗ウイルス薬の総コストは2億845万8,979ドル(1ドル150円換算で312億6884万6,850円)であり、1処方当たりのコスト(中央値)は111ドル(同1万6,650円)から151ドル(同2万2,650円)の間であった。 Antoon氏は、「ガイドラインでは、インフルエンザの小児患者に対しては、年齢を問わず抗ウイルス薬による治療が推奨されているにもかかわらず、われわれの研究から、2歳未満の小児で同治療が施されたのは40%に満たないことが明らかになった。また、全ての年齢層で抗ウイルス薬の使用率が低かったことも気に掛けるべき重要な結果だ」と話す。 また、インフルエンザ患者に対する抗ウイルス薬の使用状況は、地域により大きく異なることも示された。この点についてAntoon氏は、「この結果は、特に最も弱い立場にある小児でのインフルエンザの予防と治療に改善の余地があることを浮き彫りにするものだ」との見方を示す。研究グループは、このような地域差が生じる原因として、小児に対する抗ウイルス薬の使用を推奨する国のガイドラインが周知されていない可能性や、副作用への懸念、あるいは薬効に対する信頼不足が存在する可能性があると推測している。 研究グループは、「今回の研究結果は、小児患者でのインフルエンザの管理の質を向上させる必要性を強調するものだ」と結論付けている。Antoon氏は、「外来で小児のインフルエンザ患者を治療することで、症状の持続期間、家庭内感染、抗菌薬の使用、中耳炎などのインフルエンザ関連の合併症が減少することが報告されている」と補足している。

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第75回 今冬新型コロナは再び流行するのか?

インフルエンザの流行が爆発中Unsplashより使用新型コロナはどこにいったのかというくらい、インフルエンザの感染が流行しています。うちの子供の学校でも学級閉鎖が相次いでいます。しかし、何となく一山越えた感じがあって、そろそろ落ち着いてくれるんじゃないかと期待しています。画像を拡大する図. インフルエンザと新型コロナの定点医療機関当たりの患者数(人)(筆者作成)1、2)新型コロナは定点医療機関当たりの患者数が2.75人とじわじわと増えてきているような印象があって、もしかしてこれは…と警戒しています。アルファ株やデルタ株のときほど怖がらなくてもよいと思っていますが、ワクチン接種を続けている人もだんだんと減ってきていますから、実生活に与える感染のインパクトは、まだ大きいかもしれません。ママ友に聞くと、子供に至ってはインフルエンザワクチンだけで2回受診しないといけませんし、ここに新型コロナワクチンは無理というのが本音のようです。ワクチン接種の手間が大きいので、早く混合ワクチンが登場してほしいところです。もはや複数回感染は新型コロナでは当たり前のように起こっているので、「もうかかっても大したことない」と思われる方が多いですが、どうも複数回感染するほど後遺症リスクは高くなってくるという報告もあって3)、そんな単純な問題ではなさそうです。咽頭結膜熱、溶連菌感染症、マイコプラズマ、そして…さらに、国内では小児を中心に咽頭結膜熱、溶連菌感染症が流行しています。いずれも過去最多水準で推移しており、小児科は大忙しです。にしても、それほどコロナ禍の感染対策が小児の免疫に影響を与えたのかと驚くばかりです。韓国や中国ではさらにマイコプラズマが流行し、そしてイギリスでは百日咳の報告数が増えていると報道されています。いやー、そんなに病原微生物が流行ったら、困りますね。参考文献・参考サイト1)厚生労働省:インフルエンザの発生状況2)厚生労働省:新型コロナウイルス感染症に関する報道発表資料(発生状況等)2023年6月~3)Kostka K, et al. “The burden of post-acute COVID-19 symptoms in a multinational network cohort analysis.” Nat Commun. 2023;14:7449.

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