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プロスポーツチームを誘致した都市でインフルエンザによる死亡者数が増加

 プロスポーツチームを新たに誘致した都市では、インフルエンザによる死亡者数が急増するという研究結果が報告された。米ウェストバージニア大学ジョン・チェンバース・カレッジ・オブ・ビジネス&エコノミクスのBrad Humphreys氏らによる研究で、詳細は「Sports Economics Review」に6月8日掲載された。 新しい都市にプロスポーツチームを誘致する際には、多額の税金が投入されることが多い。研究グループによると、2000年以降、米国の州政府や地方自治体は、新しいスタジアムの建設に200億ドル(1ドル143円換算で約2兆8600億円)近く、年間にするとおよそ10億ドル(同約1430億円)を投じてきた。これらの投資は、主に政府が債券を発行して調達した補助金で賄われている。 Humphreys氏らは、米疾病対策センター(CDC)の54年間にわたる122都市でのインフルエンザによる死亡データと、NBA(ナショナル・バスケットボール・アソシエーション)、NFL(ナショナル・フットボール・リーグ)、NHL(ナショナル・ホッケー・リーグ)、MLB(メジャー・リーグ・ベースボール)のプロスポーツチームが都市に到着した日付およびこれらのリーグの試合開催期間のデータを収集。都市の人口、気温、降雨量、毎年流行するインフルエンザ株など、ウイルスの拡散に関連する要因を考慮して、両者の関連を検討した。 その結果、1962年から2016年の間にプロチームを誘致した米国の都市では、チーム到着後にインフルエンザによる10万人当たりの死亡者数が4〜24%増加していたことが明らかになった。具体的には、NFLのチームがこれまでプロスポーツチームを抱えたことのない都市に移動してきたときには、インフルエンザによる死亡者数が平均で17%増加していた。これはインフルエンザにより年に約13人の超過死亡が生じたことを意味する。また、NBAのチームを新たに迎え入れた場合には、その都市のインフルエンザの死亡者数が平均して4.7%増加していた。影響が最も小さかったのはMLBチームを迎え入れた場合で、年に3人のインフルエンザによる超過死亡をもたらしていた。これとは反対に影響が最も大きかったのはNHLのチームを迎え入れた場合で、インフルエンザによる10万人当たりの死亡者数が24.6%増加していた。これは年に約20人の超過死亡に相当するという。 論文の共著者である、ウェストバージニア大学のJane Ruseski氏は、「ホッケーチームを迎え入れることでインフルエンザによる死亡者がこれほど増える理由には、NHLのシーズンとチームが本拠を置く場所の両方が関係していると考えられる。NHLのシーズンは、インフルエンザのシーズンとほぼ完全に重なっている上に、NHLチームは寒冷地に本拠を構える可能性が高いからだ」と説明している。ただし、インフルエンザとスポーツリーグのシーズンの重なりが、インフルエンザによる死亡者数増加の主な要因であると断定することはできないと同氏は言う。 一方Humphreys氏は、「スポーツチームがある都市の人々は、チームがない都市の人々よりも病気になる可能性が高いことが、この研究で示された。この結果は、プロスポーツイベントの開催に関するわれわれの考え方を変える可能性がある」と指摘する。そして、「納税者が、プロスポーツチームのせいで病気になり、医療制度に負担をかけ、仕事を休むことで企業の収益に悪影響を与え得ることを理解すれば、プロスポーツ施設に補助金を出すことに消極的な姿勢を示すようになるだろう」と話している。 論文の筆頭著者である米オールド・ドミニオン大学のAlexander Cardazzi氏は、「同様の傾向が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)にも当てはまる可能性が高い」との見方を示す。同氏は、「スタジアムやアリーナで開催されるスポーツイベントでは、大勢の人々が至近距離に集まる。これらの観客は、手であちこちの環境表面に触れ、話したり大声を出したり、ハイタッチなどで人と接触をする」と述べ、このような行動がインフルエンザウイルスや新型コロナウイルスの拡散につながると話している。

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第163回 コロナワクチン接種、来年度も高齢者向けは無料、一般は自己負担に/厚労省

<先週の動き>1.コロナワクチン接種、来年度も高齢者向けは無料、一般は自己負担に/厚労省2.コロナ病床確保料504億円過大支給、医療機関に返還要求/厚労省3.新型コロナ治療薬の自己負担、10月より最大9,000円へ/厚労省4.2022年度、医療費の高騰続く、高額薬の影響で「高額レセプト」過去最多更新/健保連5.出産費用、全国平均で2万円増加、456施設が値上げ/厚労省6.医師の過労自殺問題、日医会長と遺族が働き方改革を訴える1.コロナワクチン接種、来年度も高齢者向けは無料、一般は自己負担に/厚労省来年度の新型コロナウイルスワクチンの接種に関する方針が明らかになった。厚生労働省は、厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会を9月8日に開き、来年度のコロナウイルスワクチン接種について、65歳以上の高齢者や重症化リスクの高い人を対象に、年1回とする案を議論した。これまで「臨時接種」の位置付けで行われていた無料接種は、今年度をもって終了し、2024年度からは原則自己負担となる見込み。なお、高齢者らは公費助成の「定期接種」として、無料または低額での接種が検討されている。一方、65歳未満の人々は「任意接種」としての扱いとなり、自己負担が必要となる可能性が高い。今回の方針変更の背景には、新型コロナの変異株オミクロンの重症化率の低下や感染症法上の「5類」への移行、さらに抗ウイルス薬の普及などが影響しており、厚労省は接種の目的を「重症化予防」と位置付け、接種時期を「秋・冬」とする案も示している。参考1)第55回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会(厚労省)2)高齢者接種、年1回で調整 来年度コロナワクチン 厚労省(時事通信)3)コロナワクチン、国費での無料接種終了へ 65歳未満は原則自己負担(毎日新聞)4)新型コロナワクチン、無料接種は今年度限りで終了…高齢者らには助成も検討(読売新聞)2.コロナ病床確保料504億円過大支給、医療機関に返還要求/厚労省厚生労働省は2020年度と2021年度の2年間で、新型コロナウイルスの感染拡大に対応し、病床を確保した医療機関に支払われる「病床確保料」に関して、計約504億円を過大に支給していたと発表した。この過大交付は、岩手と徳島を除く45都道府県の延べ1,536の医療機関で発生。原因として、退院日を空き病床と誤判断して病床確保料を申請した医療機関が多数確認され、その95%以上が制度の誤認識によるものとされている。また、医師や看護師の不足により患者を受け入れられないにもかかわらず、誤って申請していたケースも見受けられた。会計検査院は昨年、病床確保料の過大支給が約55億円発生していたとの報告を公表。これを受け、厚労省は全国の医療機関に対する調査を進めていた。厚労省は、これらの医療機関に対して全額返還を求めている。参考1)病床確保料 国が504億円過大支給…医療機関に全額返還求める(読売新聞)2)コロナ病床確保料、500億円過大交付 医療機関からの返還求める(朝日新聞)3)コロナ患者の病床確保料、過大交付500億円超 制度の認識誤りか(毎日新聞)3.新型コロナ治療薬の自己負担、10月より最大9,000円へ/厚労省新型コロナウイルス治療薬に関する政府の支援策の変更により、10月以降、高額治療薬の費用に自己負担が導入されることが明らかになった。これまで治療薬の費用は全額公費で賄われていたが、今後、窓口負担が3割の患者には最大9,000円、2割の患者では6,000円、1割の患者では3,000円の自己負担が求められる方向で調整が進められている。今回の方針変更では、治療1回当たりの患者負担に上限額を設け、それを超えた分は公費でカバーされる予定。高額な治療薬には、米メルクのモルヌピラビル(商品名:ラゲブリオ)や米ファイザーのニルマトレルビル/リトナビル(同:パキロビッドパック)があり、これらの薬価は9万円以上となっている。さらに入院費用の補助も公費支援自体は継続されるものの、10月以降については減額される方針で、これは他の5類感染症との公平性を踏まえて重症患者に重点化される見通し。新型コロナの法的な位置付けが5月に「5類」に移行して以降、医療対応は平時に近付いており、8月時点での新型コロナウイルスに対応する外来は4.9万ヵ所、入院対応可能な病院も7,300病院となっていることが明らかにされた。参考1)コロナ薬、患者負担9,000円 10月以降、低所得者は軽減(東京新聞)2)コロナ治療薬自己負担 “最大”9,000円 来月から(FNN)3)コロナ治療薬、3割負担なら上限9,000円に 厚労省調整(日経新聞)4.2022年度、医療費の高騰続く、高額薬の影響で「高額レセプト」過去最多更新/健保連健康保険組合連合会(健保連)が9月7日に発表した2022年度のデータによれば、1ヵ月の医療費が1,000万円以上となる「高額レセプト」が前年度比275件増の1,792件となり、過去最多を記録したことが明らかになった。この増加の背景には、高額な医薬品の保険適用が大きく影響している。とくに、脊髄性筋萎縮症の治療薬オナセムノゲン アベパルボベク(商品名:ゾルゲンスマ)や白血病など治療薬チサゲンレクルユーセル(同:キムリア)の利用が目立つ。ゾルゲンスマは1億6,708万円で、国内で保険適用されている薬の中で最も高額。上位9位までの患者は主に脊髄性筋萎縮症の治療薬利用者であり、1億円超の医療費を記録している。健保連では、このような高額薬の増加による医療費の膨張を受け、医療の効率化や合理化の推進が必要であると指摘している。参考1)令和4年度 高額医療交付金交付事業における高額レセプト上位の概要 (健保連)2)医療費月1,000万円以上過去最多 22年度、高額薬利用が増加 健保連調査(時事通信)3)高額レセプト件数8年連続で過去最多 22年度1,792件、健保連集計(CB news)4)2022年度の1か月医療費上位1-9位は脊髄性筋萎縮症患者で各々1億7,000万円程度、1,000万円超レセは1,792件で過去最高-健保連(Gem Med)5.出産費用、全国平均で2万円増加、456施設が値上げ/厚労省厚生労働省は、9月7日に社会保障審議会医療保険部会を開き、出産費用の見える化について議論した。この中で、令和5年7月時点で分娩を取り扱っている分娩取扱施設を対象に行ったアンケート調査の結果、出産育児一時金が2022年12月に原則42万円から50万円に増額された後、出産費用を値上げした医療機関が全国で456施設に上ることが明らかになった。2023年5月時点の出産費用の平均は50万3,000円となり、昨年と比べて約2万円増加していた。値上げの主な理由として、「光熱費などの高騰」が約9割、「一時金の増額で妊産婦の自己負担への影響が少ないと考えた」という回答が半数以上であった。厚労省は、出産費用の「見える化」を目的として、施設ごとの費用内訳を公式ホームページで公開する予定。参考1)出産費用の見える化等について(厚労省)2)出産費用、半数近くが値上げ 「出産育児一時金の増額」も理由に(朝日新聞)3)出産費値上げ、医療機関の26.5% 一時金の増額後に(日経新聞)4)出産費用4月までに増額4割超、厚労省調べ 医療保険部会で、「一時金引き上げに伴い上昇」(CB news)5)出産育児一時金引き上げ後に出産費用値上げは456施設 厚労省(NHK)6.医師の過労自殺問題、日医会長と遺族が働き方改革を訴える神戸市東灘区の甲南医療センターで2022年に26歳の専攻医・高島 晨伍さんが自殺し、この問題では西宮労働基準監督署が、長時間労働が原因として労災認定を行った。そして、高島さんの過去1ヵ月の時間外労働が、国の基準を超える207時間50分だったことが明らかになった。8月31日、高島さんの母・淳子さんは、厚生労働省にて嘆願書を提出し、医師の働き方改革を求め、「医療、行政、社会が協力してほしい」と訴えた。日本医師会の松本 吉郎会長は9月6日の記者会見でこの件を重く受け止め、医師の労働環境改善と再発防止の取り組みを強化するとの考えを示した。参考1)医師の自殺 労災認定 “再発防止に力尽くす” 日本医師会会長(NHK)2)松本日医会長、兵庫県の勤務医過労自殺「大変重く受け止めている」-会見で弔意を表明(日本医事新報)3)「息子の死を教訓に」医師の働き方改革を 甲南医療センター過労自殺の遺族、厚労省に嘆願書(神戸新聞)

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医師によるコロナのデマ情報、どう拡散された?

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック中、ソーシャルメディア(SNS)上で、ワクチン、治療法、マスクなどに関する誤った医療情報が広く拡散されたことが社会問題となった。このような誤情報の拡散には、一部の医師も関わっていたことが知られている。COVID-19の誤情報について、情報の種類や、利用されたオンラインプラットフォーム、誤情報を発信した医師の特徴を明らかにするために、米国・マサチューセッツ大学のSahana Sule氏らの研究チームが調査を行った。JAMA Network Open誌2023年8月15日号に掲載の報告。 本調査では、2021年1月1日~2022年5月1日の期間に米国在住の医師によって拡散されたCOVID-19の誤情報を特定するため、SNS(Twitter、Facebook、Instagram、Parler、YouTube)およびニュースソース(The New York Times、National Public Radio)の構造化検索を行った。誤情報を発信した医師の免許取得州と専門分野を特定し、フォロワー数やメッセージの質的内容分析を行い、記述統計を用いて定量化した。COVID-19の誤情報は、評価期間中の米国疾病予防管理センター(CDC)のガイダンスに裏付けされていない、またはそれに反する主張、CDCがカバーしていないトピックに関しては既存の科学的エビデンスに反する主張と定義した。 主な結果は以下のとおり。・評価期間中にCOVID-19の誤情報を伝えたことが確認された米国の医師は52人だった。うち50人は米国29州において医師免許を取得したことがあり、ほか2人は研究者だった。医師免許は1州以上で有効44人、無効3人、一時停止/取り消し4人、一部の州で停止/取り消し1人。専門は28分野にわたり、プライマリケアが最も多かった(18人、36%)。・16人(30.7%)が、America's Frontline Doctors※のような、誤った医療情報のプロパガンダを過去に行ったことがある団体に所属していた。・20人(38.5%)が5つ以上の異なるSNSに誤情報を投稿し、40人(76.9%)が5つ以上のオンラインプラットフォーム(ニュースなど)に登場した。最も利用されたSNSはTwitterで、37人(71.2%)が投稿していた。フォロワー数の中央値は6万7,400人(四分位範囲[IQR]:1万2,900~20万4,000人)。・誤情報は次の4カテゴリーに分類された:(1)ワクチンは安全ではない/効果がない、(2)マスクやソーシャルディスタンスはCOVID-19の感染リスクを減少させない、(3)臨床試験を終えていない/FDAの承認を受けていない薬剤を有効と主張する(イベルメクチン、ヒドロキシクロロキンなど)、(4)その他(国内外の政府や製薬企業に関連する陰謀論など)。・40人(76.9%)の医師は、4カテゴリーのうち1カテゴリー以上投稿していた。・カテゴリー別で投稿が多い順に、ワクチンに関する誤情報(42人、80.8%)、その他の誤情報(28人、53.8%)、薬剤に関する誤情報(27人、51.9%)。 本結果は、パンデミック中にさまざまな専門分野や地域の医師が誤情報の拡散という“インフォデミック”に加担したことを示唆している。研究チームが確認した限り、本研究はSNS上での医師によるCOVID-19誤情報の拡散に関する初めての研究だという。フェイクニュースを拡散することは、近年、医学の内外で利益を生む産業となっているという。医師による誤った情報の拡散に関連する潜在的な有害性の程度、これらの行動の動機、説明責任を向上するための法的・専門的手段を評価するために、さらなる研究が必要だと指摘している。※America's Frontline Doctorsは、遠隔医療サービスを実施し、主にCOVID-19に対するヒドロキシクロロキンとイベルメクチンを全国の患者に処方するために、1回の診察につき90ドルを請求し、少なくとも1,500万ドルの利益を得ている。このような団体は、パンデミックの公衆衛生上の危機、政治的分裂、社会的孤立という状況の中で、より声高に発言し、目立つようになっていた。

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第一三共のコロナワクチン、XBB.1.5対応を一変承認申請、2価は第III相で主要評価項目達成

 第一三共は9月6日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する同社が開発中の2価(起源株/オミクロン株BA.4-5)mRNAワクチン「DS-5670」について、追加免疫を対象とした国内での第III相臨床試験で、主要評価項目を達成したことを発表した。また、翌7日付のプレスリリースにて、DS-5670の12歳以上の追加免疫に対するオミクロン株XBB.1.5系統対応の1価mRNAワクチンについて、日本における製造販売承認事項一部変更承認申請を行ったことも発表した。DS-5670については、「SARS-CoV-2による感染症の予防」の適応で、追加免疫を対象に起源株1価ワクチンとして2023年8月に製造販売承認を取得している。 DS-5670の2価ワクチンの第III相試験では、12歳以上の新型コロナワクチン初回免疫および追加免疫完了者を対象として、追加免疫の免疫原性および安全性が検討された。主要評価項目は、治験薬投与4週間後の血中抗SARS-CoV-2(オミクロン株BA.5)中和活性の幾何平均抗体価および免疫応答率だ。DS-5670の2価ワクチンは、国内承認済みのオミクロン株対応2価ワクチンを接種した対照群と比較して高い値を示し、統計学的に非劣性であることが検証された。安全性では臨床上の懸念は認められなかった。本試験の結果の詳細は、今後、学会や論文などを通じて公表される予定。 同社は9月7日に、DS-5670のXBB.1.5対応ワクチンの一変承認申請を行った。2023年9月開始の特例臨時接種に使用されるオミクロン株XBB.1系統を含有する1価ワクチンの年内供給開始を目指すとしている。DS-5670の研究開発は、日本医療研究開発機構(AMED)の「ワクチン開発推進事業」および厚生労働省の「ワクチン生産体制等緊急整備事業」の支援を受けて実施されている。

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紅茶キノコで血糖コントロール改善?

 日本では紅茶キノコと呼ばれ、海外ではコンブチャと呼ばれている発酵飲料が、糖尿病患者の血糖コントロール改善に役立つ可能性を示唆するデータが報告された。米ジョージタウン大学のDaniel Merenstein氏らの研究によるもので、詳細は「Frontiers in Nutrition」に8月1日掲載された。 コンブチャは、紀元前200年ごろに中国で飲まれ始めた発酵飲料で、1990年代に入ると米国でも飲用されるようになり、健康に良いと考えて飲む人も少なくない。Merenstein氏らの研究は対象が12人と小規模なものではあるが、その考え方が正しい可能性のあることを示している。 この研究は、無作為化二重盲検クロスオーバー試験として実施された。成人2型糖尿病患者12人を2群に分け、コンブチャまたはプラセボ(各240mL)を4週間摂取してもらい、8週間のウォッシュアウト期間をおいて割り付けを切り替え、再び4週間摂取してもらった。その結果、コンブチャ摂取条件では4週間後の空腹時血糖値が、164mg/dLから116mg/dLへと有意に低下した(P=0.035)。一方、プラセボ条件では162mg/dLから141mg/dLの変化であり、この変化は非有意だった(P=0.078)。 Merenstein氏によると、これまでにも複数の研究からコンブチャの潜在的なメリットが示されてきているが、糖尿病患者に対する有用性を検討した研究はこれが初めてだという。同氏は、「これは出発点であり、さらに多くの研究が必要だ」と語っている。 この研究報告に対して、米ロングアイランド・ジューイッシュ医療センターおよび米ホフストラ/ノースウェルのドナルド・アンド・バーバラザッカー医科大学のRifka Schulman-Rosenbaum氏は、「確かにコンブチャ摂取条件で空腹時血糖が低下しているが、この結果のみでは何とも言えない」と論評。加えて、「患者がこのような情報を重視するあまり、通院や血糖値のモニタリング、服薬遵守などの、糖尿病治療に欠かせないことを軽視してしまうのではないか」と懸念を表明している。 コンブチャは、紅茶または緑茶に細菌、酵母、砂糖を加え、発酵させて酢酸を生成させるといった方法で作られる。発酵プロセスの進行中に、細菌と酵母はスコビー(SCOBY)と呼ばれる膜を形成する。このSCOBYを含むコンブチャはプロバイオティクスとして作用すると考えられていて、血圧管理から発がん抑制まで、さまざまな健康上のメリットにつながると一部で信じられている。ただしエビデンスはまだない。しかしMerenstein氏は、「データが不足しているだけであって、われわれの研究をきっかけに米国立衛生研究所(NIH)やその他の機関が研究を始めることを期待したい」と語っている。 なお、この研究は外部からの資金提供を一切受けずに行われた。研究に用いられたコンブチャは一つのブランドの製品のみだったが、著者らは、「コンブチャに含まれている主要な細菌や酵母は共通性が高く、ほかのブランドの製品も類似の機能性を有しているのではないか」と述べている。

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第179回 血液凝固タンパク質2つがコロナ感染後の脳の不調と関連

血液凝固タンパク質2つがコロナ感染後の脳の不調と関連疲労に加えて認知機能障害、いわゆる脳のもやもや(brain fog)が数ある新型コロナウイルス感染(COVID-19)罹患後症状(long COVID)の1つとしてよく知られています。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染して認知機能障害に見舞われる人とそうでない人を隔てる仕組みへの血液凝固タンパク質2つの寄与を示唆する大規模観察試験結果が報告されました1)。試験ではCOVID-19で入院した患者約2千例(1,837例)が追跡され、入院時のそれらタンパク質2つと感染から半年と1年時点での認知機能障害の関連が認められました。その1つはフィブリノゲンです。C反応性タンパク質(CRP)に比してフィブリノゲンが入院時に多かった患者は少なかった患者に比べて記憶や注意などの認知機能の客観的検査成績や主観評価が劣りました。もう1つはDダイマーで、CRPに比してDダイマーが多かった患者は認知機能の主観評価が劣りました。たとえばDダイマーが多かった患者の6ヵ月時点の認知機能主観評価C-PSQ(0~7点)の点数は約1.5点劣りました。また、Dダイマーが多かった患者は疲労や呼吸困難の訴えや仕事への差し障りをより多く報告しました。フィブリノゲンやDダイマーとCOVID-19の関連を示した報告は今回が初めてではありません。先立つ複数の試験でCOVID-19入院患者にそれらタンパク質の増加が血栓過剰とともに認められています2)。フィブリノゲンが多いことと認知機能障害や認知症の関連を示したCOVID-19流行前の報告もあり、フィブリノゲンは認知機能欠損と何はさておき関連するのかもしれません。一方、DダイマーはCOVID-19以外で認知機能障害との関連は示されておらず、SARS-CoV-2感染に特有の指標かもしれません。フィブリノゲンやDダイマーが認知機能障害を引き起こすとしてその仕組みがいくつか想定されています。フィブリノゲンは脳の血液循環を妨げる血栓を形成するのかもしれません。あるいは神経系の受容体と直接相互作用することも想定されます。Dダイマーは肺での血栓形成をより反映していると思われ、それが呼吸困難に寄与し、酸欠による脳の不具合をもたらすのかもしれません。今回の試験結果を解釈するうえでいくつか注意点があります。1つは変異株がぼこぼこ出現する前のコロナ流行初期に募った被験者を対象にしていることであり、変異株が優勢の現在の感染患者に今回の結果が当てはまるかどうかは不明です。また、ワクチン非接種の重症の入院患者を対象としていることも注意が必要です。感染症状が軽度だったlong COVID患者は多く、そういう患者は今回の試験の対象ではありません。フィブリノゲンやDダイマー、あるいはより大まかに血栓を標的とする治療のlong COVID予防の裏付けはほとんどありません。抗凝固薬が治療手段の1つとしてみなされていますが、決定的な試験結果はまだありません2)。それに抗凝固薬は出血などの副作用と隣り合わせでもあります。抗凝固薬の検討のために必要な前段階として、認知機能障害をSARS-CoV-2感染後に被った患者の脳を画像診断して脳虚血の兆候があるかどうかを調べることを著者は提案しています1)。もし脳虚血が見つかるようなら先行きが心配な患者の感染初期のころの抗凝固薬使用の試験を実施する価値はありそうです。参考1)Taquet M, et al. Nat Med. 2023 Aug 31. [Epub ahead of print] 2)Clotting proteins linked to Long Covid’s brain fog / Science

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医師の役割が重要な高齢者の肺炎予防、ワクチンとマスクの徹底を/MSD

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染者数の増加や、インフルエンザの流行の継続が報告されているが、高齢者にとっては肺炎球菌による肺炎の予防も重要となる。そこで、これら3つの予防に関する啓発を目的として、MSDは2023年8月28日にメディアセミナーを実施した。国立病院機構東京病院 感染症科部長の永井 英明氏が「人生100年時代、いま改めて65歳以上が注意しておきたい肺炎対策-Life course immunizationの中での高齢者ワクチン戦略-」をテーマとして、高齢者の肺炎の特徴や原因、予防方法などについて解説した。肺炎は高齢者の大敵、肺炎による死亡の大半は高齢者 肺炎は日本人の死因の第5位を占める疾患である1)。65歳を超えると肺炎による死亡率は大きく増加し、肺炎による死亡者の97.9%は65歳以上と報告されている2)。そのため、肺炎は高齢者の大敵であり、とくに「慢性心疾患」「慢性呼吸器疾患」「腎不全」「肝機能障害」「糖尿病」を有する患者は肺炎などの感染症にかかりやすく、症状も重くなる傾向があると永井氏は指摘した。また、「高齢者の肺炎は気付きにくいという問題も存在する」と言う。肺炎の一般的な症状は発熱、咳、痰であるが、高齢者では「微熱程度で、熱があることに気付かない」「咳や痰などの呼吸器症状が乏しい」「元気がない、食欲がないという症状のみ」といった場合があるとし、「高齢者の健康状態については注意深く観察してほしい」と述べた。とくに肺炎球菌に注意が必要 肺炎の病原菌として最も多いものは肺炎球菌である3)。肺炎球菌の感染経路は飛沫感染とされる。主に小児や高齢者において侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)を引き起こすことがあり、これが問題となる。IPDの予後は悪く、成人の22.1%が死亡し、8.7%に後遺症が残ったことが報告されている4)。 インフルエンザウイルス感染症も2次性細菌性肺炎を引き起こすため、注意が必要である5)。季節性インフルエンザ流行時に肺炎で入院した患者の原因菌として肺炎球菌が最も多いことが報告されている6)。肺炎予防の3本柱 肺炎を予防するために重要なこととして、永井氏は以下の3つを挙げた。(1)細菌ウイルスが体に入り込まないようにする当然ではあるが、マスク、手洗い、うがいが重要であり、とくにマスクが重要であると永井氏は強調する。「呼吸器感染症を抑制するためには、マスクが最も重要である。国立病院機構東京病院では『不織布マスクを着用して院内へ入ってください(布マスクやウレタンマスクは不可)』というメッセージのポスターを掲示している」と述べた。また、口腔ケアも大切であると指摘した。高齢者では誤嚥が問題となるが、「咳反射や嚥下反射が落ちることで不顕性誤嚥が生じ得るため、歯磨きなどで口腔内を清潔に保つことが重要である」と話した。(2)体の抵抗力を強める重要なものとして「規則正しい生活」「禁煙」「持病の治療」を挙げた。(3)予防接種を受ける肺炎球菌ワクチンやインフルエンザワクチン、新型コロナワクチンなどのワクチン接種が肺炎予防のベースにあると強調した。医師の役割が大きいワクチン接種 永井氏は、高齢者に推奨されるワクチンとして肺炎球菌ワクチン、インフルエンザワクチン、帯状疱疹ワクチン、新型コロナワクチンの4つを挙げた。「これらの4つの感染症は疾病負荷が大きく、社会に与えるインパクトが大きいため、高齢者に対して積極的にワクチン接種を行うことで、医療機関の負担の軽減や医療費削減につながると考えている」と述べる。しかし、健康に自信のある高齢者はワクチンを打ち控えているという現状があることを指摘した。そこで、医師の役割が重要となる。本邦の家庭医クリニックに通院中の65歳以上の患者を対象として、23価肺炎球菌ワクチン(PPSV23)の接種につながる因子を検討した研究では、PPSV23を知っていること(オッズ比[OR]:8.52、p=0.003)、PPSV23の有効性を認識していること(OR:4.10、p=0.023)、医師の推奨(OR:8.50、p<0.001)が接種につながることが報告されている7)。 また、COVID-19の流行後、永井氏は「コロナワクチンのほかに打つべきワクチンがありますか?」と患者から聞かれることがあったと言う。そこで、COVID-19の流行によって、ワクチン忌避が減ったのではないかと考え、ワクチン接種に対する意識の変化を調査した。COVID-19流行前に肺炎球菌ワクチン、インフルエンザワクチン、帯状疱疹ワクチンを打ったことがない人に、それぞれのワクチン接種の意向を調査した。その結果、新型コロナワクチン0~2回接種の人と比べて、3~4回接種した人はいずれのワクチンについても、接種を前向きに検討している割合が高かった(肺炎球菌ワクチン:27.3% vs.54.5%、p=0.009、インフルエンザワクチン:15.8% vs.62.0%、p<0.001、帯状疱疹ワクチン:18.8% vs.41.1%、p=0.001)。この結果から、「コロナワクチン接種はワクチン接種に対する意識を変えたと考えている」と述べた。 ワクチン接種について、永井氏は「肺炎球菌ワクチンは定期接種となったが、接種率が低く、接種率の向上が求められる。ワクチン接種の推進には、医療従事者の勧めが大きな力となる。コロナワクチン接種はワクチン接種に対する意識を変えた」とまとめた。■参考文献1)厚生労働省. 令和4年人口動態調査2)厚生労働省. 令和3年人口動態調査 死因(死因簡単分類)別にみた性・年齢(5歳階級)別死亡率(人口10万対)3)日本呼吸器学会成人肺炎診療ガイドライン2017作成委員会編集. 成人肺炎診療ガイドライン2017. 日本呼吸器学会;2017.p.10.4)厚生労働科学研究費補助金 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究事業「重症型のレンサ球菌・肺炎球菌感染症に対するサーベイランスの構築と病因解析 その診断・治療に関する研究」(2023年8月31日アクセス)5)Brundage JF. Lancet Infect Dis. 2006;6:303-312.6)石田 直. 化学療法の領域. 2004;20:129-135.7)Sakamoto A, et al. BMC Public Health. 2018;18:1172.

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第162回 2022年度の医療費46兆円、2年連続過去最高/厚労省

<先週の動き>1.2022年度の医療費46兆円、2年連続過去最高/厚労省2.新学期スタートでも学級閉鎖相次ぐ、新型コロナ感染者数が5類移行後で最多に/厚労省3.ワクチン接種後の副反応の解析用にデータベースを整備へ/厚労省4.30年ぶりの肥満症新薬の登場も、メディカルダイエットの流行が弊害に/厚労省5.生殖補助医療における課題の解決に向け、公的機関の設立を/日本産科婦人科学会6.2021年度の介護費用、過去最大の11兆円に、高齢化が影響/厚労省1.2022年度の医療費46兆円、2年連続過去最高/厚労省2022年度の日本の概算医療費が46兆円に達し、2年連続で過去最高を更新したことが厚生労働省から発表された。前年度に比べて4.0%増加しており、新型コロナウイルスの感染拡大と高齢化が主な影響因子とされている。厚労省によると、新型コロナウイルスのオミクロン株の流行が、とくに影響を与え、発熱外来などの患者数が大幅に増加した。コロナ患者の医療費は前年度の倍近い8,600億円に上った。また、75歳以上の人々が全体の医療費の約39.1%(18兆円)を占め、その1人当たりの医療費が95万6千円であり、75歳未満の24万5千円に比べ3.9倍だった。診療種類別では、医科が34.3兆円(4.5%増)、歯科が3.2兆円(2.6%増)、調剤が7.9兆円(1.7%増)といずれも増加。とくに、医科の外来や在宅などの入院外が16.2兆円(6.3%増)と目立つ伸びをみせた。診療所においては、不妊治療の保険適用が拡大したことで、産婦人科が前年度比41.7%増と大幅に伸びた。このような背景から、医療費の増加が持続している現状において、その抑制方法が課題となっている。とくに新型コロナウイルスの影響と高齢化が相まって、今後も医療費の増加が予想される。参考1)令和4年度 医療費の動向-MEDIAS-(厚労省)2)医療費が過去最大46兆円 4年度概算、コロナ影響(産経新聞)3)医療費1.8兆円増の46兆円 2年連続過去最高 新型コロナが影響(朝日新聞)4)22年度概算医療費46兆円、2年連続で過去最高 前年度比4%増(CB news)2.新学期スタートでも学級閉鎖相次ぐ、新型コロナ感染者数が5類移行後で最多に/厚労省厚生労働省によると、全国の新型コロナの患者数は前週比で1.07倍増となり、とくに岩手、青森、宮城の患者数が多い状況が明らかとなった。新たな入院者数は全国で1万3,501人と、前週よりは減少しているものの、重症患者数は増加している。新型コロナウイルスの感染拡大が続く中で、学校における影響も顕著になっており、とくに新学期が始まった地域で学級閉鎖が相次いでいる。日本学校保健会によると、全国の小中高校と幼稚園、保育園で149クラスが閉鎖されている。長野県では、新学期が始まったばかりで31クラスが閉鎖され、これは5月以降で最多。感染症の専門家は、学校が再開されることで、子供たちでの感染がさらに広がる可能性を指摘している。また、ワクチン接種から時間が経過すると効果が下がるため、高齢者や基礎疾患のある人は、次の接種が必要になると警告している。自治体や学校は、発熱や倦怠感などがある場合には、無理に登校しないよう呼びかけており、基本的な感染対策の徹底を求めている。参考1)新型コロナで学級閉鎖相次ぐ 「5類移行」後、最多更新の地域も(毎日新聞)2)新型コロナ 全国の感染状況 前週の1.07倍 2週連続の増加(NHK)3)コロナ感染者数、2週続けて増加 前週比1.07倍 5類後最多に(朝日新聞)3.ワクチン接種後の副反応の解析用にデータベースを整備へ/厚労省厚生労働省は、9月1日に厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会を開き、自治体が管理している予防接種の記録や、国が保有する副反応の情報などをまとめた全国的なデータベースを作成する方針を明らかにした。これまでの手書きでの報告を改訂し、効率的に情報収集を行う予定。データベースには、接種記録や副反応疑い報告などが匿名化されて格納され、他のデータベースと連携し、予防接種の有効性・安全性の調査・研究が可能となるため、大学研究機関などに第三者提供も行われる予定。これらの取り組みで、ワクチン接種後の副反応や重篤な有害事象の発生について、副反応の情報と接種歴を結びつけて詳細な分析を可能になる見込み。また、データベースの情報は、レセプト(診療報酬明細書)とも結びつけられ、接種した人としていない人の間で副反応が疑われる症状が起きる割合に差があるかを調査することも計画されている。厚労省は、このデータベースを令和8年度中に稼働させ、ワクチンの有効性や安全性の分析に役立てる方針としている。参考1)予防接種データベースについて(厚労省)2)予防接種データベース「整備イメージ」提示 厚労省、報告様式改訂し情報収集を効率化(CB news)3)ワクチン分析 自治体や国保有の情報データベース作成へ 厚労省(NHK)4.30年ぶりの肥満症新薬の登場も、メディカルダイエットの流行が弊害に/厚労省今春、肥満症治療の新薬「セマグルチド(商品名:ウゴービ)」が承認され、1992年に承認されたマジンドール(同:マサノレックス)以来、約30年ぶりの肥満症治療の新薬の登場で、肥満症の治療は大きく進歩している。さらに糖尿病治療薬として承認された持続性GIP/GLP-1受容体作動薬「チルゼパチド(同:マンジャロ)」は20%の体重減少効果が確認されており、GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)受容体作動薬は、糖尿病の治療だけでなく、肥満症の治療としても注目されている。その一方、近年、痩せるために糖尿病薬を処方する「メディカルダイエット」が横行し、その弊害として欠品が問題となっている。厚生労働省は、この問題に対処するために、医療機関や卸業者に対してGLP-1受容体作動薬について「買い込みを控え適正使用」を呼びかけ、適正な使用と供給の優先を求めている。メーカー側は「医師の処方権」や「独占禁止法」により、適応外処方を厳しく規制することができないとしている。しかし、GLP-1受容体作動薬が適応外使用での処方や適応外でありながら大量に広告されていることから有害事象の発生など懸念が広がっている。参考1)GLP-1 受容体作動薬の在庫逼迫に伴う協力依頼(厚労省)2)30年ぶりの肥満症新薬と、「メディカルダイエット」が招く弊害(毎日新聞)3)“体重20%減”のダイエット効果があだに、糖尿病薬「空前の品不足」で診療に支障も(ダイヤモンド・オンライン)5.生殖補助医療における課題の解決に向け、公的機関の設立を/日本産科婦人科学会日本産科婦人科学会は、生殖補助医療の倫理的課題やデータ管理に対応するための公的機関設立の準備を始めたと発表した。医療技術の進展に伴い、第三者からの精子や卵子の提供など、新たな治療法が増加している一方で、倫理的な議論や法制度の整備が遅れている現状に対処するよう国側に強く働きかけたいとして同学会が決定した。1978年に世界で初めて体外受精が成功して以降、多くの国では親子関係や提供者の情報管理に関する法制度が整備されているのに対し、わが国では、生殖補助医療に関する法整備が世界に比べて遅れており、法整備が進まず、議論が始まったのは比較的最近であり、その結果としての法制度も不十分な状態が続いている。2020年には「生殖補助医療法」が成立し、一定の規定は確立されたが、提供者と子の「出自を知る権利」などがいまだに十分に考慮されていないのが現状。この法には2年以内に詳細を検討するという付則があったが、その期限が過ぎても議論は進展していない状態となっている。具体的には、新たな改正案で提案されている公的機関(独立行政法人)は、提供者の氏名や住所、生年月日などを100年間保存するよう求められている。しかし、この機関が情報を開示するかどうかは、提供者の同意に依存しており、その点が問題視されている。また、法案では提供を受けられるのは法律上の夫婦に限定されているなど、性的マイノリティーや代理出産に対する規定も不明確となっている。これらの課題を解決するためには、公的機関の設立だけでなく、広範な倫理的、法的議論が必要であり、産婦人科学会は国や関連団体に対して、専門の調査委員会を設けて、これらの課題に十分に議論を重ねることを求めている。参考1)“生殖補助医療の課題対応” 学会 公的機関の設立準備委(NHK)2)世界から遅れ 生殖補助医療法の必要性を指摘してきた識者の憂い(毎日新聞)3)生殖補助医療法、2年の改正期限過ぎるも議論混迷、次期国会どうなる(朝日新聞)6.2021年度の介護費用、過去最大の11兆円に、高齢化が影響/厚労省厚生労働省は、2021年度の介護費用(保険給付と自己負担を含む)が11兆2,838億円に達し、過去最大を更新したと発表した。この額は2年連続で11兆円を超え、高齢化に伴い、介護サービスの利用者が増加している。同時に、介護保険の給付費(利用者負担を除く)も前年度比2.0%増の10兆4,317億円となり、これもまた過去最高を更新した。介護や支援が必要とされる人々も、21年度末時点で前年度比1.1%増の690万人となり、うち601万人が75歳以上であることが明らかとなり、これも過去最多の数値。給付費の内訳については、訪問介護などの「居宅サービス」が4兆9,604億円で最も多く、次いで特別養護老人ホームなどの「施設サービス」が3兆1,938億円となっている。高齢化が進む中で、介護費用と給付費の増加は持続的な問題となっている。とくに、75歳以上の高齢者が多くを占めていることから、今後もこの傾向は続くと予想される。参考1)令和3年度 介護保険事業状況報告(厚労省)2)介護費、最大の11兆円 21年度(日経新聞)3)介護給付費、10兆4千億円 21年度、高齢化で更新続く(共同通信)

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ファイザーのXBB.1.5対応コロナワクチン承認/厚労省

 厚生労働省は9月1日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のオミクロン株対応ワクチンの一部変更について承認したことを発表した。今回の承認で、ファイザーのオミクロン株XBB.1.5系統のスパイクタンパク質をコードするmRNAを含む1価ワクチンが追加された。一変承認されたのは対象年齢別に、「コミナティRTU筋注」、「コミナティ筋注5~11歳用」、「コミナティ筋注6ヵ月~4歳用」の3タイプとなる。いずれも2023年7月7日に製造販売承認事項一部変更申請されていたもので、9月20日以降の秋開始接種に使用される。 一変承認されたワクチンの概要は以下のとおり。(1)販売名:コミナティRTU筋注一般名:コロナウイルス(SARS-CoV-2)RNAワクチン(有効成分名:トジナメラン及びリルトジナメラン、トジナメラン及びファムトジナメラン又はラクストジナメラン)(下線部追加)接種対象者:12歳以上の者効能・効果:SARS-CoV-2による感染症の予防用法・用量:初回免疫として、1回0.3mLを合計2回、通常、3週間の間隔で筋肉内に接種する。追加免疫として、1回0.3mLを筋肉内に接種する。接種間隔:通常、前回のSARS-CoV-2ワクチンの接種から少なくとも3ヵ月経過した後に接種することができる。(2)販売名:コミナティ筋注5~11歳用一般名:コロナウイルス(SARS-CoV-2)RNAワクチン(有効成分名:トジナメラン、トジナメラン及びファムトジナメラン又はラクストジナメラン)(下線部追加)効能・効果:SARS-CoV-2による感染症の予防用法・用量:本剤を日局生理食塩液1.3mLにて希釈する。初回免疫として、1回0.2mLを合計2回、通常、3週間の間隔で筋肉内に接種する。追加免疫として、1回0.2mLを筋肉内に接種する。接種間隔:通常、前回のSARS-CoV-2ワクチンの接種から少なくとも3ヵ月経過した後に接種することができる。(3)販売名:コミナティ筋注6ヵ月~4歳用一般名:コロナウイルス(SARS-CoV-2)RNAワクチン(有効成分名:トジナメラン、トジナメラン及びファムトジナメラン又はラクストジナメラン)(下線部追加)効能・効果:SARS-CoV-2による感染症の予防用法・用量:本剤を日局生理食塩液2.2mLにて希釈する。初回免疫として、1回0.2mLを合計3回、筋肉内に接種する。2回目は通常、3週間の間隔で、3回目は2回目の接種から少なくとも8週間経過した後に接種する。追加免疫として、1回0.2mLを筋肉内に接種する。接種間隔:通常、前回のSARS-CoV-2ワクチンの接種から少なくとも3ヵ月経過した後に接種することができる。(注)トジナメラン、リルトジナメラン、ファムトジナメラン及びラクストジナメランは、それぞれSARS-CoV-2の起源株、オミクロン株BA.1系統、オミクロン株BA.4-5系統及びオミクロン株XBB.1.5系統のスパイクタンパク質をコードするmRNA。

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ファイザーXBB.1.5対応ワクチン、EMAで生後6ヵ月以上に推奨

 米国・Pfizer社とドイツ・BioNTech社は8月30日付のプレスリリースにて、両社のオミクロン株XBB.1.5対応1価の新型コロナワクチン「COMIRNATY Omicron XBB.1.5」について、欧州医薬品庁(EMA)の医薬品委員会(CHMP)が、5歳以上に対して、過去の新型コロナワクチンの接種歴の有無にかかわらず単回投与すること、および生後6ヵ月~4歳の小児に対して、過去の接種回数に応じて投与することを推奨したと発表した。欧州委員会(EC)は本推奨を検討のうえ、承認について近く最終決定を下す予定。 本ワクチンの生後6ヵ月~4歳の小児への投与は、初回シリーズ(3回)のうちの一部または3回すべて、もしくは初回シリーズが完了している小児や感染歴のある小児に対しては、追加接種として単回投与することが推奨されている。 CHMPの推奨は、両社の新型コロナワクチンの安全性と有効性を支持するこれまでの臨床試験、非臨床試験、およびリアルワールドデータのエビデンスに基づく。これらのデータには、XBB.1.5対応1価ワクチンが、BA.4/5対応2価ワクチンと比較して、XBB.1.5、XBB.1.16、XBB.2.3を含む複数のXBB亜系統に対してより優れた反応を示す前臨床試験のデータも含まれている。同試験のデータでは、世界保健機関(WHO)によって「注目すべき変異株(VOI)」に指定されているEG.5.1(エリス)に対しても有効性を示すことが認められている。 本XBB.1.5対応1価ワクチンは、米国でも生後6ヵ月以上を対象として米国食品医薬品局(FDA)に申請されており、近く承認が決定される予定。日本を含む世界各地の規制当局にも申請中だ。

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新型コロナウイルスに伴う肺炎で入院した患者を対象に、標準治療に免疫調整薬を併用した効果(解説:寺田教彦氏)

 本研究は、2020年10月から2021年12月までに新型コロナウイルス肺炎で入院した患者に対して、標準治療に加えて、アバタセプト、cenicriviroc、あるいはインフリキシマブを追加した治療群とプラセボ群を比較した試験であり、和文要約は「コロナ肺炎からの回復、アバタセプトやインフリキシマブ追加で短縮せず/JAMA」にまとめられている。 本研究は、マスタープロトコルを使用したランダム化二重盲検プラセボ対照比較試験で、プライマリーエンドポイント(1次アウトカム)は新型コロナウイルス肺炎からの28日目までの回復期間(8段階の順序尺度を使用して評価)と設定されたが、標準治療にアバタセプト、cenicriviroc、あるいはインフリキシマブを追加してもプラセボ群に比較して短縮しなかった。しかし、本研究結果のうち、アバタセプトとインフリキシマブのセカンダリーエンドポイント(2次アウトカム)である28日死亡率および14日後の臨床状態は、統計的な有意差こそ認められなかったものの、プラセボに対しては良好な結果だった。 今回の試験結果は、1次アウトカムに対する効果を示せなかったが、2次アウトカムは良好そうに見える結果でもあり、単純にNegative studyと片付けてしまわずに、今回のような結果になった理由を考える必要はあるだろう。本論文のEDITORIAL(Kalil AC, et al. JAMA. 2023;330:321-322.)でも、この1次アウトカムと2次アウトカムのねじれに対する解釈を提案している。 さて、本研究結果ではアバタセプトとインフリキシマブのセカンダリーエンドポイントは良好に見えたと記載はしたものの、この結果のみでは実臨床で新型コロナウイルスに伴う肺炎患者に対する臨床プラクティスを変更するほどの影響はないと考える。 では、今後どのような研究結果が判明すれば臨床プラクティスを変更しうるかを考えてみる。まずアウトカムは、今回のセカンダリーアウトカムである28日死亡率の低下や14日後の臨床状態の改善を設定することがよいだろう。そして、本研究で有意差を示すことができなかった理由は、検出力が不足していた可能性が考えられる。本研究結果を参考に28日死亡率の低下、14日後の臨床状態の改善で有意差を示すことができる参加者人数を再計算して、臨床試験を実施し、アウトカムの改善を再現することができれば、臨床のプラクティスとして検討してもよさそうである。 ただし、2023年8月の本原稿執筆時点としては、わざわざそのような臨床試験を行うメリットは乏しいと考える。 理由を説明するうえで、新型コロナウイルス肺炎に対する免疫抑制薬・免疫調整薬の役割について振り返ってみようと思う。重症COVID-19患者では、肺障害および多臓器不全をもたらす全身性炎症反応が宿主免疫反応により発現するが、コルチコステロイドの抗炎症作用薬が有効であることがRECOVERY試験(RECOVERY Collaborative Group. N Engl J Med. 2021;384:693-704.)で示された。本邦でも中等症II以上の患者で、宿主免疫反応に対して、抗ウイルス薬のレムデシビルと共にデキサメタゾンやバリシチニブ(Kalil AC, et al. N Engl J Med. 2021;384:795-807., Wolfe CR, et al. Lancet Respir Med. 2022;10:888-899.)が用いられている。その後、ステロイド薬とトシリズマブの併用により全死亡率が低下する可能性も示唆され(RECOVERY Collaborative Group. Lancet. 2021;397:1637-1645., WHO Rapid Evidence Appraisal for COVID-19 Therapies (REACT) Working Group. JAMA. 2021;326:499-518.)、本邦の「COVID-19に対する薬物治療の考え方」や、米国国立衛生研究所(NIH:National Institutes of Health)の「COVID-19治療ガイドライン」でもデキサメタゾン、バリシチニブ、トシリズマブは治療薬の候補に記載されている。 中等症II以上の新型コロナウイルス肺炎に対する治療薬としては、上記のようにエビデンスのある薬剤がすでにあり、これらの薬剤の効果を上回ることが期待される薬剤でなければ、わざわざ費用をかけて臨床試験を行うメリットは乏しいだろう。 また、新型コロナウイルスの変異株の特徴とワクチン・抗ウイルス薬の効果についても考えてみる。 宿主免疫反応による肺炎による死亡者の増加は、主にデルタ株流行下以前で問題となることが多かった。現在の本邦における新型コロナウイルスの亜系統検出割合はEG.5.1を含めたXBB系統が上昇傾向であり、免疫回避の高いオミクロン株が主流である(国立感染症研究所感染症疫学センター. 新型コロナウイルス感染症サーベイランス週報: 発生動向の状況把握. 2023年第31週[2023年7月31日~2023年8月6日])。オミクロン株流行下でも、まれにデルタ株流行下のようなCOVID-19肺炎患者を診療する機会はあるが、頻度は低く、本研究の対象となったようなCOVID-19に対する宿主免疫反応が原因で中等症Ⅱ~重症となるような患者層は、適切なワクチン接種や抗ウイルス薬の投与が行われるならば、今後も臨床現場で診療する機会は以前よりは少なくなると考える。 以上より、本研究は、臨床診療を担当する立場からは本邦の新型コロナウイルス感染症治療に与える影響は乏しい試験と考えるが、臨床研究を担当する立場としては、パンデミック状況下で複数の治療候補薬がある際に、適切かつ効果的なランダム化プロセスとバイアスを最小限にする工夫をした試験であり、今後の臨床研究でも参考にすることができる研究デザインと考える。

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第60回 新型コロナBA.2.86「ピロラ」が結構マズイ説

「ピロラ」Unsplashより使用先週EG.5通称「エリス」の話をしたばかりですが、BA.2.86通称「ピロラ」がネット上で結構話題になっています。な、なんだ「ピロラ」って…と思って調べてみたら、ギリシャ神話と関係なさそうな感じです。どうやら、小惑星の名前から付けたということが命名者のポスト(ツイート)に書かれていました。(参考:Wikipedia 1082 Pirola)8月30日の時点で、GISAIDにはBA.2.86は21株が登録されており、デンマーク10株、アメリカ3株、南アフリカ2株、スウェーデン2株、ポルトガル2株、イスラエル1株、イギリス1株です。日本からの検出はありませんが、アメリカの症例は日本からの渡航例です。離れた地域から短期間にこれだけ検出されていることや、以下に述べる変異部位の多さによる免疫回避能の強さを考えると、ビビっている専門家が多いのがこの変異ウイルスです。変異が多いオミクロン株BA.2の子孫に当たるBA.2.86「ピロラ」ですが、変異部位が多いです。過去に流行したオミクロン株の系統は、直前の流行株と比べてスパイクタンパクにわずかな変異がある程度だったのですが、BA.2.86はオミクロン株BA.1が登場したときと同じくらいのインパクトの変異数です。BA.2.86「ピロラ」の特徴1,2,3)BA.2.86は変異部位が多く、祖先と思われるBA.2や現在流行しているXBB系統の変異型とも離れている。ゲノムサーベイランスを実施している複数の国で、渡航歴のない人にBA.2.86が急速に出現していることから、世界中で伝播していると推測される(アメリカでは日本からの渡航例で確認)。配列は世界中で類似しており、比較的最近出現し、急速に増加したことを示している。XBBと比べても、新たに34の変異を獲得しており、免疫回避能が大きい可能性がある。これまで効果が確認されている治療薬は有効である。新型コロナワクチン接種は重症化や入院予防に有効と考えられる。ほかの変異ウイルスと比べて重症化するというエビデンスはない。マスク等の有効な感染対策はこれまでどおりである。8月23日時点で、アメリカにおいて増えているCOVID-19入院例の原因はBA.2.86ではない(まだそこまで流行は拡大していない)。Nature誌のBA.2.86の解説3)によると、もしこの変異ウイルスが今後蔓延して、免疫回避能が高かったとしても、基本的に重症化する懸念は大きくないとされています。ただ、オミクロン株BA.1が登場したときのように、かなりの数の感染者が出てしまうことで、医療が再び逼迫する可能性はあります。現時点では、WHOはBA.2.86を監視下の変異株(VUM: Variants Under Monitoring)という位置付けにしています4)。参考文献・参考サイト1)UK Health Security Agency:Risk assessment for SARS-CoV-2 variant V-23AUG-01(or BA.2.86)2)CDC:Risk Assessment Summary for SARS CoV-2 Sublineage BA.2.863)Callaway E. Why a highly mutated coronavirus variant has scientists on alert. Nature. 2023 Aug 21.4)WHO:Currently circulating variants under monitoring(VUMs)(as of 17 August 2023)

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コロナ禍の大学生のメンタルへの影響は2021年時点の4年生が最大

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの大学生のメンタルヘルスへの影響を、学年別に検討した結果が報告された。2021年時点の4年生に、メンタルヘルスへの影響が最も強く現れていたという。岐阜大学保健管理センターの堀田亮氏らの研究によるもので、詳細は「Psychiatry Research」7月号に掲載された。 日常生活を急変させたCOVID-19パンデミックが、人々のメンタルヘルスに大きな影響を与えたことについて、多くの研究報告がなされている。ただし、大学生のメンタルヘルスへの影響を経時的かつ学年別に比較検討した研究は見られない。一方、岐阜大学では毎年、全学生を対象に健康状態のオンライン調査を実施している。堀田氏らは今回そのデータを用いて、大学2~4年生のパンデミックによるメンタルヘルスへの影響を詳細に検討した。 解析対象は6,441人(平均年齢20.27歳、男性48.8%)で、2~4年生がほぼ3分の1ずつを占めていた。調査の実施時期は各年の2月で、2020年は国内ではまだパンデミックに至っておらず、大学では平常の講義が行われていた。2021年はリモート講義が行われている時期で、2022年は正常に回復する段階での調査だった。 メンタルヘルス状態の評価には、大学生の心理カウンセリングのために開発された指標(CCAPS)の日本語版を用いて、過去2週間の状態をオンラインで回答してもらった。解析は、8領域のサブスケール(抑うつ、全般性不安、社会不安、食事関連の懸念、家族関係のストレス、飲酒習慣、学業ストレス、敵意)について実施。回答者が「全く当てはまらない」~「かなり当てはまる」の5段階から選択した結果を、0~4点のリッカートスコアとして判定し、スコアが高いほどストレスをより強く感じていると判断した。 調査年・学年別に解析した結果、2~4年生の全てにおいて、2021年は2020年よりCCAPSのサブスケールのスコアが総じて高く、2022年にはやや低下するという傾向が認められた。ただし、飲酒習慣を表すスコアは、いずれの学年でも2020年が最も高値であった。この点について著者らは、飲酒行動につながりやすいサークル活動やイベント開催は、2020年の春以降に減少したためではないかとの考察を述べている。 なお、2年生では食事関連の懸念が2022年、家族関係のストレスは2020年に最高値であり、3年生では食事関連の懸念が2022年に最高値という、一部の例外的な変化が認められた。ただし、4年生については飲酒習慣を除く全てのサブスケールのスコアが、2021年に最高値であり、2020年や2022年のスコアとの比較で有意差が認められた。また、2021年の4年生のスコアは、2年生や3年生よりも高値であった。例えば、2021年の抑うつスコアは2年生が0.89±0.73、3年生0.94±0.77であるのに対して4年生は1.11±0.83であり、全般性不安も同順に0.97±0.71、1.00±0.74、1.16±0.75だった。 以上に基づき著者らは、「2021年に大学2~4年生の全てでメンタルヘルスの悪化が観察され、上級学年でその傾向が強く、特に4年生で顕著だった」と結論付けている。また、本研究は「大学生の学年別にパンデミック前後の影響を比較検討した初の研究」であり、「上級学年の大学生のメンタルヘルスを適切にサポートするための公衆衛生プログラム策定に向けた基礎データとなり得る」と述べている。

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ファイザーとモデルナ、高齢者により安全なワクチンはどっち?

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)mRNAワクチンの安全性と有効性は、モデルナ社製ワクチンでもファイザー社製ワクチンでも高いとされている。しかし、高齢者におけるワクチン接種後の有害事象の発生という点では、軍配はモデルナ社製ワクチンに上がるとする研究結果が報告された。米ブラウン大学公衆衛生大学院、老年学・ヘルスケア研究センターのDaniel Harris氏らが米国立老化研究所の資金提供を受けて実施した研究で、詳細は、「JAMA Network Open」に8月2日掲載された。 Harris氏は、「COVID-19にまつわる有害事象の発生リスクは、新型コロナウイルスに自然感染した場合の方が、mRNAワクチンを接種した場合よりもはるかに高い。しかし、世界人口の70%以上が何らかのCOVID-19ワクチンを接種した今となっては、ワクチンの供給についてさほど心配する必要はない」と説明する。そして、現時点で必要とされているのは、どのワクチンを接種するかを決める際の判断材料となる、ワクチンの安全性と有効性に関する詳細な情報だと強調する。 今回の研究でHarris氏らは、mRNAワクチンの1回目接種を終えた、66歳以上の出来高払い方式のメディケア受益者638万8,196人(平均年齢76.3歳、女性59.4%)を対象に、モデルナ社製ワクチンとファイザー社製ワクチン接種後の有害事象の発生について比較を行った。対象者の38.1%はプレフレイル(フレイル前段階)、6.0%はフレイルと判定されていた。また、339万704人がファイザー社製ワクチンを、299万7,492人がモデルナ社製ワクチンを接種していた。有害事象としては、深部静脈血栓症、肺塞栓症、血小板減少性紫斑病、ギラン・バレー症候群、急性心筋梗塞など12種類について検討した。 検討した12種類の有害事象の発生率は全て1%以下であり、最も高かったのは深部静脈血栓症の0.27%と肺塞栓症の0.23%であった。あらゆる因子を調整したモデルを用いた解析からは、モデルナ社製ワクチンの方が肺塞栓症リスクが4%低く、また、血栓塞栓症の複合(急性心筋梗塞、深部静脈血栓症、出血性脳卒中、非出血性脳卒中、肺塞栓症)のリスクも2%低いことが示された。モデルナ社製ワクチンはさらに、COVID-19と診断されるリスクがファイザー社製ワクチンよりも14%低かった。ただし、このようなリスク低下は、フレイルと判定された人では6%にとどまっていた。 Harris氏は、「この研究結果は、公衆衛生の専門家が、フレイルのある人も含めた高齢者にとって、どのmRNAワクチンが望ましいかを検討する上で役に立つ」と話す。同氏はまた、健康に慢性的な問題を抱えていることの多い高齢者は、臨床試験から除外されることが多いことを指摘し、「介護施設に入居している高齢者ではCOVID-19の重症化リスクが高いことを考えると、高齢者でのワクチンの安全性と有効性を調べることは極めて重要である」としている。 では、なぜモデルナ社製ワクチンの方が、わずかではあるが有害事象の発生リスクが低かったのか。Harris氏は、「安全性と有効性は相互に関連している。モデルナ社製ワクチンを接種した患者の方が、ファイザー社製ワクチンを接種した人よりも肺塞栓症やその他の有害事象のリスクがわずかに低かったのは、モデルナ社製ワクチンの方がCOVID-19罹患リスクを低減させる効果が高いことに起因する可能性がある」と話している。 ただし、この研究では、有害事象の発生リスクの違いが、安全性または有効性のどちらに起因するのかについて、結論付けることはできなかった。また、本研究で検討されたのはmRNAワクチンの初回投与後についてだけであり、研究グループは、さらなる研究が必要だとしている。

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第178回 老化に伴う難聴を脳のコレステロール補強で防ぎうる

老化に伴う難聴を脳のコレステロール補強で防ぎうる老化と関連する難聴は大問題であり、65歳を超える高齢者の約3人に1人が多かれ少なかれそうなります。難聴は聞こえにくくなるという不便さを強いることに加えて認知機能低下が早まることや認知症リスクの上昇とも密接に関連します。そういう大きな問題をはらむ老化関連難聴を脳のコレステロール補強といういとも手軽な方法で防げるかもしれないことがアルゼンチンのチームによるマウス実験で示されました1)。ちまたではコレステロールといえば悪者と相場が決まっていますが、神経細胞膜の要員の1つであり、神経細胞や膜連携タンパク質の機能に不可欠です。コレステロールはシナプス膜に豊富で、タンパク質複合体の数々に結合したり影響を及ぼしたりしてそれらの構造や振る舞い、活性を調節することが最近の研究で示されています。シナプス形成、細胞間相互作用、細胞内伝達に与するコレステロールを中枢神経系(CNS)は手ずから生成します。というのも末梢のコレステロールは血液脳関門(BBB)を通過できず、CNSは他所から調達することができないからです。ゆえに脳のコレステロール濃度は厳密に調節されており、その調節の乱れは認知機能障害や種々の神経変性疾患と関連することが知られています。脳のコレステロールは老化の影響も受けます。たとえば老化に伴って海馬のコレステロールが減ります。また、老人や神経変性疾患患者の脳のコレステロールは乏しいという検体解析結果も報告されています。老化と関連するコレステロール減少の原因の1つは海馬でのコレステロール水酸化酵素CYP46A1の増加です。マウス海馬シナプスの老化に伴うコレステロール減少が主にCYP46A1亢進に起因し、シナプス受容体の行き来や陥入を立ち行かなくし、記憶障害をもたらすことが確認されています。注目すべきことに、脳のコレステロールを底上げすることで老化マウスのシナプスや認知機能の不備を減らしうることが示されています。また、神経変性疾患の治療効果もあるらしく、ハンチントン病マウスのシナプスや認知機能が脳へのコレステロール運搬粒子で改善しました。老化関連難聴は内耳の蝸牛の外有毛細胞(OHC)の損失を発端の1つとします。音信号の増幅に携わるOHCの側壁は厳密な管理下のコレステロールを含み、OHC側壁のコレステロール含量の変化はOHC側壁内のモータータンパク質プレスチンの機能や配置に影響を及ぼすようです。しかし内耳の病変にコレステロール変動がどう寄与しているかはこれまで調べられたことはありません。そこでアルゼンチン・ブエノスアイレス大学のチームはコレステロール欠乏が内耳蝸牛の老化病変に寄与するとの仮説を立て、若いマウスと老化マウスの内耳のCYP46A1とコレステロール量を調べてみました。すると予想どおり高齢マウスの内耳のCYP46A1は若いマウスに比べて多く、コレステロールは逆に減っていました。続いて若いマウスのCYP46A1を過剰に活性化するとどうなるかが調べられました。その実験にはCYP46A1を活性化することが知られるHIV治療薬エファビレンツが使われました。若いマウスにエファビレンツを投与したところOHCのコレステロールが減り、プレスチンも乏しくなって配置が変わり、難聴がもたらされました。そして研究は脳のコレステロール補強の効果検討というクライマックスを迎えます。若いマウスへのエファビレンツ投与に伴う難聴を脳のコレステロール補強で防げるかどうかが調べられました。上述のとおりコレステロールは血中から脳に入れません。そこでコレステロールに似た構造と働きをし、BBBを通過して脳に到達できる植物ステロールに白羽の矢が立てられました。ここでも狙いどおりの結果が得られ、エファビレンツ投与マウスに植物ステロールを食べさせたところOHC機能が改善し、プレスチンの分布も正常化しました。最近ではエファビレンツが一翼を担うことが多い抗レトロウイルス薬ひとそろいを使用するHIV/AIDS患者に聴覚障害が多いことが報告されています。今回の結果によると植物ステロールがその予防や治療に役立つかもしれません。また、植物ステロールの服用は老化と関連する難聴の手軽な予防法となる可能性もあり2)、動物やヒトでのさらなる検討が期待されます。参考1)Sodero SO, et al. PLoS Biol. 2023;21:e3002257.2)Common supplements might reduce natural hearing loss / Eurekalert

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オミクロン感染した高齢者、再感染リスクが高い!?

 高齢者は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチンの接種率が高いにもかかわらず、SARS-CoV-2オミクロン株への感染および重症化のリスクが高く、とくに介護施設などで共同生活をしている高齢者はそのリスクが高いことが知られている。また、高齢者において、SARS-CoV-2オミクロン株感染後のハイブリッド免疫(ワクチン接種と感染をいずれも経験した人の免疫)の再感染に対する予防効果は明らかになっていない。そこで、カナダ・McMaster UniversityのJessica A. Breznik氏らの研究グループは、介護施設や老人ホームに入所しているワクチン接種済みの高齢者を対象に、SARS-CoV-2感染リスクに関連する因子を検討した。その結果、SARS-CoV-2オミクロン株への感染歴を有する高齢者は再感染リスクが低下せず、むしろ高かったことが明らかになった。本研究結果は、eClinicalMedicine誌オンライン版2023年8月21日号で報告された。 カナダ・オンタリオ州の介護施設または老人ホームに入所している高齢者で、ワクチン接種を4回受けている750例を対象に、2022年7月1日~9月13日の期間におけるSARS-CoV-2感染率を後ろ向きに調査し、感染リスクに関連する因子を検討した。また、観察期間前3ヵ月(2022年4月1日~6月30日)において、318例を対象に体液性免疫とT細胞免疫について検討した。 主な結果は以下のとおり。・対象者の年齢中央値は87.0歳、女性の割合は64.4%(483例)、介護施設入所者の割合は57.1%(428例)であった。・観察期間において、750例中133例(17.7%)にSARS-CoV-2感染が確認された。・観察期間においてSARS-CoV-2感染が認められなかった617例のうち、観察期間前にSARS-CoV-2オミクロン株への感染歴を有する割合は8.9%(55例)であった。一方、観察期間に感染が認められた133例のうち、観察期間前にSARS-CoV-2オミクロン株への感染歴を有する割合は57.1%(76例)であった。・Cox比例ハザードモデルを用いてSARS-CoV-2感染リスクに関連する因子を検討した結果、SARS-CoV-2オミクロン株への感染歴を有する人は、観察開始9~29日後におけるSARS-CoV-2感染リスクが有意に高かった(ハザード比[HR]:47.67、95%信頼区間:23.73~95.76、p<0.0001)。また、mRNA-1273とBNT162b2を組み合わせてワクチンを4回接種した人は、BNT162b2のみで4回接種した人よりも、観察期間中のSARS-CoV-2感染リスクが低かった(同:0.49、0.26~0.90、p=0.023)。・一方、年齢、性別、居住形態、過去の居住地でのアウトブレイクの有無、オミクロン株以前の株への感染歴、4回目のワクチン接種日は、観察期間中のSARS-CoV-2感染リスクとの関連が認められなかった。・SARS-CoV-2オミクロン株への感染歴を有する人のうち、再感染が認められた人は血清中の抗SARS-CoV-2受容体結合ドメインIgG抗体価、抗スパイクタンパク質IgA抗体価が有意に低く(それぞれp=0.0009、0.0072)、オミクロン株BA.1に対する中和抗体価も低かった(p=0.0072)。すなわち、再感染者は体液性免疫応答の誘導が弱かった。

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第161回 新型コロナワクチンの秋接種、9月から全世代対象で/厚労省

<先週の動き>1.新型コロナワクチンの秋接種、9月から全世代対象で/厚労省2.医師の過労死問題に加藤厚労相「適切な労働時間管理」を求める/兵庫県3.新型コロナ診療手引き改訂、医療従事者の就業制限と治療薬の使用を明確化/厚労省4.感染症対策の体制を大幅刷新、尾身 茂氏が一線を退く/政府5.看護師不足とハラスメント対策に、看護師確保の基本指針を初改定へ/厚労省6.人材不足が深刻化する日本の医療・福祉業界、対策を模索/厚労省1.新型コロナワクチンの秋接種、9月から全世代対象で/厚労省厚生労働省は、全世代を対象にした追加接種を9月から開始すると発表した。対象となるのは、生後6ヵ月以上のすべての人で、新たに承認申請されたオミクロン株の亜系統「XBB」に対応するワクチンを使用する。これまで高齢者や基礎疾患のある人には「努力義務」が適用されていたが、9月からの接種では、この「努力義務」は適用されない見通し。なお、接種は今年度内は無料で行われるが、来年度以降の接種費用については、「定期接種」に変更される可能性があり、場合によっては接種費用の一部自己負担が必要となる可能性がある。東京都では9月20日から接種を開始すると発表しており、接種会場は都庁の北展望室をはじめとした複数の場所で行われる見込み。予約はインターネットで8月28日から開始され、使用するワクチンは米ファイザー製、米モデルナ製、および米ノババックス製の3種類とされている。政府は、早めの予約と各自治体からの最新情報に注意を払うよう呼びかけている。参考1)新型コロナワクチンの接種について(厚労省)2)コロナワクチン追加接種は9月20日から 全世代で「XBB」対応へ(朝日新聞)3)東京都、9月20日から新型コロナワクチンの秋接種開始(日経新聞)4)9月からのコロナワクチン接種 子ども含め幅広く対象に【Q&A】(NHK)2.医師の過労死問題に加藤厚労相「適切な労働時間管理」を求める/兵庫県2022年、神戸市の甲南医療センターで勤務していた26歳の医師が自殺した事件が労災と認定された件について、加藤 勝信厚生労働大臣は8月25日の閣議後の記者会見で「医師の健康確保のために適切な労働時間管理が必要」とコメントした。遺族は当時、学会発表の準備に追われていたと指摘しているが、病院側は業務時間外の自己研鑽であると主張。これに対し、加藤大臣は「医師の研究時間が労働時間に含まれるかどうかの指針を明確化している」と説明した。厚生労働省の調査によると、病院勤務の医師の約2割が「過労死ライン」とされる年960時間以上の残業をしていることが明らかになった。とくに脳神経外科、救急科、外科、産婦人科などでこの傾向が顕著である一方で、働き方改革により長時間労働は減少傾向にあり、一部の施設では患者や家族への病状説明を診療時間内に限定するなどの取り組みが進んでいる。調査代表の自治医科大学の小池 創一教授は「勤務時間は短くなったが、新しい医療の研究や若手教育の時間も減っている。どうやって働き方改革を進めていくのかが課題」と指摘している。また、2019年に施行された働き方改革関連法の医師への適用が24年度に迫っており、この問題はさらに注目されている。以上の状況を受けて、厚労相は「過労死は許されない。医師が健康であることが国民に対して適切な医療が確実に提供される基盤になる」と強調。労働時間管理の支援を含め、引き続き必要な対応を図ると明言している。参考1)医師の専門性を考慮した勤務実態を踏まえた需給等に関する研究(厚労省)2)医師自殺で労災認定 “労働時間管理 支援含め対応” 厚労相(NHK)3)勤務医2割、なお過労死ライン 残業推計「年960時間超」 長時間労働、是正傾向も・厚労省研究班(時事通信)3.新型コロナ診療手引き改訂、医療従事者の就業制限と治療薬の使用を明確化/厚労省厚生労働省は、8月21日に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する診療の手引き第10.0版を公表した。今回は、新型コロナが5類(一般感染症)に移行した後の初の改訂で、医療従事者の就業制限や治療薬の使用指針について新たな規定が盛り込まれている。今回の手引きでは、医療従事者に対する就業制限は感染症法に基づく制限がないものの、厚労省は医療機関や高齢者福祉施設に対して、「発症日を0日目として5日間、かつ症状が軽快してから24時間以上経過するまで」の就業制限を考慮するよう呼びかけている。また、家庭内に感染者がいる場合や10日目までの期間には、マスク着用や黙食などの感染防止策を徹底するよう推奨している。治療薬に関しては、ファビピラビル(商品名:アビガン錠)やイベルメクチン(同:ストロメクトール)などのコロナ治療効果が認められず、使用は推奨されていないと明示している。そのほか、新たな重症化リスク因子、小児例や妊婦例の特徴、各種薬物療法についての情報が更新されている。また、診療の手引きには「G-MIS(病床管理システム)を活用した入院調整」が新たに盛り込まれ、このシステムの導入により、地域の病床状況が可視化され、保健所との照会が不要になるなどのメリットが挙げられている。今回の改訂は、とくに九州地方や沖縄県でのコロナ再燃や日本全体での感染再拡大が懸念される中で行われたもので、感染拡大を防ぐための配慮が依然として求められている。厚労省では今後も状況に応じた指針の更新を行うとしている。参考1)新型コロナウイルス感染症COVID-19診療の手引き 第10.0版(厚労省)2)新型コロナウイルス感染症 診療の手引き・第10.0版 改定のポイント(同)3)5類移行後初改訂、医療従事者の就業制限など追加 厚労省がコロナ診療の手引きを事務連絡(CB news)4)コロナ5類移行後、初の「診療の手引き」改訂!法定就業制限はないが、医療機関等では感染拡大への配慮を―厚労省(Gem Med)4.感染症対策の体制を大幅刷新、尾身 茂氏が一線を退く/政府2023年8月25日、政府は新型コロナウイルスを含む感染症対策の一層の強化を目的として、いくつかの新たな組織と体制の変更を発表した。9月1日に発足する「内閣感染症危機管理統括庁」は、政府の感染症対策の司令塔となる。この統括庁には約5億2,000万円の2024年度予算が割り当てられる予定で、約60人の職員が配置される。厚生労働省も同日、新たに「感染症対策部」を設置すると発表した。この新組織は、統括庁と連携し、新たな感染症危機に備える。さらに、医薬・生活衛生局と健康局が改組され、食品衛生基準業務と水道業務はそれぞれ消費者庁、国土交通省と環境省に移管される。内閣感染症危機管理統括庁のトップには栗生 俊一官房副長官が就任することが決まっており、担当大臣としては後藤 茂之コロナ担当相が務める。そのほかの主要な役職には厚労省の迫井 正深医務技監や中村 博治新型コロナウイルス等感染症対策推進室長も名を連ねる。この一連の発表と同時に、新型コロナ対策の専門家として活躍してきた尾身 茂氏が一線から退くことが明らかになった。尾身氏は、新体制のもとで「新型インフルエンザ等対策推進会議」の委員数が35人から15人に減り、議長から外れる形となった。尾身氏は、今後「葛藤の記録を残したい」と語り、この間の活動を書籍にまとめる予定だ。政府は、新たな体制のもとで感染症対策の連携と効率を高めることを目指しており、この体制変更は、新型コロナウイルスによる緊急事態が一段落ついた今、次の感染症危機に備える重要なステップとなる。尾身氏の引退は、新たな体制のスタートとともに、これまでの感染症対策の一区切りとも言えるタイミングでの出来事となる。参考1)尾身氏、コロナ対策一線退く「葛藤の記録残したい」 政府が体制刷新(朝日新聞)2)厚労省に新組織「感染症対策部」 司令塔「統括庁」発足にあわせ(同)3)感染症統括庁トップに栗生俊一氏…コロナ分科会は廃止(読売新聞)5.看護師不足とハラスメント対策に、看護師確保の基本指針を初改定へ/厚労省厚生労働省は、看護師を確保するための基本指針を31年ぶりに全面改定すると発表した。今回の改定は、看護師不足の解消、新たな感染症に備えた専門知識のある看護師の養成、ハラスメント対策、処遇改善、業務負担軽減など多岐にわたる要素が盛り込まれる方針。看護系の人材不足はとくに都市部と訪問看護ステーションで深刻で、労働時間短縮や業務負担の軽減が必要とされている。具体的には、国の基金を活用し、夜勤業務の負担軽減、仮眠や休憩ができる場所の設置など、看護職員の処遇改善を進めるとともに、業務のデジタル化なども計画されている。さらに、訪問看護の現場でのハラスメントの危険性が高いことから、暴力やハラスメント対策の支援も進められる予定のほか、タスク・シフトやタスク・シェアの推進、特定行為研修の推進なども改定に含まれており、年次有給休暇の取得を可能とするような勤務割の長期計画も盛り込まれ、雇用管理の責任体制も明確化される方向となっている。看護師確保の基本指針は、1992年に作成されており、高齢化社会の本格化とともに、2040年にはさらに多くの看護職員が必要とされる看護職の環境の変化を反映して、今回初めて見直しを受け、今年の秋にも正式に告示される予定。参考1)第3回医道審議会保健師助産師看護師分科会看護師等確保基本指針検討部会 [資料]看護師等確保基本指針の改定について(厚労省)2)看護師確保の指針、30年ぶり改定へ 感染症、ハラスメントに対応(朝日新聞)3)看護師確保の基本指針改定を諮問、秋ごろ告示 厚労相・文科科相(CB news)6.人材不足が深刻化する日本の医療・福祉業界、対策を模索/厚労省厚生労働省が発表した令和4年の雇用動向調査の結果によると、2022年に「医療、福祉」分野で入職超過率が初めてマイナスとなるなど、国内で医療介護業界での人材不足が深刻化していることが明らかとなった。厚労省によれば、医療、福祉業界への入職者数は昨年度の約113万8,100人、一方で離職者数は約121万人、入職超過率は0.9ポイントのマイナスとなった。全産業を合わせた場合の入職超過率は0.2ポイントのプラスであり、医療・福祉業界は全産業平均を下回っていた。とくに介護職員の離職率は14.4%と過去最低水準を維持しているが、事業所間での格差も大きい状況であり、小規模や新設の事業所では離職率が高く、「職場の人間関係」や「事業所の理念や運営に不満」などが離職の主な理由とされている。訪問介護の現場でも人手不足が顕著で、担当者の38%が60歳以上、7人に1人は70歳以上とスタッフの高齢化が進行していた。厚労省は2024年に施設職員を訪問介護にも活用できるようにする計画を進めている。この複合型サービスは、訪問と通所の両方を利用する場合に効率の良い介護を提供する可能性がある。しかし、介護業界全体で人材確保が難しく、とくに訪問介護員の有効求人倍率は過去最高の15.53倍に達している。今後、団塊の世代が後期高齢者に移行することで、介護保険の給付は一段と増えると見込まれ、人材不足問題の解決が急募となっている。参考1)令和4年 雇用動向調査結果の概要(厚労省)2)介護職員の離職率、14.4% 過去最低並みを維持 事業所間で2極化の傾向=介護労働実態調査(JOINT)3)訪問介護でも「老々」拡大 利用者10年で2割増/担い手70歳以上13% 厚労省、施設職員活用へ(日経新聞)4)「医療、福祉」入職超過率、初のマイナスに 厚労省概況、現行統計の2009年以降で(CB news)

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ワクチン接種者でCOVID-19が重症化しにくいのはなぜか

 周知のように、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン(以下、新型コロナワクチン)を接種することで、感染リスクがなくなるわけではないが感染後の重症化リスクは低下する。しかし、それはなぜなのか。その理由の解明につながる研究結果を、米コロラド大学コロラド公衆衛生大学院のAlison Abraham氏らが、「The Lancet Microbe」に8月7日発表した。この研究によると、COVID-19罹患者のうち、ワクチン接種を受けていた人では未接種の人に比べて、炎症マーカーの値が低かったことが示されたという。 サイトカインとケモカインは、感染症やワクチン接種に対する応答において重要な役割を果たしている。サイトカインは主に免疫細胞から分泌されるタンパク質で、細胞間の情報伝達を行う。一方、ケモカインはサイトカインの一種で、細胞遊走を活性化する働きを持つ。Abraham氏らは、2020年6月29日から2021年9月30日の間に新型コロナウイルスに感染した882人(女性57%)の血液サンプルを用いて、新型コロナワクチン接種と、21種類のサイトカインおよびケモカインの濃度とその経時的な変化との関連性を検討した。対象者は、回復期患者血漿療法のCOVID-19重症化に対する効果を検討する目的で実施された試験への参加者で、78%(688人)が新型コロナワクチン未接種、6%(55人)は一部(1回)接種済み、139人(16%)は接種完了者だった。 対象者の年齢や性別、BMI、基礎疾患などで調整して解析した結果、感染後1〜8日(スクリーニング時)では、ワクチン接種完了者では未接種者に比べて、IL(インターロイキン)-2RA、IL-7、IL-8、IL-15、IL-29、INF(インターフェロン)-γ誘導性サイトカイン(IP-10)、MCP(単球走化性促進因子)-1、TNF(腫瘍壊死因子)-αの濃度の幾何平均が有意に低いことが明らかになった。また、回復期患者血漿療法後90日目では、ワクチン接種完了者では未接種者よりも、IL-7、IL-8、VEGF(血管内皮増殖因子)-Aの濃度の幾何平均がそれぞれ、26%、20%、17%低かった。これに対して、ワクチンの一部接種者では未接種者に比べて、スクリーニング時にIP-10とMCP-1の濃度の幾何平均が有意に低かったが、回復期患者血漿療法後90日目になると、いずれのサイトカイン・ケモカイン濃度の幾何平均についても、未接種者との間に有意差は認められなかった。 研究グループは、「これらの結果は、新型コロナワクチンが、COVID-19重症化の引き金となる炎症反応を短期的にも長期的にも減少させる効果を持つことを示唆している」と述べている。その上で、「この知見は、ワクチンを接種した人でCOVID-19の重症化リスクや死亡リスクが低下し、後遺症の発症率も低下する理由の少なくとも一部を説明するものだ」と付け加えている。 今回の研究には関与していない、米ジョンズ・ホプキンス健康安全保障センターのAmesh Adalja氏は、「オミクロン株が蔓延していた頃のワクチン接種の主な目的は、感染症予防よりも重症化予防だった。今回の研究結果は、重症化予防のメカニズムの一端を解明するものだ」と指摘している。 研究グループは、今回の研究で得られた知見により、COVID-19のより良い治療法を探る研究に弾みがつく可能性があるとの見方を示している。論文の上席著者である、米ジョンズ・ホプキンス大学医学部病理学・内科学・疫学分野のAaron Tobian氏は、「新型コロナワクチンが、この疾患の悪化や長期的影響、死亡を予防するメカニズムの解明は、体の過剰な炎症反応を抑えるための方法の開発につながり、それが患者に対するより良い治療に役立つ」と述べている。

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新型コロナなど呼吸器系ウイルスの重複感染率はどの程度か

 米国で、2022年後半に実施された2万6,000件以上の呼吸器系ウイルスの検査結果を調べたところ、陽性結果の1%以上で新型コロナウイルス、インフルエンザウイルス、RS(呼吸器合胞体)ウイルスの重複感染が認められたとする研究結果が報告された。重複感染は、21歳以下の若年者の間で多く認められたという。米クエスト・ダイアグノスティックス社のテクニカルディレクターを務めるGeorge Pratt氏らによるこの研究結果は、米国臨床化学会年次総会(2023 AACC、7月23〜27日、米アナハイム)で発表された。 Pratt氏は今回の研究背景について、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックが終息に向かい始め、人々の行動様式が変化する中で、われわれは、他の呼吸器系ウイルスの再流行とそれらの重複感染、特に、再流行を見せている新型コロナウイルスとの重複感染の可能性を調査することが重要だと考えた」と説明する。 重複感染は、呼吸器系疾患のアウトブレイクが複数発生した場合に起こりやすい。例えば2022年後半に米国でRSウイルス感染症例が急増した際には、COVID-19のパンデミックと季節性インフルエンザの流行が重なった。Pratt氏らは、同時に複数の感染症に罹患した場合には、重症化や治療合併症のリスクが高まると指摘する。 今回の研究でPratt氏らは、2022年の秋に107日にわたって実施された2万6,657件の呼吸器系ウイルス(RSウイルス、新型コロナウイルス、A型・B型インフルエンザウイルス)の検査結果を収集して分析した。この中には、21歳以下の患者に対して実施された9,800件の検査の結果も含まれていた。 その結果、陽性結果の1.33%、全検査結果の0.55%で、2種類以上のウイルスの重複感染が認められることが明らかになった。重複感染率は感染しているウイルスにより異なり、成人では、新型コロナウイルスとRSウイルスの重複感染での0.38%から、A型インフルエンザウイルスと新型コロナウイルスの重複感染での2.28%までの幅があった。これに対して、21歳以下の若年者での重複感染率はいずれのウイルスの組み合わせでも成人より高く、新型コロナウイルスとA型インフルエンザウイルスの重複感染では6%に上った。 Pratt氏は、「本研究は、米国北東部で複数のウイルスについて同時に実施された大量の検査結果に基づいている点が斬新だ。2万6,000件以上の検査結果を調査できたことは、われわれにとって大きな財産となった」と述べる。 Pratt氏はさらに、「インフルエンザシーズンやその他の呼吸器系ウイルスの流行の経験を重ねていくことで、重複感染率に関するさらなるデータの蓄積が可能となる。今回の研究は、この先、重複感染率が減少するのか増加するのかを評価する際に役立つデータポイントになることだろう」との考えを示している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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第59回 新型コロナ「エリス」がすでに来ている

「エリス」襲来Pixabayより使用米国疾病予防管理センター(CDC)の報告によると、8月5日までの1週間のコロナ入院患者数が14%増となり、4月下旬以来の多さとなっており1)、再び流行が始まるのではと懸念されています。現在懸念されているのが、EG.5です。BA.1が従来のオミクロン株で、その後BA.2株が2022年5月に流行しました。BJ.1株とBM1.1.1株が組み合わさったのがXBB株で、いろいろなXBB株が存在します。XBB.1.9.1株から派生したEG.5株、EG.5.1株が、われわれの次の敵になります。「もういいよー、覚えられないし」と思っている医療従事者も多いでしょう。大丈夫です、私も覚えられません。EG.5は通称「エリス」と呼ばれています。これは例のごとくギリシャ神話の女神にちなんだ名前で、SNS上で命名されたものです。これまでもケンタウルス、ケルベロスなどさまざまなあだ名が付けられてきた変異ウイルスですが、中二病っぽい感じもあって、小恥ずかしくてなかなか堂々と言えませんでした。「エリス」については中二病感が薄いためか、比較的世界的にも受け入れられている印象です。日本では「エリス」で報道されるのかどうか、気になるところです。第9波の流行の主流であったXBB系統から、いずれ「エリス」へ置き換わりが進むと予想されていましたが、想定よりも早いようです。東京都ではすでに「エリス」が主流株になっており、これまでの主流株であったXBB.1.16株を逆転しています2)。「エリス」は、現在のXBB系統よりも伝播性が高いです。そうじゃないと、主流株にならないので。世界保健機関(WHO)は8月9日、「エリス」を「注目すべき変異株(VOI)」に指定しています。医療従事者はワクチンアップデートを医療従事者の間でもワクチンに対する信頼性が低下しているような印象です。ケアネットをご覧になっている皆さんは、エビデンスを咀嚼できていると思いますので、mRNAワクチンの重要性については理解されているでしょう。もしオミクロン株対応2価ワクチンを接種されていない方は、アップデートを推奨します。2価ワクチンあるいはXBB対応ワクチン(9月接種開始予定)のいずれも、「エリス」以前のXBB系統を含めたオミクロン株全体の重症化を予防する効果があると思われます。秋開始接種で使用するモデルナ社のXBB対応ワクチンは、予備的な臨床試験において、「エリス」に対しても良い免疫反応が得られたとプレスリリースを出しています。参考文献・参考サイト1)CDC:COVID-NET A Weekly Summary of U.S. COVID-19 Hospitalization Data2)東京都健康安全研究センター:定点医療機関当たりの報告数 東京都感染症週報 第30週(7月30日~8月6日)より

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